主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求の趣旨 1 第1次訴訟(1) 被告は,原告番号1番ないし59番の各原告に対し,別紙請求債権目録の「請求金額」欄記載の金員及びうち同目録①欄記載の金員に対する平成14年9月25日から,②欄記載の金員に対する平成15年3月25日から,③欄記載の金員に対する同年9月23日から,④欄記載の金員に対する平成16年3月23日から,⑤欄記載の金員に対する同年9月22日から,⑥欄記載の金員に対する平成17年3月23日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。 (2) 被告は,原告番号60番ないし75番の各原告に対し,別紙請求債権目録の「請求金額」欄記載の金員及びうち同目録②欄記載の金員に対する平成15年3月25日から,③欄記載の金員に対する同年9月23日から,④欄記載の金員に対する平成16年3月23日から,⑤欄記載の金員に対する同年9月22日から,⑥欄記載の金員に対する平成17年3月23日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。 2 第2次訴訟被告は,原告番号76番及び78番ないし80番の各原告に対し,別紙請求債権目録の「請求金額」欄記載の金員及びうち同目録③欄記載の金員に対する平成15年9月23日から,④欄記載の金員に対する平成16年3月23日から,⑤欄記載の金員に対する同年9月22日から,⑥欄記載の金員に対する平成17年3月23日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。 3 第3次訴訟被告は,原告番号81番ないし92番の各原告に対し,別紙請求債権目録の「請求金額」欄記載の金員及びうち同目録④欄記載の金員に れ支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。 3 第3次訴訟被告は,原告番号81番ないし92番の各原告に対し,別紙請求債権目録の「請求金額」欄記載の金員及びうち同目録④欄記載の金員に対する平成16年3月23日から,⑤欄記載の金員に対する同年9月22日から,⑥欄記載の金員に対する平成17年3月23日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。 4 第4次訴訟(1) 被告は,原告番号93番及び94番の各原告に対し,別紙請求債権目録の「請求金額」欄記載の金員及びうち同目録①欄記載の金員に対する平成14年9月25日から,②欄記載の金員に対する平成15年3月25日から,③欄記載の金員に対する同年9月23日から,④欄記載の金員に対する平成16年3月23日から,⑤欄記載の金員に対する同年9月22日から,⑥欄記載の金員に対する平成17年3月23日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。 (2) 被告は,原告番号95番の原告に対し,別紙請求債権目録の「請求金額」欄記載の金員及びうち同目録②欄記載の金員に対する平成15年3月25日から,③欄記載の金員に対する同年9月23日から,④欄記載の金員に対する平成16年3月23日から,⑤欄記載の金員に対する同年9月22日から,⑥欄記載の金員に対する平成17年3月23日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 5 第5次訴訟被告は,原告番号96番の原告に対し,別紙請求債権目録の「請求金額」欄記載の金員及びうち同目録③欄記載の金員に対する平成15年9月23日から,④欄記載の金員に対する平成16年3月23日から,⑤欄記載の金員に対する同年9月22日から,⑥欄記載の金員に対する平成17年3月23日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 日から,④欄記載の金員に対する平成16年3月23日から,⑤欄記載の金員に対する同年9月22日から,⑥欄記載の金員に対する平成17年3月23日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 6 第6次訴訟(1) 被告は,原告番号97番の原告に対し,別紙請求債権目録の「請求金額」欄記載の金員及びうち同目録①欄記載の金員に対する平成14年9月25日から,②欄記載の金員に対する平成15年3月25日から,③欄記載の金員に対する同年9月23日から,④欄記載の金員に対する平成16年3月23日から,⑤欄記載の金員に対する同年9月22日から,⑥欄記載の金員に対する平成17年3月23日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 被告は,原告番号98番ないし104番の各原告に対し,別紙請求債権目録の「請求金額」欄記載の金員及びうち同目録⑤欄記載の金員に対する平成16年9月22日から,⑥欄記載の金員に対する平成17年3月23日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。 7 第7次訴訟被告は,原告番号105番及び106番の各原告に対し,別紙請求債権目録の「請求金額」欄記載の金員及びこれに対する平成17年3月23日から支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。 第2 事実関係Ⅰ 事案の概要原告らは,被告又はそのグループ会社の元従業員であって,その退職にあたり,被告との間で,退職金を原資として年金契約を締結したものである。被告は,上記契約の締結後,原告らに対して支給する年金の給付利率を引き下げる決定をし,その決定に基づいて,従来より少額の年金を原告らに支給した。本件は,被告がした上記の決定が原告らとの間で効力を生じないとして,原告らが,被告に対し,引下げがなければ各支給日に支給されたであろう金額と その決定に基づいて,従来より少額の年金を原告らに支給した。本件は,被告がした上記の決定が原告らとの間で効力を生じないとして,原告らが,被告に対し,引下げがなければ各支給日に支給されたであろう金額と,各支給日に実際に支給された金額との差額の支払を求めたものである。なお,遅延損害金の起算日は各支給日の翌日である。 Ⅱ 前提となる事実(争いのない事実,括弧内に記載の書証により認められる事実) 1 当事者(1) 原告らは,いずれも被告又はそのグループ会社(以下「被告ら」という。)に永年勤務し,既に退職した者であり,被告との間で,被告の福祉年金制度(以下「本件制度」という。)に基づく福祉年金契約(以下「本件契約」という。)を締結した者である。 (2) 被告は,電気,通信,電子及び照明機械器具の製造,販売等を業とする株式会社である。 2 本件制度の沿革,目的,被告の福祉年金の内容(1) 本件制度は,社員として永年勤務し退職した者の退職後の生活の安定を図る目的で,被告の創業者である松下幸之助が発案し,昭和41年1月21日に導入され,平成14年4月に現役従業員との関係では廃止された。(乙1の1ないし3,乙2,乙3の1)(2) 被告は,被告の制定した福祉年金規程(以下「本件規程」という。)に基づいて本件制度を運営しているところ,本件規程によると,被告の福祉年金(以下「本件福祉年金」という。)の内容は,以下のとおり,基本年金(以下「本件基本年金」という。)と終身年金(以下「本件終身年金」という。)である。(本件規程第4条)ア本件基本年金(本件規程第2章(第5条ないし第13条))被告らの退職者は,その希望により,被告の社員退職金規程に基づいて受け取った退職金(退職慰労金,退職加給金,特別慰労金を指すが,これらのうち年金原資となり得るのは,後記のとおり,規 し第13条))被告らの退職者は,その希望により,被告の社員退職金規程に基づいて受け取った退職金(退職慰労金,退職加給金,特別慰労金を指すが,これらのうち年金原資となり得るのは,後記のとおり,規程退職金とされる前二者の合計である。)の一部を年金原資として被告に預け入れ,被告は,その預入金に一定の利率(以下「給付利率」という。)による利息を付け,年2回ずつ,一定の支給期間,これを退職者に支給する。これが本件基本年金である。規程退職金以外に,本件基本年金の原資として予定されているものはなかった。本件基本年金は,預入金とこれに対する支給期間中の利息とを合算した額をもとにして,支給期間中の各支給日における支給額が均等になるように計算されており,被告は,これを,毎年3月21日と9月21日(ただし,その日が公休日である場合には翌日が支給日となる。)の年2回支給する。なお,3月21日支給分は前年9月21日から当年3月20日までの半期分として,9月21日支給分は当年3月21日から9月20日までの半期分としてそれぞれ支給される取扱いとなっている。(甲1,甲6)イ本件終身年金(本件規程第3章(第14条,第15条))本件基本年金の受給が完了した後,受給者が死亡するまでの間は,たとえ預入金がなくなっても,本件基本年金の最終支給日における支給額と同額を1回の支給額として本件終身年金が支給される。 (3) 本件規程の23条1項は「将来,経済情勢もしくは社会保障制度に大巾(以下「大幅」と表記する。)な変動があった場合,あるいは法制面での規制措置により必要が生じた場合は,この規程の全般的な改定または廃止を行う。」と,同条2項は「この規程の改廃は社長が行う。」とそれぞれ規定している(以下「本件改廃規定」という。)。本件改廃規定は,昭和41年の本件規程制定時から存在 ,この規程の全般的な改定または廃止を行う。」と,同条2項は「この規程の改廃は社長が行う。」とそれぞれ規定している(以下「本件改廃規定」という。)。本件改廃規定は,昭和41年の本件規程制定時から存在し,2項が「この規程は社長が改廃する」から「この規程の改廃は社長が行う」に変更された外は,その内容に変更はない。(乙19の5) 3 原告らに対して支給されていた年金(1) 原告らに対して支給される規程退職金(退職慰労金及び退職加給金)の合計額のうち,50%相当額が松下電器厚生年金基金(昭和53年6月に設立された。以下「被告厚生年金基金」という。乙12)から,残りが被告からそれぞれ支給された。被告厚生年金基金からの支給分は,退職予定者の希望により,その全部又は一部を年金形式で受給することができるところ,この年金が下記の被告厚生年金基金の加算年金(以下「本件加算年金」という。)に当たり,一時金形式で受給する部分が被告厚生年金基金の選択一時金といわれるものであった。他方で,被告から支給される規程退職金(規程退職金の残り50%相当額)と選択一時金の合計額の中から被告に預け入れられた金員を原資とする年金が本件基本年金であった。(甲6)(2) 原告らに対して支給され得る年金は,①国から支給される老齢厚生年金等の他に,②被告厚生年金基金から終身年金として支給される基本年金(国の老齢厚生年金の代行部分である。),③規程退職金合計の50%を限度に年金原資とし,昭和53年から昭和59年9月までは給付利率年5.5%で15年保証の終身年金として,同年10月から平成12年3月までは給付利率年7.5%で20年保証の終身年金として,被告厚生年金基金からそれぞれ支給される本件加算年金,④本件制度に基づいて被告から支給される本件福祉年金である。 なお,本件制度においては,制度が導入 は給付利率年7.5%で20年保証の終身年金として,被告厚生年金基金からそれぞれ支給される本件加算年金,④本件制度に基づいて被告から支給される本件福祉年金である。 なお,本件制度においては,制度が導入された昭和41年から昭和59年9月30日までは,規程退職金の70%ないし100%を年金原資とすることができたので,被告厚生年金基金が設立されてから昭和59年9月30日までの間は,退職者の希望により,預入限度額の範囲内で,自由に本件制度と本件加算年金制度を利用することができた。昭和59年10月1日以降は,本件制度の預入限度額が,段階的に規程退職金の50%以内かつ2000万円以内とされたので,退職者は,規程退職金の50%を本件基本年金の原資とし,残りの50%を本件加算年金の原資とすることができることとなった。平成11年3月21日以降は,本件制度の預入限度額が,規程退職金の50%以内かつ1800万円以内に変更されるとともに,本件契約を締結するためには,本件加算年金を100%年金選択することが前提とされることとなった。 (乙3の3ないし5)(3) 原告らと被告との間においては,それぞれ,別紙一覧表の「①年金証書」欄,「②契約年金額」欄,「③支給期間」欄に記載された内容の本件契約が成立しており,各原告には,各支給日に本件契約に基づき同一覧表の「②契約年金額半期支給額」欄記載の金額の本件基本年金が支給されていた。 4 給付利率の引下げによる本件基本年金の減額支給(1) 本件基本年金の給付利率(以下「本件給付利率」という。)は,昭和41年の本件制度導入当時は年10%であったが,平成8年4月1日,労使合意により,平成9年3月21日以降の退職者については年9.5%,平成10年3月21日以降の退職者については年8.5%,平成11年3月21日以降の退職者については %であったが,平成8年4月1日,労使合意により,平成9年3月21日以降の退職者については年9.5%,平成10年3月21日以降の退職者については年8.5%,平成11年3月21日以降の退職者については年7.5%とする旨の改定がされた。 (2) 被告は,原告らを含む既受給者(一部の既受給者については経過措置(以下「本件経過措置」という。)を設けたことから,経過措置の対象となった既受給者は除く。)について,平成14年9月21日の支給分(同年3月21日から9月20日までの半期分)から,従来の本件給付利率を一律2%引き下げた(以下「本件利率改定」という。)。その結果,原告らに適用される本件給付利率は,5.5%ないし8%となった。 (3) 本件経過措置の内容は,満60歳未満で退職した既受給者については満60歳到達後の最初の支給分から本件利率改定後の本件給付利率を適用し,平成13年9月21日以降に退職した本件利率改定の直近の既受給者については,少なくとも1度は本件利率改定前の本件給付利率による本件基本年金を支給することにし,いずれにも該当する場合にはどちらか遅い新年金額の支給日から,本件利率改定後の本件給付利率を適用するというものであった。(乙59)(4) 被告は,原告らに対し,平成14年9月ころ,本件利率改定により2%引き下げた本件給付利率に基づく福祉年金証書(以下「本件証書」という。)と「福祉年金年金額改定のご通知」という文書を送付した。(乙21の1ないし5,乙55)(5) 本件利率改定による支給額の差額各原告についての,本件利率改定がなければ各支給日に支給されたであろう金額と,各支給日に実際に支給された金額との差額は,別紙請求債権目録の①ないし⑥欄にそれぞれ記載のとおりであり,平成17年3月23日支給分までのその合計額は,それぞれ別紙請求債権目録 給されたであろう金額と,各支給日に実際に支給された金額との差額は,別紙請求債権目録の①ないし⑥欄にそれぞれ記載のとおりであり,平成17年3月23日支給分までのその合計額は,それぞれ別紙請求債権目録の「請求金額」欄記載のとおりであるところ,被告は原告らに対しこれらをいずれも支給していない。 Ⅲ 本件利率改定が許されるかという点に関する当事者の主張(被告の主張) 1 結論本件改廃規定を含む本件規程は,本件契約の内容となっており原告らに対する拘束力を有するところ,本件では本件改廃規定に定める「経済情勢もしくは社会保障制度に大幅な変動」があった場合にあたり,本件給付利率を改定する必要性及び相当性が認められるから,本件利率改定は許されるというべきである。仮に本件改廃規定に基づく本件利率改定が許されないとしても,事情変更の原則により,本件利率改定は許されるというべきである。 2 本件制度の本質的特徴(1) 基本的視点被告と原告らを含む既受給者との本件制度をめぐる関係は,たとえこれが「契約」であるとしても,一対一の無関係な当事者同士がその意思に基づき一回的,非継続的に締結する,典型的,伝統的な契約の解釈がそのまま妥当するような「契約」であるという次元で理解してはならない。このような「制度的契約」においては,個別の加入者ごとに議論を展開することは公平を失するから妥当でなく,そのような解釈は認められない。本件で,被告と既受給者との間で結ばれる関係を「契約」というとしても,その実体は本件制度という「制度」への「加入」に他ならないから,このような制度のあり方を規定する本件規程は,「制度加入者と制度運営者との関係性を規律するもの」との視点で解釈されなければならない。すなわち,本件契約は広い意味での「契約」であることを否定できないとしても,被告がその り方を規定する本件規程は,「制度加入者と制度運営者との関係性を規律するもの」との視点で解釈されなければならない。すなわち,本件契約は広い意味での「契約」であることを否定できないとしても,被告がその従業員のために実施する福利厚生制度としての年金制度であるために,そのような制度の本質的特徴が,不可避的に「契約」の内容に影響を及ぼすのである。 (2) 本件制度が被告の従業員に対する福利厚生制度であることア本件福祉年金は,被告がその従業員のために実施する福利厚生制度の一環であるから,もともと集団的,集合的な運用が予定されており,加入に際して従業員を一律に取り扱うべきことはもちろん,退職者である既受給者の間においてもできる限り公平に取り扱う必要がある(集団性・画一性)。 イ集団的,画一的な取扱いの要請は,従業員の加入資格取得時期(定年もしくは定年扱い到達時期)のわずかな相違による既受給者間の不均衡を可及的に回避すべきことを要請し,また,過去と将来の定年退職者同士の間でも処遇のバランスが要求されるから,本件制度は,これがいったん定着した後は,少なくとも現在及び将来の加入者に不利益となる方向での改廃は,極めて抑制的かつ慎重にならざるを得ず,下方修正に対しては強い硬直性が認められる(制度的硬直性)。 ウ被告は,従業員の入社から定年までのみならず,定年後の生活に至るまでをも対象にした一連の手厚い福利厚生制度を設けており,本件制度はその象徴ともいいうること等からすると,従業員と既受給者との間でも処遇のバランスが要求されてしかるべきである(従業員と既受給者との連続性)。 (3) 本件制度が年金制度であることア本件制度は,年金制度であるから,当事者間の関係は長期間継続することが予定されているところ,その長期性ゆえに途中でやむを得ず内容を変更する事 との連続性)。 (3) 本件制度が年金制度であることア本件制度は,年金制度であるから,当事者間の関係は長期間継続することが予定されているところ,その長期性ゆえに途中でやむを得ず内容を変更する事態に至ることも容易に想定しうるところである(長期・継続的給付性)。 イ本件制度の内容が,受給者は全くリスクを負うことなく,市場金利を上回る利息部分を長年に渡って享受できるという点で,受給者に対して恩恵的(これは,給付の対価を具体的に観念できない無償性,福祉性を指している。)といってよいほどに有利な内容になっていることからすると,支給期間の途中における内容の変更がやむを得ないのはなおさらである(恩恵的給付性)。 3 本件規程の拘束力(1) 本件規程の拘束力が認められるための要件ア内容の合理性本件制度への加入者は,加入者ごとに個別に被告と交渉して,その規程内容を改変したり,特約を付したりすることは予定されておらず,またそのようなことは一切許されない。本件制度において加入者は,画一的な制度内容を全面的に受け入れてこれに加入するか,これを拒絶して加入しないかの二者択一しか選択肢を有しない。すなわち,本件契約は被告とその退職者間で締結される,契約締結の相手方選択の自由や交渉による契約内容の変更の自由がいずれも認められない特殊な契約であるから,伝統的な契約理論に則って,契約内容を開示することにより,契約当事者に相手方選択の機会や交渉の機会を担保する必要はない。 したがって,本件制度への加入については,本件制度運営上の規程(本件規程)に従うとの意思を認めることができ,仮に当該規程があるならば,およそ本件制度への加入はしなかったということができるような事情(当該規程が不合理な場合が典型的と考えられる。)があれば格別,そうでない限り,本件規程はすべての加 とができ,仮に当該規程があるならば,およそ本件制度への加入はしなかったということができるような事情(当該規程が不合理な場合が典型的と考えられる。)があれば格別,そうでない限り,本件規程はすべての加入者(既受給者)に対して拘束力を有すると解すべきである。 そうであるとすると,本件規程を既受給者に開示する意味は極めて乏しく,本件規程の内容に対する各既受給者の認識や同意を要求するのは現実的でないし,また意味を有するとも考えられない。むしろ,本件規程に拘束力を認めるためには,内容の合理性こそが最も重要というべきである。 イ約款との類似性様々な取引契約において用いられている約款は,たとえ詳細な内容を認識していなくても,当事者に約款によって契約するという意思があり,かつ,必要があれば内容をチェックできるように約款内容が開示されていれば,拘束力が肯定されている。その根拠は,約款に基づく取引の画一的,統一的な処理の要請に求めることができるところ,このような画一的,統一的処理という点においては,本件契約についても同様の要請がある。もっとも,本件規程は,取引的契約を律する単なる約款にとどまらず,本来的には法律上の制度として運営されるべき社会保障的給付を私的契約により提供する本件制度を規律するものである。この点で,本件契約は,単なる契約とは大きく異なる本件制度への加入契約としての性格を有している。このような契約において個別の当事者の意思を問題とすることは,約款による取引のようにそれが事実上困難であるというにとどまらず,容認しがたい不平等,不公正を生み出すのでむしろ許されるべきではないのである。この場合,個々の既受給者が現実に本件規程を認識していたか否かを検討し,かつその認識内容いかんによって本件規程の拘束力の有無を判断するのは妥当ではなく,本件規程が一企業 されるべきではないのである。この場合,個々の既受給者が現実に本件規程を認識していたか否かを検討し,かつその認識内容いかんによって本件規程の拘束力の有無を判断するのは妥当ではなく,本件規程が一企業内の福祉制度を定めるものとして合理性を有する範囲では,制度に加入する意思が認められる以上,個々の既受給者に対して一律に拘束力を認めてよいというべきである。そして,このような規程の合理性は,それが制定あるいは改定されたときにどのような手続が履践されたかを重視して評価すべきである。したがって,本件規程については,一般の契約などと比べると,開示の持つ意味は遙かに軽く,加入希望者が内容を知り得る状態に置かれれば足りると解すべきである。 ウ就業規則との類似性加えて,本件規程が就業規則と類似性を有していると考えられることからすると,判例が,就業規則について,その内容が合理的である限り,個別労働者の認識や同意を問わずに,労働契約の内容となることを認め,さらには,就業規則の不利益変更法理として,いったん労働契約の内容となったはずの就業規則を,使用者が個別の労働者の同意を得ることなく,労働者の不利益に変更することを認めた考え方は,本件規程にも妥当するというべきである。すなわち,就業規則に関する上記判例の考え方は,法令上の明文がなくとも,一方当事者の集団性や画一的取扱いの必要性,関係の長期継続性等の観点から,一定の場合に個別の当事者の意思を問わずに契約の拘束力を及ぼすことや,一方当事者の同意を得ることなくして,当該当事者の不利益に変更することも認められ得ることを示唆しているところ,上記のとおり,本件規程と就業規則とが類似性を有していることからすると,本件制度への加入意思を疑う余地のない個々の既受給者に対し,本件規程の内容が合理的である限り,各既受給者の現実の認 ているところ,上記のとおり,本件規程と就業規則とが類似性を有していることからすると,本件制度への加入意思を疑う余地のない個々の既受給者に対し,本件規程の内容が合理的である限り,各既受給者の現実の認識や同意の有無を問わず,一律に拘束力を認めてよいというべきである。 エ認識可能性,アクセス可能性本件規程の内容を従業員や既受給者が知り得る状態にない場合には,既受給者の本件制度への加入意思に,本件制度運営上の規程(本件規程)に従うとの意思まで認めてよいかとの疑念もあり得るので,従業員や既受給者において,本件規程の存在に対する認識可能性があり,かつ,本件規程へのアクセス可能性があることが必要というべきである。 (2) 本件への適用ア本件改廃規定は本件制度の制度変更の余地を明示したものであるが,先に述べた本件制度の本質的特徴に合致する合理的な規定である。 イ本件制度が導入された際も,その後の実質的内容に関わる数次の改定がされた際も,いずれも労使間の協議がされ,両者の合意の下で改定が行われている。すなわち,本件規程は,その制定時から今日まで,一貫して従業員の代表者との協議とその同意を経つつ維持されている。したがって,本件規程の制定時,改定時の手続については,手続的な合理性がある。 ウ福祉年金受給申込書(以下「本件申込書」という。)には「貴社の福祉年金規程を了承の上」との文言が記載されていたことから,退職予定者は本件規程の存在自体を認識できたはずである。また,そもそも,本件制度の存在は,被告の従業員にとって周知の事実であるところ,多数の退職予定者を画一的,公平に取り扱うためには,統一基準としての規定を設ける必要があり,この規定に基づいて制度が運営されるのは当然のことであるうえ,被告は,従業員に対する各種説明会等で本件規程の内容にそった本件制度 一的,公平に取り扱うためには,統一基準としての規定を設ける必要があり,この規定に基づいて制度が運営されるのは当然のことであるうえ,被告は,従業員に対する各種説明会等で本件規程の内容にそった本件制度の概要を繰り返し説明していたのであるから,定年に至るまで被告に永年勤務した退職予定者においては特に,本件制度にその運営の基礎となるべき本件規程が存在することを容易に想起できたはずである。さらに,本件制度の改定に関する労使協議による協定書(乙20)にも「なお,条文については,別途整備するものとする。」との文言が記載されていたことからすると,本件制度に統一基準としての本件規程が存在すること自体は,被告の従業員において認識可能であったはずである。 エ被告は,本件規程を,本件制度が開始された昭和41年から昭和58年末までは本社総務部,本社人事本部人事二部(昭和48年以降「労政部」に名称変更),各事業場の人事担当部署に,昭和59年以降は本社労政部(平成13年以降「労政グループ」に名称変更)に備え置いていた。そして,被告の従業員(特に被告に永年勤務した定年退職予定者)にとって,福利厚生制度に関する問合せは自らが所属する事業場の人事担当部署にすべきことは常識であったのである。そうであるとすると,退職予定者は,人事担当部署に問合せをすることにより,本件規程を直接閲覧するか,又は写しを取り寄せて閲覧することが可能であったというべきである。 4 本件改廃規定の解釈指針(1) 本件改廃規定に基づく本件利率改定は,既に発生した既受給者の既得権益を一方的に不利益に変更するものであるが,労働契約上従業員に集団的,画一的に発生している既得権益を,一方的に不利益に変更するいわゆる就業規則の不利益変更との間で,その利益状況に大きな類似点を見出すことができる。そして,就業規則 のであるが,労働契約上従業員に集団的,画一的に発生している既得権益を,一方的に不利益に変更するいわゆる就業規則の不利益変更との間で,その利益状況に大きな類似点を見出すことができる。そして,就業規則の不利益変更が合理性のあるものとして許容される要件として,判例(最高裁判所第二小法廷平成9年2月28日判決・民集51巻2号705頁・第四銀行事件)は,①変更の必要性と,②変更の相当性(内容の相当性,手続の相当性)を挙げているところ,これらの要件は本件改廃規定に基づく本件利率改定においても斟酌されるべきである。 (2) 本件改廃規定が定める「経済情勢もしくは社会保障制度に大幅な変動があった場合」との要件については,比較の基準時の特定が必要とも思われる。しかし,前述した本件制度の本質的特徴からすると,既受給者の処遇は画一的,公平であることが要請され,また,本件福祉年金の既受給者は昭和41年から平成14年に至るまで継続的に発生しているのであるから,いずれかの時点を特定して,事情の比較を行うことは許されないし,また不合理であるというべきである。そうであるとすると,上記要件については,制度変更が必要な程度に経済情勢や社会保障制度が変動したということができれば足りると解すべきである。 (3) 本件改廃規定が定める本件制度の改廃についての要件は,規程変更の必要性について,特に経済情勢や社会保障制度の変動を重視して判断すべきことを示したものと理解することができ,そうである以上,上記要件は,単に客観的な経済情勢や社会保障制度が変動したということに止まらず,それが被告の経済状態に与えた影響をも含んだものというべきであり,社会保障制度の変動という点についても,その変動によって,被告における本件制度がいかなる影響を受けたのかが検討されなければならないというべきである。 済状態に与えた影響をも含んだものというべきであり,社会保障制度の変動という点についても,その変動によって,被告における本件制度がいかなる影響を受けたのかが検討されなければならないというべきである。 5 信義則,公序良俗,消費者契約法10条に反しない。 原告らは,本件改廃規定を既受給者にする給付利率引下げの根拠規定と解する場合には,本件改廃規定は信義則,公序良俗又は消費者契約法10条(又はその趣旨)に反して無効であると主張する。 しかし,本件改廃規定は,「経済情勢もしくは社会保障制度に大幅な変動があった場合」という明確かつ限定的な要件のもと,改定の必要性と相当性とがある場合にのみこれを許すものと解釈するのであるから,信義則,公序良俗又は消費者契約法10条に違反するものではない。 6 本件利率改定の必要性本件利率改定の必要性としては,まず,本件制度に関する被告の負担が年々増大していたこと,被告が未曾有の業績悪化という経済状態にあったことから,あらゆる局面において経費削減,負担の圧縮を図らざるを得なくなり,聖域なき改革が求められたことが挙げられる。また,本件給付利率の水準と世間一般の水準との乖離が大きくなり,その程度が,株主,現役従業員,関係取引先等の既受給者以外の利害関係人に対して説明可能なレベルを超え,社会的に容認されない水準まで達したと判断されたことも本件利率改定の要因である。上記の危機的な経済状態から脱却すべく,被告が様々な利害関係人に負担を迫っていたことからすれば,本件制度を既受給者についてのみ既得権益として保護することは,およそ是認されないと考えられたのである。とりわけ,本件福祉年金の既受給者と現役従業員との格差は看過できない程度に至っており,現役従業員との公平感の欠如は,被告の存続にとって重大な問題であった。その詳細は,以下のとおり えられたのである。とりわけ,本件福祉年金の既受給者と現役従業員との格差は看過できない程度に至っており,現役従業員との公平感の欠如は,被告の存続にとって重大な問題であった。その詳細は,以下のとおりである。 (1) 客観的な経済情勢,社会保障制度の変動,被告の経済状態,本件制度に与える影響ア客観的な経済情勢の変動市場金利,年金資産の運用利回りは,昭和60年以降,劇的に低下し続けている。 イ社会保障制度の変動近年,公的な社会保障制度が充実する一方で,規制緩和と法改正に伴って,予定利率や給付利率の引下げを行う厚生年金基金が続出し,解散に至るものも急増している。 ウ被告の経済状態,本件制度に与える影響上記のような低金利状況により,本件基本年金の利息相当分及び本件終身年金に関する被告及び現役従業員の負担が増大し,それが金額及び被告の純利益に占める割合の増加が顕著である。この間,被告の業績は悪化し,近年の落ち込みは激しい。他方で,公的な社会保障制度が次第に整備拡充されたのに伴い,本件制度からの受給金額の比重が年々低下してきている。 エ本件制度の変質本件制度は,その導入以来,既受給者において自ら退職金を運用するよりも有利な運用先としての機能を果たしていたが,昭和60年以降の経済情勢の劇的な変化に伴い,現実にはあり得ない運用益を,被告の企業活動で得られる利益(現役従業員の労務が生み出した利潤)により補填する制度へと変質し,しかもその補填幅は年々大きくなっている。このような状況下においては,本件制度は被告にとって経済的合理性を欠いた制度になってしまっている。 (2) 経済状態の改善のために被告の採った方策前記のような経済状態の中で,被告は,雇用,賃金,退職金,年金等の各種制度の見直しを余儀なくされ,労使で壮絶な議論を重ねた。具体的には,地域限定社員 。 (2) 経済状態の改善のために被告の採った方策前記のような経済状態の中で,被告は,雇用,賃金,退職金,年金等の各種制度の見直しを余儀なくされ,労使で壮絶な議論を重ねた。具体的には,地域限定社員制度の導入,特別ライフプラン支援の実施,全社特別緊急経営施策の実施,退職金制度・本件制度の抜本的見直し等を行った。 (3) なお,「変動」の比較の基準時を,本件各契約締結時であるとか,平成8年の労使合意時であるというように特定する解釈は適切でないが,仮に,平成8年以降に限っても,以下のとおり,経済情勢の変動,社会保障制度の変動のいずれもが認められる。 ア経済情勢の変動平成8年以降の中国を中心とするアジア諸国の台頭は,製造原価の低い電気製品が市場に多数流通してきたことを意味し,電気製品の著しい価格下落の要因となった。これにより,平成12年以降,日本の電子工業生産額は極端に減少し,被告もこのような経済情勢の大幅な変動に飲み込まれた。また,グローバル競争も激化し,例えば,平成6年以降,韓国のサムスン電子と被告との力関係が劇的に変化し,その差は年々広がる一方である。 イ社会保障制度の変動平成9年には,厚生年金基金の規制緩和がされた。すなわち,それまで予定利率が5.5%と一律であったのを弾力化し,予定利率を基金が決定することが認められたほか,それまでほとんど不可能であった給付水準の変更も,労使合意と認可を経ることで可能となった。また,平成13年には確定給付企業年金法が成立し,キャッシュバランスプランが新設される等した。さらに,平成8年ころを境に,厚生年金基金の解散数が急増し,給付額を減額する基金も出ている。なお,本件利率改定後ではあるが,平成15年には,国民年金,厚生年金の給付水準について,初めてマイナス物 た。さらに,平成8年ころを境に,厚生年金基金の解散数が急増し,給付額を減額する基金も出ている。なお,本件利率改定後ではあるが,平成15年には,国民年金,厚生年金の給付水準について,初めてマイナス物価スライドが実施され,前年である平成14年との比較で,0.9%給付水準が引き下げられている。 (4) 原告らの主張に対する反論ア原告らは,平成13年度における被告の経済状態の悪化は,計画的な経営政策に基づく一時的要因によるものと主張するが,被告は,同年度,特別損失の計上以前に営業損益において約929億円もの赤字を出していた。そして,平成12年以降,構造改革を実施しなければ,被告の損益は,平成13年度のみならず,その後も現在に至るまで営業赤字が継続していたと想定される。 イ本件福祉年金の利息相当分を填補するために必要なのは現金であるところ,原告らが指摘する貸借対照表上の純資産額や利益剰余金は,実際にそのような金額の現金が被告にあることを意味しないから,これらの多寡を持ち出しても正しい財務状態の把握とはいえない。本件福祉年金の給付利率を維持するために被告が負わなければならない負担の程度は,その原資となるべき実質資金(現預金から社債,借入金,諸預り金を控除した,被告が実質的に使用することができる金融資産のことをいう。)との相関関係で検討すべきである。 この点につき,被告の実質資金は,平成12年度には前年度の1168億円から966億円も減少して202億円となり,被告の規模の企業にとっては危機ラインというべき水準にまで低下していた。そして,平成13年度にはそこからさらに2341億円減少して2139億円ものマイナスを計上することになった。また,連結ベースでは,平成11年度以来マイナスが続く惨状であった。 なお, た。そして,平成13年度にはそこからさらに2341億円減少して2139億円ものマイナスを計上することになった。また,連結ベースでは,平成11年度以来マイナスが続く惨状であった。 なお,付言するに,平成11年以降,被告の信用格付けは急激な下方トレンドにあった。例えば,スタンダード&プアーズによる格付けは,それが投資不適格とされるBB(ダブルB)以下になった場合には,基本的に社債発行が困難となり,少額の社債発行が可能な場合であっても相当な金利の上乗せが必要となるので,資金調達に深刻な影響を及ぼすところ,被告の格付けは平成14年に引き下げられ,被告が構造改革を断行し,収益力の回復を目に見える形で実践しなければ,格付けの下方トレンドに一層拍車がかかったものと想定された。 ウ原告らは,本件利率改定による経費削減効果のみを取り上げ,被告が巨大な企業であることとの単純な規模の比較を行い,ごく短期的な考察により,本件利率改定をしなかった場合とした場合との被告負担額の差額は,経費削減により十分吸収可能であるとして,本件利率改定の必要性を否定する。しかし,規模の大きさは,何ら経営危機と無縁であることを意味しないし,被告は聖域なき構造改革なくして生き残ることはできなかったのであるから,このような単純な規模の比較や短期的な考察は,本件利率改定の必要性の検討としては公正さを欠くというべきである。 エ原告らは,被告の業績はV字回復をしており,業績の悪化は一時的なものにすぎないと主張するが,前記のとおり,平成13年度ころの被告の業績悪化は単なる一過性のものではなく,被告の体質により慢性化したものであり,大幅な抜本的構造改革なくしては,株式会社としての存続自体が危ぶまれたのであるから,そのような評価は適切でない。例えば,近年,市場で重要視 過性のものではなく,被告の体質により慢性化したものであり,大幅な抜本的構造改革なくしては,株式会社としての存続自体が危ぶまれたのであるから,そのような評価は適切でない。例えば,近年,市場で重要視される経営指標であるROE(株主利益率)は,平成16年度実績でみても1.7%であって,上場企業(製造業)平均の8.5%を大きく下回っている。 7 本件利率改定の相当性(1) 内容的な相当性本件利率改定による年金額の減少について,原告らを例に見てみると,平成14年9月時点で,年額にして約17万円ないし約19万円,月額にして約1万4000円ないし1万6000円であって,既受給者全員の平均値では,年額にして約16万円,月額にして約1万3000円である。他方で,公的年金による受給を含めた年金受給総額を見てみると,相当高額を維持しており,世帯の平均消費支出の統計,被告の労務構成表,賃金センサスと比較しても,既受給者は1か月あたり何ら遜色のない金額の年金の支給を受けており,特段生活上の困難を招来しないということができる。また,被告と並ぶ規模,類似業種の他企業における年金制度と比較すると,本件利率改定後においてもなお,本件制度をはじめとする被告の年金制度が,退職者にとって極めて有利なものであることは明らかである。 (2) 手続的な相当性ア前記のとおり,被告は,平成14年4月から,被告社長名,副社長名などによる6通以上の書簡,全国35地区で行われた松愛会定期支部総会後の会社説明会,全国延べ81地区における事業場別説明会,フリーダイヤル設置による個別説明等を通じ,原告らを含む本件福祉年金の既受給者に対し,本件利率改定について説明し,理解を求めてきた。また,本件利率改定の直近の退職者に配慮して,本件経過措置を設けた。その結果,約1万7000人の既受給者のうち 告らを含む本件福祉年金の既受給者に対し,本件利率改定について説明し,理解を求めてきた。また,本件利率改定の直近の退職者に配慮して,本件経過措置を設けた。その結果,約1万7000人の既受給者のうち約95%の既受給者が本件利率改定に同意した。この点,民間企業の企業年金制度として広く導入されている厚生年金基金では,利率の変更など給付設計の変更にあたって,全既受給者の3分の2以上の同意を得ていることが認可基準の重要な要件の1つとされているところ,本件利率改定に対する既受給者の同意は3分の2をはるかに上回っている。 イ原告らは,就業規則の不利益変更においては,変更過程,具体的には労働組合との合意が重視されているところ,本件利率改定に際しては,既受給者には労働組合も利益代表者も存在しないから,本件利率改定は,手続的な相当性を欠いているかのように主張する。しかし,労働組合のない会社でも就業規則の不利益変更は当然に行い得るのであって,その場合には,会社が従業員集団の意向を汲み上げ,従業員が不利益変更に同意しているのか反対しているのかを検討すればよいとされている。本件において,被告は,上記のとおり既受給者の意向を汲み上げる努力を鋭意行っているのであり,その結果として95%もの同意を得たのであるから,相当な手続を踏んだものと評価することができる。 8 事情変更の原則による本件利率改定事情変更の原則は,客観的にみて事情の変更が信義衡平上当事者を該契約によって拘束することが著しく不当である場合に認められるべきであるとされている(最高裁判所第二小法廷昭和29年2月12日判決・民集8巻2号448頁)。そして,その効果は,事情変更の原則が「元来正当に発生した法律関係につき後発的事情のために生じた不衡平な結果を排除することを目的とする規範であるから,第一次的にはなる 日判決・民集8巻2号448頁)。そして,その効果は,事情変更の原則が「元来正当に発生した法律関係につき後発的事情のために生じた不衡平な結果を排除することを目的とする規範であるから,第一次的にはなるべく当初の法律関係を存続させ,ただその効果につき内容の変更を主張する権利を認める程度にとどめ,これに対して相手方が拒絶する等この方法ではなお不衡平な結果を除去することができない場合に初めて第二次的に当初の法律関係全体を解除する権利等を認めてこれを解消させうるものと解すべき」(神戸地方裁判所伊丹支部昭和63年12月26日判決・判例時報1319号139頁等)とされている。 本件利率改定においては,前記のとおり,経済情勢,社会保障制度に関する事情の変更があり,少なくとも本件給付利率を2%引き下げるという本件利率改定の効果を認める程度の事情の変更があったと評価できるから,本件利率改定は事情変更の原則によっても,その正当性が認められるべきである。 (原告らの主張) 1 結論「契約は守られなければならない。」というのは,近代法の基本原則である。本件契約は,本件福祉年金の受給を希望する被告らの従業員が,退職に際し,退職金を年金原資として預入限度額の範囲内で預入額を決定し,それを被告が預かり,契約締結時に定まった給付利率で計算された金額を定額の年金の形式で一定期間支給することを内容とするものである。本件契約は,このように各原告と被告との間で個別に成立した契約であり,被告が主張するような「制度」への「加入」ではない。したがって,契約理論によれば,本件利率改定が許されるためには既受給者である各原告の個別の同意が必要であるところ,本件利率改定について各原告の個別の同意がないのであるから,本件利率改定により本件給付利率を改定することは許されない。本件利率改 許されるためには既受給者である各原告の個別の同意が必要であるところ,本件利率改定について各原告の個別の同意がないのであるから,本件利率改定により本件給付利率を改定することは許されない。本件利率改定に先立ち,被告が既受給者の個別同意を求め,当初の回答期間を延長してまで,既受給者の個別同意を得ようとしていたことからしても,本件改廃規定による本件利率改定が許されないことを被告自身が認識していたことは明らかである。 2 本件規程は被告の事務処理上の内部準則にすぎず,本件契約の内容とはならない。 本件規程は,約款や就業規則のように契約内容となりうる性格のものではなく,単に,被告が大量の福祉年金契約を統一的・画一的に処理するための内部準則にすぎない。これは,(1)本件規程の存在が周知されていなかったこと(本件規程の備置きの事実を従業員に対して周知せず,従業員に配布した印刷物類にも,本件規程の内容はもちろん,本件規程の存在を示す記載すらなかった。),(2)本件規程が本件契約締結に際し交付されていないこと,(3)本件規程の原本の一部が不存在であること,(4)本件規程の改定は,そのほとんどが被告のみの判断によってされていること,(5)改定結果の記録も,本件規程の原本に手書きがされたものもあるなど,杜撰であることから,明らかである。 3 仮に,本件規程が一種の約款であるとしても,それが現実に本件契約の内容となるためには,以下のとおり,本件契約の締結に際し,受給申込者に対する個別の開示,告知が必要であるところ,本件では後記のとおり,受給申込者に対する個別の開示,告知はなかったのであるから,本件規程は本件契約の内容とはならない。 (1) 意思主義の原則を貫徹するならば,約款が現実に契約内容となるためには,契約当事者の一方が相手方に約款を示し,相手方は 告知はなかったのであるから,本件規程は本件契約の内容とはならない。 (1) 意思主義の原則を貫徹するならば,約款が現実に契約内容となるためには,契約当事者の一方が相手方に約款を示し,相手方は当該約款の各条項の内容を逐一確認し,了解することが必要となるはずである。ところが,もともと約款は,不特定,多数人との契約を前提としたものであり,個別の条項に対する了解がなければ約款が契約内容になることはないと解するならば,現実には約款による取引を行うことができなくなってしまう。このような現実のもとで,意思主義の要請を満たしたうえで約款を契約内容とするためには,「約款を契約に組み入れる合意」(「約款に従う意思」と言い換えることもできる。)が必要であり,その合意を認めるためには,前提として,契約締結に際し,約款が契約当事者に対し,個別に開示,告知されていなければならないのである。 被告は,本件契約が本来的には法律上の制度として運営されるべき社会保障給付を私的契約により提供する制度であること等を根拠として,本件契約が「制度」への「加入」に他ならないとし,制度運営上の規程である本件規程に従うとの意思を認めることができれば,本件規程が合理性を有する範囲で,本件規程は本件契約の内容となり,本件規程に従う意思を認めるには,本件規程の存在に対する認識可能性があり,かつ,本件規程へのアクセス可能性があれば足りると主張する。しかし,本件制度が公的社会保障制度を補完するものであるとしても,だからといって,本件制度運用の結果として被告と受給申込者との間で成立する本件契約が通常の契約と異なる契約であるという結論が導かれるわけではない。本件規程が現実に開示,告知されておらず,したがって,その存在も内容も知らされていないのであるから,本件規程の存在の認識可能性と本件 約が通常の契約と異なる契約であるという結論が導かれるわけではない。本件規程が現実に開示,告知されておらず,したがって,その存在も内容も知らされていないのであるから,本件規程の存在の認識可能性と本件規程へのアクセス可能性があるからといって,本件規程に従う意思が受給申込者にあるはずはない。 また,被告は,本件規程の合理性は,その制定時,改定時の手続の相当性を重視して評価すべきであり,一般の契約などと比べると開示の持つ意味は遙かに軽く,加入希望者が内容を知り得る状態に置かれれば足りると解すべきであると主張する。しかし,本来,開示,告知の要件と合理性の要件とは別個のものであり,規程の制定及び改定の手続は合理性の要件を基礎づけるものにしかなり得ないはずである。 (2) 原告らは,本件契約締結に際し,本件規程の開示,告知を受けていない。原告らのうち,平成11年4月以降に退職した74名に対しては,退職にあたり,参考資料としての本件規程(乙22,以下「本件参考規程」という。)が配布されているが,本件参考規程には「参考」と記載されており,本件規程の原本と完全に同じものではなく,また,本件参考規程によっては各自の年金額の計算ができず,給付利率改定の処理もできないのであるから,本件参考規程は参考資料にとどまるもので,その配付をもって本件規程の配布と同等に扱うことは到底できないのはもちろんのこと,これをもって,上記原告らが本件規程に従う意思を有して本件契約を締結したものと解することもできない。 (3) 原告らの在職時に原告らに配布された印刷物類には,本件制度の概要や本件契約内容の基本的事項についての記載はあったが,本件規程の内容自体が記載されていたことはなく,本件規程の存在を示す記載もなかった。それは,各事業場において実施される退職予定者に対する説明会に や本件契約内容の基本的事項についての記載はあったが,本件規程の内容自体が記載されていたことはなく,本件規程の存在を示す記載もなかった。それは,各事業場において実施される退職予定者に対する説明会においても同様であり,その場で配布された「定年ご退職にあたって」と題するテキストには,本件福祉年金の年金額及び申込手続に関する記載がされているのみで,本件規程の存在を窺わせる記載はなかったのであるから,本件規程の存在について,原告らに認識可能性はなかった。また,本件規程の存在について認識可能性があったというためには,本件契約の申込みの誘引から申込みに至るまでの過程において,本件規程が存在し,本件規程に基づいて本件契約を締結するものであることを,被告において客観的かつ明白に示したといえる行為が必要であるが,そのような行為はなかった。なお,本件申込書には,「私は,貴社の福祉年金規程を了承の上,下記により福祉年金の受給を申し込みます。」との文言が記載されている。 しかし,上記文言は不動文字として印刷されており,本件申込書の記載上,重要なものとしての位置づけは全くされておらず,指摘されて,そのような記載があったことに気づく程度である。また,前記のとおり,本件規程の周知も本件契約締結に際しての開示,告知もないもとでは,規程の了承という実態もなく,そうであるとすると,上記文言が予め印刷されていたからといって,退職予定者において本件契約の内容となる本件規程の存在の認識可能性があったということはできない。 (4) 本件規程の内容についてアクセス可能性があるというためには,少なくとも,本件規程がどこに保管されており,どのような手続を経ることによって本件規程の閲覧又は入手ができるのかが明示され,告知されていることが求められるというべきである。ところが,被告が原告らに対し くとも,本件規程がどこに保管されており,どのような手続を経ることによって本件規程の閲覧又は入手ができるのかが明示され,告知されていることが求められるというべきである。ところが,被告が原告らに対し,そのような明示,告知をしたことはないのであるから,原告らに,本件規程の内容についてのアクセス可能性はなかった。 (5) 本件規程の制定時,改定時に労使協議がされて合意に達したのは,預入限度額,適用利率,支給期間等年金支給に関する基本的事項についてだけであって,本件改廃規定の制定,それを根拠に既受給者に対して支給期間中に本件給付利率の引下げがあり得ることなどが労使協議の対象になったことすらない。そのことは,労働組合が本件制度に関する到達点をまとめた文書に,本件規程の全文が掲載されず,支給に関する基本的事項のみが示されていることからも明らかである。このように,本件規程については,その合理性を担保するための手続的要件も履践されていないのであるから,この点からみても,本件規程が本件契約の内容となることはない。 4 被告は,本件規程が就業規則と類似性を有すると主張するが,以下のとおり,本件規程が就業規則と類似性を有するとする根拠は全くない。 (1) 就業規則が規律する雇用契約と,被告の主張によれば本件規程が規律するとされる本件契約との間には何ら類似性はない。労働契約においては,従業員は日々継続的に雇主に対して労務を提供し,雇主はこれに対する対価として従業員に対し賃金を支払うというのが基本的な関係であるのに対し,本件契約においては,既受給者の債務の履行は退職金の一部預入れで終了しており,あとは被告から既受給者に対して年金を支給する義務が継続的に残っているのみである。そして,契約関係の内容はもっぱら金銭のやりとりのみである。また,就業規則は,労 は退職金の一部預入れで終了しており,あとは被告から既受給者に対して年金を支給する義務が継続的に残っているのみである。そして,契約関係の内容はもっぱら金銭のやりとりのみである。また,就業規則は,労働力の円滑かつ合理的活用を目的として,職場秩序を規律する職場規範であるのに対し,本件規程にそのような要素は全くない。 (2) 就業規則は,労働基準法に明文の根拠を有しており,その作成・届出義務(89条),作成・変更についての意見聴取義務(90条),備付け等の周知義務(106条1項),義務違反に対する罰金(120条)など法律による規制が及んでいるのに対し,本件規程についてはこのような規制は一切ない。 (3) 就業規則については使用者に周知義務が課されていて,判例(最高裁判所第二小法廷平成15年10月10日判決・判時1840号144頁)も,就業規則が拘束力を有するためには,その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要するとしており,周知の方法としては,労働基準法上,掲示,備付け,交付等とされている(106条1項)が,本件規程について,このような周知手続が採られた事実はない。 5 本件改廃規定は,以下のとおり,既受給者の権利内容を変更することを予定した規程ではなく,したがって,本件改廃規定によって本件利率改定をすることはできない。 (1) 本件改廃規定の文言からすると,本件改廃規定は,既受給者との関係での本件契約の改定又は廃止を問題としているのではなく,将来の退職者との関係で本件規程自体の改定又は廃止を問題にしているに止まると解すべきである。すなわち,本件改廃規定は,規定の文言上,既受給者との関係で本件契約の内容を変更すること(給付利率の引下げを含む。)を予定しておらず,既受給者の給付利率を引き下げるための根拠規 まると解すべきである。すなわち,本件改廃規定は,規定の文言上,既受給者との関係で本件契約の内容を変更すること(給付利率の引下げを含む。)を予定しておらず,既受給者の給付利率を引き下げるための根拠規定たり得ないのである。 また,本件規程のうち,原本が現存する最新のものである平成12年4月1日改定のものを例にとれば,本件改廃規定は,附則として取り扱われている。附則とは,用語の示すとおり,本件規程の本文に付随するものにすぎないのであって,その形式に鑑みても,既受給者との関係で本件契約の内容を変更することを予定しているものと解することはできない。 (2) 本件福祉年金の未受給者(現役従業員)は,本件福祉年金について期待を有しているにすぎないから,未受給者(現役従業員)との関係で給付利率の引下げを行うことはもとより,本件制度の全般的な改定又は廃止を行うことにも何ら支障はない。しかし,既受給者との関係においては,本件規程の改廃を行ったとしても,本件契約内容の変更は許されない。すなわち,各原告の被告に対する年金請求権は支給総額を含め確定的に発生しており,その支払について履行期限が付されているにすぎないのであって,このような原告らに対し,本件規程の全般的な改定又は廃止によって,本件契約の内容の変更の効力を認めることは,契約法理に照らして不可能である。 (3) 本件改廃規定の文言からすると,支給期間途中に既受給者の同意なくして給付利率の引下げができることは何ら明らかではなく,その要件,効果も不明確である。このような不明確な規定によって,本件利率改定を行い,既受給者において既に発生している権利を消滅させることは許されない。 6 仮に,本件改廃規定が本件利率改定の根拠規定となり得るのであれば,支給期間中の本件給付利率の引下げは,本件契約の締結時に合意した給付利率を いて既に発生している権利を消滅させることは許されない。 6 仮に,本件改廃規定が本件利率改定の根拠規定となり得るのであれば,支給期間中の本件給付利率の引下げは,本件契約の締結時に合意した給付利率を引き下げるという点で,契約法理の例外であり,既受給者にとっては一方的に不利益な規定ということになる。このように,既受給者にとって一方的に不利益な規定が本件契約の内容となるためには,単なる開示,告知では足りず,実質的,直接的な告知が必要と解すべきである。すなわち,約款が契約内容となるための要件としての開示,告知は,通常は,約款の交付で足り,個別条項の逐一の説明まで要求されているわけではない。しかし,一方的に不利益な条項がある場合に,その条項に何ら注意を喚起することなく契約を締結し,その後,当該不利益条項を根拠にして不利益を及ぼすとすると,それはまさに不意打ちとなる。そこで,このような不意打ちを許さないためには,一方的に不利益な条項については,その意味内容を十分認識させるために,特に実質的,直接的な告知が必要とされなければならないのである。 ところが,本件契約締結に際し,本件規程が交付されていないこと,本件改廃規定を含めた本件規程の内容につき説明がなかったことは前記のとおりであり,早期退職者のうちの一部の者は,将来本件給付利率の変更があり得る旨の記載がある文書の交付を受けているが,その記載はごく抽象的であり,これによって,支給期間中の給付利率引下げの根拠規定としての本件改廃規定の内容はもとより,存在すら認識することはできない。 7 本件改廃規定を既受給者に対する給付利率引下げの根拠規定と解する場合には,優越的地位にある被告が,要件が不明確なまま,しかも契約成立時に原告らが全く予測できなかったにもかかわらず,確定した権利を一方的に侵害するもの 受給者に対する給付利率引下げの根拠規定と解する場合には,優越的地位にある被告が,要件が不明確なまま,しかも契約成立時に原告らが全く予測できなかったにもかかわらず,確定した権利を一方的に侵害するものであり,信義則(民法1条2項)ないし公序良俗(民法90条)に反して無効である。また,前記のとおり,文言上明確性を欠き,その内容について実質的,直接的な告知又は説明がされていないにもかかわらず,本件改廃規定を既受給者に対する給付利率引下げの根拠規定と解する場合には,本件改廃規定は,消費者の権利を制限する条項で,民法1条2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害する条項に該当するから,消費者契約法施行後に本件契約を締結した原告らについては同法10条により,消費者契約法施行前に本件契約を締結した原告らについては同法10条の趣旨によって,本件改廃規定は無効となるというべきである。 8 本件利率改定は,本件改廃規定が定める要件に該当せず,その必要性が存在しない。 (1) 「経済情勢,社会保障制度の大幅な変動」の比較の基準時は,平成8年の労使合意時又は各契約締結時のいずれか遅い方とすべきである。 すなわち,本件利率改定は,本件契約の内容の変更にあたるから,「経済情勢の大幅な変動」等の要件を満たすかどうかは,各契約締結時と本件利率改定時との比較によるのが妥当である。もっとも,前記のとおり,平成8年4月1日の労使合意により本件給付利率の引下げが行われたが,その時点における既受給者に対しては本件給付利率の引下げは行われなかった。これは,平成8年4月当時,被告において,本件制度導入時との比較によれば「経済情勢の大幅な変動」があったと判断しながらも,平成8年当時の既受給者との関係では,統一的,画一的処理をして,従来どおり10%の本件給付利率を適用することを おいて,本件制度導入時との比較によれば「経済情勢の大幅な変動」があったと判断しながらも,平成8年当時の既受給者との関係では,統一的,画一的処理をして,従来どおり10%の本件給付利率を適用することを改めて決定したものとみるべきである。 したがって,「経済情勢,社会保障制度の大幅な変動」の比較の基準時は,原則として,各契約締結時とすべきであるが,平成8年当時の既受給者については平成8年の労使合意時を基準とすべきである。 (2) 本件において「経済情勢,社会保障制度の大幅な変動」はない。 ア本件改廃規定の「経済情勢,社会保障制度の大幅な変動」とは,いわゆる「事情変更の原則」が適用されるような事態を想定したものと解すべきである。しかし,本件において,平成8年の労使合意時又は各契約締結時との比較において,そのような事態が発生していないことは,公知の事実である。 イ被告は,経済情勢の変動を示す指標として,プライムレート等をあげているが,本件制度において比較的高い給付利率が設定されたのは,従業員の老後の生活を保障することにより,被告に対する求心力を高め,生産性を向上させることができると被告が判断したからであって,本件給付利率はそのような指標との比較において設定されたものではない。また,経済情勢を示す指標はプライムレート等に尽きるわけではなく,消費者物価指数等も重要な指標となるところ,平成8年以降物価が極めて安定していることは公知の事実である。 ウ被告が平成8年以降の経済情勢,社会保障制度の変動と主張する点についても,被告を取り巻く経営環境の変動であるか,社会保障制度を取り巻く環境の変化にすぎないのであって,被告の主張する事由が経済情勢,社会保障制度の大幅な変動にあたることはない。 (3) 本件改廃規定の「経 告を取り巻く経営環境の変動であるか,社会保障制度を取り巻く環境の変化にすぎないのであって,被告の主張する事由が経済情勢,社会保障制度の大幅な変動にあたることはない。 (3) 本件改廃規定の「経済情勢の大幅な変動」には被告の経済状態は含まれない。すなわち,「経済情勢の大幅な変動」でいう「経済情勢」の通常の用語法によっても,「経済情勢の大幅な変動」以外の要件が「社会保障制度の大幅な変動」及び「法制面での規制により必要が生じた場合」であることからしても,「経済情勢」とは社会全体における経済情勢を意味すると解するのが妥当である。そして,本件改廃規定の「経済情勢の大幅な変動」とは,例えば貨幣価値の大幅な変動を意味する極端なデフレ等を念頭に置いたもの,すなわち,従来どおりの年金額を額面通り支払うことが誰の目から見ても苛酷であると考えられるような事態,言い換えれば,いわゆる「事情変更の原則」が適用されるような事態を想定したものと解すべきである。 (4) 被告の経済状態が「経済情勢」に含まれるとしても,被告の経済状態に大幅な変動はない。すなわち,平成8年3月期から平成13年3月期までの被告の業績の推移はほぼ安定していたが,平成14年3月期のみ落ち込んでおり,その赤字額は約1324億円である。 しかし,これは,被告の計画的な経営政策(1万数千人規模の早期退職の実施,及びそれに伴う割増退職金の支給)に基づく一時的要因等により,特別損失を計上したこと,保有株式の評価損を計上したことなどに基づくのであって,被告の経済状態が,平成14年になって一気に悪化したわけではない。しかも,翌平成15年3月期は,528億8400万円の営業利益,801億9600万円の経常利益,288億2800万円の当期純利益を計上しており,V字回復を果たしている(乙10の1,2)。 はない。しかも,翌平成15年3月期は,528億8400万円の営業利益,801億9600万円の経常利益,288億2800万円の当期純利益を計上しており,V字回復を果たしている(乙10の1,2)。 被告は,平成12年以降,構造改革を実施しなければ,被告の損益は,平成13年度のみならず,その後も現在に至るまで営業赤字が継続していたと想定されると主張する。たしかに,被告を取り巻く環境の変化に対応するために,構造改革を実施することは,経営政策としてあり得ることであるが,しかし,本件利率改定による経費削減効果は微々たるものであって,その点をさしおいて,構造改革の全体について実施しなかったと仮定して議論するのは無意味である。 (5) 被告は,本件規程が就業規則に類似するものであると主張するが,そうであるならば,本件利率改定は就業規則の不利益変更に類似するものであることになる。そうであるならば,本件利率改定が許されるためには少なくとも高度の必要性が要求されるべきであるが,以下のとおり,そのような必要性は存在しない。 ア被告の経済状態につき大幅な変動がないことは前記のとおりであり,大幅な赤字になったという平成14年3月期においても,被告には2兆5533億7400万円もの純資産額があり,従前どおりに本件福祉年金を支給するにつき何ら支障はなく,経営危機が存するわけでもない。 イ被告は,本件制度に関する被告の負担額の純利益に占める割合が増大していると主張する。しかし,利息相当分の被告の負担額を含む本件福祉年金支給額全体が被告の経費に相当し,売上から年金支給額も含めた経費,税金等を控除したものが純利益であって,純利益は会社負担額の控除が前提になっているのであるから,純利益と会社負担額との対比をすることには何ら意味がない。ちなみに, し,売上から年金支給額も含めた経費,税金等を控除したものが純利益であって,純利益は会社負担額の控除が前提になっているのであるから,純利益と会社負担額との対比をすることには何ら意味がない。ちなみに,被告が主張する平成15年度の会社負担額は約152億円であるが,これは,被告が経営危機と主張する平成14年3月期における被告の純資産額2兆5533億7400万円の0.595%にすぎない。 ウ本件福祉年金の利息相当分の会社負担額自体についてみても,その額は,本件利率改定をしなくても今後減少していくのであり,また,本件制度の廃止を前提にしたときの,本件利率改定をした場合としなかった場合との会社負担額の差額は,平成21年で31億円,平成31年で28億円,平成41年で8億円であり,被告の事業規模からすると上記差額は通常の経費として十分吸収することができる額である。これは,とりもなおさず,本件利率改定の必要性がないことを示している。 エ被告は,既受給者と現役従業員との格差は看過できない程度に至っていると主張する。しかし,たしかに年金の支給額のみを取り上げれば,現役従業員と既受給者との間には格差が生じているが,それは被告の労務政策の変遷がもたらした結果にすぎず,その格差が何らかの法的効果をもたらすわけではない。すなわち,被告がこれまで比較的高い給付利率に基づいて年金を支給してきたのは,当時の現役従業員に対して老後の生活保障を提示することにより,被告らに対する求心力や労働意欲を向上させるのが,被告らの利潤追求のために有益であるとの被告の労務政策に基づくものである。そして,被告は,現役従業員に対し,平成14年4月に本件制度を廃止し,以降はキャッシュバランスプランを導入したが,これも被告の労務政策に基づくものである。 また,被告は,既受 ものである。そして,被告は,現役従業員に対し,平成14年4月に本件制度を廃止し,以降はキャッシュバランスプランを導入したが,これも被告の労務政策に基づくものである。 また,被告は,既受給者に対する高い給付利率に基づく年金給付は,現役従業員の労務が生み出した利潤から補填されていると主張する。しかし,既受給者は退職金の一部を被告に預け入れ,被告はそれを事業資金に混入させ,それを元手として事業活動を行い利益を上げながら年金支給を行っているのであり,現役従業員の労務が生み出した利潤から年金給付がされているとするのは一面的である。しかも,既受給者も,かつては被告らの従業員として被告らの利潤蓄積に貢献してきたのであり,被告の巨額の純資産額も既受給者の貢献のたまものである。また,本件基本年金の支給は,かつての労働の成果に対する還元という側面も有しており,賃金の後払い的側面も有していることは否定できない。 被告は,本件福祉年金にかかる現役従業員の1人あたりの負担額が上昇していったと主張する。しかし,①既受給者の年金原資を現役従業員が1人ずつ負担しているという実態はないし,②被告が経営政策に基づいて実施した大量の早期退職により,従業員数は減る一方で,既受給者が大幅に増えたのであるから従業員の1人あたりの負担額が大きくなるのは当然である。もっとも,③被告の経営政策によれば,一方では従業員1人あたりの負担額が上昇したとしても,他方では1人あたりの生産性,利益率も向上しているはずであるから,従業員1人あたりの負担額のみを持ち出す意味はない。 オ被告は,本件給付利率のうち恩恵的な性格の顕著な部分(すなわち,市場金利との差)は,株主に対する説明責任を果たすという観点から,到底容認できるレベルにないと主張する。しかし,①本件給付利率は市 オ被告は,本件給付利率のうち恩恵的な性格の顕著な部分(すなわち,市場金利との差)は,株主に対する説明責任を果たすという観点から,到底容認できるレベルにないと主張する。しかし,①本件給付利率は市場金利との比較で決められたものではなく(何よりも,本件給付利率は労使協議のうえ決定され,既受給者はその本件給付利率を内容とする本件契約に基づいて,本件福祉年金を受給する権利を獲得したのであるから,本件給付利率が比較的高かったとしても,決して恩恵的なものではない。),②被告が説明責任を果たそうというのであれば,従前の経営政策,労務政策から見て,本件制度の存在と内容(本件給付利率)が合理的であったことを説明すればよいことである。 9 本件利率改定には,内容の相当性がない。 (1) 就業規則の不利益変更法理においてさえ,代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況といった利益変更部分との総合判断が必要とされているところ,本件利率改定は,既受給者が一方的に不利益を被るだけであって,利益を受ける部分は皆無である。このように一方的な不利益変更であることからすると,引下げの程度が低いから,あるいは,受給している金額で十分生活できるから本件利率改定は相当であるということにはならないはずである。 また,従前の支給額を前提に生活設計を立ててきた既受給者にしてみれば,2%といえども,本件給付利率の引下げは老後の生活設計を狂わせるものであるから,被告は,本件利率改定により既受給者が被る不利益を過小評価しているというべきである。 なお,2%というのは,あくまでも適用される本件給付利率の引下げであり,支給額の減額率をみると,別紙年金減額一覧表記載のとおり,最も低い原告番号40番のAで6. 5%,最も高い原告番号63番のBで16%,平均では13.3%であって,本件 される本件給付利率の引下げであり,支給額の減額率をみると,別紙年金減額一覧表記載のとおり,最も低い原告番号40番のAで6. 5%,最も高い原告番号63番のBで16%,平均では13.3%であって,本件利率改定が原告らの老後の生活に与える影響は大きいのである。 (2) 被告は,本件利率改定の相当性を基礎づける事情として,①被告と並ぶ規模,類似業種の他企業における年金制度との比較や②市場金利との比較,③厚生年金基金の解散を挙げているが,①,②については,本件給付利率はこれらを基準として決定されたわけではないから,無意味な主張である。なお,③については,厚生年金基金と本件制度とは性質を異にし,厚生年金基金の場合は運用利回りが悪化すれば財政の悪化をもたらすが,本件制度の場合は被告が相当な収益を上げている限りそのような問題は生じず,現に被告は年金支給に何ら支障はない。 10 本件利率改定には,手続の相当性がない。 (1) 被告は,全国延べ81地区における説明会等,既受給者の理解を得るためのプロセスを経て,結果として約95%の既受給者が本件利率改定に同意したことを強調する。しかし,前記のとおり,本件契約は,各既受給者と被告との間の個別契約であるから,本件契約の内容を変更するために各既受給者の個別同意が必要とされるのは当然である。よって,仮に約95%の既受給者の同意があったとしても,その同意の効力が,同意しなかった残り約5%の既受給者にも及ぶ法的根拠は何らないのである。 (2) しかも,被告が強調する約95%の同意率は,仮にそれが事実だとしても,執拗かつ不当な方法を駆使して,ようやくたどり着いた結果なのである。すなわち,被告は,当初,同意書の返送期間の締切を平成14年6月15日までとしていたが,その時点では,多数の同意は得られなかった( 執拗かつ不当な方法を駆使して,ようやくたどり着いた結果なのである。すなわち,被告は,当初,同意書の返送期間の締切を平成14年6月15日までとしていたが,その時点では,多数の同意は得られなかった(被告の主張によっても,この時点では64.6%にとどまっている)。そこで,被告は,同年7月末まで締切を延長したうえ,戸別訪問,人間関係を利用した同意の強要,早期退職者に対する経過措置の表明などあらゆる手だてを講じて同意をとりつけようとした。それでもまだ同意率が不十分だったことから,被告はさらに同年8月末まで締切を延長し,執拗かつ不当な方法により,ようやく94.6%の同意率に到達したのである。 (3) 本件利率改定について,手続の相当性を検討するに際しては,本件利率改定を決定するより前の段階において,既受給者の利益を正当に代表できる者と被告との間で,実質的かつ意味のある交渉がされたかを問題にすべきである。本件利率改定につき,被告の現役従業員で組織する労働組合(以下「松下労組」という。)が既受給者の利益代表となりえないことは自明であり,その他に既受給者の利益代表は存在しない。このように,本件利率改定については,就業規則の不利益変更法理における多数組合との交渉及び合意と同等に評価しうるものは何もなく,既受給者のための適正手続の保障は何ら存在しなかったのである。 被告は,事業場別説明会を,手続の相当性を基礎づける事実の中核として位置づけているようである。この点,少なくとも手続の相当性を基礎づけるためには,事業場別説明会が本件契約の内容の変更に至る交渉の場として,既受給者と被告とが対等な立場で実質的な意見交換を行い,その結果によって本件契約の内容の変更を決定するような手続である必要がある。しかし,事業場別説明会は,どうしても既受給者から個別同意を 場として,既受給者と被告とが対等な立場で実質的な意見交換を行い,その結果によって本件契約の内容の変更を決定するような手続である必要がある。しかし,事業場別説明会は,どうしても既受給者から個別同意を取り付けなければならなかった被告が,既受給者に対し,一方的に個別同意を依頼するための場であり,実質的な交渉や協議の場ではなかったのである。したがって,事業場別説明会をもって,手続の相当性を基礎づける事実とすることはできない。また,被告は,全国延べ81地区で説明会を開催したと主張するが,事業場別説明会は,個々の既受給者との関係ではわずかに1回開催されたにすぎない。なお,事業場別説明会における質疑応答時間も,何ら手続の相当性を基礎づけるものではない。 また,被告は,手続の相当性を基礎づける事実として,①被告社長名などによる書簡,②フリーダイヤル設置による個別説明を挙げるが,これらも,既受給者の個別同意を取り付けるための手続にすぎず,この過程で寄せられた既受給者の意見に基づいて,本件利率改定の是非やその内容を再検討しようなどと考えていたわけではない。したがって,これらを手続の相当性を基礎づけるものと評価することはできない。 11 本件利率改定につき,事情変更の原則の適用はない。 (1) 民法典には事情変更の原則を一般的な形で認めた規定はなく,信義則の一原則として認められるにすぎない。信義則は一般条項であるから,軽々に適用されることは厳に戒められるべきであり,事情変更の原則はむやみに適用されるべきではない。 (2) 被告は,本件制度導入時の昭和41年から本件利率改定に至るまでの間の客観的な経済情勢,被告の経済状態,社会保障制度の各変動をそれぞれ主張している。しかし,事情変更の原則が,契約成立当時の基礎とされた客観的事情に著しい変更が生じたことを ら本件利率改定に至るまでの間の客観的な経済情勢,被告の経済状態,社会保障制度の各変動をそれぞれ主張している。しかし,事情変更の原則が,契約成立当時の基礎とされた客観的事情に著しい変更が生じたことを要件とするものである以上,本件利率改定時の事情と比較すべきものは,原則として原告らの本件各契約締結時(最も早いのは,原告番号40番のAの平成元年である。ただし,前記のとおり,平成8年当時の既受給者については平成8年の労使合意時とすべきである。)における客観的事情であって,本件制度導入時の事情を取り上げることには何の意味もないというべきである。 (3) 事情変更の原則は,一般的に,①契約成立当時の基礎とされた客観的事情に著しい変更が生じたこと,②当事者双方がその事情の変更を予見せず,予見し得なかったこと,③事情の変更が当事者の責めに帰すべからざる事由に基づくこと,④契約どおりの履行を強制することが著しく信義則に反することの各要件を満たす場合に例外的に認めるとされている。ところが,被告は,上記の②,③の要件を主張していないのであるから,被告の主張は失当である。 (4) 上記①の要件については,本件契約の締結に際し,被告が主張する客観的な経済情勢,被告の経済状態,社会保障制度といった指標が本件給付利率の決定にあたって基礎とされたとはいえない。このことは,平成8年に労使合意により新規受給者につき段階的に本件給付利率の引下げがされるまで本件給付利率が変更されたことがなかったことからも明らかである。また,そもそも事情変更の原則が想定している経済情勢の変動とは,例えば恐慌や戦後のインフレのようなケースであって,被告が主張するような指標の変動が著しい変更にあたるとは到底いえない。 被告の経済状態についていえば,前記のとおり,一時的な損失に目を奪われるのではなく, 恐慌や戦後のインフレのようなケースであって,被告が主張するような指標の変動が著しい変更にあたるとは到底いえない。 被告の経済状態についていえば,前記のとおり,一時的な損失に目を奪われるのではなく,財務状況の全容に留意すべきである。すなわち,純資産額に着目した場合,劇的な変化は何らないし,平成14年3月期の損失が一時的なものであったことは,その後の被告の経済状態の推移からも明らかである。よって,平成14年3月期の被告の経営政策による一時的な損失をもって,被告の経済状態に大幅な変動があったとするのは失当である。また,社会保障制度についても,本件で問題となる平成元年以降本件利率改定に至るまで著しい変更がなかったことは公知の事実である。 (5) 上記④の要件については,被告の経済状態が,巨額の赤字を計上した平成14年3月期においてすら剰余金として1兆9513億0800億円を計上し,その後業績は回復しているのであり,このような経済状態の下において,被告の主張によれば平成15年度における年間31億円を上限とする本件利率改定による差額捻出のために,いったん合意した本件福祉年金の支給額を一方的に減額すること,すなわち本件利率改定をすることは明らかに信義に反しており,履行を強制することが著しく信義則に反するという要件も満たしていない。 第3 当裁判所の判断Ⅰ 本件契約の法的性格について検討する。 1 本件基本年金の原資が被告厚生年金基金から支給される選択一時金と被告から支給される規程退職金の一部であること,それ以外に本件基本年金の原資として予定されているものはなかったこと,本件規程上,本件基本年金の受給を希望して本件契約を締結する退職者は,被告らからいったん退職金全額の給付を受けた後,その全部又は一部を本件基本年金の原資として被告に拠出するものとされていた ったこと,本件規程上,本件基本年金の受給を希望して本件契約を締結する退職者は,被告らからいったん退職金全額の給付を受けた後,その全部又は一部を本件基本年金の原資として被告に拠出するものとされていたことは,いずれも前記のとおりであり,甲5,甲6によると,上記の規定にもかかわらず,退職者は,実際には,退職金のうち上記原資となる額を除いた残額についてのみ,退職金としてその支給を受けており,いったん給付を受けた退職金を本件基本年金の原資としてあらためて拠出するということが行われているわけでなかったことが認められる。 そして,これらの事実によると,賃金全額払いの原則との関係で退職金についてはその全額がいったんは退職者に支給された形式をとることが適切であると考えられたため,本件規程のうえでは,被告らから支給を受けた退職金を退職者が拠出して本件基本年金の原資にすることが定められたと解される(後記のとおり,本件規程においては,昭和47年10月1日改定前は,退職金規程による退職金の額から年金原資相当額を差し引いた額が退職金額とされる旨が定められており,上記改定により,退職金規程による金額の退職金を支給したうえで,退職者が年金原資相当額を拠出することと変更されたのであるが,当時,この改定によって何らかの実質的変更があったという認識がされていたことを示す証拠はないから,そのことからみても,被告らや松下労組らの認識は,上記改定の前後を通じて,本件基本年金原資相当額については,退職者が退職時に現実には退職金の支給を受けないというものであったと考えられる。)。したがって,本件契約は,退職者がいったん支給を受けた退職金について,その一部を被告に拠出することによる預託金の運用方法についての合意という形式をとっているのであるが,本件契約の実質は,退職金の支給方法について 本件契約は,退職者がいったん支給を受けた退職金について,その一部を被告に拠出することによる預託金の運用方法についての合意という形式をとっているのであるが,本件契約の実質は,退職金の支給方法についての合意という性格を含むものであることが否定できないと考えられる。 2 本件基本年金の利息相当分には対価の存在しない給付と解される部分があるかということについて検討する。 (1) 乙31,乙49によると,本件給付利率が本件制度導入時から本件利率改定時に至るまで常に,貸付信託(5年),定期預金(1年),長期プライムレート,公定歩合,新発10年国債の各利率より高い利率を維持し,平成9年3月20日以前に退職した原告らに対する本件給付利率を例えば定期預金(1年)と比べてみると,その差が最も少ないときでも2.42%(昭和50年),最も多いときには9.96%(平成14年)との高率で本件給付利率が定期預金(1年)の利率を上回っていたことが認められる。しかも,仮に本件給付利率が市場金利を下回るなどして受給者にとって不利になった場合には,受給者は中途全額一時払い(本件規程第11条),中途一部一時払い(同第12条)を選択することにより,以後は年金原資(退職金)を市場金利で運用することが可能になることから,結局,本件制度は,受給者にとり,通常は貸付信託や定期預金等をする場合と比較してはるかに有利な運用がされることを予定しており,仮に本件給付利率の下落によりそのような運用ができなくなった場合であっても,退職金を市場金利で運用するより不利になることはないということを意図して設計された制度であるということができる。 (2) 本件基本年金の年金原資である退職金は賃金の後払い的性格を有するもの,すなわち,既受給者が被告らの従業員であった時に被告らに対して提供した労務と対価性を有する 制度であるということができる。 (2) 本件基本年金の年金原資である退職金は賃金の後払い的性格を有するもの,すなわち,既受給者が被告らの従業員であった時に被告らに対して提供した労務と対価性を有するものであるから,そのような性質を有する退職金を原資とする年金は退職金の分割払いの実質を有するものであり,したがって,この部分とこれに対する一般に運用可能な利率による利息相当額が既受給者らに支給されるのは当然のことである。しかしながら,本件基本年金の利息相当分のうち,一般に運用可能な利率による利息相当額ないしそれをある程度超える利率による利息相当額を上回る部分(以下「超過利息分」という。)については,その対価を具体的に観念できないものというべきであり(本件給付利率が定められるにあたっては,一般に運用可能な利率が将来変動することは当然に想定されていたと考えられるので,本件給付利率が定められた当時の一般に運用可能な利率による利息相当額をある程度超える利率による利息相当額についても,その対価を具体的に観念できないとまでいうことはできない。),超過利息分相当額の年金給付は,被告が主張するところの恩恵的給付,法律的には贈与の性質を有する給付であるというべきである。 この点につき,原告らは,本件給付利率を市場金利より高率のものとすることにより,被告らにも,①現役従業員に対し退職後の生活の安定を提示することによって,被告らに対する企業意識,具体的には,求心力,忠誠心を強めることができる,②被告らにおける賃金,退職金を低水準にとどめることができる,③退職金の一部を被告に預け入れさせることによって,被告の会社資金の流出を避け,運用資金を潤沢にすることができるという利点があるから,超過利息分の支給につき対価性を観念できないことはないと主張する。 しかし,①について 預け入れさせることによって,被告の会社資金の流出を避け,運用資金を潤沢にすることができるという利点があるから,超過利息分の支給につき対価性を観念できないことはないと主張する。 しかし,①については,本件制度が導入された際の労働組合の要求が,老後の生活の恒久的な安定を求めることを中心としていたこと(甲4),本件規程第1条にも,本件制度の目的が永年勤務し退職した者の退職後の生活の安定を図るところにあると定められていることからすると,結果的に,現役従業員の求心力,忠誠心を強めることになっていたことが窺われる(弁論の全趣旨)ことは否定できないものの,本件給付利率を市場金利より高率のものとすることにより,被告らに対する求心力,忠誠心を強めることができるという被告らにとっての利点を期待して本件制度が導入されたことを認めるに足りる的確な証拠はない。②については,本件制度が導入された際,被告らの従業員の賃金,退職金が電機器具製造業各社の賃金,退職金よりも低かったとは認められず(むしろ,乙29によると,昭和42年当時の被告従業員の平均基準内賃金は電気器具製造業各社の平均基準内賃金を上回っていたことが認められるのであるから,本件制度が導入された昭和40年当時も,同様に,被告従業員の平均基準内賃金は電気器具製造業各社のそれを上回っていたと推認される。),本件制度が導入された際の労働組合の要求も,上記のとおり,老後の生活の恒久的な安定を求めることが中心であって,低賃金,低退職金の補完という要求を掲げていたわけではないこと(甲4)からすると,本件制度の導入に低賃金,低退職金の補完という目的があったと認めることはできず,そうであるとすると,被告らにとって,本件給付利率を市場金利より高率のものとすることにより,被告らにおける賃金,退職金を低水準にとどめることができる 職金の補完という目的があったと認めることはできず,そうであるとすると,被告らにとって,本件給付利率を市場金利より高率のものとすることにより,被告らにおける賃金,退職金を低水準にとどめることができるという利点があったと認めることはできない。③についても,年金原資として受給者が預け入れた退職金の一部が被告の事業資金として用いられることは争いのないところであるが,乙31によると,本件給付利率は,本件制度の開始当初から平成13年に至るまで,一貫して長期プライムレートより相当程度高率であったことが認められるのであるから,被告としては,短期的にみると,年金原資を被告の事業資金に充てることができるとしても,長期的にみたときは,長期プライムレートより高率で本件福祉年金の支給をし続けなければならないこととなるのであって,被告の会社資金の流出を避け,運用資金を潤沢にすることができるという利点が被告らの側にあったということはできない。 よって,この点に関する原告らの主張には理由がないというべきである。 Ⅱ 本件規程の性質について検討する。 1 本件規程の内容乙19の1ないし5によると,本件規程は,第1章ないし第4章と附則とからなり,「第1章総則」では,目的(第1条),受給資格を有する者は,原則として,勤続満15年以上の職員で,満55歳以上で退職する者であること(第2条),勤続年数の計算方法(第3条),本件福祉年金の内容は,本件基本年金と本件終身年金であること(第4条)が,「第2章基本年金」では,退職金の一部を年金原資とすること(第5条),年金受給者は退職金から年金原資額を拠出すること(第6条),年金の支給期間(第7条),年金額(第8条),支給期間の起算日は,本人の退職日により,毎年3月21日又は9月21日であり,年金原資とこれに対する一定の利率による利息相 資額を拠出すること(第6条),年金の支給期間(第7条),年金額(第8条),支給期間の起算日は,本人の退職日により,毎年3月21日又は9月21日であり,年金原資とこれに対する一定の利率による利息相当額の合計額を本件基本年金の総額として本件基本年金が支給されること(第9条),年金支給日は毎年3月21日,9月21日であること(第10条),中途全額一時払い,中途一部一時払いができること(第11条,第12条),受給者死亡の場合には,遺族に対し,中途全額一時払いの場合の金額が支払われること(第13条)が,「第3章終身年金」では,本件終身年金の支給額,支給日(第14条),受給者が死亡した場合には本件終身年金の支給が打ち切られること(第15条)が,「第4章受給手続」では,業務取扱い部署を被告本社人事部門内におくこと(第16条),年金受給開始手続(第17条),中途一時払い手続(第18条),受領方法(第19条),受給者の書類届出義務(第20条),年金受給権の譲渡及び担保の禁止(第21条),年金支給の取止め事由(第22条),本件改廃規定(第23条)が,それぞれ定められていることが認められる。 2 本件規程の改定経緯についてみるに,甲4,乙3の1ないし4,乙19の1ないし5,乙20,乙21の1ないし4,乙25,乙26,弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。 (1) 本件規程は,昭和41年1月21日に制定され,昭和42年10月1日,昭和47年10月1日,昭和53年7月20日,昭和59年10月1日,昭和61年4月1日,平成2年4月1日,平成8年4月1日,平成10年10月1日,平成12年4月1日に,それぞれ改定がされた。昭和42年10月1日にされた改定は,受給資格者につき,それまで定年退職者とされていたのを満55歳以上の退職者とし,死亡等による場合は50歳以上 0月1日,平成12年4月1日に,それぞれ改定がされた。昭和42年10月1日にされた改定は,受給資格者につき,それまで定年退職者とされていたのを満55歳以上の退職者とし,死亡等による場合は50歳以上としていたのを51歳以上とするものであった。昭和47年10月1日にされた改定は,年金原資と退職金との関係(第6条)について,それまで退職金規程による退職金の額から年金原資相当額を差し引いた額を退職金額とするとしていたのを,退職金規程による金額の退職金を支給したうえで,退職者が年金原資相当額を拠出すると変更するものであった。昭和59年10月1日にされた改定は,本件基本年金の支給期間,年金原資の預入限度額を変更するものであった。平成2年4月1日にされた改定は,受給資格を一部拡大するものであった。平成8年4月1日にされた改定は,年金原資の預入限度額,年金の給付利率を変更するものであった。平成10年10月1日にされた改定は,本件年金受給手続時等における提出書類の変更と一部の表現を訂正し,本件改廃規定を第4章から附則に移すものであった。平成12年4月1日にされた改定は,一部の表現を訂正するものであった(昭和53年7月20日,昭和61年4月1日にされた各改定の内容は不明である。)。これらの改定のうち,昭和42年10月1日,平成10年10月1日,平成12年4月1日の各改定においては,従来の本件規程の原本に手書きで訂正をするという方法により,その改定結果が記録された。 (2) 被告は,本件規程の管理方法として,古い本件規程を保存するという管理方法を採っておらず,改定があるたびに古い本件規程を新しい本件規程に差し替えてきたため,原本が現存しないものがあり,原本が現存するのは,昭和41年1月21日制定のもの,昭和42年10月1日,昭和47年10月1日,平成10年10 るたびに古い本件規程を新しい本件規程に差し替えてきたため,原本が現存しないものがあり,原本が現存するのは,昭和41年1月21日制定のもの,昭和42年10月1日,昭和47年10月1日,平成10年10月1日,平成12年4月1日各改定のもののみである。 (3) 本件規程が制定された際には,松下労組との協議に基づいてその内容が決定された。本件規程の昭和59年10月1日改定で,前記のとおり,年金原資の預入限度額の変更を行ったが,このときは,被告と松下労組との間で労働協約が締結された。また,本件規程の平成8年4月1日改定で,将来に向かっての利率改定が行われたが,その際も,被告と松下労組との間で協議がされて労働協約が締結され,これに基づき本件規程が改定された。(甲4,乙20) 3 原告らは,本件規程が被告社内における事務処理準則にとどまると主張する。しかし,本件規程の内容は前記のとおりであり,受給資格,勤続年数の計算方法,本件規程により支給される年金が本件基本年金と本件終身年金とからなること,本件基本年金の原資は退職金の一部であり,年金受給者は退職金から年金原資を拠出すること,年金の支給期間,年金額,年金支給日は毎年3月21日,9月21日であること,中途全額一時払い,中途一部一時払いができること,受給者死亡の場合の年金の支払方法等,本件契約に基づいて原告らが取得する権利の内容が具体的に定められているのであり,他に,本件契約に基づく原告らの権利の具体的な内容を定めたものがあるという事実は認められないのであるから,そうであるとすると,本件規程は,その内容自体からみて,単なる被告社内の事務処理準則ではなく,本件契約を締結する退職者と被告との間の契約内容を規律するものであるというべきである。また,本件規程の改定経緯をみても,契約内容の実質に一定程度以上の影響を及 ,単なる被告社内の事務処理準則ではなく,本件契約を締結する退職者と被告との間の契約内容を規律するものであるというべきである。また,本件規程の改定経緯をみても,契約内容の実質に一定程度以上の影響を及ぼす場合には,労使間協議が経られているのであって,そのことからみても,本件規程は,本件契約を締結する退職者と被告との間の契約内容となることが予定されていたものであると認めるのが相当である。原告らは,数次にわたって改定された本件規程につき,その改定前の一部の原本が存在していないことを問題とする主張をするが,後記のとおり,本件規程が改定された場合,改定前の本件規程は,既に本件契約を締結した者についても,それが適用されることはなくなるのであるから,そのような改定前の本件規程の原本の一部が存在しないことは,本件規程が本件契約の内容になるべきものであると認めることの障害となるものではない。また,本件規程の改定のうち,昭和42年10月1日,平成10年10月1日,平成12年4月1日の各改定においては,従来の本件規程の原本に手書きで訂正をするという方法によりその改定結果が記録されているのであり,その記録方法に問題があることは原告らの主張するとおりであるが,そのことを勘案しても,上記のところからすると,本件規程が被告社内における単なる事務処理準則とみることができないことは明らかである。 Ⅲ 本件規程が本件契約の内容となっているかということについて検討する。 1 原告らが本件規程の存在を知っていたかということについて検討する。 (1) 括弧内に記載の書証及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。 ア被告は,その従業員に対し,「私たちの会社」,「明るい職場に正しいルール」,「ライフプラン入門」と題する冊子を配布していたが,これらの冊子には,本件規程の内容にそった ,以下の事実が認められる。 ア被告は,その従業員に対し,「私たちの会社」,「明るい職場に正しいルール」,「ライフプラン入門」と題する冊子を配布していたが,これらの冊子には,本件規程の内容にそった本件制度の概要が記載されていた。(甲5,乙23,乙24)イ被告らの退職予定者は,55歳になった後,被告厚生年金基金及び被告の各事業場が主宰する「熟年設計セミナー」(以下「本件セミナー」という。)を受講することが可能となる。 本件セミナーは,各種保険の手続の説明とともに,退職予定者が将来支給を受けることができる老齢厚生年金,被告厚生年金基金の基本年金及び加算年金の概要と受給手続など,主として退職後の生活設計について総合的に説明するものであり,本件制度の主要な内容と手続についても,受講者に配布する「熟年設計セミナーテキスト」(以下「本件テキスト」という。)の中で本件規程の内容を引用するなどして,本件セミナーにおいて説明されていた(ただし,平成13年4月以降,本件セミナーにおいては,本件テキストでなく,パワーポイントによる資料が使用されるようになった。)。本件セミナーは,任意参加であるが,退職予定者のほとんどの者がこれを受講していた。(甲14,乙9)ウ従業員が退職する日の2か月前ころ,被告は,各事業場において,退職予定者に対する説明会を実施し,その際,「定年ご退職にあたって」と題する冊子を配布し,退職後に加入できる各種保険の加入手続,上記各種年金の受給手続など,必要となる諸手続について説明し,その中で,本件契約の締結手続についても説明を行っている。また,退職予定者に対して本件申込書を含む関連書類の交付も行い,本件契約の申込みの誘引をしていた。(甲6,乙4,乙8)エ本件申込書には,申込日,申込者(氏名,生年月日等),本件福祉年金の振込先金融機関 職予定者に対して本件申込書を含む関連書類の交付も行い,本件契約の申込みの誘引をしていた。(甲6,乙4,乙8)エ本件申込書には,申込日,申込者(氏名,生年月日等),本件福祉年金の振込先金融機関(銀行名又は郵便局,口座番号等),家族状況をそれぞれ記載する欄があり,下部には,事業場処理欄,本社処理欄があって,それ以外には,申込者欄と金融機関欄との間に,「 私は貴社の福祉年金規程を了承の上,下記により福祉年金の受給を申し込みます。 記年金原資として,退職金の内円を充当します。」という記載がされているのみであった。本件契約の締結を希望する退職予定者は,前記説明会で本件申込書を受け取って,これをいったん持ち帰り,本件申込書に申込者の氏名,生年月日等,退職金のうち年金原資に充当する金額,本件福祉年金の振込先金融機関等の必要事項を記載し,退職日の1か月前までにこれを被告に提出して本件契約の申込みをした。これに対し,被告は,本件申込書の記載事項等を確認したうえで,上記申込者に対し,氏名,証書番号,1年分の本件基本年金の金額,支給期間,退職日の翌日の日付が記載された本件証書を交付することによって,上記申込みに対する承諾をし,本件契約が成立することとされていた。(乙4,乙5,乙27の1ないし103)(2) 上記の事実によると,原告らは,本件契約の申込みをするにあたり,いったん本件申込書を持ち帰ってこれを読む機会が与えられていたのであり,本件申込書の申込者欄,金融機関欄を記載する際に,原告らが被告の福祉年金規程を了承の上で本件福祉年金の受給を申し込むこと,退職金のうち原告らが希望する一定の金額を年金原資とすることについては,当然にこれを読んで理解していたと認めるのが相当である。原告らは,「私は貴社の福祉年金規程を了承の上」という記載が例文に過 こと,退職金のうち原告らが希望する一定の金額を年金原資とすることについては,当然にこれを読んで理解していたと認めるのが相当である。原告らは,「私は貴社の福祉年金規程を了承の上」という記載が例文に過ぎないと主張する。たしかに,定型の契約書における一部の記載が例文にすぎないとしてその効力が否定される場合のあることは否定できないところである。特に,当該契約書に多数の条項による定めがされている場合において,その全部を契約締結時に認識することが期待できない状況のもとでは,そのような解釈がされることにも合理性が認められると考えられる。しかし,本件申込書には,申込日,申込者,金融機関,家族状況欄以外には,原告らが被告の福祉年金規程を了承の上で福祉年金の受給を申し込むこと,退職金のうち申込者が希望する一定の金額を年金原資とすることしか記載されていなかったのであり,原告らがその記載を読んで理解したと認められることは上記のとおりであり,その内容が複雑なものでも理解困難なものでもないのであるから,その2点しかない記載部分のうちの1点が例文にすぎないと解することは到底できない。 (3) また,本件制度は,異なる条件を有する多数の退職者を対象とするものであり,そのような多数の退職者との間で締結される本件契約の内容を確定するためには,その契約内容を確定するための一定の準則が存在し,その準則に各退職者の有する具体的な条件を当てはめることによって,各退職者の受ける本件福祉年金の内容が決定されることは,制度自体から当然に予定されることであって,永年にわたって企業に所属していた原告らにおいても,そのような当然のことを認識できなかったはずはないと考えられる。そうであるとすると,本件契約の内容となる準則である本件規程の存在については,上記の点からも,原告らにおいてこれを認識して においても,そのような当然のことを認識できなかったはずはないと考えられる。そうであるとすると,本件契約の内容となる準則である本件規程の存在については,上記の点からも,原告らにおいてこれを認識していたと認めるのが相当である。 (4) したがって,原告らは,被告との間で本件契約を締結するにあたり,本件規程が存在すること自体については,これを認識していたと認めるのが相当である。 2 原告らは,本件規程の内容を知ろうとすれば知ることができる立場にあったかということについて検討する。 (1) 乙28,弁論の全趣旨によると,①被告は,本件規程を,昭和41年から昭和58年までは被告本社総務部,本社人事本部二部(昭和48年に「労政部」と名称変更),各事業場の人事担当部署に,昭和59年以降は本社労政部にそれぞれ備え置いていたこと,②被告は,昭和46年以降,各事業場の人事担当社員に「人事業務必携」を配布しており,その中には本件規程の主要な内容が記載されていたこと,③被告は,原告らに対し,本件規程の写しを交付せず,また,本件規程がどこに備え置かれているかということを開示していなかったこと,④被告においては,本件契約を締結した者が本件規程の内容を知ろうと考えて被告にこれを問い合わせれば,誰でもが本件規程の内容を知ることができることとなっていたこと,以上の事実が認められる。 (2) また,前記のとおり,被告は,その従業員に対し,「私たちの会社」,「明るい職場に正しいルール」,「ライフプラン入門」と題する冊子を配布していたところ,これらの冊子には本件規程の内容にそった本件制度の概要が記載されており,被告らの退職予定者の多くが本件セミナーを受講して,本件制度の主要な内容と手続について説明を受け,本件テキストにも本件規程の内容にそった本件制度の概要が記載されていたのであり の概要が記載されており,被告らの退職予定者の多くが本件セミナーを受講して,本件制度の主要な内容と手続について説明を受け,本件テキストにも本件規程の内容にそった本件制度の概要が記載されていたのであり,被告らを退職する直前には,各事業場において実施される説明会において,本件制度についての説明を受けるとともに,本件規程の内容を了承する旨が記載された本件申込書の交付を受けていたのである。 (3) 以上によると,原告らは,被告らを退職するより前の時点において,本件規程の主要な内容についての説明を受けていたのであり,前記のとおり,本件規程の存在自体は認識していたのであるから,本件契約を締結するにあたり本件規程の詳細な内容を知ろうとすれば,各原告の勤務事業場等に問い合わせ,また,退職前説明会で本件規程の内容を知りたい旨の希望をすることにより,これを知ることは容易であったと認められるのであり,退職後においても,在職時に勤務していた事業場や被告本社に問い合わせることにより,本件規程の内容を知ることは容易であったと認められる。たしかに,被告は,前記のとおり,原告らに対し,本件規程がどこに備え置かれているかということを開示していなかったのではあるが,原告らは,上記のとおり,被告らを退職するより前に本件規程の存在を認識していたのであるから,職場の上司等を通じて,本件規程がどこに備え置かれているかということを知ることができる立場にあったのであり,したがって,本件規程がどこに備え置かれているかということが開示されていなかったからといって,原告らが本件規程の内容を知ることが容易でなかったとみることはできないというべきである。 3 就業規則に関する解釈指針が本件規程にも及ぶかということについて検討する。 (1) 就業規則とは,労働者が就業上遵守すべき規律及び労働条件に関する でなかったとみることはできないというべきである。 3 就業規則に関する解釈指針が本件規程にも及ぶかということについて検討する。 (1) 就業規則とは,労働者が就業上遵守すべき規律及び労働条件に関する具体的細目について定めた規則類の総称であって,職場規律や労働条件を画一的に規制し,企業の合理的,能率的運営を図るために,使用者によって定められるものである。このように,就業規則は,会社(使用者)と従業員(労働者)との関係を規律するものであるから,本件規程のように,会社を退職した従業員が退職にあたって会社に拠出した年金原資により会社からその従業員に年金給付が行われる場合の支給方法等について定めたものを就業規則ということができないことはいうまでもない。 しかしながら,就業規則は,上記のとおり,企業の合理的,能率的運営を図るための画一的処理の要請から定められるものであるところ,本件規程も,被告の元従業員を対象とした本件制度の効率的運営のための公平かつ統一的な取扱いを図る必要があるとの要請から定められたものであり,制定の趣旨において類似しているということができる。 また,本件規程は,前記のとおり,当初から本件契約の内容となることを予定して制定されたものと認めるのが相当であるところ,本件契約が実質的には退職金の支給方法についての合意という性格を含むものであることが否定できないことも前記のとおりであるから,その限りにおいて,本件規程は,実質的には,退職金の一部につきその支給方法を定めたものであると解することが可能である。そして,退職金が賃金の後払い的性格を有することからすると,退職金に関する定めは,会社と従業員との間の労働条件に関する定めとして就業規則で定めるべきものであり(現に,被告にも,被告らと従業員との退職金についての関係を規律する就業規則として社 とからすると,退職金に関する定めは,会社と従業員との間の労働条件に関する定めとして就業規則で定めるべきものであり(現に,被告にも,被告らと従業員との退職金についての関係を規律する就業規則として社員退職金規程が制定されていることは,本件規程第1条からも窺われるところである。),そうであるとすると,退職金の支給方法も,退職金に関する基本的事項なのであるから,本来であれば社員退職金規程で定めるべきもののはずである。ところが,退職金を年金形式で受給する場合,実際に受給する時には,既に会社と従業員という関係ではなく,会社と元従業員との関係になっていることを主たる理由として,別途規程を設けたのが本件規程であると考えられる。このように,本件規程が規律する対象が,本来であれば会社と従業員との関係を規律する規程(就業規則等)によって規律すべきものであるということからすると,本件規程は,その規律する対象においても就業規則に類似しているということができる。 さらに,就業規則の作成又は変更については,その過程において労働者の意見を聴取しなければならないとされている(労働基準法90条1項)ところ,前記のとおり,本件規程の基本的事項(預入限度額,本件給付利率,支給期間等)の制定,改定の過程において労使協議がされており,本件規程は,その制定,改定において就業規則と類似した手続がとられてきているということができる。 以上のことからすると,本件規程が就業規則そのものでないことは当然であるが,就業規則との類似性があるということはできると解するのが相当である。 (2) ところで,就業規則は,それが合理的な労働条件を定めるものである限り,経営主体と労働者との間の労働条件はその就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして,その法的規範性が認められるものであり,したが 業規則は,それが合理的な労働条件を定めるものである限り,経営主体と労働者との間の労働条件はその就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして,その法的規範性が認められるものであり,したがって,当該事業場の労働者は,就業規則の存在及び内容を現実に知っていると否とにかかわらず,また,これに対して個別的に同意を与えたかどうかを問わず,当然にその適用を受けると解される(最高裁判所大法廷昭和43年12月25日判決・民集22巻13号3459頁参照)。本件規程は,上記のとおり,就業規則ではないものの,その制定趣旨,規律の対象,制定・改定の手続等の点において就業規則と類似する点があり,また,前記のとおり,ある制度のもとにおいて多数の退職者と会社との間で締結される契約の内容を確定するためには,その契約内容を確定するための一定の準則が存在し,その準則に各退職者の有する具体的な条件を当てはめることによって各退職者の契約の具体的内容が決定されることは,制度自体から当然に予想されることであって,その契約の具体的内容が一定の準則によるということについては事実たる慣習が成立していると考えられることからすると,就業規則に関する上記の解釈は,本件規程にも妥当すると解する余地がある。 もっとも,就業規則は,労働基準法に明文の根拠を有しており,法律による規制が及んでいる結果として,例えば,届出義務(法89条)により法令・労働協約違反の就業規則が是正されることが可能になっており,また労働者への周知義務(法106条1項)もあり,労働者に対する不意打ち防止が可能となっているということができる。これらの点を考慮すると,本件規程についても,本件規程の適用を受ける者に対して,その適用対象者が本件規程の内容を現実に知っているかどうかを問わずその効力が及ぶというためには,就業規則 うことができる。これらの点を考慮すると,本件規程についても,本件規程の適用を受ける者に対して,その適用対象者が本件規程の内容を現実に知っているかどうかを問わずその効力が及ぶというためには,就業規則について要求される合理性,周知性の要件が,その解釈に際して参考になるというべきである。 4 以上によると,原告らが本件規程の内容を現実に了知していたかどうかを問わず,原告らに本件規程の効力が及ぶというためには,本件規程のうち本件で問題となっている規定の内容の合理性とともに,就業規則におけると同程度の周知性が要求されるというべきである。そして,後者の点については,就業規則と異なり,本件規程の適用の対象となるのは各事業場で就労している労働者ではなく,既に退職した者なのであるから,各事業場に本件規程を備え置くことの実質的意味は大きなものではないと考えられるから,各事業場に本件規程が備え置かれていなかったことは周知性を認めるための障害となるものではないというべきであり,前記のとおり,原告らは,本件契約の締結前から本件規程の存在を認識し,本件規程の主要な内容についても被告から繰り返し知らされていたのであって,就業規則と比較しても,原告らがより詳しい本件規程の内容を知ろうとすればこれを容易に知ることができる立場にあったと認められるのであるから,そうであるとすると,就業規則において要求される程度の周知性の要件は本件において充たされていたと解するのが相当である。したがって,本件規程の内容を現実に認識していたかどうかを問わずその効力が原告らに及ぶためには,その内容の合理性が認められれば足りると解すべきことになる。 Ⅳ 本件改廃規定により,本件福祉年金の既受給者である原告らとの間において,本件給付利率の改定をすることができるかということについて検討する。 1 本件規程 認められれば足りると解すべきことになる。 Ⅳ 本件改廃規定により,本件福祉年金の既受給者である原告らとの間において,本件給付利率の改定をすることができるかということについて検討する。 1 本件規程は,上記のとおり,その内容について合理性が認められる限り,本件契約の内容になっているのであるから,本件改廃規定についても,同様の要件でそれが本件契約の内容にならない理由はないというべきである。 原告らは,本件改廃規定が原告らにとって一方的に不利益な規定であるから,これが本件契約の内容になるためには,本件契約の締結にあたり,被告が原告らに対し,本件改廃規定を実質的・直接的に告知することが必要であると主張する。しかし,前記のとおり,原告らは本件規程の存在を認識し,本件規程の内容を容易に知ることができる立場にあったのであり,本件契約を締結する直前まで原告らは被告らの従業員であって,そのような特別な社会的関係の中にあって上記の立場にあったことからすると,本件改廃規定が原告らにとって不利益な規定であるからといって,この規定を実質的・直接的に原告らに告知しない限り,本件改廃規定が本件契約の内容にならないと解する根拠はない。 そして,本件規程は,被告らの退職者に対し,退職者が拠出した年金原資相当額に高利率での利息を付してこれを年金給付することを定めるものであり,その年金給付期間が極めて長期にわたるものであることが予定されているものである。そうであるとすると,従来の本件契約の内容を既受給者との関係においても変更しない限り,本件制度が維持できなくなるというような場合に,それでも本件契約の内容を変更せず,その結果として,既受給者との間においても本件制度を廃止することのやむなきに至ることもあるという前提のもとに本件規程が定められたとは考え難い。したがって,本件改廃規 それでも本件契約の内容を変更せず,その結果として,既受給者との間においても本件制度を廃止することのやむなきに至ることもあるという前提のもとに本件規程が定められたとは考え難い。したがって,本件改廃規定が,将来締結される本件契約の内容を従来締結されていた本件契約の内容から変更するだけでなく,既受給者との間においても既に締結された本件契約の内容を変更できる旨を定めた規定であると解するとしても,その内容には合理性が認められるというべきである。 2 本件改廃規定は,「将来,経済情勢もしくは社会保障制度に大幅な変動があった場合,あるいは法制面での規制措置により必要が生じた場合は,この規程の全般的な改訂または廃止を行う。」と規定する。 原告らは,本件改廃規定が未受給者に対する関係で本件制度の改定又は廃止を対象にするものであり,既受給者との間の契約内容の変更を予定したものではないと主張する。しかし,経済情勢等の大幅な変動があった場合に,本件制度の改定又は廃止という全面的な改定は行うが,既受給者を含む本件制度の対象者との間での部分的な契約内容の改定も一切行わないということは,本件制度のように長期間にわたって存続することが予定されている制度においてはおよそ考えられないところであって,本件制度の制定にあたっても,特別の事情のない限り,本件改廃規定がそのような趣旨のものとして制定されたとは認め難いものであるが,本件全証拠によっても,上記の特別の事情は認められない。かえって,甲4によると,本件制度の導入にあたり,被告と松下労組は,将来経済情勢等の大幅な変動があったときは被告と松下労組との協議により本件制度を改廃するという本件改廃規定とほぼ同内容の規定を本件規程に盛り込むこととしたうえ,本件制度の細部運用として,そのような場合であっても,既受給者には不利にならない 告と松下労組との協議により本件制度を改廃するという本件改廃規定とほぼ同内容の規定を本件規程に盛り込むこととしたうえ,本件制度の細部運用として,そのような場合であっても,既受給者には不利にならないよう運営するという合意をしたことが認められるのであるが,上記合意は,本件改廃規定による本件規程の改定の効力が既受給者にも及ぶことを前提としたうえで,本件規程外の運用方針として,それにより既受給者に不当に不利益な影響が及ばないようにするという合意がされたものであると認めるのが相当であり,そのことからみても,本件改廃規定による本件規程の改定の効力は既受給者に及ぶことが本件制度導入当初からの被告及び松下労組の認識であったとみられる。また,本件規程は,前記のとおり,本件契約の内容となることが予定されたものであるから,本件契約を締結するより前の未受給者との間では,将来の期待し得る内容という以上の意味を有しないものであり,そのような者との関係において,松下労組等との協議が必要になるとしても,経済情勢等の大幅な変動という厳密な要件で限定することなく,被告が本件制度を全面的に改定又は廃止することができることは当然であり,まして,部分的な改定であれば,松下労組等との協議なくして被告がこれをすることができる場合もあることは当然であって,特に後者については,本件改廃規定のような規定をおく必要があるとは考えられないものである。したがって,以上によると,本件改廃規定は,未受給者を対象とする本件制度の全面的な改定又は廃止だけでなく,既受給者を含む本件制度の対象者との間での部分的な契約内容の改定をも含む趣旨のものであると認めるのが相当である。 よって,本件契約締結後に本件改廃規定による本件規程の改定がされた場合には,改定後の本件規程がその契約内容になるというべきである。 3 約内容の改定をも含む趣旨のものであると認めるのが相当である。 よって,本件契約締結後に本件改廃規定による本件規程の改定がされた場合には,改定後の本件規程がその契約内容になるというべきである。 3 原告らは,本件改廃規定の要件が不明確であり,そのような不明確な要件を定めた本件改廃規定によって本件利率改定をすることは許されないと主張する。しかし,本件給付利率につきどのような場合にどの程度の改定をするかということを事前に一律に決定しておくことは不可能を強いるものであるというほかなく,その要件が明確でないからといって,そのことを理由に,およそ本件改廃規定による本件給付利率の改定が許されないと解することは相当でないというべきである。上記のとおり,どのような場合にどの程度の利率改定をするかということを事前に一律に決定できないことからすると,本件改廃規定による本件給付利率の改定をするにあたっては,本件給付利率の改定をする必要性と改定後の本件給付利率の相当性という要件が要求され,双方の要件が満たされるのであれば,本件利率改定は有効と評価されると解するのが相当である。 4 原告らは,原告らの本件福祉年金請求権は,退職時に締結された本件契約によってその総額につき発生し,その支払いにつき履行期が定められているにすぎないのであるから,本件改廃規定によって給付利率の減額改定をすることは契約法理に反するものであって許されないと主張する。 前記のとおり,原告らの本件福祉年金請求権は,実質的には,退職金の分割払いの実質を有する部分,対価性の観念できない給付の性質を有する部分,そのいずれとも断定できない部分から構成されると解される。そして,そのいずれの性質を有するものについても,退職時に締結された本件契約によって,その総額につき少なくとも抽象的には年金請求権が発生すると解 のいずれとも断定できない部分から構成されると解される。そして,そのいずれの性質を有するものについても,退職時に締結された本件契約によって,その総額につき少なくとも抽象的には年金請求権が発生すると解されるが,本件改廃規定は,既に退職者に発生した権利についても,一定の事情変更が生じた場合にその権利内容を変更することができることを定めたものと解するのが相当である。 本件改廃規定がこのような内容を有する定めであるとしたとき,本件基本年金のうち退職金の分割払いの性質を有する部分である年金原資額とこれに対する一般に運用可能な利率による利息相当額については,給付利率の減少によりこれを減額することは,どのような事情が生じた場合であっても,退職金を減額するものであって許されないと解される。これに対し,本件福祉年金のうちその余の部分については,それが退職金の分割払いの性質を有するとはいえないものであることからすると,経済情勢等の変動の程度との関係においてその必要性があり,その事情変更の程度との関係で合理性を有すると判断される範囲内であれば,本件給付利率を変更して給付額を減額することも許され,特に,対価性を観念できない部分については,前記のとおり,法律的には贈与の性質を有すると解されることをも勘案すると,その余の部分と比較して,本件給付利率の改定につき,その必要性と相当性の判断には,厳格性は要求されないと解するのが相当である。 5 原告らは,本件改廃規定が本件規程の附則に規定されていることを理由として,そのような本件改廃規定により原告らと被告との契約内容を変更することはできないと主張する。しかし,前記のとおり,本件規程は,「第1章総則」,「第2章基本年金」,「第3章終身年金」,「第4章受給手続」からなっているところ,本件改廃規定はその性質からみて上記のどの章 はできないと主張する。しかし,前記のとおり,本件規程は,「第1章総則」,「第2章基本年金」,「第3章終身年金」,「第4章受給手続」からなっているところ,本件改廃規定はその性質からみて上記のどの章にも属さないものであり,本件改廃規定のみを独立の章として規定することも本件規程全体のバランスから適当でないとの考え方のもとに,本件改廃規定を附則で定めたとみることもできるのであり,法律における附則の位置づけと本件規程のような民間会社で定められた規程における附則の位置づけとを同様にみることは適切でないと考えられる。したがって,本件改廃規定が本件規程の附則に定められていることは,本件改廃規定により本件給付利率の変更ができるかという問題に影響を及ぼすものではないというべきである。 6 原告らは,本件改廃規定を既受給者に対する給付利率引下げの根拠規定と解する場合には,本件改廃規定は信義則(民法1条2項),公序良俗(民法90条),消費者契約法10条に反して無効であると主張するので,この点について検討する。 原告らは,上記のように主張する根拠として,①既発生の権利である本件福祉年金請求権を侵害すること,②既受給者にとって本件給付利率改定の予測可能性がないこと,③本件改廃規定の文言の不明確性,④被告の優越的地位を挙げる。しかし,①については,前記のとおり,本件改廃規定が本件契約の内容となっていることからすると,本件改廃規定によって既受給者に対する本件福祉年金の給付利率を引き下げることが信義則等に反するということはできない。②については,前記のとおり,原告らは本件契約の申込みをする時点において本件規程の存在を認識していたのであり,被告らを退職する前であっても,その後であっても,本件規程の内容を容易に知ることができたことからすると,既受給者である原告らにとって本件給 込みをする時点において本件規程の存在を認識していたのであり,被告らを退職する前であっても,その後であっても,本件規程の内容を容易に知ることができたことからすると,既受給者である原告らにとって本件給付利率改定の予測可能性がなかったということはできない。③についても,前記のとおり,本件改廃規定による本件給付利率改定の要件を事前に一律に決定することは不可能であり,本件改廃規定による本件給付利率の改定をするにあたっては,本件給付利率の改定をする必要性と改定後の本件給付利率の相当性という要件が要求され,双方の要件が満たされるのであれば,本件利率改定は有効と評価されると解するのが相当であるから,この点をもって,本件改廃規定による本件給付利率の改定が信義則等に反するということはできない。④については,原告らとしては,本件契約を締結するに当たり,退職金を自分で運用するか本件制度を利用するかについて,その自由な選択によってこれを決定できたのであるから,その時点において被告が優越的地位を有していたということはできない。また,本件改廃規定が存在するからといって,被告が何らの制限を受けることもなく自由に本件規程の内容を変更することが許されないことは当然のことであるから,本件改廃規定の存在が被告の優越的地位を根拠づけるものではないというべきである。 よって,この点に関する原告らの主張には理由がない。 7 以上のとおりであるから,本件改廃規定によって既受給者との間においても,本件給付利率の改定をすることは許されるというべきである。 なお,原告らは,本件利率改定に先立ち,被告が既受給者の個別同意を求め,当初の回答期間を延長してまで,既受給者の個別同意を得ようとしていたことからしても,本件改廃規定による本件利率改定が許されないものであることは,被告自身認識していたと主 告が既受給者の個別同意を求め,当初の回答期間を延長してまで,既受給者の個別同意を得ようとしていたことからしても,本件改廃規定による本件利率改定が許されないものであることは,被告自身認識していたと主張する。そして,乙38ないし乙41によると,原告らの主張する上記事実が認められるのであるが,法律的には既受給者の個別同意なくして契約内容を変更できる場合であっても,紛争となることを回避するために契約相手方の個別同意を求めるということは,何ら不自然なことではないのであるから,被告が上記のとおり既受給者の個別同意を求めたからといって,被告自身,既受給者の個別同意がなければ本件利率改定ができないと認識していたと認めることはできない(甲15によると,被告の労政グループが平成13年8月に作成した「雇用構造改革の推進にあたって」と題する文書には,本件福祉年金が被告と個人との個別契約であり,既受給者の年金額を減額できるかどうかには法的疑義があって慎重な検討が必要である旨の記載があるが,この記載も,既受給者の個別同意がない限り本件利率改定ができないと被告が認識していたことを示すものでないことは,その表現自体から明らかである。)。また,平成8年4月1日の労使合意により,平成9年3月21日以降の退職者につき本件給付利率を低くした際に,既受給者の本件給付利率を低くしなかったことは前記のとおりであるが,これも,上記と同様,既受給者との紛争を回避して,できるだけ穏便に本件制度の維持を図ろうとしたことによるものであると考えられるのであるから,この事実をもっても,既受給者の個別同意がない限り本件利率改定ができないと被告が認識していたと認めることはできない。 Ⅴ 本件利率改定が本件改廃規定の定める要件を満たすものであるかということについて検討する。 1 本件規程は,前記のとおり ない限り本件利率改定ができないと被告が認識していたと認めることはできない。 Ⅴ 本件利率改定が本件改廃規定の定める要件を満たすものであるかということについて検討する。 1 本件規程は,前記のとおり,被告らの従業員であった退職者との間の本件契約の内容となるものであり,退職金の支給方法についての合意という実質を含むものであって,本件規程が本件契約の内容として原告らにその効力が及ぶ根拠として,就業規則に類似した面があることは前記のとおりである。そして,そうであるとすると,本件改廃規定による本件利率改定が原告らに対して効力を生じるかどうかを判断するにあたっては,就業規則の不利益変更が従業員に対して効力を生じるかということに関する解釈が参考になると考えられる。 この点につき,最高裁判所第二小法廷平成9年2月28日判決・民集51巻2号705頁は,「就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度,使用者側の変更の必要性の内容・程度,変更後の就業規則の内容自体の相当性,代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況,労働組合等との交渉の経緯,他の労働組合又は他の従業員の対応,同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきである。」と判示する。これは,変更の必要性と変更の内容(不利益の程度・内容)との比較衡量を基本とし,不利益の程度・内容を判断するにあたってはその変更との関連で行われた他の労働条件の改善状況等を考慮に入れるとともに,労働組合等との交渉経緯,他の従業員の対応,変更の社会的相当性などをも勘案するものであって,①労働条件の変更の必要性,②変更された内容の相当性,③変更手続の相当性を要求しているものと解される。そして,本件改廃規定による本件給付利率の引下げについては,これとの関連で行われた他の労働条件の改善ということは想定し難い ,②変更された内容の相当性,③変更手続の相当性を要求しているものと解される。そして,本件改廃規定による本件給付利率の引下げについては,これとの関連で行われた他の労働条件の改善ということは想定し難いところであるから,変更された内容の相当性を判断するにあたっては,この点をも勘案する必要があり,その要件を充足するかということについては,慎重な判断が要求されるというべきである。 2 被告は,本件改廃規定にいう経済情勢もしくは社会保障制度に大幅な変動があったと主張するので,どのような場合に上記の要件を充足するのかということについて検討する。 (1) 本件制度は,未だ公的な社会保障制度の整備が不十分であった時代に,従業員の退職後の生活の安定を図るため,市場金利よりも有利な給付利率による年金を長期間に渡って継続的に支給し続けるということを目的とするものであったと考えられる。そして,そうであるとすると,ここでいう経済情勢の大幅な変動とは,市場金利よりも有利な給付利率による本件福祉年金の長期的・継続的支給を維持することが困難となるような経済情勢の大幅な変動を指すと解される。そして,市場金利よりも有利な給付利率による本件福祉年金を長期間に渡って継続的に支給し続けることが困難と考えられるような経済情勢の大幅な変動があったかということを判断するということになると,被告を取り巻く客観的な経済情勢について考慮するだけでなく,本件福祉年金を支給する主体である被告の経済状態をも考慮しなければならないことは,その性質上当然のことというべきである。 また,社会保障制度の大幅な変動により本件給付利率を維持することが困難になる場合とは,例えば,そのような給付利率による本件福祉年金の長期的・継続的支給をすることが被告の未だ退職していない従業員に対する社会保障制度との関係で著しい不均 り本件給付利率を維持することが困難になる場合とは,例えば,そのような給付利率による本件福祉年金の長期的・継続的支給をすることが被告の未だ退職していない従業員に対する社会保障制度との関係で著しい不均衡を生じることになる場合を指し,社会保障制度の大幅な変動により本件給付利率を維持することが不要になる場合とは,例えば,本件福祉年金の支給を必要としなくなるような公的な社会保障制度の充実があった場合を指すと解される。 (2) 大幅な変動があったかを判断する際の比較の基準時についてみるに,原告らは,本件規程が平成8年に改定され,その後に退職する従業員については本件給付利率が変更されたことから,それ以前に退職した従業員については本件給付利率を変更しないという決定がされたとして,そのような退職者については平成8年を比較の基準時とすべきであり,平成8年より後に退職した従業員についてはその退職時である本件契約締結時を比較の基準時とすべきであると主張する。 しかし,平成8年にされた本件規程の改定は,その時点における経済情勢の変動に鑑み,その後に退職する従業員については,本件給付利率を引き下げるということを内容とするものであったにとどまると考えられるのであり,それ以前に退職した従業員の本件給付利率が相当であるからこれを変更する必要性はないとの積極的判断がされたことを認めるに足りる証拠はない。かえって,上記改定により,平成9年3月21日以降の退職者については年9.5%,平成10年3月21日以降の退職者については年8.5%,平成11年3月21日以降の退職者については年7.5%との差を設けたことからすると,本来は,平成9年3月20日以前の退職者についても一定程度の本件給付利率引下げが望ましいとはしつつ,退職者ないし従業員の期待的利益にできるだけ応えるために,上記のよ 5%との差を設けたことからすると,本来は,平成9年3月20日以前の退職者についても一定程度の本件給付利率引下げが望ましいとはしつつ,退職者ないし従業員の期待的利益にできるだけ応えるために,上記のような段階的な本件給付利率の引下げがされたと推認されるところである。したがって,平成9年3月31日以前に退職した従業員につき,平成8年の本件規程改定時に本件給付利率を改定しないとの決定がされたとの前提をとることはできないから,それ以前に退職した原告らについて平成8年を比較の基準時とすることは相当でない。 また,本件給付利率の変更が事情の変更を理由とするものであることからすると,各退職者につき,本件契約締結時からの事情の変更の程度が問題になるはずであるから,各退職者それぞれにつきそれぞれの本件契約締結時を比較の基準時とすべきであると考えられなくもない。 しかし,本件給付利率は,各年度に被告が退職者らと本件契約を締結するにあたり,被告においてその当時の客観的情勢から適切と判断される本件給付利率を決定し,その利率により本件契約を締結したものでなく,本件制度をできる限り従来と同一内容で維持するという方針のもとに,本件給付利率についても従来の利率をできる限り維持するということで,被告が各年度の退職者と本件契約を締結してきたことは明らかであるとみられる。そうであるとすると,事情の変更ということを考えるとはいっても,本件契約締結時を比較の基準時とすることは実態に合致しないと考えられる。また,各原告の本件契約締結時ごとに基準時を異にするという考え方は,例えば,平成元年に本件契約を締結した者,平成4年に本件契約を締結した者,平成7年に本件契約を締結した者のそれぞれにつき,適正な給付利率の改定の程度が異なるべきであるという考え方に結びつくものである。しかし,既受給者間 件契約を締結した者,平成4年に本件契約を締結した者,平成7年に本件契約を締結した者のそれぞれにつき,適正な給付利率の改定の程度が異なるべきであるという考え方に結びつくものである。しかし,既受給者間の公平という観点からは,既受給者のそれぞれの退職年度によって,本件改廃規定による本件給付利率の改定幅を異なるものとすることが望ましくないことはいうまでもなく,本件改廃規定によって本件給付利率を変更するにあたっては,既受給者間で本件給付利率の変更幅を同じにすることが要請されるというべきである。そうであるとするならば,平成8年以前に退職した従業員につき,大幅な変動があったかということについての比較の基準時につき,各退職者の本件契約締結時と観念することはできないのであるから,これに代わるものとしては,本件制度が設けられた昭和40年を比較の基準時と観念するほかないことになる。もっとも,経済情勢もしくは社会保障制度に大幅な変動があった場合という要件は,それまでの本件給付利率による本件福祉年金の支給が困難又は不要になったことを理由として,本件給付利率を変更することの必要性をいうものであるから,厳密な意味で昭和40年を比較の基準時とすることは必要でなく,本件改廃規定に基づく本件給付利率の改定の当否が問題となった時点において,従来の本件給付利率を維持することが不当と考えられるような経済情勢であるか,社会保障制度となっているかという観点からこれを判断することが相当であると解される。 以上のように考えるならば,各退職者についての本件契約締結時を比較の基準時とすることは相当でないのであるから,平成9年3月21日以降に本件契約を締結した退職者についても,各退職者の本件契約締結時を比較の基準時とすることができないことは当然である。そして,上記のところによると,平成9年3 でないのであるから,平成9年3月21日以降に本件契約を締結した退職者についても,各退職者の本件契約締結時を比較の基準時とすることができないことは当然である。そして,上記のところによると,平成9年3月21日以降に本件契約を締結した退職者については,平成8年を比較の基準時と考えることもできなくはないが,これらの退職者についても,上記と同様,厳密な意味で平成8年を比較の基準時とすることは必要でなく,従来の本件給付利率を維持することが不当と考えられるような経済情勢であるか,社会保障制度となっているかという観点からこれを判断することが相当であると解される。 3 本件利率改定当時,経済情勢,社会保障制度に大幅な変動があったかということについて検討する。 (1) 括弧内に記載の書証及び弁論の全趣旨によると以下の事実が認められる。 ア本件給付利率本件制度が開始された昭和41年から本件利率改定が行われた平成14年までの約36年間についてみると,本件給付利率は,昭和41年から平成9年3月20日までに本件契約を締結した者については年10%のままであり,平成9年3月21日以降の退職者は年9.5%,平成10年3月21日以降の退職者は年8.5%,平成11年3月21日以降の退職者は年7. 5%とされたことは前記のとおりである。 イ市場金利(運用利回り)の推移上記の間についてみると,貸付信託(5年)の年率は,昭和41年が7.32%であり,昭和48年までは7%台であったが,昭和49年から昭和51年までは8%台となり,いったん利率が低くなった後,昭和55年に8.4%となり,その後は,ほぼ一貫して利率が低下し続け,平成7年に1%台となり,平成8年には1%を割って,平成14年には0.05%となった。定期預金(1年)の年率は,昭和41年が5.5%であり,昭和49年,昭和50年 後は,ほぼ一貫して利率が低下し続け,平成7年に1%台となり,平成8年には1%を割って,平成14年には0.05%となった。定期預金(1年)の年率は,昭和41年が5.5%であり,昭和49年,昭和50年は7%台となったが,昭和52年には6.75%となり,その後は,ほぼ一貫して利率が低下し続け,平成6年に1%台となり,平成8年に1%を割って,平成14年には0.04%となった。新発10年国債の年率は,昭和47年が6.91%であり,昭和49年から昭和59年まではほぼ7%台又は8%台であったが,昭和60年以降は,ほぼ一貫して利率が低下し続け,平成14年には1.27%となった。(乙31,乙49)ウ貸出金利の推移上記の間についてみると,長期プライムレートの利率は,昭和41年が8.4%であり,昭和48年までは概ね8%台であったが,昭和49年から昭和51年までは9%台となり,いったん利率が低くなった後,昭和55年に9.16%となり,その後は,ほぼ一貫して利率が低下し続け,平成13年に1%台となり,平成14年には1.94%となった。公定歩合は,昭和41年が5.48%であり,昭和48年までは4%台後半から6%台前半の間で推移していたが,昭和49年に9%となり,その後は,昭和55年,平成2年ころに一時的に高くなったものの,低下し続け,平成6年に1%台となり,平成8年に1%を割って,平成14年には0.1%となった。(乙31,乙49)エ年金資産の運用利回りの推移上記の間についてみると,被告厚生年金基金の運用利回りは,昭和53年が10.12%であり,昭和62年までは概ね9%から10%の間で推移していたが,昭和63年に8.65%となり,その後は,ほぼ一貫して利率が低下し続け,平成11年に一時的に14.82%まで上昇したが,平成12年にはマイナス10.6%まで低 概ね9%から10%の間で推移していたが,昭和63年に8.65%となり,その後は,ほぼ一貫して利率が低下し続け,平成11年に一時的に14.82%まで上昇したが,平成12年にはマイナス10.6%まで低下し,その後はマイナスのまま推移し,平成14年にはマイナス12.3%となった。年金資金運用基金(公的年金)の運用利回りは,昭和61年が17.07%であり,その後は概ね0%から10%の間で推移していたが,平成11年に10.94%となった後,平成12年にはマイナス5.72%まで低下し,その後はマイナスのまま推移し,平成14年にはマイナス8.46%となった。厚生年金基金連合会の運用利回りは,昭和61年が11.11%であり,その後は一時的な上昇はあったものの概ね0%から10%の間で推移していたが,平成11年に11.29%となった後,平成12年にはマイナス9.83%まで低下し,その後はマイナスのまま推移し,平成14年にはマイナス12.5%となった。(乙34)オ利率引下げ,解散をする厚生年金基金の急増平成9年ころから給付利率の引下げや解散をする厚生年金基金が増え始め,平成12年ころからは急増している。解散数についてみると,平成7年ころまでは毎年1件あるかないかくらいであったのが,平成13年には59基金,平成14年には73基金,平成15年には92基金が解散している。(乙36の1ないし4,乙37,乙49,乙50)カ現役従業員と既受給者との間の格差年金原資1330万円(受給者平均額),20年保証,85歳(60歳平均余命男女平均)まで受給するとの前提条件で,キャッシュバランスプランの下での現役従業員について,60歳から80歳(確定年金のため)までの間に受給する年金総額を試算すると1860万円となり,年金原資を超えて受給する金額(すなわち,本件基本年金の利 ッシュバランスプランの下での現役従業員について,60歳から80歳(確定年金のため)までの間に受給する年金総額を試算すると1860万円となり,年金原資を超えて受給する金額(すなわち,本件基本年金の利息相当分と本件終身年金の合計額)は530万円にすぎない。これに対し,同一の前提条件で,本件制度下(本件利率改定前)の既受給者について,60歳から85歳までの間に受給する年金総額を試算すると,本件給付利率が10%の者の場合には3800万円となり,年金原資を超えて2470万円を受給することができることになる。また,本件利率改定後でも,年金総額は3325万円となり,年金原資を超えて1995万円を受給することができることになる。(乙48)キ本件基本年金の利息,本件終身年金にあたるものとして被告が受給者に支給した額本件福祉年金として被告が受給者に支給した年金額のうち,当該受給者の拠出した原資額を超える部分は,昭和54年までは存在しなかったが,昭和55年に6億4000万円を計上し,その後は一貫して増額を続け,平成8年には76億5000万円,平成10年には101億2000万円,平成12年には117億6000万円,平成13年には128億8000万円となった。(乙13)ク被告の業績の推移(純利益,営業利益率,株主資本利益率)(ア) 被告は,平成14年3月期の決算において,約1324億円の赤字を計上した。なお,その前後の被告の純利益は,平成12年3月期が約423億円,平成13年3月期が約637億円,平成15年3月期が約288億円であった。(乙10の1)(イ) 営業利益率は,昭和41年11月期に10.1%だったのが,平成元年3月期には3. 5%,平成13年3月期には1.6%,平成14年3月期にはマイナス2.4%,平成15年3月期には1.2%となり,次第に低下し 利益率は,昭和41年11月期に10.1%だったのが,平成元年3月期には3. 5%,平成13年3月期には1.6%,平成14年3月期にはマイナス2.4%,平成15年3月期には1.2%となり,次第に低下してきている。(乙10の1,2)(ウ) 株主資本利益率は,昭和41年11月期に10.8%だったのが,平成元年3月期には8.0%,平成13年3月期には2.4%,平成14年3月期にはマイナス5.1%,平成15年3月期には1.1%となり,次第に低下してきている。(乙10の1)ケ括弧内に記載の書証及び弁論の全趣旨によると,上記のような経済状態の中で,被告が,雇用,賃金,退職金,年金等の各種制度について以下のとおりの見直しを行ったことが認められる。 (ア) 地域限定社員制度の導入平成12年8月,地域限定社員制度(転居を伴う異動がない代わりに本給水準を1割ないし2割引き下げる制度)が導入され,被告,主要分社,関係会社の従業員約7万8000人を対象に募集が行われ,約2万5000人がこれを選択し,該当者については約3万円から5万円,本給が引き下げられた。 (イ) 特別ライフプラン等の実施平成13年度に入って,雇用構造改革の一環として早期退職者優遇施策(特別ライフプラン支援)が実施され,被告,主要分社,関係会社の従業員約9万2500人を対象に募集が行われ,最終的に翌年3月末までに約1万1000人が退職した。同施策の実施に際し,被告は退職者に対し,規程退職金に上乗せして,最大で年収の2.5年分相当(基準内賃金の40か月分)を支給した。また,同年末には,課長職以上の管理職の賞与について,同年の夏季賞与に比して15%の減額支給も行われた。 (ウ) 全社特別緊急経営施策の実施前記のとおり,平成14年3月期決算において,被告が上場以来初の最終赤字を計上したことを受 の賞与について,同年の夏季賞与に比して15%の減額支給も行われた。 (ウ) 全社特別緊急経営施策の実施前記のとおり,平成14年3月期決算において,被告が上場以来初の最終赤字を計上したことを受けて,同年には,全社特別緊急経営施策として,出張手当削減,超過勤務手当の割増率引下げ等が行われた。また,役員賞与ゼロ,役員年俸の30%以上のカット(役員の月次報酬は既に平成13年7月から20%カットされていた。),課長以上の管理職の年俸の10%ないし25%のカット,さらに労働組合員の賃金増額を凍結し半年の延期が実施されるなどした。 (エ) 退職金制度,本件制度の抜本的見直し前記のとおり,被告は,平成12年4月,本件加算年金の給付利率を年7.5%から年5.5%に引き下げた。また,被告は,平成14年4月,現役従業員に対する関係で本件制度を廃止し,同月1日付の退職者から,被告厚生年金基金の加算年金の代わりに厚生年金基金第一加算年金(給付利率年5.5%,20年保証の終身年金)を,本件制度の代わりに厚生年金基金第二加算年金として市場金利連動型のキャッシュバランスプラン(終身年金制度は採用されておらず,変動利率型で最長20年の確定年金であり,平成14年4月から当面年3.5%の給付利率で支給を開始している。)をそれぞれ導入した。その後,老齢厚生年金の代行返上に伴って,被告厚生年金基金は松下電器企業年金基金に組織変更され,厚生年金基金第一加算年金は企業年金基金第1年金(国債の利回りに連動する変動利率型の終身年金で,当面年2%の給付利率で支給を開始している。)に,厚生年金基金第二加算年金は企業年金基金第2年金に,それぞれ名称変更された。(乙68)(2) 上記のとおり,被告が,既受給者に対し,本件基本年金の利息相当分及び本件終身年金として支給する金額は年々増加 年金基金第二加算年金は企業年金基金第2年金に,それぞれ名称変更された。(乙68)(2) 上記のとおり,被告が,既受給者に対し,本件基本年金の利息相当分及び本件終身年金として支給する金額は年々増加していたところ,この金額の中には,計算上は,超過利息分だけでなく,既受給者らが拠出した年金原資としての退職金の運用益も含まれているはずであるから,これをもって直ちに被告の負担が増大したということはできないが,上記のとおり,市場の貸出金利についてみると,長期プライムレートが,昭和41年に8.4%であったのに対し,昭和61年から低下を続けて,平成14年には1.94%となり,公定歩合も,昭和41年に5.48%であったのに対し,同じく昭和61年から低下を続けて,平成14年には0. 1%となったのであるから,本件制度に関する被告の負担は年々増大してきていると認めるのが相当である。 また,市場での運用利回りについてみると,前記のとおり,貸付信託(5年)が,昭和41年に7.32%であったのに対し,昭和56年から低下を続けて平成14年には0.05%となり,定期預金(1年)が,昭和41年に5.5%であったのに対し,昭和52年から低下を続けて,平成14年には0.04%となり,新発10年国債についても,昭和47年に6.91%であったのに対し,昭和60年以降は低下を続けて,平成14年には1.27%となったというのであるから,原告らにとって,本件給付利率は,昭和41年当時であれば,市場での運用利回りより2.68%ないし4.5%高い運用利回りであったのが,平成14年には市場での運用利回りより8.73%ないし9.96%高い利回りで運用していることになり,自分で退職金を運用した場合には到底得ることのできないような高利率での利息を取得しているということになる。 他方,被告の営業 利回りより8.73%ないし9.96%高い利回りで運用していることになり,自分で退職金を運用した場合には到底得ることのできないような高利率での利息を取得しているということになる。 他方,被告の営業利益率についてみると,前記のとおり,本件制度の開始時には10.1%であったのに対し,平成13年3月期には1.6%に低下し,平成14年3月期にはマイナスとなったのであり,株主利益率についても,同様に大幅な減少がみられ,このような経済情勢の中で,被告は,現役従業員の労働条件の低下を余儀なくされ,さらには,現役従業員との関係で本件制度を廃止し,本件給付利率よりはるかに低い利率での年金給付制度を導入したのであるから,本件福祉年金の既受給者と被告らの現役従業員との間には,年金の受給額等につき極めて大きな格差が生じていると判断される。従来と比較して市場での運用利回りが大幅に低下しているにもかかわらず,原告ら既受給者が何ら変わることなく上記のとおり極めて高利率での利息を取得することができるのは,被告の存続と被告らの現役従業員の労務提供があってのことであり,そうであるとすると,上記のとおり,被告の営業利益率が低下し,被告らの現役従業員の年金受給額との大幅な格差が生じている状況のもとで,原告ら既受給者の利益のみを維持し続けるということは,公平の観点からみても妥当な結論であるとはいい難い。 また,これらの被告をとりまく経済情勢,社会保障制度は,被告に特有なものではなく,貸付信託等の運用利回りの低下を受けて,前記のとおり,年金資金運用基金や厚生年金基金連合会の運用利回りも大幅に低下しており,給付利率の引下げや解散をする厚生年金基金が急増しているというのである。 そして,以上を総合すると,被告において,原告らを含む既受給者に対し,従来と同率の本件給付利率を維持しながら に低下しており,給付利率の引下げや解散をする厚生年金基金が急増しているというのである。 そして,以上を総合すると,被告において,原告らを含む既受給者に対し,従来と同率の本件給付利率を維持しながら本件福祉年金の給付を行うことが困難となるような経済情勢の変動があったと認めるのが相当である。また,被告らの現役従業員に対して予定されている年金の受給額は,本件福祉年金の既受給者との間で大きな格差が生じているというのであるから,そのことからすると,社会保障制度についても,被告らの現役従業員との関係で大幅な変動が生じていると認めるのが相当である。なお,平成16年度以降は,受給者の減少により,被告が填補すべき額も年々減少することが予測されるのであるが(乙14),受給者の減少が生じるのは,被告が現役従業員に対する関係で本件制度を廃止したことが原因であり,しかも本件制度を廃止した結果,現役従業員と既受給者との間に,年金原資を超えて受給できる金額について著しい格差が生じることが上記のとおりであるとすると,このことは,経済情勢,社会保障制度に大幅な変動があったという結論に影響を及ぼすものではないというべきである。 (3) この点に関する原告らの主張について検討する。 ア原告らは,本件制度のための被告負担額が今後減少していくのであり,また,本件利率改定をした場合としなかった場合との差額は被告の事業規模からみると大きなものではないのだから,本件利率改定を行う必要性はないと主張する。しかし,前記のとおり,被告の負担額が減少していくのは,本件制度を廃止したためであると考えられるのであるから,今後の被告負担額の減少を本件利率改定の必要性を否定する理由にすることは相当でない。また,被告は,経費の節減のためにさまざまの施策を講じているのであり,その一つ一つによる効果は大き るのであるから,今後の被告負担額の減少を本件利率改定の必要性を否定する理由にすることは相当でない。また,被告は,経費の節減のためにさまざまの施策を講じているのであり,その一つ一つによる効果は大きなものではないとしても,それを総合することによって経費節減の効果を生じさせようとしていると考えられるのであるから,本件利率改定による経費節減の効果が被告の事業規模と比較して大きなものでないとしても,そのことは本件利率改定の必要性の程度を減少させるものではないというべきである。 イ原告らは,現役従業員との間に年金受給額の格差が生じるのは,被告の労務政策の変遷がもたらした結果にすぎず,その格差が何らかの法的効果をもたらすわけではないと主張する。しかし,被告の労務政策に変更があったのは,前記認定事実によると,被告の経済状態を含む経済情勢の大幅な変動があり,また,被告をとりまく社会保障制度に大幅な変動があったことによるものであると認められるのであるから,そのような労務政策の変更があったことこそ,それは本件利率改定の必要性を基礎づけるものというべきである。 ウ原告らは,既受給者もかつては老後の生活保障も励みにして労務を提供し,被告らの利潤蓄積に貢献したところ,本件基本年金の利息相当分の受給は,その労務の提供の成果に対する還元という側面も有していること等を理由として,現役従業員との格差を問題とするのは不合理であると主張する。しかし,本件利率改定により利率が低下する部分は,超過利息分であって,その対価を具体的に観念できないものであり,原告らの労働の対価とは評価できないのであるから,この点に関する原告らの主張には理由がないというべきである。 エ原告らは,経済情勢の変動を示す指標として,消費者物価指数等も重要な指標となるところ,消費者物価指数は平成8年以降極 ないのであるから,この点に関する原告らの主張には理由がないというべきである。 エ原告らは,経済情勢の変動を示す指標として,消費者物価指数等も重要な指標となるところ,消費者物価指数は平成8年以降極めて安定していると主張する。しかし,本件利率改定において問題となるのは,原告らが被告に拠出した年金原資の利回りの相当性,被告が市中金融機関から資金を借り入れた場合と本件給付利率との比較,被告が原告らから拠出を受けた年金原資により事業活動を行った結果としての利益率との関係,他の社会保障制度における利回りとの関係が主たるものであり,消費者物価指数や,例えば家賃指数といった指数は,本件利率改定の相当性を検討するにあたって,まったく関係のないものであるから,これらを指標をすることは相当でない。 4 本件利率改定の内容の相当性について検討する。 前記のとおり,本件福祉年金のうち,年金原資額(退職金の分割払いの実質を有する部分)とこれに対する一般に運用可能な利率による利息相当額を除くその余の部分については,本件改廃規定により本件給付利率を変更して給付額を減額することも可能であると解されるが,本件利率改定の内容の相当性を判断するにあたっては,既受給者にとり,本件利率改定に対応するものとして,それに見合う何らかの条件の改善ということは想定できないのであるから,本件利率改定が相当であるというためには,そのことをも勘案して慎重な判断が要求されるというべきである。 他方,前記のとおり,本件基本年金の利息相当分のうち超過利息分及び本件終身年金については,その対価を具体的に観念できず,それは法律的に贈与と評価されるものであることからしても,その部分の利率を切り下げることに対して既受給者の保護すべき利益の程度はそれ以外の部分と比較してそれほど高くはないというべきである。 できず,それは法律的に贈与と評価されるものであることからしても,その部分の利率を切り下げることに対して既受給者の保護すべき利益の程度はそれ以外の部分と比較してそれほど高くはないというべきである。 これを本件についてみるに,前記のとおり,本件制度が開始された昭和41年の本件給付利率は10%であったところ,当時の貸付信託(5年)の年率は7.32%,定期預金(1年)の年率が5.5%であったから,本件給付利率は,貸付信託,定期預金の年率より2.68%ないし4.5%高く,割合にして137%ないし182%であったことになる。その後,貸付信託,定期預金の年率が上がった時代があるが,最も高かった昭和49年ころでも,貸付信託の年率が8%台,定期預金の年率が7%台であり,新発10年国債の当時の利率もほぼ同様であったところ,これらの金融商品等の利率はその後一貫して低下し続け,平成14年には,貸付信託(5年)が0.05%,定期預金(1年)が0.04%,新発10年国債が1.27%となっているのである。そして,本件利率改定は,これまでの本件給付利率を一律に2%切り下げるものであって,年10%の既受給者につき年8%,年9.5%の既受給者につき年7. 5%,年8.5%の既受給者につき年6.5%,年7.5%の既受給者につき年5.5%とするものであるが,最も低い年5.5%の既受給者についてみても,平成14年当時の,貸付信託(5年)の年率より5.45%,定期預金(1年)の年率より4.96%,新発10年国債より4.23%高いのであるから,少なくとも,年5.5%を超える部分は超過利息分であるというべきである。 そして,前記のとおり,市場の貸出金利の利率が大幅に低下していること,本件利率改定を前提としても,本件基本年金の既受給者と被告らの現役従業員との年金給付の格差が拡大している るというべきである。 そして,前記のとおり,市場の貸出金利の利率が大幅に低下していること,本件利率改定を前提としても,本件基本年金の既受給者と被告らの現役従業員との年金給付の格差が拡大していること,被告の営業利益率等が低下していること等の諸般の事情を勘案すると,本件利率改定後の本件給付利率は,本件利率改定による原告ら既受給者の不利益を考慮しても,なお,その内容は相当な範囲内のものであるというべきである。 5 本件利率改定の手続の相当性について検討する。 (1) 本件利率改定に際して労使協議がされたことは当事者間に争いがなく,乙55及び括弧内に記載の書証によると,本件利率改定に対する同意を得るために,被告が既受給者に対して行った説明会等の手続は以下のとおりであり,これにより,被告は,本件利率改定につき既受給者の94.6%の同意を得たことが認められる。 ア書簡の送付被告は,平成14年4月末ころ,既受給者に対し,①被告において本件利率改定をするに至った背景,趣旨を伝えるとともに,既受給者の理解を求める内容の書簡を,被告の中村邦夫社長(以下「中村社長」という。)名で送付した。書簡については,その後も,②本件給付利率を一律2%引き下げることについての既受給者の理解を求める内容の被告の村山敦副社長(以下「村山副社長」という。)名の書簡,③本件利率改定後の年金額の試算,及び本件利率改定に対する同意を求める内容が記載され,同意用の葉書が同封された被告の労政グループ名の通知,④本件経過措置についての説明,分社・事業場・地区別説明会(以下「事業場別説明会」という。)の案内等が記載された村山副社長名の書簡,⑤同意した既受給者に対する村山副社長名の礼状,⑥不同意者に対して再度同意を求める内容が記載された村山副社長名の書簡,⑦中村社長名の礼状が送付された。( う。)の案内等が記載された村山副社長名の書簡,⑤同意した既受給者に対する村山副社長名の礼状,⑥不同意者に対して再度同意を求める内容が記載された村山副社長名の書簡,⑦中村社長名の礼状が送付された。(乙38ないし乙43,乙55)イ松愛会定期支部総会後の会社説明会被告の人事責任者は,同年5月ころから,全国35地区で行われた松愛会(被告らの定年退職者(定年扱い退職者を含む。)の親睦団体である。)の定期支部総会後に,本件利率改定について既受給者に対し直接説明し,理解を求めた。(乙8,乙56,乙57)ウフリーダイヤルの設置被告は,同年5月半ばころから,既受給者からの様々な質問や意見に対し個別に直接回答するために,フリーダイヤルを設置した。 エ事業場別説明会被告は,同年6月末ころから,全国延べ81地区において事業場別説明会を実施し,本件利率改定について既受給者に対し直接説明し,理解を求めた。(乙58ないし乙62,乙66)(2) 括弧内に記載の書証によると,本件利率改定に際して,被告が原告らに本件規程等を以下のとおり送付したことが認められる。 ア本件利率改定に際し,原告らをはじめとする本件福祉年金の既受給者から,被告に対し,各人が退職した当時の本件規程を見せて欲しいとの要望が寄せられた。そこで,被告は,原本が現存するものについてはワープロで作成し直し,原本が現存しないものについては現存する本件規程,労使の協定書や答申書,各種の社内通達など現存する他の資料を参考にして原本の内容を再現し,また,復刻版を作成するなどした。この復刻版の作成に際しては,若干の文字や送りがなの変更等を行った。(乙3の1ないし5)イまた,昭和59年10月1日改定の際には,預入限度額が退職金の70%以内から50%以内に変更されたことなどとの関係から,労使協定によ 若干の文字や送りがなの変更等を行った。(乙3の1ないし5)イまた,昭和59年10月1日改定の際には,預入限度額が退職金の70%以内から50%以内に変更されたことなどとの関係から,労使協定により経過措置が設けられたところ,本件規程の記載のみからでは経過措置の内容を知ることができないので,経過措置の対象となっていた既受給者に送付されることになる昭和61年10月1日改定及び平成2年4月1日改定に係る本件規程の復刻版には,分かりやすさの観点から第5条に括弧書きで経過措置の内容を付け加えた。同様の取扱いは,平成8年4月1日改定の際の経過措置についても行っている。 なお,分かりやすさのため,復刻版の作成に際しては,「昭和65年」などと表記せず,平成の元号を用いた。(乙3の2,4,5,乙19の2,乙20)ウそして,被告は,平成14年9月ころ,本件利率改定の対象となった全ての既受給者に対し,各人の退職時に存在していた本件規程の復刻版(本文と別表)と本件利率改定に伴い改定した新しい本件規程の別表とを送付した。(乙3の1ないし5,乙21の1ないし5)(3) 以上の事実に基づき,本件利率改定の手続の相当性についてみるに,本件利率改定は,既受給者と現役従業員との利害が対立する場面であるから,労働組合をもって既受給者らの正当な利益代表とみることはできず,被告が同意を得るために実施した説明会等も,本件利率改定を被告内部で決定した後に,本件利率改定自体は動かない事実として,既受給者の理解を得るために実施されたものであると考えられることからすると,これらをもって,就業規則の不利益変更をする場合に手続の相当性として重視されるべき多数組合との合意と同様の手続がされたという評価をすることはできない。しかし,松愛会は被告の定年退職者らによる親睦団体にすぎないのであるか 則の不利益変更をする場合に手続の相当性として重視されるべき多数組合との合意と同様の手続がされたという評価をすることはできない。しかし,松愛会は被告の定年退職者らによる親睦団体にすぎないのであるから,松愛会が既受給者の利益を正当に代表するとみることはできず,他方,本件基本年金の既受給者は被告らを退職しているのであるから,そうであるとすると,本件基本年金の既受給者を正当に代表する団体を想定することはできないのである。そして,そのような特殊性にかんがみると,本件利率改定の手続の相当性を判断するにあたっては,本件利率改定を決定するより前に既受給者らとどのような交渉がされたかということではなく,本件利率改定につき,既受給者に対しどの程度の説明がされ,これを受けて,どの程度の割合の既受給者が本件利率改定に同意したかということでこれを判断するほかないと考えられる。 そして,前記のとおり,被告は,本件利率改定をするにあたり,本件規程の復刻版を作成するなどしてこれを既受給者に送付したうえ,松愛会定期支部総会後の会社説明会や事業場別説明会で既受給者に対し本件利率改定をするに至った経緯を説明して理解を求め,これにより,被告は,既受給者の94.6%の同意を得たというのであるから,本件利率改定に際して十分な手続を履践したとまでいうことはできないとしても,既に退職している元従業員らに対する手続としては,これらの手続が不相当であったということもできないと考えられる。 6 以上のとおり,本件利率改定は,強い必要性が認められ,その内容において相当であると認められるのであり,その手続も不相当とまでいうことはできないのであるから,これを全体としてみるとき,本件利率改定は本件改廃規定の要件を充たしているというべきである。 よって,本件利率改定は許されるというべきである。 Ⅵ 以 続も不相当とまでいうことはできないのであるから,これを全体としてみるとき,本件利率改定は本件改廃規定の要件を充たしているというべきである。 よって,本件利率改定は許されるというべきである。 Ⅵ 以上のとおりであり,原告らの被告に対する請求は,いずれも理由がないので棄却することとし,訴訟費用の負担につき,民事訴訟法61条,65条を適用して,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第18民事部裁判長裁判官佐賀義史裁判官石村智裁判官児玉禎治
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