平成12(わ)294 殺人未遂,銃砲刀剣類所持等取締法違反,傷害

裁判年月日・裁判所
平成13年9月10日 神戸地方裁判所
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判決文本文10,902 文字)

判決平成13年9月10日神戸地方裁判所平成12年(わ)第294号,同第354号殺人未遂,銃砲刀剣類所持等取締法違反,傷害被告事件 主文 被告人を懲役10年に処する。 未決勾留日数中420日を刑に算入する。 筋引き包丁2本(平成12年押第96号の1,2)を没収する。 理由 (犯罪事実)被告人は,第1 平成11年11月30日午前0時30分ころ,神戸市a区bc丁目d番e号Aビル2階スナック「B」で,C(当時29歳)に対し,その頭をビール瓶で1回殴り付ける暴行を加え,その結果,Cに約1週間の治療を必要とする右前頭部打撲兼挫創の傷害を負わせた。 第2 平成12年2月18日,前記「B」で飲酒した際,同店の客であったD(当時35歳),E(当時37歳)及びF(当時37歳)らのグループから,同店での粗野な行状を注意され,襟元を掴まれる等されたことで憤激し,自宅から筋引き包丁2本(刃体の長さ約15.5センチメートル1本,平成12年押第96号の2。 刃体の長さ約14.8センチメートル1本,同号の1。)を持ち出し,同店付近に行っていたところ,同日午前1時15分ころ,同区fc丁目g番h号先路上で,帰宅途中のEら3名と出会い,Eらに謝罪したものの,Eらから,「早よ,いなんかい。」等と言われて詰め寄られるや,憤激の余り,とっさに,Dらを殺害しようと決意し,いきなり前記筋引き包丁2本で,Dの左腹及び左背中を数回突き刺し,次いで,Eの右腹及び右背中を数回突き刺し,続いて,Fの胸及び腹を数回突き刺す等したが,Dらが直ちに病院に収容され,治療を受ける等したため,Dに全治まで約80日間を必要とする左背部刺創,左腹部 し,次いで,Eの右腹及び右背中を数回突き刺し,続いて,Fの胸及び腹を数回突き刺す等したが,Dらが直ちに病院に収容され,治療を受ける等したため,Dに全治まで約80日間を必要とする左背部刺創,左腹部刺創の傷害を,Eに約21日間の治療を必要とする右背部刺創,右腹部刺創,右第11,12肋骨骨折等の傷害を,Fに約30日間の治療を必要とする胸腹部刺創,右血胸の傷害をそれぞれ負わせたに止まり,殺害の目的を遂げなかった。 第3 業務その他正当な理由による場合でないのに,同日午前1時15分ころ,前記同区fc丁目g番h号先路上で,前記筋引き包丁2本を携帯した。 (証拠)なお,かっこ内の番号は,証拠等関係カードの検察官請求番号を示す。 (省略)(争点に対する判断) 1 本件の争点は,第2の事実について,被告人に被害者3名に対する殺意があったかどうか,という点である。 2 前掲証拠によれば,次の事実が認められる。 (1) 被告人が本件犯行に使用した凶器は,全長約25.4センチメートル,刃体の長さ約14.8センチメートル,刃体の最大幅約3.0センチメートル,刃体の最大厚約1.6ミリメートルの先鋭な筋引き包丁1本(平成12年押第96号の1。なお,本件犯行により,刃体の付け根付近で折れ曲がっている。)及び全長約25.8センチメートル,刃体の長さ約15.5センチメートル,刃体の最大幅約3.0センチメートル,刃体の最大厚約1.7ミリメートルの先鋭な筋引き包丁1本(同号の2)の計2本の筋引き包丁であり,いずれも殺傷能力が極めて高い刃物である。 (2) 各被害者の創傷の部位,程度をみると,①被害者Dの創傷は,左背部刺創と左腹部刺創の2か所であり,左背部刺創は,左背部のほぼ中央に長さ約4センチメートルの創口があり,背中の中央部に向かい斜めに刺入され,深さが約13 程度をみると,①被害者Dの創傷は,左背部刺創と左腹部刺創の2か所であり,左背部刺創は,左背部のほぼ中央に長さ約4センチメートルの創口があり,背中の中央部に向かい斜めに刺入され,深さが約13センチメートルであり,左腹部刺創は,左腹部のほぼ中央,ほぼへその高さの位置に長さ約2センチメートルの創口がある(なお,刺創の深さは不明である。)。 ②被害者Eの創傷は,右腹部刺創と右背部刺創の2か所であり,右腹部刺創は,右腹部のほぼ中央,へそよりやや高い位置に長さ約2センチメートルの創口があり,正面からまっすぐ刺入され,腹腔内に達し,小腸の一部と腸間膜の一部を損傷し,深さが約3から4センチメートルであり,右背部刺創は,右背部ほぼ中央に長さ約3センチメートルの創口があり,右斜め上から左斜め下に向かい刺入され,右胸膜,右横隔膜を貫き,右第11,第12肋骨を損傷し,後腹膜の脂肪織,筋肉も損傷し,深さが約10センチメートルであり,刺突位置あるいは刺入方向が数センチメートルずれていれば,肝臓や心臓の臓器を損傷していたおそれがあった。 ③被害者Fの創傷は,右胸部刺創,右上腹部刺創,左上腹部刺創,左腹部刺創の4か所であり,右胸部刺創は,右乳の上方,やや正中よりに長さ約3センチメートルの創口があり,まっすぐに刺入され,胸膜を貫通し,右肺臓に達し,その深さが人差し指第2関節以上あって,その正確な深さが不明である。右上腹部刺創は,右上腹部のほぼ中央,右乳の真下に約3センチメートルの創口があり,外側から内側に向かい刺入され,胸膜,腹膜を損傷し,深さが人差し指第2関節以上あって,その正確な深さが不明であるが,前記右胸部刺創よりは浅い。左上腹部刺創は,左上腹部のほぼ中央,やや正中よりに長さ約3センチメートルの創口があり,下外側から上内側に斜めに刺入され,腹膜 節以上あって,その正確な深さが不明であるが,前記右胸部刺創よりは浅い。左上腹部刺創は,左上腹部のほぼ中央,やや正中よりに長さ約3センチメートルの創口があり,下外側から上内側に斜めに刺入され,腹膜を損傷し,深さが人差し指第2関節以上あって,その正確な深さが不明であるが,刺入方向の延長線上には心臓がある。左腹部刺創は,左腹部のほぼ中央,へそよりやや高い位置に長さ約3センチメートルの創口があり,外側からやや内側に刺入されているが,腹膜まで達せず,その正確な深さが不明であるものの,前記3か所の刺創よりも浅い。 3 次に,被告人が被害者らを刺突した態様等について検討する。 (1) 被告人は,公判で,被害者らに対する殺意があったことを否認し,①被害者Dに対する刺突の態様について,被告人が,被害者Dに背中を向けてしゃがんだ状態で,落とした筋引き包丁2本を両手で1本ずつ拾い,包丁を持った両手を右腰にためるようにしていたところ,背後で人の気配がしたので,しゃがんだ状態のまま左を振り向くと,そこにDが被告人の背中につんのめるようにおおいかぶさってきて,そのときに左手に持った包丁がDの腹に,右手に持った包丁がDの腰に刺さった旨供述し,②被害者Eに対する刺突の態様について,被告人に対し背中を向けて立っていたEを倒そうと思い,包丁を持ったままの両手で背後からEの腰を持って回したが,Eが倒れず,包丁が刺さった旨供述し,③被害者Fに対する刺突の態様について,Fが被告人の左肩辺りを掴んできたので,同時に被告人も包丁を持ったままの左手を出し,更に左手で3回Fを突いたが,被告人としては,包丁を寸止めで止め,Fとの間に距離があったので刺さるとは思わなかった旨供述している。 しかし,①被害者Dに対する刺突の態様については,証人Dは,真正面に向かい合って立っていた被告人 としては,包丁を寸止めで止め,Fとの間に距離があったので刺さるとは思わなかった旨供述している。 しかし,①被害者Dに対する刺突の態様については,証人Dは,真正面に向かい合って立っていた被告人に対し,完全に背中を向ける状態になった瞬間,背中に衝撃,鈍痛が走った旨証言し,証人Fは,被告人がDにおおいかぶさるようになり,Dが殴られたと思った旨証言し,また,マンション7階の自宅ベランダから被告人と被害者Eら3名の状況を注視していた証人Gは,被告人が,被告人の前に立っているDに対し,左手を前後に素早くぱっぱと動かした旨証言しているのであって,被告人の前記公判供述は,これら証言に全く反している。そればかりか,前記のとおり,Dの左背部刺創は,深さが約13センチメートルもあり,被告人が供述するように偶然に包丁が刺さったとは考えにくい上,被告人が,人の気配がする左方に振り向いた際に,なぜ被告人の右腰にためている両手に持った包丁がDの左背と左腹に刺さったのか納得できる説明ができない。②被害者Eに対する刺突の態様については,近接した位置から本件犯行を目撃していたIの検察官調書(3号証)によれば,被告人は,Eに近付き,Eの腹を包丁で刺し,Eが前屈みになったところ,被告人は,Eの顔を蹴り付け,Eが逃げようとして被告人に背中を向けたところ,被告人は,Eの背後からEの腰の辺りを包丁で刺したことが認められ,被告人の前記公判供述は,Iが供述する前記状況に反している。のみならず,被告人は,公判で,包丁を両手に持ったままEにつかみかかったことについて,包丁を捨てるに捨てられなかったとか,そのときEが何で止めてくれないのかという気持ちがあったなどと,およそ理解できない供述をしているのである。③被害者Fに対する刺突の態様については,被告人は,公判で,他方では,被告人がF なかったとか,そのときEが何で止めてくれないのかという気持ちがあったなどと,およそ理解できない供述をしているのである。③被害者Fに対する刺突の態様については,被告人は,公判で,他方では,被告人がFの方に前に出ながら包丁を突き出すと,それと同時にFも被告人の方に向かって動いてきていたとか,Fとの間がどの程度離れていたのか,正確に言うと,暗かったから分からないとも供述しているのであり,前記のとおり,現に包丁がFの胸と腹4か所に刺さっており,その深さも3か所が,人差し指の第2関節以上であること等からすると,被告人とFとの間に距離があり,被告人が,Fの身体の手前で包丁を寸止めで止めるつもりであったとは到底認められない。 以上のとおりであって,被害者らを刺突した態様に関する被告人の前記公判供述は,到底信用することができない。 (2) これに対し,被告人の捜査段階の供述は,被害者らを刺突した態様を含む本件犯行状況,犯行に至る経緯,犯行動機等が,スナック「B」から被告人宅に戻るまで,被告人宅から包丁2本を持ち出して「B」に向かうまで,「B」付近でHと出会うまで,被害者らと出くわしたとき,被害者Dらから詰め寄られて被告人が包丁を路上に落としたときという時間の経過の中で,それにつれて変化していく被告人の被害者らに対する心情と一体的に,かつ,具体的,詳細に供述されていて,その供述内容も自然であるのみならず,前記2に認定した被害者らの刺創の位置,刺入方向や被害者ら並びに目撃者Gの証言及び同Iの供述とも概ね符合していて,その信用性は高いと認められる。 4 そこで,前掲証拠,ことに被告人の検察官調書及び警察官調書によって,本件犯行に至る経緯,刺突の態様等の犯行状況をみると,次の事実が認められる。 (1) 本件犯行に至る経緯被告人は,平成7年 で,前掲証拠,ことに被告人の検察官調書及び警察官調書によって,本件犯行に至る経緯,刺突の態様等の犯行状況をみると,次の事実が認められる。 (1) 本件犯行に至る経緯被告人は,平成7年の夏ころ,Hの経営するスナック「B」に客として行き,Hと知り合い,客として同店に半年以上通った後,Hと交際するようになり,平成8年5月ころ,Hが離婚したことから,Hと被告人方で同棲を始めた。Hが1か月位で被告人方を出ていったが,被告人は,その後もHと交際を続けていた。 平成12年2月17日,被告人は,仕事を終えて,午後7時すぎころから,居酒屋等4軒で飲酒した後,午後11時30分ころ「B」に行ったが,翌日午前3時から仕事もあり,全く酒に酔っていなかった。「B」には,Hのほかに,客として被害者Eら3名等がおり(なお,その後,Hの姉Gも来店した。),被告人は,出入り口付近のカウンター席で,ビールを飲み,相手をしてくれたHに同店に来る前に2,3軒で飲酒してきたことを話したところ,Hが被告人の相手をするのをやめてEらの相手をし始めたため,Hが被告人を不満に思っていると感じ,面白くなくなり,せっかく「B」に来たのに,Hに冷たい態度を取られたことから,Hに対し腹立たしい気持ちになった。それで被告人は,帰宅することにし,Hに向かって「もう帰るわ。」と言ったが,Hに無視されたため5000円札をカウンター上に投げるようにして代金を支払い店外に出た。しかし,Hが被告人を見送りに出てこなかったことから,被告人は,Hが被告人に不満を感じていると思い,面白くなく,同店付近に止めていた運転してきた軽四貨物自動車のところまで戻り,携帯電話でHに文句を言ったが,Hに電話を切られ,電話をかけ直してもHが電話に出ることはなかった。そこで,被告人は,腹立たしい気持ちになり 付近に止めていた運転してきた軽四貨物自動車のところまで戻り,携帯電話でHに文句を言ったが,Hに電話を切られ,電話をかけ直してもHが電話に出ることはなかった。そこで,被告人は,腹立たしい気持ちになり,「B」に戻り,Hに対し,「なんで電話に出えへんのや。」と大声で文句を言ったところ,客の被害者Eらも被告人の方を注目したため,Hの姉であるGに店外へ連れ出された。被告人は,同店前の階段踊り場で,Gに対し,Hに対する不満をぶちまけ,Gが被告人をなだめていた。そこへ,店内から飛び出してきたEが,被告人に対し,「お前,姉さんに何文句言うとんのや。」と怒鳴った。被告人は,Eに対し,立腹したが,Gとは身内同士の話をしている旨言っていたところ,そこへ今度はFが,店内から出てきて,被告人に近付こうとするEを制止してから,被告人に向かってきて,「何やこら。」と言いながら,右手で被告人の左襟元を掴み前後に揺する等した。 被告人は,Fに対しても立腹したが,同様にFにも身内同士の話をしている旨言ったところ,Fが,「何ぬかしとんじゃ。」と怒鳴り,Eも横から,「何ぬかしとんじゃ,こら。」等と怒鳴りながら被告人に近付いてきたが,Fが,Eを手で制し,再び被告人の襟元を掴んだ。被告人は,このようなFやEの態度にはらわたが煮えくりかえる思いになり,Fらをやっつけてやろうかとも思ったが,Gが,被告人に対し,ひたすら我慢するように言い,また,平成11年11月に傷害事件(第1の事実)を起こしたこともあり,我慢していた。そのうち,Fが被告人の襟元を掴んでいた手を放し,被告人に近付こうとするEを制止した隙に,被告人は,Gに押されて階段を1階まで降り,被告人の軽四貨物自動車を止めているところまで戻った。被告人は,EやFに対する腹立ちから,Gに対し,「俺は何も悪うないやないか。なんであそこ 制止した隙に,被告人は,Gに押されて階段を1階まで降り,被告人の軽四貨物自動車を止めているところまで戻った。被告人は,EやFに対する腹立ちから,Gに対し,「俺は何も悪うないやないか。なんであそこまでされなあかんのや。」等とFらに対する不満を言ったが,Gから,「ええから,ええから。もう帰り。」等となだめられた。 被告人は,軽四貨物自動車を運転して帰宅する途中,先程のFらの被告人に対する態度が頭から離れず,自分が悪くないのに,自分一人あのような目にあわされて我慢していなければならないのかと思うに及んで,Eら3人に対する憤激の余り,自分を馬鹿にしたEらを殺してやろうと考えるに至り,被告人宅から包丁を持ち出して「B」に戻り,Eらをその包丁で刺し殺してやろうと考えた。自宅に戻った被告人は,Eら3人連れを相手に喧嘩をするには,包丁が1本だけでは足りないと考え,台所から筋引き包丁2本を取り出し,タオル地のハンカチで刃の部分を巻いて持ち出し,軽四貨物自動車で「B」に向かった。 しかし,被告人は,「B」に近付くにつれ,少しずつ腹立ちも治まってきて,少し冷静になり,前記平成11年11月の傷害事件のことが頭に浮かび,できるならば事件を起こしたくない,Eらを殺すのはまずいと考えるうち,どうしてGがEらを止めてくれなかったのか,もとはといえばHの態度が悪かったからではないか等と考えが及んで,とにかくGも交えてHと話をしようと決めた。被告人は,Eらに対する怒りが全く治まっていたわけではなく,刃の部分をタオル地のハンカチで巻いた包丁2本をズボンの後ろ腰辺りに挟んで持ち,北から南に下り坂になっている南北に通じる道路(以下「南北道路」という。)を歩いて南に下り,「B」付近に行き,「B」に明かりがついていたことから,Hがまだ営業しているのが分った 腰辺りに挟んで持ち,北から南に下り坂になっている南北に通じる道路(以下「南北道路」という。)を歩いて南に下り,「B」付近に行き,「B」に明かりがついていたことから,Hがまだ営業しているのが分ったが,今店内に入るとまだEらが残っていて,Hと話をすることもできないと思い,Hが店を終えて出てきたところで話をすることにし,同店付近で同店の様子を窺いながら,Hが店を終えて出てくるのを待っていた。 そして,「B」からHとGが出てくるのを見た被告人は,Hと話すのは今だと考え,Hに対する腹立ちもあって,「お前のせいや。」等と口走って2人の方に駆け寄って行きながら,ズボンの後ろ腰に挟んでいた包丁が落ちないように手に持とうとしたとき,刃の部分をタオル地のハンカチで巻いたままの包丁2本をHらの目の前で落とした。被告人は,包丁2本をすぐに拾い上げたものの,被告人が包丁を持っていることに気が付いたHら2人が自宅マンションの方に走って行き,被告人は,2人を追いかけたが,Hら2人は,マンションの中に入ってしまった。 (2) 本件刺突の態様等犯行状況被告人は,Hと話ができなかったことから,Hが自分のことを全然分かってくれない等と考えて力が抜け,南北道路に沿って建っているHらの自宅マンション入口付近にたたずんでいたところ,南方からEが運転し,助手席にFが同乗している,後部が幌付荷台になった軽四貨物自動車が,被告人のいる方に北進してくるのに気付いた。被告人は,このころに既にEらを殺してやろうという気持ちはなくなっており,そのため,先程「B」の前で喧嘩になりかけたことについてEらに対し謝ろうと思い,刃の部分をタオル地のハンカチで巻いた包丁2本をズボンの後ろ腰に挟み,Eが運転する軽四貨物自動車に近付き,運転席のEに対し,「さっきは,すんまへんなあ。」 かけたことについてEらに対し謝ろうと思い,刃の部分をタオル地のハンカチで巻いた包丁2本をズボンの後ろ腰に挟み,Eが運転する軽四貨物自動車に近付き,運転席のEに対し,「さっきは,すんまへんなあ。」と言って謝った。しかし,Eが,被告人をにらみ付け,「おのれ,また何やこら。」などと喧嘩腰で言い,助手席のFも,「兄ちゃん,何やこら。」と言った。被告人は,先程のことを謝りに来ている旨言うと,Fが,被告人に対し,「早よ,いなんかい。」と早く立ち去るように言った。そのとき,軽四貨物自動車の後部荷台からDが飛び降りて来て,被告人をにらみ付けながら,被告人の胸を押して迫ってきた。被告人は,Dに迫られて,徐々に南北道路を後ずさりして北に上って行った。FとEも軽四貨物自動車から降りて来て,被告人に近付き,Fが,「早よ,いなんかい。」等と言い,被告人の胸ぐらを掴んで揺する等した。 被告人は,自分が謝っているのに,Eら3人がそれを聞き入れず,先程と同じことをしてくる,どうしようもない奴らだ,いい加減にしろ等と思うに及んで,Eら3人に対し憤激したが,前記の平成11年11月の傷害事件のことも頭に浮かび,Eらに手を出してはいけないという思いもあった。しかし,被告人は,Fから胸ぐらを掴まれて揺すられ,強く突き放されてズボンの後ろ腰に挟んでいた包丁2本を道路に落とした。そのとき,被告人は,包丁をEらに発見されて掴まれると,その包丁で自分が刺されると思うや,自分がすぐに包丁を拾い,Eらの機先を制してEらを包丁で突き刺して殺してやろうととっさに決意した。 そこで,被告人は,すぐに,包丁を拾い,左,右の手に1本ずつ包丁を順手に持ち,機先を制して,まず被告人の真正面に立っていたDの方に向けて,右手と左手に持った包丁をほぼ同時に突き出して,Dを突き刺し,そのとき,Dが被告人 ぐに,包丁を拾い,左,右の手に1本ずつ包丁を順手に持ち,機先を制して,まず被告人の真正面に立っていたDの方に向けて,右手と左手に持った包丁をほぼ同時に突き出して,Dを突き刺し,そのとき,Dが被告人に完全に背中を向ける形で後ろに振り向いたため,Dの左背を右手に持った包丁で,その左腹を左手に持った包丁でそれぞれ突き刺した。Dは,その場にひざまずいた。 被告人は,Dを刺したことにより興奮し,引き続いて,Eの右腹を目がけて左手順手に持った包丁で突き刺し,前屈みになったEの顔を2,3回蹴り付け,逃げようとして身体を反転させたEの背後から,Eの右背中を,左手順手に持っていた包丁を左手逆手に持ち替えて突き刺した。Eは,その場に倒れ込んだ。 さらに,引き続いて,被告人は,被告人の方を向いて,南北道路を後ずさりして南に下って逃げようとしたFに近付き,向かい合った状態で,Fの腹付近を目がけて右手と左手に持った包丁を交互に突き出し,Fの腹と胸を合計4か所突き刺した。Fは,前のめりに倒れ込んだ。被告人は,倒れたFの右足を2,3回蹴り付けた。 5  以上に詳しく認定した本件凶器の形状,性質,各被害者の創傷の部位,程度,本件犯行に至る経緯,刺突の態様等の本件犯行状況を総合すれば,被告人は,被害者D,E,Fに対し,いずれも確定的な殺意があったと認めるのが相当である。 (法令の適用)罰条第1の行為刑法204条第2の行為被害者ごとに刑法203条,199条第3の行為包括して中央省庁等改革関係法施行法1303条により同法による改正前の銃砲刀剣類所持等取締法32条4号,22条刑種の選択第1の罪懲役刑第2の罪いずれも有期懲役刑第3の罪懲役刑併合罪の加重 同法による改正前の銃砲刀剣類所持等取締法32条4号,22条刑種の選択第1の罪懲役刑第2の罪いずれも有期懲役刑第3の罪懲役刑併合罪の加重刑法45条前段,47条本文,10条,14条(刑及び犯情の最も重い第2のDに対する殺人未遂罪の刑に加重)未決勾留日数の算入刑法21条没収第2の罪いずれも刑法19条1項2号,2項本文訴訟費用の不負担刑訴法181条1項ただし書(量刑の事情) 1 第2の殺人未遂の犯行については,犯行に至る経緯,犯行状況等に関し,前記(争点に対する判断)4に詳細に認定したとおりであり,被告人は,被害者3名から胸ぐらを掴まれる等して迫られ,隠し持っていた包丁2本を落としたことから,その包丁を被害者らに発見されて取られると,その包丁で自分が刺されると考えるや,すぐに包丁を拾い,被害者らの機先を制して被害者らを包丁で突き刺して殺害しようととっさに決意し,被害者3名に対し,左,右の手に1本ずつ持った鋭利な包丁で,連続的に各被害者の胸,腹や背中を複数回ずつ突き刺したが,傷害を負わせるに止まったという事案であって,その動機は,極めて短絡的である。犯行態様も,自宅から持ち出してきた刃体の長さが約15.5センチメートルと約14.8センチメートルの鋭利で殺傷能力の極めて高い筋引き包丁2本を凶器として用いており,自宅から筋引き包丁2本を持ち出した際に有していた殺意を一旦解消し,被害者3名を刺突する直前にとっさに殺意を生じたものではあるが,被害者3名に対し確定的な殺意をもって,被害者らの機先を制し,その身体の枢要部である胸,腹や背中を続けざまに複数回ずつ突き刺したもので,極めて危険,悪質,執拗であるばかりか,いずれの被害者もその一 被害者3名に対し確定的な殺意をもって,被害者らの機先を制し,その身体の枢要部である胸,腹や背中を続けざまに複数回ずつ突き刺したもので,極めて危険,悪質,執拗であるばかりか,いずれの被害者もその一命を取り止めたのはまさに幸運というべきである。犯行の結果も,最も重傷の被害者が全治までに約80日間を必要とする左背部刺創,左腹部刺創の傷害を,最も軽い被害者でも約21日間の治療を必要とする右背部刺創,右腹部刺創の傷害を負っており,一瞬にしてこのような被害に遭った被害者らの苦痛,驚愕,恐怖感は大きいものである。被害者らの処罰感情は厳しく,被告人は,被害者らに対し,十分な金銭的賠償,慰謝の措置を講じていない。加えて,被告人は,公判で,殺意を否認し,被害者らに対しては,偶然に包丁が刺さったなどと不合理な弁解に終始しており,本件について十分に反省をしているとは認めがたい。 さらに,第1の傷害の犯行でも,些細な理由から,ビール瓶という凶器を用いて傷害行為に及んでおり,短絡的,自己中心的で危険,悪質である。 これらの事情にかんがみると,被告人の刑事責任は重大である。 2 しかし,他方,第2の殺人未遂の犯行において,被害者3名は,被告人が謝罪していたにもかかわらず,「何やこら。」「早よ,いなんかい。」等と言い,被告人の胸を押し,その胸ぐらを掴んで揺する等して被告人に迫り,被告人を挑発して本件犯行を誘発しており,被害者3名にも落ち度があること,被告人は,各被害者に対し,見舞金としてそれぞれ20万円を支払っていること,第1の傷害の犯行においては,被害者の方が先に被告人に対し,椅子を持ち上げて振りかぶり,暴行を加えようとしており,被害者にも落ち度があること,被害者に対し,治療費及び休業補償として8万円を支払い,被害者も被告人を宥恕して,示談が成立している に被告人に対し,椅子を持ち上げて振りかぶり,暴行を加えようとしており,被害者にも落ち度があること,被害者に対し,治療費及び休業補償として8万円を支払い,被害者も被告人を宥恕して,示談が成立していること,被告人には,これまで前科・前歴がないこと等被告人にとって酌むべき事情も認められる。 3 そこで,以上のような諸事情を総合考慮して,被告人に対し,主文の刑を量定した。 平成13年9月10日神戸地方裁判所第4刑事部裁判長裁判官白神文弘裁判官寺本明広裁判官中原淳一

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