- 1 - 主文 被告人を懲役2年に処する。 未決勾留日数中210日をその刑に算入する。 理由 【犯罪事実】被告人は,A,B及びCと共謀の上,第1 D(当時28歳)を生命又は身体に対する加害の目的で誘拐しようと企て,平成30年2月23日午後1時10分頃から同日午後1時50分頃までの間,名古屋市a区bc丁目d番e号EF店において,前記Cが資金運用の依頼名目で呼び出していた前記Dに対し,「同居人がDさんと会って話をしたいと言っているので,会ってもらえませんか。」などと虚偽の事実を言って,前記Dにその旨誤信させ,よって,同日午後2時3分頃,前記A,前記B及び被告人が付近で待機している同市f区gh丁目i番j号kl号室まで前記Cが前記Dを同行した上,同室内に同人を入室させ,もって生命又は身体に対する加害の目的で同人を誘拐し,第2 同日午後2時8分頃から同日午後2時49分頃までの間,前記kl号室において,同人に対し,その両手首及び両足首を紐様のものでそれぞれ緊縛するなどした上,同人を黒色手提げバッグ内に詰め込むなどし,同人を同室内から脱出することを不可能にさせ,もって同人を不法に逮捕監禁し,第3 同日午後2時8分頃から同日午後2時35分頃までの間に,同所において,同人に対し,その顔面を拳で複数回殴る暴行を加え,よって,同人に全治約3週間を要する顔面打撲等の傷害を負わせた。 【事実認定の補足説明】 1 争点被告人及び弁護人は,第1(生命身体加害誘拐)の犯行について被告人には正犯意思がなくその罪責は幇助犯にとどまる,第3(傷害)の犯行について被告人- 2 - が共犯者と共謀した事実はなく無罪であると主張する。 2 前提となる事実関係証拠によれば,第1,第3の各犯行に係る外形 は幇助犯にとどまる,第3(傷害)の犯行について被告人- 2 - が共犯者と共謀した事実はなく無罪であると主張する。 2 前提となる事実関係証拠によれば,第1,第3の各犯行に係る外形的事実,すなわち,Cが,AやBの指示ないし意向に従って,資金運用の依頼名目で呼び出したD(以下「被害者」という。)に対し,同居人が話をしたいと言っているので会ってほしい旨嘘を言い,その旨誤信した被害者を,当時被告人とCが同居していたkl号室(以下「被告人方」という。)まで同行して誘拐したこと,また,その後,同所において,共犯者が被害者に対してその顔面を拳で数回殴る暴行を加え,被害者に顔面打撲等の傷害を負わせたことはいずれも明らかと認められる。 また,これらの前後を含む一連の経過の中での被告人の関与等について,関係証拠によれば次の事実が認められる。 (1) 被告人は,平成30年2月21日ないし22日頃,Bから,被害者を連れてくる場所を被告人方とする旨告げられて,被告人方に入る際には被告人方マンション1階出入口に設置された防犯カメラ(以下「本件防犯カメラ」という。)に目隠しをするよう指示され,これを承諾した。 (2) 被告人は,同月22日午後11時30分頃,Cから受信した「ガラステーブルだけ外に出しといてだって」「割れるから」などのLINEメッセージに対し,「おけ」「ほかなにかやっておくことある?」などと返信し,その後,被告人方に置かれていたガラステーブル(以下「本件ガラステーブル」という。)をベランダに移動させた。 (3) 被告人は,本件事件当日である同月23日午後1時10分頃から同日午後1時50分頃まで,Cが喫茶店で被害者と話をするなどしていたその間に,A,Bと共に2台の自動車で被告人方マンション付近に先回りをした上,Aが用意し 事件当日である同月23日午後1時10分頃から同日午後1時50分頃まで,Cが喫茶店で被害者と話をするなどしていたその間に,A,Bと共に2台の自動車で被告人方マンション付近に先回りをした上,Aが用意していた大型の黒色手提げバッグ(以下「本件バッグ」という。)を被告人方に運び込むなどし,このとき,Aから,本件バッグの中に入っていた麻紐を取り出して見せられるなどした。 - 3 - (4) また,その頃,Bは,Cから,電話で,被害者に被告人方に来ることを断られた旨の連絡を受け,その際,被告人の面前で,Cに対し,同居人が話を聞きたがっていると嘘を言って被害者を被告人方に連れてくるよう指示した。 (5) 被告人は,A,Bと共に,一旦被告人方マンションを出て,付近のコンビニエンスストアに駐車した自動車内で待機していたが,その際,Bから,Cと被害者が被告人方に入った後,AとBに先立ってまず被告人が一人で被告人方に入り,被害者に缶コーヒーを手渡して誘導し,被害者を玄関に背を向けた状態にさせておくよう指示を受け,これを承諾した。 (6) 同日午後2時3分頃,Cが被害者を連れて被告人方に入った後,同日午後2時4分頃,自ら傘に炊飯器の釜を貼り付けて作成した道具を用い,本件防犯カメラに目隠しをしながら,A,Bと共に被告人方マンションに入った。 (7) 被告人は,Cが被害者に告げていた虚偽の名目に係る同居人を演じて被告人方に入り,被害者が玄関に背を向けていることを確認して被害者に対面して座ると,それから間もなく,AとBも被告人方に入った。 (8) その後,被告人は,Aの指示を受け,B,Cと共に,被害者の身体を押さえつけ,自身でその両足首を紐様のもので縛るなどした。 (9) 被告人は,Aの指示を受け,Bと共に,一旦被告人方マンションを出て,付 ,被告人は,Aの指示を受け,B,Cと共に,被害者の身体を押さえつけ,自身でその両足首を紐様のもので縛るなどした。 (9) 被告人は,Aの指示を受け,Bと共に,一旦被告人方マンションを出て,付近のコンビニエンスストアに駐車していたAの自動車を被告人方マンション前にまで移動させ,再び被告人方に戻り,同日午後2時49分頃,被害者がBに命じられて自らその中に入った本件バッグをCと共に被告人方マンションから運び出し,これをAの自動車の後部座席に乗せた。 3 検討(1) ア以上のとおり,被告人は,遅くとも本件事件の前日までには,Bから,被害者を誘拐して連れてくる場所を被告人方とする旨告げられて,当日被告人方に入る際には本件防犯カメラに目隠しをするよう指示されるとともに,Cからも,本件ガラステーブルを片付けておくよう指示され,これらをいずれも承諾していたも- 4 - のである。被告人は,これらの指示があった以前から,Bらが金を取り戻すために被害者を捜している由を聞いて知っていた旨述べているところ,これらの指示が,被害者を被告人方に連れてくれば,抵抗する被害者に対し,Bらが暴行を加えるなどの事態となる可能性が非常に高いと見込まれることから,そうした事態に備えるため本件ガラステーブルを片付けておく必要があり,また,そうした事態となった場合に証拠が残って犯罪が発覚することを避けるため,本件防犯カメラに目隠しをする必要があるなどとの趣旨を含意していることは,被告人も概ね自認しているとおり,容易に察しのつくところであったというべきである。 そうすると,被告人は,遅くともBとCから前記の指示を受け,これを承諾した時点において,被害者を被告人方に誘い入れ,同所で被害者に暴行を加えることについては,当然にあり得べき成り行きとして十分想定して うすると,被告人は,遅くともBとCから前記の指示を受け,これを承諾した時点において,被害者を被告人方に誘い入れ,同所で被害者に暴行を加えることについては,当然にあり得べき成り行きとして十分想定していたものと認められ,ひいては共犯者との間で,生命又は身体に対する加害の目的で被害者を誘拐すること,更には,現に被害者に暴行を加えることにつき意思を通じ合っていたものと強く推認されるところである。 イまた,被告人は,本件事件当日,Cと被害者の到着を待つ間に,Aから,被害者の身体を入れて拉致するのに用いるであろう本件バッグや,被害者の身体を縛るのに用いるであろう麻紐を見せられるなどして,被害者に対する暴行への懸念が更に色濃く現実化していく状況の下にあって,その後も,自ら,傘に炊飯器の釜を貼り付けて本件防犯カメラの目隠しに用いる道具を作成し,Cと被害者に続き,A,Bと共に被告人方マンションに入る際,実際にこれを用いて本件防犯カメラの目隠しを行うとともに,AとBに先立って被告人方に入り,被害者が玄関に背を向けていることを確認し,しかも,AとBが被告人方に入って以降は,被告人の供述によってもAが被害者の身体を足で蹴るなどするのを目の当たりにしたというにもかかわらず,なおもAの指示に従って,被害者の身体を押さえつけ,その両足首を紐様のもので縛るなどし,更には,Bと共にAの自動車を被告人方マンション前にまで移動させた上,暴行を受けて顔面が腫れ上がるなどした状態の被害者が- 5 - 入った本件バッグを,Cと共に被告人方マンションから運び出し,Aの自動車の後部座席に乗せるなど,一貫して,AやBに指示されるがまま,事態の推移に応じた協力をしつつ同人ら共犯者と行動を共にしていたものである。 この間,被告人は,共犯者が被害者に対してその顔面を拳で複数回殴 部座席に乗せるなど,一貫して,AやBに指示されるがまま,事態の推移に応じた協力をしつつ同人ら共犯者と行動を共にしていたものである。 この間,被告人は,共犯者が被害者に対してその顔面を拳で複数回殴る暴行を加えた場面は見ていない旨述べているものの(もっとも,前記のとおりAが被害者の身体を足で蹴るなどする場面は目撃したと言う。),仮にそうであったとしても,いずれかの共犯者が被害者にそのような暴行を加えて顔面打撲等の傷害を負わせたことは証拠上明らかと認められ,その現場は相当に凄惨な状況を呈していたことが窺われるところ,そのような状況の中,これを容認して,被告人が前記のとおり共犯者に協力し,共犯者と行動を共にしていたことは,被害者に対する暴行について,この現場においてはさることながら,前記アのとおり,この現場に臨む以前から,共犯者との間でその旨意思を通じ合っていたことを合理的に推認させる事情である。 (2) そして,被告人が,被害者の誘拐場所として被告人方を提供することに応じたこと,共犯者による被害者に対する暴行に備え,本件ガラステーブルをベランダに移動させるなどしたこと,犯罪の発覚を防ぐため,被告人方マンションに入る際,本件防犯カメラに目隠しをすることを予め承諾し,そのための道具を自ら考えて作成したこと,Cが被害者を誘い出した虚偽の名目の内容に合わせて,被害者と話をしたいと言っている同居人を演じて被害者と会い,その際,被害者の逃走を防ぐため,被害者を玄関に背を向けた状態にさせるという役割をも予め引き受けていたことなどの事情を総合すれば,被告人は,第1の犯行の実行行為そのものを担当したとまではいえないものの,被害者を誘拐して暴行を加えるという本件の犯行計画を実行する上で,必要かつ重要な役割を担い,或いは担おうとしたものと評価することがで ,第1の犯行の実行行為そのものを担当したとまではいえないものの,被害者を誘拐して暴行を加えるという本件の犯行計画を実行する上で,必要かつ重要な役割を担い,或いは担おうとしたものと評価することができる。 また,前記事情に加え,被告人は,第3の犯行につき,その暴行の実行行為そのものを行ったものではないものの,被告人方において,被害者の身体を押さえつけ,その足首を紐様のもので縛るなど,被害者に対する物理的な実力行使にも及んでお- 6 - り,被告人が,共犯者による暴行に必要かつ重要な役割を担ったと評価し得ることは明らかである。 これら被告人の行為は,いずれも共犯者の指示によるものであったとはいえ,被告人は,被害者に対する暴行に向けられたそれらの指示の意味するところを十分認識していながら,特段の抵抗もなくこれに従い,本件ガラステーブルを片付けておくよう指示を受けたCに対しては,「ほかなにかやっておくことある?」などとのLINEメッセージを送信し,事前に更に準備しておくことがないかを自ら尋ね,そのほか,本件防犯カメラの目隠しに用いる道具を自ら考えて作成するなど,被告人の各犯行への関与には,相応の主体性,積極性も認められる。 そうすると,第1,第3いずれの犯行についても,被告人は,自己の犯罪を行う意思,すなわち正犯意思を有してこれに関与したものと認めるのが相当である。 4 結論以上の次第であり,被告人は,遅くとも本件事件の前日に,Cから本件ガラステーブルを片付けておくよう指示を受けた時点において,共犯者との間で,特にこの点には争いのない第1の犯行についてはもとより,第3の犯行についても意思の連絡があったものと認められ,かつ,いずれの犯行についても正犯意思を有してこれに関与したものと認められる。 したがって,被告人はいずれも共 い第1の犯行についてはもとより,第3の犯行についても意思の連絡があったものと認められ,かつ,いずれの犯行についても正犯意思を有してこれに関与したものと認められる。 したがって,被告人はいずれも共同正犯としての罪責を免れない。 【法令の適用】 1 罰条第1の行為につき刑法60条,225条第2の行為につき刑法60条,220条第3の行為につき刑法60条,204条 2 刑種の選択第3の罪につき,懲役刑を選択 3 併合罪の処理刑法45条前段,47条本文,10条(最も重い第3の罪の刑に法定の加重〔ただし,短期は第1- 7 - の罪の刑のそれによる。〕) 4 未決勾留日数の算入刑法21条 5 訴訟費用の処理刑事訴訟法181条1項ただし書(負担させない)【量刑の理由】被告人らは,加害の目的を秘して被害者に虚偽の事実を告げ,被害者を被告人方に誘い入れた上,4人がかりで押さえ付け,手足を縛り,着衣を切断するなどして一方的にその行動の自由を奪い,その間に顔面を複数回殴る暴行を加えて被害者に全治約3週間を要する傷害を負わせ,挙げ句は被害者をバッグの中に詰め込み,そのバッグを被告人方から運び出すなどしたもので,一連の犯行態様は被害者の人格を無視した誠に残忍なものである。被告人らは,相互に密接に連絡を取り合って事前に犯行を計画し,各々の立場に応じた役割を分担しており,一定の計画性も認められる。被害者が抱いたであろう屈辱や恐怖感,無力感は察するに余りあり,バッグ内に詰め込まれた被害者が共犯者に連れ去られた後に死亡していることとも相俟って,被害者の遺族が被告人らの厳罰を望むのも至極もっともなことというべきである。他方,必ずしも被告人自身に被 りあり,バッグ内に詰め込まれた被害者が共犯者に連れ去られた後に死亡していることとも相俟って,被害者の遺族が被告人らの厳罰を望むのも至極もっともなことというべきである。他方,必ずしも被告人自身に被害者に対する恨みや利欲目的があったとまではいえず,共犯者の指示に従った従属的立場であったとはいえるものの,被告人はさしたる躊躇もなくそれらの指示に従い,本件各犯行に相応に主体的かつ積極的な関与をしているのであって,その考慮の程度には自ずから限界がある。 そうすると,被告人の刑事責任は重く,被告人が公判廷において事実関係については概ね認め,反省の言葉を述べていること,被害者の遺族に対して合計20万円の弁償金を支払っていること,被告人に前科がないこと,被告人の母が社会復帰後の監督を誓約していることなどの酌むべき事情を勘案しても,本件において被告人に執行猶予を付することが相当であるとは思われず,酌むべき事情はその刑期の面で十分考慮することとし,被告人に対しては主文の期間の実刑を科するのが相当であると判断した。 (求刑-懲役3年)- 8 - 平成31年2月8日名古屋地方裁判所刑事第4部 裁判長裁判官神田大助 裁判官寺 本 真依子 裁判官藤本 理
▼ クリックして全文を表示