平成12(ワ)556 損害賠償請求

裁判年月日・裁判所
平成14年3月11日 和歌山地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-7433.txt

判決文本文12,747 文字)

主文 1 被告らは,原告A寺に対し,連帯して,金330万円及びこれに対する平成12年10月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告和歌山市は,原告Bに対し,金150万円及びこれに対する平成12年10月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 原告A寺の被告らに対するその余の請求,原告Bの被告和歌山市に対するその余の請求及び同原告の被告C株式会社に対する請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用はこれを20分し,その10を原告A寺の負担とし,その1を原告B負担とし,その6を被告和歌山市の負担とし,その余を被告C株式会社の負担とする。 5 この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告らは,原告A寺に対し,連帯して,金850万円及びこれに対する平成12年10月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え(遅延損害金の起算日は訴状送達の日の翌日)。 2 被告らは,原告Bに対し,連帯して,金200万円及びこれに対する平成12年10月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え(遅延損害金の起算日は訴状送達の日の翌日)。 第2 事案の概要本件は,原告らが被告和歌山市職員及び被告C株式会社の社員の不法行為により損害を被ったとして,被告和歌山市に対しては国家賠償法1条1項に基づき,被告C株式会社に対しては民法709条,710条及び715条に基づき,それぞれ損害賠償を求めた事案である。 1 前提事実(1) 被告C株式会社(以下,「被告会社」という。)は,下請業者を使って,D製革工場の補修・補強工事(以下,「訴外工事」という。)を施工した。【丙3,4の1ないし37,8の1及び2,9の 事実 (1) 被告C株式会社(以下,「被告会社」という。)は,下請業者を使って,D製革工場の補修・補強工事(以下,「訴外工事」という。)を施工した。【丙3,4の1ないし37,8の1及び2,9の1及び2,10の1及び2】(2) 原告A寺は,被告和歌山市(以下,「被告市」という。)との間で,平成11年3月25日,同被告が施工するa地区道路改良工事のために移転または除却を必要とする建物・工作物等の移転等について,原告A寺が建物・工作物等を移転させ,被告市が物件移転補償金として1億2040万5300円を支払う旨の物件移転補償契約を締結し(支払時期は,契約後及び物件移転完了確認後にそれぞれ6020万2650円),被告市から原告A寺に対して,同補償金の内金として,平成11年4月5日に1851万7650円が,同年7月21日に6020万2650円がそれぞれ支払われた。【甲1,3,乙2】(3) 被告市は,前項の補償金の内金4168万5000円(以下,「本件補償金」という。)の請求及び受領に関する一切の権限を被告会社に委任する旨の委任状(以下,「本件委任状」という。)に基づいて,平成11年4月5日,被告会社に対し,4168万5000円を支払った。【争いのない事実】(4) 原告A寺は,被告市に対し,平成12年8月11日当庁に補償金請求訴訟を提起し(当庁平成12年(ワ)第464号事件)(以下,「別件訴訟」という。),同年12月20日被告市に対し,補償金4168万5000円及び履行期後の遅延損害金の支払を命じる判決が言い渡され,被告市は,原告ら代理人の預金口座に振り込む方法で,同月27日に本件補償金を,平成13年1月22日に上記遅延損害金をそれぞれ支払った。【乙3ないし5,11,12】 2 原告らの主張(1) E及び被告市当局の不法行為 に振り込む方法で,同月27日に本件補償金を,平成13年1月22日に上記遅延損害金をそれぞれ支払った。【乙3ないし5,11,12】 2 原告らの主張(1) E及び被告市当局の不法行為被告市の同和対策室改善課課長補佐であったEは,平成11年3月25日ころ,原告A寺の代表役員である原告Bを欺いて,本件補償金の支払を受けるために必要であるなどと申し向けて,本件委任状に,原告A寺の代表者印を押印させるなどして,同年4月5日ころ,被告会社に対し,本件補償金を受け取らせることにより,本件補償金を被告会社に対する訴外工事代金の支払に流用した。 Eは,原告Bから本件補償金について問い合わせを受けた際,同金員は未払いのままで残っているなどと虚偽の内容の説明をして,本件補償金を流用したことが発覚するのを引き延ばすとともに,原告ら代理人が,被告市に対し,本件補償金について文書で照会したところ,Eは,原告B方を連日訪れ,同人に対し,「上記補償金は支払われずまだ市役所に残っているのでしばらく待って欲しい,必ず支払うから取り敢えず弁護士を解任して被告市に対する申入れを取り下げて欲しい。」などと再三迫った。 また,被告市当局は,他部署へ異動していたEに対し,上記働きかけを指示してEを原告B方に派遣するとともに,原告ら代理人に対しては,「調査のため6月10日まで回答を待って欲しい,同日までには必ず文書で回答する。」などと返答の猶予を申し入れて,原告BがEの申し入れを受け入れるまで時間稼ぎをし,その後,被告市としては本件補償金を支払うことはできないのでEから弁償金を受け取って欲しいと述べるのみで,正当な理由なく本件補償金の支払をしなかった。 (2) 被告会社社員の不法行為被告会社の社員であるFは,訴外工事が予算措置のなされておら のでEから弁償金を受け取って欲しいと述べるのみで,正当な理由なく本件補償金の支払をしなかった。 (2) 被告会社社員の不法行為被告会社の社員であるFは,訴外工事が予算措置のなされておらず,同工事代金が不当に利益が上乗せされて算出されたものであることを認識していたにもかかわらず,Eと共謀の上,補償金4168万5000円を騙し取ろうと企て,被告市に対し,本件物件移転補償金請求名目の内容虚偽の請求書を作成し,これを被告市に提出して,同補償金を騙し取った(被告会社は,平成9年12月初旬に訴外工事を完成させていたにもかかわらず,一年以上経過後の平成11年4月に工事代金の支払を受け,しかも,補強工事や被告会社に何ら関係のない名目が記載された請求書に押印して本件補償金を受け取ったこと,被告会社が最終的に請求した代金額は当初の見積額に比して過大であり被告会社もこの点を了承していたことに照らし,被告会社が,本来正規に受け取ることができないものであると認識していたはずである。)。 さらに,被告会社は,本件補償金の流用についてマスコミに取り上げられるまで,被告市への本件補償金返還を拒絶していた。 (3) 損害ア原告A寺の損害合計850万円(ア) 別件訴訟追行等の弁護士費用 300万円原告A寺は,被告市との物件移転補償契約に基づき,寺の本堂・客殿・庫裏・鐘楼等を撤去したにもかかわらず,前記不法行為により,本件補償金を受け取ることができなくなったため,その支払を求める訴えを提起せざるをえなくなったのであり,原告ら代理人の事実関係の調査,訴え提起・訴訟追行に伴う弁護士費用のうち300万円は被告らの不法行為と相当因果関係のある損害である。 (イ) 宗教活動の支 提起せざるをえなくなったのであり,原告ら代理人の事実関係の調査,訴え提起・訴訟追行に伴う弁護士費用のうち300万円は被告らの不法行為と相当因果関係のある損害である。 (イ) 宗教活動の支障による損害 500万円原告A寺は,被告らの不法行為により,未だに新しい寺院を建築することができない状態であり,原告A寺の宗教活動に重大な支障を来たしており,これによって,原告A寺が被った損害は,500万円を下らない。 (ウ) 本件訴訟の弁護士費用 50万円本訴の追行に要する弁護士費用の内金50万円も前記不法行為と相当因果関係にある損害である。 イ原告の損害 200万円原告Bは,Eに騙されて虚偽の委任状に捺印させられた上,その後も被告市及びEから圧力等を受けるとともに,寺院がないために住職として必要な宗教活動に重大な支障を生じ,一部の檀家からは新寺院建設に必要な資金の支払が遅れた原因は虚偽の委任状に捺印した原告Bにあるとの誤った非難を受けており,原告Bの被った精神的苦痛を慰謝するには,200万円が相当である。 2 被告市の主張(1) Eは,独断で,被告会社に対して,訴外工事を発注したものの,同工事に対する予算措置がないことから,とりあえず本件補償金を同工事代金の支払に充てることとし,平成11年3月25日ころ,原告B方に出向き,関係書類とともに,本件委任状に捺印を依頼した。 (2) 損害についての反論ア原告A寺の損害について被告市は当初から本件補償金の支払を申し出ていたにもかかわらず,原告Bは,原告A寺の新寺院の設計を巡る原告A寺の檀家役員らと対立する中で,本件補償金が檀家役員に流用されたとの 損害について被告市は当初から本件補償金の支払を申し出ていたにもかかわらず,原告Bは,原告A寺の新寺院の設計を巡る原告A寺の檀家役員らと対立する中で,本件補償金が檀家役員に流用されたとの疑念を抱き,Eが本件補償金相当額を弁償すると申し出ており,あえて被告市に本件補償金の支払を求める訴訟を提起する必要がなかったにもかかわらず,檀家役員らとの紛争を有利に解決する目的で,別件訴訟を提起したのであり,同訴えに伴う原告A寺の出捐は被告市とは全く関係ない。なお,別件訴訟は,金銭債務の履行を求める訴えであり,その場合,弁護士費用を請求することはできないから(最高裁判所第一小法廷昭和48年10月11日判決・判例時報723号44ページ),この点からも,弁護士費用を損害として主張する原告A寺の主張は理由がない。 また,原告A寺の寺院を再建できない理由についても,原告A寺の内紛により建築設計図面が完成していないためであり,本件補償金の支払の遅れとは関係ない。 イ原告Bの損害について本件紛争の直接の当事者は原告A寺であり,原告B個人として精神的苦痛があったとしても,主観的なもので法的評価の対象となりえないし,寺院がないために宗教活動に支障を来たしているとしても,その原因が檀家との内紛にあることは前記のとおりであり,被告市が損害を賠償すべき義務はない。 3 被告会社の主張(1) Eと被告会社社員との共謀及び本件補償金の詐取について,いずれも否認する。 被告会社は,Eから,口頭で,訴外工事の施工を求められ,これを完成させたから,被告市に対し,同工事代金として4168万5000円の請求権を有しているところ,平成11年3月,上記工事代金の支払に必要であるとのEの指示に従い,本件委任状及び請求書に記名・押印の上提出し たから,被告市に対し,同工事代金として4168万5000円の請求権を有しているところ,平成11年3月,上記工事代金の支払に必要であるとのEの指示に従い,本件委任状及び請求書に記名・押印の上提出したのであって,支払われた金員は,上記工事代金として正当に支払われたものと認識していた(被告会社は,被告市に対して工事代金を返還したが,被告会社自身が疑惑を受けることは不本意であるから,改めて工事代金を請求することを前提に行ったもので,被告会社として責任を認めた訳ではない。)。 (2) 損害の前提となる原告らの主張の事実関係は不知,損害の発生については争う。別件訴訟は,被告市が原告A寺からの本件補償金の請求を拒否したために提起されたものであるから,被告会社は無関係であり,別件訴訟の弁護士費用を支払う義務はない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前記前提事実(前記第2の1)並びに証拠(各項末尾摘示の各証拠,甲15,乙15,丙11,証人E,同F,同G,原告A寺代表者兼原告B本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 (1) Eは,被告市の同和対策室改善課課長補佐として,公共工事の入札等に関する職務を担当し,被告会社のFは,被告市に対する営業担当者であったことから,両者は,平成8年ころから,公私にわたり親しく付き合うようになり,Fは,Eを同和対策室における「キー・マン」と認識していた。【甲10ないし14】(2) 被告会社は,平成9年2月,被告市が発注するb作業場排水処理施設工事を落札したところ,Fは,同月5月ころ,Eから,以前から上記工事に反対していたD製革工場の補強工事(訴外工事)の施工を依頼され,前記第2の1(1)のとおり,被告会社は最終的にはこれを了承した上,株式会社H工業に対して同工事を下請に出し,さらに同社 から上記工事に反対していたD製革工場の補強工事(訴外工事)の施工を依頼され,前記第2の1(1)のとおり,被告会社は最終的にはこれを了承した上,株式会社H工業に対して同工事を下請に出し,さらに同社は同工事をI建設株式会社に下請させた。【甲10ないし14】(3) 被告会社は,同年6月ころ,Eに対し,訴外工事の工事代金を約1900万円とする見積書をいったん提出したものの,これを撤回した。Eは,被告会社から,訴外工事の契約書の作成を求められたが,これには応じず,被告会社から,同工事代金を3970万円とする見積書の提出を受けるとともに,同年9月5日,同和対策室長印を使用して,被告会社との間で,訴外工事の代金を3970万円(消費税別)(支払日を平成10年3月31日に1000万円,平成11年3月31日に2970万円)とする覚書を交わした。さらに,Eは,平成10年2月21日ころ,被告会社から,訴外工事の完了届及び検収確認書を受け取り,これに署名,押印したが,被告会社から工事代金の支払について問い合わせを受け,同年5月20日,訴外工事代金全額を同年12月末日までに支払うとの確認書に記名・押印した。 しかし,Eは,訴外工事につき事前に予算措置をとっておらず,訴外工事の代金が予想外に高額であったこともあり,その代金を支払う目途を立てることができなかった。【甲12ないし14,丙1,2,5,6】(4) Eは,平成11年1月以降,訴外工事について予算計上されていないことを知ったFから,同年3月末までに訴外工事代金を支払うよう請求されたことから,本件補償金を訴外工事代金の支払に充てることを企てた。 Eは,同年3月25日ころ,原告B方を訪れ,原告A寺の印鑑を原告Bから受け取り,本件委任状や本件補償金の金額が記載された請求書等の書類について特段説明しな 事代金の支払に充てることを企てた。 Eは,同年3月25日ころ,原告B方を訪れ,原告A寺の印鑑を原告Bから受け取り,本件委任状や本件補償金の金額が記載された請求書等の書類について特段説明しないまま,各書類の原告A寺名下に押印した。さらに,Eは,同月29日,Fを和歌山市役所の同和対策室に呼び,本件委任状に押印すれば訴外工事代金を支払うことができると述べ,Fは,本件委任状が訴外工事の代金とは別の補償金受領に関するものであると気付き,Eに対し,「大丈夫なんですか。」などと確認したところ,Eが,「大丈夫です。それしか支払ができません。」などと答えたことから,Eは,名目はともかく支払ってもらえればいいということで,本件委任状に被告会社名を記名・押印するとともに,Eの指示に従い,「平成10年度地方改善整備事a地区道路改良工事に伴う物件移転補償費(前払金)の請求書を作成した。その結果,前記第2の1(2)のとおり,平成11年4月5日,被告市から被告会社に対し4168万5000円が支払われた。【甲2,乙2,丙7】(5) 原告A寺の寺院建替えについて,建設委員会が構成されたが,平成12年4月,檀家が選定した建築士の設計の是非を巡って,原告Bと同委員会の委員が対立し,同月30日,檀家総代らが役員を辞任するとともに,上記建築士との契約が解除され,寺院建替えについて,原告Bにおいて設計等すべて行うこととなった。原告Bは,平成12年4月ころ,本件補償金が未払いとなっている件について,被告市に問い合わせたが,被告市の担当職員から本件補償金は前年度分にて既に支払済みであるとの返答を受ける一方,既に担当外の部署に異動していたEから,本件補償金は被告市に保管されているなどと説明を受けたため,原告ら代理人に対し,本件補償金の行方について調査依頼した。【乙14の1 みであるとの返答を受ける一方,既に担当外の部署に異動していたEから,本件補償金は被告市に保管されているなどと説明を受けたため,原告ら代理人に対し,本件補償金の行方について調査依頼した。【乙14の1】(6) 原告ら代理人は,被告市の同和対策改善室に対し,平成12年5月24日到達の内容証明郵便により,本件補償金が未払いとなっている事情についての説明を求めた。【甲4の1,2】(7) 被告市では,市民部長等関係者が,原告ら代理人の申し入れに対する対応を検討した際,Eは,本件補償金相当額を用意すると申し入れたところ,上記関係者は,Eに対し,原告Bに上記申し入れを撤回させるよう交渉するよう指示した。 (8) Eは,平成12年6月,原告B方を頻繁に訪れ,被告市が本件補償金を支払うので待って欲しい,被告市に対する前記申し入れを取り下げて欲しいなどと申し入れたが,原告Bから拒否され,その都度市民部長に報告していた。他方,原告Bは,Eから度重なる訪問を受けて,精神的にストレスを感じていた。 (9) 原告ら代理人は,Eの代理人から,本件補償金はEが他の事業に流用したので個人的に弁償するとの申し入れを受けたため,被告市に対し,平成12年7月11日到達の内容証明郵便により,被告市からの回答がない上E個人から本件補償金を弁償するとの申入れを受けたことを不可解かつ不明朗であるとして,被告市の文書による回答を求めた。【甲5の1,2】(10) 被告市の代理人は,原告ら代理人に対し,本件補償金は,本件委任状に基づき,Eが担当していた他の事業の工事代金に流用されており,Eの被害弁償を受け取って欲しいと申し入れたが,原告ら代理人は,これを拒否し,あくまで被告市から支払って欲しいと主張した。 (11) 他方,原告A寺の檀家の中には,Eからの被害弁償を受け ており,Eの被害弁償を受け取って欲しいと申し入れたが,原告ら代理人は,これを拒否し,あくまで被告市から支払って欲しいと主張した。 (11) 他方,原告A寺の檀家の中には,Eからの被害弁償を受けないことなどについて原告Bを非難する者もあり,原告Bは,有力檀家も含め多くの檀家を除名するなど,内部対立が続き,いまだ新寺院の再建は着手されていない。【乙6ないし10】(12) 前記第2の1(4)のとおり,原告A寺は,被告市に対し,別件訴訟を提起し,その後,被告市は,平成12年9月25日,被告会社から,本件補償金の全額の返還を受け,別件訴訟の判決に基づき,本件補償金及び遅延損害金を支払った。 2 被告らの不法行為について(1) 前記認定事実(前記1(1)ないし(5),(10))によれば,EとFは公私ともに親しい関係であったこと,Fは,被告市との契約書等を作成しないまま,Eからの要請により訴外工事の施工を請け,その後,Eとともに,訴外工事代金の支払について,覚書・確認書を作成し,訴外工事の代金の支払について繰り返し確認し,訴外工事について予算措置が講じられていないことを知った後も,Eに対し,その支払を求めたこと,Eは,Fからの催促に窮し,本件補償金を被告会社に受け取らせるため,原告Bから印鑑を受け取り本件委任状に押印するとともに,Fに対し,本件委任状に押印するよう求め,同人がこれに応じたこと,被告市当局は,当初,本件補償金は既に支払済みであるとして,原告A寺の請求に応じなかったことが認められる。 以上によれば,Eの職務に際してなされた上記行為によって,原告A寺が受け取るべき本件補償金が被告会社に支払われ,その結果,原告A寺の被告市に対する本件補償金請求権が侵害されたといえる。 そして,前記認定事実(前記1(4))によれば,Fが本件委任 によって,原告A寺が受け取るべき本件補償金が被告会社に支払われ,その結果,原告A寺の被告市に対する本件補償金請求権が侵害されたといえる。 そして,前記認定事実(前記1(4))によれば,Fが本件委任状に押印するに当たり,Eは,Fに対し,本件委任状に押印すれば訴外工事の代金の支払を受けることができるなどと説明し,Fは,本件委任状の記載内容などから同書面が訴外工事とは関係ない書類であることを認識した上で,Eに対して,「大丈夫なんですか。」などと確認し,Eが,「大丈夫です。それしか支払ができません。」などと回答したことが認められることに加え,EとFとの従来からの関係(前記1(1))や,Fが本件委任状作成の際には訴外工事について予算措置が講じられていないことを認識していたこと(前記1(4)),訴外工事を巡る書類作成及び代金督促の経過(前記1(2)ないし(4))等総合すれば,Fは,本件委任状が訴外工事に関するものでないことを認識した上,Eからの上記返答を受け,本件委任状に押印することが訴外工事代金の支払を受ける唯一の方法であると察しており,本件委任状に押印し被告市に提出することによって,訴外工事代金以外の金員の支払を受けることになることを認識していたと推認できる。 以上によれば,E及びFは,本件委任状を作成する際,被告市から,被告会社に対し,訴外工事代金ではない金員(本件補償金)を支払わせるとの共通の認識をもっていたとみるべきである。 そして,両名の上記共同行為によって,原告A寺の被告市に対する本件補償金請求権が侵害されたのであるから,両者の上記行為は,原告A寺に対する共同不法行為に該当するというべきである。 (2) 前記認定事実(前記1(6)ないし(8))によれば,市民部長等関係者が,原告ら代理人の申し入れに対する対応を検討した際,Eから被害弁償 告A寺に対する共同不法行為に該当するというべきである。 (2) 前記認定事実(前記1(6)ないし(8))によれば,市民部長等関係者が,原告ら代理人の申し入れに対する対応を検討した際,Eから被害弁償の申し出を受けるとともに,同人に対し,原告Bに上記申し入れを撤回させるよう指示したこと,Eは,平成12年6月,原告B方を訪れ,被告市が本件補償金を支払うことや被告市に対する申入れを取り下げを求めたこと,Eは,原告Bから拒否され,その都度市民部長に報告していたこと,他方,原告Bは,本件補償金が未払である件について,Eからほぼ毎日のように度重なる訪問を受けて,精神的にストレスを募らせていたことが認められる。 そうすると,Eが原告B方を頻繁に訪れ,原告Bに精神的ストレスを与えた行為は,原告B個人の生活等の平穏を侵害するもので,不法行為に該当し,被告市当局もEに対し指示をするとともに,Eから経過報告を受けるなどしていたのであるから,上記不法行為は,E及び被告市当局の共同不法行為であるというべきである。 (3) なお,原告らが被告らの不法行為として主張するその余の行為については,原告らが主張する損害との関係に照らし,独立の不法行為とまではいうことができない。 3 損害について(1) 原告A寺の損害ア別件訴訟追行等の弁護士費用(ア) 前記認定事実(前記1(5)ないし(10),(12))によれば,被告市は,本件補償金が未払であるとの原告Bの問い合わせに対し,本件補償金は既に支払われていると回答したこと,原告Bは,原告ら代理人に本件補償金について調査を依頼したこと,被告市当局は,Eが独断で訴外工事を被告会社に施工させ,本件補償金をその工事代金の支払に充てたことが判明すると,Eから事情聴取の上,Eに対し,原告代理人からの問い合わ 金について調査を依頼したこと,被告市当局は,Eが独断で訴外工事を被告会社に施工させ,本件補償金をその工事代金の支払に充てたことが判明すると,Eから事情聴取の上,Eに対し,原告代理人からの問い合わせを撤回させるよう原告Bに働きかけるよう指示したこと,Eの代理人は,原告ら代理人に対し,Eから被害弁償を受け取って欲しいとの申入れを受け,その後,被告市の代理人も,原告ら代理人に対し,Eの上記申し入れの受け入れを要請したこと,原告ら代理人としては,被告市から本件補償金の支払を求め,別件訴訟を提起したことが認められる。 以上の経過に照らせば,E及びFの不法行為によって,原告A寺が支払いを受けるべき本件補償金が,被告会社に支払われたため,被告市は,当初対応に窮して,原告ら代理人からの質問に回答しないまま,Eを通じて原告Bに上記働きかけをし,その後,Eからの被害弁償を受け取るよう求めるなど,一貫して,本件補償金の請求に応じないという態度であったことが認められる。そうすると,原告A寺としては,被告市に対して本件補償金請求権の履行を受けるための法的措置を採る必要があったというべきであり,別件訴訟を提起したことは,やむをえない手段というべきである。 ところで,現行法上弁護士強制主義を採ることなく,訴訟追行を本人が行うか,弁護士を選任して行うかの選択の余地が当事者に残されているのみならず,弁護士費用は訴訟費用に含まれていないのであるが,現在の訴訟は専門家され技術化された訴訟追行を当事者に対して要求する以上,一般人が単独にて十分な訴訟活動を展開することはほとんど不可能に近いといえる。従って,相手方の故意又は過失によって自己の権利を侵害された者が損害賠償義務者たる相手方から容易にその履行を受け得ないため,自己の権利擁護上,訴えを提起することを余儀 ほとんど不可能に近いといえる。従って,相手方の故意又は過失によって自己の権利を侵害された者が損害賠償義務者たる相手方から容易にその履行を受け得ないため,自己の権利擁護上,訴えを提起することを余儀なくされた場合においては,一般人は弁護士に委任しなければ十分に訴訟活動をなしえないといえる。 そして,現在においては,このようなことは通常と認められることであって,訴訟追行を弁護士に委任した場合には,その弁護士費用は,事案の難易,請求額,認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲のものに限り,前記不法行為と相当因果関係にたつ損害というべきである(最高裁判所第一小法廷昭和44年2月27日判決・民集第23巻第2号441ページ)。 そして,別件訴訟の追行等について,原告A寺が弁護士を委任したことによる弁護士費用のうち,被告市の不法行為と相当因果関係に立つ損害額は,別件訴訟の難易・請求額・認容額等諸般の事情を斟酌して,原告A寺が請求する300万円は下らないとみるのが相当である。 (イ) なお,被告市は,別件訴訟は金銭債務の履行を求める訴えであり,弁護士費用を請求できないこと,原告A寺としては,Eからの被害弁償を受領していれば別件訴訟を提起する必要はなかったなどと主張する。しかし,原告A寺の被告市に対する弁護士費用の請求は,不法行為に基づく損害賠償を求めるものであり,被告市がその主張の前提として掲げる判例は,その事案を異にするものであり採用できない。また,被告市が,Eからの被害弁償(損害賠償)と被告市から支払われるべき本件補償金は,原告A寺が受け取るであろう金額としては同じであったとしても,支払うべき主体及び法的根拠が全く異なるものであり,原告A寺としては,本件補償金の履行義務者たる被告市に対して,同金員の支払を請求しうる立場にあり 受け取るであろう金額としては同じであったとしても,支払うべき主体及び法的根拠が全く異なるものであり,原告A寺としては,本件補償金の履行義務者たる被告市に対して,同金員の支払を請求しうる立場にあり,その法的措置の必要性は,前記摘示のとおりであるから,この点についての被告市の上記主張は採用できない。 また,被告会社は,被告市が原告A寺からの本件補償金の請求を拒否したために別件訴訟が提起されたのであり,被告会社は無関係であると主張するが,Fの前記不法行為の時点において,被告会社が本件補償金を受け取れば,被告市が,原告A寺に対して,再度本件補償金を支払うことは考え難くその結果原告A寺が任意に本件補償金を受け取ることが困難になることは予測可能なはずであるから,Fの前記不法行為と原告A寺の前記損害と因果関係はないとの被告会社の主張は採用できない。 イ宗教活動の支障による損害前記認定事実(前記1(5),(11),(12))によれば,本件補償金の流用が発覚する以前から,原告A寺の寺院建替えについて,建築士の設計の是非を巡って,原告Bと他の檀家との間で対立していたところに,本件補償金の件を巡り,Eからの被害弁償を受けない原告Bの判断に批判的な檀家が同人を非難するなどして,内部対立が続いていること,本件補償金は,別件訴訟後原告ら代理人に対して支払われたこと,その後現在まで新寺院の建築が着工されていないことが認められ,前記寺院建替えが遅れていること等原告A寺の宗教活動に支障があることが,被告らの不法行為によるものとは言い難いから,被告らの不法行為により原告らの宗教活動に支障が出たとの原告らの主張は採用できない。 ウ本件訴訟の弁護士費用本件訴訟(不法行為に基づく損害賠償請求訴訟)の弁護士費用は,本件の事案の難易・認 法行為により原告らの宗教活動に支障が出たとの原告らの主張は採用できない。 ウ本件訴訟の弁護士費用本件訴訟(不法行為に基づく損害賠償請求訴訟)の弁護士費用は,本件の事案の難易・認容額等に照らし,30万円が相当である。 (2) 原告Bの損害前記2(2)摘示のE及び被告市当局の不法行為により,原告B個人が被った精神的ストレスを受けたことによる損害額は,訪問者が被告市の職員であったことや,その訪問の頻度・状況等諸般の事情に照らし,150万円とみるのが相当である。 なお,原告Bの宗教活動に支障があるとの主張について,被告らの不法行為との因果関係を認めることができないことは前記(1)イ摘示のとおりである。 4 結論以上により,被告市は,国家賠償法1条1項に基づき,E及び被告市当局の不法行為により原告A寺及び同Bが被った損害を賠償する義務があり,被告会社は,民法709条,715条に基づき,Fの不法行為により原告A寺が被った損害を賠償する義務がある。 したがって,原告A寺の被告らに対する本訴請求は,金330万円の支払を求める限度で,原告Bの被告市に対する本訴請求は,金150万円の支払を求める限度で,それぞれ理由があり,原告Bの被告会社に対する本訴請求は,理由がない。 和歌山地方裁判所民事部裁判官高橋綾子

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る