平成18年(ワ)第4328号損害賠償請求事件判決主文 原告らの請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由第1請求被告は,原告Aに対し7500万円,原告B,原告C及び原告Dに対しそれぞれ2500万円並びにこれらに対する平成14年6月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,被告が開設する被告病院の医師であったE医師が肺がんにより死亡したことにつき,被告病院の呼吸器科医師には,E医師が,職場における定期健康診断の一環として,平成14年及び平成15年に撮影された胸部X線写真の異常陰影を見落とした注意義務違反があるなどと主張し,E医師の相続人である原告らが,被告に対し,債務不履行又は不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償及び平成14年度の定期健康診断の日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 前提事実以下の事実は,当事者間に争いがないか,文末摘示の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる。 (1) 当事者アE医師は,昭和18年11月7日生まれの男性であり,被告病院に形成外科医長として勤務していた(甲C1,乙C1。 )イ原告Aは,E医師の妻であり,原告B,原告C及び原告Dは,いずれもE医師の子である(甲C1。 )ウ被告は,名古屋市a区b町c丁目d番e号において,被告病院を開設,運営している。 (2) 事実経過ア平成14年6月27日E医師は被告病院が実施した定期健康診断以,,(下「本件健康診断」という)の一環として,胸部X線検査を受検した。 。 なお,当該検査は,直接撮影(被写体を通過したX線が,一対の増感紙上に可視の蛍光像を作り,これが当該増感紙の間に挟まれたフィルムに直接写し出され 」という)の一環として,胸部X線検査を受検した。 。 なお,当該検査は,直接撮影(被写体を通過したX線が,一対の増感紙上に可視の蛍光像を作り,これが当該増感紙の間に挟まれたフィルムに直接写し出される撮影方法)の方法により行われた。 イ被告病院呼吸器科医長のF医師は,E医師の胸部X線写真(以下「14年写真」という)を含む平成14年度の本件健康診断で撮影された71。 6枚の胸部X線写真を,約2時間弱かけて読影した。 平成14年当時の被告病院における定期健康診断で撮影された胸部X線写真の読影方法は,写真を上段に4枚,下段に4枚の計8枚差し込み可能なシャウカステン1台(以下「シャウカステンA」という)と,写真を。 上段に6枚下段に6枚の計12枚差し込み可能なシャウカステン1台以,(下「シャウカステンB」という)が並べられた被告病院放射線科読影室。 において,①補助者(被告病院庶務係)がシャウカステンに写真を計20枚差し込む,②F医師がシャウカステンAの上段の写真を左から右に,下段の写真を左から右に読影し,次に,シャウカステンBの上段の写真を左から右に,下段の写真を左から右に読影し,異常と判断した写真は,F医師がシャウカステンから引き抜いて取り置く,③F医師がシャウカステンAの読影を終え,シャウカステンBの読影を行っている間に,補助者がシャウカステンAの写真の差し替えを行い,F医師がシャウカステンBの読影を終えて再びシャウカステンAの読影を行っている間に,補助者がシャウカステンBの写真の差し替えを行う,というものであった(乙A6の1及び2。 )F医師は,E医師の14年写真について,異常なしと判断し,被告病院は「健康診断票」によって,E医師にこれを通知した(甲A2。 ,)ウ平成15年6月5日,E医師は,本件健康診断の一環として,胸部X F医師は,E医師の14年写真について,異常なしと判断し,被告病院は「健康診断票」によって,E医師にこれを通知した(甲A2。 ,)ウ平成15年6月5日,E医師は,本件健康診断の一環として,胸部X線検査を受検した。当該検査も,直接撮影の方法により行われた。 エF医師は,E医師の胸部X線写真(以下「15年写真」という)を含。 む平成15年度の本件健康診断で撮影された707枚の胸部X線写真を,約2時間弱かけて読影した。 平成15年当時の被告病院における定期健康診断で撮影された胸部X線写真の読影方法も,平成14年当時のものと同様であった。 F医師は,E医師の15年写真について,異常なしと判断し,被告病院は「健康診断票」によって,E医師にこれを通知した(甲A2。 ,)オ平成16年6月22日,E医師は,本件健康診断の一環として,胸部X線検査を受検した。当該検査を担当した被告病院の技師が,撮影されたE医師の胸部X線写真(以下「16年写真」という)の右上肺野に異常陰。 影を発見したため,その旨E医師に伝え,16年写真を見せた。 被告病院において,E医師に対し,同日にCT検査が,同月24日には経気管支肺生検及びリンパ節の細胞診検査が実施され,E医師は,肺腺がんと診断された(甲A3,乙A1の6・21・23ないし26頁。 )カその後,E医師は,同月28日に抗がん剤治療のため被告病院に入院したのを皮切りに,抗がん剤治療,手術又は放射線治療のため,計10回被告病院に入院したが(最終退院日は平成18年8月11日,この間,入)院中の診察又は外来診察において,被告病院の医師らが勧めた治療又は検査を断ったり,被告病院の医師が服用に消極的であった抗がん剤(イレッサ錠)の服用を強く希望して服用したことがあった(乙A1の9ないし12・15・18・19頁,A2の8 病院の医師らが勧めた治療又は検査を断ったり,被告病院の医師が服用に消極的であった抗がん剤(イレッサ錠)の服用を強く希望して服用したことがあった(乙A1の9ないし12・15・18・19頁,A2の82・120・151・157・179・184・361・369・371・375・376・385頁。 )キ平成18年9月4日,E医師は,肺がんによる呼吸不全のため,満62歳で死亡した(甲A1,C1。 )ク平成16年度以降,被告病院は,本件健康診断で撮影された胸部X線写真の読影について,読影方法に変更はないものの,読影者を1名(放射線科部長)増員し,読影者ごとに2名の補助者が写真の差し替えを行うこととした。 (3) 医学的知見-肺がんの病期分類(甲B8の1,B9の2)肺がんの病期は,原発腫瘍の大きさ・進展度(T,リンパ節への転移の)有無(N,他臓器などへの遠隔転移の有無(M)の各因子によって,次の)ように,0期からⅣ期まで分類される(TNM分類。 )ア0期腫瘍が上皮内にとどまる(TisN0M0。 )イⅠA期腫瘍の最大径が3cm以下で,肺組織又は臓側胸膜に囲まれており,気管支鏡的にがん浸潤が主気管支に及んでいない(T1N0M0。 )ウⅠB期腫瘍が,①最大径が3cmを越えている,②主気管支に浸潤が及ぶが,腫瘍の中枢側が気管分枝部より2cm以上離れている,③臓側胸膜に浸潤がある,④肺門に及ぶ無気肺あるいは閉塞性肺炎があるが一側肺全体に及ばないもの,のいずれかを満たす(T2N0M0。 )エⅡA期原発腫瘍の大きさ・進展度はT1であるが,同側気管支周囲リンパ節,同側肺門リンパ節,肺内リンパ節への転移がある(T1N1M0。 )オⅡB期(以下の状態のいずれか)原発腫瘍の大きさ・進展度はT2であるが,リンパ節転移はN1である(T2N1 気管支周囲リンパ節,同側肺門リンパ節,肺内リンパ節への転移がある(T1N1M0。 )オⅡB期(以下の状態のいずれか)原発腫瘍の大きさ・進展度はT2であるが,リンパ節転移はN1である(T2N1M0。腫瘍が,①隣接臓器(胸膜,横隔膜,縦隔胸膜,壁側)心膜)のいずれかに直接浸潤している,②気管分枝部から2cm未満に及ぶが気管分枝部に浸潤がない,③無気肺あるいは閉塞性肺炎が一側肺全体に及ぶ,のいずれかを満たす(T3N0M0。 )カⅢA期(以下の状態のいずれか)原発腫瘍の大きさ・進展度はT1又はT2であるが,リンパ節転移は同側縦隔リンパ節,気管分枝部リンパ節に及ぶ(T1N2M0,T2N2M0。原発腫瘍の大きさ・進展度はT3であり,リンパ節転移はN1かN)2である(T3N1M0,T3N2M0。 )キⅢB期(以下の状態のいずれか)原発腫瘍の大きさ・進展度は関係なく,リンパ節転移が,対側縦隔リンパ節,対側肺門リンパ節,同側又は対側斜角筋前リンパ節,鎖骨上窩リンパ節に及ぶ(N3M0。腫瘍が,①縦隔,心臓,大血管,気管,食道,)椎体,気管分枝部に浸潤している,②同一肺葉内に存在する腫瘍結節,③悪性胸水を伴う,のいずれかを満たし,リンパ節転移は関係ないが,遠隔転移はない(T4M0。 )クⅣ期原発腫瘍の大きさ・進展度やリンパ節転移は関係なく,遠隔転移がある(M1。 ) 争点 (1) 14年写真及び15年写真の異常陰影を見落とし精密検査を指示しなかった注意義務違反の存否(2) 平成14年度及び平成15年度の本件健康診断において二重読影(2人の医師がおのおの独立して読影すること)を実施しなかった注意義務違反の存否(3) 因果関係の存否(4) 損害 争点に関する当事者の主張(1) 争点(1)(14年写真及び15年写真の異常陰 人の医師がおのおの独立して読影すること)を実施しなかった注意義務違反の存否(3) 因果関係の存否(4) 損害 争点に関する当事者の主張(1) 争点(1)(14年写真及び15年写真の異常陰影を見落とし精密検査を指示しなかった注意義務違反の存否)について(原告らの主張)ア(ア) 健康診断における胸部X線検査は,肺がんを始めとする呼吸器疾患のスクリーニング検査として必要不可欠である。肺腺がん等肺野に発生する肺がんについては,肺野には知覚神経が存在しないため,早期段階では自覚症状に乏しいことから,胸部X線検査は,特に肺野に発生する肺がんの発見に有効である。肺がんは,早期発見早期手術により,完治が期待できる。一方,進行した肺がんの場合は,手術が困難な上,手術,。 ,,をしても他のがんと比べて完治が困難であるしたがって肺がんは胸部X線検査によって早期に発見し,治療することが大きく予後を左右する。 (イ) 職場の定期健康診断において撮影された胸部X線写真を読影する医師には,当該写真上の異常陰影の有無を正しく読影し(読影の際には,特に鎖骨や肋骨など骨が重なる部分については,画像上の左右の濃度差に配慮するなどして,より注意して慎重に読影しなければならない,。)異常陰影が確認された受検者に対して,異常陰影の存在を指摘し,精密検査を受診するよう指導する義務がある。 そして,集団検診における読影医師の注意義務の程度が,訴えをもって受診した場合の胸部X線写真の読影の際に医師に課せられる注意義務の程度と異なることは争わないが,これがどの程度異なるかは,それぞれの検診によって個別に判断する必要がある。検診の種別や内容,仕組み等を一切捨象して,広く全国一律の「検診における胸部X線写真の読影における注意義務」を設定し,本件の読影がこの注 異なるかは,それぞれの検診によって個別に判断する必要がある。検診の種別や内容,仕組み等を一切捨象して,広く全国一律の「検診における胸部X線写真の読影における注意義務」を設定し,本件の読影がこの注意義務に違反したかどうかを検討することは妥当でない。 (ウ) 本件健康診断は,国家公務員法及び人事院規則10-4(職員の保健及び安全保持)に基づき実施されたものである「人事院規則10-。 4の運用について(通知」によれば,国家公務員の一般健康診断にお)いて,少なくとも40歳以上の受検者については,胸部X線検査が肺がんの発見をも目的にしていることは明らかである。 イ(ア) 14年写真には,右上肺野に22mm×17mmの結節影(3cm以下の辺縁が比較的明瞭な陰影)が認められる。陰影は右鎖骨と右第1・第4肋骨に重なっている位置にあるが,一部は第4肋骨の骨陰影から突出しており,その左右差は明らかである。 14年写真だけでは精査の必要性に疑問がある場合は,平成13年の本件健康診断において撮影された胸部X線写真と比較読影すれば,異常陰影の増大は明らかである。 ,。 (イ) 15年写真には右上肺野に30mm×24mmの結節影が認められる陰影は右鎖骨と第1肋骨前縁,第4肋骨背側部下縁,第5肋骨背側部上縁の重なっている位置にあるが,いずれの骨陰影とも重なっていない部分があり,左右差も明白である。 ウいずれの写真も,陰影の大きさや位置,性状からすれば,訴えをもって受診する場合はもちろん,集団検診の場合であっても,読影する医師は,これらの異常陰影を指摘し,精密検査を受検するよう指導する義務があったのに,被告病院の医師には,これらの異常陰影を見落とした注意義務違反が存する。 エ被告の主張に対する反論(ア) 被告は,職場の定期健康診断を含む集団検診には(被告 受検するよう指導する義務があったのに,被告病院の医師には,これらの異常陰影を見落とした注意義務違反が存する。 エ被告の主張に対する反論(ア) 被告は,職場の定期健康診断を含む集団検診には(被告の主張),ア記載の3つの制約があると主張する。しかし,①本件健康診断は,職場である被告病院自らが職員を対象に実施するものであり,受検者数や実施時期は事前に明らかであるから,読影を担当する医師に,読影に必要な一定の読影時間を確保させるべく準備して予定することは困難ではない。②本件健康診断では,問診票があり,画像等の経年的なデータ蓄積もあるから,決して当該年の画像だけで判断を求められるものではなく(被告の主張)アの②は制約にならない。③職場の定期健康診断は,受診が義務づけられており,とりわけ受診者全員が医療機関で勤務している労働者であり,定期健康診断の意義について十二分に理解できる者,()。 である本件健康診断において被告の主張アの③は制約にならない,,(イ) 被告は職場の定期健康診断を含む集団検診における胸部X線検査は肺がん対策として有効であるとの根拠は明確でないと主張するが,厚生労働省の研究結果には,毎年肺がん検診を受診することによって肺がん死亡リスクを30から60%減少させることが可能とまとめられているし(甲B12,日本呼吸器学会・日本肺癌学会も,労働安全衛生法に)基づく胸部X線検査について,一定年齢以上に対する実施の必要性を厚生労働大臣に対し要望しており,本件のような職場の定期健康診断における胸部X線検査の有効性は否定されていない。 (被告の主張)ア職場の定期健康診断を含む集団検診においては,次のような制約が存するため,集団検診における読影医師の注意義務の程度は,訴えをもって受診する診療や肺がん検診の際の注意義務 いない。 (被告の主張)ア職場の定期健康診断を含む集団検診においては,次のような制約が存するため,集団検診における読影医師の注意義務の程度は,訴えをもって受診する診療や肺がん検診の際の注意義務の程度とは異なるものと解すべきである。 ①大量のX線写真を短時間で読影しなければならない。 ②当該X線写真のみから正常・異常の判断をしなければならない。 ③特異性(治療を要する病変のみを発見すること)と感受性(治療を要する病変を見落とさないこと)を共に完全なものにすることは困難である。すなわち,特異性を上げようとすると,再検査を要する人を見逃す可能性が高くなって感受性が下がり,感受性を上げようとすると,再検査の結果異常のない者の割合が増加して集団検診に対する信頼が低下する状況にある。 そして,集団検診における読影医師の注意義務の程度は,一般臨床医の医療水準を持って判断すべきであって,実際に読影をした医師の知識の程。 ,度や実施した医療機関の環境整備の程度等により左右されないすなわち職場の定期健康診断は,労働者の一般的な健康保持増進を目的として法令により定められている制度であるから,その提供される役務の程度は一律であるべきであるし,労働者の認識としても,どこの検診機関で健康診断を受けようと同じ水準で検査がなされることを期待するのが一般であり,個々の検診機関の実情如何により,注意義務の基準が左右されるのは妥当でない。 ,,,イ(ア) 14年写真の結節影は約18mm×15mmであり右鎖骨第1肋骨第4肋骨と重なる位置に存するものであって,肺がんを疑わせる明らかな異常陰影ではない。 ,,,(イ) 15年写真の結節影は約30mm×25mmであり右肋骨第1肋骨第4肋骨,第5肋骨と重なる位置に存するものであって,肺がんを疑わせる明 んを疑わせる明らかな異常陰影ではない。 ,,,(イ) 15年写真の結節影は約30mm×25mmであり右肋骨第1肋骨第4肋骨,第5肋骨と重なる位置に存するものであって,肺がんを疑わせる明らかな異常陰影ではない。 (ウ) 前述のとおり様々な制約のある集団検診において,上記結節影を異常陰影として指摘することは極めて困難であり,F医師が異常陰影を指摘しなかったことに注意義務違反はない。14年写真については,日常診療における読影の場合であったとしても読影義務はない。 ウ職場の定期健康診断における胸部X線検査は,結核対策を中心として行われてきたものであるが,近年は,他の呼吸器疾患のスクリーニング的役割を果たすことが期待される側面を有するに至った。しかし,職場健康診断を含む集団検診における胸部X線検査は,その読影の制約から,肺がん対策として有効であるとの根拠は明確でないのが現状であり,平成16年度の厚生労働省の研究においては,胸部X線写真について,質の高いエビデンスをもって,肺がん検出について効果がないものとされている(乙B8。 )(2) 争点(2)(平成14年度及び平成15年度の本件健康診断において二重読影を実施しなかった注意義務違反の存否)について(原告らの主張)ア日本肺癌学会作成の「肺癌集団検診の手引き(初版は昭和62年)及」び旧厚生省老人保健福祉部老人保健課監修の肺ガン検診マニュアル平「」(成4年)において,二重読影の必要性が指摘され,後者においては二重読影が必須とされているまた社団法人全国労働衛生団体連合会作成のモ。 ,「デル健康診断業務管理マニュアル(第3版(平成14年)において,)」職場健康診断においても二重読影を求めている。 イ本件健康診断は,国家公務員法及び人事院規則10-4(職員の保健及び ,「デル健康診断業務管理マニュアル(第3版(平成14年)において,)」職場健康診断においても二重読影を求めている。 イ本件健康診断は,国家公務員法及び人事院規則10-4(職員の保健及び安全保持)に基づき実施されたものである「一般定期健康診断検査方。 法の手引き(平成元年12月19日人事院事務総局職員局福祉課長通知,以下「本件手引き」という」の前文には,日本肺癌学会がまとめたも。)の,すなわち「肺癌集団検診の手引き」の活用が記載されており,本文にも二重読影の実施について言及されているから,二重読影が実施されなければならないことは明らかである。 ,,。 ウ本件健康診断においても被告は二重読影態勢を実施すべきであった特に,本件健康診断は,約700枚の胸部X線写真を2時間で読影する態,,勢でありより見落としの可能性が高い方法が採られていたのであるから二重読影によって見落としを回避する措置が必須であった。 エしかるに,被告は,平成14年及び平成15年に実施された本件健康診断に当たり,二重読影態勢を実施していなかった。これらの際に,二重読影態勢が実施されていれば,14年写真及び15年写真の異常陰影は見落とされることがなかった高度の蓋然性がある。 (被告の主張)ア肺がんのリスクの高い,40歳以上の成人男女を対象とする旧老人保健法に基づく肺がん検診に関しては,厚生労働省老健局の「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針(平成10年,乙B11)中に,」胸部X線写真の読影は二重読影の方法で行うことが明記されており,二重読影態勢を整備する法的義務があるものと解される。 しかし,日本肺癌学会作成の「肺癌集団検診の手引き」は,職場健康診断を対象とするものではない。仮に対象とするものであるとしても,その検査内容は,喀痰細胞 態勢を整備する法的義務があるものと解される。 しかし,日本肺癌学会作成の「肺癌集団検診の手引き」は,職場健康診断を対象とするものではない。仮に対象とするものであるとしても,その検査内容は,喀痰細胞診検査を行うべき基準や問診内容について,職場健康診断の規定内容を超える検査を要求するものであるから,これが職場健康診断の法的義務の基準となるとは考えられない。 イ一方,職場の定期健康診断には,労働安全衛生規則において,胸部X線写真の読影を二重読影の方法で行うことは求められておらず,厚生労働省労働基準局によって同旨の指針が定められた事実もないから,職場健康診断においては,二重読影態勢を整備する法的義務は課せられていない。人事院規則及び人事院通知においても同様である。 なお,本件手引きは「必要に応じて」二重読影等を行うことと記載さ,れているから,二重読影態勢を実施するか否かは各施設の判断に委ねられており,二重読影態勢を整備すべき法的な義務はない。 原告らの指摘する「モデル健康診断業務管理マニュアル」は努力目標を記載したものであって,法的義務の基準となるものとは考えられない。なぜならば,同マニュアルは,胸部X線検査の精度管理マニュアルの作成をも要求しているが,職場健康診断に関する規定中,この精度管理マニュアルの作成を義務づけるものはなく,これが職場健康診断において法的に義務づけられているとは到底考えられないからである。 (3) 争点(3)(因果関係の存否)について(原告らの主張)ア14年写真及び15年写真は,結節影の大きさが30mm以下でリンパ節への転移が確認できないこと,平成16年段階でも遠隔転移が認められないことからすれば,14年写真及び15年写真の段階におけるE医師の肺がんの病期は,T1N0M0のⅠA期に分類される。 ⅠA期の5年生存率 転移が確認できないこと,平成16年段階でも遠隔転移が認められないことからすれば,14年写真及び15年写真の段階におけるE医師の肺がんの病期は,T1N0M0のⅠA期に分類される。 ⅠA期の5年生存率は80~90%台であり,良好な予後が期待でき,完治の可能性が十分に認められる。 イ一方,平成16年段階では,E医師の肺がんはリンパ節にも転移し,病期はⅢA期であった。ⅢA期の5年生存率は,20~30%台である。 ウよって,平成14年及び平成15年時点での被告病院の医師の注意義務違反がなければ,E医師の肺がんは良好な予後を保てたものであり,完治した可能性が十分にある。被告病院の医師の注意義務違反とE医師の死との因果関係は自明である。 エ被告の主張に対する反論(ア) 被告は,病理学的分類(手術や生検等で得られた組織の病理学的所見に基づく肺がんの進行や広がりの程度の判断により分類したもの)ではなく,臨床的分類(症状や胸部X線写真の画像所見に基づき分類したもの)による病期に対応した5年生存率を採用すべきと主張するが,被告病院の医師が異常陰影を見落とした結果,病理学的分類に必要な生検等の機会が失われたのであるから,このことによる不利益は被告が負担すべきであり,病理学的分類による病期に対応した5年生存率に従って判断されるのが公平である。 (イ) 被告は,E医師が,被告病院の治療を拒否したと主張するが,E医師が被告病院の医師らの勧める治療に消極的であったのは,肺がんが平成16年の発見時においてⅢA期まで進行しており,外科手術は標準的な治療ではないこと,また,イレッサの有効性についての医学的知見を自ら比較検討したことによる。14年写真又は15年写真段階で異常陰影が指摘され,治療が開始されていれば,E医師が,医学的に根拠のある治療に対しては積極的に応じ イレッサの有効性についての医学的知見を自ら比較検討したことによる。14年写真又は15年写真段階で異常陰影が指摘され,治療が開始されていれば,E医師が,医学的に根拠のある治療に対しては積極的に応じたことは明らかである。 なお,被告は,E医師が右肺全摘術及びリンパ節郭清を受けなかったため死亡するに至ったと主張するようであるが,E医師の肺がんのように,6cm近い腫瘤となり,リンパ節まで転移した肺がんが,化学療法によって著明な効果があった場合に,外科治療をすべきかどうかについてはっきりした結論が出ていないのであるから,右肺全摘術及びリンパ節郭清を実施していれば根治していた合理的根拠はない。したがって,平成16年の手術内容如何は,本件の因果関係に何ら影響を及ぼさない。 (被告の主張)アリンパ節への転移の有無は胸部X線写真だけでは確認できない。また,平成16年時点でN2であるから,14年写真及び15年写真段階でもN2以下であったと考えられるが,N0,N1,N2のいずれかは不明である。したがって,14年写真及び15年写真の段階におけるE医師の肺がんの病期は,ⅠA期(T1N0M0,ⅡA期(T1N1M0,ⅢA期))(T1N2M0,のいずれかであった。なお,15年写真の異常陰影の)長径は30mmであるから,ⅠA期であったとしても,ⅠB期に限りなく近いといえる。 イ臨床的分類でⅠA期の術後5年生存率は71.5%(IB期に限りなく近いIA期と考えると,50ないし60%,ⅡA期は47.8%,ⅢA)期は34.6%である。 ウ15年写真段階の結節影は約30mm×25mmであったものが,平成16年段階では70mm近くまで大きくなっているから,E医師の肺がんは進行度の早いがんであったものと考えられ,仮に14年写真又は15年写真段階で治療を開始したとし mm×25mmであったものが,平成16年段階では70mm近くまで大きくなっているから,E医師の肺がんは進行度の早いがんであったものと考えられ,仮に14年写真又は15年写真段階で治療を開始したとしても,予後不良であった可能性が高い。 エE医師は,平成16年に肺がんの治療を開始して以降,被告病院の治療を拒否した経緯があるから,仮に14年写真又は15年写真段階で異常陰影が指摘されたとしても,E医師が適切な治療を受けなかった可能性がある。 オ以上を総合すると,仮に14年写真又は15年写真段階で異常陰影が指摘されたとしても,E医師の肺がんは治癒しなかった可能性が高いから,万が一被告病院の医師の過失が認められるとしても,当該過失とE医師の死亡との間に因果関係は認められない。 (4) 争点(4)(損害)について(原告らの主張)ア慰謝料3000万円イ逸失利益1億1882万2290円(ア) E医師の平成17年の収入は1495万6672円であり,65歳までは被告病院に勤務し,定年退職後75歳までは医療法人G会が開設しているG病院において整形外科医として勤務する(70歳までは年収1700万円,75歳までは年収1280万円)予定であったから,下記計算式(生活費控除を30%とする)により,逸失利益の合計は上記金額になる。 ①死亡時から65歳まで2851万1006円1495万6672円×(1-0.3)×(3年のライプニッツ係数2.7232)②66歳から70歳まで5151万9860円1700万円×(1-0.3)×(5年のライプニッツ係数4.3294)③71歳から75歳まで3879万1424円1280万円×(1-0.3)×(5年のライプニッツ係数4.3294)(イ) 被告が問題としている骨髄ドレナージ法は,関節疾患について形成 294)③71歳から75歳まで3879万1424円1280万円×(1-0.3)×(5年のライプニッツ係数4.3294)(イ) 被告が問題としている骨髄ドレナージ法は,関節疾患について形成外科の専門家たるE医師が長年の経験に基づいて研究開発した相当の根拠のある治療法であり,同手法を実施したり,新聞社の取材に応じて新聞紙上に取材内容が掲載されたとしても,公務員が占める官職の信用を損ねるものではないし,被告病院の勤務時間外に他病院で医療技術の指導を行ったとしても,職務専念義務に反するものではない。 (ウ) 被告は,14年写真及び15年写真段階において異常陰影が発見され,手術が実施されても,再発の可能性があると主張するが,その具体的根拠はないまたⅠA期の肺がんに対する標準術式は肺葉切除術本。 ,(),,件の場合は右上葉切除であるが肺葉切除術を受けた患者であっても呼吸困難はそれほど問題にならず,仕事復帰は十分に可能である。被告主張のとおり,E医師は,被告病院において全診療行為が中止されており,身体に負担のかかる業務は全く行われておらず,肺切除術後であっても従前どおりの勤務が可能であった。定年退職後のG病院における業務も,身体的負担は小さく,問題なく行うことが可能である。 ウ葬儀費用150万円エ相続原告Aは,上記アないしウのうち2分の1を相続し,原告B,原告C及び原告Dは,上記アないしウのうち各々6分の1ずつを相続した。 オ内金請求原告らは,被告に対し,上記アないしウの合計1億5032万2290円のうち,1億5000万円について請求する。 カ過失相殺E医師が被告病院の医師らの勧める治療に消極的であったのは上記(3),(原告らの主張)エ(イ)のとおりであり,過失相殺は認められない。 (被告の主張)不知ないし争う。 いて請求する。 カ過失相殺E医師が被告病院の医師らの勧める治療に消極的であったのは上記(3),(原告らの主張)エ(イ)のとおりであり,過失相殺は認められない。 (被告の主張)不知ないし争う。 ア逸失利益14年写真及び15年写真段階において,リンパ節転移の可能性が否定し得ず,リンパ節転移があった場合には再発の可能性があるし,リンパ節転移がなかった場合でも再発のおそれが否定できないこと,術後再発がなかった場合でも,肺切除術により心肺能力が低下することから,常勤医として肉体的負担の大きい外科手術を多くこなすことは極めて困難である。したがって,就労不可能な事態が想定されるため,逸失利益は0とすべきであるし,少なくとも形成外科又は整形外科の常勤医としての収入を前提に算定すべきでない。 個別の期間についての主張は以下のとおりである。 (ア) 定年退職までの逸失利益について,被告病院は,人工関節置換術について高い評価を受けており,その代替治療法となり得る骨髄ドレナージ法は行わない方針を決定し,E医師もこれを了知していたところ,E医師は,平成15年ころから,被告病院において,被告病院の許可なく骨髄ドレナージ法を実施しようとしたり,被告病院形成外科医長の肩書付きで新聞紙上に同手法のメリットを誇張する内容を独断で発表したり,他の病院において無許可で兼業行為を行うなどしていた。 これらの行為は信用失墜行為(国家公務員法99条,職務専念義務違)反(同法101条1項,他業関与制限違反(同法104条)に該当す)る。被告病院は,E医師に対し,かかる言動を慎むよう再三申入れをしていたが,E医師が拒否したため,被告病院は,平成16年6月ころ,E医師に対し,全ての診療を中止するよう業務命令を下した。したがって,E医師が定年退職まで被告病院に勤務し続けられた う再三申入れをしていたが,E医師が拒否したため,被告病院は,平成16年6月ころ,E医師に対し,全ての診療を中止するよう業務命令を下した。したがって,E医師が定年退職まで被告病院に勤務し続けられた可能性は低い。 なお,平成17年に被告病院からE医師に対して支払われた給与は1279万9672円であり,原告ら主張の給与所得との差額215万7000円は無許可兼業行為による収入と強く推認され,かかる収入をも逸失利益算定の基礎とすることは不当である。 (イ) 定年退職後の逸失利益について,一般論として,75歳の高齢となるまで医師として勤務がなし得るとは考えられない。仮に平成14年又は平成15年当時に手術を受けていたとしても,上記再発可能性や就労の困難性にかんがみれば,E医師が稼働し得たのはせいぜい67歳までで,軽作業の就労のみが可能として算定すべきである。 イ過失相殺E医師は,被告病院の医師の再三の説得にもかかわらず,一部の治療行為及び検査を拒否しており(E医師が,被告病院医師が勧めた右肺全切除術を拒否したことから,右上葉部分切除術のみが実施された後,平成17年4月に肺がんの再発が確認されたが,当該再発箇所は正にE医師が切除を拒否した部分であった,このことがE医師の生存期間を縮める結果。)となっていることは否定し得ない。したがって,過失相殺の規定を類推適用すべきである。 第3当裁判所の判断 争点(1)(14年写真及び15年写真の異常陰影を見落とし精密検査を指示しなかった注意義務違反の存否)について(1) まず,本件健康診断のような集団検診における胸部X線検査に内在する制約について検討する。 ア一般に,集団検診における胸部X線写真の読影は,多数の写真を比較的短時間に読影することが前提となっているといえる。けだし,当該集団検診が, における胸部X線検査に内在する制約について検討する。 ア一般に,集団検診における胸部X線写真の読影は,多数の写真を比較的短時間に読影することが前提となっているといえる。けだし,当該集団検診が,使用者の実施する健康診断の如く被用者の健康管理を目的とするものであっても,地方自治体が実施するがん検診の如く住民の健康管理を目的とするものであっても,これらの集団検診に投入し得る費用や社会資源は無制限ではない一方,対象者は膨大であり(前者は全被用者,後者は一定年齢の全住民,また,当該対象者には,個別に人間ドックを受検する)等他の方法により健康を管理するという選択肢も存在し得るからである。 この点について,原告ら提出の証拠にも,以下のとおり指摘されているところである。 (ア) 集団検診は,技術的に制約された条件の下で,多数の人間を対象にしなければならない。しかも経済的効率は避けて通ることのできない課題である(甲B28・平成11年10月発行の肺癌取扱い規約)。 (イ) 見落としをできるだけ少なく,短時間で数多くの写真を読影する効率のよい読影法は,臨床業務の現場では大変に重要である。自分の担当する患者の写真のみを読影する内科医や外科医の読影法と,日に1000枚単位で検診の間接写真を読影したり,院内で撮影される直接写真を毎日100枚以上も診断する放射線科医の読影法とでは,異なって当然である(甲B46・胸部写真の読み方と楽しみ方)。 イまた,本件各証拠に照らしても,集団検診における胸部X線写真の読影に際し,問診内容,対象者の年齢,病歴といったその他の情報を前提に読影すべきとする知見は認められず,これらの情報が存在しない状態で読影することが前提となっているといえる。 (),ウ胸部X線検査や更なる精密検査CT検査等を受検するに当たっては放射線 前提に読影すべきとする知見は認められず,これらの情報が存在しない状態で読影することが前提となっているといえる。 (),ウ胸部X線検査や更なる精密検査CT検査等を受検するに当たっては放射線被ばくの問題や(甲B70,乙B2の3,要精検と判定された場)合の受検者の心理的時間的負担の問題(検診業務として,精検率の高さ「の問題がある。見落としを恐れあまりに高い精検率を維持する読影医は,検診施設のみならず受診者にとっても大変迷惑である。胸部異常陰影の疑いの報告を受けた精検受診者は『夜寝られない日々が続き,本当に病気,。』。」()。)になりそうでしたと口をそろえていうとの指摘もある甲B13も存在する上,精密検査を受検した結果異常なしとされる割合があまりに多数に上れば集団検診の信用性が失われることにもなり,受検者数の低下を招来して国民の健康管理を目的とした集団検診の存在意義を没却することとなるのは明らかである。したがって,異常と見得る陰影を広く指摘するのではなく,そのうち治療を要する陰影のみを抽出し要精検の判定をすることが要請されるが,かかる要請に上記ア・イで指摘した事情の下において応えなければならないから,当該要請に完全に応えるのは極めて困難であり,限界が存するといわなければならない。 (2) (1)を前提に,本件健康診断において,胸部X線写真を読影する際の医師に課せられる注意義務について判断する。 ア被告病院は,従前国立病院として国が設置・管理していたこと,平成16年4月1日,独立行政法人国立病院機構法が施行され,被告が設立されるとともに,被告病院を含む国立病院・国立療養所(国立高度専門医療センター及び国立ハンセン病療養所を除く)が被告に移管されたことは,当裁判所に顕著である。したがって,平成14年及び平成15年に されるとともに,被告病院を含む国立病院・国立療養所(国立高度専門医療センター及び国立ハンセン病療養所を除く)が被告に移管されたことは,当裁判所に顕著である。したがって,平成14年及び平成15年に実施された本件健康診断時において,被告病院に勤務する医師であったE医師は,国家公務員法2条2項に規定される一般職の国家公務員であり,本件健康診断が準拠する法令は国家公務員法及び人事院規則であると認められる。 イ人の生命及び健康を管理すベき業務に従事する者は,その業務の性質に照らし,危険防止のために実験上必要とされる最善の注意義務を要求される(最高裁昭和36年2月16日第一小法廷判決・民集15巻2号244頁参照。国家公務員法及び人事院規則に基づく定期健康診断である本件)健康診断も,人の生命及び健康を管理すベき業務に該当すると解されるから,本件健康診断に従事する者には,当該業務の性質に照らし,危険防止のために実験上必要とされる最善の注意義務を要求される。 かかる注意義務の基凖となるべきものは,当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水凖であるが(最高裁昭和57年3月30日第三小法廷判決・裁民135号563頁参照,集団検診には,(1)で説示した制約・)限界が内在することに照らせば,集団検診における胸部X線写真の読影に係る医療水準は,通常診療における胸部X線写真の読影に係る医療水準とはおのずと異なるというべきである。そして,そもそも,集団検診における胸部X線検査の有効性については疑問も提起され,その旨公表されていること(乙B2の1ないし3,乙B8,当該対象者には,個別に人間ド)ックを受検する等他の方法により健康を管理するという選択肢も存在し得ることにかんがみれば,職場の定期健康診断において,ある胸部X線写真を異常ありとして指摘しなかったこと 対象者には,個別に人間ド)ックを受検する等他の方法により健康を管理するという選択肢も存在し得ることにかんがみれば,職場の定期健康診断において,ある胸部X線写真を異常ありとして指摘しなかったことが注意義務違反を構成するかどうかは,通常集団検診において行われる読影条件の下において,これを行う一般臨床医の水準をもって読影した場合に,異常ありとして指摘すべきかどうかの判断が異なり得るかをもって判断するのが相当である。 この点について,原告らは,集団検診における読影医師の注意義務の程度は,検診によって個別に判断する必要があり,検診の種別や内容,仕組み等を一切捨象して,広く全国一律の「検診における胸部X線写真の読影における注意義務」を設定し,本件の読影がこの注意義務に違反したかどうかを検討することは妥当でない,被告が主張する集団検診における制約は,医療機関である被告病院自らが実施する本件健康診断にとっては制約にならない旨主張する。 しかしながら,職場の定期健康診断は,法令(労働安全衛生法,国家公務員法,人事院規則等)の定めにより,健康管理のために被用者があまねく受検することが予定されているものであるから,それにおける医療水準も,むしろあまねく一定であることが期待されるのであり,使用者がいずれの医療機関に定期健康診断の実施を依頼するかによって,定期健康診断。 ,に求められる医療水準が変動すると解するのは相当でないさらに言えば使用者が高度医療機関であり,その使用者自らが定期健康診断を実施するといった理由により,被用者が定期健康診断に期待できる医療水準が高くなると解することは法の予定していないところというべきである。職場の定期健康診断においては,受検者が実施先を自由に選択することは予定されておらず,新規の治療法について高度医療機関において実施さ 高くなると解することは法の予定していないところというべきである。職場の定期健康診断においては,受検者が実施先を自由に選択することは予定されておらず,新規の治療法について高度医療機関において実施されることを期待して,患者が高度医療機関を受診している場合と同列に論じることはできない。原告らの主張は採用できない。 (3) そこで,本件において,F医師が,14年写真及び15年写真の異常陰影を指摘しなかったことが注意義務に反するかどうかについて検討する。 ア証拠(甲B2,B42,乙B7)によれば,14年写真及び15年写真の異常陰影について,各専門家が,以下のように指摘していることが認められる。 (ア) 14年写真について(,「」。)①H大学I助教授作成の意見書甲B2以下I意見書という右鎖骨の一部,第1肋骨腹側部全体,第4肋骨背側面と重なる,22mm×17mmの結節影を認める。結節影の尾側は第4肋骨の下縁より突出している。辺縁は比較的明瞭,若干不整である。 集団検診として読影する場合,放射線科専門医であれば異常陰影を指摘することは困難ではない。放射線科専門医でなくても,集団検診で読影を担当する医師は,このような見逃されやすい位置については注意して読影することが期待されるが,限られた時間では的確に指摘できないこともあり得る。 (,「」。)②J大学K准教授作成の意見書甲B42以下K意見書という右鎖骨の一部,右第1肋骨の腹側部全体,右第4肋骨背側部の一部と重なる,20mm×15mmの結節影を認める。結節影の尾側は第4肋骨の下縁より突出している。 集団検診として読影する場合,放射線科医であれば,異常陰影を指摘することはさほど困難ではない。一般臨床医であっても,胸部単純X線写真を見慣れていれば困難ではない。 ③L大 の下縁より突出している。 集団検診として読影する場合,放射線科医であれば,異常陰影を指摘することはさほど困難ではない。一般臨床医であっても,胸部単純X線写真を見慣れていれば困難ではない。 ③L大学M教授作成の意見書(乙B7,以下「M意見書」という)。 右肋骨2本と右鎖骨に重なる,長径21mmの比較的境界明瞭な結節陰影がある。 右肋骨2本と右鎖骨に重なっているので識別が大変難しい。いわゆる「肺尖部のかくれんぼ肺がん」であるので,職場健康診断フィルムのスクリーニングでは指摘は難しく見落としには該当しないと考える。 (イ) 15年写真について①I意見書(甲B2)右鎖骨,第1肋骨前縁,第4肋骨背側部下縁,第5肋骨背側部上縁と重なる,30mm×24mmの結節影を認める。陰影は鎖骨の幅を超えている。辺縁は分葉状,境界は明瞭である。 集団検診として読影する場合,鎖骨,肋骨の陰影を越えて結節影が存在するため,放射線科専門医でなくても異常陰影の指摘は可能と考えられる。 ②K意見書(甲B42)右鎖骨,第1肋骨前縁,第4肋骨背側部下縁,第5肋骨背側部上縁と重なる,30mm×24mmの結節影を認める。結節影は鎖骨の幅を超えて突出しており,第1肋骨からも突出している。 集団検診として読影する場合,放射線科医であれば異常陰影の指摘は容易である。一般臨床医であっても困難ではない。陰影が明らかに鎖骨や肋骨から突出していることから,異常陰影の所見が指摘されなければならず,これを指摘しないことは見落としてあるといわざるを得ない。結節影は,鎖骨の下方にも存在していること,境界が明瞭であることから,指摘の難しい「肺尖部のかくれんぼ肺がん」であるとの考え方には疑問が残る。 ③M意見書(乙B7)右肋骨2本と右鎖骨に重なる,長径31mmの比較的境界明瞭な結節陰影が ,境界が明瞭であることから,指摘の難しい「肺尖部のかくれんぼ肺がん」であるとの考え方には疑問が残る。 ③M意見書(乙B7)右肋骨2本と右鎖骨に重なる,長径31mmの比較的境界明瞭な結節陰影がある。 陰影が淡く,右肋骨2本と右鎖骨が重なっているので,識別が難しく,15年写真だけでは指摘はやや難しいと考える。この時点でもいわゆる「肺尖部のかくれんぼ肺がん」であると考える。職場健康診断フィルムのスクリーニングでは指摘はやや難しく見落としにするのは酷であると考える。 イもっとも,これらの指摘は,実際に14年写真及び15年写真を集団検診の際に通常読影する方法で読影した上での判断ではなく,14年写真及び15年写真を単体として見た上での判断である。したがって,14年写真及び15年写真を集団検診として読影した場合に,両写真の異常陰影を指摘すべきかどうかについて判断するに当たっては,14年写真及び15年写真の異常陰影の存在をあらかじめ確認した上で,これらを集団検診の際に読影すると仮定し,想像を加味して判断するという過程をたどらざるを得ないところ(いずれの専門家の意見も,その意見の構成から,このような判断過程に立って述べられていることは明白である,14年写真。)及び15年写真に異常陰影を認めた上で判断する以上,かかる読影所見に引きずられるのは避けられず,そのような想像を加味した判断が容易では。 ,,ないことは明らかであるまして放射線科専門医であれば読影できるか一般臨床医であれば読影できるかといった判断は更に想像を重ねる判断で,。 ,,あって困難な作業とならざるを得ないよってこれらの意見において14年写真及び15年写真を集団検診として読影した場合に,両写真の異常陰影を指摘すべきとされているからといって,14年写真及び15年写 て困難な作業とならざるを得ないよってこれらの意見において14年写真及び15年写真を集団検診として読影した場合に,両写真の異常陰影を指摘すべきとされているからといって,14年写真及び15年写真の異常陰影を指摘しなかったことが直ちに注意義務に反するものということはできない。 ウイの点を措くとしても,14年写真(乙A3)については,異常陰影が1本ないし3本の骨陰影と完全に重なった位置に存在し(I意見書及びK意見書は,異常陰影が第4肋骨の下縁より突出している旨指摘するが,かかる指摘は,異常陰影の一部は第1肋骨のみと重なっている(2本以上の骨陰影と重なった位置にのみ存在するわけではない)ことを指摘しているものと解される。証人F医師2頁,当該位置は,もともと異常陰影を。)(,捉えにくい箇所として指摘されている位置である上甲B13ないし1846。なお,原告らは,これらの書証において,本件の異常陰影の位置については慎重に読影すべきと指摘されている旨主張するが,これはとりもなおさず,当該位置が異常陰影を捉えにくい箇所であるからに他ならない,I意見書において放射線科専門医でない医師の場合は限られた時。)間では的確に指摘できないこともあり得る旨,M意見書において職場健康診断フィルムのスクリーニングでは指摘は難しい旨述べられていることからすれば,F医師が,14年写真の異常陰影を指摘しなかったことが注意義務に反するとは言い難い。 また,15年写真(乙A4)の異常陰影については,基本的には,14年写真と同様に,1本ないし3本の骨陰影と重なった位置に存在すると認められる。もっとも,当該異常陰影については,いずれの骨陰影にも重なっていない部分がわずかに存在するものの,M意見書において職場健康診断フィルムのスクリーニングでは指摘はやや難しい旨述 存在すると認められる。もっとも,当該異常陰影については,いずれの骨陰影にも重なっていない部分がわずかに存在するものの,M意見書において職場健康診断フィルムのスクリーニングでは指摘はやや難しい旨述べられている上,I意見書の放射線科専門医でなくても指摘は可能と考えられるとの意見,。 ,は一般臨床医であっても必ず指摘すべきとの趣旨とは解されない一方K意見書は「これを指摘しないことは見落としであると言わざるを得な,い」旨述べている。このように,15年写真の読影に関する専門家の意見は異なっている状況にあり,いずれかの意見が不合理であると認めるに足る証拠はないから,K意見書のみから,他の意見を排斥し,15年写真の異常陰影を指摘しなかったことが注意義務に違反するものということはできない。 エ加えて,N大学医学部附属病院呼吸器内科の医局に所属し,集団検診における胸部X線写真の読影経験のある医師5名が,通常の集団検診時と同様の方法で,15年写真を含む平成15年度の本件健康診断で撮影された707枚の写真を読影する実験を行ったところ,15年写真については,5名の医師中3名の医師が要精検と判断したものの,2名の医師については要精検と判断しなかった旨の実験結果が報告されている(乙B9・10。この実験結果に関し,原告らは,最高裁平成8年1月23日第三小)法廷判決(民集50巻1号1頁)等を引用し,医療水準と医療慣行を峻別すべきである旨主張するが,実験に参加した医師の所属先や上記アの各意見書に照らしても,かかる実験結果が,医学水準に反する,一般臨床医のいわゆる医療慣行を示すものにすぎないとはいえない。 オ以上によれば,14年写真及び15年写真を,集団検診において行われる読影条件の下において,これを行う一般臨床医の水準をもって読影した場合に,異常あり る医療慣行を示すものにすぎないとはいえない。 オ以上によれば,14年写真及び15年写真を,集団検診において行われる読影条件の下において,これを行う一般臨床医の水準をもって読影した場合に,異常ありとして指摘すべきかどうかの判断が異なり得るといわざるを得ないから,F医師が,14年写真及び15年写真の異常陰影を指摘しなかったことが注意義務に反するものということはできない。 (4) よって,原告らの主張は理由がない。 争点(2)(平成14年度及び平成15年度の本件健康診断において二重読影を実施しなかった注意義務違反の存否)について(1) 原告らは,本件健康診断において,二重読影を実施すべき注意義務があった旨主張するので,以下検討する。 (2) 1(2)アで説示のとおり,平成14年及び平成15年当時において,本件健康診断が準拠する法令は,国家公務員法及び人事院規則である。そして,本件手引き(甲B50)の「Roman4]胸部エックス線検査」の項目には,[「最近は肺がんの増加が目立つので,特に四〇歳以上の者については肺がんを十分に考慮して読影を行い,必要に応じて二重読影,比較読影を行うこと」と記載されていることが認められる。このように,特に40歳以上の。 受検者に対する二重読影の実施も言及されてはいるが「必要に応じて」行,うこととされていることに照らせば,かかる記載をもって,40歳以上の全公務員に対する定期健康診断における胸部X線写真の読影に際し,必ず二重読影を実施すべき義務が課せられているとみることは困難である。 また,原告らは,本件手引き前文の「手引の活用にあたって」において,日本肺癌学会等においてまとめられたものを活用するよう求めていることをもって,二重読影が実施されなければならない根拠とも指摘する。しかし,上記のとおり,本件手引きの 手引の活用にあたって」において,日本肺癌学会等においてまとめられたものを活用するよう求めていることをもって,二重読影が実施されなければならない根拠とも指摘する。しかし,上記のとおり,本件手引きの本文において「必要に応じて」二重読影を行うこととされているし,日本肺癌学会作成の「肺癌集団検診の手引き(甲B」8の2)は,その検診対象者の年齢,適格な胸部X線写真の撮影方法,喀痰細胞診が実施される基準に照らして,市町村等において,肺がんの発見を目的として実施される肺がん検診(乙B11)を念頭に置いていることは明らかであり,当該手引きの内容が,肺がんの発見のみを目的としていない職場の定期健康診断における胸部X線写真の読影に際し,直ちに適用すべき基準となるものとはいえない。 。 (3) もっとも,法令上二重読影が要求されていないとしても,前述のとおり,職場の定期健康診断が,健康管理のために被用者があまねく受検することが予定されているものであることに照らせば,少なくとも同様の労働環境にある多くの職場において実際に二重読影が実施されているのであれば,使用者には,定期健康診断における胸部X線写真の読影に際し,二重読影態勢を整備すべき義務があると解する余地もある。 この点について,証拠(乙B14)によれば,愛知県内における300床以上の65病院(医療施設政策委員会編「病院要覧」2003-2004年版による)に対し,職場の定期健康診断における二重読影の実施状況に関するアンケートを行ったところ,回答のあった49病院のうち,職場の定期健康診断を院内で行っている病院は39病院であり,そのうち,平成15年当時に二重読影を実施していた病院は多くとも11病院(約28.2%)と認められ,3分の1にも満たないものであるから,同様の労働環境にある職場における二重読影の実 39病院であり,そのうち,平成15年当時に二重読影を実施していた病院は多くとも11病院(約28.2%)と認められ,3分の1にも満たないものであるから,同様の労働環境にある職場における二重読影の実施状況を根拠にしても,平成14年度及び平成15年度の被告病院における職場健康診断において,胸部X線写真の二重読影を実施すべき義務があったということはできない。 なお,原告らは,上記アンケートの対象となった医療機関のうち,国家公務員法・人事院規則に基づかない定期健康診断を実施している医療機関の回答については参考にならない旨主張するが,職場の定期健康診断は被用者があまねく受検することが予定されていることから,同様の労働環境にある多くの職場における現状から二重読影態勢を整備すべき義務が発生しないかを検討する場面においては,定期健康診断の根拠法如何は意味がないから,原告らの主張は当を得ないものである。また,原告らは,上記アンケートの対象となった,平成14年・平成15年当時国家公務員法・人事院規則に基づいて定期健康診断を行っていた医療機関(4病院)のうち,被告以外の者が開設していた病院(2病院)については全て二重読影が行われていたとも主張する。原告らの主張は,被告が開設する病院については考慮に入れるべきでない旨指摘するものであると善解したとしても,平成14年及び平成15年当時は,現在被告が開設・運営する病院についても全て国が開設・運営していたものであり,平成14年及び平成15年当時の状況を問う上記アンケートの評価に際し,現在被告が開設・運営しているかどうかによって区別をする合理的理由は存在せず,採用できない。 (4) 以上によれば,平成14年度及び平成15年度の被告病院における職場健康診断において,胸部X線写真の二重読影を実施すべき義務があったと認め って区別をする合理的理由は存在せず,採用できない。 (4) 以上によれば,平成14年度及び平成15年度の被告病院における職場健康診断において,胸部X線写真の二重読影を実施すべき義務があったと認めることはできないから,原告らの主張は理由がない。 結論 以上の次第で,原告らの本訴各請求は,その余について判断するまでもなく理由がないからこれらを棄却することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法61条,65条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第4部裁判長裁判官永野圧彦裁判官寺本明広裁判官大寄悦加
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