令和6(わ)116 殺人被告事件

裁判年月日・裁判所
令和7年1月29日 大分地方裁判所
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判決文本文3,453 文字)

令和7年1月29日宣告令和6年(わ)第116号殺人被告事件 主文 被告人を懲役5年に処する。 未決勾留日数中150日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、令和6年2月、実父であるA(以下「被害者」という。)と被害者方で同居するようになり、被害者から固定資産税の支払を催促されることなどについて、被害者が自分を経済的に殺そうとしているなどと邪推していたところ、同月下旬から同年3月2日にかけ、被害者との間で固定資産税の支払等をめぐって口論が重なったことから、被害者に対する怒りや憎しみが爆発し、精神的・経済的苦痛から解放されるためには被害者を殺害するしかないと考え、翌3日、大分市ab 丁目c 番d 号被害者方において、被害者(当時73歳)が寝付いたのを確認した上、殺意をもって、その頸部を両手及び事前に準備していたひもで絞めつけるなどし、よって、その頃、同所において、被害者を頸部圧迫による窒息により死亡させて殺害した。なお、被告人は、本件犯行当時、妄想型統合失調症等のため心神耗弱の状態にあった。 (争点に対する判断)第1 争点本件の争点は被告人の責任能力の有無・程度であり、検察官は心神耗弱の状態にとどまっていた旨主張するのに対し、弁護人は心神喪失の状態にあった疑いがある旨主張する。 第2 当裁判所の判断 1 捜査段階で精神鑑定を担当したB医師は、当公判廷において、本件犯行当時の被告人は妄想型統合失調症及びアスペルガー症候群にり患していたとした上で、 「被告人は、もともと争い事を好まない穏やかな性格であり、被害者を尊敬していたが、被害者に対する被害妄想や幻聴等が急性増悪し、人格も先鋭化した状態で本件犯行を行っていることから、当時、幻聴や被害妄想に強く影 は、もともと争い事を好まない穏やかな性格であり、被害者を尊敬していたが、被害者に対する被害妄想や幻聴等が急性増悪し、人格も先鋭化した状態で本件犯行を行っていることから、当時、幻聴や被害妄想に強く影響された状態にあった。本件は、前記被害妄想と自宅(被害者方を指す。)で生活を続けることへの危機感を抱き、精神的に追い込まれた被告人が、自らの生命や生活を守るために行った自己防衛的犯行と考える。他方、本件犯行の計画性や、犯行後、証拠隠滅を図るような自己防衛的行動を行っていることを考えると、犯行の意味・性質や違法性は不十分ながらも認識していた」旨の意見を示している。 B医師の公正さや能力に疑いはなく、この意見を採用し得ない合理的な事情は認められない。 2 そこで、B医師の前記意見を踏まえ、関係証拠によって認められる事実関係を前提に、被告人の責任能力の有無・程度につき検討する。 被告人は、遅くとも令和5年頃までに、姉や弟に意味不明な内容のメッセージを送信するなどしており、幻聴等が出現していた様子がうかがわれること、令和6年2月、被告人の精神状態を心配した被害者が、自宅で被告人と同居し始め、固定資産税の支払等を催促するようになると、被告人は、経済的に困窮する自分を被害者が経済的に殺そうとしているといった被害妄想を募らせていること、被告人は、もともと争い事を好まない穏やかな性格であり、被害者は尊敬の対象であったのに、同月下旬から同年3月2日にかけ、被害者との間で固定資産税の支払等をめぐって口論を重ねた挙げ句、被害者に対する怒りや憎しみが爆発し、精神的・経済的苦痛から解放されるためには被害者を殺害するしかないと考え、強固な殺意に基づく執ような殺害行為に及んでおり、本件犯行の様相がもともとの人格とは異質であることからすれば、本件犯行の動機形成や実行 済的苦痛から解放されるためには被害者を殺害するしかないと考え、強固な殺意に基づく執ような殺害行為に及んでおり、本件犯行の様相がもともとの人格とは異質であることからすれば、本件犯行の動機形成や実行には妄想型統合失調症等による精神症状が強く影響していたことは否定できない。 しかし、被告人は、同年2月、被害者との関係が悪化する中、弟に福岡県へ転地するための借金を申し出るなど、被害者から逃れるための殺害以外の方法を検討し ていたこと、本件犯行に至る経緯において、被害者と口論になって殺害することを考えた際、感情の赴くまま見境なく実行に及ぶわけではなく、その場で実行すれば被害者から抵抗を受けるおそれがあると判断して殺害を思いとどまっていたこと、本件犯行当日、殺害に使用するひもや被害者の首を絞める時間を測るための時計を事前に準備し、抵抗されないように被害者が寝付くのを待つなど、合目的的な行動をとる一方、犯行の直前やその最中、被害者がなかなか寝付かなければ実行を見送ろうと考えたり、被害者をかわいそうに思い、殺害をためらう心情も有していたりしたこと、犯行後、妄想型統合失調症等の影響により稚拙となった面があるにせよ、警察に捕まりたくないとの思いから、119番通報の前に救急隊からの質問に対する回答を準備する、事故死に見せかけるべく被害者の遺体を布団に寝かせる、警察官に虚偽の説明をするなどの犯行発覚を免れようとする行動をとり、119番通報の際にも特段問題なく会話できていたことからすれば、被害者を殺害するという自分の行為を悪いことと認識し、目的や周囲の状況等に応じてその行為を制御したり実際に行動に移そうとしたりしていたといえ、正常な精神機能が相応に残っていたと評価できる。 以上の諸事情を総合考慮すれば、被告人は、本件犯行当時、妄想型統合失調症等のた じてその行為を制御したり実際に行動に移そうとしたりしていたといえ、正常な精神機能が相応に残っていたと評価できる。 以上の諸事情を総合考慮すれば、被告人は、本件犯行当時、妄想型統合失調症等のため自分の行為がしてもよいことか悪いことかを判断する能力又はその判断に従って行動をコントロールする能力が著しく低下していたが、欠如する程度に達していたものではなく、心神耗弱の状態にあったと認定するのが相当である。 (量刑の理由)本件の犯行態様は、ひもと時計を事前に準備した上、被害者の寝込みを襲い、抵抗する被害者の首を両手とひもで絞めつけ、被害者が抵抗しなくなった後も時計で時間を測りながらひもで絞めつけ続けて、被害者を窒息死させるという重大な結果をもたらしたものであり、強固な殺意に基づく危険性の高い執ような犯行である。 被告人は、被害者が自分を経済的に殺そうとしているなどと邪推する中、被害者との口論によって怒りや憎しみが爆発し、精神的・経済的苦痛から解放されるために は被害者を殺害するしかないと考え、本件犯行に及んでいるところ、当時、妄想型統合失調症等のため心神耗弱の状態にあり、犯行の動機形成や態様にはその精神症状が強く影響していたといえるが、同時に、正常な精神機能も残っていたことは前記のとおりであって、犯行を思いとどまることが相応に期待できたといえる以上、心神耗弱者であることをもって責任非難の程度を大幅に低下させるべきとまではいえない。 以上の諸事情に照らすと、本件は、検察官が主張する量刑傾向(心神耗弱者の親に対する殺人の単独犯で、量刑上考慮した前科がないもの)の中で、中程度からやや軽い部類に属する事案であり、かつ、当該量刑傾向の中で執行猶予が選択されている事案の多くは、動機が心中又は介護疲れのものであって、本件の犯情、特に責任非難 した前科がないもの)の中で、中程度からやや軽い部類に属する事案であり、かつ、当該量刑傾向の中で執行猶予が選択されている事案の多くは、動機が心中又は介護疲れのものであって、本件の犯情、特に責任非難の程度について、そのような事案と同等の評価をするのが困難であることからすれば、基本的に実刑を選択するのが相当な事案といえる。 その上で、被告人が本件犯行を認めて被害者に対する謝罪の言葉を口にしていること、弟が出廷して更生に協力する意思を示していることを考慮し(なお、被告人に前科がないとしても、そのこと自体は、前記の量刑傾向の下において、刑の量定を左右する事情ではない。)、主文の刑を量定した。 (求刑:懲役6年、弁護人の科刑意見:心神耗弱の場合は執行猶予)令和7年1月30日大分地方裁判所刑事部 裁判長裁判官辛島靖崇 裁判官北島聖也 裁判官山西健太

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