平成14(わ)177 業務上過失致死,道路交通法違反

裁判年月日・裁判所
平成15年2月26日 神戸地方裁判所
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判決文本文5,038 文字)

判決平成15年2月26日神戸地方裁判所平成14年(わ)第177号業務上過失致死,道路交通法違反被告事件 主文 被告人を懲役1年6月に処する。 この裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予する。 訴訟費用は被告人の負担とする。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,第1 自動車運転の業務に従事していたものであるが,平成12年11月4日午後11時15分ころ,普通乗用自動車を運転して兵庫県三木市ab番地のc付近道路を北方から南方に向かい時速約50キロメートルで進行するに当たり,前方左右を注視し,進路の安全を確認して進行すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り,進路遠方を望見して前方左右を注視せず,進路の安全を確認しないまま漫然前記速度で進行した過失により,自車線上で仰向けで横臥していたA(当時72歳)を自車底部に衝突させて轢過し,よって同人に外傷性脳蜘蛛膜下出血等の傷害を負わせ,同月5日午前零時44分ころ,同市de番地のf所在のB病院において,同人を前記傷害により死亡させた第2 前記日時場所において,前記普通乗用自動車を運転中,前記のとおりAに対し傷害を負わせた上死亡させるという交通事故を起こしたのに,直ちに車両の運転を停止して同人を教護する等必要な措置を講ぜず,かつ,その事故発生の日時及び場所等法律の定める事項を,直ちに最寄りの警察署の警察官に報告しなかったものである。 (証拠の標目)―括弧内の数字は証拠等関係カード記載の検察官請求証拠番号―省略(補足説明) 1 弁護人は,判示第1の事実につき,本件証拠上,被告人運転の普通乗用自動車(以下「被告人車両」という。)が被害者を )―括弧内の数字は証拠等関係カード記載の検察官請求証拠番号―省略(補足説明) 1 弁護人は,判示第1の事実につき,本件証拠上,被告人運転の普通乗用自動車(以下「被告人車両」という。)が被害者を轢過した時点においては,すでに先行して,被告人車両以外の車両による被害者の轢過事故が発生し,すでに被害者が死亡していた可能性が排除できないから,被告人は無罪である,判示第2の事実につき,被告人は,事故時に人を轢過したという確定的認識はなかったので,被告人には救護義務違反罪の犯意がなかった旨主張する。当裁判所は,前掲関係各証拠によれば,弁護人の主張する点を含め,判示事実はいずれも優に認められると判断したのであるが,以下補足して説明を加える。 2 前掲関係各証拠によれば,次の事実が認められる。 (1) 被告人は,平成12年11月4日午後11時15分ころ,助手席に眠り込んだ友人Cを同乗させて被告人車両を運転し,兵庫県三木市ab番地の2付近道路(以下「本件現場付近道路」という。)の南行車線上を北から南に向け時速約50キロメートルで進行中,進路遠方を望見するなど前方注視不十分のまま進行した過失により,自車線上で横臥していた被害者を「何か白い物」との認識ではあったものの,前方約11.1メートルの地点に接近して発見し,その足をアクセルからブレーキに踏み換える間もなく,自車を同人に衝突させた。被告人は,犬か猫であって欲しいとの思いでサイドミラーで後方を確認したが,何も見えず,今轢過した物をはっきりと自分の目で確認するのが怖いとの心情で,まわりに誰も人がいなかったことも手伝って,そのまま停車することなく現場を走り去った。 (2) 本件現場付近道路は最高速度40キロメートル毎時の指定のある片側1車線の車道幅員約7.1メートル(全幅員約8.6メートル)の歩車道の区 も手伝って,そのまま停車することなく現場を走り去った。 (2) 本件現場付近道路は最高速度40キロメートル毎時の指定のある片側1車線の車道幅員約7.1メートル(全幅員約8.6メートル)の歩車道の区別のある県道D線である。同所には二条のスリップ痕(左前輪スリップ痕9.9メートル,右前輪スリップ痕10.6メートル,左右の轍間距離1.4メートル。スリップ痕の幅左右ともに14センチメートル)が認められ,スリップ痕の終点から南約1.4メートルの地点に被害者が転倒していた。 (3) ところで,Eは,同日午後11時15分ころ,本件現場付近道路の南行車線上を自動車(日産マーチ)で南進走行中,同車線上に「やや黒っぽく横に長い物」が見え,これが人であることに気付いて急ブレーキをかけ,ようやくその手前で停止できた。その「やや黒っぽく横に長い物」と見えた人は,本件事故の被害者であり,頭を歩道側に向けた状態で車道にうつ伏せ気味の姿勢で,多量に出血して倒れていた。犬を連れて散歩中通りかかり,その状況を目撃したFはEの依頼により携帯電話で本件事故を110番通報した。なお,前記(2)のスリップ痕がE運転の車両によるものであることは,Fの供述のほか左右の轍間距離が同車両のそれに合致することからも裏付けられた。 (4) 被害者は,事故当日,詩吟仲間の友人らとラウンジ「G」等で飲酒し,悪酔いして(事故後の測定によれば,血中アルコール濃度は血液1ミリリットル中1. 4ミリグラム),同日午後9時50分ころ同所を出たが,しばらく同店前で座り込んでいるのを目撃されたほか,本件事故直前である同日午後11時10分ころ,本件現場付近道路の南行車線上を自動車で南進走行中の者から,同車線上に「あぐらの足を広げた感じで頭を下に下げた状態で座り込んでいる被害者」の姿が目撃されているし(「おじ る同日午後11時10分ころ,本件現場付近道路の南行車線上を自動車で南進走行中の者から,同車線上に「あぐらの足を広げた感じで頭を下に下げた状態で座り込んでいる被害者」の姿が目撃されているし(「おじさん危ないぞ」と声を掛けたが無反応であったという。),同じころ本件現場付近道路北行車線上を自動車で北進走行中の者が,南行車線上に「四つんばいの状態で頭は東向きで座り込んでいる被害者」の姿を目撃している。 (5) 被害者の遺体を解剖した医師である証人Hの当公判廷における供述によれば,同医師の所見は,被害者の遺体の創傷のほとんどに生活反応があり,創傷の向きがおおむね同じ向きであるなど,遺体の損傷状況から鑑別すると,被害者は道路にほぼ平行に仰向けで寝ていた状態で足下から轢かれたものであり,被害者の創傷は1台の車両による轢過によって発生したものと考えてよいとするもの(以下「H所見」という。)である。 以上のとおり認められる。 3 2認定のとおり,本件事故前,本件事故現場付近道路上に被害者が泥酔状態で座り込むなどしており,通り掛かった複数以上の車両の運転者がこれに気づき被害者を避けて通り過ぎ,声を掛け,あるいは,本件事故直後に多量の出血をして路上に倒れている被害者に気付いて前記E運転の車両がその直前で急停車したことなど,本件事故前後の被害者の状況は本件証拠上ある程度明らかとなっているところ,これらの事実に加えて,法医学の専門家による合理的見解として首肯すべきH所見によれば,被告人車両が被害者を轢過する以前に先行する事故によって被害者がすでに損傷を受け,あるいは死亡していた可能性は,抽象的にはともかくも,具体的にはこれを排除できる事実関係にある。弁護人は,被害者の轢過が1回だけであったとするには未だ合理的疑いを容れる余地があり,あるいは被告人車両が るいは死亡していた可能性は,抽象的にはともかくも,具体的にはこれを排除できる事実関係にある。弁護人は,被害者の轢過が1回だけであったとするには未だ合理的疑いを容れる余地があり,あるいは被告人車両が被害者を轢過した時点において被害者が生存していたとするには未だ合理的疑いを容れる余地があるというが,理由がない。 4 次に,判示第2の事実の故意の点について検討すると,なるほど,弁護人主張のとおり,被告人の捜査段階における供述調書の供述中,被害者を発見した時点においてそれが人であると確定的に認識していた旨,轢過直後の時点において人を轢いて少なくとも重傷を負わせる程度の事故を起こしたことを十分認識していた旨の供述部分の信用性は必ずしも十分ではないが,2(1)認定のとおり,被告人は自車線上で横臥していた被害者を「何か白い物」との認識ではあったものの,前方約11.1メートルの地点に接近して発見し,自車を同人に衝突させたこと,その直後,被告人は,犬か猫であって欲しいとの思いでサイドミラーで後方を確認したが,何も見えず,今轢過した物をはっきりと自分の目で確認するのが怖いとの心情で,まわりに誰も人がいなかったことも手伝って,そのまま停車することなく現場を走り去ったことが認められるところ,轢過直後の段階において,被告人に,その「白い物体」が人間であって欲しくない,換言すると人間であるかもしれないという未必的認識のあったことは優に認められるのであって,救護義務違反の罪の犯意としては,このような人身事故発生の未必的認識で足りるものと解されるから,犯意に欠けるところはなく,この点に関する弁護人の主張も理由がない。 (法令の適用)被告人の判示第1の所為は平成13年法律第138号による改正前の刑法211条前段に,判示第2の所為のうち,救護義務違反の点は,平成13年 く,この点に関する弁護人の主張も理由がない。 (法令の適用)被告人の判示第1の所為は平成13年法律第138号による改正前の刑法211条前段に,判示第2の所為のうち,救護義務違反の点は,平成13年法律第51号による改正前の道路交通法117条,道路交通法72条1項前段に,報告義務違反の点は同法119条1項10号,72条1項後段に各該当するが,判示第2は1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,刑法54条1項前段,10条により1罪として重い救護義務違反の罪の刑で処断することとし,各所定刑中懲役刑をそれぞれ選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により重い判示第1の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役1年6月に処し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予し,訴訟費用については,刑事訴訟法181条1項本文により全部これを被告人に負担させることとする。 (量刑の理由)本件は,被告人が,普通乗用自動車を運転中,前方注視不十分のまま走行した過失により,酒に酔って道路上に横臥していた被害者を轢過して死亡させた業務上過失致死の事案(第1)と,第1の交通事故を惹起したにも拘わらず,救護義務及び報告義務を尽くさず現場から走り去ったという道路交通法違反(第2)の事案である。業務上過失致死の犯行については,過失の内容は前方注視不十分という自動車運転者にとって基本的な注意義務違反であるところ,人命が失われたその結果は重大であること,事故後,そのまま現場から逃走した救護義務違反,報告義務違反の犯行はいうまでもなく卑劣かつ無責任で,強い非難が妥当すること等に徴すると,被告人の刑事責任は重いといわざるを得ない。 しかしながら,判示のとおり,被告人は人身事故の発生について確定 報告義務違反の犯行はいうまでもなく卑劣かつ無責任で,強い非難が妥当すること等に徴すると,被告人の刑事責任は重いといわざるを得ない。 しかしながら,判示のとおり,被告人は人身事故の発生について確定的な認識があったものではなく,事故後,自首したこと,本件事故の発生については,酒に酔って道路上に横臥していた被害者にも落ち度があり,その程度は軽いとはいえないこと,被害者遺族宅を頻繁に訪ねて謝罪を続けるなど被告人の事故後の態度には被害者遺族らに対する十分な誠意が認められること,被害者遺族との間で既に示談が成立し,被害者の妻は寛大処分を望む旨の嘆願書を作成していること,被告人には真摯な反省の態度が認められること,前科はなく,被告人には養育すべき家族がいること等被告人のために酌むべき事情も認められるので,被告人に対しては,主文のとおり量定した上,その刑の執行を猶予するのが相当である。 よって,主文のとおり判決する。 平成15年2月26日神戸地方裁判所第11刑事係甲裁判官杉森研二

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