令和3(く)14 再審開始決定に対する即時抗告申立事件 (再審事件あり(無罪):静岡地方裁判所)

裁判年月日・裁判所
令和5年3月13日 東京高等裁判所 棄却 静岡地方裁判所 平成20(た)1
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判決文本文75,245 文字)

1 令和5年3月13日 東京高等裁判所第2刑事部決定令和3年(く)第14号 再審開始決定に対する即時抗告申立事件主 文本件即時抗告を棄却する。 理 由5第1 本件即時抗告の趣意の概要本件即時抗告の趣意は、検察官作成の即時抗告申立書、即時抗告申立理由補充書並びに平成27年11月24日付け、平成30年1月19日付け、同年2月2日付け、令和3年7月30日付け、令和4年2月24日付け及び同年12月2日付け各意見書に記載されたとおりである。 10これに対する弁護人の意見は、差戻し前の抗告審主任弁護人作成の平成26年10月23日付け反論書1、同年12月18日付け反論書2、同日付け反論書3、平成27年6月2日付け反論書4、同年2月3日付け意見書、平成30年1月19日付け最終意見書及び同年2月2日付け最終意見書補充書、当審主任弁護人作成の令和3年3月19日付け意見書、同月29日付け意見書2、同年6月21日付け意見15書、同年7月7日付け意見書5、同年11月1日付け意見書6、同月22日付け意見書7、同日付け「進行についての意見書」と題する書面、令和4年3月14日付け意見書8、同年5月20日付け意見書9、同年12月2日付け最終意見書及び裁判所書記官作成の同月5日付け打合せメモ(第12回)添付の別紙1最終意見にそれぞれ記載されたとおりである。 20論旨は、要するに、原決定がV1教授作成の鑑定書関係の証拠や、犯行着衣とされる5点の衣類の色に関するみそ漬け実験関係の証拠を刑訴法435条6号にいう無罪を言い渡すべき明らかな証拠であると認めて再審を開始するとした判断は、不合理かつ不当な根拠に基づく誤ったも 犯行着衣とされる5点の衣類の色に関するみそ漬け実験関係の証拠を刑訴法435条6号にいう無罪を言い渡すべき明らかな証拠であると認めて再審を開始するとした判断は、不合理かつ不当な根拠に基づく誤ったものであるから、同決定を取り消し、本件再審請求を棄却するとの裁判を求める、というのである。 25そこで記録を調査し、当審における事実取調べの結果も踏まえて検討する。 2第2 事案の概要及び従前の経緯等1 Aは、昭和40年頃から、当時の静岡県清水市(現在は合併により静岡市)内のみそ製造を営むD商店の従業員として、同店のみそ製造工場(以下「本件工場」という。)2階の従業員寮で居住していた。昭和41年6月30日午前1時50分頃、同店専務取締役であった男性の居宅方で、火災が発生して家屋がほぼ5全焼し、鎮火後、前記男性、その妻及び両名間の2名の子の合計4名が遺体で発見された。 2 Aは、昭和41年8月18日、前記事件で逮捕され、同年9月9日、住居侵入、強盗殺人、放火被告事件で静岡地方裁判所に起訴された。昭和41年11月15日、第1回公判期日が開かれ、Aは、本件犯行を全面的に否認し、無罪を主10張し、検察官は、冒頭陳述において、Aがパジャマを着て本件犯行に及んだ旨主張した。 その後、審理が続いていたが、昭和42年8月31日、本件工場において、D商店の従業員がみその仕込まれていた1号タンク(以下「1号タンク」という。)内からみその搬出作業を行っていた際、1号タンク底部から約3.5センチメー15トルのみその中から麻袋を発見したところ、同麻袋の中には、いずれも広範囲にわたり血が付着していた衣類5点(白ステテコ、白半袖シャツ、ネズミ色スポーツシャツ、鉄紺色ズボン、緑色パンツ)(以下「5点の衣類」という。)が入っていた。なお、1号 同麻袋の中には、いずれも広範囲にわたり血が付着していた衣類5点(白ステテコ、白半袖シャツ、ネズミ色スポーツシャツ、鉄紺色ズボン、緑色パンツ)(以下「5点の衣類」という。)が入っていた。なお、1号タンクは、縦約2.29メートル、横約2.03メートル、深さ約1.65メートルであり、昭和41年6月30日の本件事件当時、赤みそ20のタンクとして使用されており、その残量は、出荷により相当程度減少していたとはいえ、同年7月20日に4トン以上、さらに同年8月3日に約4トンの合計約8トンの赤みそ原材料等が仕込まれていた。 検察官は、第17回公判期日(昭和42年9月13日)において、Aは、5点の衣類を着用して本件犯行に及んだ旨の主張に変更した。 253 昭和43年9月11日、静岡地方裁判所は、Aが本件の犯人であると認定し3て、Aを死刑に処する旨の判決を言い渡した。Aは、これを不服として控訴したが、昭和51年5月18日東京高等裁判所は控訴を棄却し、昭和55年11月19日最高裁判所は上告を棄却し、その後判決訂正の申立ても棄却し、同年12月12日、第1審の判決が確定した(以下、同判決を「確定判決」といい、その控訴審判決を「確定控訴審判決」という。)。 54 Aは、昭和56年4月20日、静岡地方裁判所に対して、再審請求(第1次)を行ったものの、平成6年8月8日同再審請求は棄却され、その即時抗告及び特別抗告のいずれについても棄却された。 5 その後、Aの実姉である請求人Bは、刑訴法439条1項4号に該当する者として、平成20年4月25日、静岡地方裁判所に本件再審請求(第2次)を行10い(なお、請求人Bは、後にAの保佐人に選任され、刑訴法439条1項3号に該当するに至り、さらに、Cが、令和4年4月15日にAの保佐人に追加して選任され、B 判所に本件再審請求(第2次)を行10い(なお、請求人Bは、後にAの保佐人に選任され、刑訴法439条1項3号に該当するに至り、さらに、Cが、令和4年4月15日にAの保佐人に追加して選任され、Bと共に本件再審請求の請求人となった。)、平成26年3月27日静岡地方裁判所は、再審を開始する決定(以下「原決定」といい、その審理を「原審」という。)をし、併せて、Aに対する死刑及び拘置の執行を停止する旨を決15定した。これに対し、検察官が即時抗告を申し立てたところ、平成30年6月11日、東京高等裁判所は、原決定を取り消し、本件再審請求を棄却する旨の決定(本決定では、これを「前高裁決定」といい、その審理を「前抗告審」という。)をし、これに対して、弁護人が特別抗告を申し立てたところ、令和2年12月22日、最高裁判所は、前高裁決定を取り消し、本件を東京高等裁判所に差し戻す20旨の決定をした(以下「最高裁決定」という。)。本件は、最高裁決定によって差し戻された後の即時抗告審である。 第3 確定判決について1 確定判決が認定した罪となるべき事実の要旨Aは、昭和41年6月30日午前1時過ぎ頃、D商店の売上金を、もし家人に25発見されたときは脅迫してでも奪おうと考え、くり小刀を携え、当時の静岡県清4水市所在のD商店の専務取締役であるEの住居に侵入して金員を物色中、同人(当時41歳)に発見されるや金員強取の決意を固め、同人方裏口付近の土間において、所携のくり小刀(刃渡約12センチメートル)で殺意をもって同人の胸部等を数回突き刺し、さらに、物音に気付いて起きてきた家人に対しても、殺意をもって、同家8畳間でEの妻F(当時39歳)の肩、顎部等を数回、Eの長男5G(当時14歳)の胸部、頸部等を数回、同家ピアノの間で、Eの次女H(当時 物音に気付いて起きてきた家人に対しても、殺意をもって、同家8畳間でEの妻F(当時39歳)の肩、顎部等を数回、Eの長男5G(当時14歳)の胸部、頸部等を数回、同家ピアノの間で、Eの次女H(当時17歳)の胸部、頸部等を数回、それぞれ前記くり小刀で突き刺し、次いで、Eが保管していたD商店の売上金20万円余り、小切手5枚等を強取し、さらに、Eら4名を住居もろとも焼いてしまおうと考え、本件工場内に置いてあった石油缶在中の混合油を持ち出して、これをEら4名の身体にふりかけ、マッチでこれ10に点火して放火し、よってEらが現に住居に使用しかつ現在する木造平家建住宅1棟を焼損し、Eを右肺刺創等による失血のため死亡させて殺害し、Fを胸部刺創等による失血と全身火傷のため死亡させて殺害し、Gを胸部刺創等による失血と全身火傷のため死亡させて殺害し、Hを心臓刺創等による失血と一酸化炭素急性中毒のため死亡させて殺害した。 152 Aを本件の犯人と認定した確定判決の概要⑴ 確定判決の判断の要旨確定判決は、Aの自白調書45通の証拠能力について検討し、昭和41年9月9日付け検察官調書1通を除き、その余の供述調書についてはいずれも任意性を欠くとして排除決定をした上で、証拠能力を認めた同検察官調書(自白調書)以20外の証拠を検討し、Aが本件の犯人であることの蓋然性は高いとして、概要、以下のとおり説示した。 D商店の従業員が、昭和42年8月31日、みその搬出作業中に、1号タンク内から発見した麻袋に入れられた5点の衣類には、いずれも被害者らの血液型に一致する人血が付着していたこと、白半袖シャツ右袖上部には2個の損傷があり、25これを中心として内側から表側にしみ出したB型の血痕が存在したこと、ネズミ5色スポーツシャツと鉄紺色ズボンにも 一致する人血が付着していたこと、白半袖シャツ右袖上部には2個の損傷があり、25これを中心として内側から表側にしみ出したB型の血痕が存在したこと、ネズミ5色スポーツシャツと鉄紺色ズボンにも損傷が存在したこと、前記麻袋は本件工場の奥の倉庫内に保管されていたものであることなどから、5点の衣類は、本件の犯人が犯行時に着用していた衣類であり、犯行の際に被害者らの血液が付着したこと、犯人は、本件犯行から5点の衣類を脱ぐまでの間に、何らかの原因で右肩に傷を負って出血したこと、犯人の血液型はB型であることが認められる。 5また、本件直前、1号タンクには少量のみそしか残っていなかったが、昭和41年7月20日に新しいみその原料を同タンク一杯に仕込み、その後は、5点の衣類が入った麻袋を同タンクの底部に埋めることはほとんど不可能であることや、捜査官は、同月4日に本件工場内の捜索をしたが、その際は1号タンク内の捜索をしなかったことに照らすと、5点の衣類が入った麻袋は、昭和41年7月2010日以前に1号タンクに入れられたものと認められる。 5点の衣類のうち、①鉄紺色ズボンは、Aの実家で発見された端布が同ズボンの端布であることから、同ズボンはAのものであると断定することができ、②緑色パンツについては、Aの複数の同僚が、以前Aが緑色のパンツをはいていたのを見ており、D商店の従業員のうちで緑系統のパンツをはいている者はA以外に15は見たことがないと述べていること、Aの実母が、少なくとも、本件以前に一度、緑色ブリーフをI洋品店で買って、D商店の寮のA宛てに送ったことが認められること、前記I洋品店で取り扱っていた緑色ブリーフは「ムーンライト」という製品であり、緑色パンツとよく似ていることなどから、鉄紺色ズボン及び緑色パンツはAのものである疑 A宛てに送ったことが認められること、前記I洋品店で取り扱っていた緑色ブリーフは「ムーンライト」という製品であり、緑色パンツとよく似ていることなどから、鉄紺色ズボン及び緑色パンツはAのものである疑いが極めて濃厚であり、さらに、前記麻袋の中には、520点の衣類が一緒に丸めて入れられていたことを考慮すると、麻袋に入っていたネズミ色スポーツシャツ、白ステテコ、白半袖シャツもAのものと推認できる。 さらに、①昭和41年9月13日、a郵便局において、b警察署長宛ての差出人名のない封筒1枚が発見され、同封筒の中には便箋と一部が焼けた紙幣10数枚が同封されており、同紙幣のうち千円札2枚には「A′(Aの名部分を片仮名25表記)」と、便箋には「ミソコウバノボクノカバンノナカニシラズニアツタツミ6トウナ」とそれぞれ鉛筆のようなもので記載されていたことなどに照らすと、同紙幣については被害現金の一部であると認められる。そして、前記封筒等に書かれていた文字と当時Aが親しく交際していたJ(以下「知人女性」という。)の筆跡を対照して同一人の筆跡と推定されるなどとした筆跡鑑定の結果や、前記封筒や在中の便箋は、同女が所有する封筒と同種で、便箋も紙質が極めて類似して5いることといった事情に照らすと、便箋の前記文字は同女が記載したものと認められ、同女が何らかの方法で現金をAから預かり、Aが本件犯行に関与して現金を取得したものであることを知っていたと認められること、②Aのパジャマには、上衣の左ポケット部分にAB型、下衣の右膝部分にA型という被害者らと一致する血液型の血痕や、被害者の衣類に付着していた油分や工場内にあった混合油と10同種の油分が付着していたこと、③静岡県沼津市内の刃物店店員が、Aの顔を見たことを記憶しており、同店では凶器であるくり小刀と 型の血痕や、被害者の衣類に付着していた油分や工場内にあった混合油と10同種の油分が付着していたこと、③静岡県沼津市内の刃物店店員が、Aの顔を見たことを記憶しており、同店では凶器であるくり小刀と同種のくり小刀を販売していたこと、④Aの血液型はB型であるところ、白半袖シャツ右肩の損傷部分に内側から付着したと認められるB型の血液が付着し、Aには昭和41年9月8日当時、右上腕部前面に化膿した痕が存在し、さらに、同年8月18日当時、右上15腕外側には肉芽組織が存在していたところ、この傷は、白半袖シャツを着たままでも十分生成可能であること、⑤本件直後、Aの左手中指には、鋭い刃物で形成されたような傷が存在したこと、⑥Aには、本件当夜のアリバイがないことなどの事実を総合すると、Aが本件の犯人であることの蓋然性は極めて高い。 確定判決は、その上で、証拠能力が認められた前記検察官調書の信用性も検討20し、罪となるべき事実記載の犯罪事実の存在及びその犯人がAであることのいずれについても、合理的な疑いを超える程度に証明が尽くされたとした。 ⑵ 確定控訴審判決の判断の要旨確定控訴審判決は、確定判決を支持してAの控訴を棄却したが、主要な争点である5点の衣類について、概要以下のとおり判断した。 255点の衣類には下着にいたるまで多量でかつ被害者らの血液型と一致する複数7の人血が付着していたこと、鉄紺色のズボンの左右前面、ネズミ色スポーツシャツ及び白半袖シャツの右袖上部に損傷があり、白半袖シャツ右肩の損傷部分には内側からしみ出て付着したと認められる人血(B型)が付着していたこと、5点の衣類は、本件後1年以上が経った昭和42年8月31日にみそ出しをしていたD商店の従業員によって発見されたものであり、事件後の昭和41年7月20日 たと認められる人血(B型)が付着していたこと、5点の衣類は、本件後1年以上が経った昭和42年8月31日にみそ出しをしていたD商店の従業員によって発見されたものであり、事件後の昭和41年7月20日5に新しくみそを仕込む前にこれらの衣類が1号タンク内に隠されたと思われること、本件工場は、被害者宅裏口から約31.8メートル、1号タンクは工場入口から約21.7メートルと犯行現場に近いこと、記録を検討しても、本件と関係なくこのような場所にこのような血染めの衣類が入れられたことをうかがわせる出来事は全く認められないこと等を総合すれば、5点の衣類は、犯人が本件犯行10時に着用していたものと認めるのが相当である。 確定判決が5点の衣類が昭和41年7月20日以前に1号タンク内に入れられていたなどと認定したのは誤りである旨の所論については、以下の理由で排斥できる。 すなわち、昭和41年7月20日に1号タンクに新たに大量のみそが仕込まれ15た後は、同タンク内の底から3.5センチメートルの底部に5点の衣類を隠すことはほとんど不可能と思われること、警察では、同月4日の本件工場の捜索の際にD商店の要請により、同店舗に損害を与えないため、みその入った1号タンクは上から点検しただけで、みその中までかき回して調べなかったこと、5点の衣類が入っていた麻袋は、1号タンク内の通路から見て左奥隅の壁際のみその中に20埋もれていたが、同年6月30日頃同タンク内には相当量のみそが残っており、内壁部付近、特に奥の方は二、三〇センチメートル位の高さまで残っていた可能性があること、同日以降みそを取り出した可能性は低く、同年7月4日の捜索の際にも1号タンク内には半分より少なかったが、なお相当量のみそが残っており、前記のような捜索方法では、みその中に麻袋が隠され 性があること、同日以降みそを取り出した可能性は低く、同年7月4日の捜索の際にも1号タンク内には半分より少なかったが、なお相当量のみそが残っており、前記のような捜索方法では、みその中に麻袋が隠されていても発見できないこと、25犯行前後頃、タンクからみそを出してこす作業を担当するみそすり役はKとAで、8そのうちタンクに入ってみそを取り出す作業を担当していたのは主にAであったこと、人手の足りないときはAも仕込みを手伝うことがあり、同年7月20日の仕込みの際にもAが1号タンク内でみそを踏んだ可能性があること、仕込む前にタンクの中を掃除するとは限らず、同日の仕込みの際も残ったみその上に仕込んだものと思われることなどが認められ、これらの事情を総合すれば、5点の衣類5の入った麻袋が本件の直後に1号タンクに入れられた蓋然性は大きく、そうだとしても、同月4日の捜索や同月20日の仕込みの際に発見されるおそれは小さかったと思われる。 また、確定判決が、5点の衣類がAのものであると認定したのは誤りである旨の所論については、以下の理由で排斥できる。 10すなわち、1号タンク内から5点の衣類が発見された12日後の昭和42年9月12日にAの実家を捜索したところ、端布が発見されている。そして、Aの実母は、同端布について、検察官に対し、会社から送ってきたAの荷物の中に黒っぽい喪章のようなものが入っており、喪章かなと思ってベビーダンスの引き出しにしまっておいた旨供述していること、Aの同僚は、Aの衣類等を荷造りして実15家に送り返す際に端布があったかは明確な記憶はないが、Aの使用していたタンスの引き出しは、他の者が使用していた引き出しとはっきり区別できたとしているから、他人の物が紛れ込むおそれはほとんどないことを踏まえると、端布がAのもの かは明確な記憶はないが、Aの使用していたタンスの引き出しは、他の者が使用していた引き出しとはっきり区別できたとしているから、他人の物が紛れ込むおそれはほとんどないことを踏まえると、端布がAのものであることは間違いないと考えられる。 端布と鉄紺色ズボンとの関係について、科学警察研究所技官作成の鑑定書の鑑20定が、鉄紺色ズボンと端布の生地は同一種類であり、生地の染色は似ているものと思われるとした点については、他の専門家の鑑定書も同一の結論に達していることなどから十分信用でき、鉄紺色ズボンと端布の切断面は同一であるとした点も相当であるから、鉄紺色ズボンと端布の同一性についての鑑定結果は十分信用できる。 25一方、Aは、確定控訴審で3回にわたり行われた鉄紺色ズボンの着装実験にお9いて、いずれも尻の部分に同ズボンのウエスト部分がつかえてはくことができなかったものの、以下の理由から、Aは、本件当時、鉄紺色のズボンをはくことができたと認められる。 すなわち、鉄紺色ズボンの前開き部左内側に「寸法4、型B」の布切れが縫い込まれていたところ、B体のウエストにかかる当時の寸法サイズからは、鉄紺色5ズボンのウエストは83ないし85センチメートルであったと認められるのに対し、鉄紺色ズボンのウエストサイズは測定の結果68又は70センチメートルと前記より細いものとなっているが、これは、小売店での販売時にウエストを約3センチメートル詰めたこと、鉄紺色ズボンが水分やみそ成分を吸い込んだ後に自然乾燥して収縮するなどしたことによるものと認められる。これに対し、Aが自10分のものに間違いないとして提出したズボンのウエストサイズは76又は80センチメートルと測定されており、Aの勾留中の運動不足によると思われる体重の増加も無視できないから、 これに対し、Aが自10分のものに間違いないとして提出したズボンのウエストサイズは76又は80センチメートルと測定されており、Aの勾留中の運動不足によると思われる体重の増加も無視できないから、Aは、本件当時に鉄紺色ズボンを十分にはけたものと認められる。 Aが使用していた緑色の下着は、1号タンクから発見された緑色パンツではな15く、確定審で弁護人が提出したブリーフであるとの主張についても、関係者の供述の信用性を検討すれば、1号タンクから発見された前記緑色パンツは、Aのものである疑いが極めて濃厚であるといえる。 以上の各点に加え、その他の衣類についても、鉄紺色ズボンや緑色パンツと同じ麻袋の中に血に染まって一緒に入っていたこと、衣類の種類からみて同一人が20同時に着用していたと見るのが自然であることなどの状況に徴すれば、他の衣類もAのものであると認めた確定判決に不合理な点はない。 ⑶ 上告審判決の判断の要旨上告審は、記録によれば、確定判決が認定した犯罪事実を認めることができるから、これを維持した確定控訴審判決には事実の誤認がないとして、上告を棄却25する判決をし、同判決に対する訂正の申立ても棄却する決定をして、判決の確定10に至った。 第4 第2次再審請求に関する各決定の判断の要旨1 原決定の判断の要旨原決定は、確定判決及び有罪認定の理由を補充して確定判決を維持した確定控訴審判決は、Aの犯人性を肯定するについて、5点の衣類が本件犯行に用いられ5た着衣であり、かつ、Aのものであると認められることを証拠上最大の根拠とし、その他複数の客観的状況も併せると、Aが犯人であると断定することができるとし、自白調書については、一部矛盾する部分を除き、大筋では犯行現場の客観的状況等と矛盾しないとの評価の基 拠上最大の根拠とし、その他複数の客観的状況も併せると、Aが犯人であると断定することができるとし、自白調書については、一部矛盾する部分を除き、大筋では犯行現場の客観的状況等と矛盾しないとの評価の基に、犯人性を肯定するのに補充的に使われているにすぎない、とした。 10その上で、原決定は、新証拠のうち、①5点の衣類等のDNA型鑑定に関する証拠とりわけV1教授作成の各書面及び証言(以下、これらをまとめて「V1鑑定」という。)、②5点の衣類の色に関する証拠、とりわけ各みそ漬け実験報告書(原審弁2、6、8)及びLの証言(以下、これらをまとめて「みそ漬け実験報告書等」という。)について、以下のとおり説示し、V1鑑定及びみそ漬け実15験報告書等の各証拠価値をいずれも高く評価して、刑訴法435条6号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」にあたると判断し、本件について再審を開始する旨の決定をした。 ⑴ DNA型鑑定に関する新証拠についての原決定の判断の概要(なお、後記のとおり、最高裁決定は、原決定はV1鑑定の証拠価値の評価を誤20り、V1鑑定が「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」に該当するとした点で刑訴法435条6号の解釈適用を誤った違法があるとした前高裁決定を結論において正当であると判断したことに鑑み、以下、V1鑑定に関する原決定及び前高裁決定の判断については、いずれも骨子のみを示す。)V1鑑定は、5点の衣類から採取した試料のほか被害者着衣から採取した試料25(以下、これらを併せて「本件試料」ということがある。)から血液細胞を他の11細胞と分離して抽出するという細胞選択的抽出法を採用した上でDNA型鑑定を実施し、STR型検査によって検出されたアリルの多くが血液由来のアリルであり、白半袖シャツの右肩部分に付着した血液のD 11細胞と分離して抽出するという細胞選択的抽出法を採用した上でDNA型鑑定を実施し、STR型検査によって検出されたアリルの多くが血液由来のアリルであり、白半袖シャツの右肩部分に付着した血液のDNA型がAのDNA型と一致しないなどというものである。 以上のV1鑑定は、①5点の衣類及び被害者着衣の本件試料を採取した部位以5外の部位から採取した試料からアリルが検出されなかったこと、②本件試料には血液が付着している蓋然性が認められること、③PCR増幅回数が28回であり、アリルドロップインの可能性が低いこと、④外来DNAによる汚染の可能性が低いこと、⑤細胞選択的抽出法を用いてDNA抽出を行ったこと等を根拠に十分信用することができ、V1鑑定の結果等のDNA鑑定を総括すると、5点の衣類の10うち、確定判決によればAの血痕とされる白半袖シャツ右肩試料(B型付着部)から検出されたDNAは、Aに由来するものではない蓋然性が高く、5点の衣類全体を見ても、各試料上の血痕が被害者及びA以外のものである可能性が相当程度あると判断される。V1鑑定の結果は、5点の衣類が犯行着衣であり、Aが着用していたものであるという確定判決の認定に相当程度疑いを生じさせるもので15あり、特にAの犯人性については、大きな疑問を抱かせるものである。 ⑵ 5点の衣類の色に関する新証拠についての原決定の判断の概要ア 確定判決は、5点の衣類について、犯行着衣であり、昭和41年6月30日の本件犯行後、同年7月20日の新たにみそが仕込まれるまでの間に1号タンク内に残存していたみその中に隠匿され、昭和42年8月31日に発見されるま20での間、その中に入れられていたと認定した。この点に関し、原審弁護人は、5点の衣類が1年以上みそに漬けられていたとした場合の色合い等に着目して 中に隠匿され、昭和42年8月31日に発見されるま20での間、その中に入れられていたと認定した。この点に関し、原審弁護人は、5点の衣類が1年以上みそに漬けられていたとした場合の色合い等に着目して三つの実験を行い、その結果の報告書を提出した。すなわち、①「味噌漬け実験報告書」(原審弁2《原審第1分冊39丁》。その概要は、5点の衣類に類似した衣類に血液を付着させた上、麻袋に入れて赤みそとたまりの混合液に約20分間漬25け込むなどしたところ、確定審で提出された5点の衣類に関するS作成の鑑定書12(確定審第17分冊2348丁、以下「S鑑定書」という。)に添付された、5点の衣類の写真と同様の色を再現することができたというものである。)、②「1年2ヶ月味噌漬け実験報告書」(原審弁6《原審第1分冊316丁》。その概要は、5点の衣類に類似した衣類等に血液を付着させた上、麻袋に入れ、1年2か月間、赤みその中に埋めて重石をのせたところ、元々白い衣類はみそとほぼ5同色の濃い茶色になり、元々緑色等の着色のあるものは、みその影響を受け、本来の色が分からないような暗い色になり、また、血痕は、完全に赤みを失って黒褐色になったが、他方、S鑑定書添付の写真中の5点の衣類を見ると、元々白い衣類については薄く着色しているにすぎず、緑色パンツも明らかに緑色と認識できるような色で、血痕も赤みを帯びており、両者は明らかに異なるというもので10ある。)、③「再現仕込み味噌・味噌漬け実験報告書」(原審弁8《原審第1分冊473丁》。その概要は、検察官推薦の鑑定人であるT作成の昭和47年8月11日付け鑑定書中の、D商店におけるみその原材料の記載(確定審第25分冊229丁)を参考にして、原材料からみそを仕込み、仕込みから1年半以上経過し、みその発酵がある程度進んだ段階 の昭和47年8月11日付け鑑定書中の、D商店におけるみその原材料の記載(確定審第25分冊229丁)を参考にして、原材料からみそを仕込み、仕込みから1年半以上経過し、みその発酵がある程度進んだ段階で、5点の衣類に類似した衣類等に血液を15付着させ、麻袋に入れた上で投入し、上から重石をのせ、それからさらに約半年が経過した後、前記衣類等を取り出すと、衣類及び血痕の色は、前記②の「1年2ヶ月味噌漬け実験報告書」とほぼ同様のものになっており、S鑑定書添付の写真とは明らかに異なっていたというものである。)をそれぞれ提出し(本決定では、前記各実験報告書を併せて「みそ漬け実験報告書」と表記することがあ20る。)、④前記各実験に関してL(以上の各実験を行った者の一人)の証人尋問を実施した。 さらに、原審弁護人は、原審において検察官から開示された撮影日時不詳の5点の衣類等の写真30枚(原審検20)により、前記各実験における色合いとの齟齬がより明確になったとする。 25原審弁護人は、以上の証拠から、5点の衣類は、確定判決が認定したように113年以上1号タンクの中に入れられていたものではなく、発見される前の比較的短時間内にみそタンク内に埋め込まれたものであることが明らかになったことから、犯行着衣ではなかったことが明らかになったと主張する。 イ 前記①の実験について見ると、みそとたまりを用いれば、5点の衣類を短時間で一定の色に染めることができるという限度で信用できることは明らかであ5る。そうである以上、5点の衣類について、みその色がしみ込んでいることのみを理由として長期間1号タンクの中に入っていたと認定することはできない。 また、前記②及び③の各実験についてみると、5点の衣類がみその中に入れられた後、その上から色が薄かったと推察される ることのみを理由として長期間1号タンクの中に入っていたと認定することはできない。 また、前記②及び③の各実験についてみると、5点の衣類がみその中に入れられた後、その上から色が薄かったと推察される多量のみそ原料を投入されていること、5点の衣類の発見者であるKが、当時の1号タンク内のみその色につき、10前記各実験におけるみその色より薄かったと供述していることから、5点の衣類が1年以上1号タンクの中に漬けられた場合の色合い等を正確に再現できているとまでは認められないものの、5点の衣類のみそによる着色の程度及び血痕の色合いを見ると、長期間みそに漬けられていたにしては不自然である。 すなわち、前記②及び③の各実験において、白色の衣類は、いずれもみそに似15た色に染まっているが、この点について、布製の衣類が、麻袋の中に入れられた上、長時間にわたり半固体の物体であるみその中に漬けられた場合、その物体の色に染まるという一般的な経験則とも合致しているので、前記各実験は、この限度では信用できる。また、5点の衣類の色について見ると、S鑑定書添付の写真及び原審検20の写真の中の白ステテコや白半袖シャツは、どちらかというと白20に近い色調に見え、発見直後に作成された実況見分調書では「薄茶色」と表現されており、S鑑定書でも「黄褐色」と表現されている上、各写真中の緑色パンツについても明らかに緑色を帯びていると認められ、このことは、Kの確定審における証言や発見直後の実況見分等により裏付けられている。他方、1号タンク内のみその色については必ずしも明らかではないが、出荷の際に発酵の進んだみそ25を混入させるなどの措置がとられていたにせよ、みその中では相対的に色が濃い14赤みそとして出荷されているものであったこと、前記Kも前記③のみそ漬け実験のみそ 、出荷の際に発酵の進んだみそ25を混入させるなどの措置がとられていたにせよ、みその中では相対的に色が濃い14赤みそとして出荷されているものであったこと、前記Kも前記③のみそ漬け実験のみその写真と比較して「もう少し」薄いとしか供述していないことから相当程度濃い茶色であったと推測される。以上のとおり、白ステテコや白半袖シャツの色は、1号タンクのみその色と比較して相当程度薄かった可能性が高く、1年以上もの間、1号タンク内に入れられていたものとしては不自然との印象が強い。 5さらに、血痕の色は、前記②及び③の各実験の報告書では黒色又は黒褐色に変色していて、赤又は赤みを帯びた色とは評価できないのに対して、5点の衣類の写真を検討すると、ネズミ色スポーツシャツ以外の5点の衣類に付着した血痕は、いずれも赤みを帯びていると認められ、このことは発見直後の実況見分調書において「赤紫色」、S鑑定書において「赤色」「濃赤色」「赤褐色」などと表現さ10れていることによって裏付けられるのであり、前記実験結果等に照らせば、5点の衣類の血痕は、事件の際に付着し、1年以上経過したものとしては、赤みが強すぎ、不自然であるといわざるを得ない。 ウ 以上より、原審弁護人が提出した前記各証拠によれば、5点の衣類は、長期間みその中に入れられたことをうかがわせるものではなく、赤みそとして製造15されていたみその色を反映していない可能性が高い上、血痕の赤みも強すぎ、血痕が付着した後1年以上の間、1号タンクの中に隠匿されていたにしては不自然なものになっている。このような検討は、厳密に数量化できるようなものではないが、大まかな傾向を把握するには十分であり、観察方法が主に肉眼によるとはいえ、証明力が必ずしも小さいということにはならず、肉眼で見て明らかに色合20い 討は、厳密に数量化できるようなものではないが、大まかな傾向を把握するには十分であり、観察方法が主に肉眼によるとはいえ、証明力が必ずしも小さいということにはならず、肉眼で見て明らかに色合20いが違えば誰が見てもそのような判定になるのであり、観察者によって結論が異なることもないのであって、5点の衣類が1号タンク内に隠匿された時期という、本件においてはAの犯人性に直結する事情に関する重要な証拠である以上、このような違いを看過することは許されない。したがって、これらの証拠は、確定判決中、5点の衣類が犯行着衣であり、犯行直後から昭和41年7月20日までの25間に隠匿され、その後昭和42年8月31日までの間、1号タンク内に隠匿され15たままであったとの認定に一定程度疑いを生じさせるものといえる。 ⑶ 5点の衣類に関する新証拠の総合評価5点の衣類は、DNA型鑑定という科学的な証拠によって、Aの着衣でない蓋然性が高く、犯行着衣でもない可能性が十分あることが判明し、また、前記各みそ漬け実験の結果、5点の衣類が発見された際の衣類の色合いや血痕の色は、15年以上みそに漬かっていたとするには不自然で、ごく短時間でも発見された当時と同じ状況になる可能性が明らかになったものであり、確定判決のうちAが本件の犯人であるとする最も有力な証拠が、Aの着用していたものでもなく、犯行に供された着衣でもなく、事件から相当期間経過した後、みそ漬けにされた可能性があるということになる。 10このような証拠が、事件と関係なく事後に作成されたとすれば、証拠が後日捏造されたと考えるのが最も合理的であり、このような証拠をねつ造する必要性と能力を有するのは、おそらく捜査機関(警察)以外にないと思われる。警察は、Aを逮捕した後、連日、深夜にまで及ぶ長期間に 後日捏造されたと考えるのが最も合理的であり、このような証拠をねつ造する必要性と能力を有するのは、おそらく捜査機関(警察)以外にないと思われる。警察は、Aを逮捕した後、連日、深夜にまで及ぶ長期間にわたる取調べを行って自白を獲得しており、その捜査手法は、Aを有罪と認定した確定判決すら、適正手続の保15障という見地からも厳しく批判され、反省されなければならないと評価しており、そこには、人権を顧みることなく、Aを犯人として厳しく追及する姿勢が顕著であるから、5点の衣類のねつ造が行われたとしても、特段不自然とはいえず、確定審の公判においてAが否認に転じたことを受けて、新たに証拠を作り上げたとしても、全く想像できないことではなく、もはや可能性として否定できないもの20といえる。この後の総合判断の際にも、この可能性を考慮して検討することが求められるのは当然である。なお、検察官は、そのようなねつ造は警察関係者とD商店の従業員が意を通じて行わなければならないところ、従業員が証拠のねつ造に加担する理由や必要性はないなどの理由から現実には到底あり得ない空想の産物だと主張するが、5点の衣類を科学的、客観的に分析、検討した結果、ねつ造25されたものであると疑わざるを得ない状況になっている以上、あり得ないなどと16してその可能性を否定することは許されない。警察関係者において、5点の衣類を準備して、自ら又は第三者(この中にはD商店の関係者も含まれる。)の協力を得て、1号タンク内にこれを隠匿すれば、あとは従業員がこれを発見するのを待つことで足りるのである。 ⑷ 新旧証拠の総合評価(5点の衣類に関して)5ア 原審弁護人が提出した前記各証拠は、確定判決が有罪判決の根拠とした、「5点の衣類は、犯行着衣でありかつAのものである」という認定につ ⑷ 新旧証拠の総合評価(5点の衣類に関して)5ア 原審弁護人が提出した前記各証拠は、確定判決が有罪判決の根拠とした、「5点の衣類は、犯行着衣でありかつAのものである」という認定につき、合理的な疑いを生じさせるべきものであるので、確定審、第一次再審及び原審で提出された5点の衣類に関する全証拠を総合して再評価した場合、前記疑いが再審を開始するに十分なものであるかどうかなどについて、主要な証拠を取り上げて検10討する。 5点の衣類の発見経緯についてみると、仮にAが犯人とすると、1号タンクを隠匿場所に選択すること自体危険を伴うもので、不自然の感を否めないし、捜索時に発見されなかったこと自体も若干不自然であり、捜索時に発見されなかったとすると、5点の衣類は外から見て分からないように埋められていたことに15なるが、犯行直後にわざわざ1号タンクの中に入ってみその中に衣類を埋め込むという手のかかる作業をしたことになり、不自然であり、かえって、5点の衣類は、発見される直前に投入されたと認める方がはるかに自然である。5点の衣類の発見経緯は、それらが犯行着衣でもAのものでもないという疑いを強めるものであり、その程度も相当程度のものと評価できる。 20鉄紺色ズボンのサイズについては、ウエストのサイズからみる限り、はけなかったと断言するまでには至らないが、同ズボンがわざわざウエストを詰めて74センチメートル又はそれより細いウエストにする処理がされている点は不自然の感を否めず、それがAのものではなかったとの疑いに整合するものである。 白半袖シャツの損傷、ネズミ色スポーツシャツの損傷及びAの右上腕の傷25の関係については、ネズミ色スポーツシャツの右袖には穴が1箇所、白半袖シャ17ツの右袖には穴が2箇所あるところ、昭和4 白半袖シャツの損傷、ネズミ色スポーツシャツの損傷及びAの右上腕の傷25の関係については、ネズミ色スポーツシャツの右袖には穴が1箇所、白半袖シャ17ツの右袖には穴が2箇所あるところ、昭和46年の時点でAが白半袖シャツとネズミ色スポーツシャツを着用すると、これらの穴及びAの右上腕の傷の位置が重なるわけでもなければ、一直線上に並ぶわけでもなかったが、そのような齟齬が生じた原因として様々なものが想定できるから、Aが犯行中着用している際に形成されたものとみることは不可能とはいえないが、前記損傷等も、5点の衣類が5犯行着衣ではないという疑いと整合的であるばかりでなく、むしろ疑いを強めるものである。 端布について、本件では、鉄紺色ズボンと切断面が一致する端布がAの実家から発見されており、これは確定判決の認定を支える極めて重要な事実であることは間違いないが、端布が収集された経緯等をみると、本当に端布がAの実家10から出てきたものであるかどうかについては、疑いを入れる余地があり、端布の存在も、5点の衣類がAの着衣ではないという疑いを払拭するほど証明力の強い証拠ではなく、むしろ、この端布自体もねつ造された証拠である疑いが強まったといえる。 イ DNA鑑定等の新証拠の存在を前提として、5点の衣類に関する新旧証拠15の再評価を行うと、5点の衣類が犯行着衣及びAのものであることを裏付ける決定的な証拠がないばかりでなく、むしろねつ造されたものであることを示唆する証拠が複数存在することになり、DNA型鑑定等の新証拠によって生じた疑いが払しょくされるどころか、むしろ補強されたことになる。そうすると、5点の衣類が犯行着衣でもAのものでもないとの疑いが合理的なものであることは明らか20であり、到底排斥することはできない。 ⑸ 新旧証拠 れるどころか、むしろ補強されたことになる。そうすると、5点の衣類が犯行着衣でもAのものでもないとの疑いが合理的なものであることは明らか20であり、到底排斥することはできない。 ⑸ 新旧証拠の総合評価(5点の衣類以外)念のため、5点の衣類以外の証拠からAの犯人性が肯定されることがないかを検討すると、①Aのパジャマの混合油と血液につき、混合油はそもそも複数の異なる鑑定結果があり、パジャマに付着した量も多量であったという証拠はなく、25血液についても、広範囲にわたって多量の血液が検出されたわけではないから、18犯行とは別の機会に付着した可能性も十分あること、②Aが知人女性に渡したとされる紙幣については、そのような証拠自体不自然であり、この証拠物が意図的に作り上げられた証拠との疑いもあり、この紙幣や便箋の存在が、Aの犯人性を裏付ける証拠と評価できないこと、③Aの左手中指の切創等については、火災時の消火活動の際も含め、犯行とは別の機会に形成された可能性が十分認められ、5Aが犯人だとしても矛盾しない程度のものであり、Aの右上腕前部の傷痕や右下腿部の打撲擦過痕についても同様であって、これらの傷自体からAの犯人性を推認することはできないこと、④Aの自白調書については、犯行着衣はパジャマであると供述しており、認定事実と明らかに違っており、この点だけを除いて同調書の他の部分は信用できるという判断自体批判の余地がある上、特段に信用性を10高める事柄は見出せないこと、以上のとおりであり、5点の衣類以外の証拠は、Aの犯人性を推認させる力がもともと限定的又は弱いものしかなく、しかも、DNA型鑑定等の新証拠の影響によりその証拠価値がほとんど失われるものもあり、自白調書を検討してもそれ自体証明力が弱く、その他の証拠を総合してもAが犯人で ともと限定的又は弱いものしかなく、しかも、DNA型鑑定等の新証拠の影響によりその証拠価値がほとんど失われるものもあり、自白調書を検討してもそれ自体証明力が弱く、その他の証拠を総合してもAが犯人であると認定できるものでは全くないことは明らかである。 15⑹ 原決定の結論以上の検討により、原審弁護人が提出したDNA鑑定等の新証拠を前提とすると、Aの犯人性を根拠付ける最も有力な証拠である5点の衣類が、犯人の着衣でもAのものでもないという疑いは十分合理的なものであり、念のため検討したその他の証拠については、Aの犯人性を認定できるものはないことが検証された。 20そうすると、V1鑑定等の新証拠が確定審において提出されていれば、Aが有罪との判断に到達していなかったものと認められるから、5点の衣類等のDNA型鑑定に関する証拠(とりわけV1鑑定)及び5点の衣類の色に関する証拠(とりわけ、みそ漬け実験報告書等)は、「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」に該当する。したがって、本件について再審を開始する。 252 前高裁決定の判断の要旨19前高裁決定は、確定判決の証拠構造の把握について、原決定の前記判断に不合理な点はないとして、確定判決の証拠構造につき、確定判決においてAの犯人性を推認させる最も中心的な証拠は5点の衣類に関する証拠である一方、それ以外の証拠は犯人性を推認する上では補助的なものにすぎず、また、Aの自白調書は、犯人性やその他の関連事実を認めることができるほどの高度の信用性を有すると5いえないとし、①5点の衣類は犯人が本件犯行時に着ていた衣類であること、②5点の衣類はAのものであることという2点について、確定判決の認定に合理的な疑いを生じさせるような新証拠であれば、刑訴法435条6号にいう「無罪を言い渡すべき明 件犯行時に着ていた衣類であること、②5点の衣類はAのものであることという2点について、確定判決の認定に合理的な疑いを生じさせるような新証拠であれば、刑訴法435条6号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」といい得るとした。そして、前高裁決定は、概要、以下の理由で、V1鑑定及びみそ漬け実験報告書等は、いずれもそのような新証10拠には当たらないとして、再審開始を認めた原決定を取り消した。 ⑴ V1鑑定の刑訴法435条6号該当性について前高裁決定は、概要、V1鑑定の細胞選択的抽出法の科学的原理や有用性には深刻な疑問が存在しているにもかかわらず、原決定は細胞選択的抽出法を過大評価しているほか、原決定が前提とした外来DNA型の残存可能性に関する科学的15原理の理解も誤っている上、V1鑑定書添付のチャート図の解釈にも種々の疑問があるなどとして、V1鑑定を信用できるとした原決定の判断は不合理なものであって是認できず、V1鑑定で検出されたアリルを血液由来のものとして、Aのアリルと矛盾するとした結果も信用できず、V1鑑定は、Aの犯人性を認定した確定判決の認定に合理的な疑いを生じさせるような明白性が認められる証拠とは20いえない、と判断した。 ⑵ みそ漬け実験報告書等の刑訴法435条6号該当性についてア 原決定は、5点の衣類や血痕の色合いについて、S鑑定書添付のカラー写真や原審検20の写真から大まかな傾向を把握していると認められる。しかし、S鑑定書は、作成から40年以上が経過したものであり、添付されている写真に25ついても一見して相当劣化退色していることが明らかなものである。また、S鑑20定書が作成された昭和42年頃は、いまだカラー写真が普及していない時代であり、当時と現時点とでは、カラー写真フィルムやカメラの性 見して相当劣化退色していることが明らかなものである。また、S鑑20定書が作成された昭和42年頃は、いまだカラー写真が普及していない時代であり、当時と現時点とでは、カラー写真フィルムやカメラの性能、撮影技術、現像やプリントの技術等についても格段の差異があり、撮影当時でさえ、自然な発色が可能となるような照明、露出、プリントの色補正等がされて、自然に近い色合いのプリントができ上がっていたのか相当に疑問がある上(W1教授作成の鑑定5書(前抗告審検44)によれば、色再現性は現時点より大きく劣るとされている。)、現時点においても、周囲の照明の色等の状況によっては、プリントの色合いがかなり異なってくるのは常識に属するところであって、5点の衣類や血痕の色合いに関して、大まかな傾向を把握する資料としても適切とはいい難い証拠であることは明白である。 10また、この点を措くとしても、S鑑定書添付の写真及び原審検20の写真を詳細にみると、5点の衣類の写真の横には、計測用メジャーが置かれて衣類と一緒に撮影されているところ、例えば、白ステテコの写真の横のメジャーを見ると、写真上部付近のメジャーの目盛りについては黒色で写し出されており、写真上でも目盛りの数値は読み取れるものとなっているのに、写真中央部のメジャーの目15盛りは白っぽく反射したようになって不鮮明であり、目盛りの数値を読み取るのは困難な状態となっており、写真の外形からして撮影時の露光が不適切であった疑いの濃いものとなっている。現に、前記W1作成の鑑定書によれば、前記のように白っぽく写ってしまう現象は、写真の露光がオーバーとなったものと指摘されているが、同指摘は、前記のような写真の状況に照らして十分信用できるとい20える。そして、同鑑定書添付の写真は、昭和42年当時の前記写真のネ まう現象は、写真の露光がオーバーとなったものと指摘されているが、同指摘は、前記のような写真の状況に照らして十分信用できるとい20える。そして、同鑑定書添付の写真は、昭和42年当時の前記写真のネガを基に、背景のスケールの色等を手掛かりにして、できるだけ実際の色調に近いものに再現したというものであるところ、血液が薄く付着した部分には赤みが残っているものの、多量に付着したと思われる個所の色合いは黒色又は茶褐色であり、原決定が「大まかな傾向」として参考にしたS鑑定書添付の写真等とは大きく色合い25が異なっている。 21そうすると、原決定が判断の基礎とした写真は、劣化や撮影の露光の問題、当時の技術水準等により、5点の衣類の色合いが正確に表現されたものではないことは明らかであって、大まかな色合いの傾向を把握するにも不適当な資料といわざるを得ないのに、原決定が、これらの写真から5点の衣類の大まかな色合いの傾向を把握した上、1年2か月もの間、みそ漬けにされていたにしては薄いと判5断したことは、不合理な判断といわざるを得ない。 イ 次に、D商店で当時製造されていたみその色合いについて、原決定は、白黒写真しか存在せず必ずしも明らかではないとしながら、みその中では相対的に色が濃い赤みそとして出荷されていたこと、D商店の従業員であったKも調書中でみそ漬け実験報告書のみその写真と比較して「もう少し」薄いとしか供述して10いないことから、相当程度濃い茶色であったとしている。 しかし、そもそもみその色合いの濃淡は、多かれ少なかれ主観的な判断になることは避けられないのであり、同じ色合いのものを示された場合であっても、その濃淡の判断に個人差が出ることや、みその色についても地域差があり、「赤みそ」というみそで想定する色についても、地域 断になることは避けられないのであり、同じ色合いのものを示された場合であっても、その濃淡の判断に個人差が出ることや、みその色についても地域差があり、「赤みそ」というみそで想定する色についても、地域差が少なからずあることは経験則15上明らかである。加えて、D商店で製造されていたみその製法をできるだけ正確に再現しようとしても、気温や湿度、みそを寝かす容器の大きさや保管条件等によってみその発色も異なるものであり、単に製造方法が類似しているというだけで、直ちにみその色が同一であることを推認することもできないことに照らすと、原審弁護人が前記各みそ漬け実験で使用したみそが当時の製造方法を参考にして20製造されたことを踏まえても、みその色の再現の正確性には限界があるといわざるを得ない。 したがって、みその色合いを根拠として確定判決の認定の当否を判断するには、少なくともその色合いをできるだけ客観的な方法で明らかにする必要があるところ、前記各みそ漬け実験ではそのような工夫はなされておらず、正確性を担保す25る資料もないまま、同実験で使用されたみそとD商店で製造されていたみその色22合いが近いと認定することは不適切である。そして、現に、D商店の元従業員らは、改めて各種のみその見本という客観的資料を示されながら1号タンク内のみその色合いを尋ねられたところ、概ね同一系統の色合いを指示しているが、その指示した色合いは赤みそにしては淡い色であることで共通している。また、原決定が根拠とする前記Kの供述についても、同人は、色合いに関する写真帳等の具5体的な資料がなかったため曖昧な言い方になってしまい誤解を与えてしまったと述べた上、色見本を示されて指示した色は赤みそというには淡い色であることが認められ(前抗告審検50)、前記各みそ漬け実験で使 体的な資料がなかったため曖昧な言い方になってしまい誤解を与えてしまったと述べた上、色見本を示されて指示した色は赤みそというには淡い色であることが認められ(前抗告審検50)、前記各みそ漬け実験で使用されたみそよりも色合いが相当薄いものであることは明らかである。そうすると、原決定が、D商店で製造されていたみそは、前記各みそ漬け実験で使用されたみそと類似した色合い10であることを前提として、5点の衣類の着色状況が薄すぎると判断したことは前提事実を誤って認定したものであって、不合理な判断といわざるを得ない。 ウ 一方、前抗告審弁護人は、以下のとおり主張して、みそ漬け実験に関する検察官の主張には理由がないと主張する。 前抗告審弁護人は、5点の衣類の血痕は、赤みが強すぎて不自然であるとの原15決定の判断は正当であるとし、その根拠として、①そもそも、検察官の依頼によるみそ漬け実験(前抗告審検151。W2准教授の意見書。以下「W2実験」という。)によっても血痕は黒色に変化している、②醸造中のみそでは、糖とアミノ酸が非酵素的に反応し、褐色物質が産出されるメイラード反応が発生しているところ、血痕が付着した衣類を醸造中のみそに投入すると、血液中のたんぱく質20がメイラード反応により褐色化し、この結果、血液は黒に近い暗褐色になるものであって(前抗告審弁213。V2教授の意見書。以下「V2意見書」という。)、5点の衣類の血痕は明るすぎる、③検察官が根拠とするW3教授作成の意見書(前抗告審検65。以下「W3意見書」という。)については証拠価値が乏しいなどという。 25しかし、前示のとおり、そもそも、S鑑定書添付の写真や原審検20の写真の23色合い自体が正確なものとはいえないと認められるから、同写真等の血痕の色合いを前提として しいなどという。 25しかし、前示のとおり、そもそも、S鑑定書添付の写真や原審検20の写真の23色合い自体が正確なものとはいえないと認められるから、同写真等の血痕の色合いを前提として、血痕の明るさを論じること自体が失当というほかないのであるから、前抗告審弁護人の主張は採用できない。また、製造から1年後のみその色合いは、同じような原料を使用して製造しても気温等の条件により異なることは、D商店の元従業員ら(前抗告審検50、51等)の供述やLの原審証言(原審第57分冊2958丁)により明らかであるところ、前抗告審弁護人指摘の検察官の依頼によるみそ漬け実験(W2実験)は、みそ漬けにされた人血のDNAの分解の程度等を鑑定するためのものであって、原材料等はできるだけ5点の衣類が発見されたタンクのものを再現しているが、実験に用いられたTシャツの色(前抗告審検151写真47、48、弁212写真13ないし16)からすれば、約110年後のみその色は5点の衣類発見当時のみその色より濃いことがうかがわれ、みその色の影響を受けていると思われる血痕の色と5点の衣類の色を単純に比較することはできず、同実験では、薄く広がったような形態の血痕は付けていないので、5点の衣類のうち薄く広がったような血痕の色とも比較することはできない。 前抗告審弁護人は、メイラード反応による血痕の褐色化をもいうが、D商店元従15業員らの供述からうかがわれるみその色からすれば、みそのメイラード反応はさほど進行していなかったことがうかがわれ、光が全く入らず8トンもの圧力が加わった状態であることや気温等のみその熟成条件も年によって変わることなどからすれば、血液のメイラード反応がどの程度進むかについて的確に推測することは困難であり、そのような推測を可能とするような資料も提出 た状態であることや気温等のみその熟成条件も年によって変わることなどからすれば、血液のメイラード反応がどの程度進むかについて的確に推測することは困難であり、そのような推測を可能とするような資料も提出されていないので、20赤みを帯びた部分が全く残らないはずであると認めることはできない。 次に、前抗告審弁護人は、①5点の衣類が1号タンク内に隠されたとすれば、犯行直後の残存みその中としか考えられず、確定判決も、5点の衣類が、1号タンクの残存みその中に隠されていたことを前提としているものであるところ、残存みその色は、熟成が進み、茶色を通り越して黒に近い色であったものであるか25ら、5点の衣類は、黒に近い茶色に染まっていなければならないはずであるのに、245点の衣類の色合いは、着色の程度が薄すぎるし、残存みその上から新しいみそを仕込んだとしても、みそ二層色変化実験報告書(前抗告審弁214)によれば、熟成が進んだみその上に新しいみそを投入しても、色が混じり合うことはないのであるから、やはり、5点の衣類の着色状況は薄すぎる上、1号タンクのみその色合いについても、相当濃い茶色であったことは十分認められる、②みその色合5いが淡色みその色に近かったというD商店元従業員の供述調書の内容は信用できないなどという。 そこで検討すると、①については、確かに、残存みそについては仕込みみそと比較して色が濃い可能性自体は否定できないものの、W4助教は、当時の1号タンクのように、残存みその量と新しい仕込みみその量との間に差がある場合、色10の濃い残存みそは、大量の仕込みみその色に飲み込まれて、次第に色が薄まっていくと説明しており(前抗告審検198)、その説明には特段信用性を疑わせるような点はないのであり、W4助教の見解によれば、残存みそに隠匿 みそは、大量の仕込みみその色に飲み込まれて、次第に色が薄まっていくと説明しており(前抗告審検198)、その説明には特段信用性を疑わせるような点はないのであり、W4助教の見解によれば、残存みそに隠匿されたとの確定判決の認定を前提としても、5点の衣類が隠匿されていたみそは、前記各みそ漬け実験で使用されたみそよりも色が薄いというべきである。一方、前記みそ15二層色変化実験報告書では、残存みその量と仕込みみその量を同一の各4キログラムとしており、境界部のみそにかかる圧力は小さいと考えられるが、それでも約4か月後には2種のみその境界線がやや不明瞭になり、境界辺りは相互に色の浸透が見られるところ、当時の1号タンクにおけるみその量についてみると、多くても百数十キログラム程度の残存みその上から合計8トン以上の赤みそ(原審20第4分冊1518丁)が仕込まれているのであって、比率において格段の差があるばかりでなく、上から8トンもの圧力が加わった状態にあったのであるから、1年経った段階でみそ二層色変化実験報告書と同様に2層に分かれたままで互いにさほど影響していない状態であったとはいえない。同報告書の内容は、5点の衣類が隠匿されていたみその色は、みそ漬け実験報告書のみその色よりも淡い色25であったとの前記認定を左右するものではない。 25次に、②については、D商店元従業員らは、いずれも抽象的にみその色の濃淡を述べているわけではなく、みそ写真帳(前抗告審検61)を示されながら、昭和42年8月31日当時のD商店の1号タンク内にあったみそと類似する色の番号を具体的に指摘しているところ、元従業員は、みそ写真帳の中からいずれもほぼ同様の色合いのみそ見本の番号を指摘している(前抗告審検50から52まで、557から59まで)のであって、元従業員の 番号を具体的に指摘しているところ、元従業員は、みそ写真帳の中からいずれもほぼ同様の色合いのみそ見本の番号を指摘している(前抗告審検50から52まで、557から59まで)のであって、元従業員の供述が相互に一致していること自体がその信用性を高める事情と評価できることに照らすと、前抗告審の弁護人の主張を踏まえても元従業員の供述の信用性に疑わしい点はない。 なお、原決定のいうとおり、みそ漬け実験報告書(原審弁2)によれば、みそとたまりを用いれば、5点の衣類を短期間で一定の色に染めることは可能である10と認めることはできるが、単に理論的にはそのようなことが可能であるというにすぎず、実際にそのような工作がなされたということをうかがわせる具体的証拠は一切なく、この証拠のみをもって、新規性、明白性のある証拠であると認めることはできない。また、仮に、捜査当局が、5点の衣類に血を付けるなどの加工をした上で、そのように予めたまりやみそに漬けてそれらが長期間漬かった状態15を仮装したとすれば、5点の衣類の発見時点に近接した時期に、それらをD商店に持ち込んで、商品であるみその入っている1号タンクの中に隠したということになるが、そのような工作をするためにはD商店の従業員等の協力が不可欠であるところ、そのような協力を得ることは著しく困難であり、捜査機関が隠匿した現実的可能性は乏しい。 20エ 以上の次第であって、5点の衣類の各写真は、写真自体の劣化や、撮影時の露光といった問題があり、発見当時の色合いが正確に表現されていないのであるから、色合いを比較対照する資料とはなり得ないものである上、前記各みそ漬け実験で用いられたみそは、5点の衣類が発見された1号タンク内にあったみその色合いを正確に再現したものとはいえないのであるから、みそ漬け実験報 比較対照する資料とはなり得ないものである上、前記各みそ漬け実験で用いられたみそは、5点の衣類が発見された1号タンク内にあったみその色合いを正確に再現したものとはいえないのであるから、みそ漬け実験報告書25等を刑訴法435条6号にいう明白性がある証拠と判断した原決定は不合理なも26のといわざるを得ない。 ⑶ 小括(原決定が明白性を認めた証拠の証拠価値)以上から、V1鑑定及びみそ漬け実験報告書等の証拠価値はいずれも低く、これらの証拠が、Aに対し無罪を言い渡すべき明らかな証拠に当たるとはいえないのに、V1鑑定及びみそ漬け実験報告書等の証拠価値を高く評価し、これらの証5拠が無罪を言い渡すべき明らかな証拠に当たるとした原決定の判断は、刑訴法435条6号の解釈適用を誤った違法がある。 ⑷ 前高裁決定は、原決定について、V1鑑定や5点の衣類とそれに付着した血痕の色に関する新証拠以外に第2次再審において新たに提出等された証拠は、刑訴法435条6号の証拠には当たらないと判断しているものと解するほかはない10とした上で、それ以外の新証拠、具体的には、5点の衣類等に関する新証拠として、①鉄紺色ズボンのサイズに関するもの、②端布に関するもの、③緑色パンツに関するもの、④白半袖シャツ及びネズミ色スポーツシャツの損傷とAの右上腕部の傷に関するもの、⑤本件当時の1号タンクのみその量に関するもの、5点の衣類等以外に関する新証拠として、①焼けた紙幣に関するもの、②裏木戸関係の15もの、③火災発生後のAの行動に関するもの、④Aの供述の供述心理学的分析に関するもの等について、Aに対して無罪を言い渡すべき明らかな証拠に該当するかなどについても検討したが、結論として、そのような証拠価値を有するものはないとした。 以上から、前高裁決定は、5 析に関するもの等について、Aに対して無罪を言い渡すべき明らかな証拠に該当するかなどについても検討したが、結論として、そのような証拠価値を有するものはないとした。 以上から、前高裁決定は、5点の衣類に関する新旧証拠及びその余の新旧証拠20を総合評価しても、5点の衣類が犯行着衣であり、かつ、それがAのものとする確定判決の認定に合理的な疑いを生じさせるような事情は見出せないから、刑訴法435条6号に該当する事由は認められないとして、原決定を取り消して、本件再審請求を棄却した。 3 最高裁決定の要旨25最高裁決定は、⑴V1鑑定については、原決定はV1鑑定の証拠価値の評価を27誤り、V1鑑定が「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」に当たるとした点で刑訴法435条6号の解釈適用を誤った違法があるとした前高裁決定は、結論において正当であると判断し、⑵みそ漬け実験報告書については、前高裁決定は、みそ漬けされた血液の色調に影響を及ぼす要因、とりわけみそによって生じる血液のメイラード反応に関する専門的知見について審理を尽くすことなく、メイラード5反応の影響が小さいものと評価した誤りがあるとし、このことは5点の衣類に付着した血痕に赤みが全く残らないはずであるとは認められないとの前高裁決定の判断に影響を及ぼした可能性があり、審理不尽の違法があるといわざるを得ず、その違法が決定に影響を及ぼすことは明らかであり、前高裁決定を取り消さなければ著しく正義に反するとして、同決定を取り消し、メイラード反応その他のみ10そ漬けされた血液の色調の変化に影響を及ぼす要因についての専門的知見等を調査するなどした上で、その結果を踏まえて、5点の衣類に付着した血痕の色調が、5点の衣類が昭和41年7月20日以前に1号タンクに入れられて1年以上みそ漬け に影響を及ぼす要因についての専門的知見等を調査するなどした上で、その結果を踏まえて、5点の衣類に付着した血痕の色調が、5点の衣類が昭和41年7月20日以前に1号タンクに入れられて1年以上みそ漬けされていたとの事実に合理的な疑いを差し挟むか否かについて判断させるため、本件を原審である東京高等裁判所に差し戻した。その理由の要旨は以下のと15おりである。 ⑴ V1鑑定に関する判断の骨子V1鑑定が、細胞選択的抽出法を採用したことにより、本件試料から血液由来の細胞をそれ以外の細胞と分離抽出することに成功した上で、微量かつ劣化した試料のDNA検査の困難性を克服しているとはいい難く、V1鑑定において検出20されたアリルが血液由来のものであると確定することはできないといわざるを得ない。また、V1鑑定において検出されたアリルの型判定の正確性についても疑義があるといわざるを得ない。したがって、V1鑑定は、DNA型により個人を識別するための証拠価値があるということはできず、5点の衣類が犯行着衣であるとの確定判決の認定に合理的な疑いを差し挟む証拠とはいえない。 25以上によれば、原決定はV1鑑定の証拠価値の評価を誤り、V1鑑定が「無罪28を言い渡すべき明らかな証拠」に当たるとした点で刑訴法435条6号の解釈適用を誤った違法があるとした前高裁決定は、V1鑑定の信用性を肯定した原決定の不合理性を多岐にわたって指摘した部分に不適切な説示等もあるが、結論において正当である。 ⑵ みそ漬け実験報告書に関する判断の要旨5ア みそ漬け実験報告書は、市販の赤みそや1号タンクで製造されたみその原料を参考に仕込まれたみそに漬けた衣類に付着させた血液の色を、5点の衣類に付着した血痕の色と比較し、5点の衣類が1年以上にわたり1号タンクでみそ漬けさ 、市販の赤みそや1号タンクで製造されたみその原料を参考に仕込まれたみそに漬けた衣類に付着させた血液の色を、5点の衣類に付着した血痕の色と比較し、5点の衣類が1年以上にわたり1号タンクでみそ漬けされたものとして不自然な点があるか否かを検証しようとしたものである。 イ 前高裁決定が、S鑑定書に添付された発見時の5点の衣類のカラー写真に10ついて、劣化や撮影時の露光の問題、当時の技術的制約から色調の正確性に疑問があり、5点の衣類の大まかな色合いの傾向を把握するにも不適当な資料といわざるを得ないとした判断は、不合理なものとはいえない。他方、5点の衣類が発見された当時の実況見分調書やS鑑定書には、血痕の色について、「濃赤色」、「濃赤紫色」、「赤褐色」等の記載があり、確定審において、複数の証人が一見15して血痕であると分かった旨証言していることからすれば、少なくとも5点の衣類に付着した血痕に赤みが残っていたものがあったことは否定できないから、このような血痕の色合いが1年以上みそ漬けされた血痕として不自然かどうかを検討すること自体が失当とまでいうことはできない。 次に、前高裁決定が、みそ漬け実験報告書で使用されたみその色合いについて、20みそ製造販売会社の元従業員の供述等により、1号タンクで製造されたみその色を正確に再現したものとはいえないとした判断に不合理な点はない。そして、みそ漬け実験報告書について、同実験で使用した赤みその色合いは、同決定が認定した1号タンクのみその色より相当濃いことは明らかであり、その色からうかがわれるみその醸造の進行の程度にも差があったと考えられるから、同実験は、525点の衣類を発見した当時の1号タンクのみその状態を正確に再現したものとはい29えないとした前高裁決定の判断は、その結論において不合理 進行の程度にも差があったと考えられるから、同実験は、525点の衣類を発見した当時の1号タンクのみその状態を正確に再現したものとはい29えないとした前高裁決定の判断は、その結論において不合理とはいえない。 ウ みそ漬け実験報告書によれば、衣類に付着させた血液の色は、みそ漬けから1か月後に黒褐色となり、1年2か月後にみその色より暗色の黒褐色となり(原審弁6)、また、みそ漬けから6か月後にほぼ濃黒紫色ないし黒色に近い色となった(原審弁8)もので、いずれも赤みが完全に消失した。また、検察官が5提出したW2実験の添付写真を見ると、衣類に付着させた血液の色は、遅くともみそ漬けから30日後には黒くなり、5か月後には赤みが全く感じられない。 W2実験は、みそ漬けされた人血のDNAの分解の程度等を鑑定する目的で実施された実験であり、実験の過程で醸造されたみその色が1号タンクのみその色よりも濃いことがうかがわれ、薄く広がった形の血液を付けていないなどの条件10の違いもあることから、同実験の過程で現れた血液の色と5点の衣類に付着した血痕の色を単純に比較することができないことは、前高裁決定が指摘するとおりである。しかしながら、W2実験は、醸造専門家の監修により1号タンクのみその醸造過程をできるだけ忠実に再現し、Tシャツに付着させた血液を、乾燥・未乾燥等の条件別にみそに漬けており、みそ漬け実験報告書に比べれば、5点の衣15類がみそ漬けされた状況をより客観的に再現するための工夫がされたものといえる。もとより、W2実験においては、血液の色の変化について、専門的知見に基づく分析や考察は加えられておらず、前抗告審において、この点に関する十分な主張立証もされていないことから、同実験において現れた血液の色の変化から、1年以上みそ漬けされた5点の衣 いて、専門的知見に基づく分析や考察は加えられておらず、前抗告審において、この点に関する十分な主張立証もされていないことから、同実験において現れた血液の色の変化から、1年以上みそ漬けされた5点の衣類の血痕に赤みが残ることはないと断ずること20まではできないが、少なくとも、長期間みそ漬けされたことが血痕の色に影響を及ぼし得る要因等について、専門的知見に基づく検討の必要性を認識させるものであることは否定できない。 エ 血液の色の変化について、W3意見書は、血液の量や濃度、温度、湿度、日光へのばく露、貯蔵媒体のPH、水分量やアルコール含有の有無等により、ど25の程度の時間が経過するとどのような色調になるかについても一定せず、一、二30年以上を経ても赤みが保持されていることは日常的に経験されるとしており、同意見書に添付された乾燥血痕のサンプルの中にもこれに沿うものが存在する。もっとも同意見書は、血液が付着した衣類がみそ漬けされた場合に血液が受ける影響について言及しておらず、上記サンプルもビニール袋に密封して研究室の棚で保管したものであるから、同意見書では、長期間にわたり醸造中のみそに漬けら5れた血液に赤みが残るかどうかは明らかではない。 オ ところで、前抗告審においては、醸造中のみその中で起こる褐変反応であるメイラード反応が、5点の衣類に付着した血痕の色に影響を及ぼす可能性のある要因として初めて主張された。V2意見書は、みその色が醸造中に濃くなるのはメイラード反応によるものであり、糖とアミノ酸が縮合して窒素配糖体が生じ10ることから始まり、アマドリ転位生成物が形成され、ケトアルデヒドが生じ、これがたんぱく質のポリペプチド鎖に重合し、メラノイジンという褐色物質が生じること、みそ原料の大豆が多量のたんぱく質を含み、メイラ ことから始まり、アマドリ転位生成物が形成され、ケトアルデヒドが生じ、これがたんぱく質のポリペプチド鎖に重合し、メラノイジンという褐色物質が生じること、みそ原料の大豆が多量のたんぱく質を含み、メイラード反応が進行する条件が整っていること、血液もたんぱく質により構成されたものであるから、みそ漬けされた血液にもメイラード反応が起こり得ること、みそ漬け実験報告書に15おいて衣類に付着させた血液が黒褐色に変色したのは、主にメイラード反応によると考えるのが妥当であることなどが指摘されている。V2意見書は、みそと同様に、みそ漬けされた血液にもメイラード反応が起こり得ることを指摘するものの、血液に対するメイラード反応の影響の有無・程度や血液の色の変化に関する他の要因との関係を具体的に示す実験結果や資料は証拠として提出されていない20から、みそ漬け実験報告書とV2意見書によって、1年以上みそ漬けされた血液に赤みが残ることはないと直ちに断定することは困難である。しかしながら、前抗告審では、V2意見書に対する専門的知見に基づく反論はされていないから、みそ漬けされた血液が褐色化して赤みを失うことに関する専門的知見として、同意見書が不合理な内容であると断ずることもできない。 25カ 前高裁決定は、5点の衣類に付着した血液がメイラード反応の影響を受け31た可能性について、1号タンクのみその色が赤みそにしては淡い色であったとうかがわれ、みそのメイラード反応がさほど進行していなかったとうかがわれること、1号タンク内は光が全く入らず8トンもの仕込みみその圧力が加わった状態であったことや気温等のみその熟成条件も変わることから、血液のメイラード反応がどの程度進むかについて的確に推測することは困難であり、そのような推測5を可能とするような資料も提出さ が加わった状態であったことや気温等のみその熟成条件も変わることから、血液のメイラード反応がどの程度進むかについて的確に推測することは困難であり、そのような推測5を可能とするような資料も提出されていないことを指摘して、みそ漬け実験報告書とV2意見書によっても、5点の衣類に付着した血痕に赤みを帯びた部分が全く残らないはずであると認めることはできないと判断した。 確定判決においては、5点の衣類が犯行着衣であり、かつAの着衣であることが犯人性の認定における最も中心的な証拠とされ、1号タンクに新たなみそが大10量に仕込まれた昭和41年7月20日以前に1号タンク底部に入れられたと認められたところ、みそ漬けされた血液の色に関する新証拠が、旧証拠と総合して、5点の衣類が同日以前に1号タンクに入れられたことに合理的な疑いを生じさせるような証明力を有する場合、Aが同日以降に5点の衣類を1号タンクに入れることはほとんど不可能であることから、Aの犯人性の認定にも合理的疑いを差し15挟む可能性が生じ得る。本件では、1号タンク内の環境条件や5点の衣類に血液が付着して1号タンクに入れられた状況等の諸条件は明らかではなく、5点の衣類に付着した血痕が醸造中のみそに1年余り漬けられたときに呈する色調を、具体的な条件を前提にして推認することは困難である一方で、現時点で提出された証拠は、1年余りみそ漬けされた血痕に5点の衣類が発見された当時のように赤20みが残る可能性があるのかを判断するには十分なものとはいえない。しかるに、前高裁決定の前記判断は、1号タンクのみそについて、メイラード反応の進行の程度を的確に推測する資料がないとしながら、みその色だけを根拠に、メイラード反応がさほど進行していなかったことがうかがわれるとしたものであって、その推論過程に疑問 そについて、メイラード反応の進行の程度を的確に推測する資料がないとしながら、みその色だけを根拠に、メイラード反応がさほど進行していなかったことがうかがわれるとしたものであって、その推論過程に疑問があり、また、みそ漬けされた血液に対するメイラード反応の25影響が的確に推測できないとしたのも、この点に関する専門的知見について審理32を尽くした上での判断とはいい難い。そうすると、同決定の前記判断は、みそ漬けされた血液の色調に影響を及ぼす要因、とりわけみそによって生ずる血液のメイラード反応に関する専門的知見について審理を尽くすことなく、メイラード反応の影響が小さいものと評価した誤りがある。このことは5点の衣類に付着した血痕に赤みが全く残らないはずであるとは認められないとの同決定の判断に影響5を及ぼした可能性があり、審理不尽の違法があるといわざるを得ない。 確定判決において5点の衣類が犯人性の認定における核となる証拠とされたという本件の証拠関係、5点の衣類に付着した血痕のDNA型及び色調をめぐり、原審及び前抗告審において長期間にわたり審理が重ねられ、原決定においては再審開始決定がされ、これが前抗告審において取り消されて本件再審請求が棄却さ10れたという審理経過、さらに、前抗告審に至ってV2意見書において血液中のたんぱく質とみそ中の糖との間で生じ得るとされるメイラード反応がみそ漬けされた血液の色調に影響を及ぼす要因として初めて主張され、5点の衣類がみそ漬けされた状況を客観的に再現する工夫がされたW2実験も、この点に関する専門的知見に基づく検討の必要性を感じさせるものであったことなどの前抗告審におけ15る審理状況をも併せ考えると、前記の違法が決定に影響を及ぼすことは明らかであり、前高裁決定を取り消さなければ著しく正義に反する づく検討の必要性を感じさせるものであったことなどの前抗告審におけ15る審理状況をも併せ考えると、前記の違法が決定に影響を及ぼすことは明らかであり、前高裁決定を取り消さなければ著しく正義に反するというべきである。 キ 最高裁決定は、以上のとおり説示した上で、前高裁決定を取り消し、メイラード反応その他のみそ漬けされた血液の色調の変化に影響を及ぼす要因についての専門的知見等を調査するなどした上で、その結果を踏まえて、5点の衣類に20付着した血痕の色調が、5点の衣類が昭和41年7月20日以前に1号タンクに入れられて1年以上みそ漬けされていたとの事実に合理的疑いを差し挟むか否かについて判断させるため、本件を原審である東京高等裁判所に差し戻した。 第5 当裁判所の判断1 当審における主たる争点等について25原決定、これを取り消した前高裁決定及び同決定を取り消した最高裁決定の前33記各説示をも踏まえて検討すると、当審における主たる争点は、概要、以下のとおりであるといえる。 前記のとおり、最高裁決定は、⑴前記DNA鑑定については、原決定がV1鑑定につき「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」に当たるとした点で刑訴法435条6号の解釈適用を誤った違法があるとした前高裁決定を結論において正当であ5ると判断し、⑵みそ漬け実験報告書については、前高裁決定は、みそ漬けされた血液の色調に影響を及ぼす要因について審理を尽くすことなく、1年以上みそ漬けされた5点の衣類に付着した血痕に赤みが全く残らないとは認められないとした前高裁決定は、審理不尽の違法があるとして、前高裁決定を取り消し、本件を差し戻したものである。 10確定判決においてAの犯人性を推認させる最も中心的な証拠は5点の衣類に関する証拠である一方、それ以外の証拠は犯人性を推認 法があるとして、前高裁決定を取り消し、本件を差し戻したものである。 10確定判決においてAの犯人性を推認させる最も中心的な証拠は5点の衣類に関する証拠である一方、それ以外の証拠は犯人性を推認する上では補助的なものにすぎない。そして、1年以上みそ漬けされた衣類の血痕は赤みが消失することが化学的機序として合理的に推測できることになれば、5点の衣類が1号タンクに漬け込まれた時期は昭和41年7月20日以前であるとした確定判決の認定に合15理的な疑いが生じることになる。さらに、5点の衣類が1号タンクに漬け込まれた時期が同日以前であったとは認定できないことになれば、同日から続けて合計約8トンのみそ原材料が1号タンクに仕込まれ、Aは、同年8月18日以降は、身柄を拘束されていることから、Aが1号タンクの底から約35センチメートルのところに5点の衣類を隠匿することは事実上不可能であり、Aが5点の衣類を201号タンクに隠匿したものではないことになる。そうすると、5点の衣類は犯人が本件犯行時に着ていた衣類(犯行着衣)であり、Aの衣類であるという確定判決の認定に合理的な疑いが生ずることとなり、その結果、Aの犯人性に合理的な疑いを生じさせるといえる。 みそ漬けされた衣類の血痕の色調の変化に関し、原審では、みそ漬け実験報告25書3点等が提出され、前抗告審では、W2実験の結果(これは主にDNA鑑定に34関する立証を目的とするものではあった。)やメイラード反応についてV2意見書等が提出された。そして、当審において、弁護人から、新たなみそ漬け実験報告書4点、X1教授及びX2助教の鑑定書3通及び意見書、X3教授の鑑定書等が、検察官から、Y1教授及びY2教授の検察官に対する供述調書や令和3年9月から検察官が行ったみそ漬け実験の結果に関する各捜査報告 4点、X1教授及びX2助教の鑑定書3通及び意見書、X3教授の鑑定書等が、検察官から、Y1教授及びY2教授の検察官に対する供述調書や令和3年9月から検察官が行ったみそ漬け実験の結果に関する各捜査報告書が提出され、前5記5人の専門家証人の尋問を行い、さらに、メイラード反応に関しては、弁護人からX4及びX5両教授の意見書、検察官からY3教授及びY4教授の各供述に関する捜査報告書2通が提出された。 以上から、当審における主たる争点は、メイラード反応その他のみそ漬けされた血痕の色調の変化に影響を及ぼす要因について、当審で取り調べた専門的知見10等を踏まえ、5点の衣類に付着した血痕の色調が、5点の衣類が昭和41年7月20日以前に1号タンクに入れられて1年以上みそ漬けされていたという確定判決が認定した事実に合理的疑いを差し挟むか否かであり、言い換えると、1年以上みそ漬けされた衣類の血痕は赤みが消失することが化学的機序として合理的に推測できるか否かが中核的な争点であるといえる。そして、専門的知見により115年以上みそ漬けされた衣類の血痕は赤みが消失することが化学的機序として合理的に推測できることになれば、原審において弁護人が新証拠として提出したみそ漬け実験報告書、そしてこれを裏付けるW2実験の結果を始め前抗告審や当審において提出されたみそ漬け関係の証拠により、1年以上みそ漬けされた衣類の血痕には赤みが残らないことが認定できることになり、その結果、5点の衣類には20赤みが残っている以上、5点の衣類が昭和41年7月20日以前に1号タンクに入れられて1年以上みそ漬けされていたとの確定判決が認定した事実に合理的疑いを差し挟むことになる。その場合、さらに、みそ漬け実験報告書等の新証拠に確定審で取り調べられた旧証拠を総合評価することによって、A れて1年以上みそ漬けされていたとの確定判決が認定した事実に合理的疑いを差し挟むことになる。その場合、さらに、みそ漬け実験報告書等の新証拠に確定審で取り調べられた旧証拠を総合評価することによって、Aを本件の犯人とした確定判決の認定に合理的疑いが生じれば、前記の新証拠は、刑訴法435条256号の「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」に該当することになる。 35以下、その前提で、当審において取り調べた専門的知見等を中心に踏まえて検討する。 2 5点の衣類の血痕の色について検察官は、5点の衣類に関して、S鑑定書添付のカラー写真等については、最高裁決定がいうように、劣化や撮影時の露光の問題、当時の技術的制約等から、55点の衣類の大まかな色合いの傾向を把握するにも不適当な資料である上、最高裁決定がいう、5点の衣類に付着していた血痕に残っていたとされる「赤み」は、D商店の当時の複数の従業員の供述によれば、相当に黒褐色、茶褐色系が強い色合い、すなわち「赤み」が後退した色調をイメージする必要があるという。 そこで検討するに、S鑑定書添付のカラー写真等について、最高裁決定がいう10ように、劣化や撮影時の露光の問題、当時の技術的制約等から、実際の色調をどこまで正確に表すものであるかはついては慎重な検討が必要であることから、5点の衣類の血痕の色調については、当時それを見分した警察関係者による実況見分調書や鑑定書の記載、そしてD商店の当時の複数の従業員の供述を基本にすべきである。また、D商店の当時の複数の従業員の供述は、血痕の色合いについて15は、「赤み」が残るとしても、相当程度茶褐色系の色合いであったこともうかがわれるものである。 しかし、前記複数の従業員は、5点の衣類の血痕様のものにつき、多くの者が茶色っぽいような色合い 15は、「赤み」が残るとしても、相当程度茶褐色系の色合いであったこともうかがわれるものである。 しかし、前記複数の従業員は、5点の衣類の血痕様のものにつき、多くの者が茶色っぽいような色合いといい、いずれの者も、血液が付着し、それが変色したものと分かったと述べている。また、5点の衣類の血痕様のものに関し、5点の20衣類が発見された当時の実況見分調書には、ステテコ、白半袖シャツ、ズボンの裏地につき、赤紫色と記載され、S鑑定書では、ステテコにつき濃赤色ないし淡赤褐色、白半袖シャツにつき赤褐色、ズボンの裏地につき淡赤褐色ないし赤色という記載がある。そして、前記鑑定を行ったSは、平成26年7月、検察官に対し、5点の衣類の血痕の色について、若干赤みのある褐色で、真っ黒でなかった25と思うが、写真に写っているより、もう少し赤みよりも褐色の色合いが強かった36印象があること、かなり古いと思われる血痕だったのに、血痕の色調が「黒っぽい」状態にはなっておらず、血が付いたときのままの色合いを残しているような感じを受けたこと等を供述しており(前抗告審検54)、同供述の信用性に特段疑問はない。したがって、5点の衣類の血痕については、通常の赤色ではなく、相当程度褐色の色合いがあるとしても、十分赤みは残っていたと判断するのが相5当である。少なくとも5点の衣類に付着した血痕に赤みが残っていたものがあったことは否定できないと判断した最高裁決定も、以上と同様の趣旨をいうものと理解すべきである。 3 みそ漬けされた血液の色調変化に関する専門的知見について⑴ X1教授(医学博士)及びX2助教(薬学博士)の見解について10X1教授及びX2助教(以下「X1教授ら」ということがある。)の実験や見解は、当審弁護人提出のX1教授らが連名で作成した令 ⑴ X1教授(医学博士)及びX2助教(薬学博士)の見解について10X1教授及びX2助教(以下「X1教授ら」ということがある。)の実験や見解は、当審弁護人提出のX1教授らが連名で作成した令和3年10月22日付け鑑定書(当審弁3。以下「X1X2鑑定書①」という。)、令和4年5月11日付け鑑定書(当審弁11。以下「X1X2鑑定書②」という。)、同年7月7日付け鑑定書(当審弁13。以下「X1X2鑑定書③」という。)及び同年3月1151日付け意見書(当審弁9。以下「X1X2意見書」という。)の各記載並びに当審で実施されたX1教授及びX2助教の各証人尋問における各供述のとおりであり、その要旨は次のとおりである。 ア みそ漬けされた血液の色調変化の化学的機序に関するX1教授らの見解の骨子20血液がみそに漬けられた場合、みその低いpHと高い塩分濃度によって血液中の赤血球の細胞膜が破壊され、溶血(赤血球の細胞膜が何らかの原因で損傷を受け、ヘモグロビン等の内容物が血漿中に漏れ出る現象)が生じる(X1X2鑑定書①9、10頁)。 血液がみそに漬けられた場合に溶血が生じる大きな要因は、みその塩分濃度1250パーセントという塩分濃度が高い環境では、血液がもともと持つ血漿浸透圧の3710倍以上の浸透圧となるため、赤血球内外の水分バランスが乱れ、赤血球の細胞膜が破れてヘモグロビンが外に放出されることにある(X1X2鑑定書①10頁、X2尋問7頁)。 ヘモグロビンは、溶血によって、弱酸性かつ高塩分濃度のみその環境の影響をより受けやすくなり、初期の段階では、低いpHはヘモグロビンの酸素結合能を5低下させて、還元型のヘモグロビンとなり、また、酸素やそれ以外の電子受容体による自動酸化によってメトヘモグロビン(褐色)を生成させて、赤みを減 期の段階では、低いpHはヘモグロビンの酸素結合能を5低下させて、還元型のヘモグロビンとなり、また、酸素やそれ以外の電子受容体による自動酸化によってメトヘモグロビン(褐色)を生成させて、赤みを減弱させる。その後、ヘモグロビンの変性に伴い、グロビンたんぱく質からヘムが外れ、そのヘムが酸素やそれ以外の電子受容体によって自動酸化することでヘミン(褐色ないし黒褐色)が生成されて赤みが失われる。最終的には、変性でできた様々10な生成物や分解でできた分解物などの色が混ざり合い、減法混色の原理(物体の色はその色調が増えていくことによって最終的に黒くなるという法則)によって、黒茶褐色系への変色が進行し、赤みは失われ、ここまでの変化は数日から数週間の範囲と考えられる。さらに、数週間から数か月の長期間では、血液のたんぱく質分解物のペプチドやアミノ酸とみそに含まれる還元糖とのメイラード反応が起15こり、褐色のメラノイジンが生成され、更に混色が進行し、黒茶褐色から黒褐色の色調に変化する(以上について、X1X2鑑定書①、X2尋問11頁、X1尋問1、2、5ないし8頁等)。 このような化学的機序により、血痕が付いた衣類を1年以上みそに漬けた場合、血痕に赤みが残ることはないということができ(X1X2鑑定書①13頁)、み20そ漬け実験報告書及びW2実験等において、みそ漬けされた血痕がいずれも最終的に黒褐色を示しているのは当然のことといえる。 なお、みそ漬けされた血液の色調の変化については、従前、当該血液が動脈血か静脈血かによって異なる可能性も問題とされていた(最高裁決定14頁等)。 しかし、X1X2鑑定書①5頁では、両者の違いは主に酸素化ヘモグロビンと還25元型ヘモグロビンの割合が異なることによるが、変性・分解すれば、最終的に両38者とも同じ分 最高裁決定14頁等)。 しかし、X1X2鑑定書①5頁では、両者の違いは主に酸素化ヘモグロビンと還25元型ヘモグロビンの割合が異なることによるが、変性・分解すれば、最終的に両38者とも同じ分解産物となる旨の見解が示されており、その信用性に疑うべき点はなく、みそ漬けされた血痕が動脈血であっても静脈血であっても、最終的な色調に格別の差異は生じないといえる。 イ X1教授らの実験の概要X1教授らの前記見解は、関連して実施された種々の実験によって裏付けられ5る関係にある。そこで、以下、X1X2鑑定書①ないし③で実施された各実験の概要を示す。 X1X2鑑定書①(当審弁3)における実験の概要X1教授らは、前記見解に関して、みその成分がみそ漬けされた血液の色調変化を来す因子として、みその低いpHと高い塩分濃度が考えられたため、それら10の色調変化に対する影響について検討するための実験を実施した。その概要は、血液にpH3ないし9に調整した塩化ナトリウム含有緩衝液を加えてチューブに入れ、室温で観察するなどというものである(以下「モデル化実験」という。)。 モデル化実験の結果、一般的なみその塩濃度である10パーセント塩化ナトリウム環境下において、pH3から9の間では、pHが低いほど血液の色調変化が大15きいことが明らかとなった。X1教授らは、以上の実験結果から、みそのpHは仕込み時には6程度、熟成時には5を下回ると報告されていることから、みそ漬け環境下では血液の赤みが比較的短時間で消失していくことが示されたとし、これは、還元型ヘモグロビン及びメトヘモグロビンの割合が高まること、溶血によるヘモグロビンの脆弱化及びグロビンたんぱく質の変性に伴って、ヘモグロビン20からグロビンたんぱく質が外れたヘムやその酸化物であるヘミンが グロビン及びメトヘモグロビンの割合が高まること、溶血によるヘモグロビンの脆弱化及びグロビンたんぱく質の変性に伴って、ヘモグロビン20からグロビンたんぱく質が外れたヘムやその酸化物であるヘミンが生成することによる変色であると考えられるとした(X1X2鑑定書①8、9頁。メトヘモグロビンやヘミン等の生成の詳細については後記を参照)。 また、X1教授らは、みその成分が血液の色調変化を加速する因子として溶血が考えられたことから、塩濃度の溶血に対する影響について検討するための実験25を実施した。その概要は、血液にpH5又は7に調整した緩衝液等を添加したも39のをチューブに入れて室温で観察するなどというものであった(以下「溶血実験」という。)。溶血実験の結果、生理的条件に近いpH7のときよりもpH5のときに強い溶血が認められ、10パーセント塩化ナトリウムを加えたときは、pHによる差を観察できないほどの顕著な溶血が認められることが明らかとなった。 さらに、X1教授らは、赤み成分であるヘモグロビンが分解しているかを確認5するための実験を実施した。その概要は、血液にpH1に調整した緩衝液又はpH5かつ10パーセント塩化ナトリウムに調整した緩衝液等を添加してチューブに入れた試料を用意した上、経時的に紫外可視吸収スペクトルを測定し、その変化を検討するというものであった(以下「スペクトル実験」という。)。スペクトル実験の結果、実験開始4日後には、ヘモグロビンの変性・分解が進み、ヘミ10ンが生成され、試料の黒茶褐色化が進むことが明らかになった。 X1X2鑑定書②(当審弁11)における実験の概要X1教授らは、X1X2鑑定書①における前記実験の際、マイクロチューブに入れた血液の色調変化を確認したが、その場合、液体の色合いは血痕 X1X2鑑定書②(当審弁11)における実験の概要X1教授らは、X1X2鑑定書①における前記実験の際、マイクロチューブに入れた血液の色調変化を確認したが、その場合、液体の色合いは血痕となった場合と異なって厚みをもった状態となり実際より黒っぽく見えるなどという検察官15の批判(当審検22参照)を受け、改めて、時間の経過ごとに血液をマイクロチューブからろ紙に垂らして延ばし、その色調の変化について検討するという実験を行った(以下「ろ紙塗布実験」という。)。ろ紙塗布実験の結果、マイクロチューブ内の血液をろ紙に塗布して色調を観察した場合も、茶褐色や黒褐色への色調変化が生じ、赤みは観察されない点については、血液をマイクロチューブ内に20入れたまま観察した場合と違いはないことが判明した。 X1X2鑑定書③(当審弁13)における実験の概要X1教授らは、ろ紙塗布実験と同様の趣旨で、布に血液を滴下して乾燥させたことにより血痕を作成し、その経時的変化について観察する実験を実施した(以下「血痕作成実験1」という。)。血痕作成実験1の結果、最初の1,2時間は25酸素化ヘモグロビンの生成により赤みを増していくが、3時間後には、メトヘモ40グロビンが生成したことで暗赤色に変化し、その後経時的に褐色調に変化し、10日後には赤みが認められなくなった。 次に、X1教授らは、血痕作成実験1の際に作成した血痕を、塩分濃度とpHの異なる液に漬けることによって、血痕の色調にどのような経時的変化が生じるかを実験した(以下「血痕作成実験2」という。)。血痕作成実験2の結果、5塩分濃度が高い液に漬けた場合は血痕の褐色から黒褐色調への変化が観察され、その変化はpHが低いほど促進されることが明らかとなった。 さらに、X1教授らは という。)。血痕作成実験2の結果、5塩分濃度が高い液に漬けた場合は血痕の褐色から黒褐色調への変化が観察され、その変化はpHが低いほど促進されることが明らかとなった。 さらに、X1教授らは、血痕作成実験2の実験結果とX1X2鑑定書①で実施された各実験結果とを比較し、前者の実験の結果は、血痕ではなく血液の状態で検討された後者の実験の結果と同様であり、pH5のときにはpH7のときに比10べてその変色が促進され、より早く赤みを失い、黒褐色調に変化する点でも同様の結果となった旨を述べた。 なお、X1教授らは、X1X2鑑定書③における参考事項として、各血痕作成実験においては大気圧(標準気圧)での浸透を行っているが、液体に圧がかかっている場合、その浸透はより早く起きることが予測される旨を指摘した(当審弁1513・5頁)。 ⑵ X1教授らの見解の信用性についてア X1教授らはいずれも法医学の専門家であり、X1教授は、15年以上法医学講座の教授を務めるなど経験が豊富であり、またX1教授と共同して前記各実験を担当して鑑定意見書を作成したX2助教は、法医学とともに化学を専門20とし、法医学の実務においても、様々な手法で血液を変性させて変化を見て血液中の薬物分析を行うなどしており、血液の変性や色調変化に対して詳しく、十分な専門的知見を有している(X2尋問1頁)から、本件の争点に関する前記各実験の実施及びこれらに基づく検討及び考察について、X1教授及びX2助教の専門家としての資質には何ら問題はうかがわれない。 25そして、X1教授らの見解は、その根拠や推論の方法、結論等のいずれについ41ても不合理な点は見受けられず、前記のモデル化実験、溶血実験、スペクトル実験、ろ紙塗布実験、血痕作成実験1及び血痕作成実験2についても、その手 解は、その根拠や推論の方法、結論等のいずれについ41ても不合理な点は見受けられず、前記のモデル化実験、溶血実験、スペクトル実験、ろ紙塗布実験、血痕作成実験1及び血痕作成実験2についても、その手法や実験結果の評価並びにこれを踏まえた検討及び考察等にも不合理な点はないから、前記各実験によっても合理性が裏付けられているといえる。 さらに、弁護人は、当審において、X3教授(工学博士)作成の鑑定書(当審5弁10)を提出し、X3教授の証人尋問が実施された(以下、同鑑定書及び同証人尋問における供述を併せて「X3教授の見解」等ということがある。)。X3教授は、ヘモグロビンのようにヘムを含むたんぱく質の分子レベルでの機能、構造及び反応、特に、ヘム鉄に結合する酸素などについて研究しており(X3尋問1頁)、専門家としての資質に疑うべき点はない。X3教授は、血液を付着させ10た布をみそ漬けにした場合の血液の色調変化に関するX1教授らの前記見解について、異論はないとの見解を示している上(X3尋問1頁)、個々的な論点においても、X1教授らの見解を概ね支持する意見を述べており、その内容に不合理な点は見られない。これに対し、検察官は、X3教授の供述について、1年以上みそ漬けされた血液に赤みが残ることはない旨のX1教授らの見解に異論を述べ15ないとしつつも、条件次第では、血痕の赤みが消失するまでに1年以上かかる可能性があり得るとし、かつ、1号タンク底部は酸素濃度が相当低下していた可能性があると分析し、そのような条件に当てはまるものであった可能性も否定できないとするものと解されるなどという。しかし、X3教授は、1号タンクの中でどの程度酸素濃度が低下するかによって血痕の赤みが消失する速度にも差が出る20ものの、ヘムのような形になると、酸素濃度が少なく とするものと解されるなどという。しかし、X3教授は、1号タンクの中でどの程度酸素濃度が低下するかによって血痕の赤みが消失する速度にも差が出る20ものの、ヘムのような形になると、酸素濃度が少なくても進むので1年もかからずに色調は変化するであろうこと、1号タンクの底部は、もともと空気がある上、上に約8トンのみそがあり、上からたまりが押されている状態にあるから、比較的酸素の濃度は高いと思われること等を述べるものであり、全体としてみると、1号タンクの底部にある場合、比較的短く、長くても1年もかからずに血痕の赤25みはなくなると考えられるという趣旨を述べていると解されるから、検察官の主42張は、X3教授の供述内容を正しく理解したものとはいえず、採用の限りではない。 したがって、X1教授らの見解は、X3教授の見解によって一層強く裏付けられているといえる(詳細については、以下、必要な限度で適宜説示する。)。 イ 他方で、検察官請求の証人であるY1教授(医学博士)及びY2教授5(医学博士)は、1年以上みそ漬けされた血液に赤みは残らないとするX1教授らの見解に対して種々の異論を述べる。Y1及びY2両教授は、いずれも経験豊富な法医学の専門家であり、専門的知見を述べる証人としての資質に問題は見られないが、他方で、X3教授及びX2助教とは異なり、本件における中心的な争点であるヘモグロビン及びその色調変化並びに化学変化等に関する専門的な研究10実績や知見を十分に有するとは認められない(当審検21、24、Y1尋問11、33、35頁等、Y2尋問24ないし26頁等)。また、Y1及びY2両教授の異論は、基本的に、X1教授らの実験や見解について、限られた条件に基づく一つの見解であって、条件が異なる場合に適用するには疑問があるというものであるところ いし26頁等)。また、Y1及びY2両教授の異論は、基本的に、X1教授らの実験や見解について、限られた条件に基づく一つの見解であって、条件が異なる場合に適用するには疑問があるというものであるところ、実験結果に基づく反論や具体的かつ化学的論拠に基づく反論ではなく、15一般的、抽象的な反論にとどまっているといえる。したがって、Y1教授及びY2教授の両見解によって、詳細は後に述べるが、血液やヘモグロビンに関する専門的研究実績や専門的知見を有するX1教授及びX2助教並びにX3教授らの見解の信用性が直ちに揺らぐことにはならない。 したがって、衣類に付着した血痕が1年以上みそに漬けた場合、血痕の赤みが20残ることはないとしたX1教授らの見解は、前記各実験やX3教授の見解によっても裏付けられており、十分信用することができる。 ウ 以下、X1教授らの見解の信用性について、同見解に対する検察官の批判をも踏まえつつ、補足して説明する。 血痕ではなく血液を検討対象にした点について25検察官は、X1X2鑑定書①の各実験では、血液を念頭においた検討がされ、43血痕と血液との差異について検討された形跡が見当たらないが、本来検討すべきは、「血液」自体の色調変化ではなく、5点の衣類に付着した「血痕」の色調であるとして、種々の点を指摘しつつ、X1教授らの見解を批判するので、以下検討する。 検察官は、Y1教授の供述(当審検20Y1供述調書6頁)に基づき、血痕が5固体の状態では、原子や分子はいわば固まって並んでいて自由に動くことができないことから、固体の表面にある原子や分子が、接している気体や液体中の他の分子等と接触して化学反応を起こすことはあっても、液体の場合と比べて化学反応が起こりにくく、仮に起こるとしてもその反応速度は液体より とから、固体の表面にある原子や分子が、接している気体や液体中の他の分子等と接触して化学反応を起こすことはあっても、液体の場合と比べて化学反応が起こりにくく、仮に起こるとしてもその反応速度は液体より遅い旨主張するところ、この点を否定する専門的知見は、X1教授らの見解を含めて見当たらな10いから、同主張のとおり認められる。 その上で、検察官は、X1教授らは、みそ漬けの過程で滲出する「たまり」が浸透することにより、血痕は再び水溶液となり、化学反応は進行するため、血痕と血液の差異は本質的な問題ではないと述べ(当審弁9X1X2意見書2頁)、また、X2助教は、液体が染み込む過程が血痕の場合は必要となるが、染み込ん15でしまえば、血痕と血液に変色に関して大きな差異はない、血痕と血液との化学反応が進行する時間についても、血痕の方が遅い可能性はあるが、大きな違いは、液体が染み込む時間の違いである旨述べる(X2尋問5頁)が、①血痕と血液との化学反応の進行に大差がない根拠については述べられていない、②Y1教授は、血痕は液体と接触することによりその液体中に血液由来の各種物質が浸出してい20るといっても、衣類等に付着した血痕では、特に一度乾燥したりすると、衣類等への固着や蛋白の変性は物質により様々に進行するので、組成は元の血液と同一にはならない旨述べており(当審検20Y1供述調書5頁)、血痕が水分と接触した場合、全て血液に戻るとは考え難く、X1教授らの見解をもって血痕と血液を同列に扱うことができるとするのは乱暴に過ぎるなどと主張する。 25しかしながら、前記①については、検察官が指摘する、X1教授及びX2助教44らが述べている前記の血痕と血液との化学反応の進行に大差がない理由は、内容的に自然かつ合理的なものといえる。そして、実験による実証 ら、前記①については、検察官が指摘する、X1教授及びX2助教44らが述べている前記の血痕と血液との化学反応の進行に大差がない理由は、内容的に自然かつ合理的なものといえる。そして、実験による実証的裏付けという観点で、このことは、X1X2鑑定書③における血痕を試料とする血痕作成実験2の結果によって裏付けられているといえる。 また、X1教授は、血痕の水溶液化以前の要因として、血液が布に付着して乾5燥し血痕となる過程で、赤血球の細胞膜が破壊されてヘモグロビンが露出されている状態になり、酸化によってヘモグロビンがメトヘモグロビン(褐色)となることも指摘している(X1尋問36頁等)。その内容に不合理な点はない上、血液を布に塗布して3時間後には、メトヘモグロビンへの酸化に伴って、暗赤色に変化し、経時的に褐色調に変化し、赤みを失うとの血痕作成実験1の結果からも10裏付けられている(当審弁13の2頁、図1)。また、X1教授の専門的知見に基づく前記指摘を否定する他の専門的知見も見当たらない。 したがって、X1教授らは、血液と血痕との化学反応の進行に大差がないことを合理的に説明できているといえる。以上を踏まえて検討すれば、血痕の方が血液よりも化学反応は遅くなると考えて当然ではあるが、本件のように1年間もみ15そ漬けされれば、血痕であっても十分に化学反応は起こる旨のX1教授の供述(X1尋問21頁)は不合理とはいえない。 そして、前記②の点に関するY1教授の供述は、血痕が液体と接触した場合に、血痕の色調変化を支配するヘモグロビンの状況に着目せず、血液の組成全般について元の血液と同一にならないというにすぎない。これに対し、X1教授の見解20は、血液中のヘモグロビンに着目して、血痕が形成される前の状態に遡り、血液が布に付着して乾燥し血痕とな の組成全般について元の血液と同一にならないというにすぎない。これに対し、X1教授の見解20は、血液中のヘモグロビンに着目して、血痕が形成される前の状態に遡り、血液が布に付着して乾燥し血痕となる過程で、赤血球の細胞膜が破壊されてヘモグロビンが露出されることを前提に、みそ漬けの過程で滲出する「たまり」が浸透することにより、血痕は再び水溶液となり、化学反応は進行するとの見解を示しているものと理解できる。したがって、以上のX1教授の専門的知見は十分に合理25的なものということができ、Y1教授の前記②に関する供述によってもX1教授45の前記見解の不合理性が十分に指摘されたとはいえない。 さらに、ヘモグロビン研究の専門家であるX3教授は、血痕と血液については、たんぱく質の状態は大きく異なるが、基本的な酸化反応については同じであり(X3尋問2頁)、血痕であっても、周囲の水分が血痕に浸み込むことにより、酸素はヘモグロビンまで達することから、みそ漬けされた血液がヘモグロビンの5酸化によって黒褐色化することを実証したX1X2鑑定書①は、理化学的見地からも異論を唱える点はないとの見解を示しており(当審弁10X3鑑定書5頁)、このことからもX1教授らの見解が強く裏付けられている。 さらに付言すると、そもそも、5点の衣類が犯行着衣であり、Aが犯人で、Aが同衣類を麻袋に入れて1号タンクに隠匿したとすれば、犯行直後に隠匿された10蓋然性が大きいといわざるを得ない(確定控訴審判決21丁)。なぜなら、Aが本件の犯人としたならば、犯人は、犯行直後で目撃者もいない状況である場合は別として、犯行直後でなければ、犯行後に5点の衣類を1号タンク以外の場所に一旦は隠匿しておき、警察の捜索等によっても発見されていないのに、既に捜査が開始されている状況下で、隠 いない状況である場合は別として、犯行直後でなければ、犯行後に5点の衣類を1号タンク以外の場所に一旦は隠匿しておき、警察の捜索等によっても発見されていないのに、既に捜査が開始されている状況下で、隠匿場所から5点の衣類を持ち出し、犯行現場の直15近で人目にも付きやすい本件工場内における1号タンクに隠匿したことになるが、そのことは、常識的には想定できないからである(ただし、確定判決によると、Aが犯人として、5点の衣類を犯行直後に1号タンクに隠匿したとした場合、被害者らを殺傷した後、5点の衣類を脱いで1号タンクに入れ(その場合に、当時のみその量からすると、見つからないように隠すためにはかき混ぜる必要があり、20そのために一定の時間を要することになる。)、さらに着替えたパジャマで、混合油等を持って事件現場に戻り、放火したことになるが(ただし、犯人の行動の順序は証拠上認定できない。)、そのような犯人の行動が自然で合理的とはいえない。)。そうすると、血痕が完全に乾燥するほどの状態になってから1号タンクに入れられた、すなわち、血痕が数日間にわたり別の場所に隠匿され、十分乾25燥した後、1号タンクの中にみそ漬けされたといった事態は可能性としては非常46に低いといわざるを得ないから、この点に照らしても、Y1教授の前記②に関する見解は採用し難いものといえる。 さらに、検察官は、X1X2鑑定書③における血痕作成実験2に関し、同実験においては、血液0.1ミリリットルを5センチメートル四方のサラシに滴下し、室温にて乾燥した際の色調変化を観察しており、その中には、浸潤液1.0ミリ5リットルで浸潤させ、その色調変化を観察する試料が含まれているところ、5点の衣類がまだ醸造が進んでいない段階のみそに漬けられた直後に、その付着した血液の量を大きく上 の中には、浸潤液1.0ミリ5リットルで浸潤させ、その色調変化を観察する試料が含まれているところ、5点の衣類がまだ醸造が進んでいない段階のみそに漬けられた直後に、その付着した血液の量を大きく上回る量の水分に浸潤されたとは考え難いことから、前記試料のように、血液の10倍の量の浸潤液により浸潤させることは、5点の衣類が置かれた状況に照らして、液体の量が過剰であると考えられるが、そのような液体10の量を選択した理由について、X2助教は、染みていない部分、要するに、条件にさらされていない部分があると意味がないので、布全体に広がる量は最低限度必要だと考えたと述べるなど(X2尋問18頁)、5点の衣類が置かれた状況に近づけて実験するのではなく、完全に浸潤させること自体を目的として浸潤液の量を決めたものと認められ、不当である旨主張する。 15しかしながら、5点の衣類に付着していた血液や1号タンクにみそ約8トンが入れられたときのたまり等の正確な量はもとより不明であるが、S鑑定書添付の写真から推認される血痕の量と、1号タンクの最大約8トンのみそから生じたと推認される大量のたまりを勘案すれば、X1X2鑑定書③における実験で採用された0.1ミリリットルの血液に対して1ミリリットルの浸潤液という割合の試20料が、5点の衣類が入れられていた1号タンク内の底部の状況と大きく異なるとはいえない(X2尋問18頁)。また、5点の衣類が1号タンクに本件犯行直後に隠匿されたと仮定すれば、醸造が進んだ返品みその中に入れられ、みそのたまりは十分にあった状況にあったと推認できるから、この点でも検察官の主張は前提を欠いている。そうすると、X2助教が、前記のとおり、さらされていない部25分があると意味がないので、布全体に広がる量は最低限度必要であるとして、浸47 できるから、この点でも検察官の主張は前提を欠いている。そうすると、X2助教が、前記のとおり、さらされていない部25分があると意味がないので、布全体に広がる量は最低限度必要であるとして、浸47潤液の量を1ミリリットルと定めたことが不合理とはいえず、検察官の批判は当たらない。 なお、検察官は、X1教授は、X1X2鑑定書①(当審弁3)において、血痕ではなく血液を使って実験したのは、ヘモグロビンが変性していることを確かめる化学的手法として、分光光度計を用いてスペクトルを採るために液体である血5液を試料とする必要があった旨述べ(X1尋問17頁)、X2助教は、最初の鑑定を血液で行ったのは、スペクトルを測定するために試料が液体である必要があったこともある旨述べている(X2尋問7頁)から、X1教授らは測定方法の都合を優先し、5点の衣類がおかれた事実関係を踏まえて考察する姿勢が欠如していたなどと主張する。しかしながら、X1教授らの前記供述によれば、X1教授10らが、X1X2鑑定書①における実験の際、スペクトルを測定するために液体である血液を試料としたことが不合理とはいえず、さらに、前記のとおり、試料の対象が血液か血痕かによって、X1X2鑑定における実験や鑑定の結果に差異が生じるとは認められないから、検察官の主張は採用の限りではない。 1号タンク内の嫌気的環境が考慮されていない点について15検察官は、5点の衣類が入れられていたのは、約8トンものみそが仕込まれた1号タンクの底部であるから、酸素が乏しい嫌気的環境であったと認められる(検察官が大手みそ業者から聴取した捜査報告書(当審検25、26。以下「大手みそ業者報告書」という。)、当審検20Y1供述調書9頁等)のに対して、X1X2鑑定書①において行われた血液をチューブに入 (検察官が大手みそ業者から聴取した捜査報告書(当審検25、26。以下「大手みそ業者報告書」という。)、当審検20Y1供述調書9頁等)のに対して、X1X2鑑定書①において行われた血液をチューブに入れた実験は、酸素が十分20にある好気的環境であるところ(当審検20Y1供述調書9頁、当審検23Y2供述調書5頁)、メイラード反応における酸素の影響を含め、一般に、酸素が化学反応に与え得る影響を踏まえれば、X1X2鑑定書①における好気的環境下での実験結果から、嫌気的環境にあった1号タンク内における化学変化について推論しようとするのであれば、好気的環境・嫌気的環境の差があったとしても推論25が可能であることを根拠を示して論じる必要があるが、そのような根拠は示され48ていないなどと主張する。 そこで、5点の衣類が入れられていた1号タンクの底部が嫌気的環境であったとする検察官の主張について検討する。 まず、5点の衣類が1号タンクのみそ内に隠匿され、発見されるまでの具体的状況についてみると、X1教授らは、1号タンク内の約8トンのみそが発酵する5には期間を要し、5点の衣類が入れられたみその仕込み当初は、みそ自体に酸素が含まれるほか、みそ中の水分に溶存酸素が含まれており、また、5点の衣類が入れられていた麻袋内の空気があった分だけ、麻袋が置かれていた1号タンク底部の方がその上部よりも酸素濃度は高かったといえるとして、5点の衣類が置かれていた1号タンク内は、みその仕込み当初から高嫌気の状態にあったわけでは10ない、みその発酵が進行中は、酸素濃度はだんだんと下がってくるが、みその上部は空気に触れ、側面から空気が少ししみてくるし、発酵の最終段階でも酸素濃度がゼロになることはない旨を述べる(X2尋問13頁等)。X3教授も、5点の衣類は、1号タ だんだんと下がってくるが、みその上部は空気に触れ、側面から空気が少ししみてくるし、発酵の最終段階でも酸素濃度がゼロになることはない旨を述べる(X2尋問13頁等)。X3教授も、5点の衣類は、1号タンクのみそ内に入れられた当初、大気中と同じ組成の約20パーセントの酸素が存在する状況下にあり、その後、みそ内の酸素濃度は急激に減15少するのではなく、発酵の進行に伴い緩やかに減少していくとし、5点の衣類は、1号タンクからみそが何日もかけて出荷される中で底部から発見されたことから、発見前には、5点の衣類に近い部分のみその酸素濃度も上がっていくなどと述べる(X3尋問7、26、28頁)。 さらに、X3教授は、ヘモグロビンの酸化反応が進行するためには、空気自体20に存在する酸素が必要なわけではなく、1号タンク内のみそ自体の水分及び醸造過程でみそから滲出する水分(たまり)に含まれる溶存酸素によってヘモグロビンの酸化反応は進行する旨を述べる(X3尋問2ないし4頁、14頁等)。 以上のX1教授ら及びX3教授の各見解に不合理な点はなく、十分信用することができる。 25さらに、みそ漬けされた血液の赤みが消失したW2実験では、実験に用いられ49たみその量が1号タンクに比してかなり少なかったにもかかわらず、たまりが、実験開始30日後はみそ漬けされたTシャツに広範囲にわたり染みわたり、さらに、実験開始125日後以降は、Tシャツがたまりによって非常に濡れた状況にあったことから、Tシャツの周囲がたまりで満たされた状態にあることが予想できるなどという実験結果が出ている(前抗告審検151の9頁)。また、5点の5衣類発見後の警察官作成の昭和42年9月4日付け実況見分調書(確定審記録17冊2274丁以下)には、1号タンクの中から発見された際、5点の衣類が入 ている(前抗告審検151の9頁)。また、5点の5衣類発見後の警察官作成の昭和42年9月4日付け実況見分調書(確定審記録17冊2274丁以下)には、1号タンクの中から発見された際、5点の衣類が入った麻袋は、みその水分や塩分などに濡れ、じめじめしており、麻袋を持ち上げると、焦茶色の汁が垂れた旨の記載がある(同2284丁)。以上の各点によれば、1号タンク内のみそから滲出するたまりの量はかなり多く、したがって、た10まり中の溶存酸素によるヘモグロビンの酸化反応も、1年以上が経過するとなると、かなりの程度進むと見るのが合理的かつ自然である。 他方で、検察官が前記主張の根拠とする大手みそ業者報告書は、大手みそ業者2社の各工場長が、1号タンク内は高嫌気的環境であったことなどを供述するものであるところ、5点の衣類が1号タンクに隠匿され、その後、発見されるまで15の具体的状況を踏まえて酸素濃度が検討されているわけではなく、また、約8トンのみそが仕込まれた1号タンクの底部という場所や空気中の酸素に着目して酸素濃度が検討されており、みそ自体の水分及び醸造過程でみそから滲出するたまりに含まれる溶存酸素には着目していないし、このことはY1教授の前記供述についても同様のことがいえる。そうすると、これらの各点についても十分な検討20がされている前記のX1教授ら及びX3教授の見解は、大手みそ業者報告書やY1教授の前記供述と比較してより合理的で説得力が高いものということができるから、同報告書やY1教授の供述によって信用性が左右されることにはならない。 以上によれば、5点の衣類については、隠匿されていた1号タンク内の場所や空気自体に着目すれば酸素濃度は低く、約8トンのみその発酵により酸素濃度は25徐々に低下していき、検察官が主張するところの高嫌気的 よれば、5点の衣類については、隠匿されていた1号タンク内の場所や空気自体に着目すれば酸素濃度は低く、約8トンのみその発酵により酸素濃度は25徐々に低下していき、検察官が主張するところの高嫌気的環境であったと思われ50るが、みそ自体やみそから滲出するたまり等の水分に含まれる溶存酸素の影響等を考慮すれば、仮に1号タンクに1年以上みそ漬けされたことを前提にすれば、5点の衣類が隠匿されていたとされる状況は、ヘモグロビンの酸化反応には十分な酸素濃度であったと推認できる。 さらに、X1教授らは、1号タンクのみそ内が検察官主張が主張するところの5嫌気的環境であったとしても、酸素濃度は0パーセントになるわけではなく、わずかな酸素濃度であっても、ヘモグロビンの酸化は進む旨の見解を述べる(X1尋問24頁、X2尋問10、13、25頁)。X3教授も、みそ内の酸素濃度は、発酵の進行に伴い緩やかに減少していくが、同じ発酵食品である清酒との比較に照らしても、酸素濃度が0.1パーセント以下になることはないところ、ヘモグ10ロビンが変性・分解し、ヘムが遊離した状態になると、酸化反応は非常に起こりやすくなり、酸素濃度が0.1パーセント以下の環境であっても酸化反応は進む旨述べる(X3尋問8ないし9頁)。 以上のX1教授ら及びX3教授の見解も、不合理な点はなく、これに反する専門的知見も証拠上見当たらないから、十分信用することができ、同見解によれば、151号タンクのみその中が検察官が主張するところの嫌気的環境であっても、酸素によってヘモグロビンの酸化反応が生じることに疑いは生じない。 さらに、X1教授らによれば、1号タンクのみその中が検察官が主張するところの嫌気的環境であったとしても、ヘモグロビンの変性・分解、酸化は、酸素のみに依存しているわけではなく ことに疑いは生じない。 さらに、X1教授らによれば、1号タンクのみその中が検察官が主張するところの嫌気的環境であったとしても、ヘモグロビンの変性・分解、酸化は、酸素のみに依存しているわけではなく、みそに含まれる亜硝酸イオン、亜硫酸イオンそ20の他の有機化合物等を電子受容体とする自動酸化によっても生じるのであり、前記のとおり、この自動酸化によって、ヘモグロビンからメトヘモグロビン(褐色)が生成されて、赤みが減弱し、その後、ヘモグロビンの変性に伴い、グロビンたんぱく質からヘムが外れ、そのヘムが酸素のみならずそれ以外の電子受容体によって自動酸化することでヘミン(褐色ないし黒褐色)が生成されて赤みが失われ25るとされている(当審弁3・5頁、X1尋問28頁)。以上に、X3教授の前記51見解を併せて検討すると、1号タンクのみその酸素濃度が低い状況であっても、酸素はもとより、酸素以外の電子受容体によっても、ヘモグロビンの酸化反応は進み、その結果、メトヘモグロビン(褐色)やヘミン(褐色ないし黒褐色)等が生成されて、減法混色の原理により赤みが失われていくことになる。 前記のX1教授ら及びX3教授の各見解については、その信用性に疑いを生じ5させる専門的知見は、Y2教授及びY1教授の見解を含めて見当たらないのであり、1号タンクのみその中が検察官が主張する嫌気的環境になることを踏まえても、血痕が1年以上みそ漬けにされれば赤みは消えると判断したX1教授らの見解及びこれに異論はないとするX3教授の意見(X3尋問13頁)はいずれも十分信用することができる。 10そうすると、検察官が主張するとおり、X1教授らの見解は、X1X2鑑定書①の好気的環境下での実験結果から、1号タンク内における化学変化について推論しようとするものであるとしても、好気的 。 10そうすると、検察官が主張するとおり、X1教授らの見解は、X1X2鑑定書①の好気的環境下での実験結果から、1号タンク内における化学変化について推論しようとするものであるとしても、好気的環境と嫌気的環境との差異を十分踏まえて、前記推論を十分に裏付けるだけの専門的知見に基づく合理的な根拠が示されたと認められる上、X3教授の見解によっても裏付けられてもいるから、検15察官の前記主張は採用することはできない。 なお、検察官は、X1教授らは、嫌気度、酸素濃度が、ヘモグロビンの酸化反応等の進行に影響を与える具体的な程度等については、検討し明らかにしていないなどと批判する。しかし、検察官がいう具体的な程度を示すことが常に可能かつ適切かは不明である上、X1教授ら及びX3教授は、前記のように具体的な酸20素濃度のありようやこれに関連するさまざまな条件を踏まえた総合的な判断に基づき、ヘモグロビンの酸化反応が進むことで、血液はみそ漬けされてから1年以上経過すれば赤みが失われるとの見解を示したものであり、その見解の信用性は高いといえるから、検察官の主張を踏まえて検討しても、その結論に影響しない。 以上に関連して、検察官は、みそ漬け実験報告書における実験及びW2実験に25おいて、酸素遮断の程度が1号タンクより劣るプラスチック製コンテナが用いら52れるなど、1号タンク内の高嫌気状態が考慮されていない旨主張する。しかし、その前提で検討しても、低嫌気状態及び高嫌気状態におけるヘモグロビンの酸化反応の機序並びに酸素濃度や溶存酸素の存在等については、前記のX1教授ら及びX3教授の見解のとおりであるから、みそ漬け実験報告書及びW2実験の信用性が左右されることにはならない。 5 X1教授らが各実験において抗凝固剤を用いた点について 前記のX1教授ら及びX3教授の見解のとおりであるから、みそ漬け実験報告書及びW2実験の信用性が左右されることにはならない。 5 X1教授らが各実験において抗凝固剤を用いた点についてさらに、検察官は、5点の衣類が犯行着衣であれば、血液が付着した際に、抗凝固剤の使用等の血液凝固が阻害される事情があったとは認められないのに、X1教授らは、各鑑定書において実施された一連の実験の採血にあたり、抗凝固剤入りの試験管を使用しているところ(X1尋問17、26頁、X2尋問5頁)、10①採血の際に抗凝固剤が使用されていたW2実験(当審検28参照)では、みそ漬け後短期間で血痕の黒褐色化が相当進行していたのに対し、抗凝固剤が使用されていなかった検察官の令和3年度実験(その詳細な検討は後記のとおりである。)では、同程度のみそ漬け期間でも、血痕に赤みは残っており、その退色の進行は緩やかであり、W2実験と前記令和3年度実験との間で、血痕の退色に明15らかな差が認められること、②Y2教授も、血液は液体のままの状態である方が化学反応は起こりやすいことから、採血における抗凝固剤の使用は、血液の凝固が阻害されることにより、みそ漬けによる化学変化が促進され、変色が進行する可能性が認められるとの意見を述べていること(当審検23Y2供述調書10頁)を指摘して、X1教授らが実施した前記各実験において、抗凝固剤の使用が実験20結果すなわち血痕の色調の変化に影響しないと断ずることはできないなどと主張する。 しかしながら、X2助教は、飛沫血痕、返り血のようなものを想定した場合、血液が凝固するまでには時間がかかるので、それよりも布に染み込んで広がる時間の方が速い、つまり、新鮮な血液であれば、抗凝固剤の使用の有無を問わず同25様な血痕ができると考えられ、 想定した場合、血液が凝固するまでには時間がかかるので、それよりも布に染み込んで広がる時間の方が速い、つまり、新鮮な血液であれば、抗凝固剤の使用の有無を問わず同25様な血痕ができると考えられ、多少時間がかかった場合に、その血痕に凝血がで53きて多少の厚みができる可能性はあるが、できたとしても1ミリメートルにも満たない厚みであり、本質的には変わらない旨の見解を述べるところ(X2尋問6頁)、同見解の内容に不合理な点はなく、検察官が指摘するY2教授の前記意見は抽象的な内容にとどまるものであって、同意見を踏まえて検討しても、X2助教の前記見解の合理性に疑いは生じない。そうすると、X2助教の前記見解は、5抗凝固剤の使用の有無がX1X2鑑定の結果に影響しないことを裏付ける専門的知見として信用できるといえる。 なお、前記①の点については、前記令和3年度実験の結果撮影された血痕等の写真は、後に詳細に説示するとおり、撮影の際に白熱電球が用いられたことから赤みが強調されたものとなっており、実験結果の写真の色調をそのまま前提とす10ることはできない。 X1教授らがモデル化実験等においてpHと塩分濃度のみに着目した点について検察官は、X1教授は、X1X2鑑定書①において塩分濃度及びpHに着目したモデル化実験を行った趣旨について、みそと混合した血液の反応が重要と考え、15それに特化したモデル化実験を行ったこと、モデル化実験とは、仮説理論を実証するために本質的な要素を抽出し、それに基づく具体的な条件設定を施した実験をすることであるところ、ヘモグロビンの変性・分解に影響を与え得るみそと混合した環境として塩分濃度及びpHに着目してモデル化したこと等を述べるが(当審弁9X1X2意見書1頁)、X1教授らは、当審における証人尋問におい ろ、ヘモグロビンの変性・分解に影響を与え得るみそと混合した環境として塩分濃度及びpHに着目してモデル化したこと等を述べるが(当審弁9X1X2意見書1頁)、X1教授らは、当審における証人尋問におい20て、塩分濃度およびpHの二つのみが本質的な要素といえる根拠について尋ねられても、十分な説明ができなかった、という。 しかしながら、仮説理論を実証するために本質的な要素を抽出し、それに基づく具体的な条件設定を施した実験をするというモデル化実験の趣旨に照らせば、みそ漬けされた血痕の色調変化に影響を与え得る条件を漏れなく挙げることは、25そもそも求められていない。そして、X1教授は、pHと塩分濃度に着目した理54由について、みそ環境の中で、赤血球を破壊し、血色素ヘモグロビンを破壊する条件は何かと生化学的に考えたときに、圧倒的に生体内の生理的な条件から外れているものが弱酸性と高い塩分濃度であると判断した旨を証言しており(X1尋問16頁)、塩分濃度及びpHの二つを前記趣旨のモデル化実験における本質的な要素とした根拠について、専門的見地から簡潔とはいえ合理的な説明がされた5ということができ、さらに、以上の説明は常識的にも十分了解できるものである。 したがって、塩分濃度及びpHの二つをモデル化実験における本質的な要素としたX1教授らの判断が不合理といえない。 なお、検察官は、X2助教が、当審における証人尋問の段階で、pHと塩分濃度以外の要素として微生物の影響を指摘し始めたとして論難するが、微生物の影10響は、むしろ、ヘモグロビン等の変性や分解を一層促し、赤みをより早く喪失させる方向で作用するものといえるから、結局、X1教授らの見解の信用性を左右しない(X2尋問12頁。なお、微生物の影響自体についても、X2助教の証人尋問に先立って提出 を一層促し、赤みをより早く喪失させる方向で作用するものといえるから、結局、X1教授らの見解の信用性を左右しない(X2尋問12頁。なお、微生物の影響自体についても、X2助教の証人尋問に先立って提出された当審弁3X1X2鑑定書①10頁で、みそに含まれる微生物による酵素分解も溶血により促進される旨言及されている。)。 15また、検察官は、最高裁決定が、血痕の付着した布のみそ漬け実験についてでさえ、その条件の違いからくる証明力の限界につき指摘したのは至極当然であり、5点の衣類がみそ漬けされるまでに置かれていた状況は証拠上明らかではなく、みそ漬けされる時点における血痕の形状等が不明であること、みそ醸造の原材料や醸造環境には様々なものが考えられることなどから、みそ漬けされた血痕の色20調変化の検討のために必要な要素を漏れなく抽出することは至難の業に思えるとした上で、X1X2鑑定書①が、血痕ではなく血液を用い、みそ漬けすら行わない実験から、みそ漬けされた血痕の色調変化、ひいては1号タンクにおかれた5点の衣類に付着した血痕の色調変化について推論しようとするのであれば、その推論が可能な根拠を示す必要があるが、X1教授らはそのような根拠を示すこと25ができていない、という。 55しかしながら、既に指摘したとおり、仮説理論を実証するために本質的な要素を抽出し、それに基づく具体的な条件設定を施した実験をするというモデル化実験の趣旨を前提にすれば、検察官が主張する「みそ漬けされた血痕の色調変化の検討のために必要な要素を漏れなく抽出すること」は求められておらず、検察官の主張を踏まえて検討しても、みそ漬けされた血痕の色調変化を検討するための5モデル化実験を行う際にしたX1教授らの要素の抽出に誤りがあるとはいえない。 また、塩分濃度やpH以外に ておらず、検察官の主張を踏まえて検討しても、みそ漬けされた血痕の色調変化を検討するための5モデル化実験を行う際にしたX1教授らの要素の抽出に誤りがあるとはいえない。 また、塩分濃度やpH以外に、嫌気度、抗凝固剤、微生物の影響等、みそ漬けされた血液の色調変化に影響を与える可能性がある1号タンク内の要素として想定できるものについては、前記のとおり、X1教授ら及びX3教授も検討しており、前記のとおり、その検討内容は不合理なものとはいえない。以上によれば、X110教授らがモデル化実験において塩分濃度やpHの二つの要素に着目し、それ以外の要素を抽出しなかったことから、直ちにそのモデル化実験の信用性に疑いが生じることにはならない。 X1教授らの見解全般に対する検察官の批判について検察官は、当審弁護人が主張する各種みそ漬け実験結果は、それぞれの限られ15た特定の条件下において得られた一つ一つの結果に過ぎないのであり、それらの実験とは条件が異なっていたと認められる5点の衣類がみそ漬けされた場合にも同じ結果に至ること、あるいは、どのような条件であっても同じ結果に至ることを推認することはできないとし、X1教授らの見解についても、血液の色調変化の要因についての一定の知見ではあるものの、あくまで特定条件下での血液の化20学変化、それに伴う色調変化を検討しているにすぎず、決して、1年以上もの長期間、衣類に付着した血痕がみそ漬けの環境におかれた場合、条件の違いにかかわらず、赤みが残ることはないか否かの判断を可能とする内容ではない、という。 しかしながら、最高裁決定でも指摘されているとおり、本件では1号タンク内の条件を再現した実験を実施することは困難であり、みそ漬け実験報告書及びW252実験はもとより、当審で実施された各実験の結果 しかしながら、最高裁決定でも指摘されているとおり、本件では1号タンク内の条件を再現した実験を実施することは困難であり、みそ漬け実験報告書及びW252実験はもとより、当審で実施された各実験の結果それ自体が重要であるという56よりも、みそ漬け実験結果報告書及びW2実験が示唆する長期間みそ漬けされた血痕に赤みが残らないことが、専門的知見によって合理的に説明できるかが中核的な問題であり、従前実施された各実験もそのような専門的知見を裏付けるものと位置づけられるべきである。そして、既に説示したとおり、X1教授らの見解及びこれを裏付けるX3教授の見解は、それぞれの専門的知見に基づき、衣類に5付着した血痕が1年以上みそ漬けされた場合の色調変化について、合理的に想定することが可能な条件を網羅した上で、実施された各実験結果も踏まえつつ検討判断がされたものといえるのであって、特定の条件のみを過度に重視するなど不合理な条件設定がされて実験が実施されたり、それに基づく検討判断がされたりしたような事情はうかがわれない。そうすると、X1教授ら及びX3教授の見解10は、1年以上の期間衣類に付着した血痕がみそ漬けの環境におかれた場合、合理的に想定できる種々の条件を踏まえても、赤みが残ることはないか否かの判断を十分可能とするものといえるから、検察官の批判は当たらない。 エ 小括以上によれば、X1X2鑑定等に対する検察官の批判を十分検討しても、衣類15に付着した血痕が1年以上みそに漬けた場合、血痕の赤みが残ることはないとしたX1教授らの見解やこれを基本的に支持するX3教授の見解は十分信用することができる。 原審において提出された3回にわたるみそ漬け実験報告書に加え、当審において、①赤みそと白みそを使用して、みそ漬けをするまでの時間を変えたりした実 支持するX3教授の見解は十分信用することができる。 原審において提出された3回にわたるみそ漬け実験報告書に加え、当審において、①赤みそと白みそを使用して、みそ漬けをするまでの時間を変えたりした実20験、②抗凝固剤を添加した血液の血痕を使用した実験、③血痕を付着させた生地を麻袋に挟んでみそ(白みそ)漬けした実験、④異なる血液型の血液を混合させて作った血痕を使用した実験における各みそ漬け実験報告書が提出されたが、いずれにおいても長期間みそ漬けされた血痕は赤みが残っていないという結果が出ており、前抗告審において検察官が提出したW2実験の結果においても同様の結25果が出ていることは、前記X1教授らの見解を強く裏付けるものであるといえる。 574 メイラード反応に関する専門的知見について⑴ 当審で取調べられた専門的知見について前述したとおり、前抗告審において、V2意見書により、醸造中のみその中で起こる褐変反応であるメイラード反応がみそ漬けされた血液にも起こり得ること、みそ漬け実験報告書において衣類に付着させた血液が黒褐色に変色したのは、主5にメイラード反応によると考えるのが妥当であることなどが指摘されたが、血液に対するメイラード反応の影響の有無・程度や血液の色の変化に関する他の要因との関係等は明らかでなかった。 当審において、X1X2鑑定書①において、数週間から数か月の長期間では、血液のたんぱく質分解物のペプチドやアミノ酸とみそに含まれる還元糖とのメイ10ラード反応が起こり、褐色のメラノイジンが生成され、更に混色が進行し、黒茶褐色から黒褐色の色調に変化することが指摘された(X1X2鑑定書①)。 さらに、当審において、メイラード反応に関し、弁護人は、X4名誉教授(農学博士)及びX5教授(農学博士)連名作成の意見書 、黒茶褐色から黒褐色の色調に変化することが指摘された(X1X2鑑定書①)。 さらに、当審において、メイラード反応に関し、弁護人は、X4名誉教授(農学博士)及びX5教授(農学博士)連名作成の意見書(当審弁4。以下「X4X5意見書」という。)を、検察官は、Y3教授(農学博士)からの聴取報告書15(当審検1。以下「Y3聴取報告書」という。)及びY4教授(食品栄養科学博士)からの聴取報告書(当審検2。以下「Y4聴取報告書」という。)をそれぞれ提出した。 メイラード反応とは、タンパク質等のアミノ基と糖等のカルボニル基との間に起きる一連の反応を総括的に表したものであり、血液中には様々なアミノ化合物20が存在し、みそ中には糖が存在していることから、理論的には、みそ漬けされた血液にメイラード反応が起きると解され、みそ漬けされた血液についても、メイラード反応により最終生成物であるメラノイジンが生成されることで、みそが褐色化するのと同様に、褐変が進み得ることについては、X4X5意見書、Y3聴取報告書及びY4聴取報告書で示された専門的知見において、概ね争いなく認め25られている。前記各教授は、いずれもメイラード反応に関する専門的知見を有し58ており、専門家としての資質に何ら問題はないことから、前記のとおり解することができる。 なお、前述したとおりV2意見書においても、血痕が付着した衣類を醸造中のみそに投入すると、血液中のたんぱく質がメイラード反応により褐色化し、その結果、血液は黒に近い暗褐色に変色するなどとされているが、前記と同様に、V52意見書の見解も支持できる。 ⑵ 本件におけるみそ漬けされた血液の褐変化の程度ア この点について、Y3教授は、問題となっている1号タンクのみそが淡色にとどまっているということは、その 2意見書の見解も支持できる。 ⑵ 本件におけるみそ漬けされた血液の褐変化の程度ア この点について、Y3教授は、問題となっている1号タンクのみそが淡色にとどまっているということは、そのみそに、淡色にとどまる着色があった以上、メイラード反応自体は起こっているが、褐変に影響を与えるメラノイジン等10が多量に形成される状態には至らず、それゆえに強い褐変は起こらなかったことを意味すると考えられる、メラノイジン等が生成されるメイラード反応の後期段階について、着色の観点からはその進行の程度は低かったものと考えられる、そうであれば、みその中に漬けられていた血液に対しても、同様に、強い褐変に至るようなメイラード反応が進行していなかったと考えられる旨の見解を述べてお15り(当審検1Y3聴取報告書5、6頁)、Y4教授も以上とほぼ同趣旨の見解を述べ、醸造タンクのみその色が淡色であることから、みそに対してメイラード反応はあまり進行しておらず、同じタンク内に置かれた血液についても、メイラード反応はあまり進行せず、褐変も進行していなかったと考えられるとする(当審検2Y4聴取報告書3頁)。 20これに対し、X4X5意見書(当審弁4、3頁)では、Y3教授らの前記見解について、みそが淡色のままであったとの前提に立てば、メイラード反応の後期段階にあるものの、メラノイジン等が大量に生成されるまでには至っていなかったという限りでは正しいとしながら、たとえ淡色であっても、みそに色が付いていたということは、メラノイジン等が生成されていた、すなわちメイラード反応25の後期段階もある程度進行していたといえ、そうすると、同じ環境に置かれた血59液についても、同様にメイラード反応が生じ、メラノイジン等が生成され、褐変を生じさせていたといえる旨の意見が述 25の後期段階もある程度進行していたといえ、そうすると、同じ環境に置かれた血59液についても、同様にメイラード反応が生じ、メラノイジン等が生成され、褐変を生じさせていたといえる旨の意見が述べられている。 そこで検討するに、確かに、弁護人が原審で提出したみそ漬け実験報告書における実験の際に用いたみそは、1号タンクのみそに比べて相当に濃い色調であると認められることは、D商店の元従業員らが一致して供述しており、1号タンク5のみその色は、赤みそとしては淡い色合いであったと認められる。しかし、このみその色合いに関する供述は相対的な評価を示すものであって、ただちに1号タンクのみそが淡色のままであったとまでは断定できない。かえって、前記のとおり、5点の衣類が発見された直後の実況見分調書には、1号タンクの中から発見された5点の衣類が入った麻袋を持ち上げると、焦茶色の汁が垂れた旨の記載が10あること、赤みその原料が仕込まれて約1年以上が経過しており、通常の発酵過程であれば、メイラード反応の後期段階に至り、メラノイジンが発生することが推測されること、1号タンクのみそは、5点の衣類発見時の前から、赤みそとしてすでに出荷が始まっていたこと等によれば、1号タンク内のみそが淡色のままであったとは考えにくく、相応に色がついた状態であったと推認できる。そうす15ると、1号タンクのみそが淡色のままであったとの前提に立つ点では、前記のY3教授及びY4教授の前記意見を直ちに採用することは困難であり、淡色であれ、みそに色がついていれば、メラノイジン等が生成され、メイラード反応の後期段階もある程度進行していたといえるから、同じ環境下におかれた血液についても、同様にメイラード反応が生じ、メラノイジン等が生成され、褐変を生じさせてい20たといえるとしたX メイラード反応の後期段階もある程度進行していたといえるから、同じ環境下におかれた血液についても、同様にメイラード反応が生じ、メラノイジン等が生成され、褐変を生じさせてい20たといえるとしたX4X5意見書は、合理的なものといえる。したがって、1号タンクのみそ自体が最終的に焦茶色の汁が垂れるほどの状態に至っておれば、約1年2か月間、そのみそに漬けられていた衣類の血痕も、メイラード反応によるメラノイジン等の生成によって、相当程度褐変が進行すると見るのが合理的かつ自然といえる。このことは、当審における検察官の令和3年度実験によっても、25期間の経過によって、みその発酵が進み、みその色合いが濃くなってきているこ60とからも裏付けられている。 イ メイラード反応は酸素濃度が低い状態(高嫌気状態)で生じるかも問題となるところ、Y3教授は、酸素のない環境下では、メイラード反応の一部は起こり得るが、着色・褐変を伴うようなメイラード反応の後期段階の反応は起こりにくいとの見解を述べる(当審検1Y3意見聴取書4頁)。しかしながら、前記5のように、血液が付着した5点の衣類は、約8トンという大量のみそが入った1号タンクの底部にあったことから、みそやたまりの水分中に含まれる溶存酸素があり、約8トンのみその中は発酵が進むことにより徐々に酸素濃度が低い高嫌気状態になったとはいえても、単純に酸素が少ない状態であったとはいえない。したがって、前記状態にある1号タンク内にみそ漬けされた5点の衣類の血痕につ10いては、メラノイジンが生成され褐変が生じる後期段階のメイラード反応は進んでいると見るのが合理的である。また、X4X5意見書(3ないし4頁)では、酸素濃度が高い場合には、酸化的褐変反応が生じることにより褐変が促進されるが、温度や時間といったそ 段階のメイラード反応は進んでいると見るのが合理的である。また、X4X5意見書(3ないし4頁)では、酸素濃度が高い場合には、酸化的褐変反応が生じることにより褐変が促進されるが、温度や時間といったその他の条件次第では、嫌気的環境であっても、メイラード反応の後期段階の最終生成物であるメラノイジンは生成され、例えば、みそ15を長期間熟成させれば、メラノイジンによる褐変が進行して赤みそになり、温度が高い環境なら比較的短期間でも赤みそになる旨の見解が述べられており、同見解は不合理とはいえない。そうすると、Y3教授の前記見解を踏まえて検討しても、X4X5意見書の前記見解は十分信用できるといえる。 ⑶ 小括20以上によれば、約1年2か月の間1号タンクのみそに漬けられた衣類の血痕について、メイラード反応による褐変化が進むことが認められる。そして、数か月から1年という長期を見ると、前記のとおり、ヘモグロビンの酸素による酸化及び酸素以外の電子受容体による自動酸化によって生じる生成物の様々な色調変化に、メイラード反応の後期段階で生じた褐色のメラノイジンも合わさることで、25減法混色の原理により、みそ漬けされた血液は限りなく黒に近い褐色化がより一61層進むなどとしたX1教授らの見解(当審弁3X1X2鑑定書①7、14頁)に不合理なところはなく、同見解のとおりであると認定することができる。 5 検察官が当審で実施したみそ漬け実験について⑴ 実験の概要検察官は、当審において、令和3年9月から令和4年11月までの約1年2か5月間、布に付着させた血液(血痕)をみそ漬けにした上で、その色調変化を観察する実験(以下「令和3年度実験」という。)を実施した。 令和3年度実験においては、薄手(識別符号「う」)と厚手(同「あ」)の2種類の 付着させた血液(血痕)をみそ漬けにした上で、その色調変化を観察する実験(以下「令和3年度実験」という。)を実施した。 令和3年度実験においては、薄手(識別符号「う」)と厚手(同「あ」)の2種類の綿製メリヤス編の布に、複数名の血液(静脈血を基本とするが、一部は動脈血も採取)を用いて血痕を作り(一部は、多量の血液を付着させた血痕を使10用)、これらの血痕付着布を麻袋の代替品としてのティーバッグに入れたものを試料とした。 次に、みそ原材料に関しては、当時の1号タンクのみそ原材料の分量を参考にしつつ、みその仕込みにあたり、通常の水道水を用いたもの(識別符号「甲」、「丙」)と、擬似井戸水(肥料等に起因する硝酸により汚染された水を想定した15一定濃度の硝酸態窒素を含有する水)を用いたもの(同「乙」、「丁」)が用意された。 以上のティーバッグ入り血痕付着布とみそ原材料を、酸素透過度が低いナイロン・ポリエチレン製のみそ手作り用チャック袋に入れた低嫌気度のものと、さらに、同チャック袋に、脱酸素剤を入れて、真空パック機により袋内の空気を吸引20して袋の口を電熱線により圧着した高嫌気度のものを準備し、血痕をみそ漬けする日についても、血痕作製の当日、3日後、5日後、10日後、18日後の5通りとし、さらに、本件の犯人がとる行動としてあり得るものとして、血液が付着した布を水ないしお湯で洗ったものも用意した上で、それぞれみそ漬けした(令和3年度実験の実施要領等の詳細については、当審検3、6等参照)。 25検察官は、以上のとおり様々な異なる条件でみそ漬けした試料について、定期62的に取り出すなどして色調等を観察し、試料の状況を撮影した写真等を添付するなどして観察結果等を記載した捜査報告書を逐次作成した。その主要なものは、①令和3年9月17日 した試料について、定期62的に取り出すなどして色調等を観察し、試料の状況を撮影した写真等を添付するなどして観察結果等を記載した捜査報告書を逐次作成した。その主要なものは、①令和3年9月17日観察(約半月後)(当審検8)、②同年10月5日観察(約1か月後)(当審検9)、③同月19日観察(約1か月半後)(当審検10)、④同年11月4日観察(約2か月後)(当審検11)、⑤同月18日観察5(約2か月半後)(当審検12)、⑥同年12月7日観察(約3か月後)(当審検13)、⑦令和4年1月6日観察(約4か月後)(当審検14)、⑧同年2月3日観察(約5か月後)(当審検15)、⑨同年3月3日観察(約6か月後)(当審検29、当審検30)、⑩同年5月10日観察(約8か月後)(当審検33)、⑪同年6月2日観察(約9か月後)(当審検35)、⑫同年6月30日観10察(約10か月後)(当審検38)、⑬同年8月30日観察(約12か月後)(当審検44)、⑭同年11月1日観察(約1年2か月後)(当審検51)である。 このうち、前記⑨ないし⑭の各観察の際には、当審弁護人が立ち合い、前記⑭の観察の際には、当裁判所の裁判官2名も立ち会った上、それぞれ、みその入っ15たパックから取り出された試料の血痕の状況等を実際に見分し、その結果を写真に撮影するなどした。 ⑵ 令和3年度実験の結果の評価についてア 検察官は、前記各捜査報告書に基づいて、みそ漬けされた試料に「赤み」が残った旨を主張する(令和4年12月2日付け意見書41頁以下)。確かに、20前記各捜査報告書中に添付された写真、特に、血液を多量に付着させた試料(丙5あ、丙5う、丙6あ、丙6う、丁5あ、丁5う、丁6あ、丁6う。)についてみそ漬け実験開始から約4か月が経過した以降、各観察の際に検察官が 告書中に添付された写真、特に、血液を多量に付着させた試料(丙5あ、丙5う、丙6あ、丙6う、丁5あ、丁5う、丁6あ、丁6う。)についてみそ漬け実験開始から約4か月が経過した以降、各観察の際に検察官が逐次撮影した写真(前記⑨ないし⑭の各捜査報告書添付)によれば、これらの試料に付着された血痕に「赤み」が残ったと見ることも可能である。 25しかしながら、検察官は、前記各観察において、撮影用の白熱電球を照射して63試料の写真を撮影しているところ(当審検7、検49)、白熱電球を照射して撮影した写真は、白色蛍光灯下で撮影した写真に比べて、一般に、撮影された被写体の赤みが増すとされている(当審弁19添付資料1)。また、本件における具体的な撮影結果を踏まえて検討しても、当審弁護人作成の「検察官による令和3年度実験の試料観察立会い報告書」(当審弁19)によれば、当審弁護人が立ち5会った前記各観察の際に撮影された各試料の写真と比較すると、当審弁護人が白熱電球を用いず、白色蛍光灯下でフラッシュをたいて撮影した各血痕付き試料には赤みが残っていないと認められるのに対して、検察官が写真撮影用の白熱電球を用いて撮影したものには、赤みが残りやすいように見えることが明らかに認められる(例えば、当審弁19写真4と当審検29写真10、11、当審弁19写10真8、9と当審検33写真1ないし4、当審弁19写真10、11と当審検35写真55ないし58、63、64、当審弁19写真14と当審検38写真1ないし4、当審弁19写真17と当審検44写真1ないし4、当審弁19写真22、24と当審検51写真9ないし12等)。さらに、以上の検討結果は、検察官が、令和3年度実験で用いられた血痕付き試料について、写真撮影用の白熱電球下で15撮影した写真と蛍光灯下で撮影した写真を 、24と当審検51写真9ないし12等)。さらに、以上の検討結果は、検察官が、令和3年度実験で用いられた血痕付き試料について、写真撮影用の白熱電球下で15撮影した写真と蛍光灯下で撮影した写真を比較対照した結果(当審検49、56)からも裏付けられている。 イ そして、最高裁決定が説示するとおり、5点の衣類が発見された当時の実況見分調書やS鑑定書等には、血痕の色について、「濃赤色」、「濃赤紫色」、「赤褐色」等の記載があり、確定審において、複数のD商店の元従業員が一見し20て血痕であると分かった旨証言していることからすれば、少なくとも5点の衣類に付着した血痕に赤みが残っていたものがあったことは否定できないところ、前記実況見分調書における警察官の実況見分の際やS鑑定人の鑑定の際に、さらには、K(確定審第5冊1691丁)等の元従業員が5点の衣類を1号タンク内で発見した際に、前記写真撮影用の白熱電球を照射したような状況下で5点の衣類25を見たとは容易に想定できない。むしろ、写真撮影用の白熱電球を用いないで弁64護人が撮影した写真(当審弁19)の方が、前記の警察官、S鑑定人及びKら元従業員が5点の衣類を実際に見た際の状況をより忠実に反映したものと推認できる。 ウ さらに、令和3年度実験において、令和4年11月1日の観察(前記⑴の⑭)の際には、当裁判所の裁判官2名も、みそ漬けにされた試料を取り出し、5その現物を見分しているところ、その結果(なお、同見分の結果については、令和4年11月10日付け裁判所書記官作成の「実験資料の確認(メモ)」添付の各写真のとおりである。以下、当該メモを「裁判所確認結果」という。)に照らせば、前記観察の当日、検察官及び当審弁護人が撮影した前記試料の各写真を比較した場合、当審弁護人が撮影した 認(メモ)」添付の各写真のとおりである。以下、当該メモを「裁判所確認結果」という。)に照らせば、前記観察の当日、検察官及び当審弁護人が撮影した前記試料の各写真を比較した場合、当審弁護人が撮影した写真(当審弁19)が、実際に肉眼で見た前10記試料の状況をより忠実に反映したものであることは明らかであるといえる。 エ 以上によれば、丙、丁各5及び6試料の各写真を始め、検察官が令和3年度実験の前記各観察の際に白熱電球を照射して同実験の試料を撮影した各捜査報告書添付の写真が、前記試料の状況につき肉眼で見た状況を忠実に反映したものとはいえず、これらの写真に基づいて、ただちに、令和3年度実験の結果、試15料の血痕に赤みが残ったと認定することは困難であるといわざるを得ない。これに対し、弁護人が前記試料を撮影した各写真(当審弁19)は、実際に肉眼で見た前記試料の状況をより忠実に反映したものとして信用することができる。さらに、検察官が令和3年度実験の血痕付試料を蛍光灯下で撮影した写真(当審検49、56)についても同様に信用できる。 20そこで、弁護人が撮影した前記各写真(当審弁19)及び検察官が撮影した蛍光灯下における写真(当審検49、56)並びに裁判所確認結果の写真の血痕に赤みが残っていないといえるか否かについて検討するに、赤みの評価は主観的要素が強い面もあることから、当然ながら、赤みが残ったか否かの認定判断は慎重にされるべきであるところ、最高裁決定が、検察官提出のW2実験におけるみそ25漬け実験の結果、遅くてもみそ漬けから30日後に黒くなり、5か月後には赤み65が全く感じられないと評価していることも踏まえ、W2実験における写真とも比較して検討を進める(なお、最高裁決定が指摘するとおり、W2実験は、醸造専門家の監修により1 くなり、5か月後には赤み65が全く感じられないと評価していることも踏まえ、W2実験における写真とも比較して検討を進める(なお、最高裁決定が指摘するとおり、W2実験は、醸造専門家の監修により1号タンクのみその醸造過程をできるだけ忠実に再現し、Tシャツに付着させた血液を、乾燥・未乾燥等の条件別にみそに漬けており、みそ漬け実験報告書に比べれば、5点の衣類がみそ漬けされた状況をより客観的に再現5するための工夫がされたものでもある。)。その前提で、弁護人が令和3年度実験において前記試料を撮影した写真、検察官が撮影した蛍光灯下における写真及び裁判所確認結果の写真と、赤みが残っていないことが明らかなW2鑑定における前記写真とを比較してみても、前者の写真、すなわち、弁護人が令和3年度実験において前記試料を撮影した写真、検察官が撮影した蛍光灯下における写真及10び裁判所確認結果の写真に写っている血痕に赤みは残っていないと評価できることは明らかといえる(当審弁19添付資料3、4、当審検49、56、裁判所確認結果)。 したがって、検察官が実施した令和3年度実験の結果によって、むしろ、約1年2か月間みそ漬けされた血痕には赤みが残らないことが一層明らかになったと15いえ、令和3年度実験の結果は、前記のX1教授らの見解をかえって裏付けるものであるといえる。 ⑶ 令和3年度実験が実施された際の条件について令和3年度実験については、後記のとおり、1号タンクの状況を踏まえると、みそ漬けされた血痕につき一層赤みが残りやすい条件が認められる。 20以下、この点について、補足して説明する。 ア みその量について1号タンクのみその量は約8トンであったのに対して、令和3年度実験で用いられたみその量は1袋当たり2ないし2.5キログラム 以下、この点について、補足して説明する。 ア みその量について1号タンクのみその量は約8トンであったのに対して、令和3年度実験で用いられたみその量は1袋当たり2ないし2.5キログラムであった(当審検6)。 そして、血液のヘモグロビンの変性・分解、酸化(以下、これらをまとめて「酸25化反応等」ということがある。)は、血液が付着した布に水分が染みこむことに66よって進行するところ(X1尋問9頁、X2尋問4、5、24頁、X3尋問11頁)、X3教授は、1号タンク内には多くのみそが入っており、みそ自体の水分やみそから滲出するたまりには溶存酸素が含まれており、そのような溶存酸素を含むみそ自体の水分やたまりによって、みそ漬けされた血液のヘモグロビンの酸化反応等が速く進むことになり、また、みその量が多いと圧力がかかるので、前5記のような水分やたまりが浸透しやすくなることから(前記のとおり、X1教授らも同様の見解を示している。当審弁13X1X2鑑定書③・5頁)、酸化反応等が速く進み、1号タンクの底の方にある衣類に付着した血痕は赤みが速く消えるはずである旨を述べる(X3尋問14頁)。以上のX3教授らの見解は合理的なもので、これを否定し得る他の専門的知見もないことから、十分信用すること10ができる。 他方で、令和3年度実験では、みその量が1号タンクに比べてかなり少ないことから、①血痕が付着した布に染みこむみそ自体の水分やたまりの量が少なく、さらに、これらの水分に含まれる溶存酸素も少ないことから、血痕中のヘモグロビンの酸化反応等は1号タンクよりも遅くなり、②また、血痕の付着した布にか15かるみその圧力も1号タンクよりも小さいことから、みそ自体の水分やたまりが血痕が付着した布に染みこむのに、より時間がかかることになる(X3尋問 ンクよりも遅くなり、②また、血痕の付着した布にか15かるみその圧力も1号タンクよりも小さいことから、みそ自体の水分やたまりが血痕が付着した布に染みこむのに、より時間がかかることになる(X3尋問9ないし12頁)。 以上によれば、X1教授(X1尋問34、35頁)及びX3教授(X3尋問9頁)がそれぞれ述べるとおり、令和3年度実験では、実験に用いられたみその量20が1号タンク内のみそよりもかなり少ないことから、1号タンク内に入れられた5点の衣類の血痕に比べ、ヘモグロビンの酸化反応等の進行が遅くなり、血痕に赤みがより一層残りやすい条件であったといえる。 これに対して、Y2教授は、令和3年度実験の結果に基づき、1年以上みそ漬けされた血痕に赤みが残る可能性があり、1号タンク内でみそ漬けされた5点の25衣類に付着した血痕にも赤みが残る可能性がある旨を述べる。 67しかしながら、Y2教授は、そのように判断した根拠として、1号タンクのみその量が8トンと多量であるなど極端な条件だったからであるなどと述べるにとどまり、それ以上の具体的かつ合理的な根拠を示していない。また、前記のとおり、みその量が多ければ溶存酸素等も多くなり、ヘモグロビンの酸化反応等はより進むことや、1号タンクに5点の衣類が隠匿され、その後、発見された際の具5体的状況等を踏まえた酸素濃度等についても、Y2教授は検討した形跡はうかがわれない。さらに、Y2教授は、令和3年度実験における前記のような実験結果、すなわち、1年以上みそ漬けされた血痕に赤みが残らないことについて、正確に認識できていたかも不明である。以上から、Y2教授の前記見解は採用し難い。 イ 高嫌気の条件について10令和3年度実験における試料の中には、前記のとおり、ティーバッグ入り血痕付着布とみ できていたかも不明である。以上から、Y2教授の前記見解は採用し難い。 イ 高嫌気の条件について10令和3年度実験における試料の中には、前記のとおり、ティーバッグ入り血痕付着布とみそ原材料を入れたみそ手作り用チャック袋に脱酸素剤を入れ、真空パック機により袋内の空気を吸引して袋の口を電熱線により圧着した高嫌気度のものが相当数ある。 この点について、X1教授らは、みそは醸造される過程で徐々に嫌気化が進む15が、令和3年度実験の前記試料は実際のみそ製造過程の条件とあまりにもかけ離れており、検討に値しないとし、その理由として、脱酸素剤によって極端に酸素濃度を下げ、ヘモグロビンに起きうる酸化反応の速度を著しく低下させ、その状態を真空パックによって保持しているからであると述べる(当審弁9X1X2意見書、X1尋問10頁)。さらに、X3教授も、みその発酵は、酵母菌の呼吸に20よって時間をかけて酸素濃度が緩やかに低下していくのに対し、令和3年度実験の前記試料について、当初から急激に低い酸素濃度に抑えられているため、酸化反応が最初から非常に遅く進み、血痕の赤みは長期間残りやすくなる旨を述べている(X3尋問7、12頁)。 以上のX1教授ら及びX3教授の各見解は、不合理な点はない上、相互に信用25性を補強し合っており、これを否定できる明確な専門的知見もないことから、十68分信用することができる。 さらに、みそやたまりの水分中に含まれる溶存酸素についても、脱酸素剤の影響によって減少することから(X3尋問23頁)、一層、赤みは残りやすい環境になると推認できる。 これに対して、検察官は、①令和3年度実験では、脱酸素剤を本来の用法と5は異なる用法で、その取扱説明書上の性能を発揮することができない前提で使用したものであり、これ 環境になると推認できる。 これに対して、検察官は、①令和3年度実験では、脱酸素剤を本来の用法と5は異なる用法で、その取扱説明書上の性能を発揮することができない前提で使用したものであり、これにより実現可能な酸素濃度は定かではない、②脱酸素剤及び真空パックのいずれについても、みそパック中の気体部分について吸引し、あるいは気体中の水分と接触して反応することを想定しているから、みそパック中の気体部分を超えて、半固形で約50パーセントが水分で構成される10みそ中に存在する酸素をどの程度吸引することができるかについては、不明であるといわざるを得ない、などと主張するが、指摘された各点を踏まえて検討しても、脱酸素剤及び真空パックが用いられた試料について、より赤みが残りやすくなる旨のX1教授ら及びX3教授の前記各見解の信用性は揺らがない。 ウ 温度設定について15信用性に疑いのないX3教授の供述によれば、一般に、化学反応は温度が高いほど速くなり、温度が10度上がると化学反応の速度は2ないし3倍になるとされている(X3尋問13頁)。そして、令和3年度実験は、概ね20ないし23度程度に温度管理がされた室内で実施されているが(当審弁22)、1号タンクは、外気にさらされており、前記のような温度管理がされていたとはうかがわれ20ない上、5点の衣類が1号タンクに約1年2か月間隠匿されていたとすると、昭和41年7月から昭和42年8月までの間、冷房設備もなかったとうかがわれる環境下で2度の夏を経たことになる。そうすると、1号タンクは地下に埋設された部分が相当あることなどから、夏でも温度が上がりにくい環境下にあった旨のW4助教の見解(前抗告審検55)を踏まえても、温度に関し、令和3年度実験25の状況は、1号タンクの置かれた状況よりも、 た部分が相当あることなどから、夏でも温度が上がりにくい環境下にあった旨のW4助教の見解(前抗告審検55)を踏まえても、温度に関し、令和3年度実験25の状況は、1号タンクの置かれた状況よりも、ヘモグロビンの酸化反応等がより69遅くなる環境にあった可能性は否定し難い。 エ 血痕作成からみそ漬け実験開始までの期間等について令和3年度実験においては、布に血液を塗布してからみそ漬けを開始するまでの期間について、当日、3日後、5日後、10日後、18日後の5通りに分けた試料が用いられている。これは、本件犯行が昭和41年6月30日であり、1号5タンクには同年7月20日から2回にわたり合計約8トンのみそが仕込まれたことからすると、血痕作成からみそ漬け実験開始までの期間として合理的なものといえる。しかしながら、前記のとおり、5点の衣類が犯行着衣であり、犯人が同衣類を麻袋に入れて1号タンクに隠匿したとすれば、犯行直後に隠匿された蓋然性が大きいといわざるを得ず、このことを前提とすると、5点の衣類を1号タン10クのみその中に隠匿した時点で、5点の衣類に付着した血痕は、血液が付着してからいまだそれほど時間が経過しておらず、乾燥の進んだ血痕になっていたとはいえないことになる。そうすると、令和3年度実験における試料のうち、血痕作成の当日より一定期間経過後にみそ漬けが開始された試料が大半であり、これらの試料については、みそ漬けの時点で、5点の衣類の血痕よりも乾燥が進んだ状15態になっており、血痕のヘモグロビンの酸化反応等の進行が遅くなった可能性が認められるから、みそ漬けされた血痕に、より一層赤みが残りやすい条件であった可能性が高いといえる(たとえば、血液を多量に付着させた丙及び丁の各5、6の試料については、丙5が血痕作成から3日後、 性が認められるから、みそ漬けされた血痕に、より一層赤みが残りやすい条件であった可能性が高いといえる(たとえば、血液を多量に付着させた丙及び丁の各5、6の試料については、丙5が血痕作成から3日後、丙6が血痕作成から5日後にみそ漬け、丁5が血痕作成から10日後、丙6が血痕作成から18日後のみそ漬20けである。)。 ⑷ 小括以上のとおり、検察官が実施した令和3年度実験は、5点の衣類がみそ漬けされていた1号タンク内の条件よりも血痕に赤みが残りやすい条件の下で実施されたといえるにもかかわらず、試料の血痕に赤みが残らないとの実験結果が出たこ25とは、令和3年度実験は、検察官主張のとおり5点の衣類が1号タンクでみそ漬70けされた状況を再現する趣旨で実施されたものではないとしても、前述したとおり、1年以上みそ漬けされた血痕に赤みが残らないとのX1教授らの見解を裏付けるものといえる。 6 当審で取り調べられた専門的知見等を踏まえた、弁護人提出の新証拠(主にみそ漬け実験報告書)の評価5弁護人が原審及び当審において提出した各みそ漬け実験報告書及び検察官が前抗告審において提出したW2実験の結果等による長期間みそに漬けられた衣類に付着した血痕の色調の変化については、当審で取り調べた前記の各X1X2鑑定書、X3鑑定書、X4X5意見書、さらにX1教授、X2助教及びX3教授の各証人尋問の結果により明らかになった各専門的知見によって裏付けられたという10ことができ、1年以上みそ漬けされた衣類の血痕の赤みが消失することは、専門的知見によって化学的機序として合理的に推測することができる。 そうすると、原審で提出されたみそ漬け実験報告書は、W2実験に加えて、みそ漬けされた血痕の色調の変化に影響を及ぼす要因について当審で取り調 知見によって化学的機序として合理的に推測することができる。 そうすると、原審で提出されたみそ漬け実験報告書は、W2実験に加えて、みそ漬けされた血痕の色調の変化に影響を及ぼす要因について当審で取り調べた前記各専門的知見等によって裏付けられることによって、1年以上みそ漬けされた155点の衣類の血痕には赤みが残らないことを認定できる新証拠といえるのであり、前記の各証拠に総合すれば、1号タンクから発見された5点の衣類に付着した血痕の色調に赤みが残っていたことは、5点の衣類が昭和41年7月20日以前に1号タンクに入れられて1年以上みそ漬けされていたとの確定判決が認定した事実に合理的な疑いを生じさせることになる。このことは、5点の衣類の証拠の重20要性、Aが5点の衣類を1号タンクに入れることが事実上不可能であることになること等から、5点の衣類が犯行着衣であって、Aの着衣であり、ひいてはAが本件犯行の犯人であるという確定判決の認定に対し、重大な影響を及ぼすことは明らかである。 7 新旧証拠の総合評価25以上を踏まえ、前記の新証拠に確定審で取り調べられた旧証拠を総合評価71することによって、5点の衣類が犯行着衣であって、Aの着衣であり、Aを本件の犯人とした確定判決の認定に合理的疑いが生じるか否かについて検討する。 前記検討によれば、確定判決のうち、Aが本件の犯人であるとする最も有力な証拠である1号タンク内から発見された血痕の付着した5点の衣類は、本件犯行に供された着衣として犯行直後に隠匿されたものではなく、事件から相当期間経5過した後の発見時に近い頃に、A以外の第三者が1号タンク内に隠匿してみそ漬けにした可能性が否定できないということになり、このことはAの犯人性の認定に重大な影響を及ぼすものである。 そこで、以上を前提に た後の発見時に近い頃に、A以外の第三者が1号タンク内に隠匿してみそ漬けにした可能性が否定できないということになり、このことはAの犯人性の認定に重大な影響を及ぼすものである。 そこで、以上を前提に、5点の衣類に関連するかどうかを問わず、確定判決において、Aの犯人性を認定する根拠とされた主要な証拠についてみていくことと10する。 ア 5点の衣類の血痕が被害者らの各血液型やAの血液型と一致していたことこの点については、前記のとおり、5点の衣類が、本件犯行に供された着衣として犯行直後に隠匿されたものではなく、事件から相当期間経過した後に、A以15外の第三者が1号タンク内に隠匿してみそ漬けにした可能性が否定できないということになるから、血痕が被害者らやAの血液型と一致していたからといって、5点の衣類が犯行着衣であることやAの犯人性を推認する力はほぼないといわざるを得ない。 イ 白半袖シャツ 、ネズミ色スポーツシャツ、鉄紺色ズボンの損傷とAの20傷の関係についてAが白半袖シャツ及びネズミ色スポーツシャツの損傷及びAの上腕部の傷が重なるとされた点については、確定控訴審において、これらの衣類の損傷やAの傷が一直線上に並ぶものではないことが明らかになっているが、二つの衣類で体の密着が異なることや損傷が格闘中に衣類が引っ張られるなどして生じた可能性が25あることから、Aが前記衣類を着用して犯行に及んだ際に形成されたものとして72矛盾はしないとはいえる。しかし、Aが本件犯行の犯人であることを推認する力は、もともとその限度にとどまるものである上、前記のとおり、前記衣類を含む5点の衣類については、事件から相当期間経過した後に、A以外の第三者が1号タンク内に隠匿してみそ漬けした可能性が否定できず、Aの犯人性の認定に重大な どまるものである上、前記のとおり、前記衣類を含む5点の衣類については、事件から相当期間経過した後に、A以外の第三者が1号タンク内に隠匿してみそ漬けした可能性が否定できず、Aの犯人性の認定に重大な影響を及ぼすことから、Aを本件犯行の犯人と推認させる力は乏しいといわざ5るを得ない。 また、鉄紺色ズボンの損傷とAの右脛の傷については、Aの右脛の傷は、Aが逮捕された際の身体検査時の身体検査や鑑定、留置人名簿の外傷等の状況欄に記載はなく(Aが本件犯行により右下腿部に打撲擦過傷を負い、その傷跡が残っているならば、逮捕時の身体検査等で発見されないことは考え難い。)、逮捕から10約20日間経過した昭和41年9月6日になって初めて捜査官に確認されていることからすると、弁護人が指摘するように、Aの右脛の傷は逮捕後に生じたものであり、それに沿うようにAの自白調書が作られ、それに沿うように前記ズボンの損傷がAの右脛の傷に合わせて作出されたのではないかとの疑いを生じさせるものといえる。 15ウ 鉄紺色ズボンと端布本件では、5点の衣類の中の鉄紺色ズボンと切断面が一致する端布が、5点の衣類が発見された後にAの実家から発見されており、この事実は5点の衣類とAを結びつける重要な証拠になったものである。しかし、前記のとおり、鉄紺色ズボンを含む5点の衣類については、事件から相当期間経過した後に、A以外の第20三者が1号タンク内に隠匿してみそ漬けした可能性が否定できず、Aの犯人性の認定に重大な影響を及ぼすことから、この端布がAの実家から発見された事実がAの犯人性を推認させるものとはいえない。 エ Aの左手中指の切創等Aの左手中指に切創があったことは事実であるが、Aの本件火災時の消火活動25の際も含め、犯行とは別の機会に形成された可能性があるか 人性を推認させるものとはいえない。 エ Aの左手中指の切創等Aの左手中指に切創があったことは事実であるが、Aの本件火災時の消火活動25の際も含め、犯行とは別の機会に形成された可能性があるから、Aが本件の犯人73であるとしても矛盾しない程度の事実であり、それ以上にAの犯人性を推認させるものではない。 オ Aが知人女性に渡したとされる紙幣及び便箋紙幣や便箋に書かれた文字が知人女性によるものかは筆跡鑑定の結果からは明らかではなく、紙幣はいずれも左上と右下の紙幣の記号番号記載部分が焼けてい5るなどの証拠自体の不自然性等からすると、この紙幣や便箋の存在がAの犯人性を裏付ける証拠であるとはいえない。 カ Aのパジャマの混合油と血液についてAのパジャマから本件工場の混合油と同種のものが検出されたかどうかについては、複数の異なる鑑定結果があり、仮に同工場の混合油が付着していたとして10もそれが多量という証拠はなく、Aは本件当時本件工場内の寮で生活していたのであるから、別の機会に付着した可能性もあること、血液についても、Aのパジャマから多量の血液が検出されたわけではなく、別の機会に付着することもあり得ることから、これらの点からAの犯人性を推認するのは困難である。 キ Aの自白調書について15確定審は、Aの自白調書につき、昭和41年9月9日付け検察官に対する供述調書1通だけは任意性を認め、その余の自白調書については全て証拠排除しており、任意性を認めた前記自白調書についても判決書の証拠の標目には挙げられていない。同自白調書については、犯行時着用しているのはパジャマであるとして犯行状況等を供述するものであり、犯行着衣という重要事実について確定判決の20認定と異なるものであるから、それ以外の部分についても証拠価値は乏しい ては、犯行時着用しているのはパジャマであるとして犯行状況等を供述するものであり、犯行着衣という重要事実について確定判決の20認定と異なるものであるから、それ以外の部分についても証拠価値は乏しいといわざるを得ない。 以上のとおり検討を加えた前記各証拠は、それだけではAの犯人性を推認させる力がもともと限定的又は弱いものでしかなく、みそ漬け実験報告書等の新証拠によりその証拠価値が失われるものもある。そして、これらを総合しても、255点の衣類が1年以上みそ漬けされていたことに合理的な疑いが生じており、574点の衣類については、事件から相当期間経過した後に、A以外の第三者が1号タンク内に隠匿してみそ漬けにした可能性が否定できず(この第三者には捜査機関も含まれ、事実上捜査機関の者による可能性が極めて高いと思われる。)、Aの犯人性の認定に重大な影響を及ぼす以上、到底Aを本件の犯人と認定することはできず、それ以外の旧証拠でAの犯人性を認定できるものは見当たらない。 5 小括以上によると、当審で取り調べた各専門的知見から、1年以上みそ漬けされた5点の衣類の血痕の赤みが消失することが化学的機序として合理的に推測できることから、原審で提出された各みそ漬け実験報告書に加え、この証拠価値を高め、裏付けているW2実験の結果や当審で取り調べられた各専門的知見及び各種実験10結果等の報告書を併せると、確定審で取り調べられた旧証拠と総合評価することによっても、5点の衣類が犯行着衣であり、Aの着衣であることに合理的な疑いが生じ、その結果、Aを本件の犯人とした確定判決の認定に合理的疑いが生じることは明らかであり、よって、以上の新証拠については、確定審において提出されていれば、Aが本件について有罪であるとの判断に達していなかったものと認 本件の犯人とした確定判決の認定に合理的疑いが生じることは明らかであり、よって、以上の新証拠については、確定審において提出されていれば、Aが本件について有罪であるとの判断に達していなかったものと認15められる。 原決定は、5点の衣類等のDNA型鑑定に関する証拠(とりわけV1鑑定)及び5点の衣類の色に関する証拠(とりわけ、各みそ漬け実験報告書等)を「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」に該当すると認めたものであるところ、DNA型鑑定に関するV1鑑定について再審開始を認めるべき証拠に該当するかどうかを20改めて判断するまでもなく、以上に検討したとおり、原審において提出された前記みそ漬け実験報告書等の新証拠は、「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」に該当する。したがって、前記みそ漬け実験報告書等について、刑訴法435条6号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」であると認めた原決定の判断には誤りはなく、本件再審を開始するとした原決定も、その結論において是認できる。 25そして、原審は、本件再審開始決定に際して、Aに対する死刑及び拘置の執行75を停止する旨の決定をしたが、同決定についても、Aが無罪になる可能性、本件再審開始決定に至る経緯、Aの年齢や心身の状況等に照らして、相当として支持できる。 第6 結論本件即時抗告の趣意は理由がない。 5よって、刑訴法426条1項により、本件即時抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。 令和5年3月13日東京高等裁判所第2刑事部 10裁判長裁判官 大 善 文 男 裁判官 青 沼 潔 15 裁判官 仁 藤 佳 海 大 善 文 男 裁判官 青 沼 潔 15 裁判官 仁 藤 佳 海

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