- 1 -平成19年㨯第238号薬事法違反被告事件主文被告人を懲役1年に処する。 この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,富山県内に本店を置き,動物用医薬品等の製造,医薬品等の販売等の事業を営むa株式会社の取締役として同社の業務全般を統括していた者であるが,同社代表取締役Aと共謀の上,同社の業務に関し,薬局開設者又は医薬品の販売業の許可を受けないで,かつ,法定の除外事由がないのに,業として, 平成17年4月28日,名古屋市内のb動物病院院長Bこと有限会社b’代表取締役Bに対し,農林水産大臣の製造承認を受けていない医薬品であるモノクローナル抗体を主剤とする犬血液型判定薬等血液型判定用具セット1組を同社から宅配便で送付し,同月29日ころ,Bに到達させ,代金3万円で販売し, 同年5月6日,宮城県内のc動物病院ことCに対し,上記セット1組を同様に送付し,同月7日ころ,Cに到達させ,代金2万4400円で販売し, 同月16日,三重県内のd動物病院ことDに対し,上記セット1組を同様に送付し,同月17日ころ,Dに到達させ,代金2万4400円で販売し,- 2 -もって,製造販売の承認を受けていない医薬品を無許可で業として販売したものである。 (事実認定の補足説明)第1販売した血液検査キットの成分弁護人は,a株式会社(以下「a社」という。)が販売していたのは,ポリクローナル抗体による判定薬であった可能性が高く,製造販売の承認を受けていないモノクローナル抗体による判定薬を販売したことが証明されていない旨主張する。 しかし,関係証拠によれば,a社は,動物用医薬品「ブルワン」,「ブルニャン」の製造販売の承認を受けていたが,いずれもポリクローナル抗体を主剤とする血液型判定薬であったと 明されていない旨主張する。 しかし,関係証拠によれば,a社は,動物用医薬品「ブルワン」,「ブルニャン」の製造販売の承認を受けていたが,いずれもポリクローナル抗体を主剤とする血液型判定薬であったところ,a社内で,Eは製造部のF部長から,モノクローナル抗体しか製造したことがない旨聞いたこと,平成14年4月ころから行われた獣医師らに対する実演会や営業活動では,モノクローナル抗体を使ったと説明され,受託検査委託契約書にも,モノクローナル抗体を提供する旨の記載があること,平成17年10月及び11月の薬事法69条に基づく立入検査において収去された犬用血液型判定用具セットには,モノクローナル抗体と記載されていたこと等が認められる。さらに,被告人も,a社ではポリクローナル抗体を製造する技術者がおらず,モノクローナル抗体を主剤とする血液型判定薬を製造していた旨一貫して述べている。これらを併せ考えれば,a社の販売した血液型判定- 3 -薬がモノクローナル抗体を主剤とすることは,優に認定することができる。 第2共謀の成否 弁護人は,被告人はa社の経営を統括する地位にはなく,利得も得ていない上,正犯意思がないから,共謀共同正犯は成立しない旨主張し,被告人も,これに沿う供述をするので,以下,補足して説明する。 関係証拠によれば,次の各事実が認められる。 Aは,かねて株式会社eを経営し,被告人は,平成7年ころ同社に就職した。しかし,Aが私文書偽造等の事件で服役したため,同社は,平成9年ころ倒産して休眠状態になった。その後出所したAは,平成12年3月,被告人と共に同社の事業を再開することになり,a社に商号変更し,被告人も,代表取締役に就任し(平成15年4月退任した。),経営資金を調達した。そして,Aは,a社の社主としてその経営を全面的に掌握し,全従業 共に同社の事業を再開することになり,a社に商号変更し,被告人も,代表取締役に就任し(平成15年4月退任した。),経営資金を調達した。そして,Aは,a社の社主としてその経営を全面的に掌握し,全従業員に対して逐一業務報告を要求していたが,平成14年11月には代表取締役に就任した。一方,被告人は,獣医師免許を有し,a社の製造管理者を務め,最古参の幹部として末端の従業員とは違う立場であった。 ところで,a社は,モノクローナル抗体を使った血液型判定事業を展開することにし,平成13年春ころから,動物病院にダイレクトメールを送って受託検査業務の取引を勧誘した。Aは,同年11月ころ,動物病院に血液型判定薬を販売する方法として,受託検査業務を動物病院に委託するように仮装するという手段を思い付き,その旨の契約書ひな型を作成させ,- 4 -営業方針を決定する会議を何度も開いた。他方,被告人は,その会議に参加し,平成14年春ころには,Aから「血液事業部総括,取締役部長」兼「f動物血液協会事務局長」の肩書きを与えられ,電話等による営業活動のほか,クロスマッチキット,卓上型遠心分離器,マイクロチューブの開発等も担当していた。 それから,Aは,営業部に同年6月1日付で上記契約書による営業方針を指示したので,被告人も,同年夏ころ,a社の営業担当者と共に各地を回って血液型判定等の実演をするなど,売り込みの営業活動を行った。その結果,a社は,上記契約書を交した動物病院の院長・獣医師から電話やファックスで注文を受けると,血液型判定キットを製造した上,宅配便で発送して販売するようになった。その際,被告人は,血液型判定用抗体製造に関する責任者としてその依頼書に確認の決裁をする地位にあった。 なお,被告人は,平成17年4月の現場審査や同年10月の立入検査等では製造管理者・製 うになった。その際,被告人は,血液型判定用抗体製造に関する責任者としてその依頼書に確認の決裁をする地位にあった。 なお,被告人は,平成17年4月の現場審査や同年10月の立入検査等では製造管理者・製造部部長として薬事監視員に対応し,説明を行ったほか,Aから命じられた口裏合わせにも応じた。 これらの事情を総合すれば,被告人は,a社の業務統括者の一人であり,名目的な取締役ではなかったことが認められる。また,本件医薬品無許可販売業及び未承認医薬品の製造販売について,被告人がAとの間で共謀をした事実も十分に認められる。 これに対し,弁護人は,a社の権限は全てAが独占し,被告人は血液型- 5 -判定事業や血液型判定キットの販売について何らの権限もなかったこと,a社では株主総会や取締役会は一度も開催されていないこと,被告人が血液型判定事業に関与していたのは平成14年春ころのみで,同年秋以降は関与していないこと,被告人は受託検査委託契約書の作成に関与していないことから,被告人はa社の経営を統括する地位にはないと主張する。確かに,Aは,「ワンマン」といわれるほどa社で圧倒的な権限を有していたことが明らかであり,被告人も,Aとの関係では,その意向に逆らわず,指示に従っていた。しかしながら,被告人は,a社の主要な役職に就き,最古参の幹部として他の従業員を指揮する立場にあったと認められる。のみならず,被告人は,製造(例えば,マイクロチューブの開発や製造依頼確認の決裁),営業(例えば,動物病院に対する売り込み),行政庁との対応等,a社の業務全般について積極的に関与し,本件においても重要な役割を果たしている。したがって,被告人とAとの間で本件の共謀が成立したことは,優に認定することができる。 また,弁護人は,被告人の役員報酬は常勤の取締役の中ではむしろ少額 与し,本件においても重要な役割を果たしている。したがって,被告人とAとの間で本件の共謀が成立したことは,優に認定することができる。 また,弁護人は,被告人の役員報酬は常勤の取締役の中ではむしろ少額であり,本件犯行によって何らの利得も得ていないと主張する。しかし,被告人は,a社から月額にして平成16年度が30万円,平成17年度が50万円,本件で逮捕された平成19年も45ないし50万円を支給されていたことが認められ,その地位に相応する比較的高額な収入を得ていたといえる。 - 6 -さらに,弁護人は,被告人はa社に対する総額2500万円の貸金の返済が受けられなくなることを恐れ,嫌がらせを受けながらも,仕方なくa社に在籍していたにすぎないから,正犯意思はない旨主張する。しかし,上記のような被告人のa社内での地位の高さ,本件における役割の重要性等に照らせば,被告人の正犯意思は十分に推認することができる。しかも,被告人は,血液型判定事業の違法性を十分に認識しながら,これに参加したのであるから,たとえ下位者である被告人が上位者であるAに対し受託検査の委託業務について反対意見を具申して一応は抵抗したとしても,共謀の成立を否定する事情にはならない。 なお,弁護人は,被告人の共謀と販売との因果関係もないというが,一般に会社組織の内部では,共謀の内容となる合意が徐々に形成されるので,本件のように,特定の日時,場所における謀議行為として把握することができない事案も少なくないから,被告人の共謀と本件無許可販売業等との因果関係については,必ずしも明確な立証を要するものではないというべきである。 そうすると,被告人は,a社における業務統括者として本件に深く関与していたことが明白であるから,Aとの共謀は十分に認められる。したがって,被告人に共謀共同正犯が成 のではないというべきである。 そうすると,被告人は,a社における業務統括者として本件に深く関与していたことが明白であるから,Aとの共謀は十分に認められる。したがって,被告人に共謀共同正犯が成立することは明らかである。 (法令の適用)被告人の判示所為のうち,医薬品無許可販売業の点は包括して刑法60条,- 7 -薬事法84条5号,24条1項に,未承認医薬品の製造販売の点は包括して刑法60条,薬事法84条3号,14条1項にそれぞれ該当するところ,これは1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,刑法54条1項前段,10条により犯情の重い医薬品無許可販売業罪の刑で処断することとし,所定刑中懲役刑を選択し,その所定刑期の範囲内で被告人を懲役1年に処し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予することとする。(求刑懲役1年)平成20年3月26日富山地方裁判所刑事部裁判官手﨑政人
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