平成28(ワ)71 時間外手当請求事件,損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和元年6月12日 札幌地方裁判所 小樽支部
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判決文本文26,365 文字)

主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 第1事件⑴ 被告は,原告Aに対し,94万9883円及びこれに対する平成27年12月22日から支払済みまで年14.6%の割合による金員を支払え。 ⑵ 被告は,原告Bに対し,47万4942円及びこれに対する平成27年12月22日から支払済みまで年14.6%の割合による金員を支払え。 ⑶ 被告は,原告Cに対し,47万4942円及びこれに対する平成27年12月22日から支払済みまで年14.6%の割合による金員を支払え。 2 第2事件⑴ 被告は,原告Aに対し,6052万6689円及びこれに対する平成27年12月8日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 ⑵ 被告は,原告Bに対し,3081万3344円及びこれに対する平成27年12月8日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 ⑶ 被告は,原告Cに対し,3081万3344円及びこれに対する平成27年12月8日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 ⑷ 被告は,原告Dに対し,240万4011円及びこれに対する平成27年1 2月8日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 ⑸ 被告は,原告Eに対し,110万円及びこれに対する平成27年12月8日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 事案の概要 ⑴ 第1事件 第1事件は,訴外亡Fの相続人である原告A,同B及び同C(以下上記3名を併せて「第1事件原告ら」という。)が,被告と亡Fとの間の雇用契約に基づく権利を相続したとして,被告に対し,平成26年1月分から平成27年12月分までの亡Fの る原告A,同B及び同C(以下上記3名を併せて「第1事件原告ら」という。)が,被告と亡Fとの間の雇用契約に基づく権利を相続したとして,被告に対し,平成26年1月分から平成27年12月分までの亡Fの未払時間外手当及びこれに対する退職日後に到来する支払期日後である平成27年12月22日から支払済みまで賃金の支払の確保等 に関する法律所定の年14.6%の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 第2事件第2事件は,原告らが,亡Fの使用者であった被告の安全配慮義務違反によって亡Fが自死したと主張して,被告に対し,不法行為に基づき,亡Fの相続 人である原告A,同B及び同Cが相続した損害及び固有の損害の賠償並びにこれらに対する亡F死亡の日である平成27年12月8日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を,亡Fの両親である原告D及び原告E(以下上記原告ら5名を併せて「第2事件原告ら」という。)が固有の損害の賠償及びこれに対する亡F死亡の日である平成27年12月8日から 支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求めた事案である。 2 前提事実(争いのない事実及び証拠等により容易に認められる事実)⑴ 当事者等(甲10,18,乙1,2の1,同2,3の1,同2,弁論の全趣旨) ア被告は,船員及びその家族に対する掖済援護事業を行うとともに,社会福祉の精神に則り一般の援護事業を行うことを目的とする一般社団法人であり,小樽市内において小樽掖済会病院(以下「本件病院」という。)を経営するものである。 イ亡F(昭和▲年▲月▲日生)は,被告との間で雇用契約を締結し,本件病 院において臨床検査技師として稼働していた者であり,小樽検査技師会(以 下「技師会」と 経営するものである。 イ亡F(昭和▲年▲月▲日生)は,被告との間で雇用契約を締結し,本件病 院において臨床検査技師として稼働していた者であり,小樽検査技師会(以 下「技師会」という。)の事務局長を務めていた者である。 ウ原告Aは,亡Fの配偶者であり,原告B及び原告Cはその子である。原告D及び原告Eは亡Fの両親である。 エ技師会は,臨床検査技師等の任意加入団体である一般社団法人北海道臨床衛生検査技師会の会務の運営のため,小樽地区に設けられた同社団の下部組 織である。遅くとも平成26年4月以降,技師会の会長は被告のG技師長(以下「技師長」という。)が務めていた。 ⑵ 亡Fと被告の雇用契約の締結(甲2,3,4の1から24まで,21,乙28の1,同2,弁論の全趣旨)亡Fは,被告との間で平成17年4月1日,雇用契約を締結し,本件病院に おいて臨床検査技師として稼働を開始した。被告における主な雇用条件は以下のとおりである。 ア労働時間平日午前8時30分から午後5時まで(うち1時間休憩)第2,第4及び第5土曜日午前8時30分から午後0時30分まで イ休日(被告就業規則29条)第1及び第3土曜日並びに日曜日(なお,この定め方に鑑み,日曜日を法定休日と認める。)国民の祝日(日曜日と重なった日は翌日)12月30日から翌年1月3日まで 8月15日ウ給与給与体系(被告就業規則48条)給与は,俸給及び諸手当(地域手当,職務手当,特殊勤務手当,救急当番手当,待機手当等)からなる。 このうち,救急当番手当は,日曜日又は国民の祝日のうち,本件病院が 救急搬送される患者に対応する救急当番日の午前9時から午後6時までの間に出勤する職員に対し支払 手当等)からなる。 このうち,救急当番手当は,日曜日又は国民の祝日のうち,本件病院が 救急搬送される患者に対応する救急当番日の午前9時から午後6時までの間に出勤する職員に対し支払う手当(臨床検査技師に対しては,1日9500円)である。救急当番日における臨床検査技師の主な業務は,救急搬送される患者のうち,医師が採血等を指示した患者の血液等をもとに検査を実施することであった。また,当該職員が午後6時以降に勤務した場 合には,別途時間外手当が支払われていた。 また,待機手当は,所定勤務時間外に臨床検査技師等が本件病院に出勤して検査等の実施が必要となった場合に備えて,職員に自宅等において待機することを命じた場合に支払う手当(臨床検査技師に対しては,平日(午後5時から翌日午前8時30分まで)は1000円,土曜日(出勤日は午 後0時30分から翌日午前8時30分まで,出勤に当たらない日は午前8時30分から翌日午前8時30分まで)は1500円,日曜日及び国民の祝日(午前8時30分から翌日午前8時30分まで)は2000円)である。当該職員が待機中に本件病院に実際に出勤して検査等を実施した場合には,時間外手当が支払われていた。 支払期等給与は,毎月末日締め,21日払とされている。ただし,時間外手当については,当月分を翌月の給与に含めて支払っていた。 エ就業規則の定め被告就業規則には,以下の定めがある(その解釈については当事者間に争 いがある。)。 第53条所定勤務時間外の労働については,次の計算式による時間外手当を支給する。 時間外労働の場合① 所定時間外の勤務時間数が1ヶ月60時間以下の場合は, 所定時間外の実労働時間1時間につき,賃金の1時間相 の計算式による時間外手当を支給する。 時間外労働の場合① 所定時間外の勤務時間数が1ヶ月60時間以下の場合は, 所定時間外の実労働時間1時間につき,賃金の1時間相当額 の2割5分増の額とし,所定時間外の勤務時間数が1ヶ月60時間を超える場合は所定時間外の実労働時間1時間につき,賃金の1時間相当額の5割増の額とする。但し,(平時及び土曜日)において実労働時間8時間に達するまでは,勤務1時間につき,賃金の1時間相当額とする。 ② 午後10時から午前5時までの時間外については,実労働時間1時間につき賃金の1時間相当額の2割5分増(①と②は別々に計算する)。 休日労働の場合第29条に定める休日に労働した場合は,実労働時間1時間 につき賃金の1時間相当額の3割5分増の額⑶ 亡Fの稼働(甲1,4の1から24,乙5,弁論の全趣旨)亡Fは,被告への就職後,平成27年12月8日まで本件病院の臨床検査技師として稼働した。その状況は以下のとおりであった。 ア月平均所定労働時間 平成26年 160.59時間平成27年 161.21時間イ出退勤管理本件病院では,平成27年11月30日まではタイムカードにより,本件病院が新建物に移転した後である同年12月1日からは本件病院が貸与し ているセキュリティカードにより,職員の勤務時間を管理していた(以下,タイムカードとセキュリティカードを区別せずに「タイムカード等」と称する)。また,本件病院では,所定勤務時間外に労働をした場合,超過勤務報告書を作成することとされており,臨床検査部においては,各職員が超勤簿に超過勤務の時間及び職務内容の概略を記載し,技師長が超勤簿 る)。また,本件病院では,所定勤務時間外に労働をした場合,超過勤務報告書を作成することとされており,臨床検査部においては,各職員が超勤簿に超過勤務の時間及び職務内容の概略を記載し,技師長が超勤簿に基づいて超 過勤務報告書を作成していた。本件病院は,超過勤務報告書に基づいて時間 外手当を算定していた。 ウ賃金支払状況被告は,亡Fに対し,別紙1のとおり,平成26年1月分から平成27年12月分までの給与,地域手当,職務手当,特殊勤務手当,救急当番手当,待機手当及び時間外手当を支払った。なお,亡F死亡後,被告において支払 うべき平成27年7月から同年10月までの時間外手当額に誤りがあったとして,時間外手当の追加分として3万3676円が支払われた。 ⑷ 亡Fの死亡(甲9,10,15,16,18,弁論の全趣旨)亡Fは,平成27年12月8日,建物の屋上から飛び降りて自死し,同日,被告を退職した。 ⑸ 労災認定等(甲12,15,35,47,弁論の全趣旨)ア原告Aは,平成28年5月27日,亡Fの自死が労働災害に当たるとして小樽労働基準監督署長に対して保険給付等を請求した。 イ厚生労働省が策定した「心理的負荷による精神障害の認定基準」(以下単に「認定基準」という。)は,①対象となる精神障害(国際疾病分類第10回 修正版(以下「ICD-10」という。)第5章「精神および行動の障害」に定める障害)を発病していること,②対象となる精神障害の発病前概ね6か月の間に,業務による強い心理的負荷が認められること,③業務以外の心理的負荷や個体側要因により対象となる精神障害を発病したとは認められないことのいずれの要件も満たす場合,当該精神障害を労働基準法施行規則別 表第1の2第9号に該当する「業務上 ,③業務以外の心理的負荷や個体側要因により対象となる精神障害を発病したとは認められないことのいずれの要件も満たす場合,当該精神障害を労働基準法施行規則別 表第1の2第9号に該当する「業務上の疾病」として取り扱うこととしている。このうち前記②につき,長時間労働がある場合,発病直前の1か月に概ね160時間以上の時間外労働(週40時間を超える労働をいう。)を行った場合「特別な出来事」とし,発症直前の2か月間に連続して1月当たり概ね120時間,又は発症直前の3か月間に連続して1月当たり概ね100時 間以上の時間外労働を行った場合には「出来事」とし,いずれも心理的負荷 の強度を「強」と判断することとしている。 ウ小樽労働基準監督署長は,調査の結果,平成28年11月9日,亡Fの死亡は業務災害によるものと認定し,遺族補償年金等を支給する旨決定した。 その結果,以下の年金等が原告Aに対して支払われた。 平成28年1月分から平成30年5月分までの遺族基礎年金及び遺族 厚生年金合計404万0933円葬祭料 123万9600円平成28年12月期から平成30年6月期の遺族補償年金合計748万5016円⑹ 被告の弁済(乙30,32,弁論の全趣旨) 被告は,平成31年1月23日,①本件時間外手当債務及び本件損害賠償債務の各遅延損害金,②本件時間外手当債務の元本,③本件損害賠償債務の元本の順に充当することを指定して,本件時間外手当債務及び本件損害賠償債務の弁済として,原告ら訴訟代理人の口座に振り込む方法により,1億0358万8443円を支払った。なお,本件損害賠償債務の元本に充当した際に仮に不 足が生じる場合は,原告らが被告に対して有する損害賠償債務の額に応じて案分する方法で充当される 法により,1億0358万8443円を支払った。なお,本件損害賠償債務の元本に充当した際に仮に不 足が生じる場合は,原告らが被告に対して有する損害賠償債務の額に応じて案分する方法で充当されることにつき,当事者間に争いはない。 第3 争点及びこれに対する当事者の主張 1 第1事件について 就業規則53条の解釈について ア 「賃金」に含まれる手当の範囲について(第1事件原告らの主張)時間外手当の算定の基礎となる賃金につき,労働基準法37条1項は「通常の労働時間又は労働日の賃金」と定めているのに対し,就業規則53条は,「賃金」とのみ定めていることからすれば,同条は,従業員に対して支給さ れる金員は労働基準法37条1項所定の賃金に含まれなくても就業規則5 3条の「賃金」に含める趣旨であり,従業員に対して支給される金員から,労働基準法37条5項及び同法施行規則21条各号によって除外される手当を除いた賃金を時間外手当の算定の基礎となる賃金と定めた規定と解すべきである。したがって,時間外手当の算定の基礎となる賃金には,俸給,地域手当,職務手当及び特殊勤務手当に加え,救急当番手当及び待機手当も 含まれる。 (被告の主張)就業規則53条が規定する「賃金」とは,労働基準法37条1項で定める「通常の労働時間又は労働日の賃金」を指す趣旨であることは明らかである。 そして,救急当番手当は,救急当番担当日の際に出勤する者に対して支払わ れる手当であるが,救急当番日における業務は,救急搬送されてきた患者のうち医師の指示がされた患者の検体に対する検査業務であって,検査業務時間以外は待機とされており,通常の業務とは異なっている。また,待機手当は,自宅等での待機時間に対する は,救急搬送されてきた患者のうち医師の指示がされた患者の検体に対する検査業務であって,検査業務時間以外は待機とされており,通常の業務とは異なっている。また,待機手当は,自宅等での待機時間に対する対価であり,通常の業務とは異なっている。 したがって,いずれも「通常の労働時間又は労働日の賃金」には当たらない。 就業規則53条の「賃金」に,俸給,地域手当,職務手当及び特殊勤務手当が含まれることは争わない。 イ割増率について(第1事件原告らの主張)就業規則53条⑴の文言によれば,同条は,従業員の時間外労働が月60 時間を超えた場合,その月に支払う時間外手当は全て賃金の5割増とする旨定めた規定と解すべきである。就業規則53条⑵は,従業員が就業規則29条に定める休日に労働した場合,賃金の3割5分増の時間外手当を支払う旨定めるが,従業員の時間外労働が月60時間を超えた場合には,就業規則53条⑴により賃金の5割増の時間外手当を支払うものと解すべきである。し たがって,被告が,雇用契約に基づき支払うべき時間外手当の割増率及び額 は以下のとおりとなる。 時間外労働時間が60時間を超えなかった月法定時間内労働 1倍休日労働を除く法定時間外労働 1.25倍休日労働 1.35倍 深夜労働 0.25倍加算 時間外労働時間が60時間を超えた月法定時間内労働 1倍法定時間外労働 1.5倍休日労働 1.5倍 深夜労働 0. 1倍法定時間外労働 1.5倍休日労働 1.5倍 深夜労働 0.25倍加算(被告の主張)就業規則53条は,従業員の時間外労働が月60時間未満の部分の割増率と,月60時間を超えた部分の割増率を区別して定めた規定と解すべきである。 労働の場合の割増率を3割5分と定めているが,時間外労働が月60時間を超えた場合,法定休日労働の割増率は3割5分であるが,所定休日の労働は労働基準法上,時間外労働として取り扱われるから,労働基準法を下回る限度において労働基準法が優先され,5割増となる。 したがって,被告が,雇用契約に基づき支払うべき時間外手当の割増率及 び額は以下のとおりとなる。 月の時間外労働時間が60時間を超えない部分法定時間内労働 1倍法定時間外労働 1.25倍所定休日労働 1.35倍 法定休日労働 1.35倍 深夜労働 0.25倍加算 月の時間外労働時間が60時間を超える部分法定時間外労働(所定休日労働を含む) 1.5倍法定休日労働 1.35倍深夜労働 0.25倍加算 時間外労働の有無及びその量について(原告A,同B及び同Cの主張)ア亡Fは,別紙2記載のとおり,時間外労働をした。 イ亡Fの労働時間は,タイムカード等の記載に従って認 時間外労働の有無及びその量について(原告A,同B及び同Cの主張)ア亡Fは,別紙2記載のとおり,時間外労働をした。 イ亡Fの労働時間は,タイムカード等の記載に従って認定されるべきである。 亡Fが平成27年10月5日から同年12月5日まで休みを取っていない ことなどからも明らかなように,亡Fは大量の業務によって早出残業を余儀なくされていたから,所定の始業時刻前であっても,タイムカード等の打刻時刻が始業時刻となる。また,終業時刻は,タイムカード等の打刻時刻を原則とするが,講演会等へ出席した場合は,その終了時刻となる。タイムカード等の打刻がない場合には,始業時刻は午前8時,終業時刻は午後6時(土 曜日については,午後1時)と推定するか,あるいは,超勤簿の記載に基づいて算定するのが相当である。 ウ亡Fの被告における業務と技師会の業務を画一的な基準により区分することは不可能であるから,亡Fが技師会の事務として行ったメール送信につき画一的に被告における労働時間から控除すべきではない。 (被告の主張)ア亡Fの時間外労働時間は別紙3の被告主張欄記載のとおりである。 イ被告の臨床検査部では,従業員が超勤簿に超過時間等を記載し,上司である技師長がその内容を踏まえて作成した超過勤務報告書によって所定時間外労働を管理しているから,同報告書に基づいて時間外労働時間を算定すべ きである。亡Fが早出残業を余儀なくされるような事情は存在しないから, 始業時刻前にタイムカード等が記録されているとしても,所定の始業時刻が始業時刻となる。また,講演会等は,被告が実施するものではなく,出席を強制することもないから,講演会等への参加が時間外労働に該当するとはいえない。 が記録されているとしても,所定の始業時刻が始業時刻となる。また,講演会等は,被告が実施するものではなく,出席を強制することもないから,講演会等への参加が時間外労働に該当するとはいえない。 ウ技師会の業務は被告における業務には該当しない。亡Fが,時間外労働時 間中に技師会に関する電子メールを送信した場合,1通につき20分を時間外労働時間から除くのが相当である。 未払時間外手当の金額について(第1事件原告らの主張)前記⑵の原告の主張する亡Fの労働時間によれば,被告就業規則53条に基 づき,亡Fの時間外労働により発生する時間外手当の未払金額は,別紙4記載のとおり,合計191万7412円である。 (被告の主張)前記⑵の被告の主張する亡Fの労働時間によれば,被告就業規則53条に基づき,亡Fの時間外労働により発生する時間外手当の未払金額は,別紙5記載 のとおり,合計5万8309円である。 2 第2事件について 亡Fの死亡の原因が本件病院における業務にあるか(第2事件原告らの主張)ア亡Fの業務の過重性 亡Fの被告における1か月間の時間外労働時間は,亡F死亡の1か月前が188時間03分,2か月前が125時間35分,3か月前が62時間35分,4か月前が101時間47分,5か月前が115時間07分,6か月前が71時間29分であり,亡Fは,長時間にわたる時間外労働に半年以上従事していた。このような長時間にわたる時間外労働が発生したのは,平成2 7年6月頃から,通常の検査業務に加えて,電子カルテ新システム導入業務 を中心的に担当したためであった。 加えて,亡Fには,被告における業務以外に強い心理的負荷になる事情はなく,自死に至るま ,通常の検査業務に加えて,電子カルテ新システム導入業務 を中心的に担当したためであった。 加えて,亡Fには,被告における業務以外に強い心理的負荷になる事情はなく,自死に至るまで特段の問題なく社会生活を送っていたことからしても,亡Fの性格傾向が,通常人とは異なり,特別にうつ病等の精神疾患を発症させやすい脆弱なものであったとはいえない。 イ因果関係前記アのとおり,被告における業務による心理的負荷は,精神疾患を発症させることが社会通念上相当といえる程度に量的及び質的に過重なものであり,被告における業務以外に強い心理的負荷になる事情はないことからすると,亡Fは,被告における長時間労働によってうつ病を発症し,自死に至 ったものである。 (被告の主張)ア亡Fの業務の過重性亡Fの死亡前6か月間の被告における時間外労働時間は別紙6記載のとおりである。技師会活動は被告の指揮命令により行われた労働ではないこと などから,亡Fが,被告において精神に変調を来すほどの極度の長時間労働に従事したということはできない。また,電子カルテ新システム導入業務は,本件病院の情報システム科が中心的な役割を果たしており,亡Fは,臨床検査部が行う業務の一部を担当していたものの,その業務内容は過重なものではなかった。 イ因果関係前記アのとおり,被告における業務による心理的負荷は,精神疾患を発症させることが社会通念上相当といえる程度に強いものではなく,亡Fがうつ病を発症していたとは認められない。仮に,亡Fがうつ病を発症していたとしても,被告における業務による心理的負荷によってうつ病を発症したもの ではない。 被告の安全配慮義務違反 発症していたとは認められない。仮に,亡Fがうつ病を発症していたとしても,被告における業務による心理的負荷によってうつ病を発症したもの ではない。 被告の安全配慮義務違反の有無(第2事件原告らの主張)被告は,亡Fの労働実態が同人の心身の健康を損なう程度のものであることを認識しており,被告の安全配慮義務違反を基礎づけるのに十分な事情を予見していた。 被告は,業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう,安全確保のための必要な措置を講じておくべき注意義務を負っていた。そして,被告は,通常業務に加え,亡Fを電子カルテ新システム導入業務に従事させた結果,亡Fが長時間労働を余儀なくされており,その労働時間が過労死基準を超える段階に至っていたことを認識して いたのであるから,亡Fが自死に至る抽象的可能性を予見することは可能であった。しかし,被告は,亡Fの労働時間を削減するために取りうる措置を取っておらず,前記注意義務に違反していることは明らかである。 (被告の主張)被告における業務は量的及び質的に過重なものではなく,亡Fも業務が過重 であると訴えることはなかったこと,亡Fは自死する前に精神の変調やうつ病の症状を呈していたことはなかったことから,被告は亡Fの心身の健康が損なわれて何らかの精神障害を起こすおそれを具体的客観的に予見することはできなかった。また,被告は,電子カルテ新システム導入業務における亡Fの業務負担に配慮し,亡Fの負担感の改善に努めるなど,結果回避措置を尽くして いた。仮に亡Fが平成27年12月初旬にうつ病を発症していたとしても,うつ病を発症していたことをうかがわせるような行動面,身体面の状 し,亡Fの負担感の改善に努めるなど,結果回避措置を尽くして いた。仮に亡Fが平成27年12月初旬にうつ病を発症していたとしても,うつ病を発症していたことをうかがわせるような行動面,身体面の状態は現れておらず,前日まで普段と変わらない態度を示していたことからすれば,被告において,具体的に亡Fの自死を防止するための措置を取ることはできなかった。 損害等 (第2事件原告らの主張) ア亡Fの損害死亡慰謝料 3000万円逸失利益 8109万3120円亡Fの年収は,就職時から毎年上昇し,概ね賃金センサス男性大学卒以上(平成28年)と同額の収入を得ていた。そこで,亡Fの逸失利益を算 出するに当たっては,昇給を考慮し,亡Fが34歳から67歳まで稼働するとして,各年齢に応じた前記賃金センサスの年収額を平均した723万9326円を亡Fの基礎収入とすべきである。基礎収入から生活費控除率(30%)を控除し,これに就労可能年数33年に相当するライプニッツ係数16.0025を乗じた8109万3120円が逸失利益となる。 仮に,昇給を考慮しないとしても,亡Fの収入591万1909円には支払われるべき未払時間外手当が含まれていないから,これを加算して基礎収入を算出すべきであり,基礎収入は696万7963円となり,逸失利益は7805万3379円となる。 イ原告Aについて 亡Fから相続(相続割合2分の1)した損害に加え,以下の損害が生じた。 固有の慰謝料 100万円弁護士費用 550万円ウ原告B及び同Cについて亡Fから相続(相続割合各4分の1)した損害に加え,以下の損害が生じ た。 固有の慰謝料各100万円弁護士費用各280万円エ原 550万円ウ原告B及び同Cについて亡Fから相続(相続割合各4分の1)した損害に加え,以下の損害が生じ た。 固有の慰謝料各100万円弁護士費用各280万円エ原告Dについて固有の慰謝料 100万円 葬儀費用 118万6011円 弁護士費用 21万8000円オ原告Eについて固有の慰謝料 100万円弁護士費用 10万円(被告の主張) いずれも争う。 過失相殺ないし寄与度減額の当否(被告の主張)亡Fが,技師会の活動を継続していたこと,専門医の受診や産業医への相談をしなかったこと,主任という立場にあったにもかかわらず自らの労働時間を 適正に管理しなかったこと,亡F自身が真面目で几帳面といった性格傾向であったこと,原告Aは亡Fの体調の変化を把握していたにもかかわらず適切な措置をとらなかったことなどからすると,本件では5割の過失相殺ないし寄与度減額が認められるべきである。 (第2事件原告らの主張) 本件では,過失相殺及び寄与度減額を認めるべき事情は存在しない。 損益相殺(被告の主張)ア既支給分原告A,同B及び同Cに対しては,遺族基礎年金,遺族厚生年金,葬祭料, 遺族補償年金が支給されたから,同額が損益相殺される。 イ履行猶予額本件では労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)附則64条1項に基づき履行猶予がされる。その額は,遺族補償年金前払一時金の最高限度額(2066万円)から支給決定日までの法定利息(95万4158円) を除いた1970万5842円から,既支給の年金(同年金が支払われた日 その額は,遺族補償年金前払一時金の最高限度額(2066万円)から支給決定日までの法定利息(95万4158円) を除いた1970万5842円から,既支給の年金(同年金が支払われた日 までの遅延損害金を控除する。合計1065万3983円)を控除した金額(905万1859円)である。 (原告A,同B及び同Cの主張)ア既支給分既支給の遺族基礎年金,遺族厚生年金,葬祭料,遺族補償年金が損益相殺 されることは争わない。なお,葬祭料は原告Aの損害から控除されるべきである。 イ履行猶予額履行猶予がされることは争わない。その額は,遺族補償年金前払一時金の最高限度額(2066万円)から支給決定日までの法定利息並びに既支給の 年金及び葬祭料(合計1276万5549円)を控除した金額である。 第4 当裁判所の判断 1 第1事件について⑴ 就業規則53条の解釈についてア 「賃金」に含まれる手当の範囲について 被告就業規則53条は,「賃金」を所定労働時間で除し,これに時間外労働の時間に応じた割増率を乗じた金額を乗じて1時間当たりの時間外手当額を定める旨定めるけれども,被告就業規則にはいかなる手当が同条の「賃金」に含まれるか定める条項は存しない。 もっとも,労働基準法は,時間外労働がなされたときには,「通常の賃金」 を所定労働時間で除し,これに割増率を乗じて算出される割増賃金を支払うべき旨を定めるとともに,就業規則等でこれに満たない水準の割増賃金額を定めても,労働者は前記労働基準法所定の割増賃金との差額を請求することができるのであるから,就業規則については,可能な限り,労働基準法と適合した解釈がなされるべきである。そうすると,労働基準法37条1項の「通 前記労働基準法所定の割増賃金との差額を請求することができるのであるから,就業規則については,可能な限り,労働基準法と適合した解釈がなされるべきである。そうすると,労働基準法37条1項の「通 常の賃金」に当たる俸給に加え,地域手当,職務手当及び特殊勤務手当は, 「賃金」に含まれるものというべきである。 他方,前記前提事実によれば,救急当番手当は救急当番日である休日の午前9時から午後6時までの勤務に対して支払われるものであり,待機手当は,所定労働時間外に自宅等において待機することの対価として支払われるものである。そうすると,これらは,いずれも所定労働時間内における労務提 供の対価ということはできないから,労働基準法37条1項の「通常の賃金」には含まれないものと解されるところ,被告就業規則において,「通常の賃金」に当たらないこれらの手当をも割増賃金の基礎とすることを定めたものと解釈する根拠はない。そうすると,救急当番手当及び待機手当は,被告就業規則53条の「賃金」には含まれないと解するのが相当である。 これに対し,原告は,①被告就業規則53条で時間外手当の算定の基礎となる賃金が「賃金」とのみ定義され,特段の限定を付されていないことの趣旨は,労働基準法37条1項が時間外手当の算定の基礎として定義する「通常の労働時間又は労働日の賃金」以外の賃金も時間外手当の算定の基礎となる賃金に含めることにある,②救急当番日の負担は平日と変わらないし,待 機を命じられたときの負担は拘束が強いから,いずれも労働時間に含まれる,として救急当番手当及び待機手当も「賃金」に含まれると主張する。しかしながら,①本件病院において,原告主張の趣旨で就業規則が制定されたことをうかがわせる事情は認められないし,②前記前提事実によれば,救急当 救急当番手当及び待機手当も「賃金」に含まれると主張する。しかしながら,①本件病院において,原告主張の趣旨で就業規則が制定されたことをうかがわせる事情は認められないし,②前記前提事実によれば,救急当番及び待機が所定時間外になされる業務であることは明らかであるから,労働 の負担や拘束の程度によって「賃金」に含まれる余地があると解することはできない。したがって,原告の主張はいずれも採用できない。 イ割増率について被告就業規則53条⑴①は,所定時間外の労働時間が1か月60時間以下かこれを超えるかによって異なる割増率が適用される旨定めるところ,所定 時間外の労働時間が1か月60時間を超える場合に,これを超過した部分に 限って高い割増率を適用する趣旨か,超過していない部分も含めた全時間外労働について高い割増率を適用する趣旨かはその文言上必ずしも明らかではない。 この点,労働基準法は法定時間外の労働が1か月につき60時間を超えた場合にはその超えた時間の労働に限って高い割増率を適用する旨定めてい るところ,被告就業規則もこれにならって定められたことがうかがわれる上,時間外手当は所定時間外の労働によって生じるものであって,その額がその月の時間外労働の量によって事後的に変更される理由も見出しがたいことからすれば,就業規則の定める高い割増率は,所定時間外の労働時間のうち,1か月60時間を超える部分に限って適用されるものというべきである。な お,第1事件原告らは,「所定時間外労働」が60時間を超えた場合に高い割増率が適用されるとしつつ,週の労働時間が40時間を超えるときにもこれを超える労働を時間外労働と取り扱っていない。しかしながら,被告就業規則53条⑴①ただし書は,所定時間外労働のうち,平日及び土曜日の労働に されるとしつつ,週の労働時間が40時間を超えるときにもこれを超える労働を時間外労働と取り扱っていない。しかしながら,被告就業規則53条⑴①ただし書は,所定時間外労働のうち,平日及び土曜日の労働につき,実労働時間が8時間に満たないときは割増率を適用しない旨定めてお り,割増率の適用の有無を判断する際に算入される労働が時間外労働として割増の対象とならないのは不合理であるから,高い割増率が適用されるのは,所定時間外労働のうち,法定時間外労働を指すものと解すべきである。また,就業規則につき,労働基準法に適合した解釈がなされるべきことは前記のとおりであるから,週の労働時間が40時間を超えたときには,これを超えた 労働は時間外労働として取り扱うのが相当である。 これに対し,第1事件原告らは,被告就業規則53条はその月の所定時間外労働の時間が60時間を超えた場合には,その月の全ての所定時間外労働につき高い割増率が適用されるべきである旨主張する。しかしながら,被告就業規則53条⑴①ただし書は,その月の所定時間外労働の量にかかわらず, 所定時間外労働であっても,実労働時間が8時間に達するまでは割増をしな い旨定めているから,そもそもすべての時間外労働につき高い割増率を適用する趣旨と認めることはできず,原告の主張は採用できない。 以上のとおりであるから,被告が,雇用契約に基づき支払うべき時間外手当の割増率は以下のとおりである(なお,月の法定時間外労働時間が60時間を超えた場合に,その超えた所定休日労働について割増率を1.5倍とす べきことについて当事者間に争いはない)。 月の法定時間外労働時間が60時間を超えない場合法定時間内労働 1倍所定休日労働を除く法定時間外労働 1.25倍 べきことについて当事者間に争いはない)。 月の法定時間外労働時間が60時間を超えない場合法定時間内労働 1倍所定休日労働を除く法定時間外労働 1.25倍所定休日労働(法定休日労働を含む) 1.35倍 深夜労働 0.25倍加算月の法定時間外労働時間が60時間を超えた部分法定時間外労働(所定休日労働を含む) 1.5倍法定休日労働 1.35倍深夜労働 0.25倍加算 ⑵ 時間外労働の有無及び量についてア労働時間の認定について前記前提事実,証拠(甲1添付資料1ないし3,甲5の1ないし17,20の1ないし4,29)及び弁論の全趣旨によれば,本件病院においては,職員の出退勤につきタイムカード等による記録がなされていたところ,亡F に係るタイムカード等を第三者が使用していたなどの事情は見当たらないから,平成26年1月から平成27年12月までの亡Fの出退勤時間は,別紙3タイムカード欄の出勤及び退勤欄記載のとおりであると認められる(ただし,平成26年4月10日の退勤時間を午後6時22分と改める。タイムカード等の記録が存しない部分については,就業規則に従い勤務開始を午前 8時30分と,勤務終了を午後5時00分(平日)又は午後零時30分(土 曜日)と認めた。)。これに対して,同期間の超過勤務報告書による超過勤務時間は,別紙3超過勤務報告書(超勤簿)欄記載のとおりである。 前記前提事実によれば,被告においては上司の関与の下超過勤務報告書が作成され,その記載に従って時間外手当が支払われていたというのであるから,少なくとも同報告書に記載された時間については,亡Fは業務命令に 前提事実によれば,被告においては上司の関与の下超過勤務報告書が作成され,その記載に従って時間外手当が支払われていたというのであるから,少なくとも同報告書に記載された時間については,亡Fは業務命令に基 づいて業務をしていたものと認めるのが相当である。 また,亡Fは少なくともタイムカード等に記録された出退勤時刻の間,本件病院内に滞留していたことになるが,亡Fが業務以外の理由で本件病院内に滞留していたと認められる場合でない限り,業務でない理由で本件病院に滞留する必要性は見出し難い。そうすると,亡Fは,そのタイムカード等に 記録された出退勤時刻のうち所定労働時間を超えるものは,業務によるものでないことが認められる場合を除いて,業務命令に基づき業務に従事していたものと推認するのが相当である。もっとも,亡Fは,別紙3タイムカード欄の記載のとおり,始業時刻である午前8時30分よりも前に出勤していることが認められるところ,その出勤時刻は,始業時刻の概ね1時間前を超え るものではなく,労働者が交通機関の混乱や始業の準備のため,始業時刻よりも一定程度早く就労場所に行くことは一般的であると認められることからすれば,実際に出勤した時刻から業務を開始していたとしても,それを命じられていたとまで認めることはできない。そうすると,亡Fが始業時刻よりも前に出勤したという事実のみで,始業時刻以降時間外労働をしたと認め ることはできず,始業時刻である午前8時30分から勤務を開始したものと認めるのが相当である。救急当番と認められる日及び超過勤務報告書が作成された日についても同様にそれぞれ救急当番の業務開始時刻である午前9時,超過勤務報告書に記載された始業時刻を始業時刻と認める。 以上によれば,亡Fの労働時間は,別紙7記載のとおりと認めることが 成された日についても同様にそれぞれ救急当番の業務開始時刻である午前9時,超過勤務報告書に記載された始業時刻を始業時刻と認める。 以上によれば,亡Fの労働時間は,別紙7記載のとおりと認めることがで きる。なお,亡Fが暦日をまたいで勤務した場合には,暦日を異にする場合 でも1勤務として取り扱うのが相当であるが,勤務した日の法的性質が異なり,かつ,割増率が異なる場合には当日の終業時刻を午前0時とし,翌日の始業時刻を午前0時と認定した。 イ第1事件原告らの主張に対する判断これに対し,①第1事件原告らは,タイムカード等に記録されていない場 合,所定終業時刻後,午後6時まで時間外労働をしたと推認すべきである,②本件病院においては,タイムカード等によって労働時間が管理されていた上,亡Fが始業時刻前に臨床検査部の業務を行っていたのは,始業時刻に出勤したのでは処理しきれない大量の業務に追われていたためであって,始業時刻前から労務の提供を余儀なくされていたのであるから,タイムカード等 の記録時刻から労務の提供を義務付けられていたと推定すべきである,③亡Fが別紙2の備考欄に記載した研修や講演会に参加した時間は時間外労働に該当する,と主張する。 しかしながら,亡Fが常に所定終業時刻後に本件病院に滞留していたことを認めるに足る証拠はない(現に亡Fが所定終業時刻の直後に退勤したタイ ムカード等の記録が存する。)から,タイムカード等の記録すらないのに,亡Fが所定終業時刻よりも遅くに滞留していたことを認めることは困難というべきであって,前記①の主張は採用できない。また,亡Fが始業時刻前に業務を行っていたとしていかなる業務を行っていたかを明らかにする証拠はないし,大量の業務がなくても,一般に始業の一定時間前に出勤するこ きであって,前記①の主張は採用できない。また,亡Fが始業時刻前に業務を行っていたとしていかなる業務を行っていたかを明らかにする証拠はないし,大量の業務がなくても,一般に始業の一定時間前に出勤するこ とはあり得ることからすれば,前記②の主張は採用できない。亡Fが研修や講演会に出席したのが本件病院の明示又は黙示の指示に基づくものであったことを認めるに足る証拠はなく,前記③の主張は採用できない(技師長が技師会の会長であるからといって,被告が亡Fに対して技師会実施の研修等へ出席するように命じたとまでは認められない。)。ただし,証拠(甲1,6, 7の11,26)及び弁論の全趣旨によれば,平成27年11月20日(金 曜日)及び同月21日(土曜日)に開催された医療安全管理者養成講習会については,被告の業務命令に基づいて参加したことが認められるから,同月21日については,同講習会の開催時間である午前9時から午後3時まで時間外労働をしたものと認めた。 ウ被告の主張に対する判断 被告は,①終業時刻後の時間外労働について,タイムカード等の記録ではなく,超過勤務報告書に基づいて認定すべきである,②亡Fは本件病院内において技師会活動を行っているところ,かかる時間は実労働時間とはいえないから,休憩時間を除く所定時間内又は所定時間外に技師会活動に関する電子メールを送信する度に,実労働時間から20分を控除すべきである,と主 張する。 しかしながら,別紙3のタイムカード欄と超過勤務報告書欄の超過勤務終了時刻は必ずしも整合していないところ,超過勤務報告書記載の超過勤務の終了時刻が経過した後,本件病院に滞留する合理的理由がないことには変わりがなく,この時間について業務命令に基づいて滞留していたと認めること が相当で ないところ,超過勤務報告書記載の超過勤務の終了時刻が経過した後,本件病院に滞留する合理的理由がないことには変わりがなく,この時間について業務命令に基づいて滞留していたと認めること が相当であることは前記のとおりである。現に,亡Fは,超勤簿に記載した終業時刻以降に,本件病院の業務に関する電子メールを送信することもあったが,その際も,超過勤務報告書は超勤簿の記載の通りの終業時刻で作成されていたことが認められるのである(甲29)。したがって,被告の前記①の主張は採用できない。また,亡Fは,技師長を含む技師会会員に対して,所 定時間内に技師会活動に関する電子メールを送信するなどしており(甲1,乙4の1),その際も技師長から所定時間外に技師会活動を行うよう指示等をうけたことはうかがわれないことからすると,亡Fにおいて,技師会活動に関する業務と本件病院における業務は区別されることなく一体として行われていたと評価できる。そうすると,終業時刻後に技師会活動として電子 メールを送信していたとしても,その時間が本件病院の指揮命令に服さない 時間であったとは評価することができない。したがって,前記②の主張も採用できない。 エ時間外手当額の計算以上によれば,亡Fの時間外労働により発生する時間外手当の金額は,別紙8のとおり,合計284万7683円である。別紙1のとおり,時間外手 当の既払金は158万1915円であり,救急当番手当(これは所定休日の午前9時から午後6時までの勤務に対する固定の時間外手当として支払われていたものであるから,時間外手当の支払と認めるのが相当である。)の既払金は6万6500円であるから,これらを控除した残額119万9268円が亡Fに対する時間外手当の未払額となる。 2 第2 たものであるから,時間外手当の支払と認めるのが相当である。)の既払金は6万6500円であるから,これらを控除した残額119万9268円が亡Fに対する時間外手当の未払額となる。 2 第2事件について⑴ 認定事実前記前提事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア亡Fは,平成17年4月1日本件病院に就職し,臨床検査部において臨床 検査技師として検体検査,生理検査及び一般検査等の業務に従事した。亡Fは,平成25年4月1日,臨床検査部主任に昇進した。平成26年4月1日以降の時点で,本件病院の臨床検査部には,技師長,主任である亡Fのほか,検査技師4名,検査助手1名及び委託職員1名が在籍していたところ,平成27年4月1日から,技師長が平日の午後に事務部の管理業務等を行うこと となったため,その時間帯については,主任である亡Fが臨床検査部において事実上最も上の立場となった。また,亡Fは,技師会に所属していたが,平成25年4月から技師会の事務局長として事務を行っていた。 (甲1,2,弁論の全趣旨)イ本件病院は,新病院建設に当たり電子カルテシステムとそれに接続する臨 床検査システムを新規に導入することが予定されていたところ,亡Fは,平 成27年6月頃以降,検査部門のマスタ作成についての中心的な役割を担い,全体会議や医療システムの開発・販売を行う外部業者との打合せに出席し,外部業者らと連絡しながら電子カルテ新システムにおいて用いるデータへ数値等を入力する等の業務を行うようになった。その結果,同年6月下旬頃から,亡Fの時間外勤務が長時間となるようになった。(甲1,7の1から1 2,15,28,29,弁論の全趣旨)ウ亡Fは,平成27年11月頃,同僚職員に対 うになった。その結果,同年6月下旬頃から,亡Fの時間外勤務が長時間となるようになった。(甲1,7の1から1 2,15,28,29,弁論の全趣旨)ウ亡Fは,平成27年11月頃,同僚職員に対し,電子カルテ新システム導入に関する業務が負担になっていること,電子カルテシステムが機能しなかった場合には病院の業務に影響を与えるおそれがあることで精神的に負担に感じていることなどを訴えるようになった。また,亡Fは,同月中旬頃以 降,食欲が減り,原告Aに対して,不眠を訴えるとともに,本件病院での業務に関して問題が解決せず困っているなどと打ち明けるようになった。 同年12月頃以降,亡Fは,自宅にいる際,原告Aの話に返事をしなかったり,好きだった海外ドラマの録画データを全部消して良いなどと言ったりするようになり,目つきや顔つきにも変化が見られるようになった。原告A は,亡Fに対し,「少しだけでも本当に休んで。」と言ったが,亡Fは「休めない。休んでも仕事のことが気になるだけ。それなら仕事に行って少しでも前に進めたい」などと答えた。(甲1,15,25,原告A,弁論の全趣旨)エ平成27年12月7日,亡Fは,通常通り出勤し,午後10時5分頃退勤したが,その後,移転前の本件病院の屋上から飛び降りて,翌8日死亡した。 臨床検査室に置かれたノートには,亡Fが「せっかくまかせていただいた仕事も満足にできず,さらにご迷惑をかけ申し訳ありません。」と記載したメモが挟まっていた。(甲1,15,弁論の全趣旨)オ亡Fは,本件自殺に至るまで,精神障害等を患ったことはなく,アルコール依存等を指摘されたこともなかった。(甲1,15,原告A) カ原告Aの請求を受けた小樽労働基準監督署は,被告の亡Fに係るタイムカ ード等の記録やパ を患ったことはなく,アルコール依存等を指摘されたこともなかった。(甲1,15,原告A) カ原告Aの請求を受けた小樽労働基準監督署は,被告の亡Fに係るタイムカ ード等の記録やパソコンのログを確認し,亡Fの死亡前6か月間の各1か月の時間外労働時間は,約188時間(1か月前),約125時間(2か月前),約62時間(3か月前),約101時間(4か月前),約115時間(5か月前),約71時間(6か月前)と認定した。 北海道労働局地方労災医員協議会精神障害専門部会は,亡Fに現れた精神 障害は,ICD-10診断ガイドラインに照らし,「F32.うつ病エピソード」であり,自殺直前の平成27年12月上旬頃を発病時期と判断した上,亡Fの発病直前に概ね1か月の時間外労働が160時間を超えることが確認できることから,「特別な出来事」である極度の長時間労働に該当し,心理的負荷の総合評価は「強」となり,他方業務以外の心理的負荷は特に確認で きず,個体側要因としての既往歴やアルコール等依存状況等も特に確認できなかったとして,亡Fに発病した精神障害は,業務による心理的負荷が主要な原因となって発病したものと認められ,精神障害を発病した亡Fが,正常な認識,行動選択能力及び精神的抑制力が著しく阻害され,自殺に至ったものと推認されるとの意見書を作成した。 小樽労働基準監督署長は,これらの調査復命を受けた上,平成28年11月9日,亡Fの死亡が業務災害に該当することを前提に,遺族補償年金,遺族特別支給金等を給付する旨を決定した。(甲12,15,弁論の全趣旨)⑵ 亡Fの死亡の原因が本件病院における業務にあるか厚生労働省が策定した認定基準は,専門家である医師らが関与して策定され たものであるから,本件の判断においても参考 ,弁論の全趣旨)⑵ 亡Fの死亡の原因が本件病院における業務にあるか厚生労働省が策定した認定基準は,専門家である医師らが関与して策定され たものであるから,本件の判断においても参考になるものというべきである。 被告は,論文(乙12)を根拠に長時間労働が精神障害を引き起こすとの科学的関連性は不明である旨主張するけれども,同論文は,その関連性を認める研究が複数あるが,その研究間の比較が困難であることを言うものであって,その関連性を否定するものということはできない。 ア亡Fが精神障害に罹患したか否か 前記認定のとおり,北海道労働局地方労災医員協議会精神障害専門部会は,亡Fに平成27年12月上旬頃,「F32.うつ病エピソード」が現れた旨判断している。同判断は専門家による判断であり,前記認定事実のとおり,同年11月以降,亡Fに不眠や食欲不振,興味関心の減退をうかがわせる事実が認められるから,同判断が前提とする事実に誤認があるとも認められない。 そうすると,北海道労働局地方労災医員協議会精神障害専門部会の判断は信用することができ,亡Fが平成27年12月頃,「F32.うつ病エピソード」を発症したと認めるのが相当である。 これに対して,被告は,亡Fに精神疾患の受診歴がないことや,死亡直前まで亡Fは無遅刻・無欠勤で集中力の低下等が見られず,意欲もあり,IC D-10の「うつ病エピソード」の診断基準に亡Fの状況は当てはまらないなどと主張するけれども,精神疾患の受診歴がないことが精神障害への罹患を否定する理由にはならないし,医師でない者がICD-10へのあてはめをしても,前記専門家の判断が医学的に合理性を欠く根拠となるものではない。そうすると,被告の主張はいずれも採用できない。 イ亡Fの長時 はならないし,医師でない者がICD-10へのあてはめをしても,前記専門家の判断が医学的に合理性を欠く根拠となるものではない。そうすると,被告の主張はいずれも採用できない。 イ亡Fの長時間労働について前記認定事実によれば,小樽労働基準監督署の調査により認定された亡Fの本件病院での時間外労働による拘束時間は,精神障害発症(平成27年12月3日)から1か月前(同年11月4日)までで188時間3分に及ぶものと認められている。前記認定は,亡Fの使用していたパーソナルコンピュ ータのログや亡Fの同僚の発言,被告の業務命令によるか否か不明な研修等への参加等を前提としており,当裁判所においてその当否を判断するに足りる資料が存しない部分もあるけれども,当裁判所が認定するところによっても,亡Fが精神障害を発症する平成27年12月の直前である同年11月の時間外労働による拘束時間は別紙9のとおり概ね160時間に達している (なお,業務起因性について判断する際には,業務命令の有無ではなく,当 該労働者が現に労働のため拘束されているか否かが問題であるから,前記労働時間の算定に当たっては,タイムカード等の始業時刻を採用した。)。したがって,当裁判所も,認定基準のいう「特別の出来事」があったものと認めるのが相当である。 これに対し,被告は,前記労働時間を否認するが,被告の主張する亡Fの 労働時間は,時間外手当に関して主張するものと同一であり,前記のとおり技師会に関するメールの作成時間を控除するなど,時間外手当の計算においても採用できないから,被告の主張を採用することはできない。 ウ業務以外の心理的負荷や個体側要因の有無について前記認定のとおり,亡Fについて,その死亡までに精神疾患の存在やアル コール等の依 用できないから,被告の主張を採用することはできない。 ウ業務以外の心理的負荷や個体側要因の有無について前記認定のとおり,亡Fについて,その死亡までに精神疾患の存在やアル コール等の依存が指摘されたことはない。また,亡Fについて,業務以外の心理的負荷を認めるに足る証拠はなく,小樽労働基準監督署の調査によっても存在が認められない。 そうすると,業務以外の心理的負荷や個体側要因はなかったものと認めるのが相当である。 エ小括以上のとおり,亡Fは平成27年12月上旬に精神障害を発症したと認められるところ,その直前の時間外労働による拘束は概ね160時間に達しているものであり「特別の出来事」があったと認められる。また,亡Fの個体側要因が原因となって,前記精神障害を発症したものとは認められないから, 認定基準によれば,亡Fの自死は業務に起因して精神障害を発症したことによるものということができる。 その上,亡Fが従事していた電子カルテ新システムの導入は,本件病院全体の業務に大きく影響するものであることがうかがわれる上,そのミスは医療過誤等にも直結しかねないものであることが認められるから,その一部で ある検査部門のマスタ作成業務等を担当した亡Fの心理的負担が小さなも のであったということはできない。前記認定した亡Fの言動に照らしても,亡Fが電子カルテ新システムの導入に不安を有していたことは明らかである。 以上を勘案すると,亡Fは,本件自死に及んだ当時,本件病院における業務によって精神障害を発症し,それによって自死に至ったものと認めるのが 相当である。 被告の安全配慮義務の有無についてア使用者は,労働契約に伴い,労働者がその生命,身体等の安全を確保しつつ労働することが れによって自死に至ったものと認めるのが 相当である。 被告の安全配慮義務の有無についてア使用者は,労働契約に伴い,労働者がその生命,身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう,必要な配慮をする義務を負う(労働契約法5条参照。)。前記認定のとおり,亡Fは,平成27年11月には概ね160時 間に達する時間外労働をしていたところ,本件病院は,亡Fが加重な労働をしていたことを把握し得たにもかかわらず,同人の業務を軽減する等の対策を講じなかったから,被告において,前記安全配慮義務違反があったものと認めるのが相当である。 なお,前記認定のとおり,亡Fは,技師会の事務作業も行っており,時間 外労働時間の一部は同事務のために行われていたことが認められる。しかしながら,被告が本件病院の業務と認める限度でも,別紙6のとおり亡Fの死亡1か月前の時間外労働時間は1か月につき100時間を超えていたこと,亡Fが技師会の事務を行っていた場所は本件病院内であり,本件病院においても亡Fが同事務を行うことを把握し,かつこれを拒絶していなかったと認 められること,亡Fの本件病院への滞留時間は,タイムカード等を見ることで容易に把握することができ,被告において超過勤務報告書との食い違いを把握できていなかったことに照らせば,亡Fが,本件病院に滞留している時間に技師会の事務をも行ったことが,被告の安全配慮義務違反を否定する理由にはならないというべきである。 イ被告は,予見可能性又は結果回避可能性がないことを主張する。しかしな がら,前記のとおり,本件病院への滞留時間からうかがわれる亡Fの時間外労働の時間を,被告において把握できなかった理由は認められないところ,本件認定基準に照らせば,その時間 する。しかしな がら,前記のとおり,本件病院への滞留時間からうかがわれる亡Fの時間外労働の時間を,被告において把握できなかった理由は認められないところ,本件認定基準に照らせば,その時間外労働の時間から亡Fが何らかの精神障害を発症しかねないことは被告にとって十分具体的に認識することができたというべきであるから,被告の主張は理由がない。 過失相殺について被告は,亡Fが技師会活動を休止又は減少させなかったこと,亡Fが被告において設置したメンタルヘルス対策の相談等を利用しなかったこと,亡Fが業務を部下に割り振るなどして自らの労働時間を適切に管理しなかったこと,亡Fが仕事について完璧を期そうとする性格であったこと,原告Aが亡Fの体調 の変化を把握していながら,特段の対応を講じなかったことなどを指摘する。 しかしながら,これらが過失相殺すべき事由になるものとは認められない。 損害等ア亡Fの損害 慰謝料 2500万円 亡Fが本件病院において長時間労働に従事したことによって自死に至ったことの他一切の事情を考慮すると,自死によって亡Fが被った精神的苦痛を慰藉するのに必要な額は2500万円と定めるのが相当である。 逸失利益 6928万5198円前記認定事実によれば,亡Fの時間外労働の主な要因は電子カルテ新シ ステムの導入であり,これは常に発生する業務ではないところ,亡Fの直前の収入には相当額の残業代が含まれており,今後の得べかりし収入を算出するに当たって前提とすることは相当ではない。また,亡Fの直前の残業代を除く収入額を用いても,今後の昇給等を反映することができない。 そこで,平成27年度賃金センサス中,従業員数が100 するに当たって前提とすることは相当ではない。また,亡Fの直前の残業代を除く収入額を用いても,今後の昇給等を反映することができない。 そこで,平成27年度賃金センサス中,従業員数が1000人以上いる 企業の男性臨床検査技師の統計を用い,34歳から67歳までの年収を算 出し,算出した平均賃金(別紙10)に基づいて逸失利益を算出することとし,3割の割合による生活費控除を行い,就労可能年数を33年とするのが相当である。 (計算式)618万5212円×(1-0.3)×16.0025=6928万5198円(小数点以下切捨て) イ固有の損害 原告らの慰謝料について亡Fが死亡するに至った経緯,亡Fと原告らとの生活状況等,諸般の事情を考慮すると,亡Fの死亡による原告らの精神的苦痛を慰藉するのに必要な金額は,妻である原告Aが慰謝料200万円,子である原告B及び原 告Cが各100万円,両親である原告D及び原告Eが各50万円と認めるのが相当である。 原告D葬祭費 118万6011円(甲19) 損益相殺 ア損益相殺 前記前提事実⑸及び原告Aの供述によれば,原告Aは,遺族基礎年金及び遺族厚生年金として,515万5105円(平成28年3月から平成31年2月まで),遺族補償年金として977万5312円(平成28年12月から平成31年2月まで)の支給を受け,原告A,原告B,原告Cが 相続した亡Fの逸失利益の損害の填補に充てられたと解するのが相当である。 原告Aは,亡Fの死亡を原因として,労災保険による葬祭料123万9600円を受給しているところ,その全額が原告Aの損害から損益相殺されることに 補に充てられたと解するのが相当である。 原告Aは,亡Fの死亡を原因として,労災保険による葬祭料123万9600円を受給しているところ,その全額が原告Aの損害から損益相殺されることについては当事者間に争いがない。したがって,本件では,原告 Aが相続した亡Fの逸失利益から同額を控除するのが相当である。 イ履行猶予の抗弁について労災保険法附則64条1項は,労働者又はその遺族が障害補償年金若しくは遺族補償年金又は障害年金若しくは遺族年金(以下「年金給付」という。)を受けるべき場合であって,同一の事由について,当該労働者を使用している事業主から民法その他の法律による損害賠償を受けることができるとき については,事業主は,当該労働者又はその遺族の年金給付を受ける権利が消滅するまでの間,当該年金給付にかかる前払一時金最高限度額からその損害の発生時から当該年金給付にかかる前払一時金給付を受けるべき時までの法定利率により計算される利子相当額を控除した額の限度で,その損害賠償の履行をしないことができ,また,前記猶予がされている場合に年金給付 又は前払一時金給付の支給がなされた場合には,その価額の損害発生時点における現価の限度で,その履行猶予額が減少する旨を定める。 そうすると,被告において,損害賠償の履行が猶予される額は,遺族補償年金前払一時金の最高限度額(2066万円)から,支給決定日までの法定利息(95万4158円)を控除した1970万5842円から,本件口頭 弁論終結時までに原告Aがすでに受けた年金給付である1493万0417円(被告は,その全額について損益相殺の結果損害賠償の責めを免れている。)を差し引いた477万5425円である。 これに対して,原告A,同B及び同Cは,履行猶予額か 金給付である1493万0417円(被告は,その全額について損益相殺の結果損害賠償の責めを免れている。)を差し引いた477万5425円である。 これに対して,原告A,同B及び同Cは,履行猶予額から支給を受けた葬祭料を差し引くべきであると主張するが,独自の見解であって採用できない。 相続等以上によれば,損益相殺後の各原告の損害額及び弁護士費用は以下のとおりである。 ア原告A 損害 3805万0078円弁護士費用 380万円 イ原告B 損害 1964万4839円 弁護士費用 196万円ウ原告C 損害 1964万4839円弁護士費用 196万円エ原告D 損害 168万6011円弁護士費用 16万円 オ原告E 損害 50万円弁護士費用 5万円 3 弁済前記前提事実⑹のとおり,被告は,平成31年1月23日,原告らに対し,1億0358万8443円を支払った。前記1のとおり,未払時間外手当は119 万9268円であり,その平成27年12月22日から支払日までの遅延損害金は54万1109円である。また,前記2のとおり,第2事件原告らの損害は合計8745万5767円であり,その平成27年12月8日から支払日までの遅延損害金は1368万1436円である。そうすると,前記各元本及び各遅延損害金の合計は1億0287万7580円であって,弁済額はこれを上回るから, 前記各元本及び各遅延損害金は消滅し,残額は存在しない。 第5 結論よって,原告らの請求は理由がないからいずれも棄却することとし,訴訟費用 7580円であって,弁済額はこれを上回るから,前記各元本及び各遅延損害金は消滅し,残額は存在しない。 第5 結論 よって,原告らの請求は理由がないからいずれも棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。 札幌地方裁判所小樽支部 裁判長裁判官梶川匡志 裁判官田中結花 裁判官大木峻

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