平成28(ワ)36784 職務発明対価等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成29年3月28日 東京地方裁判所
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平成29年3月28日判決言渡同日原本交付裁判所書記官平成28年(ワ)第36784号職務発明対価等請求事件口頭弁論終結日平成29年3月14日判決 原告 A 被告国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 同指定代理人 BCDE 主文 原告の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,原告に対し,1億0100万円を支払え。 2 被告は,原告に対し,別紙特許権目録記載の各特許権を維持された状態に戻す手続をせよ。 3 被告は,原告に対し,謝罪せよ。 第2 事案の概要本件は,被告の前身である日本原子力研究所(以下「原研」という。)の職員であった原告が,原研の権利義務を包括承継した被告に対し,①原告が原研 の在職中に行った職務発明につき,平成16年法律第79号による改正前の特許法35条3項に基づく相当な対価として1億円の支払を求めるとともに,②原研が上記職務発明に係る別紙特許権目録記載の各特許権を原告の意思に反して放棄したこと等が不法行為に当たると主張して,損害賠償金100万円の支払,上記各特許権を維持された状態に戻す手続及び謝罪を求める事案である。 1 前提となる事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)当事者ア被告は,平成17年に設立された独立行政法人であり, める事案である。 1 前提となる事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)当事者ア被告は,平成17年に設立された独立行政法人であり,平成27年4月に国立研究開発法人となった。原研は被告の前身であり,被告は原研の権利義務を包括承継した。 イ原告は,原研及び被告の職員であった者であり,平成25年に被告を退職した。 原告の職務発明及び特許を受ける権利の承継ア原告は,原研に在職していた当時,遅くとも昭和58年9月頃までに,他の職員と共に,「二酸化プルトニウム及びウラン・プルトニウム混合酸化物を溶解する方法」に関する発明(以下「本件発明」という。)をした。 本件発明は,原研の業務範囲に属し,かつ,発明をするに至った行為が原研における原告の職務に属するものであり,前記改正前特許法35条1項所定の職務発明に当たる。(甲1)イ原研は,その頃,当時の原研の発明考案取扱規程(以下「本件発明考案規程」という。)に基づき,本件発明について特許を受ける権利を原告から承継した。 本件発明に係る特許権の登録及び放棄ア原研は,日本及びフランスにおいて本件発明に係る特許出願をし,別紙特許権目録記載のとおり,その特許登録を得た(以下,日本及びフランス の特許権を併せて「本件各特許権」という。)。(甲1,乙4)イ原研は,平成9年2月ないし3月頃,本件各特許権を放棄することを検討し,原告に対して特許権放棄についての意見を照会した。原告はこれに対して放棄を不可とする旨回答したが,原研は,同年3月31日までに本件各特許権を放棄することを決定し,本件各特許権はその後放棄された。 (甲2の1~3) 2 争点及びこれに対する当事者の主張 争点1(職務 とする旨回答したが,原研は,同年3月31日までに本件各特許権を放棄することを決定し,本件各特許権はその後放棄された。 (甲2の1~3) 2 争点及びこれに対する当事者の主張 争点1(職務発明対価の請求の可否)について(原告の主張)本件発明が実施されている可能性があるのはフランス企業が建設した米国所在のMOX工場であり,同工場における本件各特許権の実施料は100億円を下らない。原研は本件各特許権の放棄に関してフランス企業との間で取引をして利益を得ているところ,原告が本件発明に関して受け取ることができる対価の額は当該利益の額の20%が相当であるから,原告はその一部として1億円を請求する。なお,被告は本件発明が実施されたことはないと主張するが,本件発明は,平成7年にフランス及びロシアにおいても実施されている。 (被告の主張)原研は,本件発明に関し,原告に対して本件発明考案規程に基づく補償金等を支払った。また,原研は,本件発明を自ら実施しておらず,第三者に対する実施の許諾もしていない。原告は,原研が本件各特許権の放棄の見返りとして不正な利益を得た旨主張するが,憶測にすぎず,そのような事実はない。したがって,原告は職務発明対価の請求権を有しない。 争点2(不法行為の成否等)について(原告の主張)特許法110条によれば,利害関係人は特許権者の意思に反しても特許料 の納付ができるから,原告の意思に反する特許権の放棄は同条により禁止されている。それにもかかわらず,原研は原告の意思に反して本件各特許権を放棄した。また,原研は,原告が本件各特許権の放棄を知りその経緯等を問い合わせたのに対し,原告の悪評を所内で吹聴したり,自らの行為を正当化したりし,原告が本件発明の価値を否定した して本件各特許権を放棄した。また,原研は,原告が本件各特許権の放棄を知りその経緯等を問い合わせたのに対し,原告の悪評を所内で吹聴したり,自らの行為を正当化したりし,原告が本件発明の価値を否定したかのような不当な処遇をした。 これらは原研の不法行為に該当する。 原告は,原研からの不当な処遇により多大な苦痛や屈辱を受けており,上記不法行為による慰謝料の額は100万円が相当である。また,原告は被告に対し,発明者としての地位を回復するため,本件各特許権を維持された状態に戻す手続及び謝罪を請求する。 (被告の主張)本件各特許権の放棄の手続は,原研の内部規定に基づき適切に行われたものである。また,原研が原告に対し,原告が主張するような不当な処遇をした事実はない。したがって,慰謝料,本件各特許権を維持された状態に戻す手続及び謝罪の請求に関する原告の主張はいずれも争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(職務発明対価の請求の可否)について 証拠(乙1,3,5)によれば,以下の事実が認められる。 ア本件発明考案規程には,①原研は,出願前に特許等を受ける権利を職務発明者等から承継し,出願をして出願番号の通知を受けたときは,被承継者に対し,職務発明に基づく国内特許出願1件について3000円の出願ほう賞金を支払う(15条1項原研は,特許等を受ける権利を職務発明者等から承継し,特許証の交付を受けたときは,特許権1件について2万円の登録補償金を支払う(17条),③原研は,職務発明に基づく特許権等若しくは出願に係る発明等を実施して利益を得たとき,又はこれらの実施を原研以外の者に許諾することにより収入を得たときは,収入の 金額に応じ,一定の割合で算定した実施補償金を支払う(18条)旨が定められていた。 実施して利益を得たとき,又はこれらの実施を原研以外の者に許諾することにより収入を得たときは,収入の 金額に応じ,一定の割合で算定した実施補償金を支払う(18条)旨が定められていた。 イ原研では,本件発明に係る原告の寄与率は100分の80,共同発明者の寄与率は100分の20とされていた。 ウ原研は,本件発明考案規程に基づき,原告に対し,日本での特許出願については昭和58年11月30日に出願ほう賞金として2400円,平成3年2月28日に登録補償金として1万6000円をそれぞれ支払い,フランスでの特許出願については平成2年5月31日に登録補償金として1万6000円を支払った。 上記認定事実によれば,原研が原告に対し本件発明に係る特許を受ける権利を承継したことにつき本件発明考案規程に基づいて出願ほう賞金及び登録補償金を支払ったことが認められる一方,本件全証拠に照らしても,原研が自ら本件発明を実施し,又はこれについて第三者に実施を許諾した事実はうかがわれず,原研が本件発明により利益を得たと認めるに足りる証拠はない。 原研とフランス企業との間の取引に関する原告の主張は証拠に基づかないものであり,採用することができない。 したがって,原研が本件発明により利益を得たことを前提とする職務発明対価に関する原告の請求は理由がない。 2 争点2(不法行為の成否等)について 証拠(乙8)によれば,以下の事実が認められる。 ア原研では,平成9年当時,特許権の放棄等は原研が定めた「特許出願の手引」(以下「本件手引」という。)に基づいて行われていた。本件手引によれば,設定登録日から6年以上を経過した特許権を対象に年1回権利放棄の検討調査を行い,発明者及び所属部長の意見を照会して特許権を維持するか又は放棄するかを決定する 基づいて行われていた。本件手引によれば,設定登録日から6年以上を経過した特許権を対象に年1回権利放棄の検討調査を行い,発明者及び所属部長の意見を照会して特許権を維持するか又は放棄するかを決定する,放棄の適否の判断は別途定める判断基準に基づいて行うとされていた。 イ上記判断基準は,権利発生日から6年を経過した特許権については原則として放棄をするが,①特許等が原研の装置等に使用されてその技術的効果が実証され,今後も同種の装置等への使用が予定されているもの,②基本的特許等であって,今後拡充又は改良特許等の出願が予定されているもの,③市場性,採算性が大であると判断されるもの,④国際協定等の関連で必要と判断されるもの,⑤画期的な特許等であるもの,⑥その他の理由があるもの,という各要因を考慮し,権利を存続させる必要があると判断されるものについては放棄しないとするものであった。 本件各特許権の登録から6年以上が経過した平成9年2月ないし3月頃に原研が本件各特許権の放棄について原告に意見聴取をし,原告が不可と回答したこと,その後原研が本件各特許権を放棄したことは前記前提となる事実のとおりである。 特許権の放棄は,当該特許権に専用実施権者,質権者等があるときにその承諾を要するほかは,特許権者が自由に決定することができるものである(特許法97条1項参照)。そして,原告は本件各特許権の専用実施権者等でないから,特許権者である原研が原告の意思に反して本件各特許権を放棄することは,特許法等の法令により禁止されているものではない。 なお,原告は,同法110条の規定によれば発明者の意思に反する特許権の放棄は禁止されていると主張するが,当該規定は利害関係人による特許料の納付に関するものであり,特許権者が利害関係人に対して特許料を納付する機会 同法110条の規定によれば発明者の意思に反する特許権の放棄は禁止されていると主張するが,当該規定は利害関係人による特許料の納付に関するものであり,特許権者が利害関係人に対して特許料を納付する機会を与える義務を負う旨を定めるものではないから,同条により特許権の放棄が制限されているとみることはできない。 のとおり,本件手引には特許権の放棄につき発明者の意見を照会する旨が定められているものの,発明者が放棄を不可とする意見を述べた場合に特許権を放棄してはならない旨の定めはない。このような事情からすれば,原研の内部手続における発明者への意見照会は,放棄の適否を判断 するに当たっての参考事項の聴取という趣旨のものと認めるのが相当であり,原研が特許権の放棄につき発明者の意見と異なる判断をすることも許容されていると解される。そして,本件全証拠に照らしても,原研において本件各特許権を維持すべき事情①~⑥の各要因)があったとはうかがわれないから,本件各特許権の放棄の手続に不適正なところがあったとは認められない。 なお,被告のコンプライアンス委員会の議事録(甲4の2)には,本件各特許権が放棄された経緯に関し,「事務処理上のミスに起因して,通報者〔判決注・原告〕の意思とは異なる事務処理がなされた可能性が考え得る」旨の記載があるものの,これは当該可能性を指摘するものにすぎず,当該記載をもって本件各特許権の放棄が原研の過誤によるものであったと認めることはできない。 したがって,本件各特許権の放棄が不法行為に当たるとは認められない。 原告は,さらに,原研が原告に対して不当な処遇をした旨主張するが,この点に関して何ら具体的な主張立証をしない。また,原告の主張は,本件各特許権の放棄が不当であることを前提とするものであるところ,以上に判示し らに,原研が原告に対して不当な処遇をした旨主張するが,この点に関して何ら具体的な主張立証をしない。また,原告の主張は,本件各特許権の放棄が不当であることを前提とするものであるところ,以上に判示したとおり,本件各特許権の放棄が不当であるとは認められないから,上記主張は前提を欠く。したがって,この点に関する原告の主張も採用することができない。 3 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がない。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官長谷川 浩 二 裁判官萩原孝基 裁判官林 雅子 別紙 特許権目録 1 特許番号第1592373号発明の名称二酸化プルトニウム及びウラン・プルトニウム混合酸化物を溶解する方法出願日昭和58年10月12日(特願昭58-190267号)公開日昭和60年5月9日公告日平成2年4月6日登録日平成2年12月14日 2 特許番号フランス特許第8415622号発明の名称二酸化プルトニウム及びウラン・プルトニウム混合酸化物を溶解する方法出願日昭和59年10月11日公開日昭和60年4月19日登録日平成元年12月15日

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