主文 1 被告は、原告に対し、5640万5359円及びこれに対する令和5年10月4日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は、これを2分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担 とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求被告は、原告に対し、1億0259万9319円及びこれに対する令和5年 10月4日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等原告は、被告が労働者に対して負う安全配慮義務に違反して、原告に長期間にわたる時間外労働に従事させるなどしたため、脳内出血を発症するに至ったと主張して、労働契約上の債務不履行に基づき、1億0259万9319円及 びこれに対する令和5年10月4日(請求の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求めた。 1 前提事実以下の事実は、当事者間に争いがないか、後掲各証拠(特記のない限り、枝番号を含む。以下同じ。)及び弁論の全趣旨により認められる。 ⑴ 原告は、平成29年9月1日から被告の高槻支店の店長として勤務し、業務に従事していた(争いがない。)。 ⑵ア原告は、令和元年12月19日、左被殻出血(高血圧性脳内出血)を発症した(争いがない。)。 イ原告は、上記発症後、令和2年6月7日まで入院治療(合計172日) を受けるなどし、同年8月21日に症状固定となった(甲8、甲9の1)。 ウ原告には、右半身の麻痺の後遺障害が残存し、同後遺障害は、労働者災害補償保険法施行規則別表第一の第3級3号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服する 9の1)。 ウ原告には、右半身の麻痺の後遺障害が残存し、同後遺障害は、労働者災害補償保険法施行規則別表第一の第3級3号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの」(以下、後遺障害等級については、単に「3級」などと記載する。)に該当する(甲3)。 ⑶ 上記⑵アの発症前1か月~6か月における1か月当たりの時間外労働時間 及び1か月当たりの平均時間外労働時間は次のとおりであった(争いがない)。 拘束時間時間外労働時間数発症前2か月~6か月における1か月当たりの平均時間外労働時間発症前1か月 270 時間28 分 80 時間28 分発症前2か月 251 時間42 分 59 時間58 分2か月平均 70 時間13 分発症前3か月 317 時間19 分 120 時間26 分 3か月平均 86 時間57 分発症前4か月 320 時間43 分 123 時間43 分 4か月平均 96 時間08 分発症前5か月 262 時間25 分 65 時間54 分5か月平均 90 時間05 分発症前6か月 235 時間03 分 39 時間03 分6か月平均 81 時間35 分⑷ 原告は、被告に対し、令和5年10月3日、上記⑵アの発症によって被った損害を支払うよう請求した(争いがない)。 2 当事者の主張本件の主たる争点は、損害額であり、その中で、被告は、損害項目に係る原 告の主張を争うとともに、過失相殺又は素因減額がされるべきであると主張している。両当事者の主張の詳細は以下のとおりである。 (原告の主張)使用者である被告は、労働者である原告に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者 の主張の詳細は以下のとおりである。 (原告の主張)使用者である被告は、労働者である原告に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者 の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うところ、原告の業務内容を熟知し、就業週報等により業務量及び労働時間を容易に知り得る立場にあったにもかかわらず、原告に漫然と長時間にわたって時間外労働をさせ、業 務の量・内容等が過重にならないような具体的措置を講じることを怠ったから、労働契約上の債務不履行に基づき、原告に生じた損害を賠償する責任を負う。 ⑴ 損害額ア治療費 183万0350円イ入院雑費 25万8000円 (計算式)1500 円/日×172 日ウ入院付添費 111万8000円(計算式)6500 円/日×172 日エ休業損害 398万2628円原告が労働災害に遭ったことで、正社員としての雇用契約が延長されず、 嘱託社員とされたから、休業損害が生じている。 ・基礎収入日額 1万6124円(計算式)145 万1181 円(原告の発症直近3か月(令和元年9月~11月)の基礎収入合計)÷90 日・日数 247日(令和元年12月19日~令和2年8月21日) オ入通院慰謝料 257万6000円カ逸失利益 7755万0112円被告は、原告に対する給与が支払われ続けていると主張するが、脳内出血発症後、減収となっているし、就労を維持できていることについて、本人の努力、周囲の配慮など経済的不利益を肯認するに足りる特段の事情が あるから、逸失利益の発生は認められるべきである。 ・基礎収入額 747万1325円・労働能力喪失率 100%・期間平均余命の2分の 慮など経済的不利益を肯認するに足りる特段の事情が あるから、逸失利益の発生は認められるべきである。 ・基礎収入額 747万1325円・労働能力喪失率 100%・期間平均余命の2分の1に相当する15年(ライプニッツ係数10.3797)キ後遺障害慰謝料 1990万円 クア~キの合計 1億0721万5090円 ケ既払 -1394万2981円・療養補償給付 122万9512円・障害補償給付 996万4234円その後、令和5年8月分から令和7年2月分まで障害補償給付が支給されている。 ・休業期間に係る給与支払 274万9235円コ弁護士費用 932万7210円⑵ 被告の過失相殺、素因減額の主張について被告は平成30年の健康診断の際の高血圧を指摘するが、業務が遅れたため走って健診会場まで行き、すぐに検査が行われたため、高い血圧数値が出 たにすぎない。原告の高血圧の主因は、通常人よりもヘモグロビン量が少ないことにあり、原告が過度な飲食や喫煙など積極的に持病の高血圧を悪化させる行為をしていたわけではないし、薬の服用を中止したのは生活習慣の改善に取り組んで効果が出たことや降圧剤の服用により頭痛などの副作用があったことなどから、医師と相談した上でのことである。また、店長とはいえ、 原告は労務管理上の裁量や権限を有しておらず、被告により時間外労働を余儀なくされる業務量が与えられていた。 したがって、過失相殺又は素因減額は認められるべきではなく、仮に、過失相殺又は素因減額が認められるとしても、減額率が1割を超えることはない。 (被告の主張)⑴ 損害額 ア休業損害休業中も、経営職手当(令和2年2月20日支払分から同年3月20日支払分の2万330 められるとしても、減額率が1割を超えることはない。 (被告の主張)⑴ 損害額 ア休業損害休業中も、経営職手当(令和2年2月20日支払分から同年3月20日支払分の2万3300円)、スタッフ経営職手当(同年4月20日支払分か ら同年9月20日支払分の9万5415円)、食事代補助(同年2月20日 支払分から同年9月20日支払分までの4万8000円)が不支給となったことを除き、被告から原告に給与が支払われているから、休業損害は発生しない。なお、令和2年の賞与として合計34万2750円が支給されているところ、脳内出血による長期欠勤の影響で44万1573円が減額されている。 イ逸失利益について原告は、令和2年9月10日から被告において通常勤務して、与えられた業務を的確に遂行して所定の給与を支給されているから、後遺障害逸失利益は生じていないし、逸失利益を認めるべき特別の事情は存在しない。 仮に、原告から給与が支払われているにもかかわらず後遺障害逸失利益の 発生が認められる場合には、症状固定日後に被告が給与として支払った金額は逸失利益から控除されるべきである。 令和2年4月以降、原告の給与が減額となっているが、これは55歳の役職定年に伴い正社員から嘱託に区分が変更されたことに伴うものであり、後遺障害に起因するものではないから、同区分変更前の原告の収入を 基礎収入として算定すべきではない。仮に、同変更前の原告の収入を基礎収入として考慮するとしても通勤費を除いた660万3449円/年となる。 また、逸失利益の算定に当たって、期間を15年とすることは争う。 ウ労災保険給付の控除 労災保険年金等の支払は特段の事情がない限り存命中継続されるから、将来分の給付についても、給付が確 また、逸失利益の算定に当たって、期間を15年とすることは争う。 ウ労災保険給付の控除 労災保険年金等の支払は特段の事情がない限り存命中継続されるから、将来分の給付についても、給付が確定されたものといっても過言ではない。 ⑵ 過失相殺、素因減額ア原告は、平成28年以降、健康診断で高血圧を指摘され、平成30年9月の健康診断で、脳内出血の危険因子である重度の高血圧を指摘されて早 期に受診するよう医師から指示を受けていたにもかかわらず、通院して投 薬治療を受けることもなく、飲酒を継続するなどしていた。平成31年には、9月から11月にかけて健康診断の受診を予定していながら、受診しないまま発症に至ってしまっている。また、原告は、店長として自らの健康状態との見合いで労働時間を管理できたのにこれをしなかった。そうすると、仮に、被告に責任があるとしても、過失相殺によって、9割を減額 すべきである。 イまた、過重労働があっても、健常者であれば脳内出血を発症することはほとんどなく、高血圧症は脳内出血の発症に相当程度寄与しており、原告の脳内出血発症の主因は高血圧症であるから、相当の寄与度減額がされるべきである。 第3 当裁判所の判断 1 被告の債務不履行責任原告の脳内出血の発症前1か月~6か月における1か月当たりの時間外労働時間の状況(前記第2の1⑶)によれば、発症前1か月の時間外労働時間数は80時間28分、発症前6か月間の平均時間外労働時間は81時間35分であ ることが認められ、「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」(令和3年9月14日付け基発0914第1号厚生労働省労働基準局長通達・甲6)に照らして、業務と発症との関連性が強いと判断でき、 増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」(令和3年9月14日付け基発0914第1号厚生労働省労働基準局長通達・甲6)に照らして、業務と発症との関連性が強いと判断でき、原告が、上記期間、被告の高槻店の店長として、通常業務のほか、改装工事や改装後の新規開店に向けた準備等の業務に従事してい たこと(原告本人、証人A)も踏まえると、原告の脳内出血は、業務により、その自然経過を超えて著しく増悪して発症したものと認められる。 使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であるとこ ろ、被告は、漫然と、上記のとおりの業務に原告を従事させ、時間外労働をさ せており、原告の心身の健康を損なうことがないよう措置を講じるなど被告が上記義務を尽くしていたといえる事情はないから、被告は上記義務に違反していると認められる。 よって、被告には、労働契約上の原告に対する上記義務に違反した債務不履行があるから、脳内出血を発症したことにより原告に生じた損害を賠償する責 任を負う。 2 損害額⑴ 治療費 183万0350円証拠(甲8、甲9)によれば、原告は、令和元年12月19日から令和2年6月7日まで入院し(合計172日)、上記額の治療費を要したことが認め られる。 ⑵ 入院雑費 25万8000円脳内出血発症に伴い入院した172日間について、1日1500円の入院雑費は、被告の債務不履行と相当因果関係のある損害であると認める。 (計算式)1500 円×172 日 ⑶ 入院付添費111万8000円弁論の全趣旨によれば、脳内出血に 0円の入院雑費は、被告の債務不履行と相当因果関係のある損害であると認める。 (計算式)1500 円×172 日 ⑶ 入院付添費111万8000円弁論の全趣旨によれば、脳内出血に伴い入院した172日間にわたって原告の妻が付添看護を行ったことが認められ、原告に発症した傷病の内容及び程度に照らせば、1日6500円の入院付添費を、被告の債務不履行と相当因果関係のある損害であると認める。 (計算式)6500 円×172 日⑷ 休業損害 60万8288円証拠(乙7)及び弁論の全趣旨によれば、脳内出血発症後、原告の休業に伴い、経営職手当(令和2年2月20日支払分から同年3月20日支払分の2万3300円)、スタッフ経営職手当(同年4月20日支払分から同年9月 20日支払分の9万5415円)、食事代補助(同年2月20日支払分から同 年9月20日支払分までの4万8000円)が不支給となったこと、令和2年の賞与が44万1573円減額されていることが認められ、上記各金額は、被告の債務不履行と相当因果関係のある損害であると認める。 脳内出血に伴う休業中も被告から原告に上記部分を除く給与が支払われていると認められるところ(乙7)、令和2年4月に原告が正社員から嘱託に区 分変更されたことに伴い、上記休業中に支払われた給与は発症前の給与よりも減額されていることについて、原告は、労働災害に遭ったことで正社員としての雇用契約が延長されなかったとして、被告の債務不履行と相当因果関係のある損害であると主張する。しかし、証拠(乙9、証人A)及び弁論の全趣旨によれば、原告を令和2年4月以降嘱託とする判断は、原告が脳内出 血を発症する前の平成31年1月31日までの考課を基礎にしており、脳内出血に伴う休業等は考慮され 乙9、証人A)及び弁論の全趣旨によれば、原告を令和2年4月以降嘱託とする判断は、原告が脳内出 血を発症する前の平成31年1月31日までの考課を基礎にしており、脳内出血に伴う休業等は考慮されていないことがうかがわれる。原告が当時「店売部長」という、それなりに仕事ができなければ割り当てられることのないポジションであったこと、他方で、店売部長をしていなかった者が正社員延長されていることもあることなど原告が指摘する事情をもって、原告は、脳 内出血発症による休業がなければ本来正社員延長される予定であったとは認められず、他に原告の主張に係る事実を認めるに足りる証拠はない。よって、令和2年4月に正社員から嘱託に区分変更されたことに伴う減額分について、被告の債務不履行と相当因果関係のある損害であると認めることはできず、原告の主張は採用できない。 ⑸ 入通院慰謝料 257万6000円原告の入院期間に加え、発症した傷病の内容や程度を考慮すると、入通院慰謝料は、原告主張のとおり、257万6000円と認めるのが相当である。 ⑹ 逸失利益 4997万5358円ア前記第2の1⑵イ及びウのとおり、脳内出血に関して、令和2年8月2 1日に症状固定となり、原告には3級に相当する右半身麻痺の後遺障害が 残存したことが認められる。 証拠(乙13、証人B、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、令和2年9月10日より被告における勤務に復帰し、嘱託に区分変更された後の給与の支給を受けていることが認められるところ、被告は、後遺障害に伴う逸失利益は発生していないなどと主張する。しかし、証拠(証人 B、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、復職後、原告は、パソコンでの入力作業、伝票や入荷状況のチェック作業、メールでの交渉や手 に伴う逸失利益は発生していないなどと主張する。しかし、証拠(証人 B、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、復職後、原告は、パソコンでの入力作業、伝票や入荷状況のチェック作業、メールでの交渉や手配などの業務に従事しており、最初は遂行が遅かった作業も徐々に効率等が上がっていったこと、他方で、後遺障害によって、元々の利き手だった右手や利き足であった右足を動かすことができなくなり、上記各作業ですら負担 があったり、片手しか動かずメモなどがとれないため電話対応が困難になるなどの制限がある上、業務を遂行するに当たり、周囲のサポートや配慮を受けていること、また、棚卸しなど従前行っていた作業ができないなどの制限があることが認められる。そうすると、令和2年9月10日の復職後に給与を得ているとしても、被告における原告の業務には大きな制約が 生じており、原告が特別の努力をしていることに加えて、周囲の配慮があるからこそ、3級に相当する右半身の麻痺という重度の後遺障害が存在するにもかかわらず収入の減少を免れることができているのであって、本人の特別の努力や周囲の配慮なく就労や収入を維持することは困難であると考えられるから、復職後に給与が支払われていることをもって、後遺障 害逸失利益が発生していないということはできず、上記就業状況や給与の支払状況などは労働能力喪失の程度の判断において考慮することとする。 また、就労や給与の支払にもかかわらず損害が発生すると認められる以上、特別の努力等によって維持された就労に対して支払われた給与を逸失利益から控除することも相当でない。よって、被告の上記主張は採用できな い。 そして、原告に残存する後遺障害の内容や程度、上記の各事情のほか、原告が令和7年3月をもって被告を退職する予定であ ことも相当でない。よって、被告の上記主張は採用できな い。 そして、原告に残存する後遺障害の内容や程度、上記の各事情のほか、原告が令和7年3月をもって被告を退職する予定であることを踏まえると、14年(症状が固定した令和2年8月時点での平均余命の2分の1(切捨て。))にわたり、90%の労働能力を喪失したと認めるのが相当である。 イ原告の平成31年(令和元年)の給与及び賞与の総支給額(通勤費を除 く)が660万3449円であると認められる(乙7の1)ものの、令和2年4月に原告が55歳に達した者を対象とする役職定年制度により正社員から嘱託に区分変更されたことに伴い、支給される給与等が減額されていることが認められ(乙9、乙13、証人A)、同区分変更や減額と原告の脳内出血との間に因果関係が認められないことは、上記⑷のとおりである。 以上のような事情を考慮すれば、上記アのとおり後遺障害逸失利益の算定の基礎となる14年にわたって、平成31年(令和元年)の給与を基礎収入として計算することは相当でなく、令和元年賃金センサス男性学歴計を参考に、560万9700円を基礎収入として計算するのが相当である。 ウ上記ア及びイを前提に計算すると、逸失利益は上記金額となる。 (計算式)560 万9700 円×90%×9.8986(14 年に対応する5%によるライプニッツ係数)⑺ 後遺障害慰謝料 1990万円原告に残存した後遺障害の内容や程度等を考慮すると、後遺障害慰謝料は、原告主張のとおり、1990万円と認めるのが相当である。 ⑻ 小計 7626万5996円⑼ 素因減額、過失相殺ア原告は平成24年に高血圧症と指摘され、発症前の健康診断でも、高血圧(平成28年5月:142/86、平成29年6月:1 ある。 ⑻ 小計 7626万5996円⑼ 素因減額、過失相殺ア原告は平成24年に高血圧症と指摘され、発症前の健康診断でも、高血圧(平成28年5月:142/86、平成29年6月:134/99、平成30年9月:163/112)が指摘されていたことが認められる(甲 5)。高血圧は脳内出血の危険因子であるところ(甲5、甲6)、原告の上 記血圧の状況を踏まえると、原告の損害額から1割を減ずるのが相当である。原告は、平成30年9月の血圧測定値は、業務が遅れたため走って健診会場まで行き、すぐに検査が行われたため、高い血圧数値が出たにすぎないと主張するが、同主張を裏付ける根拠はなく、採用できない。 イ被告は、原告が、高血圧の指摘を受けていたにもかかわらず投薬治療を 受けず、飲酒を継続するなどしていたとして、原告に過失があると主張する。しかし、高血圧の指摘を受けた原告に直ちに通院すべき注意義務があったとまではいい難く、飲酒を継続していたといっても、毎日350mlの缶ビール一本程度の飲酒であったこと(甲5、原告本人)、原告は、高血圧の指摘を受けて減塩等の食生活や適度な運動などの対処をしていたこと (原告本人)も踏まえると、脳内出血発症に関して、原告に過失があったと認めることはできない。 被告は、原告が、平成31年9月~11月に健康診断の受診を予定していながら、受診しないまま発症に至ったことも指摘するが、健康診断時期は、病院側から時期を変更するよう依頼を受けたために後ろ倒しになった にすぎず(原告本人)、同年の健康診断を受診していないことについて、原告の責めに帰するべき事由があったとは認められない。 被告は、原告が店長として自分の健康状態との見合いで労働時間を管理しなかったとも主張するが、通常の 同年の健康診断を受診していないことについて、原告の責めに帰するべき事由があったとは認められない。 被告は、原告が店長として自分の健康状態との見合いで労働時間を管理しなかったとも主張するが、通常の店長業務に加えて、店舗の改装作業及び新規開店に伴う作業に従事して長時間労働を強いられ(上記1)、証人A の供述など被告提出の証拠によっても、上記業務を過重な負荷なく遂行できるよう被告が適切な配慮をしたと認めるに足りる証拠もないことからすると、原告において、上記業務を遂行しながら労働時間を制限することができたとはいえず、被告の上記主張も原告の過失を基礎付ける事情とはいえない。 そうすると、脳内出血の発症に関して、原告に過失があったとは認めら れず、過失相殺をいう被告の主張は採用できない。 ウ被告は、高血圧症が脳内出血の発症に相当程度寄与しており、発症の主因は高血圧症であるから、相当の寄与度減額がされるべきであるとも主張する。上記アのとおり、高血圧は脳内出血の危険因子ではあり、高血圧が原告の脳内出血の発症に寄与した可能性は否定できないものの、上記のと おり原告が自ら高血圧のリスクを積極的に高めるような生活を送っていたとは認められず、また、過重負荷がなければ直ちに脳内出血を発症する状況にあったとも認められない。そして、発症前の原告の業務の負荷の程度(上記1)も踏まえると、被告提出の証拠(乙17、乙20等)を考慮しても、1割を超える素因減額をするのが相当とはいえない。 よって、被告の上記主張は採用できない。 エ上記アのとおり、1割の素因減額をした後の損害額は、6863万9396円となる。 ⑽ 既払(労災関係給付)ア療養補償給付 -122万9512円(甲13) イ障害補償給付 -161 上記アのとおり、1割の素因減額をした後の損害額は、6863万9396円となる。 ⑽ 既払(労災関係給付)ア療養補償給付 -122万9512円(甲13) イ障害補償給付 -1612万4525円原告は、障害補償給付として、令和5年6月分までで996万4234円の給付を受け(甲15)、令和5年8月分から令和7年2月分までで616万0291円の給付を受けた(甲27)。 被告は、既に給付済みの上記額を超えて、未支給の将来分についても控 除すべきである旨を主張するが、いまだ現実の給付がない以上、たとえ将来にわたり継続して給付されることが確定していても、このような将来の給付額を損害賠償債権額から控除することを要しないと解するのが相当である(最高裁昭和52年10月25日第三小法廷判決・民集31巻6号836頁参照)から、被告の上記主張は採用できない。 ⑾ 既払後の合計 5128万5359円 ⑿ 弁護士費用 512万円本件事案の内容、上記⑾の金額等を考慮すると、被告の債務不履行と相当因果関係にある弁護士費用は上記金額をもって相当と認める。 ⒀ 総計 5640万5359円 3 結論 以上のとおり、原告の請求は5640万5359円及びこれに対する令和5年10月4日から支払済みまで年3%による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がない。 よって、主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第16民事部 裁判官村上貴昭
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