- 1 - 主文 本件控訴を棄却する。 当審における未決勾留日数中150日を原判決の刑に算入する。 理由 本件控訴の趣意は、弁護人籔根壮一作成の控訴趣意書(別紙を除く。)及び補充書の各記載を引用する。 1 原判決が認定した罪となるべき事実の概要は、被告人が、当時の内閣総理大臣Aの近くで爆発物を爆発させれば、世間に注目され、選挙制度に関する自らの主張を広く知ってもらえるなどと考え、①令和4年11月頃から翌年4月15日頃までの間、兵庫県川西市所在の被告人方又はその周辺において、㋐法定の除外事由がなく、無許可で黒色火薬約564g を、㋑人の身体を害する目的で爆発物1個を、㋒同目的で爆発物1個をそれぞれ製造し(原判示第1 の1 ないし3)、②令和5年4月15日午前11時27分頃、和歌山市所在のB漁業協同組合南東方約100m 先で、衆議院小選挙区和歌山県第1区選出議員補欠選挙の立候補者C(当時57 歳)主催の街頭演説会が開催された際、応援演説に訪れていたA前総理(当時65 歳)とその近くにいたC、聴衆エリア内にいたD(当時70 歳の男性漁師)及びE(警備に当たっていた当時33歳の男性警察官)が死亡するに至るかもしれないことを認識しながら、前記①㋑の爆発物の導火線に点火し、CやA前総理の付近に投げて爆発させ、Cに演説会の中止を余儀なくさせて、公職の候補者及び選挙運動者に暴行を加えるとともに選挙の自由を妨害し、かつ、人の身体を害する目的で爆発物を使用したが、Dに加療約1週間の、Eに全治約2週間の各傷害を負わせたにとどまり、A前総理らの殺害に至らず(原判示第2)、③前記②の日時場所において、爆発物1個(前記①㋒)及び黒色火薬約4g を所持し、包丁1本(刃体長約13.4 ㎝)を携帯した(原判示第3 の1 ないし3)と A前総理らの殺害に至らず(原判示第2)、③前記②の日時場所において、爆発物1個(前記①㋒)及び黒色火薬約4g を所持し、包丁1本(刃体長約13.4 ㎝)を携帯した(原判示第3 の1 ないし3)というものである。 原審の公判前整理手続では、被告人が、前記①の火薬及び爆発物2個(以下、前記①㋑の爆発物を「使用爆発物」といい、㋒の爆発物と併せて「本件爆発物」という。)- 2 -を製造し、同②の日時場所で爆発物を投げて爆発させ、これにより街頭演説会が妨害され、2名が傷害を負ったこと、同③の爆発物等を所持・携帯したことは争いがなく、争点は、概要、爆発物の製造、使用及び所持に関する身体加害目的と殺意の有無、選挙運動としての街頭演説会が行われていた認識の有無と整理された(原審第4 回公判期日において、被告人は公職選挙法違反の事実を認める旨を述べ、原審弁護人も争わない旨陳述したため、同法違反に係る争点はなくなった。)。 原判決は、爆発物の製造等に係る身体加害目的及び未必的殺意を認め、原判示のとおり各事実を認定して、被告人を懲役10年に処した(付加刑として証拠物の没収。 求刑・懲役15 年及び没収)。 2 法令適用の誤りの控訴趣意について論旨は、原判決が「法令の適用」欄で適用した各罰条を定める法令及び条項につき、①火薬類取締法、爆発物取締罰則及び銃砲刀剣類所持等取締法は、いずれも火薬類、爆発物及び銃砲刀剣類の製造、所持、使用を制限することによって私人の所有権を侵害するものであり、憲法29条1 項に反する、②公職選挙法は、被選挙権を一定の年齢に達した者にしか認めていないが、これは議院の構成及び議員の資格に関する憲法43条1項、44条ただし書に反する、③殺人未遂の成否を検討するには、裁判所が被告人の殺意の有無を審理することになるが、これは被告人の思 しか認めていないが、これは議院の構成及び議員の資格に関する憲法43条1項、44条ただし書に反する、③殺人未遂の成否を検討するには、裁判所が被告人の殺意の有無を審理することになるが、これは被告人の思想・信条の自由を詮索、侵害することにつながるから、刑法203条(199 条)は憲法19条に違反するとし、いずれも違憲無効であるから、原判示の各行為は犯罪に当たらないのに、無効な罰条を適用して被告人を有罪とした原判決には、法令適用の誤りがある旨主張する。 しかし、火薬類取締法、爆発物取締罰則及び銃砲刀剣類所持等取締法は、火薬類、爆発物、銃砲刀剣類がそれぞれ有する危険性に鑑み、これらの製造、所持、使用等を規制することにより国民の生命・身体・財産や公共の安全等を保護するなどの目的によって制定されたものであり、各法令の規定に照らしても憲法29条1項に違反しない。また、被選挙権年齢を定めた公職選挙法10条1項の合憲性は、原判決が原判示第2の行為中、選挙の自由妨害の点につき適用した同法225条1号・2号の合憲性と関係がなく、殺人(未遂)における殺意の有無は、行為者の事実認識に関する事柄- 3 -であり、その者の思想・信条を詮索するわけではないから、憲法違反の主張はいずれも前提を欠く。所論は独自の見解であり、採用し難く、論旨は理由がない。 3 事実誤認の控訴趣意について⑴ 論旨は、要するに、被告人には、爆発物の製造等に関して身体加害目的はなく、殺意もなかったのに、これらを認め、原判示第1の2、3の爆発物製造、同第2の爆発物使用及び殺人未遂並びに同第3の1の爆発物所持の各事実を認定した原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があると主張する。 ⑵ 原判決は、本件爆発物の構造と爆発機序(鋼管製パイプニップル(ねじ込み式管継手)に黒色火薬を詰 発物所持の各事実を認定した原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があると主張する。 ⑵ 原判決は、本件爆発物の構造と爆発機序(鋼管製パイプニップル(ねじ込み式管継手)に黒色火薬を詰め、両端ねじ切り部分にシールテープを巻いて鋳鉄製キャップを閉め、密閉したものであり、導火線に点火すると黒色火薬に火が付いて、ガス等による容器内の圧力が高まり、容器の強度が耐えられなくなると弱い部分が壊れて爆発し、パイプニップル、キャップ又はこれらの破片が高速度で周囲に飛散する。)、使用爆発物の再現品による実験結果等から、本件爆発物は、爆発時に発生した金属片等が相当離れた場所まで殺傷能力を維持したまま飛散する威力・性能を有するものであったと認めた上、本件爆発物の爆発により生じる現象は、爆発物の構造自体から常識的に考えて容易に想像でき、自ら情報を集めて同爆発物を製造し、爆発の基本的仕組みも理解していた被告人において、その認識を欠いていたとは考えられないとした。 そして、原判決は、被告人が、導火線に火を付けた爆発物を要人のそばに投げ込む計画をして、本件爆発物を製造し、実際に多数の者が集まる場で計画を実行しており、このような態様で同爆発物を使用すれば、金属片等が人のいる方向へ飛散し、けがを負わせ得ることはもとより、飛散の仕方によっては人体の枢要部に命中することも十分あり得、その結果、人を死亡させる可能性が高いことも常識的に考えて容易に分かるから、被告人も当然認識していたはずであるとし、危険はないと思っていたなどの被告人の原審供述を排斥して、被告人が、身体加害目的により爆発物の製造、使用及び所持を行い、未必的殺意をもった爆発物の使用に及んだと認めた(「争点に対する判断」2、3)。 - 4 -⑶ 原審記録を調査し検討すると、原判決の認定・判断は、正 目的により爆発物の製造、使用及び所持を行い、未必的殺意をもった爆発物の使用に及んだと認めた(「争点に対する判断」2、3)。 - 4 -⑶ 原審記録を調査し検討すると、原判決の認定・判断は、正当として是認することができる。 ア所論は、次の諸点を指摘し、原判決の認定の誤りを主張する。 ① 被告人が本件以前に本件爆発物と同様の爆発物を作成して行った実験では、パイプニップルが上に飛んだだけであったため、被告人は、本件爆発物が爆発しても、人の身体を傷付けたり死亡させたりする結果を惹起する可能性に思い至ることがなかった。 ② 本件爆発物は導火線の着火から爆発まで1分程度を要するため、被告人は、同爆発物を投げ込んでから爆発までに周囲の者が退避すると考えていたし、A前総理の周辺は多数の警護官が警備しており、不審物が投げ込まれればすぐ発見され、速やかな退避が指示されることは容易に想定されたから、使用爆発物の爆発までに退避できると認識していた。そもそも、被告人は、公職選挙法の在り方について社会全体に問題を提起するため、自らの主張を多くの人に知ってもらおうと意図しただけで、周囲の者の生命身体に危害を及ぼすことを望んでいなかった。 イ本件爆発物の構造や爆発時の威力等は、原判決認定のとおり(「争点に対する判断」2⑴)である。 また、関係証拠(F(警察庁科学警察研究所技官)の原審証言、原審甲251・252・254)により補足すると、㋐被告人が投げた使用爆発物は、自民党職員の足元、A前総理から約1m の地点に落ちるなどしたが、その周囲には、当時、A前総理のほか、内閣総理大臣秘書官、警護官、漁港組合長、市議会議員、自民党職員、県議会議員、衆議院議員、和歌山市長、候補者ら合計14名がおり、演説会場には少なくとも一般聴衆181名(聴衆エリア内に158 名 ほか、内閣総理大臣秘書官、警護官、漁港組合長、市議会議員、自民党職員、県議会議員、衆議院議員、和歌山市長、候補者ら合計14名がおり、演説会場には少なくとも一般聴衆181名(聴衆エリア内に158 名、同エリア外の屋内に18 名、屋外に5 名)と選挙運動員やマスコミ関係者がいたこと、㋑使用爆発物は、被告人が投げ込んでから約52秒後に爆発したこと、㋒使用爆発物の構成品うち、パイプニップル(長さ約15 ㎝、直径約34 ㎜、重さ330.4g)は、爆発地点から39.73m 離れた東側倉庫壁面(高さ3.2m)に当たって壁面を凹損させ、その場所から約5.2m 離れた生けすの上のネットに落ち、鋳鉄製キャップの一部の金属片(重さ- 5 -75.6g)は爆発地点から60.55m 離れた演説会場南東のコンテナ壁面に刺さった状態で、キャップの一部の金属片やもう一方のキャップ(重さ129.9g)が演説会場内等でそれぞれ発見されたこと、㋓使用爆発物の再現品による威力実験では、その破片が9㎜厚のベニア板を貫通し、殺傷能力を示すとされるエネルギー量(弾丸による殺傷能力は20J/㎠であり、4 ㎜厚のベニア板2 枚を貫通するエネルギーと同等とされる。)を超えるものと評価されたことが認められる。 そして、被告人の原審供述によれば、被告人は、インターネット等で得た知識を基に黒色火薬や爆発物を製造し、原判示第2の犯行前、本件爆発物と同等の爆発物1個を作って、自宅付近の山林で実際に爆発させる実験をし、その際、大きな音や多くの煙が出て、パイプがマンション2階くらいの高さまで上がったというのであり、これに、原判示第2の犯行の際、被告人は、爆発したときのことを考え、背負ったリュックサック内に鉄板(約30cm 四方、厚さ約3.1mm、重量約2.2kg のもの。原審甲258)を入れて本 のであり、これに、原判示第2の犯行の際、被告人は、爆発したときのことを考え、背負ったリュックサック内に鉄板(約30cm 四方、厚さ約3.1mm、重量約2.2kg のもの。原審甲258)を入れて本件爆発物を運んだ上、一般聴衆の中に紛れ、使用爆発物に点火して演台の方に投げ込んだ後、A前総理がいた近くに落ちた様子を確認したこと(被告人の原審供述、原審甲251)を併せれば、原判決が説示したとおり、被告人自身、使用爆発物が爆発した際の威力や危険性だけではなく、爆発により人を死傷させる可能性が高かったことは十分認識していたものと認められる。 ウ所論についてみると、事前に行った実験時の様子に関する被告人の原審供述を前提としても、前記のような威力を体感しながら、爆発後はその場所周辺を見た程度でパイプ等の行方や状態等を確認したわけではないし、本件爆発物に点火して投げ込んでしまえば、被告人にはその爆発を制御する方法はない。①の指摘は、単に被告人の想像力の欠如を示すものにすぎない。 また、②につき、使用爆発物の爆発まで約52秒を要したことは前記のとおりである。他方、関係証拠によれば(原審甲251)、使用爆発物の落下直後にA前総理が退避したのは、警護官のとっさの判断と行動の結果であったこと、現場にいた聴衆や関係者の中には、被告人が取り押えられた状況や使用爆発物から発せられた煙に注意や関心が移り、爆音がして初めて爆発物が爆発したと気付いた者がいたこと- 6 -が認められる。そして、当時の聴衆の主な関心は、応援演説に訪れたA前総理にあり、使用爆発物が投げ込まれたのは一瞬の出来事であったことも併せると、現場周囲にいた者の速やかな退避が期待される状況にはなかったといえ、多くの聴衆に紛れて犯行に及び、更に2個目の爆発物に点火しようとしていた被告人が、その周囲 のは一瞬の出来事であったことも併せると、現場周囲にいた者の速やかな退避が期待される状況にはなかったといえ、多くの聴衆に紛れて犯行に及び、更に2個目の爆発物に点火しようとしていた被告人が、その周囲の状況を認識していなかったとは認め難く、被告人の犯行動機と本件爆発物の爆発による危険性の認識は矛盾するものでもない。所論はいずれも採用することができない。 ⑷ 以上のとおり、身体加害目的による爆発物の製造等及び未必的殺意を認めて、これに反する被告人の原審供述を排斥し、原判示の各事実を認定した原判決は正当であり、不合理な点はなく、事実誤認はない。論旨は理由がない。 なお、原判示第1の1の事実は、被告人方で発見された黒色火薬(瓶入りのもの26.035g とビニール袋入りのもの534.003g、合計560.038g。㋐)及び被告人がリュックサック内の小瓶に入れ所持していた同火薬(4.018g、㋑)の合計約564g の製造に係るものであり(捜査報告書(原審甲258)添付の資料12「該当罪名について」)、原判決は、同事実の証拠として、原判示の事実全部の証拠(被告人の公判供述及び各犯行場所の特定等に関する捜査報告書(原審甲247))に加え、黒色火薬の重量、製造時期の特定等に関する捜査報告書(原審甲253。㋒)を挙げた。 しかし、㋐と㋑の火薬が同じ時期及び場所で製造されたものかどうかは、㋒のみでは直ちに明らかとならず、被告人が所持していた爆発物等の形状等を立証趣旨とし、公訴事実別も㋒と同様の捜査報告書(原審甲258。㋓)を併せ、㋐と㋑の原料の重量比が同じであることを示すべきであるから、原判決の証拠の摘示の在り方は適切ではない。もっとも、被告人は、原審において、原判示第1の1の事実を認め、本件爆発物に開けた穴からこぼれたときの補充用として㋑の火薬を持っていた を示すべきであるから、原判決の証拠の摘示の在り方は適切ではない。もっとも、被告人は、原審において、原判示第1の1の事実を認め、本件爆発物に開けた穴からこぼれたときの補充用として㋑の火薬を持っていた旨を述べており、この自白は㋒による補強があるとみ得るし、原判決は、原判示第3の2(㋑の所持)の事実に関して㋒及び㋓の各証拠を掲げ、㋑の火薬が㋐と同じ時期及び場所で製造されたことは実質的に示されているから、前記の不備は判決に影響しない。 - 7 - 4 よって、刑訴法396条により本件控訴を棄却し、刑法21条及び刑訴法181条1項ただし書をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。 令和7年9月25日大阪高等裁判所第3刑事部裁判長裁判官石川恭司裁判官渡部五郎裁判官國分進
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