平成31年1月31日判決言渡同日原本交付裁判所書記官平成29年(ワ)第34450号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成30年11月15日判決 原 告生活地図株式会社 上記訴訟代理人弁護士服部 誠同藤松 文同松本卓也 上記補佐人弁理士蟹田昌之 被告ヤフー株式会社 上記訴訟代理人弁護士大野聖二 同木村広行同祝谷和宏 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告に対し,1億円及びこれに対する平成29年10月18日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 事案の概要 本件は,発明の名称を「住宅地図」とする特許権(第3799107号)について特許権者から専用実施権の設定を受けた原告が,被告が制作し,インターネット上でユーザに利用させている別紙物件目録記載の電子地図は前記特許権の請求項1の発明の技術的範囲に属すると主張して,被告に対し,民法709条に基づく損害賠償金(一部請求)及び遅延損害金の支払いを求める事案である。 2 前提事実(後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)原告は,情報処理サービス業,情報提供サービス業等を業とする株式会社である。(弁論の全趣旨)被告は,検索連動型広告やディス 前提事実(後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)原告は,情報処理サービス業,情報提供サービス業等を業とする株式会社である。(弁論の全趣旨)被告は,検索連動型広告やディスプレイ広告等の広告関連サービス等を業とする株式会社である。(争いがない) 原告は,以下の特許権(以下,「本件特許権」といい,その特許を「本件特許」という。)について,特許権者(有限会社エン企画)から,平成22年9月7日に専用実施権の設定を受けた。(争いがない)特許番号特許第3799107号発明の名称住宅地図 出願日平成8年10月15日登録日平成18年4月28日本件特許権の特許請求の範囲の請求項1の記載は以下のとおりである(争いがない。以下,請求項1に記載された発明を「本件発明」という。また,本件特許権に係る明細書及び図面を「本件明細書」と総称する。)。 「住宅地図において,検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載すると共に,縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた地図を構成し,該地図を記載した各ページを適宜に分割して区画化し,付属として索引欄を設け,該索引欄に前記地図に記載の全ての住宅建物の所在する番地 を前記地図上における前記住宅建物の記載ページ及び記載区画の記号番号と 一覧的に対応させて掲載した,ことを特徴とする住宅地図。」本件発明は,以下のとおり,分説することができる(以下,分説された構成要件の符号に従い,「構成要件A」などと表記する。)。(争いがない)A 住宅地図において,B 検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物につい とができる(以下,分説された構成要件の符号に従い,「構成要件A」などと表記する。)。(争いがない)A 住宅地図において,B 検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物につい ては居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載すると共に,C 縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた地図を構成し,D 該地図を記載した各ページを適宜に分割して区画化し,E 付属として索引欄を設け, F 該索引欄に前記地図に記載の全ての住宅建物の所在する番地を前記地図上における前記住宅建物の記載ページ及び記載区画の記号番号と一覧的に対応させて掲載した,G ことを特徴とする住宅地図。 被告は,遅くとも平成22年5月までに,ユーザの端末にインストールされ ているWebブラウザを介してユーザ端末のディスプレイに地図を表示できるようにしたプログラム(以下,このプログラムを「被告地図プログラム」といい,被告地図プログラムによってユーザ端末のディスプレイに表示された地図を「被告地図」という。)を製作し,被告地図プログラムを,インターネット上において,無料でユーザが利用できる状態にしている。(争いがない) 被告地図プログラムの構成は,別紙「被告地図プログラムの構成(分説)」記載のとおりである。(弁論の全趣旨)被告地図は,縮尺レベルが1から20の20段階に分かれており,縮尺レベル20が最も詳細な(縮尺率が小さい)地図で,縮尺レベル1が最も広域な(縮尺率が大きい)地図である。各縮尺レベルに応じて,地図用のデータが存在し ている。(乙1,弁論の全趣旨) 被告地図において住宅や建物の輪郭が記載されているのは縮尺レベル19及び20の地図であり,原告は,縮尺レベル19及び20 て,地図用のデータが存在し ている。(乙1,弁論の全趣旨) 被告地図において住宅や建物の輪郭が記載されているのは縮尺レベル19及び20の地図であり,原告は,縮尺レベル19及び20の被告地図が本件発明の技術的範囲に属すると主張している。(乙1,弁論の全趣旨) 3 争点 表示された被告地図についての文言侵害の有無(主位的主張)(争点1)ア 「住宅地図」(構成要件A及びG)の充足性(争点1-1)イ 「住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載」(構成要件B)の充足性(争点1-2)ウ 「縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた地図」(構成要件C)の充足性(争点 1-3)エ 「該地図を記載した各ページを適宜に分割して区画化し」(構成要件D)の充足性(争点1-4)オ 「索引欄」(構成要件E)の充足性(争点1-5)カ 「該索引欄に前記地図に記載の全ての住宅建物の所在する番地を前記地図 上における前記住宅建物の記載ページ及び記載区画の記号番号と一覧的に対応させて掲載した」(構成要件F)の充足性(争点1-6) 被告地図プログラムの構成によってユーザ端末のディスプレイに表示された被告地図について 示された被告地図について てユーザ端末のディスプレイに表示された被告地図についての均等侵害の有無(予備的主張)(争点2) 被告による被告地図の「使用」,「生産」(特許法2条3項1号)の有無又は被告地図プログラムの製造の「そのものの生産にのみ用いる物の生産」(特許法 101条1項)該当性(争点3) 本件特許が特許無効審判により無効にされるべきものか(争点4)ア明確性要件違反の有無(争点 そのものの生産にのみ用いる物の生産」(特許法 101条1項)該当性(争点3) 本件特許が特許無効審判により無効にされるべきものか(争点4)ア明確性要件違反の有無(争点4-1)イ本件特許出願前に頒布された刊行物(乙9。以下「乙9刊行物」という。)に記載された発明(以下「乙9発明」という。)に基づく新規性・進歩性欠如の有無(争点4-2) ウ本件特許出願前に公然実施されていた発明(乙12ないし15。以下「本件公然実施発明」という。)に基づく新規性・進歩性欠如の有無(争点4-3)エ本件特許出願前に頒布された刊行物(乙10。以下「乙10刊行物」という。)に記載された発明(以下「乙10発明」という。)に基づく新規性・進歩性欠如の有無(争点4-4) オ本件特許出願前に頒布された刊行物(乙11。以下「乙11刊行物」という。)に記載された発明(以下「乙11発明」という。)に基づく新規性・進歩性欠如の有無(争点4-5)損害発生の有無及びその額(争点5) 4 争点に対する当事者の主張 によってユーザ端末のディスプレイに表示された被告地図についての文言侵害の有無(主位的主張)(争点1)ア 「住宅地図」(構成要件A及びG)の充足性(争点1-1)(原告の主張)被告地図は,電子地図であるが,「住宅地図」(構成要件A及びG)に該当 する。 構成要件A及びGの「住宅地図」には,紙媒体の地図に限らず,電子地図も含まれる。構成要件Aの文言は「住宅地図において」であり,紙媒体の住宅地図に限定しておらず,本件明細書の段落【0017】及び【0039】において電子地図が開示されていることから,電子地図である被告地図が上 記「住宅地図」に含まれることは明らかである。 住宅地図に限定しておらず,本件明細書の段落【0017】及び【0039】において電子地図が開示されていることから,電子地図である被告地図が上 記「住宅地図」に含まれることは明らかである。 被告は,本件明細書に本件発明の課題として従来は地図の大型化や大冊化を招いていたという点が記載されていることから,住宅地図に電子地図は含まれないと主張するが,電子地図であっても,地図の大型化や大冊化を招くと結果として当該電子地図が表示されるユーザのディスプレイのような限られた画面において視野が狭くなるという問題が生じるのであって,地図の 大型化や大冊化という課題は紙媒体の住宅地図に限定された課題ではない。 (被告の主張)「地図」とは,「地表の諸物体・現象を,一定の約束に従って縮尺し,記号・文字を用いて平面上に表現した図」を意味する。被告地図プログラムはユーザの端末にインストールされているWebブラウザを通じて,ユーザ端 末のディスプレイに地図を表示できるようにしたプログラムであり,そのプログラム自体は平面上に表現した図ではないから本件発明の「地図」に該当しない。 本件発明は,従来は「地図の大型化や大冊化を招」いていたところ(段落【0005】),「縮尺率が高く小型」など特徴を有する住宅地図を提供する ものであるとされている。被告地図プログラムはプログラムであって,このような「地図の大型化や大冊化を招」くこととは無関係である。また,本件特許出願日当時,一般的な電子地図は自由に拡大縮小ができたのであるから地図が大型化するという問題は生じないし,視野が狭くなるという問題はディスプレイが小型化したことによる結果である。したがって,被告地図は, 本件発明の課題との関係においても「地図」に該当 から地図が大型化するという問題は生じないし,視野が狭くなるという問題はディスプレイが小型化したことによる結果である。したがって,被告地図は, 本件発明の課題との関係においても「地図」に該当する余地がない。 イ 「住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載」(構成要件B)の充足性(争点1-2)(原告の主張)被告地図においては,一般住宅等の居住人氏名や建物名称が省略され,住 宅建物及び建物の輪郭,丁目,番及び号が記載されており,「住宅及び建物の ポリゴンと番地のみを記載」(構成要件B)を充足する。 被告地図においては,一部の一般住宅,建物名称等が省略されておらず,また,建物の輪郭,丁目,番及び号以外の記載もある。しかし,本件明細書の記載に照らしても,構成要件Bにおいて,建物名称等が省略されるか否かは目的とする建物を探し出す過程で必要な情報に該当するかどうかが重要 なのであり,被告地図において建物名称等の記載が省略されていない建物は,いずれも,ユーザにより,目的とする建物を探し出すための目安となる建物である。また,構成要件Bは,一般住宅及び建物について住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載するという限定を定めているもので,地図上に「住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載する」ことを定めているわけではな い。そうすると,被告地図は,「住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載」(構成要件B)している。 (被告の主張) 被告地図には,アパート等の一般住宅の名称,一般的な建物の名称,一般的な建物に所在する企業等の名称が省略されずに記載されているもの があるから,本件発明の「一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し」を充足しない。 原告は,目的とする建物を探し出すための目安 業等の名称が省略されずに記載されているもの があるから,本件発明の「一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し」を充足しない。 原告は,目的とする建物を探し出すための目安となる建物であれば「検索の目安となる公共施設や著名ビル等」に該当すると主張するが,これは,構成要件Bの文言において,明確に「公共施設や著名ビル等」と「一般住 宅及び建物」とを区別しているにもかかわらず,一般的な建物であるアパートが「一般住宅及び建物」には該当せず,「公共施設や著名ビル等」に該当することを主張するものであり,構成要件の文言からかけ離れた解釈である。また,一般に,地図においては目的とする建物の付近の建物全てが当該目的とする建物を探し出すための目安になり,地図上の全ての建物が 目的とする建物になり得るのであるから,原告の前記解釈によれば「検索 の目安となる公共施設や著名ビル等」とは地図上の全ての建物をいうことになるところ,被告地図は,一部の一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略しているのであるから,原告の前記解釈によれば,構成要件Bを充足しない。 被告地図には,住宅及び建物の輪郭,丁目,番及び号のほかに,コンビ ニのマーク,学校のプール,バス停,一方通行表示,信号機,交差点名などの様々な情報が記載されているから,構成要件Bの「住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載する」を充足しない。 ウ 「縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた地図」(構成要件C)の充足性(争点1-3) (原告の主張)被告地図は,縮尺レベル19では,概ね縮尺1/1250(4/5000)から1/2857程度の縮尺率であり,縮尺レベル20では,概ね縮尺1/615(3.25/2000)程度の縮尺率である。 の主張)被告地図は,縮尺レベル19では,概ね縮尺1/1250(4/5000)から1/2857程度の縮尺率であり,縮尺レベル20では,概ね縮尺1/615(3.25/2000)程度の縮尺率である。 構成要件Cは,「縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた地図を構成し」と記 載されており,文言上,縮尺率は限定されていない。そして,本件明細書の記載(段落【0002】,【0007】,【0011】,【0030】及び【0039】)に照らせば,本件発明は,建物表示に住所番地だけではなく居住者氏名も全て併記されていたために一軒ごとの建物の記載スペースを大きくする必要があった従来の地図から,検索の目安となる公共施設や著名ビル等を 除く一般住宅及び建物については,居住人氏名や建物名称の記載を省略することで,住宅地図上の一軒ごとの建物の記載スペースを番地が判読できる程度にまで圧縮することを可能とした発明である。このような本件発明の技術的意義に照らせば,構成要件Cは,構成要件Bの「検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称 の記載を省略し住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載すると共に,」と の構成と,構成要件Cの前半部分の「縮尺を圧縮して」との構成を採用することにより,構成要件Cの後半部分の「広い鳥瞰性」を備えることを可能としているものであることが理解できる。したがって,構成要件Cの「縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた地図」とは,検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については,居住人氏名や建物名称の記載を 省略し,住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載することで,目的とする建物を探し出すことができるという効果を奏することができる縮尺率をいうと解すべきである。 被 居住人氏名や建物名称の記載を 省略し,住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載することで,目的とする建物を探し出すことができるという効果を奏することができる縮尺率をいうと解すべきである。 被告地図の前記の縮尺率は,いずれも「検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を 省略し住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載することで,目的とする建物を探し出すことができる縮尺率」に該当する。したがって,被告地図の前記縮尺率は,構成要件Cを充足する。 被告は,構成要件Cの「縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた地図」とは少なくとも縮尺率が1/5000よりも高い地図を意味すると主張して,本件 明細書の記載を指摘するが,本件明細書の段落【0002】に記載された1000分の1から1500分の1の大きさという縮尺は従来の市街地区域の一般的な縮尺を示したものにすぎず,本件明細書は,具体的な数値を掲げて縮尺率を限定してはいない。 (被告の主張) 本件特許の拒絶査定不服審判における原告の審判請求書の記載や,本件明細書の記載(段落【0002】,【0010】,【0017】及び【0030】)に照らせば,「縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた地図」とは,少なくとも縮尺率が1/5000よりも高い地図を意味すると解される。そして,被告地図の縮尺率は,従来の地図との比較で全く圧縮されておらず,鳥瞰性も損な っているのであるから,被告地図は「縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた地 図」という文言を充足しない。 原告は,構成要件Cについて,一般住宅及び建物について住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載し,目的とする建物を探し出すことができる程度に縮尺率を圧縮することで,鳥瞰性を備えた縮 言を充足しない。 原告は,構成要件Cについて,一般住宅及び建物について住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載し,目的とする建物を探し出すことができる程度に縮尺率を圧縮することで,鳥瞰性を備えた縮尺率の地図を意味すると主張するところ,「縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた」との文言から,「目的と する建物を探し出すことができる程度に」という解釈を導き出せるものではなく文言解釈の域を超えている。また,本件発明の作用効果として,目的とする建物を探し出すことができることが開示されているとしても,それをもって「目的とする建物を探し出すことができる程度」であれば十分であるという解釈にはならない。 エ 「該地図を記載した各ページを適宜に分割して区画化し」(構成要件D)の充足性(争点1-4)(原告の主張)構成要件Dの「ページ」とは住宅地図の全部又は一部を表示した部分をいい,縮尺レベル19の地図用のデータ及び縮尺レベル20の地図用のデ ータは,構成要件Dの「ページ」といえる。 「ページ」は紙媒体に限られない。本件明細書(段落【0017】)では,住宅地図のページの一例として図1が示され,図1の(1),(2)等の括弧つきの番号がページに該当することが記載されるとともに,図1の地図データは電子住宅地図であることが記載されていること,IT用語におけ る「ページング」とは,「仮想記憶(仮想メモリ)の方式の一つで,メモリ領域をページと呼ばれる一定の大きさの領域に分割し,物理的なアドレス(番地)とは別に仮想的なアドレスを割り当てて管理する方式」をいうとされていること,本件特許の出願日より前に出願された公開特許公報において「URL連動方式とは,WWWのページの識別子であるURLを利用 して」という記載があり,ページが紙媒体に限 式」をいうとされていること,本件特許の出願日より前に出願された公開特許公報において「URL連動方式とは,WWWのページの識別子であるURLを利用 して」という記載があり,ページが紙媒体に限られていないことなどが記 載されている。 本件明細書の記載(段落【0017】,【0018】,【0031】及び【0032】)に照らせば,構成要件Dの「ページ」とは前記のとおり住宅地図の全部又は一部を表示した部分をいい,「区画化」とはページを任意の形で区分することをいう。 被告地図において,縮尺レベル19の地図用のデータ及び縮尺レベル20の地図用のデータは,画面に表示されるときに区分された形でその一部が表示され,被告地図においては,「地図を記載した各ページを適宜に分割して区画化」している。 また,被告地図において,インターネットに接続した状態で被告地図を ユーザのディスプレイの画面に表示し,その後,インターネットへの接続を停止した上で地図表示画面をスクロールさせると地図が表示されない部分が現れる。これは,被告地図における地図データが縮尺レベルに応じた各地図全体をメッシュと呼ばれる区画に分割されて管理されており,ディスプレイの画面に特定のメッシュ地図が表示されていることを示して いる。したがって,被告地図において,縮尺レベル19の地図用のデータ及び縮尺レベル20の地図用のデータを,ディスプレイの画面に表示させることは,「地図を記載した各ページを適宜に分割して区画化」している。 さらに,本件明細書の段落【0017】には,区画化された地図用のデータが電子住宅地図として適宜の媒体に記憶されて管理されることが記 載されており,地図用のデータを複数のデータとして管理することは,電子地図において「地図 017】には,区画化された地図用のデータが電子住宅地図として適宜の媒体に記憶されて管理されることが記 載されており,地図用のデータを複数のデータとして管理することは,電子地図において「地図を記載した各ページを適宜に分割して区画化」することの典型例である。被告地図においては,地図用のデータが複数のデータとして管理されており,「地図を記載した各ページを適宜に分割して区画化」している。 (被告の主張) 「ページ」とは,「書籍・帳面などの紙の一面。また,その順序を表す数字」を意味する。被告地図の縮尺レベル19及び20の地図用のデータは,いずれも地図を記載した書籍・帳面などの紙の一面ではないから,本件発明の「該地図を記載した各ページ」という要件を充足しない。 本件明細書では,本件発明の課題として,従来は「地図の大型化や大冊 化を招」いていたところ(段落【0005】),「縮尺率が高く小型」など特徴を有する住宅地図を提供することにあるとされており,このような課題が問題となるのは紙の地図である。 「区画」とは,「一定の土地・場所をしきること。しきり。境界。しきった土地」を意味するから,「区画化」とは,地図を記載した各ページを仕切 ることを意味する。本件明細書における実施の形態を示す【図1】及び【図2】は線で地図を仕切っており,段落【0017】及び【0018】にも地図を線で仕切っている旨の説明がある。これに対し,被告地図における縮尺レベル19,20の地図用のデータはいずれも複数のデータとして管理されているものの,これはあくまでデータの管理方法にすぎず,地図を 仕切っているわけではないから,「地図を記載した各ページを適宜に分割して区画化」したという文言を充足しない。 原告は ているものの,これはあくまでデータの管理方法にすぎず,地図を 仕切っているわけではないから,「地図を記載した各ページを適宜に分割して区画化」したという文言を充足しない。 原告は,地図用のデータが複数のデータとして管理されており,その特定のメッシュ地図が画面に表示されるのであるから,「地図を記載した各ページを適宜に分割して区画化」されていると主張するが,本件明細書の 段落【0017】の記載に照らせば,本件発明は地図データを電子地図とし,【図1】のように地図が記載されたものを住宅地図のページであるとしているから,「地図を記載した各ページ」とは,電子地図である地図データではなく,【図1】のように地図が記載されたものを意味する。被告地図において地図データが分割管理され,メッシュ地図が表示されているとし ても,その表示された地図が「適宜に分割して区画化」されていないので あるから,「地図を記載した各ページを適宜に分割して区画化」されているとはいえない。 原告は,縮尺レベル19及び20の住宅地図の全体がそれぞれ「該地図を記載した各ページ」に該当し,その一部のみが被告地図プログラムにより表示されるから,各ページは「分割して区画化」されていると主張する が,「ページ」とは,少なくとも地図が記載(表示)されたものをいうことが明らかであるが,被告地図では縮尺レベル19及び20の地図の全体が記載(表示)されたものは存在せず,原告は存在しないものを前提として「地図を記載した各ページ」に相当すると主張している。 原告は,被告地図では地図用のデータを複数のデータとして管理してい ることから,「地図を記載した各ページを適宜に分割して区画化」していると評価できると主張するが,地図データ 。 原告は,被告地図では地図用のデータを複数のデータとして管理してい ることから,「地図を記載した各ページを適宜に分割して区画化」していると評価できると主張するが,地図データは単なるデータにすぎないのであって地図を記載したものではないから「ページ」には該当せず,地図データを分割管理していることによって「地図を記載した各ページ」が「分割して区画化」されているとはいえない。 オ 「索引欄」(構成要件E)の充足性(争点1-5)(原告の主張)被告地図においては,電子情報としての「索引欄」を有しているといえる。 本件明細書では,段落【0017】において電子住宅地図の実施例として【図1】が示されている。【図1】として表示される地図データが電子住宅地 図であり,その地図データを【図1】として表示した部分が「ページ」に該当する。そして,段落【0022】において索引欄の一例が示され,段落【0023】から【0028】において当該索引欄を用いて【図1】の拡大図である【図4】の特定の区画を探し出すことができることが記載されているから,本件明細書では電子情報としての索引欄が開示されている。ウェブペー ジにおいてIT用語をその頭文字に応じて配列したものも「索引」に該当す るというのが当業者の一般的な理解である。 (被告の主張)「索引」とは「書物の中の字句や事項を一定の順序に配列して,その所在をたやすく探し出すための目録」を意味し,「目録」とは「書物の中の内容の見出しを順序立ててならべたもの」を意味し,これらは紙の地図と整合的で ある。また,本件明細書の段落【0005】では,本件発明の課題として,従来は地図の大型化や大冊化を招いていたところ「縮尺率が高く小型」など特徴を有する住宅地 意味し,これらは紙の地図と整合的で ある。また,本件明細書の段落【0005】では,本件発明の課題として,従来は地図の大型化や大冊化を招いていたところ「縮尺率が高く小型」など特徴を有する住宅地図を提供することにあるとされており,これは紙の地図を前提としている。 被告地図は,ユーザが,インターネット上のURLにアクセスすると,ユ ーザの端末にインストールされているWebブラウザを介して画面が表示されるというものであり,書物ではないから,本件発明の「索引欄」を備えることはない。 カ 「該索引欄に前記地図に記載の全ての住宅建物の所在する番地を前記地図上における前記住宅建物の記載ページ及び記載区画の記号番号と一覧的に 対応させて掲載した」(構成要件F)の充足性(争点1-6) 示された地図について(原告の主張)① 被告地図においては,画面において,住宅建物の所在する番地が並 べられて表示されており,「該索引欄に前記地図の記載の全ての住宅建物の所在する番地を…一覧的に対応させて掲載した」ものといえる。 ② 被告地図においては,特定の一画面においては,特定の市区町村の特定の町の特定の丁目における番,又は特定の市区町村の特定の町の特定の丁目の特定の番における号のみが表示されている。しかし,同一の行 政区画においては地番が「あいうえお順」や「数字の若い順」に並べら れて表示されるとともに,上位の行政区画の一つを選択すると当該行政区画に含まれる下位の行政区画が「あいうえお順」や「数字の若い順」に並べられて表示され,逆に下位の行政区画を表示する画面から上位の行政区画を表示する画面に容易に移動することができる。被告地図では,表示される地図に記載された全ての住宅建物の所在する番地が上位の 行政区画 表示され,逆に下位の行政区画を表示する画面から上位の行政区画を表示する画面に容易に移動することができる。被告地図では,表示される地図に記載された全ての住宅建物の所在する番地が上位の 行政区画に紐付けられる形で掲載されるように構成されており,ユーザが適宜に行政区画の表示画面を遷移させることで,表示される地図に記載された全ての住宅建物の所在する番地を容易に画面表示させることができる。構成要件Fの「索引欄」に係る情報について,1ページないし1画面に表示されていなければならないなどという限定はない。した がって,被告地図は,全ての住宅建物の所在する番地を一覧的に対応させて掲載した索引欄を有しているといえるから,「該索引欄に前記地図の記載の全ての住宅建物の所在する番地を…一覧的に対応させて掲載した」ものである。 ③ 被告地図において,縮尺レベルを示すデータによって,縮尺レベルご とに設けられた各地図のうち1枚が特定され,番及び号ごとに設定された特定の緯度及び経度を含む地点データによって,メッシュ化された各地図における1つのメッシュ地図が特定される。このメッシュ地図は,各ページを分割した1つの区画に該当する。したがって,番及び号ごとに設定された特定の緯度及び経度を含む地点データと縮尺レベル16 を示すデータとを含むURLは,実質的に見れば,住宅建物が記載されたページ及び区画を特定するための記号及び番号であるといえる。そして,構成要件Fの「記載ページ及び記載区画の記号番号」とは,本件明細書の記載(段落【0017】)によれば,住宅建物が記載されたページ及び区画を特定するための記号及び番号を指す。したがって,被告地図 は,構成要件Fの「記載ページ及び記載区画の記号番号」を充足する。 ④ 被告地図においては 建物が記載されたページ及び区画を特定するための記号及び番号を指す。したがって,被告地図 は,構成要件Fの「記載ページ及び記載区画の記号番号」を充足する。 ④ 被告地図においては,住宅が所在する各番や各号に併記された「[地図]」との表記に,各番に対応して設定された縮尺レベル16に係る情報を含むURLへのハイパーリンクが設定されている。 構成要件Fの「掲載」とは,本件明細書の記載(段落【0007】,【0021】,【0036】及び【0037】)に照らせば,索引欄に番地が順 序立てて並べられて表示され,その各番地が当該番地に係る「記載ページ及び記載区画の記号番号」と連結されていることをいい,「記載ページ及び記載区画の記号番号」自体が索引欄に積極的に表示されることまで要するものではないといえるし,本件特許の出願当時から電子地図において住所と当該住所に係る建物が存する地図区画を連結させること は周知の技術であったといえるから,ハイパーリンクの設定であっても索引への「掲載」に該当するといえる。 また,被告地図においては,「番」表示される画面において,ユーザが索引欄の「番」の右側に表示された[地図]のアイコンや「号」のアイコンをクリックすると,縮尺レベル16の地図が表示されるとともに, その中心に該当する位置が①と表示される旗印でマークされる。そして,縮尺レベル16の地図をそのまま画面上に表示されているズーム機能で機械的に拡大すると,①と表示される旗の位置はいずれも同じ中心の位置のまま,住宅や建物の輪郭が記載される縮尺レベル19及び20の地図が表示される。このことは,縮尺レベル16の地図と中心位置を同 じくする縮尺レベル19及び20の地図も連結されて選択されていることの確認表示がされていることを意味し 尺レベル19及び20の地図が表示される。このことは,縮尺レベル16の地図と中心位置を同 じくする縮尺レベル19及び20の地図も連結されて選択されていることの確認表示がされていることを意味しており,この確認表示は,建物の番地,記載ページ及び記載区画の記号番号の対応関係を示す仕組みを提供するものといえる。 構成要件Fの「対応させて」とは,ユーザが住宅地図上の所望の住宅 に容易に行きつけるように,「すべての建物の番地を…記載ページ及び 記載区画の記号番号と対応させ」た仕組みを提供することを意味するものであって,ユーザが,住宅建物が記載されたページに到達するためにユーザ自らの行為(操作)を必要とするか否かは構成要件Fの該当性とは無関係である。 以上によれば,被告地図は,構成要件Fの「一覧的に対応させて掲載 した」を充足する。 (被告の主張)① 被告地図には,特定の市区町村の特定の町の特定の丁目における番のみ,又は特定の市区町村の特定の町の特定の丁目の特定の番における号のみが表示されている。したがって,被告地図の表示中に,縮尺レベル 19及び20の地図用のデータを用いた被告地図に記載された全ての住宅建物の所在する番地が掲載されることはなく,構成要件Fで定められている全ての住宅建物の所在する番地を一覧的に対応させて掲載した索引欄はない。 原告は,[地図]の表示や各号の表示を適宜クリックし,ユーザが別途 縮尺を調整すれば所望の地図が表示されるなどと主張するが,ユーザがクリックしていかなければ丁目,番,号は表示されないし,表示されるとしてもごく一部の丁目,番,号に過ぎないから,全ての住宅建物の所在する番地について一覧的に対応させて掲載しているとはいえず,原告の主張は失当である。 れば丁目,番,号は表示されないし,表示されるとしてもごく一部の丁目,番,号に過ぎないから,全ての住宅建物の所在する番地について一覧的に対応させて掲載しているとはいえず,原告の主張は失当である。 ② 被告地図においては,特定の市区町村の特定の町の特定の丁目の特定の番における号に併記された[地図]との表記に各番に対応して設定された特定の緯度及び経度並びに縮尺レベル16に係る情報を含むURLへのハイパーリンクが設定されているにすぎない。そして,緯度及び経度並びに縮尺レベル16に係る情報は,本件発明の「住宅建物の記載 ページ」には該当しないし,被告地図により表示される地図の区画の「記 号」や「番号」でもない。 ③ 被告地図における前記ハイパーリンクにおいては,住宅や建物の輪郭が記載された縮尺レベル19又は20に係る情報は設定されておらず,住宅や建物の輪郭が記載されていない縮尺レベル16に係る情報のみが設定されているから,「該索引欄に…前記住宅建物の記載ページ…一 覧的に対応させて掲載した」という文言を充足しない。 原告は,所番地と地図上の建物を連結させることが当時の周知技術であったから,構成要件Fは,記載ページや記載区画の記号番号それ自体がユーザに視認できるように索引欄に積極的に表示されることを必要とする趣旨ではないと主張するが,本件発明の構成要件Fの文言は,単 に「番地を…記載ページ及び記載区画の記号番号と対応させた」とはせず,あえて「番地を…記載ページ及び記載区画の記号番号と一覧的に対応させて掲載した」としているのであるから,本件発明は単に所番地データと地図上の建物データを連結するだけではなく,「一覧的に…対応させて掲載した」という構成を採用した発明であることが明らかである。 また,「一覧 しているのであるから,本件発明は単に所番地データと地図上の建物データを連結するだけではなく,「一覧的に…対応させて掲載した」という構成を採用した発明であることが明らかである。 また,「一覧」とは,「一覧表。全体が一目で分かるようにしたもの。」を意味するのであるから,この文言に照らしても,単に所番地と地図上のデータが連結していれば足りると解釈することはできない。 原告は,ユーザは容易に縮尺レベル19及び20の地図上の探したい住宅に行きつくことができるから,番地及び号が縮尺レベル19及び2 0を示す縮尺データに一覧的に対応付けられて掲載されていると評価することができると主張するが,被告地図では縮尺レベル19及び20の地図はユーザの操作によって表示されるものであり,番地及び号と縮尺レベル16のURLがハイパーリンクにより対応付けられていたとしても,縮尺レベル19及び20についてまで対応付けられているとは いえないのであるから,それらが一覧的に掲載されていると評価するこ とはできない。 ④ 原告は,構成要件Fの充足性判断で重要なのは,ユーザが容易に所望の住宅にたどり着くために利用可能な仕組みが存在するか否かであり,所望のページに行きつくためのユーザの行為の要否は問題ではないと主張するが,本件発明は構成要件Fの構成を採用し,この構成について 特許されているのであるから,仮に,本件発明が「ユーザが容易に所望の住宅にたどり着く」ことを目的とした発明であったとしても,構成要件の文言を無視して,ユーザが容易に所望の住宅にたどり着くために利用可能な仕組みが存在すればよいと解釈することはできない。被告地図では,ユーザが所定の操作を行わない限り縮尺レベル19及び20の地 図が表示されず,ユーザが自らの操作により「 どり着くために利用可能な仕組みが存在すればよいと解釈することはできない。被告地図では,ユーザが所定の操作を行わない限り縮尺レベル19及び20の地 図が表示されず,ユーザが自らの操作により「住宅建物が記載されたページ」を探さなければならないのであるから,このような構成が「該索引欄に前記地図の記載の全ての住宅建物の所在する番地を…一覧的に対応させて掲載した」ものとはいえない。 示された地図について(原告の主張)被告地図においては,縮尺レベル17の地図に表示される番,及び縮尺レベル19の地図に表示される号に対応する番号の各アイコンに,特定の緯度及び経度を含む地点データと,番については縮尺レベル19の縮尺デ ータ,号については縮尺レベル20の縮尺データが対応している。そして,これらのアイコンが利用者により選択されると,Javaアプリケーションにより,あらかじめ定められた機械的な処理がされ,ユーザが特定のアイコンをクリックすれば必ず特定の緯度及び経度並びに縮尺レベルに係るメッシュ地図がユーザの画面上に掲載され,所望のページに至るための ユーザの操作は不要である。このような処理は,縮尺レベル17の地図に 表示される番及び縮尺レベル19の地図に表示される号の番号の各アイコンと,特定の緯度及び経度を含む地点データと,番については縮尺レベル19の縮尺データ,号については縮尺レベル20の縮尺データを対応させる仕組みであるといえる。これらによれば,被告地図は,「該索引欄に前記地図の記載の全ての住宅建物の所在する番地を…一覧的に対応させて 掲載した」ものである。 (被告の主張)主張と同様の理由により,被告地図は,「該索引欄に前記地図の記載の全ての住宅建物の所在する番地を…一覧的に対応させて掲載し 地を…一覧的に対応させて 掲載した」ものである。 (被告の主張)主張と同様の理由により,被告地図は,「該索引欄に前記地図の記載の全ての住宅建物の所在する番地を…一覧的に対応させて掲載した」ものではない。 また,左上に表示された番と号に対応する番号をクリックして選択すると,ユーザのブラウザ上で実行されるJavaアプリケーションがその選択を把握して適宜の処理がされるのであって,これらの番や号の表示には,特定の緯度及び経度並びに縮尺レベルに係る情報を含むURLへのハイパー リンクは設定されていないから,原告の主張を前提としても「住宅建物の記載ページ及び記載区画の記号番号」が「掲載」されることはない。 表示された被告地図についての均等侵害の有無(予備的主張)(争点2)ア された地図について(原告の主張)構成要件Fについて,索引欄に「番地」と「(当該番地)記載ページ及び記載区画の記号番号」とが「一覧的に」表示(掲載)されていることを要すると解釈された場合,被告地図は,「特定の緯度・経度を含む地点データ と縮尺レベル19ないし20を含むURL」が画面に「一覧的に」表示さ れていない点で,構成要件Fと異なることになる。このような相違があるとしても,被告地図について,以下のとおり,均等侵害が成立する。 本件明細書の段落【0002】ないし【0011】,【0021】,【0030】及び【0039】の記載や公知技術の内容に照らせば,本件発明には,建物表示に住所番地ばかりでなく居住者氏名も全て併記されていたた めに一軒毎の建物の記載スペースを大きく取る必要があった従来の地図から,検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物についての居住人氏名や建物名称の記載を省略するこ されていたた めに一軒毎の建物の記載スペースを大きく取る必要があった従来の地図から,検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物についての居住人氏名や建物名称の記載を省略することで,住宅地図上の一軒毎の建物の記載スペースを番地が判読出来る程度にまで圧縮し,それによって広い鳥瞰性を得ることを可能とする構成を規定した構成要件B及 びCが,発明特有の解決手段を基礎付ける技術的思想の中核をなす特徴的部分(発明の本質的部分)であるといえる。構成要件Fは,本件発明の本質的部分である構成要件B及びCの結果として採用された構成であり,本件発明の本質的部分そのものではない。 本件明細書の段落【0010】や【0039】の記載に照らせば,本件 発明の目的は,ビル等の一軒ごとに居住者名や会社名等の対応付けが容易であり,縮尺率が高く小型で廉価であり,内容が最新,正確,かつプライバシーに配慮したものであり,検索が迅速にできる住宅地図を提供することにあり,作用効果は,ユーザに小判で,薄く,取り扱いの容易な廉価な住宅地図を提供することができることや,簡潔で見やすく迅速に検索する ことが可能な住宅地図を提供できることにあることとされている。被告地図が,このような本件発明の目的を実現し,同様の作用効果を奏していることは明らかである。 本件特許が出願された当時,電子地図において,住所と,ベクトルデータである建物図形が存する地図区画を連結させることは技術常識であっ た。したがって,ユーザが所望の番又は号を選択した場合に,当該番又は 号に係る「特定の緯度・経度を含む地点データと縮尺レベル19ないし20」に係る地図を機械的な自動処理または半自動処理で表示させることは被告地図の製作時点で容易に想到することができたとい 号に係る「特定の緯度・経度を含む地点データと縮尺レベル19ないし20」に係る地図を機械的な自動処理または半自動処理で表示させることは被告地図の製作時点で容易に想到することができたといえる。 本件明細書の段落【0017】及び【0018】や,被告が提出した証拠(乙17)によれば,ユーザが特定の番や号を選択した場合に,ユーザ が選択したその番や号がどの位置に存在するかを表示するために,縮尺レベル19及び20の地図よりも縮尺が小さく俯瞰図の役割を果たす縮尺レベル16の地図をまず表示することは,容易に想到することができた。 そして,本件特許出願当時,電子地図では自由に拡大縮尺ができたから,まず住宅や建物の輪郭が記載されていない縮尺レベル16の俯瞰図を表 示するとともに,その画面上でズーム機能を表示し,ユーザに当該ズーム機能で機械的に地図を拡大させることで,住宅や建物の輪郭が記載された縮尺レベル19及び20の地図上の探したい住宅を表示する構成にすることは容易に想到することができたといえる。 本件発明の構成要件B及びCは,本件特許出願時点で容易に推考できた ものではないところ,被告地図は,本件発明の構成要件B及びCを具備しているのであるから,被告地図もまた本件特許出願時における公知技術から容易に推考することができないことは明らかである。 原告の均等侵害の主張は,本件明細書の段落【0036】及び【0037】の記載からは電子地図においては「記載ページ及び記載区画の記号番 号」が掲載されない態様を理解することができないと評価された場合の予備的主張であるから,本件明細書の段落【0036】及び【0037】の記載をもって電子地図において「記載ページ及び記載区画の記号番号」が掲載されない態様に置き換えることができるもの 評価された場合の予備的主張であるから,本件明細書の段落【0036】及び【0037】の記載をもって電子地図において「記載ページ及び記載区画の記号番号」が掲載されない態様に置き換えることができるものであることを記載していると評価することはできない。本件特許の出願手続等において被告地図 プログラムの構成⑴の構成が意識的に除外されたとはいえない。 (被告の主張) 本件発明と被告地図の構成で異なる部分は構成要件Fに限られないため均等侵害の主張は主張自体失当である。また,原告の構成要件Fに関する均等侵害の主張は,以下のとおり理由がない。 本件発明は,従来技術と比較して特許発明の貢献の程度がそれほど大き くないと評価される場合に該当し,本件発明の本質的部分は特許請求の範囲の記載とほぼ同義のものとして認定されるべきであるから,本件発明の構成要件の全てが本質的部分に該当し,構成要件Fも本件発明の本質的部分であるといえる。 また,本件明細書の記載を基準として検討した場合も,本件発明におい て構成要件B及びCだけでは,原告が主張するような「目的とする住宅を探し出すことができる地図」とはいえず,本件発明の課題である「検索が迅速にできる住宅地図を提供する」ことは実現できないし,そのような作用効果を奏することもないのであって,迅速な検索を可能にするためには,構成要件Fにおける「索引欄」の構成をも併せて採用することが必要であ るというべきである。したがって,構成要件B及びCに加えて,少なくとも構成要件Fにより特定される「索引欄」の構成も組み合わせて初めて「特許発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分」に該当する。 被告地図では,所定の表示等をクリックしていかなけ 引欄」の構成も組み合わせて初めて「特許発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分」に該当する。 被告地図では,所定の表示等をクリックしていかなければ,丁目,番及 び号は表示されないし,表示されるとしてもごく一部の丁目,番,及び号にすぎないから,本件発明のように「簡潔で見やすく,迅速な検索の可能な住宅地図を提供」したものとはいえない。また,被告地図では,番や号について,住宅建物が記載されていない縮尺レベル16に係る情報が対応付けられているにとどまり,ユーザは住宅建物が記載されている地図には 到達できないのであるから「簡潔で見やすく,迅速な検索の可能な住宅地 図を提供」するとの作用効果を奏しない。さらに,被告地図において単にクリック等の操作で所定の地図を表示することが可能であるとしても,これは単に電子的な処理をするにとどまり,索引欄から記載ページや区画等を特定して,当該ページや区画を探す本件発明とは課題解決のための原理も全く異なる。したがって,本件発明と被告地図では目的や作用効果が異 なるから置換可能性はない。 本件発明は,索引欄から直接目的とする「住宅建物」にたどりつくことができる構成を採用し,「検索が迅速にできる」との課題を解決するものであるところ,被告地図では,各番に併記された[地図]との表記や号との表記に,これらに対応して設定された特定の緯度及び経度,並びに住宅 や建物の輪郭が記載されていない縮尺レベル16に係る情報を含むURLへのハイパーリンクが設定されているにとどまり,また,縮尺レベル19や20の地図を表示するにはユーザが地図の縮尺を適宜調節する操作が必要であるから,本件発明において,被告地図の構成を採用すると,本件発明の課題解決を阻害 定されているにとどまり,また,縮尺レベル19や20の地図を表示するにはユーザが地図の縮尺を適宜調節する操作が必要であるから,本件発明において,被告地図の構成を採用すると,本件発明の課題解決を阻害することになり,それらを置換することには致命 的な阻害事由がある。 原告は,住所と地図区画を連結させることは技術常識であると主張するにとどまり,構成要件Fで示された構成を,ハイパーリンクの設定や縮尺の調整など具体的に特定された被告地図の構成に置き換えることが容易である旨の主張はない。 原告が主張するように,住所と地図区画を連結させることは出願当時において技術常識であったということのみを根拠として置換容易性を肯定できるのであれば,それと同様の理由から,本件特許出願時において,本件公然実施発明の構成から,被告地図の構成を容易に想到できる。 本件特許については,出願時に,特許請求の範囲に記載された構成を対 象製品等に係る構成である「対応させて」との構成に置き換えることがで きることを本件明細書に記載しているから,客観的,外形的に見て,あえてそのような代替的構成を特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたといえる。したがって,被告地図プログラムの構成⑴の構成が特許請求の範囲から意識的に除外されたといえる。 イ された地図について(原告の主張) が相違するとしても,前記アにおける主張と同様の理由により,①本件発明の構成要件の相違は本件発明の本質的部分で 的及び作用効果と同一であり,③本件発明の構成要件Fを被告地図プログラに置き換えることは被告地図の製作時点において容易に想到することができたものであり,④被告地図は本件発明の特許出願時における公知技術から容易に推考することはでき 件発明の構成要件Fを被告地図プログラに置き換えることは被告地図の製作時点において容易に想到することができたものであり,④被告地図は本件発明の特許出願時における公知技術から容易に推考することはできず,⑤原告は本件発明の特許出 いない。 (被告の主張) 前記アにおける主張と同様の理由により,原告の均等侵害の主張には理由がなく,また,それに加えて,被告地図プログについての 均等侵害の主張は,以下の理由により,理由がない。 本件発明は「住宅建物の記載ページ…と一覧的に対応させて掲載」した索引欄を手掛かりに,迅速な検索の可能な住宅地図を提供するものであるのに対して,被告地図では,Javaアプリケーションが適宜の処理を行うものであり,これらは課題の解決原理を全く異にし ている。 では,Javaアプリケーシ ョンがユーザの操作に応じて適宜の処理をして地図が表示されるのに対し,本件発明は,ユーザが,索引欄から該当頁や区画等を確認して地図の該当箇所を見つけるものであるから,両者が異質の作用効果を有することは明らかである。したがって,本件発明の構成要件Fと被告地図プログラムの置換可能性がない。 被告地図プログラムの構成では,番や号をクリックするとブラウザ上で実行されるJavaアプリケーションが適宜の処理をするなどの構成を含む。それにもかかわらず,原告は,抽象的に住所と地図区画を連結させることが技術常識であったと主張するにとどまり,構成要件Fの構成を,番や号をクリックするとブラウザ上で実行されるJavaアプリケーシ ョンが適宜の処理をするなどの具体的に特定された構成に置き換えることが容易である旨の主張はされていない。 被告による被告地図の「使用」,「生産」(特許法2条3 行されるJavaアプリケーシ ョンが適宜の処理をするなどの具体的に特定された構成に置き換えることが容易である旨の主張はされていない。 被告による被告地図の「使用」,「生産」(特許法2条3項1号)の有無又は被告地図プログラムの製造の「そのものの生産にのみ用いる物の生産」(特許法101条1項)該当性(争点3) (原告の主張)被告は,遅くとも平成22年5月21日から本件特許権の登録が抹消された平成28年4月28日まで被告地図をインターネット上で一般ユーザにサービスとして提供する行為に及んだ。前記の行為は,以下のとおり,特許権侵害行為に該当する。 ア平成14年特許法改正前の特許法2条3項1号においてプログラムは「物」と明示されていなかったからといって同改正前の特許法2条3項1号の「物」にプログラムが該当しないということにはならない。 そして,本件発明にプログラムの発明が含まれるとした場合でも,本件発明の作用効果や,本件明細書の段落【0017】,【0019】,【0033】 ないし【0037】の記載に照らせば,本件発明は自然法則を利用した技術 的思想の創作であるといえる。 イ被告地図は目的とする建物を探し出すことができるという作用効果を奏する地図であり,被告地図をユーザが閲覧できる状態に置けば,ユーザは被告地図を閲覧して被告地図により目的とする建物を探し出すことができ,発明の作用効果を享受することができるのであるから,規範的にみれば,ユー ザが被告地図を閲覧できる状態に置いている被告の行為をもって,本件発明が目的としている作用効果を奏する態様で用いる行為にあたり,「使用」に該当すると評価することができる。 仮に,ユーザの閲覧という行為が「使用」だと捉えたとしても,被告地 告の行為をもって,本件発明が目的としている作用効果を奏する態様で用いる行為にあたり,「使用」に該当すると評価することができる。 仮に,ユーザの閲覧という行為が「使用」だと捉えたとしても,被告地図がユーザの求めに応じ自動的に被告地図をユーザ端末のディスプレイに表 示することを前提としており,被告がそれにより広告料収入を得ていることに鑑みると,被告は,ユーザを道具として用いて本件特許権を「使用」していると評価することができる。 ウユーザのディスプレイに表示された被告地図は「物」に該当し,被告地図を画面に表示する被告地図プログラムを作る行為は「物」を新たに作り出す 行為と評価することができるから,被告が,被告地図を表示するユーザ端末のディスプレイに縮尺レベル19及び20の住宅地図の表示を可能ならしめる被告地図プログラムを製造し,ユーザの求めに応じて被告地図プログラムによりユーザのディスプレイに縮尺レベル19及び20の住宅地図を表示させる行為は特許法第2条の「生産」行為と法的に評価できる。 エ少なくとも,前記のような被告地図プログラムを製造する行為は,「その物(住宅地図)の生産にのみ用いる物(プログラム)の生産」として本件特許権についての間接侵害(特許法101条1項)に該当する。 (被告の主張)ア本件発明は「物」の発明であり,本件特許出願日である平成8年10月1 5日において,プログラムは「物」とはされていなかった(平成14年法律 第24号による改正前の特許法2条3項1号)。実務上においても,平成12年12月の特許庁新審査基準適用以前は,プログラムは「物」として取り扱われていなかった。したがって,被告地図プログラムの製作は,物の生産等に該当しないから,本件発明の実施に当たらない。 仮 2年12月の特許庁新審査基準適用以前は,プログラムは「物」として取り扱われていなかった。したがって,被告地図プログラムの製作は,物の生産等に該当しないから,本件発明の実施に当たらない。 仮に,本件発明にプログラムの発明を含むとした場合には,本件発明はハ ードウエア資源について何ら記載されておらず,自然法則を利用した技術的思想の創作とはいえないため,そもそも発明該当性が否定される。 イ被告は,被告地図プログラムをサーバに保存し,ユーザに利用できる状態にしているにすぎない。また,被告が得る広告料収入は,被告地図を利用させることではなく,広告の提供により得ているものである。被告地図を使用 するのはユーザであるから,被告が被告地図プログラムをインターネット上でユーザに利用できる状態にすることは本件発明の対象である「地図」の「使用」に該当せず,そのように評価することもできない。 ウディスプレイに表示された地図は,単なる画面表示であるから,「物」に該当する余地はない。また,ユーザがディスプレイに表示させているのであ って,被告が主体となって行為を行っているわけではない。被告が,被告地図プログラムを製造し,ユーザの求めに応じてユーザのディスプレイに表示させる行為は,特許法2条の「生産」と評価できない。 エ被告地図プログラムは,住宅や建物を模した多角形,番地等を表示しない地図(縮尺レベル1~18の地図)の表示に用いられ,これらの地図は,「住 宅地図」とはいえないから,「その物の生産にのみ用いる」という要件に該当しない。また,被告地図には,少なくとも住宅や建物を模した多角形を表示しない地図を表示させることに用いるという「経済的,商業的又は実用的な他の用途」がある。原告が主張する間接侵害が成立する余地はない。 本 た,被告地図には,少なくとも住宅や建物を模した多角形を表示しない地図を表示させることに用いるという「経済的,商業的又は実用的な他の用途」がある。原告が主張する間接侵害が成立する余地はない。 本件特許が特許無効審判により無効にされるべきものか(争点4) ア明確性要件違反の有無(争点4-1) (被告の主張)構成要件B,C及びFの記載は,以下のとおり,本件明細書の記載及び図面を考慮し,当業者の出願当時における技術的常識を基礎として判断したとしても,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である。 構成要件B 構成要件Bには「検索の目安となる」との記載があるところ,それが建物を探し出す過程で必要な情報か否かという観点から判断されるものであると解しても,それは検索する者の地理的な知識等に左右される。検索の目安となるか否かは,検索者の主観に左右されて客観的に判別することができず,当業者が本件発明の外縁を把握することは不可能である。原告 が主張するように住宅地図作製者を基準としても,住宅地図作製者において,検索の目安となるか否か,著名であるか否かに関して客観的な基準が存在するものではなく,それぞれの住宅地図作製者の主観によらざるを得ないから,不明確であることは変わらない。 構成要件Bには「著名ビル等」との記載があるところ,著名か否かは基 準となる人をどのように設定するかによって左右されるから,客観的,一義的に決定することはできない。また,著名か否かは検索に必要な情報か否かとは結びついていないため,別途,客観的な基準で判断する必要があるところ,この点について本件明細書に何も記載されていない。また,ビル等の「等」に何が含まれるかについても不明である。 構成要件 ていないため,別途,客観的な基準で判断する必要があるところ,この点について本件明細書に何も記載されていない。また,ビル等の「等」に何が含まれるかについても不明である。 構成要件C構成要件Cには「縮尺を圧縮して」との記載があるところ,具体的にどの程度の縮尺であれば「縮尺を圧縮」したといえるか不明である。原告が主張するように,従来技術である住宅及び建物の名称が記載された住宅地図に比較してより高い縮尺率の地図をいうと解しても,その従来技術であ る住宅及び建物の名称が記載された住宅地図の縮尺が地図により異なる のであるから,比較の対象となる縮尺が不明であるし,従来の住宅地図に比較してどの程度高い縮尺率であれば足りるかも不明である。 構成要件Cには「広い鳥瞰性」との記載があるところ,これは主観的な評価により左右されるものである。原告が主張するように,検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除いた住宅及び建物の名称を省略しポリゴ ンと番地のみを記載することにより可能となった縮尺の圧縮により,より広い範囲を同一ページに納められることとなった状態であると解しても,検索の目安という点は主観的評価でしか定まらないから不明確であるし,より広い範囲を同一ページに納められることとなった状態という点も比較の対象が不明確である。 構成要件F構成要件Fには「前記地図に記載の全ての住宅建物の所在する番地」との記載があるところ,「地図に記載の全ての」との修飾が「住宅建物」に係るのか,それとも「住宅建物の所在する番地」に係るのか不明であり,地図に記載された全ての建物についての番地を意味するのか(番地が記載さ れていない建物の番地まで含むのか),地図に記載された全ての番地を意味するのか(番地が記載さ 番地」に係るのか不明であり,地図に記載された全ての建物についての番地を意味するのか(番地が記載さ れていない建物の番地まで含むのか),地図に記載された全ての番地を意味するのか(番地が記載されていない建物の番地は含まないのか)が不明である。 (原告の主張)構成要件B 「検索の目安」となるか否かは,本件明細書の段落【0007】によれば,目的とする建物を探し出す過程で必要な情報か否かによって決せられ,人の主観的評価で定まるものではなく,不明確ではない。本件発明は,当業者である住宅地図作製者が本件明細書を見て本件発明の要件を備えた住宅地図を作製できるかが問題となるのであり,利用者である個々の検索 者の主観に左右されるものではない。 「著名」とは,「世間に名前がよく知られている・こと(さま)。有名」のことを指しているから不明確ではないし,当業者である住宅地図作製業者が著名なビルを選択できるかが問題となるのであって,個々の利用者の主観が問題となるわけではない。 「公共施設や著名ビル等」の「等」については,その記載順や本件明細 書の段落【0007】の記載に照らせば,前記の「等」には,公共施設や著名ビルではないものの検索の目安となる建物が含まれることが明らかであるし,また,本件明細書の段落【0008】,【0009】及び【0010】のとおり本件発明が個人のプライバシーに配慮することも目的としていることに照らせば,前記の「等」に個人の住宅は含まれないことも明 らかである。 構成要件C本件発明の内容や,本件明細書の段落【0002】,【0003】及び【0007】の記載に照らせば,「縮尺を圧縮」とは従来技術である住宅及び建物の全ての名称が記載された住宅地図に比較してより高い縮 本件発明の内容や,本件明細書の段落【0002】,【0003】及び【0007】の記載に照らせば,「縮尺を圧縮」とは従来技術である住宅及び建物の全ての名称が記載された住宅地図に比較してより高い縮尺率の地図 をいい,「広い鳥瞰性」とは検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除いた住宅及び建物についてはその名称を省略しポリゴンと番地のみを記載することにより可能となった縮尺の圧縮により,より広い範囲を同一ページに納められることとなった状態を指すことが明らかである。 比較の対象となる縮尺は,従来技術である住宅及び建物の全ての名称が 記載された住宅地図における縮尺であり,不明確ではない。前記のより広い範囲を同一ページに納められることとなった状態についての比較対象も同様に不明確ではない。 構成要件F構成要件Fには「全ての住宅建物の所在する番地」と記載されているの であるから,日本語の自然な理解として,「全ての」は直後にある「住宅建 物」を修飾するものであることは明らかである。 イ乙9発明に基づく新規性・進歩性欠如の有無(争点4-2)(被告の主張)乙9刊行物は,本件特許の出願日より前である平成5年2月に発行された住宅地図(ゼンリン住宅地図’93)であり,以下の構成を備えた乙9 発明が記載されている(以下,各構成を乙9発明の構成aなどと表記することがある。後記の各発明についても同様である。)。 a 住宅地図において,b 検索の目安となり得る公共施設や一部の一般住宅及び建物等を除く一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し住 宅及び建物の多角形と番地のみを記載すると共に,c 1/1800の縮尺の地図を構成し,d 該地図を記載した各ページを,横方向 般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し住 宅及び建物の多角形と番地のみを記載すると共に,c 1/1800の縮尺の地図を構成し,d 該地図を記載した各ページを,横方向にAないしEの記号を付して5分割し,縦方向に1ないし5の番号を付して5分割して区画化し,e 付属として町名別番地索引を設け, f 該町名別番地索引に,前記地図に記載された実質的に全ての(住宅建物の所在する)番地を前記地図上における前記住宅建物の記載ページ及び記載区画の座標記号番号と一目で分かるよう対応させて掲載した,g ことを特徴とする住宅地図新規性の有無 乙9発明と本件発明を対比すると,以下の点を含め,構成の全てにおいて一致しており相違点は存在しない。本件発明は,新規性を欠くものである。 ① 乙9発明では,多数の住宅及び建物の多角形について,居住人氏名や建物名称が省略されている。乙9刊行物には,居住人氏名等が省略され ている多角形が多数記載されている。したがって,原告が主張するよう に乙9発明の構成bを「ほぼ全ての居住人氏名や建物名称を省略することなく」と認定することはできない。 仮に,乙9発明の構成bについて,原告の主張するように「ほぼ全ての居住人氏名や建物名称を省略することなく,住宅及び建物の多角形と番地を記載すると共に,」であると認定したとしても,原告の主張を前 提とすれば,構成要件Bの解釈として住宅や建物はその全てが検索の目安となり得るため,居住人氏名や名称が省略されないことになるから,両者が一致することに変わりはない。 ② 乙9発明の構成cは,「縮尺1/1800」であるところ,原告は充足論において,「縮尺1/615」や「縮尺1/1250」の地図について ないことになるから,両者が一致することに変わりはない。 ② 乙9発明の構成cは,「縮尺1/1800」であるところ,原告は充足論において,「縮尺1/615」や「縮尺1/1250」の地図について 構成要件Cの「縮尺を圧縮して」の文言を充足すると主張しており,この主張を前提とすれば,それよりも縮尺を圧縮した「縮尺1/1800」の地図が,構成要件Cの「縮尺を圧縮し」という文言を充足することは明らかである。したがって,乙9発明の構成cと本件発明の構成要件Cは一致する。 進歩性の有無仮に,乙9発明と本件発明に相違点があるとしても,以下のとおり,それらはいずれも容易想到であり,本件発明は,乙9発明を主引用発明とした場合には進歩性を欠くものである。 ① 構成要件Bの「検索の目安となる公共施設や著名ビル等」を,検索の 目安となる公共施設,著名なビル・住宅・建物を意味するものであると限定的に解釈すると,以下のような相違点を想定し得る。すなわち,乙9発明の構成bは,「公共施設や一部の一般住宅及び建物等を除く一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し」とされており,一部の一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称が省 略されないのに対し,本件発明の構成要件Bは,検索の目安となる公共 施設,著名なビル・住宅・建物を除く「一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し」とされており,一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称が省略されている点で形式的に相違し得る。 しかしながら,乙9発明では,実際には住宅及び建物の多角形につい て居住人氏名や建物名称が省略されていることに照らせば,どのような範囲で居住人氏名や建物名称の記載を省略するかという点 しかしながら,乙9発明では,実際には住宅及び建物の多角形につい て居住人氏名や建物名称が省略されていることに照らせば,どのような範囲で居住人氏名や建物名称の記載を省略するかという点は,縮尺等に応じた見やすさ等といった観点から,当業者が適宜選択し得る設計事項にすぎない。 また,一般住宅及び建物について居住人氏名や建物名称の記載を省略 するという構成を有する地図は,100年程前から広く使用されている周知技術であるから,乙9発明に接した当業者が,前記の周知技術を適用し,又は乙10発明や乙11発明で開示された構成を採用することは何ら困難ではなく,前記の相違点に係る本件発明の構成は容易に想到できる。 なお,乙9発明は,居住人氏名等の記載を必須の前提とするものではなく,住所を基本として目的となる建物を探す地図であるから,乙9発明に乙10発明や乙11発明を組み合わせることについての阻害要因は存在しない。 ② 乙9発明の構成cである1800分の1の縮尺が,構成要件Cの「縮 尺を圧縮して」に含まれないとすると,以下のような相違点を想定し得る。すなわち,乙9発明の構成cは「1/1800の縮尺の地図」であるのに対し,構成要件Cは「縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた地図」であるという点で形式的に相違し得る。 しかしながら,地図において縮尺をどのように設定するかは,当業者 が適宜設定できる設計事項であるから,当業者が前記の相違点に想到す ることは容易である。また,乙10発明の縮尺は1/5000であるから,乙9発明に乙10発明の構成を適用することにより,前記の相違点に想到することは容易である。 (原告の主張)新規性の有無 乙9発明と本件発明を対比すると,以下の点で相違 ら,乙9発明に乙10発明の構成を適用することにより,前記の相違点に想到することは容易である。 (原告の主張)新規性の有無 乙9発明と本件発明を対比すると,以下の点で相違しているから,本件発明は新規性を有する。 ① 乙9発明の構成bについては,乙9発明が検索の目安になるか否かにかかわらず,記載しようにも記載できない建物名称のみを省略していることにすぎないことに照らし,「ほぼ全ての居住人氏名や建物名称を省 略することなく,住宅及び建物の多角形と番地を記載すると共に,」と認定されるべきである。したがって,乙9発明の構成bは,本件発明の構成要件Bの「検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載すると共に,」と一致しない。 ② 乙9発明の構成cについては,乙9発明が,居住者氏名が判明する建物については全て氏名を記載するという従来技術を用いた地図であることに照らし,「住宅及び建物の多角形について居住人氏名や建物名称を記載するスペースを保ったままで,1/1800の縮尺の地図を構成し,」と認定されるべきである。そして,構成要件Cにおける「縮尺を圧 縮して」とは,従来技術である住宅及び建物の全ての名称が記載された住宅地図に比較してより高い縮尺率を意味することから,乙9発明の構成cは,構成要件Cと一致しない。 進歩性の有無乙9発明と本件発明の相違点については,以下のとおり,いずれも容易 想到とはいえない。本件発明は,乙9発明を主引用発明とした場合に進歩 性を有する。 ① 乙9発明は,居住人氏名等を手掛かりに目的とする建物を探し出すことを想定しているため,全ての居 とはいえない。本件発明は,乙9発明を主引用発明とした場合に進歩 性を有する。 ① 乙9発明は,居住人氏名等を手掛かりに目的とする建物を探し出すことを想定しているため,全ての居住人氏名等を記載することを前提としており,一部に居住人氏名や建物名称が記載されていない多角形があるとしても,これらは記載しようとしても記載できない居住人氏名や建物 名称を記載していないだけであるから,乙9発明において記載可能な居住人氏名や建物名称を省略するという発想は開示されていない。これに対し,本件発明は,プライバシーの観点から一般住宅の居住人氏名は一切記載しないものである。そうすると,乙9発明には本件発明への想到を妨げる阻害要因があるといえる。 また,建物や名称が記載されておらず,住宅地図とはいえない乙10発明に,住宅地図である乙9発明を組み合わせる動機付けは存在しない。 同様に,火災保険特殊地図であって建物の検索を主目的とする住宅地図とは異なる乙11発明に,住宅地図である乙9発明を組み合わせる動機付けも存在しない。 ② 構成要件Cの「縮尺を圧縮して」とは,従来技術である住宅及び建物の全ての名称が記載された住宅地図に比較してより高い縮尺率で圧縮することをいうのであり,それは設計事項とはいえない。また,乙9発明に,乙10発明や乙11発明を組み合わせることができないことは前記①記載のとおりである。 ウ本件公然実施発明に基づく新規性・進歩性欠如の有無(争点4-3)(被告の主張)公然実施性乙14号証には,「🄫1995 ZENRINCo.ltd.」という著作権表示がなされており,これは万国著作権条約パリ改正条約3条1項に 基づくものと解されるから,前記表示中「199 乙14号証には,「🄫1995 ZENRINCo.ltd.」という著作権表示がなされており,これは万国著作権条約パリ改正条約3条1項に 基づくものと解されるから,前記表示中「1995」との数字は,乙14 号証のCDディスクの発行年を意味することが明らかである。 平成5年に日本で発売されたMicrosoft社のWindows3.1の動作環境において,平成7年に株式会社ゼンリンにより発売された「ZmapTOWNⅡ‘95FUKUOKA」と題する地図データを用いて,平成8年3月に株式会社ゼンリンにより発売された「ZmapCO RESSVer3.0」と題する電子地図を動作させた場合,当該電子地図は,本件特許出願日前である平成8年3月までに公然実施されていた発明(本件公然実施発明)である。本件公然実施発明は以下の構成を備えている。 a 電子住宅地図において, b 検索の目安となる公共施設や一部の一般住宅及び建物等を除く一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物の多角形と番地のみを記載すると共に,c 約1172分の1の縮尺の地図を構成し,d 該地図を記載したページを,750m×500mの範囲を単位として, 地図データの管理をし,e 付属として住所指定地図表示を設け,f 該住所指定地図表示に,前記地図に記載された全ての(住宅建物の所在する)番地を順序立てて掲載し,所望の番地を選択し,「地図表示」と記載された部分をクリックすると,当該選択にかかる番地の地図が表示 されるよう,設定した,g ことを特徴とする電子住宅地図新規性の有無本件公然実施発明と本件発明を対比すると,以下の点を含め,構成の全てにおいて一致しており,相違点は存在しない。本 されるよう,設定した,g ことを特徴とする電子住宅地図新規性の有無本件公然実施発明と本件発明を対比すると,以下の点を含め,構成の全てにおいて一致しており,相違点は存在しない。本件発明は,本件公然実 施発明を主引用発明とした場合には新規性を欠くものである。 ① 原告は,構成要件Cの「縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた」の解釈について,目的とする建物を探し出すことができる程度に縮尺率を圧縮することで鳥瞰性を備えたことを意味すると主張するところ,本件公然実施発明は,住所指定地図を選択した場合に,目的とする建物を探し出すことができる程度の縮尺率になっている。したがって,本件公然実施 発明の構成は,本件発明の構成要件B及びCと一致する。 また,本件公然実施発明においては縮尺を調節することができ,実際に縮尺の倍率を高めた場合には建物名称を記載するスペースがないほどに縮小されるから,本件公然実施発明の構成は,本件発明の構成要件B及びCと一致する。 なお,本件公然実施発明の画面は,建物名称が記載できるスペースを保ったままの縮小ではないことが明らかであるから,原告が主張するように,建物名称が記載できるスペースを保ったままの縮小は構成要件Cの「縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた」に該当しないとしても,本件公然実施発明は,本件発明の構成要件B及びCと一致することに変わり はない。 ② 本件公然実施発明は「番地」を表示するものである。また,本件発明の構成要件Fの「番地」については,一般に,番地とは町・村・字などの地域内を区分して付けた番号を意味することから,そこに「号」まで含まなければならないとする理由はない。また,本件明細書の段落【0 011】では,「丁目,番地及び号を…記号番号と ・村・字などの地域内を区分して付けた番号を意味することから,そこに「号」まで含まなければならないとする理由はない。また,本件明細書の段落【0 011】では,「丁目,番地及び号を…記号番号と一覧的に対応させて掲載し」との構成を開示しながら,構成要件Fは,あえて「丁目,番地及び号」ではなく「番地」のみを取り出して「番地を…記号番号と一覧的に対応させて掲載し」という構成を採用しているのであるから,本件発明は「丁目」や「号」ではなく,「番」のみを掲載すれば足りるという構 成を採用したものであることが明らかである。したがって,本件公然実 施発明の構成は,本件発明の構成要件Fと一致する。 進歩性の有無仮に,本件公然実施発明と本件発明に相違点があるとしても,以下のとおり,容易想到である。本件発明は,本件公然実施発明を主引用発明とした場合には進歩性を欠くものである。 すなわち,本件発明の構成要件Fと本件公然実施発明の構成fに,番地のうち「号」に対応した地図の有無についての相違点があるとしても,住所指定地図表示において,その住所指定を「丁目」までとするか,「番」までとするか,「号」までとするかは,当業者が適宜なし得る設計事項にすぎない。また,本件特許出願日当時,索引欄として住所の最も細かな区分に 基づいて索引欄を設けて検索を容易にすることは周知であったから,当業者が検索を容易にするという周知の課題に動機付けられて,本件公然実施発明に前記の周知技術,又は乙9発明や乙10発明の構成を適用することにより,前記の相違点に係る構成に想到することは容易である。 (原告の主張) 公然実施性本件公然実施発明が,本件特許出願前に公然と実施されていたか否かは明らかでない。 新規性の有無本件公然実施発明 係る構成に想到することは容易である。 (原告の主張) 公然実施性本件公然実施発明が,本件特許出願前に公然と実施されていたか否かは明らかでない。 新規性の有無本件公然実施発明と本件発明を対比すると,以下の点で相違しているか ら,本件発明は新規性を有する。 ① 本件公然実施発明に係る解説書の記載に照らせば,構成bは,「検索の目安となる公共施設や一部の一般住宅及び建物等を除く一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し,居住人氏名や建物名称を記載するスペースを保った住宅及び建物の多角形と番地を 記載すると共に,」と認定されるべきである。また,本件公然実施発明の 構成cは,「住宅及び建物の多角形について居住人氏名や建物名称を記載するスペースを保ったまま,約1172分の1の縮尺の地図を構成し,」と認定されるべきである。 これに対し,本件発明の構成要件Cについて,検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除いた住宅及び建物は,その名称を省略するためポ リゴンを小さくすることができるし,検索の目安となる公共施設や著名ビル等についても,当該公共施設等がどのポリゴンに位置するかがわかれば検索の目安となるため,必ずしも当該ポリゴンの内部に当該公共施設名等を記載する必要はなく,検索の目安となる公共施設等のポリゴン自体も小さくすることが可能である。構成要件Bも,そのような縮尺の 圧縮が可能であることを前提に,居住人氏名や建物名称を省略し,住宅及び建物のポリゴンを記載するというものである。 したがって,本件公然実施発明の構成b及びcは,本件発明の構成要件B及びCと一致しない。 ② 本件公然実施発明は,「番地」までは地図に対応しているが,その次の 単位である「号」は索引画面には存在 がって,本件公然実施発明の構成b及びcは,本件発明の構成要件B及びCと一致しない。 ② 本件公然実施発明は,「番地」までは地図に対応しているが,その次の 単位である「号」は索引画面には存在せず,「号」に対応した地図が存在しないため,検索においては,「番地」に対応した地図の中から検索対象である「号」を探さなければならなくなることから,構成fは,「該住所指定地図表示に,前記地図に記載された全ての番地のうち地番のみを順序立てて掲載し,所望の番地のうちの地番を選択し,「地図表示」と記載 された部分をクリックすると,当該選択にかかる番地のうちの地番の地図が表示されるよう,設定した」と認定されるべきである。これに対し,本件発明の構成要件Fの「番地」には住所の地番だけでなく号が含まれる。したがって,番地のうち「号」に対応したページがない本件公然実施発明は,本件発明の構成要件Fと一致しない。 進歩性の有無 本件公然実施発明と本件発明の前記各相違点は,以下のとおり,いずれも容易想到とはいえない。本件発明は,本件公然実施発明を主引用発明とした場合に進歩性を有する。 すなわち,本件公然実施発明と本件発明は技術的思想が根本から異なっているから前記各相違点は設計事項であるとはいえないし,容易に想到で きる事項でもない。また,②の相違点については,本件公然実施発明は住居人の氏名を手掛かりに建物を探し出すことを前提としているから,その建物等についての「号」まで対応させて索引欄に記載する動機付けが存在しない。 エ乙10発明に基づく新規性・進歩性欠如の有無(争点4-4) (被告の主張)乙10刊行物は,本件特許権の出願日より前である大正11年12月20日に発行された住宅地図であり,以 乙10発明に基づく新規性・進歩性欠如の有無(争点4-4) (被告の主張)乙10刊行物は,本件特許権の出願日より前である大正11年12月20日に発行された住宅地図であり,以下の構成を備えた乙10発明を開示する。 a 住宅地図において, b 検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物の多角形と番地のみを記載すると共に,c 1/5000の縮尺の地図を構成し,d 該地図を記載したページを,横方向にマないしムの記号を付して8分 割し,縦方向に十八ないし二十三の番号を付して6分割して区画化し,e 付属として四谷區町名一覧表を設け,f 該四谷區町名一覧表に,前記地図に記載された全ての住宅建物の所在する番地を前記地図上における前記住宅建物の記載区画の記号番号と一目で分かるよう対応させて掲載した, g ことを特徴とする住宅地図 新規性の有無乙10発明と本件発明を対比すると,以下の点を含め,構成の全てにおいて一致しており,相違点は存在しない。本件発明は,本件公然実施発明を主引用発明とした場合には新規性を欠くものである。 すなわち,乙10発明の「多角形」,「1/5000」,「横方向にマない しムの記号を付して8分割し,縦方向に十八ないし二十三の番号を付して6分割して区画化し」,「四谷區町名一覧表」という構成は,それぞれ本件発明の「ポリゴン」,「縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた」,「適宜に分割して区画化し」,「索引欄」という構成要件に相当するものである。 進歩性の有無 仮に,乙10発明と本件発明に相違点があるとしても,以下のとおり,それらはいずれも容易想到 分割して区画化し」,「索引欄」という構成要件に相当するものである。 進歩性の有無 仮に,乙10発明と本件発明に相違点があるとしても,以下のとおり,それらはいずれも容易想到である。本件発明は,本件公然実施発明を主引用発明とした場合には進歩性を欠くものである。 ① 本件発明の構成要件Bは「住宅及び建物のポリゴン」とされているところ,乙10発明は地図上に抽象化された住宅及び建物の多角形が記載 されており,具体的な住宅及び建物の多角形にはなっていない点で,本件発明と形式的に相違し得る。 しかしながら,住宅及び建物の多角形を抽象化して記載するか,より具体的に記載するかという点は当業者が適宜選択する設計事項にすぎない。また,乙10発明に触れた当業者であれば,目的となる住宅等を 探し出し易くするとの周知の課題に動機付けられ,住宅地図の技術分野で目的となる住宅等を探し出し易くするために住宅及び建物の多角形を用いるという周知技術,又は乙9発明や乙11発明に記載された具体的な住宅及び建物の多角形を用いるとの構成を採用することにより,前記相違点に係る構成に容易に想到できる。 ② 本件発明の構成要件Fは「ページ及び…掲載した」とされているとこ ろ,乙10発明は1枚の地図であり,乙10発明がそのような構成を備えているか否かが明らかでない点が相違点として想定し得る。 しかしながら,地図を複数ページにして,住宅建物の記載ページも番地と一覧的に対応させて掲載することは周知技術であるから,そのような周知技術を適用することにより前記の相違点に係る構成に容易に想 到できる。 ③ 本件発明は「住宅地図」であるのに対して,乙10発明は「土地に着目した地番図」である点を相違点だと仮 な周知技術を適用することにより前記の相違点に係る構成に容易に想 到できる。 ③ 本件発明は「住宅地図」であるのに対して,乙10発明は「土地に着目した地番図」である点を相違点だと仮定しても,乙10発明に住宅地図の技術分野で目的となる住宅等を探し出し易くするために住宅及び建物の多角形を用いるという周知技術を適用することで,建物に着目し た住宅地図という構成に容易に想到できる。 ④ 本件発明は,「全ての住宅建物の所在する番地を…記号番号と一覧的に対応させて掲載した」ものであるのに対し,被告地図においては一部の番地の掲載がない点を相違点だと仮定しても,索引欄が検索を容易にするものであることは周知であるから,当業者が索引欄の周知の目的に 動機付けられ,索引欄で記載漏れを補って全ての番地を掲載する構成にすることは単なる最適化にすぎず,当業者が適宜なし得る設計事項である。 (原告の主張)新規性の有無 乙10発明と本件発明を対比すると,以下の点で相違しているから,本件発明は新規性を有する。 ① 乙10発明の構成aは,正しくは「土地に着目した地番図において,」と認定されるべきであるから,乙10発明の構成aは,本件発明の構成要件A「住宅地図において」と一致しない。 ② 乙10発明の構成bは,正しくは「検索の目安となる公共施設や著名 ビル等を含む一般住宅及び建物の多角形が一切記載されず土地の地番のみを記載すると共に」と認定されるべきであり,構成cは,正しくは,「検索の目安となる公共施設や著名ビル等を含む一般住宅及び建物の多角形が一切記載されない状況で,1/5000の縮尺の地図を構成し,」と認定されるべきである。そうすると,乙10発明の構成b及びc は,本件発明の構成要件B や著名ビル等を含む一般住宅及び建物の多角形が一切記載されない状況で,1/5000の縮尺の地図を構成し,」と認定されるべきである。そうすると,乙10発明の構成b及びc は,本件発明の構成要件B「検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載すると共に,」及び構成要件C「縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた地図を構成し,」と一致しない。 ③ 乙10発明は地図において示したい地域の全体が1枚の紙に記載されているため,本件発明の構成要件にいう「各ページ」という概念がないから,乙10発明の構成dは,本件発明の構成要件D「該地図を記載した各ページを適宜に分割して区画化し,」と一致しない。 ④ 乙10発明の構成fは,正しくは,「該四谷區町名一覧表に,前記地図 に記載された地番ごとに区切られた土地の所在する番地の一部を前記地番図上における前記土地の記載区画の記号番号と対応させて掲載した,」と認定されるべきである。そうすると,乙10発明の構成fは,本件発明の構成要件F「該索引欄に前記地図に記載の全ての住宅建物の所在する番地を前記地図上における前記住宅建物の記載ページ及び記載 区画の記号番号と一覧的に対応させて掲載した,」と一致しない。 ⑤ 乙10発明の構成gは,正しくは,「乙10発明の構成b,c,d,eについては前記のとおりの認定であることを特徴とする,土地に着目した地番図」と認定されるべきである。そうすると,乙10発明の構成gは,本件発明の構成要件Gの「ことを特徴とする住宅地図。」とは一致し ない。 進歩性の有無乙10発明と本件発明の前記各相違点は,以下のとおり,いずれも容易想到とはいえない。本件発明 の構成要件Gの「ことを特徴とする住宅地図。」とは一致し ない。 進歩性の有無乙10発明と本件発明の前記各相違点は,以下のとおり,いずれも容易想到とはいえない。本件発明は,乙10発明を主引用発明とした場合に進歩性を有する。 すなわち,乙10発明には地番ごとに区切られた土地の境界線のみが記 載されているだけで,住宅及び建物については抽象化された多角形さえも記載されていないのであるから,抽象化して記載するか,より具体的に記載するかは当業者が適宜選択する設計事項にすぎないという主張は前提を欠く。また,乙10発明や乙11発明は住宅地図ではないことや,乙10発明には建物の多角形が何ら記載されていないことなどに照らせば,乙 10発明に,周知技術又は乙9発明や乙11発明を組み合わせることにより,住宅及び建物の多角形を用いるとの構成に想到することはできない。 オ乙11発明に基づく新規性・進歩性欠如の有無(争点4-5)(被告の主張)乙11刊行物は,本件特許権の出願日前である昭和9年12月頃に発行 された住宅地図であり,以下の構成を備えた乙11発明を開示する。 a 住宅地図において,b 検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物の多角形と番地のみを記載すると共に, c 1/1000の縮尺の地図を構成した,g ことを特徴とする住宅地図進歩性の有無乙11発明の「多角形」は本件発明の「ポリゴン」に相当するから,乙11発明の構成a及びbは,本件発明の構成要件A及びBと一致する。ま た,原告の主張を前提とすれば,「1/1000の縮尺の地図」であっても 目的とする建物を探し 」に相当するから,乙11発明の構成a及びbは,本件発明の構成要件A及びBと一致する。ま た,原告の主張を前提とすれば,「1/1000の縮尺の地図」であっても 目的とする建物を探し出すことができる程度に縮尺率を圧縮することにより鳥瞰性を備えていることから,「縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた地図」に相当するといえ,乙11発明の構成cは,本件発明の構成要件Cと一致する。 他方,本件発明は「該地図を記載した各ページを適宜に分割して区画化 し,付属として索引欄を設け,該索引欄に前記地図に記載の全ての住宅建物の所在する番地を前記地図上における前記住宅建物の記載ページ及び記載区画の記号番号と一覧的に対応させて掲載した,ことを特徴とする住宅地図」(構成要件DないしG)とされているのに対し,乙11発明ではそのような特徴を備えていない点で相違する。 乙11発明に触れた当業者は,乙11発明に索引欄がないため目的とする住宅等を探し出すことが困難であるとの周知の課題に直面し,そのような課題に動機付けられ,住宅地図において「該地図を記載した各ページを適宜に分割して区画化し,付属として索引欄を設け,該索引欄に前記地図に記載の全ての住宅建物の所在する番地を前記地図上における前記住宅 建物の記載ページ及び記載区画の記号番号と一覧的に対応させて掲載した」という周知技術,又は乙9発明や乙10発明に記載された構成を採用することで,前記相違点に係る構成に容易に想到する。 これに対し,原告は,乙11発明は「住宅地図」ではないことや,乙11発明では「岩崎」,「黒川」など「氏」を示すと思われる記載があること を相違点として指摘し,それらについての容易想到性を否定するが,いずれについても実質的には相違 地図」ではないことや,乙11発明では「岩崎」,「黒川」など「氏」を示すと思われる記載があること を相違点として指摘し,それらについての容易想到性を否定するが,いずれについても実質的には相違点ではないか,当業者が適宜なし得る設計事項にすぎない。 (原告の主張)新規性の有無 乙11発明と本件発明を対比すると,以下の点で相違しているから,本 件発明は新規性を有する。 ① 乙11発明の構成aは,正しくは「火災保険会社に意味のある情報を中心に記載された火災保険特殊地図において」と認定されるべきである。 そうすると,乙11発明の構成aは,本件発明の構成要件A「住宅地図において,」と一致しない。 ② 乙11発明の構成bは,正しくは,「検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物についても居住人氏名の記載を省略せず,居住人氏名と住宅及び建物の多角形と番地を記載すると共に,」と認定されるべきである。そうすると,乙11発明の構成bは,本件発明の構成要件B「検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住 宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載すると共に,」と一致しない。 ③ 乙11発明の構成gは,正しくは,「乙11発明の構成bは本準備書面記載のとおり認定され,また,本件発明の構成要件D,E及びFの構成は有しないことを特徴とする火災保険特殊地図」と認定されるべきで ある。そうすると,乙11発明の構成gは,本件発明の構成要件G「ことを特徴とする住宅地図。」と一致しない。 進歩性の有無乙11発明と本件発明の前記各相違点は,以下のとおり,いずれも容易想到とはいえない。本件発明は,乙11発明を主引用発明とした場合に進 住宅地図。」と一致しない。 進歩性の有無乙11発明と本件発明の前記各相違点は,以下のとおり,いずれも容易想到とはいえない。本件発明は,乙11発明を主引用発明とした場合に進 歩性を有する。 すなわち,乙11発明は,火災保険特殊地図であり,建物の検索を主目的とする住宅地図とは異なり,火災保険会社にとっての有益な情報をどの程度記載できるかという点に主眼が置かれるため,乙11発明に,住宅地図である乙9発明や土地の地番図である乙10発明を組み合わせる動機 付けがなされることはない。したがって,乙11発明に乙9発明や乙10 発明を組み合わせることにより,本件発明の構成に容易に想到することはできない。 損害発生の有無及びその額(争点5)(原告の主張)被告は,検索連動型広告やディスプレイ広告などの広告関連サービスを事業 としており,被告地図の索引欄の右側及び地図の左側に広告を掲載するなどして被告地図を広告媒体化していることからすれば,本件特許権の実施により広告料の収入を得ているといえるところ,被告の平成29年3月期における検索連動型広告やディスプレイ広告などの広告収入に係る売上高は2815億円であり,このうち本件特許権の実施に係る売上高は少なくとも1年あたり50 億円を下らないから,原告が専用実施権の設定を受けた平成22年9月7日から本件特許権の登録が抹消された平成28年4月28日までの約5年7か月の間に被告が本件特許権の実施によって得た売上高の総額は少なくとも279億円を下らない。 そして,原告が被告から本件発明の実施に対し受けるべき金銭の額は,被告 が本件地図により得た売上高の少なくとも5%相当額は下らない。 したがって,特許法102条3項に基づき,原告が被告から本件発明の実 原告が被告から本件発明の実施に対し受けるべき金銭の額は,被告 が本件地図により得た売上高の少なくとも5%相当額は下らない。 したがって,特許法102条3項に基づき,原告が被告から本件発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭は,少なくとも金27億9000万円を下らない。 (被告の主張) 否認する。被告は被告地図プログラムを無償で提供しており,被告の広告収入は広告による収入であって,被告地図プログラムをユーザに利用できるようにして得た利益ではない。 第3 当裁判所の判断 1 本件各発明及びその意義 本件明細書の発明の詳細な説明には,以下の記載がある(甲2。なお,明白 な誤記と思われる箇所については修正した。)。 ア発明の属する技術分野「本発明は,住宅,ビル等の一軒ごとに居住者名や会社名等の対応付けが容易で縮尺率が極めて高い小型な住宅地図に関する。」(段落【0001】)イ従来の技術 「従来の住宅地図には,建物表示に住所番地ばかりでなく,居住者氏名も全て併記されており,このため,それらの記載を一軒ごとに建物表示の輪郭内に納めるために一軒毎の建物の記載スペースを大きく取る必要があった。 従って,住宅地図の縮尺は,実用上,小さいものでも市街地で1,000分の1から1,500分の1の大きさであることが要求される。また,これに 伴って目的とする建物や建物への連絡道路や付近の状況等を一覧できるように,地図帳の大きさも比較的大判サイズのものにする必要があった。」(段落【0002】)「また,付属の索引については,住所のうち丁目とそれぞれの丁目に該当するページが掲載されているだけであったから,目的とする建物を探し出す ためには,索引によって開い 」(段落【0002】)「また,付属の索引については,住所のうち丁目とそれぞれの丁目に該当するページが掲載されているだけであったから,目的とする建物を探し出す ためには,索引によって開いた上記のように大判の広いページの上で,丁目が同一であって番地が異なる多くの建物の中から目的とする建物を探し出す必要があった。さらに上記のように縮尺度の低い縮尺のもとでは一軒毎の建物の記載スペースが大きいために,同一の丁目に属する建物が数ページにまたがって分布して記載されていることが多く,このため目的とする居住地 (建物)を探し出す作業が煩雑で面倒であり迅速さに欠け非能率な作業となって大きな不満を伴うものであった。」(段落【0003】)「また,従来より住宅地図には氏名と住所を記載することが必須とされており,このため,アルバイト生などを雇って一軒一軒尋ね歩かせ,住所,氏名を確認のうえ住宅地図上の当該家屋に新規に書き込み,あるいは修正する などして,いわゆる人海戦術によって地図の作成を行っていた。このように, 氏名の記載に伴う地図作成の繁雑さ及び地図作成後の住所移転に伴う氏名の記載変更作業の繁雑さは並大抵のものではなく,このように毎年行われる実地調査のための人件費が経費の相当部分を占めて,これが住宅地図の制作費を押し上げる要因となっていた。」(段落【0004】)「また,このような住宅地図は,住所番地と氏名あるいは建物などが同色 で併記されているため雑然としていて見にくく,従って,肉眼でも判別可能な実用性を確保するためには大きく記載しなければならず,ますます縮尺度を低いものにさせていた。従って,全体として地図の大型化や大冊化を招き,この大型化や大冊化が上記の人件費と相俟って住宅地図を高価格なものとするとともに,携帯に く記載しなければならず,ますます縮尺度を低いものにさせていた。従って,全体として地図の大型化や大冊化を招き,この大型化や大冊化が上記の人件費と相俟って住宅地図を高価格なものとするとともに,携帯に不便なものともしていた。」(段落【0005】) 「この高価格や大型化・大冊化のために,住宅地図は一般には普及せず,官公庁や住宅関係の情報を特に必要とする企業など,ごく一部に使用されるだけの利用率の低いものとなっている。また,同様の理由により,住宅地図を必要とする企業等においても,携帯による個別的な利用は一般的になされず,その点からも利用率の低いものとなっている。」(段落【0006】) 「そして,住宅地図の利用においては,一般に,目的とする建物を探し出す過程で必要な情報は,公共施設や著名ビル等の一部例外を別にすれば専ら住宅の番地であり,この住宅の番地が目的とする建物に検索が近づいているか否かを判別するための手掛かりとなる。氏名は目的とする建物が見つかったとき更なる確認のために必要とされることはあっても,必須不可欠なもの ではない。のみならず,検索中における付近の建物の住人の氏名は不要なばかりか,総じて,検索に対して妨害的に作用するものである。実際,氏名は漢字やかなで表記されるため,住宅地図上の建物輪郭内に必要とするスペースの割合が大きく,結果的に,数字である住所番地はその片隅に小さく記載されざるを得ないから,記載情報を読み取る際の人間の習性として,検索中 は,住所番地ばかりでなく付近の不要な文字(氏名) まで読み取ることにな り迅速な検索の支障になっている。」(段落【0007】)「更に,現存の住宅地図の作成では,例えば一軒一軒表札を見て居住者の氏名を記入するため,電話帳に電話番号を掲載しない住民その他氏 り迅速な検索の支障になっている。」(段落【0007】)「更に,現存の住宅地図の作成では,例えば一軒一軒表札を見て居住者の氏名を記入するため,電話帳に電話番号を掲載しない住民その他氏名の公表を希望しない住民についても住宅地図を登載してしまうこととなる。このため,プライバシーの保護という点からも問題を有している。」(段落【000 8】)「本発明の課題は,上記従来の実情に鑑み,住宅,ビル等の一軒ごとに居住者名や会社名等の対応付けが容易であり,縮尺率が高く小型で廉価であり,内容が最新,正確,且つプライバシーに配慮したものであり,検索が迅速にできる住宅地図を提供することである。」(段落【0010】) ウ課題を解決するための手段「先ず,請求項1記載の発明の住宅地図は,検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については住人氏名や建物名称の記載を省略し住所及び建物のポリゴンと番地のみを記載すると共に,縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた地図を構成し,該地図を記載した各ページを適宜に 分割して区画化し,付属として索引欄を設け,該索引欄に上記地図に記載の全ての住居建物の所在する丁目,番地及び号を上記地図上における上記住居建物の記載ページ及び記載区画の記号番号と一覧的に対応させて掲載して構成される。」(段落【0011】)本件各発明の意義 前記によれば,本件発明の意義は以下のとおりであると認められる。 従来の住宅地図は,建物表示に住所番地だけでなく居住者氏名も全て併記されていたため,氏名を記載するためのスペースを確保するために住宅地図の縮尺を高くすることができず,そのため,地図の大きさも比較的大きくする必要があるとともに,地図に氏名が記載されることによるプライバシー侵害や利用 載するためのスペースを確保するために住宅地図の縮尺を高くすることができず,そのため,地図の大きさも比較的大きくする必要があるとともに,地図に氏名が記載されることによるプライバシー侵害や利用 者の検索への支障を生じたり,地図の更新作業のための調査に膨大な労力と人 件費がかかったりするという課題があった。また,住宅地図に付されている索引についても,住所のうち丁目と,それぞれの丁目に該当するページが掲載されているだけであったため,同一の丁目の中で番地が異なっている多くの建物の中から目的とする建物を探し出す必要があった。 本件発明は,居住者氏名を記載しないため,高い縮尺度で地図を作成するこ とにより小判で,薄い,取り扱いの容易な廉価な住宅地図を提供することや,地図の更新のために氏名調査等の労力を要しないことによって廉価な住宅地図を提供することを可能にするとともに,地図上に公共施設や著名ビル等以外は住宅番地のみを記載し,地図のページを適宜に分割して区画化したうえで建物の所在する番地と記載ページと記載区画の記号番号を一覧的に対応させた 索引欄を付すことによって,簡潔で見やすく迅速な検索を可能にする住宅地図を提供することを可能にするものである。 2 争点1-4(構成要件D(「該地図を記載した各ページを適宜に分割して区画化し」)についての文言侵害の有無) 後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア被告地図プログラムは,ユーザが,インターネット上の「https://以下省略」のURLにアクセスし,所定の操作をするなどすると,ユーザの端末にインストールされているWebブラウザを介して,ユーザ端末のディスプレイに地図を表示できるようにしたプログラムである。 被告地図プログラムにより表示 スし,所定の操作をするなどすると,ユーザの端末にインストールされているWebブラウザを介して,ユーザ端末のディスプレイに地図を表示できるようにしたプログラムである。 被告地図プログラムにより表示される地図では,縮尺レベルが1~20の 20段階に分かれており,縮尺レベル20が最も詳細(縮尺率が小さい)なもので,縮尺レベル1が最も広域(縮尺率が大きい)なものである。各縮尺レベルに応じて,地図用のデータが存在する。 りディスプレイの画面に表示される地図の画面表示等は,別紙「被告地図プログラムの構成(分説)」記載の とおりである。 (以上につき,甲13ないし19,乙1,22,弁論の全趣旨) イ被告地図において,市区町村名,町名,丁目及び番の表示の右側に〔地図〕と表示された部分等にはハイパーリンクが設定されており,そのハイパーリンクに係るURLは,冒頭に「https://以下省略」と記載され,その後の記載がパラメータであることを示す「?」が記載された後に,「lat=…&lon=…&ac=…&az=…」及び「z=…」という記載を含む ものである。前記のlat,lon,ac,azが示す各値は,それぞれ当該地点に係る緯度,経度,都道府県及び市区町村の住所コード,町,丁目,番又は号の番号を示し,zが示す値は縮尺レベルを示す。ユーザがディスプレイ画面上で当該ハイパーリンクをクリックすると,その緯度経度を含む地点データと縮尺データを含むURLが被告地図の地図提供サーバに送信さ れる。地図提供サーバが,この地点データに係る地点を含み,かつ,縮尺データに係る縮尺のメッシュ地図を地図データベースサーバから読み出し,ユーザのパソコンに送信することにより,ユーザのディスプレイ画面上において当該緯度経度を中心とした所定の縮 地点を含み,かつ,縮尺データに係る縮尺のメッシュ地図を地図データベースサーバから読み出し,ユーザのパソコンに送信することにより,ユーザのディスプレイ画面上において当該緯度経度を中心とした所定の縮尺の地図が表示される。(甲4ないし19,弁論の全趣旨) ウインターネットに接続した状態で被告地図をユーザのディスプレイ画面に表示し,その後,インターネットの接続を停止した上で地図表示画面をスクロールさせると,地図が表示されない部分が画面上に表示される。(甲34,弁論の全趣旨)エ被告地図プログラムにおける縮尺レベル19の縮尺は,概ね1/1250 から1/2857の範囲であり,被告地図における縮尺レベル20の縮尺は,概ね1/615程度である。(甲33,乙1,弁論の全趣旨) の記載がある。なお,以下の図1ないし5は,それぞれ,本判決別紙本件明細書図1ないし5である。 ア段落【0017】 「図1は,一実施の形態における番地(住所の地番及び号)のみを記載した住宅地図のページの一例を示す図である。同図に示す地図1は,3本の縦線2と,1本の横線3により,8つの区分に仕切られている。上段の区分は左から右へ第1区分,第2区分,第3区分及び第4区分として夫々区分の中央に括弧付きの番号が(1),(2),(3)及び(4)と付記されている。下 段には,上記に続く区分番号が同様に区分の中央に(5),(6),(7)及び(8)と付記されている。これらの区分番号は,その区分を拡大して示すページの番号であり,例えば第4区分の番地付きの詳細図は,その区分番号(4)で示す4ぺージに掲載されている。」イ段落【0018】 「図2は,上記一例として示したページの第4区分を拡大して示すページ即 分の番地付きの詳細図は,その区分番号(4)で示す4ぺージに掲載されている。」イ段落【0018】 「図2は,上記一例として示したページの第4区分を拡大して示すページ即ち4ページを示している。同図に示す拡大地図4は,5本の仕切り線5によって上下に6つの区画に仕切られて(分割されて)いる。それらの区画には,左外側に,上から1,2,…6と区画番号が付記されている。この拡大地図4が,検索対象となる住宅地図であり,図1の地図1は,検索対象の居 所を検出した後,その探し当てた住所付近の全体像を知るために利用される俯瞰図である。」ウ段落【0019】「図3は,説明上の便宜のため,図2の拡大地図4の第6区画を更に拡大して示している。図3に示すように,第6区画は,左方にこの辺一帯の地名 である「丙原」の字名(あざな)6が記載されている。そして,やや右方に集中して,住宅その他の建造物(以下,これらを建物という)が,ポリゴンで表され,公共施設の「○×公民館」の記載7の他には,一般住宅及び建物について居住人氏名や建物名称の記載が省略されている。建物には黒点が打たれて単に番地のみが付記されている。」 エ段落【0022】 「図4は,索引欄の一例を示す図表である。同図は例として字名(都市部では町名)と,その字名の中に含まれる住宅の番地(以下,住宅番地という),そして,その住宅番地の建物が掲載されている地図の頁とその区割りが一覧的に対応させて記載されている。」オ段落【0023】 「同図に示す索引欄には字名は甲原,乙原,及び丙原の3つが示されている。字名が甲原の最初の住宅番地は「8~14-5」となっており,これに対応する頁は「1」,区割 段落【0023】 「同図に示す索引欄には字名は甲原,乙原,及び丙原の3つが示されている。字名が甲原の最初の住宅番地は「8~14-5」となっており,これに対応する頁は「1」,区割りは「4」となっている。これは甲原の8番地,9番地,…,14番地5号までが,1頁の第4区画に掲載されていることを表している。」 カ段落【0024】「住宅番地「8~14-5」の「~」は中間の番地の記載を省略したことを表している。すなわち,1頁の第4区画に掲載されている番地の最も小さい番地及び号が「8」(号はない)であり,最も大きい番地及び号が「14-5」であることを表している。したがって,甲原の「○池△太郎」が9番地 に居住していることが電話帳で分かれば,9番地は「8~14-5」の範囲内に含まれるから,1頁を開いて第4区画を探せばよいことになる。」キ段落【0027】「また,図3の拡大図に示す4頁の第6区画の字名「丙原」地区に掲載されている番地は,図4の索引欄では,字名「丙原」の欄の一行目の中欄に, 住宅番地「30~70」,頁「4」,区画「6」として,上述した30,32,33,35,52,53-1,55,56,57,60,61,64,65,66,69及び70番地が示されており,さらに8行目の中欄に,住宅番地「1539~1821-3」,頁「4」,区画「6」として,上述した1539,1539-2,1804,1808,1812,1813-1,181 3-2,1814,1821-3及び1821-2番地が示されている。」 ク段落【0028】「これによって,丙原の「×垣○次郎」の住宅を探すときは,電話帳で丙原地区のページを調べ,×垣○次郎を探し出し, 821-2番地が示されている。」 ク段落【0028】「これによって,丙原の「×垣○次郎」の住宅を探すときは,電話帳で丙原地区のページを調べ,×垣○次郎を探し出し,そこに電話番号と共に記載されている所番地,例えば「丙原52番地」によって,図4の索引欄の字名「丙原」,住宅番地「30~70」,頁「4」,区画「6」から,図2に示す4 ページの検索用地図4の第6区画内を探して,52番地の建物8(図3の拡大図参照)を探し当てることができる。」ケ段落【0031】「尚,図2に示した検索用地図4では,区画を縦6段にして,横方向に区画割りを行っていないが,都市部など建物が混み合うところでは更に横方向 に区画を設けるようにしてよい。」コ段落【0032】「図5は,図2と同じ検索用地図4を縦横に仕切って合計24区画に分割した例を示している。このように縦横に区画する場合は,横方向の区画には例えば図のようにA,B,C,Dのように英文字を用いて区画記号を付記す るようにし,図4の索引欄には,区画記載欄に「1A」,「6C」のごとく縦の区画番号と横の区画記号を記載する。これによって24区画内の番地を各区画に対応させて記載することができる。」構成要件Dの「適宜に分割して区画化」について構成要件Dの「適宜に分割して区画化」の意義について,特許請求の範囲の 「各ページを適宜に分割して区画化し,…住宅建物の所在する番地を前記地図上における前記住宅建物の記載ページ及び記載区画の記号番号と一覧的に対応させて掲載」という記載(構成要件D,E及びF)に照らせば,構成要件Dの「適宜に分割して区画化」とは,記号番号を付すことや番地と対応する区画を一覧的に示すことができる区画を作成するこ と一覧的に対応させて掲載」という記載(構成要件D,E及びF)に照らせば,構成要件Dの「適宜に分割して区画化」とは,記号番号を付すことや番地と対応する区画を一覧的に示すことができる区画を作成することが可能となるように,検索す べき領域の地図のページを分割し,認識できるようにすることといえる。 そして,本件発明は,地図上に公共施設や著名ビル等以外は住宅番地のみを記載するなどし,全ての建物が所在する番地について,掲載ページと当該ページ内で分割された該当区画を一覧的に対応させて掲載した索引欄を設けることによって,簡潔で見やすく迅速な検索を可能にする住宅地図の提供を可能にするというものであり,本件発明の地図の利用者は,索引 欄を用いて,検索対象の建物が所在する地番に対応する,ページ及び当該ページにおける複数の区画の中の該当の区画を認識した上で,当該ページの該当区画内において,検索対象の建物を検索することが想定されている。そのためには,当該ページについて,それが線その他の方法によって複数の区画に分割され,利用者が該当の区画を認識することができる必要があるといえる。そうす ると,本件明細書に記載された本件発明の目的や作用効果に照らしても,本件発明の「区画化」は,ページを見た利用者が,線その他の方法及び記号番号により,検索対象の建物が所在する区画が,ページ内に複数ある区画の中でどの区画であるかを認識することができる形でページを区分することをいうといえる。 実施の形態において,本件発明を実施した場合における住宅地図の各ページの一例として別紙「本件明細書図2」及び「本件明細書図5」が示されているところ,これらの図においては,いずれも道路その他の情報が記載された長方形の地図のページが示されたうえで,そのペ 地図の各ページの一例として別紙「本件明細書図2」及び「本件明細書図5」が示されているところ,これらの図においては,いずれも道路その他の情報が記載された長方形の地図のページが示されたうえで,そのページが,ページ内にひかれた直線によって仕切られて複数の区画に分割 されており,その複数の区画にそれぞれ区画番号が付されている。また,本件明細書図4の索引欄には,番地に対応する形でページ番号及び区画番号が記載されており,利用者は,検索対象の建物の番地から,索引欄において当該建物が掲載されているページ番号及び区画番号を把握し,それらの情報を基に,該当ページ内の該当区画を認識して,その該当区画内を検索することにより,目 的とする建物を探し出すことが記載されている(段落【0028】)。ここでは, 上記の特許請求の範囲の記載や発明の意義に従った実施の形態が記載されているといえる。そして,「区画化」の意義に関係して,他の実施の形態は記載されていない。 以上によれば,構成要件Dの「区画化」とは,地図が記載されている各ページについて,記載されている地図を線その他の方法によって仕切って複数の区 画に分割し,その各区画に記号番号を付すことであり,索引欄を利用することで,利用者が,線その他の方法及び記号番号により,当該ページ内にある複数の区画の中の当該区画を認識することができる形で複数の区画に分割することを意味すると解するのが相当である。 原告は,被告地図において,縮尺レベル19の住宅地図及び縮尺レベル20 の住宅地図がそれぞれ構成要件Dの「該地図を記載した各ページ」に該当すると主張した上で,被告地図のデータは,画面に表示されるときに区分された形でその一部が表示されるから構成要件Dの「適宜に分割して区画化」されると主張す 成要件Dの「該地図を記載した各ページ」に該当すると主張した上で,被告地図のデータは,画面に表示されるときに区分された形でその一部が表示されるから構成要件Dの「適宜に分割して区画化」されると主張するとともに,「メッシュ化」され,また,複数のデータとして管理されているから構成要件Dの「適宜に分割して区画化」することになると主張する。 しかし,仮に,縮尺レベル19の住宅地図及び縮尺レベル20の住宅地図がそれぞれ構成要件Dの「該地図を記載した各ページ」に該当するとしても,利用者は,画面に表示されている地図を見ているのであって,線その他の方法及び記号番号により,ページにある複数の区画の中で,検索対象の建物が所在する地番に対応する区画を認識することができるとはいえない。被告地図におい て「メッシュ化」がされていて,また,被告地図に係るデータが複数のデータとして管理されているとしても,被告地図プログラムの構成(分説)及び前記アないしウに照らし,利用者は,「メッシュ化」されている範囲や区分されたデータを通常認識しないだけでなく,それらに対応する記号番号を認識することはない。したがって,被告地図において,線その他の方法及び記号番号によ り,ページにある複数の区画の中で,検索対象の建物が所在する地番に対応す る区画を認識することができるとはいえない。そうすると,前記に照らし,被告地図において,「各ページ」が,「適宜に分割して区画化」されているとはいえない。 これらによれば,被告地図について,構成要件Dの「適宜に分割して区画化」がされているとは認められない。 小括以上によれば,その余の構成要件の充足性を判断するまでもなく,被告地図 なお,原告は,予備的に,構成要件Fに関する均等侵害の主張をする がされているとは認められない。 小括以上によれば,その余の構成要件の充足性を判断するまでもなく,被告地図 なお,原告は,予備的に,構成要件Fに関する均等侵害の主張をするが(争点2(被告地図プログラムプレイ に表示された被告地図についての均等侵害の有無),被告地図プログラムの構の文言を充足しないから,構成要件Fについての均等侵害の有無を検討するまでもなく,被告地図プログラ 3 小括 は,本件発明の技術的範囲に属すると認めることはできない。 第4 結論よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官柴田義明 裁判官佐藤雅浩 裁判官安岡美香子は差し支えのため署名押印できない。 裁判長裁判官柴田義明
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