主文 原判決を破棄し,第1審判決を取り消す。 本件を千葉地方裁判所に差し戻す。 理由 上告代理人清水勉,同佃克彦,同関口正人の上告受理申立て理由第2について 1 本件は,上告人が「フローズン・スモークド・ツナ・フィレ」(冷凍スモークマグロ切り身)100kg(以下「本件食品」という。)を輸入しようとしたところ,被上告人から食品衛生法(平成15年法律第55号による改正前のもの。以下「法」という。)6条に違反する旨の通知(以下「本件通知」という。)を受けたため,その取消しを求める事案である。 2 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。 (1) 上告人は,平成13年5月14日,本件食品を販売の用に供するため,被上告人に対し,法16条及び食品衛生法施行規則15条(平成13年厚生労働省令第207号による改正前のもの。以下同じ。)の規定に基づく輸入届出書を提出した。 (2) 被上告人は,同月16日,上告人に対し,本件食品について,一酸化炭素の含有状態の検査を受けるよう指導した。上告人は,財団法人千葉県薬剤師会検査センターに検査を依頼した上,同月18日,被上告人に対し,本件食品につき1kg当たり2370μg(マイクログラム)の一酸化炭素を検出したとの同検査センターの輸入食品等試験成績証明書を提出した。 (3) 被上告人は,同月24日,上告人に対し,上記検査結果によれば本件食品は法6条の規定に違反するから積戻し又は廃棄されたいとの記載のある食品衛生法違反通知書をもって本件通知を行った。 (4) 「輸入食品等監視指導業務基準」(平成8年1月29日付け衛検第26号- 1 -厚生省生活衛生局長通知)によれば,法16条所定の食品,添加物,器具又は容器包装(以下「食品等」という。)の (4) 「輸入食品等監視指導業務基準」(平成8年1月29日付け衛検第26号- 1 -厚生省生活衛生局長通知)によれば,法16条所定の食品,添加物,器具又は容器包装(以下「食品等」という。)の輸入の届出(以下「輸入届出」という。)に際し,検疫所長が法に違反すると判断した食品等については,食品衛生法違反通知書により原則として積戻し若しくは廃棄又は食用外への転用をするよう当該食品等を輸入しようとする者を指導することとされている。そして,通関実務においては,検疫所長が食品等を輸入しようとする者に対し食品衛生法違反通知書を交付した場合(以下,同通知書による通知を「食品衛生法違反通知」という。)には,同人に対し食品等輸入届出済証(食品等輸入届出書の副本に「輸入食品等届出済」の印を押なつしたもの。検査命令による検査に合格したものにあっては,更に「合格」の印を押なつしたもの。)を交付せず,税関長に対し食品衛生法違反物件通知書を交付して,当該食品等について輸入許可を与えないよう求め,これを受けて税関では,関税法基本通達(昭和47年3月1日付け蔵関第100号)に基づき上記の食品等輸入届出済証等の添付がない輸入申告書は受理しない取扱いが行われている。 3 原審は,次のように判断して,本件訴えを不適法として却下した第1審判決を是認した。 (1) 関税法70条2項は,他の法令の規定により輸入に関して検査又は条件の具備を必要とする貨物につき,その検査の完了又は条件の具備の最終的な判断権限を税関長に付与しており,税関長からその確認を受けられない貨物は,同条3項の規定により輸入が許可されない。そして,法6条で輸入を禁止されている添加物並びにこれを含む製剤及び食品に該当しないことは,関税法70条2項の「検査の完了又は条件の具備」に当たり,その最終的な判断権限は 定により輸入が許可されない。そして,法6条で輸入を禁止されている添加物並びにこれを含む製剤及び食品に該当しないことは,関税法70条2項の「検査の完了又は条件の具備」に当たり,その最終的な判断権限は税関長に属する。 (2) 検疫所長が行う,食品衛生法違反通知は,法令に根拠を置くものではなく,食品等を輸入しようとする者のとるべき措置を事実上指導するものにすぎず,税関長を法的に拘束するものではない。また,検疫所長の発行する食品等輸入届出済- 2 -証は,税関長が関税法70条2項の規定による確認を行う場合の立証手段の一つであるにすぎない。 (3) したがって,本件通知は,本件食品につき輸入許可が与えられないという法的効果を有するものではなく,取消訴訟の対象である行政処分に当たらず,その取消しを求める本件訴えは不適法である。 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。 (1) 法は,飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止することなどを目的とし,この目的を達成するために,厚生労働大臣に対し,食品等に関し,基準及び規格の設定,販売等の禁止,検査命令及び廃棄命令の発令等についての権限を付与している(法4条の2,7条,10条,15条,平成14年法律第104号による改正前の食品衛生法22条等)。このように,法は厚生労働大臣に対して食品等の安全を確保する責任と権限を付与しているところ,法16条は,販売の用に供し,又は営業上使用する食品等を輸入しようとする者は,厚生労働省令の定めるところにより,その都度厚生労働大臣に輸入届出をしなければならないと規定しているのであるから,同条は,厚生労働大臣に対し輸入届出に係る食品等が法に違反するかどうかを認定判断する権限を付与していると解される。そうであるとすれば,【要旨 に輸入届出をしなければならないと規定しているのであるから,同条は,厚生労働大臣に対し輸入届出に係る食品等が法に違反するかどうかを認定判断する権限を付与していると解される。そうであるとすれば,【要旨1】法16条は,厚生労働大臣が,輸入届出をした者に対し,その認定判断の結果を告知し,これに応答すべきことを定めていると解するのが相当である。 (2) ところで,食品衛生法施行規則15条は,法16条の輸入届出は所轄の検疫所長に対して輸入届出書を提出して行うべきことを規定しているが,検疫所において実施する法に基づく輸入食品等監視指導業務の取扱基準を定めた前記輸入食品等監視指導業務基準によると,検疫所長は,食品等を輸入しようとする者に対し,当該食品等が,法の規定に適合すると判断したときは食品等輸入届出済証を交付し- 3 -,これに違反すると判断したときは食品衛生法違反通知書を交付することとされている。このような食品等輸入届出済証の交付は厚生労働大臣の委任を受けて検疫所長が行う当該食品等が法に違反しない旨の応答であり,食品衛生法違反通知書の交付はこれに違反する旨の応答であって,これらは,前記(1)の法16条が定める輸入届出をした者に対する応答が具体化されたものであると解される。 (3) 一方,関税法70条2項は,「他の法令の規定により輸出又は輸入に関して検査又は条件の具備を必要とする貨物については,第67条(輸出又は輸入の許可)の検査その他輸出申告又は輸入申告に係る税関の審査の際,当該法令の規定による検査の完了又は条件の具備を税関に証明し,その確認を受けなければならない。」と規定しているところ,ここにいう「当該法令の規定による検査の完了又は条件の具備」は,食品等の輸入に関していえば,法16条の規定による輸入届出を行い,法の規定に違反しないとの厚生 ければならない。」と規定しているところ,ここにいう「当該法令の規定による検査の完了又は条件の具備」は,食品等の輸入に関していえば,法16条の規定による輸入届出を行い,法の規定に違反しないとの厚生労働大臣の認定判断を受けて,輸入届出の手続を完了したことを指すと解され,税関に対して同条の輸入届出の手続が完了したことを証明し,その確認を受けなければ,関税法70条3項の規定により,当該食品等の輸入は許可されないものと解される。関税法基本通達70-3-1が,関税法70条2項の規定の適用に関し,法6条等の規定については,「第16条の規定により厚生労働省,食品衛生監視員が交付する「食品等輸入届出書」の届出済証」により,関税法70条2項に規定する「検査の完了又は条件の具備」を証明させるとし,関税法基本通達67-3-6,67-1-9が,輸入申告書に食品等輸入届出済証等の証明書類の添付がないときは,輸入申告書の受理を行わず,申告者に返却すると規定しているのも,上記解釈と同じ趣旨を明らかにしたものである。 (4) そうすると,食品衛生法違反通知書による本件通知は,法16条に根拠を置くものであり,厚生労働大臣の委任を受けた被上告人が,上告人に対し,本件食品について,法6条の規定に違反すると認定し,したがって輸入届出の手続が完了- 4 -したことを証する食品等輸入届出済証を交付しないと決定したことを通知する趣旨のものということができる。そして,本件通知により,上告人は,本件食品について,関税法70条2項の「検査の完了又は条件の具備」を税関に証明し,その確認を受けることができなくなり,その結果,同条3項により輸入の許可も受けられなくなるのであり,上記関税法基本通達に基づく通関実務の下で,輸入申告書を提出しても受理されずに返却されることとなるのである。 (5 ことができなくなり,その結果,同条3項により輸入の許可も受けられなくなるのであり,上記関税法基本通達に基づく通関実務の下で,輸入申告書を提出しても受理されずに返却されることとなるのである。 (5) したがって,【要旨2】本件通知は,上記のような法的効力を有するものであって,取消訴訟の対象となると解するのが相当である。論旨は理由がある。 5 以上述べたところと異なる見解に立って本件訴えを不適法であるとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,原判決は破棄を免れない。そして,第1審判決を取り消し,本案について審理させるため,本件を第1審に差し戻すべきである。 よって,裁判官横尾和子の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 裁判官横尾和子の反対意見は,次のとおりである。 私は,本件通知は抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるものではないと考える。 その理由は,次のとおりである。 関税法67条は,貨物を輸入しようとする者は税関長の許可を受けなければならないと規定し,輸入許可の権限を税関長に付与しているが,他の法令に輸入に関する規制がある場合には,その規制の内容に応じて同法70条1項又は同条2項の要件を満たさなければ,同条3項により輸入許可を得ることができないものとされている。そして,同条1項は,他の法令の規定により輸出又は輸入に関して許可,承認等を必要とする貨物については,輸出申告又は輸入申告の際,当該許可,承認等を受けている旨を税関に証明しなければならないと規定しているのに対し,同条2- 5 -項は,他の法令の規定により輸出又は輸入に関して検査又は条件の具備を必要とする貨物については,当該法令の規定による検査の完了又は条件の具備を税関に証明し,その確認を受けなければならないと規定し -項は,他の法令の規定により輸出又は輸入に関して検査又は条件の具備を必要とする貨物については,当該法令の規定による検査の完了又は条件の具備を税関に証明し,その確認を受けなければならないと規定している。このような同法の規定に照らせば,同項は,同条1項とは異なり,他の行政機関の許可,承認等を介することなく,他の法令による検査の完了又は条件の具備を確認する権限を税関長に付与した規定であることは明らかである。 法は,6条において一定の添加物並びにこれを含む製剤及び食品(以下「添加物含有食品等」という。)の輸入を禁止しているが,16条に基づく輸入の届出に対し行政庁が個別の許可,承認等によりその輸入禁止を解除するという仕組みを何ら規定していない。これは,法6条にいう添加物含有食品等に該当するか否かは科学的に定まるものであって,権限を有する行政庁の認定判断を介することなく,科学的な検査をもって明らかとなる事項であるからである。法16条は,食品等を輸入しようとする者に厚生労働大臣に対する届出を義務付けているが,同条が厚生労働大臣に対し,申請に基づいて法6条の違反の有無を認定判断してその結果を示して応答する義務を課しているものと解することは,その文言に照らし困難である。したがって,同条の規定する添加物含有食品等に該当しないことは,関税法70条2項の「検査の完了又は条件の具備」に当たるものと解するのが相当である。 「輸入食品等監視指導業務基準」や「関税法基本通達」によれば,食品衛生法違反通知書を交付され,食品等輸入届出済証が交付されない場合には,食品等の輸入申告書は受理されない取扱いとなっているが,このような実務の取扱いは,行政機関相互間の協力関係を定めたものにすぎず,これを根拠に関税法70条2項が証明の手段を検疫所長による食品等輸入届出済証に限定 申告書は受理されない取扱いとなっているが,このような実務の取扱いは,行政機関相互間の協力関係を定めたものにすぎず,これを根拠に関税法70条2項が証明の手段を検疫所長による食品等輸入届出済証に限定しているものと解することはできない。この場合,食品等を輸入しようとする者は,科学的な検査結果等をもって当該食品等が法6条の規定する添加物含有食品等に該当しないことを証明し,税関- 6 -長の確認を得ることができるのであり,食品等輸入届出済証の添付がないことをもって輸入申告を不受理とされた場合には,これを税関長の拒否処分として争えば足りるというべきである。 多数意見は,本件通知が法16条に根拠を有し,関税法70条2項及び3項により,輸入許可を得られないという法的効果が生じるというが,上記のとおりそのように解することはできない。本件通知は,法令の委任によるものではない「輸入食品等監視指導業務基準」に基づくものであるにすぎず,国民の権利義務に直接影響するものではないと解すべきである。 よって,本件通知は,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるものではなく,本件訴えを不適法とした原審の判断は,正当であり,本件上告は棄却すべきものであると考える。 (裁判長裁判官甲斐中辰夫裁判官横尾和子裁判官泉徳治裁判官島田仁郎)- 7 -
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