平成15年3月12日判決言渡平成12年(ワ)第2321号損害賠償請求事件判決 主文 1 被告は,原告甲に対し,4884万7439円及びこれに対する平成8年4月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告乙に対し,4884万7439円及びこれに対する平成8年4月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 原告らのその余の請求を棄却する。 4 訴訟費用は,これを10分し,その1を原告らの負担とし,その余を被告の負担とする。 5 この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,原告甲に対し,5351万3529円及びこれに対する平成8年4月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告乙に対し,5351万3529円及びこれに対する平成8年4月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,原告甲及び原告乙(以下,この両名を「原告ら」という。)が,原告らの実子である丙(以下「丙」という。)が,被告の開設するX総合病院(以下「被告病院」という。)において,竹の切り株を踏んだことによる右足裏の刺し傷(以下「本件刺創」という。)の治療を受けたところ,その後,本件刺創からガス壊疽を発症させ,右下肢の切断を余儀なくされたのは,被告病院の丙に対する治療(以下,被告病院における丙に対する一連の治療を「被告治療」という。)に過失があったためであり,かつ,その後丙が死亡したことにより原告らが丙の権利 なくされたのは,被告病院の丙に対する治療(以下,被告病院における丙に対する一連の治療を「被告治療」という。)に過失があったためであり,かつ,その後丙が死亡したことにより原告らが丙の権利義務を相続した旨主張して,被告に対し,診療契約上の債務の不完全履行又は不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償として,各5351万3529円(合計1億0702万7058円)及びこれらに対する丙が被告治療を受け始めた日の翌日である平成8年4月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による各遅延損害金の支払を求めた事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実は証拠を掲記しない。)(1) 当事者ア被告は,千葉県知事の許可を得て設けられた地方自治法284条6項に基づく地方公共団体の組合であり,被告病院を開設している。 被告治療が行われた当時,A(以下「A医師」という。)は,内科医として,B(以下「B医師」という。)は,消化器外科医として,C(以下「C医師」という。),D(以下「D医師」という。)及びE(以下「E医師」という。)は,整形外科医としてそれぞれ被告病院に勤務していた。 なお,被告病院には,ガス壊疽の予防,治療に有効な高圧酸素療法を行う施設は存在しない。 イ原告らは,平成10年3月1日に交通事故により死亡した丙(昭和52年3月13日生)の両親であり,丙の権利義務を各2分の1ずつ相続した。 (2) 診療契約の締結丙は,平成8年4月28日午後5時ころ,自宅近くの川において,裸足で川の中に入って魚釣りをしていたところ,川の中の竹の切り株を右足で踏み,その竹の切り株が右足裏に刺さるという本件刺創を負っ 平成8年4月28日午後5時ころ,自宅近くの川において,裸足で川の中に入って魚釣りをしていたところ,川の中の竹の切り株を右足で踏み,その竹の切り株が右足裏に刺さるという本件刺創を負った(甲3の②,10,証人A,弁論の全趣旨)。 丙は,同日,本件刺創の治療のため,被告病院外来外科を訪れ,被告との間で,診療契約を締結した。 (3) 診療経過ア丙は,上記(2)のとおり,本件刺創を負ったため,平成8年4月28日午後5時30分ころ,被告病院外来外科を訪れ,当直医であったA医師の診察を受けた。 A医師は,本件刺創を1センチメートル程度の深さの右足底刺創と診断し,これを麻酔の上,歯ブラシを使用して生理食塩水1000ミリリットルで洗浄するといういわゆるデブリードマンを行い(なお,デブリードマンとは,一般に,メス,鋏,ピンセットなどを用いて,固着した汚染組織,壊死組織を除去することをいうとされている。乙2の②),創部を3針縫って縫合するとともに,破傷風予防薬を筋肉注射し,抗生物質と消炎鎮痛解熱剤の内服薬を処方した。なお,A医師は,上記デブリードマンの際,本件刺創から小さな竹片を数個摘出した。 イ丙は,平成8年4月29日午前7時30分ころ,足関節部の疼痛を訴え,再び被告病院を訪れ,当時の当直医であったA医師の診察を受けた。この時,A医師は,本件刺創を診察したところ,足関節部に圧痛,腫脹がみられたものの,創が清潔で,レントゲン撮影検査の結果,骨傷もなかったことから,足関節捻挫と診断し,足底縫合部の包帯を交換し,冷罨法にて経過をみることとし,鎮痛消炎剤,消炎剤の内服薬及び鎮痛消炎貼付剤を処方した。 ウ丙 の結果,骨傷もなかったことから,足関節捻挫と診断し,足底縫合部の包帯を交換し,冷罨法にて経過をみることとし,鎮痛消炎剤,消炎剤の内服薬及び鎮痛消炎貼付剤を処方した。 ウ丙は,平成8年4月29日午後6時40分ころ,右足関節部の疼痛を訴え,三たび被告病院を訪れ,当時の当直医であったB医師の診察を受けた。B医師は,包帯を交換し,鎮痛消炎軟膏と,鎮痛消炎剤の頓服薬を処方した。 エ丙は,平成8年4月30日午前9時すぎころ(証人B),四たび被告病院を訪れ,B医師の診察を受けた。B医師は,本件刺創の縫合部分の皮膚が汚かったため,イソジン(殺菌消毒剤)で創部を消毒する処置を施すとともに,丙を被告病院整形外科において受診させることとした。 オ B医師から丙の治療の引継を受けた被告病院整形外科のC医師は,平成8年4月30日の午前中,本件刺創を診察したところ,足関節内側の腫脹が著明であったため右足部蜂窩織炎及び化膿性腱鞘炎の発症を疑い(乙5),丙を入院させた上で,創部を切開し,デブリードマン,ドレナージをすることとした(なお,ドレナージとは,一般に,切開創内に誘導管を置き,創内の滲出液,血液を外方へ向かって持続的に誘導させる方法をいうとされている。)。丙は,同日の午前11時10分ころ,被告病院に入院した。なお,この時,丙の右足をレントゲン撮影検査をしたが,ガス像はみられなかった。 カ C医師は,平成8年4月30日午後6時8分から午後8時8分にかけて,E医師及びD医師を助手として,丙に対して,本件刺創の創部を少し拡げ,足関節内踝後方に切開を加え,ブラッシングし,生理食塩水2000ミリリットルでデブリードマ 後8時8分にかけて,E医師及びD医師を助手として,丙に対して,本件刺創の創部を少し拡げ,足関節内踝後方に切開を加え,ブラッシングし,生理食塩水2000ミリリットルでデブリードマンをする手術を施した。この際,本件刺創の創内からは,竹片と膿が発見され(甲3の③),C医師らは,丙が右足部蜂窩織炎及び化膿性腱鞘炎を併発していると診断した。 キ C医師は,平成8年5月1日,丙に対して回診をしたが,この際,丙には,本件刺創から暗紫色の血清が滲み出しており,足趾知覚が鈍く,創部の腫脹などの所見が認められた。この日の丙に対する治療としては,鎮痛剤の投与などの術後の経過処置のみ行われた。 ク D医師が,平成8年5月2日午前8時過ぎころ,丙を回診したところ,本件刺創は,臭気を帯び,淡茶色の血清の滲み出しがみられ,足底に暗紫色の水疱が2個みられ,腫脹も持続していた。 その後,同日午後4時過ぎころ,E医師の指示により,丙の右足のレントゲン撮影検査を実施したところ,ガス像がみられたので(甲3の③,乙6,証人C,証人E),E医師及びC医師は,午後5時15分,丙の右足がガス壊疽に罹患していることを疑い,丙を救急車でP医療センター(以下「P医療センター」という。)に転院させた。 ケ丙は,上記クのとおり,平成8年5月2日午後7時5分,P医療センターに入院し,同センターのQ医師の診断を受けたところ,右下肢ガス壊疽との診断を受け,緊急手術により,右下肢を足関節上約10センチメートルのところで切断された。この際,Q医師が,丙の右足関節部付近を切開したところ,長さ約3センチメートル,幅約7ミリメートルの竹片が発見された(甲8)。 を足関節上約10センチメートルのところで切断された。この際,Q医師が,丙の右足関節部付近を切開したところ,長さ約3センチメートル,幅約7ミリメートルの竹片が発見された(甲8)。 コその後,丙は,P医療センターにおいて,平成8年5月3日から同月9日まで高圧酸素療法を受け,同月13日,右下腿断端形成手術を受け,同月20日抜糸され,同月21日,茨城県鹿島郡所在のR病院に転入院し,同病院において,リハビリ,義足の調製等を行い,平成8年8月19日に同病院を退院した(甲1の①,2,8)。 2 争点本件の争点は,被告治療に被告病院医師らの過失が認められるか(争点1)及び損害額(争点2)である。 (1) 争点1(被告治療に被告病院医師らの過失が認められるか。)ア原告らの主張・丙は,結果として右下肢ガス壊疽と診断され,右下肢を足関節上約10センチメートルのところで切断することを余儀なくされたが,これは,以下のとおり,被告治療に過失があったためである。 ・すなわち,ガス壊疽とは,クロストリジウム菌を含め,すべてのガス産生菌感染による壊疽性病変をいうが,その病原菌は各種の土壌中に存在するため,土壌が付着するなどした不潔な創から感染することが多く,また嫌気性であるため外気からの遮断と血行障害による組織酸素の減少や消失等が感染の条件となる。ただ,創部にガス壊疽菌が存在したとしても,必ずしも発症するとは限らず,その発症原因の大半は,初期治療を担当した医師の不完全な創傷処理にあるとされている。 したがって,ガス壊疽の治療は,発症後の治療よりも発症前の も発症するとは限らず,その発症原因の大半は,初期治療を担当した医師の不完全な創傷処理にあるとされている。 したがって,ガス壊疽の治療は,発症後の治療よりも発症前の予防が何よりも重要であり,受傷直後の創傷処理において,創傷部位をよく洗浄して清浄化し,創内の汚染組織,血流の乏しい組織等を十分に除去する,いわゆるデブリードマンをすることが重要な処置となる。また,一たびデブリードマンを行ったとしても,十分にガス壊疽菌を除去できなかった可能性がある場合には,嫌気性菌であるガス壊疽菌の増殖を抑えるために,創部を開放性に処置し,再度デブリードマンを行ってから縫合する等の配慮が必要となる。 また,ガス壊疽が発症した場合の治療法としては,直ちに,高圧酸素療法を行い,抗生物質を投与して,できるだけ患肢の切断を避けることが原則とされている。 したがって,たとえガス壊疽の発症予防のために,デブリードマンを行ったとしても,ガス壊疽菌の除去が不十分であったためにガス壊疽を発症してしまう場合に備え,患者の状態を注意深く観察し,急激な発熱,創部の激痛,腫脹,発赤,創周囲の皮膚の浮腫・発赤,滲出液の大量排出など,ガス壊疽を疑うべき所見が認められた場合には,直ちに,高圧酸素療法を行うべく,患者を高圧酸素療法が可能な専門医療機関に転院させるべきこととなる。 ・上記・のガス壊疽及びその治療の特徴にかんがみれば,被告病院医師らには,以下のとおりの過失が認められる。 a 平成8年4月28日におけるA医師の過失A医師は,平成8年4月28日,本件刺創を受傷した直後に がみれば,被告病院医師らには,以下のとおりの過失が認められる。 a 平成8年4月28日におけるA医師の過失A医師は,平成8年4月28日,本件刺創を受傷した直後に被告病院を来院した丙に対して,前記1,(3),ア記載のとおり,歯ブラシを使用した本件刺創の創部のデブリードマン,創部を3針縫っての縫合,破傷風予防薬の投与などの処置をしたが,以下のとおり,A医師の上記処置は不適切であり,A医師には過失が認められるというべきである。 すなわち,本件刺創は,上記1,(2)記載のとおり,丙が川の中で竹の切り株を踏んだことにより生じたものであるから,土壌等によってかなり汚染されていたものと容易に考えることができ,ガス壊疽発症の危険性は極めて高いものであったということができる。 そうだとすると,A医師には,この時点において,本件刺創の受傷状況や,丙の体重が100キログラム程度あったことを考慮して,本件刺創が右足の深部に達する重大な刺創であった可能性及びガス壊疽発症の危険性があることを認識すべきであり,ガス壊疽発症を予防すべく,徹底したデブリードマン,集中的な抗生剤の投与,創部を開放とするなどの治療を行う医学上の義務があったというべきである。 しかしながら,A医師は,上記義務に反し,本件刺創の治療として,一般的な外傷に対する初期治療である創傷口に対する簡単なデブリードマンと破傷風予防薬を投与したにとどまり,後日,P医療センターにおいて,丙の右足関節部付近から発見された長さ約3センチメートル,幅約7ミリメートルの竹片等の存在 デブリードマンと破傷風予防薬を投与したにとどまり,後日,P医療センターにおいて,丙の右足関節部付近から発見された長さ約3センチメートル,幅約7ミリメートルの竹片等の存在を見落とし,その上,創傷部位を縫合し,結果として,嫌気性であるガス壊疽菌の増殖を招いたものである。 b 平成8年4月29日午前7時30分におけるA医師の過失丙は,平成8年4月29日午前7時30分ころ,前記1,(3),イ記載のとおり,足関節部の疼痛を訴えて再び被告病院に来院したが,A医師は,この時点で,丙の受傷状況や本件刺創の傷の程度,丙が強い疼痛を訴えて,早朝に再び来院したことなどを考慮して,丙の足関節部の疼痛は,本件刺創の創が深く,創内に竹片などの異物が残存しているためであるとの可能性を疑うべきであり,また,化膿性炎症等の2次的病変の発生,さらにはガス壊疽発症の危険性を認識して,これに対する適切な処置を講じるべき医学上の義務があったというべきである。 しかしながら,A医師は,丙に対し,足関節捻挫と診断し,冷罨法にて経過をみるなどの処置をとったにすぎないから,上記義務を尽くしたとはいえない。 c 平成8年4月29日午後6時40分におけるB医師の過失丙は,平成8年4月29日午後6時40分ころ,前記1,(3),ウ記載のとおり,三たび右足関節部の疼痛を訴えて被告病院に来院したが,当時の当直であったB医師は,この時点で,受傷状況,本件刺創の傷の程度,従前の治療が全く功を奏さないこと及び丙が激しい痛みを訴えていることなどを考慮し,ガス壊疽発症の危険性を認識して,こ たB医師は,この時点で,受傷状況,本件刺創の傷の程度,従前の治療が全く功を奏さないこと及び丙が激しい痛みを訴えていることなどを考慮し,ガス壊疽発症の危険性を認識して,これに対する適切な処置を講じるべき医学上の義務があったというべきである。 しかしながら,B医師は,A医師による上記b記載の足関節捻挫との診断結果を何ら疑うことなく,創部の包帯交換をするなどの処置をしたにとどまったというのであるから,上記義務を尽くしたとはいえない。 d 平成8年4月30日における被告病院整形外科医師らの過失C医師ら被告病院整形外科医師らは,平成8年4月30日,前記1,(3),カ記載のとおり,同日午後6時8分から同日午後8時8分までの2時間にわたり,丙に対し,本件刺創の創部を切開した上で,デブリードマンを行う手術を行ったが,その際,丙が嫌気性菌に感染していることを念頭に置いていたのであるから,ガス壊疽を疑って徹底的なデブリードマンを行い,異物を除去すべきであったのに,後日,P医療センターで発見された長さ約3センチメートル,幅約7ミリメートルの竹片等の存在を見落とし,これを丙の創部に残存させたものであり,この点で,被告病院整形外科医師らには過失が認められる。 e 被告病院整形外科医師らによる丙の転院措置義務の懈怠・平成8年5月1日における転院措置義務の懈怠C医師ら被告病院整形外科医師らは,平成8年4月30日,前記1,(3),カ記載のとおり,丙に対し,本件刺創の創部を切開し,デブリードマンを行う手術を行ったが,その際, C医師ら被告病院整形外科医師らは,平成8年4月30日,前記1,(3),カ記載のとおり,丙に対し,本件刺創の創部を切開し,デブリードマンを行う手術を行ったが,その際,本件刺創の創が長母指屈筋腱鞘まで達し,その長母指屈筋腱鞘内から竹片と膿が出ていることを発見した。C医師らは,このように,本件刺創の深部から竹片と膿を発見したのであるから,嫌気性菌の感染症であるガス壊疽発症の危険性を疑うべきであった。また,丙は,同年5月1日午前6時ころには足趾に浮腫が現れ,同日午前10時ころには本件刺創から暗紫色の血性の滲み出しが確認され,同日午後2時ころには創部の腫脹,午後3時20分ころには右膝内側腫脹が確認された。 以上を考慮すると,C医師ら被告病院整形外科医師らは,遅くとも同年5月1日の時点で,レントゲン撮影検査を実施してガス像の有無などのガス壊疽の発症の徴候を検査し,直ちに丙を高圧酸素療法等を行うことができる設備の整った医療機関へ転院させるべきであったというべきであり,これを怠り,漫然と経過治療のみを行った点に,C医師ら被告病院整形外科医師らの過失が認められる。 ・平成8年5月2日における転院措置義務の懈怠C医師ら被告病院整形外科医師らは,平成8年5月2日の午前8時の丙に対する回診の際に,本件刺創からの淡茶色の血清の滲み出し,臭気,足底に暗紫色の水疱2個,腫脹持続などのガス壊疽特有の症状がみられたのであるから,直ちに,丙を高圧酸素療法等を行うことができる設備の整った医療機関へ転院させるべ 臭気,足底に暗紫色の水疱2個,腫脹持続などのガス壊疽特有の症状がみられたのであるから,直ちに,丙を高圧酸素療法等を行うことができる設備の整った医療機関へ転院させるべきであったのに,結局これを怠り,C医師ら被告病院整形外科医師らが丙のガス壊疽発症を疑い転院を決めたのは,それから約9時間後の午後5時15分であったというのであるから,丙に対する転院措置は遅きに失し,C医師ら被告病院整形外科医師らには過失が認められる。 ・まとめ以上のとおり,丙がガス壊疽を発症したことにより右下肢切断したのは,平成8年4月28日から同年5月2日までの各段階における被告病院医師らの治療が不適切であったためであり,被告治療には過失が認められるというべきである。 イ被告の主張・本件では,前記1,(3),ケ記載のとおり,丙がガス壊疽を発症した後,P医療センターにおいて,本件刺創の創内から,長さ約3センチメートル,幅約7ミリメートルの竹片が発見されたものであるが,一般に,竹片等が筋肉内に巻き込まれた場合には,これを除去することは極めて困難であるといえるから,仮に,丙が創部に残された竹片等が原因でガス壊疽を発症させたとしても,それは不可抗力であり,被告病院医師らに過失は認められない。 ・また,以下のとおり,被告病院医師らの丙に対する処置は,いずれも適切なものであって,何ら過失は認められない。 a 平成8年4月28日におけるA医師の処置についてA医師は,平成8年4月28日,丙を診察したところ,本件刺創は,被告病院に来院した約30分前に 認められない。 a 平成8年4月28日におけるA医師の処置についてA医師は,平成8年4月28日,丙を診察したところ,本件刺創は,被告病院に来院した約30分前に受傷したものであり,傷の深さは約1センチメートルにとどまるものであったが,このような場合の医師に求められる医学上の義務は,異物を除去し,創部を洗浄し,破傷風予防薬の筋肉注射をし,細菌感染を予防するため抗生物質等を処方し,創を閉鎖して縫合するということに尽きる。 A医師は,前記1,(3),ア記載のとおり,本件刺創に対する処置として,生理食塩水1000ミリリットル及び歯ブラシを使用してデブリードマンを行い,竹片を数個摘出し,創部を3針で縫合し,さらに破傷風予防薬の筋肉注射をし,細菌感染予防のために抗生物質を処方したのであるから,A医師の治療行為に何ら上記医学上の義務に反するところはない。 なお,そもそも,デブリードマンを行ったとしても,起炎菌のすべてを排除することは不可能であり,したがって,丙が,後日,結果的にガス壊疽を発症させたとしても,A医師の診断に過失があったということはできない。 また,A医師が本件刺創を縫合した点について,原告らは,嫌気性であるガス壊疽菌の増殖を招くものであり,過失があったと主張するが,仮に,開放創にしておくと,治療期間が延び,開放創自体の汚染も起こり得るのであるから,この時点の処置としては妥当であり,何ら過失は認められない。 b 平成8年4月29日午前7時30分におけるA医師による処置についてA医師は,平成8年 あるから,この時点の処置としては妥当であり,何ら過失は認められない。 b 平成8年4月29日午前7時30分におけるA医師による処置についてA医師は,平成8年4月29日午前7時30分ころ,右足関節部の疼痛を訴え再び被告病院に来院した丙に対し,右足のレントゲン撮影検査を実施したところ,骨傷はなく,また,本件刺創の創部も清潔であったことから,丙を右足関節捻挫と診断し,これに対する処置である冷罨法などを施して経過を観察することとしたものであり,何ら過失は認められない。 c 平成8年4月29日午後6時40分におけるB医師による処置についてB医師は,平成8年4月29日午後6時40分ころ,三たび被告病院に来院した丙に対し,丙が同日午前7時30分に来院した時と同様の症状で創部に変化がなく,右足関節部の疼痛を訴えたことから,右足関節捻挫と診断し,冷罨法を行い経過観察とし,鎮痛消炎軟膏を処方したものであり,何ら過失は認められない。 d 平成8年4月30日におけるC医師ら被告病院整形外科医師らによる手術について原告らは,平成8年4月30日,C医師ら被告病院整形外科医師らが,本件刺創の創部を切開し,デブリードマンを行う手術をした際,本件刺創の創内に,後日,P医療センターで発見されることとなる長さ約3センチメートル,幅約7ミリメートルの竹片等の存在を見落とした点について,これをC医師らの過失であると主張するが,前記・のとおり,筋肉内に巻き込まれた竹片等は,これを取り除くことは極めて困難であるから,仮に,本件刺創内に残された竹片 について,これをC医師らの過失であると主張するが,前記・のとおり,筋肉内に巻き込まれた竹片等は,これを取り除くことは極めて困難であるから,仮に,本件刺創内に残された竹片等が原因で丙がガス壊疽を発症したのだとしても,それは不可抗力であったというべきである。 なお,C医師らは,同日,右足関節内側の腫脹が著明であることから右足部蜂窩織炎を疑い,丙を入院させ,創切開,デブリードマン,ドレナージの手術を施し,手術中の所見に照らし化膿性腱鞘炎を併発している可能性があることを考慮して,抗生物質の投与等を行っているのであり,何ら過失は認められない。 e 被告病院整形外科医師らによる丙の転院措置義務について・ C医師ら被告病院整形外科医師らは,平成8年4月30日,丙の右足のレントゲン撮影検査を実施したところ,ガス像は見られなかったから,この時点において,C医師ら被告病院整形外科医師らに,丙を転院させる義務は生じない。 ・また,C医師ら被告病院整形外科医師らは,平成8年5月1日においては,丙に対し,同年4月30日の手術の経過観察をしているのであり,C医師ら被告病院整形外科医師らが同年5月1日に丙を転院させなかったからといって過失があるとはいえない。 ・ D医師が,平成8年5月2日,丙を回診したところ,本件刺創の創部は,臭気を帯び,淡茶色の血清の滲み出しがみられ,足底には2個の暗紫色の水疱を認めたことから,丙の右足につきレントゲン撮影検査を実施し,その結果,丙の右足の骨間筋にガス像が認められた。 そこで,被告病院整 しがみられ,足底には2個の暗紫色の水疱を認めたことから,丙の右足につきレントゲン撮影検査を実施し,その結果,丙の右足の骨間筋にガス像が認められた。 そこで,被告病院整形外科医師らは,丙がガス壊疽に罹患してることを疑い,直ちに,丙を高圧酸素療法を実施できるP医療センターに転院させたものであるが,これより前の診断では丙にガス壊疽の症状は全くみられなかったものであるから,被告病院整形外科医師らの丙がガス壊疽に罹患した旨の診断及び転院措置に何ら遅滞は認められない。 ・以上の次第であるから,本件における被告病院医師らの処置には,いずれも不適切なところはなく,過失は認められない。 (2) 争点2(損害額)ア原告らの主張・丙は,被告治療に過失があったため,以下のとおり,合計9702万7059円の損害を被った。 a 入院雑費 14万3000円丙は,被告治療に過失があったために,①被告病院に,平成8年4月30日から同年5月2日まで,②P医療センターに,同月2日から同月21日まで,③R病院に,同月21日から同年8月19日まで,合計112日間の入院治療を余儀なくされ,これにより1日当たり1300円の入院雑費相当の損害を被ったところ,そのうち110日間分,合計14万3000円の入院雑費相当の損害を請求する。 b 休業損害 108万8456円丙は,被告治療に過失があったために,平成8年5月1日から同年8月31日までの4か月間,勤務先を休職せざる得ず,その結果,4か月分の給与相当額である83万8456円(丙 丙は,被告治療に過失があったために,平成8年5月1日から同年8月31日までの4か月間,勤務先を休職せざる得ず,その結果,4か月分の給与相当額である83万8456円(丙の同年1月から4月までの給与合計額)及び4か月間休職したために減額された賞与25万円(丙は,休職しなければ同年12月分の賞与として少なくとも同年7月分の賞与と同額を得ることができたはずであるところ,休職したことにより同年7月分の賞与より25万円賞与を減額された。),合計108万8456円の休業損害が生じたものである。 c 逸失利益 8099万5603円丙は,被告治療を受けるまでは健康体であったが,被告治療に過失があったために,右下肢を切断し,以下のとおり,8099万5603円の逸失利益相当の損害を被った。 ・年収相当額は,567万1600円(平成8年賃金センサス,男子労働者学歴計全年齢平均賃金)である。 ・労働能力喪失率は,79パーセントである。 すなわち,丙の後遺障害は,右下肢を足関節上約10センチメートルのところで切断したものであるから,自動車損害賠償保障法施行令別表第2の等級第5級5号の後遺障害(以下「第5級5号の後遺障害」という。)に当たり,したがって,労働能力喪失率は79パーセントとすべきである。 ・就労可能年数は,48年(症状固定時の年齢である19歳から67歳まで)である。 ・上記就労可能年数48年に対応するライプニッツ係数は,18. 0771である。 ・したがって,丙の逸失利益は,8099万5603円である。 9歳から67歳まで)である。 ・上記就労可能年数48年に対応するライプニッツ係数は,18. 0771である。 ・したがって,丙の逸失利益は,8099万5603円である。 567万1600円×0.79×18.0771=8099万5603円(1円未満切り捨て。以下同じ。)d 入通院慰謝料 180万円丙は,被告治療に過失があったために,前記a記載のとおり,入院110日のほか通院30日(①被告病院に3日間,②R病院に27日間)を余儀なくされたことを考慮すると,この入通院による丙の精神的損害は180万円を下らない。 e 後遺障害慰謝料 1300万円丙の後遺障害が,前記c,・記載のとおり,第5級5号に当たることを考慮すると,丙の後遺障害による精神的損害は1300万円を下らない。 ・原告らは,上記・の丙の損害賠償請求権9702万7059円を各2分の1ずつ(4851万3529円ずつ)相続した。 ・弁護士費用各500万円(合計1000万円)被告が負担すべき,原告らの弁護士費用としては,各500万円,合計1000万円が相当である。 ・結論したがって,原告らの被告治療に過失があったことによる損害は,それぞれ5351万3529円(合計1億702万7058円)となる。 イ被告の認否原告らの損害の主張は争う。 第3 争点に対する判断 1 争点1(被告治療に被告病院医師らの過失が認められるか。)について(1) 証拠(甲1の①ないし③,2,3の①ないし⑦,8ないし10,乙3ないし6,証人A,証人B, 争点に対する判断 1 争点1(被告治療に被告病院医師らの過失が認められるか。)について(1) 証拠(甲1の①ないし③,2,3の①ないし⑦,8ないし10,乙3ないし6,証人A,証人B,証人C,証人E,原告甲)によれば,以下の事実が認められる。 ア丙は,平成8年4月28日午後5時ころ,自宅近くの川で裸足で魚釣りをしていて川の中の竹の切り株を右足で踏み,その竹の切り株が右足裏に刺さり本件刺創を負った。そこで,丙は,同日午後5時30分ころ,被告病院外来外科を訪れ,当時の当直医であったA医師の診察を受けた。 イ丙は,上記ア記載のA医師による診察の際,A医師に対し,本件刺創は汚れた川の中の竹の切り株を裸足でかなり強く踏んで受傷したものである旨を説明し,A医師は,本件刺創を創の長さ2センチメートル程度,深さ1センチメートル程度の右足底刺創と診断した。 そして,A医師は,丙の右足底に局所麻酔をした上で,本件刺創に対し,創の切開はしなかったものの,歯ブラシを使用して生理食塩水1000ミリリットルで洗浄を行い,この際,本件刺創から数ミリ程度の竹片を2,3個摘出した。 A医師は,上記洗浄により,本件刺創を十分に消毒することができたものと判断し,足底部の腱,腱鞘を傷つける危険を冒してまでさらに深く切開し,異物を捜す必要はないと考えてそのまま創部を3針縫って縫合した。 また,A医師は,丙に対し,破傷風予防と細菌感染を予防するために,破傷風トキソイド及びテガタムP(いずれも,破傷風予防薬)を筋肉注射し,ケフラール(セフェム系抗生物質)を2日分処方し,痛み止めのためにポンタール(消炎鎮痛解熱剤)の頓服薬3カプセルを処 キソイド及びテガタムP(いずれも,破傷風予防薬)を筋肉注射し,ケフラール(セフェム系抗生物質)を2日分処方し,痛み止めのためにポンタール(消炎鎮痛解熱剤)の頓服薬3カプセルを処方した。 ウ丙は,平成8年4月29日午前7時30分ころ,再び被告病院を訪れ,当時の当直医であったA医師の診察を受け,A医師に対し,前日の治療後,足関節痛が出現し,足関節部の疼痛が強い,処方されたポンタール(消炎鎮痛解熱剤)を全部服用したが,あまり効かなかったなどと訴えた。 A医師は,この時,丙の右足関節部を診察したところ,足関節部に圧痛があり,腫脹がみられたため,足関節部と足底のレントゲン撮影検査を行ったが,その結果は,骨傷はなく,骨,関節に異常はないというものであった。また,丙の足底縫合部の包帯を交換したところ,本件刺創の創口は清潔であった。 そこで,A医師は,本件刺創の創が清潔であり,骨傷もなく,また,捻挫は受傷後しばらくして痛み出す例もあることから,丙に対し,足関節部の捻挫を疑い,冷罨法にて経過をみることとし,ボルタレン(鎮痛消炎剤)及びマーズレン(消炎剤)の内服薬並びにセポラス(鎮痛消炎貼付剤)を処方した。 エ丙は,平成8年4月29日午後6時40分ころ,三たび被告病院を訪れ,当時の当直医であったB医師の診察を受け,右足関節部の疼痛が強く,内服薬が効かないと訴えた。 B医師は,丙を診察し,足底の創感染の炎症が波及する可能性を考慮したものの,それよりも足関節捻挫を強く疑い,包帯を交換し,セクターゲル(鎮痛消炎軟膏)とボルタレン(鎮痛消炎剤)の頓服薬を処方し,丙に対し,翌日もまた来院するよう指示し 性を考慮したものの,それよりも足関節捻挫を強く疑い,包帯を交換し,セクターゲル(鎮痛消炎軟膏)とボルタレン(鎮痛消炎剤)の頓服薬を処方し,丙に対し,翌日もまた来院するよう指示した。 オ丙は,平成8年4月30日午前9時すぎころ,四たび被告病院を訪れ,B医師の診察を受け,右足関節部の疼痛が強いと訴えた。 B医師は,丙を診察したところ,本件刺創の縫合部分が,うまく接着せず発赤などの炎症所見が認められるなどしていて皮膚が汚かったことから,イソジン(殺菌消毒剤)で創部を消毒する処置を施すとともに,足関節痛について,丙を被告病院整形外科に転科させた。 カ B医師から丙の治療の引継を受けた被告病院整形外科のC医師は,平成8年4月30日の午前中,丙を診察したところ,右足関節部内側の腫脹が著明で発赤がみられ熱発しており,本件刺創からの膿がみられたため,右足部蜂窩織炎及び化膿性腱鞘炎を疑い,丙を入院させた上で,創部を切開し,デブリードマン,ドレナージをすることとし,丙は,同日午前11時10分,被告病院への入院手続をした。その後,C医師は,丙の右足関節部のレントゲン撮影検査をしたが,その結果,ガス像はみられなかった。また,同日午後3時,丙は,生理食塩水100ミリリットル,ハロスポア(セフェム系抗生物質),エクサシン(アミノグリコシド系抗生物質)の点滴注射を受け,同日午後4時20分,硫酸アトロピン,アタラックスPの筋肉注射を受けた。 なお,丙の体温は,入院時には36.6度であったが,同日午後2時には38.1度,午後4時10分には40.1度に上昇した。 キ丙は,平成8年4月30日午後4時35分,手術室に なお,丙の体温は,入院時には36.6度であったが,同日午後2時には38.1度,午後4時10分には40.1度に上昇した。 キ丙は,平成8年4月30日午後4時35分,手術室に入室し,同日午後4時45分,腰椎麻酔を受けた。 C医師は,同日午後6時8分から午後8時8分にかけて,E医師及びD医師を助手として,丙に対して,本件刺創の創部のブラッシングを行い,創部を少し拡げ,足関節内踝後方に切開を加え,異物の存在を確認し,抗生物質を加えた生理食塩水2000ミリリットルで,長母指屈筋腱,脛骨神経に沿ってデブリードマンをする手術を施した。この際,本件刺創の創部の奥深いところから竹片が発見され,長母指屈筋腱を覆っている腱鞘を切開したところ膿が排出された。そして,C医師らは,ペンローズ(膿を排出するための管)を1本関節内に留置した。 また,C医師らは,手術終了後,ソフトシーネ固定をし,抗生剤を点滴注射し,頭部及び腋下のクーリングを行った。 なお,C医師らは,丙が右足部蜂窩織炎のほかに化膿性腱鞘炎を併発していると診断し,この際検出された膿に対して,細菌検査を実施したところ,同年5月8日に検査結果が出て,ガス壊疽菌であるクロストリジウム・ペルフリンゲンス,クロストリジウムが検出されていたことが判明した。 ク丙の体温は,上記手術終了時には38.5度であったが,平成8年4月30日午後8時35分には36.1度に下がった。 丙は,麻酔が切れた同日午後10時ころから,右足の痛みを訴え始めたので,以下のとおり,同時ころ,ボルタレン坐剤(鎮痛消炎剤)の投薬,同日午後10時30分及び午後11時4 がった。 丙は,麻酔が切れた同日午後10時ころから,右足の痛みを訴え始めたので,以下のとおり,同時ころ,ボルタレン坐剤(鎮痛消炎剤)の投薬,同日午後10時30分及び午後11時40分,ソセゴン,アタラックスPの筋肉注射を受けた。 また,丙は,同年5月1日午前零時以降も右足の痛みを訴え続け,午前2時45分,レペタンの筋肉注射を受け,同日午前6時50分,丙は自制困難なほどに痛みを訴え,ボルタレン坐剤(鎮痛消炎剤)の投薬を受け,同日午前10時,ソセゴン,アタラックスPの筋肉注射を受け,同日午後2時ボルタレン坐剤(鎮痛消炎剤)の投薬を受けた。 なお,丙の体温は,同日午後3時10分には,再び38.3度に上昇した。 ケ被告病院看護婦が,平成8年5月1日午前6時,丙の右足をみたところ,足趾に浮腫がみられた。 また,C医師は,同日午前10時ころ,丙に対して回診をしたが,この際,丙には,本件刺創から暗紫色の血清が外科パット下まで滲み出しており,足趾知覚が鈍く,創部の腫脹などの所見が認められた。 コ丙の右足の疼痛は,平成8年5月2日になっても続き,丙は,同日午前零時20分,ソセゴン,アタラックスPの筋肉注射を受け,午前3時30分,ボルタレン坐剤(鎮痛消炎剤)の投薬を受けた。 丙の体温は,同日午前3時30分には38.7度あったが,同日午前6時には37.5度に下がった。 サ D医師は,平成8年5月2日午前8時ころ,丙を回診したところ,本件刺創から淡茶色の血清が外科パットまで滲み出しており,臭気を帯び,足底に暗紫色の水疱が2個みられ,腫脹も持続していた。 E医師は, 午前8時ころ,丙を回診したところ,本件刺創から淡茶色の血清が外科パットまで滲み出しており,臭気を帯び,足底に暗紫色の水疱が2個みられ,腫脹も持続していた。 E医師は,上記のD医師の回診の結果の報告を他の患者の手術中に受け,その患者の手術にめどがついた後である同日午後4時ころ,丙を診察し,本件刺創の包帯交換をしたが,その際,本件刺創から淡血清が滲み出しており,臭気が増強し,足底に水疱があり,腫脹及び発赤が持続していた。そこで,E医師は,丙の右足のレントゲン撮影検査をさせたところ,丙の右足にガス像がみられた。 シ E医師及びC医師は,上記サのとおり,丙の右足にガス像がみられたことから,丙がガス壊疽に罹患している疑いがあると診断し,高圧酸素療法が可能な上級医療機関への移送を決め,原告らに対し,その旨を説明した。その後,丙は,平成8年5月2日午後5時15分ころ,救急車でP医療センターに搬送された。 ス丙は,上記シ記載のとおりP医療センターに搬送された後,平成8年5月2日午後7時5分,同センターに入院し,同センターのQ医師の診断を受けた。 Q医師は,丙の治療を被告病院から引き継ぎ,丙の右足の大腿部まで腫脹及び発赤があり,足底部が壊死しているなどの症状がみられたため,直ちに,全身麻酔及び硬膜外麻酔をした上,デブリードマンを行う緊急手術を開始した。 そして,Q医師が,丙の右足首の内側の関節部分付近を切開したところ,悪臭がし,脂肪滴が流れ出て,筋膜が壊死状態となっており,筋肉が指で押すと容易につぶれる状態であり,広範に壊疽がみられ,また,切開した右足関節付近から長さ約3センチメート ところ,悪臭がし,脂肪滴が流れ出て,筋膜が壊死状態となっており,筋肉が指で押すと容易につぶれる状態であり,広範に壊疽がみられ,また,切開した右足関節付近から長さ約3センチメートル,幅約7ミリメートルの竹片が発見された。Q医師は,丙を右下肢ガス壊疽と診断し,筋の壊疽が広範囲であるため足の機能を残すことが不可能であると判断して丙の右足の下部を足関節部上約10センチメートルのところから切断した。 セその後,丙は,P医療センターにおいて,平成8年5月3日から同月9日まで高圧酸素療法を受け,同月13日,右下腿断端形成手術を受け,同月20日抜糸され,同月21日,茨城県鹿島郡所在のR病院に転入院し,同病院において,リハビリ,義足の調製等を行い,同年8月19日に同病院を退院した。 (2) 前記第2,1記載の前提事実及び上記(1)記載の認定事実を前提に,被告病院医師らの過失の存否について判断する。 アガス壊疽は,クロストリジウム菌などのグラム陽性嫌気性菌の感染により,進行性筋壊死を中心とした病変が引き起こされるものであり,これらの菌は土壌中に常在し,土壌が付着するなどした汚染された創に発生することが多く,症状悪化の進行は極めて早いとされている。したがって,ガス壊疽は,何よりもその予防が重要であり,その予防のためには,受傷直後の創の適切な外科的処置が最も重要とされている。 そして,その予防のための外科的処置としては,ガス壊疽の発症には創内の汚染された壊疽組織などの存在が必須であるから,これらの組織のデブリードマンを十分にしなければならないとされ,また,ガス壊疽菌は嫌気性であるため,創の経 ,ガス壊疽の発症には創内の汚染された壊疽組織などの存在が必須であるから,これらの組織のデブリードマンを十分にしなければならないとされ,また,ガス壊疽菌は嫌気性であるため,創の経過観察を十分に行い,ガス壊疽の発症が疑わしければ創を開放し,臨床症状,レントゲン撮影検査などから,一たびガス壊疽発症の診断がされれば,高圧酸素療法のできる施設に転送することが重要であるとされている。 イ・平成8年4月28日におけるA医師の過失についてa 原告らは,A医師は,平成8年4月28日の時点で,丙の本件刺創の受傷状況などを考慮すると,ガス壊疽発症の可能性を認識すべきであり,ガス壊疽発症を予防すべく,徹底したデブリードマン,抗生剤の投与,本件刺創を開放するなどの処置をすべきであったのにこれをせず,かえって本件刺創を3針縫って縫合し,また,後日発見されることとなる長さ約3センチメートル,幅約7ミリメートルの竹片等の異物の存在を見落とした点に過失が認められると主張する。 b・確かに,本件刺創は,丙が汚れた川の中で竹の切り株を裸足で踏んで受傷したというものであるから,A医師には,丙が本件刺創から何らかの感染症を発症させる可能性を疑い,それに対する処置を施すべき医学上の義務があったということはできる。 しかしながら,この時点においては,本件刺創は,長さ2センチメートル,深さ1センチメートル程度の足底刺創であったから,この創の程度からは専門医による緊急処置が必要なほどに重度な外傷とはいえないし,膿の排出など,感染症の発症を疑う症状は何ら認められ メートル程度の足底刺創であったから,この創の程度からは専門医による緊急処置が必要なほどに重度な外傷とはいえないし,膿の排出など,感染症の発症を疑う症状は何ら認められず,また,丙の足関節部の疼痛などの症状もみられなかったことなどにかんがみれば,A医師に,直ちに,感染症のうちガス壊疽発症の可能性までをも考慮して,これに対する処置をしなければならない医学上の義務は生じていなかったというべきである。 なお,A医師は,本件刺創に対する処置として,局所麻酔をした上で,歯ブラシを使用して生理食塩水1000ミリリットルで洗浄を行い,また,破傷風を予防するために,破傷風トキソイド及びテガタムP(いずれも,破傷風予防薬)を筋肉注射し,細菌感染を予防するために,ケフラール(セフェム系抗生物質)を処方したというのであるから,当時の丙の症状からすれば,一応の感染症対策を施したということができる。 ・次に,A医師が本件刺創を3針縫って縫合した措置は,本件刺創が長さ2センチメートル程度の創であったことを考慮すれば,膿の排出を促すために,1針程度の縫合にとどめた方が妥当であったから(乙7参照),やや妥当性を欠くところがあったことは否定はできない。また,本件刺創を3針縫って縫合し創を塞いでしまうことは,ガス壊疽菌が嫌気性菌とされていることからすれば,ガス壊疽の発症の予防としては妥当ではないことは明らかである。 しかし,当時は,丙には膿の排出などの何らかの感染症の発症を疑う症状はみられなかったのであるから,この時 予防としては妥当ではないことは明らかである。 しかし,当時は,丙には膿の排出などの何らかの感染症の発症を疑う症状はみられなかったのであるから,この時点において,A医師が,本件刺創の早期治癒のために,本件刺創を3針縫って縫合したからといって,直ちに,それが過失と評価されるということはできない。 ・また,A医師が,当時,後日発見されることとなる長さ約3センチメートル,幅約7ミリメートルの竹片の存在を見落とした点については,確かに,結果として,これだけの大きさの異物を発見できなかったのであるから,A医師の処置に妥当性を欠くところがあったことは否定できない。 しかしながら,竹片はその形状等から腱,靱帯,筋肉組織等と判別が困難であるといえる上,上記竹片が残されていた本件刺創の深部は神経や腱が錯綜しており,上記竹片を探して摘出するため本件刺創の深部をピンセット等で捜索し,又は切開するなどした場合には神経や腱を損傷し,これによる後遺症を残存させるおそれがあった(乙7,証人C)ところ,A医師は,当時,本件刺創に対し,局所麻酔をした上で,歯ブラシを使用して生理食塩水1000ミリリットルで洗浄を行い,この際,本件刺創から数ミリ程度の竹片を2,3個摘出していること,当時,丙には本件刺創から膿の排出や足関節部の疼痛などの症状はみられなかったことを考慮すると,この時点において,A医師に,さらに,足底部の腱や腱鞘を傷つける危険を冒してまで,異物が残存していないかを確認するため,本件刺創の深 はみられなかったことを考慮すると,この時点において,A医師に,さらに,足底部の腱や腱鞘を傷つける危険を冒してまで,異物が残存していないかを確認するため,本件刺創の深部をピンセット等で探り,又は,本件刺創や足関節部付近を切開するなどの身体的侵襲を伴う処置まですべき医学上の義務があるとは認められないというべきである。 そうすると,たとえ,この時点で,A医師が,結果として丙の創内に長さ約3センチメートル,幅約7ミリメートルの竹片が存在していたことを見落としたからといって,A医師に,直ちに過失があるということはできない。 c 以上のとおり,平成8年4月28日におけるA医師の丙に対する治療につき過失があると認めることはできない。 ・平成8年4月29日午前7時30分におけるA医師の過失についてa 原告らは,A医師は,平成8年4月29日午前7時30分の時点で,本件刺創の受傷状況や丙が足関節部の疼痛を訴えて早朝に来院したことなどの事情を考慮して,本件刺創の創内に竹片などの異物が残存している可能性や,ガス壊疽発症の危険性などに対する処置を講じるべきであったのにこれをせず,丙を足関節捻挫と誤診したものであり,過失が認められると主張する。 b 確かに,結果としては,この時点において,丙の右足関節付近には,後日発見された長さ約3センチメートル,幅約7ミリメートルの竹片が残存していたのであるから,A医師は,当時の診察において,丙が竹の切り株を踏んだという本件刺創の受傷状況,丙が右足関節部の疼痛を訴えて早朝に来院し 約7ミリメートルの竹片が残存していたのであるから,A医師は,当時の診察において,丙が竹の切り株を踏んだという本件刺創の受傷状況,丙が右足関節部の疼痛を訴えて早朝に来院したなどの事情から,上記竹片の存在を推認して,これを取り除く処置をとるべきことが妥当であったことは否定できない。 しかしながら,当時,丙の足関節部には圧痛があり,腫脹がみられたとはいうものの,足関節部と足底のレントゲン撮影検査の結果,骨傷等の異常は認められず,また,本件刺創の創は清潔であり,膿を排出していたなどの事実は認められなかったのであるから,A医師が足関節捻挫を疑い,これに対する経過的な処置である冷罨法をとったとしても,やむを得ないものであって,A医師の上記処置が,医学的に相当性を欠くとまでは認められない。 c したがって,平成8年4月29日午前7時30分におけるA医師の治療に過失があると認めることはできない。 ・平成8年4月29日午後6時40分におけるB医師の過失についてa 原告らは,B医師は,平成8年4月29日午後6時40分の時点で,本件刺創の受傷状況や従前からの治療が全く功を奏さないことを考慮して,ガス壊疽発症の危険性などに対する処置を講じるべきであったのにこれをせず,A医師の右足捻挫との診断に追従し,これに対する経過処置をとったにすぎないのであり,過失が認められると主張する。 b 確かに,この時点におけるB医師の診察においても,結果として,長さ約3センチメートル,幅約7ミリメートルの竹片が丙の右足関節部付近に残存していたことを見落としているの b 確かに,この時点におけるB医師の診察においても,結果として,長さ約3センチメートル,幅約7ミリメートルの竹片が丙の右足関節部付近に残存していたことを見落としているのであるから,この点でB医師の処置は妥当性を欠き,丙が右足関節部の疼痛が強く,内服薬が効かないと訴えていること,丙の被告病院への来院はこの日2度目であったことなどの事情を考慮すれば,B医師は,従前のA医師による足関節捻挫との診断結果を疑い,丙の本件刺創内に竹片等の異物が残存している可能性を考慮して,これに対する処置をとるべきことが妥当であったことは否定できない。 しかしながら,この時点において,丙には膿の排出など感染症を疑わせるに顕著な症状は認められなかったのであり,既に前日である同月28日に,A医師により,破傷風の予防のため破傷風トキソイド及びテガタムPを筋肉注射され,細菌感染の予防のためケフラール(セフェム系抗生物質)を2日分処方されていたのであるから,B医師に,ガス壊疽等の感染症の発症の危険性を考慮した処置まで講ずべき義務はなかったというべきである。 そうすると,B医師が,当時,丙に対し,足関節捻挫に対する処置を施して,翌日もまた来院するように指示した点についても,これを直ちに過失と評価することはできない。 c したがって平成8年4月29日午後6時40分におけるB医師の治療に過失があると認めることはできない。 ・平成8年4月30日における被告病院整形外科医師らの過失についてa 原告らは,C医師ら被告病院整形外科医師らは,平成8年4月30日の時点で 認めることはできない。 ・平成8年4月30日における被告病院整形外科医師らの過失についてa 原告らは,C医師ら被告病院整形外科医師らは,平成8年4月30日の時点で,丙に対し,本件刺創の創部を切開した上で,デブリードマンを行う手術を行った際に,後日,P医療センターで発見された長さ約3センチメートル,幅約7ミリメートルの竹片等の異物の存在を見落とし,これを本件刺創の創部に残存させたものであり,この点で過失が認められると主張する。 これに対し,被告は,上記竹片の存在が,上記手術の際,C医師らによって見落とされた事実を認めながら,筋肉内に巻き込まれた竹片等は,これを取り除くことが極めて困難であり,仮に,本件刺創の創部に残された竹片等が原因で丙がガス壊疽を発症したのだとしても,それは不可抗力であったというべきであると反論する。 b この点,確かに,竹片はその形状から腱,腱鞘,筋肉組織等と判別しにくく,竹片が筋肉に巻き込まれた場合には,これを発見できなかったとしても,そのことから直ちに,治療を担当する医師らに過失が認められるとはいえない場合が存することは否定できない。 しかし,本件においては,丙は汚れた川の中で竹の切り株を裸足で踏んで本件刺創を受傷した上,C医師らが丙を診断した平成8年4月30日の時点では,右足関節部内側の腫脹が著明で発赤がみられ熱発しており,本件刺創からの膿がみられた上に,丙の体温は同日午後2時には38.1度,午後4時10分には40.1度であったというのであるから,C医師らは,丙が何らかの られ熱発しており,本件刺創からの膿がみられた上に,丙の体温は同日午後2時には38.1度,午後4時10分には40.1度であったというのであるから,C医師らは,丙が何らかの重度の感染症を発症させている可能性をも考慮に入れて丙の治療に当たるべきであり,少なくとも,徹底したデブリードマンを行い,受傷の際に,創内に入り込んだおそれのある竹片などの異物の完全な除去を試みるべき義務があったというべきである。 また,本件刺創は,竹の切り株を裸足で強い力で踏みつけたことにより受傷したものであること,同年4月28日にA医師が本件刺創を洗浄した際に,本件刺創から2,3個の竹片が取り除かれたこと,さらに,同月30日にC医師らがデブリードマン等を行う手術をした際にも竹片が取り除かれたことなどを考慮すれば,丙の本件刺創の創内には,さらに竹片が残されていた相当高度の可能性があったと容易に推測される上,丙が同月29日以後,再三にわたり,右足関節部の強い疼痛を訴えていたことにかんがみれば,C医師らには,A医師らの右足捻挫との診断が誤診であり,この丙の右足関節の疼痛の原因が,右足関節部付近まで竹片などの異物が入り込んでいるためであるという可能性を十分に考慮して,丙の右足関節部付近に残存している可能性のある異物を発見すべき義務があったというべきである。 なお,C医師らは,丙に対しデブリードマン手術をした際に,丙の右足関節内踝後方に切開を加え,神経等を損傷しないぎりぎりまで異物の存在を探索し確認した旨供述する(証人C)が,被告治療の際に丙の右足関節部に残された竹 術をした際に,丙の右足関節内踝後方に切開を加え,神経等を損傷しないぎりぎりまで異物の存在を探索し確認した旨供述する(証人C)が,被告治療の際に丙の右足関節部に残された竹片は,長さ約3センチメートル,幅約7ミリメートルもの大きさのものであり,丙の転院先であるP医療センターにおいて,同センターの医師が,丙の内側の右足関節部分付近の切開を試みたところ,上記竹片が発見されたというのであるから,仮に,C医師らが,丙の右足関節部の切開を試みた後,注意深く異物が残存していないか確認していれば,上記竹片の発見はさほど困難でなく可能であったものと認められ,したがって,C医師の上記供述はたやすく信用することができず,C医師らが,丙の右足関節部付近に残存している可能性のある異物を発見すべき義務を尽くしたということはできず,C医師らは,この竹片の存在を見逃し,本件刺創の創内に残存させた点について,医師としての注意義務を欠くものであったといわざるを得ない。 c そうすると,本件では,C医師らは,平成8年4月30日の丙に対するデブリードマン等を行った手術をした際に,丙の足関節部付近にあった長さ約3センチメートル,幅約7ミリメートルもの大きさの竹片の存在を見逃し,これを残存させたという点において過失があったと認められる。 ・被告病院整形外科医師らによる丙の転院措置義務の懈怠についてa 上記・のとおり,C医師ら被告病院整形外科医師らには,平成8年4月30日の丙に対するデブリードマン等を行った手術をした時点で,丙に対する治療に過失が認められるが,なお, a 上記・のとおり,C医師ら被告病院整形外科医師らには,平成8年4月30日の丙に対するデブリードマン等を行った手術をした時点で,丙に対する治療に過失が認められるが,なお,以下のとおり,同年5月1日以降,丙の転院措置が遅れた点についても過失が認められる。 b すなわち,原告らは,C医師ら被告病院整形外科医師らは,平成8年5月1日の時点で丙に足趾の浮腫,本件刺創からの暗紫色の血性の滲み出し,創部の腫脹,右膝内側腫脹などがみられたのであるから,ガス壊疽の発症を疑い,直ちに丙を高圧酸素療法等を行うことができる設備の整った医療機関へ転院させるべきであったし,また,同月2日の午前8時の丙に対する回診の時点で,本件刺創からの淡茶色の血清の浸み出し,臭気,足底に暗紫色の水疱2個,腫脹持続などのガス壊疽特有の症状がみられたのであるから,直ちに,丙を高圧酸素療法等を行うことができる設備の整った医療機関へ転院させるべきであったのに,これを怠り,同日午後5時15分になって丙の転院を決めたのは遅きに失し,過失が認められると主張する。 これに対し,被告は,同月1日の時点では,同年4月30日のレントゲン撮影検査の結果,ガス像はみられなかったのであるし,同日,本件刺創に対するデブリードマンをする手術をし,同年5月1日はその経過観察をしていたのであるから,C医師ら被告病院整形外科医師らに転院措置をとる義務は認められず,また,同月2日の時点では,レントゲン撮影検査の結果,丙の右足にガス像がみられた時点で,直ちに,丙を高圧酸素療法を実施できるP医療センタ に転院措置をとる義務は認められず,また,同月2日の時点では,レントゲン撮影検査の結果,丙の右足にガス像がみられた時点で,直ちに,丙を高圧酸素療法を実施できるP医療センターに転院させたものであり,これより前の診断では丙にガス壊疽の症状は全くみられなかったものであるから,被告病院医師らの丙がガス壊疽に罹患した旨の診断及び転院措置に何ら遅滞は認められず,過失は認められないと主張する。 cC医師ら被告病院整形外科医師らは,上記・記載のとおり,C医師らの過失により,本件刺創の創内に長さ約3センチメートル,幅約7ミリメートルの竹片を残存させたものであるが,この竹片は,右足関節部付近という足底の創口からかなりの奥深い位置に入り込んでいたこと,ガス壊疽菌は嫌気性菌であり,しかもガス壊疽は感染から発症まで極めて進行が速く,医師としてはその発症を予防することが重要であるとされていること,さらに,被告病院には高圧酸素療法を行う施設を有しないことを考慮すれば,この竹片が本件刺創の創内に残存していたという事実をもってして,C医師らは,この竹片を直ちに除去するとともに,丙のガス壊疽発症の可能性を常に考慮して,丙に対して,本件刺創から竹片が残存していた付近まで開放性として,注意深く経過観察をし,いつでも高圧酸素療法が可能な医療機関に移送できる準備を整えておくか,速やかに,高圧酸素療法が可能な医療機関に移送する義務があったというべきである(なお,付言すると,C医師ら被告病院整形外科医師らが同日実施したデブリードマン等の手術の際に検出された膿につき細菌検査が実 医療機関に移送する義務があったというべきである(なお,付言すると,C医師ら被告病院整形外科医師らが同日実施したデブリードマン等の手術の際に検出された膿につき細菌検査が実施されたところ,平成8年5月8日,ガス壊疽菌であるクロストリジウム・ペルフリンゲンス,クロストリジウムが検出されたとの検査結果が出ている。)。 d そうすると,C医師らは,平成8年4月30日のデブリードマン等を行った手術をした際に,長さ約3センチメートル,幅約7ミリメートルの竹片を見落としたのみならず,C医師は,同年5月1日午前10時ころ,丙に対して回診をした際,丙の本件刺創から暗紫色の血清が外科パット下まで滲み出しており,足趾知覚が鈍く,創部の腫脹などの症状があり,丙の受傷状況及びその後の治療経過等に照らせばガス壊疽を疑わす所見があると判断できたにもかかわらず,直ちに高圧酸素療法が可能な医療施設に丙を転送することをせず,同日は専ら術後の経過処置のみを行い,また,同月2日午前8時のD医師の回診の際に,本件刺創から淡茶色の血清が外科パットまで滲み出しており,足底暗紫色の水疱が2個みられ,腫脹も持続していたのみならず,本件刺創が臭気を帯びているなどのガス壊疽を疑わせる顕著な症状がみられたにもかかわらず,同日午後4時過ぎになって,初めてレントゲン撮影検査を実施し,その検査の結果,丙の右足にガス像が発生していたので丙のガス壊疽発症を疑い,同日午後5時15分に丙を高圧酸素療法が可能なP医療センターへ移送することを決めたというのであるから,C医師らの丙の転院措 ガス像が発生していたので丙のガス壊疽発症を疑い,同日午後5時15分に丙を高圧酸素療法が可能なP医療センターへ移送することを決めたというのであるから,C医師らの丙の転院措置は遅きに失したといわざるを得ず,C医師らは,丙に対して,注意深く経過観察をして,いつでも高圧酸素療法が可能な医療機関に移送できる準備を整えておくべき義務,又は,速やかに移送させるべき義務を尽くさなかったというべきである。 e したがって,平成8年5月1日以降,被告病院整形外科医師らが,丙を高圧酸素療法が可能な医療機関に移送する準備を整えておらず,又は,速やかに移送せず,また,同日午前10時ころにされた回診の際,丙にガス壊疽を疑わせる所見があると判断できたにもかかわらず,同日午後5時15分まで丙をP医療センターに移送しなかった点について,C医師らの過失が認められる。 ウなお,平成8年4月30日のレントゲン撮影検査の結果,丙の右足にガス像はみられなかったというのであるから,同日のデブリードマン等を行った手術をした際に,C医師らが,長さ約3センチメートル,幅7ミリメートルの竹片を発見し,これを除去し,創を開放とし,高圧酸素療法が可能な医療機関に移送をする準備を整えるか,同年5月1日を経過する前に速やかに移送するなどのガス壊疽に対する処置を施していれば,丙が,ガス壊疽を発症せず,右下肢切断を免れた蓋然性が極めて高かったものというべきである。 したがって,丙がガス壊疽を発症させ,右下肢切断を余儀なくされたのは,同年4月30日以降の被告治療に過失があったためであるということができる。 エ ったものというべきである。 したがって,丙がガス壊疽を発症させ,右下肢切断を余儀なくされたのは,同年4月30日以降の被告治療に過失があったためであるということができる。 エ以上の次第であるから,平成8年4月30日以降の被告治療には,被告病院医師らに過失が認められ,そのために丙は,ガス壊疽を発症し右下肢切断を余儀なくされたものと認めることができ,被告は,丙の権利義務を相続した原告らに対し,債務不履行責任又は不法行為責任(使用者責任)に基づく損害賠償義務を免れないというべきである。 2 争点2(損害額)について(1) 丙固有の損害について被告病院医師らの過失ある治療により,丙が被った固有の損害額は,以下のとおり,合計8889万4879円となる。 ア入院雑費 14万3000円前記第2,1,(3)記載の前提事実のとおり,当事者間に争いのない事実として,丙は,①被告病院に,平成8年4月30日から同年5月2日まで,②P医療センターに,同月2日から同月21日まで,③R病院に,同月21日から同年8月19日まで,合計112日間入院治療をしたことが認められる。 ところで,被告病院医師らの同年4月30日以降の過失ある治療行為と相当因果関係のある入院治療は,丙がガス壊疽を発症させた後,すなわち,同年5月2日にP医療センターに入院して以降の入院治療であるというべきであるから,その日数は,合計110日間である。 そうすると,丙には,被告病院医師らの過失ある治療行為により,1日当たり1300円,110日分の入院雑費,合計14万3000円が生じたものというべきである。 イ休業損害 108万 そうすると,丙には,被告病院医師らの過失ある治療行為により,1日当たり1300円,110日分の入院雑費,合計14万3000円が生じたものというべきである。 イ休業損害 108万1694円前記第2,1,(3)記載の前提事実,前記1記載の認定事実及び証拠(甲4,13)によれば,①丙は,被告医師らの過失ある治療行為により,平成8年5月2日から同年8月31日まで勤務先を休職したこと,②丙は,本件刺創を受傷する前の平成8年1月から4月までの給与額は,それぞれ,21万2722円,19万9318円,21万4549円,21万1867円の合計83万8456円であり,その平均月収は,20万9614円(83万8456円÷4)であること,③丙は勤務先から賞与を7月と12月の年2回支給されていたが,丙が同年7月に支給された賞与は35万円であったのに対し,同年12月に支給された賞与は10万円であった(なお,同年12月支給分の賞与は,丙が同年5月2日から8月31日までの間,休職したことにより,同年7月支給分の賞与より減額されたものと推認される。)ことが認められる。 そうすると,被告医師らの過失ある治療行為により生じた丙の休業損害は,同年5月2日から同年8月31日までの給与相当額である83万1694円(20万9614円×〔3か月+30日÷31日〕=83万1694円)及び同年12月に支給されなかった賞与25万円(休職分の賞与相当額と考えられる,同年7月支給分の賞与額から同年12月支給分の賞与額を控除した額。),合計108万1694円である。 ウ逸失利益 7587万0185円前記第2,1記載の前提事実及 られる,同年7月支給分の賞与額から同年12月支給分の賞与額を控除した額。),合計108万1694円である。 ウ逸失利益 7587万0185円前記第2,1記載の前提事実及び前記1記載の認定事実によると,丙は,被告病院医師らの過失ある治療行為により,結果として,右下肢を足関節上約10センチメートルのところで切断され,その症状固定時は19歳であったことが認められる。 そうすると,被告病院医師らの過失ある治療行為により,右下肢を足関節以上で失うという後遺障害による丙の逸失利益は,以下のとおり,7587万0185円となる。 すなわち,①丙の年収相当額は,丙が高卒である(原告甲)から531万2700円(平成8年賃金センサス,男子労働者高卒全年齢平均賃金)であること,②丙は,一下肢を足関節以上で失うという第5級5号に当たる後遺障害を負っているものであり,その労働能力喪失率は79パーセントとするのが相当であること,③当時の丙の就労可能年数は,19歳から67歳までの48年であること,④上記就労可能年数に対応するライプニッツ係数は,18.0771であること,以上により丙の逸失利益を計算するのが相当であるところ,これによれば,丙の逸失利益は,7587万0185円(531万2700円×0.79×18.0771=7587万0185円)となる。 エ入通院慰謝料 180万円・前記ア記載のとおり,被告病院医師らの過失ある治療行為と相当因果関係ある丙の入院期間は,110日と考えるのが相当である。 ・また,前記第2,1,(3)記載の前提事実及び証拠(甲9)によれば,丙は,①本件刺創の治療の 為と相当因果関係ある丙の入院期間は,110日と考えるのが相当である。 ・また,前記第2,1,(3)記載の前提事実及び証拠(甲9)によれば,丙は,①本件刺創の治療のため,被告病院に3日間,②右下肢切断後の経過治療のため,R病院に23日間通院したことが認められる。 そして,このうち,被告病院に通院した3日間については,被告病院医師らの過失ある治療行為がされる前の通院であり,本件刺創の治療のために必要な通院であったということができるから,被告病院医師らの過失ある治療行為と相当因果関係ある丙の通院は,右下肢切断後の経過治療のため,R病院に通院した23日間と考えるのが相当である。 ・そうすると,被告病院医師らの過失ある治療行為により,丙は110日間の入院及び23日間の通院を余儀なくされたといえるのであり,これによる丙の精神的損害は,180万円を下らないというべきである。 オ後遺障害慰謝料 1000万円前記1で判断したとおり,丙が右下腿を足関節上約10センチメートルのところで切断されたのは,被告病院医師らの過失ある治療行為があったためである。 そうすると,本件における丙の後遺障害が一下肢を足関節以上で失ったものであり,第5級5号の後遺障害に当たること,丙が本件刺創を負った状況,被告治療の経過等本件にあらわれた一切の事情を考慮すると,丙の後遺障害による精神的損害は,1000万円を下らないというべきである。 (2) 弁護士費用各440万円(合計880万円)本件において,被告病院医師らに過失が認められるために,被告が負担すべきこととなる原告らの弁 ないというべきである。 (2) 弁護士費用各440万円(合計880万円)本件において,被告病院医師らに過失が認められるために,被告が負担すべきこととなる原告らの弁護士費用は,各440万円(合計880万円)とするのが相当である。 (3) 結論したがって,原告らは,丙の権利義務を各2分の1ずつ相続しているから,原告らの被告治療に過失があったことによる損害は,それぞれ4884万7439円(合計9769万4878円。)となる。 3 なお,当裁判所は,平成8年4月30日以降の被告治療に過失を認め,同日を被告病院医師らの不法行為の日であると考えるので,被告は,同日から原告に対する損害賠償債務の履行遅滞となり,原告に対する遅延損害金が発生している。 4 よって,原告の請求は,損害賠償金として,各4884万7439円及びこれに対する平成8年4月30日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこの限度でこれを認容し,その余の部分は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 千葉地方裁判所民事第1部裁判長裁判官小林正裁判官瀬木比呂志裁判官深野英一
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