平成19(ワ)13846 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成22年10月22日 東京地方裁判所 棄却
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判決文本文38,611 文字)

- 1 -平成22年10月22日判決言渡平成19年(ワ)第13846号損害賠償請求事件判決 主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由 第1 請求 1 被告は,原告Aに対し,1億1000万円及びこれに対する平成19年6月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告Bに対し,550万円及びこれに対する平成19年6月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨本件は,被告が開設し,運営するC病院(以下「被告病院」という。)において出生した原告A及びその母である原告Bが,被告病院の担当医師には,①原告Aの分娩に際し,より早期に急遂分娩へ方針を変更すべきであったにもかかわらずこれを怠った注意義務違反,②同原告の出生後,直ちに適切な酸素供給を主眼とする新生児医療を行うべきであったにもかかわらずこれを怠った注意義務違反があり,これらによって,原告Aは,仮死新生児として出生し,低酸素性虚血性脳症を原因とする脳性麻痺を発症し,脳性麻痺による四肢体幹機能障害の後遺障害を負ったとして,被告に対し,診療契約上の債務不履行に基づき,損害賠償を求めた事案である。 2 前提となる事実(末尾に認定の根拠となった証拠等を示す。[]内の数字は,当該証拠の関係頁である。証拠等を掲記しない事実は,争いのない事実である。) 当事者- 2 -ア原告Aは,平成10年a月b日(以下,日付は,特に年を表記しない限り,平成10年の日付である。),被告病院において出生した女児であり,原告Bは,その母である。 イ被告は,主た - 2 -ア原告Aは,平成10年a月b日(以下,日付は,特に年を表記しない限り,平成10年の日付である。),被告病院において出生した女児であり,原告Bは,その母である。 イ被告は,主たる事務所を被告肩書地に置き,さいたま市北区において被告病院を開設し,経営する社団法人である。  診療経過ア原告Bが被告病院へ入院する前の診療経過原告Bは,平成9年8月25日,D病院を外来受診し,子宮外妊娠が疑われたが,同年9月1日,同病院において子宮内妊娠が確認され,子宮外妊娠の可能性は否定された。 また,原告Bは,同月3日,5日,12日,E医院を受診し,切迫流産の兆候があったため,HCG(流産予防薬)の筋肉内注射を受けるとともに,漢方薬の処方を受けた。 さらに,原告Bは,同月24日,下腹部痛等を主訴として,被告病院産婦人科を初めて外来受診し,妊娠が再確認され,2週間後に超音波検査をし分娩予定日決定後初期検査をすることとされ,同年10月7日の外来再診時に,超音波検査により胎児心拍動が確認され,分娩予定日は平成10年4月28日であると伝えられた。その後,原告Bは,同月15日(妊娠38週1日)までの間,被告病院に定期的な外来通院を継続した。(甲A1,2,8,乙A1[1,21ないし31],7,証人F,原告B)イ原告Bが被告病院へ入院した後の診療経過原告Bは,4月19日午前2時30分ころ,前期破水し,血性分泌物があったことから,同日午前3時30分ころ,被告病院に入院することになった。F医師が同月20日午前9時30分ころに原告Bを診察したところ,子宮口開大度は2cm,展退度は40%,児頭の位置はステーション-3であり,ネオメトロ(分娩誘発を促す風船様の医療機器)100mℓを挿- 3 -入し,胎盤早期剥離に注意し,ノンストレステ ところ,子宮口開大度は2cm,展退度は40%,児頭の位置はステーション-3であり,ネオメトロ(分娩誘発を促す風船様の医療機器)100mℓを挿- 3 -入し,胎盤早期剥離に注意し,ノンストレステスト(妊娠中の胎児健康状態を評価する指標,胎動などに伴って胎児心拍数図上に一過性頻脈が出現するかどうかで判定するもの)による経過観察をし,徐脈が現れるようであれば,胎盤早期剥離の疑いにより帝王切開を行うことを念頭に置き,翌日にビショップスコア(子宮頸部の分娩準備状態を表す指標)を計測し,その結果によっては陣痛誘発剤の使用や帝王切開を行うこととし,自然陣発を待つことになった。原告Bの午後1時45分ころの子宮口開大度は4cm,展退度は70%であり,午後3時40分ころの子宮口開大度は4cm,展退度は60%で,メトロが半分脱出していた。原告Bの午後11時30分ころの子宮口開大度は4cm,展退度は60%,児頭の位置はステーション-3で,メトロが脱出していた。同月21日午前1時40分ころ,原告Bの子宮口が全開大し,分娩のために分娩台へと移動し,午前2時15分ころ,陣痛が微弱であり,児頭の下降がみられなかったことから,クリステレル圧出法が行われたものの,児頭の下降が十分でなかったため,午前2時25分ころから,ソフトカップによる吸引分娩が開始され,午前2時32分ころ,原告Aが出生した。原告Aの出生時体重は2714gであり,出生直後のアプガースコアは2点(心拍2点)であった。また,原告Bが被告病院へ入院してから原告がAが出生するまでの間,分娩監視装置の装着及び解除が繰り返されていた。そして,原告Aは,午前2時50分ころ,酸素流量1ℓ毎分としたクベース(保育器)に収容された。 原告Aの同日午前3時10分ころの体温は35.2℃,呼吸は努力性であり,陥没呼吸が が繰り返されていた。そして,原告Aは,午前2時50分ころ,酸素流量1ℓ毎分としたクベース(保育器)に収容された。 原告Aの同日午前3時10分ころの体温は35.2℃,呼吸は努力性であり,陥没呼吸がみられた。午前3時30分ころ,SpO2(経皮的動脈血酸素飽和度)が80%台に低下し,全身の色が優れず,午前5時55分ころ,無呼吸発作があり,刺激してもすぐには回復せず,25秒間持続し,その際のSpO2は60%から72%であった。 原告Aは,同日午前8時45分ころ,手足がバタバタして硬直気味で,- 4 -ボートこぎ様であり,目は凝視し,呼吸はあるものの,舌を出して口からあぶくや涎が出ており,冷汗があった。SpO2は80%台から70%台に低下し,チアノーゼが出現してきており,痙攣が疑われた。そのため,原告Aに対し,酸素フラッシュが行われたところ,午前8時50分ころにSpO2は94%に回復し,午前9時30分ころには,微細発作(一見生理的な動きのようにみえる微細な発作)が生じた可能性があることから,フェノバール坐薬(抗痙攣薬)50mgが挿肛された。原告Aの午前9時55分ころの体温は34.9℃で,四肢冷感があり,浅表性呼吸がみられ,午前10時5分ころには,やや四肢が硬直し,冷汗があり,ややチアノーゼが出現しており,SpO2は70~80%台であったが,酸素投与によりSpO2は93%に回復した。 同日午前11時50分ころ,原告Aの頭部CTが撮影され,クモ膜下出血を疑う所見が認められ,新生児の専門病院における検査・診断が必要であるとして,転院が決定された。 そして,原告Aは,同日午後1時45分ころ,G医療センターへ転院した。(甲A3,8,乙A2[1,5ないし8,19,22,24ないし26],5[7ないし9,22ないし24],7,証人F,原告B)ウ そして,原告Aは,同日午後1時45分ころ,G医療センターへ転院した。(甲A3,8,乙A2[1,5ないし8,19,22,24ないし26],5[7ないし9,22ないし24],7,証人F,原告B)ウ原告AがG医療センターへ転院した後の診療経過原告Aは,4月21日,G医療センターにおいて頭部CTを撮影され,これによれば,後頭脳幹裂隙に高吸収域がみられ,硬膜下出血があるようであり,両側後頭頭頂部の脳白質及び皮質が全体的に低吸収域を示しており,CT上は虚血性変化や浮腫による所見と考えられた。また,原告Bは,同月26日,被告病院を退院した。同月30日にも,原告Aの頭部CTが撮影されたが,これによれば,前回のCTと同様に,両側後頭頭頂部の白質及び皮質はびまん性に低吸収域を示し,左の側脳室後角がやや拡大してきており,左頭頂葉の脳回に沿って高吸収域が認められ,脳細胞壊死や脳- 5 -出血が起きていることが予測されるところであり,これら一連の変化は虚血性低酸素性脳症による所見と考えられた。 原告Aは,5月1日,状態が安定してきたことなどから,被告病院に転院し,同月13日,被告病院を退院した。 その後,原告Aは,11月ないし12月ころにてんかんの発作がみられ,その後,脳性麻痺による四肢体幹機能障害があると診断されている。(甲A3,6ないし8,乙A2[30],4[5,8,9],6[2,17,18],8[2,35,37],9,原告B) 3 争点 4月20日午後3時(予備的に午後5時)に急遂分娩へ方針を変更すべきであったにもかかわらずこれを怠った注意義務違反の有無 原告Aの出生後,直ちに適切な酸素供給を主眼とする新生児医療を行うべきであったにもかかわらずこれを怠った注意義務違反の有無 各注意義務違反と結果(原告Aの後遺障害)との間の因 務違反の有無 原告Aの出生後,直ちに適切な酸素供給を主眼とする新生児医療を行うべきであったにもかかわらずこれを怠った注意義務違反の有無 各注意義務違反と結果(原告Aの後遺障害)との間の因果関係の有無 損害の有無及びその額 4 争点についての当事者の主張 争点(4月20日午後3時(予備的に午後5時)に急遂分娩へ方針を変更すべきであったにもかかわらずこれを怠った注意義務違反の有無)について(原告らの主張)ア注意義務の内容被告病院の担当医師には,4月20日午後3時(予備的には午後5時)には,これまでの待機的な分娩方針から急遂分娩へと方針を変更すべき注意義務,すなわち,原告Bに対し,帝王切開の準備をしつつ,陣痛促進剤を投与することによって陣痛の誘発を行うべき注意義務があった。 具体的には,被告病院の担当医師は,原告Bに対する陣痛促進剤の投与- 6 -が奏功して,遷延ないし停止していた分娩が順調に進行促進となれば,原告Bに対する観察を厳重にしつつ経膣分娩の方針とし,陣痛促進剤の投与にもかかわらず陣痛誘発に至らない場合には,直ちに帝王切開に着手すべきであった。 イ注意義務の存在を基礎付ける事実 4月20日早朝(遅くとも午前10時30分以降)から,胎児(原告A)が「心配ないとはいえない状態」(non-reassuringfetalstatus)にあったにもかかわらず,同日午後3時(予備的には午後5時)の時点では分娩進行が遷延ないし停止しており,待機的方針では分娩が長期化して,胎児に対する低酸素状態の継続による脳への侵襲に由来する不可逆的な障害発生の具体的な危険が予見できる事態となっていた。  胎児が「心配ないとはいえない状態」(non-reassuringfetalstatus)にあり, よる脳への侵襲に由来する不可逆的な障害発生の具体的な危険が予見できる事態となっていた。  胎児が「心配ないとはいえない状態」(non-reassuringfetalstatus)にあり,分娩の長期化による障害の危険があったことを基礎付ける事実は,次のとおりである。 a 分娩監視記録上基線細変動の減少が認められることb 160bpm(bpmとは,1分間の胎児心拍数をいう。)を超える持続性頻脈が長時間継続していることc 一過性頻脈が出現しなくなっていることd 早発性ではない一過性徐脈が出現していることe 前期破水以来36時間余を経過していること 待機的方針では分娩が長期化して,胎児に危険が生じるべきことは,次の事実から明らかであった。 a 4月20日早朝から午後5時までの原告Bの子宮口開大経過は,以下のとおりである。 午前9時30分子宮口開大2cm,展退度40%,ST(児頭の- 7 -位置・ステーション)-3,後方(乙A2[24])午後1時45分子宮口開大4cm,展退度70%,子宮収縮まあまあ(乙A2[7])午後3時40分子宮口開大4cm,展退度60%,ST-3(乙A2[25])午後5時子宮口開大4cm,子宮収縮5分間歇,展退度60%,ST-3(乙A2[25])b 子宮口が2.5cm以上開大した後に分娩進行が1時間に1.2cm以下しか開大しなくなった状態が第1期活動期の分娩遷延であり,2時間も開大が停止した場合には分娩停止とされる。 原告Bにつき,4月20日午前9時30分から午後1時45分までの子宮口開大度についての記録がないために,子宮口開大4cmでの停止の始期を正確には判定し難いが,午後3時には,分娩遷延ないし分娩停止の状態にあった。また,午後5時には,明らかに分娩停止の 分までの子宮口開大度についての記録がないために,子宮口開大4cmでの停止の始期を正確には判定し難いが,午後3時には,分娩遷延ないし分娩停止の状態にあった。また,午後5時には,明らかに分娩停止の状態にあった。 c 原因が判明しない分娩遷延ないし停止の事態にあっては,更なる分娩の長期化を予想しなければならない。 d 4月20日午後3時ころには(5時ころには更に),原告Bは疲労の程度が甚だしく,娩出力に欠ける状態であった。  教科書的な単独の指標に着目するだけでなく,本件のごとく様々な要因(分娩遷延,頻脈の継続,基線細変動の減少,一過性頻脈の消失,一過性徐脈の出現,前期破水,産婦の疲労等)が複合している場合には総合的な判断による方針の決定が必要となる。 ウ注意義務違反の事実被告病院の担当医師は,4月20日午後3時以後,また,同日午後5時以後も,急遂分娩に方針を転換することなく,漫然と待機方針を維持して,- 8 -同月21日午前2時32分まで分娩期間を長期化せしめ,その間,胎児の低酸素状態を継続させた。 エ被告の主張に対する反論 被告は,帝王切開の適応となる症例を限定して列挙するが,そのようなマニュアル的な思考は臨床には馴染まない。 本件のように,胎児の低酸素状態が長時間継続していることが明らかで,更に分娩が遷延ないし停止して,漫然と放置した場合には,分娩の進行を期待することができず,その結果,胎児の低酸素症が不可逆的な事態にまで進行するおそれがあるときには,急遂分娩方針に変更し,まず分娩誘発して,効果がなければ,最も確実な方法として,その時点で,直ちに帝王切開を行うことが担当医師の注意義務となる。 本件において,被告病院の担当医師は,判断の適切を欠き,漫然と待機的に分娩の進行を放置したことによって,胎児の低酸素 な方法として,その時点で,直ちに帝王切開を行うことが担当医師の注意義務となる。 本件において,被告病院の担当医師は,判断の適切を欠き,漫然と待機的に分娩の進行を放置したことによって,胎児の低酸素状態を継続し進行させて,低酸素性虚血性脳症から脳性麻痺に至らせたものである。  被告は,基線細変動の減少が後に復活しているなど,分娩監視記録の指標が一時悪化しても待機することによって改善すれば問題ないと主張する。 しかし,分娩監視記録上の指標の悪化が一時的な原因によるものであると特定されない限り,指標悪化の回復は,原因症状の回復を意味するものではないから,再度の更に重篤な指標の悪化と症状悪化に至ることを予見して対処するのが臨床の常識である。 (被告の主張)ア原告らが主張する注意義務の存在を基礎付ける事実には誤りがあること本件脳性麻痺の原因は不明である。事後的に評価しても,胎児が低酸素状態にあったことを積極的に示す所見は存在しない。non-reassuringfetalstatus(心配ないとはいえない状態)と- 9 -は,文字どおり,胎児が低酸素状態であることを積極的に示す所見ではない。 原告らの主張する帝王切開の準備をしつつ,陣痛促進剤を投与することによって陣痛の誘発を行うという注意義務の内容は,分娩遷延を前提としたものであり,低酸素状態にあることを前提とした場合には成り立たない。 原告らにおいて,このような注意義務を想定すること自体,同時点において胎児が低酸素状態になかったことを意味するものである。 また,本件で分娩遷延はなく,この点からも,待機的な自然分娩を選択したことに不適切な点はない。 イ被告病院の担当医師に注意義務違反はないこと 胎児の状態についてa 胎児に明らかな低酸素状態の所見は認められない。 く,この点からも,待機的な自然分娩を選択したことに不適切な点はない。 イ被告病院の担当医師に注意義務違反はないこと 胎児の状態についてa 胎児に明らかな低酸素状態の所見は認められない。少なくとも4月20日午後3時の時点において,直ちに娩出しなければ胎児に低酸素状態の継続による脳への侵襲に由来する不可逆的な障害が発生する状態であったとはいえない。 b 原告らが,遅くとも4月20日午前10時30分ころないし10時40分ころ以降,胎児が低酸素状態となったとしつつも,陣痛促進剤の投与を義務とすること自体,矛盾した主張である。低酸素状態にある胎児に対して,子宮収縮を強めることとなる陣痛促進剤を投与した場合には,子宮収縮によって胎児の状態が更に悪化することとなるのであり,原告の主張には明らかな矛盾がある。  4月20日の分娩監視記録の所見についてa 基線細変動について本件では長時間にわたって基線細変動の減少が認められた事実はない。4月20日午後2時ころから午後3時18分までの間,基線細変動は6bpm以上みられており,正常である。 - 10 -b 一過性頻脈について一過性頻脈は主に胎動に伴って起きるとされていることから,一過性頻脈があれば,胎児はアシドーシスではないと評価される。このように,一過性頻脈は胎児が低酸素状態でないことを積極的に示唆するものである。逆に一過性頻脈がないことから低酸素状態であると評価することはできない。 なお,本件では,4月20日午後7時50分ころ,午後8時20分ころ,午後10時32分ころに一過性頻脈がみられている。この間に遅発一過性徐脈もない。 c 持続性頻脈がないこと本件で問題となっている4月20日午後1時24分から午後3時18分までの間,胎児心拍数基線はおおむね160bpmであり 脈がみられている。この間に遅発一過性徐脈もない。 c 持続性頻脈がないこと本件で問題となっている4月20日午後1時24分から午後3時18分までの間,胎児心拍数基線はおおむね160bpmであり,持続性頻脈はみられていない。その後も,胎児心拍数基線が160bpmを著しく超える状態が継続していたことはない。 d 一過性徐脈について本件では明らかな低酸素状態を疑わせる所見は存在しない。4月20日午後2時35分ころに変動一過性徐脈がみられたものの,回復も良好である。また,同日午後3時ころまでの間,そのほかに一過性徐脈はみられていない。上記変動一過性徐脈は臍帯因子によるものと評価される。  分娩の遷延は認められないことa 本件の経過原告Bに有効陣痛(分娩につながる陣痛)がみられ,分娩開始したのは4月20日午後1時24分である。その後の経過は,以下のとおりである。 午後1時45分子宮口開大度4cm,展退度70%,子宮収縮- 11 -まあまあ午後3時40分子宮口開大度4cm,展退度60%,メトロ半分脱出午後5時50分 4~5分間歇,少しずつ強くはなっている午後11時30分子宮口開大度4cm,児頭位置-3,展退度60%,メトロ脱出,1~2分で陣痛+,震えがきてしまう午前1時40分子宮口全開大b 分娩遷延ではないこと分娩遷延は,分娩開始から初産婦の場合は30時間,経産婦の場合は15時間経過しても児娩出に至らない場合のことをいい(甲B9[277],10[152],13[484]),本件が分娩遷延でないことは明らかである。 c 分娩が進行していること本件では,原告Bに対するメトロ挿入後,4月20日午後3時40分にメトロが半分脱出し(乙A2[25]),同日午後11時30分にはメトロが脱出し ことは明らかである。 c 分娩が進行していること本件では,原告Bに対するメトロ挿入後,4月20日午後3時40分にメトロが半分脱出し(乙A2[25]),同日午後11時30分にはメトロが脱出している(乙A2[26])のであって,分娩が進行していることは明らかである。 ウ原告らの主張に対する反論胎児の状態として,急速遂娩が不要であるのであれば,帝王切開を選択すべき義務は生じないし,急速遂娩が必要であれば,陣痛促進剤の有無にかかわらず,帝王切開を実施することとなるのであり,陣痛促進剤を投与すべき義務も生じない。 本件では,分娩遷延の事実はないが,この点を措いたとしても,原告らの主張は,分娩の進行が遅い場面で陣痛促進剤を用いることも選択肢の一つであるという一般論を法的注意義務としている点,これを胎児の状態悪- 12 -化と結びつけている点で根本的に誤っている。  争点(原告Aの出生後,直ちに適切な酸素供給を主眼とする新生児医療を行うべきであったにもかかわらずこれを怠った注意義務違反の有無)について(原告らの主張)ア注意義務の内容 被告病院の担当医師は,出生直後の原告Aに対し,産科を引き継いで新生児科ないし小児科において,直ちに専門的な新生児管理をすべきであり,適切な酸素供給を主眼とする新生児医療をすべき注意義務があった。  具体的には,以下の5点について被告病院の担当医師に注意義務違反がある。 a 呼吸管理気管挿管による人工換気を施行し,適切な血中酸素,炭酸ガス濃度を維持すべき注意義務違反b 血液のアシドーシス補正メイロン(炭酸水素ナトリウム)の投与などによるアシドーシスを改善すべき注意義務違反c 痙攣の治療適切な時期に適量のフェノバールを投与して痙攣治療を行うべき注意義務違反 シドーシス補正メイロン(炭酸水素ナトリウム)の投与などによるアシドーシスを改善すべき注意義務違反c 痙攣の治療適切な時期に適量のフェノバールを投与して痙攣治療を行うべき注意義務違反d 脳保護・脳蘇生脳保護薬の投与によって脳血液の循環を確保すべき注意義務違反e 体温管理インファントラジアントウォーマーの温度調節やプラスチックラップで体表を覆うなどの操作によって低体温を改善すべき注意義務違反- 13 -イ注意義務の存在を基礎付ける事実 4月21日午前2時32分の原告Aの出生時には分娩監視記録上から胎児仮死が明らかであり,原告Aが出生後には無呼吸や痙攣を繰り返す重篤な仮死新生児であることが明らかであった。  原告Aの出生後最初の静脈血血液ガス分析(4月21日午前3時29分,出生後約1時間)の記録は以下のとおりであり,明らかな低酸素・高二酸化炭素・アシドーシス亢進の症状であって,蘇生措置を必要とする状態である。 pH(酸・塩基度)7.117(標準7.3~7.4)pCO2(二酸化炭素分圧)50.9mmHg(標準33~36)ABE(過剰塩基・代謝性アシドーシスの指標)-14.0mmoℓ/ℓ(標準0) 原告Aには,出生直後から,呼吸障害(鼻翼呼吸,陥没呼吸,多呼吸(1分間に60回以上)),四肢冷感(体温35.2℃),筋緊張低下があった。 また,痙攣や無呼吸発作(20秒以上の呼吸停止)が繰り返され,その都度動脈血酸素飽和度が低下してチアノーゼが出現する状態であった。 ウ注意義務違反の事実 原告Aの出生後に直ちに必要であった専門医による蘇生措置は行われなかった。  アの5点の具体的な注意義務違反の態様は,次のとおりである。 a 呼吸管理呼吸障害や無呼吸発作に直ちに気管挿管が必要と の出生後に直ちに必要であった専門医による蘇生措置は行われなかった。  アの5点の具体的な注意義務違反の態様は,次のとおりである。 a 呼吸管理呼吸障害や無呼吸発作に直ちに気管挿管が必要となるものではないが,呼吸障害や無呼吸発作には直ちにバッグ・マスクを用いた人工呼吸による酸素投与を開始すべきものとされる。通例は,バッグ・マス- 14 -クを用いた人工呼吸による酸素投与で呼吸障害や無呼吸発作は改善をみるが,本件のように長時間呼吸状態の改善をみることなく,呼吸障害や無呼吸発作を繰り返す症例では,気管挿管による呼吸管理が必要であるところ,その実行はなかった。 なお,新生児仮死や低酸素性虚血性脳症(HIE)の症状把握と治療方針確定のためには,動脈血の採血とガス分析を実施すべきであり,静脈血の採血とガス分析の検査の有効性は動脈血に比べてはるかに劣る。本件において,臍帯血の保存もなく,動脈血の採血もされなかったことは,被告病院の担当医師の注意義務違反と指摘せざるを得ない。 b 血液のアシドーシス補正メイロンの投与などによるアシドーシスの改善はされていない。 c 痙攣の治療フェノバールの投与はされたが,時期が遅れ,量も過少である。 d 脳保護・脳蘇生脳血液の循環を確保すべき脳保護薬の投与はされなかった。 e 体温管理インファントラジアントウォーマーの温度調節やプラスチックラップで体表を覆うなどの操作によって低体温を改善すべき注意は払われなかった。 (被告の主張)ア被告病院の小児科医師に注意義務違反はないこと 本件では,原告Aに明らかな低酸素状態を示す所見は存在していない。 また,原告Aは,4月21日午前2時32分,新生児仮死の状態で出生したが,被告病院の産婦人科医師による速やかな蘇生措置により,2分後に では,原告Aに明らかな低酸素状態を示す所見は存在していない。 また,原告Aは,4月21日午前2時32分,新生児仮死の状態で出生したが,被告病院の産婦人科医師による速やかな蘇生措置により,2分後には自発呼吸が確認され,4分後のアプガースコアは,8点にまで回復している。その後,駆け付けた小児科医師による治療も開始されて- 15 -おり,被告病院における新生児仮死の対処方法に不適切な点はない。  被告病院では,小児科の当直体制が整備されておらず,深夜帯に小児科医師の立会いは不可能である。一般的にも,そのような体制を組まねばならない義務はない。 イ被告病院の新生児仮死の対処方法に不適切な点がないこと 呼吸管理について本件では,酸素飽和度は持続的に86ないし90%を下回る状態ではないこと,無呼吸発作が頻発する状態でもないことから,原告らが主張する4月21日午前6時の時点において気管挿管をした上での人工呼吸管理を行うべき義務はない。このことは,後医において挿管の上での人工呼吸管理をしていないことからも明らかである。  アシドーシス補正について新生児仮死に伴う二次性代謝性アシドーシスの補正に炭酸水素ナトリウムを用いることについては,慎重な判断が必要である。また,実際にも,pH7.117→pH7.216→pH7.258とアシドーシスは改善してきており,このような状況で炭酸水素ナトリウムを用いるべき義務はない。  痙攣の治療について本件では,4月21日午前8時45分までの間,痙攣発作と疑われる所見はない。また,同時点では,微細発作が疑われたものの,発作は短時間で自然に止まっており,その後,フェノバール坐薬投与までの間,痙攣発作はみられていない(乙A5[23])。そして,本件では同日午前8時45分ころ微細発作の疑いがあっ 作が疑われたものの,発作は短時間で自然に止まっており,その後,フェノバール坐薬投与までの間,痙攣発作はみられていない(乙A5[23])。そして,本件では同日午前8時45分ころ微細発作の疑いがあったことからフェノバール坐薬を投与しており,何ら遅滞はない。また,フェノバール坐薬50mgは,適切な量である(甲B15[266]等)。  脳保護・脳蘇生について- 16 -原告らが主張するグリセオールの投与は,転院後においてもされていない(甲A3)。所見としても大泉門の膨隆も認められておらず,経過中に嘔吐などの所見もない。また,グリセオールは脳浮腫の治療に使用されるものであって,脳浮腫の予防のために投与するものではない。これらのことからすれば,グリセオールを用いるべき義務などない。  体温管理について成熟児の場合の保育器内温度は,一般的には,33.1℃±0.9℃が至適温度環境とされている(甲B16[227])。本件では,保育器内の温度は33℃,湿度は60%であり(乙A5[23]),至適温度環境であったといえる。 また,クベース収容20分後の4月21日午前3時10分には,原告Aの体表温は35.2℃であったが,同日午前4時には35.7℃,午前6時30分には36.7℃となっており(乙A5[22,23]),原告Aの体温が改善していることは明らかである。  争点(各注意義務違反と結果(原告Aの後遺障害)との間の因果関係の有無)について(原告らの主張)ア前記の注意義務違反と結果との間に因果関係があること 原告Aが胎児期の低酸素状態に起因して仮死新生児として出生したことは,以下の事実によって明らかである。 a 原告Aはアプガースコアが2点の重度仮死新生児として出生していること。 b 胎児期の分娩監視記録上,頻脈の継続 状態に起因して仮死新生児として出生したことは,以下の事実によって明らかである。 a 原告Aはアプガースコアが2点の重度仮死新生児として出生していること。 b 胎児期の分娩監視記録上,頻脈の継続,基線細変動の減少,一過性頻脈の消失,一過性徐脈の出現から,胎児の低酸素症状が認められ,しかも,分娩遷延による脳への酸素の供給不足が長期間継続したことが認められること。 - 17 -c 原告Aの臍帯血の保存はなく,動脈血の検査もされていないが,出生直後の静脈血血液ガス分析(4月21日午前3時29分,出生後約1時間)がされており,その検査記録は,下記のとおりである。 pH(酸・塩基度) 7.117pCO2(二酸化炭素分圧) 50.9mmHgABE(塩基過剰・代謝性アシドーシスの指標) -14.0mmoℓ/ℓこれは,胎児期の値に準ずるものと考えられ,胎児期に低酸素状態が長期にわたって継続したことを物語っている。 d 新生児期の無呼吸,痙攣,低体温の発作等の症状も,胎児期の低酸素状態に起因する低酸素性虚血性脳症の症状に符合する。  G医療センターのCT画像に基づく診断についてa 新生児低酸素性虚血性脳症(HIE)の最も正確な診断は頭部CT画像の読影によってされるところ,原告Aが出生した日である4月21日の午後4時51分,搬送先のG医療センターにおいて頭部CT撮影がされた(甲A6)。同画像は,同センターの放射線科医師によって読影され,画像診断報告書が作成されている。その内容は,「後頭幹裂隔に高吸収域が見られ,硬膜下出血があるようです。また,両側後頭頭頂部の脳白質及び皮質が全体的に低吸収域を示しており,CT上は虚血性変化や浮腫による所見と考えられます。」というものである(甲A3[35])。このように読影される上記CT画像は,新生 た,両側後頭頭頂部の脳白質及び皮質が全体的に低吸収域を示しており,CT上は虚血性変化や浮腫による所見と考えられます。」というものである(甲A3[35])。このように読影される上記CT画像は,新生児低酸素性虚血性脳症の典型像である。 b さらに,原告Aの日令10に当たる4月30日に2回目の頭部CT画像撮影が行われている(甲A7)。 そして,放射線科医師による画像診断報告書に記載のとおり,「前回CT同様両側後頭頭頂部の白質及び皮質はびまん性に低吸収域を示- 18 -しており,また左の側脳室後角がやや拡大してきています。左頭頂葉の脳回にそって,高吸収域が認められ脳細胞壊死や脳出血が起きていることが予想されます。これら一連の変化は,虚血性低酸素性脳症による所見と考えられます。」と読影されているものである(甲A3[37])。 c 以上の各CT画像と専門医の読影報告における診断のとおり,原告Aは,後医において虚血性低酸素性脳症と診断されていたものである。  原告Aの後遺障害は,周産期における低酸素症状に由来する新生児低酸素性虚血性脳症を原因とした脳性麻痺の症状と符合し,被告病院においても後医においてもその旨の診断を受けている。  他原因として検討に値する別の機序がないこと他原因として一応考え得るものに,母体の妊娠時の貧血,甲状腺機能異常,幼少時の心疾患の3点があるが,そのいずれも,検査値が基準値外延の境界付近となっている微妙なものであり,しかも,本件は,被告病院の判断で正常な妊娠に問題なしとされた症状である。原告Aの後遺障害との関連性は,現実的には全く考え難い。 そのほかに,原因として考慮の対象とすべきものはない。 イ前記の注意義務違反と結果との間に因果関係があること 原告らの基本的な主張は,原告Aの後遺障害が,周産 は,現実的には全く考え難い。 そのほかに,原因として考慮の対象とすべきものはない。 イ前記の注意義務違反と結果との間に因果関係があること 原告らの基本的な主張は,原告Aの後遺障害が,周産期における低酸素症状に由来する新生児低酸素性虚血性脳症を原因とした脳性麻痺であるということであって,周産期とは,胎児期と新生児期(妊娠後期から新生児早期まで)を包括した概念である。 原告Aの後遺障害は,胎児期と出生直後の新生児期と,分娩時に直ちには途切れることのない両時期に跨って継続した胎児への酸素欠乏状態が,胎児の脳に低酸素性・虚血性の障害をもたらしたものである。  その後遺障害への起因性を,胎児期と新生児期とのどちらであるか,- 19 -あるいはその起因性の割合を特定することは不可能であり,かつ,いずれも被告の責任である以上は無意味なものでもある。 したがって,前記の注意義務違反と結果との間に因果関係が存在することの主張は,前記の注意義務違反の場合と変わらないことになる。  原告Aは,胎児期に低酸素状態の継続によって脳に不可逆的な侵襲を受け,出生時には脳性麻痺の後遺障害を生ずべき症状にあった。 ただし,被告病院の新生児治療における前記の注意義務違反は,原告Aの後遺障害の程度を増悪させている。 前記各注意義務違反のうち,どの注意義務違反が,後遺障害増悪にどの程度寄与しているかを特定することは不可能を強いることでもあり,無意味なことでもある。 (被告の主張)ア前記の注意義務違反と結果との間に因果関係がないこと原告Aの脳性麻痺は,周産期における低酸素症状に由来する新生児低酸素性虚血性脳症が原因とは考えにくいこと 脳性麻痺の原因について脳性麻痺が発症したとしても,その原因が低酸素性虚血性脳症であるなどと単純 麻痺は,周産期における低酸素症状に由来する新生児低酸素性虚血性脳症が原因とは考えにくいこと 脳性麻痺の原因について脳性麻痺が発症したとしても,その原因が低酸素性虚血性脳症であるなどと単純にとらえることはできない。 脳性麻痺の原因のうち,新生児脳症に寄与するような受胎前及び分娩前の要因を持たずに分娩中の低酸素症に起因するものは,わずか約4%のみであり,周産期における低酸素症状に由来する新生児低酸素性虚血性脳症が原因となることは極めて少ない。  G医療センターの診断についてG医療センターからの診療情報提供書においては,「CT上小さな硬膜下出血らしきものとやや白質が低吸収(?です)以外の所見なく,日令9の頭部CTでも同様の所見でした。」とあり(乙A4[9]),低- 20 -酸素性虚血性脳症と診断したとは記載されていない。 また,後医の診断において,低酸素性虚血性脳症が被告病院での分娩管理時の低酸素症状に基づくとする根拠もない。  胎児仮死の兆候がないこと分娩監視記録上,低酸素血症あるいは高炭酸ガス血症の存在を示すほどの徴候(基線細変動の消失を伴う遅発一過性徐脈,変動一過性徐脈の反復,持続性徐脈など)は存在していない。 なお,出生後のアプガースコアは,5分以内に8点となっており,出生後の血液検査上も軽度の肝機能障害のみであり,多臓器不全の存在がないことからも,低酸素性虚血性脳症が周産期における低酸素症状に由来するものであることは否定的である。  他の考え得る原因等についてa 母体の甲状腺機能異常について原告Bは,甲状腺機能低下症(FT3(遊離トリヨードサイロニン)及びFT4(遊離サイロキシン)低値)を合併した妊婦であって,これによる胎児中枢神経系への影響も考えられる。 すなわち,T3(トリヨードサイロニ 甲状腺機能低下症(FT3(遊離トリヨードサイロニン)及びFT4(遊離サイロキシン)低値)を合併した妊婦であって,これによる胎児中枢神経系への影響も考えられる。 すなわち,T3(トリヨードサイロニン)及びT4(サイロキシン)は,母体から胎児に移行することが判明しており,胎児神経発達の第1のピークである妊娠第2期には母体由来の甲状腺ホルモンが作用し,第2の発達時期である妊娠第3期には胎児由来の甲状腺ホルモンが作用している。そのため,母体の甲状腺疾患は新生児の神経学的発達異常のリスク因子とされている。 しかも,本件では,出生直後のアプガースコアは,心拍のみ正常の2点であり,心拍以外に強い抑制が認められており,中枢神経の異常が存在することをうかがわせる。 このように,本件脳障害の発症には,甲状腺機能低下症に伴う胎児- 21 -中枢神経の異常によって,低酸素症に対する中枢神経系の耐性が障害された状態であったことがベースにあった可能性も残る。 b その他の原因について本件では,胎児の先天異常の有無,子宮内障害,新生児障害について精査されていないため,その他の原因として考えられるものは不明である。 なお,胎児心拍数パターンをもって,その後の脳性麻痺の発生を予知する場合には,99%の偽陽性率があるとの報告もある。 しかも,このような分娩中の低酸素症に対する不正確な指標(偽陽性率の高い指標・分娩中にリスクがあったと評価されやすく,リスク因子がなかったとは評価されにくい指標)を用いた場合ですら,新生児脳症全例中,69%は分娩前の危険要因のみを持ち,25%は分娩前と分娩中の危険要因を持ち,4%は新生児脳症に寄与するような受胎前及び分娩前の要因を持たずに分娩中の低酸素症の証拠のみを持ち,2%は発見できるリスク因子を何ら発見できなかったと報告 ,25%は分娩前と分娩中の危険要因を持ち,4%は新生児脳症に寄与するような受胎前及び分娩前の要因を持たずに分娩中の低酸素症の証拠のみを持ち,2%は発見できるリスク因子を何ら発見できなかったと報告されている。 このように,新生児脳症の多くは,分娩前の事象に二次的に発生したものであるし,全く原因不明のものもある。 原告らは,他の原因について,検討に値するほどの可能性ある別異の機序は見当たらないなどとしているが,これは,上記医学的知見に反するものである。 イ前記の注意義務違反と結果との間に因果関係がないこと本件においては,①SpO2は保たれており,②循環不全の所見もなく,③アシドーシスは改善傾向であり,④頭蓋内圧が亢進するほどの脳浮腫もない上に,⑤4月21日午前9時前に起きた痙攣発作時以外に持続的な低体温もなく,前記⑵の注意義務違反と原告Aの後遺障害との間に因果関係- 22 -がないことは明らかである。 なお,原告らは,原告らが主張する五つの各注意義務違反の,原告Aの後遺障害への寄与の割合を特定することは困難であり無意味でもあると主張しているが,このことは,端的に,小児科領域の各注意義務違反と結果との間の因果関係が不明であることを自認するものである。原告らの主張は,各注意義務違反すべてが肯定された場合にのみ,因果関係が認められるという主張にすぎず,各注意義務違反と後遺障害との間の因果関係は,むしろ否定されることとなる。  争点(損害の有無及びその額)について(原告らの主張)ア原告Aの損害 介護費用 7000万円原告Aは,独力で日常生活を営むことは不可能であり,終生にわたり第三者の付添介護を要する。 a 出生から9歳の誕生日までの介護費用額在宅介護費用の1日当たりの適正金額は,5000円(年間18 原告Aは,独力で日常生活を営むことは不可能であり,終生にわたり第三者の付添介護を要する。 a 出生から9歳の誕生日までの介護費用額在宅介護費用の1日当たりの適正金額は,5000円(年間182万円)。 182万円(年間在宅介護費用)×9(年齢)≒1600万円b 9歳の誕生日から平均余命を全うするまでの介護費用額原告Aの余命76年に対応する年利5%の中間利息を,ライプニッツ方式で計算して控除して,現価を次のとおり算出する。 182万円×31.9509≒5800万円c 上記a及びbの合計額は,7000万円を下回らない。  後遺障害による逸失利益 5700万円原告Aは,本件医療事故がなければ,その平均余命の範囲内で9歳の誕生日から9年後の満18歳から,58年後の満67歳までの49年間- 23 -は就労可能であった。原告Aは,脳性麻痺による四肢体幹機能障害のために労働能力を100%喪失し,その回復の見込みもない。 原告Aの逸失利益の現価を,年利5%の中間利息をライプニッツ方式で計算して控除して算出すると,次のとおり5700万円を下回らない。 494万円(平均年収)×(18.820(58年に対応する係数)-7.108(9年に対応する係数))≒5700万円 慰謝料 2000万円原告Aは,その後遺障害により,終生を付添い介助付きで生活することを余儀なくされ,多大な精神的苦痛を被った。かかる精神的苦痛を慰謝するための相当額は2000万円を下回らない。  原告Aの損害の合計額と内金請求原告Aの損害の合計額は,1億4700万円を超えるが,この内金1億円を請求する。  弁護士費用 1000万円原告らは,本件損害賠償請求訴訟を提起するに当たり,原告ら訴訟代理人への依頼を余儀なくされたのであり,原告らが負担する弁 万円を超えるが,この内金1億円を請求する。  弁護士費用 1000万円原告らは,本件損害賠償請求訴訟を提起するに当たり,原告ら訴訟代理人への依頼を余儀なくされたのであり,原告らが負担する弁護士費用のうち,請求額の10%相当の金額は被告の行為と相当因果関係を有する損害である。 イ原告Bの損害 原告Bの固有の慰謝料 500万円本件は,原告Bが28歳になって初めての妊娠・出産の際に生じた事故であり,出産直前まで順調に推移していたにもかかわらず,被告病院の担当医師らが母児の監視を懈怠し,医療実務上当然になすべき基本的な処置を怠ったことにより生じたものである。特に,原告Bにおいては,大きな肉体的ダメージを受けた上,出産した児が重度の仮死状態であったことで,精神的ショックも大きい。また,原告Bは原告Aの母として,- 24 -被告病院の重大な過失を原因とする原告Aの苦痛を自らの精神的苦痛としている。この精神的苦痛を慰謝するための相当額は500万円を下回らない。  弁護士費用 50万円(被告の主張)争う。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる(末尾に認定の根拠となった証拠等を示す。[]内の数字は,当該証拠の関係頁である。)。  原告Bが被告病院へ入院する前の診療経過原告Bは,平成9年8月25日,月経がなく,軽い腹痛と微熱があったことから,D病院を外来受診し,超音波検査により子宮内妊娠が確認できなかったため,子宮外妊娠が疑われた。しかし,原告Bは,同年9月1日,同病院を受診し,超音波検査を受けたところ,子宮内妊娠が確認され,子宮外妊娠の可能性は否定された。これは原告Bの初めての妊娠であった。 原告Bは,同月3日,少量の茶色帯下,下腹部痛及び吐き気があったこと 院を受診し,超音波検査を受けたところ,子宮内妊娠が確認され,子宮外妊娠の可能性は否定された。これは原告Bの初めての妊娠であった。 原告Bは,同月3日,少量の茶色帯下,下腹部痛及び吐き気があったことから,原告Bの実家に近いE医院を受診したところ,切迫流産の兆候があったため,HCG(流産予防薬)の筋肉内注射を受けるとともに,漢方薬の処方を受けた。また,原告Bは,同月4日に性器出血があったことから,同月5日,同病院を受診し,HCGの筋肉内注射を受け,同月12日にも通院し,HCGの筋肉内注射を受けるとともに,漢方薬の処方を受けた。 原告Bは,同月24日,下腹部痛等を主訴として,被告病院産婦人科を外来受診し,超音波検査を受け,妊娠が再確認され,2週間後に超音波検査をし分娩予定日決定後初期検査をすることとされ,同年10月7日の外来再診時に,超音波検査により胎児心拍動が確認され,分娩予定日は平成10年4- 25 -月28日であると伝えられ,その後も被告病院産婦人科に定期的な外来通院を継続し,平成9年11月7日には,便秘があったことから,プルゼニド(下剤)が処方された。また,原告Bは,同年12月19日の外来受診において,胸が息苦しいのが2,3日あり,幼少時に心臓の異常を指摘されたことがある旨訴えたことから,被告病院内科を受診するよう指示され,同科を受診したところ,1月9日ころ,収縮期心雑音が聴取されるが,超音波検査上は明らかなシャント疾患がなく,左右各室の大きさも正常範囲であり,壁の動きも良好で,弁疾患も認められないため,特に心疾患を考慮しなくてもよいと診断された。 原告Bは,同月28日,被告病院内科において心房中隔欠損又は心室中隔欠損を考慮すべきと診断され,念のため甲状腺ホルモン検査を受けたところ,同月30日にその結果が報告され,TSH(甲 診断された。 原告Bは,同月28日,被告病院内科において心房中隔欠損又は心室中隔欠損を考慮すべきと診断され,念のため甲状腺ホルモン検査を受けたところ,同月30日にその結果が報告され,TSH(甲状腺刺激ホルモン)は0.47μU/mℓ(以下,単位は省略する。基準値は0.34~3.5である。),FT3(遊離トリヨードサイロニン)は2.13pg/mℓ(以下,単位は省略する。基準値は2.47~4.34である。),FT4(遊離サイロキシン)は0.81ng/dℓ(以下,単位は省略する。基準値は0.97~1.79である。)であった。また,原告Bは,2月4日にも甲状腺ホルモン検査を受けたところ,同月6日にその結果が報告され,TSHは0.36,FT3は1.78,FT4は0.80であった。原告Bは,同月4日には,血液検査をも受けたところ,ヘモグロビンは9.3g/dℓ(以下,単位は省略する。女性の基準値は11~15である。)であったことから,同月19日,フェロミア(造血剤)及びシナール(ビタミン剤)が処方された。さらに,3月4日,原告Bに甲状腺機能の低下が疑われたことから,被告病院内科において経過観察がされることになった。同月11日にも,フェロミア及びシナールが処方され,同月18日には被告病院内科において,甲状腺機能の低下に対する治療・投薬の必要はないと診断された。4月1日の血液検- 26 -査の結果では,原告Bのヘモグロビンは11であった。 原告Bは,同月8日,被告病院産婦人科において,子宮底が33cm,腹囲が88cm,児頭大横径が92mm,躯幹前後径が98mm,躯幹横径が96mm,大腿骨長が68mm,胎児の推定体重が3021g,胎盤前壁で,グレードがⅡ~Ⅲ,羊水深度が9.8cm,ノンストレステストの所見はリアクティブ(reactive,一過性頻 8mm,躯幹横径が96mm,大腿骨長が68mm,胎児の推定体重が3021g,胎盤前壁で,グレードがⅡ~Ⅲ,羊水深度が9.8cm,ノンストレステストの所見はリアクティブ(reactive,一過性頻脈が出現すること)で,ビショップスコアは0点であり,胎児が骨盤内にはまっておらず,ザイツ法+(触診により児頭の前面が恥骨結合前面より高いか否かをみる手法であり,+であれば,児頭骨盤不均衡の疑いがある。)であり,胎児はやや大きめであることが確認された。原告Bは,同月15日にも被告病院産婦人科に通院した。 (甲A1,2,8,乙A1[1,2,4,8,9,20ないし31],4[3],7,証人F,原告B) 原告Bが被告病院へ入院した後の診療経過原告Bは,4月19日午前2時30分ころ,前期破水し,血性分泌物があったことから,同日午前3時30分ころ,被告病院産婦人科に入院することになり,感染症の予防のためユナシン(抗菌薬)が投与された。被告病院の助産師は,そのころの原告Bの状態について,子宮口開大度は1指(1,2cm),子宮頸管の展退度は40%と判断した。午前3時40分ころ,分娩監視装置が装着されたが,陣痛(子宮収縮)が弱く,有効陣痛とはいえない陣痛が間歇時間6~10分であり,分娩開始にはまだ時間がかかることが予想され,胎児心拍もリアクティブであったため,午前4時55分ころに分娩監視装置は外された。その後,H医師が午前10時ころ原告Bを診察したところ,子宮口の開大はなく,ビショップスコアは0点であり,陣痛は不規則で,出血及び羊水の流出がみられたが,羊水の混濁はなく,胎児の胎動もあり,陣痛発来を待つこととされた。そのころ,原告Bに対し,ユナシンが投与された。その後も,陣痛は不規則で,出血と羊水の流出が続いていたが,- 27 -午後6時ころには,原 濁はなく,胎児の胎動もあり,陣痛発来を待つこととされた。そのころ,原告Bに対し,ユナシンが投与された。その後も,陣痛は不規則で,出血と羊水の流出が続いていたが,- 27 -午後6時ころには,原告Bの出血及び羊水の流出が少なくなり,胎動は鈍い状態であった。午後6時55分ころ,原告Bに再び分娩監視装置が装着され,胎児心拍数は140~160bpmと正常範囲内で,リアクティブの所見であったことから,午後7時35分ころに分娩監視装置は外された。上記のいずれの分娩監視記録からも,心配ない胎児の状態(reassuringfetalstatus)である旨の所見が得られていた。 原告Bは,同月20日午前3時ころ,陣痛が不規則であり,ほとんど入眠できていた。午前6時ころ,陣痛は不規則だが強くはなってきており,胎動がない旨訴えたが,ドップラーによる胎児の心音は良好であり,羊水の流出及び血性の分泌物がみられた。F医師が午前9時30分ころに原告Bを診察したところ,子宮口開大度は2cm,展退度は40%,児頭の位置はステーション-3で,有効陣痛はまだみられなかった。また,血性分泌物があったため,ユナシン及びマイリス(子宮頸管熟化薬)が点滴投与され,胎盤早期剥離の可能性を考慮して,超音波検査がされたところ,胎盤は前壁にあり,エコーフリースペースはなく,常位胎盤早期剥離及び低置胎盤の所見はなかった。そこで,ネオメトロ100mℓを挿入し,胎盤早期剥離に注意し,ノンストレステストによる経過観察をし,徐脈が現れるようであれば,胎盤早期剥離の疑いにより帝王切開を行うことを念頭に置き,翌日にビショップスコアを計測し,その結果によっては陣痛誘発剤の使用や帝王切開を行うこととし,自然陣発を待つことになった。そして,原告Bに対し,陣痛がないようであれば,翌朝より陣痛の誘発 頭に置き,翌日にビショップスコアを計測し,その結果によっては陣痛誘発剤の使用や帝王切開を行うこととし,自然陣発を待つことになった。そして,原告Bに対し,陣痛がないようであれば,翌朝より陣痛の誘発を行い,それでも陣痛がないようであれば,帝王切開を予定する旨の説明がされた。 同日午前10時24分ころ,原告Bに分娩監視装置が装着され,午前11時33分ころに分娩監視装置は外された。原告Bに,午後1時ころ,マルチウスグートマン撮影が行われ,午後1時45分ころの診察の結果,子宮口開大度は4cm,展退度は70%で,血性羊水や羊水の流出量は減少しており,- 28 -マルチウスグートマン撮影等の結果では,やや不正軸進入があるものの,児頭骨盤不均衡はみられず,経膣分娩が可能であると判断された。また,午後1時24分ころ,原告Bに再び分娩監視装置が装着され,午後2時ころには有効陣痛がみられた。胎児心拍数基線は160bpmであり,基線細変動は,午後2時ころまで2~4bpmに減少していたが,その後は6bpm以上に回復したことから一過性の減少であると判断された。また,午後2時35分ころに一過性の徐脈がみられたが,それ以外には徐脈は発生していなかったため,臍帯因子性の変動一過性徐脈と判断され,午後3時18分ころに分娩監視装置が外された。 原告Bの午後3時40分ころの子宮口開大度は4cm,展退度は60%で,メトロが半分脱出していた。 同日午後4時30分ころ,原告Bの血性羊水は薄くなってきており,ドップラーによる胎児の心音の聴取も良好であった。午後4時51分ころ,原告Bに分娩監視装置が再度装着され,午後5時ころ,F医師が診察したところ,子宮収縮は5分間歇で,胎児心拍数基線は160bpm,基線細変動は2~10bpm程度と正常範囲からやや減少気味であったため,今後 Bに分娩監視装置が再度装着され,午後5時ころ,F医師が診察したところ,子宮収縮は5分間歇で,胎児心拍数基線は160bpm,基線細変動は2~10bpm程度と正常範囲からやや減少気味であったため,今後も徐脈が出現するようであれば帝王切開を考慮して経過観察を行うこととした。 午後5時45分ころ,夕食のため分娩監視が一時中断された。この時点の原告Bの陣痛間歇時間は4~5分で,陣痛は少しずつ強くなっており,発作時に力が入っている状態であった。午後7時40分ころ,原告Bに対する分娩監視が再開され,その際の陣痛間歇時間は4~5分と変わらず,胎児心拍数基線はおおむね160~165bpm,基線細変動は2~10bpmでやや減少気味であった。午後8時30分ころには,原告Bにユナシンが点滴投与された。他方,午後7時50分ころ,午後8時20分ころ,午後10時32分ころに一過性頻脈がみられており,この間に遅発一過性徐脈がないことから胎児の状態は経過観察可能であると判断された。 - 29 -午後11時30分ころには,子宮口開大度は4cm,展退度は60%,児頭の位置はステーション-3であったものの,メトロが脱出し,陣痛がかなり強くなってきており,陣痛周期も間歇時間1~2分と短くなり,震えがきてしまうという程になっていたが,怒責感はみられなかった。この時点では,メトロが脱出していることから,分娩は順調に進行していると判断された。 午後11時37分ころには,児頭の下降がよくないこともあり,原告Bにトイレに行くよう促し,分娩監視装置が一時停止されたが,同原告は,震えてしまい歩けないとのことであった。 原告Bは,同月21日午前0時10分ころ,トイレに行くことができない状態であったため,240ccの導尿がされ,その後に分娩監視装置が装着され,このときには,胎児心拍数基 歩けないとのことであった。 原告Bは,同月21日午前0時10分ころ,トイレに行くことができない状態であったため,240ccの導尿がされ,その後に分娩監視装置が装着され,このときには,胎児心拍数基線は160bpmと基線が減少し,基線細変動は正常範囲内となっていたことから,経過観察することとされた。午前1時40分ころ,子宮口が全開大し,分娩のために分娩台へと移動し,酸素投与が開始されたが,陣痛は微弱であった。そして,午前2時15分ころ,陣痛が微弱であり,児頭の下降がみられなかったことから,クリステレル圧出法が行われたものの,児頭の下降が十分でなかったため,分娩がほぼ停止していると判断され,午前2時25分ころから,ソフトカップによる吸引分娩が開始され,午前2時32分ころ,原告Aが出生した。原告Aの出生時体重は2714gで,臍帯巻絡が1回あり,啼泣・呼吸はなく,チアノーゼがあり,筋緊張はなく,出生から1分後のアプガースコアは,心拍があることのみによる2点であり,鼻腔・口腔からの吸引が行われ,ジャクソンリース(酸素マスク)による酸素投与が行われた。午前2時34分ころ,原告Aに刺激によるかすかな啼泣があり,自発呼吸が少ないながらもみられ,皮膚色が少し改善したため,出生から2分後のアプガースコアは,心拍数2点,呼吸1点,皮膚色1点の合計4点であった。午前2時36分ころには,原告Aに強い啼泣があり,全身の色が改善し,筋緊張が現れており,出生から4分- 30 -後のアプガースコアは,心拍数2点,呼吸2点,皮膚色1点,反射2点,筋緊張1点の合計8点であった。午後2時40分ころ,原告Bから胎盤の娩出があり,明らかな常位胎盤早期剥離の所見はなかったが,辺縁の一部にそれらしい部分がみられた。午前2時42分ころ,原告Aに刺激による啼泣があり,血性羊水が吸 。午後2時40分ころ,原告Bから胎盤の娩出があり,明らかな常位胎盤早期剥離の所見はなかったが,辺縁の一部にそれらしい部分がみられた。午前2時42分ころ,原告Aに刺激による啼泣があり,血性羊水が吸引された。そして,原告Aは,午前2時50分ころ,酸素流量1ℓ毎分のクベースに収容され,心拍数は160回/分(以下,単位は省略する。),呼吸数は66回/分(以下,単位は省略する。)であった。 その後,被告病院の当直看護師から診察を求める旨の連絡を受けた被告病院小児科のI医師が被告病院に到着し,午前3時ころに原告Aの診察をしたところ,原告Aの午前3時10分ころの体温は35.2℃,心拍数は150で,呼吸は努力性であり,陥没呼吸がみられたため,肩枕が入れられた。午前3時29分ころ,足底採血による原告Aに対する血液検査の結果,pH(酸・塩基度)は7.117,pCO(二酸化炭素分圧)は50.9mmHg(以下,単位は省略する。),pO2(酸素分圧)は40.9mmHg(以下,単位は省略する。),ABE(過剰塩基・代謝性アシドーシスの指標)は-14.0mmoℓ/ℓ(以下,単位は省略する。)であり,午前3時30分ころ,原告AのSpO2が80%台に低下し,全身の色が優れず,血糖値は69mg/dℓであった。そこで,I医師は,原告Aの循環動態の安定,低血糖の予防,投薬に備えての血管確保を目的として点滴の準備を指示し,これを受けて,輸液の準備,静脈確保,輸液の接続,点滴ルートの固定が行われた。 午前4時ころ,原告Aに対し,10%ブドウ糖の持続点滴の投与が開始され,この時点でクベースに流されている酸素は5ℓ/分で,体温は35.7℃,心拍数は160であり,ジャクソンリースにより酸素を口元に流したときのSpO2は100%であった。また,原告Aの胸部所見について,心雑音及 クベースに流されている酸素は5ℓ/分で,体温は35.7℃,心拍数は160であり,ジャクソンリースにより酸素を口元に流したときのSpO2は100%であった。また,原告Aの胸部所見について,心雑音及び肺ラ音はなく,腹部は柔軟で,肝臓は0.5cm,大泉門は0.5×- 31 -0.5cmであり,モロー反射(乳児にみられる正常反射の一つ)があったが,四肢の筋力は低下しており,刺激してもほとんど泣かない状態であった。 午前4時20分ころ,原告AのSpO2は86%に低下したが,午前4時30分ころにはクベース内の酸素濃度47%の状態でSpO2は90%であり,心拍数は155,時折無呼吸で,口唇の色が不良となっていた。午前4時55分ころに原告Aの胸部レントゲン写真が撮影され,午前5時ころ,クベース内の酸素濃度50%の状態でSpO2は97%,心拍数は152,呼吸数は102であった。午前5時7分ころの足底採血による原告Aの血液検査の結果,pHは7.216,pCO2は45.0,pO2は42.2,ABEは-9.9であった。午前5時55分ころ,原告Aに無呼吸発作があり,刺激してもすぐには回復せず,25秒間持続し,クベース内の酸素濃度54~55%の状態で発作時のSpO2は60~72%であったが,午前6時ころには,クベース内の酸素濃度56%の状態でSpO2は97~98%であり,抗生剤の点眼がされた。 同日午前6時20分ころの原告AのSpO2が96%であったことから,午前6時23分ころ,ジャクソンリースによる酸素投与が一時中止され,クベース内の酸素を6.5ℓ/分で流送し,酸素濃度50%を維持することとされた。午前6時30分ころの原告Aの体温は36.7℃,SpO2は96%で,クベース内の酸素濃度は36%であったが,SpO2が良好であったため,酸素流量を増加することな 素濃度50%を維持することとされた。午前6時30分ころの原告Aの体温は36.7℃,SpO2は96%で,クベース内の酸素濃度は36%であったが,SpO2が良好であったため,酸素流量を増加することなく,経過観察することとした。午前6時40分ころ,原告AのSpO2が88~89%に低下したが,四肢を時々動かしており,冷感はなく,発汗があり,活動性があり元気な状態と判断された。 午前7時9分ころの静脈採血による原告Aの血液検査の結果,pHは7.258,pCO2は44.9,pO2は37.2,ABEは-7.3であり,鼻翼呼吸及び陥凹呼吸は消失し,無呼吸発作もなく,少し四肢を動かすようになっており,採血時の啼泣はなかった。午前7時30分ころ,原告Aの採- 32 -血が行われるとともに,胃管が挿入されたが,体温は36.0℃で,四肢をたまに動かしており,クベース内の酸素濃度40%,酸素6ℓ/時流送の状態でSpO2は98%であり,クベース内の温度は33℃,湿度は60%であった。原告Aは,午前8時45分ころ,手足がバタバタして硬直気味で,ボートこぎ様であり,目は凝視し,呼吸はあるものの,舌を出して口からあぶくや涎が出ており,冷汗がある状態であった。原告Aの心拍数は150~160,SpO2は80%台から70%台に低下し,チアノーゼが出現してきており,痙攣があることが疑われた。そのため,原告Aに対し酸素フラッシュが行われたところ,午前8時50分ころにSpO2は94%に回復し,心拍数は148,呼吸数は78となった。午前9時30分ころには,微細発作が生じた可能性があると判断され,フェノバール坐薬(抗痙攣薬)50mgが挿肛された。午前9時55分ころの原告Aの体温は34.9℃で,四肢冷感があり,浅表性呼吸がみられ,午前10時5分ころには,やや四肢が硬直し,冷汗があ 判断され,フェノバール坐薬(抗痙攣薬)50mgが挿肛された。午前9時55分ころの原告Aの体温は34.9℃で,四肢冷感があり,浅表性呼吸がみられ,午前10時5分ころには,やや四肢が硬直し,冷汗があり,ややチアノーゼが出現しており,痙攣があることが疑われた。SpO2は70~80%台,心拍数は130~140台であったが,酸素投与によりSpO2は93%に回復し,呼吸数は70~80であった。 同日午前11時50分ころ,原告Aの頭部CTが撮影され,クモ膜下出血を疑う所見が認められ,新生児の専門病院における検査・診断が必要であるとして,転院が決定された。午後0時10分ころには,原告Aの無呼吸が疑われ,チアノーゼが出現し,SpO2は70~80%,心拍数は140台であったが,酸素フラッシュによりSpO2は90%台に回復した。午後0時20分ころ,被告病院のJ医師から原告Aの父親に対し,CT検査の結果,クモ膜下出血が見付かり,そのために痙攣等が起きていると思われ,現在のところ全身状態はまあまあであるが,新生児専門の機関で詳しく経過をみていくのが良いと思われる旨の説明が行われた。 そして,原告Aは,同日午後1時45分ころ,G医療センターへ転院し,- 33 -このときの体温は36.0℃,SpO2は90%台であった。(甲A3,5,8,乙A2[1,2,4ないし8,19,20,22,24ないし26],3の2ないし6,乙A5[7ないし9,22ないし24],7,9,証人F,原告B) 原告AがG医療センターへ転院した後の診療経過原告Aは,4月21日のG医療センター入院時に,痙攣のために無呼吸発作が頻発したことから,ワコビタール(抗てんかん薬)が投与されたが,改善がみられなかったため,ドルミカム(催眠・鎮静薬)が投与された。同日,原告Aの頭部CTが撮影され, 院時に,痙攣のために無呼吸発作が頻発したことから,ワコビタール(抗てんかん薬)が投与されたが,改善がみられなかったため,ドルミカム(催眠・鎮静薬)が投与された。同日,原告Aの頭部CTが撮影され,これによれば,後頭脳幹裂隙に高吸収域がみられ,硬膜下出血があるようであり,両側後頭頭頂部の脳白質及び皮質が全体的に低吸収域を示しており,CT上は虚血性変化や浮腫による所見と考えられた。同日の原告Aに対する脳エコー検査の結果,brightbrainとRIの低下がみられたが,同月24日にこれらの所見は消失した。そして,同月23日には,原告Aの無呼吸発作が改善したため,ドルミカムの投与が中止された。また,原告Bは,同月26日,被告病院を退院した。原告Aは,同月27日から経口哺乳を開始し,同月30日にも,頭部CTが撮影されたが,これによれば,前回のCTと同様に,両側後頭頭頂部の白質及び皮質はびまん性に低吸収域を示し,左の側脳室後角がやや拡大してきており,左頭頂葉の脳回に沿って高吸収域が認められ,脳細胞壊死や脳出血が起きていることが予測されるところであり,これら一連の変化は虚血性低酸素性脳症による所見と考えられた。 原告Aは,5月1日,状態が安定してきたことなどから,母親である原告Bが初産であるため,育児指導等の必要もあり,被告病院に転院した。原告Aは,ミルク摂取量が次第に増大し,引き起こし反射,モロー反射及び把握反射がいずれも良好であり,同月13日,被告病院産婦人科を退院した。 原告Aは,同月21日,被告病院小児科を受診したところ,異常所見はみ- 34 -られなかった。また,原告Bは,同月26日,6月5日,7月10日に,被告病院産婦人科を受診した。 その後,原告Aは,11月ないし12月ころにてんかんの発作がみられ,その後,脳性麻痺による四肢 -られなかった。また,原告Bは,同月26日,6月5日,7月10日に,被告病院産婦人科を受診した。 その後,原告Aは,11月ないし12月ころにてんかんの発作がみられ,その後,脳性麻痺による四肢体幹機能障害があると診断されている。(甲A3,6ないし8,乙A1[40,41],2[30],4[5,8,9],6[2,17,18],8[2,15,35,37],9,原告B) 認定事実についての補足説明ア本件における分娩開始時期について原告らは,4月19日午前3時30分の原告Bの入院直後の入院カルテの看護記録(乙A2[24])に「MM1F(子宮口1指分(1.5cm)開大),後方,SP-3,展退度40%」との記載があること(しかも,4月15日の展退度は0~30%(乙A1[31])とされており,明らかに分娩は進行していること),4月19日午前5時の看護記録の記載が陣痛6~10分間歇とされていること(乙A2[24])から,4月19日午前5時をもって分娩開始時期と考えるべきである旨主張し,原告Bは,被告病院入院直後あるいは4月19日の夕方ころから陣痛があった旨供述する(甲A8[5],原告B[3,4,6,19])。 分娩開始については,一般に陣痛周期10分以内あるいは陣痛頻度1時間6回以上の陣痛開始時期をもって臨床的な分娩開始時期と解されているところ(甲B10[152,154],乙A7[11]),確かに,原告Bの被告病院産婦人科の入院カルテの看護記録には,原告らの指摘する記載があるものの,それらはいずれも助産師の判断であり,子宮口開大度及び展退度については,前記⑵で認定した分娩進行の経過のほか,当該記載をした助産師自身が同記録の別の箇所(看護計画表)では,入院時の所見として子宮口開大なしと記載していること(乙A2[23]),4月19日午 については,前記⑵で認定した分娩進行の経過のほか,当該記載をした助産師自身が同記録の別の箇所(看護計画表)では,入院時の所見として子宮口開大なしと記載していること(乙A2[23]),4月19日午前10時ころに原告Bを診察したH医師は,子宮口の開大はなく,ビ- 35 -ショップスコアは0点であると診断したこと(乙A2[5,24])に照らすと,4月19日午前3時30分の時点において子宮口1指分開大,展退度40%であったとは認められない。 また,有効陣痛発来の時期についても,原告B自身が,4月19日の夕方までは,痛みではなく,多少の違和感のようなものを感じていたと供述するとともに,4月20日午前9時30分ころにF医師から有効陣痛が出るのを待つとの説明を受けた旨供述している(原告B[19,20])上,同日午前9時30分ころの被告病院産婦人科のカルテには,自然陣発を待つという趣旨の記載や,陣痛が来ないようなら明朝より誘発し,それでも陣痛が来ないようであれば帝王切開の予定とする旨を原告Bに説明したとの記載があり(乙A2[6,25]),F医師も,同日午前9時30ころに原告Bを診察した際に陣痛(有効陣痛)は出ていなかったため,その発来を待つこととし,同日午後2時ころに有効陣痛がみられた旨供述するところであり(乙A7[4,5],証人F[4,9,24ないし26]),他に4月20日午後2時以前の段階で有効陣痛がみられたことを裏付ける客観的かつ的確な証拠等は提出されていない。なお,被告病院産婦人科のカルテには同月20日午後6時ころに陣痛が開始したという趣旨の記載があり(乙A2[19]),F医師は,同記載について,助産師が原告B本人に確認等した上で,分娩後等の事情も考慮して記載したのではないかと思うと証言するが(証人F[41,42]),同記載がされた具 載があり(乙A2[19]),F医師は,同記載について,助産師が原告B本人に確認等した上で,分娩後等の事情も考慮して記載したのではないかと思うと証言するが(証人F[41,42]),同記載がされた具体的な経過等は不明であるほか,上記のとおり,原告Bを診察していたF医師自身が同日午後2時ころに有効陣痛がみられたと明確に供述していることからすると,上記の記載は正確ではないというべきである。 これらの事情からすれば,遅くとも4月19日の夕方ころから原告Bに不規則な陣痛(子宮収縮)があったことは認められるものの,同原告に有効陣痛(臨床的に意味のある陣痛)がみられたのは同月20日午後2時こ- 36 -ろであると認めるのが相当であり,原告らの主張するように,4月19日午前5時をもって分娩開始時期とは認めることができない。 したがって,原告らの上記主張は採用することができない。 イ原告Aの出生から5分後のアプガースコアについて原告らは,原告Aの出生から5分後のアプガースコアは5点である旨主張し,原告Bは,原告Aの出生から3か月後の小児科における検診の際に渡された外来カルテの表紙に原告Aの出生から5分後のアプガースコアが合計5点であるという趣旨の記載があった旨供述する(甲A8[10],原告B[10,18])。 しかし,原告Bの上記供述を裏付ける客観的かつ的確な証拠は提出されておらず,かえって,被告病院産婦人科のカルテには出生から4分後のアプガースコアが合計8点(心拍数2点,呼吸2点,皮膚色1点,反射2点,筋緊張1点)である趣旨の記載がある上(乙A2[8,19],5[7,22]),上記検診が行われるよりも前に作成されたG医療センターのカルテにも出生から5分後のアプガースコアが合計8点である趣旨の記載があること(甲A3,乙A8[4]),F医師 [8,19],5[7,22]),上記検診が行われるよりも前に作成されたG医療センターのカルテにも出生から5分後のアプガースコアが合計8点である趣旨の記載があること(甲A3,乙A8[4]),F医師は,出生から4分後のアプガースコアは,心拍数2点,呼吸2点,皮膚色1点,反射2点,筋緊張1点という内訳を示して合計8点である旨供述していること(乙A7[7],証人F[17])が認められるところであり,これらのことに照らすと,原告Aの出生から4分ないし5分後のアプガースコアは,合計8点であったと認めるのが相当である。したがって,原告らの上記主張は採用することができない。 2 医学的知見 胎児仮死及び新生児仮死胎児仮死とは,胎児・胎盤系における呼吸・循環不全を主徴とする症候群をいい,胎児の低酸素状態に起因する場合が多い。 - 37 -新生児仮死とは,出生時における新生児の呼吸・循環不全を主徴とする症候群をいい,その主要な原因は胎児仮死であり,胎児仮死から引き続き新生児仮死に移行することが多く,未熟児,臍帯巻絡,骨盤位及び多胎妊娠などが重要な因子である。(甲B1,2,甲B3の1ないし5,甲B4,8) アプガースコアアプガースコアとは,生後1分と5分時の新生児の心拍数,呼吸,筋緊張,反射性及び皮膚の色の5項目の採点により新生児仮死の状態を判定する手法であり,10点満点で,10~8点は正常(呼吸抑制なし),7~5ないし3点は軽症仮死(軽度呼吸抑制),4ないし3~0点は重症仮死(重症呼吸抑制)と考えられている。心拍数がなければ0点,100未満であれば1点,100以上であれば2点,呼吸がなければ0点,困難(不規則)であれば1点,強く泣くのであれば2点,筋緊張がだらんとしていれば0点,四肢の軽度屈曲があれば1点,四肢を活発に動かすので 満であれば1点,100以上であれば2点,呼吸がなければ0点,困難(不規則)であれば1点,強く泣くのであれば2点,筋緊張がだらんとしていれば0点,四肢の軽度屈曲があれば1点,四肢を活発に動かすのであれば2点,鼻腔にカテーテル挿入の際に反応しないのであれば0点,顔をしかめるのであれば1点,咳若しくはくしゃみをし又は泣くのであれば2点,皮膚の色が全身蒼白又はチアノーゼ(暗紫色)であれば0点,躯幹が淡紅色で四肢が蒼白又はチアノーゼであれば1点,全身が淡紅色であれば2点であるとして判定される。(甲B1,甲B3の1,3)⑶ 低酸素性虚血性脳症低酸素性虚血性脳症(HIE)とは,胎児・新生児が仮死に陥った結果,低酸素と虚血に基づく脳の組織及び細胞の障害が起こった状態をいう。その症状には,意識障害,筋緊張低下,痙攣(微細痙攣,全身性硬直性痙攣等),原始反射の異常等があるほか,多臓器障害を合併していることが多い。その急性期症状の治療には,a体温管理,b血糖維持・電解質補正・代謝性アシドーシスの補正,c呼吸管理,dショックの治療,e水分制限,f脳浮腫の治療,gフェノバルビタール(抗痙攣薬)の投与,h痙攣の治療等があるとされている。 - 38 -(甲B15ないし17) 3 争点(4月20日午後3時(予備的に午後5時)に急遂分娩へ方針を変更すべきであったにもかかわらずこれを怠った注意義務違反の有無)について原告らは,被告病院の担当医師には,4月20日午後3時ないし午後5時ころまでには,原告Bにつき急遂分娩へ方針を変更し,陣痛促進剤を投与し,陣痛誘発に至らなければ直ちに帝王切開に着手すべきであったにもかかわらず,これらを怠った注意義務違反がある旨主張し,その根拠として,①分娩監視記録上,分娩の長期化による障害の危険があったこと,②午後3時に分娩遷 らなければ直ちに帝王切開に着手すべきであったにもかかわらず,これらを怠った注意義務違反がある旨主張し,その根拠として,①分娩監視記録上,分娩の長期化による障害の危険があったこと,②午後3時に分娩遷延ないし分娩停止の状態にあり,午後5時には明らかに分娩停止の状態にあったことなどを挙げ,証拠(甲A5,甲B14)には一部これに沿う部分もある。 しかし,上記①の点について,K医師は,教科書的には,急速遂娩を行わなければ重大な神経障害や死亡という不幸な結果に至ってしまうのは,分娩監視記録上は,基線細変動の消失を伴う遅発一過性徐脈や変動一過性徐脈が反復して(子宮収縮の50%以上に)出現する場合又は持続性徐脈のような所見がある場合とされているところ,本件の場合には,被告病院産婦人科の担当医師により急速遂娩の一つである吸引分娩が行われる4月21日午前2時24分ころまでの間に,急速遂娩の適応に明確に合致する所見はみられていないとし,同月20日の午前の時点で,胎児は安心できる状態とはいえない状態になっており,分娩進行が止まっていると考えられるから,同日午後の時点で分娩方針を変更して急速遂娩に切り替えてもよいタイミングであった旨供述するにとどまる(甲A5[6,7])。また,F医師は,同日午前10時40分ころから,基線細変動がやや減少傾向にあったが,おおむね2~10bpmは保たれており,午前11時15分ころには臨床上有意な徐脈ではなく,バリアビリティーがみられるにすぎず,午後1時24分ころから午後2時前ころまでの間に基線細変動は2~4bpmに減少しているが,午後2時前ころまでには6bpm以上に回復しており,これも臨床上有意な所見ということはできず,午後2時3- 39 -5分ころに変動一過性徐脈がみられ,その原因は臍帯圧迫であると考えられるが,回復も良く 時前ころまでには6bpm以上に回復しており,これも臨床上有意な所見ということはできず,午後2時3- 39 -5分ころに変動一過性徐脈がみられ,その原因は臍帯圧迫であると考えられるが,回復も良く,一度しか現れておらず,午後11時ころから一時的な軽度頻脈がみられるが,その原因は陣痛による胎児のストレスであると考えられ,分娩監視記録上,全体を通して,明らかな胎児の低酸素状態を示す所見はない旨供述しているところである(乙A7[9,10],証人F[8,34ないし36,38,39])。これらによれば,本件における分娩監視記録上,分娩の長期化による障害の危険があったと認めることはできず,他にそのような危険があったことを認めるに足りる証拠はない。 次に,上記②の点について検討するに,K医師は,陣痛が弱くて進行しないような場合にはある程度の時間が経過しても胎児に大きな影響が及ぶことはないとして,分娩の進行状態を考慮した上で,上記のとおり,同月20日午前の時点で胎児は安心できるとはいえない状態になっており,分娩進行が止まっていると考えられるから,午後の時点で分娩方針を変更して急速遂娩に切り替えてもよいタイミングであった旨供述するにとどまっている(甲A5[6,7])。 また,証拠(甲B9[277],10[152],13[484],14[652])によれば,子宮口が2.5cm以上開大した後,分娩の進行が緩徐になった場合で,初産のときに子宮口が1時間に1.2cm以下しか開大しなくなった状態を分娩遷延(第Ⅰ期中期遷延)とし,子宮口が2,5cm開大した後,子宮口の開大が停止し,2時間が経過しても同じ開大度が続いている状態を分娩停止(第Ⅰ期続発分娩停止)とする見解が認められる一方で,分娩開始から初産の場合に30時間経過しても胎児が娩出されない状態を分娩遷延とす が停止し,2時間が経過しても同じ開大度が続いている状態を分娩停止(第Ⅰ期続発分娩停止)とする見解が認められる一方で,分娩開始から初産の場合に30時間経過しても胎児が娩出されない状態を分娩遷延とする見解(なお,日本産婦人科学会用語問題委員会では,その分娩障害の発生頻度から初産婦においては分娩開始後30時間以上を経過してもなお児の娩出をみないものを遷延分娩と定義する。)も認められるところである。そして,F医師は,前者の見解について,分娩の進行は子宮口の開大だけでは測れない部分があるため,これだけでは判断せず,また,1時間ごとに内診するのは患者- 40 -の負担にもなるとして,後者の見解に立ち,有効陣痛が認められる時点を分娩開始時とした上,原告Bの有効陣痛がみられたのは前記1,ア認定のとおり4月20日午後2時ころであり,原告Aが出生した同月21日午前2時32分ころまで分娩時間は約12時間30分であるので分娩遷延は認められず,前記1認定のとおり同月20日午後1時45分ころの子宮口開大度は4cmで,午後11時30分ころの子宮口開大度も4cmであるが,メトロの脱出があり,分娩が進行していると考えられるので,分娩停止も認められない旨供述する(乙A7[10,11],証人F[7,9,39,40])。さらに,被告病院産婦人科のカルテには,分娩遷延及び微弱陣痛との記載がある(乙A2[1,4,8])が,F医師は,これについて,同月21日午前1時40分ころの子宮口全開大後の第2期の分娩経過に照らし,吸引分娩の適応(子宮口全開大後の分娩遷延)を示すために記載した旨供述するところである(乙A7[6],証人F[9ないし14,42,43])。これらに照らすと,原告Bが4月20日午後3時に分娩遷延ないし分娩停止の状態にあり,同日午後5時には明らかに分娩停止の た旨供述するところである(乙A7[6],証人F[9ないし14,42,43])。これらに照らすと,原告Bが4月20日午後3時に分娩遷延ないし分娩停止の状態にあり,同日午後5時には明らかに分娩停止の状態にあったということはできず,他に原告らの主張する事実を認めるに足りる証拠はない。 加えて,K医師は,陣痛促進剤の投与による子宮収縮の増強が胎児の低酸素状態を悪化させる可能性も考慮する必要がある旨供述し(甲A5[8]),F医師も,原告らが主張する陣痛促進剤の投与は胎児の状態が良好であることを前提としており,胎児の状態の悪化により緊急に帝王切開を行うべきであったと主張されていることと矛盾している旨供述しているところである(乙A7[12,13],証人F[10,11])。 これらの事情からすると,被告病院産婦人科の担当医師に,4月20日午後3時ないし午後5時ころまでに,急遂分娩へ方針を変更し,陣痛促進剤を投与し,陣痛誘発に至らなければ帝王切開に着手すべきであったにもかかわらず,これらを怠った注意義務違反があったとはいうことができない。 - 41 -したがって,原告らの上記主張は採用することができない。 4 争点(原告Aの出生後,直ちに適切な酸素供給を主眼とする新生児医療を行うべきであったにもかかわらずこれを怠った注意義務違反の有無)について原告らは,被告病院の担当医師には,出生直後の原告Aに対し,産科を引き継いで新生児科ないし小児科において,①気管挿管による人工換気,②メイロン(炭酸水素ナトリウム)の投与などによる血液のアシドーシスの補正,③適切な時期における適量のフェノバール(抗痙攣薬)の投与による痙攣の治療,④脳保護薬の投与による脳血液の循環の確保,⑤インファントラジアントウォーマーの温度調節やプラスチックラップで体表を覆うなどの操 切な時期における適量のフェノバール(抗痙攣薬)の投与による痙攣の治療,④脳保護薬の投与による脳血液の循環の確保,⑤インファントラジアントウォーマーの温度調節やプラスチックラップで体表を覆うなどの操作による体温管理をすべきであったにもかかわらず,これらを怠った注意義務違反がある旨主張し,証拠(甲B15ないし20)にはこれに沿う部分もある。 しかし,K医師は,分娩時に,新生児科ないし小児科の医師が立ち会うか否かは,施設によって異なっており,必須のことではなく,また,原告Aに対する蘇生措置については記録がなく,それが適切であったか否かは判断できない旨供述する(甲A5[7])。さらに,前記1認定のとおり,被告病院小児科のI医師が,原告Aの出生後に被告病院の当直看護師から連絡を受け,4月21日午前3時ころから原告Aの診療を開始しており,被告病院小児科において,出生直後の原告Aを,産科から引き継いだものということができる。 そして,上記①の点について検討するに,前記1認定のとおり,原告Aの出生から1分後のアプガースコアは心拍があることのみによる2点であったが,2分後のアプガースコアは,心拍数2点,呼吸1点,皮膚色1点の合計4点,4分後のアプガースコアは,心拍数2点,呼吸2点,皮膚色1点,反射2点,筋緊張1点の合計8点と改善している。また,I医師は,新生児に対する人工呼吸器管理を行う基準については確立した医学的知見はなく,目安としては,CPAP(持続的陽圧呼吸)と60%未満の酸素吸入では改善しない低酸素血症,CPAPやテオフィリン(気管支拡張薬)やドプラム(呼吸中枢刺激- 42 -薬)の投与で改善しない頑固な無呼吸などの場合が挙げられるが,原告AのSpO2については,一時的な低下はみられたものの,酸素投与等の処置により直ちに回復しているこ プラム(呼吸中枢刺激- 42 -薬)の投与で改善しない頑固な無呼吸などの場合が挙げられるが,原告AのSpO2については,一時的な低下はみられたものの,酸素投与等の処置により直ちに回復していること,4月21日午前5時55分ころの無呼吸発作は単発的なもので,刺激によって25秒間で回復していることから,人工呼吸器管理を実施する必要はない旨供述しているところである(乙A9[6,7])。これらによれば,原告Aが気管挿管の必要な状態であったとは認められない。 なお,原告らは,被告病院の担当医師には,臍帯血を保存せず,動脈血の採血をしなかった注意義務違反があるとも主張する。しかし,前記1⑵認定のとおり,被告病院の担当医師は,原告Aの足底採血及び静脈採血による血液検査を行い,同検査の結果に基づいて同原告に対する診療行為を行っているところ,実際に行われた足底採血及び静脈採血による血液検査のほかに,原告Aの臍帯血を保存し,かつ,動脈血の採血をする具体的な必要性があったことを客観的に裏付ける証拠はないから,被告病院の担当医師が,原告Aの臍帯血を保存せず,動脈血の採血をしなかったことが不適切であり,医師としての注意義務違反に当たるということはできない。 上記②の点について,証拠(甲B16[488])によれば,pH(酸・塩基度)は7.2~7.5が新生児の治療中の至適範囲とされていること,BE(過剰塩基・代謝性アシドーシスの指標をいい,ABEともいう。)は-10以上が新生児の治療中の至適範囲とされ,新生児(生後1~3時間)の正常値は-8~-2とされていることが認められるところ,前記1認定のとおり,原告AのpHは,4月21日午前3時29分ころの7.117から,午前5時7分ころの7.216,午前7時9分ころの7.258と,ABEは,同日午前3時29分ころの られるところ,前記1認定のとおり,原告AのpHは,4月21日午前3時29分ころの7.117から,午前5時7分ころの7.216,午前7時9分ころの7.258と,ABEは,同日午前3時29分ころの-14.0から,午前5時7分ころの-9.9,午前7時9分ころの-7.3と,それぞれ改善している。また,証拠(甲B18[568],20[66])によれば,炭酸水素ナトリウムは,高浸透圧で頭蓋内出血の誘因となり,二酸化炭素を産生することから,短時間の心肺蘇生での使用- 43 -は勧められないとされ,その投与は,十分な人工呼吸管理がされているにもかかわらず,代謝性アシドーシスが明らかにあって,循環動態の改善を妨げていることが認められる場合に考慮するとされている上,I医師は,原告Aの場合には,上記のとおり,炭酸水素ナトリウムを用いなくともアシドーシスが改善しているから,炭酸水素ナトリウムを原告Aに投与する必要はなかった旨供述するところである(乙A9[9,10])。これらによれば,原告Aについて炭酸水素ナトリウムの投与などによる血液アシドーシスの補正をする必要があったとは認められない。 上記③の点について,前記1認定のとおり,原告Aの出生児の体重は2714gであったこと,原告Aには,4月21日午前8時45分ころに痙攣があることが疑われるまで,痙攣の所見はみられず,午前9時30分ころには微細発作が生じた可能性があることからフェノバール坐薬50mgが挿肛されているところ,証拠(甲B15[266])によれば,急性期の痙攣に対するフェノバール(フェノバールは商品名であり,一般名はフェノバルビタールである。)の投与量は10~20mg/kgとされていることが認められ,これを原告Aの体重に換算すると,適正な投与量は27.14ないし54.28mgということにな 名であり,一般名はフェノバルビタールである。)の投与量は10~20mg/kgとされていることが認められ,これを原告Aの体重に換算すると,適正な投与量は27.14ないし54.28mgということになり,原告Aに対する上記投与量はその範囲内にあることになる。加えて,F医師は,フェノバールなどの抗痙攣薬には呼吸抑制の副作用がある旨証言し(証人F[41]),I医師は,痙攣発作が出現した場合,一般的には,初期の対応として,保育器に収容して経過観察し,痙攣が頻発するのであれば,酸素投与,静脈ルートの確保を行うのであって,抗痙攣薬には副作用があることから直ちに抗痙攣薬を投与することはなく,原告Aにフェノバールを投与した時期が遅いとはいえず,投与量も十分である旨供述するところである(乙A9[8,9])。これらによれば,本件において,適切な時期における適量のフェノバール(抗痙攣薬)の投与による痙攣の治療が行われなかったと認めることはできない(なお,原告らは,4月21日午前4時30分あるいは同日午- 44 -前5時55分ころ,原告Aに無呼吸発作がみられた時点で抗痙攣薬を投与すべきであるとも主張するが,原告Aの無呼吸発作が痙攣発作であると断定する根拠はなく(乙A9[8]),原告らの主張は前提を欠くものというべきである。)。 上記④の点について,F医師は,脳保護薬であるグリセオールには脳出血を引き起こす副作用がある旨証言し(証人F[41]),I医師は,グリセオールなどの脳保護薬は脳浮腫の治療に使用するものであり,その予防に投与するものではなく,脳浮腫がみられていないのに使用しなければならないものではなく,大泉門の膨隆や嘔吐などの所見のみられない原告Aに対してグリセオールなどの脳保護薬を投与する必要はない旨供述するところである(乙A9[10])。これらによ いのに使用しなければならないものではなく,大泉門の膨隆や嘔吐などの所見のみられない原告Aに対してグリセオールなどの脳保護薬を投与する必要はない旨供述するところである(乙A9[10])。これらによれば,原告Aに対し脳保護薬を投与する必要があったとは認められない。 上記⑤の点について,前記1認定のとおり,原告Aの体温は,4月21日午前3時10分ころの35.2℃から,午前4時ころの35.7℃,午前6時30分ころの36.7℃と改善しており,同日午前7時30分ころの原告Aのクベース内の温度は33℃であったところ,証拠(甲B16[227],18[574],乙A9[10,11])によれば,低酸素性虚血性脳症の新生児には発熱や脳温の上昇による異常代謝の亢進が起きるので,体温上昇に十分注意し,直腸温や鼻咽頭温が37℃以上にならないように環境温を調整することが必要であるとする見解や,体重が2750gの新生児の保育器内の温度は33.1±0.9℃が至適範囲であるとする見解があることが認められる。これらの事実に照らすと,被告病院における原告Aの体温管理に不適切な点があったということはできない。 以上の認定判断からすると,原告らの主張する上記各注意義務違反は,いずれもこれを認めることができないといわざるを得ない。 したがって,原告らの上記主張は採用することができない。 5 結論- 45 -以上のとおりであり,原告らの請求は,その余の争点について判断するまでもなく(なお,本件における証拠を精査しても,原告Aの脳性麻痺による四肢体幹機能障害が被告病院の担当医師らの診療行為によって生じたものであると断定することはできない。),いずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第34部 裁判長裁判官 主文 東京地方裁判所民事第34部 裁判長裁判官 村田 渉 裁判官 成田 晋司 裁判官 平野 望 理由 らの診療行為によって生じたものであると断定することはできない。いずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

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