平成14(行ウ)11 会則一部変更不認可処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成16年2月25日 宇都宮地方裁判所 その他
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判決文本文7,978 文字)

主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 栃木県知事が平成11年1月29日付けで原告に対してした栃木県社会保険労務士会会則一部変更不認可処分を取り消す。 2 栃木労働基準局長が平成11年1月29日付けで原告に対してした栃木県社会保険労務士会会則一部変更不認可処分を取り消す。 第2 事案の概要本件は,栃木県知事及び栃木労働基準局長が,原告の栃木県社会保険労務士会会則(以下「原告会則」という。)の一部変更の認可申請のうち,会費滞納等を理由とする会員資格の喪失を規定する条項を新設する部分の変更をそれぞれ不認可とする処分をしたことについて,原告が,栃木県知事の権限を承継した被告栃木社会保険事務局長及び栃木労働基準局長の権限を承継した被告栃木労働局長に対し,それぞれ上記不認可処分の取消しを求めた事案である。 1 前提事実(争いのない事実及び括弧内掲記の証拠により容易に認定し得る事実)・原告は,社会保険労務士法(以下「法」という。)に基づき設立された法人である。 ・原告は,その収入の大部分を所属会員からの会費に依存しているが,所属会員のうち一定の者が会費を滞納する状態が続いていたことから,これを改善し,財政的基盤を確保すべく,原告会則において,会費を1年以上滞納し,原告から相当の期間を定めて催告されたにもかかわらず,正当な理由がなく納入しないときは会員の資格を喪失する旨の条項(以下「本件条項」という。)を新設することとした(甲2,11ないし18)。 原告は,平成10年6月12日,平成10年度通常総会において,原告会則8条2項として,本件条項を新設することを含めて,別紙会則改正新旧対照表記載のとおり,原告会則を変更する旨の議決をした。 原告は,平成10年6月12日,平成10年度通常総会において,原告会則8条2項として,本件条項を新設することを含めて,別紙会則改正新旧対照表記載のとおり,原告会則を変更する旨の議決をした。 ・原告は,同年10月7日,栃木県知事及び栃木労働基準局長に対し,平成11年法律第160号による改正前の法25条の7第2項に基づき,上記原告会則の一部変更の認可申請をした。 栃木県知事及び栃木労働基準局長は,平成11年1月29日,それぞれ,上記認可申請のうち,本件条項の新設に係る部分を不認可とし,その余の変更部分については認可する旨の処分(以下,不認可に係る部分を一括して「本件処分」という。)をした。 本件処分に係る栃木県知事及び栃木労働基準局長の権限は,平成11年法律第87号により法30条が,同年政令第393号により社会保険労務士法施行令3条が改正されたことにより,それぞれ被告栃木社会保険事務局長及び被告栃木労働局長が承継した。 ・原告は,平成11年3月24日,本件処分を不服として審査請求をしたが,厚生労働大臣は,平成14年7月19日,原告の審査請求をいずれも棄却する旨の採決をした。 2 争点及び当事者の主張(争点)会費滞納等を理由とする会員資格の喪失を規定する本件条項の新設に係る会則変更を不認可とした本件処分が適法か否か。 (当事者の主張)・被告らの主張ア社会保険労務士は,平成11年法律第160号による改正前の法14条の2第1項の規定により社会保険労務士名簿に登録されたときに,当然に社会保険労務士会の会員となり(平成14年法律第116号による改正前の法25条の8第1項),登録抹消事由を規定した法14条の10第1項各号のいずれかに該当することとなったときは,当然に所属社会保険労務士会を退 務士会の会員となり(平成14年法律第116号による改正前の法25条の8第1項),登録抹消事由を規定した法14条の10第1項各号のいずれかに該当することとなったときは,当然に所属社会保険労務士会を退会することとされている(同改正前の法25条の8第3項)。これらの入退会の規定は,平成5年法律第61号により改正されたものであり,改正前は社会保険労務士会の会員でない社会保険労務士の存在が予定されていたが,改正附則4条において,社会保険労務士会の会員でない社会保険労務士が,施行日から起算して3年を経過する日までに会員とならなかったときは,登録を抹消される旨の経過措置が定められた。 このように,法は,社会保険労務士の名簿登録と社会保険労務士会の入会及び退会と名簿登録の抹消とが不可分一体の関係にあることを前提としているのであり,上記経過措置後には,社会保険労務士会に入会していない社会保険労務士の存在を予定していない。 イ本件条項は,法が規定する登録抹消事由以外の会費滞納による退会事由を新たに付け加えるものであり,上記の法の趣旨に反するものである。社会保険労務士会が,設立とともに会則を定めることとされている(平成11年法律第160号による改正前の法25条の6第1項)のは,社会保険労務士の品位を保持し,資質の向上と業務の改善進歩を図るため,会員の指導及び連絡に関する事務を行う(平成14年法律第116号による改正前の法25条の6第2項)という設立目的を担保するためであるところ,法律による権限委任のないままに,社会保険労務士会からの退会事由を新たに定めることは許されないというべきである。また,法に規定する以外の退会事由を新たに付け加えることは,社会保険労務士という職業に従事する国民の権利義務に直接かかわることであるから,その面からも法律の委 定めることは許されないというべきである。また,法に規定する以外の退会事由を新たに付け加えることは,社会保険労務士という職業に従事する国民の権利義務に直接かかわることであるから,その面からも法律の委任なくして会則で規定することは許されないというべきである。 したがって,本件条項の新設に係る会則変更を不認可とした本件処分は適法である。 ウなお,弁護士会及び弁理士会については,弁護士法及び弁理士法が,それぞれ弁護士会及び弁理士会に会員を退会させる権限を付与しているが(弁護士法57条1項,弁理士法61条),社会保険労務士会にそのような権限を付与した規定はない。司法書士会については,司法書士法が,司法書士の登録手続とは別に司法書士会への入会手続を別途予定し(司法書士法57条),退会についての一般的定めを設けていないため,司法書士会の会員ではない司法書士の存在を予定している(同法69条2項,73条1項,3項)ということができ,上記のように,名簿登録と入会,名簿登録の抹消と退会とが不可分一体の関係にある社会保険労務士法とは制度を異にするものである。また,税理士会及び行政書士会については,税理士法及び行政書士法は,社会保険労務士法と同様の規定の仕方をしており,税理士会及び行政書士会の会員ではない税理士及び行政書士の存在を予定せず,本件条項のような定めを会則で設けることを許容していない。 ・原告の主張ア社会保険労務士会は,社会保険労務士の品位の保持,資質の向上及び業務の改善を図るため,会員の指導及び連絡に関する事務を行うことを目的として設立された自治的団体であり(平成11年法律第160号,平成14年法律第116号による改正前の法25条の6,25条の7),社会保険労務士による自治的団体を組織し,その自主的運営と自己規律に 的として設立された自治的団体であり(平成11年法律第160号,平成14年法律第116号による改正前の法25条の6,25条の7),社会保険労務士による自治的団体を組織し,その自主的運営と自己規律によって,その業務の健全な発展と育成を図る趣旨により設けられたものである。 社会保険労務士会の運営は,専ら会員による会費収入によって支えられており,会費納入義務は会員としての最も基本的かつ重要な義務であるところ,これを正当な理由なくして履行しない会員が,組織の一員としての資格を有しないことは明らかであり,一定の要件のもとにその資格を喪失させ得る制度が必要不可欠である。会費を滞納する会員が増大すると,その社会保険労務士会の経済的存立基盤が危ぶまれることとなり,現にそのような会員に対する処遇に腐心している社会保険労務士会が少なくない。また,各社会保険労務士会は,会費を滞納している会員も含めて,所属会員数に応じた会費を全国社会保険労務士会連合会に納入することとされているのであるから,会費を滞納したまま退会しない会員が増加した場合の不合理性は明らかである。 原告が,原告会則を変更し本件条項を新設することとしたのは,上記のような理由に基づくものであり,その目的,内容において正当かつ合理的なものである。 イ平成14年法律第116号による改正前の法25条の8第3項は,法14条の10第1項各号のいずれかに該当したときには社会保険労務士会を退会する旨規定するが,これらの規定は,退会事由や登録抹消事由を法14条の10第1項各号の事由に限定する趣旨のものではなく,会費滞納による会員資格の喪失を規定した本件条項は,これらの規定に何ら抵触するものではない。本件条項のような規定を設けることが許容されるか否かは,士業者による自治的団体である会に対し のものではなく,会費滞納による会員資格の喪失を規定した本件条項は,これらの規定に何ら抵触するものではない。本件条項のような規定を設けることが許容されるか否かは,士業者による自治的団体である会に対して,財政的基盤確保のためにどのような自律的権限が認められるかという観点から判断されるべきところ,本件条項は,上記のとおり,その目的,内容において正当かつ合理的なものである。 なお,他の士業の場合,弁護士会,弁理士会においては,会費を滞納した会員を退会させる権限があることが法文上明らかであり,司法書士会においては,いわゆるみなし脱会規定の有効性が承認されており,行政書士会においては,会費を滞納した会員に廃業の勧告をし,その旨を知事に報告して必要な措置を取るよう求めることができ,会費の滞納者に対処するための会の自律的権能が定められている。 ウしたがって,本件条項を新設する旨の原告会則の変更を不認可とした本件処分は違法である。 第3 当裁判所の判断 1 社会保険労務士会は,設立が強制された法人であり(平成11年法律第160号による改正前の法25条の6第1項),社会保険労務士の品位を保持し,その資質の向上と業務の改善進歩を図るため,会員の指導及び連絡に関する事務を行うことを目的とするものである(平成14年法律第116号による改正前の法25条の6第2項)。 社会保険労務士となるには,その資格を有する者が社会保険労務士名簿に登録を受けることを要し(平成11年法律第160号による改正前の法14条の2第1項),社会保険労務士は,登録を受けたときに,当然に,登録の内容に応じて,所属区域の社会保険労務士会の会員となる(平成14年法律第116号による改正前の法25条の8第1項)。そして,社会保険労務士は,法14条の10第1項各号の登録抹 ときに,当然に,登録の内容に応じて,所属区域の社会保険労務士会の会員となる(平成14年法律第116号による改正前の法25条の8第1項)。そして,社会保険労務士は,法14条の10第1項各号の登録抹消事由のいずれかに該当することとなったときは,当然に,所属社会保険労務士会を退会することとされており(同改正前の法25条の8第3項),他に社会保険労務士会の退会事由を定めた規定はない。これらの社会保険労務士会の入会及び退会に関する同改正前の法25条の8の規定は,平成5年法律第61号により改正(以下「平成5年改正」という。)されたものであり,平成5年改正前の法25条の8は,社会保険労務士会の会員となるためには社会保険労務士会に入会届を提出することを要し(同条1項),退会事由として,登録抹消事由に該当することとなったときのほかに,退会届を提出したとき,会員たる資格を喪失したときを規定していた(同条2項)が,登録即入会制に移行するため上記のとおり改正された(乙1,2)。また,同改正前においては,法27条により,会員社会保険労務士でない者について社会保険労務士の業務を行うことが制限されており,社会保険労務士会の会員ではない社会保険労務士会の存在が予定されていたが,平成5年改正において,業務制限の対象が社会保険労務士でない者と改正された。そして,改正附則4条において,社会保険労務士会の会員でない社会保険労務士が,施行日から起算して3年を経過する日までに入会届を提出せず会員とならなかったときは,登録の抹消の申請があったものとみなして,登録を抹消される旨の経過措置が定められた。 このように,平成5年改正後の法が,社会保険労務士として登録を受けたときに,入会届等の何らの措置を要することなく,当然に社会保険労務士会に入会するものとし,登録抹消事由に該当す 定められた。 このように,平成5年改正後の法が,社会保険労務士として登録を受けたときに,入会届等の何らの措置を要することなく,当然に社会保険労務士会に入会するものとし,登録抹消事由に該当することとなったときには,当然に退会するものとして,他に退会事由を定めていないことからすると,法は,社会保険労務士としての登録と社会保険労務士会の入会及び退会を不可分一体のものとし,社会保険労務士会に所属していない社会保険労務士が存在することを予定していないと解され,平成14年法律第116号による改正前の法25条の8第3項は,退会事由を法14条の10第1項各号の登録抹消事由に限定する趣旨と解するのが相当である。この点について,原告は,同改正前の法25条の8第3項は退会事由を限定する趣旨ではない旨主張するが,平成5年改正前の規定から退会事由を限定し,さらに,経過措置において施行後一定期間までに会員とならなかった社会保険労務士の登録を抹消することとした上記平成5年改正の経過に反するもので,独自の見解というほかなく,採用することはできない。 2 社会保険労務士会は,設立の際,会則を定めることを要し(平成11年法律第160号による改正前の法25条の6第1項),会則を定める権限を有するが,前記の目的のために設立が強制された法人であり,かつ,社会保険労務士が登録を受けたときに当然に会員となる強制加入団体であることに加え,会則の記載事項が法定され(平成14年法律第116号による改正前の法25条の7第1項),会則の変更には,原則として主務大臣の認可を要すること(平成11年法律第160号による改正前の法25条の7第2項)からすると,法の趣旨に反する会則の定めをすることは許されないというべきである。 前記前提事実・のとおり,本件条項は,会費滞納等の事由をもっ 1年法律第160号による改正前の法25条の7第2項)からすると,法の趣旨に反する会則の定めをすることは許されないというべきである。 前記前提事実・のとおり,本件条項は,会費滞納等の事由をもって,所属社会保険労務士の原告会員資格を喪失させる旨の規定である。原告会則は,7条において,会員を会員資格を有する者に限定している(甲1)から,本件条項は,会費滞納等の事由をもって原告を退会させるものであり,本件条項が適用されるとすると,社会保険労務士会の会員ではない社会保険労務士の存在を生じさせることとなる。法が,社会保険労務士としての登録と社会保険労務士会の入会及び退会を不可分一体のものとし,社会保険労務士会に所属していない社会保険労務士の存在を予定しておらず,退会事由を登録抹消事由に限定していることは既に説示したとおりであるから,本件条項は,この点において,法の趣旨に反するものといわざるを得ない。 また,会員でない社会保険労務士の存在を予定していた平成5年改正前においても,会員でない社会保険労務士が社会保険労務士としての業務を行うことが制限されていたことからすると,会員でない社会保険労務士の存在を予定していないために業務制限の対象を社会保険労務士でない者と改正した改正後の法の下においても,社会保険労務士会の会員でない者が社会保険労務士としての業務を行うことは,当然に許されないというべきであるから,本件条項が適用されると,社会保険労務士に対し,社会保険労務士としての業務を行うことができなくなるという重大な不利益をもたらすことになる。社会保険労務士会は,所属の社会保険労務士に対して,注意を促し又は必要な措置を講ずべきことを勧告することができる(平成14年法律116号による改正前の法25条の12)が,懲戒処分をする権限はなく,その権限は 務士会は,所属の社会保険労務士に対して,注意を促し又は必要な措置を講ずべきことを勧告することができる(平成14年法律116号による改正前の法25条の12)が,懲戒処分をする権限はなく,その権限は主務大臣に属している(平成11年法律160号による改正前の法25条の2,25条の3)ところ,会則の定めにより社会保険労務士に対し上記のような重大な不利益をもたらすことは,会則の定めにより制裁措置を課すことに均しく,社会保険労務士会に懲戒処分権限を付与せず,これを主務大臣に属するものとした法の趣旨にも反するものといわざるを得ない。 なお,原告は,社会保険労務士会の運営は会員からの会費収入によって支えられており,自治的団体である社会保険労務士会が,その財政的基盤を確保するために,会則において,会費を滞納している会員の資格を喪失させることは正当かつ合理的である旨主張するが,そのような必要性や社会保険労務士会が自治的団体であることをもって,上記のように法の趣旨に反する会則の定めをすることが許容されるものではない。社会保険労務士会は,所属の社会保険労務士に,注意を促し又は必要な措置を講ずべきことを勧告することができるほか,会費の支払を求めて訴訟を提起するなどの措置をとることも可能であるから,会費徴収の実効性を高め財政的基盤を確保するために,原告を退会させ,社会保険労務士としての業務が行えなくなるような重大な不利益をもたらす制裁措置をもって臨まなければならない必要性があるということもできない。また,原告は,弁護士会,弁理士会,司法書士会等における場合と対比して,社会保険労務士会においても会則で本件条項のような規定を定めることが許容されるかの如く主張するが,それぞれ制度を異にするものであるから,その根拠となるものではない。 以上によれば,会則にお て,社会保険労務士会においても会則で本件条項のような規定を定めることが許容されるかの如く主張するが,それぞれ制度を異にするものであるから,その根拠となるものではない。 以上によれば,会則において,会費滞納等の事由をもって原告会員資格を喪失させ退会させる旨の本件条項を新設することは,法の趣旨に反するものであって許されず,原告の認可申請のうち本件条項の新設に係る部分を不認可とした本件処分は適法であるというべきである。 3 よって,原告の請求は理由がないからいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。 宇都宮地方裁判所第2民事部裁判長裁判官羽田弘裁判官宮田祥次裁判官天川博義

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