平成22(行コ)91 損害賠償請求住民訴訟控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成23年1月31日 東京高等裁判所 住民訴訟
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判決文本文36,169 文字)

- 1 - 主文 1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。 2 上記の部分につき,被控訴人の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。 事実 及び理由第1 控訴の趣旨主文同旨第2 事案の概要 1 本件は,栃木県において,栃木県県土整備部交通政策課(以下,同部を「県土整備部」,同課を「交通政策課」ともいう。)の課長であったA(以下「A課長」という。)の決裁に基づき,民間団体からの署名協力依頼に応じて栃木県内の行政機関等に署名協力を依頼する文書が発せられ,取りまとめた署名が依頼元である民間団体に送られ,この署名協力(以下「本件署名協力」という。)のために栃木県のコピー用紙,封筒等が使用されたこと(以下「本件物品使用」という。)につき,栃木県の住民である被控訴人が,控訴人に対し,(1)A課長の行為は,物品を使用している職員が故意又は重大な過失によりその使用に係る物品を亡失又は損傷したときに該当し,また,栃木県に対する不法行為に該当すると主張して,主位的に,地方自治法242条の2第1項4号ただし書に基づき,A課長に本件物品使用代相当の損害の賠償(133円及びこれに対する平成20年2月14日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の賠償)の命令をすることを求め,予備的に,同号本文に基づき,A課長に本件物品使用代相当の損害賠償(133円及びこれに対する平成20年2月14日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の賠償)を請求することを求める(以下,(1)の請求を「請求1」という。)とともに,(2)栃木県知事であるB(以下,損害賠償請求の相手方としての同人を「B知事」という。)は,A課長の よる遅延損害金の賠償)を請求することを求める(以下,(1)の請求を「請求1」という。)とともに,(2)栃木県知事であるB(以下,損害賠償請求の相手方としての同人を「B知事」という。)は,A課長の上記行為に関し指揮監督上の義務を怠り栃木県に- 2 -損害を与えたと主張して,同号本文に基づき,B知事に本件物品使用代相当の損害賠償(133円及びこれに対する平成20年2月14日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の賠償)を請求することを求める(以下,(2)の請求を「請求2」という。)事案である。 被控訴人の主張する損害133円の内訳は,コピー用紙が①受診したメールのプリントアウトに8枚,②起案・決裁に7枚,③県土整備部内各課への送付に61枚の合計76枚で100円,封筒が④署名の送付に1枚で33円である。 原審は,請求1につき,④の封筒使用は地方自治法243条の2第1項前段の「物品を亡失し,又は損傷したとき」当たるが,①②③の用紙使用はこれに当たらないとして,32円(④の封筒使用分)及びこれに対する平成20年2月14日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の賠償の命令を求める限度で主位的請求を認め,③の用紙使用については不法行為責任が認められるが,①②の用紙使用については認められないとして,78円(③の用紙使用分)及びこれに対する平成20年2月14日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の損害賠償の請求を求める限度で予備的請求を認め,その余をいずれも棄却し,請求2につき,これを棄却した。 控訴人は,控訴人敗訴部分を不服として控訴したが,被控訴人の控訴がないので,当審の審理の対象は,原審の認容部分(④の封筒使用についての主位的請求及び③の用紙使用分についての予備的請求の認容)の当否のみである。 控訴人敗訴部分を不服として控訴したが,被控訴人の控訴がないので,当審の審理の対象は,原審の認容部分(④の封筒使用についての主位的請求及び③の用紙使用分についての予備的請求の認容)の当否のみである。 2 前提事実(以下の事実のうち,証拠等を掲記したもの以外は,当事者間に争いのない事実である。)(1) 当事者被控訴人は,栃木県の住民である。 控訴人は,栃木県知事である。 A課長は,平成19年度当時,交通政策課長であった者,B知事は,同年- 3 -度当時,栃木県知事であった者である。 (2) C協議会(乙7)C協議会(以下「本件協議会」という。)は,地域の自立と交流の一層の推進や大都市等の交通混雑を解消するため,高速道路ネットワーク1万4000キロの高速道路が,計画的にかつ最も合理的な方法で整備されることを目的に設立された,全国46の促進団体で構成され,各都道府県の知事と議会議長等が理事を,部長等が幹事を務める組織である。後記D同盟会は上記促進団体の一つであり,栃木県知事は理事を,栃木県県土整備部長は幹事を務めていた。 (3) D同盟会(乙13,14)D同盟会(以下「本件同盟会」という。)は,栃木県,茨城県及び群馬県の北関東3県の主要都市を結び北関東地域の発展を担う基幹的施設である北関東自動車道の早期実現を図ることを目的として設立された,北関東自動車道の建設促進に関する事業等を行う組織で,本件協議会の構成団体となっており,3県の知事が会長及び副会長を,関係市町村の長,各議会議長,3県及び関係市町村の部課長らが委員及び幹事を務め,本件同盟会の事務を処理するため,会長所在県の担当部に事務局が置かれている。 本件署名協力が行われた当時,本件同盟会の会長は栃木県知事が務めており,栃木県の県土整備部に本件同盟会の事務局が置 務め,本件同盟会の事務を処理するため,会長所在県の担当部に事務局が置かれている。 本件署名協力が行われた当時,本件同盟会の会長は栃木県知事が務めており,栃木県の県土整備部に本件同盟会の事務局が置かれ,同部交通政策課高速道路対策室長が事務局長を,その上司である交通政策課長(A課長)は幹事を務めていた。 (4) 交通政策課の事務分掌(乙15)栃木県行政組織規程には,交通政策課の事務分掌として,「道路整備の総合的な企画,調整及び推進に関すること」とともに「高速自動車国道の建設促進に関すること」が掲げられており,交通政策課は,これらの事務を分掌し,これらの予算を主管する課である。この事務分掌により,本件- 4 -同盟会の事務局は交通政策課に置かれていた。 (5) ガソリン税をめぐる状況ア暫定税率適用期間の延長問題揮発油税法及び地方道路税法(平成21年法律第13号により地方揮発油税法に名称が変更された。以下「地方道路税法」という。)は,揮発油及び揮発油税法6条により揮発油とみなされる物に揮発油税及び地方道路税(以下,両者を併せて「ガソリン税」ということがある。)を課している(揮発油税法1条,地方道路税法1条)。 昭和39年法律第32号による改正後の揮発油税法における揮発油税の税率は,揮発油1キロリットルにつき2万4300円(同法9条),同改正後の地方道路税法における地方道路税の税率は,揮発油1キロリットルにつき4400円(同法4条)であった。 昭和49年法律第17号による改正後の租税特別措置法は,昭和49年4月1日から昭和51年3月31日までの間に揮発油の製造場から移出され,又は保税地域から引き取られる揮発油に係る揮発油税及び地方道路税の税額は,揮発油税及び地方道路税の税率に係る上記各規定にかかわらず,揮発油1キロ 1年3月31日までの間に揮発油の製造場から移出され,又は保税地域から引き取られる揮発油に係る揮発油税及び地方道路税の税額は,揮発油税及び地方道路税の税率に係る上記各規定にかかわらず,揮発油1キロリットルにつき,揮発油税にあっては2万9200円の税率により計算した金額とし,地方道路税にあっては5300円の税率により計算した金額とする旨規定し(同改正後の同法89条1項。以下,同法に基づく揮発油税及び地方道路税の税率を「暫定税率」という。),以後,同法は暫定税率適用期間の満了日が迫るたびに改正され,時に課税物件の拡大や税率の引上げ又は引下げを伴いながら,暫定税率適用期間は延長されてきた。 平成15年法律第8号による改正後の租税特別措置法における暫定税率適用期間の満了日は平成20年3月31日であり(同改正後の同法89条2項),同日が迫っていた同年1月ころには,暫定税率適用期間を延長- 5 -する法案が国会において成立するか否かが国民の大きな関心事になっていた。 イ道路特定財源の一般財源化の問題また,揮発油税等,自動車利用者が自動車に関連して納める税の全部又は一部は,その使途が道路の整備に関する事業に制限されていたが(平成15年法律第21号による改正後の道路整備費の財源等の特例に関する法律3条等。以下,使途が道路の整備に関する事業に制限された財源を「道路特定財源」という。),平成20年1月ころには,このような使途の制限を撤廃すべきか否か(いわゆる道路特定財源の一般財源化の問題)が暫定税率適用期間の延長と併せて議論され,国民の大きな関心事になっていた。 ウ栃木県知事等の要請行動後記本件署名活動への協力の依頼があった平成20年1月当時,栃木県知事,栃木県市長会,栃木県町村会,栃木県市議会議長会,栃木県町村議会議長会,全 心事になっていた。 ウ栃木県知事等の要請行動後記本件署名活動への協力の依頼があった平成20年1月当時,栃木県知事,栃木県市長会,栃木県町村会,栃木県市議会議長会,栃木県町村議会議長会,全国知事会,全国都道府県議会議長会,全国市長会,全国市議会議長会,全国町村会,全国町村議会議長会及び本件協議会等は,暫定税率適用期間の延長及び道路特定財源の枠組みの堅持を強く求め,国会や政府に対し,その旨の要望書等の提出や提言を行っていた。(乙1の1ないし4,乙2の1ないし6,乙3の1ないし9,乙7,弁論の全趣旨)(6) 本件署名協力ア本件署名活動への協力の依頼平成20年1月9日,交通政策課は,栃木県東京事務所から,「道路特定財源に係る10万人署名への協力依頼等について」と題する電子メールを受信した。この電子メールは,「E会」という団体(以下「本件団体」という。)がガソリン税の暫定税率の維持(租税特別措置法を改正して暫定税率適用期間を延長することを意味する。)を求める署名活動(以下「本- 6 -件署名活動」という。)への協力を本件協議会に依頼し,これを受けた本件協議会が本件団体の作成した下記内容の趣意書,署名協力依頼文,署名用紙等を本件協議会の会員である他県の東京事務所に転送し,それが栃木県東京事務所に転送されたものであった。また,本件団体の作成した趣意書によれば,本件署名活動の目的は,暫定税率,道路特定財源の維持や必要な道路整備の計画的な実施であった。(乙4の1,2)(ア) 趣意書「 おかげさまで,皆様のご協力により【○○大会】を無事実施することができました。皆さんから頂いたメッセージも取りまとまりましたので,年内には事業報告をまとめたいと思います。 今回の活動後,11月には,国土交通省から中期計画の素案が提示され 無事実施することができました。皆さんから頂いたメッセージも取りまとまりましたので,年内には事業報告をまとめたいと思います。 今回の活動後,11月には,国土交通省から中期計画の素案が提示され,12月7日には政府・与党において,道路特定財源の暫定税率の延長や私たちが主張した必要な道路整備を計画的に実施していくことが合意されました。 しかしながら,未だに,新聞紙上では,道路特定財源の暫定税率の廃止や一般財源化が大きな問題となっており,中央マスコミにおいては地方の道路整備はムダだとの報道がされています。 政府・与党で合意はされたものの,最終的には,今後の国会での議論を経て,法案が成立するまでは,私たちもこれまでの主張や活動を続けて行く必要があります。 そこで,再度皆さんのご理解ご協力を得ながら署名活動を実施していきたいと考えました。目標は,1月末までに10万人の署名を集めます。 この皆さんのご意志を国や国会議員の方々に届けていきたいと思いますのでご協力をお願いします。」(イ) 署名協力依頼文「 日頃から,当会の活動に対しご協力頂きましてありがとうございます。 - 7 -おかげさまで,皆さんのご協力により11月に【○○大会】に参加することができました。 今回の大会・要望活動後に,国土交通省からは中期計画の素案が提示され,12月7日には政府・与党において,私たちが主張してきた,道路特定財源の暫定税率の延長や必要な道路整備を計画的に実施していくことが合意されています。 しかしながら,未だに,新聞紙上では,道路特定財源の暫定税率の廃止や一般財源化が大きな問題となっており,中央マスコミにおいては地方の道路整備はムダだとの報道がされています。 政府・与党で合意はされたものの,最終的には,今後の国会での議論を の暫定税率の廃止や一般財源化が大きな問題となっており,中央マスコミにおいては地方の道路整備はムダだとの報道がされています。 政府・与党で合意はされたものの,最終的には,今後の国会での議論を経て,法案が成立するまでは,私たちもこれまでの主張や活動を続けて行く必要があります。 そこで再度,皆さんのご理解ご協力を得ながら署名活動を実施していきたいと考えました。目標は,1月末までに10万人の署名を集めます。 この皆さんのご意志を国や国会議員の方々に届けていきたいと思いますのでご協力をお願いします。」(ウ) 署名用紙「 請願書ガソリンの暫定税率の維持をお願いします! 今,ガソリンがとっても高騰しています。そんな中,ガソリン税などの暫定税率(これは道路の渋滞の緩和や道路環境の改善のためにガソリン等に上乗せして課せられている税で,道路利用者が受益者負担の原則のもとに支払っているものです。今まで道路整備に重要な役割を果たしてきました。)を,維持をするべきか,廃止すべきかが大きな問題になっています。 私たちにとっては,税金が少なくなれば家計の上では大変助かります- 8 -ので歓迎したいところです。しかし,ここでガソリン税が下がったら,私たちが待ち望んでいた道路整備はどうなるのでしょうか?急病の患者さんを一刻も早く運べる命の道,こどもたちが事故に遭わないですむ道,トラックにすれ違うたびに怖い思いをしなくてもいい道,都会に新鮮でおいしい農水産物を傷まずに早く運べる道,遠くの町に安心して通える道,壊れそうな橋の補強,災害に安全・安心な道…私たちの住む地域には,まだまだ必要な道路が不足しています。それらの道路は,こどもや孫たちの未来のために,地域の未来のために,何としても 通える道,壊れそうな橋の補強,災害に安全・安心な道…私たちの住む地域には,まだまだ必要な道路が不足しています。それらの道路は,こどもや孫たちの未来のために,地域の未来のために,何としても整備して頂かなければ困る道路です。 だから,私たちはガソリンの暫定税率を維持することに我慢します。 生活は苦しいけれど,私たちは,こどもや孫たちの未来に悔いを残さないために,ガソリン税を払って,大人の,親の責任を果たしたいと思います。 その代わり,私たちが待ち望む道路を一日も早く,計画通りにつくって下さい。 私たちの地域では,(例)そのことを,ここに賛同頂いた多くの方々の署名と合わせて,切にお願い申し上げます。 平成20年1月日E会(参加団体名)」イ本件団体本件団体は,F会,G会,Hフォーラムの3団体の代表が発起人となって平成19年10月に発足させた団体である。 ウ A課長の決裁A課長は,本件同盟会の事務局として本件署名活動に積極的に協力すべ- 9 -きであると考え,同月15日までに,下記(ア),(イ)の内容の署名協力依頼文及び署名用紙を添えて,下記(ウ)の文案で栃木県内の各市町長宛てに,下記(エ)の文案で県土整備部各課宛てに,それぞれ本件署名活動への協力依頼を行う旨の決裁をした。(乙8)(ア) 署名協力依頼文前記ア(イ)の署名協力依頼文と同じ(イ) 署名用紙前記ア(ウ)の署名用紙の「私たちの地域では,(例)」の部分を下記のとおりとし,末尾の「(参加団体名)」の次に「○○期成同盟会」と記載したもの記「私たちの地域では,一子供たちや地域住民が安全に安心して通 私たちの地域では,(例)」の部分を下記のとおりとし,末尾の「(参加団体名)」の次に「○○期成同盟会」と記載したもの記「私たちの地域では,一子供たちや地域住民が安全に安心して通れるように,歩道の整備などの安全対策や渋滞対策,橋の補修など,生活を支える道路の整備を進めてください。 一地域支援のため東北道の6車線化,北関東道の全線開通などの高速道路をはじめとする基幹ネットワークの整備を進めてください。」(ウ) 各市町村長宛ての依頼文書案宛名:各市町村長差出人名:栃木県県土整備部交通政策課長表題:道路特定財源に係る署名への協力について(依頼)依頼文:「日頃から県道路行政にご協力をいただき厚くお礼申し上げます。さて,「E会」から,ガソリンの暫定税率の維持を求める署名の依頼がありました。本県においても道路整備を行う財源は必要であり,署名活動には積極的に協力すべきであると考えています。つきま- 10 -しては,貴市町村の構成する期成同盟会による署名のご協力お願いします。」(エ) 県土整備部各課宛ての依頼文書案宛名:関係各位差出人名:D同盟会事務局長表題:道路特定財源に係る署名への協力について(依頼)依頼文:「「E会」から,ガソリンの暫定税率の維持を求める署名の依頼がありました。本県においても道路整備を行う財源は必要であり,署名活動には積極的に協力すべきであると考えています。つきましては,貴所属職員による署名のご協力お願いします。」依頼元に関する記載:「依頼元の「E会」は,「G会」他2団体が発起人となり,一般財源化の流れが進む道路特定財源を守ろうと,全国から賛同者を募り,緊急総決起大会が平成19年11月9日(金)にαで開催した民間主体の会です。決起大会に続く第2弾の活動として, が発起人となり,一般財源化の流れが進む道路特定財源を守ろうと,全国から賛同者を募り,緊急総決起大会が平成19年11月9日(金)にαで開催した民間主体の会です。決起大会に続く第2弾の活動として,今回の署名活動を実施しているところです。」エ本件署名協力交通政策課の職員は,同決裁に基づき,栃木県内の31市町長に対して平成20年1月15日付けで,県土整備部内の12課に対して同月21日付けで,それぞれ,電子メールを利用して本件署名活動への協力依頼を行い,A課長は,平成20年2月14日,本件団体に対し,上記協力依頼の結果集まった署名を送付した。(乙8)(7) 本件物品使用本件署名協力依頼の電子メールを受信した県土整備部内12課において,同メールをプリントアウトするために栃木県のコピー用紙61枚が使用され,A課長は,集まった署名を本件団体に送付するために栃木県の封筒1枚を使用した。 - 11 -(8) 住民監査請求被控訴人は,平成20年3月31日,栃木県監査委員に対し,本件署名協力は地方公務員法35条及び36条2項2号に違反しており,B知事及びA課長はこれによって栃木県が被った損害を賠償する責任があるとして,地方自治法242条1項に基づく住民監査請求を行った。 これに対し,栃木県監査委員は,同年5月28日付け書面(甲1)をもって,被控訴人に対し,本件署名協力は地方公務員法35条及び36条2項2号に違反せず,被控訴人の主張は理由がないとの監査結果を通知した。 (9) 本訴提起被控訴人は,平成20年6月9日,地方自治法242条の2に基づき,本件訴えを提起した。 第3 争点及び争点に関する当事者の主張 1 争点(1) 本件署名協力が違憲・違法なものであるか否かア憲法15条2項,地方公務員法30 2条の2に基づき,本件訴えを提起した。 第3 争点及び争点に関する当事者の主張 1 争点(1) 本件署名協力が違憲・違法なものであるか否かア憲法15条2項,地方公務員法30条に違反するか否かイ地方公務員法36条2項2号,同条3項に違反するか否かウ地方公務員法35条に違反するか否か(2) 栃木県の損害の有無(3) A課長の損害賠償責任の有無 2 被控訴人の主張(1) 本件署名協力の違法性ア憲法15条2項,地方公務員法30条違反本件団体の行った本件署名活動は,当時,政府・与党と野党との間で政治的対立があった暫定税率適用期間の延長問題について,政府・与党の政策を支持する意思を表明することによって,暫定税率の維持を実現させようとするものであり,このような署名活動への一般職公務員の協- 12 -力は,「全ての公務員は,全体の奉仕者であって,一部の奉仕者ではない。」と規定する憲法15条2項,これを受けて「すべての職員は,全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し,且つ,職務の遂行に当たっては,全力を挙げてこれに専念しなければならない。」と規定する地方公務員法30条に違反するものであり,適法な職務行為には当たらない。 平成20年1月当時は,暫定税率適用期間の延長問題及び道路特定財源の一般財源化の問題について,国民又は住民全体の利益,すなわち公共の利益が何であるかが争われていたのであり,このように公共の利益が何であるかが争われている中で,国民又は住民の中に有力な反対意見が存在するにもかかわらず,暫定税率適用期間を延長し,道路特定財源を維持するという政府・与党の立場を明確に支持している私的団体の行う署名活動に協力することは,国民又は住民全体の利益,すなわち公共の利益に反すると かかわらず,暫定税率適用期間を延長し,道路特定財源を維持するという政府・与党の立場を明確に支持している私的団体の行う署名活動に協力することは,国民又は住民全体の利益,すなわち公共の利益に反するといわざるを得ず,これに従事した職員の行為は適法な職務行為とはいえない。 イ政治的行為の制限違反(地方公務員法36条2項2号,同条3項違反)本件署名活動は,当時,政府・与党と野党との間で政治的対立があった暫定税率適用期間の延長問題について,政府・与党の政策を支持する意思を表明することによって,暫定税率の維持を実現させようとするもので,「政治の方向に影響を与える意図」で行われたものである。このような署名運動に一般職公務員が積極的に関与することは地方公務員法36条2項2号に違反し,また,政治的中立を求められる一般職公務員に対し本件署名を強いる行為は,暫定税率廃止を期待している個々の公務員の信条の自由をも侵す違法な行為であり,同条3項に違反する。 ウ職務専念義務違反(地方公務員法35条違反)本件署名協力は,交通政策課とは無関係な民間団体からの署名協力依- 13 -頼に応じるもので,A課長の職務とは無関係な行為であり,また,前記のとおり,一般職公務員の政治的中立性に反する行為であるから,地方公務員法35条の定める職務専念義務に違反する。 本件で問題とすべきは,暫定税率が地方の利益かどうかではなく,実体の分からない本件団体の要請に即時に応じ,政治的中立を求められる県職員,市・町の職員に対し,当時の政局の鋭い対立であった暫定税率の是非について,その渦中の一方に与する署名を強いたことの是非である。 (2) 栃木県の損害本件物品使用(コピー用紙61枚,封筒1枚の使用)により,栃木県に112円相当の損害が生じた。 (3) A について,その渦中の一方に与する署名を強いたことの是非である。 (2) 栃木県の損害本件物品使用(コピー用紙61枚,封筒1枚の使用)により,栃木県に112円相当の損害が生じた。 (3) A課長の損害賠償責任A課長は,本件署名協力が地方公務員法35条,36条2項2号,同条3項に違反する行為であることを知っていたか,重大な過失によりこれを知らず,本件署名協力に関する決裁をし,電子メールによる本件署名協力依頼を受信した県土整備部内12課においてプリントアウトのために栃木県のコピー用紙61枚を使用させ,集まった署名を本件団体に送付するために栃木県の封筒1枚を使用したのであるから,A課長の行為は,地方自治法243条の2第1項所定の物品を使用している職員が故意又は重大な過失によりその使用に係る物品を亡失し,又は損傷したときに該当する。したがって,A課長は,栃木県に対し,同法243条の2第1項に基づき112円の損害を賠償する責任がある。 仮に,A課長の行為がこれに該当しないとしても,A課長は,本件署名協力が地方公務員法35条,36条2項2号,同条3項に違反する行為であることを知っていたか,過失によりこれを知らず,上記行為をしたものであり,A課長の行為は,栃木県に対する不法行為に該当する。したがっ- 14 -て,A課長は,栃木県に対し,不法行為に基づき112円の損害を賠償する責任がある。 よって,被控訴人は,控訴人に対し,A課長の上記行為によって栃木県に生じた損害につき,A課長に,主位的に地方自治法243条の2第3項に基づき損害の賠償を命ずることを求め,予備的に不法行為に基づく損害賠償請求をすることを求める。 3 控訴人の主張(1) 本件署名活動への協力の依頼元及び本件署名協力の主体ア本件団体前提事実(6) ることを求め,予備的に不法行為に基づく損害賠償請求をすることを求める。 3 控訴人の主張(1) 本件署名活動への協力の依頼元及び本件署名協力の主体ア本件団体前提事実(6)イのとおり,本件団体は,F会,G会,Hフォーラムの3団体の代表が発起人となって平成19年10月に発足させた団体である。上記3団体は,いずれも従来から地元の道路整備の促進をめざして地道な活動をしている団体である。 交通政策課は,本件署名協力にあたって,本件団体が平成19年11月9日に「○○大会」を開催したこと及び政治資金規正法による政治団体の届出を行っていない団体であることを確認した。 イ本件協議会前提事実(2)のとおりウ本件同盟会前提事実(3)のとおりエ交通政策課の事務分掌交通政策課は,道路整備の総合的な企画,調整及び推進に関すること,高速自動車国道の建設促進に関することなどの事務を分掌し,これらの予算を主管する課であり,これらの事務分担に基づき,職務として暫定税率の維持に関する業務を行ってきた。交通政策課が職務として暫定税率の維持に関する業務を行っていた理由は,道路特定財源が栃木県及び県内- 15 -各市町村にとって貴重な歳入財源であり,平成20年3月末をもって暫定税率が廃止されれば,平成20年度予算において大きな歳入欠陥が生じることとなり,県民生活や県政運営に重大な支障を及ぼすこととなるからである。そのような情勢下において,交通政策課は,本件署名協力を行う前から,知事による道路特定財源の堅持に関する要望活動に従事するなど,職務として暫定税率維持に関する業務を行っていた。 また,前提事実(3)のとおり,交通政策課には,本件同盟会の事務局が置かれており,交通政策課課長であるA課長が本件同盟会の事務を行うこと するなど,職務として暫定税率維持に関する業務を行っていた。 また,前提事実(3)のとおり,交通政策課には,本件同盟会の事務局が置かれており,交通政策課課長であるA課長が本件同盟会の事務を行うことは,適法な職務行為であった。 オ本件署名協力の主体A課長は,本件署名活動の内容が道路特定財源・暫定税率の維持とともに道路整備の促進を目的とするものであり,北関東自動車道の建設促進に関する事業を行う本件同盟会の活動と一致したこと,本件署名活動への協力の依頼が本件団体から本件協議会を通じて行われたことから,本件協議会の構成団体である本件同盟会の事務の遂行として,本件署名協力を行った。 本件署名協力依頼については,「栃木県事務決裁及び委任規則」に基づき,事務処理について最終的にその意思を決定する決裁権限が交通政策課長にあったことから,A課長の判断で行ったものである。 (2) 本件署名協力の違法性についてア憲法15条2項,地方公務員法30条違反について地方公務員法30条の解釈にあたり重要なのは,「公共の利益のために」勤務しなければならないとされている点にあり,「全体の奉仕者」としての行為なのか「一部の奉仕者」としての行為なのかを判別する基準は,「公共の利益のため」の行為か否かである。したがって,地方公務員の行為が,「一部の奉仕者」として職務の範囲を逸脱しているか否- 16 -かを判定する基準は,それが「公共の利益のため」にされたものか否かであり,私的な団体に協力する行為であっても,それが「公共の利益のため」にされたものであれば,地方公務員法30条に違反しないというべきである。私的な団体の活動が地方公共団体の施政方針に合致し,それに協力することが「公共の利益」に資すると考えられる場合には,それに協力することは何ら違法ではなく,それ 法30条に違反しないというべきである。私的な団体の活動が地方公共団体の施政方針に合致し,それに協力することが「公共の利益」に資すると考えられる場合には,それに協力することは何ら違法ではなく,それに従事した職員の行為は,職務行為として適法なものであり,地方公務員法30条に違反するものではないというべきである。 そして,何が「公共の利益」であるかは,時々の政治的,経済的,社会的状況と国民,住民の価値観を前提として,具体的に決定されていくべきものである。 ところで,本件団体は,私的団体であるが,依頼された署名の内容は,道路特定財源・暫定税率の維持という「公共の利益」の実現をめざすものであり,同団体の会員の私的利益を図ろうとするものではなかった。 また,道路特定財源・暫定税率が廃止された場合,県予算に大きな歳入欠陥が生じることとなり,県民生活や県政運営に重大な支障を及ぼすことは明らかであり,交通政策課は,本件署名運動への協力を依頼される前から,栃木県知事による道路特定財源の堅持に関する要望活動に従事するなど,職務として暫定税率適用期間の延長に関する業務を行っていた。 A課長は,以上を踏まえ,本件署名運動への協力依頼に応じたものであり,本件署名協力は,「公共の利益」の実現のための行為であって,地方公務員法30条に違反するものではない。 イ政治的行為の制限違反(地方公務員法36条2項2号,同条3項違反)についてA課長は,暫定税率適用期間の延長という特定の政策を支持するため本件署名協力を行ったのであり,同法36条2項にいう「特定の政党その他- 17 -の政治的団体又は特定の内閣若しくは地方公共団体の執行機関を支持し,又はこれに反対する目的」をもって本件署名協力を行ったのではないし,「公の選挙又は投票において特定の人又は事件を支持し, 17 -の政治的団体又は特定の内閣若しくは地方公共団体の執行機関を支持し,又はこれに反対する目的」をもって本件署名協力を行ったのではないし,「公の選挙又は投票において特定の人又は事件を支持し,又はこれに反対する目的」をもって本件署名協力を行ったのでもない。したがって,本件署名協力は,同条2項2号及び同条3項に違反しない。 ウ職務専念義務違反(地方公務員法35条違反)について前記(1)オ,(2)アのとおり,A課長は,本件署名活動への協力の依頼が本件団体から本件協議会を通じて行われたこと,本件署名活動の内容が道路特定財源・暫定税率の維持とともに道路整備の促進を目的とするものであり,北関東自動車道の建設促進に関する事業を行う本件同盟会の活動と一致することから,本件協議会の構成団体である本件同盟会の事務の遂行として,本件署名協力を行ったものであり,A課長の同行為は,交通政策課長としての適法な職務行為であって,地方公務員法35条に違反しない。 第4 当裁判所の判断 1 事実関係本件事実関係は,前提事実記載のとおりであり,さらに,前提事実(4)の交通政策課の事務分掌,同(5)の諸問題及び栃木県知事の要請行動,同(6)アの本件署名活動への協力依頼が,本件団体から本件協議会になされ,本件協議会から他県の東京事務所を経由して本件協議会の構成団体である本件同盟会の事務局である交通政策課に届いたものであること,同(6)ウ(ウ)の依頼文には,依頼内容として「貴市町村の構成する期成同盟会による署名のご協力をお願いします」との記載があり,同(エ)の依頼文書の依頼元が本件同盟会事務局長と記載されていること,A課長の陳述書(乙9),証人Aの証言及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められ,これを覆すに足りる証拠はない。 - 18 - )の依頼文書の依頼元が本件同盟会事務局長と記載されていること,A課長の陳述書(乙9),証人Aの証言及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められ,これを覆すに足りる証拠はない。 - 18 -(1) 交通政策課は,道路整備の総合的な企画,調整及び推進に関すること,高速自動車国道の建設推進に関することなどの事務を分掌し,これらの予算を主管しているところ,高速自動車国道の建設推進に関することという分掌事務の一部として,交通政策課に,北関東自動車道の早期実現を図ることを目的として設立され北関東自動車道の建設促進に関する事業等を行う本件同盟会の事務局が置かれて,課長が幹事を務め,A課長を含む同課の職員は,職務として本件同盟会の事務も行っていた。 (2) A課長は,平成20年3月31日をもって暫定税率が廃止されれば,同課が住民全体の便益のために分掌事務として行っていた高速自動車国道の建設推進の妨げになるばかりでなく,平成20年度予算において大きな歳入欠陥が生じ,県民生活や県政運営に重大な支障を及ぼすことが予想されたため,高速自動車国道の建設推進に関することという同課の分掌事務の遂行として,暫定税率適用期間の延長及び道路特定財源の枠組みの堅持を求める栃木県知事の要請行動に関する業務に従事するなど,職務として暫定税率維持に関する業務を同課課員とともに行っていた。 (3) A課長は,本件署名活動への協力依頼を受けて,本件団体に関し,前提事実(6)イの情報を得たほか,平成19年11月9日に緊急総決起大会を開催したこと及び政治資金規正法による政治団体の届出を行っていない団体であることを確認した上,本件同盟会として本件署名活動への協力を求める旨の上記各依頼文を発して,その結果集まった署名を本件団体に送付する本件署名協力に係る行為を行ったものである 出を行っていない団体であることを確認した上,本件同盟会として本件署名活動への協力を求める旨の上記各依頼文を発して,その結果集まった署名を本件団体に送付する本件署名協力に係る行為を行ったものであるが,上記依頼に至る経緯,上記各依頼文の内容,依頼が本件同盟会から行われたことに照らせば,A課長は,同課の分掌事務である本件同盟会の事務の遂行として,本件同盟会の行為として本件署名活動への任意の協力の依頼を行ったものと認められる。そして,A課長は,本件署名活動が,暫定税率,道路特定財源の維持や必要な道路整備の計画的な実施のため,暫定税率適用期間を延長する法律- 19 -の制定を求めるものであり,上記法律が制定されなければ,北関東自動車道の早期実現及び高速自動車国道の建設推進の妨げとなるので,本件署名協力に係る行為が,北関東自動車道の早期実現,暫定税率維持及び高速自動車国道の建設推進に資するものであり,本件同盟会の目的に合致し,交通政策課が分掌事務として行ってきた暫定税率維持に関する業務に資するものであり,高速自動車国道の建設推進に関することという同課の分掌事務の遂行にも当たるとして,これを行ったものである。 (4) 暫定税率適用期間を延長する法律が制定されず,平成20年3月31日をもって暫定税率が廃止されたことについて,栃木県は,同年4月17日付けで県の財源不足350億円(道路特定財源148億円,国補助金202億円)に対応するため,道路事業の執行停止(200億円相当)を含む措置を行うことを発表した。 2 地方公務員法36条2項2号,同条3項に違反するか(1) 職員の公務員としての全体の奉仕者という立場からの要請に基づき,同法36条2項本文は,「職員は,特定の政党その他の政治的団体又は特定の内閣若しくは地方公共団体の執行機関を支持し, 反するか(1) 職員の公務員としての全体の奉仕者という立場からの要請に基づき,同法36条2項本文は,「職員は,特定の政党その他の政治的団体又は特定の内閣若しくは地方公共団体の執行機関を支持し,又はこれに反対する目的をもって,あるいは公の選挙又は投票において特定の人又は事件を支持し,又はこれに反対する目的をもって,次に掲げる政治的行為をしてはならない。」と定め,同項2号に「署名運動を企画し,又は主宰する等これに積極的に関与すること。」を掲げているが,同項本文の文理から明らかなとおり,同項が禁止するのは,同項本文で定める目的をもって行う同項各号所定の行為であって,同項各号所定の行為であっても同項本文で定める目的をもって行うものでない行為については,同項の禁止は及ばないのである。 また,同条3項は,「何人も前2項に規定する政治的行為を行うよう職員に求め,職員をそそのかし,若しくはあおってはならず,」と定めてい- 20 -るが,同項にいう同条2項に規定する政治的行為も,同項本文で定める目的をもって行う同項各号所定の行為であることは明らかである。 そして,法律の制定や政策の実現を支持する行為が同項本文にいう「支持し,又はこれに反対する目的をもって」する行為に当たるためには,単に特定の政党その他の政治的団体が主張し,内閣が制定や実現を図り,地方公共団体の執行機関が支持する法律や政策と同一の法律の制定や同一の政策の実現を支持するのみでは不十分であって,これを超えて,「特定の政党その他の政治的団体」については,それらの団体自体を支持する目的をもって行われることを要し,「特定の内閣若しくは地方公共団体の執行機関」については,これらの機関自体の存続又は成立の目的をもって行われることを要するものと解すべきであり,支持する対象となる特定の政党そ て行われることを要し,「特定の内閣若しくは地方公共団体の執行機関」については,これらの機関自体の存続又は成立の目的をもって行われることを要するものと解すべきであり,支持する対象となる特定の政党その他の政治的団体,内閣,地方公共団体の執行機関が具体的且つ明確に表示されなければならないと解すべきである。 (2) 前判示の事実関係によれば,前提事実(6)ウ(ウ),(エ)の各依頼文の文面には,特定の政党その他の政治的団体,特定の内閣,地方公共団体の執行機関名が表示されているとは認められず,また,上記依頼文書に添付された同(ア),(イ)の署名協力依頼文及び署名用紙にも,さらに,本件団体作成の同(6)ア(ア)の趣意書にも,前記法律の制定や政策の実現を支持することを超えて,特定の政党その他の政治的団体自体を支持する目的をもって本件署名活動が行われる旨が記載されているとは認められず,特定の内閣,地方公共団体の執行機関自体の存続又は成立の目的をもって本件署名活動が行われる旨が記載されているとも認められない。そして,前判示のとおり,A課長は,本件署名活動が,暫定税率,道路特定財源の維持や必要な道路整備の計画的な実施のため,暫定税率適用期間を延長する法律の制定を求めるものであり,上記法律が制定されなければ,北関東自動車道の早期実現及び高速自動車国道の建設推進の妨げとなるので,本件署名協力に係る行為が,- 21 -北関東自動車道の早期実現,暫定税率維持及び高速自動車国道の建設推進に資するものであって,本件同盟会の目的に合致し,交通政策課が分掌事務として行っていた暫定税率維持に関する業務に資するものであり,高速自動車国道の建設推進に関する分掌事務の遂行にも当たるとして,交通政策課の分掌事務である本件同盟会の事務の遂行として本件署名協力に係る行為をしたも た暫定税率維持に関する業務に資するものであり,高速自動車国道の建設推進に関する分掌事務の遂行にも当たるとして,交通政策課の分掌事務である本件同盟会の事務の遂行として本件署名協力に係る行為をしたものであるところ,本件署名協力に至る経緯,各依頼文の内容,宛先,依頼が本件同盟会から行われたこと,栃木県における県知事,市長会,町村会,市議会議長会,町村議会議長会等の要請行為の内容など前判示の事実関係によれば,本件署名協力に係る行為が北関東自動車道の早期実現という本件同盟会の目的に合致し,暫定税率維持及び高速自動車国道の建設推進にも資するものとして行われたことは,本件署名協力の依頼を受けた者も了知したものと推認される。 以上によれば,特定の政党が上記法律の制定を支持し,本件署名活動の主張する政策の実現を求めていたとしても,このことから直ちに,A課長の本件署名協力に係る行為が,単にその政党の主張するものと同一の法律の制定を求め政策の実現を支持することを超えて,上記政党自体を支持する目的をもって行われたとは認められず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。また,内閣がこの法律の制定を図り,地方公共団体の執行機関がこれを支持していたとしても,同課長の本件署名協力に係る行為が内閣や上記執行機関の存続又は成立の目的をもって行われたとも認められない。 したがって,A課長の本件署名協力に係る行為は,同法36条2項本文の規定する「特定の政党その他の政治的団体又は特定の内閣若しくは地方公共団体の執行機関を支持し,又はこれに反対する目的」で行われた行為に当たるとは認められず,同項に違反することを認めるに足りる証拠はない。 以上によれば,A課長の本件署名協力に係る行為は同法36条2項2号,同条3項に違反するとは認められず,これが上記各規定に違反するもので- れず,同項に違反することを認めるに足りる証拠はない。 以上によれば,A課長の本件署名協力に係る行為は同法36条2項2号,同条3項に違反するとは認められず,これが上記各規定に違反するもので- 22 -あるから適法な職務行為とはいえないとする被控訴人の主張は採用することができない。 3 憲法15条2項,地方公務員法30条に違反するか(1) 憲法15条2項は,「すべて公務員は,全体の奉仕者であって,一部の奉仕者ではない。」と定め,これを受けて,地方公務員法30条は,「すべて職員は,全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し,且つ,職務の遂行に当っては,全力を挙げてこれに専念しなければならない。」と定めている。 同条の規定は,地方の政治が,住民の全体から信託を受けたものであり,この信託に基づく政策を実施する公務員は,住民全体に対して,住民全体の利益,すなわち公共の利益を増進するために奉仕すべきであることを明らかにしたものである。 他方,普通地方公共団体が特定の団体の行う活動に協力すること自体を明文で禁止する法の定めがなく,地方自治法232条の2が,「普通地方公共団体は,その公益上必要がある場合においては,寄附又は補助をすることができる。」と定め,公益上必要がある場合に普通地方公共団体が特定の団体に寄附又は補助して利益を与えることまで許容していること及び地方公務員法30条の文理も考え併せると,同条は,地方公務員がその職務として特定の団体の行う活動に協力することを一切禁止するものではなく,同条により禁止されるのは,住民全体の利益である公共の利益のために行われるのではなく,協力の相手方など一部の者の利益のために行われる行為であると解するのが相当であり,このような行為は,公共の利益のために行われるものとはいえず,適法な職務行為には当 の利益のために行われるのではなく,協力の相手方など一部の者の利益のために行われる行為であると解するのが相当であり,このような行為は,公共の利益のために行われるものとはいえず,適法な職務行為には当たらないというべきである。 (2) そして,前判示の事実関係によれば,交通政策課の高速自動車国道の建設推進に関する分掌事務の一部として,交通政策課に本件同盟会の事務局- 23 -が置かれ,A課長を含む同課の職員は職務として本件同盟会の事務も行っていたところ,A課長がその職務として本件同盟会の事務を遂行する行為は,同会に協力し利益を与えるものではあるが,同会の目的,構成員,同課の分掌事務など前判示の事実関係に照らせば,普通地方公共団体の機関など他の構成員と協力して,住民全体の利益のため北関東自動車道の早期実現を目的とする事業等を行うものであり,住民全体の利益ではなく一部の者の利益のために行われるものとは認められず,公共の利益のために行われるものでないということはできない。なお,被控訴人もA課長が本件同盟会の事務を扱うこと自体が地方公務員法30条,35条に違反するものでないことは認めているところである(被控訴人平成22年9月30日準備書面)。そして,本件署名活動が,暫定税率,道路特定財源の維持や必要な道路整備の計画的な実施のため,暫定税率適用期間を延長する法律の制定を求めるものであり,上記法律が制定されなければ,高速自動車国道の建設推進の妨げとなるばかりでなく,北関東自動車道の早期実現の妨げとなることも予想されたのであるから,A課長の本件署名協力に係る行為は,本件同盟会の目的に合致するものと認められ,その目的を達成する上で必要性のない行為とはいえないものである。 また,本件署名活動への協力の依頼があった平成20年1月当時,暫定税率適用期 係る行為は,本件同盟会の目的に合致するものと認められ,その目的を達成する上で必要性のない行為とはいえないものである。 また,本件署名活動への協力の依頼があった平成20年1月当時,暫定税率適用期間の満了日が同年3月31日に迫っており,暫定税率適用期間を延長する法案が国会で審理され,道路特定財源の一般財源化についても議論がされており,栃木県においては栃木県知事,栃木県市長会,栃木県町村会,栃木県市議会議長会,栃木県町村議会議長会等が,全国においては全国知事会,全国都道府県議会議長会,全国市長会,全国市議会議長会,全国町村会,全国町村議会議長会等が,また本件協議会も,暫定税率適用期間の延長及び道路特定財源の枠組みの堅持を強く求め,国会や政府に対し,その旨の要請行動等を行っていたところ,これらの要請行為が,住民- 24 -全体の利益のためでなく一部の者の利益のために行われたとは認めるに足りる証拠はない。そして,A課長は,道路整備の総合的な企画,調整及び推進に関すること,高速自動車国道の建設推進に関することなどの事務を分掌し,これらの予算を主管する交通政策課の課長として,同年3月31日をもって暫定税率が廃止されれば,住民全体の便益のために同課が分掌事務として行っている高速自動車国道の建設推進の妨げになるばかりでなく,平成20年度予算において大きな歳入欠陥が生じ,県民生活や県政運営に重大な支障を及ぼすことになるとして,同課の上記分掌事務の遂行として,栃木県知事の上記要請行動に関する業務に従事するなど,暫定税率維持に関する業務を行っていたことが認められる。本件署名活動が暫定税率,道路特定財源の維持や必要な道路整備の計画的な実施のため,暫定税率適用期間を延長する法律の制定を求めるものであり,上記法律が制定されなければ,高速自動車国道の建設推 られる。本件署名活動が暫定税率,道路特定財源の維持や必要な道路整備の計画的な実施のため,暫定税率適用期間を延長する法律の制定を求めるものであり,上記法律が制定されなければ,高速自動車国道の建設推進の妨げとなることが予想されたことは前判示のとおりであるから,A課長の本件署名協力に係る行為は,交通政策課の分掌事務として行ってきた暫定税率維持に関する上記業務に資するものであり,同課が住民全体の便益のために行っていた高速自動車国道の建設促進に関する分掌事務の遂行にも当たるものと認められる。 以上判示の各点を総合考慮すれば,A課長が交通政策課の分掌する本件同盟会の事務の遂行として行った本件署名協力に係る行為は,住民全体の利益ではなく協力の相手方である本件団体など一部の者の利益のために行われたものとは認めるに足りず,公共の利益のために行われたものでないということはできない。したがって,A課長の本件署名協力に係る行為が法の許容しないものであると認めることはできないというべきである。 (3) 被控訴人は,暫定税率期間や道路特定財源の適用については,国民又は住民全体の利益,すなわち公共の利益が何であるかが争われていたのであり,このように公共の利益が何であるかが争われ,国民又は住民の中に有- 25 -力な反対意見が存在するにもかかわらず,暫定税率適用期間を延長し,道路特定財源を維持するという政府・与党の立場を明確に支持している私的団体の行う署名活動に協力することは,国民又は住民全体の利益,すなわち公共の利益に反すると主張する。 しかし,住民の間に政治的対立のある事項に係る職員の行為の規律については,全体の奉仕者という立場からの要請に基づく制約を定める地方公務員法36条が設けられているところ,A課長の本件署名協力に係る行為が同条に違反するものとは 立のある事項に係る職員の行為の規律については,全体の奉仕者という立場からの要請に基づく制約を定める地方公務員法36条が設けられているところ,A課長の本件署名協力に係る行為が同条に違反するものとは認められないことは,前判示のとおりである。 そして,A課長の本件署名協力に係る行為が協力行為の相手方である本件団体など一部の者の利益のために行われたとは認めるに足りないことも,前判示のとおりであり,上記暫定税率適用期間の延長等について,住民の間に政治的対立があり,それが住民全体の利益である公共の利益に適うものではないという有力な反対意見が存在するとしても,それのみによって,A課長の上記行為が公共の利益のために行われるものでないと認めることはできない。したがって,本件事実関係の下において,暫定税率適用期間を延長する法律の制定等について国民又は住民の間に政治的対立が存在して賛否が分かれ,本件署名活動に対して有力な反対意見が存在したという事情は,上記判断を左右するに足りるものではなく,被控訴人の上記主張は採用することができない。 以上によれば,A課長の本件署名協力に係る行為は,憲法15条2項,地方公務員法30条に違反するとは認められず,これが,上記の各規定に違反するものであるから適法な職務行為に当たらないとする被控訴人の主張は採用することができない。 4 本件署名協力が地方公務員法35条に違反するか否か前記3のとおり,A課長の本件署名協力に係る行為は,本件同盟会の事務であると同時に交通政策課の分掌する事務の遂行として行われたものであ- 26 -り,法の許容するものでないとは認められないのであるから,同法35条に違反するとは認められず,これが同条に違反するので適法な職務行為に当たらないとする被控訴人の主張は採用することができない。 り,法の許容するものでないとは認められないのであるから,同法35条に違反するとは認められず,これが同条に違反するので適法な職務行為に当たらないとする被控訴人の主張は採用することができない。 5 結論以上によれば,本件署名協力は違憲・違法なものであるとの被控訴人の主張は認めることができないのであるから,その余の点を判断するまでもなく,被控訴人の請求は理由がない。 そうすると,原審が認容した被控訴人の請求は,主位的請求,予備的請求ともいずれも棄却すべきところ,これを認容した原判決は不当であり,本件控訴は理由があるから,原判決中控訴人敗訴部分を取り消した上,同部分につき被控訴人の請求を,上記主位的請求に係る予備的請求も含めて,いずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第5民事部 裁判長裁判官大 竹 たかし 裁判官山 﨑 まさよ 裁判官栗原壯太 (原判決等の表示) 主 文 1 被告は,Aに対し,32円及びこれに対する平成20年2月14日から支払済みまで年5分の割合による金員の賠償の命令をせよ。 - 27 - 2 被告は,Aに対し,78円及びこれに対する平成20年2月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を栃木県に支払うよう請求せよ。 3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は,これを5分し,その3を原告の負担とし,その余は被告の負担とする。 事実 及び理由第1 員を栃木県に支払うよう請求せよ。 3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は,これを5分し,その3を原告の負担とし,その余は被告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求1(1) 主位的請求被告は,Aに対し,133円及びこれに対する平成20年2月14日から支払済みまで年5分の割合による金員の賠償の命令をせよ。 (2) 予備的請求被告は,Aに対し,133円及びこれに対する平成20年2月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を栃木県に支払うよう請求せよ。 2 被告は,Bに対し,133円及びこれに対する平成20年2月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を栃木県に支払うよう請求せよ。 第2 事案の概要本件は,栃木県県土整備部交通政策課(以下,それぞれ単に「県土整備部」,「交通政策課」という。)の課長であったA(以下「A課長」という。)が,民間団体からの署名協力依頼にこたえ,栃木県内の行政機関に署名協力を依頼する文書を発し,取りまとめた署名を依頼元である民間団体に送ったところ,栃木県の住民である原告が,A課長は,上記行為によりその使用に係る物品(用紙及び封筒)を亡失又は損傷したものであるとして,被告に対し,主位的に,地方自治法242条の2第1項4号ただし書に基づき,A課長に用紙及び封筒代相当の損害の賠償の命令をすること- 28 -を求め(第1の1(1)),予備的に,同号本文に基づき,A課長に用紙及び封筒代相当の損害賠償を請求することを求める(第1の1(2)。以下,第1の1(1)と併せて「請求1」という。)とともに,栃木県知事であるB(以下,損害賠償請求の相手方としての同人を「B知事」という。)にはA課長の上記行為に関して指揮監督上の義務違反があるとして,被告に対し,同 と併せて「請求1」という。)とともに,栃木県知事であるB(以下,損害賠償請求の相手方としての同人を「B知事」という。)にはA課長の上記行為に関して指揮監督上の義務違反があるとして,被告に対し,同号本文に基づき,B知事に用紙及び封筒代相当の損害賠償を請求することを求めている(第1の2。以下「請求2」という。)事案である。 1 前提事実等(争いのない事実,括弧内掲記の証拠により容易に認められる事実及び法律等の定め)(1) 当事者等ア原告は,栃木県の住民である。 イ被告は,栃木県知事である。 ウ A課長は,平成19年度当時,交通政策課長であった者である。B知事は,同年度当時,栃木県知事であった者である。 (2) 揮発油税法及び地方道路税法(平成21年法律第13号により地方揮発油税法に名称が変更された。以下「地方道路税法」という。)は,揮発油(温度15度において0.8017を超えない比重を有する炭化水素油をいう。揮発油税法2条1項)及び揮発油税法6条により揮発油とみなされる物に揮発油税及び地方道路税(以下,両者を併せて「ガソリン税」ということがある。)を課している(揮発油税法1条,地方道路税法1条)。昭和39年法律第32号による改正後の揮発油税法における揮発油税の税率は,揮発油1キロリットルにつき2万4300円(同法9条),同改正後の地方道路税法における地方道路税の税率は,揮発油1キロリットルにつき4400円(同法4条)であった。 - 29 -昭和49年法律第17号による改正後の租税特別措置法は,昭和49年4月1日から昭和51年3月31日までの間に揮発油の製造場から移出され,又は保税地域から引き取られる揮発油に係る揮発油税及び地方道路税の税額は,揮発油税及び地方道路税の税率に係る上記各規定にかかわらず,揮発油1キロリ 年3月31日までの間に揮発油の製造場から移出され,又は保税地域から引き取られる揮発油に係る揮発油税及び地方道路税の税額は,揮発油税及び地方道路税の税率に係る上記各規定にかかわらず,揮発油1キロリットルにつき,揮発油税にあっては2万9200円の税率により計算した金額とし,地方道路税にあっては5300円の税率により計算した金額とする旨規定し(同改正後の同法89条1項。以下,同法に基づく揮発油税及び地方道路税の税率を「暫定税率」という。),以後,同法は暫定税率適用期間の満了日が迫るたび改正され,時に課税物件の拡大や税率の引上げ又は引下げを伴いながら,暫定税率適用期間は延長されてきた。 平成15年法律第8号による改正後の租税特別措置法における暫定税率適用期間の満了日は平成20年3月31日であり(同改正後の同法89条2項),同日が迫っていた同年1月ころには,暫定税率適用期間を延長する法案が国会において成立するかが国民の大きな関心事になっていた(公知の事実)。 (3) また,揮発油税等,自動車利用者が自動車に関連して納める税の全部又は一部は,その使途が道路の整備に関する事業に制限されていたが(平成15年法律第21号による改正後の道路整備費の財源等の特例に関する法律3条等。以下,使途が道路の整備に関する事業に制限された財源を「道路特定財源」という。),平成20年1月ころには,このような使途の制限を撤廃すべきか(いわゆる道路特定財源の一般財源化)が暫定税率適用期間の延長と併せて議論され,国民の大きな関心事になっていた(公知の事実)。 - 30 -(4) A課長は,平成20年1月15日までに,「E会」という団体からガソリン税の暫定税率の維持(租税特別措置法を改正して暫定税率適用期間を延長することを意味する。)を求める署名活動(以下「本件 -(4) A課長は,平成20年1月15日までに,「E会」という団体からガソリン税の暫定税率の維持(租税特別措置法を改正して暫定税率適用期間を延長することを意味する。)を求める署名活動(以下「本件署名活動」という。)への協力依頼を受け,これに積極的に協力すべきであると考え,栃木県内の31市町長及び県土整備部内の12課あてにそれぞれ本件署名活動への協力依頼を行う旨の決裁をした(乙8)。交通政策課の職員は,同決裁に基づき,栃木県内の31市町長に対しては平成20年1月15日付けで,県土整備部内の12課に対しては同月21日付けで,それぞれ,電子メールを利用して本件署名活動への協力依頼を行った(以下「本件署名協力依頼」という。)。 (5) A課長は,「E会」に対し,平成20年2月14日,本件署名協力依頼の結果集まった署名を送付した。 (6) 原告は,栃木県監査委員に対し,平成20年3月31日,本件署名協力依頼は地方公務員法35条及び36条2項2号に違反しており,B知事及びA課長はこれによって栃木県が被った損害を賠償する責任があるとして,地方自治法242条1項に基づく住民監査請求を行った。これに対し,栃木県監査委員は,同年5月28日付けで,本件署名協力依頼は地方公務員法35条及び36条2項2号に違反せず,原告の主張は理由がないと判断した。(甲1)(7) 原告は,平成20年6月9日,本件訴えを提起した(記録上明らかな事実)。 2 争点及びこれに関する当事者の主張(1) 本件署名協力依頼に関連する用紙及び封筒の使用が「物品を使用している職員が故意又は重大な過失により」「その使用に係る物品を亡失し,- 31 -又は損傷したとき」(地方自治法243条の2第1項前段)に該当し,あるいは栃木県に対する不法行為(民法709条)に該当するか(請求 意又は重大な過失により」「その使用に係る物品を亡失し,- 31 -又は損傷したとき」(地方自治法243条の2第1項前段)に該当し,あるいは栃木県に対する不法行為(民法709条)に該当するか(請求1)。 (原告の主張)本件署名協力依頼等本件署名活動への協力は,交通政策課とは無関係の「E会」という民間団体からの署名協力依頼に応じるもので,A課長の職務とは無関係な行為であり,地方公務員法35条の職務専念義務に違反する行為である。また,本件署名活動は,当時,政府・与党と野党との間で政治的対立があった暫定税率適用期間の延長問題について政府・与党の政策を支持する内容のものであったから,本件署名協力依頼は同法36条2項2号及び3項の定める政治的行為の制限に違反する。そして,A課長は,本件署名協力依頼に関し133円相当の交通政策課において使用する栃木県所有の用紙及び封筒(交通政策課職員が受信した電子メール及び添付ファイルの各内容をプリントアウトさせた用紙8枚,本件署名協力依頼に関する起案・決裁に使用した用紙7枚,本件署名活動に協力するために県土整備部内の12課で使用された用紙61枚,A課長が集まった署名を「E会」にあてて送付する際に使用した封筒1枚)を交通政策課職員に使用させ又は自ら使用し,その使用に係る物品を亡失又は損傷した。A課長には上記物品の亡失又は損傷について故意があるか,少なくともA課長は本件署名協力依頼が地方公務員法35条並びに36条2項2号及び3項に違反することを容易に認識することができたから,重大な過失がある。 仮に本件署名協力依頼に関連して用紙及び封筒を使用したことが故意又は重大な過失による物品の亡失又は損傷に当たらないとしても,A課- 32 -長が本件署名協力依頼に関連して栃木県の所有する用紙及び封筒を交通 署名協力依頼に関連して用紙及び封筒を使用したことが故意又は重大な過失による物品の亡失又は損傷に当たらないとしても,A課- 32 -長が本件署名協力依頼に関連して栃木県の所有する用紙及び封筒を交通政策課職員に使用させ又は自ら使用した行為は,栃木県に対する不法行為に該当する。 (被告の主張)交通政策課は,道路整備の総合的な企画,調整及び推進に関すること,高速自動車国道の建設促進に関することなどの事務を分掌し,これらの予算を主管する課であり,本件署名協力依頼を行う以前から,栃木県知事による道路特定財源の堅持に関する要望活動に従事するなど,職務として暫定税率適用期間の延長に関する業務を行っていた。交通政策課長はこのような交通政策課の事務及び予算を総括する立場にあるところ,A課長は,道路特定財源が栃木県及び県内市町にとって貴重な財源であり,暫定税率が平成20年3月31日で廃止されることになれば,平成20年度予算に大きな歳入欠陥が生じ,県民生活や県政運営に重大な支障を及ぼすことから,そのような事態を避けるために本件署名協力依頼を行った。したがって,本件署名協力依頼は,A課長が交通政策課長の職務として行ったものであり,地方公務員法35条に違反しない。 また,A課長は,暫定税率適用期間の延長という特定の政策を支持するため本件署名協力依頼を行ったのであり,同法36条2項にいう「特定の政党その他の政治団体又は特定の内閣若しくは地方公共団体の執行機関を支持し,又はこれに反対する目的」をもって本件署名協力依頼を行ったのではないし,「公の選挙又は投票において特定の人又は事件を支持し,又はこれに反対する目的」(同条項)をもって本件署名協力依頼を行ったのでもない。したがって,本件署名協力依頼は,同条2項2号及び3項に違反しない。 - 33 票において特定の人又は事件を支持し,又はこれに反対する目的」(同条項)をもって本件署名協力依頼を行ったのでもない。したがって,本件署名協力依頼は,同条2項2号及び3項に違反しない。 - 33 -(2) 本件署名協力依頼に関するB知事の不作為が栃木県に対する不法行為(民法709条)に該当するか(請求2)。 (原告の主張)B知事は,A課長に対し,地方公務員法等の関係法規の習得に努めさせ,本件署名協力依頼が地方公務員法に違反しないかどうかの検討を指示すべき指揮監督上の義務があったにもかかわらず,これを行わなかった。そのため,栃木県は,本件署名協力依頼の実施により,用紙及び封筒代相当の損害を被った。B知事の上記不作為は,栃木県に対する不法行為に該当する。 (被告の主張)本件署名協力依頼は地方公務員法35条並びに36条2項2号及び3項に違反せず,B知事に原告が主張するような指揮監督上の義務はないから,B知事の不作為は栃木県に対する不法行為に該当しない。 第3 争点に対する判断 1 事実関係前記前提事実等に証拠(甲1,2,乙1の1ないし3,乙2の2,乙4の1,2,乙5,7ないし9,証人A)及び弁論の全趣旨により認められる事実を総合すると,以下の事実が認められる。 (1) 暫定税率適用期間の満了日が約半年後に近づいた平成19年10月ころ以降,各地の地方公共団体は,その歳入源であるガソリン税等道路特定財源及びその暫定税率の維持を求める立場を明らかにしていた。栃木県内においても,栃木県市長会が同年10月17日に,栃木県町村会が同月22日にそれぞれ道路特定財源の維持等を求める緊急決議を行った。B知事も,総理大臣官邸,国土交通省及び財務省に対し,同月31- 34 -日付け「道路特定財源の堅持に関する要望書」を提出し,ま が同月22日にそれぞれ道路特定財源の維持等を求める緊急決議を行った。B知事も,総理大臣官邸,国土交通省及び財務省に対し,同月31- 34 -日付け「道路特定財源の堅持に関する要望書」を提出し,また,他の関東甲信8都県の知事と連名で,財務大臣に対し,同年12月12日付け「地方の道路整備と道路特定財源に関する緊急提言」を提出し,同趣旨の提言等を行うなど,同様の立場に立つことを表明していた(乙1の1ないし3,乙2の2)。 交通政策課は,道路整備の企画調整に関すること,道路整備事業の総合調整に関すること,D同盟会(栃木県,茨城県及び群馬県が加盟し,栃木県知事が会長を務める北関東自動車道の建設促進活動を行う団体であり,高速道路ネットワークの早期実現に向けた活動を行うC協議会の構成団体である。)に関することなどの事務を分掌するとともに,これらの事務に関する予算の主管課であった。また,交通政策課長は,交通政策課の事務及び予算を総括していた。A課長は,本件署名協力依頼以前から,上記B知事の立場に従い,同知事が道路特定財源の堅持を求めて行う要望活動を補佐するなどの事務を行っていた。(甲1,乙7,9,証人A)(2) 「E会」は,「F会」,「G会」及び「Hフォーラム」の3団体が発起人となって設立された,栃木県とは無関係な私的団体であるが,平成19年11月9日,東京都千代田区のαにおいて,道路特定財源を一般財源化することに反対する総決起大会を開催し,大会後,行進及び政府や各政党への要望活動を行った(乙4の2,乙5)。さらに,「E会」は,上記総決起大会に参加した関係者及び関係団体などに対し,同年12月20日付けで,暫定税率を維持するよう国又は国会議員に求める趣旨の署名に協力するよう依頼した(乙4の2)。 「E会」から上記署名協力依頼の電子 に参加した関係者及び関係団体などに対し,同年12月20日付けで,暫定税率を維持するよう国又は国会議員に求める趣旨の署名に協力するよう依頼した(乙4の2)。 「E会」から上記署名協力依頼の電子メールを受信したC協議会「I」- 35 -編集部職員は,同電子メールを広島県東京事務所職員に転送した。その後,栃木県東京事務所に転送された同電子メールは,平成20年1月9日,交通政策課職員に転送された。(乙4の1)(3) 上記(2)の電子メールには,「E会」名義の署名協力依頼文書及び請願書が添付されていた。このうち,署名協力依頼文書は,「日頃から,当会の活動に対しご協力頂きましてありがとうございます。(中略)政府・与党において,私たちが主張してきた,道路特定財源の暫定税率の延長や必要な道路整備を計画的に実施していくことが合意されています。 しかしながら,未だに,新聞紙上では,道路特定財源の暫定税率の廃止や一般財源化が大きな問題となっており,中央マスコミにおいては地方の道路整備はムダだとの報道がされています。政府・与党で合意はされたものの,最終的には,今後の国会での議論を経て,法案が成立するまでは,私たちもこれまでの主張や活動を続けて行く必要があります。そこで再度,皆さんのご理解ご協力を得ながら署名活動を実施していきたいと考えました。目標は,1月末までに10万人の署名を集めます。この皆さんのご意志を国や国会議員の方々に届けていきたいと思いますのでご協力をお願いします。」等と記載されたものであった。また,請願書は,「今,ガソリンがとっても高騰しています。そんな中,ガソリン税などの暫定税率(中略)を,維持するべきか,廃止すべきかが大きな問題になっています。(中略)私たちはガソリンの暫定税率を維持することに我慢します。(中略)その代わり,私た ます。そんな中,ガソリン税などの暫定税率(中略)を,維持するべきか,廃止すべきかが大きな問題になっています。(中略)私たちはガソリンの暫定税率を維持することに我慢します。(中略)その代わり,私たちが待ち望む道路を一日も早く,計画通りにつくって下さい。(中略)そのことを,ここに賛同頂いた多くの方々の署名と合わせて,切にお願い申し上げます。」と記載され,下部に10名分の署名欄が設けられたものであった。(乙4の- 36 -1,2)(4) A課長は,交通政策課職員から前記(2)の電子メールを受信したとの報告を受け,同電子メールの内容を確認するため,同職員に同電子メール及び添付ファイルの各内容をプリントアウトさせ,その内容を検討した結果,依頼にこたえて署名に協力する方向で決裁を取ることとし,同職員に対し,そのための決裁文書を起案するよう指示した(甲1,2,証人A)。指示を受けた同職員は,交通政策課長から栃木県の各市町長に対しての依頼文及びD同盟会事務局長(同事務局長は,交通政策課の職員が務めていた。)から県土整備部内の12課に対しての依頼文の各案を起案し,これらそれぞれに前記(3)の「E会」名義の署名協力依頼文書1枚及び同名義の請願書1枚を添付したものを各協力依頼の案文とし,さらに,決裁資料として,「E会」が作成した署名協力の手順等を記載した書面を末尾に添付して,課内の決裁に上げた。(甲1,乙4の2,乙8)。 交通政策課の職員7名(D同盟会事務局長を務める交通政策課職員を含む。)及び最終決裁権者のA課長は,同起案の内容をそのまま了承する旨決裁した。なお,上記決裁においては,「E会」の具体的な設立経緯,設立者及び構成員,活動内容その他団体の性質や栃木県との関係等は何ら明らかにされておらず,A課長も,上記決裁当時,同会が暫定税率 る旨決裁した。なお,上記決裁においては,「E会」の具体的な設立経緯,設立者及び構成員,活動内容その他団体の性質や栃木県との関係等は何ら明らかにされておらず,A課長も,上記決裁当時,同会が暫定税率適用期間の延長を求めて活動している女性主体の民間団体であるという以上の認識を有していなかった。また,A課長は,それまで公務として私的団体の署名活動に協力したことはなかった。(甲1,2,乙8,証人A)(5) 上記(4)の決裁に基づき,交通政策課職員は,栃木県内の31市町長- 37 -に対しては,本件署名活動への協力を依頼する交通政策課長名の平成20年1月15日付け文書を添付した電子メールを送信し,県土整備部内の12課に対しては,本件署名活動への協力を依頼するD同盟会事務局長名の同月21日付け文書を添付した電子メールを送信した(乙8,9,証人A)。 (6) A課長は,「E会」に対し,平成20年2月14日,本件署名協力依頼の結果集まった約5000名分の署名を送付し,その際,栃木県所有に係る封筒1枚を使用した(乙9,証人A)。 (7) 前記(4)の電子メール及び添付文書のプリントアウトに8枚の,起案・決裁文書の作成に7枚の,前記(5)の電子メールを受けた県土整備部内12課における電子メールのプリントアウト及び署名用紙のコピーに61枚の,交通政策課及び県土整備部内で使用されていた栃木県所有のA4判用紙が使用された。このA4判用紙の購入価格は,1箱(2500枚入り)で1240円(消費税抜き)であり,用紙1枚当たりの複写サービス費用は0.73円(消費税抜き)である。したがって,用紙1枚を複写に用いた場合に掛かる費用(消費税込み)は,以下の計算により,1.2873円((1240円÷2500枚+0.73円)×1.05)である。(甲1,2,乙8,証人 き)である。したがって,用紙1枚を複写に用いた場合に掛かる費用(消費税込み)は,以下の計算により,1.2873円((1240円÷2500枚+0.73円)×1.05)である。(甲1,2,乙8,証人A)用紙1枚にコンピュータ内のデータをプリントアウトした場合に掛かる費用(消費税込み)も同額である(甲2,弁論の全趣旨)。 また,A課長が本件署名協力依頼により集まった署名を送る際に使用した封筒の購入価格は,10枚入りで328円であった(甲1,2)。 2 本件署名協力依頼に関連する用紙及び封筒の使用が「物品を使用している職員が故意又は重大な過失により」「その使用に係る物品を亡失し,又は損- 38 -傷したとき」(地方自治法243条の2第1項前段,主位的請求),あるいは栃木県に対する不法行為(民法709条,予備的請求)に該当するかについて(請求1)(1) 主位的請求についてア地方自治法243条の2第1項前段によれば,一般職に属する地方公務員(以下「職員」という。)は,故意又は重大な過失により,その使用に係る物品を亡失し,又は損傷したときは,これによって生じた損害を賠償しなければならない。このうち,職員がその所属する地方公共団体から支給を受けた用紙や封筒などの事務用品を使用した場合,これらの物品は職員がその職務を遂行するために支給されるものであるから,当該職員がその職務と無関係の用途にこれらの物品を使用したときには,地方公務員法の定める職務専念義務(地方公務員法35条)や政治的行為の制限(同法36条2項及び3項)に違反するか否かを検討するまでもなく,「物品を亡失し,又は損傷したとき」に当たると解されるが,当該職員がその職務のためにこれらの物品を使用したときには,特段の事情のない限り,「物品を亡失し,又は損傷したとき」に当 検討するまでもなく,「物品を亡失し,又は損傷したとき」に当たると解されるが,当該職員がその職務のためにこれらの物品を使用したときには,特段の事情のない限り,「物品を亡失し,又は損傷したとき」に当たると解することはできない。 原告は,本件署名協力依頼に関連する用紙等の使用が地方自治法上の上記規定に該当する旨主張するので,以下これらの使用ごとに順次検討する。 イ電子メール及び添付ファイルの各内容のプリントアウトに係る用紙8枚の使用について同電子メールは,前記のとおり栃木県東京事務所の職員から交通政策課職員に送信されたものである。したがって,同電子メールが栃木県の- 39 -業務に関係する内容を含む可能性が高かったといえるから,交通政策課長はその職務としてその内容やそれへの対応を検討する必要があったと認められる。また,そのためには同電子メール及び添付ファイルの各内容をプリントアウトさせてそれを閲覧することが便宜であり,前記のとおりその費用も低額であったから,交通政策課長がこの電子メール及び添付ファイルの各内容をプリントアウトさせたことが職務の遂行の方法として不相当であったとはいえない。 以上によれば,A課長が交通政策課職員の報告を受け,同電子メールの内容を確認するため,同電子メール及び添付ファイルをプリントアウトさせた行為は,その職務の範囲内の行為であると認められ,前記特段の事情も認められない。なお,A課長の同行為が職員としての職務専念義務や政治的行為の制限に違反するとは認められない。 したがって,上記用紙の使用は,地方自治法243条の2第1項前段の「物品を亡失し,又は損傷したとき」に当たらないから,A課長は,同用紙の使用につき,同項前段による損害賠償責任を負わない。 ウ起案・決裁のための用紙7枚の使用について 法243条の2第1項前段の「物品を亡失し,又は損傷したとき」に当たらないから,A課長は,同用紙の使用につき,同項前段による損害賠償責任を負わない。 ウ起案・決裁のための用紙7枚の使用について上記用紙の使用は,前記のとおり栃木県東京事務所の職員が交通政策課職員に対してした依頼に対する対応を交通政策課内で検討するための使用であるから,その職務のための使用であると認められ,前記特段の事情も認められない。なお,A課長の上記起案の指示や決裁が職員としての職務専念義務や政治的行為の制限に違反するとは認められない。 したがって,上記用紙の使用は,地方自治法243条の2第1項前段の「物品を亡失し,又は損傷したとき」に当たらないから,A課長は,同用紙の使用につき,同項前段による損害賠償責任を負わない。 - 40 -エ県土整備部内の12課による用紙61枚の使用について前記のとおり,A課長らの決裁に基づき,交通政策課職員が県土整備部内の12課に対し電子メールにより本件署名協力依頼をし,これを受けた県土整備部内12課がプリントアウト及び署名用紙のコピーに用紙を使用した。交通政策課以外の課が使用した用紙はA課長の使用に係る物品とは認められないところ,上記用紙の中にA課長の使用に係る用紙があるかどうかは,本件全証拠によっても明らかではない。 したがって,上記用紙は,A課長の「使用に係る物品」であるとは認められないから,A課長は,上記用紙の使用につき,地方自治法243条の2第1項前段による損害賠償責任を負わない。 オ集まった署名送付の際の封筒1枚の使用について(ア) すべて公務員は,全体の奉仕者であって,一部の奉仕者であってはならず(憲法15条2項),職員は,全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し,かつ,職務の遂行に当たっては,全力 使用について(ア) すべて公務員は,全体の奉仕者であって,一部の奉仕者であってはならず(憲法15条2項),職員は,全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し,かつ,職務の遂行に当たっては,全力を挙げてこれに専念しなければならないのであるから(地方公務員法30条),職員が専ら特定の私的団体の活動に協力することは,職員の職務の範囲を逸脱し,適法な職務行為となるものではなく,そのことは,当該私的団体の活動目的や活動内容と当該職員の所属する地方公共団体の利害が結果として一致する場合であっても変わるところがないと解するのが相当である。 前記認定の事実によれば,本件署名協力依頼は,栃木県や交通政策課とは無関係な私的団体である「E会」の依頼に基づくものであり,A課長は,本件署名協力依頼に際し,署名活動の主宰者が「E会」であることを明示した依頼文を作成するとともに,同会が作成しその名- 41 -称が明記された署名協力依頼文書及び請願書を依頼文に添付し,集まった署名を同会に直接送付したのであるから,これらの行為が専ら同会の署名活動に協力するものであることは明らかである。したがって,交通政策課が道路整備の企画調整に関する事務を分担し,その事務に関する予算を主管しており,また,A課長がB知事による道路特定財源の堅持に関する要望活動を補佐するなどの事務を行っていたとしても,本件署名協力依頼が交通政策課長の職務に当たると認めることはできない。 以上によれば,A課長がした本件署名協力依頼は,その職務の範囲を逸脱し,適法な職務行為であるとは認められない。また,A課長が本件署名協力依頼に基づき集まった署名を送付することも,同じく,その適法な職務行為とは認められない。 前記のとおり,A課長は,上記署名を送付するために,交通整備課内の封筒1枚を 。また,A課長が本件署名協力依頼に基づき集まった署名を送付することも,同じく,その適法な職務行為とは認められない。 前記のとおり,A課長は,上記署名を送付するために,交通整備課内の封筒1枚を使用したが,これはA課長の職務外の用途に使用したものといわざるを得ないから,A課長はその使用に係る上記封筒を「亡失し,又は損傷した」と認められる。 (イ) そして,本件署名協力依頼は,「E会」という栃木県とは無関係の団体が行う署名活動に協力するものであることが明らかであること,A課長はそのことを認識していたこと,A課長は同会の具体的な設立経緯,設立者,活動内容などを把握していなかったこと,本件署名活動及び本件署名協力依頼は,行政組織を介し,個人の署名を求め,それを国(政府)や国会議員に提出するというものであること,A課長がそれまでにそのような署名活動に協力したことはなく,異例の事柄であって,そのことはA課長も認識していたと認められることなど- 42 -を総合すれば,交通政策課の事務分掌,本件署名活動への協力依頼が栃木県の他の部署を経由して交通政策課にあったこと,本件署名活動の目的が栃木県の利益等と一致する内容であったこと等を考慮しても,A課長は本件署名協力依頼が自己の職務外であることを少なくとも容易に認識することができたと認めるのが相当である。したがって,A課長には,本件署名協力依頼により集まった署名を送付するために栃木県の所有に係る封筒1枚を使用したことについて,少なくとも重大な過失が認められる。 (ウ) 本件で使用された封筒の購入価格は10枚入りで328円であったから(前記1(7)),A課長による封筒1枚の使用により栃木県が被った損害額は,32円(328円÷10枚,1円未満切捨て)であると認められる。 カ以上によれば,A課長 0枚入りで328円であったから(前記1(7)),A課長による封筒1枚の使用により栃木県が被った損害額は,32円(328円÷10枚,1円未満切捨て)であると認められる。 カ以上によれば,A課長は,栃木県に対し,地方自治法243条の2第1項前段に基づき,32円及びこれに対する封筒1枚を使用した日(不法行為の日)である平成20年2月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を賠償する義務を負う。 (2) 予備的請求について主位的請求が認められない用紙の使用に係る予備的請求について,判断する。 ア職員がその所属する地方公共団体から支給を受けた事務用品をその職務とは無関係の用途に使用することは,当該地方公共団体の財産権を侵害する行為になるが,その職務上使用したときには,特段の事情のない限り,同財産権を侵害するものではないと解される。 イ電子メール及び添付ファイルの各内容のプリントアウトに係る用紙- 43 -8枚並びに起案・決裁のための用紙7枚の使用について前記(1)イ及びウのとおり,上記用紙がA課長の職務外に使用されたとは認められず,前記特段の事情も認められない。なお,A課長の上記用紙の使用が職務専念義務や政治的行為の制限に違反するとは認められない。したがって,上記用紙の使用が栃木県の財産権を侵害する行為であるとは認められず,A課長に不法行為責任はない。 ウ県土整備部内の12課による用紙61枚の使用について前記(1)オのとおり,本件署名協力依頼は交通政策課長の職務外の行為であるところ,上記12課は,本件署名協力依頼の電子メールを受けてそれをプリントアウトし,署名用紙を複写したのであるから,上記用紙はA課長による本件署名協力依頼の結果使用されたものであり,本件署名協力依頼と上記用紙使用との間に 件署名協力依頼の電子メールを受けてそれをプリントアウトし,署名用紙を複写したのであるから,上記用紙はA課長による本件署名協力依頼の結果使用されたものであり,本件署名協力依頼と上記用紙使用との間には相当因果関係が認められる。 そして,本件事実経過に照らせば,A課長には,本件署名協力依頼をし県土整備部内の12課に上記用紙を使用させたことについて,少なくとも過失が認められるから,A課長には不法行為責任がある。 本件で使用された用紙を複写又はプリントアウトに用いる場合の費用は1枚当たり1.2873円であったから(前記1(7)),上記用紙61枚の使用により栃木県が被った損害額は,78円(1.2873円×61枚,1円未満切捨て)であると認められる。 エ以上によれば,A課長は,民法709条に基づき,栃木県に対し,78円及びこれに対する県土整備部内の12課において用紙61枚が使用された日(損害発生の日であり,不法行為の日)以降である平成20年2月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を賠償する義務を負う。 - 44 - 3 本件署名協力依頼に関するB知事の不作為が栃木県に対する不法行為(民法709条)に該当するかについて(請求2)本件全証拠によっても,B知事が本件署名協力依頼のことを事前に知っており,あるいは過失により知らなかったとの事実は認められないから,原告が主張するような指揮監督上の義務違反がB知事にあったとは認められない。 したがって,本件署名協力依頼に関するB知事の不作為が栃木県に対する不法行為に該当するとは認められず,B知事は栃木県に対して損害賠償義務を負わない。 第4 結論以上によれば,原告の請求は,請求1の主位的請求のうち,被告に対し,A課長に32円及びこれに対する不法行為の日である るとは認められず,B知事は栃木県に対して損害賠償義務を負わない。 第4 結論以上によれば,原告の請求は,請求1の主位的請求のうち,被告に対し,A課長に32円及びこれに対する不法行為の日である平成20年2月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による金員の賠償の命令をすることを求め,請求1の予備的請求のうち,A課長に78円及びこれに対する不法行為の日以降である平成20年2月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による金員を栃木県に支払うよう請求することを求める限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求(請求1のうちその余の主位的請求及びその余の予備的請求並びに請求2)はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 宇都宮地方裁判所第2民事部 裁判長裁判官竹内民生 裁判官熊代なつみ- 45 - 裁判官近藤義浩

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