令和6年4月25日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和5年(ワ)第5195号謝罪広告等請求事件口頭弁論終結日令和6年1月25日判決 主文 1 被告は、原告に対し、110万円及びうち55万円に対する令和5年2月9日から、うち55万円に対する同月20日から各支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は、これを10分し、その9を原告の負担とし、その余を被告の負 担とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は、原告に対し、550万円及びうち200万円に対する令和5年2月 9日から、うち300万円に対する同月20日から各支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 2 被告は、被告が発行する週刊誌「週刊新潮」に別紙謝罪広告目録記載第1の謝罪広告を同記載第2の要領により掲載せよ。 3 被告は、被告が運営するインターネットウェブサイト「デイリー新潮」に別 紙謝罪広告目録記載第1の謝罪広告を同記載第2の要領により掲載せよ。 4 被告は、被告が運営するインターネットウェブサイト「デイリー新潮」に掲載された別紙記事目録記載の記事を削除せよ。 第2 事案の概要 1 事案の要旨 本件は、原告が、被告が発行する週刊誌「週刊新潮」(以下「本件週刊誌」という。) の記事及び被告が運営するインターネットウェブサイト「デイリー新潮」(以下「本件サイト」という。)の記事における記載により名誉を毀損されたと主張して、被告に対し、不法行為に基づき、損害賠償金550万円及びこれに 告が運営するインターネットウェブサイト「デイリー新潮」(以下「本件サイト」という。)の記事における記載により名誉を毀損されたと主張して、被告に対し、不法行為に基づき、損害賠償金550万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めるとともに、民法723条に基づき、本件週刊誌及び本件サイトにそれぞれ謝罪広告を掲載することを求め、人格権に基づき、本件サイト上の記事を削除 することを求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがないか、掲記の証拠等により容易に認定することができる事実)⑴ 当事者ア原告は、平成23年4月以降、世田谷区長を務める者である。(甲1) イ被告は、書籍及び雑誌の出版等を目的とする株式会社であり、本件週刊誌の発行及び本件サイトの運営等を行っている。(甲2ないし4)⑵ 被告による記事の掲載ア本件週刊誌における記事被告は、令和5年2月9日に発売された本件週刊誌(令和5年2月16日号)に おいて、「応接家具に1200万“自宅偽装”で巨額のムダ交通費も!役所に王国を築いていたリベラル『A』世田谷区長の堕落」とのタイトルの記事(以下「本件記事」という。)を掲載した。(甲5)本件記事の本文には、世田谷区役所の建て替えに伴う備品交換に関して、区政関係者のコメントを引用する形式での「問題なのは、区長の机と椅子だけで約85万 円、執務用の棚や応接チェアなど合わせて約1200万円という法外な額がかかっていること。2年前、千葉県市川市で市長室の家具購入費用に約1000万円が計上され騒動になりましたが、それよりも大きな額が動いています」との記載や、「公表されているA区長の年収は約2000万円だから、決して安い買い物ではない。」との記載等があり、また、原告の自宅に関して、区政関係者のコメントを引用 それよりも大きな額が動いています」との記載や、「公表されているA区長の年収は約2000万円だから、決して安い買い物ではない。」との記載等があり、また、原告の自宅に関して、区政関係者のコメントを引用する 形式での「そもそも、A区長は世田谷区に住んでいません」、「区長が居住実態と異 なる家を役所に虚偽報告している可能性が高く、そこで問題となってくるのは、狛江からの通勤に公用車を使っていることだと思います」との記載等があった。 イ本件サイトにおける記事被告は、令和5年2月20日、本件サイト上に、「世田谷区長・Aに公用車使用を巡り疑念が応接家具に1200万円という法外な額が」とのタイトルの記事(以 下、「本件ネット記事」といい、本件記事と併せて「本件各記事」という。)を掲載した。本件ネット記事の本文には、本件記事の本文(前記ア)と同一の記載が含まれている。(甲7)⑶ 本件各記事の掲載に至る経緯ア被告の関係者は、令和4年12月12日、世田谷区情報公開条例に基づき、 世田谷区長に対し、世田谷区本庁舎等整備工事に関する区長室に係る見積書等の開示を求めたところ、同月27日付けで、区長室兼災害対策本部長室に設置される机や書棚等の費用として909万8970円、区長応接室に設置される会議テーブルや応接会議チェア等の費用として306万7820円(合計1216万6790円)などとする同年3月31日付け見積書(以下「本件見積書」という。)が開示された。 本件見積書は、世田谷区から世田谷区本庁舎等整備に係る什器購入計画検討支援業務の委託を受けた株式会社オカムラが、その業務の一環として作成したものであった。(甲11の1・2、甲19、乙8、10ないし13)イ被告は、原告に対し、令和5年2月6日付けで、取材依頼書(以下「本 務の委託を受けた株式会社オカムラが、その業務の一環として作成したものであった。(甲11の1・2、甲19、乙8、10ないし13)イ被告は、原告に対し、令和5年2月6日付けで、取材依頼書(以下「本件取材依頼書」という。)を送信し、本件週刊誌(令和5年2月9日発売号)において原 告に関する記事を掲載する予定であることを伝え、本件見積書の内容を含む区長室の備品交換に係る事実関係や、原告の自宅及び公用車の使用に係る事実関係等について質問をした。(甲8)ウ原告は、本件取材依頼書を受けて、被告に対し、令和5年2月7日付けで、「ご連絡」と題する書面(以下「本件回答」という。)を送付した。本件回答には、 区長室の備品交換について、「ご指摘の物品等については、昨年度の什器レイアウト の検討段階のものでまだ入札・契約が決まっておらず、区長指示で購入金額の低減に向けた調査をしており、既存備品で引き続き使用できるものがあれば使用することも含めて、区長執務室等の大幅な見直しを進めています。また、購入までには今後入札手続で適正性が確保される見込みです。」等の記載があり、原告の自宅について、「主たる生活の本拠地を世田谷区内のaに置きながら、世田谷区に隣接する狛江 の自宅も利用している状況です。このことは、2016年6月15日定例会において、世田谷区から答弁しておりすでに明らかにされているとおりです。」、「自治体の首長には居住要件がなく、区長就任当時の自宅は狛江市のみでした。就任後、激務であることから区内東部のaに私費で住居を借りています。この二ヶ所で、区内の東部と西部をカバーすることができて、効率的に利用しています。(略)いずれの立 地についても、公務遂行の観点から適切な対応をしていると認識しております。」等の記載があった。(甲 ヶ所で、区内の東部と西部をカバーすることができて、効率的に利用しています。(略)いずれの立 地についても、公務遂行の観点から適切な対応をしていると認識しております。」等の記載があった。(甲9)エ原告は、本件記事の掲載後、被告に対し、令和5年2月10日付けで、「通知書」と題する書面(以下「本件通知書」という。)を送付した。本件通知書は、本件記事につき、内容に事実の誤りがあることや本件回答の一部を恣意的に引用してい ないことを指摘して、その訂正を求めるとともに、今後誤った本件記事を基にしたインターネット上での発信等を行わないように求めるものであった。(甲10) 3 争点及び争点に対する当事者の主張本件の争点は、名誉毀損の成否(争点1)、違法性阻却事由又は責任阻却事由の有無(争点2)、原告の損害の発生の有無及び金額(争点3)、謝罪広告の要否(争点 4)、本件ネット記事の削除の要否(争点5)である。 ⑴ 争点1(名誉毀損の成否)について原告は、本件各記事について、原告が、区役所の建て替えに伴い、区長の机と椅子だけで約85万円、執務用の棚や応接チェアなど合わせて約1200万円という法外な額の家具を購入し、公金から支出した事実(以下「本件摘示事実①」という。)、 及び、原告が、世田谷区に住んでおらず、居住実態と異なる家を届け出て自宅を偽 装している事実(以下「本件摘示事実②」という。)を摘示するものであって、原告の名誉を毀損したと主張する。 この点に関する当事者の主張は、別紙主張一覧表の「摘示事実」欄及び「社会的評価の低下の有無」欄に記載のとおりである。 ⑵ 争点2(違法性阻却事由又は責任阻却事由の有無)について 当事者の主張は、別紙主張一覧表の「違法性阻却事由又は責任阻却事由の有無」 社会的評価の低下の有無」欄に記載のとおりである。 ⑵ 争点2(違法性阻却事由又は責任阻却事由の有無)について 当事者の主張は、別紙主張一覧表の「違法性阻却事由又は責任阻却事由の有無」欄に記載のとおりである。 ⑶ 争点3(原告の損害の発生の有無及び金額)について(原告の主張)原告は、本件各記事により多大な精神的苦痛を被ったものであり、これによる慰 謝料の額は、本件記事については200万円が相当であり、タイトル及び見出しで応接家具に1200万円を支出したことを特に強調した本件ネット記事については300万円が相当である。 また、被告の不法行為と相当因果関係を有する弁護士費用の額は、上記金額の1割(本件記事につき20万円、本件ネット記事につき30万円)とするのが相当で ある。 (被告の主張)否認し争う。 ⑷ 争点4(謝罪広告の要否)について(原告の主張) 本件各記事により、原告の名誉は回復不能なほど著しく毀損されており、その違法性が強いことから、原告の名誉の完全な回復を図るためには、金銭賠償に加えて、別紙謝罪広告目録記載の謝罪広告を本件週刊誌及び本件サイトにそれぞれ少なくとも1回ずつ掲載することが必要不可欠である。 (被告の主張) 被告に名誉毀損による不法行為は成立しないし、仮に名誉毀損が成立するとして も、本件各記事は世田谷区長選挙前に公表されたものであるところ、その後、原告は同選挙で当選しており、既にその社会的評価は回復したといえるから、金銭賠償に加えて謝罪広告を命ずる必要性はない。 ⑸ 争点5(本件ネット記事の削除の要否)について(原告の主張) 本件ネット記事は原告の名誉権を違法に侵害するものであり、原告の人格権としての名誉権を保護 告を命ずる必要性はない。 ⑸ 争点5(本件ネット記事の削除の要否)について(原告の主張) 本件ネット記事は原告の名誉権を違法に侵害するものであり、原告の人格権としての名誉権を保護するため、本件ネット記事を削除することが必要不可欠である。 (被告の主張)本件ネット記事は原告の名誉権を違法に侵害するものではないし、仮にそうであるとしても、原告は、本件ネット記事が公表された後に世田谷区長選挙で当選して おり、本件ネット記事を削除しないことで重大かつ回復困難な損害を被るおそれはないから、本件ネット記事の削除の必要性は認められない。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(名誉毀損の成否)について⑴ 本件摘示事実①について ア本件各記事のうち、区役所の建て替えに伴う備品交換に関する部分について、原告は、本件摘示事実①を摘示するものであると主張するのに対し、被告は、事実を断定して摘示するものではなく、疑念があることを指摘するものにとどまる旨や、事実を摘示するものであるとしても、支出ではなく計上がされたことの摘示にとどまる旨主張するため、この点について検討する。 本件各記事は、区政関係者のコメントを引用する形式で、「区役所は建て替え工事中で備品交換が行われています。問題なのは、区長の机と椅子だけで約85万円、執務用の棚や応接チェアなど合わせて約1200万円という法外な額がかかっていること」との記載をするものであるところ、これについて、「まだまだ王国を築くのには飽き足らないようだ」(ただし、本件記事のみ。)、「決して安い買い物ではない」 として、上記記載に係る事実が存在することを前提に評価を加えていることや、「応 接家具に1200万円」(本件記事)又は「応接家具に1200万円という み。)、「決して安い買い物ではない」 として、上記記載に係る事実が存在することを前提に評価を加えていることや、「応 接家具に1200万円」(本件記事)又は「応接家具に1200万円という法外な額が」(本件ネット記事)との事実そのものを抽出したタイトルを付していること(甲5、7)からすれば、本件各記事は、区政関係者のコメントの紹介や疑念の存在の指摘にとどまらず、上記記載に係る事実の存在を摘示するものと読み取れるものである。 そして、本件各記事には、上記記載に続けて、「2年前、千葉県市川市で市長室の家具購入費用に約1000万円が計上され騒動になりましたが、それよりも大きな額が動いています」との記載があるところ(甲5、7)、「大きな額が動いています」との記載は実際に金銭の支出がされたことを意味するものと理解するのが自然であることや、市川市の事例について、実際に家具が購入され費用が支出されたことが 報道されていたこと(甲18の1ないし4)を踏まえれば、本件各記事が摘示する事実とは、区役所の建て替えに伴い区長関係の備品の費用として約1200万円が計上されたことにとどまらず、実際に当該備品が購入されて約1200万円の支出がされたこと(すなわち本件摘示事実①)であると解するのが相当である。 これに対し、本件各記事には、「ご指摘の物品等については(中略)区長指示で購 入金額の低減に向けた調査をしており(中略)大幅な見直しを進めています」との世田谷区の見解も記載されている。しかし、「調査」や「見直し」は、既に支出がされた後にもされ得るものであるから、上記の記載は、本件摘示事実①と必ずしも矛盾するものではなく、上記の記載があることをもって、本件各記事が本件指摘事実①を摘示するものであることが否定されるものとはいえない。 れ得るものであるから、上記の記載は、本件摘示事実①と必ずしも矛盾するものではなく、上記の記載があることをもって、本件各記事が本件指摘事実①を摘示するものであることが否定されるものとはいえない。 以上のとおり、本件各記事は、その記載全体の趣旨を踏まえ、一般の読者の通常の注意と読み方を基準にすれば、本件摘示事実①を摘示するものと認められる。 イそして、本件摘示事実①は、現職の区長という公職の地位にある原告が、自らのために多額の公金を支出しており、原告の区長としての資質に重大な問題があるとの印象を読者に与えるものであり、原告の区長としての社会的評価を低下させ るものといえる。 ⑵ 本件摘示事実②についてア本件各記事のうち、原告の自宅に関する部分について、原告は、本件摘示事実②を摘示するものであると主張するのに対し、被告は、事実を断定して摘示するものではなく、疑念があることを指摘するものにとどまる旨主張するため、この点について検討する。 本件各記事には、原告の自宅に関し、区政関係者のコメントを引用する形式で、「そもそも、A区長は世田谷区に住んでいません」、「区役所から2キロ離れたaにある賃貸マンションを自宅として届け出ているのですが、家族と住むのは狛江市の一軒家なんです。」、「区長が居住実態と異なる家を役所に虚偽報告している可能性が高く、そこで問題となってくるのは、狛江からの通勤に公用車を使っていること だと思います」との記載があるほか、「実際、A区長が自宅として届け出たマンションの隣近所に聞いても、『全く知らなかった』と話す声がチラホラと……。大家も、『本人に聞いて欲しい』と明言を避ける始末なのだ。」との記載がある。これらの記載は、原告が居住実態を有しない世田谷区内の家を自宅として届け出て 、『全く知らなかった』と話す声がチラホラと……。大家も、『本人に聞いて欲しい』と明言を避ける始末なのだ。」との記載がある。これらの記載は、原告が居住実態を有しない世田谷区内の家を自宅として届け出ている可能性を指摘するものではあるが、区政関係者等の第三者のコメントの紹介にとどまって いることからすれば、それだけでは、原告が世田谷区に居住していないことや原告が居住実態と異なる家を自宅として届け出ていることを、事実として摘示するものとまで直ちに読み取ることはできない。 そして、本件各記事には、「区長就任当時の自宅は狛江市のみでした。就任後、激務であることから区内東部のaに私費で住居を借りています。この二ヶ所で、区内 の東部と西部をカバーすることができて、効率的に利用しています」、「通勤届については、主たる生活の本拠地として住所を世田谷区aとし、通勤方法は自宅から勤務庁まで公用車としております」との世田谷区の見解も記載されている。この記載からは、世田谷区及び原告において、原告は世田谷区に主たる生活の本拠たる住所を有しているとの認識を有し、これに基づいて通勤に係る公用車の使用をしている ことを、明確に読み取ることができる。そうすると、本件各記事を全体として読め ば、一般の読者は、原告が世田谷区に居住していないことや原告が居住実態と異なる家を自宅として届け出ていることについては、争いがある事柄であると認識するものと解される。 以上のとおり、本件各記事は、その記載全体を踏まえ、一般の読者の通常の注意と読み方を基準にすれば、本件摘示事実②を摘示するものとは認められず、原告が 居住実態を有しない世田谷区の家を自宅として届け出ているという疑念があることを摘示したにとどまるものというべきである。 イそして、原告は、世田 示事実②を摘示するものとは認められず、原告が 居住実態を有しない世田谷区の家を自宅として届け出ているという疑念があることを摘示したにとどまるものというべきである。 イそして、原告は、世田谷区長の地位にあり、原告の公用車の使用態様及びその前提としての居住実態等は、公の検証の対象となるべき性質の事柄であることや、原告が狛江市と世田谷区aの二つの家に寝泊まりしていることの問題点については、 既に平成28年6月の世田谷区議会定例会において、議員の質問により指摘されていたこと(乙7)も踏まえれば、本件各記事により上記疑念があることが摘示されたとしても、それによって原告の社会的評価が低下するものとは認められないというべきである。なお、原告も、本件各記事による摘示事実が被告主張のものにとどまるとした場合の、原告の社会的評価の低下まで主張するものではない。 小括以上によれば、本件各記事のうち、区役所の建て替えに伴う備品交換に関する部分については、原告の名誉を毀損するものといえるが、原告の自宅に関する部分については、原告の名誉を毀損するものとはいえない。このことを前提に、以下の争点について検討する。 2 争点2(違法性阻却事由又は責任阻却事由の有無)について 世田谷区役所(世田谷区本庁舎)の建て替え後に区長室兼災害対策本部長室及び区長応接室に配置される備品(机、椅子、書棚、応接チェア等)は、本件各記事の掲載の時点においては購入されておらず、その後の入札手続において、合計484万7800円(税抜き)で落札されたものと認められる(甲12、弁論の全趣 旨)。そうすると、本件各記事の掲載時点において、上記備品の購入のために公金か ら約1200万円が支出された事実は存在せず、本件摘示事実①が真実であ ものと認められる(甲12、弁論の全趣 旨)。そうすると、本件各記事の掲載時点において、上記備品の購入のために公金か ら約1200万円が支出された事実は存在せず、本件摘示事実①が真実であるとは認められない。 また、本件見積書は、その体裁(乙8)からしても、備品等の見積書にすぎないことは明らかであって、実際にこれに基づく購入や支出がされたことを当然に示すものではない。そして、被告は、本件各記事の掲載に先立ち、原告に対し、本 件取材依頼書による質問をしたところ(前記前提事実⑶イ)、これに対して原告から、本件見積書に係る物品等については、什器レイアウトの検討段階のものであり、入札や契約は未だ行われていない旨の回答を得ていた(前記前提事実⑶ウ)。そうすると、本件見積書の存在を踏まえても、被告が本件摘示事実①が真実であると信じたことに相当な理由があるとはいえない。 以上によれば、本件各記事(区役所の建て替えに伴う備品交換に関する部分)による原告の名誉の毀損について、違法性又は被告の責任が阻却されるということはできない。 3 争点3(原告の損害の発生の有無及び金額)について本件各記事(区役所の建て替えに伴う備品交換に関する部分。以下、本項におい て同じ。)は、現職の世田谷区長という公職の地位にある原告が、自らのために多額の公金を支出しており、原告の区長としての資質に重大な問題があるとの印象を読者に与えるものである。そして、本件週刊誌及び本件サイトは、多数の一般読者が想定される媒体であって(甲14~16)、令和5年2月9日の全国紙朝刊(朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、日本経済新聞及び産経新聞)に掲載された本件週刊誌の 広告においても本件記事のタイトルが表示されていたこと(甲6の1ないし5)から 令和5年2月9日の全国紙朝刊(朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、日本経済新聞及び産経新聞)に掲載された本件週刊誌の 広告においても本件記事のタイトルが表示されていたこと(甲6の1ないし5)からすれば、本件各記事による原告の社会的評価の低下の程度を軽視することはできない。これに加えて、被告は、原告が本件回答において当該備品を購入した事実を否定したにもかかわらず、本件記事を掲載し、さらに、原告が本件通知書において本件記事には事実に誤りがあるとしてこれを基にしたインターネット上での発信を 行わないように求めたにもかかわらず、本件記事と同一の記載を含む本件ネット記 事を掲載したものであることや(前記前提事実⑶ウ、エ)、本件各記事は、世田谷区の見解を引用して記載した部分において、本件回答及び本件通知書の記載のうち当該備品を購入したことを明確に否定している箇所をあえて省略したものと解されることを併せ考慮すれば、原告は、本件各記事による社会的評価の低下によって、相当の精神的苦痛を被ったものといえる。 他方、原告は世田谷区長の地位にあり、かつ、本件摘示事実①は同区長としての公務の遂行に係る事実であることからすれば、原告において、本件各記事の内容について、同区長としての立場で、正しい事実関係の説明その他の反論を行うことは可能であったといえる。 これらの事情を考慮すると、本件各記事による社会的評価の低下により原告の被 った精神的苦痛に係る慰謝料の額は、本件記事及び本件ネット記事のそれぞれにつき50万円と認めることが相当である。また、本件各記事と相当因果関係を有する原告の損害としての弁護士費用の額は、本件記事及び本件ネット記事のそれぞれにつき5万円と認めることが相当である。 したがって、被告は、原告に対し、名誉毀損の不法行為に 件各記事と相当因果関係を有する原告の損害としての弁護士費用の額は、本件記事及び本件ネット記事のそれぞれにつき5万円と認めることが相当である。 したがって、被告は、原告に対し、名誉毀損の不法行為に基づき、損害賠償金1 10万円及びうち55万円に対する本件記事に係る不法行為の日である令和5年2月9日から、うち55万円に対する本件ネット記事に係る不法行為の日である同月20日から各支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金を支払う義務を負う。 4 争点4(謝罪広告の要否)及び5(本件ネット記事の削除の要否)について 前記3のとおり、原告が一定の反論を行い得る立場にあることにも鑑みれば、本件各記事によって毀損された原告の名誉の回復のための措置としては、本判決に基づいて前記3の慰謝料が支払われることで足り、それを超えて被告に対して謝罪広告の掲載を命ずる必要があるとまでは認められない。また、このことに加えて、本件ネット記事は、原告の名誉の毀損に当たるとは認められない部分を含んでおり、 原告の名誉の毀損に当たる部分とその他の部分とを区分することも困難であること からすれば、被告に対して本件ネット記事の全部又は一部の削除を命ずることが必要かつ相当であると認めることもできない。 したがって、原告の被告に対する謝罪広告の掲載請求及び本件ネット記事の削除請求には、いずれも理由がない。 第4 結論 よって、原告の請求は、主文第1項記載の限度で理由があるからこれを認容し、その余はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。なお、原告が令和5年10月31日付けでした文書提出命令の申立てについては、証拠調べの必要性がないことから、これを却下する。 東京地方裁判所民事第37部 裁判長裁 文のとおり判決する。なお、原告が令和5年10月31日付けでした文書提出命令の申立てについては、証拠調べの必要性がないことから、これを却下する。 主文 東京地方裁判所民事第37部 裁判長裁判官貝阿彌亮 裁判官中井彩子 裁判官山優介 (別紙)謝罪広告目録省略 (別紙)記事目録省略
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