令和5(わ)1206 殺人

裁判年月日・裁判所
令和7年7月23日 横浜地方裁判所
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判決文本文2,920 文字)

主文 被告人を懲役28年に処する。 未決勾留日数中480日をその刑に算入する。 横浜地方検察庁において保管中の包丁(切先が欠けたもの)1本(令和6年領第727号符号52)、包丁の切先部分1個(同号符号69)及び包丁(柄が木製のもの)1本(同号符号85)を没収する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、平成25年に離婚して両親と同居するようになった頃、うつ病を発症し、その後通院などにより軽快したこともあったものの、令和元年頃にうつ病が再燃し、自室に引きこもる生活を送るようになった。被告人は、うつ病の症状である希死念慮が悪化し、死にたいと考える一方、以前より両親に対して抱いていた否定的な感情を強め、自分の人生がうまくいかないのは両親のせいなどと考えるようになるとともに、母が転倒してけがをしたことをきっかけに、自分が死んだら高齢の両親が生きていくことはできないなどと思い込むようにもなって、両親を殺害することを決意した。 第1 被告人は、令和5年3月29日、神奈川県横須賀市a町b番地A方において、母であるB(当時72歳)に対し、殺意をもって、その前頸部を包丁(令和6年領第727号符号52、69)で突き刺すなどし、よって、その頃、同所において、同人を頸部刺創による出血性ショックにより死亡させて殺害した。 第2 被告人は、同日、同所において、父であるA(当時75歳)に対し、殺意をもって、その後頸部を前記包丁で突き刺し、さらに前頸部を包丁(令和6年領第727号符号85)で突き刺すなどし、よって、その頃、同所において、同人を頸部刺創による出血性ショックにより死亡させて殺害した。 (争点に対する判断)検察官は、被告人がうつ病にり患していることを前提としても、本件各犯行当時、完全責任能力であっ おいて、同人を頸部刺創による出血性ショックにより死亡させて殺害した。 (争点に対する判断)検察官は、被告人がうつ病にり患していることを前提としても、本件各犯行当時、完全責任能力であったと主張し、他方で、弁護人は、本件各犯行当時、被告人がうつ病の影響により行動制御能力を欠いていたので心神喪失であったと主張する。 C医師は、本件各犯行当時、被告人がうつ病にり患しており、その精神症状としての希死念慮が悪化した状態にあり、それまで抱いていた両親に対する否定的な思いを強め、両親の殺害を決意したものであって、本件各犯行の動機の形成にはうつ病が影響を及ぼしているとの鑑定結果を示した。 C医師の鑑定結果については、同医師の経験や医学的な知見に照らして十分尊重でき、うつ病が本件各犯行の動機形成に影響を及ぼしたものと認められる。 是非弁別能力について検討してみると、被告人の犯行後の言動、具体的には各遺体に布団をかけて自らの犯行が発覚しないように工作をしたこと、青色ノートには自らの行為が犯罪であると認識している記載があること、最終的には警察に出頭していることからすると、被告人が本件各犯行当時、自らの行為についての善悪を判断する能力は十分あったと認められる。 次に、行動制御能力について検討してみると、被告人は、本件以前も、自室に包丁を隠し持って、両親を殺害する機会をうかがっていた上、本件各犯行当日は、包丁やタオルのほか、軍手を準備して、母が一人であることを確認した上で犯行に及んでいる。殺害行為自体も、母や父が声をあげないように口をタオルで塞いだ上で首を絞め、さらに、仰向けにした母や父に馬乗りになり、包丁で首を刺して致命傷を負わせている。母を殺害した後は、父の帰宅を待ち、帰宅したことを察知するとドアの後ろで待ち伏せしたほか、一度首を刺 だ上で首を絞め、さらに、仰向けにした母や父に馬乗りになり、包丁で首を刺して致命傷を負わせている。母を殺害した後は、父の帰宅を待ち、帰宅したことを察知するとドアの後ろで待ち伏せしたほか、一度首を刺された父が声を発した際、父を確実に殺害するため、刃が折れた包丁の代わりに新たな包丁を取りに行くなど、両親を殺害するという目的を遂 げるため、その場の状況に応じて自ら考えて冷静に行動しているものと認められる。さらに犯行後、被告人は、両親の鞄から現金を抜き取りパチンコをするなど自らの欲求を満たす行動をしていたことなどからすると、犯行の動機や意思決定の過程にはうつ病が影響していると認められるものの、被告人は、本件各犯行当時、自らの判断に従って行動をコントロールしていたと認められる。 以上から、被告人は、本件各犯行当時、是非弁別能力や行動制御能力が失われておらず、著しく低下もしていなかったと認められる。 (量刑の理由)本件は、被告人が両親を殺害した事案であり、二人の命を奪ったという結果は重大である。その犯行態様も、声をあげないようにタオルで口を塞ぎ首を絞めるなどした上で、仰向けにした母や父に馬乗りになり、その前頸部に包丁をそれぞれ10センチメートル程度の深さまで突き刺し、致命傷を負わせたというものである。加えて、被告人は、あらかじめ包丁やタオル、軍手を準備し、家の中に母が一人でいることを確認した上で母を殺害し、その後も、父を殺害するためその帰宅を待って殺害を遂げており、いずれも強い殺意に基づく犯行といえる。 被告人は、うつ病が再燃したことから5年間自室に引きこもり、周囲からの助言や支援が得られなかったこともあって、希死念慮が悪化する中、両親に対する否定的な感情を強めるとともに、両親だけでは生きていけないなどと一方的に思い込むようにも 5年間自室に引きこもり、周囲からの助言や支援が得られなかったこともあって、希死念慮が悪化する中、両親に対する否定的な感情を強めるとともに、両親だけでは生きていけないなどと一方的に思い込むようにもなって両親の殺害を決意しており、動機形成や意思決定に至る経緯にはうつ病が一定程度影響していたといえる。しかし、被告人は、もともと他に責任転嫁する傾向があることや、以前から両親に対して否定的な感情を抱いていたこと、犯行後の数日間はパチンコに興じるなど、希死念慮を含め、うつ病の症状が強く表れている様子はうかがわれなかったことなどからすると、うつ病の影響は限定的というべきである。被告人 の生活をサポートしてきた両親に対し、独りよがりな考えから殺害を決意したことには、厳しい非難が向けられる。 以上からすると、被告人の刑事責任は非常に重く、同種事案(殺人、単独犯、処断罪と同一又は同種の罪の件数2~4件、被害者が親)の中でも、相当重い部類に属するというべきである。 その上で、被告人は、自らの罪に真摯に向き合っているとはいい難いものの、本件各犯行を認めて具体的に供述していること、被告人の更生を支えていきたいと述べる被告人の娘や従兄弟などがいること、被告人に前科がないことなどの事情も考慮し、主文の刑を定めた。 (求刑懲役30年、主文同旨の没収)令和7年7月28日横浜地方裁判所第3刑事部 裁判長裁判官髙橋康明 裁判官福田恵美子 裁判官田治百合恵

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