平成14(わ)51 傷害,業務上過失致死,同傷害

裁判年月日・裁判所
平成15年1月10日 水戸地方裁判所 土浦支部
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判決文本文15,106 文字)

主文 被告人を懲役4年6月に処する。 未決勾留日数中120日をその刑に算入する。 訴訟費用は被告人の負担とする。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,第1 自動車運転の業務に従事していた者であるが,平成14年1月12日午前6時ころ,普通乗用自動車を運転して茨城県つくば市hi番地j先の高速自動車国道常磐自動車道下り線k起点28.5キロポスト付近片側3車線道路の第2通行帯を谷和原方面から水戸方面に向け時速約120キロメートルで進行中,同道路を大型貨物自動車を運転して自車と同方向に進行していたBの運転態度に立腹し,同道路の第3通行帯を時速約100キロメートルで進行していた同人運転車両の直前で自車を停止させて,前記B運転車両を同通行帯上で停止させようとしたが,当時は日の出前で,かつ,同所付近は照明設備もない暗い場所であった上,同通行帯の後続車両の運転者は,同通行帯に停止車両があることを予測せず時速100キロメートルを超える高速度で進行してくることが通常であり,同通行帯上で自車及び前記B車両を停止させれば,同車に同通行帯の後続車両が衝突する危険が予測されたのであるから,同通行帯上で自車及び前記B車両を停止させることは厳に差し控えるべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り,立腹の余り,同車を停止させるため,同車の直前にあえて自車を進入させた上,徐々に減速して,同市lm番地n先の同道路k起点28.8キロポスト付近の同通行帯上で自車及び前記B車両を停止させた過失により,同日午前6時25分ころ,同通行帯を谷和原方面から水戸方面に向け進行してきたC(当時20歳)運転の普通乗用自動車前部を停止中の前記B車両後部に衝突させ,よって前記C運転車両の同乗者D( た過失により,同日午前6時25分ころ,同通行帯を谷和原方面から水戸方面に向け進行してきたC(当時20歳)運転の普通乗用自動車前部を停止中の前記B車両後部に衝突させ,よって前記C運転車両の同乗者D(当時51歳)に胸部圧挫の傷害を負わせ,同E(当時64歳)に頭蓋骨複雑骨折による脳挫傷の傷害を負わせ,いずれもそのころ同所において,各傷害により死亡させ,前記Cに頭蓋骨及び顔面骨骨折による脳挫傷の傷害を負わせ,同日午前7時30分ころ,同市op番地のq所在のF病院において,同人を同傷害により死亡させ,同車の同乗者G(当時52歳)に多発外傷の傷害を負わせ,同日午前7時30分ころ,同県牛久市r町s番地所在のH病院において,同人を同傷害により死亡させたほか,同I(当時16歳)に全治約3か月間を要する左上腕骨遠位端骨折,右鎖骨基部骨折,心筋挫傷,肺挫傷等の傷害を負わせ第2 同日午前6時10分ころ,同県つくば市lm番地n先の前記道路k起点28.8キロポスト付近路上において,前記B(当時49歳)の運転態度に立腹し,同人に対し,その頭部,顔面を手拳で数回殴打し,その大腿部等を数回足蹴にするなどの暴行を加え,よって同人に全治約2週間を要する頭部(左側頭部,左前額部,左頬部)打撲,左大腿部打撲の傷害を負わせたものである。 (証拠の標目)括弧内は,検察官請求の証拠等関係カード記載の番号を示す。 判示事実全部について被告人の当公判廷における供述証人Bの当公判廷における供述判示第1の事実について第2回公判調書中の被告人の供述部分被告人の検察官調書(乙18から20まで)Jの検察官調書謄本(甲69)Kの警察官調書謄本(甲82,83)実況見分調書(甲12,16,24,26,28,68,73[以上は謄本],89,90 書(乙18から20まで)Jの検察官調書謄本(甲69)Kの警察官調書謄本(甲82,83)実況見分調書(甲12,16,24,26,28,68,73[以上は謄本],89,90 )捜査報告書謄本(甲11,13,31,34,35,38)死亡診断書謄本(甲15)死体検案書謄本(甲23,25,27)診断書謄本(甲29)捜査関係事項照会回答書謄本(甲32)判示第2の事実について第1回公判調書中の被告人の供述部分被告人の検察官調書(乙15,16),警察官調書(乙12,13)Bの検察官調書(甲8)Lの警察官調書(甲9)Mの警察官調書謄本(甲3)実況見分調書(甲4,74)捜査報告書(甲1[謄本],5)診断書(甲6)(法令の適用)被告人の判示第1の各所為はいずれも刑法211条1項前段に,判示第2の所為は同法204条にそれぞれ該当するところ,判示第1については,1個の行為が5個の罪名に触れる場合であるから,同法54条1項前段,10条により1罪として犯情の最も重いEに対する業務上過失致死罪の刑で処断することとし,各所定刑中懲役刑を選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により重い判示第2の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役4年6月に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中120日をその刑に算入することとし,訴訟費用については,刑事訴訟法181条1項本文により全部これを被告人に負担させることとする。 (事実認定の補足説明) 1 弁護人は,①被告人運転の普通乗用自動車(以下「被告人車」という。)が本件現場第3通行帯に停止したのは,同車後方のB(以下「B」とい これを被告人に負担させることとする。 (事実認定の補足説明) 1 弁護人は,①被告人運転の普通乗用自動車(以下「被告人車」という。)が本件現場第3通行帯に停止したのは,同車後方のB(以下「B」という。)運転の大型貨物自動車(以下「B車」という。)が,徐々に減速したのに応じただけであり,B車を停止させた事実はない,②仮に,被告人がB車を停止させたとしても,本件事故は被告人車が本件現場を離れてから7,8分後に発生したものであり,その直接の原因は,被告人車が本件現場から立ち去った後も,Bが迅速に発進させることを怠り,その間,衝突防止の措置を全くとらなかったことによるのであって,被告人に本件事故についての予見可能性はなく,過失も因果関係もないことから,第1の事実について無罪であると主張し,第2の事実については,被告人がBの大腿部等を足蹴にしたことはないなどと主張し,被告人も第1の事実について,前記①に沿う供述をし,第2の事実のうち大腿部等を足蹴にした点を否認するので,以下,検討する。 2 客観的な事実関係関係各証拠によると次の客観的事実が認められ,これについては,弁護人も特に争っていない。 Bは,平成14年1月12日午前5時45分ころ,kジャンクションから高速自動車国道常磐自動車道下り線に入り,被告人は,知人であるLを助手席に乗せ,午前5時51分ころ,oインターチェンジから同下り線に入り,いずれも水戸方面に向けて走行していた。 被告人は,k起点27.8キロポスト付近(以下,キロポストの表記は全てk起点のものである。)で第2通行帯を時速約120キロメートルから130キロメートルで走行していたところ,ハザードランプをつけながら第1通行帯に車線を変更し,そのころ,B車も同通行帯に車線を変更し,両車とも一旦速度を落とした。 その後Bが,第 20キロメートルから130キロメートルで走行していたところ,ハザードランプをつけながら第1通行帯に車線を変更し,そのころ,B車も同通行帯に車線を変更し,両車とも一旦速度を落とした。 その後Bが,第2通行帯へ車線変更し,第1通行帯の被告人車を追い抜くと,被告人は,B車の後方で,第2通行帯を経て第3通行帯に車線変更し,B車の運転席の右横に並び,更に第2通行帯のB車の前方に進入した。B車が第3通行帯に車線変更したところ,被告人は,B車の前方に自車を進入させ,その後,両車は,徐々に減速し,午前6時ころ,28.8キロポスト付近の第3通行帯において,被告人車がB車の前方約12.2メートルの地点に停止し,その後,B車は被告人車の後方約5.5ないし5.7メートルまで進行して停止した。なお,Bは,ハザードランプを点滅させていたが,B車後部左側のランプは電球が断線しており点灯していなかったため,後方から見ると,右ウインカーのみが点滅している状態であった。 午前6時7分ころ,本件現場付近道路第3通行帯を進行していたN運転の普通乗用自動車(以下「N車」という。)及びO運転の普通乗用自動車(以下「O車」という。)は,停止していたB車を避けようして第2通行帯に車線変更したが,N車に追従して走行していたO車がN車に追突したため,O車は第3通行帯上のB車の前方約17.4メートルの地点に,N車は,O車の前方約4.9メートルの地点にそれぞれ停止した。 被告人は,午前6時17分ころ,前記Lに被告人車を運転させて,停止していた第3通行帯から第2通行帯に車線変更して,本件現場から走り去り,午前6時25分ころ,Cが運転する普通乗用自動車が停止していたB車の後部に追突し,本件事故が発生した。 3 被告人車及びB車が停止するまでの経緯に関する関係者の供述の検討(1) 目撃者 走り去り,午前6時25分ころ,Cが運転する普通乗用自動車が停止していたB車の後部に追突し,本件事故が発生した。 3 被告人車及びB車が停止するまでの経緯に関する関係者の供述の検討(1) 目撃者J(以下「J」という。)の供述について被告人車及びB車の走行状態を,その後方で普通乗用自動車を運転しながら目撃したJの捜査段階における供述の概要は,以下のとおりである。 私が,26.9キロポスト付近の第2通行帯を時速約100キロメートルで走行していた時,トレーラー(B車のことである。以下同じ。)が第3通行帯を時速約120キロメートルで追い抜いていき,その後ろから,シーマ(被告人車のことである。以下同じ。)が同通行帯を時速約130キロメートルで追い抜き,私の前方の第2通行帯に車線変更した。そして,シーマは,27.3キロポスト付近でトレーラーの助手席の辺りまで進むと,トレーラーと並んで走りながら幅寄せを始めた。その後,シーマは,27.5キロポスト付近で,トレーラーの前方の第3通行帯に車線変更したので,第2通行帯を走行していた私の車からは見えなくなった。すると,トレーラーは,27.8キロポスト付近で,第2通行帯を経てすぐに第1通行帯に車線変更し,シーマも,トレーラーの動きに従って,トレーラーの前でハザードランプを点滅させながら第1通行帯まで車線変更した。トレーラーは,第1通行帯で一旦速度を落としたので,私は,シーマがトレーラーを停止させようとしていることが分かった。すると,トレーラーは再び速度を時速約100キロメートルに上げ,28.1キロポスト付近で第2通行帯に車線変更し,第1通行帯のシーマを追い抜いたが,シーマは,トレーラーの後方で第2通行帯を経て第3通行帯に車線変更して,トレーラーの運転席の右横に並んだ。そして,シーマは,28.4キ 近で第2通行帯に車線変更し,第1通行帯のシーマを追い抜いたが,シーマは,トレーラーの後方で第2通行帯を経て第3通行帯に車線変更して,トレーラーの運転席の右横に並んだ。そして,シーマは,28.4キロポスト付近で,第2通行帯のトレーラーの前方に車線変更し,その後,トレーラーは,28.5キロポスト付近で,時速約100キロメートルで第3通行帯に車線変更した。すると,シーマは,第3通行帯のトレーラーの前方に車線変更し,トレーラーの直前を走行したので,私の位置からは見えなくなった。 その後,トレーラーのブレーキランプが点灯し,右ウインカーが点滅しはじめ,トレーラーは,そこから約160メートル進んで,第3通行帯上に停止した。シーマは,その直前に停止しているように見えた。 (2) Bの供述についてBの当公判廷における供述(甲73における同人の指示説明部分を含む。)の概要は,以下のとおりである。 私は,pインターチェンジを過ぎた辺りで,シーマ(被告人車のことである。以下同じ。)がワゴンタイプの車両をあおったり,その車に幅寄せをしたりして進路妨害をしていたので,関わり合いになるのを避けるため,速度を落として第2通行帯を進行していたところ,ワゴンタイプの車が第1通行帯に,シーマが第3通行帯に車線を変えたので,速度を上げて2台の車を追い抜いた。すると,シーマが第3通行帯を追い上げてきて,27.4キロポスト付近で,私のトレーラー(B車のことである。以下同じ。)の前方で,左のウインカーを点滅させ,第2通行帯に車線変更し,突然減速を始めたので,私はトレーラーの速度を時速約80キロメートルに減速した。私は,シーマの運転手が私にからんできているのだと思った。 そこで,私は,27.8キロポスト付近で第1通行帯に車線変更したところ,シーマも第1通行帯の私の前に 速度を時速約80キロメートルに減速した。私は,シーマの運転手が私にからんできているのだと思った。 そこで,私は,27.8キロポスト付近で第1通行帯に車線変更したところ,シーマも第1通行帯の私の前に車線変更し,ハザードランプを点滅させたり,運転席のドアから右手を高く上げて斜め後ろに振り下ろしたりしてきた。シーマは,私の車の前方でしつこく進行の妨害をしてきたが,私は,運転中にメーターに目を落とした時に多少トレーラーの車体のぶれがあったか,シーマを追い抜いた時に生じた風圧のために,シーマの運転手が怒っているのではないかと思った。シーマは,私が減速すると,それに合わせるようにスピードを落としているように思えたので,私の車の様子を窺いながらスピードを落としていると感じた。私は,シーマは私の車に止まれの合図をしていると思ったが,これを無視するため,28.1キロポスト付近で,速度を時速約100キロメートルに加速して第2通行帯に車線変更してシーマの前方に出たところ,シーマはトレーラーの後ろから第3通行帯を通って私の前に車線変更してきた。私は,なんでこんなにしつこくするのだと腹を立てたが,ここで車を止めたら目的地への到着時間が遅れるので怒りを抑え,28.5キロポスト付近で第3通行帯に車線変更したところ,シーマは,トレーラーの前方約13.9メートル付近の第3通行帯に車線変更し,徐々に減速を始めた。 私は,シーマが執拗に停止を求めてくるので,その運転手から事情を聞き,進路を妨害したことについての納得のいく説明をさせようと,ある程度の覚悟を決め,トレーラーをシーマの減速に合わせて減速した。私がハザードランプを点滅させたところ,トレーラーの前方約12.2メートルの地点(シーマがトレーラーの前に車線変更してきてから,約330.4メートルの地点)にシーマは止まった 速に合わせて減速した。私がハザードランプを点滅させたところ,トレーラーの前方約12.2メートルの地点(シーマがトレーラーの前に車線変更してきてから,約330.4メートルの地点)にシーマは止まった。私は,シーマの後方約5.5メートルの地点にトレーラーを停止させた。 (3) 被告人の供述について被告人の捜査段階及び当公判廷における供述の概要は,以下のとおりである。 私は,26.5キロポスト付近で,第2通行帯を進行していたトレーラー(B車のことである。以下同じ。)を,第3通行帯から追い抜こうと思ったところ,トレーラーは,時速約120キロメートルから130キロメートルで進行している私の車の約4,50メートル前方で,急に私の車の前に車線変更してきた。私は,急ブレーキをかけ,スピンをすることはなかったもののその場に停止し,息が詰まるほど驚いた。私は,トレーラーを高速道路上に停止させ,運転手に文句を言って謝らせようと思い,27.0キロポスト付近で後方からパッシングをしたり,左のウインカーを出してトレーラーに近付き,第2通行帯に車線変更し,27.2キロポスト付近で,トレーラーの左前方で私の車の運転席の窓を開け,右手の人差し指を左に向けて,路肩に停止するようにという合図を出したりした後,第3通行帯へは車線変更せず,ハザードランプを点滅させて第2通行帯,第1通行帯へと車線変更した。トレーラーは,それに応じて第2通行帯,第1通行帯へと車線変更して,減速した。しかし,止まる様子はなく,再び第2通行帯へ車線変更したため,私は,28.0キロポスト付近でトレーラーの後ろから,第2通行帯,第3通行帯へと車線変更してトレーラーを追い抜き,再び第2通行帯のトレーラーの前方に車線変更した。その後,トレーラーは第3通行帯に車線変更したが,トレーラーの速度が遅 ーラーの後ろから,第2通行帯,第3通行帯へと車線変更してトレーラーを追い抜き,再び第2通行帯のトレーラーの前方に車線変更した。その後,トレーラーは第3通行帯に車線変更したが,トレーラーの速度が遅くなったと感じたので,私は,28.6キロポスト付近で,トレーラーを第3通行帯上に停止させるため,第3通行帯のトレーラーの前方約23.9メートルの地点に車線変更した。そして,私は車のスピードを徐々に落としながら約243.0メートル進行した後,私が先に停止し,その後トレーラーが私の車の後方約5.7メートルの地点に停止した。 (4) 上記各供述内容の検討上記3名の各供述内容のうち,Jの供述は,本件現場付近を走行中に,通常の走行状態ではない被告人車及びB車の走行の様子を後方から偶然に目撃し,第三者的立場からこれを注視していたものであり,その内容にも特に不自然な点は認められないから,おおむね信用することができる。そして,上記供述に反するBの供述部分(すなわち,27.5キロポスト付近で,第2通行帯を進行していたB車を被告人車が第3通行帯から追い上げてきたとする点,第1通行帯で被告人が運転席からB車に向けて合図をしてきた点),被告人の供述部分(すなわち,被告人車が第1通行帯に車線変更する前にはB車の前方の第3通行帯に進入していないとする点,被告人車が先に第2通行帯,第1通行帯への車線変更をし,B車がそれに続いたとする点)は採用しない。 4 被告人がB車を停止させたか否か前記認定の26.9キロポスト付近から28.8キロポスト付近までの間の被告人車の動きについてみると,被告人車はB車を追いかけて,最終的にB車を停止させようとしていたのに対し,B車が車線変更するなどして逃れようとしていたという一連の流れの中で,両車が停止するに至ったということができる ついてみると,被告人車はB車を追いかけて,最終的にB車を停止させようとしていたのに対し,B車が車線変更するなどして逃れようとしていたという一連の流れの中で,両車が停止するに至ったということができる上,両車停止前の状況について,信用できるJの前記目撃状況によれば,被告人車が第3通行帯を走行中のB車の前に進入した後に,同車のブレーキランプがついていること,被告人自身,捜査段階及び公判廷において,当時,B車の運転に立腹し,Bに文句を言い謝罪させるために同車を止めようと思っていたと一貫して供述していること,Bの公判廷における供述によれば,同人は,停止直前には,話をつけることも考えていたとするものの,そもそも同人は,当日,出発時間を4時間以上遅れ,先を急いでいたというのであるから,先行する被告人車がB車を停止させるために減速することなしに,自ら積極的に自車を減速,停止させたとは考え難いことからすれば,被告人は,B車の運転態度に立腹し,B車の前に進入後,徐々に減速してB車を減速させ,最終的に停止させたとするのが合理的である。 この点,弁護人は,時速約100キロメートルで走行中の大型貨物自動車であるB車を停止させようとしてその前方に普通乗用自動車である被告人車が進入するというのは危険であり,あり得ないと主張し,被告人も,B車が減速したから前方に進入したと供述するが,前記認定のとおり,被告人車は,第3通行帯において,特段減速したとの事実も認められないB車の前方に進入したり,その後第2通行帯,第1通行帯と車線変更するB車の前方に車線変更して進入し,同車を停止させようと試みていること,被告人車がB車の前方に車線変更する前に,B車は,被告人車が車線変更をすることが可能な程度に減速したとする被告人の供述は,両車の停止前の状況について,被告人車が第3通行帯 させようと試みていること,被告人車がB車の前方に車線変更する前に,B車は,被告人車が車線変更をすることが可能な程度に減速したとする被告人の供述は,両車の停止前の状況について,被告人車が第3通行帯を走行中のB車の前に車線変更した後にB車のブレーキランプがついたとする前記Jの供述と反すること,後続車が先に減速,停止したのに応じて先行車が後続車に近接して停止するというのはかなり難しいことからして,弁護人の前記主張及び被告人の前記供述は採用できない。 5 傷害の点について前記のとおり,弁護人は,Bの頭部及び顔面を手拳で数回殴打したことは認めるものの,Bの大腿部等を数回足蹴にしたことはない旨主張し,被告人も同様の供述をする。 この点,Bは,その供述調書において,「私が被告人車の助手席に乗っていた女性に「すいません。怖い思いをさせて。」などと謝ったところ,私の横にいた被告人が,私の大腿や腰や胸辺りを足で蹴ってきた。このときの蹴りの強さは,それほど強いものではなかった。被告人は,足の先だけではなく,膝でも私の腰や腹などを蹴っていたと思う。その時の蹴りの回数は約5,6回だったと思う。」などと具体的に供述しており,この供述は,同人に左大腿部打撲の傷害があるとする診断書に裏付けられている上,Bが被告人車の運転席側から前記Lに謝罪したこと,その際,Bの側に被告人がいたことについては,前記Lの供述(甲9)とも符合していることから,被告人が,Bの大腿部等を数回足蹴にするなどの暴行を加えた事実を認めることができ,Bを蹴っていないとする被告人の供述は信用できない。 6 以上の認定事実及び関係各証拠から,以下のとおりの事実関係を認定することができる(被告人の供述で,以下の認定に反する部分は採用しない。)。 Bは,平成14年1月12日午前5時45分ころ,kジ 6 以上の認定事実及び関係各証拠から,以下のとおりの事実関係を認定することができる(被告人の供述で,以下の認定に反する部分は採用しない。)。 Bは,平成14年1月12日午前5時45分ころ,kジャンクションから高速自動車国道常磐自動車道下り線に入り,時速約110キロメートルから130キロメートルで水戸方面に向けて走行し,被告人は,知人であるLを助手席に乗せ,午前5時51分ころ,oインターチェンジから同下り線に入り,時速約120キロメートルから130キロメートルで水戸方面に向けて走行していた。 被告人は,Bの運転態度に立腹し,B車を停止させて同人に文句を言い謝罪させようと考え,27.0キロポスト付近で,自車の進路を第3通行帯から第2通行帯に変更して,パッシングをしたり,左ウィンカーを点滅させたりしながら,第3通行帯を走行していたB車を第2通行帯から追い上げ,27.3キロポスト付近で,B車の左前方に出て同車と併走させながら幅寄せをしたり,窓から右手を出すなどして路肩に停止するよう求め,27.5キロポスト付近で同車を追い越して第3通行帯に車線を変更して同車の前に進入した。すると,Bは,被告人車の走行していない通行帯を走行して被告人と争いになるのを避けようとして,27.8キロポスト付近で,第2通行帯を経て第1通行帯に車線変更したので,被告人は,ハザードランプをつけながら,同車の車線変更に対応するように,B車の前方で第1通行帯まで車線を変更した。両車は,第1通行帯において一旦速度を落とした。そして,Bは,再び速度を時速約100キロメートルに加速し,第2通行帯へ車線変更し,28.1キロポスト付近で,第1通行帯の被告人車を追い抜いたところ,被告人は,B車の後方で,第2通行帯を経て第3通行帯に車線を変更し,時速約120キロメートルに加速し,B車 第2通行帯へ車線変更し,28.1キロポスト付近で,第1通行帯の被告人車を追い抜いたところ,被告人は,B車の後方で,第2通行帯を経て第3通行帯に車線を変更し,時速約120キロメートルに加速し,B車の運転席の右横に並んだ。そして,被告人車は,28.4キロポスト付近で,車線変更して第2通行帯のB車の前方に進入し,その後,B車は,28.5キロポスト付近で時速約100キロメートルで第3通行帯に車線変更したところ,被告人は,28.6キロポスト付近で,B車の前方約13.9メートルないし23.9メートルの地点に自車を進入させ,徐々に減速すると,Bは,被告人から話を聞こうなどと考えて,被告人車の減速に対応するように減速し,午前6時ころ,28.8キロポスト付近の第3通行帯において,被告人車は,B車の前方約12.2メートルの地点に被告人車を停止させ,Bは,さらに前進し,被告人車の後方約5.5メートルの地点にB車を停止させた。Bがブレーキを踏んでから停止するまでの距離は,約160メートルであった。なお,ブレーキランプを点灯させた後,Bは,ハザードランプを点滅させていたが,B車後部左側のランプは電球が断線しており点灯していなかったため,後方から見ると,右ウインカーのみが点滅している状態であった。 被告人は,被告人車から降車し,歩いてB車まで移動し,B車の運転席ドア付近で,「トレーラーの運転手のくせに。謝れ。」などと怒鳴った。Bが,B車の運転席ドアを少し開けたところ,被告人は,ドアを開けてステップに上がり,エンジンキーに手を伸ばしたり,ドアの内側に入ってきて,Bの左顔面を右手拳で5,6回殴打した。その際,Bは,被告人にエンジンキーを取り上げられることを恐れて,エンジンキーを車のキーボックスから抜いて,ズボンのポケットにしまった。 そして,被告人は,Bの着用し 顔面を右手拳で5,6回殴打した。その際,Bは,被告人にエンジンキーを取り上げられることを恐れて,エンジンキーを車のキーボックスから抜いて,ズボンのポケットにしまった。 そして,被告人は,Bの着用していたジャンパーの襟を左手でつかみ,「女に謝れ。」と言って,Bを運転席から路上に引きずり降ろし,被告人車の運転席の外まで引っ張っていった。Bが,被告人車の助手席にいたLに「すいません。怖い思いをさせて。」などと言ったところ,被告人は,Bの大腿,腰,胸などを5,6回足蹴にした。なお,被告人が更に拳で殴りかかってきたので,Bは,被告人に対し,顔面に1回頭突きをしたり,鼻の上辺りを1,2回手拳で殴打するなどの反撃を加えた。 被告人が,Bに対し,前記暴行を加えていた午前6時7分ころ,本件現場付近道路第3通行帯を進行していたN車及びO車は,B車を避けようして第2通行帯に車線変更したが,N車に追従して走行していたO車がN車に追突したため,O車は第3通行帯上のB車の前方約17.4メートルの地点に,N車は,O車の前方約4.9メートルの地点にそれぞれ停止した。 O車から同乗者のP及びK(以下「O親子」という。)が降車したので,被告人はBに暴行を加えることを止めた。そのころ,被告人は,知り合いに電話をかけ,Bは,トレーラーに戻り,午前6時13分ころ,携帯電話で110番通報し,被告人に殴られたこと,被告人車の登録番号などを伝えた。被告人は,O親子の所に歩いて行き,「あのトラックは酔っぱらい運転だ。あの運転手は酒を飲んでいる。」と言い,トレーラーの方に向かって歩き始めたため,O親子も被告人の後に続いてトレーラーの方に歩いて行った。Bは,O親子から「酒を飲んでいただろ。」などと声を掛けられたが,被告人が知り合いを電話で呼んでいたことから,O親子がその知り合いか たため,O親子も被告人の後に続いてトレーラーの方に歩いて行った。Bは,O親子から「酒を飲んでいただろ。」などと声を掛けられたが,被告人が知り合いを電話で呼んでいたことから,O親子がその知り合いかもしれないと思い,B車の運転席の中で終始無言で座っていた。O親子は,追突事故の処理をするため,N車の所に行ったところ,被告人は,午前6時17分ころ,前記Lに被告人車を運転させて,停止していた第3通行帯から第2通行帯に車線変更して,本件現場から走り去った。 その後,O親子は,トレーラーの登録番号を控えておこうと考え,再びトレーラーに近付いて行った。Bは,B車を発車させようとしたものの,エンジンキーがないことに気付いた。Bは,被告人が,前記暴行を加えていた際に,エンジンキーを取り上げ,投棄したものと勘違いし,午前6時19分ころ,再び110番通報し,エンジンキーを取られたこと,被告人が逃げたことなどを伝えた。そして,Bは,B車に歩いて近付いてきたO親子に対し「キー取られてなくなっちゃったよ。」などと言って,周辺を一緒に探したりしたが,結局,エンジンキーが自分のズボンのポケットに入っていたのを発見すると,B車のキーボックスにエンジンキーを挿入した。Bがエンジンを始動させた時点で,B車後部の尾灯が点灯し,前記右側ウインカーは引き続き点滅していた。そして,B車の前方に停止していたO車及びN車に対し,進路を空けてもらうよう依頼しようとして,BがO車に向かって歩き始めた午前6時25分ころ,Cが運転する普通乗用自動車が停止していたB車の後部に追突し,本件事故が発生した。 7 被告人の過失の有無及び因果関係の存否について関係各証拠によると,本件現場は,片側3車線の高速自動車国道の追越車線に当たる第3通行帯で,本件当時,夜明け前で周囲には照明灯は設置されてい た。 7 被告人の過失の有無及び因果関係の存否について関係各証拠によると,本件現場は,片側3車線の高速自動車国道の追越車線に当たる第3通行帯で,本件当時,夜明け前で周囲には照明灯は設置されていなかったこと,本件事故直前の午前6時15分から25分までの間,本件現場の手前約3.7キロメートル地点である25.1キロポストにおける交通量は,第1通行帯が52台,第2通行帯が163台,第3通行帯が115台であることが認められるところ,これらの客観的な状況のもとで,被告人は,Bに文句を言い,被告人や女性同乗者に謝罪させるためにB車を停止させたものである。そのような場合,その目的のため車外に出ることをBが求められるなどして,B車がある程度の時間継続してその場に停止することになることは当然予想されるところ,高速道路の追越車線を走行する自動車は,通常停止車両がないことを前提に走行しているのであるから,前記のような状況であれば,停止車両の確認が遅れがちとなり,その結果,B車の後続車が,衝突を回避する措置を取ることが遅れたために追突する危険性がかなりあることは被告人に十分に予見可能であったということができ,被告人がB車を停止させたことにより,このような事故発生の危険性を惹起したものであるから,被告人の上記行為に過失があったと認められる。 また,被告人車が本件現場付近を離れてから約7,8分後に本件事故が発生したこと,Bは,被告人車が本件現場を離れた後,直ちにB車を発進させず,また,同車の停止後事故発生までの間,後続車の追突防止のための措置を講じなかったことが認められるが,それは,同人が被告人から暴行を受けた際に,エンジンキーを被告人に投棄され紛失したものと勘違いしたため,数分間,B車の周囲を探すなどしたほか,B車の前方の第3通行帯上に,停止していたB車 められるが,それは,同人が被告人から暴行を受けた際に,エンジンキーを被告人に投棄され紛失したものと勘違いしたため,数分間,B車の周囲を探すなどしたほか,B車の前方の第3通行帯上に,停止していたB車を避けようとして追突事故を起こしたO車及びN車が停止していたため,B車を同通行帯で十分に加速し,安全に発進させることができないと判断し,O車及びN車に進路を空けてもらうよう依頼しようとしていたためであり,これらは,被告人がBに文句を言い謝罪させるために停止させて,暴行を加えたことに誘発されて生じたものであって,被告人の行為との関係では予想外のものということはできず,また,本件事故は,被告人がB車を停止させたことによって生じた事故発生の危険性が現実化したにすぎないというべきものであるから,前記のような事情が介在したからといって,被告人がB車を停止させたことと本件事故との間の因果関係が否定されることにはならない。 したがって,この点についての弁護人の主張には理由がない。 (量刑の理由)本件は,普通乗用自動車を運転していた被告人が,高速道路の追越車線上で大型貨物自動車を停止させ,同所でその運転手に暴行を加えて傷害を負わせるとともに,自動車を同追越車線上に敢えて停止させた過失行為により,その後,同車線上を走行してきた自動車を前記大型車に追突させて4名を死亡させ,1名に重傷を負わせたという,業務過失致死傷,傷害の事案である。 傷害の点についてみると,被告人は,被害者の運転態度に立腹し,同人に文句を言おうなどとして,高速道路の追越車線上で被害者であるBの運転車両を停止させ,同所で運転席に座っていた同被害者の顔面を手拳で殴打したほか,車外で足蹴にするなどの暴行を加えて傷害を負わせたというものであるところ,被告人は,運転態度に問題があると思えば,高速 転車両を停止させ,同所で運転席に座っていた同被害者の顔面を手拳で殴打したほか,車外で足蹴にするなどの暴行を加えて傷害を負わせたというものであるところ,被告人は,運転態度に問題があると思えば,高速道路上でもその車を停めて注意しないと気が収まらないとして本件に及ぶなど,その動機は極めて危険かつ短絡的なものであるし,その経緯,態様等についても酌量の余地はなく,本件は悪質な犯行である。 業務上過失致死傷の点についてみると,高速道路の追越車線上で車両を停止させるべきでないことは自明のことであり,車線変更して被告人車をやりすごそうとする前記B運転の大型車を執拗に追いかけた上,そのような注意義務を怠って停止させたという経緯や過失の態様は,およそ常軌を逸しているというほかなく,この過失は死傷者の発生に直結しかねない極めて危険なものである。現に,停止した前記大型車に追突した後続車に乗っていた4名が死亡し,1名が重傷を負うに至ったという結果も重大で,受傷後短時間で命を落とすことになった被害者らの無念さや苦痛は察するに余りあり,遺族らが受けた衝撃の大きさも筆舌に尽くし難い。また,生存被害者も多大の精神的・肉体的苦痛を被っている。それにもかかわらず,被告人は,前記大型車の運転手に全ての責任を転嫁して,自らの責任を回避しようとする姿勢に終始し,被害者らに何らの慰謝の措置も講じておらず,被害者やその遺族らの処罰感情には極めて厳しいものがある。 被告人は,平成7年に本件と同様の自動車運転中のトラブルに係わる暴行,器物損壊,傷害により罰金刑に処せられ,平成9年にも,同様の傷害,器物損壊により懲役1年,5年間執行猶予に処せられたほか,道路交通法違反の罰金前科2犯を有しており,本件は,前記懲役前科による執行猶予中の犯行である。しかも,被告人は,運転前には飲酒をしてい 傷害,器物損壊により懲役1年,5年間執行猶予に処せられたほか,道路交通法違反の罰金前科2犯を有しており,本件は,前記懲役前科による執行猶予中の犯行である。しかも,被告人は,運転前には飲酒をしていたことが窺われるなど,被告人の規範意識の鈍麻は顕著といわざるを得ない。また,本件直後には,被告人車両を運転していた事実を隠ぺいするため,同乗者の女性と口裏合わせを行っており,犯行後の態様も良くない。 そうすると,被告人の刑事責任は極めて重いといえる。 被告人には,本件傷害については一部事実を認めていること,本件の各被害者に対しては責任を感じており,本件事故の死傷者に対して慰謝の措置を講じる意向を示していること,前記大型車の運転者の過失や追突した車両の運転者の不注意も追突事故の一因となっていることは否定できないこと,被告人には妻子があることなどの事情も認められるが,これらを最大限考慮しても,主文の刑は免れない。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑-懲役7年)平成15年1月10日水戸地方裁判所土浦支部裁判長裁判官彦坂孝孔 裁判官山崎栄一郎 裁判官柴田憲史

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