- 1 - 主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由第1 当事者の求めた裁判 1 請求の趣旨(1) 被告らは,原告X1に対し,各自,2億5814万4432円及びこれに対する平成20年7月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 被告らは,原告X2に対し,各自,220万円及びこれに対する平成20年7月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (3) 被告らは,原告X3に対し,各自,220万円及びこれに対する平成20年7月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (4) 訴訟費用は被告らの連帯負担とする。 (5) 仮執行宣言 2 請求の趣旨に対する答弁(1) 被告Y1の答弁ア原告らの被告Y1に対する請求をいずれも棄却する。 イ訴訟費用は原告らの負担とする。 (2) 被告Y2の答弁ア原告らの被告Y2に対する請求をいずれも棄却する。 イ訴訟費用は原告らの負担とする。 第2 事案の概要等 1 事案の概要本件は,被告Y2が運営するタレント養成学校に所属していた原告X1が,被告Y1が主催するイベントの開幕特別番組の製作に向けて実施した駅伝の - 2 -試走リハーサルに参加した際,被告Y1が熱中症に対する適切な予防策を講じ,また,緊急時に対処するための救護体制の構築及び適切な救急搬送を行わなければならない安全配慮義務に違反したことにより,原告X1に重度の熱中症及びこれを原因とする後遺障害が生じた(原告X1が熱中症に罹患したリハーサル時の事故を以下「本件事故」という。)と主張して,被告Y1に対し,不法行為または労務提供 ことにより,原告X1に重度の熱中症及びこれを原因とする後遺障害が生じた(原告X1が熱中症に罹患したリハーサル時の事故を以下「本件事故」という。)と主張して,被告Y1に対し,不法行為または労務提供契約に付随する安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づき,被告Y2と連帯して,2億5814万4432円の損害賠償及びこれに対する本件事故日である平成20年7月25日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,被告Y2は,被告Y1からの依頼に基づいて,原告X1を含む養成学校の生徒に対して前記リハーサルへの参加を事実上強制し,原告X1を被告Y1における無償の労務提供にあたらせたのであって,熱中症に対する適切な予防策を講じ,派遣環境の安全性が確認できなければ原告X1らの派遣を中止しなければならない安全配慮義務に違反したことにより,原告X1に重度の熱中症及びこれを原因とする後遺障害を生じさせたと主張して,被告Y2に対し,不法行為または在学契約に付随する安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づき,被告Y1と連帯して,2億5814万4432円の損害賠償及びこれに対する平成20年7月25日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,原告X1の父母である原告X2及び原告X3が,原告X1に重篤な障害をもたらした本件事故を被告らが引き起こしたことによって精神的苦痛を被ったと主張して,被告らに対し,不法行為に基づき,各自220万の損害賠償及びこれに対する平成20年7月25日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める事案である。 2 前提事実以下の各事実は,当事者間に争いがないか,本件各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる(証拠が掲示されていない事実は当事者間に争いがな - それぞれ求める事案である。 2 前提事実以下の各事実は,当事者間に争いがないか,本件各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる(証拠が掲示されていない事実は当事者間に争いがな - 3 -い。)。 (1) 当事者等ア原告X1は,昭和62年1月5日生まれ(本件事故当時満21歳)の男性であり,本件事故当時,被告Y2が運営するタレント養成学校の大阪校に所属していた者(以下,当該タレント養成学校に所属する者を「タレント生徒」という。)である。 原告X2は原告X1の父であり,原告X3は原告X1の母である。 原告X1は,平成22年12月16日,大阪家庭裁判所から成年後見開始の審判を受け,原告X2が成年後見人に選任された。 イ被告Y1は,放送番組の企画製作及び販売等を含めた放送事業を目的とする株式会社であり,後記(2)ア記載のイベントを主催し,駅伝のリハーサルを含めた後記(2)イ記載の番組製作を行った。 ウ被告Y2は,演芸,映画その他各種の興行を目的として,芸能関係について多岐にわたる事業を展開する株式会社であり,その一環として,タレントの育成,マネージメント,エージェント業務に従事し,原告X1が本件事故当時所属していたタレント養成学校を運営している。 (2) 被告Y1主催の商業イベント及び駅伝リハーサルの概要ア被告Y1は,平成20年7月26日から同年8月3日までの9日間にわたって実施された商業イベント(以下「本件イベント」という。)を主催した。本件イベントは,大阪城の西の丸庭園,本丸,二の丸,青屋門及びその周辺を開催会場(以下「本件会場」という。)とするものであり,事前の来場者予想数は60万人であった(乙A1)。 イ被告Y1は,本件イベントの開幕にあわせ,本件イベントの開幕日である 青屋門及びその周辺を開催会場(以下「本件会場」という。)とするものであり,事前の来場者予想数は60万人であった(乙A1)。 イ被告Y1は,本件イベントの開幕にあわせ,本件イベントの開幕日である平成20年7月26日の午後1時54分から午後5時までの間,被告Y1で生放送するテレビ番組(以下「本件番組」という。)を製作することとした。 同番組内では,被告Y1の番組出演者が,番組別にチームを組んで番組対抗 - 4 -駅伝を行う企画が実施されることになった(乙A1)。 被告Y1は,本件番組の放送日の前日である平成20年7月25日に,番組対抗駅伝を含めた本件番組のリハーサル(以下「本件リハーサル」といい,特に番組対抗駅伝のリハーサルを「本件駅伝リハーサル」という。)を行うこととした。 (3) 本件駅伝リハーサルの試走者の募集ア被告Y1は,平成20年7月17日,番組製作会社である株式会社Aを通じて,被告Y2の従業員であるBに対し,タレント生徒を本件駅伝リハーサルの試走者として参加させてほしい,募集人数は29名である,参加者には一人あたり1000円を支給する旨を伝え,本件駅伝リハーサルに参加してくれるタレント生徒の募集を依頼した(乙B1)。 イこれを受けて,被告Y2は,平成20年7月18日から同月24日まで,タレント生徒に対して,本件駅伝リハーサルの参加者を募集した。当該募集は,タレント養成学校の前年度の卒業生の中から被告Y2が雇用したアシスタントが,タレント養成学校の授業終了直後にクラス内で呼びかける方法により行われた。原告X1は,平成20年7月21日,本件駅伝リハーサルへの参加を表明した。 ウ被告Y2のBは,平成20年7月24日,被告Y1の従業員であるCに対し,本件駅伝リハーサルに参加する29名のタレント生徒の は,平成20年7月21日,本件駅伝リハーサルへの参加を表明した。 ウ被告Y2のBは,平成20年7月24日,被告Y1の従業員であるCに対し,本件駅伝リハーサルに参加する29名のタレント生徒の氏名リストをFAXで送信し,送信書に「くれぐれも暑さ対策よろしくお願いします。(お預かりしている大事な生徒さんなんで)」と記載した(乙B3)。 (4) 本件駅伝リハーサルの状況ア被告Y1は,平成20年7月25日,本件リハーサルを実施した。 イ本件駅伝リハーサルは,1チーム4名,合計7チームが編成され,本番と同様の形式で実際に走行コースを試走するものであった。本件駅伝リハーサルのコースは別紙図面(省略)のとおりであり,第1走者が走る第1区は約 - 5 -420メートル,第2走者が走る第2区は約450メートル,第3走者が走る第3区は約830メートル,第4走者が走る第4区は約1200メートルとなる全長約2900メートルのコースであった。 第1区はスタート地点となる西の丸庭園内を整備されたレーンに従って走行するコース,第2区は西の丸庭園から二の丸を抜けて桜門をくぐり本丸内の第3区中継ポイントまで走行するコース,第3区は本丸から桜門を出て水堀沿いの下り坂を走行して極楽橋付近のアンカー中継ポイントまで向かうコース,第4区は第3区の走者が走行してきた方向へ折り返し,水堀沿いの登り坂を走行し,スタート地点である西の丸庭園内に戻るコースであった。 本件駅伝リハーサルにおいては2回の試走が行われ,タレント生徒は,1回目の試走で第1区を走行した者は2回目の試走では第2区を,1回目の試走で第2区を走行した者は2回目の試走では第3区を,1回目の試走で第3区を走行した者は2回目の試走では第4区を,1回目の試走で第4区を走行した者は2回目の試走 は2回目の試走では第2区を,1回目の試走で第2区を走行した者は2回目の試走では第3区を,1回目の試走で第3区を走行した者は2回目の試走では第4区を,1回目の試走で第4区を走行した者は2回目の試走では第1区をそれぞれ走行することになった(以上,乙A1,乙A2,乙A13)。 ウ本件駅伝リハーサルに参加する原告X1を含むタレント生徒は,平成20年7月25日正午ころ,本件会場の最寄り駅であるJR大阪城公園駅に集合し,Aの従業員の案内で,本件駅伝リハーサルのスタート地点である西の丸庭園に向かった。 原告X1らタレント生徒は,同日午後1時ころ,Aの従業員から,本件番組及び本件駅伝リハーサルの内容並びに各自の役割等の説明を受けた。原告X1は,1回目の試走では第3区を,2回目の試走では第4区を走行することになった。その後,原告X1らタレント生徒は,Aの従業員から,500ミリリットルのミネラルウォーターが入ったペットボトル1本の配布を受けた(以上,乙A1)。 エ同日午後4時50分ころ,本件駅伝リハーサルの1回目の試走が開始され, - 6 -原告X1は,同日午後4時53分ころ,第2区の走者からたすきを受け取って第3区の走行を開始し,同日午後4時58分ころ,第4区の走者にたすきを渡して走行を終えた。原告X1の1回目の走行時間は4分24秒であった。 1回目の試走後,原告X1らタレント生徒は,Aの従業員から,500ミリリットルのミネラルウォーターが入ったペットボトル1本の配布を受けた(以上,乙A1,乙A2,乙A13)。 オ同日午後5時13分ころ,本件駅伝リハーサルの2回目の試走が開始され,原告X1は,同日午後5時20分ころ,第3区の走者からたすきを受け取って第4区の走行を開始した。 原告X1は,同日午後5時30分 同日午後5時13分ころ,本件駅伝リハーサルの2回目の試走が開始され,原告X1は,同日午後5時20分ころ,第3区の走者からたすきを受け取って第4区の走行を開始した。 原告X1は,同日午後5時30分ころ,西の丸公園内に入り,走行距離にして約900メートル地点までに熱中症を発症し,走行中にふらつくなどの症状が現れたことから,かかる原告X1の走行の様子を見ていたAの従業員が原告X1の走行を止めた(本件事故,乙A1,乙A2,乙A13)。 (5) 救急搬送に至るまでの状況原告X1は,同日午後5時40分ころ,Aの従業員に連れ添われ,西の丸庭園近くの迎賓館に入り,長いすの上で横になり,被告Y1及びAの従業員数名から急冷措置を受けた。 原告X1の症状が治まらなかったことから,被告Y1の従業員は,同日午後5時50分ころ,本件イベントのために設置された救護所で勤務していたD看護師に連絡を取った。 D看護師は,同日午後5時55分ころ,迎賓館に到着し,原告X1に対し応急処置を施した。 被告Y1の従業員は,同日午後6時8分ころ,119番通報して救急隊員の出動を要請し,同日午後6時26分ころ,本件会場に救急車が到着した。原告X1は,同日午後6時49分ころ,甲病院に搬送された(以上,乙A1,乙A3)。 - 7 -(6) 被告Y1から原告X1に対する支払被告Y1は,平成21年7月10日,原告X1に対し,本件事故により発生した原告X1の損害の塡補として,177万0481円を支払った。 3 争点(1) 被告Y1の安全配慮義務の内容及びその違反の有無(争点1)(原告らの主張)ア原告X1は,平成20年7月25日,被告Y1が主催する本件駅伝リハーサルに試走者として参加した。この際,原告X1らタレント生徒は, 義務の内容及びその違反の有無(争点1)(原告らの主張)ア原告X1は,平成20年7月25日,被告Y1が主催する本件駅伝リハーサルに試走者として参加した。この際,原告X1らタレント生徒は,被告Y1主催の事業を実施するために必要な労務を,被告Y1の指揮監督下で無償により提供したものである。したがって,被告Y1は,原告X1らタレント生徒に対し,本件駅伝リハーサルの試走にあたって安全を配慮する義務を負っていた。 本件駅伝リハーサルの現場の気温は低めに考えても40度を超え,湿度は約50パーセントと推定されることから,暑さの指数となるWBGT(Wet-bulbGlobeTemperature:湿球黒球温度)は31度を下回らないものと推定される。この値は,財団法人日本体育協会が作成する熱中症予防運動指針(以下「熱中症予防運動指針」という。)において,原則として運動を中止するものとして警告された気象条件であり,日本産業衛生学会の作業基準においても,極軽作業以外は許容されない暑熱条件とされているものであるから,熱中症発症の危険性が極めて高い環境であった。 被告Y1は,原告らによる本件駅伝リハーサル時のWBGT値の推定の前提となる,同年8月10日における気温の計測方法に問題があると主張するが,同日における計測方法は被告Y1と事前協議の上で決定したものであって,被告Y1はこれまで当該計測方法や計測数値を適正なものとして是認していたのであり,また,計測機器の感温部は極めて小さい部品であって,これにはカバーが装着され,日光を一定程度遮断する状態となっていたのであるか - 8 -ら,同日における気温の計測方法に問題はない。 厚生労働省は,本件事故以前から各種通達を発し,職場において熱中症の具体的な予防措置を講じることの周知徹底を求めていた。 いたのであるか - 8 -ら,同日における気温の計測方法に問題はない。 厚生労働省は,本件事故以前から各種通達を発し,職場において熱中症の具体的な予防措置を講じることの周知徹底を求めていた。 以上の各事情からすれば,被告Y1は,原告X1に対し,具体的に,次の(ア)ないし(カ)の安全配慮義務を負っていた。 (ア) 本件駅伝リハーサル実施に先だって,熱中症予防についての適切な知識を与え,タレント生徒に対し,予め暑熱順化(発汗量や皮膚血流量の増加,汗に含まれる塩分濃度の低下,血液量の増加,心拍数の減少といった体の適応)を行うように指示する義務(イ) 事前に自発的脱水症状現象(多量の塩分が発汗で失われたときに,水だけを飲むと血液の塩分濃度が低下し,体が更なる低下を防ぐために水を受け付けなくなるとともに,水分を尿として排泄してしまうことにより脱水が進むこと)を理解させ,水分とともに塩分を十分に補給しておくように指示する義務(ウ) 熱中症の基本的知識を備え,熱中症の危険を予知し,熱中症を発生させる危険性のある気象条件になれば,本件駅伝リハーサルの実施を中止する義務(エ) 本件駅伝リハーサルの実施前から常時,WBGTを計測し,かつ,熱中症の知識を有する医療専門家を設置し,試走者を問診し全身をチェックするなどして身体状況に異変がないかを確認するなど,試走者の体調を監視できる体制を構築する義務(オ) 熱中症の発症リスクが高い行事の主催者は,熱中症患者に対する速やかな医療措置を確保するために,緊急搬送先として集中治療のできる医療体制を構築する必要があり,事前に熱中症の発生を見越して,発症の危険が高まれば速やかに運動を中止させ,迅速に医療的措置を受けられるように,危険の検知体制,医療専門家による救護体制,病院への救急搬送体制を構築 築する必要があり,事前に熱中症の発生を見越して,発症の危険が高まれば速やかに運動を中止させ,迅速に医療的措置を受けられるように,危険の検知体制,医療専門家による救護体制,病院への救急搬送体制を構築する義務 - 9 -(カ) 熱中症様の症状が発生した場合,即時にこれを検知し,熱中症の重篤性を適切に判断して迅速な救急搬送を行い,必要な医療措置を適時に開始する義務イしかしながら,被告Y1は,以下のとおり,前記ア(ア)ないし(カ)記載の各義務の履行を怠った。 (ア) 被告Y1は,原告X1に対して,暑熱順化の指示を全く行わなかった。 (イ) 被告Y1は,熱中症予防の基本的知識を備えておらず,自発的脱水症状の危険を認識しないまま,塩分を含まないミネラルウォーターのみを支給していたのであり,熱中症の発症リスクを高めた。また,リハーサル試走者に対して,医療専門家により,水分や塩分補給を行ったか否かを確認せず,自己申告を求めただけであった。 (ウ) 本件事故当時は,熱中症を発生させる危険性のある気象条件であったにもかかわらず,被告Y1は,本件駅伝リハーサルを中止しなかった。 (エ) 被告Y1は,リハーサル試走者に対し,体調不良の有無及び程度について自己申告を求めたに過ぎず,熱中症の知識を有する医療専門家を設置せず,各人の体調について問診等を行わなかった。これらの対応は,遅くとも,1回目の試走終了から2回目の試走開始までの間に行うべきであった。 (オ) 被告Y1は,適切な医療体制を構築しなかった。 (カ) 原告X1の異変を認めて走行を中止させた時点から救急車の到着までに1時間を要しており,被告Y1は,より早い時点において,原告X1の重篤な体調異変を検知し,その時点で即時に救急搬送すべきであった。 被告Y1には,原告X1が させた時点から救急車の到着までに1時間を要しており,被告Y1は,より早い時点において,原告X1の重篤な体調異変を検知し,その時点で即時に救急搬送すべきであった。 被告Y1には,原告X1が自発的な水分補給ができなくなった午後5時35分,D看護師が,原告X1において水分補給できない様子を現認した午後5時55分の各時点において救急搬送義務が生じたというべきであるが,被告Y1は各時点で原告X1を救急搬送しなかった。 (被告Y1の主張) - 10 -ア被告Y1が原告X1に対して安全配慮義務を負う点は争わないが,その義務内容は,当事者間の関係性や問題となる具体的状況によって異なるものであり,本件事故時の気象条件や予想されたタレント生徒の運動量等の事情からすれば,被告Y1が負う安全配慮義務の具体的内容は,激運動及び持久走は避ける,積極的に休憩をとり水分補給をさせる,体力のない者又は暑さに慣れていない者は運動を中止させる,参加者に対し適宜体調を確認し,参加者が体調不良を訴えた場合や外見上体調が悪いと判断される場合には走行を中止させる,熱中症が疑われる症状がみられた場合には,直ちに運動を中止し,涼しい場所で安静にさせ,冷却その他体温を下げるなどの応急処置をとり,必要に応じて速やかに医療機関に搬送するというものである。 イ(ア) 原告らは,被告Y1には原告らが主張する高度の内容の安全配慮義務がある旨主張する。 しかしながら,本件駅伝リハーサルは,本件番組の本番前に番組進行の確認及びカメラワークの確認のために行われるものであり,タレント生徒は本番におけるタレント等の代役であって,カメラワークの確認のための被写体に過ぎないのであり,本件駅伝リハーサルに競技性は一切なく,試走者間での競争は求められておらず,このことは原告X1を含め 生徒は本番におけるタレント等の代役であって,カメラワークの確認のための被写体に過ぎないのであり,本件駅伝リハーサルに競技性は一切なく,試走者間での競争は求められておらず,このことは原告X1を含めたタレント生徒に対して説明されていた。また,走行のペースや体調に応じて歩行することは各タレント生徒の判断に委ねており,タレント生徒に対しては,歩いても止まってもよい旨を積極的に伝えていた。 また,本件リハーサル時の気象条件は,熱中症予防運動指針における「厳重警戒」に該当するものと推測され,環境省が発表した本件リハーサル時の大阪のWBGTの実測値によると,午後4時時点で29.4度,午後5時時点で25.9度,午後6時時点で26.3度であった。原告らは,平成20年8月10日に第4区アンカー中継所において実測した気温と大阪管区気象台発表の同日の気温との差をもとに,本件駅伝リハーサル時の乾球温度やWBG - 11 -Tの数値を推定して,本件駅伝リハーサルが熱中症発症の危険性が極めて高い環境であったと主張する。しかしながら,WBGTの算定で必要となる乾球温度(気温)は,直射日光による熱輻射の影響を除外して計測する必要があるにもかかわらず,平成20年8月10日における気温の実測方法は,直射日光を当てた状態で計測されたものであり不適切である。また,原告らが推定したWBGTの算出方法は不明瞭であり,合理的根拠が存在しない。 さらに,本件駅伝リハーサルにおいて予想されるタレント生徒の運動量はわずかであり,原告X1の実際の運動量も,1回目の走行距離は約830メートル,走行時間は4分24秒であり,水分補給を行った22分間の休憩後の2回目の走行距離は約900メートル,走行時間は約10分であったのであり,合計約15分間の短時間の運動量であった。 以上からすれ トル,走行時間は4分24秒であり,水分補給を行った22分間の休憩後の2回目の走行距離は約900メートル,走行時間は約10分であったのであり,合計約15分間の短時間の運動量であった。 以上からすれば,原告らが主張する高度な内容の安全配慮義務を被告Y1が負っていたとはいえない。 (イ) 原告らは,被告Y1には,試走するタレント生徒に対し,暑熱順化の指示を行う義務があった旨主張するが,被告Y1は,タレント生徒の参加経緯,年齢及び参加者の個別要因を知りうる立場になかったのであるから,当該義務は存在しない。本件駅伝リハーサルは,原告X1が参加の意思表明をした日から4日後に予定されており,2週間程度を要する暑熱順化の指示そのものが問題となり得ない。 (ウ) 原告らは,被告Y1には,試走するタレント生徒に対し,自発的脱水症状現象を理解させ,塩分の供給を指示すべきであった旨主張する。 しかしながら,環境省が本件事故時までに発行した熱中症環境保護マニュアル2008(以下「保護マニュアル」という。)及び熱中症予防運動指針によれば,本件事故時の気象条件は「厳重警戒」に該当すると考えられ,運動が原則として中止されているわけではない。保護マニュアルによれば,同条件における対策として,「暑い時には水分をこまめに補給する。休憩は30分 - 12 -に1回程度とるようにする。長時間の運動で汗をたくさんかく場合には,塩分の補給も必要。」と記載されているところ,前記のとおり,本件駅伝リハーサルにおける原告X1の運動量は,走行距離が合計約1730メートル,運動時間は合計約15分に過ぎず,長時間の運動には該当しないから,自発的脱水症状現象を理解させず,塩分を補給しなかったからといって,安全配慮義務に違反するものではない。 (エ) 原告らは,熱中症が発 間は合計約15分に過ぎず,長時間の運動には該当しないから,自発的脱水症状現象を理解させず,塩分を補給しなかったからといって,安全配慮義務に違反するものではない。 (エ) 原告らは,熱中症が発生する危険な気象条件になったが,被告Y1は本件駅伝リハーサルの実施を中止しなかった旨主張するが,本件駅伝リハーサル時の気象条件は,保護マニュアルにおける「厳重警戒」に該当すると考えられ,激運動及び持久走は避けるべきものとされていたが,本件駅伝リハーサルにおける運動量は前記(ア)及び(ウ)のとおりであり,激運動や持久走に該当するものではなく,本件駅伝リハーサルを中止する義務はなかった。 (オ) 原告らは,被告Y1には,緊急搬送先として集中治療のできる医療体制を作っておく必要があり,事前に熱中症の発生を見越して,迅速に医療的措置を受けられるように危険の検知体制,医療専門家による救護体制,病院への救急搬送体制を構築する義務がある旨主張するが,本件駅伝リハーサルはあくまで番組進行やカメラワークの確認であって,激運動や持久走を予定したものではないから,被告Y1は原告らが主張するような体制を構築する義務を負わない。 ウ被告Y1は,本件駅伝リハーサルに参加したタレント生徒に対し,次の(ア)から(カ)の配慮をしたことによって安全配慮義務を履行した。したがって,被告Y1には原告X1に対する安全配慮義務の違反はない。 (ア) 本件リハーサル当日,被告Y1は,タレント生徒を,室温26度から27度の迎賓館で待機させ,1回目の走行を開始するまでは木陰で待機させた。 また,タレント生徒に対し,2回にわたり,500ミリリットルのミネラルウォーターが入ったペットボトルを配布した。 - 13 -(イ) 本件駅伝リハーサルはカメラワーク等のリハーサルであって,タレ た,タレント生徒に対し,2回にわたり,500ミリリットルのミネラルウォーターが入ったペットボトルを配布した。 - 13 -(イ) 本件駅伝リハーサルはカメラワーク等のリハーサルであって,タレント生徒に対して全力疾走を求めていない。駅伝の番組スタッフは,タレント生徒に対し,繰り返し,「体調は大丈夫か。」,「走るのが無理だと思ったら手を挙げて止まってもいい。」,「倒れられるのが一番困る。しんどかったら走らんでもええ。歩いてもいい。」と告げて,走行前又は走行中に体調の異変があれば,いつでも走行を中止するように注意を促した。 (ウ) 本件駅伝リハーサルの1回目の走行は,暑さがやわらぐ午後4時50分から行うこととした。また,2回目の走行については,走行区間及び走行そのものについて,柔軟な対応をするようにした。 (エ) 1回目の走行終了後,本件番組のスタッフが,タレント生徒に対し「気分が悪い人はいるか。」と尋ねたが,原告X1は,気分が悪いとは言わなかった。 (オ) 原告X1は,1回目の走行終了時から2回目の走行開始時までの間,約22分間の休憩時間をとった。 (カ) 原告X1が2回目の走行を開始し,約900メートル走行した時点で,被告Y1の従業員が原告X1の異変に気がつき,走行を中止させた。そして,室温が26度から27度に設定された迎賓館の部屋に搬入して,原告X1の体温が低下するように応急措置を講じた上で,D看護師の手当てを受けさせ,救急車によって病院に搬送した。 エ原告らは,被告Y1が,直ちに原告X1を救急搬送しなかったことは安全配慮義務に違反する旨主張するが,被告Y1は,救急搬送するまでの間,保護マニュアルに記載された処置を講じていたのであり,症状が回復しなかった時点で直ちにD看護師に対応を要請し,その後はD看護師の指示に従って 違反する旨主張するが,被告Y1は,救急搬送するまでの間,保護マニュアルに記載された処置を講じていたのであり,症状が回復しなかった時点で直ちにD看護師に対応を要請し,その後はD看護師の指示に従っていた。その間,原告X1には意識があり,D看護師らの問いかけに応じ,保護マニュアルにおいて医療機関への搬送の指標とされている水分の自力摂取が不可能という状況ではなかったのであるから,被告Y1が直ちに救急車の出動要請をしなかったことをもって,原告X1に対する安全配慮義務を尽く - 14 -さなかったとはいえない。 (2) 被告Y2の安全配慮義務の有無,内容及びその違反の有無(争点2)(原告らの主張)ア被告Y2は,タレント生徒に対し,被告Y1からの依頼に基づいて本件駅伝リハーサルへの参加を勧誘し,事実上参加を強制して無償の労務提供にあたらせた。同時に,本件駅伝リハーサルへの派遣は,テレビ番組等で活躍する芸人育成を目的に掲げる被告Y2の教育活動の一環として,実際の現場を体験する実地研修の一種として行われた性質も併せ有している。したがって,被告Y2は,タレント生徒に対し,在学契約上の付随義務として,派遣先での労務提供及び実地体験教育における安全に配慮する義務を負っていた。 イ被告Y1は,被告Y2にとって,被告Y2の所属タレントへ仕事を発注して莫大な経済的利益を生み出す重要な顧客であり,被告Y2は,各種便宜を図ってでも被告Y1と良好な関係を維持すべきとの強い動機付けが存在することから,被告Y2は,かかる背景のもとで,タレント生徒に対して本件駅伝リハーサルへの参加を強制した。 また,タレント生徒にとって,アシスタントからの指示は,被告Y2からの指示に他ならないところ,タレント生徒は,被告Y2や関係者と良好な関係を築いて,将来 駅伝リハーサルへの参加を強制した。 また,タレント生徒にとって,アシスタントからの指示は,被告Y2からの指示に他ならないところ,タレント生徒は,被告Y2や関係者と良好な関係を築いて,将来における芸人としての成功や,テレビの出演機会につなげてくれることを期待しており,被告Y2に対し,意欲的に仕事に取り組む姿勢を印象づけなければならず,その意向に逆らってはならないとの心理的圧力を常に感じていた。被告Y2は,このようなタレント生徒の立場を十分に認識し,両者の力関係の差を利用して本件駅伝リハーサルへの参加の勧誘を行った。 ウ被告Y2は,本件駅伝リハーサルの危険性を十分に認識し,熱中症の危険が生じうる過酷な環境条件でリハーサル試走が行われることを予見していた。 - 15 -エ以上の各事情からすれば,被告Y2は,原告X1に対し,具体的に,次の(ア)ないし(ウ)の安全配慮義務を負っていた。 (ア) タレント生徒に対し,本件駅伝リハーサル実施に先だって,熱中症予防についての適切な知識を与え,予め暑熱順化を行うように指示する義務(イ) 被告Y1に対し,適切な危険検知,応急治療,医療機関への搬送体制が確保され,熱中症に対する安全な労務環境が提供されているかを確認する義務(ウ) 本件駅伝リハーサルの安全性が確保できなければ,タレント生徒の派遣を中止する義務オしかしながら,被告Y2は,前記エ(ア)ないし(ウ)の義務を怠った。 (被告Y2の主張)ア被告Y2が運営するタレント養成学校は,職業訓練を目的とした私塾であって,全人格的な教育を行う教育機関とは異なるのであり,在学契約に付随する義務としての安全配慮義務を負わない。少なくとも,被告Y2がタレント生徒に対して安全配慮義務を負うのは,タレント養成学校のカリキ て,全人格的な教育を行う教育機関とは異なるのであり,在学契約に付随する義務としての安全配慮義務を負わない。少なくとも,被告Y2がタレント生徒に対して安全配慮義務を負うのは,タレント養成学校のカリキュラムに基づく行為が直接問題となる場面に限られるというべきであり,本件駅伝リハーサルはタレント養成学校のカリキュラムとは無関係であって,自らの体調を自主的に判断及び管理することができる年齢に達した生徒が,自主的かつ任意に本件駅伝リハーサルへ参加したものであるから,被告Y2が本件駅伝リハーサルに関して原告X1に対して安全配慮義務を負うことはない。 本件駅伝リハーサルは,タレント生徒の生命及び身体に対して危険を及ぼすようなものではなく,仮に,何らかの危険性があったとしても,その程度は著しく小さいものであり,被告Y2は,これを予測し得なかった。 イ原告らは,被告Y2が原告X1を強制的に本件駅伝リハーサルに参加させたのであり,これは無償の労務提供にあたる旨主張する。 しかしながら,被告Y1からの依頼は単なる任意の協力依頼であり,被告 - 16 -Y2としては,リハーサルに参加する人数が足りなければ,被告Y1が代替要因を用意して対応するものと認識した上で,参加希望者の募集やその取りまとめに事実上協力したに過ぎない。また,被告Y2と被告Y1の関係は,長年にわたる緊密な取引により,既に強固な信頼関係が構築されているため,仮に依頼どおりの人数を集めることができなくても,それにより前記関係に影響を及ぼすことはないし,依頼どおりの人数を集めることができたとしても,それにより被告Y2が被告Y1から便宜を受けることができるといった関係にはないから,被告Y2において,被告Y1の依頼どおりの人数を集めなければならないという積極的な動機は存在しない。 たとしても,それにより被告Y2が被告Y1から便宜を受けることができるといった関係にはないから,被告Y2において,被告Y1の依頼どおりの人数を集めなければならないという積極的な動機は存在しない。 また,原告X1に参加を呼びかけた2名の女性アシスタントは,原告X1らの1期上の先輩であって,原告X1らとは友達のような関係であり,タレント生徒がアシスタントを恐れるといったことや,アシスタントの指示及び依頼に絶対に従わなければならないという雰囲気はない。実際に,タレント養成学校のBクラスにおける募集には出席者29名中26名,Iクラスにおける募集には出席者22名中4名,原告X1が所属していたCクラスにおける募集には出席者18名中9名が参加を拒否したのであるから,原告X1を含むタレント生徒の本件駅伝リハーサルへの参加の意思表明は,完全に自発的かつ任意に行われたものである。 タレント養成学校においては,生徒らの成績評価を行っておらず,生徒がアシスタントの指示に従うか否かは,タレントとして成功することと無関係であるから,タレント生徒においてアシスタントの指示に対する心理的圧迫は存在しない。 以上からすると,被告Y2が,原告X1を含むタレント生徒に対して,強制的に本件駅伝リハーサルに参加させたとはいえず,被告Y2が被告Y1に対して無償の労務提供を行ったものではない。 ウ仮に,被告Y2が,原告X1に対して安全配慮義務を負うとしても,被告 - 17 -Y2が運営するタレント養成学校は,成年又は成年に準じる者を対象としてタレント養成のための職業訓練を行うことを目的とした私塾であること,本件駅伝リハーサルはタレント養成学校のカリキュラムとは無関係であり,運動負荷が低く,参加者も体調等の自己判断ができる年齢であったこと,番組 成のための職業訓練を行うことを目的とした私塾であること,本件駅伝リハーサルはタレント養成学校のカリキュラムとは無関係であり,運動負荷が低く,参加者も体調等の自己判断ができる年齢であったこと,番組製作のプロであり,野外の大型イベントを多数手懸けている被告Y1が適切な対応をとると期待することが当然であったことなどからすると,本件駅伝リハーサルについて被告Y2が原告X1らタレント生徒に対して負う安全配慮義務の内容は,被告Y1に対してタレント生徒の安全面に配慮するよう依頼すること,タレント生徒に対して一般的な暑さ対策の注意を行うことで足りる。 エ被告Y2は,被告Y1に対して,本件駅伝リハーサル当日に十分な休憩を取らせることや水分補給をさせるといった暑さ対策を取るよう依頼し,本件駅伝リハーサルに参加するタレント生徒に対して,汗をかくので着替えと飲み物を持参するよう注意喚起をしているから,原告X1に対する安全配慮義務を履行している。 (3) 原告X1の損害の発生の有無及び被告らの各安全配慮義務違反と原告X1の損害との間の因果関係の有無(争点3)(原告らの主張)ア原告X1は,本件駅伝リハーサルにおいて熱中症に罹患したことにより,意識障害,過換気症候群,横紋筋融解症,四肢麻痺(両下肢腱反射亢進,病的反射出現,圧力の低下),小脳症状による体幹失調,歩行不能,その他の体幹機能障害等の症状が生じ,高次脳機能障害,四肢麻痺,体幹機能障害の後遺障害が生じた。本件事故以降に原告X1に生じた過呼吸,脱水,意識障害及び痙攣発作は,熱中症急性期の典型的な症状であり,原告X1が熱中症に罹患したことは明らかである。 原告X1に生じた熱中症の症状は,熱中症の重症度の区分のうち,最も重 - 18 -症となるⅢ度に該当するものであった。被告らは,原告 症状であり,原告X1が熱中症に罹患したことは明らかである。 原告X1に生じた熱中症の症状は,熱中症の重症度の区分のうち,最も重 - 18 -症となるⅢ度に該当するものであった。被告らは,原告X1の体温が,甲病院到着時においては36.9度,同日午後8時においては37.2度であったことを殊更に強調して,原告X1の熱中症が軽症であったと主張するが,日本救急医学会及び日本神経救急学会において,体温による重症度の診断は,現場での正確な体温測定が容易でなく,腋窩等の温度は正確でない場合があることから,その診断基準から体温を除外しており,本件においても,腋窩冷却の影響及び原告X1の症状に照らし,体温を理由として原告X1の熱中症が軽度であったと判断するのは誤りである。 原告X1のその後の症状は,熱中症による脳障害が生じたことによるものである。これは,原告X1のその後の症状に対して行われた器質的脳障害を前提とする治療に効果が認められたことからも明らかである。 イ本件事故直後,原告X1に過呼吸が生じたのは,熱中症を原因とするものである。過換気症候群が重い身体上及び精神上の後遺障害の原因となることはないから,原告X1に過換気症候群の既往症が存在することは,熱中症の重症度や因果関係の判断に影響を与えるものではない。 ウ小脳症状による体幹機能障害等は,画像所見に現れないことがあることが医学分野において報告されており,原告X1にこれを示す画像所見が存在しないからといって,熱中症の罹患との因果関係を否定する根拠にはならない。 エ甲病院及び乙病院における入院期間中の原告X1の症状は,意識障害,てんかん重積,過換気発作,全身性痙攣などが続き,ICUでの治療措置も必要となるものであり,ICU退室後はゆるやかに回復する傾向もあったが,乙病院を退院した後も 期間中の原告X1の症状は,意識障害,てんかん重積,過換気発作,全身性痙攣などが続き,ICUでの治療措置も必要となるものであり,ICU退室後はゆるやかに回復する傾向もあったが,乙病院を退院した後も心身の障害が残存しており,介助がなければ危険な状態が続いていた。 原告X1は,平成20年9月12日から入院した丙病院において,一貫して熱中症の後遺障害と診断され治療を受けてきたのであり,熱中症と後遺障害との間に因果関係が存在することは明らかである。そして,原告X1は, - 19 -その後の治療及びリハビリにより,平成23年7月の時点で,自賠責保険後遺障害者等級における7級に相当する後遺障害を残して症状固定した。 オ被告らは,現在の原告X1の病状の原因として,心因性疾患,解離性障害の可能性を主張するが,原告X1の熱中症の症状は重度であり,その後の症状推移についても熱中症の自然な経過といえるのであり,被告らの前記主張は,カルテ上の不明確な所見をもって行われているに過ぎない。 (被告らの主張)ア熱中症のうち最も重症となるⅢ度においては,症状として高体温(40度以上)となるが,甲病院到着時の原告X1の体温は36.9度,同日午後8時の体温は37.2度であり,脱水症状も翌日には正常に回復し,血液検査の数値も翌日には殆ど全ての項目において正常値に回復したことからすると,原告X1が罹患した熱中症の症状は,Ⅰ度にとどまる可能性が高い。 イ本件事故後に生じた過呼吸は,原告の既往症である過換気症候群を原因とするものであり,熱中症を原因とするものではない。 ウ原告X1に小脳症状による体幹失調が発生したとの主張は否認する。 原告X1が治療を受けた医療機関のいずれにおいても,脳の検査結果に器質性の異常が報告されてない。 エ原告X1に横紋 はない。 ウ原告X1に小脳症状による体幹失調が発生したとの主張は否認する。 原告X1が治療を受けた医療機関のいずれにおいても,脳の検査結果に器質性の異常が報告されてない。 エ原告X1に横紋筋融解症が発生したとの主張は否認する。 仮に,横紋筋融解症であれば,本件事故後,遅くとも平成20年7月27日の時点で血清CK値が数千にまで急上昇するはずである。しかしながら,平成20年7月25日から同月27日までの原告X1の数値は100程度であるから,原告X1に横紋筋融解症の発生は認められない。 オ以下の(ア)ないし(ウ)の理由から,原告X1が本件駅伝リハーサルにおいて罹患した熱中症と,原告らが主張する原告X1の現在の後遺障害との間の相当因果関係の存在を争う。 (ア) 原告X1は,本件事故後の平成20年8月30日,自力で起床し,階段の - 20 -昇降,移動や入浴もできることが確認されており,同年9月1日及び同月2日には,近くのデパートに自転車で往復することができ,多少のふらつきがあるものの,転んだり,ぶつかったりせずに往復できたにもかかわらず,同月6日からリハビリを受けることになり,握力が0キロまで落ちたというのである。以上の原告X1の行動及び症状は,熱中症の予後の自然経過として説明することが困難である。 (イ) 意識障害,四肢麻痺及び体幹機能障害が発生したと原告らが主張する点については,甲病院及び丁病院の診療録において,原告X1の頭部CTの結果に異常はなく,原告X1の症状は,平成20年7月28日の時点で,心因性疾患が強く疑われる旨の指摘を受けている。また,本件事故後の原告X1のMRI,ルンバール,脳波及び採血の結果に脳の器質的な異常を示す症状が認められず,解離性障害の疑いがある旨の指摘を受けている。 (ウ) 高次脳機能 指摘を受けている。また,本件事故後の原告X1のMRI,ルンバール,脳波及び採血の結果に脳の器質的な異常を示す症状が認められず,解離性障害の疑いがある旨の指摘を受けている。 (ウ) 高次脳機能障害の発生は否認する。 原告X1が受診したいずれの病院の診療録においても,原告X1のCT,MRI及び脳波検査の結果において異常は認められない。 (4) 原告らの損害額(争点4)(原告らの主張)ア原告X1に生じた損害は,以下のとおりである。 (ア) 治療関係費 218万0251円(イ) 入院雑費 18万円(ウ) 通院交通費 28万8120円(エ) 付添看護費 72万円(オ) 介護費 477万6000円(カ) 将来介護費 8805万4060円(キ) 家屋改造費 1121万2960円(ク) 自動車改造費 53万8650円 - 21 -(ケ) 装置器具購入費 92万3437円(コ) 逸失利益 9273万9935円(サ) 成年後見申立費用 1万1500円(シ) 入通院慰謝料 429万円(ス) 後遺障害慰謝料 3000万円(自賠責保険後遺障害等級2級相当)(セ) 弁護士費用 2400万円イ原告X2及び原告X3に生じた損害は,以下のとおりである。 (ア) 近親者慰謝料各200万円(イ) 弁護士費用各20万円ウ原告X1は,被告Y1から,平成21年7月10日,損害の填補として177万0481円の支払を受けた。 (被告らの主張)ア及びイは争い,ウは認める。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前記前提事実に加え,後掲 年7月10日,損害の填補として177万0481円の支払を受けた。 (被告らの主張)ア及びイは争い,ウは認める。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前記前提事実に加え,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められ,これを覆すに足りる証拠はない。 (1) 原告X1のタレント養成学校への入所に至るまでの経歴等ア原告X1は,平成17年3月,高等学校を卒業し,同年4月,E学園が運営する専門学校ミュージシャン学科バンドボーカル専攻に入学した。原告X1は,平成19年3月,同専門学校を卒業し,大学受験に向けて受験勉強を開始し,同時期に飲食店のアルバイトをしていたが,平成20年2月ころ,タレント養成学校への入学を希望し,同年4月,タレント養成学校31期生として大阪校に所属した(前提事実,甲39,原告X2本人1頁)。 イ原告X1は,本件事故当時,身長168センチメートル,体重50キログ - 22 -ラムのやせ形の体型であり,本件事故時までにスポーツの主立った経験がなく,時々原告X2と共に走ったりする程度であった(原告X2本人22頁,同25頁,同44頁)。 ウ原告X1は,平成18年から平成19年ころ,過換気症候群を発症した経歴を有している(乙A3-2頁,乙A4の1-9頁,乙A4の2-11頁)。 また,原告X1は,平成19年1月以前,丁病院精神神経科に通院し,薬剤の処方を受けていた(乙A5,弁論の全趣旨)。 (2) タレント養成学校の授業内容等ア被告Y2が運営するタレント養成学校は,芸人及びタレントを育成することを目的として,漫才やコントなどで必要となる発声や演技の他,ネタ見せ,大喜利及びトークといった授業を開講する団体であって,業界で活躍する作家及びタレントを講師に据え,プロの びタレントを育成することを目的として,漫才やコントなどで必要となる発声や演技の他,ネタ見せ,大喜利及びトークといった授業を開講する団体であって,業界で活躍する作家及びタレントを講師に据え,プロの視点から実践的なアドバイスを受けることができる点,タレント養成学校在学中からテレビ出演や舞台のオーディションに参加する機会がある点を利点として生徒募集において強調していた(甲4,甲5,乙B5ないし乙B8,乙B10,B証人1頁,同10頁,弁論の全趣旨)。 イ原告X1らタレント養成学校31期生の年間スケジュールは,4月から6月にかけては,発声及び礼儀所作等の基礎授業,7月から9月にかけては,ダンス,ネタの作り方及び考え方等の応用授業,10月から12月にかけては,テレビや舞台を意識した実践的な授業を中心に構成し,イベント出演の機会が複数設定される,翌年1月から3月にかけては,卒業公演制作というものであった(乙B5,乙B8)。 ウタレント養成学校では,生徒をクラス毎に振り分けており,タレント養成学校31期生はAクラスからJクラスまで存在したところ,原告X1はCクラスに所属していた(弁論の全趣旨)。 エ被告Y2は,タレント養成学校における授業を補助する人材として,前年 - 23 -度のタレント養成学校の卒業生の中から,授業態度,礼儀作法及び講師との相性等の基準で選抜した者をアシスタントとして雇用し,各クラスに配置している。原告X1が所属するCクラスのアシスタントは女性2名であった(乙B10,B証人6頁,同11頁,同21頁,弁論の全趣旨)。 オタレント養成学校では,タレント生徒の成績評価を行っておらず,1年間のカリキュラムを受講し,出席日数を満たせば卒業公演に出演することができ,卒業公演への出演をもってタレント養成学校を卒業すること オタレント養成学校では,タレント生徒の成績評価を行っておらず,1年間のカリキュラムを受講し,出席日数を満たせば卒業公演に出演することができ,卒業公演への出演をもってタレント養成学校を卒業することになる。タレント生徒において授業態度が良好であっても,芸人としての仕事に直結することはなく,おもしろいか否かが芸人としての仕事を獲得するほとんど唯一の指標であり,タレント養成学校卒業後に仕事を得るためには,オーディション等で実力が認められる必要がある。被告Y2が主催する劇場の出場者を決めるオーディションや,外部団体が主催するコンクールの出場者を決めるための内部選抜については,被告Y2の講師や社員が審査選考を行う。 被告Y2では,特定の個人とタレント専属契約を明示的に締結することはなく,卒業したタレント生徒に対しても,オーディションがあることを連絡する程度であり,タレント生徒又は卒業生がオーディションで実力を示し,被告Y2が主催する劇場に定期的に出演することで,被告Y2の所属タレントとして世間的に認知されるようになる(以上,乙B10,B証人2頁,同3頁,同13頁,弁論の全趣旨)。 (3) 本件駅伝リハーサル参加者の募集依頼及び被告Y2の募集態様ア被告Y1は,本件リハーサルを平成20年7月25日に実施することとした。本件リハーサルにおいては,タレント生徒を除いた約30名のスタッフが本件会場で業務を行った。本件駅伝リハーサルの目的は,本件番組の進行及び試走者を被写体とするカメラワークの確認であった(前提事実,乙A1,J証人1頁,同14頁,同32頁,弁論の全趣旨)。 イ被告Y1は,本件番組の駅伝コーナーの制作にあたり,被告Y1の従業員 - 24 -にチーフを担当させ,その製作をAに委託した。 Aの従業員数名は,平成 ,同32頁,弁論の全趣旨)。 イ被告Y1は,本件番組の駅伝コーナーの制作にあたり,被告Y1の従業員 - 24 -にチーフを担当させ,その製作をAに委託した。 Aの従業員数名は,平成20年7月13日,本件番組内で駅伝が行われる時間帯と同じ時間帯にコース試走を行った。その結果,Aの従業員は,本件駅伝リハーサル及び本件番組本番において相当の酷暑が予想されると判断し,水分の供給量をペットボトル1本から2本に増やすこととした(以上,乙A1-4頁,弁論の全趣旨)。 ウ Aの従業員であるFは,平成20年7月17日,被告Y2の制作営業セクションに所属するBに対し,本件リハーサルが同月25日に行われる旨,その際,タレント生徒に本件駅伝リハーサルの試走者として協力してほしい旨,募集人数は29名であり,一人あたり1000円を支払う旨を記載したメールを送信した。この際,Fは,Bに対し,タレント生徒に向けて本件駅伝リハーサル当日の暑さ対策を講じるように告知することを依頼していない(前提事実,乙B1,乙B10,B証人21頁,弁論の全趣旨)。 Bは,タレント養成学校の担当者であるGに対し,タレント生徒を29名募ってほしい旨伝達すると,Gは,Bに対し,当時は夏休みシーズンであるため,帰省する生徒が多く,29名を集められない可能性がある旨を被告Y1又はAに伝えてほしいと告げた。これを受けて,Bは,平成20年7月18日,Fに対し,「時間を早急に下さい。あと,29人は難しそうなんですが,最低何人なら大丈夫ですか?おそらくタレント養成学校も夏休みにはいるので,人数確保が難しいみたいです。本日メールを見られないので,携帯まで電話ください」と記載したメールを送信した(乙B2,乙B10,B証人3頁,弁論の全趣旨)。 エ Gは,平成20年7月18日ま で,人数確保が難しいみたいです。本日メールを見られないので,携帯まで電話ください」と記載したメールを送信した(乙B2,乙B10,B証人3頁,弁論の全趣旨)。 エ Gは,平成20年7月18日までに,アシスタントを管理する業務を担当する被告Y2の従業員であるHに対し,アシスタントを通じて,タレント養成学校の各クラスに本件駅伝リハーサルへの参加を募集するように依頼した。 Hは,平成20年7月18日,アシスタントに対し,同日に授業のあった - 25 -Bクラス及びIクラスのタレント生徒に本件駅伝リハーサルへの参加を呼びかけるように指示した。アシスタントは,同日の授業終了後,Bクラスのタレント生徒に本件駅伝リハーサルへの参加を呼びかけたところ,出席していた生徒29名中3名が参加する意思を表明した。また,同様に,Iクラスのタレント生徒に本件駅伝リハーサルへの参加を呼びかけたところ,出席していた生徒22名中18名が参加する意思を表明した(乙B10,B証人6頁,弁論の全趣旨)。 オ Hは,平成20年7月21日,原告X1が所属するCクラスの女性アシスタント2名に対し,Cクラスのタレント生徒に本件駅伝リハーサルへの参加をCクラスのタレント生徒に呼びかけるように指示した。 2名の女性アシスタントは,同日のCクラスの授業終了後,同クラスのタレント生徒に対して,「7月25日に本件イベントで走るエキストラ8名を募集しています」,「ものすごく走って汗をかくので,着替えと飲み物を持って行って下さい」と伝えたところ,同日授業に出席していた18名中の2名の生徒がすぐに参加する意思を表明した。 アシスタントは,再度Cクラス全体に対して,「用事がなかったら参加して」,「行けるんやったら行って」,「誰かいる?」と呼びかけ,そのうち生徒数人 名中の2名の生徒がすぐに参加する意思を表明した。 アシスタントは,再度Cクラス全体に対して,「用事がなかったら参加して」,「行けるんやったら行って」,「誰かいる?」と呼びかけ,そのうち生徒数人に対し,個別に,「行ける?」,「日にち空いてる?」と声をかけたところ,前記2名の他,原告X1を含む7名が参加の意思を表明した。所期の人数より1名多かったため,生徒間で話し合いをし,そのうち1名が参加を辞退した(以上,前提事実,乙B10,弁論の全趣旨)。 カ Bは,平成20年7月24日,被告Y1の従業員であるCに対し,本件駅伝リハーサルに参加するタレント生徒の氏名リストをFAX送信し,送信書に「くれぐれも暑さ対策よろしくお願いします。(お預かりしている大事な生徒さんなんで)」と記載した(前提事実,乙B3)。 キ本件駅伝リハーサルに参加するタレント生徒の年齢は,概ね20歳前後で - 26 -あった(乙A1-6頁)。 (4) 本件イベントの開催に向けた緊急時体制の整備等ア被告Y1は,平成20年7月3日,本件イベントの開催に向けて,大阪府警察本部,大阪市消防局及び大阪市交通局等と協議を行い,本件イベントにおける緊急事態の発生に備え,緊急時の連絡体制や救急患者が発生した場合の対応手順を策定した(乙A32,乙A33)。 イ被告Y1は,本件イベントが夏期に開催されることに鑑み,救急患者の発生に備え,本件イベント開催初日の前日であり本件リハーサルが実施された平成20年7月25日及び本件イベントの開催期間(平成20年7月26日から同年8月3日)に,医師又は看護師が常駐する救護所を本丸と二の丸庭園の2箇所に設置した。 被告Y1は,本件リハーサルが実施された平成20年7月25日午後1時から午後6時までの間,D看護師を二の丸庭園 月3日)に,医師又は看護師が常駐する救護所を本丸と二の丸庭園の2箇所に設置した。 被告Y1は,本件リハーサルが実施された平成20年7月25日午後1時から午後6時までの間,D看護師を二の丸庭園救護所で,I看護師を本丸救護所でそれぞれ勤務させた。同日におけるD看護師らの勤務の目的は,翌日に開催を控えた本件イベントに向けて,救護室の資材及び機材を整えるものであった。 D看護師は,28年間,戊病院において看護師として勤続した経歴があり,同病院を退職後は,短期イベントの救護業務に従事していた(以上,乙A1)。 (5) 本件リハーサル時の気象条件等ア大阪管区気象台は,本件リハーサル時における気温及び相対湿度を,別表「大阪管区気象台発表の本件リハーサル時の気象条件」記載のとおり発表した。 被告Y1は,本件リハーサル当日,本件会場の気温,相対湿度及びWBGT等の数値を測定していない(以上,乙A37,弁論の全趣旨)。 イ原告X2は,平成20年8月10日午後2時30分から午後5時40分までの間,被告Y1の従業員,Aの従業員及び被告Y2の従業員であるGの立 - 27 -会いの下,本件駅伝リハーサルの第4区のスタート地点において,10分毎に気温の測定を行った。当該測定は,地上からの高さ約150センチメートルの位置に設置した,ナイロン製の黒い帽子の上に測定センサーを直射日光下に置いて行われた。測定センサーの感温部は,格子状のカバーで覆われていた。 大阪管区気象台が発表した同日の気温は,別表「平成20年8月10日の気象条件」の「ⅰ気象台気温(度)」記載のとおりであり,前記測定の数値は,同表「ⅱ第4区気温(度)」記載のとおりである(以上,甲10,甲60,甲61,乙A17,乙A42ないし44,原告X2本人17頁,弁論の全趣旨)。 台気温(度)」記載のとおりであり,前記測定の数値は,同表「ⅱ第4区気温(度)」記載のとおりである(以上,甲10,甲60,甲61,乙A17,乙A42ないし44,原告X2本人17頁,弁論の全趣旨)。 ウ環境省は,本件リハーサル時における大阪のWBGTの数値を,別表「環境省発表の本件リハーサル時の大阪のWBGT」の「時分」及び「WBGT(度)」欄記載のとおり発表した。環境省が発表した前記WBGTの数値の大阪の観測地点は不明である(乙A41,弁論の全趣旨)。 (6) 本件事故当日における1回目の試走に至るまでの経緯ア原告X1を含む本件駅伝リハーサルに参加するタレント生徒は,平成20年7月25日正午ころ,本件会場の最寄り駅であるJR大阪城公園駅に集合し,Aの従業員から交通費として各自1000円を受け取った後,同人の案内で,本件駅伝リハーサルのスタート地点となる西の丸庭園に向かった(前提事実,乙A1)。 この際,Aの従業員は,集合したタレント生徒に対し,体調不良の者がいないかを確認するための呼びかけを行った(乙A1)。 イ Aの従業員は,同日午後1時ころ,タレント生徒に対し,西の丸庭園に設置された本件イベントのメインステージ裏にある木陰において,本件番組及び本件駅伝リハーサルの内容並びに本件駅伝リハーサルにおける各自の役割等の説明を行った。また,Aの従業員は,タレント生徒に対し,本件駅伝リハーサルの試走にあたり,走るのが無理だと思ったら手を挙げて途中で止 - 28 -まってもよい旨,倒れられることが一番困るから体が苦しくなったら走らなくてよく,歩いてもよい旨を繰り返し説明した。 原告X1は,1回目の試走では第3区(約830メートル)を,2回目の試走では第4区(約1200メートル)を走行することになり,1回目 しくなったら走らなくてよく,歩いてもよい旨を繰り返し説明した。 原告X1は,1回目の試走では第3区(約830メートル)を,2回目の試走では第4区(約1200メートル)を走行することになり,1回目の試走では40歳代後半の男性アナウンサーの代役を,2回目の試走では30代のアナウンサーの代役をそれぞれ務めることになった。 その後,原告X1らタレント生徒は,Aの従業員から,500ミリリットルのミネラルウォーターが入ったペットボトル1本の配布をそれぞれ受けた(以上,前提事実,乙A1,乙A2,乙A13,J証人4頁,同16頁,弁論の全趣旨)。 ウ原告X1らタレント生徒は,同日午後1時35分ころ,西の丸公園内に建築された迎賓館に向かい,本件駅伝リハーサルが開始されるまでの間,同所で待機した。迎賓館内は冷房が作動していた(乙A1)。 エ原告X1らタレント生徒は,同日午後3時30分ころ,迎賓館を出て,本件駅伝リハーサルのそれぞれの走行区間のスタート位置への移動を開始した。 原告X1は,第3区のスタート地点である別紙図面の第3区中継ポイントに向かい,本件駅伝リハーサルが開始するまで,同所付近で待機し,空いた時間でコースを徒歩で確認した。第3区中継ポイント付近には木陰が存在する(乙A1,乙A2,乙A13)。 (7) 1回目の試走及び2回目の試走に至るまでの経緯ア被告Y1は,同日午後4時50分ころ,本件駅伝リハーサルの1回目の試走を開始し,第1区を担当するタレント生徒が走行を始めた(乙A1,乙A2,乙A13)。 イ原告X1は,同日午後4時53分ころ,第2区を担当するタレント生徒から1位でたすきを受け取って第3区の走行を開始し,他のタレント生徒数名に追い抜かれ,同日午後4時57分ころ,別紙図面のアンカー中継ポイント - 午後4時53分ころ,第2区を担当するタレント生徒から1位でたすきを受け取って第3区の走行を開始し,他のタレント生徒数名に追い抜かれ,同日午後4時57分ころ,別紙図面のアンカー中継ポイント - 29 -に到着し,走行を終えた。このときの走行時間は4分24秒であった。原告X1は,2回目の試走までの間,アンカー中継ポイント付近で待機した。アンカー中継ポイント付近には木陰が存在する(乙A1,乙A2,乙A13,弁論の全趣旨)。 ウ被告Y1は,アンカー中継ポイントに到着した原告X1に対し,500ミリリットルのミネラルウォーターが入ったペットボトル1本を配布した(乙A1)。 エ被告Y1又はAの従業員は,各中継ポイントにおいて,1回目の試走を終えたタレント生徒に対し,体調が悪い人がいないか確認する趣旨で声をかけると,第3区を走行したKが挙手をして,交代要員との交代を申し出た。しかし,被告Y1又はAの従業員は,挙手したKの他に,同じく第3区を走行したLが汗を大量にかいて激しく息切れをしていたことから,Lを交代要員と交代させて,Lの2回目の試走をやめさせた。これにより,当初挙手したKは2回目の試走に参加することになった。この際,原告X1は体調不良を訴えなかった(以上,乙A1,弁論の全趣旨)。 (8) 2回目の試走及び試走中止までの経緯ア被告Y1は,同日午後5時13分ころ,本件駅伝リハーサルの2回目の試走を開始し,第1区を担当するタレント生徒が走行を始めた(乙A1,乙A2,乙A13)。 イ 2回目の試走で第1区を走行したタレント生徒の1人は,走行終了後,頭痛を主症状とする体調不良が生じ,これに気づいた被告Y1の従業員が同タレント生徒に声をかけ,体を横に寝かせて冷たいお茶を首に当てるなどして急冷措置を講じた。同タレ レント生徒の1人は,走行終了後,頭痛を主症状とする体調不良が生じ,これに気づいた被告Y1の従業員が同タレント生徒に声をかけ,体を横に寝かせて冷たいお茶を首に当てるなどして急冷措置を講じた。同タレント生徒は,第2区中継ポイントで休憩していると,後記ウのとおり,第4区を走行する原告X1が西の丸庭園に入ってきたところで従業員に走行を制止させられる状況を視認した(乙A1)。 ウ原告X1は,同日午後5時20分ころ(1回目の試走終了時から約22分 - 30 -後),第3区を担当するタレント生徒から3位でたすきを受け取って第4区の走行を開始した。 原告X1は,同日午後5時30分ころ,西の丸公園内に入り,走行距離にして約900メートル地点までに熱中症を発症し,ふらつきが目立つようになり,原告X1の当該状況を確認したAの従業員は,原告X1に対し,走行を止めるように背後から声を複数回かけたが,原告X1はゆっくりとしながらも走行を続けようとした。Aの従業員らは,原告X1の走行を中止させることとし,原告X1の走行を停止させた(以上,前提事実,乙A1,弁論の全趣旨)。 (9) 応急処置及び搬送時の状況ア原告X1の走行を停止させたAの従業員は,原告X1に対し,呼吸を整えるように声をかけるとともに,お茶が入ったペットボトルを手渡した。原告X1は,自力でペットボトルのフタを空け,お茶を二,三口程度飲んだ。 原告X1は,Aの従業員の肩を借り,迎賓館まで歩行で向かっていたが,迎賓館まで残り約59メートル付近でAの従業員に担がれ,同日午後5時40分ころ,迎賓館に搬送された(以上,乙A1,乙A26)。 イ迎賓館に到着後,Aの従業員らは,原告X1の靴を脱がし,玄関に設置されていた長いすに原告X1を寝かせて,原告X1が着ていたTシャ 0分ころ,迎賓館に搬送された(以上,乙A1,乙A26)。 イ迎賓館に到着後,Aの従業員らは,原告X1の靴を脱がし,玄関に設置されていた長いすに原告X1を寝かせて,原告X1が着ていたTシャツ及び靴下を脱がし,両脇に水が入ったペットボトルを挟み,後頭部と額に冷却剤を,胸部に濡れたタオルをそれぞれ当てて各部を冷やし,着ていたズボンの紐を弛めた。 その後,同所に駆けつけた被告Y1及びAの従業員らは,2名から4名の体制で,原告X1をうちわで扇ぎ続けた。また,Aの従業員は,原告X1に対し水を飲むか尋ねると,原告X1がうなずくように返事をしたため,ペットボトルを傾けて原告X1に水を与えたところ,原告X1は少しの分量を飲んだ。 - 31 -原告X1の顔面はやや赤みがかかった状態であったが意識はあり,その場にいた被告Y1又はAの従業員に対し,手が痺れている旨の症状の説明をした(以上,前提事実,乙A1,乙A16,乙A25,乙A26)。 ウ被告Y1又はAの従業員は,同日午後5時50分ころ,原告X1の症状が改善しないことから,西の丸庭園に設置された救護所に連絡し,D看護師の派遣を要請した。 D看護師は,同日午後5時55分ころ,迎賓館に到着し,原告X1に対する応急処置に加わった。 D看護師は,原告X1の呼吸が荒く,手のひらが反り,両足が突っ張ったような状態であったことから,原告X1に熱中症と過呼吸の状態が生じていると判断し,これに対処するため,ビニール袋を原告X1の口に当て,リラックスして平常の呼吸に戻すように指導した。この処置により一度は原告X1の症状も落ち着いたが,しばらくすると再び過呼吸の症状が生じ,足を蹴るような動作や手指を強く握りしめる動作が生じた。 D看護師は原告X1に対し水を飲ませよ した。この処置により一度は原告X1の症状も落ち着いたが,しばらくすると再び過呼吸の症状が生じ,足を蹴るような動作や手指を強く握りしめる動作が生じた。 D看護師は原告X1に対し水を飲ませようとしたところ,原告X1は水を1口目は飲んだが,2口目はむせたことから,D看護師は水の補給を中止した(以上,乙A1,乙A16,乙A25)。 エ被告Y1の従業員は,原告X1の症状が改善しないことから,救急車の要請を提案したところ,D看護師も原告X1を病院に搬送した方が良いと判断してこれに同意したことから,被告Y1の従業員は,同日午後6時8分ころ,119番通報をした。 D看護師は,救急車が到着するまでの間,過呼吸の症状に対する処置を原告X1に講じながら,原告X1に対し,過去に同じように過呼吸の症状が生じたことがあるかを尋ねると,原告X1は頷いて返事をし,また,過去に過呼吸の症状が出たときは病院に行ったかを尋ねると,原告X1は頷いて返事をした(以上,乙A1)。 - 32 -オ同日午後6時26分ころ,迎賓館に救急隊員が到着し,原告X1は救急車に収容され,同日午後6時49分ころ,原告X1は甲病院に搬送された(乙A1,乙A3)。 (10) 甲病院搬送後の同病院における原告X1の症状ア原告X1が甲病院に搬送された当時,原告X1の体温は36.9度であり,同日午後8時の時点では37.2度であった(いずれも測定部位は不明である。)。また,搬送直後の原告X1には大量の発汗,過換気及び脱水の症状が生じており,過換気に対してはペーパーバック法による処置が施され,脱水に対しては点滴が施された。血圧及び心拍数に大きな異常はなかった。 甲病院搬送直後に実施された原告X1の尿検査の結果は,総ビルリン値が正常値より高い他は パーバック法による処置が施され,脱水に対しては点滴が施された。血圧及び心拍数に大きな異常はなかった。 甲病院搬送直後に実施された原告X1の尿検査の結果は,総ビルリン値が正常値より高い他は特に異常が認められなかった。また,甲病院搬送直後に実施された原告X1の血液検査の結果は,白血球数が正常値よりわずかに高い他は特に異常が認められなかった。 甲病院搬送直後に実施された原告X1の頭部CT検査においては,目立った異常が認められなかった。 意識障害の深度を表すJCSによる原告X1の甲病院搬送直後の意識レベルは,JCS3であった(以上,乙A1,乙A3)。 (JCSとは,日本で主に使用される意識障害の深度に関する分類であり,覚醒度によって3段階に分け,さらに各段階においてそれぞれ3つに区分され,具体的には次のとおり分類される。)Ⅰ 覚醒している(1桁の点数で表現) 0 意識清明 1 見当識は保たれているが意識清明ではない 2 見当識障害がある 3 自分の名前・生年月日が言えないⅡ 刺激に応じて一時的に覚醒する(2桁の点数で表現) - 33 - 10 普通の呼びかけで開眼する 20 大声で呼びかけたり,強く揺するなどで開眼する 30 痛み刺激を加えつつ,呼びかけを続けると辛うじて開眼するⅢ 刺激しても覚醒しない(3桁の点数で表現) 100 痛みに対して払いのけるなどの動作をする 200 痛み刺激で手足を動かしたり,顔をしかめたりする 300 痛み刺激に対し全く反応しないイ同月26日午前,原告X1の体温は36度前後を維持していた。他方で,原告X1には過換気の発作や全身性の痙攣が生じ,意識レベルはJCS20に低下し,一点を凝視して,質問に対しては「うん」とのみ返答する状態であり,構音障 X1の体温は36度前後を維持していた。他方で,原告X1には過換気の発作や全身性の痙攣が生じ,意識レベルはJCS20に低下し,一点を凝視して,質問に対しては「うん」とのみ返答する状態であり,構音障害が発生した。 原告X1は,関節可動域の制限や筋力低下等により,一日中ベッド上で過ごし,日常生活動作のほぼ全てにおいて介助を要する状態であった。 平成20年7月26日に実施された原告X1の血液検査において,PaCo2の数値は39.4mmHg,BEの数値は1.6モルリットルであった。 原告X1は,同日午後零時15分ころ,頭部CT及び血液検査の数値に異常がないことから,甲病院を退院し,乙病院の脳外科に入院することになった(以上,乙3)。 (11) 乙病院入院後の原告X1の症状経過等ア原告X1は,平成20年7月26日から同年8月21日までの間,乙病院に入院した。 イ同年7月26日午後零時30分ころ,原告X1の意識レベルはJCS30から100となり,また,全身性痙攣が断続的に発生したことから,原告X1は,同日午後4時41分から同月30日午後2時20分までの間,同病院のICUに入室することになった。ICUに入るまでの間,原告X1は,医師や看護師からの質問に対して頷いて答えたり,体調を問われると「大丈夫」 - 34 -と小声を発して返答する程度の意識は保っていた。 ICUにおける原告X1の意識レベルは,概ねJCS3を維持するものであり,痙攣の発生頻度は,当初は頻発していたが,徐々に低下していった。 また,痙攣の際には過換気の症状が発症することがあった。 ウ原告X1は,同年7月28日,乙病院の神経科を受診した。原告X1を診察した神経科の医師は,原告X1の症状について,器質性疾患であるかどうかははっきり は過換気の症状が発症することがあった。 ウ原告X1は,同年7月28日,乙病院の神経科を受診した。原告X1を診察した神経科の医師は,原告X1の症状について,器質性疾患であるかどうかははっきりとしないが,心因性疾患を強く疑う旨の診断を行った。 エ原告X1は,同年7月30日午後2時20分,乙病院のICUから通常の病棟に転床した。 原告X1には,同日及び翌31日,過呼吸及び痙攣の症状が一時的に発生した。原告X1は,同年7月30日ころから,両上肢,特に手指の痺れを訴えるようになった一方で,頭や鼻をかいたり,おしぼりを持って体を拭いたりする動作をすることが可能であった。 同日から同年8月21日までの原告X1の意識レベルは,JCS0から2を推移するまでに回復した。身体の痙攣は,体を動かす等,身体に刺激が加わる際に一時的に生じる程度となり,同年8月9日以降は一切痙攣が発生しなくなった。また,同年8月7日以降,過呼吸の発生もなくなった。 オ原告X1は,同年8月7日,丁病院精神神経科に通院した。同病院の医師は,原告X1を診察し,器質的な問題がないこと及びこれまでの経過から判断して,解離性障害が疑われる旨の診断を行い,原告X2に対してこれを説明した。また,処方薬として,原告X1に対し,精神安定剤であるソラナックスを処方した。 カ原告X1は,関節可動域の制限や筋力低下等により,日常生活動作のほぼ全てにおいて介助を要する状態であったため,同年8月8日,乙病院のリハビリテーション科において,理学療法,作業療法及び言語療法による各リハビリを開始した。 - 35 -キ原告X2は,同年8月16日,乙病院の医師に対し,原告X1の以前の病気は完治していると思っている,被告Y1とは訴訟になると思うので,守秘義務を守るよう ビリを開始した。 - 35 -キ原告X2は,同年8月16日,乙病院の医師に対し,原告X1の以前の病気は完治していると思っている,被告Y1とは訴訟になると思うので,守秘義務を守るように告げた。 ク原告X1は,同年8月21日,乙病院を退院した。乙病院の医師は,その最終診断として,原告X1の主病名をヒステリーと診断した。 原告X1の身体機能は,同日までに,歩行器を用いずにゆっくり歩行できる程度まで回復した(以上,甲10,乙A4の1,乙A4の2,乙5)。 (12) 乙病院退院後の原告X1の症状経過ア原告X1は,同年8月21日,乙病院を退院後,原告X2とともに丁病院精神神経科に赴き,ソラナックスの処方を受け,その後自宅に到着した。 イ原告X1は,同年8月23日,軽介助を要しながら,シャワーを自分で行い,浴槽へ入る際も,手及び足の移動を手順どおりにゆっくりと実行することが可能であった。また,浴槽に自力で座ることが可能であり,浴槽の縁及び壁をゆっくりと手を移動させながら,左足及び右足を動かすことが可能な状態であったが,立ち上がるときなど,体の重心が膝よりも下にあると体を持ち上げるために介助を要する状態であった。 ウ原告X1は,同年8月28日,自宅において,胡座をかいてテレビを見た。 また,原告X1は,同年8月29日,自宅において,自力で入浴を行った。 さらに,原告X1は,同年8月30日ころ,自力で起床し,自宅1階内の移動には松葉杖を携行しないで移動することができ,階段は右手に松葉杖を持つことで昇降をすることができた。 エ原告X1は,同年9月1日及び翌2日の各日,自宅から約1キロメートル離れたデパートまで,自転車を運転して当該区間を往復した。自宅から当該デパートまでの距離は約1キロメートルで とができた。 エ原告X1は,同年9月1日及び翌2日の各日,自宅から約1キロメートル離れたデパートまで,自転車を運転して当該区間を往復した。自宅から当該デパートまでの距離は約1キロメートルであり,自宅とデパートを往復するためには,道中にある片道2車線合計4車線の国道を横断する必要がある。 原告X1は,多少のふらつきがあるものの,転倒したり障害物にぶつかった - 36 -りすることなく,自転車を走行して,当該区間を往復した。 オ原告X1は,同年9月6日,身体のふらつきが解消しないことから,己病院を受診した。 カ原告X1は,同年9月8日,丙病院に通院し,同月12日から同年12月12日までの間,同病院に入院した。 丙病院入院当初の原告X1は,全身の筋力が低下し,その握力は左右共に0から1キログラムであり,上下肢の筋力の状態は,MMT(徒手筋力検査法)によれば,2(重力の影響を除いた肢位でなら,運動範囲全体,または一部にわたって動かすことができる状態)又は3(動範囲全体に渡って動かすことができるが,徒手抵抗には抗することができない状態)であった。また,両下肢の筋緊張が中程度に亢進していた。 丙病院入院当初の原告X1の動作能力は,寝返り,起き上がり動作及び座位保持は軽介助により可能であり,移動動作,立ち上がり,立位保持及び平行棒内の移動は,動作はゆっくりであり,手すりを把持しなければ困難であった。また,握力や下肢の筋力が低下していたため,車椅子を自ら操作することは困難であった。 丙病院入院当初の原告X1の知能指数は,言語性IQが77,動作性IQが61,全検査IQが67であった。 キ原告X1は,同年9月20日,握力が右13.5キログラム,左13.2キログラムにまで回復し,上肢を用いて車椅子 の知能指数は,言語性IQが77,動作性IQが61,全検査IQが67であった。 キ原告X1は,同年9月20日,握力が右13.5キログラム,左13.2キログラムにまで回復し,上肢を用いて車椅子の操作を行うことができるようになった一方で,同年9月22日には,右7.5キログラム,左8.3キログラムに落ち込むなど,日によって筋力の強さにむらが生じていた。また,この頃,原告X1の下肢の筋力の回復は滞っていた。 ク原告X1は,同年9月23日ころから,筋肉の過度な使用の影響により,持続的に腰痛が生じるようになり,また,同月29日ころから,右下肢に一時的に震えが生じるようになった。 - 37 -ケ原告X1は,同年10月3日,丁病院精神神経科において,右下肢の震えの原因がてんかんであるか否かを判断するため,脳波検査を受けたが,検査結果からは発作系の痙攣を引き起こす脳波の反応は認められず,てんかんが震えの原因であることには否定的である旨の診断を受けた。同病院の精神神経科の医師は,原告X1の症状を,器質的な問題がないということであれば,ヒステリー,身体表現性障害が考えられると診断した。また,原告X1は,同日,同病院からソラナックスの処方を受けた。 コ丙病院の医師は,同年10月31日,原告X2及び被告Y1の担当者と面談し,原告X1の症状について,脳が原因というよりは,骨格筋,横紋筋の熱によるダメージと思われ,筋肉繊維が一部破壊され,筋繊維が少ない状態と考えられる旨を説明した。 サ原告X1は,同年11月6日,庚病院の整形外科で,腰痛の治療のためMRI検査を受けたところ,軽度の腰椎椎間板ヘルニアが認められた。同病院の医師は,同月10日,原告X1の下肢のしびれや筋力低下と当該ヘルニアとの関連性は低く,腰痛の原因は長期臥床による筋力 療のためMRI検査を受けたところ,軽度の腰椎椎間板ヘルニアが認められた。同病院の医師は,同月10日,原告X1の下肢のしびれや筋力低下と当該ヘルニアとの関連性は低く,腰痛の原因は長期臥床による筋力低下と考えられる旨の診断を行った。 シ丙病院の医師は,同年11月15日,原告X2と面談し,原告X2に対し,原告X1の腰痛の原因はヘルニアであるが,筋源性であり,熱中症による熱融解により筋力が落ち,リハビリによる負荷によって痛みが起こっているかもしれない,ただし,作業療法中は比較的長時間の車椅子の坐位が可能であり,精神的な要因もあり得るとの考えを説明した。 ス原告X1には,同年11月17日ころから,右下肢に加え,両上肢の末端部に中等度から軽度の,左下肢に中等度の鈍麻の症状が生じた。 セ原告X1は,同年11月下旬ころから症状が改善し,腰痛や運動時の痛みの訴えが減少し,右下肢の痺れも軽減し,握力は右10.3キログラム,左8.8キログラムに回復した。また,腰痛の軽減により立位保持が改善し, - 38 -平行棒内での歩行が可能となり,歩行器を用いた歩行は二,三メートル程度可能になった。 ソ原告X1は,同年12月12日,丙病院を退院した(以上,甲10,乙A5ないし乙A7,乙A11,原告X2本人,弁論の全趣旨)。 (13) 口頭弁論終結時までの原告X1の症状ア原告X1は,平成22年2月ころ,原告X2及び祖父に対し,おもちゃを買ってくるようにだだをこねることがあり,原告X2らは,これに応じて大量におもちゃを購入した(甲11(枝番を含む。),原告X2本人13頁)。 イ原告X1は,平成23年9月ころから,飲食店でのアルバイトを始めたが,アルバイト先から解雇されて長くは続かず,その後もアルバイト先を繰り返し変更し,現在就労してい ,原告X2本人13頁)。 イ原告X1は,平成23年9月ころから,飲食店でのアルバイトを始めたが,アルバイト先から解雇されて長くは続かず,その後もアルバイト先を繰り返し変更し,現在就労しているアルバイト先は,本件事故時から起算して6社目の勤務先となる(原告X2本人15頁,同18頁)。 ウ原告X1は,友人から,平成23年8月7日に36万円を,平成24年6月17日に56万円をそれぞれ借り入れ,各借入れ時に,あらかじめ印字された借用書に署名,押印した(甲44,甲45)。 エ当裁判所における審理において,当裁判所及び当事者双方は,第19回弁論準備手続期日以降,原告X1の当事者尋問の実施を検討し,原告ら訴訟代理人を通じて原告X1に対して尋問の実施を求めたが,前記期日から約6か月後に開かれた第21回弁論準備手続期日に至っても,原告X1はこれに応じず,当裁判所は,原告X1を尋問する見通しが立たないとことから,原告X1の当事者尋問を行わないこととした(原告X2本人16頁,弁論の全趣旨)。 (14) 熱中症についてア意義及び発生機序熱中症は,暑熱環境における身体適応の障害によって起こる状態の総称をいう。ヒトの深部体温は37.5度程度に厳密に制御されており,高温環境に - 39 -おいて,自律神経を介して末梢血管を拡張し,皮膚に多くの血液が分布させることで,外気への熱伝導により,また,汗の蒸発に伴い熱が奪われることにより,それぞれ体温低下を図っているところ,熱中症は,血液の分布の変化や,水分及び塩分の減少に身体が対処できず,熱の産生と熱の放出のバランスを崩し体温が上昇した状態を指す(甲1,甲6,甲20,甲21,甲46)。 イ発症原因熱中症の原因は,環境因子と個人の素因に基づく。 環境因 できず,熱の産生と熱の放出のバランスを崩し体温が上昇した状態を指す(甲1,甲6,甲20,甲21,甲46)。 イ発症原因熱中症の原因は,環境因子と個人の素因に基づく。 環境因子としては,高温,多湿,風が弱い場所など,身体から外気への熱放散が減少し,汗の蒸発が不十分になる状況が挙げられる。 個人の素因としては,脱水状態,高齢者,肥満,過度に衣服を着ている人,運動不足,暑さに不慣れな人,体調不良の人などが挙げられる(甲20)。 ウ症状及び重症度(ア) 熱中症は,具体的な治療の必要性,熱中症が疑われる症状が生じた場合に一般人が容易に重症度を理解することが可能となり,重症化の予防と早期発見に役立たせるという観点から,その重症度がⅠ度からⅢ度に分類されている。各分類における具体的な症状は,以下のとおりである(甲1,甲20,甲21,甲46,甲47,乙A21(日本救急医学会熱中症に関する委員会「本邦における熱中症の症状-HeatstrokeSTUDY2010最終報告-」(日救急医会誌23巻211頁)))。 a Ⅰ度(現場にて対応可能な病態)めまい,失神,筋肉痛・筋肉の硬直(こむら返り,熱痙攣),大量の発汗なお,意識障害を認めない。 b Ⅱ度(速やかな医療機関への受診が必要な病態)頭痛,気分の不快,吐き気,嘔吐,倦怠感,虚脱感,集中力や判断力の低下(JCS1以下) - 40 -c Ⅲ度(採血,医療者による判断により入院,場合により集中治療が必要な病態)次の3つのうちいずれかに該当する。 (a) 中枢神経症状(意識障害の程度がJCS2以上,小脳症状,痙攣発作)(b) 肝・腎機能障害(入院経過観察,入院加療が必要な程度の肝または腎障害) つのうちいずれかに該当する。 (a) 中枢神経症状(意識障害の程度がJCS2以上,小脳症状,痙攣発作)(b) 肝・腎機能障害(入院経過観察,入院加療が必要な程度の肝または腎障害)(c) 血液凝固異常(急性期DIC診断基準にてDICと診断)(イ) 熱中症の重症度を示す前記Ⅱ度とⅢ度の区別基準として,平成11年ころ,以下の基準が提唱された。以下のd(a)ないし(c)の3つの兆候が全て揃う場合は,1つ又は2つの場合に比べて死亡リスクが高まる(甲21(安岡正蔵「熱中症の概念と重症度分類」(日本医師会雑誌第141巻第2号259頁)))。 a 対象者に暑熱への曝露がある。 b 頭部外傷などの外疾患が否定される。 c 深部体温(直腸温)で39度以上(腋窩温で38度以上)の高熱がある。 d 前記a ないしc の条件を満たし,次のいずれかの症状があれば,Ⅲ度熱中症と診断される。 (a) 脳機能障害(意識消失,せん妄状態,小脳症状,全身痙攣)(b) 肝腎機能障害(血液中のAST,ALT,BUN,クレアチニン又はCPKの上昇,尿中ミオグロビン)(c) 血液凝固障害(DIC)(ウ) 日本救急医学会では,体温による重症度の判断は,本質的に深部体温が用いられるところ,現場では体温測定が容易ではなく,腋窩等の温度は,冷却処置等により正確でない場合があり,重症度を正確に判断する指標として適切でないとの理由から,前記(イ)の基準のうち,深部体温(直腸温)で39度以上(腋窩温で38度以上)の高熱があること(前記c)をⅢ度該当性の要件として採用していない(甲46,甲47,乙A21)。 - 41 -(エ) 熱中症は,前記(ア)記載の分類の他,従来から,その発生機転や病態,障害の程度により ること(前記c)をⅢ度該当性の要件として採用していない(甲46,甲47,乙A21)。 - 41 -(エ) 熱中症は,前記(ア)記載の分類の他,従来から,その発生機転や病態,障害の程度により,重症度の軽度な順から,日射病,熱痙攣,熱疲労,熱射病に分類されている(当該分類を以下「旧分類」といい,前記(ア)記載の分類を以下「新分類」という。)。 旧分類における熱中症の原因となる病態,発症者の体温,病状は,以下の表のとおりである(以上,甲6,甲47,乙A21)。 日射病熱痙攣熱疲労熱射病原因病態太陽光線相対的脱水大量発汗Na欠乏性脱水大量発汗・脱水体温調節能破綻大量発汗・脱水うつ熱体温調節能破綻体温正常又は低下38度以下38~40度40度以上病状中枢神経頭痛・めまい一過性意識障害神経症状(-)意識障害(-)頭痛・めまい中等度意識障害意識障害(昏眠)痙攣皮膚蒼白発汗(+/-)蒼白発汗(++)蒼白発汗(++)紅潮乾燥発汗(-)筋痙攣(-)一過性有痛性痙攣有痛性痙攣(+)(-)その他(-)(-)全身倦怠感吐気ショック横紋筋融解症多臓器不全DIC(オ) 自発的脱水症状とは,大量の汗をかくことで体内の塩分が不足し,血液中の塩分濃度が低下した状態で水分のみを摂取すると,体液浸透圧が低下し,体が水分を受け付けず水利尿が起こり,汗から失った水分量を補給できない状態をいう(甲19,甲22)。 エ熱中症が疑われる症状が存在する場合の対処方法本件事故当時までに環境省が発行した「熱中症環境保護マニュアル200 - 42 -8」(保護マニュア きない状態をいう(甲19,甲22)。 エ熱中症が疑われる症状が存在する場合の対処方法本件事故当時までに環境省が発行した「熱中症環境保護マニュアル200 - 42 -8」(保護マニュアル)によれば,熱中症が疑われる症状が存在する場合には,現場において次の手順を踏むこととされている(甲20)。 (ア) 対象者の意識を確認し,意識がある場合には,涼しい環境へ避難し,脱衣と冷却を行う。対象者の意識がないか,呼びかけに対して返事がおかしい場合は,救急隊に出動要請した上で,前記行動を行う。 脱衣と冷却は,具体的に,衣服を脱がせる,露出した皮膚に水をかけ,うちわや扇風機などで扇ぐことにより体を冷やす,氷嚢などがあれば,それを頭部,腋窩部(脇の下),鼠径部(大腿の付け根,股関節部)に当てて皮膚の直下を流れている血液を冷やす作業を行う。 (イ) 対象者の意識がある場合,脱衣と冷却を行った上で,対象者が水分を自力で摂取できる場合には,水分及び塩分を補給し,自力で摂取できない場合には,直ちに医療機関へ搬送する。 オ予防方法保護マニュアルによれば,熱中症の予防として,以下の方策を講じることが推奨されている(甲20)。 (ア) 運動時a 環境条件を把握する。環境条件の指標は,気温,湿度,輻射熱を合わせた後記のWBGTによることが望ましいが,気温が比較的低い場合は湿球温度を,気温が比較的高い場合には乾球温度(気温)を参考にする。 b 状況に応じた水分補給を行う。暑いときにはこまめに水分を補給し,休憩を30分に1回程度とるようにする。長時間の運動で汗をたくさんかく場合には,塩分の補給を要する。 c 体を暑さに徐々に慣らす。 d 個人の条件や体調を考慮する。体力のない人,肥満,暑さになれ 1回程度とるようにする。長時間の運動で汗をたくさんかく場合には,塩分の補給を要する。 c 体を暑さに徐々に慣らす。 d 個人の条件や体調を考慮する。体力のない人,肥満,暑さになれていない人は熱中症を起こしやすいため,運動を軽減する。また,下痢,発熱,疲労など体調不良の場合には熱中症を起こしやすいため,無理をしない。 - 43 -e 服装は吸湿性や通気性のよい素材を選択する。また,直射日光は帽子で防ぐ。 (イ) 高温環境下での労働時a 作業環境の管理として,屋外作業においては直射日光を避けることのできる簡易な屋根等を設ける,作業場所に適度な通風や冷房を行うための設備を設ける,作業場所に身体を適度に冷やすことのできる物品又は設備等を設ける,作業場所の近隣に冷房室や日陰などの涼しい休憩場所を設ける,水分や塩分を容易に補給できるようにする,作業場所に温度計や湿度計を設置し,作業中の温湿度の変化に留意する。 b 作業の管理として,気温条件,作業内容,労働者の健康状態等を考慮して,作業休止期間や休憩時間の確保に努める,吸湿性及び通気性のよい服装にする,直射日光下では通気性の良い帽子等を被らせる。 c 健康の管理として,作業開始前に労働者の健康状態を確認する,作業中は巡視を頻繁に行い,声をかけるなどして労働者の健康状態を確認する,労働者に対し,水分や塩分の補給等で必要な指導を行う,休憩時間に体温を測定させる。 d 労働衛生教育として,熱中症の症状及び予防方法,緊急時の救急措置並びに熱中症の事例について教育を行う。 e 救急措置として,救急連絡網をあらかじめ作成し,関係者に周知する,病院,診療所等の所在地及び連絡先を把握しておく。 カ WBGTについて(ア) 人体と環境の について教育を行う。 e 救急措置として,救急連絡網をあらかじめ作成し,関係者に周知する,病院,診療所等の所在地及び連絡先を把握しておく。 カ WBGTについて(ア) 人体と環境の間の熱収支は,伝導,輻射,対流及び蒸発の過程に依存しており,具体的な環境条件としては,気温,気流,湿度及び物体表面温度(輻射熱)が挙げられる。 WBGT(Wet-bulbGlobeTemperature:湿球黒球温度)は,高温環境の指標に用いられる数値であり,前記4つの環境条 - 44 -件のうち,気温,湿度及び輻射熱の3条件を用いて算出される数値であり,後記平成13年通達において,暑熱環境の指数として活用することとされた。 屋外で日射がある場合におけるWBGTの算定式は,次のとおりである。 WBGT=(0.7×湿球温度)+(0.2×黒球温度)+(0.1×乾球温度)なお,湿球温度とは,ある空気塊を一定気圧に保ちながら,その空気塊の中に水を蒸発させることによって,飽和に達するまで断熱的に冷却した場合に,その空気塊が持つ温度を意味し,黒球温度とは,周囲からの熱輻射による影響を観測するために用いられる温度を意味し,乾球温度とは,大気の温度(気温)を意味する。乾球温度の測定は,直射日光の影響を取り除く必要があり,感温部が日陰になるように測定する(甲1,甲20,顕著な事実)。 (イ) 日本体育協会は,本件事故当時,熱中症予防を目的として,次の運動指針(熱中症予防運動指針)を示していた(甲20)。 a WBGT31度以上,湿球温度27度以上または乾球温度35度以上「運動は原則中止」特別の場合以外は中止する。 b WBGT31度未満28度以上,湿球温度27度未満24度以上または乾球温度35度未満31度 以上,湿球温度27度以上または乾球温度35度以上「運動は原則中止」特別の場合以外は中止する。 b WBGT31度未満28度以上,湿球温度27度未満24度以上または乾球温度35度未満31度以上「厳重警戒,激運動中止」激運動及び持久走は避け,積極的に休息をとり,水分補給する。体力のない者,暑さに慣れていない者は,運動を中止する。 c WBGT28度未満25度以上,湿球温度24度未満21度以上または乾球温度31度未満28度以上「警戒,積極的休息」積極的に休息をとり,水分補給する。激しい運動では,30分おきぐらいに休息する。 d WBGT25度未満21度以上,湿球温度21度未満18度以上または乾球温度28度未満24度以上「注意,積極的水分補給」死亡事故が発生する可能性がある。熱中症の兆候に注意する。運動の合間に積極的に水分を飲む。 - 45 -e WBGT21度未満,湿球温度18度未満または乾球温度24度未満「ほぼ安全,適宜水分補給」通常は熱中症の危険は小さいが,適宜水分補給を行う。市民マラソンなどではこの条件でも要注意である。 キ本件事故時までに発せられた厚生労働省労働基準局の通達(ア) 平成8年通達(甲30)厚生労働省労働基準局は,平成8年5月21日,夏期における屋外作業等高温環境下での作業について,熱中症を予防するため,関係業界及び関係事業所に対し前記オ(イ)記載の事項を適切に指導することを徹底するように求める旨の通達(基発第329号,以下「平成8年通達」という。)を発した。 なお,平成8年通達は,本件事故後に発せられた基発第0619001号の通達(以下「平成21年通達」という。)により廃止された。 (イ) 平成13年通達(甲32)厚生労働省労働基準局は,平成13年7月 ,平成8年通達は,本件事故後に発せられた基発第0619001号の通達(以下「平成21年通達」という。)により廃止された。 (イ) 平成13年通達(甲32)厚生労働省労働基準局は,平成13年7月25日,都道府県労働局労働基準部に対し,管内における熱中症の発生状況に応じ,熱中症の予防についての広報に努めるとともに,あらゆる機会をとらえて屋外作業等高温環境で作業を行う事業場等に対し,熱中症の要望についての適切な指導を徹底するように求める旨の通達(基安労発第22号,以下「平成13年通達」という。)を発した。 (ウ) 平成17年通達(甲33)厚生労働省労働基準局は,平成17年7月29日,都道府県労働局長に対し,WBGTが暑熱環境のリスクを評価する指標として有効な手段であり,WBGTが基準値を超えた場合には,熱中症が発生するリスクが高まったと考えることができるのであり,充実した熱中症予防対策を進めるために,各事業者がその事業場の実情に応じてWBGTを活用し,これを基に平成8年通達に示されている熱中症の予防対策をより徹底して実施することが望まれるため,これを関係事業者に徹底周知するように求める旨の通達(基安発第 - 46 -0729001号,以下「平成17年通達」という。)を発した。 ク治療方法(甲21)熱中症の新分類による重症度別の治療方法の概略は,以下のとおりである。 (ア) Ⅰ度涼しいでの安静及び水分補給が基本であるが,必要に応じて輸液療法を行う。 (イ) Ⅱ度涼しいでの安静及び輸液療法が基本となる。体温調整機能は失われていないため,急速冷却は通常不要であり,本人が涼しくて心地よい程度の冷却にとどめる。原則,輸液療法を行うが,電解質異常がなく,十分に経口摂取が可能な場合にのみ経口的 本となる。体温調整機能は失われていないため,急速冷却は通常不要であり,本人が涼しくて心地よい程度の冷却にとどめる。原則,輸液療法を行うが,電解質異常がなく,十分に経口摂取が可能な場合にのみ経口的な水分補給で対応可能である。いずれの場合でも,必ず数時間は院内で経過観察し,帰宅させる場合には,十分に経口摂取ができる,涼しい環境が保証されている,本人を観察できる人がいるなどの条件を満たしている場合のみであり,不安要素がある場合には入院経過観察とする。 (ウ) Ⅲ度体温調整機能が破綻した状態であり,意識障害やショックの有無などを確認した後,すみやかに必要な蘇生行為を行うと同時に急速冷却を開始する。 冷却は深部体温39度を目標とし,各種画像検査,合併している臓器障害に対する検査及び治療は,急速冷却を妨げない範囲で速やかに行う。 ケ熱中症を原因とする後遺症の発症に関する医学的知見(ア) 昭和大学救急医学科及び公立昭和病院救急医学科嶋津基彦外「熱中症における中枢神経傷害」(甲6,日本災害医学会会誌第45巻第8号505頁)標記論文の概要は,以下のとおりである。 労働に従事することにより引き起こされた熱中症事例5件を取り上げ,ここから中枢神経傷害について検討すると,5件のうち,熱射病に該当する2 - 47 -件については,ともに病院搬送時から重度の意識障害(搬送時のJCSがいずれも200のケース),高体温(いずれも深部体温で40度以上)及びショック症状がみられ,うち1件では痙攣発作のみ認めたが,その他の明らかな神経学的局所症状は認められなかった。退院時の神経学的所見として,前記2件の熱射病事例につき,1件についてはパーキンソン症状と小脳症状を,1件については精神障害,振戦,失調性歩行,構語障害を認めた。し 経学的局所症状は認められなかった。退院時の神経学的所見として,前記2件の熱射病事例につき,1件についてはパーキンソン症状と小脳症状を,1件については精神障害,振戦,失調性歩行,構語障害を認めた。しかし,熱射病に該当するこれら2件については,神経学的後遺症を説明しうる,急性期又は亜急性期の神経放射線学的検査(CT,MRI)の異常所見は認められなかった。 日射病,熱痙攣及び熱疲労における永久的な神経脱落症状が生じた事例は探す限りなく,その中枢神経症状は,一般的に可逆的であり,適切な治療により速やかに改善するものと考えられる,他方,熱射病は,急性期における重度の意識障害及び痙攣をはじめ,中には重篤な神経学的後遺症を残した報告も散見され,過去の報告例をまとめると,神経学的後遺症のうち,小脳症状,錐体外路症状,構語障害を認めるものが多く,小脳症状は熱射病において特に注目すべき神経学的合併症であると考えられる。前記熱射病の2事例も,それぞれ,1例はパーキンソン症状及び小脳症状を,1例は精神障害,振戦,失調性歩行,構語障害を神経学的後遺症と認めており,いずれも小脳症状を中心とし,さらに大脳皮質や基底核病変の関与も疑われるものと考えられる。 病理組織学的所見に関する報告において,神経放射線学的検査では,5か月後のCTや1年後のMRI検査において小脳の萎縮が見られたと報告されている。前記熱射病の2事例は,急性期CT及び亜急性期MRIでは明らかな異常所見は見られず,神経放射線学的検査を踏まえた長期の経過観察が必要であると考えられる。 熱射病における神経障害の機序としては,熱による直接的な細胞障害と, - 48 -ショックによる脳障害の増長の関与が考えられる。前者に関しては,高体温に起因する細胞膜及び酵素の障害であるが, 熱射病における神経障害の機序としては,熱による直接的な細胞障害と, - 48 -ショックによる脳障害の増長の関与が考えられる。前者に関しては,高体温に起因する細胞膜及び酵素の障害であるが,一般に41度以上で体温調節中枢の障害が生じ,41.5度を超えるとミトコンドリアの酸化的リン酸化が障害され,42から43度では細胞は数分で不可逆的損傷を被るとされている。 後者に関しては,ほとんどの症例において,低血圧,頻脈,頻呼吸及び代謝性アシドーシスといったショック症状が著明であり,40度以上の高体温に,全身血圧の低下による脳灌流圧低下や,低酸素血症による脳障害が神経学的異常を修飾しているものと考えられる。 小脳症状,錐体外路症状,構語障害は,それぞれ熱射病に特徴的な神経学的後遺症であると考えられるが,その原因や詳細な頻度に関しては不明な点も多い。 (イ) 三宅康史外「熱中症の実態調査-HeatstrokeSTUDY2006最終報告-」(乙A19(日救急医会誌19巻309頁),同「本邦における熱中症の実態-HeatstrokeSTUDY2008最終報告-」(乙A20,日救急医会誌21巻230頁),日本救急医学会熱中症に関する委員会「本邦における熱中症の症状-HeatstrokeSTUDY2010最終報告-」(甲47,乙A21,日救急医会誌23巻211頁)標記各論文の概要は,以下のとおりである。 a 意識障害の指標であるJCSと熱中症の重症度の対応関係は,意識清明である0/JCSは熱中症Ⅰ度,1/JCSはⅡ度,それ以上の意識障害(2ないし300/JCS)はⅢ度にそれぞれ対応する。 b 調査検討した症状例(平成18年度は528症例(うちⅢ度は96事例),平成20年度は913症例(うちⅢ度は198事例),平成22年度は 障害(2ないし300/JCS)はⅢ度にそれぞれ対応する。 b 調査検討した症状例(平成18年度は528症例(うちⅢ度は96事例),平成20年度は913症例(うちⅢ度は198事例),平成22年度は1781症例(うちⅢ度は498事例))のうち,入院したものについては,Ⅰ度ないしⅢ度すべてが入院初日に最も症状が悪化していた(Ⅲ度の死亡例を除く。)。採血結果をみると,初日から2日目までに最も悪化する症例が大多数 - 49 -であった。 c 入院日数をみると,重症度にかかわらず2日間が多く,Ⅰ度は2日をピークに1週間以内にほぼ退院し,Ⅱ度もほぼ同様の経過をたどる。Ⅲ度は11日間以上になることが多い。 d 非労作性,高齢者,精神疾患,循環器疾患,認知症などの基礎疾患を有する症例では重症化しやすい傾向があった。 e 後遺症が発生したのはⅢ度の生存者であり,全症例のうち,平成18年度は1.3パーセント,平成20年度は2.3パーセント,平成22年度は4.3パーセントに出現した。後遺症の内容は,高次脳機能障害が最も多く,小脳症状,手足の筋力低下,四肢振戦,構音障害,失語症,嚥下障害及び中枢神経傷害などが認められた。 (ウ) 中村俊介外「熱中症による中枢神経系後遺症-HeatstrokeSTUDY2006,HeatstrokeSTUDY2008の結果分析」(乙A22,日救急医会誌22巻312号)標記論文の概要は,以下のとおりである。 a 前記(イ)の平成18年度及び平成20年度の症例合計1441例のうち,中枢神経系後遺症を生じた症例及び対照として後遺症なく生存したⅢ度熱中症の症例を抽出し,分析する。 b 中枢神経系後遺症を生じた症例は22例(うちⅢ度は21事例,Ⅱ度は1事例)であり,(Ⅰ度及びⅡ度を含む 系後遺症を生じた症例及び対照として後遺症なく生存したⅢ度熱中症の症例を抽出し,分析する。 b 中枢神経系後遺症を生じた症例は22例(うちⅢ度は21事例,Ⅱ度は1事例)であり,(Ⅰ度及びⅡ度を含む)全症例の1.5パーセント,死亡例を除くⅢ度の症例の6.8パーセントであった。後遺症の内容は,高次脳機能障害15例,嚥下障害6例,小脳失調2例,失語及び植物状態が各1例であった(後遺症が併発する事例がある。)。 c 中枢神経系後遺症を生じた症例群(以下「後遺症群」という。)と,後遺症なく生存し最重症時にⅢ度熱中症であった群(以下「対照群」という。)との間で有意差が認められた数値は,次のとおりである。 - 50 -(a) 意識障害の程度来院時のGCS(GlasgowComaScale)の合計点は,後遺症群が5.8±4.4,対照群が9.9±4.5であり,GCSの合計点が3点の症例は,後遺症群が52.6パーセント,対照群が15.9パーセントであった。 GCSとは,意識障害の分類で、現在世界的に広く使用されている評価分類スケールであって,開眼,言語及び運動の3分野に分けて以下のとおり点数化し、意識状態を簡潔かつ的確に記録できるものであり,意識状態を15点満点で評価する。 ⅰ開眼(Eyeopening)4点:自発的に、またはふつうの呼びかけで開眼3点:強く呼びかけると開眼2点:痛み刺激で開眼1点:痛み刺激でも開眼しないⅱ発語(Verbalresponse)5点:見当識が保たれている4点:会話は成立するが見当識が混乱3点:発語はみられるが会話は成立しない2点:意味のない発声1点:発語みられずⅲ最良運動反応(Motorresponse)6点:命令に従っ 4点:会話は成立するが見当識が混乱3点:発語はみられるが会話は成立しない2点:意味のない発声1点:発語みられずⅲ最良運動反応(Motorresponse)6点:命令に従って四肢を動かす5点:痛み刺激に対して手で払いのける4点:指への痛み刺激に対して四肢を引っ込める3点:痛み刺激に対して緩徐な屈曲運動(除皮質姿勢)2点:痛み刺激に対して緩徐な伸展運動(除脳姿勢) - 51 -1点:運動みられず(b) 体温来院時の体温は,後遺症群で40度以上の症例が66.7パーセント,平均40.3度±1.6度であり,対照群で40度以上が40.8パーセント,平均39.2度±1.8度であった。 (c) 動脈血ガス分析のbaseexcess(BE)BEとは,血液1リットルを37度で酸素飽和し,PaCo2(二酸化炭素分圧):40mmHgのもとで,pHを7.40に滴定するために必要な酸の量をいう。 来院時のBEは,後遺症群で-6.4±5.3モルリットルであり,対照群で-2.8±6.1モルリットルであった。 (15) 高次脳機能障害についてア意義(甲12)高次脳機能障害とは,主に両側大脳半球領域の神経細胞の集団である皮質に存在する高次の脳機能の障害をいい,器質性の神経障害である。 イ症状(甲12)高次脳機能障害の症状は多岐にわたるが,大きく,認知障害,行動・情緒障害及びコミュニケーション障害に分類される。 ウ診断方法(乙A17)厚生労働省は,高次脳機能障害の診断基準として,以下の内容のガイドラインを作成した(段落番号はガイドラインと同じものとする。)。 Ⅰ 主要症状等 1 脳の器質的病変の原因となる事故による受傷や疾病の発症の事実が確認 脳機能障害の診断基準として,以下の内容のガイドラインを作成した(段落番号はガイドラインと同じものとする。)。 Ⅰ 主要症状等 1 脳の器質的病変の原因となる事故による受傷や疾病の発症の事実が確認されている。 2 現在,日常生活または社会生活に制約があり,その主たる原因が記憶障害,注意障害,遂行機能障害,社会的行動障害などの認知障害である。 - 52 -Ⅱ 検査所見MRI,CT,脳波などにより認知障害の原因と考えられる脳の器質的病変の存在が確認されているか,あるいは診断書により脳の器質的病変が存在したと確認できる。 Ⅲ 除外項目 1 脳の器質的病変に基づく認知障害のうち,身体障害として認定可能である症状を有するが上記主要症状(Ⅰ-2)を欠く者は除外する。 2 診断にあたり,受傷または発症以前から有する症状と検査所見は除外する。 3 先天性疾患,周産期における脳損傷,発達障害,進行性疾患を原因とする者は除外する。 Ⅳ 診断 1 Ⅰ~Ⅲをすべて満たした場合に高次脳機能障害と診断する。 2 高次脳機能障害の診断は脳の器質的病変の原因となった外傷や疾病の急性期症状を脱した後において行う。 3 神経心理学的検査の所見を参考にすることができる。 なお,診断基準のⅠとⅢを満たす一方で,Ⅱの検査所見で脳の器質的病変の存在を明らかにできない症例については,慎重な評価により高次脳機能障害者として診断されることがあり得る。また,この診断基準については,今後の医学・医療の発展を踏まえ,適時,見直しを行うことが適当である。 (16) 解離性障害についてア意義(乙A17,乙A18)解離性障害は,過去の記憶,同一性と直接的感覚,および身体運動のコントロールの間の正常な統合が部分的あるいは完全に失われた状態を 16) 解離性障害についてア意義(乙A17,乙A18)解離性障害は,過去の記憶,同一性と直接的感覚,および身体運動のコントロールの間の正常な統合が部分的あるいは完全に失われた状態をいう。 解離性障害は,起源において心因性であり,トラウマ的な出来事,解決しがたく耐え難い問題,あるいは障害された対人関係と時期的に密接に関連し - 53 -ていると推定される。解離状態の全てのタイプは数週間ないし数か月後には寛解する傾向があり,特に発症がトラウマ的な生活上の出来事と関連しているならばそうなる。解決不能な問題や対人関係上の困難と関連しているならば,より慢性的な状態,とくに麻痺や知覚喪失に発展することがある。 解離性障害の発症メカニズムは,いまだ解明されていない。 イ症状(乙A18)(ア) 解離性昏迷昏迷(随意運動及び光,音並びに接触のような外的刺激に対する正常な反応性の著しい減弱あるいは欠如)の診断基準を充たすが,検査や検索によって身体的原因の証拠が認められず,加えて,最近のストレス性の出来事,あるいは顕著な対人関係の問題ないし社会的問題での心因の積極的な証拠を要する。 (イ) 解離性けいれん(ウ) 解離性運動障害解離性運動障害は,1つあるいはいくつかの四肢の全体あるいは一部を動かす能力の喪失をいう。麻痺は部分的で,弱く緩徐な運動を伴うこともあれば,完全なこともある。運動障害のさまざまな型や程度が,とりわけ下肢で明瞭になることがあり,その結果,奇妙な歩行が生じたり,あるいは介助なしに立つことができなくなる。四肢の一部分または全身に膨張された振戦や動揺が認められることもある。 ウ診断方法(乙A18)解離性障害の確定診断のためには,以下の事由の存在を要する。 ( に立つことができなくなる。四肢の一部分または全身に膨張された振戦や動揺が認められることもある。 ウ診断方法(乙A18)解離性障害の確定診断のためには,以下の事由の存在を要する。 (ア) 前記イを含む個々の障害を特定する臨床的病像(イ) 病状を説明する身体的障害の証拠がないこと(ウ) ストレス性の出来事や問題,あるいは障害された対人関係と時期的に明らかに関連する心理的原因の証拠 - 54 -(17) 過換気症候群についてア意義及び症状(甲52,甲53,乙A34ないし36)過換気症候群は,器質的疾患が存在せず,不安,緊張,恐怖,ストレスなどの精神的及び心理的要因により発作的に肺胞換気が増加し,動脈血二酸化炭素分圧(PaCo2)が正常下限以下となり,呼吸困難,手足の痺れ,動悸,震戦,筋痙攣,胸痛などの症状を起こす心身症をいう。 生命予後は良好であり,臨床的に過換気症候群それ自体が重篤な状態になることはほとんどない。 イ治療方法(甲52,甲53,乙A34ないし36)発作時に患者を落ち着かせ,生命の危険がないことを説明して不安を取り除き,腹式呼吸を促し,ペーパーバック呼吸法や薬物療法を行う。精神的及び心理的因子が誘因であれば,心理療法として,精神科や心療内科と連携してセルフコントロールを指導する。 2 争点1(被告Y1の安全配慮義務の内容及びその違反の有無)について(1) 安全配慮義務の有無及び内容の検討における判断要素被告Y1は,本件駅伝リハーサルに参加した原告X1らタレント生徒に対し,信義則上または役務提供契約に付随して,原告X1の生命及び身体を危険から保護するように配慮する義務を負う場合があると解される。 被告Y1が原告X1に対して負う安 原告X1らタレント生徒に対し,信義則上または役務提供契約に付随して,原告X1の生命及び身体を危険から保護するように配慮する義務を負う場合があると解される。 被告Y1が原告X1に対して負う安全配慮義務は,リハーサルの危険性に関する要素として,本件リハーサル時の気象条件,本件駅伝リハーサルにおける原告X1の行動及び求められた運動量,タレント生徒がリハーサルから脱退することの現実的可能性に関する要素として,原告X1の年齢や個性,本件駅伝リハーサルに参加したタレント生徒と被告Y1の関係,本件駅伝リハーサルの危険性に関する被告Y1の認識もしくは認識可能性に関する要素として,本件駅伝リハーサルにおける状況認識,各通達の内容など,以上の諸要素を総合的に考慮して,その有無及び内容が決せられるべきである。 - 55 -なお,本件駅伝リハーサル時に原告X1らタレント生徒と直接の接触をもったのは主にAの従業員であるが,前記認定事実(3)イのとおり,本件番組の駅伝コーナーは,被告Y1が製作するものであり,Aは,被告Y1からその製作の委託を受けて本件駅伝リハーサルに関与していたのであるから,Aは,被告Y1が負う安全配慮義務の履行補助者であると認められる。 (2) 本件リハーサル時の気象条件前記認定事実(5)アのとおり,大阪管区気象台が発表した本件リハーサル当日の気温及び相対湿度は別表「大阪管区気象台発表の本件リハーサル時の気象条件」のとおりであり,これによれば,本件リハーサル当日の最高気温は午後2時10分ころの36.1度であり,原告X1が迎賓館から外に出た午後3時30分ころの気温は34.9度,相対湿度は39パーセントであり,原告X1が本件駅伝リハーサルで1回目の試走を開始した午後4時53分ころの気温は33.1度,相対湿度は46 が迎賓館から外に出た午後3時30分ころの気温は34.9度,相対湿度は39パーセントであり,原告X1が本件駅伝リハーサルで1回目の試走を開始した午後4時53分ころの気温は33.1度,相対湿度は46パーセントであり,2回目の試走を開始した午後5時20分ころの気温は32.7度,相対湿度は48パーセントであった。 また,前記認定事実(5)ウのとおり,環境省が発表した本件リハーサル当日のWBGT値は別表「環境省発表の本件リハーサル時の大阪のWBGT」記載とおりであり,同日の午後3時及び午後4時のWBGT値は,熱中症予防運動指針において「厳重警戒,激運動中止」にあたり,同日午後5時及び午後6時のWBGT値は,同指針において「警戒,積極的休息」にあたるものであった。 以上からすると,原告X1は,迎賓館から屋外に出たときから1回目の試走が開始するまでの約1時間程度の間,熱中症予防運動指針において「厳重警戒,激運動中止」とされる熱中症の発症リスクが比較的高い暑熱環境に留まり,原告X1の体内には熱が蓄積されていたものと推認するのが相当である。そして,本件駅伝リハーサルの試走時には,同指針において「警戒,積極的休息」とされる環境条件に低下していたものの,同条件においても熱中症発症のリスクは十分に存在し,試走を開始するまでに前記の屋外環境にいた影響がなお残存し - 56 -ていたものというべきである。そうすると,原告X1は,本件駅伝リハーサルにおいて,熱中症の発症リスクが相当に存在する環境に長時間留まっていたと認められる。 この点,原告らは,大阪管区気象台が発表する気温と本件会場の気温は,別表「平成20年8月10日の気象条件」の「ⅰとⅱ差(度)」欄記載の差があり,これを前提にすると,本件駅伝リハーサル時のWBGTは31度を下回らなかったと推定される 発表する気温と本件会場の気温は,別表「平成20年8月10日の気象条件」の「ⅰとⅱ差(度)」欄記載の差があり,これを前提にすると,本件駅伝リハーサル時のWBGTは31度を下回らなかったと推定されると主張する。確かに,大阪管区気象台の観測地点と本件会場の気象条件が正確に一致するとは認められず,本件会場の気温が大阪管区気象台が発表した数値より高かった可能性は否定できない。しかしながら,前記認定事実(14)カ(ア)及び甲66によれば,一般に,気温は輻射熱を遮断した条件下で計測する必要があるところ,前記認定事実(5)イのとおり,原告X2らによる平成20年8月10日における気温の計測は,地上からの高さ約150センチメートルの位置に設置したナイロン製の黒い帽子の上に測定センサーを直射日光下に置いて行われたのであり,温度計の感温部に格子状のカバーが存在することを考慮しても,別表「平成20年8月10日の気象条件」の「ⅱ第4区気温(度)」欄記載の計測数値は,日射及び前記帽子からの輻射熱の影響を多分に受けていたものと推認するのが相当であり,気温の計測方法として問題があるといわざるを得ない。したがって,当該計測方法により測定された気温を前提に原告らが算出したWBGTの推定値が本件駅伝リハーサル時の実際のそれであると認めることはできず,原告らの主張は認められない。 (3) 原告X1の行動及び求められた運動量ア前記認定事実(6)エ,同(7),同(8)及び弁論の全趣旨によれば,原告X1は,本件リハーサル当日,冷房の効いた迎賓館から外に出た午後3時30分ころから,本件事故が発生する午後5時30分までの約2時間,本件会場の屋外にいたものと認められる。 この点,被告Y1は,試走が行われていない時間帯において,原告X1は - 57 -日陰や木陰 ら,本件事故が発生する午後5時30分までの約2時間,本件会場の屋外にいたものと認められる。 この点,被告Y1は,試走が行われていない時間帯において,原告X1は - 57 -日陰や木陰で待機しており,本件駅伝リハーサルの試走以外には熱中症の発症の危険が伴う身体活動量がなかったと主張する。しかしながら,前記認定事実(6)エのとおり,原告X1は,試走が行われていない時間において,徒歩でコースを確認するなどしており,待機場所付近に存在する木陰で常に待機していたとは認められず,また,乙A2,乙A13及び弁論の全趣旨によれば,原告X1らが待機した可能性のある木陰の暑熱の遮断効果は限定的なものであったと認められる。そうすると,原告X1は,本件駅伝リハーサル当日の午後3時30分ころから午後5時30分までの約2時間のうち,本件駅伝リハーサルの試走が行われていない時間帯においても,かなりの時間,暑熱環境下に留まっていたと認められるから,本件駅伝リハーサルにおける熱中症発症の危険性を検討するにあっては,この点を考慮する必要がある。 イ前記前提事実(4)イないしオ記載のとおり,原告X1は,1回目の試走においては第3区約830メートルを4分24秒で走行し,2回目の試走においては第4区のうちAの従業員に走行を止められるまで約900メートルを約10分間走行した。 以上の走行距離や走行時間はそれ自体が長いものとはいえないが,乙A2によれば,第3区及び第4区には傾斜角の大きい長い坂道があり,これが第3区では下り坂,第4区では登り坂になると認められるところ,同箇所を走行するタレント生徒の様子が撮影された映像(乙A2)からすれば,同箇所の走行には相当の体力を要するものと認められる。 なお,原告X1については,1回目の試走終了時から2回目の試 ,同箇所を走行するタレント生徒の様子が撮影された映像(乙A2)からすれば,同箇所の走行には相当の体力を要するものと認められる。 なお,原告X1については,1回目の試走終了時から2回目の試走開始時までに約22分間の休憩時間があったが,前記ア記載のとおり,原告X1は同時間帯も前記(2)記載の暑熱環境下で待機していたのであるから,前記休憩時間が原告X1の熱中症を発症するリスクを大きく軽減することになったとまでは認められない。 (4) 原告X1の年齢等 - 58 -前記前提事実(1)ア記載のとおり,原告X1は,本件駅伝リハーサル当時満21歳であり,前記認定事実(3)キ記載のとおり,本件駅伝リハーサルに参加したその他のタレント生徒の年齢は概ね20歳前後であったものであり,いずれも成人かそれに準じる年齢に達しており,自己の体調や周囲の状況をある程度正確に把握した上で,危険を回避する行動をとることが十分に期待できる年齢であったと認められる。 一方,本件各証拠をもってしても,原告X1が,自己主張が強い性格であるとか,自己の考えをはっきり表示する傾向があるといった事情は認められない。 (5) 本件駅伝リハーサルに参加したタレント生徒と被告Y1の関係前記認定事実(3)及び弁論の全趣旨によれば,本件駅伝リハーサルに参加したタレント生徒は,被告Y1が,Aを通じて被告Y2に依頼した募集に応じた者であり,被告Y1及びAの従業員の具体的な指示のもと,本件駅伝リハーサルにおけるカメラ撮影の被写体として駅伝コースを試走するという役務を提供することが予定されていたものと認められる。そして,乙A1,乙A2,乙A13,J証人及び弁論の全趣旨によれば,本件リハーサルは,被告Y1及びA等の従業員約30名が関与する比較的規模の大きいリハー 供することが予定されていたものと認められる。そして,乙A1,乙A2,乙A13,J証人及び弁論の全趣旨によれば,本件リハーサルは,被告Y1及びA等の従業員約30名が関与する比較的規模の大きいリハーサルであり,リハーサルの内容は事前に綿密に計画されたものであったことが認められ,テレビ撮影の現場の経験が乏しい原告X1を含むタレント生徒らは,被告Y1が策定した本件リハーサルのなかで,被告Y1の指示通りに動くことが要求されていることを認識してこれに応じていたと認められる。そして,以上のことからすると,テレビ撮影の現場の経験が乏しい原告X1を含むタレント生徒らとしては,試走を行わず,あるいは,試走中に止まったり歩いたりすることに対しては心理的抵抗を有していたものと推認される。また,本件駅伝リハーサルの試走は,本件番組の本番と同様に,番組別対抗駅伝という競争の形式を採用しており,タレント生徒同士の競争心を煽る形となっていたことを踏まえれば,タレント生徒らが,自己の体調を考慮して適切な対応をとることについては事実上困難 - 59 -な面があったと認められる。 もっとも,この点については,前記認定事実(3)ア記載のとおり,本件駅伝リハーサルの目的は,本件番組の進行及び試走者を被写体とするカメラワークを確認することにあり,被告Y1及びAは,原告X1を含むタレント生徒に対し,試走することを強く求めたことはなく,また,全力疾走やチーム間の競争を求めたこともなく,かえって,前記認定事実(6)イのとおり,Aの従業員は,タレント生徒に対し,無理して走らなくてよい旨,走るのが無理だと思ったら手を挙げて途中で止まってもよい旨,倒れられることが一番困るから,体が苦しくなったら走らなくてよく,歩いてもよい旨を繰り返し説明していた。これらのAの従業員の説明に よい旨,走るのが無理だと思ったら手を挙げて途中で止まってもよい旨,倒れられることが一番困るから,体が苦しくなったら走らなくてよく,歩いてもよい旨を繰り返し説明していた。これらのAの従業員の説明により,原告X1の試走に対する心理的負荷はある程度軽減されていたと認められる。しかしながら,前記の各事情を総合して考慮すると,試走することについての心理的負荷が軽い状況であったとまでは認められず,後記のとおり,1回目の試走後に,交代要員を使い,他の交代要員がいなくなった時点においては,原告X1にかかる心理的負荷は,脱退を言い出すことが困難になる程度に大きくなっていたものと認められる。 (6) 1回目の試走終了後における被告Y1の状況認識ア被告Y1は,本件リハーサル当日の気温が極めて高い状態であったこと,原告らタレント生徒が行う試走の内容,試走していない間にタレント生徒が置かれている状況についていずれも認識していたものと認められる。 イ前記認定事実(7)エ記載のとおり,被告Y1又はAの従業員は,1回目の試走を終えたタレント生徒に対し,体調が悪い人がいないか確認する趣旨で声をかけたところ,原告X1が担当した第3区を走行したK及びLに体調不良が発生したことを認識し,Lが汗を大量にかいて激しく息切れをしていたことから,被告Y1又はAの従業員の判断でLを交代要員と交代させている。 前記認定事実(14)ウ(ア)及び同(エ)記載のとおり,大量の発汗は熱中症の典型的な症状であって,Lの前記症状は熱中症の発症が疑われる徴表であるか - 60 -ら,この時点で,被告Y1は,本件駅伝リハーサルの試走には,熱中症を発生させる相応の危険が存在することを認識し,または認識すべきであったというべきである。 また,交代要員がいなくなったことから, の時点で,被告Y1は,本件駅伝リハーサルの試走には,熱中症を発生させる相応の危険が存在することを認識し,または認識すべきであったというべきである。 また,交代要員がいなくなったことから,タレント生徒の中に体調の悪化を押して2回目の試走を行う者が出てくる可能性を予見すべきであったというべきである。 (7) 各種通達及び保護マニュアルの存在前記認定事実(14)キ記載のとおり,厚生労働省労働基準局は,本件事故時までに,平成8年通達,平成13年通達及び平成17年通達を発しており,事業所においては,熱中症を予防するため,高温環境下での作業に際し,前記認定事実(14)オ(イ)記載の各対策を講じることとされ,また,暑熱環境のリスクを評価する指標としてWBGTが有効であるから,各事業所においてはWBGTを活用することとされていた。また,甲20によれば,環境省は,本件事故時までに保護マニュアルを作成し,熱中症の意義,対処法,具体的な予防策及びWBGT等に関する知識を啓発し,熱中症の適切な予防及び対処を促していたことが認められる。 真夏に本件リハーサルを実施する被告Y1としては,本件リハーサル実施に先立ち,前記の各通達及び保護マニュアルの内容を認識していたか,認識して然るべきであったといえる。 (8) 被告Y1が原告X1に対して負う安全配慮義務の内容及び違反の有無以上の各事情をもとに,被告Y1が原告X1に対して負う安全配慮義務の内容及び違反の有無を検討する。 ア暑熱順化を行うよう指示する義務本件事故時までに発せられた平成8年通達,平成13年通達及び平成17年通達のいずれにおいても,事業所に対して雇用する労働者に暑熱順化を行うように指導されておらず,通達において,事業者に対して暑熱順化の指示 - 61 - た平成8年通達,平成13年通達及び平成17年通達のいずれにおいても,事業所に対して雇用する労働者に暑熱順化を行うように指導されておらず,通達において,事業者に対して暑熱順化の指示 - 61 -を労働者に行うように周知徹底されたのは平成21年通達が初めてである(甲31)。そして,本件駅伝リハーサルにおける試走で予定されていたタレント生徒の走行の運動量は多いものとはいえず,本件駅伝リハーサルの目的は番組進行やカメラワークの確認であり,その目的からしてタレント生徒に対して激しい運動を求めるものではなかったのであり,以上の各事情を総合して考慮すれば,被告Y1において,本件駅伝リハーサルにあたり,原告X1らタレント生徒に対して暑熱順化を行うように指示する義務があったとは認められない。 イ水分及び塩分を補給しておくよう指示する義務保護マニュアルによれば,運動時における熱中症予防対策として,「暑い時には水分をこまめに補給する。休憩は30分に1回程度とるようにする。長時間の運動で汗をたくさんかく場合には,塩分の補給も必要。」とされているところ,本件駅伝リハーサルにおける試走で予定されていたタレント生徒の走行の運動量は多いものとはいえず,本件駅伝リハーサルの目的は番組進行やカメラワークの確認であり,その目的からしてタレント生徒に対して激しい運動を求めるものではなかったことからすると,水分補給の指示義務はあったと認められるが,塩分補給の指示義務及び塩分を含む飲料水の配給義務があったとまでは認められない。 被告Y1は,原告X1を含むタレント生徒に対し,前記認定事実(6)イ及び同(7)ウのとおり,1回目の試走前及び1回目の試走後2回目の試走前の2回にわたり,500ミリリットルのミネラルウォーターが入ったペットボトルをそれぞれ1本ずつ交付したの ,前記認定事実(6)イ及び同(7)ウのとおり,1回目の試走前及び1回目の試走後2回目の試走前の2回にわたり,500ミリリットルのミネラルウォーターが入ったペットボトルをそれぞれ1本ずつ交付したのであり,水分補給の指示義務は履行されたものと認めるのが相当である。したがって,同義務違反は認められない。 ウ本件駅伝リハーサルを中止する義務被告Y1は,前記認定事実(5)ア記載のとおり,本件駅伝リハーサル当日に,本件会場の気温,相対湿度及びWBGT等を計測しておらず,この点は,熱 - 62 -中症の危険の指標となる環境条件の測定を怠ったといわざるを得ない。次に,前記(2),(3)及び(5)のとおり,原告X1は,本件駅伝リハーサルが開始するまでに熱中症の発症リスクが存在する環境に長時間留まり,本件駅伝リハーサルからの脱退を表明するには心理的に困難な面がある状況の中,1回目の試走を行ったものである。そして,被告Y1は,Aを通じて,遅くとも1回目の試走終了後,Lに熱中症が疑われる症状が発現したことを認識したか,又は認識し得たのであり,併せて,交代要員がいなくなり,試走者を替えることが困難となり,本件駅伝リハーサルからタレント生徒が脱退を申し出にくい状況になったことを認識し,又は認識し得たものと認められる。そうすると,2回目の試走の運動量自体はそれ程多くないことや,原告X1が成人であることを考慮してもなお,被告Y1は,その時点で,本件駅伝リハーサルの2回目の試走において熱中症が発症する危険性が高いことを具体的に認識し,あるいは認識し得たというべきであり,そうである以上,被告Y1は,本件駅伝リハーサルの2回目の試走を中止すべきであったにもかかわらず,これを中止しなかったと認めざるを得ない。 したがって,被告Y1には,本件駅伝リハーサ うべきであり,そうである以上,被告Y1は,本件駅伝リハーサルの2回目の試走を中止すべきであったにもかかわらず,これを中止しなかったと認めざるを得ない。 したがって,被告Y1には,本件駅伝リハーサルを中止する義務の違反が認められる。 エ試走者の体調の監視体制,救護体制及び救急搬送体制を構築する義務熱中症を疑うべき症状は,医学的知識のない通常人(本件においては本件会場にいた被告Y1の従業員及びAの従業員)においても認識可能であり,保護マニュアル記載の予防策を講じた上で,熱中症を疑うべき症状が発現した場合に,適切な応急処置を行い,必要に応じて医療機関に搬送すれば,熱中症の重症化を回避することができ,平成8年通達,平成13年通達及び平成17年通達のいずれにおいても,各事業所に対し,非常時の救急連絡網の作成と関係者への周知を促すに留まり,医療専門家を設置した監視体制や救急搬送体制を構築するように指導されていなかったものである。このことに, - 63 -本件駅伝リハーサルにおける試走で予定されていたタレント生徒の走行の運動量は多いものとはいえず,本件駅伝リハーサルの目的からしてタレント生徒に対して激しい運動を求めるものでもないという事情を併せて考慮するならば,被告Y1において,原告ら主張の体制構築義務があったとは認められない。 オ適切な救護及び救急搬送を行う義務被告Y1は,タレント生徒に熱中症が疑われる症状を検知した場合には,その症状に応じて適切な処置を講じ,タレント生徒の症状に応じて救急搬送を行う義務があったと認められる。 熱中症が疑われる症状が発現した場合の対処方法が保護マニュアルに記載されていることは前記認定事実(14)エ記載のとおりであり,以下,時系列に沿って,被告Y1の原告X1に対する処置が保護マニュア 熱中症が疑われる症状が発現した場合の対処方法が保護マニュアルに記載されていることは前記認定事実(14)エ記載のとおりであり,以下,時系列に沿って,被告Y1の原告X1に対する処置が保護マニュアル記載の対処方法に沿った適切なものであったかについて検討する。 (ア) 前記認定事実(8)及び(9)のとおり,原告X1は,本件駅伝リハーサルの2回目の試走中にふらつきが目立つようになり,Aの従業員が原告X1に対し何度も声をかけたが,なおもゆっくりと走行を続けようとした。前記認定事実(8)及び(9)のとおり,原告X1は,Aの従業員が原告X1の走行を止めた後に,お茶が入ったペットボトルを手渡され,自力でペットボトルのフタを空け,お茶を二,三口程度飲んでおり,この時点で原告X1には意識があり,停止を求められたにもかかわらずゆっくり走行を続けようとしたものの,手渡されたペットボトルを自力で空けてお茶を飲んでいたのであるから,呼びかけに対して返事がおかしい状態とまでは認められない。 その上で,Aの従業員は,冷房の効いた迎賓館に原告X1を搬送し,原告X1の靴を脱がし,玄関に設置されていた長いすに原告X1を寝かせて,原告X1が着ていたTシャツ及び靴下を脱がし,両脇に水が入ったペットボトルを挟み,後頭部と額に冷却剤を,胸部に濡れたタオルをそれぞれ当てて各 - 64 -部を冷やし,着ていたズボンの紐を弛め,同所に駆けつけた被告Y1及びAの従業員らが,2名から4名の体制で,原告X1をうちわで扇ぎ続け,原告X1に水分を与えたのであって,その処置内容は,保護マニュアルに概ね沿った適切なものであったというべきである。 また,この時点においては,本件各証拠及び弁論の全趣旨によっても,原告X1に水分の自力摂取が困難であった事情は窺われないから,被告Y1 ュアルに概ね沿った適切なものであったというべきである。 また,この時点においては,本件各証拠及び弁論の全趣旨によっても,原告X1に水分の自力摂取が困難であった事情は窺われないから,被告Y1に原告X1を医療機関へ搬送する義務が生じたとは認められない。 (イ) 前記認定事実(9)のとおり,被告Y1又はAの従業員は,同日午後5時50分ころ,原告X1の症状が改善しないことから,D看護師の派遣を要請し,その後はD看護師が原告X1に対する応急処置を行い,被告Y1又はAの従業員は,D看護師の指示のもとで応急処置及び救急搬送を行った。前記認定事実(4)イのとおり,D看護師は,看護師として長い経歴を有し,看護技術及び看護知識を豊富に有していると認められ,そうすると,被告Y1が,原告X1に対する処置及び救急搬送の判断をD看護師の指示に委ねたことは適切な行為であったというべきである。本件各証拠をもってしても,D看護師の処置に不適切なところがあったとは認められず,また,D看護師の指示に従って応急処置及び救急搬送を行った被告Y1に不適切なところがあったとは認められない。 (ウ) 以上のとおりであるから,被告Y1には,適切な救護又は救急搬送を行う義務の違反は認められない。 カまとめ以上のとおり,被告Y1は,信義則上,また,役務提供契約に付随して認められる,本件駅伝リハーサルを中止する義務(以下「本件義務」という。)に違反したものと認められるが,その余の義務については,義務がないか,義務違反が認められない。 3 争点2(被告Y2の安全配慮義務の有無,内容及びその違反の有無)につい - 65 -て(1) 安全配慮義務の有無及び内容の検討における判断要素被告Y2が原告X1に対して信義則上又は在学契約に付随する安全配慮 義務の有無,内容及びその違反の有無)につい - 65 -て(1) 安全配慮義務の有無及び内容の検討における判断要素被告Y2が原告X1に対して信義則上又は在学契約に付随する安全配慮義務を負うか否か,負う場合の具体的な義務の内容は,本件駅伝リハーサルにおける被告Y2と被告Y1の関係,本件駅伝リハーサルに参加したタレント生徒と被告Y2の関係,被告Y2による本件駅伝リハーサル参加者の募集態様,本件駅伝リハーサルの危険性に関する被告Y2の認識等の具体的事情を総合的に考慮して決せられるべきものである。 (2) 本件駅伝リハーサルにおける被告Y2と被告Y1の関係前記前提事実(2)イのとおり,本件番組及び本件リハーサルは被告Y1が企画,実施し,会場の設営や人員の統括等,管理全般は被告Y1が行うものであり,これに被告Y1の人的及び物的能力を併せて考慮するならば,本件リハーサル当日の気象状況や本件駅伝リハーサル参加者の身体状況等の具体的事情については,被告Y1がその責任において把握した上で,適切な対応をとることが予定されていたというべきである。 (3) 本件駅伝リハーサルへの参加に応じたタレント生徒と被告Y2の関係アタレント生徒は,タレント養成学校に入学する際に,タレント養成学校を運営する被告Y2との間で,被告Y2が芸人やタレントになるために必要な技術や経験等をタレント生徒に与え,タレント生徒は対価として授業料を払うという契約(以下「本件在学契約」という。)を締結したものと認められる。なお,本件在学契約は,前記認定事実(2)のとおり,タレント養成学校が,芸人及びタレントを育成することを目的として,漫才やコントなどで必要となる発声や演技の他,ネタ見せ,大喜利及びトークといった授業を行うというものであり,普通教育や専門教育 おり,タレント養成学校が,芸人及びタレントを育成することを目的として,漫才やコントなどで必要となる発声や演技の他,ネタ見せ,大喜利及びトークといった授業を行うというものであり,普通教育や専門教育を行う学校教育法上の学校とは性格を異にする。 イ前記認定事実(3)のとおり,タレント生徒のうち何人かは,本件駅伝リハー - 66 -サルに参加することを承諾しているが,後記のとおり,その参加は強制的にもたらされたものではないから,その参加により,前記の本件在学契約により規定される法律関係が変容したり,そこに新たな法律関係が付加されることはないと解される。 ウこの点につき,原告らは,本件駅伝リハーサルへの参加に応じたタレント生徒29名と被告Y2との間で雇用契約に相当する指揮監督関係が形成されたと主張する。 しかしながら,前記認定事実(3)のとおり,被告Y2は,被告Y1からの依頼に応じて,募集の内容(本件駅伝リハーサルの開催日時及び場所)や,着替え及び飲み物を持参する必要があることをタレント生徒に対して伝達したに過ぎないのであり,これに後記のとおり,被告Y2の募集態様に強制的要素がないことを踏まえると,被告Y2による前記伝達が,被告Y1の指示に従うことを内容とするタレント生徒に対する業務指示と評価することはできない。また,被告Y2が前記の行動以外にタレント生徒の本件駅伝リハーサル時の行動に関して特段の指揮監督を行っていた事実は認められないから,原告X1らタレント生徒が被告Y2の指揮監督の下で本件駅伝リハーサルにおいて被告Y1に対して労務を提供したとは認められない。したがって,この点の原告らの主張は認められない。 (4) 被告Y2による本件駅伝リハーサル参加者の募集態様ア乙B4によれば,本件駅伝リハーサルへのタレント を提供したとは認められない。したがって,この点の原告らの主張は認められない。 (4) 被告Y2による本件駅伝リハーサル参加者の募集態様ア乙B4によれば,本件駅伝リハーサルへのタレント生徒の参加は,前記本件在学契約に基づき被告Y2が提供する授業のカリキュラムであったとは認められないが,B証人及び弁論の全趣旨によれば,被告Y2は,タレント生徒が本件駅伝リハーサルに参加することで,テレビの現場を体験できることはタレント生徒にとって勉強になると考え,一方で,被告Y1からの要請に応えることは被告Y2にとっても望ましいことであるとの判断の上に立って,被告Y1からの依頼に応じてタレント生徒に参加募集を行ったものと認めら - 67 -れる。 イ前記認定事実(3)エ記載のとおり,Bクラスのアシスタントは,平成20年7月18日,Bクラスのタレント生徒に本件駅伝リハーサルへの参加を呼びかけたところ,出席していた生徒29名中3名が参加する意思を表明し,同様に,Iクラスのアシスタントが同日にIクラスのタレント生徒に本件駅伝リハーサルへの参加を呼びかけたところ,出席していた生徒22名中18名が参加する意思を表明した。また,前記認定事実(3)オのとおり,原告X1が所属するCクラスの女性アシスタント2名は,平成20年7月21日,Cクラスのタレント生徒に対して,「7月25日に本件イベントで走るエキストラ8名を募集しています」,「ものすごく走って汗をかくので,着替えと飲み物を持って行って下さい」と伝えたところ,同日授業に出席していた18名中の2名がすぐに参加する意思を表明し,アシスタントは,再度Cクラス全体に対して,「用事がなかったら参加して」,「行けるんやったら行って」,「誰かいる?」と呼びかけ,そのうち生徒数人に対し,個別に,「行ける? すぐに参加する意思を表明し,アシスタントは,再度Cクラス全体に対して,「用事がなかったら参加して」,「行けるんやったら行って」,「誰かいる?」と呼びかけ,そのうち生徒数人に対し,個別に,「行ける?」,「日にち空いてる?」と声をかけたところ,前記2名の他,原告X1を含む7名が参加の意思を表明したものである。 タレント生徒に対して実際に本件駅伝リハーサルへの参加を呼びかけたアシスタントは,前記認定事実(2)エのとおり,被告Y2が,タレント養成学校における授業を補助する人材として前年度のタレント養成学校の卒業生の中から雇用した者であり,被告Y2は,授業態度,礼儀作法及び講師との相性等の基準で選抜した者をアシスタントとして雇用している。 ウ乙B7によれば,タレント養成学校への入学資格は中学卒業以上であると認められるところ,本件駅伝リハーサルに参加したタレント生徒は,前記認定事実(3)キのとおり概ね20歳前後であって,それぞれが相当の注意力及び判断力を有していたものと認められる。 エ以上からすると,Cクラスのアシスタントは,全体に声をかけた時点で参 - 68 -加意思を表明しなかった原告X1を含むタレント生徒に対して,個別に声をかけて参加を呼びかけており,このことからすると,被告Y2は,強制的とまではいえないものの,積極的な態様で本件駅伝リハーサル参加者の募集を行い,原告X1が本件駅伝リハーサルに参加する契機を作出したものというべきである。 オ原告らは,被告Y2は,被告Y1が被告Y2所属のタレントへ仕事を発注して莫大な経済的利益を生み出す重要な顧客であるから,被告Y1と良好な関係を維持するために,タレント生徒に対して本件駅伝リハーサルへの参加を強制した旨主張する。 一般的に,被告Y2が被告Y1と良好 な経済的利益を生み出す重要な顧客であるから,被告Y1と良好な関係を維持するために,タレント生徒に対して本件駅伝リハーサルへの参加を強制した旨主張する。 一般的に,被告Y2が被告Y1と良好な関係を維持することは,被告Y2にとって望ましいことであるということができ,本件駅伝リハーサルについても,参加者を派遣することが被告Y2にとっても望ましかったということはできる。しかしながら,前記ア及びイのとおり,アシスタントがタレント生徒に対して威圧的な言動をもって本件駅伝リハーサルへの参加を呼びかけた事実は認められない。また,J証人,M証人,B証人及び弁論の全趣旨によれば,被告Y1と被告Y2の間には,長年の取引に基づく緊密な関係が既に形成されていることが認められるところ,今回,被告Y2が被告Y1から依頼された人数のタレント生徒を集められないからといって,当該関係が悪化することは考えにくく,被告Y2において,タレント生徒を本件駅伝リハーサルに参加させることについて強い動機があったとまでは認められない。以上の各事情を踏まえ,前記アの認定事実を検討するならば,被告Y2がタレント生徒に対して本件駅伝リハーサルへの参加を強制した事実は認められない。 カ原告らは,アシスタントからの指示はタレント生徒にとって被告Y2からの指示に他ならないところ,タレント生徒は,被告Y2に対し,意欲的に仕事に取り組む姿勢を印象づけなければならず,被告Y2の意向に逆らっては - 69 -ならないとの心理的圧力を常に感じていたのであり,被告Y2は,このようなタレント生徒の立場を十分に認識した上で,両者の力関係の差を利用して本件駅伝リハーサルの参加を強制したとも主張する。 タレント生徒においては,被告Y2に,顔を覚えてもらい,また,実力を見てもらう機会 徒の立場を十分に認識した上で,両者の力関係の差を利用して本件駅伝リハーサルの参加を強制したとも主張する。 タレント生徒においては,被告Y2に,顔を覚えてもらい,また,実力を見てもらう機会を得るために,被告Y2からの要請があれば,これに協力することによって,前記機会を獲得したいという動機を有していた可能性は否定できない。 しかしながら,Cクラスで当初の参加希望者が18名中2名であったことからすると,Cクラスのタレント生徒においては,本件駅伝リハーサルの参加がそれ程には魅力のあるものに映っていなかったことが認められる。そして,前記認定事実(2)オ及び弁論の全趣旨によれば,被告Y2がタレント生徒の成績を評価することはなく,タレント養成学校における授業態度がいくら良好であっても,芸人としての仕事を得るためには,芸人としての技能を磨き,最終的にはオーディション等で実力を示す必要があり,芸人としての仕事を得るためにはおもしろいかどうかが大きなウェイトを占めるものと被告Y2が考えていたと推認され,このこと自体はタレント生徒においても概ね理解されていたものと認められる。 以上のことからすると,原告X1が,自己の意に反して本件駅伝リハーサルへの参加を強制された事実は認められない。 よって,この点の原告らの主張は認められない。 なお,原告らは,募集告知を断る自由の有無は本質的に問題でないと主張するが,安全配慮義務の有無及びその内容を検討するにあたっては,社会的接触関係が発生するに至った経緯を一要素として検討することが相当であるから,この点の原告らの主張は認められない。 (5) 本件駅伝リハーサルの危険性に関する被告Y2の認識前記第3の2(2)のとおり,本件駅伝リハーサルにおける原告X1らタレント - 70 - ,この点の原告らの主張は認められない。 (5) 本件駅伝リハーサルの危険性に関する被告Y2の認識前記第3の2(2)のとおり,本件駅伝リハーサルにおける原告X1らタレント - 70 -生徒の各試走は,熱中症が発症する相当の危険がある環境下で行われたといえる。 しかしながら,本件駅伝リハーサルにおける熱中症発症の危険の程度は,前記認定事実(14)イ記載のとおり,当日の本件会場の気温,相対湿度,通風等の環境因子に大きく左右されるものであって,前記(2)のとおり,この点は被告Y1において把握して対処すべきであるといえる。そして,被告Y2が,タレント生徒を募集した際に,本件駅伝リハーサルの危険性を具体的に予見していたか,または予見し得たと認めるに足りる証拠はない。 また,この点に関し,乙A23及びJ証人2頁によれば,本件イベントは前年度にも実施され,被告Y1は,その開幕に合わせて特別番組を製作し,その番組のリハーサルにおいてもタレント生徒を駅伝リハーサルにおいて試走させたことが認められるが,本件各証拠及び弁論の全趣旨によっても,前年度の駅伝リハーサルにおいてタレント生徒に熱中症等の事故が発生したとは認められず,そうすると,被告Y2は,本件駅伝リハーサルにおいては,タレント生徒が夏期の屋外において相応の距離を走ることから,夏期の屋外スポーツにおける一般的な熱中症の危険があるという認識を持っていたにとどまるものと推認される。 (6) 被告Y2の安全配慮義務の内容及び違反の有無ア本件駅伝リハーサルは,被告Y2及びタレント生徒間の在学契約に基づき提供されるカリキュラムに含まれないが,被告Y2は,タレント養成学校のCクラスにおいては積極的な態様で本件駅伝リハーサルへの参加を勧誘したものである。他方,前記のとおり,本件リハ の在学契約に基づき提供されるカリキュラムに含まれないが,被告Y2は,タレント養成学校のCクラスにおいては積極的な態様で本件駅伝リハーサルへの参加を勧誘したものである。他方,前記のとおり,本件リハーサル当日の具体的な状況については,被告Y1がこれを把握して対策を講ずるべきであり,さらに,本件駅伝リハーサルに参加するタレント生徒の年齢が概ね20歳前後であって,それぞれが相当の注意力及び判断力を有していたこと,被告Y2において本件駅伝リハーサルの具体的な危険を予見しておらず,予見すべきであっ - 71 -たともいえないこと,被告Y2は夏期の屋外スポーツにおける一般的な熱中症の危険があるという認識を有していたにとどまることを考慮するならば,被告Y2は,在学契約に付随するものとして,被告Y1に対してタレント生徒の安全面に配慮するように依頼する義務及び本件駅伝リハーサルに参加するタレント生徒に対して一般的な熱中症対策に関する注意を行う義務を負っていたが,それ以上の義務は負っていなかったというべきである。 イ被告Y1に対して安全面の配慮を依頼する義務については,前記認定事実(3)カ記載のとおり,被告Y2の従業員であるBが,被告Y1の従業員であるCに対し,「くれぐれも暑さ対策よろしくお願いします。(お預かりしている大事な生徒さんなんで)」と記載したFAXを送信しており,これは,暑さを主な原因とする熱中症の予防に向けて被告Y1において対策を講じるように注意喚起するものであると認められ,前記の義務を履行したものといえる。 次に,一般的な熱中症対策に関する注意を行う義務については,前記認定事実(2)エ及び同(3)オ記載のとおり,被告Y2は,雇用するアシスタントを通じて,原告X1に対し,多くの距離を走って汗をかくことから,着替えと飲み物を持 に関する注意を行う義務については,前記認定事実(2)エ及び同(3)オ記載のとおり,被告Y2は,雇用するアシスタントを通じて,原告X1に対し,多くの距離を走って汗をかくことから,着替えと飲み物を持って行くように指示しており,これは運動時における熱中症の一般的な予防策の伝達と注意喚起を行っているものと認められ,前記義務を履行したものといえる。 (7) 結論以上のとおりであるから,被告Y2が,本件在学契約に付随して原告X1に対して負担する安全配慮義務に違反した事実は認められない。 4 争点3(原告X1の損害の発生の有無及び被告らの各安全配慮義務違反と原告X1の損害との間の因果関係の有無)について(1) 本件義務違反と原告X1の熱中症罹患との因果関係の有無前記認定事実(8)ウのとおり,本件事故において原告X1が熱中症に罹患し - 72 -たことが認められ,被告Y1が本件駅伝リハーサルの2回目の試走を中止すべきであったのにこれをしなかった(本件義務違反)ために原告X1が熱中症に罹患したと認められ,したがって,被告Y1の本件義務違反と,原告X1の熱中症の発症により生じた損害との間に相当因果関係が存在する。 前記認定事実(11)のとおり,原告X1は,平成20年7月26日から同年8月21日までの間,乙病院に入院して同病院で治療を受けており,その間精神機能及び身体機能が低い水準にあったことについては,解離性障害が主たる原因であった可能性を否定し得ないが,なお,本件義務違反に基づく熱中症及び過呼吸の各発症からの一連の経過の中で生じたものと認められ,したがって,本件義務違反と各機能低下との間には相当因果関係があると認めるのが相当である。 (2) 本件義務違反と原告X1の乙病院退院以降の症状との因果関係の有無ア検討の順序被告 られ,したがって,本件義務違反と各機能低下との間には相当因果関係があると認めるのが相当である。 (2) 本件義務違反と原告X1の乙病院退院以降の症状との因果関係の有無ア検討の順序被告Y1の本件義務違反と乙病院退院以降の症状との因果関係の有無を判断するにあたり,まず,原告X1の熱中症の重症度を新分類,旧分類及び後遺症群との比較対照により検討し(「イ原告X1の熱中症の重症度」),次いで,富永医院を退院した後の原告X1の症状の経過を検討し(「ウ乙病院退院後の原告X1の症状の経過」),その上でその症状の原因として,脳の器質的損傷の有無(「エ脳の器質的損傷の有無」)及び心因性疾患の可能性を検討し(「オ心因性疾患の可能性」),最後に,原告X1における熱中症による後遺障害に関する重要証拠の証明力を検討する(「カ重要証拠の証明力」)。 イ原告X1の熱中症の重症度(ア) 新分類に基づく検討a 原告らは,原告X1は,本件事故においてⅢ度の熱中症に罹患し,これを原因として,高次脳機能障害,四肢麻痺及び体幹機能障害の後遺障害が発生したと主張する。 - 73 -この点に関連し,前記認定事実(14)ケ(イ)e 及び同(ウ)b のとおり,熱中症の罹患により中枢神経系の後遺障害が生じるケースのほとんどが,重症度の区分のうちⅢ度に該当する事例である。そこで,以下,原告X1が罹患した熱中症の新分類における重症度を検討する。 b 前記認定事実(8)ウ及び同(9)のとおり,原告X1は,2回目の試走中において,走行を停止する直前,走行にふらつきがあり,迎賓館で応急処置を受けている際には,過呼吸及び筋肉の不随意運動の症状が出現した。また,この時期,原告X1は,D看護師からの質問に対し,頷いて返答する程度の意識状態にあった。 行にふらつきがあり,迎賓館で応急処置を受けている際には,過呼吸及び筋肉の不随意運動の症状が出現した。また,この時期,原告X1は,D看護師からの質問に対し,頷いて返答する程度の意識状態にあった。 前記認定事実(10)のとおり,甲病院に搬送された直後の原告X1は,体温が36.9度であり,大量の発汗,過呼吸及び脱水の症状が認められ,意識障害の深度はJCS3であった。また,甲病院に搬送された翌日には,全身性痙攣が発現した。 以上の原告X1の症状を,前記認定事実(14)ウ(イ)記載のⅢ度の診断基準にあてはめると,原告X1は本件駅伝リハーサルにおける試走により暑熱への曝露が認められ(a 該当),本件各証拠及び弁論の全趣旨によっても,本件事故時に原告X1について頭部の外傷といった外疾患を疑わせる事情は認められない(b 該当)。前記のとおり,甲病院搬送時の原告X1の体温は36.9度であるところ,前記第3の2(8)オのとおり,被告Y1及びAの従業員は,原告X1に熱中症の症状が生じた直後から,原告X1に対して急冷措置を講じており,当該処置の内容は,保護マニュアルの記載(前記認定事実(14)エ)に照らして概ね適切なものであったというべきであり,熱中症を発症した当時の原告X1の体温は,甲病院搬送直後のそれに比べて高かったものと推認するのが相当であって,深部温度が39度以上,腋窩で38度以上であった可能性はあるというべきである(c 該当可能性あり。なお,日本救急医学会がc の要件を採用していないことについては前記認定事実(14)ウ(ウ)記載の - 74 -とおりである。)。さらに,原告X1は,前記のとおり,走行中のふらつき(小脳症状)と,甲病院搬送後にJCS3の意識障害や全身性痙攣があり,脳機能の障害が認められる(d(a)該当)。 - 74 -とおりである。)。さらに,原告X1は,前記のとおり,走行中のふらつき(小脳症状)と,甲病院搬送後にJCS3の意識障害や全身性痙攣があり,脳機能の障害が認められる(d(a)該当)。 以上からすると,原告X1が罹患した熱中症はⅢ度に分類される可能性が高いというべきである。 c しかしながら,原告X1が罹患した熱中症は,新分類のⅢ度に該当するとしても,以下の諸事情に鑑みるならば,後遺障害を残す程度に重篤なものであったとまでは認められない。 (a) 新分類におけるⅢ度の位置づけ及びⅢ度症例の後遺障害の発生率甲21(安岡正蔵「熱中症の概念と重症度分類」(日本医師会雑誌第141巻第2号259頁))によれば,熱中症の重症度を示す旧分類のうち,最重症度となる熱射病は,意識障害,40度以上の高熱及び発汗の停止並びに乾燥した皮膚という3つの要素を診断の要点とするものとされてきたが,これらの3条件を満たす状態は,熱中症が極めて進行した病態に陥っていることを意味するものであり,必ずしもこれらの条件を満たさない重症の熱中症患者が存在することから,旧分類の熱射病の概念では,重症例を非重症例と誤る危険があることが指摘されており,新分類は,このような危険を回避する目的に加え,前記認定事実(14)ウ(ア)のとおり,医学知識のない一般人が容易に熱中症の重症度を理解することが可能となり,重症化の予防と早期発見に役立つという観点から提唱されたものであり,甲21(249頁)によれば,新分類は,熱中症患者を救うためならば過剰診断でも良いという救急医学の基本姿勢をそのまま具体化したものと認められる。 そうすると,新分類におけるⅢ度は,新分類の中では熱中症の最重症型に位置づけられているものの,旧分類における熱射病の概念と比べると幅の広い分類 学の基本姿勢をそのまま具体化したものと認められる。 そうすると,新分類におけるⅢ度は,新分類の中では熱中症の最重症型に位置づけられているものの,旧分類における熱射病の概念と比べると幅の広い分類というべきであって,前記認定事実(14)ウ(ア),同(イ)及び同(エ)を比較対照すれば,Ⅲ度に該当する症例であっても,旧分類に従えば熱疲労に - 75 -該当する症例があると認められる。 そして,前記認定事実(14)ケ(ウ)b のとおり,熱中症に罹患した事例のうち,後遺障害の発生が認められたのは,死亡例を除いたⅢ度の症例において6.8パーセントに留まっており,前記のとおり,Ⅲ度症例の重症度に一定の幅があることを踏まえると,後遺障害,特に脳の障害に起因して後遺障害が生ずる事例は,Ⅲ度の中でも相対的に重篤な症状が発生して脳に不可逆的な器質的損傷を与える事例であると考えられる。 以上からすると,一般論として,熱中症がⅢ度に該当することをもって,直ちに当該熱中症が後遺障害を生じさせる程度のものであったと推認することは困難である。 (b) 原告X1における熱中症原告X1には,前記認定事実(14)ウ(イ)記載のⅢ度の診断基準のd(a)ないし(c)の3つの兆候のうち,前記のとおり,走行中のふらつき(小脳症状)と,甲病院搬送直後にJCS3の意識障害があり,脳機能の障害が認められる(d(a)該当)が,本件各証拠によっても,肝腎機能障害及び血液凝固障害(DIC)の発生を疑わせる事情は認められず(d(b)及び(c)非該当),原告X1が罹患した熱中症は,3つの兆候が存在する事例と比較すれば,死亡リスクが低い事例であったというべきである。 また,意識障害の程度をみると,前記のとおり,熱中症発症から約40分が経過したころ,原告X1は, 熱中症は,3つの兆候が存在する事例と比較すれば,死亡リスクが低い事例であったというべきである。 また,意識障害の程度をみると,前記のとおり,熱中症発症から約40分が経過したころ,原告X1は,D看護師からの質問に対し,頷いて返答する程度の意識状態にあり,甲病院に搬送された直後の原告X1の意識障害はJCS3に留まっていたのであり,意識障害の程度が重篤なものであったとまでは認められない。 確かに,前記認定事実(11)イ記載のとおり,本件事故日の翌日である平成20年7月26日午後零時30分ころの原告X1の意識障害はJCS30から100であると診断されているが,乙4(枝番を含む。)によれば,原告X - 76 -1は,その1時間後には病院関係者からの質問や呼びかけに対してうなずいて返答していること,ICUに入る1時間前にも,病院関係者からの質問に対して小声を発して応答していること,ICUに入った直後の意識障害の程度はJCS3であり,その後ICUを退室する平成20年7月30日まで概ねJCS3の状態が維持されたことが認められ,JCS30から100の状態が恒常的に継続していたわけではない。 以上からすると,原告X1の熱中症は,Ⅲ度の診断基準を全て満たす場合に比べ死亡リスクの低いものであったといえる。 (イ) 旧分類に基づく検討次に,旧分類における熱射病の症状が原告X1に生じたか否かという観点から,原告X1の熱中症の重症度を検討する。 a 意識障害前記認定事実(14)ケ(エ)記載のとおり,旧分類における熱射病の中枢神経の病状として,昏眠に至る程度の意識障害が発生するとされているところ,昏眠とは,意識の混濁が中等度であって,寝たままで動かず,強い刺激には反応するが覚醒しない状態をいうことは当裁判所に顕著である。 の病状として,昏眠に至る程度の意識障害が発生するとされているところ,昏眠とは,意識の混濁が中等度であって,寝たままで動かず,強い刺激には反応するが覚醒しない状態をいうことは当裁判所に顕著である。 前記(ア)c(b)記載のとおり,原告X1は,本件事故直後から,D看護師の質問に頷いて返答し,甲病院に搬送された直後にはJCS3と診察され,本件事故翌日も,甲病院関係者からの質問や呼びかけに対して頷いて返答したり小声で応答したりできる程度の意識状態は概ね維持されているのであり,原告X1の意識障害は昏眠に至る程度のものとまでは認められず,熱射病の病状に該当する前記症状が発現したとはいえない。 b 痙攣前記認定事実(14)ケ(エ)記載のとおり,旧分類における熱射病の中枢神経の病状として痙攣が発生するとされている(ただし,筋痙攣は,旧分類における熱痙攣及び熱疲労においても発症する症状とされている。)ところ,前記 - 77 -認定事実(11)記載のとおり,原告X1は,平成20年7月26日から全身性痙攣が生じ,その後断続的に痙攣が発生したのであり,熱射病の病状に該当する症状が発現したといえる。 他方で,前記認定事実(1)ウ及び(17)アのとおり,原告X1は,過呼吸(過換気症候群)の既往症を有しており,過換気症候群の症状の1つとして筋痙攣が含まれるところ,乙A4(枝番を含む。)によれば,平成20年7月30日及び同月31日に生じた痙攣は,過呼吸の発生に対応していることが認められ,原告X1に生じた痙攣の一部は,既往症の過呼吸症候群が発現したものとみることができる。この点については,原告らが提出するa 医師の意見書(甲34)及び被告Y1が提出するb 医師の意見書(乙A12)においても,熱中症を引き金にして原告X1の既往症で が発現したものとみることができる。この点については,原告らが提出するa 医師の意見書(甲34)及び被告Y1が提出するb 医師の意見書(乙A12)においても,熱中症を引き金にして原告X1の既往症である過呼吸が併発した旨の意見が述べられているところである。 したがって,本件事故後,原告X1に生じた過呼吸を伴わない痙攣は,熱射病に該当する病状の発現とみることができる。 c 紅潮乾燥及び発汗の停止前記認定事実(14)ケ(エ)記載のとおり,旧分類における熱射病の皮膚の病状として,紅潮乾燥及び発汗の停止が生じるとされているところ,前記認定事実(9)イのとおり,原告X1の顔面は,迎賓館内で応急処置を受けている際,やや赤みがかかった状態ではあったものの,前記認定事実(10)アのとおり,原告X1は,甲病院搬送後においても大量の発汗が生じているのであるから,原告X1の皮膚が乾燥し,発汗が停止したとは認められず,熱射病の病状に該当する前記症状が発現したとはいえない。 d 横紋筋融解症前記認定事実(14)ケ(エ)記載のとおり,旧分類における熱射病の病状として横紋筋融解症が生じるとされている。乙A12によれば,横紋筋融解症が発生する場合,尿中のCK(CPK)値が数千という値まで急上昇するもの - 78 -と認められ,乙3及び乙4(枝番含む。)によれば,原告X1の尿中のCK値は,本件事故当日の平成20年7月25日は85,同月26日は102及び126,同月27日は104,同月28日は146,同月30日は901,同年8月1日は253,同月4日は110であったと認められる。このように,原告X1の尿中のCKは,本件事故当日から起算して4日間は正常値を示しており,熱中症が原因となって原告X1に横紋筋融解症が生 同年8月1日は253,同月4日は110であったと認められる。このように,原告X1の尿中のCKは,本件事故当日から起算して4日間は正常値を示しており,熱中症が原因となって原告X1に横紋筋融解症が生じたとは認められないというべきであり,同年7月30日に901となった原因は,同日以前から生じている痙攣発作の影響とみるべきであって,これらの点は,a医師,b 医師及びc 助教のいずれもが,原告X1に横紋筋融解症の発症は認められないと意見するところである(甲34,乙A12,乙A17)。したがって,熱射病の病状に該当する前記症状が発現したとはいえない。 e 多臓器不全及び血液凝固障害(DIC)前記認定事実(14)ケ(エ)記載のとおり,旧分類における熱射病の病状として多臓器不全や血液凝固障害(DIC)が生じるとされているが,前記(ア)c(b)記載のとおり,原告X1にこれらの病状が生じたことを窺わせる事情は存在せず,原告X1に熱射病の病状に該当する前記症状が発現したものとはいえない。 f その他前記認定事実(10)記載のとおり,甲病院搬送直後の原告X1の血圧及び心拍数に異常はなく,尿検査や血液検査にも明らかに異常な結果は認められない。 g まとめ以上からすると,旧分類の最重症型となる熱射病の病状とされるもののうち,本件事故により原告X1に生じた症状は,過呼吸を伴わない一部の痙攣にとどまるというべきであり,このことからすると,原告X1に生じた症状が,新分類におけるⅢ度症例の中で重篤な症状の部類に属するものであった - 79 -と推認することは困難であるといわざるを得ない。 (ウ) 後遺症群との比較対照a 臨床結果からの比較前記認定事実(14)ケ(ウ)記載 部類に属するものであった - 79 -と推認することは困難であるといわざるを得ない。 (ウ) 後遺症群との比較対照a 臨床結果からの比較前記認定事実(14)ケ(ウ)記載のとおり,中村俊介らは,熱中症の症例合計1441例のうち,中枢神経系後遺症を生じた症例(後遺症群)及び対照として後遺症なく生存したⅢ度熱中症の症例(対照群)を抽出して分析すると,病院来院時の意識障害の程度,体温及び動脈血ガス分析のBEに有意差が生じるとの報告(以下「本件報告」という。)を行っている。以下,本件報告を基に,原告X1の症例と,後遺症群及び対照群とを比較検討する。 b 意識障害の程度本件報告においては,意識障害の程度を示す指標としてGCSが用いられており,原告X1の甲病院搬入時のGCSでの評価は不明であるところ,弁論の全趣旨によれば,並木淳らは「GCSによる意識レベルの評価法の問題点:JCSによる評価との対比」(日本臨床救急医学会雑誌10巻1号20頁[2007])において,JCSとGCSの対応関係を別紙「JCSとGCSの対応表」(省略)記載のとおりに整理したことが認められる。 前記認定事実(10)ア記載のとおり,原告X1の甲病院搬入時の意識障害の程度はJCS3であるところ,別紙「JCSとGCSの対応表」によれば,JCS3は,GCSの要素毎に,E(開眼)が4,V(発語)が3又は4,M(最良運動反応)が5または6に対応し,GCSの合計点としては12から14に位置づけられると認められる。 前記認定事実(14)ケ(ウ)c(a)記載のとおり,来院時のGCSの合計点につき,後遺症群が5.8±4.4,対照群が9.9±4.5であり,原告X1の点数は,後遺症群には属さず,対照群の軽度の症例の部類に属するものといえる ウ)c(a)記載のとおり,来院時のGCSの合計点につき,後遺症群が5.8±4.4,対照群が9.9±4.5であり,原告X1の点数は,後遺症群には属さず,対照群の軽度の症例の部類に属するものといえる。 c 体温 - 80 -前記認定事実(10)ア記載のとおり,甲病院搬入時の原告X1の体温は36.9度であり,前記認定事実(14)ケ(ウ)c(b)記載のとおり,本件報告によれば,来院時の体温につき,後遺症群で平均40.3度±1.6度,対照群で平均39.2度±1.8度であり,この数値からすると,原告X1の症例は,後遺症群及び対照群のいずれにも属さないものと認められる。 なお,原告X1が体温を測定するまでの間に急冷措置を受け,熱中症発症時の体温が甲病院搬送直後のそれに比べて高かった可能性は考慮する必要があり,他方で,本件報告において検証された症例の中には,来院時までに急冷措置が講じられた症例も一定数含まれているものと考えられるから,その点も併せて考慮する必要がある。以上を総合して考慮するならば,原告X1の数値は,少なくとも後遺症群には属さないと認められる。 d 動脈血ガス分析のBE乙3によれば,本件事故日の翌日である平成20年7月26日における原告X1のBEは1.6モルリットルであると認められ,前記認定事実(14)ケ(ウ)c(c)記載のとおり,本件報告によれば,来院時のBEにつき,後遺症群で-6.4±5.3モルリットル,対照群で-2.8±6.1モルリットルであるから,原告X1の症例は後遺症群に属さず,対照群に属するものといえる。 e まとめ以上からすると,原告X1の熱中症の症例は,後遺症群と対照群とで有意差が認められる数値のいずれについても後遺症群に属さないもの 属さず,対照群に属するものといえる。 e まとめ以上からすると,原告X1の熱中症の症例は,後遺症群と対照群とで有意差が認められる数値のいずれについても後遺症群に属さないものであり,このことからすると,原告X1の熱中症は,脳に器質的損傷を与え,後遺障害を残すようなものでなかった可能性が高いというべきである。 (エ) 原告X1に講じられた応急処置前記第3の2(8)オのとおり,被告Y1及びAの従業員は,原告X1に異常が生じた直後から,原告X1に対し急冷措置を講じており,当該処置の内容は,保護マニュアルの記載(前記認定事実(14)エ)に照らして概ね適切な - 81 -ものであったというべきであり,原告X1の熱中症の重症化の進行をある程度妨げたものと推認される。 (オ) まとめ以上の各事情を総合的に考慮するならば,原告X1が罹患した熱中症は,新分類のⅢ度に該当するとしても,脳に不可逆的な器質的損傷を与え,後遺障害を残す程度に重篤なものであったとまでは認められない。 ウ乙病院退院後の原告X1の症状の経過(ア) 身体機能前記認定事実(12)カ記載のとおり,原告X1は,平成20年9月上旬ころ,握力が左右共に0から1キログラム程度に低下するなどしたが,甲12,甲34,甲39,原告X2本人及び弁論の全趣旨によれば,原告X1は,現在までに,握力は左右共に20キログラム前後に回復し,現時点では,歩行障害も明らかでなく,飲食業のアルバイトを行うなど,日常生活はある程度できる状態であるが,一方で,走行することは未だに困難であることが認められる。 (イ) 精神機能前記認定事実(13)ア記載のとおり,原告X1は,平成22年2月ころ,原告X2及び祖父に対し,おもちゃを買ってくるように再三にわた とは未だに困難であることが認められる。 (イ) 精神機能前記認定事実(13)ア記載のとおり,原告X1は,平成22年2月ころ,原告X2及び祖父に対し,おもちゃを買ってくるように再三にわたりだだをこねることがあり,精神の退行が認められる。もっとも,おびただしい数のおもちゃを要求しており,単に精神が幼児期に退行したものではないことも考えられる。 また,前記認定事実(12)カ記載のとおり,平成20年9月上旬ころ,丙病院入院当初の原告X1の知能指数は,言語性IQが77,動作性IQが61,全検査IQが67であり,甲9によれば,平成22年4月23日当時の原告X1の知能指数は,言語性IQが82,動作性IQが54,全検査IQが66であり精神遅滞レベルにあったものと認められる。 - 82 -さらに,前記認定事実(13)イ記載のとおり,原告X1は,平成23年9月ころから,飲食店でのアルバイトを始めたものの解雇されて長続きしない状態が繰り返されている。 加えて,前記認定事実(13)エ記載のとおり,当裁判所において原告X1の当事者尋問の実施を検討し,原告ら訴訟代理人らを通じて原告X1に対して尋問の実施を求めたが,原告X1がこれに応じず,結局原告X1の当事者尋問は実施されなかった。 他方で,原告X1は,前記認定事実(13)ウ記載のとおり,友人から,平成23年8月7日に36万円を,平成24年6月17日に56万円をそれぞれ借り入れ,その都度借用書を作成している。 以上からすると,現在の原告X1は,金銭の借入れを行ったり借用書を作成したりするなどある面の知的能力を備えていることが認められるが,一方で,精神の遅滞や退行が存在し,精神機能に障害が存在するものと認められる。 (ウ) まとめ以上からすると,原告X 作成したりするなどある面の知的能力を備えていることが認められるが,一方で,精神の遅滞や退行が存在し,精神機能に障害が存在するものと認められる。 (ウ) まとめ以上からすると,原告X1は,現在,身体機能及び精神機能に前記のとおりの障害が存在するものと認められる。 エ脳の器質的損傷の有無(ア) 原告らの主張原告らは,前記ウ記載の原告X1の症状は,本件事故による熱中症を原因として脳に器質的な損傷が生じたことによる,小脳症状,高次脳機能障害,四肢麻痺,体幹機能障害といった後遺障害であると主張する。 (イ) 脳の器質的損傷を示す画像所見a 前記認定事実(10)ア記載のとおり,原告X1は,本件事故後,搬入された甲病院において頭部CT検査を受けたが,特に明らかな異常所見は認められなかった。また,乙A4の1によれば,乙病院が平成20年7月26日に実 - 83 -施した原告X1のMRI及びMRA検査でも異常が確認されなかった。 甲9,甲12,甲15及び甲16によれば,原告X1は,平成23年2月4日,インフルエンザに罹患したことから救命救急センターに入院し,その際,頭部CT及びMRA又はMRI検査を受けたが,これらによって明らかな脳の異常所見は認められず,他に原告X1の脳の器質的損傷を示す画像所見は存在しない。 a 医師は,救命救急センターで撮影された原告X1の頭部CT検査画像(甲15,甲16)に軽度の脳萎縮を起こしている可能性がある旨をカルテ(甲9)や意見書(甲12)において指摘しているが,a 医師は原告X1に軽度の脳萎縮があるとの確定診断をしているわけではなく,同画像(甲15,甲16)を検討したc 助教が,同画像上,原告X1に脳萎縮は認められないとの意見を述べている(乙A17)ことからすれば 告X1に軽度の脳萎縮があるとの確定診断をしているわけではなく,同画像(甲15,甲16)を検討したc 助教が,同画像上,原告X1に脳萎縮は認められないとの意見を述べている(乙A17)ことからすれば,a 医師のカルテ上及び意見書上の前記記載をもって,原告X1の脳の器質的損傷を示す画像所見が存在すると認めることはできない。 b この点,原告らは,熱中症によりもたらされた神経学的後遺症の症例として,CT及びMRI上に異常所見がなかったものがあるとの医学分野の報告が存在し,原告X1には,画像所見に表れない脳の器質的損傷が生じた可能性があるのであり,画像診断により脳の器質的損傷の有無を判断することには限界がある旨主張し,前記報告例として嶋津基彦らの論文(甲6,前記認定事実(14)ケ(ア))を提出する。 確かに,現在の最先端の医学的知見をもってしても,重篤な熱中症の発症により,脳にCT等の画像所見に表れない微細な損傷が生じ,これを原因とする後遺障害の発生の可能性を否定することはできず,また,前記認定事実(15)ウ記載のとおり,器質性の神経疾患である高次脳機能障害の診断につき厚生労働省が作成したガイドラインにおいても,画像所見等で脳の器質的病変の存在が明らかでない症例についても,慎重な評価により高次脳機能障害 - 84 -者として診断されることがあり得るとされていることからすれば,画像所見のみによって原告X1の脳の器質的損傷の有無を直ちに判断することはできないというべきである。 しかしながら,前記認定事実(14)ケ(ア)記載のとおり,嶋津基彦らが甲6で分析検討した,急性期の画像所見に異常がなく後遺障害が生じた2件の事例は,いずれも旧分類の熱射病に該当し,来院時にJCS200の重度の意識障害,深部温度が40度以上の高体温 おり,嶋津基彦らが甲6で分析検討した,急性期の画像所見に異常がなく後遺障害が生じた2件の事例は,いずれも旧分類の熱射病に該当し,来院時にJCS200の重度の意識障害,深部温度が40度以上の高体温及びショック状態が認められる重篤な熱中症の症例であり,前記イのとおり,原告X1が罹患した熱中症は,甲6で示された2件の事例に比べると相当軽微な症例であって,脳に不可逆的な器質的損傷を与える程度に重篤なものであったとまでは認められず,甲6で示された2件の事例と原告X1の症例を同列に論じることは困難である。 また,前記認定事実(14)ケ(ア)記載のとおり,嶋津基彦らは,急性期に異常が認められなかった事例において,ある事例では5か月後のCTで,ある事例では1年後のMRIで脳の器質的病変が確認された事例があるとの報告を受け,問題となっている前記2事例についても,神経放射線学的検査を踏まえた長期の経過観察が必要であると指摘しており,これは,後遺障害が発生してから相当期間が経過した後には画像所見に異常が認められる可能性を示唆するものと解されるが,前記のとおり,本件事故後約2年6か月が経過し,原告X1に障害とみられる症状が生じた後に撮影された検査画像においても,原告X1の脳の画像所見には異常が認められない。 (ウ) 乙病院退院後の原告X1の身体的機能の症状の経過前記認定事実(12)アないしエ記載のとおり,乙病院退院後の原告X1は,軽介助を要しながら,シャワーを自分で行い,浴槽へ入る際も,手及び足の移動を手順どおり行うことができ,浴槽に座るまでは自力ででき,浴槽の縁及び壁をゆっくりと手を移動させながら,左足及び右足を動かすことができたり,自宅において胡座をかいてテレビを見たりすることができる状態で - 85 -あった。また,原告X1は, ででき,浴槽の縁及び壁をゆっくりと手を移動させながら,左足及び右足を動かすことができたり,自宅において胡座をかいてテレビを見たりすることができる状態で - 85 -あった。また,原告X1は,平成20年8月30日ころ,自力で起床し,自宅1階内の移動には松葉杖を携行しないで移動することができ,階段は右手に松葉杖を持つことで昇降をすることができた。さらに,原告X1は,平成20年9月1日及び翌2日の各日に,自宅から約1キロメートル離れたデパートまで,多少のふらつきがあるものの,転倒したり障害物にぶつかったりすることなく自転車を運転して,片道2車線合計4車線の国道を横断するなどして当該区間を往復した。 ところが,前記認定事実(12)オ及び同カ記載のとおり,原告X1は,その数日後の平成20年9月6日,身体のふらつきが解消しないことを理由に己病院を受診し,同月12日から丙病院に入院したが,この頃の原告X1の握力は左右共に0から1キログラムに低下し,上下肢の筋力が落ちて,移動動作,立ち上がり,立位保持及び平行棒内の移動は手すりを把持しなければ困難な状態となり,車椅子を自ら操作することも困難な状態になった。 以上のとおり,原告X1の身体的機能は,乙病院を退院してから,自転車を走行できる程度にまで改善したものの,平成20年9月6日ころを境に急激に悪化した。 乙A17及び弁論の全趣旨によれば,脳の器質的な障害とは,脳神経細胞の損傷によるものであり,リハビリ等によって緩徐な改善はある程度期待できるものの,基本的には慢性及び持続性のものであり,月単位という短期的な期間で大きく改善し,あるいは急激に悪化したりすることは考えにくいというべきであり,このことを踏まえるならば,原告X1の身体的機能の症状の前記の推移は,原告X1の身体的機 あり,月単位という短期的な期間で大きく改善し,あるいは急激に悪化したりすることは考えにくいというべきであり,このことを踏まえるならば,原告X1の身体的機能の症状の前記の推移は,原告X1の身体的機能の障害が脳の器質的な損傷を原因とするものでないことを強く示唆するというべきである。 オ心因性疾患の可能性以上に加え,乙病院退院後の原告X1の心身機能の障害が心因性のものであることを疑わせる各事情が以下のとおり存在する。 - 86 -(ア) 前記認定事実(1)ウ記載のとおり,原告X1には過換気症候群の既往症が存在するところ,前記認定事実(17)ア記載のとおり,過換気症候群は,不安,緊張,恐怖,ストレスなどの精神的及び心理的な要因により発症するものであり,原告X1が,従前,身体的機能に悪影響を及ぼす程度に精神面及び心理面に問題を抱えていた可能性を否定できない。 (イ) 前記認定事実(11)ウ記載のとおり,原告X1は,平成20年7月28日,乙病院の神経科を受診し,原告X1を診察した神経科の医師から,器質性疾患であるかどうかははっきりとしないが,心因性疾患を強く疑う旨の診断を受けた。 前記認定事実(11)オ記載のとおり,原告X1は,平成20年8月7日,丁病院精神神経科に通院し,同病院の医師から,器質的な問題がないこと及びこれまでの経過から判断して,解離性障害が疑われる旨の診断を受けた。 前記認定事実(11)ク記載のとおり,原告X1は,乙病院を退院後,同病院の医師から,最終診断として主病名をヒステリーと診断された。乙A17及び乙A18によれば,ヒステリーは,かつて解離性障害を含む概念として精神医学において用いられていたことが認められる。 前記認定事実(12)ケ記載のとおり,原告X1は,平成20年10月3日,丁病院精 び乙A18によれば,ヒステリーは,かつて解離性障害を含む概念として精神医学において用いられていたことが認められる。 前記認定事実(12)ケ記載のとおり,原告X1は,平成20年10月3日,丁病院精神神経科に通院し,右下肢の震えの原因がてんかんであるか否かを判断するため,脳波検査を受けたが,同病院の精神神経科の医師から,検査結果からは発作系の痙攣を引き起こす脳波の反応は認められず,てんかんが震えの原因であることには否定的である旨,原告X1の症状は器質的な問題がないということであれば,ヒステリー,身体表現性障害が考えられるとの診断を受けた。 (ウ) 乙A4の2の乙病院の看護記録において,「ストレス性によるものか?生活聞いていると食事していなかったり,仕事的にもハードで睡眠少なく,ストレス過度にあった様な生活ぶりである」,「やや思いつめた様子であり,母親 - 87 -入院した事について知っているのか尋ねるも“うん”とは言うも一度も病院には来ていないとの事」,「仕事・家族と事情複雑な様子であり,入院中は少しでも入眠・気分転換出来る様,傾聴・声かけ・不眠時内服等使用し療養出来る環境作りしていく必要あり」との記載がある(平成20年7月26日欄,66頁)。これらの記載からすると,原告X1は,乙病院の看護師に対し,本件事故当時の生活状況,仕事,家族関係について話し,これらの点について悩みを抱いていたことが推認される。 (エ) 乙A4の2の乙病院の看護記録において,「丁病院の心療内科に解離性障害にて一時入院していたとの情報あり」との記載がある(平成20年8月6日欄,74頁)。 一方,本件において,丁病院の医療記録(乙A5)は,本件事故後の平成20年8月7日以降のものが提出されているところ,乙A5及び原告X2本人によれば,原告X2は 0年8月6日欄,74頁)。 一方,本件において,丁病院の医療記録(乙A5)は,本件事故後の平成20年8月7日以降のものが提出されているところ,乙A5及び原告X2本人によれば,原告X2は,平成21年7月9日,丁病院の医師に対し,裁判の証拠とするために平成20年8月7日以降のカルテのみの開示を請求したことが認められる。また,前記認定事実(11)オ及び甲10によれば,原告X2は,平成20年8月7日,丁病院精神神経科の医師から,原告X1の症状の原因として,器質的な問題がなく,これまでの経緯からして解離性障害が疑われる旨の説明を受けており,その一方で,原告X2作成の報告書(甲10)において,前記医師から原告X1の症状が熱中症の後遺症であるとの説明を受けたかのような記載を行っていることが認められる。さらに,前記認定事実(11)キのとおり,原告X2は,平成20年8月16日,乙病院の医師に対し,原告X1の以前の病気は完治していると思っている,被告Y1とは訴訟になると思うので守秘義務を守るように告げている。この点,原告X2は,乙病院の医師に対する発言中の前記の「以前の病気」とは急性腰椎症のことであると供述するが(原告X2本人30頁),熱中症の発生や程度が争点となることが予想される被告Y1との訴訟を控えた段階で,乙病院の医師に - 88 -対し,急性腰椎症の存在について守秘義務を守るように殊更に告げる必要性は高くないというべきであり不自然である。 以上の原告X2の各行動を考慮するならば, 原告X1が過去に解離性障害に罹患したことがあり,それを原告X2において隠そうとした可能性を否定できない。 カ重要証拠の証明力(ア) a 医師作成の診断書(甲2,甲9,甲13)及び意見書(甲12,甲34)a 医師は,現在の原告X1の身 それを原告X2において隠そうとした可能性を否定できない。 カ重要証拠の証明力(ア) a 医師作成の診断書(甲2,甲9,甲13)及び意見書(甲12,甲34)a 医師は,現在の原告X1の身体的機能及び精神的機能の症状は,本件事故の熱中症により脳障害を生じたことが原因で発症したものであり,高次脳機能障害,錐体路症状,錐体外路症状及び小脳失調症状が生じたと意見を述べ,その主な根拠は,原告X1の熱中症が熱射病に相当する病態であったことを前提に,様々な機序により大脳及び小脳の中枢神経障害を来したと推測されること,現在の症状が高次脳機能障害者にありがちな傾向であること,器質的脳障害を前提とするリハビリの経過中に原告X1の症状が改善しているところ,心因性のものであれば何らかの重大な心因上の変化あるいは薬物療法によってしか改善しないが,原告X1は薬物療法による治療を受けていないというものである。 しかしながら,前記のとおり,原告X1の熱中症の症状は,熱射病に発現するとされる症状としては過呼吸を伴わない痙攣が生じた以外,顕著なものは認められず,この点で,原告X1の熱中症が熱射病に相当する病態であったと言い切れるか疑問であるし,また,新分類のⅢ度に該当するとしても,脳に器質的損傷を与える程度に重篤なものとであったとまでは認められないから,a 医師の意見は,原告X1の熱中症が大脳及び小脳の中枢神経障害を来す程度に重度なものであることを前提にする点で疑問がある。さらに,原告X1の現在の症状が高次脳機能障害者にありがちな傾向であることは,原告X1が高次脳機能障害である可能性を示唆するにとどまり,原告X1が高 - 89 -次脳機能障害に罹患していることを推認させるとまではいえない。加えて,a医師は,前記エ(イ)a のとおり,MRI,CT が高次脳機能障害である可能性を示唆するにとどまり,原告X1が高 - 89 -次脳機能障害に罹患していることを推認させるとまではいえない。加えて,a医師は,前記エ(イ)a のとおり,MRI,CT,脳波などによる検査所見がない状況で,どのような診断結果等に基づき高次脳機能障害の診断を行ったのか明らかでない。 以上からすると,a 医師の意見書及びこれを前提とする診断書は信用性が低いといわざるを得ない。 (イ) 丙病院の医師が作成した診断書及び医学的意見書(乙A7-252頁,乙A8,乙A9,乙A10)丙病院の医師は,原告X1において,熱中症の後遺症を原因とする四肢麻痺,横紋筋融解症等の症状が生じた旨の診断書及び医学的意見書を作成しているが,前記第3の3(2)イ(イ)d のとおり,原告X1には重度の熱中症の症状である横紋筋融解症の発症は認められず,前記診断書及び意見書の前提が誤った認識に立っているから,前記診断書及び意見書は全体として信用性が低いといわざるを得ない。 キ判断以上のとおり,原告X1が罹患した熱中症は,新分類のⅢ度に該当するとしても,脳に不可逆的な器質的損傷を与え後遺障害を残す程度に重篤なものであったとまでは認められない(前記イ)。また,原告X1の脳の画像所見及び症状の経過からして脳の器質的損傷が存在するとは認められず(前記エ),他方,現在の原告X1の症状が心因性のものである可能性を否定できない(前記オ)。以上の諸事情を総合して考慮するならば,被告Y1の本件義務違反と,乙病院退院以降の原告X1の症状との間に相当因果関係があるとは認められない。 原告X1に発生している現在の症状は,事実的因果関係の観点からすると,本件事故による熱中症またはそれに伴う過呼吸を契機として生じたものと認めら との間に相当因果関係があるとは認められない。 原告X1に発生している現在の症状は,事実的因果関係の観点からすると,本件事故による熱中症またはそれに伴う過呼吸を契機として生じたものと認められ,また,仮に現在の症状が心因性のものである場合に,熱中症また - 90 -は過呼吸が心因性の障害に何らかの影響を与えている可能性も,また否定できない。 しかしながら,本件各証拠をもってしても,熱中症または過呼吸から現在の症状が生ずる蓋然性が高いことについては証明があったとはいえず,また,熱中症または過呼吸から心因性の障害が生ずる蓋然性の高さについても同様に証明があったとはいえない。したがって,本件義務違反と乙病院退院以降の原告X1の症状との間に相当因果関係があるとは認められない。 5 原告X2及び原告X3に対する被告らの不法行為の成否について原告X2及び原告X3は,本件事故により,原告X1の将来に対する期待が奪われ,生涯にわたり原告X1の介護に従事することを余儀なくされ,深い精神的苦痛を被ったと主張する。 前記4(2)ウのとおり,乙病院退院後の原告X1には,身体機能及び精神機能に障害が存在しているものと認められるが,前記4のとおり,被告Y1の本件義務違反と現在の原告X1の症状との間の因果関係は認められない。また,本件義務違反と相当因果関係を有する本件事故時から乙病院退院時までの原告X1の熱中症の症状については,診療経過その他本件に現れた一切の事情を踏まえても,原告X2及び原告X3が,民法711条の生命侵害の場合にも比肩し得べき精神的苦痛を受けたとは認められない。 また,前記3のとおり,被告Y2に義務違反は認められない。 以上のとおりであるから,被告らの原告X2及び原告X3に対する不法行為は成立しない。 6 争点4( 神的苦痛を受けたとは認められない。 また,前記3のとおり,被告Y2に義務違反は認められない。 以上のとおりであるから,被告らの原告X2及び原告X3に対する不法行為は成立しない。 6 争点4(原告らの損害額)について前記4のとおり,被告Y1の本件義務違反と相当因果関係を有する原告X1の損害は,乙病院に入院している期間までの損害にとどまる。 このことを前提にした場合の本件義務違反と相当因果関係を有すると認められる原告X1の損害及び損害額は,次のとおりである。 - 91 -(1) 治療関係費本件事故により発症した熱中症の急性期の治療にあたった甲病院及び乙病院並びに各種検査を行った丁病院における治療費及び文書費のうち,証拠上(甲41の1ないし41の11,甲41の18ないし41の21,甲41の27),原告らが支出したと認められる31万0021円を本件義務違反と相当因果関係を有する損害と認めるのが相当である。 他方,丙病院及び辛クリニックその他の病院並びに鍼灸院における治療に要した費用は,本件義務違反と相当因果関係を有する損害とは認められない。 (2) 入院雑費前記認定事実(10)及び(11)のとおり,原告X1は,平成20年7月25日から同年8月21日までの28日間,本件事故により発症した熱中症の急性期の治療にあたった甲病院及び乙病院に入院しており,前記日数の入院は本件義務違反と相当因果関係を有する損害と認めるのが相当である。入院に伴う雑費として1日1500円を認め,損害額は,次の計算式のとおり,4万2000円となる。 (計算式)1500円×28日=4万2000円他方,丙病院への入院に伴う雑費は,本件義務違反と相当因果関係を有する損害とは認められない。 (3) 通院交通費 000円となる。 (計算式)1500円×28日=4万2000円他方,丙病院への入院に伴う雑費は,本件義務違反と相当因果関係を有する損害とは認められない。 (3) 通院交通費本件事故により発症した熱中症の急性期の治療にあたった甲病院及び乙病院並びに各種検査を行った丁病院への通院に要した交通費のうち,証拠上(甲41の3,甲41の12ないし41の17,甲41の22ないし41の26,甲41の28ないし41の31),原告らが支出したと認められる8万2720円を本件義務違反と相当因果関係を有する損害と認めるのが相当である。 他方,丙病院及び辛クリニックその他病院並びに鍼灸院への通院に要した交通費は,本件義務違反と相当因果関係を有する損害とは認められない。 - 92 -(4) 付添看護費前記(2)と同様に,本件事故により発症した熱中症の急性期の治療のための甲病院及び乙病院への28日間の入院は,本件義務違反と相当因果関係を有する損害と認めるのが相当である。入院に伴う近親者の付添看護費を1日6000円と認め,損害額は,次の計算式のとおり16万8000円となる。 (計算式)6000円×28日=16万8000円他方,丙病院への入院に伴う近親者の付添看護費は,本件義務違反と相当因果関係を有する損害とは認められない。 (5) 丙病院退院後から将来の介護費前記のとおり,本件義務違反と乙病院退院以降の原告X1の症状との間には相当因果関係が認められないから,丙病院退院後の原告X1の介護費は,本件義務違反と相当因果関係を有する損害とは認められない。 (6) 家屋改造費用甲42(枝番を含む。)及び弁論の全趣旨によれば,原告X2は,平成21年4月以降,原告X1の症状に対処するため,原告X1が居住 と相当因果関係を有する損害とは認められない。 (6) 家屋改造費用甲42(枝番を含む。)及び弁論の全趣旨によれば,原告X2は,平成21年4月以降,原告X1の症状に対処するため,原告X1が居住する自宅を改造し,その費用として1121万2960円を支出したものと認められる。 しかしながら,前記改造は,平成20年12月12日に丙病院を退院した後の原告X1の症状に対応するためのものであり,これに要した費用は,本件義務違反と相当因果関係を有する損害とは認められない。 (7) 自動車改造費用甲43(枝番を含む。)及び弁論の全趣旨によれば,原告X2は,平成21年7月14日,原告X1の症状に対応するため,原告X1の移動に用いられる自家乗用車の助手席を改造し,その費用として53万8650円を支出したものと認められる。 しかしながら,前記支出は,前記(6)と同じ理由により,本件義務違反と相当因果関係を有する損害とは認められない。 - 93 -(8) 各種装具及び器具購入費用甲41の119ないし41の130及び弁論の全趣旨によれば,原告らは,平成20年8月20日以降,原告X1の症状に対処するため,松葉杖,手すり,電池式自走車及びモータ付ベッド等の器具購入費として92万3437円を支出したものと認められる。 しかしながら,前記支出は,前記(6)と同じ理由により,本件義務違反と相当因果関係を有する損害とは認められない。 (9) 後遺障害による逸失利益前記のとおり,本件義務違反と乙病院退院以降の原告X1の症状との間には相当因果関係が認められず,本件義務違反により原告X1に後遺障害が発生したとまではいえないから,後遺障害による逸失利益は,本件義務違反と相当因果関係を有する損害とは認められない。 状との間には相当因果関係が認められず,本件義務違反により原告X1に後遺障害が発生したとまではいえないから,後遺障害による逸失利益は,本件義務違反と相当因果関係を有する損害とは認められない。 (10) 成年後見人申立費用前記前提事実(1)ア記載のとおり,原告X1は,平成22年12月16日,大阪家庭裁判所から成年後見開始の審判を受け,原告X2が成年後見人に選任されたものであり,弁論の全趣旨によれば,原告らは,前記審判の申立手続費用を支出したものと認められる。 しかしながら,前記審判及び同審判の申立ては,平成22年12月ころの当時の原告X1の精神上の障害をもとになされたものであって,前記のとおり,当時の原告X1の精神上の症状と本件義務違反との間には相当因果関係が認められないから,成年後見人申立費用は,本件義務違反と相当因果関係を有する損害とは認められない。 (11) 入通院慰謝料前記認定事実(10)及び(11)のとおり,原告X1は,平成20年7月25日から同年8月21日までの28日間,本件事故により発症した熱中症の急性期の治療にあたった甲病院及び乙病院に入院(うち,前記期間において丁病院に2 - 94 -日通院)しており,前記日数の入通院は本件義務違反と相当因果関係を有する損害と認めるのが相当であり,原告X1の入通院における精神的苦痛を慰謝するための慰謝料は,その間の病状,入通院期間を考慮して80万円を認めるのが相当である。 他方,丙病院及び辛クリニック等への入通院は,本件義務違反と相当因果関係を有する損害とは認められない。 (12) 後遺障害慰謝料前記のとおり,本件義務違反と乙病院退院以降の原告X1の症状との間には相当因果関係が認められず,本件義務違反により原告X1に後遺障害が発生 害とは認められない。 (12) 後遺障害慰謝料前記のとおり,本件義務違反と乙病院退院以降の原告X1の症状との間には相当因果関係が認められず,本件義務違反により原告X1に後遺障害が発生したとまでは認められないから,後遺障害慰謝料は,本件義務違反と相当因果関係を有する損害とは認められない。 (13) 弁護士費用被告Y1の本件義務違反により原告X1に発生した弁護士費用の損害としては,次の計算式のとおり,14万0274円を認めるのが相当である。 (計算式)140万2741円((1)ないし(4)及び(11)の合計額)×0.1(認容額の10パーセント)=14万0274円(小数点以下切捨)(14) 損害額の総額以上のとおりであるから,被告Y1の本件義務違反と相当因果関係のある原告X1の損害額は,154万3015円であると認められる。 7 被告Y1の原告X1に対する支払前記前提事実(6)のとおり,被告Y1は,平成21年7月10日,原告X1に対し,本件事故により発生した原告X1の損害の塡補として177万0481円を支払っており,これは,被告Y1の原告X1に対する損害賠償債務についての弁済と認められるから,原告X1の被告Y1に対する損害賠償請求権は同日消滅したものと認められる。 8 時機に後れた攻撃防御方法について - 95 -原告が第3回弁論期日(平成27年2月6日)において提出した書証(甲54ないし56,甲58)及び同書証に基づく主張部分については,原告の従前の主張との関連性は認められるものの,より早期に提出することが十分に可能であり,かつ,それらの提出を認めた場合には訴訟の完結を遅延させることになると認められるので,同期日において,民事訴訟法157条1項に基づき却下することとした。 第4 期に提出することが十分に可能であり,かつ,それらの提出を認めた場合には訴訟の完結を遅延させることになると認められるので,同期日において,民事訴訟法157条1項に基づき却下することとした。 第4 結論以上からすると,原告らの請求は理由がないからいずれも棄却することとして,よって主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第12民事部 裁判長裁判官古谷恭一郎 裁判官富張邦夫 裁判官望月一輝 別紙図面(省略) 別表大阪管区気象台発表の本件リハーサル時の気象条件 時分気温(度)相対湿度(%) 12:00 34.0 12:10 34.4 12:20 33.9 12:30 34.0 12:40 33.9 12:50 34.3 13:00 34.0 13:10 34.5 13:20 34.2 13:30 34.4 13:40 34.9 13:50 35.5 14:00 35.0 14:10 36.1 14:20 35.7 14:30 35.2 14:40 35.7 14:50 35.1 15:00 35.1 時分気温(度)相対湿度(%) 15:10 35.4 15:20 34.9 15:30 34.9 15:40 34.9 時分気温(度)相対湿度(%) 15:10 35.4 15:20 34.9 15:30 34.9 15:40 34.9 15:50 34.6 16:00 34.9 16:10 33.5 16:20 33.1 16:30 33.1 16:40 32.9 16:50 33.1 17:00 32.6 17:10 32.5 17:20 32.7 17:30 31.8 17:40 31.8 17:50 31.5 18:00 31.3 - 98 - 別表平成20年8月10日の気象条件 ⅰ「気象台気温」…大阪管区気象台発表の平成20年8月10日の気温 ⅱ「第4区気温」…原告X2らが測定した同日の第4区スタート地点の気温 時分 ⅰ気象台気温(度) ⅱ第4区気温(度) ⅰとⅱ差(度) 14:30 34.1 42.7 8.6 14:40 34.4 41.3 6.9 14:50 34.5 42.8 8.3 15:00 34.7 44.6 9.9 15:10 34.5 44.2 9.7 15:20 34.1 40.7 6.6 15:30 34.1 41.1 7.0 15:40 33.9 40.1 6.2 15:50 33.6 41.7 8.1 16:00 33.5 39.3 5.8 時分 ⅰ気象台気温(度) ⅱ第4区気温(度) ⅰとⅱ差(度) 16:10 33.1 41.2 8.1 16:20 33.1 6:0033.539.35.8時分ⅰ気象台気温(度)ⅱ第4区気温(度)ⅰとⅱ差(度)16:1033.141.28.116:2033.139.46.316:3032.638.05.416:4032.938.55.616:5033.137.44.317:0032.737.64.917:1032.535.12.617:2032.436.94.517:3031.937.55.617:4032.336.34.0 - 99 -別表環境省発表の本件リハーサル時の大阪のWBGT 時分WBGT(度)熱中症予防運動指針による暑熱環境の状況12:0029.3厳重警戒,激運動中止13:0029.3厳重警戒,激運動中止14:0029.8厳重警戒,激運動中止15:0029.4厳重警戒,激運動中止16:0029.4厳重警戒,激運動中止17:0025.9警戒,積極的休息18:0026.3警戒,積極的休息 - 100 -別紙(省略)JCSとGCSの対応表
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