令和5(ネ)426 損害賠償請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
令和6年4月18日 名古屋高等裁判所 名古屋地方裁判所 令和2(ワ)1029
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判決文本文12,924 文字)

- 1 - 主文 1 原判決中、被控訴人に関する部分を次のとおり変更する。 ⑴ 被控訴人は、控訴人Aに対し、3740万9300円及びこれに対する平成30年8月20日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 ⑵ 被控訴人は、控訴人Bに対し、3740万9300円及びこれに対する平成30年8月20日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 ⑶ 控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は、第1、2審を通じてこれを3分し、その1を 控訴人らの負担とし、その余を被控訴人の負担とする。 3 この判決の主文第1項⑴及び同⑵は、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決中、被控訴人に関する部分を次のとおり変更する。 2 被控訴人は、控訴人Aに対し、5615万9407円及びこれに対する平成30年8月20日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 3 被控訴人は、控訴人Bに対し、5615万9407円及びこれに対する平成30年8月20日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 4 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。 5 仮執行宣言第2 事案の概要等(略称は、特に断りない限り、原判決に従う。以下同様。) 1 本件は、出生後間もなく喉頭軟化症と診断され、気管切開術を受けて人工呼吸器管理となっていたC(平成▲年▲月▲日出生。本件の訴え提起後の令 和▲年▲月▲日に3歳で死亡)の両親であり相続人である控訴人らが、①C- 2 -の入院先病院である一宮市立市民病院(被控訴人病院)の医師において、Cが退院して自宅療養させるに際しての療養指導義務を怠り、また、②Cの訪問看護を担ってい 相続人である控訴人らが、①C- 2 -の入院先病院である一宮市立市民病院(被控訴人病院)の医師において、Cが退院して自宅療養させるに際しての療養指導義務を怠り、また、②Cの訪問看護を担っていた原審相被告株式会社H(以下「H」という。)において、Cが気管に装着していた気管切開カニューレ(カニューレ。気管切開後、開窓された気管切開孔から気道内に挿入されるパイプ状の医療器具)と 人工呼吸器回路との接続方法を誤って勧めたために、Cの装着していたカニューレに事故が起こって呼吸不能又は呼吸困難な状態となり、さらに、③臨場した消防署(尾西消防署及び萩原消防出張所)所属の救急隊員や搬送先である被控訴人病院の医師において、直ちにカニューレを引き抜くなどして気道を確保しなかったために、Cの心拍の再開が遅れ、Cが心肺停止状態とな り(本件事故)、その後Cが死亡するに至ったなどと主張して、Hに対しては、不法行為又は債務不履行に基づいて、入院先及び搬送先の病院である被控訴人病院を開設し、かつ、臨場した救急隊員が所属する消防署(被控訴人消防署)を開設する被控訴人に対しては、医師の各注意義務違反につき不法行為又は債務不履行に基づき(ただし、控訴人ら固有の損害である慰謝料各 500万円及び弁護士費用各55万円については、不法行為に基づき)、救急隊員の注意義務違反につき国家賠償法1条1項に基づいて、Cに生じた損害の相続分及び自らの固有の損害の合計額として各5615万9407円及びこれに対する不法行為の日(本件事故が発生した日)である平成30年8月20日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法(以 下「改正前民法」という。)所定の年5%の割合による遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。 原判決は、控訴人らの請求をいずれも から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法(以 下「改正前民法」という。)所定の年5%の割合による遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。 原判決は、控訴人らの請求をいずれも棄却したところ、控訴人らが被控訴人(ただし、被控訴人病院関係分のみ)に対して控訴した。したがって、当審においては、上記①に関係する点のみが審理の対象となる。 2 前提事実- 3 -以下のとおり原判決を補正するほか、原判決「事実及び理由」第2の1に記載のとおりであるから、これを引用する。 ⑴ 原判決3頁19行目の「診療経過等」の次に、次のとおり付加する。 「(下記のうちCの出生から死亡に至るまでの診療経過の要点を診療録の記述に基づいてまとめたものが本判決別紙『診療経過一覧表』(以下単に 『診療経過一覧表』ということがある。)であり、それらの記述自体は、当事者間に争いがないか、同一覧表に掲記の証拠により認められる。ただし、同一覧表中の下線のある診療記事については、その真否ないし意味内容につき争いがあり、この点については後記する。)」⑵ 原判決3頁23行目の「気管軟化症」の次に「(ただし、気管軟化症は軽 度のもの。甲A7・232、233、449頁)」を付加する。 ⑶ 原判決4頁11行目の「被告病院」の次に「へ転院し、当初は」を付加し、12行目の「へ転院した」を「に入室し、その後の同日中にGCU(発育支援室)に転床した」と改める。 ⑷ 原判決4頁20行目の「カニューレが外れる事故」を「カニューレに関す る何らかの事故(後記する閉塞、事故抜去(逸脱)又は迷入。以下、これらを「カニューレ事故」と総称することがある。)」と改める。 ⑸ 原判決4頁21行目の「夜間入眠時」を「夜間入眠中」と改める。 ⑹ 原判決5頁 故(後記する閉塞、事故抜去(逸脱)又は迷入。以下、これらを「カニューレ事故」と総称することがある。)」と改める。 ⑸ 原判決4頁21行目の「夜間入眠時」を「夜間入眠中」と改める。 ⑹ 原判決5頁3行目の「カニューレが外れる事故」を「カニューレ事故」と改める。 ⑺ 原判決5頁12行目末尾の次に、次のとおり付加する。 「もっとも、D医師による控訴人らへの指導及びその際にされた説明の内容並びにそれらの当否については、当事者間に争いがある。」⑻ 原判決8頁4頁末尾を改行して、次のとおり付加する。 「ウおよそ人間は、乳児も含めて、換気不能となると(窒息)、数十秒で 低酸素状態による呼吸困難に陥り、次いで呼吸停止・心停止に至り(心- 4 -静止)、低酸素状態が4~6分以上継続すると不可逆的な脳障害又は窒息死に至る(甲B1、2)。 エカニューレ事故の原因及び態様については、大きく分類して①閉塞、②事故抜去(逸脱)及び③迷入がある(これらは必ずしも択一的ではなく併存し得るものであるが、②のうちの後記『完全抜去』と『不完全抜 去』とは論理的に択一関係にあるといえる。)。 ①の『閉塞』には、カニューレ(チューブ)の内腔が痰・血液等の分泌物によって閉塞する場合(①a)と、カニューレ(チューブ)の気道内先端部分が気管壁や肉芽に接触して閉塞する場合(①b)とがある(甲B11・157頁)。②の『事故抜去(逸脱)』には、カニューレ (チューブ)の気道内先端部分が気管切開孔の外に完全に逸出する場合(以下『完全抜去』という。)と、カニューレ(チューブ)の気道内先端部分が気管切開孔の内側に留まる場合(以下『不完全抜去』という。)とがあり(甲B57・3頁、10頁、甲B6・21頁)、不完全抜去の場合には、カニューレ( う。)と、カニューレ(チューブ)の気道内先端部分が気管切開孔の内側に留まる場合(以下『不完全抜去』という。)とがあり(甲B57・3頁、10頁、甲B6・21頁)、不完全抜去の場合には、カニューレ(チューブ)内に閉塞が生じ得る。③の『迷入』 は、カニューレ(チューブ)の先端部分が皮下組織へ入り込むことであり、カニューレが一旦、完全又は不完全に抜去された後に再挿した場合に起こり得るものであり(証人D30頁6行目)、これによってもカニューレの閉塞が生じる。 そして、これらカニューレ事故の原因・態様はいずれも、②の『事故 抜去(逸脱)』のうちの『完全抜去』でない限り、外見しただけでは区別することができない(証人D28頁1行目)。また、『1.事故(自己)抜去はいつでも起こりうる *カニュレが抜け気切ガーゼの下にあると気づかない! 2.喀痰でのカニュレ完全閉塞も起こりうる 3. カニュレが抜けると急変する児がいる』などとされているB57・9 頁)。」- 5 - 3 争点⑴ 被控訴人病院医師の療養指導義務違反(控訴人らの主位的主張)(争点1)⑵ 退院時期の判断を誤った被控訴人病院医師の過失(控訴人らの予備的主張)(争点2)⑶ 被控訴人病院医師の注意義務違反ないし過失とCの死亡との因果関係(争 点3)⑷ 控訴人らの損害及び額(争点4) 4 争点に関する当事者の主張(要旨)⑴ 争点1〔被控訴人病院医師の療養指導義務違反(控訴人らの主位的主張)〕について (控訴人らの主張)Cのような気管切開術により頚部にカニューレが装着されて呼吸管理が行われている乳児については、カニューレ事故が発生すれば、必然的に呼吸状態が悪化し、急激に危機的事態に至ることが十分予見されるもので、しかも な気管切開術により頚部にカニューレが装着されて呼吸管理が行われている乳児については、カニューレ事故が発生すれば、必然的に呼吸状態が悪化し、急激に危機的事態に至ることが十分予見されるもので、しかもCについては24日間の入院期間中に3回ものカニューレ事故が発生してい たのであるから、被控訴人病院の担当医らは、カニューレを介して呼吸管理が行われていたCを在宅管理に切り替えるべく退院させるに当たり、退院後にCの両親及び訪問看護師に要請される最適な療養指導をすべき注意義務があり、特に患児であるCの生命の安全管理に関わるカニューレ事故発生後に時機を失することのない適切なBLS(心肺停止又は呼吸停止に対する一次 救命処置。BasicLifeSupport)がとれるような療養指導をなすべき注意義務がある(以下、このような注意義務を「本件療養指導義務」という。)にもかかわらず、十分な療養指導を行わずに、これを懈怠した。 (被控訴人の主張)否認し争う。 被控訴人病院においては、Cの退院に先立ち、Cの両親である控訴人らに- 6 -対し、退院後における必要かつ十分な療養の指導を行っており、被控訴人病院の医師らにおいて、何ら注意義務の懈怠はない。 ⑵ 争点2〔退院時期の判断を誤った被控訴人病院医師の過失(控訴人らの予備的主張)〕について(控訴人らの主張) 被控訴人病院医師は、Cのカニューレ事故が多発し、しかも、未だその原因解明及び事故対策がされていない状況にあったにもかかわらず、Cを退院させたものであって、被控訴人病院医師には退院時期の判断を誤った過失がある。 (被控訴人の主張) 否認し争う。 Cの退院日を決めたのは控訴人らであり、控訴人ら自身の都合や たものであって、被控訴人病院医師には退院時期の判断を誤った過失がある。 (被控訴人の主張) 否認し争う。 Cの退院日を決めたのは控訴人らであり、控訴人ら自身の都合や看護業者手配の都合で8月19日が退院日となったものであって、被控訴人病院医師には退院時期を誤った過失はない。 ⑶ 争点3〔被控訴人病院医師の注意義務違反ないし過失とCの死亡との因果 関係〕について(控訴人らの主張)被控訴人病院医師が、退院時期の判断を誤ってCを退院させ、本件療養指導義務を懈怠したことにより、Cの退院直後である退院日の翌朝、Cに発生したカニューレ事故(カニューレの閉塞等)に対し、控訴人らが適切な対応 をすることができず、その結果、Cが窒息して低酸素脳症となって死亡したものであり、被控訴人病院医師の過失とCの死亡との間には相当因果関係がある。 (被控訴人の主張)否認し争う。 Cの退院時期や被控訴人病院医師が適切に行った控訴人らに対する退院後- 7 -の療養指導とCの死亡との間に何ら因果関係はない。 ⑷ 争点4〔控訴人らの損害及び額〕について原判決17頁8行目冒頭から18頁19行目末尾までに記載のとおりであるから、これを引用する。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は、控訴人らの各請求は、それぞれ3740万9300円及びこれに対する平成30年8月20日から支払済みまで改正前民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これらを認容し、その余をいずれも棄却すべきものと判断するが、その理由は以下のとおりである。 2 認定事実以下のとおり原判決を補正するほか、原判決「事実及び理由」第3の1に記載のとおり を認容し、その余をいずれも棄却すべきものと判断するが、その理由は以下のとおりである。 2 認定事実以下のとおり原判決を補正するほか、原判決「事実及び理由」第3の1に記載のとおりであるから、これを引用する。 ⑴ 原判決19頁18行目から19行目にかけての「カニューレが外れていることが判明した(1回目の事故抜去)」を「何らかのカニューレ事故 (閉塞、閉塞を伴う事故抜去又は閉塞を伴う迷入)があるものと判断された(1回目のカニューレ事故)」と改める。 ⑵ 原判決19頁26行目の「7月30日」の次に「午後1時30分頃」を付加する。 ⑶ 原判決20頁1行目の「いた。」の次に「人工呼吸器回路装着中の」を 付加する。 ⑷ 原判決20頁2行目の「低下したため」を「低下し、さらにHR(心拍数)が50台、SpO2は32%まで低下したため」と改める。 ⑸ 原判決20頁3行目の「が抜けていたことから」から同行目の「これを挿入した。」までを「に閉塞を伴う事故抜去が生じたものと判断し(2回 目のカニューレ事故)、改めてカニューレを挿入し直した。CのSpO2- 8 -は、一時一桁台にまで低下していたものの、」と改める。 ⑹ 原判決20頁5行目の「接続すると」の次に「、生育して体動も可能となったCが寝返りを打つなどした際に」を付加する。 ⑺ 原判決20頁7行目の「人工鼻」の次に「(これの使用は自発呼吸が可能であることを前提としているものと解される(甲B87)。)」を付加 する。 ⑻ 原判決20頁14行目の「7時45分」を「7時35分」と改める。 ⑼ 原判決20頁15行目の「Cの喘鳴」から16行目の「確認したため、」までを「喘鳴していた」と改める。 ⑽ 原判決20頁16行目の「カニューレが」から17行目の「(3回 「7時35分」と改める。 ⑼ 原判決20頁15行目の「Cの喘鳴」から16行目の「確認したため、」までを「喘鳴していた」と改める。 ⑽ 原判決20頁16行目の「カニューレが」から17行目の「(3回目の 事故抜去)」までを「顔色が不良であり、何らかのカニューレ事故(閉塞、閉塞を伴う事故抜去又は閉塞を伴う迷入)が認められた(3回目のカニューレ事故)」と改める。 ⑾ 原判決20頁20行目の「カニューレを」の次に「改めて」を付加する。 ⑿ 原判決21頁2行目末尾の次に、次のとおり付加する。 「しかし、D医師は、控訴人らに対し、前記のとおり7月29日から8月4日にかけて3回発生したカニューレ事故について具体的な説明をしておらず、その原因・態様に応じた対処方法についても、何らの言及もしなかった。」⒀ 原判決21頁14行目末尾の次に、次のとおり付加する。 「もっとも、D医師は、このような控訴人Bに対するBLSの指導(以下「本件BLS指導」ということがある。)の際、上記のとおり『呼吸状況が悪化した際』の対処方法について、一応ひととおりの説明指導を行ったものの、本件事故より前に被控訴人病院内においてカニューレ事故が3回も発生していることを踏まえた、呼吸状況の悪化が緊急性の高い 場合における対処方法については説明しておらず、気道確保の重要性に- 9 -ついても説明していない(緊急時における対応等のために控訴人らに交付されたと被控訴人が主張する乙A1~3のパンフレット類にも、気道確保の説明は書かれていない。)。 なお、控訴人らについては、Cが被控訴人病院への転院より前に入院していた名大病院において、病院のスタッフとの間で信頼関係を形成す るのが難しく、特に、控訴人Bについては、難聴があるにもかかわらず病識が乏 人らについては、Cが被控訴人病院への転院より前に入院していた名大病院において、病院のスタッフとの間で信頼関係を形成す るのが難しく、特に、控訴人Bについては、難聴があるにもかかわらず病識が乏しく、補聴器を着けず、コミュニケーションに難があり、理解力にも問題があるなどと認識されており(甲A8の診療記録の1、4、8,12、16、17、21頁など、随所にそれらを示す箇所がある。)、そのような事情が名大病院の看護師から被控訴人病院にも申し 送られて、被控訴人病院においても実際に同じ認識が共有されており、重要な伝達事項がある場合には、控訴人Bではなく控訴人Aに伝える方針であった(乙A8、7、証人E4、11、12頁、証人D9頁、証人F10、13頁。これらの証言は、いずれも被控訴人の代理人ら(当時)からの尋問に対してされたものである。)。そこで、D医師としても、 BLS指導を控訴人Bに対してのみ行うだけで十分であるかどうかについて不安を感じていたが、改めて控訴人Aに対するBLS指導を実施しなかった(被控訴人代理人からの尋問に対するD証人の証言。D証人9頁)。」⒁ 原判決23頁21行目の「換気を行った」の次に「が、奏功しなかった」 を付加する。 3 事実認定の補足説明被控訴人病院の診療録において、診療経過一覧表記載のとおり、7月29日(以下、原判決と同様、いずれも平成30年である。)に発生した1回目のカニューレ事故につき「カニューレが外れていることが判明」と、同月3 0日に発生した2回目のカニューレ事故につき「患児のカニューレが抜けて- 10 -いた」と、8月4日に発生した3回目のカニューレ事故につき「カニューレが外れていた。」とそれぞれ記載されており、これらの文言それ自体からすれば、3回のカニューレ事故 ニューレが抜けて- 10 -いた」と、8月4日に発生した3回目のカニューレ事故につき「カニューレが外れていた。」とそれぞれ記載されており、これらの文言それ自体からすれば、3回のカニューレ事故はいずれもカニューレの完全抜去であったかにも解される。しかしながら、「カニューレが外れる」ということの意味内容は、カニューレの完全抜去以外のカニューレの不具合をも含む多義的なもの であり、それら全部が外見上明らかな『完全抜去』を指すものとは必ずしも断じ難い。また、前記(補正して引用した原判決)認定のとおり、いずれのカニューレ事故の際にも、それらの発生が看護師によって現認された直後頃には、Cには顔色の不良、顕著な喘鳴、酸素飽和度(SpO2)の著しい低下が認められたこと、その後のカニューレ再挿入、気管内吸引(特に、1回目 と2回目のカニューレ事故の後には、いずれも吸引した痰に血が混じっていたこと)及び用手換気等の措置により、Cの顔色が良好となり、酸素飽和度も回復したこと、Cは、2回目の事故の後には、自発呼吸が可能であることを前提とした人工鼻の使用がされており、喉頭軟化症等により気管内に狭窄が認められることから、Cにカニューレを装着する必要性が依然あったとはいえ、必ず しもカニューレ装着がなければ直ちに呼吸が不可能又は困難な状況に陥るわけでもないことからすると、上記3回にわたるカニューレ事故が全てカニューレの完全抜去であったとはいえず、むしろその全部又は少なくとも一部については、カニューレの閉塞、閉塞を伴う不完全抜去又は閉塞を伴う迷入のいずれかであった蓋然性が高いというべきであり(そして、それらのうちのどれである かを外見から特定することはできない。)、その限りにおいて、当審において控訴人らが提出した甲B92(広島大学大学院 れかであった蓋然性が高いというべきであり(そして、それらのうちのどれである かを外見から特定することはできない。)、その限りにおいて、当審において控訴人らが提出した甲B92(広島大学大学院医系科学研究科法医学研究室G教授の鑑定意見書)の内容は措信でき、これに反する被控訴人病院の診療録(主に看護記録)の記載及びそれらに沿うE証人及びD証人の証言は採用し難い。 4 争点1〔被控訴人病院医師の療養指導義務違反(控訴人らの主位的主- 11 -張)〕について前記認定(補正して引用した原判決の認定事実⑵ないし⑷)のとおり、Cが7月27日に被控訴人病院に転院してから8月19日に退院するまでのわずか3~4週間足らずの間に、Cには、医師や看護師の処置によっても容易には回復しないような危機的な換気不能を伴うカニューレ事故が3回も発生 していたものであり、しかもそれらの原因・態様は、全てが完全抜去というわけではなく、その原因・態様を外見上判別し難い不完全抜去等の事故を含んでいた可能性が高く、被控訴人病院内において、専門家である医師や看護師においてさえ換気状態の改善が容易ではなかったことからすると、被控訴人病院医師としては、このようなCの退院後に、カニューレの装着を前提と した自宅療養をさせるのであるから、これに当たって、退院後もCに多様な原因・態様によるカニューレ事故が発生し得る蓋然性が高いことを当然に予見できたものと認められる。そうすると、被控訴人病院医師には、カニューレ事故の発生を前提として、両親としてCの療養看護を担当する素人である控訴人らに対し、Cの入院中の短期間に3回のカニューレ事故が現実に発生 していたことや、それに対してどのような措置を行ったかを具体的に説明した上、今後も多様な原因・態様によるカ する素人である控訴人らに対し、Cの入院中の短期間に3回のカニューレ事故が現実に発生 していたことや、それに対してどのような措置を行ったかを具体的に説明した上、今後も多様な原因・態様によるカニューレ事故が起こり得ることを伝え、それを少しでも予防する方法や、カニューレ事故が起こった場合の対処方法につき、想定される緊急的な換気不能その他の多様な事態に即した指導をする医師としての注意義務(本件療養指導義務)があったものというべき である(なお、Cについては、上記のとおり特にカニューレ事故が発生し易い患児であったことが認められるのであるが、仮にこのようなカニューレ事故が実際に発生していない患児であったとしても、カニューレ事故が発生すれば、重大な結果となる可能性があり、カニューレ事故発生の可能性は常にあるのであるから、このような注意義務を免れるものではない。)。そして、 医師や看護師ではない控訴人らのように自宅での療養で患児の看護を行う者- 12 -は、カニューレ事故の態様とそれに応じた具体的な対処方法を分かり易く説明されない限り、カニューレ事故によって生じた緊急事態に対応することはほぼ不可能である。 しかるところ、前記認定(補正して引用した原判決の認定事実⑸、⑹)のとおり、Cには3回のカニューレ事故が発生しており、被控訴人病院のD医 師は、このことを十分認識していながら、Cの退院3日前の8月16日午後4時頃に開いた合同カンファレンスにおいて、控訴人らに対し、Cの寝返りによりカニューレが抜けたことがある旨を抽象的に述べた上で、昼間は人工鼻とし夜間入眠中のみ人工呼吸器の呼吸器回路を繋げる方針としたことを説明し、控訴人らに対し、カニューレ交換の練習を実施させたものの、Cに生 じた3回にわたるカニューレ事故につ 上で、昼間は人工鼻とし夜間入眠中のみ人工呼吸器の呼吸器回路を繋げる方針としたことを説明し、控訴人らに対し、カニューレ交換の練習を実施させたものの、Cに生 じた3回にわたるカニューレ事故についての具体的な説明すら行わず、また、合同カンファレンス終了後、控訴人Bに対し、本件BLS指導を行い、呼吸状況が悪化した際の対処方法については、一応ひととおりの説明指導を行ったとはいえるものの、3回のカニューレ事故の発生を踏まえた、緊急性の高い換気不能の状況が生じた場合の対処方法については、何ら説明も指導もし ておらず、気道確保の重要性についても説明していなかった上、控訴人Aに対しては、退院のスケジュールとして如何なる都合があったにせよ、BLS指導自体を一度たりとも行っていないのである。そして、控訴人らは、カニューレの交換についてさえ、医師の助言により何とかできるというだけで、全く満足なレベルに達していない状況であった(乙A8、証人E。このよう な状況に照らし、控訴人BにおいてBLSの指導教育内容を十分理解してくれた旨のD医師の陳述書(乙A7)及びD証人の証言は、到底採用できない。)。そうすると、このようなD医師が行った説明指導等は、到底本件療養指導義務を履行したといえるものではなく、以上からすると、D医師には、控訴人らに対する療養指導義務(本件療養指導義務)を怠った過失があるも のといわざるを得ない。 - 13 -なお、BLSにおける気道確保の重要性については、本件事故発生の当時には、既に確立された医学的知見であったと認められ(甲B81の1・2、82)、被控訴人病院の医療水準に照らし、その所属医師において当然に知悉しているべき事柄であったといえる。 5 争点3〔被控訴人病院医師の注意義務違反ないし過失とCの死亡と られ(甲B81の1・2、82)、被控訴人病院の医療水準に照らし、その所属医師において当然に知悉しているべき事柄であったといえる。 5 争点3〔被控訴人病院医師の注意義務違反ないし過失とCの死亡との因果 関係〕について前記認定事実(補正して引用した原判決の認定事実⑻)によれば、退院した日の翌日である8月20日の朝、Cにチアノーゼが出現し、控訴人Bにおいて外れていた呼吸器回路を即座に接続し直し、控訴人らがカニューレを装着したままの状態で心臓マッサージやバックバルブマスクでの換気等を行っ てもなお、換気の不能状況が改善されなかったことからすると、Cには何らかの原因によるカニューレ内の閉塞を伴うカニューレ事故(完全抜去以外のいずれか)が発生したものと認められる。そうすると、控訴人らが気道確保の重要性を認識して、最初に吸引カテーテルによる吸引及びカニューレの交換又は抜去をし、もって気道を確保した上で心臓マッサージ等の救命措置を実施 しさえすれば、Cに生じた低酸素脳症による不可逆的な虚血性脳障害を回避することができた高度の蓋然性があり、低酸素脳症を原因とする肺炎により死亡することもなかったということができる。そして、控訴人らが上記のような適切な救命措置をなし得なかったのは、D医師が適切なBLS指導を含む本件療養指導義務を怠ったことに起因するものであり、吸引カテーテルによる吸引及 びカニューレの交換又は抜去による気道確保ができるように控訴人らを指導していれば、上記のような事態は生じなかったものと認められるから、被控訴人病院医師の過失とCの死亡との間には相当因果関係があるといえる。 6 争点4〔控訴人らの損害及び額〕について⑴ Cの損害 以上のとおり認められる被控訴人医師の注意義務違反(不法行為)によっ の過失とCの死亡との間には相当因果関係があるといえる。 6 争点4〔控訴人らの損害及び額〕について⑴ Cの損害 以上のとおり認められる被控訴人医師の注意義務違反(不法行為)によっ- 14 -てCに生じた損害は、以下のとおりと認められる。 ア文書作成費用相当額 3240円(請求額どおり)イ入院付添費 299万9750円(請求額どおり)1日当たり6500円とし、付添日数につき、控訴人らの面会頻度に鑑みて、入院期間(923日間)の半分である461.5日間と認めるのが 相当である。そうすると、入院付添費は、299万9750円(6500円×923日間÷2)となる。 ウ入院雑費 138万4500円(請求額どおり)1日1500円として923日間の金額エ入院慰謝料 400万円(請求額540万円) 923日間に及ぶ入院期間のほか、入院中のCの重症度その他の事情を考慮すると、400万円が相当である。 オ死亡逸失利益 3063万0111円(請求額5737万0562円)基礎収入につき、控訴人らの主張どおり令和元年の賃金センサス(男女計学歴計全年齢平均賃金)を採用して、これを500万6900円とし、 中間利息の控除につき、18歳から49年間の労働能力喪失期間に対応する年5%の割合によるライプニッツ係数を8.7394とし、生活費控除率を30%として、死亡逸失利益の算定を行うのが相当である。 そうすると、Cの死亡逸失利益は、3063万0111円(500万6900円×(1-0.3)×8.7394。円未満切捨て)となる。 なお、Cの死亡時は令和3年であるが、いわゆるコロナ渦中において令和2年頃から令和4年頃までにかけ 3万0111円(500万6900円×(1-0.3)×8.7394。円未満切捨て)となる。 なお、Cの死亡時は令和3年であるが、いわゆるコロナ渦中において令和2年頃から令和4年頃までにかけて生じたといえる賃金の一時的な低減状況を考慮して、控訴人らの主張のとおり令和元年の賃金センサスを採用した。 また、中間利息の控除に際しての利率については、民法改正附則17条 2項により民法417条の2第1項の適用が除外されて、本件事故日時点- 15 -の利率が適用されることになるので、改正前民法所定の年5%によるべきことになる。この場合のライプニッツ係数は8.7394となる。 カ死亡慰謝料 2300万円(請求額2500万円)(ア~カの合計額 6201万7601円 )キ弁護士費用相当額 620万1000円(請求額906万0762円) クア~キの合計 6821万8601円(請求額1億0121万8814円)ケ相続による権利承継(請求額各5060万9407円)控訴人らは、Cの遺産を法定相続分2分の1ずつの割合で相続したものと認められるので、その金額は各3410万9300円となる(円未満切捨て)。 ⑵ 控訴人ら固有の損害前記のとおり認められる被控訴人病院の医師らの注意義務違反(不法行為)によって控訴人ら自身に生じた損害は、以下のとおりと認められる。 ア慰謝料各300万円(請求額各500万円)イ弁護士費用相当額各30円(請求額各55万円) ウアとイの合計330万円⑶ ⑴と⑵の合計各3740万9300円(請求額各5615万9407円)第4 結論よって、以上と異なる原判決中、被控訴人に関する部分は相当でない ウアとイの合計330万円⑶⑴と⑵の合計各3740万9300円(請求額各5615万9407円) 第4 結論 よって、以上と異なる原判決中、被控訴人に関する部分は相当でないので、これを変更することとし、主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所民事第2部 裁判長裁判官長谷川恭弘 裁判官上杉英司 裁判官寺本明広 別紙診療経過一覧表【省略】

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