平成15(う)266 商法違反被告事件

裁判年月日・裁判所
平成18年8月31日 札幌高等裁判所 破棄自判 札幌地方裁判所 平成11(わ)139
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判決文本文212,833 文字)

- 1 -主文原判決を破棄する。 被告人甲及び被告人乙をそれぞれ懲役2年6月に,被告人丙を懲役1年6月に処する。 被告人らに対し,原審における未決勾留日数中各100日を,それぞれその刑に算入する。 原審における訴訟費用は被告人3名の連帯負担とする。 理由 本件各控訴の趣意は,検察官中村明作成の控訴趣意書に,これに対する答弁は,被告人甲の主任弁護人和田丈夫及び弁護人野口幹夫連名作成の答弁書,被告人乙の主任弁護人祖母井里重子及び弁護人日浦力連名作成の答弁書並びに被告人丙の弁護人髙橋智作成の答弁書に,それぞれ記載されているとおりであるから,これらを引用する。 (以下,株式会社北海道拓殖銀行を「拓銀」,B株式会社を「B㈱」,株式会社Cを「㈱C」,株式会社Dを「㈱D」,B㈱以下3社を「Bグループ3社」,これと関連会社をまとめて「Bグループ」,別紙「貸付金一覧表」1ないし5の各融資をまとめて「本件融資」,個別には「本件融資1番号1」などという。また,例えば,原審第5回公判調書中の証人aの供述部分を「a・原審5回」「aの原審公判供述」などというほか,適宜,本文中に記載した略語を用いる。)第1訴訟手続の法令違反の控訴趣意について論旨は,要するに,原判決は,検察官が,刑事訴訟法321条1項2号後段該当書面として証拠調べを請求したbの検察官- 2 -調書11通につき,利益誘導により得られた供述であるとの疑いを払拭することができず,いわゆる特信性を有しないとしてその証拠能力を否定したが,これは,取調べ検察官であるc検事及び主任検察官であるd検事の各言動等について,その認定・評価を誤った結果,利益誘導の有無に関する判断を誤り,本来証拠能力が認められる上記各検察官調書に証拠能力を認めなかったものであるから,原判決には,判決に影響を及ぼすこ の各言動等について,その認定・評価を誤った結果,利益誘導の有無に関する判断を誤り,本来証拠能力が認められる上記各検察官調書に証拠能力を認めなかったものであるから,原判決には,判決に影響を及ぼすことの明らかな訴訟手続の法令違反がある,というのである。 そこで,検討するに,原審で取り調べられた関係証拠によれば,bの捜査段階の供述は,検察官の利益誘導により得られた疑いが残り,その各検察官調書の特信性を否定した原判決の判断は,第4「証拠能力に対する判断」の5「bの検察官調書」の項で説示するところも含めて正当である。bの上記各検察官調書の証拠能力を否定した原判決の判断に誤りはない。 すなわち,c検事及びd検事とbの弁護人のe弁護士は,平成11年3月5日,札幌地方検察庁において面談した。その際のd検事の発言について,原審公判廷において,c検事は,「『それぞれの立場に応じた責任がありますので,それに従って適正な処分をしたいと。そのためにも,是非,先生のほうでも,bさんには本当のことをしゃべるように伝えてください』というようなことを言った。」,bの弁護人を兼ねていたl弁護士は,「『bが甲と乙の認識に関する調書に署名するなら処分については十二分に考慮する考えでいる』と言ったとe弁護士から聞いた。」と各供述し,両者に食い違いがみられる。しかし,その内容がl弁護士の言うとおりであればもとより,c検事が言うようなものであったとしても,両検事は,bが,被告人甲- 3 -及び同乙よりも拓銀内での地位が低く,責任も軽いことを自覚し,自己の処分や身柄拘束を案じていたことを認識していたから,「それぞれの立場に応じた責任がありますので,それに従って適正な処分をしたい」「そのためにも,是非,bさんには本当のことをしゃべるように伝えてください」などと言えば,そ たことを認識していたから,「それぞれの立場に応じた責任がありますので,それに従って適正な処分をしたい」「そのためにも,是非,bさんには本当のことをしゃべるように伝えてください」などと言えば,それ自体は当然の事理を述べたものであるとしても,それを伝え聞いたbが,被告人甲や同乙よりも地位の低い自分が検察官の望む供述をすれば,釈放や不起訴等自己に有利な処分をしてもらえると期待することはあり得ることである。現に,bは,原審公判廷において,翌6日,e弁護士から検察官との面談結果を伝えられ,自分の対応いかんによっては釈放の余地があると受け止めたことを認めているが,これは,同日,そのときのbの様子を伝えるe弁護士作成のファックスがl弁護士らに送信されたこと,その後まもなく,bがc検事の取調べにおいて,釈放の可能性についてストレートに質問していることとも符合し,裏付けられている。さらに,bの上記質問に対し,c検事は,原審公判廷において,「現在の捜査状況は,e先生と私どもが面会した状況で進んでいるから,その点では安心してくださいというか,私にもと言ったのか検察庁にもと言ったのかははっきりしないが,そういう意味での良心はありますからという趣旨のことを答えた。」旨認め,良心という言葉を使った趣旨については,「検察庁にほんとのことをしゃべってくれたら,こっちもうそはつかないという趣旨である,3月5日の話があるが,その方針,すなわち,立場,立場に基づいた責任というようなところで処理するという趣旨である。」と供述している。 このように,検察官が,「3月5日にe弁護士に話した内容,- 4 -すなわち,立場に応じた責任という方針どおり進んでいるから安心してよい」などという話を,「良心がある」という言葉まで出して説明すれば,釈放を切望し,被告人甲及び同乙 弁護士に話した内容,- 4 -すなわち,立場に応じた責任という方針どおり進んでいるから安心してよい」などという話を,「良心がある」という言葉まで出して説明すれば,釈放を切望し,被告人甲及び同乙より責任が軽いはずのbが,その供述如何によっては釈放されるなどと期待するのは当然であり,c検事もそれを察することができたはずである。そして,c検事のこのような話を聞いて,bが被告人甲及び同乙の自己図利目的を認める供述をしたことは原判決が説示するとおりである。確かに,所論がいうように,bはBグループに対する融資に関し,損害賠償請求訴訟の被告の立場にあること,かつての上司であった被告人甲及び同乙との関係等に照らすと特信性を認めうる外形的な事情が存在する。 そして,bの原審公判供述にも変遷ややや不自然な部分もないではない。しかし,上記のとおり,bの検察官に対する供述が,被疑者にとっての最大の関心事である釈放などという処分に絡めて得られた疑いが残る以上,そのような状況下で得られた供述が公判廷における供述よりも信用すべき特別の情況が存するとは到底いえない。bの上記各検察官調書は,特信性を有せず,証拠能力は否定されるとした原判決の結論は正当であり,原審の訴訟手続に判決に影響を及ぼすことの明らかな訴訟手続の法令違反があるとは認められない。論旨は理由がない。 第2事実誤認の控訴趣意について論旨は,要するに,原判決は,被告人甲及び同乙によるBグループに対する融資が,それぞれ銀行頭取の任務に違背するものであることを一応認めつつ,両被告人は,いずれも拓銀の利益を図って融資したものであるから,自己又は第三者図利目的があったと認めるには合理的な疑いが残り,特別背任罪は成立- 5 -しない,被告人丙は,特別背任罪の身分なき共犯として関わったものであるから, 図って融資したものであるから,自己又は第三者図利目的があったと認めるには合理的な疑いが残り,特別背任罪は成立- 5 -しない,被告人丙は,特別背任罪の身分なき共犯として関わったものであるから,被告人甲及び同乙に特別背任罪が成立しない以上,被告人丙についても犯罪は成立しないとして,被告人3名を無罪とした。しかし,被告人甲及び同乙が,自己又は第三者図利目的を有していたこと,拓銀本人の利益を図る目的を有していなかったことは優に認められ,両被告人に特別背任罪が成立することは明白であり,また,被告人丙は,被告人甲及び同乙の任務違背,自己又は第三者図利目的を十分に認識し,かつ,両被告人が融資に応じざるを得ない状況につけ込み,脅迫的言動まで行って融資を実現させたのだから,被告人丙に特別背任罪の共謀共同正犯が成立することも明白であって,被告人3名を無罪とした原判決は,判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認がある,というのである。 これに対し,被告人甲の弁護人は,答弁書において,自己又は第三者図利目的の存在を争う旨(任務違背は争わない旨記載されているが,被告人甲は,原審の被告人質問及び最終陳述並びに当審の被告人質問において,任務違背がなかった旨述べている。),被告人乙及び同丙の各弁護人は,各答弁書において,任務違背及び自己又は第三者図利目的の存在を争う旨,加えて,被告人丙の弁護人は,共謀の存在を争う旨,各主張している。 当裁判所は,原審記録を調査し,当審における事実取調べの結果を併せて検討した結果,任務違背,自己及び第三者図利目的,共謀のいずれもが存在したと認め,被告人3名に特別背任罪の共謀共同正犯が成立すると認定した。 そこで,以下,関係証拠に基づき,その理由を説明する。 本件の主要な争点- 6 -被告人甲及び同乙が拓銀の頭取とし が存在したと認め,被告人3名に特別背任罪の共謀共同正犯が成立すると認定した。 そこで,以下,関係証拠に基づき,その理由を説明する。 本件の主要な争点- 6 -被告人甲及び同乙が拓銀の頭取として融資を決定する地位にあったこと,被告人丙がBグループ各社の実質的な経営者であったことなど被告人3名の地位及び権限,被告人甲の決定により平成6年4月8日から同年6月30日までの間,前後10回にわたり,B㈱及び㈱Dに対し,本件融資1及び2(貸付金合計8億4000万円)が実行されたこと,被告人乙の決定により平成6年7月8日から平成9年10月13日までの間,前後88回にわたり,B㈱,㈱C及び㈱Dに対し,本件融資3ないし5(貸付金合計77億3150万円)が実行されたこと,貸付金はいずれも回収できず,拓銀に合計85億7150万円の損害が発生したことなど,客観的事実については,原判決が,第3「概ね争いのない事実」において説示するとおりであり,当事者間に争いがない。 そうすると本件における主要な争点は,本件融資について,①被告人甲及び同乙に拓銀頭取としての任務違背が認められるか,②両被告人が,自己又は第三者図利目的を有したか,③両被告人と被告人丙との間に特別背任についての共謀が認められるか,である。 本件の経緯及び関連事項(1)はじめに拓銀の沿革,組織,内部規程,融資手続等及びBグループ各社の沿革,事業内容等は,当事者間に争いがない。これに対して,任務違背,自己又は第三者図利目的に関し,検察官は,㈱Dが経営するEホテルの建設資金等総額約266億円は,回収可能性がないのに貸し付けたいわゆるずさん融資であり,被告人甲及び同乙らが,実質破たん状態のBグループに融資を継続- 7 -した理由の一つに,この発覚による経営責任の追及を回避する目的が ,回収可能性がないのに貸し付けたいわゆるずさん融資であり,被告人甲及び同乙らが,実質破たん状態のBグループに融資を継続- 7 -した理由の一つに,この発覚による経営責任の追及を回避する目的があったと主張する。これに対し,被告人3名の各弁護人らは各答弁書においてこれを争い,原判決も否定している。ところで,後記のとおり,拓銀は,Eホテル建設資金等の貸付金の返済については,将来行われる茨戸地区総合開発(以下「茨戸開発」という。)の事業により得られる開発利益を返済原資に織り込んだ収支計画を立てていたから,Eホテル建設資金の融資がずさん融資であったか否かを判断するには,茨戸開発事業の実現可能性やその採算性を検討する必要があり,そのためには,茨戸開発事業の開発新会社に株式会社G(以下,関連会社を含めて「G」又は「Gグループ」という。)が参加するか否か,国土利用計画法(以下「国土法」という。)や農地法等の法律違反に絡む問題,他行との協調融資を巡る問題等を吟味する必要がある。そこで,まず,任務違背,自己又は第三者図利目的の存否を認定するのに関係すると思われる部分を中心に,時系列により本件の経緯及び関連する事項を検討する。 関係証拠(とりわけ,拓銀の各種会議資料,決裁資料,議事録,面談録等の内部資料,他の金融機関が作成した内部資料,大蔵省等公的機関が作成した文書は,いずれもその性格上,信用性が高いと認められる。)によれば,以下の事実を認めることができ,当事者間にもほぼ争いがない。 (2)Bグループと拓銀の平成2年4月ころまでの関係アBグループについて被告人丙は,昭和46年7月に「株式会社H」を設立したが,同社は,昭和54年10月に「株式会社I」(以下「㈱I」という。),平成3年6月に「B株式会社」へと商号変更された。 - 8 -いず ついて被告人丙は,昭和46年7月に「株式会社H」を設立したが,同社は,昭和54年10月に「株式会社I」(以下「㈱I」という。),平成3年6月に「B株式会社」へと商号変更された。 - 8 -いずれも被告人丙が代表取締役社長として経営に当たり,事業の内容は,理美容,サウナ,ブライダル等のいわゆる本業部門のほか,不動産賃貸並びに理美容学校,ホテル及びレジャー施設の経営等に及んでいた(以下,商号変更前後を通じて「B」ということがある。)。被告人丙が,拓銀から本格的に融資を受けるようになったのは,昭和58年ころ,札幌市S1区(以下省略)にJと称するサウナを中心とする店舗の入ったビルを建設するころからであり,被告人丙は,拓銀の当時の常務取締役業務本部長f(後の副頭取)や常務取締役業務本部法人部部長gに目を掛けられて拓銀との関係を強めていった。また,サウナに強い関心があった被告人丙は,札幌市郊外にドイツの温泉保養施設をモデルとした郊外型健康増進施設を建設したいとの強い夢を描くようになり,fらに相談したところ,g自らドイツを視察するなどした結果,拓銀の全面的な協力を得られることとなった。そこで,被告人丙は,昭和61年3月に㈱Iをして,札幌市T1区U町の土地を購入するとともに,同年11月には上記健康増進施設を経営するため,㈱Cを設立した。さらに,被告人丙は,昭和62年6月,拓銀が主力行として行った北海道東北開発公庫(以下「北東公庫」という。),株式会社日本長期信用銀行(以下「長銀」という。)及びM保険相互会社とのいわゆる協調融資により建設資金を調達し,㈱Cをして,㈱Iから札幌市T1区U町の敷地の一部を賃借し,そこにプール等を備えた総合健康レジャー施設「N」を建設させた上,昭和63年4月にこれを開業させた。 ところで,被告人丙は,Nの周辺地 し,㈱Cをして,㈱Iから札幌市T1区U町の敷地の一部を賃借し,そこにプール等を備えた総合健康レジャー施設「N」を建設させた上,昭和63年4月にこれを開業させた。 ところで,被告人丙は,Nの周辺地域を併せて開発して総合レジャー施設にしたいとの計画をもっていたが,その中にN利- 9 -用客宿泊用のホテルを建設したいとの考えがあった。そして,被告人丙は,Nの収益が当初の見込みほど上がらなかったこともあり,ホテルの建設及びNの東側に位置する一帯の土地(以下「後背地」又は「N後背地」という。)の開発により,これらとNの相乗効果による収益増を期待して,平成2年2月ころから本格的に用地買収に着手し始めたが,後背地は,農地であったことから,土地買収に関する農地法による制限を回避する必要が生じ,hらと図り,同年3月,同人をして農地買収のためのいわゆるダミー法人である農事組合法人O水郷観光牧場(以下「O観光」という。)を設立させ,同年4月ころから茨戸開発用地約24万坪の買収に向け,対象地内の農家(地権者)と土地売買契約書を取り交わして農地の買収に乗り出した。さらに,被告人丙は,平成2年4月ころ,gらの口利きにより,華僑資本を背景として積極的に海外で事業を展開していたGグループの代表であるi(以下「i代表」という。)と面識を持ち,茨戸開発への参加を打診したところ,Gが後背地に大規模なショッピングセンターを建設し,茨戸開発に積極的に参加する意向を示したことから,同被告人は,当時飛ぶ鳥を落とす勢いであったGの参加により,後背地に総合レジャー施設を造るという夢の実現がより早くより確実になるとの思いを強くするとともに,Gを茨戸開発の中核にすえ,茨戸開発用地のうち約3万坪をショッピングセンター建設用地としてGに提供することを決めるなど,開発事業は急速 う夢の実現がより早くより確実になるとの思いを強くするとともに,Gを茨戸開発の中核にすえ,茨戸開発用地のうち約3万坪をショッピングセンター建設用地としてGに提供することを決めるなど,開発事業は急速に現実味を帯びるようになった。そして,ホテルについても,当初のN利用客の宿泊施設という程度から国際会議が開ける国際的規模の大型ホテルへと計画が変わり,最終的には,地上11階・地下1階,客室数30- 10 -4,2000人収容可能なコンベンションホールや結婚式場も備えた国際的な都市型高級リゾートホテルであるEホテルの建設へと大幅な変貌を遂げた。 イ拓銀について拓銀は,他行との競争力を付けることなどを目的として,昭和59年7月に組織を改編して営業と審査を一本化させた業務本部制を採用し,公務本部,国際本部,資金証券本部,調査情報本部,業務本部(札幌)及び東京業務本部を置き,業務本部を第1支店部,第2支店部,法人部,業務統括部の4部構成としたが,他行に習って営業部門の強化,迅速な融資の実現を図ったため,授信(与信)リスク管理の面からの審査機能が従来に比し弱体化したきらいはあったものの,業務本部法人部が道内融資先の拡大という当時の方針に則って,道内中堅・中小企業を中心に貸出額を大幅に増加させるなど,バブル経済の影響もあって成果を上げていった。そして,㈱Iは,当初,所管店が札幌南支店,所管部が第1支店部であったが,昭和60年ころからは業務本部法人部が,事実上,融資審査を行うようになり,上記のようにfやgの支援もあって拓銀との取引数を増やしていき,昭和62年ころには正式に法人部が所管部となった(この当時,頭取はjであり,被告人甲は副頭取,被告人乙は取締役東京業務本部副本部長であった。)。 ところで,拓銀は,業務本部制を採用したことに伴い,昭和 和62年ころには正式に法人部が所管部となった(この当時,頭取はjであり,被告人甲は副頭取,被告人乙は取締役東京業務本部副本部長であった。)。 ところで,拓銀は,業務本部制を採用したことに伴い,昭和59年8月14日,「投融資会議」を新設した。すなわち,これは,同日,「投融資会議について」と題する通牒により即日実施されたが,一般取引先で諸貸出共通限度額(総授信残高)が30億円を超える場合や準特定取引先(金利減免,棚上げな- 11 -ど信用リスクが顕在化した取引先)で諸貸出共通限度額(総授信残高)が15億円を超える場合等には,頭取,副頭取及び当該取引先を所管する部署の担当本部長(平成2年10月に業務本部制を廃止した後は担当取締役)をもって構成する会議(これを「投融資会議」という。)を経て頭取が決定するというものである。しかし,実際には一定の場所に集まって実質的な合議をするということはほとんどなく,その実態は当該融資先に対する諸貸出申請書による持ち回り決議であった。 被告人甲は,平成元年4月1日に拓銀の頭取に就任し,被告人乙は,常務取締役業務本部長となって,Bグループを所管していた法人部を掌理することになった。また,fは副頭取,gは常務取締役本店営業部本店長にそれぞれ就任した。 被告人甲は,頭取就任後の平成元年8月,「たくぎん21世紀プロジェクト」を発足させ,外部コンサルタント会社に拓銀の長期的な事業ビジョンの検討を依頼するなどして都銀最下位からの脱却を模索するとともに,後のインキュベーター路線といわれる新興企業育成に対し,積極的な融資の拡大を図った。 ㈱Iは,この中に含まれていたばかりか,平成2年4月ころ,gがi代表に「丙さんは拓銀の優等生と言われています。ぜひ,丙さんに協力して茨戸に進出してください。資金的には用意させてもらいま を図った。 ㈱Iは,この中に含まれていたばかりか,平成2年4月ころ,gがi代表に「丙さんは拓銀の優等生と言われています。ぜひ,丙さんに協力して茨戸に進出してください。資金的には用意させてもらいます。」と述べたことからも明らかなように,g及びfらの積極的な支援を受けていた。 このような状況の下,平成2年4月27日には,拓銀系列のノンバンクであった株式会社たくぎんファイナンスサービス(以下「たくぎんファイナンス」という。)が拓銀の指示により茨戸開発のための農地買収資金を㈱Iに貸し出し始め(この当- 12 -時の拓銀の融資担当部署は本店営業部<gが同部本店長>,審査担当部署は法人部<被告人乙が上位組織である業務本部長>),以後,拓銀内部のBを所管する部署からの指示により農地買収資金のBへの貸出しが継続された。茨戸開発のための農地買収資金融資に関するたくぎんファイナンスの貸出稟議書には,「拓銀積極支援先であること(本件については,拓銀g本店長より支援方強い要請があったものである)」「本件は,拓銀総合開発第一部k部長の斡旋,依頼によるもの」「担保は農地のため農転許可まで所有権移転できず実質無担保扱いとなり,保全面に問題があるが,拓銀の全面的支援先で同行の支援要請によるものなので採り上げたい」「拓銀本部では本件不備について十分認識しており,その上での強い採り上げ要請なので,拓銀の指示に従い採り上げたい(本件k部長了解済案件)」「本件拓銀総合開発第一部の斡旋,依頼によるもの。N後背地開発プロジェクトの継続案件で今回は拓銀のバックファイナンス付き」などと記載されており,いずれもたくぎんファイナンスが不安を抱えつつも拓銀の強い指示により融資を決定していたことを示している。 ウ総量規制の実施平成2年3月に大蔵省の通達により,いわゆる総量規 」などと記載されており,いずれもたくぎんファイナンスが不安を抱えつつも拓銀の強い指示により融資を決定していたことを示している。 ウ総量規制の実施平成2年3月に大蔵省の通達により,いわゆる総量規制が実施された。これは,金融機関に対し,不動産業界向けの融資残高を貸出残高全体の伸び率以下に抑えることを義務づけたものであり,これまでの無制限であった土地担保融資の拡大を直接抑え,バブルの影響による地価高騰に歯止めをかけることを目的としたものであった。総量規制の実施により,東京に比して時間的なずれはあるものの札幌でも地価の下落が始まった。 - 13 -(3)㈱IとGの24億円の土地売買㈱Iは,平成2年5月17日,G(契約書上の名義はG開発株式会社)との間で,Gのショッピングセンター建設用地としてN後背地のうち約3万坪を合計24億円で売却する旨の土地売買予定契約書を取り交わし,Gは,同日,その証拠金として1億2000万円を㈱Iに支払ったが,この契約は,同社が地権者から買収した農地を対象とするものであったから,国土法による行政への届出や開発許認可を得ることを条件とするものであり,現に,契約書には対象土地の地目が農地であると明記され,かつ,「本件売買予定契約の対称となる土地が,市街化調整区域であり,国土法による届出を札幌市に行って認可を受けた後でなければ,売買契約を締結できないことを認識し,かかる行政上の制約が排除された時点で,売買契約を締結するものとする。」と記載されていた。なお,gは,土地売買予定契約の締結に立会人として同席した上,契約書にも「立会人株式会社北海道拓殖銀行常務取締役g」と記名捺印した。 (4)茨戸開発用地取得の契約内容の変更等被告人丙は,平成2年6月前後ころ,hに対し,農地法5条の許可や農業振興地域の整備に関する も「立会人株式会社北海道拓殖銀行常務取締役g」と記名捺印した。 (4)茨戸開発用地取得の契約内容の変更等被告人丙は,平成2年6月前後ころ,hに対し,農地法5条の許可や農業振興地域の整備に関する法律(以下「農振法」という。)による農業振興地域の指定解除を停止条件とする停止条件付仮契約書で農地を買収するよう指示し,同人は,既に土地売買契約書を締結していた農家には最初の契約年月日までさかのぼって契約をし直してもらうなどしていたが,このころ,被告人丙は,札幌市農業委員会から茨戸開発用地の取得は農地法違反に当たるからやめるようにとの指導,更に平成2年6月14日ころに農事組合法人を監督する北海道庁の出先機関であ- 14 -る石狩支庁からO観光の法人登記を抹消し,解散するようにとの指示を受けたため,早急にできるだけ多くの茨戸開発用地を取得しようと考え,当時のU農業協同組合(平成10年に合併し札幌市農業協同組合となった。以下,合併前を「U農協」という。)の関係者と相談するなどして契約書を金銭消費貸借契約に基づく抵当権設定契約証書に改め,hに対し,農地買収を急ぐよう指示した。O観光は,平成2年6月30日に解散し,同年7月2日に解散登記をしたが,その後も被告人丙は,B名義で農地買収を続け,従前の金銭消費貸借契約に基づく抵当権設定契約証書では明らかに農地の売買であることが分かるので,U農協から抵当権設定金銭消費貸借契約証書(実質売買代金を貸借する金額とし,弁済期限を農地法5条の許可が得られ,所有権移転登記が可能となる時期,利息は無利息,債権者であるBは抵当不動産に対し先買権を有するとする内容)及び念証(弁済期が到来しても債権者であるBは当該物件及び債務者所有財産全てについて差押え,競売等せず,先買権の行使で処理することを合意するという内容 Bは抵当不動産に対し先買権を有するとする内容)及び念証(弁済期が到来しても債権者であるBは当該物件及び債務者所有財産全てについて差押え,競売等せず,先買権の行使で処理することを合意するという内容)のひな型をもらい,hらに従前の契約証書との差替え及び同証書による新規買収を行わせた。 そして,hは,このころまでに茨戸開発用地約24万坪のうち約8割の買収を終えた。 (5)拓銀の組織改編等被告人甲が発足させた「たくぎん21世紀プロジェクト」の成果として,平成2年9月ころ,「たくぎん21世紀ビジョン」が打ち出され,これに基づき,本部組織の改編と経営会議が新設された。 ア平成2年10月の拓銀の組織改編- 15 -拓銀は,平成2年10月,従来の業務本部制を廃止し,これまで業務本部の中に置かれていた審査部門を独立させ,札幌に「審査第一部」,東京に「審査第二部」をそれぞれ設置して審査部門の強化を図る一方,収益重視の観点から不動産開発事業及びインキュベーター機能の発揮が重点施策と位置づけられ,これまでの法人部の主な機能と顧客を継承し,当該分野の営業推進及び審査を一体化する部門として札幌に「総合開発第一部」,東京に「総合開発第二部」をそれぞれ設置して機動的な融資に対応できる体制とした。すなわち,拓銀では,インキュベーター(もともとは孵卵器を意味するが,拓銀では,これを新興企業の育成になぞらえて呼んでいた。)事業と地域開発事業の積極的な展開と収益拡大を重視し,インキュベーター事業の円滑な推進のため,迅速な案件処理の必要上,この分野に限っては営業部門と審査部門を独立させず,インキュベーター路線の対象企業を所管する総合開発第一部及び総合開発第二部が営業店窓口機能と審査機能を併せ持った部署として融資に当たることとされたのである。結果的にみると,こ 審査部門を独立させず,インキュベーター路線の対象企業を所管する総合開発第一部及び総合開発第二部が営業店窓口機能と審査機能を併せ持った部署として融資に当たることとされたのである。結果的にみると,この総合開発部は,収益第一主義に走り,審査機能がおろそかになった結果,拓銀に多額のいわゆる不良債権を発生させるきっかけとなったのであるが,当時は,一時的にせよ成果を上げたことや,たくぎん21世紀ビジョンに基づくこの路線を確立したのは,頭取である被告人甲,副頭取であるf,常務取締役であるgら拓銀のトップであったことから,拓銀内では総合開発部の評価が極めて高かった。インキュベーター対象企業の筆頭は,株式会社V(以下,関連会社を含めて「V」という。)であったが,Bも有力なインキュベーター対象企業とされ,拓銀の全面的な支援を- 16 -受けていた。 なお,平成2年10月当時,総合開発第一部担当取締役はg,同部部長はkであった。被告人乙は審査第一部及び営業推進第一部の担当取締役となり,Bの担当から外れた。 イ経営会議拓銀の取締役会は,法令又は定款に定めがあるもののほか,取締役会規程の定める重要な業務執行を決定する機関とされており,取締役会で決議された案件の具体的細目の決定及び日常の業務の決定は常務会の決議により処理するものとされていた。 しかし,実際は,取締役会の決議を待たず,常務会で取締役会の付議案件の細目まで決定し,その後,取締役会に諮る運用となっていたから,実質的には取締役会は常務会の決定した付議案件を追認するだけの機関であった。 ところで,拓銀では,「たくぎん21世紀ビジョン」を踏まえ,平成2年9月21日の取締役会において,常務会を経営会議として改組し,同年10月1日から実施することが決定された。そして,経営会議は,基本的には常務会を では,「たくぎん21世紀ビジョン」を踏まえ,平成2年9月21日の取締役会において,常務会を経営会議として改組し,同年10月1日から実施することが決定された。そして,経営会議は,基本的には常務会を踏襲することになっていたが,拓銀では,「常務会を『経営会議』として改組することについて」と題する通牒を発し,「経営会議は経営の最高意志決定機関として経営に関する重要な事項についての意志決定を行う」機関とし,「頭取,副頭取,専務取締役,常務取締役,総合企画部長をもって構成する」とされ,「経営に重要な影響を与える可能性のある取引先との取引方針などに関すること」,「経営に重大な影響を及ぼす可能性のある事象への対応方針に関すること」などが付議事項とされた。なお,上記通牒には,付議事項についての決定権者の規定がないが,常務- 17 -会と同様に構成員の協議を経て頭取が決するものとされた。経営会議は,平成8年3月15日に正式に「経営会議規程」として規程化され,その際,「経営会議に付議された案件は,構成員の協議を経て頭取(頭取に差し支えのある場合は頭取代行者)が決議する。」との条項が加えられ,また,「多額の損失発生等,収益に重大な影響を与える事象への対応方針」等の付議事項の細目事項が加えられたが,これらはいずれも,従来の扱いを踏襲し確認する条項に過ぎないものであった(なお,経営会議規程の制定・実施に伴い,実態のなかった投融資会議は,同年4月ころ,廃止されるに至った。)。 (6)平成2年11月ころから12月ころまでの経緯ア平成2年11月13日の経営会議総合開発第一部が,この経営会議において,「仮称W」の名称で被告人丙のホテル建設計画を紹介した。正式な付議案件ではなく,今後の予定の紹介という形であったが,建設等に要する資金(以下「ホテル建設資 総合開発第一部が,この経営会議において,「仮称W」の名称で被告人丙のホテル建設計画を紹介した。正式な付議案件ではなく,今後の予定の紹介という形であったが,建設等に要する資金(以下「ホテル建設資金」という。)が約155億円,そのうち自己資金が約10億円で残りの約145億円は借入金で賄うというものであった。併せて,茨戸開発事業の構想も説明され,㈱Iが開発予定地の買収を進めているが,大半が農地であること,したがって,関係官庁の開発許認可を要すること,Gがショッピングセンターを建設して進出する計画になっていることなどが説明された。 イX誌平成2年12月1日発行のX誌(株式会社Y発行)177号に「第1弾!!疑惑の農地取得『Nの恥部』を追う。」という記事が掲載された。総合開発第一部の担当取締役g,同部部長- 18 -k,同部上席審査役mらは,拓銀広報室経由で上記記事を読んだ。以後,X誌は,平成6年7月まで拓銀を巻き込んでのN後背地の農地買収に関する特集記事を組んで批判的に論評していた。なお,被告人甲及び同乙とも当審公判廷において,X誌は見ていないと供述している。 ウ平成2年12月13日の拓銀と被告人丙との打合せ総合開発第一部と被告人丙らとの間で,平成2年12月13日,ホテルの建設計画の打合せがなされた。総合開発第一部は,1か月前の平成2年11月13日の経営会議で,ホテル建設資金は約155億円と報告していたが,その1か月後,被告人丙からホテル建設資金は約200億円かかるとの話が出されたため,総合開発第一部では計画の見直しを要請した。 (7)拓銀顧問弁護士による農地法違反の疑いの指摘mは,平成2年12月ころ,X誌に茨戸開発用地の農地買収方法が農地法違反であるとかその資金の融資に拓銀が関与していることを疑う記事が出たため,平成3年 )拓銀顧問弁護士による農地法違反の疑いの指摘mは,平成2年12月ころ,X誌に茨戸開発用地の農地買収方法が農地法違反であるとかその資金の融資に拓銀が関与していることを疑う記事が出たため,平成3年1月か2月ころ,kの指示を受けて,拓銀の顧問弁護士であるn弁護士に㈱Iの農地取得方法について相談したところ,同弁護士からは農地法に違反する疑いがあると指摘され,その旨kに報告した。 (8)平成3年3月28日の会議ア付議事項について平成3年3月28日に実施された会議(これが経営会議か投融資会議かは争いがある。この点は後に検討することとし,それまでは「平成3年3月28日の会議」という。)における総合開発第一部からの付議事項は,①平成3年4月に設立予定の㈱Dに拓銀が2500万円を出資すること,②Eホテルの建設- 19 -資金として㈱Cに対し125億円を融資することであり,いずれも頭取である被告人甲の決定により承認された。 ㈱Dに対する出資案件について,総合開発第一部は,Eホテル新設により,Nとの相乗効果が期待でき,その事業収支が好転し,茨戸開発計画も一歩前進する,㈱Dの長期収支予想として開業後初年度売上高75億3000万円,開業後6年目に単年度黒字転換,開業後8年目に繰越損失解消,開業後10年目に5パーセント配当の実施が可能と見込まれ,拓銀は㈱Iグループのメイン銀行として,茨戸開発計画を見守ってきた経緯にあるが,本件の出資金は配当の受取りが長期経過後とはいえ見込めるし,ホテル新設は茨戸開発計画を一層進展させるものであるなどと説明し,申出どおり,出資等に応諾し,計画の完成をみたい旨説明した。これに対し,出資案件の審査を担当する部署である資金証券部は,結論としては「総合開発第1部殿の説明どおり,Iグループへの積極支援の必要性,投資の安全 ,出資等に応諾し,計画の完成をみたい旨説明した。これに対し,出資案件の審査を担当する部署である資金証券部は,結論としては「総合開発第1部殿の説明どおり,Iグループへの積極支援の必要性,投資の安全性,並びに出資効果等理解できるので,本件出資を諒承したい」としたものの,「①新会社の事業収支計画では繰欠解消が開業後6年目,配当開始が10年目となっており,本件も出資金それ自体は長期に亘る不稼働資産となる。②当部としては政策投資全体の見直しを進めており,有価証券資産の健全性・収益性の改善向上に努めているところである。この方針に照らすと不稼働資産の積み増しとなる案件には消極とせざるを得ない。」とし,更に拓銀が出資しているホテル経営会社の事業収益の一覧表を作成した上,「いずれも会社設立後相当期間経っているにも拘らず,依然として繰越欠損を抱えている。従って,株式配当も長期間にわたり無配状態が続いている。先の大蔵検査でも- 20 -これらの出資金はいずれも分類資産の査定(Ⅱ分類)を受けた。 」などの参考意見を述べた。 Eホテルの建築資金融資案件については,当初,総合開発第一部では,その事業採算性に疑問を持ち難色を示していたが,副頭取のfや同部担当取締役のgから積極的に対応するようにとの,いわばトップダウンの指示があったことから,急きょ,融資の方向で付議することになった。ホテル建設資金は,総額210億円(そのうち,建設工事費が150億円,什器備品等諸経費が60億円)であり,建設工事費150億円のうち,拓銀がその50パーセントの75億円,北東公庫が30パーセントの45億円,長銀が20パーセントの30億円を負担する協調融資を予定し,什器備品等諸経費60億円のうち㈱Iグループの自己資金5億円及びリース調達費5億円を除く50億円を拓銀が負担すること ーセントの45億円,長銀が20パーセントの30億円を負担する協調融資を予定し,什器備品等諸経費60億円のうち㈱Iグループの自己資金5億円及びリース調達費5億円を除く50億円を拓銀が負担することになっていた。すなわち,ホテル建設資金210億円のうち,㈱Iグループの自己資金は5億円に過ぎず,リース調達費を除くその余の200億円はすべて借入金で賄われ,拓銀は借入金のうち,建設工事費75億円と什器備品等諸経費50億円の合計125億円を融資する案件が,この会議に付議されたものである。会議の資料によると,「当ホテルの事業収支は,Eホテルの自己資金=同ホテル分担開業費の500百万円だけですから,通常では,なかなか採算ラインに乗らないものと懸念されるところです。しかし,本事業をステップとして,茨戸地区総合開発計画が急速に進展することから,当該計画に参加を表明しているGグループ,A1等からの開発協力金(4500百万円)と用地売却益(2681百万円)の合計7181百万円が,2~3年以内に入る見通しにあります。こ- 21 -の協力金が,当ホテル新設資金に内入された場合… これは投資総額の30%が,自己資金で賄われたことに相当します。その結果,当ホテルの事業収支は,次のようになると予想します。 開業後初年度売上高3790百万円。言い換えると,当ホテル計画は,㈱Iグループの茨戸地区総合開発計画の進展によってもたらされる開発利益を織り込むことによって,その事業収支は,妥当なものになり,収益弁済が可能な案件になるので,本件を採り上げたいと考えます。」などと記載されている。要するに,総合開発第一部では,将来行われる茨戸開発事業によって得られるであろう開発利益をあらかじめホテル建設資金のうちの㈱Iグループの自己資金として織り込んだ収支計画,換言すれば, されている。要するに,総合開発第一部では,将来行われる茨戸開発事業によって得られるであろう開発利益をあらかじめホテル建設資金のうちの㈱Iグループの自己資金として織り込んだ収支計画,換言すれば,開発利益をホテル建設資金の返済原資に織り込んだ収支計画を立てた上,借入金の弁済は可能であるとしていたのである。なお,Eホテルの建設主体は当初㈱Cであったが,その後,B㈱に変更された。 イkによるn弁護士の指摘事項の報告kは,上記(7)のとおり,mから,Bの農地取得方法に関するn弁護士の見解を聞き,平成3年3月28日の会議において,「Bが開発のために買収している農地についてですが,24万坪の予定地の約45パーセントが買収済みです。このBによる農地取得の資金は,当行の指示によりたくぎんファイナンスサービスが融資しているのです。問題はBによる農地取得方法ですが,知事等の許可のない段階で農地を事実上取得するため,金銭消費貸借契約を締結し,農地所有者に金を貸す形をとって事実上の売買代金を渡しているのです。その上で,当該農地に抵当権設定仮登記と農地法5条の許可を停止条件とする条件付- 22 -所有権移転仮登記を設定しているのです。この方法は,知事等の許可のない段階で事実上の売買代金を授受していることから農地法に違反すると思われます。それで総合開発第一部の方でn先生に相談したところ,やはり農地法違反の疑いがあるということでした。このような問題がありますのでご報告しておきます。」などと述べ,拓銀の顧問弁護士がBの農地取得方法につき農地法違反の疑いがあると指摘したことを報告した。 ウホテル建設資金融資に関する会議での議論の状況この会議において,出席役員からホテル建設資金融資に関し,自己資金の少なさ,立地条件の悪さ等を懸念する意見や質問がなされた 指摘したことを報告した。 ウホテル建設資金融資に関する会議での議論の状況この会議において,出席役員からホテル建設資金融資に関し,自己資金の少なさ,立地条件の悪さ等を懸念する意見や質問がなされた。とりわけ,資金証券部部長のoは,「あんなへんぴな場所にホテルを建てて採算がとれるのでしょうか。」と否定的な発言をしたが,これに対し,gは,「君のような現場の分からない人間が何を言っているのだ。余計なことは言わないでもらいたい。」などと大声で叱責する場面があった。最後に,副頭取のfが,議論も出尽くしたようなので,まあやってみないかというまとめ方をし,最終的に頭取である被告人甲が決定した。 (9)平成3年4月から同年7月ころまでの経緯ア協調融資の申入れ総合開発第一部は,ホテル建設資金の協調融資について,未だ北東公庫及び長銀に申入れをしていなかったため,平成3年4月上旬,mが両行にその申入れを行った。しかし,両行とも正式に謝絶はしないものの,Eホテルの採算性,茨戸開発事業の実現可能性,その用地買収に関する農地法違反等を懸念し,難しいとの返事を繰り返した。そのため,mは,何としても協- 23 -調融資を実現すべく,その後も引き続き頻回にわたり,協調融資の申入れを続けた。 イ㈱D設立被告人丙は,平成3年4月10日,㈱Dを設立した。代表取締役社長は被告人丙であり,札幌市T1区U町所在のEホテルの土地及び建物をB㈱から賃借してその経営に当たることを目的とする会社である。被告人丙は,当初,年間約60億円の売上げを見込み,事業収支の均衡ラインとして年間約45億円を考えていた。 ウ平成3年の大蔵省検査大蔵省検査(MOF検)とは,銀行の業務の健全かつ適切な運営を確保するため必要があると認めるとき,内閣総理大臣(当時は大蔵大臣)の検査命令に 年間約45億円を考えていた。 ウ平成3年の大蔵省検査大蔵省検査(MOF検)とは,銀行の業務の健全かつ適切な運営を確保するため必要があると認めるとき,内閣総理大臣(当時は大蔵大臣)の検査命令に基づき実施される立入検査のことをいうが(銀行法25条1項),一つの都市銀行に事実上三,四年の周期で行われていた。大蔵省検査では,金融機関側の用意した資料に基づく説明,検査官による金融機関側の役員,部長らとの面談等を経て,金融機関の保有する全資産を個別に検討し,回収の確実性の度合いに従って分類する資産査定が行われる。これは,全資産を4つに分類するもので,Ⅰ分類は回収が確実で問題のない資産,Ⅱ分類は債権確保上の諸条件が満足に満たされないため,その回収について,通常の度合いを超える危険を含むと認められる資産,Ⅲ分類は最終の回収又は価値について重大な懸念が存在し,損失の発生が見込まれるが,その額を確定できない資産,Ⅳ分類は回収不能又は無価値とされる資産をいう。金融機関は,Ⅲ分類以上の査定を受けると,不良債権の烙印を押されたことになり,回収に重大な懸念が存在- 24 -する債権と評価されることから,当該取引先に対する新規貸出しは回収の当てのない先への貸出しということになり,原則として許されず,拓銀もそのようにしてきた。立入検査が終了すると検査官により検査報告書が作成され,当該金融機関に交付されるとともに,示達が出され,当該金融機関は,その示達で指摘された事項につき,改善案等の回答書を提出することになっている。 拓銀は,平成3年1月に大蔵省検査を受けたが,大蔵省銀行局長から被告人甲に宛てて,同年4月23日付けで示達がなされた。これと併せて送られた検査報告書によれば,主要留意事項として「大規模レジャー施設建設資金への応需に際し,事業計画等の検 が,大蔵省銀行局長から被告人甲に宛てて,同年4月23日付けで示達がなされた。これと併せて送られた検査報告書によれば,主要留意事項として「大規模レジャー施設建設資金への応需に際し,事業計画等の検討不十分なまま取り組んでいるほか,集客面での波及効果を狙うとする債務者に引きずられ具体的事業計画のない隣接地取得を容認するなど,メイン行としての指導力に欠ける」と指摘されているほか,「特記貸出金の内容」として,㈱Cに関し,「当行は,大規模レジャー施設建設資金への応需に際し,マーケット調査や資金計画等の事業計画の検討が不十分であったため入場者数の大幅な計画未達や追加用地取得等で収支計画に狂いが生じ,オープン後間もなく業績不振から事業計画の修正を余儀なくされているほか,債務者の業況が厳しい状況下にあるにもかかわらず集客面での波及効果を狙うという債務者からの要請に引きずられ,事業拡張に関する具体的事業計画の策定等がないままでの隣接地買収を容認するなど,メイン行として指導力に欠けた融資姿勢となっている。」などと指摘され,㈱Cに対する貸付金の一部がⅡ分類に査定された。 エB㈱への商号変更及びEホテル着工- 25 -㈱Iは,平成3年6月1日,B株式会社に商号変更した。また,このころ,Eホテルの建設工事が着工された。 (10)平成3年実施のバックファイナンス等ア総合開発部への改称拓銀は,平成3年9月ころ,総合開発第二部を廃止し,総合開発第一部を総合開発部と改称した。総合開発部の担当取締役及び部長は総合開発第一部のときと変わりがない。 イ平成3年のバックファイナンスたくぎんファイナンスは,拓銀の指示により,茨戸開発用地の買収資金をBに融資していたが,資金繰りが厳しくなり,買収資金融資のゆとりがなくなったため,拓銀に支援を求めた。 そこで,拓 ックファイナンスたくぎんファイナンスは,拓銀の指示により,茨戸開発用地の買収資金をBに融資していたが,資金繰りが厳しくなり,買収資金融資のゆとりがなくなったため,拓銀に支援を求めた。 そこで,拓銀は,たくぎんファイナンスに対し,B㈱の茨戸開発用地の買収資金融資のため,①平成3年8月12日(本店営業部の申請日は同月8日)に20億円,②同年9月6日(上記申請日は同月2日)に15億円,③同年12月27日(上記申請日は同月25日)に20億円の合計55億円を貸し出すというバックファイナンス(以下,これらを「平成3年のバックファイナンス」という。)を実施した。 拓銀がB㈱に直接貸出しを行う場合,同社はインキュベーター対象企業であり,総合開発部が所管していたから,融資担当部署である営業店窓口及び審査担当部署のいずれも総合開発部が担当することになるが,平成3年のバックファイナンスは,実質的にはB㈱に貸し出すことを目的とした融資ではあるものの,手続的には拓銀がB㈱に直接融資せず,たくぎんファイナンスを介したいわゆる迂回融資であったから,拓銀がたくぎんファイナンスに融資する形をとることになるため,融資の手続- 26 -は,一般の融資の場合と同様に扱われ,融資担当部署である営業店窓口は本店営業部,審査担当部署は審査第一部となり,融資審査のベースとなる権限外諸貸出申請書(以下「諸貸出申請書」という。)に本店営業部が融資をしたい旨理由を付して申請し,審査第一部が審査した上,これに意見を付して投融資会議に付議し,持ち回り決裁を経て最終的に頭取がその可否を決定するというものである。当時の審査第一部の担当取締役は被告人乙,同部部長はaである。被告人乙は,審査担当部署の取締役としてその投融資会議の構成員であり,平成3年のバックファイナンスの諸貸出申請書3 するというものである。当時の審査第一部の担当取締役は被告人乙,同部部長はaである。被告人乙は,審査担当部署の取締役としてその投融資会議の構成員であり,平成3年のバックファイナンスの諸貸出申請書3通の担当本部長欄に捺印している。 ところで,平成3年のバックファイナンスの諸貸出申請書3通は,いずれも本店営業部が黒色インクで必要事項を記載した上,同部が記載する営業店意見欄には,当社(たくぎんファイナンスを意味する。)運転資金にかかる新規貸出案件であり,他行のノンバンクに対する厳しい貸出姿勢から当社の資金繰りが圧迫されているため,融資を実施したいなどと記載されており,融資の目的がたくぎんファイナンスの資金繰りの圧迫にあることが記載されている。そして,審査第一部もこれに合わせるように同部が記載する本部記入欄に青色ボールペンで「B1信託等から返済の要請強く一部受け入れざるを得なくなっており資金繰的に支障きたしかねず支援せざるを得ないものと判断する」とか「本件営業部意見通り当面当社外部調達円滑化の為必要なものと認められる」などと表面上の理由を記載した上,鉛筆書きで「本件実質は別紙の通りIグループの土地資金に対するバックファイナンス」(平成3年8月12日実行分),「- 27 -本件実質別紙計画にもとづいたBに対するバックファイナンス分」(同年9月6日実行分),「㈱BのN後背地買収資金の一部」(同年12月27日実行分)などと実際の理由を書き加えた。なお,平成3年8月12日実行分及び同年9月6日実行分の諸貸出申請書には,平成3年8月8日付け「Bグループが推進する茨戸地区総合開発計画の現状」と題する総合開発第一部作成の○資料が添付されていることが認められるが,そこには,秘茨戸開発計画の概要や進捗状況が記載されているほか,総合開発第一部の意 プが推進する茨戸地区総合開発計画の現状」と題する総合開発第一部作成の○資料が添付されていることが認められるが,そこには,秘茨戸開発計画の概要や進捗状況が記載されているほか,総合開発第一部の意見として,「Bグループの茨戸地区総合開発計画を推進するうえで,当該地区の土地取得は不可欠の条件であり,又,開発計画も具体化しつつあり,早期に取得する必要もある。 従来より,当該計画の土地取得については,たくぎんファイナンスの金繰りの中で支援してきており,今回の土地取得についても一連の案件であり,最優先案件として採り上げ願いたい。 」と記載されている。また,平成3年12月27日実行分の諸貸出申請書には,「本件により虫喰い部分がほぼ埋まる。プロジェクト遂行のため,どうしても必要な部分であり認めたい。 」との鉛筆書きがある。 (11)B㈱とGの売買契約等の締結と拓銀の融資B㈱とGは,平成3年11月12日,平成2年5月17日に締結された土地売買予定契約(上記(3))の本契約となる停止条件付売買契約を締結した。売買対象地は,土地売買予定契約時とほぼ同じ約3万坪であり,売買代金は24億円で,既に土地売買予定契約締結時に証拠金として支払っていた1億2000万円を差し引いた22億8000万円を支払うものとされ,売買契約は,国土法による不勧告通知,農地法5条による農地- 28 -転用許可及び農振法による指定解除を停止条件として成立するものとされた。 これと併せて,同日,Gが,B㈱に対し,弁済期を平成4年12月31日として24億円を貸し渡すという内容の金銭消費貸借契約証書及びこの弁済期までに停止条件付売買契約の停止条件が成就した場合,この金銭消費貸借契約は破棄するとの内容の覚書が交わされた。 拓銀では,このような経緯を踏まえ,土地購入資金24億円及びGが 契約証書及びこの弁済期までに停止条件付売買契約の停止条件が成就した場合,この金銭消費貸借契約は破棄するとの内容の覚書が交わされた。 拓銀では,このような経緯を踏まえ,土地購入資金24億円及びGが㈱Cに支払う開発協力金(開発業務委託金)10億円等をGに無担保で融資した。 (12)平成3年の日銀考査日銀考査とは,日本銀行(以下「日銀」という。)がその業務を適切に行うため,取引先金融機関等の業務及び財産の状況について,当該取引先金融機関等へ立ち入って行う調査をいう。 拓銀等の都市銀行に対しては,三,四年に1回の割合で実施され,その結果は「所見」という形で当該金融機関に伝えられ,問題点の改善を要請し,資産内容の健全性を図るように促すものである。また,次の日銀考査までの間に考査での指摘事項の改善状況を把握し,適切な指導を行うため,問題先管理制度(通称「フォローアップ」)があり,資料の提出を求めたり,担当者と面談するなどして指導を行っていた。ところで,日銀考査の中心をなすのは,資産査定であり,これは,純粋に借り手の状態に着目した区分であって,回収見込みの可能性の程度に応じて,S(現在のところ最終的な回収に疑問はないが,金利減免,棚上げ等与信条件に,赤字補填,滞貨,減算資金等資金使途に問題があるものなど),D(債務者の業況等からみて回- 29 -収が疑問視され,欠損発生のおそれがあるもの),L(債務者に返済能力,返済意思等がなく,回収不能と認められるもの)に分類査定するもので,D査定は大蔵省検査のⅢ分類に,L査定はⅣ分類に相当する。 拓銀は,平成3年12月ころ,日銀考査を受け,平成4年1月17日付け考査所見要旨が,同月24日ころ,拓銀頭取の被告人甲宛てに届いた。これによると,審査管理面の問題として,①融資先の実態把握が不十分,②融資先 成3年12月ころ,日銀考査を受け,平成4年1月17日付け考査所見要旨が,同月24日ころ,拓銀頭取の被告人甲宛てに届いた。これによると,審査管理面の問題として,①融資先の実態把握が不十分,②融資先の体力を無視した貸し込みがある,③系列ノンバンクの管理の甘さがある,④融資規律の弛緩があるなどと指摘され,さらに,⑤メイン行としての指導力発揮という項目では,「大規模レジャー施設が軌道に乗っていないにも拘らず,さらに具体的な事業計画のない隣接土地の追加取得を十分チェックできず,むしろ金融面からこれに加担し企業体力を一段と弱める結果となった事例も見られた。 」などと指摘された。この内容が,B㈱や㈱C,さらには茨戸開発事業の用地取得を意味していることは明らかである。 (13)「バブル経済下の経営(まとめ)」被告人甲は,平成4年1月に出された日銀考査所見での厳しい指摘やバブル経済の崩壊による不稼働資産の増大を考慮し,総合企画部にバブル期の融資のあり方を検証するように指示した。その結果,「バブル経済下の経営(まとめ)」が作成され,当時の経営が収益向上を重視するあまり業務推進面に力点が置かれ,審査部門が弱体化したこと,担保依存の融資に走り,企業ごとの業態の観察を基本とした事業計画の事前検討,資金使途の確認,返済財源の見極め,経営者の資質といった基本事項に対しての検討がないがしろにされたこと,経営リスクや信用- 30 -リスク回避のための考え方や手法が十分に検討されず,融資取引において,取引先の経営,経営者を過大評価し,「分担率」を考慮せずに取引推進するあまり,「万一の場合」「事業が破綻した場合」のあり得ることを十分検討しなかったことなどを反省するとともに,今後の経営方針として,①「貸出の基本原則」である経済性の原則(安全性-貸出の回収財源及 るあまり,「万一の場合」「事業が破綻した場合」のあり得ることを十分検討しなかったことなどを反省するとともに,今後の経営方針として,①「貸出の基本原則」である経済性の原則(安全性-貸出の回収財源及び回収方法は確実でなければならない。加えて,信用リスクの発生に備え,原則として保証及び担保を申し受ける-等)及び公共性の原則(貸出業務は,信用秩序及び国民経済に対して広く深い関係を持ち,多彩な影響を与える。従って,経済性の原則を堅持しながら,公共的使命の達成に努めなければならない)を遵守して,原点への回帰を徹底すること,②大口与信先に対する取引方針の確立と見直しなどを図り信用リスク管理を徹底することの重要性が指摘された。そして,「バブル経済下の経営(まとめ)」は,平成4年4月27日の経営会議において役員に配布され,その趣旨が確認された。 (14)総合開発部担当取締役の交代総合開発部の担当取締役は,平成4年6月26日付けの人事異動で,gから常務取締役bに代わった。被告人乙は,常務取締役から専務取締役になり,引き続き審査第一部(同部部長はa)を担当したほか,審査第三部を担当するようになった。 (15)平成4年7月27日の経営会議ア付議事項についてホテル建設資金は,Eホテルの地下1階及び地上11階部分の追加工事等により,平成3年3月28日の会議で210億円とされていたものが,253億7600万円に変更された。こ- 31 -のうち,建設工事費は同経営会議で150億円であったものが,今回174億円に変更され,その差額24億円はすべて銀行借入れとなるが,拓銀は,この24億円の50パーセントに当たる12億円を貸し付けることになった。したがって,建設工事費として拓銀が融資する総額は,既に平成3年3月28日の会議で決まっていた75億円と今回 となるが,拓銀は,この24億円の50パーセントに当たる12億円を貸し付けることになった。したがって,建設工事費として拓銀が融資する総額は,既に平成3年3月28日の会議で決まっていた75億円と今回の増額負担分12億円の合計87億円となり,この融資案件が総合開発部から平成4年7月27日の経営会議に付議され,承認された。 イ協調融資について平成4年7月27日の経営会議では,建設工事費の増額に伴い,建設工事費の協調融資額も拓銀87億円,北東公庫52億2000万円(30パーセント負担),長銀34億8000万円(20パーセント負担)に変更された。そして,「昨年来より上記2行に融資参加を検討願っているが,事業計画がなかなか固まらなかったこと,Eホテルを含む茨戸地区総合開発計画の許認可取得の見極めができなかったことなどから,具体的検討には至っていなかったものの,ここに来てホテルの最終事業計画が提出され,茨戸地区総合開発計画の許認可についても,平成5年秋口までには見通しがつきつつあることから現在両行とも詳細検討に入っている。また,協調融資と並行して,拓銀の資金負担軽減策としてEホテル完成時の火災保険料年間4500万円を商材に損保数社に,現在,融資を打診している。」などと報告された。 ウEホテルの事業収支等について総合開発部は,被告人丙から提出された事業計画によると,Eホテルの平成5年度(初年度)売上高は76億円,平成7年- 32 -度に単年度黒字という見込みであるが,ホテル業界の事情やEホテルの立地条件等を勘案し,低めに設定して平成5年度(初年度)売上高56億2300万円と見込んでいる旨経営会議に報告した。また,併せて,総合開発部は,ホテル事業は,ホテル建設資金約254億円のうち約224億円が借入れによるものであり,採算面での厳しさ 年度)売上高56億2300万円と見込んでいる旨経営会議に報告した。また,併せて,総合開発部は,ホテル事業は,ホテル建設資金約254億円のうち約224億円が借入れによるものであり,採算面での厳しさは否めないが,当部としては,茨戸開発計画の用地の一部売却による内入れにより,借入額の圧縮を図り,事業収支の改善を進める方向で指導している,その結果,平成8年3月末日に総投資額の約20パーセントに当たる50億円の自己資金を捻出できる計画にある,ホテル建設に伴う設備投資負担を軽減するため,旧本社ビルを20~30億円で売却を予定し,借入金の一部圧縮を指導中であるなどと報告した。 (16)茨戸開発用地に関する所有権移転仮登記の抹消被告人丙は,札幌市農業委員会から所有権移転仮登記は違法性が高いので,すぐに抹消するようにとの指導を受け,平成4年8月18日にすべて抹消した。さらに,抵当権設定仮登記についても,国土法違反の関係で違法性が高いので抹消するようにとの札幌市の意向が伝えられたため,平成5年3月17日,これをすべて抹消した。 (17)平成4年10月26日の経営会議ア付議事項について平成4年8月28日に,GとB㈱との間で,Gが,㈱Cに開発協力金7億円及び出資金5000万円並びに㈱Dに出資金1億5000万円を支払う旨の合意書が締結されたが,これに基づき,Gが拠出しなければならない合計9億円とその金利及び- 33 -諸経費4億円を含めた合計13億円を拓銀がGに融資することが付議され,承認された。 イ経営会議における発言要旨この経営会議の席上,茨戸開発事業について,被告人甲から「開発許認可はどうなっているのか。」「札幌市の窓口はどこか。」という質問がなされ,同被告人が開発許認可の動向を気にかけていること,出席役員からも「まず,開発許認可 戸開発事業について,被告人甲から「開発許認可はどうなっているのか。」「札幌市の窓口はどこか。」という質問がなされ,同被告人が開発許認可の動向を気にかけていること,出席役員からも「まず,開発許認可を進めることが早道である。開発許認可が取得できなくては駄目である。」などの発言が出たこと,茨戸開発事業そのものについて,常務取締役pから「茨戸地区総合開発計画は不確定要素多い。 資金についてもGの既存取引銀行が支援するのか。マーケティングはどうか。担保はどうか。」と不安視する質問がなされていること,更に常務取締役qが「今後は,プロジェクトの入口の部分で真剣に討議する必要がある。もっと,みんなの知恵を出し合ってやっていくことが必要だ。」などと発言したのに続いて,被告人甲が「このように,真剣に個別に検討していれば,当行のヤケドは少なかったのではないか。BはGが出ないと駄目だ。今後,Bの関与を落としていく必要あり。丙社長には,十分説得する必要がある。」などと述べ,被告人乙が「ホテルが今後重荷になる。」などと述べていることが認められる。 (18)拓銀による北東公庫及び長銀に対する協調融資の要請ア北東公庫に対する依頼平成3年7月ころ,総合開発第一部のkやmらが北東公庫担当者と面談し,協調融資を要請したが,北東公庫はこれを断った。しかし,平成4年7月ころ,b,k及びmらが北東公庫を- 34 -訪れ,改めて協調融資を要請したため,北東公庫では,拓銀の常務取締役であり,かつ,北東公庫への出向経験もあるbが出向いてきたことに敬意を表し,再検討を約束したが実際には再検討しなかった。同年12月ころにもbらが協調融資を要請したが,その際,北東公庫は,「政府系金融機関として許認可前に融資するなどは不適当であり,ご要請の5年2月に融資することは絶対にあ 実際には再検討しなかった。同年12月ころにもbらが協調融資を要請したが,その際,北東公庫は,「政府系金融機関として許認可前に融資するなどは不適当であり,ご要請の5年2月に融資することは絶対にあり得ないことを承知しておいてほしい。」と説明した。さらに,bらは,平成5年1月ころ,「甲頭取から改めて公庫と長銀の支援を取り付けるようにとの指示があった」旨告げて協調融資を要請した。 イ長銀に対する要請長銀では,平成3年9月ころ,協調融資を求めるkやmらに「資料に乏しく回答を出せる状態にない。」と述べ,えん曲的に断ったが,拓銀から再検討を要請された。平成4年1月ころ,kやmが長銀を訪れ,土地買収はほぼ完了した,Gの進出は間違いない,許認可も早ければ来年秋口にも出る見込みなどと言って協調融資を依頼したため,長銀は再検討と応答したものの実際には再検討しなかった。mらは,平成5年1月ころ,「頭取より長銀,北東公庫の本件プロジェクトに対する支援の了解を早急に取り付けるよう指示が出た。」と述べて,協調融資を依頼してきたため,長銀では当時の拓銀の北海道内での金融機関ナンバーワンとしての地位やかつて人事交流までした親しい関係にあることなどを考慮し,えん曲的に断るも「何とかお願いしたい」と再考を求められた。さらに,長銀は,同年2月23日,株式会社北海道拓殖銀行常務取締役b名義の「元利金のご返済につきご迷惑のかからぬよう十分配慮いたす所存。ホテ- 35 -ル建築資金のご融資につき,特段のご配慮を賜りたく重ねてお願い申し上げる次第」と記載された書面を交付され,協調融資を依頼された。これは,拓銀としての正式な文書とまではいえないが,協調融資の趣旨の一つである貸倒れの場合の危険の分散というメリットを拓銀の常務取締役が放棄する旨言明したものであり,極め ,協調融資を依頼された。これは,拓銀としての正式な文書とまではいえないが,協調融資の趣旨の一つである貸倒れの場合の危険の分散というメリットを拓銀の常務取締役が放棄する旨言明したものであり,極めて異例の措置といえるものである。 (19)被告人甲及び同乙によるEホテルの視察被告人甲は,平成4年12月30日,被告人乙を伴って建設中のEホテルの視察に赴いた。その際,完成間近のEホテルを見て,被告人甲が,被告人乙に対し,「あのホテルは問題だな。 あの大きさでは採算はとれないよ。」などと発言したか否かについては争いがある。 (20)平成5年1月25日の経営会議ア報告事項及び開発新会社設立の検討総合開発部からBグループの現状,茨戸開発計画の進捗状況等についての報告がなされた。併せて,茨戸開発事業の主体となる開発新会社の設立が検討され,名称を「C1開発株式会社」,設立予定時期を平成5年3月か4月ころ,同社の出資割合をB㈱45パーセント,拓銀の関連会社である株式会社D1(以下「㈱D1」という。)5パーセント,G50パーセントとする計画であることなどが報告され,被告人甲がこれを了承した。 イ茨戸開発計画の進捗状況の説明総合開発部は,経営会議資料に基づき,茨戸開発計画の進捗状況につき,「対象地は,市街化調整区域で大半は農地。現状の土地取得については,B㈱が地主と国土利用計画法による不- 36 -勧告通知,農地法5条による農地転用許可,農振法に係る指定解除等を条件として金銭消費貸借契約証書に基づく形をとり,地権者の同意を得ている。この取得の方法については,当社が農業委員会と水面下で打合せを行い,同委員会も了解している事項である。現在19万坪(80パーセント)につき地権者の同意を得ており,残り5万坪についても近日中に同意が得られる予定で ついては,当社が農業委員会と水面下で打合せを行い,同委員会も了解している事項である。現在19万坪(80パーセント)につき地権者の同意を得ており,残り5万坪についても近日中に同意が得られる予定である。農転・開発許認可の取得はここ1年位(平成6年4月)で目途がつく予定である。」と説明した。被告人甲は,捜査及び原審公判段階において,この説明を受けたことを認めている。 ウ経営会議における発言要旨bが,ホテル建設資金の協調融資に関して,長銀は受けてくれると思うが,北東公庫は支店段階では駄目だったので本店に行って説明してきた,ある程度札幌市の動きが見えれば融資の可能性もあると報告したのを受け,被告人甲は,「ホテルの段階から当行一行でやっていく腹づもりはない。スタートから他行の資金の導入を図る必要あり。北東公庫,長銀を絡める必要がある。」と述べて,協調融資実現の必要性を強調する発言をした。続けて,被告人甲は,「ホテルは予約がとれているようだが,あの設備では市内の既存ホテルの競合を考慮すると,そう簡単に収支採算はとれないと思う。日中のパーティーはあんな所でやらない。宿泊だけで採算はとれない。稼働率をあげるのが問題である。当初100何億が200何億になっている。 北東公庫,長銀のファイナンス実現しないと駄目である。」などと述べて,Eホテルの規模,立地条件,ホテル建設資金の増額の経緯等からみて同ホテルの収益性にも疑問をもっているこ- 37 -とを明らかにしたほか,更に「土地を売って自己資金捻出では実現性の問題から北東公庫,長銀は乗ってこない。」とも述べて,総合開発第一部がEホテルの事業収支の前提としていた茨戸開発の開発利益をあらかじめ建設資金に折り込み,返済原資と考える手法にも疑問を呈している。また,出席役員からは「許認可が遅れた場合の 述べて,総合開発第一部がEホテルの事業収支の前提としていた茨戸開発の開発利益をあらかじめ建設資金に折り込み,返済原資と考える手法にも疑問を呈している。また,出席役員からは「許認可が遅れた場合のGの動きが気になる。現状ジレンマに陥っている。Bがファイナンスから130億の借入していること自体が問題あり。どういうふうに回収するのか。」とか「(Bの)600億の借入は経営上大変だと思う。借入を減らす方策あるのか。」などとする意見が出た際にも,被告人甲は,「ホテルは金のかけ過ぎ。これだけ借金をすると,儲かると考えるのがまちがい。これからの事業は大丈夫か。」と述べている。 また,常務取締役sは,「皮肉的に見ると,Eの赤字をホテルを建てることによって埋め合わせ,そのホテルの売上を上げる為,Gのショッピングセンターをもってくる。それを又,補完するため,茨戸地区総合開発を進める。何か,将来予想される事業で現在の事業の赤字を埋め合わせる自転車操業的な経営だ。 開発新会社に負担がくると思う。Gが立派なショッピングセンターを造ってくれるかどうかが鍵である。」などと述べた。 (21)北東公庫が被告人乙に協調融資を謝絶したこと被告人乙は,平成5年2月中旬,被告人甲の指示により北東公庫の副総裁を訪ね,協調融資を依頼したが,「申し訳ないが御期待にはそえないのです。」と言われ,事実上謝絶された。 その結果を被告人甲に報告したところ,同被告人は,「そうか。 困ったな。しかし,私は最後まであきらめないよ。」と述べた。 (22)平成5年2月22日の経営会議- 38 -ア付議事項について北東公庫及び長銀との協調融資が実現しないため,両行の負担する予定だったホテル建設資金のうち45億円を拓銀がつなぎ融資として貸し出すこと(両行が協調融資に参加すれば同額が拓銀に戻って 事項について北東公庫及び長銀との協調融資が実現しないため,両行の負担する予定だったホテル建設資金のうち45億円を拓銀がつなぎ融資として貸し出すこと(両行が協調融資に参加すれば同額が拓銀に戻ってくることになる。)及び㈱Cに対するEホテル運転資金等10億8000万円を貸し出すことが付議され,被告人甲が承認・決定した。なお,ホテル建設資金は,平成4年7月27日の経営会議で253億7600万円とされたが,この時点までに約12億円増額されて,約266億円となっていた。 イ経営会議における発言要旨被告人乙は,協調融資に関して,「先週水曜日,北東公庫に行って副総裁に会ってきた。あまりいい感触ではない。丙社長が副総裁に会ったときに言っていた売上げ等の数字が,札幌支店からのデータと大幅に食い違いがあり,先方では不信感を抱いている。『拓銀も困っているから何とかしてやりたいが,将来,土地を売って借入を返済していくという事業収支も問題あり』と北東公庫としても悩んでいる。ホテルの設備投資ほぼ全額を借入して調達していくのは無謀だ。自己資金を作る等しないとだめだ。」「ホテル建設費の45億円のつなぎ融資はつなぎ融資とは言い切れない。北東公庫,長銀が気持ちがあっても,やりようがない。」などと述べた。これに対し,被告人甲は,「Bに対して,人を出して銀行として北東公庫,長銀を納得させる説明をする必要がある。ポイントとしては,①グループ全体の実体をつかむ,②リストラの実行計画の遂行,③「先々の設備投資については資金を出さない。」「人材派遣については- 39 -社長に潰されない人でないとダメだ。」「社長自身が一人歩きしてしまっている状態であり,銀行の考え方を実行してもらわないと困る。まずは人を入れて実体管理をする必要あり。そうすれば,北東公庫,長銀の支援の に潰されない人でないとダメだ。」「社長自身が一人歩きしてしまっている状態であり,銀行の考え方を実行してもらわないと困る。まずは人を入れて実体管理をする必要あり。そうすれば,北東公庫,長銀の支援の道も出てくる。」などと述べて,人材派遣により協調融資実現の活路を見出そうとしていた。 (23)北海道新聞「さっぽろ村異聞」のコラム平成5年2月25日の北海道新聞朝刊に「さっぽろ村異聞,許可のないまま水面下で農地が動く」との見出しで茨戸開発用地取得に関するコラムが掲載された。内容は,「札幌市T1区Uの玉ネギ畑。隣接地にドイツ式の温水プールで人気を呼ぶPがある。この玉ネギ畑に契約書が二枚付く。一枚は,農業委員会の農地転用許可を条件に効力が生ずる停止条件付き売買契約。 もう一枚は,その代金相当額を農家に貸し,畑に根抵当権を設定する金銭消費貸借契約。開発業者が農地を取得する際の常套手段で,地価が安い農地のうちに取得権利を付けておく。将来,開発許可が出そうになったら,農家は『借金』を返さず,農地を根抵当権者に引き渡す。玉ネギ畑の根抵当権者は,Cの親会社,美容チェーンのB(丙社長)である。… Bの農家への『貸付金』は,拓銀グループから出ていた。元拓銀役員は『札幌の開発のために協力した』と話す。」というものである。被告人甲は,原審及び当審公判廷において,これを読んだ記憶はないと供述し,被告人乙は,捜査段階において,自宅で読んだと供述したが,当審公判廷においては見てるかもしれないが,全く記憶に残っていないと供述している。 (24)V問題特別調査委員会の設置と調査結果の報告被告人甲は,平成5年2月,Vに対する過去の融資のあり方- 40 -及び再建問題を検討するため,V問題特別調査委員会の設置を指示し,被告人乙が副委員長に就任した。そして,同年3月3 調査結果の報告被告人甲は,平成5年2月,Vに対する過去の融資のあり方- 40 -及び再建問題を検討するため,V問題特別調査委員会の設置を指示し,被告人乙が副委員長に就任した。そして,同年3月3日,調査報告書が同委員会から被告人甲宛に提出されたが,それによると,Vはインキュベーター対象企業の代表格であり,バブル経済最盛期に取引が拡大したが,営業部門と審査部門が一元化した総合開発部が所管し,平成3年に入り,バブルが急激に崩壊していく中で資金繰りの問題を認識しつつも,ここまで来た以上育成すべきであるとの思いもあり,この情報が経営会議に正確に開示されなかったことなど,業務運営の不適切と正確な報告の不十分,経営会議等における的確な議論やチェックができなかったこと,リスクが十分認識されないまま事業推進が先行されたこと,経営者の資質を見抜けなかった経営判断ミスなどが指摘されている。 (25)北海道新聞「Q1市長の実兄逮捕」の記事平成5年3月11日の北海道新聞夕刊に「Q1市長の実兄逮捕,無届け,国土法違反容疑」との見出しで,Q1市長の実兄が国土法違反容疑で逮捕されたことを報じる記事が掲載された。 その内容は,「開発を計画していた市街化調整区域の農地約2.8ヘクタールにつき,土地所有者と金銭消費貸借契約を名目に土地代として約3億円を支払う契約をした上,農地転用許可を条件に効力が生じる,停止条件付きの売買契約を結んだが,国土法による届出を行っていなかった疑い」とするもので,Bの農地取得方法と酷似するものであった。被告人甲は,捜査・公判段階を通じ,一貫してこの記事を読んだことを認めているが,被告人乙は,捜査段階においてははっきりした記憶がないと述べ,当審公判廷においては記憶に残っていないと供述して- 41 -いる。 (26)Eホテルの完 貫してこの記事を読んだことを認めているが,被告人乙は,捜査段階においてははっきりした記憶がないと述べ,当審公判廷においては記憶に残っていないと供述して- 41 -いる。 (26)Eホテルの完成と開業アEホテル完成披露パーティーでの被告人甲の挨拶被告人甲は,Eホテルオープン直前の平成5年3月26日に行われた完成披露パーティーにおける挨拶で,被告人丙に危機感をもたせるため,あえて「このホテルの経営は楽観を許さないので,丙社長には背水の陣で経営をしっかりやっていってほしい。」と述べ,厳しい注文を付けた。 イGの対応Eホテル完成披露パーティー後の夕食会において,被告人甲及び同丙がi代表に1日も早い出店を要請したのに対し,同人は,香港での株式上場の関係で事前に重要な計画を開示する必要があったのに,札幌のショッピングセンターの計画についてはその開示情報に入れていなかったので,今,正式な出店を表明すると上場が延期されてしまうから出店を秋まで延ばしたいなどと言って,これに応じなかった。 ウEホテルの開業Eホテルは,平成5年4月1日に開業した。そして,同日,㈱Dの代表取締役社長に拓銀から派遣されたtが就任し,被告人丙は,代表取締役会長になった。 (27)平成5年4月の出来事ア平成5年4月1日の経営会議拓銀は,平成5年4月1日の経営会議において,㈱Dに対するEホテルの立ち上がりの長期運転資金(同年4月から6月分)9億4000万円を融資することなどを決めた。被告人甲は,協調融資につき,「北東公庫は今の状態では資金は出ない。」- 42 -と述べたところ,bが「公庫から正式なことわりの回答はもらっていない。」と言ったが,再び被告人甲が「しかし,公庫の北海道支店としては難しいのではないか。」「長銀は公庫のしきりを見て判断すると思う と述べたところ,bが「公庫から正式なことわりの回答はもらっていない。」と言ったが,再び被告人甲が「しかし,公庫の北海道支店としては難しいのではないか。」「長銀は公庫のしきりを見て判断すると思う。現状で260億円のホテル投資の支援を前向きに検討するのは難しい。公庫への折衝を続ける必要がある。」と述べ,また,Eホテルについては「難点はアクセスである。時間がかかりすぎる。」などと述べた。茨戸開発に関しては,開発新会社の設立が話題になった際,bが「農地法の問題もあり,周りが静かになってから,債権債務の譲渡を行う必要がある。」と述べた直後,被告人甲が「土地の買収等,丙社長が表に出てくると,かえってマイナスとなる。札幌市も嫌がっている。」などと述べた。 イ平成5年4月のBグループ所管先の変更拓銀は,平成5年4月,総合開発部をV専従とし,V以外の総合開発部所管企業を審査第一部の所管とした。したがって,Bグループも審査第一部の所管となり,審査部門は同部,営業部門は同年6月に新設された本店営業部第五部が担当することになったが,実際には同部は審査第一部が決めた方針に従っていたので,事実上同部が両部門を兼ねていた。 Bグループの所管先が審査第一部となったことから,同部担当取締役であった被告人乙がBグループを担当することになった。同被告人は,平成5年6月29日付けで副頭取となったが,同年10月25日までは同部担当取締役を兼ねていた。同月26日からは常務取締役のuが同部担当取締役となった。同部の部長はa,部付部長はvであった。 (28)平成5年6月の出来事- 43 -ア株主総会対策用想定問答集拓銀は,平成5年6月下旬に株主総会を開催したが,それに先立ち,株主総会対策用として想定問答集が作られており,その中に「Bに,茨戸の農地売買で,国土法 事- 43 -ア株主総会対策用想定問答集拓銀は,平成5年6月下旬に株主総会を開催したが,それに先立ち,株主総会対策用として想定問答集が作られており,その中に「Bに,茨戸の農地売買で,国土法,農地法違反があったと,また,拓銀グループが農地買収資金を貸し出していたとの噂を聞くが,事実か。事実経過と貸出経緯を説明願いたい。 」との質問事項があり,それに対して「違反の事実があったとは聞いておりません。」という回答を予定していた。なお,同内容の想定問答集は,平成3年6月の株主総会時から拓銀が経営破たんした平成9年まで毎年作られていた。 イ北東公庫が協調融資を謝絶北東公庫は,平成5年6月22日,拓銀審査第一部次長兼審査役w(以下「w次長」という。)らに対し,①事業として採算にのらない,②丙会長への信頼が全くなくなった,③既存事業特にEホテルの赤字が大きすぎる,④公庫としてリゾート事業への貸出先に問題先が多く,ホテル資金への対応環境は極めて厳しいことなどを理由に,ホテル建設資金の協調融資を謝絶した。 ウaの被告人乙に対する平成5年7月5日の経営会議付議事項についての事前説明審査第一部は,平成5年4月にBグループの所管先となった直後からaやv部付部長を中心に,同グループの資産状況や経営状況等の再検討を続けた結果,同グループが実質破たん状態にあり,今後必要とされる融資額も極力圧縮させるべきだとの判断に達し,総合開発部が採ってきたインキュベーター対象企業の保護・育成という観点からの同グループ積極支援方針を改- 44 -め,今後は債権回収を重視した厳しい姿勢で臨むこととした。 そこで,aは,平成5年6月下旬ころ,同部担当取締役であった被告人乙に対し,後の同年7月5日の経営会議で配布される資料に基づき,その経営会議に審査第一部として付議 視した厳しい姿勢で臨むこととした。 そこで,aは,平成5年6月下旬ころ,同部担当取締役であった被告人乙に対し,後の同年7月5日の経営会議で配布される資料に基づき,その経営会議に審査第一部として付議を予定している事項及び同部の取組方針,Bグループに対する今後の対応等を説明した上,その内容で経営会議に付議し頭取ら経営陣に説明することの了解を得た。 (29)平成5年7月5日の経営会議ア付議事項について平成5年7月5日の経営会議は,審査第一部から,㈱Dに対する同月以降3か月間の運転資金11億5000万円及びB㈱に対するEホテル設備資金59億円の各融資並びにBグループの再編方針が付議された。上記運転資金は,要するに,㈱Dの赤字補填資金であり,同年4月ないし6月分は既に融資済みであったため,新たに7月ないし9月分を融資したいというもの,上記設備資金は,Eホテルの建設資金を支払う必要から融資したいというものであったが,審査第一部が最も重視していた付議事項は,実質破たん状態にあったBグループを早急に再編し,将来的には赤字部門を処分するという内容の同グループの分離再編案(以下「分離再編案」という。)であり,同部は経営会議でその承認を得ることを主眼としていた。 経営会議の結果,㈱Dの運転資金及びEホテル設備資金合計70億5000万円を融資する案件は承認されたが,分離再編案については,経営会議付議案件記録表の付議結果欄に「付議事項3については更に詰めた段階で再度経営会議に諮る。」と記載されており,承認か不承認かを巡って当事者間に争いがあ- 45 -る。 イ経営会議における審査第一部の説明内容v部付部長らは,出席者に配布された経営会議資料に基づき,時間をかけて詳細にその内容を説明したが,その要旨は以下のとおりである。 (ア)Bグループの る。 イ経営会議における審査第一部の説明内容v部付部長らは,出席者に配布された経営会議資料に基づき,時間をかけて詳細にその内容を説明したが,その要旨は以下のとおりである。 (ア)Bグループの資産状況及び経営評価についてBグループの平成5年5月末現在の借入残高は,他行分も含め総額552億9300万円であるが,そのうち拓銀グループの貸付金は合計482億2700万円を占め,そのうちの216億2600万円が保全不足に陥っている。向こう1年間で多少の増減はあるものの,借入額は178億円増加して730億9300万円(増加する借入額は全額拓銀グループによるものであり,その総額は660億2700万円となり,総借入額の90パーセントを占める)に達する見込みで,金利だけでも年間約40億円を負担する形となるが,その178億円の内訳をみると,赤字補填資金は,B㈱10億円,㈱C8億円及び㈱D40億円で3社合計58億円,茨戸開発借入金利11億円,茨戸開発土地取得50億円等である。したがって,Bグループ各社の経営状況がこのまま続けば,グループ全体として利息追貸分も含め,年間約70億円の借入れが必要となる。さらに,Bグループ各事業とも赤字たれ流しの状況であり,資産売却による借入圧縮,売上げ増強策の構築,合理化及び効率化の推進による収支改善が急務となっていること,被告人丙にこのまま経営を任せておくことは当然に許されず,同被告人の実質的影響力を排除し,拓銀主導の経営体制を確立する必要があること,Bグループの赤字たれ流しの状況,膨大な借入れ,他行の消極- 46 -姿勢を考えると,遅すぎるくらいであるが当グループに対する方針(融資を含めた対応)を抜本的に見直す時期に来ており,タイミングを逸すると膨大な不稼働資産を拓銀が背負う形となることなどが説明された。 姿勢を考えると,遅すぎるくらいであるが当グループに対する方針(融資を含めた対応)を抜本的に見直す時期に来ており,タイミングを逸すると膨大な不稼働資産を拓銀が背負う形となることなどが説明された。 さらに,各社ごとにみると,B㈱に関しては,設備投資過大,借入過多の状況にあり,恒常的赤字は続き,平成5年5月末現在借入残高は427億円に達している,中でもホテル建設資金のための借入れ,すなわち,ホテルの総投資額が約260億円という膨大なもので,うち借入依存は約240億円,金利負担だけでも年間約13億円に達すること,茨戸開発のための借入れも約144億円に達しており,残りの用地買収資金として約50億円の借入れが必要な見込みで,最終的には約200億円の借入れに達し,金利負担だけでも11億円に達する見込みであること,B㈱の本業部門の経常利益は赤字であるが,償却前経常利益は黒字であり,合理化,効率化の自助努力をすれば,経常利益(償却後)黒字化は可能であることなどが説明された。 もっとも,本業部門の償却前経常利益が黒字との点は誤りで,実は赤字であったが,この点は次の平成5年8月23日の経営会議において訂正された。また,㈱Cに関しては,売上高が減少し,開発協力金を除く実力ベースでは開業以来赤字の連続であり,しかも赤字幅が毎年拡大している状況であることなどが説明された。さらに,㈱Dに関しては,当初の長期収支で見込んだ売上げは60億円なのに対し,開業後3か月の売上実績を基にすると年間売上見込みは37億円程度であり,今後の金利負担を考えると単年度黒字の目途が立たないというのが実態であること,このままでは年間約30億円の赤字たれ流しの状況- 47 -が続き,かつ約40億円の赤字補填資金が必要となる見込みであること,拓銀からt社長らが出向しているが,権限 ないというのが実態であること,このままでは年間約30億円の赤字たれ流しの状況- 47 -が続き,かつ約40億円の赤字補填資金が必要となる見込みであること,拓銀からt社長らが出向しているが,権限の委譲が行われておらず,会長である被告人丙の独断専行で経営が行われており,組織として機能しておらず,営業・管理体制が弱体のため,収支改善のための施策も打ち出せない状況であること,徹底的な営業努力と合理化及び効率化によって赤字幅を縮小しても経営は成り立たず,最終的には再編案に沿ってホテルを売却する必要があることなどが説明された。 (イ)茨戸開発用地について審査第一部は,茨戸開発計画面積約24万坪のうち,約19万坪(全体の80パーセント)が実質的に取得済みであること,開発許認可は,現在,正式申請を前提に,市,農業委員会等と事前協議を実施中であるが,国土法,農地法絡みがあり,市及び農業委員会としては認可はしたいが,なお対応に慎重を期している状況で,平成6年3月から4月ころまでに認可されるよう働きかけ中なるも,ずれ込みの恐れもあり,市街化区域編入は,早くても平成8年3月以降の見通しであること,開発予定地はBが取得中であるが,取得は国土法・農地法等の絡みがあり,大部分は地主に対する貸付(金消契約)の形をとっていること,極く最近の状況変化(国土法・農地法違反追及の動き)に配慮し,本案にもとづく譲渡方法が他の方法に変わる可能性も出てきているので,市農業委員会とこの点内々に協議中であること,金銭消費貸借契約から売買契約への移行問題としては,許認可が早ければ問題はないが,ズルズル延びれば,売買への切替えが遅れ,金消契約当事者(地主)の死亡,相続問題も発生し,所有権移転手続が遅れることが考えられること,そもそ- 48 -もBと地主間の金銭消費貸借 ば問題はないが,ズルズル延びれば,売買への切替えが遅れ,金消契約当事者(地主)の死亡,相続問題も発生し,所有権移転手続が遅れることが考えられること,そもそ- 48 -もBと地主間の金銭消費貸借契約を売買契約に切り替えること自体がBの国土法,農地法違反容疑で難しくなりかかっていることなどを説明した。 (ウ)Gの動向について審査第一部は,札幌市は,茨戸開発事業の許認可を出す条件として,Gの進出,G参加の開発事業(事業主体にGも加わるという意味),B㈱すなわち被告人丙の事業主体からの排除をあげていること,拓銀香港支店の情報によれば,Gの財務部門及び主要取引行(V1,長銀等)は,茨戸開発計画のことを最近知ったばかりの由で,少なからず懸念をもっている模様であり,財務部門の納得や他行説得ができれば,同計画のうち,ショッピングセンター事業への参加は可能と思われるが,それ以外の事業に対するGの参入は難しくなりつつある模様であること,加えて,G自体の合理化が求められており,Gに茨戸開発計画を遂行する能力,体力が本当にあるのか,上記の香港支店情報や最近の新聞報道等からみて,同計画は当分凍結されることもあり得るのでないかなどと説明した。 (エ)協調融資について経営会議資料には,ホテル建設資金について,北東公庫及び長銀からの資金調達は困難であり,全額拓銀の負担となる可能性大であると明記されており,その旨説明された。 (オ)分離再編案について審査第一部が想定した分離再編案は,B㈱の本業部門は新会社に移し,被告人丙に継続して行わせるが,それ以外は第三者に売却処分すること,茨戸開発事業は開発新会社に行わせること,N及びEホテルの敷地及び建物を第三者に売却処分するこ- 49 -と,その際,審査第一部では,時価250億円,買値は最大で150億円 に売却処分すること,茨戸開発事業は開発新会社に行わせること,N及びEホテルの敷地及び建物を第三者に売却処分するこ- 49 -と,その際,審査第一部では,時価250億円,買値は最大で150億円と予測し,100億円は売却損が出ると見ていたこと,これらに付帯して,開発許可申請から被告人丙名を消すこと,B㈱の旧本社ビル(札幌市S1区以下省略),現本社ビル(同市T1区以下省略),Jの土地建物等の売却,Gの茨戸開発事業への参加等を推し進める必要性が説明された。 ウ経営会議における発言要旨経営会議冒頭,aは,「Bグループは,どの事業も収支大幅マイナスであり,実質倒産状態にある。当行が融資をストップすればすぐに倒産してしまう状況にある。」と切り出し,これに続いて,v部付部長が,付議案件,Bグループの現状と問題点,改善案及び分離再編案について,経営会議資料に基づき詳細に説明した。被告人甲は,「何故こんなに大きな建物(Eホテルのこと)を建てたのか。Eの収支が良くならないのは何故なのかな。」などと述べ,被告人丙についても「最終的には不動産賃貸業と理美容だけをやらせ,あとは口を出さないようにさせなければダメだ。」と述べた。aも「丙社長は,全く収支を度外視しており経営者(事業家)ではなく夢想家だ。」と述べ,これに同調している。J等の売却に関しては,被告人甲が「前から言っている物件売却は進んでいるのか。」と尋ねたのに対し,kが「今のところ進んでいない。」と答えている。茨戸開発計画については,aが「市は丙社長ぬきで許認可を考えている様だ。Bを外したいところであるがBを事業主体にしないと多額の売却損が発生し潰れてしまう。この辺をどうしていくかが問題だ。」と述べ,副頭取のxが,現状では市街化編入は平成13年にならないと駄目ではないかと疑問を呈したのに であるがBを事業主体にしないと多額の売却損が発生し潰れてしまう。この辺をどうしていくかが問題だ。」と述べ,副頭取のxが,現状では市街化編入は平成13年にならないと駄目ではないかと疑問を呈したのに- 50 -対し,被告人乙も「G進出しても宅地造成後の販売は2001年(平成13年)になる可能性高いんじゃないか。」と述べ,更にw次長も造成後の宅地販売は,当初平成8年とみていたが平成13年になる可能性が高いなどと説明した。x副頭取は,「市街化ならなければ,金にはならない。」「開発経費,金利を考えていかなければならない。減歩,開発経費を考えると先ほど説明があったようにほとんど利益は出ないのではないか。 」などと述べて茨戸開発計画の採算性に疑問を述べている。更にGに関しては,常務取締役yが「Gの進出も現状不安定」と述べている。こうした中で,経営会議は,付議案件担当部の取締役が議事進行役を行うというのが慣例であったところ,今回の経営会議の議事進行役であった被告人乙が「今日は時間がないので緊急の事項である㈱Dに対する11億5000万円及びB㈱に対するホテル設備資金59億円については,ご承認いただきたい。Bグループの再編案については,再度詰めてお打ち合わせしたい。」と述べて議事を終えようとしたが,pは,「Bの丙社長が今回の当行の申出に乗ってくるかどうかがポイントになる。大丈夫でしょうね。此処まで折衝は行ってきたのだろうか。」と質問し,被告人乙が「その辺がポイントになることは,承知している。時間をかけて説得したい。」,bが「同様の申出は,此処まで再三やってきた。」と答えている。被告人乙は,「f副頭取からも申出したと聞いている。もう少し詰めた話合いをすることが必要。融資を条件に強く申し出する。 付議事項(1),(2)については,ご了解頂き,Bグ やってきた。」と答えている。被告人乙は,「f副頭取からも申出したと聞いている。もう少し詰めた話合いをすることが必要。融資を条件に強く申し出する。 付議事項(1),(2)については,ご了解頂き,Bグループの再編及び茨戸開発事業に対する方針については,更に詰めて別途お打合せします。」と述べて,再度議事を終えようとしたが,更- 51 -に出席役員から「今回の条件になっているt社長への権限委譲,株式の担保差入,ホテルに対する代物弁済予約の仮登記については,強硬に押していただきたい。」などの発言及び若干の質疑の後,被告人乙が,三たび「付議事項(1),(2)については,了解されたということで,Bグループのリストラ案も含めた再編については,更に詰めた段階で再度経営会議にお諮りすることで今日の経営会議を終了したいと思います。」と述べ,議事を終了した。 なお,この経営会議の席上,被告人甲が,分離再編案を実施することは「丙が納得するわけない」という趣旨の発言をしたか否かについては当事者間に争いがある。 (30)被告人丙に対する経営改善要求と会計監査ア被告人丙に対する経営改善要求被告人乙及びaは,被告人丙に対し,既に,平成5年6月25日付け常務取締役b名義の書面で,Eホテルの経営権のt社長への委譲,旧・現本社ビル,J等の売却,B㈱本業部門の収益強化としての不採算店のスクラップ,売上増強,経費圧縮,Nの黒字化等を要求していたが,同月29日にも被告人乙の指示により改めてaが赤字補填資金をBグループに融資するに当たっての条件として同様の事項を被告人丙に要求したほか,同年7月7日,aは,被告人乙の了解及び指示を得た上,被告人丙に対し,「Eホテルを筆頭にグループ各社とも大幅赤字を計上し,極めて深刻な状況にある。特に,Eホテル事業は,元々260億円も したほか,同年7月7日,aは,被告人乙の了解及び指示を得た上,被告人丙に対し,「Eホテルを筆頭にグループ各社とも大幅赤字を計上し,極めて深刻な状況にある。特に,Eホテル事業は,元々260億円もの投資ではどう考えても到底採算に合うものではなかった。全ては採算を無視した過大投資に起因しており,大幅赤字は当然の結果である。当行としては,株主,監督官庁,- 52 -改正商法等に対応する意味からも赤字たれ流し状態の先に対し,返済目途のない赤字資金を無条件で融資する訳にはいかない。 今回申込みを受けたEホテルの運転資金(赤字資金)については,本来お断りせざるを得ないものであるが,諸般の事情に鑑み必要最小限の資金について条件付きで採り上げを検討する。 」とし,融資条件として「㈱D及びB㈱の株式を担保として差し入れること,既に再三にわたり総合開発部から申出済みのJ,旧・現本社ビル等の売却促進を図ること,その売却時期,金額等を念書の形で提出すること」を掲げた書面を交付し,これまでと同内容の要求を行い,その実施を強く要求した。これに対し,被告人丙は,拓銀に対し,株式の担保提供に同意するとともに,J等の売却に関しては鋭意努力する旨記載した同日付けの念書等を差し入れた。 イ監査法人r事務所の会計監査aは,平成5年7月5日の経営会議後,被告人丙の同意を得て,監査法人r事務所(以下「r監査法人」という。)にBグループ3社の会計監査を依頼した。r監査法人は,監査を実施した結果,同年8月9日付け報告書(以下「r報告書」という。 )を提出したが,審査第一部が償却前経常利益は黒字と考え,その旨同年7月5日の経営会議で報告していたB㈱の本業部門も実は赤字であったことが判明するなど,総じてBグループにとって厳しい監査結果であった。 (31)平成5年8月23日の 常利益は黒字と考え,その旨同年7月5日の経営会議で報告していたB㈱の本業部門も実は赤字であったことが判明するなど,総じてBグループにとって厳しい監査結果であった。 (31)平成5年8月23日の経営会議ア付議事項について平成5年8月23日の経営会議では,審査第一部からB㈱の赤字補填資金5億3000万円及び㈱Cの赤字補填資金500- 53 -0万円の融資案件等が付議された。付議事項はすべて承認されたが,経営会議付議案件記録表の「指示事項または要請事項」欄には「Bグループの再編案については,基本的な組立てをして別途経営会議にお諮りする。」と記載されている。 イ経営会議における審査第一部の説明内容審査第一部から,Bグループの現状について,r報告書に基づき説明がなされた。B㈱は,本業部門でも平成5年5月期は償却前営業利益が2億4500万円の赤字,営業利益段階で6億1300万円の赤字であり,特に,美容部門は37か店のうち30か店が赤字,サウナ部門も3か店全てが赤字,㈱Cも営業利益が2億3100万円の赤字,㈱Dも3億3600万円の赤字である旨報告された。そして,審査第一部では上記3社の年間需資を合計61億1300万円と見込んでいる旨の説明がなされた。 協調融資に関しては,正式に北東公庫及び長銀から支援できない旨の回答があったことが報告された。 また,茨戸開発事業に関しては,①「B㈱丙社長の国土法違反の問題」として,「行政当局では過去に丙氏が国土法届出の違反の事実があったとの認識から(現在は違反の状況にはないが)何らかの注意処分が必要と考えており,現在その注意処分をどの程度のものか検討中である。いずれにしろこのような状況では,丙氏が関与する開発申請には許認可が困難との判断から,今後の開発申請者から丙氏をはずして,当行グループ,G ており,現在その注意処分をどの程度のものか検討中である。いずれにしろこのような状況では,丙氏が関与する開発申請には許認可が困難との判断から,今後の開発申請者から丙氏をはずして,当行グループ,Gグループの名前で申請して欲しいとの申出となった。」こと,②「G香港市場上場等の問題」として,Gは平成5年9月末の上場を申請中だが本開発事業が許認可前であることや主力銀行- 54 -中,長銀等が本開発事業に賛成していないこともあって上場申請に本件が含まれていないことから上場完了まで札幌市議会でのG名の公表を待ってほしいとの申出があることから,許認可スケジュールが遅れ気味となっている。今後のスケジュールで進むと開発許可,農転許可の最終許可は平成6年10月となる旨報告された。また,B㈱は金銭消費貸借契約額の他に,手数料や金利等多額を投下しており,これをB㈱と新会社の債権債務の譲渡により処理しようとしてきたが,国土法,農地法や税法のすべてをクリアーする方法が現時点では見当たらないことも報告された。 ウ経営会議における発言要旨ホテル建設資金について,協調融資が無理であること,B㈱の理美容部門は利益が出ていると思っていたが本部経費を配賦後は赤字になっており,本部経費の多額の理由は茨戸事業に伴うものが多いと思われることがaらから説明されたが,被告人甲は,「そういう背景(状況)を総合開発部のときは考えていなかったのか。r事務所の監査報告をベースにBグループのリストラを考えていかなければならない。」と述べた。また,被告人乙が「茨戸開発事業が進むと含み益が出てくるストーリーでなかったか。」と述べたのに対し,被告人甲は,「化けないであろう。」と述べている。続いてaは,「茨戸開発事業に伴う借入(総費用)約145億円。開発新会社が購入する価格は国土法の てくるストーリーでなかったか。」と述べたのに対し,被告人甲は,「化けないであろう。」と述べている。続いてaは,「茨戸開発事業に伴う借入(総費用)約145億円。開発新会社が購入する価格は国土法の制限もあり80億円程度だ。差引65億円は損切りの世界だ。」と述べると,被告人甲は,「いずれにしても丙社長を開発新会社から外さなければならない。農地が市街化区域に編入され,化けて,はじめて借入が返済される仕組みだ。」「- 55 -丙社長に茨戸開発事業で含み益は捻出できないこと,開発新会社にはタッチしないことを認識させなければならない。」と述べている。Gについては,出席役員から「Gが途中で止めるというリスクは残されている。その場合どうするのか。」との質問が出ている。若干の質疑の後,被告人甲は「総合開発部の説明のときは,売上げは当初72億円と聞いていたが60億円程度は見込まれると聞いていた。60億円の売上げを見込み,従業員も500人体制を考えていたようだ。今期の売上げ見込みは30億円台だ。総合開発部はどのように考えていたんだろう。 」などと述べている。最後は,被告人乙が,「本部経費の見直しを含めBグループの再編案については,基本的な組立てを行い別途お諮りする。」などと述べて,議事を終了した。 (32)茨戸開発事業に関する被告人甲と同丙との面談及び被告人甲とi代表の香港会談ア被告人甲と同丙との面談被告人甲は,平成5年11月5日,被告人丙と面談し,茨戸開発計画は許認可を取ることが第1条件であり,そのためにはGの進出が必要であるから,香港に行ってi代表に頼んでくること,開発新会社を拓銀グループ50パーセント,G50パーセントの出資で設立し,Bは外れること,その代わり,開発許認可が得られれば,拓銀グループが持っている株式の45パーセントをB 表に頼んでくること,開発新会社を拓銀グループ50パーセント,G50パーセントの出資で設立し,Bは外れること,その代わり,開発許認可が得られれば,拓銀グループが持っている株式の45パーセントをBに渡し,そのとき,役員変更も行うこと,市は開発許認可を与えるためには被告人丙の登場は駄目と言っているので,開発新会社には入れないが,Bにはこれまでの地主対策を引き続き行ってもらうことなどを告げた。 イ被告人甲とi代表の香港会談- 56 -被告人甲は,平成5年11月8日,香港のG本社にi代表を訪ね,①Gから札幌市に茨戸開発に進出する旨正式な意向表明をしてほしい,②茨戸開発のための開発新会社を設立する必要があり,拓銀グループ50パーセント,G50パーセントの出資で行いたい,③市街化区域編入になった段階で,B㈱に拓銀グループの保有する開発新会社の株式45パーセントを譲ることをそれぞれ要望した。これに対し,i代表は,正式に回答せず,Gの後ろ盾となっている有力華僑から進出を待った方がよいと言われている,支援銀行の長銀やF1銀行も正式表明に消極的態度をとっているなどを理由に茨戸開発事業に進出する旨の正式表明をずらしたいなどと言った。同席したaは,平成8年の見直し時に市街化区域編入を考えており,それから逆算すると現時点での正式な進出表明がギリギリの線である旨述べて正式表明の決断を迫ったが,i代表は「そんなにギリギリなんですか。大至急検討しましょう。」というに止まった。 被告人乙は,平成5年11月11日,上記香港会談について,aから,「①丙氏と組むなと長銀等からがっちり言われている,②頭取からの3つの確認事項に対していずれもi代表はO北東の回答なし,③Gの本音は札幌PJ(プロジェクト)から逃げたいところ,当行も同じ」などとする報告を受けた。 (3 等からがっちり言われている,②頭取からの3つの確認事項に対していずれもi代表はO北東の回答なし,③Gの本音は札幌PJ(プロジェクト)から逃げたいところ,当行も同じ」などとする報告を受けた。 (33)被告人乙と同丙の面談被告人乙は,平成5年11月8日の被告人甲及びi代表の香港会談を踏まえ,同月11日,被告人丙と今後の茨戸開発についての意見交換を行った。被告人乙は,香港会談におけるi代表の消極姿勢を説明したところ,被告人丙は,Gの態度に不信感を示した上,同月5日にGから示された「札幌茨戸地区開発- 57 -の推進方針にかかわる確認事項」と題する文書の草案に茨戸開発を今後はGグループと拓銀グループ2者で行い,開発新会社の出資比率もGグループ50パーセント,拓銀グループ50パーセントとし,後にBグループに45パーセントを返還することが記載されていなかったこと,Gが茨戸開発計画からのいわゆる丙外しを意図している内容であったことなどを捉えて,「これでは今迄の契約,拓銀との打合事項が白紙になると云うことだ。」とか「白紙にできる話ではない。今までの合意事項が表に出れば,裁判にでもなったら,大変なことだ。」などと述べた。もっとも,被告人丙は,「裁判にでもなったら,大変なことだ。」と述べた点について,原審公判廷において,分からない旨供述しているので,この点は争いがある。 (34)平成5年12月ころのBとGの関係等アGによる24億円の元利金支払要求等B㈱とGは,上記(11)のとおり,平成3年11月12日,Gのショッピングセンター建設用地としてN後背地のうちの約3万坪を合計24億円で売却する旨の停止条件付売買契約を締結し,併せて,この24億円について金銭消費貸借契約証書を交わして消費貸借契約という体裁を整えていたが,Gは,平成5年12月 背地のうちの約3万坪を合計24億円で売却する旨の停止条件付売買契約を締結し,併せて,この24億円について金銭消費貸借契約証書を交わして消費貸借契約という体裁を整えていたが,Gは,平成5年12月20日,「諸契約の変更及び更新に関する要求事項」と題する書面をB㈱に送り,「平成3年11月12日付,停止条件付土地売買契約は,契約内容自体に正当性がない。また,違法性が高いため完全に抹消する。従って,同日付の金銭消費貸借契約のみが有効な契約であることを確認する。」などと一方的に決めつけた上,24億円の元利金を支払え,Gが3回に渡って㈱Cに支払った開発協力金17億円のうち7億円を返還- 58 -せよと要求した。この旨直ちに被告人丙から拓銀に伝えられ,審査第一部では,「とんでもない話であり,けんかを売っているとしか考えられないことである。こんな話を持ち出したことは,出店の意志がなくなったとも思えることである。」との意見をまとめた。 イ北海道新聞「G進出凍結」の記事平成5年12月30日の北海道新聞に「Bグループ苦戦の茨戸開発G進出,事実上凍結新設ホテルにも不況の影」との見出しで,「Gの進出は暗礁に乗り上げたまま。計画地域が現在,市街化調整区域内の農地のため,農地転用や開発行為の許可申請など行政手続きができないうえ,G自身が日本国内での事業の再検証を進めており,『札幌進出は無期延期と考えてもらって結構』(同グループ広報)という状態だ」との記事が掲載された。 ウGとB㈱が変更契約書締結GとB㈱は,平成5年12月31日,平成3年11月12日付け金銭消費貸借契約に基づく24億円につき,返済期限を平成7年3月31日とするなどの変更契約証書を取り交わしたが,特筆すべきは,同証書中,担保条件として,「元利金の返済につき,拓銀より保証書を差 付け金銭消費貸借契約に基づく24億円につき,返済期限を平成7年3月31日とするなどの変更契約証書を取り交わしたが,特筆すべきは,同証書中,担保条件として,「元利金の返済につき,拓銀より保証書を差し入れます。」との条項が入ったことであった。 (35)平成6年1月17日の経営会議等ア付議事項及び説明事項について平成6年1月17日の経営会議では,茨戸開発事業の開発新会社の出資比率を拓銀グループ50パーセント,Gグループ50パーセントとし,Bグループには出資させないこと,ただし,- 59 -当面は拓銀グループで45パーセントの株式を肩代わりし,市街化区域編入後にその株式をB㈱に戻すこと,GのB㈱に対する平成3年11月12日付け金銭消費貸借契約に基づく貸付金24億円を拓銀が支払保証すること,㈱D1のB㈱に対する19億5000万円の融資に当たり,同額を拓銀が支援するという名目で,実質的には後背地の転売代金の未払金支払のための融資を行うことなどが付議された。そして,審査第一部は,被告人丙が茨戸開発事業(ただし,土地取得を除く)から降りることになかなか納得せず,許認可後にはすぐに株を戻せ,新会社の社長に就任させろなど,行政の意向に合わない無理な条件提示などがあって説得に時間を要したが,当面は当行グループで45パーセントの株式を肩代わりするが,市街化編入後に株式を戻すことで被告人丙の納得を得たこと,被告人甲とi代表との香港での会談結果,拓銀が24億円を保証することにより,Gの退路を断ち,拓銀グループと共に開発推進することの証となることなどが説明され,いずれも被告人甲の決定により承認された。 イ経営会議における発言要旨aは,「24億円の融資はGの退路を断つという意味から保証が必要なもの。違法性は高いが停止条件付土地売買契約と金銭消 明され,いずれも被告人甲の決定により承認された。 イ経営会議における発言要旨aは,「24億円の融資はGの退路を断つという意味から保証が必要なもの。違法性は高いが停止条件付土地売買契約と金銭消費貸借契約と覚書と3つの契約がセットになっており,その3つの契約に基づき24億円が融資されている。」「土地代金の前払いですから土地の所有権が移れば相殺されるが,土地入手できないとき履行請求される。」と説明し,平成5年10月26日に被告人乙に代わって審査第一部担当取締役になっていたuは,「土地売買は表面に出せない。」と説明した。aは,- 60 -「24億円保証するということはGの退路を断つと同時に一緒に進めていくという当行の証になる。」と説明したが,y常務は,「これだけの無理難題を言ってきているということは北海道へ進出する気はないと考えられる。出るけどいつかわからないというのは危険。出店の時期を明確にしないと危険。市は難しい立場に置かれている。」と述べた。さらに,aは,平成8年にショッピングセンターができ,市街化区域になるというスケジュールだが,いずれも平成10年になりそうだとの見解を示し,「Gはy常務がいうように基本的には降りたい,やめたい」と説明した。被告人甲も「香港へ行ったのは11月上旬。 方向性が変わったのは12月になってから。行く前も怪しい。 11月の意向はBに対する不信感あり,パートナーとして組みたくない。さらに,この延長線上で,これ(24億円の保証要求)が出てきた。」と述べている。 ウ拓銀による24億円の支払保証拓銀は,経営会議において,24億円を保証する旨の付議案件が承認されたことから,平成6年1月31日,Gに対し,平成3年11月12日付け金銭消費貸借契約証書及び平成5年12月31日付け変更契約証書に基づき,B㈱がGか おいて,24億円を保証する旨の付議案件が承認されたことから,平成6年1月31日,Gに対し,平成3年11月12日付け金銭消費貸借契約証書及び平成5年12月31日付け変更契約証書に基づき,B㈱がGから借り入れた24億円及び利息を連帯保証する旨の拓銀本店営業部取締役本店長z名義の保証書を交付し,正式にこれを約束した。 (36)GがC1開発株式会社設立準備会に参加Gは,拓銀が24億円の支払保証を承諾したことから,平成6年1月20日,札幌市に対し,正式な出店表明を行うとともに,C1開発の設立に向けて正式に発足したC1開発株式会社設立準備会(以下「準備会」という。)に加わった。もっとも,- 61 -G内部では,平成5年には茨戸開発計画からの撤退の方針が決定し,撤退に当たって損失を出さないこと,Gの名に傷を付けないクリーンな撤退をすることを前提に進めることになったため,24億円と17億円を回収するためには被告人丙を相手にするより,拓銀主導で設立される準備会に参画した方が有利と判断し,設立に合意したというのが本音であり,その後も事業内容を詰めるに当たり,Gが担当する部分の具体的な事業計画の提出を拒むなど,茨戸開発計画に参加する意思がないことを前提とするかのような態度をとり続けた上,平成8年5月ころには,札幌市内に設置していた事務所を閉鎖し,駐在員を引き揚げるに至った。 他方,準備会は,平成6年1月20日,札幌市に対し,準備会代表幹事名で開発意向表明を行うとともに,Bが茨戸開発から表面上外れることになったため,株式会社a1開発設計(以下「a1設計」という。)が,後記のサッポロ・リバーサイド・プレイス構想をもとに新たに完成させた事業提案書を札幌市に内々に提出し,正式な事業提案書を同年3月末を目途に提出したい旨表明した。 (37)B㈱に対 」という。)が,後記のサッポロ・リバーサイド・プレイス構想をもとに新たに完成させた事業提案書を札幌市に内々に提出し,正式な事業提案書を同年3月末を目途に提出したい旨表明した。 (37)B㈱に対する国土法違反の注意処分B㈱は,国土法の定める届出を行わずに開発用地を買収していたため,平成6年3月11日,札幌市長から国土法23条1項違反を理由とした文書による注意処分を受けた。 (38)平成6年4月の拓銀の組織改編拓銀は,平成6年4月ころ,総合開発部を廃止し,審査関係部の組織改編を行った。審査部は,審査第一部(道内地区を所管),審査第二部(本州地区を所管)及び審査第三部(道内地- 62 -区における特に指定する取引先を所管)となり,Bグループは,審査第三部が所管するようになった。以後,審査第三部は,平成9年11月の拓銀破たん時までBグループを所管した。審査第三部の担当取締役は常務取締役bが就任し,a及びv部付部長が審査第一部から審査第三部に異動の上,同部の部長及び部付部長として,引き続き,Bグループを担当した。また,総合開発部部長であったkは,審査第三部部付部長に異動した。 (39)茨戸開発計画の進捗状況(市街化調整区域内の開発から市街化区域に編入しての開発へ)ア茨戸開発計画の従前の進捗状況(ア)ワールド・アクアティック・センター構想札幌市では,従前からNやEホテルの建設に積極的な対応をしていたが,被告人丙及びi代表らが直接市長に茨戸開発の有用性や協力を求めるなどしたこともあって,札幌市上層部は,茨戸地区が市街化調整区域内の農地であり,農振法による農用地区域にも指定されるなど,法令上開発を厳しく制限された地域ではあったものの,札幌市の長期総合計画の中で「水辺の環境を生かした活用を誘導,促進する。」と位置づけられていた であり,農振法による農用地区域にも指定されるなど,法令上開発を厳しく制限された地域ではあったものの,札幌市の長期総合計画の中で「水辺の環境を生かした活用を誘導,促進する。」と位置づけられていたことから,民間企業による投資によって茨戸地区の発展が促進されることを期待し,茨戸開発を積極的に支援する方向で臨むことになった。具体的には,札幌市は,当初早急な出店を望んでいたGの意向を汲み,市街化区域編入ではその見直し時期が決まっており,相当先まで待たねばならなかったことから,市街化調整区域内における特例措置として,市街化調整区域のまま,ショッピングセンター建設等の開発行為を認める開発手法(以下「市街化調整区域内特例開発」という。)をとることと- 63 -し,同市の土地利用に関する計画案の策定業務等を所管する企画調整局企画部企画課(以下「企画調整局」という。)主幹b1を茨戸開発に関する札幌市の窓口とした。もっとも,札幌市では,本来,開発許認可業務は都市整備局が所管しており,同局担当者は,茨戸地区を市街化区域に編入することなく,市街化調整区域内特例開発の方法で開発を認めることには終始消極的な姿勢を示していた。 一方,被告人丙は,平成3年5月ころ,コンサルティング会社である株式会社G1事務所との間で茨戸開発の基本計画の策定等を目的とする業務委託契約を締結し,同社が下請けとしたa1設計を札幌市との連絡,調整等に当たらせることにし,平成4年11月ころには,a1設計等から「ワールド・アクアティック・センター事業提案書」と題する事業提案書が内々に企画調整局に提出されたが,基本的なコンセプトのみの内容であり,具体的な事業内容や進出企業等は明らかにされていなかった。 (イ)サッポロ・リバーサイド・プレイス構想a1設計は,平成5年5月ころ,ワール 整局に提出されたが,基本的なコンセプトのみの内容であり,具体的な事業内容や進出企業等は明らかにされていなかった。 (イ)サッポロ・リバーサイド・プレイス構想a1設計は,平成5年5月ころ,ワールド・アクアティック・センター構想に替わるものとして,「サッポロ・リバーサイド・プレイス」と題する事業提案書を内々に企画調整局に提出した。これは,茨戸開発用地24万坪の中心にGのショッピングセンターを置き,これに隣接してB㈱が計画したアミューズメント施設や㈱D1が計画するリゾート用住居施設等を組み合わせ,いくつかの工期に分けて工事を進めていくという構想であった。 (ウ)都市型リゾート計画案- 64 -正式な事業提案書の提出期限を平成6年3月末日に控え,準備会では将来の諸制約を可能な限り受けない形にしたいとの思いから,新たに事業提案書を作成することになり,「提案都市型リゾートの創造」と題し,水と緑に囲まれた複合的なリゾート空間の創造を図ることを目標に掲げ,水辺を生かした緑地空間の創出を図ることなど5つの点を開発方針にし,にぎわいゾーンやアミューズメントゾーンなど5つのゾーンと7つの施設(屋外テーマパーク,マーケットプレイス,ノーザンモールなど)に分かれたゾーニング計画に基づく事業提案書,いわば都市型リゾート計画案を作成した。もっとも,この計画案は,個々の施設のディベロッパー(開発業者)が大部分決まっていない中で事業収支まで試算しているという一種の画餅的な計画であった。 準備会は,後記イのとおり,この計画案を正式な事業提案書として提出することができなくなったため,企画調整局に平成6年3月末日の提出期限を同年5月上旬に延期するように求め,認められた。しかし,準備会は,同年5月上旬にも提出できなかったため,企画調整局からは,農振解除の正 ができなくなったため,企画調整局に平成6年3月末日の提出期限を同年5月上旬に延期するように求め,認められた。しかし,準備会は,同年5月上旬にも提出できなかったため,企画調整局からは,農振解除の正式確定を最大限延ばしても同年9月までが限界であり,それに間に合わせるには同年7月末までに事業提案書を提出する必要がある旨指示された。 イ平成6年5月16日及び同月19日の各経営会議(ア)付議内容(茨戸開発計画の方針変更等)平成6年5月16日の経営会議では,G子会社に対する貸出し,㈱Cに対する赤字補填資金及び温泉設備資金の貸出し,㈱Dに対する赤字補填資金の貸出し等が付議され,いずれも承認- 65 -されたほか,茨戸開発事業取組スタンスの変更が付議されて継続審議となり,これは同月19日の経営会議で再度付議された。 ところで,拓銀では,当初から宅地造成・分譲等により開発利益が入る茨戸開発計画をホテル建設資金の取得源と位置づけていたが,企画調整局からは,市街化調整区域内特例開発という性質上,宅地造成等の開発行為は認められないとの指導を受けていた。しかし,拓銀は,札幌市の指導のとおりに行うとすれば,事業採算面で全く利益が上がらず開発の意味がないけれども,開発許認可が下りれば茨戸地区が市街化区域に編入され,また,開発行為に着手した後であれば,札幌市に事業計画の変更を求めて宅地造成を行うことも可能であると考えていたので,これまで市街化調整区域内での開発を前提とした事業提案書を提出してきた。ところが,平成6年3月ころ,札幌市との打合せの中で,いったん事業提案書を提出して開発許認可を得た場合には,その後の事業内容が当初の事業提案書に拘束され,事業内容の変更は認められないことが判明し,その結果,これまでa1設計が作成した事業提案書を札幌市に提出し 業提案書を提出して開発許認可を得た場合には,その後の事業内容が当初の事業提案書に拘束され,事業内容の変更は認められないことが判明し,その結果,これまでa1設計が作成した事業提案書を札幌市に提出した場合,採算性が全く見込めない事業を強いられるという深刻な事態となった。そこで,拓銀は,上記ア(ウ)のとおり,平成6年3月末日までに正式な事業提案書を提出できなくなり,提出期限の延期を求めて認められた上,平成6年5月16日及び同月19日の経営会議において,茨戸開発計画の方針変更が議論され,従前の市街化調整区域内特例開発を撤回し,市街化区域に編入して宅地造成を行うことを内容とする事業提案書を作成し,改めて札幌市と交渉することが議論され,被告人甲により決定された。 - 66 -(イ)経営会議における発言要旨平成6年5月16日の経営会議では,Bグループを所管する審査第三部部長のaは,「茨戸事業を今後どう進めるか。この提案書はどうもならん。幼稚園生が描いた程度のものでとても市には出せない。このまま出したら大変なことになります。専門家に聞きますとこのゾーンでは到底採算に乗りえない。唯一採算に乗るのは宅造しかない。市との強硬な折衝が必要である。 」などと説明していたが,同月19日の経営会議においても,被告人甲が「市とのやりとりの中では相当の違いがあることがハッキリした。今回作られた提案書は許認可をとるための画餅。 このままで出すということは事業収支と現実性に問題がある。 これじゃやる人出てこないよ。事業自体採算がとれることが必要だ。開発自体やれることが必要だ。」などと述べ,aが「提案書はそのままで変えられない。だから採算のとれるものを出そう。それにはリゾート型から定住型に変換する必要がある。 行政はどこまで妥協してくれるか。相当きつい折衝になる。 要だ。」などと述べ,aが「提案書はそのままで変えられない。だから採算のとれるものを出そう。それにはリゾート型から定住型に変換する必要がある。 行政はどこまで妥協してくれるか。相当きつい折衝になる。準備会の折衝では過去の経緯もありこの点厳しく感じております。 」と述べたのに対し,被告人乙は,「計画では採算を出すわけでしょう。狸の皮算用」などと述べた。また,被告人甲は,「昨年5月のものはなかったことにして下さい,と言うしかないな。」と述べたのに対し,aは,「そうです。白紙化です。これから作るものはBとGのものと大幅に違う。市がとんでもない計画と見るか,現実性のある計画と見てくれるか」などと述べ,市街化区域編入の時期に関しては,「平成14年です。」「我々がそこまでBグループを生かすためには,年間50億円の資金を投げなければならない。時間との戦いもあるのです。 - 67 -」などと述べたのに対し,被告人乙は,「しかし,この事業がうまくいったからといってBがうまくいくのか。その連動性はない。」と述べた。また,aは,Gの現状について,Gは債権保全に走り始めているのが実態,Gの計画が縮小したことにつき,札幌市がその明細を出すように言っているのにGはこれを拒否しており,Gの進出意思は相当後退していると思うなどと説明し,v部付部長は,昨日もGからBに5月末までに現金で17億円支払えと文書を送ってきています,最後通牒的なものですなどと説明した。そして,最後には,被告人甲は,都市型リゾート計画案に関し,「絵に書いた餅だ。方向観出たのではないか。」などと述べて茨戸開発の基本方針の変更を決定した。 ウ平成6年6月6日の経営会議平成6年6月6日の経営会議は,これまでの経営会議の協議結果を踏まえ,次回の都市計画の見直し時期である平成9年3月(後に見直し て茨戸開発の基本方針の変更を決定した。 ウ平成6年6月6日の経営会議平成6年6月6日の経営会議は,これまでの経営会議の協議結果を踏まえ,次回の都市計画の見直し時期である平成9年3月(後に見直し時期が1年延び,平成10年3月となる。)に茨戸開発計画予定地が市街化区域編入の前段階である市街化保留区域指定(点線引)になるよう札幌市に要請すること,市街化編入が次々回の見直し時期である平成14年3月の途しかない場合には,茨戸開発を断念し,札幌市にそれまでに取得した開発用地の買上げを要請することなどが付議され,いずれも承認された結果,拓銀では,直ちに札幌市との交渉に当たることとなったエ被告人甲らによる札幌市長等への市街化編入の協力要請被告人甲及び同乙は,平成6年6月24日,当時の札幌市長を訪ね,茨戸開発の方向転換及び市街化区域編入の説明並びに- 68 -その協力要請を行った。さらに,被告人乙及びbは,同日,当時の札幌市助役c1にも同様の説明と協力要請をしたところ,市長及び助役とも不快の念を表明した。特に,企画調整局長時代から市街化調整区域内特例開発の方向で進めてきたc1助役は,強い怒りを表し,「拓銀が言っていることは一番最初に考えることだ。これまで何をしていたのか。」などと言って拓銀を厳しく非難した。また,当時の企画調整局長d1は,平成6年6月27日,bに対し,市街化区域編入は絶対無理であると言明した。 (40)被告人乙が拓銀頭取に就任被告人甲は,平成6年6月28日に頭取を退任し,被告人乙が翌29日に頭取に就任した。副頭取はu及びsが就任し,審査第三部の担当取締役及び部長は,引き続き,b及びaであった。 (41)平成6年の大蔵省検査拓銀は,平成6年8月から9月にかけて大蔵省検査を受け,債権の無担保部分につき,Ⅲ分類と査 が就任し,審査第三部の担当取締役及び部長は,引き続き,b及びaであった。 (41)平成6年の大蔵省検査拓銀は,平成6年8月から9月にかけて大蔵省検査を受け,債権の無担保部分につき,Ⅲ分類と査定された上,検査官から,Ⅲ分類先へは,本来,貸し増しはできないが,経営判断により貸し出すというならそれはそれでよい,しかし,その結果,ロスが出れば背任とみなすと指摘された。その経過は,以下のとおりである。 ア大蔵省検査に向けた役員勉強会拓銀は,平成6年の大蔵省検査に備えて,検査を所管していた総合企画部が主催して役員勉強会を行った。その際,Bグループに関しては,「前回(平成3年の大蔵省検査)指摘を受けた状況から全く改善していない。むしろ農転の問題,Gの姿勢- 69 -等環境としては厳しさを増している。メイン行として指導力不足との指摘は今回も免れないであろう。Ⅳ分類の回避or極小化が課題」とする指摘がなされた。 イ平成6年9月8日の検査官との面談平成6年9月8日に大蔵省大臣官房金融検査部検査官のe1(以下「e1検査官」という。)と審査第三部のv部付部長らが面談した。 e1検査官は,Bグループについて,「B㈱は,本業の売上高,企業規模が小さいにもかかわらず,Nプール建設,ホテル建設,今後の計画など,どれをとってもやっていける企業ではない。実質,死に体ですよ。Bはどこまでもちこたえられるか。 銀行はいつまで資金支援するつもりなのか。赤字資金はいつまで出し続ける気なのか。」,茨戸開発について,「今は頓挫している。しかし金は出してある状態でしょう。元々リスクのあった事業。それを金消でやっている。銀行も一緒に踊ったということだろう。… ひどい話だ。当行の経営を疑います。赤字資金を出して先送りだ。利息を取っているが実質未収でしょう。 赤字資金融 々リスクのあった事業。それを金消でやっている。銀行も一緒に踊ったということだろう。… ひどい話だ。当行の経営を疑います。赤字資金を出して先送りだ。利息を取っているが実質未収でしょう。 赤字資金融資というのは大変なことですよ。当行は何をやろうとしているのか分からぬ。銀行なんだろうか,不動産屋なんだろうか。銀行としての在り方を忘れている。プロジェクトがあり,頓挫して,最後,銀行が面倒をみるパターンだ。何でプロジェクトの中へ入っていくのですか。本当に当行は銀行としての本分を忘れている。ⅢでもⅣでも償却できないでしょう。私は失礼だが再建銀行として実態をつかみたいのです。銀行は金貸しの本分を忘れている。このプロジェクトはどうなるか分からない。障害が大きすぎます。Ⅳにはしません。しかし,最低- 70 -でもⅢです。4社とも,実担分Ⅱ,それ以外Ⅲとしたい。」「反論あれば,銀行の意見として明朝出して欲しい。」などと述べて,Bグループの財政・経営内容及び拓銀の取組方針を酷評し,v部付部長らは何の反論もできなかった。 ウ平成6年9月9日の検査官との面談平成6年9月9日にe1検査官と審査第三部のaらが面談した。 aは,「平成5年4月に総開部から引き継いだが,このときこれはもう駄目だと判断した。Bは平成2年ころから土地の取得を始めたが,これには市も農業委員会も関わりがあった。丙は農業委員会の指導で土地の買い進めをやっていました。違反が事実として残る形になっています。売買予定契約書を結んでいましたが,これは違法性の高いものです。これをやめたでは,農家が困る,農家が騒ぐ,農業委員会,G,当行に累が及ぶことになります。行政は何とか開発してほしいとの意向です。市街化になっても約200億円が返ってくるかどうか分りません。 茨戸がうまくいっても『既存事業が る,農家が騒ぐ,農業委員会,G,当行に累が及ぶことになります。行政は何とか開発してほしいとの意向です。市街化になっても約200億円が返ってくるかどうか分りません。 茨戸がうまくいっても『既存事業が助かるか』と言ったらそうではありません。ホテルは2百数十億円かけたとんでもないものです。どうやっても採算はとれません。ホテルは元々,土地が値上がりし,これを売ってホテルにつぎ込む計画だったのですが,そんなのは出てきません。e1検査官が昨日おっしゃっていた通り,我々のやっていることは銀行員の仕事ではありません。」と説明したが,e1検査官は,「調整区域が市街化になった,虫食いも全部買い取りできた,開発して売るにしてもどのくらいの年数がかかるか,この間,金利は原価に算入(されることになるのですよ),(その結果)どれだけロスが出る- 71 -か(分かりませんよ。)」と述べた。aは,「Bグループを生かそうとすれば,年間50億円,5年で250億円かかります。 今止めた方がよいとの計算が成り立ちます。この点は経営会議にも持ち出しています。しかし,農地法,国土法問題があり,市では市長まで累が及ぶ案件です。これを阻止したいのが行政の考えでもあります。市議会でもこの問題が出ています。それが表面化しないのは,計画が進んでいるからであり,計画が頓挫すると問題が吹き出ます。」「当行でⅢ分類先にニューマネーを出したのはありません。今回Ⅲ分類査定を受けても経営判断として続けざるを得ません。市街化の展望が出るまで1年位かかります。特定保留区域(点線引き)指定は平成9年3月が期限です。これまでは金を出す必要があります。年間ロスを増やすだけですが… 。」と述べたが,e1検査官は,「客観的に見ると背任行為に当たります。」と述べた。また,aは,「Ⅲ分類されてそこにニュー 期限です。これまでは金を出す必要があります。年間ロスを増やすだけですが… 。」と述べたが,e1検査官は,「客観的に見ると背任行為に当たります。」と述べた。また,aは,「Ⅲ分類されてそこにニューマネーを出してもこのニューマネーの部分を回収できるならいいが,考えられません。(グループには)支えるところがありません。」と述べると,e1検査官は,「本当はⅣに近いⅢだ。何故Ⅳにしないということにもなる。 茨戸事業は今,白紙の状態です。前提が多すぎます。我々の判断としてⅡにするのは難しいことです。」と述べた。これに対し,aは,「経営判断ということでしょうが,実情を理解しておいて欲しいのです。」と述べ,e1検査官が「ここまで来たら悩ましいと思う。Bには力がない,金は出たがハードルがたくさんある。茨の道だ」と述べると,更にaは「丙氏は法律違反者です。市は丙氏では許可できないとしています。来春には(時効で)終わると丙氏はいっています。今は当事者です。ホ- 72 -テルは売上はせいぜい30億円。これしか期待できません。それなのにあれだけつぎ込んだのは… 」などと述べている。このように,e1検査官は,前日に引き続き,aに対しても酷評を行い,これに対して,aは説得的な反論を全くできなかった。 エ平成6年9月13日の検査官との面談平成6年9月13日に検査官のf1総括主任及びg1金融主任(以下「g1主任」という。)と審査第三部のaらが面談した。 aは,「Bグループには(ニューマネーを)出している。ただし,今回Ⅲ分類を受け苦慮している。当行はⅢ分類先に従来からニューマネーは付けていない,背任になりかねないからだ。 しかし,ニューマネーを付けないとBグループは立行かなくなり,大きな社会問題となる。特に茨戸後背地の問題が表面化する。後背地の開発計画用地は らニューマネーは付けていない,背任になりかねないからだ。 しかし,ニューマネーを付けないとBグループは立行かなくなり,大きな社会問題となる。特に茨戸後背地の問題が表面化する。後背地の開発計画用地は,たくぎんファイナンスから170億融資し85%まで実質的に取得した。取得地は農地であり調整区域で実質取得方法も農地法違反の疑義がある。この計画が中断すれば農家が騒ぎ,道警が動き丙社長・農家に累が及ぶ。 丙社長・農家は市農業委員会,農協の指導を受けて行ってきただけに行政も巻き込むこととなり,行政としても支援を打ち切っては困るというスタンス。茨戸は金になるまで4~5年必要。 この間,Bグループで年間40~50億のニューマネー必要。 査定Ⅲでは動きが取れない。」などと述べて,Ⅱ分類に査定するように求めたが,g1主任は,「査定をする立場としては採算が取れるという説明がなければ無理だ。当行にとって損が出るというものについてはⅢになる。B,ホテルの収益についても採算に合う計画,茨戸計画でも採算に乗るという説明がほし- 73 -いということ」と述べた。さらに,検査官からは,「不良債権処理を行うことが現経営陣は責任問題につながるという考えはないか。」などとただされた。 オ平成6年9月16日以降の検査官との面談平成6年9月16日にはe1検査官とaらが面談したが,e1検査官は,宅造計画の試算の件について,「造成にかかる金利は全部みたのですか。造成が完了しても全部売れるまで金利がかかるでしょう。これらのことを考えずにどうして黒字の試算といえるのですか。この試算表は形になっていないですよ。 」と茨戸開発事業の採算性に疑問を示し,また,「プロジェクトを『やれ』『やめろ』とは検査官はいえません。ただ,感想として『赤字の計画しかできないのですかね』ということです。 になっていないですよ。 」と茨戸開発事業の採算性に疑問を示し,また,「プロジェクトを『やれ』『やめろ』とは検査官はいえません。ただ,感想として『赤字の計画しかできないのですかね』ということです。 経営者が背任にならぬよう,銀行に損を与えぬようするにはⅢ分類がいい。やるなら損を出さぬよう,腹をくくってやればよい。」と述べた。また,同月26日には,e1検査官から案件ごとに検査官としてとりまとめをしたので間違っているところがあったら言ってほしいと言われ,Bグループに関しては,「採算性,実現性が無視された貸出。プロジェクトの検討が実質行われていなかった。その後の管理もされていなかった。市街化調整区域,農地法,国土法に抵触するおそれがありながら,土地は実質買収している。プロジェクトの中身を検討していない。実質無審査,管理不在である。現状虫食い状態で,当初計画は頓挫した。見直し計画も未定である。600億円を超える巨額の資金が出た。利払い資金も出している。債務者は理容業が本業の中小企業であり,体力のない先であることは分かっていた。収支計画を作っても採算に合わない先。現状多額の損失- 74 -が見込まれる。」と指摘されたが,拓銀としては特に異論を述べていない。 カ検査報告書指摘事項平成6年の大蔵省検査については,平成7年2月10日に示達がなされ,検査報告書も拓銀に送られたが,そこには「インキュベーター戦略の下に開拓したV㈱グループ,B㈱等の特定先に対して,過剰融資を行い,多額の損失の発生や資金の固定化を招いている。」と指摘され,さらに特記貸出金の内容として「当行のインキュベーター先で,一部役員からのトップダウンにより関連ノンバンクとともに大型プロジェクト資金に応需したものの,土地買収にあたり農地法等の違反問題を内包していたため,当初計 内容として「当行のインキュベーター先で,一部役員からのトップダウンにより関連ノンバンクとともに大型プロジェクト資金に応需したものの,土地買収にあたり農地法等の違反問題を内包していたため,当初計画が頓挫し,多額の損失の発生が見込まれるもの」としてB㈱が挙げられ,「当該プロジェクトが債務者の体力を遙かに超え,また,開発地域が市街化調整区域の農地で土地買収にあたり農地法等の違反問題を内包していたことから,当初計画が頓挫し,買収も進まず,変更計画も作成出来ない状況にあり,仮に当該プロジェクトが完成しても採算がとれず,多額の損失が見込まれる。」などと指摘された。 (42)平成7年1月27日の経営会議ア付議事項について平成7年1月27日の経営会議では,審査第三部により,平成6年の大蔵省検査の結果が報告されるとともに,Bグループの分離再編案,同グループの利息支払の3年間凍結,同グループへの人材派遣が付議され,いずれも被告人乙の決定により承認された。 イ経営会議における審査第三部の説明内容- 75 -v部付部長らは,出席者に配布された経営会議資料に基づき,その内容を説明したが,その要旨は以下のとおりである。 (ア)平成6年の大蔵省検査の結果について拓銀としては,検査官に対し,Ⅲ分類先への融資は基本的に不可ということから,Bグループへの融資をⅢ分類ではなくⅡ分類に変更いただくよう最終段階まで折衝したが,検査官の理解が得られず不調に終わり,B㈱,㈱C及び㈱Dに対する拓銀からの貸付金合計392億7500万円のうち,Ⅱ分類(実担部分)が合計178億5200万円,Ⅲ分類(無担部分)が合計214億2300万円と査定されたこと,検査官から示された査定理由は,「茨戸事業の成否がBグループ3社の存否を決めるとの判断からプロジェクトを検証したが, 8億5200万円,Ⅲ分類(無担部分)が合計214億2300万円と査定されたこと,検査官から示された査定理由は,「茨戸事業の成否がBグループ3社の存否を決めるとの判断からプロジェクトを検証したが,あまりにも未定な部分,また今後予想されるハードルが多過ぎ,本事業は頓挫の可能性(ロス発生の可能性)があること,Ⅱ分類は,時間を要するものの,当該貸出が回収できると認められたものであるが,本プロジェクトは,Bの体力も弱く,その成否の見極めがつかないこと,以上から3社とも実担部分はⅡ分類,無担部分はⅢ分類とする。」というものであったこと,さらに,検査官からは,Ⅲ分類先への貸出しについて,「Ⅲ分類先は,本来的に貸増はできないが,経営判断により貸出を実行するということであれば,それはそれでよい。ただし,その結果ロスが出れば,背任とみなす。」と言われたことなどが報告された。そして,審査第三部は,当面,茨戸開発手法の方向転換の見極めがつくまで,Bグループ3社に対する新規貸出しを継続する必要があるが,茨戸事業を継続する場合,大きなハードルがあり,また断念した場合にも当行の信用に関わる大きな問題があり,- 76 -当行にとっても極めて悩ましいものがある旨指摘した。 (イ)茨戸開発計画の今後のシナリオ審査第三部は,茨戸開発計画の進捗状況につき,事業性・採算性のある計画への変更を認めてもらうべく札幌市に対し市街化調整区域での開発から市街化区域での開発手法への変更を内々に要請中であるが,既往の行政での協力姿勢に反する方向でもあり,更に行政内部の問題もあり,非常に悩ましい状況であると報告した。また,その理由につき,「調整区域での開発」方針で既に札幌市に対し,協力要請済みであったところ,方向転換については,元々,行政内部には,調整区域論と市街化区域論が に悩ましい状況であると報告した。また,その理由につき,「調整区域での開発」方針で既に札幌市に対し,協力要請済みであったところ,方向転換については,元々,行政内部には,調整区域論と市街化区域論があったものの,担当部局である企画調整局が調整区域論で押し切った経緯にあり,許認可権限部局との間に確執ある模様で,行政内部での調整が難しく見通しがつかないものである旨詳細に説明した。 その上で,今後の茨戸開発計画について,方向転換を決めたことを契機にa1設計との業務委託契約を解消していた準備会は,B㈱が平成6年9月20日にO地区総合開発プロジェクト基礎調査業務を委託した株式会社H1設計,株式会社I1及び株式会社J1計画研究所からなるプロジェクトチームが打ち出した方向転換によるシナリオ案(中間報告)を受けて,平成7年1月27日の経営会議において,シナリオ0からシナリオ2までの3つの計画案を掲げ,それぞれの長短を分析した結果,茨戸川河畔ゾーンをグリーンベルトの拠点公園・緑地として市街化調整区域のまま整備し,その南側ゾーンを住・商・公の複合ニュータウンとして市街化区域編入により開発,平成11年度に開発行為の許可を得て,平成12年度に事業着手を予定す- 77 -るというシナリオ2が最も妥当であること,ただし,その場合でも収支計算上約165億4300万円の赤字となることを説明した。 (ウ)茨戸開発事業の継続と断念のメリット・デメリットさらに,審査第三部では,茨戸開発事業を継続した場合と断念した場合のメリット・デメリットを配布資料に基づいて説明した。 事業を継続した場合,①未買収地(虫食い部分の土地)約5万3000坪の取得に最低24億円を要すること,②Bグループ3社を存続させることによる赤字補填資金(ただし,茨戸事業関連費用を除く)が年間約 事業を継続した場合,①未買収地(虫食い部分の土地)約5万3000坪の取得に最低24億円を要すること,②Bグループ3社を存続させることによる赤字補填資金(ただし,茨戸事業関連費用を除く)が年間約30億円必要となり,9年間では合計約270億円を要すること,③茨戸事業を継続することにより必要となる造成関係費等の事業継続資金が9年間で合計約273億円を要することなどが見込まれること,農地法や国土法違反問題が噴出する可能性があるが,過去のことは当事者(B,市,農委会,農家,農協等)で対応してもらうことなどが説明された。 これに対し,事業を断念した場合,メリットとしては,①将来ロスの拡大を防げること,すなわち,茨戸事業継続による追加融資(9年間で合計約273億円)をストップできること,金銭消費貸借契約の形をとっている地権者からの回収も一部期待できること(全額ロスとはならない),②Ⅲ分類先への貸し増しをストップできること(背任回避できること),③被告人丙に生き残る途を残せること(これ以上の債務増は自らの首を絞めるだけであり,本業の理美容に戻らせる)などが説明され- 78 -た。他方,デメリットとしては,①スキャンダル表面化の恐れ,②丙氏が自暴自棄となる可能性,③グループ再編検討等が掲げられており,「特に難しいハードル」として,「①当行にも及ぶ可能性のあるスキャンダルを最小限に抑えきれるか(プロジェクトに当初から関与,一体でやった云々,違反の疑いを知りながら土地を買わせた云々,取得資金を無担保で系列ノンバンクを通じて迂回融資云々,司法介入の時は証人喚問の可能性,丙氏が農家に金消の履行を迫れば,農家は市,農委会,農協,ファイナンス<当行>に押しかける可能性),②行政の心配ごと(農地法,国土法違反疑惑スキャンダル)をクリアできるか(行政 証人喚問の可能性,丙氏が農家に金消の履行を迫れば,農家は市,農委会,農協,ファイナンス<当行>に押しかける可能性),②行政の心配ごと(農地法,国土法違反疑惑スキャンダル)をクリアできるか(行政関与,指導不適が議会・マスコミで取り上げられる→スキャンダル化→司法介入(最悪逮捕者)→農水省処分(農転凍結)。当行としては打つ手はない。),③茨戸断念を丙氏に納得させられるか。~丙氏に夢を断念させること」が注記されている。 ウ経営会議における発言要旨aは,経営会議の冒頭,「Bグループ苦況の現状を招いた原因を簡潔に述べるとすれば,体力のない中小の美容院経営者が100億円をかけCというプールを造った。そこでやめとけばまだ生き残れる可能性はあったものを,200億円もかけて何時になったら金になるかわからない後背地を買い込む一方,遠隔地プールの補完宿泊設備をうたい文句にこともあろうに270億円もかけ都市型リゾートホテルを造ってしまった。これら600億円を全て借金でやってしまったことにあると言えます。 私共は平成5年旧総合開発部から当グループの所管を引継し,平成5年7月ホテル建設最終資金59億円の採り上げを経営会- 79 -議に付議した際,本日お諮りするグループ再編方針についても付議しました。この時は,茨戸開発事業が流動的であること,ホテルも出来たばかりで創業間もないこと,そして何よりもグループ再編を丙氏に納得させられないだろうということから『更に詰めた段階で再度付議するよう』指示されました。その後1年半当グループにタッチしてきましたが,残念ながら引継ぎ当初事務方で分析・予想したとおりなかなか明るさは見えてこず,赤字資金・利払資金の追貸しで,将来の貸倒償却資産を積上げしている状況が続いております。説明の中で随所に出てきますが,このグループ 継ぎ当初事務方で分析・予想したとおりなかなか明るさは見えてこず,赤字資金・利払資金の追貸しで,将来の貸倒償却資産を積上げしている状況が続いております。説明の中で随所に出てきますが,このグループを整理するに当たって一番悩ましいのは,単に貸金の損切りだけで済ませられない法律違反をめぐる『政』・『官』・『財』の各界にわたるスキャンダラスな面がつきまとうということだと思います。」と説明した。また,aは,「何故今,解体・分離が必要か。行政が言うようにおかしくなったら地獄を見るよということになる。地獄を見ないために,100億円の損失を覚悟の上でも茨戸開発事業を進めなくてはならない。開発手法の転換が認められたとしても,着工(土地売買)できるのは5年先(平成12年)のことである。この間,Bを生き残すことが必要(死んだら地獄を見る)である。生き残すためには現状で赤字と利息追貸しで40数億円のニューマネーが必要である。しかし,分離し利息減免措置を講ずることでニューマネーを18億円にまで減らすことができる。このニューマネーは償還財源のない直接当行のロス拡大に結びつくものである。MOF検指摘にもある様に背任に問われる資金融資は避けねばならない。」などと述べ,分離再編の必要性を説明した。また,aは,被告人丙について,「赤字については(危- 80 -機の認識が)あると思います。拓銀に行けば資金は出してもらえる,拓銀はBを倒産させれないと思っている,と思います。 」「Gは,丙氏から離れたいと思っている,17億円と24億円返してもらって縁を切りたい,これが本音だと思います。」と述べている。以上の説明に対し,常務取締役h1は,「分離後,年間20億円の利払資金が必要ということですが,特別背任ではないという説明はつきますか。」と質問したが,aは,「ホテルは と思います。」と述べている。以上の説明に対し,常務取締役h1は,「分離後,年間20億円の利払資金が必要ということですが,特別背任ではないという説明はつきますか。」と質問したが,aは,「ホテルは創業間もないから組み立てによってはそれはいえる。 B・C・ホテル三者は三位一体で商売ができる。今後できるかどうかです。どれだけ収益を出せるかで説明つけられるかもしれません。ホテルは300億円の投資で30億円の売上,せいぜい頑張って40億円です。採算はとれない。背負った荷物を身軽にしないと。Cも同じです。」などと述べて,その質問に正面から答えなかったため,h1は「MOF検で指摘された利息の追貸40億円が20億円になるということですが,金額は小さくなっても背任の問題の説明ができなければ同じではないか。金額ではないのではないか。」と重ねて質問したところ,aは,「おっしゃるとおりです。」と答えた。茨戸開発については,bが「農地法・国土法についてはそれなりに掴んでいた。 」と述べたり,h1が「事件は分離しても避けられない。」「分割しても違反が表に出ないという保証はない。」などと述べている。そして,最後に,被告人乙が「茨戸は方向転換でもう一歩進める。」「がっちりやってくれ。皆さん,この方向でやります。いいですね。」などと述べて,付議案件をすべて承認・決定した。 (43)n弁護士と審査第三部の打合せ- 81 -aらは,平成7年3月25日,Bグループの分離再編を巡る問題に関し,n弁護士と打合せをもったが,その際,同弁護士は,Bグループについて,「できるだけ早くつぶしなさい。」とアドバイスした。また,たくぎんファイナンスがBに無担保で茨戸用地買収資金を貸し付けた旨説明したところ,同弁護士は,「たくぎんファイナンスサービスの役職員は商法の特別背任に該 くつぶしなさい。」とアドバイスした。また,たくぎんファイナンスがBに無担保で茨戸用地買収資金を貸し付けた旨説明したところ,同弁護士は,「たくぎんファイナンスサービスの役職員は商法の特別背任に該当する可能性が高い。それを指示した拓銀の役職員は,身分なき共犯である。」と説明した。国土法や農地法違反の公訴時効についての説明もなされ,とりあえず時効を待った方がよい,とにかく問題の噴出を抑えることが大切などとアドバイスした。 (44)平成7年3月28日,同月31日の経営会議等ア平成7年3月28日の経営会議(ア)付議事項について拓銀は,平成7年1月27日の経営会議でBグループの分離再編案が承認されたことから被告人丙と話し合いを続け,Bグループの現状の極めて厳しい経営危機は,ひとえに㈱C,㈱D等に対する著しい過大投資に起因していることを拓銀及び被告人丙は確認すること,B㈱の本業部門(美理容等)とその他部門の分離の早期実現及びそれについての拓銀の協力,Bのホテル賃貸事業引受会社に対する融資及び㈱Dに対する既往融資に関わる金利の一定期間の引き下げ及び支払猶予について可能な範囲での協力,拓銀からの人材派遣(B㈱に代表取締役会長及び専務取締役,㈱Dに代表取締役社長<㈱C代表取締役会長兼務>及び専務取締役<㈱C専務取締役兼務>を派遣)によりBグループの再建協力,ワンマン経営から合議制の実施への移行,- 82 -定款変更,社内ルールの制定及び遵守,労使関係正常化,印章及び現金の拓銀派遣者による管理等を骨子とする「共通確認事項」を策定した。平成7年3月28日の経営会議では,これを被告人丙に示して納得させ,署名を申し受けることなどが付議され,問題点について,顧問弁護士に再確認することが指示事項とされたものの,被告人乙により,承認・決定された 3月28日の経営会議では,これを被告人丙に示して納得させ,署名を申し受けることなどが付議され,問題点について,顧問弁護士に再確認することが指示事項とされたものの,被告人乙により,承認・決定された。 (イ)経営会議における発言要旨aは,「共通確認事項」の位置付けについて,被告人丙と拓銀派遣者の憲法といえること,すなわち,被告人丙が,拓銀派遣者の意向を無視して勝手にやることは目に見えているが,そのとき,派遣者が「共通確認事項」で合意したではないかと言えるものであり,再建にあたって,明日から行く拓銀派遣者にとって,被告人丙に対する一つの歯止めとなることを説明した。 しかし,h1は,「共通確認事項」の文言が抽象的で主観でどうにでもなる,印章預かり・全体の経営執行を派遣者がやるということなら拓銀が全面的に参画し,責任を持つということにならないか,再建は余程環境の好転がないと難しいと思う,貸し手責任を認めたことにならないかなどと述べたほか,「共通確認事項」の文言中に「過大投資故に,Bグループの再建は,共通確認事項を講じてもなお難しいことであること,加えて,予想しがたい外的・突発的要因発生の際にはそれもクリアできなければ再建は覚束無いことを両者は確認した。」とある記載について,「ここまで明確に書いてしまうと貸出しは妥当ですか,事態が難しいことを承知して貸したことを問われる,その証拠になるのではないか,公になるが問題はないか」などと述べた。これに対し,aは,「もう現実に起きていることだ。」- 83 -と答えたが,h1は,「事態が難しいと読み取れる。支援自体が問われるのではないか。後日,証拠となる。」と述べ,なお懸念を表明した。Bグループの再建可能性については,aが「こんな先は再建すべきではないのだ。」「再建計画なんてできないし,作れな 。支援自体が問われるのではないか。後日,証拠となる。」と述べ,なお懸念を表明した。Bグループの再建可能性については,aが「こんな先は再建すべきではないのだ。」「再建計画なんてできないし,作れない,丙氏からは何十年経っても出ない。作れと言ったってバラ色のが出るだけだ。何にもならぬ。このままでは大穴が続くだけだ」と述べたのに対し,h1とaとの間で,h1「守っても守らなくてもいいんじゃないの。再建は不可能では」,a「守ってもらわなければ困る。穴を小さくして引受先を見付けれればということだ。」,h1「不可能なんでしょう。」,a「穴が小さくなったら経営引受の可能性はあろうが今だと引受手はいない。」,h1「今の状況が変われば作ればいいし,破綻したときの対応を考えておく必要がある。」などというやりとりが行われた。また,aは,「改めて言いますが,今,何故Bグループを倒産させないのか。倒産させれば当行の致命傷になりかねない。当行の命運がかかっている。茨戸事業がある。今はぼかしているが,中断すれば市にも累が及ぶ。たくぎんファイナンスで170億円貸しているが,弁護士によれば,特別背任との認識であり,拓銀は身分なき共犯者だと言われている。aさん,Bグループを潰しなさいと弁護士は言った。 一日も早く潰したいが,潰せない。」と説明し,他の役員も「不本意だが潰すに潰せない。現実的な対応としてなんとか歯止をかけながらもたせていく。それでこれが出てきたということでしょう。悩ましいことだ。」などと述べた。被告人乙は,「タッチしてない人,被告人丙に会ったことのない人にとっては実感がなく心配は分かるが,私は今回の件は事前に相談を受け- 84 -ており,VやK1にタッチした経験からいえば,きちんとすべきことはやっておかなければならないというのが反省点であって, っては実感がなく心配は分かるが,私は今回の件は事前に相談を受け- 84 -ており,VやK1にタッチした経験からいえば,きちんとすべきことはやっておかなければならないというのが反省点であって,書面で残しておかなければ確認したことが何もならなくなる」旨述べた。その後の議論の中で,aは,「将来潰しても,今潰してもそれだけで済むならいいが,スキャンダラスな問題がある。表に出なくなれば外科手術をする。」「丙氏が考えているのは『銀行は我々を潰さない。潰せない。』のスタンスだ。 」と述べ,h1は,「再建できないのに金利減免をしながら貸出しをする。矛盾しないのか」などのやりとりがあった。このように,h1は,「共通確認事項」について,反対を表明していたが,最終的に,被告人乙は,「私は常々思っていることだが,経営会議は満場一致でなくてもよい。反対なら反対意見があってよい。」などと述べて,付議案件を承認・決定した。 イ平成7年3月31日の経営会議平成7年3月28日の経営会議で,「共通確認事項」の文案の問題点について,顧問弁護士に再確認することが指示されたため,審査第三部がn弁護士に確認した結果,文言を一部手直しし,それを頭取である被告人乙及び副頭取から被告人丙に対して申し入れたことが報告された。 なお,この経営会議では,「○茨戸プロジェクト問題噴出時秘の対応について」及び「○茨戸プロジェクト問題噴出予想図」秘が資料として配布され,説明がなされた。「○茨戸プロジェク秘ト問題噴出時の対応について」には,「問題噴出のケース」「当行が直接関与する問題」と題して,①「国土法・農地法違反と承知しながら,当行(元)役員が売買契約の立会人として押印している。」,②「国土法・農地法違反となる土地購入資金- 85 -と承知しながらたくぎんファイナンスを通 題して,①「国土法・農地法違反と承知しながら,当行(元)役員が売買契約の立会人として押印している。」,②「国土法・農地法違反となる土地購入資金- 85 -と承知しながらたくぎんファイナンスを通じて貸出ししている。 」,③「当行主導でプロジェクトを進める中で,子会社を通じて保全策も講ぜず,多額の資金を迂回融資をしている。」ことが挙げられており,その対応策として,①は「本契約は3者間の利害関係から表面化する可能性は少ないものと思われる。ケースとしてはB㈱に捜査が入った場合に発覚の恐れあり(丙社長の当行に対する切札となる可能性あり)」,②は「一般的なマスコミ対応は,『停止条件付売買契約の意図は農地の売買ではなく,金消契約の債権保全が目的と聞いており問題ないと理解している。』『資金支援は,地主(農家)が困っている中で,N後背地が荒らされるのを防ぎたいとの社長の気持に沿ったものであり,当方(ファイナンス・当行)としても水と緑の札幌市の計画を考慮して支援した経緯にある。』」とした上,備考欄で「たくぎんファイナンスへの捜査があった場合,現状では抗弁できず対応不可能」とある,③は「現在の保全不足の問題は対応不可能であり,プロジェクトにおける収支試算の納得性如何(株主において内部告発は別にして訴訟に耐えられるような内容整備が可能かどうか疑問)」などとした上,備考欄に株主代表訴訟と記載されている。また,「問題噴出間接要因-Bを通じて当行へ波及」の項目には,「当該土地にかかる個々の地主の納税問題に端を発して,国土法,農地法違反の問題が噴出,すなわち,固定資産税・土地保有税等の支払いに際して,『俺は地主ではない。本当は… 』に端を発する。旧地主の死亡により相続税の問題発生し,被相続人より漏れる可能性等あり。 」「最終的にはB㈱への捜査に至る。B㈱ 定資産税・土地保有税等の支払いに際して,『俺は地主ではない。本当は… 』に端を発する。旧地主の死亡により相続税の問題発生し,被相続人より漏れる可能性等あり。 」「最終的にはB㈱への捜査に至る。B㈱の社内資料の状況不詳ながら帳簿等無防備となっており,内容によっては,たくぎ- 86 -んファイナンス,当行,さらには行政に波及する可能性あり。 死なばもろともの感じで,社長が自暴自棄となり,問題噴出」などの記載がある。 ウ「共通確認事項」の署名被告人丙は,平成7年3月31日,「共通確認事項」に署名捺印した。拓銀からの人材派遣は,B㈱については,代表取締役会長i1,専務取締役v部付部長,㈱Dについては,代表取締役社長(㈱C代表取締役会長兼務)j1,専務取締役(㈱C専務取締役兼務)k1となった。 (45)審査第三部の担当取締役等の変更審査第三部担当取締役であったbは,平成7年6月にたくぎんファイナンスの代表取締役社長に異動し,後任に常務取締役l1が就任した。また,同部の部長であったaは,常務取締役本店営業部本店長に就任し,Bグループの担当から外れ,後任の部長には,審査第三部部付部長m1が昇任した。 (46)平成7年6月5日の経営会議(単純宅造系開発の推進等)拓銀は,平成7年1月27日の経営会議において,h1設計等からなるプロジェクトチームが打ち出したシナリオ案(中間報告)をもとに検討した結果,シナリオ2が最も妥当であることを確認したが,同年4月末ころ,プロジェクトチームから準備会に対し,茨戸地区の北側部分については札幌市の買上げを期待して市街化調整区域のまま公園・緑地として整備し,その南側部分については市街化区域編入を前提として宅地造成等を行うことなどを内容とした基本構想(以下「単純宅造系開発」という。)が示された。これは,シナ 市街化調整区域のまま公園・緑地として整備し,その南側部分については市街化区域編入を前提として宅地造成等を行うことなどを内容とした基本構想(以下「単純宅造系開発」という。)が示された。これは,シナリオ2と同内容のもので- 87 -あるが,同年4月ころには方向転換に激怒していたc1助役らからも「当初の絵に比較すると札幌市にずいぶん負担がかかってきている。虫が良すぎると思う。Gの3万坪に異物感を感じる。商業施設をどう理屈づけるか問題がある。」などと言われたものの「この絵は前よりも対外的に文句を言われることはないと思う。」などと方向転換に理解を示す発言を得られたこともあって,拓銀としてはこのパイロットプランの更なる精度向上を図って単純宅造系開発を推進すること,プロジェクトチームと準備会が業務委託契約を締結することなどを経営会議に付議し,これらが承認された。 この経営会議では,「○茨戸プロジェクト問題噴出時の対応秘について」及び「○茨戸プロジェクト問題噴出予想図」が再び秘資料として提出され説明がなされたほか,市街化区域編入に関しては,特定保留区域である隣接地の東茨戸地区が市街化区域に編入されることが不可欠の条件であるところ,区画整理事業がとんざしており,このままでは平成8年3月には特定保留区域解除となる可能性があり,そうなると茨戸開発計画そのものを断念せざるを得ないことから,今後の展開によっては,その区画整理事業にも関わらざるを得なくなること(この点は,後の平成7年8月7日の経営会議において,極めて憂慮すべき状況と報告され,拓銀としても最優先課題として実施に当たること,L1土地開発株式会社が区画整理事業の業務代行者として名乗りを上げていることなどが説明された。),茨戸開発計画は,札幌市から平成10年3月が市街化編入の見直し時期 最優先課題として実施に当たること,L1土地開発株式会社が区画整理事業の業務代行者として名乗りを上げていることなどが説明された。),茨戸開発計画は,札幌市から平成10年3月が市街化編入の見直し時期だが,そのときに見直してもらうためには平成7年の陳情がタイムリミットであると言われていたことから,年内に陳情し,平成1- 88 -0年3月に線引き決定,平成11年の許認可・着工を経て,平成12年の第1期工事完了以降,段階的な宅地販売を目指し,平成15年ころまでに全体開発を完了させたいこと,札幌市においても過去に厳しい発言もみられたが,最終的に茨戸開発をストップさせる訳にはいかないとの判断があったのか「市の協力は惜しまず,オール札幌市で対応する。」との発言も得られたことなどが説明された。 (47)平成7年7月の日銀考査拓銀は,平成7年7月5日から同月27日まで日銀考査を受けた。拓銀が用意した日銀に対する説明資料では,茨戸開発計画については,「後背地購入に際しては,丙社長において札幌市農業委員会の指導を得て進めてきた経緯にありますが,後日この取得方法が農地法・国土法違反の疑いが出てきました。現在開発プロジェクトは方向転換すると言えども,『推進中である』ということから,特段の問題は表れておりませんが,『ストップした』ということになりますと,農地法・国土法の問題,取得資金の当行支援の問題がクローズアップされ,札幌市に対しても大変な迷惑をかけることが懸念されるところであります。 」,地権者の対応については,「後背地取得において,農地部分については金銭消費貸借契約で対応していたことも事実であり,現状においてそれを担保するものはございません。このプロジェクトのストップを考えますとB㈱の地権者からの資金回収の問題が発生し20数名の地権者において 銭消費貸借契約で対応していたことも事実であり,現状においてそれを担保するものはございません。このプロジェクトのストップを考えますとB㈱の地権者からの資金回収の問題が発生し20数名の地権者において混乱が予想され当行の対応につきましても極めて難しい状況になります。また地権者が騒ぎ出すと市議会,マスコミ等でも違反問題がクローズアップされ,農家自体も違反の当事者の一人となりピンチに立- 89 -つことになります。」などと記載されている。 そして,日銀考査の資産査定においては,Bグループ各社に対する貸付金のうち,担保で保全されている部分(実効担保部分)はS査定,無担保部分はD査定と分類され,平成7年8月17日付け所見では,与信リスクにつき,「御行の経営上重大な脅威となっている。」「現状を判断すると,御行の抱えている問題は極めて大きく,経営は『憂慮すべき状況にある』ものと認められた。」と評され,審査管理上の課題として,「不良資産が増加した背景を個別案件毎に辿ってみると,ある時期から御行自身がプロジェクトの実質的推進主体となってしまったり,あるいは,そもそも御行が融資先を巻き込んでプロジェクトを展開しようとした事例が少なくない。こうした場合には,冷静な審査の目が失われ,多くの関係者を巻き込んで融資額が膨んでしまうため,御行としても引くに引けなくなって傷口を大きくする結果となっていることが多い。個々のプロジェクトあるいはその推進主体から一歩距離をおき,冷静かつ客観的な審査管理の観点を絶えず維持していくことが,与信リスク管理上不可欠である。現在,なお御行自身がプロジェクトの実質的な推進主体となっている事例が散見されており,それぞれにつきやむを得ない事情は理解できるものの,こうした事態ができるだけ早く改善されることを望みたい」と指摘された。 お御行自身がプロジェクトの実質的な推進主体となっている事例が散見されており,それぞれにつきやむを得ない事情は理解できるものの,こうした事態ができるだけ早く改善されることを望みたい」と指摘された。そして,この日銀考査を踏まえて,平成7年8月22日,日銀札幌支店長から拓銀頭取である被告人乙宛に,「不良資産の早期改善・回収に全力を傾注するとともに,審査管理の充実・強化を図り,不良資産の新規発生防止に万全を期すこと,できるだけ早く不良資産の償却を行うこと」に留意した経営再建計画を策定する- 90 -ことを求める内容の「考査結果について」と題する書面が発せられた。 (48)審査第三部がn弁護士らに刑事訴追の可能性等を相談拓銀では,農地法及び国土法の公訴時効は,平成7年8月18日と考えていたので,その旨の確認をn弁護士らにすることになり,審査第三部部長のm1らが,平成7年8月3日ころ,n弁護士らに「○茨戸プロジェクト問題噴出予想図」を示すな秘どして説明し,相談したところ,n弁護士からは,時効完成は平成8年1月25日と考えられる旨説明された。m1は,このことをその後の経営会議で報告した。 (49)Bグループの分離再編実施Bグループは,平成7年3月31日付けの「共通確認事項」に基づき,同年10月末に分離再編が行われた。これに先立ち,同年9月,M1株式会社(以下「M1㈱」という。)が,また,株式会社N1を商号変更してO1株式会社(以下「O1㈱」という。)がそれぞれ設立された。そして,B㈱を分社し,同社の事業のうち,理美容事業等の本業部門をO1㈱に,Nの敷地の賃貸,Eホテルの敷地及び建物の賃貸等の不動産賃貸事業をM1㈱に,それぞれ営業譲渡し,B㈱は茨戸開発用地の取得を行うことになった。なお,O1㈱及びM1㈱の代表取締役社長は拓銀か 1㈱に,Nの敷地の賃貸,Eホテルの敷地及び建物の賃貸等の不動産賃貸事業をM1㈱に,それぞれ営業譲渡し,B㈱は茨戸開発用地の取得を行うことになった。なお,O1㈱及びM1㈱の代表取締役社長は拓銀から派遣されたi1が就任した。 (50)日銀フォローアップ拓銀は,平成7年7月の日銀考査後,平成8年1月ないし4月に日銀フォローアップ等を受けたが,日銀考査局管理課調査役n1からは,同年1月に「Bグループは拓銀のプロジェクト- 91 -の中でも最も厳しいものである。Bグループは増殖性がん細胞だ。出血(貸出しという意味)が止まらない。」,同年2月上旬に「B以下4社につき,利息後払い等で当面残高が増加していない先も含めて,実質的に追い貸し,将来のロス拡大しており,最も危険なカテゴリー」「個社別止血策のイメージを早急に固め,文書及び資料を至急準備願いたい。」,同月下旬に「Bグループについて,現時点で仮に償却するとした場合の償却ボリュームと当行の収益・自己資本に与える影響をシュミレーションしてほしい,前提及び償却のタイミング等はあるが,2~3のケースを選んで提出すること」,同年3月に「日銀内部における懸念材料及び関心事項は,R1,B等のプロジェクトであり,現状では事業収支黒字転換後の処分等を指向しているが,もっと早期に(赤字のうちに)処分する方策は考えられないのか,このまま支援継続していって最終処理時点で当行の体力で本当に負担可能なのか」などと厳しい指摘が繰り返しなされ,追加のロスを出さないようBグループに対する早急な損切り,すなわち融資を打ち切って償却処理することが求められた。 (51)茨戸開発計画の方針変更ア単純宅造系開発の断念拓銀は,単純宅造系開発につき,当初対応の厳しかった札幌市が徐々に前向きに検討するようになってきたことや平 て償却処理することが求められた。 (51)茨戸開発計画の方針変更ア単純宅造系開発の断念拓銀は,単純宅造系開発につき,当初対応の厳しかった札幌市が徐々に前向きに検討するようになってきたことや平成10年3月の市街化区域編入のためには平成8年8月が陳情の最終期限と言われていたことから,茨戸地区の市街化区域編入に向けて札幌市と折衝を重ねていたところ,札幌市の担当者等から,農業振興地域でもある農用地を宅地に転用する理由付けが重要であり,単純な宅地造成を内容とする準備会の構想では,茨戸- 92 -地区を他の地域に優先して市街化区域に編入するのは難しい,市街化区域編入における陳情順位の変更のためにも大義名分となる理由付けが必要である旨伝えられ,茨戸地区の市街化区域編入を正当化できるような大義名分を備えた開発構想を提示するよう求められた。しかし,拓銀は,農業振興地域である農用地の宅地転用の理由付けについて,もとより簡単とはいわないまでも市の長期計画であるグリーンベルト構想にマッチした土地を公園緑地として市に提供すれば何とかなるのではとの期待感もあって,これまで十分な検討をしていなかった。 他方,被告人丙は,札幌市の意向を入れて平成5年11月ころまでには茨戸開発の事業主体から表面上外れることになったが,その後の茨戸開発の方針変更によって札幌市と準備会との交渉が難航し,開発計画が進展しないのに業を煮やし,H1設計等に事業計画案の作成を依頼するなどして独自に茨戸開発の方向性を探っていたところ,H1設計等が茨戸地区に医療・福祉施設等を誘致し,周辺に緊急通信システム等を備えた住宅を配置するなどして住民の福祉に配慮した街造りを行うという福祉系の住宅開発(以下「福祉系開発」という。)を中心とした構想をまとめたことから,これをもとに札幌市上層部と接 急通信システム等を備えた住宅を配置するなどして住民の福祉に配慮した街造りを行うという福祉系の住宅開発(以下「福祉系開発」という。)を中心とした構想をまとめたことから,これをもとに札幌市上層部と接触するようになったほか,平成8年5月ころには,拓銀や準備会に対して,自らの茨戸開発参加を要求するようになった。 拓銀は,上記のとおり,札幌市が要求する大義名分を備えた開発構想を提示することができなかった上,札幌市が福祉系開発に関心を示し,その検討を進め始めていたことから,もはや,従前の単純宅造系開発では,札幌市に陳情しても平成10年3月の市街化区域編入は困難であり,このまま単純宅造系開発を- 93 -進めることはできないとの認識を持つようになった。しかし,他方,拓銀は,被告人丙が進めている福祉系開発につき,極めて耳障りが良いものではあるが,これを遂行するには新たに莫大な追加投資が必要であることは目に見えており,採算性は全く期待できなかった上,計画そのものに不確定な部分が多く,実現性の見通しが立たず,他方,全国的にも例のないモデル事業として世間の注目を浴びることが予想されたことから,事業リスクが極めて大きいと考え,何としてでも福祉系開発への方向転換を阻止しなければならないと考えた。 イ平成8年5月27日及び同年7月1日の各経営会議(ア)茨戸開発計画の方針変更(現況有姿型開発への変更)拓銀は,平成8年5月27日及び同年7月1日の各経営会議において,上記アのような事情から,従前の単純宅造系開発を断念し,開発許認可の時間的制約のない市街化調整区域のままで開発を進める方針に再転換し,札幌市が市街化調整区域のままでの開発を受け入れない場合には,札幌市に対して開発用地の全面買取を要請することなどを決め,「都市と田園(農業)の共生」をテーマ 域のままで開発を進める方針に再転換し,札幌市が市街化調整区域のままでの開発を受け入れない場合には,札幌市に対して開発用地の全面買取を要請することなどを決め,「都市と田園(農業)の共生」をテーマとした,茨戸地区の農地を現状のまま利用することなどを内容とする市街化調整区域内開発(以下「現況有姿型開発」という。)構想をまとめ,札幌市と交渉に当たることとした。なお,平成8年5月27日の経営会議付議案件記録表には,手書きで,「茨戸問題は,一般案件にない難しさへの理解が薄くなっている。ここで再度理解してもらうよう,これまでの経緯を整理して再度付議する必要がある。」との記載がある。併せて,平成8年7月1日の経営会議においては,茨戸- 94 -開発を拓銀主導の準備会で進め,福祉系開発を進めている被告人丙を排除する方針を固めた。 (イ)平成8年7月1日の経営会議における発言要旨審査第三部部長のm1は,冒頭,茨戸開発計画の問題点として「①農業振興地域の農地に手を出したことが最大の過ち。農振地整備法により,農用地としての利用以外には原則として転用できない旨特に明示されている土地である。通常手を出せない地区。②もともと無理な地域に手を出したことから様々な法的問題を抱えていること。大きな問題点としては,国土法と農地法違反疑惑問題,それに伴う貸出しや開発金に絡んで特別背任や株主代表訴訟の問題がある。貸出金は違法ということが出れば特別背任や代表訴訟は極めてやりやすいことです。直接の特別背任はファイナンスの関係者であるが,拓銀の指示が明確なことから,拓銀の当事者は身分なき共犯となり,直接には一部の者だが世間的には拓銀そのものが批判される。現在形式的には繕われているので表立った問題とさせない必要がある。」などと説明した。福祉系開発については,m1が札 事者は身分なき共犯となり,直接には一部の者だが世間的には拓銀そのものが批判される。現在形式的には繕われているので表立った問題とさせない必要がある。」などと説明した。福祉系開発については,m1が札幌市内部では福祉系開発で進んでおり,c1助役は拓銀も福祉系開発を研究しているとの認識であること,拓銀が福祉系開発をやらないことを言った場合,プロジェクトをつぶすことになり,被告人丙が騒ぎ出すこと,かといって,現状では単純宅造系開発は無理であることなどが説明されたが,これに対し,p(このときは専務取締役に就任していた。)は,「資金の面からいえばこのままプロジェクトを止めてしまうのがいい。これについても検討が必要ではないか。」と述べたが,m1は,「地権者の問題がある。地権者は借金の形となっているため返済しなければ- 95 -ならなくなり,騒ぎ出す。」「(丙を)怒らせると(ファイナンスの)貸出そのものについて騒ぐ(告発する)。」などと述べた。 (52)被告人丙に福祉系開発を断念させるための面談拓銀副頭取のu,平成8年6月にl1常務の後任として審査第三部担当取締役となった常務取締役z及びm1らは,同年7月18日,被告人丙に福祉系開発を断念させるため,同人らと面談したが,その席上,被告人丙は,「もし,ここで出来ないということならば,金消契約を整理すべきと思っています。それで良ければ,そうしましょう。私としては,農地法違反の問題を考えると事業を継続する方がリスクはないと思っています。 要は,どちらを選択するかということです。」「もし,行政が認めてくれないのなら『c1さん(c1助役のこと),あなただって行くんですよ』と言うしかありません。」「農地法違反については,皆,針のムシロです。たくぎんさんにとっても大きなマイナスになります。」と発言した ないのなら『c1さん(c1助役のこと),あなただって行くんですよ』と言うしかありません。」「農地法違反については,皆,針のムシロです。たくぎんさんにとっても大きなマイナスになります。」と発言した。 (53)n弁護士に違法問題を相談z及びm1らは,平成8年8月ころ,n弁護士に対し,茨戸開発計画に関する法律違反問題を相談した。 n弁護士は,商法の特別背任罪の構成要件の説明をし,たくぎんファイナンスは本罪が成立する可能性があり,拓銀は身分なき共犯となること,農地法・国土法は公訴時効が成立していることなどを説明した。 (54)茨戸開発計画の方針変更(福祉系開発へ)札幌市は,東茨戸地区の区画整理事業が推進され,市街化区域に編入される見込みが高まったことや被告人丙が進めていた- 96 -福祉系開発に関心を示していたことから,平成8年9月ころ,拓銀に対し,被告人丙と準備会の計画案を一本化して福祉系開発の方向で進めるように要請した。拓銀は,短期間で有力なディベロッパーを探す困難さ,福祉系開発の投資リスク,農地法及び国土法の公訴時効の成立後であり新たに農地取得のリスクを冒したくないことなどから新たな事業リスクは負えないとして,これまでどおり,福祉系開発に消極的な態度を示したが,札幌市が事業リスクの軽減に協力する姿勢を見せたことなどから,追加融資を極力抑えた形での福祉系開発を進める方針に転換した。そして,準備会,札幌市及びB㈱との間で,市街化区域編入を前提に福祉系開発を進めることを合意し,平成8年10月30日,札幌市長宛に市街化区域編入の陳述書に準じる「茨戸地区開発構想概要書」と題する書面を提出した。以上の経緯は,平成8年12月24日の経営会議で報告された。 (55)Bグループからの被告人丙の排除等ア平成9年5月12日の経営会議拓銀 じる「茨戸地区開発構想概要書」と題する書面を提出した。以上の経緯は,平成8年12月24日の経営会議で報告された。 (55)Bグループからの被告人丙の排除等ア平成9年5月12日の経営会議拓銀は,平成7年1月27日の経営会議でBグループの分離再編を決定した後,分社化や人材派遣等を行ってきたが,m1は,平成9年4月ころ,Bグループから被告人丙を排除し,同被告人には本業部門のO1㈱のみに専念させたい旨,被告人乙に進言し,同被告人がこれを了承した。そして,同年5月12日の経営会議において,O1㈱は存続させて被告人丙に任せ,他の会社は拓銀管理下で再建策を構築し,あるいは整理すること,同被告人にこの方針を申し渡すことが決定された(ただし,被告人乙は経営会議には欠席)。 経営会議資料には,この時点で被告人丙を排除する方針に至- 97 -った理由として,①人材派遣等によりBグループの再建に努めたが,被告人丙の独走体制が強まり,事業改善も茨戸開発の遂行も思うようにいかなくなったこと,②環境の変化として,リーガルリスクの薄まりがあること,すなわち,農地法・国土法(疑義)問題は時効が完成し,背任問題は事業継続中で実損未確定であること,③貸出対応と当局(大蔵省,日銀)対応の限界があること,すなわち,Bグループ各社の業績改善に見通しがつかず,年間20億円(利息を含めると30億円)の授信増加について当局への説明もつかず(拓銀では平成9年に大蔵省検査が行われるとの見込みを持っていた。),対応が限界になりつつあり,抜本的な対策が急務であることなどが挙げられている。 また,経営会議では,平成9年5月1日付けでzから審査第三部担当取締役を引き継いだ副頭取のuが,「前任者のz及び被告人乙とも事前に打ち合わせて付議したものであるが,Bにはもうこれ以上の資金 いる。 また,経営会議では,平成9年5月1日付けでzから審査第三部担当取締役を引き継いだ副頭取のuが,「前任者のz及び被告人乙とも事前に打ち合わせて付議したものであるが,Bにはもうこれ以上の資金供与はできない,丙にはっきりこの点を言い渡さなければならない時期にある」と発言し,続けて,m1が「問題は,丙社長という極めて特異な人物がいたということ。併せて,リーガルリスク(農地法,国土法問題)があったということです。丙社長もこれらを銀行の弱みだとして,銀行の言うことを聞かず好き勝手に行動してきました。当行としてはもう我慢の限界にきているということです。」などと説明した。 イ基本合意書の締結uらは,平成9年5月ころ,被告人丙に対し,同月12日の経営会議で決まった被告人丙の排除を伝えるなどしてその決断- 98 -を求めていたところ,同年6月末,被告人丙は,理美容・ブライダル・サウナの本業部門を行うO1㈱に専念し,他の4社(B㈱,㈱C,㈱D及びM1㈱)の役員を降り,印鑑,預金通帳等の必要書類等を所定の先に引き渡して上記4社を完全に手離し拓銀に移すことを承諾した。拓銀は,平成9年7月7日の経営会議の付議・承認を経て,この内容を文書化した「基本合意書」を被告人丙と締結するに至った。 (56)拓銀破たんまでの経緯拓銀は,平成9年10月に大蔵省検査を受けた。また,同年11月上旬,W1株式会社がインターバンク市場でデフォルト(債務不履行)を出したことから,同市場で融資対象とする金融機関の選別が厳しくなり,かねて経営状態が不安視されていた拓銀は,同市場から無担保で資金調達をすることができなくなり,更に日銀準備預金に不足を生じさせるなどした末,同月16日,自力再建を断念し,株式会社P1銀行等への営業譲渡を決議して,経営破たんした。 Bグ 市場から無担保で資金調達をすることができなくなり,更に日銀準備預金に不足を生じさせるなどした末,同月16日,自力再建を断念し,株式会社P1銀行等への営業譲渡を決議して,経営破たんした。 Bグループの財政・経営状態(1)はじめに被告人甲及び同乙の任務違背や自己又は第三者図利目的を判断するには,貸付金の回収可能性の有無を検討する必要があるが,それは,Bグループに担保も含めた債務返済能力があったか否かという問題である。原判決は,第3「概ね争いのない事実」第5項及び第9項,第5「被告人甲にかかる特別背任罪の成否」第1項,第6「被告人乙にかかる特別背任罪の成否」第1項において,Bグループの資産状態,経営状態,融資状況等を主として各社別に判示しているが,Bグループ全体としての- 99 -財政状態及びその推移の把握,同グループ全体としての償却前営業利益及び償却前経常利益の決算期ごとの比較検討が十分とは言い難い。すなわち,Bグループ3社は,いずれも被告人丙が実質的な経営者であり,㈱CがB㈱から土地を賃借してNの営業を行い,㈱DがB㈱から土地建物を賃借してEホテルの営業を行うなど経済的に密接な関係にあり,拓銀やr監査法人も一体として経営評価していたから,融資先企業の債務返済能力を検討するときには,これを再生・再建する場合にその属する企業や部門ごとに財政・経営状態を個別に評価することはあり得るとしても,それ以外の場合には上記のようなBグループの密接な関係からして,これを一体として評価するのが実態に合致し正確であること,拓銀は,経営会議資料において,償却前営業利益及び償却前経常利益の概念を多用しているが,銀行においては,取引先の経営状態をみるとき,営業利益及び経常利益以上にこれらを重視することからすると,Bグループを一体として,そし いて,償却前営業利益及び償却前経常利益の概念を多用しているが,銀行においては,取引先の経営状態をみるとき,営業利益及び経常利益以上にこれらを重視することからすると,Bグループを一体として,そして,償却前営業利益及び償却前経常利益の見地からの検討を十分に行う必要がある。 そこで,以下においては,Bグループの財政・経営状態からみた債務返済能力の有無及び程度を貸借面と損益面から検討することとする。 (2)貸借面からの検討ア貸借対照表上の債務超過額Bグループの財政・経営状態を貸借面から検討するに当たり,最も重視すべきことは,負債の総計が資産の総計を上回っている状態,すなわち,「債務超過」にあるか否かである。債務超過は,計数上,貸借対照表の資産合計から負債合計を控除した- 100 -結果である資本合計のマイナス値として現れるが,これは,会社資産全てを帳簿価格で処分しても負債全額を返済することができなくなった状態をいい,このことは企業の存続が危機的状況に陥ったことを意味する。 そこで,Bグループの各決算期ごとの債務超過額を検討する必要があるが,それには,まず,Bグループ3社の貸借対照表を基礎とし,上記2(49)のとおり平成7年10月に分離再編が行われ,資産や負債が移転されたことに鑑み,それ以降はO1㈱及びM1㈱の債務超過額を加える必要がある。そうすると,貸借対照表上各決算期ごとの債務超過額は,別紙「債務超過額一覧表」1のとおりである。 イ決算期を統一させた場合の債務超過額Bグループ3社の平成5年以前の決算期は統一がとれていないので,Bグループ全体としての財政状態をみるにはその統一を図る必要があるが,本件融資は,平成6年4月以降であり,又,分離再編案が付議された平成5年7月5日の経営会議でBグループの財政・経営状態が詳細に検討 グループ全体としての財政状態をみるにはその統一を図る必要があるが,本件融資は,平成6年4月以降であり,又,分離再編案が付議された平成5年7月5日の経営会議でBグループの財政・経営状態が詳細に検討されていることに照らすと,当面は平成5年の決算期のみを統一して検討すれば足りる。この点,r監査法人は,r報告書において平成5年の決算期を統一させて報告しているので参考になる。r報告書は,後記のとおり開発協力金の一部を把握しきれなかったものの,会計監査法人が専門的かつ中立的立場から検討を加えたもので,かつ,審査第一部もその内容を踏まえて分析・検討しているから,r報告書の内容は基本的に信用できるものというべきである。 r報告書が,Bグループ各社提出の試算表等に基づき,平成- 101 -5年5月末日に決算期を統一して算出したBグループの債務超過額は,B㈱が25億2009万9000円,㈱Cが2億6620万9000円,㈱Dがプラス1億6236万8000円(黒字である),各社合計26億2394万円である。 したがって,公表帳簿においても,平成5年5月末の時点で,Bグループは約26億2400万円の債務超過にあり,深刻な赤字状態であったことが認められる。 ウ公表帳簿と実態の乖離を修正した後の債務超過額上記ア及びイは,貸借対照表等の公表帳簿に基づく結果であるが,公表帳簿は,経理操作や含み益,含み損等により実態と乖離している場合があり,現にr報告書ではその乖離を認め,Bグループに修正を求めており,それを踏まえた修正後の債務超過額を報告している。r報告書が実態との乖離を指摘した事項は多岐にわたるが,一例を挙げると,㈱Cにつき,「同社がG,㈱D1及び㈱Dから受領した開発協力金合計26億5000万円を除いたものが経営の実態とみるべきである。」などである。 の乖離を指摘した事項は多岐にわたるが,一例を挙げると,㈱Cにつき,「同社がG,㈱D1及び㈱Dから受領した開発協力金合計26億5000万円を除いたものが経営の実態とみるべきである。」などである。なお,㈱Cが平成4年11月末までにG等3社から受領した開発協力金は実際には合計36億円であり,r報告書は,開発協力金のうちGからの7億円分と㈱Dからの2億5000万円分の合計9億5000万円分を把握しきれていなかった。 しかし,審査第一部は,r報告書が把握しきれなかった開発協力金についても把握して合計36億円として計算した上,r報告書が乖離として掲げる他の事項をも併せ計算した結果,平成5年8月23日の経営会議において,同年5月末の債務超過額につき,B㈱が37億0800万円,㈱Cが38億8700万円,㈱Dがプラス1億5500万円(ただし,これは,資本金- 102 -15億円のうち13億4500万円を食いつぶしていることを意味する。),合計74億4000万円であると報告した。 ところで,㈱Cが㈱Dから受領した開発協力金は,上記のとおり㈱Cの資産額から控除したので,その分㈱Dの資産額に加算しなければならない。㈱Dは,平成3年11月期と平成4年11月期に各2億5000万円,合計5億円を㈱Cに支払っているから,㈱Dの平成5年5月期の資産額は1億5500万円に5億円を加えた6億5500万円とすべきである。したがって,平成5年5月期のBグループの債務超過額は69億4000万円となる。 もっとも,開発協力金による資産の増減が実態を反映していないのは,平成5年5月期に限ったことではなく,開発協力金を受領した決算期以降のすべての期について同様のことがいえる。そうすると,㈱Cの平成3年11月期及び平成4年11月期は,別紙「債務超過額一覧表」1のとおり,貸借 月期に限ったことではなく,開発協力金を受領した決算期以降のすべての期について同様のことがいえる。そうすると,㈱Cの平成3年11月期及び平成4年11月期は,別紙「債務超過額一覧表」1のとおり,貸借対照表上黒字とはなっているが,各期以前に受領した開発協力金を減算すべきであり,その結果,㈱Cの債務超過額は平成3年11月期が22億1300万円,平成4年11月期が33億1500万円となり,実態的にみると㈱Cは設立以来一貫して債務超過にあったことになる。 結局,平成6年3月期以降も,㈱Cの資産額から受領済みの開発協力金合計36億円を控除,他方,㈱Dの資産額に交付済みの開発協力金合計5億円を加算して計算すると,平成5年5月期以降のBグループの債務超過額は別紙「債務超過額一覧表」2のとおりとなる。 エその他の乖離事項- 103 -その他にも公表帳簿と実態との乖離事項として考慮すべき事項がある。例えば,Bグループの所有不動産に関する含み益及び含み損(平成5年1月25日の経営会議では,Bグループの資産に合計71億5800万円の含み益があるとする一方,同年7月5日の経営会議ではEホテルにつき100億円の含み損があるとする。),茨戸開発関連の用地取得代金等の費用を建設仮勘定に資産として全額計上したことの問題等である。しかし,これらは,明確に数値化するだけの証拠がない部分があり,r報告書もここまでは指摘していないこと,これらを考慮しないことは被告人らに有利になりこそすれ不利にはならないことなどから検討外とし,別紙「債務超過額一覧表」2の数値をもって,Bグループの債務超過額と認定する。 オ小括貸借面からみたB㈱の財政・経営状態は,平成3年5月期(決算日はその月の末日。以下同じ)に初めて債務超過に陥って企業存続の危機的状況となり,以後平成9年3 グループの債務超過額と認定する。 オ小括貸借面からみたB㈱の財政・経営状態は,平成3年5月期(決算日はその月の末日。以下同じ)に初めて債務超過に陥って企業存続の危機的状況となり,以後平成9年3月期まで債務超過が続いた。しかも,債務超過額は,平成3年5月期から平成7年3月期まで増加の一途であり,平成8年3月期に一時減少したものの,それは,平成7年10月のB㈱の分社化により負債の一部が譲渡されたからにほかならず,平成9年3月期には再び増加している。㈱Cは,貸借対照表上は債務超過を免れた決算期があることになっているが,実態は設立以来一貫して債務超過に陥っていた。しかも,債務超過額は増加の一途であった。㈱Dは,平成5年5月期に資産剰余となったが,これは増資による資本金の増加の影響によるものであり,同社の経営にかかるEホテルが平成5年4月1日の開業後は平成9年3月期- 104 -まで債務超過であるから,実質的にみるとEホテル開業当初から一貫して債務超過にあったというべきであり,その額も増加の一途であった。 Bグループ全体でみた場合,平成5年5月期から平成9年3月期まですべて債務超過であり,その額(なお,拓銀の経営会議資料は,百万円以上の数値で示されているので,以下,10万円単位は四捨五入する。)は平成5年5月期が少なくとも69億4000万円,平成6年3月期が128億8600万円,平成7年3月期が190億2300万円,平成8年3月期が191億7200万円,平成9年3月期が230億4400万円であり,増加の一途であった。 したがって,Bグループは,各社すべてが実質破たん状態であり,企業としての存続そのものが危機的な状態であったことは明らかである。 (3)損益面からの検討ア償却前営業利益及び償却前経常利益企業の損益は,通常,「売 プは,各社すべてが実質破たん状態であり,企業としての存続そのものが危機的な状態であったことは明らかである。 (3)損益面からの検討ア償却前営業利益及び償却前経常利益企業の損益は,通常,「売上高」から「売上原価」を控除して「売上総利益」(いわゆる粗利)を算出し,それを出すために必要な営業費用,すなわち,従業員の給料,販売手数料,減価償却費等の「販売費及び一般管理費」(以下「販管費」という。)を控除して「営業利益」を算出し,さらに,通常の営業活動以外の取引,主として金融的効果である受取利息等の「営業外収益」及び支払利息や開業費償却等の「営業外費用」を加減して「経常利益」を算出し,更に特別事情によって生じる「特別損益」を加減するなどして算出される。営業利益は,金融上の収益や費用を含まない企業本来の営業活動の成果を反映す- 105 -るものであり,経常利益は,企業の財務活動をも反映させた利益であるから,金利負担前の利益である営業利益がマイナスに転じることは利息を含めた借入金の返済原資に大きな懸念が生じたことを意味する。詳論すると,Bグループを含む一般企業の場合,営業活動によって得た営業利益から債務の元金や利息を支払うのが通常の姿であるから,営業利益が黒字にならなければ,返済原資がないことになり,企業の資産を取り崩すか新たに借入れをするなどして資金を調達しない限り,債務の返済はできないし,逆に営業利益が黒字の場合であっても,債務が過大で返済原資に満たない場合には,経常利益は赤字となるのが一般である。したがって,債務の返済能力をみるには,当該企業が債務超過にあるか否かに加え,営業利益及び経常利益からの検討が有益であるところ,拓銀では上記(1 )のとおり償却前営業利益及び償却前経常利益という更に細分化した概念を用いているので, ,当該企業が債務超過にあるか否かに加え,営業利益及び経常利益からの検討が有益であるところ,拓銀では上記(1 )のとおり償却前営業利益及び償却前経常利益という更に細分化した概念を用いているので,この点からの検討が必要である。 償却前営業利益とは,減価償却費を経費として計上する前の営業利益をいい,営業利益に販管費である減価償却費を加えて算出される。また,償却前経常利益とは,償却費を計上する前の経常利益をいい,経常利益に営業損益段階で計上した販管費たる減価償却費のほか,営業外費用としての開発費償却,創立費償却等の各種償却費を加えて算出されるものである。企業の損益を分析する場合,償却費は費用であっても現実には社外流出しない費用であって,内部留保という形をみれば利益と同様にみなすことができる点に着目した概念であるが,例えば,営業利益が赤字であっても,償却前営業利益が黒字であれば,減価償却費相当分について,債務の返済は可能であるのに対し,- 106 -償却前営業利益が赤字であれば,通常は返済原資がないことになるから債務の返済は全くできず,かえって企業を存続させるために,元金や利息の返済猶予,利息の免除又は追貸しのほか,営業活動によって生じた赤字を補填するための赤字補填資金の借入れを受けなければならない。また,経常利益が赤字であっても,償却前経常利益が黒字であれば,利息の支払いは終えており,残りの黒字分につき元金返済の余地があるが,償却前経常利益が赤字であれば,赤字分につき利息の支払いができないし元金の返済も不能となる。したがって,債務返済能力という観点からみた場合,償却前営業利益は,単に黒字になればよいというものではなく,その黒字が当該決算期の支払利息を上回り,かつ,元金の返済が可能となる程度に達していなければ,債務の返済原資を生 という観点からみた場合,償却前営業利益は,単に黒字になればよいというものではなく,その黒字が当該決算期の支払利息を上回り,かつ,元金の返済が可能となる程度に達していなければ,債務の返済原資を生み出すことにはならない。 そこで,以下においては,Bグループの償却前営業利益及び償却前経常利益の推移について検討することとする。 イ償却前営業利益について(ア)損益計算書上の償却前営業利益償却前営業利益は,原則として,Bグループ各社の損益計算書に基づいて算出される。ところで,まず,平成6年3月期より前の決算期は不統一である点を検討しなければならないが,一時点での会社の財政状態を示す貸借面と異なり,一定期間を通した経営状態を示す損益面の検討については,貸借面以上に各社の数値の統一は困難である。上記(2)イのようにl報告書によって平成5年5月末の損益状態の統一を図る方法も考えられるが,㈱Cについては会計期間前半の6か月分のみであり,r報告書が自認するとおり,夏場の最盛期を含んでいないので後- 107 -半の成績をみなければ全体を捉え得ないこと,同報告書では減価償却費等が明らかになっていないことなどの問題があり,これにより償却前営業利益を求めることは困難である。したがって,損益面については,ある程度の決算期のずれはやむを得ないものとして検討を進める。 次に,償却前営業利益を算出するに当たっての修正点を検討しなければならない。修正点の詳細は,後記(イ)以下で検討するが,それを踏まえた上でのBグループ3社の償却前営業利益は別紙「償却前利益一覧表」1ないし3の「償却前営業利益欄」(「修正後の償却前営業利益欄」のある期はそれによる。)記載のとおりである。 (イ)B㈱の平成5年5月期の償却前営業利益B㈱の平成5年5月期(会計期間はその月の末日 ないし3の「償却前営業利益欄」(「修正後の償却前営業利益欄」のある期はそれによる。)記載のとおりである。 (イ)B㈱の平成5年5月期の償却前営業利益B㈱の平成5年5月期(会計期間はその月の末日からさかのぼること1年間。以下同じ)の償却前営業利益は,損益計算書と平成5年7月5日の経営会議で報告されたものとでは異なっている。一般に公表帳簿である損益計算書は,実態との乖離が認められる場合があり,現にBグループの場合もr報告書により乖離の存在が指摘されていることや公表帳簿を踏まえた上で審査第一部が経営会議で報告した内容は実態にまで踏み込んだものであることからすると,一般的には経営会議での報告の方がより実態に近いものとして信用できるというべきである。それによれば,減価償却費4億7800万円,営業利益5億7400万円であり,償却前営業利益は10億5200万円である。 さらに,同経営会議資料には,B㈱の本業部門につき,営業利益5億2900万円,償却前営業利益8億3700万円と記載されており,併せて,理美容サウナ等の本業部門は「①合理化,- 108 -効率化の自助努力をすれば,経常利益(償却後)黒字化は可能。 ②資産売却により借入圧縮可能。」と記載されていて,後記のとおり原判決もこの点をとらえて,同旨の判断をしている。 しかし,平成5年7月5日の経営会議での上記報告は,その後実施されたr監査法人による会計監査により誤っていることが判明し,審査第一部は,同年8月23日の経営会議において,r報告書に基づき,誤りを訂正した。すなわち,r報告書によれば「美容,ブライダル,サウナ等の本業部門でも93/5期(平成5年5月期)は,営業利益段階で▲6億1300万円の赤字である。(償却前では▲2億4500万円)」である旨報告され,同年7月5日の審査第一部の 容,ブライダル,サウナ等の本業部門でも93/5期(平成5年5月期)は,営業利益段階で▲6億1300万円の赤字である。(償却前では▲2億4500万円)」である旨報告され,同年7月5日の審査第一部の「本業部門については償却前営業利益が8億3700万円の黒字である」との報告が実は誤りであったことが明確に述べられたのである。さらに,r報告書は,平成5年5月期の本業部門を含むB㈱全体の償却前営業利益についても,別紙「償却前利益一覧表」1の「平成5年5月期」欄記載のとおり減価償却費6億0605万7950円,営業利益▲3億4800万円,償却前営業利益2億5805万7950円としており,平成5年7月5日の経営会議で報告されたものと異なる旨説明され,審査第一部はこの点でも同経営会議での報告が誤りであったとして訂正した。r報告書の信用性が高いことは,上記(2)イのとおりであるから,平成5年5月期の償却前営業利益はこれによって認定すべきである。 (ウ)B㈱の平成6年3月期の償却前営業利益B㈱の平成6年3月期は,㈱C及び㈱Dと決算期の統一を図った関係で会計期間が平成5年6月1日から平成6年3月31日までの10か月しかない。他の期との比較検討を行うため,- 109 -月平均値を12倍することにより年間の修正値を得る方法も考えられるが,1年に満たないとはいえ10か月ある上,同社の平成6年3月期の償却前営業利益は赤字であるから上記修正値よりも同期を10か月分として比較検討した方が被告人らに有利といえる。したがって,平成6年3月期の償却前営業利益は,10か月分ではあるものの別紙「償却前利益一覧表」1の「平成6年3月期」欄のとおり▲20億5572万6371円とすべきである。 (エ)㈱Cの平成5年5月期の償却前営業利益㈱Cの平成5年5月期は,上記(イ) ではあるものの別紙「償却前利益一覧表」1の「平成6年3月期」欄のとおり▲20億5572万6371円とすべきである。 (エ)㈱Cの平成5年5月期の償却前営業利益㈱Cの平成5年5月期は,上記(イ)のB㈱の平成5年5月期と同様,損益計算書と平成5年7月5日の経営会議で報告されたものと異なっているが,実態を反映している同経営会議の報告によるべきであるところ,同経営会議では,償却前営業利益を2億6700万円の黒字と報告した。しかし,審査第一部が償却前営業利益を2億6700万円とした根拠を子細に検討すると,償却前営業利益を算出するに当たって,本来考慮してはならない営業外費用である開業費等償却費3億5000万円を加えているという誤りが認められる。なぜなら,償却前営業利益の場合,営業利益に加算できるのは営業損益科目の減価償却費だけであり,開業費等償却費はそもそも営業損益科目で費用として計上されておらず,これを営業利益に戻すことは前提を欠くことになるからである。現に,拓銀は,その後の平成7年1月27日の経営会議の資料においては,㈱C等の償却前営業利益を算出するに当たり,営業利益に営業損益段階の償却費のみを加算し,開発費等の償却費を加算しないという正しい会計処理を行っているのである。そうすると償却前営業利益を算出- 110 -するに当たっては,開業費等償却費3億5000万円を加算してはならず,それを加算しない場合の償却前営業利益は,別紙「償却前利益一覧表」2の「平成5年5月期」欄の「償却前営業利益」欄記載の▲8300万円となり,赤字であったことになる。 (オ)㈱Cの平成6年3月期の償却前営業利益㈱Cの平成6年3月期の損益計算書に基づく償却前営業利益は,別紙「償却前利益一覧表」2の「平成6年3月期」欄の「償却前営業利益」欄記載の▲899 なる。 (オ)㈱Cの平成6年3月期の償却前営業利益㈱Cの平成6年3月期の損益計算書に基づく償却前営業利益は,別紙「償却前利益一覧表」2の「平成6年3月期」欄の「償却前営業利益」欄記載の▲8996万6403円であるが,この期は,B㈱及び㈱Dと決算期の統一を図った関係で会計期間が平成5年12月1日から平成6年3月31日までの4か月しかないため,修正を要する。もっとも,上記期間は4か月と短い上,Nのプール利用客の多い夏場の最盛期を含んでいないから,月平均値を12倍してみても正確な数値といえるかは疑問がある。そこで,平成6年3月期の実態をみるには直近の前後の期をそのまま流用する以外になく,その場合,平成5年11月期の償却前営業利益が▲5271万0443円であるのに対し,平成7年3月期のそれが▲6796万8787円であり,被告人らに有利なのはマイナス幅が小さい平成5年11月期であるから,平成5年11月期の数値をそのまま流用すべきである。したがって,平成6年3月期の償却前営業利益は,別紙「償却前利益一覧表」2の「平成6年3月期」欄の「修正後の償却前営業利益」欄記載の▲5271万0443円とすべきである。 (カ)㈱Dの平成5年5月期の償却前営業利益㈱Dの平成5年5月期は,上記(イ)のB㈱の平成5年5月期- 111 -と同様,損益計算書と平成5年7月5日の経営会議で報告されたものと異なっているが,同経営会議で報告された数値を採用する。ところで,同経営会議資料は,平成6年3月見込みとして年間営業利益を▲29億円と推計している。そして,同経営会議資料では経常利益と償却前経常利益がいずれも▲30億円と同額表示されているが,これはとりもなおさず営業利益の段階でも経常利益の段階でも償却費はなかったことを意味するから,同期の営業利益及び償却前 議資料では経常利益と償却前経常利益がいずれも▲30億円と同額表示されているが,これはとりもなおさず営業利益の段階でも経常利益の段階でも償却費はなかったことを意味するから,同期の営業利益及び償却前営業利益は,▲29億円と推計される。他方,同じ経営会議資料には,平成5年4月及び5月の実績に基づく営業利益を▲3億5200万円と算出している部分があり,この月平均値を12倍した年間営業利益は▲21億1200万円となる。これは,同年4月にEホテルが開業したことに基づくいわゆるご祝儀宴会等による売上げ増加分が入っているものの,上記▲29億円と推計される営業利益に比し,マイナス幅が小さく,被告人らに有利な数値であるから,平成5年5月期の償却前営業利益の算出に当たっては,この実績分を採用することとする。そうすると,上記と同様に,同期の営業利益及び償却前営業利益は,別紙「償却前利益一覧表」3の「平成5年5月期」欄のとおりいずれも▲21億1200万円となる。 (キ)分社化による修正以上によれば,Bグループ3社の各決算期別の償却前営業利益は,別紙「償却前利益一覧表」1ないし3の「償却前営業利益欄」(修正後の償却前営業利益欄のある期はそれによる。)記載のとおりである。 しかし,平成7年10月のB㈱の分社化により,同社の債務- 112 -がO1㈱とM1㈱に引き継がれた部分があるため,Bグループ全体の損益をみるには,平成8年3月期以降は両者の償却前営業利益を加算しなければならない。両社の償却前営業利益は,それぞれ各社の損益計算書に基づき計算されるが,それを踏まえて,Bグループの平成5年5月期以降の償却前営業利益をまとめると別紙「償却前利益一覧表」4のとおりである。 (ク)小括Bグループの償却前営業利益は,平成5年5月期が▲19億3700万円,平 まえて,Bグループの平成5年5月期以降の償却前営業利益をまとめると別紙「償却前利益一覧表」4のとおりである。 (ク)小括Bグループの償却前営業利益は,平成5年5月期が▲19億3700万円,平成6年3月期(ただし,B㈱については10か月分)が▲41億7200万円,平成7年3月期が▲28億6700万円,平成8年3月期が▲14億1200万円,平成9年3月期が▲6億7200万円となっている。このように償却前営業利益は平成5年以降すべて赤字である。その赤字額は,平成6年3月期に大幅な増加がみられた後は減少傾向にあるが,上記アのとおり,減少傾向にあったとしても赤字である以上,債務の元金はおろか利息の支払いすらできないわけであり,債務返済能力がないことに変わりがないから,減少傾向をもって債務の返済が可能となるような経営改善がなされたとかその期待がもてるようになったなどということはできない。 ウ償却前経常利益について(ア)前提事項について償却前経常利益も,原則としてBグループ各社の損益計算書に基づいて算出される。B㈱の平成5年5月期の償却前経常利益は,同年7月5日の経営会議資料には誤りがあり,それが訂正された同年8月23日の経営会議で引用されたr報告書に基づくべきであること,平成6年3月期は会計期間が平成5年6- 113 -月1日から平成6年3月31日までの10か月しかないが,被告人らの利益のため,月平均値を12倍することにより年間の修正値を得る方法ではなく,10か月分をもって同期の損益とみなすこと,㈱Cの平成5年5月期の償却前経常利益は同年7月5日の経営会議資料に基づいて算出すべきであること(なお,償却前経常利益の場合,償却前営業利益でみられた上記イ(エ)のような算出過程の誤りはない。),平成6年3月期は上記イ(オ)のように 同年7月5日の経営会議資料に基づいて算出すべきであること(なお,償却前経常利益の場合,償却前営業利益でみられた上記イ(エ)のような算出過程の誤りはない。),平成6年3月期は上記イ(オ)のようにその前後期をそのまま流用するしかないが,償却前営業利益の算出で平成5年11月期を流用したため,ここでも同期を流用すること,㈱Dの平成5年5月期は同年7月5日の経営会議資料に基づいて算出するが,上記イ(カ)のように,同年4月及び5月の実績分として報告された経常利益及び償却前経常利益▲3億7100万円の月平均値を12倍して算出される▲22億2600万円を経常利益及び償却前経常利益とすべきことなど,償却前経常利益を算出するにあたって考慮しなければならない事項は上記イの償却前営業利益で述べたところと同じである。 以上によれば,Bグループ3社の償却前経常利益は,別紙「償却前利益一覧表」1ないし3の「償却前経常利益欄」(修正後の償却前経常利益欄のある期はそれによる。)のとおりである。 (イ)茨戸開発関連の支払利息に基づく修正Bグループ各社は借入金により事業を継続しており,その支払利息は,各社の損益計算書の「営業外費用」の「支払利息」に計上されているが,茨戸開発関連の支払利息に関しては,損益計算書上は「支払利息」に計上せず,B㈱の貸借対照表の「- 114 -有形固定資産」の「建設仮勘定」に資産として計上されている。 支払利息は償却前経常利益を算出する場合,これを控除しなければならないところ,上記のように茨戸開発関連の支払利息は損益計算書で考慮されていないため,B㈱の損益計算上これを控除しなければならない。 茨戸開発関連の支払利息は,B㈱の補助元帳及び総勘定元帳の茨戸土地金利等の数値をもとに,総勘定元帳の「土地」記載が補助元帳の建設仮勘定の「茨戸 ため,B㈱の損益計算上これを控除しなければならない。 茨戸開発関連の支払利息は,B㈱の補助元帳及び総勘定元帳の茨戸土地金利等の数値をもとに,総勘定元帳の「土地」記載が補助元帳の建設仮勘定の「茨戸土地代」と「茨戸土地金利」に振り替えて記載されている場合があることなどの重複記載の考慮,すなわち過年度支払済み分の控除等の修正を施した上,1年の会計期間に満たない平成6年3月期については月平均値による修正を加えず,そのまま10か月分の数値を使用するなど償却前営業利益で述べたところと同じ計算方法により算出される。それによれば,茨戸開発関連の支払利息は,別紙「償却前利益一覧表」1の「茨戸開発関連の支払利息」欄記載のとおりである(ちなみに,茨戸開発関連の支払利息以外の支払利息は平成5年7月5日の経営会議資料,各社の損益計算書等を根拠にして,分社後はO1㈱及びM1㈱の支払利息額を加算するなどして算出されるが,その額と茨戸開発関連の支払利息を合計すると,Bグループ全体の支払利息は,平成5年5月期40億5600万円,平成6年3月期35億8200万円,平成7年3月期39億1700万円,平成8年3月期26億0700万円,平成9年3月期18億8600万円となる。)。 そして,茨戸開発関連の支払利息を控除した後のB㈱の償却前経常利益は,同表1の「最終の償却前経常利益」欄のとおり,平成5年5月期▲20億8600万円,平成6年3月期(ただ- 115 -し,10か月分)▲47億8600万円,平成7年3月期▲44億9100万円,平成8年3月期▲23億7400万円,平成9年3月期▲6億1000万円となる。 (ウ)分社化による修正償却前営業利益の場合と同様,平成7年10月の分社化を考慮し,平成8年3月期以降は,O1㈱及びM1㈱の償却前経常利益を加算しなければな 9年3月期▲6億1000万円となる。 (ウ)分社化による修正償却前営業利益の場合と同様,平成7年10月の分社化を考慮し,平成8年3月期以降は,O1㈱及びM1㈱の償却前経常利益を加算しなければならない。以上によれば,Bグループの平成5年5月期以降の最終的な償却前経常利益は別紙「償却前利益一覧表」5のとおりである(エ)小括Bグループの償却前経常利益は,平成5年5月期▲50億8900万円,平成6年3月期(ただし,B㈱については10か月分)▲75億8200万円,平成7年3月期▲66億5900万円,平成8年3月期▲39億0400万円,平成9年3月期▲23億5900万円となっている。このように償却前経常利益は,平成5年以降すべて赤字である。その赤字額は,平成6年3月期に大幅な増加がみられた後は減少傾向にあるが,これは,金利の下落のほか,分社化に伴う利息の支払方法の変更による影響がある。すなわち,Bグループは,平成7年10月ころから実施した分社化に伴い,既存債務の多くについて,利率を下げるとともに,利息を後払いとし,平成10年3月にまとめて支払うこととした結果,後払いとされた利息分については,それまでの間,帳簿上支払利息を計上する必要がなくなったことから,償却前経常利益の赤字幅が減少したに過ぎない。 もとより償却前経常利益が赤字である以上,債務の利息及び元金の自力返済も不可能であり,通常の営業活動では債務の返済- 116 -能力がないことに変わりはない。 (4)Bグループの借入金残高及び保全不足額Bグループの借入金残高は,Bグループ3社の各貸借対照表の借入金の合計額に平成7年10月の分社化を考慮し,平成8年3月期以降はO1㈱とM1㈱の各貸借対照表の借入金をも加えて算出されるが,拓銀は,Bグループの借入金残高やその内訳を詳細に把 各貸借対照表の借入金の合計額に平成7年10月の分社化を考慮し,平成8年3月期以降はO1㈱とM1㈱の各貸借対照表の借入金をも加えて算出されるが,拓銀は,Bグループの借入金残高やその内訳を詳細に把握し,経営会議で報告していたから,特段の事情のない限り,経営会議資料に記載があるものについては,それによって認定すべきである。そうするとBグループの借入金残高及び保全不足額は,別紙「借入金残高等一覧表」のとおりである。 もっとも,平成6年3月期の㈱Cの保全不足額は,同年5月16日の経営会議資料では11億8900万円の担保余力がある旨記載されており,Bグループ3社の保全不足額は合計339億3200万円と記載されているが,これは,拓銀が,㈱Cに対し,Nなど㈱CやB㈱が所有する不動産に根抵当権を設定するなどしており,その実効担保価格を48億9700万円と評価していたことによる。しかし,平成6年8月ころに実施された大蔵省検査の際,担保不動産の評価を見直した結果,実効担保価格は29億4600万円にとどまることが判明したため,同年10月31日及び同年11月7日に融資した合計1億8500万円(本件融資4番号1)の融資の際,急きょ,諸貸出申請書に保全不足額を訂正加筆の上,投融資会議の決裁に回されるという事態に至った。したがって,実質的には,平成6年3月期の㈱Cの貸付金についても7億6200万円の保全不足の状態にあったものとみるべきである。同様に,平成5年7月5- 117 -日の経営会議において,㈱Cの保全不足額につき16億0500万円の担保余力があり,Bグループ3社の保全不足額は合計216億2600万円と報告されているが,同じく担保評価見直し前のものであるから,これをそのまま採用することはできない。Bグループの実質的な担保は不動産だったが,既にこ ループ3社の保全不足額は合計216億2600万円と報告されているが,同じく担保評価見直し前のものであるから,これをそのまま採用することはできない。Bグループの実質的な担保は不動産だったが,既にこの時期はバブル経済の崩壊により不動産価格が下落の一途にあったから,同経営会議で報告された額よりも保全不足額が多かったことは間違いないといえるが,その金額の詳細は証拠上不明である。 (5)総括ア平成5年5月末時点のBグループの財政・経営状態Bグループは,平成5年5月末の時点で,債務超過額が少なくとも69億4000万円,償却前営業利益▲19億3700万円,償却前経常利益▲50億8900万円,借入金残高552億9300万円であり,支払利息(茨戸開発関連のものを含む)だけでも年間40億円に達していた。 Bグループの債務超過額だけをみても,69億4000万円と膨大なものであり,既にこの時点で,同グループの全資産を処分しても負債全額を返済することは到底不可能であって,同グループが実質破たん状態であったことは明白である。また,本来であれば,通常の営業活動によって利益をあげ,その中から借入金や利息を支払うのであるが,この時点の借入金は552億9300万円(利息も含めると593億4900万円)にも上り,逆に債務の返済原資を生み出すべき償却前営業利益は19億3700万円の損失であったから,Bグループに債務返済能力など全く存在しなかったことは一目瞭然である。すなわ- 118 -ち,これを仮に10年で分割弁済するにしてもBグループは,年間,元金分55億2900万円,利息分4億0600万円,合計59億3500万円を支払わなければならないことになるが,上記の償却前営業利益の状況では自力による年間の分割額の支払いは不可能であるばかりか,営業を継続すること 0万円,利息分4億0600万円,合計59億3500万円を支払わなければならないことになるが,上記の償却前営業利益の状況では自力による年間の分割額の支払いは不可能であるばかりか,営業を継続すること自体が不可能であって,拓銀から赤字補填資金の融資を受けなければ直ちに倒産してしまう状況にあったものである。この点は,上記2(29)イ(ア)のとおり平成5年7月5日の経営会議において,Bグループの今後1年間の資金需要として赤字補填資金及び茨戸開発借入金利の合計69億円,上記2(31)イのとおり同年8月23日の経営会議において,同グループの年間需資が合計61億1300万円とそれぞれ報告されており,拓銀から少なくとも毎年61億円以上の赤字補填資金の借入れがなければ同グループの営業を継続できないことが明らかにされている。aは,上記2(29)ウのとおり平成5年7月5日の経営会議の冒頭,「Bグループは,どの事業も収支大幅マイナスであり,実質倒産状態にある。当行が融資をストップすればすぐに倒産してしまう状況にある。」と述べており,いみじくも同グループの資産・経営状態を的確にかつ鋭く突いている。このように,平成5年5月末時点におけるBグループは,少なくとも69億円にも達する大幅な債務超過額を抱え,償却前営業利益の段階でも膨大な赤字であったから,同グループが実質破たん状態であり,自力の債務返済能力など全く存在しなかったことは誰の目から見ても明らかであった。 イ平成6年3月期以降のBグループの財政・経営状態Bグループの債務超過額は,平成6年3月期に128億86- 119 -00万円となり,その後の決算期でも平成7年3月期190億2300万円,平成8年3月期191億7200万円,平成9年3月期230億4400万円と増加を続けた。償却前営業利益は,平 - 119 -00万円となり,その後の決算期でも平成7年3月期190億2300万円,平成8年3月期191億7200万円,平成9年3月期230億4400万円と増加を続けた。償却前営業利益は,平成6年3月期に▲41億7200万円と大幅に損失額が増えた後,平成7年3月期▲28億6700万円,平成8年3月期▲14億1200万円,平成9年3月期▲6億7200万円と減少した。同様に償却前経常利益も平成6年3月期に▲75億8200万円と高い損失額を示した後は平成7年3月期▲66億5900万円,平成8年3月期▲39億0400万円,平成9年3月期▲23億5900万円と減少した。 償却前営業利益及び償却前経常利益のマイナス幅は,平成6年3月期をピークにその後減少に転じているが,それは,上記(3)ウ(エ)のとおり平成7年10月の分社化に伴い,平成10年3月まで利息の支払時期を先送りしたことが影響している。 また,これらが減少傾向にあったとしても赤字である以上,元金はおろか利息の支払いすらできない状況にあったこと,すなわち,Bグループに債務返済能力がなかったことに変わりはない。そればかりか,Bグループは,拓銀から赤字補填資金の融資を受け続けなければ経営そのものが成り立たない状況にあったものである。確かに,拓銀は,平成5年4月に㈱Dの代表取締役社長としてtを送り込むなどBグループへの人材派遣を実施し,資金的にも全面的にバックアップしてその経営改善を進めたため,償却前営業利益及び償却前経常利益の赤字は減少したものの,マイナス幅は,最大値である平成6年3月期と最小値の平成9年3月期を比較すると償却前営業利益で約35億円,償却前経常利益で約52億円程度である。これに対し,債務超- 120 -過額は,平成5年5月末時点で69億4000万円であったものが 小値の平成9年3月期を比較すると償却前営業利益で約35億円,償却前経常利益で約52億円程度である。これに対し,債務超- 120 -過額は,平成5年5月末時点で69億4000万円であったものが平成9年3月期には230億4400万円となり,161億0400万円の増加,借入金残高も平成5年5月末時点で552億9300万円であったものが平成9年3月期には825億5100万円となり,272億5800万円の増加であり,償却前営業利益及び償却前経常利益の赤字幅の減少など全く問題とならないほどの増加を示している。結局,償却前営業利益及び償却前経常利益の赤字幅が減少傾向であることをもって,Bグループの経営状態が改善傾向にあったとか,債務返済能力が向上したなどとは到底いえない状況にあったことは明らかである。 以上のBグループの財政・経営状態からすると,原判決が,平成5年7月5日の経営会議当時におけるBグループの経営改善の可能性として,B㈱の本業部門について,黒字基調であり,経費削減や保有資産売却による借入圧縮等の施策を行うことにより,償却後経常損益の段階でも黒字化に転換することが見込まれたとし,㈱Cについて,償却前営業損益の段階では利益を計上し,3億円程度であれば利払い可能であった上,それまで何ら抜本的な売上げ増強策や合理化,効率化策が検討されたことがなかったことから,営業努力や合理化などの経営改善に取り組ませることにより,償却後営業利益を計上することも可能であると見込まれたとし,㈱Dについて,黒字化への転換は見込めなかったものの,開業直後で,何ら業務改善に着手していなかったことから,売上げ増強策や経費削減策を実施すれば赤字幅を圧縮する余地が十分にあったことが認められる,との判示は,B㈱の本業部門については,同会議における審査第一- 業務改善に着手していなかったことから,売上げ増強策や経費削減策を実施すれば赤字幅を圧縮する余地が十分にあったことが認められる,との判示は,B㈱の本業部門については,同会議における審査第一- 121 -部の誤った報告を前提とし,同年8月23日の経営会議における報告を無視したものであり,㈱Cについても,原判決自身,審査第一部の検討結果として,平成5年6月時点において,売上げが一向に改善されない上,開業後の設備資金の負担などから赤字補填資金の借入れを余儀なくされていることが判明したと判示していることや,同年7月5日の経営会議で,実力ベースの経常利益(修正後)の黒字化は至難と報告していることとも整合しないばかりか,上記のとおり,償却前営業利益が2億6700万円の黒字との報告自体が本来加算してはならない開業費等償却費3億5000万円を加算した誤りの結果であり,実際には8300万円の赤字であって,償却後営業利益を計上することも可能と見込まれたとの判断は前提を誤ったものである。そして,㈱Dについても,黒字化への転換が見込めず,赤字幅を圧縮する余地があるというに過ぎない以上,㈱D自体としても債務返済能力が向上したということはできないのであり,まして,Bグループとしての債務返済能力について,その向上が期待できる状況になかったことは明らかである。 そして,後記第2の5「被告人甲の自己又は第三者図利目的について」の(2)「被告人甲の自己図利目的について」のカ「融資の継続は拓銀の損失の極小化を図るためか否か」の項で詳述するように,平成5年7月5日の経営会議で,審査第一部から,茨戸開発による収益は必ずしも期待できず,拓銀のBグループに対する貸付金の回収につながらない可能性がある旨報告されている。 以上検討したように,Bグループの財政・経営状態は 会議で,審査第一部から,茨戸開発による収益は必ずしも期待できず,拓銀のBグループに対する貸付金の回収につながらない可能性がある旨報告されている。 以上検討したように,Bグループの財政・経営状態は,被告人甲が決定した本件融資1及び2の時期,さらに,被告人乙が- 122 -決定した本件融資3ないし5の時期においても変わらなかったばかりか,上記のとおり,その債務返済能力はますます悪化を続けたと認められる。 被告人甲及び同乙の任務違背について(1)はじめに原判決は,被告人甲及び同乙の任務違背を認定したが,被告人乙及び同丙の各弁護人は,各答弁書において,これを争っている。また,被告人甲は,原審及び当審公判廷において,任務違背の事実はなかった旨供述している。そこで,任務違背の有無について,以下検討することとする。 (2)被告人甲及び同乙の任務の内容等拓銀の頭取である被告人甲及び同乙のように,広く一般国民から預金を集めそれを貸し出すことを業とする金融機関において融資の可否を決定する立場にある者は,預けた預金及び利息が保証されるという預金者からの信用が失われることがないように,融資を行うに当たり,あらかじめ融資先の財政状態,経営状態等を精査し,確実かつ十分な担保を徴するなどして,拓銀が回収不能による損害を被らないよう貸付金の回収に万全の措置を講ずる任務を負うものと解される。したがって,貸付金の回収可能性に懸念のある先への融資の判断は慎重になされるべきであるし,仮に融資を行う場合でも十分な担保を徴求して回収不能による損害が生じないように努めるべきである。また,融資申込み先が破たん状態にある場合,回収は不可能若しくは著しく困難といえるから,謝絶も含め極めて慎重に対応することが求められる。この点を具体的にいうと,金融機関としては, めるべきである。また,融資申込み先が破たん状態にある場合,回収は不可能若しくは著しく困難といえるから,謝絶も含め極めて慎重に対応することが求められる。この点を具体的にいうと,金融機関としては,破たん先企業へ融資する場合には,その融資における新たな損- 123 -害発生を防止するに足りる措置を講ずるべきであって,少なくともその融資分について確実に回収できるだけの追加担保を徴求すること,それができない場合には,その融資により融資先企業の近い将来における再建が十分に見込まれ,その結果,より多くの貸付金の回収が可能であるとの再建計画が実現可能であるとの十分な検討と金融機関としての取組みが要請されるのであり,再建計画の実現が危ぶまれる場合には新たな融資は実行すべきではないというべきである。被告人甲及び同乙は,拓銀の頭取として上記の任務を有しており,融資によって銀行に損害を加えることのないよう慎重かつ適切にその可否を決定し,誠実にその職務を遂行しなければならない責務があったものと認められる。 被告人甲及び同乙は,銀行員として,また,拓銀の役員として長年勤務し,頭取にまで上り詰めた豊富な知識と経験を有する経済人であるから,貸出の基本原則,とりわけ,その中核をなす経済性の原則のうちの安全性(以下「安全性の原則」という。)を待つまでもなく,頭取としての上記任務を十分認識し理解していたはずであり,被告人3名の各弁護人もこの点は争っていない。加えて,拓銀は,上記2(12)のとおり平成3年12月ころの日銀考査で厳しい指摘を受けたことなどを契機に被告人甲の指示によりバブル期の融資のあり方を検証した結果,上記2(13)のとおり「バブル経済下の経営(まとめ)」を作成し,大口与信先に対する取引方針の確立と見直しなどを図り信用リスク管理を徹底することの の指示によりバブル期の融資のあり方を検証した結果,上記2(13)のとおり「バブル経済下の経営(まとめ)」を作成し,大口与信先に対する取引方針の確立と見直しなどを図り信用リスク管理を徹底することの重要性を指摘するとともに,「安全性の原則等貸出の基本原則の遵守による原点への回帰の徹底」の方針を打ち出し,全行員にその周知徹底を図ったことか- 124 -らも明らかなように,被告人甲及び同乙は,とりわけバブル崩壊期における安全性の原則を遵守する必要性及び重要性を再確認したばかりであった。 (3)被告人甲の頭取在任中の任務違背についてBグループの財政・経営状態の推移は,上記3のとおりであるが,平成5年7月5日の経営会議において,aが冒頭,「Bグループは,どの事業も収支大幅マイナスであり,実質倒産状態にある。当行が融資をストップすればすぐに倒産してしまう状況にある。」と述べて同グループ各社が債務超過にあることを説明したことに続き,上記2(29)イ(ア)のとおり,経営会議資料に基づき,その詳細が説明された。すなわち,Bグループの平成5年5月末の借入金残高が552億9300万円,そのうち拓銀グループからの借入金は482億2700万円を占めており,拓銀グループの借入金に対する保全不足額は216億2600万円(実際は上記3(4)のとおり,㈱Cの保全不足額がより多いはずであり,その結果,Bグループの保全不足額もより多額になっていたものと認められる。)で約45パーセントが保全不足にあること,Bグループ3社はB㈱の本業部門を除いて営業利益及び経常利益とも赤字であり,今後1年間の資金需要として3社の赤字補填資金び茨戸開発借入金利の合計69億円の融資を要すること,これに茨戸開発用地買収資金等も含めると178億円の融資が必要となり,金利だけでも年間4 字であり,今後1年間の資金需要として3社の赤字補填資金び茨戸開発借入金利の合計69億円の融資を要すること,これに茨戸開発用地買収資金等も含めると178億円の融資が必要となり,金利だけでも年間40億円に達すること,したがって,このまま被告人丙に経営を続けさせることはできず,早急に同グループの分離再編を実施する必要があることが説明された。また,同年8月23日の経営会議では,上記2(31)イのとおりr報告書に基づき,唯一黒- 125 -字と見込んでいたB㈱の本業部門も実は償却前営業利益の段階で赤字であった,B㈱に対する協調融資が不可能となった,Bグループ3社の赤字補填資金等の年間需資は約61億円を見込んでいるなどとする報告がなされた。さらに,平成6年5月16日の経営会議では,同年3月期のBグループの借入金残高696億3800万円,そのうち拓銀グループからの借入金は629億2800万円を占めており,拓銀グループの借入金に対する保全不足額は339億3200万円(実際は上記3(4)のとおり㈱Cの保全不足額を誤って評価していたから,正しくは358億8300万円の保全不足額となる。)で約54パーセントが保全不足にあること,Bグループの営業利益・経常利益とも赤字であることなどが報告された。 以上のように,本件融資に先立つ平成5年の時点ですでにBグループは債務超過に陥っており,被告人甲の頭取在任中もその額は増加し,同グループは大幅な借入金を有し,拓銀グループからの借入金については大幅に担保割れの状態であった上,Bグループ各社の事業はすべて赤字で,拓銀以外からの融資が見込めないなど,その債務返済能力がないことは明らかであった。そして,そのような財政・経営状態のBグループに対し,漫然と実質無担保の融資を続けることが頭取の任務に違背することは明 以外からの融資が見込めないなど,その債務返済能力がないことは明らかであった。そして,そのような財政・経営状態のBグループに対し,漫然と実質無担保の融資を続けることが頭取の任務に違背することは明らかであり,被告人甲も幾多の経営会議において繰り返しその説明を受けていた上,何よりも審査第一部は,平成5年7月5日の経営会議において,実質破たん状態で赤字たれ流しのBグループ各社を早急に分離再編しなければならないと力説し,被告人甲自身もその必要性を認識していたことは,原審及び当審公判廷において自認している。ところで,被告人甲は,- 126 -本件融資1及び2の各融資以前において,ホテル建設資金やN後背地取得資金の融資を重ねて拓銀グループからの融資を拡大してきたところ,その間,平成3年の大蔵省検査や日銀考査で後背地取得資金の融資について指導力に欠けた融資である旨,あるいは,それにより企業体力を一段と弱める結果になったと指摘され,また,その後のBグループの財政・経営状態が上記のとおり債務返済能力を欠いていたのであるから,これを知っていた被告人甲が,いかにそれまで協調融資の実現を指示したり,茨戸開発に関する許認可の見込みを心配したり,被告人丙の経営からの排除と拓銀からの人材派遣等の必要性を述べて,実際にt社長を派遣するなどしても,現実に債務返済能力が回復していない以上,Bグループに実質無担保で更なる融資を継続し拡大することは,拓銀に新たな損害を発生させるもので,頭取としての任務に違背することは明らかであり,上記のとおり,被告人甲がBグループの分離再編の必要性を認識していたと述べていることに照らし,同被告人が本件融資1及び2に関し頭取の任務に違背することを認識していたものと認められる。 この点に関し,原判決は,融資の可否を判断する場合,回収 再編の必要性を認識していたと述べていることに照らし,同被告人が本件融資1及び2に関し頭取の任務に違背することを認識していたものと認められる。 この点に関し,原判決は,融資の可否を判断する場合,回収の確実さが最も重視されるべき要素であることは当然であるが,他方で銀行の有する公共的な使命,殊に,拓銀が道内におけるリーディングバンクの地位にあったことを考慮すると,当該取引先への融資を打ち切ることによって生じる地域経済等への影響についても,一定程度考慮することも許されるというべきであると判示している。しかし,銀行の公共性は,もともと預金者保護や信用秩序の維持を中核としている上,拓銀の貸出業務取扱規程に,貸出業務が信用秩序及び国民経済に対して広く深- 127 -い関係を持ち,多彩な影響を与えることから,経済性の原則を堅持しながら公共的使命の達成に努めなければならないとあるように,経済性の原則,中でも,その中心である安全性を無視することは絶対に許されないのであって,公共性の名の下に回収の見込みのない融資が許されることにはならないのであり,また,融資の打切りによって当該取引先が倒産し,それまでの貸付金が回収できず,あるいは,その従業員が失職し,さらには,当該取引先の取引企業等にも影響を及ぼすことは避けられないところ,それを理由に回収見込みのない融資をしても通常は破たんを先延ばしするに過ぎないから,結局は,上記のとおり,破たん先企業への融資が許されるのは,その融資による新たな損害発生を防止するに足りる措置を講じ,近い将来における破たん先企業の再建が十分に見込まれ,その結果,より多くの貸付金の回収が可能となる場合に限られるべきである。そして,本件融資の際,Bグループの再建が十分に見込まれるような状況になかったことは明らかであり,この点につ が十分に見込まれ,その結果,より多くの貸付金の回収が可能となる場合に限られるべきである。そして,本件融資の際,Bグループの再建が十分に見込まれるような状況になかったことは明らかであり,この点について,被告人甲は,平成5年7月5日の経営会議における審査第一部の分離再編案の説明等により明確に認識していたものと認められる。 なお,B㈱の平成5年5月期の償却前営業利益は別紙償却前利益一覧表1及び4のとおり2億5805万7950円の黒字であるが,同期の償却前経常利益は同表1及び5のとおり20億8629万4939円の赤字であるから,B㈱はすでに平成5年5月期において,債務の返済原資を生み出すだけの財政・経営状態になかったのであり,この点は,平成5年7月及び8月の各経営会議における審査第一部の報告により,被告人甲は十分認識していたものである。 - 128 -(4)被告人乙の頭取在任中の任務違背について被告人乙は,被告人甲ら他の役員とともに同じ経営会議に出席し,同じ説明を受けていたばかりか,平成3年のバックファイナンスに審査担当部署の担当取締役として関わり,あるいは,平成5年7月5日の経営会議にBグループの分離再編案を付議する審査第一部の担当取締役として事前にその説明を受けて付議することに了承を与えるなど事務方とも直接接点をもってBグループの案件を処理する立場にあったものである。したがって,被告人甲以上に,融資による新たな損害発生を防止するに足りる措置を講じない限り,Bグループに対する無担保融資が許されないことを認識できたはずであり,本件融資中被告人乙が最初に関わった本件融資5番号1が始まる前までにはそれが頭取の任務に違背することを十分に認識していたといえる。しかるに,頭取に就任した被告人乙は,被告人甲が行ってきたBグループに対する融 告人乙が最初に関わった本件融資5番号1が始まる前までにはそれが頭取の任務に違背することを十分に認識していたといえる。しかるに,頭取に就任した被告人乙は,被告人甲が行ってきたBグループに対する融資路線をそのまま継承し,かたや債務超過額も借入金額も年々増加し,平成7年3月期には拓銀グループからの借入金は684億4100万円と約2年前の平成5年5月期よりも約200億円増加し,拓銀からだけの借入額も415億9200万円と同様に約163億円増加し,拓銀からの借入金に対する保全不足額は233億0100万円,割合にして約56パーセントが保全不足に陥っているという状態の中,その後も更に融資を続けたのである。しかも,被告人乙は,平成6年の大蔵省検査において,上記2(41)のとおり,e1検査官から「Ⅲ分類先に追加融資をすることは客観的にみると背任行為に当たる。」旨言われたとの報告を受けながら,なおも実質無担保の融資を続けていたのであって,このような融資が,頭- 129 -取の任務に違背することは明らかであり,同被告人がそのことを認識していたことも優に認められる。 (5)弁護人らの損失極小化等の主張について被告人乙及び同丙の各弁護人は,各答弁書において,営業改善努力及び茨戸開発の開発利益を貸付金の返済原資に充てれば,直ちにBグループを倒産させる場合よりもより多くの貸付金の回収が期待でき,拓銀の損失の極小化につながるから,茨戸開発の実現を見込んだ本件融資に任務違背は認められないという。 しかし,後記5「被告人甲の自己又は第三者図利目的について」の(2)「被告人甲の自己図利目的について」のカ「融資の継続は拓銀の損失の極小化を図るためか否か」の項で詳述するように,Bグループは,営業改善努力によって既存の貸付金を含めその返済が期待できるような経営状 「被告人甲の自己図利目的について」のカ「融資の継続は拓銀の損失の極小化を図るためか否か」の項で詳述するように,Bグループは,営業改善努力によって既存の貸付金を含めその返済が期待できるような経営状態になかった上,唯一残された茨戸開発の利益による貸付金の返済という途も,その茨戸開発の実現可能性が高いとはいえず,採算性も認められないことなどに照らせば,それが任務違背に当たらないという弁護人らの上記主張は採用できない。 (6)総括以上のとおり,被告人甲及び同乙が,それぞれ頭取として行った本件融資は,いずれも拓銀の頭取としての任務に違背するものであり,各被告人にその認識があったことは優に認められる。したがって,両被告人にそれぞれ任務違背を認めた原判決の結論に誤りはない。 被告人甲の自己又は第三者図利目的について(1)はじめに原判決は,要旨,「被告人甲が,遅くとも本件融資1及び2- 130 -を実行した時点において,ホテル建設資金及び平成3年のバックファイナンスにかかる各融資等,総合開発部所管当時に行ったBグループに対する融資がずさんなものであったことを認識し,かつ,後悔の念を抱いており,Bグループに対するずさん融資の実態が表面化することをできれば避けたいとの心情を有していたこと,茨戸開発用地の買収方法に農地法違反等に絡む問題が内在しているとの認識を有していたことは認められるが,ずさん融資や農地法違反等の問題が表面化することを殊更恐れ,それに伴う経営責任の追及を回避する目的で本件融資1及び2を行ったと認定するには合理的な疑いが残る。上記融資は,被告人丙及びBグループに利益をもたらすものであったけれども,被告人甲と同丙との間に,被告人甲が殊更被告人丙の利益を図らねばならないほどの個人的癒着があったとか,同被告人から利益の提 上記融資は,被告人丙及びBグループに利益をもたらすものであったけれども,被告人甲と同丙との間に,被告人甲が殊更被告人丙の利益を図らねばならないほどの個人的癒着があったとか,同被告人から利益の提供を受けていた事実は認められないことなどに照らすと,被告人甲は,拓銀の利益のために上記融資を行ったと認めるのが相当であり,Bグループや被告人丙の利益を図るといった第三者図利目的が主たる目的であったと認めるには合理的な疑いが残る。」と判示する。また,被告人甲の弁護人は,答弁書において,融資を行ったのは拓銀の将来における債権回収の極大化を目指すためであり,拓銀本人の利益を図ったものであるから図利加害目的は存在しない,と主張する。 これに対し,検察官は,Bグループに対する融資の打ち切りを契機として表面化するホテル建設資金等のずさん融資や農地法違反等の問題,そして,それに伴って生じる社会的・道義的責任及び民事責任の追及等に深い憂慮の念を抱いた被告人甲が,それら不祥事の表面化や責任追及を回避するために,経営者と- 131 -しての責任を放棄して問題の先送りを図り,本件融資1及び2を実行したものであるから,同被告人が自己図利目的を有していたことは明らかである,また,Bグループは,本件融資当時,実質倒産状態にあり,他の金融機関から融資を受けることなど全く考えられない状態にあったから,同グループに対し,無担保で融資を行うこと自体,同グループ各社に特別の利益を与えるものであり,被告人甲が第三者図利目的を有していたことも明らかである,という。 そこで,被告人甲の自己又は第三者図利目的の有無について,以下検討することとする。 (2)被告人甲の自己図利目的についてア自己保身目的特別背任罪の自己図利目的は,自己の財産上の利益を図る場合のみならず,問題の 自己又は第三者図利目的の有無について,以下検討することとする。 (2)被告人甲の自己図利目的についてア自己保身目的特別背任罪の自己図利目的は,自己の財産上の利益を図る場合のみならず,問題の表面化により,これまで培ってきた自己の地位又は信用の失墜,あるいは,自己に対する社会的・道義的責任,民事・刑事責任等の追及を回避すること,すなわち,自己保身の目的を含むと解される。本件では,被告人甲に自己の財産上の利益を図る目的があったとは認められないが,それ以外の上記のような自己保身目的が存在するか,それを同被告人が認識・認容していたかが問題となるところ,本件においては,一方において,実質破たん状態にあり現状のままでは赤字補填資金や茨戸開発借入金利等が累増するだけで,既存のものを含め貸付金の回収が望めないBグループに対する本件の各融資が頭取の任務に違背することは上記のとおりであり,他方において,被告人甲には,いずれも被告人丙やBグループとの間に個人的な癒着等が認められず,本件各融資を通じてその利益- 132 -を図るべき事情がないという状況があり,そのような中で何故被告人甲が頭取としての任務に違背する本件各融資を実行したかが問われているものである。そこで,被告人甲の自己保身目的の有無を判断するには,上記の視点に加えて,具体的にはホテル建設資金等のずさん融資と茨戸開発に関わる農地法違反等の問題,さらには,被告人らの各弁護人が,本件融資は,拓銀の損失の極小化を図る目的,すなわち,拓銀本人のためにされたものであると主張していることに関連して,その返済原資に織り込まれた茨戸開発の実現可能性やその採算性等について,以下検討することとする。 イホテル建設資金等の融資について原判決は,上記(1)のとおり,ホテル建設資金等の融資がずさんなも の返済原資に織り込まれた茨戸開発の実現可能性やその採算性等について,以下検討することとする。 イホテル建設資金等の融資について原判決は,上記(1)のとおり,ホテル建設資金等の融資がずさんなものであった旨認定する。これに対し,被告人甲の弁護人は,答弁書において,上記融資を決定した平成3年3月当時は,北海道ではバブル崩壊の現実的兆候が現れる前であり,いわゆるリゾート法によって全国的にリゾート開発が盛んに行われていたなどの時代背景に照らせば,ずさんな融資には当たらないという。また,被告人丙の弁護人は,被告人甲にはホテル建設資金等の融資がずさんな融資との認識がなかったという。 そこで,まず,ホテル建設資金等の融資は,客観的にみてずさんな融資に当たるか否かを検討し,次に,被告人甲がそれを認識・認容していたか否かを検討する。 (ア)客観面からの検討ホテル建設資金は,上記2(8)のとおり,平成3年3月28日の会議で,125億円の融資を行うことが決定されたことを皮切りに続けられるようになったものであるが,Eホテルの売- 133 -上げの低迷は,景気後退による利用客の減少という時代背景的な要因というよりは,同会議の時点で,既に存在していた採算性に対する重大な疑問が現実化したものというべきである。すなわち,第1に,札幌市中心部から遠く離れ,冬季の気候条件の悪い地域に,210億円の巨費を投じて,上記2(2)アで説示した大規模な都市型高級リゾートホテルを建設すること自体,採算性に疑問があった上,建設費210億円に対し,自己資金は5億円程度で全体の3パーセントにも満たない状況であり,銀行がホテルの建設費等を融資する場合に通常要求する自己資金約3割に遠く及ばず,建設資金のほとんどを借入金で賄うという極めて異例なものであったから,その金利負担だけ ーセントにも満たない状況であり,銀行がホテルの建設費等を融資する場合に通常要求する自己資金約3割に遠く及ばず,建設資金のほとんどを借入金で賄うという極めて異例なものであったから,その金利負担だけを考えても採算性に問題があることは明らかであった。なお,平成3年3月28日の会議では,総合開発第一部の資料により,茨戸開発計画に参加を表明しているGグループ等からの開発協力金等合計71億円が二,三年内に入る見通しにあり,これがホテル建設資金の借入金に内入れされた場合,30パーセントが自己資金で賄われることに相当するとされており,確かに,平成2年5月,Gが㈱Iから茨戸地区の土地約3万坪を購入する土地売買予定契約を締結し,証拠金として1億2000万円を支払い,その後同年11月の開発業務委託契約に基づき,開発準備金5億円を支払っているものの,上記土地売買予定契約は,市街化調整区域の指定解除や国土法等の届出・許可を前提とし,茨戸開発の実現性に連動しており,実際には,後記カ(イ)のとおり,これを自己資金に組み入れたり,それを前提に採算性に疑問がなかったとは到底いえないものであった。第2に,拓銀は,ホテル建設資金の融資につき,北東公庫及び長銀との協調- 134 -融資を予定していたところ,協調融資は,それが正式に成立し,または内諾が得られてから融資を実行するのが通例であり,殊に不動産開発等のプロジェクト融資の場合には,これが整わない限り,着工を認めないのが原則とされていた。しかるに,拓銀は,昭和62年6月のN建設の際には,北東公庫,長銀等から協調融資を行う旨の確約を得た後に拓銀負担分の融資を決定していたのに,ホテル建設資金については,合理的な理由もなく,他行の内諾を待たず,単独融資を先行させた。第3に,銀行は,大規模農地における開発事業の場 を行う旨の確約を得た後に拓銀負担分の融資を決定していたのに,ホテル建設資金については,合理的な理由もなく,他行の内諾を待たず,単独融資を先行させた。第3に,銀行は,大規模農地における開発事業の場合,とんざするのを避けるため,あらかじめ地権者全員から土地の取得の同意を得ること及び関係官庁から開発許認可が確実に下りるという見込みがなければ融資を実行しないのが通例であるところ,茨戸開発用地は,平成3年3月の時点では,後に拓銀が破たんした時点においても全体の約15パーセントの未買収地を残していたことからも明らかなように相当部分の土地取得が未了であった上,未買収地には開発予定地の中心付近の農地が含まれていた。第4に,平成3年3月28日の会議で,総合開発第一部は,上記2(8)アのとおり,茨戸開発により得られる開発利益をホテル建設資金の返済原資に織り込んだ収支計画を説明したが,そもそも茨戸開発の対象地は法律によって開発が厳しく制限された地域でありその開発は著しく困難であった。すなわち,上記対象地は,市街化調整区域内の農地であるから開発(農地以外のものにする転用目的での売買)を行うには農地法5条により都道府県知事の許可を要するが,対象地は2ヘクタールを超える農地であったため,農林水産大臣の許可を得なければならなかったこと,転用許可基準を定めた農林事務次官通達(昭和44- 135 -年10月22日44農地B第3165号)によれば,上記対象地は原則転用許可を認めない甲種農地及び乙種農地の第1種農地であったこと,更に上記対象地は農振法の規定する農業振興地域に属し,上記対象地の一部は農用地等として利用すべき地域とされる農用地区域内にあり,農用地利用計画で指定された用途以外には使えない土地であったこと(農振法17条),農業振興地域を開発するには 地域に属し,上記対象地の一部は農用地等として利用すべき地域とされる農用地区域内にあり,農用地利用計画で指定された用途以外には使えない土地であったこと(農振法17条),農業振興地域を開発するには数年に一度行われる農業振興地域の指定の見直しや農林水産大臣に対し農業振興地域の指定解除を求める方法によることとなるが,それらは事実上極めて難しいとされていた。以上のように,Eホテルの建設を認めることになるホテル建設資金の融資は,既に平成3年3月28日の会議の時点において,①立地条件等の悪さ及び自己資金の低さ,②協調融資が成立していない状態での先行融資,③返済原資に織り込んでいた茨戸開発そのものの実現の困難さという問題が存在し,その採算性に重大な疑念があった上,担保も新設ホテルの建物(第2順位),土地(第5順位)で,被告人丙と㈱Iを保証人とするに過ぎないなど,安全性にも疑問があった。これらの問題は,通常,融資を謝絶すべき事情であり,それにもかかわらず,実質無担保でその融資を行うことは,客観的にみて,ずさんな融資に当たるといえる。 (イ)被告人甲の認識ところで,上記(ア)の①及び②は,銀行員であれば誰でも一応は懸念する問題である上,③の頼みの綱の茨戸開発の実現性についても事務次官通達のような詳細はともかく,市街化調整区域内の農地の開発が許認可の関係で難しいものであることは銀行員の常識ともいうべきことであって,被告人甲も原審公判- 136 -廷において,このような問題点の存在を認識していた旨認めていること,ホテル建設資金は,平成2年11月13日の経営会議(上記2(6)ア)から平成3年3月28日の会議(上記2(8)ア)までわずか4か月半で155億円から210億円に増えたのに対し,自己資金は逆に10億円から5億円に減っていること,同日の の経営会議(上記2(6)ア)から平成3年3月28日の会議(上記2(8)ア)までわずか4か月半で155億円から210億円に増えたのに対し,自己資金は逆に10億円から5億円に減っていること,同日の会議において,資金証券部は,上記2(8)アのとおり,「不稼働資産の積み増しとなる案件には消極とせざるを得ない。」と出資案件に実質消極意見を述べていたこと,総合開発第一部でさえも「Eホテルの事業収支は自己資金5億円だけなので,通常ではなかなか採算ラインに乗らないものと懸念される。」と説明したこと,上記2(8)ウのとおり,同会議の席上,役員から立地条件の悪さや自己資金の低さを心配する意見がいくつか出されたほか,o資金証券部長の採算性を疑問視する意見に対し,gが理由にならない理由で同部長を叱責するという一幕があったことなどに照らすと,同日の会議において,被告人甲が,Eホテルの採算性を懸念したであろうし,その建設資金を融資した場合,確実な返済の見込めない融資であると認識すべき多くの事情があったというべきである。しかし他方,被告人甲は,原審公判廷において,協調融資は間違いなく実現できると考えていた,Gの進出計画があり,開発許認可も早期に取得可能と考えていたと供述しており,同日の会議の資料にも,総合開発第一部が北東公庫及び長銀との協調融資を予定し,あるいは,茨戸開発対象地が市街化調整区域から特定保留地域へ指定変更になり,札幌市が認める地域開発計画は実現する可能性が極めて高くなっていると記載されている上,Nの建設の際は問題なく協調融資が整っていたこと,さらにはこれまで業- 137 -績を上げていたf副頭取らが推進する案件であることなどから,その報告どおりに認識し,楽観的な見通しを持つことも十分あり得ることからすると,同被告人が上記公判供述のよう にはこれまで業- 137 -績を上げていたf副頭取らが推進する案件であることなどから,その報告どおりに認識し,楽観的な見通しを持つことも十分あり得ることからすると,同被告人が上記公判供述のように考えていたと判断する余地がある。そうすると,同被告人が,同日の会議において,ホテル建設資金の融資を決定したことは,その時点では,それがずさんな融資であるとの認識を有していたとまで認定することはできない。 しかし,被告人甲は,遅くとも,本件融資1及び2の始まる前までには,ホテル建設資金等の融資がずさんな融資であったことを十分に認識し,かつ,後悔していたことは,以下の理由から明らかである。 a協調融資の推移総合開発第一部のmは,上記2(9)アのとおり,平成3年4月上旬から北東公庫及び長銀に対し,協調融資の申入れを続けたが,両行の承諾を得られないまま,平成4年7月27日の経営会議では,Eホテルの追加工事費24億円のうち12億円を融資すること,両行負担分を含め協調融資額を増額することが決定された。その際は,「昨年来より両行に融資参加を検討願っているが,事業計画がなかなか固まらなかったこと,Eホテルを含む茨戸地区総合開発計画の許認可取得の見極めができなかったことなどから,具体的検討には至っていなかったが,現在は詳細検討に入っている。」などと報告されたが(上記2(15)イ),平成4年12月ころ,bは,北東公庫から協調融資には応じられない旨告げられ,再検討を要請し,平成5年1月25日の経営会議においては,「長銀は受けてくれると思うが,北東公庫は支店段階では駄目だったので本店に行って説明して- 138 -きた。」などと報告した。これに対し,被告人甲は,「ホテルの段階から当行一行でやっていく腹づもりはない。スタートから他行の資金の導入を図る必 階では駄目だったので本店に行って説明して- 138 -きた。」などと報告した。これに対し,被告人甲は,「ホテルの段階から当行一行でやっていく腹づもりはない。スタートから他行の資金の導入を図る必要あり。北東公庫,長銀を絡める必要がある。」「北東公庫,長銀のファイナンス実現しないとダメである。」「土地を売って自己資金捻出では実現性の問題から北東公庫,長銀は乗ってこない。」などと述べ,協調融資を実現する必要性を強調し(上記2(20)ウ),bに対し,改めて北東公庫や長銀に要請に行くよう指示した。なお,被告人甲は,原審公判廷において,bに指示したことはない旨述べるが,w次長が,平成5年1月25日に北東公庫に協調融資の要請に行った際の同公庫作成の同日付け面談録及びその翌日に長銀担当者が北東公庫に来て,拓銀の協調融資依頼について意見交換をした際の北東公庫作成の同日付け面談録によれば,拓銀担当者が,北東公庫及び長銀に対し,頭取の指示で協調融資の要請に参上した旨述べていたことは明らかであるから,被告人甲の上記供述は信用できない。さらに,被告人乙(当時,専務取締役)は,平成5年2月中旬,被告人甲の指示により,北東公庫の副総裁を訪ね,協調融資を依頼したが事実上謝絶され,被告人甲にその報告をするとともに(上記2(21)),北東公庫及び長銀の協調融資負担分を拓銀がつなぎ融資することを決定した同月22日の経営会議においても,「あまりいい感触ではない。 『拓銀も困っているから何とかしてやりたいが,将来,土地を売って借入を返済していくという事業収支も問題あり』と北東公庫としても悩んでいる。ホテルの設備投資ほぼ全額を借入して調達していくのは無謀だ。自己資金を作る等しないとだめだ。 」「ホテル建設費の45億円のつなぎ融資はつなぎ融資とは言- 139 -い切 東公庫としても悩んでいる。ホテルの設備投資ほぼ全額を借入して調達していくのは無謀だ。自己資金を作る等しないとだめだ。 」「ホテル建設費の45億円のつなぎ融資はつなぎ融資とは言- 139 -い切れない。北東公庫,長銀が気持ちがあっても,やりようがない。」などと述べて協調融資が難しい旨説明した(上記2(22)イ)。これに対し,被告人甲は,「先々の設備投資については資金を出さない。」と述べつつ,Bグループへの人材派遣により協調融資の活路を見出すべきであると述べて,なおも協調融資に希望をつなぎ,北東公庫及び長銀のホテル建設資金負担分合計45億円を拓銀がつなぎ融資することを決定したのである(上記2(22)ア及びイ)。しかも,翌23日には,総合開発部担当取締役bが,長銀札幌支店長宛にホテル建設資金の融資に関し「貴行にご支援いただきました折は,元利金のご返済につきご迷惑のかからぬよう十分配慮いたす所存でございます。 」と記載した書面を「株式会社北海道拓殖銀行常務取締役b」名義で交付し,協調融資のリスク分散機能を放棄してでも協調融資をまとめようとしている。これらの行動は,被告人甲の指示ないし意向に基づくものと考えられる。しかし,北東公庫は,平成5年6月22日,拓銀に対し,事業として採算にのらない,既存事業特にEの赤字が大きすぎるなどとして,協調融資を実質的に謝絶するに至り(上記2(28)イ),その旨被告人甲及び同乙に報告されたほか,同年7月5日の経営会議において,審査第一部から「北東公庫及び長銀からの資金調達は困難であり,全額拓銀の負担となる可能性大である。」との報告を受け,被告人甲は改めて協調融資が不可能であることを認識させられ(上記2(29)(エ)),更に同年8月23日の経営会議でも北東公庫及び長銀から協調融資には応じられない旨の正式 大である。」との報告を受け,被告人甲は改めて協調融資が不可能であることを認識させられ(上記2(29)(エ)),更に同年8月23日の経営会議でも北東公庫及び長銀から協調融資には応じられない旨の正式回答があった旨の報告を受けたものである(上記2(31)イ及びウ)。このように,協調融資は,日を追うごとに可能性がなくなり,被告- 140 -人乙でさえも,検察官調書において,平成5年2月22日の経営会議では,被告人甲の気持ちを考慮してソフトな表現で報告したものの,実質的には100パーセントの謝絶であり,同日ころは既にEホテルが完成したころで,この段階での謝絶だから,もはや協調融資は絶望的との思いがあった旨供述し,原審公判廷においても,「私個人は,当時協調融資は相当難しいなという認識は持っていたと思う。協調融資は,本来的には,ホテルが着工する前に合意しているべきもので,これは金融としての常識,あるいは銀行員としての常識というか基本。平成5年2月ころは,Eホテルは完成間近のときであり,このときに協調融資をうんぬんすること自体,やはり相当無理がある。もう,ここまで協調融資ができないということは,可能性としては極めて低いと認識していた。」旨供述しており,協調融資が絶望的であった旨一貫して認めているが,被告人甲のみはその実現に固執して,それが実現した場合にも両行に迷惑が及ばないような配慮さえしていたものである。 以上のとおり,平成3年3月28日の会議以後,平成5年8月23日の経営会議に至るまでの間,拓銀のBグループ所管部は,被告人甲の強力な指示の下,北東公庫及び長銀に繰り返し協調融資を要請したが,結局,両行から謝絶され,協調融資は成立しなかった。そして,協調融資が成立しなかったということは,北東公庫及び長銀が,いずれもホテル建設資金等の融資 北東公庫及び長銀に繰り返し協調融資を要請したが,結局,両行から謝絶され,協調融資は成立しなかった。そして,協調融資が成立しなかったということは,北東公庫及び長銀が,いずれもホテル建設資金等の融資は採算性の見込めない融資であると判断したこと,換言すれば,拓銀の融資決定が誤っていると評価したことを意味し,このことは,協調融資を謝絶した理由につき,北東公庫関係者が,「ホテル建設計画の借入金金利負担が重く,立地条件等から売上- 141 -げがさほど見込まれず,ホテル単体での採算見込みがないこと,関連施設であるNの業績も不良であること,茨戸開発計画があるものの対象地は市街化調整区域で多くが農地であり,許認可取得が極めて困難な状態にあるなど事業遂行可能性は極めて低いことをあげて,協調融資の謝絶は当然でありそれ以外の結論はなかった,いくつかの改善策を講じたとしても計画全体のフレームを抜本的に見直さなければ本件案件の成算が疑問視されることに変わりはない。」と述べ,長銀関係者が,「借入人リスク,ホテルプロジェクト事業収支リスク,後背地開発プロジェクトリスク,社会的リスク」をあげ,「立地条件の悪さ,開発許認可がなく,用地買収も完了していないため採算の見込みが立てられるような状態になく,そもそも融資の検討をするような案件ではなく,門前払いをするような内容だった。」と述べていることから明らかである。加えて,拓銀のkやw次長らBグループを所管する事務方ですら,長銀担当者から協調融資にこだわる理由を尋ねられた際,Eの件はマスコミでも書かれており,順次進めて行かざるを得ない,地元政府系と長期専門銀行の参加する協融プロジェクトという位置付けにしたい旨述べ,要するに,融資を中断することによるマスコミからのずさん融資の批判を回避するとともに複数行が採算性 行かざるを得ない,地元政府系と長期専門銀行の参加する協融プロジェクトという位置付けにしたい旨述べ,要するに,融資を中断することによるマスコミからのずさん融資の批判を回避するとともに複数行が採算性や事業の優良性を肯定したことを意味する協調融資の成立という体裁を整えることにあることを明かしているのであって,このことからしてもホテル建設資金等の融資がずさんな融資であることをうかがわせている。 以上のとおり,被告人甲の決裁によるホテル建設資金の融資は,平成3年3月の時点ではずさんな融資であるとの認識が同- 142 -被告人にあったとまではいえないが,当初,総合開発第一部が協調融資の予定などと報告していたものが,その後,拓銀の再三にわたる強力な要請にもかかわらず,北東公庫及び長銀は一向に応諾せず,ついには採算性がない,茨戸開発も実現可能性が極めて低いなどとして謝絶するに至って,2年以上も協調融資が成立しないばかりか,開発許認可も得られず,対象地の完全取得の見通しも立たない状況で,Eホテルの建設と茨戸開発用地の買収,そして,拓銀からの融資だけが進んでいるという現状に直面し,被告人甲自身,原審公判廷において,平成3年3月28日の時点で,その立地条件の悪さを考えなかったわけではないと述べていること,もともと協調融資は金融機関の足並みがそろってから着工させるのが常識であるのにそうしなかったこと,さらには,茨戸開発に関して,当時の状況がその後も全く変わらず,開発許認可の取得及び地権者からの土地取得の確実な見込みのないまま融資だけが実行されていることに思いを巡らしたとき,被告人甲は,これまで自己が決定してきたホテル建設資金等の融資が安全性の原則に照らしてずさんな融資であったとの批判を受けかねないものであることは容易に認識し得たはずである。そ 思いを巡らしたとき,被告人甲は,これまで自己が決定してきたホテル建設資金等の融資が安全性の原則に照らしてずさんな融資であったとの批判を受けかねないものであることは容易に認識し得たはずである。そうすると,被告人甲は,遅くとも,北東公庫及び長銀が協調融資を実質的に謝絶した平成5年7月ころないしその正式な回答があったとの報告を受けた同年8月の段階で,ホテル建設資金やこれに関連するBグループに対する実質無担保の融資がずさんな融資であったことに気づき,頭取として自らその決定をしたことの重大性や後ろめたさを認識せざるを得ない状況にあったというべきである。 bEホテルの採算性- 143 -立地条件等の悪さや自己資金の低さに起因するEホテルの採算性の問題については,既に,平成3年3月28日の会議でその一端が示されていたが,北東公庫は,「借入金の金利負担が重くB㈱の本社不動産売却益を自己資金として投入しても借入金の返済は不可能。損益面においても今後も償却前経常段階で赤字の状態が続くとみられる。」,長銀も「当部査定では15年たっても償却前経常利益は黒字化せず,事業収支による返済不能」と評価し,両行とも採算性が全く見込めないとの判断を示していた。 被告人甲が,平成3年3月28日の会議において,立地条件等の悪さや自己資金の低さが問題であると認識していたことは上記イ(ア)で説示したとおりであるが,同被告人は,その後もEホテルの採算性に対する懸念と不安をより強く,より確実に認識することになった。 すなわち,第1に,被告人甲は,平成4年10月26日の経営会議において,自ら「開発許認可はどうなっているのか。」と発言し,出席役員の発言を聞いて,「このように,真剣に個別に検討していれば,当行のヤケドは少なかったのではないか。 」と発言し,被告人乙の「ホテ 議において,自ら「開発許認可はどうなっているのか。」と発言し,出席役員の発言を聞いて,「このように,真剣に個別に検討していれば,当行のヤケドは少なかったのではないか。 」と発言し,被告人乙の「ホテルが今後重荷になる。」との先行きを心配する発言を聞いている(上記2(17)イ)。そして,平成4年12月30日のEホテル視察の際,被告人甲は,被告人乙に対し,「あのホテルは問題だな。あの大きさでは採算はとれないよ。」などと述べて,採算性への不安と融資を後悔する感想を漏らしている(上記2(19))。もっとも,被告人甲は,原審公判廷において,このような発言をしたことはない旨述べる。しかし,被告人甲の検察官調書では,「初めてEホテルを- 144 -見たが,あまりに大規模で豪華な造りに呆然とした。被告人丙は得意げに案内していたがとても完成を喜ぶ気持ちになれなかった。何故こんな大きなホテルを建ててしまったのか後悔するとともに,採算見込みの薄い大規模ホテルの建設を計画した被告人丙や,これに乗ってしまった総合開発部の担当常務であったg,gと連携していたf副頭取に対し,怒りに近い感情を抱いた。被告人乙に自責の念を込めてこのホテルでは採算はとれない旨話した。」などと供述し,これは当時の心境も含めた具体的かつ自然な供述である。加えて,被告人乙も検察官調書において,同旨の供述をしているところ,被告人乙は,原審公判廷において,被告人甲の上記発言は10年も前のことで,全く覚えていない,上記検察官調書は検事の作文であるなどと述べているが,上記検察官調書は,平成11年3月12日付けであるから,Eホテルの視察から約6年後のことであり,しかも,被告人甲の指示を受けて,自ら北東公庫副総裁に協調融資の要請に出向いたり,平成4年10月26日の経営会議において,自ら「ホテ 12日付けであるから,Eホテルの視察から約6年後のことであり,しかも,被告人甲の指示を受けて,自ら北東公庫副総裁に協調融資の要請に出向いたり,平成4年10月26日の経営会議において,自ら「ホテルが今後重荷になる。」などと発言していた被告人乙にとってみれば,Eホテルの採算性は重大な関心事であったはずであるから,被告人甲とEホテルを視察した際の同被告人の言動を全く覚えていないというのは不自然でにわかに信用できない。さらに,l1常務は,秘書室長時代,頭取であった被告人甲が立地条件からEホテルの採算性を問題視する発言をしていた旨捜査及び原審公判段階で一貫して供述しているが,l1常務が被告人甲に不利となる虚偽の供述をする理由は全くないから,l1常務の上記供述は十分に信用できる。したがって,被告人甲が,Eホテル視察の際,上記発言をしたことは優に認- 145 -められる。第2に,被告人甲は,平成5年1月25日の経営会議において,「ホテルの段階から当行一行でやっていく腹づもりはない。スタートから他行の資金の導入を図る必要あり。北東公庫,長銀を絡める必要がある。」「ホテルは予約がとれているようだが,あの設備では市内の既存ホテルの競合を考慮すると,そう簡単に収支採算はとれないと思う。日中のパーティーはあんな所でやらない。宿泊だけで採算はとれない。稼働率をあげるのが問題である。当初,100何億が200何億になっている。北東公庫,長銀のファイナンス実現しないと駄目である。」「土地を売って自己資金捻出では実現性の問題から北東公庫,長銀は乗ってこない。」「ホテルは金のかけ過ぎ。これだけ借金をすると,儲かると考えるのがまちがい。これからの事業は大丈夫か。」などと述べて,Eホテルの採算性を含めたBグループの経営について懸念を示すとともに,ホテルの採 ホテルは金のかけ過ぎ。これだけ借金をすると,儲かると考えるのがまちがい。これからの事業は大丈夫か。」などと述べて,Eホテルの採算性を含めたBグループの経営について懸念を示すとともに,ホテルの採算性を上げることにより協調融資を実現しなければ,ホテル建設資金が拓銀の丸抱えとなるリスクから,採算性の向上と協調融資の実現を図るべきであるとの意思を表明しつつ,平成3年3月28日の会議で総合開発第一部が策定したホテル建設計画の事業収支が茨戸開発の開発利益を織り込んで妥当なものとなるという収支計画自体を否定するような発言をするなど(上記2(20)ウ),少なくとも被告人甲が当時ホテルの採算性に強い懸念を抱いていたことは明らかである。第3に,㈱Dに対する貸付金の返済は,Eホテルの売上高に大きく影響されるところ,拓銀は,平成3年3月28日の会議において,開業後初年度(平成5年度)売上高を75億3000万円と設定し(上記2(8)ア),平成4年7月27日の経営会議において,被告人丙の- 146 -設定した初年度売上高76億円を立地条件等を勘案し低めに修正して56億2300万円と見込んでいた(上記2(15)ウ)。 しかるに,平成5年7月5日の経営会議では,開業後3か月の売上実績を基にすると年間売上見込みは37億円程度であり,今後の金利負担を考えると単年度黒字の目途がたたない,㈱Dは恒常的な赤字が続き,このままではホテル経営は成り立たないと報告され,被告人甲も経営会議で「何故こんなに大きな建物を建てたのか。」と後悔の弁が口をついて出ている(上記2(29)イ(ア),ウ)。その後も平成6年3月期から平成9年3月期までEホテルの売上高は約30億円前後を推移しており,当初見込みの約60億円の半額程度に止まっていた。しかも,平成5年7月5日の経営会議では,㈱ ア),ウ)。その後も平成6年3月期から平成9年3月期までEホテルの売上高は約30億円前後を推移しており,当初見込みの約60億円の半額程度に止まっていた。しかも,平成5年7月5日の経営会議では,㈱Dの赤字補填資金は年間40億円を要すること,Bグループでは同グループ各社の赤字補填資金及び茨戸開発借入金利だけでも年間約70億円の借入れが必要であると報告されており,Eホテルの採算性など全く見込めないことは明らかであった。 以上のような経緯に鑑みると,被告人甲は,遅くとも平成5年7月ころには,立地条件や自己資金の低さに起因するEホテルの採算性の見込みが厳しいものであり,ホテル建設資金等のBグループに対する融資の回収可能性の乏しさを十分に認識していたといえる。 c平成3年の大蔵省検査及び日銀考査平成3年1月ころに実施された大蔵省検査では,上記2(9)ウのとおり,Nの建設資金融資に関し,「大規模レジャー施設建設資金への応需に際し,マーケット調査や資金計画等の事業計画の検討が不十分であったため入場者数の大幅な計画未達や- 147 -追加用地取得等で収支計画に狂いが生じ,オープン後間もなく業績不振から事業計画の修正を余儀なくされているほか,債務者の業況が厳しい状況下にあるにもかかわらず集客面での波及効果を狙うという債務者からの要請に引きずられ,事業拡張に関する具体的事業計画の策定等がないままでの隣接地買収を容認するなど,メイン行として指導力に欠けた融資姿勢となっている。」などと指摘されて,㈱Cに対する貸付金の一部がⅡ分類に査定され,また,同年12月ころに実施された日銀考査でも,上記2(12)のとおり,「余りにも目先の収益向上や運用力の拡大に目を奪われ,リスクの大きさが忘れられていたことについては,経営として深く反省する必要があると思われ 月ころに実施された日銀考査でも,上記2(12)のとおり,「余りにも目先の収益向上や運用力の拡大に目を奪われ,リスクの大きさが忘れられていたことについては,経営として深く反省する必要があると思われる。」「融資先の実態把握が不十分,融資先の体力を無視した貸し込み,系列ノンバンクの管理の甘さ,融資規律の弛緩」のほか,「大規模レジャー施設が軌道に乗っていないにも拘らず,さらに具体的な事業計画のない隣接土地の追加取得を十分チェックできず,むしろ金融面からこれに加担し企業体力を一段と弱める結果となった事例も見られた。」などと指摘され,B㈱や㈱Cに対する既往融資や茨戸開発の用地取得に問題があることを明確に指摘された。なお,被告人甲は,原審公判廷において,日銀の考査所見要旨を読み,Bのことを言っていることは分かったが,「具体的な事業計画のない隣接土地の追加取得」が茨戸開発の用地取得のことであるとは当時認識していなかったというが,Bのことを指していることを認識しながら,隣接土地の追加取得が茨戸開発のことを意味するものとは思わなかったというのは不自然であり,信用できない。 このように,平成3年に実施された大蔵省検査及び日銀考査- 148 -では,いずれもBグループに対する融資が問題視され,更には早くも茨戸開発までもが問題視されていたのであって,被告人甲は,大蔵省検査については同年4月23日に示達を受け,日銀考査についても平成4年1月24日ころにその所見が伝えられていたのであり,Nの建設資金融資や茨戸開発に関するこのような指摘を認識したはずであるから,ホテル建設資金やこれに関連する融資については,一層安全性の原則に則ったものでなければならないことを理解し意識したか,意識すべき状況にあったものと認められる。 d被告人甲のずさん融資を認める供述 ホテル建設資金やこれに関連する融資については,一層安全性の原則に則ったものでなければならないことを理解し意識したか,意識すべき状況にあったものと認められる。 d被告人甲のずさん融資を認める供述被告人甲は,平成11年3月9日付け検察官調書において,「平成5年7月5日の経営会議における『何故こんなに大きな建物を建てたのか。』の発言は,他の役員に対する問いかけではなく,自分自身がこのような巨額融資の決定をしたことに後悔し,ため息混じりで自問自答したという発言だった。」「私の決定でホテル建設資金の融資を決定したが,開業3か月目にして既にホテル経営が成り立たない状態だったことからも明らかなように,この融資は完全な失敗であった。協調融資を実施する場合,参加銀行が間違いなく協調融資するとの確約のもと,通常協定書を作成するが,N建設のときは,北東公庫も長銀も協調融資に参加してくれたので,このホテル建設資金の融資の際も同様に参加してくれるだろうと,あくまで見込みだけで協調融資があるものと安易に考えた。最終的に両行とも協調融資に参加しなかったが,これは貸付金の回収見込みがないと判断したと思った。このように私の判断で極めてずさんな融資をしたのであり,ホテルを潰す,すなわちBグループに対する融資- 149 -をストップすれば,このような貸付金の回収見込みのないようなホテル建設資金を融資実行したことの経営責任(辞任を含めた私の進退や株主代表訴訟)が問われることは必至だった。」と供述している。この供述は,これまで認定してきたBグループの経営状態,金融機関における協調融資の扱い,Eホテル建設に至る経過等の客観的事実と合致し,被告人甲の心情も自然であり,矛盾点や不合理な点はなく,信用できる。さらに,被告人甲は,平成11年3月10日付け,同月14日付 における協調融資の扱い,Eホテル建設に至る経過等の客観的事実と合致し,被告人甲の心情も自然であり,矛盾点や不合理な点はなく,信用できる。さらに,被告人甲は,平成11年3月10日付け,同月14日付け,同月16日付けの各検察官調書においても,「Nが赤字状態だったのにその上更に総額210億円の大半を借入金で賄って大規模ホテルを建築するという計画は,バブル崩壊の兆しがあったことなどを考慮すると安全性の原則を軽視した極めてずさんな融資だったのであり,総合開発部のgらを信頼して融資決定したが,経営責任が追及されるおそれのある融資案件だった。」などと供述し,自らの経営責任が問題となるずさん融資であったことを一貫して認めている。なお,被告人甲は,原審公判廷において,平成3年当時,既にバブル経済が崩壊しつつあったとする考えは間違いであり,それを前提とする同被告人の検察官調書も信用性がないというが,平成3年当時,バブル崩壊の兆しが客観的にあったか否かはともかく,上記検察官調書の中には平成3年3月ころにバブル崩壊の予兆が出てきたことを具体的な根拠をあげて供述している部分があること,上記の各検察官調書はすべてバブル崩壊の予兆があったことを前提に記載されており,被告人甲が繰り返し認めていたといえること,V問題特別調査委員会の被告人甲宛の調査報告書には「平成3年に入りバブルが急激に崩壊して行く中」とあり,拓銀自身が平成- 150 -3年に入ってバブル経済が崩壊して行ったことを認めていたことなどを考え併せると上記被告人甲の公判供述をもって上記各検察官調書の信用性が揺らぐものではない。 (ウ)原判決について原判決は,要旨,「被告人甲の経営会議やEホテル視察の際の発言をみると同被告人がホテル建設資金の融資に後悔の念を抱いていたとも考えられるが,他方, 用性が揺らぐものではない。 (ウ)原判決について原判決は,要旨,「被告人甲の経営会議やEホテル視察の際の発言をみると同被告人がホテル建設資金の融資に後悔の念を抱いていたとも考えられるが,他方,同被告人が頭取として融資金回収という観点からEホテルの先行きに思いをはせるのは当然である上,上記発言はホテル開業前あるいは開業直後のことであるところ,Eホテルには開業当初からt等が派遣され,同人らの経営改善策により,赤字幅の圧縮が急速に図られていた。そして,本件融資1及び2がなされた当時,ホテル建設資金にかかる融資等を始め,そのほかの問題に関し,被告人甲らの責任を追及しようとの具体的な動きがあったことを認めるに足りる証拠はないことを勘案すると,被告人甲の発言内容から同被告人がホテル建設資金の融資等の実態が表面化することを殊更おそれていたと推認することはできない。また,被告人甲が協調融資の実現にこだわり続けていたことも拓銀のリスク分散という観点からするとむしろ合理的であったとさえいえる。 さらに,平成5年7月5日の経営会議において,被告人甲を始めとする拓銀経営陣がEホテルを潰せないとの思いをもっていたことは,ホテル建設資金の融資に関与していないaの認識とも一致するところであって,被告人甲ら拓銀経営陣にとっては認識を共通にする理解であったと認められる。被告人甲がEホテルを潰せないとの思いをもっていたことからホテル建設資金のずさんな実態の表面化を殊更おそれていたと推認することは- 151 -できない。」と判示する。 しかし,第1に,原判決は,「頭取として融資金回収という観点からEホテルの先行きに思いをはせるのは当然である」と判示するが,被告人甲の言動をみると,随所に自らの融資決定を後悔し,いらだちの感情すら見て取れるのであって,もはやE として融資金回収という観点からEホテルの先行きに思いをはせるのは当然である」と判示するが,被告人甲の言動をみると,随所に自らの融資決定を後悔し,いらだちの感情すら見て取れるのであって,もはやEホテルの先行きに思いをはせるなどという次元をはるかに超えている。すなわち,被告人甲は,平成4年10月26日の経営会議では,茨戸開発事業に関する拓銀側の融資について,「このように,真剣に個別に検討していれば,当行のヤケドは少なかったのではないか。」と発言し,「ヤケド」と他人事のように言いつつ,その融資が安全性の原則に則った十分な検討を経ないでされたことを自ら認めるような発言をし,平成4年12月末のEホテル視察ではその規模と豪華さに驚愕して融資を後悔する感想を漏らしたほか,平成5年1月25日の経営会議では,協調融資が思うように進んでいないが可能性はあるとの報告を受けた際,「ホテルの段階から当行一行でやっていく腹づもりはない。スタートから他行の資金の導入を図る必要あり。 」などと述べ,ホテル建設資金の段階から協調融資を整えておく必要性を強調しつつ,「ホテルは予約がとれているようだが,あの設備では市内の既存ホテルの競合を考慮すると,そう簡単に収支採算はとれないと思う。日中のパーティーはあんな所でやらない。宿泊だけで採算はとれない。」「土地を売って自己資金捻出では実現性の問題から北東公庫,長銀は乗ってこない。 」と述べ,さらに,出席役員から「許認可が遅れた場合のGの動きが気になる。現状ジレンマに陥っている。Bがファイナンスから130億の借入していること自体が問題あり。どういう- 152 -ふうに回収するのか。」「600億の借入は経営上大変だと思う。借入を減らす方策あるのか。」などと問題点を指摘されたときも「ホテルは金のかけ過ぎ。これだけ借金をす が問題あり。どういう- 152 -ふうに回収するのか。」「600億の借入は経営上大変だと思う。借入を減らす方策あるのか。」などと問題点を指摘されたときも「ホテルは金のかけ過ぎ。これだけ借金をすると,儲かると考えるのがまちがい。これからの事業は大丈夫か。」などと述べて,Eホテルの採算性に自ら強い懸念を表明した上,自ら決定したはずのホテル建設資金融資の採算上の根拠である総合開発第一部策定のEホテル収支計画そのものを否定するかのような発言をしている。加えて,被告人甲は,平成5年7月5日の経営会議で,審査第一部から,「Bグループは,どの事業も収支大幅マイナスで実質倒産状態」「ホテル経営はこのままでは成り立たない」「最終的に再編案に沿ってホテル売却,その場合でも売却損100億円」などと報告された際,「何故こんなに大きな建物を建てたのか。」と今更愚痴にならないような愚痴をこぼし,同年8月23日の経営会議で協調融資が正式に断られ,B㈱の本業部門も赤字であり,B㈱の赤字の原因として茨戸開発事業があげられることなどが説明された際にも「そういう背景(状況)を総合開発部のときは考えていなかったのか。」などと怒りともとれる発言をしている。以上のような被告人甲の強い懸念,後悔,愚痴,怒りといった言動からは,およそ,原判決がいうような「頭取として融資金回収という観点からEホテルの先行きに思いをはせる」などという冷静さは感じられない。もともと,ホテル建設資金の融資は,当時,総合開発第一部やその担当取締役であったg及びf副頭取の意見を容れたものであるとはいえ,被告人甲が頭取として自ら決定したものであるから,被告人甲の上記のような怒りさえ感じさせる発言は,時を追うに従ってその自らの判断が誤りであった- 153 -ことを自覚せざるを得ない状況に置かれた 被告人甲が頭取として自ら決定したものであるから,被告人甲の上記のような怒りさえ感じさせる発言は,時を追うに従ってその自らの判断が誤りであった- 153 -ことを自覚せざるを得ない状況に置かれた被告人甲の深い憂慮の気持ちが現れたものと認められる。 第2に,原判決は,「Eホテルの赤字幅の圧縮が急速に図られていた」と判示する。確かに平成5年7月5日の経営会議において,平成6年3月期の償却前営業利益が▲29億円と見込まれていたところ,実際の同期の償却前営業利益が▲20億6300万円に減少したため,一見赤字幅の圧縮が急速に図られたようにも見える。しかし,子細に検討すると,この赤字幅の減少は,従来,㈱DがB㈱に支払うことになっていたEホテルの年間賃料額が,㈱Dの売上高の20パーセントで,かつ,最低13億円とされていたところ,平成5年8月1日から,これを売上高の15パーセントに引き下げ,かつ,同日から平成6年3月31日までの賃料を実質免除したことから,㈱Dが残賃料額約8億円の支払を免れたことが大きく影響している。その結果,㈱Dの赤字幅は改善されても,賃貸人であるB㈱の収益がその分減少するので,Bグループ全体としては何ら改善されたことにはならない。この点,被告人甲は,平成5年8月23日の経営会議において,「B㈱に全てシワ寄せがいく仕組になっているんだね。」と述べたのに対し,aが「おっしゃる通りです。ホテルの家賃等も見直しを行ないB㈱にシワ寄せがいく仕組を取っている。」と答えており,被告人甲はこの点を十分に理解していた。さらに,上記(イ)bのとおり,拓銀は,㈱Dの売上高につき,当初75億円,その後56億円を見込んでいたが,平成5年7月5日の経営会議では,平成6年3月期に37億円程度と修正して見込みを立て直し,売上げ増強策等を実施したにも ,拓銀は,㈱Dの売上高につき,当初75億円,その後56億円を見込んでいたが,平成5年7月5日の経営会議では,平成6年3月期に37億円程度と修正して見込みを立て直し,売上げ増強策等を実施したにもかかわらず,実際の同期の売上高は30億4400- 154 -万円にとどまり,その見込額すら更に大幅に下回ったものである。したがって,Bグループとしての債務返済能力という視点で考えた場合,客観的にみても,Eホテルはその赤字幅の圧縮が急速に図られていたなどと楽観視できるような状況になかったことはもとより,赤字幅の表面的な改善によって,ホテル建設資金やそれに関連する融資を決定した被告人甲の懸念が軽減されたとみることはできず,むしろ逆にその懸念を強めていたとさえいえるのである。 第3に,原判決は,「本件融資1及び2がなされた当時,被告人甲らの責任を追及しようとの具体的な動きがあったことを認めるに足りる証拠はない」と判示する。しかし,自己保身目的の存在を認定するに当たり,具体的な責任追及の動きがあることは必要とされない。そもそも,拓銀が,経営会議で度々Bグループに対する取引方針について付議し,その対応が銀行の経営に重大な影響を与える事態にまでなったのは,被告人甲が頭取としてホテル建設資金等の融資を決定したことに起因しており,そのことを同被告人自身自覚し認識しているはずであり,そうであれば,具体的な責任追及の動きがある場合はもとより,それがない場合にもその責任を自覚して行動するのが通常であって,被告人甲が,ホテル建設資金の融資やそれに関連する融資を決定したことに深い憂慮の念を抱いていたのは上記認定のとおりであり,そのような立場にある同被告人が,具体的な責任追及の動きがないから自己保身目的を有していなかったなどと推認することはできない。 第4に したことに深い憂慮の念を抱いていたのは上記認定のとおりであり,そのような立場にある同被告人が,具体的な責任追及の動きがないから自己保身目的を有していなかったなどと推認することはできない。 第4に,原判決は,「被告人甲が協調融資の実現にこだわり続けていたのもリスク分散の観点からすると合理的」と判示す- 155 -る。しかし,拓銀は,北東公庫に対し,「元利金返済は保証する」「抵当権も拓銀は後順位でよい」と述べたり,上記(イ)aのとおり,長銀に対し,bが「元利金のご返済につきご迷惑のかからぬよう十分配慮いたす所存」との書面を交付するなど,その対応はおよそリスク分散からは説明のつかないもので,平成5年2月以降,協調融資の成立という体裁を整えることにあったと認められる。 第5に,原判決は,「被告人甲がEホテルを潰せないとの思いをもっていたことをもってホテル建設資金のずさんな実態の表面化を殊更おそれていたと推認することはできない」と判示するが,「Eホテルを潰せないという思い」と「ずさん融資の発覚を恐れる心情」は併存しうるもので,被告人甲においては,後に述べるように,ずさん融資の発覚を恐れる気持ちがEホテルを潰せないという気持ちにつながったものと認められる。 以上のとおりであるから,原判決の上記判示は,いずれも被告人甲に自己図利目的がなかったことの理由ないし根拠とはならないというべきである。 (エ)小括ホテル建設資金等の融資は,客観的にみてずさんな融資であったが,被告人甲も平成3年3月28日の会議において,立地条件等の悪さ及び自己資金の低さ,協調融資が整わないままの先行融資,茨戸開発実現の困難さという問題を認識し,採算性に懸念をもっていたものである。ただ,同会議では,総合開発第一部が,協調融資を予定している旨,茨戸開発の実現可能性が 調融資が整わないままの先行融資,茨戸開発実現の困難さという問題を認識し,採算性に懸念をもっていたものである。ただ,同会議では,総合開発第一部が,協調融資を予定している旨,茨戸開発の実現可能性が高い旨報告していたことから,上記のとおり,同被告人がその報告どおりに楽観的な見通しを持ったと判断する余地もあり,- 156 -同会議の時点で,同被告人にずさん融資であるとの認識まではあったと認定できない。しかし,その後,協調融資が整う見込みはますます少なくなる一方,逆に追加工事も含めて融資額は増大し,ついには採算見込みのない豪華ホテルが完成しながら,協調融資は不成立という事態に直面し,また,茨戸開発についても,依然として開発許認可が得られないばかりか,北東公庫及び長銀は,その見込みがないことも理由の一つにあげて協調融資を拒んでおり,これらの事情がことあるごとに被告人甲に報告されていた上,Bグループ所管部は事態が好転するどころか悪化傾向にある旨経営会議で報告していた。そうすると,そのような事態に至った被告人甲が,ホテル建設資金の融資決定を振り返ったとき,自らが頭取として平成3年3月28日の会議で決定したホテル建設資金の融資125億円が,その採算性,回収可能性を見誤ったものであり,その判断が誤りであったことを認識するとともに,その後の建設代金の増加や設備資金,あるいは,協調融資が実現しなかったことにより北東公庫,長銀の融資分も拓銀が負うことになって,その総額が約266億円となり,たくぎんファイナンスを通じてした茨戸開発用地の買収資金の融資も140億円を超える事態となって,その誤りの程度も経営責任の追及につながる重大なものであると認識したはずである。すなわち,被告人甲は,遅くとも平成5年7月ころには,ホテル建設資金等の融資が誤りであるこ 0億円を超える事態となって,その誤りの程度も経営責任の追及につながる重大なものであると認識したはずである。すなわち,被告人甲は,遅くとも平成5年7月ころには,ホテル建設資金等の融資が誤りであることを自覚し,深い憂慮の念を抱き,それが経営会議等における後悔や怒りの発言として表れたものとみるのが相当である。したがって,被告人甲は,遅くとも本件融資1及び2がなされる前までには,ホテル建設資金やそれに関連する融資がずさんな融資であり,- 157 -経営責任を追及される案件であったとの認識を有していたことを優に認めることができる。 ウ農地法違反等の問題について(ア)はじめに原判決は,要旨,「被告人甲が,茨戸開発用地の買収方法に農地法違反等に絡む問題が内在しているとの認識を有していたとしつつも,その違反問題の重大性を深刻に認識していなかったから,農地法違反等の問題が表面化することを殊更恐れ,それに伴う経営責任の追及を回避する目的で本件融資1及び2を行ったと認定することはできない。」と判示する。 しかし,平成3年3月28日の会議において「Bの農地取得方法は農地法違反の疑いがある」旨報告されたこと,平成3年のバックファイナンスの際に真実の融資理由をあえて鉛筆書きにしていたこと,Q1市長の実兄逮捕を報じる新聞記事,経営会議における所管部の説明及び討議内容等を総合考慮すると,被告人甲が,本件融資1及び2を行ったときには,農地法違反等の問題の重大性を認識し,深い憂慮の念を抱いていたことは明らかである。以下,詳論する。 (イ)平成3年3月28日の会議におけるkの報告kは,その検察官調書において,上記2(7)のとおり,X誌に茨戸開発に関する記事が掲載されたことを契機に茨戸開発の農地取得方法についてn弁護士に相談したところ,農地法違反の疑い 議におけるkの報告kは,その検察官調書において,上記2(7)のとおり,X誌に茨戸開発に関する記事が掲載されたことを契機に茨戸開発の農地取得方法についてn弁護士に相談したところ,農地法違反の疑いがある旨指摘されたことから,急きょ,平成3年3月28日の会議において,上記2(8)イのとおり,「Bによる農地取得方法は,知事等の許可のない段階で事実上の売買代金を授受していることから農地法に違反すると思われます。それで総- 158 -合開発第一部の方でn先生に相談したところ,やはり農地法違反の疑いがあるということでした。」と述べて,n弁護士から農地法違反の疑いを指摘された旨,併せて,農地買収資金が拓銀の指示でたくぎんファイナンスが融資していることも説明しており,農地法違反の疑いのある茨戸開発用地の取得には,Bのみならず,系列ノンバンクのたくぎんファイナンス,さらには拓銀自身も関与している旨報告した旨供述する。その一方で,kは,原審公判廷において,X誌を初めて見たのが平成3年夏以降,n弁護士から農地法違反の疑いがある旨聞いたのが同年後半か平成4年初めころ,したがって,平成3年3月28日の会議で報告した事実はない旨供述する。しかし,kの捜査段階の供述は,上記2(6)イのとおり,X誌が平成2年12月ころから連載が始まっていることや,mが,原審公判廷において,同月ころに発行されたX誌を広報室長が持ってきて,kやgに見てもらった,それで翌年1月か2月ころ,n弁護士に相談に行った旨供述していることに符合し,さらに,k自身,上記検察官調書において,上記の報告をした会議が,gがo資金証券部長を叱責するという一幕があったから平成3年3月28日の会議であったことは間違いない旨述べるとともに,「Bの農地取得にまつわるすべての問題点を頭取らに報告したので 報告をした会議が,gがo資金証券部長を叱責するという一幕があったから平成3年3月28日の会議であったことは間違いない旨述べるとともに,「Bの農地取得にまつわるすべての問題点を頭取らに報告したので,内心,これで一安心,何かあっても総合開発第一部だけの責任にされることはないと安堵した。」と述べており,それは当時の偽らざる心情を吐露した迫真的な内容である上,kが同会議で報告したことを認めるmの原審公判供述とも符合している。また,これに先立って,拓銀の指示で茨戸開発用地の買収資金を融資していたたくぎんファイナンスは,農地法及び国土法の問題か- 159 -ら,「現状本プロジェクトについて対外的に公表できず,借入金融機関名も出せないため,異例扱いの無担保貸出となっており,債権保全上大きな問題を抱えている。」として,平成2年11月7日にmらと面談していたが,同月21日には,総合開発第一部部長のk宛に書面を提出し,「①売主(土地所有者)の承諾が得られるならば,担保提供をしてもらい(根)抵当権設定(仮)登記をする。②現在Iが設定登記している『抵当権設定仮登記』に対し,転抵当権を設定登記する。」などの債権保全策を検討願いたい旨要望した。しかし,mは,この要望を受け入れて担保を設定した場合,登記簿にたくぎんファイナンスの名前が出てしまい,農地法違反の疑いのある融資に拓銀グループが関与したことが明らかになることを懸念してその申入れを拒絶し,その後,平成2年12月にはX誌の連載が始まり,その記事を見てn弁護士に相談に行ったという経緯等からすると,平成3年3月28日の会議で上記の報告があったと認めることができる。したがって,kの上記原審公判供述は信用できない。被告人甲は,検察官調書において,kの報告は覚えていない旨供述しているが,拓銀の関与が問題 3月28日の会議で上記の報告があったと認めることができる。したがって,kの上記原審公判供述は信用できない。被告人甲は,検察官調書において,kの報告は覚えていない旨供述しているが,拓銀の関与が問題となっている案件についての顧問弁護士からの違法の疑いがあるとの報告を覚えていないということはにわかに信じ難い。 この点について,原判決は,要旨,kの「農地法違反の疑いがある」旨の報告があったこと自体は認めつつ,「kは,『丙は行政と連絡をとりながら進めているので問題はない』と報告した。」とのm証言を前提に,平成3年3月28日の会議におけるkの報告の趣旨が総合開発第一部として同会議に付議した,ホテル建設資金融資についてその承認を得るためのもので,被- 160 -告人甲ら出席役員に無用な心配をさせないことにあったことに照らせば,問題はないという部分に重点があったとするm証言は信用できる,したがって,被告人甲が,kから上記報告を受けた際,被告人丙による茨戸開発用地の買収方法に,後日問題とされるような農地法違反事実があると明確に認識したと認めるには足りない,と判示する。しかし,銀行の公的性格から,銀行は違法行為ないしはそのおそれのある行為に関わってはならないことは当然であるが,加えて,平成3年3月28日の会議は,ホテル建設資金の融資の可否を付議事項としており,その返済は茨戸開発による開発利益を返済原資に織り込むものであって,茨戸開発の実現可能性が重要な意味をもっているところ,そのための農地取得方法に農地法違反の問題があり,しかも,法律専門家である顧問弁護士から違法の疑いがあると指摘された上,拓銀が違法の疑いのある行為に間接的にせよ関与しているとまで報告されたのであるから,それ自体,融資の可否を判断する重要な考慮要素であり,そのような報告を受 弁護士から違法の疑いがあると指摘された上,拓銀が違法の疑いのある行為に間接的にせよ関与しているとまで報告されたのであるから,それ自体,融資の可否を判断する重要な考慮要素であり,そのような報告を受けた被告人甲が,頭取として,その問題の重大性を認識しなかったということは考えにくい。もともと,ホテル建設資金の融資は,上記2(8)アのとおり,総合開発第一部が積極的に推進しようとした案件ではなく,トップダウンの指示によりやむなく進めた案件であったことなどに照らすと,kら総合開発第一部が,平成3年3月28日の会議において,あえて,茨戸開発に関する問題点をn弁護士の判断まで付けて報告したのは,kの検察官調書にあるように,総合開発第一部だけで問題を抱え込むと,後日問題が発生した場合,同部の責任問題として追及される危険があること,この問題は経営陣にとっての責任問題にもつな- 161 -がりかねない重大問題であることから,早めに,被告人甲ら経営陣にその問題点を認識してもらおうと考えたためとみるのが合理的である。そして,このことは,報告後,これで何かあっても総合開発第一部だけの責任にされることはないと安堵したというkの検察官調書の供述とも符合する。そうすると,「丙は行政と連絡をとりながら進めているので問題はない」という部分に重点があった旨のm証言はこの部分に関する限り,いかにも不自然というほかない。また,たとえ,mが証言するように,「問題はない」との報告があったとしても,それにより農地法違反の問題が解消したり存在しなくなったわけではない上,顧問弁護士による違法の疑いがあるとの判断まで示されていることに照らすと,被告人甲が,農地法違反の問題の存在すら全く認識しなかったとは到底いえない。 (ウ)平成3年のバックファイナンスにおける鉛筆書き審 による違法の疑いがあるとの判断まで示されていることに照らすと,被告人甲が,農地法違反の問題の存在すら全く認識しなかったとは到底いえない。 (ウ)平成3年のバックファイナンスにおける鉛筆書き審査第一部は,上記2(10)イのとおり,平成3年のバックファイナンスの諸貸出申請書3通にボールペンで表向きの融資理由を記載した上,真実の融資理由を鉛筆書きにしていたが,これは,茨戸開発用地を取得するために迂回融資を行うけれども,大蔵省検査等を考慮すると公然と記載するわけにもいかず,他方,表向きの理由だけでは融資を可とするだけの理由に弱いと判断した審査第一部がとった苦肉の策であった。すなわち,農地法違反問題の絡む農地買収資金を拓銀が迂回融資した事実の発覚を警戒し,いつでも消せるように鉛筆で真実の融資理由を記載したものである。被告人甲も認めるとおり,諸貸出申請書に真実の融資理由を鉛筆書きで付記するという二重記載は極め- 162 -て異例な措置である。 被告人甲は,原審公判廷において,「鉛筆書きでバックファイナンスであるということを書いてあったという記憶はない。 」「総合開発第一部が作ったマル秘の添付文書についてもはっきりした記憶はない。」と供述するが,諸貸出申請書3通にはいずれも被告人甲の決裁印が押されていること,被告人甲自身,原審公判廷において,「その書類(添付書類のこと)を見て決裁したことは間違いありません。」「鉛筆書きが極めて異例でありそういうものは私自身余り記憶がないことや所管部でない部署が資料を付けるというのもレアケースであることはたしか」と供述している上,捜査段階では,「これまで私の決裁に上がってきた申請書の中で,営業店意見欄に記載された融資理由と営業部が備考欄に記載した融資理由が異なっているものは,この3通以外にはなかった。 」と供述している上,捜査段階では,「これまで私の決裁に上がってきた申請書の中で,営業店意見欄に記載された融資理由と営業部が備考欄に記載した融資理由が異なっているものは,この3通以外にはなかった。また,営業部が諸貸出申請書の備考欄に融資理由を鉛筆で記載して決裁を私に上げてくることもこの3通以外になかった。私は,このような鉛筆の記載を見ながらも,問題点を十分に把握せずに融資をしてしまったのでした。」と供述しており,被告人甲が鉛筆書きの記載やマル秘の添付資料を見た上で融資を決定したことを優に認めることができる。 原判決は,「諸貸出申請書及び添付資料には,真実の資金使途について,『BのN後背地買収資金』とか『土地資金に対するバックファイナンス』との記載はあるものの,農地の買収資金であることが明確には記載されていないことが認められる。 また,aは,公判廷において,資金使途を鉛筆書きで記載したのは,専らその前年に実施された総量規制との関係を考慮した- 163 -もので,農地法違反問題とは関係なく,これを隠す意図はなかった旨明確に供述しているところ,aが農地法違反問題の深刻さを認識したのは平成6年6月以降のことであったと認められるから,諸貸出申請書の意見欄を鉛筆書きで記載した趣旨が農地法違反問題を隠すことにはなかった旨のaの供述は,十分に信用できる。さらに,バックファイナンスが,関係役員等出席の上でなされた投融資会議ではなく,持ち回り決裁による投融資会議により実行されたものであることをも勘案すると,被告人甲が,バックファイナンスの実行を通じ,Bの用地買収行為が農地法等に違反していることを明確に認識したとまでは認め難いし,まして,このような違反行為に拓銀が関与しているなど,問題の重大性を認識したとは到底認められない。」と判示する。しかし 用地買収行為が農地法等に違反していることを明確に認識したとまでは認め難いし,まして,このような違反行為に拓銀が関与しているなど,問題の重大性を認識したとは到底認められない。」と判示する。しかし,諸貸出申請書及び添付資料に農地の買収資金であることが明示されていなくても,平成3年3月28日の会議において,たくぎんファイナンスが拓銀の指示により茨戸開発用地の買収資金を融資していたこと,それが農地法に違反する疑いがあることの説明を受けていた被告人甲にしてみれば,その約5か月後から始まったバックファイナンスに関し,「Iグループの土地資金に対するバックファイナンス」「Bに対するバックファイナンス分(8月20億円実行済)」「㈱BのN後背地買収資金の一部」との鉛筆書きを見るだけで,それが農地の買収資金の迂回融資を意味することは一目瞭然である上,添付の総合開発第一部作成のマル秘資料には「同グループの茨戸地区総合開発計画を推進するうえで当該地区の土地取得は不可欠の条件であり,早期に取得する必要もある。従来よりたくぎんファイナンスの金繰りの中で支援してきており,今回の土地- 164 -取得についても一連の案件であり,最優先案件として採り上げ願いたい。」とまで具体的に記載されていたのであるから,それらを見た被告人甲は,農地法違反の疑いのある農地買収資金の迂回融資であることを認識していたと認めるのが相当である。 また,鉛筆書きは総量規制との関係を考慮したとする点も,確かに,aは,総量規制回避目的があった旨供述してはいるが,農地法違反の関与を隠ぺいする目的については供述していないだけで,原判決がいうような「農地法違反問題とは関係なく,これを隠す意図はなかった旨明確に供述している」わけではない。そもそも総量規制回避目的と農地法違反の関与を隠ぺいする ついては供述していないだけで,原判決がいうような「農地法違反問題とは関係なく,これを隠す意図はなかった旨明確に供述している」わけではない。そもそも総量規制回避目的と農地法違反の関与を隠ぺいする目的は併存しうるものである。上記のとおり,拓銀がそれまでにも自ら直接融資を行わずにたくぎんファイナンスに指示して融資させていた上,たくぎんファイナンスの名前が登記簿上に出ることを嫌がっていたことなど茨戸開発用地の取得方法に関する従前の経緯に照らせば,鉛筆書きの趣旨が総量規制回避目的というよりも拓銀の農地法違反等の関与を隠ぺいする目的にあったことを認めることができる。さらに,原判決は,平成3年のバックファイナンスが,持ち回り決裁であったことも根拠にしているが,持ち回り決裁であったとはいえ,被告人甲は,茨戸開発用地の買収資金融資のための迂回融資であることを十分認識したはずであり,かつ,既に農地法違反の疑いがあるとの報告を受けていたことに照らせば,鉛筆書きの記載を見て,農地法違反への関与を隠ぺいするものと考えたことを優に推認できる。したがって,原判決の上記認定は首肯できない。 (エ)Q1市長の実兄逮捕を報じる新聞記事上記2(23)及び(25)のとおり,平成5年2月及び3月の北海- 165 -道新聞に「さっぽろ村異聞」のコラムと「Q1市長の実兄逮捕」の記事が掲載された。被告人甲は,コラムは読んでいないとしつつ,記事については捜査及び公判段階を通じて読んだことを認めているので,「Q1市長の実兄逮捕」の記事について検討するに,これは,B㈱が行っていた農地買収方法と酷似する方法で農地を買収したQ1市長の実兄が逮捕されたことを報じる記事であり,しかも報じられた契約金額はB㈱の方が格段に上回っている。平成3年3月28日の会議で農地取得方法に農地法 地買収方法と酷似する方法で農地を買収したQ1市長の実兄が逮捕されたことを報じる記事であり,しかも報じられた契約金額はB㈱の方が格段に上回っている。平成3年3月28日の会議で農地取得方法に農地法違反の疑いがあるとの報告を受けたことに加え,平成5年1月25日の経営会議においても,茨戸開発用地が農地法,国土法及び農振法の制約のある農地であることやその取得方法の説明が改めてなされ,農業委員会と「水面下」で打合わせを行っているなどと報告を受けた被告人甲が,「Q1市長の実兄逮捕」の記事を読んだ際,真っ先にB㈱の農地買収は大丈夫かとの思いを抱くのが自然であり,「当時,この記事を見て,非常に驚き,不安を感じた。」と当時の感想を述べる同被告人の検察官調書は信用性が高い。これに対し,被告人甲は,原審公判廷において,「茨戸関係についての違法性の問題という認識は,頭取を辞めるまでなかった。」と述べるが,上記経緯に照らし,全く信用できない。 ところで,bは,原審公判廷において,当時,拓銀の役員食堂でこの記事が話題となり,「Q1市長のお兄さんは国土法違反で逮捕されたけど,Bの農地買収は本当に大丈夫だろうか。 」などという発言があったが,その発言をしたのが被告人甲だったかf副頭取だったかは分からない,しかし,いずれかがいらしたときに話題になったと供述し,被告人甲も,原審公判廷- 166 -において,新聞報道の翌日,役員食堂で,昼食の時間に何人かの人と一緒に,その記事が話題になり,bとやり取りをしたと供述している。そして,両名の公判供述を併せ検討すると,被告人甲が,上記報道がなされた翌日,役員食堂において,bらに対し,その記事について話題にしたこと,その内容は,上記b証言のとおり,B㈱の農地買収方法を心配するものであったことは明らかである。これに対して が,上記報道がなされた翌日,役員食堂において,bらに対し,その記事について話題にしたこと,その内容は,上記b証言のとおり,B㈱の農地買収方法を心配するものであったことは明らかである。これに対して,被告人甲は,原審公判廷において,役員食堂での話題の内容は,Q1市長は実兄が逮捕されて大変お気の毒だという話をしたに過ぎず,茨戸開発に絡めての問題意識はなかったと供述している。しかし,上記のように平成3年3月28日の会議以降,B㈱の農地買収の問題点を認識していた被告人甲が,それと酷似する方法で逮捕者が出たことを報じる新聞報道の翌日,当のB㈱を所管して茨戸開発を進めていた総合開発部の担当取締役bを前にして,その記事の内容を話題にしているのに,Q1市長の実兄が逮捕されて大変お気の毒だという話で終始したとは到底考えられない。 原判決は,被告人甲が,Q1市長実兄逮捕の件で市長を思いやる発言をしたことが認められるものの,それ以上に被告人甲がX誌誌や北海道新聞に掲載された,Bの土地取得にかかる農地法違反等に関する記事を読んだことを認めるに足りる的確な証拠はない,同被告人の「市長の実兄が逮捕されたことを知り,驚き,かつ,不安になった。」とする上記検察官調書は,同被告人が農地法違反問題の重大性を平成5年1月ころに知ったことが前提となっているが,同被告人がこの問題の重大性をそのころに知ったとするには疑問が残るから,この供述は信用できないと判示する。しかし,Q1市長の実兄逮捕の記事に関する- 167 -被告人甲の発言内容が「市長を思いやる」などというレベルをはるかに越えていたことは上記のとおりであり,「驚き,かつ,不安になった」とする点を含めて上記検察官調書の信用性が認められることも上記のとおりであって,原判決の判断は首肯できない。 (オ)経営会議 るかに越えていたことは上記のとおりであり,「驚き,かつ,不安になった」とする点を含めて上記検察官調書の信用性が認められることも上記のとおりであって,原判決の判断は首肯できない。 (オ)経営会議における所管部の説明及び討議内容等被告人甲は,平成3年3月28日の会議後の経営会議でも農地法違反等の問題について,所管部から繰り返し報告を受けていた。例えば,平成5年1月25日の経営会議においては,上記2(20)イのとおり,茨戸開発計画の進捗状況として,茨戸開発対象地の大半が市街化調整区域内の農地であり,現状の土地取得は,B㈱が地主と国土法による不勧告通知,農地法5条による農地転用許可,農振法にかかる指定解除等を条件として金銭消費貸借契約証書に基づく形をとっていることなどが報告され,同被告人も検察官調書において,「私はこの段階(同経営会議の時点のこと)において,それがハッキリと農地法に違反するかどうかは分からなかったものの,極めてグレーな形で,法の規制を潜脱する形で農地取得が行われていることがハッキリと分かりました。」と述べている。また,平成5年4月1日の経営会議においては,上記2(27)アのとおり,bが「農地法の問題もあり,周りが静かになってから,債権譲渡を行う必要がある。」と述べて,その直前になされた「さっぽろ村異聞」や「Q1市長実兄逮捕」の記事等を念頭においた発言をしたのに続けて,被告人甲も「土地の買収等,丙社長が表に出てくると,かえってマイナスとなる。札幌市も嫌がっている。」などと発言し,B㈱による茨戸開発用地の取得方法を懸念している。 - 168 -さらに,平成5年7月5日の経営会議においては,上記2(29)(イ)のとおり,「Bと地主間の金消契約を売買契約に切替えること自体がBの国土法,農地法違反容疑で難しくなりかかって 。 - 168 -さらに,平成5年7月5日の経営会議においては,上記2(29)(イ)のとおり,「Bと地主間の金消契約を売買契約に切替えること自体がBの国土法,農地法違反容疑で難しくなりかかっている。」のほか,「開発許可申請から丙名を消す(市は丙名が載った申請は受理しない意向)」「国土法違反容疑者からの申請は受けられないとの意見強い」「国土法,農地法絡みがあり,市および農業委員会としては認可はしたいが,なお対応に慎重を期している状況」「開発予定地はBが取得中であるが,取得は国土法・農地法等の絡みがあり,大部分は地主に対する貸付(金消契約)の形をとっている。」「なお,極く最近の状況変化(国土法・農地法違反追及の動き)に配慮し,本案にもとづく譲渡方法が他の方法に変わる可能性も出てきている。」などと農地法違反等に関しての重大な懸念が次々と説明された。その後,平成6年1月17日の経営会議においては,上記2(35)アのとおり,B㈱が,茨戸開発事業のとんざに伴ってGに返還義務を負うことになる茨戸開発用地転売代金24億円につき,拓銀が支払保証をすることが付議されたが,aは,「24億円の融資はGの退路を断つという意味から保証が必要なもの。違法性は高いが停止条件付土地売買契約と金銭消費貸借契約と覚書と3つの契約がセットになっており,その3つの契約に基づき24億円が融資されている。」と述べ,B㈱が地権者から農地法等に違反する形で農地を実質的に買収しているのと同様に,B㈱からGへのショッピングセンター建設用地の転売行為もまた違法性の高いものであることを指摘し,審査第一部の担当取締役からも「土地売買は表面に出せない。」と説明されていたところ,被告人甲は,その支払保証を決定するとともに,同じ- 169 -経営会議で「D1がBに19億5000万円を 摘し,審査第一部の担当取締役からも「土地売買は表面に出せない。」と説明されていたところ,被告人甲は,その支払保証を決定するとともに,同じ- 169 -経営会議で「D1がBに19億5000万円を貸出すること」という形式的な名目で,B㈱から㈱D1に対する後背地の転売代金の未払代金を支払うことも,その真意を知りながら決定しているのであって,被告人甲が,農地法違反等の問題を認識していたことは明らかである。 (カ)小括被告人甲は,平成3年3月28日の会議において,顧問弁護士から「Bの農地取得方法は農地法違反の疑いがある」と言われたとの報告を受けていたが,その約5か月後から始まった平成3年のバックファイナンスにおいても,それが真実の融資理由を鉛筆書きとし,所管部以外が作成したマル秘資料が添付されるという異例の諸貸出申請書による投融資会議であり,それが農地法等に違反する農地買収資金の迂回融資のための工作であることを知りながらその融資を決定した。さらに,被告人甲は,平成5年1月25日の経営会議において,総合開発部から改めてB㈱の農地取得方法の問題点を指摘され,その約2か月後の同年3月にはQ1市長の実兄逮捕の記事を目の当たりにして,B㈱の茨戸開発用地の取得に大きな不安を抱き,同年4月1日の経営会議では,このようなマスコミ報道を踏まえ,慎重に茨戸開発を進めるべきだとのb発言が出て,被告人甲自身も違法行為を行っている被告人丙を茨戸開発から外す必要があることを認める発言をした。その上,被告人甲は,同年7月5日の経営会議において,審査第一部から,改めてより詳細かつ具体的にB㈱の農地取得方法が農地法等に違反する旨説明された上,平成6年1月17日の経営会議でもB㈱の農地取得と同様に後背地の転売が違法性の高いものであることの説明を受けな- 170 より詳細かつ具体的にB㈱の農地取得方法が農地法等に違反する旨説明された上,平成6年1月17日の経営会議でもB㈱の農地取得と同様に後背地の転売が違法性の高いものであることの説明を受けな- 170 -がら,その未払代金の支払いのための融資やGに対する支払保証の決定をした。以上の経緯に照らすと,被告人甲は,遅くとも平成5年3月の新聞報道のころには,茨戸開発用地の取得に関する農地法違反等の問題を明確に認識し,その発覚を危惧する状況にあったものであり,その後,本件融資1及び2が実行されるまでの間,その思いが強まることはあってもこれを解消する事情は全く生じなかった(なお,検察官は,平成3年以降,株主総会対策用の想定問答に農地法違反問題が取り上げられていたことを,被告人甲ら経営陣が重大な関心を抱いていた根拠とするが,想定問答は,原判決が指摘するように,問題となりそうだと所管部が判断したものを網羅的に取り上げてその回答案を作成しておくもので,その量もかなり大部である上,株主総会で質問が出た場合,所管部の担当取締役が答えるのが通例であったことに照らすと,頭取がそのすべての内容を十分に把握していたとはにわかに断じ難く,被告人甲が農地法違反等の問題を認識していた根拠とするには疑問が残る。)。 エ平成5年7月5日の経営会議の分離再編案について(ア)はじめに被告人甲は,ホテル建設資金のずさん融資や農地法違反等の問題への関わりに深い憂慮の念を抱き,後悔するとともに,経営責任追及を回避したいとの思いを有していたことは,すでに説示したとおりであるが,平成5年7月5日の経営会議において,その思いは分離再編案の不承認という形で表れたものと認められる。以下,その理由を詳論する。 (イ)分離再編案の位置付けaは,原審公判廷において,「これはグループ全体 年7月5日の経営会議において,その思いは分離再編案の不承認という形で表れたものと認められる。以下,その理由を詳論する。 (イ)分離再編案の位置付けaは,原審公判廷において,「これはグループ全体,不良債- 171 -権の塊だと。これ以上の融資は拓銀の将来の貸倒償却せねばならない不良資産を増やすだけだから,ホテル建設資金の最終代金も出さず不渡り倒産させたいところだが,Eホテルは,まだオープンして2か月かそこら,従業員500人も採用したばかり。社長,専務は拓銀から行っている。これでオープンふた月後にぶっつぶして,どんな社会問題になるかと。要するにゼネコンにも五十何億の支手振り出して,それが不渡りになるわけですから,ゼネコン何社かがおかしくなるという問題もあるでしょう。それから,茨戸の開発事業については,その地権者が,これはもうとてつもなく騒ぎだすと。それこそ騒ぎだして社会問題になったら,それに金を出しているたくぎんファイナンスサービスがおかしくなる。これは何とか,言ってみればソフトランディングさせることを考えんかったらならんということで,私とvとで考えたのが,要するに,このグループ,将来的にできるだけ早い時期に,やっぱり当行の意向に沿った計画的,段階的に,これはもう損切り,1社ずつぶっつぶして損切りしていくより仕方がないだろうというのが私とv部長の結論でした。 そのために,要するにグループごとに分社化を図ろうということで立てたのが,5年7月5日の経営会議の主命題だったと思います。」と供述している。このaの供述は,平成5年7月5日の経営会議資料や同人の経営会議における発言内容とも符合しており,十分に信用できる。とりわけ,aら審査第一部が,本来的には,Bグループに対する融資を打ち切ることが望ましいとの考えであったことは,aの上記 会議資料や同人の経営会議における発言内容とも符合しており,十分に信用できる。とりわけ,aら審査第一部が,本来的には,Bグループに対する融資を打ち切ることが望ましいとの考えであったことは,aの上記供述や「経済合理性の原則から言えば,平成5年7月の段階でばっさりやったほうが,それこそロスの金額から言えば,一番それこそ経済合理性の原- 172 -則に合った回収だったと思う。」旨の供述のほか,同経営会議資料中の「B再編案の検討」の推進素案の欄に掲げられた5項目の素案の中で「今後の一切の貸出ストップ(含むホテル)」が冒頭に記載されていることや上記2(30)の被告人丙に対する同年6月25日付け書面で「今回申込みのあったEホテルの赤字補填資金融資については本来,お断りせざるを得ないものだが,諸般の事情に鑑み条件付きで採り上げを検討する。」などと記載されていることからも裏付けられている。そうすると,審査第一部は,Bグループに対する融資を速やかに打ち切り,同グループ各社を処分することが最善の策であるが,この時点で一気に倒産させることによる種々の弊害を考慮し,やむなく次善の策として分離再編案を提案したものと考えられる。 ところで,分離再編案は,審査第一部とすれば,aが,平成5年7月5日の経営会議の「主命題だった」と供述するように,それを実施しない限りBグループに対する融資の継続は許されないといっても過言でないほどに,緊急性を要する重大案件として位置づけられていたものである。すなわち,分離再編案は,実質破たん状態にあるBグループの今後の資金需要に応じることは,拓銀の不良債権を増大させることになり,本来謝絶すべきであるが,直ちに融資を打ち切ることにも問題があり,当面の融資は継続するものの,それ以上の融資の継続による不良債権の増大を回避し,かつ, とは,拓銀の不良債権を増大させることになり,本来謝絶すべきであるが,直ちに融資を打ち切ることにも問題があり,当面の融資は継続するものの,それ以上の融資の継続による不良債権の増大を回避し,かつ,損切りを覚悟しつつできる限りの回収を図ろうとするものであり,分離再編案自体,新規の貸付金が回収されずに損失を拡大する危険すらあるものであったから,拓銀の利益のためには分離再編を早期に成し遂げる態勢を整える必要があった。審査第一部は,この点を十分に理解していた- 173 -から,経営会議資料中の「Eホテルの運転,設備資金融資ならびにBグループの再編案について」の添付資料「㈱Dの現状と問題点および経営改善等」の3「経営改善策(対応策)」の(5)に「今後の資金対応について」として「現状の収支状況からいって長期にわたって返済財源のない貸出を行うことは,非常に問題あるが約24000百万円の借入れを背負った形でスタートした事業において初年度から黒字経常することは,到底困難である。当行から社長,専務をだし,かつオープン後2~3月で支払いを遅延させることは,許されない状況である。当面最低の資金対応は已むを得ないと判断する。但し,t社長への権限委譲(丙会長の代表権をはずす)を再度交渉する。」などと記載し,分離再編の実施時期については,「Bグループの概況について」の項に「当グループの赤字タレ流しの状況,膨大な借入れ,他行の消極姿勢を考えると,遅過ぎるくらいであるが当グループに対する方針(融資姿勢を含めた対応)を抜本的に見直す時期に来ていると判断される。タイミングを逸すると膨大な不稼働資産を当行が背負う形となる。当行にはもうその体力はない。」と記載し,上記㈱Dの3「経営改善策(対応策)」中に,「第一段階として丙会長を第一線から切り離し,t社長主導の経 グを逸すると膨大な不稼働資産を当行が背負う形となる。当行にはもうその体力はない。」と記載し,上記㈱Dの3「経営改善策(対応策)」中に,「第一段階として丙会長を第一線から切り離し,t社長主導の経営体制を確立することが先決である。権限委譲を了解しない場合,株式を担保に取るとか,資本構成を変える,取締役構成を含めた執行体制を確立する等の強硬手段により完全に当行管理下におくことが必要である。タイミングとしては,Eホテルの工事代金の最終支払い約5900百万円が到来する8月末がタイムリミットと判断する。」と記載し,同経営会議において,分離再編案の実施が時限性のある緊急課題である旨- 174 -説明したのである。この点は,被告人甲も原審公判廷において,「平成5年7月5日の経営会議で分離再編案が出され,役員は,この先,相当早いスピードでこの関係の作業なり対策なりは進めていかなければいかんという理解であったと思う。」と供述し,これを認めている。 以上のように,審査第一部は,平成5年7月5日の経営会議において,被告人甲ら経営陣に対し,緊急の課題として分離再編案を付議したのであり,それは,新規の貸付金の回収不能という危険をはらみながらも,Bグループの経営の実情と拓銀の利益のためには,Bグループに対する取引方針を早急に見直すべきことを付議提案したものであるから,上記のように,その課題を認識した被告人甲としては,分離再編案の前提となるBグループの経営状態の理解や分離再編案の内容に問題があるなどの場合には,その理解を深め,あるいは,更に内容を詰めるなどの指示をするなどしてその結末を明らかにすべきであって,それをしないまま融資だけを継続することは,頭取としておよそ考えられない異常な判断というべきである。 (ウ)分離再編案の結末について被告人甲及び 示をするなどしてその結末を明らかにすべきであって,それをしないまま融資だけを継続することは,頭取としておよそ考えられない異常な判断というべきである。 (ウ)分離再編案の結末について被告人甲及び同乙は,原審及び当審公判廷において,分離再編案は,基本的には承認であり,それを実行するための条件整備(被告人乙は「金融支援策」という。)を詰めるため,継続審議となった旨供述している。これに対し,aは,原審公判廷において,経営会議の席上,被告人甲が「そんな条件を付けたら丙社長が納得するわけないだろう。」と発言して分離再編案が不承認となった旨供述している。そこで,承認・継続審議か不承認かを判断するに当たり,まず,その発言があったか否か- 175 -を検討する。 aは,原審公判廷において,上記のとおり,「被告人甲が経営会議の席上,『そんな条件を付けたら丙社長が納得するわけないだろう』と発言した。」「他の役員からも,丙社長を納得させられるかどうかがポイントだなという発言があった。この発言が議事録に載っていないが,実際に,甲さんがそういう発言をされたのは間違いない。」と明確に供述している。そして,同経営会議の議事録には,pの「Bの丙社長が今回の当行の申し出に乗ってくるかどうかがポイントになる。大丈夫でしょうね。」という発言と,これに応じて,被告人乙の「その辺がポイントになることは承知している。時間をかけて説得したい。 」との発言が記載されている。加えて,aは,分離再編案がこれまでの基本方針を180度転換するもので従来の経営陣の方針が誤りであったことを前提とするものであったから,これを付議することに自らの進退をかけ,いわば不退転の決意で臨んだと述べている。そうすると,aが証言したのは平成5年7月5日の経営会議から6年余り経過した後ではあるが,同 提とするものであったから,これを付議することに自らの進退をかけ,いわば不退転の決意で臨んだと述べている。そうすると,aが証言したのは平成5年7月5日の経営会議から6年余り経過した後ではあるが,同人は,その結論について,誰よりも関心があり,明確に認識し,記憶も鮮明に残っていたと考えられる。また,被告人甲や同乙に不利となる虚偽の供述をする理由も必要も全くなく,原審弁護人らの反対尋問に全く揺れていない。しかも,aは,上記2(42)ウのとおり,分離再編案が再度付議された平成7年1月27日の経営会議資料によれば,その冒頭,「私共は平成5年旧総合開発部から当グループの所管を引継し,平成5年7月にホテル建設最終資金59億円の採り上げを経営会議に付議した際,本日お諮りするグループ再編方針についても付議しました。この- 176 -時は茨戸開発事業が流動的であること,ホテルも出来たばかりで創業間もないこと,そして何よりもグループ再編を丙氏に納得させられないだろうということから『更に詰めた段階で再度付議するよう』指示されました。」と述べたことが明記されていることなどを併せ考えるとaの上記供述の信用性は高い。加えて,被告人乙は,審査第一部担当取締役として,aから事前に分離再編案の説明を受け,平成5年7月5日の経営会議に付議することを認め,かつ,同経営会議での議事進行役であったから,分離再編案が承認されるように導く立場でもあったところ,a及びsも認めるように,分離再編案はほとんど議論されないまま被告人乙が「分離再編案は更に詰めた段階で再度経営会議にお諮りする。」と述べて経営会議を終了させたことが認められる。被告人乙が分離再編の必要性を当時認識していたことは同被告人自身が原審公判廷において認めるところであるが,立場上も分離再編案を承認にもっていく する。」と述べて経営会議を終了させたことが認められる。被告人乙が分離再編の必要性を当時認識していたことは同被告人自身が原審公判廷において認めるところであるが,立場上も分離再編案を承認にもっていくべき同被告人が,ほとんど議論がされず,方向性が明確に示されないまま議事を打ち切ったということは,当時副頭取であった被告人乙よりも上の立場の者が,最終決定と受け取られるような消極意見を出したからとしか考えられない。すなわち,頭取である被告人甲による否定的発言により議論らしい議論をせずに議事が打ち切られ,一気に不承認の方向に進んでいったことがうかがえる。確かに,平成5年7月5日の経営会議議事録には,被告人甲がしたという上記発言は記載されていない。しかし,議事録は,そこに記載されている発言が存在したとはいえても,当日の経営会議の発言を漏れなく記載したとまではいえないから,記載がないことをもって,その発言がなかったということはできない。以上- 177 -検討したところによれば,分離再編案は,被告人甲が「丙が納得するわけない」などと発言したことにより,同会議においては承認されなかったと推認される。 これに対し,被告人甲は,原審及び当審公判廷において,「丙が納得するわけない」などと発言したことはない,被告人丙との交渉材料が整っておらず,その条件整備を詰める必要があったなどと供述している。しかし,審査第一部が分離再編案を付議したのは,Bグループをこれまでのインキュベーター路線に基づく育成・支援先から回収困難な多額の債務を抱える不良企業へと認識の転換を図り,次善の策である分離再編案を早期に実施する必要があり,そのためには同グループを拓銀の支配下において処分すべく,被告人丙とハードな交渉を進めたいというものであった。すなわち,審査第一部の分離再編案 ,次善の策である分離再編案を早期に実施する必要があり,そのためには同グループを拓銀の支配下において処分すべく,被告人丙とハードな交渉を進めたいというものであった。すなわち,審査第一部の分離再編案は,Bグループを分社化し,被告人丙には理美容業に専念させ,それ以外は第三者に処分することも視野に入れたもので,そのために被告人丙の経営権を剥奪して拓銀の支配下に置いたり,被告人丙が手がけてきたEホテルなどの資産の売却も行わせるという,同被告人の強い抵抗が予想される内容であった。被告人甲ら経営陣は,aらから,Bグループの財政・経営状態の危機的状況や分離再編案の内容の説明を受け,分離再編案が,被告人丙の意に反するもので強い抵抗が予想されること,しかし,同グループの経営状態を踏まえると分離再編案の実施が一刻の猶予もならない緊急課題であることを十分に理解できたはずである。そして,aが,「甲頭取は,丙を納得させられないといったが,考え方だが,金融機関の最大の武器は融資するかしないかであり,要は,拓銀側が提出する条件を飲まなかったら貸さ- 178 -ないよとはっきり言えば,飲まざるをえないはず。このときも11億5000万の赤字資金を出さんかったら当然Bグループは支払不能に陥りますし,59億のホテル最終代金を出さなかったら不渡り倒産を免れないという状況ですから,私としたらその辺り十分丙社長は納得させられるという感じは持っていた。 それだけにかなりのショックを受けた。」と供述しているように,銀行側の貸し手の強みとして被告人丙に対し,分離再編案の交渉を迫ることができたはずであるから,そのことを理解していた被告人甲が,条件整備を詰める必要があったなどとして継続審議としたというのは考え難いことである。しかも,条件整備のために継続審議にしたというのであれ とができたはずであるから,そのことを理解していた被告人甲が,条件整備を詰める必要があったなどとして継続審議としたというのは考え難いことである。しかも,条件整備のために継続審議にしたというのであれば,当然,近いところで再付議がなされてしかるべきであるのに,被告人甲が頭取を退任するまでの約1年間,再付議がなされておらず,同被告人はその指示もしていない。 この点について,被告人甲の弁護人は,答弁書において,平成5年7月5日の付議結果の記載,それに続く,同年8月23日の経営会議付議案件記録表の「指示事項または要望事項」の記載(上記2(31)ア)及び同経営会議資料の「再編案の構築とその推進が急務であります。しかし,再編案策定のベースとなるグループ各社の抜本的収支改善計画は,Eホテルから具体的なものの提示がありましたが,BとEについては具体策を織り込んだ実行計画としての改善計画が提出されておりません。」との記載を根拠に分離再編案は,まずBグループ側からグループ各社の抜本的改善計画を提出させてその分離再編作業に入ることとしたもので,承認の上継続審議になったものであるという。しかし,平成5年8月23日の経営会議の弁護人指摘の記- 179 -載から,同年7月5日の経営会議に付議された分離再編案が承認されたということにはならない。すなわち,平成5年8月10日に被告人丙から拓銀に提出された「B事業新生計画書」を子細に見ると,そこには「採算性向上を計り自己資金増強に努める」「資産売却による債務負担の軽減を計る」などと記載されているが,これらは,上記2(30)アのとおり,同年7月5日の経営会議以前からことあるごとにBグループの所管部が被告人丙に要求していたことであり,そのうち最も効果の期待されるBグループの資産売却の必要性などは,既に平成4年7月 0)アのとおり,同年7月5日の経営会議以前からことあるごとにBグループの所管部が被告人丙に要求していたことであり,そのうち最も効果の期待されるBグループの資産売却の必要性などは,既に平成4年7月27日の経営会議で被告人丙に指導中と報告されていたのであって,上記「B事業新生計画書」はこれまでの要求事項をまとめ上げたものに過ぎないのである。そして,平成5年7月5日の経営会議に付議された分離再編案は,上記のとおり,拓銀のBグループに対する従前の方針を抜本的に見直し,分社化と被告人丙の経営権を縮小して拓銀主導の経営に移し,Eホテルの売却等を図るというもので,上記の「グループ各社の抜本的収支改善計画」ないし「B事業新生計画書」の内容とは性質が全く異なり,このような改善計画などをもって上記分離再編案の内容ないし前提とみることはできない。また,平成5年7月5日の経営会議において,被告人甲及び同乙から,分離再編案の承認を前提とした具体的な作業指針についての検討が指示された形跡も全くない。そして,平成5年8月23日の経営会議において,確かにBグループ各社から抜本的収支改善計画の提示を求め,Eホテルからその提示があったけれども,これは,上記のとおり同年7月5日の経営会議で分離再編案は承認されなかったものの,Bグループに対する融資を漫然と続けて拓銀の不- 180 -良債権が増大するのを避けたいと考えた審査第一部が,可能な限りそのための行動をとろうとしたものと理解するのが自然である。現に,aは,原審公判廷において,「r事務所にBグループの監査を依頼したのは,平成5年7月5日の経営会議のショックを受けてこれはやっぱり専門家にもやってもらわんかったらならんかなという感じを持ったからだ。」と供述しているが,これは,分離再編案が承認されなかったからこ のは,平成5年7月5日の経営会議のショックを受けてこれはやっぱり専門家にもやってもらわんかったらならんかなという感じを持ったからだ。」と供述しているが,これは,分離再編案が承認されなかったからこそ専門家による監査の必要を述べたものと理解される上,被告人丙と面談し,同被告人に対し,保有株式の担保差入れと保有資産の売却を要求するなどしているのであって,分離再編案が不承認になったからといって手をこまねいていたわけではないことを裏付けている。弁護人の指摘する上記平成5年8月23日の経営会議の記載もこのような趣旨と理解されるべきであり,それをもって,同年7月5日の経営会議に付議された分離再編案が承認されたということはできず,被告人甲の弁護人の上記主張は採用できない。 また,被告人乙は,原審公判廷において,審査第一部の分離再編案は,リストラ案だけであり金融支援策がなかったから,何となくすとんと腹に落ちない部分があり,それでもう少し詰めさせてくれという発言をしたものと思うと供述している。しかし,この供述は,「被告人甲が『そんなこと一度に要求したら丙が何をするか分からんぞ。よく考えてくれよ。今はその時期ではない。』といった趣旨のことを言って事実上ストップをかけた。」と明確に供述していた被告人乙の検察官調書と完全に矛盾するものであり,信用できない。さらに,金融支援策が必要と考えていたというのなら,平成5年7月5日の経営会議- 181 -前の事前のaらとの打合せ(上記2(28)ウ)の際,その旨述べるはずであるのに全く述べておらず,かえって,aらの審査第一部の案で経営会議に付議することに了承を与えているのである。この点,被告人乙は,原審公判廷において,事前にaから報告ないし相談があった際,分離再編案だけでは足りなくて,金利減免等を含めた総合 第一部の案で経営会議に付議することに了承を与えているのである。この点,被告人乙は,原審公判廷において,事前にaから報告ないし相談があった際,分離再編案だけでは足りなくて,金利減免等を含めた総合的な対策を取らなければならないということは,自分の持論であったから当然に言ったはずだと供述している。しかし,aは,被告人乙からそのような指示を受けたことを全く供述しておらず,逆に,「まあそれでいくより仕方がないな」ということで了承したので分離再編案を提案したと供述している。そして,そもそも事務方であるaが,担当取締役である被告人乙の指示に反する内容の分離再編案を経営会議に提案すること自体考えにくい。したがって,被告人乙の原審公判供述は信用できない。 以上を総合すると,被告人甲は,平成5年7月5日の経営会議において,「そんな条件を付けたら丙社長が納得するわけないだろう。」と発言して分離再編案を承認しなかったことを優に認めることができる。 (エ)原判決の検討原判決は,被告人甲が「丙が納得しない」などと発言し,これが契機となって分離再編案が継続審議となったと認定しつつ,「審査第1部の付議した分離再編案の概要が,Bグループに対する融資継続を前提とした上,同グループの各事業のうち,不採算部門を段階的に処理していくといった取引方針の基本を示したもので,その具体的な処理方法や最終的な損失の確定時期などは明確にされていなかったことに照らせば,このような分- 182 -離再編案を承認することが,直ちに被告人甲の経営責任の追及に結びつくものではないといえる上,むしろ,被告人甲が,分離再編案を継続審議としたのは,平成5年7月経営会議以前においては,総合開発部の報告により,Bグループの経営状況について,多少問題があることを認識しながらも,ほぼ順調であ ,むしろ,被告人甲が,分離再編案を継続審議としたのは,平成5年7月経営会議以前においては,総合開発部の報告により,Bグループの経営状況について,多少問題があることを認識しながらも,ほぼ順調であると考えていたものが,平成5年7月経営会議で,突然,それが極めて深刻な状況にあるとの報告を受けたため,とっさに状況の把握ができなかったことや,同会議の時点では,Eホテルも開業間がなく,翌年4月には茨戸開発に係る許認可が取得できると認識していたため,もうしばらく経営状況の推移をみようとしたためであると考えることができる。したがって,被告人甲が,分離再編案を継続審議とした理由が,自らの経営判断の誤りを認めたくなかったからであるということはできない。 」と判示する。 しかし,経営責任追及の懸念は,分離再編案が融資継続を前提としていたことや具体的な処理方法等を明確にしていなかったことによって左右される問題ではない。そもそも分離再編案は,平成5年7月5日の経営会議資料にあるとおり,また,上記のとおり,当面の融資はするものの,漫然と融資を継続するものでないことは明らかである上,被告人丙に対し,㈱Cや㈱Dの経営権の委譲,Bの茨戸開発からの実質的な撤退,Eホテルなど同被告人が手がけてきた資産の売却等を要求し,同被告人を理美容業に専念させることを内容とするもので,一代でBグループを築き上げ,㈱Cを中心とした健康村を建設するという同被告人の培ってきた「財産」と「夢」を奪うに等しいものであったから同被告人には耐え難いものであった。審査第一部- 183 -もそれを承知していたからこそ,経営会議資料に「(茨戸開発の許可申請から)丙名を消すことは至難」「(Dについて)丙氏が代表権を手離さぬ」「丙氏にとっても再編案は思ってもいないこと。丙氏は代取外しに抵抗」など 知していたからこそ,経営会議資料に「(茨戸開発の許可申請から)丙名を消すことは至難」「(Dについて)丙氏が代表権を手離さぬ」「丙氏にとっても再編案は思ってもいないこと。丙氏は代取外しに抵抗」などと随所に同被告人の抵抗を懸念する記載をしているのである。そして,同経営会議では,被告人丙の激しい抵抗が予想されるものの,拓銀のためには分離再編案の実施はもはや一刻の猶予もならないことが報告されていたから,分離再編案が承認されれば,審査第一部としては速やかに同被告人に対し,貸し手側の強みを武器にして経営権の委譲等の基本方針を提示して分離再編案を推進することを予定していたのである。そうなった場合,被告人丙が,それまでホテル建設資金や茨戸開発用地の買収資金を融資しながら,手のひらを返すように代表権を奪い茨戸開発の主体から外そうとする拓銀の姿勢に猛反発することは容易に想像されることであり,それを契機に被告人甲が危惧するホテル建設資金等のずさん融資や茨戸開発用地の取得に関する農地法違反等の問題が明るみに出てその経営責任が問われる事態となることも容易に想像される。本来,分離再編案は,上記のとおり,実質破たん状態にあるBグループに融資を継続することが拓銀の不良債権を拡大することになるとして,その拡大を回避するための緊急性のある課題であり,そのことは被告人甲は十分認識していたはずであるから,Bグループの経営の実情と拓銀の利益を考えた場合,被告人丙への対応を含めその実施に向けた検討をすべきであり,そうすることに特段の支障はなかったのに,実際には,ほとんど議論されないまま,被告人甲の「丙が納得するわけない」などと拓銀の利益を度外視する発言により,承認され- 184 -なかったものである。この被告人甲の判断は,その後のBグループに対する赤字補填資金等 されないまま,被告人甲の「丙が納得するわけない」などと拓銀の利益を度外視する発言により,承認され- 184 -なかったものである。この被告人甲の判断は,その後のBグループに対する赤字補填資金等の融資の継続をもたらしたものであり,公共性のある銀行のトップとして,また,融資は安全性の原則に則ってなされるべきことを考えると,まことに異常な判断というほかなく,通常の判断を妨げる何らかの事情,すなわち,分離再編案が実施された場合の被告人丙の反発とそれが被告人甲の経営責任の追及につながるものとしてこれを懸念していたことを強く推測させるものである。分離再編案は,なるほど融資継続を前提としており,また,具体的な処理方法等を明確にしていなかったが,そうであってもこれを承認することは,被告人甲の経営責任の追及につながることは明らかで,それらの点は同被告人が上記の懸念を抱くことと全く無関係である。さらに,原判決は,被告人甲が,それまでBグループの経営状況をほぼ順調と考えていたのに突如それと異なる報告を受けて,とっさに状況の把握ができなかったことを根拠にあげているが,既に認定したとおり,被告人甲は,協調融資が不成立となることに重大な懸念を示し,平成4年12月のEホテル視察の際に採算性を疑問視する発言をし,その完成披露パーティーの祝辞の際もあえて厳しい注文をつけ,平成5年1月の経営会議でも「ホテルは金のかけ過ぎ。これだけ借金をすると,儲かると考えるのがまちがい。これからの事業は大丈夫か。」などと発言し,さらに,同年2月の経営会議でも㈱Cの赤字補填資金やホテル建設資金の融資が問題となった際,「今後金利は上がっていくと思う。よって当社の支払金利は増加していく。 」などと発言するなど,平成5年7月5日の経営会議以前の段階から既にEホテルの経営に危機感を テル建設資金の融資が問題となった際,「今後金利は上がっていくと思う。よって当社の支払金利は増加していく。 」などと発言するなど,平成5年7月5日の経営会議以前の段階から既にEホテルの経営に危機感を抱いていたことは明らか- 185 -である。確かに,総合開発部時代の説明と審査第一部の説明は180度違うものであるから,その意味で被告人甲が驚き,かつ,これまでの対応を後悔したことは容易に推測できるが,審査第一部の指摘を待つまでもなく,Eホテルの経営に危機感を抱いていたことは上記のとおりであるし,aは,平成5年7月5日の経営会議において,被告人甲ら経営陣に対し,「詳細な資料に基づき,時間をかけて,逐一全部説明,微に入り細に入り相当説明した。」というのであるから,被告人甲の銀行員としての豊富な知識・経験や頭取にまで上り詰めた力量をも併せ検討すると「とっさに状況の把握ができなかった」というのもにわかに信じ難い。仮にそのような状況にあったのなら,平成6年5月16日の経営会議のときに,「聞きたいこともあるからもう一度やってくれ。」と述べて,同月19日に経営会議を開いているように,承認を留保して後日再付議させればよいのに,結局,被告人甲が頭取を退任するまで再付議されていない。 以上のとおりであるから,分離再編案の結末から,被告人甲が自己の経営判断の誤りを認めたくなかったとはいえないとした原判決の判断は首肯できない。 (オ)小括審査第一部は,平成5年7月5日の経営会議において,Eホテル処分に伴う弊害等を考慮して分離再編案を次善の策として提案した。この分離再編案は,Bグループ各社を分社化するとともに被告人丙を理美容業に専念させ,同被告人から他の経営権を剥奪し,拓銀の支配下に置き,第三者への売却を視野に入れたものであったから,これまでインキュベ 分離再編案は,Bグループ各社を分社化するとともに被告人丙を理美容業に専念させ,同被告人から他の経営権を剥奪し,拓銀の支配下に置き,第三者への売却を視野に入れたものであったから,これまでインキュベーター対象企業として支援されていた同被告人にとっては青天のへきれきであり,- 186 -当然に同被告人の激しい抵抗が予想された。しかし,審査第一部は,Bグループが実質破たん状態にあり,営業を続ければ続けるほど拓銀の不良債権が増大するという現状からすると,もはや,一刻の猶予もならず,分離再編案を実施すべきであることを強調した。しかし,被告人甲は,「そんな条件を付けたら丙社長が納得するわけないだろう。」などと発言して分離再編案に消極姿勢を示したため,分離再編案についてはほとんど議論されないまま,経営会議の進行を担当していた被告人乙により,分離再編案は更に詰めた段階で再度お諮りするとして承認されず,㈱Dの赤字補填資金及びホテル建設資金合計70億5000万円の融資を行うことだけが決定された。被告人甲が,分離再編案を承認しなかったのは,その発言内容からも明らかなとおり,被告人丙の猛反発が予想される同案を承認することにより,同被告人からホテル建設資金等のずさん融資の実態や茨戸開発の農地法違反等の問題が明るみに出ることを恐れたためである。被告人甲は,上記イ及びウのとおり,平成5年7月5日の経営会議以前において,既にホテル建設資金等のずさん融資や農地法違反等の問題を認識し,これまでの判断に後悔の念を抱くとともに経営責任の追及を回避したいとの思いを有していたが,それが,分離再編案の不承認という形となって表れたものと認められる。 オ被告人甲は同丙を恐れていたか否か(ア)原判決と検察官の主張について原判決は,「審査第1部のaらは,Bグループを所管 たが,それが,分離再編案の不承認という形となって表れたものと認められる。 オ被告人甲は同丙を恐れていたか否か(ア)原判決と検察官の主張について原判決は,「審査第1部のaらは,Bグループを所管するようになった平成5年4月以降,総合開発部とは異なり,被告人丙に対し,厳しい態度で臨み,同グループの経営改善を求める- 187 -とともに,保有資産の売却や保有株式の担保差し入れを求めたほか,被告人甲も,平成5年7月経営会議やその前後に開催された経営会議において,度々,Bグループのリストラ策等の必要性に言及していることが認められるが,そこには,被告人丙に対する畏怖の念やおそれ等は全く感じられない。また,経営会議の資料に,被告人丙が自暴自棄となって農地法等の問題を暴露するという懸念が記されるようになったのは平成7年1月経営会議以降のことであることが認められ,被告人甲の頭取在任中の経営会議においては,被告人丙が自暴自棄になって農地法違反等の問題が表沙汰になるなどといった議論がなされた形跡はないし,審査第1部あるいは審査第3部が,同被告人が自暴自棄となって農地法違反等の問題を暴露するおそれがあるなどと報告したこともうかがわれない。以上に加え,平成5年後半には,拓銀が中心となって被告人丙を茨戸開発の事業主体から外していることなどの事情に照らせば,被告人甲の頭取在任中,同被告人ら拓銀経営陣が,被告人丙をおそれ,同被告人に対し強硬姿勢をとることを躊躇していたとは到底認め難い。」と判示する。 これに対し,検察官は,被告人甲が,平成5年7月5日の経営会議において,「丙が納得するわけない」と述べて分離再編案を承認しなかったのは,分離再編により自暴自棄となった被告人丙の口からホテル建設資金のずさん融資の実態や農地法違反等の問題が明るみに出て頭取と 議において,「丙が納得するわけない」と述べて分離再編案を承認しなかったのは,分離再編により自暴自棄となった被告人丙の口からホテル建設資金のずさん融資の実態や農地法違反等の問題が明るみに出て頭取としての自己の経営責任が追及されることを恐れた結果であると主張し,当裁判所も,これまで説示してきたとおり,これと同旨の見解に立つものである。 そこで,以下において,被告人甲が,同丙を恐れていたこと- 188 -を認定した理由を詳論する。 (イ)原判決の検討第1に,原判決は,被告人丙に厳しい態度で臨むなどしたことを根拠として同被告人への畏怖の念は全く感じられないという。確かに,審査第一部は,被告人丙に対し,融資継続を条件に,①B㈱及び㈱Dの株式の担保差入れ,②J,旧本社ビル等(Eホテルは含まず)の売却促進を要求し,同被告人は,平成5年7月12日付けの念書等により,①及び②の実施を約しているが,①及び②は,審査第一部が分離再編案として検討していた分社化,Eホテルの売却,㈱Cや㈱Dの代表権の委譲,茨戸開発からの実質的な撤退等同被告人にとって耐え難い条件を全く提示していないのであって,同被告人にとっての「夢」を捨てさせるほどのものではないし,そもそも同被告人は,経営改善の要求を聞き流し,「思い切ったリストラが必要ということで考えた」と言いながら,J売却要求に対しても㈱D1に一旦買い取らせ5年後に買い戻す案を逆に提示し,Nの温泉設備工事を拓銀の反対を押し切って進めるなど,審査第一部からの要求事項を真摯に受け止めていなかった。このような状況に照らすと,審査第一部がした上記①及び②の要求は,拓銀が融資をストップすれば倒産するという経営状態にある借り手側の被告人丙に対する要求として,厳しい態度で臨んでいたということには全くならず,この程度の要求を 審査第一部がした上記①及び②の要求は,拓銀が融資をストップすれば倒産するという経営状態にある借り手側の被告人丙に対する要求として,厳しい態度で臨んでいたということには全くならず,この程度の要求をしたことをもって,被告人丙に対する「恐れ」がなかったとは到底いえない。また,被告人甲が経営会議で言及したリストラ策等も,大半は,抽象的かつ細目的なものであって,平成5年7月5日の経営会議で「最終的には不動産賃貸業と理美容だけをやらせ,あとは口をだ- 189 -さないようにさせなければダメだ。」と述べてはいるが,実際には,上記の分社化,Eホテルの売却,代表権の委譲及び茨戸開発の実質的な撤退を内容とする分離再編案の実行が問題となった際には「丙が納得するわけない」と発言して,事実上,その実行を拒否したのである。そもそも,貸し手側として有利な立場の銀行が,倒産必至の借り手である被告人丙に,理美容業等本業部門に専属させることは本来可能と思われるのに,丙が納得するわけないなどと発言してそれすらさせず,また,①及び②の要求等に対する被告人丙の対応について,被告人甲はその報告を受けていると思われるのに,なんら具体的な措置を指示するなどしていないことを考え併せると,被告人甲が被告人丙を恐れていたというほかに理由は見当たらない。 第2に,被告人甲の頭取在任中に農地法違反等の問題が表沙汰になるような議論がなされた形跡はないし,所管部から被告人丙が自暴自棄になって暴露するおそれがあるとの報告を受けたこともうかがわれないことを根拠に被告人甲ら経営陣が被告人丙を恐れていなかったとする点についても,平成5年7月5日の経営会議において,審査第一部から被告人丙の激しい抵抗を懸念する報告がなされていたことは上記エのとおりであり,被告人甲ら経営陣が農地法違反等の問題点 いなかったとする点についても,平成5年7月5日の経営会議において,審査第一部から被告人丙の激しい抵抗を懸念する報告がなされていたことは上記エのとおりであり,被告人甲ら経営陣が農地法違反等の問題点を認識していたことも上記ウで詳論したとおりであるから,結局,農地法違反等の問題は,当時,被告人甲をはじめ経営陣及び所管部の間では共通の認識ができ上がっていたものであり,あえてそれ以上詳細な議論や報告をするまでもなかったに過ぎない。 第3に,平成5年後半には,拓銀が中心となって被告人丙を茨戸開発の事業主体から外していることを根拠に被告人甲ら経- 190 -営陣が被告人丙を恐れていなかったという点についても,確かに,平成5年後半に被告人丙が拓銀の指示を受けて表面上茨戸開発から外れているが,その経緯を子細にみると,拓銀は,被告人丙に茨戸開発から外れることを承諾させるため,また,その機嫌を損なわないように,極めて慎重な配慮をしているのに対し,被告人丙は,それに増長するかのように脅迫的言動に及んだり,自暴自棄的な言動に及んでいることが認められるのであって,拓銀が被告人丙を茨戸開発から外したことをもって,被告人甲ら経営陣が被告人丙を恐れていなかったなどとは到底いえない。すなわち,拓銀は,被告人丙が茨戸開発から外れるに当たり,それは札幌市との関係から表面上のことであって,実質的には引き続き,茨戸開発の用地取得等を行うよう要請していたこと,上記2(32)及び(35)のとおり,Bグループを開発新会社に参加させないと言いつつ,拓銀グループがBグループのために45パーセントの株式を肩代わりし,最終的にはそれをBグループに戻すことや同被告人に開発新会社の役員の地位を与えることを約束していたことが認められる。加えて,被告人丙を茨戸開発から外すに当たり,審査 5パーセントの株式を肩代わりし,最終的にはそれをBグループに戻すことや同被告人に開発新会社の役員の地位を与えることを約束していたことが認められる。加えて,被告人丙を茨戸開発から外すに当たり,審査第一部のv部付部長は,「丙氏が硬化しない形で茨戸開発から外れてもらうのは容易でない(気違いになる?),猫の首に鈴つけは周到な準備が必要,丙氏の協力なしには用地処理,債権譲渡手続等ができなくなる,茨戸事業が完成するなら自分(丙)は下りてもよいにもっていく必要がある,その為には,丙氏が納得できる姿を提示してやる必要あり。」などと記した平成5年8月3日付け「(意見)」と題する書面を残しており,これを受けて,平成5年8月23日の経営会議資料には,行政当局は被告人丙を茨戸開発から- 191 -外すことを拓銀から申し出てほしいという依頼もあるが現状ではGから話を切り出すのがベターなどと記載されている。そのため,この経営会議終了直後,被告人乙が同丙と面談した際には,被告人丙を茨戸開発から外すことは既定の方針であったにもかかわらず,そのことには一切触れずに,許認可問題について,「それはスンナリいかぬ。絵を画いたようにいくなら苦労しない。甘く考えぬ方がよい。慎重にやるべきだ。市がやり易いようにやる必要がある。この辺うまくもってゆかねばならぬ。 おかしくなったら終わりだ。市が許認可を下せるようよく相談しながらやろう。」「審査第一部a部長,vとよく相談して欲しい。あとでゴチャゴチャにならぬよう慎重にやって欲しい。 失敗できない。」などと繰り返し述べ,再三にわたり,慎重に対応するよう求めるなど,被告人丙の立場に十分配慮していたものである。この点,被告人乙は,検察官の取調べに対し,札幌市の意向に応じてB㈱や被告人丙を茨戸開発から表面上外すことにした,このとき 重に対応するよう求めるなど,被告人丙の立場に十分配慮していたものである。この点,被告人乙は,検察官の取調べに対し,札幌市の意向に応じてB㈱や被告人丙を茨戸開発から表面上外すことにした,このときにその旨を同被告人にはっきり言うべきであったが,同被告人の口から農地法違反等の拓銀の関与が表沙汰になることを恐れ,同被告人が自暴自棄になるような形で話を持っていくわけにはいかない悩ましい問題があり,「市がやりやすいようにやる必要がある。」などといったえん曲的な言い方をした旨供述しており,上記の客観的な経過にも沿うものである。その後,結局,拓銀が,被告人丙に対し,茨戸開発から外れることを申し入れることになり,同被告人もこれを受け入れたが,それは,上記のように表面上開発新会社の設立に関与しないように装うだけで茨戸開発からの完全撤退を求めるものではなかったからである。このことは,被告人丙が,平成- 192 -5年10月25日に拓銀を訪れ,aらに対し,「11月1日にGのo1社長が来道する。その際,拓銀から,『茨戸の開発事業の表面から自分は降りるが,実質は自分が成し遂げること,当面,拓銀グループで出資する分は時期がきたらBに戻すこと,丙が代取になること』を話してもらいたい。」と求めたのに対し,aらは「当行も同じ考えであり,その様にGに申出する。 」と答えて被告人丙の意向を最大限尊重した対応をとっていたことからも裏付けられている。加えて,被告人丙は,平成5年11月5日,今後の茨戸開発の主体をGグループと拓銀グループの2者とし,開発新会社の出資比率も両者各50パーセントとする旨記載されたGのp1事務局長が持参した「茨戸地区開発の推進方針にかかわる確認事項」と題する文書の草案を見るや,その内容が,これまでの合意事項を白紙撤回し被告人丙を茨戸開発か 50パーセントとする旨記載されたGのp1事務局長が持参した「茨戸地区開発の推進方針にかかわる確認事項」と題する文書の草案を見るや,その内容が,これまでの合意事項を白紙撤回し被告人丙を茨戸開発から実質的にも排除するものであったことから,その日のうちに被告人甲に面会を求め,上記2(32)アのとおり,同被告人に,開発新会社の株式のうち,45パーセントについて,「出資50:50で進むが45パーセントは条件が整い次第Bへ渡す(返す)。そのとき,役員変更もやる旨話してくる。」と改めて言わせている。以上のように,拓銀は,被告人丙を茨戸開発から外すに当たって同被告人の気分を損ねないよう極めて慎重な配慮をしていたものであるが,同被告人は,拓銀の不安が的中するかのように,平成5年11月8日,c1助役に面会を求め,同被告人が茨戸開発から表面上は降りるが,後に戻ってもよいことを書面で市に証明して欲しい,拓銀,G及びB3社の前で同被告人が降りる理由を説明してほしいなどと申し入れ,筋違いの申入れに同助役が激怒するなど,尋常でない行- 193 -動に出ている。この点,被告人丙は,当審公判廷において,このころc1助役と面談したことはあるが,上記のような申入れはしていないという。しかし,被告人丙が上記申入れをしたため,札幌市に呼ばれて苦情を言われたとのa1設計社長からの電話内容を記載したw次長作成の書面及び平成5年11月11日に行われた同被告人と被告人乙との面談の際,被告人丙が「11月8日にc1助役を訪問し,Gから確認書をもらっていたので,きっちりした肚が必要につき,お願いしてきた。市長にも頼む旨云って来た。」と述べたとのv部付部長作成の面談録の記載からすると上記公判供述は信用できない。さらに,上記平成5年11月11日の面談の際,被告人乙及びaは,同月 つき,お願いしてきた。市長にも頼む旨云って来た。」と述べたとのv部付部長作成の面談録の記載からすると上記公判供述は信用できない。さらに,上記平成5年11月11日の面談の際,被告人乙及びaは,同月8日の被告人甲及びi代表の香港会談の結果を踏まえ,Gが被告人丙の完全な排除を意図していることにはあえて触れず,Gの茨戸開発への消極姿勢のみ伝えたところ,同被告人は,Gの態度の急変に不信感を示した上で,「11月5日にGから確認書を貰ってビックリした。」「丙は,もういいよ(いらない)との内容だ。」などと改めてp1事務局長持参の文書に対する不満をあらわにし,aが「その通りだ。」と口を滑らせると,同被告人は,「これでは今迄の契約,拓銀との打合事項が白紙になると云うことだ。」と述べ,被告人乙がなだめようとするも収まらず,「新会社のGの持分については,当初G30~40パーセント,Bは50パーセントは必ず取ると考えていたが,Gからは50:50といわれた。今になって,それは知らぬ(白紙)といえぬものだ。」「白紙にできる話ではない。今までの合意事項が表に出れば,裁判にでもなったら,大変なことだ。 」などと述べ,裁判により茨戸開発の実態が露見するかのよう- 194 -な発言をしたため,被告人乙及びaは,上記文書は主力銀行への説明のために使うものだと思うなどと真意に反するでまかせを述べて被告人丙の怒りを静めようとしたことが認められる。 以上によれば,茨戸開発から被告人丙を外したとはいえ,それは,農地法違反等の問題が表面化することを避けるための仮装に過ぎず,同被告人を茨戸開発から完全に排除するものでなかったこと,拓銀が同被告人にこれを申し入れるに当たり,同被告人の立場に慎重に配慮していたこと,Gが同被告人に完全撤退を求めるや,同被告人は,c1助役に筋違いの を茨戸開発から完全に排除するものでなかったこと,拓銀が同被告人にこれを申し入れるに当たり,同被告人の立場に慎重に配慮していたこと,Gが同被告人に完全撤退を求めるや,同被告人は,c1助役に筋違いの要求をしたり,被告人乙らに対し,裁判沙汰になったら農地法違反等の実態が露見する旨の自暴自棄的な言動や脅迫的言動に出ていたことが認められる。したがって,拓銀が被告人丙を茨戸開発の事業主体から外したことをもって被告人甲ら経営陣が被告人丙を恐れていなかったとはいえない。 (ウ)小括以上のとおり,被告人甲が,分離再編案を承認しなかったのは,ホテル建設資金等のずさん融資の実態や農地法違反等の問題が被告人丙の口から明るみに出ることを恐れた結果にほかならず,「被告人甲ら経営陣が,被告人丙をおそれ,同被告人に強硬姿勢をとることを躊躇していたとは到底認め難い。」と認定した原判決の判断は首肯できない。 カ融資の継続は拓銀の損失の極小化を図るためか否か(ア)はじめに原判決は,平成5年7月当時,Bグループには早急とはいかないまでも経営改善の可能性があり,この状況は本件融資1及び2の当時も同様であった,茨戸開発の実現性及び採算性につ- 195 -いても,本件融資1及び2の当時は,平成5年7月当時と比べ,なお一層混迷の度を増したとはいえるが,その見通しが極めて困難であったとまでは断ずることはできない,ゆえに,融資の継続は拓銀の損失を極小化する可能性があり,本件融資1及び2は拓銀の利益のためになしたと認めるのが相当である旨判示する。また,被告人3名の各弁護人も,拓銀のBグループに対する融資の継続は,融資を打ち切った場合に比べて,より多くの貸付金を回収できる可能性があった,被告人甲による本件融資1及び2の決定は,拓銀の損失の極小化を図る目的でなされたも 拓銀のBグループに対する融資の継続は,融資を打ち切った場合に比べて,より多くの貸付金を回収できる可能性があった,被告人甲による本件融資1及び2の決定は,拓銀の損失の極小化を図る目的でなされたもので自己図利目的は存在しない,茨戸開発が実現すれば,その開発利益によりホテル建設資金を含む既存債務の支払が可能であったなどと主張している。 しかし,原判決のBグループに経営改善の可能性があり,それを理由に損失の極小化の可能性があるとの判断は首肯できない。すなわち,Bグループの償却前営業利益及び償却前経常利益の赤字状況に加え,同グループが,平成5年5月末の時点において,すでに大幅な債務超過の状況にあり,各社とも実質破たん状態であって,同年7月5日の経営会議において,今後1年間の資金需要として赤字補填資金及び茨戸開発借入金利の合計69億円が必要と報告されており,審査第一部は,早急に分社化し,不採算部門を処分するしかないと説明して分離再編案を提案したこと,そして,この分離再編案は,同グループを所管することになった審査第一部がその資産状況や経営状況等を検討した結果,同グループに対する融資姿勢を含めた拓銀としての方針を抜本的に見直すものとして提案したもので,その主眼は,現状のままでは膨大な不稼働資産,すなわち,同グルー- 196 -プに対する貸付けがますます拡大し,それが拓銀の不良債権化することが見込まれることから,直ちに融資を打ち切ることも検討した上で,それが及ぼす諸々の影響を考慮して当面の融資を継続するものの,収支の改善,拓銀主導の経営体制の確立を図りつつ,拓銀がその体力を超える不稼働資産を背負わないようにするためには,同グループを分社化して損切り処理するというものであって,それは当面の赤字補填資金の融資を除き将来の融資を避けるという提 図りつつ,拓銀がその体力を超える不稼働資産を背負わないようにするためには,同グループを分社化して損切り処理するというものであって,それは当面の赤字補填資金の融資を除き将来の融資を避けるという提案であり,そもそも,融資を継続することにより将来の回収を図ろうとしたものではなかったと認められる。現に,原判決も認めるように,同会議の資料を含め,同会議においては,同グループの分離再編を前提に新会社に負担させる借入金の額やEホテルを売却して借入れを圧縮する案などの説明はあったものの,被告人甲ら経営陣が融資を打ち切った場合と融資を継続した場合の回収額の多寡等を明確に議論した形跡は全くない。そして,被告人甲らは,Bグループの財政・経営状態についての説明を聞きながら,上記のとおり,分離再編案を採用することもなく実質無担保の融資のみを続けたことや,本件融資2番号1に至るまでの間にとられた人材派遣やリストラ策についてもおよそ十分な方策とはいえず,それとて被告人丙の抵抗により拓銀が期待していたほどの効果を上げられなかったことに照らすと,多少の経営改善の可能性があるとしても,それにより損失の極小化が図られるというような状況にあったとは認められない。 そこで,被告人甲に拓銀の損失の極小化を図る目的があったか否かは,茨戸開発の実現可能性及びその採算性,そして,被告人甲が,この点につき,どのような認識をもっていたかによ- 197 -ることとなる。そして,茨戸開発は,もともと開発利益をホテル建設の際のB側の自己資金に織り込んでいたことから明らかなように,それが実現するだけでは足らず,拓銀のホテル建設資金等の融資の返済に充てるだけの利益を上げる必要のあるものであった。被告人甲らは,後記のとおり,そのような利益を上げることのできない開発計画書を提出した場合 現するだけでは足らず,拓銀のホテル建設資金等の融資の返済に充てるだけの利益を上げる必要のあるものであった。被告人甲らは,後記のとおり,そのような利益を上げることのできない開発計画書を提出した場合には,それに縛られることになることを知り,急きょ,唯一採算性のある宅地開発のできる市街化区域開発に変更して札幌市にその旨申し出た経過があることに照らしても,そのことを十分知っていたものである。そうとすれば,茨戸開発がそのような利益を生むものとして実現するかが重要であるが,順序として,まず茨戸開発そのものの実現可能性について以下検討する。 (イ)茨戸開発の実現可能性についてa客観的な状況茨戸開発の対象地は,市街化調整区域内に所在し,その大半が農地であり,しかも,一部は農振法の農用地区域内に指定されていて,客観的に開発そのものが法的に厳しく制限された地域であって,許認可取得が容易ではなかった。しかも,被告人甲が捜査段階で供述しているように,開発事業は,あらかじめ地権者全員から土地を取得し,あるいはその同意を得ておくべきものなのに,平成5年7月5日の経営会議では全体の20パーセントが取得できていないと報告され,未買収地が開発用地の中心付近を占めていた上,点在しており,全体の買収が確実に実現できるかどうか危ぶむ意見も出されていた。以上の点からしても,茨戸開発の実現可能性が乏しいことは明らかであるが,このことは,北東公庫及び長銀が,拓銀からの度重なる協- 198 -調融資の要請を謝絶したことによっても裏付けられている。すなわち,北東公庫は,「平成3年4月時点で全体の50.4パーセントの土地が未買収であること,対象地は市街化調整区域にあたり,大規模な開発行為の許可を早期に受けることは極めて困難な見通しにあること,対象地の多くが農地であり 成3年4月時点で全体の50.4パーセントの土地が未買収であること,対象地は市街化調整区域にあたり,大規模な開発行為の許可を早期に受けることは極めて困難な見通しにあること,対象地の多くが農地であり,現状所有権の移転もままならないことなどの点から,今次ホテル計画の事業遂行可能性は極めて低いと判断せざるを得ない。」とし,長銀も「後背地開発についても許認可の見込みは少ない。 Bは後背地開発で農地法違反の恐れがある。後背地開発リスクとして,①市長が6月の議会に提案するとのことだが,農転,開発許認可は特定企業に利益が出るものであり,議会を通る可能性は少ない,②プロジェクトが具体化しているのはGプロジェクトだけといわれているが,実際は流動的であり,ましてB,D1の開発は実現性がうすく,またこの時期,他企業の進出は考え難い,③結局,許認可が得られず,Bグループが開発資金の名目で集めた資金を流用したまま終わる構図が予想される,④後背地開発プロジェクトは,B(及びg元拓銀常務)による錬金術の色彩が強く,それに密接に関係しているホテルプロジェクトへの協融参加はB錬金術に当行も巻き込まれ,ひいては後背地のBプロジェクト,Gプロジェクトへの参加要請にもつながる。」として,茨戸開発の実現可能性なしと判断していた。 b札幌市の提示した許認可のための条件札幌市は,平成5年7月ころまでには,国土法違反等の問題を抱える被告人丙及びBグループが,茨戸開発の事業主体となることを嫌うとともに,実現性という観点からGが事業主体に加わることを求め,拓銀に対し,茨戸開発の許認可を出すため- 199 -の条件として,①Gが進出すること,②Gも参加した開発事業であること(開発新会社にGが加わること),③B㈱を事業主体から外すこと,を拓銀に提示した。このことは,平成5年7 出すため- 199 -の条件として,①Gが進出すること,②Gも参加した開発事業であること(開発新会社にGが加わること),③B㈱を事業主体から外すこと,を拓銀に提示した。このことは,平成5年7月5日の経営会議において,資料に基づき説明されているほか,被告人丙を茨戸開発から外す必要性については,同年2月22日,同年4月1日及び同年8月23日の各経営会議における被告人甲の発言内容や同被告人の原審公判廷における「丙氏を開発の関係者からは除外しなくちゃいかんというのは,これは市の要請ですから,話合いがどうこうという問題ではないと思います。」との供述から明らかである。 上記①及び②については,上記2(29)イ(ウ)のとおり,平成5年7月5日の経営会議において,「香港支店情報によれば,Gの財務部門および主要取引行(V1,長銀等)は,札幌プロジェクトのことを最近知ったばかりの由で,少なからず懸念をもっている模様」「Gに札幌プロジェクトを遂行する能力,体力が本当にあるのか」「香港支店情報,最近の新聞報道等からみて,G自体の合理化が求められており,札幌プロジェクトは当分凍結されることもあり得るのでないか」などと説明され,Gの主要取引銀行であった長銀が協調融資を拒み続け,この時点では実質的に謝絶していたことに照らすと,Gが茨戸開発の事業主体となる可能性は低いものと考えるのが合理的であった。 加えて,同経営会議においては,「最新の香港支店情報では,札幌プロジェクトの内ショッピングセンター以外の事業に対するGの参入は難しくなりつつある模様」「GはショッピングセンターはOKだが開発事業参加は難しい気配」「Gはショッピングセンターの事業主体になっても,開発新会社の責任を負う- 200 -立場には立てない模様(最新の香港情報)」などの説明もなされてお センターはOKだが開発事業参加は難しい気配」「Gはショッピングセンターの事業主体になっても,開発新会社の責任を負う- 200 -立場には立てない模様(最新の香港情報)」などの説明もなされており,経営会議の席上,y常務が「Gの進出も現状不安定」と述べるなど,札幌市が開発許認可の条件としたGが茨戸開発の事業主体となることについてはむしろ否定的に受け取られていたということができる。確かに,Gは,上記2(36)のとおり,後に準備会に出資して開発新会社に名を連ねているが,これは,Gの茨戸開発計画の責任者o1が認めているように,G自身が主要取引銀行である長銀等から茨戸開発の見直しを迫られ,平成5年には,G内部では茨戸開発計画撤退の方針が決定され,撤退に当たって損失を出さないこと,Gの名に傷を付けないクリーンな撤退をすることを前提に進めていたが,このころ,開発新会社設立の話があったため,24億円や開発協力金を回収するには被告人丙を相手にするより拓銀主導で設立される準備会に参画した方が有利と判断したことに基づくものであった。そして,拓銀も,平成5年12月20日にGからB㈱に送られてきた24億円の元利金及び開発協力金のうち7億円の支払を要求する「諸契約の変更及び更新に関する要求事項」を見て「けんかを売っているとしか考えられない。出店の意志がなくなったとも思える。」などと意見をまとめ(上記2(34)ア),同月30日には「札幌進出は無期延期と考えてもらって結構(Gグループ広報)」という記事が北海道新聞に載り(上記2(34)イ),平成6年1月17日の経営会議では,Gの要求に応じて24億円の支払保証を決定したが,その席上,y常務は「これだけの無理難題を言ってきているということは北海道へ進出する気はないと考えられる。」,aも「Gはy常務がいうよ 営会議では,Gの要求に応じて24億円の支払保証を決定したが,その席上,y常務は「これだけの無理難題を言ってきているということは北海道へ進出する気はないと考えられる。」,aも「Gはy常務がいうように基本的には降りたい,やめたい。」,被告人甲も「香港- 201 -へ行ったのは11月上旬。方向性が変わったのは12月になってから。行く前もあやしい。11月の意向はBに対する不信感あり,パートナーとして組みたくない。さらに,この延長線上で,これ(24億円の保証要求)が出てきた。」と述べているのである(上記2(35)イ)。そして,平成6年5月19日の経営会議では,aが「Gは債権保全に走り始めているのが実態。 Gの計画が縮小したことにつき,札幌市がその明細を出すように言っているのにGはこれを拒否しており,Gの進出意思は相当後退していると思う。」,v部付部長が「昨日もGからBに5月末までに現金で17億円支払えと文書を送ってきています,最後通牒的なものです。」と述べた(上記2(39)イ(イ))。このような経緯に加え,被告人乙が,捜査段階において,「平成5年7月5日の経営会議において,v部付部長は,開発新会社の運営責任は当行グループで持たざるを得ない事態が予想される,Gはショッピングセンターの事業主体になっても開発新会社の責任を負う立場には立たない模様,最近のGの動きから見て形式的な出資に留まる可能性が強いなどと説明し,開発新会社のリスクはすべて拓銀で負わなければならないことを甲頭取ら出席者にはっきりと説明した。」と供述していることを併せ考えると,被告人甲ら経営陣は,札幌市が開発許認可の条件としたGが開発主体に加わるという点について,被告人甲自身が香港にまで出向いてGのi代表に会って要望したが良い返事をもらえなかった上,その後,Gの要求に応じ 人甲ら経営陣は,札幌市が開発許認可の条件としたGが開発主体に加わるという点について,被告人甲自身が香港にまで出向いてGのi代表に会って要望したが良い返事をもらえなかった上,その後,Gの要求に応じて24億円の支払保証までしたものの,本件融資中被告人甲が最初に関わった本件融資2番号1の時点ではGにその意思がないことを十分に理解していたと認められる。また,上記③については,平成5年- 202 -7月5日の経営会議において,「B(丙)主体で取り進めてきた事業であり丙名を消すことは至難」とあるとおり,被告人丙の激しい抵抗が予想される難問であることが報告されていた。 現に,その後,被告人丙を表向きは茨戸開発から外したものの,それは,地権者との交渉等茨戸開発の重要部分を引き続き行わせ,拓銀グループがBグループのために開発新会社の株式を45パーセント肩代わりし,後に被告人丙にそれを戻すことや同被告人を役員に迎えることなどを約束した上でのことであり,しかも,このことを同被告人に了承させるまでの過程においても,上記オ(イ)のとおり,同被告人によるc1助役や被告人乙らに対する自暴自棄的言動や脅迫的言動がみられるのであって,まさに,茨戸開発事業から被告人丙名を消すことは相当に困難であったものである。以上によれば,平成5年7月の段階で,札幌市が許認可の条件として提示した上記①ないし③の全てを満たすことは困難だったものであり,その後も,実質的に満たされたとはいえなかった。 この点は,当時の札幌市企画調整局長が,平成5年後半には計画の要というべきGが主体的に開発計画を推進しようとする姿勢をなくしており,他方,開発計画に参画したがっているBをメンバーから外さねばならないという難しい局面になっていたと供述している上,被告人甲は,捜査段階で,平成5年7月 計画を推進しようとする姿勢をなくしており,他方,開発計画に参画したがっているBをメンバーから外さねばならないという難しい局面になっていたと供述している上,被告人甲は,捜査段階で,平成5年7月5日の経営会議の時点で,これまで計画を構築推進し,農地を取得してきた被告人丙がすんなり開発計画から手を引くとは思えなかったし,上記の経営会議資料にあるとおり「丙名を消すことは至難」だと思っていた,開発許認可を得るためには,B㈱の排除とGが開発主体になることが必要だったが,前者は至- 203 -難であり,後者もバブル崩壊やGグループの経済状態からして懸念が出てきたという状態だったと供述し,被告人乙も,同時点で,Gの進出は不確定要素が極めて多く,仮にショッピングセンターを建設しても茨戸開発事業自体には参加しない可能性が大であったから,札幌市から提示された3つの条件の2つ,①Gが進出すること,②Gも参加した開発事業であることを満たすことができない状況だったと供述し,いずれも札幌市の提示した条件を満たすことができなかったことを認める供述をしている。 c茨戸開発計画の変転茨戸開発の実現可能性を肯定するには,対象地を漏れなく取得することや開発許認可を得ることが当然の前提となるが,その他にも開発計画の詳細が確定し,ディベロッパーが決まるなどその計画の実現に向けた段取りが不可欠である。ところが,被告人甲の頭取在任中だけをみても,開発計画は変転し,その詳細が決まらず,ディベロッパーを決められるような段階に至らなかった。すなわち,開発計画は上記2(39)アのとおり,同じ市街化調整区域内特例開発ではあるが,平成3年ころには「ワールド・アクアティック・センター構想」が打ち出され,平成4年11月ころには,その事業提案書が内々に企画調整局に提出されたが,具 おり,同じ市街化調整区域内特例開発ではあるが,平成3年ころには「ワールド・アクアティック・センター構想」が打ち出され,平成4年11月ころには,その事業提案書が内々に企画調整局に提出されたが,具体的な事業内容等が明らかになっていなかったし,平成5年5月ころには,上記構想に替わるものとして「サッポロ・リバーサイド・プレイス」と題する事業提案書が内々に企画調整局に提出されたが,正式な事業提案書の提出期限を平成6年3月末日に控え,新たにいわゆる都市型リゾート計画案を作成したものの,これまた個々の施設のディベロッパー- 204 -が大部分決まっていないのに事業収支まで試算しているという一種の画餅的な計画であり,上記2(39)イ(イ)のとおり,同年5月16日及び同月19日の経営会議において,aや被告人乙が酷評し,被告人甲に「絵に書いた餅」と言わせるほど,拓銀にとって受け入れ難い計画案であった。以上のように種々計画案が変転したが,市街化調整区域内特例開発という基本方針では一貫していたところ,平成6年3月ころ,拓銀の思惑とは異なり,いったん事業提案書を提出して開発許認可を得た場合,以後の事業内容の変更は認められないことが判明したため,拓銀は,これまでの基本方針の見直しを迫られ,急きょ,市街化調整区域内特例開発を撤回し,市街化区域に編入した上で宅地開発を行うという単純宅造系開発へと基本方針の変更を余儀なくされた。しかも,この開発計画の変更は,これまでの市街化調整区域内特例開発という同じ基本方針内の計画変更に留まらず,基本方針そのものを大幅に変えるものであり,札幌市においては,所管部署の変更を伴うほど重大な問題であったから,上記2(39)エのとおり,被告人甲及び同乙らが,平成6年6月24日に基本方針の方向転換の説明等をするために札幌市長や ものであり,札幌市においては,所管部署の変更を伴うほど重大な問題であったから,上記2(39)エのとおり,被告人甲及び同乙らが,平成6年6月24日に基本方針の方向転換の説明等をするために札幌市長やc1助役らを訪ねた際の札幌市側の怒りはすさまじく,特にc1助役は「拓銀が言っていることは一番最初に考えることだ。 これまで何をしていたのか。」と言って拓銀を厳しく非難し,方針変更の話をすること自体がはばかられるような状況であった。また,開発許認可については,平成5年1月25日の経営会議において,平成6年4月ころと見込まれていたが(上記2(20)イ),平成5年7月5日の経営会議においては,事業計画書を提出できず,平成6年4月に間に合わない,市街化区域編- 205 -入は早くても平成8年3月以降の見通しと説明され(上記2(29)イ(イ)),x副頭取が「現在の状況では,市街化編入は平成13年にならないとダメじゃないか。」と疑問を投げかけている(上記2(29)ウ)。 したがって,被告人甲の頭取在任中に限ってみても,以上のような茨戸開発計画の変転状況からすれば,茨戸開発の実現可能性を肯定するには無理がある。 d原判決の検討原判決は,「平成6年6月経営会議では,採算性の観点から,茨戸開発の具体的な事業内容を確定することよりも,最短のスケジュールで茨戸地区の市街化区域編入を目指すことを決めたことが認められるところ,このような決定内容に照らせば,札幌市の意向に従い,最も早い市街化区域編入を可能とするため,茨戸開発の内容を検討し直したことにも,相応の理由がある」と判示し,これを茨戸開発の実現可能性を否定できない根拠の一つとして認定している。しかし,そもそも基本方針を変更しなければならなかったこと自体,従前の開発計画に重大な支障があったことを露呈し る」と判示し,これを茨戸開発の実現可能性を否定できない根拠の一つとして認定している。しかし,そもそも基本方針を変更しなければならなかったこと自体,従前の開発計画に重大な支障があったことを露呈している上,具体的な開発計画が定まらない以上,許認可を取得できないことはもとより,開発計画自体実現のしようがないから,原判決のいう「相応の理由」如何に関わらず,茨戸開発の実現可能性が乏しかったことは明らかである。 また,原判決は,札幌市の意向を受け,平成9年6月ころに提出した福祉系開発を内容とする「篠路右岸地区開発計画」と題する事業計画の提出後,茨戸地区が市街化区域編入の前段階である一般保留区域に指定されるに至ったと認定し,「何より- 206 -も,最終的には,平成10年3月,札幌市によって茨戸地区が市街化保留区域に指定され,市街化区域編入に向けて大きな進展があったことに照らせば,茨戸開発の実現性がなかったとか,極めて乏しかったとまでは断定できない。」と判示する。しかし,茨戸開発の対象地である茨戸地区が市街化保留区域に指定された事実はなく,原判決の認定は誤っている。確かに,企画調整局長q1の検察官調書には原判決の認定に沿う部分があるが,これは同人の誤解に基づいた供述であることは明らかである。原判決の「平成10年3月,札幌市によって茨戸地区が市街化保留区域に指定された」旨の認定は,同月31日付けの北海道知事による都市計画変更の告示(北海道告示第461号)を意味するものと思われるが,同告示では,「市街化区域への編入を保留する土地の区域」として「北区篠路町篠路」地区が指定されており,更に「縦覧に供する都市計画の図書のとおり」と記載されている。そして,この「市街化区域への編入を保留する土地の区域」とは特定保留区域のことであるが,「都市計画 区篠路町篠路」地区が指定されており,更に「縦覧に供する都市計画の図書のとおり」と記載されている。そして,この「市街化区域への編入を保留する土地の区域」とは特定保留区域のことであるが,「都市計画図」によれば,この「北区篠路町篠路」は,茨戸開発の対象地とは全く異なる「篠路中部地区」(地区番号札-15)のことであり,茨戸開発用地については,都市計画上,保留区域として何ら指定されていないことが認められる。 したがって,原判決が,茨戸開発の実現可能性を否定できない根拠として重視する平成10年3月に札幌市によって茨戸地区が市街化保留区域に指定されたこと(なお,当時の都市計画法15条1項1号によれば,保留区域の指定は「市」ではなく「都道府県知事」が行うものと定められているから原判決の認定は不正確である。)については,その事実を認めることはで- 207 -きない。これによって実現性が乏しかったとまではいえないとする原判決の判断は首肯できない。 e小括茨戸開発の実現可能性については,対象地の法令上の諸制約,未買収地が存在し虫食い状態であったこと,実現可能性に疑問があることを理由の一つとして協調融資が謝絶されたこと,札幌市が提示した許認可の条件はいずれも満たされなかったこと,開発計画の変転状況とこれに対する札幌市の対応等を総合考慮すると,市街化区域の編入や農用地区域の指定解除は極めて困難であり,開発計画の具体性や現実性が認められず,ディベロッパーも決まっていないなど,被告人甲の頭取在任中においても,その実現可能性が高いとはいえないことは明らかであった。 そして,これらの事情を認識していた被告人甲は,長年の銀行勤務により培った豊富な知識と経験及び経営会議における説明等により,茨戸開発の実現可能性が乏しいことは,遅くとも本件融資1及び2が行わ た。 そして,これらの事情を認識していた被告人甲は,長年の銀行勤務により培った豊富な知識と経験及び経営会議における説明等により,茨戸開発の実現可能性が乏しいことは,遅くとも本件融資1及び2が行われる前までには認識していたものと認められる。 これに対し,原判決は,茨戸開発は札幌市の支援があったと判示し,被告人甲の弁護人も答弁書において,同旨の主張をして,茨戸開発の実現可能性及びそれについての同被告人の認識を肯定する。なるほど,平成6年1月17日の経営会議において,審査第一部は,「退いてロス以外を見出せない茨戸事業の凍結,延期,断念の方向よりは,難題を抱えながらも札幌市のバックアップも得られ,パートナーとしてのGも具体的に存在し,少なくとも,市街化編入までの道筋が画けている事業の成功に向かった,前進の方向に意思統一する方がロスを少なくす- 208 -る方向であると思う。」との判断を示しているが,この判断は,この会議において,すでに茨戸開発事業から撤退する姿勢を示し始めていたGが実際に撤退した場合には,札幌市が提示した条件を満たせず茨戸開発自体がとんざしかねない情勢の中で,拓銀がGに24億円の支払保証をすることにより,Gの茨戸開発事業からの撤退を阻止し,その退路を断つための判断であり,それはかえって茨戸開発事業の危うさを示しており,それが茨戸開発の実現可能性のあることを裏付けるものではない。加えて,上記イ(ア)のとおり,いかに札幌市が協力姿勢を示していたとしても,それにより市街化区域の編入や農用地区域の指定解除が実現することは客観的にみて困難であるし,現に許認可権を有する道(出先機関である石狩支庁を含む。)は,一貫して法令上開発許認可を与えることはできないとの立場をとっていた。その上,茨戸開発の計画内容が変転し,平成6年3月こ て困難であるし,現に許認可権を有する道(出先機関である石狩支庁を含む。)は,一貫して法令上開発許認可を与えることはできないとの立場をとっていた。その上,茨戸開発の計画内容が変転し,平成6年3月ころには従前の市街化調整区域内特例開発という基本方針すら維持することが危ぶまれる事態に陥り,基本方針の変更に対する札幌市の対応等を併せ考慮すると,茨戸開発計画の確実性,具体性及び実現性のいずれも不十分であったことは被告人甲の認識するところであり,いかに茨戸開発に札幌市が協力姿勢を示していたとしても,同被告人が茨戸開発の実現を確実なものとして認識していたとは到底いえない。 以上によれば,茨戸開発の実現可能性は,客観的にみて極めて乏しいものであった上,被告人甲は,その先行きに大いなる不安を抱いていたにもかかわらず,その不安要素に目を背け,実現可能性を慎重に検討することなく,とにかく茨戸開発事業を押し進めなければならないとの結論ありきの立場から茨戸開- 209 -発を進めたものといえる。 (ウ)茨戸開発の採算性について拓銀は,ホテル建設資金の融資に当たり,茨戸開発による開発利益を返済原資としてあらかじめ自己資金に織り込み,収支計算をしていたのであり,Bグループに対する貸付金を回収するには,茨戸開発が実現し,開発された土地を売却して利益を上げねばならず,したがって,茨戸開発の採算性が認められることが不可欠であることは上記のとおりである。 この点,北東公庫は,「計画地の取得には現段階(平成3年)で総額138億円を必要とする見込みであるが,税務対策上土地売却に最適時期とみられる平成9年度に売却可能な土地の全てが売れたと仮定した場合でも,最終手取りベースの利益は15億円程度に過ぎない」「計画地の取得には,現段階で総額138億円を必要とする見通し 地売却に最適時期とみられる平成9年度に売却可能な土地の全てが売れたと仮定した場合でも,最終手取りベースの利益は15億円程度に過ぎない」「計画地の取得には,現段階で総額138億円を必要とする見通しであるが,短期所有土地の売却益に対する重課税を避けるためには,少なくとも5年は土地を所有しなければならず,一方でその間の金利負担も重いことから,売却益もさほど見込めない」などと判断し,これを協調融資を謝絶する理由の一つにあげていた。 ところで,拓銀が茨戸開発の実現により貸付金の回収を図るには,B㈱から買収済みの茨戸開発用地を取得して造成・販売等の開発事業を進める開発新会社の事業が採算ラインに乗ることが不可欠であった。B㈱は,開発新会社に対し,買収済み農地を坪8万5000円で売却することになっていたが,取引価格等の事前届出制が採られていた当時の国土法では,いわゆる国土法価格の制限内でしか売却できず,当時の茨戸開発用地の国土法価格が坪約4万円であったから全く採算が見込めなかっ- 210 -た。このことは,平成5年7月5日の経営会議資料において,「新会社へ債権(実質土地a/c)譲渡する段階で既に坪単価85千円に達するので,実際含みがあるのか疑問」と記載され,v部付部長が同様の説明を行ったほか,被告人丙は,原審公判廷において,検察官の「平成6年当時,Bが取得した茨戸の土地の原価が国土法価格の4万円あるいは4万5000円を大きく上回っているという実態にありましたよね。」という質問に対し,「少し高かったかもしれません。」と答えている上,「茨戸開発による利益は,Bが実質的に購入した24万坪の土地を坪8万5000円で開発新会社に譲渡することを前提にしていたから,開発新会社に譲渡できなければBに金が入らない格好になっていた。開発予定地の国土法価格が 利益は,Bが実質的に購入した24万坪の土地を坪8万5000円で開発新会社に譲渡することを前提にしていたから,開発新会社に譲渡できなければBに金が入らない格好になっていた。開発予定地の国土法価格が坪4万円ないし4万5000円だという話を当時聞いていた。そのような国土法価格の土地をBが8万5000円で売ることはできないと思う。 」と供述し,続けて,検察官から「そうすると,Bはどうやって利益を出すんですか。」と質問されて,明確な答えをすることができなかった。そして,開発新会社が利益を得るには,市街化区域に編入して造成・販売をするしかないところ,その編入時期については,平成5年7月5日の経営会議資料には早くても平成8年3月以降の見通しとあり,平成6年1月17日の経営会議資料にはそれも微妙であると記載されており,その早期の編入は困難であったが,それを度外視し,市街化区域編入後の販売であっても,これが採算ラインに乗るとは考えられなかった。すなわち,茨戸開発用地を造成して販売するにあたってのコストは,坪8万5000円の土地取得費用のほか,造成費,減歩(道路,公園等の公共用地は市町村に無償譲渡するの- 211 -が通例であり,その分のコスト高)を要するから,これらを考慮すると採算レベルに乗せるには坪約25万円程度で販売しなければならず,更に対象地24万坪のうち,7万坪はG及び㈱D1に既に低価格で実質売却済みであったから,これらは造成費だけがかかり販売対象地とならないし,札幌市のグリーンベルト構想と調和させるためには緑地帯をそれなりに残さなければならず,その分だけ販売対象地が減って販売価格に跳ね返るなどの事情もあり,実際には,坪25万円以上の価格で販売せざるを得なかった。加えて,売却先はGと㈱D1以外は全く未定であり,その予定すらなかった らず,その分だけ販売対象地が減って販売価格に跳ね返るなどの事情もあり,実際には,坪25万円以上の価格で販売せざるを得なかった。加えて,売却先はGと㈱D1以外は全く未定であり,その予定すらなかったから,最終的に売却できるまでどのくらい時間がかかるか不明で,その間の金利負担等を考えると,採算レベルに乗せるには宅地の販売価格はかなり高いものとなることは目に見えていた。しかるに,当時の札幌市中心部の宅地造成地の販売価格が坪20万円から30万円程度であったから,札幌市中心部から遠く離れた茨戸地区の販売価格はそれより低価格に設定する必要があり,結局,開発新会社としては到底採算が見込めるような状況になかったものである。 審査第一部は,この点を十分理解していたから,平成5年7月5日の経営会議資料にも「素地85千円/坪なら,減歩,造成費等を考慮すれば250千円/坪位の土地になる筈」「更に,今後の金利上乗せも考慮すれば土地が市街化で化ける云々は考えないほうが良いのではないか。」と記載し,v部付部長がその旨説明したのである。これを受けて,x副頭取は,同経営会議において,上記2(29)ウのとおり,「開発経費,金利を考えていかなければならない。減歩,開発経費を考えると先ほど説明があったようにほとんど利益は出ないのではないか。」と発- 212 -言し,被告人乙は,上記2(39)イ(イ)のとおり,平成6年5月19日の経営会議において,aが,Bグループに対する多額の赤字補填資金融資への懸念から早急に単純宅造系開発へ方針転換を図り,遂行させなければならない旨述べたのに対し,「しかし,この事業がうまくいったからといってBがうまくいくのか。その連動性はない。」と述べて,採算性を疑問視している。 加えて,平成5年7月5日の経営会議でGの進出について現状不安定との に対し,「しかし,この事業がうまくいったからといってBがうまくいくのか。その連動性はない。」と述べて,採算性を疑問視している。 加えて,平成5年7月5日の経営会議でGの進出について現状不安定との発言や,Gが進出しても宅地造成後の販売は平成13年になる可能性が高いとの説明,さらには,審査第一部では採算性について,茨戸開発が成就しても,たくぎんファイナンスがB㈱に貸し付けた茨戸開発事業資金の回収がある程度見込まれることを除いては,茨戸開発による収益は必ずしも期待できず,拓銀のBグループに対する貸付金の回収につながらない可能性のあることを報告していたのであり,更に平成5年8月23日の経営会議でも,上記2(31)ウの発言にみられるように,被告人甲自身「丙社長に茨戸開発事業では含み益は捻出できないことを認識させなければならない。」と発言し,その採算性のないことを自ら認める発言をしているのである。このように,本件融資をする以前において,既に開発利益を貸付金の返済原資に充てるだけの採算性のないことを被告人甲及び同乙は知っていたものと認められ,その後採算性の向上を裏付けるような事情の変化は全くなく,かえって,Gの撤退が予測されるなど,これに反する事情の存在がより明らかになっていたものである。 被告人甲は,原審公判廷において,平成3年3月28日の会議で,総合開発第一部は,二,三年以内に開発協力金等合計約71億円が入る見通し(上記2(8)ア),平成4年7月27日- 213 -の経営会議で,総合開発部は,茨戸開発用地の一部売却による内入れで借入額の圧縮を図り,後背地売却代金を返済原資として平成8年3月末日に50億円返済させる計画(上記2(15)ウ)と報告していたが,71億円については市街化調整区域の指定解除等茨戸開発の実現性と連動していたのは既 図り,後背地売却代金を返済原資として平成8年3月末日に50億円返済させる計画(上記2(15)ウ)と報告していたが,71億円については市街化調整区域の指定解除等茨戸開発の実現性と連動していたのは既に述べたとおりである上,入金時期が遅れ,入金額も減ったことは当時認識していた,平成5年1月25日の経営会議の段階で開発利益が入ってくるという状況にはなかった,それで,既に平成4年中ごろから開発利益を当てにしないで自己資本の捻出,つまり,保有資産を売って自己資金を出すことを被告人丙に繰り返し要請していたが,売れなかった,と供述し,茨戸開発の採算見込みを疑問視していたことを認めている。また,被告人乙は,その検察官調書において,上記認定説示した内容に沿う供述をしており,平成5年7月5日の経営会議の説明で茨戸開発の採算性がなかったことを自らも被告人甲も認識した旨認めているが,その内容は同経営会議資料に符合する合理的なものである。 以上に加え,被告人甲の頭取在任中はもとより,被告人乙が頭取在任中の時代も,茨戸開発の採算性が向上するような事情は全く認められず,かえって,時間の経過とともに茨戸開発の実現可能性そのものがより低くなっていったのであるから,結局,茨戸開発の採算性は認められず,被告人甲及び同乙とも十分それを認識していたことが認められる。 (エ)原判決の検討原判決は,融資を打ち切った場合よりも融資を継続した方が,100億円程度上回る回収を期待することが可能であったとのa証言は十分に信用できる,平成5年7月5日の経営会議資料- 214 -には,茨戸開発の実現性や採算性が否定されるような決定的な事情が記載されていない,当時,審査第一部としてもBグループに対する本格的な経営改善に着手する前であって,経営改善によって同グループに対する債権の正 戸開発の実現性や採算性が否定されるような決定的な事情が記載されていない,当時,審査第一部としてもBグループに対する本格的な経営改善に着手する前であって,経営改善によって同グループに対する債権の正常化を図る余地があると考えていたことなどを根拠に,融資を打ち切ることが同グループに対する貸付金の回収方法として最善の方法であったと断定することはできないと判示して,融資打切りよりも継続した方が回収額が増えた可能性があるとしている。 確かに,aの第7回証人尋問調書中には,原判決が認定説示するように読める部分がある。しかし,Bグループは,経営改善によって既存の貸付金を含めその返済が期待できるような財政・経営状態でなかったことは既に述べたとおりであり,上記部分も子細に検討すると,aは,「そうしますと,直ちにつぶした場合,216億の損になると。116億くらいの違いがあることになりますね。」との弁護人の質問に対して答えておらず,融資を継続した方が100億円程度上回る回収を期待することが可能だった旨明確に証言しているわけではない。そして,上記の点に関するa供述は,まさに同人が沈黙した部分が問題となっているのであるから,供述全体の内容や他の客観的証拠との整合性等を総合して判断する必要がある。ところで,aは,上記エ(イ)のとおり,原審公判廷において,融資打切りが最善の策,分離再編が次善の策と一貫して供述しており,この供述は,平成5年7月5日の経営会議資料とも符合していること,しかも,その分離再編案は,上記(ア)のとおり,もともとBグループに対する将来の融資を少なくして拓銀の不良債権の増大を避けるための提案であり,実際にはそれも採用されずに融資- 215 -だけが継続されたものであるところ,上記2(41)イないしエのとおり,平成6年の大蔵省検査にお 少なくして拓銀の不良債権の増大を避けるための提案であり,実際にはそれも採用されずに融資- 215 -だけが継続されたものであるところ,上記2(41)イないしエのとおり,平成6年の大蔵省検査において,同年9月8日にe1検査官から,Ⅲ分類査定につき,反論があれば銀行の意見として明朝出すように指示されたにもかかわらず,翌9日,e1検査官と面談した際,aは,融資継続の方が貸付金の回収額が増える旨の説明を一切せず,かえって,「平成5年4月に総開部から引き継いだが,このときこれはもう駄目だと判断した。」「Bグループを生かそうとすれば,年間50億円,5年間で250億円かかります。今止めた方がよいとの計算が成り立ちます。この点は経営会議にも持ち出しています。しかし,農地法,国土法の問題があり,市では市長まで累が及ぶ案件です。これを阻止したいのが行政の考えでもあります。それが表面化しないのは,計画が進んでいるからであり,計画が頓挫すると問題が吹き出ます。」などと述べ,農地法違反問題等の表面化で行政も困るなどというおよそ反論にならない言い方でⅡ分類査定を求めていること,平成6年9月13日にもg1主任から「査定をする立場としては採算が取れるという説明がなければ無理だ。当行にとって損が出るというものについてはⅢになる。B,ホテルの収益についても採算に合う計画,茨戸計画でも採算に乗るという説明がほしい」と言われたにもかかわらず,結局最後まで融資打切りより継続の方が回収額が増える旨の説明をせずに終わり,是が非でも阻止したかったⅢ分類査定を宣告されたことが認められる。以上の諸事情を併せ検討すると,aの根本的な考えは,当時も,そして原審における証言時も,経済的合理性の観点からすれば直ちに融資を打ち切るのがベストであったという一貫したものであり,融資継 められる。以上の諸事情を併せ検討すると,aの根本的な考えは,当時も,そして原審における証言時も,経済的合理性の観点からすれば直ちに融資を打ち切るのがベストであったという一貫したものであり,融資継続の方が回収額が増え- 216 -るなどとは考えていなかったことは明らかである。加えて,aの上記証言は,融資継続の場合に当然必要となる赤字補填資金や利息等を無視ないし除外して供述されたものである。すなわち,平成5年7月5日の経営会議ではBグループ3社の今後1年間の資金需要は赤字補填資金合計58億円,茨戸開発借入金利11億円の合計69億円と報告されているほか,茨戸開発土地取得50億円,さらに,Bグループは拓銀や他行から借り入れた借入金の金利も支払わなければならないところ,これらはすべて拓銀ないし拓銀グループが融資せざるを得ないもので,融資継続によって拓銀の負担が増え続けることになるが,そのことは全く考慮されていない。このように,aが弁護人の質問に答えなかった部分をその質問に対する肯定の答えと即断することはできず,上記aの証言をもって融資打切りよりも継続した方が回収額が増えた可能性があるとの判断は誤りであり,原判決の上記認定は首肯できない。また,「平成5年7月5日の経営会議資料に茨戸開発の実現性や採算性が否定されるような決定的な事情が記載されていない」との判示についても,上記(イ)及び(ウ)で説示したところから明らかなように首肯できない。 キ総括被告人甲は,fやgが中心となって進めていたEホテルの建設や茨戸開発につき,同人らを信頼して任せていたことから,その問題点について,当初はさほど深刻に考えていなかった。 しかし,平成3年3月28日の会議において,農地取得方法に農地法違反の疑いがある旨の弁護士の意見が報告されたにもかかわらず, いたことから,その問題点について,当初はさほど深刻に考えていなかった。 しかし,平成3年3月28日の会議において,農地取得方法に農地法違反の疑いがある旨の弁護士の意見が報告されたにもかかわらず,5か月足らずで平成3年のバックファイナンスを実- 217 -施し,その後,Eホテルの採算性や茨戸開発の実現可能性及び採算性を疑問視する報告,農地取得方法の違法性を指摘する新聞報道,北東公庫や長銀が協調融資を謝絶するに至るなど,Bグループに対する融資を疑問視する事情が次々と現れる中で,被告人甲は,遅くとも平成5年7月ころまでには,ホテル建設資金の融資がずさんな融資であったこと,被告人丙が行っていた茨戸開発用地の取得にその資金を融資するという形で国土法・農地法違反に関与したことを認識した。実質破たん状態のBグループに対する貸付金を唯一回収する方途としての茨戸開発も,その後,計画自体が変転し,その実現可能性は高いとはいえなかった上,およそ採算性も見込めなかったから,融資の継続がより多額の貸付金の回収につながることを想定することは不可能であった。加えて,被告人甲は,それを遂行してきたfやgに不信感を抱くとともに,それを決定したのはほかならぬ頭取の自分であったから,その後のBグループに対する融資決定も含めて,深い憂慮の念を抱くとともに後悔し,これらずさん融資の実態や違法問題が明るみに出れば,マスコミ等により厳しく追及され,世間の厳しい非難にさらされて,種々の方法によりその経営責任を追及される恐れを抱いたことは容易に推認できる。すなわち,このような場合,拓銀自身の信用が低下することは避けられないにしても,非難の矛先は,拓銀全体というよりは,むしろ,その決定に関与した頭取ら経営陣に向けられるのが一般であるから,被告人甲が,自らの立場や経歴に傷 ,拓銀自身の信用が低下することは避けられないにしても,非難の矛先は,拓銀全体というよりは,むしろ,その決定に関与した頭取ら経営陣に向けられるのが一般であるから,被告人甲が,自らの立場や経歴に傷が付き,信用が失墜し,あるいは,マスコミや監督官庁への対応等のわずらわしさなども含め,予想される経営責任の追及を回避したいと思うのは自然といえる。現に,被告人甲は,平- 218 -成5年7月5日の経営会議において,これまでの被告人甲ら経営陣が決定し実行してきた既定路線を180度転換する内容の分離再編案を「丙が納得するわけない」などと述べて承認せず,実質無担保の融資だけをその後も継続するという,およそ銀行の頭取として,その公共性,融資における安全性の原則にもとる異常な判断というしかない行動に出ているが,これは,結局は,予測される被告人丙の強い反発やそれに基づく言動からずさん融資の実態等が明るみに出ることを避けるためであったと認められる。 したがって,被告人甲が,ホテル建設資金のずさん融資や農地法違反等の問題の発覚,これに伴って生じる自己の社会的地位や信用の失墜,あるいは,自己に対する社会的・道義的責任,民事・刑事責任等の追及を恐れ,それを回避するという自己保身の目的から,本件融資1及び2を決定・実行したことは明らかであって,同被告人が,特別背任罪の自己図利目的を有したことを優に認めることができる。 (3)被告人甲の第三者図利目的についてBグループは,平成5年7月5日の経営会議の前後において,大幅な債務超過に陥っており,償却前営業利益も膨大な赤字状態であって,aの会議冒頭の説明にあるとおり,既に実質破たん状態であり,借入残高も多く大幅な担保割れの状態であった。 したがって,Bグループが,拓銀以外の他の金融機関から融資を受けられる可能性 字状態であって,aの会議冒頭の説明にあるとおり,既に実質破たん状態であり,借入残高も多く大幅な担保割れの状態であった。 したがって,Bグループが,拓銀以外の他の金融機関から融資を受けられる可能性は皆無であり,現に,北東公庫や長銀は,拓銀からの執拗な要請にもかかわらず協調融資を謝絶した。このように,他から融資を受けられる可能性のないBグループに対し,拓銀が実質無担保で融資を行うこと自体,同グループ各- 219 -社に金融上の利益という特別の利益を与えるものであることは明白である。そして,被告人甲は,上記経営会議や平成5年8月23日の経営会議等において,Bグループの財政・経営状態の報告を受け,その状況を認識していながら,本件融資1及び2を決定・実行したのであって,自己図利目的の反射的効果の側面はあるにせよ,第三者図利目的があったことを優に認めることができる。 原判決は,本件融資1及び2が,被告人丙及びBグループに利益をもたらすものであったことを認めつつ,被告人甲が殊更被告人丙の利益を図らなければならないほどの個人的な癒着関係があったとか,同被告人から利益の提供を受けていたなどの事情が認められず,むしろ,拓銀の利益のためになしたと認めるのが相当であり,第三者図利目的が主たる目的であったと認めるには合理的な疑いが残ると判示する。確かに,原判決が説示するとおり,個人的癒着や利益の授受は認められないが,上記認定,説示のとおり,実質破たん状態で他の金融機関の融資を受けられる可能性の全くないBグループに対し,他の金融機関からの既存の債務の利払いに加え,赤字補填資金等を実質無担保で融資すること自体,同グループにこの上ない利益を与えるものであることは明らかである。加えて,被告人甲が,本件融資1及び2を行ったのは,自己保身目的からであって,拓 加え,赤字補填資金等を実質無担保で融資すること自体,同グループにこの上ない利益を与えるものであることは明らかである。加えて,被告人甲が,本件融資1及び2を行ったのは,自己保身目的からであって,拓銀の利益を図るためではない。したがって,原判決の上記認定は採用できない。 被告人乙の自己又は第三者図利目的について(1)はじめに原判決は,要旨,「被告人乙が,遅くとも本件融資3ないし- 220 -5がなされた時点では,ホテル建設資金や茨戸開発関連資金のずさん融資の実態の表面化をできれば回避したいと考えるとともに,被告人丙の言動を通じて農地法違反等の問題が表面化することを避けたいとの念を抱いていたことが認められるとしつつ,その表面化を殊更恐れていたと認めるには合理的な疑いが残り,被告人乙が,専ら又は主として,自己の経営責任を回避する目的で,本件融資3ないし5を実行したと推認するには躊躇を覚えざるを得ない。むしろ,同被告人は,拓銀の利益のために融資をなしたと認めるのが相当であるから,自己又は第三者図利目的があったと認めるにはなお合理的な疑いが残る。」と判示する。また,被告人乙の弁護人も,答弁書において,おおむね原判決に沿う理由で自己又は第三者図利目的は認められない,という。これに対し,検察官は,被告人乙の関与の有無に関わらず,拓銀の組織ぐるみでなされた違法,ずさんな融資が表面化すれば,同被告人が,拓銀の最高責任者として社会的・道義的責任を追及されるのは当然であり,まして同被告人はそれに自ら関与していたのであるから,より厳しい非難を受けることは必至であった,したがって,同被告人は,被告人丙の言動等を契機に自己の責任が追及されることを免れるために,Bグループに対する融資を継続したのであり,被告人乙が自己図利目的を有していたことは ることは必至であった,したがって,同被告人は,被告人丙の言動等を契機に自己の責任が追及されることを免れるために,Bグループに対する融資を継続したのであり,被告人乙が自己図利目的を有していたことは明らかである,第三者図利目的についても,被告人甲と同様の理由で,それを有していたことは明らかである,という。そこで,自己又は第三者図利目的について,以下検討することとする。 (2)被告人乙の自己図利目的についてア被告人乙の頭取就任前後の状況と同被告人の認識- 221 -被告人乙の自己図利目的について検討するに,同被告人には自己の財産上の利益を図る目的があったとか,被告人丙やBグループとの間の個人的な癒着関係等は認められないから,自己に対する社会的・道義的責任,民事・刑事責任等の追及を回避すること,すなわち自己保身目的が問題となることは,上記5(2) アで被告人甲について述べたところと同じである。また,被告人甲が,ホテル建設資金等のずさん融資や農地法違反等の問題を認識,後悔し,自己保身目的から分離再編案を承認せずにBグループに対する融資を継続したことは,上記5( 2)で説示したとおりである。そして,被告人乙は,同甲が出席した経営会議で同被告人とともに同じ報告を受けていたばかりか,平成3年のバックファイナンスでは審査の担当取締役として真の融資理由を鉛筆書きにして審査を通過させ,平成5年7月5日の経営会議では事前に了解を与えていた分離再編案が審査第一部から付議され,本来なら同部担当取締役として同案を承認させるべき立場であったのに,被告人甲の「丙が納得するわけない」との発言を受け,分離再編案を承認させることなく議事を終了させるなどした。したがって,被告人乙は,被告人甲同様,遅くとも平成5年7月ころまでには,ホテル建設資金及び茨戸開発 丙が納得するわけない」との発言を受け,分離再編案を承認させることなく議事を終了させるなどした。したがって,被告人乙は,被告人甲同様,遅くとも平成5年7月ころまでには,ホテル建設資金及び茨戸開発関連資金の融資がずさんな融資であり,茨戸開発の土地取得が農地法違反等の問題を含むもので,それが被告人甲を始めとする拓銀経営陣の経営責任の追及につながるものであることを十分認識していたものと認められる。そして,被告人乙は,その検察官調書において,本来,融資打切りが最善の策であったが,aから農地法の問題もあり,被告人甲らの責任問題につながるような処理を避けるため,融資を続けていく方針をとら- 222 -ざるを得ないとの報告を受けたことや,自分としても経営陣の責任問題の表面化につながるような処理は取りたくなかったことから分離再編案を平成5年7月5日の経営会議に付議することを承認した,と述べて,これを認めている。 なお,原判決は,平成3年3月28日の会議は投融資会議であるから投融資会議の構成員ではない被告人乙は出席しておらず,同被告人は,kの農地法違反の疑いがある旨の報告を聞いていない,この会議は実質経営会議であったとして出席を認めた同被告人の検察官調書は信用できない,と判示する。そして,いずれも原審公判廷において,被告人甲は,投融資会議であった旨供述し,被告人乙は,出席したか否か記憶がない旨供述する。しかし,この会議は,投融資会議と経営会議を兼ねたものとみるべきであり,経営会議の構成員であった被告人乙も出席していたと認められる。なぜなら,Bグループに関しては,平成2年11月13日の経営会議において,ホテル建設や茨戸開発事業がまだ具体的でない事業構想という説明付きで報告説明され,それが新設会社への出資及び125億円という具体的な融資案件と に関しては,平成2年11月13日の経営会議において,ホテル建設や茨戸開発事業がまだ具体的でない事業構想という説明付きで報告説明され,それが新設会社への出資及び125億円という具体的な融資案件として平成3年3月28日の会議に付議されたものであるから,もともとBグループとの取引は,「経営に重要な影響を与える可能性のある取引先との取引方針に関すること」という経営会議の付議事項に当たるものとみるのが自然である(k及びaの原審公判廷での供述中にもこれに相応する部分がある。)。また,sは,捜査段階で,自分は投融資会議のメンバーではないのに出席している旨根拠を上げて経営会議であると述べ,被告人甲も捜査段階で,mは原審公判廷において,いずれも経営会議でもあったことを認める供述をしている。そして,- 223 -被告人乙も,検察官調書において,平成3年3月28日の会議の内容,とりわけkによる農地法違反の疑いがあるとの乙弁護士の見解の報告やgがo資金証券部長を叱責したことなど具体的かつ詳細に述べ,その会議の席上,私は内心「gのやつ,本当のことをo部長に指摘されたから頭に来たんだな」と思ったと供述している。なお,原判決は,「経営会議・投融資会議スケジュール表」には「メンバー以外の参加者」として「g常務」と記載されていることをもって,経営会議を兼ねたものではなかったというが,gは経営会議のメンバーであると同時にホテル建設資金の融資案件については総合開発部担当取締役として投融資会議のメンバーでもあったから,「メンバー以外の参加者」として書かれているからといって経営会議を兼ねたものではなかったという根拠にはならない。 また,原判決は,aが,平成6年6月に茨戸開発の開発手法の変更を図った後,市との打合せの中で「やめたら地獄を見る」などと聞かされ,同人 って経営会議を兼ねたものではなかったという根拠にはならない。 また,原判決は,aが,平成6年6月に茨戸開発の開発手法の変更を図った後,市との打合せの中で「やめたら地獄を見る」などと聞かされ,同人の発言中に農地法違反等の問題の深刻さを強調するものが現れるようになったのは同年9月の大蔵省検査あたりからであると認められるから,同人が同問題の深刻さを認識したのは,同年6月以降のことと認めるのが相当である,そうすると,被告人乙が,aから平成5年7月の経営会議の前,分離再編案付議の説明を受けた際,農地法違反問題と被告人甲の経営責任を関連づけて説明されたというのは不合理である,また,仮に,aが,平成5年7月の経営会議の時点で,農地法違反等の問題を深刻に捉えていたのだとしたら,同人が平成7年1月の経営会議になってこの問題を真正面から取り上げたというのは不自然であるなどとして,被告人乙の上記検察- 224 -官調書の信用性を否定している。しかし,aは,原審公判廷において,要旨,拓銀は,平成3年に3回に分けて55億円をバックファイナンスし,それでBが農地を買っているので,そういった意味では,平成5年4月の時点で,農地法違反の疑い,国土法違反の認識が自分にはあり,間接的にせよ拓銀が国土法違反での農地取得に加担しているという気持ちがあった旨供述し,続けて検察官から「融資を続けることによって,拓銀が茨戸開発の土地取得に絡むBの法律違反に加担することになるんだというような思いというのはあなたはなかったんですか。」,また,「要するに,融資を続ければ続けるほど加担の度合いが強まるんじゃないか,だから,ここでやめるべきだという思いはあなたにはなかったんだろうか。」と質問され,「加担するというよりも,事実としてそれはもうやっていることでしょう。 」,そして 担の度合いが強まるんじゃないか,だから,ここでやめるべきだという思いはあなたにはなかったんだろうか。」と質問され,「加担するというよりも,事実としてそれはもうやっていることでしょう。 」,そして,「それは平成5年7月5日の段階でそれをかけたわけですよ。だから,できるだけ早いうちに1つずつ片付けていかなければならないということで分社化を提案したわけですよ。」と答えており,aは遅くとも平成5年7月の段階で,既に茨戸開発の土地取得行為の違法性を十分に認識していたことが認められる。このことは,平成6年1月17日の経営会議におけるBからGに対する茨戸開発用地の転売行為についての「違法性が高い」旨のa発言(上記2(35)イ)とも符合しており,裏付けられている。したがって,aが農地法違反等の問題の深刻さを認識したのは平成6年6月以降のことであったと認められるとの原判決の上記認定は首肯できない。また,aが平成7年1月の経営会議になってこの農地法違反等の問題を真正面から取り上げたというのは不自然であるとの点についても理由が- 225 -ない。すなわち,そもそも平成5年7月5日の経営会議資料でも「なお,ごく最近の情況変化(国土法・農地法違反追及の動き)に配慮し」とあるように,農地法及び国土法違反の問題について懸念が示されていた上,平成7年1月27日以降の経営会議において,改めて農地法違反等の問題がスキャンダルとして大きく取り上げられたのは,平成5年7月5日の経営会議と平成7年1月27日の経営会議の出席者が大幅に変わったからであり(同じ出席者は12名中被告人乙を含め3名に過ぎない),事情を知らない出席者にその問題の深刻さを確認させる必要があったことに加え,平成6年の大蔵省検査によって,Bグループに対する融資の無担保部分がⅢ分類に査定され,新た 被告人乙を含め3名に過ぎない),事情を知らない出席者にその問題の深刻さを確認させる必要があったことに加え,平成6年の大蔵省検査によって,Bグループに対する融資の無担保部分がⅢ分類に査定され,新たな融資につき「ロスが出れば背任とみなす」旨指摘されたことから,そのような状況でもBグループに対する更なる融資をせざるを得ないことを出席者に納得させるためには,相当に詳細な説明が必要であったからにほかならず,同様のことは平成8年5月27日の経営会議でも行われているから,期間の経過や構成員の変動等により適宜改めて説明がなされていたとみるべきである。したがって,平成7年1月27日の経営会議において,農地法違反等の報告がなされたからといって別段不自然ではなく,また,この会議になって農地法違反等の問題が真正面から取り上げられたというものでもない。 以上のように,被告人乙は,遅くとも平成5年7月ころまでには,Bグループに対する融資が安全性の原則にもとり,銀行の取締役としての任務に違背することを十分認識していたにもかかわらず,平成6年6月29日,頭取に就任した後も漫然とこれまでの甲路線を継承してBグループに対する融資を続けた- 226 -ものである。被告人乙は,原審及び当審公判廷において,平成5年7月5日の経営会議の時点で分離再編案を実施する必要性を十分認識していた,金融支援策が必要だと思ったと供述しているが,そうであるなら,自分が頭取に就任した段階で,上記経営会議からほぼ1年が経過していたのであるから,その後のBグループに対する融資を決定する前に,今一度,審査第三部に対し,分離再編案や金融支援策の検討状況を確認し,あるいは,Bグループに対する取引方針の変更は,「経営に重要な影響を与える可能性のある取引先との取引方針などに関すること」という経 度,審査第三部に対し,分離再編案や金融支援策の検討状況を確認し,あるいは,Bグループに対する取引方針の変更は,「経営に重要な影響を与える可能性のある取引先との取引方針などに関すること」という経営会議の付議事項に当たるのであるから,正式に経営会議にかけさせた上で,融資を継続するか否かを慎重に決めるべきであった。それをせず,漫然と融資を継続したのは,被告人甲と同じく,融資打切りにより被告人丙の言動からこれまでのスキャンダルが発覚することを恐れたからにほかならない。 イ平成6年の大蔵省検査以後の状況(ア)状況の悪化拓銀は,平成6年の大蔵省検査の結果が報告されるなどした平成7年1月27日の経営会議以後,農地法違反等への危機感が一層強まり,露骨にスキャンダル回避の必要性が検討されたほか,茨戸開発の実現可能性及び採算性はより低くなっていった。 (イ)平成6年の大蔵省検査及び平成7年1月27日の経営会議拓銀は,平成6年8月から9月にかけて,大蔵省検査を受け,e1検査官から「Bは,実質,死に体。銀行はいつまで資金支援するつもりなのか。赤字資金はいつまで出し続ける気なのか- 227 -」などと批判され,唯一の回収源と考えていた茨戸開発についても「今は頓挫している。もともとリスクのあった事業。それを金消でやっている。銀行も一緒に踊ったということだろう。 … ひどい話だ。当行の経営を疑います。赤字資金融資というのは大変なことですよ。当行は何をやろうとしているのか分からぬ。銀行なんだろうか,不動産屋なんだろうか。銀行としての在り方を忘れている。プロジェクトがあり,頓挫して,最後,銀行が面倒をみるパターンだ。このプロジェクトはどうなるか分からない。障害が大きすぎます。」と一蹴された。その上で「本当に当行は銀行としての本分を忘れている。」「 ロジェクトがあり,頓挫して,最後,銀行が面倒をみるパターンだ。このプロジェクトはどうなるか分からない。障害が大きすぎます。」と一蹴された。その上で「本当に当行は銀行としての本分を忘れている。」「ⅢでもⅣでも償却できないでしょう。」などと酷評され,Bグループに対する貸付金のうち,無担保部分をⅢ分類,実効担保部分をⅡ分類と査定されたことは上記2(41)のとおりである。更に,e1検査官は,aからBグループに対する新規貸出しの必要性を踏まえ是非ともⅡ分類に査定してほしい旨懇願されても,「本当はⅣに近いⅢだ。」「客観的に見ると背任行為に当たります。 」「経営者が背任にならぬよう,銀行に損を与えぬようするにはⅢ分類がいい。やるなら損を出さぬよう,腹をくくってやればよい。」と述べ,同グループへの追加融資は背任に当たる旨言明した(上記2(41)ウ及びオ)。 大蔵省検査の重要性とBグループが拓銀にとっての重大案件であったことに鑑み,検査官との面談結果は,随時,その要旨が頭取である被告人乙に報告されていたと思われるが,証拠上,その報告が明確に残されているのは,平成7年1月27日の経営会議である。ここでは,e1検査官の上記指摘事項と同趣旨の説明及び報告がなされたが,具体的には,上記2(42)イ(ア)- 228 -のとおり,「茨戸開発はあまりにも未定な部分,また今後予想されるハードルが多過ぎ,頓挫の可能性(ロス発生の可能性)があること,Ⅱ分類は,時間を要するものの,当該貸出が回収できると認められたものであるが,茨戸開発計画は,Bの体力も弱く,その成否の見極めがつかないことから実担部分はⅡ分類,無担部分はⅢ分類とすること」が報告され,更に検査官から「Ⅲ分類先へは本来的に貸増しはできないが,経営判断により貸出しを実行するということであれば,それはそれ めがつかないことから実担部分はⅡ分類,無担部分はⅢ分類とすること」が報告され,更に検査官から「Ⅲ分類先へは本来的に貸増しはできないが,経営判断により貸出しを実行するということであれば,それはそれでよい。 ただし,その結果ロスが出れば,背任とみなす。」と言われたことなどが報告された。 確かに,e1検査官もいうように,融資の継続は,最終的には拓銀(すなわち頭取)の経営判断であるが,e1検査官は「拓銀に損を与えなければ」という条件付きで述べており,平成7年1月27日の経営会議においても,「ロスが出れば背任とみなす」と報告されている上,e1検査官は茨戸開発につき,とんざの可能性を指摘し,そのことも上記経営会議で報告されているから,結局,Bグループに対する融資の継続はロスが出るだけで回収額の極大化は全く見込めないとするのがe1検査官の見解であった。このことは,上記経営会議の席上,h1が,Bグループに対する今後の利払資金の融資は特別背任に当たるのではないかと質問したのに対し,aが明確な答えをしなかったため,重ねて同じ質問をしたところ,aも「おっしゃるとおりです。」と答えていることからも裏付けられる(上記2(42)ウ)。被告人乙は,上記のh1発言について,原審公判廷において,「h1は,形式的な基準で考えると特別背任に当たるという趣旨で述べたと思うが,当時,私はそのように思ってなか- 229 -った。当然の経営判断であったというふうに思っていた。」などと供述しているが,大蔵省検査に関する上記報告を踏まえた上で,h1が2度にわたり,明確に特別背任の成否を問う質問をしていること,同人は,原審公判廷において,「a以外に自分の質問に答えた人はおらず,私の背任にならない説明はつくのかという疑問は解消されないままだったが,こういう重たい案件になると 否を問う質問をしていること,同人は,原審公判廷において,「a以外に自分の質問に答えた人はおらず,私の背任にならない説明はつくのかという疑問は解消されないままだったが,こういう重たい案件になると,当然事前に頭取と担当部との間で打ち合わせし,そして結論を得て会議に臨んでいるだろうから,既に私が指摘したような問題ものみ込んだ上で頭取が決断されたということであれば,それに従わざるを得ないだろうというような理解だったと思う。」と供述していること,被告人乙は,捜査段階において,「h1常務の発言は当然に理解できた。ニューマネーが年間20億円に抑えられたとしても回収可能性がないことがはっきりしている以上,金額の多寡に関係なく特別背任の責任を追及されることになると思われた。2度目のh1常務の発言には,そんなことはh1常務に言われなくても分かっていたので,何でわざわざそのような発言をするのかなと思った。」と述べていることなどからすると,同被告人の上記原審公判供述は信用できない。以上によれば,被告人乙は,茨戸開発の開発利益により将来の回収が十分に認められない限り,Bグループに対する利払資金等赤字補填資金の融資は特別背任になることを認識していたと認めることができる。 (ウ)農地法違反問題等の認識拓銀は,平成6年の大蔵省検査後,農地法違反等につき,ますます危機感を強めていった。 平成7年1月27日の経営会議では,aが冒頭説明で「この- 230 -グループを整理するに当たって一番悩ましいのは,単に貸金の損切りだけで済ませられない法律違反をめぐる『政』・『官』・『財』の各界にわたるスキャンダラスな面がつきまとうということだと思います。」と述べてスキャンダル回避の必要性を訴え(上記2(42)ウ),また,経営会議資料には,茨戸開発を断念した場合の収支 』・『財』の各界にわたるスキャンダラスな面がつきまとうということだと思います。」と述べてスキャンダル回避の必要性を訴え(上記2(42)ウ),また,経営会議資料には,茨戸開発を断念した場合の収支見通しの詳細な検討の跡はみられず,かえって,「スキャンダル表面化の恐れ」とか「特に難しいハードル」として「司法介入」「違反の疑いを知りながら土地を買わせた」「行政の心配ごと(農地法,国土法違反疑惑スキャンダル)をクリアできるか」「議会・マスコミで取り上げられ,スキャンダル化し,司法介入(最悪逮捕者),農水省処分(農転凍結)」などとスキャンダルの発覚回避の必要性ばかりが記載され,その対応として「当行としては打つ手はない。」などと説明されていた(上記2(42)イ(ウ))。 また,審査第三部は,平成7年3月25日,n弁護士から茨戸開発用地買収資金を貸し付けた「たくぎんファイナンスの役職員は特別背任に該当する可能性が高い。それを指示した拓銀の役職員は身分なき共犯」などと説明され,国土法や農地法の公訴時効を待った方がよいとのアドバイスを得て(上記2(43)),その旨を同月28日の経営会議で報告した。すなわち,aは,「改めて言いますが,今,何故Bグループを倒産させないのか。倒産させれば当行の致命傷になりかねない。当行の命運がかかっている。茨戸事業がある。今はぼかしているが,中断すれば市にも累が及ぶ。たくぎんファイナンスで170億円貸しているが,弁護士によれば,特別背任との認識であり,拓銀は身分なき共犯者だと言われている。aさん,Bグループを潰- 231 -しなさいと弁護士は言った。一日も早く潰したいが,潰せない。 」「将来潰しても,今潰してもそれだけで済むならいいが,スキャンダラスな問題がある。表に出なくなれば外科手術をする。 」と説明し,農地法 -しなさいと弁護士は言った。一日も早く潰したいが,潰せない。 」「将来潰しても,今潰してもそれだけで済むならいいが,スキャンダラスな問題がある。表に出なくなれば外科手術をする。 」と説明し,農地法違反等の問題の重大性とその発覚を警戒する発言をした。そして,被告人乙は,上記経営会議において,h1の「再建できないのに金利減免をしながら貸出しをする。 矛盾しないのか。」との反対意見に対し,「経営会議は満場一致でなくてもよい。反対なら反対意見があってよい。」と述べて,Bグループに対する融資継続を前提とする「共通確認事項」の締約を承認・決定したのである(上記2(44)ア(イ)))。 平成7年3月31日及び同年6月5日の経営会議においては,茨戸開発を巡る農地法違反等のスキャンダル及びその対応策を詳細に検討した「○茨戸プロジェクト問題噴出時の対応につい秘て」及び「○茨戸プロジェクト問題噴出予想図」というマル秘秘資料に基づいて説明がなされ,スキャンダルの発覚を回避するためには,Bグループに対する融資及び茨戸開発を続けざるを得ないことが改めて確認された(上記2(44)イ及び(46))。 さらに,審査第三部は,平成7年8月3日ころ,n弁護士に「○茨戸プロジェクト問題噴出予想図」を示した上,改めて公秘訴時効の完成予定日を質問するなどしている(上記2(48))。 平成8年7月1日の経営会議では,m1が,冒頭,「茨戸開発プロジェクトの整理については非常に多くの問題を抱えております。」「農業振興地域の農地に手を出したことが最大の過ち,もともと無理な地域に手を出したことから様々な法的問題を抱えている,具体的には,国土法及び農地法違反疑惑問題,それに絡む特別背任や株主代表訴訟の問題,拓銀の当事者は身- 232 -分なき共犯となり,直接的には一部の者となるが ことから様々な法的問題を抱えている,具体的には,国土法及び農地法違反疑惑問題,それに絡む特別背任や株主代表訴訟の問題,拓銀の当事者は身- 232 -分なき共犯となり,直接的には一部の者となるが世間的には銀行そのものが批判される,問題噴出時にはやられるおそれがある,やるとすればB,現在形式的には繕われているので表立った問題とさせない必要がある。」などと説明し,経営会議の席上でも,s副頭取の「騒ぐと言っても,正式に相談もなしに勝手に進めてきた話ではないか」との発言に対し,「それで納得する人物ではない」「怒らせると(ファイナンスの)貸出そのものについて騒ぐ(告発する)。」などと述べて,明らかに被告人丙がスキャンダルを公言することを恐れ警戒する発言をしている(上記2(51)イ(イ))。なお,被告人乙は,原審公判廷において,「身分なき共犯」の説明は覚えていない,検察官調書にその説明を聞いた旨記載されているが,身分なき共犯という意味も分からなかったし,背任という認識は当時も現在もないから,そのように述べるはずがない旨供述する。しかし,m1が,平成8年7月1日の経営会議で「身分なき共犯」の説明をしたことは,同人が,原審公判廷において,これを認めており,同人がその説明をした際に使用した書面にもその旨明記されている上,既に平成7年3月28日の経営会議において,aが同趣旨の説明をしていたことからすると,被告人乙の上記供述は到底信用できない。 平成9年5月12日の経営会議では,Bグループに融資を継続したこと,被告人丙の増長を許したことなどを反省し,その理由につき分析し,m1は,拓銀にとって,リーガルリスク(国土法,農地法問題等)があったこと,被告人丙もこれを拓銀の弱みとして,好き勝手をしてきたことにあると述べた(上記2(55)ア)。なお,同 理由につき分析し,m1は,拓銀にとって,リーガルリスク(国土法,農地法問題等)があったこと,被告人丙もこれを拓銀の弱みとして,好き勝手をしてきたことにあると述べた(上記2(55)ア)。なお,同経営会議に被告人乙は欠席したが,審査- 233 -第三部は事前に同被告人と打合わせを行った上で付議したものである。 以上のように,拓銀は,農地法違反等の問題について,平成7年1月27日の経営会議以降,時を追うごとに,これを拓銀のスキャンダルとして露骨に表現し,その発覚をいかに防ぐかに腐心していたものである。この点について,被告人乙は,原審公判廷において,農地法違反等の問題を重大視していなかったと述べて,その発覚を恐れていなかった旨供述しているが,以上に加え上記5(2)オ(イ)のとおり,同被告人が被告人丙に面会した際の対応等に照らして措信できず,被告人乙も当然のことながら,そのスキャンダルを認識し,その発覚を恐れていたということができる。 (エ)茨戸開発の実現可能性既に被告人甲の頭取在任中において,茨戸開発に対するGの事業主体としての参加意欲が著しく後退していたことは,上記5(2)カ(イ)bのとおりであるが,Gは,平成8年5月ころには,札幌市内に設置していた事務所を閉鎖し,駐在員を引き揚げるなど,被告人乙が頭取に就任した後は,その消極姿勢を一層増大させ,茨戸開発からの撤退を加速させた。もっとも,札幌市は,平成5年7月当時と異なり,平成7年以降は,Gの参加が難しいことを認識しながら,茨戸開発への協力姿勢を示していたから,平成5年7月当時の札幌市が茨戸開発の許認可を与える条件として示したGの進出及びGが開発主体となることの重要性は薄れていた。したがって,平成7年以降は,Gの茨戸開発からの撤退は,茨戸開発の実現可能性を事実上減退させた 市が茨戸開発の許認可を与える条件として示したGの進出及びGが開発主体となることの重要性は薄れていた。したがって,平成7年以降は,Gの茨戸開発からの撤退は,茨戸開発の実現可能性を事実上減退させたとはいえるが,それにより,許認可の条件を成就できなくな- 234 -り,その結果,実現可能性がなくなったということはできない。 しかし,被告人乙が頭取に就任した後の茨戸開発計画の変転はそれ以前にも増して激しいものであり,到底茨戸開発の実現可能性が見込める状況ではなかった。すなわち,被告人乙は,平成6年6月24日,札幌市に市街化調整区域内特例開発から市街化区域に編入して開発するという基本方針の転換を伝えたところ,c1助役らの強い怒りに触れ,札幌市と方針転換の協議の方向性すらみえなかったことは前述したとおりであるが,その後,平成7年4月ころには,態度を軟化してきたc1助役から,単純宅造系開発につき,注文をつけられながらも「この絵は前よりも対外的に文句を言われることはないと思う。」などと一定の理解を得られるまでになったものの(上記2(46)),その後の折衝で単純宅造系開発を最も早い平成10年3月の市街化区域編入に合わせて行うためには,陳情順位の変更が認められるような大義名分が必要であることが判明し,拓銀は,陳情時期までに大義名分を備えた開発構想を札幌市に提示できないという事態に陥った。そのころ,被告人丙は,独自に,福祉系開発を進め,拓銀や準備会に同被告人を茨戸開発に参加させるよう要求したため,拓銀は,採算性を全く期待できない福祉系開発への方向転換だけは絶対に阻止しなければならないと考える一方(上記2(51)ア),平成8年5月ころ,単純宅造系開発を断念し,市街化区域編入のための陳情時期の制約に縛られない市街化調整区域内での開発に再び方針転換 けは絶対に阻止しなければならないと考える一方(上記2(51)ア),平成8年5月ころ,単純宅造系開発を断念し,市街化区域編入のための陳情時期の制約に縛られない市街化調整区域内での開発に再び方針転換することを決定し,現況有姿型開発構想を進めるとともに,被告人丙に福祉系開発を断念させるための交渉を続けた(上記2(51)イ)。しかし,札幌市は,平成8年9月ころ,拓銀に対し,被告人丙と準- 235 -備会の計画案を一本化して福祉系開発の方向で進めるように要請したため,拓銀は,またもや基本方針を変更し,福祉系開発を進めることとした(上記2(54))。以上のように,被告人乙が頭取に就任した以降,単純宅造系開発,現況有姿型開発,福祉系開発と目まぐるしく変転を続け,最後は,被告人丙が独自に進め,拓銀が採算性の点から必死に断念させようとしていた福祉系開発に落ち着いたものである。当然のことながら,実現できるような現実的かつ詳細な開発計画案はできなかったし,ディベロッパーも決まっていなかった。このような開発計画の変転状況からすれば,それが茨戸開発の実現のための迷走であるとはいえ,その可能性が高いといえないことは明らかである。 現に,平成8年5月27日の経営会議において,pは,「茨戸計画は全然順調に進んでいないじゃないか」「きつい言い方かもしれないが,これほど重要な問題を突っ込んだ交渉をしなかったのか,本腰をいれなかったのか。」などと怒りに満ちた発言を行っていることからしても,拓銀経営陣の中でさえも茨戸開発の進捗状況や実現可能性に疑問が出ていたことが認められる。加えて,上記2(41)のとおり,平成6年の大蔵省検査において,茨戸開発につき,「今は頓挫している」「茨戸事業は今,白紙の状態」「見直し計画も未定」などと極めて厳しい評価がなされていたもので る。加えて,上記2(41)のとおり,平成6年の大蔵省検査において,茨戸開発につき,「今は頓挫している」「茨戸事業は今,白紙の状態」「見直し計画も未定」などと極めて厳しい評価がなされていたものであり,被告人乙も平成7年1月27日の経営会議でその報告を受けていた。 (オ)茨戸開発の採算性被告人乙が頭取に就任する前から茨戸開発による採算性の見込みがなかったことは,既に上記5(2)カ(ウ)で説示したとおり,被告人乙自身も,たとえば,平成6年5月16日の経営会- 236 -議において,「茨戸開発事業がうまくいったからといってBがうまくいくのか。その連動性はない。」と述べるなど(上記2(39)イ(イ)),十分認識していたことが認められる。そして,この状況は,被告人乙が頭取に就任した後も変わることはなかった。 このことは,平成6年の大蔵省検査において,a自身がe1検査官に対し,「茨戸がうまくいっても『既存事業が助かるか』といったらそうではありません。ホテルは2百数十億円かけたとんでもないものです。どうやっても採算はとれません。ホテルは元々,土地が値上がりし,これを売ってホテルにつぎ込む計画だったのですが,そんなのは出てきません。」と述べ,茨戸開発が実現しても採算性が見込めないことを自認し,e1検査官も「調整区域が市街化になった,虫食いも全部買い取りできた,開発して売るにしてもどのくらいの年数がかかるか,この間,金利は原価に算入(されることになるのですよ),(その結果)どれだけロスが出るか(分かりませんよ。)」と述べて採算性を疑問視し(上記2(41)ウ),大蔵省検査の検査報告書においても「仮に当該プロジェクトが完成しても採算がとれず,多額の損失が見込まれる。」と指摘されていること(上記2(41)カ)だけをみても明らかである。また,単 (41)ウ),大蔵省検査の検査報告書においても「仮に当該プロジェクトが完成しても採算がとれず,多額の損失が見込まれる。」と指摘されていること(上記2(41)カ)だけをみても明らかである。また,単純宅造系開発が論じられた平成7年1月27日の経営会議においては,最も有力なシナリオ2であっても,収支計算上約165億円の赤字となること(上記2(42)イ(イ)),事業継続の場合に必要となるBグループに対する赤字補填資金や造成関係費等の事業継続資金,更にそれらの金利等を含めると莫大な融資を必要とすることが報告されていたし(上記2(42)イ(ウ)),aも原審公- 237 -判廷において,「平成7年1月当時,審査第三部は茨戸事業を断念することが,拓銀の将来のロスの減少につながると認識していたと考えて間違いない。」旨供述している。現況有姿型開発の方針を固めた平成8年7月1日の経営会議においては,その席上,pが「資金の面からいえばこのままプロジェクトを止めてしまうのがいい。これについても検討が必要ではないか。 」と述べている(上記2(51)イ(イ))。そして,福祉系開発に至っては,拓銀が当初その阻止に躍起となったことからも明らかなように,拓銀にとって採算性の見込めないものであった。 したがって,被告人乙が頭取の時代も茨戸開発の採算性が見込めなかったことは明らかである。 ウ自己保身目的被告人乙及び同丙の各弁護人は,各答弁書において,被告人乙による本件融資3ないし5の決定は,拓銀の損失の極小化を図る目的でなされたものであるから自己図利目的は存在しない,という。しかし,Bグループに対する貸付金の回収は,茨戸開発の実現による開発利益が入らない限り,あり得なかったことは,被告人乙が頭取に就任した後も同じであるが,肝心の茨戸開発の実現可能性は,上記イの いう。しかし,Bグループに対する貸付金の回収は,茨戸開発の実現による開発利益が入らない限り,あり得なかったことは,被告人乙が頭取に就任した後も同じであるが,肝心の茨戸開発の実現可能性は,上記イのとおり,ますます不透明となって高いものではなく,その採算性も見込めなかったものである。 そして,そのことは被告人乙も経営会議の報告等により十分に認識していたはずである。なるほど,平成7年1月27日の経営会議では,審査第三部が付議した分離再編案が被告人乙によって承認されたが,大蔵省検査官から「ロスが出れば背任とみなす」と言われた旨報告があったように,もはや次善の策であった融資継続を前提とした分離再編が許されるような状況では- 238 -なく,最善の策であった融資打切りをすべき段階にあった。このことは,分離再編案を付議したaでさえも,原審公判廷において,検察官の「平成5年7月から1年半経過したが,現実にその間に,拓銀グループにおいても損失が目に見えて膨らんでいると。そういった状況を踏まえれば,むしろこの時点でBグループとの関係を断ち切って,拓銀のロスを確定させると,こういうふうな判断をすべきだったのではありませんか。」との質問に対し,「結果的にはそういう判断ができたかもしれませんし,またそうしたかった面も私自身もありました。」と供述し,被告人乙も検察官調書で「平成7年1月当時もa部長が従前から言っていたように拓銀の損失を最小限に食い止めるにはBグループへの融資をストップすることが最善の策であり,そのことは私も分かっていたが,Bグループへ融資を打ち切れない悩ましい問題があったため融資を継続した。」旨供述していることからも裏付けられる。したがって,被告人乙による本件融資3ないし5の決定が損失の極小化を図る目的でなされたとは到底認められない 切れない悩ましい問題があったため融資を継続した。」旨供述していることからも裏付けられる。したがって,被告人乙による本件融資3ないし5の決定が損失の極小化を図る目的でなされたとは到底認められない。 ところで,被告人乙は,同甲と異なり,自ら頭取としてホテル建設資金の融資を決定したわけではないし,gらが進めた茨戸開発の用地買収資金融資に関する監督責任を負っていたわけでもない。その意味で,被告人乙が,頭取に就任した後も漫然とBグループに対する融資を継続した理由を,自らずさん融資の決定等に関わった被告人甲と同様に考えることはできない。 しかし,前頭取がずさんな融資を行い,農地法違反等に関わる融資を行うなどのことが公になった場合,現頭取といえども,現時点の最高責任者として,その社会的責任を問われることは- 239 -十分にあるのであって,マスコミ対応,監督官庁への説明,株主や預金者への謝罪,捜査機関による捜査等で厳しい立場に追い込まれ,進退問題に発展することも容易に想像できることである。まして,被告人乙は,頭取就任以前においても,たとえば,平成3年のバックファイナンスでは,当該融資の可否を審査する審査第一部の担当取締役であったにもかかわらず,鉛筆書きの方法により審査を通過させた上,持ち回りの投融資会議で融資を「可」としたり,平成5年7月5日の経営会議では,審査第一部と事前に打合せをして分離再編案を付議したにもかかわらず,分離再編案を承認しないとの議事進行を行うなど,決定権者である当時の頭取の被告人甲ほどではないにしても取締役としての責任を追及されれば,民事責任を避けられない立場にあったものである。そして,被告人乙は,平成5年7月5日の経営会議当時において,Bグループの財政・経営状態が上記のとおりであって回収可能性がないこと,その後自 されれば,民事責任を避けられない立場にあったものである。そして,被告人乙は,平成5年7月5日の経営会議当時において,Bグループの財政・経営状態が上記のとおりであって回収可能性がないこと,その後自らの頭取就任後もその状態が悪化の一途をたどっていることを知りながら,本件融資3ないし5の実質無担保の融資だけを継続するという,およそ銀行の頭取として,その公共性,融資における安全性の原則にもとる判断と行動に出ているが,これは,結局は,被告人甲同様,Bグループに対する融資を打ち切った場合,これに激怒した被告人丙が自暴自棄となってずさんな融資や違法な融資の実態を暴露するなどし,前任者である被告人甲の信用や経歴に傷が付くことを危惧するとともに,これまで培ってきた自らの社会的信用や経歴が著しく低下することを恐れ,また,自己に対する社会的・道義的責任や株主代表訴訟による民事責任の追及等を恐れて,それらを回避するという自己保身の目的- 240 -から,上記融資を実行したと認められる。 もっとも,被告人乙に拓銀に対する加害目的が認められないことはもとより,被告人乙が頭取に就任した時点で,Bグループに対するずさん融資は既に被告人甲の決定により実行されており,被告人乙は,その路線を継承したという面もある。その意味で被告人乙には,検察官も認めるように,Bグループに対する融資打切りによってずさんな融資や違法な融資が表面化した場合に生じる拓銀自身の信用低下を回避しようとの心情から融資を行ったとみる余地がある。しかし,本件融資3ないし5が行われたときにおいて,Bグループは相変わらず大幅な債務超過額を抱え,その額は増大の一途であり,実質破たん状態のまま状況は更に悪化していた上,債務返済の唯一の望みであった茨戸開発も計画自体が目まぐるしく変転しその実現可能性は ープは相変わらず大幅な債務超過額を抱え,その額は増大の一途であり,実質破たん状態のまま状況は更に悪化していた上,債務返済の唯一の望みであった茨戸開発も計画自体が目まぐるしく変転しその実現可能性はますます不透明な状況にあり,その採算性は望むべくもないなど,それによる債務の返済は皆無に等しかった。加えて,平成6年の大蔵省検査や平成7年の日銀考査の結果等を踏まえると,銀行の公的性格や安全性の原則を持ち出すまでもなく,もはやBグループに対する融資は許される状況になく,被告人乙もこの状況を十分把握していたものである。しかも,後述するように,融資打切りによる拓銀の信用低下があったとしても,当時,そのことが拓銀の破たんをもたらすような現実的危険はなく,現に,被告人乙を含め当時の拓銀経営陣はそれを危惧していなかったし,それが議論された形跡もない。そして,通常の金融機関ないしその役員であれば,上記のような財政・経営状態のBグループに対して,それまでのずさん融資や農地法違反等の問題など経営責任につながるような問題がなかったとすれば,- 241 -これに対し,十分な再建計画もないまま更なる融資をすることはおよそ考えられないことである。しかるに,被告人乙は,その後も実質無担保で融資を継続したものであり,このことは,同被告人に融資の継続により拓銀の信用低下を回避しようとの心情があったとしても,それは,本件融資3ないし5を行う際の決定的な動機ということはできず,主として上記のような自己の経営責任の追及を回避しようとの自己保身目的をもって行われたというべきである。 エ原判決の検討原判決は,「被告人乙が,Bグループに対する融資のずさんな実態が表面化することを,できれば避けたいとの心情を抱いていたことは一応推認できる。しかし,本件融資3ないし5がな ある。 エ原判決の検討原判決は,「被告人乙が,Bグループに対する融資のずさんな実態が表面化することを,できれば避けたいとの心情を抱いていたことは一応推認できる。しかし,本件融資3ないし5がなされた当時,被告人乙ら拓銀経営陣に対し,株主代表訴訟等により,その経営責任等を追及する具体的な動き,あるいは切迫した事情はなかったことなどに照らすと,被告人乙が,Bグループに対するずさんな融資の実態を深刻に考え,その表面化を殊更におそれていたと認めるには合理的な疑いが残る。」と判示する。しかし,そもそも,被告人乙が,ずさん融資の表面化によりマスコミ等から厳しい追及を受け,進退問題に発展することを認識していたことなどに照らすと,被告人甲の場合と同様,株主代表訴訟等の具体的な経営責任追及の動きが出る前にそれを回避しようとするのが通常であるから,原判決はその前提において採用できない。さらにいえば,確かに,本件融資3ないし5がなされた当時,被告人乙に的を絞った具体的な経営責任の追及はされていなかったが,同被告人ら経営陣にその責任追及の恐れを抱かせる事情が多々存在したことは,平成7- 242 -年1月27日の経営会議で「特に難しいハードル」としてスキャンダル問題が強調され,同年3月及び6月の経営会議におい秘秘て「○茨戸プロジェクト問題噴出時の対応について」及び「○茨戸プロジェクト問題噴出予想図」が配布されてそこに株主代表訴訟を懸念する記載がなされていること,平成8年7月1日の経営会議資料にも拓銀の茨戸開発への関与という問題点に関し,「株主代表訴訟対応(背任-幇助)」と記載されており,m1がその可能性に触れる発言をしていること,国土法や農地法違反に関わる公訴時効の完成日が経営会議で報告され,リーガルリスクについてもたびたび経営会議で報告さ 対応(背任-幇助)」と記載されており,m1がその可能性に触れる発言をしていること,国土法や農地法違反に関わる公訴時効の完成日が経営会議で報告され,リーガルリスクについてもたびたび経営会議で報告されていたこと,現に平成6年6月29日の拓銀の株主総会において,株主からEの問題を巧妙な犯罪と位置づけ,それに関与した者の退職慰労金について拓銀の処理を問う質問がなされ,Bグループの担当取締役である被告人乙がそれに答えていることなどから明らかである。そして,これらが,被告人乙ら経営陣の経営責任に直結する事項であることも明らかであって,だからこそ審査第三部もその重要性に鑑みて繰り返し経営会議で報告していたものである。したがって,被告人乙が,本件融資3ないし5がなされた当時,自己の経営責任の追及を回避しようとの自己保身目的をもっていたことは明らかである。 また,原判決は,要旨,被告人乙が,農地法違反等の問題があることを認識し,その表面化をできれば回避したいと考えるとともに,被告人丙の言動を通じて農地法違反等の問題が表面化することを避けたいとの念を抱いていたことは認められるが,他方,①農地法違反等に関わる問題が協議された経営会議で,その表面化と被告人乙ら経営陣の経営責任とを絡めて協議され- 243 -た形跡はないこと,②被告人乙が農地法違反等の問題により,刑事責任を追及されるおそれはなかったこと,③平成5年11月ころのVに対する金融支援打切りにより厳しい社会的非難にさらされ,拓銀の社会的信用の低下と個人定期預金の大幅流出という苦い経験があったので同様の事態を招かないようにという自己保身目的とは別の農地法違反等の問題の表面化をおそれる理由があったことなどからすると,被告人乙が,専ら又は主として,自己の経営責任を回避する目的で,本件融資3ない 様の事態を招かないようにという自己保身目的とは別の農地法違反等の問題の表面化をおそれる理由があったことなどからすると,被告人乙が,専ら又は主として,自己の経営責任を回避する目的で,本件融資3ないし5を実行したと推認するには躊躇を覚えざるを得ない,と判示する。しかし,①については,経営会議資料で繰り返し説明されていたスキャンダル等の問題が,突き詰めれば被告人乙ら経営陣の責任につながることは,その旨明示されていないものの,一見して明らかなことである。そもそも被告人乙の目の前で,その経営責任とを絡めて協議するなどという,いわば名指しでの頭取批判自体,考え難い。②については,被告人乙の経営責任が追及される恐れがあり,そのことを同被告人が認識していた以上,仮に同被告人に刑事責任追及の恐れがなかったとしても自己保身目的の認定を左右しない。③については,拓銀の信用低下を防止しようとする心情と自己の経営責任の追及を回避しようとする心情は併存しうるものであり,上記ウのとおり,前者が主な動機となって本件融資3ないし5を行ったものとは認められない。しかも,仮に預金流出やBグループに対する融資打切りによる大幅な償却額増のため,拓銀の信用が低下することがあったとしても,それは,被告人乙の経営責任に起因することであるから,その回避の必要性から融資継続を正当化することは本末転倒である。また,平成8年当時は,まだ,大蔵- 244 -省の方針として都市銀行は潰さないといういわゆる護送船団方式が健在で,銀行不倒神話が生きており,平成9年には当時の大蔵大臣が衆議院予算委員会で「大手20行は潰さない」と発言していたから,信用低下により拓銀が破たんする現実的な危険は生じていなかった。現に,拓銀は,被告人乙の判断により,平成8年3月期に前期の10倍強に当たる約1 算委員会で「大手20行は潰さない」と発言していたから,信用低下により拓銀が破たんする現実的な危険は生じていなかった。現に,拓銀は,被告人乙の判断により,平成8年3月期に前期の10倍強に当たる約1881億円の不良債権の償却を実施したが,これはこの時点でも拓銀には償却体力が残っていたことを意味する。被告人乙も当審公判廷において,大蔵省及び日銀の了解を得て実施した,当時は,不良債権問題が相当うるさくなっており,それを抱きかかえるよりは,できるだけ償却できるものは償却した方がよいという考えであったと供述しており,大蔵省及び日銀も上記償却により拓銀が破たんするなどとは全く考えておらず,かえって償却により一時的に信用低下が起こったとしても長期的にみれば,償却する方が経営上望ましいとの判断を示していたのである。そうすると,この時点はもとより,より不良債権の額が少なかった被告人乙の頭取就任時や平成7年1月27日の経営会議時において,拓銀には,Bグループに対する融資を打ち切ってその不良債権を償却する体力が十分にあったのであり,このことは,農地法違反等の問題の表面化による拓銀の信用低下等の事態があっても,それがBグループへの回収見込みのない融資を継続する理由にならないことを意味している。 さらに,原判決は,aの要旨,「平成6年3月当時におけるBグループに対する拓銀グループの貸付金総額は約680億円であったところ,そのうち拓銀が担保で保全されていると算出していた金額(実効担保価格)は,約260億円であった。し- 245 -たがって,Bグループに対する融資を打ち切った場合,最悪では担保非保全部分である400億円強が回収不能となるおそれがあった。他方,同グループに対する融資を継続した上,Bを,その本業部門,茨戸開発事業部門,Eホテル賃貸部門の3つ 資を打ち切った場合,最悪では担保非保全部分である400億円強が回収不能となるおそれがあった。他方,同グループに対する融資を継続した上,Bを,その本業部門,茨戸開発事業部門,Eホテル賃貸部門の3つに分割するなど,グループ各社を整理した場合,Bの本業部門については,165億円の債務を引き継がせるとともに自賄体制で存続させ,その収益から債権の回収を図ること,Eホテルについては,100ないし120億円の損失を覚悟して第三者に売却処分すること,茨戸開発については,市街化区域編入ができない場合には80億強の損失を覚悟することなど,同グループに対し,その経営状況等に応じて適切な施策等を行えば,融資を打ち切った場合に比べ,より多額の回収を期待することが可能であった。」という原審公判廷における供述は信用できるとし,「被告人乙ら拓銀経営陣は,Bグループに対する融資を継続した方が,打ち切った場合よりも回収が多くなることを認識」していたと認定している。しかし,平成7年1月27日の経営会議資料中の「茨戸事業保全状況対比」によれば,融資を継続した場合,Bグループの既存事業及び茨戸開発事業を含め,平成6年3月実績分と平成15年3月見込み分を比較すると,総借入額は530億8400万円の増加(その全額が拓銀グループからの借入額増加分となる。),保全不足額は261億6600万円の増加と試算し報告されており,融資継続により更に大幅な保全不足額が生じることが明らかにされていた。その上,Bの本業部門については,165億円の債務を引き継がせるとともに自賄体制で存続させ,その収益から債権の回収を図るというが,同経営会議資料中の「Bグループ損益・借入推移- 246 -見込み」によれば,B本業の直近年間決算の償却前経常利益は▲5億9100万円なのに対し,平成14年3月 収益から債権の回収を図るというが,同経営会議資料中の「Bグループ損益・借入推移- 246 -見込み」によれば,B本業の直近年間決算の償却前経常利益は▲5億9100万円なのに対し,平成14年3月には▲3億8100万円と推計されており,売上増加率3パーセントを見込んで試算した平成14年3月でも,結局赤字であって自力では元本はもとより利息の支払いもできない上,借入残高も直近年間決算では152億0500万円とされているが,分離再編案ではこれに加えてB本業部門に165億5500万円の債務を引き継がせようというのであるから,債務の返済はより一層困難といえるものであった。そうすると,上記a証言はそのままそれを採用することはできないものであり,融資継続の方が損失の極小化となるとする原判決の認定は首肯できない。 オ総括以上によれば,被告人乙は,ずさん融資や違法融資の表面化により,自らそれに関与してきたことも含め,拓銀の最高責任者として,その経営責任が追及されることを回避するため,自己保身目的からBグループに対する融資を継続したものと認められる。 (3)被告人乙の第三者図利目的についてBグループは,被告人乙が頭取に就任する以前から既に実質破たん状態にあり,拓銀以外の金融機関から融資を受けられる可能性も皆無であったことは,既に認定,説示したとおりである。したがって,このようなBグループに対し,実質無担保で本件融資3ないし5を行うこと自体,同グループ各社に対する金融上の利益という特別の利益を与えるものである。そして,被告人乙は,本件融資3ないし5を行った際,そのような事情にあることを十分承知していたことも明らかである。したがっ- 247 -て,被告人乙が,被告人甲同様,第三者図利目的を有したことを優に認定できる。 原判決は,被告人乙が殊 行った際,そのような事情にあることを十分承知していたことも明らかである。したがっ- 247 -て,被告人乙が,被告人甲同様,第三者図利目的を有したことを優に認定できる。 原判決は,被告人乙が殊更被告人丙の利益を図らなければならないほどの個人的癒着があったとか,同被告人から利益の提供を受けていたなどの事情が認められず,同被告人らを利することを主たる目的として融資を実行したことをうかがわせる証拠はないと判示する。しかし,上記5(3)のとおり,実質破たん状態で他の金融機関の融資を受けられる可能性の全くないBグループに対し,実質無担保で融資すること自体が,同グループにこの上ない利益を与えるものであることは明らかであって,個人的癒着や利益の授受がないことは第三者図利目的の存在を左右しない。 被告人丙に対する特別背任罪の成否(1)はじめに原判決は,「被告人丙は,被告人甲及び同乙に係る特別背任の犯罪事実について,これに身分なき共犯という立場で加功したものとして,起訴されているところ,被告人甲及び同乙に特別背任罪の成立が認められない以上,同人らと被告人丙の各共謀の成否を検討するまでもなく,被告人丙について特別背任罪は成立しない。」と判示する。 しかし,被告人甲及び同乙に特別背任罪が成立することは,これまで説示したとおりである。そこで,さらに進んで,被告人丙に被告人甲及び同乙との共謀共同正犯が成立するか否かにつき検討する。 (2)被告人丙に特別背任罪の共謀共同正犯が成立するための要件- 248 -本件のように銀行の頭取が実質破たん状態の企業に対し,継続的に多額の赤字補填資金等を実質無担保で融資した場合,その借り手に頭取の特別背任罪の共謀共同正犯が成立するためには,頭取の任務違背や図利・加害目的,財産上の損害の発生を認識したこ 企業に対し,継続的に多額の赤字補填資金等を実質無担保で融資した場合,その借り手に頭取の特別背任罪の共謀共同正犯が成立するためには,頭取の任務違背や図利・加害目的,財産上の損害の発生を認識したことに加え,頭取の特別背任行為に加功したこと,すなわち,任務違背を明確に認識しながら特別背任行為につき意思の連絡を遂げたり,任務違背に当って支配的な影響力を行使したり,社会通念上許されないような方法を用いるなどして積極的に働きかけ,あるいは,融資に応じざるを得ない状況にあることを利用しつつ,融資の実現に協力するなどしたことを要するというべきである。 被告人丙は,被告人甲及び同乙の任務違背並びに自己及び第三者図利目的を十分認識しつつ,拓銀からの融資を得るため,被告人甲及び同乙が融資に応じざるを得ない状況につけ込み,脅迫的言動まで行って融資を実現したものであるから,被告人丙に被告人甲及び同乙との共謀共同正犯が成立することは明らかである。 (3)被告人甲及び同乙の任務違背についての被告人丙の認識Bグループは,上記3のとおり,大幅な債務超過状態にあり,償却前営業利益は赤字で,借入額は大きく,担保割れの状態にありながら,拓銀から実質無担保で融資を受けていたのであるが,被告人丙は,Bグループ各社の代表取締役かつ経営者としてその経営をしていたから,このような財政・経営状態を熟知していたものである。被告人丙は,当審公判廷において,実質破たん状態にあることを認識していなかったように受け取れる- 249 -供述をしている。しかし,債務超過状態にあり,実質破たん状態であることは,Bグループ各社の財務諸表を見れば明らかであり,被告人丙も原審及び当審公判廷において,これを見ていた旨供述していること,被告人丙は,原審公判廷において,平成5年5月期及び平成6 状態であることは,Bグループ各社の財務諸表を見れば明らかであり,被告人丙も原審及び当審公判廷において,これを見ていた旨供述していること,被告人丙は,原審公判廷において,平成5年5月期及び平成6年3月期につき,r監査法人の監査を受けた結果,資産及び損益の状況を正しく示していないと指摘され,決算書よりも悪い評価がなされたことを認めていること,また,拓銀に融資を申し込む際,財務担当者から資金繰表,損益計算書等を示されてその説明を受け,ときには何の根拠もなく売上げを水増しさせるなどした資金繰表等を拓銀に提出させるなどしていたこと,平成5年7月7日には,上記2(30)アのとおり,aからBグループ各社とも大幅赤字を計上し,極めて深刻な状況にある,当行としては赤字たれ流し状態の先に対し,返済目途のない赤字資金を無条件で融資する訳にはいかないなどと書かれた書面を交付され,これに応じて担保提供や不動産売却等に応じる念書等を差し入れていたこと,平成7年3月31日には,「Bグループの現状の極めて厳しい経営危機は,偏に㈱C,㈱D等に対する著しい過大投資に起因していることを両者は確認した。」などと記載された「共通確認事項」と題する書面に被告人丙自身が署名していることなどに照らすと,Bグループが実質破たん状態にあり,拓銀からの借入れがなければたちどころに倒産してしまうことを同被告人が十分認識していたことは明らかである。 さらに,平成5年7月7日に交付された上記書面には,拓銀グループのBグループに対する融資が保全不足に陥っていることが明記されており,被告人丙も原審公判廷において,aから- 250 -その指摘を受けた,平成6年に入ってから拓銀に追加融資を依頼する際には無担保の状態だということは十分に分かっていたと供述している。 加えて,被告人丙は,ホ 原審公判廷において,aから- 250 -その指摘を受けた,平成6年に入ってから拓銀に追加融資を依頼する際には無担保の状態だということは十分に分かっていたと供述している。 加えて,被告人丙は,ホテル建設資金について,北東公庫及び長銀に自ら出向いて協調融資を依頼していたが,北東公庫及び長銀は,協調融資を拒否し,茨戸開発も被告人丙の実現に向けた思いとは裏腹に計画自体が二転三転し,許認可は得られず,札幌市の意向に従う形で事業主体から外され,Gは消極姿勢を示した後に撤退し,未買収地が残っていたことなどからすれば,同被告人は,拓銀以外の金融機関がBグループに対して融資を行うことはあり得ないこと,茨戸開発実現の困難性を示す諸事情を十分認識していたことが認められる。そして,金融機関が回収の見込めない相手に融資をしないこと,融資の際は必ず担保を徴求することは常識であり,被告人丙も,原審公判廷において,当時分かっていたことを認めている。 以上によれば,被告人丙は,実質破たん状態にあり,多額の借入金を担保割れの状態で抱えるBグループに対し,実質無担保で行う本件融資1,3及び4が,被告人甲及び同乙の頭取としての任務に違背することを十分に認識していたものというべきである。 (4)被告人甲及び同乙の図利目的についての被告人丙の認識ア自己図利目的についての認識被告人丙は,上記(3)のとおり,被告人甲及び同乙の任務違背を認識していたものであるが,両被告人が任務違背に及んだ主な理由については,両被告人と被告人丙との間に個人的な癒- 251 -着や特別な利益の授受等がなかった以上,専ら拓銀側の負い目というべき,拓銀経営者としての責任に絡む事情,すなわち,被告人甲及び同乙の自己保身目的にあることは容易に推測できたはずである。現に,被告人丙は,上記2( の授受等がなかった以上,専ら拓銀側の負い目というべき,拓銀経営者としての責任に絡む事情,すなわち,被告人甲及び同乙の自己保身目的にあることは容易に推測できたはずである。現に,被告人丙は,上記2(33)及び5(2)オ(イ)のとおり,平成5年11月11日,被告人乙らに対し,「白紙にできる話ではない。今までの合意事項が表に出れば,裁判にでもなったら,大変なことだ。」などと脅迫的言動に及んでいるが,それは,拓銀が農地法等に違反する土地取得に間接的にせよ融資をしてこれに関与したことを知悉した上で,それが公になった場合,拓銀,すなわち頭取の立場が危うくなることを前提にしてのことであるし,平成6年11月25日に審査第三部の担当取締役であったbらと面会した際,同人から茨戸開発に関し「一番の心配はマスコミ。特に日刊紙に出たら大変だということだ。」などと言われていたことからも裏付けられる。 したがって,被告人丙が,被告人甲及び同乙の自己図利目的を認識していたことは明らかである。 イ第三者図利目的についての認識他の金融機関から融資を得られる可能性のない実質破たん状態のBグループに対し,拓銀のみが実質無担保で融資を続けていたこと自体,Bグループ各社にこの上ない特別の利益を与えることは明らかである。被告人丙は,被告人甲及び同乙に第三者図利目的のあることを認識していたものと認められる。 (5)拓銀の財産上の損害についての被告人丙の認識上記(3)のとおり,Bグループが借入金の返済をする能力がなかったことは被告人丙も十分に認識していたものである。したがって,被告人丙は,本件融資1,3及び4が拓銀に財産上- 252 -の損害を加えることを認識していたことは明らかである。 (6)特別背任行為についての被告人丙の加功被告人丙は,Bグループに対する融資が継続 人丙は,本件融資1,3及び4が拓銀に財産上- 252 -の損害を加えることを認識していたことは明らかである。 (6)特別背任行為についての被告人丙の加功被告人丙は,Bグループに対する融資が継続されることにより,自分が一代で築き上げた会社の倒産を免れ,自分の夢であった茨戸開発の灯が消し去られるのを防げるとの思いを持ち,他方,被告人甲及び同乙も,融資を継続する限り,被告人丙の口からホテル建設資金のずさん融資や茨戸開発用地の取得に絡む農地法違反問題等のスキャンダルがマスコミ等に漏れるなどして表面化するのを回避できるとの思いを持っていたのであるから,被告人甲及び同乙と被告人丙との間には,貸し手と借り手という立場の違いはあるものの,本来許されないBグループに対する融資を継続することにおいて利害が共通していたということができる。そして,被告人丙は,被告人甲及び同乙が融資を継続せざるを得ない状況にあることを利用したばかりか,上記5(2)オ(イ)で説示したとおり,平成5年11月には,被告人乙やaをして,真意に反する発言までして被告人丙の怒りを静めさせようとした如く,「白紙にできる話ではない。今までの合意事項が表に出れば,裁判にでもなったら,大変なことだ。」などという脅迫的言動に及び,更に平成8年7月にも,上記2(52)のとおり,審査第三部担当取締役らに対し,「農地法違反の問題を考えると事業を継続する方がリスクはないと思っています。」「もし,行政が認めてくれないのなら『c1さん,あなただって行くんですよ』と言うしかありません。」「農地法違反については,皆,針のムシロです。たくぎんさんにとっても大きなマイナスになります。」などと述べ,拓銀担当者をして,これを「c1助役,当行に対し,脅しともとれる発- 253 -言」と認識せしめたように, ては,皆,針のムシロです。たくぎんさんにとっても大きなマイナスになります。」などと述べ,拓銀担当者をして,これを「c1助役,当行に対し,脅しともとれる発- 253 -言」と認識せしめたように,またも脅迫的言動に及んでいる。 加えて,平成8年9月17日に札幌市のd1企画調整局長が審査第三部担当取締役のzと面談した際,「丙氏は市関係者に対し種々脅迫めいた言辞を弄している。」旨述べたり,上記2(55)のとおり,平成9年5月12日の経営会議において,m1が「問題は,丙社長という極めて特異な人物がいたということ。 併せて,リーガルリスク(農地法,国土法問題)があったということです。丙社長もこれらを銀行の弱みだとして,銀行の言うことを聞かず好き勝手に行動してきました。」などと述べるなど,札幌市や拓銀が被告人丙の言動を脅迫的と感じていたことは明らかである。被告人丙の弁護人は,答弁書において,同被告人が脅迫的言動に及んだことはないというが,被告人丙が脅迫的言動に及んだことは,上記のとおり,そのようなものとして受け取っていたとする当時の拓銀の記録から明らかである。 また,銀行から融資を受ける者がその指示に背くことは通常考え難いところ,被告人丙は,拓銀の意向を無視して勝手にEホテルの追加工事やNの温泉設備を設置しておきながら,平然とその資金の融資を拓銀に求めていたのであって,上記の脅迫的言動の存在は,このような同被告人の当時の態度からも推認されるものである。 以上のように,被告人丙は,被告人甲及び同乙との共通の利害を背景に両被告人が融資を継続せざるを得ない状況にあることを利用すると同時にそれにつけ込み,脅迫的言動まで行って融資を実現したのであるから,被告人甲及び同乙の特別背任行為について加功をしたとの評価を免れない。 (7)総括- 254 - 状況にあることを利用すると同時にそれにつけ込み,脅迫的言動まで行って融資を実現したのであるから,被告人甲及び同乙の特別背任行為について加功をしたとの評価を免れない。 (7)総括- 254 -被告人丙は,㈱Dに対する本件融資2及び5については,融資の申込みに当たっての資金繰りや借入金額の決定を拓銀出向者らに任せ,同社のt社長やその後任のj1が決済して融資申込みをしていたため,これに実質的に関与していなかったが,B㈱の場合はもとより,㈱Cの場合もj1が同社の代表取締役社長となり代表者印を被告人丙から受け取った平成9年7月の前までは,同被告人が,各社代表取締役社長として,直接財務担当者から資金繰りや借入金額の説明を受け,その指示・了解を得た財務担当者が,拓銀に融資申込みを行い,約束手形,借入申込書等に同被告人の妻が管理していた代表者印を押捺し,同被告人に確認を求めるなどした上,拓銀に持参して融資を受けていたことが認められる。したがって,被告人丙が,B㈱に対する本件融資1及び3,㈱Cに対する本件融資4について,その内容を理解した上で各融資の申込みをさせていたことは明らかである。 そして,被告人丙が,被告人甲及び同乙の任務違背,自己及び第三者図利目的並びに拓銀の財産上の損害を認識しながら,両被告人の特別背任行為に加功したことは上記認定,説示のとおりであるから,被告人丙に被告人甲及び同乙の特別背任罪の共謀共同正犯が成立することを優に認定できる。 結論 以上のとおり,被告人甲及び同乙に特別背任罪が成立し,被告人丙にその共謀共同正犯が成立することを優に認めることができる。したがって,被告人3名に対する各公訴事実について,いずれも犯罪の証明がないとして無罪を言い渡した原判決は,事実を誤認しており,それが判決に影響を及ぼすことは明らか ることを優に認めることができる。したがって,被告人3名に対する各公訴事実について,いずれも犯罪の証明がないとして無罪を言い渡した原判決は,事実を誤認しており,それが判決に影響を及ぼすことは明らか- 255 -であるから,いずれも破棄を免れない。 論旨は理由がある。 第3破棄及び自判刑訴法397条1項,382条により原判決を破棄し,同法400条ただし書により当裁判所において更に判決する。 (罪となるべき事実)被告人甲は,平成元年4月1日から平成6年6月28日までの間,被告人乙は,同月29日から平成9年11月20日までの間,いずれも札幌市S1区(以下省略)に本店を置いていた株式会社北海道拓殖銀行の代表取締役頭取として同銀行における業務全般を統括掌理し,銀行資金の貸付けをなすに当たっては,貸付先の営業状態,資産等を精査するとともに,確実にして十分な担保を徴して貸付金の回収に万全の措置を講ずるなど同銀行のため職務を誠実に遂行すべき任務を有していたもの,被告人丙は,理美容室の経営及び不動産の管理等を目的とするB株式会社及びレジャー施設等の経営を目的とする株式会社Pの各代表取締役としてこれらの会社の業務全般を統括掌理していたものであるが,第1被告人甲及び同丙は,共謀の上,別紙「貸付金一覧表」1記載のとおり,平成6年4月26日から同年6月30日までの間,前後4回にわたり,同銀行本店において,B株式会社及び自己らの利益を図る目的をもって,被告人甲の上記任務に背き,同会社には債務の返済能力がなく,同会社に対する貸付金は保全不足の状態にあったため,同会社に引き続き貸付けを行えばその貸付金の回収が危ぶまれる状態にあることを熟知しながら,十分な担保を徴せず,貸- 256 -付金の回収を確保するための万全の措置を講ずることなく,同会社に め,同会社に引き続き貸付けを行えばその貸付金の回収が危ぶまれる状態にあることを熟知しながら,十分な担保を徴せず,貸- 256 -付金の回収を確保するための万全の措置を講ずることなく,同会社に対し合計4億5000万円を貸し付け,もって,同銀行に同額の財産上の損害を加えた。 第2被告人甲は,別紙「貸付金一覧表」2記載のとおり,平成6年4月8日から同年6月20日までの間,前後6回にわたり,同銀行本店において,B株式会社からホテル及びその敷地を借り受けてこれを経営していた株式会社D及び自己らの利益を図る目的をもって,被告人甲の上記任務に背き,同会社には債務の返済能力がなく,同会社に対する貸付金は保全不足の状態にあったため,同会社に引き続き貸付けを行えばその貸付金の回収が危ぶまれる状態にあることを熟知しながら,十分な担保を徴せず,貸付金の回収を確保するための万全の措置を講ずることなく,同会社に対し合計3億9000万円を貸し付け,もって,同銀行に同額の財産上の損害を加えた。 第3被告人乙及び同丙は,共謀の上,別紙「貸付金一覧表」3記載のとおり,平成6年8月1日から平成7年8月31日までの間,前後19回にわたり,同銀行本店において,B株式会社及び自己らの利益を図る目的をもって,被告人乙の上記任務に背き,同会社には債務の返済能力がなく,同会社に対する貸付金は保全不足の状態にあったため,同会社に引き続き貸付けを行えばその貸付金の回収が危ぶまれる状態にあることを熟知しながら,十分な担保を徴せず,貸付金の回収を確保するための万全の措置を講ずることなく,同会社に対し合計22億1000万円を貸し付け,もって,同銀行に同額の財産上の損害を加えた。 - 257 -第4被告人乙及び同丙は,共謀の上,別紙「貸付金一覧表」4記載のとおり,平成6年 なく,同会社に対し合計22億1000万円を貸し付け,もって,同銀行に同額の財産上の損害を加えた。 - 257 -第4被告人乙及び同丙は,共謀の上,別紙「貸付金一覧表」4記載のとおり,平成6年10月31日から平成9年6月20日までの間,前後22回にわたり,同銀行本店において,株式会社P及び自己らの利益を図る目的をもって,被告人乙の上記任務に背き,同会社には債務の返済能力がなく,同会社に対する貸付金は保全不足の状態にあったため,同会社に引き続き貸付けを行えばその貸付金の回収が危ぶまれる状態にあることを熟知しながら,十分な担保を徴せず,貸付金の回収を確保するための万全の措置を講ずることなく,同会社に対し合計20億3250万円を貸し付け,もって,同銀行に同額の財産上の損害を加えた。 第5被告人乙は,別紙「貸付金一覧表」5記載のとおり,平成6年7月8日から平成9年10月13日までの間,前後47回にわたり,同銀行本店において,株式会社D及び自己らの利益を図る目的をもって,被告人乙の上記任務に背き,同会社には債務の返済能力がなく,同会社に対する貸付金は保全不足の状態にあったため,同会社に引き続き貸付けを行えばその貸付金の回収が危ぶまれる状態にあることを熟知しながら,十分な担保を徴せず,貸付金の回収を確保するための万全の措置を講ずることなく,同会社に対し合計34億8900万円を貸し付け,もって,同銀行に同額の財産上の損害を加えた。 (証拠の標目)略(法令の適用)被告人甲の判示第1並びに被告人乙の判示第3の別紙「貸付金一覧表」3番号1ないし11及び判示第4の同表4番号1な- 258 -いし7の各行為は,いずれも平成7年法律第91号附則2条1項本文により同法による改正前の刑法(以下「改正前の刑法」という。)60条のほか,行為時に し11及び判示第4の同表4番号1な- 258 -いし7の各行為は,いずれも平成7年法律第91号附則2条1項本文により同法による改正前の刑法(以下「改正前の刑法」という。)60条のほか,行為時においては平成9年法律第107号による改正前の商法(以下「改正前の商法」という。)486条1項に,裁判時においては会社法960条1項に該当するが,これらは犯罪後の法令により刑の変更があったときに当たるから,改正前の刑法6条,10条により軽い行為時法の刑によることとし,被告人乙の判示第3の同表3番号12ないし14及び判示第4の同表4番号8ないし19の各行為は,いずれも刑法60条のほか,上記と同様に行為時においては改正前の商法486条1項,裁判時においては会社法960条1項に該当するが,刑法6条,10条により上記のとおり軽い行為時法の刑によることとし,被告人甲の判示第2の各行為及び被告人乙の判示第5の各行為は,いずれも上記と同様に行為時においては改正前の商法486条1項,裁判時においては会社法960条1項に該当するが,改正前の刑法(ただし,判示第5の同表5番号12ないし31の各行為については,刑法)6条,10条により軽い行為時法の刑によることとし,被告人丙の判示第1,第3及び第4の各行為は,いずれも改正前の刑法(ただし,そのうち,判示第3の同表3番号12ないし14及び第4の同表4番号8ないし19の各行為については,いずれも刑法)65条1項,60条のほか,上記と同様に行為時においては改正前の商法486条1項,裁判時においては会社法960条1項に該当するが,改正前の刑法(ただし,上記括弧書きのものについては,いずれも刑法)6条,10条により軽い行為時法の刑によることとし,被告人丙には改正前の商法486条- 259 -1項所定の身分がないの するが,改正前の刑法(ただし,上記括弧書きのものについては,いずれも刑法)6条,10条により軽い行為時法の刑によることとし,被告人丙には改正前の商法486条- 259 -1項所定の身分がないので改正前の刑法(ただし,上記括弧書きのものについては,いずれも刑法)65条2項により改正前の刑法(ただし,上記括弧書きのものについては,いずれも刑法)247条の刑を科することとし,各所定刑中いずれも懲役刑を選択し,被告人甲については改正前の刑法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により,被告人乙及び同丙については平成7年法律第91号附則2条2項により刑法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により,いずれも犯情の最も重い,被告人甲については判示第2の同表2番号2の罪の刑,被告人乙及び同丙についてはいずれも判示第3の同表3番号4の各罪の刑にそれぞれ法定の加重をした各刑期の範囲内で,被告人甲及び同乙をそれぞれ懲役2年6月に,被告人丙を懲役1年6月に処し,被告人甲に対し,改正前の刑法21条を,被告人乙及び同丙に対し,平成7年法律第91号附則2条3項,2項により刑法21条をそれぞれ適用して未決勾留日数中各100日をそれぞれその刑に算入し,原審における訴訟費用は,刑訴法181条1項本文,182条により被告人3名に連帯して負担させることとする。 (量刑の理由)本件は,拓銀の頭取であった被告人甲及び同乙が,単独又は被告人丙と共謀の上,同被告人が代表取締役であった実質破たん状態の会社に対し,十分な担保を徴することなく融資して同行に損害を加えたという,不正融資による特別背任の事案である。 銀行は,回収の確実性が見込めなければ融資を行ってはならず,その場合でも不測の事態に備えて担保を徴するのが原則で- 260 -ある。 行に損害を加えたという,不正融資による特別背任の事案である。 銀行は,回収の確実性が見込めなければ融資を行ってはならず,その場合でも不測の事態に備えて担保を徴するのが原則で- 260 -ある。しかも,銀行の社会経済における役割の重要性,公的性格のほか,預金者,債権者及び取引先,ひいては国民生活に及ぼす影響等を考慮すると,銀行の頭取は,その安定的な経営を図る責務があり,融資に際しては,不良債権が増大して銀行に損害を与えることのないよう,慎重な判断が求められるのであって,もとより貸出の基本原則に反するような融資を行うことは許されない。しかるに,被告人甲及び同乙は,実質破たん状態のBグループ各社に対し,実質無担保で,期間にして約3年半,回数にして合計98回,金額にして合計85億円を超える不正融資を繰り返し,拓銀に同額の損害を加えたものである。 そして,被告人甲及び同乙が,このように長期間,極めて多額の融資を繰り返したのは,Eホテル建設資金のずさん融資,さらには,被告人丙の農地法等に違反する土地取得に関して拓銀がたくぎんファイナンスを通して融資をし,農地法等の違反行為に加担したことが明らかになれば,これに関わった拓銀経営陣,なかんずく,頭取である被告人甲及び同乙の経営責任が問われることを慮り,これを避けるという保身の気持ちからであって,被告人甲にあってはg及びfの融資路線の継承であり,被告人乙にあっては被告人甲の路線継承であったことを考慮しても,いずれもその目的,動機に酌むべき事情はないばかりか,それは,拓銀が経営破たんするはずはなく,上記の問題も表面化しないとの思いから,本来公共性の高い都市銀行のトップとして果たすべき責任と判断を放棄したものである。また,本件各融資の当時,茨戸開発の計画が継続している限り,違法問題に絡み拓銀の の問題も表面化しないとの思いから,本来公共性の高い都市銀行のトップとして果たすべき責任と判断を放棄したものである。また,本件各融資の当時,茨戸開発の計画が継続している限り,違法問題に絡み拓銀のみならず行政(札幌市)にも累が及ばず,社会問題にならないことなどを考え,さらに,拓銀経営陣が総体とし- 261 -て同じように考えて,回収見込みのない融資をやむを得ないとしたものであったが,それは,被告人甲及び同乙がそのような結論に導いたものである上,頭取としてそれを最終的に決定したものであることからすると,責任はやはり免れないというべきである。以上のとおり,本件の経緯ないし動機に酌むべき事情はなく,その期間,回数及び融資額に照らして態様及び結果も悪質重大である。 加えて,本件を含むBグループに対する融資は,拓銀が破たんする直前の平成9年3月期において総額750億円を超え,それが拓銀の破たん原因の一つとなったことは否定できない。 拓銀の破たんは,多数の預金者,債権者,取引先,従業員等に大きな不安や損害を与えたばかりか,拓銀が北海道におけるリーディングバンクであったことに鑑みると,北海道経済に深刻な影響を与えたことは明らかである上,その破たん処理に当たり,兆単位の公的資金の投入を余儀なくされたことなどをみても,本件が及ぼした社会的影響は看過できない。 各被告人の個別情状を検討するに,被告人甲は,平成6年4月から同年6月までの約3か月間に,合計10回,総額8億4000万円を融資し,同額の損害を拓銀に加えたものである(判示第1及び第2)。被告人甲は,被告人丙による茨戸開発用地の取得方法が農地法違反等の問題があることを知った後も,また,ホテル建設資金の融資がずさんな融資であることを認識した後も,茨戸開発用地の買収資金の融資及びBグループへの 被告人丙による茨戸開発用地の取得方法が農地法違反等の問題があることを知った後も,また,ホテル建設資金の融資がずさんな融資であることを認識した後も,茨戸開発用地の買収資金の融資及びBグループへの赤字補填資金等の融資を継続して,本件不正融資への道を自ら開いたものである。その上,被告人甲は,平成5年7月5日の経営会議では,不良債権の累増を避けるという拓銀のために提- 262 -案され,融資継続の不可欠の前提とされていた分離再編案を丙が納得するわけないなどと言って承認せず,その後も効果的な方策のないまま,不良債権の積み増しにしかならない実質無担保の融資を続けたものである。銀行の頭取として,貸付金の回収に万全の措置を講ずるという最も基本的な義務をないがしろにし,専らずさん融資等の発覚による経営責任の追及を回避するという自己保身のため,事務方の当然とも考えられる提案を排して実質無担保の融資を続けた経緯ないし動機に酌むべき事情はなく,任務違背の程度は大きい。また,被告人甲が本件不正融資を実行しそれを進めたことにより,頭取を引き継いだ被告人乙をその後の不正融資に走らせた面も否定できない。したがって,被告人甲が融資した貸付金は,被告人乙が頭取として融資した貸付金よりかなり下回るとはいえ,8億4000万円はそれ自体極めて高額である上,何よりも本件の不正融資への道を開いた点で,被告人甲の責任は重大である。 被告人乙は,平成6年7月から平成9年10月までの約3年3か月間に,合計88回,総額77億3150万円を融資し,同額の損害を拓銀に加えたものである(判示第3ないし5)。 すでに被告人甲が決定・実行していた不正融資の既定路線を継承したという面はあったにせよ,頭取としてそれが許されないことは当然である。しかも,被告人乙は,平成6年の大蔵省検査で検 示第3ないし5)。 すでに被告人甲が決定・実行していた不正融資の既定路線を継承したという面はあったにせよ,頭取としてそれが許されないことは当然である。しかも,被告人乙は,平成6年の大蔵省検査で検査官にBグループに対する融資の問題点や茨戸開発実現の不確実性を厳しく指摘され,「Ⅲ分類先への融資の結果ロスが出れば背任とみなす」とまで言われながら,上記のような頭取としての基本的な義務を無視し,経営責任の追及回避という自己保身のために実質無担保の融資を継続したもので,経緯な- 263 -いし動機に酌むべき事情は少ない。そして,被告人乙の融資により拓銀が被った損害額は総額77億円余という,本件被害額の大半を占める巨額であり,その結果は重大である。 被告人丙は,被告人甲及び同乙と共謀の上,平成6年4月から平成9年6月までの約3年2か月間に,合計45回,総額46億9250万円の融資を受け,同額の損害を拓銀に加えたものである(判示第1,3及び4)。被告人丙は,インキュベーター対象企業として拓銀の全面的な支援を受けてBグループ各社を経営し,茨戸開発事業を展開していたところ,思うように業績が伸びず,多額の借入金を担保割れの状態で抱え込むなど実質破たん状態に陥り,融資の継続が被告人甲及び同乙の任務に違背することを十分に認識しながら,自己保身目的から融資の申込みを断るはずがないと見込み,ときには,農地法違反問題等のスキャンダルを意識した脅迫的言動に及ぶなどして,拓銀に融資の申込みを続け,実質無担保の融資の実行を受けていたもので,借り手の枠を超え,不正融資に向けて積極的に行動している。したがって,動機は自己中心的で酌むべき事情は全くなく,態様も悪質である。加えて,被告人丙は,自己の事業欲のため,ホテル建設資金やBグループ各社の赤字補填資金等返済見込 けて積極的に行動している。したがって,動機は自己中心的で酌むべき事情は全くなく,態様も悪質である。加えて,被告人丙は,自己の事業欲のため,ホテル建設資金やBグループ各社の赤字補填資金等返済見込みのない融資を次々と拓銀に迫り,茨戸開発に関しては,多数の関係者を巻き込み,違法な茨戸開発用地の取得を強引に進め,拓銀がスキャンダルとしてその発覚を恐れていることを逆手にとって更に融資の継続を迫るなど,本件不正融資の原因を作ったものである。その結果,Bグループは,47億円近くの融資を受けて経済的利益を得る反面,同額の損害を拓銀に加え,しかも,同グループ各社が倒産した現段階では借入金- 264 -の返済可能性は皆無であって,結果も重大である。 以上に加え,被告人3名の応訴態度等に照らすと,その刑事責任はいずれも重いというほかはない。 そうすると,被告人甲及び同乙は,自己の財産的利益の獲得を図って本件に及んだわけではないこと,両被告人は,これまで拓銀の銀行員及び役員として職務に精励し,拓銀及び社会に貢献してきたこと,被告人丙も一代で会社を築き上げ熱心に仕事に取り組んできたこと,被告人甲は犯罪の成否はともかく,拓銀の経営トップとしてその破たんにより多くの者や地域経済にマイナスの結果をもたらしたことは申し訳ないと述べていること,被告人甲及び同乙に前科前歴がなく,被告人丙に前科がないこと,拓銀が破たんしたためとはいえ被告人乙は退職金を得ていないこと,被告人甲は79歳,被告人乙は71歳,被告人丙は66歳といずれも高齢であること,その他健康状態等,被告人3名のために酌むことのできる事情を最大限考慮しても,本件各犯行の重大性,任務違背の程度,動機及び態様の悪質性,損害額,社会的影響の大きさ等に照らし,被告人3名に対しては,主文掲記の各実刑をもって臨 名のために酌むことのできる事情を最大限考慮しても,本件各犯行の重大性,任務違背の程度,動機及び態様の悪質性,損害額,社会的影響の大きさ等に照らし,被告人3名に対しては,主文掲記の各実刑をもって臨むのが相当である。 よって,主文のとおり判決する。 平成18年8月31日札幌高等裁判所刑事部裁判長裁判官長島孝太郎- 265 -裁判官川本清巌裁判官市川太志

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