平成28(行コ)68

裁判年月日・裁判所
平成29年3月16日 名古屋高等裁判所
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判決文本文13,086 文字)

平成29年3月16日判決言渡名古屋高等裁判所平成28年(行コ)第68号退去強制令書発付処分等取消請求控訴事件(原審・名古屋地方裁判所平成26年(行ウ)第103号)主文 1 原判決を取り消す。 2 名古屋入国管理局長が平成26年7月28日付けで控訴人に対してした出入国管理及び難民認定法49条1項に基づく控訴人の異議の申出には理由がないとの裁決を取り消す。 3 名古屋入国管理局主任審査官が平成26年8月5日付けで控訴人に対してした退去強制令書発付処分を取り消す。 4 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。 事実 及び理由第1 当事者が求めた裁判 1 控訴人主文同旨 2 被控訴人(1) 本件控訴を棄却する。 (2) 控訴費用は控訴人の負担とする。 第2 事案の概要 1 本件は,大韓民国(韓国)籍の外国人女性である控訴人が,名古屋入国管理局(名古屋入管)入国審査官から,出入国管理及び難民認定法(入管法)24条4号ロ(不法残留)及び3号の5ロ(他人名義の在留カードの収受)に該当する旨の認定を受けた後,名古屋入管特別審理官から,上記認定に誤りがない旨の判定を受けたため,入管法49条1項に基づき,法務大臣に対して異議の申出をしたところ,法務大臣から権限の委任を受けた名古屋入国管理局長(名古屋入管局長)から,平成2 6年7月28日付けで控訴人の異議の申出には理由がない旨の裁決(本件裁決)を受け,引き続き,名古屋入管主任審査官から,同年8月5日付けで退去強制令書発付処分(本件処分)を受けたため,本件裁決及び本件処分の取消しを求めた事案である(略称は,特に断りのない限り原判決の表記に従う。以下同様。)。 原判決は,控訴人は入管法24条4号ロ及び3号の5ロの退去強制事由に該 を受けたため,本件裁決及び本件処分の取消しを求めた事案である(略称は,特に断りのない限り原判決の表記に従う。以下同様。)。 原判決は,控訴人は入管法24条4号ロ及び3号の5ロの退去強制事由に該当すると判断した上で,本件裁決に裁量権の範囲の逸脱又は濫用はなく適法であり,これを前提としてされた本件処分も適法であるとして,控訴人の各請求をいずれも棄却したため,控訴人が控訴した。 2 前提事実,争点及び当事者の主張は,原判決「事実及び理由」の「第 2 事案の概要」2に記載のとおりであるから,これを引用する。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前提事実,証拠(甲14ないし17,乙4,5,8,9,12,15,証人A,控訴人本人のほか,各箇所に後掲の各証拠)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 控訴人の本国における生活状況等ア控訴人は,昭和50年(1975年)11月●日,韓国において,韓国人の両親の下に4人きょうだいの第4子(日本人と結婚して現在名古屋市内に居住している姉1人,韓国に居住している兄2人がいる。)として出生した。控訴人は,平成7年(1995年)に高校を卒業した後,韓国において,靴店や化粧品会社で従業員として働いたり,洋服店を経営したりして稼働していた。 イ控訴人は,母国語である韓国語での会話及び読み書きに不自由はなく,日本語については,後記のとおりB(昭和48年1月生まれのB)と婚姻して離婚した当時である平成15年頃には殆ど解しな かったが,現在では,日常会話は可能であり,平仮名及び片仮名は殆ど読み書きができ,漢字も簡単なものであれば読み書きすることができる。 (2) 控訴人の過去の入国及び在留状況等(乙2)ア控訴人は,平成10年11月14日,観光目的で 仮名及び片仮名は殆ど読み書きができ,漢字も簡単なものであれば読み書きすることができる。 (2) 控訴人の過去の入国及び在留状況等(乙2)ア控訴人は,平成10年11月14日,観光目的で,在留資格を「短期滞在」,在留期間を「15日」とする上陸許可を受けて本邦に上陸し,主に東京を観光していたところ,長野県などにも足を延ばして遊んでいたら,在留期限の同月29日を超えてしまっており,それがすぐに発覚して,入管法違反(不法残留)の被疑事実で逮捕されたが,わずかな期間の徒過であって,刑事事件として起訴はされず,入管に引き渡された上,平成11年1月29日,同法24条4号ロ(不法残留)に該当するとして本邦から退去強制された。 イその後,控訴人は,平成14年6月6日,同年7月20日及び同年10月22日,いずれも,観光目的で,在留資格を「短期滞在」とする上陸許可を受けて本邦に上陸し,在留期限内に本邦から出国した。 上記のうち,控訴人の平成14年6月6日の来日は同月13日までの滞在であり(乙22),控訴人は,日韓ワールドカップの試合を観戦しに来たものであったが,その際,韓国料理店で韓国語のできる日本人男性であるBと知り合って仲良くなり,その後,Bとの交際のため,韓国と日本を行き来するようになったものである。 (3) 今次の入国及び不法残留に至る経緯等(甲9の1ないし3,乙2)ア控訴人は,平成15年3月12日,韓国の両親ら家族の反対を振り切ってBと婚姻し,同月19日,本邦においてBと婚姻生活を送 るために,在留資格を「短期滞在」,在留期間を「90日」とする上陸許可を受け,本邦に上陸した。 イ控訴人は,平成15年4月9日,Bの妻として「日本人の配偶者等」の在留資格への変更を求める在留資格変更許可申請 を「短期滞在」,在留期間を「90日」とする上陸許可を受け,本邦に上陸した。 イ控訴人は,平成15年4月9日,Bの妻として「日本人の配偶者等」の在留資格への変更を求める在留資格変更許可申請をした。この頃,控訴人はまだ日本語を解さず,このような在留資格に関する諸手続においては,Bが必要書類に代筆するなどして行っていた。 しかし,Bは,酒癖が悪く,酒を飲むと特に暴力的になる傾向があり,また,飲酒時であるとないとを問わず,控訴人に対し,その頭髪を掴んでは,「この野郎,馬鹿野郎。」などと怒鳴りつけ,そのまま車の窓に頭を叩き付けたり,包丁を取り出して「俺は人を殺すことができる。」などと脅したり,階段から蹴り落としたりする暴行脅迫を加え,自分がゴルフに行くための金を控訴人にせびり,控訴人がこれを断ると殴りつけるなどもしていた。また,Bは,控訴人に対し,控訴人が妊娠したBとの間の子を堕胎するように言い,堕胎しなければ母子ともに殺すなどと脅迫した。そのため,Bと控訴人の婚姻生活は短期間で破綻し,両名は同年11月4日,離婚するに至った。 控訴人は,Bから逃れる形で別居に至ったが,その際,既にその当時控訴人の姉と知り合いであったA(昭和24年10月生まれのA)も控訴人の衣類や布団を車で運び出すのに手助けをしている。 なお,控訴人は,原審における本人尋問において,代理人に誘導されなければBの氏すら思い出せないほどであり,これがかつてのDV被害によるトラウマによるものでないとは言い切れない。 ウ控訴人は,離婚成立直後の平成15年11月13日,上記のとおり同年4月9日に申請していた日本人の配偶者等としての在留資格への変更を求める在留資格変更許可申請を取り下げ,同日,いずれ も在留期間を「90日」とし,更新の理由を「 月13日,上記のとおり同年4月9日に申請していた日本人の配偶者等としての在留資格への変更を求める在留資格変更許可申請を取り下げ,同日,いずれ も在留期間を「90日」とし,更新の理由を「出国の準備のため」とする2回分の在留期間更新許可を受け,これにより,控訴人の最終の在留期限は,平成15年12月14日となった。もっとも,これらの諸手続を主として行ったのもBであり,当時日本語を解していなかった控訴人は,Bに言われるがままに関係書類の必要箇所に署名したにすぎなかったため,上記の更新の理由や最終の在留期限を認識することができず,実際,その後どのような手続を踏んだらよいかも分からない状況であった。 エ控訴人は,結局,平成15年12月下旬か平成16年1月初旬頃,名古屋市内の病院(甲8の3)において堕胎したが,その際,控訴人の姉が保証人となったほか,Aも同情心から一緒に保証人となっている。 この時点で,控訴人は,最終の在留期限である平成15年12月14日を過ぎて本邦に在留していたが,当時は不法残留の認識はなかった。 オ控訴人は,その後も入管において何らの手続もせず,入管当局への出頭もしないまま,本邦における不法在留を続けたが,韓国の両親ら家族の反対を押し切ってまでBと婚姻して来日し,その後,同家族の理解を得て,それらが来日した際にはお披露目までし,その後,韓国の両親から電話で,幸せにやっているかどうかなどと,折に触れて聞かれたりするのに,BからのDVを受けて1年も経たたずに同人から逃げて離婚し,しかもBとの間の子を堕胎せざるを得なくなったといった酷い状況を両親ら家族に打ち明ける気にはなれず,韓国へ帰る気にもなれないまま,不法残留を継続したものであった。そして,平成24年頃まで,知人宅等を転々としながら,飲食店の従 を得なくなったといった酷い状況を両親ら家族に打ち明ける気にはなれず,韓国へ帰る気にもなれないまま,不法残留を継続したものであった。そして,平成24年頃まで,知人宅等を転々としながら,飲食店の従業員やスナックやクラブのホステスをしたり,Aが開業し た飲食店を手伝うなどして稼働し,また,名古屋の姉やAから時折小遣いをもらったり,韓国の両親が来日した際に金銭の援助を受けたりして生活していた。 (4) Aとの関係等について(甲1の1・2,2の1・2)ア控訴人とAは,平成15年頃,控訴人の姉が名古屋市内で営んでいた韓国海苔の販売店でAが働き始めたことから知り合いとなった。それ以降,控訴人とAは,前記のとおり,Aにおいて控訴人がBから逃れるのを手伝ったり,堕胎の保証人になったりしたことはあったものの,お互いに男女の意識はないまま,一緒に食事をしたり,Aの開業した飲食店を控訴人が手伝ったりして,継続的に交流はしていた。また,控訴人の両親や兄らが来日して控訴人と会う際には,Aも同行し,車を出して送迎するなどし,Aは控訴人の家族とも親しくなっていった。このような経緯で,Aは,控訴人に対して次第に好意を抱くようになったものの,元来恋愛に奥手で控えめな性格であり,婚姻の経験が一度もなかったこと,控訴人とは26歳も年齢が離れていたこと,飲食店の経営に失敗して借金を抱えていたこと,介助を要する独身の実兄と二人暮らしであって,しかも,その居宅は整理整頓されないまま荒れ果てていわゆるゴミ屋敷と化していたこと等による引け目があり,控訴人に対する好意が募り愛情にまで至った後にも,なかなか男女としての交際の申込にまでは至らなかった。控訴人も,当初はBからのDVにより強い男性不信に陥っており,Aに対しても恋愛感情を抱くことはできなかったが,Aの 募り愛情にまで至った後にも,なかなか男女としての交際の申込にまでは至らなかった。控訴人も,当初はBからのDVにより強い男性不信に陥っており,Aに対しても恋愛感情を抱くことはできなかったが,Aの真面目で温かい性格や,自分の家族にも優しくしてくれるところに次第に惹かれていき,Aのことを男性として意識するようになった。そして,Aと控訴人は,平成22年頃から男女としての交際を開始し頻繁に会うようになり,平成25年頃,Aのクレジ ット会社や消費者金融に対する債務がいわゆる過払いであると判明して借財がなくなり,むしろ多額の不当利得金が返還されるものとなったことをきっかけとして,同年7月頃,Aが控訴人に対しプロポーズし,控訴人の母親の了解も得て(なお,控訴人の父親は2010年に死亡している。),この頃,両名は婚約するに至った。婚約後,韓国において控訴人の離婚手続が未了となっていることが判明したため,行政書士を介してその手続を行うべく必要書類を整えるのに手間取ったこともあって,控訴人とAとの婚姻が成立したのは,平成25年12月24日となった。 イ控訴人とAは,Aが兄と2人で暮らしていたAの自宅で,3人での同居を始めるために,平成25年10月頃から,Aの自宅の片付けや修繕,原告の荷物の搬入等を順次進めた。控訴人は,ゴミ屋敷と化していたAの自宅からゴミ出ししたり掃除したりして見違えるほど綺麗にし,特に,トイレについては,雨漏りがして床が抜けそうになっていたところへ,自ら多数のブロックを基礎として運び入れるなどして,手作業で改修を行ったものであり,このようにして数か月間を掛けて,徹底的かつ献身的にA宅の美化に努めた。 ウ他方,控訴人は,この時点までには自らが長らく不法残留となっていることを明確に認識するに至っており,A ものであり,このようにして数か月間を掛けて,徹底的かつ献身的にA宅の美化に努めた。 ウ他方,控訴人は,この時点までには自らが長らく不法残留となっていることを明確に認識するに至っており,Aも従前からこのことに薄々気付いてはいたものの,人様にはいろいろな事情があってそこには立ち入れないものと思って触れないできたが,婚姻の時期には明確に控訴人の不法残留を認識し,これを機に不法残留への対応を両名で行うこととし,行政書士を伴って,韓国領事館へは平成26年1月14日に,入管へは翌日の同月15日に出頭する段取りをしていた。しかし,控訴人とAが同月●日に控訴人の荷物をA宅に搬入している最中に,控訴人は,臨場した警察官により入管法違反 (不法残留)の嫌疑で逮捕された(なお,不法残留者が行政書士を伴い入管への出頭を予定していた直前に検挙に至った例が他にも存することは,当裁判所に顕著である。)。 エ控訴人は,平成26年1月●日,検察官により入管法違反(不法残留)の事実について起訴され,同年2月●日,名古屋地方裁判所において,入管法違反(不法残留)の罪により懲役2年6月,執行猶予4年の有罪判決(本件刑事事件判決)を受け,本件刑事事件判決は確定した(甲3の1・2)。 オ控訴人は,平成26年3月20日に仮放免され,Aの自宅でAとの同居を開始し,同年8月5日,再度名古屋入管収容場に収容されたが,同年10月9日に仮放免され(乙20,21),現在までAの自宅でAと仲良く同居している。 現在,Aは,ファーストフード店やコンビニエンスストア等でパート勤務をしており,年金を含む月額収入は22万円程度であり,控訴人は専業主婦である。両名は,自宅に居住して家賃の支出を要しないため,このAの収入で何とか生計を立てているが,将 ニエンスストア等でパート勤務をしており,年金を含む月額収入は22万円程度であり,控訴人は専業主婦である。両名は,自宅に居住して家賃の支出を要しないため,このAの収入で何とか生計を立てているが,将来は,一緒に料理店を持ちたいと希望している。 なお,原審判決後の平成28年12月8日,Aの兄が上行結腸癌で死亡し,Aは控訴人以外に身寄りがなくなった(甲18)。 (5) 本件収受に至る経緯等ア控訴人は,容貌の点や便利さの点で眼鏡を嫌い,コンタクトレンズを好んで使用していたところ,今次の本邦入国後,知人から外国人登録証明書を提示しなくても診察を受けられる眼科医院を紹介してもらい,同眼科医院で受診してコンタクトレンズを購入し,使用していた。しかし,控訴人は,平成24年11月頃,同眼科医院を再度受診しようとしたところ閉鎖されており,ほかには外国人登録 証明書を提示しなくても受診できる眼科医院に心当たりがなく,その紹介も受けられなかったため,同年12月頃から,外国人登録証明書の貸与が禁止されていること(外登法18条1項10号)を知りながら,控訴人の姉名義の外国人登録証明書を同人から借り,これを使ってコンタクトレンズを購入するようになり,平成25年5月頃には,姉から健康保険の被保険者証(以下「本件保険証」という。)も借りるようになった。 イ平成21年法律第79号による入管法の改正により,外国人登録制度に代わるものとして新たに在留カード制度が設けられ,その施行に合わせて外国人登録制度は廃止され,これに伴い,控訴人の姉は,平成25年6月27日,新たに本件在留カードを交付された。 控訴人は,コンタクトレンズの購入のために眼科医院を受診する際に提示する目的で,平成25年11月13日頃,姉から本件保険証と本件在留カ 5年6月27日,新たに本件在留カードを交付された。 控訴人は,コンタクトレンズの購入のために眼科医院を受診する際に提示する目的で,平成25年11月13日頃,姉から本件保険証と本件在留カードを受け取り(本件収受),同月18日又は19日,名古屋市内の眼科医院において,他人名義のものであることを告げずに本件保険証及び本件在留カードを提示して診察を受け,コンタクトレンズを購入した。 ウ控訴人は,本件在留カードを姉に返さず所持していたところ,平成26年1月●日,入管法違反(不法残留)の被疑事実で逮捕され,その際,警察官に対して姉名義である本件在留カードを所持していることを自発的に申告した。しかし,不法残留の事実で起訴されたが,他人名義の在留カード収受の事実では起訴されなかった。 控訴人は,遅くとも平成27年1月以降は,在留カードの提示を求められない眼科医院を控訴人名義で受診して,コンタクトレンズを購入し,使用している。 (6) 控訴人の家族の状況等 現在,控訴人の本国である韓国には,控訴人の母及び2人の兄が在住しており,姉は日本人男性と婚姻して名古屋市内に在住している。 控訴人は,姉と交流があるほか,母及び兄らと電話等で連絡を取り合ったり,同人らが旅行で来日したりして,交流を続けている。 2 控訴人の退去強制事由該当性等について前記前提事実及び前記認定事実によれば,控訴人は,入管法24条4号ロ(不法残留)の退去強制事由に該当し,また,同条3号の5ロ(他人名義の在留カードの収受)の退去強制事由にも一応該当し,かつ,出国命令対象者(同法24条の3)に該当しない外国人であることが認められる。 なお,控訴人は,控訴人につき入管法24条3号の5ロ(他人名義の在留カードの収受)の退去強制事 由にも一応該当し,かつ,出国命令対象者(同法24条の3)に該当しない外国人であることが認められる。 なお,控訴人は,控訴人につき入管法24条3号の5ロ(他人名義の在留カードの収受)の退去強制事由に該当すると判断することは,控訴人に保障された医療福祉を受ける権利を侵害するから違憲である旨主張するが,国連A規約や憲法13条の趣旨を最大限に考慮しても,他人名義で眼科を受診したり,コンタクトレンズを購入することが当然に許容されるものとは解されず,そのような目的による在留カードの収受を禁止し規制するのが違憲であるとまではいえないから,控訴人の上記主張は採用できない。もっとも,控訴人による本件収受は,その違法性の程度が低く,消極要素として特に重視すべきものでないことは後記のとおりである。 3 本件裁決の違法性について(1) 前提事実及び上記の認定事実によれば,被控訴人の主張するとおり,控訴人とAの法律上の婚姻期間は,平成25年12月24日から本件裁決時である平成26年7月28日まで約7か月と短く,実際の同居期間も本件裁決時までに4か月弱と短いことは間違いない。しかしながら,前記1(4)に認定のとおり,控訴人とAとの間には,平成 15年頃に知り合って以来本件裁決に至るまで,10年以上にわたる長い間に様々な経緯が存在していたのであって,前記1(3)イのとおり,日本での婚姻生活で短期間に酷いDV被害を受けて強い男性不信にまで陥り,今もなお心の傷が癒えていないといえる控訴人や,その本国の家族らとの間で,Aが穏やかな交流を続けて信頼関係を紡ぎ,かつ,控訴人とAと間の言葉や言語の壁のみならず,大きな年齢差,Aの年齢,事業の失敗,高利の借財,居宅の状況等々の困難な障害を乗り越え,お互いの好意を男女間の愛情にまで高め合うまでには相当の ぎ,かつ,控訴人とAと間の言葉や言語の壁のみならず,大きな年齢差,Aの年齢,事業の失敗,高利の借財,居宅の状況等々の困難な障害を乗り越え,お互いの好意を男女間の愛情にまで高め合うまでには相当の年月を要したといえるところである。控訴人とAは,このような長い経緯の末,遅くとも平成22年頃には,固く真摯な愛情の絆で結ばれるに至ったものであり,たとえ物理的には同居しておらず,生計を共にしてはいなかったとしても,この頃には実質的にみて夫婦同然の関係にあったということができ,このことは,現に,控訴人とAが本件裁決後も現在に至るまで,控訴人がその清掃及び改修等に心血を注いだAの居宅において,夫婦として仲良く暮らし続けているといえることからも明らかであるということができ,かように真摯な婚姻関係は,今後も控訴人が日本に在留できる限り継続していくであろうことが強く見込まれる。もとより,婚姻関係の在り方は多種多様であって,単に法律上の婚姻期間や同居期間が短い等の見地のみから,機械的,硬直的かつ表層的に夫婦の在り方を観念し,そのような観念に基づき夫婦関係の安定性や成熟性を問議することは相当でない。 そして,控訴人が韓国に強制的に帰国させられることになれば,Aの年齢や言語能力等からして,Aが控訴人と共に韓国で婚姻生活を送ることは不可能に近いから,両名に対して事実上の生き別れを強制することになるというべきあって,60歳を過ぎての初婚で生涯の伴侶を得,ゴミ屋敷と化していた自宅が控訴人の献身的努力によって人間 らしい住居に蘇るなどし,人生に希望を持つに至り,かつ,その後に実兄を亡くして控訴人以外には身寄りがなくなったAにとっても酷なことであり,著しく人道に反する結果となる。もちろん,控訴人自身にとっても,たとえ韓国に母や兄などの近しい家族らがい り,かつ,その後に実兄を亡くして控訴人以外には身寄りがなくなったAにとっても酷なことであり,著しく人道に反する結果となる。もちろん,控訴人自身にとっても,たとえ韓国に母や兄などの近しい家族らがいるとはいえ,今更ながら韓国へ帰国することは,韓国において一から生活基盤を立て直さなければならないことを意味するものであって,それが控訴人にとって過酷なものでないとはいい切れない。 以上は,本件裁決に当たり十分に考慮されていて然るべき事情であるが,被控訴人がこれらを考慮していないことは明らかである。 (2) これに対し,被控訴人は,①控訴人は,過去に本邦で不法残留して退去強制されたにもかかわらず,今回再び,本件裁決時まで10年以上もの長期間にわたり不法残留を続けた事実により,本件刑事事件判決を受けたものであること,②親族に対する体面等を気にして,Bと離婚したことや堕胎したことを本国の親族に言うことができなかったため,本邦に不法残留したという今次の不法残留の経緯には,何ら酌むべき事情はないこと,③控訴人は,今次の不法残留中,飲食店やスナック等で不法就労をしていること,④在留カードは,中長期在留者の本邦在留に係る法的地位を証明する重要文書であるとともに,公的身分証明書として利用されるものであり(入管法19条の3参照),他人名義の在留カードを使用目的で収受する行為は,退去強制事由に該当するとともに罰則規定も設けられているところ,控訴人は,その違法性を十分に認識しながら,眼鏡を掛けると自分の容姿が不細工に見えてしまうことが嫌だから等の身勝手な動機で,コンタクトレンズを購入するために本件収受に及んだというのであり,酌量すべき点は極めて乏しいこと等を縷々指摘し,上記①ないし③の在留状況及び④の行為は,重大な消極要素として考慮されるべきであると主張す タクトレンズを購入するために本件収受に及んだというのであり,酌量すべき点は極めて乏しいこと等を縷々指摘し,上記①ないし③の在留状況及び④の行為は,重大な消極要素として考慮されるべきであると主張する。 しかしながら,上記①の点につき,控訴人の過去の不法残留は,控訴人が日本国内の旅行を楽しんでいる間にわずかに在留期限を徒過してしまったという軽微なものであり,起訴もされておらず,しかも10年以上も前のことであって,その後に数次にわたって入国及び在留が問題なく許可され,韓国と日本とを行き来することが許されていたものであるから,それを今次の不法残留に当たって問題視して取り上げることは相当ではない。 また,これと上記②の主張に関連することであるが,控訴人の不法残留が10年以上にも及んでしまったことについては,前記1(3)イに認定のとおり,控訴人が日本人男性であるBにより酷いDV被害を受け,短期間で離婚を余儀なくされ,堕胎まで強要されていたという重大な事情が存していたものである。すなわち,前記1(3)ウに認定の事実からすると,当時日本語を解しなかった控訴人は,離婚に際しBにより無責任に放逐され,不法残留となるべく仕向けられたと言っても過言ではないほどであり,しかも,同(3)エに認定のとおり,Bに強要されて失意のうちにやむなく名古屋市内の病院で堕胎の処置を受けた時点で既に在留期間を徒過しており,かつ,控訴人は既に在留期間を徒過していたことすら認識し得なかったところである。そして,控訴人は,同(3)オに認定のとおり,その後も長らく不法残留を継続することになるが,それは,自らの意思でBと結婚するために日本に渡ったにもかかわらず,短期間で上記のような酷い状況に陥ったため,自責の念から韓国の両親ら家族に顔向けできないものと苦悩し, 残留を継続することになるが,それは,自らの意思でBと結婚するために日本に渡ったにもかかわらず,短期間で上記のような酷い状況に陥ったため,自責の念から韓国の両親ら家族に顔向けできないものと苦悩し,長らくその事情を打ち明けることもできず,しかも,DV被害によるトラウマが持続していたという事情があったためであると考えられ,このような控訴人のDV被害者に特殊な精神状態とその行動への持続的な悪影響を顧慮すれば,控訴人が韓国に帰国できず,ずるずると不法残 留を続けてしまい,真に信頼に値するAとの婚姻関係に至る段階まで長らく法的に正しい対応が取れなかったとしてもやむを得ない面があったというべきであり,このような不法残留の経緯は,十分に斟酌すべき事情であるということができる。しかるに,被控訴人が上記のとおり当然に重視すべき控訴人のDV被害の深刻な実態を敢えて見ようともせず,調べようともしていないことは,本件訴訟の原審における被控訴人の訴訟態度からも明らかであって,被控訴人は,控訴人の受けたDV被害の深刻な実態を敢えて無視する一方で,控訴人が自らの体面から家族には言えなかったとか,一旦帰国することはできたなどと安易に評価した上で,在留期間の長さのみを殊更重大視しているものであり,かような有り様は,わが国のいわゆるDV防止法の精神にも悖る極めて不当な態度といわざるを得ない。 さらに,上記③の不法就労の点につき,在留期間経過後である平成15年12月15日以降の就労の事実は,在留資格の存在を前提とした入管法70条1項4号の資格外活動罪に該当しないのであるから,就労の事実そのものを犯罪視することはできない上,実質的な違法性も低く,控訴人が本邦で日々の生活の糧を得るために働くこと自体は,人道上何ら非難されるべきことではない。 加え ないのであるから,就労の事実そのものを犯罪視することはできない上,実質的な違法性も低く,控訴人が本邦で日々の生活の糧を得るために働くこと自体は,人道上何ら非難されるべきことではない。 加えて,上記④の本件収受(姉名義の在留カードの収受)の点については,前記1(5)の認定によれば,控訴人は,不法残留中といえども,通常は自らの名義で医療を受けており,外国人が医療を受けるに際して在留カードを要求すべきでないのにこれを要求した医療機関においてのみ本件収受にかかる姉の本件在留カードを使用していたというにすぎず,その利用範囲は限定的なものであったということができ,まして姉に成り済ますとか,不当な利益を享受する目的で本件収受に及んだものではないことは明らかであり,その実質的な違法性は低い ものといえる。現に,控訴人は,自ら自発的に申告した本件収受の点では,賢明なる検察官の判断により,入管法違反として起訴もされていない。なお,被控訴人は,容貌や利便性の点から,コンタクトレンズを愛用し,眼鏡を避けたいとする控訴人の動機が身勝手である旨主張するが,コンタクトレンズは通常の視力矯正用具として広く行き渡っているものであり,これを眼鏡と比較の上で愛用することもまた通常のことであるから,被控訴人において,上記した控訴人の動機が身勝手なものであるなどと殊更悪し様に断罪しようとすること自体,著しく相当性を欠くものといわざるを得ない。 よって,被控訴人の上記①ないし④の主張は,いずれも採用し難い。 (3) 以上の認定説示によれば,本件裁決は,控訴人とAが婚姻に至るまでの長い経緯やその真摯な夫婦関係の実質を見ようともせず,単に法律上の婚姻期間や同居期間の長短のみでしか夫婦関係の安定性や成熟性を考慮せず,控訴人を韓国へ帰国させることによる控訴 とAが婚姻に至るまでの長い経緯やその真摯な夫婦関係の実質を見ようともせず,単に法律上の婚姻期間や同居期間の長短のみでしか夫婦関係の安定性や成熟性を考慮せず,控訴人を韓国へ帰国させることによる控訴人とAの不利益を無視又は著しく軽視し,また,控訴人が不法残留状態に至った経緯,特に,控訴人が日本人男性から酷いDV被害に遭い,短期間で離婚を余儀なくされ,堕胎まで強要されたことが契機となって,やむにやまれず不法残留となった深刻な事情を敢えて無視する一方で,不法残留期間が長期に及ぶことのみを重視し,かつ,起訴もされておらず,一時的使用であって軽微といえる本件収受(他人名義の在留カードの収受)や,人道上非難に値しないような不法残留中の就労を殊更問題視するなどしたことによってなされた偏頗な判断というほかはなく,その判断の基礎となる事実に対する評価において明白に合理性を欠くことにより,その判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことは明らかであるというべきであるから,裁量権の範囲を逸脱又は濫用した違法なものというほかはない。 よって,控訴人による本件裁決の取消請求には理由がある。 4 本件処分の違法性について本件処分は,名古屋入管局長から本件裁決をした旨の通知を受けた名古屋入管主任審査官が,入管法49条6項に基づいてしたものであるが,上記3において述べたとおり,本件裁決に裁量権の範囲を逸脱濫用した違法性があって取り消されるべきである以上,これを前提とする本件処分も違法というほかなく,その取消請求にも理由がある。 第4 結論以上によれば,控訴人の本件各請求はいずれも理由があるから認容すべきところ,これと結論の異なる原判決は失当であるから取り消すこととし,主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所民事第4 主文 によれば,控訴人の本件各請求はいずれも理由があるから認容すべきところ,これと結論の異なる原判決は失当であるから取り消すこととし,主文のとおり判決する。 理由 名古屋高等裁判所民事第4部 裁判長裁判官藤山雅行 裁判官上杉英司 裁判官丹下将克

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