平成14(ワ)26967 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成17年8月29日 東京地方裁判所
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判決文本文40,014 文字)

H17.8.29東京地方裁判所平成14年(ワ)第26967号損害賠償請求事件 主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 請求の趣旨(1) 被告は,原告に対し,1億1857万3503円及びこれに対する平成14年12月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 訴訟費用は被告の負担とする。 (3) 仮執行宣言 2 請求の趣旨に対する答弁(1) 原告の請求を棄却する。 (2) 訴訟費用は原告の負担とする。 (3) 仮執行免脱宣言第2 事案の概要本件は,原告が,被告が開設するD大学医学部附属E病院(現在の名称は「D大学医療センターE病院」。以下「被告病院」という。)において,右内頸動脈-後交通動脈分岐部に生じた未破裂脳動脈瘤(以下「本件脳動脈瘤」という。)に対する脳動脈瘤塞栓術(以下「本件手術」という。)を受けたところ,左上下肢の機能障害及び知的機能障害(以下「本件後遺障害」という。)が生じたことなどについて,被告病院の担当医師らに手技上の過失や説明義務違反があったなどと主張して,被告に対し,診療契約の債務不履行又は不法行為(使用者責任)に基づき,損害賠償を求める事案である。 1 前提事実(証拠を掲げない事実は当事者間に争いがない。)(1) 当事者等ア原告等原告は,大正12年5月13日生まれの女性であり,昭和21年5月に歯科医師免許を取得した後,昭和32年6月に東京都世田谷区ab丁目c番d号において歯科医院を開業し,平成13年1月まで歯科医師として稼働していた。 Fは,原告の夫である。 イ被告等被告は,東京都大田区ef丁目g番h号に主たる事務所を置き,東京都目黒区ij 医院を開業し,平成13年1月まで歯科医師として稼働していた。 Fは,原告の夫である。 イ被告等被告は,東京都大田区ef丁目g番h号に主たる事務所を置き,東京都目黒区ij丁目k番l号に被告病院を開設している学校法人である。 G医師,H医師及びI医師は,本件手術当時,被告病院脳神経外科に勤務していた医師である(以下,これらの医師及び原告の診察・診療に加わった被告病院の他の医師を「被告病院の担当医師ら」という。)。 (2) 診療経過ア被告病院入院に至る経緯原告は,平成12年12月初旬に,右眼の瞼が下がって物が見えにくくなっていると感じたことから,数回にわたって,J病院の眼科及び神経内科を受診し,処方された薬を服用していたが,症状に改善は見られなかった。 原告は,平成13年1月31日,知人からの紹介で,被告病院眼科を受診したところ,直ちに脳神経外科の診察を受けるように指示されたことから,同日,被告病院脳神経外科を受診し,頭部MRI(MRA)検査を受けた。 その結果,原告は,被告病院の担当医師らから本件脳動脈瘤の存在を指摘され,直ちに入院して手術を受ける必要があると告げられたため,被告との間で,本件脳動脈瘤の治療についての診療契約を締結し,被告病院に入院した。 イ被告病院入院中の診療経過被告病院おける原告の診療経過は,別紙「診療経過一覧表」記載のとおりであり(当事者の主張の相違する部分を除き,争いがない。),原告は,同年2月1日に本件手術を受け,同年6月23日に被告病院を退院した。 なお,原告には,本件手術直後から左上下肢に麻痺症状が現れ,同年6月5日には,東京都から,身体障害者手帳(左上肢機能障害(2級),左下肢機能障害(4級))が交付され に被告病院を退院した。 なお,原告には,本件手術直後から左上下肢に麻痺症状が現れ,同年6月5日には,東京都から,身体障害者手帳(左上肢機能障害(2級),左下肢機能障害(4級))が交付された(甲C24)。 ウ被告病院退院後の経緯(ア) 原告は,被告病院を退院した後,1週間に3回程度の頻度でJ病院に通院してリハビリテーション治療を受け,1か月に2,3回程度の頻度でKクリニックのL医師による在宅治療を受けていた(甲B12,B13,C9の1から7まで,C10の1から42まで,乙A19・27枚目から30枚目まで,証人F)。 (イ) その後,原告は,平成14年1月4日に本件脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血を発症し,M医療センターに入院して,脳動脈瘤塞栓術による治療を受けた(甲A6からA9まで,B12,B13,C12の1の1から4の2まで,乙A19・4枚目,証人F,原告本人)。 (ウ) 原告は,平成14年4月8日にM医療センターを退院した後,1週間に3回程度の頻度でJ病院に通院してリハビリテーション治療を受け,1か月に2,3回程度の頻度でKクリニックのL医師による在宅治療を受け,1か月に1回程度の頻度でM医療センターに通院して診察・検査を受けるなどしている(甲B12,B13,C9の8から12まで,C10の43から74まで,C17の1,2,C21の1から4まで,乙A19・7枚目から11枚目まで,証人F)。 (3) 専門用語ア脳動脈瘤脳動脈瘤とは,脳動脈が瘤状又は紡錘状に拡大したものをいう。 脳神経に近接する脳動脈瘤が大きくなると,脳神経麻痺を発症することがあり,とりわけ,内頸動脈-後交通動脈分岐部に生じた脳動脈瘤が外側下方に向かって発育して動眼神経を圧迫した場合には,動眼神経麻痺の 脳神経に近接する脳動脈瘤が大きくなると,脳神経麻痺を発症することがあり,とりわけ,内頸動脈-後交通動脈分岐部に生じた脳動脈瘤が外側下方に向かって発育して動眼神経を圧迫した場合には,動眼神経麻痺の症状(眼瞼下垂,眼球外方偏位,複視,散瞳など)が生じるとされている。 イ脳動脈瘤塞栓術脳動脈瘤塞栓術は,まず,大腿動脈に挿入したガイディングカテーテルを内頸動脈又は椎骨動脈に誘導し,次に,マイクロカテーテルをガイディングカテーテルに通して脳動脈瘤の中まで送り込み,さらに,コイルをマイクロカテーテルに通して脳動脈瘤に送り込んだ上で,コイルを丸めて脳動脈瘤の中を塞ぐ手術である。 ウくも膜下出血くも膜下出血とは,何らかの原因でくも膜下腔に出血が起こり,脳脊髄液に血液が混入する状態をいう。 脳動脈瘤が破裂した場合にも,くも膜下出血が起きる。 2 争点(1) 本件手術において,被告病院の担当医師らが,原告に対する全身ヘパリン化を怠り,原告に右脳梗塞を発症させ,本件後遺障害(左上下肢の機能障害)を生じさせたことによる債務不履行又は不法行為の成否(原告の主張)脳動脈瘤塞栓術においては,カテーテル内及びカテーテル外周辺に生じた血栓が遠位部に飛び,末梢の血管を閉塞することによって,脳梗塞が生じる危険があるところ,このような脳梗塞の発症を防ぐためには,大腿動脈にカテーテル挿入のためのシース(鞘)を留置したところで,抗凝固剤であるヘパリンを静脈内に注入して,全身ヘパリン化を行う必要がある。 ところが,本件手術では,被告病院の担当医師らは,原告に対して,ガイディングカテーテルを挿入した後,全身ヘパリン化をすることを怠ったまま,本件脳動脈瘤内へのコイル挿入を開始した(被告病院の担当医師らが初め が,本件手術では,被告病院の担当医師らは,原告に対して,ガイディングカテーテルを挿入した後,全身ヘパリン化をすることを怠ったまま,本件脳動脈瘤内へのコイル挿入を開始した(被告病院の担当医師らが初めてヘパリンを静脈内に注入したのは,ガイディングカテーテルを挿入してから1時間30分が経過してからであった。)。 その結果,原告に挿入されていたカテーテル内及びカテーテル外周辺に血栓が生じ,これが飛んで右脳動脈が閉塞した(平成13年2月1日午後7時42分までに,右中大脳動脈の分枝2本と前大脳動脈の合計3か所に閉塞が生じた。)ために,原告は右脳梗塞を発症し,本件後遺障害(左上下肢の機能障害)を負ったのである。 (被告の主張)原告の主張は争う。 ア脳動脈瘤塞栓術において抗凝固療法が必要であることは一般に認識されているところであるが,その具体的な方法については,本件当時においても現時点においても,一律に定まったものはない(ヘパリン投与の開始時期については,大腿動脈にシースを挿入したところで最初の投与をする施設もあれば,そうでない施設もあり,その時期が一律に決まっているわけではなく,また,全身ヘパリン化についても,手技が2時間以内で終了する場合には,全身ヘパリン化を行わず,ガイディングカテーテルからのヘパリン投与のみで対処しているという医療施設もあり,いまだ一定の見解はない。)。 イまた,本件手術においては,被告病院の担当医師らは,平成13年2月1日午後6時15分ころにガイディングカテーテルを右内頸動脈に誘導した直後から,ヘパリンの持続投与を開始し(脳動脈瘤塞栓術を行う場合,ガイディングカテーテル内においてヘパリンの持続投与をすることは,被告病院に限らずどの医療施設においてもルーティンで行っていることであるから,特 ヘパリンの持続投与を開始し(脳動脈瘤塞栓術を行う場合,ガイディングカテーテル内においてヘパリンの持続投与をすることは,被告病院に限らずどの医療施設においてもルーティンで行っていることであるから,特に診療録上に記載はない。),同日午後7時20分には,本件脳動脈瘤内に2本のコイルが入り,フレーム(枠組み)が形成できたことが確認されたので,ヘパリンを経静脈的に投与して,全身ヘパリン化を実施しているが,このような抗凝固療法を施しても右脳梗塞の発症を防ぎ得なかったのであるから,他の方法を実施していれば右脳梗塞の発症を防ぎ得たなどということはできない。 (2) 本件手術において,被告病院の担当医師らが,原告に生じた右脳動脈の閉塞に対して直ちにウロキナーゼを投与する措置を怠り,原告に右脳梗塞を発症させ,本件後遺障害(左上下肢の機能障害)を生じさせたことによる債務不履行又は不法行為の成否(原告の主張)上記(1)(原告の主張)記載のとおり,脳動脈瘤塞栓術においては,脳梗塞が発症する危険があるところ,このような脳梗塞の発症を防ぐためには,術中に,脳動脈瘤を注視するのみならず,脳血管撮影のモニターを常時監視し,血管に閉塞が生じた場合には,直ちに血栓溶解剤であるウロキナーゼを閉塞箇所に注入して血栓を溶解する措置をとる必要がある。 本件手術においては,遅くとも平成13年2月1日午後7時42分の時点で,中大脳動脈の前頭葉から後頭葉にかけての分枝のうちの2本と前大脳動脈の3か所に閉塞が生じていたのであるから,被告病院の担当医師らは,この時点までに,これらの右脳動脈の閉塞に気付き,直ちにウロキナーゼを投与すべきであった。 ところが,被告病院の担当医師らは,脳血管撮影のモニターの常時監視を怠ったために,本件手術中に生じた原告の右脳動 ,これらの右脳動脈の閉塞に気付き,直ちにウロキナーゼを投与すべきであった。 ところが,被告病院の担当医師らは,脳血管撮影のモニターの常時監視を怠ったために,本件手術中に生じた原告の右脳動脈の血管閉塞に気付くことができず,直ちにウロキナーゼを投与することができなかった。 このため,原告は,右脳梗塞を発症し,本件後遺障害(左上下肢の機能障害)を負ったのである。 (被告の主張)原告の主張は争う。 ア脳動脈瘤塞栓術中に行われる脳血管撮影は,脳動脈瘤からの造影剤の漏洩の有無や脳動脈瘤内の造影剤の貯留の程度を判断することに目的があり,正常血管を分別するために行われるものではないから,被告病院の担当医師らが,本件手術の最中に,右脳動脈の血管閉塞に気付かなかったからといって,これを過失と評価するべきではない。 イなお,本件手術中に生じたのは,中大脳動脈の末梢枝の血流の遅延であり,側副血行路が良好であれば,血栓溶解療法を実施しなくても,脳梗塞に陥らないこともあるし,閉塞した血管が自然に再開通することもある。 これに対し,本件手術の終了を待たずに血栓溶解療法を行った場合,その後,本件脳動脈瘤に対してコイルを挿入する際に,コイルが本件脳動脈瘤を貫いて,くも膜下出血や頭蓋内出血を起こしてしまうなどすると,出血が止まらず,生命に危険が生じ得る。 したがって,仮に本件手術中に原告の右脳動脈の血管閉塞に気付いたとしても,本件手術の終了を待たずにウロキナーゼを投与するべきであったとはいえない。 (3) 被告病院の担当医師らが,原告の左脳動脈に対する脳血管撮影検査を実施し,原告に左脳梗塞を発症させ,本件後遺障害(知的機能障害)を生じさせたことによる債務不履行又は不法行為の成否(原告の主張) 病院の担当医師らが,原告の左脳動脈に対する脳血管撮影検査を実施し,原告に左脳梗塞を発症させ,本件後遺障害(知的機能障害)を生じさせたことによる債務不履行又は不法行為の成否(原告の主張)ア脳血管撮影検査は,その撮影中に合併症として脳梗塞を発症する危険があるとされているところ,本件手術は右内頸動脈-後交通動脈分岐部に生じた本件脳動脈瘤を対象とするものであるし,平成13年1月31日に実施された頭部MRI検査によって原告の左脳の血管系には何らの病変も存在しないことが明らかとなっていたのであるから,被告病院の担当医師らは,原告の左脳動脈に対する血管撮影検査を実施すべきではなかった。 ところが,被告病院の担当医師らは,同年2月1日に原告の左脳動脈に対する血管撮影検査を実施し,原告に左脳梗塞を発症させ,本件後遺障害(知的機能障害)を引き起こしたのである。 イ仮に,左脳動脈に対する脳血管撮影検査が右脳動脈瘤の血管内治療に必要であるのであれば,被告病院の担当医師らは,原告に対して,その必要性を十分に説明し,原告の承諾を得るべきであったが,被告病院の担当医師らは,その必要性を原告に説明することのないまま,原告の承諾を得ずに左脳動脈に対する血管撮影検査を実施し,原告に左脳梗塞を発症させ,本件後遺障害(知的機能障害)を引き起こしたのである。 (被告の主張)原告の主張は争う。 ア原告に生じた左脳梗塞は,平成13年2月1日午後10時ころに撮影された頭部CT検査及び同月2日午前中に撮影された頭部CT検査では確認されておらず,同日午後3時ころに撮影された頭部MRI検査によって初めて確認されたものであるから,その原因が,①同年2月1日に実施された脳血管撮影検査であるのか,②本件手術であるのか(左総頸動脈と腕頭動脈 らず,同日午後3時ころに撮影された頭部MRI検査によって初めて確認されたものであるから,その原因が,①同年2月1日に実施された脳血管撮影検査であるのか,②本件手術であるのか(左総頸動脈と腕頭動脈とは隣接しているため,ガイディングカテーテルを腕頭動脈に誘導した際に,大動脈弓の動脈硬化病変がはがれ,これが左総頸動脈へ飛んだ可能性は否定できない。),それとも③2月2日午後3時ころまで生じた他の要因にあるのか(原告が高齢者であることからすると,動脈硬化病変が栓子となって,心臓から大動脈,頸動脈などの経路を通じて飛んだ可能性は否定できない。)については,断定できない。 したがって,原告の左脳に対する血管撮影検査の実施と左脳梗塞の発症との間の因果関係は不明である。 イまた,原告に生じた左脳梗塞の部位は前頭葉であるところ,この部位に脳梗塞が生じた場合には,運動性失語が現れるとされているが,原告に現れた知的機能障害には,運動性失語は認められず,左脳梗塞の発症と本件後遺障害(知的機能障害)との因果関係も不明である。 ウところで,脳動脈瘤の34パーセントから45パーセントは多発性脳動脈瘤であるといわれているところ,頭部MRI検査よりも脳血管撮影検査の方が脳動脈瘤の診断精度が優れているため,頭部MRI検査では脳動脈瘤が発見されなくても,脳血管撮影検査では脳動脈瘤が発見されることがあるから,頭部MRI検査によって脳動脈瘤が一つでも発見された場合には,他の脳動脈瘤が存在する可能性を軽視せずに,さらに脳血管撮影検査を実施する必要がある。 原告には,既に右内頸動脈-後交通動脈分岐部に動脈瘤の存在が認められていたのであるから,左脳を含めた他の部分にも脳動脈瘤が存在する可能性が相当程度あったのであり,被告病院の担当医師らには,原告の 原告には,既に右内頸動脈-後交通動脈分岐部に動脈瘤の存在が認められていたのであるから,左脳を含めた他の部分にも脳動脈瘤が存在する可能性が相当程度あったのであり,被告病院の担当医師らには,原告の左脳に対しても血管撮影検査を実施する必要があった。 なお,被告病院の担当医師らは,原告に対して脳血管撮影検査について十分に説明を行い,同意を得た上で,これを実施している(脳血管撮影検査を実施する必要性は右脳・左脳を問わないし,それによって一定の危険があることも右脳・左脳を問わないのであるから,被告病院の担当医師らには,敢えて左脳に対する血管撮影検査に限定した説明をする義務はない。)。 (4) 原告の左脳に対する脳血管撮影検査の際,被告病院の担当医師らが,原告に生じた左脳動脈の閉塞に対して直ちにウロキナーゼを投与する措置を怠り,原告に左脳梗塞を発症させ,本件後遺障害(知的機能障害)を生じさせたことによる債務不履行又は不法行為の成否(原告の主張)上記(3)(原告の主張)ア記載のとおり,脳血管撮影検査は,その撮影中に合併症として脳梗塞を発症する危険があるとされているところ,このような脳梗塞の発症を防ぐためには,脳血管撮影検査中に,脳血管撮影のモニターを常時監視し,血管に閉塞が生じた場合には,直ちにウロキナーゼを閉塞箇所に注入して血栓を溶解する処置をとる必要がある。 本件では,平成13年2月1日に実施された脳血管撮影検査中に原告の左脳動脈に閉塞が生じたものと考えられるところ,被告病院の担当医師らは,速やかにこれらの左脳動脈の閉塞に気付き,直ちにウロキナーゼを投与すべきであった。 仮に,この脳血管撮影検査中に原告の左脳動脈の閉塞を発見することが不可能であったとしても,同日午後5時ころには,原告に右足を屈曲させ の閉塞に気付き,直ちにウロキナーゼを投与すべきであった。 仮に,この脳血管撮影検査中に原告の左脳動脈の閉塞を発見することが不可能であったとしても,同日午後5時ころには,原告に右足を屈曲させるなどの異常な行動が見られるようになっていたのであるから,被告病院の担当医師らは,この時点で原告に知的機能障害が生じていることを疑い,検査を行うなどして左脳動脈の閉塞を発見して,直ちにウロキナーゼを投与すべきであった。 ところが,被告病院の担当医師らは,脳血管撮影検査中に生じた原告の左脳動脈の血管閉塞に気付くことができず,直ちにウロキナーゼを投与することができなかった。 このため,原告は,左脳梗塞を発症し,本件後遺障害(知的機能障害)を負ったのである。 (被告の主張)原告の主張は争う。 原告の左脳に対する血管撮影検査の実施と左脳梗塞の発症との間の因果関係が不明であること,左脳梗塞の発症と本件後遺障害(知的機能障害)との因果関係が不明であることは,上記(3)(被告の主張)ア,イ記載のとおりである。 (5) 本件手術において,被告病院の担当医師らが,本件脳動脈瘤を完全に塞栓することを怠り,原告にくも膜下出血を発症させ,本件後遺障害を生じさせたことによる債務不履行又は不法行為の成否(原告の主張)被告病院の担当医師らは,原告の本件脳動脈瘤が破裂してくも膜下出血を起こすことがないように,本件脳動脈瘤を完全に塞栓すべき義務があったにもかかわらず,コイルを疎に挿入して,本件脳動脈瘤の塞栓を密に行わなかった。 このため,本件脳動脈瘤内でコイルコンパクション(コイルが血流に押し込まれ,脳動脈瘤が再び増大すること)が起こり,血流が生じて本件脳動脈瘤が増大し,平成14年1月4日,くも膜下出血が発症して, このため,本件脳動脈瘤内でコイルコンパクション(コイルが血流に押し込まれ,脳動脈瘤が再び増大すること)が起こり,血流が生じて本件脳動脈瘤が増大し,平成14年1月4日,くも膜下出血が発症して,原告に本件後遺障害が生じたのである。 (被告の主張)原告の主張は争う。 ア 「コイルをどの程度まで塞栓するべきか」という問題は,「コイル塞栓術をどの時点で終了するか」という問題と同じことであるところ,「コイル塞栓術をどの時点で終了するか」の判断基準となり得るのは,①さらにコイルが挿入できなくなるか,②マイクロカテーテルがコイルで押し出されて塞栓続行ができなくなるかのいずれかに尽きる。 なぜなら,これらの状態になれば,物理的にみて,さらなる充填は不可能であるし,また,塞栓の程度としても,小さく短いコイルさえ瘤内に入らなかったり,マイクロカテーテルがコイルで押し出されたりするほど密に充填されていることになるからである。 イ本件手術では,本件脳動脈瘤に合計6本のコイルが挿入されたが,6本目のコイルが留置されると同時に,マイクロカテーテルが脳動脈瘤から押し出され,親血管に出てきている。 したがって,本件手術では,マイクロカテーテルが押し出されて塞栓続行ができなくなるまでコイルを充填の上,コイル塞栓術を終了しているのであり,適切なコイル塞栓がされているというべきである。 しかも,手技終了時の脳血管撮影において,本件脳動脈瘤は全く造影されていないのであって,コイルの塞栓が疎であるなどという所見は全くない。 ウなお,脳動脈瘤塞栓術においては,一定の確率で脳動脈瘤への血流の再開通が起こるのであり,容積塞栓率いかんでコイルコンパクションを防ぎ得たということはできない。 (6) 被告病院の担当医師 ウなお,脳動脈瘤塞栓術においては,一定の確率で脳動脈瘤への血流の再開通が起こるのであり,容積塞栓率いかんでコイルコンパクションを防ぎ得たということはできない。 (6) 被告病院の担当医師らの説明義務違反による債務不履行又は不法行為の成否(原告の主張)ア被告病院の担当医師らは,患者本人である原告に対して,手術を受けるべきか否か,手術を受ける場合には被告病院で受けるべきか否か,いかなる手術を受けるべきか等について検討・決断するための時間を十分に与えた上で,本件脳動脈瘤破裂の可能性,本件手術と開頭クリッピング術との利害得失,本件手術を実施した場合に発症し得る合併症とその後遺障害等について,できるだけ具体的に説明すべき義務があった。 イところが,被告病院の担当医師らは,Fに対してのみ,「脳動脈瘤とその治療方法」と題する文書を渡し,本件手術の必要性,手術方法についての説明を行ったに過ぎず,患者本人である原告に対しては,本件脳動脈瘤破裂の可能性,本件手術と開頭クリッピング術との利害得失,本件手術を実施した場合に発症し得る合併症とその後遺障害(コイルコンパクションが生じて本件脳動脈瘤が破裂することもあり得ること等)についての説明をしなかった。 しかも,被告病院の担当医師らは,Fに対して,本件脳動脈瘤はいつ破裂してもおかしくない状態であり,原告の命の保証はないなどと述べて,手術を受けるべきか否か,手術を受ける場合には被告病院で受けるべきか否か,いかなる手術を受けるべきか等について検討・決断するための時間的余裕を全く与えず,本件手術の実施を強要した。 ウ仮に,被告病院の担当医師らが,原告に対して,手術を受けるべきか否か,手術を受ける場合には被告病院で受けるべきか否か,いかなる手術を受けるべきか等につい えず,本件手術の実施を強要した。 ウ仮に,被告病院の担当医師らが,原告に対して,手術を受けるべきか否か,手術を受ける場合には被告病院で受けるべきか否か,いかなる手術を受けるべきか等について検討・決断するための時間を十分に与えた上で,本件脳動脈瘤破裂の可能性,本件手術と開頭クリッピング術との利害得失,本件手術を実施した場合に発症し得る合併症とその後遺障害等について,できるだけ具体的に説明していたならば,原告は,本件脳動脈瘤の治療として,手術例の多い従来型の開頭クリッピング術を選択したはずであり,本件後遺障害を負うこともなかったはずである。 (被告の主張)原告の主張は争う。 ア平成12年12月初旬以来,原告には,内頸動脈-後交通動脈分岐部に生じた本件脳動脈瘤が動眼神経を圧迫したために生じた動眼神経麻痺の症状が現れていたところ,動眼神経麻痺を伴う脳動脈瘤については,動眼神経麻痺の出現から脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血の発症までの平均日数が29. 6日といわれているから,平成13年1月31日の時点では,原告は,いつくも膜下出血を発症しても不思議ではない状態にあった。 そして,感情興奮や労作などによる高血圧は脳動脈瘤の破裂の契機となり得るとされているところ,原告の血圧は,被告病院の初診時には既に上昇しており,降圧剤であるアダラートの投与が必要な状態であった。 このような状況下で,仮に,患者本人である原告に対して本件手術に関して死亡の危険にも言及した詳細な説明をしたならば,原告が興奮することによって血圧が上昇してしまい,かえって本件脳動脈瘤の破裂を招いてしまうおそれがあった。 加えて,Fも,平成13年1月31日に実施された脳血管撮影検査の際,被告病院の担当医師らに対し,原告が心配しないよ 上昇してしまい,かえって本件脳動脈瘤の破裂を招いてしまうおそれがあった。 加えて,Fも,平成13年1月31日に実施された脳血管撮影検査の際,被告病院の担当医師らに対し,原告が心配しないよう,詳しい説明は自らにして欲しいとの態度を示していた。 以上のような事情に照らせば,被告病院の担当医師らは,患者本人である原告に対して詳細な説明をする義務を負っていなかったというべきである。 イ一方,被告病院の担当医師らは,Fに対して,(ア)当該疾患の診断(病名と病状)については,「病名は内頸動脈瘤です。現在,右の眼の症状は,この脳動脈瘤が動眼神経を圧迫していることにより生じていることが判明しました。このまま増大すると破裂してくも膜下出血を起こす危険性があります。眼症状が出現してから2ケ月が経過しているので,動脈瘤の処理を行い動眼神経の圧迫を回避しても眼症状の完全なる回復は難しいと思われますが,生命の危険を回避するべく動脈瘤の処理が必要と考えます。」と説明し,加えて,くも膜下出血の発生率と死亡率についても詳細に説明し,(イ)実施予定の手術の内容については,「血管内治療は,脳動脈瘤にカテーテルを導いて,その中をプラチナコイルで充填する新しい方法です。全身及び年齢的な問題を考慮すると,侵襲の少ない,開頭しない血管内治療を選択したいと私たちは考えています。」と説明し,(ウ)手術に不随する危険性については,「血管内治療においては,①血管閉塞-脳梗塞,②血管穿孔による出血のような合併症が存在します。これらにより緊急開頭手術,あるいは生命の問題になることは治療である以上,可能性はゼロではありません。」と説明し,(エ)他に選択可能な治療方法については,「開頭クリッピング術は,最も広く行われ,現在では確立された最も確実な方法です。確実性に関 なることは治療である以上,可能性はゼロではありません。」と説明し,(エ)他に選択可能な治療方法については,「開頭クリッピング術は,最も広く行われ,現在では確立された最も確実な方法です。確実性に関しては,血管内治療では,コイルが血流に押されて押し込まれていき,脳動脈瘤がふたたび増大して破裂することもあります(この点については図を書きながら説明)。治療の危険性に関しては血管内治療と開頭手術では同じくらいと考えられております。」と説明しているのであって,説明が不十分であったなどということはない。 (7) 損害(原告の主張)ア被告病院入院に伴う費用(ア) 入院治療費 410万2270円原告は,平成13年1月31日から同年6月23日までの被告病院における入院治療費として,410万2270円を支出した。 (イ) 入院付添費(交通費を含む。) 199万9183円原告は,平成13年2月5日から同年5月30日までの入院付添費として,199万9183円を支出した。 (ウ) Fの交通費 92万8000円原告は,Fが被告病院入院中の原告に付き添うための交通費(タクシー代)として,92万8000円を支出した。 (エ) 眼鏡代 4万6000円イ被告病院通院に伴う費用 1万5090円原告は,平成13年7月24日及び同年8月11日に被告病院に通院して治療を受けたが,その際,治療費及び検査費として2290円,交通費として1万2800円を支出した。 ウ住宅改善費用 201万8957円原告は,本件後遺 治療を受けたが,その際,治療費及び検査費として2290円,交通費として1万2800円を支出した。 ウ住宅改善費用 201万8957円原告は,本件後遺障害のために,浴室を改造し,自宅室内に手摺を取り付けるなどの住宅改善を行う必要に迫られたが,その費用として201万8957円を支出した。 エ L医師の往診治療費 6万1890円原告は,被告病院退院後,平成13年7月16日から平成14年9月17日まで,KクリニックのL医師による往診を受けたが,その往診治療費として6万1890円を支出した。 オ J病院通院に伴う費用(ア) 通院治療費 5万6930円原告は,被告病院退院後,平成13年6月26日から平成14年9月25日まで,リハビリテーションのためにJ病院に通院したが,その通院治療費として,5万6930円を支出した。 (イ) 通院交通費 12万8480円原告は,J病院に通院するため交通費(タクシー代)として,12万8480円を支出した。 カ M医療センター入院に伴う費用(ア) 入院治療費 353万7910円原告は,平成14年1月4日,本件脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血を起こして,M医療センターに緊急入院し,血管内治療を受け,同年4月8日まで入院したが,その間の入院治療費として,353万7910円を支払った。 (イ) 入院付添費(交通費を含む。) 118万9040円原告は,平成14年2月5日から同年4月7日までの入院付添費として,118万9040円を支出した。 た。 (イ) 入院付添費(交通費を含む。) 118万9040円原告は,平成14年2月5日から同年4月7日までの入院付添費として,118万9040円を支出した。 (ウ) 付添人用ベッド使用料 2万3400円原告は,付添人用ベッド使用料として,2万3400円を支出した。 (エ) Fの交通費 38万4000円原告は,FがM医療センター入院中の原告に付き添うための交通費(タクシー代)として,38万4000円を支出した。 (オ) 住宅改善費用 1万5162円原告は,自宅浴室内に手摺を取り付けるため,1万5162円を支出した。 キ M医療センター検査入院に伴う費用(ア) 入院検査費 14万3220円原告は,本件脳動脈瘤に対する治療の経過を検査するため,平成14年7月3日から同月6日までM医療センターに入院したが,その間の入院検査費として,14万3220円を支出した。 (イ) 入院付添費(交通費を含む。) 6万8200円原告は,平成14年2月5日から同年4月7日までの入院付添費として,6万8200円を支出した。 (ウ) 交通費 3万2000円原告は,FがM医療センター検査入院中の原告に付き添うための交通費(タクシー代)として,3万2000円を支出した。 (エ) 付添人用ベッド使用料 2100円原告は,付添人用ベッド使用料として,2100円を支出した。 ク M医療センター通院に伴う費用(ア (エ) 付添人用ベッド使用料 2100円原告は,付添人用ベッド使用料として,2100円を支出した。 ク M医療センター通院に伴う費用(ア) 通院治療費 3480円原告は,平成14年8月5日から同年9月30日までの間,4回にわたってM医療センターに通院して治療を受けたが,その際,通院治療費として,3480円を支出した。 (イ) 通院交通費 1万2000円原告は,M医療センターに通院するための交通費(タクシー代)として,1万2000円を支出した。 ケ逸失利益 7320万6191円原告は,原告肩書地において歯科医院を開業し,被告病院入院の前日まで歯科医師として歯科診療の業務に従事してきたが,本件後遺障害を負ったことにより,歯科医師としての稼働能力をすべて喪失したものであるが,原告の平成12年度の歯科医業所得が1355万3712円であったことからすると,被告病院入院時(平成13年1月31日)から本件訴え提起時(平成14年12月10日まで)の逸失利益は,2514万4728円である。 また,原告は,平成14年12月11日以降,4年間の就労が可能であったところ,この間の逸失利益は,4806万1463円である。 コ慰謝料(ア) 入院慰謝料 370万0000円原告は,平成13年1月31日から同年6月23日まで被告病院に入院し,平成14年1月4日から同年4月8日まで及び平成14年7月3日から同月6日までM医療センターに入院したが,この入院による慰謝料としては,370万円が相当である。 6月23日まで被告病院に入院し,平成14年1月4日から同年4月8日まで及び平成14年7月3日から同月6日までM医療センターに入院したが,この入院による慰謝料としては,370万円が相当である。 (イ) 通院慰謝料 190万0000円原告は,平成13年6月24日から同年12月25日まで及び平成14年6月19日から同年9月25日までJ病院に通院したが,この通院による慰謝料としては,190万円が相当である。 (ウ) 後遺障害慰謝料 1500万0000円原告は,本件後遺障害を負ったことに加え,生き甲斐であった歯科診療をもできなくなったのであるから,その精神的苦痛は筆舌に尽くし難いものがあり,これに対する慰謝料としては,1500万円が相当である。 サ弁護士費用 1000万0000円原告は,本件訴訟の追行を弁護士に委任し,その費用として,1000万円を支払うことを約した。 シよって,原告は,被告に対し,診療契約の債務不履行又は不法行為(使用者責任)に基づき,1億1857万3503円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成14年12月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (被告の主張)原告の主張は争う。 第3 判断 1 争点(1)(本件手術において,被告病院の担当医師らが,原告に対する全身ヘパリン化を怠り,原告に右脳梗塞を発症させ,本件後遺障害(左上下肢の機能障害)を生じさせたことによる債務不履行又は不法行為の成否)について原告は,本件手術において,被告病院の担当医師らが,原告に対する全身ヘパリン化を怠ったことによって,原告に右脳梗塞が発症し 能障害)を生じさせたことによる債務不履行又は不法行為の成否)について原告は,本件手術において,被告病院の担当医師らが,原告に対する全身ヘパリン化を怠ったことによって,原告に右脳梗塞が発症し,本件後遺障害(左上下肢の機能障害)が生じたと主張するので,これについて検討する。 (1) 本件手術に関する診療・検査の経過について前記前提事実,証拠(各認定事実の後に掲げる。)及び弁論の全趣旨によれば,本件手術に関する診療・検査の経過として,以下の各事実が認められる。 ア頭部MRI検査原告は,平成13年1月31日,被告病院脳神経外科を受診し,頭部MRI検査を受けたところ,その画像からは,「右内頸動脈領域の内頸動脈-後交通動脈分岐部から下方やや外側方へ突出する数ミリメートルの動脈瘤あり」との所見が得られ,原告の右眼瞼下垂の原因は本件脳動脈瘤による動眼神経の圧迫にあるものと考えられた(前記前提事実,乙A3・101頁,A4の1,2,A5の1,2,A6の1から4まで,A20,A21)(以下,年月日について,特に年を示さない場合は,すべて平成13年である。)。 イ本件脳血管撮影検査原告は,2月1日午後1時30分ころに血管撮影室に入室し,午後1時45分ころからH医師の施術による脳血管撮影検査(以下「本件脳血管撮影検査」という。)を受けた(乙A3・126頁,127頁,211頁,A7の1から6まで,A8の1から4まで,A9,A10の1から4まで,A18,A20,A24の1から4まで)。 本件脳血管撮影検査では,右鼠径部からカテーテルが挿入され,午後2時14分ころに右内頸動脈の正側像が,午後2時19分ころに右内頸動脈の斜位像が,午後2時32分ころに右椎骨動脈が,午後2時52分ころに左内頸動脈がそれぞれ撮 右鼠径部からカテーテルが挿入され,午後2時14分ころに右内頸動脈の正側像が,午後2時19分ころに右内頸動脈の斜位像が,午後2時32分ころに右椎骨動脈が,午後2時52分ころに左内頸動脈がそれぞれ撮影された(乙A3・126頁,211頁,A7の1から6まで,A8の1から4まで,A9,A10の1から4まで,A18,A24の1から4まで)。 午後3時10分ころ,本件脳血管撮影検査は終了し,午後3時20分ころ,原告は血管撮影室から病室に帰室した(乙A3・127頁,211頁)。 なお,本件脳血管撮影検査の結果,本件脳動脈瘤の大きさは,概ね6.2ミリメートル×4.4ミリメートル×3.7ミリメートルであることが確認された(乙A3・114頁,証人G)。 ウ本件手術原告は,2月1日午後5時30分ころに血管撮影室に入室し,本件手術を受けた(前記前提事実,乙A3・113頁,114頁,134頁,135頁,189頁から192頁まで,A20,証人G)。 本件手術の術者はI医師であり,第1助手はG医師であり,第2助手はH医師であった(乙A3・113頁)。 (ア) 原告は,午後5時43分ころから全身麻酔を施され,午後5時50分ころに気管挿管をされた(乙A3・134頁,135頁,190頁,A20)。 (イ) そして,午後6時05分ころから午後6時15分ころにかけて,右大腿動脈に挿入されたシースを通じてガイディングカテーテルが原告の右内頸動脈へと誘導され,さらに,午後7時00分ころ,ガイディングカテーテルを通じてマイクロカテーテルが本件脳動脈瘤内に誘導された(乙A3・190頁,191頁,A20)。 続いて,午後7時03分ころにコイル(GDC-10(3Dシェイプ),4mm×8cm)が,午後7時09分ころにコ ーテルが本件脳動脈瘤内に誘導された(乙A3・190頁,191頁,A20)。 続いて,午後7時03分ころにコイル(GDC-10(3Dシェイプ),4mm×8cm)が,午後7時09分ころにコイル(GDC-10(ソフト),3mm×3cm)が,それぞれマイクロカテーテルを通じて本件脳動脈瘤内に挿入された(乙A3・114頁,191頁,A20)。 これら2本のコイルによって本件脳動脈瘤内にフレームが形成されたことを受けて,午後7時20分ころから,原告に対して,ヘパリン(抗凝固剤)3000単位の静脈注射が開始された(乙A3・135頁,191頁,A20)。 その後,午後7時30分ころにコイル(GDC-10(ソフト),2mm×2cm)2本が,午後7時40分ころにコイル(GDC-10(ソフト),2mm×3cm)が,午後7時43分ころにコイル(GDC-10-SR,2mm×2cm)が,順次,本件脳動脈瘤内に挿入された(乙A3・114頁,191頁,A20)。 午後7時43分ころに挿入されたコイル(GDC-10-SR,2mm×2cm)が留置されるのと同時に,マイクロカテーテルが本件脳動脈瘤から押し出されてきたことから,被告病院の担当医師らは,午後8時00分ころ,マイクロカテーテル,ガイディングカテーテルを抜去した上で,本件手術を終了した(乙A3・114頁,191頁,A20)。 (ウ) 本件手術が行われている間,原告に対しては,午後6時21分ころ,午後6時48分ころ,午後6時58分ころ,午後7時03分ころ,午後7時08分ころ,午後7時14分ころ,午後7時27分ころ,午後7時32分ころ,午後7時39分ころ及び午後7時42分ころに脳血管撮影検査が実施された(乙A11の1から4まで,A17の1,2,A22の1から4まで,A 午後7時14分ころ,午後7時27分ころ,午後7時32分ころ,午後7時39分ころ及び午後7時42分ころに脳血管撮影検査が実施された(乙A11の1から4まで,A17の1,2,A22の1から4まで,A23の1から4まで,A25の1,2)。 なお,脳神経外科入院カルテ中の経過記録(乙A3・191頁)によれば,午後7時42分ころの脳血管撮影検査(経過記録上は午後7時40分に実施されたものと記載されている。)は,午後7時40分ころのコイル(GDC-10(ソフト),2mm×3cm)の挿入及び午後7時43分ころのコイル(GDC-10-SR,2mm×2cm)の挿入に先立って実施されたものと読めるが,その画像内容(乙A17の2,A23の1から4まで)からすると,この脳血管撮影検査はすべてのコイルの挿入が終了した後に,頭蓋内に異常が生じていないかどうかを最終的に確認するために実施されたものと認められる(鑑定人N,同O)。 エ血栓溶解療法(ア) 本件手術終了後の2月1日午後8時30分ころ,原告の左上下肢の動きの悪さが確認されたことから,午後8時46分ころに頭部CT検査が実施され,さらに,午後8時59分ころ,脳血管撮影検査が実施された(乙A3・29頁,192頁,A12,A13,A17の1,2,A20)。 (イ) そして,脳血管撮影検査の結果,原告の右中大脳動脈の運動野に向かう末梢動脈の描出が悪いことが確認され,本件動脈瘤内に形成された血栓が飛んだ可能性が考えられたことから,午後9時25分ころ及び午後9時40分ころ,原告に対して,ウロキナーゼ(血栓溶解剤)が12万単位ずつ静脈注射された(乙A3・29頁,114頁,189頁)。 (ウ) 原告に対してウロキナーゼが静脈注射された後,原告の右中大脳動脈の運動野に向かう末梢動 ロキナーゼ(血栓溶解剤)が12万単位ずつ静脈注射された(乙A3・29頁,114頁,189頁)。 (ウ) 原告に対してウロキナーゼが静脈注射された後,原告の右中大脳動脈の運動野に向かう末梢動脈の一部において,血流の再開が認められた(乙A3・29頁,114頁)。 (2) 右脳梗塞について原告は,本件手術において,原告に挿入されていたカテーテル内及びカテーテル外周辺に血栓が生じ,これが飛んで右脳動脈が閉塞したために,原告に右脳梗塞が発症したと主張するので,まず,原告の右脳梗塞はどの部位に生じたのか,その右脳梗塞はどの右脳動脈の閉塞によって生じたのか,その右脳動脈閉塞はいつ生じたのかについて,順次,検討する。 ア右脳梗塞の発症部位について本件手術の翌日である2月2日午後2時53分ころに撮影された頭部MRI検査の画像(乙A16の2,3)からは,原告の右中心前回に脳梗塞の発症を示す所見(白色部分)が認められ(乙A3・102頁,鑑定人N,同P,同O),また,右中心後回にも脳梗塞の発症を疑わせる所見が認められる(鑑定人O)。 これら右中心前回,右中心後回は,いずれも右中大脳動脈の灌流域である(鑑定人N,同P,同O)から,原告には,右中心前回を含む右中大脳動脈の灌流域の一部に脳梗塞が発症したものといえる。 イ右脳動脈の閉塞部位について本件手術中である2月1日午後7時03分ころに撮影された脳血管撮影検査の画像(乙A11の2,A17の2,A22の1から4まで)からは,原告の右中大脳動脈の分枝2本において血流の停滞が認められる(甲B14,B15,鑑定人N,同P,同O)ところ,前記アのとおり,原告の右脳梗塞発症部位は右中大脳動脈の灌流域の一部であることからすると,原告の右脳梗塞は,この右中大脳動 て血流の停滞が認められる(甲B14,B15,鑑定人N,同P,同O)ところ,前記アのとおり,原告の右脳梗塞発症部位は右中大脳動脈の灌流域の一部であることからすると,原告の右脳梗塞は,この右中大脳動脈の分枝2本が閉塞したことによって発症したものと推認するのが相当といえる(甲B14,鑑定人N,同P,同O)。 なお,原告側相談医であるQ病院脳神経外科のR医師は,その意見書において,本件手術中である2月1日午後7時42分ころに撮影された脳血管撮影検査の画像(静止画)(乙A11の3)からは,原告の前大脳動脈にも閉塞が生じていたことが認められると述べる(甲B21)が,同検査におけるその他の画像(動画)(乙A17の2)をも検討すると,原告の前大脳動脈に血栓を生じるほどの血流の停滞があったと認めることは困難であり(鑑定人N,同P,同O),原告の右大脳動脈に閉塞が生じていたとは認められない。 ウ右脳動脈の閉塞時期について前記イのとおり,2月1日午後7時03分ころに撮影された脳血管撮影検査の画像によって原告の右中大脳動脈の分枝2本の閉塞が認められる以上,遅くとも2月1日午後7時03分ころには,原告の右中大脳動脈の分枝2本に閉塞が生じていたものと認められる(鑑定人N,同P)。 なお,O鑑定人は,2月1日午後6時48分ころに撮影された脳血管撮影検査の画像(乙A17の2)において原告の右中大脳動脈の分枝2本の閉塞が認められると述べ(鑑定人O),また,R医師は,2月1日午後6時58分ころに撮影された脳血管撮影検査の画像(乙A17の1)において原告の右中大脳動脈の分枝2本の閉塞が認められると述べる(甲B14)が,これらの画像から明らかに右中大脳動脈の分枝2本が閉塞していると認めるのは困難である(鑑定人N,同P)から,原告の右中大 おいて原告の右中大脳動脈の分枝2本の閉塞が認められると述べる(甲B14)が,これらの画像から明らかに右中大脳動脈の分枝2本が閉塞していると認めるのは困難である(鑑定人N,同P)から,原告の右中大脳動脈の分枝2本に閉塞が生じた時期については,遅くとも2月1日午後7時03分ころと認めるのが相当である。 (3) 全身ヘパリン化の要否について次に,原告は,本件手術において,大腿動脈にカテーテル挿入のためのシースを留置したところで,抗凝固剤であるヘパリンを静脈内に注入して,全身ヘパリン化を行う必要があったと主張するので,これについて検討する。 ア文献の中には,未破裂脳動脈瘤に対する脳動脈瘤塞栓術において,大腿動脈にシース(イントロデューサー)を留置した段階で全身ヘパリン化を実施することを推奨しているものもある(甲B1,B2,B18,乙B5)。 イしかし,未破裂脳動脈瘤に対する脳動脈瘤塞栓術における全身ヘパリン化については,標準的な方法は存在しないとする文献もあり(乙B5,B20),実際の臨床現場においても,患者が高齢である場合には,動脈硬化による血栓症発症の危険が高い一方で,出血性合併症発症の危険も高いことから,全身ヘパリン化の実施について一定の見解はなく,必ずしも全身ヘパリン化が実施されているわけではないことが窺える(鑑定人N,同P,同O)。 ウ本件手術においては,右大腿動脈に挿入されたシースを通じてガイディングカテーテルが原告の右内頸動脈へと誘導された段階では全身ヘパリン化は実施されず,原告に対して全身ヘパリン化が実施されたのは,2本のコイルによって本件脳動脈瘤内にフレームが形成された後の午後7時20分ころになってからであった(前記(1)ウ(イ))。 しかし,原告は大正12年5月13日生まれ(本件手 施されたのは,2本のコイルによって本件脳動脈瘤内にフレームが形成された後の午後7時20分ころになってからであった(前記(1)ウ(イ))。 しかし,原告は大正12年5月13日生まれ(本件手術時には77歳8か月)であった(前記前提事実)ところ,前記イのとおり,高齢患者の未破裂脳動脈瘤に対する脳動脈瘤塞栓術においては,全身ヘパリン化についての標準的な方法は存在せず,必ずしも全身ヘパリン化が実施されているわけではないことに照らせば,本件手術において,右大腿動脈にシースが挿入された時点で原告に対して直ちに全身ヘパリン化を実施する必要があったとは認め難いというべきである。 (4) 小括よって,本件手術において,被告病院の担当医師らに,原告に対する全身ヘパリン化を怠った過失があったとは認められないから,争点(1)についての原告の主張は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。 2 争点(2)(本件手術において,被告病院の担当医師らが,原告に生じた右脳動脈の閉塞に対して直ちにウロキナーゼを投与する措置を怠り,原告に右脳梗塞を発症させ,本件後遺障害(左上下肢の機能障害)を生じさせたことによる債務不履行又は不法行為の成否)について原告は,本件手術において,被告病院の担当医師らが,原告に生じた右脳動脈の閉塞に対して直ちにウロキナーゼを投与する措置を怠ったことによって,原告に右脳梗塞が発症し,本件後遺障害(左上下肢の機能障害)が生じたと主張するので,これについて検討する。 (1) 右脳動脈の閉塞を認識すべき時期について原告は,本件手術において,遅くとも2月1日午後7時42分までには,原告の右脳動脈の閉塞が認識されるべきであったと主張するので,まず,原告の右中大脳動脈の分枝2本に生じた閉塞について,被告病院の 原告は,本件手術において,遅くとも2月1日午後7時42分までには,原告の右脳動脈の閉塞が認識されるべきであったと主張するので,まず,原告の右中大脳動脈の分枝2本に生じた閉塞について,被告病院の担当医師らはどの時点までにこれを認識すべきであったかを検討する。 ア前記1(2)ウのとおり,原告の右中大脳動脈の分枝2本に閉塞が生じた時期については,遅くとも2月1日午後7時03分ころと認めるのが相当である。 そして,本件手術においては,原告の右中大脳動脈の分枝2本に閉塞が生じて以降,午後7時03分ころ,午後7時08分ころ,午後7時14分ころ,午後7時27分ころ,午後7時32分ころ,午後7時39分ころ及び午後7時42分ころに脳血管撮影検査が実施されており(前記1(1)ウ(ウ)),これらの脳血管撮影検査の画像には,原告の右中大脳動脈の分枝2本の閉塞を示す所見が現れているものと考えられる。 イ脳動脈瘤塞栓術施術中に実施される脳血管撮影検査の本来の目的は,コイルの塞栓が適切に行われているかどうかを確認することにあり(証人G),現に脳動脈瘤塞栓術を執り行っている医師が,術中に撮影された脳血管撮影検査の画像から,脳動脈の閉塞の有無を確認することは容易なことではないと思われる(鑑定人N,同O)。 しかし,前記1(1)ウ(ウ)のとおり,本件手術においては,少なくとも午後7時42分ころに実施された脳血管撮影検査については,すべてのコイルの挿入が終了した後に,頭蓋内に異常が生じていないかどうかを最終的に確認することを目的とするものであったと認められ,この午後7時42分の脳血管撮影検査の画像には原告の右中大脳動脈の分枝2本の閉塞を示す所見が現れていること(鑑定人N,同P,同O)からすれば,被告病院の担当医師らとしては,遅くとも午 たと認められ,この午後7時42分の脳血管撮影検査の画像には原告の右中大脳動脈の分枝2本の閉塞を示す所見が現れていること(鑑定人N,同P,同O)からすれば,被告病院の担当医師らとしては,遅くとも午後7時42分ころに脳血管撮影検査を実施した時点において,原告の右中大脳動脈の分枝2本の閉塞を認識すべきであったというべきである(鑑定人N,同P,同O)。 (2) 右脳動脈の閉塞を認識した後にとられるべき措置について次に,原告は,原告の右中大脳動脈の分枝2本の閉塞が認識された場合に,直ちにウロキナーゼが投与されるべきであったと主張するので,これについて検討する。 アウロキナーゼは,出血を惹起し,止血が困難になるおそれがあることから,添付文書(能書)上は,動脈瘤のある患者に対する投与は禁忌とされている(乙B18,B22)。 イしかし,脳動脈に生じた血栓に対しては,全身ヘパリン化の実施又はウロキナーゼの投与のほかに有効な治療法はなく(鑑定人N,同P,同O),実際にも脳動脈瘤塞栓術中に生じた血栓に対してウロキナーゼの注入による血栓溶解療法が実施された症例も報告されている(甲B19,B20)ことからすれば,原告の右中大脳動脈の分枝2本の閉塞が確認された場合には,既に原告に対しては2月1日午後7時20分の時点で全身ヘパリン化が施されていた(前記1(1)ウ(イ))以上,もはやウロキナーゼの投与による血栓溶解療法をとるほかなく,また,とるべきであった(なお,被告病院の担当医師らも,本件手術終了後の2月1日午後9時25分ころ及び午後9時40分ころには,原告に対して,ウロキナーゼを12万単位ずつ静脈注射していることは前記1(1)エ(イ)のとおり。)というべきである(鑑定人N,同P,同O)。 (3) 2月1日午後7時42分ころにウロキ ころには,原告に対して,ウロキナーゼを12万単位ずつ静脈注射していることは前記1(1)エ(イ)のとおり。)というべきである(鑑定人N,同P,同O)。 (3) 2月1日午後7時42分ころにウロキナーゼが投与されていた場合の予後について以上によれば,被告病院の担当医師らは,遅くとも2月1日午後7時42分ころには原告の右中大脳動脈の分枝2本の閉塞を認識し,直ちに原告に対してウロキナーゼを投与すべきであったのにこれを怠ったというべきであるが,この注意義務違反と原告に発生した本件後遺障害(左上下肢の機能障害)との間に因果関係が認められるかについて検討する。 ア一般論としては,ウロキナーゼの投与による血栓溶解療法は,血管が閉塞してからより短時間で開始した方が,より高い血栓溶解効果を期待することができるといえる(甲B14,鑑定人N,同P,同O)。 イしかし,他方では,ウロキナーゼの血栓溶解作用は必ずしも高いものではなく(鑑定人P),血管が閉塞してからウロキナーゼを投与するまでの時間が短かったからといって,必ずしもより高い血栓溶解効果が現れるわけではないというのが臨床現場における実情であるとも窺える(鑑定人N,同P,同O)。 文献の中にも,ウロキナーゼの投与による血栓溶解療法について,発症からの経過時間だけから血栓溶解効果を予測することは困難であると指摘するものもある(甲B20)。 また,原告に生じたのは,右中大脳動脈の分枝2本という末梢血管における閉塞であり,仮にウロキナーゼの投与が奏功して血流の再開が得られたとしても,右脳梗塞の予防にどれだけの効果があったのかは不明といわざるを得ない(鑑定人P)(実際,原告に対しては,2月1日午後9時25分ころ及び午後9時40分ころにウロキナーゼが12万単位ずつ静脈注 しても,右脳梗塞の予防にどれだけの効果があったのかは不明といわざるを得ない(鑑定人P)(実際,原告に対しては,2月1日午後9時25分ころ及び午後9時40分ころにウロキナーゼが12万単位ずつ静脈注射され,右中大脳動脈の運動野に向かう末梢動脈の一部において,血流の再開が認められていた(前記1(1)エ(イ)(ウ))にもかかわらず,本件後遺障害が生じている(前記前提事実)。)。 ウそうすると,仮に2月1日午後7時42分ころに原告に対してウロキナーゼが投与されていたとしても,午後9時25分ころ及び午後9時40分ころにウロキナーゼが12万単位ずつ静脈注射された実際の予後と比較して,原告の後遺障害が有意に改善されたとは推認できないというべきである。 (4) 小括よって,被告病院の担当医師らは,遅くとも2月1日午後7時42分ころには原告の右中大脳動脈の分枝2本の閉塞を認識し,直ちに原告に対してウロキナーゼを投与すべきであったところ,これを怠ったものといえるが,仮に午後7時42分ころに原告に対してウロキナーゼが投与されていたとしても,原告の後遺障害が有意に改善されたと認めることはできないから,争点(2)についての原告の主張は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。 3 争点(3)(被告病院の担当医師らが,原告の左脳動脈に対する脳血管撮影検査を実施し,原告に左脳梗塞を発症させ,本件後遺障害(知的機能障害)を生じさせたことによる債務不履行又は不法行為の成否)について原告は,被告病院の担当医師らが,本件脳血管撮影検査を実施したために,原告に左脳梗塞が発症し,本件後遺障害(知的機能障害)が生じたと主張するので,これについて検討する。 (1) 左脳梗塞について原告は,本件脳血管撮影検査の実施によって,原告に左脳 めに,原告に左脳梗塞が発症し,本件後遺障害(知的機能障害)が生じたと主張するので,これについて検討する。 (1) 左脳梗塞について原告は,本件脳血管撮影検査の実施によって,原告に左脳梗塞が発症したと主張するので,まず,原告の左脳梗塞はどの部位に生じたのか,その左脳梗塞はどの左脳動脈の閉塞によって生じたのか,その左脳動脈閉塞はいつ生じたのか,その左脳動脈閉塞の原因は本件脳血管撮影検査の実施にあるのかについて,順次,検討する。 ア左脳梗塞の発症部位について2月2日午後2時53分ころに撮影された頭部MRI検査の画像(乙A16の2,3)からは,原告の左前頭葉の一部(左下前頭回)に脳梗塞の発症を示す所見が認められ(乙A3・102頁,鑑定人N,同P,同O),また,左島の一部にも脳梗塞の発症を疑わせる所見が認められる(鑑定人O)(なお,2月1日午後10時19分ころに実施された頭部CT検査の画像(乙A14)及び2月2日午前8時50分ころに実施された頭部CT検査の画像(乙A15)にも,左脳梗塞の初期症状を疑わせる所見が現れているように見える(鑑定人O)が,この画像のみから原告に左脳梗塞が発症していると診断することは困難と思われる(鑑定人N,同P)。)。 これら左前頭葉の一部,左島の一部は,いずれも左中大脳動脈の灌流域である(鑑定人N,同P,同O)から,原告には,左前頭葉の一部を含む左中大脳動脈の灌流域の一部に脳梗塞が発症したものといえる。 イ左脳動脈の閉塞部位について2月1日午後2時52分ころに撮影された本件脳血管撮影検査の画像(乙A18)からは,原告の左中大脳動脈の分枝において造影剤の陰影の欠損が認められ(鑑定人N,同P,同O),前記アのとおり,原告の左脳梗塞が左中大脳動脈の灌流域の一部に れた本件脳血管撮影検査の画像(乙A18)からは,原告の左中大脳動脈の分枝において造影剤の陰影の欠損が認められ(鑑定人N,同P,同O),前記アのとおり,原告の左脳梗塞が左中大脳動脈の灌流域の一部に発症したものであることをも考慮すると,この造影剤の陰影の欠損部位に血栓が生じていた可能性が高いものと認められる(鑑定人N,同O)。 ウ左脳動脈の閉塞時期について前記イのとおり,2月1日午後2時52分ころに撮影された本件脳血管撮影検査の画像によれば,原告の左中大脳動脈の分枝が閉塞した可能性が認められ,他方,それ以前に原告の左中大脳動脈の分枝を撮影した画像が存在しない(前記1(1)イ)ことに照らせば,原告の左中大脳動脈の分枝に閉塞が生じた時期については,遅くとも2月1日午後2時52分ころと認めるのが相当である。 エ左脳動脈の閉塞の原因について一般に,脳動脈に閉塞を来す危険因子としては,脳血管撮影検査の実施のほか,心房細動,心筋梗塞,糖尿病の罹患や,高齢であることが挙げられる(乙A3・193頁,A21,鑑定人N,同P,同O)ものの,これらの危険因子の中で脳動脈閉塞の危険性が最も高いのは,血管に直接に操作を加える脳血管撮影検査の実施であると考えられる(鑑定人N,同P,同O)。 また,原告は軽度の心房細動を患っていたようではある(乙A3・108頁)が,これによって左中大脳動脈の分枝の閉塞が生じたことを具体的に推認させる証拠はなく(乙A3・108頁),2月1日午後2時52分ころ以前に原告の左中大脳動脈の分枝に閉塞を生じさせた他の原因の存在を推認させる証拠もないことからすると,原告の左中大脳動脈の分枝の閉塞の原因は,本件脳血管撮影検査の実施にあったと推認するのが相当である(鑑定人N,同P,同O)。 (2) じさせた他の原因の存在を推認させる証拠もないことからすると,原告の左中大脳動脈の分枝の閉塞の原因は,本件脳血管撮影検査の実施にあったと推認するのが相当である(鑑定人N,同P,同O)。 (2) 本件脳血管撮影検査における左脳動脈撮影の要否について以上によれば,原告の左中大脳動脈の分枝に閉塞を生じさせた原因は本件脳血管撮影検査にあったというべきであるが,これについて,原告は,1月31日に実施された頭部MRI検査によって原告の左脳の血管系には何らの病変も存在しないことが明らかとなっていたのであるから,被告病院の担当医師らは,原告の左脳動脈に対する撮影を実施すべきではなかったと主張するので,これについて検討する。 ア一般に,脳動脈瘤の治療に当たっては,何らかの事故が生じた場合に適切な対応をとるためには,脳動脈瘤の存在する脳動脈のみならず,その側副血行路となる他の脳動脈についての情報も把握しておく必要があるとされ(鑑定人N,同P,同O),また,脳動脈瘤については,34パーセントから45パーセント程度の頻度で多発性であるとされている(乙B7)ことから,他の脳動脈に脳動脈瘤が存在していないかどうかも確認しておく必要があるとされている(鑑定人N,同P)。 そして,頭部MRI検査は,脳血管撮影検査に比べて解像度が劣る検査であり(乙B8,鑑定人P),脳動脈瘤の精査のためには,頭部MRI検査の実施のみでは不十分であり,脳血管撮影検査を実施することが必要とされている(乙B4,鑑定人N,同P)。 イそうすると,原告に対して1月31日に頭部MRI検査が実施されていた(前記1(1)ア)としても,被告病院の担当医師らとしては,原告の本件脳動脈瘤を精査するために,脳血管撮影検査を実施する必要があり,しかも,その検査の対象は,本件脳 に頭部MRI検査が実施されていた(前記1(1)ア)としても,被告病院の担当医師らとしては,原告の本件脳動脈瘤を精査するために,脳血管撮影検査を実施する必要があり,しかも,その検査の対象は,本件脳動脈瘤の存在する右内頸動脈のみならず,右内頸動脈の側副血行路となる左内頸動脈や右椎骨動脈をも含める必要があったというべきである(鑑定人N,同P,同O)。 ウしたがって,本件脳血管撮影検査では原告の左内頸動脈の撮影がされている(前記1(1)ア)が,これは本件脳動脈瘤の精査のために必要な措置であったというべきである。 (3) 本件脳血管撮影検査における左脳動脈撮影についての説明の要否について次に,原告は,本件脳血管撮影検査において,被告病院の担当医師らから左脳動脈に対する撮影を実施することの説明がされていなかったと主張するので,本件脳血管撮影検査における左脳内頸動脈撮影についての説明の要否について検討する。 ア脳血管撮影検査は,カテーテルを血管内に挿入させ,造影剤を注入し,放射線を照射させて実施する(乙B8)点で,侵襲性の高い検査であるから,脳血管撮影検査を実施しようとする医師には,脳血管撮影検査の内容,脳血管撮影検査に付随する危険性を事前に説明すべき義務があるというべきである。 もっとも,前記(2)アのとおり,脳動脈瘤の精査を目的とする脳血管撮影検査は,脳の両側の脳動脈を撮影することを当然の前提とするものであり,また,脳は左右が一体として一つの臓器を形成している(鑑定人O)ことからすれば,脳動脈瘤の精査を目的とする脳血管撮影検査を実施するに当たって,特に脳動脈の撮影が両側に及ぶことまで説明する必要はない(脳の左右を特に区別することなく,脳血管撮影検査の内容,脳血管撮影検査に付随する危険性について説明すれば足り 管撮影検査を実施するに当たって,特に脳動脈の撮影が両側に及ぶことまで説明する必要はない(脳の左右を特に区別することなく,脳血管撮影検査の内容,脳血管撮影検査に付随する危険性について説明すれば足りる。)と解するのが相当である。 イ本件脳血管撮影検査に関する説明は,1月31日に,H医師からFに対して行われたところ,このとき,H医師は,同日に実施された頭部MRI検査の結果を踏まえて,原告の右眼瞼下垂の原因は本件脳動脈瘤による動眼神経の圧迫にあること,本件脳動脈瘤には破裂する危険があること,本件脳動脈瘤が破裂した場合には原告はくも膜下出血を発症して死亡する危険もあることなどを伝えた上で,2月1日に血管の中に直接に管を入れて詳しく調べる検査をすること,この検査では血栓等で脳梗塞を来す可能性があることなどを説明したが,原告が主張するとおり,右脳動脈のみならず左脳動脈をも撮影することについては特に説明を行っていない(甲B12,乙A3・112頁,193頁,証人F,同H)。 ウしかし,前記アのとおり,H医師としては,本件脳血管撮影検査の実施に当たり,脳の左右を特に区別することなく,本件脳血管撮影検査の内容,本件脳血管撮影検査に付随する危険性について説明すれば足りるというべきであって,H医師が右脳動脈のみならず左脳動脈をも撮影することについては特に説明を行っていなかったからといって,説明が不十分であったということはできない(H医師は,本件脳血管撮影検査について,血管の中に直接に管を入れて詳しく調べる検査であること,血栓等で脳梗塞を来す可能性があることなどを説明しており,本件脳血管撮影検査の内容,本件脳血管撮影検査に付随する危険性についての説明は十分に行っている。)というべきである。 (4) 小括よって,原告に発症した左脳梗塞 ことなどを説明しており,本件脳血管撮影検査の内容,本件脳血管撮影検査に付随する危険性についての説明は十分に行っている。)というべきである。 (4) 小括よって,原告に発症した左脳梗塞の原因は,本件脳血管撮影検査にあったと認められるが,本件脳動脈瘤の精査のためには本件脳血管撮影検査において左脳動脈を撮影することは必要であったと認められ,また,本件脳血管撮影検査に当たって被告病院の担当医師らが右脳動脈のみならず左脳動脈をも撮影することを特に説明すべきであったとは認められないから,争点(3)についての原告の主張は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。 4 争点(4)(原告の左脳に対する脳血管撮影検査の際,被告病院の担当医師らが,原告に生じた左脳動脈の閉塞に対して直ちにウロキナーゼを投与する措置を怠り,原告に左脳梗塞を発症させ,本件後遺障害(知的機能障害)を生じさせたことによる債務不履行又は不法行為の成否)について原告は,被告病院の担当医師らが,原告に生じた左脳動脈の閉塞に対して直ちにウロキナーゼを投与する措置を怠ったことによって,原告に左脳梗塞が発症し,本件後遺障害(知的機能障害)が生じたと主張するので,これについて検討する。 (1) 左脳動脈の閉塞を認識すべき時期について原告は,本件脳血管撮影検査が実施された後,速やかに,原告の左脳動脈の閉塞が認識されるべきであったと主張するので,まず,原告の左中大脳動脈の分枝に生じた閉塞について,被告病院の担当医師らはどの時点までにこれを認識すべきであったかを検討する。 ア前記3(1)ウのとおり,原告の左中大脳動脈の分枝に閉塞が生じた時期については,遅くとも本件脳血管撮影検査実施中の2月1日午後2時52分ころであったと認めるのが相当である。 イ 。 ア前記3(1)ウのとおり,原告の左中大脳動脈の分枝に閉塞が生じた時期については,遅くとも本件脳血管撮影検査実施中の2月1日午後2時52分ころであったと認めるのが相当である。 イしかし,2月1日午後2時52分ころに撮影された本件脳血管撮影検査の画像(乙A18)から原告の左中大脳動脈の分枝の閉塞を認識するのは極めて困難であり,被告病院の担当医師らにこの画像から原告の左中大脳動脈の分枝の閉塞を認識すべきであったとまでは認められないというべきである(鑑定人N,同P,同O)。 したがって,被告病院の担当医師らが,本件脳血管撮影検査が実施された直後に原告の左中大脳動脈の分枝の閉塞を認識することができなかったとしても,これを過失ということはできない。 ウもっとも,一般に,左脳梗塞を発症すると,言語障害や高次脳機能障害が現れる(鑑定人N,同P,同O)ところ,仮に本件脳血管撮影検査後に,原告に言語障害や高次脳機能障害を疑わせる症状が現れたならば,被告病院の担当医師らとしては,原告の左脳梗塞を疑い,左脳動脈の閉塞の有無を検査しなくてはならないと解すべきである(鑑定人N,同P,同O)。 これについて,原告は,2月1日午後5時ころには,右足を屈曲させるなどの異常な行動が見られるようになっていたのであるから,被告病院の担当医師らは,この時点で原告に知的機能障害が生じていることを疑うべきであったと主張する。 確かに,原告には,2月1日午後5時ころに,右足を屈曲させる様子があったことが確認されている(乙A3・211頁)が,本件脳血管撮影検査は原告の右鼠径部からカテーテルが挿入されて実施されたところ,この違和感から右足を屈曲させることもあり得ることであり(鑑定人N,同O),右足を屈曲させる動作から直ちに原告にお が,本件脳血管撮影検査は原告の右鼠径部からカテーテルが挿入されて実施されたところ,この違和感から右足を屈曲させることもあり得ることであり(鑑定人N,同O),右足を屈曲させる動作から直ちに原告において左脳梗塞による知的機能障害が生じていることを疑わなければならないものとはいえない(鑑定人N,同P,同O)。 そして,ほかにそのころの原告に言語障害や高次脳機能障害を疑わせる症状が現れたことを推認させる証拠はないから,被告病院の担当医師らにとって,本件脳血管撮影検査後に,原告の左脳梗塞を疑うべき契機はなかったといわざるを得ない。 エそうすると,結局,被告病院の担当医師らにとって,原告の左中大脳動脈の分枝に生じた閉塞を認識することが可能であったといえるのは,2月2日午後2時53分ころに頭部MRI検査が実施されてからであったというべきであり(前記3(1)ア,鑑定人O),実際にも,被告病院の担当医師らは,2月2日午後2時53分ころに実施された頭部MRI検査の画像によって原告の左脳梗塞を認識している(乙A3・102頁)から,被告病院の担当医師らが原告の左中大脳動脈の分枝に生じた閉塞(左脳梗塞)を認識することに遅延があったとは認められないというべきである。 (2) 左脳動脈の閉塞を認識した後にとられるべき措置について次に,原告は,原告の左中大脳動脈の分枝の閉塞(左脳梗塞)が認識された場合に,直ちにウロキナーゼが投与されるべきであったと主張するので,これについて検討する。 ア前記2(2)イと同様に,原告の左中大脳動脈の分枝の閉塞(左脳梗塞)が確認された場合には,ウロキナーゼの投与による血栓溶解療法をとるほかないと考えられる。 イしかし,一般には,脳梗塞が発症してから約6時間が経過した場合,神経症状が改善される 塞(左脳梗塞)が確認された場合には,ウロキナーゼの投与による血栓溶解療法をとるほかないと考えられる。 イしかし,一般には,脳梗塞が発症してから約6時間が経過した場合,神経症状が改善される可能性は乏しい反面,出血性脳梗塞を招来する危険もあることから,ウロキナーゼの投与の適応はないとされており(鑑定人N,同P,同O),被告病院の担当医師らにとっては,2月2日午後2時53分ころに実施された頭部MRI検査の画像によって原告の左脳梗塞を認識した(それ以前に原告の左脳梗塞を認識することが困難であったことについては,前記(1)イ,ウ,エのとおり。)ところで,もはやウロキナーゼを投与すべき時期は過ぎてしまっているといわざるを得ない(鑑定人N,同P,同O)(なお,原告に対しては,左中大脳動脈の分枝の閉塞から約6時間が経過した2月1日午後9時25分ころ及び午後9時40分ころに,右中大脳動脈の分枝2本の閉塞の治療のために,ウロキナーゼが12万単位ずつ静脈注射されており(前記1(1)エ(イ)),これは,図らずも,原告の左脳梗塞に対する治療にもなり得るものであったと考えられる(鑑定人N,同P)。)。 (3) 小括よって,被告病院の担当医師らに,原告に生じた左脳動脈の閉塞を認識することに遅延した過失があったとはいえず,被告病院の担当医師らが原告の左脳梗塞を確認した時点では,もはやウロキナーゼの適応がなかったと認められるから,争点(4)についての原告の主張は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。 5 争点(5)(本件手術において,被告病院の担当医師らが,本件脳動脈瘤を完全に塞栓することを怠り,原告にくも膜下出血を発症させ,本件後遺障害を生じさせたことによる債務不履行又は不法行為の成否)について原告は,本件手術において本件 院の担当医師らが,本件脳動脈瘤を完全に塞栓することを怠り,原告にくも膜下出血を発症させ,本件後遺障害を生じさせたことによる債務不履行又は不法行為の成否)について原告は,本件手術において本件脳動脈瘤が完全に塞栓されなかったために,コイルコンパクションが起こり,血流が生じて本件脳動脈瘤が増大し,平成14年1月4日にくも膜下出血が発症したと主張するので,これについて検討する。 (1) 本件脳動脈瘤の破裂の原因について原告は,平成14年1月4日に本件脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血を発症し,M医療センターに入院した(前記前提事実)が,原告の治療に当たったM医療センター脳神経外科のS医師及びT医師によれば,本件脳動脈瘤の破裂の原因は,本件脳動脈瘤にコイルコンパクション(脳動脈瘤内に挿入・充填されているコイルが拍動性血流によって次第に動脈瘤内で偏在化すること)が生じ,本件脳動脈瘤内への血流が再開し,本件脳動脈瘤が増大したことにあるとされており(甲B6,T医師に対して証人の尋問に代えて提出させた書面),G医師も,S医師の見解に異を唱えていない(証人G)ことからすると,平成14年1月4日の本件脳動脈瘤の破裂は,本件脳動脈瘤に生じたコイルコンパクションに起因するものであったと推認するのが相当である。 (2) コイルの容積塞栓率についてア T医師によれば,脳動脈瘤塞栓術において,コイルの塞栓が不完全であって脳動脈瘤の一部分が残存してしまった場合や,コイルの塞栓の密度が疎であるような場合には,コイルコンパクションが生じ得るとされており(T医師に対して証人の尋問に代えて提出させた書面),また,文献の中には,脳動脈瘤塞栓術におけるコイルの容積塞栓率を25パーセントから33パーセントとすることを推奨するものや,容積塞栓率20パーセン T医師に対して証人の尋問に代えて提出させた書面),また,文献の中には,脳動脈瘤塞栓術におけるコイルの容積塞栓率を25パーセントから33パーセントとすることを推奨するものや,容積塞栓率20パーセントを長期安定性獲得のための一つの目安とするものもある(甲B8,乙B9)。 イ本件手術では,概ね6.2ミリメートル×4.4ミリメートル×3.7ミリメートル程度の大きさである(前記1(1)イ)本件脳動脈瘤に対して,コイル(GDC-10(3Dシェイプ),4mm×8cm)1本,コイル(GDC-10(ソフト),3mm×3cm)1本,コイル(GDC-10(ソフト),2mm×2cm)2本,コイル(GDC-10(ソフト),2mm×3cm)1本,コイル(GDC-10-SR,2mm×2cm)1本の合計6本のコイルが挿入されている(前記1(1)ウ(イ))ところ,O鑑定人によれば,本件脳動脈瘤におけるコイルの容積塞栓率は,18.2パーセントと算出される(鑑定人O)。 そうすると,本件手術におけるコイルの容積塞栓率は,前記アの文献において推奨されている数値に達しておらず,コイルの塞栓が疎に行われたようにも思われる。 ウしかし,前記アの文献は,いずれも,脳動脈瘤塞栓術実施例におけるコイルコンパクションの発生例と非発生例を事後的に統計分析したものであり(甲B8,乙B9),そこで推奨されている容積塞栓率は,目安に過ぎず,その程度に達しなければならないと解することは相当ではない(鑑定人N,同P)。 実際の脳動脈瘤塞栓術においては,物理的にこれ以上のコイルを脳動脈瘤内に挿入できない状況に至れば,それ以上にコイルを挿入した場合,脳動脈瘤が破裂する危険があるため,手術を終了せざるを得ないのであって(鑑定人N,同P,同O),一定の容積塞栓率を達成するこ を脳動脈瘤内に挿入できない状況に至れば,それ以上にコイルを挿入した場合,脳動脈瘤が破裂する危険があるため,手術を終了せざるを得ないのであって(鑑定人N,同P,同O),一定の容積塞栓率を達成することは目安に過ぎないというべきである(鑑定人N,同P,同O)。本件手術における容積塞栓率も18.2パーセントであって,目安とされている20パーセントや25パーセントから33パーセントといった数値と著しく乖離しているとまではいえない。 したがって,脳動脈瘤塞栓術においては,脳動脈瘤がコイルによって十分に塞栓されているかどうかは,物理的にこれ以上のコイルを脳動脈瘤内に挿入できない状況に至ったどうかによって判断すべきといえる(鑑定人N,同P,同O)。 エ本件手術においては,前記1(1)ウ(イ)のとおり,6本目のコイルが留置されるのと同時に,マイクロカテーテルが本件脳動脈瘤から押し出されてきており,もはやこれ以上のコイルを本件脳動脈瘤内に挿入することはできない状況に至っているものと認められるから,本件脳動脈瘤は,被告病院の担当医師らによって,十分に塞栓されたというべきである(鑑定人N,同P,同O)。 したがって,被告病院の担当医師らが本件手術において本件脳動脈瘤の塞栓を十分に行わなかったために平成14年1月4日に本件脳動脈瘤が破裂したということはできない。 文献の中には,脳動脈瘤を完全に閉塞したとしても脳動脈瘤の再発を来す症例があることについて,現在の脳動脈瘤塞栓術の「限界を物語っている」と論じているものもあり(乙B10),いずれにせよ,本件動脈瘤におけるコイルコンパクションは,本件手術に不可避的に合併する現象であったというほかないと思われる。 (3) 小括よって,被告病院の担当医師らに,本件手術において ずれにせよ,本件動脈瘤におけるコイルコンパクションは,本件手術に不可避的に合併する現象であったというほかないと思われる。 (3) 小括よって,被告病院の担当医師らに,本件手術において本件脳動脈瘤の塞栓を十分に行わなかった過失があるとは認められないから,争点(5)についての原告の主張は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。 6 争点(6)(被告病院の担当医師らの説明義務違反による債務不履行又は不法行為の成否)について原告は,被告病院の担当医師らが十分な説明をしなかったために原告が本件手術を受けることになったと主張するので,これについて検討する。 (1) 被告病院の担当医師らによる本件手術に関する説明について前記前提事実,証拠(各認定事実の後に掲げる。)及び弁論の全趣旨によれば,被告病院の担当医師らによる本件手術に関する説明について,以下の各事実が認められる。 ア 2月1日午後3時30分ころ,本件脳血管撮影検査が終了した後,G医師は,Fを呼び出して,本件脳血管撮影検査の結果についての説明を行った(甲B12,乙A3・111頁,A20,証人F,同G)。 G医師は,Fに対し,本件脳血管撮影検査の結果,原告の内頸動脈-後交通動脈分岐部に本件脳動脈瘤の存在が確認されたことを説明した上で,「脳動脈瘤とその治療方法」と題する書面(以下「本件説明書面」という。)を交付した(甲B12,乙A3・26頁から28頁まで,A20,証人F,同G)。 イ G医師は,Fが本件説明書面に目を通す間,いったん退席していたが,その後,Fに対して,改めて本件説明書面の内容の説明を行った(乙A20,証人G)。 なお,Fは,G医師は本件説明書面を交付して退席し,その後,H医師が入室してきて本件説明書面の内容の説 が,その後,Fに対して,改めて本件説明書面の内容の説明を行った(乙A20,証人G)。 なお,Fは,G医師は本件説明書面を交付して退席し,その後,H医師が入室してきて本件説明書面の内容の説明を行ったなどと述べる(甲B12,証人F)が,本件説明書面の末尾にはG医師の押印がされていること(乙A3・28頁),「手術承諾書」と題する書面において本件手術についての説明を実施したものとしてG医師の署名押印がされていること(乙A3・111頁),H医師はFに対して本件説明書面の内容を説明したことはないと述べていること(証人H),F自身が本件手術の前には被告病院の担当医師らの氏名を意識していなかったと述べていること(証人F)などに照らすと,H医師が本件説明書面の内容を説明したと認めることはできない(もっとも,争点(6)において問題なのは,被告病院の担当医師らが行った説明の内容であって,誰が説明を行ったかではない。)。 (ア) 本件説明書面には,原告の病名が「内頸動脈瘤」であることが記載され,くも膜下出血が発生すると40パーセントから50パーセントの確率で死亡すると報告されていることが紹介された上で,脳動脈瘤の治療方法として,開頭クリッピング術と脳動脈瘤塞栓術の2つの方法が挙げられており,開頭クリッピング術は,最も広く行われ,現在では確立された最も確実な方法であり,脳動脈瘤塞栓術は動脈瘤にカテーテルを導いてその中をプラチナコイルで充填する新しい方法であるとの簡潔な説明も付されている(乙A3・26頁)。 さらに,本件説明書面には,本件脳動脈瘤が原告の動眼神経を圧迫していること,本件脳動脈瘤がこのまま増大すると破裂してくも膜下出血を起こす危険性があること,原告の生命の危険を回避するためには本件脳動脈瘤の処理が必要と考えられること 動脈瘤が原告の動眼神経を圧迫していること,本件脳動脈瘤がこのまま増大すると破裂してくも膜下出血を起こす危険性があること,原告の生命の危険を回避するためには本件脳動脈瘤の処理が必要と考えられること,被告病院の担当医師らとしては原告の全身的・年齢的な問題を考慮すると侵襲の少ない,開頭を伴わない脳動脈瘤塞栓術を選択したいと考えていることが記載され,その上で,脳動脈瘤塞栓術の合併症として,血管閉塞による脳梗塞と血管穿孔による出血の2つが挙げられ,これらの合併症により緊急開頭手術に至ったり,生命の問題に至る可能性もゼロではないことが記されている(乙A3・26頁,28頁)。 本件説明書面の末尾には,被告病院においては,平成2年から脳動脈瘤塞栓術を実施していること,現在までの脳動脈瘤塞栓術の実施件数は約40件であること,本件手術当時には,脳動脈瘤の患者のうち,6割の患者に対して開頭クリッピング術を実施し,4割の患者に対して脳動脈瘤塞栓術を行っていること,治療に伴う危険性は開頭クリッピング術も脳動脈瘤塞栓術も同程度と考えられていることが記載されている(乙A3・28頁)。 (イ) また,G医師は,前記(ア)の本件説明書面の内容を説明するのに加え,本件説明書面の1枚目の裏面に図を描きながら説明を補足した(乙A3・27頁,A20,証人G)。 まず,G医師は,用紙の左下に,開頭クリッピング術を示す図を記載し,開頭クリッピング術は動脈瘤の首の部分にクリップを掛ける方法であることを説明した(乙A3・27頁,証人G)。 次に,G医師は,用紙の中央に,脳動脈瘤塞栓術を示す図を記載し,本件脳動脈瘤が原告の動眼神経を圧迫していること,脳動脈瘤塞栓術は脳動脈瘤の中にカテーテルを挿入して,脳動脈瘤内にコイルを詰めていく方法であるこ 師は,用紙の中央に,脳動脈瘤塞栓術を示す図を記載し,本件脳動脈瘤が原告の動眼神経を圧迫していること,脳動脈瘤塞栓術は脳動脈瘤の中にカテーテルを挿入して,脳動脈瘤内にコイルを詰めていく方法であることを説明した(乙A3・27頁,証人G)。 続いて,G医師は,用紙の左下に記載した開頭クリッピング術を示す図を用いて,開頭クリッピング術中に脳動脈瘤内が破けた場合には内頸動脈を結紮することになることを説明し(乙A3・27頁,証人G),さらに,用紙の左上に,コイルが血流によって押されて脳動脈瘤からはみ出していく様子を図示し,脳動脈瘤塞栓術を実施した場合であっても,コイルが血流によって押されて脳動脈瘤内の奥へ移ってしまうことがあることを説明した(乙A3・27頁,A20,証人G)。 なお,Fは,用紙の左上に記載された図は,本件脳動脈瘤をこのまま放置した場合に動脈瘤が破裂することを示すものであると述べる(証人F)が,まず用紙の左下に開頭クリッピング術を示す図が描かれ,次に用紙の中央に脳動脈瘤塞栓術を示す図が描かれ,最後に用紙の左上の図が描かれたという順序からすれば,用紙の左上の図は本件脳動脈瘤の治療法について説明したものであるとみるのが自然であり(本件脳動脈瘤を治療しない場合の予後を示す図であるならば,最後ではなく,最初に描かれるのが自然である。),これが本件脳動脈瘤をこのまま放置した場合に動脈瘤が破裂することを示す図であったとは認められない。 ウ Fは,前記イの説明を受けて,原告に本件手術を実施することを承諾し,その後,原告とともに,本件説明書面と「手術承諾書」と題する書面に署名をした(甲B12,乙A3・28頁,111頁,証人F)。 なお,Fは,H医師から本件手術について「絶対大丈夫,100パーセント完璧にや もに,本件説明書面と「手術承諾書」と題する書面に署名をした(甲B12,乙A3・28頁,111頁,証人F)。 なお,Fは,H医師から本件手術について「絶対大丈夫,100パーセント完璧にやります。」との保証をされたと述べる(甲B12,証人F)が,そもそもH医師が本件手術についての説明をFにしたとは認められず(前記イ),また,Fに対しては脳動脈瘤塞栓術の合併症として血管閉塞による脳梗塞と血管穿孔による出血の2つが説明されていると認められる(前記イ(ア))から,H医師がFに対して本件手術について「絶対大丈夫,100パーセント完璧にやります。」などと保証したものとは考えられない。 (2) 説明の相手方について前記(1)のとおり,被告病院の担当医師らは,本件手術に関する説明をFに対して行っているところ,原告は,本件手術に関する説明は患者本人である原告に対して行われるべきであったと主張するので,これについて検討する。 ア一般に,医師は,生命・身体に軽微ではない結果を発生させる可能性のある療法を実施する場合には,患者が自らの意思でその療法を受けるか否かを決定することができるようにするために,原則として,患者本人に対して,必要な情報を説明すべき義務を負っていると解される。 しかし,患者本人に対して説明を行うことが患者の生命や健康に悪影響をもたらす可能性が高いような例外的な場合には,患者の家族等に対して説明をすることでも足りると解するのが相当である。 イそこで,本件において,患者本人である原告に対して説明を行うことが,原告の生命や健康に悪影響をもたらす可能性が高かったといえるかどうかについて検討する。 被告病院受診時の原告は,本件脳動脈瘤による動眼神経の圧迫のために右眼瞼下垂を患っていた うことが,原告の生命や健康に悪影響をもたらす可能性が高かったといえるかどうかについて検討する。 被告病院受診時の原告は,本件脳動脈瘤による動眼神経の圧迫のために右眼瞼下垂を患っていた(前記前提事実)ところ,一般に,このような動眼神経麻痺を伴う未破裂脳動脈瘤は,破裂の危険性が切迫しているものと認識すべき病態といわれている(文献の中には,症候性の未破裂脳動脈瘤について,動眼神経麻痺の発生からくも膜下出血の発症までの期間が29.6日としているものもある(甲B3,乙B2)。この29.6日という数値は,アイオワ大学における6名の患者を対象とする統計に基づくものと思われ(甲B16),数値自体にどれだけの価値があるのかは疑問もないではないが,動眼神経麻痺を伴う未破裂脳動脈瘤が切迫破裂ともいうべき病態であることには違いないものと解される。)(甲B3,B16,乙B1,B2,B15,鑑定人P)。 そして,一般に,くも膜下出血のうちの約3分の1は,感情興奮,労作,排便,性交などの急激な血圧上昇を伴うときに生じているとされている(乙B4)。 そうすると,仮に,原告本人に対して,本件脳動脈瘤や本件手術についての必要な情報を説明する場合,生命に危険が生じる可能性についても触れざるを得ないところ,切迫破裂ともいうべき病態の本件脳動脈瘤を患っている原告に対してそのような説明をしたならば,原告の感情に興奮が生じ,本件脳動脈瘤が破裂してくも膜下出血が引き起こされる可能性も否定できない。 したがって,本件手術については,患者本人である原告に対して具体的な説明を行うことは,原告の生命や健康に悪影響をもたらす可能性が高いというべきである。 ウ以上に加えて,1月31日にH医師からFに対して本件脳血管撮影検査に関する説明が 原告に対して具体的な説明を行うことは,原告の生命や健康に悪影響をもたらす可能性が高いというべきである。 ウ以上に加えて,1月31日にH医師からFに対して本件脳血管撮影検査に関する説明が行われた(前記3(3)イ)際に,Fが,「本人には検査の危険性については心配するのでいわないようにします。」などと述べ(甲B12,乙A3・193頁,証人F),詳細な説明は自らが受けるとの態度を示したこと,Fが,被告病院の担当医師らによる原告への説明を待つことなく,本件手術についての承諾書に原告本人の署名も行ったこと(乙A3・111頁,証人F)(なお,原告本人もFから本件手術の概要を聞いて,Fを信じ,本件手術を受けることをやむを得ないものと考えていた(甲B13)。)などの事情もあり,これらの事情を併せて考慮すれば,被告病院の担当医師らが,本件手術に関する説明を患者本人である原告にではなくその夫であるFに対して行ったことには合理性があり,その説明の内容が十分である限り,原告に対する関係での説明義務は尽くされたものというべきである。 (3) 説明の内容について次に,原告は,被告病院の担当医師らの本件手術についての説明内容が不十分であったと主張するので,これについて検討する。 ア一般に,医師は,患者の疾患の治療のために手術を実施する場合には,診療契約に基づき,特別の事情のない限り,患者に対し,その疾患の診断(病名と病状),実施予定の手術の内容,その手術に付随する危険性,他に選択可能な治療方法があれば,その内容と利害得失,予後などについて説明する義務を負っていると解される(この義務は,不法行為の成立要件である過失と同一のものといえる。)。 イそこで,G医師がFに対して行った説明内容を検討してみると,本件脳動脈瘤が動眼神 て説明する義務を負っていると解される(この義務は,不法行為の成立要件である過失と同一のものといえる。)。 イそこで,G医師がFに対して行った説明内容を検討してみると,本件脳動脈瘤が動眼神経を圧迫していること,本件脳動脈瘤がこのまま増大すると破裂してくも膜下出血を起こす危険性があること,くも膜下出血を発症すると40パーセントから50パーセントの確率で死亡すると報告されていることが説明されており(前記(1)ア,イ(ア)),原告の疾患についての診断は十分に説明されているものといえる。 また,G医師は,本件手術について,動脈瘤にカテーテルを導いてその中をプラチナコイルで充填する新しい方法であることなどを図を用いて説明したほか,被告病院においては,平成2年から脳動脈瘤塞栓術を実施していること,現在までの脳動脈瘤塞栓術の実施件数は約40件であること,本件手術当時には脳動脈瘤の患者のうち4割の患者に対して脳動脈瘤塞栓術を行っていることを伝えており(前記(1)イ(ア),(イ)),実施予定の手術の内容も十分に説明されているものといえる。 本件手術に付随する危険性については,血管閉塞による脳梗塞と血管穿孔による出血を合併する危険があり,これらの合併症により緊急開頭手術に至ったり,生命の問題に至る可能性もゼロではないことが説明され,また,本件手術を実施した場合であっても,コイルが血流によって押されて本件脳動脈瘤内の奥へ移ってしまうことがあることも説明されており(その結果として本件脳動脈瘤が破裂し得ることまでが説明されたかどうかは,証拠上は必ずしも明らかではないが,本件説明書面の裏面の左上の図が,コイルが脳動脈瘤からはみ出すように描かれていることからすれば,本件脳動脈瘤の破裂の危険性も説明されたものと窺える。)(前記(1)イ 拠上は必ずしも明らかではないが,本件説明書面の裏面の左上の図が,コイルが脳動脈瘤からはみ出すように描かれていることからすれば,本件脳動脈瘤の破裂の危険性も説明されたものと窺える。)(前記(1)イ(ア),(イ)),説明に不十分な点はなかったものといえる。 さらに,G医師は,本件脳動脈瘤の治療方法としては,本件動脈瘤の首の部分にクリップを掛ける方法である開頭クリッピング術があることをも伝え,開頭クリッピング術は最も広く行われ現在では確立された最も確実な方法であること,治療に伴う危険性は開頭クリッピング術も本件手術も同程度と考えられていること,開頭クリッピング術中に脳動脈瘤内が破けた場合には内頸動脈を結紮することになること,被告病院の担当医師らとしては原告の全身的・年齢的な問題を考慮すると開頭を伴わない脳動脈瘤塞栓術を選択したいと考えていることを説明しており(前記(1)イ(ア),(イ)),他の治療方法の内容と利害得失,予後についての説明に不十分な点はなかったものといえる。 ウなお,G医師がFに対して本件手術についての説明を実施したのが2月1日午後3時30分ころであり(前記(1)ア),その後,本件手術が午後5時30分ころに始められたことからは,Fに対して,原告に本件手術を受けさせるかどうかを熟慮するのに十分な時間が与えられなかったようにも思われるが,前記(2)イのとおり,本件脳動脈瘤が切迫破裂ともいうべき病態にあったことからすれば(実際にも,本件手術は緊急手術として実施されている(乙A3・134頁)。),Fに短時間での決断を迫ることになったとしても,やむを得なかった(本件手術を急ぐだけの合理性があった。)というべきである。 また,原告は,熟慮する時間を十分に与えられたならば,本件手術ではなく,開頭クリッピン ることになったとしても,やむを得なかった(本件手術を急ぐだけの合理性があった。)というべきである。 また,原告は,熟慮する時間を十分に与えられたならば,本件手術ではなく,開頭クリッピング術を選択したはずであるなどと主張するが,文献の中には,開頭クリッピング術の危険因子として,①脳梗塞の既往のあること,②高齢者(特に70歳以上)であること,③大きな脳動脈瘤であること,④脳底動脈瘤であること,⑤全身合併症(糖尿病など)があることを挙げるものもあり(甲B5),本件手術時には77歳8か月であった原告が本件手術を選択せずに開頭クリッピング術を選択した可能性が高かったとは考えにくい。 (4) 小括よって,被告には,説明義務違反による不法行為も債務不履行も成立しないというべきであるから,争点(6)についての原告の主張は,理由がない。 第4 結論以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第30部裁判長裁判官佐藤陽一裁判官佐藤哲治裁判官川嶋知正

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