昭和57(あ)752 殺人(認定傷害致死)

裁判年月日・裁判所
昭和58年5月27日 最高裁判所第二小法廷 判決 棄却 東京高等裁判所
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【DRY-RUN】主    文      本件上告を棄却する。          理    由  弁護人山口勝寿の上告趣意は、原審が、検察官申請の重要証人のすべてを取り調 べ十分の審理を遂げながら、第一審判決を破棄した

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判決文本文4,243 文字)

主    文      本件上告を棄却する。          理    由  弁護人山口勝寿の上告趣意は、原審が、検察官申請の重要証人のすべてを取り調 べ十分の審理を遂げながら、第一審判決を破棄したうえ直ちに自判することなく、 事件を第一審裁判所に差し戻したのは、被告人に対し迅速な裁判を受ける権利を保 障した憲法三七条一項に違反する、というのである。  そこで、検討すると、記録によれば、本件は、被告人が被害者に対し有形力を行 使したこと自体に争いがなく、ただ、刃物による殺人の実行行為を行つたのが被告 人である(第一審における検察官の主張)のか、現場に同道していたAである(被 告人の主張)のか、あるいはその双方である(原審における検察官の主張)のかが 争われた殺人ないし傷害致死の事案であるところ、第一審においては、約八年間を 費して詳細な事実審理を行つているうえ、原審においても、約二年間を費して、検 察官申請の証人のすべて(五人)と書証数通の各取調べ及び双方申請による詳細な 被告人質問まで行つていることが明らかであつて、これを第一審に差し戻しても、 実質的に意味のある新たな証拠の提出される蓋然性が必ずしも大きくないと考えら れること(なお、原判決の示唆する被害者の死体の刺創痕からする兇器の種類の再 鑑定も、右死体が現存しない以上、しかく容易であるとは認められない。)をも考 慮すれば、本件はできる限り事件を第一審に差し戻さないで処理するのが相当な事 案であつたというべきである。したがつて、原審が、前記のような詳細な事実調べ ののち、被告人の主張に副う事実関係を認定して傷害致死の限度で共同正犯の成立 を肯定した第一審判決とは事実認定を異にし、被告人自身もAと共同して殺人の実 行行為に及んだ可能性が極めて高いという理由により第一審判決を破棄しながら、 前記のような兇器の種類の再鑑 度で共同正犯の成立 を肯定した第一審判決とは事実認定を異にし、被告人自身もAと共同して殺人の実 行行為に及んだ可能性が極めて高いという理由により第一審判決を破棄しながら、 前記のような兇器の種類の再鑑定の必要性等を指摘して事件を第一審に差し戻すこ - 1 - ととした措置には、批判の余地もありうるところである。  しかしながら、具体的事件における審理の遅延が憲法の迅速裁判の保障条項に反 する事態に至つているか否かは、遅延の期間のみによつて一律に判断されるべきで なく、遅延の原因と理由などを勘案して、その遅延がやむをえないものと認められ ないかどうか、これにより右の保障条項がまもろうとしている諸利益がどの程度実 際に害せられているかなど諸般の情況を総合的に判断して決せられなければならな いことは、すでに当裁判所の判例(昭和四五年(あ)第一七〇〇号同四七年一二月 二〇日大法廷判決・刑集二六巻一〇号六三一頁)の示すところである。このような 見地にたつて本件をみると、まず、記録によれば、本件の公判審理がかくも長期に 及んだ主たる原因は、捜査段階における被告人側の積極的な罪証隠滅行為や被告人 及びAの供述の大幅な変遷(なお、被告人らの右各供述の変遷が、捜査官の不当な 取調べに起因するものであるとは認められない。)等によつて、事案の真相の解明 に困難を生じた点にあると認められるのであつて、第一審裁判所の審理にやや円滑 を欠したきらいのある点を別とすれば、検察官の訴訟活動及び裁判所の審理の方法 にとくに問題とされるべき点があつたとはいえず、右審理の遅延は、ある程度やむ をえないものであつたといわざるをえない。次に、本件については、すでに、被告 人の弁解の聴取及び関係証人の取調べ等の点を含め、詳細な実体審理が遂げられて おり、これを第一審に差し戻すこととしても、そのために今後審理が格段に長 いわざるをえない。次に、本件については、すでに、被告 人の弁解の聴取及び関係証人の取調べ等の点を含め、詳細な実体審理が遂げられて おり、これを第一審に差し戻すこととしても、そのために今後審理が格段に長期化 するとか、被告人が防禦上著しい不利益を受けるおそれがあるとまでは認め難いと いうべきである。さらに、原審が慎重な事実調べののち改めて事件を第一審に差し 戻すこととした措置には前記のような批判の余地がありうるとしても、第一審判決 後本件殺人の共同正犯者として起訴されたAが、原審公判廷において、被告人と共 同して本件殺人の実行行為を行つた旨従前の供述を大幅に変更する新たな供述をす るに至つたなどの事態にかんがみると、原審の右措置は、第一審に係属中の同人の - 2 - 事件との併合審理によつて本件事案の真相の解明と事実認定の統一を図ろうとした ものとして、合理性がないとはいえない。  以上のほか、記録に現われた諸般の事情を総合して考察すると、原判決によつて 憲法三七条一項の迅速裁判の保障条項に反する異常な事態を生じていると認められ ないことは、前記大法廷判例の趣旨に徴して明らかであるというべきであり、所論 は理由がないことに帰着する。  よつて、刑訴法四〇八条により、主文のとおり判決する。  この判決は、裁判官宮崎梧一の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見によ るものである。  裁判官宮崎梧一の補足意見は、次のとおりである。  私は、法廷意見に賛成するものであるが、なお若干の私見を附加しておきたい。  まず、現行刑訴法上控訴審の構造は、事後審として構成されているのであるから、 控訴審において第一審判決の事実認定に疑いを抱き、これを維持することはできな いが、さりとて、直ちに自判するまでの心証には到達できない場合に、第一審判決 を破棄して事件を第一審に差し戻すことは、控訴審と 控訴審において第一審判決の事実認定に疑いを抱き、これを維持することはできな いが、さりとて、直ちに自判するまでの心証には到達できない場合に、第一審判決 を破棄して事件を第一審に差し戻すことは、控訴審としてなすべき当然の措置とい うことができ、その視点からみれば、本件における原審の措置には、なんら問題と すべき余地はないとも考えられる。しかしながら、憲法三七条一項の迅速裁判保障 条項の趣旨ないし精神は、この場合においても尊重されなければならないのであつ て、第一審において長期間にわたる実体審理を遂げたうえ、控訴審においても当事 者双方が十分に主張・立証を尽くしているため、事件を第一審に差し戻してももは や実質的に意味のある新たな証拠の出現が期待できないような場合には、控訴審と しては、可能な限り控訴棄却又は破棄自判の判決をして、事件の最終的解決を図る ことこそが、単に訴訟経済の原則にかなうばかりでなく、右憲法上の要請に応える ゆえんであると考える。 - 3 -  次に、原判決は、原審証人Bの被害者の死体の各刺創は二種類の兇器によつて生 じたものと推定される旨の証言を重視し、兇器の種類について再鑑定をする必要性 があることを、Aの原審における新証言の慎重な検討の必要性とともに、差戻しの 理由の重要な柱としている。たしかに、被害者の死体の刺創痕から兇器が二種類存 在したことを確定できるとすれば、本件犯罪の実行行為者が二人であることを推認 させる有力な間接事実であるということができ、これによつて、実行行為者はAだ けであるとする被告人の弁解が根底からくつがえる可能性があるのであるから、右 鑑定の必要性は、決してこれを過小評価することはできない。しかし、創口の形か ら兇器の種類を推定することは一般に考えられている程容易なことではないとされ ているものであるところ(C・新法医学六九頁参 右 鑑定の必要性は、決してこれを過小評価することはできない。しかし、創口の形か ら兇器の種類を推定することは一般に考えられている程容易なことではないとされ ているものであるところ(C・新法医学六九頁参照)、本件においては鑑定の資料 となるべき死体が存在しないのであるから、当然のことながら、右再鑑定にはかな りの困難を伴うことが予想される。のみならず、右B証言における兇器を二種類と 推定する論拠が必ずしも明確とはいえないこと、鑑定の経過に関する供述にもやや 明朗を欠く点が窺われること、右の結論が兇器は一個であるとの前提に立つAの原 審における新証言更には被告人の一、二審における一貫した供述とも矛盾している ことなどの点を併せ考えると、前記再鑑定の必要性を強調して差戻しの理由とした 原判決の措置には、やはり疑問の余地があることを否定できないと考える。  最後に、法廷意見の指摘するとおり、差戻しを命じた原判決によつてはいまだ本 件につき憲法三七条一項に反する異常な事態が生じているとはいえないとなすべき であるが、本件は、従来の事案のように、第一、二審における長期間の審理中断等、 いわば当該事件の過去における迅速裁判保障条項違反が問題とされているのではな く、これまでの綿密詳細な実体審理ののち更に事件を第一審に差し戻すことによる、 いわば将来における若しくは将来にわたる迅速裁判保障条項違反が問題とされてい る事案であることに留意するときは、願わくは、差戻しを受けた第一審裁判所とし - 4 - ては、本件に関する差戻し前の審理状況に鑑み、極力原判決によつて指摘された疑 問点の解明に努め、可及的速やかに判決言渡しに漕ぎつけるべきことを希望してや まない。   昭和五八年五月二七日      最高裁判所第二小法廷          裁判長裁判官    宮   崎   梧   一      可及的速やかに判決言渡しに漕ぎつけるべきことを希望してや まない。   昭和五八年五月二七日      最高裁判所第二小法廷          裁判長裁判官    宮   崎   梧   一             裁判官    木   下   忠   良             裁判官    鹽   野   宜   慶             裁判官    大   橋       進             裁判官    牧       圭   次 - 5 -

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