主文 被告は,原告に対し,11万円及びこれに対する平成17年1月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告のその余の請求を棄却する。 訴訟費用はこれを30分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。 事実 及び理由第1請求被告は,原告に対し,330万円及びこれに対する平成17年1月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要 本件は,原告が,被告に対し,被告の公権力の行使に当たる警察官から暴行による自白強要,接見交通権の侵害等を受けたと主張して,国家賠償法1条1項に基づき,損害賠償(加害行為日である平成17年1月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を含む。)を請求する事案である(以下,平成17年については年の記載を省略することがある。)。 基礎となる事実(証拠等を付さない事実は,当事者間に争いがない。)⑴当事者等ア原告は,平成16年12月19日,デリバリーヘルス嬢を果物ナイフ等で刺殺し,これによって,平成20年3月24日,殺人罪で懲役6年の有罪判決を受けた者である(甲1)。原告は,現在,島根県所在のA刑務所において受刑中である(甲31)。 イ被告は,B警察署を置く地方公共団体である(公知)。 ウC巡査長及びD警部補は,本件当時,B警察署に所属し,原告の取調べ等を担当した警察官である。 ⑵事実経過ア原告は,平成16年12月19日12時40分ころ,原告宅(当時)において,デリバリーヘルス嬢を果物ナイフ等で突き刺し,同日13時40分ころ,同女を胸部刺創に基づく心臓刺創による失血により死亡させて殺害した(以下「本件殺人」という。)。 イ原告は,平成16年12月 デリバリーヘルス嬢を果物ナイフ等で突き刺し,同日13時40分ころ,同女を胸部刺創に基づく心臓刺創による失血により死亡させて殺害した(以下「本件殺人」という。)。 イ原告は,平成16年12月28日に逮捕され,同月30日に勾留された。 ウE弁護士は,平成16年12月30日,当番弁護士として原告と接見し,原告の弁護人に就任した。E弁護士は,原告に対し,同日,被疑者ノート(甲4)等を差し入れた。(甲32)エC巡査長は,1月11日9時5分ころから11時37分ころまでの間,原告を取り調べ,供述証書(乙7)を作成した(乙1の12,25,26。以下「本件第1取調べ」という。)。 オ原告は,本件第1取調べ後,B警察署の留置管理係であったF警部補に対し,取調べ時に暴行を受けた,弁護士と接見したいなどと述べた。これを受け,F警部補は,E弁護士の事務所に対し,原告が接見希望を有している旨連絡した。 カD警部補は,B警察署巡査であるGとともに,1月11日14時5分ころから14時52分ころまでの間,原告を取り調べ,供述調書(乙8)を作成した(乙1の14,25,26。以下「本件第2取調べ」という。)。 キE弁護士は,遅くとも1月11日14時35分までに,原告との接見を申し出,同日14時53分から,原告と接見した(乙25,26。以下「本件接見」という。)。接見時,原告の下唇に負傷が認められた(甲7)。 クE弁護士は,1月11日,原告が取調べ時に暴行を受けたとして,証拠保全(原告の身体の検証)を申し立てた(甲6)。大阪地方裁判所裁判官は,同月12日18時45分から19時45分まで,原告の身体の検証を行った(甲5)。 ケ原告は,その後,前記アを内容とする公訴事実により起訴された(甲22。平成17年(わ)第 方裁判所裁判官は,同月12日18時45分から19時45分まで,原告の身体の検証を行った(甲5)。 ケ原告は,その後,前記アを内容とする公訴事実により起訴された(甲22。平成17年(わ)第3529号)。同殺人被告事件は,大阪地方裁判所第12刑事部で審理されることとなった(甲1,13)。 コ大阪地方裁判所第12刑事部は,平成19年3月15日,前記エ及びカの供述調書2通(乙7,8)について,任意性に疑いがあるとして,検察官による証拠調べ請求を却下した。 サ原告は,平成20年3月24日,本件殺人により,殺人罪(ただし,飲酒により心神耗弱の状態にあったと認定)で懲役6年の有罪判決を受けた。 争点 ⑴本件第1取調べにおいて,暴行による自白強要があったか。 ⑵本件第2取調べにおいて,本件第1取調べにおいて暴行による自白強要があった事実を認識しながら,何らの対処もしなかった違法行為があったか。 ⑶本件接見について,接見妨害があったか。 ⑷因果関係のある損害の有無及びその額第3争点に対する当事者の主張 争点⑴(暴行による自白強要の有無)について(原告の主張)⑴暴行による自白強要に至る事情についてE弁護士は,原告が本件殺人に関する記憶をほとんど有していないにもかかわらず,その供述調書が作成されていたため,原告に対し,黙秘権行使,供述調書に署名押印することの拒否等をアドバイスした。 原告は,E弁護士のアドバイスに従い,平成17年1月5日までの取調べにおいては,完全に黙秘し,同月6日から同月10日までの取調べにおいては,質問に対しイエス,ノーで答えるものの,本件殺人の内容については黙秘したままであった。 そのため,C巡査長は,同月10日の取調べにおいて,原告が本件殺人につい 10日までの取調べにおいては,質問に対しイエス,ノーで答えるものの,本件殺人の内容については黙秘したままであった。 そのため,C巡査長は,同月10日の取調べにおいて,原告が本件殺人について話そうとしないことに怒り出し,「もう今日が限界で,タイムリミットやからな。」,「全部供述せんと,警察,検察を敵に回すことになって,あんたの味方は弁護士1人やけれどもええんか。」,「弁護士さんは商売本意やから,全警察と1人の弁護士と,裁判所の裁判官はどっちの言い分を聞いてくれるか。」,「タイムリミットを蹴ったんだから,明日から係長以下総攻撃が始まる,気違いになっても知らんぞ。」などと言った。 ⑵暴行による自白強要についてアC巡査長は,1月11日の本件第1取調べにおいて,取調べの最初のあいさつが終わり,原告の手錠を外した後,原告に対し,「まだ生きとんのか。」と言い,以下の暴行を順に行った。 (ア)原告の顎を,右手をこぶしにし,その手の甲で下から斜め上に突き上げるようにして,10回殴った。 (イ)原告を正座させ,原告の髪の毛をつかんで何回か振り回し,そのため原告の髪の毛が抜けた。 (ウ)原告に正座させたまま,原告の頭を右足で3回蹴った後,原告の顔の口から鼻にかけた辺りを右足の靴の裏で1回蹴り,そのため原告の唇が切れた。 (エ)原告に土下座させ,靴を履いたままの右足で原告の頭を7回蹴った。 (オ)原告を椅子に座らせ,「お前は人間以下や,畜生と一緒や。」,「家で飼っている犬か猫にも新聞紙を丸めて殴ってしつけをしている。」,「お前も同じようにしてやる。」などと言いながら,原告の頭を脱いだ靴で5回殴った。 (カ)C巡査長も原告も椅子に座った状態のまま,原告の左足大腿部の裏側を右足で数 てしつけをしている。」,「お前も同じようにしてやる。」などと言いながら,原告の頭を脱いだ靴で5回殴った。 (カ)C巡査長も原告も椅子に座った状態のまま,原告の左足大腿部の裏側を右足で数回蹴った。 イC巡査長は,前記アの暴行後,原告の取調べを行った。原告は,激しい暴行に耐えられず,黙秘をするともっとひどい暴行をされると思い,C巡査長からの本件殺人当日についての質問に答えていった。 そして,本件第1取調べによって作成された供述調書(乙7)には,原告の認識と異なる記載がされていた。しかし,原告は,暴行の恐怖から免れたいという思いと,取調べから解放されたいという思いから,これに署名押印した。 ウ以上のC巡査長の行為は,暴行によって自白を強要し,原告の身体の安全並びに黙秘権(憲法38条1項)及び署名押印を拒絶する権利(刑事訴訟法198条5項ただし書)を侵害するもので,故意による違法な加害行為である。 ⑶暴行による自白強要後の事情についてア原告は,本件第1取調べが終わり,留置場に戻った後,すぐに,F警部補に対し,取調べで暴行を受けたこと,E弁護士との接見を希望することを伝えた。 イF警部補は,原告が留置場に入場する際,原告に対し,「髪の毛一杯付いてるけど,どないしたんや。」と言った。 原告は,髪の毛が一杯付いていたため,F警部補に対し,「実は暴行を受けたときに,髪の毛も引っ張り回されたんで,そのときに相当抜けたんです。」,「ここではたいていいですか。」と言って全部はたき落とし,「えらい汚してしもてすいません。あと掃除機で吸い取ってください。」と言った。 ⑷暴行による自白強要があったことの根拠についてア原告は,以上の経緯を,一貫して,詳細かつ具体的に,迫真性をもって してしもてすいません。あと掃除機で吸い取ってください。」と言った。 ⑷暴行による自白強要があったことの根拠についてア原告は,以上の経緯を,一貫して,詳細かつ具体的に,迫真性をもって供述している。さらに,同供述は,被疑者ノート(甲4)における記載とも合致するものである。 原告作成の被疑者ノート(甲4)は,原告に対する客観的な捜査状況と合致する内容で,取調べにおける取調官の対応の変化や,原告が当初の完全黙秘からイエス・ノーを答えるようになり,やがて事件以外のこと(酒,仕事)に関して供述し,その調書が作成されてゆく経緯が,具体的かつ迫真的に記載されており,証拠価値が極めて高いものである。特に,本件第1取調べにおける暴行につながる,前日のC巡査長の言動などは,およそ創作ではなしえないものである。 イまた,取調べ時の暴行によって原告に生じた下唇の負傷は,負傷から間もない1月11日の本件接見において写真撮影され,その痕跡が明確に残っている(甲7)。 同月12日の裁判官による検証(前記第2の2⑵ク)においても,明確な下唇の負傷の痕跡が認められるとともに,髪の毛が抜けて毛髪が薄くなっている状況が残っており,原告供述の暴行態様と整合的である。 ウさらに,被留置者診療簿(甲15)においても,H医院のH医師が,下唇の怪我に加え,左頸部疼痛,筋肉の過緊張と診断しており,原告供述の暴行態様と整合している。 エ以上に対し,被告は,原告が供述する暴行態様からすれば,下唇の怪我以外にも痕跡が残っているはずである旨主張する。 しかし,上記ウのとおり,下唇の怪我以外にも,少なくとも首の痛みが医師による診断結果として存在している。そして,左頸部疼痛は,C巡査長が証言する原告の自傷行為の態様によっては説明でき る。 しかし,上記ウのとおり,下唇の怪我以外にも,少なくとも首の痛みが医師による診断結果として存在している。そして,左頸部疼痛は,C巡査長が証言する原告の自傷行為の態様によっては説明できず,原告が供述する暴行態様でなければ説明できないものというべきである。 また,C巡査長が,明確な痕跡が残るような暴行を避け,激しい暴行ではあるものの,けがをさせにくくしていたことも,十分想定できる。 (被告の主張)⑴本件第1取調べ前の事情について原告は,1月6日には雑談に応じるようになり,同月7日には自宅見取図を作成し,同月8日にはゲームセンターの見取図及び経営する会社に関する供述調書(甲21,乙5)を作成させ,同月10日には入院状況についての供述調書(乙6)を作成させている。原告は,弁護人との約束があるとの理由で,本件殺人の核心部分については供述していなかったものの,周辺事実については事情聴取に応じ,供述調書の作成もさせていた。 ⑵暴行による自白強要の有無についてアC巡査長が暴行による自白強要をしたことは否認する。 イ原告が前記(原告の主張)⑵アで主張するような激しい暴行を受けたのであれば,原告には,当然大きな外傷が生じるはずである。しかし,当時原告にみられた傷は,下唇内の傷のみであり,原告が主張するような暴行に相応する外傷はみられていない。現に,原告は,E弁護士との接見の際,上記暴行の態様を全部話したと述べているが,その時にE弁護士が撮った写真(甲7)も,唇の傷だけである。 なお,下唇内の傷は,原告が自ら机に口を押しつけ,ぐりぐりとしたことによって生じたものである。 ウ原告は,1月8日の取調べに際して,自分の頭を両拳骨で殴ったり,顔面を机にぶつけたりしている。そのため,C巡査長 ,原告が自ら机に口を押しつけ,ぐりぐりとしたことによって生じたものである。 ウ原告は,1月8日の取調べに際して,自分の頭を両拳骨で殴ったり,顔面を机にぶつけたりしている。そのため,C巡査長は,同月9日から,わざわざけが防止用に座布団を机の上に置いてまでして,取調べに当たっていた(乙19・30頁)。そのようなことまでしているC巡査長が,原告主張のような暴行を加えるはずはない。 また,原告は,平成16年12月30日の最初のE弁護士との接見において供述拒否をすすめられ,以後何回も弁護人接見をして,指導を受けていたのである。C巡査長は,以上の状況を十分に承知していたのであり,原告に対し,暴行を加えるはずがない。 エさらに,原告は,1月10日の取調べにおいて,全面的ではないにしても質問に受け答えしており,供述調書まで作成させている。そのような状況のもとで,C巡査長が,本件第1取調べの冒頭に,原告主張のような暴行を加える理由はない。 オなお,本件第1取調べにおいて作成された供述調書(乙7)は,「調書的にはもうゼロに近い調書」で,無理に作成するような内容のものではない。 ⑶本件第1取調べ後の事情について前記(原告の主張)⑶イの事実は否認する(乙23,24)。 争点⑵(暴行による自白強要があった事実を認識しながら,何らの対処もしなかった違法行為の有無)について(原告の主張)⑴原告は,本件第2取調べを受ける際,既にC巡査長から暴行を受けており,また,D警部補がC巡査長の上司であると認識していた。そのため,原告は,D警部補からC巡査長以上の暴行を受けたくないと考え,できるだけ素直に従うつもりでいた。また,原告は,F警部補に対して暴行の事実を申告していたことから,告げ口をしたとしてやり込められると ,原告は,D警部補からC巡査長以上の暴行を受けたくないと考え,できるだけ素直に従うつもりでいた。また,原告は,F警部補に対して暴行の事実を申告していたことから,告げ口をしたとしてやり込められるという恐怖心も抱いていた。 そして,原告は,暴行の事実を申告したことをD警部補は知っている,火に油を注ぐようなことがあったらいけないと思い,D警部補に対し,暴行の事実について何も言わなかった。 その結果,原告は,本件第2取調べの際,署名押印だけは拒絶しようと考えてはいたが,E弁護士が来るであろう時間を考えると,とても拒絶し通すことは無理だと思い,供述調書(乙8)に不本意な記載があったが,言われるままに署名指印した。 ⑵D警部補は,C巡査長が原告に対して暴行を行ったこと,原告が唇を負傷していたことをそれぞれ認識していたのであるから,暴行による影響を遮断する措置を執るべきであった。にもかかわらず,D警部補は,何らの適切な処置を執らず取調べを継続した。このD警部補の行為は,原告の身体の安全を侵害するもので,故意による違法な加害行為である。 (被告の主張)争う。D警部補は,C巡査長が上司に報告するために急きょ取調べを交替したもので,C巡査長が原告に暴行したとの認識はなく,また,原告の唇の負傷についても,唇の内側に近い傷であったため気付かなかった。したがって,原告の取調べに当たって,原告主張の処置を執る必要はなかった。 争点⑶(接見妨害の有無)について(原告の主張)⑴ア接見交通権が憲法34条に由来する重大な権利であることからすれば,弁護人から接見申出がなされた場合,捜査機関は,原則として,即時の接見を認めなければならない。仮に,接見指定の要件が認められる場合でも,即時の接見を拒否するときは,必ず接見指定をしなければ すれば,弁護人から接見申出がなされた場合,捜査機関は,原則として,即時の接見を認めなければならない。仮に,接見指定の要件が認められる場合でも,即時の接見を拒否するときは,必ず接見指定をしなければならず,接見指定をしないのであれば,即時の接見を許さなければならないと解するべきである。 そして,接見指定をしない場合の「即時」の接見の「即時」の意義,換言すれば,弁護人による接見申出から実際の接見開始までの時差として許される範囲は,留置施設内部での連絡に要する時間や,被疑者が在留場所から接見可能な場所まで移動するのに要する時間などの物理的に必要な時間に限られるというべきである。 他方,本件に即していえば,被告主張のように,現に行っている取調べを「速やかに」「切りの良いところで」打ち切るための時間を,やむを得ないものとして認めることはできない。このような「切りが良い」程度等は極めて主観的なものであり,捜査官の都合でいかようにも解釈できてしまう。取調べ中を理由にすることは,まさに接見指定要件の該当性の問題であり,接見指定する権限を持つ者が弁護人と協議をした上で接見指定をしなければならないのであって,接見指定しない以上,取調べを「切りの良いところ」で打ち切るための時間を理由に,弁護人との接見を遅らせることは許されないというべきである。 イ本件においては,E弁護士の接見申出に対し,接見指定はされていない。したがって,捜査機関は,E弁護士に対し,即時の接見を認めなければならなかった。 ここで,E弁護士が接見申出をした時刻は,被告主張を前提としても14時35分であり,接見を開始した時刻は,14時53分である。その時差は約18分となる。 そして,原告が取り調べられていた取調室と留置場とはせいぜい1分程度で は,被告主張を前提としても14時35分であり,接見を開始した時刻は,14時53分である。その時差は約18分となる。 そして,原告が取り調べられていた取調室と留置場とはせいぜい1分程度で移動できる距離にあり,留置場から接見室に入るまでに要する時間もせいぜい1分程度である(乙26参照)。また,留置係から取調官に対する連絡についても,電話でなされていればやはり1分もかからない程度であり,直接留置係が取調室まで行ってもやはり1分程度である。その他取調室を出るまでに要する時間を考慮しても,本件では,せいぜい3分から多めに見ても5分程度が上記物理的に要する時間というべきである。 そうすると,上記物理的に要した時間以外の13ないし15分間は,まさに,D警部補が原告を取り調べるために要した時間にほかならない。 この間に,原告は,弁護人との接見希望を伝えていたにもかかわらず,E弁護士が接見に来ていることも知らされることなく,自白を強要された供述調書(乙8)に署名押印させられた。 ウ以上からすれば,D警部補は,E弁護士に対して即時の接見を認めなければならないにもかかわらず,あえて,E弁護士と原告との接見を妨害し,かつ,違法な取調べを継続して,自白を強要し,供述調書(乙8)を完成させたというべきである。 ⑵以上のD警部補の行為は,原告の弁護人との接見交通権並びに黙秘権(憲法38条1項)及び署名押印を拒絶する権利(刑事訴訟法198条5項ただし書)を侵害するもので,故意による違法な加害行為である。 (被告の主張)⑴ア弁護人等から接見申出があった場合において,留置施設内部での事務連絡に要する時間や,被疑者が在留場所から接見室まで移動するのに要する時間などを考慮すると,接見申出時刻から被疑者が接見室に入るまでの間に 人等から接見申出があった場合において,留置施設内部での事務連絡に要する時間や,被疑者が在留場所から接見室まで移動するのに要する時間などを考慮すると,接見申出時刻から被疑者が接見室に入るまでの間に若干の時差が生じてもやむを得ない。かかる時差を生じさせるに至った捜査官等の措置等が違法となる余地は,上記時差が合理的に許容される範囲を超えて初めて生じるというべきである。 そして,上記時差が合理的に許容されるものであるかどうか判断するに当たっては,当該事案ごとに,時差の長さ,接見申出時における被疑者の在留場所,当該在留場所での在留目的(取調べ中,食事中等)などの事情を考慮するべきである。 イこれを本件についてみると,本件接見に係る接見申出から接見開始までの時差は,接見申出時刻である14時35分から14時53分(乙26)までの約18分にすぎない。 ところで,被疑者が取調べ中であることは,刑事訴訟法39条3項本文の「捜査のため必要があるとき」という接見指定の要件に該当する(最三判平成3年5月10日民集45巻5号919頁等)。そして,上記接見申出の際,原告はまさに取調べ中であったのである。そうであれば,接見交通権が制約されてもやむを得ない場合に該当するのであり,これにかんがみると,上記約18分という時差が,接見申出から実際に接見が開始されるまでの時差として,合理的に許容されないということはできない。 D警部補は,弁護士が接見に来たことを聞いて,原告にそれを告げ,速やかに切りの良いところで取調べをやめて,原告を留置場に戻し,接見をさせており(乙17・17,62ないし64頁),違法な行為はない。 ウしたがって,D警部補の行為は,接見交通権を侵害するものではない。 ⑵原告は,刑事法廷において,「答えたくありま 接見をさせており(乙17・17,62ないし64頁),違法な行為はない。 ウしたがって,D警部補の行為は,接見交通権を侵害するものではない。 ⑵原告は,刑事法廷において,「答えたくありませんというふうに言ったと思います,言葉に出して」(乙21・47ないし49頁)と供述している。 これは,原告が黙秘権を行使していることの表れであって,D警部補が原告の黙秘権を侵害した事実はない。また,原告は素直に署名押印しているのであって(乙17・15頁),D警部補が署名押印を拒絶する権利を侵害したこともない。 争点⑷(損害の有無及びその額)について(原告の主張)⑴慰謝料 300万円違法な加害行為自体により,原告は多大な身体的苦痛及び精神的苦痛を受けた。また,違法に作成された供述調書(乙7,8)の任意性を争うため,訴訟手続上膨大な時間と労力を費やしたことからも,原告は多大な精神的苦痛を受けた。かかる苦痛の評価としては,300万円を下らない。 ⑵弁護士費用 30万円(被告の主張)争う。 第4当裁判所の判断 認定事実前記第2の2の基礎となる事実に加え,証拠(全体証拠として,甲31,32,乙28から30まで,証人E,同C,同D,同F,原告本人。個別証拠については,認定事実に付記する。)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の各事実が認められる。 ⑴原告は,平成16年12月19日12時40分ころ,原告宅において,デリバリーヘルス嬢を果物ナイフ等で突き刺した。同女が携帯電話で助けを求めていたため,同女を原告宅に送り届けた運転手が,原告宅に踏み込み,原告を止め,119番通報等を行った。その後,警察官が現場に臨場したが,原 ス嬢を果物ナイフ等で突き刺した。同女が携帯電話で助けを求めていたため,同女を原告宅に送り届けた運転手が,原告宅に踏み込み,原告を止め,119番通報等を行った。その後,警察官が現場に臨場したが,原告は,腹部を負傷していたため,I病院に搬送され,開腹手術を受けた。 (甲1)⑵D警部補は,平成16年12月20日,原告が入院治療中のI病院において,同病院の事務次長であるJの立会いを得た上,原告を取り調べた。原告は,果物ナイフでデリバリーヘルス嬢の腹部を何度も刺した旨を供述し,同内容の供述調書(甲18,乙2)に署名指印した。 ⑶D警部補は,平成16年12月24日,I病院において,Jの立会いを得た上,原告を取り調べた。原告は,果物ナイフでデリバリーヘルス嬢の腹部を何度も刺した旨を供述し,同内容の供述調書(甲19,乙3)に署名指印した。 ⑷原告は,平成16年12月28日,I病院を退院した後,本件殺人の被疑事実で逮捕された。D警部補は,原告に対し,同日15時20分から15時50分までの間,弁解録取を行い,デリバリーヘルス嬢を果物ナイフで刺し殺したことは間違いないとの弁解録取書(甲20,乙9)を作成した。(乙1の1)⑸C巡査長は,平成16年12月29日9時1分ころから11時40分ころまでの間,原告を取り調べ,身上調書(甲17,乙4)を作成した(乙1の2,25,26)。 また,C巡査長は,同日13時7分ころから16時15分ころまでの間,再び原告を取り調べた(乙1の3,25,26)。 ⑹ア原告は,平成16年12月30日,検察官に送致され,弁解録取を受け,送致書記載の犯罪事実に間違いはない旨述べた(乙10)。検察官は,裁判官に対し,原告の勾留を請求した(乙11)。 イ原告は,勾留質問において,検察庁の弁解録取書の に送致され,弁解録取を受け,送致書記載の犯罪事実に間違いはない旨述べた(乙10)。検察官は,裁判官に対し,原告の勾留を請求した(乙11)。 イ原告は,勾留質問において,検察庁の弁解録取書のとおりである旨述べた(乙11)。 ウD警部補及びC巡査長は,平成16年12月30日15時34分ころから16時10分ころまでの間,原告を取り調べた(乙1の4,25,26)。 エE弁護士は,平成16年12月30日14時から14時20分までの間及び16時10分から17時40分までの間,原告と接見した(乙25,26)。E弁護士は,原告に対し,黙秘権の行使を勧め,被疑者ノート(甲4),レポート用紙(甲10から12まで)を差し入れた。 (7)原告は,平成16年12月31日,I病院において,抜糸の処置を受けた(甲4・5,6頁,乙25,26)。 ⑻E弁護士は,平成17年1月1日19時39分から20時39分までの間,原告と接見した(乙25,26)。 ⑼D警部補及びC巡査長は,1月3日9時7分ころから11時50分ころまでの間,原告を取り調べた。原告は,同取調べの際,「弁護士の指示でこれからは黙秘」する旨述べ,完全に黙秘した。(乙1の5,25,26)原告は,同日付け被疑者ノートに,同日の取調べでは完全黙秘をした,取調官であったC巡査長から「立っておわびを何度もしなさい。」,「彼女の写真を見て何とも思わないのか。」,「ダマッテテワ反省にならん。」と言われ,同D警部補から「ひと言しゃべってくれ。」,「死んで下さい。」,「もうあなたとあいません。」,「しゃべる気になったらCさんにいってくれ。」と言われた旨記載した(甲4・11,12頁)。 (10)C巡査長は,1月4日10時10分ころから11時55分ころまでの間及び17時50分ころから 」,「しゃべる気になったらCさんにいってくれ。」と言われた旨記載した(甲4・11,12頁)。 (10)C巡査長は,1月4日10時10分ころから11時55分ころまでの間及び17時50分ころから20時10分ころまでの間,原告を取り調べた。 原告は,同取調べの際,完全黙秘し,世間話にも応じず,氏名,住所等も答えなかった。ただし,証拠品の還付請書,任意提出書,所有権放棄書の作成には応じ,署名指印した。(乙1の6,25,26)原告は,同日付け被疑者ノートに,完全黙秘だが,所有権放棄書等に署名押印した,C巡査長から壁に向かって祈るよう言われたなどと記載した(甲4・13,14頁)。 (11)C巡査長は,1月5日9時23分ころから11時53分ころまでの間,原告を取り調べた。原告は,完全黙秘し,世間話にも応じなかった。(乙1の7,25,26)原告は,同日付け被疑者ノートに,完全黙秘をした,C巡査長から被害者の写真を手に取って見るよう指示されたなどと記載した(甲4・15,16頁)。 (12)ア原告は,1月6日,大阪地方検察庁で取調べを受けた(B警察署留置場を8時57分に出場し,13時7分に入場した。)。原告は,平成16年12月19日にデリバリーヘルス嬢を自宅に呼び,刃物で刺したことなどを供述し,同内容の調書に署名指印した。(乙12,25,26)イC巡査長は,1月6日13時29分ころから16時41分ころまでの間,原告を取り調べた。原告は,同取調べの際,本件殺人については「答えたくありません。」と黙秘していたが,雑談には応じていた。(乙1の8,25,26)原告は,同日付け被疑者ノートに,「しゃべりません」,「イエス」,「ノー」の応答だけはすることに同意した旨記載した(甲4・17,18頁)。 ⒀アC ていた。(乙1の8,25,26)原告は,同日付け被疑者ノートに,「しゃべりません」,「イエス」,「ノー」の応答だけはすることに同意した旨記載した(甲4・17,18頁)。 ⒀アC巡査長は,1月7日11時3分ころから12時1分ころまでの間,原告を取り調べた。原告は,同取調べにおいて,自供書(自宅の見取図)を作成し,署名指印に応じたものの,凶器である果物ナイフを置いた場所等については「弁護士さんに相談してから書きます。」と言って記載を拒否した。(乙1の9,25,26)イまた,原告は,1月7日13時30分から15時18分まで,自宅の引き当たりのため出場した(甲4・19,20頁,乙25,26)。 ウE弁護士は,1月7日17時35分から18時35分までの間,原告と接見した(乙25,26)。 エ原告は,1月7日付け被疑者ノートに,自宅内部の見取図を書いた,覚えていることのみ述べたなどと記載した(甲4・19,20頁)。 ⒁C巡査長は,1月8日12時50分ころから16時7分ころの間及び16時37分ころから19時ころまでの間,原告を取り調べた。原告は,自供書(果物ナイフ入手先のゲームセンターの略図)を作成し,原告の経営する会社に関する供述調書(甲21,乙5)に署名指印した。しかし,原告は,平成15年の春ころに酒を飲み続けて救急搬送され,入院治療を受けた旨の供述調書への署名押印は拒否した。また,原告は,同日の取調べにおいて,「気が狂いそうです。」と自分の頭を両手の拳骨で殴ったり,「取り返しの付かないことをしてしまいました。」と自分の顔面を机にぶつけ,えずくまねをしたりなどの言動をとっていた。(甲4・21,22頁,乙1の10,25,26)原告は,同日付け被疑者ノートに,C巡査長が少し涙を流していた,原 した。」と自分の顔面を机にぶつけ,えずくまねをしたりなどの言動をとっていた。(甲4・21,22頁,乙1の10,25,26)原告は,同日付け被疑者ノートに,C巡査長が少し涙を流していた,原告の体をゆすって「Cが味方になってやるからかたの荷をおろしてしまえ。今ならまだ,まにあう」,「その第一歩は調書に署名する事だ」と言われたなどと記載した(甲4・21,22頁)。 ⒂C巡査長は,1月10日12時50分ころから15時20分ころまで,原告を取り調べた。原告は,平成15年の春ころに日本酒を1週間くらい飲み続けて救急搬送され,入院治療を受けた旨を供述し,同内容の供述調書(乙6)に署名指印した。(乙1の11,25,26)⒃アC巡査長は,1月11日9時5分ころから11時37分ころまで,原告を取り調べた。原告は,同取調べ(本件第1取調べ)の際,本件殺人当日に原告が起床してから被害者が原告宅に来るまでについて供述し,原告が8時ころに起きたこと,飲酒しながらテレビ等を見て過ごしたこと,デリバリーヘルスのチラシを見て電話し,デリバリーヘルス嬢を自宅に入れたことなどを供述した。ただし,原告は,ファミリーマートに焼酎を買いに行ったことについては,「今は言いたくありません。」,「弁護士さんと相談して事件のことは話せないのです。」と供述するのみであった。そこで,C巡査長は,原告の供述を録取した供述調書(乙7)を作成し,原告に読み聞かせ,署名押印を求めた。しかし,原告は,「この調書は確かに私の言ったことで間違いありませんが,弁護士さんに調書には一切,サインをするなと言われています。」と答えた。C巡査長の説得により,原告は,署名指印はしたが,突然,「死にたいです。」と言いながら顎や口付近を何度も机に打ちつけ始めたので,C巡査長は,これを制止した。 ンをするなと言われています。」と答えた。C巡査長の説得により,原告は,署名指印はしたが,突然,「死にたいです。」と言いながら顎や口付近を何度も机に打ちつけ始めたので,C巡査長は,これを制止した。なお,同供述調書では,殺害の経緯,動機,具体的態様等について全く触れられていない。(乙1の12,7,25,26)イ原告は,本件第1取調べが終了した後の1月11日11時37分,留置場に入場した。 原告は,入場時,下唇全体に血がにじんで腫れている状況であり,「顔を押さえつけられたり,蹴られたりしました。」と述べ,「弁護士に連絡をとってください」と弁護士接見を希望していた。下唇の出血及び腫れ以外に負傷はなかった。 原告は,病院の受診を希望するか否か尋ねられたが,「病院は行きません。大丈夫です。」と答え,消毒液の使用についても拒否した。 同日11時45分ころ,E弁護士の事務所に電話連絡がされ,原告が接見を要望している旨が伝えられた。なお,原告が取調べ時に暴行を受けた旨述べていることは,連絡されていない。(以上につき,乙23から26まで)ウ原告は,1月11日付け被疑者ノートに,C巡査長から①髪をもって引きずられ,毛がだいぶ抜けた,②靴で頭を10回,顔を1回蹴られ,口唇が切れて腫れた,③顎を裏拳で10回殴られた,④脱いだ靴で頭を5回殴られたなどの暴行を受け,調書への署名押印,質問への返答を強要された旨等を記載した(甲4・27,28頁)。 エC巡査長は,1月11日13時6分ころから原告を再び取り調べたが,原告がC巡査長から暴行を受けたと申し出ていたため,そのことにつき報告をする必要が生じ,同日14時5分ころ,D警部補と取調べを交替した(乙1の13)。 オD警部補は,1月11日14時5分ころから がC巡査長から暴行を受けたと申し出ていたため,そのことにつき報告をする必要が生じ,同日14時5分ころ,D警部補と取調べを交替した(乙1の13)。 オD警部補は,1月11日14時5分ころから,Gを筆記者として立ち会わせ,原告を取り調べた。原告は,同取調べ(本件第2取調べ)の際,デリバリーヘルス嬢を自宅に入れてから取り押さえられるまでについて供述し,同女を自宅に入れたこと,同女が服を脱ぎ始めたこと,同女が原告の腹に果物ナイフを刺したか事故で刺さったこと,その後,原告が同女を刺したが,どこをどのように刺したか記憶がないことなどを供述した。(乙1の14,8)カE弁護士は,1月11日14時35分ころ,B警察署留置管理係に対し,原告との接見を申し出た。 E弁護士は,接見申出から5分程度が経過しても,何らの連絡のないまま待たされていたので,再度早く原告との接見をさせるよう申し入れた。 しかし,にもかかわらず,何らの事情の説明もなくさらに数分間待たされたため,E弁護士は,同日14時45分ころから,持参していたPDAを使い,B警察署関係者の対応を録音することとした。 E弁護士は,同日14時48分ころ,「すみません。」,「今さっきも呼んだんですけど,K(注原告の姓)の取調べの担当刑事,ちょっとすぐ呼んでもらえますか。接見ずっと言ってるのに待たされてるんでね。」,「非常に問題になるんで。」,「すぐにその刑事,どちらかでもいいんで呼んできてもらえますか。今すぐ呼ぶということで待たされてるんで。」,「すぐ呼んでくださいね。」などと言って,原告の取調官を呼ぶよう要求した。 E弁護士は,同日14時50分ころ,「あの,ちょっと。Kの担当刑事さん,だれですか。Kの担当刑事さん,だれですか。」などと言って,原告 。」などと言って,原告の取調官を呼ぶよう要求した。 E弁護士は,同日14時50分ころ,「あの,ちょっと。Kの担当刑事さん,だれですか。Kの担当刑事さん,だれですか。」などと言って,原告の取調官を呼ぶよう再度要求した。(以上につき,甲8,16)キ他方,D警部補は,1月11日14時38分ころ,留置管理係から内線による連絡を受けた警察官が取調室に連絡に来たことにより,弁護士が原告との接見に来ていることを聞いた。 そこで,D警部補は,取調べを切りの良いところで打ち切ることとし,供述調書(乙8)を作成し,原告に対し,読み聞かせ,原告の申出により2頁9行目の「思いっきり」とあるのを削除し,その署名指印を得て,契印等を行った。なお,作成した供述調書(乙8)は,パソコンで作成しプリントアウトされた全体で3頁のものである。 D警部補は,同日14時48分ころ,取調べを終え,机等に結んだ腰縄をほどき,手錠をかけ,服装を直すなどして,原告を留置場に戻す準備を行った。 D警部補は,同日14時50分ころ,原告を取調室から出し,留置場の方に向かわせた。 原告は,同日14時52分,留置場に入場した(乙25,26)。 クE弁護士とD警部補は,1月11日14時52分ころ,B警察署刑事課入り口付近で出会い,「E)弁護士のEですが。」,「D)はい,どうも。」,「E)担当刑事,お名前は。」,「D)Dと言います。」,「E)今,私,接見受付してね,15分経過したんですけど,その間何をされましたか。」,「D)お話を聞いておりました。」,「E)何のお話ですか。」,「D)それは言いたくありません。」,「E)接見をね。」,「D)はい。」,「E)こちらで申し込みましたけども。」,「D)ですから,速やかに。」,「E)15分。」 した。」,「E)何のお話ですか。」,「D)それは言いたくありません。」,「E)接見をね。」,「D)はい。」,「E)こちらで申し込みましたけども。」,「D)ですから,速やかに。」,「E)15分。」,「D)取調べを終わりました!」,「E)15分経過して何をしてたんですか。」,「D)取調べ終わって,ですから。」,「E)15分間の間に何をしましたか。」,「D)お答えする必要ありません。」,「E)何をしましたか。」,「D)失礼します。」,「E)調書作成しましたか。」,「D)調書作成しております!はい。」,「E)すべて録音とってますからね。」といった会話を交わした(甲8,16。なお,「E)」はE弁護士の発言であることを示し,「D)」はD警部補の発言であることを示す。)。 ケE弁護士は,その後,接見室に行き,1月11日14時53分から15時13分までの間,原告と接見した。E弁護士は,同接見(本件接見)において,原告から,暴行を受けた旨を聴取し,原告の口唇部分に負傷を認め,下唇付近を中心とした写真8葉(甲7)を撮影した後,被疑者ノート(甲4)を宅下げした。ただし,E弁護士は,その他の頭などについては,明確な傷や腫れを認めなかった。そして,これらを疎明資料とし,大阪地方裁判所に対し,原告の身体の証拠保全(検証)を申し立てた。(甲6,7,乙25,26)コ原告は,前記ケの接見後,大阪地方検察庁で取調べを受けた(B警察署留置場を17時34分に出場し,20時48分に入場した。)。原告は,平成16年12月19日に自宅の向かいに住んでいる英語教師の家に行ったこと(ただし,読み聞かせ時に同月18日と訂正),デリバリーヘルス嬢を自宅に呼んだこと,同女が原告の腹部を刃物で刺したこと,原告が同女の腹部を果物ナイフで刺したことなどを供述し,同内容の供 に行ったこと(ただし,読み聞かせ時に同月18日と訂正),デリバリーヘルス嬢を自宅に呼んだこと,同女が原告の腹部を刃物で刺したこと,原告が同女の腹部を果物ナイフで刺したことなどを供述し,同内容の供述調書(乙13)に署名指印した。(乙25,26)⒄アC巡査長は,1月12日9時3分ころから10時21分ころまでの間,原告を取り調べた(接見申込みがあったため,取調べを終えた。)。 E弁護士は,同日10時22分から12時43分までの間,原告と接見した。(以上につき,乙1の15,25,26)イ原告は,1月12日17時22分から20時4分まで,証拠保全(検証)で大阪地方裁判所に行くため,B警察署留置場を出場した。 原告は,証拠保全時,1)右手の甲で,下から上に突き上げる形で顎を10回ほどたたかれ,顎の部分に傷ができ,下顎から首筋にかけて痛みがある,2)髪の毛をつかんで振り回され,頭頂部を中心にして毛髪が300ないし400本抜け,頭頂部に跡ができた,3)正座させられ,右足の靴裏で前頭部を3回蹴られ,4回目に鼻から唇にかけて蹴られたときに右口唇に傷ができた,4)床に土下座させられ,頭を踏みつけるように7回ほど蹴られ,左の首筋を痛めた,5)椅子に座らされ,左大腿の裏側を素足で何回か蹴られたので,痛みがある,などと指示説明していた(暴行順)。 検証において,頭頂部付近は,他の個所に比べ,やや毛髪が薄くなっている状況がうかがえたが,顕著な抜け毛の跡は認められず,明確な出血の跡は認められなかった。下唇は,全体がやや腫れあがった状態で,下唇右側部分に長さ約1cm・最大幅3mm程度の血のかたまりの赤い跡が認められ,また,こすれて薄くなったように見受けられる個所もあった。さらに,唇の内側にやや赤く腫れたような跡が認められ た状態で,下唇右側部分に長さ約1cm・最大幅3mm程度の血のかたまりの赤い跡が認められ,また,こすれて薄くなったように見受けられる個所もあった。さらに,唇の内側にやや赤く腫れたような跡が認められた。左右の下顎に沿った部分には赤み等はなく,明確な腫れは認められなかった。左大腿の裏側にも,暴行の跡をうかがわせるものは認められなかった。(以上につき,甲5,乙25,26)⒅原告は,1月13日8時48分から10時までの間,診療を受けるためB警察署留置場を出場し,H医院で診療を受けた。原告は,診療時,一昨日午前に頭を蹴られたなどと訴えていた。同医院のH医師は,左頸部疼痛,筋肉の過緊張を見る,口唇の下に皮下出血があるなどと診断し,シップ,軟膏を処方した。(甲15,乙25から27まで)C巡査長は,原告に対し,同日10時42分ころから11時31分ころまでの間及び12時5分ころから12時23分ころまでの間,証拠品の提示を行い,所有権放棄書,還付請書を作成した(乙1の16,25,26)。 原告は,その後,大阪拘置所に移監された(乙25,26)。 また,原告は,同日,大阪地方検察庁で取調べを受け,連続して飲酒することにより,幻覚,幻聴が生じることがある旨などを供述し,同内容の供述調書(乙14)に署名指印した。 ⒆事実認定の補足説明ア本件第1取調べにおける暴行の有無について(前記⒃ア)原告は,C巡査長から暴行を受けた旨主張し,これに沿う供述をするので,以下,同事実の有無について検討する。 (ア)原告は,C巡査長が行ったとする暴行及びその後の取調べについて,以下のとおり供述する。 a入口を入ったすぐのところで,右手のこぶしの裏側で顎を下から突き上げるように連続して10回殴られた。 C巡査長が行ったとする暴行及びその後の取調べについて,以下のとおり供述する。 a入口を入ったすぐのところで,右手のこぶしの裏側で顎を下から突き上げるように連続して10回殴られた。 b正座させられ,髪の毛を持って引きずられるようにされ,髪の毛が相当抜けた。 c革靴(以下,単に「靴」という。)を履いたままの右足の底辺りでおでこの辺りを3回蹴って,4回目くらい靴の底が口から鼻にかけた辺りに当たって唇の裏側辺りが出血した。 d土下座させられ,靴を履いたままの足で頭の上を7回ぐらい踏みつけられるみたいな形で蹴られた。 e原告がいすに座ったところ,飼っている犬や猫のしつけでしているように,新聞紙を丸めて頭を叩いてしつけをしてやると言って,靴を脱いでその靴で頭を5回ぐらい殴った。 fC巡査長が原告に対面する位置でいすに座り,靴を脱いだ右足で左の太ももの裏辺りを何回か蹴った。 gこれらの暴行のうち,a,c及びdは,相当強い暴行であって,力が入っていたように感じた。 hこの暴行を受けた後の取調べについては,暴行に対する恐怖から事件に関する供述をするようになったし,恐怖から逃れたい一心で調書にも署名指印をした。 (イ)原告の主張・供述する暴行は,顔面部・頭部を靴で複数回蹴ることを含む激しいものであるから,そのような暴行を原告が受けていれば,暴行があったことを示す跡が残るのが通常と考えられる。 しかし,証拠保全において認められた原告の負傷は,下唇の全体の腫れ,下唇右側部分の長さ約1cm・最大幅3mm程度の血のかたまりの赤い跡など唇周辺の軽微な傷のみであり,左右の下顎に沿った赤みや左大腿の裏側の暴行の跡などは認められていないから(前記⒄イ),原告の れ,下唇右側部分の長さ約1cm・最大幅3mm程度の血のかたまりの赤い跡など唇周辺の軽微な傷のみであり,左右の下顎に沿った赤みや左大腿の裏側の暴行の跡などは認められていないから(前記⒄イ),原告の供述内容及び主張とは必ずしも整合しない。また,暴行があったとする1月11日に接見したE弁護士も,口唇付近にしか明確な負傷を認めず,口唇付近を中心とした写真しか撮っていないのであって(前記1⒃ケ),この点に照らしても,原告の供述する暴行内容は,原告に生じた傷跡に関する客観的証拠と一致しない。 また,原告は,原告の髪の毛が抜けて毛髪が薄くなっている状況が残っており,暴行と整合的であると主張するけれども,原告が昭和25年生まれ(当時54歳)の男性であることに照らせば(甲1),当時,頭頂部の髪の毛が抜けて毛髪が薄くなっている状態であったとしても,そのこと自体は何ら不自然とはいえず,このことから直ちに髪の毛を持って引きずられる暴行を受けた事実が推認されるとはいえない。加えて,原告は,留置場入場時,髪が大量に抜けていたとも主張するけれども,かかる大量の抜け毛が認められれば留置管理係の報告書(乙23)にその旨の記載がされ,また,同報告書に関する聴取結果(乙24)にも何らかの記載がされてしかるべきであるのに,同報告書には,原告の下唇の出血及び腫れに関する報告はあるけれども,髪の脱毛についての記述はない。そうすると,髪の毛を持って引きずられるようにされたなどとする原告の上記主張も客観的証拠と整合しない。 さらに,原告は,首の痛みがあると医師から診断されている旨主張する。しかし,左頸部疼痛は原告の主訴でしかないから,原告の供述を裏付けるに十分なものということはできない。 以上のとおりであるから,原告の供述は,原告に生じた傷害等 診断されている旨主張する。しかし,左頸部疼痛は原告の主訴でしかないから,原告の供述を裏付けるに十分なものということはできない。 以上のとおりであるから,原告の供述は,原告に生じた傷害等に関する客観的証拠と整合しないものであるといわざるを得ない。 (ウ)この点,原告は,C巡査長が明確な痕跡が残るような暴行を避け,けがをさせにくくしていたことも十分想定できるなどと主張するけれども,C巡査長が,原告が述べるとおり頭部や顔面等を殴ったり蹴ったりする等の暴行をしたとすれば,明確な痕跡が残らないことは考えにくく,かかる原告の主張は原告自身の述べるところと矛盾するともいえ,不合理である。 (エ)また,原告が暴行を受けたとする1月11日は,原告が,当初の完全黙秘からしだいに雑談に応じるようになり,「イエス」,「ノー」による返答をするようになった後,1月8日には凶器である果物ナイフの入手先のゲームセンターの略図を作成し,同月10日には飲酒による既往歴・治療歴に関する供述調書にも署名指印するなどし,しだいに殺人事件に関係することについても供述を始めていた時期である(前記⑼から⒂まで)。 このような原告の供述状況に照らせば,かかる時期に,C巡査長が突如として,暴行によって自白を強要するとも考えがたい。 加えて,本件第1取調べによって作成された供述調書(乙7)は,原告が本件殺人当日8時ころに起きたこと,飲酒しながらテレビ等を見て過ごしたこと,デリバリーヘルスのチラシを見て電話し,デリバリーヘルス嬢を自宅に入れたことなどを内容とするもので,殺害の経緯,動機,具体的態様等に触れるものではなく(前記⒃ア),暴行によって供述を強要してまで作成した調書であるとは考えがたい。その上,本件第1取調べにおいて,原告が「今は言いたくありません。」,「 の経緯,動機,具体的態様等に触れるものではなく(前記⒃ア),暴行によって供述を強要してまで作成した調書であるとは考えがたい。その上,本件第1取調べにおいて,原告が「今は言いたくありません。」,「弁護士さんと相談して事件のことは話せないのです。」などとも述べていることにかんがみても(前記⒃ア),本件第1取調べにおいて暴行によって供述を強要された状況はうかがえないというべきである。 他方で,原告は,確かに本件第1取調べ以後,本件殺人に関する供述を始めたようにも見受けられるけれども,1月3日に黙秘に転じた後である1月6日の検察官の取調べにおいては,本件殺人について供述した上で調書に署名指印を行っていることなども考慮すれば,原告の供述状況からしても,本件第1取調べにおいて暴行による自白強要がなされたことが強くうかがわれるともいえない。 (オ)以上のとおり,原告は,C巡査長から暴行を受けた旨一貫して供述し,その旨被疑者ノート(甲4)に記載しているものの,原告が暴行を受けたとする前後の取調状況に照らせば,かかる時期に暴行による自白強要がなされたとは考えがたいことに加え,原告の供述は,客観的証拠と必ずしも整合しない上,その内容自体不合理ともいうべき部分があるから,被疑者ノートが存在することを考慮したとしてもにわかに信用しがたいといわざるを得ず,その他,関係各証拠を精査するも,C巡査長が原告に対して暴行をしたと認めるに足りる証拠は見当たらないから,C巡査長が原告に対して暴行による自白強要を行った事実を認定することはできない。 イD警部補が本件接見に係る接見申出の連絡を受けた時間について(前記⒃キ)証人Dは,弁護士が接見に来ている旨の連絡を受けてから5分くらいで留置場に戻した,記憶があいまいであるが,読み聞かせが終わる が本件接見に係る接見申出の連絡を受けた時間について(前記⒃キ)証人Dは,弁護士が接見に来ている旨の連絡を受けてから5分くらいで留置場に戻した,記憶があいまいであるが,読み聞かせが終わるくらいに連絡を受けたのではなかったかと供述する。 しかしながら,接見申出を受けた留置管理係は,被留置者出入簿により,当時,原告がB警察署刑事課において取調べを受けていることを認識することができたのであるから,直ちにD警部補にその旨の連絡をしたと推認される。そして,E弁護士が接見申出をした時刻は14時35分であるところ,証人Fが,接見申出を受け付けてから2,3分程度で刑事課への内線による電話連絡が可能であるとの趣旨と思われる証言をしていることに照らせば,D警部補は,14時38分ころに接見申出の連絡を受けたと推認される。 争点⑴(暴行による自白強要の有無)及び争点⑵(暴行による自白強要があった事実を認識しながら,何らの対処もしなかった違法行為の有無)についてこれらの主張は,C巡査長が原告に対して暴行による自白強要を行ったことを前提とするものであるところ,C巡査長による暴行の事実が認定できないことは先に説示したとおりであるから,いずれについても原告の主張は理由がない。 争点⑶(接見妨害の有無)について⑴刑訴法39条1項が被疑者と弁護人等との接見交通権を規定している目的は,憲法34条の趣旨にのっとり,身体の拘束を受けている被疑者が弁護人等と相談し,その助言を受けるなど弁護人等から援助を受ける機会を確保するためである。こうした刑訴法39条の立法趣旨,内容に照らすと,捜査機関は,弁護人等から被疑者との接見等の申出があったときは,原則としていつでも接見等の機会を与えなければならないのである。 そして,本件は,刑訴法3 訴法39条の立法趣旨,内容に照らすと,捜査機関は,弁護人等から被疑者との接見等の申出があったときは,原則としていつでも接見等の機会を与えなければならないのである。 そして,本件は,刑訴法39条3項に基づき,接見指定がされたり,そのための照会がされたりした事案ではないから,弁護人等から被疑者との接見の申出があった場合,留置施設内での事務連絡や被疑者の在留場所から接見室までの移動に要する時間等必要不可欠な時間が経過することはやむを得ないとしても,原則として,即時の接見を認める必要がある。なお,既に供述聴取が終了しており,調書の読み聞かせをして署名押印を求めれば直ちに供述調書が完成するなどの場合には,その調書を完成させるのに必要な時間が経過することも許容される場合があり得ると解される。 (2)これを本件についてみると,上記1(16)の認定事実によれば,E弁護士は,原告が接見を要望している旨の連絡を受け,1月11日14時35分ころ,B警察署留置管理係に対し,原告との接見を申し出た。当時,原告を取り調べていたD警部補は,同日14時38分ころ,弁護士が原告との接見に来ていることを聞き,取調べを切りの良いところで打ち切ることとし,供述調書(乙8)を作成し,読み聞かし,一部修正の上,署名指印を得た上,原告を留置場に戻してE弁護士との接見をさせた。E弁護士が接見申出をして接見するまでの時間は,18分間であり,D警部補が接見申出の連絡を受けてから取調べを終えるまでの時間は,約10分間であった。 そして,証人Dは,接見の申出の連絡を受けた時には既に調書をプリントアウトしていたか読み聞かせをしていたかの時点であったなどとも述べているけれども,他方で,上記供述調書(乙8)であれば,調書のプリントアウトから署名指印して作成を終えるまでの時 は既に調書をプリントアウトしていたか読み聞かせをしていたかの時点であったなどとも述べているけれども,他方で,上記供述調書(乙8)であれば,調書のプリントアウトから署名指印して作成を終えるまでの時間は5分くらいである旨供述しているところ,先に説示したとおり,D警部補が接見申出の連絡を受けてから取調べを終えるまでには約10分間が経過していることに照らせば,D警部補が接見の申出の連絡を受けた時は,いまだ調書のプリントアウトには至っておらず,供述を聴取していた時であって,D警部補は,それから5分程度は供述の聴取を続けたと認めるのが相当である。 そうすると,D警部補は,接見指定がされず,接見指定の照会もされていなかった本件において,弁護士が接見に来ていることを聞いてからも10分程度もの間供述調書の作成をし,しかも,これには,供述を聴取した時間も5分程度は含まれているものであるところ,そもそもこの接見は,原告が取調官から暴行を受けたとして接見を希望したためE弁護士が接見に来たものであって,即時の接見が要求される程度が特に高いものであったことをも考慮すれば,弁護士が接見に来ていることを聞いた以降も10分程度にわたり上記のような取調べを行ったD警部補の行為は,仮にそれが取調べを切りの良いところで打ち切るためのものであったとしても,即時の接見として許容される範囲を超えているというべきであり,違法といわざるを得ない。 争点(4)(損害の有無及びその額)上記で認定した一切の事情を斟酌すると,原告がD警部補の接見妨害の違法行為により被った精神的苦痛に対する慰謝料は10万円が相当であり,上記違法行為と相当因果関係のある弁護士費用としては1万円が相当であると認める。 第5結語以上によれば,原告の請求は主文第1項の限りで理由があるからこれ 対する慰謝料は10万円が相当であり,上記違法行為と相当因果関係のある弁護士費用としては1万円が相当であると認める。 第5結語以上によれば,原告の請求は主文第1項の限りで理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却し,仮執行の宣言はその必要が認められないからこれを付さないこととして,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第19民事部裁判長裁判官揖斐潔裁判官安田仁美裁判官北川瞬
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