主文 被告人を懲役6年に処する。 未決勾留日数中160日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,札幌市a区・・・・・所在の第2・第3ビル(鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根地下1階付8階建,床面積合計約3259.61平方メートル)3階に所在する飲食店の従業員であるが,同店の経営者であるAと共謀の上,同店の設備什器等を対象とした火災保険金を取得するため,現に多数の飲食客及び従業員がいる同ビルに放火しようと企て,平成30年1月15日午前4時42分頃,株式会社B代表取締役Cが看守する同ビルの西側出入口から,あらかじめ購入していたガソリンを携えて侵入し,同日午前5時18分頃,同ビル3階の同店舗付近通路において,少なくとも7か所にガソリンをまいた上,何らかの方法で火を放ち,同ビルを焼損しようとしたが,天井に設置されたスプリンクラーの放水により消火されたため,同通路の壁面等を焦がすなどしたにとどまり,同ビルの焼損に至らなかったものである。 (争点に対する判断)弁護人は,Aが第2・第3ビル(以下「本件ビル」という。)に侵入して,第2ビル側の3階通路に放火しようとしたこと,被告人が本件日時頃,本件ビルに立ビルに放火することにつき,Aと意思を通じておらず,本件ビルに立ち入ったのは放火目的という不正の目的では仮に放火につき被告人とAが意思を通じ合っていたと認められるとしても,本件当時,火が放たれた第2ビルは無人であり,現に人がいた第3ビルは第2ビルとは別の建物であるから,現住建造物等放火未遂罪は成立せず,非現住建造物等放火未遂 罪が成立するにとどまると主張する。 そこで,これらの争点についての当裁判所の判断を示す。 1 共謀について 本件犯行に至るまでの被告人及びAのインターネット検索状況,ガソリン等 遂 罪が成立するにとどまると主張する。 そこで,これらの争点についての当裁判所の判断を示す。 1 共謀について 本件犯行に至るまでの被告人及びAのインターネット検索状況,ガソリン等の購入状況被告人は,Aの経営するバー(以下「本件店舗」という。)の従業員であったところ,本件犯行に至るまで,Aと行動を共にし,その際,自らのスマートフォンで,火災やガソリンの燃焼に関する用語で繰り返しインターネット検索や動画サイト検索をし,またAと共にガソリン等を購入している。 すなわち,被告人は,平成30年1月7日午前0時25分以降,2回「火事起こし方」と検索し,Aも,同日午前0時37分以降,「火事を起こす方法」の用語等で検索した。 また,本件店舗において,被告人は,同月10日午前1時11分頃,「灯油とガソリンどっちが燃えるか」とインターネット検索し,Aも同時刻に同様の用語でインターネット検索したほか,Aは,その前後に「貰い火火災保険」,「ガソリン引火」などの用語で多数回検索した。 被告人は,同月13日午後9時1分頃,Aと共に量販店で容量10リットルのガソリン携行缶,キャップ帽,ニット帽及び手袋2双を購入すると,同日午後9時12分頃以降,ガソリンの燃焼実験等の動画をスマートフォンで見た。その後,Aの運転する車でガソリンスタンドに行き,同日午後10時41分頃,Aのカードを使用して上記ガソリン携行缶にガソリン10リットルを給油するなどした。被告人は,同日午後11時1分頃以降,A方において,スマートフォンでガソリン実験集等の動画を見たほか,「ガソリンが燃えた後」とインターネット検索した。また,被告人はA方を出て,翌14日午前2時59分頃以降には,「放火したら」,「放火罪捕まらない?」等の用語でインターネット検索した。 「ガソリンが燃えた後」とインターネット検索した。また,被告人はA方を出て,翌14日午前2時59分頃以降には,「放火したら」,「放火罪捕まらない?」等の用語でインターネット検索した。 以上のように,被告人は,同月7日以降,放火に関連する用語でインターネット検索をするようになったほか,特に同月13日夜から同月14日にかけて,Aと共に行動し,ガソリン携行缶等を購入した直後からガソリンを燃やした際の状況の動画を見たり,Aと共にガソリンを購入すると,ガソリン燃焼実験の動画を見たりしただけでなく,ガソリンが燃えた後の状況や放火罪について複数回インターネット検索したことが認められる。 そして,関係証拠によれば,実際に本件放火に上記ガソリンが使用されたと認められることなども併せて考えると,被告人はAと共に,インターネット検索等をして,本件ビルに放火する方法や本件店舗に付されていた火災保険金を取得する方法などを調べ,放火に使用する燃料を購入するなど本件放火に向けた準備を進めていたことが強く推認できる。 本件当日の行動について関係証拠によれば,本件当日である同月15日午前4時42分頃,被告人とAは,帽子やフード,マスクで頭や顔を覆った状態で本件ビルに入ったこと,火災発生が確認できる同日午前5時18分の直後である午前5時19分頃にそれぞれ本件ビルから出たこと,その後,それぞれマスクや帽子を外し,服を着替えた上で,同日午前6時31分頃にはA方付近のコンビニエンスストアにいたことが認められる。 このように,本件火災発生の前後において,被告人とAが行動を共にしていた上,両名とも本件ビルに立ち入る際には顔が容易に判明しないようにし,出火直後まで本件ビル内にとどまり,その後マスクや帽子を外し,服を着替えるなどしたことを併せて考えると,被告人と 行動を共にしていた上,両名とも本件ビルに立ち入る際には顔が容易に判明しないようにし,出火直後まで本件ビル内にとどまり,その後マスクや帽子を外し,服を着替えるなどしたことを併せて考えると,被告人とAは,本件ビルに立ち入る際,本件放火について意思を通じ合っていたと強く推認できる。 その他の事情以上のほか,同月上旬頃,Aが被告人に対し,保険金を半分渡すので火災保険金取得目的で本件店舗に放火しようと持ち掛ける発言をしたこと,同月 12日か13日頃,被告人が当時の交際相手に対し,本件放火が行われた時間帯である同月14日夜から同月15日朝までの予定について,仕事で旭川に行く旨うそをついたことが認められ,これらの事実も,被告人がAと意思を通じて本件放火に及んだことを推認させる事情といえる。 被告人供述についてこれに対して,被告人は,Aから何度も本件店舗に放火する旨の話をされたが,ずっと冗談だと思っていたのであり,本件当日,本件店舗に入った後,初めてAが本気で放火するつもりであることが分かり,巻き込まれたくなかったので本件店舗から立ち去ったなどと供述する。 しかし,被告人は,Aと一緒にいるときなどに放火に関連する用語で多数回インターネット検索等を行った理由について,一部の検索について,Aと罰ゲームの賭けをしていた際に調べただけであるとか,マンションの火事を偶然見かけた際,興味本位で調べたかもしれないなどと述べるほかは,記憶がない旨曖昧な供述に終始しており,納得できる合理的な説明をしていない。 また,被告人は,本件当日の行動について,Aが服をくれるというので着替えた直後,ちょっと来てと言われ,行き先も分からずAについていった,本件店舗に入った後,Aから,放火の意思を告げられ,Aが本気で放火するつもりであることが分かった いて,Aが服をくれるというので着替えた直後,ちょっと来てと言われ,行き先も分からずAについていった,本件店舗に入った後,Aから,放火の意思を告げられ,Aが本気で放火するつもりであることが分かったので,巻き込まれたくないと思ったが,10分ほど本件店舗内にとどまり,店を出る際,Aからリュックを渡されて反射的に受け取った,本件ビルから出た後,Aと一緒になり,Aから帽子と服を返してくれと言われたので,服を着替えたりした後に2人でコンビニエンスストアに行ったと供述する。しかし,短時間に2回も服を着替えたという点や,Aから放火の意思を告げられた後の行動など,不自然な点が多く,証拠上明らかな防犯ビデオの映像とつじつまを合わせようとした不自然,不合理な内容というほかない。 さらに,本件店舗に放火する旨のAの話をずっと冗談だと思っていたとい う被告人の供述は,同月上旬頃,被告人が当時の交際相手に対して,真剣な表情でAが本気で放火をするかもしれない旨伝えたとの上記交際相手の供述と整合しない。 以上のとおり,被告人の供述は,被告人が放火に関連する用語を多数回インターネット検索するなどした理由について納得できる説明をしておらず,本件当日の行動についても不自然,不合理な供述をしていることなどに照らし,到底信用できない。 結論 以上によれば,被告人は,Aと共に,インターネット検索等をして,本件ビルに放火する方法や本件店舗に付されていた火災保険金を取得する方法などを調べ,放火に使用する燃料を購入するなど本件放火に向けた準備を進めた上,本件当日,Aと共に,顔を隠すなどして本件ビルに侵入し,出火直後まで本件ビル内にとどまった上,ビルを出た後もAと行動を共にしていたことが認められ,被告人が当時の交際相手に対し,本件放火が行われた時間帯 件当日,Aと共に,顔を隠すなどして本件ビルに侵入し,出火直後まで本件ビル内にとどまった上,ビルを出た後もAと行動を共にしていたことが認められ,被告人が当時の交際相手に対し,本件放火が行われた時間帯に札幌市内にいないように装うなどしたことも併せて考えると,被告人がAと意思を通じて,放火目的で本件ビルに侵入し,本件放火に及んだと認められる。 2 本件ビルが「現に人がいる」建物であることについて本件ビルは,地上6階地下1階建の第2ビルと地上8階建の第3ビルが接着して建てられ,接着部西側には,1階から6階にかけて,両ビル側から立ち入ることができるパイプシャフトがあり,その内部の配管設備を通じて,電気,水道,冷暖房などが両ビルの店舗等に供給されている。第2ビル側と第3ビル側の両方に出入口があるが,両ビルの1階,4階及び6階には連絡通路が設けられており,内部での行き来が可能な構造となっている。このように,第2ビルと第3ビルは,物理的に見て一体の建物としての構造を有している。 また,1階,4階及び6階には,第2ビルにのみトイレが設置され,第3ビ ルの利用者らが第2ビルのトイレを使用する構造になっているほか,第2ビル出入口の案内板には,第3ビルに入居する店舗も併せて表示され,両ビルの出入口に,両ビル間が行き来できることを示す平面図が掲げられている。実際に,本件当日,第2ビルには営業中の店舗がなかったのに,複数の者が第2ビル側の出入口から入って第3ビルに行っていることが認められる。さらに,本件ビルの管理担当従業員は,第2ビルと第3ビルとを行き来しながら同時に両ビルを巡回している。このように,第2ビルと第3ビルは,実際に一体の建物として利用,管理されていると認められる。 これに対し,弁護人は,本件ビルには防火扉やスプリンクラーが設置 しながら同時に両ビルを巡回している。このように,第2ビルと第3ビルは,実際に一体の建物として利用,管理されていると認められる。 これに対し,弁護人は,本件ビルには防火扉やスプリンクラーが設置され,また耐火性を有する構造であったこと,実際に本件火災の際に第3ビル内にいた者で気分が悪くなった者がいなかったことなどを指摘し,第2ビルと第3ビルは別の建物であると主張する。しかし,本件放火の際には,放火による臭い等の影響が第3ビル内にも及んでおり,本件ビルの構造や消火・防火設備によって,第2ビルと第3ビルとの間で,火災による人体等への危険を完全に遮断できるものではない。 したがって,本件ビルは,物理的にも機能的にも一体の建物といえ,第2ビルへの放火による生命身体の危険が第3ビルにいた人に及ぶ可能性があると認められるのであって,被告人は,「現に人がいる」建物である本件ビルに放火したといえる。 3 総括以上のとおりであって,被告人には,建造物侵入罪及び現住建造物等放火未遂罪が成立する。 (法令の適用)罰条建造物侵入の点刑法60条,130条前段現住建造物等放火未遂の点刑法60条,112条,108条 科刑上一罪の処理刑法54条1項後段,10条(一罪として重い現住建造物等放火未遂罪の刑で処断)刑種の選択有期懲役刑を選択未決勾留日数の算入刑法21条訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の理由)被告人らは,火災保険金を得るという身勝手な理由から,事前に,確実に火事を起こす方法などをインターネットで調べ,ガソリンを購入した上で,深夜に,繁華街の中にある本件ビルの3階で多数の箇所にガソリンをまいて放火して 災保険金を得るという身勝手な理由から,事前に,確実に火事を起こす方法などをインターネットで調べ,ガソリンを購入した上で,深夜に,繁華街の中にある本件ビルの3階で多数の箇所にガソリンをまいて放火している。このように,本件は,悪質な動機に基づき,用意周到に計画された危険かつ悪質な犯行である。火は幸い短時間で消し止められたが,本件ビル内にいた多数の従業員及び飲食客が避難せざるを得なくなり,1か月近く休業を余儀なくされた店舗も複数あったほか,本件ビルの修繕にも多額の費用が必要になったのであって,被害結果はかなり大きい。 火災保険金を得るという本件犯行の目的を達成するためには,本件店舗の経営者であり保険の契約者であるAの存在が不可欠である。また,本件犯行もAが計画したものである。もっとも,被告人は,本件犯行の2日前に,Aと共に本件犯行に使用したガソリンを購入するなどしたほか,自ら多数回にわたって放火に関する情報をインターネットで収集するなど主体的に犯行の準備に関わり,本件犯行当日もAと共に犯行現場に行っている。以上からすると,Aが主導的な役割を果たしたといえるものの,被告人も重要な役割を果たしたといえ,犯行への関与の程度や果たした役割につき,Aと大きな違いはないといえる。 これらの事情に照らすと,被告人の刑事責任は重い。 その上で,被告人が不合理な弁解に終始し,反省の態度がみられないことや被害弁償を一切行っていないことも考慮し,一部被害弁償を行ったと認められるAの刑との均衡も含めて検討した結果,主文の刑が相当であると判断した。 (求刑懲役6年)平成30年11月16日札幌地方裁判所刑事第2部 裁判長裁判官中桐圭一 裁判官結城真一郎 裁判 平成30年11月16日 札幌地方裁判所刑事第2部 裁判長 裁判官 中桐圭一 裁判官 結城真一郎 裁判官 川口寧
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