平成18(ワ)8280 霊璽簿からの氏名抹消等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成21年2月26日 大阪地方裁判所
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判決文本文63,857 文字)

主文 第1事件原告ら及び第2事件原告の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は第1事件原告ら及び第2事件原告の負担とする。 事実 及び理由第1請求 第1事件被告らは,第1事件原告ら各自に対し,連帯して100万円及びこれに対する平成18年8月31日から各支払済みまでいずれも年5分の割合による金員を支払え。 第2事件被告らは,第2事件原告に対し,連帯して100万円及びこれに対する平成19年8月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告靖國神社は,第1事件原告ら及び第2事件原告に対し,別紙本件戦没者一覧表の各原告名欄に対応する戦没者欄記載の氏名を,霊璽簿,祭神簿及び祭神名票から抹消せよ。 第2事案の概要本件は,第1事件原告ら及び第2事件原告(以下「原告ら」という。)が,①被告靖國神社及び被告国に対し,被告靖國神社による遺族である原告らの承諾のない別紙本件戦没者一覧表記載の近親者(以下「本件戦没者」という。)の合祀行為及び合祀継続行為により,原告らの人格権が侵害され精神的苦痛を受けたとして,また,被告国による被告靖國神社に対する情報提供行為が被告靖國神社の合祀という違法行為の協力行為であり共同不法行為に当たるとして,不法行為に基づく損害賠償請求権又は国家賠償法に基づく損害賠償請求権(民法709条,719条,国家賠償法1条1項,4条)に基づき,原告一人あたり100万円の慰謝料及びこれに対する各訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,②被告靖國神社に対し,同被告によって,本件戦没者を合祀され続けており,人格権を侵害されているとして,人格権に基づく妨害排除請求権に基づき,戦没者の氏名が記載されている被告靖國神社所有の霊璽簿,祭神簿,祭神名票( 対し,同被告によって,本件戦没者を合祀され続けており,人格権を侵害されているとして,人格権に基づく妨害排除請求権に基づき,戦没者の氏名が記載されている被告靖國神社所有の霊璽簿,祭神簿,祭神名票(以下「霊璽簿等」という。)から,本件戦没者の氏名の抹消を求めている事案である。 争いのない事実等(証拠の記載のない事実については,当事者間に争いがないか,当裁判所に顕著である。)(1)当事者及び原告ら親族の合祀等ア原告ら(ア)原告A第1事件原告A(以下「原告A」という。)は,被告靖國神社において合祀されているaの子である(甲A2)。 aは,昭和19年1月10日,ニューブリテン島第79兵站病院において戦病死し,昭和26年10月9日,被告靖國神社において合祀され,その氏名は,被告靖國神社が所有・管理する霊璽簿等に記載されている(甲A1)。 (イ)原告B第1事件原告B(以下「原告B」という。)は,被告靖國神社において合祀されているbの甥である(甲B2)。 bは,昭和19年10月31日,フィリピンのコレヒドール沖で戦死し(甲B〈以下,枝番を含む。〉4),昭和32年10月17日,被告靖國神社において合祀され,その氏名は,被告靖國神社が所有・管理する霊璽簿等に記載されている(甲B6)。 (ウ)原告C第1事件原告C(以下「原告C」という。)は,被告靖國神社において合祀されているcの子である(甲C1)。 cは,昭和20年1月16日,南シナ海において戦死し,昭和29年4月17日,被告靖國神社において合祀され,その氏名は,被告靖國神社が所有・管理する霊璽簿等に記載されている(甲C8)。 (エ)原告E第1事件原告E(以下「原告E」という。)は,被告靖國神社において合祀されているeの子である。 eは,昭和15年3月27日,東京臨時第一陸軍病院に 霊璽簿等に記載されている(甲C8)。 (エ)原告E第1事件原告E(以下「原告E」という。)は,被告靖國神社において合祀されているeの子である。 eは,昭和15年3月27日,東京臨時第一陸軍病院において戦病死し,昭和17年10月14日,宗教法人たる被告靖國神社となる前の靖國神社(以下「国設靖國神社」という。)において合祀され,その氏名は,被告靖國神社が所有・管理する霊璽簿等に記載されている(甲E1,9)。 (オ)原告D第1事件原告D(以下「原告D」という。)は,被告靖國神社において合祀されているdの子である(甲D13,14)。 dは,昭和18年4月30日,d宅において戦病死し,昭和51年10月17日,被告靖國神社において合祀され,その氏名は,被告靖國神社が所有・管理する霊璽簿等に記載されている(甲D1)。 (カ)原告F第1事件原告F(以下「原告F」という。)は,被告靖國神社において合祀されているf1及びf2の妹である(甲F2)。 f2は,昭和19年12月19日,台湾沖で戦死し(甲F6の2),f1は,昭和20年5月26日ころ,ビルマ国(現在のミャンマー)トングー県において戦死した(甲F6)。 f1及びf2は,いずれも昭和33年4月21日,被告靖國神社において合祀され,両名の氏名は,いずれも被告靖國神社が所有・管理する霊璽簿等に記載されている(甲F8)。 (キ)原告G第1事件原告G(以下「原告G」という。)は,被告靖國神社において合祀されているg1の子であり,g2の弟である(甲G1)。 g2は,昭和18年9月6日,ニューギニアにおいて戦死し,g1は,昭和20年6月9日,沖縄において戦死した(甲G1,6,7)。 g1及びg2は,いずれも昭和31年4月21日,被告靖國神社において合祀され,両名の氏名は,いずれも被告靖國神社が所有・管理す ,g1は,昭和20年6月9日,沖縄において戦死した(甲G1,6,7)。 g1及びg2は,いずれも昭和31年4月21日,被告靖國神社において合祀され,両名の氏名は,いずれも被告靖國神社が所有・管理する霊璽簿等に記載されている(甲G8,9)。 (ク)原告H第1事件原告H(以下「原告H」という。)は,被告靖國神社において合祀されているhの姪である(甲H2ないし6)。 hは,昭和19年10月25日,フィリピンのレイテ島パロにおいて戦死し,昭和32年4月21日,被告靖國神社において合祀され,その氏名は,被告靖國神社が所有・管理する霊璽簿等に記載されている(甲H2,20)。 (ケ)原告J第2事件原告J(以下「原告J」という。)は,被告靖國神社において合祀されているjの子である(甲J2)。 jは,昭和20年1月22日,中華民国湖北省顎城県梁子島において戦死し,昭和32年10月17日,被告靖國神社において合祀され,その氏名は,被告靖國神社が所有・管理する霊璽簿等に記載されている(甲J5,7,9)。 イ被告靖國神社(ア)被告靖國神社の設立の経緯宗教法人令による宗教法人になる以前の靖國神社(国設靖國神社)の前身である東京招魂社は,明治2年に太政官布告により創立された。 明治天皇は,明治12年6月ころ,東京招魂社の社号を「靖國神社」と改めた。 国設靖國神社は,昭和21年9月7日,宗教法人令に基づき,単立の宗教法人となり,昭和27年8月1日,宗教法人法に基づき,東京都知事認証の単立の宗教法人登記を完了し,被告靖國神社が設立された(甲本2。以下,宗教法人化後については「被告靖國神社」という。)。 (イ)被告靖國神社の目的被告靖國神社は,その目的につき,宗教法人靖國神社規則第3条において,「明治天皇の宣らせ給うた『安國』の聖旨に基き,國事に殉ぜら 後については「被告靖國神社」という。)。 (イ)被告靖國神社の目的被告靖國神社は,その目的につき,宗教法人靖國神社規則第3条において,「明治天皇の宣らせ給うた『安國』の聖旨に基き,國事に殉ぜられた人々を奉斎し,神道の祭祀を行ひ,その神徳をひろめ,本神社を信奉する祭神の遺族その他の崇敬者(以下「崇敬者」といふ)を教化育成し,社会の福祉に寄与しその他本神社の目的を達成するための業務及び事業を行うことを目的とする」と規定している。 (2)原告らの合祀取消要求及び被告靖國神社による要求拒絶の経緯ア原告A原告Aは,昭和62年9月18日,被告靖國神社に対し,aの合祀を取り消し,同人の氏名を霊璽簿から抹消するように文書で申し入れたが,被告靖國神社は,同年10月29日ころ,これを拒絶した(甲A3)。 イ原告B原告Bは,平成17年6月24日ころ,被告靖國神社に対し,bの氏名を霊璽簿から抹消するように文書で申し入れたが,被告靖國神社は,これを拒絶した(甲B7)。 ウ原告C原告Cは,平成18年6月14日,被告靖國神社に対し,cの合祀を取り消すように文書で申し入れたが,被告靖國神社は,同月20日ころ,これを拒絶した(甲C6,7)。 エ原告E原告Eは,平成18年8月3日ころ,被告靖國神社に対し,eの合祀を- 1 -取り消し,同人の氏名を霊璽簿から抹消するように文書で申し入れたが,被告靖國神社は,同月16日ころ,これを拒絶した(甲E5,6)。 オ原告D原告Dは,平成18年7月7日,被告靖國神社に対し,dの氏名を霊璽簿等から抹消するように文書及び口頭で申し入れたが,被告靖國神社は,同月24日ころ,これを拒絶した(甲D11,12)。 カ原告F原告Fは,平成18年6月21日ころ,被告靖國神社に対し,f1及びf2の氏名を霊璽簿から抹消するように で申し入れたが,被告靖國神社は,同月24日ころ,これを拒絶した(甲D11,12)。 カ原告F原告Fは,平成18年6月21日ころ,被告靖國神社に対し,f1及びf2の氏名を霊璽簿から抹消するように文書で申し入れたが,被告靖國神社は,同月30日ころ,これを拒絶した(甲F9,10)。 キ原告G原告Gは,平成18年5月22日,被告靖國神社に対し,g1及びg2の合祀を取り消し,両名の氏名を霊璽簿から抹消するように文書で申し入れたが,被告靖國神社は,この申出に応じなかった(甲G10)。 ク原告H原告Hは,平成18年7月18日及び同月25日ころ,被告靖國神社に対し,hの合祀を取り消し,同人の霊璽簿の記載を抹消するように文書で申し入れたが,被告靖國神社は,同月28日ころ,これを拒絶した(甲H21ないし23)。 ケ原告J原告Jは,平成19年6月12日ころ,被告靖國神社に対し,jの合祀を取り消し,同人の霊璽簿の記載を抹消するように文書で申し入れたが,被告靖國神社は,同月19日ころ,これを拒絶した(甲J8,9)。 (3)合祀における被告靖國神社と遺族との関係等ア合祀時及び合祀後における被告靖國神社と合祀者の遺族の関係国設靖國神社及び被告靖國神社は,創立以来,合祀予定者の遺族の意向- 2 -を確認することなく合祀基準に該当する者を合祀する取扱いをしており,合祀した際にその遺族に対して合祀通知を送るという取扱いをしているだけであった。また,被告靖國神社は,上記合祀の通知送達後は,遺族に対し,何らの連絡も働きかけも行っていない(弁論の全趣旨)。 国設靖國神社及び被告靖國神社は,本件においても,合祀の際,原告ら等の遺族の意向を確認することはなかった。 国設靖國神社及び被告靖國神社は,合祀後において,本件戦没者の遺族である原告らに対して,何らの働きか 神社及び被告靖國神社は,本件においても,合祀の際,原告ら等の遺族の意向を確認することはなかった。 国設靖國神社及び被告靖國神社は,合祀後において,本件戦没者の遺族である原告らに対して,何らの働きかけ及び連絡をすることはなかった。 イ合祀情報の取扱い被告靖國神社は,合祀に関する情報について,合祀された戦没者の遺族からの問い合わせに対しては回答することとしているが,第三者からの問い合わせに対しては回答していないこととしているとともに,霊璽簿等を非公表とする取扱いをしている。 ウ原告らによる被告靖國神社に対する照会(ア)原告Fは,被告靖國神社に対し,f1及びf2の合祀の存否を照会したところ,被告靖國神社から平成18年7月24日ころ上記両名の合祀の事実を記載した「御祭神調査の件」と題する回答書を受け取り,上記両名の合祀の事実の存在を確認した(甲F8)。 (イ)原告Hは,平成18年5月15日,被告靖國神社に対し,hの合祀の存否を確認したところ,被告靖國神社からhの合祀の事実を告げられて初めて,hの合祀の事実の存在を認識した(甲H19)。 (ウ)原告D原告Dは,平成16年12月29日ころ,被告靖國神社に対し,dの合祀の存否を照会したところ,被告靖國神社から平成17年1月18日にdの合祀の事実を記載した「御祭神調査の件」と題する回答書を受け取り初めて,dの合祀の事実の存在を認識した(甲D1,2)。 - 3 -(4)被告靖國神社における霊璽簿等の客観的取扱い等ア各文書の取扱い(ア)霊璽簿国設靖國神社ないし被告靖國神社は,合祀するごとに霊璽簿を作成し,合祀後は当該霊璽簿を霊璽簿奉安殿において保管・管理している。 (イ)祭神簿国設靖國神社ないし被告靖國神社は,合祀するごとに祭神簿を作成し,霊璽簿の控えとして参集殿奉安庫で保管・管理 簿を作成し,合祀後は当該霊璽簿を霊璽簿奉安殿において保管・管理している。 (イ)祭神簿国設靖國神社ないし被告靖國神社は,合祀するごとに祭神簿を作成し,霊璽簿の控えとして参集殿奉安庫で保管・管理をしている。 (ウ)祭神名票国設靖國神社ないし被告靖國神社は,合祀基準に該当するかどうかについて確認するために祭神名票を作成し,合祀基準該当者の祭神名票であることを確認した後は,霊璽簿及び祭神簿の原票として取り扱い,祭神簿と同様に参集殿奉安庫で保管・管理している。 (エ)被告靖國神社は,霊璽簿,祭神簿及び祭神名票を非公開としており,また,戦没者の合祀に関する情報については,当該戦没者の遺族からの問い合わせに対しては回答するものの,第三者からの問い合わせには応じていない(甲D9,弁論の全趣旨)。 イ霊璽簿等への記載者が生存していた場合の取扱い被告靖國神社は,霊璽簿等への記載者の生存が確認された場合において,祭神簿及び祭神名票については「生存確認」と付記することがあるが,その場合でも,氏名等の記載を抹消することはなく,また,霊璽簿については一切触れることはない。 (5)被告国による戦没者の氏名等の通知等の経緯及び被告靖國神社の対応等ア終戦前の合祀の経緯被告国は,終戦前においては,国設靖國神社において,戦没者のうち合祀基準に該当する者を合祀していた。 - 4 -イ終戦後から占領終結前における合祀の経緯(ア)国設靖國神社は,昭和20年11月19日から3日間,「臨時大招魂祭」を開催し,同年9月2日以前のすべての未合祀戦没者を招魂し招魂殿に鎮斎したとして,「氏名等」不詳,柱数不明のまま一括合祀した。 (イ)陸軍省及び海軍省は,昭和20年11月30日をもって解散することとなり,陸軍省は第一復員省に,海軍省は第二復員省に改組された。 旧陸海 したとして,「氏名等」不詳,柱数不明のまま一括合祀した。 (イ)陸軍省及び海軍省は,昭和20年11月30日をもって解散することとなり,陸軍省は第一復員省に,海軍省は第二復員省に改組された。 旧陸海軍に在籍していた旧軍人軍属の人事関係資料は,旧海軍関係については第二復員省が引き継ぎ,旧陸軍関係については主として各都道府県が引き継ぎ,一部を第一復員省が引き継いだ。 第一復員次官は,昭和20年12月13日,各地方世話部,留守業務部に対し,大東亜戦争並びに満洲,支那事変に関し,同年9月2日までに死没した軍人軍属等にして国設靖國神社に合祀未済の者について,死没者本籍地方世話部において調査の上,指定の申告票を逐次第一復員次官に提出することを求める旨記載した「一復第七六号靖國神社合祀未済ノ者申告ニ関スル件通牒」を発布した(甲通1。以下,通達・文献等を引用する場合は,原文と相違していても「靖國」という文字を使用することとする。)。 なお,昭和21年6月24日,復員庁が設置され,その下に第一復員局及び第二復員局が置かれるようになり,昭和22年10月15日,第一復員局は厚生省の所属となり,第二復員局は総理庁直属となった。その後,昭和23年1月1日,第一復員局と第二復員局は併せて復員局となり,厚生省の外局となり,同年5月31日,復員局と引揚援護院が統合され厚生省の外局として引揚援護庁となった。引揚援護庁は,昭和29年4月1日,引揚援護局となり,厚生省の内局に設置されることとなり,引揚援護局は,昭和36年6月1日,援護局と改称し,平成4年7月1日,社会・援護局となるまで援護局として存続した。 - 5 -(ウ)GHQ(連合国総司令部。以下「GHQ」という。)は,昭和21年ころ,国設靖國神社ないし被告靖國神社側に対し,今後合祀祭を行うことを禁止し,遺族へ なるまで援護局として存続した。 - 5 -(ウ)GHQ(連合国総司令部。以下「GHQ」という。)は,昭和21年ころ,国設靖國神社ないし被告靖國神社側に対し,今後合祀祭を行うことを禁止し,遺族への通知も許可しないこととする旨通告した。 上記通告を受けた国設靖國神社ないし被告靖國神社は,GHQと折衝し,上記臨時大招魂祭において招魂済の昭和20年9月2日までの死没祭神について,「氏名等」を調査し判明したものから順次本殿内に祀ること(以下「霊璽奉安祭」という。)についてのみGHQから許可を得た。そして,昭和21年秋の「合祀祭」は,中止され,以後占領軍が撤退した昭和28年までは毎年,霊璽奉安祭のみが行われ,本格的な合祀祭が行われることはなかった(甲総7〈なお,甲総7号証については大部のため,以下括弧書きも併せて用いることとする。〉【141】)。 (エ)被告国は,昭和23年8月ころから同年11月ころまでの間,戦没者に関する調査や資料を被告靖國神社に引き継ぐための話合い等を行い,被告国がそれまでに所有保管していた名簿及び「靖國神社合祀資格審査方針綴」等の書類を被告靖國神社に対して引き渡すとともに,戦没者の調査については,以後は,被告靖國神社が地方世話課からの公報の写しをもとに調査確認することとなった(甲総7【140】,【151】,【161】ないし【163】)。 ウ占領終結後における合祀の経緯(ア)昭和26年9月8日,サンフランシスコ講和条約及び日米安全保障条約が調印され,両条約とも昭和27年4月28日に発効し,これによってGHQは解体された。 (イ)厚生省は,昭和31年2月2日,引揚援護局復員課長名で,各都道府県世話(援護,社会)課(部)長及び各復員連絡局,同支部長に対し,次のとおり記載された「復員第七六号今後における靖國神社合祀事務 イ)厚生省は,昭和31年2月2日,引揚援護局復員課長名で,各都道府県世話(援護,社会)課(部)長及び各復員連絡局,同支部長に対し,次のとおり記載された「復員第七六号今後における靖國神社合祀事務協力要領について」と題する通知を発した(甲通2,9の1,甲総7- 6 -【187】)。 「標記のことについて,別冊要綱(案)の線に沿うて実施することと致したく,同案についての意見を各連絡局,同支部管内毎に各局支部において取まとめ2月20日までに送付せられたい。」なお,上記要綱案のうち,「一般の要領」には,大要,次のとおり記載されていた(甲通9の2,甲総7【184】)。 「第二一般の要領四都道府県は神社の通知に基いて合祀済者一切を原簿に登録して整理する。 五都道府県は原簿につき,毎年春秋二季の合祀予定者の一定数を選考し,引揚援護局に報告する。 六引揚援護局は都道府県の報告を審査して合祀者を決定し靖國神社に通報する。 七神社は援護局の通報に基いて合祀の祭典を行いその遺族に合祀通知状を発する。 右通知状は都道府県を経由して遺族に送達する。 」(ウ)厚生省は,昭和31年2月25日,引揚援護局次長名において,各地方復員部長に対し,大要,次のとおり記載された「二次第三一号旧海軍関係靖國神社合祀事務について」と題する通知を発した(甲総7【189】)。 「復員関係官署は,靖國神社未合祀者の合祀諸事務を概ね昭和三十三年度末までに完了することを目途とし,その事務に協力することとなつたが,本件につき神社当局と打合せの結果,左記のとおり事務を取り進めることとしたので了知のうえ,しかるべく取り計らい願いたい。 記一本事務は概ね終戦前のものに準じて行う。即ち神社当局よりの次- 7 -回合祀要素(柱数その他)に基き,在籍庁にて豫定者を選衡のうえ, こととしたので了知のうえ,しかるべく取り計らい願いたい。 記一本事務は概ね終戦前のものに準じて行う。即ち神社当局よりの次- 7 -回合祀要素(柱数その他)に基き,在籍庁にて豫定者を選衡のうえ,引揚援護局に報告する。 二引揚援護局は,在籍庁の報告を審査して合祀豫定者を決定して神社に通報する。 三神社は,引揚援護局よりの通報に基いて合祀者を決定し合祀の祭典を行い,その遺族に合祀通知をする。 」(エ)厚生省は,昭和31年4月19日,引揚援護局長名で,各都道府県に対し,大要,次のとおり記載された「援発第三〇二五号靖國神社合祀事務に対する協力について」と題する通知(以下「3025号通達」という。)を発した(甲通3,10の1,甲総7【192】ないし【194】)。 「標記について,別冊『靖國神社合祀事務協力要綱』及び『昭和三十一年度における旧陸軍関係靖國神社合祀事務に協力するための都道府県事務要領』により処理されたく通知します。」なお,上記別冊「靖國神社合祀事務協力要綱」には,大要,次のとおり記載されていた。 「一(事務協力についての基本理念)復員業務関係諸機関は,法令に基くその本然の事務の限界において,かつ,なし得る限り好意的な配慮をもつて,靖國神社(以下,神社という。)合祀事務の推進に協力する。 二(事務処理の時期的基準)協力事務の処理にあたつては,今次戦争戦没者の大部の合祀が,昭和三十一年度以降,概ね,三年間に了るべきことを基準とする。 三(協力事務の内容)協力事務の主体は,戦没者の身上事項の調査に関する事務とする。 - 8 -その外,合祀通知状の遺族への交付についても,事情の許す限り神社に協力するものとする。 四(事務要領の大綱) 神社は,その合祀者決定のため,戦没者であつて一定の合祀資格条件に該当する者及び -その外,合祀通知状の遺族への交付についても,事情の許す限り神社に協力するものとする。 四(事務要領の大綱) 神社は,その合祀者決定のため,戦没者であつて一定の合祀資格条件に該当する者及びその者の身上に関する事項を,引揚援護局に照会する。 前号照会に対し,旧陸軍関係については都道府県,旧海軍関係については引揚援護局及び地方復員部がそれぞれ担当して調査し,その結果を所定のカードに記入して,これを,引揚援護局においてとりまとめ,神社に回付する。 神社は,引揚援護局より回付された戦没者のカードによつて合祀者を決定し,春秋二季に,合祀の祭典を執行する。 神社は,右の合祀の都度,合祀者名簿を引揚援護局及び都道府県に送付し又合祀通知状を都道府県に送付して,遺族への交付を依頼する。 五(事務要領の細部)引揚援護局は,神社と連絡して,前号にもとずく事務要領の細部につき,必要な事項を適時決定し,協力事務処理全般の調整を図る。 六(予算)引揚援護局及び都道府県の本事務処理の経費は,国費負担とする。 」(オ)厚生省は,昭和39年12月22日,援護局復員課長名で,都道府県民生主管部長に対し,大要,次のとおり記載された「復員第831号昭和40年度以後の旧陸軍関係戦没者の靖國神社合祀事務の協力要領について」と題する通知を発した(甲総7【290】)。 「旧陸軍関係戦没者の靖國神社合祀事務については,かねてから格別の- 9 -ご協力を願い戦没者の大部分について既に靖國神社に合祀を終わつているところであるが,最近合祀保留となつている戦没者の遺族から靖國神社に対し,合祀保留事由等の照会が多くなつており,同社としては合祀未済戦没者の氏名等を把握していない関係上,その都度厚生省に照会せねばならない状況であつて,遺族のうちには合祀の決定はあたかも厚 國神社に対し,合祀保留事由等の照会が多くなつており,同社としては合祀未済戦没者の氏名等を把握していない関係上,その都度厚生省に照会せねばならない状況であつて,遺族のうちには合祀の決定はあたかも厚生省が行つているものと誤解しているものもあるので,神社側としてはこのような誤解を一掃するためと合祀未済者の合祀を促進するため,従来保留となつていた戦没者を含め合祀未済の全戦没者の氏名,身分,死因等をなるべくすみやかに,おそくも昭和40年度中にその大部分を把握したい希望を有している。」(カ)厚生省は,昭和40年6月8日,援護局調査課長名で,各都道府県民生主管課長に対し,大要,次のとおり記載された「調査第153号旧陸軍関係戦没者の昭和40年度以後の靖國神社合祀事務に対する協力等について」と題する通知を発した(甲総7【292】)。 「旧陸軍関係戦没者の靖國神社合祀事務については,かねてから格別のご協力を願い戦没者の大部分について,すでに合祀を終つているところであるが,昭和40年度以後の合祀事務の協力については別冊『昭和40年度以後の旧陸軍関係戦没者の靖國神社合祀事務協力要領』により実施されたく通知する。 なお,昭和40年度の靖國神社合祀事務等については,下記により実施されたい。 記 靖國神社における戦没者合祀事務の取り扱いについて(1)合祀者の審査等について厚生省援護局より回付された祭神名票は靖國神社において審査し,一定の合祀資格条件に該当するものについては,これが合祀の事務- 10 -を進め,合祀資格条件に関し調査を要するものについては,厚生省援護局及び都道府県に照会するとともに神社自ら関係遺族について調査するものであること。 (3)合祀基準の拡大について合祀基準の拡大に関しては靖國神社崇敬者総代会及び同社の臨時合祀制度調査 厚生省援護局及び都道府県に照会するとともに神社自ら関係遺族について調査するものであること。 (3)合祀基準の拡大について合祀基準の拡大に関しては靖國神社崇敬者総代会及び同社の臨時合祀制度調査委員会の所掌するところであつて目下種々検討中であること。 」(キ)厚生省は,昭和46年2月2日,援護局長名で,各都道府県知事に対し,次のとおり記載のある「援発第119号旧陸軍関係戦没者身分等調査事務処理要領について」と題する通知を発した(甲通5,甲総7【319】)。 「昭和46年以降における旧陸軍関係戦没者の身分等調査事務は,別冊『旧陸軍関係戦没者身分等調査事務処理要領』により処理されたく,通知する。 なお,『靖國神社合祀事務協力について』(昭和31年4月19日援発第3025号。厚生省引揚援護局長発各都道府県知事あて通知)及びこれに関連する昭和31年4月19日から同45年8月4日までの間の靖國神社合祀事務協力に関する諸通知は,廃止する。 」なお,上記別冊「旧陸軍関係戦没者身分等調査事務処理要領」の目的欄には,「この要領は,旧陸軍関係戦没者の身分その他所要の身上事項の調査(以下「調査」という。)について団体等から厚生省援護局(主管は調査課とし,以下「援護局」という。)又は都道府県に対して依頼があつた場合において,援護局及び都道府県が調査事務を処理するため必要な事項を規定することを目的とする。」旨記載されていた。 エ被告国と被告靖國神社の会合被告国と被告靖國神社は,昭和31年1月23日,被告靖國神社等にお- 11 -いて,合祀事務等に関する打合会を開催し,その後昭和45年6月25日まで,合計21回の打合会を開催し,被告靖國神社は,その打合会について,大要,次のとおり,記録していた。 (ア)昭和32年10月4日(合祀基準に関する打合 打合会を開催し,その後昭和45年6月25日まで,合計21回の打合会を開催し,被告靖國神社は,その打合会について,大要,次のとおり,記録していた。 (ア)昭和32年10月4日(合祀基準に関する打合会(第二回)。甲総7【225】)「第一回に於ては総括的な話し合ひであつたので従来の合祀基準の範囲内にある者の合祀未済が五十萬もある現段階としては先づ事務的打合せを重ねてその五十萬の内容について整理すると共に昭和三十三年春合祀,昭和三十三年秋合祀の資料が提出された後に於ては,如何なるケースが残りその数はどうかを把握すべきである。 右の結果得たる残数の内容について更に検討し全く従来の基準外のものの資料の整理を行ふことによつてはじめて合祀基準の詮議の段階に入ることが出来るのである。 このような観点からして今回(第二回)より数回に亘つて事務を直接担当する者の談合の会を持ち度いと云ふのが主意である。」(イ)昭和33年4月9日(合祀基準に関する打合会(第四回)。甲総7【232】)戦犯者の合祀に関して,厚生省引揚援護局が「戦犯者B級以下で個別審議して差支へない程度でしかも目立たないよう合祀に入れては如何。 神社側として研究して欲しい。」と申し入れたのに対し,被告靖國神社は,「神社側としては総代会に相談して見る。その上で更に打合会を開き度い。」と応じた。 (ウ)昭和33年6月24日(合祀基準に関する打合会(第六回)。甲総7【246】厚生省引揚援護局から被告靖國神社に対し,「別紙第3項軍人軍属等の法務関係死亡者について,田島事務官より説明あり。主として実例を- 12 -挙げての説明であつて,要するに殆んどが職務上の責任を問はれて処刑され或は拘禁中病死又は自決した者であつて,合祀資格審査上甲乙を付することは困難な状況である。而して又全部を同時に合祀の - 12 -挙げての説明であつて,要するに殆んどが職務上の責任を問はれて処刑され或は拘禁中病死又は自決した者であつて,合祀資格審査上甲乙を付することは困難な状況である。而して又全部を同時に合祀の審議を行ふことも諸種の事情で適切でないことも考慮され,又全体の合祀が為に遅れては困るので,主として先づ外地で死亡した者の合祀を行ひ次に内地関係を審議することにしては如何かと思ふ。」と意見を述べたのに対し,被告靖國神社側は,「神社側としては総代等に計らねばならないから来る十月合祀予定としては間に合はないと思ふが尚死歿の状況を大別して更に資料を分類し,その資料に基いて如何なる順序に合祀手続きを行ふか,又合祀資料としての記載要領等についても研究したいと思ふ。」と答えた。 (エ)昭和33年9月12日(合祀基準に関する打合会(第七回)。甲総7【248】)厚生省引揚援護局は,被告靖國神社に対し,「要するに職務上犠牲になつた者或は事実に反した訴因或は捏造訴因によるものであつて,合祀審査上では何れがよい,何れが不適格と云ふ事は出来ないが,全部同時に合祀することには種々困難もありすることであるから先づ外地刑死者を合祀のことに目立たない範囲で諒承して欲しい。名票作製は全部出来てゐるから何時でも上申できるよう準備は完了してゐる。これは県世話課を通じると目立つのでそれ等を考慮し,目立たない方法として法務室だけで準備したものであつて遺族の現住所も全部調査が済んでゐる。 遺族団及び愛知県,山口県の各世話課で早急合祀を希望してゐる。」と申し入れたのに対し,被告靖國神社は,「神社側としては以上の説明を諒承したが合祀については役員会,総代会の機関に計らねばならぬので合祀するとしても今度(十月)の合祀には間に合ひかねると思はれるからこの点諒承願ひ度い。」と答えた。 - 神社側としては以上の説明を諒承したが合祀については役員会,総代会の機関に計らねばならぬので合祀するとしても今度(十月)の合祀には間に合ひかねると思はれるからこの点諒承願ひ度い。」と答えた。 - 13 -(オ)昭和33年10月9日(従来の合祀基準外の者について。甲総7【251】)昭和33年10月9日の打合会においては,「本件について旧陸海軍関係としてその資料を取扱ってゐる厚生省引揚援護局側では遺族よりの要望もあって今後合祀するか否かについて神社側で早急に決定して欲しいとの要請があり,その検討段階として神社機関の責任役員会での説明を希望」していたので,厚生省引揚援護局から被告靖國神社に対して説明がなされた。 (カ)昭和36年8月16日(昭和36年度における第四回合祀関係研究会記録。甲総7【274】ないし【277】)「援護局側より提示されてゐた『将来靖國神社に合祀すべきか否かについて決定すべき者』について爾来研究審議が行はれ,その中総代会の決定に基いて合祀の取運びとなつたものもあるが,保留となつてゐるものについて昭和三十六年度内において現在迄三回の研究会を開催し一應の検討がなされたので,これ等の経過を当初のものから取纏め『終戦後における合祀審議の状況』を作製,これに基いて経過説明を行ひ,これが取扱い方について現段階における最終的決定を行はんとするものである。」(キ)昭和40年12月8日(合祀事務に関する打合会記録。甲総7【298】)昭和40年12月8日の打合会において,「1、合祀事務の最終段階における基本的処理方法について」が議題とされ,検討の結果,「1、各隊保有の資料中未合祀者のすべてを名票として全部を神社に提出する。 その方法については既に昭和四十年六月八日附調査第一五三号を以て示してあるが更に本日の打合せ事項を再検討 とされ,検討の結果,「1、各隊保有の資料中未合祀者のすべてを名票として全部を神社に提出する。 その方法については既に昭和四十年六月八日附調査第一五三号を以て示してあるが更に本日の打合せ事項を再検討した上で更に具体的な方法を示すこととする。旧海軍関係も右に做う。神社は右資料を受けて最終決- 14 -定を行う。」こととなった。 オ被告靖國神社の対応等(ア)被告靖國神社の積極的調査活動被告靖國神社は,昭和26年ころ,福井県敦賀市の者から学徒動員による死没者の永代神楽の申出を受け,死没者名簿を調査したが見当たらず,地方世話課に対してその旨問い合わせたところ,一般戦災死者として取り扱っているとの回答を得たので,引揚援護庁に対し,学徒動員による戦没者の合祀手続に関する協力を依頼した(甲総7【166】)。 (イ)合祀基準の追加被告靖國神社は,昭和28年9月21日,従来戦病として取り扱っていなかった脳溢血,心臓麻痺,狭心症,胃潰瘍,胃癌等による病死について,被告靖國神社の判断により合祀として取り扱うことを決定し,同月25日には,陸海軍軍属について,軍人の合祀詮議標準を適用することを決定した(甲総7【178】【179】)。 (ウ)被告靖國神社の国会における発言被告靖國神社の池田良八宮司は,昭和30年7月23日の第22回国会衆議院海外同胞引揚及び遺家族援護に関する調査特別委員会において,合祀関係の調査に関して,「終戦から1年くらいの間に,各復員局にございました戦没者の方々の資料を全部神社にいただいておりますので,その資料を整備いたしまして,仕事を遂行しています。しかし,これは終戦のああいうときでありますから,その資料が不完全であります。それで,いよいよ決定をいたしまして御霊璽簿を謹製申し上げるという段になりますと,不安なところがありますか 行しています。しかし,これは終戦のああいうときでありますから,その資料が不完全であります。それで,いよいよ決定をいたしまして御霊璽簿を謹製申し上げるという段になりますと,不安なところがありますから,これを各府県の世話課にお願いいたしまして,もう一度それを調査していただくということにしております。それから,海軍の方は地方の復員局にお願いいたしまして,さらにそれを調査し,そして正しいものを最後に決定するということで- 15 -やっております。」と発言した(丙10)。 (エ)被告国に頼らない合祀の存在被告靖國神社は,厚生省が把握できていなかった対馬丸の遭難者及び外務省の職員の死亡者等について合祀していた(丙24)。 カ被告靖國神社による合祀者数の推移被告靖國神社における先の大戦に関する合祀者数は,次のとおりである(丙23)。 (ア)昭和21年4月29日2万5841人(イ)昭和22年4月21日5万7137人(ウ)昭和23年5月5日4万6766人(エ)昭和24年10月17日2万9179人(オ)昭和25年10月17日11万8697人(カ)昭和26年10月9日6万3738人(キ)昭和27年10月9日1万2374人(ク)昭和28年10月6日1万3624人(ケ)昭和29年4月17日3万3579人(コ)昭和29年10月17日23万6142人(サ)昭和30年4月21日9万9003人(シ)昭和30年10月17日9万6897人(ス)昭和31年4月21日9万3677人(セ)昭和31年10月17日11万2609人(ソ)昭和32年4月21日21万2760人(タ)昭和32年10月17日25万5807人(チ)昭和33年4月21日11万7868人(ツ)昭和33年10月17日9万7 1万2609人(ソ)昭和32年4月21日21万2760人(タ)昭和32年10月17日25万5807人(チ)昭和33年4月21日11万7868人(ツ)昭和33年10月17日9万7745人(6)被告国による被告靖國神社以外の団体に対する情報提供行為- 16 -被告国は,次のとおり,被告靖國神社以外の団体が名簿等を作成するに際して,戦没者等の情報を提供した。 ア浴恩会名簿(昭和35年10月調。丙13)イ海軍時代の思い出(再録)(昭和39年10月発行。第64期級会。丙14)ウ海軍兵学校選修学生卒業者名簿(昭和43年2月発行。丙15)エ陸軍士官学校(昭和44年9月発行。丙16)オ日本陸海軍の制度・組織・人事(昭和46年3月発行。日本近代史料研究会編。丙17)カ戦没船員の碑(昭和48年5月発行。財団法人戦没船員の碑建立会発行。 丙18)キ歩兵第七十一連隊史(昭和52年3月発行。丙19)ク支那駐屯歩兵第二連隊誌(昭和52年6月発行。丙20)ケ明野陸軍飛行学校の歴史と飛行二〇〇戦隊戦史(昭和54年10月発行。 丙21)コ会員名簿(海軍兵科第四期予備学生会・海軍一誠会)(昭和57年版。 丙22) 争点 (1)法律上の争訟性の存否(2)原告らの人格権及び原告らの法的利益の侵害の存否等(3)被告国がeについて国設靖國神社に合祀したことの違法性の存否(4)政教分離原則違反による被告国の違法性の存否(5)除斥期間の経過による権利消滅の有無(6)原告らの精神的苦痛,損害額等 争点に対する当事者の主張(1)争点(1)(法律上の争訟性の存否)について- 17 -【被告靖國神社の主張】ア教義の当否の判断(ア)被告靖國神社における合祀手続においては,霊璽簿等が不可欠であり,また,祭神名票 (1)争点(1)(法律上の争訟性の存否)について- 17 -【被告靖國神社の主張】ア教義の当否の判断(ア)被告靖國神社における合祀手続においては,霊璽簿等が不可欠であり,また,祭神名票の作成・確認,祭神簿の調整及び霊璽簿の謹製は,合祀という極めて重要な宗教行為の一部をなすものであるから,霊璽簿等を合祀と切り離した単なる書類と取り扱うことはできない。 また,被告靖國神社が誰を霊璽簿等に記載するのかという問題は,被告靖國神社における合祀基準をどのように設定するかと表裏をなす問題であって,被告靖國神社の宗教上の教義に関する問題である。 そして,被告靖國神社が合祀に際し遺族の承諾を求めるかどうかの問題についても,被告靖國神社における合祀基準をどのように設定するかに関係する問題の一つであり,被告靖國神社の宗教上の教義に関する問題であるところ,被告靖國神社においては,創立以来,遺族の意向とは別に合祀基準に該当する戦没者を合祀してきている。 (イ)そうだとすれば,合祀についての遺族の承諾の要否を巡る紛争は,被告靖國神社の宗教上の教義の当否の問題であり,裁判所法3条の法律上の争訟には該当せず,原告らの被告靖國神社に対する請求は却下されるべきである。 イ本件訴訟の実体浄土真宗が阿弥陀仏に帰依し神祇不拝を唱える宗派であり,カトリック教が一神教であることは周知の事実であるところ,原告A,原告B及び原告Cは浄土真宗の僧侶であり,原告Dはカトリック教の司祭である。 そして,原告らは,本件訴訟において,「原告らの肉親である戦没者は,自身の意思も信仰も遺族である原告らの意思も信仰もまったく無視されたまま,神道に基づく上記のような荘重な合祀祭によって一方的に『国事殉難者』として祭神に祀りあげられ,そのことの結果として,参列した遺族- 18 -はもち ある原告らの意思も信仰もまったく無視されたまま,神道に基づく上記のような荘重な合祀祭によって一方的に『国事殉難者』として祭神に祀りあげられ,そのことの結果として,参列した遺族- 18 -はもちろん,参列しなかった遺族を含む社会一般に向けて,『殉国精神の宣揚普及』がなされたのである」,「原告らは,このような事態を終わらせるために,合祀取消を請求した」と主張し,被告靖國神社の教義や合祀を批判する主張を長々と行っている。 以上によれば,本件訴訟の実体は,他の宗教団体に所属する宗教者である原告らの一部が被告靖國神社の宗教上の教義に対して異議を述べて,その判断を裁判所に求めるものであるとともに,原告らが被告靖國神社の教義に異議を述べて,教義内容の当否に関する実質的な判断を裁判所に求めているものであるから,原告らと被告靖國神社との間の紛争は,裁判所法3条の法律上の争訟には該当せず,原告らの被告靖國神社に対する請求は却下されるべきである。 ウ合祀取消しと本件訴訟の関係原告らが霊璽簿等を単なる書類と考えているのであれば,そこに記載されている本件戦没者の氏名を抹消したとしても,原告らの苦痛が癒されることはないはずであり,霊璽簿等を被告靖國神社における合祀と一体となった宗教行為の一部をなすものであるという位置づけがなされて初めて,霊璽簿等からの本件戦没者の氏名の抹消により原告らの苦痛が癒されるという関係に立つはずである。 また,原告らが本件訴訟において,「被告靖國神社が,上記社憲や『御祭文』に示されたような教義を変更する可能性がない限り,原告らの権利が回復されるためには,被告靖國神社による合祀の取り止めが必要不可欠である」と主張していることからすると,原告らが,霊璽簿等からの本件戦没者の氏名の抹消の形をとった合祀の取消しを請求し,合祀の取消請求 復されるためには,被告靖國神社による合祀の取り止めが必要不可欠である」と主張していることからすると,原告らが,霊璽簿等からの本件戦没者の氏名の抹消の形をとった合祀の取消しを請求し,合祀の取消請求の形をとった被告靖國神社の教義の変更を請求していることは明らかであって,原告らは,法律上の争訟性を肯定するために,あえて実体と異なる主張をしているにすぎない。 - 19 -エ小括以上のとおりであって,原告らの被告靖國神社に対する訴えは,法律上の争訟性を有しておらず,不適法な訴えであるから,直ちに却下すべきである。 【原告らの主張】ア教義の当否の判断本件訴訟における被告靖國神社に対する請求の訴訟物は,不法行為に基づく慰謝料請求権等であるところ,違法行為及びこれと因果関係のある損害の発生等が要件事実であって,被告靖國神社が遺族の承諾なく,かつ,明確な遺族の拒絶にもかかわらず合祀を継続していることが「教義として妥当かどうか」については,要件事実の判断に当たって検討する必要がない。 すなわち,原告らは,被告靖國神社の教義を問題にしているのではなく,被告靖國神社が本件戦没者を一方的に合祀するという外部的行為によって,原告らに対して精神的苦痛を与え続けていることを問題にしているにすぎない。 よって,請求原因を判断するに当たって,被告靖國神社の教義内容等に関して,一般的なその妥当性等の判断は必要ではないのであるから,本件訴訟は,裁判所法3条にいう法律上の争訟性を有しており適法である。 イ本件訴訟の実体原告らは,本件訴訟において,各原告らがその侵害された権利ないし利益を個別的にかつ真剣に主張し,立証しているのであって,本件訴訟の実体が,他の宗教団体に所属する宗教者である原告らの一部が被告靖國神社の宗教上の教義に対して異議を述べて,その判断を裁判 権利ないし利益を個別的にかつ真剣に主張し,立証しているのであって,本件訴訟の実体が,他の宗教団体に所属する宗教者である原告らの一部が被告靖國神社の宗教上の教義に対して異議を述べて,その判断を裁判所に求めるものであるということはない。 ウ合祀取消しと本件訴訟の関係- 20 -原告らは,本件訴訟において,度々合祀取消しという用語を使用しているが,これは,被告靖國神社が合祀を完全に元に戻して原告らを安心させてほしいとの原告らの強い希望の表現である。 もっとも,かかる原告らの希望は希望として,原告らは,本件訴訟において,裁判所の手を借りて被告靖國神社に宗教的儀式をせよとまでは求めておらず,民事訴訟であることをわきまえ,裁判所が命じることができる行為としての霊璽簿等からの氏名抹消のみを対象としており,希望と請求内容は区別している。 エ小括以上のとおりであって,原告らの被告靖國神社に対する訴えは,何ら法律上の争訟性を欠いておらず,適法である。 (2)争点(2)(原告らの人格権及び原告らの法的利益の侵害の存否等)について【原告らの主張】ア敬愛追慕の情を基軸とした人格権(ア)人は,社会生活の中で自らの生存の意義を見出し,自身についての現在及び将来のイメージを形成し,そうして見出した意義・形成したイメージ(以下「自己イメージ」という。)が,自己以外の他者に承認されて初めて,充足された意味のある生活を送ることができるところ,充足された意味のある生活を送ること自体が,人間の人格及び人格的生存に不可欠であるということができる。 したがって,「自己イメージに対して脅威となる不当な評価・規定」が他者からなされ,それが流布された場合には,それは個人の人格的生存を脅かすものとなり得るから,「自身の意に反する不当な評価・規定」をされないという権利 イメージに対して脅威となる不当な評価・規定」が他者からなされ,それが流布された場合には,それは個人の人格的生存を脅かすものとなり得るから,「自身の意に反する不当な評価・規定」をされないという権利は,人格権として保護されるものである。 (イ)そして,自身に対する直接的で不当な評価・規定がなされないこと- 21 -が,人格的生存に不可欠のこととして保護されるのと同様に,家族的人格的な紐帯の中で,自身と人格的一体性を感得し得る者(例えば近親者)について見い出した意義,形成したイメージもまた,必然的に自身の人格的生存に不可欠なものとして,それに対する不当な侵害から保護されなければならない。 なぜなら,個人は自己の人格を形成するに当たって,必然的に近親者等の言動,人格により影響を受けているからであり,近親者等について自分なりに見い出した意義,形成したイメージが,自身の人格形成,人格的生存に不可欠だからである。 そうであれば,近親者等に対して「自身が見い出した意義,形成したイメージに反する不当な評価」がなされ,それが流布された場合,それは必然的に自身に対して直接不当な評価がされたと同じように個人の人格的生存が脅かされ,個人の人格権が侵害されることとなる。このような場合が,人格権の一内容である敬愛追慕の情に対する侵害である。故人の名誉やプライバシーが侵害された場合に,遺族の敬愛追慕の情の侵害を認めて損害賠償を命じる判例は,その一形態である。 したがって,近親者等に対する敬愛追慕の情は,近親者等について見い出した意義,形成したイメージ及びそこから生じる自身についての生存の意義,自己イメージと不可分一体のものであり,個人の人格的生存に不可欠のものといえ,かかる感情は,人格権の一内容を構成するものとして,憲法上ないし私法上の保護を受けるべきものであ 身についての生存の意義,自己イメージと不可分一体のものであり,個人の人格的生存に不可欠のものといえ,かかる感情は,人格権の一内容を構成するものとして,憲法上ないし私法上の保護を受けるべきものである。 (ウ)敬愛追慕の情に関する裁判例等の存在平成18年6月23日最高裁第二小法廷判決(判例時報1940号122頁。以下「平成18年最高裁判決」という。)における裁判官滝井繁雄の補足意見(以下「滝井補足意見」という。)は,個人を追悼し,あるいは祀る場面における敬愛追慕の情について,法的権利性があるこ- 22 -とを指摘しており,いわゆる「落日燃ゆ」事件一審判決(東京地裁昭和52年7月19日判例時報857号65頁)及び同事件高裁判決(東京高裁昭和54年3月14日判例時報918号21頁)も「遺族の有する故人に対する敬愛追慕の情」が不法行為法上の保護法益となることを明言している。また,大阪地方裁判所平成元年12月27日付判決(判例時報1341号53頁)及び那覇地方裁判所昭和58年3月2日付判決(判例時報1082号120頁)も敬愛,追慕の情等の人格的利益を認めている。 (エ)以上のとおりであって,近親者等に対する敬愛追慕の感情は,人格権の一内容を構成するものとして,憲法上ないし私法上の保護を受けるべきものであるといえ,「家族的人格的な紐帯の中で,本件戦没者を敬愛追慕する人格権」(以下「敬愛追慕の情を基軸とした人格権」という。)は,人格権として保護されるものであり,当然に被侵害利益となるということができる。 イ被告らによる侵害行為等(ア)被告靖國神社被告靖國神社は,原告ら遺族の同意もなく本件戦没者(ただし,eを除く。)の合祀を行い,また,原告らの合祀取消請求を拒否した上で,本件戦没者の合祀を継続していることによって,原告らの敬愛追慕 靖國神社被告靖國神社は,原告ら遺族の同意もなく本件戦没者(ただし,eを除く。)の合祀を行い,また,原告らの合祀取消請求を拒否した上で,本件戦没者の合祀を継続していることによって,原告らの敬愛追慕の情を基軸とした人格権を侵害している。 (イ)被告国a国家賠償法による責任を負う国と民法による責任を負う私人は,民法719条の共同不法行為責任を負う場合があると解されている。 b被告国の関与について(a)終戦までの合祀手続国設靖國神社は,終戦まで一貫して軍が関与する被告国の神社で- 23 -あり,明治20年からは陸軍省と海軍省の所管となり,陸軍省庶務課が所掌していた。 そして,合祀は,天皇から「国事殉難者」と判定された者に与えられる一方的な恩典であったから,事前又は事後に,遺族や関係者の意思を確認することは全く問題にされなかった。 (b)終戦後から被告靖國神社が成立するまでの時期における被告国の関与等GHQが神道指令を発し,国家と神社神道の分離を命じた後も,被告国は,国設靖國神社による合祀を止める意思は全くなく,合祀を継続するため,旧陸軍と旧海軍において合祀のための業務に従事していた人材をそれぞれ第一復員省及び第二復員省に転属させ,合祀のための業務を継続した。 具体的には,第一復員省は,発足直後の昭和20年12月13日付けで,「一復第七六号靖國神社合祀未済の者申告に関する件通牒」を出し,各地方世話部,留守業務部,復員連絡局,復員監部,第二復員省に対し,合祀未済の者の氏名,階級,所属部隊,死没年月日,戦死・戦病死等の死亡原因・区別,死没場所,死没時本籍地,及び遺族の氏名,続柄・所在を調査し,これを「靖國神社未合祀者申告票」に記入して,第一復員省に提出するよう指示した。 (c)被告靖國神社の成立後の時期における被告国の関与等 死没場所,死没時本籍地,及び遺族の氏名,続柄・所在を調査し,これを「靖國神社未合祀者申告票」に記入して,第一復員省に提出するよう指示した。 (c)被告靖國神社の成立後の時期における被告国の関与等昭和21年2月2日施行の改正宗教法人令により,国設靖國神社が法的に被告国から分離された後も,上記通牒は廃止されることはなく,被告国は,調査と申告票の提出を続けさせ,地方から提出された申告票を被告靖國神社へ提供した。 その後,GHQが昭和21年秋以降の合祀祭を禁止したことがきっかけとなり,被告国は,未合祀者の「氏名等」の調査と提出され- 24 -た申告票の提供を昭和23年11月をもって中止した。そして被告国は,その機会に,被告靖國神社に対し,被告国が保存管理していた合祀関係の重要書類を引き渡すとともに,地方に指示していた未合祀者の「氏名等」調査と「靖國神社未合祀者申告票」作成事務を引き継がせた。 しかし,被告国は,なお上記通牒を廃止することなく,地方で発令された死亡公報をとりまとめ,被告靖國神社に回付して未合祀者を通知する等の形で,合祀のための支援・協力を続けた。 (d)占領終結から「3025号通達」発令前の時期における被告国の関与等昭和26年9月8日,サンフランシスコ講和条約と日米安全保障条約が調印され,両条約とも昭和27年4月28日に発効した。これによって,GHQは解体,占領軍としての連合国軍は撤退した。 こうした社会情勢の変化を背景に,国会では,占領終結を目前にした昭和27年冒頭から,堰を切ったように,靖國神社合祀や遺族への合祀通知の推進を政府に迫る議員の発言が相次ぎ,被告国側の委員・大臣の姿勢としても,新憲法の政教分離規定による制限を一応口にしながらも,本音では議員の発言に呼応する姿勢が際立っていた。 (e)「3025号通達 を政府に迫る議員の発言が相次ぎ,被告国側の委員・大臣の姿勢としても,新憲法の政教分離規定による制限を一応口にしながらも,本音では議員の発言に呼応する姿勢が際立っていた。 (e)「3025号通達」による被告国の合祀推進被告国は,昭和31年4月19日,3025号通達を発し,各都道府県に対し,概ね3年間で靖國神社合祀を完了するべく,「法令に基づくその本然の事務の限界において,かつ,なし得る限り好意的な配慮をもって,靖國神社合祀事務の推進に協力する。」よう指示した。 3025号通達及びその後3年間に発令した一連の通達によって,- 25 -被告国が作り上げた合祀推進体制(以下「3025号通達体制」という。)における被告靖國神社の役割は,「各回合祀者の最終決定,祭神簿・霊璽簿の調整(作成・記入),合祀祭執行,合祀者名簿・合祀通知状の都道府県送付」に限られていたのに対し,被告国側の役割は,①祭神名票の印刷・支給(引揚援護局),②原簿の作成,合祀者の選考・祭神名票への記入(旧陸軍関係は都道府県,旧海軍関係は引揚援護局及び地方復員部),③毎年春秋の合祀予定数の決定,これに見合う記入済祭神名票の取りまとめ・被告靖國神社への回付(引揚援護局),④合祀通知状の遺族への交付(都道府県),⑤予算(本事務処理の経費は,国費負担)であり,合祀に至るまでの事務(合祀事務)の全般に及び,かつ,その事務処理費用を国費で全額負担するという広範なものであった。 そして,3025号通達は,上記役割分担の要として,都道府県が「合祀予定者を選考」すると定め,その死亡時期と身分及び死亡事由についての「選考基準」を指示することとし,具体的には,死亡時期についての条件は,「昭和20年9月3日より,同26年5月31日までの間に,外地において死亡したもの」(敗戦直後の臨 と身分及び死亡事由についての「選考基準」を指示することとし,具体的には,死亡時期についての条件は,「昭和20年9月3日より,同26年5月31日までの間に,外地において死亡したもの」(敗戦直後の臨時大招魂祭以後に,「氏名等」不詳のまま数回にわたり招魂された者)とし,身分及び死亡事由についての条件は,「軍人,軍属であって,援護法又は恩給法の既裁定者(但し,援護法第4条第2項及び同附則第20項該当者を除く)」という基準を指示した。 また,3025号通達体制において,被告国は,被告靖國神社との間における緊密な連携を構築・維持・主導するために,被告靖國神社の社務所等で度々打合会・研究会を持った。その打合会等主題は,当初は合祀推進体制をどう組むか,その役割分担に関することであったが,その問題が決着した後は合祀基準の拡大が集中的に協- 26 -議され,いつ・どのような対象者を合祀者に加えていくかが慎重に検討された。そして,被告国は,当面の合祀基準を「軍人,軍属であって,援護法又は恩給法の既裁定者」という簡明なものとし,これによって実質的には,終戦前の合祀基準によった場合とほぼ同様の対象を選考し,まずその合祀を軌道に乗せることを提案し,被告靖國神社と合意した。 以上のことから,戦後の被告靖國神社の合祀が被告国の主導で行われてきたことは明らかである。 c共同不法行為について(a)eについて本件戦没者のうちeについては,被告国自身が終戦前にその一部であった国設靖國神社に合祀し,終戦後被告靖國神社を分離した後もそのまま合祀状態を承継させ合祀から解放することなく,被告靖國神社においてもこれを承継したものであるから,eの現在も続いている合祀状態は被告国と被告靖國神社の民法719条1項前段にいう共同行為によるものであることは疑う余地がない。 (b ることなく,被告靖國神社においてもこれを承継したものであるから,eの現在も続いている合祀状態は被告国と被告靖國神社の民法719条1項前段にいう共同行為によるものであることは疑う余地がない。 (b)eを除く本件戦没者については,合祀及び合祀継続という加害行為の行為者は被告靖國神社といわなければならないが,合祀を推進する意図で,被告国と被告靖國神社の緊密な連絡・協議の下に行われた被告国からの被告靖國神社に対する通知は,被告靖國神社による合祀そのもの及び合祀取消請求後の合祀継続の,共謀による共同行為と評価することができる。 また,民法719条2項は,「行為者を教唆した者及び幇助した者は,共同行為者とみなして,前項の規定を適用する。」と規定しており,直接の加害行為を担当しない者であっても,共同行為者とみなされることは明らかであるところ,被告国は,被告靖國神社に- 27 -対して,上記のとおり,戦没者に関する情報を提供しており,少なくとも重要な幇助者として共同行為者としてみなされるというべきである。 ウ被告らの主張に対する反論(ア)宗教的人格権について判例(最高裁昭和63年6月1日大法廷判決・民集42巻5号277頁。以下「昭和63年大法廷判決」という。)における「静謐な宗教的環境の下で信仰生活を送るべき利益」と本件訴訟における「敬愛追慕の情を基軸とした人格権」の間には,次のとおり,大きな相違があり,本件には,昭和63年大法廷判決の射程は及ばない。 a昭和63年大法廷判決が判断した「静謐な宗教的環境の下で信仰生活を送るべき利益」とは,信仰生活という個々人の生活において実現される権利であり,個人のみにかかわる事項であるから,万人が享受し得るものであるのに対し,敬愛追慕の情を基軸とした人格権は,敬愛追慕の対象は常に他者であるから,他 生活という個々人の生活において実現される権利であり,個人のみにかかわる事項であるから,万人が享受し得るものであるのに対し,敬愛追慕の情を基軸とした人格権は,敬愛追慕の対象は常に他者であるから,他者との関係において発生する権利であり,万人に対して認められる権利ではなく,当該他者と深い関係性を有していた者,すなわち家族的人格的紐帯に結ばれていた者のみが享受し得る権利である。 b「静謐な宗教的環境の下で信仰生活を送るべき利益」は,信仰生活という,個人の信教の自由がかかわる場面でのみ考慮されるものであるのに対し,敬愛追慕の情を基軸とした人格権は,特に信教の自由とは関係せず,専ら故人との間の関係性(遺族が故人を敬愛追慕するという関係性)の中でのみ発生する権利である。 c昭和63年大法廷判決が問題としたのは,宗教的人格権の主張の背後に控えた信教の自由であり,民法上の権利としての宗教的人格権の主張を,実質的に憲法上の信教の自由の主張ととらえ,それならば他- 28 -の宗教との間で「寛容」が要請されるとの論理で,信教の自由から派生する「静謐な宗教的環境の下で信仰生活を送るべき利益」は人格権として認められないとしたのである。 これに対し,敬愛追慕の情を基軸とした人格権は,特に宗教的側面を必然的に有するものではないから,昭和63年大法廷判決の論旨からしても,そもそも「寛容」を要求される権利ではない。 (イ)被告靖國神社の信教の自由についてa同じ私人であっても,国家と一定の関係を有する私人・私法人とそうでない一個人の人権の衝突が問題になる場合,とりわけ国家性・公共性を強く主張される戦没者等国事殉難者の合祀という宗教的行為の自由と一個人の追慕・慰霊という宗教的行為の自由の衝突が問題になる場合は,人権保障の本来的な趣旨にさかのぼり,前者の宗教的行 国家性・公共性を強く主張される戦没者等国事殉難者の合祀という宗教的行為の自由と一個人の追慕・慰霊という宗教的行為の自由の衝突が問題になる場合は,人権保障の本来的な趣旨にさかのぼり,前者の宗教的行為の自由は一定程度制約せざるを得ないと解すべきである。 そして,被告靖國神社は,国家神道の中心的神社として,戦没者合祀という宗教的行為をすることによって国民意識を戦争へと統合する役割を果たし,民間の宗教法人となった終戦後においても,その基本的性格を変えていないのであるから,被告靖國神社の宗教的行為の自由は一定程度制約を受けざるを得ないものである。 b個人の尊重・尊厳は,法秩序を貫く原理であることからすると,信教の自由についてもかかる事情を踏まえる必要があるので,宗教に関してもまず個人の問題として考えるべきである。 また,政教分離原則も,宗教を公的な存在から個人の私的事項にすることを意味するから,宗教の個人主義化をもたらすものであって,宗教に関しては個人の自由がまず認められるべきである。 そして,憲法は,まず,個人の集会・結社の自由を認め,その延長上に団体・組織の自由を認めていると解せられ,団体・組織が本来的- 29 -に自由を持つものとは考えていないところ,信教の自由も,本来的には個人に認められるのであり,その延長上に団体・組織の信教の自由も認められるのであって,団体・組織にも信教の自由が保障されるが,個人のそれに優越するものと解せられるべきではない。 したがって,団体・組織である被告靖國神社の信教の自由が,原告らの信教の自由に優越するものと解せられるべきではない。 c被告靖國神社が主張している「信教の自由」は,「信教の自由」に含まれるとされる「宗教行為の自由」であるところ,内心の事象である「信仰の自由」が絶対的保護の対象となるのに対し, れるべきではない。 c被告靖國神社が主張している「信教の自由」は,「信教の自由」に含まれるとされる「宗教行為の自由」であるところ,内心の事象である「信仰の自由」が絶対的保護の対象となるのに対し,宗教行為の自由は,外部的に表現されるものである以上,他者との権利衝突が生じる場面は避けられず,その場合には当然,他者の権利との間での調整が必要になってくるのであって,被告靖國神社が法人として宗教行為の自由を有するとしても,何らの制約もなしに権利行使が許されるものではない。 本件において,原告らの主張が認められれば,確かに,被告靖國神社の「すべての国事殉難者を合祀する」という方針に基づく外部的行為が一部制約されることになるが,被告靖國神社の教義そのものの変更を迫られるわけではないし,合祀という宗教行為の全体が不可能になるというわけでもない。 他方,原告らは,本件戦没者の合祀の取消しに応じてもらえれば,自身の人格的生存が脅かされるほどの重大な侵害から解放されるのである。 被告靖國神社の宗教行為の自由と,原告らの敬愛追慕の情を基軸とした人格権との間の権利調整としては,遺族らの明示の合祀取消請求を基準として,それがあったときには霊璽簿等から氏名等を抹消するということにすれば良いだけである。 - 30 -エ小活以上のとおりであって,被告国及び被告靖國神社は,共同して,原告らの敬愛追慕を基軸とする人格権を侵害しているということができる。 【被告靖國神社の主張】ア敬愛追慕の情を基軸とした人格権に対する反論等(ア)法的利益の不存在a原告らの主張する権利は,昭和63年大法廷判決において法的利益性を否定された宗教的人格権と同一の内容のものであることは明らかである。 すなわち,本件訴訟は,近親者の合祀に異議を唱える原告らの人格権と被告靖國神社の信 利は,昭和63年大法廷判決において法的利益性を否定された宗教的人格権と同一の内容のものであることは明らかである。 すなわち,本件訴訟は,近親者の合祀に異議を唱える原告らの人格権と被告靖國神社の信教の自由・宗教行為の自由との対立の問題であって,その関係は,殉職自衛官の妻が原告となり,山口県護国神社が当該殉職自衛官を合祀したことによって法的利益の侵害を受けたと主張した昭和63年大法廷判決の事案と同じであるところ,その判断は,「人が自己の信仰生活の静謐を他者の宗教上の行為によって害されたとし,そのことに不快の感情を持ち,そのようなことがないよう望むことのあるのは,その心情として当然であるとしても,かかる宗教上の感情を被侵害利益として,直ちに損害賠償を請求し,又は差止めを請求するなどの法的救済を求めることができるとするならば,かえって相手方の信教の自由を妨げる結果となるに至ることは,見易いところである。信教の自由の保障は,何人も自己の信仰と相容れない信仰をもつ者の信仰に基づく行為に対して,それが強制や不利益の付与を伴うことにより自己の信教の自由を妨害するものでない限り寛容であることを要請しているものというべきである。このことは死去した配偶者の追慕,慰霊等に関する場合においても同様である。何人かをその信仰の対象とし,あるいは自己の信仰する宗教により何人かを追慕- 31 -し,その魂の安らぎを求めるなどの宗教的行為をする自由は,誰にでも保障されているからである。原審が宗教上の人格権であるとする静謐な宗教的環境の下で信仰生活を送るべき利益なるものは,これを直ちに法的利益として認めることができない性質のものである。」というものであって,まさに原告らと被告靖國神社との間の本件訴訟に適用されるものである。 したがって,原告らの主張する敬愛追慕の ,これを直ちに法的利益として認めることができない性質のものである。」というものであって,まさに原告らと被告靖國神社との間の本件訴訟に適用されるものである。 したがって,原告らの主張する敬愛追慕の情を基軸とした人格権には,法的利益性は存在しない。 bまた,昭和63年大法廷判決における裁判官長島敦の補足意見(以下「長島補足意見」という。)は,「憲法は,その宗教の我が国における歴史的沿革や信者の多少にかかわらず,どのような宗教に対しても,またどのような宗教を信ずる者に対しても平等に信教の自由を保障しているのであって,いわゆる宗教的少数者といわれる立場にある者を特別に保護しようとしているものではないから,このような者もその例外ではなく,ひとしくこの寛容さが求められていることはいうまでもない。さらに,この理は,死去した自己の配偶者や近親者を自己の信仰する宗教以外の宗教で慰霊し,あるいは信仰の対象とする者がある場合でも,同様であり,たとえその宗教上の行為に対し不快感を抱いても,これを受忍すべき寛容さが求められているのである。けだし,信教の自由は,何人に対しても,自己が慰霊の対象として選んだものを自己の信仰する宗教により慰霊し,また自己の信仰の対象として選んだものを信仰し,祈りをささげる自由を保障しているのであり,それは慰霊や信仰の対象が縁故者であろうとなかろうと同じであるし,また信仰の対象が故人であっても,生存者であっても,さらには人間以外の生物,無生物,天然事象その他何であっても,異なるところはないからである。」と述べて,寛容さが求められている理由を- 32 -より明確にしているところ,かかる長島補足意見によれば,被告靖國神社は,原告らとの関係では,「死去した自己の配偶者や近親者を自己の信仰する宗教以外の宗教で慰霊し,あるいは信仰の 理由を- 32 -より明確にしているところ,かかる長島補足意見によれば,被告靖國神社は,原告らとの関係では,「死去した自己の配偶者や近親者を自己の信仰する宗教以外の宗教で慰霊し,あるいは信仰の対象とする者」に該当するものであり,被告靖國神社の教義に基づいて,本件戦没者を含む合祀基準該当者を祭神として合祀し祈りを捧げる行為は,「自己の信仰の対象として選んだものを信仰し,祈りをささげる自由」によって保障されていることが明らかである。 cしたがって,原告らの主張する「敬愛追慕の情を基軸とした人格権」に法的利益性がないことは明らかである。 (イ)強制や不利益の付与の不存在a昭和63年大法廷判決は,近親者の合祀に異議を唱える者に対し,常に寛容であれとしているのではなく,「強制や不利益の付与を伴うことにより自己の信教の自由を妨害するものでない限り」という条件を付している。 bまた,長島補足意見は,上記の条件に関連して,信教の自由・宗教行為の自由の限界について,「憲法20条2項は『何人も,宗教上の行為,祝典,儀式又は行事に参加することを強制されない。』と規定する。もとよりこの規定は,公権力による強制を禁止した規定であるが,私人相互間においてこのような強制にわたる行為があった場合にも,その態様,程度が社会的に許容し得る限度を超えるときは,場合によっては,不法行為に関する諸規定等の適切な運用によって,法的保護が図られるべきことは,多数意見の説示するとおりである。そして,このことから私人相互間においての団体,集団及び個人による宗教上の行為の許容される範囲,つまり,それに対して不快感を抱く者も,信教の自由が保障されている下では,法的利益の存在を主張できない限界が導き出されるというべきであろう。それは,強制,その反- 33 -面としての禁 れる範囲,つまり,それに対して不快感を抱く者も,信教の自由が保障されている下では,法的利益の存在を主張できない限界が導き出されるというべきであろう。それは,強制,その反- 33 -面としての禁止又は制限,圧迫又は干渉の有無である。」と敷衍している。 cそこで,本件について検討してみると,被告靖國神社は,原告らに対して,被告靖國神社が行う宗教上の行為,儀式又は行事等に参加するように強制し,あるいは原告らの信仰又はそれに基づく行為に対し,禁止又は制限,圧迫又は干渉が加えられたと評価し得るようなことは全く行っていない。それどころか,原告F,原告H及び原告Dにおいては,最近になって近親者が合祀されていることを確認したものであり,しかもその確認のための被告靖國神社への照会は,本件訴訟の提起を予定して行われたものであり,それまでは,「家族的人格的な紐帯の中で,本件戦没者を敬愛追慕する人格権」が侵害されていたようなこともなく,そのような権利侵害の主張が,本件訴訟のためにする主張であることが明らかである。 イ被告靖國神社の宗教行為の自由等(ア)原告らは,被告靖國神社の宗教行為の自由について,①戦没者等国事殉難者の合祀という特殊性,②個人の信教の自由の優越性という2つの面から制約を受ける旨主張する。 (イ)しかしながら,昭和63年大法廷判決が,「県護国神社による甲の合祀は,まさしく信教の自由により保障されているところとして同神社が自由になし得るところであり,それ自体は何人の法的利益をも侵害するものではない」と判示していることからすれば,被告靖國神社による合祀においても,信教の自由により保障され,かかる合祀行為そのものが個人の信教の自由によって制約される場面は想定できない。 (ウ)また,宗教団体の信教の自由が問題となる場面においては, 國神社による合祀においても,信教の自由により保障され,かかる合祀行為そのものが個人の信教の自由によって制約される場面は想定できない。 (ウ)また,宗教団体の信教の自由が問題となる場面においては,その信者の信教の自由という側面を考慮する必要があり,長島補足意見にあるように,「憲法は,その宗教の我が国における歴史的沿革や信者の多少- 34 -にかかわらず,どのような宗教に対しても,またどのような宗教を信ずる者に対しても平等に信教の自由を保障している」のであって,団体・組織の信教の自由は,個人の信教の自由に優越するとかしないとかの単純な議論には馴染まない問題である。 ウ小活以上のとおりであって,被告靖國神社による合祀行為は,信教の自由により保障されており,原告らの主張する法的利益を侵害していないのであるから,原告らの被告靖國神社に対する請求は棄却されるべきである。 【被告国の主張】ア敬愛追慕の情を基軸とした人格権に対する反論国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が,個別の国民等に対し,負担する職務上の法的義務に違背して当該国民等に損害を与えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責に任ずることを規定するものである。 そして,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求権が成立するためには,当該国民個人の法律上保護されるべき利益(以下「法的利益」という。)が侵害されたことを前提とする(最高裁昭和43年7月9日第三小法廷判決・裁判集民事91号639頁,最高裁平成17年9月14日第一小法廷判決・民集59巻7号2087頁)ところ,次のとおり,原告らの主張する敬愛追慕の情を基軸とする人格権は,昭和63年大法廷判決において,いわゆる宗教的人格権として,その法的利益性が明確に否定された「感情」ないし「心情」にほかならず, ころ,次のとおり,原告らの主張する敬愛追慕の情を基軸とする人格権は,昭和63年大法廷判決において,いわゆる宗教的人格権として,その法的利益性が明確に否定された「感情」ないし「心情」にほかならず,法的利益ということができない以上,被告国は原告らの法益を侵害していない。 (ア)昭和63年大法廷判決の判示について昭和63年大法廷判決は,いわゆる宗教的人格権が法的利益であることを否定している。 - 35 -(イ)昭和63年大法廷判決の判断対象昭和63年大法廷判決が法的利益に当たるか否かについて判断の対象としたものは,「原審が宗教上の人格権であるとする静謐な宗教環境の下で信仰生活を送るべき利益」であるが,その内実は,自己の親族について他者が行う宗教上の行為に対し不快の感情を持ちそのような行為をしないように望む「感情」であり,同判決は,そのような感情を被侵害利益として法的救済を求めることができるとするとかえって相手方の信教の自由を妨げる結果となるとし,そのことは死去した者の「追慕,慰霊等に関する場合においても同様である」というのであるから,結局,同判決は,死去した者の追慕,慰霊等に関してなされた他者の宗教的行為に対して不快の感情を持ちそのような行為をしないように望む感情を被侵害利益として法的救済を求めることができるか否かを判断の対象とし,結論として,これを否定したものである。 本件において,戦没者情報の提供行為と被告靖國神社による合祀行為とは別個独立の行為であって,法的利益の侵害は,本来,被告靖國神社と原告らとの私法上の関係として検討すれば足りる関係にあることからすると,本件は,昭和63年大法廷判決の判示内容がそのまま当てはまる事案である。 (ウ)本件における判断対象a原告らが主張する敬愛追慕の情を基軸とした人格権は,被告靖國神 る関係にあることからすると,本件は,昭和63年大法廷判決の判示内容がそのまま当てはまる事案である。 (ウ)本件における判断対象a原告らが主張する敬愛追慕の情を基軸とした人格権は,被告靖國神社が原告らの意に反して本件戦没者らを「大東亜戦争の英霊」として意味づけし,かつ,そのような意味づけが流布されることによって侵害され,原告らが精神的苦痛を感じ,その回復のためには,被告靖國神社がその社憲や教義を変更する可能性がない限り,被告靖國神社による合祀を取り止めることが必要不可欠であるというのであるから,それは,本件戦没者らの慰霊等に関してなされた被告靖國神社の合祀- 36 -という宗教行為に対して,原告らが不快に感じ,合祀を取り止めるよう望む内心の感情ないし心情であって,正に,昭和63年大法廷判決が判断の対象とした「死去した者の追慕,慰霊等に関してなされた他者の宗教的行為に対し不快の感情を持ちそのような行為をしないように望む感情」にほかならない。 b原告らが主張する敬愛追慕の情を基軸とした人格権を被侵害利益として直ちに損害賠償を請求し,又は合祀の差止めを請求するなどの法的救済を求めることができるとすれば,かえって被告靖國神社の信教の自由を妨げる結果となることは明らかであり,その意味でも,敬愛追慕の情を基軸とした人格権は,昭和63年大法廷判決により法的利益であることが否定された「他者の宗教上の行為に対し不快の感情を持ちそのような行為をしないように望む感情」にほかならない。 c以上のとおりであって,原告らの主張する敬愛追慕を基軸とした人格権は,その内容の点でも,それを法的利益として保障することにより生ずる効果の点においても,昭和63年大法廷判決が,いわゆる宗教的人格権として法的利益であることを否定した「感情」と何ら異ならない。 ( は,その内容の点でも,それを法的利益として保障することにより生ずる効果の点においても,昭和63年大法廷判決が,いわゆる宗教的人格権として法的利益であることを否定した「感情」と何ら異ならない。 (エ)直接侵害の余地がないこと被告靖國神社は,その宗教上の行為として合祀を行っているものであり,社会通念上,それによって原告らの「人格的生存」に対して,客観的にその社会的評価を低下させるなどの侵害を何らもたらすものではなく,また,厚生省の公務員は,遺族援護の見地から一般的な調査回答業務の一環として戦没者に関する情報を被告靖國神社に対して提供していたにすぎないのであるから,その回答行為という性質からしても,対象者やその近親者に対して,不当な評価等の侵害を何らもたらすものではない。したがって,被告靖國神社による合祀や,厚生省の公務員が被告- 37 -靖國神社等の求めに応じて戦没者に関する情報を回答した行為によってその対象者や近親者の人格権が直接的に侵害されたと解する余地はない。 結局のところ,原告らが主張する「不当な評価」なり,「人格的生存の侵害」なるものは,原告らにおいて被告靖國神社による合祀を不快に感じ,合祀を取り止めるよう望む主観的な「感情」ないし「心情」を,言葉を変えて表現したものにすぎない。 (オ)原告らの主張に対する反論a昭和63年大法廷判決の射程のとらえ方について敬愛追慕の情を基軸とした人格権が同判決の射程外であるか否かを論ずるのであれば,昭和63年大法廷判決において判断の対象とされた利益を検討し,その判断内容が「敬愛追慕の情を基軸とした人格権」についても妥当するか否かを論ずるべきである。それにもかかわらず,原告らは,昭和63年大法廷判決がいう「静謐な宗教的環境の下で信仰生活を送るべき利益」の内容を具体的に検討せず,それと とした人格権」についても妥当するか否かを論ずるべきである。それにもかかわらず,原告らは,昭和63年大法廷判決がいう「静謐な宗教的環境の下で信仰生活を送るべき利益」の内容を具体的に検討せず,それとは別個に自ら意味づけした「静謐な宗教的環境の下で信仰生活を送るべき利益」と,自己が主張する「敬愛追慕の情を基軸とした人格権」とを対比しているにすぎず,判例の射程を検討する手法として相当ではない。 b原告らの指摘する裁判例等について(a)平成18年判決における滝井補足意見平成18年判決は,「他人が特定の神社に参拝することによって,自己の心情ないし宗教上の感情が害されたとし,不快の念を抱いたとしても,これを被侵害利益として,直ちに損害賠償を求めることはできないと解するのが相当である。上告人らの主張する権利ないし利益も,上記のような心情ないし宗教上の感情と異なるものではないというべきである。」と判示しており,その判断こそ同判例の- 38 -核心部分である。 そして,滝井裁判官は,上記判断を前提として,その補足意見として,「公権力」が静謐な環境の下で特別の関係にある故人の霊を追悼することを妨げたり,その意に反して別の宗旨で故人を追悼することを何人も拒否できることを指摘しているにすぎず,被告靖國神社が自らの意思により合祀基準や合祀の決定を行い,その宗教的行為として合祀をしている本件においては,滝井裁判官が指摘する「公権力」が主体となっている場合には当たらない。 したがって,仮に滝井補足意見によっても,本件において原告らの主張する敬愛追慕の情を基軸とする人格権が法的保護の対象となるとはいえないのである。 (b)その他の裁判例について原告らの指摘する各裁判例は,いずれも,遺族の死者に対する敬愛追慕の情を侵害した不法行為が成立する前提として, する人格権が法的保護の対象となるとはいえないのである。 (b)その他の裁判例について原告らの指摘する各裁判例は,いずれも,遺族の死者に対する敬愛追慕の情を侵害した不法行為が成立する前提として,まず小説での具体的事実の発表行為,週刊誌への具体的事実の掲載行為,あるいは,警察幹部による報道機関を通じての具体的事故態様の発表行為という,当該死者に対する直接的な名誉毀損又はプライバシー侵害の事実を認定しているところである。 一方,本件についてみると,被告靖國神社に合祀されること自体は,合祀された者あるいはその遺族である原告らの品性,徳行,名声,信用等の人格的価値について,客観的な社会的評価を低下させる行為に当たらないことは明らかであるから,合祀された者あるいはその遺族である原告らの「名誉」を侵害したと解する余地はない。 また,この点は,厚生省の公務員が被告靖國神社等の求めに応じて戦没者に関する情報を回答した行為についても同様である。 そうすると,仮に,上記各裁判例のような考え方を採ったとして- 39 -も,本件に関しては,原告らの死者に対する敬愛追慕の情が侵害されたと判断される前提を欠いており,不法行為が成立する余地はないというべきである。 イ被告国の被告靖國神社の合祀に対する事実上の強制とみられる影響力の不存在(ア)法的利益侵害の成否の判断枠組みについて昭和63年大法廷判決は,「合祀は,神社にとつて最も根幹をなすところの奉斎する祭神にかかわるものであり,当該神社の自主的な判断に基づいて決められる事柄であることはいうまでもない」とした上で,「何人かが神社に対し合祀を求めることは,合祀のための必要な前提をなすものではなく,本件において県護国神社としては既に昭和四六年秋には殉職自衛隊員を合祀する方針を基本的に決定していたことは原審の ,「何人かが神社に対し合祀を求めることは,合祀のための必要な前提をなすものではなく,本件において県護国神社としては既に昭和四六年秋には殉職自衛隊員を合祀する方針を基本的に決定していたことは原審の確定するところである。してみれば,本件合祀申請という行為は,殉職自衛隊員の氏名とその殉職の事実を県護国神社に対し明らかにし,合祀の希望を表明したものであつて,宗教とかかわり合いをもつ行為であるが,合祀の前提としての法的意味をもつものではない。」と判示している。その上で,「合祀は神社の自主的な判断に基づいて決められる事柄で,本件合祀申請は合祀の前提としての法的意味をもつものではないことは前記のとおりであるから,合祀申請が神社のする合祀に対して事実上の強制とみられる何らかの影響力を有したとすべき特段の事情の存しない限り,法的利益の侵害の成否に関して,合祀申請の事実を合祀と併せて一体として評価すべきものではないというべきである。そうであつてみれば,本件合祀申請が右のような影響力を有したとすべき特段の事情の主張・立証のない本件においては,法的利益の侵害の成否は,合祀それ自体が法的利益を侵害したか否かを検討すれば足りるものといわなければならない。また,合祀それ自体は県護国神社によつてされている- 40 -のであるから,法的利益の侵害の成否は,同神社と被上告人の間の私法上の関係として検討すべきこととなる。」と判示して,合祀申請という合祀に向けられた直接的な申請行為でさえ,事実上の強制とみられる何らかの影響力を有したとすべき特段の事情が存する場合でなければ,合祀と一体となるとの評価はされないことを明らかにしている。 また,昭和63年大法廷判決は,各地の護国神社における殉職自衛隊員の合祀状況等の照会回答結果を県隊友会会長に閲覧させたり,殉職者の遺族か 合祀と一体となるとの評価はされないことを明らかにしている。 また,昭和63年大法廷判決は,各地の護国神社における殉職自衛隊員の合祀状況等の照会回答結果を県隊友会会長に閲覧させたり,殉職者の遺族から合祀に必要な殉職者の除籍謄本及び殉職証明書を取り寄せたりしたという地連職員の「事務的な協力」について,合祀申請とも区別されるべきものであるとしている。 (イ)本件における事実上の強制とみられる影響力の検討a本件で問題となり得る被告国の行為は,戦没者に関する情報を,祭神名票ないし戦没者身分等調査票に記載して,これを被告靖國神社に通知していたことであり,昭和63年大法廷判決のように県隊友会が行った県護国神社に対する合祀申請行為に地連職員が事務的な協力をした行為が問題とされたものとは異なる。 しかし,国の機関による神社に対する情報提供等の一定の関与が問題とされている点において共通する論点を含み,同判決は,特にその関与行為と合祀との一体性の有無をいかなる基準によって判断すべきかといった問題について解決の方向性を提示している。 その判断要素として重視されているのは,①合祀の主体が神社か否か,②合祀対象者の決定も神社側においてされていたか否か,③関与行為の性質と合祀との関連性,④一定の関与をもった国等の機関が神社の行う合祀に対し事実上の強制とみられる何らかの影響力を有したとすべき特段の事情があるか否かといった諸点である。 b本件においては,①戦没者の合祀の主体は被告靖國神社であり,- 41 -②後記(ウ)の主張のとおり,被告靖國神社側が既に祭神として合祀することを決定し,あるいは今後合祀するか否かを検討した上で決定するとしていた類型的な戦没者について,③被告国は,被告靖國神社からの依頼に応じて該当する戦没者に関する情報を調査回答し 神として合祀することを決定し,あるいは今後合祀するか否かを検討した上で決定するとしていた類型的な戦没者について,③被告国は,被告靖國神社からの依頼に応じて該当する戦没者に関する情報を調査回答しているが,その性質は,後記(エ)の主張のとおり,一般的調査回答業務の一環としての,いわば情報提供行為という事実行為にすぎない。このような情報提供行為は,他の一般の者からの照会に対して国が行う他の調査回答とその本質が異なるものではなく,それ自体,合祀申請と異なって宗教との関わりは全くないし,昭和63年大法廷判決で問題とされた,県護国神社に対する合祀申請の過程において地連職員が県隊友会にした「事務的な協力」に比しても,宗教行為である合祀との関係はより間接的であるということができる。さらに,本件においては,前記②の点に関係するが,厚生省などが回答した戦没者についても,合祀するか否かについては被告靖國神社が審査して決定するか,あるいは被告靖國神社で合祀すると決定した範囲の者について再度厚生省に照会が行われていたのであるから,厚生省等から得られた情報に基づき,合祀するか否かの決定はあくまで被告靖國神社が判断していたものである。そこで,厚生省が,被告靖國神社からの依頼に応じて,該当する戦没者に関する情報を調査回答したからといって,これをもって被告国が合祀対象者を決定したとか,その決定に影響を及ぼしたということはできない。まして,本件では,④戦没者に関する情報の調査回答やその過程で実施された打合せを通じて,厚生省が被告靖國神社のする合祀に対して事実上の強制とみられる何らかの影響力を有したとすべき特段の事情は存在しない。 したがって,本件において厚生省が被告靖國神社に対してした調査回答が,合祀と一体として評価されるべきものではなく,合祀を被告- とみられる何らかの影響力を有したとすべき特段の事情は存在しない。 したがって,本件において厚生省が被告靖國神社に対してした調査回答が,合祀と一体として評価されるべきものではなく,合祀を被告- 42 -国と被告靖國神社の共同不法行為とする原告らの主張に理由がないことは,昭和63年大法廷判決に照らしても明らかなのである。 (ウ)被告靖國神社による合祀の決定についてa被告靖國神社による合祀及び合祀基準の決定合祀について,被告靖國神社が自ら決定していたことは,次のとおり,甲総第7号証の「新編靖國神社問題資料集」(以下「新資料集」という。)の記載からも明らかである。 (a)新資料集138「復員連絡局長随行官に懇談要旨(昭和21年9月18日)」によれば,被告国は,終戦後しばらくの間は,被告靖國神社に対し,復員庁等の国の機関が復員業務の一環として戦没者に関する氏名等の情報を調査回答していたが,同懇談要旨の冒頭には,その業務が,被告靖國神社の祭祀運営とは全く異なる事務処理であることが強調されている。また,同懇談要旨によれば,被告靖國神社は,被告国からの情報提供を基にして,更に調査をした上で,戦没者を合祀していたことが認められる。 (b)その後,新資料集151「戦没者調査業務の移管について(要旨)(昭和23年8月2日)」,同161「十一月八日事務引続会談記録(昭和23年11月10日)」,同163「祭神調査事務引継の件(昭和23年11月)」に記載されているとおり,被告国は,昭和23年8月ころから同年11月ころまでの間,被告靖國神社との間で,戦没者に関する調査や資料を被告靖國神社に引き継ぐための協議を実施し,その結果,被告国が所有保管している名簿や「靖國神社合祀資格審査方針綴」等の関係書類を被告靖國神社に引き渡すこと,爾後,戦没者の調査は に関する調査や資料を被告靖國神社に引き継ぐための協議を実施し,その結果,被告国が所有保管している名簿や「靖國神社合祀資格審査方針綴」等の関係書類を被告靖國神社に引き渡すこと,爾後,戦没者の調査は,地方世話課からの公報の写しを基に調査確認するなどして,被告靖國神社側で独自に行うこととされた。 - 43 -(c)被告国からの引継ぎに伴い,被告靖國神社は,戦没者に関する調査を独自に行うようになり,従来戦病として取り扱われていなかった脳溢血,心臓麻痺,狭心症,胃潰瘍,胃癌等による病死について,被告靖國神社の判断で合祀として取り扱うこととするなど,合祀する戦没者の範囲を被告靖國神社自身の判断で広げていった。 (d)厚生省は,被告靖國神社の合祀事務の遅れが度々国会で取り上げられるなどの背景事情の下で,多くの戦没者遺族が望んでいる合祀問題に関し,遺族援護の見地から,引揚援護局長名で3025号通達を発出した。 これにより,以後,被告靖國神社が,戦没者であって一定の合祀資格条件に該当する者及びその者の身上に関する事項を引揚援護局に照会し,同局においては,調査の結果を取りまとめて被告靖國神社に回付し,それを受けて被告靖國神社が合祀者を決定し,合祀の祭典を執行するという方針に従って事務が遂行されることとなった。 (e)被告国は,「復員第831号昭和40年度以後の旧陸軍関係戦没者の靖國神社合祀事務の協力要領について」と題する通知等により,被告靖國神社が合祀対象者を決定していることを明示し,また,被告国が,合祀未済の全戦没者についてその氏名等を記載した祭神名票を被告靖國神社に送付することとし,その中で合祀資格条件に調査を要するものや合祀基準の拡大については被告靖國神社側で審査等を行うことにしていた。 (f)以上の事実によれば,被告靖國神社が合祀 神名票を被告靖國神社に送付することとし,その中で合祀資格条件に調査を要するものや合祀基準の拡大については被告靖國神社側で審査等を行うことにしていた。 (f)以上の事実によれば,被告靖國神社が合祀の主体であったこと,被告靖國神社の判断によって終戦前の合祀範囲を終戦後に次第に拡大して合祀を実施していたこと,被告靖國神社自身が未合祀者のうち今後詮議をした上で合祀するか否かを決定したいと考えていた戦没者の類型があったことなどが認められる。 - 44 -b被告靖國神社の依頼に基づく調査回答被告靖國神社に対する調査回答は,昭和30年7月23日の第22回国会衆議院海外同胞引揚及び遺家援護に関する調査特別委員会における被告靖國神社の池田良八権宮司の答弁にもあるように,厚生省が主導したものではなく,被告靖國神社からの依頼に基づいて行われていたものである。 c打合会の趣旨等について厚生省と被告靖國神社の打合せは,多様な戦没者について多くの情報を持つ厚生省が,他の戦没者に関する調査依頼に対応する際に必要な打合せを行うのと同様に,被告靖國神社側の要請に従って説明などの協力を行ったものであり,また,厚生省が,援護法を所管していたため,その打合会においても,援護法の対象者に関する説明をしたものである。 したがって,援護法上の戦没者の範囲が広がり,その範囲の広がりとともに被告靖國神社側が合祀対象者の範囲を拡大した事実があったとしても,それは被告靖國神社側が自らの判断で援護法の対象基準を合祀の基準としていわば借用したものにすぎず,その事実をもって厚生省が被告靖國神社の合祀基準を決定したということはできない。また,新資料集309によれば,被告靖國神社によってA級戦犯の合祀が決定されている。 d祭神名票,戦没者身分等調査票の位置付けについて(a)被告 國神社の合祀基準を決定したということはできない。また,新資料集309によれば,被告靖國神社によってA級戦犯の合祀が決定されている。 d祭神名票,戦没者身分等調査票の位置付けについて(a)被告靖國神社は,昭和23年8月以降,被告国から合祀に関する調査事務を引き継いだ後,引き継いだ資料を基に自ら調査するなどして合祀を継続しており,そのように調査事務を引き継いだ昭和24年以降でも,毎年数万人の戦没者を合祀していたのであるから,厚生省からの祭神名票あるいは戦没者身分等調査票の送付による戦- 45 -没者情報の提供は,被告靖國神社が行う戦没者の合祀に必要不可欠な前提とはなっていなかったのである。 なお,厚生省からの祭神名票あるいは戦没者身分等調査票の送付による戦没者情報の提供により,被告靖國神社の合祀が一定程度進んだということはいえるとしても,それは,あくまで厚生省が遺族援護の見地から一般的調査回答業務の一環としてなした行政サービスの結果にすぎない。 (b)また,被告靖國神社は,厚生省が氏名等を把握していない戦没者である対馬丸の遭難者及び外務省の職員等を合祀しており,厚生省からの戦没者に関する情報提供は被告靖國神社の行う合祀にとって必要不可欠な前提ではないことは明らかである。 e以上によれば,被告靖國神社が合祀及び合祀基準を決定していたということができる。 (エ)厚生省による一般的調査回答業務等についてa戦没者に関する照会に対する回答陸軍省及び海軍省の解散に伴い旧陸海軍の人事関係資料を引き継いだ厚生省及び各都道府県においては,旧陸海軍から引き継いだ人事関係資料等に基づき,未復員者の留守家族及び復員者からの様々な相談に応じたり,人事関係資料に基づき必要な調査回答を行ってきた。 昭和20年代においては,未復員者の留守家族からの未復 から引き継いだ人事関係資料等に基づき,未復員者の留守家族及び復員者からの様々な相談に応じたり,人事関係資料に基づき必要な調査回答を行ってきた。 昭和20年代においては,未復員者の留守家族からの未復員者に関する消息等の復員相談に対する調査回答が主だったと思われるが,終戦後の混乱等が解消されてきた昭和30年代からは,上記復員相談以外にも,団体等から戦没者名簿作成や慰霊等を目的とする戦没者に関する照会も多くなった。そこで,厚生省は,これらの照会に対し,厚生省設置法(昭和24年法律第151号)第4条2項2号に基づき,遺族援護の見地及び戦没者の処遇上その依頼に応ずることが適当と認- 46 -められた場合には,一般的な調査回答業務として対応していた。 なお,上記のような照会の中には,照会者側が文書による回答を希望する場合もあり,厚生省は,その場合には文書による回答・通知を行っていた。 そして,このように厚生省の責務の一つとして戦没者遺族の援護が掲げられ,厚生省は,その趣旨に基づき,戦没者に関する照会に対し一般的調査回答業務の一環として対応してきたのであるから,調査回答に必要な経費についても厚生省が支出するのはむしろ当然ということができる。 b被告靖國神社以外への回答例等厚生省又は各都道府県に対して,例えば,本人や遺族から恩給又は年金の請求のための軍歴などの調査依頼や,戦友会,遺族会及び企業などから慰霊碑の建立,社史の編纂などのための調査依頼があった場合,厚生省及び各都道府県では,浴恩会名簿(昭和35年10月調)等のように,これらの依頼に対して,旧陸海軍から引き継いだ資料を調査の上,回答していた。 そのような一般的な調査回答業務に当たって,調査依頼の相手方が宗教団体であるという理由で,かかる調査及び回答を拒否することはかえって宗教団体を差 陸海軍から引き継いだ資料を調査の上,回答していた。 そのような一般的な調査回答業務に当たって,調査依頼の相手方が宗教団体であるという理由で,かかる調査及び回答を拒否することはかえって宗教団体を差別的に取り扱うことになる。 したがって,被告靖國神社に対する調査回答業務についても,このような一般的な調査回答業務の一環として,被告靖國神社からの依頼に応じて実施していたものである。 c小括以上のとおり,厚生省は,遺族援護の見地及び戦没者の処遇上その依頼に応ずることが適当と認められた場合に,一般的な調査回答業務の一環として,被告靖國神社を含む様々な団体や個人に対し戦没者の- 47 -氏名等を調査回答してきたのである。そして,被告靖國神社の場合は,調査回答すべき対象者が全国に及び膨大な数に上ることや,遺族の多くが望んでいる合祀についてその遅滞が国会等で度々取り上げられるなどしていたことから,被告国は,事務の効率化,迅速化等を図る必要があり,3025号通達を発出するなどして行政サービスの改善を図ってきたのであるが,そうであるからといって,一般的調査回答業務の一環としての戦没者に関する情報の提供という性質は,その他の調査回答業務と何ら変わるところはない。 ウ共同不法行為の不存在について被告国は,上記イで主張したとおり,遺族援護の見地から一般的な調査回答業務の一環として,被告靖國神社からの依頼に応じて戦没者の氏名等を調査回答してきたのであり,被告国が合祀基準を決定したこともなく,被告靖國神社が自らの判断で合祀基準を策定し,合祀を決定してきたのであって,被告国の戦没者に関する調査回答等が合祀の不可欠の前提となっていたわけでもない。 そして,民法719条1項前段の共同不法行為の要件としては,各行為者間には通謀又は共同の認識を必要とせず,客観的関 て,被告国の戦没者に関する調査回答等が合祀の不可欠の前提となっていたわけでもない。 そして,民法719条1項前段の共同不法行為の要件としては,各行為者間には通謀又は共同の認識を必要とせず,客観的関連共同性,すなわち,複数の不法行為者が客観的にみて一体ないし不可分の損害を被害者に与えるという関係があれば足りるとされているところ,原告らがいかなる意味で「共同不法行為」を主張するのか,必ずしも明らかではないが,宗教団体として教義を広め,儀式行事を行い,信者を教化育成することを主たる目的とする被告靖國神社と,遺族援護の見地から一般的調査回答業務の一環として戦没者の氏名等の調査回答をしたにすぎない被告国との間に通謀又は共同の認識がないことはいうまでもない。 また,合祀はあくまで被告靖國神社の自主的な判断によりなされた宗教行為であるが,そのような合祀と,被告国が行った戦没者の氏名等につい- 48 -ての調査回答行為は,その性質に照らしても全く別個の行為であるし,原告らが主張する損害は,調査回答行為によって生ずるのではなく,専ら被告靖國神社が行った合祀との関係で問題とされるものであることからすれば,調査回答と合祀の間に客観的関連共同性を認めることができないことも明らかである。 したがって,およそ被告国と被告靖國神社との間に共同不法行為が成立する余地はない。 (3)争点(3)(被告国がeについて国設靖國神社に合祀したことの違法性の存否)について【原告Eの主張】ア被告国による合祀原告Eの父であるeの合祀日は,昭和17年10月14日であるところ,当時は,国設靖國神社は被告国の管理下にあったのであるから,eの合祀は,文字通り被告国によって行われたものであり,当然に違法である。 イ国家無答責等明治憲法下においても,国の非権力的活動,私法上の活動 は,国設靖國神社は被告国の管理下にあったのであるから,eの合祀は,文字通り被告国によって行われたものであり,当然に違法である。 イ国家無答責等明治憲法下においても,国の非権力的活動,私法上の活動については,司法裁判所が民法の不法行為規定を適用して,国民の被害を救済してきている。 また,現行憲法17条が国家無答責の原則を否定している以上,国家賠償制度の核心にかかわる領域の問題については,法律の規定がなくとも,直接憲法17条によって賠償請求権が発生すると解すべきである。 さらに,現行憲法及び裁判所法の下においては,国家無答責の法理に正当性ないし合理性を見い出すことはできない。 したがって,明治憲法下の国家無答責の法理をもって,原告Eの主張を失当とする被告国の主張には理由がない。 【被告国の主張】- 49 -ア情報提供の不存在eが国設靖國神社によって合祀された日は,昭和17年10月14日であるから,被告国は,その当時,国設靖國神社に対して通知をしておらず,そもそも被告国の違法行為は存在しない。 イ国家無答責等仮に,被告国による上記アの通知のようなものが観念されたとしても,あるいは,国設靖國神社による合祀行為が被告国によって行われたものであるとしても,eの合祀日(昭和17年10月14日)は国家賠償法の施行日(昭和22年10月27日)以前であるのであって,国家賠償法施行前における国の公務員による権力的作用については,私法たる民法の適用はなく,国の損害賠償責任は否定されていたから,原告Eの主張は失当である。 (4)争点(4)(政教分離原則違反による被告国の違法性の存否)について【原告らの主張】国家賠償制度は,法治国家原理を維持担保する意義・機能を担っているものと解されるので,当該公務員が公権力を発動する要件が具備していないにもかか による被告国の違法性の存否)について【原告らの主張】国家賠償制度は,法治国家原理を維持担保する意義・機能を担っているものと解されるので,当該公務員が公権力を発動する要件が具備していないにもかかわらずこれを発動した場合には,当該公務員の行為は違法性を持つと解すべきである。 そして,被告国の戦没者に関する氏名等の個人情報の提供による支援・協力は,祭神名票という「公の財産」を宗教団体である被告靖國神社の使用のために交付したものであり,戦没者の調査から祭神名票の交付に至るまでの一切の費用及び被告靖國神社から遺族への合祀通知状の配布作業費は被告国の負担とされていたのであるから,被告国の上記行為は,憲法89条に明らかに違反している。 また,被告国の被告靖國神社に対する支援行為は,その内容及び積極性に照らすと,被告国が合祀という宗教的活動をしたと評価できるものであり,- 50 -国及びその機関の宗教的活動を禁止した憲法20条3項に違反している。 さらに,被告国の被告靖國神社に対する支援行為は,被告靖國神社以外のどの宗教団体においても被告国から網羅的な規模・形で戦没者の氏名等の個人情報を得たことがないことからすると,宗教上の組織若しくは団体が国から特権を受けること及び国が宗教上の組織若しくは団体に特権を与えることを禁止した憲法20条1項後段に違反している。 したがって,被告国の被告靖國神社に対する支援行為は,政教分離原則に違反し,違法である。 【被告国の主張】原告らは,被告国の政教分離原則違反を理由として,国家賠償法1条1項の違法性を主張している。 しかし,政教分離規定は,いわゆる制度的保障の規定である(昭和63年大法廷判決参照)ので,被告国が原告らの信教の自由を直接制限していない本件においては,政教分離原則違反を国家賠償法1条1項違反の根拠とす し,政教分離規定は,いわゆる制度的保障の規定である(昭和63年大法廷判決参照)ので,被告国が原告らの信教の自由を直接制限していない本件においては,政教分離原則違反を国家賠償法1条1項違反の根拠とする原告らの主張は失当である。 したがって,被告国に,国家賠償法上の違法行為は存在しない。 (5)争点(5)(除斥期間の経過による権利消滅の有無)について【被告国の主張】ア本件戦没者における最も遅い合祀の日は,昭和51年10月17日であるから,被告国が被告靖國神社に対して本件戦没者の氏名等を回答した日はそれ以前である。 そうであれば,仮に,原告らが被告国に対して国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求権を有していたとしても,いずれの原告についても不法行為の時から提訴まで20年以上経過しているから,除斥期間の経過によって,原告らの被告国に対する損害賠償請求権は消滅している。 なお,上記(2)の【被告国の主張】記載のとおり,被告国と被告靖國神- 51 -社との間に共同不法行為は成立しない。 イ原告らは,被告国による除斥期間の適用が権利の濫用に当たると主張するが,そもそも除斥期間の経過については,裁判所が当事者からの主張がなくても除斥期間の経過により当該権利が消滅したものと判断すべきものであって,除斥期間の適用が権利の濫用に当たることはない。 【原告らの主張】ア被告国の不法行為と被告靖國神社の不法行為は,明らかに関連共同するものであるから,両者の行為は共同不法行為を構成するものである。 そして,共同行為者の一方である被告靖國神社の不法行為は,原告らの亡父らを原告らの明示の意思に反して合祀し続けるものであり,その態様は継続的不法行為であるところ,継続的不法行為における除斥期間の起算点は継続的不法行為が終了したときである。 したがって,合祀という継 父らを原告らの明示の意思に反して合祀し続けるものであり,その態様は継続的不法行為であるところ,継続的不法行為における除斥期間の起算点は継続的不法行為が終了したときである。 したがって,合祀という継続的不法行為が終了していないので,被告国においても除斥期間は経過していない。 イまた,被告国による除斥期間の主張は,専ら自己の責任回避を企図するものであって,重大な違法行為をし原告らの被侵害利益を侵害した被告国が,自己の責任回避を企図してなす除斥期間の主張は権利の濫用として許されないものというべきである。 (6)争点(6)(原告らの精神的苦痛,損害額等)について【原告らの主張】原告らは,被告らの不法行為によって,次のとおり,精神的苦痛を受けており,その精神的苦痛は本来金銭に置き換えることができないものであるが,あえて換算すれば各自100万円を下ることはあり得ない。 ア原告A被告靖國神社がaに貼り付けたレッテルは,殉国の英霊であり,それは戦死を貴いこととする思想であって,一般常識からしても,憲法の精神に- 52 -照らしても,人権無視の異常な思想と言わねばならない。僧侶であったaにとっても,僧侶となった原告Aにとっても,そのように扱われることは名誉を毀損される以上の恥辱であり,社会的評価の低下そのものである。 被告靖國神社は,終戦以前に国民に浸透させられた殉国の精神を,日本国憲法下の今日まで保持し,普及宣伝しており,原告Aとしては,そこからaを解放することによって,自分もまたこの恥辱的な状況から解放されたいという気持ちである。 また,親鸞は,「神祇不拝(じんぎふはい)」,一人一人の尊厳を重視しており,原告Aは,この「個」の尊厳をも取り戻したいと考えている。 イ原告B原告Bは,被告靖國神社が,無惨にも人を死に追いやった事実を隠し戦死者 神祇不拝(じんぎふはい)」,一人一人の尊厳を重視しており,原告Aは,この「個」の尊厳をも取り戻したいと考えている。 イ原告B原告Bは,被告靖國神社が,無惨にも人を死に追いやった事実を隠し戦死者を褒めたたえる施設であるにもかかわらず,これを明らかにせず,民衆に異なる被告靖國神社のイメージを持たせて,それによって戦死者の遺族からも反感を買わずに存続しているという欺瞞を感じ取っている。 また,bは,「戦なきことを願う」はずの仏教徒である。そのため,原告Bは,「是非おろしていただきたい」,「私らの静かにお参りする心を荒さないでいただきたい」という強い思いを持っているのである。 そこで,原告Bは,平成17年6月24日,被告靖國神社に対し,「霊璽簿記載取り消し要望の件」と題した文書を提出したが,これは「合祀の取消」を願うものではなく,被告靖國神社に「できること」として,霊璽簿等の遺族の氏名部分の抹消を求めるという抑制的なものであったにもかかわらず,被告靖國神社の宮司は,これを無視する形で拒否しており,かかる被告靖國神社の態度が,原告Bに多大な精神的損害を与えている。 ウ原告C原告Cは,被告靖國神社が太平洋戦争時における自らの役割に対する反省を有さず,かえって同戦争を賛美するために戦没者を利用していること- 53 -に対して懸念を有しており,反戦的思想を有し浄土真宗信者であった父cまでかかる被告靖國神社に利用され,「国難に際して身を挺し公のために殉ぜられた方」として意味づけされ,祀られていることに精神的な苦痛を感じている。 それと同時に,原告Cは,合祀について,自らが感じている苦痛をあたかも父cの感じている苦痛とも感じているところ,かかる苦痛は非常に切実なものということができる。 エ原告E原告Eは,父eが侵略戦争に加担した加害者であっても 祀について,自らが感じている苦痛をあたかも父cの感じている苦痛とも感じているところ,かかる苦痛は非常に切実なものということができる。 エ原告E原告Eは,父eが侵略戦争に加担した加害者であっても,また,加担させられ戦病死した被害者であっても,父を敬愛する気持ちに変わりはなく,戦病死した父eを追慕し,悼むことで,父の戦病死の意味を日々新たにし,かつ,自らの平和実践の糧とすることにより,日々自身の人格を形成してきた。 父eの合祀及び合祀後の靖國神社の扱いは,このような原告Eの人格そのもの及び父eへの敬愛追慕の情を深く傷つけるものである。 父eが参加した南京攻略戦を侵略戦争であり,多数の市民を殺した行為は許されないと考えている原告Eにとって,南京攻略戦に参加したことをもって「抜群の軍功」と称えられ,「国事に殉ぜられた人々」であるとして靖國神社に合祀されることは,敬愛追慕の対象である父eの尊厳が著しく貶められることである。 原告Eの父eに対する敬愛追慕の情がその言葉の本来の意味で満たされるためには,被告靖國神社による父eの合祀及びこれに関連する一切の行為が廃止されなければならない。父eをどのように追悼するかは,父eに対する敬愛追慕の情が保護される近親者が決めることである。 そこで,原告Eは,被告靖國神社に対し,合祀の取消しを求めたが,これを拒否する被告靖國神社は,父eに対する原告Eの敬愛追慕の情やこれ- 54 -に基づいてどのように追悼するかを決定する権限を侵害しており,原告Eは,これにより多大の精神的苦痛を受けている。 オ原告D(ア)原告Dは,被告靖國神社が特定の数百万人の「人」を「神」として祀っていること及び全ての戦争を自存自衛のものと唱導していることから,被告靖國神社は反人道主義・反平和主義の日本国憲法に反する思想・教義を奉じ は,被告靖國神社が特定の数百万人の「人」を「神」として祀っていること及び全ての戦争を自存自衛のものと唱導していることから,被告靖國神社は反人道主義・反平和主義の日本国憲法に反する思想・教義を奉じる宗教装置であって,自己の信条にも信仰にも反するものと理解している。 被告靖國神社がキリスト教徒であった父dを祭神として祀っている事実は,父d及び原告Dの,信仰によって支えられた品性,徳行,名声,信用等の人格的価値を毀損することである。 原告Dは,父が被告靖國神社に合祀されている事実を知ったとき,強い衝撃を受け,脅威と深い心の痛みを感じた。 (イ)キリスト教の「十戒」における第一戒は,「私はあなたの主である神である。私のほかに神があってはならない。」であるところ,キリスト教徒である原告Dとしては,そもそも主である神の他に(靖國の神などの)神の存在を認めることが受け入れられない。父dも同様に考えるであろうことは明らかである。 しかるに,自ら何の抗議もできず,行動もとれない父dが,被告靖國神社に祭神として囚われているという事実に,原告Dは身を切られるような思いを禁じえない。 (ウ)また,キリスト教の「十戒」における第五戒は,「殺してはならない。」である。これに対し,被告靖國神社は,殺し合いに他ならない戦争で命を落とした軍人軍属を,故人あるいは遺族の意思に関係なく「英霊」と讃えるために創建された施設である。 原告Dは,そのような被告靖國神社に,キリスト教徒であり,戦闘に- 55 -参加したことも,戦地に赴いたことも,武器を手にしたこともない父dが,殉国の英霊として合祀されていることを承服することができず,父dの辛さを思い,自身も耐え難い苦痛を感じている。 そして,合祀を取り消させるまでは,まるで父d及び原告D自身が,真実に反する英霊としての合祀 の英霊として合祀されていることを承服することができず,父dの辛さを思い,自身も耐え難い苦痛を感じている。 そして,合祀を取り消させるまでは,まるで父d及び原告D自身が,真実に反する英霊としての合祀を肯定しているかのような評価を恐れ,葛藤を余儀なくされている。 (エ)また,キリスト教徒という立場を離れてみても,若くして家族を残して死亡した父dの無念や,父d死後の辛苦に満ちた原告Dの生活を振り返ってみて,そうした苦い思いの原因がすべて戦争にあることに思い至らざるを得ない。 よって,被告靖國神社に父dが護国の神として祀られ,慰霊顕彰されていることの巨大な嘘に気づかざるを得ない。 この点からも,英霊顕彰の美名によって,戦争の被害者である原告Dら家族が終戦後を生き抜いた誇り高い歴史を損ない,そのプライドを傷つけるものである。 カ原告F原告Fは,被告靖國神社による合祀等について,「兄たちはもう十分に御国のために尽くしたと思うんです。戦死までさせられて。だから,死んでまで,まだ靖國神社にその階級のままで囚われているということは,非常に私は,何というのか,哀れというのか悲しいというのか。だから,もう十分に尽くしたんだから,・・・今度はもう戦争も終わったんだし,自由にしてやってほしい,私たち遺族が合祀を取り消してほしいと言ってるのだから,その人たちだけにでも,せめて合祀を取り消してほしい。とにかく靖國の檻から兄を解放してほしい。それぐらい私は兄がいとおしんです。」という旨の気持ちを抱いている。 しかし,被告靖國神社は,原告Fの二人の兄を護国の神として祀り続け- 56 -ており,これにより,原告Fは,二人の兄への敬愛追慕の情を傷つけられ,精神的苦痛を受けている。 キ原告G原告Gは,父と兄について,「国のために殉死した」とか,「英霊」であるとは け- 56 -ており,これにより,原告Fは,二人の兄への敬愛追慕の情を傷つけられ,精神的苦痛を受けている。 キ原告G原告Gは,父と兄について,「国のために殉死した」とか,「英霊」であるとは考えておらず,被告靖國神社が定める目的には,絶対に賛同できないし,「教化育成」などいうその傲慢さにも我慢できない。 原告Gは,遺族である原告Gに無断でその父や兄を勝手に祀る被告靖國神社には激しい嫌悪感と怒りを持っており,まして,原告Gの家は代々浄土真宗本願寺派の信徒であるにもかかわらず,原告Gに無断で神道の「神」として勝手に祀るという被告靖國神社の非礼と非常識と傲慢さには激しい憤りを覚えている。 原告Gは,被告靖國神社のこの非礼,傲慢さに耐えきれず,被告靖國神社に対して,平成18年5月ころ,合祀の取消しを求めたが,被告靖國神社は,これを平然と拒否し,父と兄を合祀し続けており,これは遺族である原告G及びその人格に対する冒涜と侮辱にほかならず,原告Gは,この被告靖國神社の態度により強い精神的苦痛を受けている。 ク原告H被告靖國神社は,終戦後の日本国憲法の下で,原告Hら遺族の了解も取らずに無断で叔父hを合祀し,叔父hが皇軍兵士のままわずか23歳の若さで戦死させられたことをもって,「天皇のために死んだ」と一方的に決め付け,「英霊」として顕彰している。 叔父hは,天皇の名によって徴兵され,被告国の誤った政策のために,無謀・不当な戦争でわずか23歳の若さで殺されたのである。 原告Hにとって何より大切なものは,「生きた家族,生きている家族,生きていてほしい家族」である。しかし,被告靖國神社にとっては,「死んだ」ことのみに価値があり,「死んだ」ことが何より大切なのである。 - 57 -原告Hら遺族の「生きていてほしい,生きていてほしかった」という思いと,被 ある。しかし,被告靖國神社にとっては,「死んだ」ことのみに価値があり,「死んだ」ことが何より大切なのである。 - 57 -原告Hら遺族の「生きていてほしい,生きていてほしかった」という思いと,被告靖國神社のとらえ方は,正反対のところにある。 被告靖國神社は,まさに,人間としての尊厳をないがしろにする非人間的存在であり,戦没者はもちろん原告Hの切実な心情を深く傷つけ,原告Hに著しい苦痛と精神的被害を与えている。 ケ原告J原告Jは,父jの死を肉親として哀悼し,幼い子供を見ずに死亡したその非業の死を悼み,さらにはその死の意味を探り,これが侵略戦争に狩り出された結果であることを見据え,そうした死を受け止めた上でなお,父jを敬愛し,追慕している。 しかるに,被告靖國神社は,父jを殉国の英霊と規定し,この原告Jの敬愛追慕の念に脅威を与え,原告Jの合祀取消しの請求にも全く応じようともせず,原告Jの意思に反していることを認識しながら,父jを勝手に殉国の英霊に仕立て上げ,それを広汎に流布し続けている。被告靖國神社による合祀は,被告国に後押しされた国家的意味づけという巨大な影響力ゆえに,原告Jと原告Jの母は引き裂かれ,同じ思いを共有することを著しく困難にさせられた。 原告Jは,遊就館で初めて目にした「御羽車」に衝撃を受け,不在であり続けた父jに対して,初めて生身の実感を伴って「かわいそうや」と思い,父を取り戻したいと強く願った。すなわち,被害者でもあるが加害者でもあった等身大の父jを,「神」ではなく,生身の人間としての父を取り戻したい思いを強くした。 よって,被告靖國神社による父jの合祀は,原告Jの父に対する敬愛・追慕の念と相対立するだけではなく,その意味づけは,原告Jの敬愛・追慕の念からは承服し難いものであり,残された家族である母と,父jの死の意 ,被告靖國神社による父jの合祀は,原告Jの父に対する敬愛・追慕の念と相対立するだけではなく,その意味づけは,原告Jの敬愛・追慕の念からは承服し難いものであり,残された家族である母と,父jの死の意味を探りながら,「父親の慰霊を祀る」ことを妨害し,原告Jに著し- 58 -い精神的苦痛を負わせたものである。 【被告らの主張】争う。 第3争点に対する裁判所の判断 争点(1)(法律上の争訟性の存否)について(1)裁判所の審判の対象となるものは,裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」,すなわち当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって,かつ,それが法令の適用により終局的に解決することができるものに限られると解するのが相当である(最高裁昭和41年2月8日第三小法廷判決・民集20巻2号196頁参照)。 (2)これを本件においてみると,原告らは,被告靖國神社に対し,被告靖國神社が所有する霊璽簿等から,本件戦没者の氏名を抹消すること及び慰謝料の支払を求めているところ,それらの訴訟物は人格権に基づく妨害排除請求権及び不法行為に基づく損害賠償請求権であるから,本件紛争は,原告らと被告靖國神社との間の,具体的な権利義務の存否に関する紛争であるということができる。 また,裁判所は,原告らの権利又は法律上保護される利益の存否及びその侵害の存否の判断に際して,被告靖國神社の信教の自由との関連について検討する必要があるものの,それについては本案において問題にすれば足りるところ,本件紛争に関しては,後記2で判示するとおり,被告靖國神社の宗教上の教義の解釈について判断する必要はないのであるから,本件紛争は,法令の適用による終局的な解決が可能な紛争であるということができる。 したがって,原告らの被告靖國神社に対する請求は,当事者間の具体的 上の教義の解釈について判断する必要はないのであるから,本件紛争は,法令の適用による終局的な解決が可能な紛争であるということができる。 したがって,原告らの被告靖國神社に対する請求は,当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって,かつ,それが法令の適用により終局的に解決することができるものであり,法律上の争訟に該当するということができる。 - 59 -(3)これに対し,被告靖國神社は,①被告靖國神社においては,創立以来,遺族の意向とは別に合祀基準に該当する戦没者を合祀しており,合祀についての遺族の承諾の要否を巡る紛争は,被告靖國神社の宗教上の教義の当否の問題である,②本件訴訟の実体は,他の宗教団体に所属する宗教者である原告らの一部が,被告靖國神社の宗教上の教義に対して異議を述べて,その判断を裁判所に求めるものである,③原告らが,霊璽簿等からの氏名の抹消という形式を取りつつ,実質的には合祀の取消しを求め,被告靖國神社の教義の変更を請求しているとして,原告らの被告靖國神社に対する請求は,法律上の争訟性を欠くと主張している。 しかし,①について,宗教的行為であっても,その外部的行為が他者の権利・利益を侵害する場合には,国家による規制対象となり,裁判所の審判の対象になるものと解するのが相当であるところ,本件においては,裁判所が,被告靖國神社の遺族の承諾を求めないという宗教上の教義の当否を判断するものではなく,被告靖國神社の「遺族の承諾を求めない」合祀という外部的行為性も有する行為による,原告らの権利又は法律上保護される利益の侵害の存否を判断の対象とするものであるから,法律上の争訟性を欠くとはいえず,被告靖國神社の上記①の主張は採用することができない。 ②及び③について,原告ら提出の準備書面の中には,原告らの感情・思 の侵害の存否を判断の対象とするものであるから,法律上の争訟性を欠くとはいえず,被告靖國神社の上記①の主張は採用することができない。 ②及び③について,原告ら提出の準備書面の中には,原告らの感情・思いとして,被告靖國神社に対する嫌悪感や合祀の取消し自体を願っていることを窺わせる部分も存在するが,本件の訴訟物は,あくまで人格権に基づく妨害排除請求及び不法行為に基づく損害賠償請求であって,当裁判所は,その請求を基礎付ける請求原因事実の存否を判断するだけであるから,法律上の争訟性として問題とする余地はなく,被告靖國神社の上記②及び③の主張は採用することができない。 (4)以上のとおりであって,原告らの被告靖國神社に対する請求は,法律上の争訟に該当すると認められる。 - 60 - 争点(2)(原告らの人格権及び原告らの法的利益の侵害の存否等)について(1)原告ら主張の人格権の権利性,法的利益性についてア昭和63年大法廷判決の射程について人が自己の信仰する宗教により何人かを追慕し,その魂の安らぎを求めるなどの宗教的行為をする自由は,誰にでも保障されていると解するのが相当であるところ,遺族においても,当然に近親者を追慕し,自己の流儀に従って近親者を悼み慰霊行為をする自由・利益については,保障されていると解するのが相当である。 これに対し,人が自己の信仰生活の静謐を他者の宗教上の行為によって害されたとし,そのことに不快の感情を持ち,そのようなことがないよう望むことのあるのは,その心情として当然であるとしても,かかる宗教上の感情を被侵害利益として,直ちに損害賠償を請求し,又は差止めを請求するなどの法的救済を求めることができるとするならば,かえって相手方の信教の自由を妨げる結果となるに至ること,さらに,信教の自由の保障は,何人も自己の信仰と 直ちに損害賠償を請求し,又は差止めを請求するなどの法的救済を求めることができるとするならば,かえって相手方の信教の自由を妨げる結果となるに至ること,さらに,信教の自由の保障は,何人も自己の信仰と相容れない信仰を持つ者の信仰に基づく行為に対して,それが強制や不利益の付与を伴うことにより自己の信教の自由を妨害するものでない限り寛容であることを要請しているものというべきであるから,上記宗教的感情は直ちに法的利益として認めることができないと解するのが相当である(昭和63年大法廷判決参照)。そして,宗教に基づく感情以外の,自己の信じる信念や理念等に基づく精神生活一般においても,人が他者の宗教的行為その他の行為によって自己の精神生活の静謐を害されたとして不快の心情ないし感情を持つこともあり得るものであるが,このような心情ないし感情を被侵害利益として,直ちに損害賠償を請求し,又は差止めを請求するなどの法的救済を求めることができるとするならば,他者の信教の自由その他の自由権を妨げる結果となることは上記宗教的感情における場合と同様であるので,上記心情ないし感情について- 61 -も直ちに法的利益として認めることができないと解すべきであって,他者の宗教的行為その他の行為が強制や不利益の付与を伴わない限り,上記心情ないし感情には,損害賠償請求及び差止請求を導く法的利益は認められないと解すべきである。 イ本件における原告らの法的利益についてこれを本件についてみると,原告らは,敬愛追慕の情を基軸とする人格権が被侵害利益であるとして,「近親者等に対する敬愛追慕の情は,近親者等について見い出した意義,形成したイメージ及びそこから生じる自身についての生存の意義,自己イメージと不可分一体のものであり,個人の人格的生存に不可欠のものといえ,かかる感情は,人格権 情は,近親者等について見い出した意義,形成したイメージ及びそこから生じる自身についての生存の意義,自己イメージと不可分一体のものであり,個人の人格的生存に不可欠のものといえ,かかる感情は,人格権の一内容を構成するものとして,憲法上ないし私法上の保護を受けるべきものである」と主張している。 しかし,原告らの主張する「自己イメージ」というものは,人に対する社会的評価であるところの名誉や,外形的な情報であって社会的評価が可能なプライバシーと比べても,余りにも主観的かつ抽象的なものであって,その概念が示す範囲自体画定し難く,内容も,もともと無限定である上,外部からの統制なしに形成し得ることもあって,無制限に膨らみ得るものであり,かように,概念が確立されておらず,その内容及び外延が判然とせず,社会に定着していない「自己イメージ」を,名誉やプライバシーの概念を媒介にしないで直接の法的保護の対象とすることはそもそも困難であるといわざるを得ないし,自己情報を規律する権利といわれるものにおいても未だ概念が定着していないだけでなく,遺族との関係に関する情報までその中に含まれるかについては議論が全く進んでいない状況にあるのであって,上記「自己イメージ」を中核とする感情に法的利益を認めることは困難である。 また,人は社会的な存在であって,他者からイメージを付与されること- 62 -が不可避であるところ,故人に対して縁のある他者が抱くイメージも多々存在するものであり,故人に対する遺族のイメージのみを,法的に保護すべきものであるとは考えられない。 そうすると,名誉権の侵害及びプライバシーの利益の侵害を具体的に主張していない原告らの主張する人格権の中核となる敬愛追慕の情は,結局のところ,前記第2,3(6)における【原告らの主張】の内容からすると,被告靖國神 権の侵害及びプライバシーの利益の侵害を具体的に主張していない原告らの主張する人格権の中核となる敬愛追慕の情は,結局のところ,前記第2,3(6)における【原告らの主張】の内容からすると,被告靖國神社による本件戦没者の合祀という宗教的行為による不快の心情ないし被告靖國神社に対する嫌悪の感情と評価するほかなく,これをもって直ちに損害賠償請求や差止請求を導く法的利益として認めることができない。 ウ原告らの主張についてこれに対し,原告らは,次のとおり主張しているが,いずれの主張についても,これを採用することができない。 (ア)原告らが指摘する裁判例等についてa原告らは,①平成18年最高裁判決における滝井補足意見,②「落日燃ゆ」事件一審判決等によって,敬愛追慕の情を基軸とする人格権が法的利益を有していると認められている旨主張する。 しかし,滝井補足意見は,そもそも,「人が神社に参拝する行為自体は,他人の信仰生活等に対して圧迫,干渉を加えるような性質のものではないから,他人が特定の神社に参拝することによって,自己の心情ないし宗教上の感情が害されたとし,不快の念を抱いたとしても,これを被侵害利益として,直ちに損害賠償を求めることはできないと解するのが相当である。」と判示した平成18年最高裁判決における補足意見であって上記判示を支持する立場を前提にするものであるし,また,滝井補足意見自身,「何人も公権力が自己の信じる宗教によって静謐な環境の下で特別の関係のある故人の霊を追悼することを妨げ- 63 -たり,その意に反して別の宗旨で故人を追悼することを拒否することができる」と述べていることからすると,公権力などの自由権の享有主体でないものが主宰している場合を念頭においているとみるのが相当であり,信教の自由の享有主体である私人や私的団体が主宰 を拒否することができる」と述べていることからすると,公権力などの自由権の享有主体でないものが主宰している場合を念頭においているとみるのが相当であり,信教の自由の享有主体である私人や私的団体が主宰している場合についてまで法的利益性を承認する趣旨であるかは疑問であるというべきである。 そして,本件においては,後記(3)のとおり,合祀を主宰しているのは,被告靖國神社であって,被告国はその主体ではなく,また,被告靖國神社はあくまで一宗教法人であって公権力と同視することはできないから,滝井補足意見の当否にかかわらず,原告らの上記①に関する主張は採用することができない。 bまた,原告らの引用する他の裁判例は,死者に対する直接的な名誉毀損行為又はプライバシー侵害行為の事案であって,直接に保護されるのは,死者に対する社会的評価及び死者のプライバシーという,要保護性が社会的に承認され,かつ,遺族らの心情や感情によっては侵害の成否が左右されないものであり,そのようなものを抜きに遺族らの心情や感情を直接に保護しようとしたものでないことは明らかである。そして,本件においては,後記(2)のとおり,被告靖國神社は,本件戦没者の合祀に関する具体的事実を対外的に明らかにしたとは認められないのであるから,名誉毀損及びプライバシー侵害が成立するとは到底考えられず,原告らの引用する裁判例は,本件には当てはまらず,原告らの上記②に関する主張も採用することができない。 (イ)宗教的人格権との相違に関する主張についてa原告らは,昭和63年大法廷判決における「静謐な宗教的環境の下で信仰生活を送るべき利益」と本件訴訟における「敬愛追慕の情を基軸とした人格権」の間には,①権利の帰属する者が限られている点,- 64 -②宗教的側面を有しない点の2点において大きな相違が 下で信仰生活を送るべき利益」と本件訴訟における「敬愛追慕の情を基軸とした人格権」の間には,①権利の帰属する者が限られている点,- 64 -②宗教的側面を有しない点の2点において大きな相違があり,昭和63年大法廷判決の射程は本件には及ばないと主張する。 bしかし,上記アで判示したとおり,人が自己の信仰する宗教により何人かを追慕し,その魂の安らぎを求めるなどの宗教的行為をする自由は,誰にでも保障されていると解するのが相当である。 そして,追慕・慰霊の性質からしても,故人に対する追慕・慰霊とは,行為者の精神における死者との交流であり,追慕・慰霊行為はその交流を実現する個人的な行為であって,また,団体においてもその内部に当然に個人の存在を予定しているので,故人の遺族だけでなく,故人の友人・知人を含む社会的関係者関係団体にも,それぞれの思想信仰に基づいて故人を追慕・慰霊する自由があると解するのが相当である。 したがって,故人の遺族以外の者が,故人に対する慰霊行為等をする場合には,故人の遺族等の同意・承認等を得ることが社会的儀礼として望ましいとしても,故人の遺族が独占的に追慕・慰霊行為をし,他者のそれを排除し得るような権利・法的利益を有しているとはいえないので,原告らの上記①に関する主張は採用することができない。 cまた,昭和63年大法廷判決は,直接的には宗教的人格権について判断しているものの,その実質は,他者の信教の自由との調整に関する判断をしていると理解すべきであって,その判断は,上記アで判示したとおり,人が他者の宗教的行為によって生ずる宗教的感情以外の不快の心情ないし感情を持つ場合における信教の自由との調整についても妥当するものであるから,原告らの上記②に関する主張は採用することができない。 (ウ)被告靖國神社の信教の自由に 宗教的感情以外の不快の心情ないし感情を持つ場合における信教の自由との調整についても妥当するものであるから,原告らの上記②に関する主張は採用することができない。 (ウ)被告靖國神社の信教の自由についてa原告らは,①被告靖國神社の歴史的経緯,法人性から,被告靖國- 65 -神社の信教の自由は,その他の者の信教の自由及び個人の信教の自由に比べて一定程度制約を受けるべきである,②被告靖國神社が法人として宗教行為の自由を有するとしても,何らの制約もなしに権利行使が許されるものではないから,原告らの意思に反した合祀行為及び合祀継続行為は許されない旨主張する。 bしかし,憲法は,20条1項前段において,「信教の自由は,何人に対してもこれを保障する。」と規定しており,個人と団体を何ら区別することなく,また,すべての主体に平等に保障しているのであるから,宗教団体に対しても当然に信教の自由を保障していると解すべきであり,また,宗教団体には,その内部に個人が存在するところ,特定の宗教団体について信教の自由を制約したり,他に劣後した扱いをすることになると,当然にその宗教団体に帰属する個人の信教の自由に対する制約が生じる可能性がある上に,国家にとって不都合な宗教団体を邪教として制約する道筋を開く解釈をすることは著しく危険であるので,原告らの上記①に関する主張は採用することができない。 cまた,一般に,宗教行為の自由は,その行為自体が外部的に表現されるものである以上,他者との権利衝突が生じる場面は避けられず,その場合には当然,他者の権利との間での調整が必要になるので,被告靖國神社が法人として宗教行為の自由を有していたとしても,何らの制約もなしにその権利行使が許されるものではないことは,原告らの主張のとおりである。 しかしながら,本件において, 必要になるので,被告靖國神社が法人として宗教行為の自由を有していたとしても,何らの制約もなしにその権利行使が許されるものではないことは,原告らの主張のとおりである。 しかしながら,本件において,被告靖國神社の合祀行為そのものは,祭神を祀るという極めて抽象的観念的なものであって,信仰の自由そのものと同視できるものであるから,他者との権利衝突を観念することができず,したがって,他者との権利衝突の存在を前提とする,原告らの上記②に関する主張は採用することができない。 - 66 -(2)被告靖國神社による侵害の有無についてア上記(1)で判示したとおり,原告らの主張する人格権の中核となる敬愛追慕の情は,被告靖國神社の宗教的行為その他の行為が強制や不利益の付与を伴わない限り,損害賠償請求及び差止請求を導く法的利益とは認められないものである。 イそして,被告靖國神社の合祀行為及び合祀継続行為そのものは,宗教的行為ではあるものの,祭神を祀るという抽象的・観念的行為であって,宗教上の信仰の自由と同程度に被告靖國神社が当然に有する信教の自由に基づき自由になし得るものであって,他者に対する強制や不利益の付与を想定することができないものである。 また,前記第2,1(3)及び(4)のとおり,合祀に密接に関連する被告靖國神社の外部的行為としては,霊璽簿等の作成・保管だけであるところ,被告靖國神社は,霊璽簿等を第三者に閲覧させる運用をしていないし,遺族以外の第三者からの合祀に関する問い合わせには回答していないのであり,合祀通知を受けた遺族以外の第三者は,誰が,いつ,合祀をされたのかはもちろん,合祀の事実の存否自体を知ることができず,現に,原告F,原告H,原告Dにおいては,被告靖國神社に対する積極的な問い合わせの結果,ようやく近親者の合祀の事実を知るに至 つ,合祀をされたのかはもちろん,合祀の事実の存否自体を知ることができず,現に,原告F,原告H,原告Dにおいては,被告靖國神社に対する積極的な問い合わせの結果,ようやく近親者の合祀の事実を知るに至ったのであって,合祀後数十年にわたってその近親者の合祀の有無を認識できていなかったのであるから,霊璽簿等に本件戦没者の氏名を記載したとしても,そのことによって,誰かに,何らかの強制や不利益の付与があったと認めることはできない。 なお,本件戦没者の遺族である原告らが,近親者を追慕し,自己の流儀に従って近親者を悼み,慰霊行為をする自由が害されたとする証拠も存在せず,被告靖國神社による合祀によって本件戦没者の名誉権及びプライバシーの利益が侵害されたと認めることもできない。 - 67 -したがって,被告靖國神社による本件戦没者の合祀行為及び合祀継続行為によって,原告らの権利ないし法的利益が侵害されたとは認められない。 ウ以上のとおりであって,被告靖國神社による本件戦没者の合祀行為(ただし,eの合祀行為を除く。)及び合祀継続行為によって,原告らの権利及び法的利益が侵害されたとは認められないのであるから,原告らの被告靖國神社に対する損害賠償請求及び妨害排除請求は,いずれも理由がない。 (3)被告国による侵害の有無についてア国家賠償法における共同不法行為の判断について(ア)原告らは,被告国が,本件戦没者の氏名等の個人情報を被告靖國神社に提供するなどして,両者一体となって合祀を行っているとして,当然に共同不法行為が成立する旨主張する。 しかしながら,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求権が成立するためには,公務員による違法行為の存在とともに法律上保護された利益の侵害が必要と解されるところ,国家賠償法4条に基づく民法719条の共同不法行為の規定が適 法1条1項に基づく損害賠償請求権が成立するためには,公務員による違法行為の存在とともに法律上保護された利益の侵害が必要と解されるところ,国家賠償法4条に基づく民法719条の共同不法行為の規定が適用される場合においても,国の損害賠償責任が認められるためには当然に法律上保護された利益の侵害が必要である。 そして,国の行為による法律上保護された利益の侵害の判断については,合祀は,神社にとって最も根幹をなすところの奉斎する祭神にかかわるものであり,当該神社の自主的な判断に基づいて決められる事柄であるので,国の行為が,神社の自主的な判断に基づいて決められるべき合祀に関する判断に対して,事実上の強制とみられる何らかの影響力を有したとすべき特段の事情の存しない限り,法的利益の侵害の成否は,私人たる神社による合祀それ自体が法的利益を侵害したか否かを検討すれば足りると解すべきである(昭和63年大法廷判決参照)。 (イ)これを本件についてみると,前記第2,1(5)のとおり,被告国は,- 68 -3025号通達を含む一連の通達及び被告靖國神社との打合会等に基づき,一宗教法人である被告靖國神社に対して,戦没者の情報を終戦後何年にもわたって大量に提供し,被告靖國神社による戦没者の合祀を支援し続け,その結果,被告靖國神社による多数の戦没者の合祀を可能にしたことが認められる(したがって,本件戦没者(ただし,eを除く。)が被告国の情報提供により被告靖國神社に合祀されたものであることを示す明確な証拠は存しないが,以上の経過に照らし,本件戦没者も被告国の情報提供により被告靖國神社に合祀された蓋然性が極めて高いといえる。)。 しかしながら,被告靖國神社は,その目的を,「明治天皇の宣らせ給うた『安國』の聖旨に基き,國事に殉ぜられた人々を奉斎し,神道の祭祀を行ひ,そ 告靖國神社に合祀された蓋然性が極めて高いといえる。)。 しかしながら,被告靖國神社は,その目的を,「明治天皇の宣らせ給うた『安國』の聖旨に基き,國事に殉ぜられた人々を奉斎し,神道の祭祀を行ひ,その神徳をひろめ,本神社を信奉する祭神の遺族その他の崇敬者を教化育成し,社会の福祉に寄与しその他本神社の目的を達成するための業務及び事業を行うことを目的とする」ことと規定しているように,そもそも,被告国の関与がなくとも戦没者等を国事殉難者として合祀することを決定している団体であり,また,被告靖國神社の代表者である宮司も,被告靖國神社の判断で合祀を決定している旨国会で発言していることが認められる。 そして,前記第2,1(5)のとおり,①被告国は,被告靖國神社に対し,戦没者等の情報を提供してはいたものの,それは被告靖國神社からの依頼に基づき行われたものであり,最も肝要な祭祀の運営については被告靖國神社が取り仕切っていたこと,②被告国は,終始,あくまでも被告靖國神社が合祀を最終的に決定するという立場を堅持していたこと,③被告靖國神社においても,被告国の意見を聴取しつつも,脳溢血,心臓麻痺等の病死等の場合のように自らの判断で合祀基準を決定したり,被告靖國神社の総代会の判断が必要であるとし,それを仰いだ- 69 -上で,最終的には自らの意思で決定していたこと,④学徒動員による戦没者の一部のように被告国が氏名等を把握していない者についても被告靖國神社が積極的に調査し合祀を決定していたこと,⑤対馬丸の遭難者及び外務省の職員の死亡者のように被告国が氏名等を把握していない者についても被告靖國神社が合祀していたこと,⑥被告靖國神社による合祀の継続について被告国は何ら関与していないこと,⑦戦没者情報の把握それ自体は,遺族援護のための被告国の業務で を把握していない者についても被告靖國神社が合祀していたこと,⑥被告靖國神社による合祀の継続について被告国は何ら関与していないこと,⑦戦没者情報の把握それ自体は,遺族援護のための被告国の業務であるとともに,被告国は被告靖國神社以外の団体にも戦没者情報等を提供していたことが認められるところ,以上の事情を総合考慮すると,確かに,被告国は,被告靖國神社に対して,長期間にわたる大量の情報提供を行っており,かかる被告国の行為は,被告靖國神社における合祀において,戦没者の情報の把握に協力するという多数の合祀を行う上で重要な要素をなしていたといえるものの,被告国は被告靖國神社の合祀を支援するためだけに戦没者情報を集めていたわけではなく,また,行為の評価は,直接の行為主体が誰であるかによっても大きく左右されるものであるところ,被告靖國神社は,そもそも戦没者等を合祀することを決定している団体である上に,結局のところ,合祀については,被告靖國神社が最終的に決定していたのであるから,被告靖國神社の合祀行為及び合祀継続行為に関する判断に対して,被告国の行為に,事実上の強制とみられる何らかの影響力があったと認めることはできない。 (ウ)したがって,被告靖國神社による合祀行為及び合祀継続行為は,被告靖國神社の自主的な判断に基づき決定されており,被告国の行為には,事実上の強制とみられる何らかの影響力があったと認められないので,法的利益の侵害の成否は,被告靖國神社による合祀行為及び合祀継続行為それ自体が原告らの法的利益を侵害したか否かを,合祀当時の状況に基づいて検討すれば足りるというべきである。 - 70 -イ原告らの法的利益の侵害について上記(1)及び(2)で判示したとおり,被告靖國神社による本件戦没者の合祀行為(ただし,eの合祀行為を除く。)及び合 討すれば足りるというべきである。 - 70 -イ原告らの法的利益の侵害について上記(1)及び(2)で判示したとおり,被告靖國神社による本件戦没者の合祀行為(ただし,eの合祀行為を除く。)及び合祀継続行為によって,原告らの権利及び法的利益が侵害されたとは認められないのであるから,被告国は,仮に本件戦没者(ただし,eを除く。)に関し,被告靖國神社に対して氏名等の情報を提供していたとしても,原告らの権利又は法的利益を侵害しておらず,原告らに対する不法行為責任を負うことはない。 ウ原告らの主張についてこれに対し,原告らは,被告国と被告靖國神社による共同不法行為(被告国による幇助行為を含む。)を主張しているが,上記アで判示したとおり,被告国の行為は,被告靖國神社による合祀行為及び合祀継続行為判断に対して,事実上の強制とみられる何らかの影響力を有していたものとは認められず,また,そもそも被告靖國神社の合祀によって原告らの法的利益が侵害されたと認められないのであるから,上記主張は理由がない。 エ以上のとおりであって,被告らが,被告靖國神社による本件戦没者の合祀行為(ただし,eの合祀行為を除く。)及び合祀継続行為によって,原告らの権利及び法的利益を侵害したとは認められないから,原告らの被告国に対する損害賠償請求はいずれも理由がない。 争点(3)(被告国がeについて国設靖國神社に合祀したことの違法性の存否)について(1)民法上の不法行為の成否についてア一般に,民事上の法律行為の効力は,他に特別の規定のない限り,行為当時の法令に照らして判定すべきものと解すべきところ(最高裁昭和35年4月18日大法廷決定・民集14巻6号905頁参照),不法行為における違法性についても,他に特別の規定のない限り,当該行為時の法令に照らして判断するのが相当 きものと解すべきところ(最高裁昭和35年4月18日大法廷決定・民集14巻6号905頁参照),不法行為における違法性についても,他に特別の規定のない限り,当該行為時の法令に照らして判断するのが相当である。 - 71 -イこれを本件についてみると,前記第2,1(1)ア(エ)で判示したとおり,eは,昭和17年10月14日,終戦前における被告国によって国設靖國神社に合祀されているところ,原告Eは,上記被告国による合祀行為が,その当時のいかなる法令にどのように違反する違法な行為かについて,何ら具体的に主張,立証しない。 したがって,本件において,被告国による国設靖國神社への合祀行為が,その当時において,違法性を有するものであったとか,不法行為に該当するものであったことを認めることはできない。 (2)憲法17条に基づく賠償責任の成否について被告国によるeの国設靖國神社への合祀行為は,上記(1)のとおり,憲法17条を含む現行憲法の施行前の行為であるから,憲法17条の適用対象であり得ないことは明らかである。 (3)以上のとおりであって,被告国によるeの国設靖國神社への合祀行為には,違法性は認められない。 争点(4)(政教分離原則違反による被告国の違法性の存否)について(1)上記2で判示したとおり,被告国と被告靖國神社による共同不法行為は認められないが,原告らにおいて,被告国単独による国家賠償法上の違法行為も主張していると解する余地もあるので,以下,被告国単独での賠償責任の成否について検討する。 (2)原告らは,被告国の被告靖國神社に対する情報提供等の支援行為が,憲法20条1項後段,同条3項,89条の規定する政教分離規定に違反する違法行為であって,原告らに対する損害賠償責任を発生させるものである旨主張する。 しかし,憲法20条1項後段, 供等の支援行為が,憲法20条1項後段,同条3項,89条の規定する政教分離規定に違反する違法行為であって,原告らに対する損害賠償責任を発生させるものである旨主張する。 しかし,憲法20条1項後段,3項及び89条の政教分離規定は,いわゆる制度的保障の規定であって,私人に対して信教の自由そのものを直接保障するものではなく,国及びその機関が行うことのできない行為の範囲を定め- 72 -たり(20条3項),宗教団体が特権を受けたり権力を行使したりすることを禁止したり(20条1項後段),公金が宗教団体のために用いられることを禁止したり(89条)するなどして,国家と宗教との分離を制度として保障することにより,国家と宗教とが結び付いて,国家運営が宗教イデオロギーに影響されて合理性を欠くようになったり,ひいては当該イデオロギーと内容において相容れない宗教や学説,活動,行動等が圧迫されたりするような事態が生じることを防止して,間接的に信教の自由や学問の自由その他の自由権全般を確保しようとするものであり,この規定に違反する国又はその機関の宗教的活動や宗教団体に対する財産給付・便宜供与等も,それが20条1項前段に違反して私人の信教の自由を制限し,あるいは同条2項に違反して私人に対し宗教上の行為等への参加を強制するなど,憲法が保障している信教の自由その他の基本的人権を直接侵害するに至らない限り,私人に対する関係で当然には違法と評価されるものではないと解するのが相当である(憲法20条3項につき,昭和63年大法廷判決・民集42巻5号277頁参照)。 (3)これを本件についてみると,前記第2,1(5)のとおり,被告国は,被告靖國神社に対して,戦没者等の情報を提供等しているところ,本件全証拠によっても,かかる行為によって原告らが宗教的行為への強制を受けて信教の 件についてみると,前記第2,1(5)のとおり,被告国は,被告靖國神社に対して,戦没者等の情報を提供等しているところ,本件全証拠によっても,かかる行為によって原告らが宗教的行為への強制を受けて信教の自由その他の基本的人権を侵害された等の事情は認められないので,原告らの信教の自由が直接制限されたとはいえない。 したがって,原告らの,被告国の行為は国家賠償法上の違法行為であるとの主張は認められない。 結論 以上によれば,原告らの主張する人格権は,損害賠償請求や差止請求の根拠となる法的利益としては認められず,また,被告国の行為に権利侵害性ないし国家賠償法上の違法性が認められないので,その余の点について判断するまで- 73 -もなく,原告らの被告らに対する本件請求は,いずれも理由がないからこれらを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,65条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第24民事部裁判長裁判官村岡寛裁判官宮本博文裁判官原田宗輔

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