主文 1 原告の主位的請求をいずれも棄却する。 2 被告東電は,原告に対し,33万円及びこれに対する平成27年12月3日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 3 原告のその余の予備的請求を棄却する。 4 訴訟費用は,原告に生じた費用の60分の1と被告東電に生じた費用の30分の1を被告東電の負担とし,原告及び被告東電に生じたその余の費用と被告株式会社a 及び被告b 株式会社に生じた費用を原告の負担とする。 5 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。ただし,被告東電が原告に対して30万円の担保を供するときは,仮執行を免れることができる。 事実及び理由 第1 請求 1 主位的請求被告らは,原告に対し,連帯して,1100万円及びこれに対する平成23年3月24日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 2 予備的請求被告東電は,原告に対し,1100万円及びこれに対する平成27年12月3日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案本件は,原告が,平成23年3月11日に発生した福島第一原子力発電所(以下「本件原発」という。)の事故(以下「本件事故」という。)における緊急作業として,3号機タービン建屋(以下「本件建屋」という。)の地下1階において,電源盤にケーブルを接続する作業(以下「本件作業」という。)を行ったことにより被ばくし,精神的苦痛を被ったと主張して,①主位的に,被告らに対し,安全配慮義務違反及び使用者責任(民法715条)に基づく損害賠償請求として, 慰謝料及び弁護士費用合計1100万円並びにこれに対する平成23年3月24日(本件作業を行った日)から支払済みまで民法所定の年5% 者責任(民法715条)に基づく損害賠償請求として, 慰謝料及び弁護士費用合計1100万円並びにこれに対する平成23年3月24日(本件作業を行った日)から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の連帯支払を求めるとともに,②予備的に,被告東電に対し,原子力損害の賠償に関する法律(以下「原賠法」という。)3条1項に基づく損害賠償請求として,同じく1100万円及びこれに対する平成27年12月3日(訴えの追加的変更申立書送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 2 前提事実⑴ 当事者ア原告(昭和▲年▲月生)は,平成18年頃から株式会社c(以下「訴外会社」という。)に雇用され,本件原発,福島第二原子力発電所,柏崎刈羽原子力発電所等において,原子力発電所の定期点検作業に従事していたものである(甲39,原告本人1頁)。 イ被告東電は,本件原発内の原子炉の運転等に係る原子力事業者(原賠法2条3項)である(弁論の全趣旨)。 ウ被告株式会社a 及び被告b 株式会社(以下「被告株式会社a ら」という。)は,原子力発電所の保守管理等を業とする株式会社である(争いのない事実)。 ⑵ 本件作業を実施するに至る経緯ア平成23年3月11日(特に断らない限り以下の日付は平成23年のものである。)に起きた東北地方太平洋沖地震によって発生した津波により,本件原発の電源が喪失し,原子炉等を冷却することができない状態となった。 3月13日,3号機原子炉を冷却すべく,原子炉圧力容器への注水(以下「本件注水」という。)が開始されるとともに,被告東電は,注水するに当たり必要となるポンプの電源を復旧させるため,受電が確認されていた本件建屋1階の電源盤から,本件建屋 原子炉圧力容器への注水(以下「本件注水」という。)が開始されるとともに,被告東電は,注水するに当たり必要となるポンプの電源を復旧させるため,受電が確認されていた本件建屋1階の電源盤から,本件建屋地下1階の電源盤(以下「本件電源盤」と いう。)まで,仮設電源ケーブルを敷設して接続する作業(本件作業)を行うこととした(弁論の全趣旨)。 イ被告東電は,3月18日,2号機タービン建屋の地下において,復水移送ポンプの点検作業を行ったところ,作業者が保有する個人線量計の数値が約5分間で50mSv に達したため,作業を中断した(乙1の2。以下「2号機事象」という。)。 ウ被告東電は,3月23日,本件建屋地下1階の空間線量を測定したところ,0.5mSv/h 程度であった(乙10)。被告東電は,同日,被告株式会社a に本件作業を発注するに当たり,上記空間線量の測定結果を伝えた(弁論の全趣旨)。 ⑶ 本件作業の受発注関係等本件作業の受発注関係及び作業者は以下のとおりである。以下の6名の作業者を総称して「a チーム」という(作業者名のカッコ内の表記は本判決における呼称を指す。)。なお,作業者名について,以下のとおり,■を「F」,■を「O」,■を「M」と表記する。 ⑷ 本件作業の実施等ア a チームは,3月24日,本件作業を行った。 本件作業開始後に,被告東電の柏崎刈羽原子力発電所に所属する4名の作業員からなる作業チーム(以下「柏崎チーム」という。)が,本件建屋地下1階において,空間線量を測定したところ,線量が高いこと(少なくと 会社名作業者名発注会社被告東電―元請会社被告株式会社 aF,O1次下請会社被告 b 株式会社M2次下請会社 いこと(少なくと 会社名作業者名発注会社被告東電―元請会社被告株式会社 aF,O1次下請会社被告 b 株式会社M2次下請会社訴外会社d , e ,原告 も300mSv/h)が判明したため,柏崎チームが予定していた作業は中止となった(弁論の全趣旨)。 イ a チームが,被告東電から貸与されて携帯していたAPD(警報付ポケット線量計。以下「本件APD」という。)のアラームは,以下のとおり設定されていた(弁論の全趣旨)。 設定条件鳴り方積算4mSv ごとそれぞれ「ピッ」と1回鳴る積算20mSv を超えた場合「ピッピッピッ」と連続して鳴るバッテリーが切れた場合同上⑸ 本件作業当時の関連規定等(概要)ア電離放射線障害防止規則(昭和47年9月30日号外労働省令第41号,以下「電離則」という。)【放射線業務従事者の被ばく限度】(4条) 1 事業者は,管理区域内において放射線業務に従事する労働者(以下「放射線業務従事者」という。)の受ける実効線量が5年間につき100mSvを超えず,かつ,1年間につき50mSv を超えないようにしなければならない。 【緊急作業時における被ばく限度】(7条) 1 事業者は,42条1項各号のいずれかに該当する事故が発生し,同項の区域が生じた場合における放射線による労働者の健康障害を防止するための応急の作業(以下「緊急作業」という。)を行うときは,当該緊急作業に従事する放射線業務従事者については,4条1項の規定にかかわらず,これらの規定に規定する限度を超えて放射線を受けさせることができる。 2 前項の場合において,当該緊急作業に従事する間に受ける線量は,次 する放射線業務従事者については,4条1項の規定にかかわらず,これらの規定に規定する限度を超えて放射線を受けさせることができる。 2 前項の場合において,当該緊急作業に従事する間に受ける線量は,次の各号に掲げる線量の区分に応じて,それぞれ当該各号に定める値を超えないようにしなければならない。 一実効線量については,100mSvイ平成23年東北地方太平洋沖地震に起因して生じた事態に対応するための電離則の特例に関する省令(平成23年3月15日号外厚生労働省令第23号)平成23年東北地方太平洋沖地震に起因して原子力緊急事態宣言がなされた日から原子力緊急事態解除宣言がなされた日までの間の緊急事態応急対策実施区域において,特にやむを得ない緊急の場合は,電離則7条2項の規定の適用については,同項1号中「100mSv」とあるのは,「250mSv」とする。 ウ訴外会社の規定(丁1。以下「訴外会社規定」という。)訴外会社規定には,放射線業務従事者の線量限度に関し,以下の内容が規定されている。 状態実効線量限度通常時80mSv/5年間,40mSv/1年間緊急作業時100mSv/1回災害対策支援業務時40mSv/1回第3 争点及び争点に対する当事者の主張 1 主位的請求に関する争点⑴ 被告らの民法上の損害賠償責任の有無(争点1)⑵ 被告らの安全配慮義務違反の有無(争点2)⑶ 被告らの使用者責任の有無(争点3) 2 主位的請求及び予備的請求に関する争点賠償すべき損害及びその額(争点4) 3 争点に対する当事者の主張⑴ 争点1(被告らの民法上の損害賠償責任の有無)について(原告の主張) 原賠法の目的である,①原 賠償すべき損害及びその額(争点4) 3 争点に対する当事者の主張⑴ 争点1(被告らの民法上の損害賠償責任の有無)について(原告の主張) 原賠法の目的である,①原子力事業者の健全な発達及び②被害者保護の観点からすれば,原賠法の規定は,民法上の不法行為責任等を排除するものではない。すなわち,原賠法上の責任と,民法上の責任を併存させたとしても,保険金等の支払や国による援助は,原賠法上の責任に基づいて行われるから,前記①の目的を阻害しない。原告の被ばくは,原発事故によって当然に生じたものではなく,被告株式会社a の従業員らが,本件建屋の放射線量が高いことを認識しながら,あえて本件作業を続行することを指示し,その場に留まることを強いるという積極的な加害行為によって生じたものであるから,原因に応じた責任追及をすることが同目的に資するし,加害行為をした被告らに不測の損害を負担させないようにする必要性もない。これに対し,原賠法3条1項に基づく損害賠償は,原子力事業者の過失が審理対象から除外されるため,原発事故の原因究明を妨げることとなり,同目的に反する。また,被害者は,原賠法上の責任と,民法上の責任のいずれかを自由に選択すればよいのであり,両責任を併存させることは,前記②の目的を阻害しない。 よって,被告らは民法上の損害賠償責任を負う。 (被告らの主張)原子力事業者が民法上の損害賠償責任を負うとなると,原子力事業者は,軽過失にとどまる第三者に対して求償権を行使でき,賠償金の補てんとしての保険金等の支払や政府による援助を受けることができないこととなるが,このような帰結は原賠法の目的に反する。よって,原賠法が適用される場合,原賠法をも踏まえた損害賠償制度全体の趣旨に基づき,民法の適用は排除されるべきで による援助を受けることができないこととなるが,このような帰結は原賠法の目的に反する。よって,原賠法が適用される場合,原賠法をも踏まえた損害賠償制度全体の趣旨に基づき,民法の適用は排除されるべきであり,被告らは,民法上の損害賠償責任を負わない。 ⑵ 争点2(被告らの安全配慮義務違反の有無)について(原告の主張)ア特別な社会的接触の関係 原告と,被告らとの間には,直接の雇用関係はない。しかし,被告東電は,本件作業に従事する者が被ばくし得る状況を自ら作出している上,多重下請構造の下,本件原発で起きた事故の収束のための具体的な作業を策定するなどしており,被告東電は,安全な作業環境の維持をコントロールできる立場にあった。しかも,本件作業内容は作業に従事する者の生命や健康等に対する危険性の高い現場での作業であり,下請の労働者であった原告の安全を確保するために被告東電の協力及び指揮監督は不可欠であったから,原告と被告東電は特別な社会的接触の関係にある。 また,原告は,被告株式会社a らの支給する設備,器具などを用い,被告株式会社a らの指示に従って本件作業を行っていたのであるから,被告株式会社a らと被告株式会社a らの下請である訴外会社の従業員である原告は,特別な社会的接触の関係に入ったといえる。 以上によれば,被告らは,原告に対し直接の安全配慮義務を負う。 イ予見可能性3月11日以降,本件原発内の放射線量は刻一刻と変動していた上,同月18日に2号機事象が発生して作業員が高濃度汚染水により被ばくをしたことや,3号機についても,2号機同様に,本件注水によっても原子炉格納容器の水位が上昇していなかったことなどからすれば,被告東電は,本件建屋内に汚染水が流入するなどして,本件作業当 より被ばくをしたことや,3号機についても,2号機同様に,本件注水によっても原子炉格納容器の水位が上昇していなかったことなどからすれば,被告東電は,本件建屋内に汚染水が流入するなどして,本件作業当日における本件建屋内の放射線量が極めて高いことが予見可能であった。また,被告株式会社a らは,本件建屋地下1階に原子炉格納容器から漏れた汚染水がたまっており,かつ,本件APDが,積算20mSv を超えた際に鳴るアラームが鳴ったことから,本件作業当日における本件建屋内の放射線量が極めて高いことが予見可能であった。 以上によれば,被告らは,本件作業により原告が被ばくし,生命身体に重大な危険が生じ得ることにつき予見可能であった。 ウ具体的な義務違反について情報伝達義務被告東電は,各地点での最新の放射線量の状況を把握・集計し,各下請業者に対し,常時,必要かつ十分な情報,特に,高度に放射能汚染された水が本件建屋内にたまっている可能性があるという情報を提供する義務を負っていた。また,被告株式会社a らは,被告東電から最新の放射線量に関する情報を入手してa チームに提供する義務を負っていた。 そうであるにもかかわらず,被告東電は,本件作業前日の放射線量につき情報提供したにとどまり,当日の放射線量については本件建屋地下1階の空間線量を測定しておらず,必要な情報を提供していない。また,被告株式会社a らは,被告東電から作業前日の放射線量の測定結果を入手するにとどまり,被告らは前記義務に反している。 吟味検討義務被告らは,本件作業が必要であるか検討する義務を負っていた。また,仮に,本件作業が必要であるとして,被告らは,a チームに対し,2号機事象等の情報を提供する義務を負っていた。 そうであ 被告らは,本件作業が必要であるか検討する義務を負っていた。また,仮に,本件作業が必要であるとして,被告らは,a チームに対し,2号機事象等の情報を提供する義務を負っていた。 そうであるにもかかわらず,被告らは,本件作業の必要性を検討することなく,本件作業を原告らa チームに行わせた上,2号機事象が発生したことに関する情報も提供しておらず,前記義務に反している。 退避指示義務被告らは,a チームに対し,被告東電が貸与した電離箱式サーベイ・メーターを携行させ,放射線管理者を帯同させるなどした上,本件作業の実施前に現場の放射線量を測定させ,予期せぬ放射線量を計測した場合には本件作業を中止するなどの指示を行う義務を負っていた。 しかし,被告らは,柏崎チームが,空間線量が高いため,大声で退避を指示して本件建屋から退避したにもかかわらず,a チームに本件APDを携帯させるのみで前記指示も行っておらず,前記義務に反している。 (被告らの主張)ア特別な社会的接触の関係について被告東電は,本件作業を被告株式会社a に発注したにすぎず,具体的な人員配置や作業手順の決定に関与していない。また,被告株式会社aらは,本件作業中,原告に対して直接の作業指示をした事実はなく,設備や器具を支給したこともないのであり,被告らと原告との間に,特別な社会的接触の関係があるとはいえない。 イ予見可能性について被告東電は,本件作業の前日に現場の線量を測定したところ,0.5mSv/h 程度と高くなかったことに加え,本件作業の当日の時点でも2号機事象の原因・機序が判明しておらず,本件建屋の地下に大量の滞留水が発生するという現象は2号機事象とは全く異なるから,本件作業当日,本件建屋地下1階に汚染水が漏れ出て ,本件作業の当日の時点でも2号機事象の原因・機序が判明しておらず,本件建屋の地下に大量の滞留水が発生するという現象は2号機事象とは全く異なるから,本件作業当日,本件建屋地下1階に汚染水が漏れ出て,放射線量が高くなっている可能性が高いと考えることは困難であった。 当時,現場には津波による水たまりが点在していたから,本件建屋地下1階に水たまりがあることは何ら不自然なことではなかった上,被告東電は,本件作業前日に本件建屋地下1階の空間線量を測定し,現場である本件建屋地下1階の放射線量が0.5mSv/h 程度であると被告株式会社a らに伝えており,そこからわずか半日程度の間に,本件建屋地下1階に,高濃度汚染水が流れ込むことは予見不可能である。 ウ安全配慮義務違反について情報伝達義務について 本件建屋の地下に大量の滞留水が発生するという現象は,2号機事象とは全く異なる上,被告東電は,本件作業の前日に本件建屋内の放射線量が高くないことを確認し伝達しており,これを超えて被告東電が情報伝達義務を負うことはない。 原告に交付された本件APDは,法令の被ばく限度を大きく下回る20mSv に設定されており,その旨の説明はされていたのであるから,被告株式会社a らが,これを超えた情報伝達義務を負うことはない。 吟味検討義務について本件作業は,原子炉及び使用済燃料貯蔵プールの冷却という最優先課題に必要なものであり,かつ,被告東電は,本件建屋地下に汚染水が漏れ出ていることを認識しておらず,認識も不可能であった状況において,被告東電に吟味検討義務違反があるとはいえない。 原告主張の義務内容は抽象的であり,被告株式会社a らが吟味検討義務を負うことはない。 退避指示義務について 可能であった状況において,被告東電に吟味検討義務違反があるとはいえない。 原告主張の義務内容は抽象的であり,被告株式会社a らが吟味検討義務を負うことはない。 退避指示義務について被告東電は,限られた台数のAPDをやり繰りしなければならない状況下において,被告株式会社a に対し,APDを貸与し,APDのアラームが連続的に鳴った場合には速やかに退避するよう求めていたのであり,被告東電に退避指示義務違反があるとはいえない。 原告の被ばく線量は10.81mSv と,本件APDに設定された20mSv を下回っているから,本件作業は,予期された放射線量の範囲内で行われたといえ,被告株式会社a らが退避指示義務を負っていたとはいえない。仮に,同義務を負っていたとして,Mは,柏崎チームが退避し,原告からの報告に基づき現場の放射線量が高いことを知った後,Oにその旨伝え,a チームを直ちに退避させているから,同義務は履行されている。 ⑶ 争点3(被告らの使用者責任の有無)について (原告の主張)ア被告東電の使用者責任柏崎チームは,本件作業の現場の空間線量が400mSv/h であり,直ちに退避しなければならない状況であることを認識し,近くで本件作業をしていたa チームの存在も認識していたのであるから,a チームに対して退避すべき旨助言等する義務を負っていた。 そうであるにもかかわらず,柏崎チームは,a チームに前記助言等をすることなく,自分たちのみ退避しており,不法行為責任を負う。よって,柏崎チームの使用者である被告東電は,使用者責任を負う。 イ被告株式会社a らの使用者責任O,F及びMは,本件建屋地下1階の水たまりが,高度に放射能汚染された水である可能性が高い 崎チームの使用者である被告東電は,使用者責任を負う。 イ被告株式会社a らの使用者責任O,F及びMは,本件建屋地下1階の水たまりが,高度に放射能汚染された水である可能性が高いことを認識していた上,本件作業開始後一,二分で本件APDのアラームが鳴り始めたことから,現場の空間線量が20mSv/h を超える危険な区域であることを認識していた。よって,本件作業を指揮監督する立場にあったO及びFは,現場から直ちに退避するよう指示する義務を,Mは,O及びFに対し直ちに退避する必要があることを助言等する義務を負っていた。 そうであるにもかかわらず,O,F及びMは,本件作業を漫然と続行しており,不法行為責任を負う。よって,O及びFの使用者である被告株式会社a 並びにMの使用者である被告b 株式会社は,使用者責任を負う。 (被告東電の主張)本件作業当時,本件建屋内は真っ暗であり,a チームと別の作業を予定していた柏崎チームの作業員は,a チームの存在を認識していない。a チームは,柏崎チームが本件建屋から免震重要棟に戻ってから間もなく,免震重要棟に戻っており,柏崎チームの助言等がなかったことにより,a チームの退避が遅れ たとはいえない。以上によれば,柏崎チームは不法行為責任を負わないから,被告東電は使用者責任を負わない。 (被告株式会社a らの主張)O及びFは,本件作業当時,消防車等の放水作業により本件建屋地下1階の水たまりができたと考えていた。本件建屋地下1階で作業していたO,F及びMが1階に戻ってきた際,本件APDのアラームが鳴り始めたが,前日の現場線量は低かったことや,1階で待機していた3名の本件APDのアラームは鳴っていないことなどから,O及びFは,このアラームは,本件APDのバ 戻ってきた際,本件APDのアラームが鳴り始めたが,前日の現場線量は低かったことや,1階で待機していた3名の本件APDのアラームは鳴っていないことなどから,O及びFは,このアラームは,本件APDのバッテリー切れによるものと考えていた。a チームは,柏崎チームが退避した旨聞いた後すぐに退去しており,危険な現場にとどまって本件作業を続行したわけではない。 また,Mは,本件作業において指揮監督する立場になく,被告株式会社a の従業員に助言等をする義務もなかった。 以上によれば,O,F及びMは不法行為責任を負わないから,被告株式会社a らは使用者責任を負わない。 ⑷ 争点4(賠償すべき損害及びその額)について(原告の主張)ア慰謝料原告は,作業を継続すべきではない環境下において,本件作業を強要されたことにより,約20mSv の外部被ばく及び13.1mSv の内部被ばくという無用な被ばくを受けた。この被ばく量は,国際放射線防護委員会(ICRP)が定めた基準である年間1mSv をはるかに上回っている。また,100mSv を下回る線量であっても,比例的に発がん等の確率の増加を生じるという考え方(LNTモデル)は,現在の科学的知見に裏打ちされていることからして,原告は,このような大量被ばくをしたことにより,自身の健康状態について強い不安感,恐怖感を抱えて生活をすることを余儀なく されたといえる。被告らは,争点2で述べたとおりの悪質な行為を行っていることも踏まえると,原告が受けた精神的損害は1000万円を下らない。 原告は,作業ごとに個別に説明を受け,これを承諾して作業に従事するものと考えており,本件原発で勤務することから当然に法定の上限までの被ばくを容認していたものではない。また,訴外会社規定 ない。 原告は,作業ごとに個別に説明を受け,これを承諾して作業に従事するものと考えており,本件原発で勤務することから当然に法定の上限までの被ばくを容認していたものではない。また,訴外会社規定があるからといって,原告は訴外会社規定に定められた一回の作業における被ばく限度について説明を受けていないから,同規定に定められた基準値以下の被ばくを容認したということにはならないし,電離則は国が一方的に基準を引き上げたものにすぎない。 イ弁護士費用本件作業に関し訴訟を追行するには弁護士への依頼が必要不可欠といえ,弁護士費用100万円は相当因果関係のある損害である。 ウ小括以上によれば,原告に生じた損害は合計1100万円である。 (被告らの主張)ア慰謝料について本件作業により原告が受けた外部被ばく量は10.81mSv であり,推定最大内部被ばく量(5.8mSv)を考慮しても,被ばく量は合計16.61mSv にとどまる上,本件作業後の原告の白血球数も正常値の範囲を下回るものではない。ICRPは,低線量被ばくによるがんリスク増加を認めていない上,LNTモデルは,放射線防護のための仮定にすぎず,疫学的調査によっても,低線量放射線が腫瘍による死亡率に影響を及ぼすという明確な証拠はない。国際的に合意された科学的知見によれば,原告が受けた程度の被ばく量による健康被害は,喫煙や肥満等の他の要因による発がんの影響に隠れてしまうほど小さく,原告が主張する不安感や恐怖感は,科学 的知見に基づかない漠然としたものにすぎない。また,原告は,訴外会社規定や電離則等が規定する限度や本件APDのアラーム設定値である20mSv までの被ばくがあり得ることを認識し,これを受忍しているところ,本件作業における原告の被ばく ぎない。また,原告は,訴外会社規定や電離則等が規定する限度や本件APDのアラーム設定値である20mSv までの被ばくがあり得ることを認識し,これを受忍しているところ,本件作業における原告の被ばく量は,この限度を大幅に下回っている。以上によれば,原告に損害が発生したと評価される余地はない。 イ弁護士費用について否認又は争う。 第4 争点に対する判断 1 認定事実⑴ 本件事故以前の本件原発での作業状況被告東電は,本件原発における作業を被告東電から請け負う者との契約に適用するための放射線管理仕様書を作成し,平成16年以降これを施行している。同仕様書には,管理区域入域中の遵守事項として,受注者は,作業員の電子式線量計の警報が連続的に鳴った場合は,速やかに当該作業員を管理区域から退避させる旨の規定がある(乙9)。 本件事故以前,作業員が本件原発で作業をする場合,被告東電が放射線量に応じて定める区域に応じた装備を装着していた。すなわち,C区域(作業場所等の表面汚染密度が4から40Bq/㎠の区域)では,専用靴(長靴),カバーオール,二重ゴム手袋,二重の靴下及び呼吸保護具(マスク)を,D区域(作業場所等の表面汚染密度が40Bq/㎠を超える区域)では,C区域の装備に加え,防水雨合羽を着用していた(甲22,39)。また,放射線量が高い区域において作業を行う場合,事前に放射線管理員が作業員に放射線量が高い区域に入ることについて説明し,承諾を得るなどしていた(甲22,原告本人5頁)。 ⑵ 本件事故後,本件作業に至るまでの本件原発の状況 3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震により津波が発生し,1号機から4号機までの各タービン建屋内に海水が流入し,同月12日,1号機原子 に至るまでの本件原発の状況 3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震により津波が発生し,1号機から4号機までの各タービン建屋内に海水が流入し,同月12日,1号機原子炉建屋で水素爆発が発生した。同月13日から本件注水や2号機の原子炉圧力容器への注水が順次開始されたが,同月14日,3号機原子炉建屋で水素爆発が発生した(乙10,弁論の全趣旨)。 3月18日,2号機タービン建屋の地下において,2号機事象が起きた。 なお,2号機事象が発生した際,作業場所には水たまりがあったが,被告東電は,同月26日夕方の時点で,水たまりと高い放射線量との関係については明らかにしていない(乙1の2)。 本件建屋出入口付近の放射線量は,3月20日の午後3時から午後6時までの測定値で35mSv/h から55mSv/h であった(乙11の1)。 3月23日,被告東電は,被告株式会社a に本件作業を口頭で発注し,被告株式会社a はこれを受託した(乙4)。同日,被告東電が本件建屋地下1階の空間線量の測定などの現場確認をしたところ,空間線量率は0.5 mSv/h 程度であり,本件電源盤の前に水たまりはなく,階段下に1㎝から2㎝程度の水たまりがところどころにあった(乙10,16)。被告東電は,被告株式会社a に対し,本件作業の発注に当たり,これらの情報を伝達した(弁論の全趣旨)。 ⑶ 原告が本件作業に従事するまでの経緯ア原告は,平成18年頃から,訴外会社に雇用され,本件事故の2年前頃から本件原発において,電気工事関係の業務に従事していた(甲39,原告本人1頁)。具体的には,原告は,本件原発の集中ラド(汚染廃棄物を焼却して処理する施設)において電気関係の機器のメンテナンス作業に従事しており,主にA区域及びB 係の業務に従事していた(甲39,原告本人1頁)。具体的には,原告は,本件原発の集中ラド(汚染廃棄物を焼却して処理する施設)において電気関係の機器のメンテナンス作業に従事しており,主にA区域及びB区域で作業に従事していたが,汚染密度が高いC区域やD区域での作業に従事したことも数回程度あった(原告本人3,4頁)。 原告は,平成18年9月以降,本件事故までの間,複数回放射線防護に関する教育を受けており,平成20年1月25日には放射線の人体に与える影響等について教育を受けた(甲7,丁4,原告本人39,40頁)。 イ本件事故後,原告は訴外会社から自宅待機を指示されていたが,3月20日,訴外会社から,訴外会社の従業員であるd 及びe と被告株式会社a の事務所に行き,被告株式会社a の指示を受けて本件原発で働くよう指示された。 原告は,3月12日に本件原発の1号機原子炉建屋が,同月14日に本件原発の3号機原子炉建屋がそれぞれ爆発したことは把握しており,本件事故後に本件原発構内は通常時よりも放射線量が高く,緊急作業に従事することで被ばくする可能性があると考えたが,収入を得るためや緊急事態で働くことでその後も安定して雇ってもらえるのではないかなどと考えて,訴外会社の指示に従い,被告株式会社a の事務所に行った(甲39,乙27,原告本人7,37頁)。 原告は3月22日及び23日,被告株式会社a の従業員の指示に従い,被告株式会社a,被告b 株式会社及び訴外会社の従業員らとともに,本件原発の免震重要棟周辺のケーブル敷設作業をした(甲39,原告本人8,9頁)。 その際,原告らは,靴については長靴か短靴か選択するようになっていたほかはD区域で作業する場合と同様の装備(作業服の上にタイベックを着てその上にアノラッ 敷設作業をした(甲39,原告本人8,9頁)。 その際,原告らは,靴については長靴か短靴か選択するようになっていたほかはD区域で作業する場合と同様の装備(作業服の上にタイベックを着てその上にアノラックを着て,顔を全面マスクで,ゴム手袋を二重にして袖口を目張りし,靴下2枚履いていた。)をして作業を行った(甲39,原告本人7,47頁)。 ⑷ 本件作業当日ア本件作業の際の装備等3月24日,原告は,被告株式会社a の従業員から,本件建屋1階の電源盤と本件建屋地下1階にある本件電源盤をつなぐ作業をするように指示を受 け,a チームの一員として本件作業を行うこととなった(甲39,原告本人11頁)。 a チームは本件作業に当たり,防護服上下,ヘルメット,全面マスク,綿手+ゴム手袋二重及び長靴又は短靴という装備を着用し,原告は短靴を選択した。かかる装備は,同月22日及び23日に原告が作業をしたときの装備と同様のものであった(乙16,原告本人47頁)。 また,a チームは各自,APDのアラーム設定値を20mSv に設定するように被告株式会社a の従業員から指示を受けた上で,そのように設定された本件APDを防護服の内側(身体側)に着用した(甲39,乙16,原告本人12頁)。 イ本件建屋内入域後の状況a チームは,3月24日午前10時30分頃,本件建屋1階大物搬入口から本件建屋に入域した(乙16)。入域後,O,F及びM(以下3名を併せて「Oら」という。)は本件建屋地下1階に行き,本件電源盤の確認をして本件建屋1階に戻ったが,その頃,Oらが着用していた本件APD(3名分)が,相次いでピッピッピッと連続して鳴り,積算20mSv を超えた場合又はバッテリーが切れた場合と同様の反応を示した(甲39,乙 本件建屋1階に戻ったが,その頃,Oらが着用していた本件APD(3名分)が,相次いでピッピッピッと連続して鳴り,積算20mSv を超えた場合又はバッテリーが切れた場合と同様の反応を示した(甲39,乙16,原告本人17頁)。Oらが本件建屋地下1階に行った際,本件建屋地下1階には,階段の最下段まで水がたまっていた(乙16)。 Oらが本件建屋1階に戻った際,a チームは,本件作業を継続するかについて話合いをした。原告は,訴外会社の従業員で,立場が原告及びe より上であるd に対して本件作業を中断すべきでないかと述べ,d はOらにその旨述べたが,Oらは,3月23日の本件建屋地下1階の空間線量率に関する事前説明の内容などから,本件APDの上記反応はバッテリー切れによるものと判断し,a チームは本件作業を継続することとなった(甲39,乙10,16,原告本人20,21頁)。 ウ本件作業時の状況Oらは,本件建屋1階の電源盤にケーブルを接続し,そのケーブルを本件建屋地下1階にある本件電源盤に接続するために本件建屋地下1階に降りていった。本件建屋地下1階に降りたOらは,本件建屋1階にいる原告ら訴外会社の従業員に対し,ケーブルを地下1階に下ろすように指示をした。原告は,本件建屋地下1階に自分の体が向かないよう壁で体を隠すようにしながら,同建屋1階の電源盤につないだケーブルを本件建屋地下1階に送り出した。その際,原告が着用していた本件APDが一回ピッと鳴り,積算4mSv を超えた場合の反応を示したが,本件作業を通じて,原告が着用した本件APDが,積算20mSv を超えた場合又はバッテリーが切れた場合と同様の反応を示したことはなかった(甲39,原告本人22,23,42頁)。 Oらは,ケーブルを本件電源盤に接 が着用した本件APDが,積算20mSv を超えた場合又はバッテリーが切れた場合と同様の反応を示したことはなかった(甲39,原告本人22,23,42頁)。 Oらは,ケーブルを本件電源盤に接続した後,原告ら訴外会社の従業員に対し,ケーブルが濡れないよう,ケーブルの余分な部分を固縛するよう指示した。訴外会社の従業員は,誰が固縛作業をするかを話し合ったが,その際,原告は,d に対し,固縛作業はできない旨断るなどしたため,d が本件建屋地下1階で固縛作業を行った。d が固縛作業を行っていた際,d が着用していた本件APDが積算20mSv を超えた場合又はバッテリーが切れた場合と同様の反応を示した(甲39,乙16,原告本人24,48頁)。 エ柏崎チームの本件建屋入域及び退域本件作業開始後に,柏崎チームが,本件作業と別の作業をするために本件建屋に入域し,地下1階において空間線量を測定したところ,線量が高いこと(少なくとも300mSv/h)が判明したため,柏崎チームは,本件建屋から退避し,予定していた作業は中止となった(弁論の全趣旨)。 オ a チームの本件建屋退域及びその後の経緯午後12時頃,a チームは,本件作業を終えて本件建屋を退域し,免震重要棟に戻った(乙16)。 免震重要棟でa チームが着用していた本件APDの値を確認したところ,Oらの外部被ばく量は173.0mSv から180.1mSv といずれも100mSv を超えるものであったほか,d の外部被ばく量は56.72mSv であった(乙16)。 なお,a チームが本件建屋を退域後,被告東電が本件建屋の出入箇所の放射線量を測定したところ,その測定値は10mSv/h から30mSv/h であった(乙2,11の2,11の3)。 。 なお,a チームが本件建屋を退域後,被告東電が本件建屋の出入箇所の放射線量を測定したところ,その測定値は10mSv/h から30mSv/h であった(乙2,11の2,11の3)。 ⑸ 本件作業後の事情原告は,本件作業を行った3月24日以降も本件原発での緊急作業に従事し,同月29日に0.07mSv,同月30日に0.36mSv,同月31日に2. 25mSv,4月1日に0.75mSv の外部被ばくをした(丙4)。 ⑹ 原告の被ばく量及び白血球数等ア被ばく量認定事実⑷オのとおり,本件作業を終えたa チームが着用していた本件APDの値を確認したところ,原告の被ばく量は10.81mSv であり,原告自身も本件作業によって被ばくした量は11mSv である旨述べている(甲39・9頁,乙16,27,丙4)。 原告の個人線量管理簿には,原告の平成23年3月の放射線被ばく量は20.52mSv で,平成18年4月から平成23年3月までの5年間に被ばくした累積線量は26.82mSv である旨の記載がある(甲6)。また,原告の放射線管理手帳には,原告の3月12日から同月31日までの間の外部被ばく量が20.49mSv である旨の記載がある(甲7)。そして,原告は4月16日に健康診断を受診しているところ,原告の健康診断個人票には,前回の健康診断後に受けた実効線量として,外部被ばくによる実効線量及び合計実効線量が20.63mSv である旨の記載がある(甲41)。 平成25年8月,被告株式会社a は,原告に対し,平成23年3月の作業における内部被ばくの評価値が13.1mSv である旨の説明資料を作成した。 なお,同書面には,原告がヨウ素及びセシウムを摂取した日は3月21日として内部被ばく量を計算した旨の ,平成23年3月の作業における内部被ばくの評価値が13.1mSv である旨の説明資料を作成した。 なお,同書面には,原告がヨウ素及びセシウムを摂取した日は3月21日として内部被ばく量を計算した旨の記載及び内部被ばく量の評価において3月24日との因果関係はなく,3月24日に摂取したとすると,評価値は5. 8mSv となる旨の記載がある(甲8の1)。 イ原告の白血球数の値4月16日時点の原告の白血球数は7780個/㎣であり,9月24日時点における原告の白血球数は8650個/㎣である(甲41)。また,原告の平成30年12月11日時点における白血球数は大体9000個/㎣である(原告本人34頁)。また,4月16日時点の診断において,原告の眼,皮膚には異常はなく,医師の診断としても,特記すべきことはない旨記載されている(甲41)。 なお,一般社団法人半田市医師会健康管理センターのホームページでは,白血球数の基準値は,3500から9500個/μℓ(㎣)とされている(乙28)。 ⑺ 放射線に関する科学的知見等ア放射線量の単位について物質が受けた放射線の吸収線量を表す単位(放射線が物や人に当たった時にどれくらいのエネルギーを与えたのかを表す単位)として,「グレイ(Gy)」がある。1Gy は,1kgの物体につき1ジュールのエネルギーを吸収したことに相当する。また,放射線の生物に対する影響の程度(等価線量又は実効線量)を表す単位(放射線が人に対してがんや遺伝性影響のリスクをどのくらい与えるのかを評価するための単位)として,「シーベルト(Sv)」がある。大気中の1Gy は1Sv に換算できる。また,1Sv は 1000mSv である(甲11・26,27頁,20の10,20の11・11頁,40,42,乙 ーベルト(Sv)」がある。大気中の1Gy は1Sv に換算できる。また,1Sv は 1000mSv である(甲11・26,27頁,20の10,20の11・11頁,40,42,乙13,20の1)。 イ ICRPの2007年勧告(甲11,丙6)国際放射線防護委員会(ICRP)は,放射線防護の基本的枠組みと防護基準について専門家の立場で勧告する国際学術組織であり,ICRPが平成19年に発出した勧告には要旨以下の記載がある。 放射線被ばくによる有害な健康影響の大部分は,①高線量被ばく後の細胞死(有害な組織反応)と②確率的影響すなわちがん及び遺伝性影響の2つの一般的カテゴリ―に分類できる。 上記①について,約100mGy までの吸収線量域では,どの組織も臨床的に意味のある機能障害を示すとは判断されない。この判断は,1回の急性線量と,これらの低線量を反復した年間被ばくにおける遷延被ばくの形で受ける状況の両方に当てはまる。 上記②について,がんのリスクに関して,約100mSv 以下の線量において不確実性が存在するとしても,疫学研究及び実験的研究が放射線リスクの証拠を提供し,遺伝性疾患の場合,人に関する放射線リスクの直接的な証拠は存在しないが,実験的観察からは,将来世代への放射線リスクを防護体系に含めるべきとの説得力のある議論がされている。放射線防護の目的には,約100mSv を下回る低線量域では,がん又は遺伝性影響の発生率が関係する臓器及び組織の等価線量の増加に正比例して増加するであろうと仮定するのが科学的にもっともらしいという見解を支持すると委員会は判断している。 したがって,委員会が勧告する実用的な放射線防護体系は,約100mSv を下回る低線量においては,ある一定の線量 科学的にもっともらしいという見解を支持すると委員会は判断している。 したがって,委員会が勧告する実用的な放射線防護体系は,約100mSv を下回る低線量においては,ある一定の線量の増加はそれに正比例して放射線起因の発がん又は遺伝性影響の確率の増加を生じるであろうという仮定(LNTモデル)に引き続き根拠を置くこととする。委員会は LNTモデルを引き続き利用することが,放射線防護の実用的な目的すなわち低線量被ばくによるリスクの管理に対して慎重な根拠を提供すると考える。 他方,委員会は,LNTモデルが実用的なその放射線防護体系において引き続き科学的にも説得力がある要素である一方,このモデルの根拠となっている仮説を明確に実証する生物学的,疫学的知見がすぐには得られそうにないということを強調しておく。低線量における健康影響が不確実であることから,委員会は,公衆の健康を計画する目的には,非常に長期間にわたり多数の人々が受けたごく小さい線量に関連するかもしれないがん又は遺伝性疾患について仮想的な症例数を計算することは適切ではないと判断する(以上,甲11・15~19頁)。 また,ICRP2007年勧告の付属書には,がんリスクの推定に用いる疫学的方法は,およそ100mSv までの線量範囲でのがんのリスクを直接明らかにする力を持たないという一般的な合意があるとの記載がある(丙6)。 ウ UNSCEARの2010年報告(甲10の1,10の2,丙5)原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)が平成22年に発した報告には以下の記載がある。 本委員会は,受けた放射線量とがん誘発リスクの関係,つまり線量反応関係を調べるために疫学データを用いてきた。統計学的に有意なリスク上昇は10 成22年に発した報告には以下の記載がある。 本委員会は,受けた放射線量とがん誘発リスクの関係,つまり線量反応関係を調べるために疫学データを用いてきた。統計学的に有意なリスク上昇は100から200mGy 又はそれ以上で観察される。疫学研究だけでは,これらのレベルを大きく下回る場合の有意なリスク上昇を同定することはできそうにない(丙5)。 低線量の放射線であっても,発がんのリスクを上昇させるようなDNAの突然変異が発生する確率はとても小さいがゼロではないというのがあり得べき状況である。現在,手に入る証拠は,低線量及び低線量率においてがん を誘発する変異要素については反応にしきい値がないことを支持する方向に傾いている(甲10の2)。 エ低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ報告書(乙13)本件事故後,原発事故の収束及び再発防止担当大臣の要請に基づき,国内外の科学的知見や評価の整理,現場の課題の抽出,今後の対応の方向性の検討を行う場として,「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ(以下「ワーキンググループ」という。)」が設置された。 ワーキンググループが,11月から12月にかけて計8回開催された検討会の結果として取りまとめた12月22日付け報告書では,要旨以下の内容が報告されている。 科学的知見と国際的合意(乙13・3頁)放射線の影響に関しては様々な知見が報告されているため,国際的に合意されている科学的知見を確実に理解する必要がある。国際的合意としては,科学的知見を国連に報告している原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR),世界保健機関(WHO),国際原子力機関(IAEA)等の報告書に準拠することが妥当である。 現在の科学で分か 的知見を国連に報告している原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR),世界保健機関(WHO),国際原子力機関(IAEA)等の報告書に準拠することが妥当である。 現在の科学で分かっている低線量被ばくのリスク(乙13・3,4頁)低線量被ばくによる健康影響に関する現在の科学的な知見は,主として広島・長崎の原爆被ばく者の半世紀以上にわたる精緻なデータに基づくものであり,国際的にも信頼性は高く,UNSCEARの報告書の中核をなしている。 広島・長崎の原爆被ばく者の疫学調査の結果からは,被ばく線量が100mSv を超える辺りから,被ばく線量に依存して発がんのリスクが増加することが示されている。 他方,国際的な合意に基づく科学的知見によれば,放射線による発がんリスクの増加は,100mSv 以下の低線量被ばく線量では,他の要因に よる発がんの影響によって隠れてしまうほど小さいため,放射線による発がんリスクの明らかな増加を証明することは難しいとされる。疫学調査以外の科学的手法でも,同様に発がんリスクの解明が試みられているが,現時点では人のリスクを明らかにするには至っていない。 放射線による健康リスクの考え方(乙13・8~10頁)放射線防護や放射線管理の観点からは,100mSv 以下の低線量被ばくであっても,被ばく線量に対して直線的にリスクが増加するという安全サイドに立った考え方(LNTモデル)に基づき,被ばくによるリスクを低減するための措置を採用するべきである。これは,科学的に証明された真実として受け入れられているのではなく,科学的な不確かさを補う観点から,公衆衛生上の安全サイドに立った判断として採用されている。線量に対して直線的にリスクが増えるとする考え方はあくまで被ばくを た真実として受け入れられているのではなく,科学的な不確かさを補う観点から,公衆衛生上の安全サイドに立った判断として採用されている。線量に対して直線的にリスクが増えるとする考え方はあくまで被ばくを低減するためのいわば手段として用いられる。しかし,この考え方に従って,100mSv 以下の極めて低い線量の被ばくのリスクを多人数の集団線量の適用して単純に死亡者数等の予測に用いることは不確かさが非常に大きくなるため,不適切である。 そして,LNTモデルは重要であるが,リスクの程度の比較という観点のみからみると,現在の避難指示の基準である年間20mSv 被ばくすると仮定した場合の健康リスクは,例えば,他の発がん要因(喫煙,肥満,野菜不足等)によるリスクと比べても十分に低いこと,放射線防護措置に伴うリスク(避難によるストレス,屋外活動を避けることによる運動不足等)と比べられる程度と考えられる。 オ意見書等医師f(以下「f 医師」という。)の意見書及び添付資料(乙20の1,21から24) f 医師は長期間にわたり放射線医としてがん患者の治療に携わるとともに,放射線医学研究に従事してきた医師であるところ,本意見書は,放射線による低線量被ばくと健康影響に関する一般的な科学的知見について,放射線の専門医学者の立場から作成されたものとして,以下の知見が示されている。 a 放射線被ばくによる発がんリスク(乙20の1・3頁)100mSv の被ばくによる健康リスクは,「喫煙」,「大量飲酒」(毎日3合程度を想定),「肥満」といった生活上の要因によるリスクと比較し,これらの生活上の要因によるリスクをも下回るものであり,そもそも検出することが困難である。野菜不足ですら,100から200mSv の放射 を想定),「肥満」といった生活上の要因によるリスクと比較し,これらの生活上の要因によるリスクをも下回るものであり,そもそも検出することが困難である。野菜不足ですら,100から200mSv の放射線被ばくに相当するものであり,100mSv 以下の放射線被ばくによる影響は,いわば様々なリスクファクターによる誤差・ノイズの中に埋没してしまうほどリスクの程度が低く,100mSv よりもさらに低い線量の放射線被ばくであれば,さらにその影響は小さく,他の要因による影響に隠れてしまうほどである。放射線被ばくの影響だけを取り出してその影響を客観的に確認・認識することは極めて困難であり,今後も認識はできないのではないかと考えられる。この点について,「低線量被ばくの影響は今なお不明であり,解明されていない」という形で説明されることがあるが,正確には,100mSv よりも低い低線量被ばくの健康影響はそれほど小さいものであるがゆえに,それ自体のリスクを客観的に認識・把握することができない(それほどリスクは小さい)ということである。 b 放射線被ばくと発がんに関する疫学調査(乙20の1・4頁)広島・長崎の被ばく者の疫学調査の知見によれば,被ばく線量(短時間)が200mSv を超えると,被ばく線量とともにがんのリスクが上昇していくことが判明している。100mSv では,死亡率が0.5%上昇 するが,人はがんにより死亡するリスクが20パーセント程度存在するため,そのようなリスクの割合が,100mSv の被ばくによって20. 5%になるということである。 他方,100mSv 以下の被ばく線量では,有意なリスクの増加は確認されていない。その理由としては,そのような低い放射線被ばくのリスクについては,他の発がん要因の影響によって隠れて ある。 他方,100mSv 以下の被ばく線量では,有意なリスクの増加は確認されていない。その理由としては,そのような低い放射線被ばくのリスクについては,他の発がん要因の影響によって隠れてしまい,これを科学的に実証して認識・把握することができないためである。 c 放射線による発がんの「閾値」とLNT仮説(乙20の1・5,6頁)放射線被ばくにより発がんすることについて,放射線被ばく線量の「閾値」(これ以下であれば発がんの要因にはならないとする限界値,しきい値と同義である。)が存在する可能性はあるが,「閾値」が存在することを証明するには膨大なデータが必要であるため,科学的に検証し実証することは困難であると考えられる。したがって,低線量域であっても発がんリスクは直線的に増えるだろうと考えた方が,安全に配慮した考え方ないし見方になる。これがLNTモデル(LNT仮説)という考え方であるが,これはそうした安全に配慮した一種の「安全哲学」であって,科学的に実証されているものではない。臨床医としての経験から,わずかな被ばくであっても遺伝子の損傷は生じ,それによりがん細胞が発生するが,免疫細胞ががん細胞を殺している(免疫監視機構)のであり,かかる視点がLNTモデルには欠けている。 ICRPは放射線防護の観点から,安全管理上,LNTモデルの前提を採用しているが,LNTモデルは,あくまで安全管理上の考え方の一つであって,そこに科学的なデータの裏付けがあるわけではない。 医師g(以下「g 医師」という。)の意見書等(甲40,42) g 医師は,約25年間,h 研究所の研究員として放射線による試験管内発がんの研究等を行ってきたほか,同研究所退職後は,i 委員会の委員として調査に関与するなどした医師で 2) g 医師は,約25年間,h 研究所の研究員として放射線による試験管内発がんの研究等を行ってきたほか,同研究所退職後は,i 委員会の委員として調査に関与するなどした医師である。本意見書は,放射線の生物影響,被ばくによる発がんメカニズム,近年発表された低線量放射線リスクの疫学調査結果等について説明するとともに,前記f 医師の意見書を批判するものであるところ,要旨以下の記載がある。 a 放射線が健康に与える影響(甲40・5~8頁)放射線のエネルギーはけた違いに大きく,生体内には放射線によって切断できない分子は存在しない。そのため,けた違いのエネルギーを持った放射線が生体を通ることは生体にとってとんでもない破壊行為となり,仮に1本の放射線が通っても生体に傷害を与え得る。 放射線が健康に与える影響は線量により異なるが,低線量であっても放射線が身体を貫通すればその飛跡に添って必ず電離が起きるので生体内分子に影響は起きており,それがDNAであれば後にがん等を発症する可能性は否定できない。がんや遺伝的障害は一定時間を経て発症するので晩発傷害という。晩発傷害はある確率で発症するのでこれを確率的影響という。 b 放射線によるDNA損傷と発がん(甲40・9~12頁)生物個体の生命にとってDNAが変化しないことが重要であるが,放射線がDNAに当たるとDNAは切れるとともに周辺にある蛋白質や脂質等をも傷つけて複雑損傷となる。複雑なDNA損傷が起こった場合,正常に修復される場合もあるが,発がんしやすい性質の細胞に変異することもあり,場合によっては修復不能となって細胞の老化につながる可能性もある。 なお,実際に臨床的にがんと診断され,疫学調査に組み入れられるのは最終的にがんが発症した場合であるから,すべて こともあり,場合によっては修復不能となって細胞の老化につながる可能性もある。 なお,実際に臨床的にがんと診断され,疫学調査に組み入れられるのは最終的にがんが発症した場合であるから,すべてのメカニズムが考 慮済みである。すなわち,LNTモデルは,遺伝子損傷修復,免疫監視機構等の全てを考慮して得られた結果であり,これと異なる趣旨を述べるf 医師の意見は大きな誤解があるといわざるを得ない(甲40・12,34頁)。 c 100mSv 以下でがん死率が増加したことを示す疫学調査報告(甲40・13~26頁)広島・長崎の原爆被爆者の寿命調査(甲12,14),核施設から排出された核廃棄物による放射能汚染を受けたテチャ川流域住民におけるがん死の調査(1956年-2002年),核施設労働者におけるがん死リスクを調査した「低線量電離放射線によるがんリスク:15ヶ国における後ろ向き調査」(2005年),フランス,英国,米国の各施設労働者を平均26年間追跡調査したコホート研究(甲34の1,34の2)などの低線量放射線被ばくに関する疫学調査結果はいずれもLNTモデルを支持しており,100mSv 以下の被ばくにおいても発がん,がん死リスクは,他の要因に隠れることなく線量に比例して増加することが実証されている。 d f 医師の意見書の問題点(甲40・27~41頁)f 医師の意見書は,近年明らかになった疫学調査結果に触れていないことのほか,喫煙等の生活習慣因子を放射線と同列に比較したり,LNTモデルはICRPの2007年勧告やその他の報告書によって科学的裏付けが示されているにもかかわらず科学的根拠がないとしたりするなどの問題点を有している。 医師j(以下「j 医師」という。)の意見書及び添付資料(甲19,20の1から の報告書によって科学的裏付けが示されているにもかかわらず科学的根拠がないとしたりするなどの問題点を有している。 医師j(以下「j 医師」という。)の意見書及び添付資料(甲19,20の1から20の37まで)j 医師は,約30年間,広島において原爆被爆者に対する医療等を行い,2009年に福島に転居し,本件事故後は住民に放射線の基礎的な知識, 放射線の人体障害についての説明を行うなどしてきた医師である。本意見書は,放射線の生物学的影響に関する基礎的知見と疫学的知見を概説するほか,本件事故の放射能汚染と避難によって作られたリスクの特性等について言及するものであり,以下の記載がある。 低線量域における点推計値は,一定の発症率を示すものでも疫学的有意性は得られないということになる。100mSv 以下で有意性が確認されなかったという表現は,このような意味なのである。様々な発がん因子に取り囲まれて生活している人間社会においては,特に低線量域で放射線被ばくのみのリスクを検出することは事実上不可能な場合が多く,もっと正確にいえば他の発がん因子との共同成因的関与で発がんに至っていることが実際だからである。 しかし,そのことは低線量域で被ばくによる発がんリスクが存在しないこと,関与していないことを意味していることではない。 原爆被ばく者の疫学データが示した線形性相関関係の意義は,ごく低い線量から被ばく線量の増大にしたがってリスクも増大していると理解するものであり,安全側に立った立場(放射線防護の立場)を支えているものである。 発がんリスクは相対的高線量域(180mGy 以上)から低線量域へ向けて,いずれかのルートをとって低下していることになる。 しかし,いずれにしても原点(0)にたどり着くま である。 発がんリスクは相対的高線量域(180mGy 以上)から低線量域へ向けて,いずれかのルートをとって低下していることになる。 しかし,いずれにしても原点(0)にたどり着くまでリスクは維持されることになる。 カ本件に関連する被ばくによる健康影響に関する疫学調査及び論文原爆被ばく者の死亡率調査及び死亡率に関する研究(甲12,14,丙8) 公益財団法人放射線影響研究所は,原爆放射線の健康影響を明らかにするため,原爆被ばく者集団の死亡率などを追跡調査し,定期的に報告書を作成している。 原爆被ばく者の死亡率調査第13報(甲12)の要約欄には,固形がんの過剰リスクは,0から150mSv の線量範囲においても線量に関して線形であるようである旨,新しい所見として,相対リスクは到達年齢とともに減少することが認められる旨,子どものときに被ばくした人において相対リスクは最も高い旨記載されている。 また,原爆被ばく者の死亡率に関する研究第14報(甲14,丙8)の要約欄には,全死亡のリスクは,放射線量と関連して有意に増加した旨,全固形がんについて,過剰相対危険度が有意となる最小推定線量範囲は0から0.2Gy であり,定型的な「線量閾値解析」(線量反応に関する近似直線モデル)では「閾値」は示されず,ゼロ線量が最良の「閾値」推定値であった旨記載されている。 放射線量モニターを受けた労働者における電離放射線と白血病およびリンパ腫による死亡リスク(INWORKS):国際コホート研究(甲34の1,34の2)本研究は,フランス,英国,米国で雇用されている放射線量モニターを受けた成人労働者について,長期間の低線量放射線被ばくと白血病やリンパ腫,多発性骨髄腫による死亡との相関関係を調べたもの 34の2)本研究は,フランス,英国,米国で雇用されている放射線量モニターを受けた成人労働者について,長期間の低線量放射線被ばくと白血病やリンパ腫,多発性骨髄腫による死亡との相関関係を調べたものである。 原子力産業の従事者として1年以上雇用された放射線量モニターを受けた労働者を対象として白血病,リンパ腫,多発性骨髄腫が原因の死亡を確認し,推定吸収線量と白血病等の死亡との間の相関関係を定量的に評価した。吸収線量は,極めて低い割合で増加した。白血病死亡の過剰相対リスクは1Gy 当たり2.96であり,そのほとんどは,放射線量と慢性骨髄性白血病による死亡の間の相関関係によるものであった。本研究 は長期間の低線量放射線被ばくと白血病との間に正の相関関係があることを示す強いエビデンスがあることを示している。 原子力発電施設等放射線業務従事者等に係る疫学的調査(丙2)本報告は,放射線業務従事者の個人被ばく線量を利用して低線量域放射線が人体に与える健康影響について科学的知見を得ることを目的に,文部科学省からの委託業務として,財団法人放射線影響協会が平成2年度から開始し,平成21年度まで実施した「原子力発電施設等放射線業務従事者等に係る疫学的調査」の成果を取りまとめたものである(丙2・1頁)。 放射線業務に従事した者を対象者として,低線量域放射線の健康影響に関する疫学調査を行った結果を評価すると,外部比較(対象者の死亡率が全日本人男性(20歳以上85歳未満)死亡率に比べて高いか否かの検討)では,慢性リンパ性白血病を除く白血病の死亡率は全日本人男性死亡率に比べて有意差が認められなかった。また,白血病を除く全悪性新生物の死亡率は,全日本人男性死亡率に比べ有意に高かったが,これは肝臓,肺の悪性新生物の死亡率が有意に高い 病の死亡率は全日本人男性死亡率に比べて有意差が認められなかった。また,白血病を除く全悪性新生物の死亡率は,全日本人男性死亡率に比べ有意に高かったが,これは肝臓,肺の悪性新生物の死亡率が有意に高いことが寄与しているものと考えられ,喫煙,飲酒といった生活習慣等の影響の可能性を否定できない(丙2・4頁)。 内部比較(対象者を年度別被ばく線量の累積値により10,20,50及び100mSv を区切りとする5群に分類し,累積線量の増加に伴って死亡率が増加する傾向があるか否かの検討)では,慢性リンパ性白血病を除く白血病の死亡率に,累積線量の増加に伴う有意の増加傾向は認められなかった。白血病を除く全悪性新生物の死亡率には有意の増加傾向が認められた。しかし,白血病を除く全悪性新生物から肺の悪性新生物を除外した場合には,累積線量に伴う有意の増加傾向は認められなかった。また,悪性新生物(固形がん)を喫煙関連及び非喫煙関連の悪性新 生物に分類した調査では,累積線量に伴って喫煙関連の悪性新生物の死亡率に有意の増加傾向が認められた。しかし,喫煙関連の悪性新生物から肺の悪性新生物を除外した場合及び非喫煙関連の悪性新生物の死亡率には有意の増加傾向は認められなかった。このようなことから,累積線量に伴って白血病を除く全悪性新生物の死亡率に有意の増加傾向が認められたのは,喫煙等による生活習慣等の交絡による影響の可能性を否定できない(丙2・4頁)。 以上によれば,総合評価として,低線量域の放射線が悪性新生物の死亡率に影響を及ぼしている明確な証拠は認められなかったといえる。今後の課題として,低線量域放射線と健康影響について,より信頼性の高い科学的知見を得るために今後ともこの放射線疫学調査を継続する必要がある(丙2・5頁)。 キそ 拠は認められなかったといえる。今後の課題として,低線量域放射線と健康影響について,より信頼性の高い科学的知見を得るために今後ともこの放射線疫学調査を継続する必要がある(丙2・5頁)。 キその他,LNTモデルに言及する論文,文献等における説明米国科学アカデミーによるBEIRⅦ報告書及びその概要(甲13の1,13の2,丁3)平成17年6月,米国科学アカデミーは,低線量被ばくが健康に与える影響についてBEIRⅦ報告書を発表した。同報告書では,LNTモデルから予想されるリスクより大きいという見解も,LNTモデルから推計されるものよりも小さいという見解も採用できないとした上で,放射線被ばくとそれによって誘発された人間の固形がんの発生の間には線形の線量―応答関係が成り立つという仮説は最近の研究が示す科学的証拠と矛盾しないとするとともに,当委員会は,それ以下だとがんは誘発されないというしきい値が存在するとは考えないが,ただ,低線量域でのがんの誘発はあっても少ないだろうとみなしているとしている。 平成17年3月に公表されたフランス医学アカデミー及びフランス科学アカデミー作成の報告書「低線量電離放射線による発がん効果の評価と線量効果関係」の概要(丙9)200mSv から5000mSv の電離放射線による発がんのリスクは,数多くの疫学データに基づくものである。この線量範囲では,LNT仮説は,線量と発がん影響との関係をよく表すことができる。他方,100mSv 以下の低線量域では,リスクが増加したとしてもごく僅かであるため,疫学により統計的に有意なリスクを検出することは難しいのが現状である。 低線量や極低線量のリスクを外挿して評価するためにLNTモデルを用いることには注意を払う必要がある。 であるため,疫学により統計的に有意なリスクを検出することは難しいのが現状である。 低線量や極低線量のリスクを外挿して評価するためにLNTモデルを用いることには注意を払う必要がある。 LNTモデルは,約10mSv を超える線量の放射線防護規則を定めるためには,実用的で便利なツールになり得るが,現在の生物学的概念知識に立脚しているとはいえない。 独立行政法人放射線医学総合研究所編著の「改訂版虎の巻低線量放射線と健康影響」(丙7)人間集団では放射線以外にもがん発生に関係する様々な因子が存在するため,約100mSv 以下の放射線の影響を検出することは極めて難しい。 また,同じ100mSv を,少しずつ時間を掛けて浴びる場合は,1回で浴びた場合よりもがん発生のリスクは少なく,2分の1程度以下という知見もたくさん得られている。 こうした知見から,実際には100mSv 以下の放射線なら,発がんリスクはかなり小さいといえるが,どのくらいなのかというはっきりとした数値が得られていない。どのくらいの線量でどのくらいの影響が出るのかというのが明らかではないので,管理の上では,100mSv 以上の放射線の影響と同様,線量と比例関係で影響が出るものと仮定している。こ の仮定が科学的ではないという批判もあるが,影響を大きめに見積もっておけば安全であるという考え方から,放射線の防護の分野では国際的に採用されている。 一般財団法人電力中央研究所原子力技術研究所放射線安全研究センターによる説明(丁2)100mSv 程度よりも低い線量では発がんリスクの有意な上昇は認められていない。これよりも低い線量域では,発がんリスクを疫学的に示すことができない。LNTモデルは,確たる情報に乏しい低線量の範囲に 100mSv 程度よりも低い線量では発がんリスクの有意な上昇は認められていない。これよりも低い線量域では,発がんリスクを疫学的に示すことができない。LNTモデルは,確たる情報に乏しい低線量の範囲について,放射線防護の立場からリスクを推定するために導入されたものである。低線量放射線の影響についてはよく分からないが,影響があると考えた方が安全だという考え方に基づいたもので,科学的に解明されたものではないことから,仮説と呼ばれている。ICRPでも,LNTモデルは放射線管理のためにのみ用いるべきであり,既に起こった僅かな線量の被ばくについてのリスクを評価するために用いるのは適切でないとしている。 ⑻ 中間指針(乙12)本件事故による損害賠償の基準の策定のため,原賠法18条に基づき,原子力損害賠償紛争審査会(以下「原賠審」という。)が文部科学省に設置され,原賠審は,8月5日,「東京電力株式会社福島第一,第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針」(以下「中間指針」という。)を策定した。 その中で,放射線被ばくによる損害について,本件事故の復旧作業等に従事した原発作業員等が本件事故に係る放射線被ばくによる急性又は晩発性の放射線障害により,傷害を負い,治療を要する程度に健康状態が悪化し,疾病にかかり,あるいは死亡したことにより生じた逸失利益,治療費,薬代,精神的損害等は賠償すべき損害と認められるとされており,備考において,放射線被 ばくによる生命・身体的損害については,晩発性の放射線障害も考えられるが,本件事故に係る放射線にばく露したことが原因であれば,これも賠償すべき損害と認められるとされている。 2 争点1(被告らの民法上の損害賠償責任の有無)について⑴ 原賠法の規定の えられるが,本件事故に係る放射線にばく露したことが原因であれば,これも賠償すべき損害と認められるとされている。 2 争点1(被告らの民法上の損害賠償責任の有無)について⑴ 原賠法の規定の検討原賠法は,被害者の保護及び原子力事業の健全な発達を目的として,原子力損害に関する損害賠償について基本的な制度を定めている(同法1条)。具体的には,核燃料物質の原子核分裂の過程の作用又は核燃料物質等の放射線の作用若しくは毒性的作用(これらを摂取し,又は吸入することにより人体に中毒及びその続発症を及ぼすものをいう。)により生じた損害である原子力損害(同法2条2項本文)に関する原子力事業者の無過失責任(同法3条1項),原子力事業者への賠償責任の集中(同法4条1項),過失がある第三者への求償権の制限(同法5条1項)を規定するほか,原子力事業者による損害賠償措置の義務付け(同法6条から15条まで),政府による援助(同法16条)などを規定する。これらの規定は,原子力損害が発生した場合において,原子力事業者にのみ被害者に対する無過失の賠償責任を負わせることにより,原子力事業者の賠償資力を確保して被害者に対する確実な賠償を実施させるととともに,原子力事業の健全な発達を阻害することを回避しようとした趣旨と解される。もとより,原子力事業者による損害賠償措置(同法6条参照)としての原子力損害賠償責任保険契約及び原子力損害賠償補償契約の締結等(同法7条,8条,10条),これらの賠償措置額を超える場合における政府による援助(16条)といった原子力事業者の賠償資力を確保する各制度も原賠法の上記目的を踏まえた規定である。 そうすると,仮に,原賠法上の損害賠償請求権と民法上の損害賠償請求権を併存させたり,過失がある第三者への自由な求償を認めたりすると, を確保する各制度も原賠法の上記目的を踏まえた規定である。 そうすると,仮に,原賠法上の損害賠償請求権と民法上の損害賠償請求権を併存させたり,過失がある第三者への自由な求償を認めたりすると,賠償責任が分散され,それに伴い責任主体となり得る者が個々に保険を掛ける結果, 上記原賠法が予定した損害賠償措置が有名無実化する上,上記政府援助も受けられず,原子力事業者自身の賠償資力が不十分となって,被害者への賠償ができない事態が生じ,ひいては原子力事業の健全な発展という原賠法の趣旨に悖る結果を招来しかねない。 以上によれば,原賠法3条1項は,民法上の損害賠償責任に関する特則をなし,原子力損害が認められる場合における事業者の不法行為責任の規定を原賠法の責任集中により適用しないとするものであり,同様に同法4条1項は,原子力損害が認められる場合において,その損害の発生について過失等がある原子力事業者に該当しない第三者の不法行為責任を,原賠法の責任集中により適用しないとするものである。 ⑵ 原告の請求に対する検討と原賠法3条1項,4条1項の適用の有無同法3条1項にいう原子力損害(同法2条2項本文)については,上記放射線の作用等の直接的な損害に限定されず,その作用等により生じた損害すなわち相当因果関係のある損害を全て含むものと解すべきである。このことは,原賠法上の賠償責任が民法上の不法行為の特則をなす以上,被害者の救済の観点に照らして,原賠法に基づき原子力事業者が賠償すべき原子力損害の範囲について,民法における不法行為において加害者が賠償すべき損害の範囲と異にすべき理由がないことからも根拠付けられる。この点,認定事実⑻のとおり,中間指針においても,原発作業員等が本件事故に係る放射線被ばくによる急性又は晩発性の放射線障 加害者が賠償すべき損害の範囲と異にすべき理由がないことからも根拠付けられる。この点,認定事実⑻のとおり,中間指針においても,原発作業員等が本件事故に係る放射線被ばくによる急性又は晩発性の放射線障害により受けた損害(精神的損害を含む。)について原子力損害として原子力事業である被告が賠償責任を負う旨確認されていることも同様の趣旨のものと理解できる。 これを本件についてみると,原告は,被告東電が運転する本件原発で発生した本件事故の緊急作業として本件作業に従事したことで放射線を大量被ばくし,精神的苦痛を被ったとして,損害賠償を請求しているところ,認定事実⑷及び⑹アのとおり,原告が本件作業に際して放射線被ばくをしている事実が認 められ,このような精神的苦痛を理由とする損害は,本件事故による放射線の作用と相当因果関係を有する損害すなわち「原子力損害」に当たると解される。 そうすると,原告の請求はまさに原子力損害の賠償を求めるものであり,その損害について,原子力事業者である被告東電に対して,原賠法3条1項に基づく損害賠償を請求できることとなるから,同条項の適用により,原子力事業者である被告東電が原告に対して放射線被ばくを理由とする不法行為責任を負うことはないし,また,同様の理由から,同法4条1項の適用により原子力事業者でない被告東電を除く被告らが原告に対して放射線被ばくを理由とする不法行為責任を負うことはないと解すべきである。 そして,原告が求める安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償責任についても,原告が主張する責任原因事実は,不法行為に基づく損害賠償請求の責任原因事実と同一であって,放射線被ばくを理由とするものであることからすると,形式上,安全配慮義務違反を理由とする債務不履行責任のみで 原告が主張する責任原因事実は,不法行為に基づく損害賠償請求の責任原因事実と同一であって,放射線被ばくを理由とするものであることからすると,形式上,安全配慮義務違反を理由とする債務不履行責任のみであるとの理由で原賠法3条1項が適用されないと解することは,責任の分散を招く結果となり,前記⑴の原賠法の目的趣旨に悖ることとなるから,少なくとも上記不法行為に基づく損害賠償責任と同様の事実関係を責任原因とする安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく責任についても原賠法3条1項が適用され,原子力事業者である被告東電が放射線被ばくを理由とする安全配慮義務違反に基づく債務不履行責任を負うことはないし,また,同様の理由から,同法4条1項の適用により原子力事業者でない被告東電を除く被告らが原告に対して放射線被ばくを理由とする安全配慮義務違反に基づく債務不履行責任を負うことはないと解すべきである。 なお,原告は,原告の被ばくについて原発事故によって当然に生じたものではなく,被告株式会社a の従業員らが本件建屋の放射線量が高いことを認識しながら,あえて本件作業を続行することを指示し,その場に留まることを強いるという積極的な加害行為によって生じた旨主張し,不法行為責任や債務不 履行責任の各規定の適用を求めるが,既に述べたとおり,原告が求める責任原因は原発事故後の復旧作業に関連して原告がその作業中に被ばくしたことを理由とするものであるところ,これはまさに原子力損害であり(認定事実⑻の中間指針においてもその点明示されている。),別個の責任原因事実を主張するものではなく,原告の上記主張は採用できない。 ⑶ 小括以上によれば,争点2,3について判断するまでもなく,原告の主位的請求はいずれも認められない。 3 争点4(賠償すべき 事実を主張するものではなく,原告の上記主張は採用できない。 ⑶ 小括以上によれば,争点2,3について判断するまでもなく,原告の主位的請求はいずれも認められない。 3 争点4(賠償すべき損害及びその額)について⑴ 原告に生じた原子力損害の有無,内容ア原告は,本件作業を強制されて約20mSv の外部被ばく及び13.1mSvの内部被ばくという大量被ばくをしたことにより,自身の健康状態について強い不安感,恐怖感を抱えて生活をすることとなった旨主張する。 イこの点,認定事実⑹アのとおり,原告が少なくとも本件作業に伴って約11mSv の被ばくをしたことは認められる。そして,認定事実⑺オのg 医師の意見書は,100mSv 以下の低線量被ばくであっても,がん死や発がんリスクが増加することは実証されていると指摘し,認定事実⑺オのj 医師の意見書も,発がんリスクは相対的高線量域(180mGy 以上)から低線量域へ向けて低下するが原点(0)にたどり着くまでリスクは維持されるとしており,これらの意見書に引用される医学的知見や各種の疫学調査の報告等(認定事実⑺カ,,同キ)は各意見書の見解を一定程度裏付けている。 また,認定事実⑺イのICRP勧告や同⑺ウのUNSCEARの報告においても,100mSv を下回る低線量域における反応にしきい値がないことを支持する方向に傾いており,LNTモデルの考え方が科学的にもっともらしいなどとしている。これらの事情に照らすと,100mSv を下回る線量であっ ても,比例的に発がん等の確率の増加を生じるという考え方に一定の科学的根拠があることは否定できない。 ウしかしながら,ICRP勧告は,約100mSv 以下の線量において健康への影響に不確実性が存在することを指摘した上 確率の増加を生じるという考え方に一定の科学的根拠があることは否定できない。 ウしかしながら,ICRP勧告は,約100mSv 以下の線量において健康への影響に不確実性が存在することを指摘した上で,約100mSv を下回る低線量域ではLNTモデルが科学的にもっともらしいとするにとどまり,飽くまでもLNTモデルを放射線防護の目的を実現する観点からの仮定にとどめている。同勧告の付属書の中にもがんリスクの推定に用いる疫学的方法は,約100mSv までの線量範囲でのがんのリスクを直接明らかにする力を持たないという一般的な合意があるとの記載があり,100mSv を下回る低線量域での放射線被ばくによる健康被害が確認できないとする一般的な医学的知見が存在することが認められる。UNSCEARの報告も,統計学的には有意なリスク上昇は100から200mGy 又はそれ以上で観察されるとするにとどまり,疫学研究だけではこれらのレベルを大きく下回る場合の有意なリスク上昇を同定することはできそうにないとしており,LNTモデルが科学的に解明されたものとは評価していないことがうかがわれる。また,上記UNSCEARの報告などの国際的合意に準拠するワーキンググループ報告書(認定事実⑺エのとおり)においても,100mSv 以下の被ばく線量では,放射線の影響は他の要因による発がんの影響によって隠れてしまうほど小さいため,放射線による発がんリスクの明らかな増加を証明することは難しいとした上で,被ばく線量に対して直線的にリスクが増加するとの考え方に従ったとしても,年間20mSv の被ばくによる健康リスクは,他の発がん要因によるリスクと比較しても十分に低い水準であるとしている。 また,100mSv 以下の低線量被ばくにおけるリスクについては様々な知見や見解が存 被ばくによる健康リスクは,他の発がん要因によるリスクと比較しても十分に低い水準であるとしている。 また,100mSv 以下の低線量被ばくにおけるリスクについては様々な知見や見解が存在するところ,認定事実⑺オのf 医師の意見書は,100mSv よりもさらに低線量の放射線被ばくであれば,その影響は他の要因による影響に隠れてしまうため,放射線被ばくの影響だけを取り出してその影 響を客観的に確認・認識することは困難であると指摘し,同様に100mSv以下の低線量被ばくでは,リスクが増加したとしても,ごく僅かであるため,有意なリスクを検出することは難しいことを指摘する文献や報告が認められる。これらの知見や報告の中には,認定事実⑺カ,同キ~のとおり,100mSv を下回る低線量被ばくの影響を検出することの困難性を理由として,100mSv を下回る線量であっても比例的に発がん等の確率の増加を生じるという考えに対して懐疑的なものが複数存在している。 このように100mSv 以下の低線量被ばくについてがん死や発がんリスクが増加することに対して懐疑的な知見も一定程度存在することのほか,UNSCEARの報告やICRP勧告などを見ても,現時点において,100mSv 以下の低線量被ばくによって,放射線防護の観点はともかく,がん死や発がんリスクが増加するという考え方が科学的に実証された知見として確立されているとまで認めることはできない。 以上によれば,100mSv を下回る線量の被ばくが人体に対して有意な影響を与えることを認めるに足りるだけの証拠はない。また,原告の白血球数は,本件作業後や本件作業から7年以上が経過した時点においても基準値の範囲内であったことが認められるなど,原告が本件作業により健康に影響を ことを認めるに足りるだけの証拠はない。また,原告の白血球数は,本件作業後や本件作業から7年以上が経過した時点においても基準値の範囲内であったことが認められるなど,原告が本件作業により健康に影響を及ぼす程度の被ばくをしたとは証拠上認められない。そうすると,本件作業に従事したことにより健康に影響が及ぶ程度の被ばくをしたことを前提に原告がこれによる健康不安や精神的苦痛を受けたとする原告の主張は採用できないものといわざるを得ない。 ⑵ 原告が受けた損害の内容アもっとも,認定事実⑷イ,ウのとおり,原告は,本件建屋地下1階に降りて行ったOらが着用した本件APDが,アラーム設定値である20mSv を超える場合の反応を示し,退避が求められる状況であったにもかかわらず,本件作業の継続のため本件建屋にとどまることを余儀なくされている。 イこの点,認定事実⑵のとおり,本件事故後,本件原発では,複数の建屋で水素爆発が発生したり,2号機事象が発生するなどの事態が発生していたほか,本件作業の数日前にも本件建屋の出入口付近で比較的高い放射線量が計測されていたのであるから,本件事故から約2週間が経過した本件作業の時点においても,本件原発で作業をする者が本件事故の影響により,健康に影響を生じさせ得る程度の放射線被ばくをするおそれが存していたということができる。 そのような状況下において,本件原発における作業を実施するに当たっては,作業員等が緊急作業に従事する中で健康に影響を生じさせ得る程度の被ばくはもとより,無用な被ばくをするといった事態を避けるための措置をとることは求められていたはずである。このことは水素爆発が発生した本件建屋での作業である本件作業についても当然妥当する。特に,認定事実⑵のとおり,本件作業の前日に,被告 った事態を避けるための措置をとることは求められていたはずである。このことは水素爆発が発生した本件建屋での作業である本件作業についても当然妥当する。特に,認定事実⑵のとおり,本件作業の前日に,被告東電の従業員が本件建屋地下1階の空間放射線量を測定し,その測定結果を踏まえて本件作業を被告株式会社a に発注したことや,同⑶イ,⑷アのとおり,a チームが本件作業に従事するに際して,被告東電が放射線量に応じて定める区域の中で放射線量が最も高い区域であるD区域に立ち入る際の装備と靴を除いて同様の装備を着用し,電離則における被ばく量の上限を大きく下回る20mSv をアラーム設定値とする本件APDを着用するなどしていることから,本件作業に従事するに当たっては作業員の被ばく量に関して注意が払われていたということができる。 ウそして,a チームは,認定事実⑷イのとおり,本件作業に従事するために本件建屋に入域し,Oらが本件電源盤を確認するために本件建屋地下1階に行ったところ,Oらが着用している本件APDが,いずれも積算20mSv を超えた場合又はバッテリーが切れた場合と同様の反応を示した。被告東電の放射線管理仕様書上,作業員の電子式線量計の警報が連続的に鳴った場合には,速やかに作業員が管理区域から退避することが求められており,APD が鳴動した場合に放射線管理区域外から速やかに退出することが原則であることは当事者間でも争いのない事実である。そうすると,a チームとしては,本件APDが上記反応を示し,積算放射線量が20mSv を超えたおそれがある場合には,過度の被ばくを避けるためにも本件作業を中断して本件建屋から退避すべきであったと考えられる。 エそれにもかかわらず,認定事実⑷イのとおり,Oらの着用していた本件APDが鳴動 れがある場合には,過度の被ばくを避けるためにも本件作業を中断して本件建屋から退避すべきであったと考えられる。 エそれにもかかわらず,認定事実⑷イのとおり,Oらの着用していた本件APDが鳴動している状況において,原告は放射線被ばくのおそれなどから本件作業の中止を直属の上司であるd を通じて被告株式会社a らの従業員に対して求めたが,聞き入れられず,作業を継続することとなり,同⑷ウのとおり,原告もa チームの一員として,引き続き,本件建屋にとどまることを余儀なくされた。かかる状況下での本件作業の継続により原告が結果的に健康被害が生じるとまで認められない程度の放射線被ばくを受けたにすぎないとしても,本件APDの警報音が鳴り,原則として当該区域からの退避が求められる状況下で,本件作業を継続し,本件建屋にとどまることを余儀なくされた原告が覚えた不安や恐怖は,漠然とした不安感や恐怖感にとどまるものではなく,健康被害を生じるかもしれないという危惧,恐怖を覚える程度のものといえ,原告は相当程度の精神的苦痛を受けたものといわざるを得ない。 他方で,認定事実⑶ア,イのとおり,原告は放射線防護等に関する教育を受けた上で,本件事故後,本件原発で水素爆発が発生していることを認識し,本件事故以前よりも作業に従事することで被ばくするおそれが大きいことを認識しながら,本件原発での作業に従事することとしている。また,認定事実⑷のとおり,原告が本件作業に従事するために本件建屋内に滞在した時間は約1時間30分程度であるところ,原告は,高線量が計測された本件建屋地下1階で作業はしておらず,自身が着用していたAPDは20mSv を超えたときの警告を発していない。そして,本件作業後の原告の被ばく量を見ると,認定事実⑹のとおり,本件作業による原告の外部被 で作業はしておらず,自身が着用していたAPDは20mSv を超えたときの警告を発していない。そして,本件作業後の原告の被ばく量を見ると,認定事実⑹のとおり,本件作業による原告の外部被 ばく量は10.81mSv で,内部被ばく量も,本件作業を行った3月24日に被ばくしたと仮定した場合は5.8mSv であると評価されていることからすれば,原告が本件作業を継続することで本件建屋にとどまることにより,電離則や訴外会社規則で定める被ばく量の上限や本件APDのアラーム設定値である20mSv を超える被ばくをしたと認めるに足りる証拠はないほか,原告の白血球数は,本件作業後や本件作業から7年以上が経過した時点においても基準値の範囲内であったことが認められる。加えて,認定事実⑸のとおり,原告は,本件作業後も被ばくの可能性が否定できない本件原発での勤務を継続し,一定程度の更なる被ばくを受忍した。 オこれら一切の事情を考慮すると,原告が,本件APDが20mSv を超える場合の反応を示したにもかかわらず,本件作業に従事するために本件建屋にとどまることを余儀なくされて不安や恐怖を覚えたことにより原告が被った精神的苦痛を金銭的に評価すると30万円が相当であり,これに弁護士費用3万円を加えた33万円が原告に生じた原子力損害であると認めるのが相当である。 カこれに対し,被告東電は,本件作業における原告の被ばく量は,電離則や訴外会社規定における放射線被ばく量や本件APDのアラーム設定値である20mSv を下回っており,原告が受忍していた被ばく量を下回っているから,本件作業によって原告には損害が発生していない旨主張する。 しかしながら,原告が,本件原発の複数の建屋で水素爆発が発生したなどといった状況を把握しながら,本件原発での緊急作業に 回っているから,本件作業によって原告には損害が発生していない旨主張する。 しかしながら,原告が,本件原発の複数の建屋で水素爆発が発生したなどといった状況を把握しながら,本件原発での緊急作業に従事することを選択したとしても,実際に本件作業に従事するに当たり,作業員がアラーム設定値を設定したAPDを着用した上で作業していることなどからすれば,原告と共に本件作業に従事していたOらが着用していた本件APDがアラーム設定値である20mSv を超える場合の反応を示し,本件建屋からの退避が期待される状況においてもなお,本件作業を継続することまで受忍 していたということはできない。本件建屋から退避することが求められる状況であるにもかかわらず,意に反して本件建屋にとどまることにより原告が感じた不安や恐怖等の精神的苦痛を法的利益の侵害と認めるのであるから,原告が実際に受けた放射線被ばく量の程度は損害発生の有無についての判断を左右するものではない。 よって,上記被告東電の主張は採用できない。 第5 結語以上の次第で,原告の主位的請求はいずれも理由がなく,予備的請求は33万円及び訴えの追加的変更申立書送達の日の翌日である平成27年12月3日から支払済みまで民法所定年5%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 福島地方裁判所いわき支部 裁判長裁判官名島亨卓 裁判官小川一希 裁判官西沢諒 裁判官小川一希 裁判官西沢諒
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