令和4(ネ)10055 特許権侵害差止等請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
令和5年12月27日 知的財産高等裁判所 3部 判決 原判決取消 東京地方裁判所 平成30(ワ)36232
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判決文本文107,487 文字)

令和5年12月27日判決言渡 令和4年(ネ)第10055号特許権侵害差止等請求控訴事件(原審東京地方裁判所平成30年(ワ)第36232号) 口頭弁論終結日令和5年10月26日判決 控訴人株式会社シンコウフーズ(以下「控訴人シンコウフーズ」という。) 控訴人スターゼン株式会社(以下「控訴人スターゼン」という。) 上記両名訴訟代理人弁護士弓削田博同河部康弘同平田慎二 上記両名訴訟代理人弁理士河部秀男 上記両名補佐人弁理士平木康男同藤田節同田中夏夫同漆山誠一 被控訴人滝沢ハム株式会社 同訴訟代理人弁護士新田裕子 同海老原輝 同前田葉子同日野英一郎同家村洋太同奥田崇仁同補佐人弁理士豊岡静男 同廣瀬文雄 主文 1 原判決を取り消す。 士豊岡静男 同廣瀬文雄 主文 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は、原判決別紙被控訴人各製品目録記載の各製品を製造、販売してはならない。 3 被控訴人は、前項の各製品を廃棄せよ。 4 被控訴人は、原判決別紙被控訴人方法目録記載の各方法を使用してはならない。 5 被控訴人は、控訴人スターゼンに対し、3380万3677円及びうち669万6028円に対する平成30年11月19日から支 払済みまで、うち2710万7649円に対する令和2年2月11日から支払済みまでそれぞれ年5分の割合による金員を支払え。 6 控訴人スターゼンのその余の請求を棄却する。 7 訴訟費用は、第1、2審を通じてこれを10分し、その9を控訴人らの負担とし、その余を被控訴人の負担とする。 8 この判決の第5項は、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 主文第1項ないし第4項同旨 2 被控訴人は、控訴人スターゼンに対し、6億2073万2976円及びうち 1億7290万2345円に対する平成30年11月19日から支払済みま で、うち4億4783万0631円に対する令和2年2月11日から支払済みまでそれぞれ年5分の割合による金員を支払え。 3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。 4 仮執行宣言第2 事案の概要 1 本件は、原審において、発明の名称を「特定加熱食肉製品、特定加熱食肉製品の製造方法及び特定加熱食肉製品の保存方法」とする特許権(特許第5192595号。以下「本件特許権」といい、 概要 1 本件は、原審において、発明の名称を「特定加熱食肉製品、特定加熱食肉製品の製造方法及び特定加熱食肉製品の保存方法」とする特許権(特許第5192595号。以下「本件特許権」といい、その特許を「本件特許」という。特許公報は別紙のとおりである。)を有する控訴人シンコウフーズから本件特許の独占的通常実施権を付与された控訴人スターゼンが、被控訴人が製造、販売 している原判決別紙被控訴人各製品目録記載のローストビーフ(以下、同目録記載1の製品を「被控訴人製品1」、同目録記載2の製品を「被控訴人製品2」、同目録記載3の製品を「被控訴人製品3」といい、これらを総称して「被控訴人各製品」という。)が同特許権の請求項1の発明に係る特許発明の技術的範囲に属するとして、被控訴人に対し、特許法100条1項、2項に基づき、同 特許権に係る方法で製造される被控訴人各製品の製造、販売の差止め及び廃棄を求めるとともに、民法709条及び特許法102条2項に基づき、控訴人スターゼンにおいて、令和2年6月12日付け「訴えの変更申立書兼訴状訂正申立書」(令和2年7月3日、原審被告に送達、原審第12回弁論準備手続期日(令和2年7月16日)において陳述)により控訴人シンコウフーズから本件 特許侵害に係る損害賠償請求権について債権譲渡を受けた分を含む特許権侵害の損害賠償として6億2073万2976円及びうち平成30年11月19日までの販売に係る損害1億7290万2345円について訴状送達の日の翌日である同日から支払済みまで、同月20日から令和2年2月11日までの販売に係る損害4億4783万0631円について不法行為の後の日であ る令和2年2月11日から支払済みまで、それぞれ平成29年法律第44号に よる改正前の民法所定の年5分の割 日までの販売に係る損害4億4783万0631円について不法行為の後の日であ る令和2年2月11日から支払済みまで、それぞれ平成29年法律第44号に よる改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求する事案である。 原審が、被控訴人各製品の製造方法(被控訴人方法)は本件特許の請求項1に係る発明の各構成要件を基本的に充足するものの、同発明に係る特許は乙12記載の発明(乙12発明)に基づき特許無効審判により無効とされるべき事 由があるとして、控訴人らの請求をいずれも棄却したところ、控訴人らがその取消しを求めて本件控訴を提起した。 控訴人らは、当審において、本件特許の請求項5の発明に係る特許に基づく請求を追加する訴えの変更をし、これに対し、被控訴人は、同請求項の発明に係る特許につき、特許無効審判により無効とされるべきであるとする抗弁(後 記争点2)を提出した。 被控訴人は、令和5年4月17日に行われた当審第5回口頭弁論期日において、消滅時効の主張を援用した。 なお、後記被控訴人が申し立てた本件特許についての無効審判請求の審決取消訴訟の確定により、控訴人らは本件特許の請求項1に係る主張を、被控訴人 は、同請求項1に係る対抗主張(原審における争点2)をそれぞれ撤回した。 2 前提事実、争点(なお、当審において被控訴人各製品の販売数量、利益率につき争いがなくなった。)及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり補正し、後記3のとおり当審における当事者の主な補充主張を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中、第2の2ないし4(原判決3頁6行目から27頁1 8行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する(なお、原判決は、本件特許の請求項1に係る発明を「本件発明」としている 「事実及び理由」中、第2の2ないし4(原判決3頁6行目から27頁1 8行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する(なお、原判決は、本件特許の請求項1に係る発明を「本件発明」としているが、請求項1と訂正後の請求項5の相違が後記⑴のとおりの下線部分のみであり、その部分につき後記(2)のとおり充足性に争いがないことに照らし、そのまま本件特許の訂正後の請求項5に係る発明を指すものとして「本件発明」を読み替える。)。 ⑴ 原判決3頁14行目の「(以下」から同頁15行目の「という。」」まで を削り、同頁24行目の冒頭から同4頁23行目の末尾までを次のとおり改める。 「⑷ 被控訴人は、平成31年4月8日、本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし5に係る発明についての特許につき無効審判を請求し、特許庁は、これを無効2019-800030号として審理した(以 下『本件無効審判』という。)。 控訴人シンコウフーズは、令和2年7月6日に訂正請求書を提出し、同日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項2、5について請求項ごとに訂正すること(以下『本件訂正』という。)を求めた。 特許庁は、本件無効審判について、令和3年2月8日、結論を『特許第5192595号の特許請求の範囲を令和2年7月6日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項2、5について訂正することを認める。特許第5192595号の請求項1、2に係る発明についての特許を無効とする。特許第519259 5号の請求項3、4、5に係る発明についての審判請求は、成り立たない。』とする審決(以下『本件審決』という。)をした(甲172)。 控訴人シンコウフーズ及び被控訴人は、それぞれ本件審決の取り 5号の請求項3、4、5に係る発明についての審判請求は、成り立たない。』とする審決(以下『本件審決』という。)をした(甲172)。 控訴人シンコウフーズ及び被控訴人は、それぞれ本件審決の取り消しを求めて審決取消訴訟を提起した(当庁令和3年(行ケ)第10038号、同第10040号)が、知財高裁は、令和5年2月6日、控 訴人シンコウフーズ及び被控訴人それぞれの請求を棄却する旨の判決をした。これに対し控訴人シンコウフーズ及び被控訴人が上告受理申立てをしたが、最高裁は、令和5年9月21日、上告不受理決定をした(甲228、229、当裁判所に顕著)。 ⑸ 本件特許権に係る特許請求の範囲の請求項5の記載は、以下のとお りである(以下、請求項5に記載された発明を『本件発明』という。 また、本件特許権に係る明細書を『本件明細書』という。なお、本件明細書には『脱酸素材』と記載され、乙12等には『脱酸素剤』と記載されているが、これらは同じ意味と解される。)。 『特定加熱食肉製品をスライスする工程と、スライスされた特定加熱食肉製品における還元型ミオグロビンをオキシミオグロビンに酸素化 する工程と、当該酸素化する工程の後、炭酸ガス及び/又は窒素ガスによるガス置換をすることなく、スライスされた特定加熱食肉製品を非鉄系脱酸素材とともにガスバリア性を有する包材に密封する工程とを含み、上記スライスされた上記特定加熱食肉製品は、ガスバリア性を有する包材に密封された状態、且つ、当該包材内の酸素濃度が検出 限界以下の条件下で、全ミオグロビン量を100%としたときにオキシミオグロビンが12%以上、メトミオグロビンが50%未満、還元型ミオグロビンが34%以上となる割合となっていることを特徴とする特定加熱食肉製品の製造方法であ オグロビン量を100%としたときにオキシミオグロビンが12%以上、メトミオグロビンが50%未満、還元型ミオグロビンが34%以上となる割合となっていることを特徴とする特定加熱食肉製品の製造方法であって、特定加熱食肉製品がローストビーフであることを特徴とする特定加熱食肉製品の製造方法。』 同請求項を分説すると、以下のとおりとなる(以下、分説された構成要件の符号に従い、『構成要件A』などという。下線部は、本件特許の請求項1の特許請求の範囲の記載と異なる部分であり、以下『下線部』という。)。 A 特定加熱食肉製品をスライスする工程と、 B スライスされた特定加熱食肉製品における還元型ミオグロビンをオキシミオグロビンに酸素化する工程と、C 当該酸素化する工程の後、炭酸ガス及び/又は窒素ガスによるガス置換をすることなく、スライスされた特定加熱食肉製品を非鉄系脱酸素材とともにガスバリア性を有する包材に密封する工程とを 含み、 D 上記スライスされた上記特定加熱食肉製品は、ガスバリア性を有する包材に密封された状態、且つ、当該包材内の酸素濃度が検出限界以下の条件下で、全ミオグロビン量を100%としたときにオキシミオグロビンが12%以上、メトミオグロビンが50%未満、還元型ミオグロビンが34%以上となる割合(以下『本件ミオグロビ ン割合』といい、3種のミオグロビンが占める割合を『ミオグロビン割合』という。)となっていることE (構成要件A~D)を特徴とする特定加熱食肉製品の製造方法であって、F 特定加熱食肉製品がローストビーフであることを特徴とする特定 加熱食肉製品の製造方法。」⑵ 同4頁24行目の「⑸」を「⑹」と、同5頁18行目の「⑹」を「⑺」とそれぞれ改め、 って、F 特定加熱食肉製品がローストビーフであることを特徴とする特定 加熱食肉製品の製造方法。」⑵ 同4頁24行目の「⑸」を「⑹」と、同5頁18行目の「⑹」を「⑺」とそれぞれ改め、同頁24行目の末尾の次を改行し、次のとおり加える。 「⑻ 被控訴人は、被控訴人各製品の製造方法(被控訴人方法)の本件発明の構成要件C、E及びFのうちの下線部に関する部分について、充足性 を明らかに争わない。」⑶ 同6頁3行目の冒頭から同頁5行目の末尾までを次のとおり改める。 「 イ被控訴人各製品は、構成要件C(当該酸素化する工程の後、炭酸ガス及び/又は窒素ガスによるガス置換をすることなく、スライスされた特定加熱食肉製品を非鉄系脱酸素材とともにガスバリア性を有する 包材に密封する工程)を充足するか(争点1-2)」⑷ 同6頁11行目の冒頭から同頁12行目の末尾までを次のとおり改める。 「⑵ 本件特許は、特許無効審判により無効にされるべきか(争点2)ア無効理由1(公知発明(鎌倉山パストラミビーフ)に基づく進歩性欠如)(争点2-1) イ無効理由2(公知発明(DCSローストビーフ)に基づく進歩性欠 如)(争点2-2)ウ無効理由3(乙174(特公昭59-15014号公報)に基づく進歩性欠如)(争点2-3)エ無効理由4(乙175(特開平9-172949号公報)に基づく進歩性欠如)(争点2-4) オ無効理由5(乙176(特公昭58-29069号公報)に基づく進歩性欠如)(争点2-5)カ無効理由6(明確性要件違反)(争点2-6)キ無効理由7(実施可能要件違反)(争点2-7)ク無効理由8(サポート要件違反)(争点2-8)」 ⑸ 同6頁16行目の末尾の次を改行し 無効理由6(明確性要件違反)(争点2-6)キ無効理由7(実施可能要件違反)(争点2-7)ク無効理由8(サポート要件違反)(争点2-8)」 ⑸ 同6頁16行目の末尾の次を改行し、次のとおり加える。 「⑹ 消滅時効(争点6)」⑹ 同7頁11行目の「明細書」の前に「本件」を加え、同11頁4行目及び同13頁8行目の各「肉食」をいずれも「肉色」と改め、同13頁23行目の冒頭から同19頁16行目の末尾までを削る。 ⑺ 同19頁17行目の「⑶」を「⑵」と、同20頁5行目の「⑷」を「⑶」と、同25行目の「⑸」を「⑷」と、それぞれ改める。 ⑻ 同23頁10行目の「イオン」を「イオン株式会社のグループ(以下「イオン」という。)」と、同24頁17行目の「肉食」を「肉色」とそれぞれ改める。 ⑼ 同25頁25行目の「MD方式」を「チームMD方式」と、同26頁22行目の「招請」を「焼成」と、同27頁6行目の「他ならなない」を「他ならない」と、同頁13行目の「肉食」を「肉色」とそれぞれ改める。 第3 当審における当事者の主な補充主張 1 被控訴人各製品が本件発明の技術的範囲に属するか否か(争点1) ⑴ 争点1-1(被控訴人各製品は、構成要件B(還元型ミオグロビンをオキ シミオグロビンに酸素化する工程)を充足するか)について〔被控訴人の主張〕ア原判決は、本件特許の請求項1の発明について、被控訴人各製品の構成要件Bの充足を基本的に認めたところ、本件発明の構成要件Bについての争点も本件特許の請求項1に係るものと同じであるので、以下、原判決の 構成要件Bの充足性の判断についての誤りを述べる(構成要件C、Dについても同様である。)。 特許の請求の範囲には、本件明細書の段落 の請求項1に係るものと同じであるので、以下、原判決の 構成要件Bの充足性の判断についての誤りを述べる(構成要件C、Dについても同様である。)。 特許の請求の範囲には、本件明細書の段落【0023】及び【0024】の記載にも、「酸素化する工程」は独立した工程として、独立した作用効果を生じさせることが記載されているのであって、他の工程の内容に応じて、 「酸素化する工程」を変更するなどという発想は、特許請求の範囲にも、本件明細書上にも全く存在しないから、「その後の脱酸素化の工程とあいまって、同製品が所望の色調となる」ための工程であるとの原判決の理解は誤りである。 同じ行為であっても、他の工程次第では、「酸素化する工程」に該当す る場合と該当しない場合が発生することになるから、このような不安定な権利範囲の解釈が許されるべきではない。 イ本件明細書の段落【0022】ないし【0024】、【0047】及び【0054】の記載に基づけば「酸素化する工程」は、特定加熱食肉製品のスライス面が紫赤色から鮮赤色に変化するために必要十分な時間、少なくと も15ないし30分以上、スライス面を酸素にさらす工程であると理解すべきである。 原判決の認定及び判断は誤りであり、被控訴人各製品は本件発明の構成要件Bを充足しない。 〔控訴人らの反論〕 ア本件発明は、「酸素化工程」と「当該酸素化する工程の後、スライスされ た特定加熱食肉製品を非鉄系脱酸素材とともにガスバリア性を有する包材に密封する工程」という製造手段により、包材に密封された状態で、酸素濃度が検出限界以下で本件ミオグロビン割合となって、優れた肉色を示すことを特徴とする特定加熱食肉製品が製造される、物を生産する方法の発明である。本件明細書の段落【 より、包材に密封された状態で、酸素濃度が検出限界以下で本件ミオグロビン割合となって、優れた肉色を示すことを特徴とする特定加熱食肉製品が製造される、物を生産する方法の発明である。本件明細書の段落【0035】の記載によれば、本件発明は、 「その後の脱酸素化の工程」において脱酸素化されることを予定している。 したがって、「酸素化する工程」が「その後の脱酸素化の工程とあいまって、同製品が所望の色調となる」ための工程であるとする原判決の解釈は何ら間違っていない。 仮に被控訴人の主張のとおり、「酸素化する工程」は独立した工程であ るとしても、被控訴人各製品は2分30秒程度酸素化をしており、被控訴人のローストビーフは、2分程度の酸素化でも、十分に色が変わる。 したがって、被控訴人主張のとおりに解したとしても、被控訴人各製品は構成要件Bを充足する。 イ原判決は最終的に所定のミオグロビン割合に収まっていれば、酸素に晒 される時間が2分30秒であっても「酸素化する工程」に該当すると判断しているだけであって、全く「酸素化」がされなくても構わないとしているわけではない。単に所定のミオグロビン割合に達していない場合には、本件発明の特定加熱食肉製品ではなくなる(構成要件Dを充足しなくなる)だけであるから、構成要件Bについて論じる必要もない。原判決のとおり に解釈しても、権利範囲が不安定になることにはならない。 ⑵ 争点1-2(被控訴人各製品は、構成要件C(当該酸素化する工程の後、炭酸ガス及び/又は窒素ガスによるガス置換をすることなく、スライスされた特定加熱食肉製品を非鉄系脱酸素材とともにガスバリア性を有する包材に密封する工程)を充足するか)について 〔被控訴人の主張〕 ア本件特許の することなく、スライスされた特定加熱食肉製品を非鉄系脱酸素材とともにガスバリア性を有する包材に密封する工程)を充足するか)について 〔被控訴人の主張〕 ア本件特許の請求項3及び4は、別紙特許公報の特許請求の範囲記載のとおりであるところ、「密封する工程」の終了後に真空引きを行うことから、請求項1の「密封する工程」は、本件発明の実施者が工程を追加できることが想定され、脱酸素後においても実施者の支配が及んでいることを前提としている。 このような本件特許の特許請求の範囲の記載及び本件明細書の段落【0038】の記載に鑑みれば、本件発明が、実施者の支配領域内で「密封する工程」を終わらせることで、消費者に本件発明で規定される優れた色調を訴求する機会を与えるものであることは明らかである。 イ前記のとおり、結果的に酸素が検出限界以下になればよいとの原判決の 考え方は誤っており、これを前提にすると、被控訴人製品1は、販売先への納品後の、概ね包装後26時間から少し経過した後にはじめて検出限界である0.1%に達している以上(乙36の1、45頁)、被控訴人の支配が及ぶ状況で、酸素濃度が検出限界以下に達しておらず、構成要件Cを充足しない。この点、被控訴人製品2及び同3についても同様であるから、 構成要件Cを充足しない。 〔控訴人らの反論〕ア請求項1の従属項である請求項3及び4に「密封する工程」が含まれているからといって、請求項1の「密封する工程」が請求項3及び4の真空引き工程によって狭く解釈されなければならないということはない。単に、 請求項3及び4によって新たに付加された真空引きする工程の存在によって、請求項3及び4の発明に関しては実施者が制約を受けるというだけのことである。 イ ばならないということはない。単に、 請求項3及び4によって新たに付加された真空引きする工程の存在によって、請求項3及び4の発明に関しては実施者が制約を受けるというだけのことである。 イ被控訴人が引用する本件明細書の段落【0038】の記載では、脱酸素材をそのまま包材内に入れておく構成を許容している。そして、脱酸素材 をそのまま包材内に入れておく構成では、「密封する工程の終了時点で、本 件発明の実施者が工程を追加できる」必要はない。 被控訴人の主張は、脱酸素材を取り除く構成のみが想定されているならともかく、そのまま包材内に入れておいても構わないと明言している本件発明の「密封する工程」においては採用できない。 本件明細書の他の部分においても、段落【0030】及び【0034】 にもあるとおり、非鉄系脱酸素材による脱酸素が実施者の支配が及ぶところで行われる必要があるなどとは、一切記載されていない。密封された包材内の非鉄系脱酸素材は実施者の意向に関わらず酸素を吸収するから、実施者の支配が及ぶ必要がないことは明らかである。 ⑶ 争点1-3(被控訴人各製品は、構成要件D(ガスバリア性を有する包材に 密封された状態、且つ、当該包材内の酸素濃度が検出限界以下の条件下で、全ミオグロビン量を100%としたときにオキシミオグロビンが12%以上、メトミオグロビンが50%未満、還元型ミオグロビンが34%以上となる割合となっていること)を充足するか)について〔被控訴人の主張〕 ア所定のミオグロビン割合の充足の時点に関する判断の誤り原判決が、「本件発明においては、酸素濃度が検出限界以下に達している期間において、本件ミオグロビン割合が満たされる時点があれば足りる」と判断したことは、本件明細書の段落【 の時点に関する判断の誤り原判決が、「本件発明においては、酸素濃度が検出限界以下に達している期間において、本件ミオグロビン割合が満たされる時点があれば足りる」と判断したことは、本件明細書の段落【0056】の【表1】に示されている結果と矛盾する。表1において、脱酸素材の鉄系比率が42.9%で ある例は、「酸素濃度が検出限界以下に達している期間において、本件ミオグロビン割合が満たされる時点」(「D+1」、「D+2」の時点)がある以上、本件発明の技術的範囲に属するが、段落【0044】の記載からすれば、「D+3」の時点で褐変することになり、短時間に褐変が生じる例が本件発明の技術的範囲に属するという理解は、段落【0009】の記載に真 っ向から反する。 原判決の「本件発明においては、酸素濃度が検出限界以下に達している期間において、本件ミオグロビン割合が満たされる時点があれば足りる」との解釈は本件明細書の記載と整合しないばかりか、その前提も誤っているから不合理である。 本件明細書の段落【0042】ないし【0044】の記載及び【表1】 (段落【0058】)における、非鉄系脱酸素材のみを使用する場合、あるいは鉄系脱酸素材の割合を37.5%とした場合によれば、肉色を鮮赤色に長期に亘って維持することができるという本件発明の効果は、その間、各ミオグロビンの量が特許請求の範囲の記載で特定される所定割合になっていることにより実現されていると解されるから、構成要件Dを充足する には、製品の販売以降、製品として販売されている間、包材内の酸素濃度が検出限界以下の条件下で、常に、各ミオグロビンの割合が構成要件D所定の割合(本件ミオグロビン割合)になることが必要と解するべきである。 イミオグロビン割合の測定方法に関する判断の誤 内の酸素濃度が検出限界以下の条件下で、常に、各ミオグロビンの割合が構成要件D所定の割合(本件ミオグロビン割合)になることが必要と解するべきである。 イミオグロビン割合の測定方法に関する判断の誤り原判決は「SCE方式を用いると認識できたといえる」としているが、 SCE方式で測定したからといって包材の影響を排除できるわけではなく、また、SCI方式を採用したとしても予めフィルム越しで白色校正を行うことでフィルムの影響を抑えることができるため包材の影響はSCI方式を用いない理由とはならず、原判決の判断は失当である。 正反射光を含んで測定すると、表面状態に関係なく、素材そのものの色 の評価となるといわれており(甲59)、SCI方式(正反射光込み)は、表面の光沢度やテクスチャーなどの微細形状に依存しない、色材そのものの反射率を測定することができるので、その特性を生かして、生産現場で品質管理や調色用途に広く使用されている(乙73ないし75)ように、SCI方式についてもメリットが存在するから、本件発明の構成要件Dに 係るミオグロビンの誘導形態の割合を算定するため吸光度を測定する際 にSCE方式とSCI方式のいずれかを用いることが明らかとはいえない。 数値限定されている特許請求の範囲について、数値を測定する方法が複数あるにもかかわらず、明細書においていずれの測定方法によるべきか明らかにされていない場合、そのいずれの方法によって測定しても、特許請 求の範囲に記載の数値を充足する場合でない限り、特許権侵害を構成しないと判断されるから、本件では、構成要件Dについては、SCE(正反射光除去)方式及びSCI(正反射光込み)方式のいずれによっても各種ミオグロビンの割合の数値を充足する必要がある。 原判決が引用する証拠に 断されるから、本件では、構成要件Dについては、SCE(正反射光除去)方式及びSCI(正反射光込み)方式のいずれによっても各種ミオグロビンの割合の数値を充足する必要がある。 原判決が引用する証拠においてはSCI方式での測定が行われておら ず、また、測定したのも消費期限日に購入した商品であり、商品の販売時点での構成要件Dの充足性について何ら立証が行われていないから、構成要件Dを充足するとした原判決の判断が誤っていることは明らかである。 〔控訴人らの反論〕アミオグロビン割合の充足について 本件明細書の段落【0044】の記載は、「スライスされた特定加熱食肉製品を保存する際に、急激な脱酸素処理によってオキシミオグロビンが12%未満となると、これに伴いメトミオグロビンの割合が50%を超えてしまい、不可逆的に褐変してしまう。」という、急激な脱酸素処理という条件下で起こる現象を説明したものであって、単に「オキシミオグロビンが 12%未満となると」生じる現象を説明しているわけではない。したがって、被控訴人主張の「本件明細書の記載によると鉄系比率が42.9%である例においては、『D+3』の時点でローストビーフは不可逆的に褐変することとなる。」という前提自体が誤りである。 本件明細書の【表2】を見れば、オキシミオグロビン割合はD+2が1 9.44であるのに対し、D+10は16.03、D+20は14.14 となっており、時間が経過すればさほど変化していない。メトミオグロビン割合でも、D+2が46.03であるのに対し、D+10が45.29、D+20が46.50であり、この傾向は同様である。本件発明は、食品、それも原料の配合などによって一定の質を担保しやすいものではなく、個体差のある肉を用い 03であるのに対し、D+10が45.29、D+20が46.50であり、この傾向は同様である。本件発明は、食品、それも原料の配合などによって一定の質を担保しやすいものではなく、個体差のある肉を用いる発明である。さらに、測定箇所を厳密に同じ場所に することも困難である。 実施例の記載からも、本件発明が「包材内の酸素濃度が検出限界以下にあるときには常に、各ミオグロビンの量が所定割合になっている必要があること」を要求してないことは明らかである。 また、大手量販店における商品流通においては、大手量販店の配送セン ターに到着してから、個別の店舗に配送し、販売のために展示されるまでにかなりの時間があり、深夜に配送センターに到着した製品が店頭に並ぶのは翌日の開店後である(乙33、34)。流通の観点からも、納品の時点で所定のミオグロビン割合になっている必要はない。 密封直後は別として、本件発明の方法で製造された特定加熱食肉製品の ミオグロビン割合は、時間の経過とともにオキシミオグロビンの割合が低下してメトミオグロビンの割合が上昇する傾向にある(本件明細書の【表1】参照)。このような傾向がある中で、店頭から引き上げられる製造日から4日目の時点で所定のミオグロビン割合を満たしているとすれば、店頭に並ぶ直後から所定のミオグロビン割合を満たしていたと推認するのが 妥当である。 被控訴人であれば、店頭に並んだ直後の被控訴人各製品のミオグロビン割合を測定することも容易である。にもかかわらず、被控訴人があえて立証をしないのは、上記のような推認が妥当であり、店頭に並ぶ直後のミオグロビン割合も、本件ミオグロビン割合の範囲内であるからと考えられる。 したがって、被控訴人主張のような解釈をしても、被 しないのは、上記のような推認が妥当であり、店頭に並ぶ直後のミオグロビン割合も、本件ミオグロビン割合の範囲内であるからと考えられる。 したがって、被控訴人主張のような解釈をしても、被控訴人各製品は構 成要件Dを充足する。 イ本件明細書はSCE方式を採用している。本件明細書において使用されている分光色差計(段落【0028】)は、日本電色工業製の「NF999」である。このNF999は、タナカ・トレーディング株式会社のウェブページ(甲72)に「光学系:0°:45°」と記載されているとおり、 SCE方式と同じ正反射光を除去した方法では測定できるが、正反射光を含むSCI方式では測定ができない。 そもそもSCE方式のみ測定できる測定装置を実施例で用いている以上、本件明細書においてSCE方式を用いることは明らかである。 控訴人らが行った包材を介さずに肉を直接測定する実験(甲118)で は、SCI方式で測定をしても、ほぼ全てのサンプルで所定のミオグロビン割合を満たしていた。この結果は、包材越しにSCI方式によって測定をすると、「正反射光を含んで測定すると、表面状態に関係なく、素材そのものの色の評価とな」らず、包材越しにSCI方式で測定することは不正確であることを示している。実際、食肉化研のような食肉業界の当業者も、 SCI方式で測定をすると測定結果が不正確になることを理由として、SCE方式で測定している。 原判決も認めるとおり、包材越しにSCI方式で測定することは、明らかに不正確であるから、包材越しにSCI方式で測定する場合も所定のミオグロビン割合の範囲内に収まっていなければならないなどといえない ことは明らかである。 包材を介さずに直接肉を測定する場合には、SCI方式でも所定のミオグロビ 方式で測定する場合も所定のミオグロビン割合の範囲内に収まっていなければならないなどといえない ことは明らかである。 包材を介さずに直接肉を測定する場合には、SCI方式でも所定のミオグロビン割合に収まっている(甲119、121)。 仮にSCI方式でも所定のミオグロビン割合に収まっていなければならないとしても、被控訴人各製品が構成要件Dを充足することは明らかで ある。 2 本件特許は、特許無効審判により無効にされるべきか(争点2)⑴ 争点2-1(無効理由1(公知発明(鎌倉山パストラミビーフ)に基づく進歩性欠如))について〔被控訴人の主張〕ア本件発明は、本件特許の出願前に製造販売され、公然実施された商品「鎌 倉山パストラミビーフ」に示された発明(以下、その発明を「パストラミビーフ発明」という。)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 被控訴人は、遅くとも本件特許の出願日前である平成20年(2008年)頃には、鎌倉山パストラミビーフを販売しており(乙177の1)、当 業者であれば、同製品を外部から観察し又は同製品を分析することによって、その製法を認識できた。 イ鎌倉山パストラミビーフは加熱食肉製品である(乙177の1のとおり、「保存温度」が10℃、「賞味期間」が25日間)。平成20年(2008年)当時の食品衛生法第19条及び同法施行規則第21条第1号ウにおい て、加熱食肉製品である旨の表示は義務付けられていたから、当業者は、本製品が加熱食肉製品であることを認識できた。 同製品は、被控訴人各製品と同等の製造ライン(乙97ないし98の2の2)によって製造され、食肉であるパストラミビーフが、スライスされた状態で包装されているところ(乙177の1 とを認識できた。 同製品は、被控訴人各製品と同等の製造ライン(乙97ないし98の2の2)によって製造され、食肉であるパストラミビーフが、スライスされた状態で包装されているところ(乙177の1)、当業者にとって、食肉を 酸素の存在下でスライスしてトレイ内に並べて包装することは周知であるから(甲117、乙12、163、175、178)、当業者であれば、同製品を外部から観察することによって、その製造方法に、スライスする工程が存在し、また、これをトレイ上に並べる工程が存在し、これらの工程が酸素の存在下で行われることを認識できた。 同製品には、非鉄系の脱酸素材であるオキシーターY(乙179)が封 入されており(乙177の1)、ガスバリア性を有する包材で密封されているところ(乙177の1)、当業者であれば、脱酸素材が使用されている以上、これに必要なガスバリア性を有する包材で密封する工程が存在することは認識でき、包材を分析してガスバリア性が存在する包材であることも確認できた。 さらに同製品は、被控訴人各製品と同等の製造ラインによって製造をされており、ガス置換包装の手段を用いずに、非鉄系脱酸素材を使用している。当業者であれば、同製品の開封前に、包材内の気体を分析することによってこれを認識することができた。 ウパストラミビーフ発明の内容は、以下のとおりである。 a 酸素の存在下で加熱食肉製品をスライスする工程と、b 酸素の存在下でスライスされた加熱食肉製品をトレイ上に並べる工程と、c 炭酸ガス及び/又は窒素ガスによるガス置換をすることなく、スライスされた加熱食肉製品を非鉄系脱酸素剤と共にガスバリア性を有する 包材に密封する工程とを含むe ことを特徴とする加熱食肉製品の製造方法で び/又は窒素ガスによるガス置換をすることなく、スライスされた加熱食肉製品を非鉄系脱酸素剤と共にガスバリア性を有する 包材に密封する工程とを含むe ことを特徴とする加熱食肉製品の製造方法であって、f 加熱食肉製品がパストラミビーフであることを特徴とする加熱食肉製品の製造方法。 エ本件発明とパストラミビーフ発明との対比の結果は、以下のとおりであ る。 <一致点>A 酸素の存在下で食肉製品をスライスする工程と、B 酸素の存在下でスライスされた食肉製品をトレイ上に並べる工程とを含み、 C 炭酸ガス及び/又は窒素ガスによるガス置換をすることなく、 D スライスされた食肉製品を非鉄系脱酸素剤とともにガスバリア性を有する包材に密封するE ことを特徴とする食肉製品の製造方法。 <相違点1>本件発明の食肉製品は「特定加熱食肉製品」の「ローストビーフ」で あるのに対し、パストラミビーフ発明では、「加熱食肉製品」の「パストラミビーフ」である点。 <相違点2>本件発明では、還元型ミオグロビンをオキシミオグロビンに酸素化する工程が設けられているのに対し、パストラミビーフ発明では、「酸素の 存在下でスライスされた食肉製品をトレイ上に並べる工程」は含むが、還元型ミオグロビンをオキシミオグロビンに酸素化する工程の存在が明確ではない点。 <相違点3>本件発明では、「上記スライスされた上記特定加熱食肉製品は、ガスバ リア性を有する包材に密封された状態、且つ、当該包材内の酸素濃度が検出限界以下の条件下で、所定のミオグロビン割合となっている」のに対し、パストラミビーフ発明では、酸素濃度が検出限界以下の条件下におけるミオグロビンの種類の割合が特定されていない点。 オ相違点1の容易想 以下の条件下で、所定のミオグロビン割合となっている」のに対し、パストラミビーフ発明では、酸素濃度が検出限界以下の条件下におけるミオグロビンの種類の割合が特定されていない点。 オ相違点1の容易想到性につき、賞味(消費)期限を延長するために、ス ライスをした食肉製品に対し、非鉄系脱酸素材を使用してガスバリア性を有する包材に密封することは周知技術である。なお、特定加熱食肉製品であるか加熱食肉製品であるか否かは、肉の中心部の加熱温度及び加熱時間によって定まるところ(甲1、13の2、52)、加熱温度及び時間の変更により加熱食肉製品を特定加熱食肉製品とすることは当業者が 適宜設計できる事項であり、加熱食肉製品を特定加熱食肉製品に置換す ることは設計事項に過ぎない。 パストラミビーフよりもローストビーフの方が高級なイメージが強く消費者への訴求力が高いため(乙117)、当業者であればパストラミビーフをローストビーフに変更することも容易である。 さらに、ローストビーフを消費者の購入意欲を増加させる生肉本来の 赤身を呈する状態にすることは当業者において周知の課題であり、退色又は変色が抑えられる方法は、スライスした加熱食肉製品のローストビーフであろうと特定加熱食肉製品のローストビーフであろうと共通である(乙163)。 また、消費者の志向を考えれば、発色剤の使用は好ましくないことも周 知であった(甲162、乙14、16、17、18、187)。 これらの点からすれば、消費者の嗜好・志向を受けて、発色剤を使用せずに生肉本来の赤身を呈する状態にするために、「加熱食肉製品」である「パストラミビーフ」を「特定加熱食肉製品」の「ローストビーフ」に変更する動機もあった。 したがって、「加熱食肉製品」で に生肉本来の赤身を呈する状態にするために、「加熱食肉製品」である「パストラミビーフ」を「特定加熱食肉製品」の「ローストビーフ」に変更する動機もあった。 したがって、「加熱食肉製品」である「パストラミビーフ」を「特定加熱食肉製品」である「ローストビーフ」に変更することは当業者が適宜設計できる事項であることは明らかである。 カ相違点2の容易想到性については、以下のとおりである。 (ア) 相違点2の「酸素化する工程」について、空気と短時間接触するもの を含むとした場合パストラミビーフ発明においても、「スライスされた食肉製品をトレイ上に並べる工程」で空気と短時間接触するから、相違点2の「酸素化する工程」を備えていることになり、相違点2は存在しない。 また、パストラミビーフ発明の製造ラインは、被控訴人各製品とほぼ 同等の製造ライン(乙97ないし98の2の2)によって製造されて おり、その製法に、酸素の存在下で食肉製品をスライスし、スライスされた食肉製品をトレイ上に並べる工程とを含むところ、パストラミビーフ発明のパストラミビーフを特定加熱食肉製品であるローストビーフに変更する場合には、酸素の存在下でローストビーフをスライスしてトレイ上に並べる工程において、還元型ミオグロビンが酸素に触 れてオキシミオグロビンとなる以上、「還元型ミオグロビンをオキシミオグロビンに酸素化する工程」も存在することとなり、かかる観点からも相違点2は存在しない。 (イ) 仮に、相違点2の「酸素化する工程」が、還元型ミオグロビンをオキシミオグロビンに酸素化するために、意図的にある程度以上の必要十 分な時間をとる工程であると解した場合乙13には、冷蔵庫に肉などのミオグロビンを含む赤色の食品を保存 ミオグロビンをオキシミオグロビンに酸素化するために、意図的にある程度以上の必要十 分な時間をとる工程であると解した場合乙13には、冷蔵庫に肉などのミオグロビンを含む赤色の食品を保存する場合、食品が冷却される前に貯蔵空間の酸素を減少させると、食品が紫赤色に変色するが、例えば1時間程度は酸素濃度を低下させないことで、食品に含まれるミオグロビンのうち、還元状態にあるミ オグロビンをオキシミオグロビンに変化させて、食品を鮮やかな赤色とし、その後酸素濃度を減少させることにより、メト化を抑えて食品の劣化を抑え、食品の鮮やかな赤色を維持しながら、長期保存を可能にする技術が記載されており、パストラミビーフ発明においても、色択の変化防止という課題はあるから、その課題を解決するために、乙 13に記載された技術を適用することは、当業者が容易に想到することである。 キ相違点3の容易想到性につき、原判決88ないし89頁で述べられているように、本件特許の出願日当時、メトミオグロビンの割合をできるだけ低い状態に抑え、オキシミオグロビンの割合をできるだけ高く維持 して鮮赤色の食肉を維持することが、消費者等へ訴求する観点からは望 ましいことは技術常識であった。また、相違点3のパラメータが臨界的な意義を示すことについて本件明細書は何の説明もしておらず、また、このパラメータに収めるために特別な操作を行わなければならないことも示されていない。このようなパラメータを適宜設定することが当業者にとって設計事項であることは明白である。 したがって、パストラミビーフ発明のパストラミビーフを特定加熱食肉製品であるローストビーフへと構成を変更する場合において、技術常識であった優れた肉色の維持との課題について、これが解決されてい したがって、パストラミビーフ発明のパストラミビーフを特定加熱食肉製品であるローストビーフへと構成を変更する場合において、技術常識であった優れた肉色の維持との課題について、これが解決されているとする割合を設定することは、当業者が適宜なし得る設計事項である。 〔控訴人らの主張〕 ア被控訴人の主張するパストラミビーフ発明の認定は誤りである。 そもそも、乙177の1の「要望したサンプルの導入決定報告」は、平成20年(2008年)5月9日のものであるのに対し、伊藤ハムが「ローストビーフの店鎌倉山パストラミビーフ」を発売したとする日本食糧新聞の記事(乙177の2)は、平成18年(2006年)3月 27日のものであり、発売がサンプルの導入決定報告よりも2年も前となっている。乙177の1の鎌倉山パストラミビーフが、乙177の2の記事で言及されている実際に販売されたパストラミビーフであると認定するのは不自然である。このように、乙177の1の鎌倉山パストラミビーフが販売されていたという証拠は提出されていないから、鎌倉 山パストラミビーフの構成が公知となることもない。 また、被控訴人が主張する、上記製品が被控訴人各製品と同等の製造ライン(乙97~98の2の2)によって製造されているとする点について、被控訴人は一切証拠を提出していないから、パストラミビーフ発明が構成a及びbを有しているかは不明である。 そもそも、乙177の1の公知性が立証されておらず、仮に公知性が あるとしても、乙177の1には鎌倉山パストラミビーフの包材のガスバリア性能について一切記載はないから、前記鎌倉山パストラミビーフがガスバリア性を有する包材で密封されているか不明である。また、その鎌倉山パストラミビーフがガス置換をしていない ミビーフの包材のガスバリア性能について一切記載はないから、前記鎌倉山パストラミビーフがガスバリア性を有する包材で密封されているか不明である。また、その鎌倉山パストラミビーフがガス置換をしていないことについて、被控訴人は一切証拠を提出していない。 イ相違点1(加熱食肉製品と特定加熱食肉製品)について、容易想到ではない。 パストラミビーフは(甲197)は、塩漬、乾燥、燻製などの工程を経るものであるのに対し、特定加熱食肉製品のローストビーフは、乾燥や燻製の工程を経ずに低温で調理するものである。両者は製造方法が全 く異なるために食べた時の味覚も異なる上、パストラミビーフのように乾燥・燻製という殺菌工程がなく、十分な熱も加えない特定加熱食肉製品のローストビーフ、それもスライスされたローストビーフは、生肉に近く細菌が繁殖しやすいから、「当業者であればパストラミビーフをローストビーフに変更することも容易である」といえないことは明らかで ある。 市販のパストラミビーフは、いずれも発色剤(亜硝酸塩)が含まれているが、亜硝酸塩によって発色する加熱食肉製品と、オキシミオグロビンによって発色している特定加熱食肉製品では退色の原理が全く異なる。 乙163の方法は、「食肉加工品の原料肉にアルカリ製剤の溶液を注入し」というもので、特定加熱食肉製品の規格(【0002】)に反し、加熱食肉製品と特定加熱食肉製品に共通の退色又は変色が抑えられる方法ではないから、「退色又は変色が抑えられる方法は、スライスした加熱食肉製品のローストビーフであろうと特定加熱食肉製品のロースト ビーフであろうと共通である」などとは全く記載されていない。 仮に、発色剤の使用に否定的な消費者の志向があったとしても、本件特許に係る発明まで、ス うと特定加熱食肉製品のロースト ビーフであろうと共通である」などとは全く記載されていない。 仮に、発色剤の使用に否定的な消費者の志向があったとしても、本件特許に係る発明まで、スライスされた特定加熱食肉製品の肉色を維持する方法がない以上、加熱食肉製品を特定加熱食肉製品に変更する動機付けはない。 ウ相違点3(ミオグロビン割合)は容易想到ではない。 亜硝酸塩を使用することによってニトロソミオグロビンが発色しているパストラミビーフと、オキシミオグロビンによって発色している特定加熱食肉製品では退色の原理が全く異なる。そもそもミオグロビン割合そのものが問題にならない加熱食肉製品を、発色原理の全く異なる特定加熱食肉製品に置き換えてミオグロビン割合を調整することを容易に 想到できるはずがない。 ⑵ 争点2-2(無効理由2(公知発明(DCSローストビーフ)に基づく進歩性欠如))について〔被控訴人の主張〕ア本件発明は、本件特許の出願日前に公然実施された「DCSローストビ ーフ」に示された発明(以下「DCSローストビーフ発明」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 被控訴人は、遅くとも本件特許の出願日前である平成19年(2007年)頃には、DCSローストビーフを販売しており(乙180、181(380gが乙181の1、760gが乙181の2)、181の3・4・5)、 当業者であれば、同製品を外部から観察し又は同製品を分析することによって、その製法を認識できた。 イ DCSローストビーフは加熱食肉製品のローストビーフである(同製品のラベルより。乙181の1・2)。同製品は、被控訴人各製品とほぼ同等の製造ライン(乙97ないし98の2の2)によって製造され、食 イ DCSローストビーフは加熱食肉製品のローストビーフである(同製品のラベルより。乙181の1・2)。同製品は、被控訴人各製品とほぼ同等の製造ライン(乙97ないし98の2の2)によって製造され、食肉であ るローストビーフが、トレイ内にスライスされた状態で包装されていると ころ(乙181の1・2)、当業者にとって、食肉を酸素の存在下でスライスしてトレイ内に並べて包装することは周知であるから(甲117、乙12、163、175、178)、当業者であれば、同製品を外部から観察することによって、その製造方法に、スライスする工程が存在し、また、これをトレイ上に並べる工程が存在し、これらの工程が酸素の存在下で行わ れることを認識できた。 同製品には、非鉄系の脱酸素材であるエージレスGLSが封入されており(乙181の1・2、182の1)、ガスバリア性を有する包材で密封されているところ、当業者であれば、脱酸素材が使用されている以上、これに必要なガスバリア性を有する包材で密封する工程が存在することは認 識でき、包材内の気体を分析してガスバリア性が存在する包材であることも確認できた。 さらに、同製品は、酸素による劣化を抑制する手段として、ガス置換包装の手段を用いずに、非鉄系脱酸素材を使用している。当業者であれば、同製品の開封前に、包材内の気体を分析することによってこれを認識する ことができた。 ウ以上によれば、DCSローストビーフ発明の内容は、以下のとおりである。 a 酸素の存在下で加熱食肉製品であるローストビーフをスライスする工程と、 b 酸素の存在下でスライスされた加熱食肉製品であるローストビーフをトレイ上に並べる工程と、c 炭酸ガス及び/又は窒素ガスによるガス置換をすることなく、スライ をスライスする工程と、 b 酸素の存在下でスライスされた加熱食肉製品であるローストビーフをトレイ上に並べる工程と、c 炭酸ガス及び/又は窒素ガスによるガス置換をすることなく、スライスされた加熱食肉製品であるローストビーフを非鉄系脱酸素剤と共にガスバリア性を有する包材に密封する工程とを含む e ことを特徴とする加熱食肉製品であるローストビーフの製造方法で あって、f 加熱食肉製品がローストビーフであることを特徴とする加熱食肉製品の製造方法。 エ本件発明とDCSローストビーフ発明との対比の結果は、以下のとおりである。 <一致点>A 酸素の存在下でローストビーフをスライスする工程と、 B 酸素の存在下でスライスされたローストビーフをトレイ上に並べる工程とを含み、C 炭酸ガス及び/又は窒素ガスによるガス置換をすることなく、 D スライスされたローストビーフを非鉄系脱酸素剤とともにガスバリア性を有する包材に密封するE ことを特徴とする食肉製品の製造方法。 <相違点1>本件発明の食肉製品は「特定加熱食肉製品」の「ローストビーフ」であ るのに対し、DCSローストビーフ発明では、「加熱食肉製品」の「ローストビーフ」である点。 <相違点2>本件発明では、還元型ミオグロビンをオキシミオグロビンに酸素化する工程が設けられているのに対し、DCSローストビーフ発明では還元 型ミオグロビンをオキシミオグロビンに酸素化する工程が設けられているかが不明な点。 <相違点3>本件発明では、「上記スライスされた上記特定加熱食肉製品は、ガスバリア性を有する包材に密封された状態、且つ、当該包材内の酸素濃度が 検出限界以下の条件下で、全ミオグロビン量を100%としたときにオ 発明では、「上記スライスされた上記特定加熱食肉製品は、ガスバリア性を有する包材に密封された状態、且つ、当該包材内の酸素濃度が 検出限界以下の条件下で、全ミオグロビン量を100%としたときにオ キシミオグロビンが12%以上、メトミオグロビンが50%未満、還元型ミオグロビンが34%以上となる割合となっている」のに対し、DCSローストビーフ発明では、酸素濃度が検出限界以下の条件下におけるミオグロビンの種類の割合が特定されていない点。 オ相違点1の容易想到性については、以下のとおりである。なお、周知技 術や根拠は、前記⑴と同様である。 消費者の嗜好・志向を受けて、発色剤を使用せずに生肉本来の赤身を呈する状態にするために、「加熱食肉製品」である「ローストビーフ」を「特定加熱食肉製品」である「ローストビーフ」に変更することは当業者が適宜設計できる事項であることは明らかである。 カ相違点2の容易想到性については、以下のとおりである。なお、根拠は前記⑴と同様である。 相違点2は存在しないか、仮に相違点であるとしても、DCSローストビーフ発明においても、色沢の変化防止という課題を解決するために、乙13に記載された技術を適用することは容易である。 キ相違点3の容易想到性については、以下のとおりである。なお、根拠は前記⑴と同様である。 DCSローストビーフ発明のローストビーフを特定加熱食肉製品であるローストビーフへと構成を変更する場合に、技術常識であった優れた肉色の維持との課題が解決されているとする割合を設定することは設計 事項である。 〔控訴人らの主張〕ア被控訴人の主張するDCSローストビーフ発明の認定は誤りである。 乙181の1・2の写真や、ドトールで販売されている「ミラノサンド」(乙18 とは設計 事項である。 〔控訴人らの主張〕ア被控訴人の主張するDCSローストビーフ発明の認定は誤りである。 乙181の1・2の写真や、ドトールで販売されている「ミラノサンド」(乙181の3~6)に使用されているローストビーフが、乙180のD CSローストビーフかどうかは不明であり、乙180のDCSロースト ビーフが販売されていたかどうかは不明である。被控訴人が製造する乙180のDCSローストビーフが販売されていたという証拠は提出されていないから、前記DCSローストビーフの構成が公知となることもない。 同製品は、被控訴人各製品とほぼ同等の製造ライン(乙97~98の2 の2)によって製造されているとする点について、被控訴人は一切証拠を提出していないから、DCSローストビーフ発明が構成a及びbを有しているかは不明である。また、ガスバリア性を有する包材を用いているかも不明である。 乙181の1・2の写真は不鮮明であり、写真を見ても、その脱酸素剤 がエージレスGLSであるかは不明である。 また、被控訴人は、前記DCSローストビーフがガス置換をしていないことについて、一切証拠を提出していない。 イ相違点1及び3は容易想到でない。この点については、前記⑴と同じである。 ⑶ 争点2-3(無効理由3(乙174(特公昭59-15014号公報)に基づく進歩性欠如))について〔被控訴人の主張〕ア本件発明は乙174(特公昭59-15014号公報、以下「乙174公報」といい。そこに記載の発明を「乙174発明」という。)に、乙16、 17、188、163、162、12、189、190、甲117、乙13、191及び乙24の1に記載された公知技術及び周知技術を適用して当業者が容易 明を「乙174発明」という。)に、乙16、 17、188、163、162、12、189、190、甲117、乙13、191及び乙24の1に記載された公知技術及び周知技術を適用して当業者が容易に発明をすることができたものである。 イ乙174公報(特許請求の範囲第1項、1頁1~2欄、3頁6欄、例4、第5表)には、ハム・ソーセージ・ウインナーなどの加工食品のガス充填 包装(ガスフラッシュパック )に替えて脱酸素パックを有効に使用する発 明が記載されており、脱酸素パックとは、通気性フィルムの袋内にアスコルビン酸などの脱酸素性有機化合物の水溶液を含浸した繊維シートと第一鉄塩などの水溶液を含浸した繊維シートとの積層圧着構造のものであり、400ccの密封空気中の酸素濃度を、72時間で0.1~0.2%、96時間で0.01%以下とすることができることが記載されている。 ウ乙174発明の内容は、以下のとおりである。 c ハムなどの加工食品を非鉄系の脱酸素剤とともに非通気性の袋に入れる工程を含むe ことを特徴とするハムなどの加工食品の包装方法。 エ本件発明と乙174発明とを対比の結果は、以下のとおりである。 <一致点>C’ 食肉製品を非鉄系脱酸素材とともにガスバリア性を有する包材に密封する工程を含む、E’ ことを特徴とする食肉製品の製造方法。 <相違点1> 本件発明では、食肉製品は特定加熱食肉製品のローストビーフであるのに対し、乙174発明では加熱食肉製品のハムなどの加工食品である点<相違点2>本件発明では食肉製品をスライスしているのに対し、乙174発明で はスライスしているか否か不明である点<相違点3>本件発明では、構成要件Bに「スライスされた特定加熱食肉製品に 違点2>本件発明では食肉製品をスライスしているのに対し、乙174発明で はスライスしているか否か不明である点<相違点3>本件発明では、構成要件Bに「スライスされた特定加熱食肉製品における還元型ミオグロビンをオキシミオグロビンに酸素化する工程」を含むのに対し、乙174発明では、「食肉製品を非通気性の袋に入れる工 程」は含むが、還元型ミオグロビンをオキシミオグロビンに酸素化する 工程は記載されていない点<相違点4>本件発明では、構成要件Dに「上記スライスされた上記特定加熱食肉製品は、ガスバリア性を有する包材に密封された状態、且つ、当該包材内の酸素濃度が検出限界以下の条件下で、所定のミオグロビン割合とな っている」のに対し、乙174発明ではミオグロビンの種類の割合は記載されていない点オ相違点1の容易想到性については、以下のとおりである。 乙174発明ではハムなどの食肉加工品を、ガス充填包装に替えて、同発明の脱酸素パックを使用するというものであり、ハムやソーセージなど は食肉加工品の例として挙げられたものにすぎない。乙174公報の第5表の食肉加工品の備考欄には、色沢の変化防止が挙げられており、脱酸素パックは加工食品に対し、ガスフラッシュ方式に替えて有効に使用することができたと記載されていることから、乙16、17、188、163、162及び12を参照した当業者であれば、ハムやソーセージなどの食肉 加工品はミオグロビンが重要な役割を果している食肉製品であると認識し、乙174発明のハムなどの食肉加工品として、特定加熱食肉製品のローストビーフを採用することは容易に想到することである。 また、消費者の嗜好・志向を受けて、発色剤を使用せずに生肉本来の赤身を呈する状態にするために、乙 の食肉加工品として、特定加熱食肉製品のローストビーフを採用することは容易に想到することである。 また、消費者の嗜好・志向を受けて、発色剤を使用せずに生肉本来の赤身を呈する状態にするために、乙174発明のハムなどの食肉加工品とし て、特定加熱食肉製品のローストビーフを採用することは容易に想到することである。 さらに、特定加熱食肉製品のローストビーフが、ハムやソーセージなどの食肉加工品より高級感があり消費者に対して訴求することは周知の事実である。 カ相違点2の容易想到性については、以下のとおりである。 乙189の1及び190によれば、ハムをガス充填包装する際に、スライスしてトレイにいれて密封することは周知であるから、相違点2は実質的な相違点とはいえず、仮に相違点だとしても周知技術を適用して、容易に想到し得ることである。 なお、特定加熱食肉製品のローストビーフを採用した場合においても、 乙163、12及び甲117によれば、スライスされたローストビーフを容器内に配置して密封する技術は周知であるから、相違点2の容易想到性に変わりはない。 キ相違点3の容易想到性については、以下のとおりである。根拠は前記⑴と同様である。 乙174発明においても、「非通気性の袋に入れる工程」で空気と短時間接触するから、相違点3の「酸素化する工程」を備えていることになり、相違点3は存在しない。 また、乙174発明においても、色沢の変化防止という課題はあるから、その課題を解決するために、乙13に記載された技術を適用することは容 易に想到し得ることである。 ク相違点4の容易想到性については、以下のとおりである。根拠は前記⑴と同様である。 乙174発明のハムなどの食肉加工品として、特 された技術を適用することは容 易に想到し得ることである。 ク相違点4の容易想到性については、以下のとおりである。根拠は前記⑴と同様である。 乙174発明のハムなどの食肉加工品として、特定加熱食肉製品のスライスされたローストビーフを採用し、「酸素化する工程」を適用すれば、ロ ーストビーフは、保存状態において、鮮やかな赤色を維持し、容器を開封して酸素に曝すとオキシミオグロビンの鮮紅色を呈することになるから、相違点4は、乙174発明に、前記周知技術及び公知技術を適用することにより実現するものである。 〔控訴人らの主張〕 ア乙174公報は、食品一般についての脱酸素パックの発明にすぎず、ミ オグロビン割合のコントロールによる特定加熱食肉製品の肉色の維持など一切検討していない。この乙174公報から、商品の流通段階でも特定加熱食肉製品のオキシミオグロビンによる鮮赤色を維持して消費者に訴求することを目的とする本件発明にはたどり着けない。発色原理・安全性の両面から、加熱食肉製品を特定加熱食肉製品に置き換えることは容易で ない。 イ被控訴人の主張する乙174発明の認定も、相違点の認定も誤りである。 乙174公報は、広く食品一般に対し、「前述の従来の諸欠点を全く有さず、ガスフラッシュ方式の炭酸ガスを用いる利点と脱酸素剤の持つ優れた徐酸素能力の利点とを兼ね備えた全く新奇な脱酸素パックを発明する」 (68頁)ものである。本件発明のように、スライスするとすぐに褐変してしまい商品としての価値が損なわれるという特定加熱食肉製品特有の欠点を課題とするものではないどころか、肉色の維持を目的とするものですらないから、本件発明を想到するための主引用発明として不適切である。 乙174公報には、「炭酸ガス及び/ 加熱食肉製品特有の欠点を課題とするものではないどころか、肉色の維持を目的とするものですらないから、本件発明を想到するための主引用発明として不適切である。 乙174公報には、「炭酸ガス及び/又は窒素ガスによるガス置換をする ことなく、」ということは一切記載されていないから、この点は相違点になる。また、乙174公報の脱酸素パックの非通気性の袋及び脱酸素剤では、「当該包材内の酸素濃度が検出限界以下の条件下」になっていないから、この点も相違点となる。 ウ相違点1について、容易想到ではない。 乙174発明は、脱酸素パックに関する発明であり、乙174公報の78頁第5表に記載されているものだけでも、納豆、凍豆腐、パン粉、・・・、ハム・ソーセージ・ウィンナー、・・・粉末ジュースなど、ありとあらゆる食品に対する利用が想定されている。これほど用途が多様であり、かつ、食品そのものの発明ですらない乙174発明を主引用発明として、食品の内 容をあえて特定加熱食肉製品にする動機付けは存在しない。 乙16、17、188の記載は、「食肉製品として、ハム類やソーセージ類とローストビーフとが等価に置換可能である」などとするものではない。 亜硝酸塩を使用することによってニトロソミオグロビンが発色している加熱食肉製品と、オキシミオグロビンによって発色している特定加熱食肉製品では退色の原理が全く異なることから、「退色又は変色が抑えられる 方法は、スライスした加熱食肉製品のローストビーフであろうと特定加熱食肉製品のローストビーフであろうと共通である」といえないことは明らかである。 エ相違点2について、容易想到ではない。 乙174発明から本件発明に到達するためには、相違点1を克服し、特 定加熱食肉製品と ーフであろうと共通である」といえないことは明らかである。 エ相違点2について、容易想到ではない。 乙174発明から本件発明に到達するためには、相違点1を克服し、特 定加熱食肉製品とする必要があるから、単に食肉をスライスする工程を容易に想到できるかではなく、特定加熱食肉製品をスライスする工程を容易に想到できるかを検討しなければならない。 本件発明のようにスライス後も長期保存できることを前提に、特定加熱食肉製品をスライスする工程を想到することは、非常に困難であったとい うべきである。 オ相違点4について、容易想到ではない。 乙174発明では、そもそも包材内の酸素濃度を検出限界以下の条件にできていないから、測定自体ができず、本件ミオグロビン割合を達成することは不可能である。 そもそも、ミオグロビン割合そのものが問題にならない加熱食肉製品を、発色原理の全く異なる特定加熱食肉製品に置き換えてミオグロビン割合を調整することを容易に想到できるはずがない。 ⑷ 争点2-4(無効理由4(乙175(特開平9-172949号公報)に基づく進歩性欠如))について 〔被控訴人の主張〕 ア本件発明は乙175(特開平9-172949号公報。以下「乙175公報」といい。そこに記載の発明を「乙175発明」という。)に記載の発明に、乙17、188、163、162、12、21、191、24の1、乙14、22及び26に記載された公知技術及び周知技術を適用して当業者が容易に発明をすることができたものである。 イ乙175公報には、請求項2、3、段落【0001】及び実施例1の記載があるところ、これらによれば、乙175発明は以下のとおり認定できる。 a 生鮮食品である牛肉をスライスする工程と、b ス イ乙175公報には、請求項2、3、段落【0001】及び実施例1の記載があるところ、これらによれば、乙175発明は以下のとおり認定できる。 a 生鮮食品である牛肉をスライスする工程と、b スライスされた牛肉をトレイ上に並べる工程と、 c スライスされた牛肉を鉄系脱酸素材とともにガスバリア性を有する包材に密封する工程とを含むe ことを特徴とする生鮮食品である牛肉の製造方法。 ウ本件発明と乙175発明とを対比すると、一致点及び相違点は以下のとおりである。 <一致点>A’ 食肉製品をスライスする工程と、C’ スライスされた食肉製品を脱酸素材とともにガスバリア性を有する包材に密封する工程とを含むE’ ことを特徴とする食肉製品の製造方法。 <相違点1>本件発明では食肉製品は特定加熱食肉製品のローストビーフであるのに対し、乙175発明では生鮮食品である牛肉である点<相違点2>本件発明では構成要件Bに「スライスされた特定加熱食肉製品にお ける還元型ミオグロビンをオキシミオグロビンに酸素化する工程」を 含むのに対し、乙175発明では「牛肉をトレイ上に並べる工程」は含むが、還元型ミオグロビンをオキシミオグロビンに酸素化する工程は記載されていない点<相違点3>本件発明では脱酸素材は非鉄系であるのに対し、乙175発明では 鉄系である点<相違点4>本件発明では構成要件Dに「上記スライスされた上記特定加熱食肉製品は、ガスバリア性を有する包材に密封された状態、且つ、当該包材内の酸素濃度が検出限界以下の条件下で、所定のミオグロビン割合 となっている」のに対し、乙175発明ではミオグロビンの種類の割合は記載されていない点エ相違点1の容易想到性については、以下のと 酸素濃度が検出限界以下の条件下で、所定のミオグロビン割合 となっている」のに対し、乙175発明ではミオグロビンの種類の割合は記載されていない点エ相違点1の容易想到性については、以下のとおりである。 乙175公報には、生肉を収納した容器内に酸素捕捉材を収納して酸素を除去し、生肉中のメトミオグロビン及び/又はオキシミオグロビン を還元型ミオグロビンとした状態で保存し、保存後に良好な肉色を呈示させることが記載されており、生の牛肉及び特定加熱食肉製品のローストビーフは、ミオグロビンが重要な役割を果して色調改善の効果が良好に発揮されることは自明であるから、乙17、188、163、162及び12を参照した当業者であれば、乙175発明の生鮮食品である牛肉 を、特定加熱食肉製品のローストビーフに置換することは容易に想到することである。 さらに、特定加熱食肉製品のローストビーフが、ハムやソーセージなどの食肉加工品より高級感があり消費者に対して訴求することは周知の事実である。 オ相違点2の容易想到性については、以下のとおりである。 相違点2は相違点ではないか、仮に相違点であるとしても、乙175発明においても、保存後に良好な肉色を呈示させるという課題を解決するために、乙13に記載された技術を適用することは容易である。 カ相違点3の容易想到性については、以下のとおりである。 乙14には、脱酸素剤効果によって生肉の変質を防止するとともに無 酸素状態下においてもあざやかな赤味を保持する生肉の保存方法とすることを目的として、生の牛ひき肉をエージレスG-200(CO2発生型非鉄系脱酸素剤)と共に非通気性の包材で密封包装して5℃で冷蔵保存し、13日間赤色の状態で保存する方法の技術が記載されている。 することを目的として、生の牛ひき肉をエージレスG-200(CO2発生型非鉄系脱酸素剤)と共に非通気性の包材で密封包装して5℃で冷蔵保存し、13日間赤色の状態で保存する方法の技術が記載されている。 また、乙21及び26によれば、鉄等を用いた酸素吸収剤は食品包装後 の金属探知機による異物混入試験を行うことができないこと、酸素を吸収するとともに炭酸ガスを発生する機能を付与できることなどの理由から、有機物を主剤とする脱酸素剤が使用されていることが記載されている。 そうすると、乙175発明において、保存後に良好な肉色を呈示させる という課題を解決するために、乙14記載の技術を適用し、脱酸素材をCO2発生型の非鉄系脱酸素材にすることは容易に想到し得ることである。 キ相違点4の容易想到性については、以下のとおりである。 相違点4は、乙175発明に、前記周知技術及び公知技術を適用するこ とにより実現するものである。 〔控訴人らの主張〕ア乙175発明は、生肉を還元型ミオグロビンの赤紫色に留めておくことを目的とするものであり、特定加熱食肉製品をオキシミオグロビンの鮮赤色を保つことを目的とする本件発明にはたどり着けないし、発色原 理・安全性の両面から、生肉を特定加熱食肉製品に置き換えることは容 易でない。その理由の詳細は以下のとおりである。 イ被控訴人の主張する乙175発明の認定及び相違点の認定は誤りである。 乙175公報には、「炭酸ガス及び/又は窒素ガスによるガス置換をすることなく、」ということは一切記載されていないから、この点は相違 点になる。 ウ相違点1の容易想到性については以下のとおりである。 牛生肉をあくまで還元型ミオグロビンの状態に置いて保存後に鮮赤色を呈するようにする 一切記載されていないから、この点は相違 点になる。 ウ相違点1の容易想到性については以下のとおりである。 牛生肉をあくまで還元型ミオグロビンの状態に置いて保存後に鮮赤色を呈するようにする乙175発明と、特定加熱食肉製品のローストビーフの保存中の色を鮮赤色に保つ本件発明とでは技術的思想が全く異なり、 乙175発明を出発点に、本件発明に到達することが容易といえないことは明らかである。 エ相違点3の容易想到性については以下のとおりである。 乙175発明(段落【0004】、【0005】の記載)は、一刻も早く酸素を吸収して、ミオグロビンを還元型の状態に保とうという技術的思 想であることが分かる。一般に、非鉄系脱酸素材は鉄系脱酸素材よりも酸素吸収速度が穏やかであるから、乙175発明の技術的思想と、鉄系脱酸素材を非鉄系脱酸素材に置き換えるという技術的思想は相いれず、相違点3を克服することには阻害事由が存在するというべきである。 オ相違点4の容易想到性については、以下のとおりである。 乙175発明(段落【0005】の記載)は、オキシミオグロビンを還元型ミオグロビンのままにすることが好ましいとする発明である。実際、乙175公報の実施例では、いずれも還元型ミオグロビンの割合が最終的に97%以上となっている(実施例1~4【表1】【表3】【表5】)。これは、オキシミオグロビン割合が3%を下回るということであるから、 オキシミオグロビンを12%以上として鮮赤色を保つ本件ミオグロビン 割合とは全く異なる。このような発想は、オキシミオグロビンの割合を一定以上とする発想とは真逆であるから、乙175発明を出発点に相違点4を想到することは容易ではない。 ⑸ 争点2-5(無効理由5(乙176(特公昭58-29069号 想は、オキシミオグロビンの割合を一定以上とする発想とは真逆であるから、乙175発明を出発点に相違点4を想到することは容易ではない。 ⑸ 争点2-5(無効理由5(乙176(特公昭58-29069号公報)に基づく進歩性欠如))について 〔被控訴人の主張〕ア本件発明は乙176(特公昭58-29069号公報。以下「乙176公報」といい、そこに記載の発明を「乙176発明」という。)発明に、乙175、17、188、163、162、12、13、191及び24の1に記載された公知技術及び周知技術を適用して当業者が容易に発明を することができたものである。 イ乙176公報の特許請求の範囲第1項(アスコルビン酸等からなる鮮度保持剤)、実施例3の記載によれば、乙176発明の内容は以下のとおりである。 b 生鮮食品である牛肉をトレイ上に並べる工程と、 c 牛肉を非鉄系脱酸素材とともにガスバリア性を有する包材に密封する工程とを含むe ことを特徴とする生鮮食品である牛肉の製造方法。 ウ本件発明と乙176発明との対比<一致点> C’ 食肉製品を非鉄系脱酸素材とともにガスバリア性を有する包材に密封する工程とを含む、E’ ことを特徴とする食肉製品の製造方法。 <相違点1>本件発明では、食肉製品は特定加熱食肉製品のローストビーフである のに対し、乙176発明では生鮮食品である牛肉である点 <相違点2>本件発明では食肉製品をスライスしているのに対し、乙176発明ではスライスしていない点<相違点3>本件発明では構成要件Bに「スライスされた特定加熱食肉製品におけ る還元型ミオグロビンをオキシミオグロビンに酸素化する工程」を含むのに対し、乙176発明では、「生鮮食品である牛肉をト 違点3>本件発明では構成要件Bに「スライスされた特定加熱食肉製品におけ る還元型ミオグロビンをオキシミオグロビンに酸素化する工程」を含むのに対し、乙176発明では、「生鮮食品である牛肉をトレイ上に並べる工程」は含むが、還元型ミオグロビンをオキシミオグロビンに酸素化する工程は記載されていない点<相違点4> 本件発明では構成要件Dに「上記スライスされた上記特定加熱食肉製品は、ガスバリア性を有する包材に密封された状態、且つ、当該包材内の酸素濃度が検出限界以下の条件下で、所定のミオグロビン割合となっている」のに対し、乙176発明ではミオグロビンの種類の割合は記載されていない点 エ相違点1の容易想到性については、以下のとおりである。 乙176公報には、食品は、遊離酸素により悪変し、風味の飛散、変色等が発生するので、この遊離酸素を除去するために脱酸素剤が使用されつつあることが記載され、保存テストとして牛肉の色変化が記載されている。 赤紫色や鮮紅色はミオグロビンによるものであることは明らかであるか ら、生の牛肉及び特定加熱食肉製品のローストビーフは、ミオグロビンが重要な役割を果して色調改善の効果が良好に発揮されることは自明であり、乙17、188、163、162及び12を参照した当業者であれば、乙176発明の生鮮食品である牛肉を、特定加熱食肉製品のローストビーフに置換することは容易である。 さらに、特定加熱食肉製品のローストビーフが、ハムやソーセージなど の食肉加工品より高級感があり消費者に対して訴求することは周知の事実である。 オ相違点2の容易想到性については、以下のとおりである。 乙176公報では牛肉が使用されており、乙188の段落【0062】には「・・・整形された部分肉 して訴求することは周知の事実である。 オ相違点2の容易想到性については、以下のとおりである。 乙176公報では牛肉が使用されており、乙188の段落【0062】には「・・・整形された部分肉を切断、スライスし、ブロック肉や薄切り肉と する。」と記載され、生の牛肉ハムをスライスして使用することは周知であるから、乙176発明の生鮮食品である牛肉を、スライスしてトレイに並べるようにすることは容易に想到できる。 なお、乙176発明の生鮮食品である牛肉を、特定加熱食肉製品のローストビーフに置換した場合においても、乙163、12及び甲117によ れば、スライスされたローストビーフを容器内に配置して密封する技術は周知であるから、相違点2の容易想到性に変わりはない。 カ相違点3の容易想到性については、以下のとおりである。 乙176発明においても、「牛肉をトレイ上に並べる工程」で空気と短時間接触するから、相違点3の「酸素化する工程」を備えていることになり、 相違点3は存在しない。 また、変色防止や褐変防止という課題を解決するために、乙13に記載された技術を適用することは容易に想到することである。 キ相違点4の容易想到性については、以下のとおりである。 相違点4は、乙176発明に、前記周知技術及び公知技術を適用するこ とにより実現するものである。 〔控訴人らの主張〕ア乙176発明は生肉を還元型ミオグロビンの赤紫色に留めておくことを目的とするものであり、特定加熱食肉製品をオキシミオグロビンの鮮赤色を保つことを目的とする本件発明には辿り着けない。また、発色原理・ 安全性の両面から、生肉を特定加熱食肉製品に置き換えることは容易でな い。 イ被控訴人の主張する乙176発明の認定及び ことを目的とする本件発明には辿り着けない。また、発色原理・ 安全性の両面から、生肉を特定加熱食肉製品に置き換えることは容易でな い。 イ被控訴人の主張する乙176発明の認定及び相違点の認定は誤りである。 乙176公報の146頁には、「外側の積層フィルムを取り除くと本発明の鮮度保持剤(B)(D)を用いたものは短時間で赤紫色から鮮紅色に変 化した・・・。」と記載されており、乙176発明は、牛生肉をあくまで還元型ミオグロビンの状態に置いて保存後に鮮赤色を呈するようにする発明であるから、特定加熱食肉製品のローストビーフの保存中の色を鮮赤色に保つ本件発明とでは技術的思想が全く異なり、乙176発明を出発点に、本件発明に到達することが容易といえないことは明らかである。 乙176公報には、「炭酸ガス及び/又は窒素ガスによるガス置換をすることなく、」ということは一切記載されていないから、この点は相違点になる。 ウ相違点1の容易想到性については、以下のとおりである。 乙176発明(同公報143頁左欄の記載)の目的は鮮度保持のみにあ るから、特定加熱食肉製品のローストビーフの保存中の色を鮮赤色に保つ本件発明とでは技術的思想が全く異なり、乙176発明を出発点に、本件発明に到達することが容易といえないことは明らかである。 エ相違点2の容易想到性については、以下のとおりである。 乙176発明から本件発明に到達するためには、相違点1を克服し、特 定加熱食肉製品とする必要があるから、単に食肉をスライスする工程を容易に想到できるかではなく、特定加熱食肉製品をスライスする工程を容易に想到できるかを検討しなければならない。 被控訴人提出の証拠を見ても、特定加熱食肉製品であることを明示し、スライスして 工程を容易に想到できるかではなく、特定加熱食肉製品をスライスする工程を容易に想到できるかを検討しなければならない。 被控訴人提出の証拠を見ても、特定加熱食肉製品であることを明示し、スライスしても長期間保存できるとした技術文献は提出されていないから、 本件明細書の段落【0002】のような問題は、当業者にとって極めて困 難な課題であったといえ、本件発明のようにスライス後も長期保存できることを前提に、特定加熱食肉製品をスライスする工程を想到することは、非常に困難であったというべきである。 オ相違点4の容易想到性については、以下のとおりである。 乙176発明は、牛生肉をあくまで還元型ミオグロビンの状態に置いて 保存後に鮮赤色を呈するようにする発明であり、保存中に鮮赤色を保つためにオキシミオグロビンの割合を一定以上とする発想とは真逆であるから、乙176発明を出発点に相違点4を想到することは容易ではない。 ⑹ 争点2-6(無効理由6(明確性要件違反))について〔被控訴人の主張〕 ア本件発明の構成要件Bの「酸素化する工程」は、酸素濃度も酸素にさらす時間も規定されていないが、本件明細書に記載された1時間程度空気中にさらすものであるか、空気と短時間接触するものを含むのか不明である。 イ構成要件Bにおいては、酸素濃度も酸素にさらす時間も規定されていない。そうすると、ごくわずかの量の還元型ミオグロビンを酸素化してオキ シミオグロビンにするものも含むと解することも可能である。 しかし、本件明細書の段落【0008】の「・・・スライスした後の褐変を防止して優れた肉色を維持した特定加熱食肉製品及びその製造方法を提供することを目的・・・とする。」という課題に対し、構成要件Dのミオグロビン割合は、本件発明の課 8】の「・・・スライスした後の褐変を防止して優れた肉色を維持した特定加熱食肉製品及びその製造方法を提供することを目的・・・とする。」という課題に対し、構成要件Dのミオグロビン割合は、本件発明の課題の解決に不可欠のものであると解される(段 落【0042】ないし【0044】)ところ、上記【表1】及び【表2】を参照しても、オキシミオグロビンは少なくとも50%程度になっていなければ、脱酸素化後12%以上を維持することは困難と解されるから、段落【0023】に「30~90分、好ましくは50~70分、より好ましくは60分の処理時間とする」と記載され、実施例1では「冷蔵庫内で1時 間保存する」と記載されているものと解される。 しかしながら、これらの時間は空気中にさらした場合の時間であり、構成要件Bでは酸素化する場合の酸素濃度は規定されていないから、さらす時間も特定されないはずである。本件発明において、酸素化する工程とは、スライスする工程と包材に密封する工程とは別の工程であり、スライスする工程及び包材に密封する工程と関連付けて検討することは誤りである。 本件明細書の記載を考慮し、当業者の出願当時における技術常識を基礎としても、特許請求の範囲の記載は、第三者の利益が不当に害されるほど不明確である。 ウ本件発明は、構成要件Dの所定のミオグロビン割合となっている状態が、「ガスバリア性を有する包材に密封された状態、且つ、当該包材内の酸素 濃度が検出限界以下の条件下」の全ての期間で満足する必要があるのか、一時期だけ満足するものを含むのかが不明である。 構成要件Dは、「包材内の酸素濃度が検出限界以下の条件下」で時間が経過しても、各ミオグロビンの割合は上記範囲内にあるものと解され、また、構成要件Dのミオグロ するものを含むのかが不明である。 構成要件Dは、「包材内の酸素濃度が検出限界以下の条件下」で時間が経過しても、各ミオグロビンの割合は上記範囲内にあるものと解され、また、構成要件Dのミオグロビン割合は、本件発明の課題の解決に不可欠のもの である。 しかしながら、実施例1の【表1】の一部の箇所では、ミオグロビンの割合は上記範囲内から外れている。請求項2には、「上記非鉄系脱酸素材とともに鉄系脱酸素材を37.5%以下(非鉄系脱酸素材と鉄系脱酸素材の合計量を100%)の割合で使用する・・・」と記載されているから、請求項 1の発明は【表1】に示された、鉄系脱酸素材を50.0%及び42.9%の割合で使用するものを含むことは明らかであり、本件発明も同様である。 つまり、【表1】は、本件発明に、「包材内の酸素濃度が検出限界以下の条件下」であっても各ミオグロビンの割合が上記範囲を逸脱するものも含まれることを示している。 エしたがって、本件発明の特許には、特許法36条6項2号(明確性要件) の違反がある。 〔控訴人らの主張〕ア本件発明の特許請求の範囲には、「酸素化する工程」について時間に関する限定は一切されていない。また、本件明細書の段落【0023】には、好ましい態様を記載しているだけで、酸素化の時間を限定していない。 それどころか、段落【0023】に続く段落【0024】は、「また、酸素化の処理条件については、使用する肉の種類や部位、個体差によるミオグロビン総量の違いにより条件を設定することができる。例えば、酸素化処理は、特定加熱食肉製品の断面におけるスライス直後の紫赤色が鮮赤色に変化する状態を目視により確認し、十分に赤色を呈した段階で処理を終了し ても良い。」として、酸素化の処理条件 例えば、酸素化処理は、特定加熱食肉製品の断面におけるスライス直後の紫赤色が鮮赤色に変化する状態を目視により確認し、十分に赤色を呈した段階で処理を終了し ても良い。」として、酸素化の処理条件は適宜設定でき、時間ではなく目視確認によることさえできるとしている。 このことから、本件発明で重要なのは最終的に所定のミオグロビン割合に到達させることであって、本件発明の「酸素化する工程は、本件明細書に記載された1時間程度空気中にさらすものである」などと限定解釈できな いことは明らかである。 よって、本件発明の構成要件Bの酸素化する工程は、1時間程度空気中にさらすものも、空気と短時間接触するものも含まれることは、当業者にとって明確である。 イ本件発明が特定加熱食肉製品をガスバリア性を有する包材で密封する発 明である以上、「ガスバリア性を有する包材に密封された状態、且つ、当該包材内の酸素濃度が検出限界以下の条件下」は、半永久的に続くことになる。 そうすると、「『ガスバリア性を有する包材に密封された状態、且つ、当該包材内の酸素濃度が検出限界以下の条件下』の全ての期間で満足する必要がある」と解釈すると、半永久的に本件ミオグロビン割合を満たさなければな らないことになる。 安定的な化学物質などではない特定加熱食肉製品は時間とともに変化するから、そのような条件を実現することは不可能であり、そのことは当業者にとって自明である。 よって、「『ガスバリア性を有する包材に密封された状態、且つ、当該包材内の酸素濃度が検出限界以下の条件下』の全ての期間で満足する必要があ る」などという解釈は成り立たず、「『ガスバリア性を有する包材に密封された状態、且つ、当該包材内の酸素濃度が検出限界以下の条件下』の一時期だけ満足するもの 件下』の全ての期間で満足する必要があ る」などという解釈は成り立たず、「『ガスバリア性を有する包材に密封された状態、且つ、当該包材内の酸素濃度が検出限界以下の条件下』の一時期だけ満足するもの」であることは、当業者にとって明確である。 本件発明は、「スライスした後の褐変を防止して優れた肉色を維持した特定加熱食肉製品及びその製造方法を提供することを目的とし、また、褐変を 防止して優れた肉色を維持したスライスされた特定加熱食肉製品の保存方法を提供することを目的とする」(本件明細書の段落【0008】)ものである。 半永久的に本件ミオグロビン割合を満たす必要はなく、店頭に並んでいて顧客に選ばれるときに優れた肉色であれば、購買意欲を刺激できるから 十分であり、当業者であれば「『ガスバリア性を有する包材に密封された状態、かつ、当該包材内の酸素濃度が検出限界以下の条件下』の全ての期間で満足する必要がある」などとは考えない。 以上のとおりであり、本件発明に明確性要件違反はない。 ⑺ 争点2-7(無効理由7(実施可能要件違反))について 〔被控訴人の主張〕構成要件Dの所定のミオグロビン割合となっている状態が、全ての期間で満足する必要があると解されるとすると、本件特許には以下に説明する実施可能要件違反の無効理由がある。 本件明細書の段落【0034】には、非鉄系脱酸素材を使用することにより 特定加熱食肉製品に含まれる各ミオグロビンの割合を所望の範囲に制御する ことができる旨記載され、段落【0036】には、鉄系脱酸素材を補助的に利用した場合でも、非鉄系脱酸素材を使用すれば各ミオグロビンの割合を所望の範囲に制御することができる旨記載されている。 しかしながら、【表1】における各ミオグロビンの割合は所望範 脱酸素材を補助的に利用した場合でも、非鉄系脱酸素材を使用すれば各ミオグロビンの割合を所望の範囲に制御することができる旨記載されている。 しかしながら、【表1】における各ミオグロビンの割合は所望範囲内から外れているものがあり、本件明細書を参酌しても、鉄系脱酸素材を50.0% 及び42.9%の割合で使用した場合に、どのようにすれば各ミオグロビンの割合を所望範囲内に制御できるのかは不明である。 本件明細書の段落【0008】には、「・・・褐変を防止して優れた肉色を維持して保存する技術は全く知られていなかった。」、段落【0009】には、「上述した目的を達成するため、本発明者等が鋭意検討した結果、・・・所定の手順 及び条件にて処理することでスライスされた特定加熱食肉製品における還元型ミオグロビン、オキシミオグロビン及びメトミオグロビンの存在比を所望の範囲に制御することができ、その結果、長期保存によっても褐変することなく良好な色調を維持できることを見いだし・・・。」と記載されていることから、各ミオグロビンの割合を所望範囲内に制御することが出願当時の技術常 識であったとも認められない。 よって、本件明細書には、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があるということはできない。 したがって、本件発明の特許には、特許法36条4項1号(実施可能要件)の違反がある。 〔控訴人らの主張〕本件特許に係る発明は、請求項2の発明のみが鉄系脱酸素材の使用割合を37.5%以下と規定するだけで、本件発明は、鉄系脱酸素材の割合が高い 場合でも必ず本件ミオグロビン割合になるなどとするものではない。 請求項2の発明のみが鉄系脱酸素材の使用割合を37.5%以下と規定するだけで、本件発明は、鉄系脱酸素材の割合が高い 場合でも必ず本件ミオグロビン割合になるなどとするものではない。 本件明細書の段落【0036】も、「しかし、本工程では、鉄系脱酸素材を補助的に利用して、包材内の酸素及び特定加熱食肉製品のオキシミオグロビンに結合した酸素を吸収する処理時間を短縮することができる。・・・鉄系脱酸素材は、非鉄系脱酸素材と鉄系脱酸素材の合計量を100%としたときに37.5%以下とすることが好ましい。鉄系脱酸素材をこの範囲で使用する ことで、上述した褐変を防止しながら脱酸素処理の時間を短縮できる。」として、鉄系脱酸素材の使用はあくまでも補助的なものであり、必須の構成ではないことが明記されている。 このような記載と、【表1】からは、鉄系脱酸素材の割合を37.5%よりも下げれば、確実に本件ミオグロビン割合を満たすことが分かるから、実施 可能要件に問題はない。 そもそも、鉄系脱酸素材の割合が50.0%であり、本件ミオグロビン割合を満たさない特定加熱食肉製品のローストビーフは、そもそも本件発明の技術的範囲外であるから、実施可能要件とは関係がない。 本件明細書の【表1】からすれば、鉄系脱酸素材の割合を増やせば、本件 ミオグロビン割合の範囲内に収まりにくくなるという全体的な傾向が確認できる。当業者であれば、全体的な傾向から、本件ミオグロビン割合に収めやすい適切な鉄系脱酸素材の割合を設定できるから、実施可能であることは明らかである。 本件発明の特許に実施可能要件違反はない。 ⑻ 争点2-8(無効理由8(サポート要件違反))について〔被控訴人の主張〕ア本件明細書の段落【0008】によれば、本件発明の解決すべ 本件発明の特許に実施可能要件違反はない。 ⑻ 争点2-8(無効理由8(サポート要件違反))について〔被控訴人の主張〕ア本件明細書の段落【0008】によれば、本件発明の解決すべき課題は、褐変を防止して優れた肉色を維持したスライスされた特定加熱食肉製品の保存方法(製造方法)を提供するものである。しかしながら、当業者が、本 件発明の全体にわたり、本件発明の課題を解決できると認識できるものと は認められない。 イ本件発明は、構成要件Cにおいて、脱酸素材として非鉄系脱酸素材を使用することを規定するが、非鉄系脱酸素材には炭酸ガスを発生するタイプと、炭酸ガスを発生しないタイプとがあるところ、どちらかのタイプかには限定されていない。 本件明細書の段落【0032】には、炭酸ガスを発生するタイプを使用することが好ましいとは記載されているが、好ましいとされる理由は、包材の収縮を回避できるというものであり、褐変を防止して優れた肉色を維持するという課題とは関連がない。本件明細書の実施例として記載されているのは、非鉄系脱酸素材として三菱ガス化学社製のエージレス(商品タイプ: GT タイプ)(注:炭酸ガスを発生するタイプ)を使用し、鉄系脱酸素材として三菱ガス化学社製のエージレス(商品タイプ:SA タイプ)を使用して、鉄系脱酸素材の比率を、50.0%、42.9%、37.9%及び0%としたもののみである。 乙14(2頁右上欄6行~左下欄6行)には、炭酸ガスを発生しない型の 脱酸素剤を使用した場合には生肉中のミオグロビンはメト化して急速に赤味が失われて褐変するが、炭酸ガスを発生する脱酸素剤を使用した場合には、酸素濃度が低下しても、同時に炭酸ガス濃度が高まってゆく中では生肉の褐変現象が生じにくく、脱酸素 オグロビンはメト化して急速に赤味が失われて褐変するが、炭酸ガスを発生する脱酸素剤を使用した場合には、酸素濃度が低下しても、同時に炭酸ガス濃度が高まってゆく中では生肉の褐変現象が生じにくく、脱酸素後においても酸素型ミオグロビンの色調であるあざやかに赤い色調に近い赤味を保持することができる旨記載され ている。 そうすると、炭酸ガスを発生するタイプの脱酸素材と、炭酸ガスを発生しないタイプの脱酸素材とでは、褐変を防止して優れた肉色を維持するという課題を解決することへの影響は大きく異なり、炭酸ガスを発生するタイプの脱酸素材を使用した場合に褐変を防止して優れた肉色を維持すること ができるとしても、炭酸ガスを発生しないタイプの脱酸素材を使用した場 合に、褐変を防止して優れた肉色を維持することができるとは直ちにいえない。 ウ構成要件B(酸素化する工程)について、本件発明が空気と短時間接触するものを含むと解される場合には、サポート要件に適合しない。本件明細書の段落【0042】ないし【0044】の記載によれば、褐変を防止して優 れた肉色を維持できるのは、構成要件Dの所定のミオグロビン割合になっているためであると解される。 スライスしたローストビーフでは、還元型ミオグロビンが大部分を占めると解されるから(段落【0022】)、空気と短時間接触しただけでは、還元型ミオグロビンのごくわずかがオキシミオグロビンに変化するのみであ って、酸素化時のオキシミオグロビンの割合は50%よりはるかに少なく、還元型ミオグロビンの割合は50%以上となる可能性が高いので、【表1】及び【表2】の酸素化時とはかけ離れた割合となる。 したがって、本件発明の酸素化する工程が、空気と短時間接触するものを含む場合には、酸素濃度が検出限界以下になった 上となる可能性が高いので、【表1】及び【表2】の酸素化時とはかけ離れた割合となる。 したがって、本件発明の酸素化する工程が、空気と短時間接触するものを含む場合には、酸素濃度が検出限界以下になったときに、構成要件Dの各ミ オグロビンの割合の範囲内を維持できないものとなり、本件発明の全体にわたり、課題を解決することはできない。 エ構成要件Dについて、「ガスバリア性を有する包材に密封された状態、且つ、当該包材内の酸素濃度が検出限界以下の条件下」の全ての期間で満足する必要があると解される場合については、以下のとおりである。 本件明細書の【表1】では、鉄系比率42.9%の「D+1」と「D+2」及び鉄系比率37.5%と鉄系比率0.0%の「D+1」乃至「D+3」において、所定のミオグロビン割合の条件を満足している。 しかし、鉄系比率42.9%の「D+1」及び「D+2」において、各ミオグロビンの割合は所定の数値範囲内にあるが、a*値が低く、且つ、b* 値がa*値を上回り、褐変しているか、少なくとも良好な色調を有するとい えず、課題を解決できているとはいえない。 したがって、本件発明の構成要件Dの各ミオグロビンの割合が、全ての期間で満足したとしても、各ミオグロビンの割合が所定範囲内と規定する本件発明の全体にわたり、課題を解決することはできない。 オ上記エと異なり、本件発明の構成要件Dについて、一時期だけ満足するも のを含むと解される場合については、以下のとおりである。 【表1】に示されるように、鉄系比率50.0%の実施例の「D+2」ないし「D+3」、及び鉄系比率42.9%の実施例の「D+3」では、所定のミオグロビン割合の条件を満足していないが、a*値が4.63、5.36及び6.20と、褐変されているとされる 施例の「D+2」ないし「D+3」、及び鉄系比率42.9%の実施例の「D+3」では、所定のミオグロビン割合の条件を満足していないが、a*値が4.63、5.36及び6.20と、褐変されているとされる鉄系比率100%の「D+1」 及び「D+2」のa*値(6.92)よりも低い数値となっており、本件発明の課題が解決できていないことは明らかである。 したがって、本件発明の構成要件Dの各ミオグロビンの割合が一時期だけ満足するものを含むとすれば、満足しない時期も存在することになり、その時期には課題を解決することはできず、本件発明の全体にわたり課題を 解決したものとはならない。 カしたがって、本件発明の特許には、特許法36条6項1号(サポート要件)の違反がある。 〔控訴人らの主張〕ア本件発明の効果はあくまで非鉄系脱酸素材によるものである。乙14は、 炭酸ガス発生型の脱酸素材であれば脱酸素後においても酸素型ミオグロビンの色調であるあざやかに赤い色調に近い赤味を保持することができるとしているが、本件発明では、あくまで非鉄系脱酸素材が肉色を維持するとしている。本件明細書の段落【0035】には、「このとき仮に、鉄系脱酸素材のみを使用して包材内の酸素及び特定加熱食肉製品のオキシミオグロビ ンに結合した酸素を吸収すると、短時間に酸素吸収が行われ、オキシミオグ ロビンの割合を12%以上に維持することができないし、場合によってはメトミオグロビンの割合が50%を超えることもある。その結果、特定加熱食肉製品のスライス断面は褐変してしまう。」と記載されており、当業者であれば、非鉄系脱酸素材を使用する意義について、鉄系脱酸素材では酸素吸収速度が速すぎるから、あえて非鉄系脱酸素材を用いることが理解でき、 【表1】からも、 てしまう。」と記載されており、当業者であれば、非鉄系脱酸素材を使用する意義について、鉄系脱酸素材では酸素吸収速度が速すぎるから、あえて非鉄系脱酸素材を用いることが理解でき、 【表1】からも、鉄系脱酸素材の割合を低くすればするほど、本件ミオグロビン割合の範囲内に収まりやすくなっていることが理解できる。同段落【0032】にも、炭酸ガスを発生するタイプを使用することは、あくまで包材の収縮といった色とは別の問題を解決するために使用されていることが明示されている。 イ構成要件Bの「酸素化する工程」について、本件明細書の段落【0024】は、「また、酸素化の処理条件については、使用する肉の種類や部位、個体差によるミオグロビン総量の違いにより条件を設定することができる。例えば、酸素化処理は、特定加熱食肉製品の断面におけるスライス直後の紫赤色が鮮赤色に変化する状態を目視により確認し、十分に赤色を呈した段階 で処理を終了しても良い。」としており、当業者であれば、この記載に基づいて「酸素化する工程」の時間を適宜設定して本件発明を実施できる。 前記段落【0024】の記載から、酸素化の処理条件は適宜設定でき、時間ではなく目視確認でも構わないとしている。そして、目視確認をすれば、甲189の事実実験公正証書のとおり、薄いローストビーフスライスなら 2分半程度の短期間でもa値が向上して赤くなることは、当業者が実験をすれば直ちに分かることである。このように、本件明細書に記載のとおり目視確認をすれば、薄いローストビーフスライスであれば短時間でも十分に酸素化することが理解できるから、本件明細書はサポート要件を満たしている。 ウ本件発明の構成要件D(本件ミオグロビン割合)につき、「ガスバリア性を 有する包材に密封され 十分に酸素化することが理解できるから、本件明細書はサポート要件を満たしている。 ウ本件発明の構成要件D(本件ミオグロビン割合)につき、「ガスバリア性を 有する包材に密封された状態、且つ、当該包材内の酸素濃度が検出限界以下の条件下」の全ての期間で満足する必要があると解釈できないことは既に述べたとおりである。 本件発明は、鉄系比率50.0%や42.9%で必ず本件ミオグロビン割合を満たす発明ではなく、鉄系脱酸素材は補助的に使用するものにすぎな い。 エ構成要件Dにつき、一時期だけ本件ミオグロビン割合を満たすものを含むと解釈する場合でも、前記のとおり、本件発明において鉄系脱酸素材は補助的に使用するものにすぎず、本件発明がそもそも鉄系比率50.0%や42.9%で必ず本件ミオグロビン割合を満たす発明ではない。そもそも、仮 に本件ミオグロビン割合の範囲外の場合(構成要件Dを充足しない場合)に褐変しているとして、そのことがサポート要件違反と結びつくのかの論理が不明である。 この点につき、鉄系比率を低くすると傾向は明らかになっている。 鉄系比率が50.0%の場合も、 ① D+1のb/aは、6.89÷7.49=0.9199② D+2のb/aは、5.88÷4.63=1.27③ D+3のb/aは、7.53÷5.36=1.4049であり、鉄系比率が42.9%の場合も、④ D+3のb/aは、6.32÷6.20=1.0194 であり、鉄系比率100%の24Hr後のb/aが12.11÷6.92=1.75であることと比較すると明らかに数字は良い。 ここからも、非鉄系脱酸素材の割合が多い方がより良い色になっているという傾向が読み取れるから、サポート要件違反はない。 3 控 2=1.75であることと比較すると明らかに数字は良い。 ここからも、非鉄系脱酸素材の割合が多い方がより良い色になっているという傾向が読み取れるから、サポート要件違反はない。 3 控訴人スターゼンは、控訴人シンコウフーズから損害賠償請求権を取得した か(争点4)〔控訴人らの主張〕控訴人らは、原審における令和2年6月12日付け訴えの変更申立書兼訴状訂正申立書において、「原告シンコウフーズは、本書面をもって、原告スターゼンに対し、被告に対する被告製品の販売によって生じた損害賠償請求権を譲 渡する。これによって、原告スターゼンと原告シンコウフーズの間で損害賠償金額を割り付けなければならないという手続の煩雑さはなくなった。」と主張したとおり、控訴人シンコウフーズは、令和2年6月12日、控訴人スターゼンに対し、被控訴人に対する被控訴人各製品の販売によって生じた損害賠償請求権を譲渡している(甲227)。 〔被控訴人の主張〕控訴人らは甲227を提出して、令和2年6月12日に損害賠償請求債権の債権譲渡があったものと主張する。 甲227は、令和5年6月20日付けとなっているが、これは令和5年6月20日以前に控訴人らの間で一切書面による債権譲渡契約の締結がされてい ないことを示している。控訴人スターゼンは上場企業であるし、控訴人らの主張を前提とした場合、譲渡対象の損害賠償請求債権の金額は相応の金額になることも踏まえると、真正の譲渡がされたのであれば書面による債権譲渡契約の締結がされないなど考えられない。書面がなければ会社としてどのような取引をしたか把握することができないし、経理的な処理も困難である。特に、控訴 人らが主張する無償譲渡があったということであれば、贈与税が発生し、 考えられない。書面がなければ会社としてどのような取引をしたか把握することができないし、経理的な処理も困難である。特に、控訴 人らが主張する無償譲渡があったということであれば、贈与税が発生し、損害賠償請求債権の評価を行い必要な税を算出するという処理が発生するが、書面もなしにそのような処理がされたとは考えにくい。控訴人シンコウフーズの立場からしても、債権譲渡が実際にあったとすれば、仮に、控訴人スターゼンが本件訴訟に勝訴をした場合にその損害賠償金からライセンス料収入を得るこ とができなくなるのであるから、このような債権譲渡を行う経済的合理性が全 くない。以上からすれば、控訴人の主張する債権譲渡は通謀虚偽表示に該当すると疑わざるを得ない。 なお、甲227では、債権の特定として「知的財産高等裁判所令和4年(ネ)第10055事件及び第10066事件において、被控訴人ら製品として挙げられている製品への損害賠償請求権」としているが、控訴人らが債権譲渡があ ったと主張する令和2年6月12日時点で、本件を含む上記知的財産高等裁判所係属事件は存在しないのであり、控訴人スターゼンが知的財産高等裁判所で追加的に請求を行った、本件発明に係る請求項5の特許に関する損害賠償請求権について事前に譲渡が行われたとは考えにくい。控訴人らの主張する債権譲渡は現時点の主張立証を前提とすれば真正に存在したとは合理的に考えにく いものである。このように訴訟信託が行われていることについて合理的に疑義が生じている事案において、甲227のような事後的に締結された形式的な書面を提出することのみをもって真正の債権譲渡を認定してしまっては、訴訟信託を禁じた信託法の趣旨を没却することは明らかである。 4 損害額(争点5) 〔控訴人らの 後的に締結された形式的な書面を提出することのみをもって真正の債権譲渡を認定してしまっては、訴訟信託を禁じた信託法の趣旨を没却することは明らかである。 4 損害額(争点5) 〔控訴人らの主張〕⑴ 被控訴人各製品の販売数量につき、原審における鑑定の結果(鑑定人提出の令和3年5月10日付け鑑定書)のとおりであること、及び、被控訴人の主張する被控訴人各製品の利益率について、いずれも認める。 ⑵ 控訴人らが利益を得られたとの関係が存しないから特許法102条2項 の規定が適用されないとの被控訴人の主張の反論は、以下のとおりである。 イトーヨーカ堂の密封タイプのローストビーフのスライス製品は、本件発明の実施品である被控訴人各製品のみで占められており、他の競合品を観念する余地がない。イトーヨーカ堂の行動指針(甲204、205)からも、被控訴人各製品が特許侵害を構成する製品であると判明すれば、被控訴人 各製品の代わりとなるのは本件発明の実施品である控訴人らの製品のみで ある。イトーヨーカ堂は加熱食肉製品を受け入れないから、加熱食肉製品は競合品とはならず、競合品は存在しない。 ⑶ 被控訴人各製品が販売されなかったとしても利益を得られたとはいえないとする点についての被控訴人の補充主張に対する反論は、以下のとおりである。 イオンとイトーヨーカ堂の親会社であるセブン&アイは、同じサッポロビールに対し、同じようにホップに特徴を有するPB商品の発注を行っている(甲215、216)。また、イオンのPBである「トップバリュ」のロースハムを製造している日本ハムは、セブン&アイのPBである「セブンプレミアム」のロースハムの開発に携わっている(甲217、218)。こ れらの例は、セブン&アイが、競合関 トップバリュ」のロースハムを製造している日本ハムは、セブン&アイのPBである「セブンプレミアム」のロースハムの開発に携わっている(甲217、218)。こ れらの例は、セブン&アイが、競合関係にあるイオンにPB商品を供給しているメーカーに対し、同種の商品のPB商品(サッポロビールの例に至っては同じようにホップに特徴を有するPB商品)を発注する可能性を示している。 なお、セブン&アイは、最近のPB商品戦略として、PBの供給元として NB品も販売している大手メーカーを選択している(甲219)。 これらによれば、被控訴人が製造できなければ、その代わりにローストビーフに力を入れていることが業界内で認知されている食肉最大手の控訴人らを選択する可能性は十分にある。 ⑷ 推定覆滅事由についての被控訴人の補充主張(競合品の販売)に対する反 論は、以下のとおりである。 イトーヨーカ堂が、消費期限が短すぎるという理由で脱酸素材を使用しない特定加熱食肉製品から脱酸素剤を使用する特定加熱食肉製品に切り替えたという経緯からすれば、仮に被控訴人による侵害行為がなかったとすれば、イトーヨーカ堂は脱酸素材を使用しており色彩・保存期間において優れ ている本件発明の実施品である控訴人の製品を受け入れ、消費期限の短い 脱酸素材不使用の製品(被控訴人による本件発明の不実施品)は受け入れなかったと考えられる。 そうすると、被控訴人による本件発明の不実施品は、競合品にはならない。 〔被控訴人の主張〕⑴ 被控訴人各製品の販売数量は、原審における鑑定の結果(鑑定人提出の令 和3年5月10日付け鑑定書)にあるとおり、被控訴人製品1につき●●●●●●●個、被控訴人製品2につき●●●●●●●個、被控訴人製品3につき 販売数量は、原審における鑑定の結果(鑑定人提出の令 和3年5月10日付け鑑定書)にあるとおり、被控訴人製品1につき●●●●●●●個、被控訴人製品2につき●●●●●●●個、被控訴人製品3につき●●●●●●個である。 ⑵ 被控訴人製品1の利益率は、原審における計算鑑定の結果によれば、●●●%、被控訴人製品2の利益率は●●●●%、被控訴人製品3の利益率は● ●●●%である。 ⑶ 被控訴人各製品が販売されなかったとしても利益を得られたとはいえないとする点についての被控訴人の補充主張は、以下のとおりである。 イトーヨーカ堂の脱酸素材の封入の要望は、鉄系か非鉄系かの区別なく、単に消費期限の延長(従来の4日から5日への延長)の目的から、従来技術 である脱酸素材の封入を要望したのみであり、非鉄系脱酸素材の封入により優れた肉色を維持しようとする本件発明の効果の発現を望んだものではなかった(乙196)。上記要望を受けて開発された控訴人スターゼンと被控訴人との間の別件訴訟(令和4年(ネ)第10066号事件。以下、「別件訴訟」という。)の被控訴人各製品の導入決定報告においても、単に「脱酸素材(キ ーピット)入り」と記載されているのみで、鉄系脱酸素材であるか非鉄系脱酸素材であるかは明記されていなかったのであるから、イトーヨーカ堂及び被控訴人間において、本件発明の技術的事項である非鉄系脱酸素材を使用すること、ましてや本件発明の実施品とすることなど重視されていなかったといえる。 このようにイトーヨーカ堂はオリジナル商品を開発するに当たり、従来技術 である非鉄系脱酸素材を封入することで足りるとしたものであり、被控訴人各製品が販売されなかったとしても、控訴人らにおいて利益を得られたものといえない。 ⑷ 推定覆 るに当たり、従来技術 である非鉄系脱酸素材を封入することで足りるとしたものであり、被控訴人各製品が販売されなかったとしても、控訴人らにおいて利益を得られたものといえない。 ⑷ 推定覆滅事由についての補充主張は、以下のとおりである。 ア競合品の販売 イトーヨーカ堂が、被控訴人各製品を販売している期間中、他の密封タイプのローストビーフのスライス製品を販売しなかったのは、そのオリジナル商品である被控訴人各製品を販売しており、密封タイプのローストビーフのスライス製品についてはオリジナル商品しか販売しない方針を採っていたからと理解される。かかる理解は、被控訴人各製品から非鉄系脱 酸素材を除いた本件発明の不実施品に切り替えた後も、イトーヨーカ堂はそれ以外の密封タイプのローストビーフのスライス製品を販売していないことからも支持される。 したがって、被控訴人各製品を販売している期間中、イトーヨーカ堂が他の密封タイプのローストビーフのスライス製品を販売していなかった ことは、当該他の密封タイプのローストビーフのスライス製品が被控訴人各製品の競合品に当たることを否定する根拠になり得ない。 イ寄与度イトーヨーカ堂にとって、本件発明の実施品であることが被控訴人各製品を購入する動機付けになっているのであれば、イトーヨーカ堂は控訴人 らから本件発明の実施品を購入すれば済むことである。すなわち、控訴人らは、被控訴人各製品を販売しているイトーヨーカ堂に対しては特許権侵害を主張しておらず、本件訴訟が提起された後も、イトーヨーカ堂との間で密封タイプのローストビーフのスライス製品以外の製品の取引を継続していたのであるから、仮に、本件発明の実施品を望むのであれば、イト ーヨーカ堂として 訟が提起された後も、イトーヨーカ堂との間で密封タイプのローストビーフのスライス製品以外の製品の取引を継続していたのであるから、仮に、本件発明の実施品を望むのであれば、イト ーヨーカ堂としては、控訴人らにその旨打診することはできたといえる。 しかし、イトーヨーカ堂は控訴人らに本件発明の実施品の提供を求めなかった。そもそも、密封タイプのローストビーフのスライスのオリジナル商品をその競合品に当たるイオンのPBを製造している控訴人らに委託することは考えられなかったのであるが、非鉄系脱酸素材を入れることにそれほど強いこだわりがなかったからともいえる。 ウ被控訴人各製品の販売による利益への寄与本件発明の効果は、「褐変させること無く長期に亘って優れた肉色を維持するように保存できる」ことと説明されている。仮に、別件訴訟の被控訴人各製品の売上に本件発明の効果が寄与していたとすれば、上記効果により、イトーヨーカ堂での別件訴訟の被控訴人各製品の売上が増加し、こ れに伴い、被控訴人のイトーヨーカ堂への売上も増加することになる。そうであれば、逆に設計変更後、イトーヨーカ堂での設計変更品の売上が減少することが予測され、これに連動して被控訴人のイトーヨーカ堂への売上も減少するはずである。 しかし、別件訴訟の被控訴人各製品のイトーヨーカ堂への出荷最終日の 翌日 (令和2年2月11日)以前の30日間における各被控訴人各製品の販売個数と、設計変更後の製品の出荷開始日の翌日(令和2年2月12日)以後の30日間における各設計変更品の販売個数とを比較したところ、別件訴訟の被控訴人製品1及び2のいずれも、設計変更後の30日間の販売個数の合計の方が、設計変更前の30日間のそれよりもわずかに高いとい う結果が得られ 計変更品の販売個数とを比較したところ、別件訴訟の被控訴人製品1及び2のいずれも、設計変更後の30日間の販売個数の合計の方が、設計変更前の30日間のそれよりもわずかに高いとい う結果が得られ(乙161)、それ以降も、各月ごとの売上は、設計変更以前よりほとんどの月において上回っている(乙165)。 上記のとおり、被控訴人のイトーヨーカ堂に対する売上は、イトーヨーカ堂の各店舗での被控訴人の製品の売上に直結していることから、上記結果は、本件発明の実施品であると控訴人が主張する被控訴人各製品と非実 施品である設計変更品との間で、消費者に対する訴求力の程度はほとんど 変わらなかったことを示している。つまり、本件発明が実現する「褐変させること無く長期に亘って優れた肉色を維持するように保存できる」という効果は、消費者の購入意欲にほとんど影響していないといえる。 5 消滅時効(争点6)〔被控訴人の主張〕 ⑴ 本件発明に係る特許権である請求項5に基づく損害賠償請求は、令和4年5月30日付け訴えの追加的変更申立書で追加されたところ、同日の時点において、平成30年7月4日から令和元年5月29日までの間の被控訴人各製品の販売数量に関しては、控訴人らが「損害及び加害者を知った時」から既に3年が経過している以上、上記販売数量に係る控訴人の損害賠償 請求権は消滅時効が完成しているものであり、被控訴人は、本訴において、上記消滅時効を援用する。 本件訴訟における損害賠償請求は、不法行為に基づく損害賠償請求であるところ、控訴人らが「損害及び加害者を知った時」が消滅時効の起算点となる(民法724条)。この点、控訴人らは、被控訴人に対し、平成30年 8月14日付け通告書(以下「通告書」という。)を送付しているところ(甲 損害及び加害者を知った時」が消滅時効の起算点となる(民法724条)。この点、控訴人らは、被控訴人に対し、平成30年 8月14日付け通告書(以下「通告書」という。)を送付しているところ(甲10)、遅くとも同日には被控訴人による被控訴人各製品の販売行為を知るに至ったといえ、同日以前の販売に係る損害賠償請求権については同日が起算点となり、同日以降の販売に係る損害賠償請求権については販売時が起算点となる。 不法行為に基づく損害賠償請求権の時効期間は3年間であるところ(民法724条)、令和元年5月29日までの被控訴人各製品の販売数量に関しては、令和4年5月29日の経過をもって消滅時効が完成するに至った。 平成30年7月4日から令和元年5月29日までの被控訴人各製品の販売数量に関しては、上記のとおり消滅時効が完成しているところ、被控訴人 は、上記消滅時効を援用する。 ⑵ 被控訴人各製品について、時効に係る販売数量は以下のとおりである。 ア被控訴人製品1について被控訴人製品1の売上高集計表(乙216)によれば、2018年(平成30年)7月から2019年(平成31年)4月までの販売数量の小計は●●●●●●●パック、2019年(令和元年)5月の販売数量が●● ●●●●パックであり、そのうち同月30日及び31日の販売数量は計●●●●パックであったから(乙215の3)、平成30年7月4日から令和元年5月29日までの被控訴人各製品の販売数量は、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●パックとなる。 したがって、本件発明に基づく控訴人らの損害額の計算において前提とされるべき被控訴人各製品の販売数量については、合計販売数量の●●●●●●●パックから、消滅時効が完成している クとなる。 したがって、本件発明に基づく控訴人らの損害額の計算において前提とされるべき被控訴人各製品の販売数量については、合計販売数量の●●●●●●●パックから、消滅時効が完成している●●●●●●●パック分を除した、●●●●●●●パックである。 イ被控訴人製品2について 被控訴人製品2の売上高集計表(乙216)によれば、2018年(平成30年)7月から2019年(平成31年)4月までの販売数量の小計は●●●●●●●パック、2019年(令和元年)5月の販売数量が●●●●●●パックであり、そのうち同月30日及び31日の販売数量は計●●●●パックであったから(乙215の3)、平成30年7月4日から令和 元年5月29日までの被控訴人各製品の販売数量は、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●パックとなる。 したがって、本件発明に基づく控訴人らの損害額の計算において前提とされるべき被控訴人製品2の販売数量については、合計販売数量の●●● ●●●●パックから、消滅時効が完成している●●●●●●●パック分を 除した、●●●●●●●パックである。 ウ被控訴人製品3について被控訴人製品3については、被控訴人製品3の売上高集計表(乙216)によれば、被控訴人製品3は、平成30年(2018年)12月以降、一切販売されていない以上、全ての販売分について消滅時効が完成しており、 被控訴人製品3においては、本件発明に基づく損害賠償請求には理由がない。 〔控訴人らの主張〕⑴ 本件訴訟の経過に鑑みれば、本件発明に係る請求項5に係る請求について、損害期間の一部につき消滅時効が成立することはない。 損害が発生したと認識するためには、当然、特許権侵害であること、 本件訴訟の経過に鑑みれば、本件発明に係る請求項5に係る請求について、損害期間の一部につき消滅時効が成立することはない。 損害が発生したと認識するためには、当然、特許権侵害であること、すなわち当該特許発明が無効ではないことを認識する必要がある。そして、本件発明が無効でないかどうかは、少なくとも被控訴人による無効主張が出揃うまでは判断できないから、本件訴訟において被控訴人が本件発明に関する無効主張をするまでは、「それによる損害発生の事実」を認識できたとは いえないというべきである。 そして、「当該物が当該特許権に係る特許発明の技術的範囲に属することを認識」するためには、当該特許発明の技術的範囲が定まっている必要がある。被控訴人によって本件特許の請求項1に係る発明に関する無効主張がされ、それにより同発明がガス置換の有無が重要な論点になって無効にな ることが判明するまで、本件発明に係る請求項5の特許について、「ガス置換をすることなく」という訂正をすることは予見できないから、通告書発送時点で「当該物が当該特許権に係る特許発明の技術的範囲に属することを認識」できないことは明らかである。 ⑵ 通告書送付時は「損害及び加害者を知った時」ではない。 平成30年8月14日当時、本件特許権について無効審判請求はされてい なかったから、当然本件特許の請求項1について無効とする審決も出ておらず、控訴人らは、訴訟提起の際も一貫して、請求項1に基づき、被控訴人各製品の特許権侵害を主張してきた。 請求項1に基づく主張と本件発明に係る請求項5に基づく主張の対象製品が同じであり、特許法102条2項に基づき被控訴人の限界利益が損害 賠償金額として認められる以上、請求項1の特許権侵害に基づく損害賠償請求 づく主張と本件発明に係る請求項5に基づく主張の対象製品が同じであり、特許法102条2項に基づき被控訴人の限界利益が損害 賠償金額として認められる以上、請求項1の特許権侵害に基づく損害賠償請求が認められれば、本件発明に係る請求項5に基づく損害賠償請求は、損害自体が存在しなくなる。 このように、請求項1が有効に存在し、控訴人らが請求項1に基づき損害賠償請求をしている以上、本件発明に係る請求項5については、損害自体を 観念できなくなるから、請求項1が有効に存在している通告書送付時点で、控訴人らは「損害及び加害者を知った」といえず、通告書送付時である平成30年8月14日は、「損害及び加害者を知った時」といえないことは明らかである。 そもそも、平成30年8月14日付け通告書(甲10)の作成者は、控訴 人シンコウフーズであり、控訴人スターゼンではない。したがって、通告書は、控訴人スターゼンとの関係では、「損害及び加害者を知った時」の根拠となり得ない。 また、通告書には本件特許権の請求項5に関する記載はなく、通告書にはガス置換に関する記載もない。 ⑶ 「損害及び加害者を知った時」は平成30年8月14日ではない。 「損害及び加害者を知った時」と認められるためには、物が特許権に係る特許発明の技術的範囲に属することを特許権者が認識したことが必要である。 しかし、平成30年8月14日の時点では、控訴人シンコウフーズは、本 件発明の「炭酸ガス及び/又は窒素ガスによるガス置換をすることなく」と いう構成要件の充足性を検討していない。そもそも、「炭酸ガス及び/又は窒素ガスによるガス置換をすることなく」という構成要件は、無効審判における被控訴人による無効主張により、審決予告が、本件特許の請求項1 成要件の充足性を検討していない。そもそも、「炭酸ガス及び/又は窒素ガスによるガス置換をすることなく」という構成要件は、無効審判における被控訴人による無効主張により、審決予告が、本件特許の請求項1はガス置換をする構成をも含むから無効であるという判断をしたことに対応したものであり、審決予告がされるまで、このような構成要件について検討する ことは、およそ不可能な状況であった。 したがって、平成30年8月14日の時点では、被控訴人各製品が本件発明の技術的範囲に属することを認識しておらず、通告書送付時である平成30年8月14日は、控訴人らが「損害及び加害者を知った時」ではない。 第4 当裁判所の判断 1 当裁判所は、控訴人らの請求は、主文掲記の限度で理由があり、その範囲で認容されるべきであるが、その余は理由がないから棄却すべきであると判断する。その理由は以下のとおりである。 本件発明について(原判決第3の1(原判決27頁20行目ないし同39頁18行目))、被控訴人各製品は、構成要件B(還元型ミオグロビンをオキシミ オグロビンに酸素化する工程)を充足するか(争点1-1)について(原判決第3の2(原判決39頁19行目ないし同43頁7行目))、被控訴人各製品は、構成要件C(当該酸素化する工程の後、炭酸ガス及び/又は窒素ガスによるガス置換をすることなく、スライスされた特定加熱食肉製品を非鉄系脱酸素材とともにガスバリア性を有する包材に密封する工程)を充足するか(争点1-2) について(原判決第3の3(原判決43頁8行目ないし同46頁14行目))、被控訴人各製品は、構成要件D(ガスバリア性を有する包材に密封された状態、且つ、当該包材内の酸素濃度が検出限界以下の条件下で、全ミオグロビン量を100%としたときにオキシミオグロ 6頁14行目))、被控訴人各製品は、構成要件D(ガスバリア性を有する包材に密封された状態、且つ、当該包材内の酸素濃度が検出限界以下の条件下で、全ミオグロビン量を100%としたときにオキシミオグロビンが12%以上、メトミオグロビンが50%未満、還元型ミオグロビンが34%以上となる割合となっていること) を充足するか(争点1-3)について(原判決第3の4(原判決46頁15行目 ないし同50頁9行目))、乙12公報の記載(原判決第3の5⑴(原判決50頁12行目ないし同62頁9行目)及び技術常識等のうち原判決第3の5⑵ア・ウ・エ(原判決62頁10行目ないし同63頁2行目及び同63頁15行目ないし同64頁9行目)については、当審における当事者の主張も踏まえ、次のとおり補正するほかは、原判決の記載を引用する。 ⑴ 原判決39頁21行目から同42頁17行目までを以下のとおり改める。 「⑴ 本件発明の構成要件Bの『スライスされた特定加熱食肉製品における還元型ミオグロビンをオキシミオグロビンに酸素化する工程』につき、本件明細書は、前記1⑴のとおり、『酸素化とは、酸素含有気体中にスライスされた特定加熱食肉製品を置くことにより、還元型ミオグロビンが 酸素と結合(酸素化)してオキシミオグロビンとなることを意味する。』(段落【0022】)と酸素化につき定義した上で、『これは、特定加熱食肉製品における断面がスライス直後の紫赤色から鮮赤色に変化する現象として捉えることもできる。』(段落【0022】)としている。 そして、酸素化の処理の時間等については、『スライス加工の後、特定 加熱食肉製品を酸素化は、メトミオグロビンの割合が増加する前に終了することが好ましい。例えば、スライス加工の後、空気に特定加熱食肉製品をさらすこと 時間等については、『スライス加工の後、特定 加熱食肉製品を酸素化は、メトミオグロビンの割合が増加する前に終了することが好ましい。例えば、スライス加工の後、空気に特定加熱食肉製品をさらすことで酸素化処理を行う場合、例えば30~90分、好ましくは50~70分、より好ましくは60分の処理時間とすることができる。上記範囲の処理時間とすることで、メトミオグロビンの割合が増加 することなく、オキシミオグロビンが増加して強い赤みを呈することができる。』(段落【0023】)とし、『例えば、酸素化処理は、特定加熱食肉製品の断面におけるスライス直後の紫赤色が鮮赤色に変化する状態を目視により確認し、十分に赤色を呈した段階で処理を終了しても良い。』(段落【0024】)と記載されている。 そうすると、本件明細書によれば、酸素化の処理時間は、紫赤色から 鮮赤色に変化することが確認されるのに十分であるが、褐変に至らない時間であり、30ないし90分、好ましくは50ないし70分、より好ましくは60分とされているものと認められる。 そして、前記第2の2⑹のとおり、本件特許の出願日前において、食肉の酸素化(ブルーミング)は、食肉の新鮮な切り口や肉塊の中の暗赤色 (紫赤色)の還元型ミオグロビン(RMb)が、空気中の酸素と容易に結びついて鮮赤色のオキシミオグロビン(O2Mb)になる現象であること、ローストビーフのスライス面でも、同様の色調の変化がみられることはいずれも技術常識であり、暗赤色(紫赤色)の還元型ミオグロビン(RMb)が酸素と結びついて鮮赤色のオキシミオグロビン(O2Mb)になる までの時間は、乙15(特開2006-64630号公報、平成18年3月9日公開)の段落【0002】には『15~30分ほどで鮮紅色のオキ と結びついて鮮赤色のオキシミオグロビン(O2Mb)になる までの時間は、乙15(特開2006-64630号公報、平成18年3月9日公開)の段落【0002】には『15~30分ほどで鮮紅色のオキシミオグロビンになる』と、甲106(AMSA、 MeatColorMeasurementGuidelines(肉色の測定ガイドライン)2012年改訂版抜粋、2012年(平成24年)12月)には、『新鮮な肉の表面は、酸素がないため 紫色(DMb)であるが、空気中に数分置いた後、肉の表面は真っ赤になる(OMb、図2.2 の反応1)。肉の断面から、赤い表面層の厚さは1mm 未満であり、より深い筋肉組織は紫色であることがわかる。』とあり、『数分』との記載がされている。 これらによれば、『酸素含有気体中にスライスされた特定加熱食肉製品 を置くことにより、還元型ミオグロビンが酸素と結合(酸素化)してオキシミオグロビンとなる』とする本件明細書にいう酸素化の工程に必要な処理時間は、上記技術常識等も考慮すると、本件明細書に記載の30ないし90分、好ましくは50ないし70分、より好ましくは60分との時間に限定されるとまでは認められないものの、少なくとも数分である ものと認められる。 したがって、ローストビーフのスライスから容器の密封までにどのくらいの時間、空気に曝すかによって酸素化の程度は異なるものの、ごく僅かな時間(例えば30秒以内)空気中の酸素と触れる場合についてまで、本件発明の『酸素化する工程』に該当するとはいえないというべきである。」 ⑵ 同42頁18行目の「⑶」を「⑵」と、原判決45頁17行目の「乙26」を「乙36」とそれぞれ改める。 ⑶ 同46頁13行目の「密封され、」の次に「被控訴人各製 うべきである。」 ⑵ 同42頁18行目の「⑶」を「⑵」と、原判決45頁17行目の「乙26」を「乙36」とそれぞれ改める。 ⑶ 同46頁13行目の「密封され、」の次に「被控訴人各製品が費消される頃までには、」を加える。 ⑷ 同50頁10行目から同頁11行目までを「5 乙12(特開平10-3 27807号公報(以下「乙12公報」という。))の記載内容等」と改める。 ⑸ 同63頁15行目の「ウ」を「イ」と、同64頁1行目の「エ」を「ウ」とそれぞれ改める。 2 当審における争点1についての当事者の主な補充主張に対する判断は、以下のとおりである。 ⑴ 争点1-1(被控訴人各製品は、構成要件B(還元型ミオグロビンをオキシミオグロビンに酸素化する工程)を充足するか)について被控訴人は、前記第3の1⑴のとおり、被控訴人各製品は構成要件Bを充足しない旨を主張する。 このうち「酸素化する工程」の意味については、前記補正の上で引用した 原判決第3の2⑴記載のとおりである。 その上で被控訴人方法が構成要件Bを充足するかを検討すると、補正の上で引用した原判決第3の2⑵のとおり、空気下で行われる②から⑥の工程において、密封包装が完了するまで2分30秒程度であることが認められるところ(乙98の1の1・2、98の2の1・2)、控訴人による実験の結果(甲 189、190)によれば、スライス後、2分30秒が経過した後のロース トビーフのスライス面は、オキシミオグロビン割合が増加し、目視でも鮮赤色であることが認められる。 そうすると、前記「2分30秒程度」空気下に曝す工程は、酸素化の工程に必要な処理時間である「数分」に該当し、「酸素化する工程」の条件を満たすものと認められる 鮮赤色であることが認められる。 そうすると、前記「2分30秒程度」空気下に曝す工程は、酸素化の工程に必要な処理時間である「数分」に該当し、「酸素化する工程」の条件を満たすものと認められるから、構成要件Bを充足するということができる。 したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。 ⑵ 争点1-2(被控訴人各製品は、構成要件C(当該酸素化する工程の後、炭酸ガス及び/又は窒素ガスによるガス置換をすることなく、スライスされた特定加熱食肉製品を非鉄系脱酸素材とともにガスバリア性を有する包材に密封する工程)を充足するか)について ア被控訴人各製品の構成要件Cの充足性についての判断は、補正の上で引用した原判決第3の3のとおりである。 イ被控訴人は、前記第3の1⑵アのとおり、被控訴人各製品は構成要件Cを充足しない旨を主張する。 本件特許の請求項3及び4の記載は、それぞれ以下のとおりである。 「【請求項3】上記包材内の酸素濃度が検出限界以下となった後、当該包材内を真空引きする工程を更に含むことを特徴とする請求項1記載の特定加熱食肉製品の製造方法。 【請求項4】上記包材内から上記非鉄系脱酸素材を取り除いた後に真空引きすることを特徴とする請求項3記載の特定加熱食肉製品の製造方法。」 上記によれば、請求項3及び4に「真空引きする工程を更に含む」ないし「取り除いた後に真空引きする」とある部分については、脱酸素の後においても、その実施者の支配が及んでいることを前提としているものの、請求項3及び4は、上記のとおり請求項1の従属項であり、請求項3及び4に係る「真空引きする工程を更に含む」こと等が求められることによる ものにすぎず、これにより本件発明の「密封する工程」を同 請求項3及び4は、上記のとおり請求項1の従属項であり、請求項3及び4に係る「真空引きする工程を更に含む」こと等が求められることによる ものにすぎず、これにより本件発明の「密封する工程」を同様に解さなけ ればならないとする理由はない。 さらに、補正の上で引用した原判決第3の1⑴のとおり、本件明細書の段落【0038】には、「本工程は、包材内に密封された気体に含まれる酸素及び特定加熱食肉製品のオキシミオグロビンに結合した酸素を吸収するのに十分な時間で実施すればよい。より具体的に、本工程では、包材内 の酸素濃度が検出限界以下になるまで行えばよい。本工程が終了したら、包材内の非鉄系脱酸素材、或いは非鉄系脱酸素材及び鉄系脱酸素材を取り除いても良いし、そのまま包材内に入れておいても良い。・・・」とされ、非鉄系脱酸素材はそのまま包材に入れておいても構わないと記載されていることからしても、被控訴人の主張するような、「脱酸素後においても実施 者の支配が及んでいること」を要求しているとはいえないというべきである。 したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。 ウ被控訴人は、前記第3の1⑵イのとおり、被控訴人各製品は構成要件Cを充足しない旨を主張する。 構成要件Cは、「非鉄系脱酸素材とともにガスバリア性を有する包材に密封する工程」とするものであるから、そこにおいて酸素が「検出限界以下」であることは要求されていない。補正の上で引用した原判決第3の1⑴のとおり、本件明細書の段落【0031】には、「ガスバリア性を有する包材としては、特に限定されず、従来、食品特に食肉製品に使用されてい るもの挙げることができる。」と記載されており、その「ガスバリア性」の程度までは特定されておらず、「脱酸素 リア性を有する包材としては、特に限定されず、従来、食品特に食肉製品に使用されてい るもの挙げることができる。」と記載されており、その「ガスバリア性」の程度までは特定されておらず、「脱酸素材」を用いる目的が酸素を取り除くことである以上、「包材」が酸素を通さない「ガスバリア性」を有するものであることは当然であり、そこにおいて「検出限界以下」であることまでを要求するものではない。以上の内容を判示する原判決の判断に誤りはな い。 したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。 (3) 争点1-3(被控訴人各製品は、構成要件D(ガスバリア性を有する包材に密封された状態、且つ、当該包材内の酸素濃度が検出限界以下の条件下で、全ミオグロビン量を100%としたときにオキシミオグロビンが12%以上、メトミオグロビンが50%未満、還元型ミオグロビンが34%以上となる割 合となっていること)を充足するか)についてア被控訴人各製品の構成要件Dの充足性についての判断は、補正の上で引用した原判決第3の4のとおりである。 イ被控訴人は、前記第3の1⑶アのとおり、被控訴人各製品は構成要件Dを充足しない旨を主張する。 補正の上で引用した原判決第3の1⑴の本件明細書の段落【0044】の記載にあるとおり、同段落は「急激な脱酸素処理」との条件の下で起こる現象を説明したものであって、単に「オキシミオグロビンが12%未満となる」ことによって生じる現象を説明したものとはいえない。そうすると、被控訴人の、鉄系比率が42.9%である例においては、「D+3」の 時点でローストビーフは褐変することとなる旨の主張はその前提を欠くものというべきである。 さらに、別紙のとおりの本件明細書の実施例1の【表1】及び段 9%である例においては、「D+3」の 時点でローストビーフは褐変することとなる旨の主張はその前提を欠くものというべきである。 さらに、別紙のとおりの本件明細書の実施例1の【表1】及び段落【0057】の記載によれば、本件ミオグロビン割合を満たすために、「非鉄系脱酸素材」を使用することが必要であること、鉄系脱酸素材の割合を低く すればするほど、所定のミオグロビン割合の範囲内に収まりやすくなっていること、及び、別紙のとおりの段落【0058】の記載から、「非鉄系脱酸素材のみを使用する場合」又は「鉄系脱酸素材の割合を37.5%とした場合」が好ましい態様であることが理解できるものの、本件明細書の記載からは、鉄系比率37.5%以下としなければ、本件発明の技術課題を 解決できないものとは解されない。 また、補正の上で引用した原判決第3の4⑴のとおり、優れた色調が永続しないことは、本件明細書も前提としていることであるから、「包材内の酸素濃度が検出限界以下」の「すべての期間で満足する必要がある」と当業者が理解することはない。 そうすると、本件明細書の【表1】において、「非鉄系脱酸素材のみを使 用する場合」又は「鉄系脱酸素材の割合を37.5%とした場合」に、「D+1」ないし「D+3」において、所定のミオグロビン割合を維持していることをもって、本件発明の構成要件Dの充足性を判断するに際し、「製品の販売以降、製品として販売されている間、包材内の酸素濃度が検出限界以下の条件下で、常に、各ミオグロビンの割合が構成要件D所定の割合に なることが必要」であるものとは解されない。 したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。 ウミオグロビン割合の測定方法について被控訴人は、前記第3の1 D所定の割合に なることが必要」であるものとは解されない。 したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。 ウミオグロビン割合の測定方法について被控訴人は、前記第3の1⑶イのとおり、被控訴人各製品は構成要件Dを充足しない旨を主張する。 補正の上で引用した原判決第3の4⑶のとおり、本件発明の意義や技術常識等(甲55、102、103)を勘案すれば、包材の外からローストビーフの吸光度を測定し、ミオグロビン割合を算出するにあたり、SCE方式(正反射光除去)の方が、SCI方式(正反射光込み)よりも包材の影響を受けにくいものと認められる。 そして、本件明細書において使用されている分光色差計(段落【0028】、【0054】)である日本電色工業社製の「NF999」については、甲72(タナカ・トレーディング株式会社のホームページ)に「光学系:0°:45°」と、甲73(カラーコミュニケーションガイド、3頁)には分光測色系における「0°/45°測定」につき、「0/45は、測定対 象から正反射光を取り除き、人間が眼で見るのと同じ正確さでサンプルを 計測する」と記載されているとおり、SCE方式と同じ正反射光を除去した方法では測定できるが、正反射光を含むSCI方式では測定ができない。 そうすると、本件明細書で用いられている分光式色差計からみても、SCE方式(正反射光除去)により測定されていることが認められる。 したがって、SCI方式についてもメリットが存在するから、本件発明 の構成要件Dに係るミオグロビンの誘導形態の割合を算定するため吸光度を測定する際にSCE方式とSCI方式のいずれかを用いることが明らかとはいえないとの被控訴人の主張は前提を欠くというべきであるし、本件明細書の記載からみても、 ンの誘導形態の割合を算定するため吸光度を測定する際にSCE方式とSCI方式のいずれかを用いることが明らかとはいえないとの被控訴人の主張は前提を欠くというべきであるし、本件明細書の記載からみても、被控訴人の主張するような、「いずれの測定方法によるべきか明らかにされていない場合」には当たらず、SCE方式及び SCI方式の両方で所定の数値範囲を満たすべきとすることにはならないというべきである。 加えて、被控訴人は、SCE方式で測定することの誤りを指摘するものでも、SCE方式で測定した結果に誤りがあることを指摘するものでもないから、原判決が本件発明の吸光度を測定するに当たってSCE方式を用 いると認識できたとした上で、被控訴人各製品がSCE方式で測定したことにより所定のミオグロビン割合を満たすとした判断に誤りはないというべきである。 したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。 3 本件特許は、特許無効審判により無効にされるべきか(争点2)についての判 断は、以下のとおりである。 ⑴ 争点2-1(無効理由1(公知発明(鎌倉山パストラミビーフ)に基づく進歩性欠如))についてア商品「鎌倉山パストラミビーフ」に示される開示事項(ア) 被控訴人がパストラミビーフ発明が示されているとする商品「鎌倉山 パストラミビーフ」が包装された状態を示す乙177の1(平成20年 5月9日「商品開発室 ●●」作成に係る「要望したサンプルの導入決定報告」)には、上記商品の「商品概要」として、規格は「100g」、包装形態は「透明GP」であり、エージレスは「オキシーターY」(有機系の脱酸素剤である。乙179)を使用し、保存温度は「10℃」、賞味期間は「25日間」と記載されており、透明な容器に、当該商品が封入 形態は「透明GP」であり、エージレスは「オキシーターY」(有機系の脱酸素剤である。乙179)を使用し、保存温度は「10℃」、賞味期間は「25日間」と記載されており、透明な容器に、当該商品が封入され、 「鎌倉山パストラミビーフ」のラベルが貼られた写真も掲載されている。 一方、食肉製品の規格基準については、食肉製品の成分規格の他、食肉製品の製造基準及び保存基準が定められているところ、これらの各基準について、個別基準が、特定加熱食肉製品と加熱食肉製品についてそれぞれ定められており、「食肉製品の保存規準」として、加熱食肉製品は「1 0℃以下」、特定加熱食肉製品は「水分活性が0.95以上のものにあっては、4℃以下」と定められている(甲13の1、2(甲150) )。 そうすると、上記のとおりの商品の保存温度(10℃)、賞味期間(25日間)からみて(乙177の1)、上記商品は加熱食肉製品であると認められる。 そして、平成20年当時の食品衛生法第19条及び同法施行規則第21条第1号ウにおいて、加熱食肉製品である旨の表示が義務付けられていたから、当業者は、当該商品の表示により、前記商品が加熱食肉製品であることを認識できたといえる。 (イ) 上記商品は、写真からみて、食肉であるパストラミビーフが、スライス された状態で包装されているところ(乙177の1)、乙177の1作成当時の、スライスした食肉製品の包装等に関し、文献には以下の記載がある。 甲117(特公昭64-4746号公報、平成元年1月26日)の記載は、以下のとおりである。 「予めスライスされたローストビーフ製品の製造及び輸送に伴う諸問題 のひとつはビーフのスライス(薄片)が不可避的に酸素に曝露されてその結果消費者が要望するデリ 下のとおりである。 「予めスライスされたローストビーフ製品の製造及び輸送に伴う諸問題 のひとつはビーフのスライス(薄片)が不可避的に酸素に曝露されてその結果消費者が要望するデリケートなローストビーフの色沢において消費者が製品を見るより以前にブルーミングを起し、該早期に過ぎるブルーミングに次いで望ましからぬ褐変と乾燥とを起すことである。」(2頁4欄6-13行) 「本発明の好ましい具体化において、調理済みのスライスされた円筒型製品は特別な気密真空式サツク型容器に包装される。・・・本発明の製造方法にもとづきスライス製品の供給時においてスライス製品は鮮紅色を呈し(bloom)優良な色沢を与え、容器開封から供給時までの約3~4日間にわたりこの効果を継続する。」(4頁7欄33行-最終行) 乙12公報の記載は補正の上で引用した原判決第3の5⑴のとおりであり、段落【0003】及び【0010】には以下の記載がある。 「スライスされたローストビーフを流通させるうえでの主な問題点は、スライスすることによって外気との接触面積が大きくなるため、ローストビーフの酸化が激しくなるという点である。その結果、消費者の手に 渡るまで、色、臭い、味などを維持することが困難になる。」(段落【0003】)「上記課題を解決するために、本発明のスライスされたローストビーフの包装方法は、スライスされたローストビーフを、脱酸素剤と共に、酸素ガスバリア性材料からなる容器内に配置し、容器内を窒素ガス及び/ま たは二酸化炭素ガス雰囲気に置換した後、容器を密封して、容器内の残存酸素濃度が0.01%(容量%、以下同じ)以下に維持されるようにすることを特徴としている。」(段落【0010】)乙163(特開2001-29006号公報、平成 した後、容器を密封して、容器内の残存酸素濃度が0.01%(容量%、以下同じ)以下に維持されるようにすることを特徴としている。」(段落【0010】)乙163(特開2001-29006号公報、平成13年2月6日)の記載は、以下のとおりである。 「【従来の技術】従来、ローストビーフやたたきを販売のためスーパーマ ーケット等に置いた場合、店頭に置いている間の3-5 時間程度でその色が変わってしまって商品価値がなくなり店舗ではロスを生じる原因になっていた。ローストビーフの製法としては、食品衛生法により食肉原料の中心温度を56℃ (判決注:規格基準に照らして、「63℃」の誤記と認められる。)、30分以上加熱する(流通は10℃以下、またこの場合 製造過程で原料肉に調味液等の注射をすることが認められている)製造法と中心温度を56℃、64分以上もしくは同等以上の加熱を行う特定加熱法(流通は4℃以下、原料肉に調味液等の注射は認められていない。)による製造法の2つの方法がある。ローストビーフにおいてその本来の色を出そうとすると後者の特定加熱の製法で行う方が有利であり一般的 に用いる製法である。このローストビーフをスライスしてから店頭に置くと退色が著しく商品価値を落とすこととなり問題となっていた。そこで、この点を解決する方法の開発が強く望まれている。」(段落【0002】)「・・・ローストビーフを衛生的にスライス包装を行い店頭の販売に供し た。」(段落【0005】)これら記載によれば、当業者にとって、食肉製品を酸素の存在下でスライスしてトレイ内に並べて包装することは周知であるということができる。 そうすると、当業者であれば、当該商品を外部から観察することによっ て、その製造方法に、スライスする工程が存在 下でスライスしてトレイ内に並べて包装することは周知であるということができる。 そうすると、当業者であれば、当該商品を外部から観察することによっ て、その製造方法に、スライスする工程が存在し、また、これをトレイ上に並べる工程が存在し、これらの工程が酸素の存在下で行われることを認識できたということができる。 (ウ) 上記商品には、前記のとおり、非鉄系の脱酸素材であるオキシーターY(乙179)が封入されている以上、ガスバリア性を有する包材(透明G P)で密封されていることが明らかである。 そうすると、当業者であれば、「非鉄系脱酸素材とともにガスバリア性を有する包材に密封する工程」が存在することは認識でき、包材を分析してガスバリア性を有することを確認することもできたといえる。 (エ) さらに、当業者であれば、当該製品の開封前に、包材内の気体を分析することによって、「炭酸ガス及び/又は窒素ガスによるガス置換」がされ ていないことを認識することができたということができる。 イパストラミビーフ発明の内容及び本件発明とパストラミビーフ発明との対比上記アによれば、パストラミビーフ発明の内容については、前記第3の2(1)〔被控訴人の主張〕ウのとおりと認められる。 また、本件発明とパストラミビーフ発明とを対比すると、前記第3の2(1)〔被控訴人の主張〕エのとおりの一致点及び相違点1ないし3を認めることができる。 ウ相違点1の容易想到性について(ア) 本件発明の技術的意義 本件発明の技術的意義は、補正の上で引用した原判決第3の1⑵のとおりであり、特定加熱食肉製品をスライスした後、所定の手順及び条件、すなわち、酸素化する工程及び非鉄系脱酸素材とともにガスバリア性を有する包材に密封する工程に 補正の上で引用した原判決第3の1⑵のとおりであり、特定加熱食肉製品をスライスした後、所定の手順及び条件、すなわち、酸素化する工程及び非鉄系脱酸素材とともにガスバリア性を有する包材に密封する工程にて処理することで、スライスされた特定加熱食肉製品における還元型ミオグロビン、オキシミオグロビン及びメト ミオグロビンの存在比を所望の範囲に制御することを技術的特徴とするものである(段落【0008】ないし【0010】)。 そうすると、本件発明は、特定加熱食肉製品のローストビーフをスライスされた状態で流通させることを前提として、その製造方法を改良するものである。 ここで、本件明細書には、「本発明において特定加熱食肉製品とは、一 般に食品規格基準にて規定されるように、その中心部の温度を63℃で30分間加熱する方法又はこれと同等以上の効力を有する方法以外の方法による加熱殺菌を行った食肉製品(乾燥食肉製品及び非加熱食肉製品は除く)を含む意味とする。」(段落【0018】)と記載されているように、本件明細書でいう「特定加熱食肉製品」は、甲150の規格基準にお いて定められたものであると認められる。 (イ) 特定加熱食肉製品と加熱食肉製品の発色の原理についての技術常識特定加熱食肉製品と加熱食肉製品についての技術常識は、補正の上で引用した原判決第3の5⑵イ及びウのとおりであり、特定加熱食肉製品であるか加熱食肉製品(「中心部の温度を63℃で30分間加熱する方法 又はこれと同等以上の効力を有する方法」)であるかは、肉の中心部の加熱温度及び加熱時間によって定められるところ(甲13の2、52、150)、さらに、加熱食肉製品(ハムやソーセージ等の加工肉を含む)は、亜硝酸塩等の発色剤を使用可能であるのに対し(甲147、148(乙2 温度及び加熱時間によって定められるところ(甲13の2、52、150)、さらに、加熱食肉製品(ハムやソーセージ等の加工肉を含む)は、亜硝酸塩等の発色剤を使用可能であるのに対し(甲147、148(乙204)、151 )、特定加熱食肉製品は、中心部の温度をより低温の条件 で、かつ、中心部の温度ごとに加熱時間が特定され、調味料等は食肉の表面にのみ塗布しなければならないとも定められている(甲150)。 市販されているパストラミビーフは、いずれも発色剤(亜硝酸塩)が含まれており(甲193ないし196)、加熱食肉製品である前記商品「鎌倉山パストラミビーフ」も、そのスライス面は亜硝酸塩等の発色剤を使 用し、ミオグロビンがニトロシルミオグロビン(NOMb)となることによって赤色ないしピンク色に発色したものと認められるのに対し、調味料等を食肉の表面にしか塗布できず、発色剤を使用することができない特定加熱食肉製品では、スライス面の色は生肉に近く、ミオグロビンが酸素化してオキシミオグロビンとなることによって鮮赤色に発色するもの と認められる。 これらによれば、発色剤を使用して発色しているものと認められる加熱食肉製品である「鎌倉山パストラミビーフ」と、オキシミオグロビンになることによって発色している特定加熱食肉製品であるローストビーフとでは、発色の原理が全く異なるものということができる。 (ウ) そうすると、「加熱食肉製品」である商品「鎌倉山パストラミビーフ」 から上記「パストラミビーフ発明」の製造方法を認定できたものとしても、その製造方法を発色の原理が全く異なる「特定加熱食肉製品のローストビーフ」の製造方法に適用する動機付けはないから、相違点1に係る構成を導くことを当業者が容易に想到できたものとはいえないというべきで その製造方法を発色の原理が全く異なる「特定加熱食肉製品のローストビーフ」の製造方法に適用する動機付けはないから、相違点1に係る構成を導くことを当業者が容易に想到できたものとはいえないというべきである。 (エ) 被控訴人の前記第3の2⑴オの主張についてa 被控訴人は、特定加熱食肉製品であるか加熱食肉製品であるかは、肉の中心部の加熱温度及び加熱時間によって定まるところ(甲1、13の2、52)、加熱温度及び時間の変更により加熱食肉製品を特定加熱食肉製品とすることは当業者が適宜設計できる事項であり、加熱食肉 製品を特定加熱食肉製品に置換することは設計事項にすぎないと主張する。また、被控訴人は、パストラミビーフとローストビーフは、共に牛肉の塊を加熱し、通常スライスして提供されるという点で一致しており、当業者にとってパストラミビーフはローストビーフを含有しうる概念であって(乙177の2)、パストラミビーフよりもローストビ ーフの方が高級なイメージが強く消費者への訴求力が高いことから(乙117)、当業者であればパストラミビーフをローストビーフに変更することも容易であることや、消費者の嗜好・志向を受けて、発色剤を使用せずに生肉本来の赤身を呈する状態にするために、「加熱食肉製品」である「パストラミビーフ」を「特定加熱食肉製品」の「ロースト ビーフ」に変更する動機もあったとも主張する。 しかし、特定加熱食肉製品と加熱食肉製品の違いは、単に肉の中心部の加熱温度及び加熱時間だけではなく、上記(イ)のとおり、発色の原理においても全く異なるから、加熱温度及び時間の変更により加熱食肉製品を特定加熱食肉製品とすることが適宜設計できる事項であるとはいえない。加えて、中心部まで十分な時間加熱し、殺菌が十分な加熱 理においても全く異なるから、加熱温度及び時間の変更により加熱食肉製品を特定加熱食肉製品とすることが適宜設計できる事項であるとはいえない。加えて、中心部まで十分な時間加熱し、殺菌が十分な加熱 食肉製品と、あえて熱を十分に通さずにそのまま食べる特定加熱食肉製品では、安全性が全く異なるということができるから、当業者であれば、十分に加熱が行き届いている上、塩漬工程で亜硝酸塩が添加され安全性の担保されている加熱食肉製品の技術を、加熱が十分にされておらず菌が再繁殖する可能性のある特定加熱食肉製品に適用しようする ことを考えないものといえる。仮に適用するにしても、特定加熱食肉製品にするためには、加熱の温度及び時間管理、発色剤の使用の有無など、その仕様を大幅に変更しなければならないから、加熱食肉製品であるパストラミビーフの製品をみた当業者が、同様の製造技術を適用して、特定加熱食肉製品を製造しようとする動機付けにはならないとい うべきである。さらには、たとえ発色剤の使用に否定的な消費者の志向があったとしても、それは購買時における消費者の商品の選択をいうものに過ぎず、製造技術までも適用し得るという根拠にはならない。 したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。 b 被控訴人は、ローストビーフを消費者の購入意欲を増加させる生肉 本来の赤身を呈する状態にすることは当業者において周知の課題であり(甲117、125、乙12)、加熱食肉製品のローストビーフよりも特定加熱食肉製品のローストビーフの方が生肉本来の色を呈することができることも周知であり(甲125、乙117、118、162、163)、乙163(特開2001-29006号公報)の段落【00 03】には、退色又は変色が抑えられる方法は、スライスした加熱食肉 とも周知であり(甲125、乙117、118、162、163)、乙163(特開2001-29006号公報)の段落【00 03】には、退色又は変色が抑えられる方法は、スライスした加熱食肉 製品のローストビーフであろうと特定加熱食肉製品のローストビーフであろうと共通であることが記載されており、発色剤を用いた食肉製品であっても、酸素の影響によってニトロシルミオグロビン(NOMb)の安定性が著しく下がり退色に至るのであって、酸素の影響によって退色に至るという原理は特定加熱食肉製品の場合と発色剤を用いた食 肉製品の場合とで異ならない旨を主張する。 しかし、上記のとおり、発色剤を使用して発色している加熱食肉製品である商品「鎌倉山パストラミビーフ」と、オキシミオグロビンになることによって発色している特定加熱食肉製品であるローストビーフとでは、発色の原理が全く異なるところ、たとえ酸素の影響によって退色 に至る点で共通する部分があるとしても、発色剤を用いた加熱食肉製品と、オキシミオグロビンによって発色する特定加熱食肉製品とでは、色調安定性が大きく異なることも技術常識であるといえるから(甲148(乙204)、151、乙163)、加熱食肉製品であるパストラミビーフの製品をみた当業者が、同様の製造技術を適用して、特定加熱食 肉製品を製造しようと考えるとはいえない。また、乙163には、以下の記載がある。「【0002】【従来技術】従来、ローストビーフやたたきを販売のためスーパーマーケット等に置いた場合、店頭に置いている間の3-5時間程度でその色が変わってしまって商品価値がなくなり・・・。ローストビーフの製法としては、・・・2つの方法がある。ロース トビーフにおいてその本来の色を出そうとすると後者の特定加熱の製法で 時間程度でその色が変わってしまって商品価値がなくなり・・・。ローストビーフの製法としては、・・・2つの方法がある。ロース トビーフにおいてその本来の色を出そうとすると後者の特定加熱の製法で行う方が有利であり一般的に用いる製法である。このローストビーフをスライスしてから店頭に置くと退色が著しく商品価値を落とすことになり問題となっていた。そこで、この点を解決する方法の開発が強く望まれている。【0003】・・・そこで、本発明の課題はローストビ ーフ、たたきなどの食肉加工品を販売のために店頭に置いた場合も退 色又は変色しない食肉加工品及びその製法を提供することにある。」乙163の上記記載によれば、ローストビーフの二つの製法のうち、後者の特定加熱の製法(特定加熱食肉製品の製法)は本来の色を出そうとすると有利であり一般的な方法であること、このローストビーフをスライスしてから店頭に置くと退色が著しいという問題があることが 指摘されており、「退色」の問題は、特に、本来の色を出そうとする特定加熱の製法について生じるものと認められる。乙163に、加熱条件が異なる実施例1及び実施例2において、退色抑制のために同様の方法を適用している旨の記載があったとしても、退色又は変色が抑えられる方法が加熱食肉製品及び特定加熱食肉製品で共通であるという当 業者の認識があったとまでは認められないというべきである。 したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。 (オ) 相違点1の容易想到性についてのまとめ以上のとおり、当業者は、相違点1に係る構成を導くことを容易に想到できたものとはいえないというべきである。 エ相違点3の容易想到性について被控訴人は、本件特許の出願日当時、メトミオグロビンの割合をで 業者は、相違点1に係る構成を導くことを容易に想到できたものとはいえないというべきである。 エ相違点3の容易想到性について被控訴人は、本件特許の出願日当時、メトミオグロビンの割合をできるだけ低い状態に抑え、オキシミオグロビンの割合をできるだけ高く維持して鮮赤色の食肉を維持することが、消費者等へ訴求する観点からは望ましいことは技術常識であり、パストラミビーフ発明のパストラミビーフに代え て、特定加熱食肉製品のスライスされたローストビーフを採用し、「酸素化する工程」を適用すれば、ローストビーフは、保存状態において、鮮やかな赤色を維持し、容器を開封して酸素に曝すとオキシミオグロビンの鮮紅色を呈することになるから、相違点3は、パストラミビーフ発明に、前記周知技術及び公知技術を適用することにより実現するものであり、相違点1と 同様に、当業者が容易に想到できることであると主張する。 しかし、既に検討したとおり、発色剤を使用して発色しているものと認められる加熱食肉製品である商品「鎌倉山パストラミビーフ」と、オキシミオグロビンになることによって発色している特定加熱食肉製品であるローストビーフとでは、発色の原理が全く異なるから、ミオグロビン割合そのものが問題にならない加熱食肉製品を、発色原理の全く異なる特定加熱食肉製 品に置き換えてミオグロビン割合を調整することを容易に想到できるとはいえない。 したがって、当業者は、相違点3に係る構成を導くことを容易に想到できたものとはいえないというべきである。 オ小括 以上のとおり、当業者は、少なくとも相違点1及び3に係る構成を導くことを容易に想到できたものとはいえないから、被控訴人の主張する無効理由1は理由がない。 ⑵ 争点2-2(無効理由2(公知発明 以上のとおり、当業者は、少なくとも相違点1及び3に係る構成を導くことを容易に想到できたものとはいえないから、被控訴人の主張する無効理由1は理由がない。 ⑵ 争点2-2(無効理由2(公知発明(DCSローストビーフ)に基づく進歩性欠如))について ア商品「DCSローストビーフ」に関する開示事項(ア) 乙180(平成16年(2004年)3月25日付け被控訴人滝沢ハム泉川工場A工場長宛「製品に対する要望書」)、181の1ないし6に示された商品「DCSローストビーフ」は、乙181の1・2の写真に示されるとおり「ローストビーフ(スライス)」であり、「賞味期限07. 12.1」、「加熱食肉製品(加熱後包装)」等の表示が読み取れる。 そうすると、「DCSローストビーフ」の商品は、食肉であるローストビーフがトレイ内にスライスされた状態で包装されており、加熱食肉製品であると認められる(乙181の1及び2)から、当業者は、当該商品の表示により加熱食肉製品であることを認識できたものである。 (イ) また、当業者にとって、食肉製品を酸素の存在下でスライスしてト レイ内に並べて包装することは前記⑴ア(イ)のとおり周知であるから(甲117、乙12、163)、当業者であれば、当該商品を外部から観察することによって、その製造方法に、スライスする工程が存在し、また、これをトレイ上に並べる工程が存在し、これらの工程が酸素の存在下で行われることを認識できたものである。 (ウ) 上記商品には、エージレスが封入されているところ(乙181の1及び2)、そのデザインから、非鉄系の脱酸素材であるエージレスGLS(乙182の1・2)であると認められるところ、脱酸素材が封入されている以上、ガスバリア性を有する包材で密封されて ろ(乙181の1及び2)、そのデザインから、非鉄系の脱酸素材であるエージレスGLS(乙182の1・2)であると認められるところ、脱酸素材が封入されている以上、ガスバリア性を有する包材で密封されていることが明らかであるから、当業者であれば、「非鉄系脱酸素材とともにガスバリア 性を有する包材に密封する工程」が存在することは認識できたものである。なお、包材を分析してガスバリア性を有することを確認することもできたものといえる。 (エ) さらに、当業者であれば、当該製品の開封前に、包材内の気体を分析することによって、「炭酸ガス及び/又は窒素ガスによるガス置換」が されていないことを認識することができたということができる。 イ DCSローストビーフ発明の内容及び本件発明とDCSローストビーフ発明との対比上記アによれば、DCSローストビーフ発明の内容については、前記第3の2⑵〔被控訴人の主張〕ウのとおりと認められる。 また、本件発明とDCSローストビーフ発明とを対比すると、前記第3の2⑵〔被控訴人の主張〕エのとおりの一致点及び相違点1ないし3を認めることができる。 ウ相違点1の容易想到性について本件発明の技術的特徴及び特定加熱食肉製品と加熱食肉製品の発色の 原理についての技術常識については、前記⑴ウのとおりであり、DCSロ ーストビーフ発明に係る商品「DCSローストビーフ」も加熱食肉製品であり、乙181の1・2によれば、「原材料名」に「発色剤(亜硝酸Na)」を使用していることが見て取れる。 そうすると、前記(1)ウと同様の理由により、加熱食肉製品である「DCSローストビーフ」において、上記DCSローストビーフ発明に係る製造 方法を認定できたとしても、その製造方法を発色の原理が全く異な すると、前記(1)ウと同様の理由により、加熱食肉製品である「DCSローストビーフ」において、上記DCSローストビーフ発明に係る製造 方法を認定できたとしても、その製造方法を発色の原理が全く異なる「特定加熱食肉製品のローストビーフ」の製造方法に適用する動機付けはなく、相違点1に係る構成を導くことを当業者が容易に想到できたものとはいえないというべきである。 エ相違点3の容易想到性について 前記(1)エと同様に、発色剤を使用して発色しているものと認められる「加熱食肉製品」であるローストビーフと、オキシミオグロビンになることによって発色している「特定加熱食肉製品」であるローストビーフとでは、発色の原理が全く異なるから、ミオグロビン割合そのものが問題にならない加熱食肉製品を、発色原理の全く異なる特定加熱食肉製品に置き換 えてミオグロビン割合を調整することを容易に想到できるとはいえない。 オ小括以上のとおり、当業者は、少なくとも相違点1及び3に係る構成を導くことを容易に想到できたものとはいえないから、被控訴人の主張する無効理由2は理由がない。 ⑶ 争点2-3(無効理由3(乙174公報に基づく進歩性欠如))についてア乙174公報の記載事項(ア) 乙174公報には、以下の記載がある。 a 特許請求の範囲「1 通気性でかつ不透水性の熱封着し得るフィルムの袋内に脱酸素 性基材を入れて熱封着したパックからなり、該脱酸素性基材はア スコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、カテコール及びレゾルシンから成る群から選択した脱酸素性有機化合物の水溶液を含浸した繊維シートと水中で鉄イオンを生成するがCO2を発生しない第-鉄塩及び/又は第二鉄塩の水溶性を含浸した繊維シートとの積層圧着構造になり、前記 ら成る群から選択した脱酸素性有機化合物の水溶液を含浸した繊維シートと水中で鉄イオンを生成するがCO2を発生しない第-鉄塩及び/又は第二鉄塩の水溶性を含浸した繊維シートとの積層圧着構造になり、前記両水溶液中の水の合計量が脱酸素性 有機化合物1重量部に対し1.01~1.50重量部であり、小型軽量で、炭酸ガスを発生するとともに高い酸素吸入能力を有することを特徴とする脱酸素パック。」b 発明の詳細な説明「近年、脱酸素剤を必要とする産業部門例えば食品の流通機構は 益々複雑化し、食品自体も天然食品、加工食品を問わず、多種多様化してきた。その為、食品の品質を守る数々の工夫が実施され、現在に至っている。例えば、食品に直接添加する食品添加物や、食品を容器に入れたまま熱処理を行なった缶詰、レトルトパウチ等があり、また、冷凍、乾燥処理などや、包装フィルムを利用した真空パ ック、ガスフラッシュパック等がある。 然し、添加物や、熱、冷凍、乾燥処理は、食品保存の目的は達せられるものの、食品自体への悪影響が生ずる。例えば、食品添加物は食品と共に口の中に入る。また、熱、冷凍、乾燥処理などは、食品自体の形、色、風味、栄養分等を損ねてしまう欠点がある。そこ で最近、包装フィルムを利用したガスフラッシユパックが注目されてきている。中でも、窒素ガス、炭酸ガス又は窒素ガス-炭酸ガス混合ガスが用いられており、その目的は窒素ガスを食品と共に非通気性の袋に入れることにより、酸素を置換して追い出し、食品の酸化とカビを防止するにある。炭酸ガス又は窒素ガス-炭酸ガス混合 ガスは酸素を掃気置換する作用と、炭酸ガスの細菌への抑制力や酸 化抑制力を利用したものであり、その効果は大きい。然し、これもガスフラッシュ時にその作業を機械的に行なう 炭酸ガス混合 ガスは酸素を掃気置換する作用と、炭酸ガスの細菌への抑制力や酸 化抑制力を利用したものであり、その効果は大きい。然し、これもガスフラッシュ時にその作業を機械的に行なう為、ガスによる100%のフラッシュは困難であり、平均2~3%の酸素が残ってしまい、時には10%を越えるものもある。この為品質にバラツキを生じ、食品の安全性の面で問題が生ずる上に、大きくて重い機械を必 要とする。そこでこの問題を解決すべく生まれたのが、脱酸素剤と称されるものであり、密閉袋内の空気を脱酸素するのに用いられている。」(1頁1欄36行-2欄31行)「本発明者は種々実験研究の結果、前述の従来の諸欠点を全く有さず、ガスフラッシュ方式の炭酸ガスを用いる利点と脱酸素剤の持つ 優れた除酸素能力の利点とを兼ね備えた全く新規な脱酸素パックを発明するに至った。」(2頁3欄40-44行)「本発明の脱酸素パックは、400ccの密封空気中の酸素濃度を、72時間で0.1~0.2%、96時間で0.01%以下とすることができる。」(3頁6欄14-17行) 「脱酸素性有機化合物自体は公知であるから、本発明は脱酸素性有機化合物自体に特徴を有するものではなく、本発明に係る脱酸素性有機化合物を用いて、小型軽量で高い脱酸素能力と炭酸ガス発生能力を有する脱酸素パックを提供する為に特色を有する。」(6頁12欄43行-7頁13欄4行) 「例2・・・この脱酸素パックを非通気性の袋に空気400ccと共に入れ、袋を密封し、日数経過時の袋内の残存酸素量を試験した。結果は次の第3表と第4図に示す通りであった。」(10頁20欄36行-同頁39行) 「例4 本発明の必要性及び有用性を次に、加工食品に対するガスフラッシュ方式 量を試験した。結果は次の第3表と第4図に示す通りであった。」(10頁20欄36行-同頁39行) 「例4 本発明の必要性及び有用性を次に、加工食品に対するガスフラッシュ方式を例に挙げて説明する。本発明の脱酸素パックは次の第5表に示すガスフラッシュ方式の加工食品に対し、ガスフラッシュ方式に替えて有効に使用することができた。」(11頁21欄34行-22欄36行) c 表 (12頁第5表)上記によれば、乙174公報には、通気性でかつ不透水性の熱封着し得るフィルムの袋内に脱酸素性基材を入れて熱封着したパックからな り、該脱酸素性基材は、「アスコルビン酸ナトリウム」等の脱酸素性有機化合物(非鉄系脱酸素材に相当する)の水溶液を含浸した繊維シートと第一鉄塩及び/又は第二鉄塩の水溶液を含侵した繊維シートとの積 層圧着構造からなり、小型軽量で、炭酸ガスを発生するとともに高い酸素吸入能力を有する脱酸素パック(請求項1)の発明が記載されている。 (イ) そして、乙174公報によれば、食品の品質を守る数々の工夫が実施されているが、食品に直接添加する食品添加物や、熱、冷凍、乾燥処理は、食品保存の目的は達せられるものの、食品自体への悪影響が生じる。 そこで、最近、包装フィルムを利用したガスフラッシユパックが注目されてきており、窒素ガス、炭酸ガス又は窒素ガス-炭酸ガス混合ガスを食品と共に非通気性の袋に入れることにより、酸素を置換して追い出し、食品の酸化とカビを防止する目的で使用されているが、ガスによる100%のフラッシュは困難であり、平均2ないし3%の酸素が残ってしま い、時には10%を越えるものもあるため、品質にバラツキを生じ、食品の安全性の面で問題が生ず 使用されているが、ガスによる100%のフラッシュは困難であり、平均2ないし3%の酸素が残ってしま い、時には10%を越えるものもあるため、品質にバラツキを生じ、食品の安全性の面で問題が生ずる上に、大きくて重い機械を必要とする。 そこで、この問題を解決すべく生まれたのが脱酸素剤と称されるものであり、密閉袋内の空気を脱酸素するのに用いられている(前記1頁1~2欄)。 (ウ) 乙174公報に記載の脱酸素パックは、ガスフラッシュ方式の炭酸ガスを用いる利点と脱酸素剤の持つ優れた除酸素能力の利点とを兼ね備えたものであり、脱酸素性有機化合物を用いて、小型軽量で高い脱酸素能力と炭酸ガス発生能力を有する脱酸素パックを提供するという技術的特徴を有しており、400ccの密封空気中の酸素濃度を、72時間 で0.1~0.2%、96時間で0.01%以下とすることができる(前記2頁3欄40-44行、3頁6欄及び7頁13欄)。 (エ) 例2には、脱酸素パックを非通気性の袋の中に入れて、袋を密封し、日数経過後の袋内の残存酸素量を試験したところ、第3表にあるとおり、7日後に0.1%の残存酸素濃度であったことが示されている。 (オ) 例4には、乙174公報に記載の「脱酸素パック」が、第5表「主な 加工食品のガス充填包装の現況」に示されるガスフラッシュ方式の加工食品に対し、ガスフラッシュ方式に替えて有効に使用することができたことが記載されており、当該加工食品の一例として、「ハム・ソーセージ・ウインナー」である「食肉加工品」が挙げられている(11-12頁)。上記(エ)のとおり、食肉加工品を、脱酸素パックとともに使用する に当たり、非通気性の袋に入れて、密封されることは明らかである。 イ乙174発明の内容及び本件発明と乙174発 11-12頁)。上記(エ)のとおり、食肉加工品を、脱酸素パックとともに使用する に当たり、非通気性の袋に入れて、密封されることは明らかである。 イ乙174発明の内容及び本件発明と乙174発明との対比上記アによれば、乙174発明の内容については、前記第3の2(3)〔被控訴人の主張〕ウのとおりと認められる。 また、本件発明と乙174発明とを対比すると、前記第3の2(3)〔被控 訴人の主張〕エのとおりの一致点及び相違点1ないし4を認めることができる。 この点につき控訴人は、「炭酸ガス及び/又は窒素ガスによるガス置換をすることなく、」との点についても相違点になるものと主張する。 しかし、上記のとおり、例4においては、「ガスフラッシュ方式に替えて 有効に使用することができた」と記載されており、ガスフラッシュ方式は、窒素ガス、炭酸ガス又は窒素ガス-炭酸ガス混合ガスにより酸素ガスを置換する方法であるから(上記1頁2欄13-19行)、上記点は相違点にはならないというべきである。 また、控訴人は、「当該包材内の酸素濃度が検出限界以下の条件下」も相 違点となるとも主張するが、この点は前記相違点4に含まれているものであり、さらに相違点として認定する必要はないというべきである。 ウ相違点1の容易想到性について(ア) 乙174発明は、上記のとおり脱酸素パックに関する発明であり、第5表に記載されるような様々な食品についての利用が想定されている。 「特定加熱食肉製品」の「ローストビーフ」は、「食肉加工品」に含まれ るものの、乙174公報には、特定加熱食肉製品の色調を保持する課題があることや、その課題解決のために、製造方法を検討することを示唆する記載はない。 そうすると、乙174発明を主引用 るものの、乙174公報には、特定加熱食肉製品の色調を保持する課題があることや、その課題解決のために、製造方法を検討することを示唆する記載はない。 そうすると、乙174発明を主引用発明として、様々な食品の中から、あえて特定加熱食肉製品であるローストビーフを採用し、かつ「非鉄系 脱酸素材」である脱酸素パックと共に密封する工程以外の製造工程をさらに検討する動機付けは存在しないというべきである。 (イ) また、「食肉加工品」として例示されているものが、「ハム・ソーセージ・ウインナー」という「加熱食肉製品」であり、前記⑴ウ(イ)のとおり、これらは通常発色剤を使用するものであることを考慮すると、加熱食肉 製品である「ハム・ソーセージ・ウインナー」において、乙174発明のとおりの製造方法を認定できたとしても、その製造方法を発色の原理が全く異なる「特定加熱食肉製品のローストビーフ」の製造方法に適用する動機付けはない。 そうすると、相違点1に係る構成を導くことを当業者が容易に想到で きたものとはいえないというべきである。 (ウ) 被控訴人の前記第3の2⑶の主張については、以下のとおりである。 a 被控訴人は、前記第3の2⑶オのとおり、乙174発明のハムなどの食肉加工品として、特定加熱食肉製品のローストビーフを採用することは容易に想到することであると主張する。 しかし、乙174公報の第5表の「食肉加工品」の「備考」欄には、ガス充填包装の目的として「酸化防止、色沢の変化防止、微生物の生育を抑制」と記載されているものの、例示されているものが「ハム・ソーセージ・ウインナー」という通常発色剤を使用する「加熱食肉製品」であることを考慮すると、「色沢の変化防止」が、必ずしも本件発 明のようなオキシミオグ るものの、例示されているものが「ハム・ソーセージ・ウインナー」という通常発色剤を使用する「加熱食肉製品」であることを考慮すると、「色沢の変化防止」が、必ずしも本件発 明のようなオキシミオグロビンによる色調の変化防止を意味している とはいえないから、「特定加熱食肉製品」を対象にしているものと当業者が想到し得るものとはいえない。 仮に「食肉加工品」として「特定加熱食肉製品」を当業者が容易に想到できたとしても、製造方法としては、一致点C’のとおり、「食肉製品を非鉄系脱酸素材とともにガスバリア性を有する包材に密封する 工程」を含むことが特定されるだけであって、「脱酸素剤パック」に係る乙174公報を主引用例として、それ以外の製造工程をさらに検討する動機付けは存在しないというべきである。 したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。 b 被控訴人は、前記第3の2⑶オのとおり、乙16、17、188、 163、162及び12を参照した当業者であれば、ハムやソーセージなどの食肉加工品はミオグロビンが重要な役割を果している食肉製品であると認識すると主張する。 乙16(特開2009-159825号公報)(請求項1、9、段落【0003】、【0013】、【0022】、【0027】及び【0046】) には、亜硝酸塩を発色剤として用いる従来の食肉製品の退色を抑制する方法に代えて、「2価又は3価の金属を含有する金属塩と、アスコルビン酸又はその塩とを含有し、pHを6.2~8に調整した食肉組成物を調製する食肉調製工程を備える」ことを特徴とする発色性に優れた食肉製品の製造方法であって、食肉製品として、ハム類、ロースト ビーフ等が挙げられているが、上記のとおり、亜硝酸塩からなる発色剤に代わる添加剤を使用する方法 る」ことを特徴とする発色性に優れた食肉製品の製造方法であって、食肉製品として、ハム類、ロースト ビーフ等が挙げられているが、上記のとおり、亜硝酸塩からなる発色剤に代わる添加剤を使用する方法が示されているにすぎず、ミオグロビンが重要な役割を果している食肉製品の製造方法において、発色性に優れた食肉製品を提供することを目的とするものとして、食肉製品として、ハム類やソーセージ類とローストビーフとが等価に置換可能 であることを示すものではない。乙17(請求項1)、乙188(請求 項1)についても、亜硝酸塩からなる発色剤に代わる添加剤を使用する方法を示すものにすぎないから、同様である。 乙163については、前記⑴ウ(エ)bのとおり、退色又は変色が抑えられる方法が加熱食肉製品及び特定加熱食肉製品で共通であるという当業者の認識があったとまでは認められないというべきである。 乙162(特開平6-217736号公報)にも、「特定加熱食肉製品」のローストビーフの製造流通が認められるようになった(段落【0002】)ことや、所定の温度等の条件によってローストビーフを製造することにより(特許請求の範囲)、「赤み」のまま流通することが可能となった(段落【0004】)ことが記載されているに過ぎず、上記 の認識があったとは認められない。 また、乙12にスライスされたローストビーフを脱酸素材とともに密封することが記載されている(請求項1)からといって、そもそもローストビーフについて言及していない乙174公報について、無数の文献の中から乙12を参照して、ローストビーフを脱酸素材ととも に密封する発想に至ることはないというべきであるし、被控訴人の主張する消費者への訴求等についても前記と同様である。 したがって、被 献の中から乙12を参照して、ローストビーフを脱酸素材ととも に密封する発想に至ることはないというべきであるし、被控訴人の主張する消費者への訴求等についても前記と同様である。 したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。 (エ) 以上のとおり、当業者は、相違点1に係る構成を導くことを容易に想到できたものとはいえない。 エ相違点2の容易想到性について乙174公報の記載内容は前記ア(ア)のとおりであるところ、そこには、ハムやソーセージについてすら、これをスライスする工程については一切記載されていない。 乙174発明から本件発明に到達するためには、相違点1を克服し、特 定加熱食肉製品とする必要があるから、単に食肉をスライスする工程を容 易に想到できるかではなく、特定加熱食肉製品をスライスする工程を容易に想到できるかを検討しなければならない。 たとえ、乙189の1(2頁3欄)及び乙190(実施例1)に記載のように、ハムをガス充填包装する際に、スライスしてトレイにいれて密封することが周知であったとしても、また、乙163(段落【0002】)、 乙12(特許請求の範囲、段落【0002】~【0010】、実施例)及び甲117(特許請求の範囲、2頁4欄、4頁7欄)に記載のように、ローストビーフをスライスして容器内に密封する技術や、スライス状態での赤みを保持するという課題が知られていたとしても、上記で述べたとおり、乙174発明の製造方法を発色の原理が全く異なる特定加熱食肉製品の ローストビーフの製造方法に適用する動機付けがない以上、特定加熱食肉製品をスライスする工程を容易に想到できるとはいえない。 したがって、当業者は、相違点2に係る構成を導くことを容易に想到できたものとはいえない。 オ相 に適用する動機付けがない以上、特定加熱食肉製品をスライスする工程を容易に想到できるとはいえない。 したがって、当業者は、相違点2に係る構成を導くことを容易に想到できたものとはいえない。 オ相違点3の容易想到性について 相違点3についても検討すると、既に述べたとおり、特定加熱食肉製品をスライスする工程を容易に想到できたものとはいえないのであるから、「スライスされた特定加熱食肉製品」に、さらに「酸素化する工程」を設けることを当業者が容易に想到できたものともいえないというべきである。 カ相違点4の容易想到性について前記同様に、発色剤を使用して発色しているものと認められる「加熱食肉製品」である「ハム・ソーセージ・ウインナー」と、オキシミオグロビンになることによって発色している「特定加熱食肉製品」である「ローストビーフ」とでは、発色の原理が全く異なるから、ミオグロビン割合その ものが問題にならない加熱食肉製品を、発色原理の全く異なる特定加熱食 肉製品に置き換えてミオグロビン割合を調整することを容易に想到できるとはいえない。 キ小括以上のとおり、当業者は、相違点1ないし4に係る構成を導くことを容易に想到できたものとはいえないから、被控訴人の主張する無効理由3は 理由がないというべきである。 ⑷ 争点2-4(無効理由4(乙175公報に基づく進歩性欠如))についてア乙175公報の記載事項(ア) 乙175公報には、以下の記載がある。 a 特許請求の範囲 「【請求項2】生肉を冷蔵保存する方法であって、生肉を、酸素の透過が制限された容器内に収納し、この容器内から酸素を除去して、生肉中のメトミオグロビン及び/又はオキシミオグロビンを還元型ミオグロビンとした状態で保存することを特徴 る方法であって、生肉を、酸素の透過が制限された容器内に収納し、この容器内から酸素を除去して、生肉中のメトミオグロビン及び/又はオキシミオグロビンを還元型ミオグロビンとした状態で保存することを特徴とする生肉の冷蔵保存方法。 【請求項3】請求項2記載の生肉の冷蔵保存方法において、前記容器内 から酸素を除去するには、この容器内に酸素捕捉材を収納することを特徴とする生肉の冷蔵保存方法。」b 発明の詳細な説明「【発明の属する技術分野】この発明は、生肉の冷蔵保存方法及び肉色の制御方法に関し、詳しくは、保存後に、良好な肉色を呈示させることの できる生肉の冷蔵保存方法及び生肉の肉色の制御方法に関する。」(段落【0001】)「【従来の技術】生肉は、色素タンパク質であるミオグロビンを有しており、新鮮な生肉では、ミオグロビンが酸素と接触することによって生成されたオキシミオグロビンによる鮮赤色を呈している。一方、従来、新 鮮な生肉を保存するには、そのまま、パッキングして冷蔵あるいは冷凍 することが通例である。冷蔵する場合、保存温度は、通常約-3℃~5℃の範囲であるが、低温であっても、生肉中のミオグロビンやオキシミオグロビンのメト化、すなわち、メトミオグロビンの生成は避けられない。 メトミオグロビンの生成により、肉が褐変化する。さらには、好気性菌による発酵を促進してネトを発生させる。また、冷凍する場合、保存温 度は、通常、約-15~-18℃である。かかる温度範囲においては、メトミオグロビンの生成や好気性菌の発酵はほぼ抑えられるが、この温度度に到達するまでの温度履歴や保存中における温度変動により、解凍時にドリップが多量に発生し、肉質が著しく損なわれることになる。」(段落【0002】) 「【発明が解決しようと るが、この温度度に到達するまでの温度履歴や保存中における温度変動により、解凍時にドリップが多量に発生し、肉質が著しく損なわれることになる。」(段落【0002】) 「【発明が解決しようとする課題】このように、従来の保存方法では、生肉を保存後においても、保存前の商品価値を維持するのは難しかった。 そこで、本発明は、生肉の商品価値を低下させることなく、生肉を冷蔵保存する方法を提供することを目的とする。」(段落【0003】)「【課題を解決するための手段】上記した課題を解決するため、本発明で は、以下の手段を創作した。すなわち、第1の発明は、生肉を冷蔵保存する方法であって、生肉中のメトミオグロビン及び/又はオキシミオグロビンを還元型ミオグロビンの状態で保存することを特徴とする生肉の冷蔵保存方法。この発明によれば、生肉中のメトミオグロビンやオキシミオグロビンは、還元型の状態、すなわち、酸化されていない状態が 維持される。このため、冷蔵状態であっても、ミオグロビンのメト化による肉色の低下、腐敗、肉質の低下が回避される。保存後に、生肉を酸素と接触させることにより、ミオグロビンはオキシミオグロビンとなり、良好な鮮赤色を呈する。」(段落【0004】)「また、この発明においては、生肉を、酸素の透過が制限された容器内 に収納し、この容器内から酸素を除去して、生肉中のメトミオグロビン 及び/又はオキシミオグロビンを還元型ミオグロビンとした状態で保存することが好ましい態様である。酸素が制限された容器内に収納された生肉は、容器内から酸素が除去されることにより、生肉中のメトミオグロビンやオキシミオグロビンが還元型ミオグロビンとされる。また、酸素の透過が制限された容器内で保存するため、酸素と生肉との接触が 制限され、 内から酸素が除去されることにより、生肉中のメトミオグロビンやオキシミオグロビンが還元型ミオグロビンとされる。また、酸素の透過が制限された容器内で保存するため、酸素と生肉との接触が 制限され、還元型ミオグロビンの状態が維持される。」(段落【0005】)「酸素が制限された容器内から酸素を除去するには、この容器内に酸素捕捉材を収納することが好ましい。酸素捕捉材は、容器内の酸素を捕捉し、容器内を真空吸引する等の操作をすることなく、簡易に、しかも、穏やかな条件で、生肉中のメトミオグロビン等が還元型ミオグロビンと される。」(段落【0006】)「【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。 本発明を適用する生肉とは、ミオグロビンを含む生(加熱前)の肉をいう。具体的には、牛、豚、羊等の動物、鳥類、魚類の肉をいう。本発明は、特にミオグロビン含量の多い牛肉等の畜肉やマグロやカツオ等の赤 身の魚肉に有効である。なお、生肉の形態は特に問うものではなく、スライス状やブロック状、ミンチ状等のいずれの状態であってもよい。この発明において冷蔵とは、細菌の繁殖を抑制でき、しかも、完全冷凍することのない温度範囲での保存をいう。保存温度は、具体的には、-3~10℃であり、好ましくは、-3~5℃である。」(段落【0009】) 「生肉中には、色素タンパク質であるミオグロビン(以下、Mbともいう。)が存在する。このミオグロビンは、生体中においては、分子状酸素と結合せず、また、ヘム鉄が2価の状態のミオグロビン(本発明においては、この状態のミオグロビンを還元型ミオグロビンという。)で存在し、赤紫色を呈している。しかし、酸素に接触する状態では、分子状酸 素と結合して、オキシミオグロビン(以下、MbO2 ともいう。)となる の状態のミオグロビンを還元型ミオグロビンという。)で存在し、赤紫色を呈している。しかし、酸素に接触する状態では、分子状酸 素と結合して、オキシミオグロビン(以下、MbO2 ともいう。)となる。 MbやMbO2 は、ヘム鉄が酸化されて3価となり、メトミオグロビン(以下、metMbともいう。)となる。還元型Mbを主体とする生肉は赤紫色を呈し、MbO2 を主体とする生肉は鮮赤色を呈し、metMbを主体とする生肉は褐色を呈する。」(段落【0010】)「一旦、空気と接触して酸化されたmetMbやMbO2 を還元型Mbと するためには、生肉の周囲の雰囲気から酸素を除去して、生肉を酸素分圧の低い状態において、Mbと酸素との解離を促進し、あるいは、ヘム鉄の還元を促進し、あるいはこの双方を図る。生肉を酸素分圧の低い状態におくには、生肉を酸素の透過が制限された容器内に収納して容器内を減圧下に保持したり、この容器内の酸素を酸素捕捉材により捕捉させ たり、あるいは容器内の空気を他のガス、例えば酸素以外のガスである窒素ガス等で生肉の周囲の雰囲気ガスを置換したりすることにより、容器内の酸素を除去する手段を用いることができ、また、これらを2種以上組み合わせて用いることができる。」(段落【0011】)「酸素の透過が制限された容器としては、一般に気密状態を維持できる 容器を用いることができる。袋状体としては、ガスバリヤー性のあるプラスチックフィルムやシートからなるものが該当する。ガスバリヤー性のあるプラスチックフィルムあるいはシートとしては、ポリビニルアルコール系樹脂、ビニリデン系樹脂、アルミニウム等、通気性が1cc. 15μg/m2 、24hrs、1atm以下(15μg/m2 のシートで、 1気圧下、24時間あたり、1c ては、ポリビニルアルコール系樹脂、ビニリデン系樹脂、アルミニウム等、通気性が1cc. 15μg/m2 、24hrs、1atm以下(15μg/m2 のシートで、 1気圧下、24時間あたり、1cc以下の通気性を意味する。)のものを使用するのが、密封性確保と減圧状態の維持のために好ましい。また、かかるフィルムあるいはシートは2層以上で使用することもできる。」(段落【0012】)c 実施例 「(実施例1) (試料の調製)牛肉(部位:肩ロース)を約2mm程度にスライスし、その約250gを、ポリエチレン製の皿状の肉トレイ(サイズ;260mm×195mm ×25mm)に、それぞれのスライスが重なることのないよう並列的に並べて、このトレイごと、塩化ビニル製のフィルムで包装し、試験用の包装トレイとした。この包装トレイをさらに、ガスバリア性の ある3層ラミネート袋(サイズ;340mm ×240mm 、材質; ポリアミド樹脂(ナイロン、東レ株式会社製)(内層)/ポリビニルアルコール(商品名エバール、クラレ製)(中層)/高密度ポリエチレン樹脂(外層))に、酸素捕捉材(酸化鉄系)50gとともに、開口部を熱溶着して完全にシールした。これにより、スライスされた牛肉は、酸素捕捉材と ともに、空気(酸素)の透過が制限された容器(本実施例では袋状体)中に収納されていることになる。 (保存方法)これらの試料を約4℃の冷蔵庫内で保存した。 (肉質の経時観察)これらの試料につき、約4℃の冷蔵保存中の肉質の経時観察を、特にその肉色を指標として行った。 (肉質の評価)1.保存中の肉色の評価経時観察を、保存期間が22時間、30時間、96時間及び104時間の試料1~4について行った。すなわち、それぞれの経時観察用の試料 して行った。 (肉質の評価)1.保存中の肉色の評価経時観察を、保存期間が22時間、30時間、96時間及び104時間の試料1~4について行った。すなわち、それぞれの経時観察用の試料を、所定時間経過後に袋より取り出し、トレイのフィルム上から、肉 色を次の方法で評価した。肉色の観察は、包装トレイに収納されたスライス肉の表面の色を、トレイを覆うフィルムの表面から分光測色計(ミノルタ製CM508i)にて測定することにより行った。肉色の評価には、還元型Mbに特徴的である赤紫色を数値化するために、L* a * b * 表色系を用いた。L* a * b * 表色系は、明度をL* 、色相と彩度とを示す色 度を、a* 、b* で表す。a* 、b* は色の方向を示し、a* は、赤方向、 -a* は、緑方向、そして、b* は黄方向、-b* は、青方向を示す。測定は、一か所につき、直径5cmの範囲で行い、スライス肉の表面のほぼ全体を覆うように、複数箇所の測定を行って、各測定箇所について、L* 、a* 、b* のそれぞれの値がいずれも下記範囲内であったときに、その測定箇所につき、還元型Mbに戻ったものとし、この測定箇所を還元 型Mb部位と判断した。スライス肉の上側表面における還元型Mb部位の占める割合(%)を算出した。 測定値の種類測定値の範囲L 40~45a 38~47 b -12~-172.保存後 a 38~47 b -12~-172.保存後の肉色の評価経時観察は、保存期間が104時間+1週間(約272時間)、104時間+1ケ月(約824時間)の試料5~6について行った。保存後の肉色の評価は、スライス肉を袋及びトレイから取り出し、空気に触れ させたときの肉色を肉眼で評価した。 これらの結果を表1及び2に示す。」(【0020】~【0023】)「【表1】 【表2】 」(段落【0023】「【表3】(判決注:実施例2(実施例1と同様に調製))」(段落【0027】)「【表5】(判決注:実施例3(実施例1と同様に調製))」(段落【0032】) 「【表7】(判決注:実施例4(実施例1と同様に調製))」(段落【0037】)d 図面「 」 (イ) 上記によれば、乙175公報には、新鮮な生肉では、ミオグロビンが酸 素と接触することによって生成されたオキシミオグロビンによる鮮赤色を呈しているが、低温で保存しても、生肉中のミオグロビンやオキシミオグロビンのメト化、すなわち、メトミオグロビンの生成は避けられず、肉が褐変化し、従来の保存方法では、生肉を保存後においても、保存前の商品価値を維持するのは難しかったことが記載されており、乙175公 報には、生肉の商品価値を低下させることなく、生肉を冷蔵保存する方法を提供することを目的として、以下の発明をしたことが記載されている。 乙175公報の実施例1には、試料の調製として、牛肉を約2mm程度にスライスし、約250gを肉トレイにスライスが重なるこ 法を提供することを目的として、以下の発明をしたことが記載されている。 乙175公報の実施例1には、試料の調製として、牛肉を約2mm程度にスライスし、約250gを肉トレイにスライスが重なることのないよ うに並べ、トレイごと包装して試験用の包装トレイとし、この包装トレイをさらにガスバリア性のある3層ラミネート袋に、酸素捕捉材(酸化鉄系)とともに、開口部を熱溶着して完全にシールし、これにより、スライスされた牛肉は、酸素捕捉材とともに、空気(酸素)の透過が制限された容器(本実施例では袋状体)中に収納されていることになることが記 載されている。そして、この試料を約4℃の冷蔵庫内で保存し、保存中のスライス肉の表面の色を、トレイを覆うフィルムの表面から分光測色計にて測定することにより、保存期間22時間ないし104時間において経時観察し、還元型ミオグロビンに特徴的である赤紫色を数値化するために、Lab表色系を用いたことが記載されている。実施例1の結果は、 【表1】及び【表2】に示されているところ、経過時間が104時間の試料4では、「還元型Mbの割合(%)」が100%であったことが示されており、さらに、いずれの実施例も還元型ミオグロビンの割合が最終的に97%以上となっている(実施例1~4【表1】、【表3】、【表5】及び【表7】)。 なお、乙175公報の段落【0011】には、容器内の酸素除去手段と して、容器内を減圧下に保持したり、容器内の酸素を酸素捕捉材により捕捉させたり、あるいは容器内の空気を他のガス、例えば酸素以外のガスである窒素ガス等で生肉の周囲の雰囲気ガスを置換したりする手段を用いることができ、また、これらを2種以上組み合わせて用いることができることが記載されている。 イ乙175 えば酸素以外のガスである窒素ガス等で生肉の周囲の雰囲気ガスを置換したりする手段を用いることができ、また、これらを2種以上組み合わせて用いることができることが記載されている。 イ乙175発明の内容及び本件発明と乙175発明との対比上記アによれば、乙175発明の内容については、前記第3の2⑷〔被控訴人の主張〕イのとおりと認められる。 また、本件発明と乙175発明とを対比すると、前記第3の2⑷〔被控訴人の主張〕ウのとおりの一致点及び相違点1ないし4を認めることがで きる。 なお、控訴人は、「炭酸ガス及び/又は窒素ガスによるガス置換をすることなく、」も相違点となると主張するが、乙175公報の段落【0011】によれば、容器内の酸素除去手段として、酸素捕捉材による手段と窒素ガス等による雰囲気ガスの置換による手段は適宜選択可能で、単独でも組み 合わせてもよいものとしており、実施例1は、酸素捕捉材による手段を選択し、窒素ガス等による雰囲気ガスの置換による手段は行っていないものと認められるから、実質的な相違点とはならないというべきである。 ウ相違点1の容易想到性について(ア) 上記アのとおり、乙175発明は、「生肉中のメトミオグロビン及び /又はオキシミオグロビンを還元型ミオグロビンとした状態で保存する」「生肉の冷蔵保存方法」であって、乙175公報の段落【0004】の記載にあるとおり、生肉を保存中には、還元型ミオグロビンの状態に維持し、保存後にオキシミオグロビンに変化させて鮮赤色を呈するようにするものである。乙175公報の実施例1にも、牛生肉を還元 型の状態で保存することにより、104時間経過後の試料4では、「還 元型Mbの割合(%)」が100%であったことが示されている。 。乙175公報の実施例1にも、牛生肉を還元 型の状態で保存することにより、104時間経過後の試料4では、「還 元型Mbの割合(%)」が100%であったことが示されている。 他方、本件発明は、スライスした後の保存中の褐変を防止して優れた肉色を維持した特定加熱食肉製品のローストビーフ及びその製造方法を提供することを技術的課題としており、当該技術的課題を解決するために、特定加熱食肉製品のローストビーフをスライスした後、所定 の手順及び条件、すなわち、酸素化する工程及び非鉄系脱酸素材とともにガスバリア性を有する包材に密封する工程にて処理することで、スライスされた特定加熱食肉製品のローストビーフにおける所定のMb割合を所望の範囲に制御することを技術的特徴とするものである(段落【0008】ないし【0010】)。 そうすると、牛生肉をあくまで還元型ミオグロビンの状態に維持して、保存後に酸素と接触させることにより鮮赤色を呈するようにする乙175発明と、特定加熱食肉製品のローストビーフの保存中の色を鮮赤色に保つ本件発明とでは技術的思想が全く異なるから、乙175発明を参照して、保存中の色を鮮赤色に保つことを目的とする特定加 熱食肉製品のローストビーフの製造方法に適用するという動機付けは存在しない。 仮に、牛生肉の製造方法を、特定加熱食肉製品のローストビーフの製造方法に適用して、還元型ミオグロビンの状態に維持して保存する方法に到達することができたとしても、さらに、保存中の色を鮮赤色に 保つことを目的として、相違点2ないし4に係る各構成を導くことを当業者が容易に想到できるものでないことは明らかである。 (イ) 被控訴人の前記第3の2⑷エの主張について被控訴人は、生の牛肉及び特定加 的として、相違点2ないし4に係る各構成を導くことを当業者が容易に想到できるものでないことは明らかである。 (イ) 被控訴人の前記第3の2⑷エの主張について被控訴人は、生の牛肉及び特定加熱食肉製品のローストビーフは、ミオグロビンが重要な役割を果して色調改善の効果が良好に発揮され ることは自明であるから、乙17、188、163、162及び12 を参照した当業者であれば、乙175発明の生鮮食品である牛肉を、特定加熱食肉製品のローストビーフに置換することは容易に想到することであると主張する。 しかし、乙17(段落【0002】、請求項5)には、牛肉等の食肉の赤身には、赤色色素蛋白質であるミオグロビンが多く含まれている こと、ミオグロビンには、鮮赤色の酸素(オキシ)型、紫赤色の還元型、茶褐色のメト型の誘導体が存在しており、食肉やその加工品であるハムやソーセージ等の食肉加工品の色調に重要な役割を果たしていることが記載され、食肉加工品として、ハム類、ソーセージ類と並び、ローストビーフも記載されており、乙188(段落【0002】、請求 項8)にも同様の記載があるが、乙17(請求項1)、乙188(請求項1)は、いずれも亜硝酸塩からなる発色剤に代わる添加剤を使用する方法の発明に関するものである。 また、乙163(段落【0002】)には、前記⑴ア(イ)のとおり、ローストビーフの二つの製法のうち、後者の特定加熱の製法(特定加熱 食肉製品の製法)は本来の色を出そうとすると有利であり一般的な方法であること、このローストビーフをスライスしてから店頭に置くと退色が著しいという問題があることが指摘されており、乙162(段落【0002】、【0004】)には、「加熱食肉製品」のローストビーフの製造流通が と、このローストビーフをスライスしてから店頭に置くと退色が著しいという問題があることが指摘されており、乙162(段落【0002】、【0004】)には、「加熱食肉製品」のローストビーフの製造流通が認められるようになったことや、所定の温度等の条件 によってローストビーフを製造することにより(特許請求の範囲)、「赤み」のまま流通することが可能となったこと、乙12(請求項1、段落【0009】)には、ローストビーフのスライス面が外部から見えるようにすることによって、消費者への有効な視覚アピールをすることが可能な、スライスされたローストビーフの包装方法について記載さ れている。 これらによれば、「生の牛肉及びローストビーフは、ミオグロビンが重要な役割を果して色調改善の効果」が発揮されることが認められるとしても、上記(ア)で述べたように、牛生肉をあくまで還元型ミオグロビンの状態に維持して、保存後に酸素と接触させることにより鮮赤色を呈するようにする乙175発明から出発して、保存中の色を鮮赤色 に保つことを目的とする特定加熱食肉製品のローストビーフの製造方法に適用することが動機付けられるとはいえない。 また、乙12にスライスされたローストビーフを脱酸素材とともに密封することが記載されているからといって、そもそもローストビーフについて言及していない乙175公報に、無数の文献の中から乙1 2を参照してローストビーフを脱酸素材とともに密封する発想に至ることはないというべきである。 したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。 (ウ) 相違点1についてのまとめ以上のとおり、被控訴人の主張は採用できず、当業者は、相違点1 に係る構成を導くことを容易に想到できたものとはいえない。 上記主張は採用することができない。 (ウ) 相違点1についてのまとめ以上のとおり、被控訴人の主張は採用できず、当業者は、相違点1 に係る構成を導くことを容易に想到できたものとはいえない。 エ相違点2の容易想到性について相違点2について検討すると、乙175発明において、牛肉をスライスする際に、「酸素化する工程」を必然的に有していたとしても、特定加熱食肉製品の発明である本件発明との間に、製造工程における相違 点2が存在しないことにはならない。 また、乙175発明から本件発明に到達するためには、相違点1を克服し、特定加熱食肉製品とする必要があり、その上で、特定加熱食肉製品において「酸素化する工程」を容易に想到できるかを検討しなければならないが、相違点1に係る構成を導くことを容易に想到できた ものとはいえない以上、相違点2に係る構成についても容易に想到し 得るものではない。 そして、乙13は、肉などのミオグロビンを含む食品において、酸素減少手段を作動させる前に、食品を冷却するとともに、酸化を維持する期間を設け、鮮やかな赤色を呈するオキシミオグロビンに変化させる工程を備えるものであるので、乙175発明とは牛肉を保存する際 の色調の課題において共通するものの、当該技術を考慮したとしても、上記ウ(ア)のとおり、牛生肉をあくまで還元型ミオグロビンの状態に維持して、保存後に酸素と接触させることにより鮮赤色を呈するようにする乙175発明において、保存中の色を鮮赤色に保つことを目的とする特定加熱食肉製品のローストビーフの製造方法を想到することは 困難であり、さらに、予め鮮やかな赤色を呈するオキシミオグロビンに変化させる工程を備えることを当業者が容易に想到し得るともいえない。 オ相違点3の容易想到 ーフの製造方法を想到することは 困難であり、さらに、予め鮮やかな赤色を呈するオキシミオグロビンに変化させる工程を備えることを当業者が容易に想到し得るともいえない。 オ相違点3の容易想到性について上記アのとおり、乙175発明は、「生肉中のメトミオグロビン及び /又はオキシミオグロビンを還元型ミオグロビンとした状態で保存する」「生肉の冷蔵保存方法」であって、牛生肉を保存中には、還元型ミオグロビンの状態に維持し、保存後にオキシミオグロビンに変化させて鮮赤色を呈するようにするものである。実施例1には、生肉中のミオグロビンを還元型ミオグロビンの状態に維持するための酸素除去手 段として、酸素捕捉材として、「酸化鉄系」のものを用いている。 乙175発明から本件発明に到達するためには、相違点1を克服し、特定加熱食肉製品とする必要があり、その上で、特定加熱食肉製品において「非鉄系脱酸素材」を用いることを容易に想到できるかを検討しなければならないが、相違点1に係る構成を導くことを容易に想到 できたものとはいえない以上、相違点3に係る構成についても容易に 想到し得るものではない。 また、乙14には、炭酸ガス発生を伴う脱酸素剤、すなわち、「CO2発生型の非鉄系脱酸素剤」を使用した場合、従来とは異なり、脱酸素剤によって酸素が吸収され、容器内の酸素濃度が低下しても、同時に炭酸ガス濃度が高まってゆく中では生肉の褐変現象が生じにくく、脱 酸素後においても酸素型ミオグロビンの色調である鮮やかに赤い色調に近い赤味を保持することができること(182頁右上欄18行目~左下欄6行目)が記載されているものの、当該技術を考慮したとしても、上記のとおり、牛生肉をあくまで還元型ミオグロビンの状態に維持して、保存後に酸素と接触させ とができること(182頁右上欄18行目~左下欄6行目)が記載されているものの、当該技術を考慮したとしても、上記のとおり、牛生肉をあくまで還元型ミオグロビンの状態に維持して、保存後に酸素と接触させることにより鮮赤色を呈するように する乙175発明において、保存中の色を鮮赤色に保つことを目的とする特定加熱食肉製品のローストビーフの製造方法を想到することは困難であり、さらに、「酸化鉄系」の酸素捕捉材を「非鉄系脱酸素材」に替える動機付けがあるともいえない。 カ相違点4の容易想到性について 上記アのとおり、乙175発明は、「生肉中のメトミオグロビン及び/又はオキシミオグロビンを還元型ミオグロビンとした状態で保存する」「生肉の冷蔵保存方法」であって、牛生肉を保存中には、還元型ミオグロビンの状態に維持し、保存後にオキシミオグロビンに変化させて鮮赤色を呈するようにするものであり、いずれの実施例も還元型 ミオグロビンの割合が最終的に97%以上となった(実施例1~4【表1】、【表3】、【表5】、【表7】)ことが示されている。 そうすると、乙175発明は、牛生肉をあくまで還元型ミオグロビンの状態に維持する、すなわち最終的に「還元型Mbの割合(%)」が97%以上となるようにすることを目的としているから、乙175発 明に基づいて、特定加熱食肉製品のローストビーフについて、保存中 の色を鮮赤色に保つことを目的とし、「包材内の酸素濃度が検出限界以下の条件下で、所定のミオグロビン割合」にすることは、当業者が容易に想到し得るものではない。 また、上記において、乙13及び14の技術を考慮したとしても、乙175発明を参照して、特定加熱食肉製品のローストビーフについて、 相違点2及び3に係る構成を導く動機付けがある るものではない。 また、上記において、乙13及び14の技術を考慮したとしても、乙175発明を参照して、特定加熱食肉製品のローストビーフについて、 相違点2及び3に係る構成を導く動機付けがあるとはいえない以上、さらに、相違点4に係る「包材内の酸素濃度が検出限界以下の条件下で、所定のミオグロビン割合」とすることを、当業者が容易に想到できるとはいえないことも明らかである。 キ小括 以上のとおり、当業者は、相違点1ないし4に係る構成を導くことを容易に想到できたものとはいえないから、被控訴人の主張する無効理由4は理由がない。 ⑸ 争点2-5(無効理由5(乙176公報に基づく進歩性欠如))についてア乙176公報の記載事項 (ア) 乙176公報には、以下の記載がある。 a 特許請求の範囲「1 アスコルビン酸またはその塩、水酸化アルカリまたは/および炭酸アルカリからなるアルカリ性物質、潮解性物質および第一鉄化合物または/および活性炭からなる添加物からなる鮮度保持剤。」 b 発明の詳細な説明「本発明は、酸素による食品の悪変を防止する鮮度保持剤に関するもので、空気中の酸素を吸収するか、空気中の酸素を吸収し、かつ炭酸ガスを発生する鮮度保持剤に関するものである。 食品は、遊離酸素により悪変する。具体的には油脂の酸敗、風味の 飛散、変色、細菌、かび類の増殖等が発生する。これらの現象を防止 するため従来から種々の対策が施されてきた。 近年において、この遊離酸素を除去するために脱酸素剤が考えられ、一部使用されつつある。」(1頁1欄22-31行)「本発明は、アスコルビン酸またはこれらの塩類を主成分とする鮮度保持剤で、酸素吸収または酸素吸収し炭酸ガスを発生するものであ る。」(1頁2 一部使用されつつある。」(1頁1欄22-31行)「本発明は、アスコルビン酸またはこれらの塩類を主成分とする鮮度保持剤で、酸素吸収または酸素吸収し炭酸ガスを発生するものであ る。」(1頁2欄26-28行)「アスコルビン酸またはその塩の酸素吸収あるいは酸素吸収・炭酸ガス発生反応は、酸素がない状態においては反応しないため、保存中にその能力が低下することがないので、貯蔵、保存が容易で安定している。 本発明の鮮度保持剤の使用に際しては、通気性を有し、ポリエチレン等の熱接着性樹脂膜が形成された紙等を基材とした小袋に充填して使用する。 また保存は、この小袋を酸素非透過性樹脂を積層した包装材料により包装する。」(2頁4欄22-31行) 「実施例1表1に示される組成の鮮度保持剤を通気度400~500秒/100mlの和紙/孔あきポリエチレンフィルムからなる袋に充填し、相対湿度50~60%の空気500mlと共にポリプロピレンフィルム(20μ)/*エバールフィルム(17μ)/ポリエチレンフィルム (60μ)の三層フィルムの包装材料に封入した。これを25℃で静置し、24時間保存後の酸素濃度および炭酸ガス濃度を測定した。 この測定結果を表2に示す。 *クラレ製エチレン-ビニルアルコール共重合体の商品名 」(2頁4欄35行-3頁6欄2行、表1、2)「実施例 3表1に示した鮮度保持剤(B)(D)をそれぞれ実施例1に用いた袋と同じ袋に密封し、牛肉と共に包装し保存テストを行なった。 具体的には、鮮度保持剤(B)(D)をそれぞれ発泡スチロール製トレイに盛られストレツチ包装された牛肉150gと共に塩化ビニリデンコートナイロンフィルム(15μ)/ポリエチレンフィルム(40μ)よりなる積層フィルム 保持剤(B)(D)をそれぞれ発泡スチロール製トレイに盛られストレツチ包装された牛肉150gと共に塩化ビニリデンコートナイロンフィルム(15μ)/ポリエチレンフィルム(40μ)よりなる積層フィルムでヘッドスペースが500mlになるように密封包装した。 保存条件は3℃で、保存期間は4週間であった。また同時に鮮度保持剤(E)を用いずに含気包装による保存テストも行なった。 この結果を以下の表に示す。 (イ)牛肉の色変化 外側の積層フィルムを取り除くと本発明の鮮度保持剤(B)(D)を用 いたものは短時間で赤紫色から鮮紅色に変化したが、鮮度保持剤を用いない含気包装のものは褐色のままであった。」(4頁7欄12行-8欄24行)(イ) 上記によれば、乙176公報には、酸素による食品の悪変を防止する鮮度保持剤であって、酸素吸収または酸素吸収し炭酸ガスを発生するも のが記載されており、具体的には「アスコルビン酸またはその塩、水酸化アルカリまたは/および炭酸アルカリからなるアルカリ性物質、潮解性物質および第一鉄化合物または/および活性炭からなる添加物からなる鮮度保持剤」が記載されている。 そして、実施例3には、実施例1の表1に示された鮮度保持剤(B)(D) (「L-アスコルビン酸ナトリウム」を含有し、上記鮮度保持剤に相当する。)を、トレイに盛られた牛肉と共に積層フィルムの袋に密封包装したことが記載されている。 ここで、上記鮮度保持剤の主成分である「アスコルビン酸またはこれらの塩」は、「非鉄系」であるから、鮮度保持剤は「非鉄系脱酸素材」に相 当し、実施例3の「積層フィルムの袋」は「酸素非透過性樹脂を積層した包装材料」(2頁4欄30-31行)であるから、「ガスバリア性を有する包材」に相当す ら、鮮度保持剤は「非鉄系脱酸素材」に相 当し、実施例3の「積層フィルムの袋」は「酸素非透過性樹脂を積層した包装材料」(2頁4欄30-31行)であるから、「ガスバリア性を有する包材」に相当する。 イ乙176発明の内容及び本件発明と乙176発明との対比上記アによれば、乙176発明の内容については、前記第3の2⑸〔被 控訴人の主張〕イのとおりと認められる。 また、本件発明と乙176発明とを対比すると、前記第3の2⑸〔被控訴人の主張〕ウのとおりの一致点及び相違点1ないし4を認めることができる。 なお、控訴人は、「炭酸ガス及び/又は窒素ガスによるガス置換をする ことなく、」も相違点になると主張するが、乙176公報には、「アスコル ビン酸またはその塩の酸素吸収あるいは酸素吸収・炭酸ガス発生反応は、酸素がない状態においては反応しない」と記載されているように(2頁4欄22-24行)、酸素下で使用されるものであるし、ガス置換の工程は記載も示唆もされていないことから、上記の点は実質的な相違点とはならないというべきである。 ウ相違点1の容易想到性について上記アのとおり、乙176発明は、酸素による食品の悪変を防止する鮮度保持剤に関するものであり、悪変には「変色」も含まれているものの(1頁1欄26-27行)、実施例3において、「外側の積層フィルムを取り除くと本発明の鮮度保持剤(B)(D)を用いたものは短時間で赤紫色から鮮 紅色に変化した」と記載されているように、保存中に鮮赤色に保つことを目的としているわけではなく、むしろ、牛肉を保存中には赤紫色の状態、すなわち、還元型ミオグロビンの状態に維持し、保存後に酸素と接触させることにより鮮赤色を呈するようにするものといえる。 そうすると、前記⑷ウと同 わけではなく、むしろ、牛肉を保存中には赤紫色の状態、すなわち、還元型ミオグロビンの状態に維持し、保存後に酸素と接触させることにより鮮赤色を呈するようにするものといえる。 そうすると、前記⑷ウと同様に、当業者は、相違点1に係る構成を導く ことを容易に想到できたものとはいえない。 エ相違点2の容易想到性について上記のとおり、乙176公報には、牛肉においてさえ、スライスする工程については、記載も示唆もされていないものである。 そして、乙176発明から本件発明に到達するためには、相違点1を克 服し、特定加熱食肉製品とする必要があり、その上で、特定加熱食肉製品において、スライスする工程を容易に想到できるかを検討しなければならないから、たとえ、生の牛肉をスライスしてトレイに並べる工程が周知技術であったとしても、相違点1に係る構成を導くことを容易に想到できたものとはいえない以上、相違点2に係る構成についても容易に想到し得る ものではないというべきである。 オ相違点4の容易想到性について上記アのとおり、乙176発明は、牛肉を保存中には、赤紫色の状態、すなわち、還元型ミオグロビンの状態に維持し、保存後に酸素と接触させることにより鮮赤色を呈するようにするものであるから、前記と同様に、乙176発明に基づいて、特定加熱食肉製品のローストビーフについて、 保存中の色を鮮赤色に保つことを目的とし、「包材内の酸素濃度が検出限界以下の条件下で、所定のミオグロビン割合」にすることは、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。 カ小括以上のとおり、当業者は、少なくとも相違点1、2及び4に係る構成を 導くことを容易に想到できたものとはいえないから、被控訴人の主張する無効理由5は理由がない。 はいえない。 カ小括以上のとおり、当業者は、少なくとも相違点1、2及び4に係る構成を 導くことを容易に想到できたものとはいえないから、被控訴人の主張する無効理由5は理由がない。 ⑹ 争点2-6(無効理由6(明確性要件違反))についてア構成要件Bについて(ア) 本件発明の構成要件Bに係る「酸素化する工程」の意味については、 補正の上で引用した原判決第3の2⑴のとおりである。 (イ) 本件明細書には、補正の上で引用した原判決第3の1⑴のとおり、「酸素化の処理条件については、使用する肉の種類や部位、個体差によるミオグロビン総量の違いにより条件を設定することができる。・・・」(段落【0024】)と記載されており、当業者であれば肉質等の条件に応じて 製造条件を設定し所望のミオグロビン割合のローストビーフを製造できることを前提に、ごく僅かな時間では「酸素化する工程」に当たらないと判断することができ、「酸素化する工程」は不明確とはいえない。 (ウ) 被控訴人は、前記第3の2⑹アのとおり、本件発明の構成要件Bの「酸素化する工程」は、酸素濃度も酸素にさらす時間も規定されていないが、 本件明細書に記載された1時間程度空気中にさらすものであるか、空気 と短時間接触するものを含むのか不明であると主張する。 しかし、「酸素化する工程」の意味は、上記(ア)及び(イ)のとおりであり、食肉の酸素化(ブルーミング)という現象は、当業者の技術常識であるから、酸素化の工程に必要な処理時間は、紫赤色から鮮赤色に変化することが確認されるのに十分であるが、褐変に至らない時間と当業者は明確に 理解でき、酸素濃度や酸素にさらす時間を規定しなくても、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほど不明確であると が確認されるのに十分であるが、褐変に至らない時間と当業者は明確に 理解でき、酸素濃度や酸素にさらす時間を規定しなくても、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほど不明確であるとはいえない。 被控訴人は、ごくわずかの量の還元型ミオグロビンを酸素化してオキシミオグロビンにするものも含むと解する場合に、構成要件D所定のミ オグロビン割合を維持することが困難であることを根拠としているが、紫赤色から鮮赤色に変化することが確認されるのに十分とはいえない、ごく僅かな時間(例えば30秒以内)空気中の酸素と触れる場合についてまで、本件発明の「酸素化する工程」に該当するといえないことは、上記(ア)及び(イ)のとおりである。 また、構成要件Bの「酸素化する工程」を満たしても、構成要件Dの本件ミオグロビン割合を維持されない場合が仮にあったとしても、それは構成要件Dを満たさず、本件発明に該当しないものとなるだけであり、そのような場合が存在し得ることをもって、構成要件Bの「酸素化する工程」の意味するところが不明確であるということにはならないというべきで ある。 イ構成要件Dについて(ア) 本件発明の構成要件Dの包材内の酸素濃度が検出限界以下の条件下で、特定加熱食肉製品のミオグロビンの割合が、本件ミオグロビン割合になっていることに関しては、補正の上で引用した原判決第3の4⑴のとお りである。 (イ) 被控訴人は、本件明細書の【表1】に、鉄系脱酸素材を50.0%及び42.9%の割合で使用するものについて、「包材内の酸素濃度が検出限界以下の条件下」であっても所定のミオグロビン割合の範囲を逸脱するものも含まれている旨を主張する。 しかし、上記(ア)のとおり、優れた色調が永続しないことは、本件 て、「包材内の酸素濃度が検出限界以下の条件下」であっても所定のミオグロビン割合の範囲を逸脱するものも含まれている旨を主張する。 しかし、上記(ア)のとおり、優れた色調が永続しないことは、本件明細書 も前提としていることであるから、「包材内の酸素濃度が検出限界以下」の「全ての期間で満足する必要がある」と当業者が理解することはなく、逆に、全ての期間において本件ミオグロビン割合の範囲を逸脱する場合は、本件発明の範囲に含まれないものとなることが明らかであるから、第三者に不測の不利益を及ぼすほど不明確であるということはできない。 ウ小括以上のとおり、本件発明の構成要件B及びDについて、不明確であるとする被控訴人の主張はいずれも採用できず、被控訴人の主張する無効理由6は理由がない。 ⑺ 争点2-7(無効理由7(実施可能要件違反))について ア被控訴人は、前記第3の2⑺のとおり、構成要件Dの所定のミオグロビン割合となっている状態が、全ての期間で満足する必要があると解されると主張する。 しかし、本件発明の構成要件Dについて、補正の上で引用した原判決第3の4⑴のとおり、酸素濃度が検出限界以下に達している期間において、 本件ミオグロビン割合が満たされる時点があれば足りるから、本件明細書の記載につき、包材内の酸素濃度が検出限界以下の全ての期間で満足する必要があると当業者が理解することはないというべきである。被控訴人の主張は前提を欠くものというべきである。 また、本件発明は、「非鉄系脱酸素材」を使用する場合に、鉄系脱酸素 材の割合が高い場合であっても必ず所定のミオグロビン割合を満たすと 規定されたものではないから、本件明細書の実施例1において、鉄系脱酸素材を50.0%の割合で 場合に、鉄系脱酸素 材の割合が高い場合であっても必ず所定のミオグロビン割合を満たすと 規定されたものではないから、本件明細書の実施例1において、鉄系脱酸素材を50.0%の割合で使用した場合に、所定のミオグロビン割合を満たさなかったとしても、所定のミオグロビン割合を満たさない特定加熱食肉製品は、そもそも本件発明の技術的範囲外であることが明らかであるから、本件明細書の実施可能要件とは関係しないものといえる。 イ本件明細書の段落【0036】には、「本工程では、鉄系脱酸素材を補助的に利用して、・・・酸素を吸収する処理時間を短縮することができる。鉄系脱酸素材は、非鉄系脱酸素材と鉄系脱酸素材の合計量を100%としたときに37.5%以下とすることが好ましい。鉄系脱酸素材をこの範囲で使用することで、上述した褐変を防止しながら脱酸素処理の時間を短縮で きる。」と記載されており、鉄系脱酸素材の使用はあくまでも補助的なものであり、必須の構成ではないことが明記されている。 さらに、本件明細書の実施例1の【表1】の結果からすれば、鉄系脱酸素材の割合を増やせば、本件ミオグロビン割合の範囲内に収まりにくくなるという全体的な傾向が確認でき、当業者であれば、この全体的な傾向か ら、本件ミオグロビン割合に収めやすい適切な鉄系脱酸素材の割合を設定できるから、発明の詳細な説明の記載及び本件出願当時の技術常識に基づいて、本件発明は、過度の試行錯誤を要することなく実施可能であると認められる。鉄系脱酸素材を50.0%の割合で使用した場合に、所定のミオグロビン割合を満たす実施例が存在しないことをもって、実施可能要件 に適合しないとする被控訴人の主張は理由がないというべきである。 ウ小括以上のとおり、本件発明に実施可能要 、所定のミオグロビン割合を満たす実施例が存在しないことをもって、実施可能要件 に適合しないとする被控訴人の主張は理由がないというべきである。 ウ小括以上のとおり、本件発明に実施可能要件違反があるとする被控訴人の主張は採用できず、被控訴人の主張する無効理由7は理由がない。 ⑻ 争点2-8(無効理由8(サポート要件違反))について ア本件発明の技術的課題 (ア) 本件発明の技術的意義は、補正の上で引用した原判決第3の1⑵のとおりであるところ、本件発明は、スライスした後の保存中の褐変を防止して優れた肉色を維持した特定加熱食肉製品及びその製造方法を提供することを技術的課題とするものと認められる。 (イ) 非鉄系脱酸素材のタイプについては、補正の上で引用した原判決第3 の1⑴のとおり、本件明細書の段落【0034】ないし【0036】には、非鉄系脱酸素材及び鉄系脱酸素材の技術的意義について記載されており、これによれば、当業者は、非鉄系脱酸素材の使用によって肉色を維持するものと理解し、また、鉄系脱酸素材では酸素吸収速度が速すぎるものとして、あえて非鉄系脱酸素材を用いることについても理解でき るということができる。実際に、別紙のとおりの本件明細書の実施例1の【表1】によれば、鉄系脱酸素材の割合を低くすればするほど、所定のミオグロビン割合の範囲内に収まりやすくなっていることが理解できるものである。 (ウ) 被控訴人は、前記第3の2⑻イのとおり、非鉄系脱酸素材のタイプに ついて主張するところ、本件明細書の段落【0032】の記載から、炭酸ガスを発生するタイプを使用することは、あくまで包材の収縮といった色とは別の問題を解決するために使用するものと理解することができる。そして、段落【0033】には、オ 段落【0032】の記載から、炭酸ガスを発生するタイプを使用することは、あくまで包材の収縮といった色とは別の問題を解決するために使用するものと理解することができる。そして、段落【0033】には、オキシーター、タモツ、ワンダーキープ、サンソレスといった炭酸ガスを発生しないタイプの非鉄系脱 酸素材も例示されているから(甲222ないし225)、炭酸ガス発生の有無にかかわらず、非鉄系脱酸素材であれば作用効果を奏し、上記課題を解決し得ることについて、当業者が理解できる程度の十分な開示があるものといえる。 なお、被控訴人の主張する乙14(特開昭60-221031号公報) には、以下の記載がある。 「炭酸ガスを発生しない型の脱酸素剤を使用した場合あるいはN2ガス、CO2ガス置換によって容器内の酸素濃度が数%~10数%程度に達すると生肉中のミオグロビンはメト化して急速に赤味が失われて褐変する。」(182頁右上欄6~10行目)「しかし、本発明の特徴である炭酸ガス発生をともなう脱酸素剤を使用 した場合、従来と全く異なる色調の変化が生じることが見い出された。 すなわち、脱酸素剤によつて酸素が吸収され、容器内の酸素濃度が低下しても、同時に炭酸ガス濃度が高まつてゆく中では生肉の褐変現象が生じにくく、脱酸素後においても酸素型ミオグロビンの色調であるあざやかに赤い色調に近い赤味を保持することが出来ることである。」(182 頁右上欄下から3行~左下欄6行)しかし、上記記載は、本件発明のように、「酸素化する工程」を経たものについて言及するものではないから、乙14の記載を根拠として、本件発明において、炭酸ガス発生の有無にかかわらず、非鉄系脱酸素材であれば作用効果を奏し、上記課題を解決し得ることについて、当業者が ついて言及するものではないから、乙14の記載を根拠として、本件発明において、炭酸ガス発生の有無にかかわらず、非鉄系脱酸素材であれば作用効果を奏し、上記課題を解決し得ることについて、当業者が 理解できる程度の十分な開示があるとする上記判断を左右するものではない。 イ構成要件Bについて(ア) 補正の上で引用した原判決第3の1⑴のとおり、本件明細書の段落【0024】は、「また、酸素化の処理条件については、使用する肉の種 類や部位、個体差によるミオグロビン総量の違いにより条件を設定することができる。例えば、酸素化処理は、特定加熱食肉製品の断面におけるスライス直後の紫赤色が鮮赤色に変化する状態を目視により確認し、十分に赤色を呈した段階で処理を終了しても良い。」とし、酸素化の処理条件は適宜設定でき、時間ではなく目視確認でも構わないとしている ところである。 そして、目視確認をすれば、甲189(事実実験公正証書)にも示されるように、薄いローストビーフスライスなら2分半程度の短期間でもa値が向上して赤くなることは、当業者において、実験をすれば直ちに分かることといえる。 したがって、本件明細書には、本件発明の構成要件Bである「酸素化 する工程」について、前記の技術的課題を解決できる程度の十分な記載があるというべきである。 また、構成要件Bの「酸素化する工程」を満たしても、構成要件Dの本件ミオグロビン割合を維持されない場合が仮にあったとしても、既に述べたとおり、それは構成要件Dを満たさず、本件発明に該当しないも のとなるだけであり、そのような場合が存在し得ることをもって、本件発明全体にわたり、課題を解決することができないということにはならないというべきである。 (イ) 被控訴人は、本 当しないも のとなるだけであり、そのような場合が存在し得ることをもって、本件発明全体にわたり、課題を解決することができないということにはならないというべきである。 (イ) 被控訴人は、本件明細書の段落【0057】によれば、「b*値がa*値を上回」ることが褐変の指標とされているところ、甲189で示され た各サンプルのL*、a*値、b*の値をみると(甲190)、1-Bないし9-Bのいずれにおいても、b*の値はa*の値より大きいかほぼ同じであり、当業者が、甲189で示された2分30秒後のローストビーフの色調の変化を、本件明細書の段落【0024】でいうところの「スライス直後の紫赤色が鮮赤色に変化する状態」として捉えることはない と主張する。 しかし、本件明細書の段落【0057】には、「a*値及びb*値が著しく低下し、且つ、b*値がa*値を上回り、褐変していることが判る」と記載されており、「b*値がa*値を上回」ることのみをもって、褐変の指標としているわけではない。 また、甲190のサンプルのうち、b*値がa*値を上回っている3 -B、7-Bないし9-Bのスライスから2分50秒後の写真(甲189の資料33 、53、61参照)を目視確認すると、褐変していないことが認識できる。また、甲189のサンプルの測定時間はせいぜい2分50秒であり、褐変するほどの静置時間でないことも明らかである。そうすると、甲189について、a*値及びb*値の数値をもって、「スラ イス直後の紫赤色が鮮赤色に変化する状態」として捉えることはないとする被控訴人の主張は、理由がないというべきである。 ウ構成要件Dについて(ア) 被控訴人は、前記第3の2⑻エのとおり、構成要件Dの所定のミオグロビン割合となっている状態が、全ての とはないとする被控訴人の主張は、理由がないというべきである。 ウ構成要件Dについて(ア) 被控訴人は、前記第3の2⑻エのとおり、構成要件Dの所定のミオグロビン割合となっている状態が、全ての期間で満足する必要があると解 されることを前提とした主張をするが、構成要件Dの意義については既に検討したとおりであり、「包材内の酸素濃度が検出限界以下」の「全ての期間で満足する必要がある」と当業者が理解することはないから、被控訴人の主張は前提を欠くというべきである。 また、被控訴人は、前記第3の2⑻オのとおり主張するが、既に述べ たとおり、本件発明がそもそも鉄系比率50.0%や42.9%で必ず所定のミオグロビン割合を満たすと規定されたものではなく、本件明細書の段落【0036】によれば、鉄系脱酸素材の使用はあくまでも補助的なものであり、必須の構成ではないこと、さらに、本件明細書の実施例1の【表1】の結果からすれば、鉄系脱酸素材の割合を増やせば、本 件ミオグロビン割合の範囲内に収まりにくくなるという全体的な傾向が確認できるというべきである。 そうすると、当業者であれば、非鉄系脱酸素材の使用が本件発明の技術的課題の解決のために必須であり、かつ、上記の全体的な傾向から、本件ミオグロビン割合に収めやすい適切な鉄系脱酸素材の割合を設定 できるから、発明の詳細な説明の記載及び本件特許の出願当時の技術常 識に基づいて、本件発明の技術的課題を解決できることを認識し得るものといえる。 (イ) 被控訴人の主張は、本件発明の構成要件Dを満たさない場合に、本件発明の技術的課題を解決できないとするものであるが、構成要件Dを満たさない場合には、本件発明の範囲外となるから、本件発明のサポート 要件違反とは無関係であり、被控訴人 Dを満たさない場合に、本件発明の技術的課題を解決できないとするものであるが、構成要件Dを満たさない場合には、本件発明の範囲外となるから、本件発明のサポート 要件違反とは無関係であり、被控訴人の主張は前提において誤りがある。 エ小括以上のとおり、本件発明の特許にサポート要件違反があるとする被控訴人の主張はいずれも採用できず、被控訴人の主張する無効理由8は理由がない。 4 差止めの対象(争点3)等についての判断は、以下のとおりである。 被控訴人は、補正の上で引用した原判決第2の4⑵のとおり、生産方法を特定しない請求の趣旨は過剰な差止めを求めるものであり、又、被控訴人各製品は特許法104条の推定を受けない旨を主張する。 しかし、これまで検討したとおり、本件発明に係る方法により生産された物 が本件特許の出願前に公然知られていた事実は認めることができないから、被控訴人各製品は、特許法104条により、本件発明の方法により生産された物と推定される。 そうすると、既に検討したとおり、被控訴人方法により製造された被控訴人各製品は本件発明の構成要件を全て充足するから、被控訴人に対し、本件発明 の特許に係る方法の使用の差止め(主文第4項)のほか、被控訴人各製品につき、その製造及び販売の差止め(主文第2項)を命ずることができるとともに、同法100条2項に定める侵害の行為により生じた物として、その廃棄(主文第3項)を命ずることができる。 したがって、被控訴人の上記主張はいずれも採用することができない。 5 控訴人スターゼンは、控訴人シンコウフーズから損害賠償請求権を取得した か(争点4)についての判断は、以下のとおりである。 被控訴人は、補正の上で引用した原判決第2の4(3)及び前記 控訴人スターゼンは、控訴人シンコウフーズから損害賠償請求権を取得した か(争点4)についての判断は、以下のとおりである。 被控訴人は、補正の上で引用した原判決第2の4(3)及び前記第3の3のとおり、控訴人シンコウフーズから控訴人スターゼンへの債権譲渡は許されない訴訟信託である旨を主張する。 信託法10条は「信託は、訴訟行為をさせることを主たる目的としてするこ とができない。」と規定し、その趣旨は、弁護士代理の原則や弁護士法72条に反する脱法的な行為、すなわち、他人間の法的紛争に介入し、司法機関を利用しつつ不当な利益を追求する行為について信託の形式を利用して行うことを禁止するものと解される。しかし、上記債権譲渡は、特許権者である控訴人シンコウフーズから、その特許についての独占的通常実施権を有する控訴人スター ゼンに対してされたものであり、上記債権譲渡が直ちに信託契約であると認めるに足りる証拠はない。しかも、令和5年6月20日付け確認書(甲227)によれば、控訴人らの代表取締役により、令和2年6月12日付けで本件特許権に係る損害賠償請求権を譲渡した旨が確認されているところ、これらは、控訴人らの代理人である弁護士が関与してされたものであり、譲受人である控訴人 スターゼンのこれらの行為は、無関係の他人の法的紛争に介入するものでも、不当な利益を追求するものともいえない上に、控訴人シンコウフーズも、本件訴訟に控訴人(共同原告)として関与し続けている。 これらの事情に照らすと、上記債権譲渡について、通謀してなされた虚偽の意思表示ということはできず、訴訟行為をさせることを主たる目的としてされ たものであるとも、信託法10条により禁止される不当な目的ないし利益の実現を企図するものとも認められないというべ 虚偽の意思表示ということはできず、訴訟行為をさせることを主たる目的としてされ たものであるとも、信託法10条により禁止される不当な目的ないし利益の実現を企図するものとも認められないというべきである。 したがって、控訴人シンコウフーズから控訴人スターゼンへの債権譲渡は有効であると解すべきであるから、被控訴人の上記主張は採用することができない。 6 事案に鑑み、消滅時効(争点6)について、先に判断する。 被控訴人は、前記第3の5のとおり、本件発明に係る特許の損害賠償請求権につき、その請求項5に基づく主張は令和4年5月30日付け訴えの追加的変更申立書で追加されたから、平成30年7月4日から令和元年5月29日までの分は3年の経過により時効消滅したと主張する。 しかし、本件訴え提起により控訴人らによる被控訴人各製品に対する本件特 許権に基づく権利行使の意思が明らかにされたものであるから、控訴人らによる本件訴訟の係属中、本件特許権の請求項5(本件発明)に基づく損害賠償請求権についても催告が継続していたものと解するのが相当であり、その後の口頭弁論期日において、控訴人らが上記請求項5に基づく請求を追加したことにより、同請求権の消滅時効につき中断の効力が確定的に生じたものと解すべき である(最高裁平成6年(オ)第857号同10年12月17日第一小法廷判決(裁判集民事190号889頁参照))。 そうすると、本件発明に係る特許の損害賠償請求権につき、損害期間に係る分について消滅時効が成立することはない。 したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。 7 損害額(争点5)についての判断は、以下のとおりである。 ⑴ 被控訴人は、補正の上で引用した原判決第2の4⑷ウ及び前記第 したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。 7 損害額(争点5)についての判断は、以下のとおりである。 ⑴ 被控訴人は、補正の上で引用した原判決第2の4⑷ウ及び前記第3の4⑶のとおり、控訴人らには特許法102条2項に係る損害が発生していない旨を主張する。 しかし、被控訴人各製品がイトーヨーカ堂でしか販売されていないオリジ ナル商品であり、控訴人らがイトーヨーカ堂の親会社であるセブン&アイとライバル関係にあるイオンに対し本件発明の実施品を販売していたものとしても、そのことから直ちに、控訴人らにおいて本件特許権の侵害より控訴人らにおいて損害が発生していないものと認めることはできないというべきであり、被控訴人が主張する事情は、特許法102条2項の損害の額を覆滅さ せる事情において適切に考慮されれば足りるものというべきである。 したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。 ⑵ 被控訴人各製品の販売数量が被控訴人製品1につき●●●●●●●個、被控訴人製品2につき●●●●●●●個、被控訴人製品3につき●●●●●●個であること、被控訴人製品1の利益率は、原審における計算鑑定の結果によるところの●●●●%であり、同じく、被控訴人製品2の利益率が●●● ●%、被控訴人製品3の利益率が●●●●%であることについて、当事者間にいずれも争いがない。 ⑶ 原審における計算鑑定の結果である計算鑑定書(令和3年5月10日付け、2頁)によれば、被控訴人製品1の1個当たりの単価は●●●●●円、被控訴人製品2の同単価は●●●●●円、被控訴人製品3の同単価は●●●●● 円である。 上記⑵の被控訴人の販売個数に、上記単価及び利益率を乗ずると、被控訴人製品1についての限界利益は、 円、被控訴人製品2の同単価は●●●●●円、被控訴人製品3の同単価は●●●●● 円である。 上記⑵の被控訴人の販売個数に、上記単価及び利益率を乗ずると、被控訴人製品1についての限界利益は、●●●●●●●●●円(1円未満切捨て。 以下同様である。)、被控訴人製品2についての限界利益は、●●●●●●●●●円、被控訴人製品3についての限界利益は、●●●●●●●●円となり、 その合計は●●●●●●●●●●●円となる。 ⑷ 推定の覆滅事由について特許法102条2項における推定の覆滅については、侵害者が主張立証責任を負うものであり、侵害者が得た利益と特許権者が受けた損害との相当因果関係を阻害する事情、例えば、①特許権者と侵害者の業務態様等に相違が 存在すること(市場の非同一性)、②市場における競合品の存在、③侵害者の営業努力(ブランド力、宣伝広告)、④侵害品の性能(機能、デザイン等特許発明以外の特徴)などの事情がこれに当たるところ、被控訴人は、補正の上で引用した原判決第2の4⑷エ及び前記第3の4⑷のとおり、特許法102条2項に係る損害の額について覆滅事由が存在する旨を主張するので、以下 検討する。 ア本件の損害期間である平成30年7月から令和2年2月10日までの間に、加熱食肉製品ではあるものの、複数の大手メーカーから4種類のスライスしたローストビーフが販売されていたほか(乙133ないし136)、上記の一部の期間については、他にも4種類の上記同種の製品が販売されていた(乙137ないし140)。これらは、控訴人らの本件発明の実施品 と競合する製品であるものと認められる。 この点に関し、控訴人らは、本件発明が特定加熱食肉製品に関するものであることから、加熱食肉製品は競合品に当たらない 、控訴人らの本件発明の実施品 と競合する製品であるものと認められる。 この点に関し、控訴人らは、本件発明が特定加熱食肉製品に関するものであることから、加熱食肉製品は競合品に当たらないと主張する。 しかしながら、スライスされたローストビーフを購入する一般消費者がそれを購入する際に特定加熱食肉製品であるか加熱食肉製品であるかを区 別して購入することを認めるに足りる的確な証拠はないから、競合品というためには、スライスされたローストビーフであれば十分であるというべきである。 イまた、被控訴人は昭和47年から取引を開始し(乙144)、被控訴人各製品はイトーヨーカ堂とのチームMD方式の成果として被控訴人が独占的 に供給してきたオリジナル商品であるところ(乙127ないし132、212)、これら被控訴人とイトーヨーカ堂との関係の構築や、チームMD方式としての開発の経緯にも照らすと、被控訴人が被控訴人各製品の販売により得た利益は、上記イトーヨーカ堂との関係を構築し、上記オリジナル商品として独占的に供給してきたという被控訴人の営業努力が相当程度影 響しているものとみられる。 ウさらに、本件発明の技術的意義については、補正の上で引用した原判決第3の1⑵のとおり、本件ミオグロビン割合という望ましい赤色の色調を保つところにあり、既に検討したとおりスライスしたローストビーフ製品が本件特許の出願時に知られていること、本件特許に係る発明の意義が上 記色調の点に限られることを考慮するならば、被控訴人各製品の販売にお ける本件発明の効果の影響は限定的であるというべきである。しかも、補正の上で引用した原判決第3の3⑶のとおり、被控訴人製品1及び3については、製品の販売が開始された時点においては酸素 ける本件発明の効果の影響は限定的であるというべきである。しかも、補正の上で引用した原判決第3の3⑶のとおり、被控訴人製品1及び3については、製品の販売が開始された時点においては酸素濃度が検出限界値に達していない状況にあることから、被控訴人各製品の販売についての本件発明に係る特許の効果が与える影響はさらに限定的に考えるべきである。 エこれら事情を総合考慮すると、被控訴人が被控訴人各製品の販売により得た利益の80%については、特許法102条2項の損害額についての推定が覆滅されるというべきである。 そうすると、前記⑶の金額に0.2を乗じることとなるところ、同金額を計算すると●●●●●●●●●円となる。 ⑸ 控訴人らの求める消費税相当額の加算につき検討する。 消費税は、国内において事業者が行った資産の譲渡等に課されるものであるところ(消費税法4条1項)、消費税法基本通達(5-2-5)において、「損害賠償金のうち、心身又は資産につき加えられた損害の発生に伴い受けるものは、資産の譲渡等の対価に該当しないが、例えば、次に掲げる損害賠 償金のように、その実質が資産の譲渡等の対価に該当すると認められるものは資産の譲渡等の対価に該当することに留意する。・・・(2)無体財産権の侵害を受けた場合に加害者から当該無体財産権の権利者が収受する損害賠償金」とされていることにも照らすと、前記(2)の趣旨に鑑みると、損害賠償金につき課される消費税については、控訴人らの被った(被ることとなる) 損害に当たるものとして、消費税相当額につき加算されるべきものと解される。したがって、特許法102条2項にいう「侵害の行為により利益を受けているとき」にいう「利益」には、上記に照らし10%の消費税に相当する金員も含まれる 消費税相当額につき加算されるべきものと解される。したがって、特許法102条2項にいう「侵害の行為により利益を受けているとき」にいう「利益」には、上記に照らし10%の消費税に相当する金員も含まれると解するのが相当である。 そうすると、消費税相当額として前記金額の10%を加算すべきであり、 前記⑷の金額に1.1を乗じることとすると、同金額は●●●●●●●●● 円となる。 ⑹ 本件事案の性質・内容、本件の認容額、原審及び当審の審理経過等諸般の事情を斟酌すると、被控訴人の本件特許権の侵害による不法行為と相当因果関係のある弁護士・弁理士費用相当額は、●●●●円と認めるのが相当である。 そうすると、前記⑸の金額にこれを加算すると、3380万3677円となる。 ⑺ 控訴人スターゼンは、平成30年7月から同年11月19日までの被控訴人各製品の販売に係る分については、同日からの遅延損害金の支払を求めるので、その部分についての損害額を計算する。 同期間の被控訴人各製品の販売数量(いずれも乙216による)は、被控訴人製品1(74グラム)につき、平成30年7月が●●●●●●個、同年8月が●●●●●●個、同年9月が●●●●●●個、同年10月が●●●●●●個で、この期間の合計が●●●●●●●個となるところ、同年11月分については、同月の販売個数である●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●個(1個未満切捨て。以下同様である。)とすべきであるから、これらの総合計販売数量は、●●●●●●●個となる。 被控訴人製品2(112グラム)の販売数量は、平成30年7月が●●●●●●個、同年8月が●●●●●●個、同年9月が●●●●●●個、同年10月が●●●●●●個で、この期間の合計が●●● る。 被控訴人製品2(112グラム)の販売数量は、平成30年7月が●●●●●●個、同年8月が●●●●●●個、同年9月が●●●●●●個、同年10月が●●●●●●個で、この期間の合計が●●●●●●個となるところ、 同年11月分については、同月の販売個数である●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●個とすべきであるから、これらの総合計販売数量は、●●●●●●個となる。 被控訴人製品3(77グラム)の販売数量は、平成30年7月●個、同年8月が●●●●個、同年9月が●●●●個、同年10月が●●●●個で、こ の期間の合計が●●●●●●個となるところ、同年11月分については、同 月の販売個数である●●●●●●●●●●●●●●●●●●●個とすべきであるから、これらの総合計販売数量は、●●●●●●個である。 これら販売数量に基づき、上記⑵及び⑶と同じく、被控訴人各製品の1個当たりの単価及び利益率を乗じて計算すると、被控訴人製品1につき●●●●●●●●●円、被控訴人製品2につき●●●●●●●●●円、被控訴人製 品3につき●●●●●●●●円となり、被控訴人各製品の同期間の限界利益の合計額は●●●●●●●●●円となる。そして、上記⑷と同じく推定覆滅事由を考慮(0.2を乗じる)して計算すると●●●●●●●●円となる。 これに上記⑸のとおり、消費税相当額(10%)を考慮して1.1を乗じすると、●●●●●●●●円となる。 前記⑹の事情からすると、同期間の弁護士・弁理士費用相当額は●●●円とするのが相当であり、それらの合計額は669万6028円となる。 そうすると、同額については、平成30年11月19日から支払済みまで、その余の2710万7649円については令和2年2月11日から のが相当であり、それらの合計額は669万6028円となる。 そうすると、同額については、平成30年11月19日から支払済みまで、その余の2710万7649円については令和2年2月11日から支払済みまでの遅延損害金の支払を命ずるのが相当である。 ⑻ 遅延損害金については、令和2年2月11日までに発生した損害賠償請求権に係るものであるから、平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合によることとなる。 そうすると、被控訴人は、控訴人スターゼンに対し、3380万3677円及びうち669万6028円に対する平成30年11月19日から支払済 みまで、うち2710万7649円に対する令和2年2月11日から支払済みまでそれぞれ年5分の割合による金員を支払うべきである(主文第5項)が、その余の控訴人スターゼンの請求については棄却すべきである(主文第6項)。 8 結論 よって、上記と異なる原判決は相当でないからこれを取り消すこととして(主 文第1項)、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官東海林 保 裁判官今井弘晃 裁判官水野正則(別紙特許公報写し省略) 特許公報写し省略)

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