平成30(ワ)7586 株式会社ユニバーサルエンターテインメント株主代表訴訟事件

裁判年月日・裁判所
令和3年11月25日 東京地方裁判所
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判決文本文23,937 文字)

令和3年11月25日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成30年(ワ)第7586号株式会社ユニバーサルエンターテインメント株主代表訴訟事件口頭弁論終結日令和3年9月7日判決 主文 1 被告は,原告補助参加人に対し,1億3600万香港ドル及び17万3562.23米国ドル並びにこれらに対する平成30年4月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 訴訟費用(補助参加によって生じたものを含む。)は被告の負担とする。 3 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1 請求主文1項と同旨第2 事案の概要 本件は,原告補助参加人(以下「補助参加人」という。)の株主である原告が,補助参加人の海外事業統括を職務分掌とされた取締役であり,かつ,補助参加人の海外子会社の代表者であった被告が,①被告及びその親族が株主である香港法人の第三者に対する貸金債権を回収する目的等で,上記海外子会社の代表者として,当該第三者が関与する会社に対して1億3500万香港ドルを貸し付け,② 自己の個人的な利益を図る目的で,上記海外子会社の代表者として,受取人白地の1600万香港ドルの小切手を振り出し,③補助参加人の海外孫会社の取締役に指示をして,金融機関からの借入れにより上記香港法人に生じた利息等相当額17万3562.23米国ドルを上記海外孫会社に支払わせたところ,被告の上記各行為は,補助参加人の取締役としての善管注意義務・忠実義務に違反するも のであり,上記各行為により上記海外子会社及び海外孫会社の親会社である補助 参加人に損害が生じたと主張して, 記各行為は,補助参加人の取締役としての善管注意義務・忠実義務に違反するも のであり,上記各行為により上記海外子会社及び海外孫会社の親会社である補助 参加人に損害が生じたと主張して,被告に対し,会社法423条1項に基づき,補助参加人に生じた上記損害に係る損害金及びこれらに対する訴状送達の日の翌日である平成30年4月17日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金を補助参加人に支払うことを求める事案である。 1 前提事実以下の事実は,当事者間に争いがないか,後掲各証拠(特記しない限り,枝番を含む。以下同じ。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる。 ⑴ 補助参加人は,昭和54年12月10日に設立された遊戯機器及び遊技機器に関連する原材料,部品,半製品,電子応用機器等の製造,売買,斡旋,賃貸 借及び管理等を目的とする株式会社である(甲1)。 ⑵ TigerResortAsiaLimited(以下「TRA」という。)は,補助参加人の完全子会社である香港法人である。TIGERRESORT, LEISUREANDENTERTAINMENT,Inc.(以下「TRLE」という。)は,TRAの子会社として平成20年6月に設立されたフィリピン法人であり,フィリピンにおいて,カジノリゾート施設 の運営事業(以下「カジノリゾート事業」という。)を行っている。(甲97,100)UniversalEntertainmentKoreaco., ltd(以下「UE韓国」という。)は,TRAの完全子会社として平成23年10月に設立された韓国法人であり,韓国において,カジノリゾート事業の開発計画に参加していたが,平成26年1 2月31日, d(以下「UE韓国」という。)は,TRAの完全子会社として平成23年10月に設立された韓国法人であり,韓国において,カジノリゾート事業の開発計画に参加していたが,平成26年1 2月31日,株主総会において解散決議がなされた。UE韓国の代表取締役は,平成23年12月5日から平成26年1月13日までの間,Aであり,同日から同年4月1日までの間,Bであった。(甲13,16,53)⑶ OkadaHoldingsLimited(以下「OHL」という。)は,被告の資産管理会社として,被告及びその親族が全株式を保有する香港法人であり,補助参加人の 発行済株式総数の67.9パーセント相当の株式を保有している。Okada HoldingsKoreaco., ltd(以下「OH韓国」という。)は,韓国のカジノ事業の調査,コンサルティング等を目的として,OHLの完全子会社として平成23年10月に設立された韓国法人である。OH韓国の唯一の取締役は,設立時から平成26年1月13日までの間,Aであり,OH韓国の代表取締役は,同日から同年4月1日までの間,Bであった。(甲3,14,15,74,乙A4 0)⑷ 被告は,補助参加人の創業者であり,平成29年6月29日に任期満了により補助参加人の取締役を退任するまでの間,補助参加人の代表取締役や取締役を歴任した(甲1,2,乙A40)。 被告は,平成26年3月から平成29年5月まで,TRAの唯一の取締役で あり,同年4月頃までOHLの唯一の取締役であった(争いのない事実,乙A9)。 ⑸ 原告は,後記⑽の提訴請求書が補助参加人に到達した日の6か月前から継続して補助参加人の株式1単元以上を保有する株主である(甲10,弁論の全趣旨)。 ⑹ TRAによる貸付け 9)。 ⑸ 原告は,後記⑽の提訴請求書が補助参加人に到達した日の6か月前から継続して補助参加人の株式1単元以上を保有する株主である(甲10,弁論の全趣旨)。 ⑹ TRAによる貸付けア OHLは,平成26年11月24日,Cに対して,貸付期間を3年として,無利息で1億3500万香港ドルを貸し付けた(以下「OHL貸付け」という。)(甲18,19)。 イ補助参加人は,平成27年2月5日,ドイツ銀行東京支店から,1億70 00万米国ドルを借り入れ,同日,TRAに対し,1億6816万4000米国ドルを送金した(争いのない事実,甲20,21)。 ウ TRAは,平成27年3月3日,Cが関与する英国領ヴァージン諸島法人であるGoldluckTechLimited(以下「Goldluck」という。)に対して,貸付期間を3年として,無利息で,1億3500万香港ドルを貸し付け(以下「T RA貸付け」という。),Cは,TRAとの間で,当該貸付けについて保証す る旨を約した(甲23から25まで)。 エ Goldluck は,平成27年3月4日から同月13日までの間に,OHLに対して,OHL貸付けに対する弁済の一部として,合計1億3000万香港ドルを7回に分けて送金した(争いのない事実,甲26)。 ⑺ TRAの小切手振出し TRAは,平成27年5月11日,被告がTRAの代表者として受取人白地の1600万香港ドルの小切手(以下「本件小切手」という。甲31)に署名することにより,これを振り出した。本件小切手は,同月14日,交換決済が行われ,SKYRISETRADINGLIMITED を受取人として,1600万香港ドルが支払われた。(争いのない事実,甲31,34,35) ⑻ UE韓国によるOHLのための 交換決済が行われ,SKYRISETRADINGLIMITED を受取人として,1600万香港ドルが支払われた。(争いのない事実,甲31,34,35) ⑻ UE韓国によるOHLのための担保権設定及び金利支払ア UE韓国は,平成25年頃から,韓国におけるカジノリゾート事業のプロジェクトのための土地の購入を検討していたが,平成26年1月頃,OH韓国において上記土地を購入することになった(甲36,44,弁論の全趣旨)。 イ OHLは,平成26年2月24日,韓国外換銀行シンガポール支店(以下, 単に「シンガポール支店」という。)から8000万米国ドルを借り入れた(以下「OHL借入れ」という。)(甲39)。 UE韓国は,平成26年2月28日頃,OHL借入れのために,韓国外換銀行仁川国際空港支店(以下,単に「仁川国際空港支店」という。)の8000万米国ドルの外貨定期預金に質権を設定した(以下「本件担保権設定」と いう。)(甲39,129)。 ウ OHLは,平成26年3月31日頃,シンガポール支店に対し,OHL借入れを返済し,仁川国際空港支店は,同日,本件担保権設定を解除した(甲127,128,弁論の全趣旨)。 UE韓国は,平成26年3月31日,OHLに対し,経営コンサルタント 料及び依頼者との会議費用の名目で17万3562.23米国ドルを支払っ た(以下「本件手数料支払」という。)(甲40,41)。 ⑼ 補助参加人の子会社管理規程補助参加人は,代表取締役の決裁を経て,子会社管理規程(以下「本件規程」という。)を定めている。本件規程3条1項には,「子会社業務の統轄は経営企画室が行い,各業務は,代表取締役または所定の権限者の決裁を経て当該関係 業務を所管する部署が行う 規程(以下「本件規程」という。)を定めている。本件規程3条1項には,「子会社業務の統轄は経営企画室が行い,各業務は,代表取締役または所定の権限者の決裁を経て当該関係 業務を所管する部署が行う。」,同条2項には,「各所管部署は,子会社業務を遂行するにあたり,経営企画室と密接な連携を保持しなければならない。」と規定されている。また,本件規程5条には,「経営企画室長は,別表に定める事項について,子会社に対し関係書類を提出せしめ,事前協議または報告を求めるとともに,必要に応じて関係各部と協議し,代表取締役に報告を行うものとする。」 と規定され,事前協議が必要な事項を定めた本件規程の別表には,⑼出資及び貸付融資及び保証として「融資,保証,担保提供,手形割引」等が,⑾その他経営上の重要事項として「経費等の支払」等がそれぞれ規定されている。(甲30)⑽ 原告による提訴請求 原告は,平成29年9月28日,補助参加人の監査役らに対し,①被告がOHLの貸金債権を回収する目的でTRAの代表者としてTRA貸付けを行ったこと(以下「本件行為1」という。),②自己の利益を図る目的でTRAの代表者として本件小切手を振り出したこと(以下「本件行為2」という。)並びに③UE韓国に本件担保権設定及び本件手数料支払を行わせたこと(以下「本件 行為3」という。)がいずれも被告の善管注意義務及び忠実義務に違反するとして,被告に対して損害賠償を求める訴えを提起するよう請求した(甲11)。 これに対し,補助参加人の監査役らは,平成29年11月22日頃,原告に対し,本件行為1から3まで(以下「本件各行為」という。)については,香港の裁判所において,被告に対する損害賠償請求を行っているとして,日本にお いては,被告に対する損害賠償請 2日頃,原告に対し,本件行為1から3まで(以下「本件各行為」という。)については,香港の裁判所において,被告に対する損害賠償請求を行っているとして,日本にお いては,被告に対する損害賠償請求を行わない旨回答した(甲12)。 原告は,平成30年3月10日,東京地方裁判所に対し,本件訴訟を提起した(顕著な事実)。 2 争点及びこれに関する当事者の主張本件の争点は,⑴本件各行為に関し,被告に補助参加人の取締役としての善管注意義務又は忠実義務の違反があったか否か,⑵本件各行為により補助参加人に 損害が発生したか否か及びその金額である。 ⑴ 本件各行為に関し,被告に補助参加人の取締役としての善管注意義務又は忠実義務の違反があったか否か(争点1)(原告の主張)ア善管注意義務又は忠実義務の内容 被告は,補助参加人の取締役会において,海外事業統括を職務分掌とする業務執行取締役として選定され,また,上記業務の執行のために,補助参加人の海外事業の統括会社であるTRAの代表権を与えられ,各国の子会社の管理及び監督を委ねられていた。 したがって,被告は,補助参加人の海外事業統括を職務分掌とする取 締役として,TRAの代表者としての行為及び補助参加人の子会社又は孫会社の取締役の行う業務執行に対する直接の指揮命令等も含めた上記業務の執行を通じて,補助参加人の利益を図り,また,補助参加人に損害を与えないようにする善管注意義務又は忠実義務を負っていた。また,経営上の判断については,当該判断に至る過程及びその内容が合理的でな ければならない。 また,補助参加人の子会社は,子会社からの融資,大口の支払,担保提供等について,補助参加人の経営企画室長に対して資料を提出して,事前協議を行う 容が合理的でな ければならない。 また,補助参加人の子会社は,子会社からの融資,大口の支払,担保提供等について,補助参加人の経営企画室長に対して資料を提出して,事前協議を行うことが求められていた。被告は,前記のとおり,TRAの代表者としての行為及び補助参加人の子会社又は孫会社の取締役の行う業 務執行に対する直接の指揮命令等も含めた海外事業統括を職務分掌とし ていたのであるから,TRAの代表者として自ら又は補助参加人の子会社又は孫会社の取締役に指示をして,上記事前協議を行う善管注意義務又は忠実義務を負っていた。 イ本件行為1について被告は,平成27年2月,CにOHL貸付けの返済を行わせようと考え, TRAの代表者として,上記返済に充てさせる目的で,補助参加人がドイツ銀行東京支店からフィリピンのカジノ施設の建設資金に充てることを目的として借り入れた1億7000万米国ドルの一部をTRAに対して送金させ,同年3月3日,これを原資として,Cが関係するGoldluck に対し,1億3500万香港ドルを貸し付けた(本件行為1)。 本件行為1は,①被告及びその親族が全株式を保有するOHLのCに対する貸金(OHL貸付け)の返済を受ける目的,すなわち,OHLの利益を図る目的で行われ,②補助参加人がフィリピンのカジノ施設の建設資金とする目的で高金利で借り入れた資金の一部を取締役会の承認を得ることなく目的外に流用するものであるとともに,③Goldluck 及びCに十 分な返済能力がなかったにもかかわらず,Cを保証人とするほかには担保もなく行われ,その意思決定の過程及び内容が著しく不合理であった。 したがって,被告は,本件行為1に関し,前記ア記載の義務に違反した。 また,被告は,本件行 らず,Cを保証人とするほかには担保もなく行われ,その意思決定の過程及び内容が著しく不合理であった。 したがって,被告は,本件行為1に関し,前記ア記載の義務に違反した。 また,被告は,本件行為1について,TRAの代表者として,補助参加 人の本件規程に基づく事前協議申請を行わなかった。 したがって,被告は,本件行為1に関し,前記ア記載の義務に違反した。 ウ本件行為2について被告は,平成27年4月頃,補助参加人において海外子会社の会計業務 等を担当していたDに対し,被告の報酬を20億円にするよう求めたも のの,Dに断られたことから,同年5月11日,TRAの経理担当者に対し,受取人白地の1600万香港ドルのTRAの小切手(本件小切手)を作成させ,これに署名して振り出した(本件行為2)。 その後,本件小切手は,被告の指示により,Eなる人物に手渡され,同月14日,交換決済され,SKYRISETRADINGLIMITED を受取人として,1 600万香港ドルが支払われた。 本件行為2は,本件小切手の受取人がTRAの取引先ではないこと,本件小切手の振出しに係る稟議書の記載内容,TRAの会計帳簿上,小切手による被告に対する従業員給与の支払として記録されていたこと等からすると,被告の個人的な利益を図る目的で行われた。 仮に,被告が,Dに頼まれ,使途を認識しないままに本件行為2を行ったとすれば,本件行為2は,意思決定の過程及び内容が著しく不合理である。 したがって,被告は,本件行為2に関し,前記ア記載の義務に違反した。 また,被告は,本件行為2に関し,TRAの代表者として,本件規程に基づく事前協議申請を行わなかった。 したがって,被告は,本件行為2に関し,前記ア記載の義務に違反 の義務に違反した。 また,被告は,本件行為2に関し,TRAの代表者として,本件規程に基づく事前協議申請を行わなかった。 したがって,被告は,本件行為2に関し,前記ア記載の義務に違反した。 エ本件行為3について OHLは,平成26年2月24日,OH韓国が韓国におけるカジノリゾート事業のプロジェクトを進めるために必要な土地購入費用として,シンガポール支店から8000万米国ドルを借り入れた(OHL借入れ)。 その後,被告は,OHL借入れの返済を行うとともに,Aに指示をして,OHLがOHL借入れに関して負担すべき利息等17万3562.23 米国ドルを,経営コンサルタント料及び会議費用の名目で,UE韓国から OHLに対して支払わせた(本件行為3)。 本件行為3は,OHLの利益を図る一方で,UE韓国が負担する必要のない17万3562.23米国ドルの支出を強いたものである。 したがって,被告は,本件行為3に関し,前記ア記載の義務に違反した。 また,被告は,本件行為3について,UE韓国の代表者であったBに対し,本件規程に基づく事前協議申請を行うよう指示しなかった。 したがって,被告は,本件行為3に関し,前記ア記載の義務に違反した。 (被告の主張) ア被告の職責被告は,補助参加人のカジノリゾート事業に関する決定は行っていたが,補助参加人の管理部門が行う契約や支払についての決定は行っておらず,当該決定は管理本部長であったDの担当であった。 イ本件行為1について 被告は,OHL貸付け及び本件行為1に係る稟議書や契約書への署名は行ったものの,これは,Cから提案されたカジノリゾート事業に関連するジャンケット事業(カジノにおいて,富裕層の接待等を行う事業)へ 被告は,OHL貸付け及び本件行為1に係る稟議書や契約書への署名は行ったものの,これは,Cから提案されたカジノリゾート事業に関連するジャンケット事業(カジノにおいて,富裕層の接待等を行う事業)への投資についてのDの調査検討の結果を信頼して行ったものであり,被告において,OHL貸付け及び本件行為1を指示したことも,それらの内容を認 識していたこともない。 補助参加人の代表取締役であるF及び補助参加人のその他の取締役は,遅くとも平成28年4月13日時点において本件行為1を追認した。 したがって,被告には,本件行為1に関して善管注意義務違反も忠実義務違反もない。 ウ本件行為2について 被告が本件小切手に署名をした事実は認めるが,被告は,TRAの小口の支払等のため,日常的に白地の小切手に署名をしていただけであり,本件行為2には全く関与していない。 本件小切手は,TRLEの取締役であったGとDが相談して,Dの決裁により振り出されたものであり,本件小切手に関する稟議書(甲32)は,本 件小切手発行の約2年後である平成29年3月頃,Fらが,被告の指示により使途不明の小切手が振り出された事実を仮装するために,被告に署名させたものである。 したがって,被告には,本件行為2に関して善管注意義務違反も忠実義務違反もない。 エ本件行為3についてOHL借入れ及び本件行為3は,UE韓国及びOHLの取締役であったB及びAが無断で行ったことであり,被告は関与していない。 補助参加人の代表取締役であるF及び補助参加人のその他の取締役は,遅くとも平成26年4月頃には,本件担保権設定を承認したから,仮にそ の手続に瑕疵があったとしても,治癒された。 したがって,被告には,本件行為3に関し 及び補助参加人のその他の取締役は,遅くとも平成26年4月頃には,本件担保権設定を承認したから,仮にそ の手続に瑕疵があったとしても,治癒された。 したがって,被告には,本件行為3に関して善管注意義務違反も忠実義務違反もない。 ⑵ 本件各行為により補助参加人に損害が発生したか否か及びその金額(争点2)(原告の主張) ア TRAは,平成28年,TRA貸付けについて,Goldluck から1500万香港ドルの返済を受けた。しかし,TRAは,平成29年4月13日,Goldluck から,TRA貸付けの返済として,同年6月15日を振出日とする1500万香港ドルの先日付小切手の振出しを受け,同年12月12日に当該小切手を銀行において呈示したものの,支払を受けることはできなかった。 その後もGoldluck は,TRAに対し,TRA貸付けの残額1億2000万 香港ドルは返済しておらず,平成28年4月30日に解散したものとみなされているから,Goldluck による上記残額の返済は見込まれない。 したがって,本件行為1によりTRAに1億2000万香港ドルの損害が生じた。 イ本件行為2は,被告の個人的利益を図って本件小切手を振り出すものであ ったから,本件行為2によりTRAに1600万香港ドルの損害が生じた。 ウ本件行為3は,UE韓国に何らの利益なく本件手数料支払を強いるものであったから,本件行為3によりUE韓国に17万3562.23米国ドルの損害が生じた。 エ TRAは,補助参加人の完全子会社,UE韓国は,TRAの完全子会社で あり,自ら事業を行っておらず,重要事項について補助参加人への事前協議が要求されていた上,平成26年3月から平成29年5月までTRAの取締役は, 完全子会社,UE韓国は,TRAの完全子会社で あり,自ら事業を行っておらず,重要事項について補助参加人への事前協議が要求されていた上,平成26年3月から平成29年5月までTRAの取締役は,補助参加人の海外事業統括を職務分掌とする取締役であり,かつ,補助参加人の創業者兼実質的大株主である被告であったのであるから,TRA及びUE韓国は,重要な事項について親会社である補助参加人の承諾を得て 行動しており,実質的には補助参加人の一部門と評価することができた。また,TRAは,平成27年から令和元年までの間,大幅な資産超過であったから,TRA又はその完全子会社であるUE韓国に損害が生じたことにより,親会社である補助参加人には,TRA株式の評価損として,TRA又はUE韓国の損害と同額の損害が生じた。 したがって,TRAの完全親会社であり,かつ,UE韓国の完全親会社であるTRAの完全親会社である補助参加人は,本件各行為により,上記各損害の合計である1億3600万香港ドル及び17万3562.23米国ドルの損害を被った。 (被告の主張) ア TRAは,補助参加人とは別法人として独立して経営判断を行う子会社で あり,契約金額10億円以上の取引を行う際にも,親会社である補助参加人の承諾を得る必要はなく,事前協議で足りるとされている。また,TRAは,香港において,UE韓国は,韓国において,それぞれ被告に対して損害賠償請求訴訟を提起しているから,TRAやUE韓国を親会社の一部門と同視することはできない。 したがって,TRA又はUE韓国に損害が生じたとしても,補助参加人にそれと同額の損害が生じたとはいえない。 イまた,TRA貸付けに係る貸付金及び本件小切手に係る1600万香港ドルは,TRAの債 がって,TRA又はUE韓国に損害が生じたとしても,補助参加人にそれと同額の損害が生じたとはいえない。 イまた,TRA貸付けに係る貸付金及び本件小切手に係る1600万香港ドルは,TRAの債権として計上されており,TRAに損害は生じていない。 仮に上記貸付金等がTRAの損害であるとしても,TRAは債務超過である ため,TRA株式の価値に影響しない。 したがって,TRAに損害が生じたとしても,補助参加人に,TRA株式の評価損としてそれと同額の損害が生じることはない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実 前記前提事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ⑴ 被告は,昭和44年に,補助参加人の前身であるユニバーサルリース株式会社を設立して業務用ゲーム機事業を開始し,昭和54年,ゲーム用機器の試験研究,開発等を目的とする補助参加人を設立し,平成10年にはその株式を店 頭公開した。被告は,補助参加人の創業者であるとともに,長年,補助参加人の親会社であるOHLの唯一の取締役であり,補助参加人の代表取締役や取締役を務め,補助参加人及びその関連会社の事業の方向性を決定するなど,多大な影響力を有していた。(前提事実⑷,甲1,2,乙A40)⑵ 補助参加人は,平成19年頃以降,アジア地域におけるカジノリゾート事業 の検討を開始し,平成20年,フィリピンにおけるカジノリゾート事業に着手 し,平成22年,フィリピンにおけるカジノリゾート施設の建設を開始した。 また,補助参加人は,平成24年以降,韓国仁川市における複合カジノリゾート開発計画にも参加するようになった(甲47,134から136まで)。 ⑶ 補助参加人の取締役会は,平成23年6月21日,被告に海外事業統括 加人は,平成24年以降,韓国仁川市における複合カジノリゾート開発計画にも参加するようになった(甲47,134から136まで)。 ⑶ 補助参加人の取締役会は,平成23年6月21日,被告に海外事業統括の業務を委嘱することを決議し,平成25年6月27日,被告の提案に基づき,補 助参加人に海外事業本部を設置し,その執行役員本部長をBとして,海外子会社等による事業の推進を管轄する機能を持たせること,海外子会社等において業務執行を担当する執行役員の選任を被告に一任することを決議した。また,補助参加人の取締役会は,同年7月30日,海外事業の執行の責任者をBとし,被告がその執行を監視する旨を決議し,平成26年5月1日,平成25年6月 27日付け及び同年7月30日付けの取締役会の上記決議に関する各議事録の記載について,海外事業担当取締役である被告を指示連絡窓口とすべきところを誤ったとして修正するとともに,TRAを補助参加人の海外事業の統括会社とし,被告をその代表者とすることを再確認し,TRAに各国の子会社等を統括管理させ,被告にその役員の任命等を一任する旨を決議した。また,補助参 加人の取締役会は,平成26年6月26日,被告に海外事業統括の業務を委嘱することを決議した。 被告は,補助参加人における海外事業統括の業務を委嘱された取締役であるとともに,TRAの代表者(唯一の取締役)として,TRAにおける一定額以上の支出等について決裁権限を有し,実際に決裁を行っていた。また,被告は, UE韓国の代表者であったBに対し,プロジェクトに係る契約内容や予算等を含めて,随時,業務に関する指示を行っていた。さらに,被告は,補助参加人の取締役会において,海外事業に関する報告を行っていた。 (甲49から52まで,56,103,137から13 契約内容や予算等を含めて,随時,業務に関する指示を行っていた。さらに,被告は,補助参加人の取締役会において,海外事業に関する報告を行っていた。 (甲49から52まで,56,103,137から139まで,142,144) ⑷ Dは,平成26年8月に従業員として補助参加人に入社し,平成27年3月 に補助参加人の管理本部長代行に,同年6月に取締役管理本部長に就任した。 Dは,被告からの指示を受けて,TRAの経理担当者であったHに対して実務的な指示を出すなどしてTRAを含む海外子会社の事務に関与するとともに,被告の資産管理会社であるOHLの会計業務等も行っていた。(甲96,107)⑸ 本件行為1に関する事実 ア被告は,平成26年11月頃,Dに対し,OHLからジャンケット事業に投資するため,Cに対する20億円の投資又は貸付けを行うための契約交渉を行うよう指示した。被告は,同月24日,Dが用意したOHLとCとの間のローン契約書及び送金依頼書に,OHLの代表者として署名した。OHLは,これにより,同日,Cに対して1億3500万香港ドル(日本円で約2 0億円)を貸し付け(OHL貸付け),Cの関与するGoldluck に同額を送金した。(甲18,19,65,66,96,103,110,120から123まで)イ補助参加人は,平成27年2月5日,ドイツ銀行東京支店から,フィリピンにおけるカジノリゾート事業のプロジェクトの資金として,1億7000 万米国ドルを,期間3か月,金利を3か月物のドル建てロンドン銀行間取引金利+2.50%(期間延長の場合には3.50%)として借り入れた。補助参加人は,同日,TRAに対し,同借入金額から手数料等を差し引いた残額である1億6816万4000米国ドルを送金した。(甲 取引金利+2.50%(期間延長の場合には3.50%)として借り入れた。補助参加人は,同日,TRAに対し,同借入金額から手数料等を差し引いた残額である1億6816万4000米国ドルを送金した。(甲16,20,21,103,141,143,145,146) ウ被告は,平成27年2月頃,OHL貸付けを回収して美術品の代金を支払うことを考え,Dに対し,CからOHL貸付けの返済を受けるよう指示し,その方法について,TRAからCの関与するGoldluck に20億円を貸し付け,Cに当該資金を用いてOHL貸付けを返済させることを決めた。 被告は,平成27年3月3日,TRAがGoldluck に1億3500万香港 ドルを貸し付ける旨の稟議書及びTRAとGoldluck との間のローン契約書 に,それぞれ署名した。TRAは,同日,Goldluck に対して,無利息で,同金額に相当する1743万2851.24米国ドルを送金して貸し付けた(TRA貸付け)。TRA貸付けは,貸付期間が3年とされていたが,TRAがGoldluck に対して支払を請求した場合には,直ちに返済期限が到来することとされていた。 Goldluck は,平成27年3月4日から同月13日までの間に,OHLに対し,OHL貸付けに対する弁済の一部として,1億3000万香港ドルを7回に分けて送金した。 (前提事実⑹ウ,エ,甲22から26まで,69,96,103,108,111,146) エ被告は,平成27年3月11日,Dに対し,美術品の代金の支払のために,OHLから被告の個人口座に8億8700万円を送金するよう指示し,同月12日,Dが用意した稟議書及び送金依頼書に,それぞれ署名した。Dは,Hに指示をして,OHLから被告の個人 の代金の支払のために,OHLから被告の個人口座に8億8700万円を送金するよう指示し,同月12日,Dが用意した稟議書及び送金依頼書に,それぞれ署名した。Dは,Hに指示をして,OHLから被告の個人口座に8億8700万円を送金した。 (甲27から29まで,96,103,109,124) オ被告は,TRA貸付け当時,TRAの唯一の取締役であったが,TRA貸付けに当たり,本件規程に基づく事前協議申請の手続を行わなかった(甲103)。 ⑹ 本件行為2に関する事実ア被告は,平成27年4月頃,Dに対し,補助参加人における自身の報酬を 20億円に増額するよう求めたが,Dは,補助参加人の株主総会で承認されていた取締役の報酬総額(年額)10億円を超えており,株主総会決議なしに行うことができないことであったため,被告の上記要求を断った。その後,被告は,同年5月11日,香港のTRAの事務所において,Hに対し,1600万香港ドルの小切手を作成するよう命じた。Hは,受取人欄に被告の氏 名を記載した小切手を作成し,被告はこれに振出人の代表者として署名した が,その直後,被告は,受取人が決まっていないなどと述べ,Hに対し,受取人欄を空欄にした小切手を改めて作成するよう指示した。Hは当初作成した上記小切手に無効の押印をし,改めて,受取人欄を空欄にした本件小切手を作成し,被告はこれに振出人の代表者として署名した。(前提事実⑺,甲31,73,96,103,113) イ本件小切手の支払口座は,TRAのドイツ銀行香港支店の香港ドル口座であったが,同口座には1600万香港ドルの残高がなかったため,被告は,TRAの同支店の米国ドル口座から香港ドル口座に送金するための稟議書及び送金指示書に署名した。被告は,上記稟議書の 香港ドル口座であったが,同口座には1600万香港ドルの残高がなかったため,被告は,TRAの同支店の米国ドル口座から香港ドル口座に送金するための稟議書及び送金指示書に署名した。被告は,上記稟議書の余白に,「美術品の手数料として支払います」と記載した。(甲32,33,96,103,113)。 ウ本件小切手は,最終的に平成27年5月14日,上記香港ドル口座において交換決済が行われ,SKYRISETRADINGLIMITED を受取人として,1600万香港ドルが支払われた。SKYRISETRADINGLIMITED という会社は,TRAの取引先にはなく,その詳細は不明である。Hは,会計帳簿に,費目を従業員給与として,被告に対して本件小切手によって1600万香港ドルが支払 われた旨記載した。(前提事実⑺,甲34,35,96,103,113)エ被告は,本件小切手の振出し(前記ア)の当時,TRAの唯一の取締役であったが,本件小切手を振り出すに当たり,本件規程に基づく事前協議申請の手続を行わなかった(弁論の全趣旨)。 ⑺ 本件行為3に関する事実 ア UE韓国は,韓国仁川市におけるカジノリゾート事業のプロジェクト「仁川ワールドシティプロジェクト」を進めるため,同プロジェクトに使用する土地(以下「本件土地」という。)の購入について,韓国LH公社との間で交渉を行っていた。被告は,本件土地の購入主体をUE韓国からOH韓国に変更することとし,これを受けてUE韓国は,平成25年12月頃,韓国LH 公社に対し,本件土地の購入主体をOH韓国に変更したい旨申し入れ,同月 27日頃,了承を得た。 被告は,補助参加人の執行役員本部長であったB並びにUE韓国及びOH韓国の代表者であったAに対し,OH韓国が本件土 購入主体をOH韓国に変更したい旨申し入れ,同月 27日頃,了承を得た。 被告は,補助参加人の執行役員本部長であったB並びにUE韓国及びOH韓国の代表者であったAに対し,OH韓国が本件土地を購入するための資金を捻出するよう指示し,B及びAは,次の及び記載の計画を策定し,これを被告に対して報告した。 OH韓国の親会社であるOHLが本件土地の購入資金としてシンガポール支店から8000万米国ドルを借り入れる(OHL借入れ)。 UE韓国は,OHL借入れのために,仁川国際空港支店にある預金のうち8000万米国ドルを担保として提供する(本件担保権設定)。具体的には,同支店がシンガポール支店に対するStand-byL/C(債務の保証と同 様の目的のために発行される信用状)を発行し,OHLがシンガポール支店に対して債務不履行に陥った場合には,同支店がこの信用状に基づき,仁川国際空港支店に支払を求めることができ,同支店が,支払をした上で,同支店のUE韓国の預金に設定された担保権を実行し,資金の回収を行うこととした。(甲36,76から78まで,116,144) イ補助参加人の取締役であったIは,平成26年2月頃,被告に対し,UE韓国がOHLのために本件担保権設定を行うことは,日本の会社法に抵触するおそれがある旨を説明した(甲37,38,116)。 ウ OHLは,平成26年2月24日,シンガポール支店から8000万米国ドルを借り入れ(OHL借入れ),UE韓国は,同月28日頃,仁川国際空港 支店の8000万米国ドルの外貨定期預金にOHL借入れのための質権を設定した(本件担保権設定)。同支店は,シンガポール支店に対して,Stand-byL/C を発行した。(前提事実⑻)エ 支店の8000万米国ドルの外貨定期預金にOHL借入れのための質権を設定した(本件担保権設定)。同支店は,シンガポール支店に対して,Stand-byL/C を発行した。(前提事実⑻)エしかし,被告は,平成26年3月頃,Aに対し,OHL借入れ及び本件担保権設定を解約し,OHL借入れによってOHLに発生した利息及び手数料 を,UE韓国において支払うよう指示した。OHLは,同月18日,UE韓 国に対し,合計17万3562.23米国ドル(経営コンサルタント料名下で15万7820米国ドル,依頼者との会議費用名下で1万5742.23米国ドル)の支払を求める請求書を発行し,UE韓国は,同月31日,OHLに対し,当該請求書に基づいて17万3562.23米国ドルを支払った(本件手数料支払)。OHLは,同日,シンガポール支店に対し,元金80 00万米国ドル及び利息を支払い,仁川国際空港支店は,同日,本件担保権設定の解除手続を行った。(前提事実⑻ウ,甲40,41,79,80,116,127,128)オ Bは,平成26年1月以降,UE韓国の代表者であったが,本件担権設定及び本件手数料支払を行うに当たり,本件規程に基づく事前協議申請の手続 を行わなかった(前提事実⑵,弁論の全趣旨)。 ⑻ 補助参加人は,平成28年,カジノリゾート事業への投資資金を調達するため,TRLEを借入人として,フィリピンの銀行であるBDOUnibankInc.(以下「BDO」という。)から376億ペソを借り入れることとし,当該借入れについて,TRAがTRLEの保証人になるとともに,TRAが保有するTRL E株式全てをBDOに対して担保として提供することとした。これに際し,補助参加人は,BDOから,TRAの株主として,①TRAがT TRAがTRLEの保証人になるとともに,TRAが保有するTRL E株式全てをBDOに対して担保として提供することとした。これに際し,補助参加人は,BDOから,TRAの株主として,①TRAがTRLEの保証人となることやその条件等を承認する株主総会決議及び②TRAにおいて株主総会決議又は取締役会決議を欠いて行われた取引等を追認する株主総会決議を行うことを求められた。 Dは,平成28年4月12日,補助参加人の代表者であるFに対し,上記①の内容の書面による株主決議書(英語のもの及び日本語のもの各1通)への署名及び押印を求め,Fは,同日,これらに署名押印した。Dは,同月13日,Fに対し,上記②の内容の書面による株主決議書(英語のもの1通。以下「本件株主決議書」という。)への署名押印も求め,Fは,TRAの100%株主で ある補助参加人の代表者として,同日,これに署名押印した。 (甲96,103, 117,118,125,乙C26)⑼ア Goldluck は,平成28年4月13日,TRAに対し,TRA貸付けのうち1500万香港ドルを弁済したものの,その余の弁済は行わなかった。DがCに対して繰り返しTRA貸付けの返済を求めたところ,Goldluck は,平成29年4月頃,TRAに対し,1500万香港ドルの先日付小切手を交付し たが,TRAは,同年12月頃,当該小切手について,「署名記録なし」との理由で支払を受けることができなかった。また,TRAは,同年9月頃,Goldluck 及びCに対し,TRA貸付けの残債務の弁済を求めたものの,Goldluck からは何らの応答もなかった。(甲103,丙4から6まで,弁論の全趣旨) イ TRAは,平成29年12月,被告及びGoldluck らに対し,香港特別行政 を求めたものの,Goldluck からは何らの応答もなかった。(甲103,丙4から6まで,弁論の全趣旨) イ TRAは,平成29年12月,被告及びGoldluck らに対し,香港特別行政区高等裁判所において,TRA貸付けの残債務額である1億2000万香港ドルを含む損害の賠償を求めるとともに,被告に対し,本件小切手に係る1600万香港ドルの損害賠償を求める訴訟を提起した。当該訴訟に係る訴訟資料は,Goldluck の登録代理人が受領したことにより,Goldluck に対して有 効に送達されたものの,Goldluck は,当該訴訟において何らの応答も行っておらず,同訴訟は未だ判決に至っていない。(乙A1,丙7,8,弁論の全趣旨)ウ UE韓国は,令和元年7月頃,被告に対し,韓国の裁判所において,本件行為3を責任原因として,17万3562.23米国ドルの損害の賠償等を 求める訴訟を提起した。同裁判所は,令和2年12月22日,UE韓国の請求について,遅延損害金の部分を除き認容する旨の判決を言い渡したが,被告がこれに対して控訴したため,未だ確定判決には至っていない。 (乙A36,弁論の全趣旨) 2 争点1(本件各行為に関し,被告に補助参加人の取締役としての善管注意義務 又は忠実義務の違反があったか否か)について ⑴ 認定事実⑵,⑶によれば,補助参加人は,平成20年以降,海外でのカジノリゾート事業に着手し,取締役会において,被告に海外事業統括業務を委嘱し,海外事業について監視及び指示を行う権限を委ねるとともに,当該業務を行わせるために,被告を海外子会社等の統括会社であるTRAの代表者としていたものである。そうすると,被告は,遅くとも平成23年以降,補助参加人の海 外事業統括の業務担当取締役として ,当該業務を行わせるために,被告を海外子会社等の統括会社であるTRAの代表者としていたものである。そうすると,被告は,遅くとも平成23年以降,補助参加人の海 外事業統括の業務担当取締役として,海外子会社等の業務を執行又は監視するに当たり,その地位を利用して補助参加人の利益の犠牲の下に自己の利益を図ってはならない義務を補助参加人に対する善管注意義務又は忠実義務として負っていたものと解すべきである。 なお,前提事実⑼によれば,被告の補助参加人に対する善管注意義務又は忠 実義務には,本件規程に基づき,補助参加人の海外子会社の業務を統括する業務担当取締役として,本件規程5条が補助参加人との間の事前協議を要求する海外子会社の業務について,補助参加人の経営企画室長との間で事前協議を行わせる義務も含まれるものというべきである。 そこで,原告が被告の任務懈怠であると主張する本件各行為について,被告 に,補助参加人の取締役としての善管注意義務又は忠実義務の違反があったか否かを検討する。 ⑵アまず,本件行為1について検討するに,認定事実⑸によれば,被告は,CからOHLにOHL貸付けを返済させる目的で,TRAの代表者として,補助参加人がフィリピンにおけるカジノリゾート事業の資金として高利で借り 入れてTRAに送金した資金の一部を原資として,Cの関与するGoldluck にTRA貸付けを行ったことが認められるところ,そのTRA貸付けに際し,被告がC及びGoldluck の事業内容や返済能力について検討したことを認めるに足りる証拠はなく,実際,認定事実⑼によれば,TRA貸付けのほとんどが返済されていないことが認められる。そうすると,被告は,前記⑴のと おり,補助参加人の海外事業統括の業務担当取締役として,海外子会社 拠はなく,実際,認定事実⑼によれば,TRA貸付けのほとんどが返済されていないことが認められる。そうすると,被告は,前記⑴のと おり,補助参加人の海外事業統括の業務担当取締役として,海外子会社等の 業務を執行又は監視するに当たり,その地位を利用して補助参加人の利益の犠牲の下に自己の利益を図ってはならない善管注意義務又は忠実義務を負っていたにもかかわらず,自らがTRAの代表者であることを利用して,被告の資産管理会社であるOHLの利益を図ることを目的に,貸付先の返済能力を検討することなく,補助参加人からTRAに対して別の使途で拠出された 資金の一部を用いて,TRA貸付けを行ったものといわなければならない。 したがって,本件行為1は,被告の補助参加人の取締役としての善管注意義務又は忠実義務に違反するものと認められる。 イこの点,被告は,本件行為1について,OHL貸付け及びTRA貸付けのいずれについても,指示も認識もしていないなどと主張し,被告の陳述書等 にはこれに沿う部分がある。しかし,被告の上記主張及び陳述書等の内容は,自らOHL貸付け及び本件行為1に係る稟議書や契約書に署名しておきながら,その内容自体は把握していないという不自然なものであるのみならず,被告とDの間のメールの内容(甲66)にも反するものであるから,被告の陳述書等を信用することはできず,被告の上記主張は採用することができな い。 また,被告は,F及び補助参加人のその他の取締役が遅くとも平成28年4月13日時点において本件行為1を追認したから,被告には本件行為1について,善管注意義務又は忠実義務の違反はないと主張する。 しかし,仮に補助参加人がTRAの100%株主として作成した本件株主 議決書によりTRA貸付けを たから,被告には本件行為1について,善管注意義務又は忠実義務の違反はないと主張する。 しかし,仮に補助参加人がTRAの100%株主として作成した本件株主 議決書によりTRA貸付けを追認したといえるとしても,これにより直ちにTRA貸付けに係る被告の補助参加人に対する損害賠償責任が免除されるものということはできないから,被告の上記主張は採用することができない。 ⑶ア次に,本件行為2について検討するに,認定事実⑹アによれば,被告は,Dに対して報酬の増額を要求した後,TRAの経理担当者であるHに指示を して,受取人欄空欄の本件小切手を作成させ,TRAの代表者として,それ に署名をして振り出したものである(本件行為2)。そして,被告は,香港ドル口座への送金稟議書に「美術品の手数料として支払います」と記載した(認定事実⑹イ)ものの,一件記録を精査しても,同時期にTRAが本件小切手の支払額に相当する金額で美術品を購入したことを認めるに足りる証拠はなく,本件小切手が何の対価として支払われたものであるかは明らかでないと ころ,本件小切手の振出しに至る経緯(認定事実⑹ア)やHが同支払を被告への給与の支払として経理上処理していること(認定事実⑹ウ)を考慮すると,被告は,自己の個人的な利益を図る目的で本件小切手を振り出したものと推認せざるを得ない。そうすると,被告は,前記⑴のとおり,補助参加人の海外事業統括の業務担当取締役として海外子会社等の業務を執行又は監視 するに当たり,その地位を利用して補助参加人の利益の犠牲の下に自己の利益を図ってはならないという善管注意義務又は忠実義務を負うにもかかわらず,自らTRAの代表者であることを利用して,自己の個人的な利益を図る目的で本件小切手を振り出したものといわなければならな 己の利益を図ってはならないという善管注意義務又は忠実義務を負うにもかかわらず,自らTRAの代表者であることを利用して,自己の個人的な利益を図る目的で本件小切手を振り出したものといわなければならない。 したがって,本件行為2は,被告の補助参加人の取締役としての善管注意 義務又は忠実義務に違反するものと認められる。 イこの点,被告は,本件行為2について,本件小切手に署名したことは認めるものの,D及びGが指示したことであり,被告はその内容を把握していなかったなどと主張し,被告の陳述書等にはこれに沿う部分がある。しかし,被告の上記主張及び陳述書等の内容は,自ら本件小切手に署名しておきなが ら,その内容自体は把握していないという不自然なものである。加えて,この点に係るDやHの供述等(甲96,103,113)の内容は互いに合致し,不自然な点も見当たらないところ,被告の上記主張及び陳述書等の内容は,これらにも反するものであるから,被告の陳述書等を信用することはできず,被告の上記主張は採用することができない。 また,被告は,本件小切手に関する稟議書(甲32)について本件小切手 振出しの2年後に本件小切手の振出しを仮装するためにFらが被告に署名させたものである旨主張し,平成27年時点において稟議書が存在していなかったことを裏付けるものとして甲113資料10を指摘する。しかし,本件小切手に関する稟議書(甲32)はTRAの米国ドル口座から香港ドル口座への1600万香港ドルの移動に関するものであるのに対し,被告が指摘 する証拠(甲113資料10)はTRAの香港ドル口座からの1600万香港ドルの出金に係る稟議書に関するものであるから,これをもって,本件小切手に関する稟議書(甲32)が本件小切手の振出しの当時 する証拠(甲113資料10)はTRAの香港ドル口座からの1600万香港ドルの出金に係る稟議書に関するものであるから,これをもって,本件小切手に関する稟議書(甲32)が本件小切手の振出しの当時作成されたとするD及びHの供述の信用性が否定されるものではない。なお,被告が自ら署名して本件小切手を作成して,TRAから1600万香港ドルを支出させ (認定事実⑹ア,ウ),被告が本件小切手に関する上記稟議書(甲32)に自ら「美術品の手数料として支払います」と記載した上,署名をしたにもかかわらず(認定事実⑹イ),TRAが美術品を購入した事実は認められず,このほか,本件小切手の振出しの理由が不明であることは前記アのとおりであるから,いずれにしても,上記稟議書の作成時期によって,本件小切手が被告 の個人的な利益を図る目的で振り出されたとの前記アの推認が妨げられるものではない。 ⑷アさらに,本件行為3について検討するに,認定事実⑺によれば,被告は,B及びAに指示をし,経営コンサルタント料等の名目でUE韓国からOHLに対して,17万3562.23米国ドルを支払わせたものである(本件手 数料支払)。そうすると,被告は,前記⑴のとおり,補助参加人の海外事業統括の業務担当取締役として,海外子会社等の業務を執行又は監視するに当たり,その地位を利用して補助参加人の利益の犠牲の下に自己の利益を図ってはならない善管注意義務又は忠実義務を負っており,しかも,補助参加人の管理本部長であったIから,本件担保提供が日本の会社法に抵触するおそれ があるなどと忠告を受けたにもかかわらず(認定事実⑺イ),UE韓国の取締 役らに直接指示をして,被告の資産管理会社であるOHLの利益を図る目的で,本件土地の購入主体から外れたUE韓国においては本来 どと忠告を受けたにもかかわらず(認定事実⑺イ),UE韓国の取締 役らに直接指示をして,被告の資産管理会社であるOHLの利益を図る目的で,本件土地の購入主体から外れたUE韓国においては本来支払う必要のない金銭を支払わせた(本件手数料支払)ものといわなければならない。 したがって,本件行為3は,被告の補助参加人の取締役としての善管注意義務又は忠実義務に違反するものと認められる。 イこの点,被告は,本件行為3について,B及びAが無断で行ったことであり,被告は関与していない旨主張し,被告の陳述書等にはこれに沿う部分がある。 しかし,認定事実⑺ア,イによれば,本件土地の購入主体の変更等を行ったのは被告であり,また,B及びAは,被告に対し,本件土地の購入主体の 変更に関する交渉経緯や資金捻出のための計画について報告しており,Iも,被告に対し,本件担保権設定が日本の会社法に抵触するおそれがあるなどと報告していたものである。加えて,証拠(甲79,116)によれば,被告は,Aに対し,メールで,OHL借入れと本件担保権設定を解除するに当たり,可能であれば錯誤として処理をするよう具体的な指示もしていたことが 認められる。 したがって,これらの客観的事実に反する被告の陳述書等を信用することはできず,被告の上記主張は採用することができない。 なお,被告は,F及び補助参加人のその他の取締役が遅くとも平成26年4月頃,本件担保権設定を承認した旨主張するが,そもそも仮にかかる承認 があったとしても,そのことから直ちに被告が補助参加人の取締役としての義務違反の責任を免れるものではない上,被告が指摘する証拠(乙A5)には本件手数料支払についての記載はなく,同証拠によっても補助参加人の代表者であるF及びその他の取 被告が補助参加人の取締役としての義務違反の責任を免れるものではない上,被告が指摘する証拠(乙A5)には本件手数料支払についての記載はなく,同証拠によっても補助参加人の代表者であるF及びその他の取締役が,同年頃,本件手数料支払の事実を認識していたと認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠もない。 ⑸ 以上によれば,本件各行為について,被告に,補助参加人の取締役としての 善管注意義務又は忠実義務の違反があったことが認められる。 3 争点2(本件各行為により補助参加人に損害が発生したか否か及びその金額)について⑴ア本件行為1によるTRAの損害について認定事実⑼ア,イによれば,TRAは,Goldluck に対し,繰り返し,本件 行為1により行われたTRA貸付けの弁済を求めたものの,Goldluck は,平成28年4月の1500万香港ドルの弁済を最後に,その余の弁済をしておらず,残債務1億2000万香港ドルが未返済になっており,TRAの平成29年9月頃の書面による請求に対しても応答しておらず,TRAが同年12月頃に提起した香港における訴訟に対しても応答していないものである。 これらの事情に照らすと,TRA貸付けは事実上回収不能になっているものといわざるを得ない。 したがって,TRAは,本件行為1により,1億2000万香港ドルの損害を被ったものと認められる。 イ本件行為2によるTRAの損害について 認定事実⑹ウ,前記2⑶によれば,本件小切手による支払は,被告の個人的な利益を図る目的で行われたものであるから,TRAは,本件行為2により,本件小切手について支払った1600万香港ドルの損害を被ったものと認められる。 なお,認定事実⑼イによれば,TRAは,香港における訴訟手続等によっ われたものであるから,TRAは,本件行為2により,本件小切手について支払った1600万香港ドルの損害を被ったものと認められる。 なお,認定事実⑼イによれば,TRAは,香港における訴訟手続等によっ ても,上記損害の補填を受けていない。 ウ本件行為3によるUE韓国の損害について認定事実⑺エ,前記2⑷によれば,本件手数料支払は,補助参加人において本来支払う必要のない支払であったから,UE韓国は,本件行為3により,本件手数料支払により支払った17万3562.23米国ドルの損害を被っ たものと認められる。 なお,認定事実⑼ウによれば,UE韓国は,韓国における訴訟手続等によっても,上記損害の補填を受けていない。 ⑵ 前提事実⑵,認定事実⑵,⑶によれば,TRAはUE韓国の全株式を保有し,補助参加人はTRAの全株式を保有していること,補助参加人は,海外におけるカジノリゾート事業遂行のためにTRA,UE韓国等の海外子会社等を設立 し,補助参加人の取締役を海外子会社等の代表者とし,また,本件規程を定めるなどして,少なくとも海外子会社等における重要な事項については,補助参加人が指示を行う体制を構築していたことが認められる。そうすると,UE韓国の全株式を保有するTRAの全株式を保有する補助参加人には,他に特段の事情のない限り,TRA及びUE韓国に生じた損害の金額に相当する資産の減 少が生じたものというべきである。 この点,被告は,TRAは債務超過であるからTRAに損害が生じたとしても補助参加人にはTRA株式の評価損として同額の損害が生じることはない旨,また,TRA及びUE韓国が補助参加人から独立して経営判断を行う子会社等であるからTRA及びUE韓国に生じた損害と同額の損害が補助参加人に生じ たと 価損として同額の損害が生じることはない旨,また,TRA及びUE韓国が補助参加人から独立して経営判断を行う子会社等であるからTRA及びUE韓国に生じた損害と同額の損害が補助参加人に生じ たとはいえない旨主張する。しかし,TRAは,平成27年から令和元年に至るまで継続的に大幅な資産超過であり,その超過額は,前記⑴認定の損害額を上回るものであったことが認められる(丙1から3まで)。また,仮にTRA及びUE韓国が一定の個別業務について補助参加人から独立して判断しているとしても,このような事情は,補助参加人にTRA又はUE韓国に生じた損害に 相当する資産の減少が生じることを否定するような特段の事情には当たらない。 その他一件記録によっても,本件において上記特段の事情があったことは認められないから,UE韓国の全株式を保有するTRAの全株式を保有する補助参加人には,TRA及びUE韓国に生じた損害の金額に相当する資産の減少が生じ,補助参加人は,これと同額の損害を被ったものと認められる。 ⑶ 以上によれば,補助参加人は,被告の本件各行為によって,計1億3600 万香港ドル及び17万3562.23米国ドルの損害を被ったものと認められる。 4 よって,原告の請求はいずれも理由があるからこれを認容することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第8部 裁判長裁判官朝倉佳秀 裁判官足立拓人 裁判官川村久美子 裁判官 川村久美子

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