令和3(ワ)3392 福島第一原発事故損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和7年7月31日 横浜地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-95281.txt

判決文本文220,699 文字)

1主 文1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由第1章 事案の概要5第1 請求被告は、各原告に対して、別紙1請求金額一覧表「請求金額(円)」欄記載の各金員及びこれに対する平成23年3月11日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等10本件は、平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(以下「本件地震」という。)に伴う津波(以下「本件津波」という。)の影響で、分離前被告東京電力ホールディングス株式会社(以下「東電」という。)が設置運営する福島第一原子力発電所(以下「福島第一発電所」という。)において、建物・設備が損壊し、放射性物質が放出されるという事故(以下「本件事故」15という。)が発生したために、居住地からの避難を余儀なくされたとする原告ら(損害賠償請求権を承継した原告については被承継人を指すことがある。以下、同じ。)が、被告において、福島第一発電所の敷地高を超える津波を予見することが、平成14年当時、そうでなくとも平成20年8月から平成21年9月までには可能であったところ、上記時点で必要な津波防護対策を施してい20れば、本件事故を回避することが可能であったと主張して、規制権限の不行使を理由として国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づき、被告に対し、原告らに生じた精神的損害(避難生活に伴う慰謝料1人当たり月額35万円、いわゆるふるさと喪失・生活破壊慰謝料1人当たり2000万円)の一部請求として、別紙1請求金額一覧表記載の各金員及びこれに対する本件事25故発生日である平成23年3月11日から各支払済みまで民法(平成29年法2律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合に として、別紙1請求金額一覧表記載の各金員及びこれに対する本件事25故発生日である平成23年3月11日から各支払済みまで民法(平成29年法2律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 なお、原告らは、当初、被告のほかに東電を共同被告として本件訴訟を提起したが、原告ら及び東電との間で和解が成立した。 1 前提事実(争いのない事実、顕著な事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨5により容易に認定できる事実)⑴ 本件事故時の原告らの居住地と権利承継【世帯番号1】別紙被相続人目録記載(以下、被相続人につき同じ)被相続人1は、本件事故時、福島県双葉郡a町(後に居住制限区域に指定)に居住していた。 10被相続人1は平成▲年▲月▲日に死亡し、原告番号1が、本件事故に関する被相続人1の被告に対する損害賠償請求権を相続した。 【世帯番号2】原告番号2-1ないし2-3は、本件事故時、福島市に居住していた。 【世帯番号3】15原告番号3-1ないし3-5及び被相続人2は、本件事故時、福島県南相馬市b区(後に避難指示解除準備区域に指定)に居住していた。 被相続人2は令和▲年▲月▲日に死亡し、原告番号3-1が、本件事故に関する被相続人2の被告に対する損害賠償請求権を相続した。 【世帯番号4】20被相続人3及び亡原告番号4-1は、本件事故時、福島県南相馬市c区(後に緊急時避難準備区域に指定)に居住していた。 被相続人3は平成▲年▲月▲日に死亡し、亡原告番号4-1及び原告番号4-2が、本件事故に関する被相続人3の被告に対する損害賠償請求権を2分の1ずつ相続した。 25亡原告番号4-1は、本件訴え提起後、口頭弁論終結前である令和▲年▲3月▲日に死亡し 原告番号4-2が、本件事故に関する被相続人3の被告に対する損害賠償請求権を2分の1ずつ相続した。 25亡原告番号4-1は、本件訴え提起後、口頭弁論終結前である令和▲年▲3月▲日に死亡し、原告番号4-2が、本件事故に関する亡原告番号4-1の被告に対する一切の損害賠償請求権を相続した。 【世帯番号5】 原告番号5-1ないし5-5は、本件事故時、福島県伊達郡d町に居住していた。 5⑵ 福島第一発電所の概要福島第一発電所は、福島県双葉郡e町及び同郡f町にまたがって位置しており、同発電所の敷地(以下「本件敷地」という。)東側は太平洋に面している。福島第一発電所には、1号機ないし6号機の原子炉が設置されており、各号機は、原子炉建屋、タービン建屋、コントロール建屋、サービス建屋、10放射性廃棄物処理建屋等から構成されている。 1号機ないし4号機の原子炉は北から南に向かって一列に配置され、それらの原子炉を格納する原子炉建屋及びタービン建屋(以下、原子炉建屋及びタービン建屋等の主要な建屋を「主要建屋」という。)は福島第一発電所の敷地の南側に存在し、5号機及び6号機に係る主要建屋は北側に存在する。 151号機ないし4号機に係る主要建屋の設計G.L.(建築物の建つ土地の表面レベル。いわゆる敷地高)は、小名浜港工事基準面を基準とした海抜(O. P.)+10m、5号機及び6号機に係る主要建屋の設計G.L.は、O.P. +13mである。本件敷地の東側及び南東側は、海水をくみ上げるポンプ等の設備が設置された海抜4mの区画等を挟んで海に面している。 20⑶ 本件地震及び本件津波の状況ア 本件地震の発生平成23年3月11日午後2時46分、本件地震が発生した。 本件地震の震源は、宮城県牡鹿半島の東南東130km で海に面している。 ⑶ 本件地震及び本件津波の状況ア本件地震の発生平成23年3月11日午後2時46分、本件地震が発生した。 本件地震の震源は、宮城県牡鹿半島の東南東130km付近であり、ここで発生した岩石の破壊は震源から周囲に広がり、その震源域は、日本海 溝下のプレート境界面に沿って、岩手県沖から茨城県沖に及ぶ南北の長さ 約450km、東西の幅約200kmに達し、最大すべり量50m以上の極めて大きい破壊が発生した。本件地震は、複数の震源域がそれぞれ「連動」して発生したマグニチュード9.0の地震であり、その規模は世界観測史上4番目の規模、日本国内の観測史上で最大の地震であった。(甲C59・4頁、甲C203・4頁、丙C1、丙C2、丙C3・3頁) イ本件津波の発生本件津波は、本件地震に伴って発生した津波であり、その第1波が平成23年3月11日午後3時27分頃に、第2波が同日午後3時35分頃に、それぞれ福島第一発電所に到達し、その後も断続的に福島第一発電所に津波が到達している。(甲B2の1・本文編19頁)。 これらの津波により、福島第一発電所の海側エリア及び主要建屋エリアはほぼ全域が浸水した。福島第一発電所1号機ないし4号機側主要建屋設置エリアの浸水高は、敷地高を上回るO.P.+約11.5ないし15. 5m(浸水深約1.5ないし5.5m)であり、5号機及び6号機側主要建屋設置エリアの浸水高は、同じく敷地高を上回るO.P.+約13ない し14.5m(浸水深約1.5m以下)であった。(甲B2の1・本文編19頁、甲B2の1・資料編20頁、甲B4の2・添付3-7)⑷ 本件事故の発生状況本件地震が発生した平成23年3月11日午後2時46分頃、福島第一発電所では、1号機から3号機まで 1・本文編19頁、甲B2の1・資料編20頁、甲B4の2・添付3-7)⑷ 本件事故の発生状況本件地震が発生した平成23年3月11日午後2時46分頃、福島第一発電所では、1号機から3号機までが運転中、4号機から6号機までが点検中20であった。なお、4号機は原子炉から燃料を全て取り出し、使用済み燃料プールに貯蔵していた(甲B2の1・本文編17頁、18頁、79頁、83頁)。 本件地震の直後である同日午後2時46分頃から47分頃にかけて、1号機から3号機の全原子炉の全制御棒が全挿入となり自動停止した(甲B2の251・本文編79頁、83頁、丙A7の1・Ⅳ-36頁)。 5しかし、本件津波が福島第一発電所に到達し、第2波が10m盤を超えて敷地内に浸水したことにより、10m盤に設置されていたタービン建屋等の内部に海水が浸入した。それにより、同建屋地下1階等に設置されていた、非常用ディーゼル発電機(D/G)、各機器に交流の電力を供給する電源盤、直流電源設備である蓄電池及び各機器に直流の電力を供給する分電盤等が被5水するとともに、O.P.+4mの敷地に設置されていた、D/G(附帯設備を含む。)を冷却するための海水系ポンプ等も被水した。その結果、1号機ないし3号機では全交流電源を喪失し、さらに、1号機及び2号機では直流電源も喪失した。これにより、1号機ないし3号機では、原子炉を冷やす機能を喪失し、原子炉圧力容器内への十分な注水を行うことなどができず、10運転停止後も発熱が続いていた炉心を冷却することができなくなり、燃料露出及び炉心損傷に至った。 そして、同月12日午後3時36分に1号機の原子炉建屋において、同月14日午前11時1分に3号機の原子炉建屋において、それぞれ爆発が発生(当該爆発は、高温になった燃料被覆管とジル 心損傷に至った。 そして、同月12日午後3時36分に1号機の原子炉建屋において、同月14日午前11時1分に3号機の原子炉建屋において、それぞれ爆発が発生(当該爆発は、高温になった燃料被覆管とジルコニウム-水反応によって生15じた水素が原因で発生したと推定されている。)するなどしたことにより、1号機ないし3号機の原子炉建屋内の放射性物質が大気中に放出された。 (甲B1・137頁、甲B2の1・本文編42頁、90頁~92頁、95頁、甲B3・30頁~34頁、甲B4の2・添付7-4、丙A7の1・Ⅳ-36頁、Ⅳ-51頁、Ⅳ-63)202 争点⑴ 被告の責任⑵ 損害額3 当事者の主張の要旨被告の責任及び原告らの損害額に関する当事者の主張の要旨は、別紙2原告25らの主張の要旨の責任論及び損害論(同書面中の「被告東京電力」及び「被告6東電」は「東電」と読み替える。)並びに別紙3被告の主張の要旨(同書面中の「被告東電」を「東電」と読み替える。)のとおりである。 第2章 当裁判所の判断第1 原告らは、被告の責任に関し、次のとおり主張する。 1 福島第一発電所の敷地高を超える津波の予見可能性5⑴ 被告は、地震調査研究推進本部(以下「地震本部」という。)地震調査委員会が平成14年7月31日に「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価について」(丙C25、以下「本件長期評価」という。)を公表した後、2~3か月の期間があれば(遅くとも同年中には)、東電が本件長期評価の見解に基づいて平成20年に実施した試算と同様の試算を行う(または行わ10せる)ことによって、福島県沖海溝沿いに津波地震が発生することに伴い、福島第一発電所の敷地高を超える程度の津波が到来することを予見することができた。 ⑵ 平成20年には、貞観 (または行わ10せる)ことによって、福島県沖海溝沿いに津波地震が発生することに伴い、福島第一発電所の敷地高を超える程度の津波が到来することを予見することができた。 ⑵ 平成20年には、貞観11年(869年)の貞観地震及びそれに伴う津波(以下「貞観津波」という。)の知見が質的な高まりを見せた。平成20年155月の津波堆積物調査という科学的手法の確立及びかかる手法を用いた宮城県沖地震における重点的調査観測の実践とその成果報告を受けて、その2、3か月後には津波試算結果が得られるはずであるから、被告は、平成20年8月時点において、貞観地震と同規模の地震が発生すれば、福島第一発電所の敷地高を超える津波が到来する可能性があることを予見できた。 20仮に、平成20年8月時点で、被告に予見可能性が認められないとしても、被告は、平成21年9月に、東電から試算結果(パラメータスタディ前)の報告を受けてこれを認識し、貞観地震と同規模の地震が発生すれば、福島第一発電所の敷地高を超える津波が到来する可能性があることを予見できた。 2 経済産業大臣の作為義務及び本件事故の結果回避可能性25経済産業大臣は、福島第一発電所の敷地高を超える津波が到来する可能性が7あることを予見できたのであるから、電気事業法40条に基づく技術適合命令を発する作為義務を有していた。 そして、東電が、完成に時間を要する防潮堤の建設を始めた場合、貞観津波の知見に基づく想定津波に対応して早期に原子炉施設の安全性を回復させるということにはならず、原子炉に生じた危険な状態が放置されたままとなってし5まうのであるから、経済産業大臣は、東電に対して、早期で完成する何らかの防護措置の設置を防潮堤とセットで義務付けるか、やむを得ない場合には原子炉の運転を一時停止す 態が放置されたままとなってし まうのであるから、経済産業大臣は、東電に対して、早期で完成する何らかの防護措置の設置を防潮堤とセットで義務付けるか、やむを得ない場合には原子炉の運転を一時停止する義務を有していた。 何らかの防護措置が何であったのかは本件訴訟では特定できず、特定する必要もないが、具体的な例としては、非常用電源の高所設置や水密化が挙げられ、 これらによって本件事故を回避することが可能であった。 第2 認定事実上記前提事実のほか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 1 1号機ないし3号機が冷やす機能を喪失した経緯 ⑴ 本件津波による福島第一発電所の浸水状況等ア福島第一発電所の敷地内の浸水深(甲B4の2・添付3-7)1号機タービン建屋の北東方向の角付近の別紙4のF地点(以下、アルファベット及び数字の地点はいずれも別紙4のもの)の浸水深は2m以上、2号機タービン建屋の東側のH地点、同建屋の南側のJ地点及び同建屋の 南西方向の角付近のK地点の浸水深は4~5m、3号機タービン建屋の北東方向の角付近のI地点の浸水深は4~5m、4号機タービン建屋の南方向の地点8の浸水深は5.5m程度、同地点からみて南西方向にある地点5の浸水深は6~7mであった。 イ津波漂流物等(甲B4の2・108、109頁) 福島第一発電所においては、海側エリア(O.P.+4m)に設置され ていた重油タンク(直径11.7m×高さ9.2m、32トン)が津波により1号機原子炉建屋・タービン建屋北側の構内道路(O.P.+10m)まで漂流するなど、多数の漂流物が確認されている。また、駐車中の車両も多数漂流した。 主要建屋設置エリアにおいては、津波によりダクトのハッチの蓋等が流 失 北側の構内道路(O.P.+10m)まで漂流するなど、多数の漂流物が確認されている。また、駐車中の車両も多数漂流した。 主要建屋設置エリアにおいては、津波によりダクトのハッチの蓋等が流5失・損傷し、開口部となったのが1号機から4号機側(O.P.+10m)で20箇所、5号機、6号機側(O.P.+13m)で5箇所確認されていた。 なお、開口部の数については、瓦礫の存在等により状況を確認できなかった箇所が多数存在することから、さらに多かった可能性があった。 10⑵ 電源に関する設備の被水状況等平成23年3月11日午後3時37分から同日午後3時41分にかけての頃、1号機から3号機までの全交流電源が喪失するとともに、1号機及び2号機の直流電源もすべて喪失し、同日夕方以降、発電所対策本部復旧班は、これらの事実を順次確認した。その結果、1号機から5号機までは常用系、15非常用系の高圧電源盤が全て被水しており、仮に外部電源や非常用ディーゼル発電機が機能しても電力を必要とする機器に供給できないことが判明した。 (甲B2の1・本文編158頁)2 原子力発電所の設計津波水位の評価方法に関する報告書の作成⑴ 報告書の概要20社団法人土木学会(以下「土木学会」という。)原子力土木委員会の下に設置された津波評価部会(以下「土木学会津波評価部会」という。)は、平成14年2月、原子力発電所の設計津波水位の評価方法を示したものとして、「原子力発電所の平成14年津波評価技術」と題する報告書(以下「平成14年津波評価技術」という。)を作成した。平成14年津波評価技術は、プ25レート境界型地震に伴う津波について、評価地点に最も大きな影響を及ぼし9たと考えられる既往津波を選定し、その既往津波の沿岸における痕跡高を最もよく説明でき 。平成14年津波評価技術は、プ レート境界型地震に伴う津波について、評価地点に最も大きな影響を及ぼし たと考えられる既往津波を選定し、その既往津波の沿岸における痕跡高を最もよく説明できる断層モデルを基に基準断層モデルを設定した上で、想定津波の不確定性を設計津波水位に反映させるため、基準断層モデルの諸条件を合理的と考えられる範囲内で変化させた数値計算を多数実施し、評価地点に最も影響を与える津波に基づいて設計津波水位を求めるなどとしていた。 (丙C8の1~丙C8の3)⑵ 平成14年津波評価技術における想定津波の波源の設定想定津波の波源の設定について、「太平洋沿岸のようなプレート境界型の地震が歴史上繰返し発生している沿岸地域については、各領域で想定される最大級の地震津波をすでに経験しているとも考えられるが、念のため、プレ ート境界付近に将来発生することを否定できない地震に伴う津波を評価対象とし、地震地体構造の知見を踏まえて波源を設定する」としているところ、福島県沖で記録されている大地震は、福島県東方沖地震(以下「塩屋崎沖地震」ともいう。1938年)のみであることを踏まえ、福島県沖については、福島県の沿岸寄りの領域において福島県東方沖地震を基準断層モデルに据え た「領域7」が区分として設けられたものの、福島県沖の日本海溝軸沿いの領域には、波源が設定されていない。(丙C8の2・1-31~1-33、1-59、丙C51・14頁)⑶ 平成14年津波評価技術に基づく試算各電気事業者は、平成14年津波評価技術の公表後、その考え方に基づい て自主的に津波評価を行い、東電においては、平成14年3月に、福島第一発電所の津波評価を行ったところ、最大水位上昇量に朔望平均満潮位(福島第一発電所:O.P.+1.359 その考え方に基づい20て自主的に津波評価を行い、東電においては、平成14年3月に、福島第一発電所の津波評価を行ったところ、最大水位上昇量に朔望平均満潮位(福島第一発電所:O.P.+1.359m)を考慮した設計津波最高水位は近地津波O.P.+5.4ないし5.7mとなった。東電は、同月、原子力安全・保安院(以下「保安院」という。)に対して、平成14年津波評価技術25に基づく試算結果を報告した。(甲B2の1・本文編381頁、丙C57)10⑷ 平成14年津波評価技術に対する国際的評価米国原子力規制委員会は、平成21年に、アメリカ合衆国の原子力発電所における津波ハザード評価に関する報告書を作成したが、同報告書では、日本の平成14年に土木学会によって作成された津波ハザード評価のアプローチ(平成14年津波評価技術)は世界で最も進歩しているアプローチに数え5られる、とされている。(丙C55・59頁、丙C55の訳)3 三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価を取りまとめた文書(本件長期評価)の公表⑴ 概要地震本部地震調査委員会は、地震防災対策特別措置法に基づいて文部科学10省に設置された機関であり、関係行政機関の職員及び学識経験のある者のうちから文部科学大臣が任命する委員によって構成されるところ、平成14年7月、三陸沖から房総沖にかけての日本海溝沿いの領域を対象とした長期的な観点での地震発生の可能性、震源域の形態等についての評価を取りまとめたものとして、本件長期評価を公表した。本件長期評価は、上記の日本海溝15沿いの領域のうち、三陸沖北部から房総沖にかけての日本海溝寄りの南北に細長い領域に関し、明治29年に発生した明治三陸地震と同様の地震が上記領域内のどこでも発生する可能性があること、上記領域内におけるマ いの領域のうち、三陸沖北部から房総沖にかけての日本海溝寄りの南北に細長い領域に関し、明治29年に発生した明治三陸地震と同様の地震が上記領域内のどこでも発生する可能性があること、上記領域内におけるマグニチュード(以下「M」とも表記する。)8クラスのプレート間大地震(津波地震)については、今後30年以内の発生確率が20%程度、今後50年以内20の発生確率が30%程度と推定されること、その地震の規模は、津波マグニチュード(以下「Mt」とも表記する。)8.2前後と推定されること等を内容とするものであった。(丙C25)⑵ 本件長期評価の作成経緯等地震本部は、本件長期評価を作成・公表するに当たって、海域に発生する25地震に関する長期評価の検討を行うため、平成13年3月に長期評価部会の11下に海溝型分科会を設置し、平成13年から平成14年にかけて同分科会等において議論・検討を行った。三陸沖北部から房総沖にかけての日本海溝寄りの南北に細長い領域に関し、①慶長三陸地震(慶長16年(1611年))、②延宝房総沖地震(延宝5年(1677年))及び③明治三陸地震(明治29年(1896年))の地震をどう評価するかについて、主な議論5の内容は下記のとおりである。 ア 平成14年1月11日開催の第9回海溝型分科会では、1611年の地震は資料があまり現存しておらず、波源域も得られないとしつつ、1611年の地震と1896年の地震の波源域について、同じ場所だといっても矛盾はないとの議論の後、どこでも津波地震は起こりうるとする考え方と101896年の地震の場所で繰り返しているという考え方のどちらがよいかとの問いに対し、1611年の地震がよく分からない以上、1896年の地震の場所をとるしかないのではないかとの意見が出され、また、1677年の の地震の場所で繰り返しているという考え方のどちらがよいかとの問いに対し、1611年の地震がよく分からない以上、1896年の地震の場所をとるしかないのではないかとの意見が出され、また、1677年の地震も含めてよいかとの問題提起に対し、それはもっと分からないとの意見、太平洋ではなく相模トラフ沿いの地震ともとれるとの意見、115677年の地震も海溝沿いのどこでも起こり得る地震に入れてしまうとの意見等が出された。(甲C75の2・5頁)イ 平成14年1月16日開催の第62回長期評価部会では、同部会長であり、海溝型分科会の主査であったA氏(以下「A氏」という。)が、1896年と1677年は津波地震で、1611年もあるいはそうかもしれな20いがはっきりしないこと及びこれらの3つの地震については海溝のごく近くで起こる津波地震であると考え、場所は不定とし固有地震(その領域内で繰り返し発生する最大規模の地震)として、更新過程ではなくポアソン過程で評価するのが適当と考えていたが、海溝型分科会で確認を取っていなかったことが報告された。(丙C12の2・259頁)25ウ 平成14年2月6日開催の第10回海溝型分科会では、事務局から、日12本海溝沿いプレート間津波地震を、1611年の地震、1677年の地震、1896年の地震と整理し、ポアソン過程で評価する試算をした結果が示されて議論され、1677年の地震を日本海溝沿いプレート間大地震に入れてしまうことは非常に問題であるとの指摘があったが、これに対し、別の委員から、津波の分布からすると明らかに太平洋プレートのもので、フ5ィリピン海プレートのものではないという意見が出された。(甲C75の3・5頁、6頁、丙C12の2・263頁)エ 平成14年5月14日開催の第12回海溝型分科会では、委員で レートのもので、フ5ィリピン海プレートのものではないという意見が出された。(甲C75の3・5頁、6頁、丙C12の2・263頁)エ 平成14年5月14日開催の第12回海溝型分科会では、委員であるB氏(以下「B氏」という。)から、「津波地震として1677年をいれるかいれないかだが、1611年の位置も本当にここなのか?」として疑問10が呈され、千島沖の可能性もあると指摘されたのに対し、事務局から、メカニズムは分からないけれども、3回大きな津波が発生して三陸に大きな被害を発生させているわけだから、警告としてはむしろ3回という方を選択する旨の回答があった。この回答に対して、B氏は、震源がどこであるかという議論をしており、三陸に津波を起こしたという意味で議論をする15ならば、チリ津波まで含めなければならない理屈となるから、被害という観点とは別に考えなくてはならないと反論した。 最終的には、A氏の「いずれにせよ、被害がでますので3回としてしまっていいと思う」との発言の後、三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域において、1611年、1677年及び1896年の3回の津波地震が発20生していると整理された。(甲C75の5・4頁~8頁、丙C12の2・288頁、289頁)オ 平成14年6月26日開催の第67回長期評価部会では、三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価について、海溝寄りのプレート間大地震が400年に3回としたことについて、委員から、無理に割り振ったの25ではないかという懸念が示されたのに対し、A氏は、1611年の地震は13本当は分からず、1933年の地震と同じという説や千島沖で発生した説などもあると回答し、400年に3回と割り振ったことと、それらが一様に発生するとしたところに問題が残りそうだと述べた。(丙 13本当は分からず、1933年の地震と同じという説や千島沖で発生した説などもあると回答し、400年に3回と割り振ったことと、それらが一様に発生するとしたところに問題が残りそうだと述べた。(丙C12の2・315頁、丙C70・6頁、7頁)⑶ 本件長期評価の公表直後における保安院の対応5ア 平成14年8月5日の保安院による東電からのヒアリング保安院は、平成14年7月31日に本件長期評価が公表されたことから、保安院の原子力発電安全審査課耐震班(以下「耐震班」という。)において、本件長期評価の見解に対する対応方針等につき原子力発電所の事業者のヒアリングを行った。同班の班長らは、同年8月5日、東電に対し、10「地震調査研究推進本部は、三陸沖から房総沖の海溝寄り領域においてどこでも津波地震が起こることを想定しているのに対し、土木学会は、福島沖と茨城沖では津波地震を想定していないがなぜか。」等の質問を行った。 同質問に対して、東電は、福島沖から茨城沖の海溝沿いでは有史以来、津波地震が発生していないこと並びにC及びB氏が公表した「津波地震はど15こで起こるか 明治三陸津波から100年」(平成8年、以下「C・B論文」という。丙C28)を引用し、プレート境界面の結合の強さや滑らかさ、沈み込んだ堆積物の状況の違いから、典型的なプレート間大地震が発生している領域の沖(海溝付近)では津波地震は発生しないと回答した。 この回答を受けて、同班の班長らは、同日のヒアリングにおいて、福島20沖から茨城沖の領域で津波地震が発生した場合のシミュレーションを行うべきであると述べたことに対し、東電の担当者は、難色を示し、C・B論文の内容を再度引用するなどして40分間ほど抵抗した。最終的に、同班の班長らは、東電側に対し、地震本部がどのような根拠 ションを行うべきであると述べたことに対し、東電の担当者は、難色を示し、C・B論文の内容を再度引用するなどして40分間ほど抵抗した。最終的に、同班の班長らは、東電側に対し、地震本部がどのような根拠に基づいて本件長期評価で津波地震に関する見解を示したのか地震本部の委員に確認するこ25とを指示して、同日のヒアリングは終了した。(丙C59・1~7頁、資14料①)イ 平成14年8月7日の東電によるB氏からのヒアリング東電の担当者は、平成14年8月7日、C・B論文の著者の一人であり、長期評価部会海溝型分科会の委員でもあったB氏に対して、地震本部がどのような理由で本件長期評価の中で津波地震に対する見解を示したのかに5ついてメールで聞き取りを行い、同日、B氏は、同分科会においては、B氏を含めて反対意見もあったが、1896年の地震(明治三陸地震)のほかに1611年の地震(慶長三陸地震)及び1677年の地震(延宝房総沖地震)を津波地震とみなしたこと、この2つの地震については波源がはっきりしないため、海溝沿いではどこで津波地震が発生するか分からない10と結論付けたこと及びC・B論文と本件長期評価の見解のどちらが正しいかについては、よく分からないというのが正直な答えであることを回答した。(丙C59・8頁、9頁、資料③~⑤)ウ 平成14年8月23日の東電による耐震班への報告東電の担当者は、平成14年8月7日にB氏へヒアリングした内容を踏15まえて、同月22日、耐震班の審議官に対して、本件長期評価の見解は、具体的な理学的根拠があるものではなく、津波地震のデータも不十分で更なる研究・検討が必要なものであるとして、東電としては、本件長期評価の見解を決定論的安全評価には取り入れず、確率論的安全評価の中で取り入れていく方針である ものではなく、津波地震のデータも不十分で更なる研究・検討が必要なものであるとして、東電としては、本件長期評価の見解を決定論的安全評価には取り入れず、確率論的安全評価の中で取り入れていく方針であることを伝え、耐震班はかかる東電の方針を了承した。 20(丙C59・9頁~12頁、資料⑥)⑷ 本件長期評価公表から本件地震の発生までの間の本件長期評価の内容に関連する専門家の見解等ア F名誉教授の意見書の送付日本地震学会会長兼地震予知連絡会の元会長であるF東北大学名誉教授25(以下「F名誉教授」という。)は、本件長期評価の公表直後である平成1514年8月8日に、地震調査委員会に対して、1611年の慶長三陸沖の地震が正断層型であった可能性の有無やこれを津波地震と判断した根拠を問うとともに、本件長期評価の見解をそのまま地震動予測地図に反映することは危険であり、分からないところは分からないとして残すべきである等の旨を記載した意見書を送付した。(丙C73・3頁)5イ G「史料地震学で探る1677年延宝房総沖津波地震」(平成15年公表)同論文は、1677年の延宝房総沖地震について、気象庁マグニチュードに相当するMは6.5程度かもしれないとし、本件長期評価において同地震を房総沖の海溝寄りで発生したM8クラスのプレート間地震と整理さ10れたことは疑問であるとしている。具体的には、もし同地震が房総沖の海溝寄りで発生したM8クラスのプレート間地震であるならば、福島県や茨城県の沿岸部、江戸は少なくとも震度4~5になっているところ、史料の内容を踏まえると、福島県や茨城県の沿岸部は震度0~1、江戸は震度2~3程度であったこと等を挙げている。 15また、同論文では、同地震について、日本海溝から伊豆・小笠原海溝に関係している の内容を踏まえると、福島県や茨城県の沿岸部は震度0~1、江戸は震度2~3程度であったこと等を挙げている。 15また、同論文では、同地震について、日本海溝から伊豆・小笠原海溝に関係しているというよりは、相模トラフに関係した現象という可能性も検討する必要があるほか、大規模な海底地滑りという可能性も全くないとはいい切れず、総じて、同地震を、1611年の三陸沖地震及び1896年の明治三陸津波地震と一括して「三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレ20ート間大地震(津波地震)」というグループを設定し、その活動の長期評価を行った本件長期評価の作業は適切ではないかもしれないとしている。 (丙C40)ウ 地震本部による本件長期評価の信頼度の評価地震本部地震調査委員会は、平成15年3月24日、「プレートの沈み込25みに伴う大地震に関する長期評価の信頼度について」(丙C78)を公表し、16本件長期評価の信頼度について、「発生領域の評価の信頼度」を「C(やや低い)」、「規模の評価の信頼度」を「A(高い)」、「発生確率の評価の信頼度」を「C(やや低い)」とそれぞれ評価した。(丙C78・8頁)「発生領域の評価の信頼度」が「C(やや低い)」との意味は、想定地震の震源域をほぼ特定した場合、発生領域内における大地震は知られていない5が、ほぼ領域全体もしくはそれに近い大きさの領域を想定震源域と推定でき、過去に大地震が知られていないため、発生領域の信頼性は低い、又は、想定地震と同様な地震が発生すると考えられる地域を1 つの領域とした場合、領域内のどこかで発生すると考えられるが、想定震源域を特定できず、過去の地震データが不十分であるため、発生領域の信頼性はやや低いというもので10ある。(丙C78・2頁)「規模の評価の信頼度」が「A(高 こかで発生すると考えられるが、想定震源域を特定できず、過去の地震データが不十分であるため、発生領域の信頼性はやや低いというもので10ある。(丙C78・2頁)「規模の評価の信頼度」が「A(高い)」との意味は、想定地震と同様な過去の地震の規模から想定規模を推定しており、過去の地震データが比較的多くあり、規模の信頼性は高いとされるものである。(丙C78・2頁)「発生確率の評価の信頼度」が「C(やや低い)」との意味は、想定地震15と同様な過去の地震データが少なく、必要に応じ地震学的知見を用いて発生確率を求めたため、発生確率の値の信頼性はやや低く、今後の新しい知見により値が大きく変わり得るとされるものである。(丙C78・2頁)エ 「全国を概観した地震動予測地図」及び同地図における本件長期評価の見解20地震本部では、平成11年4月以降、「全国を概観した地震動予測地図」を作成するために、長期評価及び強震動評価を実施し、地震調査委員会は、平成17年3月、それまでに実施した長期評価及び強震動評価を総合的に取りまとめて、「全国を概観した地震動予測地図」(丙C65の1・1頁~3頁)を公表した。 25上記地震動予測地図は、「確率論的地震動予測地図」及び「震源断層を17特定した地震動予測地図」の観点の異なる2種類の地図で構成されている。 「確率論的地震動予測地図」は、地図上の各地点(約1km四方の領域)において、今後の一定期間内に強い揺れに見舞われる可能性を示したものであり、地震発生の長期的な可能性の評価と地震が発生したときに生じる強い揺れの評価とを組み合わせることで作成されている。また、「震源断5層を特定した地震動予測地図」は、ある特定の震源断層に着目し、そこで地震が発生した場合に周辺の地域がどの程度の強い揺れに じる強い揺れの評価とを組み合わせることで作成されている。また、「震源断5層を特定した地震動予測地図」は、ある特定の震源断層に着目し、そこで地震が発生した場合に周辺の地域がどの程度の強い揺れに見舞われるかを示した地図であり、活断層や海溝付近で発生する地震のうち周辺地域への影響が大きい地震を対象とした強震動予測と過去の観測記録による予測結果の検証等を行って公表してきた12の想定地震に対する評価結果をまと10めたものである。 地震防災や耐震設計への活用として、確率論的地震動予測は、個別の地点ごとの利用が最も一般的で、詳細な情報に基づいて個別地点における設計用地震動や耐震補強用地震動の設定、地震による建物や経済損失の可能性の評価に用いられており、「確率論的地震動予測地図」の作成のために15用いたデータは公開されることから、その情報を詳細評価に活用することができるとされているほか、「震源断層を特定した地震動予測地図」は、水道、ガス等、地震時には広域な被害が想定されるライフラインの防災対策や応急復旧計画の策定には、地震が発生した場合にどこでどの程度の被害が発生するかの情報とその対策のシナリオの作成等に活用できるとされ20ている。(丙C65の1・80頁、81頁)「確率論的地震動予測地図」においては、本件長期評価の見解が採用されているが(丙C65の2・55頁、70頁)、「震源断層を特定した地震動予測地図」においては、本件長期評価の見解は採用されていない(丙C65の3・219頁、221頁)。 25オ 日本海溝・千島海溝報告書における本件長期評価の見解18災害対策基本法11条1項に基づいて内閣府に設置された機関である中央防災会議は、東北・北海道地方における地震防災対策強化の必要性を踏まえて、当該地域で発生する大規 おける本件長期評価の見解18災害対策基本法11条1項に基づいて内閣府に設置された機関である中央防災会議は、東北・北海道地方における地震防災対策強化の必要性を踏まえて、当該地域で発生する大規模海溝型地震対策を検討するため、平成15年10月に日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に関する専門調査会(以下「日本海溝・千島海溝調査会」という。)を設置した。同調査会は、地5震学、地質学、土木工学、建築学などの専門家14名が委員とされ、当該地域で発生する大規模海溝型地震についての専門技術的な検討が行われた。 (丙C50・4頁)日本海溝・千島海溝調査会は、同調査会内に設置されたワーキンググループによる報告等も踏まえ、平成18年1月25日に「日本海溝・千島海10溝周辺海溝型地震に関する専門調査会報告」(丙C50)を作成したが、福島県沖・茨城県沖の領域については、「M7クラスの地震(1938年のM7.0、7.5、7.3など)が発生しているが、これらの地震の繰り返し発生は確認されていない。」として、本件長期評価の見解は採用されなかった。(丙C50・9頁、62頁)154 発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針の策定原子力安全委員会は、平成18年9月、発電用軽水型原子炉の設置許可申請及び変更許可申請に係る安全審査のうち、耐震安全性の確保の観点から耐震設計方針の妥当性について判断する際の基礎を示すことを目的として、「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」(以下「平成18年耐震設計審査指針」20という。)を策定した。上記指針は、発電用軽水型原子炉施設について、その供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があると想定することが適切な津波によっても、上記原子炉施設の枢要な安全機能が損なわれるおそれがないことを十分考慮した上で 水型原子炉施設について、その供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があると想定することが適切な津波によっても、上記原子炉施設の枢要な安全機能が損なわれるおそれがないことを十分考慮した上で設計されなければならないものとしていた。 保安院は、同月、東電を含む発電用原子炉施設の設置者等に対し、既設の発25電用原子炉施設等に係る新耐震指針基準(以下「バックチェックルール」とい19う。)に基づき、耐震安全性の評価を実施するよう指示(以下「耐震バックチェック指示」という。)した。(丙C102、丙C103)バックチェックルールは、津波に対する安全性に関し、津波を想定して数値シミュレーションを行うこととしており、その内容は、実質的には平成14年津波評価技術の考え方を採用したといえるものである(丙C58、丙C1054・4頁、5頁)。 なお、原子力安全委員会は、「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針(案)」及び「原子力安全基準・指針専門部会の見解」に対して寄せられた公衆意見のうち、「国の機関である地震調査研究推進本部と耐震指針検討分科会との考え方の違いが、どう違って、なぜ耐震指針検討分科会の方が正しいのか10が全く理解できない。」との意見に対して、地震本部の活断層調査結果等については、目的・評価方法・データが異なることから、直接それらを取り入れることは求めないものの、既往の研究成果及び既往の資料等として、安全審査において、総合的な検討を行う際に参照されることになると回答した。(丙C111・38枚目、丙C112・11頁)155 本件長期評価に基づく津波の試算東電は耐震バックチェック指示を受けて、平成19年11月頃から関連会社である東電設計株式会社(以下「東電設計」という。)と打合せを始め、本件長期評価 155 本件長期評価に基づく津波の試算東電は耐震バックチェック指示を受けて、平成19年11月頃から関連会社である東電設計株式会社(以下「東電設計」という。)と打合せを始め、本件長期評価の見解を決定論に取り込んだ場合に福島第一発電所に到来する可能性のある津波を評価すること等を同社に委託した。(丙C117の1・34頁、20丙C117の2・402頁、丙C118の1・13頁~17頁)同社は、本件長期評価に基づいて福島県沖から房総沖の日本海溝寄りの領域(JTT2及びJTT3)に明治三陸地震の断層モデルを設定した上で、平成14年津波評価技術が示す設計津波水位の評価方法に従って、上記断層モデルの諸条件を合理的と考えられる範囲内で変化させた数値計算を多数実施して津25波の試算を行い、平成20年3月及び4月にその内容をまとめた資料を作成し20た。平成20年4月18日の「新潟県中越沖地震を踏まえた福島第一、第二原子力発電所津波評価委託第2回 打合せ資料 資料2 福島第一発電所 日本海溝寄りの想定津波の検討Rev.1」による試算は、福島第一発電所の敷地の海に面した東側及び南東側の前面における波の高さが最も高くなる津波は、本件敷地の南東側前面において、最大で15.707mの高さになるが、敷地の5東側前面では敷地の高さ(O.P.+10m)を超えず、主要建屋付近の浸水深は、4号機の原子炉建屋付近で約2.6m、4号機のタービン建屋付近で約2.0mとなるというものであった。(以下「平成20年試算」という。甲Ⅽ63、甲C64、丙C157・99頁~103頁、丙C117の2・469頁~473頁)10東電の担当部署は、平成20年4月18日までに、東電設計から、平成20年試算を受領した(丙C117の2・469頁、513頁、522頁)。 ~103頁、丙C117の2・469頁~473頁)10東電の担当部署は、平成20年4月18日までに、東電設計から、平成20年試算を受領した(丙C117の2・469頁、513頁、522頁)。 6 貞観津波の知見の進展⑴ 「宮城県沖地震における重点的調査観測」の実施地震本部は、平成17年8月30日、「今後の重点的調査観測について15(-活断層で発生する地震及び海溝型地震を対象とした重点的調査観測、活断層の今後の基盤的調査観測の進め方-)」を公表した。目的は①地殻活動の現状把握の高度化等地震発生前・後の状況把握、②長期的な地震発生時期、地震規模の予測精度の向上、③強震動の予測精度の向上、④津波の即時的な予測精度の向上であり、重点的調査観測の対象地震の一つとして、宮城県沖20地震を挙げた。(丙C201)そして、地震本部は、平成17年度から平成21年度にかけて、宮城県沖地震における重点的調査観測を計画し、実際の調査観測等については、文部科学省を通じて東北大学及び国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下「産総研」という。)等に委託され「津波堆積物調査に基づく地震発生履歴25に関する研究」や「地質調査・津波シミュレーションに基づく地震発生履歴21に関する研究」などの調査研究が実施されることになり、その調査研究の過程で、仙台・石巻平野の津波堆積物調査等が実施された。調査の実施状況については以下のとおり報告されている。(丙C201、丙C202・1頁、2頁、186頁、187頁)ア 平成17年度5「仙台平野の完新世堆積物を広域的に調査し、その層序と津波堆積物の分布を明らかにした。また、貞観津波で形成された津波堆積物の分布範囲と当時の海岸線の位置を明らかにした。さらに、地殻変動を推定するため堆積環境の変化 世堆積物を広域的に調査し、その層序と津波堆積物の分布を明らかにした。また、貞観津波で形成された津波堆積物の分布範囲と当時の海岸線の位置を明らかにした。さらに、地殻変動を推定するため堆積環境の変化を記録する地層が分布しているかどうか検討を行った。石巻平野についても、堤間湿地の完新世堆積物を広域的に精査し、津波堆積 物の分布や、地殻変動の記録が残されているかどうかを検討した。」イ平成18年度「平成17年度に調査に着手した仙台平野南部、仙台平野中部、石巻平野において、埋没地形や津波堆積物の詳細な調査を引き続き行った。手掘り式ピートサンプラー及び小型ジオスライサーを用い、仙台平野北部から 石巻平野を中心に、西暦869年に発生した貞観津波をはじめとする完新世津波堆積物の分布域と津波襲来時の海岸線位置を明らかにした。また、沿岸域の完新世地殻変動を堆積物の微化石あるいは海岸の発達過程から解明を試みた。」ウ平成19年度 「過去2年間で仙台平野及び石巻平野において明らかになった西暦869年貞観津波の津波堆積物の分布を説明する津波をシミュレーションで再現することを試みた。平成19年度は、津波シミュレーションに必要な海底地形データの整備と、予察的な津波シミュレーションを実施した。また、今までの調査で解決していない、最近1000年間の地殻変動を解明する ため、海岸付近の砂丘で小型ジオスライサーによる堆積物採取を行い、地 殻変動の検出を試みた。」エ平成20年度「仙台平野南部における過去約1000年間の地殻変動と、福島県の常磐海岸における地殻変動の復元に適した地域の選定を行った。仙台平野南部では、地中レーダーと小型ジオスライサーを用いた掘削調査を組み合わ せ、前浜堆積物の高度分布から過去の地殻 変動と、福島県の常磐海岸における地殻変動の復元に適した地域の選定を行った。仙台平野南部では、地中レーダーと小型ジオスライサーを用いた掘削調査を組み合わ せ、前浜堆積物の高度分布から過去の地殻変動を検討した。常磐海岸では、相馬市、南相馬市、g町で掘削調査を行い、過去の地殻変動を記録している可能性のある場所を選定した。」オ平成21年度「平成17年度以来、宮城県南部から福島県常磐海岸地域に至る地域で 行ってきた津波堆積物調査の結果を総合して、貞観津波の到達域の分布を明らかにした。さらに、福島県常磐海岸における過去約2000年間の地殻変動を堆積物中の化石試料から検討した。得られた成果から、貞観津波を含む巨大津波の痕跡である津波堆積物の存在を時空分布としてまとめ、これらの発生間隔について検討した。さらに、貞観津波については、今ま でに取得した地質データを基に津波の波源域を津波シミュレーションにより推定した。」⑵ 産総研による「活断層・古地震研究報告」の公表東北大学等とともに「宮城県沖地震における重点的調査観測」を実施した産総研は、平成13年以降、前年度の調査・研究結果を迅速かつ詳細に報告 することを目的として「活断層・古地震研究報告」を公表していた。同報告では、編集方針として、途中経過や暫定的な結果であっても時機を逸さずに公表すること及び公的資金を使って行われた調査・研究のデータを全て公表することを挙げている。かかる報告に掲載された研究報告が以下の論文である。(丙C203~丙C205) ア平成20年B論文 平成20年12月に公表された「活断層・古地震研究報告第8号(2008年)」を公表し、同報告中の一つとして、B・D・E「石巻・仙台平野における869年貞観津波の数値シミュレーシ 年B論文23平成20年12月に公表された「活断層・古地震研究報告第8号(2008年)」を公表し、同報告中の一つとして、B・D・E「石巻・仙台平野における869年貞観津波の数値シミュレーション」(以下「B論文」という。)が発表された(受付日同年8月31日、受理日同年10月18日)。同論文では、貞観津波を起こした地震の規模やメカニズムを推定す5るため、日本海溝沿いにおける様々なタイプの断層モデルからの仙台平野と石巻平野における津波浸水シミュレーションを実施し、既に調査されている津波堆積物の分布と比較した。 具体的には、B氏らは、まず、貞観津波を発生させた地震の断層モデルとして、昭和三陸地震と同様な海溝外側のプレート内正断層地震(モデル101)、明治三陸地震と同様な津波地震(モデル2)、プレート間地震(モデル3~8、10)、仙台湾内の断層による地震(モデル9)のモデルを設定した。次に、各断層モデルに係る津波シミュレーションを実施し、シミュレーションによる浸水域や浸水深等を測定した。最後に、当時行われていた石巻平野と仙台平野における津波堆積物の調査の結果と断層モデル15からのシミュレーション結果とを比較した。 その結果、プレート内正断層地震(モデル1)、津波地震(モデル2)、仙台湾内の断層による地震(モデル9)では、両平野の津波堆積物の分布を再現することはできないが、プレート間地震のモデルのうち、モデル8(100km(断層長さ)×100km(幅))とモデル10(200k20m(断層長さ)×100km(幅))が適切であるとされ、石巻・仙台平野での津波堆積物分布を説明するには、プレート間地震モデルで、断層幅は100km、すべり量は7m以上がよいと結論づけられた。そして、その場合には浸水域が大きくなり、津波堆積物 るとされ、石巻・仙台平野での津波堆積物分布を説明するには、プレート間地震モデルで、断層幅は100km、すべり量は7m以上がよいと結論づけられた。そして、その場合には浸水域が大きくなり、津波堆積物の分布をほぼ完全に再現できたとされている。ただし、「本研究では、断層の長さは3例を除いて20250kmと固定したが、断層の南北方向の広がり(長さ)を調べるためには、24仙台湾より北の岩手県あるいは南の福島県や茨城県での調査が必要である。」との付言がある。(丙C196)イ 平成22年Dら論文その後、産総研は、平成22年12月、「活断層・古地震研究報告第10号(2010年)」を公表し、同報告中の一つとして、D・B・E「宮城5県石巻・仙台平野および福島県請戸川河口低地における869年貞観津波の数値シミュレーション」(以下「Dら論文」という。)が発表された。Dら論文は、「宮城県沖地震における重点的調査観測」の成果を踏まえて「津波の波源域を津波シミュレーションにより推定した」ものであり、B論文で適切であると報告されたプレート間地震で断層幅が100km、すべり量が710m以上の場合であるモデル8又はモデル10を基にして更なる検討を加えた結果、モデル8では、h地区の津波堆積物を説明することができないなど、全地域の津波堆積物の位置まで浸水する結果は得られないことが判明したため、モデル10及びモデル11(モデル10を傾斜角方向に深部(上端深さ31km)に移動させたもの)が適切とされた。ただし、Dら論文において15も、「断層の南北の拡がり(長さ)などをさらに検討するために、今後、石巻平野よりも北の三陸海岸沿岸や、あるいはh地区よりも南の福島県、茨城県沿岸における津波堆積物の調査が必要である。」との付言がある(甲C214、丙C205) さ)などをさらに検討するために、今後、石巻平野よりも北の三陸海岸沿岸や、あるいはh地区よりも南の福島県、茨城県沿岸における津波堆積物の調査が必要である。」との付言がある(甲C214、丙C205)。 ⑶ 東電による貞観津波の水位の試算 東電は、平成20年10月17日、B氏から、B論文の断層モデル(モデル8及び10)を提供され、東電設計に対し、同断層モデルに基づき貞観津波の水位の試算を委託した。同社は、同年11月12日、福島第一発電所の敷地東側である1号機から6号機の各取水口前面位置における最大水位上昇量につき、モデル10では7.074mから7.667m、モデル8では4. 253mから4.346mと試算した。(丙C117の2・595頁~59 7頁)⑷ 貞観津波再来等についての知見B氏は、別件訴訟における証人尋問で、貞観津波の波源について、本件地震発生当時も断層モデルは定まっていなかったと証言し(丙C18の1・51頁)、また、貞観津波の再来周期について、本件地震発生前には800年 から1100年程度とする論文が出版されていたことから、当時の地震学者の間のほぼ確立した知見とみなすことはできたとの意見を述べている(乙C19・11頁)。 地質学の専門家であるH 氏(以下「H 氏」という。)は、閣議決定により設置された東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会委員 が、平成23年7月12日、聞き取りを行った際、貞観津波について、400年から800年周期だと考えていると述べ、「切迫性はあったか、保安院や東電に切迫性を訴えたか」の問いに対し、それらを否定した上で、切迫していないとしても原子力発電所では対策すべきことを前提にしつつ、こんなにすぐ来るとは思わなかった、数年内に起こるとは思っていなかった 東電に切迫性を訴えたか」の問いに対し、それらを否定した上で、切迫していないとしても原子力発電所では対策すべきことを前提にしつつ、こんなにすぐ来るとは思わなかった、数年内に起こるとは思っていなかったと回答15した。(甲C228の2・証人H 提示書証7頁、8頁)7 耐震バックチェック指示に対する中間報告⑴ 概要東電は、平成20年3月31日、保安院に対して、福島第一発電所5号機を代表号機として評価した耐震バックチェック指示に対する中間報告書を提20出した(以下「本件中間報告書」という。)。 本件中間報告書のポイントとして、①平成18年耐震設計審査指針に照らした各種地質調査(変動地形学的調査、地表地質調査等)を実施し、同指針の趣旨等を踏まえ、活断層の長さ等を保守的に評価するとともに、プレート間地震及び海洋プレート内地震についても、地震の規模や発生位置等の不確25かさを考慮した地震動評価を行い、②基準地震動Ssは、1938年福島県26東方沖地震(M7.5)をはじめ複数の地震が同時に発生することや、2003年宮城県沖の地震(M7.1)が敷地下方で発生することを想定するなど保守的な評価を行い、余裕をもたせて策定した(丙C114)。基準地震動Ssとは、平成18年耐震設計審査指針において、「施設の耐震安全性を確保するための耐震設計の前提となる地震動であり、その策定に当たっては、5個別の安全審査時における最新の知見に照らして、その妥当性が十分確認されなければならない」とされる地震動である(丙C103・別添17頁)。 ⑵ 保安院の検討保安院は、耐震バックチェックに関する審議を行う目的で、総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会の下に設置された耐震・構造設計小委員10会地震・津波、地質・地盤合同ワーキンググループ 検討保安院は、耐震バックチェックに関する審議を行う目的で、総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会の下に設置された耐震・構造設計小委員10会地震・津波、地質・地盤合同ワーキンググループ(以下「合同WG」という。)第32回会議(平成21年6月24日開催)及び第33回会議(同年7月13日開催)において、本件中間報告書における評価の妥当性を審議した。審議の内容は以下のとおりである。(丙C208の1、丙C208の2)15ア 合同WG第32回会議(平成21年6月24日開催)同会議では、東電の担当者が、基準地震動Ssの策定について説明した。 具体的には、福島地点ではプレート間地震、内陸地殻内地震及び海洋プレート内の3種類の地震が発生しており、それぞれについて検討用地震を設定したこと及びプレート間地震については、検討用地震としてM7.5と20M7.3の塩屋崎沖地震を選定したこと等が説明された。(丙C208の1・10頁、11頁)これに対しては、地質学の専門家であるH 氏から、「プレート間地震ですけれども、1930年代の塩屋崎沖地震を考慮されているんですが、御存じだと思いますが、ここは貞観の津波というか貞観の地震というもの25があって、西暦869年でしたか、少なくとも津波に関しては、塩屋崎沖27地震とは全く比べ物にならない非常にでかいものが来ているということはもうわかっていて、その調査結果も出ていると思うんですが、それに全く触れられていないところはどうしてなのかということをお聴きしたいんです。」との質問があった。(丙C208の1・16頁)これに対して、東電の担当者は、歴史地震ということもあり研究的には5課題として捉えるべきだと考えているものの、耐震設計上考慮する地震としては塩屋崎沖地震で代表できると回 208の1・16頁)これに対して、東電の担当者は、歴史地震ということもあり研究的には5課題として捉えるべきだと考えているものの、耐震設計上考慮する地震としては塩屋崎沖地震で代表できると回答した。(丙C208の1・16頁、17頁)東電の担当者の回答に対して、H 氏は、さらに、「どうしてそうなるのかはよくわからないんですけれども、少なくとも津波堆積物は常磐海岸に10も来ているんですよね。かなり入っているというのは、もう既に産総研の調査でも、それから、今日は来ておられませんけれども、東北大の調査でもわかっている。ですから、震源域としては、仙台の方だけではなくて、南までかなり来ているということを想定する必要はあるだろう、そういう情報はあると思うんですよね。そのことについて全く触れられていないの15は、どうも私は納得できないんです。」と述べた。(丙C208の1・17頁)上記意見を受け、事務局として参加していた保安院の原子力発電安全審査課耐震安全審査室(以下「耐震室」という。)のI安全審査官(以下「I安全審査官」という。)は、地震動評価上の影響については、今ある20知見で設定したほうが影響が大きかったと思うので確認したいと述べ、津波については、中間報告では出されていないので評価していないが、本報告までには、当然貞観地震も踏まえた検討がされると考えていると述べて(丙C208の1・17頁)、貞観地震の取扱いに関する議論はプレート間地震の検討において継続されることとなった(丙C208の1・3025頁)。 28イ 合同WG第33回会議(平成21年7月13日開催)同会議では、東電の担当者が、H 氏から出された意見に対する検討結果として、B論文で提案された断層モデルを震源断層と仮定した場合に、耐専スペクトル 同WG第33回会議(平成21年7月13日開催)同会議では、東電の担当者が、H 氏から出された意見に対する検討結果として、B論文で提案された断層モデルを震源断層と仮定した場合に、耐専スペクトルによる評価結果は、仮想塩屋沖地震と同程度あるいは少し上回るところがあるが、策定した基準地震動Ss-1のレベルを下回ってい5ることを報告し、ただし、なかなか情報が少ないということがあるので、貞観地震については、今後も引き続き知見の収集に努めて、適宜、必要な検討を行ってまいりたいと述べた。(丙C208の2・3頁~7頁)これに対して、H 氏は、貞観地震の地震動をどのように推定するかは難しい問題だとしつつ、「Bほか(2008。B論文を指す。)の断層モデ10ルをそのまま、そこから地震動を計算されているんですが、そもそもこういう地震って何なんだということを今の知見で考えると、やはり連動型地震と言われているものだろうと考えるのが妥当だと思うんですね。それは、17世紀ですか、千島海溝で起こったとか、2004年のスマトラ沖地震がそういうものに相当すると考えているわけですけれども、そういう地震15というものは、要するにもう少し短い間隔で普通に起こっている震源域が、複数の震源域が同時に破壊する、そういうことで起こるのだろうと言われているわけですね。そういうふうに考えると、やはりここは、塩屋崎沖地震というものが1つある。もう少し北に行くと宮城県沖地震というものもある。そこをまたぐようなところでこの貞観の地震というものは考えざる20を得ない。津波の情報だけではですね。そうすると、やはり今わかっている震源域のところは連動の範囲に含まれるのではないかと考えるのが、今の知識では妥当かなと私は思うんですよね。だから、これだとちょっと外れますよね。塩屋崎 けではですね。そうすると、やはり今わかっている震源域のところは連動の範囲に含まれるのではないかと考えるのが、今の知識では妥当かなと私は思うんですよね。だから、これだとちょっと外れますよね。塩屋崎沖地震よりちょっと遠いところに貞観の震源モデルを考えて、それとは別のものだというイメージで今、話をされているんです けれども、別にしていいとはなかなか考えにくいのではないかと私は思い ます。」と意見を述べた。(丙C208の2・7頁)H 氏の上記意見に対して、東電の担当者は、例えば塩屋崎沖地震と貞観地震とを繋げるようなことについては情報が十分ではない旨を回答し(丙C208の2・8頁)、I安全審査官は、事務局として、中間報告では東電はまだ津波の評価を提出しておらず、本報告で津波の波源を設定すると きの考え方等との整合性を考慮し、地震動評価上の影響を検討する必要がある旨を述べ、最終的には、本件中間報告書の評価書において、貞観地震の津波堆積物の調査について付言することとなった。(丙C208の2・13頁、14頁)I安全審査官は、同会議の翌日である平成21年7月14日、H 氏に対 し、評価書に記載する修正案として「東北電力(注:正しくは「東北大学」)や産業技術総合研究所の津波堆積物調査、それから波源に対しての研究成果に応じて、地震動評価及び津波評価の観点から、適切な対応を実施すべき」と記載された文案を送付し、H 氏の了承を得た(丙C58・14頁、丙C104・14頁、15頁)。 ウ本件中間報告書に対する保安院の評価書保安院は、平成21年7月21日に、耐震バックチェックに係る中間報告書(本件中間報告書)において報告された福島第二原子力発電所(以下「福島第二発電所」という。)に係る地質・地質構造、基準地震動及び 保安院は、平成21年7月21日に、耐震バックチェックに係る中間報告書(本件中間報告書)において報告された福島第二原子力発電所(以下「福島第二発電所」という。)に係る地質・地質構造、基準地震動及び施設の耐震安全性の評価について検討を加えその結果を取りまとめた評価書20(丙C209。以下「保安院の評価書」という。)を公表した。同評価書によれば、プレート間地震について、東電が設定した塩屋崎沖の地震の基本震源モデル及び不確かさを考慮した震源モデルは妥当と判断するとともに、合同WGにおいて貞観地震に関する文献(B論文を指す。)を考慮した検討をすべきとの意見があったことに言及した上で、「なお、現在、研25究機関等により869年貞観の地震に係る津波堆積物や津波の波源等に関30する調査研究が行われていることを踏まえ、当院は、今後、事業者が津波評価及び地震動評価の観点から、適宜、当該調査研究の成果に応じた適切な対応を取るべきと考える。」と付言した。(丙C209・24頁)エ 原子力安全委員会における検討原子力安全委員会においても、地震・地震動評価委員会及び施設健全性5評価委員会のワーキンググループが設けられ、耐震バックチェックに係る中間報告書及び保安院の評価書について審議がなされた。平成21年8月7日に開催された同ワーキング・グループの会議においては、保安院のI安全審査官より保安院の評価書について説明がなされ、委員からは、貞観地震の地震動の算出方法について質問がなされたものの、保安院の評価書10について異議のある委員はいなかった。(丙C211・22頁、23頁、39頁)原子力安全委員会は、平成21年11月19日、保安院の評価書について、妥当であると認める決定をし、貞観津波に関する知見を根拠に直ちに何らかの対策を講じる (丙C211・22頁、23頁、39頁)原子力安全委員会は、平成21年11月19日、保安院の評価書について、妥当であると認める決定をし、貞観津波に関する知見を根拠に直ちに何らかの対策を講じるべきとの評価はしなかった。(丙C116)15⑶ 保安院と東電との間における協議ア 平成21年8月保安院のI安全審査官は、貞観地震に関する知見は未確立で、貞観地震に関する意見を述べたH 氏も貞観地震の再来が切迫しているという指摘はしていなかったことから、当時において貞観地震の知見を踏まえた対策20が喫緊の課題であるとまでは考えていなかった。もっとも、H 氏は貞観地震を踏まえた対策の必要性を繰り返し述べており、東電としても貞観地震の知見を踏まえた対応を検討することになっていたため、平成21年8月上旬頃、東電の担当者に対して、東電の貞観地震を踏まえた検討状況の説明を求めた。(丙C58・14頁)25これに対して、東電の担当者は、同月28日、保安院において、事前に31作成した資料を用いて、貞観地震に関する検討状況を報告した。その際、東電は、貞観津波については、その知見が確定していないことから、電力共通研究として土木学会で検討してもらい、標準化すること、耐震バックチェックは、平成14年の津波評価技術に基づき実施すること、そのため、福島第一発電所のバックチェック最終報告には貞観地震を踏まえた対策検5討が間に合わないが、土木学会による検討や今後実施予定の津波堆積物調査の結果を踏まえ、改めてバックチェックを実施し、必要があれば対策工事を行うという方針を伝えるとともに、想定津波の検討結果については、津波評価技術に基づいて算出したO.P.+5mから6mという波高を説明した。報告中、東電の担当者は、貞観津波に関する6名の専門家の 事を行うという方針を伝えるとともに、想定津波の検討結果については、津波評価技術に基づいて算出したO.P.+5mから6mという波高を説明した。報告中、東電の担当者は、貞観津波に関する6名の専門家の意見10として、①「津波がどこまで遡上したかについては、津波発生時の地形を推定して評価しないと過大評価になる。」(B氏)、②「東北大で、従来の仙台平野での調査から格段に密度を上げて調査を実施中」、「実際の津波は津波堆積物の範囲以上に遡上していると考えられるため、その範囲を決めるのが重要と考えている。」(J氏(以下「J氏」という。))、③15「貞観の波源モデルにはまだ自由度があり現状でモデルが確定というには早いと思う」、「モデルの検討には旧地形の復元が必要であるが、福島県の地形はあまり現在と変わらないと考えている。」、「高潮との区別は難しいが、高潮による津波堆積物の例が少ないことを考えると、原子力ではどちらのものであっても考慮するしかないのではないか。」(H 氏)、④20「貞観津波について今すぐ津波評価に取り入れるのは時期尚早」(K氏)といった意見を示した上で、B論文では、波源モデルは示されているが、津波堆積物の調査が必要とされているため、断層の南北の広がりを調べるために、今後、東電が独自に津波堆積物調査を行った上で第4期の土木学会津波評価部会に貞観津波の波源の研究を委託する方針であること、土木25学会の検討結果を踏まえ自主的に対策を実施すること、この方向性に前記32専門家らから特に異論はなかったことを説明した。 I安全審査官は、東電の担当者から、バックチェック最終報告には、貞観地震を踏まえた対策検討が間に合わないと言われたが、東電に対し、バックチェックの最終報告の段階で、貞観地震を踏まえた検討結果について何ら言及しな 、東電の担当者から、バックチェック最終報告には、貞観地震を踏まえた対策検討が間に合わないと言われたが、東電に対し、バックチェックの最終報告の段階で、貞観地震を踏まえた検討結果について何ら言及しないというわけにはいかないと伝えた。また、東電が、B論文5に提示されている波源モデルを使って福島第一発電所の津波の高さを試算していることを知り、その結果を報告するよう伝えた。(甲B32の2、甲C42、丙C58・14頁~16頁、丙C104、丙C117の2・621頁、622頁)イ 平成21年9月10前記アの協議を踏まえて、同月7日、東電は、保安院の耐震室長L(以下「L室長」という。)及びI安全審査官に対して、貞観地震を踏まえた津波の高さの試算結果について報告した(以下「平成21年報告」という。)。その試算結果は、モデル10で潮位を考慮すると、福島第一発電所1号機から6号機の各取水口前面位置における潮位を考慮した最高水位15は、1号機がO.P.+8.631m、2号機がO.P.+8.673m、3号機がO.P.+8.695m、4号機がO.P.+8.720m、5号機がO.P.+8.897m、6号機がO.P.+8.901mとなるものである。L室長とI安全審査官は、福島第一発電所の主要建屋などが置かれているO.P.+10mの敷地は超えないが、非常用海水ポンプが20置かれているO.P.+4mの敷地を超えることとなり、対策を講じなければ非常用海水ポンプの機能に支障が生じるおそれがあることを理解した。 これを受けて、I安全審査官は、上記結果であれば、最終報告に向けた対応としても、具体的な対応を検討したほうがよいと告げ、海水ポンプを建屋内に入れるか、あるいは海水ポンプの周りを壁で囲むなどの対策を念25頭に、「水密」という言葉を使いつつ ば、最終報告に向けた対応としても、具体的な対応を検討したほうがよいと告げ、海水ポンプを建屋内に入れるか、あるいは海水ポンプの周りを壁で囲むなどの対策を念25頭に、「水密」という言葉を使いつつ対策の検討を促したが、東電の担当33者は、津波堆積物の調査を行い、その結果を土木学会に検討してもらってから津波評価を実施するとの方針を変えなかった。 東電の上記方針について、L室長及びI安全審査官は、貞観地震の波源モデルによる試算では、原子力発電所の主要建屋などが置かれているO. P.+10mの敷地高を津波は超えないこと、バックチェックルールにお5ける津波の評価は津波評価技術によって行うものと考えていたこと、貞観地震やそれに伴う津波の実態は未だに未解明な点が多く、知見として未成熟であると考えており、その再来が切迫したものとも考えられていなかったことを踏まえて、上述した以上に東電の方針に対しては異議を述べなかったものの、従前の経緯を踏まえて、バックチェック最終報告では貞観地10震やそれに伴う津波に関する検討結果が盛り込まれるべきであると伝えた。 その頃、I安全審査官は、東電の社員との白熱した議論の中で、面識のない東電側の出席者から、「炉を止めることができるんですか。」と言われたことがある。I安全審査官は、平成21年8月28日の東電からの報告の際、十分検討されていないモデルによる結果で運転中のプラントを止15めるという不合理なことを考える人はいないと思われるが、バックチェックで全く触れないということで通るかどうかは議論があるかもしれないとの考えを伝えた。(甲B32の2・34頁、甲C42・3頁、4頁、丙C58・16頁、17頁、丙C104、丙C117の2・621頁、622頁)20なお、前記の貞観地震を踏まえた津波の高さの との考えを伝えた。(甲B32の2・34頁、甲C42・3頁、4頁、丙C58・16頁、17頁、丙C104、丙C117の2・621頁、622頁)20なお、前記の貞観地震を踏まえた津波の高さの試算結果について、仮に土木学会の断層モデルに採用された場合、不確実性の考慮(パラメータスタディ)のため2~3割程度津波水位が大きくなる可能性がある。その場合には、取水口前面の最高水位はO.P.+10mを超えることになる。 (甲C8・2頁、甲C219・3頁)258 東電における津波対応方針の決定等34⑴ 平成20年2月東電では、福島沖にM8以上の地震を設定すると、従前評価値を上回ることは明らかであり、過去の検討結果からの類推では福島第一発電所で水位7mになるとの認識を有し、土木、建築、機械などに対応する関連部署が共同して検討し、同月16日、社長以下グループマネージャー以上の者が参加す5る中越地震対応打合わせ(社内では御前会議と呼ばれた。)で配布された資料に、地震随伴事象である津波への確実な対応として、福島第一発電所について、①非常用海水ポンプの機能維持、②建屋の防水性の向上、③引波対応(非常用海水ポンプ)を挙げ、①について、暫定対応として「ポンプモータ予備品保有」、本格対応1として「防水電動機等の開発・導入」、本格対応102として「建屋設置によるポンプ浸水防止」、②の具体例として「津波に対する強度補強及び貫通部・扉部のシール性向上等」を挙げた。 また、同年3月5日、日本原子力発電株式会社(以下「日本原電」という。)、日本原子力研究開発機構、東北電力株式会社等との「津波バックチェックに関する打合せ」と題する会議で、東電の担当者は、本件長期評価の15見解を否定することは決定的な証拠がない限り不可能と考えていること、 子力研究開発機構、東北電力株式会社等との「津波バックチェックに関する打合せ」と題する会議で、東電の担当者は、本件長期評価の15見解を否定することは決定的な証拠がない限り不可能と考えていること、J氏の意見を参考にした波源モデルを用いた土木学会手法のパラメータスタディを実施する予定であること、それが原子炉施設等が浸水するような解析結果となれば、設備対策として施設の水密化等を行う予定であること等の発言をした。 20もっとも、東電の社内では、上記検討の過程で、水位7mでは、4m地盤に設置している非常用系の海水ポンプなどのハード的な対応が不可能ではないかと指摘する者もいた。(丙C117の1・57頁~120頁、丙C117の2・433頁、442頁、453頁、丙C118の1・23頁)⑵ 平成20年試算受領後25東電は、平成20年4月18日までに平成20年試算を受領し、社内担当35部署で対策の検討を進め、想定津波高さが10mを超える場合に、津波の進入方向に対して鉛直壁の設置した場合の解析を行ったが、同年4月23日の関連部署の共同会議で、最大の高さが19m程度になる鉛直壁を設置するのは対外的なインパクトが大きいため、社内上層部の意見を聞くこととし、沖合に防波堤を設置する場合の大きさや高さなどの検討と許認可手続の調査を5進めることにした。 東電において、同年7月31日のグループマネージャー以上の者が参加する会議までに、各担当部署において、沖合の防潮堤の設置、既設防波堤の拡張の組み合わせを設定し、検討を行い、また、沖合防潮堤の設置には、意思決定から完成まで約4年要し、環境影響評価が必要な場合はさらに3年かか10ることが見込まれると状況報告をまとめていたところ、同日の会議で、今後の方針として、土木学会津波評価部会に波源の は、意思決定から完成まで約4年要し、環境影響評価が必要な場合はさらに3年かか10ることが見込まれると状況報告をまとめていたところ、同日の会議で、今後の方針として、土木学会津波評価部会に波源の再検討を依頼し、太平洋側津波地震の扱いを検討するものの、耐震バックチェック指示に基づくバックチェックにおいては、「土木学会津波をベースとする」ことが打ち合わせられた。(丙C117の1、丙C117の2・519頁、556頁、570頁、15丙C118の2・52頁~55頁、丙C119)⑶ 福島地点津波対策ワーキング(平成22年8月以降)東電では、社内で、福島地点の津波対策を検討するため、関連部署による会議体(福島地点津波対策ワーキング)を立ち上げ、平成22年8月27日の第1回会議で、福島第一発電所の最高水位を6号機で6.1m(土木学20会)、10.2m(本件長期評価)とし、担当部署が非常用海水ポンプの水密化の実現性の可否を検討していることが報告され、同年12月6日の第2回会議では、非常用海水ポンプ及び周辺機器の対策の必要性が確認されるなどした(丙C117の2・626頁~628頁、630頁~632頁、丙C119・106頁~112頁、丙C157・47頁~51頁)259 本件事故後に行われた平成20年試算に基づく確認の結果36東電は、平成28年7月22日、福島第一発電所において、平成20年試算の結果により得られた最大津波に対して、敷地への浸水を防ぐための対策を実施した場合に、本件津波がO.P.+10m盤(1号機から4号機の敷地面)又はO.P.+13m盤(5号機及び6号機の敷地面)へ浸水することを防ぐことができたかどうかの計算等を行った。 5具体的には、平成20年試算に基づいた対策として、福島第一発電所南側敷地にO.P. O.P.+13m盤(5号機及び6号機の敷地面)へ浸水することを防ぐことができたかどうかの計算等を行った。 5具体的には、平成20年試算に基づいた対策として、福島第一発電所南側敷地にO.P.+22m及びO.P.+17.5mの天端高さの防潮堤を設置すること、1号機北側にO.P.+12.5mの天端高さの防潮堤を設置すること及び福島第一発電所北側敷地にO.P.+14mの天端高さの防潮堤を設置することを想定し、本件津波に関する断層モデルを設定してシミュレーション10を行ったものである。 その結果、本件津波がO.P.+10m盤及びO.P.+13m盤へ浸水することを防ぐことができないことが確認された。(丙C150)10 本件事故以前の原子炉施設の津波対策の在り方等⑴ 本件事故以前の原子炉施設への津波対策15本件事故以前の我が国における原子炉施設の津波対策は、安全設備等が設置される原子炉施設の敷地を想定される津波より高い場所とすること等によって敷地が浸水することを防ぐという考え方を基本とされていた。 ドライサイトコンセプトとは、安全上重要な全ての機器が設計想定津波の水位より高い場所に設置されることなどによって、それらの機器が津波で浸20水するのを防ぎ、津波による被害の発生を防ぐという考え方であり、津波が到来しても原子炉の安全機能を保持するという津波対策の基本戦略である。 ⑵ 溢水勉強会ア 溢水勉強会の趣旨保安院及び独立行政法人原子力安全基盤機構(JNES)は、原子力発25電所に係る国内外の事故やトラブル、安全規制に関する情報を収集すると37ともに、これらの情報を評価し、必要な安全規制上の対応を行う目的で、定期的に安全情報検討会を開催していたが、インドのマドラス原子力発電所における津波の事故や米国 規制に関する情報を収集すると37ともに、これらの情報を評価し、必要な安全規制上の対応を行う目的で、定期的に安全情報検討会を開催していたが、インドのマドラス原子力発電所における津波の事故や米国原子力規制委員会によるアメリカのキウォーニー原子力発電所の調査等を踏まえて、我が国の現状を把握するため、平成18年1月に、保安院、JNES及び電気事業者等で構成される溢水勉5強会が立ち上げられ、調査が開始された。(丙C100)イ 現地調査平成18年6月8日から翌9日にかけて、福島第一発電所4号機(内部溢水)及び5号機(外部溢水)の現地調査が行われた。(丙C183の1)5号機の現地調査においては、津波による浸水の可能性がある屋外設備10の代表例として、非常用海水ポンプ、タービン建屋大物搬入口、サービス建屋入口、非常用DG吸気ルーバの状況について調査が行われた。その結果、タービン建屋大物搬入口及びサービス建屋入口については水密性の扉ではなく、非常用DG吸気ルーバについても、敷地レベルからわずかの高さしかなく、非常用海水ポンプは敷地レベル(O.P.+13m)よりも15低い取水エリアレベル(O.P.+4.5m)に屋外設置されていることが明らかとなった。土木学会手法による津波による上昇水位は、+5.6mとなっており、非常用海水ポンプ電動機据付けレベルは+5.6mと余裕はなく、仮に海水面が上昇し電動機レベルまで到達すれば、実験によれば1分程度で電動機が機能を喪失するとの説明を現地で受け、保安院のV20班長は、海水ポンプを守るための対応をしなければならないなどと述べた。 (甲B40、丙C100・12頁)⑶ 水密化の措置の実例ア 浜岡原子力発電所について中部電力の取締役であるMは、平成15年9月に発行された雑誌のイン 応をしなければならないなどと述べた。 (甲B40、丙C100・12頁)⑶ 水密化の措置の実例ア浜岡原子力発電所について中部電力の取締役であるMは、平成15年9月に発行された雑誌のイン タビューにおいて、浜岡原子力発電所について、津波が砂丘を越えて発電 所敷地に入ってくることはないと考えているが、仮に敷地に浸水があつた場合でも、原子炉建屋などの重要な建物の出入口は防水扉で守られているため、海水が入ることはない旨を述べている(甲B38・21頁)。 なお、中部電力が平成20年2月13日に作成した「浜岡原子力発電所3、4号機津波に対する総合的な対策について」と題する書面によれば、 津波による水位上昇への対策として、「敷地はT.P.+6.0m~8. 0mに整地され、敷地前面には高さT.P.+10~15m、幅約60~80mの砂丘が存在する」ことや「原子炉建屋等の出入口には腰部防水構造の防護扉等が設置されている」ことが挙げられているほか、津波に対する安全余裕向上策として「建屋やダクト等の開口部からの浸水への対応」 や、津波に対する安全余裕をさらに向上させるための対策であるポンプ設備余裕の向上策として「RCWSポンプモータの水密化案」「既製の水中ポンプによる代替取水案」「RCWSポンプ廻りに防水壁設置案」などが挙げられている。(甲C190)イ東海第二原子力発電所について 日本原電は、平成20年12月から平成21年9月にかけて、平成18年耐震設計審査指針の改訂を踏まえた既設の影響評価の結果、津波対策のうち建屋内への対策が必要であることから、東海第二原子力発電所、敦賀発電所1号機及び2号機において建屋外壁開口部の改造等を実施した。かかる建屋津波対策工事の内容は以下のとおりである。(丙C171・20 屋内への対策が必要であることから、東海第二原子力発電所、敦賀発電所1号機及び2号機において建屋外壁開口部の改造等を実施した。かかる建屋津波対策工事の内容は以下のとおりである。(丙C171・20206頁~210頁)(ア) 実施概要発電用原子炉施設において、将来想定しうる最大の敷地内浸水(東海:津波、敦賀:津波、放水路溢水)により、原子炉の停止、冷却、あるいは閉じ込めに係わる機能設備が喪失することのないよう、安全機能25設備を収納する建屋の防潮対策を実施する。また、管理区域(汚染のお39それのない管理区域を除く。)境界の防潮対策を併せて行う。 (イ) 実施内容建屋津波対策工事の設計方針のうち、気密扉等の既存の特殊扉はゴムパッキンが入っており、ある程度水密性があると考えられることから、津波対策は実施せず、漏水試験により浸水量を把握し、影響のないこと5を確認することとなっていた。なお、漏水試験では、漏水時間、遡上高さなどをパラメータとして試験を実施し、時間あたりの浸水量を測定した。 (ウ) 発電所調整事項発電所調整事項のうち、防水扉はゴムパッキンを入れたもので、JI10S規格(ドアセット)の気密要求に基づくものとされている。 ウ 福島第二発電所について福島第二発電所において、平成14年、本件地震発生時までに、海水ポンプ等の機器が設置されている地盤(O.P.+4m盤)に対し、O.P. +5.1ないし5.2mの津波水位を想定した対策として、同地盤面に存15する海水熱交換器建屋の水密化を実施した(甲B4の2・17頁~19頁)。 なお、福島第二発電所においては、本件津波によって、1号機の海水熱交換機建屋の建具が損傷し、同建屋内に津波が浸入したことが確認されている(丙C161・4-71頁~4-72 2・17頁~19頁)。 なお、福島第二発電所においては、本件津波によって、1号機の海水熱交換機建屋の建具が損傷し、同建屋内に津波が浸入したことが確認されている(丙C161・4-71頁~4-72頁)。 11 関係法令の定め電気事業法39条1項は、事業用電気工作物を設置する者は、事業用電気工作物を経済産業省令で定める技術基準に適合するように維持しなければならない旨規定し、同法40条は、経済産業大臣は、事業用電気工作物が上記技術基準に適合していないと認めるときは、事業用電気工作物を設置する者に対し、 その技術基準に適合するように事業用電気工作物を修理し、改造し、若しくは 移転し、若しくはその使用を一時停止すべきことを命じ、又はその使用を制限することができる旨規定する。 これを受けて、平成17年経済産業省令第68号による改正前の発電用原子力設備に関する技術基準を定める省令4条1項は、原子炉施設等が津波等により損傷を受けるおそれがある場合は、防護施設の設置等の適切な措置を講じな ければならない旨規定し、上記改正後の同項は、原子炉施設等が想定される津波等の自然現象により原子炉の安全性を損なうおそれがある場合は、防護措置等の適切な措置を講じなければならない旨規定する。 第3 争点に対する判断 1 被告の責任 ⑴ 国の公務員による規制権限不行使の違法公務員による規制権限不行使は、その権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、具体的事情の下において、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、その不行使により被害を受けた者との関係において、国賠法1条1項の適用上違法となる ものと解するのが相当である。そして、国が、上記公務員が規制権限を行使しなかっ 理性を欠くと認められるときは、その不行使により被害を受けた者との関係において、国賠法1条1項の適用上違法となる15ものと解するのが相当である。そして、国が、上記公務員が規制権限を行使しなかったことを理由として同項に基づく損害賠償責任を負うというためには、上記公務員が規制権限を行使していれば上記の者が被害を受けることはなかったであろうという関係が認められなければならない(最高裁令和3年(受)第342号令和4年6月17日第二小法廷判決・民集76巻5号95205頁)。 ⑵ 平成14年当時における規制権限の行使について平成14年に公表された本件長期評価は、慶長三陸地震、延宝房総沖地震及び明治三陸地震が本件領域内において発生した津波地震と評価できるかが論点となったところ、前記認定のとおり、第9回海溝型分科会では、慶長三25陸地震は資料があまり現存しておらず地震の詳細が十分に分からないという41意見や延宝房総沖地震は慶長三陸地震以上によく分からないという意見が出されたほか、第62回長期評価部会では、部会長であるA氏が慶長三陸地震は津波地震かもしれないがはっきりしないと述べるなど(前記第2の3⑵ア及びイ)、作成に関与した委員の間においても、震源域の分類の確実性に対する疑問が示されていた。疑問を示した委員らも、本件長期評価が、地震調5査研究の成果を、地方公共団体や防災対策で重要な役割を果たす官民の防災関係機関による地震防災につなげるための施策の一環として、地震の発生可能性の長期的な確率評価を行うものであることを前提として、報告内容を確定させたのであり、本件長期評価の公表直後の平成14年8月8日には、F名誉教授が、地震調査委員会に対して、本件長期評価の見解をそのまま地震10動予測地図に反映することは危険であり、分からな を確定させたのであり、本件長期評価の公表直後の平成14年8月8日には、F名誉教授が、地震調査委員会に対して、本件長期評価の見解をそのまま地震10動予測地図に反映することは危険であり、分からないところは分からないとして残すべきである等の旨を記載した意見書を送付するなど、その内容については専門家からの異論もあった(同⑷ア)。本件長期評価は、津波地震が発生する理学的根拠を示すものではなく、地震本部地震調査委員会は、平成15年3月24日に長期評価信頼度を公表し、本件長期評価の見解について、15「発生領域の評価の信頼度」を「C」、「発生確率の評価の信頼度」も「C」と、低いものとして評価しており(同⑷ウ)、中央防災会議の日本海溝・千島海溝調査会も本件長期評価の見解を採用せず(同⑷オ)、地震調査委員会が平成17年3月に公表した「全国を概観した地震動予測地図」においても、確率論的手法が用いられた「確率論的地震動予測地図」においては本件長期評20価の見解は採用されたものの、決定論的手法が用いられた「震源断層を特定した地震動予測地図」において、三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域のどこにおいても、Mt8.2前後の地震が発生し得るとする本件長期評価の見解は採用されていない(同⑷エ)。このような本件長期評価の見解が、経済産業大臣において、福島第一発電所の原子炉施設等が「津波により損傷を25受けるおそれがある」として、直ちに福島第一発電所の津波対策の実施を求42め、規制権限を行使するとして採用すべき知見であったと認めるには困難がある。 その一方で、平成14年津波評価技術は、想定津波の予測計算において、波源の不確実性、数値計算上の誤差、海底地形及び海岸地形等のデータの誤差があることを踏まえて、断層モデルの諸条件、つまり断層パラメータを 一方で、平成14年津波評価技術は、想定津波の予測計算において、波源の不確実性、数値計算上の誤差、海底地形及び海岸地形等のデータの誤差があることを踏まえて、断層モデルの諸条件、つまり断層パラメータを合5理的範囲内で変化させた数値計算を多数実施し、その結果得られる津波想定群の中から、評価地点における影響が最も大きい津波を設計想定津波として選定することにより、想定津波の予測計算上の不確実性を考慮した設計津波水位を得るものであり(同2⑴)、国際的にも評価の高い手法である(同2⑷)。平成14年津波評価技術が、福島県沖については、福島県の沿岸寄り10の領域において福島県東方沖地震(1938年)を基準断層モデルに据えた区分を設定するものの、福島県沖の日本海溝軸沿いの領域には、波源を設定しなかったことは、本件長期評価の見解とは異なるものであるが、日本海溝沿いの領域については、北部(明治三陸地震が発生したとされる領域)と南部(福島県沖を含む領域)の活動に大きな違いがあり、地震地体構造が異な15ること等の当時の専門家らの一般的な知見・観測事実等に基づくものであり(同2⑵)、平成14年津波評価技術の信頼性が損なわれるとはいえない。 平成14年津波評価技術には、保安院が津波からの原子力発電所の安全性の審査に用いることについての妨げとなるような事情があるとは認められない。 そうすると、保安院が、平成14年3月、東電から、平成14年津波評価20技術に基づく福島第一発電所の試算結果(設計津波最高水位はO.P.+5. 4ないし5.7m)の報告を受け(同2⑶)、同年7月に本件長期評価が公表された後も、本件長期評価の見解については、今後、確率論に基づく安全対策の中で取り入れていくという東電の方針を了承したのも、著しく不合理な対応とはいえない。 25 、同年7月に本件長期評価が公表された後も、本件長期評価の見解については、今後、確率論に基づく安全対策の中で取り入れていくという東電の方針を了承したのも、著しく不合理な対応とはいえない。 25被告が、平成14年中あるいはその近接した時期において、平成20年試43算のような試算を自らが行うか、あるいは東電にこのような試算を実施させるべきであったとは認められず、経済産業大臣が前記の規制権限を行使しなかったことを理由として、国賠法1条1項に基づく損害賠償責任を負うとは認められない。 ⑶ 平成20年8月から遅くとも平成21年9月までの規制権限の行使につい5て前記第2の6に認定したとおり、地震本部は、平成17年8月、重点的調査観測の対象地震の一つとして宮城県沖地震を挙げ、平成21年度にかけて、東北大学及び産総研に対し、津波堆積物調査に基づく地震発生履歴に関する研究や地質調査・津波シミュレーションに基づく地震発生履歴に関する研究10などの調査研究を委託し、年度毎に報告された調査結果により、貞観津波についての知見が集積され、平成20年12月にB論文が公表された(同6⑵ア)。そして、平成21年9月には、保安院と東電との協議を踏まえ、東電は平成21年報告により保安院に貞観地震を踏まえた津波の高さの試算結果を伝えている(同7⑶イ)。 15上記の貞観津波に関する知見は、津波堆積物調査に裏付けられた知見であり、東電が平成20年3月31日に保安院に提出した本件中間報告書を審議していた合同WG第32回会議(平成21年6月24日開催)及び第33回会議(平成21年7月13日開催)において、H 氏が、地震動評価も貞観地震を研究成果を踏まえるべきではないかと意見したことを契機に、保安院は、20平成21年7月21日に公表した保安院の評 33回会議(平成21年7月13日開催)において、H 氏が、地震動評価も貞観地震を研究成果を踏まえるべきではないかと意見したことを契機に、保安院は、20平成21年7月21日に公表した保安院の評価書において、貞観地震に係る津波堆積物や津波の波源等に関する調査研究が行われていることを踏まえ、今後、東電が、津波評価及び地震動評価の観点から、適宜、調査研究の成果に応じた適切な対応をとるべきであると明言しており(同7⑵ウ)、被告が「宮城県沖地震における重点的観測」の成果報告書が公表された平成20年255月の時点において、速やかにこの断層モデルを前提とした場合に福島第一44発電所にどの程度の高さの津波が到来する可能性が到来すべきか確認すべきとまではいえないが、東電から平成21年報告により貞観地震を踏まえた試算結果の提供を受けた平成21年9月には、被告は、原子炉施設の枢要な安全機能が損なわれることがないかを検討するにあたっては、貞観津波を引き起こした地震についても念頭に置いて検討する必要性があることは認識して5いたと認められる。 その一方で、貞観地震の再来の地震が発生しても原子炉施設の安全機能が損なわれることがないかを検討するにあたり、その地震により発生する津波を想定するためには、波源を設定する必要があるところ、B論文では、断層の南北方向の広がり(長さ)を調べるために、さらに、仙台湾より北の岩手10県あるいは南の福島県や茨城県での調査が必要であると指摘し(同6⑵ア)、B氏自身、本件地震当時においても、まだ波源を設定できるまでの知見はなかったと述べており(同6⑷)、本件地震までに、被告が、貞観地震の再来となる地震及びその地震による津波の発生に備えるべきことを原子力規制に取り込み、規制権限を行使すべきであったというには困難があ なかったと述べており(同6⑷)、本件地震までに、被告が、貞観地震の再来となる地震及びその地震による津波の発生に備えるべきことを原子力規制に取り込み、規制権限を行使すべきであったというには困難がある。 15もっとも、平成21年9月には、保安院は、東電から伝えられた貞観津波の知見に基づく津波の高さの試算結果(平成21年報告)により、福島第一発電所において、非常用海水ポンプが置かれているO.P.+4mの敷地を超えることを把握していたことに鑑み、以下、その当時、経済産業大臣が技術適合命令を発令することによって本件事故を回避することができたのかを20検討する。 ⑷ 結果回避可能性ア 本件事故以前の津波対策の在り方前記認定のとおり、本件事故以前の我が国における原子炉施設の津波対策は、津波により敷地が浸水することが想定される場合、防潮堤、防波堤25等の構造物(以下「防潮堤等」という。)を設置することにより敷地への45海水の浸水を防止することが対策の基本とされ(前記第2の10⑴)、津波によって敷地が浸水することを前提とする防護の措置が採用された実績があったことはうかがわれない。 原告らは、本件事故前に被告は津波によって敷地が浸水することを前提とする防護の措置を検討していたとして、保安院は、敷地を越流する津波5に対しては水密化が原則であるとの認識の下、平成18年6月の福島第一発電所の現地調査においても水密化を当然に想定していたと主張するが、海水ポンプを守るための対応をしなければならないと述べた(前記第2の10⑵)としても、そのことから直ちに浸水を前提とした対策として水密化を検討していたということはできない。そして、東電が、平成20年210月に社内で検討した際、水位7m程度の津波に対する対策の一つに建屋の防水性 そのことから直ちに浸水を前提とした対策として水密化を検討していたということはできない。そして、東電が、平成20年210月に社内で検討した際、水位7m程度の津波に対する対策の一つに建屋の防水性の向上を挙げているが、主要建屋が置かれている敷地地盤面(O. P.+10m)の浸水を前提に建屋の防水性を検討したものではなく、また、同年3月に平成20年試算を受領した後、社内担当部署で対策の検討を進めた折も、沖合の防潮堤の設置や既設防波堤の拡張の組み合わせによ15り、想定津波が地盤越流することがないよう対策を検討しており(前記第2の8)、本件事故以前において、津波による主要施設の防護の措置として、津波が地盤を越流し、地盤面に浸水することを容認しながら原子炉施設の水密化の対策をとる蓋然性が高かったと認めることはできない。 そうすると、仮に、被告において、平成21年9月に主要建屋等の敷地20の地盤面への浸水の対策が必要であると判断し、経済産業大臣が規制権限を行使するとしても、防潮堤等の設置により主要施設の地盤面への浸水を防ぐ対策がとられた蓋然性が高い。 イ 防潮堤等の設置による本件事故の結果回避可能性防潮堤等を設置する措置が講じられる場合の具体的態様について、本件25地震発生当時においてもまだ貞観津波の波源モデルは定まっておらず、研46究途上であったことを踏まえると、貞観地震の再来に対応するための防潮堤等の設置を計画し、施工が完成していた高度の蓋然性があるとは認められない。その一方で、平成20年4月には、東電において、本件長期評価に基づいて想定される最大の津波(以下「本件試算津波」という。)が福島第一発電所に到来する場合を試算した平成20年試算結果を受領し(前5記第2の5)、社内で本件試算津波への対策方法を検討していたこと づいて想定される最大の津波(以下「本件試算津波」という。)が福島第一発電所に到来する場合を試算した平成20年試算結果を受領し(前5記第2の5)、社内で本件試算津波への対策方法を検討していたこと(同8⑵)を考慮すれば、平成21年9月ころに防潮堤等を設置することを決めた場合には、平成20年試算で試算された本件試算津波と同じ規模の津波による敷地の浸水を防ぐことができるように設計された防潮堤等を設置するという措置が講じられた蓋然性が高い。 10しかし、本件長期評価が今後発生する可能性があるとした地震の規模は、津波マグニチュード8.2前後であったのに対し、本件地震の規模は、津波マグニチュード9.1であり、本件地震は、本件長期評価に基づいて想定される地震よりもはるかに規模が大きいものであった。巨大地震の発生可能性について、B氏は、本件地震発生前の時点では、太平洋プレートに15属するどの地域においても、モーメントマグニチュード9クラスの巨大地震は発生しないであろうとの見解が一般的であったと述べている(乙C12・8頁)。また、本件試算津波による主要建屋付近の浸水深は、約2. 6m又はそれ以下とされたのに対し、本件津波による主要建屋付近の浸水深は、最大で約5.5mに及んでいる。そして、本件試算津波の高さは、20本件敷地の南東側前面において本件敷地の高さを超えていたものの、東側前面においては本件敷地の高さを超えることはなく、本件試算津波と同じ規模の津波が福島第一発電所に到来しても、本件敷地の東側から海水が本件敷地に浸入することは想定されていなかったが、現実には、本件津波の到来に伴い、本件敷地の南東側のみならず東側からも大量の海水が本件敷25地に浸入している。 47これらの事情に照らすと、本件試算津波と同じ規模の津波による本件敷 ったが、現実には、本件津波の到来に伴い、本件敷地の南東側のみならず東側からも大量の海水が本件敷25地に浸入している。 47これらの事情に照らすと、本件試算津波と同じ規模の津波による本件敷地の浸水を防ぐことができるものとして設計される防潮堤等は、本件敷地の南東側からの海水の浸入を防ぐことに主眼を置いたものとなる可能性が高く、一定の裕度を有するように設計されるであろうことを考慮しても、本件津波の到来に伴って大量の海水が本件敷地に浸入することを防ぐこと5ができるものにはならなかった可能性が高いといわざるを得ない。 ウ 水密化、非常用電源設備の高所設置による本件事故の結果回避可能性原告らは、東電が、完成に時間を要する防潮堤の建設を始めた場合、貞観津波の知見に基づく想定津波に対応して早期に原子炉施設の安全性を回復させるということにはならず、原子炉に生じた危険な状態が放置された10ままとなってしまうのであるから、経済産業大臣は、東電に対して、早期で完成する何らかの防護措置の設置、具体的には水密化、非常用電源設備の高所設置を防潮堤とセットで行う義務を有しており、これによって本件事故を回避することができたと主張する。 しかし、水密化による対策について、本件事故以前の時点において、防15潮堤等の設置により建屋や重要機器室のある敷地の地盤面の浸水を防いだ上で津波に対する安全余裕をさらに向上させるために水密化を検討することとは別に、まず水密化によって安全性を確保する対策が検討された蓋然性があったとは認められない(前記第2の10⑶)。仮に、防潮堤等の設置とともにする水密化が検討されたとしても、かかる対策の前提として、20どの範囲の構造物や設備にどの程度の耐津波性を持たせるのを決めなければ、構造計算をすることができず、時系 仮に、防潮堤等の設置とともにする水密化が検討されたとしても、かかる対策の前提として、20どの範囲の構造物や設備にどの程度の耐津波性を持たせるのを決めなければ、構造計算をすることができず、時系列的に変化する浸水による最大波圧や継続時間を推定しておく必要もある(丙C17・53頁)。水密扉等の設備の構造設計をするに際し、想定する波力評価が異なれば、適切に設計できないことは、福島第二発電所において、本件地震発生時までに、海25水ポンプ等の機器が設置されている地盤(O.P.+4m盤)に対し、O. 48P.+5.1ないし5.2mの津波水位を想定した対策として、同地盤面に存する海水熱交換器建屋の水密化を講じていたにもかかわらず、本件津波によって、1号機の海水熱交換機建屋の建具が損傷し、同建屋内に津波が浸入したことが確認されていることに照らしても容易に理解することができ(同10⑶のウ)、防潮堤等の設置によって主要建屋等のある地盤面5の浸水を防ぐことを前提とする水密化対策では、本件津波による浸水を防御しきれなかった蓋然性が高いといわざるを得ない。加えて、水密扉等で建屋の開口部の水密化をする場合には、構造設計段階で、津波により発生する漂流物の挙動や衝突力も適切に推定しなければならないが、津波工学者であるN氏は、平成30年6月、津波の波力や津波漂流物の衝突力など10の研究はまだなお研究途上であると述べ(丙C151)、同じく津波工学者であるJ氏も、平成28年12月、本件事故前の知見のみに基づいて漂流物の挙動や衝突力を適切に推定することは非常に困難だったと意見を述べるところ(丙C17・57頁)、前記認定のとおり、本件津波によって、海側エリア(O.P.+4m)に設置されていた重油タンク(直径11. 157m×高さ9.2m、32トン)が1 難だったと意見を述べるところ(丙C17・57頁)、前記認定のとおり、本件津波によって、海側エリア(O.P.+4m)に設置されていた重油タンク(直径11. 7m×高さ9.2m、32トン)が1号機原子炉建屋・タービン建屋北側の構内道路(O.P.+10m)まで漂流したほか、駐車中の車両も多数漂流しており(前記第2の1⑴イ)、これらの漂流物を伴う津波の波力にも耐えられる設計がされたはずであるというには困難がある。そうすると、防潮堤等の設置に加えて水密化が検討された蓋然性があるということはで きず、仮に、水密化が検討されることがあったとしてもそれによって、本件事故を回避することができた蓋然性が高いということはできない。 また、非常用電源設備の高所設置の措置について、J氏は、本件事故以前に、津波対策として、想定外の津波に対しそのような措置を講じるべきであるとの発想が原子力防災関係者のコンセンサスにはなっていなかった と意見しており(丙C17・58頁)、本件事故以前に、防潮堤等の設置 により建屋等の敷地の地盤面への浸水を防いだ上で、防潮堤等の設置とともに非常用電源設備の高所設置が検討された蓋然性があるということはできず、同措置によって本件事故を回避することができた蓋然性が高いとは認められない。 エ原子炉の運転の一時停止 原告らは、貞観地震が、既往地震であって同種地震が繰り返し発生しており、その再来間隔からしても時間的に切迫しているとみることができたから、短期間で完成できる防護措置の設置を命じることが不可能なのであれば、電気事業法40条に基づき原子炉の運転を一時停止すべきであるとも主張する。 この点、仮に平成21年9月ころまでに、経済産業大臣が規制権限を行使した場合、前記アのとおり、本件試算津波と れば、電気事業法40条に基づき原子炉の運転を一時停止すべきであるとも主張する。 10この点、仮に平成21年9月ころまでに、経済産業大臣が規制権限を行使した場合、前記アのとおり、本件試算津波と同じ規模の津波による敷地の浸水が防ぐことができるように設計された防潮堤等を設置するという措置が講じられた蓋然性が高く、その防潮堤等の完成までには相当程度の期間を要するであろうことは容易に認められる。 15そして、公衆の安全を確保するために、原子炉施設の寿命中には極めてまれには起きるかもしれない事態にも備える必要があるものの、前記⑶のとおり、平成21年9月当時において、そのような波高の津波を生じさせる地震の発生が切迫していることを認識し得たとは認められない。 原告らは、貞観地震が既往地震であり、再来間隔からしても時間的に切20迫しているとみることができたと主張するが、本件地震発生前に、貞観津波の再来周期が400年から1100年とする知見が確立していたことを踏まえても、専門家の間で、再来が差し迫っているとの考えが一般的ではなかったことは、耐震バックチェックに関する審議が行われた平成21年6月及び同年7月の合同WGで、貞観地震も踏まえた検討がされるべきで25あると繰り返し指摘した専門家も、切迫性を否定し、数年内に起こるとは50思っていなかったなどと述べていることからもうかがわれる(前記第2の6⑷)。 経済産業大臣が、本件地震の発生までに、福島第一発電所の安全性に対する合理的な疑いが生じるほどの確率で、貞観地震の再来となる地震の発生が時間的に切迫していることを認識すべきであったとは認められない。 5オ 小括以上によれば、経済産業大臣が、仮に、平成21年9月までに、電気事業法40条に基づく規制権限を行使して、津波による が時間的に切迫していることを認識すべきであったとは認められない。 5オ 小括以上によれば、経済産業大臣が、仮に、平成21年9月までに、電気事業法40条に基づく規制権限を行使して、津波による福島第一発電所の事故を防ぐための適切な措置を講ずることを東電に義務付け、東電がその義務を履行していたとしても、本件津波の到来に伴って大量の海水が敷地に10浸入することを避けられなかった可能性が高く、その大量の海水が主要建屋の中に浸入し、非常用電源設備が浸水によりその機能を失うなどして各原子炉施設が電源喪失の事態に陥り、本件事故と同様の事故が発生するに至っていた可能性が相当にあるといわざるを得ない。 また、経済産業大臣が、原子炉の運転の一時停止を命じなかったことが、15許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くとも認められない。 したがって、経済産業大臣が、上記の規制権限を行使していれば本件事故又はこれと同様の事故が発生しなかったであろうという関係を認めることはできない。 2 結論20以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求は、いずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 横浜地方裁判所第4民事部 裁判長裁判官 高取真理子25 51 裁判官 松川まゆみ 5 裁判官 柴田康平 別紙1 請求金額一覧表世帯番号1原告原告番号1呼称原告番号1避難慰謝料5,000,000生活破壊慰謝料5,000,000弁護士費用1,000,000合計11,000,000請求金額(円)11,000,000※1 一部請求。 ※1 月35万円×126か月(平成23年3月~令和3年8月末日)=4410万円のうちの一部。 ※2 ,000,000合計11,000,000請求金額(円)11,000,000※1 一部請求。 ※1 月35万円×126か月(平成23年3月~令和3年8月末日)=4410万円のうちの一部。 ※2 2000万円のうちの一部。 ※2 一部請求世帯番号2原告原告番号2-1原告番号2-2原告番号2-3呼称原告番号2-1原告番号2-2原告番号2-3避難慰謝料2,500,0002,500,0002,500,000生活破壊慰謝料2,500,0002,500,0002,500,000弁護士費用500,000500,000500,000合計5,500,0005,500,0005,500,000請求金額(円)5,500,0005,500,0005,500,000※1 一部請求※2 一部請求※1 月35万円×126か月(平成23年3月~令和3年8月末日)=4410万円のうちの一部。 ※2 2000万円のうちの一部。 世帯番号3原告原告番号3-1合計原告番号3-2原告番号3-3原告番号3-4原告番号3-5呼称原告番号3-1原告番号3-2原告番号3-3原告番号3-4原告番号3-5避難慰謝料8,300,0005,000,0005,000,0005,000,0005,000,000 ※生活破壊慰謝料8,300,0005,000,0005,000,0005,000,0005,000,000 ※弁護士費用1,660,0001,000,0001,000,0001,000,0001,000,000合計18,260,00011,000,00011,000,00011,000,00011,000,000請求金額(円)18,260,00011,000,00011, 000,000合計18,260,00011,000,00011,000,00011,000,00011,000,000請求金額(円)18,260,00011,000,00011,000,00011,000,00011,000,000※ 被相続人2承継分は、各費目500万円の一部。 (原告番号3-1内訳)原告番号3-1固有 5,000,000被相続人2承継 3,300,000原告番号3-1固有 5,000,000被相続人2承継 3,300,000原告番号3-1固有 1,000,000被相続人2承継 660,000世帯番号4原告(原告番号4-2)被相続人3承継原告番号4-2合計呼称原告番号4-2避難慰謝料2,500,00010,000,000※1、2 生活破壊慰謝料2,500,00010,000,000※3弁護士費用500,0002,000,000合計5,500,00022,000,000請求金額(円)22,000,000※1 被相続人3承継合計500万円につき一部請求。 同人の避難慰謝料月35万円×66か月(平成23年3月~平成28年9月末日)=2310万円のうちの一部。 ※2 亡原告番号4-1固有500万円につき一部請求。 同人の避難慰謝料月35万円×126か月(平成23年3月~令和3年8月末日)=4410万円のうちの一部。 ※3 被相続人3承継合計、亡原告番号4-1固有の各500万円につき一部請求。2000万円のうちの一部。 16,500,000亡原告番号4-1(原告番号4-2が受継した。)(亡原告番号4-1)被相続人3承継 250万円亡原告番号4-1固有 500万円被相続人3承継 250万円亡原告番号4-1固有 500万円 告番号4-1(原告番号4-2が受継した。)(亡原告番号4-1)被相続人3承継 250万円亡原告番号4-1固有 500万円被相続人3承継 250万円亡原告番号4-1固有 500万円1,500,000世帯番号5原告原告番号5-1原告番号5-2原告番号5-3原告番号5-4原告番号5-5呼称原告番号5-1原告番号5-2原告番号5-3原告番号5-4原告番号5-5避難慰謝料5,000,0005,000,0005,000,0005,000,0000生活破壊慰謝料5,000,0005,000,0005,000,0005,000,0005,000,000弁護士費用1,000,0001,000,0001,000,0001,000,000500,000合計11,000,00011,000,00011,000,00011,000,0005,500,000請求金額(円)11,000,00011,000,00011,000,00011,000,0005,500,000※1 原告番号5-1ないし5-4につき一部請求。 月35万円×126か月(平成23年3月~令和3年8月末日)=4410万円のうちの一部。 ※2 2000万円のうちの一部。^1 別紙2 原告らの主張の要旨責任論 第1 累次の最高裁判例による公務員の規制権限不行使の違法性の判断枠組1 国の規制権限不行使の違法の判断枠組これまでに、最高裁判所が国または公共団体の公務員による規制権限の違法性について判断した判例は6つあるが、いずれの最判も「国又は公共団体の公務員による規制権限の不行使は、その権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、具体的事情 員による規制権限の違法性について判断した判例は6つあるが、いずれの最判も「国又は公共団体の公務員による規制権限の不行使は、その権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、具体的事情の下において、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、その不行使により被害を受けた者との関係において、国家賠償法1条1項の適用上違法となるものと解するのが相当である」との規制権限不行使の違法性の一般的な判断枠組みのもとで判断をしており、この判断枠組みが判例準則として確定している。 2 過去の判例が示してきた国の規制権限不行使の違法の判断枠組からすれば、本件において、経済産業大臣(保安院)に対して規制権限を与えた法令の趣旨・目的、権限の性質等についての理解が不可欠である。 本件事故の相当以前の時点で(原告らの貞観津波の知見に関する主張だと平成20年8月以降平成21年9月頃まで)福島第一原発が客観的に想定することができた津波に対し危険な状態にあり、事業者が技術基準適合維持義務(電気事業法39条1項)に違反していた以上、規制庁である経済産業大臣は、東電に対し技術基準適合命令(同法40条)を下すべきであった。 技術基準適合命令の根拠法規は、直接は、電気事業法40条と、同法が定める技術基準の要件を具体化した技術基準省令(昭和40年通商産業省令62号)4条1項である。 原告らは、貞観津波の知見が信頼できる知見であり、その知見に基づく想定津波は、上記の「想定される…津波」という要件を充たしており、そのことを2 被告国は認識し又は認識できたにも係わらず、規制権限を発動しなかったことが違法であると主張している。 判断の順序としては、貞観津波の知見が信頼できるものであるかどうか、その想定津波が電気事業法40条・省 は認識し又は認識できたにも係わらず、規制権限を発動しなかったことが違法であると主張している。 判断の順序としては、貞観津波の知見が信頼できるものであるかどうか、その想定津波が電気事業法40条・省令62号4条1項の「想定される…津波」に当てはまるかどうか、ということを直ちに検討するのではない。当てはめの前に、法の趣旨・目的、権限の性質を考慮しなければならない。 先述のとおり、行政の規制権限不行使の違法性を問う最高裁判例の規範は、「その権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、具体的事情の下において、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められる」というものとして確立している(最判平16・4・27民集58巻4号1032頁・筑豊じん肺訴訟等)。つまり、具体的な事実関係に対する構成要件の当てはめ以前に、権限を定めた法令の趣旨、目的やその権限の性質を考慮しなければならないと明示されている。 本件では、原子力基本法、電気事業法、規制法規の趣旨、目的を考慮しなければならない。 規制権限の性質については、まず規制法規がどのような法益を保護しているかを考える必要がある。さらに、規制されることによって失われる利益を考え、保護される利益との衡量をすべきである。 本件で、規制法規である電気事業法40条・省令62号4条1項の保護法益は、憲法13条に根差す人の生命身体の自由であり、法体系上最上の価値を有するものである。他方で、技術基準適合命令を発動することによって失われる利益は、電気事業者の営業の自由(憲法22条1項)であり、それも、技術基準適合命令により経済活動が一部制約されるにとどまるものである。 規制法規が予定するこうした憲法上の価値の利益衡量において、人の生命身体が優先されるべきことは明白であ )であり、それも、技術基準適合命令により経済活動が一部制約されるにとどまるものである。 規制法規が予定するこうした憲法上の価値の利益衡量において、人の生命身体が優先されるべきことは明白である。 憲法の人権論の考え方を踏まえ、電気事業法40条・技術基準省令(昭和43 0年通商産業省令62号)4条1項の「想定される…津波…により原子炉の安全性を損なうおそれがある場合」の評価や、規制庁が作為義務を尽くしたかどうかの判断について、厳格な判断がなされなければならない。 なお、原発事故は、一旦発生すると、当該原子力発電所の従業員、周辺住民の生命身体に重大な危険を及ぼすのみならず、国土の広範な地域及び国民全体に対しても、生命身体及び財産上の甚大な被害を及ぼし、地域の社会的・経済的コミュニティを崩壊させ、ひいては我が国そのものという一国の統治機構の崩壊につながりかねないという点で際だった特殊性があることに留意すべきである。 3 伊方原発訴訟最高裁判決(平成4年10月29日民集46巻7号1174頁)は、原子炉設置許可の審査においては最新の科学的技術水準への即応性が求められると判示している。最新の科学的技術水準への即応性については、原子炉設置の段階のみならず運転の段階においても要求されることは当然である。 したがって、技術基準省令(昭和40年通商産業省令62号)4条1項の「想定される自然現象・・津波・・により原子炉の安全性を損なうおそれがある場合」の判断については、最新の知見を考慮しなければならないことになる。 また、同判決は、原子炉が原子核分裂の過程において高エネルギーを放出する核燃料物質を燃料として使用する装置であり、その稼働により、内部に多量の人体に有害な放射性物質を発生させるものであって、原子炉を設置しようと 、原子炉が原子核分裂の過程において高エネルギーを放出する核燃料物質を燃料として使用する装置であり、その稼働により、内部に多量の人体に有害な放射性物質を発生させるものであって、原子炉を設置しようとする者が原子炉の設置、運転につき所定の技術的能力を欠くとき、又は原子炉施設の安全性が確保されないときは、当該原子炉施設の従業員やその周辺住民等の生命、身体に重大な危害を及ぼし、周辺の環境を放射能によって汚染するなど、深刻な災害を引き起こすおそれがあることにかんがみ、右災害が万が一にも起こらないようにするため、原子炉設置許可の段階で、原子炉を設置しようとする者の右技術的能力並びに申請に係る原子炉施設の位置、構造及び設備の安全性につき、科学的、専門技術的見地から、十分な審査を行わせることに4 している旨判示しており、原子力災害を万が一にも起こしてはいけないということが原子炉設置法(炉規法)の趣旨であるとしている。万が一にも事故を起こしてはいけないという趣旨が原子炉の運転段階においても妥当することは当然である。原子炉の運転段階において、設置許可審査の段階より安全性を下げてよいということは法理上あり得ないからである。 したがって、技術基準省令(昭和40年通商産業省令62号)4条1項の「想定される自然現象・・津波・・により原子炉の安全性を損なうおそれがある場合」の判断については、万が一にも事故を起こしてはいけないという規範から評価をされなければならない。 第2 本件事故に至る電源喪失の決定的な要因、及び、被告らは、福島第一原発の建屋・機器の配置等から、敷地高を超える津波の到来があれば長期避難を余儀なくされる過酷事故が発生し得ることを当然に想定していたこと1 本件事故に至る電源喪失の決定的な要因について交流電源による電力は、M/C及びP/ 敷地高を超える津波の到来があれば長期避難を余儀なくされる過酷事故が発生し得ることを当然に想定していたこと 1 本件事故に至る電源喪失の決定的な要因について交流電源による電力は、M/C及びP/C等の配電盤を経由して各種機器に供給される。詳述すると、一部の大型機器にはM/Cを経由して電力が供給され、その他多くの機器にはM/Cを経由した電力を変圧器で降圧した後、P/Cを経由して電力が供給される。すなわち、外部交流電源喪失の際、非常用DGによって交流電源が確保されたとしても、M/Cが使用不能になると、M/Cから電力供給される機器には、電力が供給されなくなる。また、M/Cを経由することを前提とするP/Cも機能喪失し、P/Cから電力供給される機器にも電力が供給されなくなる。そして、M/Cが使用可能な状態であっても、P/Cが使用不能になると、P/Cから電力供給される機器には、電力が供給されなくなる。 2号機及び4号機では、空冷式非常用DGの本体は使用可能であったにもかかわらず、M/Cは全て浸水により使用不能となり、全て機能を喪失した。これこそが本件事故に至る決定的な要因であった。 2 直流電源喪失が事故に与えた影響 本件事故において、モーターで動く高圧注水用のポンプについては全ての交流電源が喪失し使用できなかったことから、蒸気駆動の高圧注水設備が重要となる。具体的には、1号機のIC(非常用復水器)やHPCI(高圧炉心スプレイ系)、2号機及び3号機のRCIC(原子炉隔離時冷却系)やHPCIが挙げられる。これらを確実に起動、制御するためには、直流電源の確保が必要になるが、すでに述べたとおり、本件においては、1ないし4号機のうち、直流電源が残ったのは3号機のみであり、1、2、4号機では全電源を喪失した。 1号機では津波襲来によっ 直流電源の確保が必要になるが、すでに述べたとおり、本件においては、1ないし4号機のうち、直流電源が残ったのは3号機のみであり、1、2、4号機では全電源を喪失した。 1号機では津波襲来によって早い段階で全ての冷却手段を失ったことがその後の事故経過に大きな影響を与えた。2、3号機では津波襲来後もRCICなどの高圧注水系が機能したことで2~3日の対応時間を確保することはできた。 しかしながら、1号機の水素爆発等によって作業環境が悪化し、建屋周辺での活動が制約され時間を要することになり、高圧炉心注水から安定的に冷却を継続する低圧炉心注水に移行できず、最終的に全ての冷却手段を失ってしまったのである。 1号機の水素爆発の原因は、炉心損傷により発生した水素であると考えられている。1号機は、全ての交流電源及び直流電源が喪失したため、フェイルセーフ機能が作動し、全ての隔離弁が全閉又はそれに近い状態となったことから、ICの冷却機能はほとんど発揮されなかった可能性が高いが、直流電源を喪失し、表示灯が消灯し、弁の開閉状態の確認も弁の操作もできない状態となったことにより、代替注水措置の必要性についての判断が大幅に遅れた。1号機においてあらかじめAM策として定められた代替注水手段の中で利用可能なものとしては、電源を必要としないディーゼル駆動消火ポンプ(D/DFP)を駆動源としてFP系〈消火系〉、MUWC系〈復水補給水系〉、RHR系〈残留熱除去系〉(又はCS〈炉心スプレイ系〉)を用いる代替注水が準備されており、本件においては、消防車を用いたFP系注水が実施されたのであるが、上記のとおり、直流電源の喪失により、ICの機能不全の認識に至るまで時間がかか6 り、継続的に注水を開始することができたのは、全電源を喪失し、ICが機能不全に陥ってから14時間以上 であるが、上記のとおり、直流電源の喪失により、ICの機能不全の認識に至るまで時間がかか6 り、継続的に注水を開始することができたのは、全電源を喪失し、ICが機能不全に陥ってから14時間以上経過した後であった。もし、1号機において直流電源が津波の影響を受けずに機能している状況であれば、ICやHPCIによる炉心の冷却、減圧の可否を監視計器等によって見極め、これらによる炉心冷却、減圧が困難であれば、速やかに、D/DFPによる代替注水を実施し、炉心を冷却することができたはずであり(その際、原子炉圧力がD/DFPの吐出圧力を上回るようであれば、逃し安全弁(SR弁)を用いて蒸気を逃がして減圧する必要があるが、SR弁は直流電源で操作可能である。)、津波襲来から約1日後という極めて早い時点の水素爆発を回避し、全ての原子炉について、電源復旧がスムーズになされ、その結果、本件事故を回避し、あるいは、放射能の漏洩の程度を少量に抑え込むことができた可能性が高かった。 3 敷地高を超える津波の到来があれば、非常用電源設備が被水し、機能喪失に陥ることを被告らは認識していたこと福島第一原発における機器の配置状況等から、当然に、敷地高を超える津波の到来によって電源設備の被水、機能喪失は想定し得るものである。 加えて、被告らは、被告東京電力における1991(平成3)年の海水漏えい事故、フランスのルブレイエ原子力発電所事故、インドのマドラス原発の事故による電源喪失事故等の知見から、その認識を強めた。 また、保安院とJNESは、2003(平成15年)以降、両者が連携して、国内外の規制関係情報を収集するとともに、これらの情報を評価し、必要な安全規制上の対応を行うために「安全情報検討会」を設置し、その中で、上記のルブレイエ原子力発電所における溢水事故等に が連携して、国内外の規制関係情報を収集するとともに、これらの情報を評価し、必要な安全規制上の対応を行うために「安全情報検討会」を設置し、その中で、上記のルブレイエ原子力発電所における溢水事故等については、安全情報検討会で検討がなされた。スマトラ島沖地震に伴う津波のマドラス原発の事故情報については、管理表には「緊急度及び重要度」について「我が国の全プラントで対策状況を確認する。必要ならば対策を立てるように指示する。そうでないと『不作為』を問われる可能性がある。」と記されており、安全情報検討会が、津波に7 よる電源喪失の可能性について大きな危機感を抱き、溢水対策の必要性を強く認識していたことがわかる。 保安院審査課・JNES・電力会社で集まり、溢水勉強会が立ち上げられた。 2006(平成18)年5月11日に開催された第3回溢水勉強会においては、福島第一原発5号機を対象として、敷地高さを1メートル超過する津波が長時間継続することを前提として、敷地高さを超える津波によって、原子炉施設にどのような影響が生じうるかを検討して、その結果を報告している。この報告の中で、被告東京電力は、タービン建屋への浸水の経路と浸水の影響を具体的に予見している。浸水の影響についても、「浸水による電源の喪失に伴い、原子炉の安全停止に関わる原動機、弁等の動的機能を喪失する。」とされており、具体的には、非常用ディーゼル発電機が機能喪失することが明示されており、またそれにとどまらず、限定された時間ではあるものの電源を用いることなく炉心冷却を行いうるとされている原子炉隔離時冷却系(RCIC)も機能喪失することが確認されている。 同年6月8~9日、福島第一原発において代表プラントにおける現地調査が実施された。外部溢水については、5号機を対象として津波による浸水の可能 却系(RCIC)も機能喪失することが確認されている。 同年6月8~9日、福島第一原発において代表プラントにおける現地調査が実施された。外部溢水については、5号機を対象として津波による浸水の可能性がある屋外設備の代表例として、非常用海水ポンプ、タービン建屋大物搬入口、サービス建屋入口、非常用DG吸気ルーバの状況についての調査が行われた。 被告東京電力からは、「タービン建屋大物搬入口及びサービス建屋入口については水密性の扉ではなく、非常用DG吸気ルーバについても、敷地レベルからわずかの高さしかない。非常用海水ポンプは敷地レベル(+13m)よりも低い取水エリアレベル(+4.5m)に屋外設置されている。土木学会手法による津波による上昇水位は+5.6mとなっており、非常用海水ポンプ電動機備え付けレベルは+5.6mと余裕はなく、仮に海水面が上昇し電動機レベルまで到達すれば、1分程度で原動機が機能を喪失(実験結果に基づく)する」8 と説明がなされた。 同月29日ころ、保安院は、今後の検討方針として、「津波評価技術」の保守性や津波水位を上昇させた場合の影響の評価等と合わせて、影響防止対策の検討として、「電力は、想定外津波対策について津波PSAによる評価結果を待ちたいとのことであるが、津波PSA評価手法の確立には長期を要することから、当面、土木学会評価手法による津波高さの1.5倍程度(例えば、一律の設定ではなく、電力が地域特性を考慮して独自に設定する。)を想定し、必要な対策を検討し、順次措置を講じていくこととする(AM対策との位置づけ)。」等とまとめた。この記載からは、当時保安院らが、津波対策を早急に講ずべきと考えていたことがわかる。 以上のとおり、被告国(保安院)は、ルブレイエ原子力発電所での事故やマドラス原子力発電所での溢水事故等を とめた。この記載からは、当時保安院らが、津波対策を早急に講ずべきと考えていたことがわかる。 以上のとおり、被告国(保安院)は、ルブレイエ原子力発電所での事故やマドラス原子力発電所での溢水事故等を受けて、2005(平成17)年の時点では津波予測の不確定さ、困難さを前提に、プラントの脆弱性について現状の把握と対策が急務と考えて溢水勉強会を立ち上げ、そして、溢水勉強会の検討の結果、2006(平成18)年5月には福島第一原発において、敷地高を1メートル上回る津波が継続すれば、地下にある非常用電源設備は被水し、全電源喪失に至る可能性があること、したがって、津波対策を講じる必要性のあることをあらためて認識したのである。 実際に、本件事故後の被告東京電力の平成23年7月8日付報告書によっても、本件事故による福島第一原発における浸水の継続時間はおよそ3~5分間とされ、被告東京電力の令和3年1月28日付「地震・津波対策の進捗状況 3. 11津波に対する建屋開口部閉止状況と滞留水インベントリ流出評価について」と題する公開情報によると、写真分析の結果、10m盤における本件津波の継続時間は約3分間とされている。浸水の継続時間はそれだけの短時間に過ぎないが、福島第一原発の設備は全交流電源喪失に至っている。 溢水勉強会の検討の結果は本件事故の推移と合致しており、本件事故の結果 は、保安院及び被告東京電力が事前に想定していたものを超えるものではなかったのである。 第3 敷地高を超える津波到来の予見可能性について(総論) 1 民法不法行為の過失判断と国家賠償法上の違法判断の相違と「津波の予見可能性」の位置づけについて国賠法は、民法の一般不法行為の特則とされている。しかし他方で、規制権限不行使の国賠法上の違法が問われる事案においては、規制権限の行使の 上の違法判断の相違と「津波の予見可能性」の位置づけについて国賠法は、民法の一般不法行為の特則とされている。しかし他方で、規制権限不行使の国賠法上の違法が問われる事案においては、規制権限の行使の要件充足性(及び権限行使の必要性)が判断される必要があることから、一般の不法行為とは異なる判断が求められることとなる。 民法の一般不法行為においては、損害賠償責任の要件として、故意・過失と権利侵害(違法性)とともに、損害発生の予見可能性、及び結果(損害)回避可能性等が要件とされる。これに対して、本件訴訟では、電気事業法40条に基づく経済産業大臣の規制権限(技術基準適合命令)の発動要件を満たすことが、被告国の責任を検討する前提として要求される。そして、経済産業大臣は、同条によって、事業用電気工作物が39条1項に基づいて定められている技術基準省令で定める技術基準に適合していないと認めるときは、事業用電気工作物を設置する者に対し、その技術基準に適合するように事業用電気工作物を修理し、改造し、若しくは移転し、若しくはその使用を一時停止すべきことを命じ、又はその使用を制限することができる(技術基準適合命令)とされている。 つまり、福島第一原発が、技術基準省令(昭和40年通商産業省令62号)4条1項の「想定される自然現象・・津波・・により原子炉の安全性を損なうおそれがある場合」にあたることが、技術基準適合命令の発動要件である。 このように、本件訴訟においては、規制権限不行使の国賠法上の違法を検討する前提問題として、そもそも、経済産業大臣の技術基準適合命令の発動要件が満たされていたのか否か、すなわち、後に述べる「長期評価」によって想定される津波や貞観津波が、技術基準省令4条1項の「原子炉の安全性を損なう10 おそれ」のある「想定される津波」 の発動要件が満たされていたのか否か、すなわち、後に述べる「長期評価」によって想定される津波や貞観津波が、技術基準省令4条1項の「原子炉の安全性を損なう おそれ」のある「想定される津波」にあたるか否かが、「規制権限を定めた法令の解釈と具体的な事例へのあてはめ」を通じて確定される必要がある。 したがって、本件訴訟における、国賠違法の判断における「津波の予見可能性」は、一般不法行為責任の要件としての「損害発生の予見可能性」に先立って、まずは、福島第一原発が想定される津波との関係で、技術基準省令4条1項の「想定される津波により原子炉の安全性を損なうおそれがある場合」 にあたるといえるものであったか否かという「規制権限を定めた法令の解釈と具体的な事例へのあてはめ」として、その判断が求められることとなる。 2 必要とされる知見の程度本件で問題となる予見可能性の対象は、地震及びそれに伴って発生する津波という自然現象であって、これが、いつどこで、どの程度の規模で発生または到来するのかを科学の力で完全に予測することは、そもそも不可能である。地震及び津波の発生の予測、特に将来発生する地震及び津波の最大限度はどの程度なのかを予測するという分野において、被告国が主張するような通説的見解といえる程度に確立した科学的知見などそもそも存在し得ない。 しかし、他方において、原子力発電施設における事故は、それが発生した際に生じる被害の内容・範囲・程度は極めて広範かつ重大であり、その被害を空間的、時間的、社会的に限定すること、被害を事後的に回復させることは不可能ないし著しく困難である。ひとたび事故が発生してしまうと、非常に広範囲かつ多数の住民の生命・健康・財産や環境に対し、極めて重大かつ不可逆的な被害をもたらすという点で、原子力発電事業は、「異質 不可能ないし著しく困難である。ひとたび事故が発生してしまうと、非常に広範囲かつ多数の住民の生命・健康・財産や環境に対し、極めて重大かつ不可逆的な被害をもたらすという点で、原子力発電事業は、「異質かつ重大」な危険を内包している。したがって、万が一にも深刻な事故が発生することがあってはならないという視点から、被告国は原子力発電施設に対する規制権限を行使しなければならない。 第4 2008(平成20)年8月から2009(平成21)年9月時点までの時点における敷地高を超える津波到来の予見可能性とその内容11 1 「長期評価」に基づく予見可能性について⑴ 政府の地震本部地震調査委員会は、2002(平成14)年7月31日、「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価について」(以下「長期評価」という。)を公表した。これは、過去に大地震が数多く発生している日本海溝沿いのうち、三陸沖から房総沖までの領域を対象として、長期的な観点で地震発生の可能性、震源域の形態等について評価してとりまとめたものである。 「長期評価」は、「三陸沖北部から房総沖の海溝寄り」の領域では、M8クラスのプレート間大地震(津波地震:断層が通常よりゆっくりずれて、人が感じる揺れが小さくても、発生する津波は規模が大きくなるような地震のこと)は、17世紀以降、①慶長16年10月28日(1611年12月2日)の津波を引き起こした慶長三陸地震、②延宝5年10月9日(1677年11月4日)の津波を引き起こした延宝房総沖地震、③明治29年(1896年)6月15日の津波を引き起こした明治三陸地震を過去に発生したものとして設定している。将来の地震発生確率について、この領域においては、過去に約400年で3回発生していることから、領域全体で約133年に1回の割合でこのよう 起こした明治三陸地震を過去に発生したものとして設定している。将来の地震発生確率について、この領域においては、過去に約400年で3回発生していることから、領域全体で約133年に1回の割合でこのような大地震が発生すると推定し、ポアソン過程という確率推定方法により、今後30年以内にこの領域全体での発生確率は20%程度、今後50年以内の発生確率は30%と推定した。この領域の中の特定の海域での発生確率については、地震を引き起こすと考えられた断層長(200km程度)と領域全体の長さ(800km程度)の比を考慮して、530年に1回の割合で発生すると推定し、今後30年以内の発生確率は6%程度、今後50年以内の発生確率は9%程度と推定した。また、次の地震についても津波地震が確実であろうと想定され、その規模は、過去に発生した地震(明治三陸地震)のマグニチュード等を参考にして、M8.2前後と推定した。 この「長期評価」は、①津波地震が巨大な低周波地震(通常の地震波より12 も周波数の低い微小な揺れ)であるとの知見が確立していたこと、②低周波地震が、日本海溝においても世界においても、海溝寄りに固有に発生するとの知見が確立していたこと、③三陸沖北部から房総沖にかけての日本海溝沿いは、南北を通じて連続した一つのプレートであること、④日本海溝寄りで三つの津波地震が発生したこと等の十分な地震学的根拠に基づくものであり合理性が認められる。 また、「長期評価」は、地震防災対策特別措置法という法律上の根拠に基づき、想定される地震の長期評価を行う使命をもって組織された地震本部地震調査委員会が、同委員会長期評価部会海溝型分科会での専門的研究者による議論を経て取りまとめたものである。 「長期評価」は、研究会での議論を経て、専門的研究者の間で正当な見解であると れた地震本部地震調査委員会が、同委員会長期評価部会海溝型分科会での専門的研究者による議論を経て取りまとめたものである。 「長期評価」は、研究会での議論を経て、専門的研究者の間で正当な見解であると是認された知見であり、単なる一研究者の見解や、任意の研究者グループの見解をまとめたものではない。 ⑵ 「長期評価」の公表に先立つ平成14年の2月、土木学会原子力土木委員会津波評価部会が「津波評価技術」を公表しているところ、被告国は、「津波評価技術」こそが、理学的根拠を伴った津波対策の中で最も安全寄りに波源の設定を行う最も合理性が認められる知見であるなどと主張し、被告東京電力は、「津波評価技術」が本件事故当時まで原子力発電所の具体的な津波評価方法を定めた唯一の基準であるなどと主張してきた。 確かに、「津波評価技術」は、津波数値計算の技術としては先端的な技術ではあった。しかしながら、津波数値計算を行う出発点である「波源モデルの設定」について、「地震地体構造等の知見」を踏まえて基準断層モデルを設定するとしているものの、実際には、津波評価部会において個別の地域における地震発生可能性を検討しないまま、わずか400年間の間における「既往最大の地震・津波」によって基準断層モデルを設定しており、日本海溝沿いの福島県沖には波源が全く設定されないという不十分なものであった。波源設定も含めて「津波評価技術」を唯一の基準として津波対策をすることは、13 一般防災に比して高度な安全性が求められる原子力防災にとって極めて不十分であり、被告国が主張するような「最も安全寄りに波源の設定を行っている」などとは到底いえないものである。「津波評価技術」は、津波数値計算の技術としては先端的な技術ではあったが、「津波評価技術」の策定にあたって、個別の地域における地震の発生 に波源の設定を行っている」などとは到底いえないものである。「津波評価技術」は、津波数値計算の技術としては先端的な技術ではあったが、「津波評価技術」の策定にあたって、個別の地域における地震の発生可能性については検討されていなかった。個別の地域における地震の発生可能性については、地震本部の地震調査委員会・長期評価部会が主に検討しており、同調査委員会が発表した「長期評価」が、最も専門性を有している。 ⑶ 被告東京電力は、東電設計に、「長期評価」の見解を基にした津波評価を委託し、東電設計は、「長期評価」の見解に基づき、2008(平成20)年4月18日、「新潟県中越沖地震を踏まえた福島第一・第二原子力発電所の津波評価委託第2回 打合せ資料 資料2 福島第一発電所 日本海溝寄りの想定津波の検討Rev.1」を作成した。この2008(平成20)年試算においては、「長期評価」に基づき、福島県沖海溝沿い領域に明治三陸地震の波源モデルを置き、「津波評価技術」の方法による詳細パラメータスタディを行ったところ、津波高さは、1~4号機取水ポンプ位置でO.P.+8.310(4号機)~9.244m(2号機)、敷地南側の敷地(O.P.+10m)でO.P.+15.707m(浸水深5.707m)、4号機原子炉建屋中央付近(O.P.+10m)でO.P.+12.604m(浸水深2.604m)、4号機タービン建屋中央付近(O.P.+10m)でO.P.+12. 026m(浸水深2.026m)、敷地北側の敷地(O.P.+13m)でO. P.+13.695m(浸水深0.695m)と試算された。 このように2008(平成20)年試算によって、明治三陸地震と同規模の津波地震が福島県沖海溝沿いに発生した場合には、福島第一原発に、敷地高を大幅に超える津波が到来するという計算結果が判明し、 た。 このように2008(平成20)年試算によって、明治三陸地震と同規模の津波地震が福島県沖海溝沿いに発生した場合には、福島第一原発に、敷地高を大幅に超える津波が到来するという計算結果が判明し、被告東京電力は「津波対策は不可避」であるとの認識に至った。 14 2002(平成14)年2月に「津波評価技術」が刊行された後、同年7月に「長期評価」が公表されており、三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域における地震発生の可能性が指摘されているのであるから、常に原子炉施設の安全性を検討すべきである被告らは、このような波源に関する最新でしかも公的な知見をあてはめた場合に、津波評価がどのような結果となるのかを算出すべきであったといえる。そして、試算にあたっては、被告東京電力の2008(平成20)年試算の経緯に鑑みると、少なくとも2~3か月の期間があれば、被告東京電力は2008(平成20)年試算と同様の試算を行い、被告国に対しても報告することが可能であったといえる。したがって、被告東京電力は、2002(平成14)年中には、「長期評価」に基づく津波シミュレーションが可能であり、敷地高を大幅に超える津波の到来を予見することができた。 また、被告国は、2002(平成14)年中には、被告東京電力に試算をさせ、または自ら試算をすることにより、敷地高を大幅に超える津波の到来を予見することができた。 2 貞観地震・津波に関する知見に基づく予見可能性について⑴ 貞観津波に関しては、正史、伝承、津波堆積物などからその被害、波源モデル、規模、浸水域などに関する研究が着実に進められており、2002(平成14)年の時点で、少なくとも、貞観津波の被害が甚大であったこと、仙台平野の海岸で最大で9mに達する到達波が、7・8分間隔で繰り返し襲来し、さらに南の福島県 究が着実に進められており、2002(平成14)年の時点で、少なくとも、貞観津波の被害が甚大であったこと、仙台平野の海岸で最大で9mに達する到達波が、7・8分間隔で繰り返し襲来し、さらに南の福島県相馬市の海岸では、仙台平野の津波よりも規模の大きな津波が襲来したと推定されることなどが指摘されていた。 貞観津波に関する知見の進展が質的な転化を遂げたといえるのは、経済産業省の所管する我が国最大級の公的研究機関である国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下「産総研」という。)が、米国地質調査所と共同で行った北海道東部太平洋岸の津波堆積物調査とそれに基づく津波のコンピューター15 シミュレーションによる断層モデルの提示であった。この研究成果は、平成15年に英科学誌の「NATURE」に掲載されており、信頼性の高い津波堆積物調査に基づいて断層モデルを作る手法は科学的に確立したものといえる。そして、この研究成果を基に、北海道のいわゆる「500年周期地震」の存在が行政やマスコミにも浸透し、17世紀の巨大津波の浸水履歴図やそれを想定したハザードマップが作成され、防災への働きかけもなされている。 上記の北海道東部太平洋岸の津波堆積物調査と同様の方法で調査を行ったのが下記の「宮城県沖地震における重点的調査観測」であった。 東北地方太平洋沖地震の発生前には、次の宮城県沖地震の発生が差し迫りつつあると考えられていたことから、発生時期や規模の予測の高精度化が急務であり、三陸沖南部海溝寄りとの連動型地震の活動履歴の解明も必要となった。そこで、文部科学省(地震本部)は、2005(平成17)年度から2009年(平成21年)度まで、東北大学大学院理学研究科、東京大学地震研究所及び産総研に対して、「連動型」宮城県沖地震の活動履歴の解明等を内容とする「宮城県沖地震に 、2005(平成17)年度から2009年(平成21年)度まで、東北大学大学院理学研究科、東京大学地震研究所及び産総研に対して、「連動型」宮城県沖地震の活動履歴の解明等を内容とする「宮城県沖地震における重点的調査観測」に関する業務を委託した。総額5億円を超える費用をかけた事業であった。 この業務の中で、「仙台・石巻平野における地質調査に基づく過去の活動履歴の把握」は産総研が担うことになった。 「宮城県沖地震における重点的調査観測」については、各年度の成果報告書とそれらを統合した統合成果報告書は、地震本部のホームページで公開されている。この業務の中で「地質調査・津波シミュレーションに基づく地震発生履歴に関する研究」を担当した産総研の研究グループ(チーム長・H氏)は、密度の高い調査をできるだけ広域的に実施することにより、貞観地震の断層モデルの信頼性を向上させることを目指した。 産総研らの研究グループは、2006(平成18)年までに、仙台平野における津波堆積物を調査することにより、貞観の津波は当時の海岸線から少16 なくとも3kmは遡上していることを明らかにした。また、石巻平野の津波堆積物を調査することにより、貞観津波が石巻平野の当時の海岸線から2. 5~3km内陸まで浸水する巨大なものであり、いわゆる連動型地震動である可能性を窺わせるものであることを明らかにした。 また、産総研の研究グループと同じく、東北大学のO教授らの研究グループも「宮城県沖地震における重点的調査観測」において「過去の活動履歴を把握するための地質学的調査」を担当し、最終的には「津波堆積物調査に基づく地震発生履歴に関する研究」を担当することとなった。O教授らの研究グループは、岩手県・宮城県・福島県の太平洋沿岸域において津波堆積物の痕跡を探る地質調査を行った。O教 的には「津波堆積物調査に基づく地震発生履歴に関する研究」を担当することとなった。O教授らの研究グループは、岩手県・宮城県・福島県の太平洋沿岸域において津波堆積物の痕跡を探る地質調査を行った。O教授らのグループは、平成19年度成果報告書において、本件原発から北へ5kmほどしか離れていない福島県a町のh地区において、貞観津波とみられる堆積物を検出し、さらに約2300年前(不確定)、約2600年前、約3300年前、約3800年前の4枚のイベント堆積物を確認し、三陸海岸から仙台平野で得られている過去のイベント堆積物と比較すると、回数は合致し、年代値についても一致するものがある等と報告している。これにより、三陸海岸~仙台平野~常磐海岸の広い地域に及ぶ大規模な津波が、少なくとも500年~1000年間隔で発生している可能性が考えられるとされた。 産総研の研究グループは、2006(平成18)年度からB氏を、2007(平成19)年度からD氏をメンバーに迎え、平成20年5月付けで「宮城県沖地震における重点的調査観測」の平成19年度成果報告書を公表した。 同報告書では、既往の研究成果を基にした10種類の断層モデル(モデル1~10)に基づいた津波シミュレーションによる浸水域と、石巻平野・仙台平野における津波堆積物の分布域との比較が行われた。その結果、・仙台平野での津波堆積物分布を説明できる断層モデルは、プレート間モデルで断層幅100km、すべり量は7m以上のもの、すなわち、前記表1の「モデル17 8」(深さ31km、長さ及び幅100km、すべり量10m、Mw8.3)か「モデル10」(深さ15km、長さ200km、幅100km、すべり量7m、Mw8.4)であるとされた。その他の断層モデルでは、確認されている石巻、仙台平野の津波堆積物の場所まで津波を w8.3)か「モデル10」(深さ15km、長さ200km、幅100km、すべり量7m、Mw8.4)であるとされた。その他の断層モデルでは、確認されている石巻、仙台平野の津波堆積物の場所まで津波を到達させることができず、実際の貞観津波よりも浸水の範囲が過小になる結果が得られた。 上記のとおり、「宮城県沖地震における重点的調査観測」の平成19年度成果報告書が2008(平成20)年5月に公表され、この中で、石巻、仙台平野の精緻な津波堆積物調査を踏まえ、コンピューターによる津波シミュレーションが実施されたことを踏まえ、津波堆積物の分布を説明できる断層モデルが提示された。この研究成果については、B氏らによる「石巻・仙台平野における869年貞観津波の数値シミュレーション」(いわゆるB論文、2008(平成20)年8月31日受付、同年10月18日受理)にそのまま掲載されている。 ⑵ 被告東京電力は、2008(平成20)年10月、産総研(当時)のB氏から、投稿準備中のB論文について提供を受けた。 同年11月12日、東電設計は、「貞観津波の数値シミュレーション結果(速報)」を作成した。ここでは、Bほか(2008)で津波堆積物の再現性がよい波源モデルとされた「モデル8」と「モデル10」をそれぞれ用いて、福島第一・第二の各号機取水口前面の水位の時刻歴と、各最大水位、最小水位が報告された。最大水位上昇量は「モデル8」よりも「モデル10」の方が有意に大きく、本件原発1号機から4号機で7.1m前後、5、6号機では7.6m前後とされた。ただし、これは津波評価技術のパラメータスタディを実施していない段階での水位上昇量に過ぎない。津波評価技術に則って、パラメータスタディを実施し、朔望平均満潮位を足し合わせれば、想定津波の数値がさらに大幅に上昇することは明らかで ラメータスタディを実施していない段階での水位上昇量に過ぎない。津波評価技術に則って、パラメータスタディを実施し、朔望平均満潮位を足し合わせれば、想定津波の数値がさらに大幅に上昇することは明らかであった。さらに、取水口前面と取水ポンプ位置という評価位置の違いや、敷地の南側・北側からの遡上を考慮して18 も、水位が上昇する方向に働くことは、東電設計が2008(平成20)年4月までに実施した、「長期評価」に基づく試算、すなわち、1896年明治三陸地震の断層モデルを用いた、福島第一・第二原発の津波水位の計算結果を踏まえれば明らかであった。 津波評価技術におけるパラメータスタディは、想定津波の予測計算において、①波源の不確定性、②数値計算上の誤差、③海底地形、海岸地系等のデータの誤差、を考慮した設計津波水位を得るという目的で実施されるところ、貞観津波の「モデル10」による津波シミュレーションにも、これらの不確定性や誤差が含まれていることは明らかであった。まして、「モデル10」は、津波の浸水限界と堆積物の分布限界との差を考慮していない最低限のモデルに過ぎない。津波が浸水した範囲と津波堆積物ができる範囲にはかなり差があり、津波の際に砂(堆積物)は質量があるので途中で落ちるが、水はさらにその奥まで入っていくことは、本件津波の以前から多くの人に理解されていた。そうすると、実際の貞観津波の規模は津波堆積物調査の結果をそのまま反映させた波源を上回るものであることは当時から十分に認識できた。さらに、「モデル10」の津波シミュレーションは869年貞観津波の再現をするものだが、4省庁報告書(1997)では既往最大津波にとどまらず想定し得る最大規模の津波を設定すべきとされ、被告東京電力も一貫して「原子力発電所の津波に対する安全性について、過去最大の津 再現をするものだが、4省庁報告書(1997)では既往最大津波にとどまらず想定し得る最大規模の津波を設定すべきとされ、被告東京電力も一貫して「原子力発電所の津波に対する安全性について、過去最大の津波はもとより、想定される最大規模の津波に対しても確保されることを確認」することを基本スタンスとしていることからも、過去最大の津波を上回る想定をする必要性は被告東京電力、保安院の共通認識であったといえる。そのような想定津波の予測計算における不確定性、誤差、「モデル10」が最小規模のモデルに過ぎないこと及び過去最大を超える津波の想定の必要性からすれば、少なくとも「モデル10」にパラメータスタディを実施する必要があったことは明らかである。 2009(平成21)年3月、被告東京電力のP氏は、Q氏・R氏に対し、19 福島第一・第二原発の津波評価に関して、「長期評価」(地震本部の津波)のみならず貞観津波についても、S副本部長に対する説明資料を作成するよう指示をした。上記指示を受けて、同年3月12日、R氏は、「福島第一・第二津波評価」を作成した。 ここでは、津波評価結果として、ケース1で「土木学会手法」、ケース2で「福島県津波」、ケース3で「茨城県津波」と並び、ケース4で「貞観津波」、ケース5で「推本」(「長期評価」に基づく計算)について、福島第一・第二原発各号機の取水口前面の水位(貞観津波)又はポンプ位置(それ以外)の各水位が表に整理された。「貞観津波」と「推本」は、いずれの号機についてもポンプ許容値を上回ることが注意喚起されている。 前記2008(平成20)年11月12日のシミュレーションの「モデル10」に係る各最大水位上昇量に1.5m程度を加えた数値が、上記「ケース4 貞観津波」における数値となっている。ここで、貞観津波については「モデル 成20)年11月12日のシミュレーションの「モデル10」に係る各最大水位上昇量に1.5m程度を加えた数値が、上記「ケース4 貞観津波」における数値となっている。ここで、貞観津波については「モデル8」の数値が示されておらず、「モデル10」の数値だけが上層部への説明資料に記載されていた。このことからすると、貞観津波は上昇側についてより影響の大きい「モデル10」の採用が避けられないことが認識されていたものと考えられる。ここでも、「ケース4 貞観津波」は詳細パラメータスタディが実施されておらず、かつ取水口前面の水位である一方で、「ケース1 土木学会手法」「ケース3 茨城県津波」「ケース5 推本」は、いずれも詳細パラメータスタディが実施されたポンプ位置の水位であるという点には注意しなければならない。そうであるにもかかわらず、本件事故を引き起こした本件原発1~4号機では、「ケース4 貞観津波」として示された水位が最大となっており、その影響は「ケース5 推本」と同等以上、という整理になっている。すなわち、「ケース4 貞観津波」の示す数値のもつ意味・危険性は明らかであった。 ⑶ 被告東京電力の福島第一原発5号機・第二原発4号機の耐震バックチェッ20 ク中間報告書は、2008(平成20)年3月31日に提出されていた。同報告書は、総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会 耐震・構造設計小委員会 地震・津波、地質、地盤 合同ワーキンググループ(以下「合同WG」という。)の第32回会合(2009(平成21)年6月24日)、第33回会合(同年7月13日)において検討された。 第32回合同WGにおいて、委員であったH氏は、貞観地震は被告東京電力が検討対象としていた塩屋崎沖地震と比較できないほど大きな地震であるから、中間報告書が貞観地震に全く言及 )において検討された。 第32回合同WGにおいて、委員であったH氏は、貞観地震は被告東京電力が検討対象としていた塩屋崎沖地震と比較できないほど大きな地震であるから、中間報告書が貞観地震に全く言及していないことは問題であるとの指摘を行った。保安院の原子力発電安全審査課耐震安全審査室の安全審査官の立場にあったI氏は、H氏の指摘を受けて、地震動評価上の影響については確認の必要があるとしながら、「津波の件については、中間報告では、今提出されておりませんので評価しておりませんけれども、当然、そういった産総研の知見とか東北大学の知見がある、津波堆積物とかそういうことがありますので、津波については、貞観の地震についても踏まえた検討を当然して本報告に出してくると考えております。」と述べた。 第33回合同WGにおいて、被告東京電力が、B論文で示された貞観地震と塩屋崎沖地震が全く別の地震であるとの想定で地震動計算をして貞観地震の影響は塩屋崎沖地震よりも小さいとの結論を導いたことに対し、H氏は、複数の震源域が同時に破壊される連動型地震も考慮すべきである、貞観地震が塩屋崎沖地震を含むものである可能性もある、と指摘したところ、被告東京電力は、引き続きの検討事項とする旨回答した。 I氏が、「今さまざまな研究機関において、こういった知見が得られていく中で、その時々に応じた対応をすべきということであるのか、それとも、今の中間報告における検討の中でそれをやるべきとおっしゃられているのか、そこのところはどちらということで理解すればよろしいでしょうか」と尋ねたのに対し、H氏は、「……海溝型地震に関する知見というものを考えると、21 それなりのものを考えるべきではないかというのが私の意見です。だから、それをここに入れていただけるのかどうかということだと思います。 は、「……海溝型地震に関する知見というものを考えると、21 それなりのものを考えるべきではないかというのが私の意見です。だから、それをここに入れていただけるのかどうかということだと思います。……実際問題として、この貞観の時期の地震動をいくら研究したって、私は、これ以上精度よく推定する方法はほとんどないと思うんですね。残っているのは津波堆積物ですから、津波の波源域をある程度拘束する情報はもう少し精度が上がるかもしれないですが、どのくらいの地震動だったかというのは、古文書か何かが出てこないと推定しようがないとは思うんですね。そういう意味では、先延ばしにしても余り進歩はないのかとは思うんですが。」と答えて、その時点における貞観地震に関する知見を踏まえて中間報告書の審査を行うことを求めた。 H氏のこの発言を受けて、I氏は、H氏の意見を採用せずに、「今知見として調査している部分も含めた形でやられた方が信頼性としては上がると私は思っていますので、そういう意味では、その時々に応じた知見ということで、今後、適切な対応がなされることが必要だと思います。」と述べて、H氏の指摘を、今後の課題と位置づけて議事進行した。そして、耐震バックチェックの本報告では津波評価がなされることを踏まえ、津波の波源を設定するときの考え方との整合性も確保しつつ地震動評価上の検討を改めて行うとして議論を終結させた。 保安院は、第32回、第33回合同WGの議論を踏まえ、2009(平成21)年7月21日、基準地震動及び施設の耐震安全性評価をいずれも妥当と結論づける評価書を作成した。H委員の指摘などを踏まえて、保安院は、この評価書に、「現在、研究機関等により869年の貞観の地震に係る津波堆積物や津波の波源等に関する調査研究が行われていることを踏まえ、当院は、今後、事業者が 。H委員の指摘などを踏まえて、保安院は、この評価書に、「現在、研究機関等により869年の貞観の地震に係る津波堆積物や津波の波源等に関する調査研究が行われていることを踏まえ、当院は、今後、事業者が津波評価及び地震動評価の観点から、適宜、当該調査研究の成果に応じた適切な対応を取るべきと考える」と明記した。I氏は、この評価書が作成された当時、耐震バックチェックの最終報告書では貞観地震を踏22 まえた検討結果を最終報告書に盛りこむことは不可欠であるとの認識を有していた。また、最終報告書の提出時期については、中間報告が終わってから「それほど間を置かない」時期、具体的には、半年から1年程度と思っていた。なお、本報告がなされる時期について、H氏は、政府事故調のヒアリングにおいて、「バックチェックの中間報告は限りなく本報告に近いもので、その半年後くらい、すぐに本報告が出てくるといった感じと聞いていた。」と述べており、概ね認識が一致している。 ⑷ 上記保安院の評価書が作成されてからまもなくの2009(平成21)年8月上旬、I氏の上司であったT審議官(原子力安全基盤担当)(当時)、耐震安全審査室長のL氏がI氏に対し、被告東京電力の貞観地震を踏まえた検討がどうなっているかを尋ねた。 これに対し、I氏は、貞観津波の波源モデルが確立していない、知見としても成熟していないということで、まだ検討するには早いのではないか、などとT氏やL氏に進言したことは一切ない。I氏は、上司の問いかけを受けて、早速、被告東京電力に連絡をして、貞観地震津波に関する検討状況を尋ね、被告東京電力の担当者と面談することになったのである。 2009(平成21)年8月28日、被告東京電力の担当者は資料を持参してI氏と面談した。このとき、被告東京電力は、「津波評価技術」に記載された 被告東京電力の担当者と面談することになったのである。 2009(平成21)年8月28日、被告東京電力の担当者は資料を持参してI氏と面談した。このとき、被告東京電力は、「津波評価技術」に記載された波源モデルに基づく試算結果を持ってきただけで、すでに社内で実施していたB論文に基づく試算結果は持参しなかった。そこで、I氏は、同日、被告東京電力の担当者に対して、B論文を踏まえた試算結果を持ってきてほしいと求めた。 2009(平成21)年9月7日、被告東京電力は、試算結果をI氏に持参し、資料を提供した。前述のとおり、東電設計が2008(平成20)年11月に実施した試算(速報値)を受けて、被告東京電力の社内において2009(平成21)年3月に作成された資料においては、平均潮位から計算23 した取水口前面の津波高さとして、福島第一原発の取水口前面で、1号機8. 6m、2号機8.7m、3号機8.7m、4号機8.7mと記載されており、保安院に手渡された資料にもほぼ同じ数値が記載されていた。 すでに述べたとおり、ここで報告された津波高さは、パラメータスタディ実施前の数値である。この点は、被告東京電力が作成した保安院との打合せ資料である「福島第一・第二原子力発電所の津波評価について」の2枚目の欄外に、B論文のモデル10に基づく試算について、「仮に土木学会の断層モデルに採用された場合、不確実性の考慮(パラメータスタディ)のため2~3割程度水位が大きくなる可能性あり」と記載されていることからもわかる。 パラメータスタディを実施することによって、最大波高が10mを超える可能性が高いことは明らかであった(1~4号機の8.7mを2割増しすると10.44m、3割増しすると11.31mとなる。)。I氏は、2011(平成23)年3月7日の保安院と被告東京電力との打 超える可能性が高いことは明らかであった(1~4号機の8.7mを2割増しすると10.44m、3割増しすると11.31mとなる。)。I氏は、2011(平成23)年3月7日の保安院と被告東京電力との打合せの時点において、当然にこの点を認識していたといえるが、被告東京電力が2009(平成21)年9月7日にI氏に提供した資料からも、I氏が同様の認識に至っていたと推認するのが合理的である。 さらに、2010(平成22)年3月に保安院の内部で送受信されたメールでは「貞観の地震による津波は簡単な計算でも、敷地高は超える結果になっている。」と記載されており、保安院内部でも貞観津波が福島第一原発の敷地高を超えることが認識されていたことは明らかである。 前述のとおり、I氏は、耐震バックチェックの最終報告書では貞観地震を踏まえた検討結果を最終報告書に盛りこむことは不可欠であるとの認識を有していた。また、耐震バックチェックの最終報告に貞観地震を踏まえた検討結果を盛りこむということは、最終報告の段階では、すでに貞観津波の波源モデルを踏まえた試算結果に基づいて、津波対策の改造工事が実施されていなければならないという認識であった。 24 上記試算結果を認識したI氏は、このような前提のもと、被告東京電力の担当者に対し、「こういった結果が出るということであれば、今後の最終報告に向けた対応としても、具体的な対応を検討したほうがいい」と述べ、「水密」という言葉を用いて、海水ポンプを建屋内に入れる、海水ポンプ室の周囲を壁で囲む、電源ケーブルの開口部、扉等の処理をする等の対策の提案をした。 これに対して、被告東京電力は、貞観地震に関する検討をしないで最終報告を行うというスタンスを明確にしており、「(もし対策工事をしないとすれば、保安院は)炉を止めることができるん 対策の提案をした。 これに対して、被告東京電力は、貞観地震に関する検討をしないで最終報告を行うというスタンスを明確にしており、「(もし対策工事をしないとすれば、保安院は)炉を止めることができるんですか」などと述べて、対策工事を促されたことに対して強く反発した。 I氏は、被告東京電力から反抗的な態度に出られた結果、「水密化」の提案をしてはみたものの、そのような対策を「予算をとってでもやりなさい」とまでは言わず、結局、被告東京電力に対して、津波対策の検討を促す程度で話を終えてしまい、具体的な対策を講じるよう求めるというところまでいかなかった。 その後、I氏は、T氏、L氏等、保安院の上司と協議の上、保安院の組織としても被告東京電力に対して対策を促すなどの対応を何もしなかった。 このように、I氏が「水密」という言葉を使って具体的な対応を促したことから、保安院関係者の間では防護措置としての水密化は現実的なものとして当然に想定されていたものであった。 ⑸ 原告らは、「宮城県沖地震における重点的調査観測」の平成19年度成果報告書が公表された2008(平成20)年5月という時点をとらえて、速やかに、貞観地震と同様の地震によってもたらされる津波の高さを確認する義務があったと主張しているが、保安院が、産総研等が行っていた調査研究成果をそれ以前からすでに認識していた可能性が高いことを指摘せざるを得ない。すなわち、東北電力は、「宮城県沖地震における重点的調査観測」の平成19年度成果報告書が公表される直前の2008(平成20)年3月5日の25 時点で、「大地震に伴う津波を考慮するという観点から、産総研が発表した貞観津波の波源モデルを用いたパラメータスタディ(中略)を行い、女川地点の安全性を確認する」方針を決めているなど、貞観津波の知見を耐震バック 大地震に伴う津波を考慮するという観点から、産総研が発表した貞観津波の波源モデルを用いたパラメータスタディ(中略)を行い、女川地点の安全性を確認する」方針を決めているなど、貞観津波の知見を耐震バックチェックに取り入れることについて積極的であったところ、同年10月21日に、被告東京電力から、「貞観津波最新モデルの位置づけを『3年間の電共研で取り扱いを検討後、改めてバックチェック』にできますか?」「福島沿岸で大きな値になることから、慎重な検討が必要と考えています」などと耐震バックチェックに取り入れることについて消極的な方向での働きかけをされたことに対し、メール返信の中で、「3月中間報告時点でのNISA(原告ら代理人注:原子力安全保安院)ヒアリング、J先生への事前説明でも、検討している旨を述べています。この際、NISAからは検討すべきであるとのコメントを得ていること、最新知見のチェックの観点からもインパクトが大きい貞観津波はBC報告書には記載する予定でした。」と述べている。 上記のとおり、2008(平成20)年3月の時点で、保安院が、東北電力に対して、貞観津波の知見について「検討すべき」との発言をしていることからすると、貞観津波の知見(「宮城県沖地震における重点的調査観測」の平成19年度成果報告書に記載された内容)の重要性について、東北電力から情報を得て、または自ら調査・確認することによって、すでに認識していたものと考えられるのであり、かかる事情は、被告国の予見可能性を強める事情であるといえる。 ⑹ 貞観津波は巨大津波として従前から知られていたこと、産総研の津波堆積物調査は地震本部(文科省)が国の事業として予算を付けておこなったものであること、産総研への調査委託費用は2005(平成17)年度から2009(平成21)年度で総額5億円を超え と、産総研の津波堆積物調査は地震本部(文科省)が国の事業として予算を付けておこなったものであること、産総研への調査委託費用は2005(平成17)年度から2009(平成21)年度で総額5億円を超える巨額のものであったこと、調査地点(調査範囲)が数百か所に及び、それ以前のものより圧倒的に多いという科学性があること、こうした大規模な調査が2008(平成20)年の時26 点で開始からすでに3年以上が経過していたこと、調査対象には福島第一原発敷地から直線距離で北に5㎞ほどであるa町・h地区など福島第一原発周辺地が含まれていたこと、2008(平成20)年5月付け「宮城県沖地震における重点的調査観測」の平成19年度成果報告書については、保安院は当然にその内容を知り得る立場にあったこと、保安院自身が2008(平成20)年3月の時点で東北電力に対し耐震バックチェックの報告書において貞観津波の知見を踏まえるよう指示し、東北電力もこれを妥当と認めていること、被告東京電力も2008(平成20)年11月の時点で貞観津波の知見を「確度の高い新知見」と認めて自主的に津波計算をしていたということがあったこと等からすれば、保安院は、2008(平成20)年5月に公表された「宮城県沖地震における重点的調査観測」の平成19年度成果報告書を最新の知見と位置づけて対応すべきであった。国が行政施策に直結すべき地震に関する調査研究の責任体制を明らかにして政府として一元的に推進するための機関である地震本部は、「地震調査研究推進本部では、『同じ場所で同じような地震がほぼ定期的に繰り返す』という仮定のもとに、大きな被害をもたらす可能性が高い、プレート境界やその付近で起きる地震(海溝型地震)や活断層で起きる地震について地震発生確率値を含む長期評価結果を公表しています。」としてお す』という仮定のもとに、大きな被害をもたらす可能性が高い、プレート境界やその付近で起きる地震(海溝型地震)や活断層で起きる地震について地震発生確率値を含む長期評価結果を公表しています。」としており、同じような場所で同じような地震が定期的に繰り返されるという考え方を明示的に採用してきている。既往津波である貞観津波も当該場所で定期的な繰り返し性があることが当然に想定されるものであり、被告らは貞観地震と同種の地震によって発生する津波に対する対応を避けられないのである。 保安院は、2006(平成18)年9月の耐震設計審査指針の改訂に伴い、原子炉の耐震安全性の評価・確認に当たっての基本的な考え方並びに評価方法及び確認基準を策定し、地震随伴事象たる津波については、最新の知見を考慮して、「施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があ27 ると想定することが適切な津波」を想定して津波シミュレーションにより評価すると定めている。 したがって、被告国(文部科学省)が大学・研究機関に委託して行った「宮城県沖地震における重点的調査観測」の研究成果として、科学的根拠をもって、869年に実際に発生した地震である貞観地震の断層モデルが提示され、しかも、福島第一原発の安全性に影響を与えることが明らかな三陸海岸~仙台平野~常磐海岸の広い地域に及ぶ大規模な津波が少なくとも500年~1000年間隔で発生している可能性があるとされたことを踏まえ、被告らは、遅くとも、「宮城県沖地震における重点的調査観測」の成果報告書が公表された平成20年5月以降、速やかに、この断層モデルを前提とした場合に福島第一原発にどの程度の高さの津波が到来する可能性があるのかを確認する義務があり、具体的には、被告東京電力において、「モデル8」及び「モデル10」に基づく津波試算を の断層モデルを前提とした場合に福島第一原発にどの程度の高さの津波が到来する可能性があるのかを確認する義務があり、具体的には、被告東京電力において、「モデル8」及び「モデル10」に基づく津波試算を行うべきであり、規制庁たる保安院は、そのような津波試算を行わせるべきであった。 この貞観地震の断層モデルに基づく津波試算(シミュレーション結果)については、「長期評価」に基づく津波試算のようなパラメータスタディを行った計算結果が存在しておらず、詳細パラメータスタディを実施すれば具体的にどの程度の津波高さになるのかは定かではない。 しかしながら、被告東京電力が作成した資料によれば、パラメータスタディを実施しない暫定値においても、福島第一原発1~4号機において、最大O.P.+8.7mの数値が得られており、パラメータスタディを実施すれば、2~3割程度津波水位が大きくなる可能性があるとされていることからすると、貞観地震の断層モデルに基づいて、「長期評価」に基づく試算と同様の方法による津波試算を被告東京電力に実施させていれば、取水口前面の水位としてO.P.+10mを超える津波高さが算出されることは明らかであると考えられる。 28 そして、津波試算結果を得るまでに要する期間であるが、「長期評価」に基づく津波試算は、被告東京電力が子会社の東電設計に依頼することにより、2~3か月程度で、詳細パラメータスタディを実施した津波試算結果が得られていることから、被告らは、どんなに遅くとも2008(平成20)年8月頃には津波試算結果が得られるものと考えられる。 したがって、被告らは、2008(平成20)年8月には、貞観地震と同規模の地震の発生によって福島第一原発の敷地高さを超える津波が到来する可能性があることを予見することができたというべきである。 ⑺ たがって、被告らは、2008(平成20)年8月には、貞観地震と同規模の地震の発生によって福島第一原発の敷地高さを超える津波が到来する可能性があることを予見することができたというべきである。 ⑺ 以上述べてきたとおり、貞観地震と同レベルの地震の発生によって敷地高を超える津波が到来することについて予見可能であったといえるのは、2008(平成20)年8月であるというべきであるが、仮に、万が一この時点での予見可能性が認められないとしても、以下のとおり、被告国は、2009(平成21)年9月に予見可能性が認められるというべきである。 すなわち、被告東京電力は、東電設計に委託して、2008(平成20)11月、B論文に基づく試算を実施し、その結果を得た。その結果、貞観地震と同レベルの地震が発生すれば、福島第一原発1~4号機の取水口前面で、7.1m前後の波高(速報値)になることを認識した。被告東京電力は、2009(平成21)年3月に、この速報値から波高を8.6m~8.7mと試算していることからして、2008(平成20)年11月の時点でも9m弱の波高になることを認識し得たといえる。そして、この試算は、パラメータスタディを行う前の簡略な試算であり、不確実性を考慮してパラメータスタディを実施すれば、波高が最大11.31m(3割増し)となり、敷地高であるO.P.+10mを1.31m程度超えることを認識し、あるいは、少なくとも予見可能であった。 そして、被告国は、2009(平成21)年9月の時点において、被告東京電力から、上記試算結果(8.6~8.7m)について報告を受けた。被29 告国は、上記の簡易な試算結果の提出を受けることによって、遅くとも、2009(平成21)年9月の時点で、被告東京電力の2009(平成20)年3月時点と同様の認識に至り、予見 を受けた。被29 告国は、上記の簡易な試算結果の提出を受けることによって、遅くとも、2009(平成21)年9月の時点で、被告東京電力の2009(平成20)年3月時点と同様の認識に至り、予見可能性が認められる。 3 まとめ(福島第一原発の敷地高を超える津波の予見可能性)被告らは2002(平成14)年7月の「長期評価」が発表された後、2~3か月の期間があれば(遅くとも同年中には)、「長期評価」の見解に基づいて、被告東京電力が2008(平成20)年に実施した試算と同様の試算を行う(または行わせる)ことによって、福島県沖海溝沿いに津波地震が発生することに伴い、福島第一原発の敷地高を超える程度の津波が到来することを予見することができたものである。 そして、2008(平成20)年には、貞観地震・津波の知見が質的な高まりを見せた。津波堆積物調査という科学的手法の確立、この手法を用いた宮城県沖地震における重点的調査観測の実践とその成果報告を受けて、被告らは、2008(平成20)年8月の時点において、貞観地震と同規模の地震が発生すれば、福島第一原発の敷地高を超える津波が到来する可能性があることを予見できた。 百歩譲って、この時点で被告らに予見可能性が認められないとしても、被告東京電力は2008(平成20)年11月に、被告国は、2009(平成21)年9月に、それぞれ試算結果(パラメータスタディ前)を認識し、貞観地震と同規模の地震が発生すれば、福島第一原発の敷地高を超える津波が到来する可能性があることを予見できた。 上記の「長期評価」の知見に基づく予見可能性は、海溝沿い福島県沖の津波地震の発生とそれに伴う津波高さに関する予見可能性であるところ、「長期評価」が、地震防災対策特別措置法という法律上の根拠に基づき、想定される地震の長期評 に基づく予見可能性は、海溝沿い福島県沖の津波地震の発生とそれに伴う津波高さに関する予見可能性であるところ、「長期評価」が、地震防災対策特別措置法という法律上の根拠に基づき、想定される地震の長期評価を行う使命をもって組織された地震本部地震調査委員会が、専門的研究者による議論を経て取りまとめて発表した公的な見解であるという点に30 格段の意味がある。 上記の貞観地震・津波の知見に基づく予見可能性は、プレート間地震(津波地震に比してより深いプレート境界がすべる地震)である貞観地震と同様の地震の発生とそれに伴う津波高さに関する予見可能性であるところ、「宮城県沖地震における重点的調査観測」が地震本部の事業として実施されたものであり、2008(平成20)年の時点では、「長期評価」には反映されていなかったものの、2011(平成23)年には反映されることが予定されていたものであるほか、こちらは、津波堆積物調査の結果に裏付けられた繰返し性のある既往地震であり、科学的根拠をもって波源モデルが提示されていたという点に格段の意味がある。 上記「長期評価」に基づく予見可能性が生じた時点で、万が一にも原発事故の発生を回避しなければならないことからすれば、経済産業大臣は、技術基準省令4条1項の「想定される…津波…により原子炉の安全性を損なうおそれがある場合」に該当する状態であるとして、被告東京電力に対して、原子炉の安全を確保するための防護措置を講じさせる作為義務を負う。そして、その後も規制権限不行使が続けば違法状態が継続することになる。 経済産業大臣の不作為の違法が継続する中で、貞観津波に関する新たな知見が加わることで予見可能性の内容が重畳的になるから、この時点で、改めて、技術基準省令4条1項の「想定される…津波…により原子炉の安全性を損なうお 作為の違法が継続する中で、貞観津波に関する新たな知見が加わることで予見可能性の内容が重畳的になるから、この時点で、改めて、技術基準省令4条1項の「想定される…津波…により原子炉の安全性を損なうおそれがある場合」に該当するとして、経済産業大臣は規制権限を行使する義務を負うことになる。にもかかわらず、規制権限を行使しないとすれば、規制権限不行使の違法状態がより重度になるとみることができる。 第5 被告国の作為義務(技術基準適合命令発出義務)の発生についての法令の趣旨等を踏まえたあてはめ(事実に対する構成要件の適用)1 過去の貞観津波が福島第一原発の敷地東側を超える可能性が高く、かつ、同種津波が同じ場所で将来ほぼ確実に発生するものであり、前回の発生(平成231 0年当時の認識では869年の貞観津波が直近の同種津波であった。)から1000年以上経過して再来期間に入っていることから対策は時間的に切迫しているという事実関係を踏まえ、万が一にも深刻な原子力災害を防ぐという趣旨を考慮して「評価」すると、福島第一原発の設備は10m盤を超える津波に対する防御力が皆無で津波に対して非常に脆弱な状態にあり、10m盤を超える津波はいつ起きてもおかしくない状態で、しかも将来必ず起きるものであった。 10m盤を超える津波が発生した場合には福島第一原発の施設は防御力が皆無であることから非常用電源を喪失して機能停止し、核燃料に対する冷却機能が喪失されて核物質が飛散するという重大事故が発生する可能性が強く見込まれ、万が一にも深刻な原子力災害を起こしてはならないという趣旨に著しく反している状態であることは明らかであった。また、伊方原発訴訟最高裁判例の趣旨である、原子炉の安全性審査は「最新の科学的、専門技術的知見に基づいてされる必要がある」「科学技術は不断に進歩、 に著しく反している状態であることは明らかであった。また、伊方原発訴訟最高裁判例の趣旨である、原子炉の安全性審査は「最新の科学的、専門技術的知見に基づいてされる必要がある」「科学技術は不断に進歩、発展しているのであるから…最新の科学技術水準への即応性の観点」を考慮しないといけないという点からしても、保安院は最新かつ信頼できる知見である貞観津波の知見に基づいて規制をすべきであった。 したがって、2008(平成20)年当時の福島第一原発の設備は、貞観津波の知見との関係で、電気事業法40条・省令62号4条1項の「想定される…津波…により原子炉の安全性を損なうおそれがある場合」を満たすことになる。 2 貞観津波の知見については、産総研の津波堆積物調査は巨額の予算を付けて3年以上をかけてすでに数百か所の地点で行われ、科学性も権威もあるものであり、調査対象は福島第一原発敷地付近にも存在した。また、保安院自身も東北電力とのやり取りの事実や、平成19年度成果報告書が公表されていることから、貞観津波の知見の内容を知っていたか少なくとも知り得る状態にあった。 さらに、被告東京電力自身も貞観津波の知見について信頼性を認めて自主的に32 津波計算をしており、電気事業者を規制する立場である保安院の注意義務が規制される側よりも低くていいということはあり得ないので、保安院にも少なくとも同程度の注意義務があった。このような事実関係を踏まえ、法令の趣旨等を踏まえて「評価」すると、貞観津波に関する調査結果が福島第一原発の福島第一原発の津波評価に対する影響が生じ得るものである以上、万が一にも深刻な原子力災害を起こさないために、保安院は貞観津波の知見を精査するべきであった。 また、時間的な問題として、貞観津波の知見は既往津波に関するものであり、繰り返し性がある である以上、万が一にも深刻な原子力災害を起こさないために、保安院は貞観津波の知見を精査するべきであった。 また、時間的な問題として、貞観津波の知見は既往津波に関するものであり、繰り返し性があることが公的にも認められており、福島第一原発敷地付近で同種の津波が起こることは確実であり、周期性を考えると次回の津波はいつ起こってもおかしくない状態であったという事実関係を踏まえ、法令の趣旨等を踏まえて評価をすると、万が一にも深刻な原子力災害を起こさないために、保安院は貞観津波の知見に対して時間的な猶予なく調査をして対策を打つべきであった。2006(平成18)年9月の耐震設計審査指針の改訂に伴い、津波については、最新の知見を考慮して、「施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があると想定することが適切な津波」を想定して津波シミュレーションにより評価すると定められたことも、法令の趣旨等を踏まえ、保安院の調査義務を強めることになる。2008(平成20年)以降の耐震バックチェックの審査中で原子力事業者に対する規制権限を行使しやすい状況にあったことも、法令の趣旨等を踏まえ、保安院の調査義務を強める事情ということになる。 以上のとおりであるから、法令の趣旨等を踏まえると、万が一にも深刻な原子力災害を起こさないために、被告国は、「宮城県沖地震における重点的調査観測」の成果報告書が公表された2008(平成20)年5月以降、速やかに、この断層モデルを前提とした場合に福島第一原発にどの程度の高さの津波が到来する可能性があるのかを確認するべきであり、具体的には、経済産業大臣(保33 安院)は、被告東京電力に対し、「モデル8」及び「モデル10」に基づく津波試算を行わせ、その結果に応じた対策を取らせるべきであった。 3 経済産業大臣(保安院)が貞 は、経済産業大臣(保33 安院)は、被告東京電力に対し、「モデル8」及び「モデル10」に基づく津波試算を行わせ、その結果に応じた対策を取らせるべきであった。 3 経済産業大臣(保安院)が貞観津波に関する津波試算結果を得るまでに要する期間については、「長期評価」に基づく津波試算は、被告東京電力が子会社の東電設計に依頼することにより、2~3か月程度で、詳細パラメータスタディを実施した津波試算結果が得られていることから、被告らは、どんなに遅くとも2008(平成20)年8月頃には津波試算結果が得られるものと考えられる。 したがって、被告国は、万が一にも深刻な原子力災害を起こしてはならないという法令の趣旨等に基づいて試算を行っていれば、2008(平成20)年8月には、貞観地震と同規模の地震の発生によって福島第一原発の敷地高さを超える津波が到来する可能性があることを予見することができ、貞観津波の知見に対応した作為義務を負う。 仮に、万が一この時点での予見可能性が認められないとしても、以下のとおり、被告国は、2009(平成21)年9月には強度の予見可能性及び作為義務が認められる。すなわち、被告東京電力は、東電設計に委託して、2008(平成20)11月、B論文に基づく試算を実施し、その結果を得た。その結果、貞観地震と同レベルの地震が発生すれば、福島第一原発1~4号機の取水口前面で、7.1m前後の波高(速報値)になることを認識した。被告東京電力は、2009(平成21)年3月に、この速報値から波高を8.6m~8. 7mと試算していることからして、2008(平成20)年11月の時点でも9m弱の波高になることを認識し得たといえる。そして、この試算は、詳細パラメータスタディを行う前の簡略な試算であり、詳細パラメータスタディを実施すれば、波高が11. 8(平成20)年11月の時点でも9m弱の波高になることを認識し得たといえる。そして、この試算は、詳細パラメータスタディを行う前の簡略な試算であり、詳細パラメータスタディを実施すれば、波高が11.31m(3割増し)となって敷地高であるO.P.+10mを超え得るものであった。 そして、被告国は、2009(平成21)年9月の時点において、実際に被34 告東京電力から、上記試算結果(8.6~8.7m)について報告を受けた。 被告国は、実際に上記の簡易な試算結果の提出を受けることによって、遅くとも、2009(平成21)年9月の時点で、被告東京電力の2009(平成20)年3月時点と同様の認識に至っていた。この時点で、万が一にも深刻な原子力災害を起こしてはならないという規制権限の根拠法令の趣旨等を踏まえれば、被告国は貞観津波の知見を規制に取り入れるべきであり、貞観津波の知見に基づく強度の予見可能性及び作為義務が認められる。 第6 東京高裁令和6年1月26日判決の問題性1 東京高裁令和6年1月26日判決(以下「一陣高裁判決」という。)は、貞観津波の知見について「専門的見地に照らし、更なる津波堆積物調査が必要な、いまだ発展途上のものであって、相当程度の不確実性が存していたことが否定できない」(以下「判示事項㋐」という。)、「一審被告国において、上記の報告により貞観津波に関する試算結果(推計波高が9m近く)を認識したとしても、同試算結果は、上記のような不確実性が存する未成熟な知見に基づくものであって、津波対策に反映させるほどの知見にはいまだ至っていないものと理解することが不合理であるとはいえない」(以下「判示事項㋑」という。)などとして、貞観津波の知見が規制に取り入れるべき知見ではなかったなどという趣旨を判示している。 2 判示事項㋐につい ものと理解することが不合理であるとはいえない」(以下「判示事項㋑」という。)などとして、貞観津波の知見が規制に取り入れるべき知見ではなかったなどという趣旨を判示している。 2 判示事項㋐について⑴ 一陣高裁判決は、貞観津波の知見(「B論文」で示された波源モデル「モデル8」、「モデル10」)について、「本件事故以前において、専門的知見に照らし、更なる堆積物調査が必要な、いまだ発展途上のものであって、相当程度の不確実性が存していたことは否定できない」などと判示している。 その理由として、一陣高裁判決は、①B氏が証人尋問手続において、「当該論文により貞観津波の断層(波源)モデルを全て明らかにしたとはいえず、また、貞観津波のように主に津波堆積物データしか得られないものについて35 は、信頼性の高い津波堆積物データの収集、それに基づく痕跡高・浸水域の推定が必要ですが、本件地震の頃はまだこれらが十分にされていなかった旨を述べて」いること、②J氏も、意見書において、「『(B論文でも)貞観津波の断層(波源)モデルが特定されたわけではありませんでした。』、『堆積物調査の結果、北の岩手県や南の福島検討で貞観津波のものと推定できる堆積物が発見されれば、それをも合理的に説明できる断層(波源)モデルを構築するために、断層の長さやパラメータを更に修正する必要が出てくることになる…』と述べている」こと、③福島県h地区の津波堆積物調査を踏まえたD論文(2010)において、「貞観津波の波源モデルの再検討が行われ、断層の位置や深さを変更した新たな波源モデル〔注:モデル11〕が提案され、その津波推計の計算結果によれば、特定地点で想定される津波高は異なったものとなることが示唆され」、「今後、断層の南北の広がり(長さ)などを更に検討するため、石巻平野よりも北の デル11〕が提案され、その津波推計の計算結果によれば、特定地点で想定される津波高は異なったものとなることが示唆され」、「今後、断層の南北の広がり(長さ)などを更に検討するため、石巻平野よりも北の三陸海岸沿岸や、あるいはh地区よりも南の福島県、茨城県沿岸における津波堆積粒調査が必要であるとされたことが認められる。」ことを挙げている。 ⑵ 一陣高裁判決が挙げた上記①の理由にある、B氏のいう「信頼性の高い津波堆積物データの収集」とは石巻・仙台平野や福島県a町hの津波堆積物データとは別のさらに南北(北の岩手県、南の福島県、茨城県)の津波堆積物データの収集のことであり、たしかに、現時点において、貞観津波の全体像を示す断層モデルは示されていないが、すでに、信頼性のある津波堆積物データに基づき、最低限のモデルを示すことはできているのであって、この意味や価値をどう評価するかということが重要である。 ⑶ 一陣高裁判決が挙げた上記②の理由にある、J氏のいう「(B論文でも)貞観津波の断層(波源)モデルが特定されたわけではありませんでした」との見解については、そのとおりであるが、逆にいえばこの時点では二つに絞り込まれていたということである。そうした二つのモデルの存在を前提に、「モ36 デル10」の断層モデルは「モデル8」の断層モデルより大きく、津波の高さは全般的に高くなるのであるから、規制に際しては安全寄りに考えて「モデル10」を用いるべきであったというだけの話にすぎない。 さらに南北の調査を行い、新たな津波堆積物が見つかれば、より大きな断層モデルを想定することになる可能性が高い。すでに提示されている「モデル10」の段階で計算津波が詳細パラメータスタディを行えば福島第一原発の敷地高を超えることがすでにほぼ確実であった以上、「モデル10」を規制に することになる可能性が高い。すでに提示されている「モデル10」の段階で計算津波が詳細パラメータスタディを行えば福島第一原発の敷地高を超えることがすでにほぼ確実であった以上、「モデル10」を規制に取り入れない理由にはならないのである。 ⑷ 一陣高裁判決が挙げた上記③の理由にある、D論文(2010)で提示された「モデル11」が「モデル10」よりも波高が低くなる可能性があるという点については一概に否定はできないが、D論文(2010)においてもB論文(2008)の断層モデル「モデル10」が否定されたわけではなく、「モデル10」も福島県a町hの津波堆積物調査の結果と整合するモデルであると整理されている。 「モデル10」や「モデル11」は地震の全体像を示す断層モデルとしては不十分ではあるが、すでに確認されている津波堆積物の分布域に津波を到来させるだけの最低限の断層モデルは提示されているのであるから、その知見を踏まえて対策を講じるべきである。地震の全体像が示されるまで対策の必要がないとするなら、その地震がより広い地域に津波被害をもたらした大きな地震であればあるほど、対策が後手に回ってしまうという不合理なことになってしまい、原子力発電所の安全審査には最新の知見を用いるというルールにも反することになるのであって、今後モデルが変動する可能性があっても、現時点の石巻・仙台平野及び福島県a町hの津波堆積物調査の結果とそれに基づく断層モデルは信頼性があり、さらに南北の調査を行っても断層モデルは大きくなる可能性が高いのであるから、2008(平成20)年の時点で「モデル10」を規制から排除する合理的理由はない。 3 判示事項㋑について37 ⑴ 一陣高裁判決は、2009(平成21)年9月の時点で、被告国が貞観津波による試算結果(推計波高が9m近く)を認 ル10」を規制から排除する合理的理由はない。 3 判示事項㋑について37 ⑴ 一陣高裁判決は、2009(平成21)年9月の時点で、被告国が貞観津波による試算結果(推計波高が9m近く)を認識したとしても、「同試算結果は、上記のような不確実性が存する未成熟な知見に基づくものであって、津波対策に反映されるほどの知見にはいまだ至っていないものと理解することが不合理であるとはいえない」などと事実を「評価」して、被告国の主観として貞観津波の知見が規制権限行使の根拠となる知見にいまだ至っていないと理解して規制に取り入れなかったことについて不合理ではないなどとしている。 ⑵ しかしながら、上記判示は、被告国が貞観津波の知見について「津波対策に反映されるほどの知見にはいまだ至っていないものと理解」していたとする点で事実誤認を含んでいる。先述のとおり、被告国は東北電力の女川原発の耐震バックチェックにおいて同社に対し貞観津波の知見を検討すべきであるとのコメントを与えている。被告国の主観としては、貞観津波の知見を津波対策に反映させるほどの知見に至っていると理解したからこそ、このようなコメントをしているのである。さらに、被告国(保安院)の福島第一原発担当者であったI氏は、2009(平成21)年7月21日の耐震バックチェックの中間報告書に対する評価書作成の時点で、半年から1年後に提出されるであろう耐震バックチェックの最終報告書では貞観地震を踏まえた検討結果を最終報告書に盛りこむことは不可欠であるとの認識を有していた。そのうえ、同人は、最終報告の段階では、すでに貞観津波の波源モデルを踏まえた試算結果に基づいて、津波対策の改造工事が実施されていなければならないという認識でもあった。だからこそ、同人は2009(平成21)年9月に貞観津波による試算結果( でに貞観津波の波源モデルを踏まえた試算結果に基づいて、津波対策の改造工事が実施されていなければならないという認識でもあった。だからこそ、同人は2009(平成21)年9月に貞観津波による試算結果(推計波高が9m近く)を認識した後で、被告東京電力の担当者に対し、「こういった結果が出るということであれば、今後の最終報告に向けた対応としても、具体的な対応を検討したほうがいい」と述べて具体的な対策の提案をしたのである。しかるに、I氏は、被告東京電38 力の担当者から対策工事を促されたことに対して強く反発されたことから、自身の行った提案を取り下げてしまったのである。つまり、被告国は、貞観津波の知見について「津波対策に反映されるほどの知見にはいまだ至っていないものと理解」していたのではなく、津波対策に反映されるほどの知見であると理解していたにもかかわらず、被告東京電力に反抗されたことから福島第一原発の規制に取り入れずに引き延ばされていた(規制の虜であった)というのが正しく認定されるべき事実である。 ⑶ また、先述のとおり、保安院は、第32回、第33回合同WGの議論を踏まえ、2009(平成21)年7月21日、基準地震動及び施設の耐震安全性評価をいずれも妥当と結論づける評価書を作成した。H委員の指摘などを踏まえて、保安院は、この評価書に、「現在、研究機関等により869年の貞観の地震に係る津波堆積物や津波の波源等に関する調査研究が行われていることを踏まえ、当院は、今後、事業者が津波評価及び地震動評価の観点から、適宜、当該調査研究の成果に応じた適切な対応を取るべきと考える」と明記した。つまり、保安院の評価書では、①貞観津波の津波堆積物調査や津波の波源等に関する調査研究がおこなわれていること、②保安院の方針として、事業者(被告東京電力を含む)が、 を取るべきと考える」と明記した。つまり、保安院の評価書では、①貞観津波の津波堆積物調査や津波の波源等に関する調査研究がおこなわれていること、②保安院の方針として、事業者(被告東京電力を含む)が、津波評価等の観点から前記①の調査研究に成果に応じた適切な対応を取るべきとされている。 ①の調査・研究に関しては、地震本部の宮城県沖重点調査観測平成17-21年度統括成果報告書に記載された「5カ年の年次実施計画」によると、仙台平野、石巻平野の津波堆積物調査は平成18年度までに終了しており、福島県の常磐海岸での津波堆積物調査も平成20年度には終了している。また、平成21年度には、平成17年度以来、宮城県南部から福島県常磐海岸地域に至る地域で行ってきた津波堆積物調査の結果を総合して、津波の到達域の分布域を明らかにしたり、得られた化石資料から発生間隔を検討する等、専ら評価作業を実施している。このように、2009(平成21)年4月の39 時点で津波堆積物調査は実施尽くされていたのである。2009(平成21)年4月の時点ですでに調査が実施し尽くされていたという点について、保安院合同WGでも、2009(平成21)年7月13日議事録によると、H氏は、「貞観の時期の地震動を幾ら研究したって、私は、これ以上精度よく推定する方法はほとんどないと思うんですね。」「先延ばしにしても余り進歩はないのかとは思うんですが。」という発言をしている。さらに、平成21年6~7月頃のことと思われるが。被告東京電力の社員がH氏のところに貞観津波について考慮すべきかと個別に尋ねてきたのは2回あったが、同氏は、最初の時は「今更津波堆積物の調査をしてももう無駄だと、先に対策をした方がいい」ということを被告東京電力の社員に伝えている。つまり、2009(平成21)年7月の時点で、保安 は2回あったが、同氏は、最初の時は「今更津波堆積物の調査をしてももう無駄だと、先に対策をした方がいい」ということを被告東京電力の社員に伝えている。つまり、2009(平成21)年7月の時点で、保安院がさらなる津波堆積物調査の結果を待つことの合理性は乏しかった。 ②の事業者の適切な対応に関しては、保安院は事業者任せにしていればいいというのではなく、電気事業法39条・40条の規定から、原子力施設が技術基準(電気事業法39条1項・省令62号4条1項)に適合しなくなり、事業者が対応をしない場合には、経済産業大臣(保安院)は技術基準適合命令(電気事業法40条)を発令等することで介入すべきことは当然である。 つまり、②の事業者の適切な対応に関しては被告東京電力の作為義務の根拠となるだけでなく、規制庁である保安院の作為義務をも根拠づけるものである。 上記①及び②をまとめると、2009(平成21)年7月の時点で、すでに地震本部(文部科学省)の委託による津波堆積物調査は実施尽くされており、後は検討を進めて対策をするだけという状態であり、被告東京電力も保安院も調査検討を進めてその結果に応じた対策をしなければならない状態にあったということである。 ⑷ さらに、先述のとおり、2009(平成21)年9月7日、被告東京電力40 は、貞観津波に関する「モデル10」等による試算結果(1~4号機東側取水面で津波高さ8.6m~8.7m、かつ、詳細パラメータスタディを行うと2~3割程度水位が大きくなる可能性があるものをI氏に対し示した。I氏は被告東京電力の担当者に対し、「こういった結果が出るということであれば、今後の最終報告に向けた対応としても、具体的な対応を検討したほうがいい」と述べ、「水密」という言葉を用いて、具体的な対策の提案をした。 これに対して、被告東 「こういった結果が出るということであれば、今後の最終報告に向けた対応としても、具体的な対応を検討したほうがいい」と述べ、「水密」という言葉を用いて、具体的な対策の提案をした。 これに対して、被告東京電力は、貞観地震に関する検討をしないで最終報告を行うという方針を明確にしており、「(もし対策工事をしないとすれば、保安院は)炉を止めることができるんですか」などと述べて、対策工事を促されたことに対して強く反発した。I氏は、被告東京電力から反抗的な態度に出られたことから、具体的な対策を講じるよう求めることをせず、保安院の組織としても何らの対応を行わなかった。 被告東京電力は貞観津波の知見(「モデル8」、「モデル10」)を基に福島第一原発敷地東側の津波高さを計算しており、「事業者」として「津波評価」の観点から「調査研究」を行ったものである。しかるに、上記の被告東京電力の保安院に対する態度は、上記合同WGにおける2009(平成21)年7月21日付評価書の「当院は、今後、事業者が津波評価及び地震動評価の観点から、適宜、当該調査研究の成果に応じた適切な対応を取るべき」という方針に明確に違反しており、保安院は当然に規制権限を行使するべき状況であった。 以上のとおりであるから、遅くとも2009(平成21)年9月の時点において、保安院が貞観津波の知見に関し「津波対策に反映させるほどの意見にはいまだ至っていないと理解」したことには何ら合理性はない。 4 一陣高裁判決の判示する「熟度」なる概念について⑴ 一陣高裁判決は、電気事業法40条に基づく規制権限を行使する際の検討の対象となる科学的知見については、その「熟度」等も考慮する必要がある などと判示し、そのうえで、貞観津波の知見については、「本件事故以前において、専門的知見に照らし、更なる堆 る際の検討の対象となる科学的知見については、その「熟度」等も考慮する必要がある41 などと判示し、そのうえで、貞観津波の知見については、「本件事故以前において、専門的知見に照らし、更なる堆積物調査が必要な、いまだ発展途上のものであって、相当程度の不確実性が存していたことは否定できない」などと「評価」して、当該知見が原発の規制に用いられるべき知見であったことを否定している。しかし、ここで問題となるのは「熟度」なる概念の意味内容である。一陣高裁判決は「熟度」なる概念の意味内容を明らかにしていないが、一般に、科学的知見の「熟度」といえば、当該知見の基礎となる科学的原理が確立していることがまず想起される。 ⑵ 本件の貞観津波の知見は、貞観津波の知見に関し、信頼性の高い津波堆積物調査に基づいて断層モデルを作るという手法は、津波堆積物という地質学的な証拠を徹底的に明らかにし、地球物理学的手法を適用して過去の地震像を推定するものであり、この手法は国際的にも承認され、科学的に確立している。 この研究の成果として、北海道太平洋岸の17世紀の津波が、中央防災会議「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に関する専門調査会」において取り上げられ、北海道ワーキンググループでの審議を経て、2006(平成18)年1月、同調査会報告書において、「500年間隔地震」として、防災対策の検討対象とすべき地震に選定された。その後、保安院は、原子力発電所の津波に対する安全性を審査するにあたり、中央防災会議が採用した500年間隔地震の波源モデルを取り入れた津波評価を事業者に行わせている。 したがって、これと同じ手法によって行われた貞観津波の波源モデルの提示は、その科学性において疑いはなく、H氏も証言や意見書等でその点を明確に述べている。 以上から、貞観津波の知見につい ている。 したがって、これと同じ手法によって行われた貞観津波の波源モデルの提示は、その科学性において疑いはなく、H氏も証言や意見書等でその点を明確に述べている。 以上から、貞観津波の知見についてその科学的原理には疑いがなく、一陣高裁判決が判示する「熟度」が基礎となる科学的原理を示すものなら「熟度」が満たされていることは明らかである。 42 ⑶ 一陣高裁判決のいう「熟度」とは、基礎となる科学的原理があることを前提に、当該知見の今後の発展性や変動可能性を述べている可能性もある。 しかし、先述のとおり、貞観津波の知見は石巻・仙台平野等の津波堆積物調査の結果と整合する信頼できる知見である。そして、石巻・仙台平野や福島県a町hの津波堆積物データとは別のさらに南北(北の岩手県、南の福島県、茨城県)の津波堆積物データの収集を行うにしても、それらの調査は貞観津波の断層モデルの全体像を示すためのものであるに過ぎない。2008(平成20)年当時の津波堆積物データに基づく信頼性のある断層モデルは貞観津波の断層モデルの全体像を示すものではない最低限のモデルを示すものではあるが、その時点での断層モデルから計算された津波が福島第一原発敷地東側をほぼ確実に超えるものである以上、「想定される…津波…により規制に取り入れない理由はないのである。また、さらなる南北の津波堆積物調査により将来断層モデルが変動する可能性があるとしても、さらに南北の津波堆積物が発見されれば、断層モデルは南北に大きくなり、計算される津波高さも高くなる可能性が高いものであった。このような理由から、規制に取り入れない理由はますます無いことになる。規制行政において大事なのは科学論争に決着をつけることではなく、その時点で当該知見を規制に取り入れるべきかどうかである。科学論争として貞 な理由から、規制に取り入れない理由はますます無いことになる。規制行政において大事なのは科学論争に決着をつけることではなく、その時点で当該知見を規制に取り入れるべきかどうかである。科学論争として貞観津波の断層モデルの全体像が確定するまで待たないといけない必要性は全くない。 ⑷ なお、一陣高裁判決が有識者の意見として引用しているB氏は、500年間隔地震と貞観津波の知見を比較し、500年間隔地震の方は、地震像の全体を把握できるほど、津波堆積物調査の範囲が広いが、貞観地震の方はその範囲が限定的であり、地震の全体像を示すことができておらず、他の地域の津波堆積物の発見状況次第では断層モデルが修正される可能性があることを指摘しているが、500年間隔地震における断層モデルも、広範な領域の津波堆積物調査に基づいて断層モデルが提示されたとはいっても、その断層モ デルが何ら完全なものではなく、現存する記録と一致していないことが指摘されている。それでも、500年間隔地震の断層モデルは、過去にそのような地震が発生したことが確実であり、一定の断層モデルが提示されていることを踏まえ、一般防災の対象とされ、かつ、原発規制に取り入れられたのである。 京葉銀行柏支店 U様過去に実際に地震が発生し、津波が到来しているのであるから、将来の万が一の事態に備えて、その時点の最新の知見として、これを原発の規制に取り入れるのは当然である。500年間隔地震は原発規制に取り入れ、貞観地震は取り入れないということについて、一陣高裁判決のいう「熟度」なる概念は何の説明もできていない。 第8 防護措置を講じていれば本件事故を回避することができたこと(規制権限不行使の違法と本件事故発生との間の因果関係) 1 経済産業大臣(保安院)は、省令62号4条1項の「想定される…津波 ない。 第8 防護措置を講じていれば本件事故を回避することができたこと(規制権限不行使の違法と本件事故発生との間の因果関係)1 経済産業大臣(保安院)は、省令62号4条1項の「想定される…津波…により原子炉の安全性を損なうおそれがある場合」において、電気事業者に対し「その技術基準に適合するように事業用電気工作物を…改造し…若しくはその使用を一時停止すべきことを命じ」ることになるが、経済産業大臣は「津波による本件発電所の事故を防ぐための適切な措置を講ずる」という抽象的な命令を出しさえすればそれで一度発生した作為義務が尽くされるわけではなく、被告東京電力に行わせる「防護措置」が技術基準適合命令に適合しているかについて審査を行わなければならず、保安院は命令の前後を通じて被告東京電力との協議・検討を行い、命令を受けた被告東京電力の方針内容に対して、改善を促し、指示を行うなど、継続的に関与し続ける必要がある。 具体的には、経済産業大臣が技術基準適合命令を発する場合、経済産業大臣(保安院)が被告東京電力に対し命令書を渡して終了するのではなく、保安院が被告東京電力の担当者を呼び出すなどして面談し、「防護措置」の内容に関す44 る相互のやり取りがなされる必要がある。このようなやり取りを通じて、「長期評価」及び貞観津波の知見が考慮された、合理的な内容でかつ短期間で実施できる「防護措置」が選択、具体化され、実施・完成されるに至るまで保安院として審査を行って当該「防護措置」が技術基準適合命令で命じた内容に適合しており、技術基準が満たされていると判断できる状態に至るまで、規制庁の作為義務は継続すると考えなければならない。 そして、技術基準適合命令の具体的内容については、本件訴訟では、「長期評価」のみならず、貞観地震の知見が問題になっているところ る状態に至るまで、規制庁の作為義務は継続すると考えなければならない。 そして、技術基準適合命令の具体的内容については、本件訴訟では、「長期評価」のみならず、貞観地震の知見が問題になっているところ、波源モデルによって試算される津波は福島第一原発の敷地東側を超えるものであり、先述のとおり二重の意味で最低限のもの(実際に到来する津波はこれ以上のもの)である。とりわけ、既往地震であって同種地震が繰り返し発生しており、その再来間隔からしても時間的に切迫しているとみることができる。 したがって、本件訴訟において、2008(平成20)年8月時点(ないし2009(平成21)年9月時点)の技術基準適合命令の具体的な内容は、「長期評価」のみならず貞観津波を前提にし、貞観津波の知見(波源モデル)が、二重の意味で最低限のモデルであるという点も十分に考慮し、保安院は、時間的に短期間で完成できる「防護措置」の設置を命じるか、それが不可能なら「一時停止」を命じなければならない。 なお、技術基準適合命令に伴って、保安院が一定程度具体的な「防護措置」を想定して指導・監督するということは、原告らの独自の見解というものでは決してない。実際に、本件事故を受けて、保安院は本件事故直後の2011(平成23)年3月30日付で、原子力発電所を運用する各電気事業者に対し緊急安全対策を実施させることとし、経済産業大臣は、同日付で、原子力発電所を運用する各電気事業者に対し、「平成23年福島第一・第二原子力発電所事故を踏まえた他の発電所の緊急安全対策の実施について(指示)」を出し、その具体的要求事項として、「①緊急点検の実施」「②緊急時対応計画の点検及び訓練の45 実施」「③緊急時の電源確保」「④緊急時の最終的な除熱機能の確保」「⑤緊急時の使用済燃料貯蔵槽の冷却確保」「⑥各原子 要求事項として、「①緊急点検の実施」「②緊急時対応計画の点検及び訓練の45 実施」「③緊急時の電源確保」「④緊急時の最終的な除熱機能の確保」「⑤緊急時の使用済燃料貯蔵槽の冷却確保」「⑥各原子力発電所における構造等を踏まえた当面必要となる対応策の実施」といった具体的措置を実施することを定めている。上記の「平成23年福島第一・第二原子力発電所事故を踏まえた他の発電所の緊急安全対策の実施について(指示)」の法的性質は行政指導(行政手続法2条6号)であると考えられるが、行政指導でこれだけの具体的な指示ができるなら、技術基準適合命令に伴って保安院が早期に完成する「防護措置」を想定して指導・監督することも十分可能であったといえる。 保安院と被告東京電力が「防護措置」について協議をした結果として示された対策が、万が一にも深刻な原子力災害を起こさないようにするという点において不十分であると判断される場合には、経済産業大臣が技術基準に適合するとの判断をなすことは決して許されない。 また、経済産業大臣が技術基準適合命令を発出した後、仮にいったんは被告東京電力の実施する「防護措置」により技術基準に適合していると判断したとしても、その後、津波の知見や「防護措置」の知見等の進展、設計指針の変更等により、原子炉の安全性にとって重要な事情変更があった場合には、あらためて省令62号4条1項の定める技術基準に適合するか審査しなければならない。被告国は、原子力基本法・炉規法・電気事業法の趣旨等に照らし、原発施設に対する安全性を確保するための規制監督権限を適時かつ適切に行使する法的義務を負うのであり、被告東京電力が実施しようとする津波対策について技術基準に適合しているかどうか、すなわち、その対策が「原子炉の安全性を損なうおそれ」がないかどうかを審査することになる 使する法的義務を負うのであり、被告東京電力が実施しようとする津波対策について技術基準に適合しているかどうか、すなわち、その対策が「原子炉の安全性を損なうおそれ」がないかどうかを審査することになる。このように、規制庁は具体的事情によっては不断に作為義務を負い続けることになる。 2 想定される「防護措置」は、「長期評価」に基づく想定津波に加え、既往津波である貞観地震の断層モデルから想定される津波に耐えられ、貞観津波の知見(波源モデル)が二重の意味での最低限のものであるという点を考慮し、かつ、 時間的にも短期間で完成できる措置でなければならない。 「長期評価」については2008(平成20)年に津波試算(詳細パラメータスタディ)が実施され、想定津波の高さが判明しているが、貞観津波についても同様に試算(詳細パラメータスタディ)を行って波高を求めるべきであったことはすでに述べたとおりである。しかし、留意しなければならないのは、貞観地震の断層モデル(「モデル10」等)は二重の意味で最低限のモデルであるということである。「宮城県沖地震における重点的調査観測」で産総研の研究グループが提示した断層モデルでは、浸水範囲と津波堆積物の分布の差異は考慮されていなかった。また、それらの断層モデルは、福島県や茨城県等の堆積物調査が進むことにより、断層が南北方向に広がる(長くなる)可能性があることが、明示的に挙げられていた。 貞観津波の知見により想定される津波がこのような性質のものである以上、電気事業法40条・省令62号4条1項の規定する「防護措置」あるいは電気事業法40条の「事業用電気工作物を…改造」「一時停止」の解釈適用についても、貞観津波の知見の持つ性質を十分に考慮する必要がある。 たとえば、保安院と被告東京電力が「防護措置」を想定するにあたり 気事業法40条の「事業用電気工作物を…改造」「一時停止」の解釈適用についても、貞観津波の知見の持つ性質を十分に考慮する必要がある。 たとえば、保安院と被告東京電力が「防護措置」を想定するにあたり、貞観津波の知見は上記の二重の意味での最低限のモデルを示したものでしかないので、最低限のモデルに対応した「防護措置」を設計し完成させたとしても貞観津波の知見から発生する作為義務に対応したことにはならないのである。このことは「モデル10」に詳細パラメータスタディを施して計算した場合でも同様である。 したがって、貞観津波の知見を基に「防護措置」を想定するのなら、まず、B氏が言うように5年ほどの歳月をかけて、さらに南北の津波堆積物調査を行うことで貞観津波の全体像を把握することが考えられるが(波源モデルが二重の意味で最低限のものであるという意味の1点目)、時間がかかり過ぎることに加え、さらに南北の調査を行っても十分な質・量の津波堆積物が発見できな47 かった場合に徒労になる可能性もある。そうすると、津波高さに十分な裕度をとって「防護措置」を想定することが現実的であると考えられる。次に、上記のとおり貞観津波の知見による断層モデルでは、浸水範囲と津波堆積物の分布の差異(津波堆積物の発見地点より実際の浸水範囲は広くなる)は考慮されていなかったことから(波源モデルが二重の意味で最低限のものであるという意味の2点目)、この点についても津波堆積物調査の結果を実際の浸水の範囲と整合させるように再検討するか、あるいは「防護措置」の想定について津波高さに十分な裕度を設けるほかはないと考えられる。 3 令和4年最判は「長期評価」を前提に「経済産業大臣が上記の規制権限を行使していた場合には、本件試算津波〔注:「長期評価」に基づく平成20年試算による想定津波〕 設けるほかはないと考えられる。 3 令和4年最判は「長期評価」を前提に「経済産業大臣が上記の規制権限を行使していた場合には、本件試算津波〔注:「長期評価」に基づく平成20年試算による想定津波〕と同じ規模の津波による本件敷地の浸水を防ぐことができるように設計された防潮堤等を設置するという措置が講じられた蓋然性が高い」(令和3年(受)第1205号・8頁)としている。 しかしながら、令和4年最判が審理対象とした「長期評価」は理学的根拠をもとに津波の想定をしたものであり、既往津波とは異なって津波の繰り返し性があることは必ずしも明らかとはいえないのに対し、本件訴訟の対象である貞観津波の知見は既往津波に関するものであるという点で知見の性質が全く異なる。被告国の機関である地震本部の公式見解は、「地震調査研究推進本部では、『同じ場所で同じような地震がほぼ定期的に繰り返す』という仮定のもとに、大きな被害をもたらす可能性が高い、プレート境界やその付近で起きる地震(海溝型地震)や活断層で起きる地震について地震発生確率値を含む長期評価結果を公表しています。」(とされており、同じような場所で同じような地震が定期的に繰り返されるという考え方を明示的に採用してきている。産総研等による津波堆積物調査の結果としても三陸海岸~仙台平野~常磐海岸の広い地域に及ぶ大規模な津波が、少なくとも500年~1000年間隔で発生している可能性が考えられるとされている。そして、2008(平成20)年当時の知見で は西暦869年の貞観津波以降福島第一原発敷地付近で同種の津波は発生していなかったのであるから、周期からいって次の津波はいつでも発生する状態にあり、しかも将来必ず発生するものであった。 そうしたことから、被告東京電力が完成に長期間を要する防潮堤の建設を始め ていなかったのであるから、周期からいって次の津波はいつでも発生する状態にあり、しかも将来必ず発生するものであった。 そうしたことから、被告東京電力が完成に長期間を要する防潮堤の建設を始めた場合、貞観津波の知見に基づく想定津波に対応して早期に原子炉施設の安全性を回復させるということにはならず、原子炉に生じた危険な状態が放置されたままとなってしまうのである。したがって、経済産業大臣(保安院)と被告東京電力が「防護措置」として防潮堤を選択した場合には、早期に原子力施設の安全性を回復させるために、経済産業大臣(保安院)の作為義務として、被告東京電力に対し他の早期で完成する何らかの「防護措置」の設置を防潮堤とセットで義務付けるか、やむを得ない場合には電気事業法40条に基づく原子炉の「一時停止」を行う義務があることになる。 経済産業大臣(保安院)が被告東京電力に対し防潮堤とセットで義務付ける他の早期で完成する「防護措置」が何であったのかは訴訟では特定できず、特定する必要もないが、非常用電源設備の高所(35m盤)への設置や水密化が挙げられる。 4 非常用電源設備の高所設置については、保安院は、本件事故前(4年前)に、現に高潮被害を受けて非常用電源設備を高所設置した過去のケースを紹介しつつ、一般の事業所の電気設備について津波による浸水が予想される場合には、電源設備の高所設置や防水壁等の対策を呼びかけていたものであって、このように、一般の事業所においても、津波により非常用電源設備が浸水することの危険性が認識され、対策が呼びかけていたことからすると、原子力発電所という、津波の浸水被害が致命的事態を招来する、一般の事業所よりもはるかに対策の必要性の高い場所における非常用電源設備について、「防護措置」として高所設置等の対策をすることを着想できな 原子力発電所という、津波の浸水被害が致命的事態を招来する、一般の事業所よりもはるかに対策の必要性の高い場所における非常用電源設備について、「防護措置」として高所設置等の対策をすることを着想できないはずがない。 「万が一にも深刻な原子力災害を起こしてはならない」という規制権限の根49 拠法令の趣旨等を踏まえて判断した場合、非常用電源設備の高所設置は、現実的に実施されるべき可能性が高い「防護措置」の一つであった。 5 水密化の措置については、中部電力、日本原電等、国内の他の原子力発電所においても対応・検討していた措置であった。 また、被告東京電力内部においても、福島第一原発1号機において、1991(平成3)年10月30日の内部溢水事故の後、入口扉やトレンチハッチ等の水密化、堰の設置等の溢水対策が実施されており、外部溢水を想定した場合にも、同じ「溢水対策」として、建屋への主たる浸水経路と想定される建屋開口部における浸水対策として、建屋への浸水対策としての防潮板、防潮壁、扉の水密化等、壁貫通部の止水処理等の溢水対策が当然に着想される。 さらに、被告東京電力は、「地下式変電所」の水害対策設備として、「出入口、開口部の防水扉等」「防潮扉」「給排気口の防水壁」「ケーブル引出口耐水壁・防水管」などの対策を実施して、平成19年3月の中央防災会議で報告していた。 被告東京電力内では、社長や会長が出席する会議を「御前会議」と呼んでいたが、2008(平成20)年2月16日の御前会議において配付された資料には、「地震随伴事象である「津波」への確実な対応についての「対策検討」として、①非常用海水ポンプの機能維持のため、暫定対応としてポンプモータ予備品保有、本格対応1として防水電動機等の開発・導入、本格対応2として建屋設置によるポンプ浸水防止を 応についての「対策検討」として、①非常用海水ポンプの機能維持のため、暫定対応としてポンプモータ予備品保有、本格対応1として防水電動機等の開発・導入、本格対応2として建屋設置によるポンプ浸水防止を検討している旨の記載があり、②建屋の防水性の向上のため、津波に対する強度補強、貫通部、扉部のシール性向上等を検討している旨の記載等がある。これらの対策は、「長期評価」の見解に基づく津波の概略評価(O.P.+7.7m)の津波によって福島第一原発の4m盤上の施設である非常用海水ポンプが浸水することを想定したものであった。その後、髙尾氏は、今後の対応策として、「長期評価」を否定することは決定的な根拠がない限り不可能だと判断するので、1896年明治三陸地震等の波源モデルで津波推計(パラメータスタディ)を実施する予定である旨、原子炉施設等が浸 水するような解析結果となれば、設備対策として施設の水密化等、ソフト面においては発電所運転員が操作する諸手順書を作成する予定である旨を述べた。 以上のように、被告東京電力の内部においては、津波対策としての水密化の措置が検討され、提案されており、当然に着想可能な措置であった。 他方、保安院の認識としても、2003(平成15)年3月20日の原子力安全委員会・耐震指針検討分科会の地震・地震動ワーキンググループ第7回会議において、敷地を越流する津波に対しては水密化対策が原則だと説明し、その実例につき示しているのであって、耐震設計審査指針に従い、津波(地震随伴事象)に対し電力事業者が講じた対策につき原子力安全委員会とダブルチェックする役割を担う保安院が、原子力安全委員会と異なる特異な認識(防潮堤のみが越流津波への対策であるという様な認識)に立つことはあり得ない。 保安院及びJNESの担当者は、2006(平成18 ルチェックする役割を担う保安院が、原子力安全委員会と異なる特異な認識(防潮堤のみが越流津波への対策であるという様な認識)に立つことはあり得ない。 保安院及びJNESの担当者は、2006(平成18)年6月9日、福島第一原発5号機の現地視察をしたが、これを受けて、保安院のV班長は、5号機の非常用海水ポンプの電動機据付レベルについて、津波評価技術の手法による津波水位との差が10cmにも満たないというのは余裕が無さ過ぎるので早急な対策を打たせる必要があると判断し、被告東京電力の上記担当者に対し、海水ポンプを守るための対応をしなければいけないなどと指摘しており、このような発言からしても、水密化の措置を当然に想定していたことが明らかである。 以上の事実関係から明らかなとおり、「万が一にも深刻な原子力災害を起こしてはならない」という規制権限の根拠法令の趣旨等を踏まえて判断した場合、水密化は、現実的に実施されるべき可能性が高い「防護措置」の一つであった。 6 先述のとおり、「防護措置」として防潮堤が選択された場合、繰り返し性のある貞観津波の知見を前提に、万が一にも深刻な原子力災害を起こしてはならないという規制権限の根拠法令の趣旨等に従うと、経済産業大臣(保安院)は、被告東京電力に対し、早期の「防護措置」の設置を命じるか、福島第一原発の原子炉の「一時停止」を命じざるを得ない。 51 その場合、被告東京電力が現実的な結果回避措置として選択するのは、原子炉の「一時停止」ではなく、経済的損失が少ない(原子炉の停止期間がない、又は停止期間が短い)非常用電源設備の高所化又は水密化であろうと考えられる。このことは、先述のとおり、被告東京電力内の2008(平成20)年2月16日の「御前会議」において、「長期評価」を前提にした「防護措置」として水密化 電源設備の高所化又は水密化であろうと考えられる。このことは、先述のとおり、被告東京電力内の2008(平成20)年2月16日の「御前会議」において、「長期評価」を前提にした「防護措置」として水密化を検討していることからも裏付けられている。 そのうえで、こうした敷地への浸水を前提とした措置(非常用電源設備の高所化や水密化)が「防護措置」として実施されるかどうかは、被告東京電力が保安院に対し、当該措置により技術基準が満たされること(「想定される…津波…により原子炉の安全性を損なうおそれ」が払拭されること)を十分な根拠をもって説得できるかどうかにかかっているが、被告東京電力は、福島第一原発の敷地上の建屋・設備等の配置状況等を詳細に把握しており、その前提のもとで保安院に対して具体的な提案を行うのであるから、そのような説得をすることは難しくはないと考えられる。したがって、保安院が被告東京電力に対して「防護措置」を講じることを命じた場合に、現実的な「防護措置」として非常用電源設備の高所設置や水密化が選択される可能性は高かったといえる。 7 令和4年最判の事案とは異なり、本件訴訟において、原告らは、平成20年8月以降の規制権限不行使の違法を主張しており、繰り返し性のある既往津波である貞観津波について科学的な知見が提示された以降、対策の必要性は切迫している。先述のとおり、国の機関である地震本部(文部科学省)は、「同じ場所で同じような地震がほぼ定期的に繰り返す」という考えを明示的に採用している。こうした状況下では、抽象的な津波対策の命令を出しさえすればそれで保安院は「想定される…津波…により原子炉の安全性を損なうおそれ」(電気事業法40条・省令62号4条1項)が払拭されることをしたとは到底いうことはできない。たとえば、保安院が被告東京電力に対し技術 保安院は「想定される…津波…により原子炉の安全性を損なうおそれ」(電気事業法40条・省令62号4条1項)が払拭されることをしたとは到底いうことはできない。たとえば、保安院が被告東京電力に対し技術基準適合命令を下して被告東京電力が完成まで長期間を要する防潮堤等の建設計画を立てて実施し52 始めた場合、「原子炉の安全性を損なうおそれ」は防潮堤が完成するまで残ることになる。くわえて、その場合に被告東京電力の建設する防潮堤等が敷地南東側の対策に重点を置いたものであった場合、貞観津波の知見によって生じた「原子炉の安全性を損なうおそれ」は何ら払拭されないことになる。 そして、先述のとおり、技術基準適合命令を発令するに当たり、被告東京電力によって選択、具体化された「防護措置」の命令適合性の審査が要求されることからすると、「防護措置」が完成し、完成後の審査が行われることで初めて規制庁の作為義務は尽くされたことになる。あるいは、当該「防護措置」が完成するのに長期間を要するなら、別途、短期で完成する何らかの「防護措置」の設置を併せて命じるか、やむを得ない場合には原子炉の「一時停止」がされなければならない。本件訴訟の規制権限不行使と本件事故回避との間の因果関係の判断において、因果関係の「起点」はこうした状態であり、このような状態に至るまで規制庁の作為義務は残ることになる。 8 本件で考えるべき不作為不法行為の因果関係の「起点」は、保安院が作為義務を尽くして選択・特定した「防護措置」が実際に完成して完成後の事故検査も完了した状態、あるいは原子炉の「一時停止」がなされた状態である。そして、因果関係の「終点」は、本件事故の事故経過の一部が変化し、現実に生じた多数の避難者の数が激減したなど本件事故とは異なる結果となった状況のことである。 経済産業大 止」がなされた状態である。そして、因果関係の「終点」は、本件事故の事故経過の一部が変化し、現実に生じた多数の避難者の数が激減したなど本件事故とは異なる結果となった状況のことである。 経済産業大臣(保安院)は、繰り返し性のある既往津波である貞観津波の知見により福島第一原発に発生している危険を早期に回復させる作為義務を負うので、完成に長期間がかかる防潮堤の設置工事を行うと同時に、または、それに先立ち、他の早期に完成する「防護措置」(非常用電源設備の高所設置、水密化)が実施される可能性が高いと考えられる(それが実施できない場合には、原子炉の一時停止を余儀なくされることはすでに述べたとおりである。) 9 これらの「防護措置」により本件結果は回避される。 貞観津波の知見及び「長期評価」の想定による予見可能性により津波対策の必要性は切迫しており、被告国としても直ちに申請に対する審査を行うべきだったのであり、当該審査手続に年単位の長期間を要するとは到底認められない。 したがって、2008(平成20)年8月や2009(平成21)年9月の時点で経済産業大臣が規制権限行使をしていた場合、非常用電源設備の高所設置は本件津波以前に実施されていた。 非常用電源設備の高所設置により結果回避し得たことについては、一陣訴訟の横浜地裁平成31年2月20日判決は、3号機の直流電源設備が地下の中1階にあって被水せずにしばらく稼働したこと、1号機の復旧作業、3号機の電源復旧作業、2号機の代替注水作業が相当程度進行していたところ、それぞれが水素爆発により妨げられたこと等の本件事故経過における具体的な事実を詳細に拾い上げて事実認定をしている。これは、1号機の水素爆発により1号機自体の復旧作業、3号機及び2号機の復旧作業が妨げられたという実際に存在した事実(歴 と等の本件事故経過における具体的な事実を詳細に拾い上げて事実認定をしている。これは、1号機の水素爆発により1号機自体の復旧作業、3号機及び2号機の復旧作業が妨げられたという実際に存在した事実(歴史的事実)をいわば固い事実としたうえで、その他の事実を踏まえて推認をしたものであり、固い事実を基に推認をするという伝統的な事実認定の手法を踏まえたものであって説得力がある。 水密化の措置によっても結果回避可能である。 2008(平成20)年8月(遅くとも2009(平成21)年9月時点において「防護措置」を講じるにあたっては、「長期評価」によって想定される福島県沖の津波地震によって引き起こされる津波と、「宮城県沖地震における重点的調査観測」の成果として示された貞観地震の断層モデル(プレート間地震)に基づいて想定される津波の双方を想定する必要がある。貞観津波の波源モデルに基づいて詳細パラメータスタディを行えば、津波は、敷地の南東側からのみならず、敷地の東側からも遡上することが想定されるのであり、福島第一原発の東側全体から津波が遡上することを想定して、15.7mに余裕(マージン)と安全率を加えた津波高さを考慮した対策を講じる必要がある。保安院や54 被告東京電力は、2006(平成18)年の溢水勉強会による福島第一原発の現地視察等を通じて、福島第一原発において、津波による浸水の可能性がある屋外設備として、非常用海水ポンプ、タービン建屋大物搬入口、サービス建屋入口(入退域ゲート)、非常用DG吸気ルーバ等があることを認識し、その津波への脆弱性について認識を共有していたこと(被告東京電力は、溢水勉強会がなくとも、設備・機器の配置状況等から当然に認識していたものと考えられる。)等からすれば、保安院が被告東京電力に対し、規制権限を行使していれば、上記 を共有していたこと(被告東京電力は、溢水勉強会がなくとも、設備・機器の配置状況等から当然に認識していたものと考えられる。)等からすれば、保安院が被告東京電力に対し、規制権限を行使していれば、上記のような浸水が想定される箇所に焦点を当てて水密化の措置が講じられることになったことは明らかであった。 「長期評価」に基づいて想定される津波の試算だけからみても、浸水深は、敷地南側で10m盤から5.707m、4号機原子炉建屋付近で2.604m、同タービン建屋付近で2.026mとなっている。さらに共用プール建屋(運用補助共用施設)付近では約5mとなっている。 これに、貞観津波の波源モデルに基づく試算(詳細パラメータスタディを実施したもの)も加えて検討を行うので、最終的にどの程度の高さの津波に備えなければならないかは定かではないが、どれほど低く見積もっても、10m盤から6m程度の浸水深に耐えられるだけの「防護措置」が講じられなければならなかったことは間違いない。より具体的には、これを阻止できる高さの防潮堤の設置に先立ち、又は、それと共に、6mの浸水深に耐えられるように、大物搬入口、入退域ゲート、給気ルーバ、機器ハッチ等の水密化が講じられ、タービン建屋の内部において非常用電源設備が配置されているエリアの水密化が講じられなければならなかったといえる。 1号機から4号機の現実の浸水経路や浸水状況を見ると、津波対策を講じていない状況のもとでも、①建屋の外壁は本件津波に耐えたこと、したがって、開口部が持ちこたえられる構造になっていれば、本件津波に耐えられたと考えられること、②建屋内部の間仕切り壁がかなりの防護機能を果たしたこと、③ 建屋の外部と内部の浸水深の違いを見ると、主要な浸水経路となった「大物搬入口」と「入退域ゲート」は、津波対策が 考えられること、②建屋内部の間仕切り壁がかなりの防護機能を果たしたこと、③55 建屋の外部と内部の浸水深の違いを見ると、主要な浸水経路となった「大物搬入口」と「入退域ゲート」は、津波対策が全く講じられていなかったにも関わらず、一定の防護機能を果たしていたこと、したがって、津波対策が講じられたものであれば、かなりの防護機能が期待できたと考えられること、④「給気ルーバ」と「機器ハッチ」が地下1階への主たる浸水経路となっており、これらに「防護措置」が講じられていなかったことは致命的だったということがいえる。 なお、被告東京電力による本件津波の写真分析の結果、10m盤における本件津波の継続時間は約3分間とされている。つまり、10m盤の設備に水圧がかかっていた時間は約3分間に過ぎず、「防護措置」もその時間だけ耐えることができるものであれば十分であった。経済産業大臣(保安院)及び被告東京電力が作為義務を尽くして選択・特定した場合の「防護措置」が、わずか3分間の水圧に耐えられないものであったとは到底考えられない。 以上より、建屋の水密化等の「防護措置」が講じられていれば、本件津波から福島第一原発を守り、全電源喪失を回避できたと考えられる。 よって、「長期評価」に基づいて想定される津波、及び、「宮城県沖地震における重点的調査観測」で示された波源モデルによって想定される津波のそれぞれの試算(詳細パラメータスタディ実施後)を踏まえ、浸水が想定される経路に対して適切に水密化の措置が講じられていれば本件事故は十分回避に回避することができたものといえる。 11 本件においては、防潮堤等の設置工事を行うにしても、それが完成するまでの年単位の期間、何らの「防護措置」を講じないまま原子炉の運転を継続するということはあり得ない。その期間、津波 といえる。 11 本件においては、防潮堤等の設置工事を行うにしても、それが完成するまでの年単位の期間、何らの「防護措置」を講じないまま原子炉の運転を継続するということはあり得ない。その期間、津波の到来による浸水の危険性が払拭されていない状態であるから、保安院がこれを放置したままの防潮堤等の設置工事を許容することはあり得ず、被告東京電力の現実的な対応として、非常用電源設備の高所設置や水密化、という早期に完成できる「防護措置」を行う可能 性が高いと考えられる。もし、保安院による技術基準適合命令にもかかわらず、被告東京電力がそれら「防護措置」を講ずることをせず、または、その内容が不十分であるなど、原子炉の危険性を払拭できないやむを得ない状況である場合は、保安院は被告東京電力に対して「一時停止」を求めざるを得ないことになる。もし、原子炉の一時停止を行った場合については、原子炉は運転停止から5日程度経過すれば、運転停止直後に比べ崩壊熱が格段に小さくなり、事故の発生は確実に防ぐことができる。実際に、原子炉の定期検査時には、原子炉の運転停止から約5日後に原子炉を開放して使用済み燃料を取り出して使用済み燃料プールに移動させるが、その際の圧力容器内の炉水の温度は30度から40度程度になっている。 したがって、もし、2008(平成20)年8月以降、保安院と被告東京電力が「防護措置」として防潮堤を選択し、併せて「一時停止」の設置を行っていた場合、防潮堤が完成していない状態であっても原子炉が溶融する可能性はなく、本件事故と同種の事故は発生せず、現実に生じた大量の長期避難者の数はゼロであったか極少数にとどまっていたと考えられる。 12 なお、令和4年最判菅野裁判官補足意見では、「本件で国家賠償責任が認められない原因は、端的に言えば、本件地震が余 じた大量の長期避難者の数はゼロであったか極少数にとどまっていたと考えられる。 12 なお、令和4年最判菅野裁判官補足意見では、「本件で国家賠償責任が認められない原因は、端的に言えば、本件地震が余りに大きな地震であり、本件津波が余りに大きな津波であったため、本件長期評価を前提に行動したとしても、本件事故を回避することができたと判断するには無理が大きすぎるからである。」などと判示されている。当該判示は「長期評価」を前提にしたものであるが、本件訴訟の貞観津波の知見を前提に予見可能性・作為義務を検討した場合、想定外などという論旨は説得力を失う。 まず、国の公式見解として、貞観津波と本件津波が当該地域における津波のうちの同じカテゴリーに分類されていることである。2011(平成23)年11月25日付けの長期評価(第二版)では、「2-1-1 複数の領域を震源域とした過去の地震」として「(1)東北地方太平洋沖地震型の地震」という区57 分が設けられ、そのカテゴリーの一つとして、869年貞観地震が挙げられている。つまり、本件地震から半年後の時点における地震本部の見解では、869年貞観地震は本件東北地方太平洋沖地震と同じ分類とされているのである。 また、2019(平成31)年2月26日付けの「日本海溝沿いの地震活動の長期評価」では、「宮城県から福島県にかけての太平洋沿岸では、東北地方太平洋沖地震を除くと過去3000年間で4回の巨大津波による津波堆積物が見つかっている。このうちの1回は869年の貞観地震によるものとして確認され、1回は1611年の慶長三陸地震(Mw8.4~8.7)または1454年の享徳地震(Mw8.4以上)によるものと考えられる。他の2回(4~5世紀、紀元前4~3世紀)についてはその津波堆積物の分布から同様の地震である可能性がある 震(Mw8.4~8.7)または1454年の享徳地震(Mw8.4以上)によるものと考えられる。他の2回(4~5世紀、紀元前4~3世紀)についてはその津波堆積物の分布から同様の地震である可能性がある。以上のことから、東北地方太平洋沖地震に加えて、上記4回の地震も超巨大地震(東北地方太平洋沖型)に該当すると判断した。」等と記載され、869年貞観地震が東北地方太平洋沖地震と同性質のものとされている。当該長期評価では、さらに、本件東北地方太平洋沖地震もプレート間地震であり、貞観津波・地震のケースと同性質の地震であるとされていること、「2011年東北地方太平洋沖地震では、869年貞観地震の推定津波浸水域とほぼ重なる範囲が津波により浸水した」ことや、「869年貞観地震の断層モデルは、2011年東北地方太平洋沖地震の破壊領域にほぼ含まれており、少なくとも重なる範囲では同じ領域が破壊したと考えられる」ことなど、貞観地震と東北地方太平洋沖地震との共通性も強調されている。つまり、今回の東北地方太平洋沖地震は、869年の貞観津波が何百年かの周期により繰り返されたものと同種の津波なのである。2008(平成20)年当時において貞観地震の繰返し性は指摘されており、当時の知見により東北地方太平洋沖地震は想定されていたといってよい。 貞観津波の知見(波源モデル)が、二重の意味で、最低限のモデルであるということも重要である。貞観津波の知見に基づく断層モデル(「モデル10」等)58 は石巻仙台平野や福島県a町hの津波堆積物調査の結果と整合する合理的なものであるが、貞観津波の全体像を示したものではなく、追加して南北の岩手や茨城等の津波堆積物調査を行った場合には、断層モデルは大きくなる可能性があった。また、貞観津波の波源モデルはいずれも実際の津波の浸水域と津波堆積 波の全体像を示したものではなく、追加して南北の岩手や茨城等の津波堆積物調査を行った場合には、断層モデルは大きくなる可能性があった。また、貞観津波の波源モデルはいずれも実際の津波の浸水域と津波堆積物の分布域の差を考慮しておらず(津波において砂は途中で落ちることから実際の浸水域は砂の分布より広くなる)、二重の意味で最低限のモデルであった。このように、貞観津波の波源モデルが、二重の意味で最低限のモデルであることについて、規制庁が「万が一にも深刻な原子力災害を起こしてはならない」という規制権限の根拠法令の趣旨に従って作為義務のもとに考察していれば、概略パラメータスタディの結果としての数値(福島第一原発敷地東側において、取水口前面で8.6m~8.7m)という数字の持つ危険性を放置しておくべきではなく、「モデル10」等に詳細パラメータスタディを行ったうえでさらに十分な裕度を上乗せして、それで実際の貞観津波と同種の津波を防げたのか検討して対応するということをすべきであった。 貞観津波の知見による想定津波は福島第一原発敷地東側でO.P.+8.6m~8.7mであり、これに詳細パラメータスタディを施せば10mを優に超えるものであった。規制庁の作為義務を前提に、貞観津波の波源モデルが、二重の意味で最低限のモデルであることを前提に津波対策を行うためには、この数字に十分な裕度を持たせる必要がある。また、敷地南東側については、「長期評価」に基づきO.P.+15.7mという計算がなされていた。実際の本件津波の高さが、敷地東側では14~15m、敷地南東側では15.5mであったことからすれば、保安院が作為義務を尽くした場合の想定津波は本件津波と大差がないことになる。 このことは後知恵ではなく、津波堆積物より内陸に海水が浸水することについては本件地震以前から一般的 ったことからすれば、保安院が作為義務を尽くした場合の想定津波は本件津波と大差がないことになる。 このことは後知恵ではなく、津波堆積物より内陸に海水が浸水することについては本件地震以前から一般的に知られており、貞観津波の知見(波源モデル)が二重の意味の最低限のモデルであることについては既述のとおりである。 59 そうすると、万が一にも深刻な原子力災害を起こさないという規制権限の根拠法令の趣旨等を踏まえて検討していれば、本件地震以前から貞観地震(「モデル10」)のモーメントマグニチュードは実際には8.4を上回るものであったことは、当然考えなければならないことであり、そのことを前提に対策も考える必要があった。したがって、東日本大震災のモーメントマグニチュード9. 0について想定外などとはいえないのである。 以上1 損害論 第1章 本件原発事故の特徴第1 本件原発事故による被害の特徴~放射能汚染は継続し、事故は収束していないこと~1 本件原発事故の最大の特徴は、福島第一原発における水素爆発等により、放射線の線源となる放射性物質が、環境中に極めて大量かつ広範囲にわたって放出された点にある。これにより、大気、土壌、地下水、河川、海洋など、自然環境がことごとく放射性物質で汚染され、環境中に残存する放射性物質からは、現在もなお放射線が放出され続けている。 また、福島第一原発の原子炉建屋内には、依然として大量の核燃料が保管されたままであるし、これらを冷却するために注入される大量の冷却水は高濃度汚染水となって漏れ続けている本件原発事故から13年以上が経過したいまもなお、福島第一原発には「燃料デブリ」などの放射性物質が大量に残存しており、原子力緊急事態宣言も解除される見通しも立たないまま、原子力災害の拡大の防止を図る 件原発事故から13年以上が経過したいまもなお、福島第一原発には「燃料デブリ」などの放射性物質が大量に残存しており、原子力緊急事態宣言も解除される見通しも立たないまま、原子力災害の拡大の防止を図るための応急の対策が実施され続けているのであって、本件原発事故は未だに収束したということはできない。 そして、廃炉に向けては、「燃料デブリ」の取り出しなど、極めて困難な課題が山積しており、廃炉に向けた工程におけるトラブル発生等により、今後も環境中に放射性物質が放出されるリスクは残存し続けている。 第2 本件原発事故による被害の特徴~その広範性、深刻性、継続性・長期性など~について本件原発事故による被害は、極めて広範囲に及んでいるばかりでな2 く、人体に不可逆的な影響をもたらしうる放射線被ばくによる健康被害のリスクをその中核としており、現在もなおその被害は継続している。W教授も指摘されるとおり、本件原発事故による被害は、「広範性、継続性・長期性、深刻性・全面性、地域社会と生活の根底からの破壊」がその特徴であり、わが国において前例のない被害というべきである。 第3 原告らの受けた被害原告らが本件原発事故によって受けた被害としては、多種多様なものがあるが、敢えて整理するならば、①放射線被ばくによる健康不安、②避難所生活における苦難、③神奈川県等までの過酷な避難、④過酷な避難による身体的・精神的な影響、⑤避難先の住宅環境におけるストレス、⑥避難生活の長期化等による精神的苦痛、⑦家族・親族関係の悪化、⑧生活基盤・ふるさとの喪失、⑨人生設計の大幅な影響・自己実現の機会の制約などが挙げられる(これに限られるものではない)。 また、政府による避難指示等の対象とされなかった区域から避難した区域外避難者においても、放射線被ばくによる健康被害の 幅な影響・自己実現の機会の制約などが挙げられる(これに限られるものではない)。 また、政府による避難指示等の対象とされなかった区域から避難した区域外避難者においても、放射線被ばくによる健康被害のリスクを避けるために避難を余儀なくされて長期にわたる避難生活を強いられたのであり、避難指示等の対象区域から避難した者と変わるところはない。 第4 原告らの被侵害利益 1 原告ら避難者は、本件事故により従前の生活全てを失った。 放射能汚染により、物理的な生活基盤である土地や家屋、家財、墓などの財産的な権利(憲法29条)が侵害されたことは言うまでもなく、自宅に居住し続けることを許されず、または生命・身体に対する危険を回避するために居住し続けることができない状態に追い込まれ、生活する場所を選択し決定する自由(憲法22条1項)を奪われた。 生活の糧であると共に自己実現の手段である職業を奪われ(憲法22 条1項)、子ども達は希望する学校で学習する機会を奪われた(憲法26条1項)。 2 しかし、これらの権利が個々に侵害されたのではない。 本件事故による被害の特徴は、広範囲に及ぶ大量の地域住民が長期間の避難を余儀なくされ、地域社会と人びとの生活が根底から破壊されたところにある。すなわち、原告ら避難者が侵害された利益は、福島の地において生活をすることから得られる利益であり、社会生活全般にわたって有機的に結びついていた価値全てなのである。 人が生きていくためには、他者と支え合い、助け合うことが必要不可欠である。 そして、家庭、学校、職場、地域社会等それぞれのコミュニティにおいて、役割を与えられ、仲間達と信じ合い、どんなときも話し合えるような関わりにおいて人格を形成し、幸福を追求していくのである(憲法13条)。 どのような地域・ 地域社会等それぞれのコミュニティにおいて、役割を与えられ、仲間達と信じ合い、どんなときも話し合えるような関わりにおいて人格を形成し、幸福を追求していくのである(憲法13条)。 どのような地域・場所を生活の本拠にし、どのような家で子育てをし、あるいはどのような学校で学び、どのような職業を選択して生業を営むのかということが有機的に結びついてこそ、どのようなライフスタイルで自己の人格を発展させ自己実現していくかを決定できる。 原告ら避難者は、財産権のみならず、このような「個人の生命、身体、精神及び生活に関する利益」を侵害されたものであって、これらの利益は、「各人の人格に本質的なものであって、その総体が人格権であるということができ」る。 「人格権は憲法上の権利であり(13条、25条)、また人の生命を基礎とするものであるがゆえに、我が国の法制下においてはこれを超える価値を他に見出すことはできない」。人の生存を基礎とする「人格権」は、「公法、私法を問わず、すべての法分野において、最高の価値4 を持つ」ものである。(福井地方裁判所平成26年5月21日判決(関西電力大飯原子力発電所の運転差し止め訴訟)3 本件では、このように「最高の価値を持つ」人格権が広範にわたり侵害されたものであることを十分に認識した上で損害が評価されるべきである。 第2章 低線量被ばくの健康影響第1 はじめに 1 本件被害の特質本件原発事故が、広範で甚大かつ深刻な被害を及ぼした原因は、福島第1原発からセシウム、ストロンチウム、放射性ヨウ素、プルトニウムなどの放射性核種が環境中に大量に放出され続け、福島県を中心とした広範な地域が放射線に汚染されたことにより、本件原発事故の被害の本質は、放射線被ばくによる被害であり、またそれを避けるために長期間の避 どの放射性核種が環境中に大量に放出され続け、福島県を中心とした広範な地域が放射線に汚染されたことにより、本件原発事故の被害の本質は、放射線被ばくによる被害であり、またそれを避けるために長期間の避難を強いられたことによる損害なのであり、放射線の健康影響を中核として理解されなければならない。 2 放射線の健康影響を論じる意味本件原発事故による第1義的な法益侵害は、放射線被ばくによる生命・身体の危殆化なのであり、これは放射線被ばくによる漠然とした恐怖感といったものとは全く異なる。 本訴において放射線の健康影響を論じる主たる意味は、第1に、避難指示が出されていない区域から自らの判断で避難を選択したものについて、その避難が本件原発事故と相当因果関係を有しているのか(避難の相当性)を検証するためである。そして第2は、その後も避難を継続することの相当性の判断のためである。避難継続の相当性には、避難指示に基づいて避難した者が避難指示解除後も避難を継続していることの相当性も含まれている。 5 放射線の健康影響についてはほとんどが未解明である。したがって、この検証については、いわゆる低線量被ばくの健康影響が科学的に実証されたか否かということではなく、様々な知見をありのままに観察した上で、法的相当性が認められるかどうかということが問われていることに十分留意する必要がある。 第2 避難指示の基準は単なる政策判断に過ぎないこと政府の避難指示は年間20ミリシーベルトの放射線量を基準に設定されているが、この基準は単なる政策判断に過ぎず、放射線の健康影響を画するものではない。強制的な避難指示の対象区域を出来るだけ限定し、避難による影響を最小限に食い止めたいという動機の下に設定されたにすぎず、避難指示等の対象区域外であったからといって放射 康影響を画するものではない。強制的な避難指示の対象区域を出来るだけ限定し、避難による影響を最小限に食い止めたいという動機の下に設定されたにすぎず、避難指示等の対象区域外であったからといって放射線の健康影響が何ら否定されるものではない。 第3 放射線の健康影響の未解明さと司法判断の方法1 放射線に被ばくするとがん、白血病など命にかかわる重篤な傷害を人体に及ぼすことは広く知られているが、そのメカニズムについてはほとんど未解明であり、放射線の健康影響については、主として広島・長崎の原爆被爆者の疫学研究に依拠して解明が進められてきた。 政府のワーキンググループ報告書(乙共4、P3)においても、「広島・長崎の原爆の人体に対する影響の調査は、その規模からも、調査の精緻さからも世界の放射線疫学研究の基本」とされている。 避難や避難を継続することの相当性については、疫学研究等の最新の科学的知見を踏まえ、かつ安全側に立った判断が求められる。 この法的判断にあたり、最終的には経験則等を踏まえた裁判所の判断となるが、その前提として科学的知見を踏まえる必要がある。 このことを明確に示したのが、2009年5月28日の原爆症に関する東京高裁判決(甲D共22の1)であり、「一定水準にある学問成6 果として是認されたものについては、そのあるがままの学的状態において法律判断の前提としての科学的知見を把握する」「民事訴訟においては、科学的な因果関係の有無を確定しようとするのが目的ではなく、法律要件としての因果関係という要証事実の立証があるかどうかを確定することが目的である。科学的知見が不動のものであれば、これに反することは違法であるが、科学的知見の通説に対して異説がある場合は、通説的知見がどの程度の確かさであるのかを見極め、両説ある場合においては両 とが目的である。科学的知見が不動のものであれば、これに反することは違法であるが、科学的知見の通説に対して異説がある場合は、通説的知見がどの程度の確かさであるのかを見極め、両説ある場合においては両説あるものとして訴訟手続上の前提とせざるを得ない。科学的知見によって決着が付けられない場合であっても、裁判所は、『経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性』の証明の有無を判定すべきであり、その場合の判定の基準は、『通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とする』というのが、確立した判例の法理である。」と述べられている。 2 原告らの基本的立場は、広島、長崎の原爆被爆者の疫学研究を中心とする放射線の健康影響に関する科学的知見の到達点に立てば、全固形がん等の確率的影響にはしきい値はなく、避難指示等の対象となった区域外の原告であってもなお命にかかわる重大な健康影響は否定できないということであり、したがって、社会通念上、避難等の相当性は十分に肯定できるというものである。 これに対し、被告らの基本的立場は、先のワーキンググループ報告書(乙D共27)で述べられている「放射線による発がんリスクの増加は、100ミリシーベルト以下の低線量被ばくでは、他の要因による発がんのリスクに隠れてしまうほど小さく、放射線による発がんリスクの明らかな増加を証明することは難しい」ということであり、100ミリシーベルト以下の放射線の健康影響を実質的に認めないとい7 うものである。 3 このように被告らの基本的立場は、発がんリスクのようないわゆる確率的影響について100ミリシーベルトがしきい値となっている、すなわち100ミリシーベルト以下での影響はないことが証明されて 。 3 このように被告らの基本的立場は、発がんリスクのようないわゆる確率的影響について100ミリシーベルトがしきい値となっている、すなわち100ミリシーベルト以下での影響はないことが証明されているというものでなく、「100ミリシーベルト以下の低線量被ばくでは、他の要因による発がんのリスクに隠れてしまうほど小さく、放射線による発がんリスクの明らかな増加を証明することは難しい」ということであることに留意する必要がある。 つまり、被告ら自身も低線量被ばくのリスクを全否定しているわけではないということである(例えば被告国第9準備書面P7では、「被告国はLNTモデル自体が誤りであると主張しているのではな」いと述べている)。 こうした見解の主たる根拠もまた広島・長崎の原爆被爆者についての疫学研究において、100ミリシーベルト以下の健康影響について有意差が確認できていないということにあるのである。 4 広島・長崎の原爆被爆者の疫学研究(最新の報告書であるLSS14報)における知見の到達点をどのように理解すべきかを明らかにすることによって、決着のつけられる論争点である。 第4 広島・長崎の原爆被爆者の最新の疫学研究(LSS14報)によって何が明らかにされたのか1 広島・長崎の原爆被爆者の疫学研究に内在する限界広島・長崎の原爆被爆者の疫学研究には下記の内在する限界があり、この限界に鑑みれば、広島、長崎の原爆被爆者の疫学研究は、とりわけ低線量域における放射線の健康影響について、最低限の指標を示すものであり、それ以上の影響が大いにあり得ることを前提に評価されなければならない。 8 (1)第1は、広島・長崎の原爆被爆者に対する調査開始の時期が被爆後5年を経過した1950年以降のものであったことである。そのことにより、最も被ばく を前提に評価されなければならない。 8 (1)第1は、広島・長崎の原爆被爆者に対する調査開始の時期が被爆後5年を経過した1950年以降のものであったことである。そのことにより、最も被ばくの影響を大きく受けたと思われる人々は、五年以内に死亡してしまっており、5年以上生き残った被爆者のみに対して実施された調査であるということである。したがって、広島・長崎の原爆被爆者の疫学研究は、比較的放射線の影響を受けにくかった人々から得られたデータであるという可能性を否定できない。 (2)第2は、被ばく影響について、原爆投下時の初期放射線のみしか考慮されておらず、残留放射線の影響はほとんど考慮されていないことである。 広島、長崎の原爆被爆者の疫学研究はコホート研究と呼ばれるもので、被ばく線量に応じた集団(コホート)を設定し、その集団の中での統計結果を対比させることによって、特定の疾病等についての放射線の影響を判定する手法がとられている。 しかし、実際はゼロ線量群を設定することができず、5ミリシーベルト以下の被爆者群を実質的な「ゼロ線量群」(非被爆者群)としているため、低線量域になればなるほどその差異が見えにくくなる。さらに残留放射線の影響が考慮されていないということになれば、「ゼロ線量群」(非被爆者群)の中に残留放射線の被ばく影響を受けたものが相当数混入していることになる。 『黒い雨』訴訟の広島地裁判決が認定したように、「『黒い雨』降雨域は宇田雨域にとどまるものではなく、より広範囲に『黒い雨』が降った事実を確実に認めることができる」のであるから、当初の「ゼロ線量群」(非被爆者群)の中に残留放射線の影響を受けた被ばく者が混入している割合はさらに拡大する。残留放射線の影響は、低線量被ばくに外ならないのであるから、低線量域における疫学上の ら、当初の「ゼロ線量群」(非被爆者群)の中に残留放射線の影響を受けた被ばく者が混入している割合はさらに拡大する。残留放射線の影響は、低線量被ばくに外ならないのであるから、低線量域における疫学上の差異を見出すこ9 とはますます困難となるという限界がある。 (3)第3に、この調査は内部被ばくについて全く考慮されていないことである。したがって、「ゼロ線量群」(非被爆者群)の中に、内部被ばくの影響を受けている者が混在している可能性を否定できず、正確な対比を困難とさせている。 2 LSS14報は、全固形がんについてしきい値は示されなかったと明言していること被告らの依拠する政府のワーキンググループ報告書(乙D共27)より後の、2012年3月に広島・長崎の原爆被爆者の最新の疫学研究であるLSS14報(甲D共24の1~3)が公表されている。 このLSS14報では、「全固形がんについて… 定型的な線量閾値解析ではしきい値は示されず、ゼロ線量が最良の閾値推定値であった」(甲D共24の1、P1)、「線量閾値の最大尤度推定値は0.00Gy(すなわち閾値はない)」(甲D共24の3、P11の本文の最後)と明確に述べられている。 つまり、LSS14報はLNTモデルをはっきりと支持し、全固形がんに関する線量に関するしきい値はないとするのが合理的であると結論づけている。 但し、LSS14報がこのように結論づけているのは、全固形がんについてのリスクの疫学的有意差が100ミリシーベルト以下においても確認できたからということではない。 この点についてLSS14報が「総固形がん死亡の過剰相対リスクは被曝放射線量に対して直線の線量反応関係を示し、その最も適合するモデル直線の閾値はゼロであるが、リスクが有意となる線量域は0. 20Gy以上であっ いてLSS14報が「総固形がん死亡の過剰相対リスクは被曝放射線量に対して直線の線量反応関係を示し、その最も適合するモデル直線の閾値はゼロであるが、リスクが有意となる線量域は0. 20Gy以上であった」(D甲共24の2、1枚目)と注意深く述べていることにも着目すべきであり、LSS14報では、全固形がんにつ10 いて疫学上リスクの確認できた範囲は0.2Gy(200ミリシーベルト)以上であったとしつつも、全固形がんについての「線量閾値の最大尤度推定値は0.00Gy(すなわち閾値はない)」(甲D共24の3)と結論づけているのである。 このように疫学的に確認できたリスクの有意差の範囲を超えて、全固形がんについてしきい値をゼロとしたのは、疫学データの分析の結果であり、かつ長年の疫学研究の蓄積の結果といえる。 例えば2003年に公表されたLSS13報(甲D共42)では、「固形がんの過剰相対リスクは0-150ミリシーベルトの線量範囲においえても線形であるようだ。」(アンダーラインは引用者)とされていたものが、LSS14報では前記確信的記載へと深化しているのは、その後のデータ集積に基づく科学的考察の結果といえるのである。 LSS14報では、「様々な低線量範囲について計算された線形関数のERR(過剰相対リスク-引用者)/Gy推定値が、0.1Gy(100ミリシーベルト-引用者)未満の範囲について、それより高い範囲と比較して高い値を示したこと(図5)、すなわち、傾きが高線量よりも低線量で浅くなかったことは特に注目に値する」(甲D共24の3)という重要な指摘がなされている。 これは100ミリシーベルト未満で、疫学的なリスクの有意差の確認ができなかったとしても、リスクの存在を示唆する有力なデータが確認されたということであり、そのことが「特に注目 な指摘がなされている。 これは100ミリシーベルト未満で、疫学的なリスクの有意差の確認ができなかったとしても、リスクの存在を示唆する有力なデータが確認されたということであり、そのことが「特に注目に値する」と述べられていることは、まさにそのことを示している。 リスクの疫学的有意差の確認は、いわばどこまで誤差を容認できるのかという問題であり、有意差の確認に至らないデータは無視できるということとは全く異なる。 したがって、疫学的有意差が「現時点」で確認できていなかったとし ても、慎重なデータの評価や研究の蓄積によって全固形がんのしきい値がゼロであるとしたLSS14報は、まさに科学的知見の到達点を示したものといえる。 なお、被告らが引用する専門家会議におけるs氏の発言(乙D共33)も、リスクの有意差の確認ができた範囲は200ミリシーベルト(正確には150ミリシーベルト)までだということの説明であって、「全固形がんについて… 定型的な線量閾値解析ではしきい値は示されず、ゼロ線量が最良の閾値推定値であった」(甲D共24の3、P1)、「線量閾値の最大尤度推定値は0.00Gy(すなわち閾値はない)」(甲D共24の3、P11の本文の最後)との結論について述べているものではないことに十分留意する必要がある。 LSS14報の本文に明確に記述されていることそのものを否定することができないのは当然である。また被告国の引用するt氏の発言(丙D共7、P16)も、要するにLSS14報における全固形がんについてゼロ線量が最良のしきい値推定値であるとの指摘は、未だ疫学的な確認には至っていないということを述べているに過ぎない。しかし、繰り返し述べている通り、LSS14報が結論づけているのは、現時点でリスクの疫学的有意差の確認ができていないとしても、慎 、未だ疫学的な確認には至っていないということを述べているに過ぎない。しかし、繰り返し述べている通り、LSS14報が結論づけているのは、現時点でリスクの疫学的有意差の確認ができていないとしても、慎重なデータ解析の結果として全固形がんのしきい値はない(低線量被ばくのがんリスクは肯定される)とするのが最も合理的であるということである。原告らもその限度で引用しているのであって、被告らの反論はまったく噛み合っていないのである。 3 全固形がん等の確率的影響についてしきい値はないと考えることが科学的合理性を有していることは決着済みである疫学的にリスクの確認ができていないから、そのリスクを無視しうるという被告らの主張は、LSS14報の理解として極めて不十分で あり、LSS14報の結論は、全固形がん等の確率的影響についてしきい値はないと考えるのが、(疫学的には未確認であっても)データ解析の結果「合理的」であるということである。 広島・長崎の原爆被爆者の疫学研究の成果として、低線量被ばくの健康影響を否定できないということはすでに決着済みである。 第5 ICRPもLNTモデルを採用しているなど、LNTモデルの優位性は明らかとなっていること 1 ICRPがLNTモデルを採用している理由ICRP(国際放射線防護委員会)は放射線防護の体系としてLNTモデルを採用し、この観点から、公衆の許容被ばく線量年間1ミリシーベルトという勧告(2007年勧告)を行っている。 ICRPがLNTモデルを採用したのは、単に放射線防護の観点から安全側に立った判断をしたに過ぎず、その科学性に基づくものではないと被告らは主張するが、ICRPの委員であるX氏が「ICRPがLNT仮説を取り入れているのには全く根拠がないわけではなくて、LNTをサポートするような をしたに過ぎず、その科学性に基づくものではないと被告らは主張するが、ICRPの委員であるX氏が「ICRPがLNT仮説を取り入れているのには全く根拠がないわけではなくて、LNTをサポートするような研究成果というのは、実はいろいろとあると。そういう論文を集め、また議論をした刊行物が99例あります。 それをもって、ICRPがLNTモデルを放射線防護の体系に採用するということは、科学的にももっともらしいことである」(丙D共3、P4。アンダーラインは引用者)と述べる通り、ICRPが科学的根拠に基づいてLNTモデルを採用したことを明らかにしており、被告らの主張は成りたない。 2 被告らの批判は全く的外れである被告らは、X氏の前記発言はLNTモデルが科学的に実証されていると述べるものではないと盛んに主張するが、原告らもX氏がそのように述べたと主張するものではない。 13 原告らが主張しているのは、ICRPがLNTモデルを採用しているのが科学的根拠とは無関係の政策判断なのでなく、「科学的にもっともらしい」「それなりの正当性がある」と、ICRP委員であるX氏自らが説明しているということである。「科学的にもっともらしい」というのは、科学的な合理性があるということに外ならないのであり、ICRPがそれに基づいて放射線防護の体系の基本にLNTモデルを採用していることは、極めて重要である。 3 LNTモデルの優位性は動かないこと被告東電は、放射線影響協会なる組織によるJ-EPISODEなる原発施設等の放射線業務従事者に対する最新の疫学調査の結果では、低線量域の放射線が、がんの罹患や死亡率に影響があるとの解析結果は得られていないと主張している。 しかし、このJ-EPISODEによって、LSS14報を代表とする広島、長崎の原爆被爆 では、低線量域の放射線が、がんの罹患や死亡率に影響があるとの解析結果は得られていないと主張している。 しかし、このJ-EPISODEによって、LSS14報を代表とする広島、長崎の原爆被爆者に対する疫学研究の到達点が覆されたという評価は全くない。原爆被爆者に対する疫学研究は、調査対象の規模も、調査期間の長さにおいても圧倒的に上回っており、研究結果としての優位性は動きようがない。しかも、低線量被ばくの健康影響についての疫学的確認ができていないという点においては両者に差異はなく、先述したようにLSS14報はそうであっても固形がんにしきい値はないとするのが合理的と判断していることについて、J-EPISODEが異なる結論を導いているものでもない。 広島・長崎の原爆被爆者の疫学研究であるLSS14報において全固形がんのしきい値がゼロとされていること、世界的権威のある科学雑誌ランセットに掲載され、その後修正も取り下げもされていないピアースらの「小児へのCTスキャン被ばくと白血病、脳腫瘍のリスク」(甲D共27-原爆被爆者の研究を上回る約17万人を超える対象者14 について疫学研究)においても被ばく線量と白血病、脳腫瘍の発症率との関係に正の相関関係が認められていること、ICRPも放射線防護の基本に一定の科学的根拠のもとにLNTモデルを採用していること等々の知見の存在に鑑みれば、それに反する知見の存在を考慮したとしても、もはや低線量被ばくの健康影響は否定できないと考えるのが、科学的合理性をもった定説といえる。 第6 区域外原告の避難の相当性・かながわ一陣訴訟東京高裁判決かながわ一陣訴訟の東京高裁判決(甲D共112)は、原爆被爆者の疫学研究であるLSS14報が「定型的な線量閾値ではしきい値は示されず、ゼロ線量が最良の閾値推定 相当性・かながわ一陣訴訟東京高裁判決かながわ一陣訴訟の東京高裁判決(甲D共112)は、原爆被爆者の疫学研究であるLSS14報が「定型的な線量閾値ではしきい値は示されず、ゼロ線量が最良の閾値推定値であった」という記述を引用し、「年間積算線量20mSVを下回っていても、放射線による健康不安を憂慮する合理性が全く否定されるものではないし、本件事故直後にはその影響の程度等が明らかでなく、原発による放射線被害という本件事故の特質に照らし、(区域外原告らが)放射線による健康不安を懸念して避難生活に入ることは通常人の行動として不合理とはいえない。」「(区域外原告らが)健康不安を考慮して避難することには客観的な合理性が認められ、(事故との)相当因果関係を肯定することができると考えられる。」(判決書P206)と認定しており、原告らの主張を認めている。 第3章 原告らの事故時居住地等における放射性物質による汚染の実態と累積の放射線量のリスク(参照 原告準備書面9、同20、同21参照)第1 はじめに~原告らの事故時居住地等における放射性物質による汚染の実態と累積の放射線量のリスクを論じる意味~原告らが避難せず、現地に留まるという選択をすることは、長期間に渡って継続して放射線に被ばくし続けるということを意味する。 したがって、原告らの避難の相当性、避難継続の相当性を判断する15 には、その時々の放射線量でなく、そこで生活した場合の累積の放射線量を考慮しなければならない(このことは、原陪審での議論においても指摘されている)。 第2 原告ら元居住地における放射線量について1 原告らの主張原告らは、仮に原告らが本件事故後に避難せず、元居住地に留まって生活をするという選択をした場合、長期間に渡って継続して放射線に被ばくし続けることとなる における放射線量について1 原告らの主張原告らは、仮に原告らが本件事故後に避難せず、元居住地に留まって生活をするという選択をした場合、長期間に渡って継続して放射線に被ばくし続けることとなるため、航空機モニタリング、土壌汚染、原告らの事故時居住地等の調査結果の評価等によって、累積の放射線量の程度や、原告らへの具体的な影響等について明らかにしてきた(原告準備書面9)。 これに対する被告らの批判については、原告ら準備書面20及び21において反論している。 2 原告ら元居住地における将来積算線量の分析結果原告らは、被ばくによる健康影響のリスクをより詳細に明らかにするため、本件原発事故当時における原告らの居住地において、①事故発生直後における空間線量はどの程度のものであったか、②将来にわたる積算線量はどの程度と見込まれるか、につき、専門機関に調査を依頼し、公表されている航空機モニタリング調査の実測値(不足部分についてはモニタリングポストの計測値)からの分析・推計を行い、事故後50年等の積算線量を推計した。 その結果、本件原告らの元居住地では、多くが、事故後50年の積算線量が100ミリシーベルトを超える地点であった(甲D共31号証の1、甲共31号証の2)。 これは、地上1メートルにおける空間線量をもとに50年間の累積線量を算定したものであるが、その積算線量の「100ミリシーベル16 ト」は、200人に1人の割合でがんによる過剰死亡が起こる」ということを意味する数値であり、健康影響のリスクを考慮するうえでは決して軽視することのできない放射線量というべきである。 3 原告ら元居住地付近の線量調査結果(土壌及び空間線量)原告らは、原告らが本件原発事故当時に居住していた環境において、放射性物質による環境汚染が現時点で ない放射線量というべきである。 3 原告ら元居住地付近の線量調査結果(土壌及び空間線量)原告らは、原告らが本件原発事故当時に居住していた環境において、放射性物質による環境汚染が現時点でどの程度残存しているかを検証するため、専門機関に依頼し、原告らが元居住していた自宅敷地及びその近隣土地(「原告らの自宅敷地等」)における空間線量と土壌中の放射線量の測定を依頼した。 このうち空間線量については、各自治体によりモニタリングポストによる計測値が公表されているものの、その測定結果には様々な限界があることから、各原告の被ばくによる健康影響リスクを正確に評価するためには、原告らの自宅敷地等における測定が必要と考えられた。 また、土壌中の放射線量調査については、放射線被ばくによる健康影響を評価するうえでは「外部被ばく」だけでなく「内部被ばく」についても考慮する必要があるところ、内部被ばくには、①空中に浮遊する放射性微粒子を呼吸器から肺内に吸引し血液に入る、②皮膚に付着した放射性物質が表面の傷口などから吸収されて血液に入る、③汚染された食物や水を飲食により胃腸から吸収され血液に入る、といったルートが考えられることから(甲D共30の1:聞間医師意見書)、各原告の被ばくによる健康影響リスクを正確に評価するためには、原告らの自宅敷地等の土壌についても放射線量の測定が必要と考えられた。 測定の結果、本件原発事故から6年が経過して一定程度除染作業が進んだとされる第1陣訴訟における調査時点においても、第1陣訴訟原告ら自宅周辺の空間線量は未だ高く、さらに、自宅敷地等の土壌中からは、放射線管理区域の法定基準値(1㎡あたり4万ベクレル)を超17 える、極めて高い放射線量が計測される箇所がほとんどであった(甲D共32号証の1)。 また、本件原発 自宅敷地等の土壌中からは、放射線管理区域の法定基準値(1㎡あたり4万ベクレル)を超17 える、極めて高い放射線量が計測される箇所がほとんどであった(甲D共32号証の1)。 また、本件原発事故から11年が経過して、さらに除染作業が進んだとされる第2陣訴訟における調査時点(2022年12月)においても、ほとんどの第2陣訴訟の原告らの自宅周辺の空間線量は未だ高く、さらに、自宅敷地等の土壌中からは、放射線管理区域の法定基準値(1㎡あたり4万ベクレル)を超える、極めて高い放射線量が計測される箇所がほとんどであった(甲D共33号証)。 第3 原告ら元居住地における将来積算線量の分析結果及び原告ら元居住地付近の線量調査結果(土壌及び空間線量)から見た放射線被ばくによる健康影響のリスク1 地上1m高の空間線量を前提とした調査結果の評価公表されている航空機モニタリング調査の実測値から、原告らが行った試算・調査によれば、第1陣訴訟、第2陣訴訟ともに、原告ら元居住地のほとんどで事故後50年の積算線量が50ミリシーベルトを超えるものと試算され、100ミリシーベルトを超える結果も多く得られた。 また、原告ら自宅付近の現地調査からは、自宅敷地等の空間線量は事故後相当な年数を経過しても未だ相当高く、特に土壌中の汚染状況を見ると、放射線管理区域の法定基準を超える箇所がほとんどであることが判明した。 このように、公表されている航空機モニタリング調査の実測値(不足部分についてはモニタリングポストの計測値)等による、地上1メートルにおける空間線量をもとに50年間の累積線量からしても、原告ら元居住地における放射線量は相当高く、放射線被ばくによる健康影響のリスクが相当高いものといわざるを得ない。 18 2 土壌の汚染状況や地表面の空間線量を基 50年間の累積線量からしても、原告ら元居住地における放射線量は相当高く、放射線被ばくによる健康影響のリスクが相当高いものといわざるを得ない。 18 2 土壌の汚染状況や地表面の空間線量を基準に考えるべきこと地上1メートルの空間線量を基準としても、放射線被ばくによる健康影響のリスクが相当高いことが明らかであるが、放射線の健康影響を把握するには地上1メートルの空間線量を基準とすることでは不十分であり、特に子どもの場合には、日常生活や遊んでいるなかで地面を手で直接触れる状況が多いと考えられるから、その影響を考慮するには地表面に降下・沈着した放射性物質による影響を考慮することが必要である。 したがって、放射線の健康影響(外部被ばく、内部被ばく)を判断するためには、土壌の汚染状況や地表面の空間線量を基準に考えなければならない。 原告ら元居住地付近の線量調査結果(土壌及び空間線量)における1メートル高の線量と地表面の線量における差異を考慮した上で、地上1メートルの空間線量を基準とした50年間積算線量を補正して求めると、その数値は、最大で約7000ミリシーベルトにまで及び、大多数の原告らの累積線量は100ミリシーベルトを大きく超え、被告らも健康影響を否定できないレベルの放射線量がほとんどの原告において確認できた。 さらにホットスポット(雨水が流れ、落葉や土埃・泥がたまっている等の局所的汚染箇所をいう。)の存在等を考慮すると、予想される累積線量はさらに増加し、そもそも100ミリシーベルト以下の被ばくしか生じていないという想定は意味をなさないことが分かる。 ほとんどの原告らの元居住地の地表面の累積線量は、被告らの主張によったとしても健康影響を否定できないものとなるはずである。 第4 100ミリシーベルトの被ばくの具体的リスク~将来 いことが分かる。 ほとんどの原告らの元居住地の地表面の累積線量は、被告らの主張によったとしても健康影響を否定できないものとなるはずである。 第4 100ミリシーベルトの被ばくの具体的リスク~将来のガンによる19 過剰死亡~1 将来のガンによる過剰死亡広島、長崎の原爆被爆者の疫学調査からは、100ミリシーベルトの被ばくによって、ガンによる過剰死亡は1%とされ、上記3の結果から、原告らが従前の居住地に留まり続ければ、最も線量が少ない地域であっても、本件事故による放射線被ばくを直接の原因として確率として100人に1人がガンによって死亡するということを意味する。 このことは極めて深刻であり、放射線の健康影響がガンに留まるものでないことを考えれば、さらにその深刻さは増す。 確率論でいえば100人に1人といっても、その1人にとっては、避難せずに被ばくを続けた結果命を落とすということであり、かつ、避難によって避けることができたリスクであったということである。 このリスクを避け、命を守るために避難を選択すること、長期間の被ばくに晒さないために避難を続けること、が社会通念に照らして合理的判断であることは明らかである。それが仮に200人に1人の割合(DDREFを2とした場合)であったとしても、結論に影響を及ぼすものではない。 2 調査によって明らかになったことほとんどの原告らの元居住地における将来の累積線量が100ミリシーベルトを上回っているという事実は重大な重みがあるが、原告らはそれ故に避難の合理性があると主張しているのではない。 原告らは、100ミリシーベルトを下回る放射線量であっても健康影響を否定することはできないというのが科学的知見の帰結であることを一貫して主張し、すべての原告に避難の合理性・相当性が認められなければな 告らは、100ミリシーベルトを下回る放射線量であっても健康影響を否定することはできないというのが科学的知見の帰結であることを一貫して主張し、すべての原告に避難の合理性・相当性が認められなければならないと主張しており、100ミリシーベルトを若干下回っているから影響がないということではない。 20 第4章 政府による避難指示の区域指定の不合理性第1 はじめに政府による避難指示の区域指定やその解除は、いずれも科学的根拠を有するものでなく政策的・政治的判断によるものであって、住民の安全性が十分に考慮されたものではないため、本件の賠償額の算定にあたっては、避難指示の区域指定やその解除といった線引きを基準に賠償額を機械的に決定して、区域ごとに大きな差を設けることは不合理であり、各原告の個別事情を考慮して原告らの被った損害が完全に賠償されなれければならない。 第2 政府による避難指示の区域指定等と解除1 「避難指示」の対象区域の設定と拡大(1)設定と拡大の経緯2011(平成23)年3月11日、本件原発事故が発生し、政府は、同日午後9時23分に福島第一原発から半径3㎞圏内の住民に対して「避難指示」を発し、同3~10㎞圏内には「屋内退避指示」を発した(甲D共5の1)。 翌3月12日午前5時44分には、政府は、「避難指示」の対象区域を福島第一原発から半径10㎞圏内へと拡大させ、さらに1号機の水素爆発を受けて、同日午後6時25分には、「避難指示」の対象区域をさらに20㎞圏内に拡げた(甲D共5の1)。 さらに、同年3月15日午前11時01分には、政府は、福島第一原発から半径20㎞~30㎞圏内の住民に対して「屋内退避指示」を発し、その後同年3月25日には、同区域(半径20㎞~30㎞圏内)に「自主避難要請」 年3月15日午前11時01分には、政府は、福島第一原発から半径20㎞~30㎞圏内の住民に対して「屋内退避指示」を発し、その後同年3月25日には、同区域(半径20㎞~30㎞圏内)に「自主避難要請」を行った(甲D共5の1)。 (2)政府の判断は十分な科学的合理性を有するものではなかったことしかし、避難指示区域の設定と拡大にかかる政府の上記判断は、特 段の科学的根拠に基づくものではなく、避難による社会的影響等を考慮した政治的な判断であった。 すなわち、3月12日午前に「避難指示」の対象区域が10㎞圏内まで拡大されたのは、爆発の危険が高まった状況下において、半径20㎞や30㎞では避難の準備が整わなかったこと、渋滞等による混乱も考えられたこと、原子力安全委員会のY委員長が半径10㎞で十分と発言したことなどを根拠としたものであった。 それから約半日後に「避難指示」の対象区域を半径20㎞圏内に拡げたのも、1号機で水素爆発が起きたことに加え、Y委員長が再臨界の可能性がゼロではないことに言及したことがその理由とされている(甲D共154の1・16~17頁、甲D共154の2・5頁)。 3月15日に政府は半径20~30㎞圏内の住民に「屋内退避」を指示し、さらに3月25日には同区域の住民に対して「自主避難要請」を行うこととなったが、その決定についても、仮に「避難指示」を半径30㎞圏内にまで出した場合には、対象となる人口や移動人数が大幅に増えるため、移動による混乱や移動中の被ばくのおそれが高まることが考慮された結果として、避難指示の範囲は半径20㎞にとどめられた(甲D共154の1・45~46頁、甲D共154の2・5頁)。 なお、原子力安全委員会が「SPEEDI」(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム) 指示の範囲は半径20㎞にとどめられた(甲D共154の1・45~46頁、甲D共154の2・5頁)。 なお、原子力安全委員会が「SPEEDI」(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)の試算結果を初めて提出したのは、3月22日になってからのことである。少なくともそれまでの間は、政府は放射線量に関する具体的数値を把握することなく、前述のような「避難指示」の対象区域を決定していたことになる。 2 「避難指示」の対象区域の再編(1)再編の経緯22 その後、政府は、2011(平成23)年4月21日、避難指示区域について、福島第一原発から半径20㎞圏内を罰則により立入りを禁止する「警戒区域」に設定した上で、翌4月22日には、半径20㎞から30㎞圏内の「屋内退避指示」を解除し、特定地域を「計画的避難区域」(福島第一原発から20㎞以遠の内、事故発生から1年の期間内に積算線量が20ミリシーベルトに達するおそれのある区域)及び「緊急時避難準備区域」(計画的避難区域以外の、20~30㎞の区域)として指定した(甲D共5の1)。 さらに、同年9月30日には、政府は、「緊急時避難準備区域」を解除し、翌2012(平成24)年4月1日には、上記「警戒区域」及び「計画的避難区域」について、①「帰還困難区域」(5年以上戻れない、年間放射線量50ミリシーベルト超)、②「居住制限区域」(数年での帰還をめざす、年間放射線量20ミリシーベルト超50ミリシーベルト以下)、③「避難指示解除準備区域」(早期の帰還をめざす、年間放射線量20ミリシーベルト以下)の3区域に再編した。 「警戒区域」及び「計画的避難区域」の再編は、自治体毎に順次進められていった(甲D共5の2)。 (2)政府の判断は十分な科学的合理性を有するものではなかったこと ルト以下)の3区域に再編した。 「警戒区域」及び「計画的避難区域」の再編は、自治体毎に順次進められていった(甲D共5の2)。 (2)政府の判断は十分な科学的合理性を有するものではなかったことア 「計画的避難区域」及び「居住制限区域」、「避難指示解除準備区域」の設定にあたり、政府は年間積算線量20ミリシーベルトを基準とした。 しかし、仮に「安全性の観点から最も厳しい値」をとるということであれば、国際放射線防護委員会(ICRP)が公衆の被ばく量の許容範囲としている「年間積算線量1ミリシーベルト」や、放射線管理区域(放射線による障害を防止するために設けられる区域)に指定される外部放射線量である「年間積算線量5.2ミリシーベルト」とい った基準が採用されて然るべきであった。 それにもかかわらず、政府は、これらの基準を採用せず、本来はあくまで「緊急時」の被ばく状況として「参考」とされるに過ぎない「年間積算線量20ミリシーベルト」を基準として採用してしまった。 イ報道によれば、当初は、政府も住民の安全性をより重視し「年5ミリシーベルト以下」の基準の採用を検討したものの、この基準では、福島市や郡山市などの一部が含まれてしまうことから、避難者が増えることや賠償額が増加することを懸念して、年5ミリシーベルト以下という基準の採用を結局見送ったというのであるから(甲D共7の1、2・「帰還基準厳格化見送り」「人口流出・賠償増も考慮」との見出し)、政府は、住民の生命や健康等の安全面よりも、社会的・経済的影響を重視し、これらを優先させる政策判断をしたというほかなく、政府の判断には科学的合理性はない。 ウ 2011(平成23)年4月29日、小学校の校庭利用に関して、政府が年間積算線量20ミリシーベルトを基準として採用したことに 政策判断をしたというほかなく、政府の判断には科学的合理性はない。 ウ 2011(平成23)年4月29日、小学校の校庭利用に関して、政府が年間積算線量20ミリシーベルトを基準として採用したことについて、放射線安全学を専門とし、当時内閣官房参与を務めていたZ氏(東京大学名誉教授)は、政府の方針を強く批判し、抗議の辞任をしている(甲D共9の1、2)。 その後Z氏は(2011年9月26日)、「この話はほとんど決まった状態のものが回ってきた。20ミリシーベルトであれば対策が必要な学校は十数校で済むが、(より低い基準で)きちんと対応すると、約3千校と多くなる。政治判断が随分入った。」と述べており(甲D共44)、政府による年間20ミリシーベルトの基準採用は、やはり科学的見地から安全性を考慮したものではなく、社会的影響を重視した政策的判断であったことが明らかにされている。 24 3 「避難指示」の解除その後、政府は、本件原発事故から約3年が経過した、2014(平成26)年4月1日以降現在に至るまで、順次、避難指示を解除してきた(甲D共5の2)。 2011(平成23)年12月26日付け原子力災害対策本部の「ステップ2の完了を受けた警戒区域及び避難指示区域の見直しに関する基本的考え方及び今後の検討課題について」において、以下の3つが避難指示解除の要件とされている(甲D共155・「避難指示解除の要件について」)。 ①空間線量率で推定された年間積算線量が20ミリシーベルト以下になることが確実であること②電気、ガス、上下水道、主要交通網、通信など日常生活に必須なインフラや医療・介護・郵便などの生活関連サービスが概ね復旧すること、子どもの生活環境を中心とする除染作業が十分に進捗すること③県、市町村、住民と 水道、主要交通網、通信など日常生活に必須なインフラや医療・介護・郵便などの生活関連サービスが概ね復旧すること、子どもの生活環境を中心とする除染作業が十分に進捗すること③県、市町村、住民との十分な協議しかし、①の要件については、そもそも年間積算線量20ミリシーベルトという基準を採ること自体が不合理である。 さらに、政府は、前記避難指示の解除に先立ち、2013(平成25)年12月20日に「避難指示の解除と帰還に向けた取組を拡充する」こと等を内容とした、原子力災害対策本部の「原子力災害から福島復興の加速に向けて」を閣議決定し(甲D共156)、いわゆる「帰還政策」に立つことを明確にした。 その政策的判断のもとで、上記3要件で定められた、生活関連サービスの復旧や除染が未だ不十分であるにも拘わらず、多くの住民の反対を押し切って避難指示を解除してきた。 25 その結果として、避難指示が解除された地域であっても、後述のとおり、元住民の多くは帰還しておらず、将来も帰還する意向を持てないという現状が生じている。 さらに、政府は、国の責務である除染をせず、国自らが定めた避難指示解除の要件を充足せずとも、避難指示を解除する方針を採り、避難指示解除の判断において、住民の生命や健康等の安全面は一顧だにされず、科学的合理性が全く欠落するに至っている。 4 国連による批判政府による避難指示区域の指定等(それに基づく区別を含む)は、国連人権理事会「国内避難民の人権に関する特別報告」においても批判されている。 2023(令和5)年7月4日、ジュネーブで開かれた国連人権理事会の会合において、日本政府が補償や支援政策で設けている「自主避難者」と「強制避難者」の区別を「差別的な対応」であるとして撤廃すること 2023(令和5)年7月4日、ジュネーブで開かれた国連人権理事会の会合において、日本政府が補償や支援政策で設けている「自主避難者」と「強制避難者」の区別を「差別的な対応」であるとして撤廃することを求める調査報告書が提出され、日本政府に対し、「強制的な避難か自主避難かにかかわらず、原発事故によって国内で避難を余儀なくされたすべての人々に、人権に基づく保護や人道支援を断固として採用するように求める」、「強制避難と自主避難の政策や法律上の差別的な区別を完全に撤廃すべきだ」と提言している(甲D共47)。 以上のように、政府による避難指示区域の指定等及びそれに基づく区別が国連人権理事会「国内避難民の人権に関する特別報告」において厳しく批判されていることは極めて重要である。 第3 避難指示区域等を基準に賠償額を機械的に定めることの不合理性現状の中間指針やかながわ一陣訴訟の基準では、避難指示区域の違いにより賠償額に大幅な差がつけられているため、道を一本挟んで数百万円賠償額が異なる、といったことが多数発生しており、これは明26 らかに不合理である。かながわ一陣訴訟の各判決により、その格差が是正された部分もあるが、未だ不十分である。 避難指示が出ていない場所や解除された場所でも、近隣の生活圏に避難指示地域がある場合には、生活は大きく制約され、安全性も担保されているとは言い難いため、避難せざるを得ず、または避難指示が解除されても避難を継続せざるを得ないことが多い。自宅からごく近くに放射線量が高く、立入禁止の区域がある環境で生活することは、物理的にも心理的にも大きな困難を伴うものである。 かながわ一陣訴訟の横浜地裁判決が示すように、避難指示等の区域割りは、必ずしも、当該地域コミュニティの広がりや関係性を正確に反映したもの 、物理的にも心理的にも大きな困難を伴うものである。 かながわ一陣訴訟の横浜地裁判決が示すように、避難指示等の区域割りは、必ずしも、当該地域コミュニティの広がりや関係性を正確に反映したものではないから、避難指示等が出された地域に近接する地点に住居を構えていた場合であって、その生活圏が、避難指示等が出された地域のコミュニティに含まれている場合もある(同判決157頁参照)。 避難指示等の区域割りは、このように、元々、一つのコミュニティ・生活圏であった地域を分断する形で設定される場合もあり得、このような場合に、避難指示等の区域割りを基準に機械的に賠償額を決定して、両区域の賠償額に大きな差を設けることは明らかに不合理である。 第5章 福島第一原発周辺地域の現状と避難・避難継続の相当性等第1 はじめに本件原発事故により原告らが被った精神的損害の算定にあたっては、原告らの避難行動及び避難継続の相当性、並びに原告らの生活基盤の喪失・変容の程度を検討する必要があり、そのためには、原告らの元居住地である福島第一原発周辺地域の現状を正確に把握することが不可欠である。 27 第2 福島第一原発の現状1 原子力緊急事態宣言が未だに継続されていること日本国政府は、本件原発事故が発生した2011(平成23)年3月11日、原子力災害対策特別措置法第15条第2項に基づき、「原子力緊急事態宣言」を発したが、事故発生から14年近くが経過した現時点に至ってもなお、同宣言は解除されずに継続されたままである。 原子力災害対策特別措置法は、「原子力災害の拡大の防止を図るための応急の対策を実地する必要がなくなったと認めるとき」には原子力緊急宣言を解除する旨を定めていることから(同法第15条4項)、現在も同宣言が解除されていない事実は、事故 力災害の拡大の防止を図るための応急の対策を実地する必要がなくなったと認めるとき」には原子力緊急宣言を解除する旨を定めていることから(同法第15条4項)、現在も同宣言が解除されていない事実は、事故発生から14年近くが経過してもなお福島第一原発においては「原子力災害の拡大の防止を図るための応急の対策を実施する必要」がある状態が続いていることを意味している。 この点について、所管庁である環境省の政務官は、「帰還困難地域がまだまだ広範囲に残り、多くの皆さんが避難している状況、原発においてはまだ燃料デブリが多数残っており、解除宣言まではほど遠い」という認識を示しており(甲D共60)、近い将来に宣言が解除される見通しはない。 このように、本件事故が発生した福島第一原発では、事故発生から14近くが経つ現在においても、原発内に大量の燃料デブリ等が残されたままであるとともに、帰還困難地域が広範に残って元住民の多くが避難している状況が続いており、未だに「原子力災害の拡大の防止を図るための応急の対策を実施する必要」がある危険な状況が続いている。 2 福島第一原発の現状(1)原発1号機~4号機の状況28 ア 1号機・2号機に残る使用済み核燃料本件原発事故の発生から13年を迎えた2024(令和6)年3月の時点において、3号機(566体)と4号機(1535体)の使用済み核燃料については地上設備への搬出が完了したものの、未だに、1号機に392体、2号機に615体、合計1007体という大量の使用済み核燃料が残されたままとなっている(甲D共159)。 これら大量の使用済み核燃料は、容易に人が近づけない地上約30メートルの場所にある大きなリスクとなっており、これらを安定した地上施設に移す準備が進められてはいるものの、両号機とも、高い放射線量 これら大量の使用済み核燃料は、容易に人が近づけない地上約30メートルの場所にある大きなリスクとなっており、これらを安定した地上施設に移す準備が進められてはいるものの、両号機とも、高い放射線量と遠隔操縦による作業が大きな課題となっており、今後も計画通りに作業が進むかは不透明である(甲D共160)。 イ 1号機~3号機に残された大量の「燃料デブリ」また、1号機から3号機には、本件原発事故により溶け落ちた核燃料が周囲の構造物と混ざり冷えて固まった「燃料デブリ」が大量に堆積しており、各号機の原子炉や外側の格納容器の下部に堆積している「燃料デブリ」は、合わせて880トンにも上ると推定されている。 また、発電所に残されている燃料等には当然のことながら再臨界を起こす可能性がある(事故を起こした原子炉では、臨界を制御する機構が失われているため、発電所に残されている燃料等が再臨界を起こさないようにコントロールすることがきわめて重要な取組とされる。)。 この「燃料デブリ」の取り出しは、福島第一原発の廃炉作業における最大の難関とされているが、非常に強い放射線によって人間が近づくことはできず、調査の段階から作業は難航を極めている。 ロボットによる調査を10年以上にわたり重ねてきた結果、ようやく1号機から3号機までの状況が少しずつ明らかになってきたという段階にあり、各号機の格納容器の底付近では、「燃料デブリ」の可能性29 がある堆積物が見つかっているものの、格納容器の内部については、未だに全容が掴めないという状況にある(以上につき、甲D共64)。 ウ 1号機における原子炉構造体の損壊さらに、2023(令和5)年3月に行われたロボットによる調査により、1号機の格納容器底部において、原子炉を支える鉄筋コンクリート製の「ペデスタル」という構造 ウ 1号機における原子炉構造体の損壊さらに、2023(令和5)年3月に行われたロボットによる調査により、1号機の格納容器底部において、原子炉を支える鉄筋コンクリート製の「ペデスタル」という構造物が壊れ、少なくとも原子炉の半周以上の範囲で高さ1メートルほどの高さまでコンクリートがなくなっており、鉄筋がむき出しになっている状態であることが判明した。 この状況について。日本原子力学会廃炉検討委員会のj委員長は原子炉の耐震性に対する疑問が生じている(甲D共64)。 このような事態を受け、原子力規制委員会においても「格納容器がさらに損傷した場合に備えて早急な対応が必要だ」などの意見が相次ぎ、被告東電に対し、「ペデスタル」が原子炉を支えられないことを前提に、どのようなリスクが想定されるかについてや、放射性物質が外部に拡散するのを防ぐために必要な対策を取りまとめるように求めている(甲D共65)。 (2)廃炉に向けた工程の大幅な遅れア 廃炉にむけた「中長期ロードマップ」の度重なる改訂、さらなる遅れa 福島第一原発の廃炉に向けた工程については、2011(平成23)年12月に策定された「福島第一原子力発電所1~4号機の廃止措置に向けた中長期ロードマップ」(以下「ロードマップ」という)において、以下のように予定されていた。 第1期使用済み核燃料の取り出し開始までの期間(2013年3月まで)第2期第2期 燃料デブリ取り出し開始までの期間(2021年30 12月まで)第3期第3期 廃炉措置の終了までの期間(2041年~2051年まで)b しかしながら、その後は廃炉に向けた工期の遅れが相次ぎ、既にこれまでだけでも5回にわたり「ロードマップ」は改訂を余儀なくされてきた。 直近となる2019(平成31)年12月2 1年まで)b しかしながら、その後は廃炉に向けた工期の遅れが相次ぎ、既にこれまでだけでも5回にわたり「ロードマップ」は改訂を余儀なくされてきた。 直近となる2019(平成31)年12月26日付「ロードマップ」では、1号機・2号機のプールからの使用済み核燃料の取り出し開始・完了の時期について、当初の予定から10年以上という大幅な遅れが生じている。 c さらに、最難関とされる「燃料デブリ」の取り出し工程の遅滞はより深刻である。 当初予定されていた「冠水工法」については、難易度が高い等との理由から変更が不可避とされ、2017年には「気中工法」を軸に進めることとされたが、直近の「ロードマップ」においては、工法の変更に伴う具体的な作業工程や目標時期等についてはほとんど示されておらず、ただ2号機での「燃料デブリ」の試験的取り出しを2021年内に着手する等の方針が示されただけであった。 しかし、その2号機での「燃料デブリ」の試験的取り出しについても、当初使用が予定されていたロボットアームの操作が予定どおりに進まず、別の装置により取り出しを始める方法に変更するなどの事態が生じ、作業開始の延期が繰り返されることとなった(甲D共103、同104)。 イ燃料デブリの試験取り出しと今後の廃炉工程a 以上のとおり、各号機に大量に残る「燃料デブリ」については、その試験的な取り出しについてさえ当初の予定より大幅な遅れが生 じてきたが、去る2024(令和6)年11月7日、2号機において初めて「燃料デブリ」の一部が試験的に取り出された。 しかしながら、取り出されたのは重さ0.7グラム(耳かき一杯分)というごく微量のデブリ1粒であり、「燃料デブリ」総量のわずか「約12億分の1」に過ぎない。 b そして、放射線量が高く人間が近寄 しかしながら、取り出されたのは重さ0.7グラム(耳かき一杯分)というごく微量のデブリ1粒であり、「燃料デブリ」総量のわずか「約12億分の1」に過ぎない。 b そして、放射線量が高く人間が近寄れない環境の中で、各号機に残る膨大な「燃料デブリ」を今後どのようにして取り出すのか、その具体的な方法も決まっていないのが現状である。 当初の「事故から40年までに廃炉を完了する」との計画どおりに廃炉を完了できるのか。福島第一原発の副所長でさえも「現在では、30年40年といったところを変える時期ではないと考えていますが、いずれそういう時期が来ようと思います。まだですね、格納容器の内側の状態っていうのが見えない中で、その判断をしようがないんです。」と述べ、当初の予定どおり廃炉作業を終えるのは困難であり、未だ格納容器内の状態が不明なため廃炉作業完了の時期を見通すこともできないとの認識が示されている(甲D共161)。 ウ 明らかにされない廃炉工程とこれに対する地元の懸念a 以上のとおり、廃炉に向けた「ロードマップ」は既に5回にわたって改訂を余儀なくされた上、直近の「ロードマップ」からでさえ工程の遅れが続いている。 それにもかかわらず、直近では2019年に行われた5度目の改訂以降、現時点まで5年以上にわたって「ロードマップ」は改訂されないままであり、廃炉までの工程は一向に明らかにされていない。 かかる現状は、現在もなお原子炉各号機内の状況が未だ十分に解明されておらず、またその作業環境も極めて厳しいことから、廃炉に向けた作業がほとんど進まずに廃炉までの工程を想定することすら32 できないという状況に立ち至っていることを示すものである。 b このような状況に対しては、地元福島県のk知事も、福島第一原発の廃炉に向けた原子炉内の正確な状況把握 工程を想定することすら できないという状況に立ち至っていることを示すものである。 b このような状況に対しては、地元福島県のk知事も、福島第一原発の廃炉に向けた原子炉内の正確な状況把握、溶融核燃料(デブリ)の取り出し方法や一時保管方法、処分方法など具体的な工程が「なんら明確化されていない」と危機感をにじませ、「原子炉内の状況を正確に把握した上で、どういう方法で安全にデブリを取り出すのか、デブリをどう一時保管するのか、どのように県外で適切に処分するのか。プロセスを具体的に精査し、精緻なロードマップを作り上げていくことが重要だ」との認識を示している(甲D共162)。 (3)福島第一原発の構内で増え続ける汚染水と放射性汚泥ア汚染水の増加と海洋への放出1号機から3号機の「燃料デブリ」は合わせて約880トンに上ると推計され、その冷却に使う水や地下水などがこの瞬間にも汚染水となって増え続けている。 そして、この汚染水を処理したあとに残る、トリチウムなどの放射性物質を含む「処理水」は、1000基余りのタンクに保管され、その処分が懸案となってきたが、2023(令和5)年8月以降、被告東電は、基準を下回る濃度に薄めた上で海洋への放出を開始した(甲D共163)。 イ増え続ける放射性汚泥その一方で、汚染水を多核種除去設備(ALPS)で浄化する際には「放射性汚泥」(スラリー)が発生しており、これら「放射性汚泥」は「HIC」(ヒック)というポリエチレン性の特殊容器に入れた上でコンクリートの箱に収められ、周囲の空間放射線量の上昇を抑えている。 しかしながら、この「HIC」は1ヶ月に平均14基ほどのペースで増え続けており、現在の保管容量は4576基であるのに対し、20 24(令和6)年4月25日時点で既に4347基、全体 る。 しかしながら、この「HIC」は1ヶ月に平均14基ほどのペースで増え続けており、現在の保管容量は4576基であるのに対し、2033 24(令和6)年4月25日時点で既に4347基、全体の95.0%に達しており、極めて逼迫した状態にあるばかりでなく、これら放射性汚泥については処分方法すら定まっていない。 被告東京電力は、置き場の増設といった対策では限界があることから、汚泥を脱水した上で固体にして減容化する処理施設の建設を計画しているが、廃止措置工学を専門とする福井大㈻のl客員教授(日本原子力学会廃棄物検討分科会主査)は、「減容化して保管容量をいくら稼いでも、問題の先送りに過ぎない」「その場しのぎ」と指摘している。 福島第一原発の廃炉までには、事故の発生から30~40年を要するとされているものの、実際に発生が予測されている廃棄物の量と対策については、10年ほど先までしか触れられていない。海洋放出が始まり、処理水の保管量が減少に転じた一方、放射性レベルの高い汚泥など廃棄物は増え続けている。被告東電は、保管先を増設するなどの「対処療法」を講じながら、逼迫する事態を何とかやり過ごしているのが実情である。 今後、廃炉作業がさらに進めば、1~3号機からの取り出しが計画されている熔解核燃料(デブリ)、原子炉建屋などを形作る各種の設備・機器が取扱いのより難しい廃棄物として表面化してくることになる(甲D共164)。 (4)まとめ以上のとおり、本件原発事故発生後役14年となる現時点においても、福島第一原発には「原子力災害の拡大の防止を図るための応急の対策を実施する必要」があるとして「原子力緊急事態宣言」が継続されており、使用済み核燃料及び大量の「燃料デブリ」が残されたまま汚染水やその処理後に生じる高線量の放射性廃棄物も増え続けて ための応急の対策を実施する必要」があるとして「原子力緊急事態宣言」が継続されており、使用済み核燃料及び大量の「燃料デブリ」が残されたまま汚染水やその処理後に生じる高線量の放射性廃棄物も増え続けており、これらをどのように除去・処分するかについては何ら具体的に決まって34 いないというのが実情である。 したがって、本件原発事故は未だに収束していないというべきであり、また今後も、廃炉までの長期間にわたって放射性物質が周辺地域の環境中に放出されるリスクが依然として残されたままの危険な状態が続いているのである。 第3 福島第一原発周辺地域の現状1 原発隣接地域(中間貯蔵施設等)の状況福島県内の除染により発生した汚染土は、約1380平方メートルと東京ドーム11個分に上っており、新たな避難指示解除に向けた除染の再開により、汚染土はさらに増えることになる。 福島第一原発周辺の「中間貯蔵施設」に搬入された汚染土の処理はいったん終わり、原発が立地するe町とf町に設けられた八つの施設に貯蔵されており、原発の周辺地域には巨大な「汚染土の丘」が広がっている。 これら中間貯蔵施設の期限は2045年までとされているが、汚染土の公共工事での再利用や県外での最終処分についても見通しは全く立っておらず、このままでは「中間貯蔵施設」が「最終処分場」となりかねない状況にある(甲D共160)。 2 周辺自治体の状況(1)福島第一原発立地自治体(e町、f町)ア 両町内の概況福島第一原発が立地するe町及びf町では、その大部分が帰還困難区域に指定されているが、JR常磐線の駅周辺については「特定復興再生拠点区域」として避難指示が解除されている。 しかしながら、両町内については、前述したとおり、原発の構内には未だ大量の使用済み核燃料・「燃料デブリ」・ が、JR常磐線の駅周辺については「特定復興再生拠点区域」として避難指示が解除されている。 しかしながら、両町内については、前述したとおり、原発の構内には未だ大量の使用済み核燃料・「燃料デブリ」・高線量廃棄物などが残さ35 れており、また原発隣接地域には「中間貯蔵施設」が設けられて大量の汚染土が「汚染土の丘」として積み上げられている状況にあるなどしており、空間放射線量についても政府による除染の長期目標を上回る地点が未だに多く残されている。 イ 元住民の帰還状況このような状況の下で、両町の元住民による帰還はほとんど進んでいない。なお、現在の居住者数には、元住民の「帰還」者ではなく、新たに他地域から移住した人口も含まれているのであるから、元住民にかかる「帰還」者の割合は、上記よりも一層小さい割合となる。 a e町e町の本件原発事故当時における住民登録者総数は11,505人であったところ、直近のデータである2024(令和6)年1月時点では9,952人に減少しており、さらに、このうち実際に町内に居住している者は622人であり(甲D共160)、これは、本件原発事故当時の住民登録者総数のわずか5.4%に過ぎない。 b f町f町の本件原発事故当時における住民登録者総数は7,140人であったところ、直近のデータである2024(令和6)年1月時点では5,436人に減少しており、さらに、このうち実際に町内に居住している者は103人である(甲D共160)。これは、本件原発事故当時の住民登録者総数のわずか14.4%に過ぎない。 ウ 元住民の意向さらに、両町の元住民に対する意向調査の結果においても、帰還を躊躇し、または断念している者の割合が非常に高い。 (2)福島第一原発周辺自治体(g町、a町、南相馬市b区)36 ア 向さらに、両町の元住民に対する意向調査の結果においても、帰還を躊躇し、または断念している者の割合が非常に高い。 (2)福島第一原発周辺自治体(g町、a町、南相馬市b区)36 ア 各自治体内の概況a g町e町と隣接するg町については、2017(平成29年)に町内の居住制限区域及び避難指示準備区域における避難指示が解除され、2023(令和5)年4月1日には帰還困難区域内の「特定復興再生拠点区域」において避難指示が解除されたが、それ以外の帰還困難区域では避難指示が継続されている。 b a町また、f町と隣接するa町(本件原告番号1の元居住地)についても、2017(平成29)年3月31日に町内の居住制限区域及び避難指示準備区域における避難指示が解除され、2023(令和5)年3月31日には帰還困難区域内の「特定復興再生拠点区域」において避難指示が解除されたが、それ以外の帰還困難区域では避難指示が継続されている。 c 南相馬市さらに、a町と隣接する南相馬市b区(本件原告番号3の元居住地)については、2016(平成28)年7月12日に町内の居住制限区域及び避難指示解除準備区域における避難指示が解除されたが、帰還困難区域では避難指示が継続されている。 イ 元住民の帰還状況a g町g町については、同町の公式サイトによると本件原発事故発生当時における住民登録者数は15,917人であったが、直近の2024(令和6)年1月時点では11,516人に減少しており、このうち実際に町内に居住している者は2,307人である(甲D共160・前出東京新聞特集記事)。これは、本件原発事故当時の住民登録者数の約137 4.5%にすぎず、前述したとおり、元住民にかかる「帰還」者の割合は、これよりもさらに低い割合となる。 b 160・前出東京新聞特集記事)。これは、本件原発事故当時の住民登録者数の約1 4.5%にすぎず、前述したとおり、元住民にかかる「帰還」者の割合は、これよりもさらに低い割合となる。 ba町(本件原告番号1の元居住地)また、a町についても、本件原発事故発生当時における住民登録者数は21,434人であったのが、直近の2024(令和6)年1月時点では15,170人に減少しており、さらに、このうち実際に町内に居住している者は2,146人である(甲D共160・前出東京新聞特集記事)。これは、本件原発事故当時の住民登録者数の約10%にすぎず、前述したとおり、元住民にかかる「帰還」者の割合は、これよりもさらに低い割合となる。 c 南相馬市(本件原告番号3及び4の元居住地)さらに、本件原告番号3の元居住地である南相馬市b区については、本件原発事故発生当時における住民登録者数は12,842人であったが、直近の2024(令和6)年12月31日時点では6,136人に減少し、このうち実際に町内に居住している者は3,819人である。 これは、本件原発事故当時の住民登録者数の約29.4%にすぎず、前述したとおり、元住民にかかる「帰還」者の割合は、これよりもさらに低い割合となる。 他方、本件原告番号4の元居住地である南相馬市c区についてみても、同町内の旧避難指示区域内では、本件原発事故発生当時における住民登録者数は1,439人であったが、直近の2024(令和6)年12月31日時点では597人に減少し、このうち実際に町内に居住している者は511人である。これは、本件原発事故当時の住民登録者数の約36%にすぎず、前述したとおり、元住民にかかる「帰還」者の割合は、これよりもさらに低い割合となる(以上につき、甲D共169)。 ウ元 る。これは、本件原発事故当時の住民登録者数の約36%にすぎず、前述したとおり、元住民にかかる「帰還」者の割合は、これよりもさらに低い割合となる(以上につき、甲D共169)。 ウ元住民の意向ag町復興庁、福島県、g町による「g町住民意向調査」の直近のデータ(令和6年9月実施分)によれば、「すでにg町で生活している」が全体の11.5%、「戻りたいと考えている(将来的な希望も含む)」が7.9%にとどまる一方で、「まだ判断が付かない」が12.1%、「戻りたいが、戻ることができない」が17.2%、「戻らないと決めている」が49.8%に上っている(甲D共167・平成6年12月13日付g町住民意向調査結果(速報版)5頁)。 ba町同様に、「a町住民意向調査」の直近のデータ(令和5年11月~12月実施分)によれば、「すでにa町で生活している」が全体の11.2%、「戻りたいと考えている」が12.7%にとどまる一方で、「まだ判断が付かない」が23.3%、「戻らないと決めている」が51.5%に上っている(甲D共168・平成6年2月27日付a町住民意向調査結果(速報版)4頁)。 (3)その他周辺地域の状況ア d町(本件原告番号5の元居住地)本件原告番号5の元居住地であるd町では、i地区について避難指示が出され、平成28年10月28日には同地区にかかる居住制限区域及び避難指示解除準備区域の解除が決定されたが、本件事故発生当時の住民登録者数1,252人のうち、i地区の元住民393人及び同地区以外の元住民124人の合計517人が未だに避難を継続中であり、これは本件事故発生当時の住民登録者数の約4割に上る(甲D共170・d町HP「避難者数(d町民)」。 イ福島市(本件原告番号2の元居住地)本件原告番 人が未だに避難を継続中であり、これは本件事故発生当時の住民登録者数の約4割に上る(甲D共170・d町HP「避難者数(d町民)」。 39 イ 福島市(本件原告番号2の元居住地)本件原告番号2の元居住地である福島市では、本件原発事故の発生による放射性物質の拡散を受け、多くの市民が市外へと避難し、その数は公式に把握されているだけでもピーク時には7,473人に上ったが、直近の2024(令和6)年2 月29日現在でも、未だ1991人が避難を継続したままである(甲D共171・福島市HP「福島市の今~震災・原発事故からの復興」)。 ウ 避難指示が出された地域における児童生徒数の減少さらに、双葉郡8町村、飯舘村、田村市、南相馬市、d町で避難指示が出された地域にある小中学校と県立高校の児童・生徒数は、2023年5月時点で2,622人であり、これは、本件原発事故発生前の平成22年5月時点の11,820人と比較すると、その22.2%にとどまっており、特に、小学生または小学生にあたる学年の児童数は624人で、事故前の11.6%と極めて低い割合となっている(甲D共172・NHK福島ニュースWEB「『データで見る震災・原発事故』避難指示出た地域の児童生徒数)。 このように、本件原発周辺地域では、元住民の帰還は進まず、とりわけ子どもを含む若年層の帰還はほとんど進んでいない状況にある。 第4 まとめ以上で詳しく見てきたとおり、福島第一原発で発生した本件事故は、事故発生から約14年となる現時点においても、未だに収束したとはいえず、今後も放射性物質の環境中への放出が懸念される状況が続いているのであって、元住民の帰還については一向に進んでいない。 かかる現状からしても、本件原告らが元居住地から避難したことの相当性についてはもちろんのこと、現在まで 中への放出が懸念される状況が続いているのであって、元住民の帰還については一向に進んでいない。 かかる現状からしても、本件原告らが元居住地から避難したことの相当性についてはもちろんのこと、現在まで避難を継続していることの相当性が認められるべきであり、また、本件原告らの本件事故前に 有していた生活基盤が本件原発事故によって喪失し、あるいは大きく変容してしまったことは明らかである。 本件原告らの精神的損害の算定にあたっては、このような現状を十分に踏まえた評価をする必要がある。 第7章精神的損害について第1 精神的損害の内容 ― 3つの慰謝料― 1 原告らが受けた精神的苦痛前述のとおり、本件原発事故による被害の特徴は、「広範性、深刻性、全面性、継続性・長期性、地域社会と生活の根底からの破壊」にあり、原告らをはじめ避難者らが受けた被害も多種多様であることに十分留意されなければならない。 また、原告らをはじめ避難者らが本件原発事故によって受けた被害としては、多種多様なものがあるが、敢えて整理するならば、①放射線被ばくによる健康不安、②避難所生活における苦難、③神奈川県等までの過酷な避難、④過酷な避難による身体的・精神的な影響、⑤避難先の住宅環境におけるストレス、⑥避難生活の長期化等による精神的苦痛、⑦家族・親族関係の悪化、⑧生活基盤・ふるさとの喪失、⑨人生設計の大幅な影響・自己実現の機会の制約などが挙げられる(これに限られるものではない)。 そして、その多種多様である被害のうち、精神的損害を原告らに共通するものとして類型化すれば、①大量の放射性物質が大気中に放出されたことにより、自己や家族の生命・身体に対する深刻で具体的な危機に直面した精神的苦痛、②先行きも見えずに生活の本拠を離れて避難した場所で、長期間にわ 型化すれば、①大量の放射性物質が大気中に放出されたことにより、自己や家族の生命・身体に対する深刻で具体的な危機に直面した精神的苦痛、②先行きも見えずに生活の本拠を離れて避難した場所で、長期間にわたり、日々の著しい生活阻害による心身の苦痛、不便、不自由、不安等を継続的に強いられる精神的苦痛、③広範囲に及ぶ大量の地域住民が長期間の避難を余儀なくされ、地域社会41 と人びとの生活が根底から破壊されたことから、避難元における包括的生活利益ともいえる経済的・精神的価値を失った精神的苦痛、の3つに分けることができる。 2 原告らに認められるべき慰謝料の内容上記の精神的苦痛の存在を前提として、原告らには、①避難を余儀なくされた慰謝料、②避難(継続)慰謝料、及び③ふるさと喪失・生活破壊慰謝料、という3つの慰謝料が認められるべきである。 (1)避難を余儀なくされた慰謝料ア 原告らをはじめ避難者らは、全く予期せずして大量の放射性物質が拡散する重大な事故に見舞われ、生命・身体に対する深刻な放射線被害の具体的な危機に直面したことから、取るものも取り敢えず慌ただしく避難することを余儀なくされた。 すなわち、本件原発事故によってまず生じた法益侵害は、「生命・身体の危殆化」であり、原告らが主張する「包括的平穏生活権」に当初より包摂されてきた「身体権に直結・接続する平穏生活権への侵害」である。 いわき避難者訴訟仙台高裁令和2年3月12日判決(甲D共16の1 )もこれに同旨であり、原告らをはじめ避難者らの生命・身体が深刻な放射線被害の具体的な危機にさらされたことが、避難を余儀なくされたことの根本原因であると明確に指摘している。 そして、同判決の趣旨も踏まえれば、避難を余儀なくされた精神的苦痛に対する慰謝料の本質は、「生命・ 的な危機にさらされたことが、避難を余儀なくされたことの根本原因であると明確に指摘している。 そして、同判決の趣旨も踏まえれば、避難を余儀なくされた精神的苦痛に対する慰謝料の本質は、「生命・身体の危殆化/身体権に直結・接続する平穏生活権侵害」による、単なる不安ではない「危険直面慰謝料」として理解すべきであり、避難を余儀なくされるような状況に追い込まれるほどの危険に直面したこと自体が慰謝料の対象となる。 イ ここでさらに留意されるべきは、現在もなお放射線被ばくによる具42 体的かつ深刻な健康不安(健康リスク)を抱えている本件原発事故の被害者が少なくないことである。 本件原発事故発生時に、被告国ないし被告東電から迅速かつ適切な情報開示がなかったことにより、本来回避しえたはずの初期被ばく体験を持つ者(特に乳幼児を含む若年者や基礎疾患をもつ者)、さらに放射線被ばくに脆弱な子どもを被ばくさせてしまったことを悔やむ保護者らの精神的負担(将来への不安、子への罪悪感)は極めて深刻である。 ウ また、避難を余儀なくされたこと自体により、原告らをはじめ避難者らは、突如として元居住地における人間関係を絶たれ、置かれた状況は様々であるとしても、職業生活を失ったり、学業の継続性や家族の一体性を阻害されるなどして、それぞれの境遇において極めて大きな精神的苦痛を被っているから、これらの精神的苦痛についても「避難を余儀なくされた慰謝料」として賠償がなされるべきである。 エ 以上より、原告らをはじめ避難者らが自分や家族の生命・身体の危殆化に直面したことによる精神的苦痛や、それが一時的なものでなく長期間にわたり深刻な健康不安(健康リスク)という形で顕れている精神的苦痛、また避難を余儀なくされたこと自体により被った精神的苦痛については、「避難を とによる精神的苦痛や、それが一時的なものでなく長期間にわたり深刻な健康不安(健康リスク)という形で顕れている精神的苦痛、また避難を余儀なくされたこと自体により被った精神的苦痛については、「避難を余儀なくされた慰謝料」として賠償されるべきである。 (2)避難(継続)慰謝料ア 原告らをはじめ避難者は、生命・身体の危険に直面して避難を余儀なくされた後、慣れ親しんだ生活の本拠を離れて不慣れな場所で生活することによる不便や困難、人間関係を含む日々の著しい生活阻害による心身の苦痛などのほか、生活の場所が暫定的であるため、本来の生活の本拠における生活に戻れるのか、戻れるとしてもいつになるの43 かが不透明であることによる不安感や焦燥感を抱えながら長期間の避難生活を継続している。 そして、避難生活が長期間に及べば及ぶほど、避難生活を継続するか否か困難な選択を強いられることになる。 また、暫定的な生活の場が避難所のような過酷な場所であれば、快適性の欠如やプライバシー確保が困難であることから慰謝料は増額されるべきであるし、避難所でなくとも、行動制限に対して脆弱性を有する高齢者や乳幼児、または基礎疾患・障害を持つ者、治療の中断を余儀なくされた者や、その看護者・保護者などについては、避難生活がより過酷なものとなるから慰謝料が増額されるべきである。 イ さらに、原告らをはじめ避難者らが避難生活を継続することにより生じる様々な負担や、人間関係を含む日々の著しい生活阻害による心身の苦痛、とりわけ原発被害者へのスティグマ(偏見や差別)やいじめ等による格別の精神的負担、先行きの見えないこと等に対する不安などが、心身の健康に深刻な影響を及ぼすものであり、日常生活において保障されている各種自由権への継続的な侵害(人格発達権の継続的な侵 め等による格別の精神的負担、先行きの見えないこと等に対する不安などが、心身の健康に深刻な影響を及ぼすものであり、日常生活において保障されている各種自由権への継続的な侵害(人格発達権の継続的な侵害)となっていることを看過してはならない。 愛媛訴訟控訴審判決が指摘しているとおり、「UNSCEAR2013年報告書では、精神的な健康の問題と平穏な生活が破壊されたことが、本件原発事故後に観察された主要な健康影響を引き起こしており、これは、本件地震、本件津波、本件原発事故の多大な影響、及び放射線被ばくに対する恐怖や屈辱感への当然の反応の結果であったこと、公衆においては、うつ症状や心的外傷後ストレス障害に伴う症状などの心理的な影響が観察されており、今後健康に深刻な影響を及ぼす可能性があることが指摘されており、医学的な証明は困難であるとしても、こうした点も慰謝料の算定においては安易に捨象できないという44 べき」(甲D共21の1 )なのである。 すなわち、避難生活の継続により、日常的な幸福追求による自己実現が阻害され(人格発達権の侵害)、さらに避難生活においては多様かつ深刻な人格権侵害が生じていることが明らかになっており、それらによるPTSDリスクも高い。 ウ したがって、原告らをはじめ避難者らが、本件原発事故による避難行動に伴い、いつ帰還できるか分からない状況のもとで、正常な日常生活の維持・継続が長期間にわたり著しく阻害されていること(日々生じる行動の自由への制約)や、避難生活を継続する中で幸福追求による自己実現が日常的に阻害されていること(人格発達権の侵害)によって被っている精神的苦痛については、「避難(継続)慰謝料」として賠償されるべきである。 (3)ふるさと喪失・生活破壊慰謝料ア 本件原発事故による被害の されていること(人格発達権の侵害)によって被っている精神的苦痛については、「避難(継続)慰謝料」として賠償されるべきである。 (3)ふるさと喪失・生活破壊慰謝料ア本件原発事故による被害の特徴の一つに、地域社会と生活の根底からの破壊がある。 避難元(ふるさと)のコミュニティとそこでの生活を根底から破壊された原告らは、福島の地において生活することから得られる利益を失い、社会生活全般にわたって有機的に結びついていた価値全てを喪失した。 これは、単に「故郷から離れて寂しい(ノスタルジー)」といったレベルの精神的苦痛にとどまるものではない。 「ふるさと」には、避難元の地域にあった生産・生活の諸条件(日常生活と生業を営むために必要なあらゆる諸条件)が含まれるのであり、現行の個別賠償における損害項目では取りこぼされてしまう「有形・無形の残余の部分」が存在することも明らかにされてきた(甲D共1 15 m教授意見書)。 そして、それを喪失したことにより原告らに生じた損害が「ふるさと喪失・生活破壊慰謝料」である。 イ具体的には、避難元において多層的に形成されてきた地域コミュニティや自然環境には、対価の発生が想定しにくいものの、当事者にとっては経済的価値を有する利益が含まれる。 すなわち、地域コミュニティといった社会関係資本や、自然環境といった自然資本は、非貨幣的性質を有することからそれ単体では賠償の対象になりにくいものの、避難元の地域にあった生産・生活の諸条件がなければ通常は無償で取得できない財物や役務の無償取得を可能とするものであり、そこで生活する人びとにとっては財や労働力等の調達機能を果たす価値のあるものである。 さらに、社会関係資本や自然資本には精神的価値をも有する利益があり、 務の無償取得を可能とするものであり、そこで生活する人びとにとっては財や労働力等の調達機能を果たす価値のあるものである。 さらに、社会関係資本や自然資本には精神的価値をも有する利益があり、原告らは、地域コミュニティの緊密な人間関係や自然環境との関わりを通じて、地域に対する強い帰属意識を有し、当該地域に居住することによる安心感を得ていた。 このように、避難元を中心とする衣食住、家庭生活、学業・職業・地域活動等の生活全般の基盤及びそれを軸とする各人の属するコミュニティにおける人間関係や自然環境との関わりにおいて、原告らをはじめ避難者らは継続的かつ安定的に生活する利益(包括的生活利益)を享受していた。 「ふるさと」とはすなわち、地域における住民の生活を支える基盤のひとつとしての社会関係資本と自然資本との総体を指し、地域や学校、職場等のコミュニティの中で周りの人びととの各種交流等を通じて自己の人格を形成、発展させる基礎となるものであって、そこから生まれる包括的生活利益は憲法13条を根拠とする人格的利益といえるのである。 ウまた、本件のように深刻な原子力発電所事故を起点として、唐突に避難を余儀なくされたことにより地域社会が解体され、放射性物質の飛散により地域が汚染されて自然環境に深刻な影響を残す場合には、たとえ避難元に戻ったとしても、個々人の自己決定権の行使(選択の積み重ね)の結果として蓄積・形成され、長い歳月をかけて築き上げられてきた地域コミュニティの価値を元通りに回復することは困難であり、もはや不可能と言っても過言ではない。 原告らをはじめ避難者らは、そのような地域コミュニティの価値、すなわち当該地域の生活環境、社会的インフラ等だけでなく、各種の人間関係のつながり、さらには、その中で継承・ っても過言ではない。 原告らをはじめ避難者らは、そのような地域コミュニティの価値、すなわち当該地域の生活環境、社会的インフラ等だけでなく、各種の人間関係のつながり、さらには、その中で継承・保護されてきた文化伝統習俗等、多層的に形成される居住環境なども失ったのである。 そして、「ふるさと」の経済的価値のみならず、社会的なつながり・支え、生業を含む生きがいや精神的支柱、生活環境などの精神的価値を喪失したことにより、当事者には深刻なストレスが生じ、健康を悪化させている場合も少なくないし、それまで築き上げてきたものが無に帰することへの絶望や悲嘆がいかに大きいかも想像に難くない。 エ 以上のような、ふるさとを喪失し生活を破壊されたことによる精神的苦痛は、生命・身体への危殆化に直面したことや、避難生活を継続する中で生じる様々な精神的苦痛とは性質を異にするものであり、前述の避難を余儀なくされた慰謝料や、避難(継続)慰謝料だけでは評価し尽くせない損害である。 むしろ地域社会全体が突然避難を余儀なくされて容易に帰還できず、仮に帰還できたとしても、地域社会が大きく変容してしまったという本件の被害の実態に即した損害の評価の在り方という点では、前2者の慰謝料とは別に評価・算定すべきものである。 したがって、原告らが、避難慰謝料には包摂されない「ふるさと」47 の経済的・精神的価値を失った損害は、生活を破壊され、避難元における包括的生活利益を毀損・喪失した損害と捕捉し、「ふるさと喪失・生活破壊慰謝料」として賠償されるべきである。 第2 かながわ一陣訴訟の横浜地裁判決で認容された慰謝料額と中間指針等賠償額1 かながわ一陣訴訟の横浜地裁判決で認容された慰謝料額(1)かながわ一陣訴訟の横浜地裁判決 (甲D共153)は 第2 かながわ一陣訴訟の横浜地裁判決で認容された慰謝料額と中間指針等賠償額1 かながわ一陣訴訟の横浜地裁判決で認容された慰謝料額(1)かながわ一陣訴訟の横浜地裁判決 (甲D共153)は、中間指針等では評価されていない「ふるさと喪失慰謝料」等を認め、慰謝料について、同判決当時に策定、公表されていた中間指針等の基準を上回る金額を認容した。 すなわち、かながわ一陣訴訟の横浜地裁判決は、原子力損害賠償紛争審査会が策定した中間指針等(とりわけ、中間指針、中間指針追補、中間指針第二次追補)について、これらが「平成23年8月ないし平成24年3月に相次いで公表されたもので、その定める慰謝料額は、その当時に想定された避難期間に基づいて月ごとの額を算定したものであるから、これらの公表から6年以上が経過した現在における損害認定に直截に採用できるものとはいいがたい」とし、被告らの、原告らに認められるべき慰謝料額は中間指針等を超えるものではなく、「ふるさと喪失」等の慰謝料は認められない、とする主張を退けた上で(かながわ一陣訴訟の横浜地裁判決、甲D共153❸193~195頁)、中間指針等が定めた金額を上回る慰謝料を認容し、中間指針等において生じていた、避難指示等の区域相互間における不合理な賠償格差を一定程度是正する内容となっている。 (2)しかしながら一方で、結論として、かながわ一陣訴訟の横浜地裁判決が認容した同訴訟の原告らの損害額は、被害の実相に照らせば、十分でないことは明らかであった。 48 特に、帰還困難区域における慰謝料額の認定については、かながわ一陣訴訟の横浜地裁判決が、その判決時点でも、同判決の言う「平穏生活4要素」(①家族とともに暮らしつつ、②職場や学校等における活動を通じて自己の人格を発展させ、③友人、親戚等当該 ついては、かながわ一陣訴訟の横浜地裁判決が、その判決時点でも、同判決の言う「平穏生活4要素」(①家族とともに暮らしつつ、②職場や学校等における活動を通じて自己の人格を発展させ、③友人、親戚等当該地域の住民との人的つながりを通じて相互に助け合い又は人格を発展させ、④その他当該地域の自然環境や生活資源の恩恵を受けながら精神的に満ち足りた生活を送るという平穏な生活)の再建に向けた見通しが立っていないことから、そこからの避難者の精神的損害は甚大であるとした点は正当であるが、死亡慰謝料との対比等から、慰謝料を金1500万円にとどまるとした点は、名実ともにふるさとの存在自体を奪われた等の被害の実相からすれば、極めて不十分といわざるを得ない。 このように帰還困難区域の慰謝料額が不十分であったことから、かながわ一陣訴訟の横浜地裁判決においては、避難指示等対象区域全体における慰謝料額も、被害の実相に照らして十分なものとはなっていなかった。 また、かながわ一陣訴訟の横浜地裁判決における避難指示等対象区域外における慰謝料額の不十分さは深刻であり(被侵害利益を自己決定権侵害とのみ捉えたのは、被害の実相から見て狭きに失する。)、遺憾ながら、かながわ一陣訴訟の横浜地裁判決においては、放射線被ばくの健康影響のリスク、避難指示等対象区域外の同訴訟の原告らの被害の実相、等が十分に理解されていたとは考え難かった。 さらに、 かながわ一陣訴訟の横浜地裁判決は、当然に『避難慰謝料』と『ふるさと喪失・生活破壊慰謝料』とに切り分けて法的に別個の評価をすることは困難であるとし、避難生活の労苦を『ふるさと喪失・生活破壊慰謝料』に原則として包摂させる判断をし、「避難所生活ないし車中生活を余儀なくされた場合」に限定して日単位の基準損害額を49 200 は困難であるとし、避難生活の労苦を『ふるさと喪失・生活破壊慰謝料』に原則として包摂させる判断をし、「避難所生活ないし車中生活を余儀なくされた場合」に限定して日単位の基準損害額を49 2000円と定めてごく低額の、避難に伴う慰謝料を認定したが、これが狭きに失することは上述の理由から明らかであった。 2 かながわ一陣訴訟の東京高裁判決で認容された慰謝料額かながわ一陣訴訟の東京高裁判決 (甲D共112)は、(ア)政府等の避難指示等対象区域から避難した申立人らに関しては、①避難にかかる慰謝料として、一定の期間について原則月額10万円、②生活基盤の喪失・変容にかかる慰謝料として、区域に応じて、原則として100万円から850万円を認めたに過ぎず(209~211頁)、他方、(イ)政府等の避難指示等対象区域外から避難した申立人らに関しては、避難にかかる慰謝料として、原則として30万円(子供及び妊婦について100万円、養育すべき子のいる親がその子と共に避難した場合の当該親について60万円)を認めるにとどまり(211~212頁)、生活基盤の喪失・変容にかかる慰謝料についてはこれを認めなかった(214~215頁) 。 かながわ一陣訴訟の東京高裁判決は、かながわ一陣訴訟の横浜地裁判決が極めて限定的にしか認定しなかった避難にかかる慰謝料については、やや広く認めたものの、生活基盤の喪失・変容にかかる慰謝料についてはかながわ一陣訴訟の横浜地裁判決に比べて低廉なものとしたため、慰謝料の総額としてはかながわ一陣訴訟の横浜地裁判決と大きな差異のある金額とはならず、やはり、放射線被ばくの健康影響のリスク、避難指示等対象区域外の原告らの被害の実相、等が十分に理解されていたとは考え難いものであった。 3 中間指針等の改定により認められた慰謝料額・かながわ一陣 、やはり、放射線被ばくの健康影響のリスク、避難指示等対象区域外の原告らの被害の実相、等が十分に理解されていたとは考え難いものであった。 3 中間指針等の改定により認められた慰謝料額・かながわ一陣訴訟の判決 認容額かながわ一陣訴訟の横浜地裁判決の後、原賠審は、本件原発事故に関する各地の訴訟の判決内容をも踏まえ、2022(令和4)年12月50 20日付けで、中間指針第五次追補を策定・公表した(甲D共10の5 )。 中間指針第五次追補とかながわ一陣訴訟の判決が認めた金額は概ね次のとおりである(第1陣訴訟においては、過酷避難状況(原発からの距離)や原告の属性などに応じて個別の増額がなされているケースもある)。 しかしながら、これらのかながわ一陣訴訟の判決により認容された慰謝料が不十分であることは上記のとおりであり、また、中間指針も最低限の水準を示すものである。 第3 各地の判決における到達点と認められるべき慰謝料について本件原発事故による被害の損害賠償請求に関しては、本件訴訟及びかながわ一陣訴訟のほか、各地でも損害賠償請求訴訟が提起され、以下のような多数の確定裁判例も存在する。 ❶いわき避難者訴訟〔仙台高判令和2・3・2〕(甲D共16の1 )❷小高に生きる訴訟〔東京高判令和2・3・17〕(甲D共17の1)❸生業訴訟〔仙台高判令和2・9・30〕(甲D共15の1)❹群馬訴訟〔東京高判令和3・1・21〕(甲D共18の1)❺中通り訴訟〔仙台高判令和3・1・26〕(甲D共19の1)❻千葉訴訟〔東京高判令和3・2・19〕(甲D共20の1)❼愛媛訴訟〔高松高判令和3・9・29〕(甲D共21の1)これらの判決において、①避難者の被侵害法益が避難指示の有無によって区別されないこと(❹) 令和3・2・19〕(甲D共20の1)❼愛媛訴訟〔高松高判令和3・9・29〕(甲D共21の1)これらの判決において、①避難者の被侵害法益が避難指示の有無によって区別されないこと(❹)、②中間指針の避難慰謝料を保管する損害としての「ふるさと喪失慰謝料」が確立されたこと(❶❷❸❻)、③生命・身体への危殆化としての「避難を余儀なくされた慰謝料」が認められたこと(❶❸❼)、④避難継続慰謝料の多様化・深刻化(生存権侵害に限定されないこと等)(❻❼)などが、これまでの到達点として51 指摘することができる。 すなわち、①に関しては、原発事故により避難を余儀なくされた者が侵害された法益(包括的な平穏生活権)は、避難に合理性がある限り、避難指示の有無によって異なることはなく、これには「ふるさと喪失」も含まれることを示し、②に関しては、原発事故により避難生活を余儀なくされ、その避難生活のなかで「日常的な幸福追求による自己実現」が阻害されるとともに、これが長期化することに伴って、生存と人格形成の基盤を構成する各要素が破壊・毀損(喪失・変容)され、結果、原告らに(日常的な幸福追求による自己実現阻害に留まらない)「生存と人格形成の基盤の破壊・毀損」が生じることを示し、③に関しては、「生命・身体の危殆化/身体権に直結・接続する平穏生活権侵害」による(単なる不安ではない)「危険直面慰謝料」を「避難を余儀なくされた慰謝料」ととらえ、避難を強制された場合に限定されるものではないことを示し、④に関しては、原発事故により精神的な健康の問題と平穏な生活が破壊され、避難の長期化により深刻化していることを示している。 原発事故被害者らの被侵害法益は、生命・身体への危殆化(身体権に直結・接続する平穏生活権侵害)を含む包括的平穏生活権にあり、避難 活が破壊され、避難の長期化により深刻化していることを示している。 原発事故被害者らの被侵害法益は、生命・身体への危殆化(身体権に直結・接続する平穏生活権侵害)を含む包括的平穏生活権にあり、避難指示の有無による区別はなく、当該法益侵害の結果生じる精神的損害の内容は、このような各地の判決における到達点を踏まえれば、以下の3つの評価指標(慰謝料項目)から把握しうる。 ア 生命・身体への現実の危殆化損害(「避難生活を余儀なくされたこと」の損害)-避難者であれ、滞在者であれ、被ばくを避けるために「避難生活を余儀なくされたこと」の原因事実であり、本件事故による法益侵害の起点イ 避難継続損害-避難生活が継続したことによる日常的な幸福追求52 による自己実現阻害(人格発達権侵害)ウ いわゆる「ふるさとの喪失・変容」損害-避難生活の長期化・固定化による生存と人格形成の基盤の喪失・毀損先に述べたとおり、原告らには、①避難を余儀なくされた慰謝料、②避難(継続)慰謝料、及び③ふるさと喪失・生活破壊慰謝料、という3つの慰謝料が認められるべきであるとしたのは、このような各地の判決における到達点に基づくものである(以上、甲D共115)。 第4 本件で原告らに認められるべき慰謝料1 慰謝料額の算定にあたり考慮されるべき事情~はじめに~かながわ一陣訴訟の判決においては、中間指針第五次追補(甲D共10の5 )との比較においては若干の上積みのある金額が認定されたものの、それは本件原発事故による被害の実相に見合った金額とは言い難い。 原告らをはじめ避難者らが被った被害の実相は、当然ながらそれぞれ個性のあるものであり、各原告の被った具体的な被害内容は個別原告の準備書面に詳しく記載したとおりであるから、原告らに認められるべ 原告らをはじめ避難者らが被った被害の実相は、当然ながらそれぞれ個性のあるものであり、各原告の被った具体的な被害内容は個別原告の準備書面に詳しく記載したとおりであるから、原告らに認められるべき慰謝料額を算定するにあたっては、それぞれの原告らが被った精神的苦痛、強いられた苦悩、これからも続く健康不安などが適切に評価されるべきである。 2 避難を余儀なくされた慰謝料原告らは、まさに「生命・身体の危殆化」に直面し、適切な避難計画や十分な情報がない状況下において、現実に放射性物質に被ばくするなかで、自己または家族の生命・身体をさらなる放射線被ばくから守るべく避難を強いられたものであって、さらに、避難生活を続ける中においても、初期被ばくによる深刻な健康リスクを抱えながら生活をし、将来への不安や子どもへの罪悪感に苛まれながら生きていかな ければならないのであり、その精神的苦痛は極めて大きく、慰謝料の算定において十分考慮されるべきである。 そうだとすれば、原告らに認められるべき「避難を余儀なくされた慰謝料」は、「愛媛訴訟」高松高裁令和3年9月29日判決において示されたように、少なくとも200万円を下らないというべきである(甲D共21の1 )。 3 避難(継続)慰謝料ア本件原発事故後、多くの避難所は避難者で溢れかえり、避難しても入ることができずに次の避難所や親族宅へと転々とせざるを得ないという状況が生じたため、原告らをはじめ避難者らのほとんどが、避難先にたどり着くまで、数か所の避難所や親戚知人宅を転々としている。 3月の寒い時期に避難を余儀なくされた原告らをはじめ避難者らは、暖房設備もほとんどない避難所で、情報も、プライバシーも、食料や設備も不十分な中で、不安やストレスに苦しめられ、身体的、精神的 3月の寒い時期に避難を余儀なくされた原告らをはじめ避難者らは、暖房設備もほとんどない避難所で、情報も、プライバシーも、食料や設備も不十分な中で、不安やストレスに苦しめられ、身体的、精神的に非常な苦痛を味わうことになった。 ろくに眠ることもできず、満足に食べることもできず、寒くて不衛生な避難所のなかに、多くの避難者が溢れかえっていたことから、インフルエンザ等の感染症にかかってしまった者も多い。 特に幼い子どもらや高齢者とともに避難することには相当な苦難が伴い、高齢の原告の中には、持病が悪化したり、病気を発症したりして、その後の生活に深刻な影響を被った者もおり、中には歩けなくなってしまった者もいる。 また、親戚、知人宅に転居した原告も、スペースも狭く、遠慮しながらの生活であり、やはり困難な状況であったことは言うまでもない。 避難先の住環境によるストレスは大きく、従前は良好な関係だったのに親族との間に軋轢が生じてしまったり、隣人の声や音に苛まれたり、54 逆に、子ども達が気兼ねなく家の中を走り回ったり、歌を歌ったり、ピアノを弾いたり、大きな声を出したりすることができなくなり、周囲の環境が元居住地とあまりに違うことから老若男女問わず引きこもりがちの生活になるなど、日々の生活が阻害された。 さらに、原告らの多くは、避難により家族・親族との別居やペットとの離別を強いられ、放射線被ばくへの考え方の違いや、生活の糧を得るため等の理由で別居や離別に至るなどしている。そしてこれらのストレスによって、夫婦間、親子間、きょうだい間に無用な諍いが生じた原告も少なくない。 現に原告らも、慣れないビジネスホテル暮らしを強いられたりペットとの別離を余儀なくされた後、逝去に至ってしまったり(原告番号1)、母子避難 ょうだい間に無用な諍いが生じた原告も少なくない。 現に原告らも、慣れないビジネスホテル暮らしを強いられたりペットとの別離を余儀なくされた後、逝去に至ってしまったり(原告番号1)、母子避難を強いられて子どもは当初の進学希望先を諦め、また福島県からの避難者であることに心ない言葉を浴びせられたり(原告番号2)、勤務先の退職を余儀なくされ、家族が別離し避難生活の中で亡くなったり、慣れないアパート暮らしを余儀なくされたり、避難先で心ない言葉を浴びせられたり(原告番号3)、慣れ親しんだ居住地を離れることを余儀なくされた後、いったん戻ったものの以前のような生活ができず再度の避難を余儀なくされ、その後に亡くなったり(原告番号4)、母子避難を余儀なくされ狭く慣れないアパート暮らしや、福島からの避難者であることで繰り返し被ばくに関する質問をされたり(原告番号5)といった、避難生活に伴う各種のストレス・精神的苦痛が生じ、日常的な幸福追求による自己実現が阻害されたのである。 このことは、原告らのアンケートにおいて、避難について話すことへの抵抗感や避難者であることによる嫌な経験を有している者が多数にのぼること、さらにIES-Rの全体平均点が48.7点(最低32点・最高79点)と非常に高く、PTSDの可能性があるとされる55 カットオフ値(25点)を、実にアンケート回答者全員が上回っていることからも裏付けられる(甲D共151~152) 。 この点、原発事故に関する的確な情報が与えられなかったことや、長期にわたり放射線障害発症の恐怖にさらされていることは、トラウマ要因として指摘されているものであるし、ふるさとの喪失、死の恐怖、相談者がいないこと、避難先での嫌な経験などはPTSDの可能性に対するリスクが高まる要因と指摘されていること れていることは、トラウマ要因として指摘されているものであるし、ふるさとの喪失、死の恐怖、相談者がいないこと、避難先での嫌な経験などはPTSDの可能性に対するリスクが高まる要因と指摘されていることにも留意されるべきである。 イこのように、長期間に及んでいる避難生活が原告らにとって大きなストレスを伴うものであることが看過されてはならず、また、原告らの自己実現が阻害されているなど、人格権への侵害が継続的に生じていることについても、適切に評価されるべきである。 そして、正常な日常生活の維持・継続が長期間にわたり著しく阻害されていることや、幸福追求による自己実現が日常的に阻害されている現実を踏まえれば、原告らに認められるべき避難(継続)慰謝料は、本件原発事故発生から本訴の口頭弁論終結に至るまで、交通事故事案における他覚症状のない場合の入通院慰謝料(「赤い本」別表Ⅱ)を参考とした上で、月額35万円が認められるべきである。いかに少なくとも、同種訴訟である愛媛訴訟高松高裁令和3年9月29日判決が認容した月額12万円を下ることはない(甲D共21の1 )。 なお、これはあくまで原告らに共通して認められるべき最下限であり、ADR等において被告東電も増額事由を認めているケースについては、当然、判決においても上乗せがなされて然るべきである。 4 ふるさと喪失・生活破壊慰謝料原告らが元居住地における自然資本や社会資本から享受していた有形・無形の経済的価値を失ったこと、社会的な繋がりや支え、生きがい や精神的支柱などの精神的価値を失ったことは、それまでの人生全てを失ったというほかない。 原告らの、ふるさと喪失に関する精神的苦痛は、各原告の陳述書や原告本人尋問の結果により明らかであり、それまでの故郷での生活や幼い頃からの人 とは、それまでの人生全てを失ったというほかない。 原告らの、ふるさと喪失に関する精神的苦痛は、各原告の陳述書や原告本人尋問の結果により明らかであり、それまでの故郷での生活や幼い頃からの人との繋がり、地域とのつながり、故郷の自然とのつながり、など全てを突然奪われ、人生の目標も希望も人生の拠り所も全て奪われてしまった(原告番号1)、避難元は家族の思い出が詰まった故郷だった。原発事故によって奪われたものは単なる居住地ではない。 故郷を奪われ人生を壊された(原告番号4)、子どもたちが「私たちって故郷ないよね?」と発言した(原告番号5)といった陳述内容からも明らかである。 したがって、本件訴訟においても、原告らの避難に伴う不利益を余すことなく直視して、原告らが請求する「ふるさと喪失・生活破壊慰謝料」の算定に関する判断がなされるべきであり、本件原発事故前までの生活や人生の全てを失ってしまった原告らに認められるべきふるさと喪失・生活破壊慰謝料は、2000万円が認められるべきである。 いかに少なくとも、いわき避難者訴訟仙台高裁令和2年3月12日判決が認容した600万円を下ることはない(甲D共16の1 )。 第7章区域外避難における損害第1 「自主的避難等対象区域」の状況 1 政府による避難指示の対象とはされなかったものの、福島第一原発から30㎞圏外を中心とし、後に「自主的避難等対象区域」とされた地域においても、本件原発事故によって大気中に放出された大量の放射性物質が飛来し、地域の自然環境が汚染され、空間放射線量の上昇、飲料水や農作物から放射性物質が検出されるなどの事態となり、地域住民はこれら環境中に放出された大量の放射性物質によって放射線被 ばくを強いられることとなった。 そして、同地域の住民らとしては、原発での水 ら放射性物質が検出されるなどの事態となり、地域住民はこれら環境中に放出された大量の放射性物質によって放射線被57 ばくを強いられることとなった。 そして、同地域の住民らとしては、原発での水素爆発と大量の放射性物質の拡散という未曾有の大事故が発生し、さらに福島第一原発の状況が安定しない中、事故のさらなる進展などによって今後どのように被害が拡大するか不明であり、自らが置かれた状況についての十分な情報もない状態が続いたのであり、極度の不安・恐怖の中で、放射線被ばくによる生命身体への危険にさらされる状況に追い込まれていた。 2011年3月11日以降の報道において、20キロ圏においては強制避難の指示が出され、住民は残っていない状況下において、20~30キロ圏は政府から屋内退避とされた後に自主避難へとレベルが上がっていき、官房長官が「指示」も検討するという状況に至っており、危機感を抱くこと、脱出を検討することが自然かつ合理的な状況となっていたことが明らかである。 第2 区域外避難者にも区域内避難者と同様に賠償されるべき精神的損害が発生していること1 「避難を余儀なくされた慰謝料」について(1)区域外避難者に「避難を余儀なくされた慰謝料」が認められること仙台高裁は、「生業訴訟」の控訴審判決(仙台高裁令和2年9月30日判決・甲D共15の1)においても、「避難を余儀なくされた慰謝料」を認めているが、その際には、避難指示等区域内からの避難者だけではなく、(上記いわき避難者訴訟の原告らには含まれていなかった)区域外の住民についても「避難継続慰謝料」とは別に「避難を余儀なくされた慰謝料」を認めている(具体的には、「自主的避難等対象区域」の原告らについて、①「子供・妊婦は自主的に避難するのも無理はない状況に追い込まれた点」につき避 継続慰謝料」とは別に「避難を余儀なくされた慰謝料」を認めている(具体的には、「自主的避難等対象区域」の原告らについて、①「子供・妊婦は自主的に避難するのも無理はない状況に追い込まれた点」につき避難の有無を問わず15万円(子ども・妊婦以外の者には「自主的に避難することが合理的といえる程度58 の恐怖・不安を覚えた点」につき5万円)。 さらに、「愛媛訴訟」の控訴審判決(高松高裁令和3年9月29日判決、甲D共21の1)においても、同様の観点から、旧「避難指示解除準備区域」の住民に対して、①「避難を余儀なくされた慰謝料」として200万円(+②避難継続慰謝料を月額12万円×85ヶ月分と③故郷喪失慰謝料100万円で、合計1320万円)、また、旧「緊急時避難準備区域」の住民に対しても、①「実質的に強制的に転居させられた慰謝料」として150万円が、加えて「自主的避難等対象区域」についても、①「自主避難慰謝料」が認められている(子ども・妊婦20万円、それ以外の者10万円)ことが注目されるべきである。 (2)確定裁判例における「避難を余儀なくされた慰謝料」の確立この「避難を余儀なくされた慰謝料」の本質は、「生命・身体の危殆化/身体権に直結・接続する平穏生活権侵害」による(単なる不安ではない)「危険直面慰謝料」である。 とりわけ区域外の住民にあっては、適切な避難計画や十分な情報がない状況下において、本件原発事故による放射線被ばくを余儀なくされるなか、自己または家族の生命・身体をさらなる放射線被ばくから守るために、自らが情報を収集し、リスクを評価し、避難について極めて困難な決定を強いられ、事故後の報道においても、連日、原発の危機的状況や、区域内外を問わず高線量の放射線が検出されたことが報じられ続けていた(原告ら準備書面(13)、 クを評価し、避難について極めて困難な決定を強いられ、事故後の報道においても、連日、原発の危機的状況や、区域内外を問わず高線量の放射線が検出されたことが報じられ続けていた(原告ら準備書面(13)、甲D共53の1~30、甲D共54の1~30)。 このような状況下においては、避難指示区域外の住民であっても生命・身体の危険に直面していたと評価できる。 (3)最低限の「避難を余儀なくされた慰謝料」の額区域外避難者に対しては避難指示が出ていないため、それらの避難 者は、先行きがまったく見えない中、自宅や仕事、学校や親戚・友人関係をすべて捨てる覚悟で避難をするか、生命身体に対する危険を甘受して現地に残るか、自らの判断による究極の選択を迫られたのであり、これは、選択肢があるが故の重大な苦痛である。そして、実際にはすべてを捨てる覚悟をすることは極めて厳しい決断になるにもかかわらず、行政が把握できただけでも全人口の2~3パーセントもの被災者がその覚悟をして避難を決断したのである(原告ら準備書面(16)5頁以下)。 このような区域外避難者に対して、少なくとも100万円の「避難を余儀なくされた慰謝料」が認められるべきである。 2「避難(継続)慰謝料」について(1)避難行動・避難生活の継続に伴う精神的損害政府の避難指示等の対象区域外から避難した区域外避難者は、本件原発事故によって旧居住地からの避難行動、その後も数年間に及ぶ避難生活の継続を余儀なくされ、区域内避難者と同様に、多大な精神的損害を被っている。 区域外避難者に特有の損害として、避難指示が出ていないが故に、旧居住地に残らざるを得なかった同居の家族・親族と別離(とりわけ母子避難家庭における父親との別居、二重生活など)する事案が多数発生した他、区域外避難を巡る関係性の悪化も多 難指示が出ていないが故に、旧居住地に残らざるを得なかった同居の家族・親族と別離(とりわけ母子避難家庭における父親との別居、二重生活など)する事案が多数発生した他、区域外避難を巡る関係性の悪化も多数発生した。 さらに、同居の家族や親族以外でも、友人や知人との関係等において、避難できた者と、様々な理由により避難したくてもできなかった者との間に大きな溝が生じ、関係性が悪化したり、完全に壊れてしまった事例も多い。 原告らにおいても、何の悩みもなく避難を決めた者はおらず、これまでのかけがえのない故郷での生活・生活基盤の全てを捨てて避難を60 するか、将来の健康リスクを甘受して避難しないことを選択するか、という深刻な犠牲を伴う究極の選択を迫られ、悩み抜いた末に避難や避難の継続という結論を出したものである。 区域外避難者の中には、以上のような深刻な被害を受け、その精神的苦痛によって、体調の悪化や精神的不調など身体的な影響が生じた者も少なくなく、(特に子どもらに甲状腺異常などが指摘される中での)自身や子どもらの将来における健康被害の現実的可能性と強い不安、放射能への恐怖心を抱いたり、親として避難が遅れたこと(あるいは避難により子が辛い思いをしたこと)に対する自責の念、子どもらが将来結婚等において社会的差別を受ける可能性に対する不安を抱いたり、避難者に対する住宅の無償提供打ち切りや家族関係の悪化による経済的困窮と将来への不安を抱いたりしており、これらの状況からも区域外避難者に生じている精神的損害は極めて深刻である。 (2)避難期間に応じた慰謝料算定の必要性区域外避難者も本件原発事故によって旧居住地からの避難行動と避難生活の継続を余儀なくされたものであるところ、避難生活に伴う精神的苦痛は、避難生活の継続によって経時的に発生し続ける性 料算定の必要性区域外避難者も本件原発事故によって旧居住地からの避難行動と避難生活の継続を余儀なくされたものであるところ、避難生活に伴う精神的苦痛は、避難生活の継続によって経時的に発生し続ける性質のものであり、避難継続の相当性が認められる期間に対応する形で「避難慰謝料」の金額が算定されるべきである。 避難継続の相当性が認められる期間に関しては、例えば、原子力損害賠償紛争解決センターの和解仲介手続(ADR)において、被告東電は、自主的避難等対象区域である福島市、郡山市、須賀川市、本宮市、相馬市等からの区域外避難者に関して、平成27年3月までの避難費用、生活費増加費用等の支払について和解に応じている例が多数あり、少なくとも平成27年3月までは避難継続の相当性があることについては、原子力損害賠償紛争解決センターのみならず、被告東電61 自身もこれを認めているということができる。 本件原発事故から10年以上が経過した現在もなお、避難指示の対象とはされなかった自主的避難等対象区域においても、残留放射線量は事故前に比べて未だに高く、土壌の放射能汚染も深刻であり、特に線量が高いホットスポットが依然として点在している。 とりわけ(子どもらを中心として)将来の長期間にわたって生活をするという上においては、今後の生涯、数十年間という長期のスパンで被ばくする累積の放射線量が考慮されなければならず、避難指示の対象外とされた地域における生涯積算放射線量は、被告らにおいても放射線による健康影響のリスクを否定できないレベルにあると考えられるのであり、現在もなお避難継続の相当性が認められると評価すべきである。 (3)最低限の「避難(継続)慰謝料」の額ア 避難による苦痛は、避難指示区域から避難した場合と区域外から避難した場合とで変わることはない。 なお避難継続の相当性が認められると評価すべきである。 (3)最低限の「避難(継続)慰謝料」の額ア 避難による苦痛は、避難指示区域から避難した場合と区域外から避難した場合とで変わることはない。そのため、少なくとも避難指示区域からの避難者と同様に、月額10万円の避難慰謝料が認められるべきである。 イ ここで、最低限の避難慰謝料の最低額を検討するに当たっては、被告東電においても、妊婦・18歳未満の子に対して、平成24年8月まで精神的損害や生活費増加費用を支払っている事実に照らし、この「平成24年8月」を目安とする(後述のとおりこれはあくまで本検討のための「目安」である)。 加えて、仮にこの平成24年8月時点で避難期間が終了したとしても、避難生活は長期にわたっているため、直ちに元の生活に戻ることは不可能であり、避難期間終了後も相当期間(最低1年間)は、なお避難慰謝料が認められるべきである。この点、中間指針第二次追補62 においても、旧緊急時避難準備区域につき平成23年9月30日に指定が解除されているが、それから1年後の平成24年8月末日までの期間、避難費用や精神的損害の賠償を認めていることが参考になる。 そのため、避難慰謝料は、少なくとも平成23年3月から平成25年8月まで30か月の間、月額10万円ずつ、総額300万円が認められるべきである。 ウ なお、被告東電が自認している「平成24年8月まで」という避難期間については、あくまで今回の慰謝料金額を検討するに当たって、最低限の期間を目安として便宜的に定めたに過ぎない。この点は、原告らにとって重要と考える部分であるため、誤解がないよう強調するが、実際には区域外避難者の避難期間を平成24年8月までとするのは短すぎ、現在もなお避難継続の相当性が認められる。 平成23年12月 原告らにとって重要と考える部分であるため、誤解がないよう強調するが、実際には区域外避難者の避難期間を平成24年8月までとするのは短すぎ、現在もなお避難継続の相当性が認められる。 平成23年12月に政府の収束宣言によって福島第一原発の冷温停止状態の達成が「確認」されたことを重視し、その時点もしくはそこから一定期間経過までを避難継続の相当性を認める期間とする見解もあるが、放射線量の観点からすればそれらの見解は根拠がない。 前述のとおり、避難指示の対象外とされた地域における生涯積算放射線量は、被告らにおいても放射線による健康影響のリスクを否定できないレベルにあると考えられる。 そもそも、福島第一原発の現状は、燃料デブリの取り出し時期さえまったく目処が立たない状況で、「事故の収束」とは程遠い状況にある。 3 「ふるさと喪失・生活破壊慰謝料」について(1)ふるさと喪失・生活破壊に伴う精神的損害区域外避難者に対しては、避難指示の対象とされた区域からの避難63 者と同様、上記「避難慰謝料」とは別に、本件原発事故によって不可逆的に生じた損害に対して「ふるさと喪失・生活破壊慰謝料」が認められるべきである。 区域外避難者の実情について詳しく見れば、避難に伴う精神的苦痛だけにとどまらず、元居住地からの避難および避難の継続を余儀なくされたことにより、従来有していた生活の基盤(家族を含む人間関係、学校・職場など)を喪失あるいは変容させられてしまっており、区域外避難者と避難指示対象区域内からの避難者との間に本質的な差異はない。 そして、従来有していた生活の基盤は、まさに人格的発展の基盤、「生存と人格形成の基盤」であったのであり、それが喪失あるいは変容させられたことによる被害は極めて深刻である。 この点、m教授(龍谷大学法学部)も、以下のよ た生活の基盤は、まさに人格的発展の基盤、「生存と人格形成の基盤」であったのであり、それが喪失あるいは変容させられたことによる被害は極めて深刻である。 この点、m教授(龍谷大学法学部)も、以下のように指摘しているところである。 「「ふるさと喪失・変容」損害の核心は、「包括的生活利益としての平穏生活権(包括的平穏生活権)」の一部を構成する「地域生活を享受する権利(地域生活享受権)」の侵害によって生じる「地域コミュニティ喪失による損害」であるとされ」る。(甲D共115、21頁以下)その「「地域コミュニティ喪失」(地域で形成された他者とのつながりの喪失)は、区域外避難の場合にあっても生じ、また区域内避難者と同様に、避難が長期化すれば、喪失が固定化し、「個人の生存と人格形成の基盤の破壊・毀損」(避難元の地域コミュニティからの離脱による社会関係資本等の喪失)に至る。地域全体の生活インフラが大きく損なわれずとも、避難元の地域コミュニティからの離脱を余儀なくされ、その状態が固定化するならば、当該地域コミュニティが当該避難者に固有かつ非代替的な価値を有すれば有するほど、たとえ避難先で「一64 応の生活再建」を果たしたとしても、各避難者には回復しがたい損害が残る。」(甲D共115、22頁以下)「避難者等は、避難指示の有無にかかわらず、これを余儀なくされることによって、既存の地域コミュニティ(地域社会において形成された多種多様な社会関係資本+自然資本)から物理的に切り離されることに変わりはない。これにより、当該個人に帰属しうるこれら社会関係資本等を含む居住元での包括的生活利益は「同時かつ包括的に」喪失している。避難の長期化に伴い、その価値喪失は固定化することにより、「日常的な幸福追求による自己実現の阻害」にとどまらない「個人の生存・ 等を含む居住元での包括的生活利益は「同時かつ包括的に」喪失している。避難の長期化に伴い、その価値喪失は固定化することにより、「日常的な幸福追求による自己実現の阻害」にとどまらない「個人の生存・人格形成の基盤の破壊・毀損」という損害(生活再建によってもなお価値回復できない損害)が生じることは否定できないからである。 たしかに、避難指示等により社会インフラを含め地域コミュニティの存立そのものが深刻な破壊を受けた地域の住民とは、損害の程度は異なるであろうが、その事情をもって直ちに損害を否定することにはならない。避難者が避難先または避難元で当該生活利益を含めた真の価値回復・生活再建を果たしたと評価しうる場合に初めて損害はないと言いうるにすぎないからである。」(甲D共115、26頁以下)以上より、区域外避難者に対しても、避難指示対象区域内からの避難者に対するのと同様に、前述の「避難慰謝料」とは別に「ふるさと喪失・生活破壊慰謝料」が認められるべきである。 (2)最低限の「生活破壊慰謝料」の額たとえ、避難指示区域内のように地域全体の生活インフラが大きく損なわれずとも、避難元の地域コミュニティからの離脱を余儀なくされ、その状態が固定化するならば、(当該地域コミュニティが当該避難者に固有かつ非代替的な価値を有すれば有するほど)たとえ避難先で65 「一応の生活再建」を果たしたとしても、それぞれの避難者には、回復しがたい損害が残る。 このような生活破壊慰謝料は、避難慰謝料とは別途評価されるべきであり、その金額は少なくとも150万円を下ることはない。 第8章 被告国の規制権限不行使の違法の重大さと被告東電の加害行為の悪質さによる慰謝料の増額第1 被告国の規制権限不行使と被告東電の加害行為1 被告東電の津波対策懈怠の悪質さ(1 ない。 第8章被告国の規制権限不行使の違法の重大さと被告東電の加害行為の悪質さによる慰謝料の増額第1 被告国の規制権限不行使と被告東電の加害行為 1 被告東電の津波対策懈怠の悪質さ(1)被告東電は、「4省庁報告書」「7省庁手引き」が、1997(平成9)年の時点で、既往最大ではなく、地震地体構造に基づき想定される最大規模の地震・津波を検討すべきとしたことに対し、当初は強い抵抗を示したが、これを受け入れて検討することを余儀なくされた。したがって、2002(平成14)年2月において公表された土木学会の「津波評価技術」が、福島県沖海溝沿いに波源モデルを設定していないことについて、これが政府の津波対応方針に比して、明らかに不十分なものであることを当然に認識していたはずであるが、被告東電は、あえて「津波評価技術」において設定された波源モデルに基づいて福島第一原発に到来する津波評価を行い、福島第一原発が津波に対して安全性を有するものとした。 (2)このような被告東電にとって、同年7月の「長期評価」の公表は脅威であった。将来の地震予測に関して最も権威のある政府の地震本部が、福島県沖海溝沿いの津波地震の発生を予測し、公表するとなれば、福島第一原発が津波に対して安全なのかが問われることになり、早急に津波対策を講じなければならなくなるからである。 ここから、被告東電は再び、被告国に対する抵抗を画策することになる。地震本部が「長期評価」を公表した直後の2002(平成1 4)年8月5日、保安院が「長期評価」の知見に基づき、「福島~茨城沖も津波地震を計算するべき」と伝えてきたことに対して、被告東電は、「長期評価」とは別の見解があることを説明して40分にもわたる「抵抗」(被告東電自身が用いた言葉である。)を行い、地震本部の委員に「長期 波地震を計算するべき」と伝えてきたことに対して、被告東電は、「長期評価」とは別の見解があることを説明して40分にもわたる「抵抗」(被告東電自身が用いた言葉である。)を行い、地震本部の委員に「長期評価」がそのような結論に至る経緯を尋ねることを「宿題」とすることによって、ひとまず、津波の試算を免れたのである。 被告東電は、翌日、地震本部の委員であったB氏に対して、質問の意図を秘してメールで質問し、その約2時間後に簡単な回答メールを受け取って、同月23日、保安院の係官に報告した。その報告内容は、「長期評価」の見解の地震学上の根拠や議論経過を説明するものではなく、「B先生は、分科会で異論を唱えたが、分科会の結論としてはどこでも起こると考えることになったとのこと」という簡単なもので、あたかもB氏が「長期評価」の見解に反対であることを強調するかのような伝え方であった。被告東電は、保安院にこのように報告することによって、「福島~茨城沖も津波地震を計算するべき」とする当初方針を速やかに撤回させた。 このように、被告東電は、長時間にわたる「抵抗」の後、専門家との間で極めて簡単なメールのやり取りを行い、その結果を保安院に簡潔に伝えるだけで、1ヶ月も経たないうちに、「長期評価」に基づく保安院の規制から免れるという「成果」を獲得したのである。 (3)以上のとおり、被告東電は、1997(平成9)年に引き続き、2002(平成14)年も、コストをかけて津波対策を講じなければならないという事態を避けるため、福島県沖には大地震が起きることはないとの前提で「抵抗」し、規制からのすり抜けに成功したが、2006(平成18)年の耐震設計審査指針の改訂によって、「極めてま れではあるが発生する可能性があると想定することが適切な津波」によっても原発の安全性を 規制からのすり抜けに成功したが、2006(平成18)年の耐震設計審査指針の改訂によって、「極めてま67 れではあるが発生する可能性があると想定することが適切な津波」によっても原発の安全性を確保しなければならない、最新の知見も考慮しなければならない、とされたことから、再び「長期評価」を検討せざるを得ない状況となり、その方向性での検討が進められていった。 被告東電内の土木調査グループは、福島県沖も波源として考慮すべきであるとの学者のアドバイスも踏まえ、明治三陸地震の波源モデルを福島県沖にずらした試算を実施したところ、敷地南側でO.P.+15.7mという試算結果が出たため、「津波対策は不可避」であると判断し、試算結果と防潮堤を設置する対策工事の必要性を被告東電の役員(S氏)に報告したが、この提案は役員によって握りつぶされ、耐震バックチェックでは「長期評価」を取り扱わないとの方針に変更された。被告東電社内には、現場レベルから、津波対策工事が必要である意見がようやく形成されたのであるが、今度は、上層部がこれを覆し、被告東電は、再び「長期評価」を葬り去ったのである。 このときの被告東電の対応について、仙台高裁令和5年3月10日判決は、「原子力発電所の安全対策についての著しい責任感の欠如を示すものである」と糾弾している(甲D共55・26頁)。 (4)同じ年(2008年)、今度は、貞観津波の波源モデルに関するB論文に関する情報を得た被告東電は、学者のアドバイスに基づき、B論文に基づく試算を実施し、この試算結果を踏まえ、翌2009年3月には、最大8.7m(パラメータスタディを実施すれば11.31m)との数値を示したが、対策をとることはしなかった。 東北電力は、「宮城県沖地震における重点的調査観測」の平成19年度成果報告書が公表される直前 8.7m(パラメータスタディを実施すれば11.31m)との数値を示したが、対策をとることはしなかった。 東北電力は、「宮城県沖地震における重点的調査観測」の平成19年度成果報告書が公表される直前の2008(平成20)年3月5日の時点で、貞観津波の知見を耐震バックチェックに取り入れることについて積極的であったが、同年10月、被告東電は、東北電力に対し て、「貞観津波最新モデルの位置づけを『3年間の電共研で取り扱いを検討後、改めてバックチェック』にできますか?」「福島沿岸で大きな値になることから、慎重な検討が必要と考えています」などと述べて耐震バックチェックに取り入れないよう足並みを揃えるための姑息な働きかけも行った。 同年9月、保安院に報告した試算結果に基づき、保安院から「水密化」も含めた対策工事を促されたが、被告東電は「(対策工事をしなければ)炉を止めることができるんですか」などと抵抗し、自ら津波堆積物調査を実施するなどして先延ばしし、津波評価を含めた耐震バックチェックの最終報告書の提出もしないまま、結局、本件地震を迎えてしまった。貞観地震が「長期評価」の改訂版に盛りこまれることがわかり、2011(平成23)年になって慌てた保安院が被告東電に報告させた事実は認められるが、本件地震の4日前の時点においても、津波対策について具体的に決定されたものは何もなかった。 (5)以上の経過から、本件原発事故に至るまでの被告東電の対応は、福島県沖海溝沿いで津波地震が発生する可能性があるとする地震本部の「長期評価」を検討し、これを津波対策に活かす機会は何度もあったにもかかわらず、保安院に抵抗し、規制をすり抜け、または、知見を葬り去るというもので、津波対策を積極的に行うどころか、いかにこれを回避するかということに労力を注ぎ込んだといっ かす機会は何度もあったにもかかわらず、保安院に抵抗し、規制をすり抜け、または、知見を葬り去るというもので、津波対策を積極的に行うどころか、いかにこれを回避するかということに労力を注ぎ込んだといっても過言ではない。貞観地震・津波の知見に関しても同様であって、とにかく先延ばしにして、耐震バックチェックに取り入れて速やかに対策を講じようとする意思など毛頭なかったのである。 本件原発事故は、周辺住民、国民の安全確保という原子力事業者にあるまじき態度を繰り返したがゆえにいわば必然的に発生した人災なのであって、本件原発事故に至るまでの被告東電の行動はあまりに悪69 質である。 2 被告国の規制権限不行使の違法性の重大さ(1)一方、規制する側の被告国はどうかといえば、規制庁としての役割を全く自覚せず、責任放棄を繰り返してきた。 上記のとおり、2002(平成14)年8月、当初は、「長期評価」に基づき、「福島~茨城沖も津波地震を計算するべき」との方針をもって被告東電に接触したにもかかわらず、被告東電から40分間の「抵抗」にあい、その後、「長期評価」の結論に至った経緯について地震本部の委員に確認するという「宿題」を規制・監督される側の被告東電に委ね、後日、被告東電の結果報告を鵜呑みにして、十分な検証を経ることなく、当初方針を撤回した。 百歩譲って、とりあえず地震本部の委員の意見を被告東電の方で聴いてみるというのは良いとしても、規制される側の被告東電の報告を聞いてそれをもとに最終判断を行うことなど、規制庁としてあってはならないはずである。 しかるに、保安院は、あろうことか、地震本部の委員への照会を被告東電に任せきりにして、保安院自身が確認するという作業を一切せず、B氏から聴いたという被告東電の言い分を鵜呑みにして判断したのである。 かるに、保安院は、あろうことか、地震本部の委員への照会を被告東電に任せきりにして、保安院自身が確認するという作業を一切せず、B氏から聴いたという被告東電の言い分を鵜呑みにして判断したのである。 保安院自身の規制のあり方を見直すかどうかという重要局面なのであるから、被告東電がB氏に意見を聞いたということで報告を受けたのであれば、その内容はあまりにも簡潔で要領を得ないものだったのであるから、被告東電の報告内容を検証するために、B氏に直接確認し、あるいは、念のため他の委員の意見を聴いて判断するということも考えられてしかるべきであるのに、保安院はそのような簡単にできることすら一切していない。 70 被告東電から報告を受けた保安院の係官は、即座に「そうですか。 分かりました。」と述べ、このやりとりをもって、保安院の耐震班として被告東電の方針を了承したというのであって、被告東電の方針を最終的に是認するにあたって保安院内部で慎重に検討した形跡も全くない。 このような簡単なやりとりをもって、保安院の当初の方針を変更するというのは、規制庁の役割を放棄しているといわざるを得ない。 (2)保安院は、地震本部の「長期評価」という、将来の地震の発生可能性に関する最も信頼できる知見が公表され、これに基づいて「福島~茨城沖も津波地震を計算するべき」と判断したにもかかわらず、被告東電から抵抗されて、すぐさま「長期評価」を規制の前提としての知見と位置づけることを放棄してしまったのである。被告国(保安院)は、規制庁としての責務を担うという発想が全くなく、したがって自ら専門家に意見を求めるということもせず、ただアリバイ作りのように電力会社に接触するだけであった。 そうであるがゆえに、電力会社に対する説得力に欠如し、反論・抵抗されれば逃げ腰となり、電力会社 自ら専門家に意見を求めるということもせず、ただアリバイ作りのように電力会社に接触するだけであった。 そうであるがゆえに、電力会社に対する説得力に欠如し、反論・抵抗されれば逃げ腰となり、電力会社から軽んじられていた。 保安院は、一度は、被告東電に対し、「長期評価」の知見に基づき、海溝沿い福島沖での津波地震を想定して試算すべきと言ったにもかかわらず、その考えを諦めて以降は、被告東電が2008(平成20)年の時点で津波試算をしていたこと自体を知らなかったというのは、あまりにもお粗末というほかない。 (3)また、保安院が、最新の知見の指摘を受けて被告東電に接触し対策を講じさせようとするも、被告東電の抵抗にあって規制を放棄してしまうという構図は、貞観地震の最新の知見が得られた2008(平成20)年以降も同様であった。 71 すでに述べたように、保安院は、2009(平成21)年8月、被告東電の貞観地震津波に関する検討状況を確認すべく被告東電の担当者と面談したが、被告東電は、すでに前年の2008(平成20)年11月の時点でB論文に基づく試算を実施していたにもかかわらず、これを自主的に持参せず、「津波評価技術」に記載された波源モデルに基づく試算結果を持ってきただけであった。 I氏が、後日被告東電が持参した試算結果を見て、「水密」という言葉を用いて津波対策を促したことに対し、被告東電は、「津波堆積物調査を行って、土木学会の検討を待ちます」「土木学会の結果を踏まえないことには会社として判断できないと思う」などと回答し、貞観地震に関する検討をしないで最終報告を行うというスタンスを明確にしていた。 そして、対策工事を促してきたI氏に対し、「(もし対策工事をしないとすれば、保安院は)炉を止めることができるんですか」などと述べて強く反発した いで最終報告を行うというスタンスを明確にしていた。 そして、対策工事を促してきたI氏に対し、「(もし対策工事をしないとすれば、保安院は)炉を止めることができるんですか」などと述べて強く反発した。 I氏は、被告東電から強い態度に出られた結果、「水密化」のような対策を「予算をとってでもやりなさい」とまでは言わず、結局、被告東電に対して、津波対策の検討を促す程度で話を終えてしまい、具体的な対策を講じるよう求めるというところまでいかなかった。 I氏は、被告東電の抵抗を受けて、さらに上司と協議の上、被告東電に対して対策を促すなどの対応を全くしなかったのである。 (4)その後、2010(平成22)年になって3号機でのプルサーマル計画が浮上し、より早い段階で貞観地震・津波に関する検討が迫られる可能性を認識して焦った保安院は、内部のメールのやり取り等を通じて、貞観地震と同様の地震が発生すれば福島第一原発の敷地高を超える津波が到来する可能性のあることを認識した。そして、同年5月72 には、産総研のさらなる研究の結果、a町のh地区からも津波堆積物が発見されたことを知り、「津波堆積物は南の方では見つからなかった」という被告東電自身による津波堆積物調査の結果の信用性に疑問をもったが、「対応をやったほうがよい」と述べるにとどまる程度で、被告東電に対して強く対策を講じさせることをしなかった。 (5)改めて論じるまでもなく、原子力事業は、被告国が積極的に推進してきた事業であって、原発の設置から運転まで安全性の確保を行い得るのは専ら被告国である。保安院は、いわば国民の負託を受けて、原発の安全性を確保し、国民に保証しているのであるから、原発の安全性を損なうおそれのある津波に関する専門的知見を不断に収集し精査、検討することによって、規制の根拠を明確にし わば国民の負託を受けて、原発の安全性を確保し、国民に保証しているのであるから、原発の安全性を損なうおそれのある津波に関する専門的知見を不断に収集し精査、検討することによって、規制の根拠を明確にし、必要があれば電力会社の意向にかかわらず、強く対策を講じさせる責務がある。 しかしながら、実際の保安院の姿勢は、新たな見解が発表されたり、学者が意見を述べると、それに振り回されて、いわばアリバイ的に電力会社に接触して発言し、ところが、知見に関する十分な調査・検討を経ていない「打診」程度の重みしかもっていないために、とても電力会社を説得することなどできず、電力会社からは舐められ、その抵抗に合うとすぐ引き下がる、という、その繰り返しであった。 (6)貞観地震の知見は、2011(平成23)年になって「長期評価」に反映されることが決まり、保安院は大慌てであったが、この時点で初めて新たな知見が得られたということではなく、すでに2008(平成20)年の時点で得られていた知見であった。「長期評価」として広く公表されると、これに対する対策を講じているかどうかを対外的に説明する必要があることから焦っていたと思われるが、保安院の責務からすれば、対外的な説明の要否にかかわらず、最新の科学的知見に基づく真の必要性が認められるならば強く規制をしなければな73 らなかったのである。 保安院は、遅くとも2008(平成20)年3月の時点で、東北電力に対しては、貞観津波を考慮すべきであると伝えていた。また、保安院から安全性審査を委託されていたJNESは、耐震設計指針改訂に伴う報告書のクロスチェックにおいてB論文の波源モデルを使っており、保安院のI氏もそのことを知っていた。当時、保安院は、貞観津波の重要性を認識していたのである。 そうである以上、保安院としては、 に伴う報告書のクロスチェックにおいてB論文の波源モデルを使っており、保安院のI氏もそのことを知っていた。当時、保安院は、貞観津波の重要性を認識していたのである。 そうである以上、保安院としては、被告東電から抵抗されても、これに屈することなく、強く対策工事を促し、それでも拒否するのであれば、電気事業法40条に基づく技術基準適合命令の発出を検討すべきだったのである。 (7) 保安院は、原子力発電所の安全性確保のために、専門的知見を収集、調査・研究して、被告東電に対する適時かつ適切な規制を行うべき立場にありながら、前述のとおり、これを積極的に行う意思はなく、被告東電から抵抗されるとそれ以上は深く立ち入れないという関係性が継続してきたといえるのであって、明らかに「規制の虜」といえるものであった。 第9章 被告東電の弁済の抗弁に関する主張に対する反論第1 費目間充当が認められないこと1 精神的損害と財産的損害は一つの請求権とは評価できないこと被告東電は、「本件事故という同一の不法行為により生じた財産上の損害と精神上の損害とは、その賠償の請求権は実体法上の請求権として1個であり、訴訟物の個数としても1個である」とし、それを前提に、費目間充当が可能である旨の主張を行う。 この請求権の個数に関して、被告東電も引用する最高裁判決に基づけば、最高裁は、被侵害利益の異同により、請求権の個数を判断して74 いるものといえる。 この点、原告らに発生したすべての損害について、その被侵害利益が共通するわけではない。 本件事故によっては被侵害利益を異にする損害が発生している以上、すべての費目間で充当が認められる旨の被告東電の主張は前記最高裁判決に反するものであって認められる余地はない。 2 当事者間の意思解釈の結果として、費目間の弁済充 を異にする損害が発生している以上、すべての費目間で充当が認められる旨の被告東電の主張は前記最高裁判決に反するものであって認められる余地はない。 2 当事者間の意思解釈の結果として、費目間の弁済充当は認められないこと(1)ADRでの合意内容ADRの和解においては、通常、「1 和解の範囲」で、「本件に関し、下記の損害項目(下記の期間に限る。)について和解する」と定め、具体的な損害費目と金額を列記し、その上で「2 和解金額」で、「前項記載の損害項目についての和解金として」の支払い義務があることを認めている(甲D共117)。 このような合意をし、その合意に基づき支払いを行っている以上、被告東電が、本訴訟において、この和解金額について改めて争うことはできない。 一方、ADRの和解条項には、清算条項として「本和解に定める金額を超える部分につき、本和解の効力が及ばず、被害者が被告東電に対して別途損害賠償請求することを妨げない」旨の定めもあるため、後日、被害者側から「更なる損害がある」として争うことができることは明記されている。(その反対解釈としても、「本和解に定める金額を超えない部分」については、「本和解の効力が及ぶ」こととなり、東京電力の側から後日和解金額を争うことはできないと言える)これに対し被告東電は、この清算条項について、「あくまでも追75 加の賠償金請求の余地を認めたものにすぎない」と主張するが(被告東電第17準備書面3頁)、追加の賠償金請求の余地を認めるためだけにこのような文言を入れることはない。追加の賠償金請求の余地を残したいのであれば、清算条項自体を入れなければよいだけである。それにも関わらず敢えてこのような清算条項を入れたのは、少なくともADRで和解した範囲については後日争わないことを明示するためであ 地を残したいのであれば、清算条項自体を入れなければよいだけである。それにも関わらず敢えてこのような清算条項を入れたのは、少なくともADRで和解した範囲については後日争わないことを明示するためである。 (2)直接請求による合意内容被告東電は、賠償項目を細分化し、「個人賠償(全般)」、「財物」、「自主的避難等に関わる賠償」、「法人・個人事業主様に対する賠償」、「自主的除染にかかわる賠償」などの基準を自ら策定し、その基準に基づき費目毎に整理された請求書(甲D共119)を送付し、それぞれの金額を明示させ、証拠の提出も求めた上で、被告東電においてその請求を認めるかどうかの認否を行う(甲D共120「ご請求いただいた金額からの変更点について」参照)。被告東電は、そのような金額の認否の結果や仮払金精算の結果を示した「お支払い明細書」を作成して各損害費目毎の金額を明示し(甲D共120)、「賠償金はそのお支払い明細書記載の金額であることについて合意する」旨の合意書を被害者に記載させた上で、支払いを行っている(甲D共121)。賠償金支払いの際には、被告東電が当初支払った仮払補償金についても、精算が行われている。 このような賠償手続きの実態からして、直接請求により支払われた費目及び金額については、被告東電もその損害の存在を認めた上で支払われたものであって、当事者間で確定的な賠償として扱われていることが明らかであり、後日、金額についてそれより低い額であると被告東電が主張したり、他の費目に充当したりするような処76 理はまったく予定されていない。 なお、被告東電自身、精算の方法について明記されていないことは認めており(被告東電第17準備書面4頁)、この点からも費目間充当の合意は認められない。 被告東電は、直接請求手続において費目間充当が行わ お、被告東電自身、精算の方法について明記されていないことは認めており(被告東電第17準備書面4頁)、この点からも費目間充当の合意は認められない。 被告東電は、直接請求手続において費目間充当が行われた事例も存する旨主張するが(被告東電第17準備書面5頁)、それは個別事例において被告東電が一方的にそのような処理を行い、それに対したまたま相手方から異議が出なかった、というだけの話であって、直接請求手続一般の合意内容とは関係のない話である。 (3)「事実と異なることが判明した場合」という条項について被告東電は、直接請求手続において「事実と異なることが判明した場合には、賠償金の返還を含め精算されること」という条項が存することを理由に、確定効・不可争効のある合意は成立していないと主張する。具体的には、仮にそのような合意が成立しているのであれば、既払金について過不足が調整される余地はないはずであり、上記「賠償金の返還を含め精算される」という合意は、既払金について過不足調整の余地を残すものであり、確定効・不可争効がないことを端的に示している旨主張する(被告東電第17準備書面6頁)。しかし、これは論理が逆転している。 合意に確定効・不可争効がなければ、いつでも再精算が可能なのだから「事実と異なることが判明した場合には精算される」旨の条項など入れる必要がない。合意に確定効・不可争効が発生するからこそ、例外的に、その効力を破って再度精算される場合があることを明示する必要があったのであり、この条項の存在こそが、合意に確定効・不可争効が発生していることを明確に示している。 (4)原告らの合理的意思 原告らは、直接請求やADRによって賠償の支払いを受ける際に、「後日、損害費目及び金額について再度立証し直さないと、賠償が減額され 確に示している。 (4)原告らの合理的意思77 原告らは、直接請求やADRによって賠償の支払いを受ける際に、「後日、損害費目及び金額について再度立証し直さないと、賠償が減額されたり返金を求められたりする可能性がある」などという事態を望んでいることはあり得ない。原告らとしては、少なくとも支払われる費目及び金額の範囲で損害が生じていることを確定させる意思で賠償を受領していることが明らかである。 (5)被告東電の合理的意思ア 賠償の経緯前述のとおり、被告東電はADRにおいて、損害費目と金額を特定した上で、それらの支払義務があることを明示して和解しているのであるから、賠償金額を確定させる意思で和解していることが、和解条項上明らかである。 また、直接請求手続きにおいても、被告東電は自ら費目毎に賠償額の基準を定めて金額を明示し、請求書を被害者に送付して、金額の明示と証拠の提出を求めた上で、お支払い明細書を作成して賠償の費目と金額を確認するとともに、被害者に合意書を記載させた上で賠償の支払いを行っている。このような流れを経ている以上、被告東電としても、費目毎に、少なくとも支払いを行う金額に相当する損害が生じていることを認める意思で賠償を行っていることが明らかである。 イ 訴訟内外における被告東電の主張(ア) 被告東電は、「被害者らと確定効・不可争効のある合意が成立しているものではない」(東電第6準備書面6頁以下)旨主張するが、これは、これまで被告東電自身が訴訟内外で主張している内容と矛盾する。 (イ) まず、この被告東電の「被害者らと確定効・不可争効のあ78 る合意が成立していない」という主張の帰結を確認する。 この主張によれば、被告東電は、極めて多数に上る原発事 る。 (イ) まず、この被告東電の「被害者らと確定効・不可争効のあ78 る合意が成立していない」という主張の帰結を確認する。 この主張によれば、被告東電は、極めて多数に上る原発事故の被害者らと、未だ1件も終局的な和解に至っていないことになる。すなわち、被告東電は、ある日突然、被害者全員に対し、「賠償を払いすぎたから返金しろ」と返還請求を起こすことも可能となるのである。そのようなことが実際には行われないとしても、「被告東電の一存で自由に返還請求を起こすことが可能である、その請求を退けるためには、被害者自ら損害額をすべて立証し直さなければならない」という状況にある、というだけで、被害者らは極めて不安定な立場に置かれるとともに、「訴訟を提起する等、被告東電の意に反することをすれば、賠償の返金を求められるかもしれない」という強力な萎縮効果が生じる。 加えて、これまで行われた直接請求手続やADRの紛争解決機能は無となり、今後、支払い済みの賠償も含めてすべての被害者との間で損害額を確定させる最終和解が必要となる。 もし、被告東電が「そのような事態は想定していない」と主張するのであれば、それは正に被告東電において、「被害者らとの間で確定効・不可争効のある合意を成立させている」という認識があるからに他ならない。 (ウ) 被告東電は、「3つの誓い」(甲D共13)を公表し、「最後の一人まで賠償貫徹」「迅速かつ細やかな賠償の徹底」等を誓約している。 また、本訴訟においても、「賠償対象者にとって有利に、かつ、十分な賠償を行う、という視点で賠償をしている」旨の79 主張もしている(東電第6準備書面19頁)。 このように、被告東電が「被害者に対し、賠償を貫徹し、迅速かつ細やか、有利かつ十分な賠償を行う」という意思を いう視点で賠償をしている」旨の79 主張もしている(東電第6準備書面19頁)。 このように、被告東電が「被害者に対し、賠償を貫徹し、迅速かつ細やか、有利かつ十分な賠償を行う」という意思をもって締結した合意について、確定効・不可争効を発生させる意図がなかったとは考えられない。 すなわち、被告東電の訴訟内外の主張内容からしても、被告東電は、(少なくとも費目及び損害額の下限について)確定効・不可争効を発生させる意思で合意をしていると判断するのが合理的な意思解釈となる。 (6)合意の法的評価以上のような被害者らと被告東電の間の、費目及び損害額の下限を定める合意について、法的に評価すれば、以下のいずれかに該当する。 ア 民法上の和解契約の成立被告東電は、直接請求とADRのいずれにおいても、被害者らが明示した金額について証拠を確認した上で、費目と損害金額を認定し、その賠償義務が自らにあることを認めて賠償を支払っていると評価でき、直接請求においても被告東電と被害者らの間では民法上の和解契約が成立しているといえる。 イ 片面的清算合意の成立仮に、前項のような有名契約としての和解契約の成立要件を満たしていないとしても、直接請求、ADRともに、費目毎にその損害額の下限について確定した上で支払いがなされてきたのであるから、その支払に当たっては、「賠償金支払いに際し、支払った費目及び金額の限度で損害が発生したこと事実は確定させ、この合意後は、被告東電の側から被害者に対し、「実損額80 は支払った賠償額よりも低い」という主張は行わない」という、いわば「片面的清算合意」ともいうべき合意が含まれていたものと解するべきである。 ウ 当該費目に限って弁済するとの合意の存在被告東電は、中間指針等の策定を受けて自主的な賠償 は行わない」という、いわば「片面的清算合意」ともいうべき合意が含まれていたものと解するべきである。 ウ 当該費目に限って弁済するとの合意の存在被告東電は、中間指針等の策定を受けて自主的な賠償基準を策定し、これに基づき、基本的に損害項目毎に金額が示される書式を作成し、比較的損害の有無や額を確定しやすい項目から、順次、当該書式を用いた請求を受けることにより、支払を実行しており、ADRを経た支払いも、被告東電において、その直接請求における自主的な賠償基準を念頭に置きつつADRに臨んだ上で合意を成立させ、明示された損害項目につき支払を行っていた。 このことに照らし、被告東電と被害者らの間では、ある損害項目にかかる支払については、損害賠償請求全体に対してではなく、飽くまで当該損害項目に対して支払う旨の黙示の合意がされたものと解するのが相当である。 (7)弁済の抗弁に関する裁判例ア 以下のとおり、多数の裁判例において被告東電の弁済の抗弁は退けられている。 令和3年7月30日福島地方裁判所郡山支部判決(甲D共122・200頁以下)令和3年9月29日高松高裁判決(最高裁にて確定。甲D共21の1・593頁以下)令和2年9月30日仙台高裁判決(最高裁にて確定。甲D共15の1・519頁以下)令和4年11月25日仙台高裁判決(甲D共123・20頁)令和6年1月26日東京高裁判決(甲D共112・219頁)81 令和6年4月19日東京高裁判決(甲D共124、53頁以下)イ 一方、被告東電も、弁済の抗弁が認められた裁判例を数点挙げる。しかし、同種の原発避難者訴訟において、そのような裁判例は少数に留まる。 何より、被告東電が指摘する裁判例で弁済の抗弁が認められた理由の多くは、ここまで原告らが述べてきたよ を数点挙げる。しかし、同種の原発避難者訴訟において、そのような裁判例は少数に留まる。 何より、被告東電が指摘する裁判例で弁済の抗弁が認められた理由の多くは、ここまで原告らが述べてきたような被害者らと原告との間の合意の存在について主張立証がなされていなかった、もしくは不十分であったからであると言える。 合意の存在については事実認定の問題であるから、その主張立証が十分なされなければ、法的な原則論のみで弁済の抗弁の判断がなされてしまうこともあり得る。 第2 世帯間充当が認められないこと1 世帯の代表者が世帯分を一括して受領したことは根拠とならないこと被告東電が認めるとおり、「被告東電による賠償は、中間指針等を踏まえて被害者一人一人について個別に支払額が計算されて」いるものであり、かつ、「世帯の代表者は請求においても弁済の受領においても権限をもって世帯の他の構成員を代理して」いる(以上、東電第6準備書面55頁以下)。すなわち、賠償金額は各個人毎に個別に計算されているのであって、世帯の代表者はそれら各個人の賠償額について他の世帯構成員を代理して賠償を請求・受領しているだけで、それ以上の法的効果は何ら発生していない。 かつ、このように世帯のうちの一名を代表者として世帯全員分の賠償をまとめて支払う処理を行うことは、被告東電が自己の作成した請求書によって一方的に被害者らに求めたことであって、専ら被告東電82 の便宜のためである。 このような処理をしたことは、何ら世帯間充当を認める根拠とならない。 被告東電は就労不能損害や実費について、世帯単位での賠償合計額を元に算定している旨主張するが(東電第16準備書面14頁)、これもあくまで、当初は各人毎に資料を提出させて算出した就労不能損害額を世帯で合 東電は就労不能損害や実費について、世帯単位での賠償合計額を元に算定している旨主張するが(東電第16準備書面14頁)、これもあくまで、当初は各人毎に資料を提出させて算出した就労不能損害額を世帯で合計し、その金額を元にして2回目以降の算定をしているだけであって、各人毎に算定しているのとほぼ変わらず、被告東電自身の便宜のためである。 2 世帯構成員で共通する被侵害利益は認められないこと被告東電は、被告東電が支払う賠償金は世帯構成員全員の損害を填補するものと主張する(東電第16準備書面17頁以下)が、そのような事実はない。 前述のとおり、本件事故により、原告らの極めて多種の利益が侵害されたことについては争いがないが、そうであるからといって、原告らに発生したすべての損害について、その被侵害利益が共通するわけではない。例えば、本件事故により同一の被害者に発生した、家財の損壊による損害と、生命身体損害は、被侵害利益を異にするものとしか解されない。 また、特に慰謝料については一身専属的な権利でもあるから、たとえ家族であろうとも他者へ充当されることはない。 さらに、被告東電は、賠償の対象とされた出捐の多くは、当該出捐によって当該世帯全体が利益を受ける性質のものである旨主張するが(被告東電第16準備書面20頁)、詭弁である。一般的に、世帯の一人が金銭を支払えば、その支払の理由がどのようなものあっても、世帯の他の構成員も直接・間接的に何らかの利益を受ける。そのよう83 な理由で世帯間充当が認められるならば、およそすべての事例において世帯間充当は認められるはずである。出捐によって世帯全体が利益を受けることと弁済充当が認められることはまったく別次元の問題である。 3 世帯間充当を否定した裁判例同種裁判例においても、世帯間充 間充当は認められるはずである。出捐によって世帯全体が利益を受けることと弁済充当が認められることはまったく別次元の問題である。 3 世帯間充当を否定した裁判例同種裁判例においても、世帯間充当を認めた裁判例はごくわずかである。以下、世帯間充当が否定された判決の例を挙げる。 令和2年9月30日仙台高裁判決(甲D共15の1・518頁以下)令和3年1月21日東京高裁判決(甲D共18の1・284頁)令和6年1月26日東京高裁判決(甲D共112・221頁)第3 弁済の抗弁に関する原告らの主張各原告毎に弁済の抗弁に関する主張は最終準備書面のとおりである。 以上 別紙3 被告の主張の要旨 第1 規制権限の不行使が国賠法1条1項の適用上違法となる場合公権力の行使に当たる公務員の行為(不作為を含む。)が国賠法1条1項の適用上違法となるのは、当該公務員が個々の国民に対して負担する職務上の法的義務に違反して当該国民に損害を加えたときであると解されている(最高裁昭和60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512ページ、最高裁平成17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2087ページ、最高裁平成27年12月16日大法廷判決・民集69巻8号2427ページ)。 したがって、公権力の行使に当たる公務員の規制権限の不行使という不作為が同項の適用上違法となるのは、当該公務員が規制権限を有し、規制権限の行使によって受ける国民の利益が国賠法上保護されるべき利益である(反射的利益ではない)ことに加えて、当該規制権限の不行使によって損害を受けたと主張する特定の国民との関係において、当該公務員が規制権限を行使すべき義務(作為義務)が認められ、この作為義務に違反した場合である。 規制権限を行使するための要件及びこ 不行使によって損害を受けたと主張する特定の国民との関係において、当該公務員が規制権限を行使すべき義務(作為義務)が認められ、この作為義務に違反した場合である。 規制権限を行使するための要件及びこれが満たされたときはその権限を行使しなければならない旨の法令の定めが置かれている場合には、当該要件が満たされたときは基本的に作為義務が認められることになると解される。他方、規制権限を行使するための要件は定められているものの、その権限を行使するかどうかにつき裁量が認められている場合や、規制権限を行使するための要件が具体的に定められていない場合には、直ちに作為義務を認めることはできない。 このような場合について、最高裁は、「国又は公共団体の公務員による規制権限の不行使は、その権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、具体的事情の下において、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、その不行使により被害を受けた者との 関係において、国賠法1条1項の適用上違法となるものと解するのが相当である」との解釈を確立しており(宅建業者最高裁判決〔最高裁平成元年11月24日第二小法廷判決・民集43巻10号1169ページ〕、クロロキン最高裁判決〔最高裁平成7年6月23日第二小法廷判決・民集49巻6号1600ページ〕、筑豊じん肺最高裁判決〔最高裁平成16年4月27日第三小法廷判決・民集58巻4号1032ページ〕、関西水俣病最高裁判決〔最高裁平成16年10月15日第二小法廷判決・民集58巻7号1802ページ〕、大阪泉南アスベスト最高裁判決〔最高裁平成26年10月9日第一小法廷判決・民集68巻8号799ページ〕及び建設アスベスト最高裁判決〔最高裁令和3年5月17日第一小法廷判決・民集75巻5号1359ページ〕参 アスベスト最高裁判決〔最高裁平成26年10月9日第一小法廷判決・民集68巻8号799ページ〕及び建設アスベスト最高裁判決〔最高裁令和3年5月17日第一小法廷判決・民集75巻5号1359ページ〕参照)、前記の解釈規範に当てはまるときに、当該公務員は、規制権限を行使すべき法的な義務(作為義務)を負い、そうであるにもかかわらず、その規制権限を行使しなかった場合に、その規制権限の不行使は、その被害を受けた者との関係において、国賠法1条1項の適用上違法となるものと解される。 第2 経済産業大臣は、実用発電用原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針の安全性に関わる問題につき、電気事業法40条に基づく技術基準適合命令により是正する規制権限を有していなかったこと平成18年末当時の法令上、経済産業大臣は、実用発電用原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針の安全性に関する事項について、電気事業法40条に基づく技術基準適合命令を発することにより是正する規制権限を有していなかった。 そして、福島第一発電所については、その主要建屋の敷地高(O.P.+10メートル)を超える津波を想定して設備上の対策を講じさせるか否かという問題は、ドライサイトコンセプトの下、敷地高と想定津波との間に十分な高低差があることをもって、津波による浸水等によって原子炉施設の安全機能が重3 大な影響を受けるおそれのないものとしていた福島第一発電所の設置(変更)許可処分段階において安全審査を受けた津波対策に係る基本設計ないし基本的設計方針に関わる問題であるといえる。 したがって、経済産業大臣は、被告東電に対し、福島第一発電所の主要建屋の敷地高を超える津波を想定した設備上の対策を講じるよう電気事業法40条に基づく技術基準適合命令を発する権限を有していなかった。 第3 、経済産業大臣は、被告東電に対し、福島第一発電所の主要建屋の敷地高を超える津波を想定した設備上の対策を講じるよう電気事業法40条に基づく技術基準適合命令を発する権限を有していなかった。 第3 仮に、本件において、経済産業大臣に電気事業法40条に基づく技術基準適合命令により基本設計ないし基本的設計方針の安全性に関わる問題を是正する規制権限が認められたとしても、経済産業大臣の規制権限の不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くとはいえないこと仮に、本件において、経済産業大臣が実用発電用原子炉施設の設置許可処分の段階において安全審査を受けた基本設計ないし基本的設計方針に関する問題につき、電気事業法40条に基づく技術基準適合命令により是正する規制権限を有していたとしても、前記第1のとおり、規制権限不行使は、その権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、具体的事情の下において、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときに限り、その不行使により被害を受けた者との関係において、国賠法1条1項の適用上違法となるものと解されるところ、規制権限不行使が問題となったこれまでの最高裁判決の判示に照らすと、その判断に当たって考慮される要素は、おおむね、「①規制権限を定めた法が保護する利益の内容及び性質、②被害の重大性及び切迫性、③予見可能性、④結果回避可能性、⑤現実に実施された措置の合理性、⑥規制権限行使以外の手段による結果回避困難性(被害者による被害回避可能性)、⑦規制権限行使における専門性、裁量性などの諸事情」(角谷昌毅・最高裁判所判例解説民事篇平成26年度420ページ)に整理され、これらの考慮要素の全部又は一部が総合的に考慮されているものと 解される。 本件における事実関係等を基に、 事情」(角谷昌毅・最高裁判所判例解説民事篇平成26年度420ページ)に整理され、これらの考慮要素の全部又は一部が総合的に考慮されているものと4 解される。 本件における事実関係等を基に、前記第1の規制権限不行使の違法性に関する最高裁判決の判断枠組みに係る考慮要素に当てはめた場合、本件事故の発生に至るまでの間において、「長期評価の見解」が、地震・津波の専門家の間で、原子力規制に取り入れるべき精度及び確度を備えた正当な見解として是認されるものであったとはいえず、「長期評価の見解」に基づき、経済産業大臣に、規制権限の行使を義務付けるだけの予見可能性を認めることはできなかったこと、また、貞観津波に関する知見も、地震・津波の専門家の間で、原子力規制に取り入れるべき精度及び確度を備えた正当な見解として是認されるものであったとはいえず、貞観津波に関する知見に基づく平成21年報告を受けたことによって、経済産業大臣に、規制権限の行使を義務付けるだけの予見可能性を認めることはできなかったこと(考慮要素③。後記第4)、仮に、経済産業大臣が何らかの規制権限を行使し、被告東電が津波対策を講じたとしても、「長期評価の見解」を踏まえて試算される津波(平成20年試算津波)と本件津波とでは津波の規模、到来の方向や流況等に大きな違いがあるから、本件事故の発生を回避することができたとは認められないこと(考慮要素④。後記第5)などの事情を考慮すれば、原告らに対する関係において、経済産業大臣の規制権限不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くものとはいえないことを明らかにする。 第4 予見可能性について1 予見可能性の意義等(1) ここで問題とされる予見可能性とは、規制権限を行使しなければ法益侵害が継続し、又はその危険が顕在化することを、規制 明らかにする。 第4 予見可能性について1 予見可能性の意義等(1) ここで問題とされる予見可能性とは、規制権限を行使しなければ法益侵害が継続し、又はその危険が顕在化することを、規制行政庁が認識していたか、又は認識し得たことをいう。かかる結果発生の危険性の予見可能性は、当該結果発生を防止し得る規制権限を有する公務員において、ある特定の国民に5 対し、当該結果が発生することを防止すべき職務上の法的義務(結果回避義務)を負担するかどうかを判断する上での一考慮要素であり、国賠法上の違法判断に影響を及ぼすものである。そして、規制行政庁が危険を予見することが可能でないにもかかわらず、作為義務(結果回避義務)を課すことはできないのであるから、この予見可能性は、結果回避義務を肯定するために不可欠の要件である。(以上、nほか編著・条解国家賠償法407ページ〔o〕、n・国家補償法164ページ)そうだとすれば、規制権限不行使の違法性の考慮要素としての予見可能性は、結果回避義務(結果回避措置を講ずべき作為義務)を課すに足りる程度のものでなければならず、規制権限の行使主体において、職務上の法的義務として、そのような予見をすべきであったといえる必要がある。 (2) しかも、本件は、原告らが経済産業大臣において規制権限を行使すべきであったとする時期において、いまだ被害が発生しておらず、また、かかる被害をもたらす原因事象も科学的に判明していなかったという事案である。そのため、本件では、規制権限不行使が問題とされた当時の具体的事情の下で、原告らに実際に発生した被害又はその被害発生の危険を経済産業大臣が職務として予見すべきであったか否かが慎重に検討される必要があり、例えば、被害をもたらす原因事象の発生可能性や確率等を示唆する見解が存在したと 際に発生した被害又はその被害発生の危険を経済産業大臣が職務として予見すべきであったか否かが慎重に検討される必要があり、例えば、被害をもたらす原因事象の発生可能性や確率等を示唆する見解が存在したとしても、それが一定程度の成熟性を有しなければ予見可能性は認められないというべきである。すなわち、被害をもたらす原因事象の発生可能性や確率等を示唆する見解が存在するだけで、僅かでも予見可能性が否定し得ない以上、結果回避措置を講じることが義務付けられ得るとすると、社会活動に極めて深刻な萎縮効果を及ぼすこととなるから、そのような見解が存在することだけでは、前記予見可能性を肯定することはできない。言い換えれば、ここでいう予見可能性については、結果を回避し得る措置を規制権限者に義務付けてよいほどの予見可能性が認められるのかという視点で検討を行う6 ことが肝要なのである。 (3) そして、規制権限不行使の違法性の考慮要素としての予見可能性は、法令の趣旨・目的から、どの程度の危険が存在する場合に予見可能性を肯定するかという規範的判断の対象となるものであるから、どの程度の予見可能性を要するかの検討に当たっては、当該規制権限を定めた法令の趣旨・目的を参照する必要がある。 この点、福島第一発電所のような実用発電用原子炉施設には、炉規法及び電気事業法が適用されるところ、炉規法は、電気事業法による規制の及ぶ範囲については炉規法の規制を適用除外としており(炉規法73条)、相互に補完しあって実用発電用原子炉施設についての規制体系を構築している。そして、炉規法は、24条1項3号において、原子炉を設置しようとする者が原子炉を設置するために必要な技術的能力及びその運転を適確に遂行するに足りる技術的能力を有するか否かにつき、同項4号において、当該申請に係る原子炉施設 1項3号において、原子炉を設置しようとする者が原子炉を設置するために必要な技術的能力及びその運転を適確に遂行するに足りる技術的能力を有するか否かにつき、同項4号において、当該申請に係る原子炉施設の位置、構造及び設備が核燃料物質(使用済燃料を含む。)、核燃料物質によって汚染された物(原子核分裂生成物を含む。)又は原子炉による災害の防止上支障がないものであるか否かにつき、審査を行うべきものと定めている。原子炉設置許可の基準として、前記のように定められた趣旨は、原子炉が原子核分裂の過程において高エネルギーを放出する核燃料物質を燃料として使用する装置であり、その稼働により、内部に多量の人体に有害な放射性物質を発生させるものであって、原子炉を設置しようとする者が原子炉の設置・運転につき所定の技術的能力を欠くとき、又は原子炉施設の安全性が確保されないときは、当該原子炉施設の従業員やその周辺住民等の生命、身体に重大な危害を及ぼし、周辺の環境を放射能によって汚染するなど、深刻な災害を引き起こすおそれがあることに鑑み、そのような災害が万が一にも起こらないようにするために、原子炉設置許可の段階で、原子炉を設置しようとする者の前記技術的能力並びに申請に係る原子炉施設の位7 置、構造及び設備の安全性につき、科学的、専門技術的見地から、十分な審査を行わせることにあるものと解される。また、前記の技術的能力を含めた原子炉施設の安全性に関する審査は、当該原子炉施設そのものの工学的安全性、平常運転時における従業員、周辺住民及び周辺環境への放射線の影響、事故時における周辺地域への影響等を、原子炉設置予定地の地形、地質、気象等の自然的条件、人口分布等の社会的条件及び当該原子炉設置者の前記技術的能力との関連において、多角的、総合的見地から検討するものであり、しか 周辺地域への影響等を、原子炉設置予定地の地形、地質、気象等の自然的条件、人口分布等の社会的条件及び当該原子炉設置者の前記技術的能力との関連において、多角的、総合的見地から検討するものであり、しかも、前記審査においては、将来予測に係る事項もその対象に含まれるのであって、原子力工学はもとより、多方面にわたる極めて高度な最新の科学的、専門技術的知見に基づく総合的判断が必要とされるものであることが明らかである。そして、炉規法24条2項が、経済産業大臣等の主務大臣において原子炉設置の許可をする場合においては、同条1項3号(技術的能力に係る部分に限る。)及び4号所定の基準の適用について、あらかじめ原子力安全委員会の意見を聴き、これを尊重してしなければならないと定めるのは、前記のような原子炉施設の安全性に関する審査の特質を考慮し、前記各号所定の基準の適合性については、各専門分野の学識経験者等を擁する原子力安全委員会の科学的、専門技術的知見に基づく意見を尊重して行う主務大臣の合理的な判断に委ねる趣旨と解するのが相当である。(以上、伊方原発最高裁判決参照)そして、設置許可処分がされた原子炉について、主務大臣が原子炉施設の位置、構造及び設備の安全性に関する規制権限を行使するに当たっても、科学的、専門技術的見地から検討を行う必要があることは、原子炉設置許可処分の段階と異なるところはなく、当該検討においては、設置許可処分の時点における安全審査の場合と同様に、原子力工学はもとより、多方面にわたる極めて高度な最新の科学的、専門技術的知見に基づく総合的判断が必要とされるというべきである。 8 したがって、原子炉施設の使用開始後に、規制権限不行使の違法性の考慮要素として、津波によって原子力被害が引き起こされることの予見可能性の有無を判断するに当たって れるというべきである。 したがって、原子炉施設の使用開始後に、規制権限不行使の違法性の考慮要素として、津波によって原子力被害が引き起こされることの予見可能性の有無を判断するに当たっても、炉規法の定め及び設置許可処分に関する伊方原発最高裁判決の趣旨に鑑みれば、どの程度の危険に対する安全性を確保すべきかについて、専門分野の学識経験者等の科学的、専門技術的知見に基づく意見を尊重した規制判断が求められることを前提にする必要があるというべきである。 (4) また、原子力規制実務においては、ある科学的知見を原子力規制に取り入れようとする場合には、審議会(原子炉安全専門審査会)等において、各専門分野の学識経験者等が、当該科学的知見が原子力規制に取り入れるだけの客観的かつ合理的根拠に裏付けられているかを審議した上で、その取捨の判断をしていることからすれば、原子炉施設の位置、構造及び設備の安全性に関して規制権限不行使の国賠法上の違法性が問題となる場面において、ある科学的知見に基づいて予見可能性が認められるためには、少なくとも、前記のような専門家の間で、当該科学的知見が原子力規制に取り入れるべき精度及び確度を備えた正当な見解として是認される知見でなければならず、これに当たるか否かについては、当該知見の形成過程や同知見に対する専門家による評価等に基づいて判断されるべきであり、単に国の機関が発表した見解や意見であるというだけでは原子力規制に取り入れることはできないというべきである。特に、本件では、平成14年当時から本件事故に至るまで、専門家の間で原子力規制に取り入れるべき精度及び確度を備えた正当な見解として是認されていた津波評価技術が存在していたのであるから、その存在を踏まえて予見可能性の有無が判断されるべきである。 2 津波評価技術は、 子力規制に取り入れるべき精度及び確度を備えた正当な見解として是認されていた津波評価技術が存在していたのであるから、その存在を踏まえて予見可能性の有無が判断されるべきである。 2 津波評価技術は、地震・津波の専門家の間で原子力規制に取り入れるべき精度及び確度を備えた正当な見解として是認される知見であったこと津波評価技術は、平成11年に原子力施設の津波に対する安全性評価技術の 体系化及び標準化について検討することを目的として設置された土木学会の津波評価部会により、平成14年2月に取りまとめられたものである(乙B第3号証・本文編375及び376ページ)。すなわち、土木学会は、高い安全性が求められる原子力施設について、「想定し得る最大規模の地震津波」の評価方法を先行的に整備すべく、平成11年以降研究を重ね、平成14年2月にそれらの成果を集大成し、4省庁報告書及び7省庁手引を補完するものとして、津波評価技術(丙C第8号証の1ないし3)を策定した。 津波評価技術は、土木学会津波評価部会主査としてその策定を主導したN名誉教授が、その巻頭において、「現時点で確立しており実用として使用するのに疑点のないものが取りまとめられている。」(丙C第8号証の1・ⅱ及びⅲページ)と述べているほか、B教授も「長期評価よりもさらに保守的で、ほぼすべてが「科学的に確立された知見」に基づいている。」(丙C第79号証・8ページ)と述べているとおり、原子力発電所における設計津波の想定について、それまでに培ってきた知見や技術進歩の成果を集大成して、その時点で確立しており実用として使用するのに疑点がないものを取りまとめたものである。 本件で問題とされている想定津波の波源モデルの設定との関係に即していうと、津波評価技術は、特定の地点に到来し得る津波を評価する際の評 実用として使用するのに疑点がないものを取りまとめたものである。 本件で問題とされている想定津波の波源モデルの設定との関係に即していうと、津波評価技術は、特定の地点に到来し得る津波を評価する際の評価手法として、①信頼性のある波源モデルの構築が可能な既往津波の波源を取り上げ、領域ごとに基準断層モデルを設定し、②その際、既往地震の発生領域だけでなく、地震地体構造に関する最新の知見も考慮して基準断層モデルを設定するとの考え方に基づいている(丙C第8号証の2・1-23及び1-31ページ参照)。かかる考え方は、具体的な根拠を有する津波の発生可能性を余すことなく取り入れて、設計想定津波の水位を推計することを可能とするため、世界に先駆けて策定された手法であった(丙C第17号証・11ページ)。そして、この津波評価技術に基づいて算出される津波の高さは、パラメータスタデ10 ィ等の手法を用いることにより、平均で既往津波の痕跡高の約2倍となっており(丙C第8号証の2・1-7ページ)、より高い安全性が求められる原子炉施設に用いられることを踏まえた安全寄りの考え方に基づいていた。 このような津波評価技術は、本件事故の前後を通じ、科学的に想定可能な最大規模の津波を評価する方法として国際的にも高い評価を受けており、我が国の原子力規制機関の一つである原子力安全委員会も、津波評価技術の合理性を認め、津波評価技術に基づく評価を前提に原子力事業者の新設炉の設置許可申請を許可していた。 そして、津波評価技術では、「地震地体構造の知見」に基づいた上で、当時の科学的知見の進展状況を踏まえた各領域の波源モデルの例が示されているところ、明治三陸地震が発生したとされる三陸沖の海溝寄りの領域に同地震の波源モデルが設定されたが、福島県沖の海溝寄りの領域には波源モデルが設定され 状況を踏まえた各領域の波源モデルの例が示されているところ、明治三陸地震が発生したとされる三陸沖の海溝寄りの領域に同地震の波源モデルが設定されたが、福島県沖の海溝寄りの領域には波源モデルが設定されなかった(丙C第8号証の2・1-59ページ)。この点、地震の長期予測手法は地震が繰り返し起こるという考え方を基本に行うものであり、プレート間地震は100年程度の期間で繰り返されると考えられていたことからすれば、過去約400年間の歴史資料においてMw8.0級の津波地震の発生が確認されていない福島県沖に波源を設定しなかったことは、地震学の基本的な考え方に沿うものであった。 津波評価技術においては、当時判明していた最新の知見の整理やレビュー等が行われた結果、地震・津波の専門家が共有する地震学の基本的な考え方に沿うものとして、明治三陸地震が発生したとされる三陸沖の海溝寄りの領域に同地震の波源モデルが設定された一方で、福島県沖の海溝寄りの領域には波源モデルが何も設定されなかったのであって、かかる波源モデルの設定は、平成14年当時、地震・津波の専門家の間において、日本海溝寄りのプレートにおいて、津波地震は特定の領域(明治三陸地震の震源域である三陸沖のような、特殊な海底構造を有する領域)でのみ発生する特殊な地震であるとの見解が大勢11 を占めており、三陸沖北部から房総沖の日本海溝寄りの領域の北部(明治三陸地震が発生したとされる領域)と南部(福島県沖が含まれる領域)とでは地震地体構造が異なること等が客観的な観測事実等として明らかになっていたこととも整合するものである。 したがって、津波評価技術において示された日本海溝沿いの波源設定は、平成14年当時、専門家の間で原子力規制に取り入れるべき精度及び確度を備えた正当な見解として是認されるものであったとい のである。 したがって、津波評価技術において示された日本海溝沿いの波源設定は、平成14年当時、専門家の間で原子力規制に取り入れるべき精度及び確度を備えた正当な見解として是認されるものであったということができる。 3 「長期評価の見解」は、地震・津波の専門家の間で原子力規制に取り入れるべき精度及び確度を備えた正当な見解として是認される知見であったとはいえないこと(1) はじめに福島第一発電所にO.P.+10メートルを超える津波が到来することの予見可能性が認められるためには、三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域を一つの領域とし、明治三陸地震と同様の津波地震(Mt8.2前後)が同領域内のどこでも発生する可能性があるとした「長期評価の見解」が、地震・津波の専門家の間で原子力規制に取り入れるべき精度及び確度を備えた正当な見解として是認されるようなものであったことが必要となる。 (2) 「長期評価の見解」の公表当時の地震・津波の専門家の見解等ア 「長期評価の見解」が公表された平成14年7月までに、地震・津波の専門家の間では、津波地震の発生メカニズムに関する進展状況(ペルー地震やニカラグア地震等、付加体が存在しない領域でも津波地震が発生していること等)を踏まえても、明治三陸地震を含め津波地震の発生メカニズムを付加体のテクトニクス(動き)や物性と関連づけることによって説明することができ、日本海溝寄りのプレートにおいて、津波地震は特定の領域(明治三陸地震の震源域である三陸沖のような、特殊な海底構造を有する領域)でのみ発生する特殊な地震であるとする見解が大勢を占めていた上、三陸沖北部から房総沖の日12 本海溝寄りの領域の北部(明治三陸地震が発生したとされる領域)と南部(福島県沖が含まれる領域)とでは地震地体構造が異なること等が るとする見解が大勢を占めていた上、三陸沖北部から房総沖の日12 本海溝寄りの領域の北部(明治三陸地震が発生したとされる領域)と南部(福島県沖が含まれる領域)とでは地震地体構造が異なること等が客観的な観測事実等として明らかになっていた。 イ そして、「長期評価の見解」が公表された平成14年7月当時、地震・津波の専門家の間において、慶長三陸地震及び延宝房総沖地震については、その発生機序や震源域について有力な異説が複数存在していたのであるから、これら二つの地震が三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域で発生した津波地震であるとの見解が確立していたとはいえない。 (3) 専門家の間で原子力規制に取り入れるべき精度及び確度を備えた正当な見解として是認されていた津波評価技術の作成段階における議論状況を見ても、「長期評価の見解」のような考え方は取り上げられていなかったこと津波評価技術においては、明治三陸地震が発生したとされる三陸沖の海溝寄りの領域に、明治三陸地震の波源モデルが設定される一方で、福島県沖の海溝寄りの領域には、波源モデルが設定されなかったところ、この点は、三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域を一つの領域とし、明治三陸地震と同様の津波地震(Mt8.2前後)が同領域内のどこでも発生する可能性があるとする「長期評価の見解」と相いれないものである。 しかるところ、仮に、地震・津波の専門家の間において、三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域のどこでも明治三陸地震と同様の津波地震が発生する可能性があるとする「長期評価の見解」のような考え方が、原子力規制に取り入れられるべき科学的知見、あるいは原子力規制に取り入れるか否かが検討されるべき科学的知見として認識されていたならば、津波評価技術の作成段階においても、「長期評価の見解」のような考え方が議 制に取り入れられるべき科学的知見、あるいは原子力規制に取り入れるか否かが検討されるべき科学的知見として認識されていたならば、津波評価技術の作成段階においても、「長期評価の見解」のような考え方が議論のそ上に載せられたはずである。しかし、津波評価技術の波源設定について議論された第3回土木学会津波評価部会における議論状況(乙C第77号証及び甲C第114号証)及び配付資料(乙C第15号証及び丙C第53号証の添付資料)13 を見ても、同部会において、三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域のどこでも明治三陸地震と同様の津波地震が発生する可能性があるとする「長期評価の見解」のような考え方が取り上げられて議論された形跡はない。 このことは、翻って、地震・津波の専門家の間においては、「長期評価の見解」のような考え方が原子力規制に取り入れられるべき科学的知見として認識されていなかったことはもとより、原子力規制に取り入れるか否かが検討されるべき科学的知見としてすら認識されていなかったことを端的に示すものである。 (4) 地震本部が想定した地震防災対策における長期評価の位置づけ等地震本部は、地震防災対策特別措置法7条2項1号が定める「地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進について総合的かつ基本的な施策」として、平成11年4月23日付けで、総合基本施策を定めている(丙C第9号証)。 その上で、地震本部は、前記の総合基本施策において、長期評価や強震動予測等を統合した 「地震動予測地図は、その作成当初においては、全国を大まかに概観したものとなると考えられ、その活用は主として国民の地震防災意識の高揚のために用いられるものとなろう。また、将来的に地震動予測地図が、その予測の精度を向上させ、地域的にも細かなものが作成されることとなった場合には、(中略 、その活用は主として国民の地震防災意識の高揚のために用いられるものとなろう。また、将来的に地震動予測地図が、その予測の精度を向上させ、地域的にも細かなものが作成されることとなった場合には、(中略)地震防災対策への活用(中略)も考えられる。」(同号証15ページ。下線は引用者)としていた。 かかる総合基本施策の内容からすれば、地震本部自身、自らが公表する「海溝型地震の特性の解明と情報の体系化」や「地震発生可能性の長期確率評価」は、その全てが直ちに地震防災対策に活用することができるような精度及び確度を備えたものではないことを当然の前提としていたということができる。 このように、地震本部自身が、自らが公表する長期評価等について、その14 全てが直ちに防災対策に活用することができるような精度及び確度を備えたものではないことを当然の前提としていたことは、後記(5)で述べる地震本部における「長期評価の見解」の審議過程、平成14年長期評価の冒頭柱書に、「今回の評価は、現在までに得られている最新の知見を用いて最善と思われる手法により行ったものではあるが、データとして用いる過去地震に関する資料が十分にないこと等による限界があることから、評価結果である地震発生確率や予想される次の地震の規模の数値には誤差を含んでおり、防災対策の検討など評価結果の利用にあたってはこの点に十分留意する必要がある。」との留保が付されていること(丙C第25号証・1枚目。下線は引用者)や後記(6)で述べる同見解公表後の同見解に係る信頼性評価の内容等からも、それぞれ裏付けられる。 (5) 「長期評価の見解」の作成過程における地震本部での議論の状況等「長期評価の見解」が公表された平成14年7月当時、地震・津波の専門家の間において、慶長三陸地震及び延宝房総沖地震が三陸沖北部 (5) 「長期評価の見解」の作成過程における地震本部での議論の状況等「長期評価の見解」が公表された平成14年7月当時、地震・津波の専門家の間において、慶長三陸地震及び延宝房総沖地震が三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域で発生した津波地震であるとの見解が確立していたとはいえない状況の中で、海溝型分科会では、第8回以降の各分科会において、繰り返し、慶長三陸地震及び延宝房総沖地震を三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域で発生した津波地震として扱ってよいかどうかが議論され、津波地震に関しては、第10回海溝型分科会において、事務局から、日本海溝沿いプレート間津波地震を、1611年の慶長三陸地震、1677年の延宝房総沖地震、1896年の明治三陸地震と整理した旨が示されてもなお、委員からは、慶長三陸地震及び延宝房総沖地震を日本海溝沿いの津波地震とすることについて異論が出されていた。 そして、「長期評価の見解」についての実質的な議論が行われた最後の第12回海溝型分科会においては、慶長三陸地震及び延宝房総沖地震のいずれについても、当該領域で発生したものではないのではないかとの異論が述べ られたが、最終的には、事務局から「メカニズムは分からないけれども、3回大きな津波が発生して三陸に大きな被害を発生させているわけだから、警告としてはむしろ3回というほうを」、「メカニズムは厳密なものがあるだろうが、最終的に三陸沖周辺で津波で大きな被害がおこる確率というのが重要である。」との発言がされ、また、A氏から「次善の策として三陸に押し付けた。あまり減ると確率が小さくなって警告の意がなくなって、正しく反映しないのではないか、という恐れもある。」、「津波はやっぱりあったのだから、いれておいてもいいような気がする」、「いずれにせよ、被害がでますので3回と が小さくなって警告の意がなくなって、正しく反映しないのではないか、という恐れもある。」、「津波はやっぱりあったのだから、いれておいてもいいような気がする」、「いずれにせよ、被害がでますので3回としてしまっていいと思う。」との発言がされ、議論が収束していったものである。 このような議論の経過に加え、①「長期評価の見解」の公表後、同見解に信頼度を付すための議論が行われた平成14年9月18日開催の第16回海溝型分科会で配布された資料に、延宝房総沖地震について「海溝寄りかどうかは怪しい(陸寄り?)」との記載や、慶長三陸地震について「但し怪しい(千島沖の地震かもしれない)」との記載が、明治三陸地震、慶長三陸地震及び延宝房総沖地震の三つの地震を日本海溝寄りの津波地震であることを前提として導かれた発生間隔や想定地震の発生確率について「最初の2回(引用者注:慶長三陸地震及び延宝房総沖地震)は怪しい」との記載がそれぞれされていたこと(乙C第33号証・右下部のページ数で395ページ)、②地震本部自身、海溝型地震の特性の解明と情報の体系化や、地震発生可能性の長期確率評価について、その全てが直ちに地震防災対策に活用することができるような精度及び確度を備えたものではなく、これらの知見を統合して作成した地震動予測地図の当面の目的は国民の地震防災意識の高揚のためであることを想定していたこと(前記(4))、③地震本部自身が、平成15年3月に発表した長期評価信頼度において、「長期評価の見解」が示した三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域で発生する津波地震の「発生領域の評16 価の信頼度」及び「発生確率の評価の信頼度」をいずれも「C」(やや低い)と評価していること(丙C第78号証・8ページ、後記(6)ア)を併せ考慮すると、海溝型分科会では、慶長三陸地震及び延宝 価の信頼度」及び「発生確率の評価の信頼度」をいずれも「C」(やや低い)と評価していること(丙C第78号証・8ページ、後記(6)ア)を併せ考慮すると、海溝型分科会では、慶長三陸地震及び延宝房総沖地震を津波地震とするか否か、これら二つの地震の震源域がどこなのかについて、理学的な根拠に基づく議論に決着がつかないまま、多分に国民の地震防災意識の高揚を図るという防災行政的な見地から、これら二つの地震を明治三陸地震とともにいずれも日本海溝寄りの領域で発生した津波地震として扱うとする方向へ議論を進め、その結果、理学的に否定することができないという以上の積極的な評価をすることが困難な「長期評価の見解」を作成するに至ったということができる。 また、「長期評価の見解」において採用された、三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域をどこでも津波地震が発生し得る一つの領域とした上で将来の地震発生確率を評価するという手法は、平成14年当時、津波防災対策を講じるに当たって最大規模の地震を予測する手法として、地震地体構造論の知見による想定(すなわち、地震の繰り返し発生の性質を前提とした上で、地震地体構造論の知見に基づき、共通の地震地体構造を持つ領域において、その領域内で発生し得る最大規模の地震が領域内のどこでも発生し得るとするもの)に基づくものが一般的であったにもかかわらず、多分に国民の地震防災意識の高揚を図るという防災行政的な見地から、既往地震の記録が乏しいために将来における地震の発生確率を評価することができないとの事態を避けるため、かかる一般的な想定とは異なる想定(地震地体構造論の知見には基づかずに、具体的な震源域における地震の繰り返し履歴には依拠しないで最大規模の地震を想定するもの)に基づく手法として採用されたものであり、積極的な理学的根拠に基づく 想定(地震地体構造論の知見には基づかずに、具体的な震源域における地震の繰り返し履歴には依拠しないで最大規模の地震を想定するもの)に基づく手法として採用されたものであり、積極的な理学的根拠に基づくものではなかった。 以上のとおり、「長期評価の見解」は、積極的な理学的根拠に基づかずに、多分に国民の地震防災意識の高揚を図るという防災行政的な見地から作成17 されたものにすぎないということができる。 (6) 「長期評価の見解」の公表後の地震本部の対応ア 「長期評価の見解」の信頼度の公表(平成15年3月)地震本部地震調査委員会は、平成15年3月24日、長期評価信頼度を公表し、「長期評価の見解」について、「発生領域の評価の信頼度」と「発生確率の評価の信頼度」をいずれも「C」(やや低い)と評価している(丙C第78号証・8ページ、前記(5))。 長期評価信頼度では、発生領域と発生確率の評価の信頼度について、「想定地震と同様な地震が発生すると考えられる領域を1つの領域とした場合」には過去に当該領域で発生した地震の数に基づいて信頼度が付されているため、「長期評価の見解」の信頼度の評価に当たっては、明治三陸地震、慶長三陸地震及び延宝房総沖地震の三つの地震を三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域において発生した津波地震であると整理することの不確かさは捨象されている。それでもなお、地震本部は、「長期評価の見解」の信頼度について、「発生領域の評価の信頼度」及び「発生確率の評価の信頼度」をいずれも「C」と評価したのであり、このことからすれば、地震本部自身が、前記三つの地震を日本海溝寄りの領域の津波地震であると整理するか否かという点をおいてもなお、根拠となるデータの不十分さから、「長期評価の見解」の信頼度が、低いものにとどまると判断していたということ 、前記三つの地震を日本海溝寄りの領域の津波地震であると整理するか否かという点をおいてもなお、根拠となるデータの不十分さから、「長期評価の見解」の信頼度が、低いものにとどまると判断していたということができる。 イ 地震動予測地図の作成(平成17年)地震本部は、固有地震説(同じ規模の地震が一定の繰り返し間隔で発生するという考え。丙C第79号証・7ページ)を基本としており、「震源断層を特定した地震動予測地図」(決定論的地震動予測地図)において強震動評価の対象とされるためには、「震源断層を特定した」との文言からも分かるように、「詳細法」による場合であろうと、「簡便法」による場18 合であろうと、いずれの手法による場合でも、少なくとも震源断層が特定されている必要があった。しかるところ、「長期評価の見解」が示した明治三陸地震と同様の津波地震は、「震源断層を特定した地震動予測地図」(決定論的地震動予測地図)において強震動評価の対象とされた宮城県沖の地震や三陸沖北部の地震に比べて科学的データが少なく、震源断層も特定されていなかったことから、「詳細法」はもとより、「簡便法」による強震動評価の検討対象地震にすら含まれず、それゆえ、「震源断層を特定した地震動予測地図」(決定論的地震動予測地図)の基礎資料にされなかったものであり(丙C第65号証の1・2及び54ページ並びに丙C第65号証の3・174及び221ページ)、かかる事実は、地震本部自身が、「長期評価の見解」を決定論的に取り扱うことができるだけの精度及び確度を備えたものとして考えていなかったことを示すものである。 ウ 平成14年長期評価の一部改訂(平成21年3月)地震本部は、平成21年3月、平成14年長期評価を一部改訂したが、「長期評価の見解」に係る記載に大きな変更はなく、発生確率の更 示すものである。 ウ 平成14年長期評価の一部改訂(平成21年3月)地震本部は、平成21年3月、平成14年長期評価を一部改訂したが、「長期評価の見解」に係る記載に大きな変更はなく、発生確率の更新も行われなかった(丙C第81号証)。 かかる事実は、平成14年7月以降も「長期評価の見解」を裏付ける新たな科学的知見の集積がなかったため、地震本部が、新たな記述や評価を加えず、確率評価手法も変更しなかったことを示すものである。 エ 「日本の地震活動-被害地震から見た地域別の特徴-」(第2版)の発行(平成21年3月)地震本部は、平成21年3月に発行した「日本の地震活動-被害地震から見た地域別の特徴-」(第2版)において、延宝房総沖地震について、震源域の詳細や、プレート間地震であったか、沈み込むプレート内地震であったかは不明であり、津波地震であった可能性が指摘されているなどとしている(丙C第42号証・153ページ)。 19 「日本の地震活動-被害地震から見た地域別の特徴-」(第2版)における前記記載は、平成11年当時の「日本の地震活動-被害地震から見た地域別の特徴-」(追補版)の記載から大きな変更はなく、かかる事実は、地震本部自身が、「長期評価の見解」で示された延宝房総沖地震を三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域で発生した津波地震であるとする見解について、飽くまで一つの仮説と位置づけ、積極的な理学的根拠に基づくものではないと考えていたことを示すものである。 (7) 「長期評価の見解」の公表後の地震・津波の専門家の見解及び反応並びに地震本部以外の専門家により構成される公的機関や民間の専門機関の反応等ア 「長期評価の見解」の公表後の地震・津波の専門家の見解及び反応「長期評価の見解」の公表後、三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領 震本部以外の専門家により構成される公的機関や民間の専門機関の反応等ア 「長期評価の見解」の公表後の地震・津波の専門家の見解及び反応「長期評価の見解」の公表後、三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域の南北で付加体の発達状況に大きな違いがあることが客観的な観測事実として明らかになっていたことを踏まえて、明治三陸地震と同様の津波地震は福島県沖の海溝軸付近では発生しない可能性があるとの見解、三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域を四つに区分し、明治三陸地震、慶長三陸地震及び延宝房総沖地震をいずれも福島県沖以外の領域の地震であるとする見解、津波地震が特定の条件がそろった場合にのみ発生する可能性が高いとの見解が示されたり、慶長三陸地震や延宝房総沖地震が三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域で発生した津波地震であるとすることに異論を唱える見解が示されたりしていた。 一方で、「長期評価の見解」の公表後、「長期評価の見解」と同様に、海溝軸近傍であればどこでも明治三陸地震と同様の津波地震が発生し得るとの見解や、三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域をどこでも明治三陸地震と同様の津波地震が発生し得る一つの領域として扱うことを支持する見解、慶長三陸地震や延宝房総沖地震が三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域で発生した津波地震であるとすることを支持する見解が発表されることは20 なかった。 なお、念のため付言するに、①p名誉教授が平成15年に公表した論文(「津波地震とは何か-総論-」。甲C第13号証)において、「このような現象(引用者注:津波地震が浅いところで発生することや変動の進行速度が遅いこと)を付加堆積物のテクトニクスや物性に関連づけて説明しようとする動きが最近の研究で大勢を占めてきた。」(同号証・342ページ)と評していることや、②C教授が、平 生することや変動の進行速度が遅いこと)を付加堆積物のテクトニクスや物性に関連づけて説明しようとする動きが最近の研究で大勢を占めてきた。」(同号証・342ページ)と評していることや、②C教授が、平成21年に公表した「津波データに基づく震源・津波発生過程の研究」(丙C第31号証)において、付加体や地塁・地溝構造を津波地震の発生メカニズムと考える研究成果として、平成8年C ・B論文のほかに、「Fakao (引用者注:Fukaoの誤記と解される。)(1979)」、「Okal (1988)」、「Polet and Kanamori (2000)」及び「Tanioka et al. (1997)」等の複数の研究成果を紹介していること(同号証・492及び493ページ)などからすると、「長期評価の見解」の公表後も、地震・津波の専門家の間では、津波地震の発生機序について、付加体のテクトニクスや物性と関連づけることによって津波地震の発生を説明することができるとする見解が大勢を占めていたということができる。 以上からすれば、「長期評価の見解」の公表後も、地震・津波の専門家の間では、明治三陸地震と同様の津波地震が三陸沖北部から房総沖の日本海溝寄りの領域内のどこでも起きるとする「長期評価の見解」を積極的に支持する者はほとんどなく、消極的ないし懐疑的な意見を示す者が多かったということができる。 イ 「長期評価の見解」の公表後の地震本部以外の専門家により構成される公的機関や民間の専門機関の反応等(ア) 中央防災会議における「長期評価の見解」の取扱い(平成18年)中央防災会議は、その議決により、専門調査会を置くことができ(災害対策基本法施行令4条1項)、日本海溝・千島海溝調査会もその一つ21 であるところ、日本海溝・千島海溝調査会は、同調査会におけ 中央防災会議は、その議決により、専門調査会を置くことができ(災害対策基本法施行令4条1項)、日本海溝・千島海溝調査会もその一つ であるところ、日本海溝・千島海溝調査会は、同調査会における議論を経て、平成18年1月25日、日本海溝・千島海溝報告書を作成・公表した。 日本海溝・千島海溝報告書では、調査対象領域については平成14年長期評価を基本としつつも、防災対策の検討対象とする地震は、既往の巨大地震が確認されている地域に限ることとして、福島県沖海溝沿い領域を防災対策の検討対象から除外しているが(丙C第50号証・6ないし10ページ)、その理由が、同報告書の作成過程において、「長期評価の見解」の信頼度が低いと評価されたためであることは、日本海溝・千島海溝調査会が防災対策の対象とすべき地震を検討するために設置した北海道WGにおける検討状況を見れば明らかである。 (イ) 土木学会津波評価部会(第4期)における「長期評価の見解」に対する姿勢や立場及び平成21年度から平成23年度までの検討状況平成21年度から平成23年度にかけて開催された土木学会津波評価部会(第4期)では、三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域について、その北部と南部とを区別せず一体として見る「長期評価の見解」とは異なり、北部と南部とを区別すべきであるという方向で議論が進んだ。 そして、土木学会津波評価部会が、「長期評価の見解」を採用せず、日本海溝沿いの領域を南北に区分し、北部の基準断層モデルとして明治三陸地震の断層モデルを、南部の基準断層モデルとして延宝房総沖地震の断層モデルをそれぞれ用いることとしたのは、「長期評価の見解」の公表後の地震・津波の専門家の見解等(明治三陸地震と同様の津波地震は福島県沖の海溝軸付近では発生しない可能性があるとの見解、日本海溝寄り 層モデルをそれぞれ用いることとしたのは、「長期評価の見解」の公表後の地震・津波の専門家の見解等(明治三陸地震と同様の津波地震は福島県沖の海溝軸付近では発生しない可能性があるとの見解、日本海溝寄りの領域を四つに区分し、明治三陸地震、慶長三陸地震及び延宝房総沖地震をいずれも福島県沖以外の領域の地震であるとする見解、津波 地震は特定の条件がそろった場合にのみ発生する可能性が高いとの見解は提唱されたが、「長期評価の見解」と同様に、海溝軸近傍であればどこでも明治三陸地震と同様の津波地震が発生し得るとの見解や、三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域をどこでも明治三陸地震と同様の津波地震が発生し得る一つの領域として扱うことを支持する見解が発表されることはなかった。)の状況を踏まえたものであると評価することができる。 (8) まとめ津波評価技術は、津波防災対策のために策定された4省庁報告書及び7省庁手引を補完するものとして、平成14年当時の原子力施設における設定津波に関する科学的知見を集大成したものであり、その波源設定(地震の予測)の手法は、津波防災対策に取り入れるべき確立した知見として科学的信頼性の認められる地震地体構造論の考え方に基づくものであって、地震・津波の専門家の間で原子力規制に取り入れるべき精度及び確度を備えた正当な見解として是認されているものであった。 そして、「長期評価の見解」が公表された平成14年7月当時、地震・津波の専門家の間においては、①津波地震の発生メカニズムに関する知見の進展状況(ペルー地震やニカラグア地震等、付加体が存在しない領域でも津波地震が発生していること等)を踏まえても、日本海溝寄りのプレートにおいて、津波地震が特定の領域(明治三陸地震の震源域である三陸沖のような、特殊な海底構造を有する領域)での 体が存在しない領域でも津波地震が発生していること等)を踏まえても、日本海溝寄りのプレートにおいて、津波地震が特定の領域(明治三陸地震の震源域である三陸沖のような、特殊な海底構造を有する領域)でのみ発生する特殊な地震であるとの見解が大勢を占めていた上、三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域の北部(明治三陸地震が発生したとされる領域)と南部(福島県沖が含まれる領域)とでは地震地体構造が異なること等が客観的な観測事実等として明らかになっており(前記(2)ア)、原子力施設の設計津波の設定について、それまでに培ってきた知見や技術進歩の成果 を集大成したものとして作成された津波評価技術においても、海溝寄りの領域は北部と南部とで明確に区別されていた(前記2)。また、②慶長三陸地震及び延宝房総沖地震については、その発生機序や震源域について有力な異説が複数存在し、三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域で発生した津波地震であるとする見解が確立しているわけではなかった(前記(2)イ)。 そのような中、地震本部は、平成14年7月31日、「長期評価の見解」を作成し、公表したが、この「長期評価の見解」は、地震の予測は地震の繰り返し性を基本として行うものであるとする地震学における基本的な考え方や地震地体構造論の考え方に基づくものではなく、「長期評価の見解」の公表当時の地震・津波の専門家の見解等や、地震防災対策における長期評価の位置づけ等、「長期評価の見解」の作成過程における議論状況等からすれば、多分に国民の地震防災意識の高揚を図るという防災行政的な見地から作成されたものであり、積極的な理学的根拠のないものであった(前記(2)、(4)及び(5))。 また、「長期評価の見解」の公表後の地震本部の対応(前記(6))や地震・津波の専門家の見解及び反応並びに 成されたものであり、積極的な理学的根拠のないものであった(前記(2)、(4)及び(5))。 また、「長期評価の見解」の公表後の地震本部の対応(前記(6))や地震・津波の専門家の見解及び反応並びに地震本部以外の専門家により構成される公的機関や民間の専門機関の反応等(前記(7))を見ても、「長期評価の見解」は、地震・津波の専門家の間でおおむね消極的ないし懐疑的に見られており、本件事故が発生する前の科学技術水準の下では、理学的に否定することができないという以上の積極的な評価をすることは困難であって、必ずしも信頼性の高いものとは評価されていなかった。 したがって、このような「長期評価の見解」は、津波評価技術と比較して、その科学的信頼性が同等であるなどとは評価することができないものであって、地震・津波の専門家の間で原子力規制に取り入れるべき精度及び確度を備えた正当な見解として是認される知見であったとはいえず、「長期評価 の見解」に基づき、経済産業大臣に、規制権限の行使を義務付けるだけの予見可能性を認めることはできなかった。 4 貞観津波に関する知見について(1) はじめに前記第4の1(4)のとおり、原子炉施設の位置、構造及び設備の安全性に関して規制権限不行使の国賠法上の違法性が問題となる場面において、ある科学的知見に基づいて予見可能性が認められるためには、少なくとも、原子力規制に関係する各専門分野の学識経験者等の専門家の間で、当該科学的知見が原子力規制に取り入れるべき精度及び確度を備えた正当な見解として是認される知見でなければならず、これに当たるか否かについては、当該知見の形成過程や同知見に対する専門家による評価等に基づいて判断されるべきであるところ、貞観津波に関する知見は、本件事故前はもとより、本件事故時においても、原 らず、これに当たるか否かについては、当該知見の形成過程や同知見に対する専門家による評価等に基づいて判断されるべきであるところ、貞観津波に関する知見は、本件事故前はもとより、本件事故時においても、原子力安全委員会の構成員を含む専門家の間で、いまだ原子力規制に取り入れるべき精度及び確度を備えた正当な見解として是認される知見ではなかった。 (2) 平成21年報告の時点において、貞観津波に関する知見は、専門家の間で原子力規制に取り入れるべき精度及び確度を備えた正当な見解として是認される知見ではなかったことア 耐震バックチェックの審議において、貞観津波に関する知見は、専門家の間で原子力規制に取り入れるべき精度及び確度を備えた正当な見解として是認される知見に当たらないと判断されたこと貞観津波に関する知見については、保安院における耐震バックチェックの審議において、地質学の専門家であるH委員から、貞観地震・津波について評価する必要がある旨の意見が出ただけで、貞観津波に関する知見を踏まえた対策を直ちに講じるべきとの意見は出なかったことから、合同WGの了承の下に作成された保安院の本件各評価書においては、被告東電の耐震バックチェックの中間報告の内容について、「現在、研究機関等によ25 り869年貞観の地震に係る津波堆積物や津波の波源等に関する調査研究が行われていることを踏まえ、当院は、今後、事業者が津波評価及び地震動評価の観点から、適宜、当該調査研究の成果に応じた適切な対応を取るべきと考える。」との要望を付して妥当であると評価され、貞観津波に関する知見を根拠に直ちに何らかの津波対策を講じるべきとは評価されなかった。また、原子力安全委員会における審議においても、専門家である委員らに対し、保安院の担当者から、保安院による本件各評価書における る知見を根拠に直ちに何らかの津波対策を講じるべきとは評価されなかった。また、原子力安全委員会における審議においても、専門家である委員らに対し、保安院の担当者から、保安院による本件各評価書における意見・要望について説明されたところ、貞観津波に関する知見を踏まえた対策を直ちに講じるべきとの指摘はなく、貞観津波の研究の成果に応じた対応を執るべきとの本件各評価書における保安院の指摘に対する異論もなかったため、同委員会は、被告東電の耐震バックチェックの中間報告を妥当と評価し、貞観津波に関する知見を根拠に直ちに何らかの対策を講じるべきとは評価しなかった。 このように、貞観津波に関する知見は、保安院(合同WG)や原子力安全委員会における各審議で取り上げられたものの、いずれにおいても、これを根拠に具体的な津波対策を直ちに講じるべきものとはされなかったものであり、平成21年11月の時点において、原子力安全委員会の構成員を含む専門家の間で、いまだ原子力規制に取り入れるべき精度及び確度を備えた正当な見解として是認される知見ではなかったということができる。 そして、保安院(合同WG)及び原子力安全委員会の耐震バックチェックの審議の際に指摘されたB論文が、貞観津波の評価検証に必要な津波堆積物調査を終了しておらず、中間的な報告にとどまるものであった上、近い将来、修正される可能性も十分に見込まれる状況にあったことも踏まえると、貞観津波に関する知見について、保安院(合同WG)及び原子力安全委員会の耐震バックチェックの審議において、原子力規制に直ちに取り入れるべき精度及び確度を備えた正当な見解として是認される知見に当たらないと判断され26 たことは、妥当であったということができる。 イ I氏が被告東電に対して平成21年報告を求めたのは、貞観津波に関する知 び確度を備えた正当な見解として是認される知見に当たらないと判断され たことは、妥当であったということができる。 イ I氏が被告東電に対して平成21年報告を求めたのは、貞観津波に関する知見が原子力規制に直ちに取り入れるべき精度及び確度を備えた正当な見解として是認される知見と考えていたからではないこと被告東電は、平成21年9月、保安院の耐震バックチェックの担当者であったI氏の要望に基づき、同人に対し、平成21年報告を行ったが、I氏が被告東電に対して平成21年報告を求めたのは、貞観津波に関する知見が直ちに原子力規制に取り入れるべき精度及び確度を備えた正当な見解として是認される知見であると考えていたからではなかった。 すなわち、I氏は、平成21年8月28日に貞観地震・津波の検討の進捗状況を被告東電に確認したが、その理由は、保安院が、耐震バックチェックの中間報告の評価の中で、貞観津波については、被告東電が、適宜、当該調査研究の成果に応じた適切な対応を執るべきとの要望を付していたことから、耐震バックチェックの担当者としては、その検討の進捗状況を確認する必要があったからにすぎない。 (3) 貞観津波に関する知見についてパラメータスタディを実施する合理的理由がないことア前記(2)アのとおり、B論文によって示された波源モデルは、更なる堆積物調査を踏まえて基礎情報を補充しなければならない段階にあったといえ、決して確定的な知見ではなかったというべきであるし、現にその後の津波堆積物調査の結果を踏まえて新たな波源モデルが提案されるなどしていたのであるから、具体的な津波対策に利用できるような状況ではなかった。 そして、津波評価技術に基づくパラメータスタディにより想定津波の不確実性を適切に津波評価に取り込むためには、その前提となる基準断 のであるから、具体的な津波対策に利用できるような状況ではなかった。 そして、津波評価技術に基づくパラメータスタディにより想定津波の不確実性を適切に津波評価に取り込むためには、その前提となる基準断層モデルが発生の蓋然性のある津波に係る断層モデルでなければならないところ、平27 成21年当時、津波堆積物の進展に伴って、B論文のモデル10を含め複数のモデルが提案されている状況にあり、専門家の中で「最終的な断層モデル確立には更なる知見の拡充が必要で、あと2~3年程度要する」(甲C第8号証・1枚目)と認識されている状況にあった。この点については、B教授自身も、同種訴訟の書面尋問の回答書において、貞観津波が津波評価技術において評価対象とされる既往津波になるために必要な調査やその期間について問われたのに対し、「津波評価技術では、評価対象としての「既往津波」は信頼性の高い痕跡高が得られるものとしていた。貞観津波のように主に津波堆積物データしか得られないものについては、信頼性の高い津波堆積物データの収集、それに基づく痕跡高・浸水域の推定が必要であろう。必要な期間の推定は困難であるが、(中略)少なくとも今後数年は必要であり、おそらく5年後(本件地震から10年後)頃になると思われる。」と述べている(丙C第79号証・11ページ)。 イ この点について、原告らが提出したH氏(H委員のこと。以下本書面において「H氏」ということがある。)の意見書(甲C第233号証)において、同氏は、「「モデル10」や「モデル11」は地震の全体像を示す断層モデルとしては不十分ですが、すでに確認されている津波堆積物の分布域に津波を到来させるだけの最低限の断層モデルは提示されているのですから、その知見を踏まえて対策を講じるべきだと考えます。」と述べている(同号証・4及び5 すが、すでに確認されている津波堆積物の分布域に津波を到来させるだけの最低限の断層モデルは提示されているのですから、その知見を踏まえて対策を講じるべきだと考えます。」と述べている(同号証・4及び5ページ)。 しかし、津波堆積物調査の結果から波源モデルを推定し、これを設計上の想定津波の波源とすることが可能となるには、少なくとも、同調査の範囲が想定される波源の断層モデルの長さを包含するほど広範囲に及んでいるなど、地震の全体像を把握した上で特定の評価地点における津波高さを定量的に検証できる条件がそろっていることが必要となる (丙C第197号証・4及び5ページ参照)。 そして、かかる条件がそろい、波源の推定が可能となれば、被告国は、津波評価技術における既往津波に該当しなくても、原子炉施設の更なる安全性の向上を図るため、事業者に数値シミュレーションを実施させるなどして、安全性評価を行ってきたものである*1 。このような信頼できる波源モデルの構築が可能であれば数値シミュレーションを実施して安全性評価を行うという考え方は、科学的知見の進展状況を踏まえた対応として合理性が認められるとともに、科学的根拠の程度を問わない闇雲な対策の追加による原子炉施設の安全性の低下を回避することにもなるから、科学的な合理性を有するといえる。 このような観点からモデル10及びモデル11を見ると、これらは限られた地域で発見された津波堆積物の分布域を説明できるにとどまり、貞観地震の地震像(発生領域や規模等)の全容を示すものとはいえず(丙C第197号証・7ページ)、地震の全体像を把握した上で特定の評価地点における津波高さを定量的に検証できる条件がそろっているとはいえないものであったから、モデル10及びモデル11を設計上の想定津波の波源 *1 中央防災会議の 震の全体像を把握した上で特定の評価地点における津波高さを定量的に検証できる条件がそろっているとはいえないものであったから、モデル10及びモデル11を設計上の想定津波の波源 *1 中央防災会議の日本海溝・千島海溝調査会が平成18年に策定した日本海溝・千島海溝報告書において防災対策の検討対象に選定した北海道東部の「500年間隔地震」は、地震の全体像を把握するに足りる程度に広範囲の津波堆積物調査が実施されるなどし、その波源が推定できるようになったのが平成15年ないし平成16年であったため、津波評価技術が策定された平成14年当時は、いまだ波源の推定が可能な状態とはなっておらず、津波評価技術に取り入れられていなかった。しかし、平成18年に至り、中央防災会議が500年間隔地震を防災対策の検討対象に取り入れ、波源モデルを用いた数値シミュレーションに基づく被害想定を実施したことから、保安院は、原子力発電所の津波に対する安全性を審査するに当たり、500年間隔地震の波源モデルを取り入れた津波評価を事業者に行わせていた(丙C第50号証・14及び63ないし66ページ、丙C第197号証・5ないし7ページ)。 29 とすることは不可能であった。したがって、「最低限の断層モデルは提示されているのですから、その知見を踏まえて対策を講じるべき」との、H氏の前記意見は相当ではない。このことは、B教授が、福島県a町h地区への津波影響について、モデル10とモデル11を比較すると後者の方が浸水深が低い値となっている上、浸水域も狭い範囲にとどまっていることから、「この時点で両者の優劣を決めることはできないし、他の地域の津波堆積物の発見状況次第では別のモデルが最適なモデルとなる可能性もある。そのため、このD論文(引用者注:Dら論文)に基づいて福島県沿岸の津波対策の要否や の優劣を決めることはできないし、他の地域の津波堆積物の発見状況次第では別のモデルが最適なモデルとなる可能性もある。そのため、このD論文(引用者注:Dら論文)に基づいて福島県沿岸の津波対策の要否や内容を決めることは困難であったと思われる。」と評していることからも明らかである(丙C第197号証・8ページ)。 ウ このように、貞観津波に関する知見は、本件事故の直前においても、貞観津波の断層モデルの信頼性が低く、津波評価技術における基準断層モデルに選定することができないため、これに対してパラメータスタディを実施する合理的理由はなかった。 (4) まとめ以上のとおり、貞観津波に関する知見は、地震・津波の専門家の間で原子力規制に取り入れるべき精度及び確度を備えた正当な見解として是認される知見であったとはいえず、貞観津波に関する知見に基づく平成21年報告を受けたことによって、経済産業大臣に、規制権限の行使を義務付けるだけの予見可能性を認めることはできなかった。 第5 結果回避可能性について1 「長期評価の見解」を踏まえて試算される津波について(1) 仮に、「長期評価の見解」を踏まえて福島第一発電所に到来する津波を試算したとしても、福島第一発電所の主要建屋の敷地高を超える津波が敷地東側から到来することは予測できなかったこと30 「長期評価の見解」が、「震源域は、1896年の「明治三陸地震」についてのモデル(Tanioka and Satake、1996;Aida、1978〔引用者注:「Aida、1978」とあるのは「相田、1977」の誤りである〕)を参考にし、同様の地震(引用者注:明治三陸地震と同様の地震)は三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域内のどこでも発生する可能性があると考えた」(丙C第25号証・9ページ)ものであ 」の誤りである〕)を参考にし、同様の地震(引用者注:明治三陸地震と同様の地震)は三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域内のどこでも発生する可能性があると考えた」(丙C第25号証・9ページ)ものであることからすれば、想定津波の試算に当たっては、明治三陸地震の断層(波源)モデル(Tanioka and Satake、1996;相田、1977)を用いることになる。そして、明治三陸地震の断層(波源)モデル(Tanioka and Satake、1996)を基に、津波評価技術の手法に従って試算したのが平成20年試算である(乙C第82号証)。平成20年試算では、三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域のうち、明治三陸地震が発生したとされる領域(乙C第82号証・2ページの「領域③」の領域。なお、同領域内で発生する津波〔明治三陸地震に伴う津波〕が福島第一発電所の主要建屋の敷地高であるO. P.+10メートルを超えないことは、津波評価技術の策定時に確認済みであった。)より更に南方の海溝寄りの領域(同ページの「領域⑨」の領域)の北、やや北、中央、やや南、南と同領域内に満遍なく断層(波源)モデルを設定した上で、3種類の走向に変化させた合計15ケースの概略パラメータスタディを行い、そのうち最も高い津波高が算出されたケース(やや北に設定して走向を+5度変化させたケース)につき、上縁深さ、傾斜角及びすべり角をそれぞれ変化させた合計27ケースの詳細パラメータスタディを実施している(同号証・1ないし3、7及び11ページ)。そして、27ケースの詳細パラメータスタディのうち、最大の津波高となるケース(上縁深さ2キロメートル、傾斜角25度、すべり角±0度)について、朔望平均満潮位を前提に再度数値計算をした結果、敷地南側が最も高いO.P.+15. 707メートルとなり、また、概略 波高となるケース(上縁深さ2キロメートル、傾斜角25度、すべり角±0度)について、朔望平均満潮位を前提に再度数値計算をした結果、敷地南側が最も高いO.P.+15. 707メートルとなり、また、概略パラメータスタディのみを実施した他の14ケースの全てでも、敷地南側に到来する津波が一番高くなるだけでな31 く、断層モデルを領域の南側の位置に置いたケース以外は全て敷地高を超える試算結果となる一方で、これらのケース全て(詳細パラメータスタディを行った27ケース及び概略パラメータスタディのみを行った14ケースの全て)で、敷地東側では主要建屋等がある敷地高(O.P.+10メートル)を超えない結果となった(同号証・8及び9ページ)。 このような平成20年試算の結果からすれば、明治三陸地震と同様の津波地震が三陸沖から房総沖の海溝寄りの南部の領域(前記「領域⑨」の領域)で発生し、当該津波が福島第一発電所の敷地に到来した場合、その津波高は敷地南側において最も高くなる一方で、敷地東側には主要建屋の敷地高を超える津波が到来しないことになるが、その理由は、福島第一発電所沖合や福島第一発電所周辺の海底地形構造等が影響しているためであると考えられる。すなわち、津波は、水深が深いほど速いスピードで進む性質を持っているため、海底の同じ深さの地点を結んだ等水深線と直角に近い角度で進む性質を持っているところ、福島第一発電所沖合の等水深線は、北北東、南南西に走行している上、福島第一発電所の敷地南側周辺は、防波堤と陸地とがV字型湾のようになっており、津波が陸地に向かって進むにつれてそのエネルギーが奥に向かって集中していく構造になっていたため、敷地南側が最も高い水位となるものと考えられるのである(丙C第157号証・右下部のページ数で220ないし224ページ)。 この つれてそのエネルギーが奥に向かって集中していく構造になっていたため、敷地南側が最も高い水位となるものと考えられるのである(丙C第157号証・右下部のページ数で220ないし224ページ)。 このように、「長期評価の見解」を踏まえて福島第一発電所に到来する津波を試算したとしても、福島第一発電所の主要建屋の敷地高(O.P.+10メートル)を超える津波が敷地東側から到来することは予測できなかったものである。 (2) 「長期評価の見解」を踏まえて試算された平成20年試算津波と本件津波の規模等の違い地震エネルギーは、マグニチュードが1大きくなると約32倍となるとこ ろ(丙C第10号証・5ページ)、「長期評価の見解」が前提とする地震はM8.2であったのに対し(丙C第25号証・7ページ)、本件地震は、M9.0であったから(甲C第59号証・4ページ)、「長期評価の見解」が前提とする地震よりも約15倍の大きな地震エネルギーを有していた。また、「長期評価の見解」を踏まえて想定した地震によって動くとされていた断層領域は、南北の長さが約210キロメートル、東西の幅が約50キロメートルであったのに対し(丙C第150号証及び乙C第1号証・9ページ)、本件地震によって実際に動いた断層領域は、南北の長さが約400キロメートル以上、東西の幅が約200キロメートルであったと推定された(甲C第59号証・4ページ)。さらに、地震の断層すべり量についても、「長期評価の見解」を踏まえて想定した地震が9.7メートルであったのに対し(丙C第150号証及び乙C第1号証・9ページ)、本件地震は、最大で50メートル以上であったと推定された(甲C第59号証・4ページ)。このように、「長期評価の見解」を踏まえて想定した地震と本件地震とでは、地震エネルギーの大きさ、動いた ページ)、本件地震は、最大で50メートル以上であったと推定された(甲C第59号証・4ページ)。このように、「長期評価の見解」を踏まえて想定した地震と本件地震とでは、地震エネルギーの大きさ、動いた断層領域の広さ、断層すべり量等が、格段に大きく異なるものであった。 また、「長期評価の見解」を踏まえて津波を試算した場合、前記(1)のとおり、平成20年試算津波が福島第一発電所の主要建屋の敷地東側から敷地高(O.P.+10メートル)を超えて浸入してくることは予測することができなかった。これに対し、本件津波は、ほぼ東方(敷地東側)から福島第一発電所に到来し、1号機ないし4号機の主要建屋の敷地高(O.P.+10メートル)を超えて遡上し、1号機ないし4号機の海側エリア及び主要建屋設置エリアはほぼ全域が浸水した。1号機ないし4号機の敷地エリアでの津波高は、O.P.+約11.5ないし約15.5メートルであり、局所的に最大O.P.+約16ないし約17メートルに及んだ(丙C第159号証・1及び2ページ)。つまり、本件津波は、福島第一発電所の主要建33 屋の敷地北側、東側、南側の全ての方向から敷地高(O.P.+10メートル)を超えて津波が浸入したのである。その浸水深も、「長期評価の見解」を踏まえて試算された平成20年試算津波では、1号機及び2号機の主要建屋の立地点で1メートル前後、4号機の立地点で2メートル前後と推定されていたが(乙C第82号証・15ページ)、本件津波では、1号機ないし4号機の敷地エリアで最大で約5.5メートルに至った(丙C第159号証・1及び2ページ)。 このように、平成20年試算津波と本件津波とでは、その規模や到来する方向等は全く異なるものであった。 そして、津波の規模の違いは、津波の継続時間にも表れていた。平成20年試算津 及び2ページ)。 このように、平成20年試算津波と本件津波とでは、その規模や到来する方向等は全く異なるものであった。 そして、津波の規模の違いは、津波の継続時間にも表れていた。平成20年試算津波では、1号機ないし4号機の取水口前面の水位が0メートルから6メートル程度に上昇した後に、再び0メートルに低下するまでの時間は、いずれの施設においても10分弱程度であることが読み取れる(乙C第82号証・17ページ)。これに対し、被告東電が行った本件津波の再現計算における港湾内の検潮所位置付近の水位の時間経過では、水位が5メートルを超えて最大13.1メートルに達した後に、0メートルまで低下するまでの時間のみでもおよそ17分程度(水位が0メートルから上昇し、再び0メートルに低下するまでの場合は約30分程度)であることが読み取れるなど、津波の継続時間に大きな違いが認められる(丙C第159号証・2ページ)。 さらに、津波の規模や到来する方向性の違いは、タービン建屋に生じる波力にも現れていた。本件津波のタービン建屋内への主要な浸水経路として考えられている大物搬入口や入退域ゲートはタービン建屋東側(海側)壁面に存在しており、平成20年試算津波は、これら主要な浸水経路に対して直接的に波力を及ぼすような状況にはないのに対し、本件津波は、直接的に波力を及ぼす状況にあった。このように、平成20年試算津波と本件津波との間 には、タービン建屋内への主要な浸水経路となる大物搬入口や入退域ゲートに生じる波力に大きな違いが認められる(丙C第161号証・4-3ないし4-13ページ及び乙C第82号証)。 加えて、J教授の意見書においては、福島第一発電所に押し寄せた本件津波の水量は、「長期評価の見解」を踏まえて試算された平成20年試算津波の水量の約10倍である旨 -13ページ及び乙C第82号証)。 加えて、J教授の意見書においては、福島第一発電所に押し寄せた本件津波の水量は、「長期評価の見解」を踏まえて試算された平成20年試算津波の水量の約10倍である旨が述べられている(丙C第17号証・47及び48ページ)。 以上のとおり、本件津波は、「長期評価の見解」を踏まえて試算された平成20年試算津波と比較して格段に規模が大きく、敷地高を超えて到来・浸入する方向も多方向にわたるなど規模や態様が全く異なるものであったということができる。 2 規制行政庁(経済産業大臣)による技術基準適合命令に応じて事業者(被告東電)が福島第一発電所において講じたであろう結果回避措置の内容について(1) 技術基準適合命令を発することが可能である場合の発令の在り方規制行政庁において技術基準適合命令を発するには、その発令が問題とされる当時の科学的、専門技術的知見に照らして、当該対策が技術基準に適合している(当該対策により原子炉施設の安全性が確保される)か否かが判断可能であることが必要であり、当該対策を講じることが物理的に可能であっただけでは足りない。 (2) 規制行政庁が本件事故当時に津波対策に係る技術基準不適合状態の解消を判断することができる措置は、ドライサイトコンセプトに基づく福島第一発電所の敷地又はその周辺における防潮堤・防波堤等の設置であることア 少なくとも本件事故当時まで、津波対策としては、ドライサイトコンセプト、すなわち、安全上重要な全ての機器が設計想定津波の水位より高い場所に設置されること等によって、それらの機器が津波で浸水するのを防ぎ、津波による被害の発生を防ぐという考え方が主流であり、我が国にお35 いては、設計想定津波が敷地に浸入することが想定される場合には、防潮堤・防波堤等の設置により 機器が津波で浸水するのを防ぎ、津波による被害の発生を防ぐという考え方が主流であり、我が国にお いては、設計想定津波が敷地に浸入することが想定される場合には、防潮堤・防波堤等の設置により津波の敷地への浸入を防止してドライサイトを維持することが津波対策の基本的な考え方であった。 そのため、仮に、被告東電において、「長期評価の見解」を踏まえて試算された平成20年試算津波への対策を講じるとすれば、前記の基本的な考え方に基づき、福島第一発電所の敷地又はその周辺に防潮堤・防波堤等を設置するのが基本となる。 イしかも、本件訴訟において、被告東電が、「平成20年試算の結果としては、(中略)本件原発(引用者注:福島第一発電所。以下同じ)の1~6号機の前面においては敷地高には遡上しないというものであったことから、かかる評価に基づき対策を講ずるとすれば、本件原発の南側敷地及び北側敷地上に防潮堤設置を検討することが合理的である。」(令和6年8月15日付け被告東電第14準備書面113ページ)と主張していることからすると、技術基準適合命令が発令された場合に同命令に応じて被告東電が講じたであろう津波対策は、福島第一発電所の主要建屋の敷地高(O.P.+10メートル)を超える津波の到来が予測される場所に防潮堤・防波堤等を設置することであったと考えられる。 そして、主要建屋の敷地高を超える津波を予見すべきであったとされた場合に、かかる津波の到来が予測される場所に防潮堤・防波堤等を設置するという措置が、当時の科学的、専門技術的知見の到達点に照らして原子炉施設の安全確保上支障がないと認められるものであったことは、被告東電が平成18年9月に設置許可申請を行った東通発電所1号機の実例からも明らかである。 また、このような津波の到来が予測される場所に防潮堤・ 安全確保上支障がないと認められるものであったことは、被告東電が平成18年9月に設置許可申請を行った東通発電所1号機の実例からも明らかである。 また、このような津波の到来が予測される場所に防潮堤・防波堤等を設置することが津波対策として不合理でないことは、J教授(丙C第17号証・40及び41ページ、丙C第149号証・22ないし24ページ)、36 q教授(丙B第3号証及び乙B第11号証・14ページ)、r教授(丙B第2号証及び乙B第15号証・7ページ)がその旨をそれぞれ評していることからも裏付けられる。 (3) 結果回避措置の内容として、事業者が防潮堤・防波堤等を設置することなく水密化を講じようとしても、規制行政庁において、不適合状態が解消されたと判断することはできなかったことア はじめに仮に、原子炉施設の津波防護措置について、被告国が省令62号4条1項に適合しない状態にあることを理由に電気事業者(本件では被告東電)に対し技術基準適合命令を発することができるとした場合でも、いかなる方法でかかる不適合状態を解消するかは、設置許可処分時の安全審査の内容や技術基準適合命令の発令が想定される当時の科学的、専門技術的知見の到達点に照らして、規制行政庁が原子炉施設の安全確保上支障がないと認める範囲内で、電気事業者の判断に委ねられるものと解される。 その上で、規制行政庁がいかなる状態をもって不適合状態の解消と判断するかは、設置許可処分時の安全審査における津波対策に係る基本設計ないし基本的設計方針や技術基準適合命令の発令が想定される当時の科学的、専門技術的知見の到達点を踏まえて判断せざるを得ない。 この点、福島第一発電所の設置許可処分時の安全審査における津波対策に係る基本設計ないし基本的設計方針は、主要建屋の敷地への津波の浸入を阻止する 専門技術的知見の到達点を踏まえて判断せざるを得ない。 この点、福島第一発電所の設置許可処分時の安全審査における津波対策に係る基本設計ないし基本的設計方針は、主要建屋の敷地への津波の浸入を阻止するというものであったし、技術基準適合命令の発令が想定される当時においても、津波対策としては、ドライサイトコンセプトに基づく防潮堤・防波堤等の設置が基本であったため、規制行政庁としては、被告東電が主要建屋の敷地高(O.P.+10メートル)を超える想定津波の浸入を阻止する防潮堤・防波堤等を設置することをもって不適合状態の解消と判断した可能性が高い。 37 他方で、電気事業者がドライサイトコンセプトを放棄して敷地内への津波の浸入を容認するような水密化等の措置を講じようとする場合には、その当時の科学的、専門技術的知見に照らせば、規制行政庁において、これらの措置によって不適合状態が解消されたと判断することはできなかったのであるから、同措置を命ずることが義務付けられることはないというべきである。 イ 主要建屋等が存在する敷地内に津波がそのまま浸入することを容認した上での津波対策には、大きな不確定性が伴い、合理性、信頼性に欠ける上、事故対応等に支障が生じることも想定されること(ア) 主要建屋等が存在する敷地内に津波がそのまま浸入することを容認した上での津波対策には、大きな不確定性が伴い、合理性、信頼性に欠けることa 防潮堤・防波堤等の設置を前提とせずに、水密化のみを講じるのであれば、主要建屋等が存在する敷地内に津波がそのまま浸入することを容認した上で津波対策を行うこととなるが、このような対策を行う場合、規制行政庁において技術基準に適合していると認めるためには、原子炉施設及びタービン建屋に設置してある扉を水密扉等に替えればよいといった単純な で津波対策を行うこととなるが、このような対策を行う場合、規制行政庁において技術基準に適合していると認めるためには、原子炉施設及びタービン建屋に設置してある扉を水密扉等に替えればよいといった単純な対策で足りることにはならず、防潮堤・防波堤等を設置する場合と同様に、想定津波水位や波力等を適切に評価した上で水密化設計や強度設計を行い、科学的、専門技術的な観点から原子炉施設の安全性に重大な影響を与えないと判断し得るだけの対策を行う必要がある。 そのためには、津波対策の設計条件も必要となるため、主要建屋等が存在する敷地内の陸上構造物をモデル化した上で、同敷地内に詳細な計算格子を設定して、津波の同敷地への遡上数値計算を行い、浸水範囲を特定し、津波対策が必要となる各箇所における浸水深や、波力38 等を特定する必要がある。 b ところが、主要建屋等が存在する敷地内に津波がそのまま浸入する場合、当該津波は構造物等による反射や集中等の影響によって複雑な挙動となり、津波波圧の評価式も確立していなかったため、前面に障害物がない防潮堤・防波堤等と異なり、相対的に計算結果の精度が低くならざるを得ない(丙C第17号証・54ページ)。 また、主要建屋等が存在する敷地内に津波がそのまま浸入するのを容認した上で水密化を講じることとした場合、津波の波力や漂流物の影響を直接受ける海側に面した大物搬入口のような大面積の扉の水密化については、本件事故当時には技術的に確立していなかったという問題もあった(丙C第163号証)。 このように、主要建屋等が存在する敷地内に津波がそのまま浸入する事態を想定する場合、建屋等の水密化の措置が破られ、防護すべき機器が被水するなどして惹起されるあらゆる被害を想定せざるを得なくなるところ、そのように原子炉施設の安全確保に重大な支 そのまま浸入する事態を想定する場合、建屋等の水密化の措置が破られ、防護すべき機器が被水するなどして惹起されるあらゆる被害を想定せざるを得なくなるところ、そのように原子炉施設の安全確保に重大な支障が生ずることを容認した上で津波対策の設計をすることは困難であった。 c その上、主要建屋等が存在する敷地内にそのまま津波が浸入する事態を容認する場合には、単に建屋等のみを水密化すればよいというものではなく、非常用ディーゼル発電機の燃料を保管する軽油タンクや、原子炉注水設備のRCIC(原子炉隔離時冷却系)やHPCI(高圧注水系)の水源である復水貯蔵タンクといったタンク類、更には、それらのタンク類から建屋までの配管等の様々な屋外設備についても、遡上後の津波の挙動や漂流物の影響を考慮した上でのきめ細かな対策を検討しなければならず、その対象範囲も広くなり、それに応じておのずと不確定性も大きくなる。 39 この点、本件事故の際には、本件津波の漂流物である自動車がタービン建屋の扉を破壊して建屋内に押し込まれるなど(丙C第164号証の1及び2・59ページ及び〔弁護人提示資料1〕142ページ、丙C第165号証39ページ及び甲B第4号証の2・添付資料6-9(7))、漂流物による影響が被害の拡大に寄与したと考えられ、主要建屋等が存在する敷地内に津波がそのまま浸入することを容認した場合、このような事態が発生することは当然に想定されるところである。 (イ) 事故対応等に支障が生じることも想定されること主要建屋等が存在する敷地内に津波がそのまま浸入する事態を容認する場合には、車両や通信設備等のインフラ破壊や漂流物の道路封鎖等によるアクセス障害等、幾通りもの被害が想定される(実際に本件事故の際に経験したところである。)ところ、その全ての事態に応じた を容認する場合には、車両や通信設備等のインフラ破壊や漂流物の道路封鎖等によるアクセス障害等、幾通りもの被害が想定される(実際に本件事故の際に経験したところである。)ところ、その全ての事態に応じた様々な状況を想定して事前に事故対応を準備しておくのは至難である。 また、原子力発電所には主要建屋等以外にも様々な屋外施設が存在するほか、作業用クレーン車等の車両や、場合によっては船舶等も存在することから、それぞれの施設等の特性に応じた事故対応もあらかじめ検討しておく必要がある。 このように、主要建屋等が存在する敷地内に津波がそのまま浸入する事態を容認した上で津波対策を講じることには様々な不確定要素が存在し、事前にそれらのリスクを正確に把握して対処しておくことは極めて困難である。 なお、新規制基準においても、主要建屋等が存在する敷地内に津波が浸入する事態を容認すれば、想定外の様々な事象が発生する可能性があり、それによって原子炉施設の安全性に重大な影響が及ぶおそれがあるとの評価がされているところである(丙C第168号証・17ページ)。 40 ウ 本件事故前の科学技術水準として、主要建屋等が存在する敷地内に津波がそのまま浸入する事態を容認した上で水密化のみによってこれを防護する技術は確立されていなかったこと主要建屋等が存在する敷地内に津波がそのまま浸入する事態を容認した上で津波対策を講じる場合には、津波の波力や漂流物の衝突力を評価する必要があるところ、津波波力の評価手法については、本件事故により得られた知見を踏まえて目覚ましい進展が見られたとはいえ、現時点においても鋭意研究が続けられているところであり、いまだ確立した評価手法は存在しないし、また、漂流物の衝突力についても、研究機関において鋭意研究が続けられているが、現時点でもなお たとはいえ、現時点においても鋭意研究が続けられているところであり、いまだ確立した評価手法は存在しないし、また、漂流物の衝突力についても、研究機関において鋭意研究が続けられているが、現時点でもなお解明されていない点が多く、衝突力の算定式が幾つか提案されているにとどまり、定量的な評価手法は確立されていない(丙C第138号証・120ページ)。 また、建屋等の全部の水密化については、そもそも技術的な発想とその裏付けとなる確たる技術がなかったほか、局所的・部分的な水密化とは異なる技術的に未解決の課題もあり、安全上重要な機器の全部を防護するための津波対策として実用段階にはなかったものである(丙B第3号証及び乙B第11号証・15ページ、甲C第186号証の1・右下部のページ数で96ページ並びに丙C第151号証の1・右下部のページ数で43及び46ページ参照)。 エ 本件事故の経験を踏まえて策定された新規制基準でも、防潮堤・防波堤等を設置することなく、主要建屋等が存在する敷地内に津波がそのまま浸入することを前提に水密化のみによって津波対策を行うことは求めていないこと新規制基準は、①第一に、津波遡上波の地上部からの到達・流入、津波の取水路又は放水路等の経路からの敷地内への流入を防止する浸水防止対策(外郭防護1)を求め、②第二に、その浸水防止対策をもってしても41 発生することが否定しきれない取水・放水施設及び地下部からの漏水に対する浸水対策(外郭防護2)を求め、③第三に、地震・津波の影響で設備等が損傷することによる保有水や津波の溢水に対する浸水対策(内郭防護)を求めている(丙A第31号証・134及び135ページ並びに丙A第32号証・28ないし32ページ)。 外郭防護1は、正にドライサイトの維持を求めるものであり、新規制基準は、外郭防護1 (内郭防護)を求めている(丙A第31号証・134及び135ページ並びに丙A第32号証・28ないし32ページ)。 外郭防護1は、正にドライサイトの維持を求めるものであり、新規制基準は、外郭防護1を行わず、外郭防護2や内郭防護のみをもって津波対策をすることを是認するものではない。 すなわち、外郭防護2は、飽くまで外郭防護1による浸水対策によっても発生する可能性を否定することのできない取水・放水施設等からの「漏水」に対しての浸水対策を求めるものにすぎず、ここで求められる対策は、漏水箇所と漏水量の推定に基づき、浸水想定範囲を確認した上で行うものであって、主要建屋等が存在する敷地内に津波がそのまま浸入することを前提としたものではない(丙A第32号証・30ページ並びに丙C第167号証・17及び18ページ)。 また、内郭防護も、重要な安全機能を有する設備等(耐震Sクラスの機器・配管系)を内包する建屋及び区画である津波防護重点化範囲についてのみ求められるものであり、地震・津波によって循環水系等の機器や配管が損傷することが想定されるため、その場合に生じる「溢水」から防護するための局所的・部分的な水密化を要求しているにすぎず、主要建屋等が存在する敷地内に津波がそのまま浸入することを前提としたものが求められているものではない(丙A第32号証・31及び32ページ並びに丙C第167号証・19及び20ページ)。 このように、新規制基準は、主要建屋等が存在する敷地内に津波がそのまま浸入することを前提とした上での水密化を求めるものではない。このことは、本件事故前のみならず、本件事故後の知見を踏まえても、防潮堤・42 防波堤等の設置によるドライサイトの維持ではなく、主要建屋等が存在する敷地内に津波がそのまま浸入することを前提に水密化のみを講じたとして みならず、本件事故後の知見を踏まえても、防潮堤・ 防波堤等の設置によるドライサイトの維持ではなく、主要建屋等が存在する敷地内に津波がそのまま浸入することを前提に水密化のみを講じたとしても、原子炉施設の安全性を確保し得ると判断することができるものではないことを端的に示すものである。 オ小括以上のとおり、福島第一発電所の設置許可処分時の安全審査における津波対策に係る基本設計ないし基本的設計方針は、主要建屋等が存在する敷地(O.P.+10メートル)への津波の浸入を阻止するというものであったし、本件事故前はもとより、本件事故後においても、津波対策としてドライサイトコンセプトが維持されていたことからすれば、被告東電等の電気事業者が、「長期評価の見解」を踏まえて試算される津波への対策として、防潮堤・防波堤等を設置することなく、水密化のみを講じることを選択するとは考え難い。 また、規制行政庁としても、仮に、電気事業者が「長期評価の見解」を踏まえて試算される津波への対策として防潮堤・防波堤等を設置せずに水密化のみを講じることを選択した場合には、技術基準に最も適合するとされていたのがドライサイトコンセプトに基づく防潮堤・防波堤の設置の措置であり、その当時、水密化のみによる津波対策が技術基準に適合しているかどうかを判断することのできる科学的、専門技術的知見もなかったことからすれば、水密化のみをもって不適合状態の解消を判断することはできなかったということができるから、規制行政庁に水密化の措置を命ずることが義務付けられることはないというべきである。 3 被告国(経済産業大臣)が規制権限を行使し、電気事業者(被告東電)が講じたであろう結果回避措置によっても結果を回避することはできないこと(1) はじめに本件当時、ドライサイトを維 ある。 3 被告国(経済産業大臣)が規制権限を行使し、電気事業者(被告東電)が講じたであろう結果回避措置によっても結果を回避することはできないこと(1) はじめに本件当時、ドライサイトを維持することが津波対策の基本的な考え方であ43 ったことからすれば、規制行政庁が津波対策に係る不適合状態の解消を判断できる措置は、ドライサイトコンセプトに基づき、想定津波の浸入が予測される場所に防潮堤・防波堤等の設置をすることとなるから、電気事業者(被告東電)としては、当該防潮堤・防波堤等の設置を選択した可能性が高い。 また、電気事業者(被告東電)において、ドライサイトコンセプトを放棄し、津波が敷地に浸入することを容認するような水密化は、原告らが技術基準適合命令の発令義務があったと主張する当時の科学的、専門技術的知見に照らせば、規制行政庁において、それをもって不適合状態が解消されると判断することはできないものであったから、規制行政庁において技術基準適合命令を発した場合に、仮に電気事業者(被告東電)において、「長期評価の見解」を踏まえて試算される津波への対策として、防潮堤・防波堤等の設置に加えてタービン建屋の水密化及び重要機器室の水密化の措置を講じることを選択したとしても、これらの措置は、決して原子炉施設内への津波の浸入を容認するようなものではなく、法令上の津波対策として求められる想定津波を阻止し得る防潮堤・防波堤等の設置を前提に、これらによっても阻止し得ない軽微な浸水に対して局所的・部分的に行うものにとどまることになると解される。 しかしながら、電気事業者(被告東電)が講じる措置が前者であっても、後者であっても、いずれにせよ本件津波による本件事故の発生を回避することはできない。 (2) 仮に、被告国(経済産業大臣)が規制権限を行使し ら、電気事業者(被告東電)が講じる措置が前者であっても、後者であっても、いずれにせよ本件津波による本件事故の発生を回避することはできない。 (2) 仮に、被告国(経済産業大臣)が規制権限を行使し、電気事業者(被告東電)において、「長期評価の見解」を踏まえて試算された平成20年試算津波に対する対策として、防潮堤・防波堤等を設置したとしても、本件事故の発生を回避することができないこと「長期評価の見解」を踏まえて試算された平成20年試算津波と本件津波とでは規模、到来の方向や流況等に大きな違いがあるところ、「長期評価の44 見解」を踏まえて試算された平成20年試算津波を踏まえた技術基準適合命令に対し、被告東電が同津波の防護措置として防潮堤・防波堤等の設置を行ったとしても、福島第一発電所の敷地南側周辺を中心に、かかる試算による津波を阻止可能な範囲で設置されるにすぎないから、多方面から到来・浸入し、かつ、流況も異なる本件津波による本件事故の発生を防止することができるとは認められない。 そして、実際、被告東電は、平成28年7月22日、「長期評価の見解」を踏まえて試算される津波を前提に福島第一発電所の敷地への浸水を防ぐための対策として敷地の南北側に防潮堤を設置した場合に、本件津波による浸水を防ぐことができたか否かについてのシミュレーションを行っているが、「長期評価の見解」を踏まえて試算された平成20年試算津波を前提として防潮堤を設置していたとしても、本件津波が敷地東側から浸入することを防ぐことができず、その結果、1号機ないし4号機の主要建屋付近の浸水深は、本件事故時のものと比べてほとんど変化がないことが明らかとなっている(丙C第150号証及び乙C第1号証、丙C第159号証・2ページ)。 以上の事情からすれば、「長期評価の見解」を踏まえ の浸水深は、本件事故時のものと比べてほとんど変化がないことが明らかとなっている(丙C第150号証及び乙C第1号証、丙C第159号証・2ページ)。 以上の事情からすれば、「長期評価の見解」を踏まえて試算される津波を想定した防潮堤・防波堤等の設置によって、本件事故の発生を避けることはできないと考えるのが自然かつ合理的である。 (3) 仮に、防潮堤・防波堤等の設置に加えて「建屋の水密化及び重要機器室の水密化」を図ったとしても、本件事故の発生を回避することができず、防潮堤等が完成する前の単独の水密化措置を講じることを選択したとしても、同様に、本件事故の発生を回避することができないこと仮に、電気事業者が、平成20年試算津波への対策として、防潮堤・防波堤等の設置に加えて建屋の水密化及び重要機器室の水密化の措置を講じることを選択したとしても、これらの措置は、想定津波を阻止し得る防潮堤・防波堤等の設置を前提に、これらの設置によっても阻止し得ない軽45 微な浸水に対して事業者が自主的に講じる局所的・部分的なものにとどまることになるところ、もとより、平成20年試算津波と本件津波とでは規模、到来の方向や流況等に大きな違いがあるし、平成20年試算津波に対する防護措置として防潮堤・防波堤等が設置されたとしても、福島第一発電所の敷地南側周辺を中心に、平成20年試算津波を阻止可能な範囲で設置されることになるにすぎないから、本件津波の多方面からの到来・浸入を防ぐことはできず、取り分け敷地東側からの浸入を防ぐことはできなかった蓋然性が高い。その上、外部溢水(津波)に対する水密化の技術は、本件事故が発生した時点においても研究途上にあり、想定する津波の波力評価や、自動車等の比較的複雑な形状の物体の漂流物の評価が確立していなかった(丙C第17号証・53ない 波)に対する水密化の技術は、本件事故が発生した時点においても研究途上にあり、想定する津波の波力評価や、自動車等の比較的複雑な形状の物体の漂流物の評価が確立していなかった(丙C第17号証・53ないし58ページ)。 そうであるとすれば、平成20年試算津波に対し、防潮堤・防波堤等の設置に加えて「建屋の水密化及び重要機器室の水密化」といった措置を講じたとしても、本件津波の波力や自動車等の漂流物との衝突によって水密機能が失われる結果、建屋及び重要機器室への本件津波の浸入を阻止することができない可能性が高いから、本件事故の発生を避けることはできないというべきである。 そうすると、仮に、被告東電が、平成20年試算津波への対策として、防潮堤等の設置に先立ち(防潮堤等が設置されない状態で)、主要建屋等が存在する敷地内に津波がそのまま浸入する事態を容認した上で水密化措置のみによって防護すること、すなわち防潮堤等が完成する前の単独の水密化措置を講じることを選択したとしても、本件事故当時の科学的、専門技術的知見の下においては、同様に、ここで講じられる水密化措置は、防潮堤・防波堤等の設置を前提とした上で、これらの設置によっても阻止し得ない軽微な浸水に対する局所的・部分的なものにとどまることになり、本件事故を回避することができないことは明らかである。 46 以上によれば、被告国(経済産業大臣)が規制権限を行使し、電気事業者(被告東電)が講じたであろう結果回避措置によっても結果を回避することはできないというべきである。 4 最高裁令和4年判決(一審千葉地裁)の判断及びその考え方(1) 本件事故当時の我が国における原子炉施設の津波対策についてア 最高裁令和4年判決(一審千葉地裁)は、本件事故当時の我が国における原子炉施設の津波対策について、「本件 の判断及びその考え方(1) 本件事故当時の我が国における原子炉施設の津波対策についてア 最高裁令和4年判決(一審千葉地裁)は、本件事故当時の我が国における原子炉施設の津波対策について、「本件事故以前の我が国における原子炉施設の津波対策は、津波により安全設備等が設置された原子炉施設の敷地が浸水することが想定される場合、防潮堤等を設置することにより上記敷地への海水の浸入を防止することを基本とするものであった。したがって、経済産業大臣が、本件長期評価(引用者注:平成14年長期評価。以下同じ。)を前提に、電気事業法40条に基づく規制権限を行使して、津波による本件発電所(引用者注:福島第一発電所。以下同じ。)の事故を防ぐための適切な措置を講ずることを東京電力(引用者注:被告東電。以下同じ。)に義務付けていた場合には、本件長期評価に基づいて想定される最大の津波が本件発電所に到来しても本件敷地(引用者注:福島第一発電所1号機から4号機までの各原子炉に係る原子炉建屋、タービン建屋等の主要建屋の敷地。以下同じ。)への海水の浸入を防ぐことができるように設計された防潮堤等を設置するという措置が講じられた蓋然性が高いということができる。(中略)そうすると、経済産業大臣が上記の規制権限を行使していた場合には、本件試算津波(引用者注:平成20年試算津波。以下同じ。)と同じ規模の津波による本件敷地の浸水を防ぐことができるように設計された防潮堤等を設置するという措置が講じられた蓋然性が高いということができる。他方、本件事故以前において、津波により安全設備等が設置された原子炉施設の敷地が浸水することが想定される場合に、想定される津波による上記敷地の浸水を防ぐことができるように47 設計された防潮堤等を設置するという措置を講ずるだけでは対策として不十分 れた原子炉施設の敷地が浸水することが想定される場合に、想定される津波による上記敷地の浸水を防ぐことができるように47 設計された防潮堤等を設置するという措置を講ずるだけでは対策として不十分であるとの考え方が有力であったことはうかがわれず、その他、本件事故以前の知見の下において、上記措置が原子炉施設の津波対策として不十分なものであったと解すべき事情はうかがわれない。したがって、本件事故以前に経済産業大臣が上記の規制権限を行使していた場合に、本件試算津波と同じ規模の津波による本件敷地の浸水を防ぐことができるように設計された防潮堤等を設置するという措置に加えて他の対策が講じられた蓋然性があるとか、そのような対策が講じられなければならなかったということはできない。」(同判決8及び9ページ。なお、ページ数は裁判所ホームページによる。以下も同じ。)と判示した。 その上で、最高裁令和4年判決(一審千葉地裁)は、「本件試算津波と同じ規模の津波による本件敷地の浸水を防ぐことができるものとして設計される防潮堤等は、本件敷地の南東側からの海水の浸入を防ぐことに主眼を置いたものとなる可能性が高く、一定の裕度を有するように設計されるであろうことを考慮しても、本件津波の到来に伴って大量の海水が本件敷地に浸入することを防ぐことができるものにはならなかった可能性が高いといわざるを得ない。」(同判決9及び10ページ)と判示し、「以上によれば、仮に、経済産業大臣が、本件長期評価を前提に、電気事業法40条に基づく規制権限を行使して、津波による本件発電所の事故を防ぐための適切な措置を講ずることを東京電力に義務付け、東京電力がその義務を履行していたとしても、本件津波の到来に伴って大量の海水が本件敷地に浸入することは避けられなかった可能性が高く、その大量の海水が主 の適切な措置を講ずることを東京電力に義務付け、東京電力がその義務を履行していたとしても、本件津波の到来に伴って大量の海水が本件敷地に浸入することは避けられなかった可能性が高く、その大量の海水が主要建屋の中に浸入し、本件非常用電源設備が浸水によりその機能を失うなどして本件各原子炉施設が電源喪失の事態に陥り、本件事故と同様の事故が発生するに至っていた可能性が相当にあるといわざるを得ない。そうすると、本件の事実関係の下においては、経済産業大臣が上記の規制権限を48 行使していれば本件事故又はこれと同様の事故が発生しなかったであろうという関係を認めることはできないことになる。」(同判決10ページ)と判示して、被告国の国賠法1条1項に基づく損害賠償責任を否定した。 イ このように、最高裁令和4年判決(一審千葉地裁)は、本件事故について、被告国の国賠法1条1項に基づく損害賠償責任を否定しているが(同判決以外の最高裁令和4年判決も同様の判断をしている。)、これは、本件事故当時の科学的、専門技術的知見に照らせば、設計上の想定津波が敷地に浸入することが想定される場合には、防潮堤・防波堤等の設置により津波の敷地への浸入を防止してドライサイトを維持するというドライサイトコンセプトが、本件事故当時の我が国における原子炉施設の津波対策として採用されていたことを前提にしているものと解される。 (2) 防潮堤等の設置と併せて他の対策を講ずることを検討した蓋然性がないことについてさらに、最高裁令和4年判決(一審千葉地裁)は、被告東電又は規制機関において、防潮堤等の設置と併せて、これによっては防ぎきれない福島第一発電所の主要建屋の敷地の浸水に対する対策を講ずることを検討した蓋然性があるとし、このことを前提に、経済産業大臣が規制権限を行使していれば本件事 等の設置と併せて、これによっては防ぎきれない福島第一発電所の主要建屋の敷地の浸水に対する対策を講ずることを検討した蓋然性があるとし、このことを前提に、経済産業大臣が規制権限を行使していれば本件事故と同様の事故は発生しなかったとする原審の判断を排斥する中で、「想定される津波による原子炉施設の敷地の浸水を防ぐことができるように設計された防潮堤等を設置するという措置は、本件事故以前に我が国における原子炉施設の津波対策の基本とされていたものであり、当時の知見の下においては、津波による原子炉施設の事故を防ぐための措置として合理的で確実なものであったということができる。これに対し、本件事故以前に、我が国における原子炉施設の主たる津波対策として、津波によって上記敷地が浸水することを前提とする防護の措置が採用された実績があったことはうかがわれず、当該防護の措置の在り方について、これを定めた法令等はも49 ちろん、その指針となるような知見が存在していたこともうかがわれないし、海外において当該防護の措置が一般的に採用されていたこともうかがわれない。」(同判決10及び11ページ)と判示した上で、「東京電力又は保安院その他の規制機関が、防潮堤等によっては上記津波(引用者注:平成20年試算津波と同じ規模の津波)による本件敷地の浸水を防ぎきれないという前提で、そのような防潮堤等の設置と併せて他の対策を講ずることを検討した蓋然性があるということはできない。原審が、上記蓋然性があることを前提に、経済産業大臣が、電気事業法40条に基づく規制権限を行使して、津波による本件発電所の事故を防ぐための適切な措置を講ずることを東京電力に義務付けていれば、本件事故と同様の事故は発生しなかったと判断したことは、合理性を欠く」(同判決11ページ)と判示している。 これは、 本件発電所の事故を防ぐための適切な措置を講ずることを東京電力に義務付けていれば、本件事故と同様の事故は発生しなかったと判断したことは、合理性を欠く」(同判決11ページ)と判示している。 これは、本件事故当時の科学的、専門技術的知見に照らした場合、防潮堤・防波堤等の設置により敷地内への津波の浸入を防ぐという前記(1)のドライサイトコンセプトは、合理的で確実なものとして、我が国における津波対策の基本とされていたのに対し、防潮堤等の設置により敷地内への津波の浸入を防ぐことを前提とせず、主要建屋等が存在する敷地内に津波が浸入することを前提とする防護措置(水密化措置を含む。)が主たる津波対策として採用された実績があったことはうかがわれないことや、その指針となる知見が存在していたことはうかがわれないことから、被告東電又は規制機関が、防潮堤等の設置と併せて他の対策を検討した蓋然性は認められず、その結果、前記(1)のとおり、経済産業大臣が規制権限を行使していれば本件事故又はこれと同様の事故が発生しなかったであろうという関係を認めることはできないことになるという判断を示したものと解される。 (3) 最高裁令和4年判決(一審千葉地裁)の考え方前記(1)及び(2)のとおり、最高裁令和4年判決(一審千葉地裁)は、被告東電又は規制機関が、防潮堤等の設置と併せて他の対策を講ずることを検討50 した蓋然性があるとはいえないとして、原審の判断を排斥したものではあるが、前記(2)のとおり、同判決は、本件事故当時の科学的、専門技術的知見に照らせば、防潮堤等の設置により敷地内への津波の浸入を防ぐことを前提とせず、津波の浸入を前提とする防護措置(水密化措置を含む。)が主たる津波対策として採用された実績があったことはうかがわれず、その指針となる知見が存在していた り敷地内への津波の浸入を防ぐことを前提とせず、津波の浸入を前提とする防護措置(水密化措置を含む。)が主たる津波対策として採用された実績があったことはうかがわれず、その指針となる知見が存在していたこともうかがわれないという判断を示したものである。 そうである以上、同判決は、防潮堤等の設置に先立ち(防潮堤等の設置がされない状態で)、主要建屋等が存在する敷地内に津波がそのまま浸入する事態を容認した上で水密化措置のみによってこれを防護すること(防潮堤等が完成する前の単独の水密化措置)についても、これが主たる津波対策として採用された実績(すなわち、技術が確立していること)やその指針となる知見が存在していたことがうかがわれないという考え方も当然の前提としているものと解される。そして、この考え方からすれば、被告東電又は規制機関が、津波対策として、防潮堤等が完成する前の単独の水密化措置を講ずることを検討した蓋然性もあるとはいえないことになる。 このような、最高裁令和4年判決(一審千葉地裁)の判断及び考え方は、本件事故当時の科学的、専門技術的知見を前提として講じられるであろう津波対策という点について、前記3で述べた被告国の主張と考え方を同じくするものであり、正当である。 第6 損害論について1 原告らの損害額原告らの主張はいずれも否認ないし争う。 2 被告東電の原告らに係る損害に関する主張の援用被告国は、被告国の主張に反しない限度で、被告東電が原告らに対してした原告らに係る損害に関する主張を全て援用する。 51 3 被告国の損害賠償責任の範囲について福島第一発電所の安全管理は、一次的には被告東電において行われるべきものであり、被告国はこれを二次的・補充的に監督するにとどまる。そして、仮に被告国の規制権限不行使について、国賠 任の範囲について福島第一発電所の安全管理は、一次的には被告東電において行われるべきものであり、被告国はこれを二次的・補充的に監督するにとどまる。そして、仮に被告国の規制権限不行使について、国賠法1条1項の違法が認められるとしても、これと被告東電の不法行為とは、共同不法行為とはならず、単に別個の不法行為が競合しているにすぎない。したがって、仮に本件において、被告国が損害賠償責任を負うことがあったとしても、被告国の損害賠償責任の範囲は限定されるべきである。 以上

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る