平成20(行ウ)25 懲戒免職処分取消請求事件(通称 神戸市職員懲戒免職)

裁判年月日・裁判所
平成20年11月26日 神戸地方裁判所
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判決文本文15,709 文字)

-- 主文 処分行政庁が平成19年5月11日付けで原告に対してした懲戒免職処分を取り消す。 訴訟費用は,被告の負担とする。 事実及び理由 第1請求主文と同旨。 第2事案の概要 原告は,被告職員として勤務していた者であるが,処分行政庁は,原告が平成19年3月30日に酒気帯び運転をしたことを理由に,同年5月11日付けで,地方公務員法29条1項1号及び3号の規定に基づき,原告を懲戒免職処分とした(以下「本件処分」という。また,処分行政庁を単に「消防長」といい,神戸市長を単に「市長」という。)。 原告は,本件処分の取消しを求めて,本件訴訟を提起した。 第3争いのない事実等 当事者原告(昭和▲年▲月▲日生)は,昭和52年4月1日,被告の消防局に採用され,本件処分がされた平成19年5月当時,消防局警防部司令課に所属し,消防士長の地位にあった。 酒気帯び運転(1)原告は,平成19年3月22日から同月29日まで休暇を取り,バンコクへ旅行した。原告は,同日午後11時30分ころ(日本時間である。以下,時刻は日本時間である。),バンコク国際空港で飛行機に搭乗し,翌3月30日午前5時20分ころ,関西国際空港に到着した。 (2)原告は,到着後,自宅に戻ることなく,出勤するため原告所有の軽自動車を運転して勤務場所に向かったが,その途上,平成19年3月30日午前-- 9時30分ころ,神戸市<以下略>路上において,大型貨物自動車(以下「被害車両」という。)に追突し,物損事故を発生させた。事故現場での警察官による呼気検査の結果,呼気1リットル当たり0.2ミリグラムのアルコールが検出された(以下,原告による上記運転を「本件酒気帯び運転」といい,上記物損事故を「本件事故」という。)。 本件処分及びその前後の経緯(1)原 気1リットル当たり0.2ミリグラムのアルコールが検出された(以下,原告による上記運転を「本件酒気帯び運転」といい,上記物損事故を「本件事故」という。)。 本件処分及びその前後の経緯(1)原告は,本件事故当日,所属課の課長宛てに,本件事故のてん末書(乙8)を提出し,その翌日には「今後一切の酒類を飲まない事をここにかたく誓います」等と記載した誓約書(乙9)を提出した。 また,原告は,平成19年4月3日,同月11日及び同月20日の3回にわたり,職員課の課員から,本件事故及び飲酒状況等につき事情聴取を受けた(乙10ないし12)。 (2)消防長は,平成19年5月11日付けで,本件酒気帯び運転を理由に,原告を懲戒免職処分とした(本件処分)。 (3)原告は,平成19年6月28日付けで,本件処分に関する不服申立てをしたところ,神戸市人事委員会は,平成20年2月25日,本件処分を承認するとの裁決をした(乙1)。 原告は,本件酒気帯び運転について,平成19年5月21日,刑事処分として罰金25万円の略式命令の告知を受け,仮納付命令に基づき,即日,その納付をした(乙2,3)。 懲戒処分の指針について(1)市長は,平成13年7月,神戸市の一般職員を対象とした「懲戒処分の指針」を定め,非違行為の類型ごとに標準的な処分量定(以下「標準量定」という。)を定めたが,ここでは,酒酔い運転をした場合の標準量定が「免職又は停職」とされ,酒気帯び運転の標準量定が「停職又は減給」とされていた(甲3の3)。 -- (2)市長は,平成18年9月26日,「懲戒処分の指針」を改正した。 この改正は,飲酒運転に対する懲戒処分を厳罰化するものであり,これにより,酒酔い運転をした場合の標準量定が「免職」のみとされ,「酒気帯び運転」をした場合の標準量定が「免職又は停職 指針」を改正した。 この改正は,飲酒運転に対する懲戒処分を厳罰化するものであり,これにより,酒酔い運転をした場合の標準量定が「免職」のみとされ,「酒気帯び運転」をした場合の標準量定が「免職又は停職」とされた。 (3)消防長は,消防局職員を対象とし,市長が定めたのと同時期に,同一内容の「懲戒処分の指針」を定めた(以下「本件指針」という。また本件指針と市長が定めた「懲戒処分の指針」をあわせて「本件指針等」という。)。 その後,消防長は,上記(2)の改正と同時期に,同一内容の本件指針の改正を行った。 (4)ところで,物損事故を起こすこと自体は,犯罪として処罰される行為でもなければ,交通違反として行政的取締りを受ける行為でもない。そして,本件指針においても,物損事故を伴う酒気帯び運転とそうでない酒気帯び運転とで別位の標準量定が定められているわけではなく,物損事故を伴うものであってもなくても,酒気帯び運転に対する標準量定は「免職又は停職」である。 第4争点及び争点に関する当事者の主張本件の争点は,本件処分が違法かどうかであり,争点に関する当事者の主張は,以下のとおりである。 【被告の主張】 標準量定について(1)市長及び消防長は,公務員の飲酒運転に対する社会的な批判が高まっている等の社会情勢を踏まえ,飲酒運転根絶の取組みを民間企業や他都市に先駆けて率先して実践するべきであると判断し,平成18年9月26日の本件指針等の改正後,酒気帯び運転であっても原則「免職」とする取扱いに変更した。 (2)原告に対する懲戒処分の指針の告知・教育-- 原告は,上司から複数回にわたって本件指針の改正の趣旨・内容について説明を受けているし,改正後の懲戒処分の指針を記載した文書の配布も受けており,飲酒運転を行った平成19年3月30日時点において飲酒運 原告は,上司から複数回にわたって本件指針の改正の趣旨・内容について説明を受けているし,改正後の懲戒処分の指針を記載した文書の配布も受けており,飲酒運転を行った平成19年3月30日時点において飲酒運転をした消防職員は,原則として懲戒免職となることを十分に認識していた。 本件事案の本件指針へのあてはめ改正後の本件指針の実際の適用場面において,消防長は,免職を原則とし,例外的に,酌量すべき事情がある場合に限って停職とすることにしている。 本件においても,消防長は,原告を含む関係者からの事情聴取の結果を踏まえ,①非違行為の動機,態様及び結果,②故意または過失の度合い,③非違行為を行った職員の職責,④他の職員及び社会に与える影響,⑤事案発生後の職場への報告状況,⑥過去の非違行為の有無,⑦日頃の勤務態度,⑧非違行為後の対応等の諸般の事情を総合的に考慮して,例外的に停職処分に留めるべきか否かを慎重に検討した。ところが,以下の(1)ないし(8)の事情に照らせば,情状酌量すべき事情が認められなかったため,消防長は,原則どおり,原告を懲戒免職処分としたのである。 (1)呼気中のアルコール濃度原告の呼気中のアルコール濃度の数値は1リットル当たり0.2ミリグラムであったが,この数値は比較的高い数値であった。 (2)物損事故本件事故の結果,原告運転車両は中破し,原告自身も負傷しており,本件酒気帯び運転には,一歩間違えば他人を負傷させる可能性が多分にあった。 本件事故は,たまたま被害車両が大型貨物自動車であったため,物損で止まったに過ぎないのであり,本件では,非違行為の態様及び結果は決して軽微なものではない。 (3)酒気帯び運転の故意及び飲酒時刻・飲酒量について原告はアルコール自体の影響を自覚していなかったと弁解するが,原告の-- 呼気中のアルコ 行為の態様及び結果は決して軽微なものではない。 (3)酒気帯び運転の故意及び飲酒時刻・飲酒量について原告はアルコール自体の影響を自覚していなかったと弁解するが,原告の-- 呼気中のアルコール濃度は1リットル当たり0.2ミリグラムと高く,それだけの量のアルコールが体内に存在すれば,これによる体調への影響を認識していたはずである。 また,原告が主張する飲酒時間・飲酒量からは呼気1リットル当たり0. 2ミリグラムのアルコールが検出されるとは考えがたく,原告は飲酒量を過小に申告している疑いがある。 さらに,原告は飲酒の影響はなくなったと考えており,酒気帯び運転について故意も過失もなかったと主張しているが,原告は,本件酒気帯び運転につき,罰金25万円の略式命令に対し,不服を申し立てていないのであり,刑事手続きでは一貫して酒気帯び運転の故意を認めて略式手続に同意しておきながら,本件訴訟において故意を否認しても,その主張に信用性はない。 (4)自動車を運転した事情本件酒気帯び運転は,原告が無理な旅行日程を組んだことに大きく起因するものであり,本件の場合,非違行為に及んだ動機に酌量すべき事情は存在しない。 (5)飲酒後長時間経過した場合でも運転を自粛するよう指導されていたこと消防局では飲酒運転を絶対に行ってはならないとの指導が繰り返し行われており,飲酒後長時間経過した場合でも運転を自粛すべきことは,平成18年3月30日付け消防長綱紀粛正通知で指導されている(乙23)。 (6)原告は,神戸市が他都市に先駆けて飲酒運転撲滅に取り組んでいる中で飲酒運転を行っおり,神戸市の地方公共団体としての姿勢に反するものである。 (7)消防職員は,より高い倫理観を持って市民の安全・安心を確保する立場にある上,緊急車両を運転するという職務内容から安全運転に関 を行っおり,神戸市の地方公共団体としての姿勢に反するものである。 (7)消防職員は,より高い倫理観を持って市民の安全・安心を確保する立場にある上,緊急車両を運転するという職務内容から安全運転に関する市民の関心が高い。また,原告が出勤後に従事することが予定されていた司令課の業務は,市民からの119番通報を受け付ける業務であり,一瞬の判断ミス-- が市民の生命・身体・財産の損失につながるため消防の中でも特に重要な業務であった。 消防職員が飲酒運転を行っただけでなく,それが出勤途中であり,酒気帯びのまま司令課の業務に就こうとしていたことは,消防職員の職務の特殊性及び原告の担当業務の重要性に照らせば,消防に対する市民の信頼を大きく失墜させる行為というべきである。 (8)消防局においては,平成15年,平成16年に不祥事が続発したこと等から,消防局当局及び個々の職員が一丸となって不祥事防止のために真剣に取り組んでいたにもかかわらず,原告が出勤途中に酒気帯び運転を犯したことは,消防局当局及び職員の努力に対する重大な背信行為である。 本件処分の手続について消防長は,懲戒事由等の調査のため,合計3回にわたって原告から事情を聴取しているし,その都度,聴取内容を文書化し,後日原告に対し読み聞かせ,内容を確認させた後に署名押印させている。 したがって,本件において,原告に十分な弁明の機会が与えられており,本件処分に手続上の瑕疵は存在しない。 【原告の主張】 本件指針及びその運用の違法性について(1)本件処分は,酒気帯び運転に対する標準量定を免職又は停職とする本件指針に基づいて行われたが,そもそも本件指針自体が違法であり,そのような違法な指針を適用してされた本件処分も違法の評価を免れない。 また市長及び消防長は本件指針等の運用において,酒気帯 停職とする本件指針に基づいて行われたが,そもそも本件指針自体が違法であり,そのような違法な指針を適用してされた本件処分も違法の評価を免れない。 また市長及び消防長は本件指針等の運用において,酒気帯び運転を原則として免職とするとのことであるが,これは,処分根拠が著しく不明確であり,また,無害な行為を処罰し,または著しく広汎に免職処分を行うものであり,著しく処分の均衡を害するものである。 (2)本件指針における他の標準量定との比較及び他機関における同種の指針-- との比較本件指針における飲酒運転以外の交通事犯とその標準量定を見るに,①いわゆる当て逃げは「減給又は戒告」,②無免許運転は「減給」,③「公務中の無謀運転」による公用車損壊や同乗者傷害は「減給又は戒告」,④重大な過失により人に傷害を負わせた場合は「減給又は戒告」とされており,交通事故・交通違反のうち,酒気帯び運転は原則「免職」とする取扱いは,他の交通事故・交通違反例に対する処分との不均衡が顕著である。 また,人事院や警視庁等の他機関の懲戒処分の指針における酒気帯び運転の標準量定と比較しても,市長及び消防長の厳罰主義が行き過ぎており,極めて不合理である。 本件処分が地方公務員法27条1項の「公正の原則」に違反する無効な処分であること原告に認められる以下の情状に照らせば,本件処分は重すぎるというべきであるから違法無効である。 (1)原告飲酒運転にかかる事実経過原告は,平成19年3月29日午後8時ころ,バンコク市内のホテル自室で夕食をとり,その際350ミリリットルのビール2本を飲んだ。 その後,原告は,午後11時30分ころ発の飛行機に搭乗し,搭乗後すぐに航空機内サービスを受け,午後11時45分ころまでの間にシャンペンをグラス2杯(1杯につき100ミリリットル)を飲み,その んだ。 その後,原告は,午後11時30分ころ発の飛行機に搭乗し,搭乗後すぐに航空機内サービスを受け,午後11時45分ころまでの間にシャンペンをグラス2杯(1杯につき100ミリリットル)を飲み,その間に航空機内で熟睡するために,睡眠導入剤であるハルシオン1.5錠を服用し,日本に到着するまで熟睡した。 原告は,平成19年3月30日午前5時15分ころ,関西国際空港に到着し,その後,同空港内のロビーで約2時間休憩した。そして,同日午前7時15分ころ発の神戸行ベイシャトルを利用して,同日午前7時50分ころ神戸空港に到着した。 -- 原告は,出勤まで時間があったことから,神戸空港駐車場内の原告所有の軽自動車内で再び休息を取ったうえで,同日午前9時15分ころ,出勤のために運転を開始した。 運転中の道路は渋滞しており,本件事故現場付近の交差点の信号が赤信号となり,前方車両であった被害車両が停止したので,原告も停止した。その後,信号が変わり,前方被害車両が発進したので,原告もそれに続く形で時速約20キロメートルの速度で前進したが,予想外の渋滞に巻き込まれたため,遅刻する可能性が高くなり,職場に連絡しなければならないと思った。 そこで,携帯電話の所在を確認するため助手席に視線を移したところ,再度前方の被害車両が停止したことによって,追突してしまった。 本件事故による被害車両の損害は,同車両のバンパーの破損程度で,運転者は仕事のため先を急いでおり,警察官からの事情聴取もそこそこに同車を運転し,事故後速やかに仕事先に向かったもので,事故の程度は極めて軽微な物損に止まっている。 (2)故意または過失の度合い当日の飲酒量,飲酒後の経過時間等に照らして,原告に酒気帯び運転の故意はなかったし,また,その認識がなかったことにつき過失を問うこともできない。 原告 止まっている。 (2)故意または過失の度合い当日の飲酒量,飲酒後の経過時間等に照らして,原告に酒気帯び運転の故意はなかったし,また,その認識がなかったことにつき過失を問うこともできない。 原告の飲酒量が以上のとおりであるにもかかわらず,呼気1リットルあたり0.2ミリグラムのアルコールが検出された理由については,呼気検査の方法による影響も推測されるが,原告の場合は,特に航空機内で飲酒したという特殊環境下での影響やハルシオンの影響があったものと思料される。 (3)過去の非違行為の有無等原告は,過去,職場において非違行為は一切ないし,職場以外においても,昭和51年から今日まで30年以上自家用車の運転をしてきたが,事故歴は皆無である。 -- (4)日頃の勤務態度及び勤務成績原告は,消防車両を24年間にわたり運転していたが,その間,一切事故を起こしておらず,平成12年7月5日には,神戸市人事委員会から安全精励賞の表彰を受けている。 他の懲戒処分例について神戸市においても,酒気帯び運転以外の交通事犯では停職にとどまっていること,国家機関などの事例においても酒気帯び運転を犯した職員が免職とはされていないことに照らすと,本件処分は苛酷に過ぎる。 手続違背について本件処分がされるに当たり,原告に対し,告知,聴聞の機会は与えられていない。原告は,平成19年3月30日,同年4月3日,同月11日及び同月20日に消防局監察補佐官らから事情聴取を受けているが,これはあくまで処分をする側の必要からする事実調査でしかなかった。 懲戒免職処分をするに当たり,被処分者には,当然に告知,聴聞の機会が付与されなければならず,この手続を欠く本件処分は,違法といわざるをえない。 第5当裁判所の判断 認定事実甲第1ないし第8号証,甲第10ないし第25号 り,被処分者には,当然に告知,聴聞の機会が付与されなければならず,この手続を欠く本件処分は,違法といわざるをえない。 第5当裁判所の判断 認定事実甲第1ないし第8号証,甲第10ないし第25号証(枝番があるものは枝番を含む。以下同じ。),乙第1ないし第34号証及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1)当事者原告は,被告に採用された昭和52年4月以降本件処分がされるまでの間懲戒処分歴はなく,また,約24年間,消防車両の運転業務を担当していたが,その間,事故歴はなかった。 また,原告は,30年間無事故無違反であり(乙10の12頁),直近の運転免許更新時にも,過去5年間の違反行為がない優良運転者として,ゴー-- ルド免許の交付を受けていた。 原告は,週に3ないし4日,ビールを飲んでおり(乙31),アルコールの分解能力という点で身体機能に特に異状はなかった。 (2)本件指針の運用の実際,本件指針等の策定及び標準量定の改正の経緯は,前記第3の5のとおりであるところ,市長及び消防長は,平成18年に福岡市職員の飲酒運転により悲惨な交通事故が起こったこと等を契機として,飲酒運転に対する厳罰化の流れが加速したことを受けて,標準量定を改正したのであり,その運用にあたっては,「酒気帯び運転」をした職員は原則免職とし,酌量すべき事情がある場合に限って停職とする取扱いとした。 上記改正では,飲酒運転についての標準量定が変更されただけであり,それ以外の交通事犯の標準量定に変更はない。例えば,本件指針では,「重大な過失により人を死亡させ,又は重篤な傷害を負わせた場合」の標準量定は「免職,停職又は減給」とされており,また「無免許運転をした場合」の標準量定は,酒気帯び運転より著しく軽い「減給」とされている。 (3)原告に対する懲戒処分の 重篤な傷害を負わせた場合」の標準量定は「免職,停職又は減給」とされており,また「無免許運転をした場合」の標準量定は,酒気帯び運転より著しく軽い「減給」とされている。 (3)原告に対する懲戒処分の指針の告知・教育消防局では,平成18年9月25日に各所属長に対し,消防長名で本件指針の改正通知を行い(乙21),さらに,同日付で職員課長名で各所属長名で各所属に対し,指針の改正内容について,所属職員への周知徹底を図るよう通知した(乙22)。その際,飲酒運転が原則懲戒免職処分となることが示された(甲6)。 原告の上司にあたる司令課主幹Aは,消防長及び消防局職員課長からの通知に基づき,原告を含む司令課職員に対し,平成18年9月25日午前9時30分から午前9時40分にかけて行われた朝礼の際に,本件指針の改正内容を口頭で示達するとともに,改正された本件指針を文書で配布した。また,同月27日にも,司令課長が改めて本件指針の改正について示達し,飲酒運転に対する消防長の方針を原告を含む職員全員に対して周知徹底した(乙7-- の14項)。 上記経緯もあり,原告は,本件酒気帯び運転当時,酒気帯び運転に対する懲戒処分の選択が厳しくなり,酒気帯び運転をした場合,原則免職処分となることを認識していた(乙13の14頁)。 (4)本件酒気帯び運転について原告は,平成19年1月29日付け旅行届け(乙6)を提出し,同年3月22日から29日までの7日間の年次有給休暇を取得し,同年3月22日から同月30日の日程で,一人でタイに旅行した。原告は,同月29日午後11時30分ころ,帰国のため飛行機に搭乗した。その飛行機は,同月30日午前0時5分にバンコク国際空港を出発し,同日午前5時19分に関西国際空港に到着した。原告は,神戸空港行きのベイシャトルに乗船するまでの間,関 ,帰国のため飛行機に搭乗した。その飛行機は,同月30日午前0時5分にバンコク国際空港を出発し,同日午前5時19分に関西国際空港に到着した。原告は,神戸空港行きのベイシャトルに乗船するまでの間,関西国際空港内で休憩し,同日午前7時15分神戸空港行きのベイシャトルに乗船して,同日午前8時ころに神戸空港内の駐車場に着いた。原告は,駐車していた自家用車に乗り,車内でさらに休憩をとった後,同日午前9時10分ころ,出勤のため出発した。 原告は,同日午前9時30分ころ,出勤途上の神戸市<以下略>路上において,被害車両に追突し,本件事故を発生させた。本件事故により,被害車両は後部バンパーを破損したが,被害車両の運転手は負傷しなかった。もっとも,原告の軽四輪車は,前部が押しつぶされ自力走行が不能になり,原告は,右前額部挫創,胸部及び腹部打撲の傷害を負った。 被害車両の運転手は,通報で事故現場に到着した警察官に事故の状況を短時間で説明したのち,すぐに現場を出発した。原告は,警察官の携帯電話を借りて,職場に出勤が遅れることを連絡したが,事故を起こしたことについては説明せず,電話の相手から現在地がどこかと質問されたことに対しても答えなかった。 原告が警察官に事故の状況を説明している途中,警察官は,原告からアル-- コール臭を感じたため,原告に対し,飲酒検知を実施したところ,呼気1リットル中に0.2ミリグラムのアルコールが検出された。原告は,酒気帯び運転の疑いで,神戸水上警察署にて取調べを受けた。 (5)本件処分に至る経緯等原告は,事故当日である平成19年3月30日午後0時15分ころ,電話にて,消防局司令課に本件酒気帯び運転の事実を報告した。この連絡を受けて,原告の上司である司令課主幹が神戸水上警察署交通課に出向き,交通課長から事故概要及び飲酒運転 月30日午後0時15分ころ,電話にて,消防局司令課に本件酒気帯び運転の事実を報告した。この連絡を受けて,原告の上司である司令課主幹が神戸水上警察署交通課に出向き,交通課長から事故概要及び飲酒運転であることを聴取した。また,事情聴取を受けていた原告と短時間面会し,原告からも飲酒運転であることを聴取した。 同日午後3時30分ころ,警察署での取調べが終了し,原告は,司令課へ出勤し,司令課長及び司令課主幹に事故の状況を報告した。原告は,てん末書(乙8)を作成し,その後,右前額部と左腰あたりに痛みを感じていたため,深夜にα病院で診察を受けた。受診の結果は,投薬などの処置は必要ないというものであったが,原告の求めに応じ,塗り薬が処方された(乙13)。 原告は,平成19年3月31日,上司に対し「酒気帯び運転により交通事故を起こし,その事故の重大さを十分認識,自覚し誠に申し訳なく思い十分深く反省しており,よって私は今後一切の酒類を飲まない事をここにかたく誓います」と記載した誓約書を提出した(甲11,乙9)。 また,原告は,同日,被害車両の運転手に謝罪するとともに,同年4月2日,被害車両の所有者にも謝罪した。 消防局職員課職員は,平成19年4月3日に1時間35分(乙10),同月11日に1時間5分(乙11),同月20日に15分(乙12),計3回にわたって原告から事情聴取を行った。 消防長は,平成19年5月11日付けで,本件処分をした(甲1)。 また,神戸市人事委員会は,同日付けで,原告に対する懲戒免職処分につ-- いて,解雇予告の除外認定を行った(乙5)。 原告は,本件酒気帯び運転について,平成19年5月21日,刑事処分として罰金25万円の略式命令を受け,仮納付命令に基づき,即日,その納付をした(乙2,3)。原告は,その際に,警察,検察庁及び裁判所に 原告は,本件酒気帯び運転について,平成19年5月21日,刑事処分として罰金25万円の略式命令を受け,仮納付命令に基づき,即日,その納付をした(乙2,3)。原告は,その際に,警察,検察庁及び裁判所に対し,飲酒検知の結果や飲酒運転の故意の有無等について異議を述べることはなかった。 なお,本件酒気帯び運転の事実は,平成19年5月2日の朝日新聞で報道され(乙32),また,被告が本件処分を行ったことを公表したところ,新聞各紙に取り上げられた(乙33各号)。 (6)他の懲戒処分例についてア神戸市においては,本件指針等の改正後,本件処分までの間に飲酒運転をした職員4名(原告含む。)を懲戒免職処分とした(乙33各号)。 他方神戸市では,飲酒運転以外の交通事犯につき,例えば,平成20年6月ころ,自家用車で出勤中,対向車線にはみ出して軽自動車と衝突し,軽自動車の3人を死傷させた消防署職員に対し,停職1か月の懲戒処分としている(甲12の1)。 イ国家公務員の例では,例えば,自衛隊兵庫地方協力本部は,平成20年5月27日,男性隊員が同年4月28日,呼気1リットルあたり0.2ミリグラムのアルコールを体内に保有した状態でオートバイを運転し,男性に接触して負傷させたとして,上記隊員を停職30日の懲戒処分とした(甲12の2)。 (7)原告の飲酒量について神戸大学大学院医学系研究科法医学教室のB(以下「B教授」という。)は,飲酒量についての原告の主張について,消防局から照会を受け,「アルコール医学の常識では」午後8時に飲んだ「缶ビール2本については,午後11時45分の時点での呼気アルコール濃度は0に近いです。次にシャンパ-- ン2杯につきましてはどう考えても飲酒量と経過時間が正しいのであれば,翌日午前9時30分に呼気アルコール濃度がまだ0.2mg残存 の時点での呼気アルコール濃度は0に近いです。次にシャンパ-- ン2杯につきましてはどう考えても飲酒量と経過時間が正しいのであれば,翌日午前9時30分に呼気アルコール濃度がまだ0.2mg残存するというは考えにくい。あくまで,0.2mgという数字が正しいと仮定」すれば「飲酒量と経過時間が間違っていると考えられる。ハルシオン1.5錠位では影響しないと考えられる」との意見を述べた上,午後8時の飲酒量が缶ビール(350ml)2本,午後11時45分の飲酒量がグラスシャンパン(90ml)2杯,翌日午前9時30分の呼気残存アルコール濃度が0.2ミリグラムという三つの数値が全て正しいと言うことがあり得るかと言われれば,アルコール医学の見地からすれば,あり得ないというのが結論である」と述べている(乙19)。 本件酒気帯び運転の態様について(1)以上の事実が認められるところ,この事実に照らして,原告の非違行為(本件酒気帯び運転)の態様,すなわち,飲酒量,本件事故の原因等について,原告の主張の当否とあわせて検討する。 (2)原告は本件酒気帯び運転の際に物損事故を起こしているところ,その理由として,出勤の遅れが気になり,携帯電話の所在を確認するため助手席に視線を移したことによる前方不注視が原因であると主張して,本件事故が飲酒の影響によるものであることを否定している。 しかし,原告は,約30年もの間無事故無違反の優良ドライバーであったのに,本件酒気帯び運転当日に限って追突事故を起こしているのであって,本件事故は前日の飲酒の影響により,注意力が減少していたことが少なからず影響して発生したと考えるのが自然である。 (3)また,上記1記載の認定事実によれば,原告の主張する飲酒量では,本件事故当時,呼気1リットル当たり0.2ミリグラムもの残存アルコール ことが少なからず影響して発生したと考えるのが自然である。 (3)また,上記1記載の認定事実によれば,原告の主張する飲酒量では,本件事故当時,呼気1リットル当たり0.2ミリグラムもの残存アルコールが検出される可能性があると考えることは困難である。したがって,飲酒量に関する原告の主張を信用することはできず,原告の飲酒量は,その主張する-- 量よりも多い疑いが強いといわざるをえない。 (4)さらに,原告は,一方で,航空機内という特殊な環境によりアルコールが分解されなかったと主張しつつ,結局,飲酒から長時間経過しているから酒気を帯びていることの認識はなかったと主張する。これは矛盾した主張のように思われるが,その点は置くとしても,本件酒気帯び運転の当時,原告の体内には,呼気1リットル当たり0.2ミリグラムもの濃度で排出される量のアルコールが残存していたのである。このレベルの濃度のアルコールが体内に残存している場合,普通の人間であれば,ほぼ間違いなく自分の身体にアルコールの影響が残存していることを自覚することができるはずであり,当然,本件酒気帯び運転の当時,原告にも,酒気を帯びていることの認識があったはずである。したがって,酒気帯びの認識がなかったとの原告の主張は,採用することができない。 (5)以上に検討したところを整理すれば,原告は,酒気を帯びているとの認識がありながら,出勤時刻が迫っていたことから,やむを得ず,自動車で出勤しようと考え,運転を始めたが,アルコールの影響で注意力が散漫になったこともあって本件事故を起こし,結局,職場に大幅に遅参したということになる。 本件処分の違法性について(1)地方公務員法29条1項は,地方公務員に同項1号ないし3号所定の非違行為があった場合,懲戒権者は,戒告,減給,停職又は免職の懲戒処 に遅参したということになる。 本件処分の違法性について(1)地方公務員法29条1項は,地方公務員に同項1号ないし3号所定の非違行為があった場合,懲戒権者は,戒告,減給,停職又は免職の懲戒処分を行うことができる旨を規定するが,同法は,すべての職員の懲戒について「公正でなければならない」と規定し(同法27条1項-公正原則),すべての国民は,この法律の適用について,平等に取り扱われなければならない(同法13条-平等原則)と規定するほかは,どのような非違行為に対しどのような懲戒処分をすべきかについて何ら具体的な基準を定めていない。 したがって,消防長は,非違行為の原因,動機,性質,態様,結果,影響-- 等のほか,被告職員の非違行為の前後における態度,懲戒処分等の処分歴,選択する懲戒処分が他の公務員及び社会に与える影響等,諸般の事情を考慮して,懲戒処分をすべきかどうか,また,懲戒処分をする場合にいかなる処分をすべきかを,その裁量により決定することができると解される(最高裁判所昭和52年12月20日第三小法廷判決・民集31巻7号1101頁参照)。 もっとも,その裁量も全くの自由裁量ではないのであって,決定された懲戒処分が社会通念上著しく妥当を欠いて苛酷であるとか,著しく不平等であって,裁量権を濫用したと認められる場合,公正原則,平等原則に抵触するものとして違法となると解される。 (2)なお,本件指針等は,懲戒処分の公正・平等を保持する目的で定められたものであるが,あくまでも行政組織内の規範ではあって,ある具体的な懲戒処分が違法かどうかの司法判断の基準ではない。したがって,懲戒処分の適否の判断は,本件指針等における酒気帯び運転の標準量定が適切かどうかを判断した上で行うのではなく,端的に上記(1)の判断の枠組みによって行えば足りる 司法判断の基準ではない。したがって,懲戒処分の適否の判断は,本件指針等における酒気帯び運転の標準量定が適切かどうかを判断した上で行うのではなく,端的に上記(1)の判断の枠組みによって行えば足りる。 そこで,上記(1)の判断の枠組みに従って検討する。 (3)まず,本件処分は,地方公務員法29条1項1号及び3号に基づいてされているところ,本件処分の理由とされる非違行為は,原告が出勤途上という公務に極めて近接した状況でした酒気帯び運転であり,原告の呼気に残存していたアルコールの量は,呼気1リットル中0.2ミリグラムである。したがって,本件酒気帯び運転の非違行為としての性質,態様,結果という点で,悪質さの程度が低いとはいえない。 (4)次に,非違行為の原因や動機についてみるに,本件は,前日の夜に摂取したアルコールが,分解されることなく翌日の朝まで体内に残存したという事案であって,非違行為に至った原因や動機について,非難に値するとか,-- 破廉恥な事情があったとはいえない。 すなわち,原告につき,直後に運転することが分かっていながら飲酒したとか,飲酒後わずかの休憩をとっただけであえて運転したといった事情までは認められないのであるから,原告の飲酒運転に対する規範意識や法令遵守の精神が大きく鈍麻していたとまではいえない。 (5)非違行為の影響という点についてみるに,本件酒気帯び運転によって原告は,本件酒気帯び運転当日の夕刻ころまで出勤できなかったというのであるから,公務への影響が少なからず生じたといえるし,また,本件事故により,他人に物損被害を生じさせており,公務員への信頼という観点から地域社会に与えた悪影響も軽微であるとはいえない。ただし,物損事故を起こすこと自体は犯罪でもなければ,行政取締りの対象となる交通違反でもないのであって, 生じさせており,公務員への信頼という観点から地域社会に与えた悪影響も軽微であるとはいえない。ただし,物損事故を起こすこと自体は犯罪でもなければ,行政取締りの対象となる交通違反でもないのであって,本件事故そのものは非違行為として懲戒の対象となるわけではないから,本件事故の発生をそれほど重大視することは,公正とはいえない。 (6)原告は,本件酒気帯び運転の事実を当日直ちに職場に報告しており,非違行為を隠蔽しようとしてはいないし,原告には前科前歴もなく過去に懲戒処分等の処分歴もないのであって,これらの事情は原告に有利に汲むべきものである。 また,原告は,本件事故の翌日には,今後一切酒類を飲まない旨誓う誓約書を提出し,謝罪のため本件事故の被害者を訪れているのであるから,非違行為後の原告の態度は決して非難されるものではないといえる。 (7)仮に,原告と同様に前科前歴も懲戒処分歴もない被告職員が「重大な過失により人に傷害を負わせた」という場合,減給又は戒告という懲戒処分を受けるにとどまるはずであるが(本件指針),そうすると,本件酒気帯び運転によって直ちに免職とするのは,いささか,非違行為と懲戒処分の均衡を欠くきらいがあるといわざるをえない。 また,人事院は,平成20年4月1日,「懲戒処分の指針」を一部改正し,-- 国家公務員の懲戒処分の標準量定を見直し,飲酒運転の標準量定を,従来の「停職,減給,戒告」から「免職,停職,減給」に改正したが(この事実は公知の事実である。),それでも,前記1の(6)イのとおり,国家公務員の場合,酒気帯び運転で免職となる例は少ないと考えられるのであって,国家公務員との比較からしても,本件酒気帯び運転によって直ちに免職とするのは,非違行為と懲戒処分の均衡を欠くきらいがあるといわざるをえない。 (8)昨今,飲酒運 る例は少ないと考えられるのであって,国家公務員との比較からしても,本件酒気帯び運転によって直ちに免職とするのは,非違行為と懲戒処分の均衡を欠くきらいがあるといわざるをえない。 (8)昨今,飲酒運転に起因する悲惨な交通事故が少なからず発生しており,飲酒運転に対する刑事罰も強化され,社会全体の飲酒運転に対する非難の感情が高まっているところであり,このような社会情勢の下にあっては,社会全体の奉仕者である地方公務員が,より高い規範意識の下,厳に飲酒運転を慎まなければならないことは当然であり,前夜の飲酒であるとはいえ,安易に酒気帯び運転に及んだ原告には,地方公務員としての自覚が足りないと厳しく叱責されねばならないし,本件酒気帯び運転を重大な非違行為と受け止め,これに厳罰をもって対処しようとした消防長の判断は,良く理解できるところではある。 しかしながら,免職という懲戒処分は,公務員にとって著しい不名誉であるだけではなく,これにより,当該公務員は,直ちに職を失って収入が閉ざされ,退職金さえ失うのであって,これによって当該公務員が被る有形・無形の損害は甚大である。特に,原告のように30年間も真面目に勤務実績をつみ上げてきた者にとっては,なおさらそうであり,懲戒免職処分は,当該公務員の半生を棒に振らせるに等しいのであるから,懲戒免職処分を行う際には,処分権者の側にも相応の慎重さが求められるといわなければならない。 そのことに鑑みると,前日の夜の飲酒の影響で検挙された本件酒気帯び運転に対し,懲戒免職処分で臨むことは,やはり,社会通念上著しく妥当を欠いて苛酷であり,裁量権を濫用したものと評価すべきであり,したがって,本件処分は公正原則に抵触する違法なものというべきである。 -- 第6 結論 よって,本件処分は違法として取り消されなければならず,本 あり,裁量権を濫用したものと評価すべきであり,したがって,本件処分は公正原則に抵触する違法なものというべきである。 -- 第6 結論 よって,本件処分は違法として取り消されなければならず,本件請求は理由があるからこれを認容することとし,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 神戸地方裁判所第6民事部裁判長裁判官橋詰均裁判官山本正道裁判官澤田博之

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