- 1 -主文 被告らは,原告Aに対し,連帯して,360万4932円及びこれに対する平成18年8月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告Aのその余の請求並びに原告B及び同Cの請求をいずれも棄却する。 訴訟費用はこれを5分し,その2を被告らの負担とし,その余を原告らの負担とする。 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1請求 被告らは,原告Aに対し,連帯して,736万4280円及びこれに対する平成18年8月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告らは,原告Bに対し,連帯して,115万円及びこれに対する平成18年8月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告らは,原告Cに対し,連帯して,115万円及びこれに対する平成18年8月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,被告学校法人D大学(以下「被告大学」という)が経営する私立。 E高等学校(以下「E高校」という)の女子バスケットボール部に所属して。 いた原告Aが,平成18年8月23日,同部の練習終了直後に熱中症によって倒れ(以下「本件事故」という,その後健忘の症状が生じたことについて,。)原告Aが,同部の監督である被告F(以下「被告F」という)は,気温35。 度を上回る場合は練習を中止すべき注意義務があったのにこれを怠り,原告Aに意識障害を伴う熱中症を発症させ,さらに,熱中症に対する適切な処置を怠り,その結果,原告Aに解離性健忘を生じさせたと主張して,被告らに対し不- 2 -法行為(被告大学に対しては使用者責任)に基づき,原告Aは,合計736万4280円の損害賠償金及びこれに対する本件事故当日から支払済みまでの遅延損害 生じさせたと主張して,被告らに対し不- 2 -法行為(被告大学に対しては使用者責任)に基づき,原告Aは,合計736万4280円の損害賠償金及びこれに対する本件事故当日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求めるとともに,原告Aの親である原告B及び同Cは,各115万円の損害賠償金及びこれに対する本件事故当日からの遅延損害金の支払を求めている事案である。 前提事実以下の事実は,当事者間に争いがないか,掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる。なお,以下,年の記載を省略した日付けは,平成18年のそれを指す。 (1)当事者ア原告Aは,平成元年8月16日生まれの女性であり,平成17年4月,バスケットボールの特待生としてE高校に入学し,入学当初から女子バスケットボール部に所属していた(甲1。 )イ原告Bは同Aの父であり,同Cは母である。 ウ被告大学は,E高校を設置・運営する学校法人である。 エ被告Fは,大学,実業団でバスケットボール選手として活動した後,昭和52年からバスケットボールの指導者として,高校や実業団の監督を務め,平成15年4月からE高校に保健体育の教員として着任し,本件事故当時,女子バスケットボール部の監督に就任していた。 (2)女子バスケットボール部の概要アE高校の女子バスケットボール部は,被告Fが監督に就任した平成15年に創部され,これまで大分県内の大会では,全11回の出場中,7回優勝,4回準優勝の成績を収めている。 ,,(。),イ本件事故当時の部員構成は3年生12名2年生7名原告Aを含む1年生4名の合計23名で,このうち特待生は19名(原告Aを含む)。 (。 ,,「」。)。 であった甲10なお特待生でない部員を以下一般生という- 3 -(3)本件事故の発生 年生4名の合計23名で,このうち特待生は19名(原告Aを含む)。 (。 ,,「」。)。 であった甲10なお特待生でない部員を以下一般生という- 3 -(3)本件事故の発生状況等ア8月23日,被告Fが被告大学の業務の執行である部活として女子バスケットボール部の指導に当たっていたところ,原告Aが同日の練習終了後である午後6時すぎバスケットボール部の練習施設であるEアリーナ以,(下「アリーナ」という)内のトイレ前で倒れているところを,他の部員。 に発見された(乙3,甲27。 )イ同日午後の全体練習の時間は午後2時ころから午後5時30分ころまでであり,その後30分間ウエートトレーニングの時間が設けられていた。 また,練習中の休憩時間は,午後3時45分から午後4時13分までであった(乙3。 )ウ同日の気象状況は,気温38度,湿度80パーセントであった。 (4)原告Aの診断状況,,,ア原告Aは本件事故翌日の同月24日別府市内のL病院で診察を受け「頭部打撲,記憶力低下,脱水症」と診断された(甲1。 )イまた,原告Aは,同月25日,大分市内のM脳神経外科病院で診察を受,「,」。 ,,け意識消失発作熱中症疑いと診断されたなおその診断書には「,. 医師の見解として神経学的診察では四肢の筋力低下を認め握力は右35㎏,左5㎏であった。血液検査では筋原性酵素の上昇があった。頭部CT,頭部MRIは異常なかった。熱中症が疑われたため,点滴(ラクテックG500ml+ビタメジン1バイアル)を行った。平成18年8月23日から1年前までの記憶がないとの訴えもあったと記載されている甲。」(17。 )ウさらに,原告Aは,9月11日から同月13日まで,別府市内のN病院に入院し「記憶障害(逆行性 18年8月23日から1年前までの記憶がないとの訴えもあったと記載されている甲。」(17。 )ウさらに,原告Aは,9月11日から同月13日まで,別府市内のN病院に入院し「記憶障害(逆行性健忘」と診断された。なお,その診断書に,),「」,,は記憶障害の原因として熱中症疑いと記載され医師の見解として「大脳高次機能検査の一部でやや心理的に不安定な状態がみられる以外は- 4 -著変はみられなかった」と記載されている(甲16。 。 )エその後,原告Aは,大分市内のOメンタルクリニックを受診し,12月19日付けで,生活史健忘により治療を要す状態にあると診断されている(甲2。 )(5)熱中症の予防と対処方法ア財団法人日本体育協会が平成6年に発行した「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック(乙8。以下「熱中症ガイドブック」という)には,」。 熱中症の病型の説明として,次のような記述がある。 (ア)熱失神:皮膚血管の拡張による循環不全で,脈が速くて弱く,呼吸回数の増加,顔面そう白,血圧低下,一過性の意識喪失がおこる。 ,,,,(イ)熱疲労:脱水や塩分の不足による症状で脱力感倦怠感めまい頭痛,吐き気などがみられる。 (ウ)熱けいれん:大量に汗をかき水だけを補給して血液の塩分濃度が低下した時に,足,腕,腹部の筋肉に痛みやけいれんがおこる。 (エ)熱射病:体温の上昇のため中枢機能に異常をきたした状態で,意識障害(うわごとや,呼んでも答えないなど)がおこり死亡率が高い。 イまた,熱中症ガイドブックには,熱中症予防のための運動指針として,乾球温度35度以上の場合には,原則として運動を中止すること,乾球温度31度以上の場合には,熱中症の危険が高いので激しい運動や持久走など熱負荷の大きい運動は避け ,熱中症予防のための運動指針として,乾球温度35度以上の場合には,原則として運動を中止すること,乾球温度31度以上の場合には,熱中症の危険が高いので激しい運動や持久走など熱負荷の大きい運動は避け,運動する場合には積極的に休息をとり水分補給を行うことなどが記載されている。 ,,,ウさらに熱中症ガイドブックには熱中症予防のための注意事項として熱中症の発生には気温,湿度,風速,輻射熱(直射日光など)が関係して- 5 -おり,同じ気温でも湿度が高いと危険性が高くなるため,環境条件に応じた運動,休息,水分補給の計画が必要であること,発汗によって失われた水分を補わないと脱水になり,体温調節能力や運動能力が低下するため,こまめに水分を補給する必要があり,その場合,0.2パーセント程度の食塩水が適当であること,体調が悪い時には体温調節能力も低下し,熱中症につながるため,疲労,発熱,かぜ,下痢などの時に無理に運動をしないようにすること,熱中症に対する救急処置として,熱失神や熱疲労の場合には,涼しい場所に運び,衣服をゆるめて頭を低くして寝かせ,水分を補給すれば通常は回復するが,吐き気やおう吐などで水分補給ができない場合には病院に運び,点滴を受ける必要があること,熱けいれんの場合に,(. ),,は生理食塩水 9パーセントを補給すること熱射病の場合には死の危険のある緊急事態であるため,体を冷やしながら集中治療のできる病院へ一刻も早く運ぶ必要があることなどが記載されている。 争点及び当事者の主張(1)被告Fの注意義務違反の有無(原告らの主張)ア練習管理・監督に関する注意義務違反,,熱中症を予防する観点から乾球温度が35度を上回る環境においては原則として運動は中止すべきであるから,被告Fは,35度を上回る高温下に 原告らの主張)ア練習管理・監督に関する注意義務違反,,熱中症を予防する観点から乾球温度が35度を上回る環境においては原則として運動は中止すべきであるから,被告Fは,35度を上回る高温下においては,練習を中止すべき注意義務を負っていた。また,仮に特別な事情により運動をさせる場合であっても,冷房のある室内にて練習を行う,冷水による給水を促すなどして,生徒の体温が上昇しすぎることのないよう体調管理をすべき注意義務を負っていた。 しかるに,被告Fは,本件事故当日の乾球温度が38度であり,湿度が80パーセントであったにもかかわらず,練習中止を指示せず,それどころか,給水を制限したまま過酷な練習を強行したものである。 - 6 -したがって,被告Fには,生徒の練習管理・監督を怠った注意義務違反がある。 イ熱中症の処置に関する注意義務違反被告Fは,熱中症が疑われる意識障害を発症した部員生徒について,少なくとも即時に体温冷却を試み,体表体温を測定するなどした上で,その結果を踏まえて,救急車を呼ぶか医療機関に搬送するなどの対応をすべき注意義務を負っていた。 また,被告Fは,生徒を指導するに当たり異常事態が生じた際には,その監護者である両親に対して早急に事態を通知し,対応について連絡を取り合うべき注意義務を負っていた。 しかるに,被告Fは,原告Aの検温を一切行っておらず,医療機関への連絡等も怠り,経過観察や体温冷却について,自らも行わず,他の部員にも指示していない。また,原告B及び同Cに対し,即時の連絡を取らず,その後も正確な報告をしなかった。 したがって,被告Fには,熱中症に対する適切な処置を怠った注意義務違反がある。 (被告らの主張)ア練習管理・監督に関する注意義務違反について8月23日は気温・湿度ともに高かったことから,被告Fは,当日 って,被告Fには,熱中症に対する適切な処置を怠った注意義務違反がある。 (被告らの主張)ア練習管理・監督に関する注意義務違反について8月23日は気温・湿度ともに高かったことから,被告Fは,当日予定していた午前午後の練習のうち午前の練習を中止し,午後2時から午後5時30分までの練習に変更している。さらに,夏季の練習の際には,熱中症,脱水等の予防措置として,コートサイドに冷却したスポーツドリンク10リットル入りタンクや塩を用意し,45分から1時間の間隔で休憩と水分補給を実施しているし,同日の練習中には,被告Fの教え子が来訪し,,て氷菓子を差し入れたので午後3時45分ころから30分間休憩を取り生徒らはその間,氷菓子と冷却器の水による水分補給を行っている。 - 7 -このように,被告Fは,気象条件への配慮や,水分補給等による生徒の体調管理を行っており,原告の主張する注意義務違反は認められない。なお,被告Fは,過度の水分制限は行っていない。 イ熱中症の処置に関する注意義務違反について被告Fは,同日午後6時30分ころ,原告Aの状態を確認したところ,意識は朦朧としているものの,額に手を当てて体温を確認すると,異常な発熱は認められなかった。また,異常な発汗もなく,皮膚の紅潮も認められなかった。 そこで,被告Fは,練習後の疲労によって意識が少し朦朧としている状,,,態にあると判断して寮の健康係であるGに氷を当てアイシングしたり水分補給をさせたり,体温の測定を行い,寮の部屋の空調を涼しくするよう,また,熱が高温になったり,本人が何か訴えたりする等の緊急事態があれば,すぐに病院に連れていくから被告Fに連絡するように指示を与えた上で,原告Aを寮に帰して,Gに看病させ,静養させた。 その後の原告Aの体温は,同日午後8時ころ37.6度,同日午後 等の緊急事態があれば,すぐに病院に連れていくから被告Fに連絡するように指示を与えた上で,原告Aを寮に帰して,Gに看病させ,静養させた。 その後の原告Aの体温は,同日午後8時ころ37.6度,同日午後10時30分ころ35.5度程度であった。さらに,Gが,一晩中,原告Aの看病を行い,スポーツドリンク等の水分を与えていたが,嘔吐することもなかった。 こうした原告Aの状態からは,その症状は死の危険がある熱射病では到底なく,また,病院へ運び点滴を受ける必要もなかった。原告Aの熱中症は,比較的軽度な熱疲労と考えられる。 したがって,被告Fが,本件事故当日,原告Aを寮に帰してGに看病させ,静養させたことは適切な処置であり,病院へ搬送しなかったとしても注意義務違反にはならない。 また,被告Fは,8月23日午後6時30分ころ,原告Cに対して「意識が少し朦朧としていますが,練習後の疲労だと思います。このまま寮で- 8 -休養させます」と連絡し,翌24日午前9時30分ころには,L病院で。 の診察結果を聞き,再び原告Cに対し「記憶障害がみられますが,一過性のもので,寮で静養させたいと思います」と連絡して,適切な時期に両。 親に対して報告している。 さらに,被告Fには,解離性健忘が生じることを予見することができないから,その結果回避義務は存在しない。 (2)記憶障害の存否・程度とその因果関係(原告らの主張)被告Fの上記各注意義務違反により,原告Aは,心的外傷を原因とする解離性健忘を生じ,過去約2年間にわたる記憶を喪失した。 (被告らの主張)原告Aに解離性健忘は生じていない。 また,仮に,原告Aに解離性健忘が生じたとしても,一過性のものにすぎないし,その原因は精神的ストレスにあると考えるのが合理的である。そして,原告Aが精神的ストレスを感じたものは,練習以外 ていない。 また,仮に,原告Aに解離性健忘が生じたとしても,一過性のものにすぎないし,その原因は精神的ストレスにあると考えるのが合理的である。そして,原告Aが精神的ストレスを感じたものは,練習以外にもあり得る。すなわち,家族からの期待に応えるためにレギュラーにならなければならないというプレッシャーがかかっていたことなどは容易に推測できる。 (3)原告Aが被った損害の額(原告Aの主張)ア治療費・検査費5万7810円(内訳)(ア)8月25日M脳神経外科病院1万0150円(イ)9月7日N病院1万0925円(ウ)同月11日から同月13日N病院2万5020円(エ)同月20日N病院210円(オ)同月26日L病院1905円- 9 -(カ)12月19日Oメンタルクリニック5220円(キ)同月26日Oメンタルクリニック4380円イ付添費4万5500円原告Aは,本件事故により,9月末までに3日間の入院と4日間の通院を余儀なくされ,この7日間は健忘状態となって間がなく,身の回りのことも自分ではできず,親の付添いが不可欠であった。 1日6500円×7日間=4万5500円ウ交通費7500円エ学習費26万3470円(学習塾受講費用)オ慰謝料600万円原告Aは,過去2年分の記憶を喪失しており,これに伴う学習内容の喪失,友人関係の障害,思い出の喪失,バスケットボールプレーヤーとしての能力の喪失,E高校への進学の無意味化の事情及び後記(4)の原告B及び同Cの主張ア記載の事情を考慮すると,原告Aに対する慰謝料は600万円とすべきである。 カ弁護士費用99万円キ合計736万4280円ク過失相殺被告らは,原告Aに体調管理に関する過失があると主張するが,原告Aは,被告Fの絶対的管理 する慰謝料は600万円とすべきである。 カ弁護士費用99万円キ合計736万4280円ク過失相殺被告らは,原告Aに体調管理に関する過失があると主張するが,原告Aは,被告Fの絶対的管理下に置かれていたのであり,自らの判断で練習を中断し体調を管理すべき注意義務など観念し得ない。 (被告らの主張)ア損害額については,因果関係を含め,いずれも争う。 イ過失相殺被告Fは,原告Aに対して,練習メニューをどの程度こなすかについて自由な判断に委ねていた。そして,本件事故当日も,原告Aは,自らの判- 10 -断で自由に休憩を取ることができる状態であったにもかかわらず,練習を中断しなかった。原告Aには,自ら練習を中断し被害結果を拡大しないように自らの体調を管理する注意義務が存在するが,原告Aはこの注意義務に反し,被害結果を拡大させた点に過失が認められる。 ウ損害填補治療費・検査費については,12月17日,日本スポーツ振興センターからの災害共済給付金でもって,実費以上の金額が支払われている。 (4)原告B及び同Cが被った損害の額(原告B及び同Cの主張)ア慰謝料各100万円本件事故により部活動経費が無駄になったこと,原告Aが倒れた際にすぐに病院に連れていかなかったこと,原告Aを2日間寮に放置し被告F自ら状態を確認しなかったこと,原告Aを隔離し親との連絡をさせなかったこと,L病院の指示に従わず,すぐに専門医に受診させなかったこと,原告B及び同Cに虚偽の報告をしたこと,被告Fが事実を隠そうとし,発覚後も誠実な対応をしていないこと,被告F自身反省していないことを考慮,,。 すると原告B及び同Cに対する慰謝料は各100万円とすべきであるイ弁護士費用各15万円ウ合計各115万円(被告らの主張)争う。 第3当裁判所の判 身反省していないことを考慮,,。 すると原告B及び同Cに対する慰謝料は各100万円とすべきであるイ弁護士費用各15万円ウ合計各115万円(被告らの主張)争う。 第3当裁判所の判断 被告Fの注意義務違反の有無(争点(1))について(1)被告Fは,E高校の教員であり,女子バスケットボール部の監督である,,,,から部活の実施により部員の生命身体に危険が及ばないように配慮し部員に何らかの異常を発見した場合には,その容態を確認し,応急処置を執- 11 -り,必要に応じて医療機関に搬送すべき一般的な注意義務(安全配慮義務)。 ,,,を負っているというべきであるそして前提事実のとおり本件事故当時既に熱中症の予防策や発生時の対処方法について,財団法人日本体育協会による熱中症ガイドブックも公刊されており,熱中症の危険性とその予防対策の重要性は,体育教育関係者にとっては当然身に付けておくべき必須の知識であったと認められること,バスケットボールは走ることを基本とする運動量の多い球技であり,特に夏季の練習においては体育館内の温度が上昇するため熱中症に対する配慮が必要となること,熱中症ガイドブックによれば,乾球温度が35度以上となる場合には原則として運動を中止すべきとされていることなどを考慮すると,被告Fとしては,本件事故当時,部員が暑さと運動によって熱中症を発症することのないよう,気温が35度以上である間は,基本的には練習を控え,仮に練習を行う場合であっても,その内容を比較的軽微な運動にとどめ,練習中は適宜休憩を設けた上で,部員らに対して十分に水分及び塩分を補給することを指導するとともに,部員らの体調を把握して,熱中症を疑わせる症状がみられた場合には,直ちに涼しい場所で安静にさせて,水分を補給したり体を冷やすなどの 部員らに対して十分に水分及び塩分を補給することを指導するとともに,部員らの体調を把握して,熱中症を疑わせる症状がみられた場合には,直ちに涼しい場所で安静にさせて,水分を補給したり体を冷やすなどの応急処置を採り,水分補給ができない場合には医療機関に搬送すべき具体的な注意義務を負っていたというべきである。 (2)そこで,被告Fがこうした注意義務に違反したと認められるかどうかを,(,,,,,,判断するに前提事実及び証拠甲1 18の120,21,25ないし27,乙3,4の2,12ないし14,原告A,被告F)によれば以下の事実が認められる。 ア女子バスケットボール部における練習状況の概要女子バスケットボール部の練習時間は,授業のある平日が概ね午後3時30分から午後7時であり,土日祝日や夏休み中などは,午前と午後の二部構成で行われ,午前が9時から12時,午後が2時から6時くらいまで- 12 -であった。 練習内容は,概ね前半の時間帯にランニングやシュートなどの基礎練習を行い,後半の時間帯に応用練習やゲーム形式の練習を行っており,こうした全体練習が終了した後,ウエートトレーニングの時間が設けられていた。 練習中の休憩は,1回の練習(3ないし4時間)につき1回か2回であり,休憩時間は1回につき概ね10分程度であった。 また,練習中の水分補給は,部室に備え置きの10リットル入りタンクに入ったスポーツドリンクか,アリーナ内に設置されている冷水器で行っており,部員らは,休憩時間中であれば,これらを利用して水分を補給することができた。 なお,塩分補給については,少なくとも本件事故後から,水を補給する際に塩をなめるように指導したことが認められるが(甲26,それ以前)からそうした指導があったことを認めるに足り することができた。 なお,塩分補給については,少なくとも本件事故後から,水を補給する際に塩をなめるように指導したことが認められるが(甲26,それ以前)からそうした指導があったことを認めるに足りる証拠はないし,被告F自身,具体的な指導をしていないと供述している(被告F519項。 )イ本件事故前の練習状況夏休みに入ってからの練習は,基本的に午前と午後の二部構成で行われていたが,8月17日から同月20日までは,帰省休暇となっていた。 そして,被告Fは,帰省休暇明けの同月21日の練習ころから,部員らに対して,水分を摂り過ぎると体力の消耗が早くなるとか,血液が薄くなり貧血になりやすいなどと説明し,多量に汗をかいている部員に対して,水分の摂り過ぎが原因であるとして厳しく叱りつけるようになった。このため,多くの部員は萎縮して,水分補給を控えるようになっていった。さらに,同月21日の午後と22日の練習では,一度も休憩がなく,部員らは練習中に水分補給をすることができなかった(休憩が一度もなかったこ,。)。 とは分刻みで練習内容が記録されている乙3号証により明らかである- 13 -そして,同月21日午後の練習中には,中国人留学生の部員がスクワットを行っている最中に体力の限界をきたして倒れたことがあり,また,同月22日の練習では,過呼吸になって練習をこなせない部員もいた。 ウ本件事故当日の練習状況本件事故当日である同月23日は,気温38度,湿度80パーセントに上っていたが,特待生の練習は午前・午後ともに行われ(一般生は午後の練習のみ行われた,午前の練習には被告Fが立ち会っていなかったもの。)の,部員らは練習中に水分補給をすることができなかった(なお,被告らは,この日の午前中の練習は休みであったと主張するが,H,Iの各陳述書(甲25,27 練習には被告Fが立ち会っていなかったもの。)の,部員らは練習中に水分補給をすることができなかった(なお,被告らは,この日の午前中の練習は休みであったと主張するが,H,Iの各陳述書(甲25,27)では,午前中も特待生のみの練習があったことが明確に述べられており,しかも,Iの陳述書では,練習記録(乙3)に同日午前中の記載がないことの合理的な説明がなされているから,これらの陳述書の内容は信用性が高いというべきである。これに対して,被告Fは,同日の気温湿度の高さを考慮して午前の練習を休みにした旨供述するが,この日だけそうした気象状況を考慮して練習を中止にするというのは不自然であり,直ちに信用できない。 。)同日午後の練習は午後1時50分から始まり,基礎練習を中心としたメニューが行われていたが,途中,被告Fの教え子が来訪し,部員らに対して氷菓子を差し入れしたため,午後3時45分から午後4時13分まで休憩が設けられた。この休憩中,部員らは氷菓子を食べ,中には氷菓子の容器に水を入れて飲む者もいたが,水分の摂り過ぎで被告Fから怒られることを恐れ,氷菓子以外に水分を摂取しない部員も多くいた。 休憩後,ゲーム形式の練習などが行われ,午後5時25分に全体での練習が終了し,被告Fはこの時点で帰宅し,残った部員らは約30分間ウエートトレーニングを行って,この日の全ての練習が終了した。 原告Aは,練習終了後,他の部員にトイレに行くと告げてコートを離れ- 14 -,,。 たが間もなくトイレの前で倒れているところを他の部員に発見されたまた,同じころ,部員のJも体調不良を訴えていた。 エ本件事故に対する被告Fの対応原告Aが倒れたことを聞いた副キャプテンで健康係のGは,そのことをアシスタントコーチのKに伝え,同人が被告Fに連絡し,その指示を仰いだ。この時 調不良を訴えていた。 エ本件事故に対する被告Fの対応原告Aが倒れたことを聞いた副キャプテンで健康係のGは,そのことをアシスタントコーチのKに伝え,同人が被告Fに連絡し,その指示を仰いだ。この時,被告Fは,サプリメントを砕いてスポーツドリンクに混ぜて飲ませるように指示し,Kからその指示を聞いた部員らが,スポーツドリンクを原告Aに飲ませようとしたが,同原告は意識が朦朧としており,全く飲むことができない状態であった。また,他の部員は,原告Aに扇風機で風を当て,額に氷のうを当てるなどの処置をしていた。 Kから連絡を受けた被告Fは,自宅からアリーナに戻り,原告Aの介抱をしていた1,2年生の部員に対し,寮に帰るように指示した。そして,被告Fが,原告Aの意識の有無を確認するために,その頬を平手で叩いたところ,原告Aは振り向いたものの,朦朧として話のできる状況ではなかった。そこで,被告Fが原告Aの額に手を当てて体温を確認したところ,高熱や異常な発汗などの症状までは認められなかった。 こうした原告Aの状態を見た被告Fは,その日の練習を頑張りすぎたための疲労が原因であろうと考え,午後6時30分ころ,原告Cに電話し,練習後体調が悪くなったので寮で休養させる旨伝えた上,原告Aを自己の自動車に乗せて寮まで送り,寮で同原告と同室のGにその後の介抱を指示した。 Gは,同日午後8時ころ,原告Aの体温を測ったところ,37.6度であったため,アイスノンをタオルに包み,同原告の額に当てるようにしたところ,午後10時30分ころには35.5度にまで体温が下がった。また,Gは,翌朝までの間に二,三回,スポーツドリンクをスプーンで原告Aの口に含ませて水分補給を行っていた。 - 15 -翌24日朝,原告Aは,目が覚めても,前日の出来事,現在いる場所・日時,付添の部員に関する記 までの間に二,三回,スポーツドリンクをスプーンで原告Aの口に含ませて水分補給を行っていた。 - 15 -翌24日朝,原告Aは,目が覚めても,前日の出来事,現在いる場所・日時,付添の部員に関する記憶がなく,同部員に対して「ここはどこで,すか」と尋ねた。これに対し,同部員が,E高校の女子バスケットボー。 ,,,ル部の女子寮であると答えたが原告AはE高校に在校していることもバスケットボールをしていることも分からず,したがって,同女子寮にいる理由も分からなかった。そこで,同部員が先輩部員に連絡し,同先輩部員が原告Aに,何人かの人の名前を挙げて,この人は知っているかと質問したところ,小学生からの同級生だけは知っていたが,それ以外の人の名前は分からなかった。 一方,被告Fは,同日から,大分県の国体選抜チームに選出された部員らが遠征に行くことになっていたため,同日午前5時30分ころ寮に部員,。 ,,を迎えに行き大分港まで自動車で送っていったその車内で被告FはGから,原告Aが周囲の状況を理解していない感じであり様子がおかしいとの報告を受けたため,自ら寮に赴き,被告Fも分からない状態にあった,。 ,,原告Aの様子を確認し病院へ連れて行くこととしたそして被告Fは原告AとJを別府市内のL病院に連れて行き,診察を依頼したが,その後アシスタントコーチのKが到着したため,自分は学校に戻った。 L病院での診察の際,原告Aの状態は,血圧123/87,脈拍73,体温36.4度であり,同原告は,L医師に対して,倒れた時の記憶が抜けていること,片麻痺があること,全身が割れるように痛いことなどを訴えた。また,同時に診察を受けたJが,原告Aには意識があるものの反応に乏しいこと,昨日からの記憶が抜けていることなどを付け加えた。L医師は,原告Aに対し,点滴 と,全身が割れるように痛いことなどを訴えた。また,同時に診察を受けたJが,原告Aには意識があるものの反応に乏しいこと,昨日からの記憶が抜けていることなどを付け加えた。L医師は,原告Aに対し,点滴を施すとともに,血液検査と頭部CT検査を実施し(検査室への移動には車いすが用いられた,記憶の欠落が脱水症に。)よるものか,倒れた際の頭部打撲によるものかが不明であったことから,付添いのKに対して,保護者に連絡した上で専門医を受診することを勧め- 16 -た。 ところが,L病院での診察と治療が終わった後,被告Fは,診察に付き添ったKと3年生部員から診断結果を聞いたにもかかわらず,同日午前9時30分ころ,原告Cに対して電話をかけ,病院に連れて行ったが安静に,,していれば大丈夫なので寮で静養させる旨を伝えた上原告Aを寮に戻しすぐに専門医に受診させようとはしなかった。 また,翌25日も,被告Fは,朝寝ている原告Aの頬を叩いて起こし,「生きてるか」と問いかけて安否を確かめただけであり,その後,原告。 Aが自ら原告Cに電話することで同原告は始めて事態の重大さを知り,同原告及び原告Bが迎えに行って,原告Aを専門医のM脳神経外科に受診させることができた。 (3)以上を前提に本件についてみるに,本件事故当日の気象状況は,気温38度,湿度80パーセントの状態であったのであるから,被告Fとしては,本来ならば練習を控え,あるいはその内容を比較的軽微なものにし,かつ部員に対して十分な水分及び塩分を補給させるよう努めるべき注意義務があった。 しかしながら,被告Fは,部員に対し,普段と同様の練習をさせ,原告Aを含む特待生については,午前,午後とも練習を実施したし,部員に対し十分な水分及び塩分を取るように指示をせず,逆に,水分を摂り過ぎないよう厳しく指導してい 部員に対し,普段と同様の練習をさせ,原告Aを含む特待生については,午前,午後とも練習を実施したし,部員に対し十分な水分及び塩分を取るように指示をせず,逆に,水分を摂り過ぎないよう厳しく指導していたのであるから,10リットル入りのスポーツドリンク1缶(この量は,当日参加した18名程度の部員(被告F495項)に対しては十分といえない)や冷水器が設置されており,午後の練習時,被告Fの。 教え子が氷菓子を差し入れたとしても,上記注意義務を尽くさなかったといわざるを得ない。また,被告Fが部員に対して水分を摂り過ぎないよう厳しく指導し,多くの部員がこれに萎縮して水分補給を控えるようになっていたことに鑑みると,本件事故当日,原告Aは十分な水分及び塩分を補給できな- 17 -かったと推認できる。 そうすると,原告Aは,高温多湿の気象状況の中,十分な水分及び塩分を摂らずに長時間にわたって練習したことが原因で熱中症になったものと認められるので,被告Fの上記注意義務違反と原告Aの熱中症により生じた損害との間には相当因果関係があるといえる。 (4)また,前記認定事実によれば,原告Aは,本件事故当時,意識が朦朧とし,水分の経口投与を受けつけない状態になっていたのであるから,熱中症ガイドブックに従えば,高熱などの症状が現れていなくても,その時点で医療機関に搬送すべきであったといえる。それにもかかわらず,被告Fは,原告Aが倒れた原因を単なる疲労と考え,安易に寮での休養を決定し,医療機関に搬送する処置を怠ったのであるから,熱中症予防のみならず,熱中症に対する処置についても注意義務に反していたものと認められる。 なお,被告らは,解離性健忘が生じることを予見することができなかったから,その結果回避義務は存在しないと主張するが,解離性健忘を予見できると否とにかかわら ても注意義務に反していたものと認められる。 なお,被告らは,解離性健忘が生じることを予見することができなかったから,その結果回避義務は存在しないと主張するが,解離性健忘を予見できると否とにかかわらず,熱中症により失神したときに適切な応急措置を取らなかった場合は,熱中症が重症化することは容易に予見することができるから,熱中症ガイドブックに従った応急措置を取るべき結果回避義務が存在していることは明らかであり,被告らの上記主張は採用できない。 記憶障害の存否・程度とその因果関係(争点(2))について(1)証拠(甲1,2,4,5,9ないし11,13ないし17,18の1,2,26,27,43,乙16,原告A,被告F)によれば,原告Aは,本件事故により,心的外傷を原因とする解離性健忘となり,現在に至っていることが認められる。 ,,,これに対し被告らは原告Aが解離性健忘であること自体を争っておりまた,解離性健忘が生じていたとしても,一過性のものにすぎないと主張す。 ,,(,),()るそして確かに 証拠 甲4 によると解離性健忘心因性健忘- 18 -とは,何らかの外傷的又はストレスの強い性質を持った体験の想起が不可能になり,それがあまりにも広範囲にわたって通常の物忘れとしては説明できないような一つ又はそれ以上のエピソードがある場合をいい,こうした解離現象は,極めて深刻な心的外傷を負ったときに,心の一部を麻痺させることにより,それをやり過ごす機制であると理解されており,たとえば,職場や婚姻関係において極度のストレスにさらされ,しかもそれを誰にも打ち明けることができない状態で突然解離状態となり,それまでの自分のアイデンティティを失うというパターンが多いことが指摘されているが,他方で,解離状態により患者が結果的に得 され,しかもそれを誰にも打ち明けることができない状態で突然解離状態となり,それまでの自分のアイデンティティを失うというパターンが多いことが指摘されているが,他方で,解離状態により患者が結果的に得る疾病利得(職場や家庭状況からの解放など)は,こうした解離性障害が詐病ではないかと疑われる要因となっており,また,実際の臨床場面でも,解離を思わせる症状のどこまでが本当の解離性のもので,どこまでが患者により意図的に作り出されているかの判断が非常に難しいケースも存在するという指摘もあることが認められる。 しかしながら,原告Aが意図的に記憶喪失を装っているとすれば,その動機としては,部活の厳しい練習や両親の期待から解放されることや,被告Fに対する不満から同被告に責任を負わせようとしたことなどが考えられるが,前記認定事実によれば,原告Aは,8月24日,目覚めてすぐに,自分のいる場所や人の名前が分からないと述べており,前日夜まで意識が朦朧とした状態であったことを考慮すると,起床時にこのような発言を意図的にするとは到底考えられない。また,証拠(甲26,27,乙16,原告A)によれば,原告Aは,9月26日,自己の症状を説明するために登校し,教室でクラスメートに対して「私はもうみんなのことが分からないけど,これ,からみんなと普通に新しい関係を作っていきたい」と訴えたが,このとき。 の原告Aの話し方などは,以前と全く異なっていたこと,以前呼び捨てで名,「」,前を呼んでいた友人に対してもちゃんを付けて呼ぶようになったこと,,「,その後親しい友人らに対しいろんな人に会ったり話したりすることで- 19 -少しでも記憶が戻る可能性を高めていきよん所」と記載した手紙を送付したこと,本件事故後,バスケットボール部を辞め,学校も休んでいたが,10 対しいろんな人に会ったり話したりすることで- 19 -少しでも記憶が戻る可能性を高めていきよん所」と記載した手紙を送付したこと,本件事故後,バスケットボール部を辞め,学校も休んでいたが,10月末ころから通信講座を利用して勉強を再開し,平成19年1月から3月までは,週4日学習塾に通い,大学受験に必要な科目について高校の基礎部分から学習し直し,同年4月からE高校に復学したことがそれぞれ認められるが,本件事故以降,現在(口頭弁論終結時)に至るまで約1年半もの長期間にわたって,家族や親しい友人に対して記憶喪失を装い,これらの者を欺き続けることは,現実に極めて困難であり,その間,親しい友人らでさえ,原告Aの記憶喪失が詐病であるとの疑いを全く抱いておらず(甲10,11,25ないし27,その上,原告Aは,本件事故後,それまで生活の中心に)位置付けられていたバスケットボールを辞め,相当の時間と労力を割いて,友人関係を形成し直し(原告A,履修した科目を再度学習しているが,こ)れほどの負担を厭わないほど,原告Aが練習あるいはバスケットボールからの逃避を望んでいたり,被告Fに対する不満を募らせていたという事情は窺われない。 このように,原告Aには,長期間にわたって記憶喪失を装う動機が見当たらず,その言動にも詐病であることを疑わせるものは窺われず,他方で,解離性健忘の原因となる極度のストレスとしては,本件事故が考えられるのであり,健忘発症の時期に照らしても,そのように考えることに不合理なところはない。 したがって,原告Aの記憶喪失は,詐病などではなく,本件事故により惹起された解離性健忘であり,しかも一過性のものではないと認めるのが相当であり,これを覆すに足りる証拠はない。なお,前掲各証拠によれば,喪失した記憶の範囲は,概ねE高校入学後の生活全般に 事故により惹起された解離性健忘であり,しかも一過性のものではないと認めるのが相当であり,これを覆すに足りる証拠はない。なお,前掲各証拠によれば,喪失した記憶の範囲は,概ねE高校入学後の生活全般についてであると認められる。 次に,被告らは,原告Aの解離性健忘の原因となったストレスとして,家- 20 -族の期待に応えるためのプレッシャーなどもあり得ると主張するが,こうしたプレッシャーは,原告Aがそれまでの生活においても大なり小なり感じていたはずであり,本件全証拠によるも,本件事故当時,そのプレッシャーが格段に強まったという事情は見当たらず,かえって,原告Aは通常どおり練習に励んでいたことに鑑みると,家族のプレッシャーが解離性健忘の原因となるほど強いストレスとなっていたとは考え難い。 なお,被告らは,原告Aが高校生活での記憶の一部を保持していること等をもって,同原告の供述が信用できないとも主張するが,そもそも,解離性健忘の症状としては,全生活史の記憶を喪失することもあるし,部分的な健忘にとどまることもあると考えられるし,また,証拠(原告A)によれば,原告Aは,本件事故後に友人等と交流することにより以前の高校生活の体験を聞いて,新たに記憶していったことが認められるので,原告Aが以前の高校生活の記憶を一部有していたとしても,同原告の供述の信用性を否定したり,解離性健忘自体を否定する事情とはならないというべきである。 したがって,被告らの主張は採用できない。 原告Aが被った損害の額(争点(3))について(1)治療費・検査費5万7810円証拠(甲28ないし36(枝番を含む)によれば,本件事故による原告。)Aの治療費及び検査費として,原告A主張どおりの金額を要し,その合計額は,5万7810円であることが認められる。 (2)付添費 甲28ないし36(枝番を含む)によれば,本件事故による原告。)Aの治療費及び検査費として,原告A主張どおりの金額を要し,その合計額は,5万7810円であることが認められる。 (2)付添費3000円,,,原告Aは9月末まで親の付添いが不可欠であったと主張して入院3日通院4日分の付添費を請求し,確かに,証拠(原告A)によれば,9月末までの入通院に親が付き添っていたことが認められる。 しかしながら,前記認定事実によれば,熱中症の身体への影響が強く残っていた8月25日の通院時については親の付添いが不可欠であると認められ- 21 -るが,証拠(原告A144項)及び弁論の全趣旨によれば,その次に受診したN病院での検査入院時ころには,原告Aは自分の身の回りのことができるようになっていたことが認められるので,以後の入通院に親の付添いが不可欠であったと認めることはできない。 そして,8月25日の1日分の通院付添費は,3000円と認めるのが相当である。 (3)交通費7500円証拠(甲28ないし35(枝番を含む)によれば,原告Aは,本件事故。)による治療・検査のため,次のとおり,各医療機関に通院したことが認められ,弁論の全趣旨により,その交通費相当額は,以下のとおり合計7500円と認められる。 8月25日820円(M脳神経外科)9月7日1840円(N病院)同月11日920円(同上)同月13日920円(同上)同月26日1360円(L病院)12月19日820円(Oメンタルクリニック)同月26日820円(同上)(4)学習費26万3470円証拠(甲41の1・2,原告A)によれば,原告Aは,解離性健忘のために,E高校における学習の記憶が失われ,本件事故後,学習塾を利用して,再度学習し直し,これに26万3470円を 費26万3470円証拠(甲41の1・2,原告A)によれば,原告Aは,解離性健忘のために,E高校における学習の記憶が失われ,本件事故後,学習塾を利用して,再度学習し直し,これに26万3470円を要したことが認められる。 (5)慰謝料300万円原告Aが,実質的に水分制限を受けた状態で激しい練習を課され,その結果熱中症を発症したこと,過酷な練習によるストレスに起因して,高校生活における記憶を思い出せない状態が継続し,学習や交友関係に支障が生じた- 22 -こと,生活の中心であったバスケットボールを諦めざるを得なくなったことに,本件事故後の被告Fの対応・態度など,本件において顕れた諸事情を勘案すると,原告Aが本件事故により心身に受けた苦痛に対する慰謝料としては,300万円が相当である。 (6)過失相殺について被告らは,原告Aには,自ら練習を中断し被害結果を拡大しないように自らの体調を管理する注意義務が存在すると主張するが,前記認定事実のとおり,被告Fは,水分の摂り過ぎと思われる部員を厳しく叱りつける等,日ごろから厳しい指導を続けてきたことや,原告Aは本件事故当時17歳の未成年者であったことなどに鑑みると,原告Aは,自らの判断で練習を中断し,練習中に水分を摂取するなどの行動を取ることは期待できなかったというべきである。 したがって,被告らの上記主張は採用できない。 (7)損害填補5万6848円証拠(乙5,6)によれば,原告Aに対しては,日本スポーツ振興センターから災害共済給付金として6万2968円が支給されたが,そのうち6120円は8月24日のL病院の通院治療費を立て替えた被告Fに支払われ,残額5万6848円が原告Aに支払われたことが認められるから,被告らが原告Aに対して負担すべき損害賠償金額から同額が控除されることとなる。 月24日のL病院の通院治療費を立て替えた被告Fに支払われ,残額5万6848円が原告Aに支払われたことが認められるから,被告らが原告Aに対して負担すべき損害賠償金額から同額が控除されることとなる。 (8)弁護士費用33万円本件における諸般の事情を考慮すると,本件事故と相当因果関係のある原告Aの弁護士費用は,33万円と認めるのが相当である。 (9)原告Aの損害額のまとめ以上によれば,被告Fは,不法行為に基づき,原告Aに対して360万4932円の損害賠償義務を負い,被告大学は,使用者責任(民法715条)に基づき,同Fと連帯して,同額の損害賠償義務を負うというべきである。 - 23 - 原告B及び同Cが被った損害の額(争点(4))について民法711条が,被害者の近親者による慰謝料請求を被害者死亡の場合に限定しており,それ以外の場合でも,同請求は,被害者の生命が侵害されたときにも比肩し得るような場合又は同場合に比して著しく劣らない程度の精神上の苦痛を受けた場合に限定されること(最高裁昭和43年9月19日第一小法廷判決・民集第22巻9号1923頁参照)に鑑みると,本件のような場合において,原告B及び同Cに対し,固有の慰謝料を認めることは相当でないといわざるを得ない。 したがって,原告B及び同Cの請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。 結論 よって,原告Aの請求は,不法行為に基づく損害賠償金360万4932円及びこれに対する不法行為日である平成18年8月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,同原告のその余の請求並びに原告B及び同Cの請求は,いずれも理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき,民訴法64条,65条1項本文,61条を,仮 限度で理由があるからこれを認容し,同原告のその余の請求並びに原告B及び同Cの請求は,いずれも理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき,民訴法64条,65条1項本文,61条を,仮執行の宣言につき,同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。 大分地方裁判所民事第2部裁判長裁判官一志泰滋裁判官神野泰一裁判官矢崎豊
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