平成24(ワ)1920 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成24年12月6日 大阪地方裁判所
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判決文本文8,111 文字)

平成24年12月6日判決言渡同日原本交付裁判所書記官平成24年ワ第1920号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成24年10月18日判決      原告株式会社  同訴訟代理人弁護士井﨑康孝 被告株式会社島田 同訴訟代理人弁護士伊原友己同加古尊温主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由第1 当事者の求めた裁判 1 原告(1) 被告は,原告に対し,300万円及びこれに対する平成24年3月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え(2) 訴訟費用は被告の負担とする。 (3) 仮執行宣言 2 被告主文同旨第2 事案の概要 1 前提事実(証拠等の掲記がない事実は当事者間に争いがない。)(1) 当事者原告代表者は,平成19年4月,「  」の屋号及びブランド名で創業し,平成22年8月2日,原告を設立した。原告は,衣料,服飾雑貨,装飾品,インテリア雑貨の企画,デザイン,製造,販売及び輸出入等を目的とする会社である。 被告は,帽子製造業等を目的とする会社である。 (2) 原告商品(別紙原告商品写真の帽子)ア被告に対する原告商品の製造委託(以下「本件契約」という。)原告代表者は,被告に対し,平成19年11月18日ころ,原告商品の生産企画 社である。 (2) 原告商品(別紙原告商品写真の帽子)ア被告に対する原告商品の製造委託(以下「本件契約」という。)原告代表者は,被告に対し,平成19年11月18日ころ,原告商品の生産企画書を交付し,同月末ころ,原告商品22個の製造を委託した。原告代表者及び原告は,引き続き,被告に対し,平成20年に172個,平成21年に312個,平成22年に308個,平成23年に315個の原告商品の製造を委託した。 原告は,平成24年にも原告商品を製造しているが,被告以外の業者に製造を委託した。 イ原告商品の型紙被告は,前記生産企画書に基づき,原告商品を作るための型紙(実物大の設計図に相当する。)を製作した。 型紙は,次回に注文する際の便宜上,納品後も製造業者の手元に残されるのが通常である。もっとも,顧客の求めがあれば顧客に返却される。 原告商品の型紙は,上記アの製造委託が終了した後も,被告が所持していた。 (3) 被告の行為被告は,ムーンバット株式会社から委託を受け,別紙被告商品写真の帽子(被告商品)を製造した。 被告商品は,平成23年9月ころから,全国の複数の大手百貨店において,著名ブランドである「 」のライセンス商品として販売されている。 2 原告の請求原告は,被告に対し,被告の行為が本件契約の債務不履行又は信義則上の義務違反に当たるとして,300万円の損害賠償及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている。 3 争点(1) 被告の行為が本件契約等の債務不履行に当たるか (争点1)(2) 損害の有無及び金額 (争点2)第3 争点に関する当事者の主 3 争点(1) 被告の行為が本件契約等の債務不履行に当たるか (争点1)(2) 損害の有無及び金額 (争点2)第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(被告の行為が本件契約等の債務不履行に当たるか)について【原告の主張】以下のとおり,被告の行為は本件契約の債務不履行又は信義則上の義務違反に当たる。 (1) 本件契約等に基づく債務ア製造業者が顧客に対し負う債務顧客から商品のデザインを提案され,その製造を委託された製造業者は,顧客に無断で当該デザインを流用し,競業他社の商品を製造,販売してはならないという契約上又は信義則上の義務を負う。 とりわけ,顧客から提案されたデザインが特徴的な形態である場合には,当然に上記義務を負うものである。 イ原告商品の形態が特徴的なものであること原告商品は,同種商品にはない以下の特徴を備えている。 (ア) 本体素材として柔らかい生地を用い,かつ,支持部材として2本の変形可能な金属製ワイヤーを用いることで,着用者が任意に形状を変更することができる。 (イ) 上段のワイヤーを下段のワイヤーより約15㎝長くしている。 (ウ) 上段部のうち左前部分の幅を他の部分より広めに設けている。 (エ) 上段部の中央が真円形である。 原告商品の開発時においても,生地に金属製ワイヤーを組み合わせた帽子が多少は存在した。しかしながら,上記(ア)のように変形可能な金属製ワイヤーを2本組み合わせたものは存在しなかった。 上記(イ)及び(ウ)の点は,原告代表者が試行錯誤のすえ創作した点であり,着用者が適度に自由に形状を変形できるようにしつつ,同時に美しく見える形状を容易に創作することができるようにしたものである。 帽子は,着用 ウ)の点は,原告代表者が試行錯誤のすえ創作した点であり,着用者が適度に自由に形状を変形できるようにしつつ,同時に美しく見える形状を容易に創作することができるようにしたものである。 帽子は,着用する方向が定まっており,人の頭がい骨の幅は前後が長く,左右が狭いため,帽子の「頭表」(あたまおもて)の形状は,軽い楕円形をしているのが通常である。原告商品では,必ずしも着用する方向が一定ではないため,上記(エ)のとおり上段部の中央が真円形である。 ウ本件契約等に基づく債務の内容前記ア及びイによれば,被告は,本件契約又は信義則に基づき,別紙原告商品写真の外観を備え,かつ,前記イ(ア)から(エ)までの特徴を備える原告商品のデザインを流用し,競業他社の商品を製造,販売してはならないという義務を負う。 (2) 被告の行為が本件契約等の債務不履行に当たること以下の事情からすれば,被告の行為は著しく不公正な営業活動であって,債務不履行に当たる。 ア原告商品と被告商品の形態が,ほぼ同一であること被告商品は,原告商品の前記1イアからエまでの特徴を全て備えている。また,原告商品と被告商品は,型紙に1~3㎜程度の差異が生じている部分があるものの,ほぼ同一の形状,大きさであり,実際の着用例で比較しても,外観上の差異がほとんどない。原告商品と被告商品の形態における相違点は,生地の素材,色及び内側の「つば」の有無のみである。イ被告が原告商品の型紙を流用して被告商品を製造したこと原告商品の形態は,前記1のとおり,極めて特徴的なものである上,上記アのとおり,原告商品と被告商品の形態がほぼ同一であることからすれば,被告が原告商品の型紙を流用して被告商品を製造したことは明らかである。【被告の主張】 極めて特徴的なものである上,上記アのとおり,原告商品と被告商品の形態がほぼ同一であることからすれば,被告が原告商品の型紙を流用して被告商品を製造したことは明らかである。【被告の主張】以下のとおり,被告の行為は本件契約等の債務不履行には当たらない。 (1) 被告が原告の主張する債務を負わないことア製造業者が顧客に対し負う債務帽子は,ハットやベレーなどといった種類ごとに基本的形状が決まっており,同種の帽子の抽象的特徴は,共通するものである。帽子の製造業者が過去に他社から受注した商品の基本的形状(抽象的特徴)に類似する商品を受注できないとすると,全く事業が立ち行かなくなる。当業者常識というよりも一般常識として,そのようなことはありえない。イ原告商品の形態がありふれたものであること原告商品が前記【原告の主張】1イアからエまでの構成及び機能を備える点は認める。しかしながら,原告商品の商品としての特徴は,これらの点に尽きるわけではない。原告商品の開発時において,生地にワイヤーを組み合わせた帽子は存在しており,変形可能なワイヤー2本を組み合わせたものも存在した。原告が主張する上記構成及び機能を実現する技術についても,当業者である製造業者にとっては,ありふれた一般的なものであった。ウ本件契約等に基づく債務本件契約において契約書等は作成されておらず,口頭でも「原告から受注を受けた帽子と同一デザインの他社への流用(供給)を禁止する」旨の合意はなかった。前記アのとおり,製造業者が一般的に原告の主張する義務を負うこともない。したがって,被告が,本件契約又は信義則に基づき,原告の主張する義務を負うことはない。(2) 被告の行為が本件契約等の債務不履行には当 製造業者が一般的に原告の主張する義務を負うこともない。したがって,被告が,本件契約又は信義則に基づき,原告の主張する義務を負うことはない。(2) 被告の行為が本件契約等の債務不履行には当たらないこと以下のとおり,被告の行為は,本件契約等の債務不履行には当たらない。 ア被告商品と原告商品の形態が異なること原告商品は,「2本の変形可能な金属製ワイヤー」を用いているのに対し,被告商品は,つば先の部分にもワイヤーを入れており,「3本の変形可能な金属製ワイヤー」を用いている(前記【原告の主張】(1)イ(ア))。 原告自身も認めるとおり,ワイヤーの長さも若干異なる(同(イ))。 原告商品と被告商品が,ほぼ同一の形状,大きさであり,着用例も差異がないという前記【原告の主張】(2)アも否認する。 原告商品は,いわゆるベレー帽であるのに対し,被告商品は,「キャスケット」と称される本体(クラウン部)前側に「つば」(ブリム)のついた帽子であり,種類が全く異なる。 原告商品と被告商品は,少なくともその型紙に寸法差があり,生地の素材や色,柄(原告商品は無地,被告商品はパイソン柄[ヘビ柄]),「つば」の有無なども相違している。帽子の大きさを調整する手段に関する構成等も明確に異なっており(原告商品は調整紐を結んで止める方式であり,被告製品はマジックテープで止める方式である。),被告商品には,原告商品にない紫外線軽減加工(UV加工)が施されている。 イ被告が原告商品の型紙を流用してはいないこと被告は,ムーンバット株式会社から,キャスケットタイプの帽子のイメージ図を示され,当該仕様で,かつ形状記憶の機能を有する帽子の製作を依頼された。 そこで,自らの知識経験を踏まえ,上記依頼内容に沿った被告商品を製造したにすぎ ら,キャスケットタイプの帽子のイメージ図を示され,当該仕様で,かつ形状記憶の機能を有する帽子の製作を依頼された。 そこで,自らの知識経験を踏まえ,上記依頼内容に沿った被告商品を製造したにすぎず,原告商品と被告商品の型紙は別のものである。 2 争点2(損害の有無及び金額)について【原告の主張】以下のとおり,原告は,被告の行為により少なくとも合計●●●●●の損害を被った。 (1) 逸失利益被告は,少なくとも1000個の被告商品を製造,販売しており,これは,原告が十分に製造,販売することができた数量である。原告商品の製造,販売により原告が受ける利益の額は,1個当たり●●●●●を下らない。よって,原告は,被告の行為により逸失利益として●●●●●の損害を被った。[計算式]×●●●●●●●●●●●●●●(2) 信用毀損による損害被告商品は,著名なブランドである「 」のライセンス商品であり,複数の有名百貨店で販売されている。これにより,消費者は,あたかも被告商品が本物であり,原告商品が模倣 品であるかのような印象を受けており,その結果,原告は,業務上の信用を著しく棄損され,少なくとも100万円の損害を被った。 【被告の主張】原告は,被告の行為により何らの損害も被っておらず,仮に何らかの損害が発生したとしても,相当因果関係がない。 (1) 逸失利益被告商品は,そのデザイン性(形状〔キャスケットタイプ〕,生地素材,色,柄等)において,著名ブランドである「 」の独特の美的感性を表現したものである。 被告商品と原告商品は,前記1【被告の主張】(2)のとおり,帽子の種類,用途,光沢や風合いも含む生地素材及び色・柄 である「 」の独特の美的感性を表現したものである。 被告商品と原告商品は,前記1【被告の主張】(2)のとおり,帽子の種類,用途,光沢や風合いも含む生地素材及び色・柄(被告製品はパイソン柄[ヘビ柄]であり,銀色のものもある。),さらにはUV加工の有無等の点で大きく異なるものである。 このように,被告商品と原告商品とでは異なる美的表現がされており,市場において十分に両立する商品であるから,被告の行為により原告商品の販売数が減少することはない。 (2) 信用毀損による損害前記(1)のとおり,原告商品と被告商品は全く異なるものであり,同一の売場で陳列販売されたとしても,原告商品が被告商品の模倣品であると誤解されることはない。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(被告の行為が本件契約等の債務不履行に当たるか)について(1) 本件契約等に基づく債務の有無ア本件契約の締結に際し,被告が原告商品のデザインを流用した商品を製造,販売してはならない旨合意したことを認めるに足りる証拠はない。 イ不正競争防止法2条1項3号は,他人の商品形態を模倣した商品の譲渡 行為等について,当該他人の商品が最初に販売された日から3年間に限って不正競争に当たるとしたものである。その趣旨は,同法1条の事業者間の公正な競争等を確保するという目的に鑑み,開発に時間も費用もかけず,先行投資した他人の商品形態を模倣した商品を製造販売し,投資に伴う危険負担を回避して市場に参入しようとすることは公正とはいえないから,そのような行為を不正競争として禁ずることにしたものと解される。 したがって,同号によれば,最初に販売された日から3年間を経過した商品の形態を模倣する行為は,不正競争に当たらないし,そのことのみをもって不法行為が 正競争として禁ずることにしたものと解される。 したがって,同号によれば,最初に販売された日から3年間を経過した商品の形態を模倣する行為は,不正競争に当たらないし,そのことのみをもって不法行為が成立することもないと解される。他人の商品の製造を委託された者が,当該商品について最初に販売された日から3年間を経過した後に,当該商品の形態を模倣した商品を製造等した場合も同様であり,そのことのみをもって不法行為が成立することはない。そうである以上,当該製造業者が委託者に帰属するべき営業秘密を示されていたような特段の事情のない限り,上記委託契約の関係にあるというだけで,上記行為が当該委託に係る契約の債務不履行又は信義則上の義務違反に当たるということもない。 (2) 被告の行為の評価ア不正競争防止法2条1項3号の不適用前提事実のとおり,被告商品が製造,販売された時点において,原告商品が最初に販売された日から3年間が経過していたことが認められる。 したがって,第三者が原告商品の形態を模倣した商品を製造,販売したとしても,当該行為について不正競争防止法2条1項3号の不正競争には当たらないし,そのことのみをもって不法行為が成立することもない(そうであるからこそ,原告は,本件で,被告商品の製造を委託したムーンバット株式会社に対する請求をしていないと解される。)。 イ特段の事由の存否そこで上記特段の事情の有無について検討すると,原告は,被告が原告商品の型紙を流用して被告商品を製造した旨主張しており,これは,前記特段の事情(前記1イ)を主張するものと解することができる。しかしながら,そもそも,型紙を流用しなければ,原告商品と同一形態の帽子を製造することができないとする主張立証はない。かえって,原告代表者作成の報告書 イ)を主張するものと解することができる。しかしながら,そもそも,型紙を流用しなければ,原告商品と同一形態の帽子を製造することができないとする主張立証はない。かえって,原告代表者作成の報告書(甲3)によれば,被告商品の上に生地を重ね,パーツごとに縫い代を除いたサイズの生地を作成し,当該生地を紙に写して縫い代を除いた型紙を作成し,被告商品の縫い代を除いた型紙をほぼ正確に再現したところ,原告商品の型紙とほぼ同一であったというのである。このことから明らかなとおり,原告商品の型紙を流用などしなくとも,原告商品の縫製を解けば型紙を再現することができることなどからすれば,原告商品と同じ形状の製品を製作することについて特段の困難はないことが窺われる。そして,第三者が上記のような方法を用いて原告商品の型紙を再現し,原告商品の形態と実質的に同一の商品を製作したとしても,そのこと自体は不正競争等には当たらないのである。 このように,第三者が原告商品の型紙を再現することが容易であり,それを利用すること自体も違法ではないこととの均衡を考慮すると,仮に被告が原告商品の型紙を流用したとしても,そのことをもって上記特段の事情に当たるとはいいがたい。 ウ原告商品と被告商品の形態なお,原告商品と被告商品が共通の特徴(前記第3の1【原告の主張】(1)イ)を有していることは当事者間に争いがない。 しかし,その一方で,つばの有無(原告商品にはつばがなく,被告商品にはつばがある。),生地の素材,色(柄)が異なることについても,当事者間に争いがない。しかも,甲3によると,原告商品は,着用者が自由に形状を変形できるため,本来の形状というものを特定することが困難である。別紙原告商品写真と別紙被告商品写真の形状を比較すると,その外部の形状は類似し 3によると,原告商品は,着用者が自由に形状を変形できるため,本来の形状というものを特定することが困難である。別紙原告商品写真と別紙被告商品写真の形状を比較すると,その外部の形状は類似しているといえるが,これは,被告商品のつばの部分が隠れるようにした上,類似する形状に整え,撮影したものであることが認められる。仮に,原告商品と被告商品の生地を折らずに伸ばしきった場合,つばの有無という相違点が目立つことを容易に認めることができ,生地や柄の違いも併せ考えると,被告商品は,原告商品のデッドコピーということはできない。 むしろ,原告商品は,2つのワイヤーを用いることで,自由に形状を変形できることに大きな特徴を有しているということができるが,この点についても,前記イと同様の理由により,営業秘密ということはできない。 エまとめ以上によると,被告の行為が本件契約の債務不履行又は信義則上の義務違反に当たるということはできず,他にこれらを認めるべき特段の事情の主張,立証もない。 原告の主張は,要するに,型紙が設計図と同様に重要なものであり,それを他の製品に流用することが委託者の信頼を裏切るものであって,社会的に非難されるべき行為であるというものと解釈することができる。しかしながら,道義的,倫理的な点はさておき,以上で述べたところからすれば,上記行為が法律上の責任を問われるべきものであるとまでは,にわかに認めがたい。 2 結論以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,本件請求には理由がない。 よって,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第26民事部 裁判長裁判官山田陽三 裁判官松川 決する。 大阪地方裁判所第26民事部 裁判長裁判官 山田陽三 裁判官 松川充康 裁判官 西田昌吾

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