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昭和32(う)1918 業務妨害電車往来危険同未遂被告事件

裁判所

昭和33年6月23日 東京高等裁判所 破棄自判

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6,935 文字

主文 原判決を破棄する。被告人A1、同A2、同A3、同A4、同A5、同A6、同A7、同A8、同A9及び同A10を各懲役一年六月に処し、被告人A11、同A12、同A13、同A14、同A15、同A16、同A17、同A18、同A19、同A20、同A21、同A22、同A23、同A24、同A25、同A26、同A27、同A28、同A29同A30、同A31、同A32、同A33、同A34、同A35、同A36、同A37、同A38、同A39及び同A40を各懲役一年に処する。但し被告人全部に対しいずれもこの裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。理由 本件控訴の趣意は末尾に添付した横浜地方検察庁検事山本清二郎作成名義の控訴趣意書に記載されているとおりであり被告人らの答弁は、弁護人山内忠吉、同岡崎一夫連名作成名義及び弁護人馬場数馬作成名義の各答弁書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。検察官の控訴の趣意第一点及び第二点について原判決が被告人らの業務妨害の犯行として認定した事実によれば、被告人らは共謀の上、B労働組合C支部D車掌区分会及び同支部D電車区分会等の同盟罷業により、E線の電車運行が停止されていた昭和二十四年六月十日、国鉄当局の業務命令に服することなく、その管理を排除し、D駅において信号掛の職員に強要して信号を変更させる等の方法により、ほしいままに六輌編成電車を被告人A31が運転して同駅収容線から引き出し、「人民電車」「F1行」等の表示をつけ、他の被告人の一部もこれに乗車し、同日午後六時二十分ないし二十四分ころ同駅を発車し、F1駅までの間を往復運転し、更にD駅において被告人A35が代つて運転し、同駅とF2駅との間を往復運転し、また翌十一日午前七時三十六分ないし三十八 、同日午後六時二十分ないし二十四分ころ同駅を発車し、F1駅までの間を往復運転し、更にD駅において被告人A35が代つて運転し、同駅とF2駅との間を往復運転し、また翌十一日午前七時三十六分ないし三十八分ころ、前同様国鉄新橋管理部の業務命令に反し、前同様の方法により、被告人A36が運転して、D駅収容線から六輌編成の電車を引き出し、前同様の表示をつけ、他の被告人の一部がこれに乗車して同駅を発車し、F3駅まで運転したというのであつて、なお記録及び当審の事実審理の結果によれば、被告人らが六月十日右人民電車を運行させたため、国鉄新橋管理部をしてF4駅、F5駅等において他の電車の運転整理を実施し、数本の山手線電車の運行を停止させ、又F6駅F7駅間の山手線、E線併用区間において、他の電車との時隔を特に短縮せしめる事態を生じたこと、並びに六月十一日の人民電車は、新橋管理部の指令により、送電を停止する措置により、F3駅において停車させられたものであることを認めることができる。 ば、被告人らが六月十日右人民電車を運行させたため、国鉄新橋管理部をしてF4駅、F5駅等において他の電車の運転整理を実施し、数本の山手線電車の運行を停止させ、又F6駅F7駅間の山手線、E線併用区間において、他の電車との時隔を特に短縮せしめる事態を生じたこと、並びに六月十一日の人民電車は、新橋管理部の指令により、送電を停止する措置により、F3駅において停車させられたものであることを認めることができる。そこで右人民電車の運行により、電車の往来に危険を生ぜしめたか否かを審究するに、刑法第百二十五条の電車往来危険罪は、何らかの方法により、電車の衝突、脱線、顛覆等安全な電車の往来を妨げるおそれある状態を作為することによつて成立するものであり、その事故発生が必然的、蓋然的たることを要せず、もとより実害を生ずることは必要としないものと解すべきところ、原判決は先ず、業務命令に反して電車を運行させても、事故防止に関する諸規則、慣行に従つて運行している限り、たとえ危険が発生してもそれは違法の危険ではないとし、人民電車の場合は、正規の資格を有する運転士、車掌が乗車し、これらの者が業務上必要な注意を用いて、しかも国鉄所定のダイヤに基いて運行させたこと、六月十日の人民電車の運行により、他の電車の運転整 し、人民電車の場合は、正規の資格を有する運転士、車掌が乗車し、これらの者が業務上必要な注意を用いて、しかも国鉄所定のダイヤに基いて運行させたこと、六月十日の人民電車の運行により、他の電車の運転整理、時隔短縮、一閉塞区間二電車存在等の事態が生じたが、業務命令に従つて運行する正規の電車の場合でも、事情により運転整理を行うことあり、また一閉塞区間二列車存在、又は時隔が一・二分に短縮される場合もあるのだから、これらの事態が生じたからといつて六月十日の人民電車の運行が違法な危険を生ぜしめたとは認められない、六月十一日の場合は前記同盟罷業により、人民電車の前後を運行する電車がなかったのであるから電車の往来に何等危険を生ぜしめた事実はないという判断、認定をしている。原判決のいうところの違法の危険とは、その意義が明瞭でなく、真意を理解し難いのであるが、刑法第百二十五条の罪の違法性は、電車の往来に危険を生ぜしめる行為に対する価値判断であるから、原判決が行為によつて生じた危険を行為から切り離し、これを評価の対象とし、その危険の態様又は程度によつて違法性を有する危険と然らざる危険とに区別し得るものとし、前者の危険を生ぜしめた場合に右の罪が成立すると解釈するのであれば、その解釈は誤といわなければならない。 の意義が明瞭でなく、真意を理解し難いのであるが、刑法第百二十五条の罪の違法性は、電車の往来に危険を生ぜしめる行為に対する価値判断であるから、原判決が行為によつて生じた危険を行為から切り離し、これを評価の対象とし、その危険の態様又は程度によつて違法性を有する危険と然らざる危険とに区別し得るものとし、前者の危険を生ぜしめた場合に右の罪が成立すると解釈するのであれば、その解釈は誤といわなければならない。また原判決は前記のように、業務命令に反して電車を運行させる場合でも、正規の資格を有する運転士等が乗車し事故防止に関する諸規則、慣行に従い、且つ業務上の注意義務を尽して運行させた場合は、たとえ危険が生じてもその危険は違法ではないという趣旨の判断をしているので、原判決の見解は、あるいは右のような行為は、違法性がないという趣旨か、又は右のような行為によつて生じた危険は刑法第百二十五条の危険に該当しないという趣旨とも解される。しかし正規の資格、技能を有する者が 決の見解は、あるいは右のような行為は、違法性がないという趣旨か、又は右のような行為によつて生じた危険は刑法第百二十五条の危険に該当しないという趣旨とも解される。しかし正規の資格、技能を有する者が事故防止に関する諸規則、慣行に従い業務上の注意義務を尽して電車を運行せしめる場合は、具体的のその場合に電車の顛覆、衝突等の事故発生の必然性、蓋然性が少ないことを考え得るに止まり、その行為が常に違法性を欠くと断定することはできない。右のような危険を生ぜしめた行為が違法性を有するや否やは事故発生の必然性、蓋然性の有無、強弱に関係なく、これを離れて行為全体が法秩序に反する性質を有するや否やによつて決すべき事柄であるからである。また刑法第百二十五条の危険とは前記のように、電車の安全な往来を妨げるおそれある状態、即ち顛覆、衝突等の事故発生の可能性ある状態をいうのであつて、その危険の態様、程度を問わないものと解すべきであるから、危険自体の態様、程度によつて右法条に規定する危険に該当する危険と然らざる危険とに区別する見解は正当とはいえない。記録並びに原審及び当審において取り調べた各証拠によれば、国鉄のような高速度交通機関の大企業においては、その企業自体の性質上常にある程度の事故発生の危険を伴うものであるから、その企業の運営については、運輸事業としての本来の目的を可及的効果的に達成する方策を講ずる外に、事業に伴う危険をでき得る限り未然に防止するため、一面にはすべての設備、施設、機関についてあらゆる危険防止の方法を講じ、運行する列車、電車については正確、詳密な運転計画を樹立して実施し、その計画を関係従業者に周知徹底させ、なお従業者に対しては各自の職務遂行に過誤が生じないようにするため、十分な訓練と服務規律遵守を励行させることを要すると同時に、他面にはこれら 可及的効果的に達成する方策を講ずる外に、事業に伴う危険をでき得る限り未然に防止するため、一面にはすべての設備、施設、機関についてあらゆる危険防止の方法を講じ、運行する列車、電車については正確、詳密な運転計画を樹立して実施し、その計画を関係従業者に周知徹底させ、なお従業者に対しては各自の職務遂行に過誤が生じないようにするため、十分な訓練と服務規律遵守を励行させることを要すると同時に、他面にはこれら 画を樹立して実施し、その計画を関係従業者に周知徹底させ、なお従業者に対しては各自の職務遂行に過誤が生じないようにするため、十分な訓練と服務規律遵守を励行させることを要すると同時に、他面にはこれらの施設、設備、機関、従業者のすべてを統括機関において掌握し、全企業かその機関の統制の下に完全な秩序と調和とを保ち、全一体の有機的連繋をもつてその事業の運営を行つていることが明瞭であり、かような組織と秩序と運営があつてはじめて危険を伴うこの企業が正当な行為と<要旨第一>して国家的社会的に承認されて違法性を阻却するものというべきである。それ故たまたまその企業体の一部の</要旨第一>従業者が、列車、電車の運行に関する統括機関の統制に背き、業務命令に反し、定められた運転計画に従わず、ほしいままに電車を運行させるという如き所為に出ることは、単に企業体内部の形式的規律違反たるに止まらず、全一体たる企業の有機的連繋と秩序とを破壊し、定められた運転計画をみだし、列車、電車の運行をそごさせて混乱を生ぜしめるのみならず、企業の他の作業部門、例えば、踏切、電力、駅構内の作業等にも混乱を生ぜしめ、そして、これら各方面の混乱が高速度交通機関たる列車、電車の事故発生の原因となり得るものといわなければならない。従つてかような所為は正当な業務行為たる本質を喪うと同時に、電車の運行について顛覆、衝突その他の事故を発生せしめるおそれある点において刑法第百二十五条の犯罪の違法性を具備するものというべきである。本件においては、前記のように被告人らが統括機関たる新橋管理部の管理を排除し、その業務命令に背き、ほしいままにいわゆる人民電車を運行させたのであるから(たとえ人民電車が国鉄ダイヤ所定の時刻に運行したものであつても、それは国鉄の運転計画に従つたものではなく、単に被告人らがダイ その業務命令に背き、ほしいままにいわゆる人民電車を運行させたのであるから(たとえ人民電車が国鉄ダイヤ所定の時刻に運行したものであつても、それは国鉄の運転計画に従つたものではなく、単に被告人らがダイヤの時刻と同時刻に運行させたに過ぎないこと、証拠上明白である)それに乗車した被告人らの資格、技能の如何を問わず、その所為はもとより正当な業務行為とは認められず従つて右人民電車の運行により電車の往来に際して顛覆、その他の事故発生のおそれを生じさせれば、被告人らの右所為は刑法第百二十五条に該当するものというべきところ、前記のように六月十日の人民電車運行により、山手線電車の運転計画にそごを生じ、運転整理による一部電車の運行停止、F7、F6両駅間においては運転計画に定められた時隔を短縮させる等の事態を生ぜしめ、六月十一日の人民電車の場合は国鉄当局をして前日の事態に鑑みF3駅において送電停止の処置をとらしめたのであつて、これは即ち被告人らが人民電車を運行させたことにより、国鉄の運転計画及び作業の一部に混乱を生ぜしめ、電車の往来について事故発生のおそれある事態を生ぜしめたものと断ぜざるを得ない。 転整理による一部電車の運行停止、F7、F6両駅間においては運転計画に定められた時隔を短縮させる等の事態を生ぜしめ、六月十一日の人民電車の場合は国鉄当局をして前日の事態に鑑みF3駅において送電停止の処置をとらしめたのであつて、これは即ち被告人らが人民電車を運行させたことにより、国鉄の運転計画及び作業の一部に混乱を生ぜしめ、電車の往来について事故発生のおそれある事態を生ぜしめたものと断ぜざるを得ない。なお六月十一日の人民電車運行当時は前記同盟罷業により、E線上、人民電車の前後を運行する電車がなかつたことは明らかであるが電車の顛覆、破壊、脱線等の事故は、原判決のいう如く運行電車自体の運転、あるいは運行電車と他の電車との間又は他の電車相互間に生ずる原因のみによつて発生するものではなく、運行電車の進路における踏切、電力、駅構内の作業、施設及び一般交通者と当該運行電車との間に生ずる事態も原因となつて発生するおそれあること経験則上明白であるから、たまたま同盟罷業により、E線上を運行する他の電車がなかつたからといつて電車の往来に事故発生のおそれが全くないとは断定できない 生ずる事態も原因となつて発生するおそれあること経験則上明白であるから、たまたま同盟罷業により、E線上を運行する他の電車がなかつたからといつて電車の往来に事故発生のおそれが全くないとは断定できない。またたとえ原判決のいう如く、電車の運転整理、一閉塞区間二列車存在、時隔短縮等の事例が通常の電車運行の場合にも存在するとしても、そもそも電車の運転整理は正規の運転計画に基く電車の運行が何等かの事情によつてみだれ、ダイヤ面のとおり正確に運行することができなくなつた場合、そのことによつて事故発生のおそれがあるので、これを未然に防止するために統括機関においてとる応急措置であり、また運転計画に基く平常の電車間に特に時隔の近接する場合には厳重な条件を定めて事故発生を防止する方法を講じているのであつて、即ちこれらの場<要旨第二>合はいずれも電車の運行について危険が予想される特別の場合であること証拠上明白である。それ故本件人民</要旨第二>電車の場合に統括機関が運転整理、送電停止等の措置をとつたことは、人民電車の運行が、電車の往来に危険を生ぜしめた証左に外ならないのであつて、通常の場合にも運転整理、時隔短縮等の事例があるから、本件人民電車の場合も危険が認められないとか、違法でないとかいう原判決の見解は失当である。 要旨第二>合はいずれも電車の運行について危険が予想される特別の場合であること証拠上明白である。それ故本件人民</要旨第二>電車の場合に統括機関が運転整理、送電停止等の措置をとつたことは、人民電車の運行が、電車の往来に危険を生ぜしめた証左に外ならないのであつて、通常の場合にも運転整理、時隔短縮等の事例があるから、本件人民電車の場合も危険が認められないとか、違法でないとかいう原判決の見解は失当である。むしろ通常の場合においては、運転整理の原因となる電車も、整理を受ける他の電車も、又時隔短縮の各電車も、すべて運転計画に基く正規の電車であるから、統括機関において十分これを掌握しているのであり、他の電車又は作業の関係者にも予期されているものであるから、時隔短縮、運転整理等によつて甚しい混乱を生ずることなく、統括機関もダイヤに基き関係電車の状況と睨み合せ、迅速適確な方法を講じて事故発生を防止することができるのであるが、統括機関の掌握せずその命令に従わな 、運転整理等によつて甚しい混乱を生ずることなく、統括機関もダイヤに基き関係電車の状況と睨み合せ、迅速適確な方法を講じて事故発生を防止することができるのであるが、統括機関の掌握せずその命令に従わない本件人民電車については、同機関としてはその運行の目的、方法その他同電車に関する状況は一切事前にこれを知ることができず、従つて事前に迅速適確な計画を樹てて関係方面に指揮連絡することが不能であり、わずかに各方面からの事後報告をうけて応急的に事故防止の手段を講じたに過ぎないこと証拠上認め得るところであつて、同じく時隔短縮、運転整理といつても、本件の場合は通常の場合に比し、一層高度の危険が生じたものといわなければならない。要するに原判決が前記のように被告人らの人民電車の運行が国鉄の業務を妨害した事実を認めながら、電車の往来に危険を生ぜしめた事実がないと認定したのは、法律の解釈を誤り、延いて事実を誤認したものであつて、この誤認は明らかに判決に影響を及ぼすものと認められるから、論旨は理由があり、原判決はこの点において全部破棄を免れないものである。(その他の判決理由は省略する。)(裁判長判事中村光三判事滝澤太助判事久永正勝)

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