- 1 -主文 1 本件各控訴をいずれも棄却する。 2 控訴費用は控訴人らの負担とする。 事実 及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は,控訴人らに対し,それぞれ50万円を支払え。 第2 事案の概要(略語は,特に断りのない限り,原判決の例による。以下同じ。) 1 本件は,控訴人らが,夫婦が婚姻の際に定めるところに従い夫又は妻の氏を称すると定める民法750条の規定及び夫婦が称する氏を婚姻届の必要的記載事項と定める戸籍法74条1号の規定(本件各規定)は憲法14条1項,24条及び我が国が批准した条約に違反すると主張し,本件各規定を改廃する立法措置をとらないという立法不作為の違法を理由に,被控訴人に対し,国家賠償法1条1項に基づき,それぞれ慰謝料50万円の支払を求める事案である。 原審は,控訴人らの請求をいずれも棄却したところ,控訴人らがこれを不服として控訴した。 2 前提事実並びに争点及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり原判決の補正(当審における控訴人らの主張の付加を含む。)をし,後記3のとおり当審における控訴人らの主張を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第 2 事案の概要」(以下「原判決第2」という。)の1及び2に記載のとおりであるから,これを引用する。 ⑴ 原判決5頁3行目末尾の次に改行して次のとおり加える。 「オ女子差別撤廃委員会は,日本政府に対し,要旨,次のとおりの勧告をした。 平成15年7月8日付け総括所見民法が夫婦の氏の選択などに関する差別的な規定を依然として含ん- 2 -でいることに懸念を表明し,民法に依然として存在する差別的な法規定を廃止し,法や行政上の措置を条約に沿ったものとすることを要請する(甲2 の選択などに関する差別的な規定を依然として含ん- 2 -でいることに懸念を表明し,民法に依然として存在する差別的な法規定を廃止し,法や行政上の措置を条約に沿ったものとすることを要請する(甲21の1・2)。 平成21年8月7日付け総括所見上記の勧告にもかかわらず,民法における夫婦の氏の選択に関する差別的な法規定が撤廃されていないことについて懸念を有しており,選択的夫婦別氏制を採用することを内容とする民法改正のために早急な対策を講じるよう要請する(甲22の1・2)。 平成28年3月7日付け総括所見平成27年12月16日に最高裁判所が夫婦同氏を求めている民法750条を合憲と判断したが,この規定は実際には多くの場合,女性に夫の氏を選択せざるを得なくしていることについて懸念しており,女性が婚姻前の氏を保持できるよう夫婦の氏の選択に関する法規定を改正することを要請する(甲25の1・2)。」⑵ 原判決9頁23行目の「平成29年就業構造基本調査」の次に「(以下「平成29年基本調査」という。)」を加える。 ⑶ 原判決10頁11行目末尾の次に改行して次のとおり加える。 「 また,平成28年に総務省統計局が実施した労働力調査によれば,管理職に占める女性の割合は13.0%であり,平成26年の11.3%と比べ,1.7%上昇した(甲48の1・2)。」⑷ 原判決11頁4行目の「42.5%であり,」の次に「18歳ないし49歳の女性についてはその割合がいずれの層においても50%を超えており,」を加える。 ⑸ 原判決12頁7行目の「42の地方議会」を「43の地方公共団体の議会(以下「地方議会」という。)」に改め,同頁12行目末尾の次に改行して「前記1⑵オのとおり,女子差別撤廃委員会は,日本政府に対し,平成15- 3 -年 2の地方議会」を「43の地方公共団体の議会(以下「地方議会」という。)」に改め,同頁12行目末尾の次に改行して「前記1⑵オのとおり,女子差別撤廃委員会は,日本政府に対し,平成15- 3 -年,平成21年及び平成28年の3度にわたり,夫婦同氏制を定める民法750条を差別的な規定であるとしてその改正を要請する勧告をしている。」を加え,同頁13行目の「平成30年の」を「内閣に設置された「すべての女性が輝く社会づくり本部」が平成30年6月12日付けで策定し公表した」に,同頁20行目の「指名届出等」を「氏名届出等」にそれぞれ改める。 ⑹ 原判決13頁3行目の「平成29年9月14日」の次に「の時点で」を加え,同行から同頁4行目にかけての「を緩和した」を「の緩和等を検討していた」に,同頁22行目の「平成30年7月1日現在」から23行目の「279人である」までを「旧姓を使用する裁判所職員は,平成30年7月1日現在では裁判官が49人,裁判官以外の職員が279人であり,令和元年12月1日現在では裁判官が79人,裁判官以外の職員が409人である(甲132)」に,同頁25行目の「認めている」を「認めており,令和元年に旧姓を使用する検察庁職員は,検察官が2756人中53人,検察官以外の職員が9104人中96人である(甲133)」にそれぞれ改める。 ⑺ 原判決16頁21行目の「集合単位」を「集団単位」に改める。 ⑻ 原判決19頁20行目から21行目にかけての「である」を「であって,結果として婚姻をした夫婦の96%が夫の氏を選択しているのであれば,そこに種々の社会的圧力等が作用していることは極めて容易に推認することができ,このような結果を無視して実質的不平等が存在しないと断ずることは相当でない」に改める。 ⑼ 原判決22頁5行目の「42」を「43」に,同 的圧力等が作用していることは極めて容易に推認することができ,このような結果を無視して実質的不平等が存在しないと断ずることは相当でない」に改める。 ⑼ 原判決22頁5行目の「42」を「43」に,同頁7行目の「地方自治体の議会」を「地方議会」にそれぞれ改める。 ⑽ 原判決27頁10行目の「法務省法制審議会が」を「法制審議会が前記1⑵イの」に改める。 3 当審における控訴人らの主張(以下「当審における控訴人らの主張⑴」のようにいうことがある。)- 4 -⑴ 国家賠償法上の立法不作為の違法性の有無について原判決の判断基準は,国家賠償法1条1項の文言を無視し,法文上,例外として責任を負わない場合の規定がないにもかかわらず独自の例外を作り出した上でこれを原則とし,国会議員の立法不作為について国家無答責の原則を採用した点,立法不作為が国家賠償法上違法となるための要件を過度に加重して憲法が定める三権分立の趣旨を完全に没却させる効果を生じさせている点において誤りである。 また,原判決の判断基準によるとしても,本件各規定は,以下の⑵及び⑶のとおり,憲法14条1項及び24条に違反するものであることが明白であり,被控訴人は,遅くとも法制審議会が選択的夫婦別氏制を含む法律案要綱を公表した平成8年2月26日には本件各規定の違憲性を認識し,国際機関からも本件各規定の改正を要請されているにもかかわらず,現在に至るまで,国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠っているのであるから,その立法不作為は国家賠償法1条1項の規定の適用上違法の評価を受けるものである。 ⑵ 憲法14条1項について民法が婚姻の形式的成立要件として「届出」(同法739条ないし741条)を定め,戸籍法74条1号が「夫婦が称する氏」を婚姻 の適用上違法の評価を受けるものである。 ⑵ 憲法14条1項について民法が婚姻の形式的成立要件として「届出」(同法739条ないし741条)を定め,戸籍法74条1号が「夫婦が称する氏」を婚姻届の必要的記載事項としているため,夫婦の氏が決定されなければ婚姻届は受理されず,婚姻は成立しない。このような意味において,夫婦同氏を定めた本件各規定は,両規定があいまって,夫婦同氏を婚姻の形式的成立要件とするものであり,婚姻に対する法律上の直接的な制約となっているところ,憲法14条1項は,法適用の平等のみを意味するのではなく,法内容の平等をも意味しているため,本件各規定が夫婦同氏を希望する者と夫婦別氏を希望する者のいずれにも適用されることは平等であることと同義ではない。夫婦別氏を希望するという信条を有している者に対し,それ以外の者に対するのと同様に一律に氏- 5 -の統一を求めることは,そのような信条を有する者から婚姻の自由を奪うものであるから,本件各規定は憲法14条1項に違反する。 また,民法750条が,その文言上,婚姻の際に定めるところに従って夫又は妻の氏を称する旨を定め,戸籍法74条1号が,その文言上,夫婦が称する氏を婚姻届の必要的記載事項と定めていることから,夫婦が称する氏を婚姻の際に定めることができない者は婚姻が許されない一方,定めることができる者は婚姻が許されるのであり,両者は,本件各規定の文言上,法的に区別して取り扱われているのであるから,夫婦同氏を定める本件各規定は,その文言上,信条に基づく法的な差別的取扱いを定めているものにほかならない。 ⑶ 憲法24条についてア婚姻後の夫婦が称する氏について協議が調わない者は,そもそも婚姻をすることが法律上できないのであるから,本件各規定はあいまって婚姻の ものにほかならない。 ⑶ 憲法24条についてア婚姻後の夫婦が称する氏について協議が調わない者は,そもそも婚姻をすることが法律上できないのであるから,本件各規定はあいまって婚姻の要件に転化している。夫婦別氏を希望する者には,そもそも法律上婚姻をする道が閉ざされており,これは婚姻をすることの自由に対する直接的な制約であるから,当該制約に合理的な根拠が認められなければ,当該制約は憲法14条1項に違反するとともに,憲法24条2項にも違反するところ,選択肢なき夫婦同氏制により別氏婚を希望する者を婚姻制度から排除することに合理的な根拠はない。 イ旧民法における夫婦同氏制は,家制度の一環として導入されたものであるから,家制度時代の名残である選択肢なき夫婦同氏制が依然として我が国の社会に定着していることは,夫婦同氏制の合理性を担保するものではない。また,選択肢なき夫婦同氏制は,共同生活をする者は同じ氏を称しているという当時の習俗や慣習を継続し,当時の氏による共同生活の実態を表現したものにすぎず,生活共同体を形成する夫婦の統体性を示すことや家族の一体感の醸成及び確保を図ることを目的として導入されたもので- 6 -はない。さらに,現行憲法の理念に反するものとして廃止された家制度の一環として導入された旧民法の夫婦同氏制を現行法下の戸籍編成に反映させることが許されるはずもない。選択肢なき夫婦同氏制が定着し,現実に一定の公示識別機能を果たしているからこそ,女性が入籍したら氏を変更するのが当たり前という昭和22年に廃止されたはずの誤った社会通念が依然として我が国の社会に残存しているのであるから,選択肢なき夫婦同氏制における公示識別機能を積極的に評価することは不当である。 ウ本件各規定の存在によって,夫婦同氏は婚姻の要件とな 通念が依然として我が国の社会に残存しているのであるから,選択肢なき夫婦同氏制における公示識別機能を積極的に評価することは不当である。 ウ本件各規定の存在によって,夫婦同氏は婚姻の要件となっており,法律婚をするためには夫婦のいずれかが氏を変更することを強制されているのであるから,婚姻による氏の変更は,婚姻という身分関係の変動を自らの意思で選択することに伴って夫婦の一方が氏を改める場面であって,自らの意思に関わりなく氏を改めることを強制するものにほかならない。現行法の下では存在しない家制度のために,個人の人格の象徴である氏の変更を全ての個人に一律に強制するのは,現行憲法の理念である個人の尊厳及び両性の本質的平等に反する。 エ通称使用を選択する理由のいかんを問わず,社会において婚姻前の氏を引き続き使用しなければならない実態があること自体,婚姻前の氏を維持することの重要性を如実に示しており,通称使用の広がりという事実からすれば,婚姻前の氏を維持する重要性についての社会的認識及び人格的価値が確立しつつあると評価すべきである。とりわけ,平成30年以降の急激な旧氏併記の流れは,それ自体,婚姻による改氏の不利益が婚姻前の氏の維持を希望する夫婦にとって看過できないものであり,夫婦同氏制を維持する合理的な理由が失われていることを示している。 オ令和元年11月5日,住民票やマイナンバーカード等に旧氏(婚姻前の氏)を併記できるようにするための住民基本台帳施行令等の一部を改正する政令が施行され,この制度は,旧氏の「通称としての使用」を広めるため- 7 -のものではあるが,他の公私の機関を法的にも道義的にも拘束せず,旧氏のみで通用する場面を広げるものではないため,この制度が施行された後も,以下のとおり,旧氏を使用して種々の法律 るため- 7 -のものではあるが,他の公私の機関を法的にも道義的にも拘束せず,旧氏のみで通用する場面を広げるものではないため,この制度が施行された後も,以下のとおり,旧氏を使用して種々の法律行為及び事実行為をすることができる範囲は広がっていない。 旧氏による健康保険証の発行,住宅ローン契約,不動産登記手続,納税及び税金還付(地方公共団体によっては旧氏名義の口座からの自動引落しが可能)並びに携帯電話の新規契約はすることができない。 銀行口座の開設やクレジットカードの新規作成については,銀行やカード会社により対応が異なるが,全国銀行協会のホームページに「戸籍と口座を一致させておかないと不都合が生じる可能性があります」との警告がされているように,旧氏名義の口座を保有したとしても安心して使用することはできない。 旅券には旧氏併記が認められているが,旅券に埋め込まれたICチップに旧氏は登録されないため,外国への航空券に旧氏を使用することはできない。また,諸外国では括弧書きで氏を記載する習慣もないため,旅券の偽造や成りすまし等の違法行為を疑われ,出入国審査に時間を要するなどの混乱やトラブルが生じている。 弁護士が成年後見人,保佐人,補助人及び成年後見監督人,保佐監督人,補助監督人の業務を行う際,弁護士会に旧氏を職務上の氏名として届け出ている場合には,職務上の氏名と戸籍上の氏名を併記した選任の審判がされるが,登記事項証明書に旧氏が併記されることはないため,取得1回につき500円を要する弁護士会の会員証明書を提示しなければならないなど,煩雑な対応を余儀なくされている。 その他,組織に属する労働者の人事・給与・年金関係書類,不妊治療等の助成金申請手続,生命保険募集人登録の氏名など,旧氏による取扱いを受けられ ないなど,煩雑な対応を余儀なくされている。 その他,組織に属する労働者の人事・給与・年金関係書類,不妊治療等の助成金申請手続,生命保険募集人登録の氏名など,旧氏による取扱いを受けられない場面は数えきれない。 - 8 -カまた,通称使用は,以下のとおり,夫婦同氏制の不利益を解消するものでも緩和するものでもなく,夫婦同氏制が憲法24条に違反しないことの根拠とはならない。 通称は本名ではなく,括弧書き又は付記をされるだけであるから,婚姻により氏を改めた者のいわゆるアイデンティティの喪失による不利益は,旧氏を通称として使用することができるようになったとしても回避することができない。また,このアイデンティティの喪失感は,いわゆる専業主婦や専業主夫であっても感じるのであって,望まない婚姻による改氏を余儀なくされている男女全体の問題であり,夫婦同氏制の問題の本質である。 職場において,通称と戸籍上の氏名の双方を管理しなければならないのは,事務手続上煩雑であり,システム変更等の費用も発生する。 戸籍上の氏の変更に伴う事務量は膨大で費用もかかるが,婚姻当初から夫婦の一方のみにこのような不利益を負わせるのは実質的平等に反する。 被控訴人自身も,通称使用の拡大策が根本的な解決にならないことをはるか以前から認識していた。 キ平成27年最高裁判決以後,処々の事情の変更があったにもかかわらず,その変化を評価せず,又は過小評価し,実際に起きている事態の深刻さを見誤り,平成27年最高裁判決の正当性を十分な検討なく認めることは,憲法判断を放棄するものといえる。 特に,平成29年世論調査の結果について,夫婦別氏に反対する者と「夫婦が婚姻前の名字を名乗ることを希望していても,夫婦は必ず同じ名字を名乗るべきだが,婚姻によって名 法判断を放棄するものといえる。 特に,平成29年世論調査の結果について,夫婦別氏に反対する者と「夫婦が婚姻前の名字を名乗ることを希望していても,夫婦は必ず同じ名字を名乗るべきだが,婚姻によって名字を改めた人が婚姻前の名字を通称としてどこでも使えるように法律を改めることについては,かまわない」を選択した者の割合の合計が50%を超えていることから,選択的夫婦別氏制- 9 -を導入すべきとの意見が大勢を占めているとは認められないと結論付けるのは相当でない。選択的夫婦別氏制の導入に賛成する意見は増加しており,今後もそれは増加すると思われることや,婚姻による改氏の不利益を被る主な当事者である18歳ないし49歳の女性では,どの層でも選択的夫婦別氏制の導入に賛成する者が50%を超えていることこそ重要であり,これらの事実を正当に評価すべきである。 また,女子差別撤廃委員会による本件各規定に関する民法改正を求める3度目の勧告や,女性管理職の割合の増加,選択肢なき夫婦同氏制に関する法改正を求める訴訟提起が相次いだ事実もまた,平成27年最高裁判決以後の重要な事情の変化である。 ク控訴人らが原審において主張した平成27年最高裁判決以後の事情の変更に加え,以下のとおり,更なる事情の変更がある。 総務省統計局が実施した労働力調査(基本集計)によれば,平成30年の女性の就業率は51.3%と前年より1.5%上昇し,令和元年の女性の就業率は52.2%まで上昇している。また,平成27年は共働き世帯が1114万世帯,専業主婦世帯が687万世帯であったところ,平成30年は共働き世帯が1219万世帯,専業主婦世帯が606万世帯となっており,共働き世帯の数と割合は急速に増加している。 女性の有業率の上昇は,別氏婚を希望する者の最大の増加要因 ,平成30年は共働き世帯が1219万世帯,専業主婦世帯が606万世帯となっており,共働き世帯の数と割合は急速に増加している。 女性の有業率の上昇は,別氏婚を希望する者の最大の増加要因であり,今後の増加傾向も示している。 日本の女性の有業率は,かつては学校卒業後の年代で上昇し,結婚・出産期に一旦低下し,育児が落ち着いた時期に再上昇するいわゆるM字カーブを明確に描いていたが,昭和62年から10年ごとの推移をみると,M字カーブの底が上昇傾向にあり,M字型が緩やかになってなだらかな台形型に近付いている。このM字カーブの変化から,女性の有業率の上昇,晩婚化及び出産年齢の高齢化や,結婚・出産を経ても就業を続- 10 -ける女性の割合が増加していることは一目瞭然である。 令和元年には子の出生数が急減し,過去最少となることが確実となるなど,日本の少子化傾向は顕著である。また,法律婚をしなければ出産をしない傾向は日本の特徴であり,婚姻の不合理な制約を除去することは日本社会の喫緊の課題である。 令和元年4月1日,外国人労働者の受入れ拡大を目的とする出入国管理及び難民認定法の改正法が施行され,日本国内におけるグローバル化が進む中,日本人間の別氏婚が禁止されている不合理性が際立っている。 本件のような人権問題は,もともと多数決の論理や世論の動向で決すべき問題ではないが,仮に多数決で決めるとしても,以下のような調査結果は,極めて重要な立法事実である。 a 平成30年に国立社会保障・人口問題研究所が結婚経験のある女性を対象として実施した社会保障・人口問題基本調査第6回全国家庭動向調査の結果,「夫,妻とも同姓である必要はなく,別姓であってもよい」への賛成割合が半数を超え,特に30代では6割を 結婚経験のある女性を対象として実施した社会保障・人口問題基本調査第6回全国家庭動向調査の結果,「夫,妻とも同姓である必要はなく,別姓であってもよい」への賛成割合が半数を超え,特に30代では6割を超えている。 また,「結婚後は,夫は外で働き,妻は主婦業に専念した方がよい」という考え方に賛成する妻の割合は顕著な低下傾向を示している。 b 令和元年に毎日新聞と埼玉大学社会調査研究センターが実施した世論調査「日本の世論」の結果,選択的夫婦別姓に関する考え方については意見が拮抗していたが,年代による違いが大きく,婚姻による改姓の不利益を被る主な当事者である18歳から29歳までは選択的夫婦別姓を支持する者の割合が半数を超え,30代から50代までの各世代でも選択的夫婦別姓を支持する者の割合が多数派となった。 c 令和2年1月の全国世論調査の結果,選択的夫婦別姓については賛成が69%で反対の24%を大きく上回っていた。また,50代以下の女性の8割以上が賛成であった。 - 11 -d 日本経済新聞による調査の結果,選択的夫婦別姓については未婚者の75.1%,既婚者・離別者を含む全体の74.1%,20代から50代までの全年齢層の7割が賛成と答えた。 e 令和2年3月に西日本新聞が行った調査の結果,夫婦別姓に賛成と答えたのは約8割であり,女性の87.5%,男性の69.8%であった。 f 朝日新聞社と東京大学の谷口将紀研究室が令和2年3月から4月にかけて実施した共同調査の結果,夫婦別姓に賛成と答えた者の割合は57%であり,反対と答えた者17%の3倍を超えていた。 g 令和2年2月14日には超党派の国会議員に向けた選択的夫婦別氏制に関する勉強会が開かれ,クラウドファンディングが開始された。 また,同月26日には毎日新 た者17%の3倍を超えていた。 g 令和2年2月14日には超党派の国会議員に向けた選択的夫婦別氏制に関する勉強会が開かれ,クラウドファンディングが開始された。 また,同月26日には毎日新聞が選択的夫婦別氏制の議論を強く求め,同年3月8日には朝日新聞が事実婚の両親を題材とする高校生のドキュメンタリーを記事として取り上げた。 地方議会においては,原審口頭弁論終結後も,国に対して選択的夫婦別氏制の導入を求める等の意見書が採択され続けており,平成27年最高裁判決以後,その数は94自治体に及ぶ。 平成27年最高裁判決以後,同判決及び本件と同趣旨の請求を棄却した東京地裁判決に対し,新聞各紙や多数の研究者等がこれを痛烈に批判している。また,平成27年最高裁判決以後,司法救済を求める動きが活発化し,法改正を求める国民の声が高まっている。 ⑷ 自由権規約及び女子差別撤廃条約について原判決は,①日本の法令や具体的状況が条約に適合しているか否かという条約適合性判断の場面において条約の裁判規範性を否定した点,②婚姻をするために夫婦の氏を必ず同一にしなければならないと強制する本件各規定並びに慣習及び慣行が自由権規約違反及び女子差別撤廃条約違反となるにもか- 12 -かわらず,これを判断しなかった点,③自由権規約及び女子差別撤廃条約は締約国に差別撤廃の実現のための立法,施策及び救済等を義務付けるものであり,差別撤廃を目的とした法制度,施策及び救済等の国内法上の措置を採らないこと自体が条約違反となることを看過した点において誤っている。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も,控訴人らの請求はいずれも理由がないと判断するものであり,その理由は,次のとおり原判決の補正(当審における控訴人らの主張に対する判断を含む。)をし ている。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も,控訴人らの請求はいずれも理由がないと判断するものであり,その理由は,次のとおり原判決の補正(当審における控訴人らの主張に対する判断を含む。)をし,後記2のとおり当審における控訴人らの主張に対する判断を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」(以下「原判決第3」という。)の1及び2に記載のとおりであるから,これを引用する。 ⑴ 原判決33頁20行目の「違法」を「違法性の有無について」に,34頁17行目の「憲法14条1項」を「憲法14条1項について」に,同頁23行目の「「信条」」を「「信条」に」にそれぞれ改める。 ⑵ 原判決35頁7行目の「しており」から9行目の「であって」までを「しているところ,これらの本件各規定は,夫婦同氏又は夫婦別氏のいずれを希望するかにかかわらず,一律に適用されるものであって」に,同頁10行目の「ではなく」を「ではないから」にそれぞれ改め,同行の「の定める夫婦同氏制」を削り,同頁12行目から13行目にかけての「ことが明白であるとは」を「ものとは」に改める。 ⑶ 原判決35頁14行目の「憲法24条」を「憲法24条について」に,同頁25行目の「婚姻の際に」から36頁1行目の「としても」までを「夫婦の氏に関する現行の法制度の内容に意に沿わないところがあることを理由として婚姻をしないことを選択する者がいるとしても」に,同行の「本件各規定が」を「本件各規定それ自体が婚姻をすることについて」に,同頁2行目の「本件各規定の」から3行目の「望む者」までを「上記の理由から上記の者」に,同- 13 -頁5行目の「事情の一つにとどまるものと」を「事項であると」にそれぞれ改める。 ⑷ 原判決36頁10行目の「13条,」を削り,同頁20行目の「改正後の 上記の理由から上記の者」に,同- 13 -頁5行目の「事情の一つにとどまるものと」を「事項であると」にそれぞれ改める。 ⑷ 原判決36頁10行目の「13条,」を削り,同頁20行目の「改正後の民法」を「現行の民法」に改め,同頁21行目の「施行。」の次に「以下同じ。」を加え,同頁26行目の「民法750条の」から37頁3行目の「(乙1,2)」までを「現行の民法の下においても,家族は社会の自然かつ基礎的な集団単位と捉えられ,上記のような家族の氏に関する制度を採ることにより,上記の範囲で家族の呼称を一つに定めることには合理性があるといえる」に,同行から同頁4行目にかけての「このような旧民法」を「上記のような民法750条」に,同行の「規定された」を「規定されている」にそれぞれ改め,同頁6行目の「公示識別機能(」の次に「社会の自然かつ基礎的な集団単位(構成要素)としての」を加え,同頁9行目の「前記立法目的を前提とした」を「上記のような家族の氏の在り方の基礎となる」に,同頁10行目の「一定の公示識別機能を」から11行目の「は否定し難いこと」までを「上記の公示識別機能を一定程度有していること」にそれぞれ改める。 ⑸ 原判決38頁6行目の「予定されている」から8行目の「認められない」までを「予定されているといえる」に改める。 ⑹ 原判決39頁7行目から8行目にかけての「について更に緩和が進んだ」を「は更に一定程度緩和されている」に,同頁14行目の「であると主張する」を「であって,結果として婚姻をした夫婦の96%が夫の氏を選択しているのであれば,そこに種々の社会的圧力等が作用していることは極めて容易に推認することができ,このような結果を無視して実質的不平等が存在しないと断ずることは相当でない旨を主張する」に,同頁22行目の「当該夫婦間に」から2 々の社会的圧力等が作用していることは極めて容易に推認することができ,このような結果を無視して実質的不平等が存在しないと断ずることは相当でない旨を主張する」に,同頁22行目の「当該夫婦間に」から24行目の「足りない」までを「それは個々の協議の結果というべきであって,本件各規定の在り方自体から生じた結果であるということは困難であるから,上記の結果をもって,直ちに本件各規定それ自体が両性の- 14 -本質的平等の要請に照らして合理性を欠くということはできない」に,同頁25行目の「前提事実⑷ウの」から40頁2行目の「などから」までを「前記第2の1⑷アないしキの事情(同ウの世論調査の結果並びに同オの多数の地方議会の意見書及び女子差別撤廃委員会の勧告を含む。)から」にそれぞれ改める。 ⑺ 原判決40頁6行目末尾の次に改行して次のとおり加える。 「 この点につき,前記第2の1⑷ア及びエによれば,平成29年基本調査の結果,女性の有業率及び共働き世帯の割合が増加し,労働年齢にある女性の有業率が過去最高であったこと,平成28年に実施された労働力調査の結果,管理職に占める女性の割合が増加したこと,同年に実施された男女共同参画社会に関する世論調査の結果,出産後を含めて女性の就業を支持する者の割合が増加したことが認められ,平成27年最高裁判決以後も,女性の社会進出は引き続き進んでいるものということができ,婚姻に伴い氏を改めることによって社会活動上の不利益を受ける女性が増加する傾向も引き続き看取されるものといえる。」⑻ 原判決40頁7行目の「しかしながら,前提事実⑷ウ」を「しかるところ,前記第2の1⑷ウ」に改め,同頁8行目の「比較して,」の次に「」を加え,同頁11行目の「他方,」を「18歳ないし49歳の女性についてはその割合がいずれの層におい ,前提事実⑷ウ」を「しかるところ,前記第2の1⑷ウ」に改め,同頁8行目の「比較して,」の次に「」を加え,同頁11行目の「他方,」を「18歳ないし49歳の女性についてはその割合がいずれの層においても50%を超えており(「家族の名字(姓)が違っても家族の一体感(きずな)には影響がないと思う」と答えた者の割合も59.8%から64.3%に増加している。),⒝」に,同頁13行目の「減少しているものの」を「減少しているが」にそれぞれ改め,同頁14行目の「29.3%),」の次に「⒞」を加え,同頁18行目の「後二者の立場は」を「上記⒝及び⒞の立場は(後者は通称使用を前提に)」に,同頁19行目の「ところ」を「ものであり」に,同頁20行目の「超えているのであるから,」を「超えているのであって,平成27年最高裁判決以後に選択的夫婦- 15 -別氏制の導入を容認ないし支持する者の割合は一定程度増加しているとみられるものの,平成29年世論調査の時点においては,いまだ」に,同頁21行目の「憲法適合性を」から41頁1行目の「ものではない」までを「本件各規定の憲法適合性の判断は,もとより単に特定の調査等における意見の多寡のみによって結論を決すべき性質の事柄ではなく,社会情勢の推移等に伴う立法事実の変動を踏まえた多角的な検討が必要であると解されるところ,上記のとおり,平成27年最高裁判決以後も,女性の社会進出が引き続き進み,婚姻に伴い氏を改めることによって社会活動上の不利益を受ける女性が増加する傾向も引き続き看取されることに伴い,選択的夫婦別氏制の導入を容認ないし支持する者の割合が一定程度増加しており,平成27年最高裁判決以後,相当数の地方議会からも本件各規定の改正及び選択的夫婦別氏制の導入を求める意見が表明されている(前記第2の1⑷オ)一方で,前示のとお 支持する者の割合が一定程度増加しており,平成27年最高裁判決以後,相当数の地方議会からも本件各規定の改正及び選択的夫婦別氏制の導入を求める意見が表明されている(前記第2の1⑷オ)一方で,前示のとおり,平成29年世論調査の時点において,いまだ選択的夫婦別氏制を導入すべきとの意見が大勢を占めているとは認められず,前記第2の1⑷カの平成30年6月12日付け「女性活躍加速のための重点方針2018」においても,選択的夫婦別氏制の導入に関し,平成29年世論調査の結果について分析を加え,引き続き検討するとされている状況にある中で,選択的夫婦別氏制の導入に関しては,上記のような諸般の状況を踏まえ,引き続き国会や国民全体における議論を尽くしていくことが求められている段階にあるものというべきであって,控訴人らの主張に係る前記第2の1⑷アないしキの事情等をしんしゃくしても,現時点において,いまだ本件各規定が個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き,国会の立法裁量の範囲を超える状態に至っているとは認められない」にそれぞれ改め,同行末尾の次に改行して次のとおり加える。 「 この点につき,控訴人らは,平成29年世論調査の結果について,選択的夫婦別氏制の導入に賛成する意見は増加しており,今後もそれは増加する- 16 -と思われることや,婚姻による改氏の不利益を被る主な当事者である18歳ないし49歳の女性では,どの層でも選択的夫婦別氏制の導入に賛成する者が50%を超えていることこそ重要であり,女子差別撤廃委員会による本件各規定に関する民法改正を求める3度目の勧告や選択肢なき夫婦同氏制に関する法改正を求める訴訟の提起が相次いだ事実もまた,平成27年最高裁判決以後の重要な事情の変化である旨を主張する(当審における控訴人らの主張⑶キ)。 しかし 3度目の勧告や選択肢なき夫婦同氏制に関する法改正を求める訴訟の提起が相次いだ事実もまた,平成27年最高裁判決以後の重要な事情の変化である旨を主張する(当審における控訴人らの主張⑶キ)。 しかしながら,平成29年世論調査の結果,平成27年最高裁判決以後に選択的夫婦別氏制の導入を容認ないし支持する者の割合が一定程度増加しており,18歳ないし49歳の女性については,「夫婦が婚姻前の名字(姓)を名乗ることを希望している場合には,夫婦がそれぞれ婚姻前の名字(姓)を名乗ることができるように法律を改めても構わない」を選択した者の割合がいずれの層においても50%を超えていることなどの控訴人らの主張に係る前記第2の1⑷アないしキの事情等をしんしゃくしても,現時点において,いまだ本件各規定が個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き,国会の立法裁量の範囲を超える状態に至っているとは認められないことは,前示のとおりであり,このことは,上記の主張に係る平成27年最高裁判決以後の女子差別撤廃委員会による3度目の勧告や数次の訴訟の提起といった所論の事情を勘案しても左右されるものとはいえない(上記勧告に係る要請は法的拘束力を有するものではない。)から,控訴人らの上記主張は採用することができない。」⑼ 原判決41頁2行目の「以上で検討した事情を考慮すると」を「以上に検討した諸事情を総合的に考慮すると」に,同頁3行目の「直ちに」を「上記のような状況の下で直ちに」に,同頁4行目の「であり,」を「であると認めることはできず,本件各規定が」に,同行の「ことが明白であるとは」を「ものとは」に,同頁6行目の「前提事実⑷カのとおり,平成30年の」を「前記第- 17 -2の1⑷カのとおり,内閣に設置された「すべての女性が輝く社会づくり本部」が平成30年6 白であるとは」を「ものとは」に,同頁6行目の「前提事実⑷カのとおり,平成30年の」を「前記第- 17 -2の1⑷カのとおり,内閣に設置された「すべての女性が輝く社会づくり本部」が平成30年6月12日付けで策定し公表した」にそれぞれ改める。 ⑽ 原判決42頁2行目の「国内法による」から3行目の「措置」までを「国内法の整備による具体化の措置」に,44頁16行目及び23行目の各「柱書」をいずれも「柱書き」にそれぞれ改める。 ⑾ 原判決46頁12行目から13行目にかけての「ものであることが明白であるとは」を「ものとは」に改める。 2 当審における控訴人らの主張に対する判断⑴ 国家賠償法上の立法不作為の違法性の有無について控訴人らは,原判決の判断基準は,国家賠償法1条1項の文言を無視し,法文上,例外として責任を負わない場合の規定がないにもかかわらず独自の例外を作り出した上でこれを原則とし,国会議員の立法不作為について国家無答責の原則を採用した点,立法不作為が国会賠償法上違法となるための要件を過度に加重して憲法が定める三権分立の趣旨を完全に没却させる効果を生じさせている点において誤りである旨を主張する。しかしながら,国会議員の立法過程における行動が個々の国民に対して負う職務上の法的義務に違反したものとして,その立法不作為が同項の規定の適用上違法の評価を受けることがあるのは,法律の規定が憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合などであること(最高裁平成25年(オ)第1079号同27年12月16日大法廷判決・民集69巻8号2427頁等)は,前記1(同⑴の補正後の引用に係る原判 長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合などであること(最高裁平成25年(オ)第1079号同27年12月16日大法廷判決・民集69巻8号2427頁等)は,前記1(同⑴の補正後の引用に係る原判決第3の1⑴)において説示したとおりであり,この判断基準をもって,国家無答責の原則を採用したものであるとか,三権分立の趣旨を没却するような要件の過度の加重がされているとはいえないから,控訴人らの上記主張は採用することができない。 - 18 -また,控訴人らは,原判決の判断基準によるとしても,本件各規定は憲法14条1項及び24条に違反するものであることが明白であり,国会がその改廃等の立法措置を怠っている立法不作為は国家賠償法1条1項の規定の適用上違法の評価を受ける旨を主張するが,本件各規定が憲法14条1項及び24条に違反するものとは認められないことは,前記1(同⑴ないし⑼の補正後の引用に係る原判決第3の1⑵及び⑶)において説示したとおりであるから,控訴人らの上記主張は採用することができない。 ⑵ 憲法14条1項について控訴人らは,本件各規定はあいまって夫婦同氏を婚姻の形式的成立要件とするものであり,婚姻に対する法律上の直接的な制約となっているところ,夫婦別氏を希望するという信条を有している者に対してそれ以外の者に対するのと同様に一律に氏の統一を求めることは,そのような信条を有する者から婚姻の自由を奪うものであるから,本件各規定は憲法14条1項に違反する旨を主張する。 しかしながら,前記1(同⑶の補正後の引用に係る原判決第3の1⑶ア)において説示したとおり,民法750条は,婚姻の効力の一つとして夫婦が夫又は妻の氏を称することを定めたものであり,夫婦同氏が婚姻の要件であることを定めたものではなく,戸籍法74条1号も,この ⑶ア)において説示したとおり,民法750条は,婚姻の効力の一つとして夫婦が夫又は妻の氏を称することを定めたものであり,夫婦同氏が婚姻の要件であることを定めたものではなく,戸籍法74条1号も,このような民法750条の規定を受けて,婚姻をする夫婦により定められる夫婦の称する氏を戸籍に反映させるための手続的規定であって,これらの規定の内容を併せてみても,本件各規定が夫婦同氏が婚姻の要件であることを定めたものであるとは解されず,婚姻をすることについての直接の制約を定めたものであるとはいえないから,夫婦の氏に関する現行の法制度の内容に意に沿わないところがあることを理由として婚姻をしないことを選択する者がいるとしても,そのことをもって,本件各規定が法的な差別的取扱いによって婚姻の自由を侵害するものとして憲法14条1項に違反するとはいえない。 - 19 -また,控訴人らは,本件各規定の文言上,夫婦が称する氏を婚姻の際に定めることができない者は婚姻が許されない一方,定めることができる者は婚姻が許されるのであり,両者は法的に区別して取り扱われているのであるから,本件各規定は,その文言上,信条に基づく法的な差別的取扱いを定めているものにほかならない旨を主張する。 しかしながら,本件各規定が,その文言上,信条に基づく法的な差別的取扱いを定めているものではないことは,前記1(同⑵の補正後の引用に係る原判決第3の1⑵イ)において説示したとおりであり,夫婦の氏に関する現行の法制度の内容に意に沿わないところがあることを理由として婚姻をしないことを選択する者において,婚姻をすることが事実上制約されることになっていることについては,氏を含めた婚姻及び家族に関する法制度の在り方を検討するに当たって考慮すべき事項の一つというべきであり,憲法24条の認め 者において,婚姻をすることが事実上制約されることになっていることについては,氏を含めた婚姻及び家族に関する法制度の在り方を検討するに当たって考慮すべき事項の一つというべきであり,憲法24条の認める立法裁量の範囲を超えるものであるか否かの検討に当たって留意すべきものと考えられる。 したがって,控訴人らの上記主張はいずれも採用することができない。 ⑶ 憲法24条についてア控訴人らは,本件各規定はあいまって婚姻の要件に転化しており,夫婦別氏を希望する者に法律上婚姻する道が閉ざされていることは,婚姻することの自由に対する直接的な制約である旨を主張する。 しかしながら,民法750条が婚姻の効力の一つとして夫婦が夫又は妻の氏を称することを定めたものであり,夫婦同氏が婚姻の要件であることを定めたものではなく,戸籍法74条1号も,このような民法750条を受けて,婚姻をする夫婦により定められる夫婦の称する氏を戸籍に反映させるための手続的規定であって,これらの規定の内容を併せてみても,本件各規定が夫婦同氏が婚姻の要件であることを定めたものであるとは解されず,婚姻をすることについての直接の制約を定めたものであるとはいえ- 20 -ないことは,上記⑵のとおりである。また,前記1(同⑶の補正後の引用に係る原判決第3の1⑶ア)において説示したとおり,夫婦の氏に関する現行の法制度の内容に意に沿わないところがあることを理由として婚姻をしないことを選択する者がいるとしても,このことによって直ちに,本件各規定それ自体が婚姻の自由について憲法24条1項の趣旨に沿わない直接的な制約を課したものと評価することはできず,上記の理由から上記の者が婚姻をすることが事実上制約されることになっていることは,氏を含めた婚姻及び家族に関する法制度の在り方を定めるに 旨に沿わない直接的な制約を課したものと評価することはできず,上記の理由から上記の者が婚姻をすることが事実上制約されることになっていることは,氏を含めた婚姻及び家族に関する法制度の在り方を定めるに当たっての国会の立法裁量の範囲を超えるものであるか否かの検討に当たって考慮すべき事項であるというべきである。 したがって,控訴人らの上記主張は採用することができない。 イ控訴人らは,家制度時代の名残である選択肢なき夫婦同氏制が依然として我が国の社会に定着していることは,夫婦同氏制の合理性を担保するものではなく,選択肢なき夫婦同氏制は,共同生活をする者は同じ氏を称しているという当時の習俗や慣習を継続し,当時の氏による共同生活の実態を表現したものにすぎず,選択肢なき夫婦同氏制が定着し,現実に一定の公示識別機能を果たしているからこそ,女性が入籍したら氏を変更するのが当たり前という誤った社会通念が依然として我が国の社会に残存しているのであるから,選択肢なき夫婦同氏制における公示識別機能を積極的に評価することは不当である旨を主張する。 しかしながら,家制度が廃止された現行の民法の下においても,家族は社会の自然かつ基礎的な集団単位と捉えられ,夫婦及びその間の未婚の子や養親子につき,その呼称を一つに定めることには合理性が認められ,婚姻に伴い夫婦が同一の氏を称する夫婦同氏制が,このような家族の呼称の在り方の基礎となる制度として我が国の社会に定着してきたものであり,現実に上記の公示識別機能を一定程度有していることは,前記1(同⑷の- 21 -補正後の引用に係る原判決第3の1⑶イ)において説示したとおりである。また,本件各規定は夫又は妻のいずれかの氏を夫婦の氏と定めるものとしているから,夫婦同氏制が我が国の社会に定着し,上記の公示識別機 後の引用に係る原判決第3の1⑶イ)において説示したとおりである。また,本件各規定は夫又は妻のいずれかの氏を夫婦の氏と定めるものとしているから,夫婦同氏制が我が国の社会に定着し,上記の公示識別機能を一定程度有していることをもって直ちに,それゆえに女性が入籍すれば氏を変更するのが当たり前という社会通念が形成されているとか,そのような社会通念が夫婦同氏制の公示識別機能に由来するものであるとはいえず,我が国において,夫婦となろうとする者の間の個々の協議の結果として夫の氏を選択する夫婦が圧倒的多数を占めることが認められるとしても,そのことをもって,夫婦同氏制における上記の公示識別機能の意義が直ちに否定されるものとはいえない。 したがって,控訴人らの上記主張はいずれも採用することができない。 ウ控訴人らは,本件各規定の存在によって,夫婦同氏は婚姻の要件となっており,法律婚をするためには夫婦のどちらかが氏を変更することを強制されているのであるから,婚姻による氏の変更は自らの意思に関わりなく氏を改めることを強制するものにほかならず,現行法の下では存在しない家制度のために個人の人格の象徴である氏の変更を全ての個人に一律に強制するのは現行憲法の理念である個人の尊厳及び両性の本質的平等に反する旨を主張する。 しかしながら,婚姻による氏の変更は,婚姻という身分関係の変動を自らの意思で選択することに伴って夫婦の一方が氏を改める場面であって,自らの意思に関わりなく氏を改めることを強制するものではなく,氏が一定の身分関係を反映するため,婚姻を含めた身分関係の変動に伴って改められることがあり得ることは,現行の民法の下においても,その性質上当然に予定されているものというべきであることは,前記1(同⑸の補正後の引用に係る原判決第3の1⑶イa)において の変動に伴って改められることがあり得ることは,現行の民法の下においても,その性質上当然に予定されているものというべきであることは,前記1(同⑸の補正後の引用に係る原判決第3の1⑶イa)において説示したとおりである。 また,家制度が廃止された現行の民法の下においても,家族は社会の自然- 22 -かつ基礎的な集団単位と捉えられ,夫婦及びその間の未婚の子や養親子につき,その呼称を一つに定めることに合理性が認められることは上記イのとおりであり,民法750条が婚姻の効力の一つとして夫婦が夫又は妻の氏を称することを定めたものであり,夫婦同氏が婚姻の要件であることを定めるものではなく,戸籍法74条1号もこのような民法750条を受けた手続的規定であって,本件各規定が夫婦同氏が婚姻の要件であることを定めたものであるとは解されず,婚姻をすることについての直接の制約を定めたものであるとはいえないことは前記⑵のとおりであって,夫婦の氏に関する現行の法制度の内容に意に沿わないところがあることを理由として婚姻をしないことを選択する者がいるとしても,このことにより直ちに,本件各規定が婚姻をすることについて憲法24条の趣旨に沿わない直接の制約を課したものと評価することはできず,個人の尊厳及び両性の本質的平等に反するものであるとはいえない。 したがって,控訴人らの上記主張は採用することができない。 エ控訴人らは,通称使用を選択する理由のいかんを問わず,社会において婚姻前の氏を引き続き使用しなければならない実態があること自体,婚姻前の氏を維持することの重要性を如実に示しており,平成30年以降の急激な旧氏併記の流れは,それ自体,婚姻による改氏の不利益が婚姻前の氏の維持を希望する夫婦にとって看過できないものであり,夫婦同氏制を維持する合理的な理 の重要性を如実に示しており,平成30年以降の急激な旧氏併記の流れは,それ自体,婚姻による改氏の不利益が婚姻前の氏の維持を希望する夫婦にとって看過できないものであり,夫婦同氏制を維持する合理的な理由が失われていることを示している旨を主張する。 しかしながら,前記1(同⑹の補正後の引用に係る原判決第3の1⑶イ説示したとおり,通称使用を選択する理由には様々なものがあり得るのであって,婚姻前の氏を通称として使用する者が当然に夫婦別氏を希望しているとは必ずしもいえないから,婚姻前の氏を通称として使用することが社会的に広まっていることをもって直ちに,夫婦同氏制を維持する合理的な理由が失われているとは解し難いものというべきであ- 23 -る。 したがって,控訴人らの上記主張は採用することができない。 オ控訴人らは,令和元年11月5日に住民基本台帳施行令等の一部を改正する政令が施行された後も,婚姻前の氏(旧氏・旧姓)を使用して種々の法律行為及び事実行為をすることができる範囲は広がっていない旨を主張する。 そこで検討するに,以下の括弧内に掲記した証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 a 令和元年11月5日,居住する市町村への届出により,住民票及び個人番号カード等に婚姻前の氏を併記することができる旨の規定を新設した住民基本台帳施行令等の一部を改正する政令が施行され,同年12月には,運転免許証にも婚姻前の氏を併記することができるようになった。他方で,これらに併記された婚姻前の氏をどのような手続や場面で使用することができるかは,行政機関や事業者によって異なる。(甲117,123,124)b 旅券(パスポート)に記載する氏名は,戸籍に記載されている氏名を表記するのが原則であるが(旅券法施行規則5条2項), ができるかは,行政機関や事業者によって異なる。(甲117,123,124)b 旅券(パスポート)に記載する氏名は,戸籍に記載されている氏名を表記するのが原則であるが(旅券法施行規則5条2項),外国における旧姓(婚姻前の氏)での活動や実績,職場で旧姓使用が認められている者の業務上の外国渡航の必要性が確認できる場合には,旧姓を併記する必要性を個別に判断した上で,旅券の身分事項頁に戸籍上の姓の表記の後に括弧書きによる旧姓の併記を認める運用がされており,平成31年4月の前後を通じて,外務省において旧姓併記の要件の緩和等も引き続き検討されている。もっとも,上記の併記方法は,日本の旅券が準拠しているICAO(国際民間航空機関)文書第9303号には規定されていない例外的な措置であるため,旅券に埋め込まれたICチップ及びMRZ(MachineReadable- 24 -Zone)には旧姓が記録されず,渡航先国の入国審査においては,旅券のICチップ及びMRZに記録されている氏名や査証に記載された氏名及び航空券に記載された氏名が全て一致している必要があるため,旅券に旧姓が併記されていたとしても,査証及び航空券を旧姓で取得することはできない。また,渡航先国の出入国管理当局等は,必ずしも上記の併記方法に精通していないため,旧姓の意味が理解されず,説明を求められたり,出入国の手続に支障が生じたりすることもある。(甲58の1ないし3,同59,67の2・7,同95,98の1ないし3,同115,117)c 令和元年12月現在,預金口座の名義を婚姻前の氏に変更することはできないが,通称名を追加登録することにより通帳に記載された戸籍名を通称名に変更し,通称名の印鑑を追加登録することができる金融機関(甲111の1)がある一方で,新規口座を開設する際に 変更することはできないが,通称名を追加登録することにより通帳に記載された戸籍名を通称名に変更し,通称名の印鑑を追加登録することができる金融機関(甲111の1)がある一方で,新規口座を開設する際に婚姻前の氏を使用することができない金融機関(甲111の2)や,住宅ローン契約を締結する際に婚姻前の氏を使用することができない金融機関があり(甲111の3),また,令和2年3月現在,預金口座を利用して国債を購入する際,戸籍上の氏を使用しなければ国債を購入することができない金融機関がある(甲148)。 d 令和元年12月10日現在,クレジットカード契約を締結する際,婚姻前の氏の名義の銀行口座があり,かつ,婚姻前の氏を併記した運転免許証により本人確認ができる場合には婚姻前の氏の名義でクレジットカード契約を締結することができる信販会社がある一方で,婚姻前の氏を使用することができない信販会社もある(甲111の5)。 e 令和元年12月5日現在,国税及び地方税を納付し又はその還付を受ける際,婚姻前の氏を使用することはできないが,地方税を自動引落しにより支払う際は,婚姻前の氏の名義の口座を使用することがで- 25 -きる(甲111の4)。 f 令和元年12月18日現在,弁護士が成年後見人,保佐人,補助人又は成年後見監督人,保佐監督人,補助監督人(以下併せて「成年後見人等」という。)の業務を行う際,弁護士会に婚姻前の氏を職務上の氏名として届け出ている場合には,職務上の氏名と戸籍上の氏名を併記した選任の審判がされるが,登記事項証明書には婚姻前の氏が併記されないため,成年後見人等としての職務行為を行う場合には,1回につき500円を要する弁護士会の会員証明書を提示することが必要である(甲111の7)。 g 令和元年12月現在,大手の電気通信事業者3社 ないため,成年後見人等としての職務行為を行う場合には,1回につき500円を要する弁護士会の会員証明書を提示することが必要である(甲111の7)。 g 令和元年12月現在,大手の電気通信事業者3社との間で携帯電話の利用に係る新規契約を締結する際,婚姻前の氏を使用することはできない(甲111の6)。 h その他,不妊治療助成金の申請手続(甲113),生命保険会社における生命保険募集人の登録(甲114),医療機関における同意書への署名(甲37),地方議会議員の氏名(甲125)等につき,婚姻前の氏を使用することができない場面があり,事業所等や地方公共団体によっては給与・年金関係書類や健康保険証について婚姻前の氏の使用が認められないこともある(甲67の9・15,同115,123)。 しかるところ,前記第2の2⑸及び⑹の補正後の引用に係る原判決第2の1⑷キ及び上記の各事実によれば,平成27年最高裁判決以後,①住民票,個人番号カード及び運転免許証に婚姻前の氏を併記できるようになったことに加え,金融庁に対する各種申請の際に役員の婚姻前の氏を併記し又は単独で使用することができるようになったこと,14の国家資格で旧姓(婚姻前の氏)の使用が可能とされていること,公文書においても国家公務員の旧姓使用が全面的に認められ,裁判官を含む裁判所職員及び検察官を含む検察庁職員にも旧姓を使用する者が増えてい- 26 -ること(従前から一定の場合に旧姓(婚姻前の氏)の併記が認められている旅券についても,旧姓併記の要件の緩和等が検討されている。),②一部の金融機関の預金通帳の記載や登録印,一部の信販会社のクレジットカード契約の締結,地方税の納付金の引落し口座及び弁護士の成年後見人等の業務についても,一定の範囲で婚姻前の氏の使用が認められていること 金融機関の預金通帳の記載や登録印,一部の信販会社のクレジットカード契約の締結,地方税の納付金の引落し口座及び弁護士の成年後見人等の業務についても,一定の範囲で婚姻前の氏の使用が認められていることが認められるのであって,査証・航空券の取得,携帯電話の利用に係る新規契約の締結,国税・地方税の納付・還付手続等を含め,戸籍上の氏による本人確認が厳格に求められる場面においては,婚姻前の氏の使用が認められる範囲になお一定の限界はあるものの,社会生活上の様々な手続や場面において,婚姻前の氏の通称としての使用及びその承認が平成27年最高裁判決以後更に社会的に広まっているものということができ,改氏による不利益が婚姻前の氏の通称使用の社会的な広まりによって一定程度緩和されるという状況は同判決以後も徐々に進展を続けているものとみるのが相当である。 したがって,控訴人らの上記主張は,直ちに採用することができず,本件各規定の憲法24条適合性に関する前示の判断を左右するものとは認められない。 カ控訴人らは,婚姻により氏を改めた者のいわゆるアイデンティティの喪失による不利益は,通称使用によっても回避することができない,場において通称と戸籍上の氏名の双方を管理しなければならないのは煩雑で費用もかかる,戸籍上の氏の変更による事務量は膨大で費用もかかるが,夫婦の一方のみにこのような不利益を負わせるのは実質的不平等に反する,被控訴人自身も,通称使用の拡大策が根本的な解決にならないことをはるか以前から認識していたとして,通称使用は夫婦同氏制の不利益を解消するものでも緩和するものでもなく,夫婦同氏制が憲法24条に違反しないことの根拠とはならない旨を主張する。 - 27 -婚姻によって氏を改める者が,そのことによりいわゆるアイデンティティの喪 消するものでも緩和するものでもなく,夫婦同氏制が憲法24条に違反しないことの根拠とはならない旨を主張する。 - 27 -婚姻によって氏を改める者が,そのことによりいわゆるアイデンティティの喪失感を抱いたり,婚姻前の氏を使用する中で形成してきた個人の社会的な信用,評価,名誉感情等を維持することが困難になったりするなどの不利益を受ける場合があることが否定できないことは,前記1(同⑸の補正後の引用に係る原判決第3の1⑶イa)において説示したとおりである一方で,上記オのとおり,婚姻前の氏の使用が認められる範囲になお一定の限界があるとはいえ,社会生活上の様々な手続や場面で,婚姻前の氏の通称としての使用及びその承認が平成27年最高裁判決以後更に社会的に広まっていることにより,夫婦同氏による種々の不利益が更に一定程度緩和されているものと評価することができることは,前記1(同⑹の補正後の引用に係る原判決第3の1⑶イ説示したとおりであるから,通称と戸籍上の氏名の管理や戸籍上の氏の変更による事務量など,控訴人らの主張に係る改氏による不利益を考慮しても,これをもって直ちに本件各規定が個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠くものであるということはできない。 また,証拠(甲116)によれば,平成13年6月29日に開催された男女共同参画会議基本問題専門調査会において,旧姓(婚姻前の氏)の使用を広く浸透させるためには相当のコスト,労力等を伴う旨,旧姓使用を部分的に認めることはかえって他の手続との関係で混乱を生じさせるおそれがある旨,通称使用を広めることは選択的夫婦別氏制の導入に向けての動きをなし崩し的にするものであり,ごまかしであるとの批判を免れない旨の消極意見が出されていることが認められる一方で,選択的夫婦別氏制が導入されていない 広めることは選択的夫婦別氏制の導入に向けての動きをなし崩し的にするものであり,ごまかしであるとの批判を免れない旨の消極意見が出されていることが認められる一方で,選択的夫婦別氏制が導入されていない状況下において旧姓使用を広く社会の末端にまで浸透させることは改姓による職業上の不利益・不都合の軽減につながる旨,運用面・実態面での旧姓使用が広く受け入れられることにより選択的夫婦別氏制の導入に対する抵抗感が薄れることが期待される旨の積極意見も出され- 28 -ていることが認められ,当時,上記専門調査会においては,旧姓使用の拡大について賛否両論の下に議論がされていたものというべきであるから,上記の審議の状況をもって,被控訴人において所論のように通称使用の拡大策が根本的な解決にならないという認識を有していたとは認められず,他に被控訴人においてそのような認識を有していたことを認めるに足りる的確な証拠は存しない。 したがって,控訴人らの上記主張はいずれも採用することができない。 キ控訴人らは,原審において主張した平成27年最高裁判決以後の事情の変更に加え,更なる事情の変更がある旨を主張する。 そこで検討するに,以下の括弧内に掲記した証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 a 総務省統計局が実施した労働力調査(基本集計)の結果,平成30年の女性の就業率は51.3%と前年より1.5%増加し,令和元年の女性の就業率は52.2%と前年より1.1%増加した(甲127)。 また,国立社会保障・人口問題研究所が実施した2015年(平成27年)社会保障・人口問題基本調査の結果,共働き世帯が1114万世帯,専業主婦世帯が687万世帯であったが(甲106),上記の平成30年労働力調査(詳細集計)の結果,共働き世帯が12 15年(平成27年)社会保障・人口問題基本調査の結果,共働き世帯が1114万世帯,専業主婦世帯が687万世帯であったが(甲106),上記の平成30年労働力調査(詳細集計)の結果,共働き世帯が1219万世帯,専業主婦世帯が606万世帯となっており(争いがない。),共働き世帯の数と割合が増加している。 b 女性の有業率は,一般に,学校卒業後の年代で上昇した後,結婚・出産期に一旦低下し,育児が落ち着いた時期に再上昇するといういわゆるM字カーブを描くものとされているところ,昭和62年から10年ごとの推移をみると,平成19年まではM字カーブの底が30歳ないし34歳であったが,平成29年にはM字カーブの底が35歳ないし39歳(有業率72.9%)となっており,平成9年以降,M字カーブ- 29 -の底は上昇傾向にありM字カーブは緩やかになっている(甲105)。 c 厚生労働省人口動態統計によれば,令和元年の出生数は86万人程度と過去最少であった(争いがない。)。また,平成27年から平成30年までの人口動態統計の結果,初婚の妻の平均婚姻年齢は29.4歳である(甲128)。 d 令和元年4月1日,外国人労働者の受入れ拡大を目的とする新たな在留資格を創設した出入国管理及び難民認定法の改正法が施行された(争いがない。)。 e 各種調査等の結果平成30年7月1日に国立社会保障・人口問題研究所が配偶者のある女性を対象に実施した第6回全国家庭動向調査の結果,「夫,妻とも同姓である必要はなく,別姓であってもよい」への賛成割合が50.5%(平成25年は41.5%)であり,30歳代では60. 6%であった(争いがない。)。 令和元年に毎日新聞と埼玉大学社会調査研究センターが共同で実施した調査「日本の世 が50.5%(平成25年は41.5%)であり,30歳代では60. 6%であった(争いがない。)。 令和元年に毎日新聞と埼玉大学社会調査研究センターが共同で実施した調査「日本の世論2019」の結果,夫婦同氏制を支持する者の割合は36%であり,選択的夫婦別氏制を支持する者の割合は35%にとどまったが,18歳から29歳まででは,選択的夫婦別氏制を支持する者の割合が56%であり,夫婦同氏制を支持する者の割合43%を上回った(甲120)。 ⒞ 令和2年1月に朝日新聞社が実施した電話調査の結果,選択的夫婦別姓について賛成と答えた者が69%,反対と答えた者が24%であった。なお,平成27年12月の電話調査では,賛成と答えた者が49%,反対と答えた者が40%であったが,平成29年3月の郵送調査では,賛成と答えた者が58%,反対と答えた者が37%であった。(甲122)- 30 -⒟ 令和元年11月から同年12月にかけて日本経済新聞社が調査会社を通じて全国の働く女性2000人にインターネット上で実施した調査の結果,選択的夫婦別姓については全体の74.1%,未婚者の75.1%が賛成であった(甲143,144)。 令和2年3月に西日本新聞が無料通信アプリLINE(ライン)でつながる通信員に呼び掛けて実施した選択的夫婦別姓に関するアンケートの結果,全体(1821人)の約8割,女性の87.5%,男性の69.8%が夫婦別姓に賛成であり,別姓を選べないために結婚を諦めたり事実婚を選んだりした人の割合は4%であった(甲147)。 ⒡ 令和2年3月から同年4月にかけて朝日新聞社と東京大学の谷口将紀研究室が実施した共同調査の結果,夫婦別姓に賛成と答えた者の割合は57%,どちらとも言えな %であった(甲147)。 ⒡ 令和2年3月から同年4月にかけて朝日新聞社と東京大学の谷口将紀研究室が実施した共同調査の結果,夫婦別姓に賛成と答えた者の割合は57%,どちらとも言えないと答えた者の割合は25%,反対と答えた者の割合は17%であり,平成29年の衆議院議員選挙の際に有権者を対象に行った調査と比べると,夫婦別姓に賛成と答えた者は19%増加していた(甲152)f 平成27年12月18日から令和2年3月27日までの間に,前記第2の2(同⑸の補正後の引用に係る原判決第2の1⑷オ)の43の地方議会(令和元年7月5日まで)に加え,更に47の地方議会(同月6日以降)において選択的夫婦別氏制の導入を求める意見書が採択されている(争いがない。)。 の認定事実によれば,平成30年以降も,晩婚化及び出産年齢の高齢化が進み,結婚・出産を経た後もなお就業を続ける女性の割合が増加し続けている状況の下において,各種調査等の結果,選択的夫婦別氏制を支持する者の割合は,調査によっては,配偶者のある女性や18歳から29歳までの年代に限らず調査対象者全体において過半数を上回- 31 -るものもみられるなど,平成27年最高裁判決以後,選択的夫婦別氏制を支持する者の割合は,前記第2の2(同⑷の補正後の引用に係る原判決第2の1⑷ウ)の平成29年世論調査の結果と比較して増加傾向にあることがうかがわれ,また,平成27年最高裁判決以後に地方議会において採択された意見書の数は90に及んでいるなど,選択的夫婦別氏制の導入を求める意見は徐々に広がりを増している状況にあるといえる。 しかしながら,前記1⑹ないし⑼の補正後の引用に係る原判決第3の1⑶イ及びにおいて説示したところを踏まえると,平成27年最高裁判決以後における上記の諸事情をし りを増している状況にあるといえる。 しかしながら,前記1⑹ないし⑼の補正後の引用に係る原判決第3の1⑶イ及びにおいて説示したところを踏まえると,平成27年最高裁判決以後における上記の諸事情をしんしゃくしても,選択的夫婦別氏制の導入に関しては,今なお,引き続き国会や国民全体における議論を尽くしていくことが求められている段階にあるものというべきであるから,現時点においても,いまだ本件各規定が個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き,国会の立法裁量の範囲を超える状態に至っているとは認められない。 したがって,控訴人らの上記主張はいずれも採用することができない。 ⑷ 自由権規約及び女子差別撤廃条約について控訴人らは,原判決が,①日本の法令や具体的状況が条約に適合しているか否かという条約適合性判断の場面において条約の裁判規範性を否定した点,②婚姻をするために夫婦の氏を必ず同一にしなければならないと強制する本件各規定並びに慣習及び慣行が自由権規約違反及び女子差別撤廃条約違反となるにもかかわらず,これを判断しなかった点,③自由権規約及び女子差別撤廃条約は締約国に差別撤廃の実現のための立法,施策及び救済等を義務付けるものであり,差別撤廃を目的とした法制度,施策及び救済等の国内法上の措置を採らないこと自体が条約違反となることを看過した点において誤っている旨を主張する。 しかしながら,自由権規約2条1項,3項(b),3条及び23条4項並び- 32 -に女子差別撤廃条約2条(f),16条1項(b)及び(g)について,当該各条項の内容等に照らし,我が国の個々の国民に対して直接権利を保障するものということはできないこと,自由権規約17条1項及び23条1項ないし4項についても,各配偶者が婚姻前の姓の使用を保持する権利を保障する 内容等に照らし,我が国の個々の国民に対して直接権利を保障するものということはできないこと,自由権規約17条1項及び23条1項ないし4項についても,各配偶者が婚姻前の姓の使用を保持する権利を保障するものとは認められないことは,前記1(同⑽の補正後の引用に係る原判決第3の1⑷及び⑸)において説示したとおりであるから,上記各条項は,国内法の整備による具体化の措置を採ることなく直接個人の国に対する権利を保障するものとして国内の裁判所において適用可能なものということはできない。 したがって,控訴人らの上記主張はいずれも採用することができない。 ⑸ 以上のほか,当審における控訴人のその余の主張も,実質的に原審における主張を繰り返すもの又はその前提を欠くものであるなど,いずれも前記1(補正後の引用に係る原判決第3の1及び2)及び上記⑴ないし⑷の判断を左右するに足りるものとは認められない。 3 結論以上によれば,控訴人らの請求をいずれも棄却した原判決は相当であり,本件各控訴は理由がないからこれらをいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第16民事部 裁判長裁判官岩井伸晃 裁判官宮島文邦- 33 - 裁判官平城恭子
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