令和5(う)68 業務上過失致死傷被告事件

裁判年月日・裁判所
令和6年12月16日 仙台高等裁判所 破棄自判
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判決文本文36,320 文字)

令和5年(う)第68号業務上過失致死傷被告事件令和6年12月16日仙台高等裁判所第1刑事部判決 主文 原判決を破棄する。 被告人は無罪。 理由 第1 原判決が認定した罪となるべき事実及び控訴の趣意 1 原判決が認定した罪となるべき事実は、起訴状記載の公訴事実と同旨であって、その内容は概ね以下のとおりである。 被告人は、A船(船舶の長さ10.77m、用途プレジャーモーターボート)に船長として乗り組み、A船の操船業務に従事していたものであるが、令和2年9月6日午前10時58分頃、福島県会津若松市(住所省略)所在の株式会社aから東北東286.341m付近の猪苗代湖上を北東に向けて時速約15ないし20kmで航行するに当たり、針路前方左右の見張りを厳に行い、その安全を確認しながら航行すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、針路前方左右の見張りを厳に行わず、その安全確認不十分のまま漫然前記速度で航行した過失により、折から、針路前方で、いずれもザップボードに乗るためにライフジャケットを着用して湖上に浮かんでいたb(当時8歳)、c(当時35歳)及びd(当時8歳。同人ら3名及びeを合わせて「被害者ら」ということがある。)に気付かないまま、bら3名に自船後部に設置された推進器の回転中のプロペラを接触させ、よって、bに傷害(上半身と下半身の離断を含む。)を負わせて死亡させるとともに、c及びdにそれぞれ傷害を負わせた。 2 本件控訴の趣意は、弁護人吉野弦太(主任)及び田代圭共同作成の控訴趣意書その1及びその2並びに控訴理由補充書に各記載されたとおりであり、これに対する答弁は、検察官宮田誠司作成の答弁書のとおりである。また、当審における事実取調べの結果に )及び田代圭共同作成の控訴趣意書その1及びその2並びに控訴理由補充書に各記載されたとおりであり、これに対する答弁は、検察官宮田誠司作成の答弁書のとおりである。また、当審における事実取調べの結果に基づく弁論の要旨は、同弁護人ら共同作成の弁論要 旨並びに同検察官及び検察官田澤博司共同作成の弁論要旨に各記載のとおりであるから、これらを引用する。論旨は、特に回避可能性の点から、被告人には過失がないのに、これを認めた原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があり、仮に過失があるとしても被告人を禁錮2年の実刑に処した原判決の量刑は重過ぎて不当であって、執行猶予を付すべきであるとの事実誤認及び量刑不当の主張である。 そこで、原審記録を調査し、当審における事実取調べの結果も併せて検討する。 第2 事実誤認の論旨に関する原判決の説示原判決は、関係証拠によれば、原判示の日時に、被告人が操船していたA船が、c、b及びdに衝突する事故(以下「本件事故」という。)が発生し、同人らに原判示の各死傷結果が認められるとした上で、本件の争点である被告人の過失の有無について、大要、以下のとおり説示して被告人に過失を認めた。 1 原判決の認定事実(なお、別紙図面はいずれも当審における事実取調べの結果に基づくもの(当審検33)であるが、位置関係の検討の便宜のため、原判決の認定事実との関係でも必要な限りで記載をした。)(1) 猪苗代湖西部に位置する中田浜湾の状況等ア本件事故が発生した猪苗代湖西部に位置する中田浜湾は、東側、南側及び西側が陸地に囲まれた地形である。湾内西側には西側と北側の陸地と東側の岬に囲まれた入り江があり、入り江内には中田浜マリーナが管理する桟橋(以下「本件桟橋」という。)が設置され、船舶の発着に用いられて 西側が陸地に囲まれた地形である。湾内西側には西側と北側の陸地と東側の岬に囲まれた入り江があり、入り江内には中田浜マリーナが管理する桟橋(以下「本件桟橋」という。)が設置され、船舶の発着に用いられていた。本件事故当時、前記岬の東側には、特殊小型船舶免許試験に使用するブイ12個が6個ずつ東西2列(以下、これらのブイの列を「本件ブイ列」という。)に設置されていた。 イ本件事故当時、猪苗代湖では、猪苗代湖水面利活用基本計画に基づき、水面利活用に係るゾーニング計画が策定されていた。当該ゾーニング計画 は、各区域の目安を示すためのものであり、明確な線引きの上で区分けされたものではないが、中田浜のある湖西(会津若松)エリアのゾーニング計画によれば、中田浜の西側岬から約150m以内の区域は、船舶の航行及び遊泳が禁止される船舶航行禁止区域とされ、150m以遠の区域は遊泳が禁止される船舶航行区域とされている。 当該ゾーニング計画に関する周知活動は、水面利用関係の各種団体に委ねられていたが、本件事故当時、中田浜周辺には、当該ゾーニング計画の周知を目的とした看板等は設置されていなかった。 (2) 本件当日の天候及び中田浜湾内の状況等本件事故が発生した時間帯には、中田浜周辺は晴れており、猪苗代観測所における平均風速は秒速3.7ないし4.6mであった。本件事故当時、中田浜湾内では、被告人及びその知人の船舶や、A船の周囲を航行していた複数の水上バイクのほか、複数の水上バイクやトーイングボートが航行していた。 (3) A船の形状等ア A船は、長さ10.77m、総トン数6.6tで、二基の推進器に取り付けられたプロペラが回転することによって推進する船舶である。9名が乗船した場合の制動距離は、時速10kmでは約8 形状等ア A船は、長さ10.77m、総トン数6.6tで、二基の推進器に取り付けられたプロペラが回転することによって推進する船舶である。9名が乗船した場合の制動距離は、時速10kmでは約8.442mであり、時速15kmでは約14.173mである。 イ A船と同種のプレジャーボートは、増速の過程において船首部が持ち上がって(以下、この現象を「ハンプ」ということがある。)死角が生じるため、一時的に操縦者から見た船首方の見通しが悪化するが、更に増速するのに伴って船首部が下降し、船首方の見通しが良くなるという性質を有する。A船の操縦席から最も死角が大きくなる方向は、正船首方の見通し線から左舷方約4.6度の方向であり、停止状態の場合、約19mより手前の水面が死角となり、死角が最大となる時速約16.7kmの場合には、 約480mより手前の水面が死角となる。また、時速約16.7kmの場合、操縦席から正船首方を真っ直ぐ見たときには、約190mより手前の水面が死角となる。 (4) 被害者ら等ア cとその夫f、長男のe及び二男のbのs家4名とd及びその両親のg家3名は、本件当日、中田浜湾内において、ザップボードやウェイクボードを水上バイクで引っ張って遊ぶトーイングスポーツに興じていた。 イ本件事故当時、被害者らは、ザップボードの順番待ちをするために水上バイクから降り、本件ブイ列のうち、東側の列の最も南側のブイ(以下「本件ブイ」という。)の東側の湖上に、北側の沖の方を向いて浮かんでいた(以下、被害者らが浮いていた湖上付近を「本件事故現場」という。)。 被害者らの具体的な位置関係は、沖の方を向いているcの左斜め前方の、左手を伸ばして届くか届かないかの距離にb、cの右斜め前方の、右手を伸ばして届く距離にd、cの右斜め前方 本件事故現場」という。)。 被害者らの具体的な位置関係は、沖の方を向いているcの左斜め前方の、左手を伸ばして届くか届かないかの距離にb、cの右斜め前方の、右手を伸ばして届く距離にd、cの右斜め前方約2mの位置にeがそれぞれ浮かんでいるというものであって、このとき、被害者らは、仰向けに浮くこともあったが、自ら泳いで移動することはなく、いずれも肩辺りから上が水面から上に出ている状態であった。 f及びdの両親は、被害者らが水上バイクから降りた後、水上バイクに乗って移動しており、本件事故当時、本件事故現場の周辺には水上バイクやザップボード等は存在しなかった。 ウ本件当日に被害者らが着用していたライフジャケットの肩部分の色は、それぞれ、cが黒色、bが青色、dがオレンジ色や青色、eが黄色であり、ラッシュガード(cについては、パーカーのためフードが付いている。)の色は、それぞれ、cが白色、bが紺色、dが黒色、eが緑色であった。 エ被害者らの身長及び体重は、cが身長約150cm、体重約50kg(本件事故当時)、bが身長117.7cm、体重21.1kg(令和2年3 月31日当時)、dが身長123.0cm、体重29.0kg(同年11月17日当時)、eが身長127.6cm、体重27.8kg(同年3月31日当時)であった。 (5) 本件事故に至る経緯等ア被告人は、本件当日、知人を多数連れて中田浜を訪れ、中田浜マリーナに到着後、男女合計9名をA船に乗せて本件桟橋から出航した。被告人と共に中田浜を訪れたhは、自己の船(船舶の長さ6.6m、用途プレジャーモーターボート。以下「B船」という。)にi及びjの2名を乗せて、A船の後に続いて本件桟橋から出航した。 イ A船は、南方に航行して入り江を出た直後、エンジンが停止し、北緯37度 、用途プレジャーモーターボート。以下「B船」という。)にi及びjの2名を乗せて、A船の後に続いて本件桟橋から出航した。 イ A船は、南方に航行して入り江を出た直後、エンジンが停止し、北緯37度28分45.95秒、東経140度1分50.69秒付近(以下「本件停泊地点」という。別紙図面2の番号10の地点)において、船首を東北東方(中田浜湾東側にある中田浜湖水浴場方向)に向けて一時的に停泊状態となった。A船が停泊状態となっていた間、A船に同乗していたk及びlは、A船の前方及び左舷方に向けて画像や動画を撮影した。k及びlが撮影した画像や動画には、いずれも1個の白色浮遊物及び複数の黒色浮遊物が写っていた。 ウ B船は、停泊状態となっていたA船の後方を通過してA船の右舷側に出てから左転し、A船を追い抜いた。B船がA船を追い抜く際、jは、停泊していたA船に向けて動画を撮影した。jが撮影した動画には、A船の左舷方前方の湖上に1個の白色浮遊物及び黒色浮遊物が写っていた。 エ hは、A船を追い抜いた後、湾外に出るために、左に舵を切って北東に針路をとり、時速約10ないし15kmで航行していたところ、約141m前方、本件ブイの東側付近の湖上に、ブイではない何かが浮かんでいるのを目にした。hは、目を凝らしてよく見てこれを確認したところ、3人くらいの人が浮かんでいるのを視認し、舵を右に切って同人らの東側を航 行して衝突を回避した。 オ被告人は、A船のエンジンを再始動した後、中田浜湖水浴場方向に針路をとり、概ね湾の中心くらいまで航行してから、左転して湾外の方向に航行するつもりであったが、A船を右舷方から追い抜いたB船が被告人の想定よりも早く左転し、A船の針路前方に進出したことから、A船の左舷方を航行していた2台の水上バイク等の動向も確認しながら、 方向に航行するつもりであったが、A船を右舷方から追い抜いたB船が被告人の想定よりも早く左転し、A船の針路前方に進出したことから、A船の左舷方を航行していた2台の水上バイク等の動向も確認しながら、予定していた地点よりも手前で左転し、本件事故現場の方向に針路をとった。 (6) 本件事故被告人は、被害者らの存在を認識することなく、本件事故現場の方向に針路をとったまま航行を続けた。被害者らは、A船のエンジン音で、A船が迫ってきていることを認識したが、パニック状態で身動きができずに、原判示の地点である北緯37度28分49.27秒、東経140度1分58.05秒付近(湖水際までの距離約128.665m。原判示罪となるべき事実では、株式会社aから東北東286.341m付近とされる。以下「本件衝突地点」という。別紙図面1番号5の地点。ただし、後記のとおり、ある程度広い幅を持った意味で「付近」とした。)でA船と衝突した。 (7) A船からの視認状況に関する実況見分(原審甲59、原審弁21、25)令和2年11月18日に、被告人立会の実況見分(視認状況に関するもの。 以下「本件実況見分」という。)が実施されたが、当時の中田浜周辺は晴れており、猪苗代観測所における平均風速は秒速1.3ないし2.3mであった。被害者らが浮かんでいた状況を再現するに当たり、成人女性を模した長さ160cm、重さ6.1kgのマネキンで、c着用のライフジャケットと同様の機能性を有し、肩部分の色が白色又は灰色のライフジャケットを着用したもの1体と、子供を模した長さ119cm、重さ4.5kgのマネキンで、dが着用していたものと同様の機能性を有し、肩部分の色が黄色のライフジャケットを着用したもの1体、子供を模した長さ121cm、重さ4. 5kgのマネキン 19cm、重さ4.5kgのマネキンで、dが着用していたものと同様の機能性を有し、肩部分の色が黄色のライフジャケットを着用したもの1体、子供を模した長さ121cm、重さ4. 5kgのマネキン及び上半身型の長さ82cm、重さ2.9kgのマネキンで、b及びeが着用していたものと同じライフジャケットをそれぞれ着用したもの2体を本件衝突地点に浮かべ、被告人には、本件桟橋から、本件事故当時と同様の航路でA船を航行させ、マネキンが見えた地点を指示説明させるというものであった。 被告人は、本件実況見分において、前記入り江を出てすぐの北緯37度28分48.20秒、東経140度1分49.37秒付近(以下「マネキン発見地点」という。その地点を別紙図面3に表示すると「1」地点となる。)において、A船の操縦席から、「黄色、白、オレンジ、青の色がはっきり見えます」と指示説明した。本件衝突地点とマネキン発見地点との直線距離は約223mであった。 (8) 被告人の航行経路の再現状況(原審甲71、72)令和2年11月18日に、被告人立会の実況見分(航行経路に関するもの)が実施され、航行経路の再現に当たり、被告人にA船を航行させて本件事故当時の航行経路を特定させた上、その後3回にわたり、被告人に同航行経路を航行させ、航行経路の座標、速度、船体の角度、前方及び左前方等の視認状況を確認するというものであった(別紙図面3は、航路再現3回目に航行したときの航路である。)。それによれば、3回目の再現の際に、A船がマネキン発見地点付近から本件衝突地点まで航行するのに要した時間は約78秒であり、その間のA船の速度は、時速約9.5ないし14.7kmであった。また、時速13kmで航行している際に、左前方約59.3m先に浮いた本件ブイ(ただし、本件事故時 行するのに要した時間は約78秒であり、その間のA船の速度は、時速約9.5ないし14.7kmであった。また、時速13kmで航行している際に、左前方約59.3m先に浮いた本件ブイ(ただし、本件事故時に敷設されていたものとは色が異なる。)を視認することができた。 (9) 原審弁護人(当審弁護人でもある。)が行った再現見分の内容及び結果(原審弁42)令和4年9月30日に、被告人立会の再現見分(以下「弁護人再現見分」 という。)が実施され、その条件は、全長約6mのプレジャーボートを用意し、身長167.1cm、体重53kgの男性である仮想被害者に白色パーカー、黒色ライフジャケットを着用させて、本件衝突地点に、沖の方を向いて仰向けに近い状態で浮かばせ、3地点における、前記ボートからの視認状況を確認するというものであった。3地点とは、前記(8)の航行経路の特定の際に、①中田浜マリーナクラブハウス桟橋先端を避けて舵を切った地点(本件衝突地点との直線距離は約220.2m)、②湖水浴場に船首を向けて舵を切った地点(本件衝突地点との直線距離は約186.7m)、③材木山の北端に船首を向けて舵を切った地点(本件衝突地点との直線距離は約121. 2m)として、それぞれ特定した地点である(各地点と本件衝突地点との直線距離は緯度経度から明らかな事実である。)。弁護人再現見分において、被告人は、前記①の地点では、何も見えず、前記②の地点では、仮想被害者がパーカーのフードを被っていれば、10秒以上本件衝突地点を見続けることで白い小さいものが浮いているように見え、前記③の地点では、仮想被害者がフードを被っているか否かにかかわらず、前記の視認方法により白又は黒の小さいものが浮いているように見えた旨説明した。 2 予見可能性について原判決は 見え、前記③の地点では、仮想被害者がフードを被っているか否かにかかわらず、前記の視認方法により白又は黒の小さいものが浮いているように見えた旨説明した。 2 予見可能性について原判決は、前記認定事実を基礎として、本件事故現場が中田浜湾内で、陸地からの距離も近いことから沖合と比べて湖上に人が存在する可能性が高い場所であり、本件事故当時には、複数の水上バイクやトーイングボートが湾内を航行していたところ、水上バイクは通常の船舶に比して転覆するなどして落水者が生じやすく、トーイングスポーツは、人が搭乗するトーイング遊具をボートなどでえい航するという性質上、人の落水も当然に想定されるから、本件事故現場が、湖上に浮かんでいる人の存在をおよそ想定できない水域であるとはいえないとした上で、被告人も、本件以前に中田浜湾内を多数回航行した経験を有するのであるから、本件事故現場が、水上バイクやトーイングボートが航行 する水域であることを認識しており、本件事故当時も、A船の周囲において複数の水上バイクが航行し、トーイングボートが中田浜湾内を航行していることを認識していたとして、被告人は、本件事故現場に向けて航行するに当たり、A船の針路上の湖上に浮かんでいる人が存在することを具体的に予見でき、人の存在を見落として航行することにより、長さ10.77m、総トン数6.6tで、プロペラにより推進するA船が人に衝突すれば、人を死傷させることも予見できたと認められるとした。 3 結果回避可能性について原判決が結果回避可能性を認めた理由は、大要、以下のとおりである。 (1) 注意義務の内容法令上、小型船舶操縦者(船長)は、小型船舶を操縦するに当たり、視覚、聴覚及びそのときの状況に適した他のすべての手段により、常時適切な見張りを とおりである。 (1) 注意義務の内容法令上、小型船舶操縦者(船長)は、小型船舶を操縦するに当たり、視覚、聴覚及びそのときの状況に適した他のすべての手段により、常時適切な見張りを確保することが義務付けられており(令和5年法律第24号による改正前の船舶職員及び小型船舶操縦者法23条の36第5項、令和6年国土交通省令第3号による改正前の同施行規則138条2号)、小型船舶操縦士の教本によれば、適切な見張りとは、航行中、漂泊中、錨泊中を問わず行う、前方だけでなく全周にわたり行う、同乗者がいる場合には同乗者にも見張りを行わせるなどとされているから、被告人は、小型船舶であるA船で中田浜湾内を航行するに当たり、常時適切な見張りを確保する義務を負っていたものであり、特に、人の存在が想定される水域を航行する際には、人と衝突する事故が発生する危険性が十分に認められるのであるから、針路上に浮遊物を発見した場合には、人でないかを確認すべき義務がある。 (2) 被告人が被害者らを発見できたこと前記認定事実(7)のとおり、本件実況見分において、被告人は、本件衝突地点から直線距離で約223m離れたマネキン発見地点から、浮いているマネキンを視認することができており、このことは、本件事故当時も、マネキン 発見地点付近において、被害者らを発見することが可能であったことを相当強く推認させる。 もっとも、本件実況見分の際は、被告人はマネキンが浮いていることを予め把握しており、意識して見る場合とそうでない場合とでは見え方にも差異があると考えられることや、小型船舶の船長は、前方だけではなく、全周にわたって見張りをすべき義務を負っており、特定の場所だけを注視し続けることは困難であると解されること、日照や白波等の影響により、瞬間的 ると考えられることや、小型船舶の船長は、前方だけではなく、全周にわたって見張りをすべき義務を負っており、特定の場所だけを注視し続けることは困難であると解されること、日照や白波等の影響により、瞬間的に被害者らを視認することができなくなる可能性も否定し難いことなどからすると、被告人が、本件事故当時、マネキン発見地点付近において、被害者らを確実に発見することができたとまでは断定できない。 そこでさらに検討すると、A船は、マネキン発見地点を通過後、やや左に旋回しながら、本件衝突地点まで航行することになるところ、前記認定事実(8)によれば、A船がマネキン発見地点付近から本件衝突地点まで航行するのに要する時間は約78秒であり、本件事故当時は、A船が本件停泊地点において、しばらく停泊状態にもなっていたことからすると、更に長い時間を要したものと認められる。 そして、前記認定事実(3)イによれば、A船は、増速の過程においてハンプによって死角が生じ、船首方の見通しが悪化することから、本件事故現場の方向に針路をとった後は、いずれかの時点で、被害者らがA船の死角に入り、視認できなくなったといえるが、それまでの間は、被害者らが、A船の船首方ではなく左前方にいたことや、時速13kmで航行している際に、左前方約59.3m先に浮いたブイを視認することができることなどに照らすと、被害者らがA船の死角に入っていたとは考え難い。 そうすると、マネキン発見地点から、被害者らがA船の死角に入るまでの間には相当長い時間があり、その間、被告人が、常時適切な見張りを行っていれば、被害者らを発見することは可能であったといえる。 とりわけ、A船が本件停泊地点において停泊しているときには、死角はほとんど生じておらず、航行中と比べて、前方左右 りを行っていれば、被害者らを発見することは可能であったといえる。 とりわけ、A船が本件停泊地点において停泊しているときには、死角はほとんど生じておらず、航行中と比べて、前方左右の見張りも容易であったといえるのであるから、被告人が、本件停泊地点において被害者らを発見することが可能であったことは明らかである。また、前記認定事実(5)イ及びウのとおり、A船及びB船に乗っていた者らが撮影した画像・動画に白色浮遊物及び複数の黒色浮遊物が写っており、その位置関係等に照らすとこれらが被害者らであると推認できるから、被告人も本件停泊地点から被害者らを視認できたことが裏付けられている。 以上によれば、被告人は、本件衝突地点を航行するに当たり、マネキン発見地点から、A船が停泊状態となった地点を経て、被害者らがA船の死角に入るまでの間、針路前方左右の見張りを十分に行っていれば、本件衝突地点で浮かんでいる被害者らを視認し、人と認識することができたと認められる。 (3) 本件事故が回避可能であったこと前記認定事実(3)アによれば、9名乗船時のA船の制動距離は、時速10kmのときが約8.442m、時速15kmのときが約14.173mであり、本件事故当時のA船に乗っていた人数が10名であることや、A船の速度が時速約20km程度までは出ていた可能性があることを考慮しても、被害者らを視認した時点で、被告人がA船を停止させたり、航路を変更したりすれば本件事故を回避することができたことは明らかである。 4 結論原判決は、以上のとおり説示するとともに、予見可能性及び結果回避可能性を争う原審弁護人の所論をいずれも排斥した上で、被告人は、本件事故当時、A船の針路上に浮かんでいる人が存在し得ることを具体的に予見することがで 上のとおり説示するとともに、予見可能性及び結果回避可能性を争う原審弁護人の所論をいずれも排斥した上で、被告人は、本件事故当時、A船の針路上に浮かんでいる人が存在し得ることを具体的に予見することができ、A船の針路前方左右の見張りを厳に行い、安全を確認して航行していれば、被害者らを発見して停止や航路の変更の措置を講じて、被害者らとの衝突を回避することができたと認められ、被告人がA船の針路前方左右の見張りを怠っ たこと以外に、被告人が被害者らを発見できなかった原因は考えられないから、被告人には、針路前方左右の見張りを厳に行い、その安全を確認しながら航行すべき業務上の注意義務を怠った過失があるとした。 第3 当裁判所の判断以上のような原判決の判断は、論理則、経験則等に照らし、証拠評価に看過できない誤りがあり、客観証拠と整合しない認定事実を基礎とするもので不合理といわざるを得ず、是認することができない。 以下、その理由を説明する。 1 原判決の認定事実等について被告人に過失が認められるかに当たっては、本件衝突地点を含む本件事故現場付近の状況を前提として、被告人の置かれた立場及びA船から被害者らの視認状況等を検討する必要があるため、まず、これらに関わる原判決の認定事実等について所論を踏まえ検討することとする。 (1) 本件衝突地点についてまず、原判決は、前記原判決の認定事実(6)において、北緯37度28分49.27秒、東経140度1分58.05秒「付近」を本件事故の衝突地点と認定している。 所論は、被害者らの浮遊場所について原判決が依拠したeの指示説明位置の信用性を基礎付ける事実は明らかにされておらず、関係者の指示説明はそれぞれ異なる地点を示しており、その間の距離は最大50.098m 所論は、被害者らの浮遊場所について原判決が依拠したeの指示説明位置の信用性を基礎付ける事実は明らかにされておらず、関係者の指示説明はそれぞれ異なる地点を示しており、その間の距離は最大50.098mに及んでいるのであって、視認可能性に大きな影響を与えるほどの幅がある旨主張し、これに対し、当審検察官は、eの年齢に照らして自らがいた場所を知覚・記憶・表現する能力に欠けるところはなく、bの遺体の発見地点や衝突の前後のA船の動きと被害者らの状況を客観的に目撃していたmや、衝突直後の状況を目撃し、そのときに被害者らがいた地点を述べるnが指示説明する本件事故時に被害者らがいた地点とはほぼ一致しており、幅を持ったものとし ても相当程度の確度でeの指示説明した地点に近い場所であると強く推認できると主張する。 この点について検討するに、本件において衝突地点に関わる証拠としては、被害者らの指示説明に依拠するものとして原審甲第5号証及び当審検第10号証が、A船及びB船の乗員の指示説明に依拠するものとして、原審甲第39、42及び45号証があり、それらの位置関係は、別表1座標一覧(図面1用)各記載のとおりであって、これを図示すると別紙図面1のとおりとなり、相当な幅がある。もっとも、別表1座標一覧(図面1用)の番号11及び12はbの遺体が発見された地点であって、湖水の流れの影響により本件事故後に位置が変わっているものと考えられるから、直ちに衝突地点を示すものとは考え難い。 原判決は、これらのうちeによる指示説明を採用しているが、その理由としては、bの遺体(下半身等)が発見された地点や、本件事故を間近で目撃したmが衝突地点として指示説明した地点とも非常に近接しているとする。 また、当審検察官も、本件衝突地点としてeの指示した地点が、他の証拠とほぼ合致し 半身等)が発見された地点や、本件事故を間近で目撃したmが衝突地点として指示説明した地点とも非常に近接しているとする。 また、当審検察官も、本件衝突地点としてeの指示した地点が、他の証拠とほぼ合致し、極めて近いことから、「付近」とは、相当程度の確度で、別紙図面1の番号5地点に近い場所であると強く推認できるとする。 確かに、eによる指示説明自体の信用性に格別疑わしいところは見当たらないものの、mと同様に本件事故を間近で目撃したn、本件事故前後の状況を間近で目撃したo、本件事故前後の状況を目撃したp、本件事故前の状況を目撃したh及び被害者らを本件事故に先立って湖水上に水上バイクから降ろした者の1人であるfの各指示説明の位置とは相応に異なっており、例えば、eとfの説明した地点では直線距離にして約26mの相違が、eとnの説明した地点のうち、水面から棒状のものが飛んだ場所として指示説明した地点では直線距離にして約23mの相違があるが(各地点の緯度経度から明らかな事実)、これらの者のそれぞれの指示説明にも格別疑わしいところは 見当たらない。また、cの原審公判供述によれば、被害者らは、搭乗待機中、自ら移動しようと思って移動したことはないものの、その影響が波や風によるかは明らかではないが、移動したことは否定していない。そして、A船が本件衝突地点を通過後は、引き波などの激しい水流が発生し、被害者らは巻き込まれている(原審弁32(本件事故に関する「船舶事故調査報告書」))。 この点については、原審弁第32号証を基に認定したものであるが、同書証は、以下の検討に当たっても参照することとなるところ、運輸安全委員会による事故調査結果を立証趣旨とする書証であって、令和2年9月6日に、運輸安全委員会が本件事故の調査を担当する主管調査官ほか2人の船舶事故調査官 に当たっても参照することとなるところ、運輸安全委員会による事故調査結果を立証趣旨とする書証であって、令和2年9月6日に、運輸安全委員会が本件事故の調査を担当する主管調査官ほか2人の船舶事故調査官を指名し、後日、2人の船舶事故調査官を指名した上で、令和3年8月26日までの事実調査結果に基づき、国土交通大臣に対して経過報告を行い、公表したものである。その調査結果の信用性については、船舶事故についての専門的知見を踏まえ、本件事故当時の写真や動画等の客観的な資料に基づき、あるいは、同調査官らによる実験結果に基づき作成されたものであって、公平性に疑念が生ずるような事情もうかがわれないのであるから、公判廷での反対尋問を経ていない供述に依拠する箇所や、原資料が明らかでない箇所等を除き、概ね信用できるものといえる。これらの事情を考慮に入れた上で、衝突地点や事故前後に被害者らがいた場所として指示説明されている場所、bの遺体のうち下半身が発見された場所が概ねeの指示説明する場所と近接していることからすると、eの指示説明に依拠して衝突場所を認定した原判決に誤りがあるとはいえないが、以下の検討においては、eの指示説明においても距離や位置関係を把握する上で目印となる何らかの物体と関連付けて説明されているわけではなく、本件衝突地点は本件ブイ列のいずれのブイからも一定の距離があるのであって、原判決も説示するように、湖上において衝突地点を正確に特定することが困難であることも踏まえると、所論が指摘するような50m近い幅があるとみることも一概には否定しきれず、本件衝 突地点がいう「付近」とは、十数mないし数十m規模での幅があり得ることに留意する必要がある(なお、原審弁第32号証には、被害者らが本件ブイの周囲に浮遊していたかのように認定されている部分があるが、 突地点がいう「付近」とは、十数mないし数十m規模での幅があり得ることに留意する必要がある(なお、原審弁第32号証には、被害者らが本件ブイの周囲に浮遊していたかのように認定されている部分があるが、A船が本件ブイに衝突していないことからすれば、少なくとも衝突時にはその場所に浮遊していたものではないことは明らかである。)。 (2) A船の航路についてA船のGPSプロッターには、本件事故当日の航跡の記録が存在していないところ、原判決は、前記原判決の認定事実(5)において、A船の本件事故に至るまでの経過を認定しているが、別紙図面2の番号10の地点において停泊状態となった後、船のエンジンを再始動した後、中田浜湖水浴場方向に針路をとり、概ね湾の中心くらいまで航行してから左転して湾外の方向に航行するつもりであったが、予定よりも手前で左転し本件事故現場の方向に針路をとったとするものの、A船の具体的な航路について、原判決がどのように認定したのかは判然としない。なお、原審弁第32号証によれば、停泊状態であってもA船は当初前進惰力を有していたというのであって、その位置が変わらないわけではない。もっとも、原判決は、結果回避可能性の判断において、A船は、マネキン発見地点を通過後、やや左に旋回しながら、本件衝突地点まで航行することになること、A船がマネキン発見地点付近から本件衝突地点まで航行するのに要する時間は約78秒であることを、被告人の3回目の再現状況(前記原判決の認定事実(8))を引いて説示しており、これに沿う航路を認定しているものともうかがわれる。 この点に関連して、当審検察官は、当審検第28号証の番号8(別紙図面2の番号11)付近で停泊していたことは認められるものの、A船の具体的な航路は特定できないとし、これに対し所論は、同 る。 この点に関連して、当審検察官は、当審検第28号証の番号8(別紙図面2の番号11)付近で停泊していたことは認められるものの、A船の具体的な航路は特定できないとし、これに対し所論は、同号証の番号7(別紙図面2の番号10)の頃には漂泊状態となっており、同号証の番号10(別紙図面2の番号13)の頃にはエンジンが再始動し、動力により走行していた、 加速を始めた約7秒後、約50m進んだ地点で既に被害者らと正対する位置関係となっていた可能性がある、座標軸については、一般的には相当程度信頼性があると思われるが、幅を持ったものといわざるを得ない、他方で、原審甲第72号証の航路再現は、停泊状態からエンジンを再始動して一気に加速して左転していった本件時とは速度も異なり、停泊もしないままに漫然と緩やかに航行したものであって、本件事故時とは付近の船舶等の航行状況も異なるのであるから本件事故時の航路を合理的に推定できるものではないなどと主張する。 しかしながら、証拠(原審甲37、当審検11及び28)によれば、A船に乗っていた者が撮影した画像データに記録が残る緯度経度は、別表2座標一覧(図面2用)の番号1ないし14のとおりであるところ、これを図示すると、別紙図面2のとおりとなる。そして、当審検第40号証によれば、これらの画像データの緯度経度は、猪苗代湖水上のような周囲に障害物がない状況であれば、誤差は数mで特定することができる一方で、画像ファイルの撮影日時については、撮影に利用されたスマートフォンのシャッターボタンが押された時刻ではなく、同ボタンが押された後、これに従ってスマートフォンが作動し、ファイルが作成され保存された時刻であるところ、ファイルの作成・保存等のスマートフォンの動作は様々な原因で遅くなることがあるとされる。こ 、同ボタンが押された後、これに従ってスマートフォンが作動し、ファイルが作成され保存された時刻であるところ、ファイルの作成・保存等のスマートフォンの動作は様々な原因で遅くなることがあるとされる。このことに、A船及びB船の乗員らの供述並びに当審検第12号証の画像等によればA船が本件桟橋から出航後、本件事故前に一時的に停泊状態となったことは明らかであることも踏まえると、その正確な撮影時刻はともかくとして、以下にみる点を除き、大まかな緯度経度については、概ね正確なものと考えられる。なお、被告人は、原審公判廷において、別紙図面2の番号9に写り込んでいる計器のうち速度についてのものが振り切れているのはエンジンが停止しているからである旨説明しており、これを排斥する証拠はない。 そうすると、A船は、本件桟橋から概ね別紙図面2の番号1ないし5の航路をたどった後、番号8ないし13付近に所在し、その頃(番号8及び9、12の動画及び被告人の原審公判供述によれば、これらの動画の撮影された時点では既にA船は停泊状態に至っていたと認められる。)、停泊状態となって、エンジンを再始動した後、再度航行したものと認められる。また、B船がA船の右舷側で並走状態となったとき、A船は停泊状態から発進して増速をしていたというのであるから(原審弁32。同書証は、この点について動画の音響解析という客観的な手法で認定するものであって十分に尊重に値する。)、番号11及び12の頃には停泊状態を脱したものと考えられる。もっとも、当審検察官が主張するとおり、番号6及び7については、その撮影時刻が番号8ないし12の位置と数秒しか違わないにもかかわらず、相当程度A船の座標が異なっており、また、A船はエンジン停止時、ほぼ漂泊状態に至るまでの間、前進惰力を有していた(原審弁32)とされ 影時刻が番号8ないし12の位置と数秒しか違わないにもかかわらず、相当程度A船の座標が異なっており、また、A船はエンジン停止時、ほぼ漂泊状態に至るまでの間、前進惰力を有していた(原審弁32)とされることとも移動経過がそぐわないため、これをそのままの時刻又は場所と判断することはできず、その動画内の諏訪神社側の岬及び材木山の写り方並びに水上バイクの動きからすると、番号6及び7は、番号8及び13と概ね隣接する時間及び場所で撮影されていると考えられる。また、番号8についても、写り込んでいる水上バイクの位置及び動きからすると、番号13の方が先に撮影されたものである可能性がある。他方、番号9及び10の時点でA船の船首は既に中田浜湖水浴場ないしやや材木山方向に向けられていることがうかがわれる。 そして、別紙図面2の番号9ないし13が、その番号順に航行した場合には、概ね原判決が認定した本件衝突地点方向の線分上にあることも併せ考慮すると、被告人が捜査段階及び原審公判廷において説明する、本件桟橋から出発し、①中田浜マリーナクラブハウス桟橋先端を避けて舵を切り、②中田浜湖水浴場に船首を向けて舵を切り、③材木山先端に船首を向けて舵を切り、④猪苗代湖北方向にある白い建物に船首を向けて舵を切ったという、左転し ながら緩やかなカーブを描いて航行していく別紙図面3のような航路をA船がたどったとは考え難い。また、被告人の捜査段階における再現は停泊状態における前進惰力によって移動していた部分の説明がなく、供述内容自体が実際のA船の動きとそぐわず、また、前記再現による航路は本件衝突地点を通らないから、これらの点でも採用し難い。停泊状態から再度航行し、本件事故に至るまでのA船の転把状況について、他にこれを確実なものとして認定することのできる証拠は見当たら による航路は本件衝突地点を通らないから、これらの点でも採用し難い。停泊状態から再度航行し、本件事故に至るまでのA船の転把状況について、他にこれを確実なものとして認定することのできる証拠は見当たらない。 そうすると、A船は、別紙図面2の番号9ないし13(及び8)から本件衝突地点方向に向かい、大きく舵を切ることなく航行した可能性が否定できないというべきである。そして、このことを踏まえた上で、被害者らと正対する位置関係となった時期についての当審弁護人の所論は、結果回避可能性を検討する中でみることとする。なお、当審検察官は、前記のとおり、当審において、A船が番号11付近で停泊していたことは認められるものの、その具体的な航路は特定できないと主張するところ、少なくとも、番号9ないし13及び8についてはその位置情報の正確性を直ちに否定できない客観証拠があるのであるから、刑事裁判において、確実な航路を特定できないことを被告人に不利に考慮することは許されないというべきであって、とりわけ、このような航路をたどった可能性があることは、後に見るA船からの視認状況との関係で被告人に不利に考慮することはできない。 (3) A船からの視認状況についてアさらに、原判決は、本件実況見分の信用性を基本的に認め、弁護人再現見分の信用性を否定し、本件衝突地点から直線距離で約223m離れたマネキン発見地点から、被害者らを発見することが可能であったことを強く推認させる旨を説示している。 所論は、本件実況見分につき、被害者らよりも著しく重量の軽いマネキンを用いた上で、マネキンの重量を上回る浮力を確保したライフジャケッ トを着用させており、その水面に浮いた見え方は本件時よりも被告人に不利であるし、実施された時期は本件事故から2か月以上経過し、 用いた上で、マネキンの重量を上回る浮力を確保したライフジャケッ トを着用させており、その水面に浮いた見え方は本件時よりも被告人に不利であるし、実施された時期は本件事故から2か月以上経過し、時間帯も数時間異なっていて、日の傾き方が異なるほか、風速も異なり、実施方法が不適切である、被告人の指示説明は、出航前にライフジャケットを着たマネキンを見た上で、マネキンを浮かせた旨の警察官の無線でのやり取りを湖上で聞き、見るべき方向を指示された上で、停泊状態で、指示された方向を5ないし10秒程度ジーっと見つめる方法で行われるなど、本来の船長の見張り行為と異なる態様で、特定の方向を指示して見つめさせ、色の識別についても誘導が行われているなど不適切である、他方、弁護人再現見分につき、できる限り本件事故当時の条件に合わせ、少なくとも被告人に殊更有利にならないような条件で実施したもので、その信用性は排斥できないはずである、湖面の見え方についても、fにおいて湖面がキラキラしていて子どもたちが見えなかったなどと述べられているなどと主張する。これに対し、当審検察官は、本件実況見分について、cの供述内容や本件事故当日に撮影された動画からすれば、水面上に出ていた部位の状態、水面の光の反射状況等、本件事故時と視認の難易への影響をうかがわせる差異はなく、当審検第30号証から認められる被告人の実際の指示説明状況からすれば、本件衝突地点から直線距離で約223m離れた地点からでも浮いているマネキンをその色まで視認することができている、弁護人再現見分については、原判決が指摘するように姿勢が異なるなど本件事故時よりも視認性が悪いなどと主張する。 そこで検討するに、離れた位置に所在するかもしれない湖水上の人物等の存在を認識するに当たっては、水面上にある対象の大 るように姿勢が異なるなど本件事故時よりも視認性が悪いなどと主張する。 そこで検討するに、離れた位置に所在するかもしれない湖水上の人物等の存在を認識するに当たっては、水面上にある対象の大きさ及び日照の変化や静謐さ等の湖面の状況を前提として周囲との色調の差異が極めて重要であることは明らかであって、水面からの当該人物等の高さや、着衣や頭髪の色、顔その他の肌を見るのか、頭髪を見るのか等の諸条件によってそ の認識可能な距離には変化があるものと考えられるところ、その変化の程度について立証はない。そして、本件実況見分は、見分に利用したマネキンが比重の関係で人間よりも頭頂部が高くなっている、すなわち、原審甲第47号証添付の写真番号49ないし54と、原審甲第59号証添付の写真番号2及び3を比較すると、マネキンはライフジャケットの胸上部と肩に加えて首、頭部が湖水上にあり、首がむき出しになって見えているものがあるが、人がライフジャケットを着用して湖水に入った場合には、首部分はライフジャケットに覆われており、それだけでも視認条件は相応に異なる。加えて、着衣の色が本件当時被害者らが着用していたものと異なること、背面を見るのと、正面を見るのとでは視認性に違いがあり得るところ、被害者らが本件時どの方向を向いていたかは特定できないのであるから、被告人にとって有利な方向、すなわち、視認がしにくい向きであったとしても視認できることの立証が必要であること、実施時刻や時期により太陽光の照射角度が異なり、視認方向や背景となる樹木等も併せると湖水の色味も異なって見え得るところ、本件事故時と本件実況見分時の差異が有する視認状況への影響の度合いの違いについて立証がないこと、原審甲第59号証及び当審検第30号証を精査しても、本件実況見分時に、被告人において、 見え得るところ、本件事故時と本件実況見分時の差異が有する視認状況への影響の度合いの違いについて立証がないこと、原審甲第59号証及び当審検第30号証を精査しても、本件実況見分時に、被告人において、どのような距離に至ればどのような物体、すなわち、人その他のこれがどのような物体なのかを確認し、あるいは、衝突を避けなければならないような物体として認識し得た距離は明確ではないこと、原判決も指摘するように、当該方向を注視すれば湖面にマネキンが浮いているという前提知識のもと見分を行っていることからすると、約223mをもって被害者らを視認可能な距離であると認めることはできない。さらに、マネキンは湖面と頭部が垂直となる姿勢を概ね維持しているところ、被害者らは仰向けに浮くこともあった旨を述べており、頭部全体が湖面に対して常時垂直であったことを前提とすることは不当に被告人に不利である。 他方、原判決は、弁護人再現見分は、仮想被害者1人をcに見立てて浮かせただけであって、ライフジャケットの色が一色で周囲に浮かんでいる人がおらず、本件事故当時より視認性が悪い、仮想被害者の姿勢が仰向けに近い状態で見えづらかったなどとしてその信用性を排斥している。しかし、弁護人再現見分が殊更被告人に有利な虚偽の見分結果を報告しているなどと断ずるに足りる証拠は見当たらないところ、被害者らはそれぞれ一定の距離を取って本件衝突地点付近に滞留していたというのであるし、浮いている状態が1人の場合と複数の場合とでの視認状況の対照実験がされているわけではなく、また、弁護人再現見分では、被害者らのうち、最も水面からの可視部分が大きくなると考えられるcよりも更に身長の高い者を仮想cとして実験しているのであるからこれを不当ともいえない。そうすると、複数人を仮定して見分したからといって 害者らのうち、最も水面からの可視部分が大きくなると考えられるcよりも更に身長の高い者を仮想cとして実験しているのであるからこれを不当ともいえない。そうすると、複数人を仮定して見分したからといって、浮いている状態が大きな塊として見えるなどして視認がしやすくなるとも断じ難い。加えて、原審弁護人が指摘していたように、bは2軸の船のプロペラの両方に巻き込まれた(原審甲20、24)と考えられ、A船との関係で本件事故時に正対する位置にあったとうかがわれる一方で、c及びdがbと同時に巻き込まれたとは考え難く、本件事故時にA船が蛇行していたと認める証拠もないことからすると、c、d及びbはA船との関係では前方に点在する関係にあった可能性は否定し難く、そうしたときに、仮想被害者を1名としたからといって弁護人再現見分の視認状況が被告人に有意に有利であったとも断じ難い。仮想被害者の姿勢については、確かに、弁護人再現見分におけるそれは判然としないものの、前記のとおり被害者らは仰向けになることもあった旨を述べていることや、操船者が前方を注視するに当たっては一点を凝視することは想定し難く、被害者らが仰向けになって視認状況が悪化した場合と操船者の前方注視のタイミングが合ってしまった場合であってもなお被害者らが確実に発見できたかどうかが重要なのであるから(む しろ本件実況見分がより被告人に不利である)、約220mの距離では目標物を視認できず、約186m及び約121mの距離では、目標物の状態により差異はあれ、凝視することによって何かしらの小さなものが浮いているのが見えるにとどまるとの弁護人再現見分をたやすく排斥することはできないというべきである。なお、当審検察官は、本件時にA船やB船の乗員が撮影した写真等に写り込んでいる浮遊物はその時刻及び位置関係からす 見えるにとどまるとの弁護人再現見分をたやすく排斥することはできないというべきである。なお、当審検察官は、本件時にA船やB船の乗員が撮影した写真等に写り込んでいる浮遊物はその時刻及び位置関係からすると被害者らであって、これが写真又は動画上確認できることを指摘し、所論は、これらの写真等についてその拡大処理のプロセスが明かされないまま不当に強調されたものである上、浮遊物が被害者らであるかも明らかでないと主張する。また、当審検察官は、画像は実物よりもはるかに縮小されたものであって、視認できないはずの物が視認できるように見えてしまうようなことはないと主張する。しかし、仮に、これらの写真や動画に被害者らが写り込んでいたとしても、記録された画像ないし映像と被告人の肉眼での見え方との同質性が立証されておらず、これをもって確たる視認距離を論ずることはできない(例えば、焦点距離の関係でみても当審検第28号証に添付された各写真は、肉眼による注視の場面よりも相当に広角であることがうかがわれる。)。また、当審検察官は被告人の視力につき原審弁第32号証を引用して裸眼2.0とするが、被告人は、原審乙第5号証によれば1.5か2.0はあると供述するものの、視力検査時期も不明でその値は明瞭ではない。 そうすると、本件事故当時、マネキン発見地点付近において、被告人が被害者らを発見することが可能であったことが相当強く推認されるとの原判決の判断は是認することができない。 イまた、原判決は、前記原判決の認定事実(3)イのとおり、A船の増速過程において死角が生じることを認定しているところ、原審弁第32号証によれば、船体縦傾斜角の上昇及び上下動の変化は加速度の違いによって異な ると考えられ、急な増速をするほど加速度が大きくなって船首部が大きく持ち上 ことを認定しているところ、原審弁第32号証によれば、船体縦傾斜角の上昇及び上下動の変化は加速度の違いによって異な ると考えられ、急な増速をするほど加速度が大きくなって船首部が大きく持ち上がり、船体縦傾斜角が大きくなり、死角の範囲が広くなるものと考えられるところ、本件における停泊時から本件事故に至るまでの具体的な加速度は不明といわざるを得ない。原審弁第32号証では、約7秒間で時速約16.7kmまで増速し、その間に約50mを進行したとの記載があるものの、これが本件時の増速過程を的確に表すものとも断じ難い。また、船体縦傾斜角は、A船がさらに増速すると減少し、船体が安定した状態で航行したとき、約10.3kn(時速約19.1km)でピークである約9.1度となり、約10.8kn(時速約20.0km)までは大きく、これを超える速力で安定した数値を示すようになること、約20kn(時速約37.0km)の速力で約6.4度、約25kn(時速約46.3km)の速力で約5.6度と減少していくとされているのであるから、原判決が、死角が最大となる時速を約16.7kmと認定したのは誤りであって、本件における訴因で特定されているA船の時速である約15ないし20km時にはより死角の範囲が広くなる可能性があることも踏まえる必要がある。なお、原審検察官は、原審裁判所及び原審弁護人との令和4年8月10日に行われた打合せの際に、死角が生じた後も、操縦席から立ち上がる等して、適切な見張りをすべきだったと考えていると述べているが、操船者からすれば、死角に入るまでに被害者らを発見できていなければそもそも被害者らが死角に入ったかどうかはわからない上に、被害者らが操縦席から死角に入った後に具体的にどのような行為をすれば被害者らを発見できたのかについては何ら主張立証がない。A できていなければそもそも被害者らが死角に入ったかどうかはわからない上に、被害者らが操縦席から死角に入った後に具体的にどのような行為をすれば被害者らを発見できたのかについては何ら主張立証がない。A船は操縦席に座席はあるものの、ハンドルと座席との間は狭く、完全に直立しながら操縦することは困難に見受けられることからすると(当審検11)、座位と立位とでさほど目線の位置は変わるようには見受けられず、操縦席での姿勢の差異による見え方の違いについても立証はない。 (4) 小括以上のとおりであって、被告人に過失が認められるかどうかを判断するに当たっては、①本件衝突地点は、十数mないし数十m規模での幅があり得ること、②A船は、本件桟橋から概ね別紙図面2の番号1ないし5の航路をたどった後、番号9ないし13(及び8)から本件衝突地点方向に向かい、大きく舵を切ることなく航行した可能性が否定できないこと、③A船からの視認状況については、本件事故当時、マネキン発見地点付近において、被告人が被害者らを発見することが可能であったことが相当強く推認されるとの原判決の判断は是認することができず、約220mの距離では目標物を視認できず、約186m及び約121mの距離では、目標物の状態により差異はあれ、凝視することによって何かしらの小さなものが浮いているのが見えるとの弁護人再現見分もたやすく排斥することはできないこと、また、死角についても、本件の増速過程を的確に認定するに足りる証拠がなく、死角の範囲も原判決が認定した内容よりも広く生じ得ることを考慮した上で検討する必要がある。 2 予見可能性について所論は、本件事故直前の本件事故現場付近を撮影した写真や動画からすれば、B船及びpらの水上オートバイ以外に、本件事故現場付近を航行する船 上で検討する必要がある。 2 予見可能性について所論は、本件事故直前の本件事故現場付近を撮影した写真や動画からすれば、B船及びpらの水上オートバイ以外に、本件事故現場付近を航行する船舶は皆無であり、トーイングスポーツに興じる者はいなかったと主張するが、水上バイクやトーイングボートが存在したことについては、c、q(dの母)及びfの供述(原審甲52、54及び55)に加えて、被告人の捜査段階供述(原審乙5)でも述べられており、所論を踏まえても、原判決が認定・説示した、本件事故現場が中田浜湾内であって、陸地からの距離も近いこと、本件事故当時、複数の水上バイクやトーイングボートが湾内を航行しており、人の落水も当然に想定され、本件事故現場が、湖上に浮かんでいる人の存在をおよそ想定できない水域であるとはいえないこと、さらに、被告人の中田浜湾内の多数回の航 行経験、本件事故現場に関する認識状況からすれば、原判決が、被告人も湖上に浮かんでいる人の存在を認識し得たとしたことについては、誤りはない。 したがって、注意義務の前提となる、被告人が、本件事故現場に向けて航行するに当たり、A船の針路上の湖上に浮かんでいる人が存在することの一定の予見が可能であって、人の存在を見落として航行することにより、長さ10. 77m、総トン数6.6tで、プロペラにより推進するA船が人に衝突すれば、人を死傷させることが予見できたとの認定についても誤りはない。 もっとも、次に、所論は、船長の見張りについては、見るべき、注視すべき対象物が事前に分かっている道路交通上の注意義務とは全く異なる作用であること、本件は、2台の水上オートバイが船舶航行区域又はその付近の遊泳が禁止されていた区域に、視認性の悪いライフジャケットを着せただけで同乗者らを水中に浮かせ、 通上の注意義務とは全く異なる作用であること、本件は、2台の水上オートバイが船舶航行区域又はその付近の遊泳が禁止されていた区域に、視認性の悪いライフジャケットを着せただけで同乗者らを水中に浮かせ、目印も見張りも置かずに現場を立ち去ったという第三者の行為が介在している事案であって、ここで問われる具体的な予見可能性の対象も、遊泳が禁止された船舶航行区域又はその付近で、見張りも置かず、ほとんど動きのない状態で子どもたちが浮いていることであるべき旨指摘する。 この点について検討するに、長年にわたり水上での豊富な操船や指導経験等を有するrの原審公判供述によれば、船舶航行区域やその近傍で人がほとんど動きもなく前に浮いているという事態は遭遇したことがない、操船に当たっての確認方法としては、両側120度くらいの間を確認し、進行方向のみならず、左右を含めてくまなく何度も確認する、どこか一点を凝視しながら運転することはなく、前方を幅広く視野に入れて、何か変わったものがないかを確認する、落水者の周りにはジェットがあるので寄らない、落ちたら落ちた人は落ちたなりの行動を取るし、落とした人は落としたなりの救助の行動を取る、というのである。このrの供述部分にその内容自体に疑わしいところはなく、水上での操船経験にも問題はないのであって、その信用性を否定すべき事情は見当たらない。そして、海上での遊泳の場合、水上オートバイ等の往来の可能性等から 遊泳区域の明示等がされた場所で行うよう指導されており、他方、水上オートバイについては、遊泳者等がいる海域では遊ばないこととされている(原審弁5、9)ように、水上オートバイや船舶等が行き交う水域では、遊泳その他危険回避ができない状態で滞留することは避けられるべき事態と考えられているとうかがわれることとも整合する。本件衝突 ている(原審弁5、9)ように、水上オートバイや船舶等が行き交う水域では、遊泳その他危険回避ができない状態で滞留することは避けられるべき事態と考えられているとうかがわれることとも整合する。本件衝突地点に十数mから数十m規模での幅があり得ることを踏まえても、いずれにせよ遊泳が禁止されている区域であって、湖水浴場として事実上利用されていたといった区域でもないのであるから、人が任意に遊泳したり、水中に滞留したりしていることは想定し難く(だからこそ、この場所に小型船舶操縦免許の教習目的で本件ブイ列が設置されていたとうかがえる。)、そのような場所に、人が、救助を求めるといった動作も、ザップボードへの搭乗待機前に所在していた人の存在を予想させ得る水上バイクやザップボード等が周囲に存在することもないままに滞留していることを想定することは相当に困難が伴うといわざるを得ない。 3 結果回避可能性について(1) 注意義務の内容についてア原判決が説示するように、法令上、小型船舶操縦者(船長)は、小型船舶を操縦するに当たり、視覚、聴覚及びそのときの状況に適した他のすべての手段により、常時適切な見張りを確保することが義務付けられ、小型船舶操縦士の教本においては、適切な見張りとは、航行中、停泊中、錨泊中を問わず行う、前方だけでなく全周にわたり行う、同乗者がいる場合には同乗者にも見張りを行わせるなどとされているのであって、被告人は、小型船舶であるA船に船長として乗り組み、猪苗代湖上において操船業務に従事していたのであるから、中田浜湾内を航行するに当たっては、常時適切な見張りを確保する義務を負っており、特に、人の存在が想定される水域を航行する際には、人と衝突する事故が発生する危険性が十分に認められるのであるから、針路上に浮遊物を発見した場合に っては、常時適切な見張りを確保する義務を負っており、特に、人の存在が想定される水域を航行する際には、人と衝突する事故が発生する危険性が十分に認められるのであるから、針路上に浮遊物を発見した場合には、人でないかを 確認すべき義務がある。 ただし、本件において訴因として特定され、原判決が罪となるべき事実として認定した注意義務は、被告人が、本件衝突地点付近の猪苗代湖上を時速約15ないし20kmで航行するに当たり、「針路前方左右の見張りを厳に行い、その安全を確認しながら航行すべき業務上の注意義務」であるから、前記のうち、同乗者によって見張りを行わせるべき義務を怠ったことは本件の過失を構成するものとはされていない。また、前記原判決の認定事実(3)イのとおり、A船は増速の過程においてハンプによって死角が生じるが、原審及び当審を通じて、検察官は、死角を低減させる措置を取らなかったとか、航路選択の誤りを訴因として主張しておらず、あくまで針路前方左右の見張りを厳に行うべき注視義務違反を主張するものである。 とりわけ、原審段階から、A船が増速の過程においてハンプすることから死角が生じる点を原審弁護人から再三指摘された中で、死角が生じることも前提として、死角自体を低減させる義務違反を主張するものではなく、あくまで前記の注視義務違反を本件の過失として構成してきた(原審検察官作成の「過失に関する主張について2」と題する書面、令和4年8月10日実施の打合せにおける原審検察官の発言)という本件の審理経過を踏まえると、本件において被告人の過失を判断するに当たっては、専ら前記の注視義務違反の有無、すなわち、針路前方左右を注視することによって結果回避が確実に可能であったかどうかを判断することとなる。なお、検察官は、当審において提出した意見書におい に当たっては、専ら前記の注視義務違反の有無、すなわち、針路前方左右を注視することによって結果回避が確実に可能であったかどうかを判断することとなる。なお、検察官は、当審において提出した意見書において、死角によって針路前方左右の安全を確認しながら航行することができないのであれば、それができるように、速度や針路を調整すべきことが船長に課せられた注意義務であると記載する箇所があるが、前記のとおり、注意義務として速度及び針路の調整は訴因とされていないし、そのような調整義務が発生する地点に関する具体的な主張が伴うものでもないから、この程度の主張では刑事裁判 における注意義務として不特定に過ぎ、その当否を検討すること自体できない。本件は、前記のとおり、人が、任意に遊泳したり、水中に滞留したりしていることは想定し難い場所に、救助を求めるといった動作も、ザップボードへの搭乗待機前に所在していた人の存在を予想させ得る水上バイクやザップボード等が周囲に存在することもないままに滞留していることを想定することは相当に困難が伴うことを勘案しなければならない事案であり、また、被告人の航路選択や増速過程においてそれ自体が直ちに不適切な方法であったと指摘できるような法規や慣習違反等も見当たらない事案でもあるから、仮に、被害者らが早期にA船からの死角に入ったことから発見できなかった場合であったとしても(そして、後記のとおりその可能性は否定できない。)、必ずしも被告人に何等かの注意義務違反があるとは限らないといわざるを得ない。 イまた、被告人が船長としてA船を操船して航行するに当たっては、操縦席から離席することは想定し難いから、被告人がA船の操縦席から、船長として通常要求される見張りを行った際に、被害者らを人その他の確認を要する浮遊物として認識することが して航行するに当たっては、操縦席から離席することは想定し難いから、被告人がA船の操縦席から、船長として通常要求される見張りを行った際に、被害者らを人その他の確認を要する浮遊物として認識することができたかどうかを検討する必要がある。 ウそして、被告人が前記の注視義務に違反したと評価するためには、前記のとおり、本件事故現場は、湖上に浮かんでいる人の存在をおよそ想定できない水域であるとはいえないものの、人が任意に遊泳したり、水中に滞留したりしていることは想定し難く、そのような場所に、人が、救助を求めるといった動作も、ザップボードへの搭乗待機前に所在していた人の存在を予想させ得る水上バイクやザップボード等が周囲に存在することもないままに滞留していることを想定することは相当に困難が伴うのであるから、このことを踏まえて要求される注視の在り方を果たしたときに、被告人において確実に結果回避が可能であったといえなければならない。 (2) 注意義務違反の有無について ア既にみたとおり、被告人が、マネキン発見地点付近において、被害者らを発見することが可能であったことが相当強く推認されるとの原判決の判断は是認することができず、本件において、死角の問題を措いたときに、A船から被害者らを人その他の確認を要する浮遊物として認識することが可能となるという意味での視認距離は明確ではない。 イもっとも、原判決は、マネキン発見地点付近においては被害者らを確実に発見することができたとまでは断定できないとしつつ、A船は、マネキン発見地点を通過後、やや左に旋回しながら、本件衝突地点まで航行することとなったが、しばらく停泊状態にあったことを考慮に入れると本件衝突地点まで航行するには長い時間を要するから、被害者らがA船がハンプすることにより死角に入るまでの ながら、本件衝突地点まで航行することとなったが、しばらく停泊状態にあったことを考慮に入れると本件衝突地点まで航行するには長い時間を要するから、被害者らがA船がハンプすることにより死角に入るまでの間に、被害者らがA船の船首方ではなく左前方にいたこと、時速13kmで航行している際に左前方約59.3m先に浮いたブイを視認することができていたことなどに照らし、被告人が常時適切な見張りを行っていれば被害者らを発見することは可能であった、とりわけ、A船が本件停泊地点において停泊しているときには死角はほとんど生じておらず、航行中と比べて見張りも容易であったのであるから、被告人が本件停泊地点において被害者らを発見することが可能であったとしているので、この判断について検討する。 この点に関連して、所論は、原判決は、できる限り客観的、科学的な方法を用いており信頼できる船舶事故調査報告書(原審弁32)によれば、A船がエンジンを再始動して約7秒後、約50m先の地点に到達した頃には既に被害者らは死角に入り視認不可能であったとされていることを不合理に排斥しており、エンジンを再始動し加速を開始した時点でA船と被害者らとの距離は190mも離れていなかった可能性がある以上、より早期に死角に入っていた可能性があるというべきである、被告人を立ち会わせた3回の航路再現(原審甲72)のうち、何回ブイを視認できたのかは明 らかでなく、ブイはcの頭幅よりも大きいのに、同乗していた警察官はブイを視認できておらず、録画した映像を分析しても4つあるはずのブイのうち3つは見えなかった上、航路再現時は本件事故時と速度が異なり死角の範囲も異なる、停泊時は被告人においてはエンジン不具合に対応しており、停泊時もA船は前進惰力で漂泊しており、そのままではコントロールを失うおそ なかった上、航路再現時は本件事故時と速度が異なり死角の範囲も異なる、停泊時は被告人においてはエンジン不具合に対応しており、停泊時もA船は前進惰力で漂泊しており、そのままではコントロールを失うおそれがあるのであるから、速やかにエンジンを再始動させて漂泊状態を解消すべき状況にあったのであって、約180ないし220m以上先の左側を注視すべき義務はなく、実際にも被告人はその作業を行いつつ、針路前方はもとより左右も含めくまなく全体を見渡して安全確認を行いながらA船を前進させている、漂泊状態にあったときに撮影された原審弁第10及び11号証その他の写真や動画等をみても被害者らを確実に発見できたとは考えられない、実際にも、本件事故現場付近にいた者の多くが被害者らを視認できておらず、捜査官も原審公判期日において現場では見えないと供述していた、同等の見張り義務を課せられたhが被害者らを視認できたからといって、被害者らの動きが目に入ったことや、B船がA船よりも格段に小さく死角の範囲も異なるという決定的な前提条件が異なるのであるから、被告人も視認できたことにはならない、などと主張する。これに対し、当審検察官は、本件実況見分が信用できることを前提として、マネキン発見地点から停泊地点までに要する時間は約20秒あり、その間に、被告人から見た被害者らの位置は、船首左側から左前方に移っていったのであって、それはまさに被告人が針路を取ろうとしている方向であるから、被害者らを十分に視認できたし、停泊状態となってから航行を再開するに当たり針路前方左右の見張りを厳に行おうとすればその暇は十二分にあり、そうしていれば一層明確に被害者らを視認でき、当審弁護人が指摘する前進惰力については、停泊中継続的に前進していた事実はないし、秒速2m程度の速度で前進していたとしても、そのた その暇は十二分にあり、そうしていれば一層明確に被害者らを視認でき、当審弁護人が指摘する前進惰力については、停泊中継続的に前進していた事実はないし、秒速2m程度の速度で前進していたとしても、そのために被害者らを視認 することに支障が生じたとは認められない上、航行開始後もA船は速度を上げつつ左に舵を切りながら本件衝突地点に至ったのであるから、このときにもさらに一定の時間、被害者らをより近くで認識することが可能であった、船舶事故調査報告書(原審弁32)は、前提とする航路を異にするものであるから、所論が主張する時点で被害者らが死角に入ったことはない、航路再現時に被告人の目線の高さに設置されて撮影されたビデオカメラ映像(原審甲72)によれば、航路再現時に原判決が説示したブイを視認できたことは明らかであるし、所論が指摘する警察官は見分官として乗船していたものであり、船長ではないから見張り義務はなかったし、見分の目的はA船からの視認状況でもないから、ブイを視認できるか否かをその場で確認したものでもないから影響しない、原審弁第10号証及び11号証は、実物よりもはるかに縮小されたものであるからこれらをもって視認できないこととはならない、当審弁護人が指摘するh以外の者のうちには船長又はこれと同等の立場で見張りをし、本件衝突地点を航行しようとしていた者はいなかったのであるから、これを注視していた者もおらず、hのみが被害者らに気が付いたのは、hのみが船長の立場で見張りをし、本件衝突地点を注視していたために過ぎない、などと主張する。 ウまず、原判決が、A船が、マネキン発見地点を通過後、やや左に旋回しながら、本件衝突地点まで航行したと認定したことは是認することができない。既にみたとおり、A船は、本件桟橋から概ね別紙図面2の番号1ないし5の航路 、A船が、マネキン発見地点を通過後、やや左に旋回しながら、本件衝突地点まで航行したと認定したことは是認することができない。既にみたとおり、A船は、本件桟橋から概ね別紙図面2の番号1ないし5の航路をたどった後、番号9ないし13(及び8)から本件衝突地点方向に向かい、大きく舵を切ることなく航行した可能性が否定できないのであって、その間、一時停泊状態となったが、番号11及び12の頃には停泊状態を脱したものと推認される。そして、原判決も認定するとおり、A船は、増速の過程において死角が生じ、操縦席から最も死角が大きくなる方向は、正船首方の見通し線から左舷方向約4.6度の方向であり、時 速約16.7kmの場合には、約480mより手前の水面が死角となり、操縦席から正船首方を真っ直ぐ見た時でも、約190mより手前の水面が死角となる(死角が最大となる時速約19.1kmの場合にはより長くなる。)というのである。なお、この死角は原審弁第32号証に基づいて認定されるものであるが、これはあくまで操船者の視線がA船の舳先を経て水面に接するまでの数値であって、被害者らの頭部等が水面から出ている高さによって死角となる範囲は異なってくるし、操縦席における姿勢(目線の高さ)によっても異なり得るとも考えられるものの、検察官は原審及び当審を通じて死角の範囲について追加の立証をしないというのであるから、これらが異なる程度は不明であるといわざるを得ず、証拠に基づかずに被告人に不利な認定をすることはできない。 このことに、原判決が認定した衝突場所「付近」には、十数mから数十m規模の幅があり得ることを併せ考慮すると、A船が停泊後、再度エンジンを始動して航行を開始して以降の針路においては、被害者らは、A船からみると死角の範囲が大きくなる正船首方からやや左舷方向に位 数十m規模の幅があり得ることを併せ考慮すると、A船が停泊後、再度エンジンを始動して航行を開始して以降の針路においては、被害者らは、A船からみると死角の範囲が大きくなる正船首方からやや左舷方向に位置していた可能性が否定できない。 したがって、原判決が、被害者らがA船の死角に入るまでの間に、被害者らがA船の船首方ではなく左前方にいた事実を認めた点は是認することができない。 エ次に、原判決が、とりわけ、A船が本件停泊地点において停泊していた際には被害者らを発見することが可能であったとする点についてみるに、A船は、別紙図面2の番号9ないし12付近において停泊していた時期があったと考えられるものの、既にみたとおり、番号11及び12の頃には停泊状態を脱したものと推認される。停泊している間、船長である被告人は、エンジンの再始動の作業を行っているのであり、また、A船は、停泊当初は前進惰力を有していたものの、その後ほぼ漂泊状態に至った(原審 弁32)というのであるから、直ちに自船が移動することによって周囲に危険を及ぼすような状況にはなく、むしろ、他船等との衝突回避や自船のコントロールを確保するためにはエンジンを始動していることが必要であるから、その作業に注力することもやむを得ず、航行を開始するまでの間にその後の針路を殊更に注視することは期待できないというべきである。 他方、前記番号9ないし12付近あるいはその更に南西側の位置からエンジンの再始動に成功して航行を開始するに当たっては針路前方左右を十分に注視すべきとはいえるものの、番号9の位置から本件衝突地点である別紙図面1の番号5の位置までは直線距離にして約213m、番号10の位置からは約207.7m、番号11の位置からは約192.9m、番号12の位置からでも約192.2mある上 置から本件衝突地点である別紙図面1の番号5の位置までは直線距離にして約213m、番号10の位置からは約207.7m、番号11の位置からは約192.9m、番号12の位置からでも約192.2mある上に(いずれも緯度経度から明らかな事実)、前記のとおり、本件衝突地点の位置は十数mから数十m規模の幅があり得ること、約223mをもって被害者らを視認可能な距離であると認めることは困難であって、むしろ、約220mの距離では目標物を視認できず、約186m及び約121mの距離では凝視することによって何かしらの小さなものが浮いているのが見えるという弁護人再現見分をたやすく排斥することもできないことからすると、前記航行を開始するに当たって被告人が被害者らを間違いなく視認できたともいえない。前進惰力を有して移動していたことを踏まえると、停泊状態にあっても、被害者らからはより遠くにA船が所在していた可能性は否定できず、この観点からも被告人が被害者らを間違いなく視認できたとはいえない。そして、航行を開始した後はいずれかの時点で直線距離上は視認が可能となることは明らかであるものの、A船は増速過程において死角が大きくなるところ、本件での増速過程は明らかでない。原審弁第32号証において、実走試験を行った際の測定データによれば、前進惰力約4knの状態から約9kn(時速約16.7km)まで増速した際、約7秒を要し、その航走距離は約50 mであったというのであるが、本件時のA船の実際の移動状況、すなわち本件事故時のA船の実際の増速の度合い、さらにいえば本件事故時の正確な航行速度が立証されていないことに照らして、その航行距離が適切なものであるかには疑問が残り、より早期に死角が長くなっている可能性も排斥しきれない。 そして、ここでいう注視とは、既にみたとおり、本 な航行速度が立証されていないことに照らして、その航行距離が適切なものであるかには疑問が残り、より早期に死角が長くなっている可能性も排斥しきれない。 そして、ここでいう注視とは、既にみたとおり、本件事故現場は、湖上に浮かんでいる人の存在をおよそ想定できない水域であるとはいえないものの、他方で、人が任意に遊泳したり、水中に滞留したりしていることは想定し難く、そのような場所に、人が、救助を求める動作をすることも、ザップボードへの搭乗待機前に所在していた人の存在を予想させ得る水上バイクやザップボード等が周囲に存在することもないままに滞留していることを想定することは相当に困難が伴うのであるから、このことを踏まえて要求される対象物の認識の在り方であって、被害者らが所在するかもしれない一地点を凝視するといったものではない。rが原審公判廷において、どこか一点を凝視しながら運転することはなく、近いところと遠いところで動く物体が目に留まったら、近いところのものを優先して注視することとなるなどと説明しているように、操船者に対して、遠いところで動かない物体のある地点を凝視することを求めることは困難であって、本件事故時は、猪苗代湖上には、水上バイクやトーイングボート等が存在し、A船の近傍には注視を要する現に動いている物体が複数あったのであるからなおさらである。さらに、本件時は平均風速が約4.6m毎秒(最大瞬間風速が約7.3m毎秒)であり、さざ波が生じていたようであるし(原審弁32)、水上バイク等の通った後にも白波が立つ様子が見て取れる(当審検28)ことから、白波や湖面に反射した太陽光との区別もできなくてはならない(原審甲55。なお、湖面の状態に関する関係者の供述は必ずしも一様ではないし、同乗者が撮影した短時間の動画や写真から操船者にお ける視認 や湖面に反射した太陽光との区別もできなくてはならない(原審甲55。なお、湖面の状態に関する関係者の供述は必ずしも一様ではないし、同乗者が撮影した短時間の動画や写真から操船者にお ける視認状況への影響を認定することも困難である。)。また、A船からの死角となる距離は、停止時においては最大でも約19mであるが、増速過程における時速約16.7kmの際には、正船首方を真っ直ぐ見たときと左舷方約4.6度では約290mもの差異があり、時速によってはより大きくなり得、停止時との差異は約461mあるように、航行速度、船体縦傾斜角によって大きな差異があるのであって(原審弁32)、わずかな航行方向のずれであっても操船者が当該方向を見るタイミングによってどの範囲が死角となるかは大きく異なることになる。 そうすると、被告人が本件衝突地点方向を注視したとしても、A船が、十数mから数十m規模の幅がある本件衝突地点との直線距離が約192ないし213mある前記番号9ないし12(ただし、番号11及び12については既に増速過程にあった可能性がある。)の位置から本件衝突地点方向に大きく舵を切ることなく航行した場合において、被害者らがA船の操縦席からの死角に入るまでの間に、被告人が被害者らを確実に発見することができたと間違いなく認めることは困難であるといわざるを得ない。 オまた、証拠上認められる、A船が停泊状態に至った後、エンジンを再始動して航行を開始するまでの間に被害者らと最も接近した位置は、別紙図面2の番号11及び12の位置付近(ただしその頃停泊状態を脱していたと考えられるからこれよりも手前になる。)と考えられるところ、番号11及び12と別紙図面1の番号5との直線距離は約192mである。そして、ほぼ漂泊状態に至るまではエンジン停止後も前進惰力によっ いたと考えられるからこれよりも手前になる。)と考えられるところ、番号11及び12と別紙図面1の番号5との直線距離は約192mである。そして、ほぼ漂泊状態に至るまではエンジン停止後も前進惰力によって移動していたことからすると、停泊状態となった時点では直線距離は更に伸びることとなる。そうすると、視認距離について既にみたところと、被告人に要求することができる注視の程度、本件衝突地点について十数mから数十m規模の幅があり得ることも踏まえると、A船が、本件桟橋を出発してから、停泊状態に至るまでの間に、被告人において被害者らを確実に発見で きたと認めることもまた困難である。 カ以上のとおりであって、原判決は、マネキン発見地点から、被害者らがA船の死角に入るまでの間には相当長い時間があり、その間、被告人が、常時適切な見張りを行っていれば、被害者らを発見することは可能であった、とりわけ、停泊時には死角はほとんど生じておらず、航行中と比べて前方左右の見張りも容易であったとするが、前記のとおり、停泊状態にあった時点あるいはそれに至るまでの間に被告人が前方左右を注視しても被害者らを確実に発見できたとは認められないし、停泊状態を脱した頃である別紙図面2の番号11及び12から本件衝突地点までの直線距離は約192mであって、その時点で被害者らを確実に発見できたともいえない。本件事故後、A船が出航した中田浜マリーナに戻ったoの水上バイクが同マリーナに設置されている防犯カメラに写り込み始める時刻が10時58分27秒頃であることと、停泊状態にあった頃の写真がいずれも10時58分頃であったこと、撮影時刻には誤差が生じ得るとされているものの、その明確な誤差の程度は明らかでなく、別々の携帯電話機で撮影されながら概ね近い時刻を示していることからすると、これら ずれも10時58分頃であったこと、撮影時刻には誤差が生じ得るとされているものの、その明確な誤差の程度は明らかでなく、別々の携帯電話機で撮影されながら概ね近い時刻を示していることからすると、これらが全て大きく異なる時間であったとは考えにくく、少なくともこれを殊更被告人に不利益に考えることはできないことからすれば、停泊状態を脱してから本件事故までの時間はごく短かったものと推認され、このことからすると、停泊状態を脱する頃からその数秒後には被害者らはA船から死角に入っていた可能性が否定できず、他方で、それまでの間に被告人に要求される注視の在り方で前方左右を注視していたとしても、被害者らを確実に発見できたとは認められない。原判決は、被告人と同等の見張り義務を課せられたhが被害者らを視認でき、かつ、衝突を回避する行動を取れたことから、被告人においても被害者らを視認できたことをより強く推認させるともいうが、当審弁護人が指摘するとおり、A船とB船は異なる船体であって増速過程にお ける死角の範囲が同様とは限らない上に、本件事故当時にたどった航路及び増速状況も同一とは考えられないのであるから、B船を操船していたhが被害者らを視認することができたからといって、被告人において被害者らを確実に発見することができたとの事実を推認することはできない。また、このほかに本件事故に至るまでの過程で、被告人において、前方左右を注視することによって被害者らを確実に発見することができたと主張され、あるいはこれが証拠上うかがわれる場面はない。 キそうすると、被告人が本件時、A船に船長として乗り組み、本件衝突地点付近の猪苗代湖上を北東に向けて時速約15ないし20kmで航行するに当たり、針路前方左右の見張りを厳に行い、安全を確認しながら航行したとしても、本件事故に 時、A船に船長として乗り組み、本件衝突地点付近の猪苗代湖上を北東に向けて時速約15ないし20kmで航行するに当たり、針路前方左右の見張りを厳に行い、安全を確認しながら航行したとしても、本件事故に至るまでの間に、被害者らを発見することができず、本件事故を回避することができなかった具体的な可能性を否定することはできないといわざるを得ず、被告人に過失を認めることはできない。 4 結論以上のとおりであって、原判決は、視認距離に関する証拠評価について誤りがあり、A船の航路について客観証拠と整合しない認定をした結果、被告人の過失について事実を誤認するに至ったものであり、この点が判決に影響を及ぼすことは明らかである。 事実誤認の論旨は理由がある。 第4 破棄・自判よって、量刑不当の論旨について判断するまでもなく、刑訴法397条1項、382条により原判決を破棄し、同法400条ただし書を適用して当裁判所において更に判決する。 なお、本件実況見分は、その条件において被告人に不利なものとなっている上、A船と視認対象物との距離に応じて見え方の変化を見分するものとはなっておらず、これらの点について本件時と同様の条件を設定した上で改めてA船 の操縦席からの視認距離を算出し、湖面から頭部等が出ていることを踏まえたA船の操縦席からの死角の範囲を算出した上で、A船が本件桟橋を出航した後、本件事故に至る過程において、被告人が通常尽くすべき注視をしていたとしたら被害者らを発見することができたかについて更に立証を追加することや、被害者らが、A船の操縦席から視認できる距離に至るまでに死角に入ってしまうのであれば、死角低減義務違反や適切な航路設定義務違反等を訴因として構成することも全く考えられないわけではない。しかし、本件実況見分 らが、A船の操縦席から視認できる距離に至るまでに死角に入ってしまうのであれば、死角低減義務違反や適切な航路設定義務違反等を訴因として構成することも全く考えられないわけではない。しかし、本件実況見分の条件設定が被告人に不利なものであることや、死角についての追加立証の有無、死角低減義務違反を訴因とするかどうかは、原審時から原審弁護人が指摘をしてきたにもかかわらず、一貫して検察官はこれらの点について追加立証や主張を行わない旨を明確にしてきたものであって、また、これらを追加したからといって必ずしも異なる判断に至るともいえない。すなわち、本件が、人が任意に遊泳したり、水中に滞留したりしていることは想定し難い場所に、救助を求めるといった動作も、ザップボードへの搭乗待機前に所在していた人の存在を予想させ得る水上バイクやザップボード等が周囲に存在することもないままに滞留していることを想定することは相当に困難が伴うことを勘案しなければならない事案であって、また、被告人の航路選択や増速過程においてそれ自体が直ちに不適切な方法であったと指摘できるような法規や慣習違反等も見当たらない事案でもあるから、仮に、被害者らが早期にA船からの死角に入ったことから発見できなかった場合であったとしても、必ずしも被告人に何等かの注意義務違反があるとは限らないといわざるを得ないことは既にみたとおりである。このような経過や見込みからすれば、本件事案の重大性に鑑みたとしても、当審において裁判所から探索的に検察官に追加の主張立証を求めることは公正に悖るものであって不適切といわざるを得ず、これらの追加立証の検討のために原審に差し戻すことも適切とは考えられないから自判することとした次第である。 本件公訴事実の要旨は、前記原判決が認定した罪となるべき事実のとおりで ある これらの追加立証の検討のために原審に差し戻すことも適切とは考えられないから自判することとした次第である。 本件公訴事実の要旨は、前記原判決が認定した罪となるべき事実のとおりで あるところ、既に説示したとおり、被告人に過失を認めるには合理的な疑いが残るので、本件公訴事実については犯罪の証明がないことになるから、刑訴法336条により、被告人に対し無罪の言渡しをする。 令和6年12月16日仙台高等裁判所第1刑事部 裁判長裁判官渡英敬 裁判官柴田雅司 裁判官鏡味薫

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