令和5(受)2245 第三者異議事件

裁判年月日・裁判所
令和8年1月20日 最高裁判所第三小法廷 判決 破棄差戻 東京高等裁判所 令和5(ネ)2021
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判決文本文9,067 文字)

- 1 - 主文 原判決を破棄する。 本件を東京高等裁判所に差し戻す。 理由 上告代理人梅地理の上告受理申立て理由について 1 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。 ⑴ 被上告人は弁護士であり、その職務に関して預かり保管する金員(以下、弁護士が職務に関して預かり保管する金員のことを「預り金」という。)を管理するため、株式会社みずほ銀行において「預かり金口弁護士 X」名義の普通預金口座(以下「本件預り金口座」という。)を開設していた。 ⑵ 上告人は、被上告人に対して婚姻費用の分担金の支払を命ずる審判を債務名義とする強制執行として、被上告人がみずほ銀行に対して有する預金債権の差押えを2回にわたって申し立てた。そして、上記各申立てに基づき令和4年8月及び同年11月に債権差押命令が発せられ、本件預り金口座に係る預金債権(以下「本件預金債権」という。)のうち、第1審判決別紙債権目録記載1、2の「被差押金額」欄記載の部分が差し押さえられた(以下、これらの差押えを併せて「本件各差押え」といい、本件各差押えによって差し押さえられた部分を「本件各差押部分」という。)。 ⑶ 本件預金債権は、本件各差押えがされた時点において、その全部が、被上告人の依頼者からの預り金(以下「本件預り金」という。)を原資とするものであった。また、被上告人は、上記各時点において、依頼者から弁護士報酬の振込みを受けるための預金口座を本件預り金口座とは別に開設するなどして、本件預金債権をそれ以外の自己の財産と分別して管理していた。 令和5年(受)第2245号第三者異議事件令和8年1月20日第三小法廷判決- 金口座を本件預り金口座とは別に開設するなどして、本件預金債権をそれ以外の自己の財産と分別して管理していた。 令和5年(受)第2245号第三者異議事件令和8年1月20日第三小法廷判決- 2 - 2 本件は、被上告人が、依頼者からの預り金は、当然に信託財産に属する財産となるから、被上告人を受託者とし、本件預り金を信託財産に属すべきものと定めた信託契約(以下「本件信託契約」という。)が成立し、本件預り金を原資とする本件預金債権も信託財産に属する財産となることは、本件信託契約の具体的内容について主張するまでもなく明らかである上、その具体的内容を主張することは、被上告人が弁護士として職務上知り得た秘密を保持する義務(以下「秘密保持義務」という。)を負っていることとの関係でも問題がある旨主張し、上告人に対し、信託法23条5項の規定による異議に係る訴えを提起し、本件各差押部分に対する前記各強制執行の不許を求める事案である。 上告人は、本件信託契約の具体的内容についての主張がなく、本件信託契約が成立していたとはいえない上、仮に本件信託契約が成立していたとしても、本件各差押えがされてから原審の口頭弁論が終結されるまでの間に、被上告人が日本弁護士連合会から業務停止2月とする懲戒処分を受け、本件信託契約が終了したことなどにより、本件預金債権について、被上告人の固有財産に属する財産となっている旨主張し、これを争っている。 3 原審は、前記事実関係の下において、要旨次のとおり判断し、本件各差押えがされた時点において、本件預金債権は信託財産に属する財産であり、その後、被上告人が前記懲戒処分を受けたことで本件信託契約が終了するなどしていても、そのことは結論を左右しないとして、被上告人の請求をいずれも認容すべきものとした。 ⑴ 依頼者からの預り金が弁 、その後、被上告人が前記懲戒処分を受けたことで本件信託契約が終了するなどしていても、そのことは結論を左右しないとして、被上告人の請求をいずれも認容すべきものとした。 ⑴ 依頼者からの預り金が弁護士の固有財産から分別して管理されている限り、当該預り金を信託財産に属すべきものと定めた信託契約が成立していたということができる。そして、本件各差押えがされた時点において、本件預り金を原資とする本件預金債権が、被上告人の固有財産と分別して管理されていたことからすると、その具体的内容の主張がなくても、本件信託契約が成立していたということができる。 - 3 -⑵ 本件各差押部分が信託財産に属する財産であるか否かは、本件各差押えがされた時点を基準として判断されるべきである。 4 しかしながら、原審の前記判断はいずれも是認することができない。その理由は次のとおりである。 ⑴ 信託契約は、特定の者との間で、当該特定の者に対し財産の譲渡、担保権の設定その他の財産の処分をする旨並びに当該特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の契約であり(信託法3条1号)、当該目的、すなわち、信託の目的についての合意が成立したことを成立要件とするものである。そして、民事訴訟において、ある財産が信託財産に属するものであるか否かが問題となり、当該財産を信託財産に属すべきものと定めた信託契約に関し、信託の目的についての合意が成立したか否かが当事者間で争われている場合、上記合意の成立についての主張があるといえるためには、当事者双方が主張立証を尽くせるように攻撃防御の目標が適切に設定されているかなどの観点から見て、上記合意の成立が事案に応じて具体的に主張されている必要があるというべきである。 本件において、上告人は 者双方が主張立証を尽くせるように攻撃防御の目標が適切に設定されているかなどの観点から見て、上記合意の成立が事案に応じて具体的に主張されている必要があるというべきである。 本件において、上告人は、本件信託契約の成立を争い、信託の目的をはじめとする本件信託契約の具体的内容を被上告人において明らかにすることを求めている。 他方で、被上告人は、これを明らかにする必要はないとして、本件預り金を預かり保管した目的に関し、具体的な主張を明示的にしていない。また、被上告人は、本件預り金に関する帳簿や本件預り金口座に係る預金通帳の一部を証拠として提出しているものの、当該帳簿等をみても本件預り金を預かり保管した目的を把握することができない。そして、このような被上告人による主張立証活動のため、上告人は、信託の目的についての合意が成立したことなどに関し、主張立証を尽くすことが著しく困難な状態に陥っている。そうすると、被上告人が弁護士として秘密保持義務を負っていることを考慮しても、本件事案の下において、上記合意の成立が具体的に主張されているとはいえないというべきである。 - 4 -したがって、被上告人がその成立をいう本件信託契約に関し、信託の目的についての合意が成立したことの主張があるとはいえない。 以上と異なる見解の下に、本件信託契約が成立していたということができるとした原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法がある。 ⑵ 受託者の固有財産に属する財産のみをもって履行する責任を負う債務に係る債権を請求債権として、信託財産に属する預金債権に対する差押えがされたのに対し、当該預金債権の債権者が、当該預金債権が信託財産に属する財産であって自らが受託者であると主張し、信託法23条5項の規定による異議に係る訴えを提起した場合において、当該差押えの後に、当該預金債 対し、当該預金債権の債権者が、当該預金債権が信託財産に属する財産であって自らが受託者であると主張し、信託法23条5項の規定による異議に係る訴えを提起した場合において、当該差押えの後に、当該預金債権が当該受託者の固有財産に属するに至ったときは、当該異議の主張は認められなくなると解すべきであって、当該差押えがされた時点において当該預金債権が信託財産に属する財産であったことにより当該異議の主張が認められることにはならない。そして、上記の場合において、上記預金債権が信託財産に属する財産であるか否かの判断の基準時を通常の民事訴訟と別異に解すべきことの根拠となるべき規定は見当たらない。 したがって、上記の場合において、上記預金債権が信託財産に属する財産であるか否かは、事実審の口頭弁論終結時を基準として判断されるべきものである。 以上と異なる見解の下に、本件各差押部分が信託財産に属する財産であるか否かは、本件各差押えがされた時点を基準としてこれが判断されるべきであるとした原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法がある。 5 以上のとおり、原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件信託契約の成否や本件信託契約が成立していた場合に本件各差押部分が信託財産に属する財産でなくなっているのか否かについて更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。なお、裁判官林道晴、同平木正洋の補足意見、裁判官沖野眞已の意見がある。 - 5 -裁判官林道晴、同平木正洋の補足意見は、次のとおりである。 私たちは、多数意見に賛同するものであるが、事案に鑑み、補足して若干意見を述べておきたい。 官沖野眞已の意見がある。 - 5 -裁判官林道晴、同平木正洋の補足意見は、次のとおりである。 私たちは、多数意見に賛同するものであるが、事案に鑑み、補足して若干意見を述べておきたい。 1 預り金について信託契約が成立し得ることは、かねてより指摘されていたところであり(最高裁平成13年(行ヒ)第274号同15年6月12日第一小法廷判決・民集57巻6号563頁における深澤・島田両裁判官の補足意見参照)、多数意見もその点を否定するものではない。 もっとも、訴訟において、ある財産が信託契約に基づいて信託財産に属すべきものと定められたか否かが問題となった場合、信託契約の成立要件が事案に応じて具体的に主張されるべきなのであり、本件事案の下において、単に「預り金である」とだけ主張されていれば、信託の目的についての合意が成立したことが主張されていると解することが相当でないことは多数意見のとおりである。 他方で、本件において、弁護士が職務に関して預かり保管する金員が信託財産に属する財産か否かが争われていることからすると、弁護士の秘密保持義務との関係が問題となり得るところである。秘密保持義務が弁護士の義務の中でも最も基本的かつ重要なものとして尊重されるべきものであり、本件のような事案において、具体的な依頼者名や委任の内容の詳細まで明らかにするまでもなく、信託契約の成否等の争点について判断できる場合もあると考えられることからすると、被上告人が必要以上に詳細な主張立証を余儀なくされるような事態となることもまた相当でないものといわざるを得ない。差戻審としては、被上告人が、信託契約の成立要件について主張立証責任を負っている一方で、秘密保持義務を負っていることを勘案し、必要に応じ、マスキングや仮名処理をしたものを証拠として提出させたり、委任の内容を適宜 、被上告人が、信託契約の成立要件について主張立証責任を負っている一方で、秘密保持義務を負っていることを勘案し、必要に応じ、マスキングや仮名処理をしたものを証拠として提出させたり、委任の内容を適宜抽象化させて主張させたりするなどの適切な審理運営上の工夫をすることが求められているといえよう。 2 前記1のような主張立証を経て、仮に信託契約が成立していたことがいえたとしても、上告人が、当該信託契約が既に終了しているなどと主張して争っている- 6 -ことからすると、本件においては、差戻審の口頭弁論終結時までの間に、当該信託契約が終了したことなどに伴い、本件各差押部分が信託財産に属する財産でなくなっているのか否かを検討する必要があるものと思料される。 弁護士実務上、預り金を管理する口座(以下「預り金口座」という。)に入金された預り金について、委任契約の終了時等において、依頼者との合意に基づき当該預り金を弁護士報酬に充てるなどの処理が行われることがあるものと思料される。 また、本件のように預り金口座に対して差押えがされている場合に、弁護士が自費で預り金を依頼者に対して返還し、当該預り金口座に係る預金債権を取得するという処理がされることもあり得ないではない。これらの処理がされた場合に、その結果として、預り金口座に係る預金債権は、最終的に弁護士の固有財産に帰属するようになるものと思料される。上記各処理について、どのように法律構成されるべきであるのか、固有財産への帰属の変更がどの時点で生ずるのかなどの点については、いまだ議論が十分ではないところもある。しかしながら、例えば、弁護士とその依頼者との間の合意によって当該依頼者から受け取った預り金全額が弁護士報酬に充てられることが確定したにもかかわらず、当該預り金を原資とする預金債権が当該弁護士の固有財 しながら、例えば、弁護士とその依頼者との間の合意によって当該依頼者から受け取った預り金全額が弁護士報酬に充てられることが確定したにもかかわらず、当該預り金を原資とする預金債権が当該弁護士の固有財産に帰属するためには、常に預り金口座からの払戻しまでもが必要であると解する理論的根拠は乏しい。そして、多数意見が指摘するように本件各差押部分が信託財産に属する財産か否かの判断の基準時が事実審の口頭弁論終結時点であることからすると、差戻審においては、上告人の上記主張についても適切に審理判断することが期待されるところである。 裁判官沖野眞已の意見は、次のとおりである。 私は、本件事案の下において、本件預金債権が信託財産に属する財産であるとされるためには、当該事案に応じて具体的に、信託契約の成立、特に信託の目的についての合意の成立の主張を要するという多数意見に賛同するものであるが、弁護士の預り金の場合を念頭に、信託契約の成立要件に関して私の見解を述べておきたい。 1⑴ 依頼者と弁護士との間で、弁護士業務に必要な費用に充てる目的で依頼者- 7 -から金員が預託され、「預り金」と名付けられた預貯金口座に入金されて分別管理がされている場合、当事者間で信託と明示されていなくとも、当該金員について信託契約が成立し、当該預貯金債権が信託財産に属するものとなる可能性は、一般に認められている(最高裁平成13年(行ヒ)第274号同15年6月12日第一小法廷判決・民集57巻6号563頁における深澤・島田両裁判官の補足意見、信託業法2条1項、同法施行令1条の2第1号参照)が、信託行為(信託法2条2項)なくして当然に信託が成立する(あるいは信託の引受けがあったことになる)とするものではないことはいうまでもない。 ⑵ 原審は、本件預金債権が分別管理されていることを重 、信託行為(信託法2条2項)なくして当然に信託が成立する(あるいは信託の引受けがあったことになる)とするものではないことはいうまでもない。 ⑵ 原審は、本件預金債権が分別管理されていることを重視して、本件信託契約が成立し、本件預金債権が信託財産に属する財産であると判断したものと解される。しかしながら、分別管理の実践が、合意に基づく義務の履行としてされているわけではなく、ただ自発的に行われているにすぎない場合もある。分別管理の実践が、分別管理義務についての合意に基づくものであったとしても、分別管理義務は信託の成立の必要条件ではあっても十分条件ではないから、その合意を含む契約が信託契約であるとは限らない。したがって、分別管理の実践や分別管理義務のみをもって直ちに信託契約の成立と結び付けるのは相当ではない。 ⑶ 思うに、依頼者と弁護士との間に預り金について信託法3条1号に該当する契約があったといえるためには、預り金を預かり保管する目的に関する合意の内容が明らかにされ、預り金につきなすべき管理処分等の事務処理(信託法26条、29条1項参照)の内容ないし指針が明確にされるというだけでは足りず、それに加え、財産の帰属主体と利益享受主体の分離、(信託)財産の独立性という信託の特質(信託法8条、23条、25条等参照)に照らし、当該合意がそのような信託としての実質を備えたものであることについても明らかにされる必要がある。 この観点から、「信託の目的」について合意が成立し信託契約が成立したというためには、預り金を預かり保管した目的について合意がされていることに加え、分別管理義務をはじめとした、受領者において預り金を上記目的以外には用いること- 8 -ができないことが実効的に確保されるための仕組み(以下「実効確保の仕組み」という。)について合意がさ に加え、分別管理義務をはじめとした、受領者において預り金を上記目的以外には用いること- 8 -ができないことが実効的に確保されるための仕組み(以下「実効確保の仕組み」という。)について合意がされていることも明らかにされる必要があると考えられる。信託法はこのような実効確保の仕組みを用意しているから、信託と明示されている場合は、原則として、信託法が用意する実効確保の仕組みが含意されていると推認される。そのため、問題になるのは明示がないときに実効確保の仕組みについての合意があったといえるかである。 ⑷ そのような実効確保の仕組みとしては、預貯金に即していえば、固有財産と区別して管理し、かつその記録を作成して受益者に対し適時に報告をすることはもとより、それに加えて、例えば、目的に沿った利用のための払戻しであることを受益者又は第三者が確認し監督する措置のように(最高裁平成12年(受)第1671号同14年1月17日第一小法廷判決・民集56巻1号20頁における保証会社及び預託金融機関による監督の仕組みを参照)払戻し自体について制約をかけることや、流用の有無を確認し流用があったときのサンクションを伴った是正措置を設けることなど、出金の段階や利用の段階での目的外利用に対する防止・是正措置が考えられよう。 ⑸ 預り金の場合を見ると、日本弁護士連合会の弁護士職務基本規程(平成16年日本弁護士連合会会規第70号)は、預り金の保管について自己の金員との区別、預り金であることの明示、保管状況の記録(38条)、委任終了時の清算及び迅速な返還(45条)を義務付け、また同会の預り金等の取扱いに関する規程(平成25年日本弁護士連合会会規第97号。以下「預り金規程」という。)は、預り金について、目的外使用の禁止(2条)、専用口座の開設と所属弁護士会への届け出(3条 同会の預り金等の取扱いに関する規程(平成25年日本弁護士連合会会規第97号。以下「預り金規程」という。)は、預り金について、目的外使用の禁止(2条)、専用口座の開設と所属弁護士会への届け出(3条1項、3項。例外の場合につき理由等の届け出(同条4項))、自己の固有財産と区別し、かつ預り金であることを明確にする形での保管(4条)、入出金についての金額・目的・使途の記録・保存(7条)、依頼者への収支の報告(8条)を義務付け、また、保管状況全般についての弁護士会の照会調査の権限(9条)、会員弁護士の回答義務(10条)、回答内容に応じた助言や懲戒手続の発動- 9 -の制度を用意している(11条)。これらは、預り金について、名義人たる弁護士の自由な処分を封じ利益享受を防止する実効確保の仕組みを提供するものと評価することができる。 そして、上記の会規はいずれも弁護士法を基礎とした弁護士の職務行為規範を形成し(弁護士法22条、45条2項、46条、33条2項7号等)、公表されているから、依頼者が、弁護士との間で委任契約を締結するに際し、特定の目的に充てるために預り金であると認識して一定の金員を預託する場合には、当該弁護士がこれらの内規に従って行動することが当然に前提とされていると見られる。したがって、上記の場合には、信託と明示がなくとも、当該金員を上記の目的にのみ用いること及び実効確保の仕組みについて合意があるといえ、例えば、預り金について残余があればこれを依頼者に返金することが合意されていたようなときは、それを依頼者の受益権の内容とし、依頼者を委託者兼受益者、弁護士を受託者とする信託契約が成立したということができる。 ⑹ 現在の主張においては、預り金について信託と明示されていたか否か、被上告人が本件預り金を預かり保管した目的、成立するとされる本 益者、弁護士を受託者とする信託契約が成立したということができる。 ⑹ 現在の主張においては、預り金について信託と明示されていたか否か、被上告人が本件預り金を預かり保管した目的、成立するとされる本件信託契約における受益権及び信託事務処理の内容のいずれもが明確にされていない。そればかりか、依頼者が預り金であると認識して被上告人に金員を預託したのかすら明らかではない。現在の主張の内容にとどまる限り、信託の目的についての合意はもとより、実効確保の仕組みについての合意があったともいえず、信託契約が成立したとはいえない。 2 なお付言すれば、以上は、依頼者からの預り金に関するものであるが、本件について、差戻審における審理の結果、本件預金債権の原資が、相手方からの和解金等、依頼者以外の第三者から受領した金員であることが明らかになることがありうる(預り金規程5条参照)。このように依頼者のために弁護士が第三者から金員を受領した場合、例えば、当該受領に先立って依頼者と被上告人との間で信託契約が成立していて、当該受領が当該信託契約に基づく信託の目的を達成するために必- 10 -要な行為として認められるときは、当該金員は信託事務処理によって得た財産として信託財産に属する財産となりうると解される(信託法16条1号参照)。 (裁判長裁判官平木正洋裁判官林道晴裁判官渡辺惠理子裁判官石兼公博裁判官沖野眞已)

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