平成28年7月19日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成27年(行ウ)第627号手続却下処分取消等請求事件口頭弁論の終結の日平成28年6月2日判決 原告サムスンエレクトロニクスカンパニーリミテッド同訴訟代理人弁護士(特許管理人) 松村 啓同補佐人弁理士阿部達彦同村山靖彦 被告国 同代表者法務大臣岩城光英処分行政庁特許庁長官小宮義則同指定代理人泉地賢治同大池正記同門奈伸幸同平 川 千鶴子同小林大祐 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。 事実 及び理由 第1 請求国際特許出願(特願2013-552453)に係る手続について,特許庁長官が,平成26年3月27日付けでした,平成25年7月31日付け提出の国内書面に係る手続の却下の処分(送達日平成26年4月1日)を取り消す。 第2 事案の概要 1 事案の要旨本件は,「千九百七十年六月十九日にワシントンで作成された特許協力条約」(以下「特許協力条約」という。)に基づいて行った国際特許出願について,国内書面提出期間内に明細書及び請求の範囲の翻訳文(以下「明細書等翻訳文」という。)を提出しなかったため,特許法184条の4第3項により国際特許出願が取り下げられたものとみなされた原告が,特許庁長官に 内書面提出期間内に明細書及び請求の範囲の翻訳文(以下「明細書等翻訳文」という。)を提出しなかったため,特許法184条の4第3項により国際特許出願が取り下げられたものとみなされた原告が,特許庁長官に対し,国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出できなかったことについて「正当な理由」があるとして,同条4項により明細書等翻訳文を提出するとともに(以下「本件翻訳文提出手続」という。),特許法184条の5第1項に規定する国内書面を提出したところ(以下「本件国内書面提出手続」といい,本件翻訳文提出手続と併せて「本件各手続」という。),特許庁長官が,平成26年3月27日付けで,本件各手続についていずれも却下する処分(以下「本件各却下処分」と総称する。)をしたため,本件各却下処分の各取消しを求める事案である。 なお,訴状における請求の趣旨の記載は上記第1のとおりであるところ,第2回弁論準備手続期日における当事者双方の陳述によれば,原告は,本件各却下処分の各取消しを求め,被告もそのように認識しているものと解される。 2 前提事実(末尾に証拠及び弁論の全趣旨を掲げたもののほかは,当事者間に争いがない。)(1) 当事者原告は,大韓民国に本店を有する外国法人であり,特許法8条の規定による特許管理人として特許業務法人志賀国際特許事務所(以下「本件特許事務所」 という。)に所属する弁護士及び弁理士を選任している。 被告は,国である。 (甲2,甲3の2,甲4~7,甲8の1,2,弁論の全趣旨)(2) 原告による国際出願原告は,平成23年(2011年)10月10日,「サービス獲得方法、その装置」(日本語訳)と題する発明について,パリ条約による優先権主張日を平成22年(2010年)10月8日(大韓民国における最先の基礎出願の特許出願日),受理官 10月10日,「サービス獲得方法、その装置」(日本語訳)と題する発明について,パリ条約による優先権主張日を平成22年(2010年)10月8日(大韓民国における最先の基礎出願の特許出願日),受理官庁を大韓民国特許庁として,特許協力条約に基づく国際出願(PCT/KR2011/007482。以下「本件国際出願」という。)をした。 本件国際出願について,特許法184条の3第1項の規定により,その国際出願日に我が国にされたものとみなされた特許出願(特願2013-552453)における明細書等翻訳文の提出期間(国内書面提出期間)は平成25年4月8日(平成22年10月8日から2年6月が経過する日)までである。 (3) 本件各手続及び本件各却下処分ア原告は,平成25年7月31日付けで,本件特許事務所の弁理士を代理人として,特許庁長官に対し,国内書面(甲2の1枚目及び2枚目)及び明細書等翻訳文(甲2の3枚目以降。以下「本件翻訳文」という。)を提出し,併せて,国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出できなかったことについて「正当な理由」があったこと等を主張する回復理由書(甲3の2,乙1。以下「本件回復理由書」という。)を提出した。 イ特許庁長官は,原告に対し,平成25年12月16日付け各却下理由通知書(甲4。以下「本件通知書」という。)を送付して,本件各手続をいずれも却下すべき旨を通知した。 なお,本件通知書においては,本件翻訳文提出手続につき,「国内書面提 出期間内に提出できなかったことについて正当な理由があるとき」(特許法184条の4第4項)に当たらないことが,また,本件国内書面提出手続につき,出願の取下擬制(特許法184条の4第3項)により客体が存在しないことが,それぞれ却下の理由とされている(第2回弁論準備手続期日にお 4第4項)に当たらないことが,また,本件国内書面提出手続につき,出願の取下擬制(特許法184条の4第3項)により客体が存在しないことが,それぞれ却下の理由とされている(第2回弁論準備手続期日における当事者双方の陳述)。 ウ原告は,特許庁長官に対し,平成26年1月20日付けで,本件通知書に対する弁明書(甲5。以下「本件弁明書」という。)を提出した。 エ特許庁長官は,平成26年3月27日付けで,本件弁明書に記載された弁明の趣旨を考慮しても本件通知書記載の却下の理由は解消されないとして,本件各手続をそれぞれ却下する旨の本件各却下処分をし,本件各却下処分に係る通知は,同年4月1日,原告に到達した。 (4) 本件各却下処分に対する異議申立て及び異議棄却決定ア原告は,平成26年5月30日付けで,本件各却下処分について,行政不服審査法による異議申立てをしたが,特許庁長官は,平成27年4月23日,同異議申立てには理由がないとしてこれを棄却する決定をし,同決定は,同月24日,原告に到達した。 イ原告は,平成27年10月22日,本件訴訟を提起した。 3 争点本件の争点は,原告が国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出できなかったことにつき,特許法184条の4第4項所定の「正当な理由」があるか否かであり,この点に関する当事者双方の主張は次のとおりである。 [原告の主張](1) 「正当な理由」の解釈について特許法における期間徒過については,平成23年改正及び平成27年改正により,救済の範囲をより広げる方向へと改正されているから,こうした改正の経緯に照らせば,「正当な理由」は,より広い範囲で権利回復が可能とな るよう極力緩和して解すべきである。そして,「正当な理由」の文言を導入する契機となった特許法条約12条1項の“Due 正の経緯に照らせば,「正当な理由」は,より広い範囲で権利回復が可能とな るよう極力緩和して解すべきである。そして,「正当な理由」の文言を導入する契機となった特許法条約12条1項の“DueCare”の国際的な解釈によれば,「正当な理由」は,①期間徒過が生じる前に,状況に応じたしかるべき措置を講じていたこと,及び②同措置の下で,予見・回避し得なかった期間徒過が生じたことで足りると解される。 これに対し,特許庁が平成24年3月に策定・公表した「期間徒過後の手続に関する救済規定に係るガイドライン【四法共通】」(以下「本件ガイドライン」という。)は,後知恵による判断を許容・促進するもので,実質的に救済を許さない判断枠組みであるから妥当でない。 (2) 本件特許事務所が,期間徒過が生じる前に,状況に応じたしかるべき措置を講じていたこと本件特許事務所は,以下のとおり,コントロールし得る範囲内で合理的に採り得る種々の対策を採り,問題のない期間管理システムを運用するとともに,状況に応じたしかるべき措置を講じていた。 ア本件特許事務所は,本件各手続の当時,出願を扱う部門とこれをサポートする部門で構成されており,本件国際出願に係る手続は「外内部門」が,そのサポートは「ALP事務」部門(以下「ALP」という。)が,それぞれ担当していた。そして,本件特許事務所においては,ALPの中で電子メールの受信処理を担当する部署(受信班)に,電子メールの内容を的確かつ迅速に判断できる経験豊富なスタッフを配置するとともに,作業マニュアルを策定して,電子メールの受信処理が確実に行われるような態勢を整えていた。 このように,本件特許事務所は,特許出願を行う外内部門とその業務をサポートするALPを設けており,また,ALPの受信班のスタッフは,外内部門の責 受信処理が確実に行われるような態勢を整えていた。 このように,本件特許事務所は,特許出願を行う外内部門とその業務をサポートするALPを設けており,また,ALPの受信班のスタッフは,外内部門の責任者から適切に指導等を受けていた。 イ本件特許事務所においては,コンピュータシステムに関する専任の部署 が安定的に運用できる管理システムを構築しており,その結果,ALPで年間約3300件もの大量の出願を取り扱いながら,過去10年間,本件特許事務所に起因する期間徒過は1件も発生していなかった。 ウ本件各手続の当時,本件特許事務所では,特許の出願等に関する海外からの連絡やこれに対する応答のほとんどを電子メールで行っていたが,海外から送信される電子メールの数は,業務と無関係であるジャンクメールを除いても,1日当たり500~600件に達しており,また,その内容も,新規出願の依頼に関するもの,拒絶理由通知への対応に関するもの,費用の請求に関するもの等多様であった。そこで,ALPでは,受信処理のために熟練したスタッフを選任するとともに,作業マニュアルを策定し,大量の電子メールの受信処理が確実に行われるような態勢を敷いていた。 本件特許事務所における具体的な受信処理の過程は,以下のとおりである。 ① 受信班のスタッフから,受信第1担当者,受信第2担当者,印刷担当者及び仕分け担当者を選任する。これらの担当者は,午前と午後で交替する。 ② 受信第1担当者は,所定の時間帯ごとに,ALPの共有端末で受信した全ての電子メールを分類し,分類ごとに件数をカウントして,件数チェックリストの上段に記入する。 ③ 受信第2担当者は、所定の時間帯ごとに,受信第1担当者がカウントした電子メール数が正しいかどうかを分類ごとにチェックして,件数チェックリストの該 トして,件数チェックリストの上段に記入する。 ③ 受信第2担当者は、所定の時間帯ごとに,受信第1担当者がカウントした電子メール数が正しいかどうかを分類ごとにチェックして,件数チェックリストの該当時間の行の下段に記入し,上下段の件数が一致しているかどうかを確認する。 ④ 受信第1担当者は,受信第2担当者による件数の確認を受けた受信メールを,ALPの共有端末から内部ネットワーク上に移動する。 ⑤ 内部ネットワーク上には,個々の日付ごとに設けられたフォルダ(日 付フォルダ)があり,その直下には,「新件午前」,「新件午後」,「印刷済み」の各フォルダが必ず設けられる。また,必要に応じて,印刷担当者等が,自身の作業用フォルダ(個人名)を作成する。「新件午前」及び「新件午後」の各フォルダの直下には,必要に応じ,「印刷済」,「確認済」のフォルダが作られる。また,印刷担当者等の作業用フォルダの直下にも,必要に応じ,「印刷済」,「確認済」のフォルダが作られる。 エ本件特許事務所が,新規出願に関する電子メールを午後に受信した場合,そのALPの共有端末から内部ネットワーク上への移動は,次のとおり行われる。 ① 受信第1担当者は,受信メールを日付フォルダ直下の「新件午後」フォルダ直下に移動する。 ② 印刷担当者は,「新件午後」フォルダ直下に移動された受信メールを印刷した後,「新件午後」フォルダ直下の「印刷済み」フォルダに受信メールを移動する。 ③ 受信第1担当者は,受信メールのプリントアウトの件数及び内容が,受信メールの件数及び内容と合致するかをチェックする。合致を確認した後,受信メールを「新件午後」フォルダ直下の「確認済」フォルダに移動する。最後に,プリントアウトした受信メールを出願班のスタッフに渡す。 ④ 出願班のスタッフは,依頼 チェックする。合致を確認した後,受信メールを「新件午後」フォルダ直下の「確認済」フォルダに移動する。最後に,プリントアウトした受信メールを出願班のスタッフに渡す。 ④ 出願班のスタッフは,依頼内容を確認し,管理システムに必要データを入力する。 ⑤ 出願班のスタッフは,印刷漏れや件数確認ミスが生じていないかをチェックするため,「新件午後」フォルダに納められた全ての電子メールを確認する。 オ本件特許事務所は,受信処理について,作業ごとに担当者をきめ細かく配置するとともに,交替制を採用していた。出願に関連する依頼は,「新規 出願」とそれ以外とに大別されるところ,本件特許事務所においては,受信メールを,午前に受信した新規出願に係るもの,午後に受信した新規出願に係るもの,それ以外のものの3種類に分類して異なるフォルダに格納し,系統的に印刷処理及び複数のスタッフによる確認処理を行っていた。 これら3分類に対応する各フォルダ(「新件午前」,「新件午後」,「印刷済み」)は,Windows 上で大きく表示され,互いに識別しやすくされていた。 (3) 上記(2)の措置の下で,本件特許事務所が予見・回避し得なかった期間徒過が生じたこと本件特許事務所は,上記(2)のとおり,コントロールし得る範囲内で合理的に採り得る種々の対策を採り,問題のない期間管理システムを構築した。それにもかかわらず,次のとおり,偶発的な間違いが発生したのであるから,本件特許事務所がしかるべき措置を講じていたにもかかわらず,当該措置の下で予期・回避し得なかった期間徒過が発生したといえる。 ア平成25年4月2日午後2時ころからメールプロバイダ内部の機器の故障によるメールサーバーの障害が発生し,本件特許事務所において,約半日にわたって電子メールの送受信ができなくな 生したといえる。 ア平成25年4月2日午後2時ころからメールプロバイダ内部の機器の故障によるメールサーバーの障害が発生し,本件特許事務所において,約半日にわたって電子メールの送受信ができなくなった。本件特許事務所においてこのような通信障害は発生したことがなく,予測できなかったため,事前に他の班から受信班への応援を仰ぐような措置を講ずることはできず,翌日である同月3日の受信処理も通常の人的態勢で行わざるを得なかった。 イ原告から大韓民国特許庁に対する出願手続を受任したY.P.Lee,Mock&Partners(以下「本件韓国事務所」という。)は,平成25年4月3日午前11時39分,本件特許事務所に対し,本件国際出願に基づく我が国への国内移行を依頼する旨の電子メール(以下「本件メール」という。)を送信した。本件特許事務所のALPは,同日,本件メールを他の電子メールと共に受信し,同日午後1時31分,本件韓国事務所に本件メールを受領した旨を電子メールで通知した。 ウ本件特許事務所は,平成25年6月27日午後5時46分,本件韓国事務所から,本件国際出願に基づく国内移行日及び出願番号を問い合わせる電子メールを受信した。本件特許事務所は,同電子メールを受けて調査した結果,本件各手続を行わないまま国内書面提出期間を徒過してしまったこと(以下「本件期間徒過」という。)を認識し,同月28日午後3時59分,本件韓国代理人に対し,本件期間徒過を認識した旨を報告する電子メールを送信した。 エ本件特許事務所は,本件期間徒過を認識した後,本件特許事務所の内部ネットワーク上のフォルダを精査し,その結果,平成25年4月3日の日付フォルダ直下の「新件午後」フォルダの直下にある「確認済」フォルダ内に本件メールが存在せず,他方,同日の日付フォルダ直 務所の内部ネットワーク上のフォルダを精査し,その結果,平成25年4月3日の日付フォルダ直下の「新件午後」フォルダの直下にある「確認済」フォルダ内に本件メールが存在せず,他方,同日の日付フォルダ直下にある「印刷済み」フォルダ内に本件メールが存在することが判明した。 オ本件期間徒過の原因は,受信第1担当者が本件メールの受信作業を行った際,本件メールを,本来格納すべき日付フォルダ直下の「新件午後」フォルダではなく,同日の日付フォルダ直下にある「印刷済み」フォルダに格納してしまったためであると推測される。 当該受信第1担当者は,本件期間徒過以外には支障なく受信班の業務を遂行しており,能力的には何ら問題がなかったが,本件特許事務所のコントロールし得ないところで発生したメールサーバーの障害によって精神的負担が増して混乱をきたしていたことや当日の午前中における大量の事務作業による極度の緊張から解放された安ど感等によって,本件メールの移動処理を誤ったのである。このような状況下では,こうしたミスの発生を回避することはできなかったし,また,通信機器の不良が回線のどこで発生するかは予測し得ず,事前にあらゆる機器の状態を把握して不良の発生を防止することも事実上不可能であった。 (4) 以上によれば,原告が国内書面提出期間内に本件翻訳文提出手続を行う ことができなかったことについて正当な理由がある。 [被告の主張](1) 我が国は,特許法184条の4第4項の「正当の理由」について,個別の事案における様々な事情を配慮しつつ柔軟な救済を図ることができるよう,特許法条約12条の「DueCare」と同様の考え方を採用したものである。そして,特許庁は,「正当な理由」の内容や判断の指針及び手続を例示した本件ガイドラインを定め,本件ガイドラインに従 るよう,特許法条約12条の「DueCare」と同様の考え方を採用したものである。そして,特許庁は,「正当な理由」の内容や判断の指針及び手続を例示した本件ガイドラインを定め,本件ガイドラインに従って,出願人等が手続をするために講じた措置が,状況に応じて必要とされるしかるべき措置,すなわち,相応の措置であったといえるにもかかわらず,何らかの理由により期間徒過に至ったときには,「正当な理由」があるものと認められるとする統一的な処理を行っているのであって,このような本件ガイドラインの判断基準は,「正当な理由」の解釈として何ら不合理なものではない。 そして,明細書等翻訳文の提出期限(国内書面提出期間)は,出願人等の権利の得喪に関わる重要な事項であり,出願人等や当該国際特許出願の国内移行手続を受任した代理人は,明細書等翻訳文の提出期限を徒過しないよう細心の注意を払うことが要求されるのであるから,「正当な理由」があると認められるためには,出願人等や代理人において,かかる注意義務を負うことを前提に,期間徒過を回避するための相応の措置を講じていたと認められることが必要と解される。また,代理人が補助者を使用して業務を行う場合には,①補助者として業務の遂行に適任な者を選任し,②補助者に対し的確な指導及び指示をし,③補助者に対し十分な管理・監督を行った場合にのみ,期間徒過の原因となった事象の発生前に講じた措置が相応の措置であったと判断すべきである。 (2) 本件特許事務所においては,受信第1担当者が,受信メールをALPの共有端末から日付フォルダ直下の「新件午後」フォルダへ手動により移動させる場合,人為的ミスによって受信メールが誤って別フォルダに移動してし まう可能性がある。このことは,通常の注意力を有する者であれば予見可能であり,かつ,原 後」フォルダへ手動により移動させる場合,人為的ミスによって受信メールが誤って別フォルダに移動してし まう可能性がある。このことは,通常の注意力を有する者であれば予見可能であり,かつ,原告の主張を前提とすれば,本件特許事務所では,新規出願の場合,受信第1担当者が出願班のスタッフに電子メールのプリントアウトを渡すことにより初めてシステムに必要なデータが入力され,期間管理等が可能になるのであるから,本件特許事務所においては,こうした事態を回避するための対応策を構築すべきであった。 しかるに,本件特許事務所は,ALPの共有端末で所定の時間帯ごとに受信した全ての電子メールが,受信第1担当者によって日付フォルダ直下の「新件午後」フォルダへ全て移動されたか否かにつき,何ら確認する態勢を採っていない。 したがって,本件特許事務所において,人為的ミスによる事象の発生を回避する措置を講じていたと判断することはできず,相応の措置が講じられていたということはできない。 (3) これに対し,原告は,自らコントロールし得ない範囲で発生したメールサーバーの障害に起因して,担当者が混乱状態に陥り,電子メールの受信処理を誤った結果,本件期間徒過に至った旨主張するが,メールサーバーの障害に係る事情は,本件訴訟に至って初めて主張された事情であり,本件回復理由書及び本件弁明書においては一切主張されていなかったのであるから,本件訴訟における判断の基礎とすることは許されない。 また,本件メールは,原告が主張するメールサーバーの障害が解消した後の平成25年4月3日に,本件韓国事務所が本件特許事務所に送信したものであり,本件特許事務所は,同日,ALPの共有端末で本件メールを受領し,本件韓国事務所に対して本件メールを受信した旨の電子メールを返信している。このように 件韓国事務所が本件特許事務所に送信したものであり,本件特許事務所は,同日,ALPの共有端末で本件メールを受領し,本件韓国事務所に対して本件メールを受信した旨の電子メールを返信している。このように,本件特許事務所は,本件メールを正常に受信しているのであって,本件期間徒過が上記メールサーバーの障害に起因するものであるとはいえない。 さらに,メールサーバーの障害により,未受信の電子メールが再送されてくることによって現場の混乱が生じる可能性があるというのであれば,本件特許事務所の管理者をして,電子メールの受信処理につき補助者に対して特別に注意喚起をし,業務管理態勢に配慮する指示等を行ってしかるべきところ,この点について,原告からは何ら主張立証がされておらず,本件特許事務所において相応の措置を講じていたということはできない。 (4) したがって,本件特許事務所が期間徒過を回避するために相応の措置を講じていたとはいえず,本件期間徒過につき「正当な理由」があったとは認められないから,特許庁長官が本件各却下処分をしたことに何ら違法性はない。 第3 当裁判所の判断 1 本件特許事務所における業務管理態勢及び受信メールの処理手順の定め証拠(甲14)及び弁論の全趣旨によれば,本件特許事務所における業務管理態勢及び受信メールの処理手順は,次のとおりであると認められる。 (1) 本件特許事務所における業務管理態勢ア本件特許事務所には,約650人のスタッフが在籍し,出願自体を扱う部門(外内部門等)と,これらの部門をサポートする部門(事務管理部門等)が存在する。外国から日本への出願に関連した業務を扱うのは外内部門であり,その業務のサポートは事務管理部門の中のALPが行い,ALPは,出願班と中間班のほか,電子メールの受信処理を担当する受信 等)が存在する。外国から日本への出願に関連した業務を扱うのは外内部門であり,その業務のサポートは事務管理部門の中のALPが行い,ALPは,出願班と中間班のほか,電子メールの受信処理を担当する受信班から構成されていた。 イ本件特許事務所においては,外国から日本への出願等に関する連絡を含む電子メールをALPの共有端末で受信し,受信班において,電子メールの内容に応じて選別し,適切な担当部署に電子メールを配信するという処理(受信処理)を行っていた。 (2) 受信処理の手順の定め 本件特許事務所においては,受信班のスタッフの中から受信第1担当者,受信第2担当者,印刷担当者,仕分け担当者をそれぞれ選任し,これらの担当者を,午前と午後で交替させていた。 本件特許事務所において,新規出願に関する電子メールを午後に受信した場合,当該受信メールについての受信班及び出願班の具体的な処理手順は次のとおりと定められている。 ア受信第1担当者は,受信メールを分類し,当該分類ごとに受信メールの件数をカウントする。その後,受信第2担当者は,受信第1担当者がカウントした受信メールの件数が正しいことを確認する。 イ受信第1担当者は,受信第2担当者による件数確認が済んだ受信メールを,ALPの共有端末から,本件特許事務所内のネットワーク上の日付フォルダ直下にある「新件午後」フォルダ直下に移動させる。 なお,受信第1担当者が,ALPの共有端末から本件特許事務所内のネットワーク上の日付フォルダ直下の「新件午後」フォルダ直下に全ての受信メールを移動したことについて,本件特許事務所は何らこれを確認する態勢を採っていなかった(争いがない。)。 ウ印刷担当者は,「新件午後」フォルダ直下にある受信メールを印刷した後,同受信メールを「新件午後」フォルダ直下 ついて,本件特許事務所は何らこれを確認する態勢を採っていなかった(争いがない。)。 ウ印刷担当者は,「新件午後」フォルダ直下にある受信メールを印刷した後,同受信メールを「新件午後」フォルダ直下の「印刷済み」フォルダへ移動させ,印刷物を受信第1担当者に手渡す。 エ受信第1担当者は,受信メールの印刷物の件数及び内容が,受信メールの件数及び内容と合致することを確認し,確認後に,当該受信メールを「新件午後」フォルダ直下の「確認済」フォルダへ移動させるとともに,当該受信メールの印刷物を出願班に手渡す。 オ出願班は,「新件午後」フォルダ直下の「確認済」フォルダ内の受信メールと受信メールの印刷物を照合して受信メールの件数と内容を確認し,受信メールの依頼内容をALP特許管理システム(本件特許事務所内部で 出願期間等を管理するためのコンピュータシステム)に入力する。その際,出願班は,印刷漏れ又は件数の確認ミスが生じていないかを確認するために,「新件午後」フォルダに格納された全ての受信メール(「新件午後」フォルダ直下の「確認済」フォルダ内のみならず,「新件午後」フォルダ内に格納された全ての電子メール)を再度確認する。 2 特許法184条の4第4項所定の「正当な理由」の有無について上記1の業務管理態勢及び受信メールの処理手順の定めを前提に,原告が本件国内書面提出期間内に翻訳文提出手続を行わなかったことにつき「正当な理由」があるか検討する。 (1) 原告は,本件期間徒過の直接の原因につき,本件特許事務所において受信班の受信第1担当者が,本件メールを,日付フォルダ直下の「新件午後」フォルダへ移動すべきところ,誤って日付フォルダ直下の「印刷済み」フォルダに移動したためであるとしつつ,同ミスを回避することはできなかった旨主張し,本件特許 メールを,日付フォルダ直下の「新件午後」フォルダへ移動すべきところ,誤って日付フォルダ直下の「印刷済み」フォルダに移動したためであるとしつつ,同ミスを回避することはできなかった旨主張し,本件特許事務所の従業員が作成した陳述書にも同様の記載がある。 そこで検討するに,上記1(2)で認定した受信処理の手順の定めによれば,ALPの共有端末から本件特許事務所内のネットワーク上への受信メールの移動は,受信班のスタッフが手作業で行うのであるから,移動先のフォルダを誤るミスが生じ得ることは容易に予想される。それにもかかわらず,本件特許事務所においては,受信第1担当者が,ALPの共有端末から本件特許事務所内のネットワーク上の日付フォルダ直下の「新件午後」フォルダ直下に全ての受信メールを移動したことについて,何らこれを確認する態勢を採っていなかったのであって(上記1(2)イ),その結果,本件期間徒過に至ったものである。 また,上記1(2)の手順の定めによれば,まず,受信第1担当者が受信メールの件数をカウントし,受信第2担当者においてそれが正しいことを確認した上で(上記1(2)ア),その後,印刷担当者が「新件午後」フォルダ直下に ある受信メールを印刷し,これを「新件午後」フォルダ直下の「印刷済み」フォルダに移動した後,受信第1担当者が受信メールの印刷物の件数及び内容と受信メールの件数及び内容とを確認する作業を行うのであるから(上記1(2)ウ,エ),受信第1担当者が定められた手順どおりに受信メールの印刷物の件数と受信メールの件数とを対照していれば,本件メールが印刷されておらず,その受信処理においてミスがあったことは容易に判明したはずである。このように,本件期間徒過の原因についての原告の主張を前提とすると,本件特許事務所は,受信第1担当者によ 件メールが印刷されておらず,その受信処理においてミスがあったことは容易に判明したはずである。このように,本件期間徒過の原因についての原告の主張を前提とすると,本件特許事務所は,受信第1担当者による受信メールの移動ミスに気付くことができたはずの機会があったにもかかわらず,これを看過したこととなるのであって,本件特許事務所において上記1(2)の手順の定めが遵守されていたのかについても疑問がある。 以上によれば,本件期間徒過について「正当な理由」があったとはいえない。 (2) これに対し,原告は,①本件特許事務所が,人員配置や作業マニュアルの策定を含め受信メールの処理が確実に行われるような業務管理態勢を敷いていた,②メールサーバーの障害により受信第1担当者の精神的負担が増しており,受信処理のミスの発生を回避できなかったなどと主張する。 しかしながら,上記①について,上記(1)で説示したところによれば,本件特許事務所の業務管理態勢が適切であったとは認められない。 また,上記②については,本件メールの送受信はいずれもメールサーバーの障害が回復した後に行われているのであって,メールサーバーの障害と本件期間徒過との間の因果関係を認めるに足る証拠はない(かえって,本件回復理由書及び本件弁明書にはメールサーバーの障害についての記載が一切ないことに鑑みると,かかる主張は,本件期間徒過を正当化するための後付けの主張にすぎないとも考えられる。)。なお,仮にメールサーバーの障害と本件期間徒過との間に何らかの関係があったとしても,上記(1)で説示したとお り,本件特許事務所において,第1受信担当者が受信メールをALPの共有端末から「新件午後」フォルダに移動させる段階でこれを再確認する態勢を講じ,あるいは,定められたとおりの作業手順で確認を行って り,本件特許事務所において,第1受信担当者が受信メールをALPの共有端末から「新件午後」フォルダに移動させる段階でこれを再確認する態勢を講じ,あるいは,定められたとおりの作業手順で確認を行っていれば,本件期間徒過は回避できたはずであるから,やはり本件期間徒過につき「正当な理由」があるとは認めることができない。 したがって,原告の主張は,いずれも採用することができない。 なお,原告は,「正当な理由」について,①期間徒過が生じる前に状況に応じたしかるべき措置を講じていたこと,②同措置の下で,予見・回避し得なかった期間徒過が生じたことと解釈すべきであると主張するが,以上の説示に照らせば,「しかるべき措置を講じていた」とも「予見・回避し得なかった期間徒過が生じた」ともいえないことは明らかである。 (3) したがって,国内書面提出期間内に本件翻訳文提出手続を行うことができなかったことについて「正当な理由」(特許法184条の4第4項)があったとは認められず,その結果,本件国内書面提出に係る手続については出願の取下擬制(特許法184条の4第3項)により客体が存在しないこととなるから,本件各却下処分はいずれも適法である。 3 結論以上によれば,原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官沖中康人 裁判官矢口俊哉 裁判官廣瀬達人
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