主文 原判決を破棄する。 被告人株式会社A1を罰金4000万円に,被告人A2を懲役1年6月に,同A3を懲役8か月に,それぞれ処する。 被告人A2及び同A3に対し,この裁判確定の日から3年間上記各刑の執行を猶予する。 被告人株式会社A1から別紙記載1の手提げバッグ等1322個を,被告人A2及び同A3から別紙記載1及び2の手提げバッグ等1687個を没収する。 理由 被告人らの本件各控訴の趣意は弁護人小野田学及び同田中康之作成の控訴趣意書(同訂正申立書を含む)及び弁論要旨2通に,控訴趣意書に対する答弁は検察官作成の答弁書に,それぞれ記載されたとおりであるから,これらを引用する。なお,原判決の用いた略語を同様に使用する。 第1 控訴趣意中,商標権侵害の事実及び故意に関する事実誤認の主張について論旨は,要するに,被告人A2及び同A3が商標権を侵害した事実が合理的疑いを容れない程度に立証されたとはいえない,仮にそうでないとしても被告人A2及び同A3には商標権を侵害しているとの故意がないから被告人らはいずれも無罪であるのに,被告人らを原判示各事実について有罪と認定した原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある,というのである。 そこで,所論にかんがみ,記録を調査し,当審における事実取調べの結果もあわせて検討する。 1 本件手提げバッグ等が偽造品かどうか本件手提げバッグ等は真正なB製品であって被告人らはこれらを適法に並行輸入したのであるから商標権を侵害しておらず故意もないとの弁護人の主張に対し,原判決は,C1とD等の業者との間に取引関係がないこと及び本件手提げバッグ等が偽造品であることを商標権侵害の を適法に並行輸入したのであるから商標権を侵害しておらず故意もないとの弁護人の主張に対し,原判決は,C1とD等の業者との間に取引関係がないこと及び本件手提げバッグ等が偽造品であることを商標権侵害の直接証拠として挙げた上,被告人らとEとの間で交わされたファクス文書その他の状況証拠もあわせて,被告人らが商標権を侵害した事実及びその故意を認定した。原判決のこの点に関する説示は,偽造品であるとの説示部分を除いて概ね是認することができ,結論として,被告人らが商標権を侵害した事実及びその故意を認定したことは相当であるが,なお,本件手提げバッグ等が偽造品であり,被告人らもそのことを認識していたと断定している点などの他,若干事実認定に問題があると思われる個所があるので,以下説明を加える。 まず,偽造品の認定の点であるが,本件手提げバッグ等が偽造品であることが認定できれば,それだけで商標権侵害の事実も肯定されることになり,また商標権侵害の故意認定においてもそれが極めて有力な証拠になることは間違いない。そこで,第1にこの点を検討する。 (1)F鑑定について原判決は,本件手提げバッグ等は,真正品と比べて,表生地の材質,縫製及び細かなパーツの仕上げ,商標(マーク)の精度など少なくとも3点の差異があるとして偽造品であると判定したFの鑑定について,Fの経歴や慎重な鑑定態度などを根拠として信用性を認めている。そして,Fが偽造品であると判断した根拠について必ずしも詳かにしていない嫌いがある点は,対象物の性質のほか,偽造の手段を教示することになることを避けるとの目的から,鑑定がある程度抽象的であるのはやむを得ない面がある。 しかし,Fが対照のために提出した真正なバッグ等と本件手提げバッグ等とを,Fの原審公判での説明を参考として仔細に見比べても,両者の材質の違いは必 定がある程度抽象的であるのはやむを得ない面がある。 しかし,Fが対照のために提出した真正なバッグ等と本件手提げバッグ等とを,Fの原審公判での説明を参考として仔細に見比べても,両者の材質の違いは必ずしも明らかではない上,真正品についても縫製やマークの仕上がりに十分でない部分があり,両者の差異を明確に認識することはできず,F鑑定はそれ自体十分に説得的であるとはいえない。また,弁護人が原審で反証として提出したバッグ等について,Fはこれらをすべて偽造品と断定した。しかし,これらの提出の経緯につき被告人A2は,本件手提げバッグ等を警察に押収された後,捜査機関に真正品との対比をしてもらうためにイタリアに渡航してBの正規店で購入したものであると述べているところ,この供述に不自然な点はなく,また正規店での購入を裏付ける書類も存在しており(原審弁19,36ないし38など),Fも付属のギャランティカードには特に疑いがないことは認めている。被告人や弁護人が捜査を混乱させるために,わざわざイタリアに渡航して真正品を購入した上で,それ以前に仕入れていた問題の製品の同一品番のものと入れ替えて提出するなどということは,効果とリスクの比較から想定しがたい。そうすると,原審公判において真贋の判定が短時間に行われたことを考慮しても,これらを偽造品と断定したFの鑑定結果ないし鑑定態度には疑問があるといわざるを得ない。以上に加えて,Fが所属するC2(現在ではC3と社名変更,B製品の日本における総代理店)と被告人株式会社A1(以下「被告会社」という。)とは利害が先鋭に対立する立場にあることをもあわせ考えると,Fの鑑定結果をそのまま全面的に信用することはできない。 (2)その他,被告会社から購入したB製品が偽造品ではないかとクレームをつけた購入客や業者がいた事実も認められる。 あることをもあわせ考えると,Fの鑑定結果をそのまま全面的に信用することはできない。 (2)その他,被告会社から購入したB製品が偽造品ではないかとクレームをつけた購入客や業者がいた事実も認められる。しかし,関係証拠によれば,B製品は同一品番の製品でも仕様の変更等が多く,製品の均一性に乏しい面が認められる(本来真正品と偽造品の違いを見分ける重要なポイントになるはずの商標マークの字体などに微妙な差異が多く,また真正品であることを保証するものであるはずのギャランティカードも決め手にならない。)から,上記のクレームもこのような細かい差異に起因した可能性があることを否定できず,被告人らが輸入していた製品が偽造品であることを示す的確な証拠とはいえない。そして,被告会社が多数のB製品を納入していた業者(G,H等)がクレームをつけていないこと,通関の際の検査で偽造品であるとの指摘を受けたことがないことなどの事実が認められるほか,C2に出所を偽って何度か修理依頼をしたところ受け付けてもらえたとの被告人A2の供述にも特に不自然な点はない。 (3)したがって,本件手提げバッグ等が偽造品であると断定するまでの証拠は,本件全証拠によるも不十分といわざるを得ない。 2 本件手提げバッグ等の流通経路上記1によれば,原判決の認定の重要部分が維持できないことになる。しかし,B製品について,原判決は,その製品の製造はイタリア国内にあるC1の直営工場及び委託工場において行われ,直営工場や委託工場で完成された製品はいったんC1へ納品され検品された後,同社の総代理店又はフランチャイズ契約を締結した特定の企業に出荷されるとした上,委託工場において製造された製品であっても,同工場から直接入手するなどの方法で入手して譲渡のために所持する行為は,適法に商標を付され流通に置かれたとはい 約を締結した特定の企業に出荷されるとした上,委託工場において製造された製品であっても,同工場から直接入手するなどの方法で入手して譲渡のために所持する行為は,適法に商標を付され流通に置かれたとはいえないため,商標権侵害行為となると認定説示するところは相当として肯認することができる(もっとも,所論はこの点をとらえて,原判決は本件の製品を贋物工場で作らせた贋物と認定したのか,いわゆる横流し品と認定したのか明確を欠くと非難するが,説示する内容自体は正当である。)。したがって,製品自体が偽造品とまで認められないとしても,委託工場などで真正品と同様に製造された上で横流しされることがあり,その場合には商標権侵害の事実があるというべきであるから,商標権者が正規に出荷した製品であるかどうか,換言すれば被告人らが製品を仕入れた流通経路がどのようなものであるかについて,上記1とは別に検討する必要がある。 (1)取引関係の有無に関する証拠について原判決は,C2の回答書(原審検24,26),Fの検察官調書(原審検14)などを根拠として,C1とD等の業者との間に取引関係がないと認定している。 確かに,上記1のとおり,C2ないしFの立場を考えると,その回答ないし供述の信用性に全く疑問を容れる余地がないとまではいえないこと,原審検24及び同検235をあわせてみると,C1とIとの間には何らかの取引関係があると解釈する余地があることは所論指摘のとおりである。 しかし,前者につき,上記1の偽造品かどうかの問題とは異なり,当該回答ないし供述を直接弾劾する証拠はない。後者についても,原審検24においてIとの取引関係が記載されなかったのは,照会書(原審検23)に,IはJが社名変更された業者であると記載されていた(捜査段階時には,被告人A3や被告会社従業員のKらがその旨供述 も,原審検24においてIとの取引関係が記載されなかったのは,照会書(原審検23)に,IはJが社名変更された業者であると記載されていた(捜査段階時には,被告人A3や被告会社従業員のKらがその旨供述していたから,このような記載がされたことが捜査機関の不手際ともいえない。)ためであると解することもでき,所論のような反対解釈が必ずしも相当とはいえない。しかも,ユニオン・デ・ファブリカンの回答書(原審検126)によれば,Iは被告人らが所在すると述べるスイスにおいて存在していないこと(さらに,Jの所在は確認できたが,Dはアイルランドにおいて所在が確認できないこと)が認められる。 そして,これらD等の業者を通じて継続的に製品を仕入れて事業を行っていた被告人らにおいて,最も基本的かつ重要な事実と思われる,これらの業者がC1と取引関係があったことを証明するに足りる的確な証拠(被告人らが所持するエビデンスがこれに当たらないことは後記のとおり。)を所持していない事実及び被告人らに対しD等の業者がC1と取引関係にあったことを容易に説明し得る立場にいるはずのEが,現在に至るまで何らの説明もしていない事実(当審弁22,23)をあわせると,上記のとおり製品自体が偽造品とまで認めるに足りる証拠はないが,D等がC1から正規にB製品の出荷を受けていない事実は,合理的疑いを容れない程度に立証されたというべきである。 なお,海外において我が国の捜査機関が当然には捜査権を行使することができず,海外捜査機関の共助を受けた場合の実効性にも疑問があること(イタリアと日本では商標権や偽造品あるいはブランド品に対する考え方に微妙な温度差があると容易に想定できることや,イタリア当局の捜査姿勢が不明であることなど)を考えると,国内における捜査で少なくとも上記の証拠を収集することができた 品あるいはブランド品に対する考え方に微妙な温度差があると容易に想定できることや,イタリア当局の捜査姿勢が不明であることなど)を考えると,国内における捜査で少なくとも上記の証拠を収集することができた本件において,海外における捜査を実施しなかったことが捜査機関の手落ちないし怠慢ということはいえず,上記判断を左右しない。 (2)B製品の並行輸入の実態についてところで,所論は,本件当時,我が国にB製品の並行輸入品が多数輸入されていた実態があり,この実態は,被告人らの輸入した製品も適法な並行輸入品であること及び被告人らがそのような認識を有していたことの有力な証拠である旨主張するので,この点を検討する。 いわゆるパーカー事件判決以後,我が国の関税実務において,並行輸入として許容する要件が緩和されたこと,原審弁22,23,80,97などによれば,本件当時,多数のB製品が我が国に輸入され,雑誌やチラシなどの広告の下に,スーパー,量販店,通信販売などで販売されていた事実が認められ(当審弁3,4などによれば,その後も状況に大きな変化がないと認められる。),Fもこれを否定していないことは所論指摘のとおりである。しかし,並行輸入品として広くB製品が販売されている事実があるからといって,直ちに並行輸入と称されるもの一般の適法性が裏付けられるものではなく,個々の案件において認定されるべき問題であることは当然であり(したがって,摘発された他の業者が不起訴になったこと〈当審弁2の1ないし4〉も本件の判断を直接左右しない。),もとよりC1が正規に出荷した製品を並行輸入の経路に乗せたことを示す証拠は認められない(所論が指摘するのも,当審弁6のレポートの存在などを根拠として,C1の内部の者が関与して横流しをしたという限度であり,これは適法な並行輸入とはいえない。なお, 路に乗せたことを示す証拠は認められない(所論が指摘するのも,当審弁6のレポートの存在などを根拠として,C1の内部の者が関与して横流しをしたという限度であり,これは適法な並行輸入とはいえない。なお,これ以上の実態解明のためにイタリアの捜査当局に共助を依頼していない点も,上記と同じく手落ちないし怠慢とはいえない。)。したがって,本件における上記(1)の認定には影響しない。 次に,被告人らの故意の認定に及ぼす影響を考えると,確かに並行輸入が広く行われている実態は,そのような経路が開設しやすいという意味において,適法であるとの認識に結び付く余地がないとはいえないが,総代理店制度で高価格を維持しようという商標権者にとって,並行輸入を広く是認することは考え難いから,上記の多くの並行輸入製品の中に違法なものも多数含まれていると考えるのがむしろ自然である。しかも,我が国が世界有数のブランド品の購入国であり,偽造業者の標的にされる危険性も高いというべきであるから,B製品の並行輸入経路を開設しようとする場合には,違法な製品を掴まされてしまう危険性はより大きいと考えるのが相当である。 (3)流通経路開設の経緯についてそこで,次に本件の流通経路開設の経緯につき検討する。 被告人A2及び同A3は,Eからの紹介でD等の業者と取引を開始したところに疑義を容れる事情はなく,そのルートで仕入れる製品はC1から正規に出荷されたことを信じていたと供述し,その根拠として,複数の業者から見せられた出荷証明(エビデンス)の紙や様式が一致したこと,値段も不相当でなかったこと,業者からC内部でしか知り得ないはずの新製品の情報等が伝達されたこと(原審弁112など),C1名義の文書も受領したこと(原審弁50ないし52),業者の事務所に行ったこともあったこと,業者は我が国の大手業者 らC内部でしか知り得ないはずの新製品の情報等が伝達されたこと(原審弁112など),C1名義の文書も受領したこと(原審弁50ないし52),業者の事務所に行ったこともあったこと,業者は我が国の大手業者と取引したり,その幹部が来日して取引先に説明するなど誠実であったこと,並行輸入業者のLからいわゆるお墨付きを得たこと,Eから受けた説明が別の並行輸入業者であるMがC1のエージェントからもらった文書の内容とも符合していたことなどを挙げる。 しかし,まず,被告人らが述べるようなエビデンスの確認によっては,それが真正にC1から発出されたものであると認めることはできないというべきである。違法な製品を売りつけようという者がエビデンスを偽造することは当然である(Nの原審証言もこの旨述べている。)から,それが正規にC1から発出されたものであるかどうかについては,様々な角度から確認する必要があることは常識と考えられる。この観点からすると,複数の業者から見せられたエビデンスの紙や様式が一致したというだけで確認として十分であるとは到底いえない(現に,原審検26によれば,それが2度にわたる改訂前の様式であると認められる。)。また,被告人A2の供述によれば,業者はエビデンスを見せた後,業者名を黒マジックで塗りつぶすというのである。この点につき所論は,総代理店との無用な摩擦を避けるための配慮であると主張するが,親会社であるC1のお墨付きを得て行っているはずの取引につき,そこまで海外の総代理店に配慮しなければならないというのもいささか不自然であり,違法な取引であることにつき,当面の追及を免れんための証拠隠滅的行動とみるのが自然である。しかも,被告会社から押収されたエビデンスの中には,そもそも出荷先の記載がないものやミスプリントのものも存在しており,被告人らのエビデンス 面の追及を免れんための証拠隠滅的行動とみるのが自然である。しかも,被告会社から押収されたエビデンスの中には,そもそも出荷先の記載がないものやミスプリントのものも存在しており,被告人らのエビデンスの確認の不十分さを裏付けている(被告人A2は,これらはEが送ってきたものと思うが見ていないなどと述べるが,不自然で到底信用できない。)。また,委託工場からの横流しや内部の者が一枚噛んでいる場合などを想定すると,新製品に関する内部情報が得られるということもまた十分にあり得ることであるから,本件において内部情報が得られたということが正規な出荷であることを強力に裏付けるともいえない。 そして,何より不自然不合理であるのは,以前から輸入業に携わり,しかもブランド品の輸入を始める際に同業者や通産局などから輸入のやり方や注意点などを聞いて研究したという被告人A2及び同人と共にイタリアに渡航した被告人A3が,業者との仲介役となったEなる女性の説明を鵜呑みにして,独自の立場で調査検討を全くしていないという点である。上記のとおりのB製品の人気を考えると,適法な並行輸入経路を獲得し多量の製品の供給を受けるためにはそれなりに競争が激しいはずである上,被告人らはイタリア語が解せず,業者とのやり取りは専らEの説明によるという危険もしくは不確実な前提があるのであるから,仕入れ金額が不当に安いという事情はなかったこと,Eは我が国の信用ある企業の駐在員をしていたというOの原審証言などを前提としても,知人の紹介で初めて会ったにすぎないEの説明については,慎重な調査検討が必要であったというべきである。しかも,その後,Eが紹介する業者が頻繁に変更になったことも疑念を容れる事情であるほか,特に,被告人らがIの関係者であるPなる人物の案内で訪れたナポリ近郊の施設は,写真からみてもB いうべきである。しかも,その後,Eが紹介する業者が頻繁に変更になったことも疑念を容れる事情であるほか,特に,被告人らがIの関係者であるPなる人物の案内で訪れたナポリ近郊の施設は,写真からみてもB製品の製造工場ないし加工場である疑いが濃厚であるところ,Bの正規の工場に被告人らのような立場の者が簡単に入れるとは考えられないのであるから,これが違法な製品の製造ないし加工を行う場所でないことを徹底的に確認すべきであったのに,これらにつき調査検討した形跡が全くない。 したがって,被告人らが挙げるその他の諸点を考慮しても,本件流通経路の開設及び維持に当たっての被告人らの諸行動は,被告人A2が述べる「脇が甘かった」ということでは説明できないものといわざるを得ず,むしろ,それ以上に被告人らに正規な出荷でないことの確定的な認識,すなわち商標権侵害の故意があったことの有力な証拠と評価すべきである。 (4)その他の事情について原判決が被告人らに故意があることの状況証拠として挙げる要素のうち,部品等を大量に所持していたことは,適法な並行輸入の場合であっても,総代理店では修理してもらえず,本国に送付して修理してもらうことも通関上困難であることなどを考えると,必ずしも不自然とはいえない。また,被告人らが輸入した製品に不良品が多かったという点も,上記のとおり均一性に乏しいB製品の並行輸入であるが故に,微細な不良についても意識的に排除した旨の所論を必ずしも排斥できず,またC2の扱うB製品についてもかなりの不良品があることを推測させる証拠(原審検215)があることなどに照らすと,被告人らの故意の状況証拠としては適切でない。 しかし,Eとやり取りしたファックス文書の中で,業者を工場と表現している点や,製品の細部まで注文を付けている点などは,所論が種々弁解しているも らすと,被告人らの故意の状況証拠としては適切でない。 しかし,Eとやり取りしたファックス文書の中で,業者を工場と表現している点や,製品の細部まで注文を付けている点などは,所論が種々弁解しているものの,被告人らの指示ないし指定が製造工場に直結していることを強く推測させ,業者はC1から製品を仕入れる商社的な立場であるという被告人らの説明と相容れないことは明らかである。また,被告人A2が業者を工場と説明している点は,被告会社の従業員であったQ(原審検74。この供述が信用できることは原判決が説示するとおりである。)のほか,取引業者のR(同75)やS(同36)の供述や,Kが手帳に書いた取引形態図(同234)などとも符合している。これに対し,所論はイタリア生活が長いEの言葉遣いの特殊性,細かいことに頓着しないイタリア人気質などを強調するが,説得的でない。さらに,エビデンスの中に,仕入れ値と卸値が同額であるものがあり,これを被告人A2が認識したことが認められるところ,確かに取引の中にはそのような場合が絶対ないとはいえないにしても,それは合理的な理由が説明されて初めて納得できるものであり,それもないこととあわせると,故意の状況証拠であることは否定されない。 その他,所論は,被告人らが,仕入帳に正確な記載をし(原審弁126),通関に際してもありのままに申告したこと(当審弁8),苦情を寄せた客にC1の住所を教えたことのほか,本件で捜索押収を受けた後も言い分が一貫し,証拠隠滅行為も行っていないことなどの態度を指摘し,故意がなかったことの証左であると主張するが,これらの点は下手な工作をすればかえって怪しまれ自ら墓穴を掘ることになりかねない事柄であることに加え,被告人A2は,取引先のTに対し,「本物と確信して仕入れて販売していれば罪にならない。」と述べたこ これらの点は下手な工作をすればかえって怪しまれ自ら墓穴を掘ることになりかねない事柄であることに加え,被告人A2は,取引先のTに対し,「本物と確信して仕入れて販売していれば罪にならない。」と述べたこと(原審検78)が認められる(これを述べていないかのように証言するTの原審証言は曖昧で信用できない。)こともあわせると,上記の判断を左右するに足りない。 なお,以上の諸事情を総合すれば,被告人らはB製品の贋物を製造する工場から直接仕入れていた疑いが強いといってよいが,1で記述したように,証拠上,本件手提げバッグ等が偽造品であるとまで断定することができないこと,また,D等の業者や製造元のことについての捜査がなされていない状況の下で,そのように認定することは躊躇せざるを得ない。 3 結論以上のとおり,本件全証拠を総合しても,本件手提げバッグ等が商標権者から正規に出荷されたことを認めるに足りる証拠はない上,被告人らの流通経路開設の経緯やその後の取引実態を検討すると,その流通経路が正規の出荷に基づくものでなく,しかも被告人らにおいてもそれを確定的に認識していたことを直接ないし間接に示す証拠が多数存在し,しかもそれらは相互に補強し合う関係にあって,その総体としての信用性は高いというべきであるから,被告人らの商標権侵害の事実及び故意は優に認められる。 なお,本件については税関長の告発がなされずに関税法違反事件としては不起訴になったことが窺われるが,税関長は告発要件の有無や必要性などを独自の立場で判断したと認められ,直ちに本裁判における上記認定を左右しない。 よって,商標権侵害の事実及び故意を認定した原判決の結論に事実誤認はなく,論旨は理由がない。 第2 控訴趣意中,被告人A3の所持に関する事実誤認の主張について論旨は,被告人A3は原判示第1にかか よって,商標権侵害の事実及び故意を認定した原判決の結論に事実誤認はなく,論旨は理由がない。 第2 控訴趣意中,被告人A3の所持に関する事実誤認の主張について論旨は,被告人A3は原判示第1にかかる製品を所持した事実はないから,同事実については無罪であるのに,これを有罪と認定した原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある,というのである。 そこで,所論にかんがみ,記録を調査し,当審における事実取調べの結果もあわせて検討するに,原判決が38ないし39頁で説示するところは相当である。所論は,Eとのファックス交信がA3名義でなされているのは,被告人A2の指示の下に名義だけ被告人A3の名前で交信しただけであると主張するが,被告人ら自身がEとの主要なやり取りは国際電話で行っていると述べており,Eがファックスの文面だけから被告人A3の名前で交信したとは考え難く,やはり被告人A3も主体的にEと打ち合わせを行っていたとみるのが自然である。また,被告人A2と共にイタリアに同行した際も,Eや業者側の人間に会ったほか上記のPなる人物の施設などにも赴いていることなどの事情に照らせば,単に被告人A2に対して女性の感覚での参考意見を述べたにすぎない役割にとどまったと解することはできない。したがって,被告人A3の原判示第1にかかるB製品の所持に対する関与の程度も,共同正犯と評価するに足りる域に達していると認めるのが相当であり,論旨は理由がない。 第3 控訴趣意中,法令適用の誤りの主張について論旨は,原判決は被告人らの罰条として商標法78条を適用したが,同法条は憲法31条が規定する人権保障の要請に応えていず無効なものであるから,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というので検討する。 所論は,①商標法78条は構成要件の 条は憲法31条が規定する人権保障の要請に応えていず無効なものであるから,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というので検討する。 所論は,①商標法78条は構成要件の体裁を整えていない,②78条が規定する可罰行為は37条に限定されないから,原判決の説示は説得的でない,③37条を刑罰法規に適用すると実質犯と予備犯とを同一の刑罰で処するという非常識な結論となり,この種事犯が業として反復継続して行われるからという原判決の理由付けも薄弱である,として,同法は憲法31条に反した無効なものであると主張する。 しかし,商標法78条の構成要件は25条,37条及び67条により具体化されており,構成要件として明確でないとの非難は当たらない。また,37条は,本来的な商標権(25条)の侵害を,類似の商品及び商標に拡大すると共に,その予備的行為を侵害行為そのものとみなして商標権の保護に万全を期そうとするものであるところ,財産権の中で無体財産権,とりわけ商標権の侵害が行われやすく,その回復が容易でない(予備的行為の違法性の程度が侵害行為のそれと近い)こと,法定刑が懲役5年から罰金刑までかなり広く定められていることなどに照らすと,予備的行為も含めて同一刑罰法規として規定するのが不合理であるとはいえない。 よって,所論は採用できず,商標法78条が憲法31条に反して無効であるとはいえない。論旨は理由がない。 第4 控訴趣意中,量刑不当の主張について論旨は,原判決の量刑不当を主張し,被告人A2及び同A3の執行猶予を求めるので,所論にかんがみ,記録を調査し,当審における事実取調べの結果もあわせて検討する。 本件は,被告会社の役員である被告人らが,正規に出荷されたものでないB製品多数を販売目的で所持したという商標法違反の事案である。原判決が を調査し,当審における事実取調べの結果もあわせて検討する。 本件は,被告会社の役員である被告人らが,正規に出荷されたものでないB製品多数を販売目的で所持したという商標法違反の事案である。原判決が「量刑の理由」の項で説示するとおり,利欲的な動機に酌量の余地がなく,所持にかかる商品量が多数であること,長期間にわたる組織的かつ営業的犯行であること,一般消費者に対する詐欺的な要素も悪質であること,それにもかかわらず被告人らは不合理な弁解に終始して反省の態度も不十分であることなどに照らせば,被告人らの刑事責任を軽くみることは相当でない。 しかし,上記認定のとおり,本件手提げバッグ等が偽造品であるとまで認めるに足りる証拠はないから,本件における商標権侵害の危険性ないし違法性の程度は,原判決が前提とするより低いとみるのが相当である。しかも,我が国においてB製品の並行輸入品と称するものが多数出回っている実態があるところ,これに商標権者自体が関与しているとまでの証拠はないものの,少なくとも商標権者の管理の甘さないし杜撰さが背景にあるとの所論を一概に排斥することはできず,これらの諸点は被告人らの量刑において無視することはできない。以上のほか,原判決も認める被告人A3の関与の従属性,被告人両名が平穏に社会生活を営んできた者であること,本件の摘発により被告会社が事実上倒産したことなどの事情をも総合すると,被告人A2及び同A3を懲役刑の実刑に処した原判決の量刑は,両名に執行猶予を付さなかった点において重きに失するというべきである。また,被告人A2及び同A3の量刑要素に関する上記の誤認は,被告会社の量刑判断の誤りをもたらすと解するのが相当である。論旨は,以上の限度で理由がある。 よって,刑訴法397条1項,381条により原判決を全部破棄し,なお同法400条 素に関する上記の誤認は,被告会社の量刑判断の誤りをもたらすと解するのが相当である。論旨は,以上の限度で理由がある。 よって,刑訴法397条1項,381条により原判決を全部破棄し,なお同法400条ただし書に従い自判する。 第5 自判原判決と同様の証拠(ただし,鑑定書〈原審検5,11,45,48,51,54,57,60,132,142〉及び原審公判調書中の証人Fの供述部分を除く。)により,原判決と同様の事実を認定し,原判決と同様の法令及び被告人A2及び同A3につき刑法25条1項を適用した上で,上記第4で述べた事情のほか,被告人らが,本件が摘発された後,返品を希望する顧客の求めに応じて代金を返還するなどの対応をしていたこと(当審弁9ないし14,26),原判決後にC2に対して示談の申し入れをし,これを拒絶された後約500万円を供託するなどしたこと(当審弁17ないし20)などの諸事情を総合考慮して,主文のとおり刑を定めた。 よって,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官河上元康裁判官細井正弘裁判官水野智幸)
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