令和5(わ)39 非現住建造物等放火、現住建造物等放火

裁判年月日・裁判所
令和6年10月23日 静岡地方裁判所 浜松支部
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判決文本文37,909 文字)

令和5年(わ)第39号 主文 本件各公訴事実について、被告人は無罪。 理由 第1 本件各公訴事実及び争点等 1 本件各公訴事実本件各公訴事実は、次のとおりである。「被告人は、株式会社(代表取締役b)が経営するネイルサロン『甲』の従業員であったものであるが第1 nが所有し、現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない静岡県袋井市乙町内の建物(鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺2階建、床面積合計約213. 05㎡)に放火しようと考え、平成30年3月13日午後5時56分頃から同日午後6時12分頃までの間に同建物1階の同社が経営するネイルサロン『甲』スタッフルームにおいて、何らかの方法で火を放ち、その火を同スタッフルームの壁、天井、柱等に燃え移らせ、よって、同建物の一部を焼損(焼損床面積約13㎡)し第2 оが所有し、iら4名が現に住居に使用し、かつ、同人ら2名が現にいる同市丙内の建物(鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺2階建、床面積合計約264. 98㎡)に放火しようと考え、同月26日午後6時10分頃、同建物1階の同社が経営するネイルサロン『甲』事務室において、何らかの方法で火を放ち、その火を同事務室の壁、天井等に燃え移らせ、よって、同建物の一部を焼損(焼損床面積約33㎡)したものである。」 2 争点等被告人(以下「a」と表記することがある。)は、上記公訴事実第1記載の事件(以下「第1事件」という。)及び第2記載の事件(以下「第2事件」という。)のいずれについても犯人ではない旨述べ、弁護人も、各事件はそもそも放火で はない合理的な疑いがあり、仮に放火であるとしても被告人は犯人ではないから無罪であると主張する。したがって、各事件の争点は、事件性及び犯人性である。 その上で、検察官は、第 もそも放火で はない合理的な疑いがあり、仮に放火であるとしても被告人は犯人ではないから無罪であると主張する。したがって、各事件の争点は、事件性及び犯人性である。 その上で、検察官は、第1事件の3日前である平成30年3月10日にも、第1事件のあった店舗内で、充電式掃除機及びヘアキャップ等が焼損する器物損壊事件(以下「器物損壊事件」という。)が発生しており、この事件も第1事件及び第2事件と同じく放火によるものであって、これら3事件を総合的に評価することで、3事件のいずれも事件性があることや被告人が犯人であることを推認させる旨主張する。これに対し、弁護人は、器物損壊事件についても放火ではない合理的疑いがあり、被告人は器物損壊事件の犯人ではなく、第1事件や第2事件の犯人性を推認させる事実とはいえない旨主張するので、以下では、第1事件及び第2事件と併せて、器物損壊事件の事件性及び犯人性についても検討する。 第2 前提事実証拠(甲64、65、76)によれば、以下の事実が認められる。 1 本件ネイルサロンの営業時間等bは、平成19年6月頃、ネイルサロン「甲」(以下「本件ネイルサロン」という。)を静岡県袋井市乙町内にあるビル1階の店舗(以下「乙町の店舗」という。)で開業し、平成23年12月以降、同店舗で、本件ネイルサロンの営業と併せて、受講生へネイルの指導等を行うネイルスクール(以下「本件ネイルスクール」という。)を開校した。本件ネイルサロンの営業時間は、定休日である水曜日を除き、午前9時から午後6時までであった。 2 本件ネイルサロンの従業員等平成30年3月当時の本件ネイルサロンの従業員等(ネイリスト)は、bのほかに、①c(平成28年7月頃から正社員として勤務)、②d(平成27年2月頃から正社員として勤務していたが ルサロンの従業員等平成30年3月当時の本件ネイルサロンの従業員等(ネイリスト)は、bのほかに、①c(平成28年7月頃から正社員として勤務)、②d(平成27年2月頃から正社員として勤務していたが、平成30年3月末頃に退職予定となっ ており、同時期頃に実際に退職)、③e(平成27年6月頃からパート社員(原則午前9時頃から午後2時頃まで、遅くとも午後5時頃まで勤務する形態の社員)として勤務)がおり、b、eについては本件ネイルスクールで講師としての指導も行っていた。(以下、「従業員(ら)」という場合は、本件ネイルサロンの従業員等を指す。) 3 被告人の勤務形態等被告人は、退職予定となっていたdの代わりとなるネイリストとして、平成30年2月3日から、試用期間を同年3月31日までとする契約社員として本件ネイルサロンで勤務していた。 4 乙町の店舗から移転後の営業等乙町の店舗では、平成30年3月13日に第1事件が発生し、同店舗での営業が困難となったため、静岡県袋井市丙内の建物1階の店舗(以下「丙の店舗」という。)に移転し、同月19日から本件ネイルサロンの営業を開始した。他方、本件ネイルスクールについては、丙の店舗が手狭であったことなどから、丙の店舗とは別の場所で開校した。 第3 事件性 1 乙町の店舗の状況等器物損壊事件及び第1事件の乙町の店舗の状況等に関し、証拠(甲65、69)によれば、以下の事実が認められる。 ⑴ 乙町の店舗は、袋井駅前の商店街付近に位置するビル(2階建て)の1階にあり、同ビル1階東側には、その南端から北端に向かって、本件ネイルサロン出入口、2階へ通じる出入口、本件ネイルスクール出入口がある。同店舗の西側には通報者であるl等が暮らす民家が倉庫を隔てて隣接している。 ⑵ 乙町の店舗(同ビル1 から北端に向かって、本件ネイルサロン出入口、2階へ通じる出入口、本件ネイルスクール出入口がある。同店舗の西側には通報者であるl等が暮らす民家が倉庫を隔てて隣接している。 ⑵ 乙町の店舗(同ビル1階)は、店舗中央にある通路によって、南側にある本件ネイルサロンの部屋と、北側にある本件ネイルスクールの部屋を行き来できる構造となっている。店舗の出入口は、本件ネイルサロン出入口と本件 ネイルスクール出入口の2か所のみであり、同店舗と同ビル2階はその内部でつながる通路等はなく、1階と2階が分離した構造となっている。本件ネイルサロン出入口にはシャッター2枚が設置されているほか、そのシャッターの内側には同店舗に出入りするためのガラスドア1枚が設置され、同シャッター及びガラスドアはそれぞれ別個の鍵によって施錠できる。また、本件ネイルスクール出入口にも、同じくシャッターが2枚設置されており、そのシャッターの内側には引き違い戸が設置されており、同シャッター及び引き違い戸はそれぞれ別個の鍵によって施錠できる。 本件ネイルスクールの部屋の西側にはスタッフルームがあり、スタッフルーム内の西側の壁には、地面から高さ約117cmの位置に上げ下げ窓が設置されている。その開口部は縦約44cm、横約54cmであり、前記l方との間にある倉庫の東側壁面に約24cmの距離で面している。これ以外に、乙町の店舗の各壁面に窓はないか、窓があっても内側から板や壁によって塞がれている。 2 器物損壊事件の事件性⑴ 認定事実証拠(甲65ないし68、77、78、81)並びに証人f、同b、同c及び同dの各証言に加え、それらと一致する被告人の公判供述によれば、以下の事実が認定できる。 ア乙町の店舗の本件ネイルサロンの部屋には、その北壁の下部に沿って、 )並びに証人f、同b、同c及び同dの各証言に加え、それらと一致する被告人の公判供述によれば、以下の事実が認定できる。 ア乙町の店舗の本件ネイルサロンの部屋には、その北壁の下部に沿って、両開き戸や引き違い戸が付いた木製棚が取り付けられていたところ、平成30年3月10日当時、同北壁中央付近にある両開き戸付きの棚(以下「両開き戸棚」という。)内には、充電スタンドに置かれた充電式掃除機(以下「充電式掃除機」という場合はこれを指す。)が収納されていた。また、その奥には、充電式掃除機に接する形で、約1リットルのエタノールが入った5リットル容器が横向き(穴が開いておりガムテープが貼られている底 面角が上方向になるよう)に収納されていたほか、同容器の右側(東側)には複数の薬品ボトルが置かれ、充電式掃除機の左側(西側)にはビニール袋等が置かれていた。また、両開き戸棚の右側(東側)には、同戸棚と内部で区画された引き違い戸付きの棚(以下「引き違い戸棚」という。)があり、同戸棚にはヘアキャップ、キッチンペーパー、コットン、ウェットペーパーナプキン等の在庫が収納されていた。 イ同年3月10日、本件ネイルサロンは午後6時頃まで営業した後、c、d及び被告人の3名が最終退店者となり、本件ネイルサロン並びに本件ネイルスクールの各ドア及び各シャッターを施錠して退店したが、その際、煙等の臭いを含め、店内に異臭・異変はなかった。 ウ被告人は、同日午後8時59分、bに対し、「今日支払おうとしてバックに入れてたと思った支払い用紙が無くて家探しても見当たらなくてもしかしたらサロンに置いてきちゃったかもなので今からサロン見てきても大丈夫ですかね?警備会社とかなっちゃいますか??」とSNSでメッセージを送り、これに対してbが、同日午後9時に「大丈夫だよ、夜 もしかしたらサロンに置いてきちゃったかもなので今からサロン見てきても大丈夫ですかね?警備会社とかなっちゃいますか??」とSNSでメッセージを送り、これに対してbが、同日午後9時に「大丈夫だよ、夜遅いから気をつけてね!中入ったらすぐ鍵閉めなよ!」と返信したため、被告人は、同日午後9時1分に「すみません!ありがとうございます!ぱぱっと行ってきます!笑」と返信した後、本件ネイルサロン側のシャッター及びドアの鍵を開錠して乙町の店舗内に入った(なお、乙町の店舗と当時の被告人方との距離は徒歩で5、6分程度である。)。被告人は、同店舗に入り本件ネイルサロンの部屋を通ってスタッフルームに向かった際、人がいる気配や煙等の異臭・異変は感じなかった。その後、被告人は、同日午後9時13分頃にbに電話をかけ、同日午後9時14分、bに対し、水をかけて消火した後の充電式掃除機の写真を送信した。 エ充電式掃除機の機械本体は主に合成樹脂製で、付属の合成樹脂製のスタンドに置くと充電することができるようになっていた。器物損壊事件後に 見分された充電式掃除機は、バッテリーが収納されている後面の本体下部から上方にかけて黒く変色及び炭化し、同バッテリーのカバー等が焼失して蓄電池、ファンモーターの一部及び配線等の内部が露出していたものの、電池、配線等の電気部品に損傷等は認められなかった。また、充電式掃除機本体内に組み込まれている電気部品については、蓄電池、ファンモーター、電子回路に電源スイッチ及び充電ランプが付いたものに充電プラグを差し込むジャックを配線で接続して構成されていたところ、充電スタンドから取り外した充電プラグをジャックに差し込むと、充電ランプが点灯して正常に充電でき、5分間充電してもバッテリー等の電気回路が高温になる部分はなかった。さらに、一定時間充 ていたところ、充電スタンドから取り外した充電プラグをジャックに差し込むと、充電ランプが点灯して正常に充電でき、5分間充電してもバッテリー等の電気回路が高温になる部分はなかった。さらに、一定時間充電後、電源スイッチを操作したところ、ファンモーターが稼働した。充電スタンドの後面は一部焼失し、その内部が露出するとともに、充電スタンド底面には染み様の変色があったが、充電スタンドに付属した充電アダプターのコードに焼損は認められなかった。 オ充電式掃除機の他にも、引き違い戸棚内の下段左隅にあった透明のビニール袋に入れられた複数のヘアキャップが点々と黒く焼損し溶融していたほか、燃え残ったヘアキャップやその横にあったウェットペーパーナプキンも溶着して接合していた。これらヘアキャップ等が置かれていた場所の下の部分には、黒色に焦げた固形物の付着痕が2か所あったものの、その右側(東側)に積まれていたビニール袋には焼損の痕跡は見当たらなかった。 カ被告人からの電話を受け、同日午後9時38分頃に乙町の店舗に臨場したbは、充電式掃除機が収納されていた両開き戸棚内及び焼損したヘアキャップ等が置かれていた引き違い戸棚内がそれぞれ水によって濡れていることを確認した。また、同日、乙町の店舗に臨場した袋井消防署の消防士であるfは、被告人から、桶に水をためて充電式掃除機に水をかけると、 すぐにその煙は消えたが、引き違い戸棚内からも煙が出ているのに気が付いたため、桶の余った水をかけるとその煙もすぐに消えたことなどを聞き取った。 キ bは、同日、乙町の店舗内の様子を確認したが、前記のとおり焼損した物以外には、スタッフルームに置いてあった手提げ金庫の中の売上金を含め、乙町の店舗で無くなったり、壊されたりした物はなかった。 ⑵ 証人fの証言要旨 を確認したが、前記のとおり焼損した物以外には、スタッフルームに置いてあった手提げ金庫の中の売上金を含め、乙町の店舗で無くなったり、壊されたりした物はなかった。 ⑵ 証人fの証言要旨器物損壊事件の火災原因調査判定をした消防士である証人fは、要旨、以下のとおり証言した。すなわち、器物損壊事件の出火箇所は、その焼損具合から、充電式掃除機が収納されていた両開き戸棚及びその右隣(東側)のヘアキャップ等が収納されていた引き違い戸棚である。そして、出火原因の可能性としては、放火以外に、①充電式掃除機の製品火災、②両開き戸棚及び引き違い戸棚の内部でエタノールが揮発し、引火したことによる出火、③静電気による出火の3つが考えられる。しかし、まず、①については、充電式掃除機のバッテリー、基盤、配線といった電気回路には高熱を発したとする痕跡等を含め異常や不具合はなく、見分時に、充電式掃除機を通電させた際に充電ランプが点灯し、5分間充電しても電気回路に著しい発熱がなく、スイッチを入れるとファンが正常に作動したことなどからすると、モーター等にも異常や不具合はなく、充電式掃除機内の電気回路が高温となって発火するほどの熱が発生したなどとは考えられず、充電式掃除機の製品火災は否定される。②については、前記エタノール入りの容器の底面角に穴が開いてガムテープが貼られていたことなどから、両開き戸棚内及び引き違い戸棚内にエタノールの気体(可燃性ガス)が充満していた可能性は否定できないものの、仮に充満したエタノールの気体に引火した場合は、それぞれの戸棚内は炎に包まれて全体に熱が伝わるため、例えば、充電式掃除機の左側(西側)にあったビニール袋も焼損したはずだが、そのような形跡がないため、いず れの戸棚内についても、エタノールに引火したことによる出火の可 て全体に熱が伝わるため、例えば、充電式掃除機の左側(西側)にあったビニール袋も焼損したはずだが、そのような形跡がないため、いず れの戸棚内についても、エタノールに引火したことによる出火の可能性は否定される。③については、静電気が発生しただけでは火災にならず、可燃性ガスなどに引火しなければ火災は発生しないが、②で述べたとおり、エタノール等の可燃性ガスに引火して爆発等が発生したとは考えられないことから、③の静電気による火災の可能性も否定される。 ⑶ 検討証人fの証言は、前記の認定事実から認められる焼損状況等と整合しており信用できるから、器物損壊事件の出火箇所は、充電式掃除機が収納されていた両開き戸棚及びヘアキャップ等が収納されていた引き違い戸棚であると認められる。その上で、証人fの証言内容に加え、①については、充電式掃除機の充電スタンドに付属した充電アダプターのコードにも焼損は認められないため、充電スタンドの製品火災であるとは考えられず、②については、気化したエタノールに引火したとするには各戸棚内の焼損範囲が限定的であり、③については、戸棚内で物が動くということが想定できないから、そもそも静電気の発生自体が考え難いことなども併せると、①から③のいずれかの原因によって出火した具体的な可能性はないというべきである。 そして、前記の認定事実のとおり、同日午後9時38分頃に乙町の店舗に臨場したbが、充電式掃除機が収納されていた両開き戸棚内及び焼損したヘアキャップ等が置かれていた引き違い戸棚内がそれぞれ水で濡れていたことを確認していることに加え、臨場した消防士のfが、被告人から、充電式掃除機とヘアキャップ等を同じ時刻頃に続けて消火した旨聞き取っていることからすると、その消火の時点で、充電式掃除機とヘアキャップ等は、いずれも煙が出て 加え、臨場した消防士のfが、被告人から、充電式掃除機とヘアキャップ等を同じ時刻頃に続けて消火した旨聞き取っていることからすると、その消火の時点で、充電式掃除機とヘアキャップ等は、いずれも煙が出ているような状況であったといえる。充電式掃除機が収納されていた両開き戸棚とヘアキャップ等が置かれていた引き違い戸棚は、内部で区画されているから、充電式掃除機とヘアキャップ等の焼損は別々の出火によるものと考えられるところ、同じような時間帯に、乙町の店舗の中の異なる2 か所から自然発火あるいは失火により出火するような偶然が重なるとは考え難く、充電式掃除機とヘアキャップの焼損は、いずれも人が意図的に火をつけたことによって生じたものと考えるのが自然かつ合理的である。したがって、器物損壊事件の出火原因は、放火であると認められる。 3 第1事件の事件性⑴ 認定事実証拠(甲69ないし71、77、78、弁16)並びに証人g、同b、同c及び同dの各証言に加え、それらと一致する被告人の公判供述によれば、以下の事実が認められる。 ア平成30年3月13日、本件ネイルサロンは営業日であり、その日の最終退店者はc及び被告人の2名であった。c及び被告人は、同日午後6時頃(具体的に何時何分に退店したかは争いがある。)、スタッフルーム内にあったタイムカードを打刻した後、本件ネイルサロンの部屋内に設置された分電盤内のブレーカー及びスタッフルームの西側の壁に設置された分電盤(以下、スタッフルームに設置された分電盤を「本件分電盤」という。)のブレーカーの一部を下ろし、本件ネイルサロン並びに本件ネイルスクールの各ドア及び各シャッターを施錠し、退店した(この退店時に、被告人が店舗内に1人で戻ったか、cが乙町の店舗の鍵を所持していたかについては争いがある。)。 退 件ネイルサロン並びに本件ネイルスクールの各ドア及び各シャッターを施錠し、退店した(この退店時に、被告人が店舗内に1人で戻ったか、cが乙町の店舗の鍵を所持していたかについては争いがある。)。 退店の際、煙等の臭いを含め、店内に異臭・異変はなかった。 イ通報者であるlは、同日、乙町の店舗西側にあるl方を出た後、同日午後6時10分頃に乙町の店舗のすぐ東側を歩いていたときに煙の臭いを感じたものの、そのまま通り過ぎ、再び同店舗付近に戻った際に、シャッターの上から白い煙が出ていることに気付いたため、同日午後6時12分、119番通報した。 ウ消防は、同日午後6時21分に乙町の店舗に到着し、本件ネイルサロン 側のシャッターが施錠されていたため、放水により同シャッターの鍵を開錠し、本件ネイルサロンのガラスドアを破壊した上で、本件ネイルサロン内に進入し、店舗内での消火活動を行った。 エスタッフルーム内の西壁側には、南側から北側に向かって、流し台、洗濯機(以下「洗濯機」という場合はこれを指す。)、机等が置かれており、洗濯機の上方には本件分電盤が、机の上方にはエアコン及びホワイトボードがそれぞれ設置されていたほか、洗濯機に接している流し台の作業スペースには、本件ネイルサロンの営業日に毎日使用されており異常は確認されていなかった電気ポット2台が置かれていた。この日の火災により、スタッフルーム西側の壁を中心に床面積約13㎡が焼損し、その中でも、本件分電盤の周囲の壁の焼失が激しく、本件分電盤を取り付けていた木材のうち、左側(南側)は焼失しており、右側(北側)は一部残存しているほか、本件分電盤から上方の壁は一様に焼失し、ホワイトボード上方の内壁も左側(南側)から右上(北側)に向かって斜めに焼失していた。本件分電盤内部の上方は炭化し下方は配線 側(北側)は一部残存しているほか、本件分電盤から上方の壁は一様に焼失し、ホワイトボード上方の内壁も左側(南側)から右上(北側)に向かって斜めに焼失していた。本件分電盤内部の上方は炭化し下方は配線のカバーが溶融しているものの、配線に断線はなく、配線及び各ブレーカーの接続部分等に電気痕は認められなかった。 オ本件分電盤の下にあった洗濯機は、週に2、3回の頻度で、客が足等を拭くために使用したタオルを洗濯するために使用されており異常は確認されていなかった。洗濯機は、横45cm、奥行き45cm、高さ70cmであり、全体が焼損していたほか、樹脂部分が焼失して金属部分のみ残存しており、焼損が著しかった。洗濯機のモーター、コイル部分は一様に変色していたが、その巻き線に緩みはなく、断線及び電気痕もなく、基盤に半田不良や電気痕も認められなかった。 また、流し台の作業スペース上に置かれていた電気ポット2台のうち1台について、電気ポット本体に接続する側の配線が一部焼失し2本に分か れて洗濯機の槽内に垂れており(配線の反対側にある電源プラグは、後記のとおり洗濯機上方にあるコンセントに差し込まれていた。)、それら2本に分かれた配線の先端にはそれぞれに溶融痕が認められたが、その配線が折れ曲がるなどして断線した形跡は見られなかった。 本件分電盤の左下(南側)、洗濯機の上方には二口コンセントが上下に2つ設置されており、上側の二口コンセントにはいずれも電気ポットの電源プラグが、下側の二口コンセントにはテーブルタップ及び洗濯機の電源プラグが差し込まれていた。テーブルタップや洗濯機の電源プラグが差し込まれていたコンセントの差込口に焼損はなく、差し刃にも溶融痕は認められなかった。 カ流し台と洗濯機との間には、スタッフルームの梁を支える柱があったが、高 ーブルタップや洗濯機の電源プラグが差し込まれていたコンセントの差込口に焼損はなく、差し刃にも溶融痕は認められなかった。 カ流し台と洗濯機との間には、スタッフルームの梁を支える柱があったが、高さ75cmから上方が炭化しているのみであり、それよりも下の部分に焼損は認められなかった。また、洗濯機と30cm離れて面していたスタッフルーム西側の壁のうち、洗濯機より上方の壁は本件分電盤に向けて焼失していたが、床面から洗濯機の高さ70cm付近までの壁は焼損していなかった。さらに、洗濯機があった部分の床張りクロスは焼失していたが、洗濯機とスタッフルーム西側の壁との間の床面に焼損は認められなかった。 キ火災の連絡を受けて乙町の店舗に臨場したbが、同日、同店舗内を確認したところ、前記の焼損以外には、スタッフルームに置いてあった手提げ金庫の中の売上金を含め、無くなったり壊されたりした物はなかった。また、消防は、ガス検知管を用いて洗濯機付近の測定をしたが、灯油、ガソリンの痕跡は検知されなかった。 ⑵ 証人gの証言要旨第1事件の火災原因調査判定をした袋井消防署の消防士である証人gは、要旨、以下のとおり証言した。すなわち、スタッフルーム内の西側の壁の本 件分電盤付近の焼損が激しく、その付近に設置されていた洗濯機も激しく焼損していたことから、出火箇所は本件分電盤付近か、洗濯機かのどちらかである。仮に、本件分電盤付近から出火したと考えた場合、その下方にある洗濯機が焼損するとともに、洗濯機が面していた部分に対応する西側の壁やその間の床にも飛び火による焼損の痕跡が生じるのが自然であるが、その痕跡がなく、本件分電盤の配線等に異常もない。これらのことからすると、出火箇所は、本件分電盤付近ではなく、洗濯機であると考えるべきであり、とりわ 飛び火による焼損の痕跡が生じるのが自然であるが、その痕跡がなく、本件分電盤の配線等に異常もない。これらのことからすると、出火箇所は、本件分電盤付近ではなく、洗濯機であると考えるべきであり、とりわけ、周囲の壁等の焼損が弱いことなどからすると、洗濯槽内から出火した可能性が高い。このことは、洗濯槽内に垂れ下がっていた電気ポットの配線に溶融痕が生じていたことや(火災により電気が止まってしまうより前に、配線が通電状態のまま、火災熱によって断線した際に生じたと考えられる。)、火の性質として下から上へと延焼していくことからも裏付けられる。その上で、放火以外の他の出火原因として、①洗濯機の製品火災、②洗濯槽内に垂れ下がっていた電気ポットの配線のショートによる出火、③静電気による出火、④薬品等の酸化発熱による出火が考えられる。しかし、①については、モーター、コイル部分の巻き線に緩みはなく、洗濯機の内部も含めて断線や電気痕もなく、基盤に半田不良や電気痕も認められなかったことから、洗濯機の製品火災とは考えられない。②については、洗濯槽内に垂れ下がっていた電気ポットの配線は2本に分かれてその両方の先端に溶融痕が生じていたところ、前記のとおり、この溶融痕は、火災により電気が止まってしまう前に火災熱によって断線した際に生じたものと考えられるため、配線の劣化等を原因とするショートによって生じたものではないといえる。洗濯槽内に垂れ下がっていた配線の先端部分(メス型)からの出火については、同先端部分と接続できる金属部分が洗濯槽内に見当たらないことからすると、その可能性は考えにくい。③については、人がいない状況で静電気が起きるとは考え難いため、静電気による出火は考えられない。④については、ネイルサロ ンで使用される可能性のあるアセトン、エタノール、パラフィ えにくい。③については、人がいない状況で静電気が起きるとは考え難いため、静電気による出火は考えられない。④については、ネイルサロ ンで使用される可能性のあるアセトン、エタノール、パラフィンといった物質にはそもそも酸化発熱の具体的なおそれがあるとはいえないことに加え、酸化発熱による出火の場合は、タオル等が重なるなどして蓄熱するような状況が存在し、その過程で、従業員らも煙等の異臭を感じていたはずであるが、従業員らは退店時に異臭等の異常を感じていないことからすると、酸化発熱による出火の可能性も否定される。したがって、第1事件の出火原因は放火である。 ⑶ 検討証人gの証言は、前記の認定事実から認められる焼損状況等と整合しており信用できるため、第1事件の出火箇所は洗濯機であり、その出火原因は放火であると認められる。 これに対し、弁護人は、①証人gは、第1事件の前にあった器物損壊事件の存在を認識しており、短期間に同じ店舗で二度の失火が起こるとは考えられないとの先入観を持っている可能性があることに加え、消防士は火災原因を判定する専門家ではないから、本来は科学捜査研究所等による火災鑑定がされていなければ放火とは特定できない、②洗濯槽内に垂れていた電気ポットの配線に関し、その先端が何らかの理由で劣化して金属がむき出しになっていればショートする可能性は否定できない、③証人gは、洗濯機内部の電気配線の状態を確認した結果について客観的な記録を残しておらず、後日第三者による十分な検証ができないのであるから、洗濯機内部の電気配線の不具合によって出火した可能性は否定できない、などと主張する。しかし、①については、証人gは、第1事件の発生したスタッフルーム内の焼損状況等に基づき、それらと整合した証言をしていることに加え、火災現 具合によって出火した可能性は否定できない、などと主張する。しかし、①については、証人gは、第1事件の発生したスタッフルーム内の焼損状況等に基づき、それらと整合した証言をしていることに加え、火災現場の状況等から考えられる出火原因を想定し、それらを一つ一つ具体的に検討して否定することにより放火であると結論付けているのであって、その証言には十分な根拠があるから、科学捜査研究所等による火災鑑定でなければ放火と特定 できないとはいえない。また、②については、電気ポット本体と接続するメス型の先端部分が、弁護人が指摘するように劣化して金属がむき出しの状態になっていたのであれば、そのような状態で使用を続けることは一般人であれば相応に抵抗感があるはずだが、従業員らは、営業日の際電気ポットを毎日使用し異常を認めていなかったというのであるから、弁護人の指摘は当たらない。③については、証人gによる洗濯機の内部の配線の確認結果に関する証言内容に不自然・不合理な点はないことに加え、洗濯機は、週に2、3回の頻度で使用されており、異常は確認されていなかったことからすると、この弁護人の指摘も当たらない。したがって、弁護人の主張を踏まえても、第1事件が放火であるとの結論に合理的な疑いは生じず、その結論は左右されない。 4 第2事件の事件性⑴ 認定事実証拠(甲64、72ないし78、84)並びに証人h、同b、同c及び同dの各証言に加え、それらと一致する被告人の公判供述によれば、以下の事実が認められる。 ア丙の店舗は、袋井駅から直線距離で約1km離れた2階建て建物であるテナントの1階にあり、その1階には東端から本件ネイルサロン、在宅介護支援事務所、飲食店の3店舗があったほか、その2階には居室が4部屋あった(なお、同テナントの東西に1か所ずつ た2階建て建物であるテナントの1階にあり、その1階には東端から本件ネイルサロン、在宅介護支援事務所、飲食店の3店舗があったほか、その2階には居室が4部屋あった(なお、同テナントの東西に1か所ずつある外階段を利用して2階の居室への通路部分を行き来することができる。)。同テナントの東側及び北側は各店舗等の駐車場となっており、西側には空地がある。同テナントの南側は、住宅2棟及び物置2つと近接しており、それらの敷地と同テナント南側壁面との間の距離は約0.8mである。 イ本件ネイルサロンの正面(北側)出入口には、シャッターはなく、ガラス張りの片開きドア1枚(以下「正面ドア」という。)があり、鍵で施錠す ることができる。また、本件ネイルサロンの裏(南側)出入口には、アルミ製の片開きドア1枚(以下「裏口ドア」という。)があり、正面ドアの鍵とは別の鍵で施錠できる。裏口ドアが設置された南側壁面の右側(東側)には、腰高窓が設置されているが、内側から壁で塞がれている。その他に丙の店舗内に窓はなく、隣のテナントと繋がっている部分もない。 ウ丙の店舗内は、北西側にあるトイレ及び南西側にある事務室以外は全て本件ネイルサロンの店舗部分として使用されていた。同事務室は、南東側にある0.8mの出入口スペースを残して四方が壁で区画されており、同事務室内の西側の壁には、南から北方向に向かって、衣装ケース、流し台、長机及びパイプ椅子があり、事務室内の北東側の壁付近にはスチールラック(以下「スチールラック」という場合はこれを指す。)があり、同事務室の南側の壁に裏口ドアが設置されていた。 エ平成30年3月26日、本件ネイルサロンは営業日であり、その日の最終退店者はc、d及び被告人の3名であった。c、d及び被告人の3名は、同日午後6時頃、ブレーカーを下ろす ドアが設置されていた。 エ平成30年3月26日、本件ネイルサロンは営業日であり、その日の最終退店者はc、d及び被告人の3名であった。c、d及び被告人の3名は、同日午後6時頃、ブレーカーを下ろすなどして、正面ドアを施錠して退店した(なお、何時頃に3名が退店したかは争いがある。)。退店の際、dの夫が車両を運転してdを迎えに来ていた。また、被告人は、丙の店舗で使用したタオルをコインランドリーで洗濯することになっていたが、そのタオルを持って出るのを忘れていたため、dらから指摘されるなどして、店舗内にタオルを取りに戻るなどした。退店の際、煙等を含め異臭・異変はなかった。 オ同テナント2階の居室に住むiは、同日午後6時15分頃、同居室南側(丙の店舗の裏口ドアがある方面)の壁に空いた穴から煙が立ち上っていることを発見し、煙の出所である丙の店舗の裏口ドア付近で熱を感じるとともに、同ドアの上半分のガラスが真っ黒になっていたことから、同日午後6時21分に119番通報した。袋井消防は、同日午後6時29分に現 場に到着し、丙の店舗の裏口ドアは施錠されていなかったため、そのまま進入し、正面ドアの内側からクレセント錠を開錠して内部に充満した黒煙等を排出したところ、火災は鎮圧状態となっていた。この火災により焼損した丙の店舗の床面積は約33㎡であった。 カ丙の店舗の店舗部分の天井及び床面には、全体的にすすが付着しており、事務室の方に向かって焼損が激しくなっている。事務室内の天井は、北側は下地まで炭化しているが、南側はクロスが炭化しているのみであり、事務室内の北側の方が焼損は激しい。事務室の北西側にあった机には、パイプ椅子1脚が収納されており、同パイプ椅子の背もたれ部分や座面中央部より東側(背もたれ側)は溶融して焼損していたが、それよりも西側( 務室内の北側の方が焼損は激しい。事務室の北西側にあった机には、パイプ椅子1脚が収納されており、同パイプ椅子の背もたれ部分や座面中央部より東側(背もたれ側)は溶融して焼損していたが、それよりも西側(机側)の座面は残存していた。 キ同パイプ椅子の東側(事務室内の北東側)には、スチールラックが置かれており、スチールラックは下方から上方にかけて焼損し、全体的にすすが付着していた。スチールラックの置かれていたすぐ南側の床面には焼損が強い箇所があり、その床面には、第2事件当時、クリアファイル、紙、ペーパータオルやペットボトルなどが入ったゴミ袋2袋が置かれていたが、同所にあった燃焼残渣物は、一部紙類や袋井市のごみ袋の一部と思われる緑色ビニールの塊等が残存していた以外は、炭化又は溶融していた。 それら燃焼残渣物を取り除くと、ジェルネイルの原料の液体が床面に広がっていた。その床面付近6か所について、北川式検知管を使って測定したところ、油分は検出されず、周囲にたばこの吸い殻は確認されなかった。 さらに、スチールラックが面していた事務室北側の壁面はその中央部の黒色の色合いが濃く、スチールラックが面していた事務室東側の壁面は、内壁の石膏ボードが露出しており、強く焼損した痕跡が見られた。 ク事務室の西壁に設置された配電盤は黒色に変色し、スイッチ部分は溶融していた。主電源等のブレーカーは電源がオフの状態であった。スチール ラックには、最下段に掃除機の充電器及び爪の研磨機が置かれ、2段目にプリンターが置かれていて、いずれも黒色に変色又は溶融し原型をとどめていなかった。これら電化製品の電源プラグはコンセントに接続されていなかった。また、事務室内の北西にある机上には電気ポットが置かれていたものの、その電源コードはポットからもコンセントからも抜かれている いなかった。これら電化製品の電源プラグはコンセントに接続されていなかった。また、事務室内の北西にある机上には電気ポットが置かれていたものの、その電源コードはポットからもコンセントからも抜かれている状態であり、電源プラグにもショートした痕跡は認められなかった(なお、bは、その机の上に置かれたパソコン及びスマートフォンが火災によって焼損した状態にあったことを確認している。)。さらに、事務室内の西壁に設置された2口コンセントのカバーは溶融しているものの、コンセント部分に異常はなく、電源プラグも接続されていなかった。 ケ裏口ドア付近の衣装ケース等の上には、手提げ金庫が置かれていたが、その中の売上金は無くなっておらず、その他に丙の店舗で無くなったり、壊されたりした物はなかった。 ⑵ 証人hの証言要旨第2事件の火災原因調査判定をした袋井消防署の消防士である証人hは、要旨、以下のとおり証言した。すなわち、事務室北側に設置されていたスチールラック付近の焼損が強かったことから、第2事件の出火箇所はスチールラック付近(スチールラックが置かれていたすぐ南側床面辺り(ゴミ袋等の燃焼残渣物が存在していた辺り)を含む。)である。そして、放火以外の出火原因として、①電化製品からの出火、②バッテリー類からの出火、③静電気による出火、④酸化発熱による出火、⑤たばこの火の消し忘れによる出火が考えられる。しかし、まず①については、出火箇所であるスチールラック付近にあったプリンターや研磨機等については、電源プラグがコンセントに接続されておらず、コンセントにも異常が見られなかったことに加え、事務室内のブレーカーがオフになっていたことからすると、電化製品は通電状態にないため、電化製品からの火災とは考えられない。②については、第2事件 の焼損状況 常が見られなかったことに加え、事務室内のブレーカーがオフになっていたことからすると、電化製品は通電状態にないため、電化製品からの火災とは考えられない。②については、第2事件 の焼損状況からすると、室内はバッテリー類の金属部分の融点である1000度以上には達していないと考えられるため、仮にバッテリー類が出火原因であるとすると、出火箇所であるスチールラック付近にバッテリー類の残骸が残っているはずであるが、そのような燃え残りはなく、バッテリー類からの出火とは考えられない。③については、人がいない状況で火源となり得るほどの静電気が発生するとはいえないから、静電気による出火とは考えられない。④については、ネイルサロン内で酸化発熱し得る物質としてはマニキュアに使用されるニトロセルロースが考えられるものの、その含有量は主成分の約10パーセント程度に過ぎないので、実際に発熱できる量とはいえない。その他にアセトン、エタノール、パラフィンやジェルネイルの原料といった物質はそれ自体で発火するものではない。仮に事務室内で酸化発熱が発生したとすると、最終退店者である従業員らが煙等の異臭や異変を感じているはずであるが、そのような異臭や異変がなかったことから、酸化発熱による出火は考えられない。⑤については、たばこの吸い殻が発見されていないことに加え、最終退店者である従業員が退店してから火災が通報されるまでの時間が数分間しかないことからすると、たばこの火の消し忘れによる出火とは考えられない。したがって、第2事件の出火原因は放火であるといえる。 ⑶ 検討証人hの証言は、前記の認定事実から認められる焼損状況等と整合しており信用できるため、第2事件の出火箇所はスチールラック付近(スチールラックが置かれていたすぐ南側床面辺り(ゴミ袋等の燃焼残渣 証人hの証言は、前記の認定事実から認められる焼損状況等と整合しており信用できるため、第2事件の出火箇所はスチールラック付近(スチールラックが置かれていたすぐ南側床面辺り(ゴミ袋等の燃焼残渣物が存在していた辺り)を含む。)であり、出火原因は放火であると認められる。 これに対し、弁護人は、①証人hは、第2事件の前にあった器物損壊事件及び第1事件の存在を認識しており、短期間に同じネイルサロンで三度の失火が起こるとは考えられないとの先入観を持っている可能性があることに加え、消防士は火災原因を判定する専門家ではないから、本来は科学捜査研究 所等による火災鑑定がされていなければ放火とは特定できない、②アセトンの引火点は低いため、事務室内のゴミ袋内部で、アセトンをぬぐったペーパーナプキンなどからアセトンが気化して酸素と混ざり合うなどした場合、静電気を帯びやすいビニール袋内に蓄積された静電気により引火して火災が生じた合理的疑いを否定することはできない、などと主張する。しかし、①については、証人hは、第2事件の発生した事務室内の焼損状況等に基づきそれらと整合した証言をしていることに加え、火災現場の状況等から考えられる出火原因を想定し、それらを一つ一つ具体的に検討して否定することにより放火であると結論付けているのであって、その証言には十分な根拠があるから、科学捜査研究所等による火災鑑定でなければ放火と特定できないとはいえない。また、②については、仮にゴミ袋内でアセトンが気化していたとしても、証人hの証言のとおり、引火のきっかけとなる静電気が発生する状況にあったとはいえないことからすると、アセトンに引火して出火した可能性も否定される。したがって、弁護人の主張を踏まえても、第2事件が放火であるとの結論に合理的な疑いは生じず、その 電気が発生する状況にあったとはいえないことからすると、アセトンに引火して出火した可能性も否定される。したがって、弁護人の主張を踏まえても、第2事件が放火であるとの結論に合理的な疑いは生じず、その結論は左右されない。 5 小括以上からすると、器物損壊事件、第1事件及び第2事件のいずれも、その出火原因は放火であると合理的疑いなく認められる。 第4 犯人性 1 本件の証拠構造及び検察官の主張の概要等本件では、被告人が第1事件及び第2事件の犯人であることを示す直接証拠はない。検察官は、器物損壊事件を含め、「A 3事件が同一の内部犯による犯行である」、「B 3事件とも被告人には、わずかな犯行時間帯の中で、他の者に見つからずに犯行に及ぶ機会があった」、「C 甲開業から約16年間のうち、被告人が勤務した2か月弱に限って3件の放火事件が起きた」、「D 3事件の発生当時、被告人が犯行動機となり得る事情を抱えていた」、「E 被告人 以外の甲関係者について、犯行に及ぶほどの動機や犯行に及んだ具体的な形跡が見当たらない」といった事実関係を総合的に評価すれば、被告人が3事件の犯人でなければ、このような偶然が重なることは常識的に考えてあり得ず、これらの事実関係を合理的に説明することができないため、3事件とも合理的疑いなく被告人が犯人であると認定できると主張する。 したがって、以下では、検察官が主張するAからEの事実関係のうち、まず重要と考えられるBの事実関係を3事件についてそれぞれ検討し、次に、第1事件及び第2事件について、Bの事実関係に加え、C、D、E及びAの各事実関係を併せると被告人が犯人であると合理的疑いなく認定することができるかについて検討する。 2 Bの事実関係⑴ 器物損壊事件ア検討前記のとおり、 関係に加え、C、D、E及びAの各事実関係を併せると被告人が犯人であると合理的疑いなく認定することができるかについて検討する。 2 Bの事実関係⑴ 器物損壊事件ア検討前記のとおり、器物損壊事件の出火箇所は、乙町の店舗内の充電式掃除機が収納されていた両開き戸棚及びヘアキャップ等が収納されていた引き違い戸棚である。 そして、平成30年3月10日、本件ネイルサロンは午後6時頃まで営業をした後、c、d及び被告人の3名が最終退店者となり、本件ネイルサロン並びに本件ネイルスクールの各ドア及び各シャッターを施錠して退店した際、店内に煙の臭いがするなどの異臭・異変はなかったのであるから、それら出火箇所への放火は、c、d及び被告人の3名が退店した後に行われたものと認められる。 被告人は、同日午後8時59分から同日午後9時1分にかけて、支払用紙を探しに行くためbに対しSNSで連絡を取った後、本件ネイルサロン側のシャッター及びドアの鍵を開錠して乙町の店舗内に入っていること、同日午後9時13分頃にbに電話をかけ、同日午後9時14分、bに対し、 水をかけて消火した後の充電式掃除機の写真を送信していること、臨場したfに対し、充電式掃除機の消火とヘアキャップ等の消火を同じ時刻頃にした旨供述していたことからすると、その消火の時点で、充電式掃除機とヘアキャップ等は、いずれも煙が出ているような状況にあったといえ、以上の経緯によると、被告人には、同日午後9時1分頃から同日午後9時13分頃までの間、充電式掃除機及びヘアキャップ等に放火する機会があったと認められる。 その上で、被告人が、同日午後9時1分以降に乙町の店舗内に入り、本件ネイルサロンの部屋を通ってスタッフルームに向かった際、煙等の異臭・異変を感じず、また、外部の者を含め、被告人以外 と認められる。 その上で、被告人が、同日午後9時1分以降に乙町の店舗内に入り、本件ネイルサロンの部屋を通ってスタッフルームに向かった際、煙等の異臭・異変を感じず、また、外部の者を含め、被告人以外の人物が店舗内に侵入していたということもなかったと供述していることに加え、充電式掃除機及びヘアキャップ等の焼損状況なども併せて考慮すると、被告人が店舗内に入った時点で、充電式掃除機及びヘアキャップ等から既に火災が発生していたとは考え難い。そうすると、器物損壊事件の犯行が可能であると合理的に認められるのは被告人しかいないから、検察官が主張するA、C、D及びEの事実関係に関する主張を検討するまでもなく、器物損壊事件の犯人は、被告人であると合理的疑いなく認められる。 イ弁護人の主張これに対し、弁護人は、①証人kの証言によれば、私的に実験した結果からすると、ライター程度の火力で充電式掃除機を本件と同じ程度に焼損させるには少なくとも9分から10分はかかり、当時の被告人宅から乙町の店舗までは徒歩5分以上を要することからすると、被告人が犯行に及ぶのは時間的に困難であり、被告人の手に火傷の痕などがないことからすると、物理的にも被告人が犯行に及ぶのは困難である、②平成30年3月10日の閉店時や閉店後に、誰かが充電式掃除機やヘアキャップ等を燃やして両開き戸棚内や引き違い戸棚内に戻しておき、鎮圧又は鎮火状態となっ て煙がくすぶっていたところを被告人が偶然発見して消火したに過ぎない可能性がある、などと主張する。しかし、①については、そもそも本件では放火方法がライターによるものだと特定されていないから被告人の手に火傷の痕が残っていないことが、放火方法と整合しないともいえないし、証人kの証言する実験の状況が当時の乙町の店舗の状況と同一のものと 放火方法がライターによるものだと特定されていないから被告人の手に火傷の痕が残っていないことが、放火方法と整合しないともいえないし、証人kの証言する実験の状況が当時の乙町の店舗の状況と同一のものとはいえないことからすると、必ずしも充電式掃除機を焼損させるのに9分から10分を要するともいえない。また、被告人は、bにSNSで連絡を取った同日午後9時1分頃には、既に乙町の店舗付近にいた可能性もあるから、被告人宅から乙町の店舗まで徒歩で5、6分程度要する(甲81)としても、時間的に被告人の犯行が困難であるとはいえない。②については、仮に閉店時頃に放火されたとすると、本件ネイルサロンは同日午後6時頃まで営業をした後、c、d及び被告人の3名が最終退店者であったところ、3名とも退店の際に、充電式掃除機やヘアキャップ等から煙がくすぶった状態にあることなどの異変に気が付かないとは考え難い。また、被告人が、同日午後9時1分以降に乙町の店舗に入り、スタッフルームに向かった際には、煙等の異臭・異変は感じなかったと供述していることに加え、充電式掃除機及びヘアキャップ等の焼損具合や、両開き戸棚の扉、扉枠、棚内の壁面、棚天井板に焼損はなく、すす等の付着は見られなかった状況からすると、閉店後に、誰かが充電式掃除機やヘアキャップ等を燃やし、両開き戸棚や引き違い戸棚の中でそれらから発生した煙が長時間くすぶっていたとは考え難い。さらに、被告人が同日午後9時1分以降に店舗内に入る際には、店舗出入り口は施錠されており、内部に人がいる気配も感じなかったというのであるから、その直前又は直後に被告人以外の誰かが店舗内に侵入して放火したとも考えられない。したがって、弁護人の主張は、被告人が器物損壊事件の犯人であるとの認定について合理的な疑いを差し挟むものではない。 直後に被告人以外の誰かが店舗内に侵入して放火したとも考えられない。したがって、弁護人の主張は、被告人が器物損壊事件の犯人であるとの認定について合理的な疑いを差し挟むものではない。 なお、被告人が器物損壊事件の犯人だとすると、bに対して事前に乙町の店舗に行くことを連絡するなど、犯人だと疑われるような状況で放火し、かつ、その後被告人自身で火を消し止めたことになるが、これは、むしろ被告人が、火災を消し止めた人物として、bを含めた従業員らから認められたい、感謝されたいと考え、注目を集めるために犯行に及んだと考えれば不自然ではないから、被告人が器物損壊事件の犯人であるとの認定は揺らがない。 ウ小括したがって、器物損壊事件の犯人は被告人であると合理的疑いなく認定できるが、このことが被告人の第1事件及び第2事件の犯人性を推認させる事実関係といえるかについては後述する。 ⑵ 第1事件ア乙町の店舗のタイムカードの打刻時刻及び第1事件の出火時刻まず、前記のとおり、平成30年3月13日に発生した第1事件の出火箇所はスタッフルーム内であり、119番通報したlは、同日午後6時10分頃に乙町の店舗から煙の臭いを感じていることから、少なくとも第1事件は同日午後6時10分頃までに発生したものと認められる。 次に、証人cは、同日午後6時1分に乙町の店舗のスタッフルームにあったタイムカードを打刻して退店した旨証言しており、被告人も、同日、消防隊員の聴取に対し、タイムカードを午後6時1分に押して退店した旨述べているから(弁16)、被告人及びcがタイムカードを打刻した時間(タイムカード上の時刻)は、同日午後6時1分であると認められる。 そして、証人cは、同日のタイムカードは、実際の時刻よりも約5分進んでいた旨証言した。 )、被告人及びcがタイムカードを打刻した時間(タイムカード上の時刻)は、同日午後6時1分であると認められる。 そして、証人cは、同日のタイムカードは、実際の時刻よりも約5分進んでいた旨証言した。この点について、弁護人は、証人cの証言は信用できない旨主張する。しかし、被告人は、乙町の店舗から退店した後、同日午後6時2分にはコンビニ店でスナック菓子の写真を撮影し、その写真を 当時の交際相手であるjに対して送信しており(甲78。以下「本件コンビニ」という。)、同日午後6時4分には同店でメロンパンを購入しているところ(甲78、82。これらの点については検察官も争っていない。)、乙町の店舗から本件コンビニまでは最短距離でも113.6m離れており、少なくとも徒歩で1分半程度を要する(甲83)から、タイムカードの時刻が数分進んでいなければ、タイムカード上の時刻である午後6時1分にタイムカードを打刻し、乙町の店舗を施錠した後、被告人が本件コンビニまで歩いて行き、本件コンビニで商品棚を確認してスナック菓子を発見し、その写真を撮影した上で同日午後6時2分にjに対して送信することはできないと考えられる。また、証人dも、具体的に何分か分からないものの、タイムカードの時刻が実際の時刻よりも進んでいた旨証言している。さらに、第1事件の数日後(従業員らが器物損壊事件や第1事件の犯人は被告人であると確信していない時期)から被告人を除く従業員らが作成していた時系列表にも、「18:01 タイムカードおす(5分すすんでいた、タイムカードの時間が18:01)」との記載があること(職2ないし4)なども併せると、弁護人の主張を踏まえても、乙町の店舗のスタッフルームのタイムカードは、実際の時刻よりも5分程度進んでいたと認められる。 そうすると、被告人及びcが、平成3 があること(職2ないし4)なども併せると、弁護人の主張を踏まえても、乙町の店舗のスタッフルームのタイムカードは、実際の時刻よりも5分程度進んでいたと認められる。 そうすると、被告人及びcが、平成30年3月13日に乙町のタイムカードを打刻した実際の時刻は、同日午後5時56分頃であったと認められる。 前記のとおり、被告人及びcは、同日、退店の際に乙町の店舗内に煙等の異臭・異常がないことを確認しているから、第1事件の出火時刻は、同日午後5時56分頃から同日午後6時10分頃までの約14分の間であると認められる。 なお、この点に関し、証人kは、基本的に鉄骨造の建物であれば出火から約20分以内にフラッシュオーバー(出火した建物内に可燃性ガス等が溜まり室内の温度が上昇して前記ガス等に火が付き、一気に建物全体に延 焼する現象)が発生すると考えられるが、乙町の店舗のスタッフルーム内では、消防が放水を開始した午後6時22分までにそれが発生した形跡が見られないため、出火時刻は同日午後5時56分頃と考えるよりも午後6時5分頃と考える方が焼損状況と整合的である旨証言しており、弁護人も、k証言に基づき、同日午後6時5分頃に本件コンビニにいた被告人に犯行の機会があったとはいえないと主張する。しかし、証人kは、実際の乙町の店舗の見分等をしたわけではなく、あくまでも第1事件の資料等に基づいて証言したに過ぎないことに加え、本件では放火方法が特定できないにもかかわらず、出火段階からある程度の大きさの火が着いていたことを前提とした証言をしており、必ずしも正確な意見とはいい難い。また、証人k自身も、火災現場の状況等によってはフラッシュオーバーが発生しないことがあると証言している。これに対して、証人gは、第1事件の建物の開口部から部屋の外に可燃性ガスを含んだ煙が いい難い。また、証人k自身も、火災現場の状況等によってはフラッシュオーバーが発生しないことがあると証言している。これに対して、証人gは、第1事件の建物の開口部から部屋の外に可燃性ガスを含んだ煙が逃げることも考えられ、その場合はフラッシュオーバーが発生するまでの時間は長くなるともいえる、また、フラッシュオーバーという現象から出火時刻を特定することはできないし、推定した出火時刻の幅の中で特定の時間に出火した可能性が高いということもできない旨証言しており、このような証人gの説明には合理性があるから、k証言に基づき第1事件の出火時刻が午後6時5分頃に限定されるとはいえない。 イ被告人が退店時に1人で店内に戻ったと認定できるか続いて、証人cは、乙町の店舗のタイムカード上の時刻が午後6時1分になって打刻した後、被告人と本件ネイルサロン側の出入口から店外に出ようとしたところ、被告人が1人で店舗内に戻り、約2、3分してから同出入口の外まで出てきた旨証言した。検察官は、証人cの前記証言は、①被告人を除く従業員らが作成した「犯人の印象まとめ」と題するデータの記載内容と整合していること、②b・d証言にも支えられていること、③ 証人cは、記憶の有無を区別し、具体的な内容を証言しており、第2事件の際の記憶との混同も見られないこと、④証人cは被告人との間で元々トラブルはなく嘘の証言をする理由がないことなどからすると、証人cの前記証言は信用できるので、被告人が1人で店内に戻ったことが認められ、第1事件の犯行に及ぶ機会があった旨主張するので、以下検討する。 まず①については、確かに、証拠(職2ないし4)並びに証人c、同b及び同dの証言によれば、被告人を除く従業員らは、第2事件があった平成30年3月26日以降、被告人が器物損壊事件も 検討する。 まず①については、確かに、証拠(職2ないし4)並びに証人c、同b及び同dの証言によれば、被告人を除く従業員らは、第2事件があった平成30年3月26日以降、被告人が器物損壊事件も含めた3事件の犯人であると確信し、その頃から同年5月15日頃にかけて、警察や消防に提出するための資料として、被告人の印象や行動等をまとめた「犯人の印象まとめ」と題するエクセルファイルを作成していた。そして、同エクセルファイルには、「【二回目】」(第1事件を意味する。)と記載された項目の中に、「・cと退店したとき忘れ物と戻った?」「・aが疑われていること、bとcで電話した。その時点はなんとも思っておらず、むしろ同情的だった疑われているの可哀想というか心外なので、戻ってないと言いますね。とcはbへ話をした。」などと記載がある。しかし、前記のとおり、同エクセルファイルは被告人を除く従業員らが、被告人が3事件の犯人であると確信した後に作成しているものであって、そもそも客観性が乏しい証拠といわざるを得ない。また、同エクセルファイルには「・cと退店したとき忘れ物と戻った?」などと「?」を交えた記載がされており、必ずしも確定的な内容を記載したものとは読み取れず、証人cもなぜ「?」と記載したかは覚えていない旨証言している。さらに、被告人を除く従業員らが同じく警察や消防に提出するために、同年3月26日以降同年5月15日頃にかけて、第1事件後に作成した時系列表に加筆・修正して作成した「3. 9~3.26流れ」と題する時系列を記載したエクセルファイル(職2ないし4)には、被告人が同年3月13日の退店時に1人で店内に戻った旨 の記載は見当たらない。これらのことからすると、「犯人の印象まとめ」と題するエクセルファイル内の前記記載は、cの証言の信用性を )には、被告人が同年3月13日の退店時に1人で店内に戻った旨 の記載は見当たらない。これらのことからすると、「犯人の印象まとめ」と題するエクセルファイル内の前記記載は、cの証言の信用性を補強するものとはいえない。次に、②については、証人bは、第1事件当日に、cが消防士に対して、被告人が退店時に忘れ物を取りに戻った旨話しているのを聞き、さらにその後、cから対面で、警察や消防に対して被告人が店内に戻ったと言うのをやめますねと言われた旨証言している。しかし、証人bの証言によれば、cは既に消防に対して、被告人が退店時に店内に戻った旨の話をしてしまった後、bに対して、警察や消防に被告人が店内に戻ったと言うのをやめますねと発言したということになるが、それ自体が不自然・不合理である。また、証人bは、cから、被告人が店内に戻ったと警察や消防に対して言うのをやめますねと対面で言われた旨証言しているが、「犯人の印象まとめ」と題するエクセルファイルには、「bとcで電話した。」と記載されており、公判での証言とは食い違いがあるため、証人bの記憶は不確かなものであるといわざるを得ない。さらに、証人dも、第1事件の翌日に、cから、乙町の店舗の本件ネイルスクール内のテーブルのすすを拭くなどし、そのテーブルを使って、被告人が退店時に忘れ物をしたと言って店内に戻ったと聞いた旨証言しているが、第1事件の2日後には実況見分が控えていた(実際にネイルスクールの様子が平成30年3月15日に写真撮影されている[甲71写真59])ことからすると、火災現場内のテーブルのすすを勝手に拭くなどしたとは考え難く、その証言内容は不自然・不合理である。さらに、dは、平成30年当時の捜査官に対する取調べでは、cと会話した際の具体的な状況については供述しておらず、令和4年の取調べで 手に拭くなどしたとは考え難く、その証言内容は不自然・不合理である。さらに、dは、平成30年当時の捜査官に対する取調べでは、cと会話した際の具体的な状況については供述しておらず、令和4年の取調べでは、いつ、どこで、どういう状況でcからその話を聞いたかは覚えていないと供述していたのに、今回の裁判で証言することが決まった後、令和6年9月に行われた検察官との打合せの中で事件当時の写真を見るなどして、cと会話した際の情景がぼんやりと頭に浮か んできたなどと述べており、そのような供述経過や記憶が再起される契機からしてもdの記憶も不確かなものであるとの疑いが拭えない。また、証人b及び同dによれば、いずれも被告人が3事件の犯人であると考えて前記証言をしているというのである。このように、証人b及び同dの前記証言内容には、不自然・不合理な点があり、記憶も不確かなものであり、被告人が犯人であるとの先入観をもって証言されている疑いがあることに加え、いずれもcから聞いた内容を証言するものに過ぎず、第2事件以降に証人cから聞いた話をあたかも第1事件直後から聞いていたかのように記憶が変わっている可能性も否定できないことからすると、証人b及び同dの証言が証人cの証言内容を支えるものとはいえない。そして、③については、例えば、証人cは、同年3月13日当時、タイムカードを打刻したのが被告人だったのかcだったのかということをはじめ、第1事件当時の出来事をはっきりと記憶できていない部分も多く見られるにもかかわらず、被告人が退店時に1人で店内に戻ったことについては記憶がある旨明確に証言しており、不自然であるといわざるを得ない。また、証人cは、第1事件から約6年が経過した現時点でもそのように明確な記憶があり、平成30年5月頃には、第2事件直後から被告人が犯人であ ある旨明確に証言しており、不自然であるといわざるを得ない。また、証人cは、第1事件から約6年が経過した現時点でもそのように明確な記憶があり、平成30年5月頃には、第2事件直後から被告人が犯人であると確信して「犯人の印象まとめ」と題するエクセルファイルを作成し、被告人が退店時に店舗内に1人で戻った旨を記載していたにもかかわらず、同年6月頃の捜査官の取調べの際には、被告人が退店時に1人で店舗内に戻った旨のcの供述は録取されていないというのであって、この点も不自然・不合理である。したがって、証人cは、記憶の有無を区別して具体的な内容を証言することができているとはいい難く、他の事件と混同している可能性も否定できない。また、④については、被告人は、bの指導には従うが、先輩であるcの指導に従わないなど、必ずしもcと被告人の関係は良好であったとはいい難いことからすると、証人cが被告人に不利となる嘘の証 言をする理由がないともいえない。以上からすると、同年3月13日の退店時、被告人が1人で店舗内に戻ったとの証人cの証言は信用できず、その事実は認定できない。 ウ cは同年3月13日当時、乙町の店舗の鍵を所持していなかったか証人cは、第1事件の前日である同年3月12日の退店の際に、乙町の店舗の鍵束(本件ネイルサロンのドアの鍵1本、本件ネイルスクールのドアの鍵1本、本件ネイルサロンのシャッターの鍵1本及び本件ネイルスクールのシャッターの鍵1本の合計4本が1セットになった鍵束。以下「4本1セットの鍵束」という。)を、同日の最終退店者である証人dに渡して退店したため、同月13日は乙町の店舗の鍵を持っていなかった旨証言する。この点につき、仮に証人cが証言するように、cが同日は乙町の店舗の鍵を所持していなかったとすると、前記のとおり、同 人dに渡して退店したため、同月13日は乙町の店舗の鍵を持っていなかった旨証言する。この点につき、仮に証人cが証言するように、cが同日は乙町の店舗の鍵を所持していなかったとすると、前記のとおり、同日の最終退店者は被告人及びcであり、第1事件の出火時刻は、同日午後5時56分頃から同日午後6時10分頃までの約14分の間と短時間であることから、前記出火時刻に犯行が合理的に可能なのは被告人のみになるとも考えられる。 そこで、以下、証人cの前記証言の信用性を検討する。 乙町の店舗の鍵の本数やその保管状況に関し、まず、証人cは、平成30年3月13日当時、乙町の店舗には、4本1セットの鍵束が4つあり、bとeは常に4本1セットの鍵束を1つずつ持っており、c、d及び被告人の3人で、残りの4本1セットの鍵束2つを回していた旨証言したが、同年6月14日付けのcの供述調書によれば、乙町の店舗の鍵束は、b、e及びcが持っており、残りの2セットを被告人とdが使っていたなどと、4本1セットの鍵束が5つあるかのような供述をしていた。次に、証人bは、公判廷では、4本1セットの鍵束が4つあり、d以外の従業員が所持していた旨証言したが、令和5年の捜査官による取調べの際は、乙町の鍵が何本あったかは覚えていない旨供述していた。また、証人dは、4本1 セットの鍵束が4つあり、平成30年3月上旬に、被告人に対しdが持っていた4本1セットの鍵束1つを渡したと思う旨証言したが、令和5年1月25日付けのdの供述調書には、bが常に4本1セットの鍵束1つを持っており、残りの4本1セットの鍵束3つは特に決まりがなく、一番早く退店する人が最後まで残る人に渡す決まりになっていたなどと供述していた。また、eは、4本1セットの鍵束が少なくとも合計3つあり、b、c及びdは4本1セットの鍵 の鍵束3つは特に決まりがなく、一番早く退店する人が最後まで残る人に渡す決まりになっていたなどと供述していた。また、eは、4本1セットの鍵束が少なくとも合計3つあり、b、c及びdは4本1セットの鍵束を1つずつ所持しており、eは、本件ネイルスクールの講師をしていたことから本件ネイルスクールのドアの鍵とそのシャッターの鍵各1本を持っていたが、本件ネイルサロンの鍵も持っていたかは覚えておらず、被告人が鍵束を持っていたかどうかも覚えていない旨供述している(甲76)。他方で、被告人は、本件ネイルサロンのドア及びシャッターの鍵は持っていたが、本件ネイルスクールのドア及びそのシャッターの鍵を持っていたかは覚えていない旨供述する。このように、そもそも各証人、e及び被告人の供述が一致しておらず、各証人の証言内容が捜査段階での供述経過に照らして一貫しているともいい難いこと、合鍵の作成の有無など平成30年当時であれば可能であったはずの捜査が何もなされていないことからすると、同年3月13日当時、乙町の店舗の鍵が合計何本あり、4本1セットの鍵束が合計いくつあったかは不明であるといわざるを得ず、その保管状況についても明らかではないといわざるを得ない。この点について、被告人を除く従業員らが作成した「犯人の印象まとめ」と題するエクセルファイルのうち、同年5月19日に保存されたファイル(職3)には、「★乙の店舗の鍵は4セット、交代などして回していた。」との記載があるが、従業員らの誰がこの記載をしたかは明らかではないことに加え、同じ「犯人の印象まとめ」と題するエクセルファイルのうち、同月15日に保存されたファイル(職2)にはこの記載は見当たらず、どのような経緯で追記されたかも不明であるから、鍵の本数や保管 状況を裏付ける証拠とはいえない。 ところで、証人 のうち、同月15日に保存されたファイル(職2)にはこの記載は見当たらず、どのような経緯で追記されたかも不明であるから、鍵の本数や保管 状況を裏付ける証拠とはいえない。 ところで、証人cは自身の鍵の所持状況について、①同年3月13日に火災の連絡を受けて乙町の店舗に戻った際には、4本1セットの鍵束1つを持っていなかったとの記憶がある、②その鍵束は、第1事件の前日である同月12日に、dが最終退店者だったため、dに渡したと思う旨証言している。そして、①の記憶がある理由について、証人cは、同月13日に火災の連絡を聞きつけて乙町の店舗に行った際、既に消防は店舗内に突入していたが、いつも鍵を入れている上着のポケット内に鍵がなかったことから、自分は鍵を持っていないなと思ったなどと証言している。しかし、そもそも、紛失する可能性が否定できない上着のポケット内に普段から職場の鍵束を入れていたというのはいささか不自然な感が否めない。また、証人cの平成30年6月14日の供述調書によれば、cは、同月13日に火災の連絡を受けて乙町の店舗に着くと、消防隊がドアを開けて店舗に入ろうとしており、このとき、鍵があればな、しまった、鍵がないと思ったと供述していたのであって、鍵を所持していないことに気づいたきっかけに関する部分が、公判廷で証言したものとは異なっている。さらに、証人cは、第1事件当日、消防に対して、乙町の店舗の鍵は従業員の全員が持っていた旨供述しているが(弁16)、火災の知らせを受けて乙町の店舗に戻った際に自分が鍵を所持していないことに気付いていたのであれば、消防の聴取に対してそのような供述をするのはあまりにも不自然である。以上によると、同月13日に乙町の店舗に戻った際に4本1セットの鍵束1つを持っていなかった記憶があるとの①の証言内容は信用性 れば、消防の聴取に対してそのような供述をするのはあまりにも不自然である。以上によると、同月13日に乙町の店舗に戻った際に4本1セットの鍵束1つを持っていなかった記憶があるとの①の証言内容は信用性が乏しい。また、②の証言内容については、証人c自身が、同月12日の退店時にdに対して鍵束を渡したというのは記憶ではなく推測に基づくものであると証言していることに加え、前記のとおり、同月13日当時、乙町の店舗の鍵が合計何本あり、4本1セットの鍵束が合計いくつあったかは不明であ り、同月12日にdが乙町の店舗の鍵を持っていなかったとはいえないことからすると、同月12日の退店の際にdに鍵束を渡したとの②の証言内容も信用性が乏しい。加えて、①②の点について、証人dは、第1事件の翌日に、cから、乙町の店舗の本件ネイルスクール内のテーブルのすすを拭くなどして、そのテーブルを使って、cが同月13日に鍵を持っていなかった話を聞いた旨証言しているが、前記のとおり、実況見分の前に火災現場であるテーブルのすすを勝手に拭くなどしたとは考え難いことや、捜査段階ではcとの会話の状況を具体的に供述していないなど供述経過に不自然な点があることからも、証人dの証言は信用性に欠けており、証人cの証言を支えるものとはいえない。なお、dは、平成30年4月6日付けの供述調書において、同年3月12日にcから店の鍵を預かった旨供述しているところ、同調書が作成される以前(第2事件が発生した同月26日以降)から、被告人以外の従業員らは被告人が3事件の犯人であることを確信した上、「犯人の印象まとめ」と題するエクセルファイルを作成するなどしており、dの供述がそれらの影響を受けていた可能性は否定できないから、dの証言がcの証言を支えるものにはならないとの評価は変わらない。被告人を除 印象まとめ」と題するエクセルファイルを作成するなどしており、dの供述がそれらの影響を受けていた可能性は否定できないから、dの証言がcの証言を支えるものにはならないとの評価は変わらない。被告人を除く従業員らが作成した「犯人の印象まとめ」と題するエクセルファイル(職2ないし4)には、「【二回目】」と記載された項目に、「鍵はaが持っていて、cもっていなかった。」との記載があるが、同エクセルファイルは第2事件以降に従業員らが3事件の犯人は被告人であると確信して作成されたものであり、その内容自体客観性が乏しいことに加え、この記載ができるのはcかdであると考えられるが、前記のとおり、両名ともその証言内容に不自然・不合理な点があることからすると、この記載は、cが同月13日に乙町の店舗の鍵を所持していなかったことを裏付ける証拠とはいえない。 以上からすると、証人cが、同年3月12日の退店の際に、乙町の店舗 の鍵束1つをdに渡して退店したため同月13日は乙町の店舗の鍵を持っていなかったとの証言は、信用することができず、証人cが、同月13日に乙町の店舗の鍵を持っていなかったとは認められない。 エ小括そうすると、第1事件の出火時刻は、平成30年3月13日午後5時56分頃から同日午後6時10分頃までの約14分の間であり、本件では放火方法が特定されていない以上、被告人には、①退店した同日午後5時56分頃から本件コンビニでスナック菓子の写真を撮ってjに送信した同日午後6時2分までの間と、②本件コンビニでメロンパンを購入した同日午後6時4分からlが煙の臭いに気が付く同日午後6時10分頃までの間の2つの時間帯に、第1事件の犯行を行う機会があったとは認められる。 しかし、前記のとおり、被告人が退店の際に1人で店舗内に戻った事実は認められず らlが煙の臭いに気が付く同日午後6時10分頃までの間の2つの時間帯に、第1事件の犯行を行う機会があったとは認められる。 しかし、前記のとおり、被告人が退店の際に1人で店舗内に戻った事実は認められず、乙町の店舗と本件コンビニとの間では約1分半程度の移動の時間を要すること、被告人は同日午後6時7分頃にはjに対し「メロンパンにした!」などとメッセージを送信していること(甲78)からすると、被告人が犯行に及ぶことのできる時間は①②よりもさらに限定的であったといえる。他方で、cが同日、乙町の店舗の鍵を持っていなかったとは認められないことからすると、cにも、退店した同日午後5時56分頃から同日午後6時10分頃までの時間帯において、第1事件の犯行が可能であったといえる。したがって、検察官がBの事実関係として主張するとおり、被告人には、第1事件のわずかな犯行時間帯の中で、他の者に見つからずに犯行に及ぶ機会自体はあったといえるものの、それがもつ被告人の第1事件の犯人性を推認させる力は、限定的なものに止まるといえる。 ⑶ 第2事件ア第2事件の出火時刻まず、前記のとおり、第2事件の出火箇所はスチールラック付近であり、 119番通報したiは、平成30年3月26日午後6時15分頃、同居室南側の壁に空いた穴から白い煙が立ち上っていることを発見しているから、少なくとも第2事件は同日午後6時15分頃までに発生したものと認められる。 同日の最終退店者はc、d及び被告人の3名であり、証人c及び同dは、その日はdの夫が、dを自動車で迎えに来ることになっておりdの夫からの連絡を確認して店外に出たと証言している。同日午後6時7分にdの夫からdに対し「ついたよ!」とSNSでメッセージが送られていること(甲78)からすると、それらの各証言はd とになっておりdの夫からの連絡を確認して店外に出たと証言している。同日午後6時7分にdの夫からdに対し「ついたよ!」とSNSでメッセージが送られていること(甲78)からすると、それらの各証言はdの夫のメッセージの内容と整合するため信用でき、c、d及び被告人の3名は同日午後6時7分頃に丙の店舗を退店したものと認められる。 そして、前記のとおり、退店の際に店舗内に煙等の臭いを含め異臭・異変はなかったことからすれば、第2事件の出火時刻は、同日午後6時7分頃から同日午後6時15分頃までの約8分の間であるといえる。 イ被告人の犯行の機会の有無等証人c及び同dの各証言に加え、これらに一致する被告人の供述によれば、被告人は、同日、丙の店舗で使用したタオルをコインランドリーに持って行くことになっていたところ、丙の店舗の正面ドアから退店しようとした際、cかdのどちらかから、洗濯物忘れてるよなどと声をかけられたため、被告人が1人で店舗内に戻り、洗濯物のタオルを持って店外に出てきた事実が認められる(ただし、証人c及び同dの証言等によっても、被告人が、店舗内で具体的にどのくらいの時間、1人で戻ったかは明らかでないといわざるを得ない。)。 そうすると、本件の放火方法が特定されていない以上、少なくとも被告人には、退店の際に1人で店舗内に戻った時点で、第2事件の犯行に及ぶ機会があったといえる。 他方で、前記のとおり、第2事件の出火時刻は、同日午後6時7分頃から同日午後6時15分頃までの約8分の間であるところ、証人b、同c及び同dの各証言によれば、正面ドアの鍵は従業員ら全員が所持しており、裏口ドアの鍵は少なくともb及びcが所持していたことが認められる。加えて、消防が、同日午後6時29分に丙の店舗に到着した際には、裏口ドアは施 証言によれば、正面ドアの鍵は従業員ら全員が所持しており、裏口ドアの鍵は少なくともb及びcが所持していたことが認められる。加えて、消防が、同日午後6時29分に丙の店舗に到着した際には、裏口ドアは施錠されていなかったこと、放火方法も特定されていないことからすると、同日、横浜にいたbを除く被告人以外の従業員ら(c、d及びeであるが、とりわけ最終退店者であったc及びd)についても、第2事件の犯行に及ぶ機会があったといえる。 ウ小括以上からすると、第2事件の犯行が可能であった人物が被告人だけだったとは認められないから、検察官がBの事実関係として主張するとおり、被告人には、第2事件のわずかな犯行時間帯の中で、他の者に見つからずに犯行に及ぶ機会自体はあったといえるものの、それがもつ被告人の第2事件の犯人性を推認させる力は、限定的なものに止まるといえる。 3 Cの事実関係検察官は、3事件が平成30年3月10日から同月26日にかけての犯行であり、被告人が本件ネイルサロンで実質的に勤務していたのは被告人が雇用された同年2月3日から第2事件が発生した同年3月26日頃までの間の2か月弱であり、本件ネイルサロンにおいては、平成19年に営業を開始してから、平成30年3月の器物損壊事件前まで、店舗が燃えるなどの放火被害に遭ったことは一度たりともなく、bは、第2事件後も、本件ネイルサロンを令和4年10月末頃まで経営し、本件ネイルスクールを令和5年4月末頃まで経営していたが、第2事件以降に放火被害に遭うことは一度もなかったことからすると、本件ネイルサロン開業から約16年間のうち、被告人が勤務した2か月弱に限って3件の放火事件が起きたということができ、これは被告人が第1事件及び 第2事件の犯人であることを推認させる事実といえるなどと主 ロン開業から約16年間のうち、被告人が勤務した2か月弱に限って3件の放火事件が起きたということができ、これは被告人が第1事件及び 第2事件の犯人であることを推認させる事実といえるなどと主張する。 確かに、証人b、同c及び同dの各証言等によれば、検察官が主張する事実が認められる。しかし、被告人の供述によれば、被告人は、本件ネイルサロンで勤務する以前にも1年以上別のネイルサロンで勤務していたが、同サロンで放火事件が発生したという事実はなく、平成30年3月26日に本件ネイルサロンで勤務しなくなった後も、令和5年頃まで東京都内のネイルサロンを転々と勤務していたが、そこでも放火事件などは発生していないこと(この点は検察官も争っていない。)からすると、検察官が主張するCの事実関係が被告人の第1事件及び第2事件の犯人性を推認させるものとはいえない。検察官は、被告人が3事件の犯人であるという視点に立って検察官側に都合良く前記事実を評価しているに過ぎず、例えば、dが退職する月に連続して3件の放火事件が起きていると考えたり、cが出勤した日に限って3件の放火事件が起きていると考えたりすることも可能であって、むしろ被告人の第1事件及び第2事件の犯人性を否定する方向にも評価できる事実関係ともいえる。 以上によれば、Cの事実関係に関する検察官の主張は採用できない。 4 Dの事実関係検察官は、被告人は、①本件ネイルサロンで勤務し始める前には、甲でこれから勤務できることを喜んでいたが、被告人が甲で勤務をし始めると、休日にbの子どもの面倒を見たり、客にオプションや物販の押し売り的な営業をしたりしなければならず、精神的に疲れている様子が見受けられ、被告人が勤務開始から6日後に記載した携帯電話のメモアプリには「職場の現実知って嘘つかれてた事にめっちゃ ションや物販の押し売り的な営業をしたりしなければならず、精神的に疲れている様子が見受けられ、被告人が勤務開始から6日後に記載した携帯電話のメモアプリには「職場の現実知って嘘つかれてた事にめっちゃ腹立ったし」などと入力するなど(甲81)、bに対して不満を持つようになっていたこと、②被告人は、他の従業員らと比較して自身の技術が不足している旨の不安感を抱くようになったこと、③インターネットで知り合った友人の「p」なる人物に対し、器物損壊事件の前である平成30年3月8日から第2事件の日である同月26日にかけて、ストレスが溜まっており、 精神的にきついこと、泣きそうになったり泣いたりしたことがあったこと、仕事したくなく、家から出たくなく、どこかに引っ越したいこと、ネイルが好きじゃなければやめていたこと、22年間生きてきて1番病んでおり記憶がとんでいるのか覚えていないことが多いことなどをメッセージで送信するなどしていたこと、④同月14日には、その携帯電話のメモアプリに「a当分ずっと情緒不安定だと思う。笑っていられる時もあるけどいきなり色々思い出したりして不安になったり泣いたり。」などと記載していたこと(甲81)などからすると、被告人が、3事件当時、職場への不満を募らせ精神的に不安定だったといえるため、被告人が3事件の発生当時、犯行動機となり得る事情を抱えていたなどと主張する。 確かに、検察官が主張するとおり、被告人は3事件の当時、職場への不満があり精神的にも不安定だったと認められる。しかし、検察官が主張するような程度の不満は、仕事をしている者であれば一般的に誰でも抱くような類のものであり、3事件の犯人であることに直ちに結びつくようなものであるとはいえない。また、精神的に不安定な者が全て、職場への放火に及ぶともいえない。 そうすると 者であれば一般的に誰でも抱くような類のものであり、3事件の犯人であることに直ちに結びつくようなものであるとはいえない。また、精神的に不安定な者が全て、職場への放火に及ぶともいえない。 そうすると、3事件の発生当時、被告人が犯行動機となり得る事情を抱えていなかったとまではいえないが、それだけで第1事件及び第2事件の被告人の犯人性が推認されるとはいえず、その推認力は相当限定的なものに止まるといえる。 5 Eの事実関係検察官は、証人b、同c及び同dの各証言によれば、被告人以外の従業員らについて、犯行に及ぶほどの動機や犯行に及んだ具体的な形跡は見当たらず、被告人以外の関係者が平成30年3月に集中して放火したことをうかがわせるだけの合理的な理由はないなどと主張する。 この点について、弁護人は、証人bが火災保険金目的で放火した可能性について指摘する。しかし、検察官が主張するとおり、bは、本件ネイルサロンで火 災が連続して発生すれば、直接的な経済的損害以上に、風評被害を受けるなどして長年の信用を損なって客を失うなどの金銭に換算し難い重大な損害を被るのは明らかであるから、数百万円程度の火災保険金を目的に、自らが経営する店舗に放火したとは到底考えられず、bには、犯行に及ぶほどの動機は見当たらないといえる。 他方で、証人cや同dは、例えば、bから10分で1000円以上の売上げを上げるよう指導され、商品販売も促されるなどしていたことから、どこで働いてもあるという程度の不満は抱えていたことや、客の予約が詰まっていて休憩が取れずにきつかったことなど、多かれ少なかれ本件ネイルサロンに対する不満を抱えていたことを証言している。Dの事実関係で述べたとおり、被告人について、誰でも抱えているような職場への不満を抱いていたことをもって被告人に ことなど、多かれ少なかれ本件ネイルサロンに対する不満を抱えていたことを証言している。Dの事実関係で述べたとおり、被告人について、誰でも抱えているような職場への不満を抱いていたことをもって被告人に犯行動機となり得る事情があったと評価できるというのであれば、被告人以外のc、d及びeといった従業員らにも、犯行に及ぶほどの動機があったと評価することも可能である。また、検察官は、被告人以外の従業員らについて、犯行に及んだ具体的な形跡が見当たらないと主張するが、本件では直接証拠がなく、被告人についても第1事件及び第2事件の犯行に及んだ具体的な形跡を示す証拠は見当たらないのであるから、この点もまた検察官が自己の立場から都合良く事実を評価しているに過ぎないというべきである。そもそも本件では、被告人以外の従業員らに関して、犯行に及ぶほどの動機や犯行に及んだ具体的な形跡があるかについて十分な捜査がされた形跡もないから、bを除く被告人以外の従業員らに、犯行に及ぶほどの動機や犯行に及んだ具体的な形跡が見当たらないということはできない。 そうすると、検察官が主張するEの事実関係は、それ自体認定できるか不確かなところがあり、仮に認定できるとしても、その事実がもつ第1事件及び第2事件の被告人の犯人性を推認させる力は、相当に限定的であるといえる。 6 Aの事実関係 検察官は、①3事件の放火場所はいずれも店舗内部に立ち入った場所であり外部から不法侵入された形跡もなく、本件ネイルサロンの営業が終了して従業員らが退店した後又は退店しようとして店外に出た頃のタイミングに出火しており、外部犯であると発覚する危険性が高いため、他の従業員らに見られず店舗内に出入りできる立場にあった内部犯の犯行である、②3事件は同じ経営者が経営する店舗の中で、16日間のう タイミングに出火しており、外部犯であると発覚する危険性が高いため、他の従業員らに見られず店舗内に出入りできる立場にあった内部犯の犯行である、②3事件は同じ経営者が経営する店舗の中で、16日間のうちに連続して発生しているが、それぞれ店舗内に立ち入った場所での放火であり、放火以外の方法で店舗内を損壊したり現金を盗んだりした形跡がないことからすると、その手口は共通しており、犯行が3事件で徐々にエスカレートしていることなども併せると、放火の動機は本件ネイルサロンやその経営者への怨恨等と考えるのが自然であるから、同一犯による犯行であるなどと主張する。 まず、①については、検察官の主張するとおり、器物損壊事件については犯行が合理的に可能であるのは被告人以外に考えられず、第1事件及び第2事件については、いずれも本件ネイルサロンの営業が終了して従業員らが退店する頃又はその直後に出火したと考えられることや、外部犯をうかがわせる形跡が見られないことからすると、3事件いずれも、内部犯による犯行であると認められる。 次に、②については、検察官が主張する、店舗内に立ち入った場所での放火であることや、放火以外の方法で店内を損壊したり現金が盗まれたりしていないといったことは、内部犯による犯行であることを示唆する以上に、何ら顕著な特徴を示す事実関係とはいえず、同一犯による犯行であることを裏付けるほど犯行の手口に共通性があるともいえない。また、犯行がエスカレートしているとの点については、本件では、いずれも点火方法が特定されておらず、焼損面積等も通報者に発見されるまでの偶然の時間に左右されており、第2事件ではスチールラック付近にあったゴミ袋に点火している可能性があり、そうすると、点火の方法は、むしろ、わざわざ家電に点火したと考えられる器物損壊事件や までの偶然の時間に左右されており、第2事件ではスチールラック付近にあったゴミ袋に点火している可能性があり、そうすると、点火の方法は、むしろ、わざわざ家電に点火したと考えられる器物損壊事件や 第1事件よりも、第2事件の方が、簡易的になっていると考えることもできるから、犯行態様が徐々にエスカレートしていると評価することも相当ではない。 また、検察官が指摘する事情から、3事件の放火の動機が本件ネイルサロンやその経営者への怨恨等であると考えるのが自然とまではいえないから、この点も3事件が同一犯であることを裏付けるものとはいえない。 なお、前述のとおり、器物損壊事件の犯人は被告人であると合理的な疑いなく認められるところではあるが、同事件と第1事件、第2事件とを比較した場合、犯行動機や点火方法といった点に顕著な共通性があるとは認め難く、また、第1事件はcに、第2事件はc、dにも犯行に及ぶ具体的な可能性が相当程度あったことに照らすと、犯行の機会という点においても、3事件に共通性はないのであるから、器物損壊事件の犯人が被告人であることから、第1事件及び第2事件の犯人が同一犯である被告人であると推認することもできない。 そうすると、検察官が主張するAの事実関係については、3事件が内部犯による犯行であるという限度で認められるに過ぎない。 7 総合考慮前記1から6で検討してきたところからすると、まず、Aの事実関係については3事件とも内部犯による犯行であることしか認定できないこと、次に、Bの事実関係については、被告人には、第1事件及び第2事件のわずかな時間帯に犯行に及ぶ機会はあったものの、被告人以外にも、同じ時間帯に犯行が可能であった従業員が存在するためその推認力は限定的であること、Cの事実関係については、被告人が第1事件及び第2事件 わずかな時間帯に犯行に及ぶ機会はあったものの、被告人以外にも、同じ時間帯に犯行が可能であった従業員が存在するためその推認力は限定的であること、Cの事実関係については、被告人が第1事件及び第2事件の犯人であることをおよそ推認させるものではないこと、D及びEの各事実関係のもつ推認力は相当に限定的であり、被告人以外の従業員らについて犯行に及ぶ動機がなかったかは不明であることなどからすると、検察官が主張し、証拠から認められたこれらの事実関係を全て併せて考慮しても、被告人が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない(あるいは、少なくとも説明が極めて困難である)事実関係が 含まれているとはいえない。したがって、これらの事実関係を総合的に考慮したとしても、被告人が第1事件及び第2事件の犯人であると合理的疑いなく認定するのは不可能である。 なお、前記のとおり、器物損壊事件については、被告人が犯人であると合理的疑いなく認定できるものの、Aの事実関係で検討したとおり、3事件が同一犯による犯行であるとはいえないことからすると、この点をもって被告人が第1事件及び第2事件の犯人であるとは認定できない。 また、検察官は、被告人が、3事件当時の状況の大部分は覚えていない旨供述しているにもかかわらず、第1事件当日の退店時に1人で店内に戻った出来事があったかについては、そのような出来事はなかったと明確に供述しており不自然であると主張している。確かに、その部分の被告人の供述はやや不自然であり、かつ、被告人は器物損壊事件の犯人なのであるから、同事件に関する被告人の供述には虚偽の事実が含まれている可能性が否定できないものの、前述したとおりの事実関係に照らせば、被告人の供述の中に不自然・不合理な点が含まれていることが、被告人が第1事件及び第2事件の犯 被告人の供述には虚偽の事実が含まれている可能性が否定できないものの、前述したとおりの事実関係に照らせば、被告人の供述の中に不自然・不合理な点が含まれていることが、被告人が第1事件及び第2事件の犯人であることを推認させる事情ともいえない。 第5 結論以上によれば、本件各公訴事実について、犯罪の証明がないことになるので、刑訴法336条により、被告人に対して無罪の言渡しをする。 (求刑-懲役8年)令和6年10月23日宣告静岡地方裁判所浜松支部刑事部 裁判長裁判官來司直美 裁判官杵渕花絵 裁判官工藤優輔

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