平成13刑(わ)3983 承諾殺人被告

裁判年月日・裁判所
平成14年2月26日 東京地方裁判所
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判決文本文2,985 文字)

主文 被告人を懲役3年に処する。 未決勾留日数中30日をその刑に算入する。 この裁判確定の日から4年間その刑の執行を猶予する。 理由 (犯罪事実)被告人は,夫のB(昭和8年生)と肩書きの住居地で暮らしていたものであるが,体調の変化から自らの老いを痛感し,痴呆状態となった実母を看護した経験などから物事の理解ができない状況で生き長らえることに恐怖心を抱くようになり,他方,Bも,退職後に再就職先が見つからないことなどから,生きる意欲を失いかけ,Bの実母の介護費用がかさむなど今後の経済的な状況も難しくなる見込みになってきたと考えたことなどもあって,この際,将来老いた自分たち自身が2人の娘の負担になることがなく,相応の財産も残せる段階にあるうちに2人で心中しようと話し合い,互いにその決意を固めて身辺整理を重ねた上,平成13年11月21日午後8時ころ,東京都港区所在のCホテルD号室において,Bと心中するべく,Bの承諾を得て,殺意を持って,バスローブの紐等をBの頸部に巻き付けて締めつけ,よって,そのころ,同所において,Bを窒息により死亡させて殺害したものである。 (量刑の理由) 1 本件は,夫のBと心中しようとして夫のBを殺害し,自らも自殺しようとしたが生き残った事案である。 被告人は,痴呆の状態にもなって被告人おいて看護していた実母が平成12年夏に死亡し,自らの体調の変化から自分の老いも痛感し,実母や入院中のBの実母のように物事の理解ができない状況で生き長らえて娘達(同居中のE,婚姻して別居していたF)に大きな負担をかけることなどに恐怖心を抱くようになり,一方,Bは,長年警察官として勤務した後,民間会社などでも働いたが,平成13年8月に勤務先の社長との折り合いが悪くなって退職し,以後仕事を捜していたものの,肺気腫の病気 などに恐怖心を抱くようになり,一方,Bは,長年警察官として勤務した後,民間会社などでも働いたが,平成13年8月に勤務先の社長との折り合いが悪くなって退職し,以後仕事を捜していたものの,肺気腫の病気も抱えて健康に不安を感じ,その年齢などからなかなか再就職先が見つからず,仕事を生き甲斐にしてきたこともあって,生きる意欲を失いかけ,さらにBの実母の介護費用等がかさむなど今後の経済的な状況も難しくなる見込みになってきたと考えたことなども加わり,この際,将来老いた自分たち自身が2人の娘の負担になることがなく,相応の財産も残せる段階にある今のうちに夫婦2人で心中しようと話し合い,互いにその決意を固め,2人の結婚記念日である11月20日前後にホテルに宿泊し本件犯行に至ったものである。 2 こうした経緯をみると,被告人夫婦には上記のような悩みや不安があったことは認められるものの,そうした悩みや不安は,特に被告人らだけが有していたものではなく,被告人らと同年代の人々の相当数が抱える問題でもあり,自宅マンションや預貯金なども保有し月額約40万円の年金支給を受けていた被告人らの経済状態や分別もある成人した2人の娘の存在なども考えると,他に解決の方法を見出すことは可能であったと思われ,被告人らが心中を決意して実行するに至るやむを得ない事情があったともいえず,むしろ,被告人の行動は,短絡的な行動として,社会的な非難は免れない。また,本件ではB本人の承諾があるとはいえ,そもそも何人といえども人の生命を奪うことが許されるわけはないのであるから,Bの命を奪ったという,本件犯行の結果自体がもとより重大である。さらに,被告人は,ホテル内でベッドに仰向けに寝ているBに馬乗りになり,腰ひもをBの首に巻き,続いてBに勧められるままバスローブの紐を首に巻いて強く首を絞め,Bを確 の結果自体がもとより重大である。さらに,被告人は,ホテル内でベッドに仰向けに寝ているBに馬乗りになり,腰ひもをBの首に巻き,続いてBに勧められるままバスローブの紐を首に巻いて強く首を絞め,Bを確実に窒息死させている。犯行場所となったホテル側は大きな迷惑を被ってもいる。こうした事情を考えると,被告人の刑事責任は重いと言わざるを得ない。 3 しかし,他方,被告人には,以下のとおり,酌むべき事情が認められる。 (1) 被告人は,昭和35年にBと婚姻後,円満な家庭を築き,2人の娘を育てて40年余りも連れ添ってきた仲のよい夫婦であった。そして,本件に至った経緯は前記のとおりで短絡的なところがあるが,被告人らの立場やその思いなどからすると,主観的には同情すべきところもあるし,被告人夫婦が本件当時心中しようとした気持ちに偽りはなく,B本人の自らの死についての真摯な承諾があったことやBが被告人にバスローブのひもでBの首を絞めるように言ったなどの事実も認めることができ,被告人の立場になってみれば,Bとの間で互いに心中することを確認してその実行に及ぼうとしている以上,現にBを殺害する行為に出たこと自体についてこれを理解できないわけではなく,Bを殺害したことについて被告人だけを強く非難することができないところがある。本件後には,被告人自身自殺しようともしている。以上のとおり,本件犯行に至る経緯とその動機さらに被告人の立場には,酌量すべきところがある。 (2) また,被告人は,捜査・公判段階を通じて記憶にあるとおりの事実関係をそのまま供述し,一貫して素直に自分の犯行を認め,自らの手でBを殺害したことを重く受け止め,本件で逮捕されて以来身柄拘束を受ける中で,本件に対して真摯な態度を示している。さらに,被告人らの娘たちは,父親を死亡させたのが愛する母であると 行を認め,自らの手でBを殺害したことを重く受け止め,本件で逮捕されて以来身柄拘束を受ける中で,本件に対して真摯な態度を示している。さらに,被告人らの娘たちは,父親を死亡させたのが愛する母であるという現実を受け止め,心中を決意して夫を殺害するまでに精神的に追い込まれていた被告人の心情を理解し,被告人を宥恕するのはもとより,被告人を本件犯行にまで至らせたことについて責任を感じ,被告人に対する寛大な処分を切に望んでおり,今後一人残った被告人を支えていく旨誓っている。被告人も,娘たちのこの気持ちを受け,Bの後を追うのではなく,娘らとともに今後の人生を送り,Bの実母の世話やボランティア活動などをしながら暮らしていきたいなどと述べ,これからの人生に対して相応の意欲を見せている。もとより,被告人にはこれまでに前科などはなく,善良な市民として犯罪とは全く縁のない生活を送ってきたものであり,被告人が生きる意欲を持つ限り,娘らとともに今後通常の社会生活を送っていくことが十分に見込まれる。 4 以上の諸事情を総合考慮すると,人の生命を奪った被告人の刑事責任は重いが,相応長期の身柄拘束も受けている被告人を更に矯正施設に収容して本件の償いをさせ,その責任を問うよりも,娘らが強く求めるように被告人を社会に戻し,娘らと交流のある生活の中でBの供養にも努める日々を送らせるのが相当と認め,主文のとおり量刑した。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑懲役4年)平成14年2月26日東京地方裁判所刑事第9部裁判官安井久治

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