平成22(行ケ)10158 審決取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成23年6月14日 知的財産高等裁判所 2部 判決 請求棄却
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判決文本文38,061 文字)

- 1 -平成23年6月14日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成22年(行ケ)第10158号審決取消請求事件口頭弁論終結日平成23年5月10日判決原告ノバルティスアーゲー訴訟代理人弁護士三村量一東崎賢治渡邉瑞三村まり子片山英二江幡奈歩弁理士小林浩日野真美被告特許庁長官指定代理人大久保元浩 内田淳子唐木以知良田村正明 主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 事実及び理由 第1 原告の求めた判決 - 2 -特許庁が不服2005-23932号事件について平成22年1月4日にした審決を取り消す。 第2 事案の概要本件は,特許出願拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とする審決の取消訴訟である。争点は,補正却下決定の適否,新規性の有無等である。 1 特許庁における手続の経緯原告は,平成10年(1998年)7月10日の優先権(米国)を主張して,平成11年(1999年)7月9日,名称を「バルサルタンとカルシウムチャンネルブロッカーの抗高血圧組 許庁における手続の経緯原告は,平成10年(1998年)7月10日の優先権(米国)を主張して,平成11年(1999年)7月9日,名称を「バルサルタンとカルシウムチャンネルブロッカーの抗高血圧組合わせ」とする発明について国際特許出願(PCT/EP99/04842。日本における出願番号は特願2000-558803号)をし,平成13年1月9日日本国特許庁に翻訳文(甲3)を提出し(国内公表公報は特表2002‐520274号公報,甲59),平成17年7月11日付けで特許請求の範囲の変更を内容とする補正をしたが(請求項の数14,甲5),拒絶査定を受けたので,これに対する不服の審判請求をした。 特許庁は,上記請求を不服2005-23932号事件として審理し,その中で原告は平成17年12月22日付けで特許請求の範囲の変更を内容とする補正をしたが(請求項の数10,甲8,以下この補正を「本件補正」という。),特許庁は,平成22年1月4日,本件補正を却下した上「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし(出訴期間として90日附加),その謄本は平成22年1月19日原告に送達された。 2 本願発明12の要旨(平成17年7月11日付け補正後の請求項12の記載)「(i)AT1レセプターアンタゴニストバルサルタンまたはその薬学的に許容される塩と,(ii) カルシウムチャンネルブロッカーである遊離形または塩形のを,医薬的に許容される坦体(ママ)とともに含む,固定された医薬的組合せ組成物。」 3 審決の理由 - 3 -(1) 本件補正後の請求項7の記載は,「(i)バルサルタンまたはその薬学的に許容される塩と,(ii) アムロジピンまたはその薬学的に許容される塩を,医薬的に許容される担体とともに含む,医薬的組合せ組成物。」であるところ,こ 7の記載は,「(i)バルサルタンまたはその薬学的に許容される塩と,(ii) アムロジピンまたはその薬学的に許容される塩を,医薬的に許容される担体とともに含む,医薬的組合せ組成物。」であるところ,これは本件補正前の請求項1~14のいずれかを減縮するものではなく,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明を目的とするものではないから,本件補正は補正要件を充足せず,却下すべきである。 (2) そこで,平成17年7月11日付け補正による本願発明について検討するに,引用例(藤村葉子,山本滋,上田晴康,中尾健三「ValsartanとHydrochlorothiazide,NifedipineあるいはPropranololとの併用時の自然発症高血圧ラットにおける降圧効果」,薬理と治療Vol.23,No.12,87頁~93頁,ライフサイエンス出版,平成7年(1995年),甲23)には,実質的に以下の発明(引用発明)が記載されていることが認められる。 「バルサルタン3mg/kg とニフェジピン1mg/kg の 0.5%CMC-Na中懸濁液」本願発明12の「AT1レセプターアンタゴニストバルサルタン」は引用発明の「バルサルタン」と同じであり,引用発明の「ニフェジピン」は本願発明の「カルシウムチャンネルブロッカーである遊離形または塩形」に含まれ,引用発明のCMC-Naは医薬的に許容される担体であることは明らかであり,引用発明は懸濁液が組成物であることは明らかであり,それぞれが医薬であるバルサルタンとニフェジピンを含むものであるから「医薬的組合せ組成物」であり,引用発明は「固定された医薬的組合せ組成物」である。したがって,本願発明と引用発明に相違する点はない。 第3 原告主張の審決取消事由 1 取消事由1(本件補正についての判断の違法) 明は「固定された医薬的組合せ組成物」である。したがって,本願発明と引用発明に相違する点はない。 第3 原告主張の審決取消事由 1 取消事由1(本件補正についての判断の違法)(1) 改善多項制の下における複数の請求項に係る特許出願に対する特許要件 - 4 -の審査のあり方審決は,本件補正後の請求項7に係る医薬的組合せ組成物について,本件補正前の請求項1~14により特定される医薬的組合せ組成物のいずれかを減縮するものではなく,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明を目的とするものでもないとして,本件補正を却下した。 しかし,改善多項制の下においては,複数の請求項に係る特許出願については,各請求項に記載された発明ごとに特許要件を審査すべきであり,そのような特許審査を前提とすれば,出願過程において複数の請求項に係る補正が申し立てられた場合には,請求項ごとに補正の許否を判断すべきである。 しかるに審決は,本件補正後の請求項7に係る補正の許否のみを判断して,その余の請求項に係る補正,すなわち本件補正後の請求項1~6,8~10に係る補正については特許法所定の要件を満たすかどうかを一切判断しないまま本件補正全体を却下したものであり,その判断は違法である。そして,審決は,本件補正を却下した上で本件補正前の請求項に記載された発明について特許要件を判断したが,前記のとおり,本件補正を却下した判断が違法であるから,それを前提として本件補正前の請求項に記載された発明について特許要件を判断した審決の判断は,その前提において誤りがあり,違法である。 (2) 請求項ごとに補正の許否を判断すべきであること特許法185条は,同法27条1項1号の適用について,請求項ごとに特許がされ,又は特許権があるものとみなされると規定して 違法である。 (2) 請求項ごとに補正の許否を判断すべきであること特許法185条は,同法27条1項1号の適用について,請求項ごとに特許がされ,又は特許権があるものとみなされると規定している。これによれば,特許権の設定登録については請求項ごとに特許がされ又は特許権があるものとみなされるのであるから,2以上の請求項に係る特許出願については請求項ごとに「特許権の設定登録」の申請,すなわち「特許出願」がされていると解すべきことになる。そして,特許法49条及び51条にいう「特許出願」も,特許権の設定登録の対象となる請求項ごとに観念すべきこととなる。 確かに,特許法49条4号は同法37条に規定する要件を満たしていないときを - 5 -拒絶理由として掲げているが,この点は,本来は請求項ごとに特許要件を判断すべきところ,例外的に,各請求項に係る発明ではなく,複数の請求項に係る各発明の関係が発明の単一性の要件を満たさない場合に,複数の請求項に係る出願が全体として拒絶されることを規定したものと理解することが可能である。現に,無効審判請求について,特許法123条1項は柱書において請求項ごとに無効審判を請求できることを規定しながら,1号,4号及び6号において所定の要件を満たさない「特許出願」に対して特許がされた場合を無効事由として規定している。これによれば,同条における「特許出願」が請求項ごとに観念されることは明らかであり,特許法49条にいう「特許出願」を請求項ごとに観念することは,むしろ同法123条1項の規定と整合するというべきである。 上記のとおり,複数の請求項についてそれぞれ独立の発明として個別に特許要件が審査され,拒絶の理由を発見できない請求項については請求項ごとに特許査定がされるというのがそもそもの改善多項制の立法趣旨であり,改 とおり,複数の請求項についてそれぞれ独立の発明として個別に特許要件が審査され,拒絶の理由を発見できない請求項については請求項ごとに特許査定がされるというのがそもそもの改善多項制の立法趣旨であり,改善多項制の下においては,拒絶理由の存しない請求項に係る発明はそれぞれ実体的に特許が付与されるべきものである。 なお,被告は,このような取扱いを行ったとしても,特許出願人は拒絶理由通知のされた請求項を削除する補正を行うことにより拒絶査定を免れることができ,また,分割出願を行うことが可能であるから,不利益はないと主張するかもしれない。 しかし,特許出願人にとって,拒絶理由が通知された請求項を削除する補正を行うことは,当該請求項について不服申立ての機会を自ら放棄することを意味する。拒絶理由の発見されなかった他の請求項をいわば人質にして請求項を削除する補正を迫ることは,適正手続の保障の観点や出願人の裁判を受ける権利との関係で問題があるというべきである。また,発明の単一性の要件(特許法37条)を満たすにもかかわらず,分割出願を事実上強制するというのでは,改善多項制を導入した意味がない。 (3) 最高裁平成20年7月10日第一小法廷判決との関係 - 6 -最高裁平成20年7月10日第一小法廷判決(民集62巻7号1905頁)は,複数の請求項に係る特許出願につき,当該特許出願全体を一体不可分のものとして特許査定又は特許拒絶をすべきものとし,その理由として,「このことは,特許法49条,51条の文言のほか,特許出願の分割という制度の存在自体に照らしても明らかである。」と判示している。 しかし,上記最高裁判決が複数の請求項に係る特許出願につき判示した部分は,当該事案の結論を導く上での前提となっているものではなく,傍論にすぎない。また,特許法49条 らかである。」と判示している。 しかし,上記最高裁判決が複数の請求項に係る特許出願につき判示した部分は,当該事案の結論を導く上での前提となっているものではなく,傍論にすぎない。また,特許法49条,51条に「特許出願」の用語が用いられていることが当該特許出願全体を一体不可分のものとして扱う根拠とならないことは,前記のとおりである。さらに,特許出願の分割制度があることから直ちに複数の請求項に係る特許出願全体を一体不可分のものとして扱うべきことが導かれるものでもない。 2 取消事由2(本件出願に係る発明についての特許要件判断の遺脱)本件出願においては,本来,本件補正後の10個の請求項につき,請求項ごとに補正の許否を判断した上で,個別の請求項の補正の許否に従って,請求項ごとに本件補正後又は本件補正前の記載に基づき個別に特許要件を満たすかどうかを判断すべきであった。しかるに,審決は,本件補正前の請求項12について特許要件を満たすかどうかを判断しただけであり,他の9個の請求項については,本件補正前あるいは本件補正後の記載のいずれに対しても全く判断をしていない。したがって,審決には判断遺脱の違法がある。 仮に,特許要件の審査については各請求項に記載された発明ごとに行い,補正については全体を不可分一体のものとして補正の許否を判断するという取扱いが許されるとしても,その場合は補正前の14個の請求項の全てについて個別に特許要件を満たすかどうかを判断しなければならない。しかるに審決は,本件補正前の請求項12について特許要件の判断をしただけで,その余の請求項に係る発明について一切特許要件を判断しないまま,本件出願全体についてこれを拒絶すべきものと判断して拒絶査定を維持したものであり,違法である。 - 7 - 3 取消事由3(本件補正に関する手続 に係る発明について一切特許要件を判断しないまま,本件出願全体についてこれを拒絶すべきものと判断して拒絶査定を維持したものであり,違法である。 - 7 - 3 取消事由3(本件補正に関する手続上の違法)(1) 本件出願における拒絶査定後の主な手続の経緯① 平成17年09月13日拒絶査定② 平成17年12月12日審判請求③ 平成17年12月22日本件手続補正④ 平成18年01月24日審査前置移管通知⑤ 平成18年02月14日審査前置解除通知⑥ 平成20年04月01日審尋⑦ 平成20年08月01日審尋に対する回答書提出⑧ 平成21年12月08日審理終結通知⑨ 平成22年01月19日審決(2) 前置報告を利用した審尋の一般的な運用審判における審尋は,前置報告書を有効に活用することにより審理を円滑に進めるため,また審判請求人に対して前置報告の内容を送付し,審査官の見解に対して反論の機会を与えるために実施されている(「前置報告を利用した審尋について」平成20年7月特許庁審判部,甲21)。このため,通常,審尋においては,拒絶査定をなした審査官による前置審査報告書の内容が記載され送付されている。この審尋は拒絶理由通知でないので,これにより補正をする機会が与えられるわけではないが,前置審査での審査官の見解に対して拒絶査定を解消し得る補正案が回答書により提示された場合には,審判合議体の裁量により補正案を考慮した審理が行われるのが通常である(甲21の3頁「(注3)補正案」参照)。そして,審判請求時の手続補正が不適法なもので補正却下の理由がある場合は,通常,「審尋の前置審査報告書の内容」にその旨指摘され,審 理が行われるのが通常である(甲21の3頁「(注3)補正案」参照)。そして,審判請求時の手続補正が不適法なもので補正却下の理由がある場合は,通常,「審尋の前置審査報告書の内容」にその旨指摘され,審判請求人は,そのような補正却下の理由を解消する努力をするのが一般的である。 しかし,本件における審尋(甲12)においては,特許法17条の2第4項の規定違反については一切触れられておらず,進歩性欠如の理由について記載されてい - 8 -るのみであった。このため,原告(出願人,審判請求人)は,審尋に対する回答書(甲13)においても,補正後の請求項に係る発明の進歩性にのみ言及したのである。しかるに審決は,本件補正についていきなり補正却下の決定を下し,本件補正前の特許請求の範囲に記載された発明について特許要件を判断した上で,新規性欠如の理由で拒絶査定を維持するとの判断をした。審判長が本件補正に不適法な点があることを原告に通知することは容易であったにもかかわらず,原告に対して本件補正につき何らの通知もせず,また,再度の手続補正の機会を与えないまま本件補正を不意打ち的に却下したことには手続上の違法がある。 4 取消理由4(本件出願に係る発明の内容の認定及び新規性・進歩性の判断を誤った違法)(1) 本願発明12の特許要件に関する認定・判断の誤りア本願発明12と引用発明との対比引用例に開示される引用発明は,「バルサルタン3mg/kg とニフェジピン1mg/kgの0.5%CMC-Na中懸濁液」(審決4頁21行~22行)である。 したがって,引用発明と本願発明12は,本願発明12の医薬的組合せ組成物は「固定された組合せ形態」にあるのに対し,引用発明ではバルサルタン(ARB)とニフェジピン(CCB)とが0.5%CMC-Na中に懸濁さ て,引用発明と本願発明12は,本願発明12の医薬的組合せ組成物は「固定された組合せ形態」にあるのに対し,引用発明ではバルサルタン(ARB)とニフェジピン(CCB)とが0.5%CMC-Na中に懸濁されている形態である点で相違する。 イ本願発明12の「固定化された医薬的組合せ」の意義本願明細書の段落【0029】の記載からすれば,「固定された組合せ」とは,「一つの組み合わせ単位投与形で一緒に」投与される場合について,単に一緒に投与されるだけでなく,さらに,2成分の組合せが固定された単位投与形として一緒に投与されるというものをいうと解され,「固定された医薬的組合わせ」とは,「単位投与形」の一態様であって,具体的には配合剤,すなわち有効成分を2以上含有する医薬品(言い換えれば,組合せが一定量の形態におさめられて物理的に一体であることであり,具体的には一つの製剤に複数の有効成分が配合されて物理的に一体と - 9 -なったいわゆる配合剤)を指す。 「単位投与形」については,本願明細書に「経腸または非経腸投与のための本発明の医薬製剤は,例えば,糖衣錠,錠剤,カプセルまたは坐薬,及び更にアンプルのような単位投与形のものである。」(段落【0034】)との記載があるところ,単位投与形とは「処置対象に対する単位用量として適した物理的に分離した単位」という意味内容の確立した用語であるから(甲27~30),「単位投与形」とは,錠剤に代表される単位用量,すなわち患者に投与されるべき量の医薬がひとまとまりにされた製剤(「単位容量」として「物理的に分離」した単位であって,治療効果を生じるように計算された「所定量の」成分が錠剤や容器などに「封入」されているもの)であることが理解される。 また,「固定」とは,審決にもあるように「動かないようにするこ 単位であって,治療効果を生じるように計算された「所定量の」成分が錠剤や容器などに「封入」されているもの)であることが理解される。 また,「固定」とは,審決にもあるように「動かないようにすること」を意味する。 したがって,本願発明12における「固定化された医薬的組合せ」形態とは,投与されるべき量の2成分の組合せが動かないように,ひとまとまりの製剤にされた形態という意味と解すべきである。 ウ引用発明認定の誤りラットが研究者の指示に従うことはないため,ラットに一定量の薬剤を経口投与するには,ゾンデを利用して強制的に経口的に注入する方法(ゾンデ法)がとられる。また,薬剤を経口投与する方法について,引用例には,「4種の薬物を0.5%carboxymethylcellulosesodium(0.5% CMC-Na)中に懸濁し,4 ml/kg の容量で経口投与」したとのみ記載されているところ,2種の薬剤を経口投与する場合の具体的方法としては,①2種の薬剤の懸濁液を別個に用意し,2回に分けて連続して注入投与する方法と,②2種の薬剤を同一の懸濁液に懸濁し,一度に注入投与する方法と,の2つの方法が考えられるが,研究の常法に照らすと,①の方法を採用したものとほぼ断定することができる。なぜなら,仮に,②の方法を採った場合には,薬剤間の相互作用,溶解度変化等の不測の事態が生じ得るからである。さらに,②の方法を採ったと考えた場合,10週齢のSHRラットの体重を前提とす - 10 -れば,1回に投与すべき1匹当たりの懸濁液の量は,1mlを超えるため,2ml規格の医療用注射器を使用することになるが,2ml規格の医療用注射器を使用したとすれば,容認できない程度の誤差が生じることとなり,その結果に信頼性を置くことができないからである。そして,上 ,2ml規格の医療用注射器を使用することになるが,2ml規格の医療用注射器を使用したとすれば,容認できない程度の誤差が生じることとなり,その結果に信頼性を置くことができないからである。そして,上記のような薬剤の投与方法は,異なる降圧薬同士の併用効果,特に降圧力の増強作用の有無の検証という論文の目的に照らし,実験の手技上の利便性からごく一般的に採用されるものである。 審決は,「引用発明は,経口投与される単一の懸濁液の中に,成分(i)および(ii)にあたるバルサルタンとニフェジピンが混在しているものであり,経口投与剤として一緒に投与されるものである。」(5頁10行~13行)と認定した。 しかし,引用例には,単一の懸濁液の中にバルサルタンとニフェジピンが混在していることを示す記載は全く存在せず,むしろ,引用例に接した当業者は,上記のとおり,バルサルタンとニフェジピンはそれぞれ別個の懸濁液として投与されたと通常理解するのであるから,当業者の常識に基づいて引用例の記載を正しく読んだ場合には,引用発明は,「連続して経口投与されるために,バルサルタンとニフェジピンを,それぞれ別個の懸濁液の中に懸濁されたもの」であり,単なる併用実験であると認定されるべきである。審決の上記引用発明の認定には,重大な誤りがある。 エ引用発明は「固定化された医薬的組合せ」に当たらない引用例に記載されているのは「連続して経口投与されるために,バルサルタンとニフェジピンをそれぞれ別個の懸濁液の中に懸濁されたもの」であり,「バルサルタン3mg/kg とニフェジピン1mg/kg の0.5%CMC-Na中懸濁液」は開示されていない。そうすると,バルサルタンとニフェジピンはそれぞれ別に投与されるのであり,「別々ではなく単一のもの又は単一の容量として投与」されることはな /kg の0.5%CMC-Na中懸濁液」は開示されていない。そうすると,バルサルタンとニフェジピンはそれぞれ別に投与されるのであり,「別々ではなく単一のもの又は単一の容量として投与」されることはないのであるから,引用例に「固定された医薬的組合わせ組成物」が開示されていないことは明らかである。 仮に,引用例にバルサルタンとニフェジピンを単一の懸濁液として投与したことが記載されているとしても,引用例には「用いたすべての薬物は投与直前に0.5% - 11 -carboxymethylcellulosesodium (Sigma) 水溶液(以下0.5%CMC-Naと略記)中に懸濁し,4ml/kg の容量で経口投与した。」(87頁右欄1行~4行)と記載されているところ,引用発明は2つの別々の医薬を投与直前に0.5%カルボキシメチルセルロース・ナトリウム溶液の助けを借りて懸濁液に調製しているにすぎないのであって,投与直前の一瞬しか存在しないものである。懸濁液である以上,完璧に均一な分布はありえず,時間が経つにつれて成分の分離・沈降は避けられず,さらに成分の安定性も保証されない。このため,引用発明の懸濁液は,安定に保管・流通可能なものではなく,投与に際して便宜的に調製された一時的なものにすぎないのであって,そのまま流通しうるような製剤ではなく,単位投与形,すなわち,「処置対象に対する単位用量として適した物理的に分離した単位」あるとはいえない。すなわち,「単位投与形」とはいえず,「動かないように」「固定」するとの技術的思想も含まないものである。 また,懸濁の対象となる2つの医薬の量は,投与の都度,それぞれ変動させることが可能であり,投与されるべき量の2成分の組合せが,「動かないように」,ひとまとまりの製剤として一緒にされたものであるとはい また,懸濁の対象となる2つの医薬の量は,投与の都度,それぞれ変動させることが可能であり,投与されるべき量の2成分の組合せが,「動かないように」,ひとまとまりの製剤として一緒にされたものであるとはいえないのであって,「固定された医薬的組合せ」の技術的思想とは対極に位置する。すなわち,引用例の懸濁液はラットごと及び投与日ごとに投与量が変動するものであり,処置対象に対して適した単位容量として均一に分離されたものではないから「単位投与形」には当たらないし,投与量に変動のない「固定された」単位投与形にも当たらない。 さらに,引用例では「併用」の語が用いられている。すなわち,引用例は,アンジオテンシンII 受容体拮抗薬(ARB)であるバルサルタンを単独で投与した場合の降圧効果と,バルサルタンをヒドロクロロチアジド(サイアザイド系利尿薬 ),プロプラノロール(β ブロッカー)又はニフェジピン(CCB)と併用した場合の降圧効果を高血圧ラットを用いて比較検討した文献である(87頁左欄下から10行~7行,92頁左欄2行~23行)ところ,「併用」とは,単に2種以上の薬物を合わせ用いることをいい(薬科学大辞典第2版1258頁,甲31),異なる2種以 - 12 -上の医薬が存在することが前提である。そして,「併用」の場合には,2種以上の医薬が存在するのであるから,各医薬の投与量の組合せを変動させることが可能であり(組合せが固定されておらず),この点で,「併用」は2種以上の医薬の組合せが一つの錠剤やカプセルなどの単位投与形に固定されたものとは全く異なる。 オ小括したがって,引用発明の懸濁液が「固定された」ものであるとして,本願発明12と引用発明を同一とした審決の認定は誤りである。 (2) 本願発明12は進歩性を有する審決は,相違点1を 小括したがって,引用発明の懸濁液が「固定された」ものであるとして,本願発明12と引用発明を同一とした審決の認定は誤りである。 (2) 本願発明12は進歩性を有する審決は,相違点1を看過し,本願発明12は新規性を欠如すると判断しているが,これは前記のとおり誤った判断である。 そして,相違点である「固定された組合せ」形態については,引用例にもその他の文献(Coreaetal,「Valsartan, anewangiotensin Ⅱ antagonistforthetreatmentofessentialhypertension: Acomparativestudyoftheefficacyandsafetyagainstamlodipine(原告訳:バルサルタン,本態性高血圧症の治療のための新しいアンジオテンシンⅡ拮抗薬:アモルジピンとの有効性及び安全性の比較研究)」,ClinicalPharmacology & Therapeutics, Vol.60,341頁~346頁,平成8年(1996年)発行,甲24)にも記載がないのであるから,当業者であってもこれを容易に想到することはできない。 加えて,引用例に記載されている単なる併用に比べて,本願発明12の「固定された組合せ」形態は,コンプライアンス(服薬指示の遵守)の向上並びに冠心疾患,心筋梗塞罹患及び脳卒中罹患率減少に関して,予想できない顕著な効果を奏するものであり,このような顕著な効果を奏するものである。 (3) 本件補正後の請求項6(補正後発明6)の特許要件に関する認定・判断の誤り審決は,なお書きとして,本件補正後の請求項6に係る発明(補正後発明6)に相当する発明の特許要件を判断している。すなわち, - 13 -「 補正後発明6)の特許要件に関する認定・判断の誤り審決は,なお書きとして,本件補正後の請求項6に係る発明(補正後発明6)に相当する発明の特許要件を判断している。すなわち, - 13 -「なお、仮に、本願発明をカルシウムチャンネルブロッカーをアムロジピンに、医薬用途を、糖尿病または糖尿病患者における高血圧の処置または予防、糖尿病性腎障害の進行の遅延または糖尿病患者における蛋白尿の低減に使用するためのものと限定しても、以下の通り、本願発明は依然として特許を受けることはできない。 すなわち、アムロジピンはニフェジピンと同じDHP(ジヒドロピリジン系)の公知のカルシウムチャンネルブロッカーである。そして、アムロジピンはバルサルタンと併用できないといった特段の事情も認められないし、Coreaetal.,ClinicalPharmacologyTherapeutics,1996年,Vol.60,p.341-346(審査における引用例1)には、バルサルタンで不十分である場合はアムロジピンを追加投与している。 したがって、引用発明において、ニフェジピンに代えてアムロジピンを使用することは当業者が容易に想到し得ることである。 そして、本願明細書には、糖尿病性SHRの生存率のデータが記載されているが、カルシウムチャンネルブロッカーがベラパミルである。アムロジピンを用いた試験例は一切記載されていない。また、ベラパミルは非DHPであり、DHPであるアムロジピンとは異なる種類のカルシウムチャンネルブロッカーである。以上のとおり、本願明細書の記載から、バルサルタンとアムロジピンの医薬的組合せ組成物について、糖尿病又は糖尿病患者における高血圧の処置又は予防、糖尿病性腎障害の進行の遅延又は糖尿病患者における蛋白尿の低減に関する効果において 記載から、バルサルタンとアムロジピンの医薬的組合せ組成物について、糖尿病又は糖尿病患者における高血圧の処置又は予防、糖尿病性腎障害の進行の遅延又は糖尿病患者における蛋白尿の低減に関する効果において予想できない顕著な効果を奏するものとは認められない。」との認定判断である。しかし,以下のとおり,この認定判断は誤りである。 ア補正後発明6の構成補正後発明6は,以下のような構成である。 ① バルサルタンまたはその薬学的に許容される塩と,② アムロジピンまたはその薬学的に許容される塩を含む,糖尿病または糖尿病患者における高血圧の処置または予防のため,糖尿病性腎障害の進行の遅延のため,または糖尿病患者における蛋白尿の低減のために使用する, - 14 -固定された(fixed)組合せ形態にある,医薬的組合せ組成物。 イ補正後発明6と引用発明の相違点引用発明は,「バルサルタン3mg/kg とニフェジピン1mg/kg の0.5%CMC-Na中懸濁液」(審決4頁21~22行)であるから,補正後発明6と引用発明は,少なくとも以下の3点において相違する。 (相違点1)補正後発明6ではアムロジピン(CCB)であるところ,引用発明ではニフェジピン(CCB)である点。 (相違点2)補正後発明6の医薬的組合せ組成物は,「糖尿病または糖尿病患者における高血圧の処置または予防のため,糖尿病性腎障害の進行の遅延のため,または糖尿病患者における蛋白尿の低減のために」用途限定されているのに対し,引用発明はそのような用途の限定がないか,あるいは単に高血圧について用いられるものである点。 (相違点3)補正後発明6の医薬的組合せ組成物は,「固定された組合せ形態」にあるのに対し,引用発明では,バルサルタン(ARB)と ないか,あるいは単に高血圧について用いられるものである点。 (相違点3)補正後発明6の医薬的組合せ組成物は,「固定された組合せ形態」にあるのに対し,引用発明では,バルサルタン(ARB)とニフェジピン(CCB)とが0.5%CMC-Na中に懸濁されている形態である点。 ウ相違点3について審決が,引用発明において用いられた懸濁液は「固定された組合せ」形態であるとして相違点3を看過していることは,前記のとおり,本願発明12と同様である。 エ相違点2について審決は,相違点2を看過している。審決は,本願明細書にはバルサルタンとアムロジピンの組合せ医薬に関する試験例がないから,これに当業者の予測できない顕著な効果を奏するものとは認められないとするが(6頁13~21行),これも誤りである。本願明細書においては,バルサルタンとアムロジピンの組合せ医薬の治療効果を確認するための実験方法が詳細に記載されるとともに(段落【0017】~ - 15 -【0021】),バルサルタンとアムロジピンの組合せ医薬の製剤の具体的な態様についても記載されている(段落【0037】~【0038】)。したがって,当業者であれば,これらの記載及び技術常識に鑑み,本願明細書に記載されているバルサルタンとアムロジピンの組合せ医薬について,その顕著な効果を予測することができ,また確認することも容易である。 オ相違点1について審決は,相違点1につき,前記のとおり引用した認定判断に基づき,「引用発明において,ニフェジピンに代えてアムロジピンを使用することは当業者が容易に想到し得ることである。」とした。 しかし,引用例は,バルサルタン(ARB)と作用機序の異なる3種類の降圧剤,すなわちヒドロクロロチアジド(利尿薬),ニフェジピン(CCB)又はプ は当業者が容易に想到し得ることである。」とした。 しかし,引用例は,バルサルタン(ARB)と作用機序の異なる3種類の降圧剤,すなわちヒドロクロロチアジド(利尿薬),ニフェジピン(CCB)又はプロプラノロール(βブロッカー)との併用について検討した論文であるところ,88頁右欄下から11行~2行には,サイアザイド併用群(バルサルタン(ARB)とヒドロクロロチアジド(利尿薬)とを併用した群)とニフェジピン併用群(バルサルタン(ARB)とニフェジピン(CCB)とを併用した群)との対比において,12回の測定機会のうち,バルサルタン(ARB)単独投与群より有意に低値を示した回数(降圧効果の比較であるから,低値は降圧効果が大きいことを示す。)は,ニフェジピン併用群が1回のみであったのに対し,サイアザイド併用群が5回と多数回であったことが記載されているのであるから,当業者が引用例を読んだ場合,バルサルタン(ARB)とニフェジピン(CCB)ではなく,バルサルタン(ARB)とヒドロクロロチアジド(利尿薬)の併用を出発点として研究を進めると考えるのが妥当であり,引用例中のバルサルタン(ARB)とニフェジピン(CCB)との併用を出発点とすることには阻害要因があるというべきである。 また,本件優先日当時,作用機序の異なる高血圧治療薬の併用は知られていたが,バルサルタンに代表されるアンジオテンシンII 受容体拮抗薬(ARB)とニフェジピンに代表されるカルシウムチャンネルブロッカー(CCB)との併用は,当業者 - 16 -にあまり知られていなかった。 さらに,本件出願前においては,2種の高血圧薬を併用する場合は異なる分類から2種(例えば,利尿薬とβ-遮断薬,利尿薬と血管拡張薬であるACE阻害薬)を組み合わせるのが常識であり,2種の高血圧薬を併用する に,本件出願前においては,2種の高血圧薬を併用する場合は異なる分類から2種(例えば,利尿薬とβ-遮断薬,利尿薬と血管拡張薬であるACE阻害薬)を組み合わせるのが常識であり,2種の高血圧薬を併用することについて述べながら,同じ血管拡張薬に分類されるカルシウム拮抗薬(CCB)とアンジオテンシンII 拮抗薬(ARB)と併用することについての示唆はない。 以上のとおり,本件優先日当時には,高血圧医療の専門家にとってすらカルシウム拮抗薬(CCB)とアンジオテンシンII 拮抗薬(ARB)との併用療法は,有効と考えられてはいなかったのであるから,引用例からバルサルタン(ARB)とニフェジピン(CCB)との併用を引用発明として抽出すること自体に無理があり,これを都合よく変更して補正後発明6に至るのは容易であったとする審決の判断は誤りである。 加えて,甲24には,バルサルタンとアムロジピンとの併用は記載されていない。 甲24は,当時既に評価が定まっていたアムロジピンを比較対象にして,当時新薬であったバルサルタンの効果を評価した研究に関するものであって,バルサルタンとアムロジピンとの併用は全く対象としていない(341頁Objective 及び342頁左欄26行~35行)。甲24にバルサルタンにアムロジピンを追加投与した場合にいかなる効果があるかを確認できるに足りる記載は全くなく,そこに記載されている試験がバルサルタンとアムロジピンの併用の効果を検証するものでないことも明らかである。甲24は,バルサルタン,アムロジピン,それぞれの単剤投与に関するものであり,併用を示唆するものではないから,引用発明におけるニフェジピンをアムロジピンに変更する試みを「当該発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという示唆等」にはなりえない。 カ顕著な効果さ 用を示唆するものではないから,引用発明におけるニフェジピンをアムロジピンに変更する試みを「当該発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという示唆等」にはなりえない。 カ顕著な効果さらに,原告は,バルサルタン80mg とアムロジピン5mg とを含む固定された形態の組合せ医薬である製品エックスフォージ®配合錠を製造しているが,アムロ - 17 -ジピンとバルサルタンの組合せは,アムロジピンやバルサルタン単剤よりも,有効に血圧を下げる上,アムロジピン単剤投与よりも副作用である末梢浮腫(peripheraledema)の発症が有意に少なく,アムロジピン,バルサルタンの単剤投与では十分に降圧効果の見られなかった患者に対しても有効であるなどの効果を有するものである。したがって,バルサルタンとアムロジピンの固定された形態の組合せ医薬は顕著な効果を奏し,進歩性を有する。 (4) 特許要件判断の遺脱前記のとおり,審決は請求項ごとに補正の許否を判断したうえで,それぞれについて特許性を判断すべきであったところ,本件補正後の請求項については請求項6についてしか特許要件の判断を行っていない。そして,本件補正後の請求項のうち審決が判断を怠った請求項についても特許要件を満たすものがあるため,審決の判断遺脱の違法は審決の結果に影響を及ぼすものである。 第4 被告の反論 1 取消事由1に対し(1) 改善多項制の下における複数の請求項に係る特許出願に対する特許要件の審査のあり方につき特許法49条,51条によれば,一つの特許出願について拒絶査定か特許査定のいずれかの行政処分をなすべきことを規定しているものである(最高裁平成20年7月10日第一小法廷判決・民集62巻7号1905号参照)。そして,このことは昭和62法律第27号による改 査定か特許査定のいずれかの行政処分をなすべきことを規定しているものである(最高裁平成20年7月10日第一小法廷判決・民集62巻7号1905号参照)。そして,このことは昭和62法律第27号による改正により改善多項制が導入され,一つの特許出願において複数の発明を複数の請求項に記載することができるようになっても変更されていない。 (2) 請求項ごとに補正の許否を判断すべきであるとの主張につき特許法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項は,「第17条の2第1項第2号又は第3号に掲げる場合において,願書に添付した明細書又は図面 - 18 -についてした補正(同項第2号に掲げる場合にあっては,第121条第1項の審判の請求前にしたものを除く。)が同条第3項から第5項までの規定に違反しているものと特許をすべき旨の査定の謄本の送達前に認められたときは,審査官は,決定をもってその補正を却下しなければならない。」と規定するところ,ここでいう「補正」とは,複数の請求項に係る補正の場合には当該複数の請求項に係る補正全体を一体不可分のものとして扱うことを述べていると解するほかない。 すなわち,特許法は,特許法17条1項,4項,17条の2第1項,53条1項,17条の2第4項,159条1項において,手続をした者が補正をすることができることや補正が可能な時期等を定めるとともに,一定の要件がある場合は,補正を却下しなければならないとしているが,上記各規定の文言及び補正の内容は補正をする者が決めることに照らしても,特段の事情がない限り,一つの手続補正書によりされた特許請求の範囲の減縮に係る補正(同法17条の2第4項2号)は,補正事項ごと,又は請求項ごとに補正としてとらえられるものではなく,補正手続をした者は一体として補正をしているものとして,特 よりされた特許請求の範囲の減縮に係る補正(同法17条の2第4項2号)は,補正事項ごと,又は請求項ごとに補正としてとらえられるものではなく,補正手続をした者は一体として補正をしているものとして,特許請求の範囲に対する一つの補正として扱われ,一定の要件がある場合は,その補正を却下しなければならないものと解することができる。 したがって,審決が本件補正における請求項1~10のうち請求項7のみについてその許否を判断し,他の請求項1~6,8~10について補正の許否を示さなかったことに違法はない。 2 取消事由2に対し前記のとおり,本件補正における請求項1~10のうち請求項7のみについてその許否を判断し,他の請求項1~6,8~10について補正の許否を示さなかったこと,及び本件補正を却下すべきものとした審決の判断に誤りはない。したがって,本件補正後の請求項1~10のすべてについて審決でその特許要件について判断を示すべきであったとの原告の主張は理由がない。 また,前記のとおり,特許法49条は「審査官は,特許出願が次の各号の一に該 - 19 -当するときは,その特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。・・・」と規定しているところ,この規定によれば,複数の請求項に係る特許出願の場合には,当該特許出願の全体を一体不可分のものとして拒絶査定すると解するほかないから,一つの特許出願に複数の請求項に係る発明が含まれている場合,そのうちのいずれか一つでも特許法29条等の規定に基づき特許をすることができないものであるときは,その特許出願全体を拒絶すべきことを規定しているものと解すべきである。 したがって,審決が,本件特許出願の本願発明12が特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができないものであるとして,他の補正前請求項1 を拒絶すべきことを規定しているものと解すべきである。 したがって,審決が,本件特許出願の本願発明12が特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができないものであるとして,他の補正前請求項1~11,13及び14について審理せず,理由を示さなかったことが違法ということはできない。 3 取消事由3に対し(1) 特許法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項は,「第17条の2第1項第2号又は第3号に掲げる場合において,願書に添付した明細書又は図面についてした補正(同項第2号に掲げる場合にあっては,第121条第1項の審判の請求前にしたものを除く。)が同条第3項から第5項までの規定に違反しているものと特許をすべき旨の査定の謄本の送達前に認められたときは,審査官は,決定をもってその補正を却下しなければならない。」と規定するところ,同法53条1項には,補正却下に先立って出願人に違法な補正事項を通知し反論又は補正の機会を与えなければならないとする別段の規定は存在しない。 したがって,特許法53条1項の規定に係る補正の却下は,事前に却下すべき旨の理由を事前に通知し補正の機会を与えることを必須の手続として伴うものではないと解されるから,本件補正による補正後の請求項7が特許法17条の2第3~5項のいずれかの規定に違反する補正事項を含むと判断された場合,直ちに補正却下の手続を行ったとしても,何ら違法となるものではない。 そもそも,補正をすることができる時期は,特許出願人が特許法50条による拒 - 20 -絶理由通知を受けた後は,①同条(159条2項(174条2項において準用する場合を含む。)及び163条2項において準用する場合を含む。)による拒絶理由通知を最初に受けた場合においてその通知で指定された期間内にするとき,②上記① (159条2項(174条2項において準用する場合を含む。)及び163条2項において準用する場合を含む。)による拒絶理由通知を最初に受けた場合においてその通知で指定された期間内にするとき,②上記①の拒絶理由通知を受けた後に更に拒絶理由通知を受けた場合に最後に受けた拒絶理由通知で指定された期間内にするとき,③拒絶査定不服審判の請求日から30日以内にするときに限られているところ,本件出願においては,平成17年1月5日付けで拒絶理由通知(乙1)がされているから,特許庁は,その後は,上記①~③の場合以外に特許出願人に対して補正の機会を与える法的義務はない。したがって,かかる点からみても,特許庁からの審尋(甲12)において補正却下の対象となる違法な補正事項を具体的に示し,かつ,適法な補正を行う特段の機会を与えるべき法的義務があったということはできない。 (2) 審尋はあくまで前置報告書の内容の一層の有効利用を主な目的とする性格のものであって,上記の別段の規定に相当するものではない。 (3) また,原告は,本件のように審尋が送付された案件については,回答書で補正案が提示されている場合は合議体が斟酌し補正の機会を与えるのが相当であると主張するが,回答書の補正案が審判合議体において常に考慮されるとは限らないというのが特許庁審判部における通常の運用であるから,この点においても原告の主張は失当である。 (4) なお,本件補正後の請求項7の医薬的組合せ組成物は,本件補正前請求項12の「固定された」ものである旨の規定が存在しないから,この点で補正前請求項12を限定的に減縮したものとは言えないことが明らかである一方,本件補正後の請求項7の従属項として請求項8が新たに設けられており,本件補正に係る手続補正書(甲8)において,当該請求項8には「固定された 2を限定的に減縮したものとは言えないことが明らかである一方,本件補正後の請求項7の従属項として請求項8が新たに設けられており,本件補正に係る手続補正書(甲8)において,当該請求項8には「固定された組合せ形態にある」との限定が敢えて下線を付してなされている。このような事実に鑑みると,原告は,本件補正当時,本件補正前の請求項12を限定的減縮するものでない独立請求項7を意図的に設けることを意識していたというべきであり,本件補正後の請求項7にお - 21 -いて「固定された」旨の限定がないことが審決で指摘されたとしても,そのような指摘が原告にとって「不意打ち」的なものであったとは考えられず,これに関する指摘が事前に審尋中でなされることなく補正却下されたからといって,原告にとり許容できる範囲を超えて酷であったということはないというべきである。 4 取消事由4に対し(1) 本願発明12の「『固定された』医薬的組合せ組成物」の解釈ア本願発明12に規定される「固定された」との文言について本願明細書の発明の詳細な説明で記載されているのは,段落【0029】においてのみである。 イ一般に,固定とは,「ひと所に定まって移動しないこと,または,動かないようにすること」を意味する用語であるところ,「ひと所に定まって移動しないこと,または,動かないようにすること」は,例えば一つの錠剤中に成分(i)及び(ii)からなる成分を配合する場合のように,両成分(i)~(ii)間の物理学上の相対的位置関係を不動とするといったことではなく,成分(i),(ii)の組合わせ形態における状態を一定にすること(あるいは不変とすること)を意味すると解される。 ウ医薬分野における「固定された組合せ」(「fixedcombination」)について i)の組合わせ形態における状態を一定にすること(あるいは不変とすること)を意味すると解される。 ウ医薬分野における「固定された組合せ」(「fixedcombination」)について検討するに,本件出願優先日当時公知の刊行物ではないが,文献(乙2の1・2,3の1・2)には「有効成分,たとえば式Ⅰの化合物と共同薬が双方とも単一のものまたは単一の用量の形態で同時に患者に投与されることを意味する。」,「複数活性成分,例えば,式Ⅰの化合物および併用薬剤が一つの物または投薬量の形態で両方とも同時に患者へと投与されることを意味する。」と記載され,「固定されていない」組み合わせのものとは,二種の化合物成分が個別のものとして投与されるもののことをいうものとされており,このことは,その裏返しとして「固定された組合わせ」が,医薬分野において,複数の成分が別々ではなく単一のもの又は単一の用量として患者に投与されることを意味することを示している。 そうすると,本願発明12の「固定された」組み合わせが成分(i),(ii)を - 22 -「一つの組合わせ単位投与形で一緒に」(すなわち,成分(i)及び(ii)を個別のものとしてではなく一緒に)した一定の状態のものであるとの審決の解釈は,医薬分野における通常の理解と何ら矛盾するものではない。 よって,審決における本願発明12の「『固定された』医薬的組合せ組成物」の解釈に誤りはない。 (2) 引用発明の懸濁液に関する認定・判断につきア引用例におけるラットに対する薬剤の経口投与方法としては,ゾンデ法が採用されたと考えるのが自然である。その場合,①バルサルタンとニフェジピンの懸濁液を別個に調整し,当該二懸濁液を連続投与する方法(強制経口投与を連続して2回行う。),②両成分を単一の懸濁液に共存 が採用されたと考えるのが自然である。その場合,①バルサルタンとニフェジピンの懸濁液を別個に調整し,当該二懸濁液を連続投与する方法(強制経口投与を連続して2回行う。),②両成分を単一の懸濁液に共存させ,当該単一の懸濁液を経口投与する(強制経口投与を1回行う。)方法が考えられるが,ラットへの強制的懸濁液注入の際,ラットが通常従順でないことを考慮すれば,わざわざ二薬を個別の懸濁液の状態で調整しそれらを2回にわたって連続的に強制投与することを繰り返す①の方法より,両者を混合して1回で強制投与措置をすませられる②の方法の方が遙かに煩雑さなく,強制投与の際の人為的なミスが生じにくいことは明らかである。 したがって,当業者であれば,②の方法を採用することは明らかである。 イ引用発明の懸濁液は,単回投与群では「バルサルタン3mg/kg とニフェジピン1mg/kg」,すなわちバルサルタン,ニフェジピン共に適用対象単位体重あたり一定の用量(「バルサルタン3mg/kg とニフェジピン1mg/kg」)含むものであって,しかも当該懸濁液を「4ml/kg」なる適用対象ラット毎に定まる一定の液量(この一定液量の懸濁液自体,単位用量として物理的に独立した「単位投与形」である)で単回経口投与したことが明記されているのであるから,当該単回投与群の懸濁液は,バルサルタン及びニフェジピンの含有割合や投与量において変動など全く伴っていない,つまり「固定された」単位投与形態のものである。また,28日連続投与群においても,毎日投与される懸濁液は「バルサルタン3mg/kg/day とニフェジピン1mg/kg/day」であって一定であるし,毎日の投与において懸濁液の総用量を - 23 -4ml/kg から特段変動させていないのであるから,やはりバルサルタン及びニフェジピン ニフェジピン1mg/kg/day」であって一定であるし,毎日の投与において懸濁液の総用量を - 23 -4ml/kg から特段変動させていないのであるから,やはりバルサルタン及びニフェジピンの含有割合,並びに懸濁液の毎日の投与量において変動などない,「固定された」単位投与形態のものであることは明らかである。 なお,甲27には,「・・・錠剤,・・・滅菌非経口水剤もしくは懸濁剤および経口水剤もしくは懸濁剤,ならびに油/水エマルジョンなどの単位投与形で提供される。・・・」(52頁1行~3行。)と記載されているし,その他,「単位投与形」あるいは「単位投与形態」の例として懸濁液が挙げられることは,例えば文献(乙4~7)の記載にみられるとおり本願優先日当時当業者にとり技術常識といえ(乙4の11頁3行~7行,乙5の9頁左上欄7行~13行,乙6の6頁左上欄5行~7行,乙7の5頁右下欄下から4行~6頁左上欄1行),引用発明のような懸濁液もまた「単位投与形」に該当するものであることは,このことによっても裏付けられている。 さらに,本願明細書の段落【0029】にいう「固定された組合わせ」(「fixedcombination」)の形態をとる医薬組成物として懸濁液状のもの(suspensions)が挙げられることも,文献(乙8の1・2)の記載にみられるとおり,本件優先日当時において当業者にとり周知であり(乙8の1の2頁2欄29行~31行,乙8の2の2欄22行~25行),引用発明のような懸濁液もまた「固定された」二成分の医薬的組合せ組成物といえることは,このことからも明確に裏付けられている。 よって,引用発明に係る懸濁液が「『固定された』医薬的組合せ組成物」であって,本願発明12のそれと区別し得ないとした審決の認定・判断に誤りはない。 ウ仮に ことからも明確に裏付けられている。 よって,引用発明に係る懸濁液が「『固定された』医薬的組合せ組成物」であって,本願発明12のそれと区別し得ないとした審決の認定・判断に誤りはない。 ウ仮に,引用例の懸濁液として前記①の方法(二懸濁液)が採用されていたとしても,②の方法(単一懸濁液)とその薬理効果に実質的な差異はない。そうすると,引用例は①の方法で実験を行っていたとしても,当業者は②の方法を引用例から把握するから,審決の結論に影響を及ぼすものではない。 (3) 原告主張に対する個別的反論ア原告は,本願明細書の段落【0034】を引用しつつ,ここでいう「単 - 24 -位投与形」が段落【0034】に例示される錠剤に代表されるものであって,引用発明のような懸濁液は「単位投与形」にはあたらない旨主張している。 しかし,本件補正前請求項12には,同項に係る医薬的組合せ組成物が錠剤の単位投与形態をとるものである旨の限定は認められないし,同組合せ組成物が懸濁液の形態を含まない旨の特段の規定も認められない。また,段落【0034】は「・・・経腸または非経腸投与のための本発明の医薬製剤は,例えば,糖衣錠,錠剤,カプセルまたは坐薬,および更にアンプルのような単位投与形のものである。・・・」といった例示的な記載がなされているにすぎず,このような記載をもって,本願発明12に係る医薬的組合せ組成物が錠剤であるとか懸濁液でないとかいったような,特定の形態のものに限定して解釈される根拠とすることはできない。さらに,ここで錠剤等と共に並記して例示されている「アンプル」とは,薬液などを密封した容器のことであって(乙9),このような液体状のものが内封されている形態のものも本願明細書において「単位投与形」として扱われていることからみても,本願発明 いる「アンプル」とは,薬液などを密封した容器のことであって(乙9),このような液体状のものが内封されている形態のものも本願明細書において「単位投与形」として扱われていることからみても,本願発明12において意図されている「単位投与形」があたかも事実上錠剤に限定されるものであると解釈しているかのような原告の主張は誤りである。 また,「単位投与形」あるいは「単位投与形態」の例として懸濁液が挙げられることは本件優先日当時当業者にとり技術常識といえるほどよく知られていたことであったことは前記のとおりであるから,本件出願において「単位投与形」とは,錠剤に代表される単位用量,すなわち患者に投与されるべき量の医薬がひとまとまりにされた製剤であることが理解されるとの原告主張は誤りである。 なお,原告は,「単位投与形」あるいは「単位投与形態」とは「処置対象に対する単位用量として適した物理的に分離した単位」であると定義づけているが,本願明細書中には「単位投与形」について明確に定義づけている記載箇所がないことから,本件補正前請求項12がとり得る「単位投与形」が,原告の主張する上記定義のものと合致する形態のものであるとは直ちには認められない。仮に合致するとしても,当該「単位投与形」はあくまで投与時の形態のものを指すことは明らかであって, - 25 -調製時期については何ら特段の条件を伴うものでないことから,引用発明の懸濁液が投与直前に調製されたものであるから「単位投与形」ではない,としているかのような原告の主張には理由がない。また,上記定義でいう「単位用量として適した物理的に分離した単位」を構成しているか否かということと,原告が挙げている成分の分離・沈降や安全性等とは,互いに直接の関連性を見出せない全く異なる性質であって,原告が引用発明の懸濁液が具備し 適した物理的に分離した単位」を構成しているか否かということと,原告が挙げている成分の分離・沈降や安全性等とは,互いに直接の関連性を見出せない全く異なる性質であって,原告が引用発明の懸濁液が具備していないと主張する分布の均一性,経時的な成分の分離・沈降,成分の安定性,安定な保管・流通可能性といったような,投与時以外に評価される諸物性においてまで一定以上優れていることをも「単位投与形」の要件とするものであるとは到底考えられない。そもそも,本件補正前請求項12において,組合せ組成物がとり得る単位投与形が,投与直前に調製されてなるものでないこと,及び,上記の諸物性において一定以上優れたものであることについて,本願明細書で明確に定義づけられているわけでもない。 イ 「『固定された』医薬的組合せ」の解釈「固定された医薬的組合せ」形態について,「固定」とは「動かないようにすること」を意味することを前提とすることは,被告として特段の異議を唱えるものではない。 しかし,原告は,引用発明の懸濁液が「動かないように」「固定」されたものではないから本件補正前請求項12の「固定された」組合せ形態に該当しないと主張している。これはあたかも,「固定された」形態とは,一つの錠剤中に成分(i)及び(ii)からなる成分を配合する場合のような,成分(i)~(ii)間の物理学上の相対的位置関係が不動(或いは不変)である形態に限定されるものとの解釈に基づくかのようであるが,前記のとおり,引用発明の懸濁液が「単位投与形」に該当し,かつ「動かない」,すなわち「固定された」,組合わせ形態のものであることは明らかであるから,原告の上記主張は誤りである。 また,引用発明に係る懸濁液が一定濃度のバルサルタン及びニフェジピンを含むものであって,両成分の含有量を変動させるこ 組合わせ形態のものであることは明らかであるから,原告の上記主張は誤りである。 また,引用発明に係る懸濁液が一定濃度のバルサルタン及びニフェジピンを含むものであって,両成分の含有量を変動させることなく常に一定量で投与される「固 - 26 -定された」単位投与形態の組合せに係るものであることは,前記のとおり明らかなことであるにもかかわらず,引用発明の懸濁液が各成分の投与量を変動させ得るものであるから「固定された」ものではないも失当である。 (4) 本願発明12の進歩性につき審決は本願発明12の進歩性については判断していないので,審決で進歩性について判断しなかったことが違法であるということはできない。以下,念のため,原告が主張する点につき反論する。 前記のとおり,引用例において本件補正前請求項12に係る発明が引用例に記載された発明と同一であり,特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができないものであるとした審決の判断に誤りはない。 なお,引用例に具体的に記載されている単位投与形の医薬的組合せ組成物は懸濁液のみであるが,懸濁液以外にも引用例に記載されたバルサルタン及びニフェジピンの併用時の用量に関する記載を踏まえつつ,必要に応じ懸濁液以外の周知の剤形あるいは投与単位形,例えば錠剤やカプセル剤等の他の周知の形態を採用してなる組合せ組成物とすることは,当業者にとり適宜なし得た設計変更の域を出るものではない。そして,特定の「固定された」組合せ形態とすることによる顕著な効果も見出せない。 したがって,本願補正前発明12は,周知技術を勘案し,引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものでもある。 (5) 顕著な効果の有無 技術を勘案し,引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものでもある。 (5) 顕著な効果の有無につき原告は,本願発明12に係る「固定された医薬的組合せ組成物」の実施品である「エックスフォージ(R)配合錠」は,コンプライアンス(服薬指示の遵守)の向上並びに冠心疾患,心筋梗塞罹患及び脳卒中罹患率減少に関して,予想できない顕著な効果を奏するものであり,このような顕著な効果により,本願発明12が進歩性を有することは明らかであると主張する。 - 27 -しかし,引用例には「高血圧の維持機構には多くの因子が関与し,降圧剤はこれらの特定の因子を抑制することによって降圧をもたらし,作用機序の異なる降圧剤を併用すればおのおのの少量の投与でも降圧効果が期待でき,副作用が現れにくくなるという利点があること」(89頁右欄~90頁左欄)が記載されているので,本願発明12が顕著な効果を奏することは予想し得ることである。 また,「エックスフォージ(R)配合錠」は,本願発明12に係る「固定された医薬的組合せ組成物」に含まれる含有成分,配合割合及び製造方法等が特定された特定の一錠剤の例にすぎない。 そして,仮にそのような特定の一錠剤の例がコンプライアンスの向上,もしくは,冠心疾患,心筋梗塞罹患及び脳卒中罹患率の減少において顕著な効果を奏し得るものであるとしても,そのような効果が本件補正前請求項12に包含されるあらゆる「固定された医薬的組合せ組成物」の態様において同様に奏されるものとは考えられない。 加えて,原告が証拠(甲34)のデータを引用して主張するコンプライアンスの向上は明細書に記載されていない作用効果であり,原告のかかる主張は明細書の記載 いて同様に奏されるものとは考えられない。 加えて,原告が証拠(甲34)のデータを引用して主張するコンプライアンスの向上は明細書に記載されていない作用効果であり,原告のかかる主張は明細書の記載に基づくものではないから,原告の主張は失当である。 なお,複数の有効成分からなる錠剤は周知であるから,異なる2種の薬剤を服用するに際し,当該2種の薬剤を各々別個の剤形のものとするより,両者を共に単一剤形中に配合せしめ,かつ,より小型化した剤形として使用に供することで,服用時の手間もかからず服用自体も容易化するといった程度のことは,当業者にとり適宜なし得た設計事項にすぎないから,引用例の記載に基づき,バルサルタン及びアムロジピンを併用する際,両者を併せて配合してなる「エックスフォージ(R)配合錠」のような比較的小型の錠剤として使用に供することは,当業者にとり容易になし得たことであるともいえる。 (6) 補正後発明6の進歩性につきア小括 - 28 -審決における補正後発明6に相当する発明に対する特許性の判断内容は,本件手続補正の却下,並びに本願補正前発明12が引用例に記載された発明であって特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができない,との審決の結論に影響を及ぼすものではない。 なお,原告が挙げた「相違点3」~「相違点1」について,以下のとおり反論する。 イ相違点3につき前記のとおり,引用発明の懸濁液は補正前請求項12規定の「『固定された』医薬的組合せ組成物」に該当するから,相違点ではない。 ウ相違点2につき原告は,本件補正後請求項6の発明の作用効果について,証拠(甲18,37,38)記載の試験結果を引用し,その効果に顕著性があることを主張しているが,これらの証拠はいずれも本件優 相違点2につき原告は,本件補正後請求項6の発明の作用効果について,証拠(甲18,37,38)記載の試験結果を引用し,その効果に顕著性があることを主張しているが,これらの証拠はいずれも本件優先日後の刊行物であって,その記載内容が本願明細書中で具体的に裏付けられていたわけではない。 また,仮にアムロジピン(CCB)とバルサルタン(ARB)の併用が血圧の制御性・副作用の低減性において優れるという作用効果を奏するものであるとしても,そのような作用効果を踏まえた主張は明細書の記載に基づくものとはいえず,原告の主張は失当である。 さらに,上記証拠をみても,医薬用途を特に「糖尿病または糖尿病患者における高血圧の処置または予防のため,糖尿病性腎障害の進行の遅延のため,または糖尿病患者における蛋白尿の低減のため」としたことによる技術的意義を明確に示している箇所を見出せない。 エ相違点1につき原告は,引用例及び甲24のみからでは,バルサルタンに対しアムロジピンを組み合わせて用いることは想起し得なかったことを縷々主張するが,現実に甲24においてバルサルタン投与で血圧が十分下がらなかった患者に対しアムロジピンが実 - 29 -際に適用されており,またその結果,アムロジピン又はバルサルタンを単独投与した場合より浮腫等の副作用が軽減されたことが甲24中に具体的なデータと共に記載されていることから(abstract,TableIII),バルサルタン,アムロジピン共に降圧剤として既知のものであることや,引用例の「作用機序の異なる降圧剤を併用すればおのおの少量の投与でも降圧効果が期待でき,副作用が現れにくくなるという利点もある。」(90頁左欄5行~7行)との記載をも踏まえれば,引用例のバルサルタン及びニフェジピンの併用薬において,バルサ ばおのおの少量の投与でも降圧効果が期待でき,副作用が現れにくくなるという利点もある。」(90頁左欄5行~7行)との記載をも踏まえれば,引用例のバルサルタン及びニフェジピンの併用薬において,バルサルタンにかえてアムロジピンを用いることにより,バルサルタン投与では血圧降下が十分でない患者に対してもアムロジピンにより補完的な降圧効果が見込まれること,及び,浮腫などの副作用も軽減されるであろうことは,当業者にとり予測し得たことである。してみると,バルサルタン及びニフェジピンの併用は引用例及び甲24から十分に動機づけられていたということができ,よって,この点についての審決の判断(6頁5行~12行)に誤りはない。 (7)特許要件判断の遺脱につき前記のとおり,本件補正後の請求項について請求項ごとに補正の許否の判断をしなかったこと,及び補正後の請求項の特許要件を請求項ごとに判断しなかったことに誤りはない。したがって,審決で特許性を判断していない請求項が存在することに違法はない。 第5 当裁判所の判断 1 取消事由1(本件補正についての判断の違法)について平成14年法律第24号改正前の特許法17条1項,4項,17条の2第1項,53条1項,17条の2第4項,159条1項(以下において「改正前」というときはこの平成14年の改正前を指す。)は,手続をした者が補正をすることができることや補正が可能な時期等を定めるとともに,一定の要件がある場合は,補正を却下しなければならないとしているが,この規定に加え,補正は,特許請求の範囲の - 30 -ほか,明細書,図面についてもされるものであり,補正事項が請求項ごとに明確に区分されるものではない場合があって,このような場合も含めてどのような内容の補正とするかは出願人の意向次第であるから,補正内 ほか,明細書,図面についてもされるものであり,補正事項が請求項ごとに明確に区分されるものではない場合があって,このような場合も含めてどのような内容の補正とするかは出願人の意向次第であるから,補正内容によっては,請求項ごとに補正要件の有無を判断することができないことがあることにも鑑みれば,一つの手続補正書によりされた補正は,補正事項ごと,又は請求項ごとの補正としてその可否が審理され判断されるものではなく,特許請求の範囲の減縮が複数の請求項にわたっていても,補正は一体として扱われ,一部に補正要件違反がある場合は,その補正は全体として却下されるべきことを予定していると解するのが相当である。 本件補正のうち,請求項7に係る部分は,改正前17条の2第4項に掲げる事項のいずれをも目的とするものではないことは審決の判断するところであり,原告はこの判断の誤りを主張しない。審決において補正を却下すべきものとした理由は,本件補正後の請求項7についての補正が,改正前特許法17条の2第4項1~4号のいずれにも該当しないとの点にあるが,その理由の実質をみると,補正後の請求項7で規定する事項が,補正前の各請求項に記載した事項の範囲内におけるものではないから,減縮にも当たらないとの判断をしたものと理解することができる。このような理解を前提としてみれば,請求項7についての補正を含む本件補正を却下すべきものとした審決の判断はこれを支持することができる。 原告は,改善多項制の下においては,複数の請求項に係る特許出願については,各請求項に記載された発明ごとに特許要件を審査すべきであることを前提に,出願過程において複数の請求項に係る補正があった場合には,請求項ごとに補正の許否を判断すべきであると主張する。 この主張は,補正を一体として却下すべきものとの上記判断に必ず きであることを前提に,出願過程において複数の請求項に係る補正があった場合には,請求項ごとに補正の許否を判断すべきであると主張する。 この主張は,補正を一体として却下すべきものとの上記判断に必ずしも結び付くものではないが,平成14年改正の前後を通じての特許法49条,51条の文言などからすれば,特許法は,一つの特許出願に対し,一つの行政処分としての特許査定又は特許審決がされ,これに基づいて一つのまとまった特許が付与されるという基本構造を前提としているものと理解される。このような構造の理解に基づけば, - 31 -複数の請求項に係る特許出願であっても,特許出願の分割をしない限り,当該特許出願の全体を一体不可分のものとして特許査定又は拒絶査定をすることが予定され,一部の請求項に係る特許出願について特許査定をし,他の請求項に係る特許出願について拒絶査定をするというような可分的な取扱いをしないとの特許庁における一貫した実務の扱いも支持することができる。改善多項制は,一出願の下において複数の発明が出願された場合には,一体として特許登録がされるものの特許権は請求項ごとに成立することにしたものであるが,このことは,各請求項に記載された発明ごとに特許要件を審査することに必ずしも結び付くものではない。したがって,原告の上記主張は,当裁判所の採用するところではない。 以上のとおりであって,取消事由1は理由がない。 2 取消事由2(本件出願に係る発明についての特許要件判断の遺脱)について原告は,本件補正後の請求項については,請求項ごとに補正の許否を判断すべきであり,仮に,補正については全体を不可分一体のものとして補正の許否を判断するという取扱いが許されるとしても,その場合は補正前の請求項の全てについて個別に特許要件を満たすかどうかを判断しな 断すべきであり,仮に,補正については全体を不可分一体のものとして補正の許否を判断するという取扱いが許されるとしても,その場合は補正前の請求項の全てについて個別に特許要件を満たすかどうかを判断しなければならないのに,本件補正前の請求項12についてのみ特許要件の判断をした審決には判断遺脱の違法があると主張する。 まず,本件補正を一体のものとして扱った審決に誤りはないことは既に判断したとおりである。 また,複数の請求項に係る特許出願であっても,特許出願の分割をしない限り,当該特許出願の全体を一体不可分のものとして特許査定又は拒絶査定をする特許庁の実務を支持できることも前記のとおりである。したがって,本件補正前の請求項12についてのみ特許要件の判断をした上で,これに新規性がないことを理由に請求不成立とした審決に,原告主張の判断遺脱はない。 よって,原告の主張する取消事由2は採用することができない。 - 32 - 3 取消事由3(本件補正に関する手続上の違法)について原告は,審尋において,審判長が本件補正に不適法な点があることを原告に通知することは容易であったにもかかわらず,原告に対して本件補正につき何らの通知をせず,また,再度の手続補正の機会を与えないまま本件補正を却下したことには手続上の違法があると主張する。 しかし,補正却下について規定する改正前特許法159条1項が準用する同法53条1項は,補正却下に先立って出願人に違法な補正事項を通知し反論又は補正の機会を与えなければならないとする別段の規定は存在しない。したがって,この規定に係る補正の却下に際して,却下すべき旨の理由を事前に通知し補正の機会を与えることが必要とされるものではないと解されるから,本件補正による補正後の請求項7が改正前特許法17条の2第3~5項のいずれか に係る補正の却下に際して,却下すべき旨の理由を事前に通知し補正の機会を与えることが必要とされるものではないと解されるから,本件補正による補正後の請求項7が改正前特許法17条の2第3~5項のいずれかの規定に違反する補正事項を含むと判断された場合,原告主張の事前の手続なしに補正却下がされたとしても,違法となるものではなく,原告の主張する取消事由3は採用することができない。 4 取消理由4(本件出願に係る発明の内容の認定及び新規性・進歩性の判断を誤った違法)について(1) 本願明細書(甲3,5,59)によれば,本願明細書に記載されているのは,AT1レセプターアンタゴニストであるバルサルタンとカルシウムチャンネルブロッカー(CCB)という公知の2種の医薬を組み合わせて使用するというものであり,これら2種の医薬を組み合わせて使用することにより,相乗的治療効果だけでなく,効果の驚くべき延長及び治療的処置のより広い種類のような,組合せ処置により得られる更なる利点をもたらすこと(段落【0012】),組み合わせる個々の医薬の少ない用量が,例えば,少なくするだけでなく,適用頻度も少なくするために必要な用量の減少に使用でき,または副作用の発症の低下に使用できること(段落【0014】)が記載されている。 - 33 -(2) 引用例(甲23)には,10週齢の自然発症高血圧ラットを使用して,valsartan(バルサルタン)単独及び他薬との併用単回投与,及び28日間連続投与による収縮期血圧測定という複数の実験を行ったこと,いずれの実験においても,nifedipine(ニフェジピン)併用群として,一日一回あたり,バルサルタン3mg/kgとニフェジピン1mg/kg を併用し経口投与を行ったこと,薬物は投与直前に0.5%carboxymethylce dipine(ニフェジピン)併用群として,一日一回あたり,バルサルタン3mg/kgとニフェジピン1mg/kg を併用し経口投与を行ったこと,薬物は投与直前に0.5%carboxymethylcellulosesodium(カルボキシメチルセルロースナトリウム。CMC-Na)水溶液中に懸濁し,ラット1匹当たり懸濁液を4ml/kg の容量で投与したこと,実験の結果,バルサルタンとニフェジピンの併用投与した場合,連続投与では降圧作用が増強されることが記載されている。したがって,引用例には,バルサルタン3mg/kg とニフェジピン1mg/kg を自然発症高血圧ラットに併用投与(投与量は,4ml/kg であり,0.5%CMC-Naを溶媒として薬剤を懸濁させて投与する。)することにより,28日間連続投与した場合に降圧作用が増強されるという医薬に関する発明が記載されているということができる。 (3) 引用例の認定について原告は,審決が「引用発明は,経口投与される単一の懸濁液の中に,成分(i)および(ii)にあたるバルサルタンとニフェジピンが混在しているものであり,経口投与剤として一緒に投与されるものである。」(5頁10行~13行)と認定したことにつき,引用例に接した当業者は,バルサルタンとニフェジピンはそれぞれ別個の懸濁液として投与されたと通常理解するから,引用発明は,「連続して経口投与されるために,バルサルタンとニフェジピンを,それぞれ別個の懸濁液の中に懸濁されたもの」であり,単なる併用実験であると認定されるべきであると主張し,その根拠として,2種の薬剤を同一の懸濁液に懸濁し,一度に注入投与する方法だと薬剤間の相互作用,溶解度変化等の不測の事態が生じ得ることや,ラットに投与する懸濁液の量とラットに強制的に経口的に注入するための注射器 て,2種の薬剤を同一の懸濁液に懸濁し,一度に注入投与する方法だと薬剤間の相互作用,溶解度変化等の不測の事態が生じ得ることや,ラットに投与する懸濁液の量とラットに強制的に経口的に注入するための注射器の容量をあげる。 しかし,原告が援用する川崎医科大学のA主任教授の意見書(甲43)にも,引用例には懸濁液の投与方法に関し①2種の薬剤の懸濁液を別個に用意し,2回に分 - 34 -けて連続して注入投与したのか,②2種の薬剤を同一の懸濁液に溶解し,一度に注入投与したのか記載されていないが,どちらの方法であっても引用例に記載された研究の目的を達成する上では全く相違しない,どちらであっても研究の価値は全く損なわれない旨の記載(10頁26行~32行)がある上,本願明細書には2種の薬剤を同一の懸濁液に懸濁し,一度に注入投与する場合の薬剤間の相互作用,溶解度変化等については記載がなく,両者を技術的意義の異なるものとして扱っていない。 また,注射器の容量については,実験対象のラットの体重と投与する薬剤の量からすれば,計量の正確性の見地から1ml 規格の注射器を使用することが望ましいとしても,上記のとおり,①②のいずれの方法であっても引用例に記載された実験の目的を達成する上では相違がないことからすれば,注射器の規格(投与する薬剤の計量の正確性)を根拠として,引用例の記載された発明として,上記②の方法は排除され,①の方法に限られるとすることはできないというべきである。 そうすると,経口投与される単一の懸濁液の中に,バルサルタンとニフェジピンが混在しているとした審決の認定に誤りはない。 (4) 本願発明12における「固定された」の意義本件補正前の請求項12の「固定された」という用語は,出願時において特定の事項を意味する技術用語として本願発明の た審決の認定に誤りはない。 (4) 本願発明12における「固定された」の意義本件補正前の請求項12の「固定された」という用語は,出願時において特定の事項を意味する技術用語として本願発明の技術分野で当業者が使用する用語ではなく,また,本願明細書において何らかの定義がなされているものでもない。 そこで,まず,本願明細書に記載された事項を検討するに,前記のとおり,本願明細書には,AT1レセプターアンタゴニストであるバルサルタンとカルシウムチャンネルブロッカー(CCB)という公知の2種の医薬を組み合わせて使用することが技術内容として記載されている。そして,本願明細書には,これら2種の医薬を組み合わせて使用する効果として,「相乗的治療効果だけでなく,効果の驚くべき延長および治療的処置のより広い種類のような,組合わせ処置により得られる更なる利点をもたら」すこと(段落【0012】),及び,「更なる利点は,本発明に従って - 35 -組合わせる個々の医薬の少ない用量が,例えば,少なくするだけでなく,適用頻度もすくなくするために必要な用量の減少に使用でき,または副作用の発症の低下に使用できる」こと(段落【0014】)が記載されている。 本願明細書に記載されている事項が公知の2種の医薬を組み合わせて使用することをその技術内容とする点については,本件補正前及び本件補正後のいずれにおいても,2種の医薬を組み合わせた組成物についての発明が特許を受けようとする発明として特許請求の範囲に記載されていることからも理解できる。すなわち,本件補正前においては,請求項1~8で,バルサルタン及びカルシウムチャンネルブロッカーの医薬的組合せ組成物を,糖尿病又は糖尿病患者における高血圧の処置又は予防,糖尿病性腎障害の進行の遅延又は糖尿病患者における蛋白尿の低減 請求項1~8で,バルサルタン及びカルシウムチャンネルブロッカーの医薬的組合せ組成物を,糖尿病又は糖尿病患者における高血圧の処置又は予防,糖尿病性腎障害の進行の遅延又は糖尿病患者における蛋白尿の低減に使用する発明を特許請求し,請求項9~11で,バルサルタン及び非DHPから選択されるカルシウムチャンネルブロッカーを含む医薬的組合せ組成物を特許請求し,請求項12~14で,バルサルタン及びカルシウムチャンネルブロッカーを含む固定された医薬的組合せ組成物を特許請求しており,いずれの発明においても,有効成分はバルサルタン及びカルシウムチャンネルブロッカーという2種の医薬の組合せである(甲5)。また,本件補正後においても,請求項1~6で,バルサルタン及びアムロジピンの医薬的組合せ組成物を,糖尿病又は糖尿病患者における高血圧の処置又は予防,糖尿病性腎障害の進行の遅延又は糖尿病患者における蛋白尿の低減に使用する発明を特許請求し,請求項7~10で,バルサルタン及びアムロジピンを含む医薬的組合せ組成物を特許請求しており,いずれの発明においても,有効成分はバルサルタン及びアムロジピンという2種の医薬を組み合わせた組成物である(甲8)。 そして,医薬は,適用量が少ないと目的とする効能が得られなかったり,過剰に使用した場合,所期の効能よりも副作用の方が増大する場合があることは広く知られており,その使用にあたっては用量が定められている。すなわち,医薬にはその使用にあたり最適な量が存在するところ,前記のとおり,本願明細書には,2種の - 36 -医薬を組み合わせて使用することが記載されていることから,医薬を組み合わせて使用することによる効果の発現にあたっては,組合せ医薬中の2種の医薬の配合量や配合割合(配合比)にも適切な値が存在するということができる。このよ 用することが記載されていることから,医薬を組み合わせて使用することによる効果の発現にあたっては,組合せ医薬中の2種の医薬の配合量や配合割合(配合比)にも適切な値が存在するということができる。このように,2種の医薬を組み合わせて使用する場合においては,個々の医薬の配合量や2種の医薬の配合割合が,その発明の実施にあたり重要な技術的要素となるから,本願明細書に記載された技術内容を特許請求の範囲に技術思想として表現しようとした場合において,「医薬的組合せ組成物」を「固定された」なる一義的に明らかでない用語で特定しようとするときのその「固定された」とは,個々の医薬の配合量や2種の医薬の配合割合が特定の数値(又は数値範囲)に固定されていることを意味するものということはできても,これを超えて,2種の医薬が別個に存在したとして,これを2回に分けて逐次投与するのか,それとも,2種の医薬を混合して1回で投与するのかの限定が規定されたものと解することはできない。 (5) 本願発明12と引用発明の対比・判断ニフェジピンはカルシウムチャンネルブロッカーの一種である。また,例えば,特開平2-191号公報(乙7)に「本発明によれば,用語『薬理学的に許容されうる不活性な坦体または希釈剤』は活性成分と混合するとき,投与をいっそう適当とする無毒の物質である。経口的投与に意図する組成物は,・・・ナトリウムカルボキシメチルセルロース,・・・のような坦体または希釈剤を包含する。」(6頁右上欄12行~左下欄4行)と記載されているように,CMC-Naが医薬的に許容される担体の一種であることは,周知の事項である。そして,前記のとおり,引用発明は,ラットの体重1kg 当たり,バルサルタン3mg 及びニフェジピン1mg を併用投与する医薬なので,バルサルタンとニフェジピンを分離し あることは,周知の事項である。そして,前記のとおり,引用発明は,ラットの体重1kg 当たり,バルサルタン3mg 及びニフェジピン1mg を併用投与する医薬なので,バルサルタンとニフェジピンを分離したまま順次投与したか,バルサルタンとニフェジピンを混合させて1回で投与したかにかかわらず,組成物中のバルサルタン及びニフェジピンの配合量並びにこれら薬剤の配合比が本件補正前請求項12で規定する「固定され」ている医薬組成物ということができる。すなわち,引用発明は,バルサルタンとカルシウムチャンネルブロッカーを医薬的に許容され - 37 -る担体とともに含み,前記(4)で認定した意味にとどまる趣旨での固定された医薬的組合せ組成物である。 そうすると,本願発明12と引用発明は,バルサルタン及びカルシウムチャンネルブロッカー(引用発明においてはニフェジピン)を医薬的に許容される坦体(引用発明においてはCMC-Na)とともに含む医薬的組合せ組成物であって,個々の医薬の配合量や2種の医薬の配合割合が特定の数値(又は数値範囲)が固定された(引用発明においてはバルサルタンをラットの体重1kg 当たり3mg 及びニフェジピンをラットの体重1kg 当たり1mg 含有するよう固定され,かつ,バルサルタンとニフェジピンの配合比が3:1に固定された)医薬的組合せ組成物で一致し,両者に相違点はない。 したがって,本願発明12と引用発明が同一であるとした審決の判断に誤りはない。 (6) 原告の主張についてア原告は,単位投与形とは「処置対象に対する単位用量として適した物理的に分離した単位」という意味内容の確立した用語であって(甲27~30),治療効果を生じるように計算された「所定量の」成分が錠剤や容器などに「封入」されているものであり,「固定された組 て適した物理的に分離した単位」という意味内容の確立した用語であって(甲27~30),治療効果を生じるように計算された「所定量の」成分が錠剤や容器などに「封入」されているものであり,「固定された組合せ」とは,「一つの組み合わせ単位投与形で一緒に」投与される場合について,単に一緒に投与されるだけでなく,さらに,2成分の組合せが固定された単位投与形として一緒に投与されるというものをいい,「固定された医薬的組合わせ」とは,「単位投与形」の一態様であって,投与されるべき量の2成分の組合せが動かないように,ひとまとまりの製剤にされた形態という意味と解すべきと主張する。 イしかし,「単位投与形」とは,例えば,特表平6-501024号公報(乙5)に「経口施薬のための単位投与形態例えばシロップ,エリキシル,及び懸濁液(この場合,各投与単位例えば茶さじ一杯,テーブルスプーン一杯は,本発明において用いられるインドールカルバゾール化合物の予め決定された量を含む)は,薬 - 38 -学的に許容され得る担体例えば注射用無菌水,USPによるもの,又は通常の食塩水によるものであってよい。」(9頁左上欄7行~13行)と記載されているように,液剤にあっては,「茶さじ一杯」,「テーブルスプーン一杯」という所定量の成分が計量された状態で物理的に分離されている液剤までも意味するものであり,この物理的に分離された液剤は,必ずしも,容器などに封入されている必要はない(すなわち,茶さじ一杯の液剤がひとまとまりの製剤という形態を有する必要はない)と解するのが相当である。 なお,原告は,「単位投与形」の要件として「封入」が必要であると主張し,甲27~30をその根拠とするが,これら甲号証のほか乙4~7の各種文献のいずれにも,「単位投与形」を容器への「封入」を要件とし なお,原告は,「単位投与形」の要件として「封入」が必要であると主張し,甲27~30をその根拠とするが,これら甲号証のほか乙4~7の各種文献のいずれにも,「単位投与形」を容器への「封入」を要件として説明するものは存在しない。甲27(特表2002-505874号公報)には,原告が援用するように,「本明細書で使用される単位投与形とはヒトおよび動物被験体に好適な物理的に分離した単位を指し,当技術分野で公知のようにして個々に封入される。」との記載があるが,ここでいう「単位投与形」との用語を,「所定量の」成分が容器などに「封入」されたものしているのは,そこにも記載されているように,甲27の明細書に特有の定義付けによるものであって,これが,当業者に広く使われている事項を指すものということはできない。また,液剤においては,前記のとおり,「茶さじ一杯」,「テーブルスプーン一杯」という所定量の成分が計量された状態で物理的に分離されているものを含むと解されることは,乙5(特表平6-501024号公報)の他にも,乙4(特表平9-508382号公報)に「シロップ剤,エリキシル剤,および懸濁液剤などの経口投与用流動性単位投与形態」,乙6(特表平5-503721号公報)に「エリキシル,シロップ,及び懸濁液のような液体の単位投与形態」,乙7(特開平2-191号公報)に「固体および液体の経口単位投与形態,例えば,錠剤,……および懸濁液……を包含する。」と,液体の製剤を単位投与形の1種として列記しており,これら液剤について単位投与形という場合に,必ず,所定量の成分が計量された状態でアンプルなどの気密容器に封入されていると解することは不自然で - 39 -ある。 よって,「単位投与形」に関する原告の上記主張は採用することができない。 ウまた,原告は,本願 状態でアンプルなどの気密容器に封入されていると解することは不自然で - 39 -ある。 よって,「単位投与形」に関する原告の上記主張は採用することができない。 ウまた,原告は,本願明細書の段落【0029】を根拠に,「固定された医薬的組合わせ」とは,「単位投与形」の一態様であると主張する。 しかし,本願発明における「固定された」の意義は前記のとおりであって,「固定された医薬的組合せ」と「単位投与形」は,それぞれ,医薬を異なる観点で特定する概念であり,「固定された医薬的組合せ」であっても必ずしも「単位投与形」に含まれないもの(例えば,「テーブルスプーン一杯」を計量する前の組合せ組成物)が存在する。また,本件補正前の請求項12には「単位投与形」なる技術思想は明記されていない。そうしてみると,本願明細書の段落【0029】に「単位投与形はまた固定された組合せであり得る。」との記載があるとしても,この記載をもって,「固定された医薬的組合せ」とは,投与されるべき量の2成分の組合せが動かないようにひとまとまりの製剤にされた形態の意であると解することはできない。原告の上記主張は採用することができない。 第6 結論以上によれば,原告主張の取消事由は全て理由がない(当裁判所の判断によれば,補正後発明6の進歩性についての原告の主張を判断する必要はない。)。 よって原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官塩月秀平 - 40 - 裁判官真辺 塩月秀平 裁判官真辺朋子 裁判官田邉

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