平成19(行ウ)5 懲戒処分取消請求事件(通称 佐賀県立高等学校教諭懲戒免職)

裁判年月日・裁判所
平成20年12月12日 佐賀地方裁判所 その他
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判決文本文14,320 文字)

- 1 -平成20年12月12日判決言渡同日原本交付裁判所書記官平成19年(行ウ)第5号懲戒処分取消請求事件口頭弁論終結日平成20年9月12日判決主文 佐賀県教育委員会が平成18年7月20日付けで原告に対してした地法公務員法29条1項1号及び3号に基づく懲戒免職処分を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 事実 及び理由第1請求の趣旨主文同旨第2事案の概要 事案の要旨本件は,教育委員会から飲酒運転及びその報告が遅滞したことを理由に懲戒免職処分を受けた,県立高校の教諭である原告が被告に対し,上記処分には,裁量権の逸脱・濫用があり,また,処分の適正手続を欠いた違法があるなどと主張して,懲戒免職処分の取消しを求めた事案である。 前提事実以下の事実は,当事者間に争いがないか,各項末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨から容易に認めることができる。 (1)当事者等ア原告(昭和44年○○月○○日生)は,平成6年4月に被告に佐賀県立- 2 -A高等学校教諭として採用され,後記の懲戒免職処分当時,佐賀県立B高等学校(以下単に「B高校」という)の公民担当の教諭であった(生年。 月日,採用年月,採用時の地位に関しては,甲1の1,124,その余は争いがない。 。)イ佐賀県教育委員会(以下単に「教育委員会」という)は,原告に対す。 る懲戒処分の処分権者である(弁論の全趣旨。 )(2)原告の飲酒後の自動車運転行為原告は,平成18年7月13日午後7時30分ころから同日午後9時30分ころまでの間,佐賀市ab丁目のCホテルにおいて開催されたB高校の運営委員会の1学期の反省会に参加したが,その際,上記高校から会場まで自らが運転する自動車で移動し,自動車はホテル周辺の駐車場に駐車した。 原告は,上記反省会で飲酒 Cホテルにおいて開催されたB高校の運営委員会の1学期の反省会に参加したが,その際,上記高校から会場まで自らが運転する自動車で移動し,自動車はホテル周辺の駐車場に駐車した。 原告は,上記反省会で飲酒し,さらに,その後,スナックでも飲酒した。 原告は,上記飲酒後,蕎麦屋で蕎麦を食べた後,駐車場の自動車まで戻り,車内で30分程度睡眠を取った。 原告は,上記睡眠後,飲酒の影響がなくなったものと考えて,上記自動車を運転した(以下「本件運転行為」という。 。)(争いがない)。 (3)原告のアルコール検査原告は,平成18年7月14日午前8時5分ころ,佐賀警察署日の出交番において,アルコールの呼気検査を受けたところ,検知管による呼気1リットル中のアルコール濃度は,0.05㎎と0.10㎎のほぼ中間を示しており,検査を実施した警察官は,呼気1リットル中,0.07㎎のアルコール濃度と判断した(乙27。 )(4)原告に対する懲戒免職処分原告は,平成18年7月20日,教育委員会から,地方公務員法29条1項1号及び3号に基づき,別紙「処分説明書」記載の理由により,懲戒免職- 3 -処分(以下「本件処分」という)を受けた(争いがない。 。 。)(5)原告の審査請求と人事委員会の裁決原告は,平成18年9月12日,佐賀県人事委員会に対し,本件処分に対する審査請求をした(争いがない。 。)佐賀県人事委員会は,平成19年5月25日付けで,本件処分を承認する旨の裁決(以下「本件裁決」という)をした(争いがない。 。 。)(6)本件訴訟の提起原告は,平成19年11月22日,当裁判所に対し,本件裁決の取消しを求める訴訟(当庁平成19年(行ウ)第3号)を提起し,同年11月30日,本件処分の取消しを求める本件訴訟を請求の追加的併合の形式で提起した(顕著な 年11月22日,当裁判所に対し,本件裁決の取消しを求める訴訟(当庁平成19年(行ウ)第3号)を提起し,同年11月30日,本件処分の取消しを求める本件訴訟を請求の追加的併合の形式で提起した(顕著な事実。 )なお,本件裁決の取消しを求める訴訟は,その後原告の訴えの取下げにより終了した(顕著な事実。 )(7)地方公務員法の定め地方公務員法29条1項は,職員がこの法律(同法57条に規定する特例を定めた法律を含む。なお,地教行法47条1項により同法を含む)若し。 くはこれに基づく条例・規則・規程に違反した場合(同項1号,職務上の)義務に違反し若しくは職務を怠つた場合(同項2号)又は全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合(同項3号)においては,これに対し,懲戒処分として戒告,減給,停職又は免職の処分をすることができる旨定めている(顕著な事実。 )(8)教育委員会における懲戒処分の指針ア教育委員会は,平成17年3月3日付け文書により,各県立学校長に対し,同月10日以降に発生した事案について,飲酒運転を行った職員は,原則懲戒免職とする方針を決定したことを通知した(乙3。 )イ教育委員会は,平成17年8月10日に「懲戒処分の指針(以下「本」- 4 -件指針」という)を策定したが,同指針には,標準例として「飲酒運。 ,転をした教職員は,免職とする」と規定している(乙9。 。 ) 争点及びこれに関する当事者の主張(1)本件処分について裁量権の逸脱・濫用があるか。 〔原告〕ア懲戒免職処分は,職員としての身分を失わせ,職場から永久に放逐するという極めて厳しい処分であることから,①当該非違行為の動機,態様,結果はどのようなものであったか,②故意または過失の度合いはどのようなものであったか等から,当該非違行為が懲戒免職処 永久に放逐するという極めて厳しい処分であることから,①当該非違行為の動機,態様,結果はどのようなものであったか,②故意または過失の度合いはどのようなものであったか等から,当該非違行為が懲戒免職処分に相当するような違法性を有しており,③非違行為を行った職員の職責はどのようなものであったか,その職責は非違行為との関係でどのように評価すべきか,④他の職員及び社会に与える影響はどのようなものであるか,⑤過去に非違行為を行っているか等のほか,適宜,日頃の勤務態度や非違行為後の対応なども含め総合的に考慮した上で,なお当該職員を職員としての地位に留めおくことを前提とした懲戒処分(停職以下の処分)では足りないという場合に初めてその相当性が肯定されるというべきである。 イ教育委員会は,本件指針の「飲酒運転」について,広く体内にアルコールを保有した状態で運転することと解釈しているが,懲戒免職処分という峻烈な処分にふさわしい実態を伴う非違行為でなければ相当性を欠くのであって,本件指針が酒気の程度を一切考慮することなく一律に懲戒免職処分とするのであれば,本件指針自体が懲戒権の逸脱である。本件指針について,懲戒権の逸脱とならないように解釈するとすれば,少なくとも,刑事罰の対象である呼気1リットル当たり0.15㎎のアルコールを保有した状態で運転することと限定的に解釈する必要がある。 この点は,人事院が最近変更した懲戒処分に関するガイドラインにおいても,懲戒免職となるのは,少なくとも酒気帯び運転以上の場合であるし,- 5 -これまで公務員が事故も起こさず,酒気帯び運転にもならないケースで懲戒免職処分を受けた前例はないことからも明らかである。 なお,被告は,本件訴訟において,ウィドマーク法を用いた私的鑑定書の結果に基づき,原告の本件運転行為時の血液1ミリリット 転にもならないケースで懲戒免職処分を受けた前例はないことからも明らかである。 なお,被告は,本件訴訟において,ウィドマーク法を用いた私的鑑定書の結果に基づき,原告の本件運転行為時の血液1ミリリットル当たりのアルコール濃度が1.5~1.7㎎あり,酒気帯び運転の基準(血液1ミリリットル当たり0.3㎎以上)を遙かに超えている旨主張しているが,そもそも本件処分の理由としては,上記のアルコール濃度の推計は考慮されていないのであるから,上記のアルコール濃度を本件処分の根拠とすることはできないし,本件においては,ウィドマーク法による鑑定の前提事実である飲酒量や飲酒時間,運転時間自体,原告のおよその記憶に基づく曖昧なもので,正確性の担保がないため,鑑定結果も信用性がない。 ウ報告が遅滞したことについても,警察からの事情聴取という通常体験することのない緊急の事態において,かつ,被報告者である教頭ないし校長が出勤していない早朝に報告することは著しく困難であったのであって,この点を本件処分の根拠とすることも懲戒権を逸脱している。 エさらに,本件処分は,原告の教員としての資質,能力,意欲及び勤務態度などの酌むべき事情を一切考慮しておらず,懲戒権の逸脱である。 〔被告〕地方公務員について地方公務員法に定められた懲戒事由がある場合に,懲戒処分を行うかどうか及び懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは懲戒権者の裁量に任されており,懲戒権者がこの裁量権の行使として行った懲戒処分は,それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し,これを濫用したと認められる場合でない限り,その裁量権の範囲内にあるものとして違法とならない(最高裁判所昭和52年12月20日第三小法廷判決・民集31巻7号1101頁。 )本件においては,下記のような事情が存在し,本件の る場合でない限り,その裁量権の範囲内にあるものとして違法とならない(最高裁判所昭和52年12月20日第三小法廷判決・民集31巻7号1101頁。 )本件においては,下記のような事情が存在し,本件の飲酒運転等について- 6 -の原告の責任は極めて重く,本件処分が佐賀県教育委員会の裁量権の範囲内にあることは明らかである。 ア教育委員会は,平成17年3月に「飲酒運転を行った職員は原則懲戒免職にする」との方針を決定し,同年8月には,本件指針を策定して「標,準例」として「飲酒運転をした教職員は,免職とする」と定めた。ここ。 でいう「飲酒運転」とは「通常の状態で身体に保有する程度以上にアル,コールを保有している状態で自動車を運転すること」であり,教育委員会は,このような方針に基づき,平成17年3月10日(上記方針の施行日)以降に飲酒運転を行った教職員については,全て原則どおり懲戒免職処分としている。 イ教職員は,自ら生徒の手本となる必要があり,倫理規範の遵守が極めて強く求められる立場にある。 ウ原告の本件運転行為は,高校の委員会の反省会という職務との関連性が強く,より慎重な行動が要請される場面における飲酒運転であり,規範意識の欠如は甚だしい。 エ原告が保有していたアルコール濃度は,飲酒の約9時間後に呼気1リットル当たり0.07㎎が検知されたことからすると,本件運転行為時には相当高濃度のアルコールを保有していたと考えられ,現に,ウィドマーク法による私的鑑定の結果,血液1ミリリットル当たり1.5~1.7㎎と推定されている。なお,原告は,本件運転行為について,警察に検挙されていないが,検挙されたか否かを区別するのは相当ではなく,その点を原告に有利に解釈する正当性はない。 オ原告は,本件運転行為について,何ら正当な理由なく,平成18年7月 行為について,警察に検挙されていないが,検挙されたか否かを区別するのは相当ではなく,その点を原告に有利に解釈する正当性はない。 オ原告は,本件運転行為について,何ら正当な理由なく,平成18年7月14日午前8時35分に教頭から連絡があるまで報告を行わなかった。 所属長に速やかに事件・事故を報告すべき義務は,地方公務員としての基本的かつ重要な義務であり,これを無視した原告の態度は到底許されな- 7 -い。 (2)本件処分の適正手続違反の有無〔原告〕ア飲酒運転原則懲戒免職処分の指針の告知・説明が不十分であること原告ら教職員に対して,校長が告知していた内容は,当時最も問題となっていた個人情報等が記載された重要書類の取扱いについて注意することやセクシャルハラスメントの防止についてが主であり,飲酒運転をとりわけ強調して指導していた事実はない。 また,原則懲戒処分の対象となる「飲酒運転」が体内にアルコールを保有する状態での運転全般を指すものという告知・説明はされておらず,通知内容には「飲酒翌日であっても『酒気帯び運転』になる場合があるこ,と」などの表現があることからしても「飲酒運転」は「酒気帯び運,,転」を指すとするのが通常の理解であり,被告主張のように理解するには不明確な表現である。 イ弁明の機会の付与がなかったこと懲戒処分の種類は,重い順に①免職②停職③減給④戒告の4つがあるところ,免職は職員としての身分そのものを剥奪するものであり,その他の処分とは決定的に異なるものである。 そうだとすれば,懲戒免職処分については,適正手続の保障に十分意を用いるべきであり,その中核である弁明の機会については例外なく保障することが必要である。 本件において,被告は,原告に対して事情聴取ないし顛末書の提出を求めることなど行っているが,これらは単 分意を用いるべきであり,その中核である弁明の機会については例外なく保障することが必要である。 本件において,被告は,原告に対して事情聴取ないし顛末書の提出を求めることなど行っているが,これらは単なる処分者側としての事実調査の域を出ないのであって,弁明の機会の付与ではない。 ウ事情聴取等の手続が違法であること教育委員会は,本件処分に際して原告に顛末書の作成・提出を求めてい- 8 -るところ,顛末書の作成過程において,原告にとって不利益な内容の加筆を原告に求めているが,このような加筆要求は,原告の任意の作成を阻害するものであり,違法である。 〔被告〕教育委員会は,地方公務員法49条1項に基づき,処分の説明書を原告に交付し,職員の懲戒の手続,効果等に関する条例3条により,辞令を交付しているのであって,適正な手続に則っている。 原告の主張は,以下のとおり理由がない。 ア道路交通法65条1項は,通常の状態で身体に保有する程度以上にアルコールを保有している状態で自動車を運転することを禁止していること,本件指針等も単に「飲酒運転」と規定するだけで,アルコール濃度等は規定されていないことから考えて,本件指針等に定める「飲酒運転」とは,「通常の状態で身体に保有する程度以上にアルコールを保有している状態で自動車を運転すること」であることは明らかである。 イ顛末書の加筆については,事実に即した記載の加筆を求めたにすぎず,何らの問題はない。 ウ行政手続においては,法定手続の保障(憲法31条)が全面的に適用されるわけではなく,行政処分によって達成しようとする公益の内容,程度,緊急性等を総合考慮して決定される(最高裁判所平成4年7月1日判決・民集46巻5号437頁。 )地方公務員に対する懲戒免職処分は,地方公務員としての身分を剥奪する処分であり,一 公益の内容,程度,緊急性等を総合考慮して決定される(最高裁判所平成4年7月1日判決・民集46巻5号437頁。 )地方公務員に対する懲戒免職処分は,地方公務員としての身分を剥奪する処分であり,一般国民の財産・権利等を剥奪する処分ではないし,懲戒処分の実施に際して,弁明の機会を与えなければならない旨を明記する法令も存在しないから,弁明の機会を与えなくても違法ではない。 仮に,弁明の機会を付与しなければならないとしても,教育委員会においては,飲酒運転の場合,懲戒処分は懲戒免職が原則であり,原告もこの- 9 -原則を知り,懲戒免職を前提として反省の弁を述べているのであるから,弁明の機会も十分付与されていたといえる。 第3当裁判所の判断 認定事実前記前提事実及び証拠(甲22の2,52の2,61の3,63・64の各1・2,65の1~4,66の1~3,67の1・2,68・69の各1~4,70の1~3,71,72の1~3,73の1~4,74の1~4,75の1~3,76~90,91・92の各1・2,93の1~4,94・95の各1・2,96の1~4,97~99の各,1~3,100の1~4,101の1・2,102の1~5,103~109の各1~3110~112の各1・2,113,114の1~3,115の1・2,116の1~3,117・118の各1~4,119~124,乙1~20,23~27,29,30の1・2,31~33,証人D,原告本人)並びに弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1)原告の経歴等についてア原告(昭和44年○○月○○日生)は,平成6年4月,被告に佐賀県立A高等学校の公民科教諭として採用され,以後,平成11年4月に佐賀県立E高等学校に赴任し,平成15年4月にB高校に赴任した。 イ原告は,これまで懲戒処分を受けた 生)は,平成6年4月,被告に佐賀県立A高等学校の公民科教諭として採用され,以後,平成11年4月に佐賀県立E高等学校に赴任し,平成15年4月にB高校に赴任した。 イ原告は,これまで懲戒処分を受けたことはなく,また交通事件を含め刑事前科もない。 ウ原告は,これまで公民科教諭として勤務するかたわら,F部の指導者としても活躍し,平成2年4月にはFの全日本A級審判委員としての登録を受けている。また,原告は,平成18年からは,B高校において,生徒指導主事を務めていた。 (2)原告の本件運転行為についてア原告は,平成18年7月13日午後7時30分ころから同日午後9時30分ころまでの間,佐賀市ab丁目のCホテルにおいて開催されたB高校- 10 -の運営委員会の1学期の反省会に参加したが,その際,上記高校から会場まで自らが運転する自動車で移動し,自動車はホテル周辺の駐車場に駐車した。 イ原告は,上記反省会で飲酒した。なお,上記反省会には,B高校校長のDも出席していた。原告の正確な飲酒量は不明であるが,原告は,警察や教育委員会に対しては,記憶に基づき,おそよビール大瓶2本と日本酒1合を飲酒した旨申告している。 さらに,原告は,その後,5分程度タクシーに乗車して,同僚の職員1名とともに,佐賀市c所在のスナックラウンジ「G」に2次会に赴き,午後9時40分ころから午後11時ころまで同所で過ごしたが,同所でも飲酒した。その正確な飲酒量は不明であるが,警察や教育委員会に対しては,記憶に基づき,ウイスキーの水割りを1杯半程度飲酒した旨申告している。 ウ原告は,午後11時過ぎに上記スナックを出て,同僚と別れ,歩いて愛敬町へ向かう途中,空腹感を覚えたため,Hビルの前の「I」という蕎麦屋でごぼう天蕎麦を食べた。その後,店を出て,代行運転の車を探したが見つか 午後11時過ぎに上記スナックを出て,同僚と別れ,歩いて愛敬町へ向かう途中,空腹感を覚えたため,Hビルの前の「I」という蕎麦屋でごぼう天蕎麦を食べた。その後,店を出て,代行運転の車を探したが見つからずそのままCホテルまで歩いて行った。 ホテル周辺の駐車場に着き,自動車の車中で30分程度仮眠を取った。 エ原告は,上記仮眠後,飲酒の影響がなくなったものと考えて,翌14日午前0時20分ころ,上記自動車を運転し,市役所の前を通り,佐賀学園高校の横を通って,佐賀警察署を過ぎたところの「J」の前で信号の前で先頭車として信号待ちのため停止した。原告は,同所で信号待ち中,一瞬うとうとしたため,青信号に変わったにもかかわらず発進しなかった。すると,気付くと原告の自動車の前にキャデラックが停まり,そこから,暴力団関係者風の男性が降りてきて,原告の運転席側の窓ガラスをこんこんとノックし「何しよっとか,降りて来い「お前飲酒運転やろうが,,。」,警察に今から通報すっけんな」と言って,原告に名刺を出すように要求。 - 11 -した。 原告は,恐怖を感じ,これを拒否して自動車を運転して約2㎞逃げたが,キャデラックは原告を追跡してきて,行き止まりの所で,原告はやむなく自動車を停止した。再び,キャデラックから男性が降りてきて,なおも執拗に原告の職業を問い詰め,名刺を出すように要求し「車のボンネット,の上にあんたが勝手にお金を置いていく分には,俺は止める権利はない」と述べた。そこで,原告は,キャデラックのボンネットの上に現金。 3万円と診察券及び迷惑料と書いた紙を置いたところ,解放されたため,自宅へ自動車を走らせ,2~3㎞走行した後,Kの手前のパチンコ店に自動車を止めて父親に電話を架け,迎えに来てもらって午前2時30分ころ自宅に戻った。午前3時ころ就寝した。 たところ,解放されたため,自宅へ自動車を走らせ,2~3㎞走行した後,Kの手前のパチンコ店に自動車を止めて父親に電話を架け,迎えに来てもらって午前2時30分ころ自宅に戻った。午前3時ころ就寝した。 (3)原告に対する警察及び教育委員会による事情聴取ア平成18年7月14日午前7時ころ,佐賀警察署日の出交番から原告に出頭要請があり,父親の運転で同交番まで赴き,午前8時ころに交番に着いて警察官から事情聴取を受けた。 イ原告は,同日午前8時5分ころ,同交番において,アルコールの呼気検査を受けたところ,検知管による呼気1リットル中のアルコール濃度は,0.05㎎と0.10㎎のほぼ中間を示しており,検査を実施した警察官は,呼気1リットル中,0.07㎎のアルコール濃度と判断した。 ウ事情聴取は,午前9時30分ころに終了したが,途中の午前8時30分より前に,教頭から原告の携帯電話に連絡があったので,原告は教頭に事件の概略を説明した。 エ原告は,その後自宅に戻り,待機していたところ,佐賀警察署から連絡があり,午前12時ころに自宅を出て,佐賀警察署に出向き,再度一連の行為について事情聴取を受けた。 オ原告は,佐賀警察署から戻った後,教育委員会に赴き,同日午後2時1- 12 -0分ころから午後4時40分ころまでの間,本件自動車運転行為に関して事情聴取を受けた。 (4)教育委員会による処分方針の変更と通知ア教育委員会は,平成17年3月3日付け文書により,各県立学校長に対し,同月10日以降に発生した事案について,飲酒運転を行った職員は,原則懲戒免職とする方針を決定したことを通知し,B高校においても,全職員に通知された。 イ教育委員会は,同年8月10日に「懲戒処分の指針(本件指針)を策」定したが,同指針には,標準例として「飲酒運転をした教職員は 方針を決定したことを通知し,B高校においても,全職員に通知された。 イ教育委員会は,同年8月10日に「懲戒処分の指針(本件指針)を策」定したが,同指針には,標準例として「飲酒運転をした教職員は,免職,とする」と規定している。B高校においても,全職員に配布した。 。 ウ教育委員会は,機会あるごとに,学校長等を通じて,飲酒運転をしないこと,飲酒運転をした教職員は懲戒免職とすることを告知してきた。 (5)原告に対する懲戒免職処分と人事委員会の裁決ア原告は,平成18年7月20日,教育委員会から,地方公務員法29条1項1号及び3号に基づき,別紙「処分説明書」記載の理由により,懲戒免職処分(本件処分)を受けた。 イ原告は,平成18年9月12日,佐賀県人事委員会に対し,本件処分に対する審査請求をしたところ,佐賀県人事委員会は,平成19年5月25日付けで,本件処分を承認する旨の裁決(本件裁決)をした。 (6)飲酒運転に対する人事院の処分方針と公務員の飲酒運転に対する処分例ア平成17年3月31日一部改正後の人事院の国家公務員に対する「懲戒,,処分の指針」によれば,標準例として「酒酔い運転をした職員は,免職停職又は減給とする。この場合において物の損壊に係る交通事故を起こしてその後の危険防止を怠る等の措置義務違反をした職員は,免職又は停職とする「酒気帯び運転,著しい速度超過等の悪質な交通法規違反をし。」,た職員は,停職,減給又は戒告とする。この場合において物の損壊に係る- 13 -交通事故を起こして措置義務違反をした職員は,停職又は減給とする」。 と規定している。 イ平成20年4月1日一部改正後の人事院の国家公務員に対する「懲戒処分の指針」によれば,標準例として「酒酔い運転で人身事故を起こした,職員は,免職とする「酒気帯び運 る」。 と規定している。 イ平成20年4月1日一部改正後の人事院の国家公務員に対する「懲戒処分の指針」によれば,標準例として「酒酔い運転で人身事故を起こした,職員は,免職とする「酒気帯び運転で人身事故を起こした職員は,免。」,職又は停職とする「酒酔い運転をした職員は,免職又は停職とす。」,る「酒気帯び運転をした職員は,免職,停職又は減給とする」と規。」,。 定している。 ウ近時,事故を起こさず,酒気帯び運転をしただけで,懲戒免職処分を受けている自治体の職員は多数存在するが,酒気帯び運転に至らない程度のアルコールを保有した状態による運転だけで懲戒免職処分を受けた例は見当たらない。 本件処分について裁量権の逸脱・濫用があるか(争点(1))について(1)前記認定のとおり,原告が道路交通法上の酒気帯び運転には至らない程度のアルコールを身体に保有した状態で自動車を運転したこと,原告は,教頭から連絡を受けるまで,本件運転行為を上司に報告していなかったことが認められ,これらが教職員としての職の信用を著しく傷つけ(地方公務員法33条,29条1項1号,全体としての奉仕者たるにふさわしくない非行)に当たる(地方公務員法29条1項3号)ことは明らかであるから,原告には,地方公務員法に定められた懲戒事由があるといえる。 (2)そこで,本件処分について裁量権の逸脱・濫用があるかについて判断する。 ところで,地方公務員について地方公務員法に定められた懲戒事由がある場合に,懲戒処分を行うかどうか及び懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは懲戒権者の裁量に任されており,懲戒権者が同裁量権の行使として行った懲戒処分は,それが社会通念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した- 14 -目的を逸脱し,これを濫用したと認められる場合でない限り, 戒権者の裁量に任されており,懲戒権者が同裁量権の行使として行った懲戒処分は,それが社会通念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した- 14 -目的を逸脱し,これを濫用したと認められる場合でない限り,その裁量権の範囲内にあるものとして違法とはならないものと解される(最高裁判所昭和52年12月20日第三小法廷判決・民集31巻7号1101頁参照。 )そして,懲戒権者において懲戒処分の基準・運用方針を設けている場合には,当該基準が社会通念上著しく妥当性を欠くかをまず検討し,それが否定される場合には,当該基準や運用方針を前提として裁量権の逸脱・濫用の有無を判断するのが相当である。 (3)これを本件について検討するに,まず,被告は,本件指針における「飲酒運転」とは「通常の状態で身体に保有する程度以上にアルコールを保有,している状態で自動車を運転すること」であり,道路交通法における酒気帯び運転に至らない程度のアルコールを保有して運転した場合を含むと主張している。 なるほど「飲酒運転」という文言は「酒気帯び運転」や「酒酔い運,,転」とは異なっており,文字通り解釈すると「酒を飲んだ上自動車を運転,すること」という意味であることは明らかであるし,道路交通法65条1項は「通常の状態で身体に保有する程度以上にアルコールを保有している状,態で自動車を運転すること」を一般的に禁止しているのであるから,これとの対比からも,本件指針における「飲酒運転」については,被告主張のように解釈するのが相当であると解される。 そして,上記の意味での「飲酒運転」は,上記のとおり,違法行為である以上,前記で説示したとおり,これが地方公務員法29条1項1号及び3号に該当することは明らかであり,また教員については,児童生徒と直接触れ合い指導する立場にあるから,とりわけ高いモ ,違法行為である以上,前記で説示したとおり,これが地方公務員法29条1項1号及び3号に該当することは明らかであり,また教員については,児童生徒と直接触れ合い指導する立場にあるから,とりわけ高いモラルと法及び社会規範遵守の姿勢が強く求められているから,これを非違行為として,これに懲戒処分を科すこと自体は,社会通念上著しく妥当性を欠くとは到底いえないことも明らかである。 - 15 -しかしながら,他方,懲戒免職処分は,当該職員としての身分を失わせ,職場から永久に放逐するというものであり,停職以下の処分とは質的に異なり,公務員にとっていわば「死刑宣告」にも等しい究極の処分であるから,その選択が慎重にされるべきこともまた当然である。 さらに,懲戒処分の対象となる非違行為自体も,同じ違法行為とはいえ,刑罰法規に触れる犯罪行為とそれ以外の違法行為との間には質的な差違が存在することも明らかである。 そうすると,本件指針における「飲酒運転」に関する条項は,職務外の刑罰法規には触れない違法行為についても,標準例とはいえ,懲戒免職処分のみを科すという指針になるが,この基準は,今日における飲酒運転に対する社会的非難の度合いの高まりという社会情勢や教員が一般の公務員に比してもより高いモラルを求められていることを考慮しても,あまりに苛酷というべきであって,重きに失し,社会通念上妥当性を欠くものというべきであり,本件指針の「飲酒運転」の意義については,少なくとも刑罰法規に触れる「酒気帯び運転」以上のアルコール分(呼気1リットル中,0.15㎎以上)を身体に保有した状態で自動車を運転することと限定的に解釈しない以上,本件指針における上記条項自体,裁量権を逸脱・濫用したものといわざるを得ない。この点は,前記のとおり,酒気帯び運転に至らない程度のアルコールを身体に で自動車を運転することと限定的に解釈しない以上,本件指針における上記条項自体,裁量権を逸脱・濫用したものといわざるを得ない。この点は,前記のとおり,酒気帯び運転に至らない程度のアルコールを身体に保有した状態による運転で,公務員が懲戒免職処分を受けた例は見当たらないことからも根拠づけられ,この結論は,本件指針の上記条項が周知徹底されていたとしても異なるものではないものと解される。 本件においては,教育委員会は,本件指針の上記条項について,上記のような限定的な解釈をすることなく,文言どおりに解釈して,酒気帯び運転に至らない程度のアルコールを身体に保有した状態による運転をしたにすぎない原告に適用し,本件運転行為の報告遅滞以外には,他に特段勤務態度等に問題の見当たらない原告(かえって,被告自身,原告が有能な教諭であった- 16 -ことを認めている(被告の準備書面3(最終書面)14頁)を懲戒免職処)分にしたのである。 そして,報告遅滞については,なるほど,前記認定事実からすれば,遅くとも,原告が日の出交番から出頭要請を受けた時点で,すみやかに上司に本件の一連の事件を報告すべきであったといえるが,早朝ではあるし,原告自身,警察から出頭要請を受けて気が動転していたことも考慮すると,これをもって原告を懲戒免職処分とすることも,余りに苛酷である。 そうすると,本件処分は,重きに失し,社会通念上著しく妥当性を欠き,裁量権を逸脱・濫用したと認めるのが相当である。 (4)被告は,本件訴訟において,いわゆるウィドマーク法を用いた私的鑑定書(乙28)を提出し,同鑑定書の結果に基づいて,原告が本件運転行為をした時点におけるアルコール濃度は,酒気帯び運転におけるアルコール濃度の基準を超えるものであるとも主張している。 しかしながら,上記鑑定書は,①原告の飲酒状況 書の結果に基づいて,原告が本件運転行為をした時点におけるアルコール濃度は,酒気帯び運転におけるアルコール濃度の基準を超えるものであるとも主張している。 しかしながら,上記鑑定書は,①原告の飲酒状況について,平成18年7月13日午後7時30分から午後9時30分までの間に,ビール大瓶2本(アルコール濃度5%,1266ミリリットル,日本酒1合(アルコール)濃度15%,180ミリリットル)を飲酒したと推計し,②同日午後9時40分から午後11時のでの間にウイスキーの水割り1.5杯(アルコール濃度9%,225ミリリットル)を飲酒したと推計し,③原告の運転開始時刻を7月14日午前零時20分とし,④7月14日午前8時における呼気アルコール濃度を0.07㎎/リットルとし,⑤血中アルコール濃度が最高に達する時間を総飲酒時間や食事の影響を受けるため一様ではないとしながらも,7月13日午後11時30分であると仮定した上,⑥ウィドマーク法による算定式を用いて,原告の運転開始時点の血中アルコール濃度を1.5~1. 7㎎/ミリリットルであると推定しているのであるが(乙28,上記の①)~③というウィドマーク法において極めて重要な飲酒量や飲酒時間及び運転- 17 -開始時間自体が前記のとおり,いずれも裏付証拠が全くない,原告の記憶に基づく推定である以上,その結果の信用性には重大な疑問がある。 したがって,上記鑑定書を根拠に,原告の本件運転行為をした時点におけるアルコール濃度が酒気帯び運転におけるアルコール濃度の基準を超えるものと認めることはできない。 (5)以上のとおり,本件処分は,懲戒権者である教育委員会がその裁量権を逸脱・濫用してされたものであり,違法である。なお,被告は,警察に検挙されたか否かで区別するのは相当ではない旨主張しており,なるほど,検挙の有無 ,本件処分は,懲戒権者である教育委員会がその裁量権を逸脱・濫用してされたものであり,違法である。なお,被告は,警察に検挙されたか否かで区別するのは相当ではない旨主張しており,なるほど,検挙の有無のみで処分に軽重をつけることには合理性は見出し難いが,上記で述べた判断は,警察に検挙されたか否かで区別しているわけではなく,本件運転行為が「酒気帯び運転」以上のアルコール分(呼気1リットル中,0. ,15㎎以上)を身体に保有した状態の運転であることを認めるに足りる的確な証拠がない以上,本件処分には懲戒権の逸脱・濫用が認められるというにすぎず,被告の上記主張は採用できない。 結論 以上によれば,本件処分は,その余の点について判断するまでもなく違法であり,被告に対して,その取消しを求める原告の本訴請求は理由がある。 よって,主文のとおり判決する。 佐賀地方裁判所民事部裁判長裁判官神山隆一裁判官三宅知三郎- 18 -裁判官内山裕史

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