平成21(行ウ)517 特許料納付書却下処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成22年3月24日 東京地方裁判所
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判決文本文22,233 文字)

- 1 -平成22年3月24日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成21年(行ウ)第517号特許料納付書却下処分取消請求事件口頭弁論終結日平成22年2月1日判決ドイツ連邦共和国レーフエルクーゼン〈以下略〉原告バイエルアクチエンゲゼルシヤフト訴訟代理人弁護士鈴木勝利同丸山恵一郎同佐野知子同増渕勇一郎同池田千絵同渡邉迅同沖山延史同國吉宏明同藤田剛紀東京都千代田区〈以下略〉被告国訴訟代理人弁護士田中信義指定代理人青木明子同市川勉同門奈伸幸同天道正和主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 - 2 -第1請求特許番号第1981005号の特許権に係る第13年分特許料納付書について,特許庁長官がした平成20年8月22日付け手続却下処分を取り消す。 第2事案の概要本件は,原告が後記特許権の第13年分の特許料の追納期間の経過後に特許料納付書を提出して特許料及び割増特許料の納付手続をしたところ,特許庁長官が同特許料納付書を却下する手続却下の処分(以下「本件却下処分」という。)をしたため,原告が被告に対し,追納期間内に特許料及び割増特許料を納付することができなかったことについて,特許法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」があるとして,本件却下処分の取消しを求める事案である。 争いのない事実等(証拠により認定した事実は,証拠を末尾に記載する。)( )原告の有していた特許権 原告は,次の特許権(以下「本件特許権」という。)を有していたが,平成19年2月22日,第13年分特許料不納を原因として,平成19年11月7 を末尾に記載する。)( )原告の有していた特許権 原告は,次の特許権(以下「本件特許権」という。)を有していたが,平成19年2月22日,第13年分特許料不納を原因として,平成19年11月7日付けで,その登録の抹消がされた(甲9)。 特許番号第1981005号発明の名称1-シクロプロピル-6-フルオロ-1,4-ジヒドロ-4-オキソ-7-(1-ピペラジニル)-キノリン-3-カルボン酸の注入溶液出願年月日昭和61年10月23日出願公告年月日平成7年2月22日登録年月日平成7年10月17日( )本件却下処分等の経緯 ア本件特許権の存続期間は,特許出願の日である昭和61年10月23日から20年を経過する日である平成18年10月23日までであったが,- 3 -平成13年12月19日付けで,延長の期間を4年11月4日とする存続期間の延長登録がされ,本件特許権の存続期間は,平成23年9月27日まで延長された(甲9)。 イ平成6年法律第116号による改正前の特許法(以下,特許法を単に「法」といい,同改正前の特許法を「改正前法」という。)107条1項,108条2項によれば,本件特許権の第13年分の特許料の納付期限は,平成19年2月22日であり,改正前法112条1項によると,その期間の経過後6か月以内は,特許料の追納が認められており,その追納期間の満了日は,同年8月22日であった。 ウ原告は,特許庁長官に対し,平成20年2月22日,第13年分の特許料及び割増特許料(以下「本件特許料等」という。)の特許料納付書(以下「本件納付書」という。)を提出した。 特許庁長官は,原告に対し,平成20年6月10日,本件特許権は,第13年分の特許料を納付することができる期間(追納期間を含む。)内に納付されていないため,平成19年2月22日 という。)を提出した。 特許庁長官は,原告に対し,平成20年6月10日,本件特許権は,第13年分の特許料を納付することができる期間(追納期間を含む。)内に納付されていないため,平成19年2月22日までをもって消滅しており,また,特許権の管理は特許権者の自己責任の下で行われるものであるところ,原告が法112条の2第1項の「その責めに帰することができない理由」として挙げる理由(①特許年金の納付の管理を年金管理会社に依頼していたこと,②平成20年2月19日に原簿調査をして本件特許権の平成13年分の年金納付がされていないことを確認したこと,③その原因を追及したところ,年金管理会社において本件特許権が平成19年8月22日の時点で延長特許の類型に変更されていなかったので,本件特許権の存続期間の延長後の年金不払により抹消となった経緯が確認されたこと)は,万全の注意を払ってもなお避けることができなかった事由とは認められず,法112条の2第1項に規定する「その責めに帰することができない理由」に該当するとは認められないとして,本件納付書の手続は,却下すべ- 4 -きものと認められるとの却下理由通知を発送した。 (以上,甲10,11)。 エ原告は,特許庁長官に対し,平成20年7月10日,法112条の2第1項の「その責めに帰することができない理由」として,①本件特許権は,昭和61年10月23日の出願に係り,平成18年10月23日に存続期間が満了するところ,延長登録により,存続期間が4年11月4日延長され,平成23年9月27日が満了日とされた,②原告は,本件特許権の特許料納付に関し,20年以上協力関係にある年金管理会社に依頼していた,③年金管理の内容は,年金管理会社の記録に出願日を入力すると満了日が自動的に計算されるシステム,延長登録の対象となる特許につ の特許料納付に関し,20年以上協力関係にある年金管理会社に依頼していた,③年金管理の内容は,年金管理会社の記録に出願日を入力すると満了日が自動的に計算されるシステム,延長登録の対象となる特許については延長特許の類型として扱うシステムを採用している,④年金管理会社は,原告に対し,平成18年12月から平成19年1月までの間,本件特許権を検査要求対象として問い合せ,原告は,年金管理会社に対し,平成19年2月19日,当該検査要求に対する回答メールを送付した,⑤年金管理会社は,原告から,平成19年8月3日,本件特許権が延長登録されたことを説明する内容の電子メールを受け取るが,担当者の病気による長期欠勤及び別の担当者の忌引により,担当部署の案件処理が極めて滞った上,その他重大な種々の不測の事由が重なったため,本件特許権を延長登録されたものとして取り扱わず,本件特許料等の追納期間内に納付をすることができなかったことを挙げ,これらの事情は,通常の注意力を有する当事者が万全の注意を払っても,なお納付期限を徒過せざるを得なかった場合に相当する旨の弁明書を提出するとともに,平成20年8月11日には,上申書を提出した。 特許庁長官は,原告に対し,同月22日,特許権の管理は特許権者の自己責任の下で行われるものであるところ,原告が前記弁明書で挙げた前記①ないし⑤の事情について,万全の注意を払ってもなお避けることができ- 5 -なかった事由とは認められず,法112条の2第1項に規定する「その責めに帰することができない理由」に該当するとは認められないとして,本件納付書の手続を却下する旨の本件却下処分をした。 原告は,同年9月3日,本件却下処分の通知を受けた。 (以上,甲12)オ原告は,特許庁長官に対し,平成20年11月4日,本件却下処分について,行政不服審 書の手続を却下する旨の本件却下処分をした。 原告は,同年9月3日,本件却下処分の通知を受けた。 (以上,甲12)オ原告は,特許庁長官に対し,平成20年11月4日,本件却下処分について,行政不服審査法に基づく異議申立てをしたが,特許庁長官は,平成21年4月13日,これを棄却する旨の決定をし,原告は,同月15日,同決定の送達を受けた(甲13ないし15。なお,異議申立期間の末日は,行政不服審査法45条の規定により,平成20年11月2日であるが,同日及び翌3日は,行政機関の休日に関する法律1条1項各号に掲げる日に当たるため,特許法3条2項の規定により,同月4日が異議申立期間の末日となる。)。 カ原告は,平成21年10月14日,本件訴訟を提起した。 ( )CPAの過失による本件特許料等の追納期間徒過 原告は,特許権の年金管理等を専門とするコンピュータ・パテント・アンニュイティーズ・リミテッド・パートナーシップ(以下「CPA」という。)に対し,本件特許権の特許料の納付事務を委託していた(甲1の1及び2)。 CPAには,本件特許料等を追納期間内に納付することができなかったことについて,過失がある。 争点及び争点に対する当事者の主張本件特許料等を追納期間内に納付することができなかったことについて,原告に,法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」が認められるか。 (原告の主張)- 6 -( )本件却下処分の判断枠組み 本件却下処分等における特許庁長官の判断枠組みは,次のとおりである。 ア法112条の2第1項の「責めに帰することができない理由」とは,「天災地変のような客観的な理由または通常の注意力を有する当事者が万全の注意を払ってもなお避けることのできなかった原因により納付をすることができなかった場合」を意味 帰することができない理由」とは,「天災地変のような客観的な理由または通常の注意力を有する当事者が万全の注意を払ってもなお避けることのできなかった原因により納付をすることができなかった場合」を意味する。 イ原告から本件特許権の特許料納付を委託されたCPAには,本件納付書の追納期間の徒過について過失がある。 ウ原告は,自己責任により特許権の管理をCPAに委託している以上,CPAの過失は原告の過失と同視でき,この過失は,万全の注意を払っても避けることができなかったとはいえない。 この判断枠組みのうち,イは,後記( )において述べるCPAの杜撰な情 報管理体制からすれば,正しい認定である。 しかしながら,ア,ウは,全く不当な解釈,判断であり,重大な誤りがある。 ( )法112条の2第1項の「責めに帰することができない理由」の解釈 ア特許法の国際的調和を図る観点からの解釈法112条の2は,特許法の国際的調和を図るため,欧米諸国からの要請に応えて,平成6年の特許法改正の際に設けられた条項である。 本来,技術に民族性や国境はないものであるから,特許法の分野では,国際的な統一,調和が要求される。 米国や欧州の特許庁においては,パリ条約5条の2第2項に基づき,特許料不納付により失効した特許権の回復について,それぞれ「意図的ではなかった場合」,「避け難かった場合」又は「状況によって必要とされる相当な注意をした場合」の要件が設けられ,幅広く特許権の回復が認められている。 - 7 -したがって,法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」の解釈も,特許権の回復に関して欧米諸国で定められている要件,基準との均衡を図るように解釈すべきである。 イ特許権管理の困難性から特許権者を保護する観点からの解釈現代社会においては,一つの企業 由」の解釈も,特許権の回復に関して欧米諸国で定められている要件,基準との均衡を図るように解釈すべきである。 イ特許権管理の困難性から特許権者を保護する観点からの解釈現代社会においては,一つの企業が世界各国に多数の特許を保有しているため,各企業は,各国で適正に特許権を維持,管理する必要があるが,特許制度は,国ごとに異なり,同内容の特許権でも最初の年金開始日や特許期間が異なるため,特許権の維持,管理は,非常に複雑かつ大変な作業である。 それにもかかわらず,「その責めに帰することができない理由」を厳格に解すると,特許権の維持,管理が更に困難になり,特許権者の利益を不当に害する結果となる。 したがって,「その責めに帰することができない理由」は,特許権管理の困難性から特許権者を解放し,保護するためにも,広く解釈すべきである。 ウ特許権の消滅を信頼した第三者を保護する観点からの解釈このように,「その責めに帰することができない理由」の意義を広く解釈し,特許権の回復を広く認める場合,特許権の消滅を信頼した第三者の利益を害するおそれがあるので,その第三者との利益調整が必要となる。 この点,法は,特許権回復の期間を追納期間経過後6か月という短期間に制限し(法112条の2第1項),さらに,回復した特許権の効力を制限しているなど(法112条の3),第三者に過大な負担や損害を与えないよう配慮をしている。 したがって,法がこのような第三者保護規定を設けていることからも,「その責めに帰することができない理由」の意義は広く解釈し,特許権の回復を広範に認めるべきである。 - 8 -エ 結論 以上の解釈からすれば,「その責めに帰することができない理由」は,本件却下処分のように限定的に解釈することは不合理であって,特許権者がすべきことをした場合,つまり,特許権者が社 - 8 -エ 結論 以上の解釈からすれば,「その責めに帰することができない理由」は,本件却下処分のように限定的に解釈することは不合理であって,特許権者がすべきことをした場合,つまり,特許権者が社会通念上相当な注意を払っても避けることができない場合も広く含まれると解すべきである。 ( )CPAの過失を原告の過失と同視することの不当性について アCPAの過失を原告の過失と同視することはできないこと。 特許庁長官は,本件却下処分等において,特許権の管理が特許権者の自己責任の下に行われるものであり,特許料の納付に関する管理をCPAに委託したのは,特許権者である原告であるから,特許権者から委託を受けて特許料の納付を行うCPAの過失は,特許権者の過失と同視すべきものであるとする。 しかしながら,この判断は,「自己責任」という極めて不明確かつ抽象的な論理のみで,直ちに,CPAの過失が「特許権者の過失と同視される」との結論を導いており,論理が飛躍している。 また,特許権者は,前述した特許権管理の困難性から,事務処理を大量かつ正確に行わなければならないため,事実上,外部の専門機関にその管理を委託せざるを得ない状況にあり,外部の専門機関への管理の委託は,広く一般に行われている。そのような状況の中で,外部の専門機関が起こした事務処理上の過失を,単に外部の専門機関に「委託した」という事実のみをもって,すべて一律に「自己責任」として特許権者の責任にしてしまうことは,特許権者による外部の専門機関の利用を極度に萎縮させて特許権管理を著しく困難にし,特許権者の権利を不当に害するものであって,「発明の保護及び利用を図ることにより,発明を奨励し,もつて産業の発達に寄与する」(法1条)ことそのものを害する結果となる。 したがって,外部の専門機関の過失が特許権者の過失 当に害するものであって,「発明の保護及び利用を図ることにより,発明を奨励し,もつて産業の発達に寄与する」(法1条)ことそのものを害する結果となる。 したがって,外部の専門機関の過失が特許権者の過失と同視される場合- 9 -は,次のとおり,限定して考えるべきである。 イ個人責任原則と例外(ア)元来,個人は,自分が行った過失についてのみ責任を問われるのであって,他人の過失についてまで責任を負わないのが原則である(個人責任の原則)。 (イ)しかしながら,民法715条の使用者責任や,同法415条の債務者の責任に関して広く認められている,いわゆる履行補助者の責任など,個人が他人の行為について責任を負う場合があることが,法律上も解釈上も広く承認されている。これは,個人が他人の活動によって自己の活動領域を拡大し,その収益可能性を増大させるという利益を享受しながら,当該他人の過失行為による不利益について,個人責任の原則を貫いて当該個人を不問に付することは,債権者の地位が著しく害され,公平でないことから認められているものである(報償責任の法理)。 ウ報償責任の法理の限界もっとも,報償責任の法理は,個人が他人の行為について無条件に責任を負うことまで認めるものではない。報償責任の法理の趣旨からすれば,個人が他人の行為について責任を負うのは,あくまで個人責任の原則を貫くことが不公平であるなどの不都合が生じる場合に限られるのであって,それ以外の場合は,あくまでも「個人責任の原則」が支配すると考えるべきである。 民法715条1項ただし書が,「使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき,又は相当の注意をしても損害が生ずるべきであったとき」に使用者の責任を問わないとしているのは,まさに報償責任の法理に限界があることを示唆するもの 選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき,又は相当の注意をしても損害が生ずるべきであったとき」に使用者の責任を問わないとしているのは,まさに報償責任の法理に限界があることを示唆するものである。 したがって,どのような場合が「報償責任の法理の限界」といえるか問題となるが,これは,最終的には個別具体的な事例に即して判断せざるを- 10 -得ない。 エ本件についての再考本件は,特許権者が国に対し特許料納付義務を履行する場面での問題である。 (ア)特許権者は,特許料の納付によって「特許権を維持する」という利益を享受するが,現代社会においては,一企業が膨大な量の特許権を保持していることも多く,特許料の納付を始めとする特許権の維持管理を自ら行うには,莫大な費用と労力を費やさなくてはならない立場に置かれている。 このような状況の中,特許権者は,自ら特許権管理を行うリスクを回避するため,特許料の納付を始めとする特許権の管理を外部の専門機関に委託することで,安定的で確実な特許権管理を実現し,これによって確実に「特許権を維持する」という利益を享受しているのである。 したがって,特許権者が特許権管理を外部の専門機関に委託することは,まさに他人を利用して自己の活動領域を拡大していることにほかならず,報償責任の法理が妥当する場面といえる。 (イ)このように,特許権者が外部の専門機関に委託して特許料納付手続を行う場面には報償責任の法理が妥当するから,外部の専門機関の過失を特許権者の過失と同視することは,あくまで報償責任の法理の現れとして理解すべきである。 そうすると,外部の専門機関の過失を特許権者の過失と無条件に同視することはできず,どのような場合に同視することができるのか,その限界を検討する必要がある。 オ外部の専門機関の過失を特許権者の る。 そうすると,外部の専門機関の過失を特許権者の過失と無条件に同視することはできず,どのような場合に同視することができるのか,その限界を検討する必要がある。 オ外部の専門機関の過失を特許権者の過失と同視することの限界(ア)特許の申請その他特許権維持に関する諸手続は,高度に専門的で煩雑であるため,特許を申請しようとする者又は特許権者がこれを自ら行- 11 -うか,外部の専門機関にゆだねるかを任意に選択する余地はなく,事実上,外部の専門機関への委託を強制されている現状がある。 この現状の下で,外部の専門機関への委託そのものを「特許権者などの委託者の自己責任」として,当該外部の専門機関の過失をすべて特許権者の過失と同視することは,自由意思に基づかない行為である委託行為に対する無条件の責任追及であり,不公平極まりない。 他方,特許権者が外部の専門機関に委託するに際し,いかなる専門機関を選択し,また,いかにして選択した専門機関に対する監督を行うかは,特許権者の自由意思に基づくものであるから,仮に,これらの点について特許権者に落ち度があれば,当該専門機関の過失を特許権者の過失と同視することに何ら不公平なことはない。 以上から,特許権者において,外部の専門機関の選択及び当該専門機関の業務に対する監督に落ち度がある場合に限り,当該外部の専門機関の過失を当該特許権者の過失と同視して,特許権者は,当該外部の専門機関の過失についても責任を問われると解すべきである。 (イ)本件においてみると,CPAは,国際的に年金管理を行っている会社として著名であり,その信頼性は,十分なものであると広く認識されていたし,同社発行のパンフレットにも,そのシステムの信用性がうたわれていることから,原告がCPAを信用することに何ら落ち度はない。 被告は,CPAが過去にも事 頼性は,十分なものであると広く認識されていたし,同社発行のパンフレットにも,そのシステムの信用性がうたわれていることから,原告がCPAを信用することに何ら落ち度はない。 被告は,CPAが過去にも事務処理ミスを起こして裁判になっていることを主張し,CPAへの原告の信頼に正当性がないなどと主張するが,特許権者が特許権管理を外部の専門機関に委託する際,当該機関の裁判事例まで調査して信頼性を確認するという高度な注意義務を課すことは,特許権者の特許権管理行為を著しく萎縮させることになり妥当でない。 したがって,原告が外部の専門機関としてCPAを選択したことに,何ら落ち度はない。 - 12 -また,本件は,後記( )のとおり,原告の予期し得ない偶然とCPA の信じ難い人員管理ミスによって発生したものであって,委託者である原告によるCPAへの監督の範囲を超える次元で発生したものである。 特許出願から本件が発生するまでの9年間は,問題なく納付手続が行われていたことに照らせば,原告のCPAに対する業務の監督についても,何ら落ち度はない。 (ウ)以上により,原告には,CPAを選択したこと及びCPAの業務に対する監督について,何ら落ち度はない以上,CPAの過失を原告の過失と同視することはできない。 カ小括したがって,CPAの過失を原告の過失と同視する本件却下処分は,何ら法的根拠がないだけでなく,特許権者の利益を害する極めて不合理なものであり,誤っている。 ( )原告に「その責めに帰することができない理由」があること。 以上のとおり,CPAの過失を原告の過失と同視することはできない。そして,次に述べるとおり,原告自身には,独自に「その責めに帰することができない理由」がある。 ア原告のCPAに対する信頼の正当性(ア)原告が本件特許権の特許料納付 失と同視することはできない。そして,次に述べるとおり,原告自身には,独自に「その責めに帰することができない理由」がある。 ア原告のCPAに対する信頼の正当性(ア)原告が本件特許権の特許料納付手続をCPAに委託したのは,平成18年6月2日である(甲1の1,2)。 CPAは,国際的に年金管理を行っている会社として著名であり,その信頼性は十分なものであると広く認識されていた。 原告は,特許料納付に関して,CPAと20年間もの長期にわたって協力関係にあるが,その間,CPAの行う特許料納付手続に不備や失敗は一度もなかった。 また,CPAは,原告の特許権のうち,本件特許権のように延長登録- 13 -された特許権の特許料納付手続を,日本及び世界各国において多数取り扱った経験もある。 そこで,原告は,本件特許権を含む特許料納付についても,CPAによる特許料納付手続の管理能力を全面的に信頼して委託したものである(甲2の1,2)。 (イ)CPAが平成18年から平成19年までの間に特許料納付を行った日本における原告の特許権は,8件で,その回数は12回である。 また,世界各国における原告の延長登録された特許権について,CPAが平成18年7月1日から平成19年7月1日までの1年間に特許料納付を行ったものは,約300件にも上る。 CPAは,日本の案件を含む世界各国すべての原告の延長登録の特許権の特許料納付に関して,原告及びCPAの知る限り,本件特許権を除き,いずれの手続も失敗することがなかった。 (ウ)以上のように,CPAが国際的に特許権年金管理会社として著名であるだけでなく,20年もの長期にわたって実際に原告との関係で滞りなく特許権年金管理を行ってきた実績を考慮すれば,原告がCPAのシステムを信頼する十分に合理的な理由が存在したことは明らかである。 イ あるだけでなく,20年もの長期にわたって実際に原告との関係で滞りなく特許権年金管理を行ってきた実績を考慮すれば,原告がCPAのシステムを信頼する十分に合理的な理由が存在したことは明らかである。 イ本件特許料等の納付手続の懈怠が生じた原因の偶然性とCPAの過失の重大性本件特許料等の納付手続に当たりCPAが犯した業務上の誤りは,次のとおり,全く予期し得ない偶然と,信じ難い重大な過失が重なって生じたものである。 (ア)CPAの特許料納付管理システムでは,管理対象の特許出願日を入力すると特許の満了日が自動的に計算されるようになっており,延長登録の特許のように,満了日に関し自動的な計算の対象とすることができないものについては,別途「延長特許の類型」として扱うこととなって- 14 -いた。 原告の第1回特許データは,平成18年11月13日,CPAが定めた平成19年1月1日の期限を遵守し,定められた期限前に,CPAにより受け取られた。 前記データは,平成18年12月4日,CPAの所在地である英国属領のジャージー島で,CPAの記録に電気的に処理され,本件特許権の満了日は,その出願日である昭和61年10月23日を基に,自動的に平成18年10月23日と計算された。そこで,本件特許権は,CPAにおいて,権利が消滅した案件として直ちにリストに挙げられた。なお,CPAは,日本では,例外的に存続期間が延長されて,特許権の存続期間が20年を超える場合があることを知っていた。 CPAの本件特許権の担当者である甲は,平成18年12月23日,その処理を点検した。そして,検査対象とすべきものについての検査要求レポートを,ドイツのCPAに送った。検査要求レポートの中には,本件特許権のデータを含め,約100件の満了日の不一致に関する案件が含まれていた(甲6の3)。 検査対象とすべきものについての検査要求レポートを,ドイツのCPAに送った。検査要求レポートの中には,本件特許権のデータを含め,約100件の満了日の不一致に関する案件が含まれていた(甲6の3)。 (イ)ドイツのCPAの乙は,原告の担当者である丙に対し,平成19年1月3日,検査要求レポートを送付した。その際,乙は,本件特許権に関し,延長登録の対象となった案件かどうかを確認すべきとのメモを付した。 乙が丙に送付したメールには,検査要求レポートが添付されていた(甲6の1ないし6)。 (ウ)丙は,乙に対し,平成19年2月19日,検査要求レポートに応えて,メールを送付した(甲7の1,2)。しかしながら,CPAによれば,このメールが乙により受け取られた記録はないとのことである。なお,当時のメールの受信サーバと送信サーバの記録は,既に残っていな- 15 -い。 原告は,CPAとの間でこれまでにも多数の案件について電子メールによる連絡のやり取りをしており,不達事故はなかったので,そのような事故が起こるとは予想しておらず,平成19年2月19日に送付したメールも,CPAが同日受け取ったものと考えていた。 (エ)甲は,検査要求レポートに対する原告の回答の処理を担当していたが,CPAの従業員の中でも経験を積んだ者であり,雇用期間は25年以上である。同人は,その長年の経験と大量のデータを素早く処理できる能力から,CPAの中でも最もデータ量の多い電子データの処理を担当している。電子データの受発信は,自動的に行われるが,CPAのシステムでは多くの適合しないデータが検出され,それらはすべて,注意深く検査され,処理されることになる。 ところが,甲は,CPAの人事システムの記録によると,平成19年2月28日から5月4日まで,同月30日,31日,6月1日から8日 検出され,それらはすべて,注意深く検査され,処理されることになる。 ところが,甲は,CPAの人事システムの記録によると,平成19年2月28日から5月4日まで,同月30日,31日,6月1日から8日まで,同月20日,21日,病気による休暇をとっていた。この結果として,かなりの業務がたまり,原告に対する最初の検査要求レポートへの対応(回答の有無の確認)が同年7月までかかった。 さらに,甲の二人の主要な部下のうち一人が,甲がしばしば業務を休んだのと同時期に,父親の死去を理由に,不意に休暇を取ることになった。そのため,ジャージー島のCPAが平成19年8月初旬に丙からの回答を受け取ったとき(なお,この回答は,平成19年2月に原告がCPA(乙)に送ったものと同じであり,原告は,前記(ウ)のとおり,この回答が同月にCPAにより受け取られたと認識していた。),業務の滞りはまだ続いていた。すなわち,甲の部下である丁は,父親の死去により,平成19年7月9日,10日,同月18日から20日までの合計5日間の忌引を取り,フィリピンでの告別式に出席するなどしていた。 - 16 -また,丁は,フィリピンでの告別式に参加する間,フィリピンで家族とすごすため,同月23日から8月17日までの年休が与えられた。このことは,甲が処理しなければならなかった業務の遅延状況に,予想をはるかに超えた多大な影響を与えた。 甲は,平成19年7月13日,CPAの仕事に復帰し,乙に,CPA内部のやり取りとして,検査要求レポートへの回答を督促した。CPAによれば,丙から乙に送られた検査要求レポートへの回答は,平成19年8月3日になって,ようやく乙からジャージー島のCPAに転送されたとのことである。なお,その回答は,平成19年2月に原告がCPA(乙)に送ったものと同じである。 (オ)結局, の回答は,平成19年8月3日になって,ようやく乙からジャージー島のCPAに転送されたとのことである。なお,その回答は,平成19年2月に原告がCPA(乙)に送ったものと同じである。 (オ)結局,CPAによる本件特許料等の納付手続の懈怠は,以上の二つの想定し難い事情(現在も解明していない原告とCPA間の電子メールの通信に生じた技術的問題による事情及びCPAが信頼して原告の案件を任せていた重要な従業員らが本件特許料等を納付すべき時期に病気と忌引により不在であったという事情)が共に働いて生じたものである。 さらに加えて,本来,CPAにおいては,検査要求レポートの処理に関して,甲のような経験深い専門家に担当させるなど,特許料の納付期限を徒過することがないように万全を尽くしているが,今回は,大量のデータを扱う専門家チームにおいて,甲の病気,丁の忌引という予期せぬ事態が重なったため,従業員の欠勤による業務停滞を防止するための管理体制が,完全に機能不全になっていたのである。 検査要求レポートの処理は,高度な技術を備え訓練された従業員しか行うことができず,他の従業員を訓練しても,経験の深い前記2名(甲,丁)と同様の処理はできないから,結局,この2名の欠勤による業務停滞防止体制は,CPAに備わっていなかった。 (カ)以上より,CPAによる本件特許料等の納付手続の懈怠は,①メー- 17 -ル事故と主要従業員の欠勤という誰にも予期できない偶然の事情に加えて,②従業員欠勤の際の業務停滞防止体制の不備によって生じたものといえる。 この原因のうち,②については,CPAに過失があることは明らかである。しかも,CPAが特許権年金管理のエキスパートとして国際的に活動する企業であることに照らせば,前記②の過失は,依頼者である特許権者に著しい損害を与える信じ難い過失 Aに過失があることは明らかである。しかも,CPAが特許権年金管理のエキスパートとして国際的に活動する企業であることに照らせば,前記②の過失は,依頼者である特許権者に著しい損害を与える信じ難い過失であって,重大な過失である。 一方,①の原因については,原告にとって全く予期し得ない事実であることは明らかであって,原告がこれまでのCPAの実績に照らして,本件特許料等の納付手続を行っているものと信じたことに何ら不合理な点はないし,納付手続の懈怠について何ら認識できなかったとしても,原告には一切落ち度はない。 ウまとめ以上のように,CPAによる本件特許料等の納付手続の懈怠は,原告にとって全く予期し得ない偶然の事情と,CPAの従業員欠勤の際の業務停滞防止体制の不備という信じ難い重大な過失によって発生したものである。 そして,原告のCPAに対する信頼が正当かつ合理的なものであることも考え併せれば,CPAによる本件特許料等の納付手続の懈怠は,原告が社会通念上相当な注意を払っても,到底避けることのできないものであることは明らかである。 なお,仮に,「責めに帰することができない理由」について,「天災地変のような客観的理由又は通常の注意力を有する当事者が万全の注意を払ってもなお避けることのできなかった原因により納付をすることができなかった場合」と解釈するとしても,前述のような事態の偶然性とCPAの過失の重大性を考慮すれば,「万全の注意を払ってもなお避けることのできなかった」といえることは明らかである。 - 18 -したがって,原告には,法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」がある。 (被告の主張)( )特許料の納付受託者の過失は,これを委託した特許権者自身の過失と同 視されるべきものであること。 本来,特許料の納付義務は の「その責めに帰することができない理由」がある。 (被告の主張)( )特許料の納付受託者の過失は,これを委託した特許権者自身の過失と同 視されるべきものであること。 本来,特許料の納付義務は,特許権者自身の責任において履行されるべきものであるところ,この納付事務を自ら行うのか,それとも第三者に委託して行うのかは,専ら特許権者自身が同事務の処理を行う上での利害得失,すなわち,事務処理の正確性及び迅速性並びに事務処理費用の大小等を考慮して決定する,優れて経済合理性を重視した特許権者側の事情に基づく判断事項にすぎない。したがって,対外的には,その事務処理の結果が特許権者に帰属するとする点については,同事務を自ら行うのか,それとも第三者に委託して行うのかにより何らの差異もないのであり,両者を区別して扱わなければならない合理的理由はない。 原告は,自己の経営上の判断として,本件特許権を含む原告が保有する特許権に係る特許料の納付事務を,自ら処理するよりも,CPAに委託した方が経済合理性があると判断したものである以上,原告に代わってCPAが行った納付事務手続のすべては,特段の事情がない限り,原告自身が行ったものと同視するのが相当である。それゆえ,原告の委託を受けて特許料の年金納付事務を担当したCPAの事務処理に過失があった場合には,その過失は,原告自身の過失と同視されるべきものである。 そして,特許料の納付受託者の過失を委託した特許権者自身の過失と同視する考え方は,次のとおり,幾多の裁判例において異論なく確認されている。 ①東京地裁平成14年6月27日判決(平成13年(行ウ)第285号)②東京地裁平成16年9月30日判決(平成16年(行ウ)第118号)③東京高裁平成16年8月4日判決(平成16年(行コ)第176号)- 19 -④東京 日判決(平成13年(行ウ)第285号)②東京地裁平成16年9月30日判決(平成16年(行ウ)第118号)③東京高裁平成16年8月4日判決(平成16年(行コ)第176号)- 19 -④東京地裁平成18年9月27日判決(平成18年(行ウ)第186号)なお,③,④は,CPAが年金納付管理を担当した事案で,CPA担当者の過失が認定された事例である。 ⑤東京地裁平成19年7月5日判決(平成19年(行ウ)第56号)以上によれば,本件特許料の納付遅延について原告から納付事務の委託を受けたCPAに重大な過失があったことに争いのない本件においては,CPAの過失は,原告の過失と同視されるべきものであり,原告に法112条の2第1項所定の「責めに帰することができない理由」が存在したと認められないことは明らかである。 ( )原告自身にも過失があったこと。 原告は,CPAの実績及び優秀性についてあれこれ主張し,これを信頼したことに何ら落ち度がない旨主張するが,前記( )の比較的短期間の裁判例 においてすら,CPAの年金納付事務担当者の過失が認定された事例が2件含まれていることにかんがみると,原告の前記主張は,根拠のないものである。 それだけでなく,原告の本件特許料の年金納付管理は,原告の主張に現れた外形的事実関係を見ただけでも,杜撰であったものといわざるを得ず,原告自身にも過失があったというべきである。すなわち,本件特許権に係る特許料の納付は,一括納付された最初の3年分を除き,第4年分以降は,1年ごとに納付期限である2月22日より前の1月末日ないし2月の第1週に9年間にわたって納付されてきた(甲9)。本件特許料の納付に先立つこの9年間の納付実績からみても,本件特許権に係る特許料の最終負担者である原告は,当然のこととして,本件特許料の納付期限が の第1週に9年間にわたって納付されてきた(甲9)。本件特許料の納付に先立つこの9年間の納付実績からみても,本件特許権に係る特許料の最終負担者である原告は,当然のこととして,本件特許料の納付期限が2月22日であることを把握していたはずであるし,仮に把握していなかったのであれば,それ自体において,既に過失があるものといわざるを得ない。そうであれば,本件特許料については,平成19年1月ないし2月にCPAから納付のための費用- 20 -請求がされていなかったのであるから,まず,この点に疑念を抱き,CPAに納付の有無を確認すべきであったのに何らの確認をすることもなく,更に追納期間の6か月をも漫然と徒過したものである。 以上の経緯に照らせば,特許権者である原告の本件特許権に係る特許料の年金納付管理は,はなはだ杜撰であるといわざるを得ず,その納付を遅延したことについて,原告自身にも過失があったものというべきである。 ( )原告の主張に対する反論 ア原告は,特許権者は,事務処理を大量かつ正確に行わなければならないため,事実上,外部の専門機関にその管理を委託せざるを得ない状況にあるという考えを前提とした上で,特許料の納付事務が特許権者の自己責任であるとする考え方を貫徹することを批判する。 しかしながら,特許権管理をいかなる方法で行うかは,専ら当該特許権者の自由な判断に任される事柄であり,前記のとおり,事務処理の正確性及び迅速性並びに事務処理費用の大小等を考慮して決定する,優れて経済合理性を重視した特許権者の判断なのであり,納付事務の外部委託という方式が,法律上はもとより,事実上も義務付けられているといったものではないことはいうまでもない。 そして,特許料の納付事務が「特許権者の自己責任」であるとは,特許料を納付して自己の特許権を維持するか否か が,法律上はもとより,事実上も義務付けられているといったものではないことはいうまでもない。 そして,特許料の納付事務が「特許権者の自己責任」であるとは,特許料を納付して自己の特許権を維持するか否か,維持するとした場合,その納付事務をいかなる組織,形態で行うかを含め,すべてを当該特許権者がその責任と判断において決定し,実施することを意味するものである。 したがって,前記の「自己責任」の考え方を貫徹することは,法の目的に資するものではあっても,これを何ら害するものでないことは明らかである。 イ原告は,民法715条,415条等を引用して「個人責任の原則」が「報償責任の法理」に論拠を有するとした上で,その限界を示すものが民- 21 -法715条1項ただし書であるとして,これが特許料納付義務を履行するという場面においても妥当すると主張する。原告の主張によれば,「報償責任の法理」とは,「個人が他人の活動によって自己の活動領域を拡大し,その収益可能性を増大させるという利益を享受しながら,当該他人の過失行為による不利益について個人責任の原則を貫いて当該個人を不問に付することは,債権者の地位が著しく害され,公平でないことから認められているもの」のようである。 しかしながら,「報償責任の法理」とは,損害賠償責任の帰責根拠に関する法理であり,これが特許料納付事務処理の過誤の問題とどのように関連するのか疑問である上,原告の主張する「自己の活動領域を拡大」するという点についてみると,特許料の納付事務を自ら行うかそれとも外部に委託するかにより,同事務自体に何らの変更もないのであるから,外部委託をしたからといって,「特許権者の活動領域を拡大」したことにはならない。また,「報償責任の法理」の考え方によれば,「他人」すなわち「外部委託者」による過失行為により,「 もないのであるから,外部委託をしたからといって,「特許権者の活動領域を拡大」したことにはならない。また,「報償責任の法理」の考え方によれば,「他人」すなわち「外部委託者」による過失行為により,「個人」すなわち「委託者」以外の「債権者」すなわち「第三者」に生じた「不利益」を救済する法理であることは,原告の主張自体からも明らかであるところ,本件において「不利益」を受ける者は,「個人」すなわち「委託者である原告」自身であり,「債権者」すなわち「第三者」なるものは存在しない。 以上から明らかなとおり,本件において,原告の主張する「報償責任の法理」なるものは無関係であり,専ら委託者(原告)と受託者(CPA)の関係が問題となるにすぎない。 したがって,原告の前記主張には,無理があるものといわざるを得ない。 ウ原告は,CPA発行のパンフレットにおいてはそのシステムの信用性がうたわれていること,特許出願から本件が発生するまでの9年間は問題なく納付手続が行われていたことなどを主張する。 - 22 -しかしながら,特許料納付事務の委託を勧誘するパンフレットに受託者の信用性を高める記載こそあれ,これを減殺するような記載がないであろうことは多言を要しないところであるし,9年間問題がなかったとの一事をもって,直ちに監督を尽くしていたものと即断することはできず,いずれも根拠薄弱の主張といわざるを得ない。 第3当裁判所の判断 法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」の意義( )ア法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理 由」とは,後記イの理由から,これと同一の文言である法121条2項(拒絶査定不服審判の追完),法173条2項(再審請求の追完)所定の「その責めに帰することができない理由」と同様に,天災地変,あ 由」とは,後記イの理由から,これと同一の文言である法121条2項(拒絶査定不服審判の追完),法173条2項(再審請求の追完)所定の「その責めに帰することができない理由」と同様に,天災地変,あるいはこれに準ずる社会的に重大な事象の発生により,通常の注意力を有する当事者が万全の注意を払っても,なお追納期間内に特許料等を納付することができなかったような場合を意味すると解するのが相当であり,当事者に過失がある場合は,「その責めに帰することができない理由」がある場合には当たらないと解するのが相当である。 イ法112条の2は,特許料の本来の納付期間の経過後,更に6か月間の追納期間(法112条1項)が経過し,特許料の不納付によりいったん失効した特許権の特許権者に対し,①追納期間内に特許料等を納付することができなかった理由が特許権者の責めに帰することができないものであること,②追納期間の経過後6か月以内であって,かつ,その理由の消滅から14日(在外者にあっては2か月)以内に,納付すべきであった特許料等を納付することを要件として,特許権の回復を認めた例外的な救済の制度である。 また,訴訟行為の追完を定めた民訴法97条1項の「その責めに帰する- 23 -ことができない事由」については,当事者に過失がある場合を含まないとの解釈が採られている。 さらに,「その責めに帰することができない理由」という文言の通常の意味からすると,当事者に過失がある場合を含まないと解釈するのが自然である。 ( )この点,原告は,法112条の2第1項所定の「その責めに帰すること ができない理由」について,特許法の分野における国際的調和の観点や立法経緯のほか,特許権管理の困難性から特許権者を保護する必要性という観点から,特許権者がすべきことをした場合,つまり,特許権者が ができない理由」について,特許法の分野における国際的調和の観点や立法経緯のほか,特許権管理の困難性から特許権者を保護する必要性という観点から,特許権者がすべきことをした場合,つまり,特許権者が社会通念上相当な注意を払っても避けることができない場合を広く含むと解すべきであり,そのように解しても,法が,特許権回復の期間を追納期間経過後6か月という短期間に制限していることや,回復した特許権の効力を制限していることから,第三者への過大な負担を生じることもないと主張する。 しかしながら,パリ条約5条の2第2項の規定は,特許権の回復についてどのような要件の下でこれを容認するかを各締結国の判断にゆだねており,特許法の分野において国際的調和が重視されるべきであるとしても,我が国の特許法の定める個別規定を,欧米諸国の定める要件,基準等に基づいて解釈しなければならない理由はない。また,法112条の2の立法経緯に,法112条の2の「その責めに帰することができない理由」について,原告の主張するような解釈をすべきことを示唆するような事情があるとは認められない。そして,特許権回復の期間制限の規定や回復した特許権の効力の制限の規定が設けられているからといって,特許法が法112条の2の特許権の回復を広範に認める趣旨であると解することはできない。さらに,特許権者を保護する必要性の観点は,それ自体のみでは,原告の主張する解釈を採用すべき理由にならない。 したがって,原告の前記主張は,採用することができない。 - 24 -( )なお,原告の主張する解釈によっても,特許権者に過失がある場合は, 特許権者がすべきことをした場合,あるいは,特許権者が社会通念上相当な注意を払っても避けることができない場合とはいえないから,法112条の2第1項所定の「責めに帰することがで 過失がある場合は, 特許権者がすべきことをした場合,あるいは,特許権者が社会通念上相当な注意を払っても避けることができない場合とはいえないから,法112条の2第1項所定の「責めに帰することができない理由」がある場合には該当しない。そして,本件において,本件特許料等を追納期間内に納付することができなかったことについて,原告から委託を受けたCPAに過失があることは,当事者間に争いがないから(前記第2の1( )),CPAの過失が原告 の過失と同視されるのであれば,原告の主張する解釈によっても,原告に,法112条の2第1項所定の「責めに帰することができない理由」があるとはいえないことになる。 したがって,後記2において,本件特許料等を追納期間内に納付することができなかったことについてのCPAの過失を,原告の過失と同視することができるか否かを検討する。 原告が,CPAの過失により本件特許料等を追納期間内に納付することができなかったことについて責任を負うか。 ( )我が国の特許法は,日本国内に住所又は居所を有する者,有しない者 (在外者)の双方について,その委任による代理人が特許に関する行為を行うことを認め,その場合の代理権の範囲及び手続等を規定している(法8条ないし13条等)。そして,特許権の維持管理に関しても,特許権者の委任を受けた代理人がこれを行うことを認めているのであるから,特許料の納付に関する管理を含め特許権の維持管理をどのように行うかは,特許権者が自ら行うのか,外部に委託するのか,委託するのであれば誰に委託するのか等を含め,すべて特許権者である本人の意思にゆだねられており,特許権者の自己責任の下に行われることである。本件においても,特許権者である原告は,特許権の維持管理に関して,原告本人の過失について責任を負うことはも て特許権者である本人の意思にゆだねられており,特許権者の自己責任の下に行われることである。本件においても,特許権者である原告は,特許権の維持管理に関して,原告本人の過失について責任を負うことはもちろんのこと,原告の委託を受けて特許料の納付に関する管理を行ってい- 25 -た独立の外部事業者であるCPAの過失についても,その責任を負うべきは当然である。 したがって,本件において,特許権者である原告が委託したCPAの過失により,本件特許料等を追納期間内に納付することができなかったものであるとしても,本人である原告がその責任を負うべきは当然であって,原告に法112条の2第1項所定の「責めに帰することができない理由」があるといえないことは,明らかである。 この点について,原告は,次のとおり主張するが,いずれも採用することができない。 ( )ア原告は,特許権者が外部の専門機関に委託して特許料納付手続を行う 場面には報償責任の法理が妥当するから,外部の専門機関の過失を特許権者の過失と同視することは,あくまで報償責任の法理の現れとして理解すべきであり,外部の専門機関の過失を特許権者の過失と無条件に同視することはできないと主張する。 しかしながら,「報償責任の法理」とは,本人の第三者に対する損害賠償責任に関する考え方であり,本件のように,特許料の納付に関する管理の過誤が問題となる場面とは,直接関連するものではない。すなわち,「報償責任の法理」は,原告自身も「個人が他人の活動によって自己の活動領域を拡大し,その収益可能性を増大させるという利益を享受しながら,当該他人の過失行為による不利益について個人責任の原則を貫いて当該個人を不問に付することは,債権者の地位が著しく害され,公平でないことから認められているものである」と主張するとおり,他人の過失 ら,当該他人の過失行為による不利益について個人責任の原則を貫いて当該個人を不問に付することは,債権者の地位が著しく害され,公平でないことから認められているものである」と主張するとおり,他人の過失により第三者(債権者)に生じた不利益について,本人(個人)が責任を負うかどうかという損害賠償責任に関するものである。 これに対し,本件では,特許料の納付に関する管理について過失のある他人と,当該他人に特許料の納付に関する管理を委託した本人(原告)自- 26 -身の不利益が問題になるにすぎず,報償責任の法理において問題となる不利益を受ける第三者(債権者)や,当該第三者に生じる不利益の内容がおよそ問題となる余地はない。 このように,特許料の納付に関する管理についての他人の過失と当該過失により管理を委託した本人の不利益のみが問題となっている本件と,他人の過失により第三者に生じた不利益について,本人が第三者に対して損害賠償責任を負うべきとする考え方である「報償責任の法理」とは,原告の主張を前提としてみても,その適用場面として,関連性を有するものでないことは明らかである。 したがって,特許権者が外部の専門機関に委託して特許料納付手続を行う場面に報償責任の法理が妥当することを前提とする原告の前記主張は,その前提において失当であり,採用することができない。 イ原告は,特許の申請その他特許権維持に関する諸手続を外部の専門機関に委託することを強制されている現状があり,外部の専門機関への委託が特許権者の自由意思に基づかない行為であることから,外部の専門機関の選択,当該専門機関の業務に対する監督について,特許権者に落ち度がある場合に限って,特許権者も責任を問われるべきであると主張する。 しかしながら,前記( )で述べたとおり,特許権の維持管理をどのよう なに 該専門機関の業務に対する監督について,特許権者に落ち度がある場合に限って,特許権者も責任を問われるべきであると主張する。 しかしながら,前記( )で述べたとおり,特許権の維持管理をどのよう なに行うかは,特許権者が自ら行うのか,外部に委託するのか,委託するのであれば誰に委託するのか等を含め,すべて本人である特許権者の自由な意思と判断にゆだねられているものである。また,特許料の納付手続を外部の機関に委託するという方法が,法令上義務付けられているものでないことは明らかであり,事実上,これが強制されていると認めるに足る証拠も皆無である。 したがって,外部の専門機関への委託を強制されているとか外部の専門機関への委託が特許権者の自由意思に基づかない行為であることを前提と- 27 -する原告の前記主張は,その前提において誤りがあり,採用することができない。 結論 以上によれば,本件特許料等を追納期間内に納付することができなかったことについて,原告に法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」があるとは認められないから,本件却下処分に違法はない。 よって,原告の請求は,理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部裁判長裁判官清水節裁判官坂本三郎裁判官岩崎慎

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