主文 1 原判決を取り消す。 2 控訴人が別紙記載の者の子であることを認知する。 3 訴訟費用は,第1,2審とも,国庫の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴人の求める裁判主文同旨第2 事案の概要本件は,控訴人の母が,同人と生前婚姻関係にあった控訴人の亡父が,生前に採取して冷凍保存していた精子を使って体外受精し,控訴人を出産したところ,控訴人において,亡父の自分に対する認知を求め,検察官を相手方として,認知請求をした事案である。 原審は,認知の要件を満たさないとして,請求を棄却した。 1 前提事実(甲1ないし11,乙5,6,証人D(原審),同C (当審),控訴人法定代理人(同),弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)(1) 平成9年・月・日,B(以下「本件父」という。昭和・・年・・月・・日生)と控訴人の母であり法定代理人のA (以下「本件母」という。昭和・・年・・月・・日生。また,本件父及び本件母を併せて「本件父母」という。)は婚姻した。 本件父は,平成2年から慢性骨髄性白血病にり患し,週2,3回,インターフェロンの注射と抗がん剤の服用を続けていた。 婚姻後,本件父母は,子供を授かりたいと願い,・・・内の病院において不妊治療を行い,人工授精を試みたりしたが,成功しなかった。 (2) 婚姻の約半年後,本件父が登録していた骨髄バンクから,骨髄移植のドナーが見つかったとの連絡があり,本件父は,骨髄移植を行うことを決めた。 そして,本件父母は,本件父が骨髄移植をすると,移植前に大量の放射線の照射を受け,無精子症となって生殖能力が失われ 見つかったとの連絡があり,本件父は,骨髄移植を行うことを決めた。 そして,本件父母は,本件父が骨髄移植をすると,移植前に大量の放射線の照射を受け,無精子症となって生殖能力が失われることを危惧し,主治医の薦めもあって,相談の上,本件父の精子を冷凍保存することとした。 (3) 本件父に対する骨髄移植は,・・・内の病院で行われることとなり,それに先だって,・・・・・・・・所在の・・・・・・・・・・・(以下「本件精子保存病院」という。)で,精子の保存が行われることとなった。そして,平成10年・月・日,・・日,・・日の3日間,精子の保存が行われた(以下「本件保存精子」という。)。 精子の保存に際し,本件父母は,本件精子保存病院に対し,「依頼書」と題する書面に署名押印した上で,平成10年・月・・日に提出した(以下「本件依頼書」という。)。 同書面には,骨髄移植前に精子を凍結する精子凍結保存法について,以下の説明を受けて十分納得したこと,家族間において協議の上,この治療を受けることに意見が一致したので,ここに依頼する旨記載され,以下の説明の中に,「5.死亡した場合は必ず連絡すること。精子は個人に帰する考えより,死亡とともに精子を破棄すること。」「6.死亡後の精子を用いた生殖補助操作はしないこと。」との条項があった。 (4) 平成10年・ころ,本件父に対する骨髄移植の手術は成功し,本件父は,・に・・・内の病院に転院した上で,同年・には退院して,平成11年・月には職場に復帰した。 そこで,本件父母は,不妊治療を再開することとし,住所近くで本件保存精子を受け入 ・・・内の病院に転院した上で,同年・には退院して,平成11年・月には職場に復帰した。 そこで,本件父母は,不妊治療を再開することとし,住所近くで本件保存精子を受け入れてくれる病院を探し,平成11年・月・ころ,・・・・・・・所在の・・・・・・・・・ (以下「体外受精実施病院」という。)で本件保存精子を受け入れた上で不妊治療を受けることを確認し,本件精子保存病院にも連絡し,本件保存精子を受け取りに行く旨伝えた。 一方,本件父は,微熱が出るようになり,免疫抑制剤の調整をするために,平成11年・ころ,・・・内の病院に入院し,退院予定日も同年・月・・日と決まっていたが,水ぼうそうにり患し,同月・・日,死亡した。 (5) 本件母は,本件父の死亡後,本件保存精子を用いて懐胎することを決意し,本件父の両親などとも相談して,その賛成を得た。 平成11年・・月・・日,本件母及び本件父の母が,本件精子保存病院から,本件保存精子を,同精子が本件父のものであることの証明書と共に,体外受精実施病院へ搬送した。 そして,本件母は,同病院において,本件保存精子による体外受精を行い,平成13年・・月・・日,・・・内の病院において控訴人を出産した。 (6) 本件母は,平成13年・月・・日,・・・長に対し,控訴人について,本件父母の嫡出子として出生を届け出たが,同年・月・・日,出生子は婚姻解消の日から300日後に生まれた子であり,嫡出性は推定されないとして,受理しない処分を受けた。そこで,本件母は,・・家庭裁判所・・・・に対して,市町村長の処分に対する不服申立てを行い(平成1 00日後に生まれた子であり,嫡出性は推定されないとして,受理しない処分を受けた。そこで,本件母は,・・家庭裁判所・・・・に対して,市町村長の処分に対する不服申立てを行い(平成13年(家)第516号),・長に対し,嫡出子としての出生の届出を受理すべきことを命じるとの裁判を求めたが,同裁判所・・・は,同年12月20日,嫡出子とは,婚姻関係にある男女間に懐胎,出生した子をいうところ,控訴人は,本件父の死亡により,本件母との婚姻が解消した後に懐胎,出生したので,嫡出子ということはできないとして,申立てを却下した。本件母は,即時抗告したが(当庁平成14年(ラ)第6号),高松高等裁判所は,平成14年1月29日,控訴人は,民法772条による嫡出子としての推定を受けるものでもないし,本件父の死亡により婚姻関係が解消した後に懐胎したので,嫡出子に該当しないとして,抗告を棄却し,本件母から特別抗告がされたが,棄却された。 2 争点認知の要件の有無 3 争点に対する当事者の主張(控訴人)(1) 現行法における認知は,死者の精子を用いた人工受精で子が出生する事態を想定していないが,それが,認知請求の認められる要件として「子が父の生存中に懐胎されたこと」を必要とするという根拠にはならない。 控訴人は,本件保存精子を用いた体外受精により誕生しており,本件父が,控訴人の生物学上の父親であることは明らかである。そして,法律上の父子関係の有無を決定するには,父親とされる者の意思,両親等親族の意見,及び,子の福祉を尊重する観点などを考慮して決定されるべきである。 本件父は る。そして,法律上の父子関係の有無を決定するには,父親とされる者の意思,両親等親族の意見,及び,子の福祉を尊重する観点などを考慮して決定されるべきである。 本件父は,自らの意思で本件保存精子を冷凍保存しており,骨髄移植術施行前後に,本件母及び両親らに対し,自己の死亡後,本件保存精子を用いた人工授精によって子供を授かることを希望する旨述べているから,その希望どおり,本件母が控訴人を出生したことは,本件父の意思に合致する。控訴人の出生が,父である者の意思に合致する以上,父である者の死後に懐胎したとしても,その子からの認知の訴えは許されるべきである。 本件父は,死後の本件保存精子を使用した懐胎について,本件依頼書の記載にかかわらず,同意していた。また,本件母も,本件保存精子の保存先の病院及び人工授精を実施した病院に対して,本件父の生死につき,虚偽の事実を告げたことはない。 本件では,本件父の両親らも,控訴人の出生を望んでいた。 (2) また,本件父母は,婚姻当初から,配偶者間人工受精(いわゆるAIH)を実施してきたが,平成11年・月・ころにも,医師に対し,本件保存精子を使った人工受精をしたいとの希望を伝えた(そのころは,本件父の骨髄移植手術が成功し,順調に回復していた時期である。)。その意味で,本件は,父の生存中にAIHが実施されて体外受精がなされる予定のところ,途中で夫が急死したため,実際に体外受精された時期が夫の死亡後にずれこんだ事案と同じである。 仮に,夫の死後の人工受精の場合には認知請求ができなければ,結果的に,偶然の事由によって認 したため,実際に体外受精された時期が夫の死亡後にずれこんだ事案と同じである。 仮に,夫の死後の人工受精の場合には認知請求ができなければ,結果的に,偶然の事由によって認知請求の許否が決せられることになってしまうが,そのような区別に合理性はない。 (3) 控訴人は,婚姻した夫婦である本件父母の間の子として出生したにもかかわらず,戸籍上,子の父親欄を空欄とすることは,子の福祉を妨げる。子にとって重要なことは,父親が誰かということであって,それが戸籍に明記されることは,自己の誕生という人間の尊厳にかかわる極めて重要な問題である。 そもそも,控訴人は,幸福追求権(憲法13条)に基づいて認知請求権を有している。法の不備を理由に,控訴人の認知請求を否定することは,憲法13条,国際人権条約,児童の権利に関する条約に反するし,法律関係を明確化する必要から,本件認知請求を否定して,生物学的な親子関係や子の福祉を無視することも許されない。 (4) 父親の死後に懐胎された子からの認知請求を認めても,財産的な実益はなく,認知請求を認める実益がないということはない。認知が認められると,子は,父の両親の相続について代襲相続権が認められるし,その他,扶養の権利義務・親族間の協力義務が生ずる。また,民法711条による慰謝料請求権も認められる。いわゆる出自の権利も認められる。また,財産的な実益以外のことでも,認知請求を認める実益は大きい。 (5) なお,生殖補助医療については,現在,立法作業が進行中であり,本件と同様の事例における生殖補助医療上の取扱いについての検討が行われている でも,認知請求を認める実益は大きい。 (5) なお,生殖補助医療については,現在,立法作業が進行中であり,本件と同様の事例における生殖補助医療上の取扱いについての検討が行われているが,本件は,既に出生した控訴人の福祉の観点から決せられるべきことで,今後の立法動向などに左右されるべきものではない。また,生殖補助医療に関して,婚姻解消後の体外受精を行うことを禁止すべきであるとの意見があるが,そのような規制をすべきかという問題と,そのような規制に違反して,懐胎し,出生した子に認知請求権を認めるべきかという問題とは別個の問題である。そして,出生した子の福祉の観点からみると,出生した子に認知請求権が認められなければならない。 (被控訴人)(1) 認知請求の要件事実は,子と父親との間に生物学的な親子関係が存在することとされてきたが,これは,請求権者である子が,自然懐胎により出生した子であることを当然の前提としたものである。認知の訴えは,父の死後に,人工受精によって懐胎された子からの認知請求を想定しておらず,父が自発的に子の認知をしない場合のことを慮って,訴訟で,法的な父子関係の形成を行うためのものであるから,請求権者も,父が自発的に認知をする余地がある子(すなわち,父の生存中に懐胎された子)に限られる。また,現行法上,死後認知の訴えも,子の懐胎後に父が死亡したことを前提とした制度である。 そこで,父の死後,人工受精によって懐胎された子からの認知請求については,別途,要件事実を考える必要がある。そして,その場合,生物学的な親子関係が存在することのほか,子が父 そこで,父の死後,人工受精によって懐胎された子からの認知請求については,別途,要件事実を考える必要がある。そして,その場合,生物学的な親子関係が存在することのほか,子が父の生存中に懐胎されたことを要件事実とすべきである。 (2) 本件父が,自分の死後,本件保存精子による懐胎・出産を同意していたか否かについては,不知ないし争う。 仮に,父親の真摯な同意があれば死後認知請求が認められるとの見解によるとしても,本件については,本件父にそのような同意があるとは認められない。本件父母は,精子を冷凍保存する際,医師から,精子の保存期間を本件父の生存中とすること,本件父の死亡後は,同精子を破棄することの説明を受けていた。 また,①本件父が死亡した場合は必ず連絡する,②精子は個人に帰するとの考えにより,死亡とともに精子を破棄する,③本件父の死亡後に保存精子を用いた生殖補助操作はしない等と記載された本件依頼書に署名押印した。加えて,本件父母は,同依頼書の内容に不満を述べておらず,医師が本件父母に本件依頼書に署名押印することを強要した事実もない。以上によれば,本件父の真意は,死亡後には保存精子を破棄し,保存精子を用いた人工受精をしないというものであったと解される。本件母も,本件保存精子を搬送のために受領する際に,医師らに対し,本件父の死亡の事実を秘匿し,かえって,「地元の病院で不妊治療を受ける予定であり,本件父は元気である。」旨説明し,本件体外受精を担当した医師に対しても,本件父が死亡している事実を告げていない。 (3) 死後に懐胎された子に認知請求権を認めても実益 受ける予定であり,本件父は元気である。」旨説明し,本件体外受精を担当した医師に対しても,本件父が死亡している事実を告げていない。 (3) 死後に懐胎された子に認知請求権を認めても実益がない。戸籍は,民法上の親子関係を適正に記載するものであって,戸籍上に自己の出自が記載される必要があるから本件認知請求を認める必要があるとの議論は,主客転倒の議論である。 法律上の父子関係を認めるべきか否かは,監護教育,扶養,相続など,親子関係から生じる実体法上の効果の有無を重視して決せられるべきであるところ,死後に懐胎した子に認知請求を認めたとしても,①父の監護,教育及び扶養を受ける余地がない(この点は,父の生前に懐胎し,その死後に出生した子も同様とも考えられるが,父の生前に懐胎した子は,胎児認知等で法的親子関係を発生させる余地があるという点で,本件の場合と同一とはいえない。),②相続についても,法は,相続人と被相続人の同時存在を要求し,胎児についての例外規定(民法886条)を設けているが,死後に懐胎した子は胎児ではないので,相続の可能性はないし,代襲相続制度も,死後に懐胎した子を想定したものではないから,その制度趣旨に鑑みて,父の死後に懐胎した子について代襲相続権が発生することもないので,具体的な利益に乏しい。 また,仮に,本件認知請求が認められ,戸籍上,父が記載されて,子がその事実を知ったとき,子に対する心理的な影響がどうなるかは予測困難であり,父を戸籍に記載することが当然に子の福祉に叶うとはいえない。 さらに,父の死後に懐胎した子の認知請求が認められるとして たとき,子に対する心理的な影響がどうなるかは予測困難であり,父を戸籍に記載することが当然に子の福祉に叶うとはいえない。 さらに,父の死後に懐胎した子の認知請求が認められるとしても,民法の規定上,父の死亡から3年を経過したときは,死後認知の訴え自体が許されないとされており,父の死後に懐胎した子の中で,父の死後3年を経過して出生した子には,認知請求権を行使する機会が全く与えられないこととなるが,それは,非嫡出子に与えられた認知請求権の平等性を失わせることになる。 (4) 法制審議会の生殖補助医療関連親子法制部会は,生殖補助医療は法律上の夫婦間のみを対象とするとの前提に立って,夫が死亡した場合には,既に法律上の婚姻関係が解消しているため,生殖補助医療を認めるべきでなく,死後に懐胎された子からの認知の訴えを禁止する旨の規定を設ける方針を示している。また,厚生科学審議会の先端医療技術評価部会生殖補助医療技術に関する専門委員会も,提供者が死亡した場合の精子等の取扱につき,提供者の死亡が確認されたときに,提供された精子等は廃棄するとの見解を示している。実際,現在の医療実務でも,提供者が死亡した場合には精子等を廃棄するとしており,精子等の提供を受けて保存する際には,提供者が死亡した場合には廃棄することに同意する旨の書面を徴求しており,その制度整備も検討中である。さらに,法制審議会の生殖補助医療関連親子法制部会が発表した中間試案でも,父死亡後に保存精子を用いて体外受精して生まれた子からの認知請求の可否については,生殖補助医療に対する医療法制の在り方を踏まえた検討が必要として 子法制部会が発表した中間試案でも,父死亡後に保存精子を用いて体外受精して生まれた子からの認知請求の可否については,生殖補助医療に対する医療法制の在り方を踏まえた検討が必要として規定を設けていないが,それは,医療法制についての考え方が不明確なまま,親子法制に関して独自の規律を定めることは適当ではないとの判断によるものであり,子の福祉や両親の意思の尊重を求めていると速断できない。 上記のとおり,本件父母は,現在の医療実務を前提にして作られている本件依頼書に署名押印した。すなわち,本件父母は,現在の医療実務の動向である「本件父の死亡後には本件保存精子を破棄し,人工受精を行わない」旨の取扱を承諾し,実務動向を支持したので,当然,死後に懐胎した控訴人からの認知請求は認められない。 第3 当裁判所の判断 1 事実上記第2,1の事実に加えて,証拠(甲1ないし14,乙5,6,証人D (原審),同C(当審),控訴人法定代理人(同),弁論の全趣旨)によれば,以下の事実が認められる。 (1) 平成10年・月・日,本件精子保存病院産婦人科医師のD (以下「D 医師」という。)は,本件父母に対し,①精子保存の目的が,骨髄移植後の無精子症に備えるためのものであること,②精子は提供者本人に属するため,その保存期間は提供者の生存中に限られ,死亡とともに破棄されることなどを説明し,本件依頼書に署名押印することを求めて,本件依頼書を渡した。そして,本件父母もこれに応じ,署名押印の上,同月・・日,本件精子保存病院に提出した。本件父母とD 医師の間で,本件依頼書の内容について, 印することを求めて,本件依頼書を渡した。そして,本件父母もこれに応じ,署名押印の上,同月・・日,本件精子保存病院に提出した。本件父母とD 医師の間で,本件依頼書の内容について,格別問題とされ,話し合いがなされたことはない。 精子の保存は,同月・日,・・日及び・・日の3日間にわたって行われた。 (2) 本件依頼書には,不動文字で,次の内容の記載がされている。 「私は,骨髄移植前に精子を凍結する精子凍結保存法について下記の説明を受け充分納得しました。家族間において協議の上,この治療を受けることに意見が一致しましたので,ここに依頼致します。 1.精子の長期間の凍結後,融解をした場合に精子を回収できない可能性が充分あること。 2.法律等の施行により長期間の精子保存が不可能になった場合,破棄する可能性があること。 3.精子保存年齢は生殖年齢(40才)までとする。 4.1年に1回,来院もしくは電話連絡をして健康状態を連絡すること。連絡なき場合は破棄することがあること。連絡先の変更があったとき必ず連絡すること。 5.死亡した場合は必ず連絡すること。精子は個人に帰する考えより,死亡とともに精子を破棄すること。 6.死亡後の精子を用いた生殖補助操作はしないこと。 7.精子凍結保存料金として料金を納入すること。更新料金が必要になった場合は必ず納入すること。 8.精子凍結保存についての血液内科主治医の同意を得ること。」(3) 本件父は,骨髄移植手術のための入院前夜,本件母に対し,自分が死亡するようなことがあっても,本件母が再婚しないのであれば,自分の子供を産んで,両親の面倒 意を得ること。」(3) 本件父は,骨髄移植手術のための入院前夜,本件母に対し,自分が死亡するようなことがあっても,本件母が再婚しないのであれば,自分の子供を産んで,両親の面倒をみて欲しいと話した。 また,骨髄移植手術直後,本件父は,生命に危険がある状態となった際,無菌室において,本件父の両親に,それぞれ,自分に何かあった場合,本件母に本件保存精子を用いて子供を授かり,家を継いでもらうようにと伝えた。 また,本件父は,その後,弟や叔母にも,同様のことを伝えた。 (4) その後,本件父は,健康状態を回復し,平成11年・月,職場復帰を果たし,本件父母は,不妊治療を再開することにして,近くで本件保存精子の受け入れ先病院を探し,同年・月・ころ,体外受精実施病院で,本件保存精子を受け入れ,人工受精の実施をしてくれるとの承諾を得た。体外受精実施病院における打合せの際,本件母は,本件父が病気療養中であるから,事前に採取した本件保存精子を体外受精に使いたい,本件父は打合せ等には参加できないと伝えた。そして,本件母は,本件精子保存病院に対して,本件保存精子を搬送するため,近々受け取りに行く旨伝えた。その際,D 医師は,本件父の容態を尋ね,本件母は,本件父が元気である旨を伝えた。 (5) 本件父は,平成11年・ころから微熱が続くようになり,免疫抑制剤の調整のために,・・・内の病院に入院した。そして,同年・月・・日に退院予定であったが,同年・月・・日ころに発疹があり,同月・・日には水ぼうそうと診断され,同月・・日に死亡した。 なお,本件父において,骨髄移植手術をしてその健康が回復した以降 退院予定であったが,同年・月・・日ころに発疹があり,同月・・日には水ぼうそうと診断され,同月・・日に死亡した。 なお,本件父において,骨髄移植手術をしてその健康が回復した以降上記死亡前の間に,本件父死亡後,本件保存精子を用いて本件母に子供が授かることを望まなくなったとする事情の存在はうかがえない。 (6) 本件母は,本件父が死亡した後,本件父の両親らにも相談して,本件体外受精を行うことを決め,体外受精実施病院と細かな打合せをし,本件精子保存病院に連絡して,看護師等と話をして,搬送の日取り等を決め,同年・・月・・日,本件父の母とともに,本件精子保存病院を訪れ,本件保存精子を体外受精実施病院へ搬送した。 その時,本件母は,D 医師とは会っておらず,また,本件精子保存病院において,改めて,本件父の生死について尋ねられたことはなかった。 (7) 本件母は,体外受精実施病院に対し,平成11年・月・ころ,上記(4)のとおり,本件父が病気療養中であり,打合せに参加できないと説明した後,本件父の死亡の事実について伝えたことはなく,同病院でも,本件父の生死及び同意の有無を確認しなかった。 (8) 本件母は,平成11年・・月ころから,体外受精実施病院において体外受精を試み,その後,妊娠して,平成13年・月・・日に控訴人を出産した。 (9) 本件母は,控訴人の出生後,本件精子保存病院のD 医師に対し,本件保存精子が本件父の精子であることの証明書の作成を依頼し,同医師は平成13年・月・日,証明書を作成して交付した。その時,本件母は,D 医師に対し,本件父の死亡後に子供が生まれたので,本 が本件父の精子であることの証明書の作成を依頼し,同医師は平成13年・月・日,証明書を作成して交付した。その時,本件母は,D 医師に対し,本件父の死亡後に子供が生まれたので,本件父の精子であることを証明して欲しいと説明した。 (10) 本件母は,平成14年・月・・日,・・・・・・長に対し,控訴人の出生を届け出て,受理された。控訴人は,本件父を筆頭者とする戸籍に登載されているが,その父親欄は空欄のままである。 (11) 控訴人は,現在,・・・・・・・・・・・・・・により監護,養育されている。 2 争点に対する判断(1) 認知請求が認められるための要件は,自然懐胎による場合には,子と事実上の父との間に自然血縁的な親子関係が存することのみで足りると解される。 しかしながら,【要旨】人工受精の方法による懐胎の場合において,認知請求が認められるためには,認知を認めることを不相当とする特段の事情が存しない限り,子と事実上の父との間に自然血縁的な親子関係が存在することに加えて,事実上の父の当該懐胎についての同意が存することという要件を充足することが必要であり,かつ,それで十分であると解するのが相当である。 (2) 民法787条の認知の訴えとは,婚姻外に生まれた子を事実上の父(又は母。ただし,原則として,母は分娩の事実によって子と法的親子関係が発生する。最高裁第2小法廷昭和37年4月27日判決・民集16巻7号1247頁参照。以下同じ。)が自分の子であると任意に認めて届出をしない場合,自然血縁的な親子関係そのものの客観的な認定により法的親子関係を設定することを認めた制度である。 このこと 。以下同じ。)が自分の子であると任意に認めて届出をしない場合,自然血縁的な親子関係そのものの客観的な認定により法的親子関係を設定することを認めた制度である。 このことは,昭和17年における死後認知の規定の創設により,明確となったと解される。したがって,同制度は,自然血縁的な親子関係が存することを法的親子関係の設定の基礎とし,その客観的認定によって,法的親子関係を設定することを認めた制度にほかならない。 確かに,同規定は,体外受精等の生殖補助医療技術が存在せず,自然懐胎のみが問題とされていた時代に制定された法制度である。しかしながら,上記のとおり,認知の訴えが認められる趣旨からすれば,認知の訴え制定時に自然懐胎以外の方法による懐胎及び子の出生が想定されていなかったことをもって,人工受精による懐胎により出生した子が,認知請求ができないとする理由とはならないというべきである。 (3) また,上記のとおり,認知の訴えは,自然血縁的な親子関係そのものの客観的な認定により法的親子関係を設定することを認めた制度であるから,懐胎時に事実上の父が生存していることを,認知請求を認める要件とすることはできないと解するのが相当である。 確かに,認知の訴えが制定された当時は,自然懐胎のみが問題とされており,同規定は,人工受精による懐胎を考慮して制定されたものではない。しかしながら,上記のとおり,認知の訴えは,婚姻外の男女による受精及び懐胎から出生した子について,事実上の父との自然血縁的な親子関係を客観的に認定することにより,法的親子関係を設定するために認められ とおり,認知の訴えは,婚姻外の男女による受精及び懐胎から出生した子について,事実上の父との自然血縁的な親子関係を客観的に認定することにより,法的親子関係を設定するために認められた制度であって,その観点からすれば,認知請求を認めるにつき,懐胎時の父の生存を要件とする理由はないというべきである。 この点,被控訴人は,認知の訴えは,父が自発的に子の認知をしない場合のことを慮って,訴訟という手段で,法的な父子関係の形成を行うためのものであるから,その請求権者は,父が自発的に認知をする余地がある子に限ると主張するが,法律上,死後認知が認められていることとの対比(父が自然懐胎直後に死亡したような場合には,実際上,父が自発的に認知をする余地はないといわざるを得ない。)からして,上記は,懐胎時に,事実上の父が生存していることを要件とする理由とはなり得ない。 最高裁判所が,子の母が受胎可能の日に,当該男性と情交を通じた事実,懐胎可能期間中に当該男性以外の男性と情交関係を結んだ事実が認められず,当該男性との間に血液型上の背馳が認められないこと,を認知の訴え認容の要件と判断している(最高裁判所第1小法廷昭和31年9月13日判決・民集10巻9号1135頁ほか)のは,懐胎時に父が生存していることを必要とするとの意味ではなく,自然血縁的な親子関係の科学的・直接的な証明方法がなかった時代に,自然血縁的な親子関係の有無を認めるための間接的な推認の手法を示したにすぎず,上記解釈は,最高裁判所判例に反するものではない。 (4) 一方,自然懐胎の場合,当該懐胎は,父の意思によるもの 血縁的な親子関係の有無を認めるための間接的な推認の手法を示したにすぎず,上記解釈は,最高裁判所判例に反するものではない。 (4) 一方,自然懐胎の場合,当該懐胎は,父の意思によるものと認められるが,男子が精子を保存した場合,男子の意思にかかわらず,当該精子を使用して懐胎し,出生した子全てが認知の対象となるとすると,当該精子を保存した男子としては,自分の意思が全く介在せずに,自己と法的親子関係の生じる可能性のある子が出生することを許容しなければならなくなる。特に,精子を保存した男子の死後,保存精子を用いた懐胎及び出生の場合には,当該男子は,死後,自らの精子を処分することができなくなり,死後の当該精子の利用による懐胎,出生について,何ら関与できないまま,法的親子関係が生じる可能性があることとなる。 このような事態は,自然懐胎の場合に比して,精子を保存した男子に予想外の重い責任を課すことになり,相当でない。 したがって,人工受精による懐胎,出生の場合は,当該懐胎に対して,父の同意が必要であるとするのが相当である。 (5) 被控訴人は,父の死後に懐胎された子に認知請求権を認めても実益がないと主張する。しかしながら,認知請求が認められれば,父の親族との間に親族関係が生じ,また,父の直系血族との関係で代襲相続権が発生する。被控訴人は,代襲相続制度は,死後に懐胎した子を想定していないので,死後に懐胎された子には代襲相続権が発生しないとするが,認知請求が認められた場合,代襲相続権の発生につき,死後の懐胎の場合とそうでない場合とで差を設ける理由は全くない。 子には代襲相続権が発生しないとするが,認知請求が認められた場合,代襲相続権の発生につき,死後の懐胎の場合とそうでない場合とで差を設ける理由は全くない。 確かに,認知請求が認められたとして,既に死亡している父の関係で父の監護,教育及び扶養を受ける余地のないことは当然であるが,それは,父が自然懐胎直後に死亡したような場合に比しても何ら変わりはない。 また,被控訴人は,父の死後に懐胎された子の認知請求を認めるとしても,民法上,父の死後3年を経過した場合,死後認知の訴え自体が許されないことになる(民法787条ただし書)ところ,父の死後3年以上経過して出生した子については,認知請求権自体が全く認められず,子の中で不平等が生じると主張する。しかしながら,同条の出訴期間については,不変期間ではなく,解釈により長期となる余地もあるのであって(最高裁判所第2小法廷昭和57年3月19日判決・民集36巻3号432頁参照),同規定の存在により,死後に懐胎された子の認知請求自体を認めることが,子の不平等を生じると断じることはできないというべきである。 さらに,被控訴人の指摘する法制審議会等における種々の議論については,今後,法制度として,どのような場合に人工受精による出生を認めていくか,また,様々な形態による人工受精により出生した子の法的親子関係をどのように整備していくかについての議論であり,そのような議論を踏まえて,将来的に,人工受精の運用や法的親子関係の整備について,統一的な指針が示され,法整備がなされていくものと考えられる。しかし,同議論は,現在 の議論であり,そのような議論を踏まえて,将来的に,人工受精の運用や法的親子関係の整備について,統一的な指針が示され,法整備がなされていくものと考えられる。しかし,同議論は,現在存在する,民法787条の認知の訴えの要件事実の判断についての解釈指針を示すものとはならないというべきである。 (6) 上記要件に基づき,本件について検討する。 【要旨】上記第2,1の前提事実及び上記1の事実によれば,控訴人は,本件父の死後,本件父の生前の同意の下,本件父の生前に保存した本件保存精子を利用した体外受精によって懐胎した本件母から出生した者であることが認められる。したがって,控訴人と本件父との間に,自然血縁的な親子関係が存すること,本件父が,自己の死後,本件保存精子を利用して,本件母が懐胎し子を出産することについて同意していたことが認められ,本件全証拠によっても,認知を認めることを不相当とする特段の事情があると認められない控訴人の本件認知請求は,上記要件を充足しており,認容されるものと判断する。 この点,被控訴人は,本件父母が署名押印した本件依頼書の記載内容,及び,同依頼書作成前にD 医師が本件父母に対してした説明内容からして,本件父が,自己の死後,本件保存精子を利用した懐胎に同意していたということはできないと主張する。 確かに,上記1(1)及び(2)の認定のとおり,本件精子保存病院において,本件父母は,D 医師から,父の死亡後,本件保存精子を廃棄する旨の説明を受けていたと認められる。しかしながら,証拠(甲6,8,12ないし14,証人C(当審),控訴 て,本件父母は,D 医師から,父の死亡後,本件保存精子を廃棄する旨の説明を受けていたと認められる。しかしながら,証拠(甲6,8,12ないし14,証人C(当審),控訴人法定代理人(同))によれば,本件父は,本件保存精子を保存した後,本件母や両親らに対し,自己の死後,本件母による本件保存精子を用いた人工受精により,子供を授かり,両親の面倒をみることを望んでいたと認められる。しかも,本件母に対しては,本件保存精子を保存した直後である骨髄移植の手術をするための入院前夜に,上記の希望を述べたと認められる。このことからすれば,本件父の意図としては,自分が死亡した場合でも,本件母の賛同が得られれば,本件保存精子を用いて,自分の子供を授かって欲しいという希望を有しており,同希望は真摯なものであったと認めるのが相当である。 そして,本件父の健康がいったん回復した後も,本件父は本件保存精子により,本件母において妊娠することを望み,本件母と共に体外受精の方法によるいわゆるAIHを再開しようと考えていた矢先に死亡したというのであって,本件父が,死亡時までに,自分が死亡した場合でも,本件保存精子により,本件母において体外受精により子供を授かる意思を翻意したとは認められないのであって,本件父は,自己の死後,本件保存精子を利用した懐胎につき同意していたと認められる。 また,本件母は,本件父の死亡後,D医師や本件精子保存病院及び体外受精実施病院に対して,本件父の死亡の事実を告げていないが,これも,D医師や本件精子保存病院及び体外受精実施病院が本件母に本件父の生 後,D医師や本件精子保存病院及び体外受精実施病院に対して,本件父の死亡の事実を告げていないが,これも,D医師や本件精子保存病院及び体外受精実施病院が本件母に本件父の生死を尋ねなかったことによるものと考えられ,本件母が,故意に同事実を隠したものと認めるに足りる証拠はない。本件母は,骨髄移植の手術の手続と並行して行われたこともあって,本件保存精子を保存する際に,本件依頼書について説明を受ける際,本件父が死亡した場合のことを意識して聞いていたとは考えられず(むしろ,心情としては,本件父が死亡することは念頭になかったと思われる。),本件依頼書は,本件父母が3日ほど預かった上で署名押印してD 医師に提出してしまい,手許に控えがあったとも認められないのであるから,その内容につき本件母が明確に記憶していなかったとしても格別不自然な点はない。また,本件母は,本件保存精子を搬送することを申し入れた際,D 医師に対し,本件父が健在である旨述べた事実は認められるが,本件母が本件精子を搬送することをD 医師に申し入れたのは,本件父が生存中で,骨髄移植手術から順調に回復し,体外受精を再開しようと考えていた平成11年・月・ころであると認められ,本件母が,その後,ことさらに,D 医師に対し,本件父の死亡の事実を隠していたと認めるに足りる証拠はない。 現在,法制審議会等で,上記のような場合の同意の形式等について議論がされているが,現行法上,事実上の父の死後に懐胎した子の認知の訴えが認められる要件としての父の同意の有無の判断とは関係がない。本件においては,上記のとおり,本 て議論がされているが,現行法上,事実上の父の死後に懐胎した子の認知の訴えが認められる要件としての父の同意の有無の判断とは関係がない。本件においては,上記のとおり,本件母による控訴人の懐胎につき,本件父の同意があったと認めるのが相当である。 第4 結論以上のとおりであって,控訴人の本件請求は理由がある。 よって,上記と結論を異にする原判決は失当であるからこれを取り消し,控訴人の本件請求を認容し,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官松本信弘裁判官吉田肇裁判官種村好子) (別紙)亡B本籍・・・・・・・・・・・・・・
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